男(俺は就職活動に失敗した……)
男(分不相応な大手企業にばかり手を出し、次々と祈られ……)
男(卒業間近、なんとか内定をもらえたのは)
男(なんと求人広告で自らブラック企業とうたってる、ある企業だけ……)
男(そして……今日は記念すべき入社初日である)
男(どんな企業であれ、入社したからには全力で頑張るしかない)
男(頑張るしかない、けど……)
男(はぁ……何日持つんだろうか……)
会社──
男「……」ゴクッ…
男「本日よりこの会社に入社いたしました」
男「まだまだ未熟者ですが、精一杯やっていくつもりです」
男「どうぞ、よろしくお願い致します!」
ルキア「うむ、よろしく頼む」
ウォッカ「よろしくな!」
ジン「……ふん」
黒ひげ「ゼハハハハハ! おれァ課長のマーシャル・D・ティーチってもんだ!」
黒ひげ「黒ひげとでも呼んでくれ!」
男(どいつもこいつも服装が黒いな~、さっすがブラック企業)
男(だけど、今のところひどい上司や先輩になりそうな人はいないな……)ホッ…
黒ひげ「部長も紹介してやりてェが、あいにく部長は外出中でな!」
男「そうですか」
黒ひげ「さて、と……さっそく仕事に取りかかってもらうわけだが……」
黒ひげ「朽木! おめェがこの新入りを教育してやりな!」
ルキア「分かりました」
男(よかった、女の人だ……だけど厳しそうだな)
ジン「俺たちは仕事に出るぞ、ウォッカ」
ウォッカ「へい!」
ルキア「私は朽木ルキアだ」
男「よろしくお願いしますっ!」
ルキア「さっそくだが、貴様には一仕事頼みたい」
男「は、はいっ!」
男(ついに来た! いったい何をやらされるんだ……!?)
ルキア「うむ、これをやってもらう」ドサッ…
男(うおっ、入社初日で書類の山かよ! さすがブラック企業!)
男(──って待てよ? この書類、なんにも書いてないぞ? 全部白紙だ!)パララ…
男「これを……どうすればよろしいので?」
ルキア「この黒のクレヨンで、全部塗りつぶしてもらう」
男「なんでそんなことを?」
ルキア「たわけ! 貴様如き新入りが、口を出すことではない!」
ルキア「黙って従えばいいのだ!」
男「は、はい、分かりましたっ!」
男「……」ヌリヌリ…
男「……」ヌリヌリ…
男「……」ヌリヌリ…
男「……」ヌリヌリ…
男「……」ヌリヌリ…
男(つ、つまんねえ……)ヌリヌリ…
男(やっと終わった……)
男「先輩、終わりました!」ドサッ…
ルキア「ご苦労」
ルキア「では次だ」ドサッ…
男(ま、またかよ!?)
男「なんでこんなこと──」
ルキア「……」ギロッ
男「や、やります、やります」
男「……」ヌリヌリ…
男「……」ヌリヌリ…
男「……」ヌリヌリ…
男「……」ヌリヌリ…
男「……」ヌリヌリ…
男(作業が単調な上、ずっと黒を塗ってると気が滅入ってくるよ、ホント……)ヌリヌリ…
男(あ~、やっと終わった……)
男「先輩、終わりました!」
ルキア「ご苦労」
ルキア「では次だ」ドサッ…
男「げえっ!?」
ルキア「げっ、ではない! さっさとかからんか!」
男「は、はいっ!」
男「……」ヌリヌリ…
男「……」ヌリヌリ…
男「……」ヌリヌリ…
男「……」ヌリヌリ…
男(バカにしやがって……いつまでもこんな仕事、やってられるか!)
男(先輩は俺を見張るわけでもなく、ちがうことやってるし……)チラッ
男(ところどころ紙を飛ばして、ラクさせてもらおう)ヌリヌリ…
男「……終わりました」ドサッ…
ルキア「ご苦労」
ルキア「もう夜になってしまったし、今日はこんなところでよかろう」
男「は、はいっ!」
男(バレずに済んだ……ってかバレるわけねえよな)
男(やっぱり、この単調作業は新人に対する嫌がらせだったんだな)
男(ったく、ひでえ嫌がらせだったぜ)
ルキア「……」
ルキア「──む!?」
ルキア「貴様、本当にちゃんとやったのか!?」
男「え、え!? や、やりましたよ、ちゃんと!(な、なんでバレたんだ!?)」
ルキア「ウソをつけ! あの夜空を見ろ!」スッ
男「え……!?」
男(なんだ!? 夜空の一部が、白い! 黒じゃなく白くなってる!)
ルキア「正直にいえば、許してやろう……。さぁ、どうなのだ?」
男「す、すみません……。少し、サボりました……」
ルキア「たわけめ……!」
ルキア「まぁいい、やっていない分にすぐに取りかかれ。私も手伝ってやろう」
男「すみません……!」
男(どういうことなんだ、これは……!?)
ルキア「ふう……どうにか終わらせられたな」
男「ありがとうございました!」
男「あ、あのう、教えて下さい! なぜ夜空は白くなっていたんですか!?」
ルキア「……」
ルキア「仕方あるまい……」
ルキア「初めのうちは教えないことになっているのだが、教えてやろう」
ルキア「実はこの会社は、この世の“黒”を司っている企業なのだ」
ルキア「我が社があるからこそ、この世に“黒”は存在するのだ」
男「……え」
男「えええええっ!?」
ルキア「この会社には我々以外にも1000名以上の社員がいる」
ルキア「そして社員は、いずれも“黒”に精通した者ばかり」
ブラックパックン
ゲンガー
ちびくろサンボ
キャプテン・クロ
ブラック・マジシャン
・
・
・
etc
男「はぁ~……すげえ」
男「でも、俺ってそこまで“黒”ですかね? なんで入社できたんだろ……」
ルキア「おそらく……腹黒そうだからではないか?」
男(え、そんな理由?)
ルキア「それに、社員だからといって、なにからなにまで黒である必要はないのだ」
ルキア「私も服装は黒だが、刀は“白”だったりするしな」チャキッ
男(なんで刀なんか持ってんだよ、この人……)
ルキア「とにかくこれで、我が社の仕事の重要性がよく分かっただろう?」
男「はい、それはよく分かりました!」
黒ひげ「ゼハハハハ、どうやら無事初日の仕事を終えたようだな!」
男「課長っ!」
黒ひげ「今夜は新人歓迎会も兼ねて、飲みに行くぞ! おれのオゴリだァ!」
ルキア「はい!」
ジン「フッ……」
ウォッカ「へい!」
男「は、はいっ!」
居酒屋──
黒ひげ「仕事はどうだった、新入り?」
男「正直いって、最初はなんだこの仕事……って思いましたよ」
男「朽木さん、仕事の目的について、なんにも教えてくれないんですもん」
黒ひげ「そりゃしかたねェさ」
黒ひげ「教えちまうと、かえってプレッシャーを感じちまう奴もいるからな」
男(プレッシャーか……)
男(たしかにな……。なにしろサボったら、色が一つ消えちまうんだもん)
男「いっときますが、俺はプレッシャーなんか感じてませんよ!」
男「むしろ、がぜんやる気がわいてきましたよ!」
黒ひげ「ゼハハハハハ、その意気だ!」
ウォッカ「いい新入りが入りやしたねぇ、アニキ」
ジン「こいつがモノになるかどうかは、まだ分からねぇよ」
黒ひげ「そういや、もうそろそろ部長が来るって連絡があったな」
黒ひげ「そしたら、おめェのことも紹介してやるからな」
男「ありがとうございます!」
ウォッカ「よっしゃあ!」
ルキア「部長も来られるのですか」
ジン「ふん、これで役者がそろうってわけだ」
男(部長か……どんな人だろう?)ドキドキ…
「お待たせいたしました、皆さん」
黒ひげ「待ってたぜ、部長!」
喪黒「ホッホッホ、これはどうも……」
喪黒「おや、あなたが新入りの方ですね?」
男「は、はいっ!」
喪黒「わたくし、部長の喪黒福造と申します。どうぞよろしく」
男「こちらこそ、よろしくお願いします!」
男(部長なのに、丁寧な人だな……)
男(みんないい人だし、仕事もやりがいあるし、最高の会社じゃないか!)
男(ようし、俺はこのブラック企業でがんばるぞ!)
喪黒「ところで、この方はなかなか見どころがあるようですね?」
ルキア「はい、それはもう!」
喪黒「では、わたくしがもっともっとあなたの力を引き出してさしあげましょう」
男「えっ?」
黒ひげ「ゼハハハハ、やってくれ!」
ルキア「お願いします、部長」
ウォッカ「これでますます仕事がはかどりやすねぇ、アニキ?」
ジン「そういうことだな」
喪黒「ホッホッホ……」
男(な、なんだ? いったいなにが始まるんだ?)
喪黒「それでは──」スッ…
ド──────────ン!!!!!
男「うわぁぁぁぁぁ~~~~~~!!?」
会社──
男「くろ、くろ、くろ、くろ、くろ、くろ、くろ、くろ、くろ、くろぉ~」ヌリヌリ…
男「クロクロクロクロクロクロクロクロクロクロクロクロクロクロクロォ~」ヌリヌリ…
男「黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒ぉ~」ヌリヌリ…
ルキア「一心不乱に仕事に取り組んでるな。よいことだ」
ウォッカ「部長のアレはやっぱ強烈っすねえ!」
ジン「新入りを一人前にするには、アレが一番手っ取り早いからな」
黒ひげ「これでウチの課の業績はぐんぐん伸びるってなもんだ!」
喪黒「今は、とことん会社に尽くす人のことを“社畜”などと呼ぶそうですが」
喪黒「どうやら彼はとことん会社に尽くしてくれそうですねぇ」
喪黒「オ~ッホッホッホッホッホ……」
喪黒(さてと、このことを“社長”に報告しに行くとしますかね)
社長室──
喪黒「社長」
?????「なんだい?」
喪黒「また一人、ウチの社に優秀な社員が入りました」
?????「ほう、そうかい! そりゃいいことだ!」
喪黒「はい、熱心に“黒”を生み出し続けています」
?????「これからもその調子で頼むよ!」
喪黒「もちろんですとも」
喪黒「松崎社長……」
松崎しげる「美しい人生と限りない喜び……それは“黒”にこそある!!!」
ド ン ! ! !
END
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