晶葉「無邪気な王子と天才の姫」 (25)
※地の文あり
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―――西園寺家―――
『おお、姫よ。どうして貴方は元気がないのですか?』
『上手くピアノが弾けないからです』
『ならば私が貴方に魔法をかけて差し上げましょう!』
『まぁ!王子様は魔法使いだったのですか?!』
『ではご覧あれ……スリー、ツー、ワン!』
『……?』
『あ、あれ。スリー、ツー、ワン!』
『……』
カットカットー
柚「あれー?おっかしいなー」
晶葉「しっかりしてくれ柚……これで何回目だ?」
柚「ごめんごめん。わかってはいるんだケド。どうにもマジックが成功しなくて」
晶葉「本当に柚が王子でよかったのか?」
柚「むー。酷いなー、晶葉ちゃん。アタシ、一度ナイト様をやった事あるんだよっ?」
晶葉「ナイトと王子様は違うだろう」
柚「似たようなものだよ!それに、今回の王子様は確かにアタシが適任だと思ってるんだっ♪」
晶葉「天真爛漫で無邪気な王子様、だったか」
柚「そーそー。ほら、ピッタリじゃない?」
晶葉「まぁ、イメージは一致しているな」
柚「でしょー」
晶葉「流石に20回もマジックを失敗していると見てみろ。スタッフと監督の顔も引きつっているぞ」
柚「おっかしーなー。出来ると思ったのにっ」
晶葉「……試しに訊くが、簡単なマジックでもいいから、とにかくやった事あるのか?」
柚「ない!」
晶葉「ないのに今回のドラマの王子役を引き受けたのか……台本にもやると書いてあっただろう」
柚「だってできると思ったんだもーん」
晶葉「……お前は少し練習してこい。今日は撮影するシーンをPやスタッフと相談して変えてもらおう」
柚「ラジャー!」
晶葉「……心配だ」
―――数時間後―――
柚「今日の撮影も終わった終わったー!」
あい「お疲れ様、柚君」
柚「お疲れ様ですあいさんっ」
あい「柚君の方、撮影がなかなか進んでいないようだけど大丈夫かい?」
柚「実はアタシがマジックでいつも失敗しちゃって……」
あい「ふむ。マジックか」
柚「そうだっ!あいさん、あいさん、あいさんはマジック、できないんですか?」
あい「私か?やった事はないな……」
柚「そうですか……もしできるんなら、教えてもらおうと思ったんだけどなー……」
あい「レナ君にでも教えてもらったらどうだ?」
柚「レナさんに?」
あい「ああ。彼女なら、簡単なトランプマジックはお手の物だろうし、それなりに難しいものもできるはずだ」
柚「ほうほう!それなら膳は急げ!レナさんはどこにいるんですかっ?」
あい「確か今日は事務所にいると言ってなかったかな」
柚「本当ですか!?じゃあアタシ、急いで事務所に帰ります!」
あい「気をつけたまえよ」
柚「はいっ。あいさん、ありがとうございました!」
あい「お礼を言われるほどの事でもないさ」
―――廊下―――
ポロン……ポロン……
柚「んっ?」
ポロン……
柚「……ピアノの音かな?」
ポロロン……ポロン……
柚「撮影場の方から聞こえてくるけど……あれ?でももう撮影場には誰もいないよね……?」
ポロロン……
柚「これはこれはもしかしてっ。西園寺家に住み着く悪霊!?」
ポロン……ポロン……
柚「ふっふっふー……アタシの好奇心は、恐怖を遥かに上回るのだっ」
柚「いざ、ご開帳~♪」ギィィ
晶葉「……」
柚「あ……れ……?晶葉ちゃん?!」
晶葉「……っ?!誰だっ!」
柚「あ、アタシだよ。柚だよ」
晶葉「柚か……どうしたんだ?忘れ物でもしたか?」
柚「ううん……ピアノの音が聞こえてきてたから、もしかして幽霊かなって」
晶葉「……そうか」
柚「晶葉ちゃん、ピアノも弾けたんだねっ」
晶葉「別に前から弾けたワケじゃないぞ。ドラマの撮影で使うというから、練習してここまで弾けるようになっただけだ」
柚「練習?晶葉ちゃんが?」
晶葉「……悪いか?」
柚「んーん?晶葉ちゃんって、天才だから練習なんて必要ないんじゃないカナって」
晶葉「……私は、多分、柚が思っている以上に天才ではない」
柚「え?」
晶葉「アイドルの世界に入るまで、私は一番天才だと思っていたんだ。だが実はどうだ。私以上の天才がそこにはゴロゴロいた」
晶葉「マキノや泉はその典型的な例だろう。正直私は、二人に勝てる気がしない」
晶葉「勉学に限った話じゃない。夕美は言わば花の天才だし、智香は応援の天才だ」
晶葉「このプロダクションには、天才だらけだった。……柚だって、そうだ」
柚「アタシが?天才っ?流石にそれはナイって!」
晶葉「その無邪気さと天真爛漫さは、私は手に入れようと努力しても絶対に手に入れる事はできない」
晶葉「だから柚は無邪気の天才だよ」
柚「……なんかそこまで言われると照れるナ」
晶葉「そうやって考えて、思ったんだ。今回のドラマを期に、私も変わろうと」
晶葉「まずはいつも頼りにしていたロボットは、今回一切使わないようにした」
柚「そういえば晶葉ちゃん、確かに今回はロボットとか全然出して来ないね」
晶葉「全て自分の力で、やり遂げようと思ったんだ。そうする事で、別の視点から見た池袋晶葉が見えるのではないか、とな」
柚「別の視点から見た自分かぁ……」
晶葉「だが……やはり、ロボット無しで0から努力するのは大変な事だな。身に染みてわかったよ」
柚「でも、さっきの演奏は上手だったよっ」
晶葉「ありがとう。だが、これじゃダメなんだ。私の求めている演奏とは、程遠い」
柚「……努力家で天才な姫」
晶葉「今回のドラマの私の役柄の話か」
柚「なんだ。晶葉ちゃんも役、ぴったりだねっ」ボソッ
晶葉「何か言ったか?」
柚「んーん、別にっ。それじゃあまた明日も撮影、頑張ろうね♪」
晶葉「ああ。また明日」
―――翌日―――
『それではお礼に、私がピアノを弾いて差し上げましょう』
『本当かい?それは嬉しいな』
『では、聞いてください』
~♪~♪
『……素晴らしい音色だ』
カットカーット
柚「えっ!?あ、アタシ何か間違えた!?」
晶葉「……いや、今回のは柚じゃない」
柚「アタシじゃないなら一体なんで……」
監督「池袋君。もう一度弾いてみてくれ」
晶葉「はい」
~♪~♪
監督「……」
柚「(綺麗な演奏……だよね……?)」
監督「……わかった。もういい」
晶葉「……はい」
監督「晶葉君。もう少し……だな」
晶葉「……」コクリ
柚「い、今の凄くよかったと思うんですケド、あれじゃダメなんですかっ?」
監督「ダメじゃない。ダメじゃないが、合格点ギリギリだ」
柚「何でですか。凄く綺麗だったじゃないですか!」
監督「綺麗だからこそ、ダメなんだ」
柚「え……?」
監督「池袋君の演奏には……感情が、見えない。ただ弾いているだけにしか見えないんだ」
監督「質問だ。今のシーンは、どんなシーンだい?喜多見君」
柚「え、えっと……王子様が屋敷に忍び込んで、姫様を手品で泣き止ませた数日後、お礼として姫様がピアノを披露するシーンです」
監督「そうだ。なのに、綺麗なだけで……感謝や嬉しさが伝わってこない演奏なんておかしいだろう」
柚「……」
晶葉「柚。いいんだ。上手く弾けていないのは、私が一番よくわかっている」
柚「晶葉ちゃん……」
監督「ところで喜多見君の方はどうなんだい?」
柚「あ、アタシはー……そのー……鋭意練習中、です」
監督「……早めに頼むよ」
柚「はい……」
―――廊下―――
柚「ドラマのシーン沢山取ったから、遅くなっちゃったっ。早く帰らないと」
ジャーン!!
柚「な、ななな、何今のっ?!」
柚「……気のせい?」
~♪~♪
柚「……この、音楽って」
ジャーン!!
柚「うわっ、な、何してるんだろ……晶葉ちゃん……」
柚「……少しだけ、様子を見てこよう!」
柚「お邪魔しまーす……」ギィ
晶葉「くそっ!」ジャーン!!
柚「わっ!?」
晶葉「……わかってる。わかってるのにどうして……!」
晶葉「どうしてこんな……!!」
晶葉「……くっ。自分の思い通りに行かないというのは、こんなにも……!」
柚「……晶葉、ちゃん」
その時、アタシは思ったんだ。
やっぱり晶葉ちゃんは天才だって。
どこまでも自分の理想を追い求めて、他人がどうであれ、自分が納得しない限り妥協はしない。努力し続ける。
ロボットだってそうだよ。いつもそうだったじゃん。
自分が満足できないから、ライブで使わなかったロボットが沢山あるの、実は知ってる。
晶葉ちゃんの研究所に秘密で入った時、その欠片達を見ちゃったんだ。
その時は、何でそんな事してたのかわからなかったけど、
今なら分かるよ。
だから、アタシはそんな人を支えたいんだっ!
あの無邪気な王子様のように、悩んでる姫を、助けたいんだっ!
そしてアタシは晶葉ちゃんへ向かって駆け出した。
柚「おお、姫よ。どうして貴方は元気がないのですか?」
晶葉「え……?」
柚「ピアノが上手く弾けないのですか。ならば私が魔法をかけてあげましょう!」
晶葉「ゆ、柚」
柚「では……ご覧あれ!スリー、ツー、ワン!」
ばっ、と。
突然現れ、ドラマの台詞を叫ぶ柚に呆気に取られる私の眼前に、花びらが舞った。
それは、ドラマで王子様が姫に対して行ったマジックだ。
色とりどりの花びらを、手を振っただけで空に散らせる。
そのマジックは、今まで一度たりとも成功した事はなかったはずなのに。
「出来た……へへっ、どうだ!」
無邪気な王子は、そう言って花びらの中で笑った。
ひらり、と鍵盤に置かれた私の手に桜の花びらが舞い落ちる。
……そうか、私は一つ間違えていたのだな。
柚は無邪気の天才なんかじゃない―――人を、笑顔にする天才だ。
晶葉「……いつ、出来るようになったんだ?」
柚「今!」
晶葉「わかった。質問を変える。いつ、練習したんだ?」
柚「事務所でレナさんに教えてもらってね!あと実はドラマの撮影やってる最中もずっと、道具を袖の中に仕込んでたり」
晶葉「……やるじゃないか」
柚「いい気分転換になった?」
晶葉「もちろんだとも。これは私も負けていられないな」
柚「そか、ならよかったっ」
晶葉「……なぁ、柚」
柚「なにー?」
晶葉「今回のドラマの王子様、やっぱり柚が適任だ」
柚「アタシも、今回のドラマの姫は、晶葉ちゃんが適役だと思ったよっ」
晶葉「……そうか。なら期待に答えるため、努力しないとな」
柚「もしかして、まだ続けるの?」
晶葉「ああ。まだまだ足りないからな」
柚「そっか。晶葉ちゃん、ファーイトっ!」
晶葉「ふふ、明日柚の度肝を抜かしてやるから覚悟しておくんだな」
柚「楽しみにしてるっ!じゃあね!」
晶葉「……さて、私は王子様にふさわしい姫にならなくてはな!」
―――翌日―――
『それではお礼に、私がピアノを弾いて差し上げましょう』
『本当かい?それは嬉しいな』
『では、聞いてください』
~♪~♪
柚「…………」
カットカーット
晶葉「おい柚。台詞を忘れたのか?」
柚「ご、ごめん……なんか、凄かったから何も言えなかった」
晶葉「だから言っただろう。明日、柚の度肝を抜かしてやると」
柚「……流石、天才だね」
晶葉「というよりは……そうだな」
柚「?」
晶葉「柚がピアノが上手くなったと感じるのはきっと……誰かさんに感謝の気持ちを込めて、ピアノを弾けるようになったから、かな」
晶葉「なぁ……王子様?」
柚「……ふふっ。そうだね、姫様」
おわり
ナイト服装の柚ちゃんだけでなく、ちゃんとした男装のRでもSRでもいいですから出してください。
では、ありがとうございました。
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