真姫「穂乃果に監禁された」 (254)

真姫「ん……んん……」

気が付けば薄暗い部屋の中。

私は打ちっぱなしコンクリートの上に、練習着のままうつ伏せに寝かされていた。

真姫「…………な、なによこれ…………」


ジャラジャラという音がするのみで、身体がほとんど動かせない。

両手は後ろ手にされ、手錠をつけられている。

脚は片方ごとに鎖がつけられ、他端はどこかに固定されているみたい。

そして首には首輪。脚と同様に鎖がついており、脚とは逆端の壁に留められていた。

脚の鎖と首の鎖はほとんど遊びがない。そのため、脚を曲げることもできない。

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――――ガチャン

頭の方にあった、扉か何かが開いた。そこから入ってきたのは―――


穂乃果「おはよう真姫ちゃん」

真姫「ほ、穂乃果!?」

穂乃果「そう、穂乃果だよ」

真姫「穂乃果!助けて!身体が拘束されてて――――」

穂乃果「うん。立ち上がることもできないよ。穂乃果、頑張ったんだ」

真姫「!?」

穂乃果「こうでもしないと、真姫ちゃんすぐに逃げちゃいそうだもん」

真姫「ど、どういうことよ……あんたが私を閉じ込めたうえ、動けないようにしたっていうの?」

穂乃果「そうだよ。これから真姫ちゃんを救うのに必要だから」

真姫「はぁ!?私を救う!?ならこれを外して!」

穂乃果「……………じゃあね真姫ちゃん。がんばろうね」

真姫「ちょ、ちょっと待って!外してって!穂乃果!」

全くもって意味が分からない。なぜ穂乃果が私を…………

救うって何よ?私が誰かから狙われてるから、匿ってるとか?

…………理由はともかくとして、まずはどうにかここから出ることを考えなくちゃ。


手錠は……固くて力を入れてもびくともしない。

脚の枷もダメ。金属がすれる音が響くばかり。

首輪ももちろん外れない。そもそも手が使えないので、外す術すらないのだけれども。


身体を傾け、首をひねって天井を見る。切れかかっているのか、かなり暗めの裸電球が一つ。

壁を見ても窓はもちろん見当たらない。出入り口は穂乃果が出入りする扉だけみたい……



逃げるには穂乃果に何とか拘束を外してもらって、あの扉から出るしかなさそうね。

――――――――――――
――――――――

穂乃果「やっほー真姫ちゃん。元気してる?」

真姫「元気してないわよ!早く外して!」

穂乃果「まあまあ落ち着いてよ。気分はどう?」

真姫「最悪よ。あなたも味わってみれば?」

穂乃果「えー……穂乃果は遠慮しとくね」

真姫「……ねぇ、何でこんなことを?」

穂乃果「真姫ちゃんのためだよ。大丈夫、穂乃果が助けてあげる」

真姫「……それは、隙を見て解放してくれるってこと?」

穂乃果「違うよ。真姫ちゃんをね……真姫ちゃんを救い出すために、こういうことしてるんだよ」

真姫「意味わかんない!脅されているとか?それとも私を匿ってるの?」

穂乃果「時機にわかるよ。じゃあね真姫ちゃん」

真姫「待って!あ、あの、私、お手洗いに行きたいだけど」

穂乃果「ふーん………じゃあね真姫ちゃん。がんばろうね」

真姫「ホ、ホントよ!もう漏れそうなの!」


―――ガチャン

お手洗い作戦は失敗ね…………

他に何か考えなきゃ。一刻も早く抜け出さないと。

お手洗いがだめなら、体調が悪いふりをすれば…………

ダメね。さすがにそんな簡単にだまされるとは思えない。


それにしてもわからない、穂乃果の言葉。

私を助けるために監禁?まさか、外はゾンビでいっぱい!とかじゃあないでしょうね……

そして、時機っていつなのよ。10分後?1時間後?1日後?もしかして1年後?

冗談じゃあないわ!中途半端な言葉でごまかさないで!

――――――――――――
――――――――

2回目に穂乃果が来てから、かなり時間が経った。

この部屋には時間がわかるものなんて何一つない。

だから、正確な時間なんてわからないけど……

おそらく数時間。数時間が経っている…………と思う。

お腹もすいてきた。ここから出たらパスタでも食べよう。トマトがいっぱいの。

そうだ、穂乃果にはパフェを奢ってもらわなくちゃね!この私をこんなところに監禁したんだから。


…………それにしても、暖房もない部屋のコンクリートの上。寝そべっていると冷えてくる。

特に下は膝下までしかないから直に触れていて……まるで氷を当てられているように冷たい。

このままだと、早いうちに本当にお手洗いに行かないといけないわね……

穂乃果「おーい真姫ちゃん」

真姫「やっと来たのね、穂乃果。あの、お手洗い行かせてほしんだけど…………」

穂乃果「どうしようっかな」

真姫「すぐに戻ってくるから!ちょっとだけでいいの、この鎖を外してくれない?」

穂乃果「………………ガマン、できるよね?」

真姫「もうできない、限界よ。本当なんだから!」

穂乃果「真姫ちゃんならガマンできる。そうだよね?それと私ね、真姫ちゃんに伝えたいことがあるんだ」

真姫「……今が色々喋ってくれる時機ってこと?」

穂乃果「違う違う。あのねよく聞いて。誰も悪い子の真姫ちゃんを助けになんか来ないんだよ。絶対に」

真姫「た、確かに今すぐに助けは来ないかもしれないけど……でも、ほら、そのうち警察も動いて―――」

穂乃果「そういうこと、考えない方がいいと思うんだ。だって…………まぁいいや、伝えたいことはそれだけだよ」

真姫「それだけ?それで、お手洗いは―――」

穂乃果「…………じゃあね、真姫ちゃん。ファイトだよ」

真姫「ああっちょっと!外しなさいよ!本当にお手洗いに行きたいの!」

――――――――――――
――――――――

「くぅぅぅ…………ごめんなさい穂乃果!謝るから!お手洗い行かせて!」

限界、もうとっくに限界。

でも、こんなところで漏らすわけにはいかないわ…………

内股にして力を入れれば……ああ、もはや全然効果が…………


どうして私がこんな目に合わなくちゃいけないの?

こんな暗い部屋に拘束されて、おまけに失禁させられる?

私が何をしたっていうの…………ねえ穂乃果…………



「穂乃果ぁ……お願いだから…………」グスッ

うう、あ……いやっ……ダメなのに…………もう…………!

――――ガチャン


穂乃果「…………真姫ちゃん、おもらししちゃったんだね」

真姫「ゥ……ヒッグ……ううう……」ポロポロ

穂乃果「あーあ穂乃果はガマンしてって言ったのに」

真姫「だって…………グス……あなたが……ッ……」

穂乃果「人のせいにするの?ガマンするかどうかを決めるのは真姫ちゃんだよね」

真姫「そんなこと言ったって…………」

穂乃果「真姫ちゃんはどこでも致しちゃうんだ。動物と一緒だね」

真姫「ち、違う……!」

穂乃果「待ってて、いいもの持ってくるから」

穂乃果「おまたせ」

真姫「……何を持ってきたの」

穂乃果「ペット用トイレシートだよ。真姫ちゃんにぴったりだね」

真姫「なっ……ぴったりじゃないわよ!そんなものいらない!」

穂乃果「でも、毎回おもらしして泣かれるのも困るの。ほら、シート敷くね」

真姫「…………………」

穂乃果「んっしょ……ちょっと脚あげて、シート滑り込ませたいから」

穂乃果「…………………よし、できた。これで安心だね」

真姫「安心じゃない……」

穂乃果「ちゃんと、トイレでするんだよ?……まぁ動けないし心配ないよね」

穂乃果「あとね、もう一個……おもらしした罰として、着けてもらいたいものがあるんだ」

真姫「なにをつける気?」

穂乃果「普通のヘッドホンだよ。ただ、とれないように固定できるようになってるけど」

真姫「クラシックでも聞かせてくれるの?」

穂乃果「……おもらししたのに余裕があるね。やっぱり真姫ちゃんを最後にして正解だった」

真姫「…………私が最後?」

穂乃果「なんでもない。じゃあ着けるから頭動かさないで―――こうやって―――」カチャン


穂乃果「できた、どうかな真姫ちゃん?」

真姫「………………頭が重い」

穂乃果「あはは。でも真姫ちゃん床に這いつくばってるんだし、あんまり関係ないよね」

真姫「…………」

穂乃果「再生ボタンを押して……よし、それじゃあ真姫ちゃん。穂乃果はもういくね」

ザッザザザッザ―――――

なによこれ、ノイズ音が延々と流れるだけじゃない。

……………ああもうイヤ。

こんなところにずっと閉じ込められたまま。身動きもできない。

お腹もすいた。喉もカラカラ。ここに連れてこられてから、何も口にしてないもの。

時計も何もない部屋で何時間も何日も…………餓死するまでこのまま?

そんなのって……………そんなのって…………


やめよう。後ろ向きに考えるなんて私らしくない。

そのうちにみんなが助けに来る。私の携帯を使ってどうにかごまかしてるんでしょうけど……

そんなのあっという間にばれるわ。パパやママならすぐおかしいと思うはず。

もう少し。そう、もう少しで解放されるんだから…………

寝ます

『大嫌い』

眠りに就いた私。それを叩き起こしたのはその言葉。

ヘッドホンから大音量で流れてくる。ノイズとノイズの間に私の知る声で。

「大嫌い」

凛の声だ。さっきは希だった。

こんな冗談みたいな音声を聞かせて、何がしたいんだろう。

もしかして、みんなで私をからかってる?そうだとしたら、やりすぎよ。

ほら、知ってるんだから。パッと明かりがついて、その辺から希がでてきて。

「いやーごめんごめん真姫ちゃん。ちょっとやりすぎたわー」アハハ

ってね。もう十分楽しんだでしょう?早く来てよ……

ねえみんな

穂乃果「真姫ちゃん。ごはんだよ」

真姫「………………」

穂乃果「ああ、そうか音声流してると聞こえないよね。……これで聞こえるかな?」

真姫「………………」

穂乃果「ほら、真姫ちゃんごはんだよ、ごーはーん!食べないの?」

真姫「…………食べる」

穂乃果「だよね、もうおなかペコペコだもんね?ここに置いとくよ」コト

真姫「…………」クンクン

真姫「ねぇ、なにこれ?」

穂乃果「ごはんだよ、真姫ちゃんの。キャットフードだけど、猫と同レベルの真姫ちゃんなら食べるよね?」

真姫「食べない……私人間だから」

穂乃果「食べないの?まあいいけど。お水も置いとくね」

真姫「手、外してよ。これじゃあ飲めないから」

穂乃果「猫は手なんか使わなくても上手に飲めるよね」

穂乃果「そろそろかな…………じゃあね真姫ちゃん」

穂乃果は私に徹底的に屈辱を味わわせたいようだけど。

食べるわけないじゃない、キャットフードなんて。

それに水だって、猫みたいに舌でちろちろ飲めっていうの?

やらないやらない。やらないわ、そんなこと絶対に……!





「大嫌い」

相変わらず流れてくるノイズと大嫌いの声。

内容自体はどうということはない。むしろ無音よりは退屈しない。

だけど、この音量。うつらうつらしてきたところで大嫌い。

意識がなくなったと思えば大嫌い。

内容どうこうよりも、単純に大声のせいで眠れないことが苦しい。

きっと、最初からこれが目的で……罰とか何とかも言ってたし…………



――――――――――――
――――――――

ぴちゃぴちゃ―――

どんな飲み方をしても、水を飲んでる事には変わりないんだから……変じゃないわ

薄い底の皿に入った水。啜ることでほとんど飲めたけど、残った水滴ですら今や惜しい。

今はしょうがないのよ、別に猫と同レベルなんかじゃない。キャットフードなんか食べないし。

食べないし………………



喉の渇きは多少癒えたけれど、空腹はますます強くなって。

頭も痛い。全然睡眠がとれていない。ここに連れてこられた時、さっさと寝ていればよかったのに。

身体が重い。拘束されているから動けないけれど、わかるわ……何かが調子がおかしいって。



「大嫌い」

うるさい。あんたたちの声なんてこっちが大嫌いよ…………

穂乃果「おーい真姫ちゃん。ちゃんと食べたかな?」

真姫「………………なに」

穂乃果「ああ、そうか停止しないとね」

真姫「…………………………」

穂乃果「あれ、ごはん食べてないじゃん。食べないと死んじゃうよ?」

真姫「…………食べない」

穂乃果「そっか。お水は―――しっかり飲んだんだね。舐めるように」

真姫「っ……………………」

穂乃果「……そろそろ真姫ちゃんに言わないとね」

穂乃果「なんでこんなことしているかを」

真姫「…………………………」

穂乃果「簡単な話だよ。悪い子の真姫ちゃん。みんなみんな真姫ちゃんなんて大嫌い」

真姫「なによそれ…………!」

穂乃果「さんざん聞いたよね、みんなの声。なんて言ってたっけ」

真姫「べ、別にあんなの………………」

穂乃果「ううん、あれがみんなの本心。やっぱり真姫ちゃん、わかってなかったんだね」

穂乃果「でもね、そんな悪い子の真姫ちゃんを救うことができるんだよ。私なら」

真姫「…………………………」

穂乃果「だから、こうやって頑張ってる。穂乃果も、真姫ちゃんも」

真姫「………………ぜんっぜんわからない」

穂乃果「…………とにかく私の言うことを聞いてくれれば、真姫ちゃんは助かるから」

真姫「助かってない…………ねえ、早く外に出してよ…………」

穂乃果「助かるの。だから言うこと聞いてね。まずは―――」ガサガサ

―――ジャララ


穂乃果「水の入ってたお皿にお薬入れといたよ。錠剤。全部で……まずは11錠かな」

真姫「…………どうしろっていうの」

穂乃果「お薬は飲むものに決まってるよ。わかるよね?」

真姫「な、何の薬よ。こんなに多く飲んだら…………」

穂乃果「何の薬かはヒミツ。大丈夫、全部飲んでも死んだりはしないから」

真姫「飲めるわけないじゃない、こんな怪しいの…………」

穂乃果「次に来るまでに全部飲んでね。それじゃあね、真姫ちゃん」

薄暗い中ぼんやり見える白い錠剤。絶対に飲んではいけない、そんな気がするわ。

どうにかしてごまかさないと…………

この部屋は暗いから、身体の下に隠せばきっと見つからないはず。

口でいったん錠剤を咥えたあと、身体の陰に吐き出してうまいこと隠せば…………


――――――――――――
――――――――

「最初から大っ嫌いだったの。だって真姫ちゃん悪い子なんだもん」

ヘッドホンからの音声は今までと異なり、私のことがいかに嫌いかを淡々と話すものになった。

海未が、絵里が、花陽が、μ'sのみんなが口々に嫌い嫌いと言ってくる。

「みんな本当に私のこと大嫌いだったの…………?」


わからない。でもμ'sのみんなと過ごした時間が、全部ウソだったなんて信じたくない。

一緒に笑って、一緒に楽しんだのが全部ウソなわけないもの。

でも、そういえば何度か感じた気がする。私に向けられた本当のキモチ…………

―――――――――――――――
―――――――――――
―――――――


――――放課後の練習

海未「では今日は全員で基礎トレーニングを行います」

凛「えー……トレーニングはきつくていやニャ!」

真姫「いやって、あなた。基礎体力つけないと、ライブで体力持たないわよ」

絵里「真姫の言う通りよ凛。基礎トレーニングあってのダンストレーニングなんだから、しっかりやらないと」

海未「はい始めますよ!まずは―――」

穂乃果「待って、今日はユニットごとのダンス練習にしようよ」

海未「ユニットごとのダンス練習ですか?」

穂乃果「うん、なんかそういう気分だよね」

真姫「気分って…………海未や絵里はね、明確な目的をもって練習メニュー作ってるのよ!?」

絵里「私は穂乃果がしたいのなら、それでいいと思うわ」

海未「私も穂乃果が言うんでしたら賛成です」

真姫「ちょ、ちょっと!穂乃果が言うから変更するって、おかしいわ!」

絵里「おかしい?」

海未「何か問題でも」

真姫「っ……問題大ありよ。あなた分単位のメニューを作ってるんでしょう?それを穂乃果の思い付きで変えるなんて」

海未「…………」

凛「何言ってるの真姫ちゃん。そんなこと言ってるとまた悪い子に……」

花陽「凛ちゃん、真姫ちゃんの腕…………」

凛「ああ、まだなんだ……じゃあ仕方ないニャ」

花陽「うん、可哀想にね…………」



あの時の海未や絵里の冷淡な声、憎しみが籠った眼をこちらに向けてたもの。

凛や花陽の私を憐れむかのような声。残念なものを見るかのような眼差し。

もうとっくにわかってたのかもしれない。私が嫌われていたってこと。

大っ嫌いよ、あなたなんて大っ嫌い

私は端から悪い子なので嫌だったんです。でも、穂乃果が作曲できる子がいないと困るというので――――



やめて、やめてよ。もうやめて………………

あれからずっと穂乃果は来ない。ただひたすらみんなの嫌い嫌いを聞いて聞いて聞いて。

もうわかったから……私が悪い子でμ'sのみんなに嫌われているのはわかったから……

助けに来てくれないのも、私が嫌いだからなんでしょ?

みーんな私がどうなってもどうでもいい。いや、苦しんでいる方が都合がいいのかも。



でも、どうしてなんだろう。どうして私はこんなに嫌われちゃったんだろう。

悪い子だから。なんで悪い子なのだろう。

教えてよ、パパ、ママ。私は悪い子なの?どうして悪い子なの?

教えてよ

―ガチャン

穂乃果「音声を一時停止にしてと…………おはよう真姫ちゃん。ちゃんとお薬は飲んだ?」

真姫「ええ」

穂乃果「…………飲んだんだね。お皿空になってるもんね」

真姫「…………………………」


真姫「……穂乃果。あなたは私のこと嫌い?」

穂乃果「…………大嫌いだよ、今の悪い子の真姫ちゃんは」

真姫「そう…………」

穂乃果「大嫌い」

真姫「……………グス…………ねぇ、なんで嫌いなの。なんで私が悪い子なの…………教えてよ……」

穂乃果「悪い子なのはね―――穂乃果の言うことを聞かないからだよ、真姫ちゃん」

真姫「ちゃんと従ってるわ」

穂乃果「ほらね、ウソなんかついて。やっぱり真姫ちゃんは悪い子だよ」

真姫「ウソなんてついてない」

穂乃果「薬はどうしたの。飲んでないことなんてすぐわかるんだよ」

真姫「それは……っ………ち、違うの……グス……」

穂乃果「いいわけまでするんだ。これは罰を与えないとね」

穂乃果『もしもし。にこちゃん?うん、真姫ちゃんダメだった。…………今ここにあるよ。…………わかった、ちょっと待ってて』

穂乃果『うん、わかってるよ。…………そう』

真姫「に、にこちゃん?にこちゃん!」

穂乃果「ちょっと静かにして。今話してるんだから」




穂乃果「さてと。じゃあ真姫ちゃん、これ着けるから動かないでね」

真姫「な、なによそれ…………」

穂乃果「どこがいいのかな…………うーん……指……いや耳がいいかな」グッ

真姫「痛っ……」

穂乃果「しっかり固定して……よし、こんな感じかな」

穂乃果『あ、にこちゃん?準備できたよ。…………えっと耳。うん。……え?いいけど』

穂乃果「真姫ちゃん、にこちゃんがお話ししたいって」

真姫「………………」

真姫『もしもし、にこちゃん。』

にこ『真姫ちゃん、穂乃果から聞いているわよ。頑張ってるみたいね!』

真姫『がんばる…………?そ、そうなの」

にこ『でもね、やっぱりウソをつくようじゃ、まだまだよ。早く良い子にならないと』

真姫『う、うん…………ところで、にこちゃん。にこちゃんは私のこと…………嫌い?』

にこ『ええ、今のあんたは大っ嫌い。悪い子だから』

真姫『……………………』

にこ『…………ごめん、もう切るわね』

真姫『………………うん』



穂乃果「さてと、準備できたし罰を受けてもらうからね」

真姫「………………」

穂乃果「ちょこっと電気を流すの。大丈夫、黒焦げとかにならないよ」

真姫「い、いや…………いやよ…………」

穂乃果「いやとか言わないの。せっかくにこちゃん作ってくれたのに」

真姫「そんな…………にこちゃんが…………」

穂乃果「じゃあいくね、えっと……えい」ピッ

とてつもない痛みで、頭が真っ白になる。

身体が硬直して動かない。呼吸もできない。

意識があるのに何も考えられない。いっそのこと気を失えればどれだけいいものか……



――――――――――――
――――――――

罰の後、穂乃果は頑張ってと言い残して行ってしまった。

状況は変わらない。身体は拘束され、ヘッドホンからはみんなのホンネが垂れ流し。

すこしずつわかってきた。私は皆に嫌われていて、だからこんな目に合うのだって。

そして、嫌われる理由は私が悪い子だから。悪い子だから…………

クチャ…………ピチャ…………

身体が限界だっていうのはわかっていたの。今までは分かっていながら、私の理性が止めていたのだけど……

もうムリだった。猫用の餌を食べることの何がいけないの?同じ食べ物だもの、何の問題もない。

キャットフードはツナのもので、味はほとんどしないがまずくはない。やっぱり問題なんてないわ。


ペットトイレで用を足すのも慣れた。練習着がひどい有様になっているだろうけども、もうどうでもいいや。

ああ、猫になってしまえば、みんなから嫌われることもないし、電撃を受けることもないのかな………

――――――――――――
――――――――

「はぁ…………はぁ………うぐ……」

通電は一度じゃなかった。穂乃果が出て行ってしばらくはなかったけれども、突然行われるようになった。

最初の『大嫌い』の音声のように不規則に、強度もばらばらで。


「―――だからね、私は真姫ちゃんが大嫌いなんです」

ごめんさいことり。もう私が悪い子なのはわかったの、μ'sだってやめます。

だから、だから、どうかこの電気を止めてください。お願いします…………

「久しぶり真姫ちゃん」

「ちゃんと穂乃果ちゃんの言うこと聞いてるかニャ?」

久しぶりに扉が開いた。入ってきたのは穂乃果ではなくて、花陽と凛。



凛「なんかすごい臭いがする」

花陽「り、凛ちゃん!」

真姫「…………」

花陽「あ、あのね、真姫ちゃん。今回はお手紙を持ってきたの」

凛「誰だと思う?」

真姫「……………………」

凛「そこは勘でもいいから誰か言おうよ!」

花陽「正解は……尾崎まこさん、でした。真姫ちゃんの中学の友達みたいだね」

真姫「……………………」

花陽「それじゃあ読みます!真姫ちゃんへ――――」

そろそろ本当のことを言ってもいいかなと思ったの。

私が何で真姫ちゃんと一緒にいたかってこと。

罰ゲームだったの。同じクラスの子たちとカラオケ勝負をして、負けちゃって。

罰ゲームの内容は、西木野さんに話しかけて一週間友達のふりをすること。

点数勝負で最下位になった私は――――――

真姫「…………もういい」

凛「え?いいの?友達からの手紙なんでしょ?」

真姫「聞きたくない…………友達だと思ってたのは私だけなんだから…………」

花陽「まだまだ全然読んでないよ?全部で4枚あるんだけど、まだ1枚目で……」

真姫「わかったから…………今までに私のことを好いてくれた子なんていないのっ…………」

花陽「真姫ちゃん………………」

真姫「二人もごめんね。二人とも私のこと大嫌いなんでしょ?」

陽「………………うん」

凛「凛も今の真姫ちゃんは大嫌い」

真姫「そうよね…………うん…………今までごめん、本当にごめんなさい」

花陽「………えっと…………あっ!そ、そろそろいくね、ほら凛ちゃんも!」

凛「待ってよ、かよちん!………じゃあね、頑張れ真姫ちゃん」フリフリ

……私のこれまではなんだったんだろう。

今までの想い出は全部ウソだった。私だけが、かけがえのない想い出だと思っていた。

私が笑顔になっている横で、みんなはどんな気持ちだったんだろう。

私にいなくなってほしいと思っていた?


これからもずっと私は嫌われ続けるんだろう。だって悪い子だもの。

μ'sのみんなや、まこちゃん達みたいにいい子じゃないんだもの、しかたないわよね。

パパやママはどうなんだろう。やっぱり、悪い子だから嫌い……?


――バチン

――――――――――――
――――――――

最後に扉が開いてからどれだけの時間が経ったんだろう。

空腹は放っておくとなくなるって聞いたことがあるけど、本当だった。

お腹がすいたという感覚はもはや無くて。ただただ身体が動かない。それだけ。

睡眠も気にならなくなってきた。もう眠気とかそんなものは感じない。

目を瞑るとすぐに意識が飛んじゃうけど。

でも電気はダメ。全然慣れない。

痛い。怖い。もうおかしくなる。

そのうち強いのが来て、死んじゃうんじゃないかって。



…………でも死んじゃってもいいかもしれない。痛いのもなくなるし。

たぶん、にこちゃんがこれを作ったのも、私に死んでほしかったからで。

うん、そうね。悪い子の私が生きてても何の意味もないもの。

きっと、穂乃果の言う助けるっていうのも、つらい世界から抜け出せるように助けるってこと。

そうよね?だから、ねえ早く助けてよ…………

穂乃果「真姫ちゃーん」

真姫「………………」

穂乃果「もうヘッドホンからは何も流れてないでしょ?聞こえてるよね?」

真姫「………………」

穂乃果「聞こえてる?聞こえてたら頷いてほしいな」

真姫「………………」コクコク

穂乃果「あのね、真姫ちゃんのご両親について話をするよ」

真姫「………………」

穂乃果「真姫ちゃんのご両親は、早い段階で真姫ちゃんがどうしようもない悪い子だ、ってことに気付いたみたいで」

穂乃果「ただの後継ぎの駒としてしか見ていなかったんだって。まあ当然だよね」

真姫「…………グス……」

穂乃果「勉強はできたみたいだから、そこだけ褒めたら懐かれて。でも、愛情を注ぐ気はからっきしなかったって」

穂乃果「結局、真姫ちゃんはお勉強マシンだったってこと。μ'sの作曲マシンみたいに」

真姫「……エグ…………うぅ…………」



穂乃果「悪い子の真姫ちゃんは皆みんなに嫌われて。悪い子はみんなを不幸にするから」

穂乃果「これからも、真姫ちゃんは嫌われ続けて…………周りを不幸にし続けていくんだよ」

真姫「っ………………スン…………」

穂乃果「でもね、そんなの嫌だよね?悪い子なのはつらいよね?」

穂乃果「だから、穂乃果が、みんなが真姫ちゃんを救おうとしてるんだ」

真姫「殺して……くれるの…………?」

穂乃果「殺す?違うよ、そんなことしない。みんな真姫ちゃんのこと信じてるもん」

真姫「………………?」

穂乃果「真姫ちゃんは良い子になれる。良い子になれば、みんな真姫ちゃんのこと大好きになるんだ」

真姫「…………本当?」

穂乃果「本当だよ。穂乃果たちに任せて。真姫ちゃんは穂乃果に従ってくいればいいの」

真姫「………………うん」

穂乃果「それじゃあね、まずはごはん食べようね。ほら猫缶ゼリータイプ!あとお水も」コトン

真姫「………………」モグモグ

穂乃果「そうそう。ちゃんと食べないとね」

真姫「………………」

――――――――――――
――――――――


穂乃果は私を救ってくれる。悪い子の私なんかを助けてくれる。

私にはどうすればいいのかはわからないけど、穂乃果は知っている。

悪い子の私が、良い子になる方法を。



私の目の前に、ちっちゃなμ'sのメンバーが現れてね。みんなが言うの。がんばろうね真姫ちゃんって。


「カードがウチに告げてるんよ、真姫ちゃんなら悪い子からオサラバできるって」

そうよね、希。あなたの占いはよく当たるものね、信じて頑張るわ。


「私は知ってますよ。真姫が努力家であきらめないことを」

ありがとう海未。絶対にあきらめない、良い子になってみせる。


「マジメな真姫だもの、何も心配はいらないわよね?ちゃんと言うことは聞くのよ」

ええ、心配なんかさせないわよ、絵里。穂乃果の言うことにはしっかり従うわ」


「真姫ちゃんが良い子になって戻ってくるまでに、新しい衣装作っちゃうね。とびきりかわいいの♪」

その衣装を必ず着れるよう努力するわ。ことりが私を信じて作ってくれるんだもの。



μ'sは9人の女神の名前からとったというけれど。間違いなく、私にとってμ'sのみんなは女神よ。

私を救ってくれる8人の女神なの。

私も良い子になって、9人目の女神になれるのかな…………

穂乃果「真姫ちゃん。真姫ちゃーん!」

真姫「……………………」

穂乃果「聞こえますかー?真姫ちゃーん!」ユサユサ

真姫「……………………あー……」

穂乃果「聞こえてるね?話をするけどいいかな?」

真姫「……………………ほろか……?」

穂乃果「うん、穂乃果だよ。ちょっと確認するね。これ何本?」

真姫「……………………?」

穂乃果「ああ、暗くて指がよく見えない?ちょっと待ってね。ペンライトで……」カチ

穂乃果「これでどう?見えるかな」

真姫「………………にー」

穂乃果「よし、大丈夫だね。これから、真姫ちゃんには良い子になってもらうために、訓練をしてもらうよ」

真姫「くんれん」

穂乃果「そう訓練。ちょっと痛かったり苦しいこともあるけど、穂乃果と一緒にがんばろう?」

真姫「………いいこ?」

穂乃果「うん、良い子になれるよ。だからね真姫ちゃん、頑張ろうね」

真姫「……………………うん」

――――――――――――
――――――――

真姫「ん……んん……」

気が付けば明るい部屋の中。

私はふかっふかのベッドの上に、清潔な寝巻で仰向けに寝かされていた。

真姫「あれ…………ここは……?」



ジャラジャラという音はない。身体は自由になっている。

手にも、脚にも、首にも、もはや拘束具はなかった。

天井を見る。蛍光灯がついているが、今は点いていない。

右手の窓からは日光が差し込む。少し眩しいくらいに。

左にはテーブルが置いてあり、その上にはペットボトルのリンゴジュース。

その横にあるのはアナログの置時計。今の時刻は……1時42分、お昼過ぎね。

穂乃果「おはよう真姫ちゃん」

真姫「穂乃果!ここはどこなの?私どうして……」

穂乃果「落ち着いて。ここは私の部屋だよ。私と海未ちゃん、ことりちゃんの3人で連れてきたの」

真姫「そうなの?で、でも私……」

穂乃果「真姫ちゃんは頑張ったんだよ!本当によく頑張った」ナデナデ

真姫「それって…………」

穂乃果「真姫ちゃんは訓練してたの。もう悪い子じゃない。良い子になったんだよ」

真姫「あ……ああ………………」ポロポロ

穂乃果「明後日からμ'sの練習に行こうね。みんないい子の真姫ちゃんを待ってるんだから!」

真姫「うん……うん!…………ありがとう穂乃果………本当にありがとう」

穂乃果「ううん、真姫ちゃんが頑張ったんだよ。穂乃果は少し手伝っただけ」

真姫「頑張れたのは穂乃果のおかげよ」

穂乃果「えへへ、そうかな?じゃあ、真姫ちゃんこれからも頑張ろうね。まずは今日明日で体調を戻さないとね」

穂乃果「これね、海未ちゃんから」

真姫「なにかしら?手紙?」

穂乃果「それはねーなんと!真姫ちゃん専用筋トレメニュー!」

真姫「うえぇ…………なによこれ、セットや回数までびっしり書いてあるじゃない」

穂乃果「筋肉落ちちゃったからね。海未ちゃんが早く戻せるようにって」

真姫「わかったわ。しっかりやって早く筋力を戻さないとね」

穂乃果「ファイトだよ!さて、真姫ちゃんも大丈夫そうだし、そろそろ家に帰る?」

真姫「え…………」

穂乃果「おうちの人には、学校泊まり込み合宿ってことになってるから」

真姫「私、家に帰るの?」

穂乃果「そうだよ?ああ、そうだ。食事なんだけど、覚えてないかな?昨日や今日の朝はゼリーとかおかゆは食べてて……」

穂乃果「いきなり揚げ物とかはきついだろうから、無理しないようにすこしずつ―――」

真姫「……帰りたくない」

穂乃果「…………ダメだよ帰らなくちゃ。お父さんもお母さんなら大丈夫。」

穂乃果「真姫ちゃんはもう良い子になったんだから」

真姫「違うわ……そうじゃない。穂乃果がいないと良い子でいられなくなっちゃうかも、って。不安でしょうがないの」

穂乃果「…………そっか、真姫ちゃんも不安なんだね」

真姫「…………ええ」

穂乃果「ちょっと腕を出して」

真姫「はい」

穂乃果「………………よし」

真姫「これは?」

穂乃果「手作りのブレスレット。着けていれば良い子でいられるよ」

真姫「…………ありがとう。これで、本当に悪い子になったりしない?」

穂乃果「今まで穂乃果が間違いを言ったことあった?」

真姫「なかったわね。いつも穂乃果が正しかったわ」

穂乃果「心配しないで、これからも穂乃果の言うことをちゃんと聞いていれば、いつまでも良い子のままだから」

凛「まきちゃーん!!まきちゃん、まきちゃん!」ダキッ

真姫「ちょっと凛!いきなり抱きつかないでよ、もう!」

花陽「おかえり真姫ちゃん!腕のブレスレット…………真姫ちゃんもちゃんと良い子になったんだね」

真姫「ええ、そうなの!」

花陽「花陽はずっと信じてたよ。真姫ちゃんなら良い子になれるって」



練習に戻った私は、みんなから労いと祝福の言葉を受けた。

みんなの瞳は優しくて暖かくて。悪い子だった私に向けられていたそれとは全く違う。

良い子になって、はじめてみんなに受け入れられたんだなって。

もう嬉しくて幸せで…………


μ'sのみんな、ありがとう。みんなのおかげで私は良い子になれた。

そして、穂乃果。あなたには本当に感謝しているわ。

自分が悪い子だったことさえ知らなかった愚かな私。そんな私に手を差し伸べてくれた。

あんなに反抗的だった私に、あなたはとても優しく、最後まで見捨てずに救ってくれた。


だからね、私はこれからも頑張る。穂乃果に救ってもらったんだもの、当然よね。

あなたの言葉は絶対に信じる。あなたの言葉ならどんなことだって従うわ。

もう悪い子には戻らない。私はずっと良い子で居続けるの。




おわり

――――――――――――――
―――――――――
―――――


今日の放課後もμ'sの練習です。

毎日決まってペアでの柔軟から。もちろん今日も柔軟から。

ただいつも違うことが。



―――――凛ちゃんがいません。


ここ三日間ずうっと休み。でも、連絡はまったくありません。

メールを送っても、何も返ってこないし、電話はつながりません。

旅行なのか、病気なのか、まさか事故にあったのか……ねえ凛ちゃん、どうしたの?

絵里「今日も凛は休みなの?」

真姫「ええ。学校にも来てないのよ」

希「今週一度も来てないやん。何かあったんやない?」

絵里「花陽、あなた何か連絡もらってないかしら?」

花陽「それが何もなくて…………いつもなにかあったら、すぐにメールくれるんだけど……」

希「ますます心配やんな…………」

海未「……心配なのはわかります。しかし連絡がない以上、ああだこうだ言っていても仕方ありません」

絵里「それはそうだけど…………」

穂乃果「ほら、練習しよう?時間なくなっちゃうよ!」

――――――――――――――
―――――――――

花陽(練習、全く集中できなかったよ……)

花陽(凛ちゃん、どうしてるのかなぁ…………)


ずっと昔からの幼馴染。こんなにも連絡がとれなかったことはなかったと思います。

携帯を持つ前でも家の電話でお話してました。

凛ちゃんが旅行に行った時も、旅先から電話をくれました。

それなのに今回は…………



花陽(きっと気づいてないだけだよね。熱があって、携帯が見れないとか……)

花陽(でも、もしかしたら誘拐とか…………)

花陽(いやいや、まだ三日だもん。別にそのくらいなら、連絡とれないことって普通だよね…………)

―翌日


やっぱり今日も凛ちゃんがいません。

教室も昨日と同じように、空席が一つ。

μ'sのメンバーも、いつまで待っても八人です。

もう今日の帰りに凛ちゃん家に行って、直接確かめよう。そう思ったときでした。



海未「昨日凛から連絡が来ました」

花陽「ええっ!本当なの、海未ちゃん!?」

海未「本当です。昨日練習が終わった後にメールが来まして」

希「それで、なんて?」

海未「水ぼうそうにかかったそうです。高熱と発疹が出ていると」

穂乃果「水ぼうそうだったんだ。私も幼稚園のときにかかったなぁ」

ことり「高熱が長引くことが多いんだよね。凛ちゃん大丈夫かな?」

花陽(………………普通の病気だったんだ。ちょっと安心)

花陽(早く元気になって、一緒に練習しようね凛ちゃん)

海未「そうそう、お見舞いには来ないでほしい、とありました」

絵里「どうして?」

海未「どうも水ぼうそうで顔にも発疹ができてるそうで。あんまり見せたくないんだそうです」

穂乃果「かゆくて赤いのがいっぱい出来るんだよね」

絵里「やめてよ穂乃果。なんか痒くなってくるじゃない!」

真姫「それにしても、凛も不運ね。水ぼうそうって子供のときにかかれば軽いのに」

希「まぁ、おばあちゃんになる前にかかったんならラッキーやん?」

真姫「それはそうだけど」



水ぼうそう。花陽も幼稚園に行ってた頃にかかったことがあります。

といっても、ぜんぜん覚えていないんですけどね。

お母さんが言うには39℃の熱が出て大騒ぎ。救急車をすぐに呼んだそうです。

凛「おはようかよちん!」

花陽「おはよう凛ちゃん!」




週を開けての月曜日。凛ちゃんは笑顔で、登校前の待ち合わせ場所にいました。

一週間とちょっとぶりの凛ちゃんは、病気のせいか少しほっそりしてた気がするけど―――とっても元気そうです。

もうその姿を見ただけで、全身から力が抜けるような気がして。

今までの不安な気持ちがぜーんぶ吹き飛んで―――


凛「ごめんね、かよちん。すごい心配させちゃって」

花陽「うん、とっても心配したんだよ!でもよかった!よかったよ凛ちゃん……!」ギュッ

凛「えへへ、かよちんにこんなにも心配してもらえるなんて。頑張った甲斐があったニャ!」

花陽「でも、連絡してほしかったな。μ'sのみんなも本当にどうしたんだろって」

凛「それは……そのごめん。ちょっと携帯に触れなかったの」

花陽「しょうがないよね、高熱だったんでしょ?だから今度からは…………だね」

凛「そ、そうそう。高熱で動くのもつらくって。ホントにごめんね」

いつも以上に凛ちゃんにべったり。

さすがに授業中こそ話さなかったけれど、それ以外はずっと凛ちゃんとおしゃべりしていました。


お昼は真姫ちゃんを加えて三人で。

真姫ちゃんったら、凛がいると静かに食べれないじゃない、とか言ってるんです。

自分から凛ちゃんの机に移動してるのに。クスクス。


そして放課後。凛ちゃんとは久々の練習です。

―部室

凛「いっちばんのり!―――ってあれ、にこちゃん」

花陽「あ、にこちゃん。もう来てたんだ早いね」

にこ「…………凛、あんたどんだけ心配させたと思ってんの」

凛「………………ごめんない」

にこ「何で連絡しないのよ?連絡はアイドルの、基本中の基本よ?」

凛「えっと、携帯を見る元気がなかったというか……」

にこ「…………まぁ大変だったでしょうから、責めたりはしないわ」

凛「ありがとう、にこちゃん」

にこ「…………………………」

凛「ん?どうしたの?」

にこ「…………あんた、水ぼうそうだったのよね?」

凛「え、みずぼ…………う、うん。そうだよ」

にこ「そう。どこの医者に行ったの?」

凛「あー…………あの、そう!真姫ちゃんのところ!」

にこ「西木野総合病院ね。わかったわ、ありがとう」

花陽「?」

凛「それじゃあ先に屋上行ってるね!」

花陽「うん」

にこ「久々だから張りきってるわね」

凛「そうなんだニャ!全然練習してなかったから、楽しみで。じゃあ後で!」

―バタン


にこ「…………………………」

花陽「にこちゃん?どうしたの、難しい顔して」

にこ「あの子水ぼうそうじゃないわ」

花陽「ええっ!?」

にこ「うちのチビがこの前かかったのよ。だからよく覚えてる」

にこ「水ぼうそうって発疹がかさぶたになるの。熱も下がって体調が戻ってくるころにね」

花陽「でも凛ちゃん―――」

にこ「かさぶたも発疹もなかった。医者じゃないし勝手なこと言えないけど…………」

花陽「水ぼうそうじゃなかった……?」

にこ「別に何の病気であろうが、すっかり治ってるならいいんだけどね」

花陽「そうだよね」

にこ「ただ、何か隠してる様子なのよね…………まさかとは思うけど」

花陽「まさかって?」

にこ「不治の病にかかってます、とか………………」

花陽「………………」

にこ「…………ごめんなさい。冗談でも言っちゃいけないわね、こういうのは」

花陽「凛ちゃん…………」



凛ちゃんがウソをついているかもしれない。些細なウソだろうけど、気がかりです。

きっと、水ぼうそうみたいな病気だった。だから分かりやすいよう、水ぼうそうって言っちゃった。それくらいのウソだよね……?

まさか実は、世界に数人の難病になりました、とかじゃないよね…………

それからの生活は、凛ちゃんが休む前とほとんど同じでした。

一緒に登校して、一緒に授業を受けて。お昼も一緒にたべて、放課後は練習して。

でも、ひとつだけ変わった事があります。

時々、凛ちゃんがわけのわからないことを言うようになったんです。



凛「かよちん、最近の調子はどう?よくなってきたでしょ?」

花陽「調子?う、うん…………勉強もμ'sの練習も上達して、調子いいかも」

凛「だよねだよね?よかった!ちゃんとね、凛は良い子でいられてるもん!」

花陽「ん?どういうこと?」

凛「あのね、凛が良い子にしてれば、かよちんともっと仲良くなれて。かよちんをもっと幸せに出来るの」

花陽「ええと……私は凛ちゃんはいい子だと思うよ?昔からいつも私に優しくしてくれて―――」

凛「うん、やっと、頑張って良い子になったニャ。かよちんにもわかる?」

花陽「…………頑張って良い子になる?何を頑張ったの?」

凛「良い子になるための訓練だよ」

花陽「…………?」

花陽(なんだか、かみ合ってないよぉ…………)

花陽(凛ちゃんの話、わかるようでわからない………………)

花陽(私のために何かしていた、ということなのかな……?)

花陽「あれ、今日は凛ちゃんパンなんだ」

凛「うん。穂乃果ちゃんがお昼はパンの方がいいって」

花陽「ふーん。穂乃果ちゃんパン大好きだもんね。パン仲間を作りたいのかな」

真姫「パン仲間ってなによ。凛も律儀にパンにしなくてもいいんじゃない?」

凛「…………パン食べないと。かよちんや真姫ちゃんに何かあったらイヤだもん」

真姫「はぁ?」

花陽「ありがとうね凛ちゃん」

真姫「花陽も何で感謝してるのよ。ほら、パンだけじゃ栄養偏るんだから。野菜とかあげるわよ?」

凛「いらない。パンじゃないとダメなの」

真姫「…………まぁいいけど。野菜ジュースくらい飲みなさいよね」

凛ちゃんの変な話も聞き流すくらいになって、別のあることに気が付きました。

毎日、必ずひとつだけ、いつもと違うことがあるんです。

今日はパン食。いつもはお弁当なのに。昨日は髪の毛を一か所で結んでいて、おとといは胸リボンを外していました。



どうしてそうしているの?と聞いても、悪い子になりたくないから、と返されるばかり。

その意味はよくわかりません。

リボンは、つけてないほうが良くないと思うんだけどなあ…………

花陽「あ、今日は腕時計着けてきたんだ」

凛「左腕に着けてきてねって」

花陽「そうなんだ。占いか何かなの?」

凛「ううん。良い子でいるために必要なの」

花陽「そっか…………」

凛「えへへ、お父さんのだから大きくて腕が重いニャ。だけど一日ずっと着けてないと」

花陽「でも今日はプールがあるから、いったん外さないとね」

凛「あ、そっか。プールだっけ…………休まないと。この腕時計、防水じゃないからしょうがないニャ」

花陽「エエッ!?なんで?」

凛「だって、外しちゃダメなんだよ!μ'sのためだもん」

花陽「………………」

――――――――――――――
―――――――――

絵里「外しなさいって言ってるでしょう?」

凛「ダメなの!絵里ちゃんが、かわいそうな目にあってほしくないもん!」

絵里「何言ってるのよ。腕時計着けて踊ったら危ないの」

凛「イヤニャ!」

希「凛ちゃん、ウチはよくわかるよその気持ち。ラッキーアイテム言うんは、肌身離さず持っていたいって」

希「でもな、身体から少し離しても大丈夫。運気を呼び込む効果は十分あるんよ」

凛「そういうのじゃない。絶対ダメなの」

にこ「いい加減にしなさいよ!」

凛「ど、怒鳴らなくてもいいじゃん!」

にこ「……あんた、なんか最近おかしくない?」

凛「別におかしくないニャ」

花陽「でも凛ちゃん、たまに妙な話するよね?」

凛「妙な話なんてしてないよ」

にこ「…………私もあるわ。あの休みの後からくらいから、みんなのためだから――――とかなんとか」

凛「………………だから妙な話なんて」

にこ「…………休みの時に何かあったのよね?」

凛「………………」

寝ます

―カチャン



海未「ふぅ……すみません。遅くなりました」

ことり「ごめんね、クラスで決め事があったの」

絵里「大丈夫よ。まだ練習は始めてないから」

穂乃果「そうなの?それなら走る必要なかったじゃん!」

海未「…………ところで、練習せずに何をしているんです?」

絵里「ああ、あのね凛が―――――」

にこ「変なのよ」

凛「変じゃないニャ!」

ことり「…………変?」

絵里「変というか……腕時計をつけて練習したいって言ってて」

海未「腕時計……ですか?」

絵里「ええ。ほら、左腕に着けているでしょう?」

海未「ああ、本当ですね。男物でしょうか、凛の腕にはずいぶんと大きいように見えますが」

絵里「海未からも言ってくれないかしら?踊ってる時に危ないし」

海未「そうですね。凛、どうして腕時計を外さないのですか?」

凛「その、みんなが不幸になったらイヤで…………心配だから…………」

海未「……………………」

凛「……………………」

海未「……………………」

絵里「ええと、海未?どうしたのよ、黙りこくって」

海未「……別にいいんじゃないですか」

絵里「なにが?」

海未「腕時計を着けて練習しても。問題ないですよね」

にこ「はぁ?危ないって言ってるでしょう!?ぶつかったりしたらケガするかもしれないのよ!?」

海未「ぶつからないようにすればいいだけです」

希「万が一のことを言ってるんよ。それに、腕からすっぽ抜けることだってあるかも」

海未「それはしっかりバンドを締めれば―――」

穂乃果「海未ちゃん。私は練習中は外すべきだと思うな」

海未「っ―――でも、それでは……」

穂乃果「凛ちゃん、外そうよ」

凛「え、でも……腕時計着けてないと凛、良い子でいられなくなっちゃうって……」

穂乃果「大丈夫、大丈夫だよ。ほら、外そ?」

凛「……………………」

穂乃果「……ね?」

凛「…………うん」

穂乃果ちゃんの話し方はとっても柔らかで。不思議と聞き入れたくなる感じがします。

来年後輩が入ってきたら―――まぁ、廃校が阻止できればなんですけど―――私も、こんな風にできるかなあ?


穂乃果ちゃんの説得を聞いて、凛ちゃんはすぐさま腕時計を外します。

そのあとはいつも通り。みんな汗だくで練習です。

練習が終わり、いつものように凛ちゃんと真姫ちゃんと一緒に帰りました。

凛ちゃんはすっかり機嫌を直しているようでした。

昨日みた動物番組の話、海未ちゃんの弓道の話、他にもたくさん話をして―――


でも、私は話にあまり集中できませんでした。

凛ちゃんの左腕の腕時計。それを見るたびに考えちゃったんです。

なんで凛ちゃんは、あんなに必至だったんだろうって。

それからも凛ちゃんは、おかしなこだわりを続けました。

腕時計の翌日は晴れなのに、黄色いレインブーツを履いて。

その次の日は暑いのに、カーディガンを着込んでました。

そして今日は…………


真姫「飲みなさいって。脱水症状にでもなったら危険なのよ?」

凛「でも…………大丈夫。ほら、全然動けるニャ!」

にこ「今動けるとか、そういうんじゃないの。突然気分が悪くなったりするんだから」

凛「気分も悪くないもん!練習再開しようよ!」

絵里「あなたが飲んだら始めましょう」

凛「だーかーらー!凛は大丈夫なの!」

海未「凛が大丈夫って言ってることですし、始めませんか?」

真姫「ダメよ。身体壊す危険があるんだから。ねえ、誰かお茶持ってきてない?」

「………………」

今日は凛ちゃんが言うには、日中にお茶以外の物を飲んだら危険なんだそうです。

学校でもお茶の入った水筒をもってきていました。

だけど、練習までに飲んでしまったらしく、今あるのは練習用に持ってきたスポーツドリンクだけみたい。

なんで、練習用はお茶じゃないんだろうと思ったんだけど……

どうやら、凛ちゃんのお母さんがいつもドリンクを作っているらしく、今日もそれを持って行かされたみたいです。




絵里「……海未、穂乃果はどうしたんだっけ?」

海未「さっきも言ったじゃないですか。家の手伝いがあるから休みです」

絵里「ああ、そうだったわね……」

希「エリちもとうとう暑さにやられて…………相当ぼけてきてんやね」

絵里「……………かもしれないわ」

希「まぁウチにまかせといて。穂乃果ちゃんはいないけど、ウチが穂乃果ちゃんみたいにうまーく説得するから」

絵里「任せたわよ」

希「知ってた?凛ちゃん。お茶にもスポーツドリンクにもな、ビタミンCが入ってるんよ」

凛「………………」

希「実は二つの中に入っている成分って、ほとんど同じ。水分、ビタミン、ミネラル…………ほらね?」

凛「………………」

希「だから大丈夫。スポーツドリンクを飲んでも大丈夫なん。さ、飲も?」

凛「いやニャ」

希「………………」

にこ「わかった。私がお茶を買ってくるわ」

凛「ええっ、いいよそこまでしなくても。飲まなくて大丈夫だから!」

にこ「何かあったら心配なのよ。あんたは日陰で休んでなさい」

凛「で、でもっ!」

にこ「いいから。あんたのわがままに付き合ってたら、きりがないじゃない」

凛「なっ、わがままなんかじゃないの!これはね、みんなのために必要なことで―――」

真姫「また、そのわけのわからない言い訳。いい加減にしなさいよ」

凛「だって!だって、本当なんだよ?真姫ちゃんならわかるよね!?」

真姫「まったくわからないんだけど」

凛「そ、そんな……」

にこ「休みの時に何があったかは知らないけど、凛、最近のあんたはやっぱりおかしい」

凛「………………」

にこ「何か良くないことがあったのよね?今ここで、話してほしいんだけど」

凛「…………うう…………ぐすっ……もういいよ…………もういい!」

目に涙を溜めた凛ちゃん。屋上の扉を押し開けて、階段をかけおりていきます。

真姫ちゃんやにこちゃんが、戻ってくるように叫んでいるけど。

だけど、凛ちゃんはとまらなくて―――



きっと凛ちゃんにも、凛ちゃんの考えがあるんです。

凛ちゃんはみんなのために、一生懸命になっているんだよね?

表情を見ていたらわかるよ。ずっと見てきたんだもん。

真剣になっている凛ちゃんの顔。



大丈夫だよ。ちょっと、ほんのちょこっと言葉が足りないだけなの。

凛ちゃんがやってることが正しいなら、みんなきっとわかってくれるはずだよ。

花陽「待ってよ凛ちゃん!」

凛「………………」

花陽「ねえ!待って!」



私は一人、凛ちゃんを追いかけます。

だけども、やっぱり凛ちゃんは速くて、追い付けません。

私がこれ以上ムリっていうくらいに走ってるのに。

―ガラッ

――カチャン



物理準備室。凛ちゃんが今、入っていった部屋です。

入口は一つで、目の前にある扉だけ。

少し遅れて私も入ろうとしますが、扉が開きません。



花陽「はぁ……はぁ……おねがい。開けてよ、凛ちゃん!」ドンドン

凛「………………やだよ」

花陽「……私にはわかるよ。凛ちゃん」

凛「………………」

花陽「凛ちゃんが、みんなのために頑張ってるってこと」

凛「………………」

花陽「今日のことだって、この前の腕時計だって。μ'sのために必要だった、そうだよね?」

凛「………………うん。でも……でも……」

花陽「みんながそれをわかってくれない?」

凛「………………そう。みんな、凛がおかしくなったとか、変だとか、わがままだとか」

凛「…………なんでわかってくれないの…………なんでなの…………!」

花陽「……カギを開けてほしいな」

凛「イヤだ。みんなもいるんでしょ?」

花陽「いないよ。みんなはまだ屋上」

凛「…………ホント?」

花陽「うん」

凛「…………わかった」




中に入ると、凛ちゃんは扉の前で俯いて突っ立っていました。

凛ちゃん、と呼びかけて。ゆっくりと近づいていくと―――

とたんに大声で泣き始める凛ちゃん。

大粒の涙がぽろぽろこぼれて。堰を切ったようにって、こういう時を言うんでしょうか。

私はそんな凛ちゃんをぎゅうと抱きしめて。

大丈夫。私は凛ちゃんのことわかってるよ。

凛「グス…………ねえかよちん。何でみんなわかってくれないの…………」

花陽「…………それは―――凛ちゃんの頑張り方が、みんなに見えにくいからだと思うな」

凛「見えにくい…………?」

花陽「うん。勉強したり、練習したりするのは見てすぐわかるでしょ?一生懸命頑張ってるんだって」

凛「…………うん」

花陽「でもね、凛ちゃんのやってることは、見ても何をしてるんだろう?ってなっちゃうの」

凛「……………………」



花陽「例えばね、私がお米さえ食べてれば、ラブライブ優勝できるんだよって言うよね」

凛「……………………」

花陽「それで、私がお米ばかり食べてる。どう思う?」

凛「……………………ちょっと変かなって思う」

花陽「でもね、実は魔法のお米だったんだ。全然練習しなかったけど、ラブライブも優勝しちゃうの」

凛「……………………」

花陽「今の凛ちゃんはね、みんなからこんな感じに見れちゃってるの」

凛「…………で、でも」

花陽「わかってる。凛ちゃんのやってることは、ちゃんと効果があるんだよね」

凛「そうなの!魔法なんかじゃなくて。みんなのダンスだって上手くなるし、歌だって!」

花陽「それは、私たちが練習しても到底届かないくらいに?」

凛「……………………うん。だって、凛が良い子になってから、みんなすっごく上手くなったんだよ」

凛「きっと、このまま続ければもっともっと…………!」

花陽「…………ねえ、凛ちゃん。良い子になったのはいつなの?」

凛「学校をお休みしてた時だニャ」

花陽「……………………そっか」

凛「うん」

花陽「……………………それはね、みんなが上手くなったんじゃないよ」

凛「えっ?みんな上手くなってるよ!凛、びっくりしたもん」

花陽「…………あのね。そう見えるのは、凛ちゃんがお休みしてたからなの」

凛「どういうこと……?」

花陽「久しぶりの練習だもん。凛ちゃんがみんなと差がついちゃってた。だからだよ」

凛「……………………」

花陽「久々だから身体が上手く動かせない。だけどみんなは軽々やってる。だからうまく見えたんだと思うな」

凛「……………………」

花陽「凛ちゃんが良い子なおかげもあるよ。だけど、きっとその効果って普通の練習と同じくらい」

花陽「私たちが必死に練習して―――合宿もして、ライブもして。そうすれば、絶対上手になる」

凛「……………………」

花陽「一緒に頑張れば、もっと仲良くもなれる。魔法のお米なんて食べなくても、優勝だってきっと―――」

凛「……………………」

花陽「だからね、凛ちゃん。私はこれからも、凛ちゃんと一緒に練習を頑張りたいな」

凛「……………………うん」

花陽「良い子でいることも、もちろん必要なことだとは思うけど」

花陽「それよりも、練習で、勉強で頑張る姿をみんなに見せよう?」

凛「……………………うん。わかったよ、かよちん」

凛ちゃんは昔っから、どんくさい花陽に優しくしてくれたよね。

知ってるよ。凛ちゃんはみんなに優しくできる子だって。

だから、その優しさがちょっと違う方向に行ってたんだね。

きっと、勘違いしちゃったんだよね。

高熱の時って、頭もぼうっとするから。

そんな時に見たり聞いたものって、ちょこっと間違って頭に入っちゃうの。

それから私と凛ちゃんはお家に帰りました。

にこちゃんに、途中だけど帰るねってメールをして。

帰りの凛ちゃんはずっと黙っていました。

だけど、最後。別れ際に凛ちゃんが、明日からも練習がんばろうねって。

うん。頑張ろうね凛ちゃん。

その日から凛ちゃんのこだわりも無くなりました。

おかしな話もピタッとやんで。代わりにμ'sの話が増えた気がします。

μ'sの話をする時の凛ちゃん。すっごい笑顔なんです。



練習でもこの前みたいな、とげとげしい雰囲気になることはなく……

海未ちゃんの厳しい指導にひいひい言いながら、それでも楽しくやっています。



凛ちゃんは、まだ少し本調子でないみたい。

だけど、自主練をしているらしく、ほとんど元通り。

海未ちゃんにも褒めてもらっているようです。

――――――――――――――
―――――――――


今日は練習がお休みの日。放課後は凛ちゃんと二人で、あまいあまーいパフェを食べに行くんです!

凛ちゃんが新しいお店を見つけたらしくて。楽しみだなあ。

先に宿題を片付けたいと凛ちゃんは言うので、学校で宿題をしてからの出発です。

数学と英語の宿題。

テストが近いためか、ちょっと多いです。

だけど、何とか一時間程度で終わらせます。

凛「こっちこっち!」

花陽「待ってよー!早いよ凛ちゃん……」



よっぽど楽しみなのか走り出す凛ちゃん。

追い付くのけないからやめてほしいよぉ……

走る凛ちゃんを追いかけて、どんどん進んでいきます。

学校から離れて、駅からも遠いところまで来ちゃったみたい。

花陽「はぁ……はぁ……ねえねえ、本当にあってるのかな?」

凛「あってるよ。ちゃんと調べてきたから大丈夫ニャ!」

花陽「で、でも、この辺りって、お店なんかある雰囲気じゃないよ?」

凛「隠れ家みたいなお店なんだよ」



走るのをやめ、凛ちゃんは歩き出しました。

私の前を進み、ゆっくり先導してくれます。

時々、後ろをちらりと見て、私の姿を確認してくれて。

大丈夫だよ。花陽は、突然いなくなったりはしないよ!

花陽「まだなの?」

凛「もうすぐ…………っと」



突然に立ち止まって、こちらを向く凛ちゃん。

私の方を見て、こくんと頷きます。

着いたってことなのかな?

それにしても、お店みたいな建物なんて……



―バチン

首元に何かが押し付けられたかと思うと、全身に痛みが走って。

あがっというような。そんな変な声を出しながら、私は道にへたり込んでしまいました。

何が起こったの?凛ちゃんは大丈夫なの?



立って逃げようとしても、脚に力が入らない。

背中にも首にも力が入らず、顔を上げることもできません。

ああ、どうなっちゃうんだろう…………

凛ちゃんは、ちゃんと逃げられたのかな……?

――――――――――――――
―――――――――

手錠をつけられ私は今、ちいさな部屋の中にいます。

コンクリートで囲まれたうす暗い部屋。電球だけが唯一の明かりみたいです。

扉は一つ。後ろ手のまま開けようとしても、開きません。

窓もありません。どうやら、地下室みたいです。



身体が動かなかった私。人に負ぶられて、ここに連れてこられました。

顔も動かせなかったので、どこの建物なのかはわかりません。

だけど、へたり込んでいた場所からは、そう遠くないようです。



私を負ぶった人は、オトノキの制服を着た黒い長髪の―――海未ちゃんです。

もう一人、後ろから支えていた人がいましたが、それはわかりません。

……どうして、海未ちゃんが私をこんなところに閉じ込めたんだろう?

最近、練習をきつそうにしてるからかな?

二人でここで特訓ですっ!とか、海未ちゃんなら言いそう?

だけど、さっきの痛いのはやりすぎだよね。

もしかして……誰かに脅されて、こんなことしているのかも……?



―――ガチャン



たった一つしかない扉が不意に開きました。

中に入ってきたのは―――




―――凛ちゃん

ゆっくりと部屋に入ってくる凛ちゃん。

よかった無事だったんだ。



花陽「凛ちゃん!無事だったんだね、よかったぁ!」

凛「……………………」

花陽「…………凛ちゃん?」



凛ちゃんの左手には、鎖のようなものが握られています。

もう一方には何やら機械のようなもの。



…………バチン…………バチン

さっき聞こえた音。右手の機械の先からは青白い光が見えます。

これって…………ドラマとかでよく見る、スタンガン……?

花陽「り、凛ちゃん!なんでそんなもの持って……!」

凛「さっき渡されたんだ。良い子にするのに必要なんだよ?」

花陽「…………え、どういうことなの!?」

凛「……………………まずはこれをつけて。それから話そ?」

花陽「な、なにそれ…………」

凛「これはね、かよちんの足に着けるんだよ。おとなしくしててね」

花陽「……ひっ……やだ…………イヤだよ……」

凛「凛の右手にあるの、わかるよね。さっきも痛そうにしてたもんね」

花陽「…………さっきもって、凛ちゃん見てたの?」

凛「うん。ここに運ばれるまでずっと見てたよ」

花陽「…………………………どうして」



どうしてなの凛ちゃん。

凛「これでいいのかニャ?……うん、大丈夫そう」


私は右足に、さっきの鎖をとりつけられました。

もう片端は、壁にある金属の輪っかにくぐらされています。


凛ちゃんは取り付けを確認すると、扉の方へ歩いていきます。

扉の前に立つと、くるりとこちらを向いて、じっと立ったまま。

花陽「ねえ凛ちゃん…………なんでこんなことするの?」

凛「…………………………」

花陽「凛ちゃん…………」

凛「…………穂乃果ちゃんに聞いたの。なんでみんな、凛のことわかってくれないのかって」

花陽「だから、それは…………」

凛「良い子になって頑張ってるのに。なんでなのって聞いたよ」

花陽「……………………」

凛「そしたらね、教えてくれたニャ。凛が良い子でも、みんなが悪い子だとダメなんだよって」

花陽「……………………」

凛「やっとだよ。やっとわかったの。ああ、みんな悪い子だからなのかって」

凛「だからね。穂乃果ちゃんと一緒に、みんなを良い子にするの」

凛「まずはかよちんだよ。一緒に頑張ろうね!」

花陽「な、何言ってるの……………………」

凛「穂乃果ちゃんはね、みんなを良い子にしてくれる。だから、凛もお手伝いする。わかるよね?」

花陽「わかんないよ、凛ちゃん……………………」

凛「えへへ。かよちんも良い子になれば、今よりずっとずーっと仲良しになれるんだよ!」

花陽「凛ちゃんの言ってる意味、全然わかんないよ…………」

凛「大丈夫。かよちんは優しくて素直だから。きっとすぐに良い子になれるニャ!」

凛ちゃんの表情は、暗くてはっきりとはわかりません。

でも、きっといつもと変わらない。無邪気な笑顔だと思います。

声を聴いてても分かります。一緒に遊びに行く時の、あの楽しげな声。

悪意なんて、かけらもないんです。



だけど……だからこそ、とても怖いんです。

怯えてでも、敵意を持ってでもなくて、いつもの調子の凛ちゃん。

そんな凛ちゃんが、何でこんなこと…………

私、わかんないよ凛ちゃんのこと。

花陽「これからどうするつもりなの?」

凛「ここにずっといてもらうニャ。ちょっとバチッってしたり、色々するけど」

花陽「…………そ、そんなっ!」

凛「大丈夫。凛だってここで頑張って、良い子になれたんだから」

花陽「……………………えっ」

凛「かよちんなら絶対良い子になれる。凛、信じてるから」

凛「だから、一緒に頑張ろうね。かよちん」

ようやく気づいたんです。

凛ちゃんがついてたウソ。それって、全然小さなものじゃなかったってことに。

私が凛ちゃんどうしてるのかな?ってのんきしている間、凛ちゃんはここにいて。

暗い部屋の中に閉じ込められて、酷いことをされていたんだ。

なにが正しくて、なにがおかしいのか。

それが、わからなくなっちゃうくらい酷いことを。

今思えば、海未ちゃんが言ってたメールだって、おかしかったんです。

だっていつも凛ちゃんは、何かあったら一番に私に知らせてくれるもんね。

あの時のメールを、変だなって思えれば…………

直接凛ちゃんのお家に行ってれば…………

ううん、凛ちゃんのお家に電話さえかけてれば…………

凛ちゃんが酷い目にあうこともなかったのに。






――――――ごめんね凛ちゃん。

おわり

穂乃果「ねえ、この後みんなでアイス食べようよ!」

凛「賛成ニャ!やっぱり、放課後はアイスだよね!」

ことり「どこに行く?やっぱり駅前のアイスクリームショップかな?」

穂乃果「うん、アイスクリームショップに行こう!」

海未「わかりました。じゃあ早く着替えを済ませましょう」

穂乃果「そうだね。絵里ちゃんたちも行くよね?」

絵里「ええ、もちろんよ穂乃果」

希「当然やん!」

海未「みんな着替え終わったようですよ」

穂乃果「それじゃあ行っくよー!」

凛「しゅっぱつしんこー!」

海未「二人とも、小学生みたいですね……」

希「ええやん。元気いっぱいやもんね!」

凛「うん!」

花陽「………………」

絵里「あれ、花陽?元気ないみたいだけど……」

花陽「う、ううん……なんでもないよ」

――――――――――――――
―――――――――


穂乃果「よっ!…………」トテトテ

凛「おお、凛も凛も!」

海未「……二人とも何してるんですか。白線の上を歩いて」

穂乃果「昔よくやらなかった?ほら海未ちゃんもやりなよ!」

凛「ほらほら!車も通らないし大丈夫」

海未「…………わ、わかりました」

穂乃果「いい?海未ちゃん。白線以外は踏んじゃだめだからね?」

海未「白線だけをつたっていくんですか?」

穂乃果「そうだよ」

海未「なるほど」

穂乃果「こうやって、白線が切れてるところは―――」

穂乃果「ジャンプだよ!」

海未「結構距離ありますね、気をつけてください」

絵里「三人は何してるのかしら」

海未「ああ絵里。白線だけ踏んでいいって言うルールでして」

絵里「あー!私もやったことあるわよ!横断歩道とか、ぴょんぴょんっていくのよね!」

海未「そうです。まあさすがに危ないですし、横断歩道ではやりませんけど」

絵里「……ま、まあそうよね。ここは車来ないからいいけど、大通りに出たらやめるのよ?」

海未「ええ。大丈夫です」

――――――――――――――
―――――――――

穂乃果「やって来ました、アイスクリーム!」

凛「待ってました、アイスクリーム!」

にこ「私はストロベリー。これに決まりね!」

ことり「チーズケーキ!」

真姫「ナッツね。今日はナッツ以外はあり得ないわ」

海未(みんな決めるのが早いですね…………)

海未(…………ここは基本のバニラでしょうか)

海未(確かな美味しさ。安心の味です)

海未(しかしこういうところに来たからには、珍しい味を選ぶべきでしょうか?)

海未(例えば小豆の入った和風のもの。美味しそうですが…………)

海未(パチパチする飴が入っているの。これも気になります……)

海未(うーん…………)

海未(悩みますね…………)

絵里「………………なにしてるの?」

海未「…………ええと、悩んでいまして」

絵里「海未もなのね。いっぱい種類があるもの、しかたないわ」

海未「!……そうですよね!いつものお気に入りにするか―――」

絵里「ちょっと冒険して、新しい味にするのか―――」

海未「悩みますよね……」

絵里「ええ……」

穂乃果「あれ?悩んでいるの?」

海未「ええ、そうなんです」

絵里「種類が多すぎるのよ。あっちにこっちに、目移りしちゃうわ」

穂乃果「……じゃあ私が選んであげる。海未ちゃんは―――ハワイアン!」

海未「ハワイアンですか、いいですね」

穂乃果「絵里ちゃんは―――ラムレーズン!」

絵里「……そうね、悪くないわ」

穂乃果「じゃあ二人ともそれを買ってね。買ったら一口ちょうだい!」

海未「ええ。いいですが」

絵里「もちろんいいわよ」

海未(選ぶって、自分が食べたい味ってことですか……)

海未(ふふっ……でも、穂乃果らしいです!)

絵里「ところで、あなたは何を買ったの?」

穂乃果「私はこれだよ。ポッピング!」

海未「……!」

穂乃果「ん?海未ちゃんどうしたの?」

海未「あ、ええと…………」

穂乃果「うん?何か言いたげだけど」

海未「……いえ、なんでもないんです」

穂乃果「……っぷぷ!海未ちゃんも食べたいんでしょ?」

海未「なっ…………そうですよ!ちょっと興味あったんです!」

穂乃果「いいよ?あとで私の一口あげる!」

――――――――――――――
―――――――――

海未「…………」

海未(やっぱりアイスはいいです)

海未(暑さがピークの時期は過ぎましたけど、まだまだ暑いですし…………)

海未(そのうえ、汗だくになる練習の後です)

海未(このような、冷たくて甘いのが一番ですね)

海未(…………それにしても、どの辺がハワイアンなんでしょうか、これ)

穂乃果「はい海未ちゃん。一口どうぞ!」

海未「あ、ああ。ありがとうございます。いただきますね」ペロッ

穂乃果「………………」

海未「うん、美味いですね」

穂乃果「ダメだよ!それだけじゃあ、味わかんないでしょ!」

海未「ええっ?」

穂乃果「だいたいさ、ポッピングキャンディーも食べてないじゃん!」

海未「キャンディー……?なんですかそれ」

穂乃果「アイスの中のパチパチする奴だよ!このアイスのメインだよ!」

海未「ああ!パチパチする奴ですか」

穂乃果「もう海未ちゃんってば…………」

穂乃果「ほら、もっとがぶっと!大きな口で!」

海未「わ、わかりましたから!」

穂乃果「ちゃんとキャンディーも口に含んでね?」

海未「わかってます…………あむ」

穂乃果「どう?美味しいでしょ?」

海未「……………………!」

穂乃果「パチパチしてきた?」

海未「あああああ…………なんですかこれ!口の中で弾けて!」

穂乃果「ね?面白いでしょ」

海未「うう……なんか炭酸みたいです……」

穂乃果「全然違うよ!全然違うって!」

海未「いつまで口の中でパチパチいうんですか…………」

穂乃果「少し待てばおさまるよ」

海未「………………」

穂乃果「海未ちゃんの苦手なもの、増えちゃったね……」

凛「おーい!穂乃果ちゃんたちは何味にしたの?」

穂乃果「ホッピングだよ」

海未「私はハワイアンです」

凛「変わったの選んだんだね。凛はレモン&ミントにしたニャ」

穂乃果「おお、黄色と空色がきれい!凛ちゃんにぴったりだね」

凛「でしょ?味も美味しいし」

花陽「………………」

海未「花陽。あなたは何味ですか?黄色いですけど……」

花陽「バナナだよ。穂乃果ちゃんがね、これがいいよって」

海未「ああ、花陽も迷っちゃいましたか」

花陽「う、うん……」

海未「そうですよね。なかなか自分で決めるのが難しいです」

花陽「うん。だからね、穂乃果ちゃんみたいに言ってくれると助かるの」

――――――――――――――
―――――――――


みんなとアイスを食べた後は、その場で各自解散となりました。

といっても、方向が同じもの同士で一緒に帰るのですが。

私たちはいつものように、幼馴染三人組で帰路につきました。



時間はまだ6時過ぎです。しかし、すでにかなり暗くなってきています。

この前までは、7時くらいでもまだまだ明るかったのですが。

日がどんどん短くなっているんですね。

穂乃果「っと……………」トテトテ

海未「帰りもやるんですか、それ」

穂乃果「そうだよ。なんか、はまってきたかも」

ことり「そうなんだ…………」



穂乃果「…………お、難所だね」

海未「かなり次の白線までに間がありますね。飛んでいくのは無理じゃないですか?」

穂乃果「いや、これは届くね。助走つければ」

海未「届きますかね……」

穂乃果「まあ見てて!―――とぉっ!」ザッ

穂乃果「ぎゃ!」

海未「ほ、穂乃果!?」

穂乃果「いたたたぁ………………」

ことり「大丈夫?すごくこけたみたいだけど……」

穂乃果「う、うん…………大丈夫」

海未「無理なことしないでくださいね」

ことり「そうだよ?穂乃果ちゃん、ただでさえ体調が万全じゃないんだから」

穂乃果「わかってる、わかってるよ」

穂乃果「じゃあねことりちゃん!」

海未「さようなら。気を付けて帰ってくださいね」

ことり「うん。じゃあまた明日!」



ことりと別れると、最後は穂乃果と二人きり。

いつも決まって話すのは、今日一日のことです。

私はあまり話をするのは得意ではないので、いつも穂乃果がしゃべり続ける形に自然となります。



今日もやっぱり、私は聞き手に徹しています。

小テストが難しかった。新しいパンを食べてみた。練習で筋肉痛がひどい。

そんな他愛ない話を相槌をうちながら。

私はこの時間を大事に思っているんです。

幼馴染だし、話す機会が多いのではないか。

こう見られがちではありますが…………



穂乃果って、学校にいるときはいつも活発に動き回って。

全然じっとして話したり……なんて滅多にしないんです。

あっちいって笑って。こっちいって喜んで。

だから、落ち着いて二人で話せる時間って、意外と貴重なんです。

穂乃果「今日の練習もきつかったね」

海未「ええ。あの屋上でこの暑さですから…………」

穂乃果「本当に暑いよね。もう後半バテバテだったもん」

海未「水分も屋上に水道がありませんから、大量に持ってこないといけませんし……」

穂乃果「あの小っちゃい樽みたいな水筒、買おうかな…………」

海未「あの、運動部がよく持ってる…………」

穂乃果「そうそう。それにしても暑すぎだよ!今日も早めに練習終わらせるよう言って正解だった」

海未「そうですね。まぁ寄り道したので、帰りはいつもと変わりませんが」

穂乃果「…………あ、もう私の家に着いちゃうね」

海未「ああ、ホントですね」

穂乃果「それじゃあね、海未ちゃん」

海未「ええ、明日もがんばりましょう」

穂乃果「うん。いろいろ頑張らないとね、海未ちゃん!」

海未「はい。いろいろ」

海未「あ、明日は英語の宿題がありますよ」

穂乃果「ああっ!範囲どこだっけ!?」

海未「…………あとで送ります」

穂乃果「ありがとう海未ちゃん!」

海未「…………それでは、また明日」

穂乃果「うん。また明日!」

…………これからもっと忙しくなるとは。

そんなこと、思ってもみませんでしたよ。

まさか私がすることになるなんて。



だけど、穂乃果。昔からあなたについていって―――

それで間違いだったこと。そんなことなんてあったでしょうか。

今までに、さまざまなことがありましたよね。

突然、地図も持たず自転車で遠出したり。

最後には迷って帰れなくなって。酷く怒られました。

だけど、とっても楽しかったのを覚えています。


こっそり隠れて、捨て猫を飼ったこともありましたっけ。

頑張ってミルクを与えて可愛がってました。

ただ、結局鳴き声のせいでばれて…………

でも、同時にあなたが作っていたチラシで、新しい飼い主も見つかりましたね。

高校に入ってからだけでも、廃校の阻止のためにμ'sを作って。

最初はまた思いつきでこんなことを。そう思いましたよ。

今や生徒会長まで巻き込んで。一躍学校の有名人になってしまいましたが。



そして今度は――――――



思えばいつも、あなたは私の。

新しいことにためらいがちな、悩みがちな私の―――

私の背中を押してくれましたね。

いつも私を引っ張ってくれた穂乃果。

私はそんなあなたが大好きです。

ことりだって、μ'sのみんなだって。

本当にあなたのことが大好きなんですよ。




みんなを振り回す。そんなパワフルさ。

そして、μ's作った時のような、ちょっと強情すぎるほどの強い意志。



…………迷惑もかけられることだって覚悟してます。

だけど、そう。みんなが大好きな穂乃果のままで。

これからも私を、μ'sを―――まだ見ぬ新しい世界へ導いてください。



おわり

――――――――――――――
―――――――――
―――――

「最初はエリちでいい?」

「いいよ」

「次に真姫ちゃんかな?」

「うん。その次に、にこちゃん。それから―――」

――――――――――――――
―――――――――
―――――

期末テストも終わって、いよいよ夏休みも見えてきて。

高校最後の夏休み。受験勉強や生徒会の仕事は大変だろうけど。

でも、μ'sのみんながいるから。きっと、最高の夏休みになる。



そう思ってたんやけど…………

どうにもちょっと、みんなの様子がおかしい。

凛ちゃんに加えて、花陽ちゃんやにこっちまで変なことを言うようになった。

それになんだか……穂乃果ちゃんに甘い感じ。



始めは、ウチの気のせいかなって思ってたけど。

練習に支障が出だして、これは何かがおかしいなって思ってん。

病気のにこっちが復帰してからすぐのこと。

海未ちゃんが練習メニューを、全体的に変えるよう言ってきたらしい。

らしい、いうんはエリちから聞いたから。

メニュー決めるのは主にエリちと海未ちゃんだからね。



もちろんエリちは反対したみたいだけど……

後に突然、にこっちも変更するよう強く言ってきたみたい。

最後には折れて、しぶしぶ認めちゃったんやって。

ウチとしてはキツイ筋トレとか、ランニングが減って嬉しいけど。

でも、エリちは全然納得してないみたい。これじゃあ、ライブはこなせないって。

確かに新しいメニュー、ダンスや歌の練習に偏り過ぎだもんね。

楽しいけど、筋力もつけとかんといけないし。

それに、練習量も全体としては少し減ってる。



まあテスト明けだしね。なにか意図があるんだろうって思ってたら。

エリちが言うには、穂乃果ちゃんがそう言ったから。それが変更の理由らしい。

ウチもさすがに、ん?ってなったよ。

穂乃果ちゃんが言うから変更って、そんなんおかしいやん?

絵里「はい、じゃあ終わりよ」

穂乃果「はぁやっと終わった……」

凛「疲れたニャ……」

花陽「お腹すいた…………」


今日もメニュー通り終了。表面上は。

エリちの顔は…………あ、むっちゃ不機嫌そう。

本当は最後に筋トレのはずだったもんね。

穂乃果「カラオケだぁっ!カラオケ行くよ!にこちゃん!」

にこ「もちろんよ!オハコのアイドルソング、ガンガン行くから覚悟しなさい!」

穂乃果「お!いいねいいね!海未ちゃんたちも!」

海未「穂乃果が行くなら、行きます」

ことり「私も行くよ、穂乃果ちゃん」

穂乃果「よぉし、凛ちゃんと花陽ちゃんもおいで!」

凛「テンションあがってきたニャ!」

花陽「凛ちゃん、一緒に歌おうね」

みんな仲良しやね。練習の後、カラオケかぁ……

ウチも行きたいなぁ…………なんて。

エリち、こっちをそんな目で見んといて。行かない行かない。行かないから。



ムっとした顔のエリちを横目に、穂乃果ちゃんたちは帰っていく。

ウチだけがエリちと屋上に残ったけど……

こっち見られても、一緒に筋トレはする気にならないなあ。ごめん。


まあ今日はさ、もう帰ろ?って言ったんやけど。

それでも―――


「…………十八!…………十九!」


みんなが行った後、結局一人で筋トレするんやもんなあ…………

マジメすぎるって言うか…………いつか損するよ?

エリちって、物事に真剣に取り込むのってなんだか苦手とか言ってるけど。

これで苦手なら、ウチはなんなんかなあ。

練習はマジメにやろう思ってるけど。でも、走り込みとかで少しゆるんじゃう。

あ、もうキツイしペース落とそ―――みたいに。



「…………二十三!…………二十四!」


なんか自分が恥ずかしくなってきた。

……やっぱり筋トレやろ。

やっぱり最後に筋トレはやめときゃよかったなあ……

風呂に入りながら、今日の反省。

夕飯作るのも面倒になっちゃうんやもん。

もう、アイスだけでいいかな……なんて。

風呂でアイス。最高に贅沢やん?

凛ちゃんがおかしくなってからちょっとして。

花陽ちゃんが一週間くらいかな、学校を休んだ。

どうにも風邪を引いたらしくて、高熱が出たって言う。



凛ちゃんが来てくれるし、うつしたくないから。

だから、お見舞いは大丈夫。早く元気になるようゆっくり休むね。

そうメールが来たし、お見舞いに行かなかったけど……

行っとくべきやったかな……



花陽ちゃんを次に学校で見た時には、凛ちゃんと同じように―――

へんてこな行動をしだして、たまにおかしなことを言うようになってん。

それからすぐ。一週間もたたないうち、今度はにこっちが休んだ。

ちょうどテスト期間に入ろうというときで…………

追試が確定か。不憫やなあ、にこっち。なんて思っててん。



やっぱり高熱が出て、だけどお見舞いには来るなって。

元々、にこっちは家に来られることを拒んでたこともあって、お見舞いに行かなかった。



でもこれも、失敗やったね。強引にでも行くべきだったかなあ…………

病み上がりのにこっちは、やっぱり言うんかな。

凛ちゃんや花陽ちゃんと同じようになってたんよ。

凛ちゃんがやってたおかしな行動は、今もなお続いてる。

花陽ちゃんとにこっちも熱心にやってるみたい。

どういう意味があるのかはさっぱりだけど、やめさせた方がいい。

ウチの鋭い?第六感がそう言ってる。



三人の話を盗み聞きして、わかったことがあるん。

どうやら、この行動は全部穂乃果ちゃんの指示で……

前日の夜にメールが来るみたい。

明日はこれ着てね。お昼はこれ食べて、みたいな感じで。

そんなメールが来たって、普通は従わないよね?

いきなり、明日は冬服で登校してね!って言われても……

今はあつーい夏。着ていくわけないやん!



だけど、なんでだか。すっかり。もう、まるっと。

……素直なんかな?従っちゃってるみたいなんよ。

まるで…………穂乃果ちゃんが絶対正しい。そう思ってるみたいに。

休んだ間に何かがあった。きっとそう。

なにがあったかはわからないけど。

でも間違いなく、三人の心を変化させたなにかがあった。



穂乃果ちゃんが休み中に、変なメールを送ったか。

あるいは家に訪問して、直接なにかしたのか…………

もしかすると―――

――――――――――
――――――


希「ねえエリち。もう一度ハッキリ言ったほうがいいんやない?」

絵里「……何を?」

希「練習について。重要なライブが迫ってるし」

絵里「……そうね。このままじゃいけないとは思うわ。でも―――」

希「でも?」

絵里「なんだろう……なにを言っても通じない気がするのよね」

希「……それはウチも思った」

絵里「だって、理由が理由よ?」

絵里「穂乃果が言うからメニュー変えます」

絵里「ホント何よそれ。信じられない!」

希「……落ち着いて」

絵里「落ち着いて?落ち着いていられるわけないじゃない!」

絵里「何がカラオケよ、穂乃果!練習減らして遊びたいだけじゃないの!」

希「でも、それは表の理由で。本当は何か深いわけが……」

絵里「あると思う?」

希「…………」

絵里「とにかく……それでも話をしないとね」

絵里「廃校を防ぐためには今度の説明会でのライブ、絶対にうまくいかせなきゃいけない」

絵里「急いでメニューを戻させて、追加練習でリカバリー……」

希「………………」


あかんなぁ……エリち、焦ってる。

そりゃあ当然っちゃ当然やけど。

学校を救おうと立ち上げたスクールアイドル。

その最大の目的を達成できる機会が目前なのに―――

メンバーの士気が駄々下がりやもんね…………

ウチも少し不安だもん。

絵里「―――それで、練習メニューを戻しましょうって話で……」

海未「結局それですか。わざわざ練習休みの時に、生徒会室に呼び出しておいて」

穂乃果「ちょっとしつこいよ、絵里ちゃん」

絵里「なっ……練習が適切でないのは明らかでしょう?」

海未「そんなことありません」

絵里「あるわよ。大体、海未。あなたが練習の詳細を決めてたんだから」

絵里「練習量やバランスがおかしいこと。一番わかってるはずよね?」

海未「わかってて言ってるんです。そんなことないと」

絵里「………………わかってないじゃない」

穂乃果「いいじゃん。練習できてるんだもん」

海未「そうですよ」

絵里「練習するのは当然なの!その時間や内容が重要で……」

希「エリち。その辺にしとこ」

絵里「……でも」

希「このままだと、ずっと平行線やん?」

絵里「………………」

海未「とにかく、今の練習に凛や花陽、にこだって満足してるんです。問題ありません」

絵里「………………」

穂乃果「これからの練習も今のままでいくからね?」

絵里「…………わかったわ」

希「……二人とも、わざわざ呼んでごめんね」

海未「別にかまいませんが」

穂乃果「うん、大丈夫だよ」

海未「それでは、失礼します」

希「―――あ、待って海未ちゃん」

海未「……なんでしょうか」

希「もう一度確認するよ?変更する理由はなんなん?」

海未「…………穂乃果がそう言うからです」

絵里「だから、なによその理由!」

海未「なにって、普通の理由ですよ」

絵里「普通じゃない!前々から思ってたけど、あなた穂乃果に対して甘すぎよ!」

海未「そうでしょうか?」

絵里「それで、穂乃果は何で練習メニューを変えるの?」

穂乃果「そうしたいから。じゃあダメかな?」

絵里「明確な理由はないの?適当なの?」

穂乃果「ええと…………」

希「あー……海未ちゃん、穂乃果ちゃん。帰ってもいいよ」

希「エリちはウチが落ち着かせとくから」

海未「……わかりました。では行きましょうか穂乃果」

穂乃果「そうだね」

絵里「何で帰らせたのよ」

希「だって、なに言っても意味が無さそうだったやん」

希「エリちだって、わかってたよね?」

絵里「それは……でも、無理にでも問い詰めれば―――」

希「問い詰めて。それで聞き出せそう?」

絵里「………………」

希「今は従っておいた方がいいと思うんよ」

絵里「……そうね」

希「大丈夫、今だけだから。そのうちやっぱり練習戻そうって、言ってくれるよ」

絵里「だといいんだけど…………」

絵里「なんだかみんな、穂乃果に対して甘くないかしら……?」

希「二年生だけじゃなくて。凛ちゃんや花陽ちゃん、最近はにこっちまでそんな感じするよね」

絵里「そうそう。前から幼馴染の二人は甘々だったけど―――」

絵里「みんなまで、よってたかって……まったく」

希「最近はちょっとなあ……練習に影響でてきちゃってるし」

絵里「はぁ…………なんなのよ……」

希「………………」

希「………………なんやろね」

なんなんだろ。なんで穂乃果ちゃんに従うんかな?

確かに穂乃果ちゃんって、ほら、なにか皆をやる気にさせるようなパワーを持ってるやん?

突然にスクールアイドル活動をやろうって言いだして。

部室も顧問もいない状況から、どんどん人数を集めていって。

とうとう、九人の部員でライブをやるところまで来ちゃった。



きっと、何かすごいものを持ってる。それは間違いないと思うん。

だけども。だけども、今の状況のそれは―――

そういうのとは違う、なにか、こう…………


もしかすると―――

一つ、これじゃないかな?って思うことがあるんよ。

人の心をうまく操作して、指示に従わせる方法。

なにかって言うと。誰だって一度は経験したことがあって……

女の子が大好きな―――そう、占い!



占いってすごいんよ?例えば―――

こうすればいいと思うけど、でも正しい自信がない……

ああしたいけど、失敗したらどうしよう……

そんな不安を占いは解消してくれるん。

―――だけど。それを悪用することだってできるんよ?

ほら、ニュースとかでもたまに話題になるやん?

芸能人が占い師にマインドコントロール!?みたいなん。

あれ。まあ、やってることが占いかって言うと、たぶん違うだろうけど。



普段なら怪しい占い師の言葉なんか、話半分に聞くと思うんよ。

黄色いアクセサリをつけると、運勢アップ!

本当にアップするん?そんなのわからないけど。

でも、つけてみようかな?ちょっとでもいいことあると嬉しいし。

みたいな感じでね。

だけど、心や身体が弱ってる時ってそうじゃない。

この数珠をつけると、あなたに幸運が訪れるよって言われると―――

ああ、着けないと!着けないと……!

ってなるんやって。怖いね。



実際に着けていいことあれば、数珠のおかげ。占いが当たった。

良いことが来なかったら?それはあなたのせい。

数珠が安物すぎる、とか。寝るときに外したから、とか。

占い師の言うことをしっかり聞いてないから。そう言われる。

弱りに弱った人は、どんどん、どんどん。占いにはまって―――

占い師に時間もお金もさし出して。

しまいには、占い師なしには生きていけなくなっちゃう。

なにを決めるも占い師だもん。判断基準が占いになるんやね。

凛ちゃんたちも、穂乃果ちゃんに占いか何かされて。

それにはまり込んじゃった。



そうだとすれば、あの妙な行動もなんとなくわかる。

意味がないように見える行動だって、本人にとっては必須のもの。

μ'sのライブが上手くいくためには不可欠のね。



だからあんなに凛ちゃんは必死。

花陽ちゃんもにこっちも、毎日毎日熱心にやってる。

μ'sのみんなのために願掛けしてるんやね。

こう言うと、なんだか微笑ましいやん?

だけど、その裏、穂乃果ちゃんにどっぷり浸かっていってるってことで……

占いを聞けば聞くほど、穂乃果ちゃんにべったりになっちゃうんだから。

本当にこんなことしてるんやったら、早めにやめさせないとね。



―――まあ、いくらなんでもそんなことはないと思うけど……

――――――――――
――――――

今日も練習。

早めに授業が終わったし、今日は部室に一番乗り?

そう思ってたのに、部室はすでに電気が点いてる。

さてさて、中にいるのは誰なんかな?

―――っと、声が聞こえる。


にこ「えっ、休みなの?」

凛「うん、体調不良だって。一応」

にこ「そうなんだ」


にこっちと凛ちゃんか。誰が休みなんかな?

にこ「真姫ちゃん、テスト勉強しすぎたんじゃないの」

凛「違うよ。きっと穂乃果ちゃんだよ」

にこ「…………?」

凛「ほら、良い子になっていってるんだよきっと」

にこ「……ああ、真姫ちゃんもなのね!」

凛「えへへ、嬉しいねにこちゃん!」



どうやら真姫ちゃんが休みらしい。

それにしても、体調不良の原因が穂乃果ちゃん?

良い子になっていってる?どういう意味なん……?

そういえば、凛ちゃんも時たま言ってたっけ。

良い子でいないといけないんだよって。よくわからないけど。

穂乃果ちゃんのメールに従う人のことなんかな……?



希「にこっち、凛ちゃん。二人とも早いやん?」

凛「あ、希ちゃん!」

にこ「今日は授業が早めに終わったのよ」

希「あ、にこっちもそうなん?」

凛「凛は先生がお休みで自習だったから……」

にこ「こっそり抜けてきたのよね?まったく……」

凛「ちょーっとだけ早めに抜けただけだもん!」

希「今日は真姫ちゃん、休みなん?」

凛「うん、体調不良だって」

にこ「勉強し過ぎよ、きっと」

凛「風邪でも引いたんだね」

希「…………穂乃果ちゃんがどうこうって言うのは?」

凛「え?ああ、何でもないニャ」

にこ「……というか盗み聞きしてたの?趣味悪いわね」

結局、それ以上は何も話してくれなかった。

真姫ちゃんは体調不良。ただそれだけらしい。

でも、きっと穂乃果ちゃんが言ってたやん?



もし、真姫ちゃんまで変な行動し始めたら。

ううん、そうはさせないよ。

今度こそお見舞いして、しっかり見ててあげないと。

「どちらさま?」

希「真姫さんと同じ高校の、東條希です」

「ああ、希ね。どうしたの?」

希「あ、真姫ちゃん?お見舞いに来たんよ」

真姫「……悪いわね。今下に降りるから待ってて」

希「ごめん、遅い時間に迷惑やったかな?」

真姫「別に……」

希「具合はどうなん?」

真姫「咳とかは出ないけど、とってもだるくて……」

真姫「今はだいぶ落ち着いたんだけど……熱がちょっとあるのよね」

希「ホントごめんなぁ……下にわざわざ降りてきてもらって……」

真姫「それくらいいけど。むしろ、あなたにうつらないかが心配」

希「それは大丈夫。ほら、ウチは神様からパワーもらってるから」

真姫「ああそう……」

休んでから二日後。様子を見にお見舞いに来てるん。

真姫ちゃんの様子は普段通り。

どうも、変なことがあったようには見えないけど……

真姫「昨日や今日の練習はどうだった?」

希「ちゃんとやったよ?特に変わったことはなかったけど」

真姫「……そう」

希「どしたん?なにか聞きたいことでもあるの?」

真姫「いや……別にそういうのじゃないんだけど……」

希「うん?」

真姫「なんか最近、みんなの様子がおかしくないかしら……」

真姫ちゃんもなんだか違和感を覚えていたらしい。

だけども。―――そうだね、みんなおかしいよね。

とは言わないで。代わりに―――

テストで疲れたうえにライブも近いし。

きっと力が入りすぎてるんよ、って。



練習メニューのドタバタも、真姫ちゃんは知らないし。

体調が治ったら、不安なしにただひたすらに練習に打ち込める。

そんな状態でいてほしいやん?

穂乃果ちゃんからは休んでる間、一度も連絡がきてないらしい。

お見舞いにも来ていないって。ウチが初めてだったみたい。

ウチの心配は不要だったって言うことかな?

本日投下終了です

――――――――――
――――――

絵里「待ちなさい!あなたたち、まだメニューが残ってるでしょう?」


練習終わりのエリち。

今まで、みんなの前で言うことはなかったけど。

どうやら、とうとう我慢できなくなったみたい。



海未「筋トレのことですか?」

絵里「そう。ちゃんとやらないとダメよ」

凛「でも、全然面白くないし……」

花陽「身体中痛くなるもん…………」

絵里「軽視しているようだけど、筋肉をつけることはとっても重要なの」

絵里「長時間のダンスに耐えるためには必須。けがの予防にもなるのよ?」

海未「それはわかっています。しかし、今やらなくてはいけないことですか?」

絵里「ええ、もちろん」



凛「……それなら、絵里ちゃん一人でやればいいニャ!」

花陽「そ、そうだよ……!」

絵里「…………っ」

絵里「……そ、それじゃあ意味ないのよ!全員がしっかり基礎的な筋肉を―――」

穂乃果「……みんな、行こ?今日は穂乃果の家でおまんじゅうパーティだよ!」

海未「そうですね。早く行きましょうか」

絵里「待って!―――」

凛「レッツパーティニャ!」

にこ「花陽、今日は食べるわよ!」

花陽「う、うん……でも食べ過ぎたら太っちゃう……」



無視してみんな行っちゃった。

エリちはうつむいて、唇をギュッとしてる。



………………わかってる。

エリちが正しいってわかってるよ。

夏休みには学校説明会でのライブもあるし……

しっかりやらないといけないってことは、みんなわかってるはずやから。

絵里「今日も付き合ってくれてありがとうね」

希「付き合っても何も、筋トレは元々やることだったやん?」

絵里「……それもそうね」

希「………………」

絵里「………………」

希「ウチさ、一度話してみようかなと思ってるん」

絵里「誰と?」

希「穂乃果ちゃん。一対一で話をして聞いてみるんよ」

希「みんなに何をしてるん?どうしたいん?って」

絵里「……自分で言ってたじゃない。意味ないわよ」

希「まあ、正直に話してもらえない。そうかもしれないけど」

希「だけど、かまをかけてみたりとかで、ポロっと言うかも」

絵里「…………そうかしら」

希「ほら、穂乃果ちゃん。ちょっと、うっかりすることあるし」

絵里「………………」

希「………………」

希「と、とりあえず確かなのは、穂乃果ちゃんは誘えば来てくれるってこと」

絵里「そうね。私が生徒会室に呼べば、イヤイヤかもしれないけどいつも来るものね」

希「だから、一度呼んでみる。部室で話をしてみて―――」

希「それで穂乃果ちゃんの様子を探ってみるね」

絵里「……それなら私も一緒に」

希「うーん…………ここは、ウチにまかせて。ちょっと考えがあるんよ!」

絵里「…………わかったわ」

まかせて、とは言ったものの。

正直なところ、全然考えなんてないや。

まあでも、エリちはウチがどうにかしてくれる。そう思ってくれたみたいやし。


これでエリちも少しは安心するかなぁ……

ここ数日、ずっと不安そうだもんね。

気持ちはわかるけど、それでエリちまでおかしくなったら……

―翌日


希「練習お疲れさま、穂乃果ちゃん」

穂乃果「お疲れさま」

希「どう?練習は楽しんでる?」

穂乃果「うん!とっても!」

希「そっか、それはいいことやんな」

穂乃果「希ちゃんも楽しい?」

希「もちろん。楽しくないこと、うちには続けられんもん」

穂乃果「だよねだよね?」

穂乃果「それで、話したいことがあるんだよね?」

希「そうなんよ。ごめんな、練習の後に残ってもらって」

穂乃果「ううん。一度希ちゃんと二人きりでお話ししてみたかったから」

希「そう?ならよかったわぁ」


普通。いたって普通の穂乃果ちゃん。

ウチが知ってる、凛ちゃんたちがおかしくなる前と何ら変わらない……

希「あんな、最近みんなの様子がおかしくないかなって」

穂乃果「そうかな?」

希「うん。なんだかみんな、穂乃果ちゃんの意見に賛成し過ぎって言うか……」

穂乃果「賛成しすぎ?」

希「そう、まるで弱みでも握られてるような……」

穂乃果「……どういうこと?」

希「どういうことって…………本当はわかってるんよね?」

穂乃果「………………」

希「みんなになにしたん?」

穂乃果「ヒミツ」

希「…………占いはほどほどにね」

穂乃果「占いなんてしてないよ。突然なんで?」

希「凛ちゃんたちのおかしな行動。悪質な占い師とかの指示みたいやなって」

穂乃果「ふーん…………」

希「どういう意味でやらせてるか知らんけど。よくないよ、ああいうの」

穂乃果「………………」

希「ああするように言ってんの、穂乃果ちゃんやん?」

穂乃果「………………」

希「目的はなんなん?みんなに言うこと聞いてもらいたいから?」

穂乃果「…………うん」

希「言うこと聞かせて、お金でも巻き上げるん?」

穂乃果「しないしない。そんなことしないよ?」

希「しないん?なら…………なんで?」

穂乃果「穂乃果ね、μ'sのみんなが大好きなの」

希「ウチも」

穂乃果「だからだよ」

希「…………?」

穂乃果「だから、穂乃果の言うこと聞いてほしいの」

希「意味がよくわからないんやけど」

穂乃果「なんで?」

希「なんでって…………」

穂乃果「…………」

希「…………」

穂乃果「…………穂乃果、希ちゃんも大好き」

希「ありがとね。ウチも穂乃果ちゃんのこと大好きだよ?」

穂乃果「…………ウソ」

希「ホントだよ」

穂乃果「……だったら、これから穂乃果が言うこと。ぜーんぶ、聞いてくれるよね?」

希「…………どうしてそうなるん」

穂乃果「イヤなの?」

希「……うん。それはちょっとできないかな」

穂乃果「…………」

穂乃果「……じゃあ一つだけでいいから。お願い」

希「一つだけ?」

穂乃果「うん。あのね―――」


ああ、あかんあかん。

セールスとかでよくあるやつやん。

この誘導の仕方。

最初にちょっと受け入れがたい要求を言う。

それが拒否されたら、本来させたい軽い要求を言う。

言われた側は、最初のに比べれば―――と飲んでしまう。



穂乃果ちゃんのペースに乗せられたらダメ。

ウチがしたいのは、ここで話しあいすること。

どこかに行ったりする気は全くないんよ。



占いじゃなくて、話術でどうこうしよう。そういうことみたい。

他のメンバーには効いたみたいだけど。

ウチにはそれは通用しないんよ。穂乃果ちゃん。

希「ダメ。ウチは従う気ないから」

穂乃果「そっか。やっぱり今は聞いてくれないんだね」

希「…………」

穂乃果「…………」

穂乃果「……でもね、希ちゃんはなってくれるよ」

希「…………何に?」

穂乃果「穂乃果の言うことを聞いてくれるように」

希「さっき言ったやん。イヤだって」

穂乃果「…………それでも」

希「………………」

穂乃果「………………」

「はぁ…………」


なんだかどっと疲れがでてきた。

やっぱり緊張してたんかな。穂乃果ちゃんに。

シャワーも浴びたし、ベットにダイブして…………



だんまりが続いた後は、もうそれっきりその話はしなかった。

誰とでもするような、普通の話。

ウチが関西にいたころの話とか。一人暮らしの様子とか。

穂乃果ちゃんはおまんじゅうに飽きた話。

あと、姉妹仲がむっちゃ良いってことを嬉々として話してくれた。

ウチが今すぐ妹を欲しくなるくらいに、楽しそうに。

言うには、もうずっと前から、ケンカなんてしていないらしい。

穂乃果ちゃんのおやつが、あんこ系統ばっかなこととか。

そういうことはわかったけど……

結局重要なことは、よくわからなかったなあ…………

エリちにはなんて言おう。とりあえず、わかったことは全部伝えて―――


~♪

っと、メールやん。




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title ロシアに帰省します

from エリち
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親の都合でロシアへ帰省するのが、明日からになったの。

こんな時期に急で悪いんだけど、μ'sのみんなをお願いね。

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