春香「今までの全部が天海春香だから」 (17)
あれ、ここは、公園?
私はIUの決勝にいて。
美希たちに、プロジェクトフェアリーに負けちゃって。
……思いだした。
ここ、私がお姉さんと会ったあの公園だ。
じゃああそこにいるのは私?
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「おねーちゃん、だぁれ?」
「私!?……私は、春香っていうお名前だよ」
「そうなのー!はるかとおんなじだぁー。はるかね、おなまえ、あまみはるかっていうの」
やっぱり。
この子は私だ。
「はるかちゃんは公園で何してたのかな?」
「はるかね、おうたのおけいこしてたの」
「おけいこ?」
「うん!はるかね、おおきくなったらアイドルになるの」
「……そう、なんだ」
「うん。はるかね、おうたをうたうのはすきなんだけど、……へたっぴなの。はるかが歌うたいつもみんな笑うんだ」
私、この頃歌下手くそだったもんな。音は外すし、変なとこで上がるし。
「はるか、アイドルになるなんてムリなのかなぁ」
「辞めておいたほうが良いよ」
そう言いかけた。
どれだけ頑張っても全部が報われる世界じゃない。むしろ報われないことのほうが多いよ。楽しいこと、綺麗なことばかりじゃない。辛いこと、恥ずかしいこと、嫌なことがいっぱいあるし、普通に女の子しておいたほうが絶対楽しいことが多いよ。
そう言いかけたのに、言わなかったのは。
いっぱい泣いたけれど、それ以上に笑ったこと多かったから。
そして何よりアイドルが好きだから。
「じゃあさ、お姉さんと一緒に歌ってみない?」
「えっ?」
「今からこの公園で歌うの。ほらあそこにおじいちゃんとか、あっちで遊んでるお兄ちゃんたちとか、みーんなに歌聞いてもらおうよ」
「で、でも」
「大丈夫だよ。……それにアイドルになるんだったら恥ずかしがってちゃダメだよ。もっともーっといっぱいの人の前で歌ったりするんだから」
「そうなの?」
「そうだよ」
「そうなんだ。そうだよね!……うん!はるかがんばる!」
「それじゃあ何歌おうか?」
「あのね、はるかのだいすきなるいちゃんの『ストレートラブ』!……おねえちゃんしってる?」
「うん!だってお姉ちゃんも大好きだから。その曲!」
「良かったね、みーんな喜んでくれたね!」
「うん!……はずかしかったけれど」
「けど?」
「すっごく、たのしかった」
「良かったー」
「おねえちゃん、おうたじょうずだったけれどアイドルさんなの?」
「……うーん秘密!」
「えーずるいー」
「大丈夫だよ、いつか分かる日が来るから」
「そうなの?」
「そうなの。お姉ちゃんだってさっき分かったんだもん!」
「へんなのー」
「ふふっ。それじゃあお姉さんそろそろ行くね」
「えーまだうたおうよー」
「はるかちゃんもそろそろ帰らないとお母さんに怒られちゃうんじゃない?お留守番頼まれてたんじゃないの?」
「あーそうだった!……あれ、なんでおねえちゃんがそれしってるの?」
「ふふっ、それも秘密」
「えーずるいー。おねえちゃんのずるっこー!」
「ほらほら早く帰らないとお母さんに怒られちゃうぞー!」
「もう!こんどあったらおしえてよー。ばいばーい!」
「ばいばい!」
……そうか。私が会った歌のお姉さんって、私だったんだ。
なんで私はここにいるんだろう?
私はIUの決勝で美希に負けて、ううん
違う。
決勝になんか行ってない。
前の日に逃げ出して。
プロデューサーさんからも逃げて。
応援してくれたみんなからも逃げて。
そして引退して。
私のアイドルとしてのストーリーは終わった。
そんな私が『はるかちゃん』にアドバイス出来ることっていったら!
「はるかちゃん!」
「ひゃっ!どうしたの、おねえちゃん?」
「諦めちゃダメだよ!逃げ出しちゃダメだよ!最初から上手く行く人もいるけれど、それに負けないで」
「……うん!わかった!」
あと。
「お菓子作りもだけど、お料理、頑張って練習しようね。きっとアイドルになっても役に立つから!」
「うん?……頑張ってみる」
「うん!」
いつかトップアイドルになれるその日まで私は、ううん『私たち』は繰り返すのだろう。この始まりを。
憧れの始まりに、自分たちが何で夢を叶えられなかったのか。それを彼女に伝えて、次に活かせるように。
私はこの日からおねえさんに言われて柔軟を頑張った思い出がある。
私にそれを言ってくれたおねえさん、その天海春香はたぶん柔軟で苦労したんだろうな。
「はるかちゃん、頑張ってね」
私の、私たちの出来なかった夢の分まで。
天海春香さん、お誕生日おめでとうございます。
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