男「理想の女の子に恋をした」 (66)
男「僕、前から女さんのことが好きでした、付き合ってください!」
女「……」
男「へ……返事は……」
女「ごめんなさい」
男「……うわあああぁぁぁぁぁ!」
瞬間、世界は暗転した
気が付くとそこは薄暗い世界
時刻は午前4時、僕にとってはまだ夜
男「……夢か」
男「……っ」
目覚めてもなお、胸の鼓動は収まる気配がない
男「やっぱり、眠り浅いなぁ……」
それもそうだ
彼女からの返事は今日
男「はぁ……振られるのかな……僕……」
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甘々系かな?
僕は生まれて初めて恋に落ちた
高校一年、冬のことだった
初めて会ったのは駅の近くにあるレストラン
「いらっしゃいませ。お一人様でよろしいですか?」
彼女はそこでアルバイトをしていた
ハキハキと仕事をこなす彼女は、ポニーテールに縛った髪を背中で揺らしていた
その整った容姿は、僕にとって、まさに理想の存在そのものだった
そのレストランのコスチュームというのがまた男性の目を引く代物であった
やや胸元が強調され、ウエストにかけて細いデザインなせいか、女性らしい身体の特徴をはっきりと見て取れる
また彼女の身体は女らしさそのものだった
簡単に言うと、胸が――豊か
高校一年生とは思えない体つきをしていた
それからも、何度かそのレストランに足を運んだ
行くたび、ファミリー向け風のレストランなのに男性の一人客が多かったのはこのややエロいコスチュームのせいかもしれ
ない
>>2
そうとも限らない
高校二年生、春
新学期が始まる
新しいクラスに人々は一喜一憂し、僕もその例に漏れなかった
それもそのはず、前年度から同じクラスの男子が一人しか居ない
つまりは、新しく友達を増やすことを強いられているのだ
男「友……二人になっちまったな」
友「うむ……だが俺は前からお前のことが好きだからな、一緒で嬉しいぜ!」
男「お前、ホモなのか……?」
友「そうじゃねぇよ、友達としてだ」
はぁ……と友が溜息を着いた時、見覚えのあるポニーテールが目前で揺れる
男「あれは確か……女さん……?」
友「どうした、知り合いか?」
男「いや、ちょっと知ってる人が居て」
何度かレストランに足を運んでいることもあり、その都度オーダーを取りに来てくれるお気に入りの店員の名前など覚えてしまう
向こうは僕の事には気づかない様子だ
彼女にとって僕はただの一客でしかない
その後、食堂へ行くと彼女は一人でパンを選んでいた
話しかけるべきかやや悩んだが、仲良くなりたいという一心で声をかけた
男「えっと、女さんだよね?」
女「へ?そうだけど……えと、ごめん、まだ名前覚えてなくて」
僕は彼女に名前を伝えた
女「じゃあ、男くんって呼ぶね」
男「うん、よろしく」
女「それにしても、初日なのに私の名前なんてよく覚えてるね」
男「実はお気に入りの店員さんで、あなたのために頻繁に通ってました!」
なんて言えるわけがない
その日の放課後、僕は例のレストランを訪ねてみた
女「いらっしゃいま……あれ、……男くん?」
男「あはは、どうも」
女「もしかして、私がここでバイトしてるの知ってた?」
男「前に、何回か来てたからね」
女「そっか、気付かなくてごめんね」
それから僕は彼女にとってやや特殊な客になった
親が出張で家に居ないことが多い僕は次の日からも何度かレストランで食事をした
大抵の日には彼女はそこにいて、オーダーを取ってくれた
女「……これ、いつも来てくれるからアイス、サービス……」
彼女はコソコソと僕の耳元で囁く
男「いや、でも……」
女「いいのいいの、私のポケットマネーからレジにお金入れとくから」
女「……あなただけだからね、秘密だよ?」
秘密という響きが僕の脳を刺激する
彼女からのアイスは格別に美味しかった
次第に学校でも話すようになった
初めて同じクラスになった友人の中では一番話す時間が長かっただろう
時には一緒に昼食をとったこともあった
男「いつも同じパン食べてるけど飽きたりしないの?」
女「うん、美味しいし、ぜんぜん飽きないよ」
男「そんなに美味しいの?」
女「ちょっと食べる?」
男「い、いいの?」
彼女は僕に食べかけのパンを差し出した
男「さ、さすがに」
女「あれ?食べないの?」
男「じゃあ、頂きます」
女「どうぞ、召し上がれ」
僕は彼女の食べかけのパンに少しだけ齧りつく
男「……ホントだ、美味しい」
女「でしょ?」
男「僕も今度買ってみるよ」
女「……」
男「……どうした?」
女「あれ、もしかして、間接キスしちゃった!?」
男「ええっ!今更!?」
女「わざとじゃないんだよ!?……ま、いいよね!友達ならそれくらいする気もする」
うんうん、と自分を納得させている
男(実は男慣れしてるのかな……複雑な気持ちだ……)
授業も始まり、新しいクラスに次第に慣れてきたある日
友「お前さ、もしかして、女さんのこと好きだったりする?」
男「……え?」
そんなこと、考えたこともなかった
美人でさっぱりした性格の彼女には憧れるが、僕なんかが恋人にできる存在じゃない
男「……自分でもよくわからない」
友「でも気が合うみたいだし……」
男「僕が付き合うなんて……」
友「……勇気だせよ」
男「え?」
友「俺の知ってるお前は、心優しいが、もっと勇気のあるお前が好きだ!」
男「……」
今思えばその時からだろう
彼女を恋愛対象として意識し始めたのは
もちろん彼女のさっぱりした性格と淡麗な容姿に惹かれていたのは当然だ
ただ、自分に自信が無い
せっかく理想のような可愛い子と仲良くなれたのに、下手に告白などして断られてしまえば、きっとそれっきりだ
そんな不安が自分の中で蠢いていた
それから数日
ひょんなことに、彼女とゲームショップで遭遇した
それも、彼女が居たのはガンシューティングのゲームコーナー
女「あれ……男くん……?」
男「女さん、こういうゲームやるんだね」
女「え?いや、これはその……」
男「俺も好きだよ、バイオハサードとか」
女「ホントに!?あたしも好きなんだよ!」
男「結構趣味合うよね!」
女「そーだね!……でも、全然女の子らしくないよね……あはは……」
男「そんなの関係ないよ」
女「……フフッ……」
男「?」
女「今の、海パンいっちょのお笑い芸人みたいだったよ」
女「ぷっ……だめ……堪えられない……」
彼女は爆笑していた
そんなに……面白いか……?
女「でも、ありがとっ、また今度一緒にゲームでもしようね」
趣味や価値観が合う僕達はその日から、二人きりで話す時間が増えていった
一緒に展望台まで行ったり、買い物に行ったり、ゲームセンターへ行ったり
僕の思いに沿うように、僕の理想の関係は着々と進んでいった
僕は堪えられなくなった
自分の思いを、彼女に伝えたい
そうだ、伝えよう
もう我慢なんて出来ない
僕は彼女を放課後の屋上へ呼びだした
掃除当番で遅くなってしまった僕が屋上の扉を開けると、そこには既に彼女が立っていた
夏を感じさせながら吹く暖かな風
スカートと長い髪がひらひらと揺れていた
女「えと、話って……なにかな?」
男「……あ、えっと……」
やっぱり、やめよう
せっかく仲良くなれたんだ
わざわざそれを破壊することに何の意味がある?
そもそも、まだ早いって
僕はここにきて怖気づいてしまった
男「……」
女「……どうしたの?」
男「あのさ」
――待て、やめるんだ
男「僕さ……」
――でも伝えたい
僕の中では対極する2つの思考はぶつかり合って摩擦で体温を上昇させていた
男「僕、前から女さんのことが好きでした、付き合ってください!」
言ってしまった
女「ホ、ホントに!?」
男「本当です」
女「……え、えっと」
男「ダメ……かな?」
女「あ、あのね、私、その、告白されたのなんか初めてだから、ちょっと、戸惑ってて」
女「えと、私、ずっと男みたいだって言われてたから……こんなの初めてで……」
女「……」
女「……ちょっとだけ、考えさせてもらってもいい?」
結局、僕の人生初の告白は保留の形で終わった
明日改めて伝えると言われた
きっと明日の今頃には結果がわかってる
あぁ……僕のベクトルはもう彼女の方向にしか向かない
数学の予習などできたものではなかった
夜もドキドキで眠れない
やっとのこと眠りに落ちたのが午前3時
そして、時刻は午前4時
悪夢で、目覚めた
重いまぶたをこすり、僕は制服の袖に腕を通す
結局1時間しか眠れなかった
返事はいつ伝えられるのだろう
朝、なわけない
昼、かもしれない
でも多分放課後……
ああ、待ち遠しいけど来てほしくない時間
高校入試の合格発表当日でもこんなにドキドキしなかった
教室に入ると彼女はそこに居た
放課後、返事を伝えると言われた
その後のことはあまり覚えていない
もう、空気抵抗の無い空間で玉を壁に衝突させている場合じゃない
とりあえずここまで
夜に続き投下する予定です
勿体ぶったところで終わって申し訳なかったです
続き投下します
そしてとうとうやってきた放課後
これで僕の人生が大きく変わる気がした
例によって掃除当番で遅くなった僕が昨日と同じ屋上の扉を開ける
そこには、やはり彼女のポニーテールが風に揺られていた
男「お、遅れてゴメン」
女「いいよ、今日は私が呼び出したんだし……」
男「……」
女「……」
しばらく沈黙が続いた
大太鼓でも叩いているのかと思うほど鼓膜まで伝わる鼓動を抑えながら僕は口を開いた
男「……それで、返事は……」
女「……その……」
男「……」
女「……ごめんなさい」
女「やっぱり、今までみたいに、友達のままでいよ?」
女「私、このままでいいと思うの」
あぁ……やってしまった
女「このくらいの距離がちょうどいいよ」
これは本当にやってしまった
女「きっと男くんが私の事好きなのもこの距離だからだよ」
この距離……
女「私、ホントは普段よりもっと、女の子らしくないんだよ」
女「髪を長く伸ばしてるのも女の子らしくしなきゃって思ってるからなの」
女「男くんが私の事、気に入ってくれるのも、きっと友達だからだと思う」
女「だから、ごめんね」
男「そ、そう……」
女「……」
女「……それじゃあ、私、帰るね」
気まずい沈黙に耐えかねたのか彼女は扉へと向かう
男「……納得出来ないよ」
女「……え?」
彼女は僕の方へ振り返る
男「僕は……女さんのさっぱりしてて、気を使わないで仲良く出来るところに惹かれたんだよ」
男「それに、女の子としてもスゴく可愛いよ」
女「それ、ホントに思ってるの?」
男「思ってなかったら言わない」
この綺麗な彼女のどこが女の子らしくないのか
女「でも……」
僕はもう、耐え切れなくなった
彼女の方へ足を進める
彼女は何事かと僕の方を見ている
僕は彼女が手に届くところまで距離を詰めた
女「ど……どうしたの?」
僕はあろうことか、彼女を抱きしめた
女「~~~~~~~っ!」
彼女は体を固くさせたが、抵抗はしない
男「本当に好きなんだ、君と居ると、スゴく幸せなんだよ」
男「女らしくなくて自信ないとか、言わないでよ」
男「……もし本当に嫌だったら殴ってくれて構わない」
女「……」
女「……本当に私でいいの?」
男「君じゃないとダメ」
女「女らしくないよ?」
男「そんな君が好き」
女「子供の頃とか、男の子だと思われてたんだよ?」
男「昔のことは関係ないよ」
女「私、いろいろダメな所ばっかりだよ?」
男「俺、ダメなところも全部好きだよ」
女「え……えぇえええええ!?」
男「そんなに驚かないで欲しい」
女「……色んな子にそんなこと言ってるんじゃないの……?」
男「これが、僕の初恋だよ」
彼女はなんだかモジモジし始めた
女「……それに、私、お尻おっきいよ?」
男「むしろウェルカム」
女「……もう……」
抱きしめた彼女の体温が上がるのを感じた
そして、抱きしめたままでも分かるほど顔を赤く染めて言葉を紡いだ
女「……ホントはね……私もね……男くんのこと好き……」
男「……!」
女「男くんのこと、すっごくすっごく好き……!」
男「そこまで言われると照れるよ……」
女「でもね、だからこそ、怖かった。告白して振られちゃったらもう友達には戻れないって思って……」
彼女も同じことを考えていたと知って少し嬉しくなった
女「……全部好きとか言ったんだから、後になって文句言わないでよ?」
その後も数分抱き合ったままだった
帰りは一緒に帰ることになった
彼女の家から数分歩いたところが僕の家だった
男「あ、あのさぁあ、手、繋がない?」
女「て、手ぇ……!?」
男「いや、嫌ならいいんだよ?」
女「えと、嫌じゃないけど……そんなの初めてで……」
男(言ってみたはいいけど、手汗とか大丈夫かな……)
女(ちょっと、もう手が汗でベタベタだよ……どうしよう)
僕は思い切って彼女の手を握った
女「……ひゃぁ!」
男「ご、ごめん、痛かった?」
女「ううん、その、なんか恥ずかしくて」
男「……俺も、めっちゃ恥ずかしい」
そのまま片道15分の帰り路を進む
でもその15分はすごく短くて
授業の15分はあんなに長く感じるのに
時間とは非情だ
僕の家に着いた途端、彼女はすぐに「じゃあ、バイバイ!」と言って去っていった
男「え、うん、また明日ね」
女(あぁぁぁーーー!ドキドキした。あと一分でも一緒にいたら心臓破裂するよ……)
僕は家の鍵を開けた
そしてベットに寝転がり、今日のやりとりなんかを思い出していた
……うわ
我ながら、思い切ったことをしてしまった
告白の時とか普通に殴られてもおかしくない状況だっただろ、どう考えても
でも、女の子の身体ってあんなに柔らかいんだなぁ……
明日からは恋人……
思わず口元が緩む
女『男くんのこと、すっごくすっごく好き……!』
男「ファーーーーーーーーー/////」ゴロゴロ
男「もうマジ可愛くて死ぬ」
翌日
女「 !」
彼女はそれから、僕を下の名前で呼んでくれるようになった
僕も彼女を下の名前で呼ぶようにした
その後、彼女とは何度もデートを繰り返した
その度、ありのままの彼女が見られるようになった
確かに男っぽい性格だけど、そのさっぱりしたところが一緒にいて心地よかった
付き合ってから一ヶ月
ついに、彼女は僕の家へ来た
親は出張で出かけていて、その日は彼女と二人きりだ
いつものようにお話して
じゃれ合って
キスしているうちに
自然とお互いを求めるようになった
男「大好きだよ」
女「私も……」
男「ねえ……いいかな?」
女「……うん」
僕は彼女の服のボタンを上から一つずつ外していった
女「ねえ、待って?」
男「どうしたの?」
女「その……初めてだから、優しくしてね?」
男「僕も初めてだよ」
女「お互い初めてなんて、なんだか照れちゃうね」
こうして、僕と彼女の身体は交わった
彼女は性欲も好奇心も旺盛なようで、その後もよく家に来た
するときは毎回、高校生らしい元気の良さで4回、時には5回以上した
僕と彼女の恋は覚めること無く、むしろ勢いを増していた
その他にも、何度もデートを重ねた
そして夏が深まった頃、彼女と泊まりでキャンプをすることになった
学校の振替休日を利用して来ているためか、客は僕達以外に居ないようだった
僕たちは二人で肉や野菜を囲んでいた
しいたけの焼ける香りがする
男「ホントに泊まりなんて大丈夫だったの?」
女「だいじょーぶ、友達とお泊りって言ってきたから」
男「そっか」
女「今の私は、親に嘘ついちゃうくらいあなたに夢中なんだよ?」
男「……////」
ニヤけるのを堪えるため、言葉を口にできない
女「ねえ、ちょっと、なんか言ってよ!私のほうが恥ずかしくなっちゃうでしょ?////」
男「あ、りがとう」
女「どういたしまして……////」
男「って、しいたけ焦げちゃうよ!」
女「ホントだ……」
女「ほら、口開けて?」
男「あー」
パク
男「あっつ!」
女「焼きたてだからねー」
男「いや、熱すぎるって!」
女「ふふ……私達みたいだね////」
食事をした後は山に散策に出掛けた
女「これが、ツユクサで、こっちがヒメジオンだね」
男「詳しいんだね」
女「小さいころから山の中駆けまわってましたから」
男「ホントに小さい頃から元気だったんだね」
女「ワイルドだろぉ?」
男「……」
女「ねえ……笑ってよぉ……///」
僕はこんな可愛らしい彼女に我慢できなくなり、抱きしめてしまった
女「ひゃぁ!ちょっと、どうしたの?」
男「いや、あまりにも可愛くて……」
女「もう……」
男「ねえ、ここでしない?」
女「え……えええぇぇぇ!?」
男「誰もいないしさ」
女「……嫌だよ、恥ずかしいって……」
男「ねえ、お願い!」
女「もう……」
女「……しょーがないなぁ……」
男「ありがとう!」
女「……ひゃぁ!……ってちょっと、いきなり耳舐めないでよ……」
外で二回したが、夜も明け方までヤった
僕達は順調に恋を進めた
会うたびに心を通わせ、愛しあった
僕達はもう、これ以上好きになれない程、大好きになってしまった
ベッドで隣で抱きつく彼女は蕩けそうな表情で囁いた
女「……世界で一番、愛してる……」
こうして僕は失恋した
もう、続きがない
エンディングから続編まで全てクリアしてしまった
彼女とのデートは、続かない
彼女が僕に新しい笑顔を向けてくれることはない
どうしてここで終わりなんだ……どうして……!!
そうだ
僕はただのヒキニートだった
何だかんだ言って勇気があるモテ主人公じゃない
これは先月買ったエロゲ
二次元でのお話
三次元に居る僕には手の届かない存在
僕「……嫌だ……」
僕「嫌だぁあああぁぁぁぁあああ!」
僕「うわあぁあああああ」
僕は一日中泣き続けた
願っても叶わない恋
届かない想い
今までこれほど好きになったことはなかった
僕は理想の女の子に恋をしてしまっていた
その次の日も泣いた
食べ物が喉を通らなかった
その次の日も泣いた
忘れようと思って無理やり食べ物を口にした
すべて吐いた
そして思った
僕は失恋したんだ
これは絶対に叶わない恋
そうだ、同じルートを何度もやればいい、とも思った
しかし、今までのイキイキとした彼女を見続けた僕の心は
――満たされなかった
もう……彼女を諦めるしかないんだ……
3時間ほど何も考えずにトイレにうつ伏せになっていた
そうだ
全て忘れよう
それしかない
彼女と決別しよう……
それからは可愛い女の子のイラストさえ見れなくなった
可愛い子のイラストを見るだけで彼女の表情が頭に浮かぶ
インストールしてあったエロゲは全て消去してディスクも全部売り飛ばした
スマホから虹画像のフォルダも消去した
スマホの容量が10GB増えた
だが、ブラウザを使っている時、更新停止の?ボタンを見て、キャンプで食べた「しいたけ」を思い出して泣いた
うぅ……くそ……っ!
なんで、僕の青春にあんな彼女は存在しなかったのだろう
せめて、ゲームのような青春を送っていたらこんな思いはせずに済んだはずなのに
いや、そもそもそんな青春を求めて、現実逃避していたんだ
出来る限り彼女のことは考えないように努めた
>>46
更新停止の?
↑更新停止の×マークのことです
補完をお願いします
女『 !』
だが、プレイヤーの名前を呼んでくれるシステムのせいで、彼女の自分を呼ぶ声はずっと耳から離れない
あぁ……失恋はこんなに辛いものなのか……
彼女を忘れるために、初回特典で付いてきたタペストリーも、コミケで買った抱き枕も全て押入れの奥に封印した
押入れにしまう途中、キャンプで一緒に布団をたたむイベントがあったことを思い出して泣いた
泣きながらしまった後、失恋ソングを聴き漁った
彼女のことを忘れるためにゴミ箱を抱えて彼女の服やら何やらを捨てる
そんな自分が一番惨めだと気づいた
有名な失恋ソングらしい
僕がやったことは正にそれだったのかもしれない
人生で初めて失恋ソングに共感した僕は感慨にふけった
彼女を忘れるために趣味も変えようと思った
とはいえ、アニメやゲームが趣味の自分は、普通の男性が普段何をしているのか全く見当が付かない
とりあえずググって始めやすそうなものを選ぶ
結局、エロゲを売ったお金でジムに通うようことにした
今日の消費カロリーを考えている時だけは彼女のことを忘れられた
だが一緒にバトミントンをするイベントを思い出して泣いた
聞く音楽も変えた
アニソン、ゲーソンばかりだったのに、EXI○Eなんか聞いてみた
以外に格好良くて好きになった
しかし、彼女と一つのイヤホンで一緒に音楽を聞くイベントを思い出して泣きそうになった
それからというもの、ジムには行ってみたものの、ニートの有り余った時間は容赦なく僕を襲った
何かしていないと彼女のことを思い出してしまう
そうだ、友達に相談しよう……!
僕は……大学生になって、エロゲにハマって、現実逃避して……
そうしている間にニートになって……
ニートになってるのが恥ずかしくて、友達とは連絡を一切断ってしまった
今、友達は一人もいない
男「僕は……これからどうすれば……」
男「もう……僕の人生終わりだ……」
男「いや……まだ終わってない……この性格も……変えなきゃ!」
自身の転換は精神面にまで及んだ
消極的で後悔してばかりな性格を変えるために松岡修造の本を読み漁った
彼はただの熱い男ではなかった
中身の伴った熱い男だった
彼は才能のある兄に負けじと、人一倍努力を積み重ねた
途中で麻雀にハマり、テニスに力が入らなくなるが、一念発起
慶応高校から最も練習が厳しいと言われていた柳川高校へ転校することを決意
プロになっても怪我や病気で何度も挫折し、そのたびカムバックを果たすその精神
彼の生き方は、失敗しても立ち直れることを教えてくれた
もはや動画でネタにされていた彼の姿は僕の中からは消え去った
僕は心の師は松岡修造さんだ!
過去のことを見てはいけない
今を生きること、それが大切
夢に向かって突き進め!!
僕「そうだ、今を生きるんだ!」
僕にできること、夢、それはいったいなんだろう
大学はゲームとアニメにどっぷりハマったせいで中退
大学卒業証書もなければ資格もあるわけがない
僕「無いなら……取ればいいじゃないか!」
僕は勉強に励んだ
大学で中途半端に覚えていた流体力学など全て消去した
その代わり、高校の数学は加法定理から思い出し、化学はベンゼンから思い出した
ひたすら思い出す作業に朝から晩まで没頭した
問題を説いているときは彼女のことは忘れることが出来た
そんなことを、半年間続けた
1月、ついにセンター試験が迫った
僕「半年間、やってきたことを全て出し尽くそう」
僕はなんとなく彼女が応援してくれているような気さえした
だが、そのことが試験にとってマイナスになると思った僕はその幻想をぶち壊した
センター試験終了
手応えは悪くない
自己採点の結果、得点率89%
地方の大学なら医学部でも目指せそうな点数だった
僕「僕ができること……」
僕は二次試験の勉強に打ち込んだ
もう、彼女のことを考えている余裕はなかった
二次試験終了
7割取れれば合格だ
数学はほとんど解けた、きっと……大丈夫
合格発表当日
僕は合格者表に自分の受験番号があることを確認した
晴れて医学部に進学することとなった
大学入学式、もちろん学部では一番年上であったが、他にも年の近い人は居た
コミュ症な僕だったが、少しずつ仲良くなれた
入学してから大学に慣れた頃、僕は高校の同窓会に呼ばれた
だが、行くのが躊躇われた
みんなはもうとっくに社会人か院生
僕なんか……
修造「自分に自身をもて!お前はお前であってそれ以上でもそれ以下でもない!」
僕「そうだ!僕は僕なんだ!」
同窓会では僕の名前を覚えている友人は意外にも多かった
今まで連絡しなくてごめん、そう謝った
彼らは僕の医学部生活を応援してくれた
それからは修学旅行で海に飛び込んだ話なんかで盛り上がった
女の子とも再開した
みんな昔とは打って変わって大人らしくなり、結婚している子さえいた
そんな中、一緒に整備委員をやっていた女の子とは特に打ち解けた
彼女は男らしいさっぱりした性格だった
昔からそうだった気がする
あまり親しくはなかったけど、明るく同級生と話す姿は今でも覚えていた
彼女はこの性格のせいで彼氏が出来ない、なんて嘆いていた
でも、長い髪に女性らしい身体、十分に可愛いと思った
同窓会の後も、彼女との交流は続いた
かたや医学部生
彼女は社会人として看護師をしていた
僕と彼女は次第に惹かれ合った
そして付き合った
僕にとっては初めての交際だった
アプローチは予想以上にと上手く出来た
なぜか昔、練習したような気がしたからだ
今思えば、僕は割りと青春時代を謳歌していたのかもしれない
もちろん未だに童貞、高校時代は女の子と手をつないだことすら無かった
でも友達と騒いだ思い出や友情は今も健在だった
青春は可愛い女の子と過ごすだけじゃないんだ
未熟な僕は……そんなことに気づいていなかったんだ!
これから僕はお医者さんになるんだ!
いつか彼女と同じ仕事場で働くんだ!!
そして、きっと彼女を幸せにしてみせる!!!
やってやるぜ!!!!!
「こんなもんか」
白衣を纏った男性は右横の印刷のボタンをクリックする
機械的な音と共に紙を吐き出す印刷機を見ながらマグカップを口へ運ぶ
医者「……これで少しは戻ってきてくれるといいんだけどなぁ……」
看護婦「先生、診察の時間です」
医者「ああ、ちょうど出来たところだよ」
看護婦「……かなり重症のようですね、彼……」
医者「うむ……今までは少しずつ私が彼の物話を現実よりに補完していたが、そろそろ限界だろう」
そういって医者は診察室へ向かう
医者「やあ、元気かい」
男「はい、僕は元気ですよ」
医者「じゃあ、診察を始めよう」
男「このあと彼女とデートがあるので、手短にお願いしますね」
医者「……」
男「どうしました?」
医者「そうだ、これを読んで欲しいんだ」
男「ああ、いつもの僕が主人公の物語ですか?でも僕、物語で現実逃避するほど困ってませんよ。可愛い彼女がいますし」
医者「うむ……とりあえず、読んで欲しいんだ。今日のはちょっと違う」
男「またラブラブ展開なんじゃないですかぁ?エッチなシーンも書ける先生素敵だと思いますよ」
医者「……」
男「どんな展開か、楽しみだなぁ……」
医者「……あと、この松岡修造さんの本も」
男「松岡修造ですか?」
医者「うん、ぜひ」
男「わかりました。帰ったら必ず読みますんで」
医者「ああ……その……彼女さんに……よろしくな……」
男「はい!」
男は高鳴る胸を響かせながら診察室を飛び出していった
医者「……うむ……」
看護婦「効果ありますかね?」
医者「わからん、ただ、僕にはこれが一番治療に効果があった、それだけだよ」
看護婦「経験者の言葉は一番信頼があったりするものですよ」
医者「うむ……僕は幸運にも戻ってこれた、でも僕と同じことをして戻ってこられる保証はない」
看護婦「彼も、現実から逃避しているのでしょうか」
医者「彼は自分を悲観した結果、物語に理想を追い求めてしまったんだよ」
看護婦「それが可愛らしい彼女ですか?」
医者「そう、それが今の彼が最も望む理想なんだ」
看護婦「若さゆえの過ちということでしょうか」
医者「過ち、というより彼は若さゆえに世界を知らない。甘い青春が全てだと思っている」
医者「だがそこがスタートだ」
医者「大人になって、それからも出会いや経験は続く」
医者「私自身も現実に戻って、こうして君に出会って、幸せに過ごすことができたんだ」
看護婦「ダメですよ、今は妻じゃなくて一人の看護師として接してくれなきゃ」
腰まで届く長いポニーテールが揺れる
医者「時には扉を開けてみてはどうだろう」
看護婦「どういうことですか?」
医者は立ち上がり、診察室の窓を開けた
暖かな春の風が吹き込む
医者「現実逃避は時に必要なことだ」
医者「だが私は彼に気づいて欲しいんだ」
―――――これから続くたくさんの出会いと
――――――――――――現実に存在する、まだ見ぬ幸せを
おわり
以上になります
レスしてくれた人、サンクスでした
初めて地の文多用しました
読みにくかったらごめんなさい
今まで書いた主な作品
城之内克也(30)「あの時の俺は輝いていた」
大人になった城之内くんが頑張る話です
死神「二次元に転生できる能力だ」
死神「二次元に転生できる能力だ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1423/14239/1423986872.html)
痛いタイトルですが、タイトルから想像する展開とは異なります
良かったら読んでみてください
それではまた
あなたでしたか!
その二つも面白かったです!
>>63
マジですか、ありがとうございます
今回はちょっといつもと雰囲気違った気がします
楽しんでもらえてたら幸いです
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません