―2008年/4月―――――――――――――――――----
幼馴染「…というより覚えてる?」
男「…あ~、何か去年そんなタイトルのドラマやってたな~」
幼馴染「そうそう!山ピーと長澤まさみちゃんのドラマ。面白かったよね~。」ニコニコ
男「俺は詳しくは覚えてないや~」
幼馴染「ふふ、嘘だ~。私、あのドラマが放映されてたときに毎週のように男くんにそのドラマのことおしゃべりしてたのに~?」
男「…あ~、そういえばそうだったな…」
幼馴染「そうだよ~。最終回は一緒に2人で見たじゃない。」クスクス
男「…そうだ、思い出したよ幼馴染…。それで俺はあの時お前に…」
幼馴染「…うん。 …やっと思い出してくれたの?」
男「…うん。」
幼馴染「…男くんはあの時、私に…」
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―2012年/7月―――――――――――――――――----
男「…俺は…あの時…」ボソッ
…トコー? オトコー!? オトコー!!!
パシンッ!!
男「…!? …へ? …お、女? …どうしたの?」
女「どうしたもこうもないわよ!!あと5分で講義が始まるのに何ベンチでボーっとしてんのよ!」
男「…え? あっ、もうそんな時間か…。」
女「…も~、次の授業、今日はテスト情報のことを先生が話すから教室が満席になるかもってことで、先に行って席とっておいてって言ったのに~」
男「そ、そうだったな…ご、ごめんごめん!」
女「…で? …男はいったい何してたのよここで?」
男「べ、別に何かしてたとかいうわけじゃないんだけど…」
女「…はぁ~。 …まぁいいや、それじゃ行こ。 …ん。」ビシッ
男「…ん? …何この手?」
女「…んっ!!」ビシッ
男「…」
女「…んーッ!!!」ビシッ!!
男「…ぷっ、あはは!」
女「ちょっと!!分かってるくせに意地悪しないでよ~!!」ブスー
男「はは、悪い悪い!…ほら。」ニギッ
女「…/// …遅いっ!!///」カァ
男「…ごめんごめん。 …そうだよな。 …だって俺たち…」
男「………付き合ってるんだもんな。」
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―――――――――――――――――――――――----
女「いや~、テストも残り後1つ!!それが終わったら学生最後の夏休みだね男!」ニコッ
男「ああ…そうだな…学生の俺たちにとっては最後の夏休みなんだな…。」
女「お互い就活が早く終わって良かったね!夏休みは2人で色んなところに行こうね!」
男「そうだな~、そのためにアルバイトでお金もたくさん貯めたんだしな」
女「うん!沖縄に北海道にハワイにヨーロッパに!…うぅ!楽しみ~!!」ピョンピョン
男「いや、さすがにそんなには行けないだろ…。」ハハ
女「ふふ!冗談だよ~!でもほんと楽しみなんだから!最後の夏休みだけど、私たちが付き合ってから初めての夏休みでもあるんだし!」
男「…ああ、そうだな。」
女「♪~♪~♪~」ルンルン
男(…最後と…最初の…夏休みか…)
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女「わ~!!綺麗な海だね~!!」
男「そうだな、久しぶりに来たよここ」
女「車であっという間だったね。」
男「まぁ、お前の家や俺の実家からもそんな離れてないしな。」
女「それにしても男も運転上手くなったね」
男「そうか?前からこんなもんだったと思うけど…」
女「ううん!上手くなったよ!ま~2人で大学に入ってから色んなところに行ったもんね!」
男「…ああ、そうだな。」
女「……よし!それじゃ男!私も更衣室に行って着替えてくるから!男も早く着替えてね!海の家の前で待ってるから!」バタン タタタ
男「あっ、女!! …行っちゃった。 まぁいいや、俺も着替えてくるか。」
男(…海か…俺にとっての海の思い出は…)
男(…っと。いつまでウジウジしてんだ俺は。とりあえず行くか。)バタン
スタスタスタ
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ガヤガヤガヤガヤ
女「ごめーん男!!待った~!?」タタタ
男「ううん、大丈夫だよ女。」
女「良かった! …へへ!ねぇ見てこの水着!今日のためにわざわざ女友と買ってきたんだから!」フリフリ
男「うん、すごく似合ってるよ。」ニコッ
女「え~…もうちょっと感想はないの~!?例えば水着のこのレースの部分が可愛いとか…あと、か、体のこととか///」
男「うん、水着も可愛いし、スタイルもいいね。」ニコッ
女「…えへへ/// そ、そうかな/// …ん?でもこれじゃあ私が無理やり言わせたみたいじゃな~い!!」ブクー
男「あはは、ごめんごめん。女はやっぱり面白いな~」
女「笑うな~!/// …も~男ったら…/// もういい!早く海に入ろうよ!!」パシッ
男「ちょ、ちょっと女!?そんな引っ張らないで!!」グイグイ
女「ふふ!…って地面あつ~!!!」アチチチ
男「うお、あつつつ!!今まで日陰だったから!!アチチチ!!」
女「…う~…あ、慣れた。」
男「チチチ…あ、ほんとだ。…よし、それじゃ気を取り直して。」パッ
女「…! …うん///」ニギッ
タッタッタッタ
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―――――――――――――――――――――――----
ザパーン ザパーン
ぷかぷかぷか
男「…。」ボーッ ぷかぷか
バシャッ!!
男「…!? ゲホッ、ゲホッ!! …は、鼻に水が!!」ゲホゲホ
女「あはは!何ボ~ッと浮かんでるのよ男!!」
男「てんめ~!!やったな~女~!!」
女「ふふ!こ~こまでお~いで~!」パシャッパシャッ
男「…!!」ピタッ
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?「あはは。男く~ん。こ~こま~でお~いで~。」
―――――――――――――――――――――――----
男「………」
女「…男? …どうかした?」
男「…あっ!ご、ごめん、なんでもない!」
女「………男!お腹減ったから海の家行こうよ!」
男「…うん、そうするか。」
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ブロロー
女「あ~、今日は楽しかったね~!夏休み最初のデートは最高だったなぁ~」
男「はは、そうだな、意外と混んでなかったしな。」
女「うん!よ~し次は北海道だね!!楽しみだな~!!」
男「おう、それまであんまり無駄遣いするなよ。」
女「も~!分かってるよ!…でも旅行のために新しい服買いたいかな~って///」
男「…お前、服なんてたくさん持ってるじゃないか。」
女「お、女の子にも事情ってもんがあるの~!」
男「はいはい、…っと、着いたぞ、お前の家に。」
女「あっ、ほんとだ。 …男、今日こそ…泊まっていかない?」
男「…! …ごめん、女。今日は…辞めておく。」
女「…うん。分かった。 …ねぇ、それじゃぁ…」クイッ
男「…! …………。」クイッ
ちゅ
女「…///」カァ
男「…ごめんな、女…俺まだ…」
女「…ううん!いいの!ゆっくりでいいからね!男!」
男「女…。」
女「…それじゃあ、また電話するね!バイバイ!」フリフリ
男「…うん。バイバイ。」フリフリ
ガチャ バタン タタタタ
男「……。」
男(…帰るか。…いや、ついでだし実家に顔出していくかな。)
ブロロロ~
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ガチャ タダイマー バタン
母「あら、男、帰ってきたの?来るなら前もって連絡くらいちょうだいよ。」
男「ごめんごめん、女を家まで送ったついでだったからさ。」
母「…! そう、女ちゃんを…。」
男「うん。それより、父さんは?」
母「お父さんはまだ仕事よ、だって今日平日じゃない。」
男「…あ、そうか。サラリーマンには夏休みなんてないもんな。」
母「何言ってんの。あんたも来年からはそうなるのよ。」
男「…はぁ、そうだった。そう考えると一生学生でいたい気分だわ。」
母「ふふ、だからその分、今を命一杯楽しみなさい。」
男「うん、そうするよ。来週は女と北海道旅行だしな。」
母「…! …北海道?あんた女ちゃんと北海道に行くの?」
男「…え?うん。1週間の旅行に行く予定だけど?」
母「…。」
男「…母さん?」
母「…あ、別に何でもないの。それより男、お父さんが帰ってくる前に先にお風呂に入ってきなさい。」
男「あ~、そうだな。海に行ってきたから、体中まだベトベトするし。」
母「あら、海に行ってきたの?そういえばちょっと焼けてるわねあんた。」
男「はは、俺が小さい時の夏はもっと焼けてただろ~?」
母「…そうね。そうだったわね。」
男「そんじゃ、ひとっ風呂浴びてくるわ~」スタスタ
母「…。」
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かちゃかちゃ
父「で、男、テストはどうだったんだ?ちゃんと卒業出来そうか?」
男「うん、レポート課題だった授業の単位だけでももう、卒業に必要な単位には届きそうだし、テストも出来は悪くないし大丈夫。」モグモグ
母「ふふ、あとは変な問題を起こさなければ男も立派な社会人ね。」
男「はは、まあね。」
父「そうだ、男。あの車の調子はどうだ?」
男「うん、まだまだ走れるよ。メンテもちゃんとしてるし。」
父「そうかそうか。うちが2年前に新しい車に買い換える時には既にボロボロだったからな~、もし、ちょっとでも不具合が起きたら乗るのをやめるんだぞ。」
男「ああ、分かってるよ。でもあの車は父さんが長年大切にしてきた車なんだし、俺から捨てることなんて出来ないよ。」
父「はは、そうだな。…でも、あの車はお前が生まれた時に買ったからもう22年ぐらいたつのか。」
母「ほんと、気をつけてね、もし事故なんて起こしたら…」
男「大丈夫だよ、母さん。俺は速度制限とかの無視は絶対しないし、安全運転に関しては大丈夫。あと、メンテもちゃんとやってることだし。」
母「ならいいんだけど…。 …ねえ、男、もしかしてあんた…北海道に車持って行くつもりじゃないでしょうね?」
男「え? 一応そのつもりだよ。北海道にはフェリーで行くし、フェリーなら車も載せられるからね。せっかくの北海道なんだし車で色んなところ回ろうと思って。」
父「…! …男、北海道に行くのか。」
男「…? うん。 …どうしたの父さん?母さんもさっき同じような反応したけど?」
父(…母さん。)チラッ
母「…。」
父「…いや、別に何もないんだが、…でも北海道は広いぞ?どこに行くかとかの予定は決まっているのか?」
男「まだ、ちゃんとは決めてないけど、一応フェリーが小樽に着くからそこから、え~っと、札幌、千歳、富良野、十勝、摩周湖、網走、知床、釧路、日高と回って、最後は苫小牧ってとこの港から帰る予定。」
父(……『あそこ』にも行くのか…)
父「…そうか、でも、気をつけてな。」
母(…お父さん。)
男「うん、ま~、ゆっくりな旅の予定だし、心配しないでいいよ。しかも、俺が小さい頃に一度北海道に行ってるわけだし。」
母「………あのね、おとk「お母さん!」
母「…!?」
父「…もういいじゃないか。」
男「…え? …ど、どうしたの2人とも?」
父「いや…何でもないよ男。…北海道、楽しんできなさい。」
男「う、うん。」
母「…。」
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―――――――――――――――――――――――----
母「…お父さん、本当にあれで良かったのかしら…」
父「…いいわけがないだろ。 …でも…。」
母「…。」
父「…あいつのことを考えると…どうしても…な。」
母「…お父さん。」
父「責任なら俺が取る。それに、そもそも『その確立』自体かなり低いしな。」
母「…そうですね。」
父「それに…」
母「…?」
父「…そっちに転んだほうが、やっぱりあいつにとって…」
母「…。」
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
ガチャ バタン
ドサッ
男「…ふ~。」
男(…母さんと父さんの様子、なんだかおかしかったな。)
男(…北海道…まぁ、あんな風に反応してもおかしくないか…)
男(…北海道は…)
男(…我が家とあの一家で一緒に行った唯一の遠出の旅行先なんだから…)
男(…あの2人は、俺が北海道に行くことで…俺が…)
ゴロンッ
男(…はは、そんな心配、必要ないのにな。俺はもう女と付き合ってるわけだし。)
男(…今日の海だってそうだ…俺は女と一緒に…)
男(…今までの思い出の地に行くことで…)
男(…あいつとの思い出を上書きしようとしてるんだから…)
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―旅行1日目―――――――――――――――――----
男「そんじゃ、行きますか、フェリーターミナルに。」
女「イエ~イ!レッツラゴ~!」ルンルン
男「…なんだよそのテンション…」
女「ちょっと!男!スタートの時点からそんなテンション低くちゃダメだよ!」ブスー
男「…あのな~、俺はこれから一週間ずっと運転しっぱなしになるんだし、初っ端からそんなテンション高かったらもたないの!」
女「…も~、自分の都合ばっかり私に押し付けて…」
男「…はぁ~、じゃあお前も運転してくれよ…」グタ~
女「…わ、私、…免許持ってないし…」ブスー
男「…てかお前なんでまだ免許持ってないんだよ…もう4回生のくせに…」
女「う、うるさいな~もう!!あ、秋から頑張って教習所通うし!」
男「はいはい、…そんじゃ時間だし行くよ~」キキキ ブロロ~ン
女「イエ~イ!レッツラゴ~!」ルンルン
ブロロロ~
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
ボォーーーーーーーーー
女「お、おっきいね、フェリーって。」
男「…ん?こんなもんだよ。」
女「え~そうなの?私、フェリーとか始めてだからな~」
男「はは、まぁ、俺も最初はビックリしてたかな。」
女「そういえば男が前に北海道に旅行に行ったときもフェリーだったの?」
男「…うん、そうだよ。」
女「ふ~ん、家族3人で行ったの?」
男「…いや、うちと…。」
女「…! …そ、そっか。 …でもそんな大所帯でフェリーに?」
男「はは、そこまで大所帯じゃなかったよ。…まぁ、そのときフェリーにしたのは、車を運べるってこともあるけど、うちもあっちも当時あまり裕福じゃなかったしな…。」
女「…そっか。」
男「……さっ!女!立ち話もなんだしフェリーに乗ろっか!」
女「…うん!」
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―――――――――――――――――――――――----
トコトコトコ スタスタスタ
女「へ~、まさかチケットの手続きの後、車でフェリーに乗り込んで、それで船内の駐車場から乗客専用のフロアに入るとは知らなかった~」
男「はは、ホテルみたいに港の人が車を勝手に運んでくれると思ってたの?」
女「思ってた思ってた!」
男「はは、残念でした~。っと、もうちょっとでロビーに着くよ。」
ガチャ
女「うわぁ~!!すご~い!!何、フェリーってこんなに中が豪華なの!?チケットあんなに安かったのに!!」
男「はは、この船はロビーの1階から3階まで吹き抜けのようになってるからね。ここには映画館やゲームセンターとかジムもあるみたいだし、また行ってみようね。」
女「ふぉ~!?え、映画館もあるの!?行く!!絶対行く!!…でも…」
男「?」
女「…今日はもう眠いや…ふぁ~…」ウトウト
男「はは、そうだね、もう11時半だしね。部屋に荷物置いてそれからお風呂に入って寝ようか。」
女「うん。ふぁ~…昨日の夜、ワクワクしすぎて寝れなかったんだ~、だから今日はぐっすり眠れそう…。」
男「そっか。 …ん?」チラッ
男(…! …あちゃ~…これは…)
男「はは、ねえ女。」
女「ん?な~に男?」
男「残念だけど、今日はそう簡単には眠れそうにもないよ。」
女「…えっ、お、男…それってどういう……!?」
女(『眠れそうにない』って…も、もしかして!?きゃぁああ/// 男がついに今夜、わ、私を!?/// …でも、何で急に? 男はいままで… でも!それでも!男もついに私を///)カァ
男「? どうしたの女?」
女「///// …あっ、べ、別になんでもないよ!…あっ、でもコンド…ってななななんでもないからね!…あっでも無いと困るっちゃあ困るんだけど…///」アセアセ
男「? …今度?無いと困る?どういうこと?」
女「も~/// な、何でもないから!///」
男「? …うん…わかった。」
女「♪~♪~♪~」ルンルンルン
女(今から念入りに体洗って!あっ、確か雑誌には男の人はちょっと濡れてるぐらいの髪にグッとくるって書いてあったし!そ、そんな感じで色気作りもして、そ、その後は////)
女「きゃぁああ~////」ジタバタ
男「…?」
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
女「おぉぉ~どぉぉ~ごぉぉ~、お~み~ず~」オエッ
男「あはは、はいはい。」サッ
女「ゴクッゴクッゴクッ…ぶは~…あんまり効果ない~」オエッ
男「ま~水も飲みすぎたら良くないね。でも吐きたいときは無理せず吐いたほうがいいよ。」
女「はぁ~…まさか眠れそうにない理由が…」
女「…船酔いのことだとは…」
男「はは、女、船乗ったことないって言ってたし、たまに車でも酔うもんね。」
女「で、でも、フェリーってこんなに揺れるものなの!?」
男「いつもはここまでは揺れないと思うけどね。でも今、外はかなり天気が荒れてるみたいだし。」
女「へ?家でそんなニュース見たの?」
男「いや、実はさっき、ロビーの電光掲示板に今夜は低気圧がまだ本州あたりに停滞してるみたいで、それで今夜は波が非常に高くなるおそれがあるって書いてあってさ。」
女「なるほどね~…それじゃ~男のさっきのあの発言もやっぱり…はぁ…私の早とちりか…」ガックシ
男「お、女!?ど、どうしたの!?酔い止め効いてないのかな!?」アセアセ
女「…ううん …大丈夫だから…大丈夫…だか…っぷ!?」オエッ
男「…!ちょっとたんま女!!頼むからここでは吐かないで!!今ビニール袋無いから洗面所まで我慢してくれ!!」アセアセ
女「…もう…だめ…!!」うっぷ
男「…お、おんn!?…………あちゃ~…」
----―――――――――――――――――――――――
―旅行2日目――――――――――――――――――----
男「お~い、女~、元気出せよ~、一応もう揺れのほうも収まったんだからさ~朝食食べに行こ~ぜ~」
女「行かない!!男だけで行ってきて!!」プイッ
女(…あんな恥ずかしいところを男に見られっちゃったし、顔も合わせられないよぅ…)ズーン
女(…そもそも男が早く船酔いのことを注意してくれたらこんなことにならなかったんだから!男のバカッ!)
男「…それじゃ昼前から始まる映画でも見に行こ~ぜ、秒速なんとかっていうアニメの映画らしいし。お前アニメ好きだろ?」
女「行・か・な・い!!!」プイッ
男「…はぁ、分かったよ。とりあえず俺は朝食食べてくるからな。お前の分のご飯も購買で買ってくるから。」スクッ
女「…」プイッ
ガチャ バタン
----―――――――――――――――――――――――
―旅行2日目/小樽―――――――――――――――----
男「むは~!着いたぜ~小樽~!でももう20時過ぎだけど。」
女「…。」ブスー
男「…ふふ、女、今から良いところに連れてってあげる。」
女「…え?…良いところ?」
男「うん、良いところ。」ニコッ
女「今から小樽市内のホテルに行くんじゃないの?」
男「ううん。その前に…」
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
女「男ぉぉぉ!?こ、このお店ってぇぇぇ!?」パァァ
男「うん、この前テレビで取り上げられてた特製海鮮丼のお店。」ニコッ
女「でも…ここっていつも予約いっぱいでめったに入れないんじゃ…」
男「はは、実は北海道旅行が決まった時にもう一応予約のために電話はしておいてね…でもその時にはすでに予約でいっぱいだったんだけど、この前、運よく空きが出来たってことで、なんとか俺たちも今日ここに入れるわけ。」
女「…男ぉ…。」ウルウル
男「前、一緒にテレビでこのお店の特集を見てたときに女、すごく食べたそうにしてたからさ…あと何よりも、女は食べてるときが一番幸せそうだし。」
女「お、男ぉぉ~!!」ダキッ
男「ちょ!お前!こんな店前で!…と、とりあえず入ろう。」アセアセ
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
がやがやがやがや
女「イクラ!ウニ!ホタテ!ボタンエビ!サーモン!ハマチ!イカ!そして大トロ!」パァッ
男「はは、ほんと生で見るとすごいな。」
女「…お、男…た、食べてもいい?」ジュルジュル
男「うん、召し上がれ」ニコッ
女「いただきま~すっ!!!」ガツガツ
男「はは、もし足りなかったら俺の分も食べていいからね。」
女「ガツガツ…え? お、男…ほ、本当にいいの!?」キラキラ
男「うん、いいよ。…あっでも大トロだk…女「大トロ頂き!」ヒョイッ
女「もぐもぐ…お、美味しい~!!ほっぺがとろける~!!」ニコニコ
男「…あ、あああ~!!!ちょっと女!!俺の大トロを!!」
女「だって男が食べていいって言ったんじゃんか~」ブスー
男「その後に『でも大トロだけは』って言ったろ…はぁ、ま~いいや、俺はお前の大トロをもらうとしy…女「おっと!」ヒョイッ
男「…あ。」
女「もぐもぐ…えへへ」ニカ~
男「…そ、そんな…大トロが…てんめ~!!」
女「わ~!!男が怒った~!!」
男「…ったく。 …はは、でも良かった。」
女「?」
男「女の機嫌が直ってくれたみたいだから本当良かったよ。」
女「…! 男…ごめんね、昨日は。」ペコッ
男「いやいや!別に謝らなくても!それに俺も前もって船酔いのこと言っておくべきだったし」
女「…ふふ!そうよ!男のせいでもあるんだからね!でもこれをお詫びにあげる!」ヒョイッ
男「…ほ、ホタテか…」
女「…?」
男「…ごめん俺…」
男「…ホタテ嫌いなんだ…」
女「…あ~あ、そんな好き嫌いする人は…全部没収~!」ヒョイッ
男「…へ?」
女「ガツガツガツ」ガツガツ
男「ちょっと!!さすがにそれはやめて!!俺の!俺の海鮮丼が~!!」
女「も~遅~い!!」ペロッ
男「…あ、綺麗に二つとも完食されていますね、はい。…はぁ。」ガックシ
女「ふふ、美味しかった!でも、男がホタテ嫌いとは知らなかったな~。」
男「…うん、そうなんだよ。貝類がどうしても苦手で………!?」
----―――――――――――――――――――――――
?「あ~。男くん、またお味噌汁の貝を残してる~。」
―――――――――――――――――――――――----
男「…………。」
女「…男?どうしたの?」
男「…あ、ごめん何でもない!…それじゃ会計済ませてホテルに行こうか。」
女「…うん!そうだね!男ここじゃあんま食べれてなかったし、コンビ二かどこか寄って軽食買って行こうよ!私も食べたいし!」
男「…おいおい誰のせいだよ…コンビニ行くのはいいけど…女、まだ食べるの?」
女「うん!まだまだいけるよ!」
男(…この子、この旅で絶対太るな…)
----―――――――――――――――――――――――
―旅行3日目/札幌―――――――――――――――----
女「あっという間だったね小樽のホテルから札幌まで。」
男「うん、高速で40分ぐらいだったな。」
女「それで、札幌ではどこを回るの!?」
男「一応、ここらへんには時計台やテレビ塔とかあるから…」
女「え!?時計台ってあの有名な!?」
男「うん、あの有名な。…でもあんまり期待しないほうがいいよ。」
女「へ?何で?」キョトン
男「…行ったらわかるさ… あと大通公園ってとこで今、グルメフェアみたいなのやってるみたい。」
女「えっ、グルメ!?行く!!絶対行く!!」キラキラ
男「おっけ、それじゃ車をパーキングにとめて、歩きながら色々回ろうか。」
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
がやがやがやがや
女「うわ~!!人いっぱいだね!!」
男「うん、俺もこんなに人がいるとは思ってもなかった。」
女「あっ!!見て見て男!!ジンギスカンに焼き牡蠣にチーズにビールも!!うわ~!!」キラキラ
男「はは、すごくいい匂いだな。俺は車の運転があるから飲めないけど、女はビール飲んでいいよ。」
女「え!?ほんと!? …それじゃ男には悪いけど…飲んじゃおっかな?」ニコッ
男「うん、遠慮しないでいいからね。それじゃ、いくつか買ってベンチで食べよっか。」
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
女「美味しかった~!!」ニコニコ
男「うん。でも、お前いくらなんでも食べ過ぎじゃない?」
女「いいのいいの~、北海道の食べ物なんて今しか食べられないんだから!」
男「…まぁ、これからも食べれなくは無いと思うけど…」
女「…で、男、本当に時計台ってさっきの大通公園から歩いてすぐなの?」
男「うん、もうちょっとで見えてくるよ。」
女「え?でも、まだ街中だよ…てかむしろさらに中心街に向かってるし…」
男「あ、着いた着いた!」
女「…え?」
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
男「はは、時計台はまさかの滞在時間10分だったね。」
女「…だってイメージしてたのと全然…時計台ってあんなにビルに囲まれてるものだったの?」
男「はは、そうだよ。」
女「…わ、わたし、てっきり緑豊かな公園にそびえ立ってるイメージだったんだけど…」
男「まぁ、一応まわりに木はあったけどね。」
女「でも、男はすごく時計台に魅入ってたね。私がせかしてもしばらく動こうとしなかったし」
男「…うん、そうだったn…………!?」
----―――――――――――――――――――――――
?「男く~ん。時計台なんていつまでも見てないで早く行こうよ~。」
―――――――――――――――――――――――----
男「…。」
女「…男?」
女(…まただ…男のこの雰囲気…)
男「…あ!ごめん!…俺あの時計台の雰囲気が好きでさ。」
女「…そうなんだ…その雰囲気ってのはどんなの?」
男「…何というか…暖かいというか…まぁ口では表しにくいんだけどね。」
女「…ふふ、確かに。周りはビルばっかりでなんだか冷たいもんね。そう考えるとああいうふうにレトロな建物を残しておくってことは大切なのかもね。」
男「うん、そうだね。」
女「…で、男!次はどこに行くの!?」
男「…う~ん、テレビ塔に行ってもいいけど…あそこもなぁ…」
女「ちょっと~!!もうがっかりするのはこりごりだよ!まだ旅行始まったばっかりなのにまた私機嫌悪くなっちゃうからね!!」
男「おいおい、プレッシャー半端無いな…そうだな~確か札幌駅前の百貨店とかに女の子向けの服のお店とかがいっぱい…って、しまっt」
女「女の子向けの服のお店がいっぱい~!?」キラキラ
男(…やってしまった…)
女「よし!男!それじゃ駅前に行こっか!!」ガシッ
男「…ちょ、ちょっと待て女!!まだ旅行始まったばっかなんだし、服なんて買ったら荷物が増えるだけだぞ!?」ズルズル
女「男の車6人乗りなんだし、まだまだスペースあるから大丈夫~!それに最悪宅急便で送ってもらうから~!」グイグイ
男「…うっ。 …で、でも服なんて北海道で買わなくたって…!」ズルズル
女「もしかしたらここでしか売ってない服があるかもしれないじゃな~い!」グイグイ
男「…で、でもさぁおんn「男~!」ピタッ
男「…?」
女「諦めなさい♪」ニコッ
男「…はぁ…。」ガックシ
ズルズルズルズル
----―――――――――――――――――――――――
今日はここまでです。
このssはドラマを見てなくても楽しめる内容になっていきますので気軽に読んで頂けたらと思います。
次は明日の23時頃に。それじゃおやすみなさい。
―旅行3日目/千歳―――――――――――――――----
ブロロロー
男「よ~し、なんとか日が落ちるまでに千歳には着いたな。」
女「でも、男~。千歳って今からどこか行けるところなんてあるの?」
男「うん、あるよ。今そこに向かってるし。」
女「え、どこに?」
男「空港だよ。」
女「…え?空港?空港に行ってどうするの!?もしかして今から飛行機乗るの!?」
男「はは、違う違う!今向かってる新千歳空港はねちょっと前に大規模な改装増築がされたんだ。それに伴って映画館や温泉、ラーメン道場、フードコートとか色々楽しめる施設に様変わりしたんだってさ。」
女「へ~!!すご~い!!わたしラーメン食べたい!!」
男「はは、言うと思ったよ」
女「でも、男が以前、北海道に来た時は無かったんだよね?」
男「…うん、前来たときは12歳だったからな…俺も今回が初めてだ。」
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
ブロロロー
女「すごかったね、新千歳空港!ラーメン美味しかった!」
男「そうだね。でも、女、…まだお土産買うの早くない?」
女「え~?何言ってるの男!これはお土産じゃないよ!」
男「え?」
女「これはこれからの道中のおやつだよ~!」ニコニコッ
男「…あっ。そっかそっか~。…なるほどね~。」
女「ふふ!宿に着くまで時間あるし、ちょっと食べちゃお~!」ガサゴソ
男(…だめだこりゃ…)
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
女「ふふ、昨日の小樽のホテルも良かったけど、今日の旅館もいいね!和風な感じが!」
男「そうだね、ここの旅館はネットでも口コミが良かったからさ。ずっとホテル続きってのも旅行ってかんじじゃないしね。」
女「確かに!ホテルや旅館を交互に泊まることでメリハリが生まれるよね!」
男「うん。でも明日は富良野に寄ってから十勝のホテルを予約してるけど、その後の二日間はまだ宿の予約はしてないんだ。」
女「え?何で?」
男「十勝を出発してからは北東に向かうんだけど、どれぐらいの時間で着くかとか確実に分からなくて…北海道はやっぱり広いからね…あと、うちの車も古いしあんまり無理な走り方はさせられないから、宿は当日に取ろうと考えてるんだ。」
女「…そうだね、もし予約しておいてもその日までに着かなかったらお金の無駄だもんね。」
男「ま~、それでも一応めぼしいホテルはもうチェックしてるから安心して。」
女「うん!分かった!それにしても明日は富良野だね!私一番富良野のラベンダー畑に行くのを楽しみにしてたんだ~」
男「…そうだね。ラベンダー畑は有名だからね。」
女「それじゃ、男、そろそろ寝よっか!」
男「うん、お休み。」
----―――――――――――――――――――――――
―旅行4日目/富良野―――――――――――――――----
ブロロロ~
女「うわ~!!牧場がたくさ~ん!!それに!!それに…!!」キラキラ
男「はは。うん、ラベンダー畑もね。」
女「きれ~い…で、男、その有名なラベンダー畑の名所ってもうすぐそこなの?」
男「うん、もう着くよ。でも千歳から3時間もかかったな…」
女「男、運転お疲れ様♪ありがたやありがたや♪」
男「うん。でも明日からは摩周湖や知床とかまで行かないといけないし、これぐらいで根をあげてちゃダメだな。」
女「ふふ!そうよ!頑張んなさい男!」ガッツ
男「…お前…他人事だと思って…」
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―――――――――――――――――――――――----
女「うわ~!うわ~!!うわぁぁ~!!!」キラキラ
男「はは、おいおい女。いくらなんでもはしゃぎ過ぎだろ。」
女「だって!!綺麗なのもそうだけど…すごく…いいにおい…」
男「そうだな、ラベンダーの心地よい香りがするね。しかも今日は天気もいいし…ほんとあたり一面が薄紫色で輝いてて…」
女「うん…ずっとここにいたい気分だよ…」
男「…うん、俺も…だよ…。」
女「…男?」
男「…。」
女(…また…また思い出してるのかな…)
女「…ねえ!お・と・こ!!」
男「…!っとごめん、ボーっとしてた。…どうしたの?」
女「あっちの売店にさ、ラベンダーのソフトクリームが売ってたから買ってきてもい~い!?」ニコッ
男「はぁ、お前また食べるのかよ…」
女「ええ~!何でそんなこと言うのよ~!富良野のラベンダーソフトクリームって有名なんでしょ!?私も食べてみたいの~!!」ブスー
男「はいはい。それじゃ買いに行くか。」
女「ううん!私が男の分も買ってきてあげるから男はここにいて!」
男「え?そんなの悪いよ。」
女「いいのいいの!それじゃ行ってくるね!」タッタッタ
男「あっ!おい女!…行っちゃった…」
男(…ラベンダーのソフトクリームかぁ…………!?)
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?「ええ~。男くんもラベンダーソフトクリーム食べたいの?…一口だけだからね。」
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男(…。)
男(……まえに来たときは確かあいつと二人であの丘で…)
男(…女が戻ってくるまでちょっと散歩してみるか…)
トコトコトコ
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―――――――――――――――――――――――----
女「お~い男~!…ってあれ?…いない。」
女(…どこか行っちゃったのかな?)
女(…も~2人分のソフトクリームで両手がふさがっちゃってるからケータイ出しにくいじゃない!)
女(…とりあえず、電話する前にもうちょっと探してみようかな)ダッ
タッタッタッタ
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―――――――――――――――――――――――----
男「…………着いた。…ここだ。」
男(…ここで俺とあいつはソフトクリームを食べながら…)
男(…って、おいおい。……いつまであいつのことを俺は。)
男(…今回は俺は『上書き』に来たんだから、こんなこといつまでも考えてちゃダメだ…)
男(…女も多分俺のこと捜してるだろうし戻るか…)クルッ
トコトコトコトコ
?「………。」
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―――――――――――――――――――――――----
タッタッタッタ
女(…ったく、男ったらどこに行ったのよ~)タッタッタ
女(…せっかくのソフトクリームが溶けちゃうじゃない!)タッタッタ
女(…でも、男、さっきも深刻そうな顔を…)タッタッタ
女(…男はやっぱりまだ…って!!)ピタッ
女「ああ~!!男~!!あんなところに!!やっと見つけt…!?」
女(…あの丘の傍のわき道に誰かいる…)
女(…男のことを見てる人が…)
女(…じっと見つめてるけど…)
女(…男の知り合いかな?でもこんなところに…)
女(…私の…気のせいかな…)
女(…! …いや違う…あの背格好と…あの色白さ…)
女(…もしかして…)
女(…もしかして!!…)
女「…ちょっとそこのあなたーっ!!!」
?「…!? …っ!」ダッ
タッタッタッタ
女「あっ!ちょっと待って!!」ダッ
オ~イ オンナ~
女「…男!?」ピタッ
男「ごめんごめん、ちょっとそこの丘まで行っててさ。でも何で女はこんな丘のそばのわき道に来てたの?」
女(…! …男は至って普通だ…あの人とは会ってないみたい…でもあの人はおそらく…)
男「…?どうしたの女?」
女「…ごめん!男!これ二つともあげる!!私ちょっと用事があるから食べてて!!」パスッ
タッタッタッタ
男「え!?ちょっと女!?…おいおいまた行っちゃったよ…」ボーゼン…
男「…ってこれもう溶けてるじゃん!やばいやばい!」アセアセ
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―――――――――――――――――――――――----
タッタッタッタ
女(…あれはやっぱり…)タッタッタ
女(…!! 見つけた!!)ピタッ
ガチャ
?「○×#%&!!」バタンッ
ブロロロ~
女「あっ!!ちょっと!!……。」
女(…くっそ~…間に合わなかったかぁ…)
女(…でも…)
女(…今の車って…)
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―――――――――――――――――――――――----
男「…あっ!女!どこに行ってたんだよ!!用事って何だったの!?」
女「…うん、もう大丈夫だから気にしないで…」
男「…女?」
女「…。」
男「…うん、まぁいいや!それよりもさっきのソフトクリーム溶けちゃったからもう一回買いに行こうよ。」
女「…ううん、ちょっと食欲ないからいいや…。」トコトコ
男「…え?お前が食欲ないって…ちょっとどこ行くんだよ!?」
女「…今日は十勝まで行くんでしょ?だったら早く行こうよ。」
男「早くって…富良野は…もういいのか?」
女「…うん。」
女(…富良野にずっといたら…)
女(…もしかしたら…)
女(…だから離れないと…)
女(…富良野から…)
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―旅行4日目/十勝―――――――――――――――----
男「…。」モグモグ
女「…。」モグ…モグ
男「…お~い、女。せっかく十勝でも有名なジンギスカンのお店に来たのに全然食べてないじゃんか…」
女「…え! …そ、そんなことないよ! う~ん美味しいな~ジンギスカン!」ガツガツ
男(…女、完全に無理してる…本当にどうしたんだ?…やっぱり富良野で何かあったのかな…)
女「…。」モグモグ
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―旅行5日目/摩周湖―――――――――――――――----
男「…あ~やっぱり霧が濃いな~…あんまり見えないや…」
女「そうだね…残念だな~…」
男「本当は晴れてると水面に青空が反射してすごく綺麗なんだよ…でも今日は霧が濃いせいもあって…」
女「…うん、仕方ないよ…。」
男(…いつもの女ならここで俺に怒ったり、機嫌悪くなるのに…)
男(…う~ん、どうしよう…)
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―旅行5日目/網走―――――――――――――――----
男「女、網走刑務所の博物館面白かったな!」
女「…うん。」
男「いや~、あそこを脱獄して、しかも五寸釘が刺さったまま逃げた人がいたなんてな。」
女「…すごかったね。」
男「それと、極めつけは監獄食!やっぱり味気なかったな、はは」
女「…。」
男「…なぁ、女。お前本当にどうしたんだよ?」
女「…え?」
男「お前、昨日からずっとそんな感じじゃんか。食欲をあんまりないみたいだし。」
女「…それは。」
男「…もしかして体調が悪いのか…?」
女「…べ、別に体調が悪いわけじゃないんだけど…」
男「…けど?」
女「…ずっと考え事をしてて…」
男「…考え事?何の?」
女「…も~!いいじゃない!!さっ男!今日からの宿はまだ決めてないんでしょ!?早く探しに行きましょ!!」スタスタ
男「あっ!おい女!!」
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―――――――――――――――――――――――----
男「ふぁ~…今日は結構運転したな~、女~そろそろ電気消すぞ~?」
女「…。」
男「…?」
女(…これこらの私たちの予定は、明日の6日目は知床に行ってまた南へユータンし、釧路へ、そして7日目に日高を回ってから最後に苫小牧の港からフェリー…)
女(…やっぱりチャンスは…)
男「…女!」
女「…あ!ごめん男!いいよ消して。」
男「…も~。それじゃ消すよ。」カチッ
女「…。」
男「…ふぁ~。」むにゃむにゃ
女「…ねぇ、男。」
男「…ん~?」
女「…男にとって富良野って…」
男「…え~?富良野がなんだって?」ふぁ~
女「…やっぱり何でもない。」
男「…?…明日も早いからとっとと寝ようぜ。」ウトウト
女「…うん。」
男「…すぅ…すぅ。」zzz…
女「…明日…しか…ないよね…」ボソッ
----―――――――――――――――――――――――
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(夢を見た…)
(そう…あれは…)
(4年前のあの日…)
(あの公園での…)
(あいつとの…)
(幼馴染との最後の…)
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―2008年/8月/―――――――――――――――――----
…
………
………………
男「おい!どういう…どういうことだよそれって!」
幼馴染「…私がさっき言ったことが全てだよ、男くん。」
男「…そんな…何で……何で……。」
幼馴染「…何で『男くんとはもう一緒にはいられない』って言ったかって?」
男「……。」
幼馴染「…男くん。私ね…。」
男「…?」
幼馴染「………結婚するの。」
………………
………
…
----―――――――――――――――――――――――
―旅行6日目/網走―――――――――――――――----
…
………
………………
男「…うっ」ガバッ
男(…どうして今更あいつとの…幼馴染との最後の…)
男(…あの後の俺は結局…)
男(…一緒にあのドラマの最終回を見た時はあんなこと言ってたくせにな…)
男(…それで、幼馴染は最後に…)
男「…! …あれ?女?」
男「…あれ?」
男(…女も…)
男(…女の荷物も…)
男(…消えてる?…)
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
ガチャ バタン
男(…トイレにも浴室にもいない…)キョロキョロ
男(…そもそも荷物自体がなくなってるんだしな…)
男(…とりあえずケータイに電話を………ん?)トコトコ
男(…鏡台の上に…)パッ
男(…これって。)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
男へ
急用が出来たので今日1日一人で行動します。
夜までには今日の最終目的地の釧路に行きます。
もし宿が決まったらメールでその場所を教えて下さい。
こんな勝手な真似をしてごめんなさい。
それじゃまた今夜に釧路で。
女より
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
男「…急用って一体…」
男「…女。」
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―――――――――――――――――――――――----
ガタンゴトンガタンゴトン
女(…網走から富良野まで電車で6時間かぁ…)
女(…結構長いなぁ…)
女(…それに富良野から釧路もかなりかかるみたいだし…)
女(…富良野にいられる時間も限られるなぁ…)
女(…だとしたら、チャンスは1度のみ…)
女(…はぁ…男には一応書置きしておいたけど…)
女(…言い訳どうしよ…)
女(…男には…まだこのことは言えない…)
女(…もし言ってしまったら…)
女(…でも、本当にあの人に会えるのかな…)
女(…私の見間違えってこともあるし…)
女(…それでも、やっぱり富良野に行ってこの目で確かめてみないと…)
女(…富良野のラベンダー畑で見た人が…)
女(…幼馴染さんかどうかを…)
----―――――――――――――――――――――――
今日はここまでです。
こんな感じでこれからも淡々と貼っていきます。
続きは明後日の11時頃に。
おやすみなさい。
―――――――――――――――――――――――----
prrrrrrr prrrrrrr
男「…くそ、やっぱり電話には出ないか…」ピッ
男(…とりあえず、今どこにいるのかのメールを送って…)
男(…まぁ、こんな大胆な行動を起こすくらいだからすぐに居場所なんて教えてはくれないか…)
男(…女は釧路で合流しようと言ってるけど…)
男(…でも、女なしで…俺一人で旅行したって楽しくないし…)
男(…そもそも上書きができない…)
男(…とにかく、女の行き先を掴まないと…)
男(…まずは…)
prrrrrr prrrrrr
男(…! 女からか!?)カチャ
男「…って、…友からかよ…」prrrrr prrrrr
男(今は友に構ってる暇は…でも待てよ…)prrrrrr prrrrrr
ピッ
男「…もしもし。」
友『お~!男か~?朝なのに電話して悪かったな。でさ、早速なんだけど、今日の夜空いてる?久しぶりに飲みに行かね?』
男「…ゴメン、友。…俺、今北海道にいるからさ…」
友『…! …あっ、そ、そっか、そっか、お前らまだ北海道旅行の途中だったか…それなら…無理だな…』
男「…ごめんな、友。…それでさ、急で悪いんだけど俺も友に聞きたいことがあってさ」
友『…? 何だよ?』
男「お前、女の『幼馴染』だろ?あいつに北海道の友達…もしくは親戚っていたか?」
友『北海道に?いんや~、いなかったと思うぞ~。俺、昔からあいつの友達や親戚のことはだいたい知ってるけど…北海道は…』
男「…そうか。分かった、ありがとうな、友。」
友『…でも、そんなことを俺に聞いてどうすんだよ?そばにいるあいつに聞くほうが早いだろ?』
男「…! ……。」
友『…え?…もしかしてお前ら旅行中なのに喧嘩したの!?あっはっは!お前らが喧嘩とか初めてじゃね~の!?』アハハ
男「…! …喧嘩じゃ…喧嘩じゃないと思うんだけど…」
友『? …じゃあ、何なんだよ?』
男「…実は…」
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
友『…なるほど、朝には消えていたと…』
男「…ああ、とりあえずもうちょっと手がかりがないかどうか探してみるつもりなんだけど…」
友『…で、お前、もしあいつの場所が分かったらどうするの?そこまで行くの?それとも一人で旅行を続けるのか?』
男「…! 女のところに行くに決まってるだろ!」
友『…そっか、…それを聞いて安心したよ。』
男「…ああ、当たり前だろ。」
友『…はは、そうだよな。 …でもな、男…』
男「…?」
友『……あいつはな、…俺にとってあいつは…』
男「…友?」
友『…あいつは……!!…って、な、何でもないよ!!』
男「…友。」
友『まぁ、あいつは…俺の…俺の…『幼馴染』なんだしよろしく頼むよ!』
男「…! …そうだよな、お前も心配だよな…」
友『そりゃそうだ!だからあいつの『幼馴染』として頼む!あいつを迎えにいってやってくれ!…それはお前にしか…出来ないから。』
男「…友。…ああ、もちろんだ、絶対に女を迎えに行くよ。」
友『ああ、頼むぜ。それじゃあな。』
男「おう。」ピッ
男(…すまん、友…)
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
ピッ
友(…女…どうしたんだよお前…)
友(…旅行に行く前にあんなに俺に自慢して来てたくせに…)
友(…その男とのせっかくの旅行なのに一人で抜け出すなんて…)
友(…もし、旅行中にトラブルが起きるとしたら間違いなく『男側』だと考えてたのに…)
友(…だから正直俺は反対だったんだよな、今回の旅行…)
友(…でも、俺の予想とはうらはらに…)
友(…女、いったい何があったんだよ…)
友(…何のために俺は今までお前と男のことを…)
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
ボーイ「おはようございます。」
男「すみません、チェックアウトをお願いします。」コトッ
ボーイ「はい、かしこまりました。…603号室の男様ですね。はい、確かに承りました。またのご利用をお待ちs「…あの、すみません」
ボーイ「…? はい、なんでしょうか?」
男「…実はお尋ねしたいことと頼み事がありまして…」
ボーイ「…? はい、なんなりとお申し付けください。」ニコッ
男「ありがとうございます。…今朝、茶髪のセミロングで身長が165cmくらいの女の子が荷物を持って一人でこのホテルから出て行くのを見ませんでしたか?もしくは見たという人がいれば教えてほしいのですが…」
ボーイ「…茶髪でセミロング…165cmくらい…一人で…う~ん、わたくしはこの受付に7時ごろからいたのですがそのようなお方はまだ見ていませんね。何せ、このホテルのお客様はほとんどが家族連れの方たちばかりですし…一人で出て行かれたのならば絶対に印象に残っているはずなので…。」
男「…そうですか。」
ボーイ「一応、わたくしよりも早い時間帯から受付していた他の者にそのお方を見たかどうか確認してきますね。ですので、男様はそちらのソファーでおかけになってしばらくお待ちください。」
男「…! ありがとうございます。 よろしくお願いします。」ペコッ
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
ボーイ2「…はい、確か6時ごろにそのようなお方を見たのを覚えています。」
男「本当ですか!?」
ボーイ2「はい、あと、見ただけじゃなくて、そのお方とお話もしました。」
男「…話?」
ボーイ2「ええ。そのお方は一人で荷物を持ってこの受付にいらっしゃったんですが、そのときにチェックアウトではなく、『尋ねたいことがある』とわたくしにお聞きになられました。」
男「尋ねたいこと…?」
ボーイ2「はい、そうです。それでそのお方はわたくしに…あっ。…あの、ちなみに男様はそのお方とどういったご関係でしょうか?」
男「…! …僕はその女の子の……恋人です。一応、宿泊者記録にも僕とその女の子の名前が載っていると思うので…」
ボーイ2「恋人様でらっしゃいましたか。大変失礼いたしました。…なにぶん、これもプライバシーの問題がございまして…」
男「…! …そうですよね…でも…どうしてもその女の子の行方を知りたくて…喧嘩も何もしてないのにその子が朝に消えてて…本当にその子のことが心配で…」
ボーイ2「…! …わかりました。そういうことならば… …そのお方は私に『富良野には電車でどう行けばいいですか?』とお尋ねされました。」
男「…え?…ふ、富良野?」
ボーイ2「はい、それで私は近くのjr網走駅から特急に乗ることをお勧めさせて頂いたんです。」
男(…富良野……そういえば、昨日あいつ寝る間際に『富良野』のことを呟いて…そして何よりあいつの様子がおかしくなったのも…!)
男「…そうでしたか、ありがとうございます。…でも俺にそのことを教えても大丈夫だったんですか…その…プライバシーの…」
ボーイ2「…はい。本当は駄目なのですが…。 …実はわたくしもそのお方のことがちょっと心配だったので…」
男「…え?」
ボーイ2「…お話してる時もずっと深刻そうな顔をしてらっしゃいまして。…あと、アクセスのことをお伺いされるということは北海道にもいらっしゃったことがあまりないのだろうと心配になっていたので…」
男「…はい、あの子は北海道は今回が初めてで…」
ボーイ2「…やはりそうでしたか。 …プライバシーも確かに大事です。でも、私たち、ホテルマンの役目は快適な時間や環境をお客様に提供することで、全てのお客様にこのホテルを出る瞬間は笑顔でいてもらいたい…そしてその後も北海道を命一杯楽しんで欲しいという想いで日々働いてます。…ですので、そのお方にもあのまま暗い雰囲気でいて欲しくないのです。だから…っと、すみません、余計なことをついだらだらと…」アセアセ
男「…いえ、そんなこと…すごく素敵だな…って思います…。」
ボーイ2「…! いえいえそんな…とんでもございません。」
男「…教えて頂いて本当にありがとうございました。このホテルに泊まって本当に良かったです。」
ボーイ2「こちらのほうこそ、当ホテルをご利用いただき、まことにありがとうございました。…お二方の今後の北海道での旅が充実したものになりますよう心から願っております。それではお気をつけて。」ニコッ
男「…はい!ありがとうございました!」
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
バタンッ キキキ ブロロロ~ン
男(…女は富良野に…)
男(…網走から富良野まで電車では約6時間、旭川などを経由するしかないから電車でも大回りになるからかなり時間がかかるはず…)
男(…一方で車だと最短ルートを飛ばせばこっちは5時間ぐらいで着く…)
男(…今の時刻は9時。あいつが13時ごろに着くとしても、俺も今から飛ばせば14時には着くはずだ。)
男(…でも、あいつはいったい何のために富良野なんかに…)
男(…とりあえず、一応、女に富良野に行くということをメールで伝えておかないと…)カチャ
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
ガタンゴトンガタンゴトン
ブ~ ブ~
女(…! …メールだ…誰だろ…)カチャ
女(…って…友じゃん…)
女(…なになに…『今どこにいる?』…だって…)
女(…男、あいつにこのこと話したなぁ~!…)
パタンッ コトッ
女(…はぁ、今回のことは友には「全く」関係ないんだからメールなんて送ってこないでよね…)
女(…あいつ、ほんと昔から私の邪魔ばっかりして…)
ブ~ ブ~
女(…また友からのメールかな…も~ほんとあいつったら…)カチャ
女(…! …男からのメールだ…でもごめんね男、今日はしばらく電話もメールも返せn…!?)
女(…男も富良野に向かうって…しかも14時には着くって…)
女(…どうして行き先が…でも男も私の様子が富良野からおかしくなっていたのを分かってたし…昨日も口に出しちゃったし…)
女(…あと、ホテルのボーイさんに聞いたのかもしれない…やっぱりあれはミスだったな。一応富良野までの行き方はネットで調べて分かってたけど念のためということで聞いたのが間違いだった…)
女(…とにかく男も14時には富良野に着くってことは私が富良野で自由に行動できる時間は1時間ぐらいしかない…)
女(…やっぱりチャンスは一度しかないか…)
ガタンゴトンガタンゴトン
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
ブロロロ~
男(…やっと富良野までの道程の4分の3ぐらいまできたな…)
男(…最初は意外と混んでて、あまり進めなかったけど、途中からかなりすいたおかげで飛ばすことが出来た。)
男(…ただ、3時間半もぶっ通しで運転してさすがに疲れた…)
男(…それに朝から何も食べてないからおなかも減ったし…)
男(…30分だけ、どこかのお店でご飯休憩をするか…)
----―――――――――――――――――――――――
―旅行6日目/富良野―――――――――――――――----
フラノ~ フラノ~
がやがやがや
トコトコ ピタッ
女(…着いた…富良野に…)
女(…も~、ずっと座りっぱなしでお尻が麻痺してるよぅ…)
女(…でも、そんなこと気にしてる暇はないよね…)
女(…ここからはタクシーと徒歩で…)
女(…でも、もし今から行くところが違ってたら…)
女(…それでも行ってみるしかないか!!)トコトコ
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
アリガトーゴザイマシター
ガラガラ
男「ふ~、食った食った。充電完了。」ガチャ バタンッ
ドサッ
男(…さて、今は13時。もう女は富良野に着いてるだろうな…でも俺もここから飛ばせば14時過ぎには富良野に着くはず…道もすいてるみたいだし。)
男(よし!それじゃ行くか!)キキキ キキキキキキッ
男「…あれ?」
キキキキッ キキキキキキキキッ
男「…おいおい…まさか…!?」
キキキキキキッ…キキッ…
男「…………エンジンが…。」
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
女(…ここじゃなかった…)トコトコ
女(…ここだと思ったんだけど…)トコトコ
女(…他のところの可能性が高いけど…)トコトコ
女(…でも、もう時間が…)ピタッ
女(…さすがに、男も富良野まで来てくれてるのにそれを無視は出来ないし…)
女(…もう14時前か…男が来る時間だ…)
女(…仕方ない…諦めて男に連絡を…)カチャ
女(…! …あ、男からいつの間にかメールが…)
女(…!? …え? 車のエンジントラブル!?)
女(…事故とかはしてないみたい…良かったぁ…)ホッ
女(…でも、富良野に着くのはかなり遅くなるって…早くても17時ごろ…)
女(…これは…)
女(…チャンスかもしれない!!)
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
ブロロロ~
男(…まさか北海道でレッカー車のお世話になるとは…)
男(…はぁ、保険とかってこんな場合効いたっけな~…)
男(…それにしても、今まで来た道を引き返すことになるとは…)
男(…はぁ…確かにうちの車はかなりの旧式だけど、その整備が出来そうなところがこの近くや富良野にないとかどういうことだよ…)
男(…女には17時には着くってメールでいったけど、その時間にも間に合うかどうか…)
男(…頼むから簡単に済む故障であってくれ……っと!?)
ブ~ ブ~
男(…! …女からのメールだ。)
男(…『車大丈夫ですか?男の言う通り、私は富良野にいます。男が来るまでは富良野で待っていますので、無理せずゆっくり来てください。富良野に着いたら電話してください。』…か。)
男(…でも良かった、やっぱりあいつ富良野に…)ホッ
男(…一応居場所は確認できたから安心だな。あとはとっとと車を治して富良野に行かないと…)
ブロロロロ~
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
トコトコトコ
女(…ここも違った…)
女(…あと、考えられるのは一箇所だけ…)
女(…やっぱり私の見間違いだったのかな…)
女(…でも、最後まで確認してみないと…)
女(…私と…)
女(…男の…今後のためにも…)
女(…今は16時ちょうど…よし、これがほんとのラストチャンス!)ダッ
タッタッタッタ
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
キキキキッ ブロロロ~ン
男「おお~!かかった!おじさんありがとうございました!!」
修理工「なぁ~に、たいしたことはしてないさ。部品をひとつ交換しただけだしな。ただ、また今日みたいな無理な運転をしたら、同じ目にあうから気をつけなさい。」
男「はい!気を付けます。」
修理工「おう、わしのことはいいから早く行きな。急いでるんだろ?」
男「…! そうでした!それじゃこれで失礼します。ありがとうございました!」
修理工「お~う、気をつけてな~!」フリフリ
ブロロロ~
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
タッタッタッタ
女「はあはあはあはあ」タッタッタ
女「はあはあはあはあ」タッタッタ
女「はあはあはあ…!? 見えた!!」タッタッタ
タッタッタッタ…
…ピタッ
女(…やっと…やっと着いた…)はあはあ
女(…もう17時…これで…もし駄目なら…)はあはあ
女(………っ!?)はあはあ
女(…あっ、あの…)はあはあ
女(…あの車は!!!!)はあはあ
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
ブロロロ~
男(…修理もスムーズに済んだし、これなら18時前には富良野に着ける…)
男(…でも、ほんと、北海道って良い人ばっかりだな…)
男(…こんな大自然に囲まれているからかな?)
男(…心がおおらかというか…)
男(…一方の俺たちがいる都会は人も環境も閉鎖的で…)
男(…あたたかみなんてものをあまり感じられないしな…)
男(…特にこの4年間は…)
男(…ってか、今までどたばたしてたし、何より朝も運転しっぱなしだったから疲れたな…)
男(いつもなら隣で女がずっと話しかけてくれるから退屈も疲れもしなかったけど…)
男(…一人での運転ってこんなにも疲れるんだな…)
男(…このままじゃ疲れから眠気が襲ってきそうだからラジオでもつけるか…)カチャッ
ガ~ッガ~ッ …レデハ、ツヅイテノキョクハ○○サンカラのリクエストデ…
男(…ごめんな、女…)
男(…お前に富良野で何があったかは分からないけど…)
…ウタデス…ドウゾ!…
男(…それでもやっぱり…)
男(…もう既にお前は俺にとってかけがえのない…)
ヒロイウチュウノ カズアルヒトツ
アオイチキュウノ ヒロイセカイデ
男(…!? …この曲…どこかで…どこかで聞いたことがあるような…)
チイサナコイノ オモイハトドク
チイサナシマノ アナタノモトヘ
男(…いつだ…いつ聞いたんだ…)
アナタトデアイ トキハナガレル
オモイヲコメタ テガミモフエル
男(…何故だろう…俺にとって…とても忘れられない曲だったような…)
イツシカフタリ タガイニヒビク
トキニハゲシク トキニセツナク
男(…でも、思い出したら…思い出してしまったらいけないような…)
ヒビクハトオク ハルカカナタヘ
男(…! …そうだ。この曲は……あの……)
ヤサシイウタハ セカイヲカエル~
男(…ほ~ら…あなたにとって…大事な人ほど…すぐそばにいるの…)
男(…た~だ…あなたにだけ…届いてほしい…響け恋の歌…)
ホ~ラ~ ah~ ah~
ホ~ラァ~ ah~ ah~
ホ~ラ~ ah~ ah~ ah~ ah~ ah~ ah~ ah~
男「…響け恋の歌~」ボソッ
男(…そうだ、この曲は…)
男(…幼馴染と一緒に見ていた…)
男(…あの……………
………………
………
…
----―――――――――――――――――――――――
―2007年/4月―――――――――――――――――----
…
………
………………
ちゅんちゅん ちゅんちゅん
トコトコ スタスタ
幼馴染「ね~男くん。『小さな恋のうた』って曲知ってる?」
男「ん?なんだよ急に…知ってるも何も、…確かモンパチの有名な曲だろ?」
幼馴染「あ、知ってるんだ、意外だな~。」
男「…俺の方が意外だよ。お前の口からその曲名が出てくるなんて。…で、その曲がどうしたんだ?」
幼馴染「ふふ、実はね、昨日あのドラマの第2話でその曲が流れてね。すごく良い曲だったからその曲が流れてる場面を何度も繰り返して見ちゃってたの!」ニコニコッ
男「…なんだよ、やっぱり今まで知らなかったんじゃないか。…で、あのドラマって何?」
幼馴染「も~、男くんったらもう忘れたの?私が先週あれだけ『面白いから見てね』って言ったのに~。」ムー
男「…そういえば、山ピーと長澤まさみの新しいドラマがあ~だこ~だ言ってたな…。」
幼馴染「うん、その二人が主演の『プロポーズ大作戦』ってドラマ。まだ昨日で2話目が終わったところなんだけど本当に面白いんだから。」ニコニコッ
男「俺ドラマとか見ないからな~…で、どんなストーリーだっけそれ?」
幼馴染「も~。先週も細かく説明したじゃな~い。」ムー
男「はは、悪い悪い。」
幼馴染「…ふふ。じゃあ、もし教えて欲しければ、これから絶対に毎週そのドラマを見ること。い~い?」
男「う~ん、内容次第だな。」
幼馴染「む~。頑固なんだから~。…それでもいいやもう。…それじゃあ教えるね。」
男「うん、簡潔に頼むぜ。」
幼馴染「そのドラマでは、山ピーと長澤まさみちゃんは幼馴染でね。でも長澤まさみちゃんは山ピーじゃない他の人と結婚しちゃうの…そしてそのまさみちゃんの結婚式から物語は始まるんだ。」
男「おいおい、いきなりクライマックスじゃないか。」
幼馴染「ふふ、そうだね。…でね、一方の山ピーは結婚式の時になってもまさみちゃんのことが大好きで…そんなもう叶わない恋心を持ったまま山ピーはその結婚式に参席していたの。」
男「…それはかなりキツイな…」
幼馴染「うん。それでね、山ピーは『もし、自分が素直に好きだという想いを伝えていれば、あいつの婚約者は自分になっていたかもしれない』とも思ってたの。」
男「ふ~ん。…ってことは、お互い想い合ってたけど、最後の一歩を踏み出せないままでいたら他の男に取られてしまったということか。」
幼馴染「その通りだよ。私もまだ2話までしか見てないからちゃんとは分からないけど、お互いかなり頑固で負けず嫌いで素直じゃなかったみたい。だから何年も中途半端な関係がズルズルと続いたんだろうね。」
男「う~ん…何だか他人事の話とは思えなくなってきた…」
幼馴染「…? それでね。そんな風に悩んでた山ピーのもとに突然妖精さんが現れたの!」
男「わーお、いきなりメルヘンなお話に。」
幼馴染「ふふ。でもこの妖精さんって『おじさん』なんだよ。」
男「…は?おじさんの妖精?…妖精におじさんver.とかあるの?」
幼馴染「まー、おじさんというよりも『紳士』かな?ちなみにその役をしてるのは三上博史さんなんだよ。」
男「三上さんてあの渋い感じの?…そりゃあの人なら紳士な役が似合うわな。」
幼馴染「それでね、その妖精さんは山ピーに願いを叶えさせてあげるって言ってきたの!」
男「願いねぇ…それじゃ『まさみちゃんの結婚を取り消して下さい』って頼んだらオッケーじゃん。」
幼馴染「ううん。その妖精さんは願いは願いでも『思い出の場面にタイムスリップさせてやる』っていう条件での願いのみ受け付けるんだって。」
男「思い出の場面にタイムスリップ…ねぇ…。てかその妖精はなんのためにそんなボランティアすんだよ。」
幼馴染「さあ、わかんない。これからそういうところも分かってくるんじゃないかな?」
男「ふ~ん…で、山ピーはその妖精の力を借りてタイムスリップをしていくわけか。」
幼馴染「そう!…でね、その妖精さんが登場したちょうどそのときから披露宴会場ではまさみちゃんや山ピーにとっての思い出の写真のスライドショーが始まったの。」
男「…あ~、なるほど。それで、毎話毎話、スライドショーに思い出の写真が次々と出てきて、その写真の瞬間にタイムスリップして『過去からすこしずつ変えていく』ってこと?」
幼馴染「そう!…な~んだ、男くん。分かってるじゃない。」クスクス
男「まぁ…先週聞いたのがなんとなくそんな話だったかな~って思い出してきてさ。…てか、長澤まさみはそもそも誰と結婚したんだっけ?」
幼馴染「まさみちゃんは、まさみちゃんや山ピーの高校に教育実習生として来てた大学院生の人と結婚するみたい。ちなみにその人の役は藤木直人さんなんだよ。」
男「へ~、藤木ってことはイケメンの教育実習生ってわけか…」
幼馴染「ま~、あらすじはこんなものかな。これからもどんどん面白くなると思うし、男くんも見てね。」
男「あ~、気が向いたらな~。」
幼馴染「も~!男くん!さっき約束したじゃな~い。」ムー
男「あはは、うそうそ。見るよ、見る。何かちょっと興味が湧いたし。」
幼馴染「ほんと?ふふ!それじゃ毎週ドラマの放送日の次の日はこうやってそのドラマのお話しようね!」ニコッ
男「うん、いいよ、幼馴染。」ニコッ
………………
………
…
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
…
………
………………
ブロロロロ~
男「…そうだ…。さっきの曲はあのドラマの挿入歌の…」
男「…幼馴染…。」
男「…お前は…」
男「…お前は…今…」
男「…いったい…どこに…」
男「…いったいどこにいるんだよ…。」
ブロロロロ~
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今日はここまでです。
続きはまた明後日の11時ごろに。
思った以上に書く時間が取れなくて隔日ごとの更新になってしまっています。ごめんなさい。
それでは、おやすみなさい。
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トコトコ
女「…。」トコトコ
女「…。」トコトコ
女「…っ!」ヒョイ
ブロロ~ キキッ
ガチャ バタン ドサッ
女「すみません、…ラベンダー畑までお願いします。」
タクドラ「近くのあの有名なところのラベンダー畑でいいですか?」
女「はい、お願いします。」
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―――――――――――――――――――――――----
ブロロロ~
男(…何してんだよ俺…)
男(…あのドラマの曲が流れただけで…)
男(…何でこんなにも動揺して…)
男(…それにさっきからずっと…)
男(…ずっと幼馴染のことばかり…)
男(…俺は…やっぱり…)
男(…やっぱり…まだ…)
prrrrrr prrrrrr
男(…っ!女からか?電話に出る前に車を路肩に止めないと…)
ブロロロ~… キキッ
prrrrrr prrrrrr
男(そうだ…それでも俺は…今は女のことが…)ピッ
男「…もしもし、女か?」
女『…うん、ごめんね、心配掛けて…あと、車は大丈夫?』
男「そんなこと気にしないでいいよ。…で、今はどこにいるんだ?」
女『今は…今は、ラベンダー畑にいるの。』
男「…! …ラベンダー畑って、おととい行ったところか?」
女『…うん、出来れば男に日が落ちるまでにこっちに来て欲しいの。』
男「…! 今からそっちに向かえばなんとか日が落ちるまでには着くけど…でもどうして?」
女『………。』
男「………オッケ、とりあえずそっちにすぐ行くよ。あと15分ぐらいで着くから待ってて。」
女『…ごめんね、それとありがとう。』
男「うん。いいよ、別に。それじゃまた後で。バイバイ。」
女『…ばいばい』
ピッ
男(…ラベンダー畑…か…。)
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―――――――――――――――――――――――----
タッタッタッタ
男「……っ! 女!!」タッタッタ
タッタッタ…ピタッ
女「…男…。」
男「はあはあはあ…っ、やっと…見つけた…。」はあはあ
女「…ごめんね…男…。」
男「はあはあ…っでも何でまたラベンダー畑なんかに…そもそもどうして今日…」
女「…男、最後のわがままを聞いてくれるかな?」
男「…え?…な、なんだい?」
女「…付いてきて…。」トコトコ
男「…あ!女!…っ。」スタスタッ
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
男「…女…こんなところに…この丘に…いったいなんの用が…」
女「…ごめんね、男…。ここで私と…」
男「…?」
女「…ここで私と…写真を取って欲しいの。」
男「…へ?写真?」
女「…うん。写真。…今まで私たちって何だかんだで1枚も2人での写真を取ったことなかったでしょ?」
男「…! …それは…。」
女「…今までも本当は取りたかったんだけどね…。 …だから、ここでまず私たちにとっての第一枚目の記念写真を…と思って!」
男「…そうだな…今まで一度も俺たち…でも何でその第一枚目がこの丘なんだ?」
女「…それは、ただここがすごく見晴らしがいい所だからってことで、…そこまで理由はないよ。」
男「…そっか…。…うん、分かった、取ろう!」
女「ふふ、ありがとっ、男。」
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
コトッ
女「…よし、この柵の上にケータイを置いて…っと。行くよ男~!」
男「おう。」
女「タイマースタート。」ピッ
男「女、早くこっちに。」
女「分かってるよ!も~!」
タッタッタッタ…ピタッ
女「…よし!…男、ちゃんと笑ってね。」
ピッピッピッ
男「うん、大丈夫だよ。…女のほうこs…」チラッ
男「…! …………。」
ピッピッピッ
女「…笑って、男。」
男「…ああ。」
ピッピッピッ
男(…女…お前…何で…)
ピッピッピッ
男(…何で…)
男(…泣いてるんだよ…)
ピーッ…カシャッ!
………………
………
…
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
…
………
………………
ブロロ~
女「ふ~!!やっとこっちに戻ってきたね!!」グターッ
男「ああ、さすがに1週間の旅行は疲れたな…」
女「そうだね、男も今日まで運転本当にお疲れ様!」
男「うん、どういたしまして。」ニコッ
女「…あっ、もうそろそろ私の家に着くね!降りる準備しないと!」ガサゴソ
男「てか、ほんとお土産たんまり買ったよな~…正直買い過ぎだよ女…」
女「え~!そんなことないよ~!だって、これは家族の分だし、これは女友、あとこれはサークルのみんな、そっちはバイトのみんな…そしてその小さいのは仕方なしに友の分も。」
男「はは、友は『仕方なし』か。」
女「仕方なしだよ~!本当は買ってやるつもりなんてなかったんだけどね…まあ『幼馴染』だから仕方なしだよ。」
男「まぁ、女が買ってなくても友の分は俺が買ってやったさ。あいつとは高校からの付き合いで、俺にとっての一番の親友だしな。」
女「も~、あんなやつと絡んでたら男にバカが移っちゃいそうで嫌だな~」ブスー
男「はは、言い過ぎだって女。あいつは確かに不器用だけど、何事にも真っ直ぐで優しい良いやつじゃないか…っと、女の家に到着。」キキッ
女「あ、ほんとだ。…それじゃあ、男。送ってくれてありがとっ!旅行楽しかったよ!」ガサゴソ
男「…ああ。」
女「それじゃあまた連絡するね!バイバイ!」ガチャッ
男「…女!!」
女「…ん?何、男?」
男「…そんなに多くの荷物を運ぶの大変だろ…家まで運ぶの手伝うよ。」
女「え?…でも、家なんて目の前なんだし大丈夫だよ!」
男「…そっか。」
女「うん!…でもありがとっ男!それじゃあね!」ヒョイッ
男「…あ。」
タッタッタ
男「…女!」
女「…ん?」クルッ
男「…今日、お前の家に泊っていってもいいか?」
女「…!! …え、き、今日?」
男「…うん。」
女「…でも、男…、男は…大丈夫なの?」
男「…! …だって俺…」
女「…。」
男「…俺…いや、俺たちはもっと…」
女「…男…。」
男「…だから…」
女「…ふふ!いいよ!大歓迎だよ私は!泊まってってよ男!」ニコッ
男「…女…ありがとう。」
女「うん!それじゃあ…「やっと帰って来たわね!!」バタンッ
女・男「「!?」」
女「…お、お母さん!?」
女母「も~!あんた帰ってくるの遅いのよ!!明日法事だってこと忘れてたの!?」
女「………あっ。」
女母「だから、明日は親戚がたくさん来るからその料理の準備を手伝えって言ってたでしょ!?も~!今すぐ手伝いなさい!」
女「…わ、忘れてた…。…でも、今日は男くんが…!」
女母「…男くん?」チラッ
男「…はじめまして。女さんとお付き合いさせて頂いてる男と申します。今日はこんな遅くまで女さんを連れまわしてしまって本当に申し訳ありませんでした。」ペコッ
女母「まぁ!あなたが男くん!?あなたは悪くないのよ!どうせこの子が法事のことを忘れてただけだろうし! …へぇ~、でも…これまたイケメンな…そりゃ友くんが負けるわけだわ。」
女「も~!!友は関係ないでしょ!?」
女母「…あ、そうだそうだ、友くんと言えば、今、あんたの変わりに友くんが料理手伝ってくれてるのよ?」
女「え~、何であんな奴が手伝ってるのよ~!?」
女母「今日、食材の買い込みのためにスーパーに行く途中でたまたま会ってね、明日法事だって言ったら『僕も手伝います』って言ってくれたのよ!さぁ、友くんをこれ以上一人で待たせるわけにもいかないし、早く行くわよ!…男くん、今日は娘を送ってくれて本当にありがとうね、またいつでもいらっしゃってね。それじゃ女、お母さんは先に家に入っておくから。」タッタッタ
女「…男、ごめんね、今日はやっぱり…」
男「…みたいだね。仕方ないよ。」ニコッ
女「…本当にゴメンね…。」
男「うん、それじゃあ、早くお母さんのお手伝いに行ってあげて。あと、友にもよろしく伝えておいて。」
女「…いいよ、あんなやつ…。それじゃあ……あっ!ゴメン、男!せっかくだし…」ガサゴソ
男「ん?」
女「…はい!これ!!」ポイッ
男「…ん?何これ?」
女「この3日間の写真!」
男「写真?でもいつのまに現像を…」
女「帰りのフェリーの待ち時間の間にこっそり現像しておいたの!」
男「へぇ~、気付かなかった。」
女「ふふ、家でゆっくり見てね!自分の分も現像してるけどまだ私も見てないんだ~」
男「そっか…うん、家でじっくり見させてもらうよ!」
女「ふふ!それじゃあね男!ばいばいっ!」
男「うん、バイバイ。」フリフリ
タッタッタッタ ガチャ バタン
男(…俺も実家に寄ってくか…車の故障のことで色々父さんに話さないといけないこともあるし)
トコトコ ガチャ バタン
ブロロロ~
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
ガチャ バタン
タダイマー
母「…! 男、お帰りなさい。」スタスタ
男「ただいま、母さん。父さんは?」
母「もうすぐ帰ってくると思うわ。」
男「そう。」
母「…で、どうだったの北海道旅行は?何もトラブルはなかった?」
男「いや、それがさぁ…」
母(…! …まさか…?)
男「…それが、車が途中でまさかの故障でさ~、もう色々大変だったよ~。」
母「…え? こ、故障? …何だ、…そんなこと…」
男「…? そんなことって母さん、旅行に行く前はあんなに車のこと心配してたのに怒らないの?」
母「…! …そ、そうね!…もう!だから私は反対したのに!」
男「はは、ごめんごめん。でも、事故とかは起こしてないから安心して。」
母「…そう、…で、他には何もトラブルはなかったの?」
男「…他に? …いや、別に…。」
母「…そう…。」
男「…ただ…。」
母「…ただ?」
男「…途中から女の様子がちょっとおかしくなって…」
母「…女ちゃんの?」
男「うん。…あんなにいつも元気な子が途中から暗くなって…あと、一度、いきなり単独行動したり…」
母「…喧嘩でもしたの?」
男「いや、喧嘩とかはしてないんだけど…」
母「そう…いつぐらいからおかしくなったの?」
男「え~っと、確か、4日目の富良野に寄ったときからだったかな」
母「…! …富良野…。 …女ちゃんは富良野に寄ったときには既におかしかったの?」
男「いや、違うよ。…富良野のラベンダー畑に行ったときからだよ。」
母「…ラベンダー畑…。それって私たちが昔行ったあの?」
男「うん、あのラベンダー畑。あと、その2日後に女が急に抜け出して、またその富良野に行ってたんだ。」
母「…! …それが、さっき言ってた単独行動のこと?」
男「うん。それで、俺も急いで富良野に行って合流したんだけど、『もう一度このラベンダー畑を見ておきたかった。』ってことと『ラベンダーソフトクリーム食べ損ねたから』ってことを言い訳として言ってきて…本当は違うんだろうけどその場では本当の理由は聞けなかった。」
母「…そう。」
男「…まぁ、その後は女もいつものように元気になって、最後の2日間は楽しく過ごせたよ。写真もたくさん取ったし。」
母「…! 写真って…」
男「…うん。 この4年間は写真を見るのも取るのもいやだったけどいつまでもそんなんじゃ駄目だなって思ってさ…そして、そう思うきかっけを今回の旅行で女がつくってくれたんだ。」
母「男…」
男「ふ~、まぁ、また詳しい旅行の話はご飯の時にでも話すよ。てか、お風呂に入りたいから今から入ってきてもいい?」
母「…ええ。入っておいで。」
男「うん。あっ、風呂から上がったら買ってきたお土産も渡すから~」トコトコ
母「…そう…ありがとう。」
母「…。」
母(…もしかしたら…女ちゃんは…)
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
かちゃかちゃ
男「…でも、その修理工のおじさんがすごく良い人でさ!本当に助かったよ。」モグモグ
父「…そうだったか。でも、もうあの車もやっぱり限界だな。」
男「そんなことないよ、まだ大丈夫だって。」
母「…男。今回は運が良かったけど、もし運が悪かったら事故を起こしてたかもしれないのよ。もうあの車に乗るのは控えなさい。」
男「え…でも…。」
父「お母さんの言う通りだ。…男。もうあの車はもう売ろう。…まぁ、売ってもほとんどお金にはならないだろうが…」
男「…! そんな…。 …でも、持ち主の父さんがそう言うなら仕方ないか。」
父「また、就職してからお金を貯めて新車を買いなさい。」
男「…うん、そうするよ。」
父「…で、男。さっきお母さんから少し話しを聞いたが、女ちゃんの様子がおかしかったんだって?」
男「え?…うん。」
父「ちょっと俺にも詳しく教えてくれないか?」
男「…? …別にいいけど…。」
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
男「それじゃ、ごちそうさま~」ガタッ
スタスタ ガチャ バタンッ
父「…。」
母「お父さん…女ちゃんはやっぱり…」
父「…ああ。 …もしかしたら会ったかもしれないな…」
父「…幼馴染ちゃんに…。」
母「…。」
父「…いや、まだ会ったとは断言できないな。女ちゃんが一人で富良野でどこに行ったのかを男も知らないみたいだし。」
母「…そうですね。…それと、女ちゃんも男と幼馴染ちゃんの関係を知ってるはずなのに、一人で富良野に行ったってことは…」
父「…ああ、女ちゃんは男にはそのことをどうやら言ってないみたいだ。その理由はまだ分からんが…」
母「…何故でしょう…男、幼馴染ちゃん、女ちゃん、友くんのこの4人は高校でもすごく仲が良かったわけですし、女ちゃんも男に普通教えるんじゃ…」
父「…いや、女ちゃんが男に言わなかった理由はなんとなくだが分かる気がする。」
母「…どういう理由?」
父「…まぁ、これも断言できないから、まだ言うのはやめておくよ。でも女ちゃんに一度直接話を聞いてみないとな…でも、俺はまだ一度も女ちゃんを見たことがないが、彼女はうちにきたことはあるのか?」
母「…高校の時は幼馴染ちゃんや友くんと一緒に何度か遊びにきたことがありましたよ。でも、男が大学に入ってからは一度も…」
父「…そうか。」
母「…私が女ちゃんの家に伺ってお話してきましょうか?」
父「…そうだな…お母さんなら女ちゃんと面識があるからな。」
母「はい。それじゃまた来週にでm父「いや、やっぱり俺が行くよ。」
母「…! え、お父さんが?」
父「…ああ。俺から女ちゃんに話をさせてくれ。そもそも、うちとあの一家の『現在の関係』を最終的に承認したのはそもそも俺だしな。」
母「…ということは?」
父「ああ。もし、女ちゃんが幼馴染ちゃんと会ってたのなら…」
父「…彼女には『全て』を話す。」
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―――――――――――――――――――――――----
ドサッ
男「ふ~…。」
男「…。」ボ~ッ
男(…あの後の女はいつもどおりの元気な姿に戻ってた…。)
男(…だから、俺も富良野に何故一人で行ったのか聞くに聞けなくなってしまったんだけど…)
男(…でも、女のあの元気な姿も、どこか無理をしているようだった…)
男(…会話とかはいつもどおりだったけど…)
男(…ふと、一瞬考え込んでる瞬間を何度か見た…)
男(…そんな様子を見てると俺も不安になってきて…)
男(…これを機に二人の仲に亀裂が入るのが怖くて…)
男(…だからこそさっき、俺は…俺たちは…)
男(…俺たちはこれからも…)
男(…これからも2人で…)
男(…。 そういえば女からさっき写真をもらったんだっけ…)スクッ
スタスタッ ガサゴソ
男(…お、あったあった。)ヒョイッ
男(…良く写ってるな…てかケータイで取っても今の時代はすぐに現像出来るんだな…)ピラッ
男(…! …この写真…あのラベンダー畑での…)
男(…女、笑ってる… …でも…)
男(…頬に涙が…)
男(…やっぱりあれは見間違えじゃなく本当に…)
男(…女…富良野で何があったんだよ…)
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
女「は~!やっと終わったよ~法事の準備~!」ドサッ
女母「何言ってんの!結局あんたあんまり役に立たなかったじゃない!」
女「だって私が準備を手伝い始める前にもうほとんど終わってたじゃない。」
女母「はぁ…あんたって子は…。それよりも、ちゃんと友にお礼言ったの?」
女「何で私がこいつなんかに!?お母さんが頼み主なんだから言えばいいじゃん!私はこいつがいなくても一瞬で終わらせられてたし!」
女母「あんた!善意を持って手伝ってくれた友くんにコイツ呼ばわりなんてするんじゃないの!!」
友「まあまあ!二人とも落ち着いて!それにコイツ呼ばわりなんていつものことですし。」
女「そうよそうよ!」
女母「…っ! …でも友くん…。」
友「…それに俺もともと今日、女に用事があってこの家にくる予定だったので、どのみち手伝うことになってたと思いますし。」
女「…用事?何よ用事って?」
友「…まぁ、それはおいおい。…で、おばさん、手伝ったご褒美とは何ですが、女の部屋で女とお話させてもらってもいいですか?」
女「…は!? …何よ話って!?今ここで言いなよ!」
女母「あら、そんなの全然構わないのに。…というか、昔はそんな許可を私に求めなくても女の部屋によく行き来してたでしょ?」
友「…まあ、そうだったんですけど…女は今は…男と…」
女「…!? …。」
女母「ふ~ん…別に私は気にしないけど…まあ行ってらっしゃい。」
友「ありがとうございます…じゃあさあ!女行こうぜ!」
女「…ちょっと!!私はまだオッケーしてないんだけど!?」
女母「も~、あんたいい加減にしなさい!ほらさっさと部屋に行っておいで!」
友「それじゃ女、先に部屋に行っておくぜ~」タッタッタ
女「あ!?待て友!勝手に先に入るなー!!」タッタッタ
女母「…ふふ、二人とも走ったら危ないわよ!」
ハ~イ!
女母「…。」
女母(…やっぱり私としてはあの男くんよりも友くんのほうが…)
女母(…まぁ、でも男くんはかなりのイケメンだったし、もし男くんと女に子供が生まれたらさぞ美男美女が生まれるだろうし、それはそれで…)フフッ
女母(…さて、どうなることやら…)
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
女「…で?何よ話って?」ブスー
友「おいおい、そんな怒るなって。」
女「怒ってないわよ別に。でも、私も長旅の後で疲れてるんだから早く終わらせてよね。」ブスー
友「はいはい。…で、女?」
女「何よ?」ブスー
友「…お前、男との旅行中に何で抜け出したんだよ。」
女「!?」
女(…しまった。…法事の準備で忙しかったり、さっきの男とのこと、そして『あのこと』をずっと考えたりしてたから、友がそのことを知ってるってことを完全に忘れてた…)
女「…別に…。そもそも、友は男から聞いてるはずでしょ?」
友「…ああ。男からは『女は富良野のラベンダー畑にもう一度行きたかったらしい』ってことは聞いた。」
女「…それが、理由の全てよ。」
友「おいおい、さすがにこの理由だけじゃ苦しいだろうよ。富良野にもう一度行きたかったんなら、男にそのことを言って一緒に行けば良かったじゃないか?」
女「…それは…。…一人でラベンダーソフトクリームをたくさん食べたかったの!男にそんなたくさん食べてるところ見られたくなかったし!」
友「…ラベンダーソフトクリームなんて、別に富良野じゃなくても札幌や小樽とかにもあるらしいじゃん…。それなのにわざわざ富良野に?」
女「…! …そうよ!富良野のが食べたかったの!文句ある!?」
友「…いや、無いけどさ…。」
女「…それじゃあこの話はもうお終い!!さあ帰った帰った!!」シッシッ
友「…はいはい。時間を取らせて悪かったな。」スクッ
女「全くよ。」ブスー
スタスタ ガチャ
友「…あ、女。最後に一つだけいいか?」
女「何よ~、まだ何か用?」
友「…お前…もしかして」
女「?」
友「…いや、やっぱり何でもない。」
女「…は~!?何よ!?最後まで言いなさいよ!気になるじゃない!」
友「ごめんごめん!本当に何でもないんだ!」
女「…意味わかんない…も~とっとと帰って!早く帰らないとこの目覚まし時計投げるわよ!?」ガシッ
友「…! あ~ごめんったら!!それじゃあな!!」バタンッ
タッタッタッタッ
女「何なのよ…あいつ…」ボソッ
女(…私の…)
女(…私の事情も知らないくせに…)
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
ドサッ
男「よし!始めるか!!」パンッ
男(今回の旅行で女との写真もこれから増えてくるだろうし、今までの写真とかを整理しよう。)
男(…まぁ、写真の整理って言ってもこのアルバム一冊しかないんだけどな。)
男(…でも最悪、このアルバムごと捨てたほうが…)
男(…でも、さすがにそんなことしたら父さんや母さんも怒るだろうし…)
男(…ここにはあいつとの写真以外もたくさん入ってるわけだし…)
男(…とりあえず、あいつとの写真だけをまず取り除こう…)ピラッ
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
男「ふ~、終わったか。」パタンッ
男(…でも、意外と多かったな、あいつとの写真…)
ピラッ
男(この写真は…
----―――――――――――――――――――――――
幼馴染「あはは。男く~ん。こ~こま~でお~いで~。」
―――――――――――――――――――――――----
男(…10歳の時にあの海で俺があいつを追いかけてるところの写真だ。)
男(…この頃の俺たちは毎日のように川や海、公園に遊びに行ってたこともあって、肌が真っ黒に焼けてるや)ハハッ
ピラッ
男(次のこの写真は…
----―――――――――――――――――――――――
幼馴染「あ~。男くん、またお味噌汁の貝を残してる~。」
―――――――――――――――――――――――----
男(…11歳ぐらいかな?俺んちの台所での写真。俺が味噌汁の貝をよけてるところをあいつが笑ってる写真。)
男(…あいつ、俺が貝が嫌いってことを知ってるくせに、こっそり俺のお椀に貝をたくさん移してきて…ほんと迷惑極まりなかったな…)ハハッ
ピラッ
男(おっ、この写真は…
----―――――――――――――――――――――――
幼馴染「男く~ん。時計台なんていつまでも見てないで早く行こうよ~。」
―――――――――――――――――――――――----
男(…12歳の時の北海道旅行中の時計台前での写真だ。)
男(…俺がずっと時計台から動こうとしなかったところをあいつが怒ってて…そっかそっか、この瞬間も写真取られてたんだな。)
ピラッ
男(…! そしてこれが…
----―――――――――――――――――――――――
幼馴染「ええ~。男くんもラベンダーソフトクリーム食べたいの?…一口だけだからね。」
―――――――――――――――――――――――----
男(…あのラベンダー畑での…)
男(…このとき、二人で写真を取られる直前に俺があいつのソフトクリームねだったんだっけな…何であの時俺はバニラを買ったんだろ)ハハッ
男(…でも、さっきの女のラベンダー畑での写真もこの場所だったな…)
男(…これは偶然なのか…)
男(…それとも女は高校の時にあいつからこの場所を教えてもらってたのか…)
ピラッ ピラッ
男(…まぁ、その後も中学、高校での二人の写真が…)
男(…中学に上がってからはお互い部活で忙しくなってたけど、二人での勉強風景や、入学式、卒業式、運動会とかの行事での写真もたくさんあるな…)ピラッ ピラッ
ピラッ
男(…! …そして、この最後の一枚…)
男(…あいつとの最後のツーショット写真…)
男(…あの公園での…)
男(…4年前に…あいつが…)
男(…あいつが…俺の前から消える前に取った最後の………
………………
………
…
----―――――――――――――――――――――――
今日はここまでです。
今回は大きな展開がなかったこともあって、退屈に感じた方もいらっしゃるとおもいます。申し訳ありません。
でも、次回の投下分から色々なことが分かっていきますので、もしよろしければ続けて読んでいただけたらと思います。
それじゃ次回も明後日の23時ごろに。
お疲れ様でした。
―2008年/8月/―――――――――――――――――----
…
………
………………
幼馴染「…男くん。私ね…。」
男「…?」
幼馴染「………結婚するの。」
男「…………は?」
幼馴染「…。」
男「…え? 結婚って… …え?」
幼馴染「…うん。結婚。」
男「…いやいや、お前まだ高校生のクセに結婚だなんて…そもそも相手は誰だよ?『男だよ!』とかっていうオチだったら怒るぞ。」
幼馴染「…そうだね。そうだったら面白いね。…でも、それは違うの。」
男「…! …じゃあ、誰とだよ…。」
幼馴染「○▲さんって言う人。」
男「…俺が初めて聞く名前だな。」
幼馴染「うん。そうかもね。」
男「…でも、いつからその○▲って人と付き合ってたんだよ…そんなお前が誰かと付き合ってる素振りなんて見たこと…」
幼馴染「私、5月の終わりくらいから何回か学校休むことがあったでしょ?そのときに実はその人と会ってたの。」
男「…! そういえば… でもお前、学校休んでまで、そいつとのほほんと遊んでたわけか…」
幼馴染「まぁ、その人はすごく遠い場所に住んでるから…どうしても学校休むしかなかったの。土日はもちろんその人の家に行ったりしてたし。」
男「…でも、お前、その人と付き合ったのって5月の終わりからなんだよな?まだ3ヶ月も経ってないのに結婚するのかよ…」
幼馴染「…うん。確かに交際期間は短かったけど、この前、その人にプロポーズされてね…。だから、私はその人のプロポーズを受け入れて、結婚するつもりなの。」
男「…そんな…そんなこと…。」
幼馴染「あと、学校も辞めるの、私。」
男「…! はっ!?学校を辞めるって…お前、受験はどうすんだよ!?」
幼馴染「受験もしないよ。家事に専念したいし。」
男「そんな…一緒に…一緒に同じ大学に行こうってこの前まで言ってたじゃないか!」
幼馴染「…そんなことも言ってたね。ごめんなさい。その約束は守れそうにないや。」
男「…。」
幼馴染「…それと、結婚を機にこの街からも出るの。」
男「…!?」
幼馴染「その人と同じ家に住むことになってるの。だから、私が彼のところに引っ越さなきゃいけない。」
男「…本当なのか? …今までの話は本当に本当に全てが…本当のことなのか?」
幼馴染「うん。本当。だって私、今まで男くんに嘘なんてついたこと一度もないでしょ?」
男「…! ……そう…だったな…。」
幼馴染「…信じてくれた?」
男「…じゃあ…。」
幼馴染「…?」
男「…お前はその人のことが好きなんだな?」
幼馴染「…うん。好きよ。結婚するんだし。」
男「…そっか…。なぁ…幼馴染、覚えてるか?去年のあのドラマのこと。」
幼馴染「…うん。もちろん。だって私が男くんに勧めたんだもん。」
男「…俺、あのドラマの最終回を見終わった後に…言ったよな。」
幼馴染「…うん。」
男「…『もしお前が他の男と結婚すると言い出しても、この主人公のように最後まで諦めないだろうな。』って。すごく恥ずかしながらだったけど…」
幼馴染「…言ってたね。」
男「…だから…俺はまだ…!!」
幼馴染「…男くん。あれは所詮ドラマなんだよ。」
男「…!!」
幼馴染「ドラマだからこそ、あんな大胆な話だったんだよ。でも現実ではそうはいかないの。」
男「…何が違うんだよ!?」
幼馴染「もう、私の周りでは結婚のための段取りもどんどん進んでる。それに、色々な事情も絡んでくるの。そんな状況の中、『それでも好きだから』という想いだけで結婚を取りやめることなんて出来ないの。」
男「…でも…でも!!」
幼馴染「…それにね、男くん。私はあのドラマの最終回の後に、『男くんにそう言ってもらえて嬉しい』って言ったよね。」
男「…! …うん。」
幼馴染「…でもね、私はあの時、ほんとはちょっと残念でもあったの。」
男「…! …どうして!?」
幼馴染「…どうせなら、『他の男に見向きさせないように俺にだけに釘付けにしてやる』ってくらいの言葉をどうせなら聞きたかった。」
男「…! ……。」
幼馴染「…ごめんね、男くん。そんなこと言っちゃったけど、本当に悪いのは私。私が他の人を好きになっちゃたのがいけないの。でも、この○▲さんを好きという気持ちはもう揺るがないと思う。」
男「…! …そんな…」
幼馴染「だから男くんも出来るだけ早く好きな人をつくって欲しい。そしてその人と幸せになって欲しい。もう私たちが会うことはないだろうから。」
男「…それは、俺とはもう二度と会いたくないからっていうことなのか?」
幼馴染「…そういうわけじゃないんだけどね。でも、私だけじゃなく、お母さんとお父さんと一緒にその人の家の街に引っ越すから会える機会はもうないと思う。」
男「…どこに…どこに引っ越すんだよ…」
幼馴染「…それを言ったら男くん、来ちゃうでしょ?」
男「…そ、それは…。」
幼馴染「…。」
幼馴染「…ねぇ、今まで18年間、本当にありがとうね、男くん。本当に楽しかったよ。」
男「…! ………俺だって…」
幼馴染「でも、その思い出も早く上書きしていってね。こんな『悪者』なんかとの思い出なんて。」
男「…! 『悪者』だなんて…。」
幼馴染「ううん。私は『悪者』。実際に今、私は男くんを傷つけてまで他の人と結婚しようとしてるんだから。だから、こんな『悪者』のことはすぐに忘れて、好きな人をつくって幸せになってね。」
男「…お前は…」
幼馴染「…?」
男「…お前はどうなんだよ!!それで幸せになれるのか!?」
幼馴染「…! …うん、もちろん!」
男「………そっ…か…。」
幼馴染「…ねぇ、男くん。最後のお願いをしてもいい?」
男「…? 何だよ?」
幼馴染「…最後に二人で写真を取らない!?」ニコッ
………………
………
…
----―――――――――――――――――――――――
―2012年/8月―――――――――――――――――----
…
………
………………
男(…あの時に二人で取った写真。)
男(…あの後、幼馴染は次の日にはもういなくなっていた。)
男(…家族で引っ越しの準備も事前にひそかに済ませてたらしかった。)
男(…うちの両親にもその引越しの日の朝に電話がきただけだったみたいだし。)
男(…何もかもが急すぎて、俺はあいつが俺の前からいなくなったということを認めることは出来なかった。)
男(…でも、学校の先生から正式に幼馴染が学校を辞めたということを聞いて、やっと事の重大さに気付き始めて…)
男(…学校の先生に引越し先を教えてくれと頼んだが、幼馴染が伝えないで欲しいと頼んでたらしく教えてもらえなかった。)
男(…そもそも、先生たちも急に幼馴染が学校を辞めたことに驚いてたしな…)
男(…あいつや、あいつの両親の携帯に電話しても繋がらなかったし…)
男(…そうやって、あいつは俺の前から…)
男(…それにしても、この写真の俺は今にも泣きそうな顔をしてるけど…あいつは…)
男(…すごく…いい笑顔をしてるよな…)
男(…っておいおい。処分するために写真の整理をしてたはずなのに。)
男(…俺は今は女のことを…)
男(…好きでいなくちゃいけないんだ…)
男(…。)
男(…いや…俺は女のことをまだ…)
男(…まだ…好きになれてないんだな…)
男(…やっぱり、いつもあいつのことが頭をよぎってしまうんだ…)
スタスタッ
ドサッ
男(…女はおれのことを好きでいてくれてるのに…)
男(…お前がいなくなったことでぽっかり空いた穴を女で埋めようと利用して…)
男(…好きでもないのに付き合うことにして…)
男(…好きでもないのに女に軽々しく『好き』って言って…)
男(…それがいつかは女を傷つける結果になるってことを分かってるくせに…)
男(…なあ、幼馴染…)
男(…俺は…)
男(…俺も…『悪者』になってしまってるよ…)
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
女「だぁ~っ!!やっと法事終わった~!!」ドサッ
女母「ふふ、お疲れ様。やればできるじゃない?」
女「ちょっと~お母さん!何よその言い方~!」
女母「ま~、これからはあんたも社会人なんだし、これからはこういった親戚の集まりの際の作法とかも覚えていきなさい。」
女「はぁ…大人になるって嫌だなぁ…」ガックシ
ピンポーン
女母「…! は~い!!」スタスタッ
女「…はぁ、昨日はろくに寝れなかったから、今から部屋で寝よっかな…」スクッ
オンナー!! トモクンヨー!!
女「…! 何なのよあいつ…」
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
女「…で?今日は何?お土産なら昨日の分であんたのはお終いよ。」
友「お土産じゃないよ。てか、俺の分のお土産だけひどくなかった?」
女「あんたのなんかあれで十分よ。」
友「え~。…まあ、男からのお土産の方を期待しておくか。」ガックシ
女「…で?」
友「ん?」
女「何よ、昨日は何のようがあってきたのよ?」
友「…ああ、そうだったそうだった。…実は昨日言おうと思ってたんだけど、言えなくて。でもやっぱり言っておかないといけないと思って今日来たんだ。」
女「…?ああ、もしかして昨日の去り際に何か言おうとしてたこと?んじゃあとっとと言いなさい。そして早く去りなさい。」
友「…そんじゃ単刀直入に聞くぞ。」
女「…とっとと言いなさいって。」イライラ
友「…お前…」
友「…富良野で幼馴染ちゃんに会ったのか?」
女「…っ!!!??? …あんた…それを……どうして…。」
友「…やっぱりか…。」
女「…っ!」ハッ
女(…しまった!!)
友「その様子じゃ間違いなさそうだな…」
女「…あ、会ってないわよ!!何、でたらめなことを言ってんのよ!!」
友「そんな反応しても無駄だって。お前、反応がすぐに顔に出るからな…しかも今のは口にも反応が出てたし。」
女「…! ……。」
友「…おそらく、一度目の富良野に寄ったときに、幼馴染ちゃんと出会って、そしてその2日後にタイミングを見計らって男のもとを抜け出し、幼馴染ちゃんのもとにまた会いに行ってたんだろ?」
女「…。」
友「…否定もしないってことは、合ってるんだよな?」
女「…! あ、合ってないわよ!!」
友「…まあ、お前がどうしてそのことを男や俺に黙ってたのかの理由はなんとなく分かるよ。…だって、もし男が幼馴染ちゃんの居場所を知ったら…」
女「…。」
友「…そうしたら、男の気持ちはまたおさななj「それ以上言わないで!!」
友「…!」
女「…私の…私の事情も知らないくせに…何分かったような口の聞き方してんのよ!!」
友「…! …それは…。」
女「そもそもあんたの予想は外れてるわよ!!私は最初の富良野の時に幼馴染ちゃんのことを『目撃』しただけで『会って』はないわよ!それから、私はその目撃したときのヒントをもとに探しに行ってただけよ!!」
友「…じゃあ、幼馴染ちゃんが富良野にいたってことは認めるんだな?」
女「…! …ええ。いたわよ!そして、会ってしゃべることも出来たわよ!!」
友「…何を喋ったんだよ?そもそもお前はどうやって幼馴染ちゃんの居場所を…」
女「…それは…。」
女「…どっちも言えない。…絶対に言えない。」
友「…だけどよっ!!」
女「…だって!!!…これは幼馴染ちゃんとの約束だから…」
友「…! …ってことは幼馴染ちゃんが口止めして来たってことか?」
女「…ええ。もし、あんたに居場所のことや幼馴染ちゃんとの会話の内容を言ったら、男に言うかもしれないでしょ?人の口に壁は建てれないし、そもそもあんたは口が軽いから…」
友「…! 別に軽くねーよ!! …でも、お前は…それでいいのか?」
女「…? どういうことよ?」
友「…男に幼馴染ちゃんのことを黙ったまま付き合って、お前は幸せになれるのか?」
女「…! あたりまえじゃない!!男と私はお互い好きだから付き合ったのよ!!そもそも私は男のことが…男のことが高校の時から好きだったの!!その大好きな男と去年やっと付き合えたのよ!?だから、もう既に幸せだし、これからももっと幸せになるわよ!!」
友「…女。」
女「…それに、私は男を幸せにしなくちゃいけないの!!これは私の義務!!幼馴染ちゃんに頼まれた私の義務なの!!」
友「…? …幼馴染ちゃんに?」
女「ええ!そうよ!!その義務を果たすためだったら、…私は『悪者』にだってなってやる!!」
友「…『悪者』…か…。 …なあ女。」
女「…何よ?」
友「…今の男のどこがいいんだよ?」
女「…! …それはもちろん…!!」
友「今の男なんて、ウジウジしてて、積極性のかけらもない頼りない人間じゃないか。」
女「…!? …あんた、本気でそう思ってるの?…男の親友のクセに。」
友「…ああ、高校からの親友だからこそ、今の男にはイライラしてるんだよ。…そして、そんな男のことを好きなままでいて、付き合ってもいる…女、お前にも。」
女「…! …あんた、それ以上言ったら、本気で怒るわよ?私と男とをバカにして…」
友「バカにしてはいないよ。…ただ、『第3者』の立場から見てお前らの関係はあまりにも…酷すぎる。」
女「…あんた!!いい加減に!!」バッ
友「…っと。」パシッ
女「…っ!!」
友「…最後まで、話を聞け。その後にお前にとっての『悪者』の俺のことをいくらでも殴ればいいから。」ググッ
女「…!」グイグイッ
友「…女、お前が好きな男は……高校の時の男だろ?」
女「…!」
友「…高校の…幼馴染ちゃんと一緒に元気良くしてたあの頃の男が好きなんだろ?」
女「…。」
友「…いつも言ってたもんな。『幼馴染ちゃんがうらやましい』って。」
女「…。」
友「『願いが叶うならば、私が男の隣にいれればいいのに~』…ともな。」
女「…。」
友「…だけども、今のあいつは…女「…ええ。…そうよ。」ジワッ
友「…! ……。」
女「…私は…私は…あの頃の男が大好きだった。何事にも元気と自信がいっぱいで、冗談が面白くて、頼りがいがあって…そしてその男の隣にいた幼馴染ちゃんが…う、羨ましかった。」ポロッ
友「…。」
女「あ、あんな男くんに、私も幼馴染ちゃんに愛情を降り注いで欲しいって…高校の時はずっと思ってた。」ポロポロッ
友「…。」
女「…だから、幼馴染ちゃんがいなくなった時は正直チャンスだと思ったの…。…あの子の代わりに男くんの隣に私がいれることが出来るのかもしれない…私が男くんにとっての唯一の存在になれるかもしれないと思って…」ポロポロッ
友「…。」
女「…だから、私は4年前の夏休みの時から積極的に男に…もちろん、男は幼馴染ちゃんがいなくなったことからのショックでしばらくは立ち直れないだろうと思ってたけど…いつか…いつかはあの元気な男に戻って…そして、私に振り向いてくれると思って…」ポロポロッ
友「…うん。」
女「…そして、いつかは…そんな元気な男と付き合いたいって思ってた…思ってたよ…」ポロポロッ
友「…。」
女「…けど、男はいくらかマシになったとは言え、完全には立ち直れてはいなかった。でも、それでも、私は男が好きだった。学生時代のうちに男と恋人としての思い出をたくさん作りたいとずっと思ってた。…だから私は男に告白した。男はその告白に戸惑って、答えをすぐにはくれなかったけど、2週間後に『いいよ、付き合おう』と言ってくれて付き合った。」ポロポロッ
友「…そうだったな。」
女「そうやって、とうとう去年、男は私の告白を受け入れてくれて付き合ってくれたけど…でも…男は今でも…今でもやっぱり…」ポロポロッ
友「…女。」
女「いつか…いつかは…幼馴染ちゃんがいた頃のように、明るく元気で引っ張ってってくれる男に戻ってくれると信じてた…信じて、男と付き合ってきた…」
女「…でも…付き合ってから1年近く経った今…男は少しは昔の頃の男に戻りつつあったけど…それでも…男があの頃の男にもどることはないんだろうなって頭の片隅で思うようになってた…」
女「…それだけ、幼馴染ちゃんという存在が男にとって大きいものなんだったんだということにも気付いた。あの子には勝てないんだと…」
友「…。」
女「…だから、富良野で、幼馴染ちゃんがラベンダー畑にいるのを私が見つけた時はビックリした。」
友「……だろうな。」
女「…ええ。最初は戸惑ったけど、口と体が先に動いて、いつの間にかあの子を追っかけてた。結局そのときは車で逃げられちゃったけど…」
友「…なるほど、さっき『幼馴染ちゃんとは最初の富良野では会ってない』って言ったのはそういうことか。」
女「…ええ。見つけただけで会話も出来なかったし…。…でも、その後から私の頭の中ではあの子のことでいっぱいになった…」
友「…だろうな。そりゃ旅行中にお前らにとっての『悩みの根源』が突然現れたら、いくら元気娘なお前でもだんまりが増えるわな。」
女「…そうね。男にもあの時は迷惑をかけちゃったかな…でも、私の頭の中ではどうすればあの子に会えるのか…その方法を考えるようになってたの。」
友「…そうか。」
女「…ちなみに友。あんた、私が男に幼馴染ちゃんを見たことを言わなかったのはやっぱり『男の気持ちが再び幼馴染ちゃんに向くのが怖かった』から…っていう理由『だけ』とでも思ってるんでしょ?」
友「…え?違うのか?」
女「…まあ、確かにそれもあるわよ。そりゃ私にとっての最大のライバルなんですもの。男から遠ざけておきたいっていう思いも当然あったわ。だから、私自体も会わないほうがいいのかもしれないとも思った。」
友「…。」
女「…でも、いつまでもそんなんじゃ駄目だと思った!私はいつでも自分から行動を起こしてきた!…だから私はあの子と会うことで、今の私たちの現状を打開するための何か…ヒントが得られるかもしれないと思ったの。」
友「…! …そうか。…それでヒントは得られたのか?」
女「…分からない…でも、『義務』は出来たわ。」
友「…『義務』…ねぇ…それがさっき言ってた…」
女「…ええ。私が幼馴染ちゃんから頼まれた『私の代わりに彼を幸せにしてやって欲しい』というお願いを守るという義務。」
友「…でも、それは『義務』なのか?幼馴染ちゃんが強制してきたわけじゃないんだろ?」
女「…ええ、強制じゃないわ。…でも、私にとってはこれは『義務』に等しいものなの…だって…あの子の話を聞く前と聞いた後じゃ…」
友「……その話の内容は俺には言えないんだよな。」
女「…ええ。これ以上は本当に言えない。あの子の居場所も話した内容も。」
友「…そうか。…女、それじゃあ、最後にもう一度聞かせてくれ。」
女「…?」
友「…男とこのまま付き合って、お前は…おまえ自身は幸せになれるのか?」
女「…! …当たり前じゃない!!私にとっての幸せは『男に幸せになってもらうこと』なの!そのために私はこれからも男と付き合って行く!そしてそのお願いを幼馴染ちゃんから託されたの!!」
友「…じゃあ、お前は本当に男を幸せに出来るのか?」
女「…! …それは…。」
友「…お前も気付いてるだろ、女。 …あいつにとっての幸せは…」
女「……。」
友「…『幼馴染ちゃんと一緒にいること』だっていうことに…」
女「…。」
友「…だから、俺は今から男に幼馴染ちゃんが富良野にいるということを伝えてくる。」
女「…はぁ!? あんた今まで何聞いてたの!? そんなことしたら幼馴染ちゃんとの約束が守れないじゃない!!」
友「…ああ、そうだな。まあ、俺が勝手にやったってことで後の処理は任せろ。」
女「そんなこと言ってるんじゃないの!!あんたや私のことはどうでもいいの!!…そんなことしたら幼馴染ちゃんの今までの『苦労』が!!!!!」
友「…! …『苦労』ってことは…やっぱり…」
女「…あっ。」
女(…しまった…また口が…)
女「…あんた、もしかしてカマかけたの?」
友「…いや、そんなことしてない。俺は本当に男に幼馴染ちゃんのことを伝えに行くつもりだ。」
女「…でも、今ので分かったでしょ。あの子と男は…会っちゃ駄目なの。…何のためにあの子は『悪者』になったと…」
友「…それでも…だ。」
女「…! …どうして?あの子の苦労を無駄にするつもり?」
友「…それは…男と…お前のためだ。」
女「…男と…私のため?」
友「お前だって、その幼馴染ちゃんのお願いが男の幸せに繋がるなんて思ってないだろ?」
女「…! …それは…。」
友「俺も男の幸せを願ってる。なんたって親友だしな。そして男にとっての幸せは『幼馴染ちゃんと一緒にいること』で間違いないだろ?」
女「…。」
友「…俺は男を幼馴染ちゃんに会わせてやりたい。それによって、もしかしたら昔の元気な姿に戻るかもれない。」
女「…でも、それは…」
友「…そして俺は…お前の幸せを願ってる。お前が男の幸せを願うようにな。」
女「…! …じゃあ、同じ気持ちが分かるなら…邪魔しないでよ。」
友「…俺は…俺はもう見てられないんだ!!お前が苦しむ姿を!!!!」
女「…!? と、友!?」
友「昔は毎日笑顔でいっぱいだったのに4年前からお前はずっと暗いまんまだ!!男に捉われすぎてお前の良さが…だから俺は!!お前の『幼馴染』として!!そして!!」
女「…。」
友「…俺は…お前が大好きだから…」
女「…友。 …もしかしてあんた、今、私に告白してるの?」
友「…あっ! …い、いや、別にこくh…いや、ここで曖昧にするのは良くないな。」
女「…。」
友「…ああ、俺はお前に告白する。俺はお前が大好きだ。お前を幸せにしてやりたい。」
女「…そう。」
友「…怒らないのか?いつものお前なら『あんたごときが私に!!』って…」
女「…あんた、私をヒステリックの塊かなんかとでも思ってんの?」
友「…あっ! …べ、別にそういうわけじゃ!!」アセアセ
女「…まあ、いいわ。…私も男くんに告白したときもあんたみたいな感じだったからさ…だからあんたの気持ちが凄く分かってさ…」
友「…女。」
女「…よし。私が…私から男に言うよ。幼馴染ちゃんが富良野にいることを。」
友「…え?」
女「…だって、あんたから言ったら色々と話がこんがらがるじゃない?」
友「…はは、そうだな。」
女「…さすがに、男に私の口から幼馴染ちゃんから聞いた話は言えない。…男が直接幼馴染ちゃんから聞いたほうがいいから…」
友「…そうだな。」
女「…結局、幼馴染ちゃんとの約束を破ることになっちゃうけど…でも…あの子も…」
友「…?」
女「…あの子もやっぱり男と会いたがってるはず…いや、絶対にそう。…それだけ男のことを恋しく思ってた、あの子は…」
友「…そうか。」
女「…色々な事情があるのだろうけど、それでも私はあの2人を会わせてやるべきなのかもしれない…そしてそれが私の今後のためにも…」
友「…その事情の責任は俺が取るから安心しろよ。」
女「…あんたは関係ないでしょ?これは私の責任だから、あんたは入ってこなくていいの!めんどくさいじゃない!」
友「…女。」
女「…もしかしたら、私はこれから恨まれるようなことをするかもしれない。でも、それでも『義務』とかよりも大切なものがあるんだよね。ねっ!友!!」
友「…ああ、そうだな。」
女「…だから私今から男に幼馴染ちゃんが富良野にいることを直接伝えに行ってくる!」
友「…ああ!行って来い!」
女「うん!!…それじゃあ、友、本当にありがとう。色々気付かせてくれて…」
友「…女。」
女「…それじゃあね!!」タッ
友「…あ!女!ちょっと待って!」
女「…ん?」クルッ
友「あの~、そういえばさっきの俺の告白の返事をまだもらってなかったんですけど…」
女「告白?…ああ、そういえば!…で、何て言ったけ?」
友「ええ~っと。…『俺はお前が大好きだ。お前を幸せにしてやりたい。』…って。」
女「…で?」
友「…『で?』っていうと?」
女「…あんたねぇ…。幸せにしてやりたいって言われてもこっちが返事に困るじゃない!普通『付き合ってください!』って最後に言うでしょ!!」
友「…あっ。 ご、ゴメン女!!い、今更言うのも変だけど付き合っt女「ごめんなさい」ペコリ
友「…え、えええ~!!そんな即効で…」
女「当たり前じゃない!誰があんたなんかと付き合うのよ!そもそも私はまだ男と別れてないのに!!」
友「で、でも今の流れは…はぁ…でもそうだよな~…俺、かっこよくないし…」ガックシ
女「ふふ!それじゃあね友!!あんたも私の部屋から早く出てね!」フリフリ
友「…あいよ…はぁ…」フリフリ
タッタッタ ガチャ
女「…友。」
友「…ん?」
女「…もしあんたがまだ本気なら、私を振り向かせてみなさい。」
友「…え?」
女「…まぁ、今まで22年間、私はあんたに好意を抱いたことなんてないから可能性なんてほっとんどないだろうけどね。…でも、それでも私を幸せに出来るというのなら…」
友「…お、女!そ、それって!!」
女「ふふ!それじゃあね!!」タッタッタ
友「…も、もしかして、い、今のって…」
友「…う、うおおおおお!!まだ諦めねーぞー!!!!」
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
ウオオオオオ!!マダアキラメネーゾ!!!!!!
女(…あんのバカ。大声出してんじゃないわよ。近所迷惑じゃない…)
女(…でも、何で私あんなやつに最後あんなこと…)
女(…まぁ、私があいつに振り向くことなんてないだろうけどね!)
女(…それよりも勢いあまって家から飛び出しちゃったけど…)
女(…とりあえず男に電話しないと。下宿先に帰らず、実家にいてくれたらすぐ行けるんだけど…)パカッ
女(…別に後日でもいいのかもしれないけど、男のためにやっぱり早めに教えてあげたいし)ピッピッピ
prrrrrr prrrrrr
女「…もしもし、男。今電話大丈夫?うん。ちょっと男に用事でね。」
女「…うん。で、男、今どこにいる?」
女「…実家?そっか、良かった。…でね、急で悪いんだけど今から、会えないかな?」
女「…うん。ごめんね、ありがとう。それじゃ、今から男の実家に……!!」
女(…男の両親も『あのこと』を知ってるはず…だから実家は…それに…よし!!)
女「…ゴメン、やっぱり…あの公園に来てくれない?私も今から行くから。」
女「…そう、あの公園。…うん、それじゃまた後でね。ばいばい。」ピッ
女(…今は14時か…もしかしたら今日中にでも…一応ケータイで調べながら行こっか)
スタスタスタ
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
ピッ
男(…どうしたんだろ、女、急に。)
男(…それに…あの公園で待ち合わせなんて…)
男(…今まで、女は気を遣って俺をあの公園に近づけなかったのに…)
男(…とりあえず、行ってみないとな)
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
男「ごめん!女!待った!?」タッタッタ
女「ううん。大丈夫だよ、男。」ニコッ
男「そっか、それなら良かった。…そういえば法事は大丈夫だったの?」
女「うん。午前中には全部終わったから。…本当にゴメンネ、昨日は。」
男「いいよいいよ別に!…で、どうしたの今日は急に?」
女「…うん。ゴメンネ、急に呼び出して…実は男に伝えないといけないことがあるの。」
男「…! …伝えないといけないこと?」
女「…うん。…伝えなきゃ絶対にいけないこと。…それは…。」
男「…それは?」
女「…幼馴染ちゃんのこと。」
男「…! …え?…幼馴染? …え、どういうこと?」
女「…うん。急にこんなこと言われても驚くよね。でも、今から私の言うことを落ち着いて聞いて欲しいの。」
男「…!? …分かった。」
女「…ありがとっ。…幼馴染ちゃんは…幼馴染ちゃんは今、富良野にいるの。」
男「…え?」
女「…北海道の富良野に…幼馴染ちゃんは今いるの。」
男「…あ、あいつが富良野に…?」
男(…幼馴染が富良野に…でも……っ!?)
男「…もしかして女が一人で富良野に行ったのって!?」
女「…うん。実は幼馴染ちゃんに会ってたの。…ごめんね、黙ってて。」
男「…う…そ…。 …女はあいつと会っていったい何を!?」
女「…ごめんなさい、それは私の口から言えないの。」
男「…私の口? …そもそも女は元からあいつが富良野にいるってことを…!?」
女「ううん。私が知ったのは、最初の富良野で。たまたま見かけたの。それでそのときのヒントをもとに私はあのこの元にたどり着けたの。」
男「…ヒント?」
女「…それも、…私の口からは言えないんだけど…。」
男「…そっか。」
女「…でも…」
男「…?」
女「…北海道富良野市○○町○丁目○○番地。」
男「…え?」
女「…この住所に幼馴染ちゃんはいるわ。あとで、ちゃんとメールで送ってあげるから。」
男「ど、どういうこと!?」
女「…会ってきてあげて、男。」
男「…!? …女。」
女「…幼馴染ちゃんのためにも…そして男自身のためにも…」
男「…でも、俺は…俺は女の…」
女「…そう、男には、…私のためにも色々ケジメをつけてきて欲しいの。」
男「…! …女。」
女「…でも、やっぱり話して良かった。幼馴染ちゃんがどこにいるのかってことが分かっただけで、男の目に輝きが…」
男「…! …そんなことないよ。」
女「…ううん。ごまかさなくてもいいよ、男。私のことなんか気にせず、素直に喜んで欲しい。」
男「…もしかして、わざわざこの公園に呼んだのも…」
女「…まぁ、ここに呼んだのは色々と事情が…でも、うん。男には、ここ、この公園から再びスタートして欲しいの。あの時、あの子のことを追いかけることの出来なった自分の無力さに苦しむ自分から脱却して欲しい。」
男「…女。」
女「…今度こそ、あの子のことを…離さないであげて…。」
男「…でも、あいつは…もう結婚して…それに俺は…お前が…」
女「…もおおお!!何!?もしかしてまだ私に気を遣ってるの!?そんなのいいの!!それにいつまでそんなウジウジしてんのよ男!!!!」
男「お、女!?」
女「今まで我慢してきたけどもう無理!!男!!いつまでもウジウジするんじゃないの!!自分の気持ちに正直になりなさい!!!!もしあの子が結婚してたとしてもこれからの自分の幸せのためにがむしゃらになんなさいよ!!!!」
男「…! …女。」
女「それと私たちはこれでおしまい!!!」
男「…へ?」
女「私は男とはもう付き合ってらんないって言ってるの!!私が付き合いたかったのはこんな男じゃないの!!ってなわけで私はあなたを振ります!!」
男「…え?…え?」
女「聞こえなかったの!?私たちはもう恋人じゃないの!!私は男とは終わりなのぉぉおーッ!!」
男「お、女?」
女「はあはあ……。 …ふふ。いきなりこんな凄い勢いで言ってごめんね。でも、これで男はなんの気兼ねもなく幼馴染ちゃんのもとに行けるでしょ?」
男「…! …女、お前。」
女「…行ってきて、男。富良野に。幼馴染ちゃんのもとに。」ジワッ
男「…」
女「…あの子に会って…会ってあげて…」ポロポロッ
男「…女。」
男「…ああ、分かった。行ってくるよ女!!」
女「…! …ゴシゴシッ。…ふふ!男のその表情、まるで昔の頃みたいだね!」
男「ああ、いつまでもウジウジしてられないからな!だから俺、女みたいに行動を起こすよ!!たとえ、あいつが他のやつと結婚していようが、そんなの関係ない!!」
女「…! …うん!それでこそ男だよ!! …あ、そうそう、ちなみにフェリーは当日でも乗れるみたいだから…」
男「…! …そっか、そうだよな。早く行動に移さないとな!そんじゃ今から、いきなりだけど行ってくるよ!!」
女「うん!思い立ったが吉日だしね!!」
男「ああ!…でも、女、本当にありがとう。」
女「…! …ううん。そんな。…それに男にとって大変なのはこれからだよ…」
男「…!」
女「…私の口からは言えないけど…あの子にも色々事情があるみたい…だから…」
男「…そっか。…まあそうだよな、あいつはもう結婚してるわけだしな…」
女「…それは…」
男「…でも、とりあえず行ってみるよ!富良野に!」
女「…! …うん!」
男「それじゃあな女!今日は本当にありがとう!」タッ
女「…あっ、男!!」
男「…ん?」クルッ
女「…一応、幼馴染ちゃんのことは、男のご両親には内緒にしてて欲しいの。内緒にしたまま北海道に行ってくれないかな?」
男「…! …え?それってどういう?」
女「…理由は言えないんだけど…でも、お願い!これは…男のためでもあるの!!」
男「…分かった。父さんと母さんには内緒で行くよ。」
女「…! …ありがとう男。」
男「…それじゃあな!女!!」タッタッタ
女「うん!絶対…絶対に会ってきてね!!」フリフリ
女(…頑張れ…男…)
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
ガサゴソ
ドサッ
男(…よし、とりあえず、準備は整ったかな)
男(…あっ、そういえば車…)
男(…あっちでの移動で車は不可欠だし…)
男(…レンタカー高いしな~、前の旅行でお金もそんなに残ってないし…)
男(…仕方ない、どうせ、今回の北海道への訪問は父さんと母さんには内緒で行くんだし、もう乗るなって言われたけど内緒で乗って行くか。)
男(…でも、今二人で出かけてるからいいけど、帰ってきたらあの車がなくなってることに気付くよな…)
男(…そんなことになったら二人とも驚くだろうし…)
男(…一応、『3日間くらい車を借ります、心配しないで下さい』とだけ、書置きをしておこう。)
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
ガチャッ
母「ただいま~男~」
母「…あれ?男出かけたのかしら?…あら、そういえば男の靴が…」
タッタッタ
父「母さん、あの車どこかやったのか?」
母「車?車って男が乗ってたやつですか?別に私は何も。…もしかして無いんですか?」
父「…ああ、無くなってる。男のやつ、もう乗るなって言ったのに…」
母「…? テーブルの上に…書置き?」ピラッ
母「…!…お父さん、これ!」
父「…!…とりあえず男に電話しよう。」
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
prrrrr prrrrrr
母「…駄目です。出ないです。」
父「…そうか。」
母「…でも、男は今までこんなこと…」
父「…ああ。俺たちとの約束はほとんど破ったことないのにな。」
母「男もあの車にはもう乗らないって言ってたのに…それに3日間も借りるって…」
父「…。」
母「…いったいどういうことなんでしょうか?もしかしてあの子また…」
父「…! …まだ分からんだろ、それは。」
母「…でも…」
父「…とりあえず、男からの連絡を待とう。それでもし来ないのなら…」
----―――――――――――――――――――――――
―翌日――北海道/小樽―――――――――――――----
男「…着いた。」
男(…今から小樽から富良野まで高速で2時間ぐらいか…)
男(でも今はもう20時だし、迷惑かな…)
男(…てか、迷惑って誰に対して迷惑になるんだろうな…)
男(…そもそも今の車の状態で高速はちょっと怖いしな…)
男(…あと迷惑といえば、母さんたちに迷惑掛けちゃってるな。電話やメールに返事して無いけど、変に嘘をついてもばれるかもしれないし、女からは内緒でって約束だからもうしばらくは無視でいいかな…)
男(…とりあえず、今日はどこかのホテルに泊まって、明日に備えよう。)
----―――――――――――――――――――――――
―さらに翌日――――――――――――――――――----
母「…結局、男からの連絡はなしですね。」
父「…ああ。」
母「最寄のフェリーターミナルに電話してみたら、男がフェリーに乗ったことが確認できましたからやっぱり男は…」
父「…。」
母「…こんな短期間で北海道に行くなんておかしいですし…男はやはり…でも何で…」
父「…それを確認するためにも…母さん、女ちゃんの家の電話番号は分かるか?」
母「…! …はい、一応高校の時の連絡網の紙がまだ残ってるはずだと思うので…」
父「そうか。…よし、それじゃあ今から俺が電話をして彼女に直接会って確かめてみるよ。」
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
prrrrrr prrrrrr
女母「女ー!!今お母さん手が離せないから代わりに電話に出てー!!」
女「え~、めんどくさい~」
女母「そんなこと言ってないでさっさと出なさい!!」
女「…はいはい」スタスタッ
prrrrrr prrrrrr
ガチャッ
女「はい、もしもし。」
女「…はい…はい、そうです。…あ、女は私ですけど…」
女「…え?…男のお父さん…ですか?」
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
父「ああ、そうなんだ。男が急にいなくなってしまって、それで男の彼女である女ちゃんに…」
女『…そうでしたか。でも、私、もう男くんの彼女じゃないですよ。』
父「…! …え?それって?」
女『…男くんとはもう別れました。』
父「そう…でしたか…。…でも、もしかしてそれって…」
女『…?』
父「…もしかして女ちゃん、君は北海道で…」
女『…! …もしかして気付いてましたか?』
父「…男から、女ちゃんが富良野で様子がおかしくなったという話は聞いててね。」
女『…そう…でしたか…』
父「…もしよろしければ、その富良野で何があったのかを教えてくれないか?」
女『…やっぱり、おじさんは知ってるんですよね。あの子の事情のことを。』
父「…ああ、そのことも私の口から君に伝えたい。だから、今から君と直接会って話がしたいんだが…」
女『…そうですね。私もおじさんに聞きたいことがあるので…それでは今から、そちらにお伺いしてもよろしいですか?』
父「…! ああ、構わないが、でもそれは申し訳ないから私がそちらに…」
女『いえ、大丈夫です。私はそちらの家には何度もお伺いしたことがあるのですぐに行けますし、それにお母さんのお話も聞きたいですし…』
父「…そうか…それじゃタクシーなどを遣うのなら私たちが交通費を払うからね。」
女「いえいえ、そんなお気遣いなく。歩いていきますので。それじゃあ13時ごろにお伺いしますので。」
父「…そうかい…分かった。それじゃあ後ほど。」
女『はい、失礼します。』
ピッ
父「…。」
スタスタ ガチャッ
父「母さん、女ちゃんが13時にうちに来てくれることになった。」
母「…そうですか。」
父「…それとやっぱり女ちゃんは富良野で彼女に会ったみたいだ…」
母「…! …それじゃあ。」
父「…ああ、彼女には全てを話すから、母さんも心の準備をしておけよ。」
----―――――――――――――――――――――――
―富良野―――――――――――――――――――----
ブロロロ~
男「お~し、着いたぜ。富良野。」
男(…結局車に無理はさせられないから高速じゃなくて下道できたら時間がかなりかかったな。)
男(…小樽のホテルを出たのが10時ぐらいだったから…3時間かな?そろそろだと思うんだけど…)
男(…でも、女に教えてもらったのはたしかこのへんのはず…)
男(…はぁ、やっぱりカーナビがないのは不便だな。最終、見つからない場合はケータイで検索するか。)
ブロロロ~
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
ピンポーン
ガチャッ
女「こんにちは、女です。」
父「やあ、よく来てくれたね。」
母「女ちゃん、久しぶり。」
女「はい、おばさん、お久しぶりです。」
父「それじゃあ、中で話そうか…」
女「…はい。」
バタンッ
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
母「女ちゃん、これ、ケーキと紅茶だけど良かったらどうぞ。」カチャ
女「あ、そんな、おばさん。どうかお構いなく。」
母「いいのよ。…あと、そんなに固くならないでね。」
女「…あ、はい。」
父「…そうだな、いきなり堅い話も何だし、…女ちゃんのことを教えてくれないか?私は君と話すのは初めてだからね。」
女「…私のことですか?」
父「男や母さんからはすごい元気な女の子だということは聞いてるよ。」
女「!?//// そ、そうなんですか/// 何か恥ずかしいな…///」
母「ふふ、私も女ちゃんのお話聞いてみたいわ。…今は男と別れちゃったらしいけど、男と付き合ってるときの話とかも教えてくれない?」
女「…そうですね。それじゃあ高校時代の話など簡単に…
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―――――――――――――――――――――――----
父「…はは!あいつ、まだ貝が嫌いなのか!!」
女「そうなんですよ~!だから、私、男くんの分の海鮮丼を全部食べてやったんです!フェリーでの船酔いのことを注意してくれなかったからその仕返しの意味もこめて!」
母「ふふ。ほんと面白いわね、女ちゃん。」
女「いえ、そんな…。でもそうやって、小樽から楽しくはじまった北海道旅行だったんですが…」
母「…! ……。」
女「…そろそろ、本題に入っていきましょうか。」
父「…そうだね。」
女「…私たちは3日目に札幌、千歳に回り、4日目に富良野に寄りました。富良野では最初にラベンダー畑によりました。そこで私は…幼馴染ちゃんを偶然見かけました。」
母「…やっぱり。」
父「…そもそも、何で君はその女の子が幼馴染ちゃんだと分かったんだい?」
女「…それは…背格好が似ていたのと…あと何よりも…肌の白さが見極める決め手となりました。」
母「…色白さ…?」
女「…はい。幼馴染ちゃんは高2のときまでは、みんなと同様に黒く、健康的に肌が焼けていたんですが、幼馴染ちゃんがいなくなったあの高3の夏の時だけは肌が真っ白だった記憶が鮮明に残っていて…」
父「…それで、幼馴染ちゃんだとわかったというわけか…。」
女「…はい。…でも、向こうも私に気付いて…それで逃げられてしまいまして…」
父「…? …でも、逃げられたのなら何で君は…」
女「…はい。私はその2日後、幼馴染ちゃんに会えたのですが、その逃げられたときにそのヒントとなるものを目撃しました。」
母「…ヒント?」
女「…それは…。」
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―富良野―――――――――――――――――――----
ブロロロ~ キキッ
男「よ~し、着いた…。…でも…」
男「…ここらへんに家らしきものなんて…」キョロキョロ
男「…でも、ケータイのマップが示してる場所はこのへんだし…」ジーッ
男「…代わりにあるものとしたら…そこの大きな…」
男「…!?」
男「…もしかして…」
男「…幼馴染がいる場所って」
男「…この…」
男「…この病院なのか?」
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―――――――――――――――――――――――----
父「ワゴン車?」
女「…はい。幼馴染ちゃんはそのワゴン車に乗ってそのラベンダー畑から離れて行ったんです。」
母「…でも、ワゴン車なんかで…もしかしてナンバープレートを?」
女「いえいえ。そんなドラマや漫画みたいに瞬時にナンバーを覚えることなんてあの時のちょっとしたパニック状態の私には無理です。」
父「…それじゃあ…」
女「…でも、そのワゴン車の側面のボディには文字が書かれていました。」
母「…! …もしかして、そこに…」
女「…はい。そこには『○○富良野病院』と書かれていました。」
父「…なるほど…」
女「…ただ、『~富良野病院』ってとこまでは見えたんですが、その○○部分だけは車のスピードが早くて読み取ることが出来なかったんです。」
母「…。」
女「でも、調べて見たら、『富良野』という名前がつく病院は富良野でも4つほどしかないことが分かって。それで、一つずつ順番に調べていって、そして最後の4つ目の◆△富良野病院でようやく幼馴染ちゃんを乗せてったワゴン車があるのを見つけて、そして受付で確認したら…」
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
看護師「え~っと、○○幼馴染さんですね。…はい、確かにこの病院に入院されていますよ。」
男「…! …そうですか。…それじゃ、病室を教えて頂けませんか?」
看護師「実はそれが…」
男「…?」
看護師「幼馴染さんは数日前から、仮退院としてご自宅に帰られていまして。」
男「…! …そうですか。」
看護師「…あの、一応、あなたのお名前と、本日どちらから来られたかだけ教えていただいてもよろしいですか?」
男「…? ○○から来ました、○○ 男と申します。」
看護師「…! …はい、ありがとうございます。…代わりと言ってはなんですが、幼馴染さんのご自宅の住所を教えてさしあげましょうか?」
男「…! 本当ですか!?よろしくお願いします!」
看護師「わかりました。それじゃあ、今からお伝えしますね…
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―――――――――――――――――――――――----
男「ありがとうございました!失礼します!」ペコッ
看護師「いえいえ、それじゃあお気をつけて。」ペコッ
スタスタスタ
看護師「…。」
----―――――――――――――――――――――――
?「…もしも娘が退院してから近日中に、娘のことを訪問しに本州の○○から来たという青年が現れたら、彼に私たちの家の住所を伝えてあげて下さい。そしてその後にすぐ、私のケータイに電話をお願いします。」
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看護師(…なんだか、よくわかんない注文だったけど、これでいいのよね?)
看護師(…あ、今からその人に電話しないと…)
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
ブロロロ~
男(…さっき教えてもらった住所だと、またちょっと離れてしまってるな…)
男(…ちょっとだけ飛ばすか…)グッ
男(…でも、幼馴染が何で病院なんかに…)
男(…そういえば、何科の患者として入院してたか聞くの忘れてた…)
男(…もしかして…出産…?)
男(…もしそうだとしたらへこむな…)
男(…あ、でもさっきの病院には産婦人科は無かったっけ…)
男(…ああ~、色々考えてしまう…早く着かないk…)バスンッ
男「…ん!?」
ガタンガタンガタン
男「…おいおい!まさか今度は!?」キキッ
ガチャ バタン
タッタッタ
男「…あちゃ~」
男「こんなときに…」
男「…パンクかよぉ~!!」ガックシ
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
ブロロロ~
?(…彼が家に着くまでなんとか間に合えばいいのだけど…)
?(…仕事を抜け出すのにこんなに時間がかかるとは…)
?(…ん? こんな一本道に車が前の方で停まってる…)
?(…男性が一人、屈んで何かしてる…パンクでもしたのかな?)
?(…まあ、今はそんなことよりも早く家に……っ!?)
?(…あの車、どこか見覚えが。 ……っ!! それにあの男性…いや男の子は!?)
?(…もしかして…!!)
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
男「あ~あ、替えのタイヤを積むの忘れてたよ…」
男「はぁ~、どうしよう…今まで、パンクの経験はないからな…」
男「とりあえず、電話しないと…」
ブロロロ~ キキッ
男(…ん?何だろう?助けてくれるのかな?もしそうなら、ありがたいんだけど…)
ガチャ バタン
?「君!!」
男「すみません。ちょっとパンクしてしま………えっ?」
?「…やはり君は…」
男「…あ、あなた、もしかして…」
?「…。」
男「…幼馴染の…お父さん?」
幼父「…ああ、久しぶりだな。男くん。」
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
ブロロロ~
幼父「…君の車は私の方でなんとかしておくから安心しなさい。」
男「…はい。ありがとうございます。ご迷惑をおかけします。」ペコッ
幼父「…いいんだよ、そんなこと。…でも、まさかあの車にまだ乗ってるとはな。」
男「はは、普通驚きますよね。…でも昔はお互いの家族、6人であの車に乗って色々なところに行きましたもんね。」
幼父「…ああ、そうだな。懐かしいよ。…北海道にもあの車で旅行に来たもんな。」
男「……そうですね。」
幼父「…男くん。君は今日、幼馴染に会いに来たんだろう?」
男「…! ………はい。」
幼父「…そうか。 …おそらく病院に君は寄ってきたんだろ?」
男「…はい。そこで、住所を教えてもらって…」
幼父「…実は、看護師にもし君が病院に来たら住所を教えてやってくれと頼んだのは私なんだ。」
男「…! …え!?」
幼父「…近いうちに君が私たちのもとに現れることはなんとなくではあるが予想していたんだ。」
男「…でも、どうしてそんなことが…」
幼父「…幼馴染が『近いうちに男くんが来るかもしれない』って突然言い出してな。」
男「…幼馴染が?」
幼父「…この前、女ちゃんという子が幼馴染のもとを訪れ、そして幼馴染は大方の事情を話したらしい。そして、『女ちゃんには一応口止めしておいたけど、おそらくあの子は男くんにそのことを話してしまうかも』とも…だから、近いうちに君が来るかもしれないと…」
男「…なるほど…。」
幼父「…だから、私はその話を聞いた瞬間からもうごまかすのは無理かもしれないと思って、もし君が富良野に来たら、君を自宅にまで誘導できるような手はずを整えていたんだ。」
男「…そ、それじゃあ!?」
幼父「…ああ。君の望み通り、今から幼馴染に会わせてあげるよ。」
男「…あ、ありがとうございます!!」
幼父「…いや、感謝される筋合いなんてないさ、私には。むしろ怒りを…」
男「…怒り?」
幼父「…今から自宅まで30分ほどある。君を幼馴染に会わせる前にまず、私の口から全てをこの30分間で伝えさせてもらいたい。」
男「…え?」
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
父「…それで、その病院で確認したら幼馴染ちゃんがいたと…」
女「…はい。…そして病室に案内されて彼女とは30分ほど話をしました。そして簡単にですがどうしてそんなことになったのかも…」
母「…そう。」
女「ちなみに、ラベンダー畑にはその病院専用のワゴン車に乗ってよく息抜きとして連れて行ってもらっていたそうです。そして、あの日、たまたま私たちとあの子が同じ日に…」
父「…。」
女「…おばさんとおじさんは…知っていたんですよね?あの子が…幼馴染ちゃんが北海道の病院に入院していたことを…」
父「…そうだな。…君は幼馴染ちゃんから簡単にしか話を聞いてないからまだ謎なところも多いのだろう?」
女「…はい。」
父「…よし。…それじゃあそれも含めて一から全部話すよ。」
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―――――――――――――――――――――――----
幼父「何故、幼馴染が結婚すると言い出したのか。」
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父「そして、何故、男の目の前から消えたのか。」
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幼父「また、何故、今私たちが富良野にいるのか」
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幼父・父「「…その全てを。」」
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男・女「「…。」」
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―――――――――――――――――――――――----
ブロロロ~
幼父「では、幼馴染が何故、突然、君に結婚すると言い出したのかということから話そう。」
男「…! …はい、お願いします。」
幼父「うん。…まず、幼馴染は…」
幼父「…結婚なんかしていない。」
男「…え?」
幼父「…あれは嘘だったんだ。…君のための。」
男「…俺の…ため?」
幼父「…ああ。…そういえば、君は病院にさっき訪れた時に、どうやって幼馴染が病院にいることを確かめた?」
男「…それは…幼馴染の名前を…」
幼父「…だよな。そのときに『名前』だけじゃなくて○○という『名字』も聞いたはずだろ…?」
男「……あ!!」
幼父「…うん。名字はそのままだったろ?実は、君がもし病院に訪れたら直ぐにばれてしまうはずだったんだ。」
男「…本当だ…でも、そのときは何で幼馴染が病院にいるのかということにちょっとパニックになってて…そのことに全く気付きませんでした。」
幼父「…だろうな。…まぁ、その幼馴染の名字はそのままということからも分かるように、幼馴染は結婚していない。…まあ婿養子という可能性もなくはないが、我が家が婿養子を迎えることなんてまずありえないからな。」
男「…でも、何で幼馴染は…そんな嘘を…それも俺のために…」
幼父「…幼馴染は…」
幼父「…病気だったんだ。」
男「…!?」
幼父「…今も入退院を繰り返してることから、幼馴染の健康状態が今でも不安定だということは分かると思うが…幼馴染は高3の…まあ西暦で言ったら2008年の4月ごろから体調がおかしくなった。」
男「…高3の…4月…」
幼父「…始めはただ単に風邪か貧血かなにかだと思っていたんだが、一向に体調が戻らない、むしろ動悸が荒れたりして、悪くなる一方だった。」
男「……。」
幼父「…そして、ある日、ちょっとした出来事があって、その時についでに精密検査をしたところ…幼馴染の心臓に深刻な疾患があることが確認された。」
男「…! 心臓に…」
幼父「…ああ。詳しい病名は○○○○○というんだが、何万人に一人、発病するかしないかの非常に珍しく…また治療が困難な病気でもあった。」
男「…そんな… …でも、そんな酷い病気なのに…あいつは…」
幼父「…ああ、あいつは出来るだけ、学校に通い、そして君の前では何が何でも平静を保っていた。」
男「…そんな…そんなこと…」
幼父「…あの子のそういう気力には私たちや医者も本当に驚かされた。でも、それでも休んでしまう日が何日かあった。君ももしかしたら覚えてるはずだ。」
男「…そういえば…あいつ夏休み前は何度も…」
男(…じゃあ、あいつは結婚相手と学校を休んでまで会いに行っていたと言っていたのも…)
幼父「…本当はすぐにでも入院しないといけなかったんだが…あの子は『最後の高校生活を男くんと楽しみたい』と言ってな…」
男「…! …幼馴染…。」
幼父「…あの子はもうそのときに自分の死期を悟っていたんだ。…実際に医者からはあと残り数ヶ月とも言われててな…」
男「…。」
幼父「…だからこそ、私や妻は入院する前に男くんに病気のことを話すように言ったんだが…あの子はそれを拒否した。」
男「…え?」
幼父「普通、自分が愛する人に自分の最期を看取って欲しいと思うのが看取られる側にとっても、看取る側にとっても良いことなのだと思うのだが、あの子は違った。」
男「…。」
幼父「…あの子は、自分が愛する人だからこそ、看取って欲しくないと言った。それは別に衰弱した自分の姿を見られたくないとかではなく、自分に未練を残して欲しくないという考えだった。」
男「…未練…。」
幼父「…ああ。…あの子はもし男くんが自分が死ぬということを知り、そしてその死を目の当たりにしたら、当分立ち直れなくなるんじゃないかと考えたんだ。…もし、自分が死んだら自分に対する未練を残したまま、男くんは自分自身の人生を無駄にしてしまうとも…」
男「…そうですね…おそらく俺は…」
幼父「…それだけ、幼馴染は君の事を愛していたし、もちろん君からの愛情も感じていたんだ。…だからこそ、というか、普通なら自分が大好きな人には『自分が死んでも忘れないで下さい』と思うのが普通なのに、…あの子は違った。自分が大好きな人だからこそ、あの子は君のこれからの人生の幸せを願い、自分のことをすぐにでも忘れて欲しい、そして自分では無く、他の人と幸せになって欲しいと考えるようになったんだ。」
男「…そんな…そんなの…」
幼父「…そして、そうやって、どうすれば君から自分のことを忘れさせて、他の人を好きになってもらえるか、そして幸せになってもらえるかと考えていたあの子の結論が、…自分自身が『悪者』を演じるということだった。」
男「…!! それが…」
幼父「…ああ、それがあの結婚宣言だ。」
男「…。」
幼父「あの子は自分が死ぬことによるショックよりも、自分が他に好きなり結婚するというショックを与える筋書きの方が、男くんが後々、引きずる時間が短くなると考えた。幼馴染のことをむしろ恨むくらいの方が、男くんが『あんな女を好きだった俺がバカだった』と思ってくれるのではと考えてね。」
男「…でも、そんなこと…」
幼父「…ああ、私も妻もその考えを聞いた時はそれは驚いたよ。…まず、そんな嘘、すぐにばれてしまうということを言ったんだが、あの子はそれなりの考えを持ってその提案をしてきていた。」
男「…。」
幼父「学校を辞めるタイミングや、男くんにそのことを宣言するタイミング、そして結婚相手のこと、もし男くんたちが確認にきてもそれにいかに対処するかなど、細かく考えていた。」
男「…! …じゃあ、あの時に言ってた結婚相手の○▲さんって人は…?」
幼父「…ああ、○▲君か。彼は本当に実在するよ。彼はこの富良野に住んでる遠縁の親戚の人でね。彼は快く協力してくれた。もし、君やそのほかの人が詰問にきても大丈夫なように、打ち合わせなどもしっかりやっていたんだ。まあ、その打ち合わせも発揮する機会がなかったから意味がなかったけど…」
男「…そう…だったんですか…。」
幼父「…そして実際に、あの子から結婚宣言されたときは、それが嘘だとは疑いもしなかっただろう?」
男「…それは…最初は信じられなかったんですけど…でもあいつ、俺に嘘なんて一度も付いたことがなかったから…」
幼父「…そうだな。あれが、幼馴染にとっての人生最初にして最期の嘘だったかもな…」
男「…はい。」
幼父「…そうやって、さまざまな準備が整った上であの子は君にあの公園で君に『結婚する』という大きな嘘をついた。そして同時に私たちも引っ越しの準備を済ませ、次の日にはあの街から去った。」
男「…それじゃあ、あの次の日からおじさんやおばさん、そして幼馴染は富良野に…」
幼父「…いや、それは違う。私たちはあの後、富良野ではなく一旦、東京に引っ越したんだ。」
男「…!? と、東京に!?」
幼父「…ああ。最後の悪あがきとしてあの子を都内の大学病院に入院させることになってね。そこであの子の最期をと思って。」
男「…でも、幼馴染が今も生きてるってことは、そこで…」
幼父「…いや、そこでの治療もほとんど意味をなさなかった。延命治療として、様々な手段を提案されたけど、どれも役には立たなかった…」
男「…じゃあ、幼馴染はどうやって…」
幼父「…実は、入院してから2週間程経ったある日、医者の方からある連絡が入ったんだ。」
男「…連絡?」
幼父「…それは…。」
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
女「…心臓…移植?」
父「…ああ。…このことは幼馴染ちゃんから聞いてなかったかい?」
女「…はい、私が幼馴染ちゃんから聞いたのは、心臓の病気を患ったということと、結婚が嘘だということなどで…詳しくは…。」
父「…そうか。…幼馴染ちゃんのお父さんはあの子が心臓に疾患がある…つまり心不全だと知った時から、一応担当医の意向のもとで、移植関連の委員会に心臓移植希望の旨を進言していたんだ。」
女「…心不全? …委員会?」
父「…まあ、ちょっと分かりにくい言葉が続いて申し訳ないが…そうやって、幼馴染ちゃんは一応、その移植をしてもいいかを判断する委員会からの検討ではokサインが出ていたんだ。」
女「…はぁ。」
父「しかし、日本国内での幼馴染ちゃんに合うドナーがなかなか見つからなかった。見つかったとしても優先順位というものがあるからね。そもそも、日本国内での心臓移植の実施例は非常に少なくて、実施困難な状況らしい。」
女「…あ、でも、今年の6月ぐらいに…」
父「…ああ、そうだね。確かにこの前、国内で心臓移植が行われたというニュースがあったね。でも国内では本当にそれは稀なことで、世界中のほとんどの心不全の患者はアメリカで、その手術を行っているのが現状だ。」
女「…!! …アメリカ!?」
父「…ああ、アメリカだ。…アメリカならドナー登録者、つまり臓器提供者が非常に多い、そんな文化の国だから法律の規制も日本より厳しくなく、アメリカでの移植手術は非常に盛んなんだ。」
女「…それじゃあ、日本の人たちもみんなアメリカで…」
父「…しかし、日本国内での移植とアメリカで移植じゃあ、大きな違いが一つある。」
女「…何なんですかその違いって?」
父「…費用の…差だよ。」
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
ブロロロロ~
男「…2億…円…ですか。」
幼父「…ああ。…医者から、アメリカからあの子にマッチングしそうな臓器が提供できそうだと聞いた時は喜んだが、その額にはさすがに直ぐに首を縦に振ることは出来なかった。」
男「…アメリカだとそんなにするんですか…。」
幼父「…ああ。海外へ渡航してでの移植手術では、その手術費もさることながら、術後の経過を診るための入院費や、その家族の滞在費、アパートの賃貸料、そして特別な飛行機のチャーターなど、その費用はとてつもない額に上る。過去の例では、4億もかかったということもあったらしい。」
男「…でも、そういう心臓移植の場合はよく皆さん、募金を…」
幼父「…ああ。もちろん、私たちもそれは考えた。…しかし、時期が悪かった。まさか、あの子に合う心臓が提供されるなんて全く思っていなかったし、もし、手術をするなら早急にしなければならなかったし、募金している暇なんてなかった。…あと、そのちょうど1年前に街頭募金詐欺が大きくニュースになっていた頃だったしな。病院側も世間も色々警戒していた時期だった。」
男「…でも!術後でも募金なんて…!!」
幼父「…術後だと、世間からの同情は買えないんだよ、男くん。」
男「…っ!」
幼父「ああいった募金は『あなたの募金がこの子の命を救います』といった言い文句がセオリーだ。だからこそ、みんな、自分のわずかなお金が誰かの命を救うことに繋がるのなら…という同情を買うことで成り立つ。しかし、術後だとそれは変わってくる。」
男「…。」
幼父「『手術は成功しましたが、我が家はその手術費に苦しんでいます。なのでどうか募金をお願いします』なんて言っても、前者に比べてとてもじゃないが募金なんて集まらないだろ?『そんな事後報告されたって困るわ』って思うのが普通だし、それじゃあ同情もお金も集まらない。」
男「…そうですね。」
幼父「…まあ募金の話はいいとして、そうやって私たちはアメリカでの移植手術を受け入れるかどうかの瀬戸際に立たされた。2億円は確かに高すぎる。なんたって俺たちサラリーマンの生涯で稼げるお金が1億円ほどなんだし…」
男「…。」
幼父「…それでも、私と妻は、あの子を助けたかった。そしてもっと生きて欲しかった。そのためなら…」
男「…おじさん。」
幼父「…俺と妻はその手術を行うことに合意し、幼馴染にも同意を求めた。幼馴染も最初は戸惑っていたが、それでも最終的には合意してくれた。」
男「…。」
幼父「そしてそこから、俺は手術費を集めるために様々なところを回った。一応あの子が登録していた医療保険や移植の委員会からいくらかの補助が出るとしてもとてもじゃないが足りなかった。だから俺は、親戚や友達、同僚、銀行などにも回った。そして何度も土下座をしてお金を貸して欲しいと頼み続けた。」
男「…。」
幼父「…でも、やはり世間はやはり甘くなかった。例え、人の命が懸かってると知っても、所詮は赤の他人なんだ。快く貸してくれる人なんてほとんどいなかった。…それでも、俺は…なんとか…なんとか集めきることに成功したんだ。」
男「…! …それじゃあ!?」
幼父「…ああ。無事、あの子と共にアメリカに渡り、移植手術を行うことが出来た。そして術後もアメリカで家族3人数ヶ月の間、平和な日々を過ごすことが出来たんだ。」
男「…良かった。…本当に良かった…。」
幼父「…ああ、良かった。…しかし、日本に帰ってきてからが俺や妻にとっての本当の大変な時期だった。…無事、お金を集められたはいいが、その返済のことで俺たちは頭の中がいっぱいだった。」
男「…!」
幼父「…貸してくれたはいいが、やはり利子を求めてきた人も何人かいたからな。それを今後いかに返していくかで本当に苦しみ、悩んだ…。」
男「…。」
幼父「ただ、東京は家の賃貸料が高いということもあったし、そしてやはり幼馴染をきれいな環境のもとで術後の経過を診たかったということもあって私たちは東京から出ることだけはすぐに決めた。」
男「…それで…」
幼父「…ああ、そうして私たちは富良野へと引っ越して来たんだ。」
----―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――----
父「…それで、あの一家は富良野へと引越した。幼父さんの勤めてる会社も事情を察して、幼父さんを北海道支社に転勤にしてあげたそうだ。また、幼母さんも富良野の牧場で働くようになったらしい。あと、遠縁の親戚が持っていた空き家も無償で貸してもらえたらしく、住む場所にも困らなかったらしい。」
女「…そう…だったんですか…。」
父「…ああ。そうやって、あの一家の北海道での暮らしが始まったんだ。」
女「…で、幼馴染ちゃんはあの病院で入退院を繰り返している…というわけですね。」
父「…ああ。…やはり、他人の心臓と言うこともあって、いつ、体が拒絶反応を起こすか分からないからね。」
女「…なるほど。」
父「…まあ、その病院には心臓移植の手術を経験したことがある先生がいるらしくてね、環境的にもかなり充実しているみたいだ。」
女「…そうですか。」
父「…以上が、あの一家におきた騒動の全容だよ。少しは幼馴染ちゃんから聞いたこともあった部分があると思うけど、その疑問に思っていた部分とやらは解消されたかな?」
女「…はい。大体は分かりました。」
父「…そうk女「でも…」
父「…ん?」
女「…まだ、疑問に思っていることが一つだけ残っています。」
父「…! …なんだい?」
女「…おじさんと…おばさんは…」
女「…この話をいつから知っていたんですか?」
父・母「「…!!」」
女「…ここ最近知ったのか…」
母「…。」
女「…それとも…」
父「…。」
女「…最初から知っていたのか…」
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ブロロロ~
幼父「…で、男くん、君は今回、ご両親には何も言わずにここに来たのかい?」
男「…? …はい。」
幼父「…そうか。…それは君の独断でかい?」
男「…いえ。…女が両親には黙っていたほうがいいと言ってきて…」
幼父「…! …そうか、女ちゃんが。 …あの子は自力で幼馴染のもとにたどり着けたこともあってやはり賢いな…」
男「…どういうことですか?」
幼父「…男くん。いずれ分かることだから、私の口から弁明しておく。」
男「…弁明?」
幼父「…君のご両親は今回のこと、つまり4年前の春から、幼馴染の病気のことや、君への結婚宣言の理由、そしてアメリカ渡航と富良野への引越しのことなど、最初から全て知っている。」
男「…え!? …と、父さんと…母さんが!?」
幼父「…ああ、そうだ。」
男「…そんな…あの二人が全部知ってたなんて…どうして…どうして俺に!!!」
幼父「…落ち着いてくれ、男くん。その理由も含めて、君のご両親には非が無いということを私から弁明させてくれ。」
男「…っ!! ……。」
幼父「…そもそも、幼馴染の病気のことに気付くことができたのは…」
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母「…私が、幼馴染ちゃんが倒れているところに遭遇したところから全てが始まったんです。」
女「…! …おばさんが…?」
父「…。」
母「…ええ。 4年前の春すぎのある日の夕方、私が買い物から帰ってきたら、幼馴染ちゃんが、幼馴染ちゃんの家の玄関の前で倒れているのを偶然見つけてね。それで、私はすぐに救急車を呼んだの。」
女「…。」
母「その時間帯は幼馴染ちゃんのお母さんもまだパートの時間だったし、幼馴染ちゃんのお父さんも仕事中、男も部活中だったから、私が一人で付き添って病院に行ったの。」
女「…。」
母「…それで、病院に着いたら、お医者さんから精密検査をした方がいいと言われてね。…そのときもまだ幼父さんも幼母さんも病院には着いてなくて私しかいなかったんだけど、私がお金を払いますからお願いしますって頼んだの。」
女「…それで、そのときに…」
母「…ええ。まさか最初に幼馴染ちゃんの病名を聞くことになるのが私になるなんて…」
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男「…それが、さっき最初の方で言ってた精密検査を行うきっかけとなった『ちょっとした出来事』ですか…」
幼父「…ああ。…そしてその後、私と妻も病院に着き、そしてしばらくしてから幼馴染も目を覚ました。」
男「…。」
幼父「そして、幼馴染の目が覚めたのが分かって、君のお母さんは帰ろうとしたんだが、そのときに幼馴染が『男くんにはこのことを絶対に言わないで』と口止めしたんだ。」
男「…! …幼馴染が。」
幼父「…口止めした理由はさっきも言ったから分かるよな?」
男「…はい。…俺のため…ですよね?」
幼父「そうだ。…だが、君のお母さんは既に事情を知ってしまっている。幼馴染の病気がどれだけ深刻なものなのかも。」
男「…それで。」
幼父「…ああ。そういう事情だから、君のお母さんには度々経過報告を行っていた。また、君のお母さんだけにそんなこと背負わせるのも悪いと思って、君のお父さんにも事実を伝えたんだ。」
男「…。」
幼父「…あと、実は君のお父さんからそのときに『自分たちもお幼馴染ちゃんを助けるために金を出させて欲しい』と頼まれていたんだ…」
男「…え?」
幼父「…それは純粋に嬉しかったし…喉が手が出そうなほど欲しかった物だった。…でも、どうしても私も妻もそれを受け取ることは出来なかった。…なんたって、そのときに既に18年くらいの付き合いだったしな。仲が良すぎるから借りれなかったというか…うまく自分でも口で表現できないのだが…」
男「…おじさん…。」
幼父「…でも、お金は受け取らない代わりに、その幼馴染からのお願いでもある君のための『嘘』を見過ごして欲しい。そしてどうか、真実を君に伝えないで欲しいとお願いしたんだ。そしてあの2人はそれに合意してくれた。」
男「……。」
幼父「…そして、私たちが東京やアメリカ、そして富良野に移ってからも、度々連絡を取り合い、お互いの近況報告…特に君の様子は逐一教えてもらっていた。」
男「…俺の!?」
幼父「…ああ。もちろん君が、富良野に来ないようにと、念押しのための連絡でもあったけど…やっぱり幼馴染は君の様子が気になってたみたいでな…私たちには直接何も言ってこなかったんだが、君との思い出の写真をよく眺めていて…そんな姿を見たら男くんの様子を教えてあげたくなってね。」
男「…そうですか…」
男(…幼馴染…お前もやっぱり…)
幼父「…しかし、君と女ちゃんがこの前、富良野に来ていたことを知った時は驚いたよ。君のご両親からは何の連絡も事前に無かったから…」
男「…え?」
幼父「もしも、君が北海道に来る場合は事前に連絡してくれるように、という手はずだったんだ。…でも、君のご両親からは何の連絡もなくてね…そのときは君はご両親に北海道に行くということを伝えたんだろ?」
男「…はい… …でも、どうして…。」
幼父「…私も、最近はあの2人とは連絡を取ってないから断言は出来ないが、…もしかしたら、君を幼馴染に会わせたかったのかもな。」
男「…父さんと…母さんが?」
幼父「…まぁ、君の両親がもし連絡してくれてたら、幼馴染をラベンダー畑には行かせなかっただろうし、そうすれば女ちゃんが幼馴染を目撃することもなく、君がこの場に来ることもなかっただろう…」
男「…そうですね。…すみません、うちの両親のせいで…。」
幼父「…君が謝ることではないさ。…そして君の両親も決して悪気があったわけじゃない。自分たちの息子のためを思ってそうしたはずだしな…そして、そうやって君のご両親に負担をかけてしまったのは私たち家族の責任だ。」
男「…。」
幼父「…それに…」
男「…はい?」
幼父「…いや、何でもない。」
男「…?」
幼父(…それに、私たちも、あの二人に『まだ教えていないこと』があるしな…)
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女「…じゃあ、おじさんとおばさんは、最初から全てを知っていたんですね。」
母「…。」
父「…ああ。」
女「…でも私たちが北海道に行くことを事前に知ったのに、何故、幼父さん達に伝えなかったんですか?」
母「…それは…」チラッ
父「…私が…黙っておいたほうがいいと判断したからだ…」
女「…おじさんが?」
父「…ああ。…まあもともと君たちが幼馴染ちゃんに遭遇する確立なんてとても低いものだったからね…でも、もしそれで出会うことになるのならば、それが運命…というか必然な出来事なのだろうと思ってね。」
女「…必然…。」
父「…ああ。…これを女ちゃんの前で言うのはちょっと申し訳ないのだが…やはり私たちは男にとっての最愛の人間は…幼馴染ちゃんなのだろうと…」
女「…! …そう…ですね…私もそう思います。」
父「…そして、やはり私と妻も男には幸せになって欲しい…だからこそ…」
女「…でも、何で…何で4年も経ってから、そう思うようになったんですか!?おじさんもおばさんも男の幸せが何かということぐらいとっくに分かっていたはずです!!…なのに何で!!何でもっと早く男に幼馴染ちゃんのことを!!幼馴染ちゃんは手術が成功して最悪の事態を回避出来たのに!!!!」ガタッ
母「…! …女ちゃん…。」
父「…そうだな。…君の言う通りだ。…私たちも分かっていたよ、男の幸せが何なのか。…そして、幼馴染ちゃんの手術が成功したと知った時、我々も男に伝えようか迷った…でも、どうしても踏ん切りが付かなかったんだ。」
女「…踏ん切り…?」
父「…ああ。もし、男に幼馴染ちゃんのことを教えても、あいつには2つの大きな壁が出来るからな…その2つの壁のことを考えると…」
女「…その2つの壁って…何なんですか?」
父「…それは…」
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ブロロロロ~ キキッ
幼父「さあ、着いたよ、男くん。」
男「はい。」
ガチャ バタン
男「…ここが…。」
幼父「…ああ、私たちの家だ…」
男「…大きいんですね…」
幼父「はは、まあね。もとは遠縁の親戚の家だったんだが、富良野の中心街に引越すということもあって譲り受けたんだ。ちょっと古いけど、住み心地もいいし、快適だよ。」
男「…へぇ~…ここで、幼馴染は……っ!?」
?「…っ!?」ヒョイッ
男(…今、2階の窓から誰かが…もしかして…)
幼父「…さあ、入ろうか。…で、どうする?リビングでお茶するかい?…それとも幼馴染のいる部屋に直接案内しようか?」
男「…! …はい、幼馴染に会わせてください!」
幼父「…そうか。…それじゃあ付いてきなさい。」スタスタッ
男「はい。」スタスタ
ガチャ バタン
?「…本当に来ちゃったんだね…」
幼馴染「………男くん。」
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ギィ ギィ ギィ
幼父「…この階段を上がったらすぐだよ。」
男「…はい。…そういえば、おばさんは?」
幼父「妻はまだ牧場でのパートの仕事で帰ってきてなくてね。本当は私も仕事なんだが…」
男「…! …すみません。」
幼父「いや、気にしないでくれたまえ。…よし、ここが幼馴染の部屋だ。」
男「…ここが…。」
幼父「…それじゃあ、私は1階のリビングにいるからね。…二人でゆっくり話しなさい。」
男「…はい、ありがとうございます。」
幼父「…では」スタスタ
男「…ここに…幼馴染が…」
男「…。」
ガチャッ
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今日はここまでです。お待たせしてすみませんでした。
あと、今日の投下分の内容の中に心臓移植等の実態に触れた記述がありましたが、それらの数字や事柄は独自で調べたものであり、確証性は低いです。
ですので、あくまで、フィクションの一環として捉えて頂ければと思います。
それじゃ次回の更新は一応水曜日の23時ごろに。
お疲れいいい!!!!
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