漣「ケッコンおめでとうございます、ご主人様」 (100)


提督「ありがとう、漣」

漣「金剛さんは?」

提督「向こうで、他の艦娘に揉みくちゃにされているよ」

漣「ああ、あの人だかりの真ん中ですか。……ウチの鎮守府にも、随分艦が増えましたね」

提督「ああ。……思えば、鎮守府に初めて来た私を導いてくれたのは貴艦だったな」

漣「そうでしたねぇ。あの頃のご主人様ったら大破進撃させそうになったり、遠征のメンバー間違えたりで散々でした」

漣「そんなミスをフォローする傍ら、『うわーこれ大ハズレ引いちゃったかなー』とか密かに思ってたんですよ?私」

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漣「オマケに建造運も悪いものだから、資材が何度底を突いたことか。明石さんに怒られ大淀さんに怒られ……」

漣「大本営から来た長門さんに睨まれた時は、流石の私も胃が擦り切れるかと思いましたよ」

提督「あったな、そんな事も……」

漣「ま。すっかり一人前になってくれた今となっては、いい思い出ですけどね?」

提督「貴艦には長い間、随分迷惑をかけたな。……だが、もう大丈夫だ」

漣「……っ!」


漣「……そうですね。もう、漣のサポートも、要らないですもんね」

提督「ああ。私はもう、一人で資源管理も艦隊指揮もこなせるようになった。貴艦と……金剛のおかげだ」

漣(金剛さん……か……)

提督「……」

漣「ちょっ、やですよご主人様ぁ。何マジ顔になってるんですか!これじゃまるで……」

漣(まるで、お別れの挨拶みたいじゃないですか……)


提督「今日は、貴艦に渡したい物がある。……受け取ってほしい」

漣(これ、プレゼント……?ちゃんとラッピングしてある……)

漣(ご主人様からプレゼント貰えるなんてとっても嬉しい……嬉しいはずなのに……)

漣(どうして、私は笑顔になれないんだろう……?)

漣「開けても、いいんですか?」

提督「ああ」

漣(やだ、こんな時に手が震えて……!上手く開けられない……)

漣「……これ、ハンカチ…………?」

提督「……」


提督「覚えているか?私が着任したての頃、ふとした拍子に腕を怪我をした時の事だ」

提督「貴艦はすぐさま自分のハンカチで私の傷口を塞いでくれたな。おかげで血は止まったが、貴艦のハンカチの模様は血で見えなくなってしまった」

提督「私は、その時の事をずっと悔いていた。いつか、貴艦に頼らなくても軍務が全うできるようになった時……こうしてハンカチを送ろうと思っていた」

提督「今日がその時だ。……漣。今まで、本当に有難う。これからの秘書艦は金剛に任せる。貴艦には、他の艦と同様に平時の任務に戻ってもらいたい」

漣「…………っ」

漣「あ、あはははははははははははははは!ご主人様、そんな事まだ覚えてたんですか!?」


漣「もう、それならそうと言ってくださいよ!てっきり私浮気用の指輪かと思っちゃいましたよ?」

提督「そ、そんな訳ないだろう!?……もしかして気に入らなかったか?」

漣「いえいえ!そんな事はないですよ?漣、とっても嬉しいです。幸せです。嬉しすぎで泣いちゃいそうです」

漣「だから……もう、行ってもいいですか?ご主人様に情けない泣き顔見られるなんて、まっぴらごめんなんですが」

提督「ああ。秘書艦でなくなるとはいえ、貴艦が当艦隊の貴重な戦力であることに変わりはない。これからもよろしくな、漣」

漣「……はい。こちらこそ、改めてよろしくお願いしますね?」

漣「さざなみの…………………………ごしゅじんさま」


--第七駆逐隊の部屋--

曙「まったく、あのクソ提督と金剛が結婚なんて、まだ信じられない!」

潮「そうかな?二人とも、とっても仲良しだったし……いつかはこうなるかな、って思ってたけど」

曙「っていうか、朧は?」

潮「ケッコン式の料理、蟹食べ放題なんだって」

曙「……なるほどね」


ガチャッ

漣「…………」

潮「あ、おかえり漣ちゃ……ひぃっ!?」

曙「ちょっ、アンタどうしたの!?」

漣「………………え」

曙「え、じゃないっ!ああもう、深海棲艦みたいな顔して!鏡見なさい鏡!」


漣(うわぁ…………これ私?ひっどい顔……ご主人様に捨てられても、仕方ないよ……)

漣(今まで積み上げてきたと思ってたもの……全部壊されたら、こんな顔になっちゃうのかな……)

漣「違う……ご主人様は私を……感謝してくれた……金剛さんは……幸せにしてくれるはず……」ブツブツ

漣「祝福しなきゃ……おめでとうって言わなきゃ……これは喜ばなきゃいけないこと……」

曙「漣!漣ったら!どっち向いて喋ってんの!」

潮「曙ちゃん、私提督呼んでくる!」


漣「やめてっ!!!」

潮「っ!?」ビクッ

漣「私は大丈夫だから……ご主人様と金剛さんに……余計な心配させないでよ…………ケッコン記念日なんだよ……?」

漣(これ以上、私を惨めな気持ちにさせないでよ……)

潮「漣ちゃん、目が、怖いよ……?」

曙「アンタ……どう見たって大丈夫じゃないでしょ!?バカ言ってんじゃないの!」


漣「……私、もう、寝るから。起こさないでね」

曙「ちょっ、まだ話は……!」

潮「曙ちゃん、よく分からないけど今は……そっとしておいた方が、いいんじゃないかな?」

曙「っ……」

漣(明日は、またご主人様と顔合わせなきゃいけないんだ……)

漣(左手……見たくないな……顔も……見れないかも……)

漣(どこか遠いところの遠征任務とか、指示されないかな……)

漣(なんかもう…………沈んじゃいたい……)


--翌日・執務室--

漣(なんで、今日に限って……)

漣「……お呼びでしょうか?」

金剛「Oh!サザナミ、待ってマシタ!実はこの書類の書き方がイマイチ分かんないのデース!」

漣「ああ、これですか。これはここに資材を書きこみまして」

漣(この人が、ご主人様と結婚した……ご主人様の、奥さん)

漣(明るくて、強くて、まっすぐで……そのままの自分を貫き通すだけで、周りから……ご主人様から好かれる人)

漣(そんなの……私とは、違い過ぎる……)


漣「……後は、ここにご主人様の印鑑押せばOKですよ」

金剛「Thanks!漣は何でも知ってるネー!」

金剛「そこでもう一つPrivateなQuestionなのデスガー……テートクの好きな料理とか、知りマセンカー?」

漣「……何故です?」

金剛「何故ってそれはもう、テートクのStomachをがっちりCatchするために決まってマース!」

金剛「今回晴れてケッコンしたとは言え、私あんまりテートクにWifeらしいこと出来てないネー……」


金剛「Curry以外のRepertoryを増やしてテートクにご馳走すれば、テートクもきっともっとLoveLoveしてくれるはずデース!」

漣「そうなんですか。……まぁ、金剛さん着任してからずっと出ずっぱりでしたもんね」

漣(ご主人様が好きな物は……確か……)

-------------------------------------------------

『漣の作ってくれる味噌汁は美味いな、空いた腹によく染みる。元々私が味噌汁好きだということもあるんだろうが……』

『味噌汁には作った人間の細やかさが出る。この味噌汁も、漣が作ったからこんな美味い味になるのだろう』

『ただの貧乏舌だって?いや、私は今まで食べたどの味噌汁よりもこの味が好きだ。貴艦に作って貰えてよかったと、心から思うよ』

-------------------------------------------------


漣(あったなぁ、そんな事も…………普通に作っただけなのに、喜んでくれたっけ)

漣「…………」

漣「ご主人様は、あまり食べ物に頓着しませんよ。好き嫌いはないです」

漣(あれ……?私、何言ってるんだろう……)

金剛「Oh、ソウデスカー……ンー、なら別方向からアプローチをかけてみるしか無いネー」

漣「金剛さん。用事は終わりでしょうか?」

金剛「Yes!漣、色々Thankyouネー!」

漣「では。……失礼します」

漣(……馬鹿みたい)


--廊下--

漣「……」

漣(何もしたくない……どこか遠くに行きたい……)

漣「なんもいえねぇ……」

漣(あそこで話してるのって榛名さんと……ご主人様?)

漣(どこかその辺に隠れていよう……見つかったら、どんな顔すればいいのか分かんないし……)


榛名「提督、今度の作戦海域の件でお話があるのですが……」

提督「分かった。話を聞こう」

榛名「それで、このような編成にしては如何かと、霧島が提案しておりまして」

提督「ふむ……この編成ならば、後一隻、隊のバランサーになる熟練の駆逐艦が欲しい所だな」

榛名「でしたら、漣ちゃんなどいかがでしょう?練度も高いですし、彼女には豊富な経験に裏付けされた的確な判断力があります」

漣(!!)


提督「なるほど、一理あるな。ではそのように」

漣「……ご主人様っ」

提督「漣、居たのか。丁度いい、今貴艦の……」

漣「あの、あのぅ……申し訳ないんですけど、私どうにも体調が優れなくてですね……」

提督「そうだったか、気が付かなくてすまない。……不調時に無理をして出撃すれば被害が拡大する。榛名、この案は白紙だ」

榛名「はい。それならば仕方ないですね」

漣「すみません……」


提督「気にするな。今まで秘書艦業務を一手に引き受けてきた、その疲れが出てきたのだろう」

漣「そう……かも、しれないですね……あはは……ご主人様のお世話、大変でしたから」

漣(ご主人様と一緒に居て心が疲れた事なんて、一度だってないのに……)

『Heyテートクゥー!大本営からSpecialなGuestが来てるヨー!Quicklyに執務室へComeOn!』

提督「む。榛名、漣、話の途中で済まないが、席を外させてもらう。面倒な客がやって来たようだ」

榛名「あ、はい。榛名は大丈夫です」


漣(あ……)

漣「ご主人様、略綬の一つが取れかかってます。流石に、客人の前でそれは恥ずかしいですよ?」

漣「私が付け直しますから、じっとしてて下さい」

榛名「凄い!漣ちゃん、いつもその裁縫セット持ち歩いてるんですか?」

漣「ええ。ご主人様のお世話してると、こういう事多かったですからね」

提督「……すまん。この略綬はその、ケッコン記念に金剛から貰った奴でな……そのまま彼女に縫い付けてもらったんだが」

漣「……!」


榛名「お姉さま……いつでも一緒に居られるように略綬をプレゼントするなんて素敵です、ロマンチックです!」

漣(……そっか)

漣(私……今、金剛さんをご主人様に縫い付けようとしてるんだ……自分の手で……)

漣(なら……これ、千切っちゃえば……ごしゅじんさまは……)

プスッ

提督「痛ッ!」


榛名「提督!?……漣ちゃん!提督に針が刺さっています!すぐに抜いて!」

漣「あっ………………!?ご、ごめんなさいっ!ごめんなさいご主人様っ!」

漣「こんな、ご主人様を傷つけるつもりなんて私っ……!」

提督「いい。私は大丈夫だ。大丈夫だから、少し落ち着け」

漣「ご主人様………………ごめん、なさい」

提督「……気にするな、漣。このくらいのミスは誰にでもある。ここが海の上でなくて良かった」


提督「もう時間が無い、略綬は外していく。榛名、預かっておいてくれ」

榛名「提督……分かりました。榛名、お預かりします」

漣「ご主人様、待って、まってください……!私、今度は絶対うまくやりますから……!」

漣(だから、置いていかないで…………漣を、独りにしないで…………!)

提督「漣、もういいんだ。今は自分の部屋でゆっくり休み、後で潮達と間宮にでも行って来い。……それでは、行ってくる」

榛名「い、行ってらっしゃいませ!」

漣「あ……………………ぁ……」


漣(ご主人様…………)

漣「……」

榛名「……あの、漣ちゃん。本当に疲れているのだったら、いっそのこと大きな休暇を貰ったらどうでしょう?」

榛名「漣ちゃん程の戦功があれば、提督も好きなだけ休ませて下さるでしょうし……」

漣「……」

榛名「今の漣ちゃんは……その、何となく、心身ともに不安定な感じがします。榛名、心配です」

漣「…………そんなに……」


榛名「え?」

漣「そんなに、漣をご主人様から引き離したいんですか……!?金剛さん達は皆そうなんですか!?」

漣「私を秘書官から引きずり下ろしただけじゃ足りないんですか!?」

榛名「いえ、榛名そんなつもりは……!」

漣「だったら!放っておいてください!これ以上私に話しかけないで下さいっ!」

榛名「漣ちゃん…………」


--女子トイレ--

漣「うぷっ…………!」

漣「おえ゛ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

漣「げほっ、げほっ……うぅ……」

漣(榛名さんは、私の体調を心配してくれただけなのに……分かってたのに……)

漣(最低だ、私……)


『曙ちゃんも、やっぱりそう思う?』

漣(この声、潮と曙……)

『まぁ、そうね。今の漣は……任務に連れて行っても邪魔なだけだと思うわ』

漣「っ!!」

『言い方が良くないよ……』

『でも事実でしょ。今朝からずっと幽鬼みたいに鎮守府の中をフラフラフラフラ……あれじゃ少し波が立っただけで転覆するわよ』


『……やっぱり、提督に言って少し休ませてもらった方が良いのかな』

『そうね。勝手に出られて勝手に沈まれても迷惑だし』

ガチャッ

漣「待って……!」

曙「漣!」

潮「漣ちゃん、聞いてたの!?」

漣「漣を任務から外さないで……!お願いだから、ご主人様には何も言わないで……!」


曙「……あのね。アンタがそんな様子だから、みんな心配してるの。分かってんの?」

漣「分かってる、分かってるから……!げんきに、なるから!ちゃんと、進めるから!」

潮「漣ちゃん……でも、やっぱり私……今は、休んだ方が良いと思うな」

漣「……ッ!」

潮「ひぃっ!」

潮(漣ちゃんの目が、また昨日みたいに……!)


漣「ねぇ潮……分かる?分かるよね?分かっててやってるの!?ねぇ!答えてよ、潮もそうなの!?」

漣「鎮守府の皆して、そんなに私を虐めるのが楽しいの!?」

曙「ちょっ、アンタ急に何言ってんの!?」

漣(ひどいひどいひどいひどいひどいっ!皆ひどい!私……こんなに胸が痛いのに!)

漣(それなのにっ…………!)

曙「漣!落ち着きなさいって……言ってんでしょうが!」


漣「離して!……っ離せぇ!」

曙「離せと言われて……離すわけないでしょこのクソ漣!」

漣「どうして……どうして私だけこんなにひどい目に遭わないといけないの……?」

漣「私……私が一番だったはずなのに……!ご主人様、私の事大切だって言ってくれたのに!」

漣「秘書艦も降りたのに……!ご主人様がケッコンするのだって、死んじゃいたいくらい哀しいのに……!」

漣「これ以上私から…………ご主人様を、とらないでよっ!!!!!」


曙「なっ……!?アンタ、まさか……!」

潮「曙ちゃんっ!避け」









『火災発生。火災発生。火元は駆逐艦寮2F、海沿いの女子トイレ。破壊の痕跡も見られることから、深海戦艦の奇襲と思われます』

『総員、第一種戦闘配置。鎮守府正面海域を厳重に警戒、敵機あるいは敵艦を見つけ次第、全力を以てこれらを撃滅してください』

『なお、対空及び水上電探、水中聴音機共に反応がなかった事から、敵はステルス機能を搭載した新型である可能性があります』

『有効な索敵手段が見つかるまでは、索敵機や目視での警戒を怠らないで下さい』

『繰り返します。総員、第一種戦闘配置………………………………』






『…………提督、報告します。駆逐艦、曙及び潮、現在消息がつかめず生死不明です。他の艦は全て健在』

『繰り返します。駆逐艦、曙及び潮、生死不明…………………』

今日はここまでです


--翌日・執務室--

漣「お呼びでしょうか?ご主人様」

朧「う、うぅ…………潮……曙っ……」

漣「……ほら朧、ご主人様の前だよ。ちゃんと立たないと」

提督「……朧、漣。今日貴艦らにここに来て貰ったのは他でもない。昨日の火災についてだ」

提督「現在鎮守府総力を挙げて情報の分析に努めているが、未だに曙、潮らの安否を知る事は出来ていない」


提督「焼け跡にもその周囲にも、手がかりどころか艤装の欠片すら落ちていない状況だ。ハッキリ言ってしまえば手詰まりに近い」

提督「不甲斐ない話ではあるが……当鎮守府に攻撃を仕掛けてきた者を見つけ出す事も、同じく出来ていない」

提督「鎮守府正面海域の空にも海にも、まったくと言っていいほど敵の気配が無い。平和そのものだ……不気味なくらいに」

提督「私なりに状況を分析した結果……おそらくこれは、我々側の誰かによる犯行だろうという推測に至った」

朧「我々側、って…………人間が、人間にこんな事をやったって言うんですか!?こんな……!」

漣「……」


提督「あくまで推論だ。一番可能性の高い例を示しているに過ぎない」

提督「だが現場の爆発の具合を見ても、外からの砲撃のセンは限りなく低いと考えられる」

提督「陸の連中か、こんな時にも関わらず他国の工作員が既に忍び込んでいたか、あるいは艦娘の」

提督「……いや。最後の候補はただの考え過ぎだろう、忘れてほしい」

漣「……それで、私達にその調査を依頼したいという訳ですね?」

提督「そうだ。この任務は海上で不倶戴天の敵を撃つ任務ではない。同じ種族、同じ人間を疑ってかからなければならない厳しい任務だ」


提督「だからこそ当艦隊において最も古株である、貴艦らにしかできない任務であると考えている」

漣「ご主人様。金剛さんには、この任務の事は話していないので?練度と経験の側面から言えば、彼女も頼りになると思いますが」

提督「……金剛は、この手の話には向かない。まっすぐな艦娘だからな……なるべくなら、犯人を奴の目に触れさせたくない」





漣「………………………………へぇ……」


提督「貴艦らの仲間を攻撃したものが何者なのか、是が非でも突き止めてほしい」

提督「これは当艦隊を統括する提督としての指示であり……私、一個人としての願いでもある」

提督「朧、漣。……頼まれてくれるか?」

朧「駆逐艦、朧。任務……了解しましたっ!」

漣「駆逐艦、漣。任務了解しました」

提督「良い返事だ、有難う。貴艦らの奮闘を期待する」


提督「上層部への報告や艦隊全体の指揮を立て直す必要があるため、私は直接参加できないが……」

提督「無論、出来うる限りの協力はする。必要な物資や情報があれば、いつでも執務室に来てくれ」

提督「尚、以後は無闇な情報の漏えいは避けなければならない。よって、当鎮守府ではこれを極秘任務として扱い他言無用とする」

提督「この任務に就く漣、朧の両名には自衛のため、特例措置として鎮守府内での拳銃の携行を許可する。撃ち方は分かるな?」

朧「はい!」

漣「私も分かりますが……ご主人様、一つ提案を聞いていただいてもよろしいですか?」


提督「何だ?」

漣「犯人がご主人様の言うような奴で、以後も同じような襲撃が続くと仮定した場合」

漣「言い方は悪いかもですが……潮や曙以上に戦力となっている艦が狙われる可能性は高いはずです」

漣「例えば金剛さんがもし同じような事態に陥ってしまえば、艦隊全体の致命的な戦力低下に繋がります」

提督「……!」

漣「よって、高練度の艦には平時でも応急修理要員を装備させることを具申します」


提督「……了解した。練度の高い順に金剛以下六艦には私から応急修理要員を装備させておく。それと、貴艦らにもな」

朧「あ、アタシ達もですか?」

提督「当然だ。危険な任務に就いてもらうのだ、このくらいしてやれなければ私がこの椅子に座っている意味が無い」

漣「お心遣い、感謝します。ご主人様」

朧「朧……絶対に、こんな酷い事をした犯人を見つけてみせます。潮と曙の為にも……!」

提督「ああ。…………頼む」

漣「……………………」


--廊下--

朧「潮……曙……絶対、犯人見つけるからね……!」

漣「それで、どこからどうやって探す?ご主人様も言ってたけど、火災現場には何の痕跡も無かったらしいし」

朧「とりあえず、提督が言ってたのを片っ端からかかってみようと思う」

漣「了解。それじゃ、まずは陸の連中ね……早く行こう」

朧「……ねぇ、漣」


漣「ん?どしたの」

朧「漣は……強いんだね。こんな時なのに、泣かないで、冷静でいられるんだ」

漣「…………枯れちゃっただけだよ、涙なんか。悲しいのは私も一緒」

朧「あっ……その、ごめん」

漣「ううん。気にしないで」

朧「提督も、泣いてなかったね……」


漣「ご主人様はあんな性格だからね」

提督「艦隊の指揮とか数値の管理は上手だけど……人の心の機微を推し量るとか、行間を読むとか、感情的な事が出来ない人だから」

漣「だから、多分私と同じ……泣きたいのに、泣き方が分からないんだと思う」

朧「……アタシも、そんな風になれたら、良かったのに」

漣「駄目だよ。朧は私やご主人様みたいになっちゃ駄目。……泣きたい時に泣けるって、素敵な事だと思うから。ね?」

朧「…………うん」

漣「さ、行こう朧。……犯人を、見つけに」

朧「……うん!」


--工廠--

朧「あきつ丸さん!」

あきつ丸「これは漣殿に朧殿。……まだ、二人は見つかっていないのでありますか」

朧「……はい」

あきつ丸「そうでありますか……自分としても、ひたすらに無念であります」

漣「その事で、あなたに聞きたい事があるんです」


あきつ丸「自分に?…………成程、自分は陸出身でありますからな。こういった時には真っ先に疑われるのもやむなしであります」

あきつ丸「どうぞ、なんなりと質問してほしいであります。自分の知っている範囲の問いであれば、全て答えるでありますよ」

朧「じゃあ……昨日、あの火災があった時、あきつ丸さんは何をしていたんですか?」

あきつ丸「その時間帯でしたら、隼鷹殿と酒盛りをしていたのであります」

あきつ丸「あの場に居た他の艦娘にも聞いていただければ、同様の証言が得られるはずでありますよ」

漣「酒盛り?軍務中に?」


あきつ丸「こう見えても自分、意外と仕事には不真面目な方でありましてな」

朧「……じゃあ、その時艤装とかは」

あきつ丸「鎮守府内で許可なく艤装など付けようものなら即懲罰房行きなのは、御二方も知っての通りであります」

あきつ丸「いくら酔っていようと、妖精さんを脅して無理矢理艤装を付けさせるなんて豪気な真似、自分にはとても出来ないでありますよ」

あきつ丸「艤装の装着履歴は常に記録されていますし。まぁ見て頂くのが最も手っ取り早いのであります」

朧(でも、あきつ丸さんなら自分で直接手を下さなくても……)


あきつ丸「……確かに、陸軍時代の仲間に頼めば自分は何の準備もする必要ないでありますが」

朧「!!」

あきつ丸「生憎と自分は見捨てられるような形で海軍に来たものですから。仲間など、こちらに来て初めて出来たのでありますよ」

朧「あ……その、そんなつもりじゃ」

あきつ丸「あぁ、自分特段傷ついてもないので。そんなに気にしないでほしいのであります」

朧「でも……ごめんなさい」


あきつ丸「朧殿は、少し素直すぎるでありますなぁ。そこが良い点でもあるのでしょうが」

漣「行こう、朧。あきつ丸さんは違うみたいだから」

朧「うん……」

あきつ丸「……微力ながら、事件の解決をお祈りしているでありますよ」





榛名「あ、あのー……あきつ丸、さん?今大丈夫ですか?」

あきつ丸「おお、榛名殿。手と足が一緒に出ているでありますよ」

榛名「えっ!?……は、榛名、恥ずかしいです……」

あきつ丸「ハハハ……貴女程の大戦艦が緊張なされるとは余程の事でありますな。一体どうされたか?」

榛名「へっ!?…………いえ!榛名はですね!極々普通です!!」

あきつ丸「……と、言いますと?」


榛名「極々普通で、ゴクゴク紅茶を飲んじゃうくらい極々非常時じゃない、ああつまりその平時、非常に通常の榛名なんですが!」

榛名「榛名ぜーんぜん、何一つとして任務を言い渡されてないので、その、とても暇でして!はい!だいじょぶなんです!榛名は大丈夫!」

榛名「ですので、この機会にあきつ丸さんと是非!お話しできないかと!ええ!交友関係を広めたいと!」

榛名「その……極々個人的に!思い至りまして!」

あきつ丸(此処にも素直すぎるのがいるでありますな)

あきつ丸「……深くは聞かないでありますし、自分が知ってる事なら何でも話すであります」

あきつ丸「だからその明らかな挙動不審を止めて欲しいのであります。いくらなんでも嘘が下手すぎる」


榛名「……すみません、助かります」

榛名「では、"乖離現象"について、お聞きしてもよろしいでしょうか?」

あきつ丸「……どこでそれを?」

榛名「お教えできません。でも榛名が知っているのはこの名前と、それがとても恐ろしいことであるという風評だけです」

あきつ丸「……」

榛名「教えてください、あきつ丸さん。あなたが知っている事、あなたが答えられることを……!」


あきつ丸「"乖離現象"……"改二現象"とは似て非なる、艦娘の劇的なる変化」

あきつ丸「艦娘の心技体が十分に成長した状態、かつ正式な改造を受けて変化する改二化ならば、皆が知っているでありますな」

あきつ丸「しかしもし、改二になるに資格を持った艦娘が何らかの理由……例えば、強い精神的ショックなどで心技体のバランスを崩し」

あきつ丸「鍛えた技と過剰なほどの力、膨大な経験を有しながらも改二の資格を喪失してしまったら……?」

榛名「では、その時に起こるのが……」

あきつ丸「ご名答。それが"乖離現象"つまり……肉体と精神の急激な乖離が原因の、艦娘の心身両面に発生する極めて不安定な変化であります」


あきつ丸「もしそうなってしまえば、存在の性質としては最早艦娘ですらなくなり……」

あきつ丸「深海棲艦の"姫"と呼ばれるタイプのそれに近くなると言われているであります」

あきつ丸「一見まともに見えてもその瞳には何も写さず、ただ己が艦娘であった頃の微かな記憶と衝動に身を任せて行動するのみ……」

あきつ丸「……という、よくあるおとぎ話でありますよ。情報の出所は自分にも分からないでありますが……」

あきつ丸「大方、海が嫌いな陸の連中が作った妄想の産物でしょう」

榛名「……本当に、そうなのでしょうか。榛名、今のお話はとても信憑性があるように感じました」


あきつ丸「おや。榛名殿ともあろう御方が、中々どうしてこういった類のお話し好きでありますか?」

あきつ丸「それとも……居なくなった艦娘は全て"乖離現象"によるものだとお考えで?」

榛名「それが関連している可能性は、否定できないと考えています」

あきつ丸「それは心配のし過ぎであります。この話は笑い飛ばす類のもの。今の鎮守府の状況には似つかわしくないものでありますよ」

あきつ丸「第一、海軍籍の艦娘に起こる現象なのに、海より陸の方がそれに詳しいなんておかしいではありませんか」

榛名「それは、そうですけど……」

あきつ丸「もし事実だったとしたら、提督殿や大本営が情報を意図的に統制している事になりますが……」

あきつ丸「あの不器用な提督殿にそんな真似が出来るとは、自分にはとても思えないのであります」


--夜・第七駆逐隊の部屋--

朧(結局、一日がかりで探しても手掛かりは無かった……陸関係は外れかな)

漣「朧、今日はもう休もう?」

朧「駄目、早く見つけないとまた同じような事が……!」

漣「もう夜だよ?いくら拳銃があるって言ったって、流石に危なすぎるよ」

朧「でも……見つけないと二人が……曙と潮が、浮かばれない」


漣「なら尚更でしょ。潮と曙の為にも、私達はまず自分の安全を第一に考えなきゃいけないんじゃないの?」

朧「……」

漣「今日はゆっくり寝て、それから。明日また考えよう?今一番やっちゃいけないのは、無理に足掻く事」

漣「駄目なときは、何やったって駄目なんだから……」

漣「ね?…………おやすみ、朧」

朧「…………分かった。おやすみ、漣」

漣「…………」






『ねぇ、朧……』

『大好きで大好きで、どうしようもなくらい好きな人が……ある日突然、自分から離れていったら』

『……あなたなら、どうする?』





--翌朝--

『きて下さい……起きて!』

朧「んぅ……」

朧(朝……ならさっきのは、夢……?)

朧(嫌な夢だったな……随分長く眠っちゃったみたいだし……バチが当たったのかな)

榛名「朧ちゃんっ!」

朧「わっ!は、榛名さん!?」


榛名「朧ちゃん、漣ちゃんを知りませんか!?」

朧「……?漣なら私と同じ部屋で寝て……居ないんなら、食堂か工廠あたりに」

榛名「それが、居ないんです。鎮守府のどこを探しても……!」



『駆逐艦 漣。駆逐艦 漣。至急、執務室へ来てください。提督がお呼びです。全艦娘は、漣を捜索してください』

朧「え………………」

『駆逐艦 漣。駆逐艦 漣。至急、執務室へ…………』


--執務室--

バンッ!!

朧「提督っ!!!!」

提督「分かっている!朧、最後に漣と一緒に居たのは何時だ!」

朧「寝る前!寝る前までは、ちゃんと、一緒に……!」

提督「……クソ、どこに居るんだ漣……!まさかお前まで……!」

金剛「テートク!私、空母の皆に声かけるネ!偵察機、全機発艦させるヨ!」


提督「済まない金剛……頼む!」

朧「さざなみが、いない…………?」

金剛『全空母!艤装許可シマス!全スロットに索敵機を装備、鎮守府内外問わず三人を見つけ出すのデス!』

朧「なんで…………どうして…………?」

朧(アタシのせいだ……アタシが、昨日眠ったから……)

朧(誰かが、漣も連れていっちゃったんだ……!)


朧「うっ……」

朧(わけわかんない、頭働かない……ぐらぐらする)

朧(喉焼けそう、手足が重い、少しも動かない……!)

朧(気持ち悪い、気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪いっ!)

朧「う、げぇっ……!」

ビチャビチャビチャッ!


提督「朧!大丈夫か!」

榛名「朧ちゃん!?……提督!榛名、朧ちゃんを介抱しておきます!」

提督「榛名、頼む!……金剛、索敵急がせろ!報告はまだか!」

金剛「今やっと飛ばし始めた所デース!テートク、少しcoolになってクダサイ!」

榛名「朧ちゃん、榛名に掴まって下さい!」

朧「う…………ぇ…………」


--夕方・救護室--

榛名「……朧ちゃん、調子はどうですか?少し、楽になりましたか?」

朧「……」

榛名(ダメみたいですね……体はともかく、心が完全に閉じきってしまってる……)

榛名「榛名、りんご剥いておきますね。……食べれそうだと思ったら、一切れでもいいので食べてください」

朧「……」


榛名「榛名はお姉さま達のお手伝いに行ってきますが……調子が良くないと思ったら、すぐに誰か呼びつけてくださいね?」

朧「……夢を、見たんです」

榛名「……夢?」

朧「触ったら消えちゃいそうなくらい、哀しそうに笑ってる漣が……」

朧「大好きな人が突然自分から離れたら、アタシならどうする?って……」

榛名「…………やはり、そうですか」

朧「やはり……?」


榛名「あっいえいえ!何でもありません!はい!榛名は大丈夫です!ええ!」

榛名「だから、朧ちゃんもきっと大丈夫です!」

榛名「……今は、凄く疲れてしまっているだけです。後の事は榛名に任せて、とにかくゆっくり休んでください」

朧(……)

朧「…………はい」

榛名「それじゃ、榛名は今度こそお姉さま方のお手伝いに行ってきますね!」

バタン・・・


朧(榛名さんの言うとおりだ……)

朧(寝なきゃ……アタシ疲れちゃってるんだ……たぶん)

朧「……」

朧(アタシが休んだせいで、漣が居なくなった……)

朧「……ッ!」

朧(眠れない……目を閉じるのが、怖い。体中に嫌な痺れがある……布団が全部毛虫になったみたい……ぞわぞわして、気持ち悪い)

朧「うぷっ!………………ぁ、危なかった」

朧(駄目だ……もう、アタシ眠れない……)

朧(行かなきゃ……漣たち、見つけなきゃ……!)

今日はここまでです

>>56
提督!? 何故ここに!?

>>84
ミスです

漣「提督は艦隊の指揮とか数値の管理は上手だけど……人の心の機微を推し量るとか、行間を読むとか、感情的な事が出来ない人だから」

に脳内変換して頂けると幸いです

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年09月30日 (水) 15:49:04   ID: qfMYwsOi

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