春香「入り組んだ迷路」 (15)

ステージに立つ時は何を考えていますか

最近そんなことを考えるようになっていてーーーー


美希みたいにキラキラとしてればいいのかな

それとも真が言ってるようなフリフリとした衣装を着ていればいいのかな

やよいみたいに元気にダンスを踊ればいいのかな


そう私は悩むことがあるのです

長く765プロで活動してきて、皆の好みや価値観が違うのを目の当たりにしたり

プロデューサーさんの指導で事務所の方針が少しずつ変わっていったりして

偶に、自分のやり方が分からなくなってしまうことがありました。

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ミニライブを終え、集まったファンの人達が帰った後、

皆で話をしている時にプロデューサーさんは言いました。

「凄いな春香、今日もライブは大成功だった!」

「えっへへ」

私は自分でも分かるような程の照れ笑いを浮かべ、後頭部を手でスッスッと撫でます。

美希も楽しそうにうんうんと頷き

「やっぱり春香は凄いの、そういう所がリーダーなんだろうね」

「まぁ…否定はしないわ」

伊織は腕を組みながら呟きます。

「今日の衣装、フリフリッてしてて可愛かったなぁ」

真も満足そうに微笑んで、他の皆も嬉しそうに笑っていて、

皆、私に微笑みかけてくれます。

私はそれに応えるようにニコッと笑って

自分のやり方に安心するように納得してーーーー

リーダーという立場で皆の前に立っていて、皆と意見が分かれて言い合いになっても、最後は私の意見が採用され、皆はそれに納得してくれて、

やっぱり、私の考え方であってるのかな、と安心して。



……そう思うのには、心の支えになるものがありました。

「ただいまー」

家に帰ると、「おかえり」と返事がして、リビングからお母さんの声が聞こえてきます。

「今日のライブはどうだったの?」

「大成功だったよ!」

お母さんは「そう」と微笑み、お父さんは「そうか」と新聞紙の向こう側からひとこと呟いて、

「田舎にいるお婆ちゃんも喜ぶわよ」

「えっへへ…あ、そろそろ時間かな」

私はテーブルに置いてあるリモコンを手に取り、テレビのスイッチを入れました。

アイドルなら誰もが夢を見るトップアイドル

私も何度かテレビに映ることはあっても、他にも数え切れない程のアイドルグループが競争をして、私よりももっともっとテレビに映る人達が沢山います。

「あっ、出た出た」

私は画面に映った女性を見て、リモコンを置きました。

「今日のライブはいかがでしたか」

「皆々、素敵な笑顔をくれて私も楽しくなりました。私がガッツポーズを取ったときの皆のガッツポーズが、私に感動を与えてくれます」

「へぇ〜そうですか。どういった所がそう思うのですか?」

「そうですね…皆の笑顔でしょうか」

その女性は質問者の問いに言葉を詰まらせながらも答え、私はそれを聞いて頷いてーーーー

何が正しいんだろう

そう思った時は、いつもこの女性がそれに答えてくれて、

いろいろな考え方があるなかでも、話を聞いていて私を安心させてくれるのでした。

「世間には、あなたのことを今後ブレイクする可能性のあるアイドルの1人だと言う人も居ますが、それについてひとことお願いします」

「そうですね…期待に応えられるように頑張ります。今日のライブはちょっとお礼をし忘れちゃったので、次のライブは、後席にいるファンの人達へも、ちゃんとお礼を言いたいです。次のライブ、ちゃんと見ててねー!」

「へぇ〜」

私は呟きながら、今日の自分達のライブのことについて考えます。

大成功と言わんばかりにファンの人達は声援を送ってくれて、私はそれに応えて…

ちゃんとできてるつもりでも、疎かになっている気がしてーーーー

私は女性の言ったことを小さく胸の内に留めるのでした。

ーーそれから数日が経った日のことでした。




事務所に集まって、皆の前でプロデューサーさんが言いました。

「皆も分かってると思うが、今日はアイドル審査の日だ。前回よりも上を目指して頑張ろうな!」

「はいなのー!」

美希が返事をして、「がんばりますー!」とやよいが元気に手を上げて、


皆が気合いを入れるのは、今日はアイドル審査の日だからなのでした。


ーーアイドル審査、それは年に数回行われるもので

アイドルにはランクというものがあり、審査の結果によって、SランクからGランクまでの階層に分けられます。

大事な仕事や世間を代表して活動をするライブが行われたりする時は、このランクによって仕事が振り分けられて、

ランクが低いと仕事すら与えられないこともあって、

世間には公にされていなくても、アイドルにとってはとても重要な審査なのでした。



社用車のなかで伊織が言いました。

「今日私達が向かう会場には、レベルの高いアイドル達が来るらしいじゃない。気後れしないように気を付けなさい」

「オーディションを受ける会場によって集まるメンバーが変わるなんて、なんか不公平だな」

「ふふ…それも運のうち。わたくし達のパフォーマンスをお届けするまでです」

響ちゃんと貴音さんが話すなか、千早ちゃんが私に聞きます。

「春香。今日の審査は、何か考えていることでもあるの」

「え、う〜ん。そうだねぇ」

返事をしようとしていると、亜美がわっと中に入ってきました。

「亜美、なんかイタズラしたい気分だよ〜」

「真美も真美も、最近兄ちゃんに全然できてないからね」

ガックリする雪歩に笑う響ちゃん

「それ…審査と関係ない」

「あっはは」

「もう…あんた達も好い加減変なこと言うのはやめなさい」

伊織は呆れてため息をつき、前の座席で律子さんがふふっと笑います。

「前の審査じゃ、丁度Cランクだったから、今回はCランクプラス…できればBランクマイナス辺りまでいきたいですね〜」

その時、ふと呟いたあずささんに伊織は頷いて、

「えぇ、せめて現状維持よ。ランクだけは落とさないようにね」

律子さんが割り込むように言います。

「そうね。今日の審査はレベルの高いグループが集まるみたいだから実力が試されるわ、気合い入れていきなさい」

全員が返事をして、
それからまた千早ちゃんが私に聞いてきました。

「それで…春香、今日の審査は何か考えてることでもあるの」

「そうだねぇ…」

ふと頭で浮かんだのは皆の笑顔でした。


こうして皆で話している時も皆は笑っていて

そんな私達が立つステージを見て、ファンの人達も笑顔になって


ーーーそれがとても大事なもののような気がして


「ステージを披露し終わったら、奥で見ている人達にもちゃんと挨拶してね」

私はそう答えました。

会場に着いて社用車から降りる際、プロデューサーさんは言いました。

「いいか、集中するんだぞ」

私はよし、と気合を入れて車から降ります。

ドアから降りた先では、数々のアイドルグループが会場へと歩いていました。

花柄のついた衣装を着たグループや、
黒色の衣装を着た殺伐とした雰囲気のグループ

向かい側のバスから降りて来た人と、私はばったり鉢合わせしてしまいました。

背の高いスラっとしたスタイルに、サラサラとした長髪。
目つきは鋭く、私はつい躊躇ってしまいました。

「……なによ」

その人は舌打ちすると、そのまま歩いて行きます。

後ろをぞろぞろと着いて行く集団を見ていると、背後から伊織の声がしました。

「あんた、気後れしたらだめよ」

「う、うん…」


ーーー感じの悪い人だったなぁ、

そう思いながら足を動かします。

周りを歩くグループの人達を見ても、ひと目で分かる程の独特な雰囲気を持つ人達が沢山いました。



ーーーその中でも一際目立つグループ、

「TFW」と腰に小さく印の付いた衣装を着る人達がいて、


びっくりしたように響ちゃんは言いました。

「え…あれってAランクのアイドルグループだよな」

「何でこんな所に…」

雪歩が呟くと、皆不安な顔をします。

普段会場で見かけることのない有名なアイドルグループに、皆戸惑っていました。

伊織がその様子を見て目を鋭くさせて言います。

「少しはちゃんとしたグループに来れたってことよ。あいつらに負けない気持ちで居なさい」


「…そうだね」

私は頷いて会場へと足を早めました。

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