英国で聖杯戦争/Fragments (84)
燃えるような赤さだった。まさに火色。
見るだけで瞳を焼かれそう。側に立つだけでも覚悟が要る。
触れるもの全てを灰燼に帰す炎の渦。
そんな炎は、長く燃え続けることはできない。
燭台に移すことも、灯篭に宿すこともできない。
そも、扱い切れない炎など誰も望んでいないのだ。
夜を乗り切るだけの温かさがあればそれでよかった。
己さえ焼き尽くす業火など、誰にも望まれてはいなかった。
親族にも、同胞にも、あるいは世界にさえも。
――けれど、炎にだって理由がある。
いつだって、一番大事に守られてきたものが、一番激しく燃えるのだ。
【 そして再び、火が灯る。 】
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1428851977
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│ 今回の企画でお世話になった作者の皆さま。(敬称略) │
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│ イry◆/5mzbmBbN2 │
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│ 勝ち取れ◆VM1BXrkk7PfX │
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│ (仮)◆tGLUbl280s │
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│ マーズセル◆ButydSJ6OM │
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│ わぁい◆NioRww2CEg │
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│ 八百万◆BX96/KwFHU │
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│ 乱心院さん◆ve5nNlnneY │
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i /.,ヾ、 ´ ` ヾ、 }__
| !' 丶|.、 他スレとは違い、ここでは
/ レ `ヽ ィ! }
/ i i. ,i i ヽ / |ノ__ コンマ無しの文章主体スレを予定している。
/_ノ| |`X | ト. , | /i .〉:::::::::::ヽ
{. ir-ヾ ト、 .! `x" .! ノィ-{、ニニソ/
,ヽハ. iリ. ヽ.彳ォ、ヽ.ノ',イ /__}、:;;;;;;;;y
/ { i_ノ | iノ /__}',::::::::::::ヽ あれだけ濃いメンバーをそろえておいて
{ ゝ、 マ ̄ } i .iイ-' ';::::::::::/
ヽ | ` =='‐‐ ´ | ノ|_ ゞ- ´ 動くのが2スレだけでは寂しかろうと思い
,ヽ,ルフ ‘ー く::::::::レ' リ皿リヽ
ト:/.`y' ̄ ヽ__ヽ::/::::-::´;'/:::} 見切り発車でスレを立てた。
ri::{ ,! i.} {:::::::::::::{i::::/
ノ:::::ゝ-' `ー イ ̄ヽゝ,ヘ::::::::::ゝ
/::::::::/≠X干:::/:::::::::/ ヽ:::::::::ヽ
∠ヽ::::::://ニX≠:::{!:::::::::ヾ. ヽ::::::::::ヽ まあ、気合いがあればなんとかなるだろう。
`レ,.イ::{ー.メ::::::::ヾ;:::::::::::',. ';::::::::::::::\
/::;'/、`´::::::;:ィ::´`マ/:::ヾ .;:_:_:_:_:_ノム ライダーも乱心院さんもそう言ってた。
/:::::;'/ ヽイヽヽ::::::::::ヾ、:::::ヽ レヾノゞイ
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※設定は統一していますが、ひょっとしたらスレごとに差異が出てくるかもしれません。笑って流してください。
※あっちではこうだったのにここで出来ないのはおかしい!等の矛盾も出て来るかも知れません。笑って流してください。
※『あのスレではこいつ速攻で死んでたのに、このスレではラスボスだなww』的な会話は一向に構いません。
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旅の疲れはあったが、召喚を翌日に回そうとは思わなかった。何も、召喚前の奇襲を警戒しているわけではない。
ただ、早くサーヴァントに会ってみたかった。この出会いは、きっと未来をよくする。そんな予感がしたのだ。
自慢ではないけれど、私の予感はよく当たる。
一方で、触媒は用意していなかった。誰が呼ばれるか分からないままの方が、楽しいと思った。
この違い。何が明日を良くすることで、何が明日をつまらなくするのかは、きっと余人には分からないだろう。
――正確に言うなら、私自身と先生を除いては、だろうか。
わざわざ絨毯を剥いでチョークで陣を刻むような真似はしない。
最低限の準備だけ整えれば、あとの作業は聖杯が続けてくれる。
この室内に重ねる形で展開した情報世界で式を整えて、あとは呪文を唱えるだけでいい。
「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。明日に我が師父――――」
素敵な人に会えるようにと、ほんの少しのおまじないを込めて。
「降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」
ミタセ ミタセ ミタセ ミタセ ミタセ
「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」
「――――告げる」
英雄とは、死してなお人の未来を照らす光のことを言うのだと思う。彼らの成した伝説は、人々の心の中で生き続ける。
彼らは、悪を討つことによって英雄になるのではない。彼らに続こうと立ち上がる心が、彼らを英雄足らしめるのだ。
「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ
誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。汝三大の言霊を纏う七天」
だからきっと、誰よりも人の未来を愛していた先生は――。
「抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――」
魔術回路が焼き切れるほどの負荷。
魔術の対価として、痛みや眩暈を感じたことはある。意識が遠のくことはしょっちゅうだ。
けれど、これほどまでに熱いと感じたのは、このときが初めて。
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夕暮れを思わせる赤髪だった。
太陽の縁が地平線の向こうに消えたあと、最後の抵抗だとでも言うように残った赤。
あと数分、数秒で消えてしまうことを誰もが予感する。それなのに、夕日の残り香は地表を一際赤く染めていくのだ。
そんな、どこか儚げな赤髪をなびかせて。
サーヴァントは私に問いかけた。
「お前は、我が復讐に付いて来れるか?」
◆
/とりあえず今日はこれだけー
..... _
/.;:ィ、;:.\
レ.;i;i;i;i;i;i;iノヽ 週一程度のまったり更新を予定
(__)`¨¨¨´ ノ
.' ムzvvvyW、ヽ 断片形式で場面場面を飛ばしていく感じにしようと思っている
〈| j {:::j {:::} | |〉
<Wゝ _( ̄)_ ノリゝ
//く)ヽ}:∽:{ノ、´ しばらくはマトイ・グシオン&ライダー組に焦点を当てていく
.′ > -';i;i;「 |;i;if;-ヽ
{ ぐー- ┘ ー ゙ー´' > 何しろ、ライダーは赤いからな!
\  ̄,ゝ' ̄ゝ' ̄
 ̄ ̄
?1”t戦争。七陣営によ??’E?Zロイヤル。
冬木で行われた通T‰n?でも、ある程度のセオリーはあった。
冬木式の流出後、各地で模倣され始めた聖杯戦争の中で、それはよりはっきりと確立されていく。
外?A?a?Oターの場合は、身を潜めて敵が潰し合うのを待つのが良いだろう。
聖杯戦争に全てを懸けて?μ?c?μ?A?のマスターと、気まぐれにふらっと参加した?¢?B?i?。
最後に一騎打ちをするとき、相手を選べるのなら誰だって後者と戦いたい。
それに、他陣営を襲うときも¢“G?d“|?μ?弱い敵を倒して手の内を晒したあとで強敵と戦うよりも、先に強敵を相手取りたい。
戦闘後の消耗を突かれても、相手が同格未満なa“ ̄?i?¢る。
しかし、上手く隠れすぎてはいけない。情報がまったく他に漏れなA???あれば、条件が変わってくる。
他陣A?a?の内を晒さず。戦闘による消耗を知られる心配もC?U?R?
完璧な情報遮I?P?成された環‘I‰は、すなわち格好の襲撃対I?U?E?\?\ ――
――私が読める情報の量と精度は、そのままこの地における聖杯戦争への想いの強さを示す。
一人だけで考えたものではない。一族単位。数十人、あるいは数百人が関わる大事業。
混じり合った情報の渦からは、もはや作成者のパーソナリティは読み取れない。
この量。もしかすると、この地とは別の聖杯戦争のものも入ってきているのかもしれない。
どれだけ考えても、始まってしまえば事前の想定など容易く覆されるものだと分かっていながら
何人もの人が考えて、考えて、考え抜いた。
「というわけで、穴熊ってどう思います?」
「何がどう『というわけ』なのかさっぱりだ。最初の一歩が間違っているなら、その先は言うまでもない」
「勘違いでも思い違いでも、前に進めるのなら立派な一歩だと思いますが
……そうですね。私も、引きこもるのは趣味ではありません」
何しろ、未来を見ていない。
穴熊戦術の性質を言っているのではない。延々と戦術案を考えた誰かの姿勢自体の話だ。
あれは全て今現在、聖杯戦争の最中だけを見据えたもの。あと三週間もすれば、過去の遺物に成り果てる。
もっと、優勝したあとのことを考えてもいいだろうに。願いを叶えたあとのことを考えてもいいだろうに。
「目指す先が間違っているのなら、その過程は言わずもがなでしょう。行きますよ、ライダー」
「ふん。それで――行き先は?」
◆
先生に聞いてみたことがあった。
この星から、緑が消えることはあるだろうか、と。
先生は笑って答えた。
そうやって心配されているうちは、心配いらねえよ、って――。
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情報収集に出ると言って出かけたのに、気付けば森の中にいた。
途中でライダーに諌められそうなものだが、意外と主を立ててくれるタイプなのかもしれない。
霊地としては悪くない。工房があってもおかしくない場所だが、私が最初に訪れる場所としては不自然だ。
明らかに霊子ハックを活かせる場所ではない。私は何を思ってここに来たのだったか。
考えれば思い出せそうだが、過去を思うのは非生産的なので思考を中断する。
特に深く考えるまでも無く、緑はいいものだ。
「マトイ」
いつまでも道なりに歩き続けるのもどうかと思って、ふと道を外れてみようとしたところだった。
ライダーが実体化し、剣の柄に手を添える。腰を落として臨戦態勢。
睨む先は、ちょうど私が進もうとしていた方向だ。
虚空の一点を見据えて、視線だけで射殺さんばかりの殺意を打ち付ける。
次の瞬間、怒号と共に振るわれるだろう剣が目に浮かぶよう。
その一瞬に、つい目を奪われていた。
気持ちを切り替えようと閉じた瞼の裏に、まだライダーの姿が残っている。
そして目を開けると、ライダーを形作るエーテルは既に解けていた。
「一瞬気配を捉えたと思ったが……」
「気のせいだったと?」
「アサシンの可能性がある」
/今日はここまでー
「どうする?」
霊体化を保ったまま、ライダーが問いかけてくる。
それだけで、首元に刃物を突き付けられたような緊張が走る。
冷たさと熱さの中間地点。うっすらと血を滴らせながら、寸前のところで止まる剣――そんなイメージ。
ライダーは静かな声で何でもない言葉を口にしているだけなのに、つい私の手に力が入る。
彼女が主を立てるタイプなどであるものか。これは、試されているのだ。
「静観か。それも一つの選択だが――」
「行きますよ、もちろん」
「そうか」
念話は、心と心を直接通じあわせる技法ではない。それはもっと高度な魔術。
伝えたい情報だけを抜き出して届ける念話では、やり方次第でいくらでも感情を隠せる。
ライダーがどう評価を下したか、私には分からない。言葉に乗せられた重みはそのままに、その色合いが見えない。
彼女はそれ以上何も言うことなく、道を外れて木々の中に踏み入る私についてきている。
私の魔術による情報収集なら、距離・時間的な制約はある程度無視できる。
だから、近付かずに済ますこともできた。
アサシンかもしれない、というライダーの言葉を重く見るなら、一度引いた方が合理的にも思える。
でもそれは、違う気がする。
課題を先送りにしているみたいで、居心地が悪い。
うん。「可能性」と「今の安全」ならどちらを取るべきかなんて分かり切った話だ。
森を歩くのはいささか不慣れで、さっきから何度か小枝を踏んで音を立ててしまっているが
その程度の情報漏洩で青筋を立てるようなら、どちらにせよ長くはやっていけない。
そもそも、一々ライダーの顔色をうかがうのはよろしくない。
それこそ「今の安全」の最たる例というものだろう。そんなことに執着していては、いつまで経っても先生に追いつけない。
先ほど感じた恐怖は削除。次はもっと、毅然と対応したい。
◆
夜露に濡れた葉が、陽の光を浴びて色付く。やっぱり、朝方が一番綺麗だと思うのだ。
たとえ物理的に同じ意味を持つのだとしても、午前と午後では差し込む光の表情が違う。
朝焼けと夕暮れならそれはよりはっきりとする。
今はもう、朝焼けが見える時間帯ではないけれど。木々を覆う露は見方によってさまざまな彩りを見せて
ほんの一瞬だけ――それこそ事前に予測しておかなければ捉えられないほど僅かな間だけ、優しい赤色に統一される。
それは朝の色だから、後から虚数空間を漁って確認したりしてはいけない。
雪の結晶が一つとして同じ形を取らないように。歴史は繰り返さない。星辰は戻らない。
未来はいつだって新しくて、過ぎ去ったものを悔やめばあっと言う間に置いていかれてしまう。
手の中のバトンを前を走る人に渡し終わるまで、休んではいけない。
一秒後、一歩先。奇跡的な確率を乗り越えて虹色に輝く森に喝采を。
0コンマ以下の一瞬、私の視界の中の露は一様に光を散乱させる。
長い年月を重ねた樹皮は、そんな未来に続くために耐え忍んできたのだろう。
青々と茂る葉も、地中深く埋まる根も、より大きく育つために。より素敵な明日のために。
一秒後、私の予想は外れて、風が吹く。
枝が大きくしなって、露は飛沫となって飛んでいった。陽光の下の天の川というのも、それはそれで悪くない。
これまでも、これからもずっと止まっていそうだった森が一斉に動く様は、少しワクワクする。
「どうした、マトイ」
「なんでもありません」
振り返ったのに深い意味はない。綺麗でしたねって、そう伝えたい人はいつも前を歩いていた。
けれど、意味も無いのに振り返ってしまったのは失態だ。
こんなザマで、私はちゃんと私の生を未来に繋げられるだろうか。
少し不安になって、自分の見たものを情報にまとめる。
カラーコードの表現法を、未来人は分かるだろうか。
ダイナミックな枝葉の動きに合わせて、目には見えないほどわずかに振動する大樹の幹。
枯れ枝が地面を擦る中、ひょっこりと枝葉の隙間に潜り込んで、さも生きてるみたいに振る舞う落ち葉があった。
風に揺られるまま、重力を感じさせない足取りで歩く青年がいて――あ、いたんだこんなの。いましたね。いました。
私の視線に気付くと、青年は振り返って。
「あ、バレた?」
人懐っこそうな笑みを浮かべて近寄ってくる。
「サーヴァントの気配は……感じないな」
「一見したところ、魔術師には見えませんね」
どうやら探していた相手ではないようだけど、ここで会ったのも何かの縁。
少しは話してみてもいいかもしれない。
何より、誰かに道を尋ねるか周囲の情報を探るかしないと、元への林道に戻り方すら分からない。
/今日はここまでー
◆
何を話したのかはよく覚えていないけれど、好感が持てる人だった。
喩えるなら、雲。
近付くほどにぼやけていって、捉えどころが無い。
あとから情報を整理しようにも、不定期に情報が途切れるような奇妙な齟齬がある。
その時間、間違いなく私は彼と会話を交わしていた。
けれど、同時に複数人と念話を飛ばした記録を一緒くたにしてまとめたような、噛み合わないデータが残っている。
重ね合った複数の形式。どうエンコードしてもどこかが崩れる。展開不能の不可逆な圧縮。
――先生と話しているときも、ときどきこういう事があった。
あの人との思い出は、後から振り返ると形を失っていたりする。
いったい何がどうなっていたのか、今でも分からないけれど。それは、とても先生らしいと思った。
一期一会。これから何度も会えるとしても、これが最後の機会かもしれないという心構えで臨めという戒め。
先生はきっとそういうことを伝えたかったのだと、私は思っている。
彼が去ったあとの森の中、彼が座っていた切り株に手を伸ばす。
まだ少し、温かい。
「惚れたか?」
「まさか」
「即答するか……ほう」
ライダーの声には、笑いが混じっていた。初めて見る反応だったと思う。
何がおかしかったのかと聞いてみるが、返事は無い。
もう一度聞いてみるが、やっぱり返事は無い。
代わりに、意図の掴めない言葉が返ってきた。
「その想い、曲げるでないぞ」
何のことを言っているのか分からない。
進むためなら回り道をしてもいいと、私は思う。立ち止まるよりはその方がずっといい。
進むのに邪魔になる物なら、明後日の方向に投げ捨ててしまえばいい。必要ならきっと誰かが拾ってくれる。
そう考えながら、気付けば適当な相槌を返していた。
「……ええ」
「なら、良い」
訂正した方がいいだろうか? けれどもう終わった話だ。
ライダーは満足そうだから、まあ、いいかな。
軽く周囲を探ってみるが、ライダーが感じた気配については辿れなかった。
森の中のどこかに設けられているらしき結界内に隠れているのだろうか。
だとしたら、もう少し用意を整えなければこれ以上の情報は得られそうにない。
いや、用意を整えたとしても私の魔術で探れるかどうか。
この森の中の工房は、明らかな戦闘用。通常、優れた工房はその存在を悟らせないものだけど、ここのものは違う。
場所はバレてもいいと考え、強力な魔術をてんこ盛りにして仕上げた戦闘要塞。
生半可な魔術で内情を探ろうとすれば、返り討ちに合うだけだ。
「この森を探るのは、ここまでにしましょう」
最後にもう一度だけ、青年の座っていた切り株に触れる。
次に会ったときにもう一度名前を聞くのは、はばかられる。名前くらいはちゃんと覚えておかなくては。
そう、ミヴァリさん。彼は少し口ごもってから、ナシオ・ミヴァリと名乗っていた。
そして彼の舌の上に乗ることのなかった言葉もまた、私は無意識のうちに拾い上げていた。
「な……ば……り……?」
◆
,.ィチ三三三モtュ、
,.ィチ三三三三三三ニミt、
,イ三三三三三三三ミ、三ム
,'三三三三三三ハヾニ!ヾミム
l三三三ミ、三チ'"´ i´、V;;ム ◆精神異常
l三三三三t.' -‐‐-、 .ハ |ミlム、 時間感覚の麻痺。また、ときどき一時的な記憶喪失に陥る。
V三三三ミム yzz-、 ゞ' }ミl.! ̄ 彼女は『未来の自分自身に向かって霊子情報を送り続ける』という方法で対策している。
ノツヾ三ヂーミヾ!_ ,ィ7/
´ ノチ'`ヾハリ ` ;ー-‐ '
,. -‐''""゙ヽ、 ;、
ヽ fチゝ 〈カヾムt、
ヽ -‐''゙ヽィム ヾム
,'. ヽ;! ! ム. /今日はここまでー
.,' f ヽ. li'::::ヽ.
.,' :! :i ヽ.li..::::::lヽ.
,:: |"゙'l:、 `i:::::;'.l ヽ.
,.'::::::: :!ニlヽ! ! __l,,.....ヽ.
,:':::..:::::::: | / ノ_,,..-ァ゙" / ./
,:':::. ;'..:::... |チ‐'゙ _/__./ /
,:'"ヽ)、::::::: |rrfff]]]]jLLl7ハ
.,'、:ミハノ )::::::.. |'"チ'"三三アミム
.,' '"二ソ :} .:::::;' ... !彡'ヾイ三ミ!三モム
青空を仰ぐ。
巻雲を見るのは好きだ。うっすらと透き通るように伸びる巻雲は、美しい。
空の一番高いところにあって、水滴ではなく細かな氷で出来ているというのもなんだか格好良い。
それだけではない。櫛で梳いたみたいに整った巻雲は、その後しばらくの好天を約束するのだ。
私が最初に習った、未来予知の初歩の初歩。
「空を見るのは好きか」
問い掛けるライダーもまた、空を見ていた。太陽の眩しさに手をかざしている。
見下ろしているより見上げているときの彼女の方が綺麗だ。顎を上げていた方が、シャープなフェイスラインが際立つ。
けれど私と彼女の身長差もあって、ライダーの視線はすぐに下がってしまう。
長身のせいで人を見下ろすことに慣れているのだとしら、それは悲しいことだと思う。
そんな彼女の分まで胸を張って、私は遠くの空を仰ぐ。空の一番高いところにたなびく雲を、仰ぐ。
「ええ。好きです。空を見るとき、人は明日を思い浮かべますから」
「その理屈は過去にも当てはまるだろう。私の国では、時を知る術は空にしか無かった。
空は時そのものだった。それを何故、片側だけに区切って見る」
「過ぎた時間を数えることは、誰に習わずとも自然にできるものです。
ですがまだ見ぬ時を想うのは、誰かに夢を貰わなければできません」
受け売りの言葉は、ライダーのお気に召さなかったようだ。
息をつく間も無く反論が飛んでくる。
「ならば思い返すに足る経験こそ、一人ではできぬものだ」
ライダーに何か言い返してやりたいのだけど、すぐには言葉が見つからない。
そうしているうちに、雲は薄ぼんやりと伸びていって、空を白く染めていく。
空いっぱいに広がる巻雲はしばらくの好天を約束し、その後に来る激しい風雨を暗示する。
◆
───────────────────────────────ヽ ヽ
_______________________________ \ .ヽ
─────────────────────────────────ヽ .ヽ .、
Fate/straight Fake 、} lム
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ `、 .゛.l
灼鉄のフラグメンツ l ヽ
────────────────────────────────── ゙l、 ゙l, .,
─────────────────────────────────── ヽ ゞ.l
____________________________________l .!レ
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 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ! .!
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ l .l 、
─.゙'ミ'''、───,i───────────────────────────── | .`|
──゙i,ノ──/l〟──────────────────────────── | ∩!
 ̄ ̄'゙ ̄-'"゙._,/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄、,∥ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ / /
"r'" │ `゙'''へ、 : 、 ! /
.,r'l′ .,〟 l. .゙l 个'、 .、 |V .}
゙;;;;| ,r'";ヽ、 `''ー-、.l''''′ .i、, .! .゙‐'ヽ, 1.Soulmate ! .,!
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;;; ;;;;/ ノ゙.! .ュ. ..」 .,ミ;;;l; .t, . ´ ゙'! / ./
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イ;;;,,./ ''" ̄ ゙̄''"
◆
町の東側、スラム地区。
無秩序に建物が立ち並び、細かい余剰空間を細かいままに利用する。
不安定に高い建物と、隙間としかいいようの無い道。
死角は多いが、同時に夜に生きる者たちも多い場所だ。
聖杯戦争の舞台として、好ましいとは言い難い。
つまり、ここで戦いを挑んできたということは、見られても構わないということ。
敵マスターは、こう思っているのだろう。スラムの住人なら、数人消えても大した問題にはならない、と。
「――ッ! あぁ!」
「……」
夜のスラムで、セイバーとライダーが剣をぶつけ合っていた。
剣越しの衝撃が腕を伝って全身を痺れさせる。セイバーの剣撃は、ライダーのそれより遥かに重い。
一太刀受け止めるだけで全力。炎属性の魔力放出による爆炎を加えて、ようやく互角かそれ未満。
既に手の感覚は遠くなっている。それでもより固く、より強く剣を握り直す。
大丈夫。打ち合えている。痺れも痛みも、身体を動かすのに直接の支障は来さない。
元よりライダーを突き動かすのは感情の力。心が身体に先行する。肉体の負荷を気にしたことなどない。
傍目にどれほど劣勢であろうと、これはライダーにとっては五分の情勢だ。
一合打ち合って、そのあとに先手を取るのは常にセイバー。
セイバーの剣に後から対応しにいくライダーに対し、セイバーにはさらにそこから剣筋を変える余裕が残っている。
膂力も、速さも、技量においてさえも、セイバーが圧倒的に上。
だがそれでも、ライダーはギリギリで攻撃を受け止める。
出し惜しみ無しの連続魔力放出。剣が纏う炎は止めどなく爆ぜ続け、その刃は常軌を逸した動きで飛び回る。
剣に引っ張られる身体は、千切れ飛びそうなほどの痛みを訴える。だが、それが何だ。
「ァアアア――ッ!」
時間の経過と共に、ライダーの叫びが熱を帯びていく。セイバーは動じない。
セイバーのまとう質素なマントは、裾をはためかす程度。大きく揺れ動くことは無い。
ライダーの剣が、一度もセイバーの間合いに斬り込めていない証拠だ。完全に防戦一方。
荒く息を吸い込み、言葉にならない想いを叫び散らす。剣から溢れる炎が、赤く熱く滾っていく。
だが届かない。
セイバーの剣を受け止めて、攻めに転じようと思った時には既にセイバーの長剣が迫っている。
「アアアアアアアアアアアアァ!」
全力の魔力放出。想いは熱となって世界を染め上げる。視界が揺れる。一帯の酸素が失せていく。
それでようやく、セイバーの剣を受け止められる。剣を支える腕を、さらに体全体を使って押しとどめる。
一歩分、靴が土を抉り、身体が後退する。その分、セイバーが静かに一歩前進する。
音もしないほど静かな一歩だと言うのに、集中していなければ目に留まらないほど速い。
踏み出した一歩の分、次の一撃は勢いづいている。体重を乗せ、上から下へ。
だがこの太刀筋は、既に何度も見ている。踏み込みと同時の振り下ろしは見切った。対応できる。
「ッらっしゃああああああああッ――」
見切った上で、剣を愚直に受け止める。力が足りない。押し込まれる。だが怯まない。
セイバーの持つ黒い長剣が、少しずつ近づいていく。頭上に向かって1cmずつ、セイバーの剣を押し除けて迫る。
どれだけ炎を溢れさせても、どれだけ気迫を込めていても、純粋な力の前に及ばない。
ライダーの剣は、少しずつ下がっていく。触れあう剣身から散る火花は、それより激しい魔力の炎の中に消えていく。
セイバーの剣が、迫る。
だがそれでいい。この瞬間にこそ、ライダーの勝利が見えてくる。
セイバーの持つ剣が、白煙を上げる。
ようやく、効果が表れてきた。
ライダーが操る炎は、通常の魔力放出ではない。ライダーの怒りを体現する烈火。
激情の焔は、ライダーが望む限り永遠に燃え続ける。
セイバーの黒剣は、ライダーと打ち合うたびにこの炎を浴びてきた。
流れ込んだ熱は一切損なわれることなく、一合ごとに刀身に溜まっていった。
そして今、鍔迫り合って直接刃を合わせ続けている間、セイバーの剣は加速的に熱せられていく。
もはや、触れているだけで手の皮が爛れるほどの高温に達している。
だがまた、セイバーの剣がライダーのすぐ頭上にまで達していることも事実。
膨大な熱を浴びて赤熱する刀身は、彼女の赤髪にかするほど近くにまで達している。
ライダーが叩き斬られるのが早いか。セイバーの腕が炭になるのが早いか。
「――ッッッ!」
もはや息は使い果たした。叫び続けた肺は、とうに空になっている。
気が遠くなるほど長い鍔迫り合い。あるいは、ライダーが長く感じているだけか。
音に聞くバロールの瞼を思わせる重み。陽が落ちるのを止められないように、ジリジリと死がのしかかってくる。
だが挫けない。
挫けないだけで勝利が得られるなら、ライダーにとってこれほど簡単な話は無い。彼女の心は、曲がることを知らないのだから。
自らの炎が髪を焦がし始めても、際限なく高まり続ける剣圧に骨が軋み始めても、引くつもりなど毛頭ない。
「ッッッ――!」
――突然、負担が軽くなった。相手が引いたのだ。
赤熱する剣を、セイバーは構わず鞘に納める。
「臆したか!? セイバー!」
「いいえ」
代わりに取り出すのは巨大な盾。セイバーの身体全体を覆うほどのラージシールド。
それを片手で軽々と構えて、セイバーは右の拳を握りしめる。
「私の炎を見て殴り合いを避け、剣の勝負を選んだのはお前だろう。
ならばお前は、先ほどの攻防で決めるべきだった!」
「それは狭い路地だったからです。今はこの盾を使うのに、何の問題もありません」
「なに……?」
剣をぶつけ合う度にライダーは少しずつ押されていき、確かに戦場は変わっていた。
戦いを始めた当時は狭い小径だったが、今はある程度開けた空間に出てきている。
だがその盾が何ができるというのか。それほどの大きさでは、身を守るのと反撃を同時に行うのは難しいはずだ。
ライダーの剣を受け止めることになるなら、結局は熱の蓄積を受けることになる。
そも拳と剣なら、剣の方が有利に決まっている。ましてそんな大きな盾を持っていては、徒手の小回りの良さも活かせない。
セイバーは先ほどの機会に賭けるべきだった。
誰だって、そう思う。
だがセイバーにとっては、そうではない。
「覚悟はよろしいですか」
「無論。何であろうと、私の道は揺るがない」
まるで切り札を出す前のような口ぶり。マントの下で、筋肉が隆起する。
ライダーと視線を合わせ、息を吸い、重心を落とし――。
瞬間、眩いばかりの光が闇を拭い去った。
セイバーでも、ライダーでもない。光の元は、ここではなく町の中央。教会である。
常人には感じ取れない魔力の光。
単純明快な術式に大量の魔力を注ぎ込んだ非常招集。
監督役からの呼び掛けの中でも、特に緊急性が高いときに用いられるものだ。
両サーヴァントはしばし、マスターからの念話に耳を傾ける。
セイバーの反応は早かった。構えを解き、背を向ける。
「逃げるのか、セイバー!」
「状況の確認を優先します」
追いかけようとしたときには、既に視界の中のセイバーの姿は小さくなっていた。
すぐにスラムの入り組んだ構造の中に消え、見えなくなる。
その敏捷性だけとっても、それまで打ち合えていたのが不思議なまでに格上。
追撃を加えるなら、宝具を使う必要がある。
「セイバー……っ!」
剣を地に突き刺して、その場に倒れ伏す。
監督からの招集、これから各陣営が動くことになる。
このタイミングで宝具を晒しながらセイバーを追おうと考えるほど、ライダーは愚かではない。
だが戦いの中で煮え滾った闘志は、ここで止まることを良しとしない。
歯を食いしばって、己の中の炎に耐える。この激情を抑え込むまでには、少し時間が要りそうだ。
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rv': : :. :.≧=--‐=ニ ¨  ̄三三≧=-、: : : :i
): : :./ ___ >孑イ1!ヌ:.、_ !!:::l|::::ト、匁.j
i: :/ /,^ Yi::|::i::i!:::;処:戔^弍::::|!:j埓Nヽ、_
V ,イ : : 、':.!::l||::八:!ハヽ` {笈公ト≧=- ◆心眼(真):A
__ !У:::ト、ヽ、_}ヘ!: |! ::, リハヽ、_ 修行・鍛錬によって培った洞察力。
≧=ミヽ 孑:::.:.:..、 j \ / イレヘ:.! 窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、
::::::::::::>厶イ戈、:::/ヘ / その場で残された活路を導き出す戦闘論理。
:::::::::::ハ: : : : : :.≧=-斗 \ ¨ ̄`, ′
:ノ:.⌒ソ: : : : : : . : . .、≧=≧:、
: : : :.\: : : : : : : : :. : <三三≧= 、 _. ′
::. : : : .:.\: : : : : : :. :. `<三三三ミ>,
: : : : : : : ::.ヽ: : : : : . `ー=ミИ/
: : : : : :. : . . . .<三、 ヽ、_: : :. /.: :!N
: : : : : : : : : .≧=-、三斥、 廴: : . . _,,/.:::: リヘ
教会に集まったのは面々を見回す。
まず目につくのは、人形を抱く老人。
周りが小型の使い魔を用いているから大きさで目立っているのもある。
けれどなにより、存在の格が段違い。近くにいるだけでくらくらする。
どばどば流れる悪性情報。形を成していないのに、無意味に思考が深すぎる。
使い魔越しに覗いているだけなのに、延々と沼の中に沈み込んでいくようで吐き気がする。
早く接続を断ちたい。この情報は読みたくない。けれど状況がそれを許さない。
こうして大勢が集まる場に外来マスターの私が姿を晒すのは、自らアドバンテージを捨てるようなもの。
それに今から私が歩いていったのでは間に合わない。
ライダーは消化不良な戦闘のせいで変なテンションになっていたし、使い魔を使う以外に手はなかった。
けれど正直に言って、私はそういうオーソドックスな現象魔術に苦手意識があるのだ。
もちろん時計塔で基礎は終わらせてきたから、使い魔を作れないわけではない。
でもはっきりとしていればいるほど良いなんて、私の特性と真っ向から対立している。
というわけで私がいま操っている使い魔は、失敗したゆるキャラみたいな感じのへっぽこなのだった。
ラ イ ン
ろくに感覚共有も出来ない使い魔から因果線伝いに別種の魔術で情報を得る。
ボロい外装を隠れ蓑にしてこちらの手のうちを隠していると思えば、これはこれで悪くない。
……と思っていたのだけど、残念ながら発想が被った上に相手の方が出来が良い。
この場合は出来が悪い、というのが正しいかな。
何しろ相手は、そこらのコンビニで買えそうな紙紐を丸めて作った人形だ。
グルグル巻きの胴体から飛び出した糸が手足。雑としか言いようがない。
頭の部分には、紐の隙間から丸めたガムテープが見えている。目も口も、ガムテープを千切って張り付けただけ。
「そろそろいいんじゃなーい? 来る気のある奴は、もう来てるでしょ」
そんな人形が立って、喋っている。神秘の欠片も無さそうな見た目で、私のものより余程良く動く。
大本の骨子は簡素簡明。それでいて、内側を巡る魔術は計り知れない。
術者のレベルの高さを伺わせる使い魔だった。
苦手分野とはいっても、こうもはっきりと差を見せつけられると些か落ち込む。
ライダーが遠慮なく魔力を持っていったものだから、魔術回路は疲弊し切っている。
精神的にもどろどろの悪性情報を見せつけられて大変辛い。
追い打ちで魔術師としての力量の差をはっきりと見せられて、わりと限界。
情報の海が冷たくて生暖かい。粘性の液体みたいにさらさらと流れ/絡み――。
この会合、早く終わらないものか。今すぐ眠って明日が見たい。
とはいえ、集中を切らすわけにはいかない。
ええと、他にはついさっき到着した少女。もう彼女の魔力を感じ取る気力すら無い。スルー。
最後に元からいた、鳥型の普通な使い魔が一匹。この鳥を加えて、老人・紐人形・少女・鳥で四陣営。
あとは監督役のミューアヘッド神父と、私。
「全員揃ったようだな。急ぎの案件ゆえ、早くに到着した陣営には一度話しているが
改めて言おう。一時間ほど前、監督役である私が襲撃を受けた」
「ちょー――ッと待ってェ!? ソレ、おかしくなぁい?」
「うん。今の発言は明らかに変だった」
紐人形が異議を唱え、少女がそれに乗る。ええと、何かおかしいところがあっただろうか。
私が答えを出す前に、神父が答えてしまう。
「『全員そろった』という言葉に関してだろうが、それは何もおかしくない。
この場には、既に六陣営が揃っている。……アーチャー」
既にこの場にサーヴァントらしき老人がいたのと、私自身の疲労のせいもあってか実体化するまでまったく気付けなかった。
「やっほー。アーチャーだよー」
重苦しい空気をまるで読まずにダブルピースで登場。
きっちりとしたイメージの黒衣は、固めの学生服か、軍服かといったところ。
一見アーチャーの緩い笑顔にはそぐわない身なりだけど、その上から纏まった赤い布が不思議と印象をやわらげている。
なんとなく、未来性を感じる。
「いやー、マスターはこう見えて……」
「いい。私から話そう」
弁明を始めようとしたアーチャーを神父自らが制した。アーチャーはバツが悪そうに笑って、一歩下がる。
「見ての通り、アーチャーのマスターは私だ。話がこじれるだろうから、今明かすつもりは無かったのだが
先に一度話した際『どうやって生き延びたのか』と問い詰められてしまってな。後から来た陣営に情報格差を
作るのは公平ではないと思い、こうして全陣営に明かすことと相成った」
監督役によるサーヴァントの召喚。それはかなりのルール違反だ。
けれど神父は、その不正を堂々と語ってみせる。
そこに真っ先に切り込んだのは、またも紐人形。
「へぇ? じゃあ敵の言うことなんて、信用ならないよねぇ!? こうしてボクらを集めたのも、何かのワナかも。怖い怖い♪」
「我が身は神に捧げられたもの。私の一挙手一投足に至るまで、私心は介在していない。
この杯が神の御心に叶うものなら、その選択に逆らうことはないと思ったまでだ」
「あはは。だーかーらー! まッ――たく信用ならないよォ? 話になんない。結局、自分が正しいと思ったことをやるだけでしょー―ッ?
それのどこに私心が無いのー? 行動を決める指針が無いだけじゃなーい? 感覚100%の自信、タチ悪いなぁ、もう♪」
「ならば、信用してもらう必要は無い。信仰をまっとうするのに他者の理解は必要無い。
信用とは信じて用いること。人を用いて事を成す権限は、天の上にしかない」
「えぇーと? でもキミが今連れてるのはなんだっけー――ッ!? 人を使うのはダメで、英霊はいいんだー―ッ!
サーヴァントは人じゃないってことかー。そっかー。この神父サマは、なかなかの人でなしだねー♪」
「どうしようか。今の内にみんなで倒しておく?」
少女がそう口に出すと、鳥型の使い魔が少女の肩に止まった。
賛成の意を表しているのだろう。
人形を抱いた老人はボツボツと独り言を繰り返すばかりで、何を考えているか分からないが
さっきから神父を責める紐人形が加われば、対アーチャーの三騎同盟が出来上がる。
ここは流れに逆らわない方がいいかと思っていると……紐人形が予想外なことを言った。
「でもボク、知っちゃってるんだよねー――。教会でランサーが暴れてた。
この点に関しては確かだからー―ボク迷っちゃうッ! みたいなぁ? あ、情報源はヒ・ミ・ツ♪」
鳥の使い魔が音を立てて飛び上がった。抜け落ちた羽根がひらりはらり。
羽根が舞い落ちる合間、静かな余韻を残して――紐人形は纏まりかかった場をぶち壊しにした。
「ランサーっていうかー――むしろバーサーカーって感じの物々しさでさぁ。
あんなイロモノを放置するといろいろヤバげ。でもってェ! ここで神父をコロコロしちゃうとランサーの思い通りじゃん?
だってランサーは真っ先に神父に襲い掛かったわけだし、その行動に乗るのは気が乗らないなー―って!」
これまで話すだけ話してミューアヘッド神父を疑う方向に誘導しておきながら、自分からそれをぶち壊す。
「というわけで! みんな神父さんを倒す方向で考えてるみたいだケドケド!? それならボクを倒してからにしてねー!」
それが聞こえているのかも不確かな様子でふらふら歩き回る老人。表情を変えない少女。鳥は窓枠に止まって紐人形を凝視する。
神父はまるで意に介した様子も無く、「ではひとまず本題に戻ろう」と前置きしてランサー陣営に襲撃された時のことを語り始める。
くらくらする。未来が暗い。
苦笑いを浮かべてあたりを見回しているアーチャーと目があったので、笑いかけてみた。
はたして私の使い魔で、どれだけのものを伝えられただろうか。
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ヽ、_/ヘ_ ,/´ ,、 i
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ヽ、_.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.::.:.:.:.:.:{ iゝ、_,ij、_.ノi j.:.:.:ハ
`ヽ、_.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:ヘ ` ̄ー ̄ /.:.:.:.:ヽ
 ̄ ̄ ̄i:.:.::| `サ´ /.:.:.:.:/.:.:j ◆高速分割思考:×
!:.:.:i j /.:.:.:V.:.:.:{ 狂化により、失われている。
リ.:.:| } i.:.:.:.:ヽ.:.:.:i
i.:.:.:jj | |.:..:.:.:.:i.:.:.:|
|川 | |.:.:.:.:_/.:.:.:{
 ̄/ .| 川川{.:.:.:.:.:i
i .j  ̄ ̄i|.:.:.:.::|
ヽ、_ ハ |`.:.:.:.:i
| i ヽ、_i :!____.イ i.:.:.:.:.:|
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| `: :レ ; | f /j
V | | ! ! i/´
V .| i ヘ
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____ ┌───────────────────────────┐
,イニニニニニニ>、 │表沙汰にはなっていないが、この街では連続殺人が起きている。 │
, 仁ニニニニニニニニム └───────────────────────────┘
┌──────────────────────────┐ ,' ,′ i{{ i | } , i i ハトー
│少年は一般人を装って教会を訪れ、神父に奇襲を仕掛けた。 │ /'イ∥! i{ⅰ j ! }i } λ j} } i ト
└──────────────────────────┘ ⅰ|i从 iⅱ ! リjj∥j从V//i リヽ
〈ニ{! ,_/},/ / ∧ニニニニニニニ} ┌────────────────────────────┐
}=ルイ{ij!/__ノ}/!_∧ニニニニニニニ! │犯行には何らかのエンチャントが付いた刀剣類が用いられている。 │
}ニi{! ¨' イO::刈ニニニニニニ{ └────────────────────────────┘
┌──────────────────────┐ V////////////7ァ、
│少年は全身から鋭利な刃を生やして攻撃してきた。 │ 」///////////////冫
└──────────────────────┘ //////////////////>
/ニニ=ヽ'〉ー―イニニ>ニニ>、 ┌──────────────────────┐ //>
{ニニニムiy≦三<ニニニム_ │犯人は何らかの魔術で自身の足取りを隠している。 │ /∧
┌───────────────────────────┐ ∥/////////////////////ハ
│少年はある種の認識阻害能力で、自身の魔力を隠蔽している。 │ ∥///////////////////////}
└───────────────────────────┘ {{////////////////////////}
,.仁ニニニニニニニニニニニニニニニム ┌──────────────────────┐ ////}
仁ニニニニニニニニニニニニニニニニ}! │これまで、犯人についての情報はほとんど無かった。 │ ////}
┌───────────────┐ニニ! └──────────────────────┘ ///,リ
└───────────────┘
淡々とした説明だった。不確実な部分や私見を排して、事実だけに絞った内容。
続けて、監督役にしてアーチャーのマスターである神父は宣言する。
――以上より、ランサー陣営を一連の事件の犯人とみなす。
教会襲撃の件から、身を隠しているのは自己防衛のためであって神秘の秘匿を目的としたものではないと考えられ、危険陣営と認定。
よってランサー陣営に対する討伐令を発する。報酬として、功の大きかった者から順に一画ずつ令呪を配布する。
神父が語り終わる。各陣営が思案を巡らす。一斉に口を閉ざし、一心に未来を想う。
本当に報酬を与えるだろうか。だが約束を違えるなら、ランサーに続いてアーチャー陣営も共同で撃破できる流れ……。
未来を想う心は心地良い。
けれど紐人形は静けさとは縁が無いようで、早々に思考をまとめて沈黙を破った。
紐人形の発した質問に、神父が答える。
ランサーの召喚が、襲撃中に行われたものであること。
フードの陰に隠れていてあまりはっきりとは見ていないが、東洋系の顔立ちだったこと。
どちらも確実な情報とは言い切れない、と付け足すあたりがこの男なりの誠実さなのだろう。
それから老人に抱かれた人形が、相手の能力について細かく聞いていたが
神父は「初めて見るものであり、はっきりとしたことは言えない」と繰り返した。
やがて紐人形は一通り神父をなじってから討伐令への参加を表明。他陣営もそれに続いた。
細かいところを覚えていないのは、必要無いからと記録を怠ったからではなく、単に疲れていたからだろう
たしか他の全陣営が討伐令に参加していたが
私は納得がいかなかったので、討伐令への参加は保留することにして無言で帰った。
というかもともと、私の使い魔の意思伝達手段はボディランゲージくらいしかなかったのだけど。
◆
セイバーと交戦。教会への招集のため、一応用意していた使い魔を突貫で調整した。教会での話し合いが終わってからは、ひたすら情報収集に励んだ。
連続の作業で疲労が溜まっている。朝焼けを見た後に少しは仮眠を取ったのだけど、疲れは無視できないレベルに達しつつある。
そろそろ、まとまった休憩時間が必要かもしれない。
放っておいても勝手に消費される『今この時』は積極的に使っていくべきだけど、疲労を貯め過ぎれば『可能性』さえ潰してしまう。
「酷い顔だ。三日三晩走り続けた馬ですら、もう少し生気のある顔をする。根性が足りんぞ」
「休めとは言わないんですね。ライダーのそういうところ、嫌いではありませんよ」
「戦いの最中に安らぎなど無い。必要に従った安い休眠は、肉体に対する敗北だ。
休みたいのであれば目の前の作業を片付けて落ち着いてからにしろ。そうでなければ、どうせ心は休まらん」
私が集中している間は、ライダーは声をかけてこない。ふと気が緩んだときに、それをたしなめてくる。
精神論一辺倒だけれど、それだけに私の気持ちには配慮してくれているのだろう。
休息は後にした方がクオリティが高い、という主張は理解できる。
休息によって上がる作業効率と比べてみれば、仕事を終わらせたあとの休息の方がより未来の話になる。盲点だった。
「それに今眠ったところで、私の炎を維持したままでは大した回復は望めまい」
「そういう状態だからこそ今は少しでも消費を抑える、という考え方もありますよ」
「馬鹿を言え。お前は休むつもりなど欠片も無いだろうが」
「そうですね。お昼の約束までに、出来るだけ多くの証拠を集めておきたいですから」
休むべきか休むべからざるべきか。総合的な未来性を計算して答えを出すには、少し体力と時間が足りない。
ここは常識に囚われて後者の選択肢が見えていなかった過去の自分を後にするため、もう少し頑張ってみよう。
Start up.
「立ち上がれ」
霊子の海に潜るため、深く息を吸い込んだ。
◆
魔術師の力量を見るにはその使い魔を見ればいい、という言葉がある。
紐人形の出来は言うに及ばず、老人が抱く人形もなかなかの出来栄え。
あとは使い魔を使わずに自ら現れた少女と、私の使い魔がほぼ同率で最下位。
鳥の使い魔も非連絡用の使いまわし品かと思っていたのだけど
討伐令への参加を表明する段階になって、クチバシの先で魔力の線を作り、空に文字を書きあげた。
飛び回りながら描く流麗な筆記体。宝石みたいなミントグリーン。
マナに分解されて散っていくときは、線香花火を思わせる。
鳥の使い魔は鮮やかな字で討伐令への協力を伝えた。
そういうわけで、私はぶっちぎりで最下位だった。あの場の格付けではかなり下に見られたことだろう。
でもそれで構わない。目標は達成できた。
あの鳥の使い魔は、続けてもう一言書き添えたのだ。
「さきほど戦った相手との対談を求める」と。
内容はまず間違いなく、あの戦い以降ライダーの炎に包まれ続けている剣についてだろう。
握っているだけで火傷を負う状態。事実上の使用不能だ。
それでこそ、使い魔の調整をおざなりにしてまでライダーの炎を維持した意味が出てくる。
ライダーの魔力放出は宝具の限定展開によるもの。その維持には相応の魔力が必要だ。
あまり魔力量の多くない私には、なかなか辛い仕事である。
努力が実ったおかげで続けて維持しないわけにはいかなくなったけど、ともあれ未来への投資が無駄にならなくて何より。
さあ、もう少し頑張ろう。
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/;;;;;;;;;;;;;;::'´ ヽ
/;;;;;;;;;;;;;;○;;;;;;,,,_ニュ_
/;;;;;;;;;;;;;;`;;;;-‐;;;;;;;;;;、_/
/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ツ//};ヽ 竜の因子を保存してきた一族。
/,;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;r-'////, i 生物の解析・改造によって種を進化させ
,,;';;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;rァ'/////ツ ,! 人を新たな階梯に進ませることで根源を目指す。
,;';;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;r'"///////" /
/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;///////イ ./ その使い魔は竜因子を扱いやすい形に直して
/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;/ /アァ'// / 鳥の姿を取っているが、核は竜種のそれであり
/;;;;;;;;;;;;// / /'// / 破格の神秘を纏った高位の幻想種である。
,;';;;;;;;;/"(,//、/'// /
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◆
風が淀んでいた。
アルコール臭と、その中に隠れたほのかに甘い香り。麻薬の類だろう。
残る思考の残り香は、形を成さない波ばかり。言葉にしても意味が無いのだと、スラムの住人たちは知っているのだ。
この手のもやもや感は気を付けていないと私を足元から濡らしてきて面倒なので、少し気を引き締める。
けれどやがて、その必要が無いことに気付いた。
この薄汚れた街並みでは、意外と感情の用水路が上手くできている。
日常を営むスペースと、非日常を提供するスペースとがはっきり別れている。
もやもやを吐き出すための場所だけは、他所より多く用意されている。その分、外では無駄な争いはしない。
目の前の現実、生きるために1ペニーを奪い合うとき、そこに恨みは無い。何しろ、そんなことを引き摺る余裕が無い。
無為な思考を続ける習慣が無いのだ。悩みも不満も恨みつらみも、すぐに消えゆく小さな波紋。後には何も残らない。
「歩きやすい場所です。ですが、住人が何を思って生きているのか理解できません。未来への展望が無さすぎます」
「何も考えずに生きる者は、何も珍しいものではないぞ。肉の欲求を第一とする畜生は、いつの世にも居るものだ」
「辛辣ですね。ライダーはもう少し、弱者に肩入れしているものと思っていました。
彼らは金もろとも未来を奪われているのだ――とか」
ライダーは間髪入れずに言い返してくる。
「銭財に人の有り様を変える力などあるものか。金の力など、限られたものだ。真っ当な感性があればすぐに飽く。
だが馬鹿は有り余る馳走を用意し、吐いては喰い直す。吐き捨てた肉の量を比べる豚共は、目の前さえ見えていない」
前を行くライダーの歩幅が大きくなった。それに合わせて声量も上がる。
吐き出した言葉がそのまま燃えていくような錯覚。自分のことを言われているわけではないのに、身がすくむ。
「いくら金銀宝石があろうが、なかろうが、そんなもので人の心は燃えはせん。光に目がくらむだけだ。
富を無用に溜め込んで悦に入るなど、自分は馬鹿だと公言して回るのと何ら変わりない。
そしてそんな愚行に憧れて『金さえあれば俺だって』などと言い出す連中も同レベルだ。死んだ方がいいな」
でも、それはライダーの時代の話で、今もそうだと決めつけるのはどうかと思う。なんとなく喩えが古い。
昔よりは今の方が、今よりも未来の方が、世の中は良くなっている。過去の教訓は判断材料にはなっても真理にはならない。
――と言いたいところだけど、スラム街の中で主張しても今一説得力に欠けるので今はやめておく。
別にライダーに反論するのが怖いわけではない。
ただ、先生の散財は経済循環を見据えた合理的で未来的な行動だったことは伝えておきたい。
どう説明したものか考えながら、角を曲がってスラムの奥へ。
「ええとですね。今からすると無駄なことでも、後で役に立つこともありますよ」
◆
歩きながら、建物と建物の間のスペースをちらっと覗いていく。
情報の川が流れ込んで出来た渦。そういったところの半数には血の痕があって、残りの半数には大体ストリートアートが描かれている。
壁の片側だけが煉瓦作りであとはコンクリ。見た目に不安定な建物の壁にあったのは、後者の方。
スプレーで描かれた大きな絵が、建物の陰に隠れていた。
私には芸術は分からないし、有機溶剤で危ない精神状態にあったことが読み取れる作者もどうかと思う。
でもなんとなく、そこにある絵自体は嫌いではない。
煉瓦がところどころ突き出していたり、引っ込んでいたり。凹凸のついた壁面を活かして立体感を付けたイラスト。
逆立ちした自由の女神で何を伝えたかったのかは、さっぱり読み取れない。
よく分からない現代芸術に気を取られていると、ライダーが呟いた。
「銭財に人を変える力は無いと言ったが」
「ええ」
「人を変えるのは、過去の方だろう。過ぎ去ったものは変えられないからな。残った側が変わるしかない」
「そういうものでしょうか? 過ぎ去ったものはすぐに消えて無くなってしまうから
そうならないように頑張るのだと、私はそう思いますけど」
とりあえず、この絵は残しておこうと思った。何の意味があるのかさっぱり分からないあたり、先生っぽい気がする。
データ化。圧縮。名前を付けて再保存。虚数の海にデータを転がすのも、最近では慣れたものだ。
「――いつまで立ち止まっている。セイバーと仕合った場所はこの先だ。置いていかれたいのか?」
「……今、何か別のことを言おうとしてませんでした?」
「さあな。お前がそう言うのなら、そうだったのかもしれん」
◆
セイバー組との待ち合わせ場所には、『昨日の戦場』が指定されていた。
なるほど、目的の相手――私たちにだけ伝わる表現だ。
約束の場所へ行くと、既に相手が待ち構えていた。
周囲一帯を覆う人払いの結界を張っていたから、そこにいることはもう分かっていたけど。
約束通りの正午ぴったりに着いたのに相手がいなかったら少し怒るけど。
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|: : : : : : : : : : { {::::::::`ヽ、: :}: : : : : : {: :/´:::::::l }: : : : : : : :| 五分前に来るのが礼儀だぞ。
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全身緑色の丸っこい身体。大きくてつぶらな瞳と、蛇のように折り畳まれた腹。
伸びるんでしょうか。背伸びすると、あのお腹のところが伸びるんでしょうか。
なんだか格好良い生き物ながら、それでいて飛び出した前歯がキュート。
端的にまとめるなら、そう。とても未来的なデザインだった。
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