歳を落とす女 (15)


2013年 某日

男「女さん、誕生日おめでとうございます」

女「ありがとうございます。でももう祝ってもらって嬉しい年齢ではないですよ」

男「いやいや、まだ人生の折り返し地点に入っただけですよ。後50年は生きてもらわないと僕が困る」

女「それじゃ私は100歳になるまで生きなきゃいけないじゃないですか。そこまで長生きしたくないですね」

男「そんなこと言わないで。僕のためにもさ。ほら、乾杯しよう」

女「フフッ、乾杯」


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2018年 某日

男「女さん、今日で55歳になりましたね。おめでとうございます」

女「ありがとうございます。あっという間に55歳...やっぱり歳は取りたくないです」

男「いや、女さんは見た目より若く見える方ですよ。とても55には見えません」

女「フフッ、お世辞も上手くなりましたね。今夜はご馳走にしましょうか」

男「いやいやお世辞なんかじゃない。こんな若い奥さんを手に入れられて僕は幸せ者です」

女「貴方の方がずっと若いじゃないですか。もう酔っちゃったんですか?」

男「そんなことないですよ。ささっ、飲みましょう」

女「乾杯」


2020年 某日

女「こんにちわ友ちゃん。最近調子は如何ですか?」

友「あ、女ちゃん。元気そうで何より。こっちはもう仕事こなすだけで精一杯だよ。腰も痛いし肩も上がらなくなっちゃった」

女「それは大変ですね。心中お察しします」

友「女ちゃんはいいわねー。とても同い年に見えない。なんか肌が違うって感じがするわ」

女「そんなことないですよ。友ちゃんも男君もお世辞が上手いんですから」

友「いやいや、本当よ。この前まではお互い年相応って感じだったのに女ちゃんが急に若返っちゃったんだわ」


友「...ここだけの話。何か秘訣とかあるの?やっぱりサプリメントとか...?」

女「耳打ちして聞いてきたって本当に何もしてませんから。あまりしつこく言われちゃうとコンプレックスになりそうなのでやめてください」

友「わっ!贅沢な悩みー。何度でも言ってやるぞこのヴァンパイアレディめ」

女「やめてくださいよー。フフッ、本当に歳を取っても友ちゃんは変わらないんだから」

友「ハハッ、ごめんごめん」





女「...大丈夫だよね...私...ちゃんと歳取ってるよね...」


2023年 某日

女「男君、大事な話があるんですけどちょっといいですか?」

男「なんですか。言ってみてください」

女「バカにしないでくださいね...あの...私」


女「歳を落としていっちゃってるみたいなんです」


男「...え?すみません、どういうことですか?」

女「何時からか私...歳を取らなくなってて...むしろ昔の自分に近付いているみたいなんです」

男「つまり若返ってると...」

女「ええ...」

男「そうですか」


男「女さん」

女「はい」

男「何故、泣いているのですか」

女「私は貴方と一緒に歳を取りたかったんです。70歳になろうと80歳になろうと何時までも幸せを感じていたかったんです」

女「でも...それももう叶わないじゃないですか...」

男「そんなことありませんよ。僕達は確実に歳を取って生きています 」

男「だってそうでしょう。何年経とうと僕は女さんを忘れはしないし、女さんも僕を忘れはしない。見た目は若返えっていこうと二人で重ねる月日が増えていくことに変わりはないんです」

男「だから祝いましょう。女さん、60歳の誕生日おめでとうございます。これからもよろしくお願いします」

女「...ありがとう」


2028年 某日

男「女さん65歳の誕生日おめでとうございます」

女「ありがとうございます」

男「なんだか僕たちが出会った日のことを思い出しますね」

女「それは私の外見を見てってことですか?」

男「そうですね。本当に若返るなんて今でも信じられないです」

女「気にしてるんですからあまり言わないでください」

男「すみません...つい嬉しくなっちゃって」

女「昔から若い奥さんに憧れてましたもんね。よかったですね、夢が叶って」

男「皮肉を言わんでください。女さんは所詮65歳のばあさんですよ」

女「あら、随分失礼なことを言うようになりましたね」

男「ハハッ冗談です」

男「いやー、でも本当に思い出しますね。僕たちが出会った頃を」

女「三十年前ぐらいでしょうか。懐かしいですね」

男「女さんは昔から何にも変わってない。見た目も性格も」

女「見た目は余計です。それに貴方だって殆ど変わってませんよ」

男「そうでしょうか。なら変わらないことが夫婦円満の秘訣なのかも知れませんね」

女「フフッ、どうでしょう」

男「僕たちならこれから先も変わらずやっていけますよ」

女「ええ。そうだと信じています」


2033年 某日

男「女さんが昔言った言葉を覚えていますか」

男「70歳になろうと80歳になろうと何時までも貴方と幸せを感じていたいと言ってましたね」

女「さあ...そんなこともあったでしょうか」

男「とぼけても駄目です。僕はまだ60になったばかり。呆けてなどいませんから」

男「今日であなたが生まれて70年目。少なくとも僕は変わらない幸せをじんわりと感じながら生きていました。女さんはどうですか?」

女「...私も同じです。男君、ありがとう」

男「分かりましたか女さん。人間心が通じあえば見た目なんて関係ないんですよ」

男「それを僕がこれからも証明していきます」

女「えぇ。これからもよろしくお願いします」


2045年 某日

男「女さん...どうやら僕の証明もそろそろ終わりが来たようです」

女「男君!無理しないでいいから寝ててください!」

男「いや...もういいんです。少しだけ僕に時間をください」

女「そんなこと言わないでください...私は貴方なしでは生きていけません...」

男「何時起きるか分からない僕を心配そうに見てる女さんが不憫で仕方がないんです。女さん、聞いてください」

男「僕は...本当に幸せ者でした。
こんないい嫁さんをもらって二人で円満に生活できて...」

男「そして何よりの幸せは...死ぬ前にあなたの一番美しい頃の姿を見れたことです」

男「一度でいいから見てみたかった...あなたの青春時代を目の前にして[ピーーー]る...これ以上の贅沢はないです」

男「女さん。大好きです。心から愛しています。本当に...本当にありがとうございました」

女「そんな!男君!男君!!」

女「そんな...」


2053年 某日

女「男君、私は今や90歳になりました。見た目的には10歳ぐらいの少女と言ったところでしょうか」

女「このままいくと貴方の100歳まで生きて欲しいと言う願いは実現できそうです」

女「しかし、私は一つ気掛かりがあるのです」


女「私は...消えるのでしょうか...」


女「10年後、私はどうなるのでしょう。胎児に戻るんでしょうか。不安で仕方がないんです」

女「男君、教えてくれませんか。そして慰めてくれませんか。私の不安の無意味さを説いて欲しいのです」

2063年 某日

男「女さん、100歳の誕生日おめでとうございます」

女「男君...ありがとう」

男「ずっと待ってましたよ。僕があなたを一人にする訳がないじゃないですか」


男「これからもよろしくお願いします」


女「はい...よろしくお願いします」


終わりです。ありがとうございました

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