筑摩「偽りの心」 (171)
「提督、こんな時間に呼び出すなんて……」
2200。仕事は一通り終えたはずの私は提督に呼び出されていました。
「その……筑摩……」
「はい、なんでしょうか」
いつもとは違い歯切れの悪い提督。
彼の頬に一筋の汗。
呼び出された港はむしろ涼しいくらいの気温ですが、提督はひっきりなしに汗をぬぐったり目をキョロキョロさせたりと、どこか落ち着きのない様子です。
やがて、決心した顔つきで彼は一呼吸置いて
「……君が欲しい」
顔が赤くなりながらそんな言葉を口にしました。
自分の目が見開かれたのを感じます。
しばらく迷った後、私は口を開きました。
「……私、心に決めた姉さんが――」
「へ、編成の話だ!勘違いするな!」
大声で遮る提督。その必死さに思わず口を閉じます。
「……あらやだ、私ったらっ」
自分の自意識過剰に恥ずかしくて、その場を笑って誤魔化しました。
「全く、変な勘違いをして……」
そんな私に釣られてか、提督の声は震えていながら笑っていました。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1426542743
筑摩のハートフルryな話です(ハートフルとは言ってない)
精神的に弱い方は控えてください
「……あっ」
0600に私は目が覚めました。
「…………提督」
またあの夜のことを夢で見ました。
これで何度目でしょうか。おそらく少なくとも20はとうに越えているでしょう。
「…………っ」
布団を強く握ります。
おそらく顔も少し険しくなっているでしょう。
私は気づくのが遅すぎたのです。
あの時、提督が本当はなんと言おうとしていたのか。
自分の本当の気持ちはどうだったのか。
「どうして私は……」
こうして自責の念に駆られることもしばしばあります。
「…………提督」
再び口から零れる彼の名。
それに答える人はそばに居ません。
「……ふぅ」
着替え終えた私は鏡の前に立ち、深呼吸をして心を落ち着かせます。
私はは秘書艦なので、朝から提督と顔を合わせなければならないのです。
今にも泣き出しそうな顔で笑顔を作ります。
「……よし」
及第点をどうにか与えられる顔ができると、提督の部屋に向かいます。
昨日も遅くまで頑張っていた彼を、起こしに行くのです。
立てといてすぐになんですが、また夜に来ます
書き溜めはあるんで逃げも隠れもしません
なんかこれと似た感じがする、期待
筑摩「と、利根姉さんが提督とキスをくぁwせdrftgyふじこlp;」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1426365769/)
>>6くそっ、先を越されたか……このスレが二番煎じになってしまうじゃないか!(続きはよ)
「提督、起きてください」
ノックをしますが返事はありません。
しばらく待って私は、鍵を取り出しました。
鑑が無いのでわかりませんが、おそらく自分は笑っていることでしょう。
部屋の鍵も秘書艦だからこそ預けられているもので、これは自分しか持っていない。
そんなことに嬉しさを感じながら扉を開けます。
「ほら、提督。もう朝ですよ?」
揺すりながら優しく声をかけます。
「う…………ん」
よほど疲れているのでしょう。いつもならノックしただけで返事をする彼が、揺さぶっても起きないのは珍しいことです。
「提督?そろそろ起きなければ全ての仕事が遅れますよ?」
「ん……?利根か?」
………………まただ。
「…………いえ、筑摩です。そろそろ起きないと……」
「……わかった。ありがとう」
ゆっくりとですが布団から出てくる提督。
「そろそろ間宮さんたちが作ってくださっている朝食が出来上がります」
「すぐに行こう。起こしに来てくれてありがとうな」
いつもなら褒めて貰えたことに喜びを感じるのでしょうが、今は違います。
「……最近、私を利根姉さんと間違えますよね?」
ここ最近、提督は私を利根姉さんと間違えることがしょっちゅうあります。
「……気を悪くしたのならすまない。声が似ているものでな」
「……そうですか」
私は納得した顔を演じます。
私が聞きたかったのはそんなことではないのです。
「提督は……」
「ん?どうした?」
「……なんでもありません」
先程まで練習していた笑顔で誤魔化しました。
秘書艦で一日の大半を提督のそばで過ごしますが、提督が利根姉さんを自分と間違えるようなシーンは見たことがありません。
「……さて、用意が出来た。行こうか」
扉の鍵を閉めた提督が振り返ります。
釈然としないまま一日が始まるのも最近では当たり前になっていました。
「おはようございます。提督」
「おはよう。間宮さん、伊良湖さん」
いつも通りの笑顔で二人に笑いかける提督。
そのやり取りを横で見ていた私は、笑っていたが内心はとても揺れていました。
この笑い方。二人に向けられているこれは、間違いなく仲間に向けるもので、最近は私にも同じものが向けられるようになっている。
なぜわかるかと言うと、提督は以前は違った笑みを私に見せていたからです。
勿論今の笑みも愛情は伝わってきます
。でも、告白前から後の暫くの間は、これよりもさらに深い愛情を感じとることができたのです。
そして、その笑みは今――
「提督。もう十分寝たのか?随分と起きていたようじゃが……」
「あ、あぁ利根。大丈夫だ。心配してくれてありがとうな」
笑顔でやって来た私の姉に向けられている。
「……利根姉さん」
「ん?おぉ、筑摩か。秘書艦は朝から大変じゃな」
「……最近はひとりで起きられるようになりましたね」
「なに、そろそろ我輩も独り立ちせねばな。いつまでも筑摩に頼ってなどいる我輩ではないぞ」
胸を張る利根姉さん。
以前の私なら、そんなどこか幼い姉に愛しさが涌き出ていたことでしょう。
でも、今は違う。
「お前の年なら当たり前だ。利根」
笑いながら利根姉さんの頭に手を乗せる提督。
「な、何をするのじゃ!?」
彼はそのままこねるように手を動かしました。
「くしゃくしゃになるじゃろ!」
手を払いのけた利根姉さんは急いで髪を手櫛で整える。
「全く……髪は女の命だと心得よと何度も言っておるじゃろう」
「何度も……」
裏を返せば、今のようなやり取りを何度もしているということ。
私の膝の前に添えていた手が握りこぶしを作ります。
「……ん?筑摩よ、どうしたのじゃ?」
首を傾げる利根姉さんは無邪気で、だからこそ私は自分に劣等感を抱くのです。
「……なんでもありません。そろそろ席に着きましょうか」
作り笑いをして、すぐに辺りを見回します。
自分の姉なら笑い顔に違和感を覚えてもおかしくありません。なるべく姉さんに顔を向けないようにします。
「!そうじゃ!提督」
姉さんが思い出したように持っていた包みを差し出しました。
「これは我輩が早朝から一人で作った傑作じゃ!提督にやろう」
「あ……ありがとうな」
はにかむ提督。彼らしくない顔で、私にはそれがいつもより幼く見えました。
「そのかわりどうじゃ?昼は我輩に作っ――」
「提督!あそこが空いてます。行きましょうか!」
「……むっ。仕方あるまい」
私は半ば強引に提督の手を引き、目ざとく見つけた二人分の空いているスペースに進みだしました。
「姉さん、またあとで」
そのまま提督を引っ張ります。
「利根ー!演習忘れるなよー!…………おい、筑摩?」
提督の呼び掛けにも答えず、私はこの場から逃れようと彼の手を引き続けました。
「……あれは酷くないか?」
席に着いた提督が包みを解きながら言った言葉。
当然利根姉さんを気にかけてのものです。
「……提督はお忙しい身ですから」
あからさまな建前を返した私は顔を上げずに朝食に箸を伸ばします。
「だからと言って、あの態度はどうかと思うぞ?」
「……今度から気を付けます」
自分でも覇気の無い返事だと思います。でもそれは、私の頭は別の場所にあったからです。
「……最近、随分と仲がよろしいですね」
「……利根とか?あいつは、まぁいいやつだし、一緒にいて退屈しないしな」
違う。そういうことを聞いているんじゃない。
そう言えたらどれ程楽か。
私はゆっくりと深い溜め息を吐きました。
「……私といたら退屈するんですか?」
「……どうした?筑摩。お前らしくもない」
提督の言う『お前らしい』とはどういうことを指すのだろう。
私は考えてみるも、人の頭のなかの自分というものは全くつかめません。
「いつもの私、と言いますと?」
「……一歩引いた感じというかなんというか。いつも下がって全体を把握しようとしているように見えるな」
言われてみると思い当たることがありました。
「…………っ」
なぜそれをあの夜にしなかったのか。私は自分を責めました。
いや、したことはしましたが、それはあくまで表面的な自分のことを思っての行動。
姉妹愛の奥にある、目の前の男性への愛情には気づいていなかった自分の行動でした。
「……そうですか」
そう考えると心が締め付けられます。
無知は罪。まさしくその通りで、今もその後悔が自分を責め続けるのです。
「……おっ、この唐揚げ美味いな」
提督はそんな私に気づかず楽しそうに弁当をつついています。
それは利根姉さんの作った弁当。
「……ごちそうさまでした。先に執務室に戻っています。提督はゆっくりとお食事してもらって構いません」
居心地が悪く感じた私は提督の返事も待たずに席を立ちました。
姉には敵わない。
歩く私の頭の中はただそれだけしかありませんでした。
今日はここまで
この投下量は少ないでしょうか……
今さらですが大事なことを言うのを忘れてました
ヤンデレ注意です。ヤンデレに嫌悪や憎悪を抱いている方にはオススメできません
ハッピーエンドでワンチャンもありません
あぁ、その一言が苦しい……>ヤンデレ注意
>>23言うのが遅れてすみません。俺にはヤンデレしか書けません
まぁ、この際新たな扉を開くのも手ですが……?
ハイライトさんはまた有給休暇かぁ…
ヤンデレ最高やないですか
>>30そういえば、私の書く作品ではハイライトさんは旅行に行ってましたね。あれから1ヶ月程経ちましたが、連絡がありません
今日も2200からちょろっと
以下投下
「……そちらの資料、終わりましたか?」
「……うん?」
上の空の提督が生返事をします。眠いというのもあるかもしれません。
でも、私は別の理由を懸念していました。
「……姉さんですか?」
「えっ!?いや……違う」
急に意識を取り戻したような慌てっぷり。私の嫌な予想が当たってしまったようです。
「姉さんですね」
「……そうだ。利根だ」
ずばりと当てられた提督は恥ずかしそうに肯定しました。
「……姉さんも、もうすぐ私と同じレベルですね」
「そ!……そうかな?」
しらばっくれる提督に顔を反らして、私は俯きます。
「……し、姉妹揃って同じレベルだ。やっぱりこういうのって、嬉しいのか?」
「……そうですね」
また嘘をついた。
もう一人の自分に白い目で見られているような気がしました。
同じレベルということは、同じ土俵に立つということ。
一度告白されかけた私と同じ立場に姉さんが足を踏み入れる。そういうこと。
それどころか私はあの夜のお陰で勝利に届くことはありません。何故なら提督はおそらく――
「…………提督は」
そこまで言って口を閉じました。心の中で警鐘を鳴らす自分がいたからです。
「どうした?」
優しく笑いかけてくる提督。その笑顔はまたどこか愛情が足りなくて……
私は意を決しました。
「姉さんにケッコンを申し込むのですか?」
提督の顔が固まりました。
私たちの間に静寂が流れます。
「…………あぁ」
そう小さく漏らして、提督は机に顔を戻しました。
「……………………そうですか」
負けた。そう思わずにはいられません。
提督は気づいていないかも知れませんが、あの利根姉さんが私よりも早く起きて料理を作っていたのです。
姉さんが断るはずもないんです。
「……実は利根にはいろいろ助けてもらっていたんだ」
「……………………」
「俺が尻込みしていた時には背中を押してくれたり、泣いていた時には俺を慰めてくれたり。気がついたらあいつのことが好きになっていて……」
耳を塞ぎたかった。目を背けたかった。
目の前の彼は、あれほど私が求めた愛しい笑顔で話しかけてくる。
「……………………」
それは自分の為に向けられたものではないことを、十分わかっていました。
でも、どうしてもそれからは目を背けることが出来ない。そんな自分に嫌気がさします。
「…………仕事に支障がでなければ良いと思います」
なるべく素っ気なく答えました。
本心を知って欲しいと思う自分と、愛しい姉を応援したい自分。
私の中では2つの力は均衡してせめぎ合っていたところでした。
そんな私の内心など知るよしも無く。
「……!そうか。ありがとうな」
「……はい?」
「筑摩に認めてもらえたなら、それで十分ありがたいよ。とても嬉しい」
「~~~っ!」
自分に向けられた笑顔。それがいかなる理由であれ、私は快感のような説明できない感覚に酔いました。
「……ん?筑摩、どうかしたか?」
漏れそうな笑顔を我慢していましたが、その顔が却って提督に怪しく思わせたようです。
「…………いえ、なんでもありません」
顔を伏せて深呼吸をした私は当たり障りのない笑顔を作りました。
「ならいいんだが……」
私の顔を見て、提督も渋々ながら納得してくれました。
「……では、いつにされるおつもりですか?」
「いつとは……」
「告白です」
提督は困ったような顔で頬を掻きました。
そんなことを聞きたかった訳じゃない。
もう一人の私がそう叫びますが、その声は誰の耳にも届きません。
ただ、私の頭のなかで反響するだけ。
「……そんなこと聞いてどうするつもりだ?」
提督の不信感が垣間見える視線。それを浴びた私は、頭から氷水をかけられたような気になりました。
今日はここまで
途中抜けたり投下間隔がグダグダだったりと申し訳ない
リアルが忙しくなってきたので投下量が少なくなるかもしれません。ご了承下さい
以下投下
どうするつもりもない。なんて言えません。提督の信頼さえも失ってしまうのは怖いのです。
無意識に口から出ただけなのに……いや、だからこそ素直に言えませんでした。
「…………わ」
「わ?」
「私が、提督の恋のお手伝いをします……!」
何か言わないと。責め立てられた私は、咄嗟に思ってもいないことを口にしました。
「本当か!」
提督が大声を出してこちらを期待に満ちた目で見てきます。
本当じゃありません。そう言ってしまおうかと思いました。
たとえ勝ち目のない戦いでも、敵に塩を贈ることはしたくないからです。
「……じ、冗だ――」
「ありがとう筑摩!内心そうしてもらいたいと願ってたんだ!」
「――――――」
……ダメだ。流される。
私はそう感じました。
こんな笑顔を見せられたら、今さら後には退けません。
「……ん?筑摩、どうしたんだ?」
愛する人の笑顔。もし断ったら、どうなってしまうのか……
「………………はい」
提督におどけて敬礼してみせます。
「承りました……っ」
言ってしまった。もう一人の私が頭を抱えて項垂れました。
愛しい人の笑顔で心が満たされていく。
その瞬間は何より甘く、1度体験したら簡単には抜け出せない。
まるで麻薬のようなものでした。
「嬉しいなぁ」
当の本人はそんなことも露知らず。私の支援が嬉しかったのか、笑っています。
……この人は、私のことを考えて喜んでくれている。
「……ふふっ」
そう考えると、悪くないような気がしてきます。
「……では、まずは仕事を片付けてしまいましょう!」
私は笑いました。さっきまでの笑顔よりも自然なものだったに違いありません。
もう一人の私の声は、いつのまにか聞こえなくなっていました。
「…………んー……」
提督が背伸びをして、チラリと時計を見ました。
「1200か」
「そろそろ昼食の時間ですね」
「そうだな」
私の言葉に提督は立ち上がりました。
「なら食堂に行こうか」
「はい……!いえ」
賛同しかけた私の頭に突如ある考えが浮かびました。
「今日は私がここでお作りします」
「ここ?確かに台所はあるが……」
私は扉の鍵を締めました。
「姉さんの件で作戦会議でもしませんか?食堂では誰の耳に入るかわかりません」
我ながら良い案に思えました。
名目上は秘密の会議。ですが、これは「提督との二人っきりの時間を過ごす」という私の我儘も叶えることが出来ます。
姉さんを出汁にするような考えですが、そうしなければ提督は姉さんのいる食堂に向かっていたでしょう。
「……なるほど。でも、材料があるのか?」
「……あっ」
失念していました。
もはや私の頭の中では、優先順位は食事よりも提督と二人っきりであることが上だったのです。
「……今日は普通に食堂に行こうか」
「あっ……」
食堂に行けば、間違いなく姉さんがいるでしょう。
……もしかしたら姉さんは、提督がこの部屋から出るのを廊下で待っているかも知れません。
そうすれば、二人の距離は更に縮まるでしょう。そこにいる秘書艦のことなど忘れて。
行かせたくない。そう思いますが私には提督を止める術がありません。
「……ほら、何を突っ立っているんだ?」
提督が扉に手を掛けています。
「…………あっ」
ここで私は閃きました。
「私が頂いてきます。提督はどうぞごゆっくりお待ちください」
そうです。
別に料理を作る必要は無いのです。
私の目的は、提督を姉さんに合わせないこと……つまり、この部屋から出さないこと。
私には、この部屋の鍵があります。
「間宮さんが準備してくださっているはずですから、お持ちしますね」
提督に有無を言わせる暇も与えずに小走りて執務室を出ました。
「これで……よし」
そして外から鍵を掛けました。
これなら利根姉さんも入ることが出来ません。
そのまま小走りで食堂に向かいます。
少しでも早く帰らなければ、利根姉さんが迎えに行く可能性もあるからです。
「……ふぅ」
扉の前で息を整えます。
我ながら速く戻ってこれたと思います。
「……よし」
落ち着いた私は鍵を挿しました。
提督が一人で待っていることでしょう。
「……あれ?」
しかし、鍵はそこから回りません。
これ以上はびくともしないのです。
「どうして……」
「鍵なら開いておるぞ」
その声に私は固まりました。
「ね……姉さん?」
ゆっくりと扉を開くと、目を背ける提督と手を腰に当てている利根姉さんがいました。
「一緒に飯を食わぬか?」
無邪気に笑い掛けてくる姉さんの手には、スーパーの袋がありました。
「……鍵は、提督が?」
「違うぞ」
利根姉さんは勿体ぶりながらポケットから何かを取り出しました。
「これを見るのじゃ!」
高らかと挙げた手には、鍵が握られていました。
今日はここまで
提督の株が大暴落
すみませんが今日は投下出来そうにありません
ご了承下さい
今日の投下は少ないです
というのも、書き溜めはあるんですが分けた方が区切りが良いからです
2200からほんのちょっと投下
少しだけですがやっていこうと思います
以下投下
「それは……」
見る限り凹凸が私のポケットにある鍵と同じものです。
「以前提督に貰っていたのじゃ!」
あり得ない。
だってそれは秘書艦である私が持たされた物で、秘書艦でもなんでもない姉さんが持っていて良いものではありません。
そんな思いを込めて視線を提督に送りました。
「いやぁ……実は利根が欲しがっててあげていたんだ」
「――――――そうですか」
魂がすっと抜けたような気になりました。
後ろに倒れそうになった私は、足でなんとか踏みとどまります。
「どうして……」
「どうしたんだ?」
どうしてあげたのですか?
そう聞こうかと思いましたが、寸前で思い留まりました。
「いえ……なんでもありません」
そうです。好きな相手のことはなるべく聞いてあげたい。そう考えるのは普通のことです。
「筑摩とお揃いじゃな!」
笑顔で私の顔の前に突き出した姉さんの手。
納得したはずの私ですが、何故か姉さんの顔だけしか見ずに、彼女の手元に焦点を合わせる気にはなりませんでした。
「……では、一緒に食べるとするかの」
利根姉さんは、さも当然かのように提督の隣――秘書艦用の椅子に座りました。
対して私は扉に近いソファ。
「もう少し近くに来ないか?」
見かねた提督が手招きをしてくれました。
「…………いえ」
私はそれをお断りしました。
二人に近寄れば近寄るほど自分が惨めになる。そう確信していたからです。
「お二人で睦まじくやっていて下さい」
提督への後押しは、姉さんへの後押しと同じ。
それがわかっていてもこの場に留まっても何もできないことは火を見るよりも明らかに思えました。
「……!あ、あぁ。わかった」
提督は何かを察した顔をして右側の姉さんにバレない左手で合掌のような形を作りました。
ありがとう、そういうことでしょう。
「私は食堂で食べてきますね?」
私はお盆を持って立ち上がります。体は重く感じました。
「……なんじゃ?ここで食えと言っておるのじゃぞ?」
「二人に迷惑でしょうから……」
今日1日でどれ程作り笑顔をしたでしょうか。もはや本当の笑顔の仕方を忘れてしまうほど私は笑顔を作りました。
「なっ……」
絶句して固まる姉さん。
しかし、悪い意味ではありません。
「そ……そんな風に姉をからかうでない!」
そっぽを向いた姉さんの耳は赤くなっていました。
「では、またあとで来ます」
笑顔を貼り付けたまま扉を開けます。
提督に背を向けた瞬間に表情筋を緩めました。
幸い誰も廊下にいなかったので、私の暗い顔は誰にも見られることはありませんでした。
「では、ごゆっく――」
再び笑顔を作り、そのまま扉を閉めようとしました。
しかし、私は思わず扉を引く手を一瞬止めました。
「…………どうしたのじゃ?やはりここで食べるか?」
「――い……いえ、なんでもありません。では」
「……ならいいんじゃが」
姉さんが尋ねてきましたが、私は笑顔を戻して扉をゆっくりと閉めました。
私の見間違いでなければ、姉さんは見たこともない悪い笑顔をしていました。
今日はここまで
先に言っておきますが、この話に悪役は出てきません。よって、キャラに対する誹謗中傷の書き込みは出てこない……はず
なんたってここは優しい世界ですので
綿流し編で
>>64そこまで長編にするつもりはありません。あくまで短編からの派生なんで
それよりも川内ェ……
これから忙しくて時間がとれそうに無いんで2日に一回のペースでの投下を目標にします
そういうわけでよろしくお願いします
乙 川内なんかしたっけ
>>66このスレはとある修行スレからの派生です
そのスレで筑摩の小ネタを書く予定だったのですが、私の筑摩愛の深さゆえ別にこのスレを立てた次第です
川内は……まぁ、酉検索をしてもらえたらわかっていただけると思います(ステマ)
2200からちょいと投下
では、そろそろ始めましょうか
以下投下
あれはなんだったのでしょう……
私の頭が見せた幻覚でしょうか。それとも、光の角度でそう見えただけ。
「あるいは……」
その先を考えることは止めました。
姉さんに限ってはあり得ませんし、なによりそんな可能性は考えたくありません。
食堂に着いた私は、なるべく目立たない隅の席を選んで座りました。
「いただきます」
小声で言い終え、スープをすすります。
スープは食堂と執務室の往復間にすっかり冷めてしまっていました。
「……美味しい」
それでも十分に美味しくて、冷たいはずのスープは私の体を温めてくれました。
「……あら?筑摩さん?」
後ろから声を掛けられて驚いた私は咳きこみます。スープを口に含んでいたなら大変なことになっていたでしょう。
「……鳳翔さん」
「隣、よろしいですか?」
振り返ると、同じくお盆を持った鳳翔さんが立っていました。
「鳳翔さんもお昼ですか?」
「ええそうです。皆さん昼食は食べ終えたようですし、手が空きましたので食事にしようかと」
微笑む鳳翔さんに、私は頭が上がりません。
「それはそうと」
鳳翔さんは悪戯っ子のような顔をして少しだけ席を寄せて来ました。
「最近利根ちゃん、頑張ってますね」
「…………そうですね」
この会話が嫌で目立たない席を選んだのですが、遠くまで目が届く鳳翔さんには却って目立って見えたようです。
「提督に手作りの弁当を渡す……隣で手伝っている私もドキドキしちゃいます」
鳳翔さんは恥ずかしそうに頬を赤らめています。
「……鳳翔さんも手伝っていたんですね」
「ええ。なんたって利根ちゃんの恋を応援しているんですから」
「……そうですか」
こういった話が好きなのでしょうか。鳳翔さんはやけに張り切っているように見えました。
「皆さんもそうですし。まぁ……筑摩さんも当然でしょうけど」
「っ……」
その言葉は、私の体に深く突き刺さりました。
「……!もしかして、利根ちゃんのために執務室から出てきたんですか?」
いつもとは違う鳳翔さん。
色恋沙汰には年相応の反応をします。
その言動が私の心身を蝕みました。
「……そうですね」
私の心は曖昧な返事をすることだけで精一杯でした。
「あの二人、とてもお似合いですもの」
夢見る乙女、とでも言いましょうか。
鳳翔さんとあろうお方が食事を忘れて笑っています。
「……そうでしょうか」
自分で言うのも恥ずかしいですが、提督の隣は常に私の居場所でした。
提督が好いていたとしても、秘書艦として連れ添ってきた私こそ隣にふさわしい。そう思わずにはいられません。
「どうしました?」
心配そうな顔で覗いてくる鳳翔さん。
「……いえ、なんでもありません」
そう誤魔化してご飯を口にいれました。
「そうですか……?」
腑に落ちないながらも、納得してもらえたようです。鳳翔さんは、私の漏らした言葉に深入りしてくることはありませんでした。
「……それでは、先に失礼しますね」
そう言うと鳳翔さんは立ち上がり、お盆を持って台所へ去って行きました。
「…………さようなら」
遅れた小さな挨拶が一人の食堂に静かに響きます。
一人…………
先程の会話が頭のなかで再生されました。
『皆さんもそうですし。まぁ……筑摩さんも当然でしょうけど』
「私は……」
「ここにおったか!」
自分の声と勘違いした私は飛び上がりそうになりました。
「筑摩、提督がそろそろ午後の仕事を始めたいと言うておるぞ」
「…………姉さん」
笑う姉さんは、いつものような無邪気さを放っていて、先程の顔は見間違いなのだとわかりました。
今日はここまで
ハッピーエンドが中々見えませんね……(たどり着くとは言ってない)
2200にちょっとだけ
以下投下
「……伝えてくれてありがとうございます」
「うむ!午後からも頑張るのじゃぞ」
そう言うと台所に足を向ける姉さん。手にはお盆がありました。
「それは……」
「提督のじゃ。我輩が筑摩を呼びに行くついでに持ってきたのじゃ」
振り返る姉さんはどこか楽しげで、今にも鼻唄を歌いそうな笑顔です。
私に見せつけるように。
「…………楽しかったですか?」
「……ん?どうした?」
「提督とのお二人での食事です」
自分でも刺々しい物言いなのは理解しています。
でも、頭に浮かんだものはこれしかなかったのです。
「ち……筑摩?お主少しだけ怖いぞ?」
姉さんの怯える顔を見て、私ははっとしました。
さっきまでの私は、まるで誰かに乗っ取られていたような、そんな感覚でした。
「……………………いえ、なんでもありません」
心を落ち着かせて笑顔を作ります。
「……そうか?」
「ええ。では」
不信感が拭えない視線が刺さるのを感じながら、私は食堂をあとにしました。
「失礼します」
ノックをして、返事を待ちます。
「いいぞ」
提督の声で私は扉を押しました。
「悪かったな」
入った私に提督が頭を下げました。
「筑摩のお陰で利根と二人きりの時間を過ごせたわけだが、それで筑摩を除け者にしてしまった」
「えっ……いえ、そんな」
突然の謝罪に戸惑いを隠せません。
「あと、気を利かせてくれてありがとう」
「………………いえ、どういたしまして」
……私はなんて現金な性格をしているのでしょう。
提督のありがとうの5文字で、私は体が内側から温かくなっていくのを感じました。
さっきまで姉さんに敵意を持っていたもう一人の自分は、今では影さえ見当たりません。
まるで、提督から身を潜めたかのように私の心から跡形もなく消え去っていました。
「では、早速仕事に取りかかりましょうか」
「あぁ、よろしく頼むよ」
自分でも驚くほどのご機嫌な声。
この時間が一生続けば良い。本気でそう思いました。
「午後からは……演習がありますね」
大好きな人と二人きりの執務室。
これだけで幸せを感じる私は単純なのでしょうか。
その幸せを噛み締めて書類を読み上げていきます。
「演習のメンバーは、随伴艦のレベル68の千代田、66の千歳、74の電、78の長門、……そして99の私」
自分に言い聞かせるように宣言します。
最後に声が大きくなったのは無意識です。
「そして、旗艦……っ」
ですが、その幸せも長くは続きませんでした。
「…………ん?何かおかしかったか?」
提督は詰まった私を心配して書類から顔をあげました。
「…………いえ、なんでもありません」
目の前の書類を読み上げて、提督にその内容を口頭で伝える。これは秘書艦である私の仕事です。
「それでは、読みますね……」
背けた目を再び戻します。見間違いを祈りましたが、そんなことはありません。
「…………旗艦はレベル98の利根」
それを口にすることは、私にとって心苦しいものでした。
「…………もうすぐですね」
姉さんと提督のケッコン。
恐れていた事態は目前に迫っていたのです。
「おそらく、今回の演習でレベルが上がるだろう」
うつむく私に気づかず、提督は遠くを見つめて笑っていました。
そろそろ本当にこの気持ちと決別しなければならなくなってきました。
「実は、それを見越して今夜ここに来るように伝えてある」
恥じらいと覚悟が合わさったような瞳。
当然ですが、提督に迷いは無いようでした。
「…………そうですか」
私は笑おうとしました。このタイミングで笑わなければ、偽物でも一生笑うことができないと感じたからです。
しかし、きっとその時の笑顔は一番下手だったことでしょう。
窓を向いていた提督に見られていなかったことが救いでした。
「……でだ」
顔をあげた提督が手招きします。
「いいシチュエーションというかなんというか……あいつが好きそうなものを知らないか?」
「……………………いいえ」
告白した私に、それを聞くのですか?
そう言いたい衝動を必死に押さえつけました。
そうです。提督は、協力すると言った私に助言を求めているだけ。なんらおかしなことはありません。
「……………………そうですね」
これは、姉さんと提督の恋を成就させるための大事な部分。
それ以外の考えは捨てなければなりません。
「………………その、窓から見える港はどうですか?」
今日はここまで
あ^~心がぴょんぴょんするんじゃ^~
今晩は
今月は投下できる余裕が取れそうにありません
それと、作中で利根のケッコンボイスを引用しようかと思ったのですが、「利根から直接聞きたい。ネタバレやめろ」などという方はいますか?
……いいかな?
承認を得ましたのでそういう方向で書いていきます
生理的に受け付けないという方が多ければ、今月中に申し出てくだされば修正を加えられるかと思います
夜にちょっと投下するっぽい
明日も早いから投下速度も早いっぽい
以下投下
「え…………?」
提督の顔色が変わります。
「……えっ?」
見るからに焦る提督を見て自分が何を言ったのか気がつきました。
あの港。あそここそ私が提督をフった場所です。
勿論わかっていました。私も、おそらく提督もあの場所は避けたいに決まっています。
ですが、私の口はそれに反して勝手に動きました。
「あの港か…………?」
時すでに遅し。提督は窓の外と私とを交互に見比べています。
「…………はい」
私は無意識にあの場所を指名しました。
それはなぜかわかりませんが……今否定すると提督に何かしら勘づかれるかもしれません。
なにも知らぬ顔でやり過ごそう。そう思ったときでした。
『ここで告白すれば、提督は私を見てくれる』
「えっ!?」
「……どうした?筑摩」
私はその後ろからの声で振り返りました。
しかし、そこには誰もいません。
「……いえ、なんでもありません」
そう答えるしかありませんでした。
「そうか?それならいいんだが……」
心配そうな顔を見せる提督。いつのまにか先程までのぎこちない空気は無くなっていました。
「……提督、先程の案は無かったことにしてください」
「そ……そうか。わかった」
提督は少し驚きながらも、ほっとしたのかゆっくりため息を吐きました。
『……そんなふうに逃げるから本心にも気づかないのよ』
今度は声をあげませんでしたが、空耳ではありません。
そっと後ろに目を向けましたが、やはり誰もいませんでした。
「私は……」
提督が私の目を見ます。
『ここで、あなたが好きですと言えばいい。彼なら手のひらを返して私を選んでくれる』
聞こえる声は、からかうように私の耳元で囁きます。
「私は、提督を応援しています」
ですが、それを振りきるように私は言いました。
「……おい、それはお手上げってことか?」
呆れるような笑い。彼は笑ってくれました。
「すみません……いい案が思い浮かばなくて」
「いや、むしろ俺の問題だ。筑摩に頼らず俺が考えるべきなんだから、謝ることは無いさ」
しょげる私に提督は謝ってくれました。
『大好きな彼は私を許してくれる』
『でも、彼は妹が好き』
聞こえる声に苛立ちを覚えるのは、それが図星だからであることは理解しています。
声への苛立ち、自責の念、そして彼への愛情。
私はそれらを隠して笑顔を作り続けました。
皮肉なことに、それが最善だと思えたからです。
「……では、そろそろ演習に向かってくれるか?」
「……………………ええ、了解しました」
様々な葛藤が続く中、私は執務室をあとにしました。
『素直になりなさい。そうしないと自分自身が壊れてしまうわよ?』
執務室を出ても声は着いて来ました。
「…………っ!」
不意を突くように突然振り返っても、やはり誰もいません。
「…………幻聴だったのかしら」
そう思うしかありません。
「……明石さんのところで見てもらった方がいいのかしら」
もしかしたら頭に支障があるのかも知れません。
そうなれば秘書艦は勿論のこと、最悪の場合解体処分が言い渡される可能性もあります。
「そうなれば……」
明石さんのいる工廠へ足を向けようとします。
しかし、私は思い留まりました。
「……ここで私が検査を受けると、提督に迷惑が掛かってしまう」
『それに、姉さんの邪魔が出来ない』
そう、このチャンスを逃せば……!?
「誰!?」
また、確かに聞こえました。
今度は逃がさないよう、すぐに振り向きました。
「……どうしたのじゃ?」
そこには、怪訝な顔をする姉さんがいました。
今日はここまで
いつも1時間かけて投下する量を2分でやってしまった……
私事ですが、大学生になりました
乙&おめ~
102は「姉が好き」?
>>105よくわかったな。その通りだ!
はい、すみません。脳内変換お願いします
今日はちょっと投下します
2300から少しだけ
あらかじめいっておきます。少なくて申しわけありません
以下投下
「……姉さん?」
「?うむ、我輩は筑摩の姉であるぞ?」
「……いえ、なんでもありません」
確かに声は似ていますが、声の雰囲気が全く異なります。
「…………ふむ」
姉さんは眉間にシワを寄せて、私の顔をジロジロとなめるように見てきました。
「筑摩。もしかしてお主、体調が悪いのか?」
「いえ……特には…………」
そう言いかけて私は思い直しました。
もし、あの囁くような幻聴が演習中に聞こえたら、私は間違いなく皆の足手まといになるでしょう。
それに、休めば幻聴も聞こえなくなるかも知れません。
「…………少し、頭が痛いんです」
仮病を使うようで少し胸が痛みましたが、私は姉さんにそう言いました。
「なんと!大丈夫か?」
少し驚いたような顔で姉さんが私に寄り添います。
私の姉はなんて優しいのでしょう……
『自分の好きな人を奪った姉が優しい?むしろ、その埋め合わせをしているようにしか見えない』
「……どうしたのじゃ?そんなに苦しいのか?」
「…………いえ、少し頭がふらつく程度で……すみませんが、今日の出撃は辞退します」
私がそう言うと、姉さんは大きく頷きました。
「安静にしておくのじゃぞ。ゆっくり休むといい」
「っ…………はい。そうさせてもらいます。提督には姉さんから言って貰えませんか?」
「うむ!早く良くなるのじゃ」
居たたまれなくなった私は、頭を下げて小走りで自室へ向かいました。
私は部屋に戻るとすぐに鍵をかけました。
「…………ふぅ」
そのとたん、私は静かに膝をつきました。
密室にしたことで、言い様の無い安心感に当てられたのです。
今ごろ、姉さんは提督に報告しに向かっていることでしょう。
手を煩わせてしまったことに再び罪悪感を覚えます。
「……………………あれ?」
私は違和感を感じました。
先程までの雰囲気からすると、また声が聞こえてもおかしくなかったはずです。
例えば『どう考えても、姉さんは私を口実に会えることを喜んでいるに違いない。姉さんは私を使える仲人としか見ていない』といったような。
「……治ったのでしょうか」
ふとそう思い、こぼした言葉。それを聞く者は誰もいません。
その言葉がこの空間に溶けきっても、一言も聞こえませんでした。
しかし、治ったとしても今さら戻って、というのも余計迷惑がかかるでしょう。
姉さんと共に演習に出れないことは残念ですが、仕方ありません。
今日はここまで
日が空くのもどうかと思ったので少ないですが投下した次第です
リアルが忙しく、しばらく投下出来ないと思います。申しわけありません
流石に放置もあれなので今夜少しだけ
病んだ艦娘、通称ヤン娘が好きな皆さんこんばんは
キャンバスライフが楽というデマを流した奴の顔を見たい今日この頃。いかがお過ごしでしょうか
この生活に慣れたら定期的に投下できるんで、待ってくれている方がいるのならすみません
以下投下
布団に潜り込むと、体全体に脱力感が生まれました。
ふと時計に目をやると、針は1300を
指しています。
今ごろ提督は、演習の相手の提督に挨拶に向かっていることでしょう。
……そして姉さんも。
「……………」
姉さんのことを思うと、頭が痛くなってきました。
「……いけません」
そう自分に言い聞かせます。
「私は嬉しい。…………私は嬉しい。私は嬉しい。私は嬉しい。私は嬉しい」
これは、喜ぶべきこと。相思相愛の提督と姉さんが結ばれるなんて、秘書艦で妹の私にとったら幸せなことなのです。
言い聞かせるように、何度も唱えます。
『自分を押さえ込んでも何も解決しないわ』
「!!誰ですか!?」
50回ほど唱えた辺りで、また声が聞こえました。
私は布団から飛び出す勢いで体を起こします。
ここは密室。私しかいません。
周りを見渡しても誰もいませんでした。
『気付いていますよね?』
であるにもかかわらず、その声はこの部屋……私の頭に響きます。
「……誰ですか?わかりません」
キョロキョロと首を回しながら尋ねます。
その声はそんな私を嘲笑うかのような笑い声を響かせました。
『フフッ……』
この笑い方。
私は気がつきました。
『この声に聞き覚えが無いとは言わせませんよ?』
勿論です。でも、その至った結論はにわかに信じがたいものです。
「その声は…………」
『私は提督が大好きです』
「…………っ」
間違いありません。
一言一句どころか、トーンまで全く同じ。
疑う余地がありませんでした。
『あなたが自分を受け入れ無いから、こんなことになったのよ』
「…………あなた、ですか?」
そんな他人行儀な言葉はおかしいはずです。
「あなたは……私ですよね」
『いいえ』
その声は冷静に否定しました。
『そうですが……あなたと同じように扱われたくありません』
その声は静かながらもどこか力強く感じるものでした。
『自分を押さえ込むあなたと一緒にしないで』
「私は、そんなこと……」
大して迫力のない声ですが、その言葉は私に深く突き刺さります。
口の中は一瞬で渇きました。
『まだ否定するのですか?』
「私は………………」
唾を飲み込む音が大きく感じます。
私の握った手は酷く汗をかいていました。
『ここで言葉を濁すと言うことは、葛藤があるのですよね?それを隠して姉さんを応援するのですか?』
「っ…………」
口が渇いて喋ることができません。
私は口を閉じたままゆっくりと鼻で息を吸いました。
私は二番目でもいいのです。姉さんの幸せが私の幸せ。それでいいじゃないですか。
そう言い聞かせ、呼吸を整えようとします。
『…………姉さんは、どこも譲ってくれませんよ?』
しかし、それよりも早く追撃がやって来ました。
「えっ……」
自分でもわかります。
ようやく渇いた口から出た言葉には絶望がこもっていました。
私は泣きそうな顔をしているのでしょう。
「そんなこと…………」
私は否定しようとしました。姉さんを一番知っているのは私です。姉さんがそんなことするはずがありません。
ですが、なぜかその言葉は説得力が強く、私は何も言い返すことができません。
『提督は離れていくでしょうね』
「嫌っ!……っ」
私は咳き込みました。
喉の渇きを忘れて叫んだからです。
「…………それは嫌です」
咳が落ち着いてから小さく呟きました。
そうすると不思議なことに、呼吸が楽になりました。
まるで気管につっかえていたものが取り除かれたかのように、新鮮な空気を吸ったような感覚でした。
『……それがあなたの本心よ』
「でも……」
そんなことをすれば、間違いなく姉さんに嫌われてしまいます。
そんな懸念を読み取ったのか、唐突に話題がそれました。
『あなたは、姉さんと提督。どちらをとるの?』
その質問は私の不安定な心に揺さぶりをかけました。
今日はここまで
投下は不定期だとしてもエタらないことを大井っちに誓います
如月可愛い
義理の娘にしたい
今夜に少し投下しますね
にゃしい可愛い
血が繋がって無かったらセーフだと聞いたので義理の娘にしたい
以下投下
「…………私には決められません」
訪れた沈黙が私には溜め息のように聞こえました。
『それは、姉さんに譲る。そういうことですか?』
「……………………はい」
私は自分に言い聞かせながら頷きます。
「私は…っ………姉さんと提督を……応援します」
呼吸が荒くなりながらもそう言いました。
仮病だったにもかかわらず、私の頭と胸にじんわりとした痛みが広がっています。
『…………そうですか』
意外にも、声は追求して来ませんでした。
『……なら、お別れですね』
「…………えっ?…………お別れ……ですか?」
あまりの呆気なさに私は聞き返しました。
『あなたの中にいつまでいても無駄だとわかりました。出ていきますね』
その声を最後に部屋は静まりかえりました。
「なんだったのでしょう……」
私の声が部屋に溶けていった後には、冷たい空気が漂っているだけでした。
「あの声は……」
あの言葉は、私の弱点を知っているかのように的確に心を突いてきました。
そんな声に、私は身を引くことを宣言しました。
してしまいました。
「…………ふぅ」
深呼吸をする気にもなれないほど体は重く、ガス抜きとして溜め息を吐きます。
「……………………」
しかし体は軽くならずに、逆に吐き出した空気で喉が痛く感じるようになっていました。
「…………提督」
無意識に漏れた言葉。私の胸は後悔の念で一杯で、呼吸の仕方も忘れそうになるほどです。
「私はあなたが――っ」
そこから続くはずの言葉は、喉でつっかえて胸に戻っていきます。
その繰り返しは堪らなく辛いものでした。
ここで、私は自分に鎖を巻いてしまったことに気付きました。
「…………会いたい」
焦点が乱れているような錯覚に陥っている中、私の頭はその思いで一杯でした。
「ていとく……」
呟くように呼んでも、提督が来てくれないことは十分わかっています。
彼は、姉さんと共に演習に向かっているのですから。
「てい……とく…………」
提督がいない。そう考えただけで私の体は震えだしました。
布団に倒れ込み、丸くなります。敷き布団のカバーを、爪を立てて握りしめます。
「あぁ……提督………」
もしかして、姉さんと出掛けたっきり帰って来ないのでは……?
そんな考えが頭をよぎりました。
「…………いやぁっ……」
私は枕に顔を埋めて、嗚咽を漏らします。
そのようなことは決してあり得ないのです。ですが、それを否定することは私にはできませんでした。
「…………あら?」
枕から顔をあげると、窓からは月明かりが差しています。時計に目をやると、2200を指していました。
どうやら、泣きつかれて眠ってしまったようです。
「…………!姉さんは?」
辺りを見回しましたが、部屋には私一人だけでした。
「……………………」
もしやと思い、立ち上がった私は窓から外に顔を出しました。
そこからは、港が見えます。あの港です。
「…………あれは」
姉さんはそこにいました。提督と共に。
あの場所にこの時間……
「だめ!」
無我夢中に叫びました。自ら巻いた鎖を引きちぎり、押し込めていた本音が爆発したのです。
しかし、提督も姉さんも振り向きませんでした。
「だめ……提督は私の……!」
足元が崩れ落ちたかのように、私は膝から崩れ落ちました。
立とうとしましたが、震えて立つことが出来ません。
「あぁ…………どうして」
自分が如何に提督のことを思っているのか理解しました。
「私ではなく姉さんを……」
具体的に言うと、姉さんに殺意を抱くほどです。
ようやく筑摩がおかしくなり始めたところで今日はここまで
もう少し時間がまとまった頃に戻ってきます
具体的には来週末ぐらいかと
では
もっと私を病ませてもいいのよ?
>>133駆逐艦のような小さい子が病むはずないだろ!いい加減にしろ!
今日は投下しませんが、言い忘れていた警告をひとつ
普通に考えれば、旗艦でも轟沈するのは明白な事実ですよね
最近のヤンデレスレの増加傾向は良いですね
この調子でヤンデレ絵も増えてくれないでしょうか。特に大井っち
以下投下
殺意。
純粋なそれは、私からは離れた場所で喜んでいるように見える姉さんに向けたものです。
「姉さんに盗られる……」
今まで自分さえも欺いて隠し通してきた姉さんへの感情はどす黒く、姉さんを愛していると言っても過言では無かった以前の私が見たら、目を疑ったでしょう。
…………いえ、もしかしたら、どこかで納得していたかも知れません。
そう思えるほど私は自分の心境の変化を当然のように受け入れていました。
「提督は、私ではなく姉さんの方がいいのですね」
当然知っています。つついたのは私とは言え、提督から打ち明けてくれたのですから。
しかし頭では理解していたはずの結果を目撃してしまったことが、私を歪めて……というより、素直にさせたのでしょう。
姉さんは、提督が何時に寝るか知っているでしょうか。私のノックで目覚めてくれるのを知っているでしょうか。何が好きで何が嫌いか知っているでしょうか。
このすべてを知っているのは、私だけ。最も提督のそばにいた私だけなのです。
提督は姉さんのものではない。
強く思う自分がいました。
しかし遅すぎました。
提督は自分の手の届かない場所にいるのです。
そして、くっつけようとしていたのは私。
私は自分がキューピッドではなく、ピエロだと思いました。
「提督ーーー!!」
私は、先程よりも大きな声で叫びます。
しかし、提督は振り向いてくれませんでした。
「どうすれば……」
窓から離れて部屋を見渡すと、枕元に私の艤装がおいてありました。
「…………」
私は見つけるや否や、無我夢中でそれを装備しました。
「……仕方ないんです」
悪いのは姉さん。あの人のことを何も知らずに私から奪い取っていこうとする姉さんが悪いのです。
そう言い聞かせて標準を定めます。
極限まで鍛えられた技術を持つ私には、たかだか数十メートル先のこちらに気づいていない標的を撃つことなど容易いものです。
「さよなら、姉さん」
発砲とほぼ同時に標的は、音もなく崩れます。
提督が倒れた姉さんに必死で呼び掛けていますが、姉さんは動きません。
これで、姉さんはいなくなりました。
「…………あはっ」
提督の隣は私のもの。
そう考えると、清々しく感じます。
私は、心の底から笑い続けました。
「筑摩!」
「…………提…督……」
目を開けると提督の顔がありました。
「…………大丈夫か?」
心配そうに私の顔を覗く提督。私は状況が飲み込めません。
「……姉さんは」
「利根か?利根ならそろそろ演習から戻って来るだろう」
「演習…………!」
意識がはっきりとした私は窓に振り向きます。
そこからは、赤い斜陽が差し込んでいました。
「…………あれは」
夢だったのだと理解しました。
「おかしな夢でも見たのか?ずっと笑っていたぞ」
提督がそっと私の頭を撫でます。
「…………いえ、なんでもありません」
夢だったことに安心している自分がいます。
夢の中とは言え、提督に姉さんの死体を見せてしまったことです。
目の前で部下が撃たれたら、この人は悲しむでしょう。それは避けなければなりません。
「…………提督、私は大丈夫です」
「……そうか?」
笑顔を見せましたが信じていないらしく、疑り深い目で私をじろじろと見る提督。
提督に見られている……
そう考えると、その視線が堪らなく心地よく感じました。
「…………とはいえ、残ったのは正解だったな」
しばらくすると提督は、顔を緩ませて。
「……残った、とは?」
真剣な眼差しで、私は体を提督に寄せました。
「あ、あぁ。筑摩の体調が悪いと聞いたもんで、向こうに無理を言って俺はここに残ることにしたんだよ」
恥ずかしそうにそっぽをむいた提督を見て、私は首をかしげます。
「…………姉さんは、どうなったのですか?」
「大破だと。向こうの提督から結果が送られてきたんだが、どうやら大負けしたらしい。まぁ、当然演習だから命に別状はないから安心しろ」
しかし提督は、大したことでもないかのように軽々しく言ってのけました。
「……………………そうですか」
私は素っ気なく返事をして、笑いを必死に押さえ込みます。
提督は、大破した姉さんよりも私のそばを優先したのです。
つまり、私の方が大切にされているということです。
「……提督、私はそれほどまでに大切ですか?」
「あぁ、そりゃ当然だろ」
「…………やっぱり」
自然と笑いがこぼれます。
提督は、私のことを誰よりも大切だといってくれました。
これはつまり、姉さんよりも私のことを愛しているという証拠です。
提督が私を見ます。
提督、大丈夫です。あなたの本心はしっかり私に伝わっていますよ?
そうアイコンタクトを送ります。私が提督の心がわかったのですから、私の考えが提督にわかるのも当然のことです。
「……でも、なら提督は」
姉さんに惹かれてしまったのでしょうか……
「……あっ」
眉間にシワを寄せて考えるうちに、私はひとつの結論にたどり着きました。
姉さんに洗脳されているのかも、というものでした。
「…………筑摩?」
そうです!どうして今まで気がつかなかったのでしょうか!
おそらく私にフラれたと勘違いした提督は、弱気になった心を姉さんに見せてしまったのでしょう。
そこに姉さんは漬け込んで……
そうでなければ、こんなことありえません。
「……提督」
「ん?どうした?」
私の顔を覗きこむ提督の目は綺麗で、洗脳されているなどと思えないほどまっすぐ私を見てくれています。
こんな人に姉さんは…………
「必ず、助けますからね?」
今度こそ。今度こそ息の根を止める。
私は決意しました。
「…………ところで、こんな状態で頼むのは気が引けるんだが、一応聞いてくれ」
1度咳をして、提督は話を変えました。
頼みづらいのか、前置きを言い終えた提督は私から目をそらします。
「なんでしょうか」
布団から完全に出て提督の顔の正面まで動きました。
「その…………今回の演習で利根がケッコンまで練度が足りるかと思ったんだが、どうやらもう少し足りなかったらしいんだ」
「……はい」
提督の視線を逃すまいと精一杯で返事に遅れてしまいましたが、私はしっかりと一言一句聞いています。
「それで、経験を積むために出撃をしようかと思ったんだが、利根は筑摩と二人で行きたいらしいんだ」
提督は小さく笑いました。
「……そうですか」
「出撃先はキス島。姉妹水入らずで行っても大した敵はいないから安心しろ」
敵は、深海棲艦ではありません。もっと大きな敵がいることを知っているのは私だけ。
「はい、必ず討ち取ります」
私は気合いをいれました。
やめて!たった二人での出撃で背中を預けたら、闇の声でモンスターと化した筑摩に骨の髄まで燃え尽くされちゃう!
お願い、死なないでのじゃロリ!あなたが今ここで倒れたら、提督や筑摩との約束はどうなっちゃうの? 体力はまだ残ってる。ここを耐えれば、B勝利で勝てるんだから!
次回「のじゃロリ死す」。デュエルスタンバイ!
次回の投下で完結と考えているんですが、その投下が来週になるかな……と
ご了承下さい
旗艦の轟沈があり得ないなんてことはあり得ない。いいね?
あ……明日(小声)
今日思い付いたエンディングへ切り換えているだけです(震え声)こっちの方が綺麗に終わりそうなんで
かといって別にハードルを上げるつもりはないんで、暇なときに見ていただけたら……
以下投下
結局その日は、姉さんとは何事もなく1日を過ごしました。
夜は、高翌揚感のせいでなかなか寝付けませんでした。
翌日、いつにも増して気が高まっている私は主砲を綺麗に磨いていました。
今日で、私の心につっかえているものが解消される。
そう思うと、自然と笑みがこぼれます。
「嬉しそうじゃな」
姉さんも楽しそうに話しかけてきます。
「ええ。特別な日になりそうですから」
姉さんのために念入りに磨きます。
撃ち損じは許されません。
諸悪の根源の姉さんの息の根を確実に止める。これが私の任務です。
「!か、からかうでない!」
何を勘違いしたのか、姉さんは顔を赤くして激しく首を振りました。
「い、いいか?筑摩よ」
「はい」
「べ、別にレベルが上限に達するだけじゃ。それ以外に何かあるか?」
「いえ、ありませんね」
機嫌が良い私は、何をするわけでもなく笑いました。
そう。上限に達するだけで何もありません。
もしかしたら、達することも無いかも知れません。
「なんじゃその顔は……おっ」
目を泳がせていた姉さんが小さく声を漏らしました。
「そろそろ出るとするかの」
時計を見て姉さんは立ち上がり、部屋の扉を開けました。
「そうですね」
私も後に続いて部屋を後にしました。
「利根」
海へと通じる門の前に、提督が立っていました。
「提督が直々に見送るとは……」
恥ずかしそうに笑う姉さん。
それに釣られて提督の口角も少し上がりました。
「………………」
私の中にどす黒い感情が芽生えます。
「どうした?筑摩」
「………………いえ、なんでもありません」
上達した作り笑いで提督を安心させます。
「提督。行ってくるぞ」
「ああ」
提督は笑顔で敬礼します。
よほど姉さんと離れるのが嬉しいのでしょう。
「筑摩、利根を頼むぞ」
今度は私に向かい、敬礼をしました。
「了解です」
私は静かに、けれども力強く敬礼を返しました。
後始末は任せて下さい。
必ずや提督の本心も解放します。
「では……航空巡洋艦、利根。出撃するぞ!」
姉さんの宣言と共に海へ出ます。
海面に着地した私は、進路を北方海域へと向けた姉さんに続きました。
「二人と言えども、我輩と筑摩じゃ。奴等の旗艦を叩けば勝てるの」
海域が近づいて来たのか、前を走っていた姉さんが口を開けました。
私は目の前のこと――つまり、提督を誑かすこの姉をいかにして葬るか――で手いっぱいで、姉さんの声で我にかえりました。
「……そうですね……その仕事は姉さんに任せます」
曖昧に返答した私は主砲の銃口をそっと撫でます。
戦闘狂というわけではありません。
昨日から表に出てきた私の本性を理性で、抑え続けて今に至るのです。
早く消さないと。
その思いでいっぱいでした。
「うむ!この利根に任せるのじゃ!…………おっと」
姉さんが速度を落としていきます。
遠くをみると、敵が見えました。
「…………姉さん、私は露払いをします」
「…………ふむ?」
「姉さんが旗艦を抑えて、私が僚艦を叩く。そういうことです」
「…………おぉ!なるほどの!」
言いたいことが伝わったようで、姉さんは大きく頷きました。
「では、我輩に任せるとよい」
胸を張る姉さん。首尾は上々です。
「……そろそろ始めるかの」
「はい」
最後になるであろう会話を打ちきり、姉さんは速力を上げました。
狙うは姉さんの頭ただひとつ。
「その艦もらったぁ!」
姉さんは、大声をあげながら主砲を撃ちます。
砲撃を受けた軽巡は、呆気なく崩れてるように海に落ちていきます。
「やったぞ筑摩!」
振り返らずとも私にはわかります。今の姉さんは笑っているのでしょう。
早くしなければ。
姉さんは一撃で旗艦を沈めました。
そんな姉さんを後ろから眺めているだけで虫酸が走ります。
「………………忌々しい」
呟いた声は戦場で聞こえるはずもなく、私の妬みは海に落ちて波紋を広げました。
その後ろ姿にそっと銃口を向けます。
「…………これで」
邪魔者はいなくなる。
「何をしておる筑摩!早よ敵を減らすのじゃ!」
「………………」
今。このタイミングしかない。
「筑摩!」
「はい姉さん♪」
その引き金は今までので一番軽く、その発砲音は気持ちのよいメロディでした。
「……………………な――」
吹っ飛んだ姉さんは、暫くすると立ち上がろうとします。
すぐにもう一発。
「っ!?なぜ――」
噛み殺したような唸り声を上げる姉さん。
さらにもう一発。
さらにもう一発。
またもう一発。
「~♪」
何度か数えていませんが、暫くすると着弾音が液体が跳ねるような音になりました。
「…………そろそろでしょうか」
様子を見て主砲を降ろしました。
赤黒い液体が服に浸るまで染み込んで、かろうじで頭がわかるくらいです。
「………………ふふっ♪」
私の姉でしたが、こうなっては何も出来ません。
提督と話すことも、提督の鍵を持つことも、一緒に食事をすることも
何も出来ません。
「これで、提督は私だけを見てくれる…………」
近寄ってそれを見下ろすと、目があいました。
目からは、血と共に流れる液体。
それが何を物語るのか私には興味の無いこと。
「…………あはっ♪」
今までにない達成感に酔いしれていました。
だから、後ろからの魚雷に気が付きませんでした。
「っ…………これは」
不意を打たれた私の体は10メートルほど
飛ばされ、海面に叩き込まれました。
足下が熱い。
立ち上がろうとしますが、力が入りません。
「………………えっ」
さっきまで火照っていた体から一気に熱が出ていくのを感じます。
足に視線を向けると、膝から先が無くなっていました。
「なにが…………」
辺りを見ると、遠くに飛んでしまった主砲と副砲。
そして……
『姉さんを消してくれてありがとうございます』
それを拾い上げた彼女を見て、今度は背筋が凍り付きました。
『やはりけじめは私がつけようかと思ったのですが、手間が省けました』
「あなた…………誰ですか?」
近づいて来た声の主は、私を見下しながらクスリと口角をわずかに上げました。
その声に聞き間違いはありません。
私を正気にさせた……させてくれた声。
『私からすればあなたが誰かわかりません』
「私は……」
『あなたは、偽者』
吐き捨てられた言葉を浴びた私は、上を睨みます。
「ちっ!違――」
『提督への愛なんて持ち合わせていない。 だって、それが正しいんですから』
「いえ!この気持ちは本当です!」
『……かわいそうに』
優しい声色が、却って恐怖をあおります。
「やめて下さい!提督が私を待っているん――」
足に襲いかかりますが、一蹴りで私の叫びは消されてしまいました。
『偽者のあなたの愛なんて知れたもの』
その声は儚くも力強くも聞こえます。
「…………私が…………偽者?」
『そうですね。なんたって提督がずっと待っているのは……』
逆光で見えませんが、私にはわかります。
今銃口を向けた彼女は笑っていることでしょう。
「!やめ――」
『私ですから』
『提督……大丈夫ですか?』
「……………………筑摩」
心配そうな顔で筑摩が俺のそばまで寄ってきた。
あれから毎晩ここで海を見ていることは、彼女にはお見通しだったらしい。
「いや…………なんでもないさ」
自分にもそう言い聞かせて、俺は波止場の防波堤から飛び降りた。
『姉さん…………ですね』
「っ…………あぁ」
あの日、泣きながら帰ってきた筑摩の報告を受けて俺は崩れ落ちた。
筑摩に想いを打ち明けられなかったあの夜。彼女は俺が落ち着くまでずっといてくれた。
それからというもの。いつしか俺は彼女のことを目で追うまでになっていた。
そして彼女に気が傾き始めていた頃に、あの事件。
あの時俺は、本当に世界が歪んで見えた。
『…………提督?』
「……いや、なんでもないぞ」
筑摩がいなければ一生項垂れていただろう。
共に乗り越えていきましょう。
涙を流しながら諭す筑摩を見て、俺は踏ん張ったようにも感じる。
「あれから5年……か」
筑摩と二人三脚で駆け抜けた年月は、悲しみを薄れさせながら、逆に筑摩への再熱は帯びていった。
「…………なぁ」
利根はもう許してくれるだろうか。
俺が前に進むことを。
『…………提督?』
「………………筑摩……話があるんだ」
これで終了ということで……はい
もう何も言うまい
明日依頼出してきます
お休みなさい
このSSまとめへのコメント
いい感じにドロドロ煮込まれてるね、期待。
魚雷の下りがよくわからん