晶葉「生を得た機械」泰葉「生のない人形」 (17)

・地の文あり

・書きだめあり

・SS初めてなのでいろいろ見逃してください

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私の名前は岡崎泰葉、元子役で今はアイドルをしています。

私は人形、求められるものは今も昔も変わりません。私はそれに答えるのみです。

私の笑顔、それは作られたものでしかありません。

私のやりたいこと、そんなものは当の昔に忘れました。

「ただいま戻りました。」

今日も私は仕事を追えて事務所に戻ってきました。

「おお、泰葉か。おかえり。」

事務所には一人、白衣を着た少女が何かを機械を弄くっていました。

「晶葉ちゃんだけ?ちひろさんはどこ行ったのかな?」

「ちひろは急用があるといって私に留守番を頼んで出て行った。」



「晶葉ちゃんはなにやってるのかな?」

「これか?昔作ったやつが壊れてしまってな。今直してる。」

「プロデューサーの机勝手に使っていいのかな?」

「留守番してるんだ。これくらい使わせてもらっても罰は当たらない。」

この子は池袋晶葉ちゃん、正真正銘の天才です。

天才。この二文字が私の胸の中に落ちてきました。


私も昔、天才子役といわれ続けたものです。

今でもそれは付きまとい、アイドルの岡崎泰葉というより、元天才子役の岡崎泰葉ということでテレビに出ている気がします。

昔とは違う。昔とは違うんだ。いくら自分がそう思っていても現実は変わりません。

天才だからできて当たり前。天才なのに失敗した。天才だから、天才…。

天才という言葉はとてつもなく大きなプレッシャーを持ちます。

私は昔から言われてきたその言葉で感情を表に出さなくなったのかも知れません。

しかし目の前にいる少女は私よりも多くその言葉を言われているはずなのに、いつも明るく振舞っています。

今事務所には私と晶葉ちゃんの二人だけ。私は思い切って質問をぶつけます。


「晶葉ちゃんは天才って言葉をどう思う?」

すると私の言葉に何かを感じたのか手を止めて、椅子を180度くるりと回転させ答えます。

「私はよく天才という言葉を多用するが、天才という言葉は人と少し違うことができるという意味があるぐらいにしか考えてないぞ。」

「えっ。」驚きの声が漏れました。

「もっとこう、才能あふれるとか、特別な意味はないの?」

「ああ、天才という言葉にうぬぼれて努力をしなくなったらいけないからな。」

まさに耳に痛い言葉でした。

「私が思うに泰葉も天才だ。それどころかこの事務所の大半のやつは天才だと思っている。」

そこまでいうとまた椅子をくるりと回転させ作業に戻ります。


「しかし変な事を聞くな。何か悩み事でもあるのか?」

まるで私の心を見透かされてるよう。

「なんでもないよ。急にごめんね。ちょっと気になっただけだよ。」

「そうか、ならいいけど。」

その後、お互いの間に沈黙が流れます。

事務所に響く音は晶葉ちゃんがかちゃかちゃと何か機械を弄っている音だけ。

晶葉ちゃんはさっきの私の質問のことなどもう気に留めてないようでした。



少したった後。

「よし、直ったぞ。泰葉、ちょっと実験に付き合ってくれ。」

「いいけど。何を作ったの?」

「笑顔を採点するカメラだ。100点満点で採点するぞ。」

「私は何をすればいいの?」

「そこに立ってくれ。」

晶葉ちゃんに言われた場所に移動します。笑顔は得意分野です。何度も顔に貼り付けてきました。

「よし撮れたぞ。結果は90点だ。」

「それって高いの?低いの?」

「平均点は70点ぐらいだから高いだろう。」

よかった。あんな話の後だから上手く笑えているか心配でした。

「しかし、この事務所に限り平均点は100点だ。」

私は笑顔のまま固まりました。

「この事務所のみんなは本当に素直に笑うからな。なあ、泰葉。さっきの話といいなにを悩んでいるのだ。」


観念したかのように私はポツリ、ポツリと話します。

「晶葉ちゃんは機械が生を得たというけど、何を持って生を得ると思う?」

「そんなの簡単だ。熱を持っているかだ。情熱を持って作られたロボは生を得ている。」

「じゃあ何かをやらされている。生きているけど情熱はない人は?」

「そんなの生のない人形だ。」

わかっていたことだけど晶葉ちゃんはばっさりと告げてきます。

「私は一日たりとも、いわゆる労働などしたことがない。何をやっても楽しくてたまらないからだ。」

「なに?その言葉。」

「偉大なる発明家、トーマス・エジソンの言葉だ。泰葉、今君はアイドルをしているのか?それともやらされているのか?」


「アイドルは、している。と思う。」

「断定はできないか。では質問を変えよう。今君はアイドルを楽しめてるか?」

いいえ。答えはわかっているけどそうは答えられない。私は無理にでも笑顔を貼り付けて答える。

「楽しめてるよ。」

パシャリ。その笑顔をすかさず晶葉ちゃんがカメラで撮影する。

「60点か。一般人以下だぞ。楽しめてないのか。」

敵わない。素直にそう思いました。そして昔から今に至るまでを説明しました。


「ふむ、つまり自分は天才というレッテルを張られた人形だからそれに答えればいいと思っているのか。」

「端的に伝えるとそうだね。楽しむことなんて忘れてしまったみたい。」

「ねえ、晶葉ちゃんはなんのためにアイドルやってるの?なんのために発明しているの?」

「世間からいくら拍手喝采をあびようとも、結局、自分らしく生きているという実感が得られなければ、何の意味もない。」

「これは日本の斎藤茂太の言葉だ。私は自分のやりたいことをしている。ただそれだけだ。」

「すごいね、晶葉ちゃんは。とてもまぶしいよ。」

「たまたまだ。たまたま自分に合うものを見つけられた。昔は発明家だけだったが今はアイドルも楽しい。楽器を弾くことも楽しんでる。」

目の前の小さな少女が私にはとても大きく感じられます。


「説教くさくなってしまったな。最後に泰葉、私と比べたらすごい人なんてたくさんいるだろう。自己満足でいいんだ。」

「それは誰の言葉かな?」

晶葉ちゃんはその言葉を待っていたとばかりに私を見て一呼吸おいて、

「私だ。」

と言い放ちました。

そのときの晶葉ちゃんの表情は自信に満ち溢れた笑顔でした。

もしこのときの表情をカメラで撮影したなら間違いなく100点なんだろうなと思いました。

「ありがとう、晶葉ちゃん。」

私はなんだか肩の荷が下りた気分になりました。


パシャ、晶葉ちゃんはすかさず私のことを撮影しました。

「95点か、まだ上はあるな。」

「ありがとう、応援してくれて。ひとつだけお願いいいかな?」

「なんだ?私にできることなら何でもするぞ。」

「晶葉ちゃんが笑ってくれたら、頑張れる気がするの。」

「お安い御用だ。」

そういって晶葉ちゃんは満面の笑みを浮かべてくれました。それは無邪気な子供のような笑顔でした。

「なんか晶葉ちゃんを見てると、ちょっとしたきっかけで…人は変わることができるのかなってそう思えたよ。」

そのとき初めて無理じゃない笑顔になれた気がしました。

パシャ、また晶葉ちゃんが撮影しました。そのときの点数は…秘密です。

以上短いですけど終わりです。

晶葉の再登場とスマイル晶葉に感化されどうしても書きたくなり書かせていただきました。

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