男「何てことだ、幼馴染みの頭がおかしくなってしまった」 (26)

男宅


男「…それは本当かい?」

男母「ええ。紛れもない真実よ」

男「そんな……」

男「あの幼馴染みが、交通事故の後遺症でおかしくなっただなんて…」

男母「向こうも相当ショックだったみたいでさ」

男母「…男、あんただけは平常通り頼むわよ」

男「あ、ああ、うん」

男「まだその『事故後の幼馴染み』を知らないから、保証は出来ないけど……やってみるよ」

男母「お願いね、本当に……」


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男の自室


男「ふぅ」

ドサッ

男「…最悪だ」

男「俺は至極普通の生活を望んでいたってのに、
こんな仕打ちはあんまりだろう」

男「よくも知らない赤の他人なら良い…」

男「だが、幼少の頃から一緒に育った…
ほとんど姉弟のような、家族同然の身内に不幸が降りかかるなんて……」

男「……」チラッ

時計『21:22』カチッ… カチッ…

男「明日は… 学校か」

男「…朝、家に行ってみるかな」


男「……!」ビクッ


男「窓に誰か…! って…、そんな訳無いか」

男「疲れてるようだ… もう寝よう…」





幼馴染み「……」


時計『2:00』カチッ…


男「……」


男「…………」


男「……………………」


男「…………………………………………寝付けない」

男「不安でしょうがない。
気持ちを整理するために、外の空気でも吸いに行くかな」

男「上を羽織って、風邪を引かないようにして…っと」

男「…よし、行こうか」

公園


男「おっと」

男「ここは… 近くの公園か。自然に足が向いてしまったな」

男「丁度いい、そこの自販機でジュースでも買って
ベンチに座って考えるとしようかな…」


男「んー、最近の自販機は色々ありすぎて困るなぁ」

男「どれにしよう…何でもいいけど、
かといって冒険する気には……」

「一番上の右端、それ、美味しいから」

男「…えっ?」クルッ



幼馴染み「エヘヘ…久しぶり、だね」





男「あ、あ……」

幼馴染み「開いた口が塞がらない?」

男 (…違う! 足がすくんで動けない、だ!)

男「し、心臓に悪い声の掛け方をするなよ」

幼馴染み「あ、ごめん…配慮が足りなかったね……」

幼馴染み「そうだよね、今は深夜の2時だもんね」

男「あ、ああ」

男 (そうじゃない…! 君に足りないのは……!)

幼馴染み「……もしかして」

幼馴染み「何で私が退院したての体で、こんな時間に出歩いてるのか…
その説明を欲している?」

男「…!」

幼馴染み「ふふっ…顔。正解って顔してるよ」

男「…そうだ。こんな時間に女の子一人で、まして君は退院したばかりだ。
何かあったらどうするつもりだ」

幼馴染み「私に何かあったら、男はどうするの?」

男「…は?」

幼馴染み「答えてよ。私、知りたいな…」

男「今は質問してる場合じゃない。俺は幼馴染みの身を案じて……」

幼馴染み「えへっ」

男「え?」

幼馴染み「…ううん、ちょっと嬉しくて、つい……」

幼馴染み「そっかー、男は私のことを案じてくれているんだね…」

男「そうだ、当たり前じゃないか!
昔からずっと一緒で、互いに助け合ってきた仲だ!」

男「だからこそ、俺は今の君が心配で……」

幼馴染み「ねえ」


幼馴染み「今の私の何が心配なの?」


男「えっ…そ、それは体とか、事故の」


男「─────後遺症のこと、とか」


幼馴染み「……」


幼馴染み「…………」

男「…幼馴染み?」

幼馴染み「男も… 周りの大人共と同じように…
私を異端視するのね……?」

男「異端視って…、そんなんじゃないよ」


幼馴染み「嘘ッ!!」


幼馴染み「男もそうやって私のことを中傷するんだ!!!」

男「お、おい…」


幼馴染み「また、頭がおかしくなった頭がおかしくなったって傍で喚くんだッ!?」

幼馴染み「違う、それは違うのに! 私は至ってクリアな脳味噌で物事を判断、咀嚼して吐き出しているだけなのに周りはそれを理解出来ない、しようともしないッ!
周りの大人は腐った脳味噌で物事を視ているんだわ、そうに違いない!!」

幼馴染み「そこらの腐った蜜柑共と私を同一視しようとすること事態間違っているというのにいいいいいいい!!!」


男「ひっ……!」

いつも穏やかな顔で微笑んでいる幼馴染み──────。


──────目の前には歯茎を剥き出しにして喚く幼馴染み。


文武両道、物腰柔らかで聡明で、
皆の人気を一手に集めていた幼馴染み──────。


──────おかしなことを口走り、血走った眼で俺を睨む幼馴染み。





俺の大好きな幼馴染み──────。





──────得たいの知れない、幼馴染み。

男 (こっ… 怖いッ!)

男 (目の前の女が怖い、あの優しかった幼馴染みをここまで変貌させた現実が怖い、そこらにありふれている不幸で日常を奪った運命が怖い──────!)


幼馴染み「……あ! …ごめんね。また騒いじゃったのか……」

男「……幼馴染み?」

幼馴染み「…こういうこと、事故に遭ってからよく起こるの」

幼馴染み「不意に世の中全てが憎く思えて、私は特別だって思い込んでシャウトする…。
何が憎くて、何が特別なのかは知らないけど」

男「頭を打ったのか?」

幼馴染み「ううん、全身」

男「それじゃあ、頭も打ってることになる」

幼馴染み「そうだね、じゃあ、頭も打ってる」

男「…鎮静剤は?」

幼馴染み「打ってる…フリしてる。だって怖い…
注射の針が…」

男「……弱くなったな」

幼馴染み「そうかな?」

男「ああ…」

男「でもちゃんと注射を打たなくちゃ」

幼馴染み「男がそういうのなら…」

男「…明日は学校、来れるのか?」

幼馴染み「行く」

男「そうか… 来るのか…」

幼馴染み「事故に遭ったって皆に、知らせてなかったから…」

男「どうして?」

幼馴染み「お見舞いとか迷惑だし。来るのなら男が良いし…
だから、男のお母さんにだけ伝えておいたんだけど」

幼馴染み「…入院中、一回も来なかったよね」

男「それは、母さんが気を利かせてくれたんだと思う…
だって、俺が知ったのは今日だけど、
話を聴いてから耳鳴りが止まない…」

幼馴染み「それでも、一回は来てほしかったよ。
入院中、私は…」

男「…ごめん」

幼馴染み「許さないけど、良いよ」

男「…それじゃあ、明日も早いし」

幼馴染み「うん、明日ね」

男「あっ……」

男 (しまったな、どうして幼馴染みがここに居たのか
聞きそびれた)

幼馴染み「…うん?」

男「や、何でもない」

幼馴染み「そっか」

男 (……まあ、どうでもいいか、そんなの)

幼馴染み (男の顔、変わったな。
昔と比べて、随分と大人になったカンジ…)

幼馴染み (……)

男宅


ガチャッ


男「……妹」

妹「深夜に外を徘徊とか、いよいよ老人染みてきたね。
ひょっとして、もう枯れてる?」

男「そんなんじゃない。ちょっと考え事をしてたんだ」

妹「ふーん…、そういう割りには雌臭いけど?」

妹「クンクン… うん、やっぱ臭い」

男「なに…?」クンクン

男「うわ、くさっ……」

妹「ずっと前に嗅いだことのあるような、
甘ったるい臭いだね。きっと脳味噌スイーツ(笑)女子だ」

男「スイーツというか、タイ料理……?」

妹「では、その女子とこんな夜中にナニヤってたのか三行で」

男「…会って話しただけだよ」

妹「わざわざ深夜に? 公園で?」

男「おい、公園でとは一言も……」

妹「あ、う、えっと…そ、そう!」

妹「公園の臭いがしたから!」

男「変な奴だな、お前は…」

男「大体、俺が何しようが放っておいてくれよ。
女の子にいつ会って何を話そうが、勝手だろ?」

妹「それこそ変だよ、御老人」

妹「家族の異性絡みの話は、同じ家族として
散々ネタにしてこそ輝くダイヤモンドでしょ!」

男「はぁ?」

妹「という訳で…、朝の食卓が楽しみだねぇぇぇぇ、御老人ーッ!」スタコラサッサ

男「あ、おい! …行っちまったか」

男「面倒な女だ… まだマシなレベルで」

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続きは夕方になります。
ごめん申し訳すいませんなさい。

再開します。
そんなに重たくはならないと思うので大丈夫ですよ。
よくあるお話です。

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