【艦これ】龍驤「たりないもの」外伝 (900)

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【艦これ】龍驤「足りないもの」【安価】
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からの派生作品や外伝を書き込む場所です、とりあえず場所だけ立てておきました


自分も使えなくなったエンドやその他ボツの話なんかを書き込むかもしれませんので、よろしくお願いします

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1532860601

勝手に書きました。口調などが一貫してない部分があるかもしれません。


これはガングートが爆撃から漁港を守る→記者会見の話の数ヶ月後、漁港が再開され数日経った日の話

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漁港
ワイワイ ガヤガヤ
ワイワイ ガヤガヤ


漁師1「いや~爆撃された時はどうなるかと思ったがなんとかなるもんだな。」

漁師2「建物はピカピカ、通路はツルツル、死傷者が出なくて本当に良かったな。」

ガングート「全くだ、私に感謝しろよ。」

漁師1「おっ!ガングートさん、すみませんねまたボランティア頼んじゃって。」

ガングート「いや、私もこの漁港が再開されたらまた手伝おうと思っていたのだ、遠慮するな。
それよりこの荷物はいつもの倉庫に積んでおけば良いのか?」

漁師2「まったく、嬉しい事言ってくれるじゃないの・・・あ~、このオレンジ色の箱はあっちにいる田中ってヤツに渡してくれ、あいつが整理するから、残りはいつもの場所だ。」

ガングート「了解した、では失礼する。」カツカツ

漁師1「さぁ、俺たちも仕事だ仕事。ボランティアばっかりに任せちゃ顔が立たねぇ。」

漁師2「本当だな、ははは!」

ワイワイ ガヤガヤ
ワイワイ ガヤガヤ

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昼休み

ガングート「さて、次は・・・」

漁師1「オーイ!もう昼休みだぞー!」

ガングート「む、もうそんな時間だったか」

漁師1「ははは、そんな反応だと思ったよホラ」缶コーヒー

漁師1「そんなに普段の仕事に比べてこっちは楽かい?」

ガングート「あぁ遥かに楽だ、普段の生きるか死ぬかに比べたらな」カシュッ

漁師1「あんた達が居るからこっちも商売出来てるから感謝しきれないよ。本当にありがとうな。」

ガングート「同じ様な事を皆から言われているぞ、気にしなくていい。本当にこの国の人間は義理堅いな。」ゴクゴク

漁師1「・・・それにしても記者会見のガングートさんはテンパってて噛みまくりで面白かったな~。」

ガングート「ッ!ゴホッゴホッ、貴様ッ!アレを見たのか!」

漁師1「見たも何も、ここで働いてる人全員であの会見見てたんだぞ。」

ガングート「なっ、全員でだと!」

漁師1「あっ、良いところに。オーイ!」
漁師2「ん?なんだ?」

ガングート「おい!仲間を呼ぶんじゃない!」

漁師1「ガングートさんの記者会見ってみんなで見たよな?」

ガングート「聞くんじゃない!」

漁師2「見た見た。すごい面白かったなアレ」

ガングート「お前も答えるな!」

漁師1「いつもは自信満々で鋭い眼光のガングートさんが挙動不振になって、何か喋る度に唇がプルプル震えてたよな。」

ガングート「思い出さなくていいそんな事!」

漁師2「俺は途中の『危険が危なかった』のやつが好きだけどな。」

ガングート「ぬぁぁぁ!蒸し返すんじゃない!鎮守府内でもかなりイジられたんだからな!」

漁師1「でもそんなガングートさんがこの漁港を守ってくれたから・・・」

ガングート「急に取り繕ったフォローを入れるな!なんなんだまったく・・・」カツカツ

漁師1「ガングートさん何処行くんですか??」

ガングート「昼飯だ!缶コーヒーだけで腹が膨れるか!」

漁師2「あっ!ガングートさん、お詫びに奢りますよ!」

ガングート「何?本当か??」

漁師2「俺と1さんで奢りますから。」

漁師1「話題振ったのは俺だしな・・・機嫌なおして下さい。」

ガングート「・・・早く行くぞ!さっさと食べて仕事再開だ!」

漁師1「はーい」
漁師2「うーす」

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初めてこういうの書きました、楽しんで頂けたら幸いです。
つまらなかったごめんなさい。

途中までですが投稿します。
旧世界(傷付いた)から新世界(足りないもの)へどう変わっていったのか。『足りないもの』が始まる何年か前の所で終わります。
妄想バリバリなので合わない人がいると思います。ご了承ください。

神威「皆さん、着きました。」


提督「……ここか。」


望月「あ~、疲れた~。」


菊月「望月は何もしてないだろう……。三日月、この場所で間違いないな?」


三日月「えぇ、間違いない。ここです。」


千代田「ここで扉ってやつを開けば平和な世界になるのね。」


荒潮「今よりは良い世界になるって言ったけれど本当かしら~?」


三日月「…………本当よ。理想郷、ニルヤカナイへの扉を開けばその力がこっちの世界に流れ込んで来る。理想郷の力が流れ込んで来るのだから、少なくとも今よりは良い世界になるわ。」


荒潮「……如月はどう思う?始まりの艦娘の言っていることは本当かしら?」


如月「わから…ない…。けれど…嘘を…ついている様には…見えないわ…。」


荒潮「そう……。なら、信じるしか無いわねぇ。」


龍驤「うちはもうこの体で満足してるんやけどなぁ……。もしかして今よりもナイスバディになってしまうんか!?ほんま困るわ~♪」


曙「はいはい、存分に困ってちょうだい。大鳳、念のために海の底の確認してもらえる?」


大鳳「わかったわ。万全を期しましょう。……………………うん、大丈夫ね。」


羽黒「船の中過ごしやすかった!」


グラーフ「そうだな。揺れも殆ど気にならなかった。」


ル級「(船が揺れてグラーフが泣きついてくると思ったのに……!)」


ガンビアベイ「ほ、本当に船の上でやるんですか?」


ポーラ「直上に島でもあれば良かったんですけどね~。仕方ないですよねぇ。」


三日月「ここが良いわ。三日月、そろそろ…………。分かりました、始まりの艦娘さん。」


三日月「さぁ、皆さん。ここに大きい扉があるとイメージしてください。そして自分の中にある力を放出してその扉を捉えてください。」


三日月「捉えた。そのまま押して!いきます!」



ガシッ ズッ……


千代田「うぅ……重い。」


菊月「くっ、司令官!支えてくれ!」


望月「まじ面倒くせ~……でもやるしかないか!」


ポーラ「車椅子はポーラが押します!ガンビアベイさんは扉の方に集中してください!」


ガンビアベイ「T……Thank you!(ポーラさん本気だ……。が、頑張らなきゃ!)」


龍驤「これちょっち重過ぎやぁ……曙、まだまだ行くでぇ!」


曙「言われなくても……くっ。」


羽黒「皆が好きだから。だから頑張る!」


神威「皆さんの力に少しでもなれるなら私も頑張ります!」


グラーフ「ル級、一緒に頼む!」


ル級「もちろんだ。……グラーフ、この扉を開けて世界がどうなるか未知数だ。それでも怖くないのか。」


グラーフ「ふんっ、散々話しただろう。怖がって先に進まなかったら平和な世界になんてたどり着けない。・・・・・・怖いのは変わらない。それでも進めるのなら進むのだと。」


ル級「……そんなグラーフも悪くない!」


大鳳「私はこの扉の先、扉が開いた世界の先まで見透してみせるわ。はっ!」


ズズズッ……


三日月「……私は艦娘が虐げられる世界なんて望まないわ。三日月も皆も協力してくれてありがとう。」


荒潮「まだ開いていないんだから、もう終わった事のように言わないでもらえるかしら……!」


菊月「そうだ、終わったら桜の丘で花見をしないか?」


曙「それ今言うの!?」


望月「おぉー。いいねぇ。」


千代田「じゃあ師匠と私と曙で食事の用意しましょ。」


ポーラ「ポーラはワインを用意しますね~。とってもとっっても楽しみです~。ザラ姉様達も連れて行きましょう~。」





ーー


ーーー


ザラ「……提督。」


ザラ提督「どうした?」


ザラ「平和な世界になるのだとしたら怪我が起こらない。そうすれば怪我が因果となった出会いも消える。」


ザラ「そして過去が変われば今も未来も変わってしまう……。もしそうなるとしたら提督……。」


ザラ提督「……ザラのことは忘れない。忘れたくない。もし忘れたとしても必ず迎えに行く。だからそれまで待っていてくれないか?」


ザラ「あ……。ずっと……ずっと待ってます……。ふふっ。」


ーーー


ーー





千代田「ひ、ら、い、た!」


菊月「ああ……で、一体どのように変わる……んっ…風?」


提督「……!全員俺の所に集まれ!飲み込まれるぞ!」


ーーー


ーー







「………………んっ。ここは?」


寒い。暗い。何があったんだっけ。そうだ。扉を開いたら光と風の奔流を受けて……。


「皆!」


返ってくる私の声が無情に突き刺さるだけ。


「菊月!」


そう叫ぶと、錆びついた扉を開ける音と太陽の光が私に飛び込んできた。


「私の名前を呼んだか?」


菊月だ。
私は寒さと喜びで体を震わせながらも菊月の所まで走った。
その姿を見るまでは。


「えっ……。」


右腕がある。右目もある。髪も赤色に変色していない。


いや、扉を開けて平和な世界になったから治ったのね。


そんな私の希望は



「誰だ?貴様。」



容易く打ち砕かれた。

ーーー

ーー




「お茶です。どうぞ。」


「ありがとう。いただくわ。」


私は菊月に不審艦として応接室まで連れていかれた。
目の前には私を睨む菊月、ソファで寝転んで雑誌か何かを読んでいる望月がいる。


「……望月。」


「ん。呼んだ?」


「その、体は大丈夫?」


「実はさっきまで遠征に行っててさー。あぁー、しんど。マッサージでもしてくれるの?」


「そう、ね。やらせてもらえるかしら?」


「おい、望月。こいつは所属場所が怪しく、私達の鎮守府の倉庫に忍び込んでいたやつだぞ。何をされるか……」


「菊月、客人に失礼過ぎ!もっちもほら、何させようとしているの!」
「してくれるって言ってるんだから良いじゃん。……あーそこそこ。凝ってんだよねー。」


深海棲艦化していない。普通の『望月』だ。なら私の知っている望月とは違う。違う『望月』だ。
なのに私の感覚はこの望月が私の知っている望月だと訴えてくる。


「菊月、謝って!謝らないとまた実験するよ!」


「うげっ!菊月、早く謝れって!」


「はぁ……。確かに失礼だった。悪かった。」


「別に気にしてないから……。ねぇ、菊月。左手で握手してもらえる?」


「なぜ左手?まぁ構わないが…………んっ。」


菊月の手を取る。
千代田と演習した後、一緒にお風呂に入って菊月を応援した。その時に握手したのと同じ感覚。
……あぁ、平和な世界ってそういうことなのねぇ~。
すると応接室の扉が開かれ、軍服を着た男性が入室してきた。


「司令官。どうでしたか?」


「彼女、荒潮の言っていた鎮守府についてもう一度調べてみたが何も出てこなかった。A提督って人もいなかったよ。それで、もし良かったら……」


「ん~?A?」


望月が雑誌をパラパラめくっている。覗いてみる。どうやら望月が読んでいたのはファッション雑誌らしい。そしてあるページを開いてテーブルの上に置いた。


「Aってこの男性モデル?」


そうよねぇ。平和な世界なら提督になってないわよねぇ。なら、こう言うしかないじゃない。


「違う人だわ~。」


「そうだよねー。」


「……で?司令官は続けて何を言おうとしたんだ?」


「あぁ。荒潮さえ良ければドロップ艦として着任しないか?」


「超低確率のドロップ艦としてですか?」


「超低確率?」


「はい。ドロップ艦は超低確率で……もしかして知りませんでした?」


「あたしだって知ってるよー。」


「誰にでも知っていること知らないことがあるだろう。比べることじゃない。」


この世界だとドロップ艦は希少なのねぇ。


そうだ。


「ねぇ、欠損艦っていないのかしら?」


4人とも目を丸くして私を見てくる。
あら~、聞いたらまずかったかしらぁ。
そう思っていると三日月が口を開いた。


「欠損艦なんていませんよ。艤装展開中なら大きな怪我もしないんですから。怪我をしてもかすり傷程度です。」


「欠損って深海棲艦に腕とか食べられちゃうわけ?そんな戦いやってらんねー。」


「そんな仕様だったら負け戦になるな。艦娘が最初から今の仕様で本当に良かった。」


「艤装を展開しなければ欠損は起こるだろう。だが今のところそういった話も聞かないな。何か気になることがあるのかな?」


「いいえ、混乱させてごめんなさいねぇ。」


私達が存在するってことは深海棲艦がいる。そして戦いもある。
けれど私達の世界みたいな被害は出ないのねぇ。
なら皆は私達の世界の事を思い出さない方が良いわねぇ。
いえ、菊月も望月も欠損や深海棲艦化が起こっていない。艦娘の常識さえ変わっている。
だとすればこの世界は艦娘誕生から変わっていると考えるのが妥当ねぇ。
だから知らない方が良いっていうのが正しいかしらぁ?


私達の世界で起こった悲しい出来事は私の中だけに閉まっておきましょう。
……でも楽しいこともあったわねぇ。


「うーわぁ、司令官泣かせた。泣かせるのは三日月だけにしときなよ。この前の出張の時に私も一緒に行きたかったって泣いてたんだから。はいハンカチ。」


「え?」


あらやだ大変。泣いちゃった。

一旦ここまで
また書きためができたら続きを載せます

扉を開く前の望月の台詞にカタカナを入れるのと改行ミスしてしまった~。



「その鎮守府は知っている。そこの提督からイタリアのお土産を貰うんだ。頻繁に行く理由は……確か『恋に落ちた。』とかだったか。いつも仏頂面なのに、その話をするときはよく笑うんだよ。」


今度は心配なさそうねぇ。


「……では準備に時間が必要だからその間はバイト艦としてここで働いてもらう。勿論給料は出す。お金は必要だろう?」


「しばらくお世話になるわ。よろしくね?うふふっ。」

ーーー


ーー




「艦隊が戻ってきまぁ~す。」


「大分暴れまくっていましたね……。」


「けっこう壊しちゃったぁ。お風呂に入るわねぇ~。三日月、艤装の整備お願いできる?」


「任せてください。」


聞いていた通りの性能ねぇ。私の艤装もちゃんとこの世界に適応していて良かったわぁ。

一通り洗い終わって広い浴槽にゆっくりと浸かる。
お臍の横に入れた桜のタトゥーは消えていない。良かった。
……艤装の中にお札の貼られた球、如月はいなかった。あの子達はあの球をどこから見つけてきたのかしら。


……もし球が見つかったとしても、この世界になったから干渉できないかもしれない。
そうだとしたら私達の世界を知っているのは実質私1人だけ。あの時味わったような孤独感にまた攻められる。
せっかく平和な世界になったのに皆が私達の世界を知ってしまうのは避けたい。
でも私の中には私達の世界を知って欲しい、共有して欲しいという思いもある。アンビバレンス。
だから旅に出る前に一回だけ会う。ここの提督に協力してもらって、千代田と曙はそれぞれ元々いた鎮守府に所属していることがわかった。アポイントメントも取ってもらった。他のメンバーは難しかった。


千代田、仲間との関係は良好かしら。他の子の娯楽品とか勝手に捨ててない?出撃ばかりして体壊したりなんかしてたら怒るわよ。
曙、提督との関係はどう?
調べてもらって、例の火事は起きていないのはわかったわ。そちらの提督も私達の世界にいた人とは違うみたい。だから火傷の傷なんて出来てないでしょう?あぁ、でも包帯を巻いていると何故か安心するとか言われたら笑っても良いわよね。


艦名が同じなだけで別の艦娘かもしれない。本当に同じ艦娘だとしても、菊月や望月のように知っていないかもしれない。それでも良い。一回だけ会おう。それがこの気持ちを納得させるための方法。

……ちょ~っと眠くなってきちゃった。お風呂上がりにバナナジュースでも作って飲もうかしらぁ。
そしたら明日の準備の確認をして今日はもう寝ましょう。

乙ですって!
鳳翔さんが「首を絞めていただくのがお好き……だとか」なんて言うところに凄い背徳感がある。
題材も文体も良さげて楽しみですね。
また、トリップをつけられたということで、分かりやすくしてもらいありがとうございます。
お互いに楽しんでいきましょう。

>>32からの続き
また途中までですがよろしくお願いします
酉は後からつけることにします

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 そして翌日になった。
うららかな春の朝日は、布団から私を追い出して目を覚まさせる事はするが、気持ちまでは晴れ晴れとしたものにしてくれない。
今日は曙に会う日。千代田の鎮守府の方が距離は近いのだけれどもそれは日程の関係。
 支度を終えた私はここの提督――――サングラスを掛けているからグラサン提督と呼ぶことにした――――に鎮守府内の如何にもな高級車が置いてあるところまで案内された。
するとグラサン提督から助手席のドアを開けられてどうぞお嬢様と微笑まれた。サングラス姿も相まって非常に付き人らしくみえた。
ありがとうお・じ・さ・ま♪と冗談を言うと渋い顔をされた。イケナイ事をしているみたいだって。不審艦を匿っているのはイケナイ事じゃないかしらぁ。
そう言うと何故か勝ち誇った顔をするグラサン提督。不気味だわぁ。


 グラサン提督が機嫌良く運転している横で、私は三日月から貸してもらっていた書物の続きを読む。この世界の艦娘の扱いや歴史などを頭に入れる為だ。
あっ、この世界だと『本営』表記が『大本営』表記になっているのねぇ~。細かいところにも気をつけなきゃ。
 そんな感じで読み進めていると、グラサン提督にグローブボックスを開けてみてと言われた。何が欲しいのか聞いてみてもまぁまぁ良いから開けてみてと言われるだけ。


「私の分のサングラスでもあるのかしらぁ~?怪しい人ねぇ。」


なんて返しながらきっと私に被害が及ぶようなことは起きないだろうと思い、短い付き合いだがグラサン提督を信用している自分に内心驚きつつ、グローブボックスを開けてみる。
中には車検証と思わしき書類が積まれており、その上に艦娘の身分証明証があった。手に取って見てみる。
『グラサン提督の鎮守府近海でドロップ。以降無所属。』
 先ほどの勝ち誇ったような顔をした原因はこれかと頭を抱えた。大鳳の男女関係観を聞いた時の事を思い出した。あの時も頭を抱えたわ。


「大本営に申請してドロップ艦として私の身分証明書を発行したのね。公文書偽装じゃないの。」


「そこそこの権力を持っているから平気だよ。こういう良い事に使う分には特にね。ウチの近海でドロップして倉庫に潜んでいたとすれば嘘じゃない。」
「どこかの鎮守府に所属したい時とか買い物をする時にそれを持っていれば色々便利に事が進む。生活していく上で必要だろう?せっかく作ったから貰ってくれるとうれしいな。」


「仕方ないわね~。じゃあ……貰っておいてあ・げ・る♪」


 出来るだけ迷惑をかけたくないと思う一方、私はこの世界に存在しても良いのだと言われたようで気持ちに少し日が射した。

短いですが一旦ここまで
また書きためができたら続きを載せます
誰が喋ったのか名前を付けなくてもわかりますかね?

訂正
大本営に申請してドロップ艦として→ドロップ艦として大本営に申請して

目覚ましが鳴り眼が覚める。いつも通りの変わらない部屋の中でひと伸びしたあと、男は部屋を出て行く。

「寒い……」

男は無意識にそう呟く。住んでいる『アザレア』というアパートは家賃が安いが特殊な建物で、部屋の中に台所が無いのだ。全部屋2L、こんな物件を探せと言われる方が難しいだろう。

洗面所とトイレは共有なので気温がマイナスになろうが顔を洗う為には部屋を出る必要があるのだ。

「寒い……」

蛇口をひねると氷のように冷たい水が出てくる。以前はこの共有の洗面所の水道はよく凍っていたらしいが、住民からのクレームが相次いだ為対策がとられそういう事は無くなった。
洗面所にかける金があるなら部屋に台所をつけてくれ…男はそう思いながら顔を洗い会社へ行く為の身支度を済ませる

「行ってきます」

男の台詞に答える人物は居ない。挨拶は口に出せと親から躾られた影響で意味もなく言葉を発しただけだった。

「ただいま」

男は意味のない言葉を発し帰宅する。勤めている会社は所謂ブラックでは無いがホワイトでも無いありふれた企業である。決して給料が悪い訳では無いのだが、男はこのアパートに住み続けている。

「今日はミックス弁当が半額か」

ビニール袋から総菜屋の弁当を取り出し机に置く。その弁当は一人暮らしの男性には高級品といえるものだったが、半額ならば相場のものである。
男はそのまま食事を摂るかと思いきや、部屋着に着替え外出する。

その目的は近くにあるコインシャワーだ。風呂が無いアパートなのでこういうものを理由するしか無いが、案外悪くなく汗もしっかりと流せる。
そのコインシャワーは百円で一定量の湯が出る仕組みなのだが、男はいつも百円では足りず二百円を使う羽目になっている。だがその事について男は何とも思っていない。

この男の行動は矛盾しているように思える。安いアパートを借りているのに食事はそこまで節約しない。金が勿体ないのならコインシャワーだってなんとか百円で済まそうとするだろう。

しかし男はそうしない。なぜなら男は金を節約する為にここに住んでいるのではなく、ただ何となく決めただけなのだ。

この男と「何となく」は切っても切れない縁で大学を決めた理由も「何となく」、今の会社を志望した理由も「何となく」である。

このアパートも会社から特別近い訳ではなかったが「何となく」決めてしまったのだ。『アザレア』という華やか名前とは程遠いこのアパートに惹かれるものがあるとは思えないが、それでも「何となく」ここに住み続けている。

「なんだ?隣の部屋から物音がするのか?」

夕食をしていた男の耳に雑音が入ってくる。隣の部屋は空き部屋だったはずだが確かに物音がする。音を立てないように玄関を開けて隣の部屋を見てみると扉の隙間から光が漏れていた。

「引っ越してきたのか……」

物音の正体が不審者でなさそうだと安堵し静かに扉を閉める。
引っ越しの挨拶が無いのが気になるが、昼間なら仕事で居ないし今はもう夜だ。夜の挨拶は迷惑だと思って自重しているのだろう。

挨拶をする気が無い迷惑を振り撒きそうな隣人が越してきた訳ではないと自分に言い聞かせつつ、男は眠りについた。

「寒い……」

次の日、いつもと同じように男は洗面所に向かう。だがそこには何時もと違う光景があった。

このアパートの洗面所は狭く、出勤時間が重なる時間には渋滞する。男はそれを嫌いわざわざ早朝に目覚ましを合わせているのだ。そうすれば誰かとかち合うことは無かったのだが、今日の洗面所には人影が見える。

一人だけならそこまで混むことも無いと男は気にせず洗面所に向かう。すると男の気配に気付いたのかその人物がこちらを振り向いた

「ああああ、あの……こここ、この水道って……」

その人物は淡い桃色の髪の毛でまさにアザレアのような色をした女性だった

「ここの水道はコツがいるんだ。先ずは根元の元栓を開けてから蛇口をひねる」

「そそそそそ、そうだったんですね……」

「大家から何も聞いていないのか?」

「はははは、はい……」

「あの爺さんついにボケ始めたか?」

「そそそそ、そんな事……ななな、無いです……」

「越してきたばっかりなんだろう?何か分からないことがあったら聞いてくれ」

「ええええ、えっと……?」

「俺は隣に住んでる男だ」

「あ……挨拶……を……ししししし、して……無かった……!」

「ならこれが挨拶でいいじゃないか。日中は仕事だから迷惑をかけることは無いと思う」

「わわわわ、私は……ああああ、明石……です」

洗面所で用を済ませ男が部屋に戻ってくると玄関で崩れ落ちてしまった。それなりに音が出てしまったが周りも起きている時間なので文句は言われないだろう

「なんだ……あの女性は……それにこの胸の高鳴りは……」

男は恋愛経験があったがそれも人並みで「何となく」好印象だった女性と付き合っていただけだった。

そんな相手とは当然長続きなどするはずも無く、男も本気で誰かを愛したことなど無かった。

だが今の男の抱いているモノは今まで経験のした事の無いような高翌揚感とエネルギーに満ち溢れていた。

「明石……さん……」

男は「何となく」ではなく「本気で」女性を好きになったのだ。

「明石さん、弁当ここに置いておきます」

「ああああ、ありがとう……ご、ございます……おおおお、お金を払い……ます……」

「気にしなくていいですよ。それより頑張って下さい」

「は、はい……」

俺はあの日から明石さんの部屋をよく訪ねるようになった。水道が無いのは知っていたのにキッチンが無いことには気付かず、飯をどうすればいいのかと半泣きで俺の部屋を訪ねてきたというのも原因の一つだ。

明石さんは何かの研究を独自でしているらしく、薬やそれに関する本がズラリと並んでいた。

明石さんの喋り方や仕事の事は何も聞いていない。一度そういう話になりかけた時に悲しそうな表情をしていたからだ。嫌われたくないというのもあるが、何より明石さんに悲しい表情をして欲しくなかった。

「おおおおお、お金は……かかか、必ず払います……」

「余裕のある時でいいですよ。じゃあ俺はこれで」

「おおおお、お休みなさい……」


こんなアパートに越してきたということは金が無いんだろう。全額こっちが払うのは嫌がりそうだから、俺が払った金より安い金額を提示しておこう。そんなことより……

「お休みなさいか。誰かに言われるのは久しぶりだ」

今日はいい気分で寝れそうだ。

「具合悪いんですか?」

「だだだだ、大丈夫……で……す……」

ある日明石さんが洗面所で突っ立っていた。顔を洗っていた素ぶりは無く顔は青白かった。足取りも重く真っ直ぐ歩くことも困難だったので、彼女の部屋まで介抱してあげた。

「病院に行った方がいいんじゃないですか?」

「へへへへへ、平気……です……ねねね、寝てない……だけ」

「無理はしないで下さいね」

「はははは、はい……」

あの顔色は寝不足だけでは無いと思うが、明石さんがそう言うのなら何も言えない。もっと様子を見ておきたかったが、ただの隣人がこれ以上部屋に居座るのもよくない上に出社時間も迫ってきていたので部屋を後にすることにした。

「悪化したら救急車を呼んで下さいね」

「あああ、ありがとう……ごごごご、ございます……」

その日の俺は仕事が手に付かず、久しぶりに上司に怒られる羽目になった。

会社から帰ってくると明石さんの部屋には明かりが付いていて物音もしていた。動けるようにはななったみたいで一安心だ。後でもう一度様子を見に行ってみよう。

しかし気を使わせてしまう可能性もある。何か異変を感じない限り部屋を訪ねるのはやめておこう。

結局その日は会うことが無く俺は眠りについた。

「行ってきます……」

返事の帰ってこない嘆きを部屋に投げて出社する。明石さんに会えななかった朝はなんとなく気分が落ち込んでしまう。

そういえばここ数日は朝に会うことは無かったし、昨日は早くに寝ていたようで俺が帰ってきた時にはもう部屋の電気が消えていた。最近体調が悪そうだったから心配だ、研究も大事だろうが自分の身も大事にして欲しい。


「こっちだって早く!」
「わかってるわ!」
「○○……!」

すれ違ったのは艦娘……か?なんでこんな陸地を走っているんだ?この辺に鎮守府は無かったはずだが。

それに胸の大きかった艦娘は何か名前を呼びながら走っていたが、すれ違いざまだったのでよく聞き取れなかった。

だが俺には関係の無いことだ、勝手にしておいてもらおう。それより俺は明石さんの事が心配なんだ。

「今日は食べやすいものを買って帰ろう」

俺はそう呟きながら会社へと向かっていった。

「寒く……ない」

暖房の効いた部屋で目を覚ました俺はそう呟く。新しく越してきたマンションは床暖房がデフォルトで入っているような素晴らしいマンションだ。ここに越してきて数日しか経ってないが、とても住み心地が良い。

俺が『アザレア』を出た理由はただ一つ、明石さんが消えてしまったからだ。会社から帰ってくると明石さんの居た部屋が空き部屋になっていた。大家に聞いても急に引っ越した、迷惑料として来月分の家賃も置いていったから文句が言えなかったと言われてしまった。

明石さんは携帯も何も持っていなかった。彼女とは隣人という繋がりだけだったのだ。明石さんとの繋がりが消えたアパートに何の未練も無く、俺はすぐに引っ越すことに決めた。

このマンションは以前のアパートとは東西真逆の位置にあり、通勤時間も増えてしまった。だが朝寒くもなく、トイレが自室にある部屋に比べれば大した問題ではない。

「行ってきます」

誰も居ない部屋にそう呟き部屋を出る。そしてエントランスに貼ってある壁紙をチェックする。ここにはこのマンションに関するお知らせや情報が貼られている。前のアパートでは大家の手書きのメモが投函されているだけだったことに比べれば随分と分かりやすい。

「俺の隣の部屋に引っ越しか」

部屋番号を確認すると確かに隣に新しい住人がくるらしい。そういえば明石さんもそうだったんだよな。

明石さんとの事で後悔していることが一つある。それは気持ちを伝えられなかったことだ。

向こうに好意は無かった可能性が高い。それでも言わなかったことに対しての後悔で胸が潰されそうになった。だから俺はあのアパートから引っ越したのだ。

運命の悪戯か何かで、もう一度彼女に会えたら俺は……

だが現実的に考えると明石さんともう一度会うことは難しいだろう。名前しか知らずに務め先も分からないのでは探しようも無い。

叶わぬ夢を見るとはこういう気分なのか。俺は初めてこんな気持ちになったのかもしれない。

そうだ、俺は今までこんな気持ちを経験したく無いから「何となく」という選択肢を選んできたんだ。「何となく」選んで失敗してもダメージが少なかったからずっとこの選択肢を選び続けてきた。

人が前に進むためには挫折が必要だと聞いたことがある。挫折というには余り重いが、そう割り切ってしまおう。

俺は前に進んだ。人間として一つの階段を登ったんだ。

壁紙の前から移動しようとした時、管理室の方から大家さんの話し声が聞こえた。大家さんの大きい声によるとどうやらその引っ越してくる住人が来ているようだ。

ここの大家さんはマダムという言葉が似合う人で、趣味でこのマンションを経営しているらしい。俺とは住む世界が違う。

軽く溜息をついたあと外に出る為にエントランスを抜ける。するとその時に磨りガラスの隙間から一瞬管理室の様子が見えた。



そこにはアザレアのような色をした女の人が座っていた

『アザレア』

【艦これ】龍驤「まだ、足りないもの」その9【安価】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1541669468/83) を基にしたまとめを作成していたので誠に勝手ながら投下させていただきます…


駆逐艦

・暁
改二。胃腸が弱いため厄介払いで移籍。お酒に弱い。響と隣部屋。
レ級の尻尾をクリティカルで破壊。
紆余曲折を経てレ級と恋仲になる。SとMどちらもいける。 他人の性感帯が分かるようになったらしい。
・雷
もっと頼られたい。料理が美味しい。お仕置きアンカー使い。特三型の四人の部屋は隣同士。
翔鶴 がDJのラジオ番組『白鶴、まる。』のアシスタントをしている。
・電
怒声をあげられたり威圧されたりするとパニックを起こす。 半分トラウマスイッチの入った響を元に戻すほどのくすぐりの達人。
雷「調子のいい日の電は敵に回しちゃいけないの」
・響
改二。本人の希望で響と呼ばれる。暁と隣部屋。語尾に「ニャン」とつける時がある。
艦娘の反対派のテロにより前の鎮守府の司令官が亡くなったと故に死に敏感。
事件は揉み消されており響から詳細を聞いたのは提督とガングートのみ。
フリフリ猫耳メイド服の自撮り有り。筋肉質な男性が好き。猫耳&猫尻尾を着けていることがある。
結構派手な下着を穿いているらしい。「先生」とその子供の「うすしお」という野良猫と仲がいい。
・清霜
前の鎮守府にいた武蔵を尊敬している。その武蔵は脳の病気に罹り亡くなる。清霜は、病気が進行して声帯が機能しなくなった武蔵のために手話を覚えた。
手話ができるため長門の通訳をするときがある。
・霞
改。龍驤からママみを感じられている。毒草マニア。皆に薬を渡す。薬剤師免許持ち。
タナトフィリア。鎮守府裏で薬の元となる草を栽培、また山へ採取しにいったりする。
榛名のことをお姉さまと呼び、付き合っている。素質はあったが前鎮守府で出撃させてもらえず練度不足。 榛名曰くストレスが溜まっているとSになるらしい。
・黒潮
改二。龍驤のブラックジョークに対応できる子。喧嘩が強い。加賀と素手の殴り合いをした。
前の鎮守府の提督が浮気をして鎮守府が解散。故に当鎮守府に来たのはたまたま。 神通とは仲がいい。
『悲劇』の時に神通や龍田を相手に立ち回った。その時のことを夢に見る時がある。漣のことが嫌いだったが、飛鳥の仲裁?もあり関係は改善する。。
・不知火
改二。お洒落に気を使う。猫耳狸柄パーカー着用。
一度怒りのスイッチが入ると大変。前の鎮守府では凄かったらしい。 隼鷹と仲が良い。
スパッツへのこだわりが大きく、そのままでお手洗いに行ける改造をしたり自分で作ったりしている。変な本の大半はお尻モノ。
特務艦綾波から離れるためK提督の鎮守府にレンタル移籍するが、脱走した綾波と交戦、実は傀儡であることが判明する。
・卯月 / 弥生
改。霞より練度が大きい。
かつて卯月が沈んだ際に、弥生が卯月の肉体を食べた結果、現在は弥生の肉体に卯月の意識も存在している。
性行中毒だったが改善。バリタチ。最高五股。
叢雲に槍で刺されて入院していた。叢雲に鉄パイプを入れてお腹を踏んだことがある。
・朝霜
練度250。提督に滅茶苦茶にしてほしい為に当鎮守府に来た。元々いた鎮守府の提督から移籍する許可をもらっているが、当鎮守府の提督は受理していない。
首輪をつけたり体中にピアスを空けていた。
ピアスには守れなかった人の名前が刻まれ、またその人物の一部が練り込んであったが、そのピアスを夕立に破壊される。 後にピアスを鋳なおし、イヤリングとして付けている。
提督が好き。幹部付き特務艦。龍驤の事故現場に遭遇している。 早霜に調教されていたので、早霜にはまるで逆らえない。
・叢雲
改二。ポニテメガネ。うーちゃんが好きで刺しちゃった(二回)。
釈放後、当鎮守府に所属した。スリップ着用タイツ直穿き。
卯月が改二になった叢雲をイジめたいというので頑張って改二になったらしい。
卯月に下半身を蹴られまくって正常な卵子を排卵できない体になり、妊娠不可能。
・皐月
改二。提督の友人である女性提督の所から移籍。母乳で溺れて天国を見た。雲龍の胸が好き。 一時漣や雲龍と肉体関係を持つ。
オッパイを極めた結果マッサージの技術を身に付けた。オッパイを揉んでいるとき、富士と遭遇するが、そのオッパイを揉み富士を体から追い出した。
・陽炎
改二。制服は金色。艤装も金色。家具も金色。私服も金色。メッキ加工ができる。他人に選ぶ服のセンスは真面。
一から夜の金色相棒を作ったことがある。出撃の合間に工廠で手伝う。
最後には快楽堕ちして奴隷になる陵辱系モノが好き(金色のカバーがかけられている)。
好きな甘味はケーキ。カップケーキ等をよく食べる。栄養剤代わりに金粉をかける。
改二の際、艤装を金色に塗装したところ、艤装が爆発してロボになった。声が出る。装着すると船速が早く耐久が大きくなる。装着した見た目はアイアンマッ!
かつては万引き癖があった。不知火と同じく傀儡である。
・漣
当鎮守府の初期艦。龍驤が怪我をした数日後に別の鎮守府に移籍。提督の初めて。
腕や脚をくっつけられた跡があったが、整備士によって健常者となる。胆嚢に友好的な重巡棲姫がいる。
深海の魚雷を使えるが深海の主砲は使えない。 アレを生やせる。
レ級とともに和平派の深海棲艦を集めている
・潮
傀儡の完璧なチューナーとして作られたが失敗作として放棄されたと思われる。
整備士と知り合いでかつ大本営を裏切った提督に送られる予定であったと思われる。
好きな艦種になれる。深海棲艦にもなれる。深海棲艦になると口が悪くなる(ブラック潮)。艦種に合わせて体型が変化する。
得意な重巡と当鎮守府での層が薄い戦艦をメインに使いこなせるよう頑張っている。空母艤装は一航戦や五航戦のものに近い。
皐月にオッパイの気持ち良さを教え込まれた結果、漣のものより長い立派なモノが生える。
・S朝潮
元ブラック最前線激戦区鎮守府所属。売られて毎回自分の中に出された液体を掻き出して飲んで生き延びていた。
買った男を自分の手で始末した。
殺人の件で再審が行われるも、朝潮の減刑は認められず、新型手錠のモニター期間も終了したため刑務所送りとなり、獄中で自殺する。
その怨念が独り歩きし、島風鎮守府を苦しめるが日進に怨念の事を伝え供養してもらう。

・山雲
霞の薬品の管理について監査に来た。恐らく組織側の艦娘であり、幹部と駆逐棲姫を拘束し、二人を奪還された後は艦娘を深海棲艦のように変異させる薬を飲み暴走する。
『頭ネジ』の武蔵に殺害されるが、その遺灰と朝雲が持っていた山雲の死体の一部が融合して出来た卵から、妖精さんサイズになって復活する。艤装の威力はサイズ相応だが、艤装を出している間は秋津洲を軽々投げ飛ばすほどの怪力を発揮できる。
・朝雲
山雲と同じく霞の薬品の管理について監査に来た。山雲が組織側の艦娘だとは知らなかった。どこにも所属していないことが判明し、提督の鎮守府所属となる。
・初雪
古鷹を自殺させたということで加古を憎んでおり、提督の昇進と同時に鎮守府に着任する。
古鷹の自殺の原因の多くが古鷹に寄生した深海棲艦によるものだと知り、加古を殺そうとしていたことを謝るなど加古との関係は持ち直す。
・白露
・村雨
・春雨
夕立・時雨(駆逐水鬼)の姉妹艦。元々は同じ鎮守府に所属していたが、時雨の死後バラバラになったらしい。
ガングートの代わりの戦力として鎮守府にレンタル移籍する。
春雨は富士を追い出している。

軽巡

・阿武隈
改二。酔うとキス魔になる。
下の毛は生えていない。清霜ですら生えてるのに。不感症の疑い。
前の鎮守府で独自のノルマを課せられていた。
・多摩
改二。龍驤が心配な為に艤装を破壊したり義足義手を隠したりしていた。
女子力の塊。瑞鶴のリハビリ担当医にアタックした結果婚約。
普段は指輪をネックレスにしている。
恥ずかしさのメーターが振り切れるとゴメン寝する。興奮すると語尾がとれる。
改二になった際、夜目が利くようになったり、野生の感が強くなったりした。マル秘作戦で加賀と一緒になったことがある。 その影響か、加賀とともに血中細胞が変異している。
・北上
改。工作艦医療担当も出撃もするハイブリットな北上様。
一生龍驤さんの専属技師。素質も練度も問題無いが、改二の服は寒いので改のまま。当鎮守府の憲兵と付き合っているが、情事が下手。
・夕張
工作艦担当。鎮守府の色々を盗撮している。ドローンも使う。夕張が着任してからは、集合写真は同じ場所で夕張が撮る。
鎮守府の運営がままならなくなった時、潜水艦達と一緒に何とかしていた一人。
メロンと呼ばれることが嫌い。前の鎮守府ではそう言って弄っていた相手が階段から落ちそうになった時、手を伸ばさなかった。
トリガーの使い過ぎで生命が殆ど無くなるも回復。入院時、PCが扱える烏に懐かれた。他の者に懐く様子はない。
夕張「やっぱりメロンは夕張ですよね!」
もし艦娘を殺してしまったときのために死体を隠しておくための冷凍庫を工廠に置いていた。その冷凍庫は時津風とヅカ系に詳しいらしくファンクラブ限定の超限定版DVDを持っている。
・神通
改二。練度99。ケッコンカッコカリ済。バトルジャンキーだったので匙を投げられ移籍してきた。
移籍当初は勝手に出撃を繰り返し気絶するまで帰ってこなかった。
ジョークにものってくれる。<龍驤さんは背も小さいですよ。
黒潮と共に龍驤に頼りにされている。素質は30だったが提督と話し合って変わり改善する。
ダメになると食べ物を噛めなくなる。注射が嫌い。 脇腹が弱点。
・川内
改二。夜戦がうるさくて夜戦に抗議をしたら自分が夜戦になった。
ニンジャ。素質問題無し。神通に次いで練度が大きい。休日は誰も知らない山水の滝で体を清める。
師匠と仰ぐ由良が居てその影響を受けて鬼軍曹と呼ばれていたらしい。愛用のバイクを所有。
提督の鎮守府に来てから梟挫を習得した。元々は忍者提督の鎮守府にいた。
・龍田
改二。天龍ちゃん好き。一思いに殺すのが得意。前の鎮守府で提督に襲われた。
素質は5であったが、当鎮守府に着任後に素質が上がり改善する。
・天龍
龍田の改二実装に凹むも皆からのビデオメッセージで感動。自分の役割を果たすと意気込む。
過激な乙女ゲーのガチャ中毒。株とかでへそくりを作って課金していた。霞の薬で様子見。
・大井
別の鎮守府から移籍。北上(別)に襲われ心意喪失するも、球磨が投与していた毒や周りの協力もあってある程度回復。
動けなくなるまでは別の鎮守府で一二を争う練度であった。強くなるのが好き。
・球磨
別の鎮守府から移籍。大井の介護をしていた。北上(別)を恨んでいる。
自我のない深海棲艦が脳以外のどこかに寄生、一体化している。趣味は艦娘の盗撮や使用済み下着の収集。
北上(別)の死体の破片を浴びた際、体内の深海棲艦を北上が乗っ取っていた。
北上(別)の働きで内臓を破裂させられ、その際北上は血を浴びた明石に移動した。その怪我は完治するが、下着を使った料理は食べられなくなったらしい。
・由良
川内の師匠として川内を鍛える。深海棲艦を滅ぼした後、艦娘も処分するという考えを持つ。
強くなるために深海棲艦のコアを食べたらしい。4体の深海棲艦を体内で飼っている。
忍者提督とケッコン済み。

重巡
・加古
改。寝坊癖がある。不知火達によく着替えさせてもらっている。 埠頭で釣りをして何も考えず時間が過ぎるのが好き。
前の鎮守府で共にエースだった古鷹を自殺に追い込んでしまった事から他の重巡を見ると錯乱していたが、先の記述とは別の古鷹が流したボトルメールを受け取ってから彼女と交流し、元気になっている。
・羽黒
目を見られるのが恥ずかしいので髪の毛で隠している。幹部さんが送った監査官(艦)。
素質は30程度で改二には程遠い。正式に当鎮守府に着任している。正義に悩んでいたが答えを見つけることができた。
絡み酒。酒に弱い。ウイスキーボンボンや甘酒でも酔う。
下の毛は結構濃いというか、ワイルドというか。剃っても逆効果。過去に男性経験あり。
・那智
当鎮守府が初着任な艦娘2号。当面の目標は改二。男性経験なし。
疲れが取れることもあり、皐月のマッサージを気に入っている。
・愛宕
男性恐怖症。町で男の人とすれ違うだけでもダメ。
前の提督に毎日ささやきボイスを聞かされて発症。それを理由にドロップアウトするのは嫌なので当鎮守府に移籍。
提督からの指示は他の者を通して伝達される。 男性恐怖症克服のため那智に男装してもらうが、その姿にキュンとする。

潜水艦

・伊401
メンタル弱。他の潜水艦とは違い『悲劇』の後も鎮守府で活動している。心の病治療済み。潜水棲姫を人質に取られ組織のスパイをしていた。
・伊168
過度のストレスによる狭心症であり右眼がうまく見えていない。
潜水艦達の中で一番ひどい症状だった。鳳翔のお店で働いている。
鎮守府でリハビリ中。初期トリガー使用者。
・伊8
鳳翔のお店で働いている。はっちゃん特製サラダ。
・伊58
『bar海底』を開店。仔狸を裏で飼っている。
・呂500
『bar海底』で働いている。鎮守府に復帰。酒乱で絡み酒。将棋が得意。
・伊19
高級店『料亭竜宮』で働いている。
・伊26
高級店『料亭竜宮』で働いている。
ストレスにより綺麗に白髪になる。
・伊13
潔癖症。手垢やドアノブ、握手がだめ。手袋をしている。
個人風呂を作ってもらったり個人食器を買ってもらったりして感謝している。
恋人は出来たことがない。恋人が出来たら全身を使って洗ってあげたいという願望がある。
性的に興奮してくると、酷い腰痛に襲われる。フレンドさんは触らないで声や息遣い、見た目だけで満足させていた。
・伊14
アルコール中毒だが、霞の薬で改善している。

戦艦
・金剛
改。艦娘の権利を守る団体から偵察にきた艦娘。
現在レンタル移籍中。
不祥事により所属団体の幹部から降格。艦娘保護団体の活動が忙しく、練度不足。
提督を狙っていたがその気持ちは親愛に因るものだと気づく。金剛の部屋は龍驤の部屋の隣にある。
・ガングート
改二。酒に酔い、暖炉に頭から突っ込んで顔に火傷を負ったため志願して当鎮守府に移籍。ホラー映画が苦手で叫び声を上げる。
純血。 ポンコツだが練度は高い。火力に自信有り。ロシア国籍。町の人達に人気。孫さんと鎮守府外で同棲、孫との子を妊娠し、入籍する。
・長門
改二。耳が聞こえず喋れないため読唇術やタブレット等で意思疎通をする。
ギリギリ改二。グロい話は少し苦手。宇宙戦争の映画が好きだった。
大層強大な力を持っていた深海棲艦と素手で戦い沈む。ダメコンを積まずに轟沈したが復活した。
轟沈した自分を助けた大本営に恩を感じ、スパイとして大本営と通じている。接触回線と非接触回線を搭載しているので、接触回線を搭載する者とは触れるだけで意思疎通ができる。
朝霜に尋問されるが、トラウマが再発した秋津洲が暴れる混乱に乗じて、陸奥とともに行方をくらます。
・榛名
榛名提督の鎮守府から移籍。霞のことが好き。艤装解除時に近くの駆逐艦を庇って左手薬指を欠損する。
比叡の料理で生死を彷徨った結果タナトフィリアに目覚める。左手薬指の爪を噛む癖があった。
死ぬ時は一緒に死のうと霞に言ったらしい。
・アイオワ
大本営からの支援として着任する。大和型に匹敵する火力と強力な対空火力を誇る。皆にハッピーを振りまいているが、かつてはアンハッピーな時期もあったらしい。
「ミーは強いわ!何故ならアメリカは強いから!」「そしてハッピーだからなのよ!」

空母

・雲龍
元世紀末鎮守府所属。定期的なエステ通いと手入れにより自慢の胸をもつ。胸は普通の『雲龍』より大きい。
忙しくても休み等きっちり与えてくれる提督に感謝している。当鎮守府の最初の正規空母。『悲劇』の際、記憶障害が起こった。
その胸で何度も皐月を狂わせているが、皐月によるマッサージを受けている。

・天城
右腕二の腕あたりまでが何かにより腐っていた。その部分は腐臭が無く、痛覚が働いていなかった。
隠れて酒や煙草を使用していたが皆にばれていた。他の『天城』とは生まれつき全然違った。
素の口調は男勝りであり障害者になることを恐れていたが手紙や説得により切除に切り替えた。現在は義手。
胸が異様に膨らんだり母乳が出るようになったりしたが前より少し大きくなった程度で収まった。
天提督とは隠れた恋仲だったようだが天提督のガン宣告を機に結婚することになる。照れると耳が赤くなる。

・葛城
龍驤が安心して休んでいられるように強くなりたい。その為に朝ランニングや瑞鶴の特訓を行っている。
夜戦(意味深)等の話題になると真っ赤になるウブな子。その手の経験はない。
当鎮守府が初着任な艦娘1号。葛城の部屋は執務室近くにある。
組織の末端に属していた男性と良い雰囲気。 秘書艦の仕事を勉強中。

・加賀
ツンデレ空母。百合好き提督鎮守府から移籍。瑞鶴を戦闘から遠ざけるため排斥行動をしていた。
前は如何にして戦果を稼ぐか、どれだけ他人と差をつけるかが生き甲斐だった。練度は高いらしい。

・瑞鶴
怪我をする前から改二。盲目。普段は飛鳥(盲導犬)と共に行動し、出撃時は四感(艤装の駆動音や風)で判断し戦闘。
加賀と恋仲。
百合好き提督鎮守府から移籍。目は艤装解除後にやられた為修復剤で治せない。
雲龍と行ったエステでの豊胸メニューにより少し大きくなっている。ツンデレ好き。

・翔鶴
当鎮守府に来る前から改二。瑞鶴を追ってカバンに入る。一時期ホームレスになっていた。
百合好き提督鎮守府から移籍。瑞鶴から瑞鶴翔鶴の写真を入れたハートの形をしたロケットをプレゼントされる。
体を許すのは将来伴侶になる殿方だけと決めている。噴式を使える。影が薄いことを気にしている。
『白鶴、まる。』というラジオ番組にDJ 「白鶴」としてアシスタントの雷と共に出演している。

・隼鷹
改二。不知火とヘンな話で弾む。
夜に対する恐怖を酒でごまかしていたが、泥酔した自分の姿を見ることで飲酒量を減らした。川内と同じくバイクを所有。

・飛鷹
清霜を礼号組という悪い見本から守ろうとする。一人だと安眠できないため清霜と一緒に寝ている。
前の鎮守府で良く懐いてくれていた娘に似ていたため、その娘と清霜を重ねて見ていた。
その娘は戦艦が好きでボランティアで仲良くなるも、手術中に深海棲艦の襲撃による停電が起きて亡くなる。
折り合いがついてからはその娘と清霜を重ねて見ることがなくなり、清霜のことが好きになる。

・龍驤
改二。最大練度。線路に転落した少女を助けようとして電車に轢かれ、左腕及び左足太腿先を欠損。義足義手がない状態で鎮守府内を行き来する姿にドン引きしている艦娘は多い。趣味は読書。
義手にロケットパンチ機能がついている。
艦載機発艦のために全身に印を刻んでいる。使用するのは舌に刻まれた印。
ドM気質(情事の際に首締めを求める)。
<天然モノのパイパンっぴょん!
<可愛いパンツはいてるやん!

・ガンビアベイ
他の鎮守府から転属してきた。足が不自由。杖があれば歩くことはできる。
前の提督や一部艦娘、同じ様に障害持ちの人からは良くしてもらっていたが、それが面白くない娘達と良くしてくれる娘達の軋轢が酷くなっていくのに耐えられなかった 。弁護士として艦娘のかかわる裁判で活動する。

その他

・秋津洲
ブラック最前線激戦区鎮守府から移籍。工作艦。彼氏はここに来てからはできてない。
ワーカホリック気味だが食堂での会話や初めてできた友達である明石の存在により緩和されてきている。
夜の相棒の名前は大艇ちゃん。前歯2本は折られたので差し歯。大艇ちゃん(飛ぶ方)への拘りが凄い。
下着は基本的にウニクロで安いのをまとめ買いしている。 以前の鎮守府で暴力をふるわれたというトラウマがある。
・明石
完全なサイボーグを作ろうとしていた。 整備士と通じていたが思想の違いにより袂を分かつ。
工作艦。所属していた団体は真っ当。幹部により、以前の記憶を消される。
作業のクセや特徴を掴むために工廠組のノートをつくっている。
北上(別)が体内に入ったことで、以前の明石の人格が目を覚ますが、由良の中にいる深海棲艦達によって以前の明石の人格は完全に消滅し、吃音が改善する。
皆には秘密にしているが、ある男性といい関係のようだ。
・レ級
駆逐棲姫の姉のようなもの。
尻尾を暁に破壊される。暁と恋仲になる。基本受け。お尻に嵌まる。
艤装が大きさ3mくらいの戦艦になる。超重力砲ビーム。雷のような見た目。深海棲艦も艦娘も食べたことないよ。
漣とともに和平派の深海棲艦を集めている。雷の艤装を使うことができる。
・駆逐棲姫
通称クキ。恐らく駆逐艦の突然変異。両足をスクリューに巻き込まれ失っている。義足や車椅子で行動。
嵐(自然現象)が怖い。天体観測が好き。幹部をパパと呼ぶ。幹部と結婚する。深海棲艦も艦娘も食べたことないよ。
艤装は持っていないが工廠組が右腕用の機銃付きの籠手を開発している。
・提督
鬼畜カニバ鬼悪魔ドS提督等様々な風評被害に悩まされている。
あがり症。人相は良くない。金庫に今まで撮った集合写真を保管している。
ネコミミが好き。朝霜も叫ぶほど痛い足裏マッサージができる。菓子類を作るのが得意。
・幹部
偉い人。モンド(必殺仕事人)。駆逐棲姫と結婚する。脇フェチ。
明石の頭をチョメチョメした人。提督に代わり和平派提督たちの派閥のリーダーとなる。
・女幹部
幹部の知り合いで綾波を特務艦にした。その正体は菊月であり、ある男性を探しているらしい。
・飛鳥
瑞鶴の盲導犬。犬種はゴールデンレトリバー。 加賀のことは青いおっぱいの人と認識している。
・医師(瑞鶴のリハビリ担当医)
女性不信。多摩のひとめぼれの人。まずは友達として多摩と付き合った。
清いお付き合いの果てに多摩と婚約。
・鳳翔
鎮守府の近くに店を構えている。
大事な存在を深海棲艦に傷付けられたことがあり、提督のところには所属していなかった。
深海棲艦との和平には反対。

・憲兵
当鎮守府唯一の憲兵さん。
多摩に告白され振り、北上に告白して降られた。
そこで周りを妬むようになったが那智の言葉により北上に再度告白。北上と恋人になる。
・間宮
料理を教えていたりする。日常的に皆の食事作りを担当している。
・医者
身長150cm程。当鎮守府住み込み。内科医。寝ている人が好き。
鎮守府を行き来して艦娘専門の治療行為をしている。鎮守府敷地内の診療所や鎮守府内の医務室にいる。
・千歳
水上機母艦。医者に有料で胸を貸す。心療内科専門医。カウンセリングも大丈夫。
鎮守府敷地内の診療所や鎮守府内の医務室にいる。
・孫
熊野の事件で世話になった地元の権力者、その孫息子。
日本酒蔵で働く杜氏。ガング―トに対する日記をつけている。 ガングートの妊娠後、ガングートと入籍する。
・最上
時雨を取り戻せるという甘言を弄され、組織の傀儡の調整役になった。その後脱走し当鎮守府に助けを求める。
時雨に初めてあげたプレゼントはお洒落な服とアクセサリー。幹部預かり。
・駆逐水鬼
中身は時雨。最上と出かけている時に乗っていた水上バスが深海棲艦の魚雷にやられ瀕死。その後死亡。
時雨の死体は一度盗まれた後に脳を抉り取られた状態で発見された。
・那珂
傀儡。川内に保護されるも、夕張が使った古ぼけた艤装の中にあった黒い球を持ち去る。黒い球は荒潮に回収される。
・潜水棲姫
座礁して動けなくなっていたところを伊401に助けられる。同胞を食べたことがある。火力は大和型~長門型の数値。雷装値は重雷装巡洋艦並み。
・北方棲姫
鎮守府に 時津風に殺されて深海棲艦となった。時津風と遭遇した際、殺人の証拠を消そうとした時津風に殺されるが時津風も道連れにする。
・潜水新棲姫
潜水棲姫 とレ級と一緒にいた漣を捕虜だと思いこむ。漣の棒を調べているうちにセイエキを浴び、発情し漣たちについてくる。鎮守府で知識を吸収し、書類仕事も手伝うようになる。
漣の下半身に負け、漣の言うことは聞くようになる。漣曰くペットとのこと。

・百合好き提督
瑞鶴放置の理由が、戦隊の花形として盲目の瑞鶴は相応しくないからだと思っていたら、加賀との仲が悪く見えたからだった。
加賀曰く戦果を稼ぐのが趣味のような人だったのだが…。瑞加賀LOVE。お気に入りの百合モノ同人誌を赤城に捨てられる。
鳳翔さんのお店の常連。
・赤城
百合好き提督鎮守府所属。百合好き提督が好き。狐耳のコスプレをしたりする。鳳翔さんのお店の常連。

・天提督
優柔不断。膵臓癌であったが手術は成功。天城と結婚をする。初体験は天城から襲われ、下の毛も剃られた。 誰にでもダメコンを積む。
・扶桑
・山城
・村雨
改二。
・龍鳳
・深雪
天城を姉御と呼び慕っている。

・島風提督
ブラック最前線激戦区鎮守府の提督。島風のためなら何でもする。
頭のネジが外れた艦隊(以下『頭ネジ』)を指揮している。謎の組織とつながっていた。
皆との情事をやめると宣言した。 新年の大演習以来、提督の鎮守府とは接近禁止となる。
・島風
両手足欠損の達磨状態であったが、整備士によって両手足を生やしてもらった。
島風提督のことが好き。一緒にかけっこをしたい。
・長波
洗脳されている疑いがあったがメンヘラなだけだった。夜が激しすぎる。
神通「ヤンデレでしょうか?」 五月雨「メンヘラ」
・五月雨
『頭ネジ』作戦担当。煙草を吸っていたが妊娠を機にやめる。
スイッチを押されると頭が割れそうになるほど痛くなる。ドS。
粗暴な言葉遣いだったがさみだれへの影響を考え、島風に協力してもらい、直す。
島風提督をパパと呼ぶ。
・大鳳
『頭ネジ』旗艦。ヤンデレ。ナイフ、ペンや箸で島風提督を刺し殺しかけている。
・摩耶
島風提督が戻ってきたと聞いて戻ってきた。
煙草を吸っていたが島風提督がいないと吸っている気がしなかったらしい。
島風提督が好き。真面。
・伊400
『頭ネジ』真面な部類……だと思われたが、島風提督を取るためにスイッチを使い、五月雨及びさみだれを人質にする。
その後作戦は失敗し、逃亡。現在行方不明。島風から「皆が熱くなった時でも、常に冷静な判断を下してくれる頼もしい存在」と信用されている。
漂流していたところを整備士たちに発見され、共に行動することになる。ビスマルク「貴女ただのツンデレじゃない。」
・武蔵
『頭ネジ』一番やばい奴。思考言動が幼い。水鬼レベルを素手で殴っていた。文月をいじめっ子だと思っている。
・天津風
島風が無事で幸せならそれで良いと思っている。幹部預かりから戻ってきた。洗脳解除済み。
・夕雲
島風提督を刺した後通りかかった『頭ネジ』にポイ捨てされ、提督らに捕縛される。
組織に早霜を人質にとられているという洗脳を受けていた。早霜は元々居なかった可能性がある。
更に聞こうとすると気絶し、組織の事どころか色々な記憶が曖昧となる。現在は幹部が連れて帰っている。
・大淀
超低確率であるドロップ艦として着任。常識枠。五月雨「クソメガネ」(第一声)
・文月
改二。幼女塾という団体に買われ助けられてから改二となった。武蔵が苦手。現在幼女塾所属。
・浜風
下半身を4回程手術した。妊娠経験あり。子供が出来なくなる。凄く具合は良いと評判。幹部預かりから戻ってきた。
・さみだれ
五月雨と島風提督の子供。 近所の不良たちは、さみだれに頭が上がらないらしい。クリスマスに空飛ぶタクシーで移動するサンタにミニ艤装をもらう。
・後任提督
島風提督がいない間ブラック最前線激戦区鎮守府を担当。五月雨にサンドバッグにされ血反吐を吐き逃亡。

・北上(別)
球磨や大井のいた鎮守府の艦娘。多摩(別)を演習中の事故に見せかけて始末。深海棲艦に寄生されており自爆して亡くなった。
・多摩(別)
球磨や大井のいた鎮守府の艦娘。既に亡くなっている。球磨曰く腰抜け。

・榛名提督
霞のことは覚えていない。比叡を反省させるため榛名の移籍を許可するなど、決して悪人ではない。
金剛(別)、比叡、霧島が所属している。

・朝潮提督
朝潮とケッコン
・朝潮
龍驤とは龍驤が五体満足だった頃に提督会議で知り合った。ドM。朝潮提督とケッコン済み。
龍驤にBLを勧めた。緊縛されて羞恥責めされるのが好み。叩かれるのも大好き。

・川提督
管理人(北上)と副管理人(大井)の為に二人を失踪扱いにする。
・管理人
川の上流にあるキャンプ場の管理人さん。旦那さん。
・副管理人
川の上流にあるキャンプ場の副管理人さん。奥さん。

・K提督
かつて不知火が所属していた鎮守府に不知火が去った後、異動してきた新米提督。
・足柄
K提督の秘書艦。海防艦ばかりの鎮守府で数少ない重巡。
・防空埋護姫
K提督の鎮守府のカボチャ畑にあった動物用の罠に捕まっていた。なんやかんやでK提督の鎮守府に滞在。
・択捉
・松輪
・対馬
・佐渡
・日振
・大東
K鎮守府所属の海防艦ズ。まだ練度は低い。

・阿武提督
かつて阿武隈が在籍していた当時の鎮守府の女性提督。
現在は同鎮守府の用務員をしている。
・長良
阿武隈が在籍していた鎮守府所属。厳しいノルマの無くなった現在の鎮守府が物足りない。
・鬼怒
阿武隈が在籍していた鎮守府所属。姉と同じく現在の鎮守府に物足りなさを感じている。

・忍者提督
元々忍者の家系だった。由良のことが大好き。
・長良
・五十鈴
・名取
・鬼怒
忍者提督の艦娘たち。以前所属していた川内は阿武隈の代わりだった。姉妹の中では由良が一番強かったらしい。

・老幹部
漣に初期艦としての心構えと実務を教えた。戦争は勝って終わらないと意味が無いと語る。

・曙
どこかの鎮守府所属。厨房担当。一年程前に孤児院での火事に遭遇し、逃げ遅れた4人全員を助ける。
そのうちのひとりであった大学生(孤児院の卒業生)を倒れてきた燃える柱から守る。
それにより右腕に火傷の痕がある。『第七駆逐隊の集い』に参加して高級栞ゲット。
助けた大学生のプロポーズを受けた。大学生が就職したら結婚する予定。

・H幹部
深海棲艦に勝ち目が無いと悟らせ、講和交渉に持ち込むという考えの派閥のトップ。オネエ。男漁りは趣味みたいなものらしい。
・朧
H幹部鎮守府所属。ロングヘアー。暇があれば読書。『第七駆逐隊の集い』に参加。
H幹部に毎朝髪の毛を梳かしてもらっている。H幹部のことが好きで付き合っている。

・浜波
かつて明石によって問題のない右脚を切断された。現在は車いすを使っている。

・綾波
沈みかけている所を深海棲艦に寄生される。右腕に意識が残っている。レ級様。

・タシュケント
深海棲艦を仲間に、ソビエト連邦再興・社会主義社会完成のために暗躍している。暗殺などの仕事をして資金を集めている。予備の肉体が多数あり、肉体が傷ついても新しい体で復活する。

・日進
大本営所属だが本人は和平派。艦娘の葬儀を担当している。個人的に悪いものを祓う仕事もしている。
島風鎮守府を呪うS朝潮の怨念を祓う。イタコのように死者の声を伝えることもでき、S朝潮の想いを提督たちに伝える。
黒潮と、お好み焼きは大阪と広島のどちらが本物なのかを発端として、プライドを賭けた勝負を繰り広げる。
>>1曰く、日進は下も濃くて真っ裸就寝派。

・陸奥
死を恐れ、大本営に従っていれば死ぬことはないと諜報活動を行っている。長門と同じく接触回線を搭載しているので、長門と触れるだけで意思疎通ができる。
長門とともにどこかへ逃走する。

・あきつ丸
海軍ではなく警察に所属している。由良に捜査に協力してもらう代わりに、由良の任務は見逃してきた。
・まるゆ
あきつ丸と同じく警察に所属。警部補。皆にはモグラと呼ばれているらしい。響の提督を殺していた犯人を突き止めていたが、逮捕する前に深海棲艦の攻撃で町は壊滅した。

・夕立
特務艦。時雨を殺した組織に復讐がしたい。最上をクズ重巡と思考の中で呼ぶ。駆逐水鬼が殺された時雨であると知る。
・時津風
特務艦。視察官と繋がっていた。夕立の犬になる。 かつての自身の殺人の証拠を消すため北方棲姫を殺すが、自身も命を落とすことになる。
死体はアケボノによって処理、朝霜以外は記憶を消去され時津風は大本営へのテロ未遂で射殺されたことになっている。
・綾波(特務艦)
かつて不知火が所属していた鎮守府唯一の生き残り。不知火に暴力をふるわれ、不知火と鎮守府の仲間を殺した大本営を憎んでいる。のちに女幹部の特務艦となる。
不知火に過剰な暴力をふるい女提督に再教育されるが脱走し、不知火と交戦するが傀儡の性能を発揮した不知火に撃破され、再起不能のダメージを精神に負い解体処分となる。

・早霜
『料亭竜宮』で暴れた。朝霜を「泣き虫姉さん」と呼ぶ。愛情が歪んでいる。
どうやら死んでも復活できるようだ。

・ヴェールヌイ
ガングートの妊娠を聞きつけてやってきたロシアの使者。背丈がでかい。

・監査官
男性。切れ者。

・視察官
女性。S朝潮に対して執拗な取り調べを行った。脱走犯。時津風と繋がっていた。
整備士に助けられるも、人間の身体はもう使い物にならなかったため、駆逐イ級の死骸で代用される。

・整備士
組織の元トップ。すぐに忘れられてしまうような容貌。伊13、伊14、呂500、伊401のみ潜伏場所を知っている。
卓越した義肢技術と生体生成技術(艦娘の体から本人の腕脚や内臓を作れる)を持つ。国に追われており公には死亡扱いされている。
白血病の手術痕有り。死亡届はアメリカで出されている。「男」と書き込まれることが殆ど。吹雪と恋仲。
・吹雪
深海棲艦のように肌が白く、角が生えている。轟沈したが整備士に助けられる。
生身の左腕を整備士が作ってつけた。轟沈したからかこの姿になったからか練度が元の倍になった。
・神風
傀儡に記憶をインストールされた者。将棋が得意。
・旗風
傀儡に旗風としての記憶をインストールされた者。
・ビスマルク
傀儡に記憶をインストールされた者。深海棲艦の力を抑えるには負の感情を持たないようにすれば良いと知っている。

・アケボノ
火を出現させる能力を持った艦娘。荒潮たちとチーム『NAMELESS』として行動を共にしている。
・荒潮
『NAMELESS』の一員。自身が死亡した際、過去に戻るという能力を持った艦娘。
・望月
『NAMELESS』の一員。限定的な未来予知能力を持った艦娘。 半分深海棲艦となっている。
・大鳳
『NAMELESS』の一員。透視能力を持った艦娘。
・神威
『NAMELESS』の一員。瞬間移動の能力を持っており、よくアケボノ達をテレポートさせている。
・羽黒
『NAMELESS』の一員。念写能力を持った艦娘。
・グラーフ
『NAMELESS』の一員。治癒能力を持っており、瀕死の状態でも回復させることができる。

・深海提督
組織と関係を持っている。深海棲艦たちに忍術を教えている。

・伝説の翔鶴
当鎮守府から遠く、未確認深海が確認されている『鉄の海域』に出没。朝霜が化け物、傷一つつけられないであろうと評価。
両腕が無く舌に印を刻み大量の艦載機で羽を作って飛ぶ。零戦と九九式を扱う。おばあさんに一時期保護されていた。
中継基地と呼ばれる鎮守府の最後の生き残り。基本的には誰も姿を見たことがない。
どこかの鎮守府に縛られるより、自由に海を守りたいと話す。

・信濃
大本営の新型艦娘。戦艦と空母のコンバート。天城・榛名・大井はその存在に妙な違和感を感じていた。

 
 
≪その名を呼ぶな!≫



バリバリバリバリ!


≪ぎゃあああぁぁぁ!≫


案の定だった。迂闊に名前を呼ぼうとした朝霜さんが何故か雷に打たれている。私が以前間違えて名前を呼びそうになった時はデコピンくらいで済んだけどそれでもかなり痛かった


『あー、ちょっとすっとしたー』

Y子さんが何処かすっきりした顔になって帰って来る


「あの…朝霜さん完全に気絶していたんですが…」


『あれでもかなり手加減したんだよー。…ふぅ』


すっきりした顔と何故かはっきりと解る疲労感


「大丈夫ですか?この上Y子さんまで倒れたら私…」


『あー、大丈夫大丈夫。手加減って結構大変なんだよ。だからちょっと疲れただけだから』


そう言って炬燵に入り込み冷めたお茶を啜る彼女


手加減は大変…私でも彼女の力が並外れているのは解る。以前力を貸してもらったのはその一端に過ぎないと何となく理解していた


彼女が伸び伸びとその力を振るえる相手など多分この世界には居ないのだろう。ストレスが溜まって爆発したりしたら…私は改めてY子さんを怒らせないようにしようと誓うのだった


…ところでその2って何だろう

>>279から

 
 
「ああ…またここも…」



私は海辺の町が深海棲艦に蹂躙されている光景をただ見ている事しか出来ない


ほとんどの艦娘が意識を失ってから丸一日、機能しなくなった防衛線を越えて深海棲艦が攻撃を仕掛けている


大本営は今や艦娘に頼りきりで通常兵器はほとんど無いか、あっても深海棲艦にはあまり効果的では無く使われず埃を被っていると聞いた事がある


つまり守る艦娘が居ない今、完全に無防備、その犠牲者の数も日に日に膨れ上がっていく


「…結局深海提督の狙いはこれだったという事ですか…まんまと騙されて、最初から和平は口実に過ぎなかった」


あれから富士さんも目覚める気配が無い、もしかしたらもう人類は終わってしまう…?


『…中には起きている艦娘も居るようだしそんな簡単にはいかないと思うよ。もう少ししたら他の艦娘達も目を覚ます。それまでの辛抱だね』


一部の眠らなかった艦娘が何とか防衛線を支えたり救出に向かっている地域もあるにはあるがとても追い付いてはいない。犠牲者の数は千に届こうとしていた


そんな中どういう訳か深海提督が龍驤さんと会い話し合いをしたいと言い出したらしい


 
 
「どう考えても罠に決まってるじゃないですか!」



『まあ私達視点ならそう思うのも当然だけどあちらからすればまだ和平を結んだ相手だからね。限り無く黒に近いと思っていても断る訳にはいかないよね』


しかも二人だけとの指定付きだ。わざわざ龍驤さんを名指しする理由が解らない。深海棲艦の対処の話し合いというのに大本営では無く一介の提督に障害のある艦娘を呼ぶ…怪しすぎて私でも何か裏があると解る


しかし大本営、引いては人類の危機。Y子さんの言う通り断る事は出来ないだろう


そして私の、そしておそらく司令官達も感じていたであろう不安は的中してしまう事になる


≪よくも私達の子供を殺したわね≫


 
 
龍驤さんが過去に見殺しにする事になってしまった子供の親はなんと人間と深海棲艦との間に生まれた子なのだという



それから先の龍驤さんの錯乱は無理も無かった。龍驤さんは自分の不調を何故か私には見せようとはしなかったけれどまさにあんな感じだったのだろうか


そして再び自殺防止の為、隔離室で拘束されてしまう龍驤さん。その間も深海棲艦による犠牲者の数は増え、二千人に達した所で計っていたかのように眠っていた艦娘達が目覚めていった


「龍驤さん一人を苦しめる為だけにこれだけの事を…?二千人の人の中にだって子供は居た…それが親だった人のする事か!」


私は立ち上がってやり場の無い怒りを…そうだった…こんな風に誰かを憎んだ結果が今の私だ


『落ち着…止めるまでも無かったかぁ、成長したね朝ちゃん』


「怒りは感じます、だけどそれだけで頭を一杯にしたらろくな事になりませんから」


『経験者は語るってやつだね』


「それに私がここでどれだけ怒った所で何にもなりません…それこそ誰一人に対しても」


私達がそんな話をしていると奥の部屋から富士さんが現れた

 
 
「富士さん!もう大丈夫なんですか?急に起きたりして…」



【…大丈夫よ】


『コアを強制停止なんてされたんだから何かしらダメージがあっても不思議じゃないよ、無理しない方がいいんじゃない?』


【…】


自覚はあるのか富士さんは座り込む。あまり顔色が良くない


「私からもお願いします。あまり無理しないでください」


【…ありがとう】


「富士さん!?」


『お姉ちゃん…』


なんと富士さんは静かに涙を流していた


【…目覚めてからすぐ状況は確認したわ…。私が不甲斐ないせいでこんな事に…人間なんて好きじゃないけれど、それでも…それでも死ねばいいなんて思わない…】


それから富士さんは静かに泣き続けていた。それは哀悼の涙。私達二人はただ黙ってそれを見ているしか出来なかった


 
 
【ごめんなさい…もう落ち着いたわ】



しばらくしていつもの調子に戻った富士さんが私達に頭を下げる


『それにしても結構動けていた艦娘も多かったみたいだね。何とか乗り切った鎮守府や防衛に成功した町もあったよ』


【傀儡の艦娘ね…結果的にはそれに救われていた…】


富士さんは釈然としない表情で言う。自分の計画の邪魔になるそれが最後の砦となっていた。富士さんにはつらい所なのだろう


『あ、お姉ちゃん、お客さんみたいだよ。また朝霜だね』


【そう…この前は私の替わりに悪かったわね】


『いいよいいよ~』


そう言い残し姿を消す富士さん。私達とよく話す富士さんは初期艦さんの中に居る富士さんなのだという。今は身体の主である初期艦さんがあの状態なのでよくこちらに様子を見に来ている


 
 
『うふ、うふふふふ~』



富士さんと朝霜さんが話始めてからY子さんが怖いです


相変わらず誰に対してもボロクソに言う朝霜さんに富士さんは何も言い返せない


しかも富士さんのせいで大勢が亡くなったとも取れる発言までしているのはさすがに私もムッとしてしまう


『…あいつ、今度会ったら…』


ぼそりと呟く声は聞かなかった事にする。いや本当プレッシャー凄いんですけど


≪お前…アホか?≫


ばきぐしゃ!


ああ今のはY子さんが湯呑みを握り潰した音です。えぇもう一度言います。ガラスのコップなどでは無く湯呑みをです


私はもう彼女の方は見る事が出来ない、怖くて


そして朝霜さんは富士さんの言う理想郷を完全に否定するだけして帰って行く


…確かに問答無用で連れて行かれたら嫌がる艦娘も居るだろう。だけどそれを求める艦娘だって中には居るとも思う


私ならどちらを選ぶだろうか。せめて体験してから決めるとか出来たらいいのに


やがて富士さんが部屋に戻って来た。ああ…やはりかなり消沈してしまっている


 
 
「富士さん…あまり気にしない方が…」



と、慰めようとした私の言葉を遮って富士さんが聞いてくる


【…朝潮、私は貴女にも干渉出来なかった…。貴女も幸せを感じていたの…?あんな目にあっていながら…】


「そうですね…司令官と出会う前ならそんな事は無かったと思いますけど、あの鎮守府での日々は確かに幸せでした。楽しかったです」


【そう…そうなのね…】


富士さんは座り込んで項垂れてしまう。朝霜さん…彼女のこんな姿を見てもバカだのアホだの言うのなら私は貴女を張り倒す


「富士さん…司令官と出会う前の私ならきっと理想郷に行きたがったと思います。同じようにこの世界に絶望している艦娘は必ず居るとも思います」


『そうだねぇ。要は本人の意志確認をすればいいだけの話だよ。全て全員なんて端から無理だったんだよ』


【…私はやっぱり行き当たりばったりなんて言われるのも仕方無いのね…。今まで考えもしなかった…】


『ニュース番組と一緒なんだよ。お姉ちゃんが目覚めるのは不幸真っ只中の艦娘だもの。幸せに暮らしている艦娘の中では目覚めない。それが全てだって勘違いしちゃってたんだよお姉ちゃんは』


なるほど…確かにそうなのかもしれない。不幸ばかりを見てきた富士さんはそれを確かめようとはせずに全ての艦娘を救おうと決意した…でも結局それがかえって不幸にしてしまう可能性には気付かずに

 
 
【…ところで、その破片が散らばっているのは何】



『何でも無いよ~』


Y子さんは自分が握り潰した湯呑みの破片を片付けている。富士さんが馬鹿にされて怒っていたのは本人に言ってあげたら喜んでくれるだろうか、私がそんな事を考えていると


『ね…?朝ちゃん?』


「はい、何でもありません」


よし、これはお墓まで持っていこう。この場合私は私のお墓に王様の耳はロバの耳をすればいいのだろうか


――と


がたん


「朝…潮…?」


襖に何かがぶつかる音と私の名前を呼ぶ声が聞こえた。それは私にとって懐かしい声のひとつであり直に聞くのは本当に久しぶりなものだった


私は振り返る


いつ目覚めるとも知れなかった初期艦さん…漣が私の姿に目を見開いていた


 
 
『思ったより早かったね』



漣「朝潮…本当に朝潮なんですか…?じゃあ私は…」


「ストップ!説明はしますからまずは座ってください。お茶淹れますから」


私は初期艦さんを…いえ、漣さんを無理矢理炬燵に座らせてお茶の準備をする


漣「あ…え…?」


状況が飲み込めず目を白黒させるばかりの漣さん。思考停止している今の内にと手早くお茶とお菓子を差し出す


『朝ちゃーん私にも~』


「はいはい…」


私はY子さんの分もお茶の準備をする。今度の湯呑みは握り潰さないでほしいものだ


【あ、じゃあ私も】


「一度に言ってくれませんかね…今淹れます」


おそらく富士さんのはわざとだ、空気を弛緩させようとでも思ったのかもしれない。でもこの場合は…


バン!


まあ焦れている人には逆効果で


漣「お茶なんてどうでもいいから早く説明してください!ここは何処ですか!何で朝潮がここに居るんですか!朝潮がここに居るという事は…」


そこで言葉は途切れた


 
 
私がここに居る、つまり自分は死んだ、死、そこまで連想して思い出したのだろう。彼女の顔が青ざめていく



漣「私…は確か…消えようと…」


【私が連れて来たのよ。そしてここは彼岸と此岸の境目の世界。分かりやすく言えば三途の川よ】


漣「貴女は…富士…。…どうして?どうしてそんな余計な事をしたんですか!私はもう何もかも嫌になった!だから終わりにしようとしたのに!」


「…余計な事ですか」


私は思わず口を挟んでしまう。どうも最近の私は富士さんの肩を持つ傾向にあるらしい


漣「朝潮…貴女は私達の知ってる朝潮なんですよね?」


「はい、自らの憎しみに負け自殺したあの朝潮です。負け犬です。貴女もそうなるんですか?」


漣「な…!」


カアッという音が聞こえそうな程、彼女の頭に血が登ったのが判った


 
 
漣「アンタが…アンタが自殺したせいで漣達がどれだけ…ご主人様がどれだけ…」



再び彼女の言葉が途切れる。赤くなっていた顔がまた青ざめる


彼女は頭の回転が早い。私が言うよりも早く、言うまでもなく、自分も同じ事をしようとしたとすぐに思い至ったようで


漣「ごめんなさい…漣に朝潮を責める資格は無いですね…。つまり漣はもう…」


【貴女はまだ死んではいないわ】


漣「え…?」


【一時的に貴女の魂を私がここに連れて来た。言わば幽体離脱をしている状態よ】


漣「どうして…」


漣さんは完全に勢いを無くし項垂れる。そしてポロポロと水滴が落ちるのが見えた


漣「やっぱり余計な事だ…私はもう疲れた…大好きな人ももう居ない…私は龍驤さんを手にかけようとまでしてしまった…また裏切った…」


やっぱりまだ心の傷は塞がってはいないようで。当然だ、まだつい最近の出来事だったのだから


【ごめんなさい漣…。貴女を助けたのは私のエゴよ…。だけどね…自ら可能性を捨てて欲しくは無かったの…】


 
 
漣「私に可能性なんてもうありません…全部終わったんです」



…今の彼女はネガティブの塊だ、かつての私がそうだったから解る。何を言っても届きはしないだろう。自分自身で気付くしか方法は無いのだ


「仮にそうだとしてもまずはここでゆっくり…」


ふと思い付き私は言い直す


『「ゆっくりしていってね!」』


何故か便乗してきたY子さんの声が重なった


漣「…」


しまった…今彼女はネガティブの塊だと思ったばかりなのに。富士さんの事行き当たりばったりとか言えないかも


漣「…どこでそんな知識を仕入れたのか知らないけど…ずいぶん気楽そうですね…」


すると漣さんはあのテレビを見て


漣「どういう仕組みかは知らないけどあれで私達を見ていたんですね…。苦しんでいる私やあの子を見て楽しかったですか?」


なるほど…そう来たか。しかし私は動じる事無く答える


「楽しんでいるように見えたなら謝ります。貴方達が幸せになっていてくれたなら素直に楽しんで見る事が出来ていたんですがね」


漣「そんなの漣のせいじゃない!」


「知っています、ずっと見ていたんですから」


 
 
「だけど貴女が居なくなった事で皆の幸せが遠のいたのは確かですよ」



漣「そんな訳無い…むしろ私は…」


「貴女が居なくなってからの司令官達の様子を今から教えます。貴女にはそれを聞く義務がある」


漣「嫌だ!聞きたくない!何も聞きたくない!」


ちょっと性急に過ぎたかもしれない…今の彼女にはいつか富士さんが言った通り司令官達の話は毒にしかならないのか


漣さんは耳を塞ぎ逃げ出そうと―――


ズン…!


「う…!」


【ちょっと…】


漣「うぁ…あ…!?」


部屋の重力が何倍にもなったかのような圧力。Y子さんが漣さんに向けてプレッシャーをかけている


『ちょっと…落ち着こうか…。ね…?』


漣「あ…ぁ…」


漣さんには初めての彼女の力。先程までのとは違う意味で顔面蒼白になっている


『落ち着いてそこに座ってね。…座れ』


漣「は…はぃ…」


【あんまりやり過ぎると気絶してしまうわよ】


『解ってるって』


怯えきって元居た位置に座る漣さん。葛藤やら悲哀やらが恐怖一色に塗り替えられてしまっている。それが狙いだったのだろうか、彼女の恐怖を刺激して自らを守ろうとさせていた


『話の前にまぁとりあえずはこっち』


Y子さんがリモコンを操作して鎮守府の映像が切り替わる


漣「え…?」


そこには隔離室で拘束されている龍驤さんの姿があった


 
 
漣「どうして龍驤さんが…もしかしてまた調子が…」



「…これまでで一番最悪の状態に今なってしまっているんです」


漣「そんな…」


「それでも…それでも聞きたくないですか?」


漣「そ…れは…」


迷いを見せる漣さん。しかし何となく解った。このまま聞かない選択を彼女はきっとしないだろうと

漣「…もう漣には関係無いけど一応…。一応聞かせてください」


そうして漣さんが居ない間の出来事を私は可能な限り事細かに話して聞かせる


話が終わる頃には彼女の顔にはこれまでとは違うものが浮かんでいた。自責の念と、怒り。しかしそれもとても弱い、発奮には程遠いものだった


漣「私の…せいで…」


『それはさすがに驕りが過ぎるよ、龍驤が真実を知るのはきっと止められないし。その結果起こる事も変えられはしなかった。ただ…何かは出来ていたかもしれないけどね』


漣「何が出来ていたんでしょうね…恋人も守れなかった私に…」


自嘲するように言う漣さん。だけど少しだけ…これまでとは違うように見えたのは私の気のせいか


 
 
漣「それで…私を助けてどうさせたいんですか…?鎮守府に帰れとでも…?」



やはり疲れたように言う彼女。あの明るかった姿からは想像も出来ない程に陰を背負ってしまっている


「それはいずれは…」


【いいえ、誰も帰れなんて言わない。好きなだけここに居てもらって構わないわ】


私の言葉を遮って富士さんが言う。あの…?


【だけどね…いつか…貴女がまた希望を見出だす事が出来たら…私も嬉しい。やっぱりこれは私のエゴね…】


漣「…」


その富士さんの言葉に何かを考えている漣さんはやがて


漣「…じゃあしばらくはここに居ます。結局何も見付からなかったらその時は…」


そこで言葉を切り彼女は


漣「私の魂を富士…さんにあげます。いつかの時は見逃してもらいましたけど今度はその必要はありませんから」


【…そう】


富士さんは複雑そうな顔をしてそれだけを言って黙り込んでしまった

 
 
そうしてこれまでの私達と同じように鎮守府や世界の様子を見る漣さん



漣「犠牲者二千…虐殺…」


『老若男女問わずね。もちろん子供だって居た』


漣「貴女達はそれを黙って見ていただけだったんですか…」


責めるような視線を一瞬向けるもすぐに俯いて


漣「なるほど…少しだけ深海提督達の思考が解りました。龍驤さんはもちろんの事、何もしなかった人間そのものも同じくらい憎んでいる…」


「だからこそ龍驤さんを苦しめる為の道具くらいにしか思っていない、そういう事なんでしょうね」

ひたすらに考える漣さん。多分違う事を考えて一番思い出したく無い事柄を遠ざけているのだろう。私はそれに付き合い一緒に考察してみる


だけど同じ鎮守府での話なら自然とそこに行き着いてしまう。彼女はまた苦しそうな顔を浮かべる


漣「あいつらが…あいつらのせいであの子が…」


これは…まずいのかも知れないと私は話を反らす


「そういえばあの、重巡棲姫さんでしたっけ?あの人もすごい頑張っていましたよ!」


それを聞いた彼女は少し嫌そうな顔をする


漣「私にはあいつが解らない…いつも嫌な事ばっかり言って私を責める…きっと私の事が嫌いなんだ…」


 
 
『本当にそう思う?』



Y子さんが口を挟んできた。それに漣さんはまだ若干怯えつつも


漣「だってそうじゃないですか…結局あの子が…」


そこで言葉に詰まる漣さん。思い出してしまったのか目に涙を浮かべ


漣「あの子が死んだのは結局漣のせいだってあいつが言ったんだ!わ…私が…」


『…それは違うよ漣』


漣「何が違うんですか!」


『その子が死んだのは漣とは関係が無い。あの子自身のせいだよ。きっかけを遡れば不知火か更に言えば大本営の異動命令、もっと言えばそんな鎮守府を作った提督。さあどれにする?』


漣「そんなの言い出したらキリが無いじゃないですか…」


『解ってるじゃん。こじつけようと思えばいくらでも、誰でも悪く出来てしまう。まさにキリが無いよね』


それ以上言い返せず黙り混む漣さん。そこに私も言う


「少なくともあの重巡棲姫さんはその自分の過ちに気付いて貴女に謝りたいと言っていました」


漣「…」


『それに嫌いだからっていうのも逆だよ』


 
 
「そうですね。大切に思うからこそ厳しい事を言う。例え本人に嫌われても。なかなか出来る事ではありません」



漣「それを漣に言ってどうしろって言うんですか…」


「私達から漣さんにああしろこうしろとは言いませんよ。ただ、誤解したままではいてほしく無いだけで」


漣さんはテレビモニターに映る自分を見る。睨み付けるような複雑な表情で


漣「…角なんて生えて身体の色も白くなって」


『漣の魂が抜けてる影響で重巡棲姫が強く出てるんだよねぇ』


漣「関係…ありません…。もうあの身体は彼女にあげたんですから」


そう言って漣さんは奥の部屋に引っ込んでしまった


【…これからどうなるのかしらね】


ぽつりと富士さんが呟く声が聞こえた。それは漣さんだけの事では無く世界全ての事を指しているように私には聞こえた

ひとまずここまで
本編次第で…

>>299から

 
 
それからというもの鎮守府皆は龍驤さんを元気付けようとあの手この手と全力を尽くしていた



だけど霞の案ははっきり言って良くない。まさかドラッグで苦しみを取り除こうなんて


『使ったら間違い無く霞だけでは済まない事になるだろうねぇ』


「そうですね…副作用も酷いと言っていた辺り隠し通すのも難しいと思います」


そしてそうなったら間違い無く龍驤さんは施設行き。司令官も何らかの責任を取らされ提督を首になる可能性が高い


霞は逮捕され、証拠品として必要な薬や材料さえ押収、鎮守府は崩壊。よほど上手く隠しでもしない限り全て持っていかれるだろう


霞はその辺り大雑把で金庫も設置していなかった。聞いた話では最初は部屋に鍵すら無かったらしい


そして警察に鎮守府の皆に必要な物だと説明した所であまり期待は出来ないだろうと私は思う


当然ながら霞は他の皆に止められていたが、これも追い詰められた人間の視野狭窄なのだろう


「それにしてもまさか無理矢理注射しようとするなんて…もし間に合わなかったらと思うと…」


ダメ、ぜったい

 
 
鎮守府の皆が集まって龍驤さんを励まし、説得する。しかし龍驤さんも頑固なものであくまで自分が悪いのだと言い張る



それでもそうして吐き出す事で少しは楽になれたのか僅かに元気を取り戻していた


「この調子なら…」


この調子なら龍驤さんもいずれ元気になるだろう。そう私も思っていた


しかしある日鎮守府に侵入者があったらしいと騒ぎになっていた


それはよりにもよって深海提督その人で、龍驤さんをまたもや追い詰めようとわざわざ鎮守府にまで来るなんて徹底している


そして龍驤さんは持ち直した分を全て失い今は薬によって眠らされている


「こうなってしまうともう戦うしか無いのかもしれませんね…」


『そうだねぇ。あくまで敵視してくる相手なら説得は難しいよねぇ』


「それにしても…」


と、私は奥の部屋の方を振り向いてみる

 
 
ピシャ



慌てて襖を閉める音


「気になる事は気になるんですね…岩戸か何かでしょうか」


『また呼ぼうか?あたしが』


「いえ、そっとしておきましょう。無理強いしても仕方ありません」


今や奥の部屋は漣さんのテリトリーのようになっていた


私達も敢えて踏み込んだりはしないようにしている。彼女が自分の意志で来ない事には始まらないのだ


たまに泣き声が聞こえたりうなされる声がしたり、暴れる音がしたりとまだまだ彼女は不安定なようで


考えてみたらあの頃の私によく似ているような気がする。司令官達もこんな気持ちだったのだろうか…


司令官のように上手く慰める自信の無い私は下手に声もかけられずにいた。そもそも慰めの言葉が果たして彼女に有効なのかも判らない


無力感。どうしてあげる事も出来ない。せめてこの先何かしら上手く転んでくれる偶然に期待するしかないのだろうか

 
 
龍驤さんを精神の病院に入れるという話が出ていた



深海提督が鎮守府に侵入し揺さぶりをかけてくる事も含めての対策らしい


「どうなんでしょうね…仮にも軍施設と病院でセキュリティにそれほど差は無い気もしますが」


『身分を偽って入ってくるか、それも飛ばして誘拐されちゃうかも』


仮に強引に拐おうとされたらむしろ対抗出来ない病院の方が危険な気がする


『かといってこのままだと違法薬物に頼らざるを得ないかなぁ』


「今すぐ施設に入れるか発覚して施設に入れられるか…もうこれは詰んでいるのでしょうか…」


そんな中例の富士さんを停止させる胞子の対抗策が見付かったと秋津洲さんが執務室に飛び込んでくる


そんな方法をまさか科学者という訳でもない秋津洲さんが?


しかし内容を聞いた所研究を重ねた結果発見したというよりは偶然見付かっただけだったらしい


 
 
『ぷっ…ふふ…まさか激辛焼きそばとか…想像付かないよ普通。多分あの海月姫ですらそんなの知らなかったんじゃないかなぁ…ふっ』



「でもその…対抗策が見付かったのは良いのですが…使った後の絵面がちょっと…」


『お食事中の方は閲覧注意だねぇ』


胞子は強い刺激物に弱いらしく、激辛の食べ物でなんと体外に排出されるという話だった


…口から


半泣きになりながら超激辛焼きそばを食べ、そして胞子ごと食べた物吐き出す事になる


出た物体も含めモザイク必須である


「うっ…ちょっと気分が…」


しかし私達が見ているのは、見てしまったのは当然ながらモロである


『いったんテレビ消して…朝ちゃん…うぇ…』


その後改良され、成分だけを抽出したカプセルになり少しだけ楽になっていくのだが上からが下からになり全国の艦娘が排出の苦しみに阿鼻叫喚するのはまた別の話である

 
 
「龍驤さんが拐われた!?」



どうやらあの女幹部さんが深海提督を誘き出す餌として連れていったという話らしい


いくら何でもあんな状態の龍驤さんを連れ出すなんて…いやそれよりも龍驤さんを恨んでいる人物の前に連れていくなんて危険過ぎる


『殺しはしないとは言ってもいつ気が変わるか判らないしねぇ…』

あの女幹部さんにとって深海提督は何よりも大切な存在だったらしい。司令官に涙ながらに訴えていたあの姿に偽りは無かった


前の世界がどうとか私にはさっぱり理解出来なかったが要点は深海提督と女幹部さんはかつて恋人同士で今は記憶を失い深海海月姫と夫婦のようになっていて子供まで作ったという所か


女幹部さんの立場からすれば平静ではいられないのは解らないでも無いけれど


「形振り構わないにしても協力をお願いした司令官まで裏切るような事をするなんて…」


しかし最悪の結果は免れていたようだった。誰にとっての最悪か、女幹部さんにとってはむしろこれが最悪だったのかもしれない


記憶を取り戻した深海提督は女幹部さんを拒絶。あろう事か銃弾を撃ち込まれ倒れていた所を発見された

 
 
銃弾は急所を意図的に外されていたようで命に別状は無いらしい。それでも女幹部さんの仲間の一人が不思議な力で治療していた



「すごいですね…撃たれた傷がもう跡形も無く…」


傷は治ったがショックで泣いているばかりの女幹部さんを彼女の仲間が連れていく


それからその中の一人、アケボノさん?が龍驤さんを危険に曝した事を司令官に謝罪していた


償いに彼女達の持つ不思議な力で龍驤さんの精神状態を改善させる事に挑戦するという


そんな事が可能ならもっと早くと思わなくも無いが色々事情があるらしい


実際それは効果があったようで龍驤さんは少し元気を取り戻したようで私も少し安心する


「これで施設送りもドラッグ使用も無くなりそうで良かったですね…」


『また何かしらで精神状態が悪くならなければいいけどねぇ』


「さすがにもう何も出て来たりはしないと思いますが…しないですよね?」


過去から無くともこれから起きる事次第ではまだどうなるか判らない。果たしてそれは内部からか外部からか

 
 
驚くべき事が発覚した



先日の深海提督の鎮守府侵入を手引きしたのはあの川内さんだったらしい


『力が欲しいか』


「秘伝書とかいうのに釣られてよりにもよって深海提督に情報を渡していた…これ、かなりまずいですね…」


『ならば、くれてやる』


「今や深海提督と深海海月姫は完全に敵という認識をされています。これがバレたら下手をしたらこの鎮守府全体が裏切り者と見なされてしまう可能性が…」


『…欲しいか』


私はよく解らない事を言うY子さんをスルーしてモニターを見ている。そこには由良さんにボコボコにされている川内さんの姿


結局その秘伝書の技を持ってしても由良さんには勝てなかったらしい。私には完全に裏切り損としか思えなかった


そして司令官は川内さんの事を由良さんに丸投げして処分保留。それを雲龍さん達に詰め寄られやむ無く川内さんを鎮守府から追放という形を取る事にしたようだ


『…多分彼女達も解ってるみたいだね。発覚した場合に形だけでも処分したという事実が無いのはかなりまずいって』


何事も無かったように話に加わるY子さん。スルーされて若干落ち込んでいる。いや…どう絡めと


『裏切り者は処分しました、だからうちは裏切ってはいない、この鎮守府は関係が無いと、少なくともそう言える状態にしておかないと後が怖いねぇ』


それが何処まで通用するのかは判らないがこのまま川内さんをここに置いておくのは危険だと皆は考えたのかもしれない


結局川内さんは忍者提督の鎮守府に異動という事になったようだ


司令官は間違い無くそこまで考えはいない。解っていたとしたら他人の鎮守府に迷惑をかけるかもしれない川内さんを預けたりしないだろう

 
 
アケボノさん達の治療が効いているのか龍驤さんの調子が少しずつ戻っていっている



何より大きいのは少しだけ考え方が変わった事だ


あくまで自分に原因があるとはしつつそれでも深海提督と深海海月姫がした事は許されない事だとようやく認めたのだ


当然と言えば当然だ。恨みがあれば何をしてもいいなど誰一人認めはしない


彼らは越えてはいけない一線を越えてしまった。今後は彼ら自身が憎まれる番になるだろう


そうして憎しみは連鎖していくのだろうか。私は結局殺さずに済んで本当に良かったと思う。自らの命と引き換えに憎しみを断ち切れたのだとすれば少しは意味があったのだと。そんな事は結局慰めにもならないのだけど


「少しだけ鎮守府の雰囲気も明るくなりましたかね。まだまだ以前には程遠いですが…」


『鎮守府が暗くなった発端は朝ちゃんだけどねぇ』


「ぐっ…それを言われると…」


『それでも繰り返すんだから人ってやつは…』


Y子さんがぼそりと呟く。おそらくは似たような場面をそれこそ飽きる程見てきたのかもしれない


そしてそれは富士さんも同じで彼女は行動に移した。Y子さんはただ見続ける事を選んだ。その違いは何なのだろう

 
 
珍しく司令官が一人で執務をしていると何故か机の下から白露さんが這い出して来て司令官を襲おうとしている



「何なんですかあの女!というかいつからそこに!?」


『おーさーえーてー』


「寝取り趣味ってここにとっては致命的じゃないですか!本当の敵はそこに居たんだ!」


『あーさーちゃーんー』


「そう思いませんか漣さん!」


ピシャ


「…チッ。おや?朝霜さんが止めましたね。ちょっと意外です。てっきり一緒になって襲うのかと思いましたが」


『それをしたらどうなるか解っててやるならバカとしか思えないよーお姉ちゃんよりアホだよー』


「根に持っていますね…」


他の白露型の皆さんに連行されそれはもうお仕置きに次ぐお仕置きが行われていた


私は生きている間に彼女達に会わなくて良かったと心の底から思う。きっとあの中の誰か…主にピンクの誰かの毒牙にかかっていたかもしれないと思うと震えが走る

 
 
私がいつものように鎮守府の様子を見ていると蒼白な顔をした天城さんが走って行くのを見付けた



どうやら天城さんの旦那さんである天提督の癌が再発したらしい


今度はリンパに転移していて余命一月と宣告されたと話していた


「せっかく手術したのにこれでは…」


『癌ってそういうものだからね…一度出来てしまえば常に再発の危険性がある』


天城さんは天提督の側に居る為に向こうの鎮守府に戻る事になったらしい


それから一月が経ち、病院の屋上で大分やつれてしまった天提督に寄り添う天城さんの姿があった


実際天城さんが側に居たおかげか医師の宣告よりも長く天提督は生きていた。しかしそれももう限界が近いのだと素人の私でも判る程に痩せ細ってしまっていた


 
 
本当はこんな場面、部外者の私達が見るべきでは無いと解ってはいた。だけど私は目が離せなかった



こんな…こんな穏やかな顔を死を前にして出来る人間が居るのだと私は知らなかった


「私とは違うんですねきっと…私が彼の立場ならどうせ死ぬからと自暴自棄になって何をするか…」


そうして二人は屋上から海を眺めながら最後の時間を過ごしている。穏やかに思い出話をしながらそれはそれは幸せそうに、これから死が二人を別つとは思えない程に


そして彼は天城さんにこの綺麗な海を守ってほしいと言い、眠るように静かに息を引き取った。苦しみなど欠片も感じていないかのように微笑みを浮かべたままで


残された天城さんは叫ぶでもなくただ静かに泣いていた。眠っている彼を起こさないように。私にはそう見えた


そして彼女はポケットから2つの錠剤を取り出し握り潰し捨てる


「あれは…もしかして…」


『うん…』


やはり用意していたのだ。後を追う為の薬を。しかし彼女はそれを捨てた。生きていく為に、約束を果たす為に

 
 
「どうして…」



ふと背後から声がした


私が振り向くといつの間にか漣さんがすぐ後ろに立っていた


漣「どうして…」


ただそれだけを繰り返す。つまり何より大切な存在を失ってどうして生きていこうと思えるのだと。そう彼女は言っているのだ


「約束…したから…?でもそれだけではありませんね…。きっとあの彼の顔があまりにも幸せそうだったからでしょうか…」


漣「幸せ…?だって好きな人と居られなくなって…死んでしまうのに何が幸せだと…」


「短い間でも精一杯に後悔しないようにすごせた証だと思います。全く無いのかはさすがに判りませんが、少なくとも彼は幸せを感じながら逝ったのだと私は思います」


漣「…」


「何よりも彼は後を追う事を望んでいない。大切だからこそ生きてほしいと、そう願っての約束なのだと思います」


漣「………あの子も」


「ええ…きっと同じように願っている筈です」


大切だからこそ


自分の後を追ってほしいなどと願うようなら本当の意味で相手を思いやってなどいない。そんな事は私でも解る

 
 
「…ねぇ漣さん、貴女には私と同じ過ちを繰り返してほしくはないんです。貴女はまだ戻る事が出来ます、私とは違って」



彼女は俯いたまま何も言わない。聞いているのかも解らない。だけど私はこれだけは伝えなければならない


「私は…今更ですが、後悔しています。一時の苦しみから逃れる為にああした事を、未来の可能性を信じる事が出来なかった…」


「実際楽にはなりました、自分の過去について苦しまなくてよくなったのは確かです。でもそれだけです。たったのそれだけ」


漣「それだけ?あれだけ苦しんでいたのにそれだけですか…?」


「そうする事で私が失ったものに比べたらたったのそれだけです。全く釣り合いが取れないくらいに私は全て無くした」


漣「…それは…どういう…」


「漣さん、私はね…もう何も出来ないしもう何処へも行く事が出来ないんです。どれだけ大切な人や仲間が苦しんでいようが声のひとつもかけられないし側に行って元気付ける事も出来ない」


後悔してもしきれない。もし私が生きていたとして刑務所で数年。真面目にしていればいずれは出られた筈。そうしたらまた司令官達に会えたのにと今更ながらそう思う


そしてもしかしたら司令官以外に私が幸せになれる誰か、何かに巡り会えていたのかもしれない


「…私はそうして一時の憎悪や苦しみから逃れる為に全てを自ら棄ててしまった!そしてその事で司令官や皆に傷を負わせてしまった!」

 
 
「解りますか!?そんな自分と同じ過ちを繰り返そうとしている貴女を私がとんな気持ちで見ていたか!」



漣「だって…漣にはもう何も…」


「何も無い?私の前でそれを言いますか?」


漣「なら大切な人を失う気持ちがあんたに解るのか!」


「そうやって自分の事ばかりだから彼女が被曝している事にも、死を覚悟していた事にも気付けなかった!因果なんて大層なものは関係無い!単に貴女の気配りが足りなかっただけです!」


漣「お前…!」


言い過ぎたかもしれないと口に出してから気付くが後の祭。彼女は激昂し私に掴みかかろうとする


ズズン!


『二人共…少しうるさいよ』


Y子さんの圧力が私達を襲う。漣さんは顔面蒼白になり反射的に土下座していた。そして私は


「すみません…少しヒートアップしてしまいました。ごめんなさい漣さん、言い過ぎました…」


漣「…」


漣さんは何も言わずに奥の部屋に戻ろうとする。私はその背中に向かって言う


「貴女はまだ戻れる、そして貴女を待っている人達が居る。このままだとまた後を追って来る人が出るかもしれませんよ。貴女はそれを望みますか?」

 
 
漣「そんなの居る訳…」



「例えば黒潮さん、彼女は漣さんを半ばライバルのように見ています。それこそ死んでも決着を付けに来るかも」


漣「決着ならもう…」


「それに重巡棲姫さん、彼女は貴女が戻って来るかもしれないと希望を持ちその先の事を見据えて頑張っています。貴女が戻らないと知ればどうなるかは判りません」

漣「…」


「そして司令官もそれを知って希望を持てた事で落ち込む事が少なくなりました。結局無理なのだと知ればどれだけの負担になるか」

漣「…ご主人様には龍驤さんがいます。私が居なくとも」


「逆ですよ。司令官が龍驤さんを支える助けが必要なんです。それがかつては貴女だった」


漣「霞とか…」


「私から見れば霞も危ういですけどね。大抵薬に頼ろうとするし…」


漣「だって…もう私には生き甲斐が…」


「私の話聞いてましたか?生きていれば新しい生き甲斐くらいまた見付かります。それを信じるのが希望というものです」


漣「そんなもの…いらない…私にはあの子さえ居ればよかった!」

そう吐き捨てて彼女はまた部屋に閉じ籠もってしまう


 
 
「はあ…本当に頑固で意地っ張りでわからず屋…」



『お疲れ朝ちゃん』


「とりあえずは今伝えたい事は伝えたつもりですが…」


『まだまだ判らないね、どうなるかは』


彼女には私のように後悔してほしくは無い。だけど受けた傷が深すぎてその痛みが彼女の目も心も曇らせてしまっている


「私に言われて怒れるくらいの元気はあるみたいなので少しは望みがありそうな気はしますが…」


『さっきのわざとだったんだ』


「いえ、思った事をそのまま」


『まだ治らないんだねその癖…』

呆れたように言うY子さん。そしてまた私は鎮守府の様子を見守る


自らを棄てて、皆に傷を残してしまった私自身への罰はこの無力感をひたすらに呑み込む事しか無いのだと私は知っている


そしてこれ以上ここに来てしまう懐かしい顔が増えない事を私は願うばかりだった

ここまで
表現がマンネリ

ーー幼女塾とは


「提督さんに秘書艦さん、調子はどうですか?」


阿武提督「ここの装備と施設に恥じない結果を出していくつもりです」


「そうですか。何回も説明させて頂きましたが、決してあの子達に無理だけはさせないで下さい」


阿武隈「各艦娘のノルマもその子達に合ったものを採用していますぅ!」


「ええ、そのようですね。あの子達の活躍は塾長を始め先生方も喜んでいます」


阿武提督「それは良かったです」


阿武隈「……」


阿武提督「どうしたの阿武隈?」


阿武隈「いえ…やっぱりスカートの長さが気になるなぁって…」


「そこは譲れない所です。少しでも動けば下着がチラ見…いやぁ神風型は元の服も良かったですが、我が塾のユニフォームもよく似合ってますよ」


阿武隈「海防艦の子なんておヘソまで見えてるじゃないですかぁ!」


「ええそうですけど…?」キョトン


阿武隈「なんであたしがおかしいみたいな言い方されるんですかぁ!」

「提督さん、ひょっとして彼女は我が塾出身では無いんですか?」


阿武提督「そうなんです。阿武隈はまだこの塾のことがわかって無いんです」


「成る程…合点が行きました」


「阿武隈さん、我々は幼女が大好きです。所属している人は全員ロリコンです」


阿武隈「それくらいわかりますぅ!」


「残念なことにこの世界では幼女が毎日のように酷い目に合っています。心無い大人に売られたり、謂れのない暴力を振るわれたりと被害は様々です」


「そんな幼女を救いたい。そういった理念で我々は動いているんですよ」


阿武隈「それは知ってますけどぉ!こんな短いスカートを履かせて…!」


「幼女の下着を見る以上の幸福がこの世に存在するのでしょうか?」


阿武隈「ひぃぃぃ…!」ゾクッ


「安心して下さい。我々は幼女に手を出しすことは絶対にしません」


阿武隈「そんなの信用できません!!」


「これはこれは…この様子だと御殿の事も知りませんね?」


阿武提督「ここの準備でバタバタして…一度くらい連れて行こうとはしてたんです」


阿武隈「なんなんですか御殿ってぇ…?」

「では簡単に説明させていただきます。幼女塾の本部である幼女御殿。ここには我が塾に所属している幼女の服が祀られているんです」


阿武隈「ひ……!!」


「阿武隈さん始めここの艦娘さんにはユニフォームから下着まで配布しましたね?それを回収して御殿に祀ります」


阿武隈「半年ごとに回収っていうのはそういう目的が!!」


「はい。そこで回収した神聖な神衣は洗わずに御殿へ祀られます」


阿武隈「この団体……思ってた以上にヤバい……!」ガタガタ


「勘違いしていただきたくないのは艦娘だからということではないのです。全ての塾生の服を祀ってあるのです」


「塾に来て一か月記念、半年、一年…幼女から少女になった日の記念など……それはもう様々ですよ」


阿武隈「ひぃぃぃぃぃぃぃ~~!」

「我々はボランティアではありません、塾の運営費は必要になります。そこで我が塾に入塾して体力のある塾生はスポーツをやってもらっているんです」


阿武提督「この間テニスで世界一になったハーフの日本人選手いるでしょ?あの子ってこの塾所属なのよ」


阿武隈「ええええぇぇ~~!!」


「我が塾では国籍も人種も思想も宗教も関係ありません。幼女であれば全て良しなのです」


阿武隈「でも…女の子でお金を稼ぐなんて……」


「そこも大丈夫です。我が塾では所属している塾生が稼いだお金は99パーセントが本人の物になります」


阿武隈「女の子はそれで大丈夫だとしてもぉ…塾はそんなのでやっていけるんですかぁ…?」


「そこで寄付です。日本…いえ、世界の方々からの寄付金で我が塾は成り立っています」


阿武提督「幼女塾は凄いの。寄付金の100パーセントが塾の為に使われてるのよ」

「我々はお金を稼ぐのが目的ではありません。よく名前を聞く団体が駅前で寄付を募っていますが、それが実際使われているかは分かりませんよね?」


「我が塾ではそんなことはありません。1円も余す所なく塾生の為に使われているんです」


阿武隈「でも…証拠が無いじゃないですかぁ」


「あるんですよ。例えば阿武隈さんが100円寄付していただいたとしますね?すると貴女のお金がどう使われたか冊子が届くんです」


「希望されるなら冊子では無くデータでお配りしております。そうだ、実際に見た方が早いですよね。提督さん、見せてくれませんか?」


阿武隈「提督……?」


阿武提督「……」プイッ


阿武隈「あの…なんで目を逸らすんですかぁ……」



「提督さんは我が塾に熱心に何度も寄付していただいているんですよ」


阿武隈「提督…………?」


阿武提督「……」


「それがある日突然寄付が途絶えてしまったんです。我々や塾生が心配しましてね、提督さんの所を訪ねた所、提督を辞めていたと知ったんです」


阿武隈「……ロリコン提督」


阿武提督「だって…小さい女の子って可愛いんだもの…」


「…これも言ってなかったんですか?」


阿武提督「……はい」

「まあそれは今度にしましょう。それより冊子を出していただけますか?」


阿武提督「……」スッ


阿武隈「うわぁ…ボロボロになるまで読んでるんだぁ……」


「ほら…見て下さい。このような内容なんです」


阿武隈「提督のお金はコートの一部として使われました…新しいユニフォームの一部になりました…」


「基本的に寄付金の使い道はこちらが決めています。特定の子だけを贔屓することは許されません」


「我が塾は全ての幼女を平等に愛しています。アスリートになれなかったからと言って見捨てるなんてことはいたしません」


阿武隈「でもぉ…」


阿武提督「一度幼女御殿に行ってみれば考えも変わると思うわ」


「それは私もおススメします。御殿に入った瞬間に感じる幼女スメル…あれは最高です」


阿武隈「……」ゾゾゾ

阿武提督「私が寄付したお金がこの子の為に使われたんだって確認できるだけでも気持ち良いのよ」


「御殿では全ての神衣を着ていた時そのままの形で祀らせてもらっています」


阿武提督「当然下着もよ」


阿武隈「それこそ問題ありですぅ!」


「何も問題ありません。我々は祀られた神衣の匂いを嗅ぐだけです。例え神衣でも触ったりはしません」


「神衣の新作が来た時の匂い…いいですよねぇ…」


阿武提督「ええ、凄くいいわ…」


阿武隈「……あたし…とんでもない所に入っちゃったかも…」

酷い内容
それではまた…

 
 
『――朝潮――』



ハッとして我に返る。しまった…まさかまたぶり返しそうになるなんて自分でも思ってもみなかった…


「ごめんなさい…たぶん私は今、自分に重ねてしまっていました…」


自分と彼女、どちらがより不幸かなどとむなしい比較なんてする気は無いけれど。取り返しが付かないという意味では共通しているのかもしれない


「奪われた側がここに居て、奪った側が生きている、なんなんでしょうねこれは…」


『…珍しい話じゃないよそんなのは』


「ええ解っています。この世は理不尽に溢れている事くらい身を持って知ってますしね…」


いつかの2000人の犠牲者もそうだ。彼等彼女等は何もしていない、それでも死ぬ羽目になった。それをした者達もまた生きている


それぞれにそうするに足る理由はあったのだろう。だけどそれに見合う結果を残せているとはとても思えない、つまりは無駄死にだ


「命までも代償にしておいて後悔してますは都合が良すぎますが…かといって死んで償えるものでもない」


『背負い続けるしか無い、いつか天から罰が下るまで、自ら終わらせる事は償いにはならない』


ああ…そうだ、彼女もそうだった。彼女も償い方を探しているんだ


この世界には加害者と、被害者と、傍観者しか居ないのかもしれない。それを変えようとする人間すらもそこに巻き込まれて苦しむ


この世は苦しみに満ちている。司令官…誰か…


私には何も出来ない、何処へも行けない。だったらせめて祈ろう、何の意味も無いのだとしても。私の大好きだった人に、大切な仲間に、お世話になった人達に、そして…私の事で罪に苦しむ人達にも


救いがありますようにと

>>386から

 
 
「オッスオラ朝潮!…ちょっとY子さん!こういうの私のキャラじゃないんですけど!」



『いいじゃんいいじゃん、たまにははっちゃけてみなよー』


という訳で朝潮です。何だかY子さんがたまには変わった挨拶をしてみたらどうかと私にモノマネをさせてきた。…挨拶って言ったってここには私達しか居ないのに意味はあるのか


漣「もうだめだぁ…おしまいだぁ…」


私の隣では漣さんがハイライトの消えた目で最初のセリフのライバルキャラのモノマネをさせられていた。迫真というか何というか…それ演技ですよね?そうですよね?


あの後少ししてからまた目覚めた漣さんだったが以前よりは落ち着いている。どんな事にしろ時間というものはそれをある程度癒してくれるのだろう


あれから鎮守府では暴走した陽炎さんが霞のママ力に陥落したりその霞の負担を減らす為に雲龍さんが新しいママ役になったりしていた


「不思議ですねぇ…母親なんて居ない艦娘があんなにものめり込むなんて」


『逆に居ないからこその未知の体験だったからかもねぇ』


「みんなしっかりしなきゃといつも神経を張っているからああいう癒しは必要なのかもしれませんね」


 
 
「球磨さん…まだやってたんですね…」



大井さんと球磨さんと北上さんが何やら話していた。その話の流れで球磨さんがいまだに下着泥棒をしているらしい


「さすがに食べるのは無理でも匂いとかぬくもりを…ひえぇ…」


わからない…文化が違う。というか怖い。いつだったか私の下着を食べていた球磨さんを見た時のトラウマが蘇りそうだ


「は…そうだ…そういえばあの鎮守府では私の部屋はそのままでしたね…ま、まさか…」


漣「…漣の部屋も…まぁ別にもうどうでもいいか…」


漣さんは何だかキャラが変わっている。まるで某中二キャラのようになげやりになっている。そのうち「そう、関係ないね」とか言いそうだ


北上さんは球磨さんに自分の下着を盗まれていたと知っても気にしていないようだった。それどころか自分達の情事を見られる事にすら無頓着なようで


「いやいやいや…いくら自分の失態を晒していてもそれとこれとは話が別ですよ…」


漣「…同意する」


どうやら北上さんは露出調教されていてそういう感覚を忘れつつあるようだ。憲兵さん…貴方はいったい何をしているのだ…


 
 
その後一人になった球磨さんはまたも脱衣場で下着漁りを始めている。さすがに主不在とはいえ他人の部屋に侵入したりはしないようだ。そうだと思いたい



「まあそもそも洗濯済みならターゲットにはなりませんよね…」


漣「…あの球磨さんなら一度でも使用した物なら例え洗っていても匂いを嗅ぎ分けますよ…どうでもいいけど…」


漣さんが不吉な事を言う。司令官…ちゃんと鍵をかけてくれているだろうか。本当にお願い


そして雲龍さんと千歳さんの下着を脱衣かごから拝借した球磨さんはご満悦な顔で戻って行った


その後お風呂から上がった二人はちょっと困った顔をして仕方なく下着無しのままで部屋へと替わりを取りに行った。あの落ち着き様は初めてではないのだろう


「個人の趣味は自由ですけど…人に迷惑をかけるようなのはちょっとどうなんですかね…」


漣「…あの鎮守府は…そういう部分も許容する場所なんです。本当なら軍規に反します。他なら厳罰か、最悪解体されます…どうでもいいけど…」


「ああ…そうでしたね…。他では受け入れられない趣味や、せ…性癖の為に追いやられて来た艦娘も居ましたね」


自分の場合はそんな段階ではなかったから失念していた


「と言ってもやっぱり黙って持って行くのは良くないと思います。…聞かれても困りますが」


貴女の下着を堪能したいので貸してください、洗って返しますから。そう言われて貸す女が居るかどうか


食べられて消滅するよりはマシと考えるべきだろうか…わからない…


 
 
漣「…前にも思ったけど、ずいぶん気楽にしているようですね…朝潮…」



暗い目で私を見詰めてくる漣さん。もう売り言葉に買い言葉にならないよう気を付けないと…


「前にも言いましたが…私はもう関わりたくても関われないんです。だからといって幽霊らしく暗くしていても仕方がないので…気に障ったなら謝ります」


漣「別に…怒ってる訳じゃ…。私の知ってるイメージとちょっと違うから…」


『まあこれが本来の朝ちゃんなんだよきっと。色々なしがらみから解き放たれた』


漣「しがらみ…」


今や私よりもむしろ幽霊らしい雰囲気で漣さんは何かを考え込んでいる。今の彼女が考える事はろくな事じゃない気がする


「何度でも言いますが…死んで楽になる事なんてありませんよ。一時の苦しみから逃れた先に待っているのは永遠の苦しみと後悔です」


『その苦しみからも逃れたいならもう成仏して生まれ変わるしかない。けどね、未練や執着、恨みがある魂はそう簡単には成仏すら出来ないよ』


漣「生きてても苦しい…死んでも苦しい…。じゃあこの世界って何なんですか…」


すがるような目を向け私達に問いかける。彼女は答えを求めている、進むか止まるか判断しかねている


『あたしにもそれはわからない。存在してしまった以上腹を括るしかない。だって最後の最後には自分を救えるのは自分しか居ないんだ。どれだけ手を引いてもらっても歩き出すのは自分なんだから』


漣「…」


漣さんはそれを聞いてまた何かを考え込んでいる。私達の言葉はどこまで届いているのだろうか…


 
 
ある日の鎮守府に突然早霜が現れた。朝霜に掛けた暗示を解きたいのだと必死に訴えかけている



「早霜って確か…どうしてここに…」


『ふむ、どうやら早霜が頼み込んで送ってもらったみたいだよ』


内容をぼやかして話す私とY子さん。もう既に知っているのか、まだなのか、どちらにせよなるべく避けようというのが私達の結論だ


Y子さんが私に教えてくれた話では整備士さんは呂500さんが傀儡化された事に勘づいたらしくこの鎮守府を警戒し始めたらしい


下手をすればもう協力を仰ぐ事は出来なくなるのかもしれない。それどころか敵視までされたらどうなるのだろう


鎮守府の皆やアケボノさん達に囲まれたまま朝霜を説得する早霜


しかしやはりこれまでの行いが悪すぎたのだ。受け入られる事はなかった。そしてアケボノさん達は早霜を捕まえ姿を消した


『…早霜はアケボノ達の仲間まで手にかけてる…あれはもう殺されるね』


「…えっ」


私は龍驤さんに抱き締められ泣きじゃくる朝霜さんの姿を見ながらその映像を切り替えた


そこが何処かはわからない。早霜はあの女幹部――菊月やアケボノさんリュウジョウさん、その他見た事が無い艦娘達に囲まれ、詰問されていた


彼女達が聞くのは自分達の司令官である深海提督の安否と居場所


しかし


 
 
整備士さんが自分達の安全の為に居場所に関する記憶を消していて…今同じ場所に居るらしい深海提督の居場所も当然記憶が無かった



それでも朝霜さんに会わせてほしいと懇願する早霜に菊月さんは手を触れ、そして――


菊月さんから錆びのようなものが早霜の身体に移り凄まじい速さで侵食していく


「あれが彼女の能力…?」


瞬く間に全身が錆びに覆われ顔半分まで錆びが登っていく。早霜は涙を一筋流し朝霜さんの名前を呼びながら、そして――


「っ!」


『朝ちゃん!?ちょっと待って!漣!朝ちゃん止めて!』


漣「え…え?」


私は部屋を飛び出し三途の川へと向かう。特に何か考えがあった訳でもなかったがとにかく我慢が出来なかった


私は別に早霜と知り合いでもなんでもないし思い入れなんて無い。司令官達にとって敵なら私にとっても敵だ


だけど


朝霜姉さん――


あの最期の姿を見て私はいても立っても居られなくなっていた


川沿いに辿り着いた私は辺りを見回す。相変わらず死者の魂は途切れる事が無い。そうしているうちに漣さんが私に追い付いてきた


 
 
漣「…いきなり飛び出してどうしたんですか?まさかあの早霜まで連れてくるつもりですか?そんな事が出来るくらいなら…」



そこで言葉を切る漣さん。言いたい事は判る。あの小さな深海棲艦の魂の事だろう


実際あれからちょくちょく見に行ったりもしているが彼女の魂は見付かる事はなかった。そもそも来ているかもわからないのだ


もし見付かれば彼女にとってこれ以上無い救いとなるだろうが…


その場合、現世に帰ろうとする意志すら完全に捨て去りここで永遠に過ごすと言い出す可能性は高いように思う


そうしていると突然辺りの空気が変わった


川を渡る死者の群が怯え始める。空から何かが聞こえる。何かが落ちてくる


ああああああああああああああああああああああああああああああ朝霜姉さあああああん嫌あああああああああああああああ!!!


無数の死者にまとわり憑かれた早霜が川へと落下していく


あああああゴボッあああああ嫌ごめんなさい朝霜姉さんごめんなさいあああああ嫌あああああゴボッ助け――


落下した水面からも更に死者の腕が伸び、早霜はあっという間に水底へと引きずり込まれてしまった


連れて来るとか、話すとか、そんな暇すらありはしなかった


 
 
『まったく…いきなり何をしようとするの…朝ちゃんは』



ゴンッ!!!


ようやく追い付いてきたY子さんが私にゲンコツを…お…


「お…おおおおお…!」


漣「うわ…下手したら死にますよあれ…」


「も…もう死んでますけどね…おおおおおお…」


うずくまりながらも突っ込んでしまうのは私の性格がそうさせるのだろうか


『早霜自身が言ってたでしょ、殺し過ぎたって。そんな魂に下手に近付いたら一緒に引きずり込まれるよ、助けようにも重くなり過ぎて引っ張り上げるのだって難しいのに』


「でも私は…ごめんなさい!」


再び拳を振り上げて見せたY子さんに反射的に謝る私


『やれやれ…あれは正しく自業自得だから同情の余地は無いのにさ…殺したのも自身の快楽の為だし』


「それはそうですけど…」


漣「生まれつきそうなら…それは誰の責任なんでしょうね…」


『それは…まあ、ね…』


彼女を、早霜をそういう風に生み出した世界が悪いのだろうか、止められなかった人間が悪いのだろうか


『そういうのもやっぱり自分を救う自分なんだよ。あんな事してろくな死に方しないと土壇場まで気付けなかった…。それに気付かせてあげられる人間が居なかったのが早霜の不幸かな…』

 
 
早霜の一件から朝霜さんはやっと安心して過ごせるようになったのかみるみる元気を取り戻していった



結局早霜が固執していた暗示とは何だったのか謎は残った


朝霜さんを助ける為に暗示を解く、では解かなければどうなるのか…何にせよ早霜はもう居ない。それを聞く事はもう出来ない


そしてつかの間の平穏が戻った鎮守府にアケボノさんが現れ整備士さんの居場所を聞いてきた


「ずいぶん急いでいる様子ですね、何か緊急事態でしょうか」


『あの子達の緊急といえばあの子達の提督の話しか無いよね』


司令官達は整備士さんの居場所を知らないと答えるとさっさと姿を消してしまう


「ちょっと気になりますが…整備士さんかあ…」


漣「…?」


下手に整備士さんの所を見て漣さんがあれを見たらどうなるか、それが解らない程私は鈍くはないつもりだ


『…大丈夫、今は居ないみたいだよ。というかアケボノ達は辿り着けそうにないみたいだね』


「そうなんですか…?」


映像を切り替えてみると、アケボノさん達は整備士さんの秘書艦である吹雪さんに追い払われようとしていた


「嘘…たった一人であの人数を完全に圧倒していますね…。アケボノさん達は決して弱くはないのに…」


むしろ私よりもよほど強い。チームワークでなら朝霜さんにも負けないと豪語していたらしい


それを一人で圧倒出来るあの吹雪さんはつまり朝霜さんよりも強いという事になるのだろうか


 
 
アケボノさん達は何でか早霜の名前を連呼していた。まさかあれで警戒心を解こうとしているのか



「えぇ…もうちょっと他に何かあるでしょうに…」


『予想外にあの吹雪が強くて完全に浮き足立っちゃってるねあれは』


結局更に警戒を強めた吹雪さんに押される形でアケボノさん達は退散せざるを得なかったようだ


その後整備士さんの潜伏場所らしき地点は爆破され完全に見失ってしまい消沈するアケボノさん達


『ふむ…どうやらあの鎮守府込みで警戒されちゃったみたいだよ。呂500の傀儡化の件のせいだね』


漣「そんな…あれだけ協力的だったのに今更…?傀儡なら潮だって居たじゃないですか」


『潮の場合はこちらから保護した形だけど呂500は送り込まれてきた、しかもそれを把握していてなおかつ処分もしない…。理由はどうあれ外から見たら疑われても仕方ないよこれは』


「これからは何かあっても彼等の協力は仰げませんね…下手をすれば敵対してしまう可能性も…」


問題はその事を司令官達はまだ把握していないという事だ。自分達の知らない間に敵視され、無警戒に接近し、味方だと思っている相手に問答無用で攻撃を受ける


あの吹雪さんの攻撃力をまともに食らったら無事では済まないだろう


 
 
そうしている間にY子さんが何かに反応した



『使ったか…来るよ』


「え…?」


私が聞き返そうとするとモニターから轟音が響く。爆破されいまだ燃えている基地施設に突然光が降り注いだのだ


「うっ…!」


漣「く…!」


遥か彼方から巨大な光の帯が基地のあった島に突き刺さり飲み込んでいく。その眩しさから目を閉じる私達


少しして再び映像を見ると基地のあった場所には何も残ってはいなかった。それどころか島の形も少し変わってしまっているように思える


「これは…いったい…」


何処からかの砲撃があったのは確実だろう。そしてこの威力…思い当たるものはひとつしか無かった


『そう、あれが使われた。アケボノ達が焦る訳だね、でも結果的には脱出させられたから結果オーライなのかな』


「アケボノさん達は…」


『察知していち早く帰っていったよ』


「そうですか…よかった…。それにしても結構頻繁に使いますね…」


『今の大本営の最大の武器はあれだけだからね。使うしかないといったところかな』


あんなのをポンポン使って大丈夫なのだろうか。一発撃つだけでも鎮守府なら資源が吹き飛びそうだ

 
 
所変わって映像は大本営の茶室。菊月さんがあれの情報を集める為に大本営に戻ったところ信濃さんと出会い



そしてどういう訳か組織の大和がそこに現れた


「菊月さんと信濃さんは解りますがこうまで堂々と大本営に現れるなんてどういう神経をしてるんでしょう…」


『例え見咎められても自分なら問題無いと思ってるんじゃないかな』


実際あの大和を止められる戦力は大本営にも多くはないのだろう。仮に戦闘になったらどれだけの犠牲が出るのか想像もつかない


その大和は今回は話し合いに来たと言ってお茶なんて立てているが信濃さんは警戒して手を付けようとはしなかった


「戦争を続けて均衡を保ち、武器を売りそれが平和と…。確かに戦争が終われば私達艦娘は必要無くなって数は減らされるでしょうが…」


『どうかな…深海棲艦との争いの次はまた別の争いに移行するだけだと思うよ。その際貴重な戦力である艦娘は今以上に必要とされる』


「そうなったら艦娘の敵は人間と、そして同じ艦娘になりますね…」


『大本営にはあれがあるけどそれだけじゃやっぱり足りない。どうしたって兵隊は必要になるからね』


そうして武器を売って国が潤ってもその武器が向けられるのが誰になるのか、また沢山の人や艦娘が死んでいくのだ。平和などとはお世辞にも呼べない


話を聞いた信濃さんが激昂して大和に斬りかかる


「艦娘になったからなのか元々なのか…血の気が多いですね」


 
 
しかし前回とは違い大和はあっさりと信濃さんの槍を弾き飛ばしてしまう



『冷静さを欠いて勝てる相手じゃないよねぇ…』


信濃さんの肩を突き刺した大和がその目を覗き込んだ次の瞬間、信濃さんから大和への敵意が消えていく。目が虚ろだ


漣「これは…暗示…?」


「洗脳する能力ですかね…そこまで強いものではないようだけどあれだけの達人が使うとなると厄介ですね…」


傀儡を食べて能力を得たと話す大和、つまりそれは傀儡への能力付与が成功したという事なのか


「大量に居て、しかも一体一体がめちゃくちゃ強くてその上特殊能力持ちに…?」


『一発の破壊力の大本営か数で押す組織か…どちらが不利かな』


しかも信濃さんを洗脳し仲間に加えてしまった以上大本営はもう…?


抑止力というやつで大本営と組織がお互いに睨み合うだけになれば確かに均衡するのかもしれないが…


そして大和は信濃さんを連れて行ってしまう。菊月さんはさすがに手を出せず見送るしかないようだった


弾き飛ばされ落ちていたはずの槍は何故か何処にも見当たらなかった

ここまで
次以降はまだ未確定の部分もあって難しい
後追いみたいな形を取ったのは…




他の人と違っていいんだ。自分を信じ続けるといい。世の中いろいろあるけれど、俺だって何とかなった。

_元スウェーデン代表 ズラタン・イブラヒモヴィッチ





「…………この辺でええやろ」

「あぁ、ここなら誰も気づかない」

「じゃ、棄てるわよ」


ポイッ

ザプン


ゴポポポポポポ……………









早霜「……………………ん……?」



ピーッ!!


実況「さぁ試合開始です!今回はなんと艦娘がピッチに立ちます!」

解説「ものすごい経歴を持つ選手ですね。殺した人数がプロフィールの枠を超えてますよ。しかも趣味はなるべく苦しませて殺すこと……うーん、カンダタも真っ青な殺人快楽者ですねぇ」

実況「救われるはずのない魂に垂らされた蜘蛛の糸、彼女は登りきることができるのでしょうか!?活躍に注目したいところです!」


〔11:06〕


実況「ロスタイムは……結構長いですね。ほぼ半日です」

解説「分単位に直すと666分……うーん、彼女の素性を表すかのように不吉な数字だ」




早霜「あれ……私、確か菊月に…………」


実況「早霜選手、やはり理解ができていないようです」

解説「死んだはずなのになんで?という顔をしてますね…………おや?何かおかしいですよ?」

実況「そうですか?いくらか身体に錆が目立つようですが、それ以外辺りには……んん!?いつもの審判がどこにもいません!!いったいどこに……?」


_海上

審判団「……………………」


実況「いました!早霜選手から遥か真上の海上です!なんと潜ることができない!!」

解説「泳げないのにどうしてこの試合を請けたのでしょうか。これは派遣した教会にも責任が及びそうですね」

実況「このままでは選手が動けず意図せぬ形でロスタイム放棄もありえます!いったいどうなってしまうのか……!?」








ブクブクブクブク……


ザパァンッ


早霜「ぷはぁっ…………」


実況「おっと!早霜選手、自ら海上に出てきました!」

解説「状況と位置の把握のために出てきたようです。頭の回る選手で良かったですね」



早霜「……!敵……!!」ゴッ

主審「!」ピピピピピッ!!


実況「あぁーっと!審判を敵と認識してしまいました!誤解を解こうとしています!」

解説「副審がフラッグで守りの構えをしていますね。あんな棒切れでどうするというのでしょうか」


主審「……!」カード

早霜「……注意?みたいなものかしら?殺してはいけない……そんなところかしら」


実況「当然カードが提示されますが……ルールがいまいち伝わっていないようです」

解説「審判団への暴行が反則対象ですが、どうやら早霜選手、殺害そのものの禁止と解釈したようです」




早霜「…………数字?」

主審「…………」コクッ

早霜「何かしら、これ…………私、たしかに死んだはず……」

主審「…………」トントン

早霜「時計?」

主審「……」シタユビサシ テアワセ

早霜「下に、両手……?」



解説「うーむ、どうやら時間が来たら地獄に落ちると伝えたいようですが……」

実況「いまいち意図が伝わっていないようです。ここでの時間は後々に響きそうです」



早霜「……そうだ、そんなことをしてる場合じゃない」

早霜「まだ終わってないなら、早く……早く姉さんの暗示を…………」

早霜「でも……ここはどこかしら…………」



実況「おっと、意図は伝わっていませんがどうやら動き始めるようです」

解説「どうやら彼女、生前に姉に仕掛けた暗示を解きたいようですね。まずはそこにたどり着けるでしょうか?」



〔10:03〕


早霜「………………」スイーッ

審判団「…………」


実況「動き出してから1時間が経過しましたが、依然海の上を彷徨っています」

解説「自分がどこにいるのかさえ分かってないですからねぇ。しかも夜間で視界も悪い状況。せめて陸地にたどり着ければ良いのですが……」


早霜「…………」チラッ

審判団「…………?」

早霜「時間が減ってる……制限時間みたいなもの、なのよね?」

主審「…………」コクコク

早霜「ねぇ……私、確かに死んだのよね?」

主審「………………」コクッ

早霜「…………そう、やっぱりね」


実況「早霜選手、ここで死んだことを確認したようです」

解説「ほとんど動揺は見られませんね……いえ、ちょっと待ってください、早霜選手の手……?」


早霜「どこまでいっても先が見えないわね……」スイーッ


手「…………」ワキワキ……

ゴキッ、ボキッ…………


実況「これは……獲物を探すかのように、恐ろしい動き方をしている……!?」

解説「本人は無意識のようですが、本能が殺しを求めている……といったところでしょうか。手を出せば退場もありえる状況、かなり難しいゲームになりそうですね……」


早霜「でも、このままだとラチが明かないわ……探照灯でもあれば、周りだけでも見えるのだけど……どうすれば……」





「おい!おまえ!!」



早霜「!!その声……!」

伊400「やっぱり逃げやがったんだなこの野郎!」


実況「おっと!これは潜水艦の伊400さんでしょうか!?ようやく審判団以外の人間に出会うことができました!」

解説「どうやら知り合いのようです。いやぁ、ここまで長かったですね」


伊400「だからお前は信用ならないと思ってたんだ!ボスのところには行かせねぇ!!」

早霜「ち、違うの……!私、さっきしん」


主審「!!」ピピーッ!!

早霜「!?」

主審「……!…………!!」


実況「あぁーっ!ここでついにやってしまいました!死んでいることを伝えてはいけません!」

解説「ようやく人に会うことができて安心してしまったのでしょうか。多くの選手が起こすミスですが、この気の抜けたところが危ないですねぇ」





早霜「あっ…………言ってはいけないのね?」

伊400「あぁ?しん?」

早霜「し……し、信用されないのはよく分かってるわ…………」

伊400「はんっ、分かってるならいいんだ」

主審「………………」


実況「おや?カードを出しませんでした。これは辛うじてニュアンスは伝わっていない、ということでしょうか?」

解説「そのようですね。まぁ今回はジャッジに助けられたということで、焦らずに…………ちょっと待ってください?早霜選手の右手……」

実況「右手ですか?どうし……!?」


ナイフ「」キラッ……


実況「隠しナイフですか!?いつの間に……!?」

解説「伊400さんもまったく気づいていません……本人の意思さえあれば、ですね……」



早霜「その、お願いがあるの!もう一度…………もう一度だけでいいから、あの鎮守府に連れていって!」

伊400「鎮守府ゥ?お前今日の昼に暗示解くからって連れていったじゃねぇか!」

早霜「そうなんだけど……その、暗示を解ききる前に追い出されてしまったの……!」

伊400「そんな馬鹿なことあるかよ!!さしずめ今度は朝霜を殺すかもう一度暗示かけるかのどっちかだろうな!」



実況「なかなか交渉がうまくいっていないようです」

解説「よっぽど生前の行いが悪かったようですね。そろそろ2時間に差し掛かるところですよ」

実況「どうやら鎮守府はかなり遠くにあるようですから、戻る時間を考えるとかなり厳しい展開を強いられています!」




早霜「だから……!!」


ピピピピピッ!!


早霜「!?」

伊400「……!?てめぇ……やっぱり殺す気かよ……!」

早霜「殺す……?」

伊400「とぼけんじゃねぇ!そのナイフはなんだよ!!」

早霜「……!?」


実況「あぁっと!ここでついに手を出してしまいました!」

解説「主審の笛で辛うじてナイフが止まりましたね。しかし首寸前、身動きがとれません……!」


主審「………………」


実況「主審はすでにカードを出す準備をしています!」

解説「まだ手を出してないので反則は確定していませんが、さぁ早霜選手、抑えることができるでしょうか……?」





早霜「………………………」

伊400「…………やれよ……やれるもんならな……!」



早霜(あぁ…………とうとう、出しちゃった)

早霜(これ以上殺す意味なんてないのに……早く、姉さんの暗示を解かないといけないのに…………)

早霜(もうだいぶ時間も経っている……早く説得しないと…………いや?)


早霜(ここでこれ以上足止めされるなら、いっそ…………)

早霜(でも……ここで殺したら鎮守府の位置が…………)

早霜(待って……?いっそ、この潜水艦だけじゃない)



早霜(さっきはやりそこねたけど、あのよく分からない奴らも………………)



実況「早霜選手、かなり葛藤しています!」

解説「ついに手が出てしまうのでしょうか……待ってください、これ審判団も狙ってませんか!?」

実況「審判団もですか!?そんなことしたら早霜選手どころかロスタイムまで消滅してしまいますよ!?」


早霜(殺す…………血の匂いを……あの叫び声を…………最後にもう一度だけ……!)

早霜(……違う!そんなことより、姉さんの暗示を…………でも……ふふ、うふふ…………!)


早霜「………………っ!」ギリギリ

伊400「………早霜ぉ…………!!」



…………ポチャン


早霜「……………………お願いします」


バッ


伊400「!?」



実況「おっと!?ナイフを投げ捨て、土下座に出ました!!」

解説「止まった!……完全に殺す動きからのこれですからね、これには伊400さんも驚いています」



早霜「分かっているわ……私は数えきれない罪を犯してきた。信用しろなんて、できるわけないわね」

早霜「でも……私の最初の過ちを…………姉さんの暗示を解かないと……」

伊400「お前そればっかじゃねぇか!そんなことして許されるなんて思ってんじゃねぇだろうな!?」

早霜「赦しなんていらない!2度と姉さんに会えなくていい!すべて終わった後なら、どうなっても構わない!」

早霜「でも…………あの暗示を解かないと………………」





早霜「死んでも…………死にきれないのよぉ……!!」ポロポロ





副審1「!!」カードダロ

副審2「……!!」チガウチガウ

第4審「…………」ハラハラ


実況「これはかなり際どい発言です!」

解説「死ぬことを示唆する発言ですからねぇ。審判団もかなり揉めているようです。さて、主審の判断は…………」


主審「………………」


実況「カードは……出ない!ここはカードは出ませんでした!」

解説「あくまでも表現のひとつとして解釈したのでしょうか。ここは主審に助けられましたね」


早霜「お願い……します…………ほんとうに、おねがい……!!」ポロポロ

伊400「な、なんだよコイツ………………」





伊400「…………あぁもう!わかったよ!!今度こそ最後だからな!」

早霜「本当!?」ガバッ

伊400「ほんっとうに最後だからな!とりあえず身につけてる武器全部捨てろよ!!」

早霜「ありがとう……!本当にありがとう…………!!」ポロポロ

ポチャン

ポチャン

ポチャン

バラバラバラバラ!!

伊400「そ、そんなにかよ……気持ちわりぃな…………」


実況「やりました!必死の願いが通じたようです!」

解説「とんでもない数の武器を捨てた気がしますが……彼女の執念は本物ですね。この粘り強さを最後まで持続できるでしょうか?」




_足りないもの鎮守府


〔6:16〕


伊400「ほらよっ!着いたぞ」

早霜「本当に、ありがとう……!」

伊400「てめぇに感謝される筋合いなんかねぇよっ!2度とその顔見せんじゃねぇぞ!!」


ポチャン


実況「説得から3時間近くかかってしまいましたが、ようやく目的地に到着しました」

解説「ここまではあくまでも準備に過ぎませんからね。早霜選手、ここからが本番ですよ」


早霜「…………さて」


スタスタ


実況「おぉっと!?なんと正面から入ろうというのでしょうか!?」

解説「すでに日付を跨いでいるとはいえ、警備をしている憲兵もいるはずです。何か策があるのでしょうか?」






憲兵「…………………」


ヒュッ


憲兵「……ん?」


シーン


憲兵「………………気のせいか」






早霜「……………………」スタスタ……






由良「……………………」ミマワリチュウ


コトン


由良「!!」バッ


シーン


由良「…………………」




由良「……………………」スタスタ……




早霜「…………」スッ



実況「これは驚きました…………ここまで誰にも気づかれずに目的地に向かっています」

解説「彼女、先日失った能力を無しにしても、非常に高い身体能力を備えていたようですね。素晴らしいスニーキングスキルですよ」

実況「しかし、毎回すんでのところまで手が出かかっているのは大丈夫なのでしょうか?」

解説「うーん、いちおう殺傷行為については明確なダメージを与えない限りは反則でない、という解釈もできますが……先ほどのジャッジといい、今日はかなり甘めの判定が目立つ気がしますねぇ」



審判団「………………」スタスタ


由良「……………!」


ヒュッ


ブスッ!


審判団「!?」

由良「何者」

審判団「」マッサオ



実況「し、審判団の気配を感じ取ったぁ!?」

解説「これプロフィールですか?…………ほほう、忍者の末裔の元で鍛えられたらしいですよ……え?これ本当に彼女なんですか?容姿がまったく違うようですが……」




実況「いったん早霜選手に戻りましょう……朝霜が眠る寝室に到着したようですが…………?」


ガチャリ


実況「やはり鍵がかかっているようですね」

解説「当然警戒しているようですね。しかも今日は朝霜以外に2人もいるようですよ。何かの拍子に起きてしまう可能性はとても高いですね」


早霜「……………………」スッ


カチャカチャ…………


実況「おっとかなりアナログだー!ハリガネで鍵をこじ開けようとしています!」

解説「意外と手つきは悪くないですよ。しかし開けるまではいかないみたいですね…………ん?」


ガチャッ


早霜「!!!!」




ギィィィィ……


ズリ…………ズリ…………


龍驤「うぅん……トイレトイレ……」



実況「彼女は……軽空母の龍驤さんですね。片腕、片脚がない艦娘です。普段は義肢を付けているはずですが……」

解説「どうやら寝ぼけてそのままお手洗いに行ってしまったようですね…………早霜選手はどうでしょう?」



早霜「…………」ペター



実況「なんと天井に貼り付いています!これはファインプレイ!」

解説「いやぁ、彼女の能力には驚かされるばかりですね。これで部屋にも入れそうです」



_寝室


提督「zzz…………」

朝霜「すぅ…………すぅ……」


早霜「……………………」


実況「ついに……ついに早霜選手、朝霜さんのもとにたどり着きました……!」

解説「龍驤さんが戻ってくるまであまり時間がありません。戻る時間もありますし、早めに暗示を解きたいですね」


早霜「………………姉さん……そのまま聴いてね……何も考えなくていいのよ……そのまま、力を抜いたままで……」ブツブツ

朝霜「すぅ……すぅ……」

早霜「~~~~~~」ブツブツ


実況「暗示の解除が始まったようです」

解説「いい感じに集中できてますね……そのままゴールまで行けるでしょうか」



早霜「……いまから数を数えるわね……0になると姉さんは催眠状態になるわ…………大丈夫、とっても気持ちいいわよ…………10…………9…………ほら、だんだん身体が重くなる……」ブツブツ


実況「これは……暗示をかけている?」

解説「解除するためにいったん催眠状態に持ち込むようですね。本人の意思を操作しやすい状態のほうが逆に暗示を解きやすいようです」




……ズリ…………ズリ……


実況「おおっと!?ここで龍驤さんが戻ってきてしまったぁ!!」

解説「早霜選手、気づいた上で催眠を続行していますね!集中していますが、焦りが見えているところが気になります……!」

実況「さぁ早霜選手、催眠は間に合うのか……?」


早霜「~~6~~~~5~~………4…!」イライラ


解説「目に見えて焦ってきてますね。このままでは……!」


朝霜「…………うぅん……なんだ」ムニャムニャ




朝霜「よ……………………」パチクリ

早霜「……2…………1………………!」







朝霜「…………………ひ、ひ」

早霜「…………ゼロっ!」パチン




ギィィィィ……



龍驤「はひぃ……久しぶりやなぁ、寝ぼけて義肢無しでトイレすましたんは……」

龍驤「ごめんなぁ、朝霜……寝とるか?」サスサス

朝霜「………………」トローン

龍驤「……ゆっくり寝れとるみたいやね……ほな、おやすみ……」zzz



早霜「…………………」ホッ



実況「早霜選手、ドアの裏に隠れて上手くやり過ごしました!」

解説「しかも朝霜さんへの催眠もしっかりかけています。あの状況でしっかり結果を出せるのは素晴らしいですね」




実況「ところで、審判団の姿が見えませんが、どこにいるのでしょうか?」

解説「先ほど由良さんに見つかり退避したところまでは確認したのですが……」



_鎮守府外



主審「……………………」

副審1「………………」イカナイノ?

副審2「……………………」コロサレタクナイ

第4審「…………」オロオロ



実況「あぁーっと!審判団、仕事を放棄しています!」

解説「由良さんというリスクを懸念した判断かとは思いますが……副審たちはむしろこの状況に困惑していますね」

実況「主審はおそらく早霜選手がいるあたりを見つめていますが……これは仕事していると言えるのでしょうか……?」





〔5:32〕



早霜「さぁ、最後よ…………姉さんはここで起きたことは、朝になると何も覚えていない…………」ブツブツ


実況「早霜選手、順調に暗示を解いています」

解説「これなら時間内に元の場所にも戻れそうですね。危ないところもありましたが、ここまで素晴らしいプレーを見せています」


早霜「……ほら、身体がすぅっと、浮かんでくる……」

早霜「すべてを忘れて……ここは、いつもの布団の中…………」






早霜「…………さよなら、姉さん」


パチンッ



実況「早霜選手、見事やり遂げました……!」

解説「えぇ、ここまで荒いプレーも目立ちましたが、いままでの選手の中でも最高のパフォーマンスを魅せてくれたと思いますよ。彼女はとても強い心を…………」




早霜「…………………………」




解説「……ちょっと待ってください?早霜選手、何やら様子がおかしいですよ?」

解説「おっと?……審判団も心配そうに彼女を見ていますね……」


早霜「…………分かってるのよ」


早霜「こんなことしても、許されるわけじゃない。褒められるわけじゃない。救われるわけじゃない……それでも、やらなくちゃ、いけないこと、くらい」




早霜「でも…………でもぉ………………!!」




早霜「もっと姉さんと話したかった!姉さんに、いろんな人に、許してほしかった!」



早霜「この力だって、もっといろんなことに活かしたかった!この心だって、もっと良い方向に治せるって信じたかった!」



早霜「姉さんに覚えていてほしかった!いろんなことをやり直したかった!」





早霜「許されたい……!」



早霜「やり直したい……!」



早霜「忘れられたく、ない……!!」







早霜「死にたくない…………死にたくないよぉ…………!!」ポロポロ








実況「……まったく予想外の展開になってしまいました。早霜選手、ここに来て泣き崩れてしまうとは……」

解説「多くの選手がそうであったように、こうなる気はしていましたけどね……あの早霜選手さえも、死ぬことへの恐怖からは逃れられなかったということですね」




〔2:27〕



_海岸



ザザーン……ザザーン……



早霜「……………………」



実況「どうにか海岸まで出てきましたが……早霜選手、まったく動きません」



副審1「…………!!」レッドレッド

副審2「……!…………!!」マダワカラナイ

第4審「………………」ソワソワ


主審「……………………」




解説「副審たちはまたヒートアップしていますが……主審が怖いくらいに沈黙を守っています」



早霜「…………ねぇ」

主審「…………」

早霜「さっきのカード、出さないの?」

主審「……………………」

早霜「分かってるでしょ?私……」





早霜「もう、元の場所に戻るつもりはないのよ?」





実況「!?なんと早霜選手、みずからロスタイムを放棄するということでしょうか!?」

解説「ここでカードが出ると輪廻から外れてしまうのですが……いや、まさか……それが狙いだというのでしょうか!?」



早霜「それが何なのかはよく分からないけど……さしずめ、地獄に落ちるとか、生まれ変われないとか、そんな感じのものなのでしょう?」

主審「………………」

早霜「それ、あいにくとっても好都合なのよ」

早霜「私みたいなキチガイは、もうここに戻ってこない方がいいの……だから、早く終わらせてちょうだい……」



主審「……………………」スッ





実況「主審がカードに手をかけました……!早霜選手、とうとう望み通りの退場処分となってしまうのか……!?」







ベキッ!


早霜「……………はぁ!?」

主審「……………………」



実況「なんと!?主審自らカードをへし折ってしまいました!!」

解説「本来ならカードを出すべき……いやそれ以前に、こんな暴挙に出た審判は初めてですよ……!」



早霜「どうして……!?私のこと、分かってるでしょ!?私は……生き物をなぶり殺して快感を得る狂人なのよ!」

早霜「こんな奴を生まれ変わらせたって、また誰かを苦しめるだけなのよ!?」

主審「………………………」フリフリ

早霜「違う……何が違うの?私が殺人者であることは変わらない!私の本性なんだから私が一番よく分かってるの!」

早霜「やり直しの機会なんて…………やり直しなんて………」





早霜「あなた…………私に、またやり直せばいいって言うの?」



主審「……………………」ピッ!




ピュッ

ポンッ

ブロロロロロ…………


早霜「零式艦戦……これで戻れ、ということ?」

主審「………………」



早霜「それは、仕事だから?あるいは、情けかしら?それとも…………」

主審「……………………」



早霜「…………あなた、どこかで会ったこと、あったかしら?」

主審「……………………」

早霜「…………ふふっ、本当に喋らないのね」

主審「……!」ピッ!

早霜「急いで?はいはい、分かったわよ……」



チャポン

スイーッ……




実況「早霜選手、主審の案内に従い、キックオフ地点へ戻ります……!」

解説「今日のジャッジ、不思議なところがありますね。早霜選手が殺しに手を出すかどうか、それだけを注視していたかのような…………」






解説「…………そういえば、女性の主審なんて、協会にいたかな……?」




〔0:02〕


_どこかの海上 キックオフ地点



早霜「はぁ……はぁ…………間に合っ、た……?」

主審「…………」フゥフゥ

早霜「そう……なんとか戻れたのね」



実況「早霜選手、時間内にキックオフ地点に戻りました!残り時間、2分です!」

解説「驚くべき航行速度ですね……いえ、早霜選手と審判団の意地なのでしょうか?」



早霜「…………本当にいいの?」

主審「………………」

早霜「まぁ、すぐに生まれ変わるとかは無いでしょうけど……この性癖、とんでもなく強いから、分からないわよ?」

主審「……………………」

早霜「……………………」




早霜「まったく、貴女も意固地ね…………」

主審「………………」



早霜「……………………ありがとう」




実況「早霜選手、海上に横になりました……まもなく、試合が終了します」

解説「……おそらく、彼女はこれから気の遠くなるほど長い間、罪を償うことになるでしょうね」

解説「しかし、いつか…………ずっと先のいつか、贖罪が終わったとき……彼女は再び、この世界に生を受けることになるでしょう」

解説「その時、彼女がどのような人生を送るのか……いやぁ、我々も頑張らないといけないなぁ」ハハ





ビキッ!



早霜(…………きた)




ビキビキビキッ!!



ゴポポポポポポ…………




早霜(身体が、沈む…………冷たい、海の底、に……………)




早霜(さよなら……姉、さん………………)







………………へん、ね…………


あんなにつめたかった、うみなのに…………


いまは……とても、あたたかくかんじる…………




…………………………ひか、り…………?





あぁ………………



しらなかった……………………







おひさまって、こんなにもあたたかいもの、だったのね……………………








ゴポポポポポポ…………





〔0:00〕


ピーッ

ピーッ

ビーーーーーーッ…………







司令~~!構ってくれよ!



……随分と元気そうだな



あったり前だろ!もうあたいはアイツの事を考えなくても良いんだ!



これ以上の幸せがあるかよ!






早霜「ロス:タイム:ライフ」


以上パラレルワールドでした
喋り方とか設定にガバがあったら脳内補完でお願いします

>>401から

 
 
「初期艦持ちの提督の会合ですか…」



私は朝潮、今日も今日とて鎮守府の様子を覗き見る毎日


始めの頃こそ罪悪感もあったが今となっては当たり前に見るようになってしまった、何せ他に見るものと言えば窓から見える三途の川と死者の群くらいなのだ


漣「あー…ついに行く事になったかあ…」


「漣さんは知ってたんですか?」


漣「まあ…たまに届いてたんですが、ご主人様は行く必要は無いと私がシャットアウトしてたんだけど…誰にも言ってなかったから仕方無いか…」


何だか歯切れが悪い、大事な会合なら行った方がいいのではないだろうか


漣「見てたら解りますよ…」


相も変わらず暗い雰囲気を背負ったままの漣さんだったが一応話には付き合ってくれるのはありがたい


そうして見た目深海棲艦な漣さんの姿で中身は重巡棲姫さんというややこしい状態の彼女を連れて司令官は会合に向かう


訓練生時代の同期という艦娘達に囲まれて狼狽する重巡さん、色々と根掘り葉掘り聞かれている


漣「…ああいう事もあるから行きたくなかったのもありますね…。おい…何セフレって…もう少し上手い誤魔化し方があるでしょうが」


だいたい合っているのではないだろうかと思ったが口には出さない私。いつもいつも失言するとは限らないのだ、成長したのだ


 
 
「ぷ…」



漣「…素直に笑ったらいいんじゃないですか」


会合が始まり真面目な話の後はどういう訳かお料理会が始まった。それぞれの初期艦が腕を振るう中、料理など出来ない重巡さんに代わり司令官が手作りのお菓子を振る舞っている


そういえば司令官の作ったお菓子は美味しかったなあ…もう食べられないのは今更に惜しい気持ちになってしまう


それはともかく私達の鎮守府の司令官は顔が怖い、その為誤解されやすく、常に風評被害が付いて回っている


そんな司令官が手作りのお菓子をどんな用途に使っているかここでまた新しい風評被害が生まれてしまったようだった


「絶倫誘拐犯…くっ…ふ」


漣「…どこまでこの二つ名が伸びていくのか見ものではありますね」


落ち込む司令官が哀愁を誘っているがまたそれが何だか…ごめんなさい司令官、朝潮は悪い子です


ぷるぷるしながら笑いを堪える私なのだった


そしてその後、どうして漣さんがこの会合の事を司令官に伝えてこなかったのか私は知った。結局はこれも権力者の道楽のようなものなのだと


 
 
「すわっ…ぴんぐ?」



聞き慣れない単語が出てきた。どうやらクジを引いて何かゲームでもするのだろうか


漣「…大本営に居た頃、そういう集まりがあるらしいと聞いてから警戒はしてた…」


「はあ…」


漣「私があの鎮守府に帰ってしばらくは招待なんて来なかった…。だけどご主人様がそれなりに実績を積んでいくといつの間にか来るようになった」


「…すわっぴんぐって何ですか?」


漣「…簡単に言えば自分の彼女を誰かの彼女と入れ替えてエッチする事です」


「え…ええええええ!?」


漣「噂で知っていた私にはすぐ判った。だからこれまでとある主催者の名前が入った招待状はいの一番にすぐ処分してきたんだけど…」


「…勝手に処分して大丈夫だったんですか?」


漣「非参加なら通知は必要無い形でしたから」


その主催者は司令官に敢えて何も言ってはいなかったがそういえば少し驚いたような顔をしていたような気がする


 
 
「どうするんですかね…」



漣「…知らなかったと説明するか、腹を括るか」


「司令官が今更他の艦娘とそういう事をするとは思えませんが…」


漣「参加した以上強制という線もありますが…やっぱり知らなかったと説明して帰してもらうしか無いですかね」


しかしそう訴える暇も無く司令官がクジを引く番になってしまう


漣「駄目だあれ…ご主人様完全にテンパってる…早く説明すればいいのに。あ、引いた…」


不測の事態に司令官は弱い、そして周りに流されるままクジを引いてしまった


しかしここで奇跡が起こったのか、その番号は司令官の初期艦のものだった


「こういう事もあるんですね」


漣「…これで安心ですかね…。次はちゃんと非参加を貫くでしょうし」


そして司令官達はすぐに帰るのも怪しまれるとかで隣の部屋からの営みの声に挟まれたまま時間を潰している


そんな時、天井から会合の始めに会った艦娘の一人、吹雪が現れた。どうやらあのクジを操作して二人になるように仕向けたらしい、それはそうか、こんな偶然そうそう起きたりはしない


そして話は予想外の方向へ行く事になる


 
 
「漣さんって組織の一員だったんですか…!?」



忍者の格好をした吹雪、忍者吹雪さんが言うには漣さんはかつて老幹部の下に居た、そしてその老幹部は例の組織の首魁…何か繋がりがあるのだと思っていたらしい


漣「…私自身その辺の記憶は無いんですが…記憶を消される前に送った書類にそういうような事が書いてあったようです」


「しかも暗殺依頼の対象にまでなってるなんて…何をしたんですか…」


漣「…あの頃の記憶は穴だらけで正直私にもよく解らない事が多いです…でも…」


「でも…?」


それ以上は漣さんは何も言わなかった。まるで心当たりがあるかのような…


そして鎮守府へと帰還した司令官達は話し合いを始める


そもそも暗殺依頼なんて普通の人は出来ない。権力者か裏の人間か…それに通じる何かを知っている事が必要になる


結局その相手も普通の一般人ではないという結論しか出なかった


手詰まりになった重巡棲姫さん達は漣さんの部屋で手紙や書類を調べ始める


そうして手紙を調べる由良さんが何かに気付いた


 
 
手紙には暗号で漣さんへの依頼?指令で組織の技術を奪えと書いてあったらしい



「漣さん…貴女いったい何者なんですか…」


漣「そう言われても…」


そして更に別の手紙には今度は漣さん本人の字でなんと暗殺依頼が書かれていたのだという


そこからの話し合いは聞くに耐えないものだった


「…何ですかこれ、まだ疑惑の段階でよくもまあこれだけ好き勝手言えますね…」


かつて漣さんは司令官を取られた腹いせに鎮守府を組織に狙わせ、なおかつ龍驤さんの浮気相手までも暗殺依頼の標的にしていた…ちょっと飛躍しすぎではないだろうか


漣「…」


「漣さん…なんで否定しないんですか…?あの話は本当に…?」


漣「…解りません、今の私にはその記憶が無いみたいです。だけど…ふふっ…」


俯き加減の彼女が笑う


漣「あの頃の私ならもしかしたらそんな考えを持っていたとしてもおかしくないかもしれませんね…いえ、おかしくなっていたと言った方が正しいかな…?」


失念していた、愚かな事に


状況から考えれば今の彼女の精神状態はその頃より尚酷い状態になっているのだ。一連のやり取りを見せたのは失敗だったと激しく後悔した


 
 
とはいえ漣さんは特に暴れだすという事も無く表面上は冷静なように見える



むしろそんな状態の方が遥かに恐ろしいのだが…


そして一人部屋に帰った重巡さんが漣さんを呼んでいる、直接話を聞こうというのだろう


「もう観るのは止めましょうか…」


漣「構いませんよ、まあ重巡に何を聞かれても答えられる事などありませんが…」


漣さんは映像を切り替える。正直人の精神世界の映像まで映し出せるこのテレビがいまだに理解出来ない


漣さんの精神世界には誰も居なかった。まあ当然だ、本人はここに居るのだから。漣さんも会うつもりは無いようだ


そうしていると富士さんが代わりに応対しているのが見えた。そして漣さんを必死に庇っている


その反応はつまりは…あの話が事実だと裏付けている事になるのか…


漣「…富士は…どうして」


「え?」


富士さんが必死に擁護するその姿を漣さんはじっと見つめている


漣「一度は私を見逃して…二度目は私の自殺を止めてこんな所に連れてきた…そして私なんかをあんなに必死になって庇ってる…意味が解らない」


 
 
ああ…漣さんはまだ富士さんを誤解しているんだ。始まりの艦娘は歪んだ魂を集めている。その結果艦娘は死に至る。その部分だけを聞けば悪人のような印象を抱いてしまうだろう



「富士さんは…すごく優しい人なんです」


漣「え…?」


私はここに来てからの富士さんとのこれまでを話して聞かせる。私が自らの命を断ったのを自分のせいだと謝ったり、頭を撫でてくれたり、膝枕してくれたり、他にも色々


それに漣さんが眠っている間にもちょくちょく様子を見に来てずっと側に付いていたりもしたと話す


「富士さんはとにかく艦娘を救いたいと思っているだけなんです。それはもうがむしゃらに…考え無しに」


そのせいか計画はあまり進んでいないようで、Y子さんにも呆れられたりもしていた


富士さんがもっと非情で冷酷なら魂集めももっと早く終わっただろう。しかしそもそもそんなに冷たかったなら全ての艦娘を救おうなどとは考えずに自分の為だけに扉を開こうとするだろう


「救いたいからこそ切り捨てる事も出来ずに今も苦しんでいるんです。…ねぇ、誰かに似ている気がしません?」


漣「それは…」


漣さんも思い至ったようでいつの間にか一人になっていた富士さんを見つめる


その視線に気付いた富士さんはまたあの申し訳無さそうな目をこちらに向けた後姿を消してしまった


「いつも富士さんの言葉は誰にも届かず否定されてばかり…あんなにも頑張っているのに…」


漣「…」


漣さんは富士さんの居た場所をしばらく何も言わずにただ見つめ続けていた

短いですがひとまずここまで
間を空けすぎるとかえってどんどん書けなくなりますね…何処まで追いかけ続けられるか…

>>454から

 
 
はいどうも朝潮です、現在鎮守府にはママ旋風が吹き荒れています



雲龍さんが本格的にママ活を始めて癒しを提供、何故か母乳まで出るようになって更に何故かキラ付け効果まで発揮されています。訳が解りません


そんな中霞ママにとうとう司令官が陥落しました


「…正直…こんな司令官は見たくなかったかも」


漣「すっかり骨抜きになっていますな…見てくださいあの表情」


割と厳つい顔の司令官の表情は今や弛みきっていて完全に無防備な子供のようになっていた


「大の男がこんな事になるなんて…」


漣「かなり溜め込んでいましたからね、ご主人様は…。でも聞いた話では珍しい事ではないようですよ。何でしたっけ…バブみでオギャるとか何とか」


公にはなっていないが他鎮守府や大本営でも似たような事はあるらしい、ストレス社会の歪みなのだろうか


「まあ…いつ沈むか解らない生活ですし…癒しは必要ですよね…」


ガチャ


そうしていると扉の開く音と共に富士さんがやって来た、このところ割と頻繁に来ているがもう目的というのは諦めたのだろうか


 
 
【…あら?あの子は居ないのね】



「Y子さんなら何だか野暮用があるとかで出てますよ」


【…珍しい事もあるものね、面倒臭がりのあの子が】


Y子さんはしばらく前に何やら荷物を持って出掛けて行った、その直後川の方でものすごい轟音が聞こえたが見に行った時には何も無かった


【またいつものように見ているのね…これは…】


霞に甘えている成人男性の姿を見て富士さんはちょっと引き気味なようだ



「…富士さん」


【なに?】


ちょっと考えて私は富士さんに向かって近付き


「ママー」


と言って飛び付いた



【うっえぇ!?】


富士さんは普段は絶対出さないすっとんきょうな声を上げて狼狽えている、ちょっと面白い


漣「ママー」


そんな私を見て漣さんまで同じように富士さんに飛び付く、病み気味とはいえそういうノリの良さは変わらないようだ


【あの?え?…貴女達?】


狼狽えつつも私達の頭を撫でてくれているのは無意識なのだろうか、若干顔が赤くなっている


 
 
「…」



漣「…なんだか」


「ええ…そうですね」


【?】


漣「富士さんのはママみとは違いますね」


「どちらかと言えばお母様、母上、そんな感じですかね」


【どう違うのよそれは…】


呆れた様子で富士さん。上手く説明は出来ないが霞とかとはまた違うように思う


漣「おっぱいを吸ったり母乳を飲ませてもらったり、赤ちゃんになった気分で甘えるのがママみです」


【説明しなくていいわよ…】


「富士さんの場合はそういう原始的なものよりは何というか…精神面の包容力というか」


【訳が解らないわよ…】


富士さんは疲れたように弱々しく突っ込みを入れてくれる、割と律儀だ。しかしその間も私達の頭を撫で続けてくれている


私としては霞や雲龍さんにああやって甘えるよりこちらの方が好きだ。気持ちが安らいで思わず成仏してしまいそう


 
 
そんな霞と司令官を見た榛名さんが余計な気を回したのか鎮守府から出て行ったりしたが霞の執念が勝ったのか割と早くに見付けられ連れ戻されたりしていた



「何だか独り言で怖い事言っていましたが…もし榛名さんが見付からなかったら危なかった…?」


漣「霞ならやりかねないというね…鎮守府の平和は榛名さんに掛かっているのかもしれません」


「また榛名さんが何かやらかしてもしも霞自身が病んだりしたら…」


話に聞く鎮守府の悲劇の数段恐ろしい事態が訪れ全滅…そんな情景が浮かびそうになり慌てて振り払う私





それから司令官と霞がお風呂で話している。龍驤さんや榛名さんは湯船でダウンしている


「司令官と龍驤さんと朝霜さんでずいぶん激しくしていたようですね…親子という認識がありながら」


漣「まあ本当に血が繋がっていたとしたらさすがにそこまではしないと思いますが…たぶん」


自信無さげに漣さんが言う。実際その辺りの倫理観からは少しばかりずれている鎮守府なので仕方無いのか


そうして話していると霞の口から私の名前が出てドキリとした。肉体なんてもう無いのでこれは心の心臓だ


≪朝潮の事も吹っ切れて良かったわね≫


そうか…


「ようやく…司令官は…やっと…」


漣「朝潮…」


泣きはしない、むしろ嬉しく思う。ほんのちょっとだけ…僅かな寂しさも感じるけれど


もう司令官が私の使っていた部屋で独り、泣きながら私に謝る事は無くなるのだ


【…故人の事を話す時は哀しみだけでは駄目なのよ、むしろ思い出と共に笑って話せるようになって始めて前に進める】


「そう…ですね、私もそっちの方が嬉しいです」


漣「…」


漣さんが黙ってまた何かを考えている。彼女にとってはまだ笑って話せるような段階ではないのだろう…漣さんの時間はあの時点からまだ止まったままなのだ


 
 
ふと、外から何かが聞こえてきた、だんだん近付いて来ている



―ピッピッピッ

ピッピッピッ

ピッピッピッピッピッピッピッ―


漣「笛の音?…何で三三七拍子…」


ピリリリリ~


ガチャ


『たっだいま~。皆お揃いだねぇ~』


Y子さんがホイッスルをくわえたまま妙にご機嫌で帰って来た


「おかえりなさい、ずいぶん遅かったですね」


【…何をしてたのかしらこの子は】


『んー?まあボランティア?』


【嘘でしょ…あんなに無関係を貫いていたくせに】


『お姉ちゃんはあたしを何だと思っているのかなぁ~』


【ひぃっ…!】


Y子さんが手をデコピンの形にして富士さんに向けるとトラウマを刺激されたのか怯え出す。Y子さんのデコピンは痛いなんてものじゃないのだ。その手の形を見た私までちょっと震えてしまう


『まあ…たまにはね~。気まぐれだよ気まぐれ。疲れたからちょっと寝るね~』


ピッピッピー


Y子さんは笛を吹きながら部屋へと引っ込んでしまった。その彼女が立っていた場所に何かが落ちている


「何でしょうこれ…二つに割れたカード?」


【相変わらずあの子は解らないわね…】


困惑する私達。しかしY子さんの様子はまるで一仕事終えたかのような達成感に溢れていたように私には思えたのだった



 
 
とある日、鎮守府にお客が訪ねて来ていた



「あれ、誰でしたっけ?駆逐艦綾波というと特務艦の?でもあの槍は…」


漣「そっちの綾波は再起不能で解体されたらしいですが…あいつはまた別の綾波ですな…そして」


くっくっく…と不気味な笑い声を上げる漣さん


漣「あいつのおかげで私にはアレが生えたんですよ…そのせいでどれだけ酷い目に遭ったか…」


「ああ…」


そういえばそれを見付かり深海棲艦に弄ばれたり白露型痴女集団に弄ばれたり、とにかく弄ばれたりしていたんだった


漣「まあ…それがあったからあの子に出会えたのは感謝しますが…他はだいたい恨みですねぇ…」


そしてまた不気味に笑う、今あの場に漣さん居なくて良かったですね綾波さん


「それにしてもあの槍は確か信濃さんの…何処かで拾ったんでしょうか」


そうしている間に応対していた由良さんが槍を奪おうとすると槍が勝手に動き由良さんを撃退してしまった


「あの由良さんが一撃で…やっぱりあの槍はただの槍じゃないんですね…」


漣「いきなり奪おうとする由良さんもどうかと思いますけどね」


駆け付けてきた黒潮さんに由良さんを押し付けて綾波は鎮守府から逃げ出して行った。あれ、絶対誤解されたと思う


その後レ級さんに捕捉された綾波さんは重力砲で脅されあっさり気絶、槍はまるで何かを見付けたかのように何処かへ飛んで行ってしまった


「飛べるなら最初から綾波さんに持たれる必要は無かったのでは…」


漣「意志がある武器らしいですから何かしら考えがあったんじゃないですか?」


 
 
その後レ級さんは気絶した綾波さんを放置して大本営に潜入していた



「…ああして見るとまんま雷さんですね」


レ級さんは今は駆逐艦の制服を着ている。おそらく雷さんから借りたものだろう。肌の色も白くないし尻尾も無いので誰も深海棲艦だとは思わないだろう


そこに現れたのは大和に洗脳され、連れ去られたはずの信濃さんだった。手にはあの槍が収まっている


「そうか、主を迎えに行っていたんですね」


漣「ちょっと待ってください、あれ…」


忽然とその洗脳を施した大和本人までが現れる。そこからは怒涛の展開だった


大和にあっさり変装を見破られたレ級さんは早々に退散し、再び信濃さんを洗脳しようと隙を見せた大和は目を貫かれる


「信濃さんの髪が…あれがあの槍の真の力…」


漣「ずっこい伸びてますね…あれだと目を合わせるのも大変そう」


傷を付けられた大和は逆上し、その様子が変わっていく。あの姿はもう艦娘どころか深海棲艦ですらない…まるで悪魔の姿だ


「あの刀の力に呑まれてしまった?」


あの大和が持つ刀もただの刀ではないらしい。いわゆる魔剣とか妖刀とかそういう類の物のようだ


騒ぎを聞き付けた大本営特務艦達を巻き込まない為に信濃さんは大和ごと外へ飛び出して行く


そこからはまさに人外の戦いだった

 
 
大和の頭を鷲掴みにし、外まで一気に跳躍、そのまま地面に投げ捨てる



獣のように四つん這いになり着地する大和にはもはや理性は無いように見える


持っていた刀は半ば腕と融合してしまっていた


魔と化した大和が咆哮を上げ信濃さんに襲い掛かる、その速さはいつか見た時とは比べ物にならない、私ではもう目で追う事すら不可能だ


しかし信濃さんはそれに反応し大和の攻撃を避けている、ように見えた。あんなに伸びた髪は邪魔にならないのだろうか


「もう何をやってるのかさえ判りませんね…」


漣「何とか茶視点というやつですな」


【信濃は最小の動きで攻撃を流しているわね、反撃はしていない。おそらく一撃で決めるつもりね】


それまで黙って映像を見ていた富士さんが口を開いた。今日もまた部屋でくつろいでいる。目的はどうしたのかと聞いてみると他の私が居るからいいのよとの事


「見えてるんですか…?あれが…?」


【まあ一応ね…見えはしても今の私では反応出来るかはまた別だけれど】


そういえばY子さんが前に言っていた、富士さんは決して弱くはないと、誰からも何だかぞんざいに扱われているが本気で怒らせたいとは思わないのだと


富士さんは傀儡以外の全ての艦娘の中に眠っている。つまりその数だけ自分を分割しているのだという


もし全ての自分をひとつに統合すれば富士さんは自分にも劣らない程の力を取り戻すのだとY子さんは言っていた


しかし同時に艦娘を見守り、救う事を目的としている富士さんはそれをしないだろうとも

 
 
大和の攻撃で巨大なクレーターがいくつも出来る中、信濃さんは下ろしていた槍をついに構える



【どうやら大和の動きを見切ったようね、次で決まるわ】


理性の無い怪物となった大和がこれまでとは比較にならない力を溜めている。こちらも決めるつもりなのだろう


そして――


二人の姿が画面から消えた…と思った次の瞬間


ヒュ――ズドン!!!


「う…わっ…」


凄まじい衝撃で映像が乱れる、爆発のような余波が周囲を完膚無きまでに破壊していく


それが収まった後、二人は抱き合うかのように静止していた


大和の刀は信濃さんの顔を掠めるように突き出されていてその頬からは血が流れている


そして信濃さんの槍は大和の胸を貫き背中側に突き出ていた


漣「決着…ですかね」


「あの大和をかすり傷ひとつで倒すなんて…とんでもない強さですね…」


【いいえ、実際はかなりの紙一重だったわ。あの大和が冷静なままだったら立場は逆だったでしょう】


その槍の力なのか魔となった大和の身体が塵となって土に溶けていくのを信濃さんはじっと見続けている


後に残されたのは主を失い哀しげにも見える一振りの刀だけだった

ここまで
何となく拾ってしまいましたが作者さんの想定しているものと違っていたら申し訳ありません

富士さんはきっと常時影分身状態

>>465から

 
 
「島風が…死んだ…」



大和を欠き、建て直しを図る組織が時間稼ぎの為に複数の鎮守府を傀儡に襲わせて数日、司令官の鎮守府も襲撃され、激戦が繰り広げられた


由良さんを始め、高翌練度艦の必死の防衛戦の最中、整備士さんの吹雪が救援に駆け付け奇跡的に死者はゼロ、胸を撫で下ろしていた私は大きな衝撃を受けた


周辺を哨戒していた皐月や吹雪さんが見付けた時、島風は既に息絶えていたらしい、さみだれを庇って背中から攻撃を受けたのか、腹部には大きな穴が空いていた


致命傷を受けて尚、島風はさみだれを洞窟に隠し、そこで力尽きたらしい、さみだれは必死に傷口…冷たくなった島風の身体に空いた穴を押さえて助けを求めていた


「島風…っ!」


私は何とも言えない強い憤りを抑える事で精一杯だった、島風がどれだけ純粋で思いやりが深いかこれまで見てきて知っている


好きな人を取られても、恋敵の子供だとしても守ろうと、自分を犠牲にした


私があんな目にあったそもそもの元凶である島風…だけど…


「島風はいい子だった…いい子すぎて憎みたくても憎めなかった…島風は…」


【朝潮…】


富士さんが私を気遣うような視線を向けてくる


「島風が居なくなってしまったら…私や、私達は、何だったんでしょうか…何の為に…」


結局、その答えが返ってくる事は無かった


 
 
それから一時的にさみだれを鎮守府で預かる事になり弥生ささんや叢雲さんが遊んであげている



島風は疲れて眠っているのだと思っているらしい、やはり死というものはよく解ってはいないようだ


「…島風の遺体はあの吹雪さんが運んでいきましたね、となると希望があるかも」


整備士さんというのは人を救う事を目的としているらしい、それこそ善人悪人関係無く、救える状態なら快楽殺人者だろうが殺し屋だろうが助けてきた


しかしそこに何らかの手を加えている事は確実で、端から見れば自分達の都合が良いように作り替えているとも取れる


ともかく、一度は救った島風をこのまま見捨てるとは考え難い


「そういえば五月雨達は無事でしょうか…」


そうだ…複数の鎮守府が傀儡の襲撃を受けた。島風鎮守府もその中に入っていて、おそらくその際に島風にさみだれを託して脱出させたのだろう


【散り散りにはなったようだけどどうやら全員無事なようよ】


中にはかなりの被害が出てしまった鎮守府もあるけれど…と富士さんは憂鬱そうに付け加えた


富士さんが言うには島風鎮守府の面々は全員整備士さんに保護されているのだという


【怪我人は居るけれど全員命に別状は無いわ】


「良かった…」


生前はあんなだったけど今となっては知った人間が死ぬなんていう報せは出来れば聞きたくない、後は島風が生き返れば…


最後の部分は口に出てしまっていたのか、それを聞いた富士さんが複雑な表情を浮かべていたのに私は気付かなかった


 
 
それから少しして吹雪さんから連絡が入り、さみだれを送り届ける事になった



海を行くのに艦娘では戦闘の可能性があるという事で深海棲艦組で守りながら行くらしい


メンバーはレ級さん、見た目は駆逐水鬼の時雨さん、そして深海化している中身が重巡棲姫さんの漣さん


「…大丈夫でしょうか」


【そうね…】


言葉少なくやり取りをする私達。こちらの漣さんは今は奥の部屋に引っ込んで眠っている。ここに来てから漣さんは割と寝ている事が多い


今心配なのは重巡棲姫さんの方だった


何せ彼女達の関係を崩壊させた元凶が今向かっている先に居るのだ。何が起きても不思議ではない


しかし私は重巡棲姫さんをよく知らない。どんな性格でどんな思いを抱いているのか。だけど少なくとも彼女が漣さんを大切に思っている事だけは確かなのだろうと思う


そうして一行が整備士さんの隠れ家に辿り着き、親子の再会が果たされた


「何だか…ネチネチと責めてますねまた」


レ級さんや時雨さんが五月雨を責めている光景に私は思わずムッとする


「こういう悪い一体感みたいなの私、嫌いです。そもそも悪口言う権利があるのは当事者の私や他の被害者だけだと思います」


【まあ…貴女を失わせたという意味では被害者なのでしょうね…】


むう…そう言われては怒るに怒れない。私を想うが故にああして根に持っているのか…正直複雑だ


 
 
そして――



「ああ…早速対面してしまいましたね…」


重巡棲姫さんがあのタシュケントと鉢合わせしていた


いきなり襲いかかるか…罵倒するか…私はハラハラしながら見守っていると


「まさかの気付かない…」


【あの子達が知るタシュケントとはまるで違っているものね…無理も無いと言えばそうね】


確かに以前見たタシュケントからは殺気を纏ったオーラみたいなものが感じられた


しかし今のタシュケントは…そう、言ってみれば小動物のようで、別人だと言われれば信じてしまいそうになる


「このまま気付かなければ何事も無く済みそうですね…」


と、胸を撫で下ろしかけた私の耳にその言葉が届いた


――この時を、待ってた――




 
 
「――っ!?」



慌てて振り向くと奥の襖が開いていた。開いた音も聞こえなかった。そしてそこに漣さんが立っていた


「漣さん…!待ってたって、まさか…」


ゆらり、と漣さんが部屋へ入ってくる


漣「気付いてましたよ、あいつが生きている事には。以前見ていましたよね、その場面を」


見られていた…?あの一瞬を!?


漣「ほんの僅かな時間であろうと憎い仇の姿や声を逃したりはしませんよ」


「知っていて今まで黙っていたんですか…?」


漣「そうですね。チャンスを伺っていました。すぐにでもあいつを殺しに行きたかった。だけどいきなり戻った所で整備士さんの居場所を知らないし、聞いた所で簡単には教えてくれません」


だから待つ事にしたんですと、漣さんは無表情のまま言う


漣「重巡は私が戻る事を望んでいた。その方法を探していずれは整備士さんに接触する可能性は高いと思いました、だから精神世界に来た時もあえて無視をした」


「…」


漣「あの場に私が戻ればあいつを探す手間も省ける…ようやく…ようやく…!」


それまで無表情だった漣さんの顔が狂喜に歪んでいく、そこに――


【漣…】


ギクリと、はっきり判るくらいに漣さんの肩が揺れた。そして苦し気にその声の主、富士さんの方を見る


 
 
【行ってしまうの…?私は…私達は貴女の役には立てなかったの…?】



漣「富士…さん…」


富士さんはまるで捨てられる子供のように…いや、我が子に置いていかれる母親のように漣さんに語りかける


ぎり…と漣さんの口から歯を食い縛る音が聞こえた。そして申し訳なさそうに


漣「ごめんなさい…私は…これからどうなるにしても、どうするにしても、あの子の仇を討てなければ前に一歩も進めない…!」


「漣さん…」


漣「朝潮にも感謝してる…私達を許してくれてありがとう…助けてあげられなくてごめんなさい…」


「そんなの…そんなの私は気にしてません!」


漣さんは苦しそうな笑顔を浮かべ、再び富士さんに向き直り


漣「ありがとう…富士さん…不孝な娘でごめんなさい…私は行きます」


【漣っ!】


思わず手を伸ばした富士さんの目の前で漣さんの姿は消えた


そして程なく、映像の中の漣さんがタシュケントに襲い掛かっていた。戻ったのだ、とうとう。憎しみを癒す事は出来ないままで


「…行ってしまいましたね…結局…私にはやっぱり何も出来ない…」

【私もよ…私も大概…何が始まりの艦娘なのかしらね…】


映像の中、漣さんが取り押さえられ絶叫するのを私達はへたり込みながら、ただ見ている事しか出来なかった


 
 
戻るまでの計画を立てていた割にはあっさりと復讐を阻止されてしまった漣さんはただ絶叫する事しか出来ない



【…それは仕方ないのかもね…身体はあちらにあり、何かを用意する事は不可能…出来るのは可能な限り接近したタイミングで戻る事くらい…】


「もう…見てられません…整備士さんはどうして…タシュケントを助けたりなんて…」


【他意は無いのでしょう。ただ救う為に救う。多少の損得勘定はあるにしても。それがよりにもよって殺し屋だったのは彼等自身も予想外だったとは思うけれど】


タシュケントが死んだままなら、時間はかかるが漣さんが別の道を見出だすまで私達で支えていければと思っていた


しかし仇は生きていた、それを知ってしまった。もはや彼女の心はそれ一色に染まり、新しい何かなど入る余地は無くなってしまっていた


あの時、あの場面さえ見ていなければ…おそらくはそれは無意味だろう。いずれは知ってしまう事は避けられなかったように思う


そんな時、映像の中で整備士さんが驚くべき事を話し出した


生前の潜水新棲姫が自らの記憶をデータ化しておくように整備士さんに頼んでいたらしい。その上で死地へと向かい、そして殺された


「こうなる事は折り込み済みという事ですか…ほんとに頭良かったんですね潜水新棲姫は…」


しかし潜水新棲姫は自らを再現するに当たって条件を出していたらしい。それまでの自分とは無関係として扱うようにと


「どういう事なんでしょうか…」

 
 
話を聞く限り、かつて彼女が犯した罪により、その為の罰だという



何にせよ潜水新棲姫が復活するなら漣さんにはそれを断る理由は無いようで――


数日後、潜水新棲姫は新たな身体を得て甦った


漣さんは約束を守りあくまで初対面として振る舞っている、潜水新棲姫も同様だ


しかし二人共に傍目から見ても苦しそうなのは一目瞭然だった


そんな時、私はまた飛び上がる程に驚く事になる


「ようやく戻ったか…やれやれ」


「え…?え…!?」


背後から聞こえた声に私が振り向くとそこに先程復活したはずの潜水新棲姫その人が居た、窓の外からこちらを見ている


【そう…やっぱりそうなのね…】


それを見た富士さんは特に驚く事も無く何やら納得したような雰囲気だった


「え…?だって貴女は…?え?」


潜水新棲姫「まあ落ち着け、簡単な話だ、つまり…」


そうして話を聞いた私は言い様の無い不安を感じずにはいられなくなるのだった

ひとまず
また短くてすみません
キャラ紹介…

>>475から

 
 
「つまり貴女が最初に亡くなったあの…」



潜水新棲姫「そうだ。だからと言って、あのワタシが偽物という訳ではないがな」


「そうなんですか?」


潜水新棲姫「記憶を保存した以降の事以外は同じだ。出来る限りその差異を小さくする為にギリギリまで粘ったが」


「粘った?」


潜水新棲姫「ああ、ワタシが整備士の元に向かったのは殺される一週間程前か。往復する体力を残しておかなければ意味が無いからな」


淡々と話す小さな深海棲艦に私は更に疑問をぶつける


「…いったいいつから見ていたんですか」


潜水新棲姫「ん?結構前からだな。最初は色々見て回っていた。まさか死後の世界が実在しているとは驚きだ」


持ち前の好奇心で辺りを散策していた彼女がこの場所を見付けるまで時間はそれほどかからなかったようだ


「だったら入ってくればよかったのに…」


潜水新棲姫「…漣が居たからな」

私がそう言うと潜水新棲姫は落ち込んだ様子でボソリと呟いた


 
 
潜水新棲姫「ワタシの最大の誤算だったよ、まさか漣までこちらに…あんなにも早く来ていたなんて…」



「…予想出来なかったんですか?」


潜水新棲姫「…ショックを受けて落ち込みはするだろうがテイトクや仲間が支えてくれるだろうと思っていた」


「実際は支える暇もありませんでしたが…」


漣さんは良くも悪くも思い立ったら即行動の傾向がある。これまで見ていて誰かが気付いても既に結果が出た後な場面はいくつもあった。それよりも…


「貴女は自分自身と漣さんの想いを過小評価していた。自分が居なくなっても大丈夫だろうと」


潜水新棲姫「…そうだな」


見るからにしょんぼりしてしまう潜水新棲姫。むう…これでは私がいじめているみたいだ


「と、とにかく漣さんを見て貴女は隠れていたという事なんですね」


潜水新棲姫「…ああ、ここでワタシに会ってしまえばあいつは帰る意志を完全に捨て去るだろう。あくまで漣には生きて幸せになってほしいんだ」


そして漣を幸せにする役目はあのワタシに譲る。今ここに居るワタシが罪を担うと曇りの無い目をして言う


深海棲艦とは何なのだろう。これほどまでに純粋で強い。どうして彼女達と戦争なんてする羽目になったのだろう


 
 
「あちらの貴女も貴女なのは解りましたが…もし誰かがオリジナルがここに居るのに気付いたら…」


潜水新棲姫「あのワタシだって自分を偽物などとは思っていない…はずだ。どちらにせよ確かめようは無い」


可能性があるとしたらあの日進さんが教えるくらいだが、彼女がそんな事をするとは思えない


潜水新棲姫「何か不都合が起きでもしない限りはな…」


「どういう事ですか?」


潜水新棲姫「他に頼れる相手が居なかったから仕方無いが、ワタシは根本的にはあの整備士という男を信用してはいない」


「何度も助けてもらっているんですよ?悪い人には思えませんが…」


潜水新棲姫「ああ、善人なのは間違いないだろう、善人すぎて疑う余地は無い」


「だったら…」


潜水新棲姫「あの男に会った時、何とも言えない気持ち悪さを感じた、上手く言えないが…周りに居る艦娘達からも妙な雰囲気を感じたんだ」


これまで見てきて…という程には整備士さんの事には大して興味も無かったが、そんな変な感じはしなかったように思う


 
 
潜水新棲姫「はっきり何処がとは言えないが直感的にあまり関わりたくないと思っただけだ。その勘が外れていれば問題は無いが…もしも自分達に都合の良いように何かを仕込まれている可能性もゼロではない」



「それは…」


整備士さんは正常に戻したとは言っていたがタシュケントの人格を弄り、早霜を無力化した。それも結局は人手が欲しいという理由で


それが全てではないだろうが彼らは自分達が正しいと信じて他者の人格すら変えているのだ。それは今回が初めてとは限らないのかもしれない


【こほん】


と、それまで無言で私達のやり取りを見ていた富士さんが咳払いで自らの存在をアピールしている。別に忘れてはいませんよ、ちょっとくらいしか


潜水新棲姫「富士か…オマエにも言いたい事があったんだった」


【なにかしら】


潜水新棲姫「漣を救ってくれてありがとう。一度ならず二度までも」


そう言ってぺこり、と頭を下げる潜水新棲姫に富士さんは驚いた顔をする。何だか居心地が悪そうに


【…一度目は救ったというより単に見逃しただけよ。二度目はせっかく見逃したのに死なれたら寝覚めが悪いと思っただけ。深海棲艦にお礼を言われる筋合いは無いわ】


 
 
潜水新棲姫「それでもだ。大切な人がああして生きているのを見られたのは富士のおかげなんだ、ありがとう」



【…そう】


富士さんそう言ってそっぽを向く。ああ、耳が赤い…やっぱり慣れてないんだこういうの


「それはそうと…」


私は再び映像に目を移す。漣さんと甦ったもう一人の潜水新棲姫の姿。しかし二人はあくまで他人行儀なやり取りを繰り返している


「別人として扱えとか割りと無理がある条件ですね」


潜水新棲姫「ワタシは人を殺している。幸せになる資格は無い」


「だけどあの貴女とこちらの貴女は違う」


潜水新棲姫「そうだな…もしかしたらという期待も少しはあったが…」


「それはどういう…」


潜水新棲姫「記憶のインストールは死者蘇生などではないという事だ。言ってみればクローン、コピー体、そんなようなものなのだろう」


「そんな…じゃあ一度死んだら…」


潜水新棲姫「当たり前といえば当たり前だな。死んだものは甦らない。甦ったように見えてもそれは…」


別人だ。とはさすがに口に出しては言えなかったようだ。それを認めてしまったらつまり自分のやった事は無意味という事になる


潜水新棲姫「…さっきも言ったがだからといって偽物ではない、それは確かだ。同じ記憶、同じ人格、限りなく近い魂…ならばもうそれは本物だろう」


 
 
「貴女は…」



それでいいんですか?と問いかけようとした言葉を飲み込む。…いい訳がないのだ。それでも彼女はそれを選んだ


潜水新棲姫「とにかくだ、今となってはこちらから出来る事はもう何も無い。あとはあちらのワタシに任せるしかない」


「でもあんな状態では…」


潜水新棲姫「そうだな…正直失敗だった気もする。あれでは復活させた意味が無い」


大切な人と触れ合えない寂しさは二人にかなりの負担になっていた。泣きながら独り眠る。そんな日々が数日続いた


周囲からの説得にも聞く耳を持たないあちらの潜水新棲姫。あくまで自分は別人として振る舞っている


潜水新棲姫「まったく…頑固な奴だな」


「自分の事じゃないですか…」


潜水新棲姫「まあそうなんだが…こう客観的に見せられると良くない部分も見えてくるものだな」


「…後悔していますか?」


潜水新棲姫「ワタシの償いの犠牲にするつもりなどはもちろん無かったが…結果的にそうなってしまったな…」


そんな時見かねた重巡棲姫さんが説得に乗り出した。漣さんも同じ罪を犯していたのだと、そしてその後既に報いを受けたと


そして一度は殺された潜水新棲姫も同様に罪の清算は済んでいるのだと


 
 
潜水新棲姫「やはりそうなのか…漣も人を死に追いやった事が…」



「今の彼女にはその記憶は無いみたいですけどね」


潜水新棲姫「その後薬漬けにされ手足を継ぎ接ぎされ…そしてワタシのせいで一度は死んだ…」


「命の重さなんて私には語れませんが…おつりが来てもいいくらい酷い目にあっていると私には思えます。そして貴女ももうこれ以上償う必要は無い」


潜水新棲姫「そうなのか…そうか…そう…」


そもそも私達は戦う者。奪った命は少なくない。敵対する艦娘や深海棲艦は殺しても罪ではないなんて都合が良すぎる


それのひとつひとつに償いにと死んでいたら命が幾つあっても足りない


だけどそれを今更彼女に言っても意味は無い。むしろ更なる苦悩を与えてしまうだろう


潜水新棲姫「これでようやく…終わったんだよな…?」


「ええ、あとは幸せになるだけです」


潜水新棲姫「そうか…そうか…」

「!…身体が…」


潜水新棲姫の身体が僅かながら薄れている。これはつまり…


【成仏する手前ね】


それまで黙って見ていた富士さんが口を開いた


 
 
【そのまま受け入れれば貴女は輪廻の輪に入れるわ】



潜水新棲姫「ワタシは生まれ変われるのか…?しかしワタシは人を…」


【殺したから地獄行き、そんな単純なものじゃないのよ。少なくとも貴女の心根は純粋で充分にその資格がある。…それにやっぱり直接手にかけたかそうでないかは大きいのよ】


潜水新棲姫「そうなのか…だがワタシはまだ成仏するつもりは…」


そう言って彼女は映像を見る。そこには漣さんがあちらの潜水新棲姫に指輪を渡している姿


その漣さんのとても嬉しそうな顔を見て


潜水新棲姫「よかったな…漣…遠回りをさせてしまってすまなかった…」


そうして涙を流す。嬉しさなのか寂しさなのか、その涙の意味は私には判らなかった


 
 
潜水新棲姫「おい、読み終わったぞ。続きはどこだ?」



「…どうぞ」


潜水新棲姫「しかしここには漫画ばかりだな、まあ嫌いではないが、専門書なんかも用意してほしいな」


【…今度持ってくるわ】


潜水新棲姫「ああ、そのついでに甘味も頼みたい、死んでも食べられるのかは知らんが。テイトクの作ってくれたすいーつがもう食べられないのは残念だな」


「あの…」


潜水新棲姫「ん?どうした二人共、そんな微妙な顔をして」


「流れ的になんかもう成仏する感じになってませんでした?」


潜水新棲姫「流れ?よくわからんがワタシはまだ成仏するつもりは無いと言わなかったか?」


「言いましたけど」


潜水新棲姫「漣と鎮守府の事はあのワタシに任せたし、罪の清算も済んだ。ならあとはワタシのやりたいようにする。まだまだこの世界も隅々まで回ってはいないしな」


「はあ」


【この切り替えの早さも深海棲艦特有なのかしらね…】


色々と吹っ切れた様子で再び漫画を読み始める潜水新棲姫。薄れていた身体もいつの間にか元に戻っていた


私だってある程度吹っ切るまで結構時間が掛かったというのに…


 
 
ようやく立ち直った漣さんが次にした事は確認だった



それは自分が殺したかもしれないかつての龍驤さんの浮気相手が今どうなっているのか。しかし龍驤さんも分からないという


忍への暗殺依頼という事から専門家である由良さんに協力を頼むとあれよあれよと事実が明らかになっていく。さすがは本職だ


潜水新棲姫「その野良の忍という奴は勝手に龍驤に手を出したからか何かをやらかして消されたという事なのか?」


「漣さんの依頼が無くとも殺されていた可能性は高いみたいですね…」


潜水新棲姫「となるとだ…漣が殺したというには少し微妙にならないか?」


「う~ん…利用されたというか…たまたまそこに居た人に擦り付けたとも見えなくもないですが」


この場合、漣さん次第なのかもしれない。依頼にかこつけて利用されただけ、いやむしろきっかけにはなったのだからやはり殺したのは自分…記憶の無い彼女がどう思うのか私には判らないが


潜水新棲姫「やはり成仏しないでいて正解だな。まだまだ危なっかしくて安心してられない」


「そうですね…私も気がかりが多すぎて目が離せません」


例え見守るしか出来なくとも、それでもあとは知らないなどと放っておいて成仏なんて出来やしないのだ

 
 
『おー?新しいお客様だねー』



「あ、おはようございますY子さん」


寝ていたY子さんがようやく起きてきたようだ。前に出掛けて帰ってきてから妙に疲れていたようでそれはもう爆睡だった


潜水新棲姫「…」


「あれ?新棲姫さん?」


何故か潜水新棲姫…いい加減長いので新棲姫さんと呼ぼう。彼女は私の後ろに隠れている


潜水新棲姫「見ていたから知ってる、あいつのデコピンはものすごく痛い」


『あっはっは。別に何もしないよ~こっちおいで~』


そう言いつつ手の形をデコピンにしているY子さん。まったく…彼女はこういう悪ノリが大好きなのだ


「Y子さん…子供に対してあんまり怯えさせるのは…」


潜水新棲姫「ワタシは子供じゃない。それを言うなら朝潮だってあんまり変わらないじゃないか」


『あたしからすればどっちも変わらないけどね~』


まあY子さんや富士さんは私より遥かに年上なんだろう。つまりおば


ビシィ!


「あああああああああ」


潜水新棲姫「ひっ」


額を押さえて悶絶する私。口には出してないのに…


 
 
『なーんか失礼な事考えてる気がしたんだよね~』



【まったく…そんな事してるとますます怯えさせるわよ…】


呆れたように溜め息を吐く富士さんが私のおでこを擦ってくれるとみるみる痛みが引いていく


『まあ変な事しなければ別にあたしは何もしないからそんな怯えなくていいよ実際』


潜水新棲姫「あ…ああ、解った」


まだおっかなびっくりの様子でY子さんの前に出ていく新棲姫さん


バッ


潜水新棲姫「ひっ」


サッ


潜水新棲姫「はぅっ」


「…何やってるんですか」


手を振り上げたりして反応を見て遊んでいるY子さん。やってる事は子供だと彼女から距離を取って思う私


しまいに新棲姫さんは再び私の後ろに隠れてしまう


潜水新棲姫「こいつきらいだ…」


【ほら…言わない事じゃないわね…】


『あっはっは。ごめんごめん、悪気はちょっとしか無いからさ~』


何だか起きてから絶好調なY子さんだった


 
 
【さて…私はそろそろ戻るわ。長居しすぎたわ】



「戻るというと漣さんの中に?」


【ええ、本人がもう戻ったのに私がいつまでもここに居ても仕方無いしね】


『ふふふ…休憩だとか色々理由を付けてたけどここに留まってたのは漣の様子を見る為だもんね~?』


「ああ…やっぱり」


【やっぱりって何よ!別に私はそんなつもりは無いわ!休みすぎたと思っただけよ!じゃあね!】


そう捨て台詞を残し姿を消す富士さん。ばっちり見た、顔が赤かった


『ツンデレだねぇ』


潜水新棲姫「ほう、あれが本に書いてあったやつか、初めて見たぞ」


相変わらず私の後ろに隠れたままの新棲姫さんが感心したように言う


Y子さんに対して何やら苦手意識があるようだけど、まあいずれ慣れるだろう


そんな時、点けっぱなしにしていたモニターから哄笑が響き渡った

 
 
「あれは…朝霜さん…?どうして刃物なんか…」



刃物を片手に笑う朝霜さん。その正面には腹部を押さえて苦し気に後ずさる霞


潜水新棲姫「刺した…のか?朝霜が霞を?いったい何故だ…」


喧嘩というにはあまりにも異質な雰囲気だ。というか朝霜さんなら喧嘩になった時に刃物なんて使わないはず


『中身が違うねぇ、あの朝霜乗っ取られてるよ』


それはいったい…と聞くまでも無く朝霜さんが普段とは違う口調で喋り出した。この話し方は…


「早霜…?でもどうして…死んだはずなのに…まさか怨霊?」


『そういうのではないみたいだねぇ』


追い詰められた霞が艤装を展開、砲を向ける。痛みのせいか狙いが定まっていない。あれでは避けられる可能性が高いが…そもそも正面から撃ったところで大人しく食らってくれる相手でもない


『二分の一かぁ、ギャンブルだねぇ』


「え?」


『いつだったか相手を完全無力化する弾頭を明石に作ってもらってたんだけど二発ある内の一発は不発弾なんだよねぇ…』


「ええええ!?」


なんでそんな…と聞く暇も無く霞が砲を発射、それをいとも簡単に弾く早霜、しかしその瞬間弾頭から霧のようなものが噴出してそれを吸い込んだ早霜が倒れ込む


 
 
『どうやら当たりを引いたね。運が良いみたいで良かったねぇ』



「早霜は動けなくなったようですね…外れがあるなんて霞は…」


『知らないだろうねぇ。知ってたらこんな土壇場で使わないんじゃないかな』


霞は気合いと根性で自らの止血と応急処置を終らせそして動けなくなった早霜までも自分で縛り上げた


「割と重傷のように見えますけど凄まじい執念ですね…」


『霞は自分が居なくなったら鎮守府がどうなるか誰よりも理解してる、何があっても死ぬ訳にはいかない立場だって』


「霞レベルの薬剤師でしかも理解がある艦娘なんて他に居るとは思えませんしね…」


早霜もそれが解っていて真っ先に霞を狙ったのだろう。つまり今回は本気だった、撃退出来たのは本当に運が良かったのだ


そうして早霜は磔にされた状態で司令官達と対面する。しかし朝霜さんを人質に取られているも同然のこの状況では迂闊に手出しは出来なかった


そこで漣さんとレ級さんが直接朝霜さんの精神世界に乗り込み早霜を消そうとしたがそれも失敗に終わった


「身体だけでなく朝霜さんの精神まで人質に取られている…これではどうしようも…」


潜水新棲姫「そもそも早霜は何故今更出てきたんだ、死んでから大分立っているというのに」


『自分の死後一定期間後に朝霜の中で目覚めるよう仕込んでいたんだよ、自分の脳の一部を食べさせる事で強力な…呪いのようなものをね』


 
 
「のっ…!?」



潜水新棲姫「自分の頭を開いてか、よく生きていたな」


『何かそういう特殊な技術でも使ったんじゃない?あたしは見てないけど』


「なんでそんな話題で普通に進めているんですかね…」


そうして攻めあぐねている最中に漣さんが整備士さんに相談の電話をしていた。何やら要領を得ないようで漣さんがぶちギレて電話を切ってしまっていたけど


早霜は朝霜さんを道連れに自殺を仄めかしていたからあまり猶予は無い


そんな中、整備士さんの指示で深海吹雪さんがひとつの注射器を携えてやって来た。そこには改心した早霜の人格がデータとして入っているらしい


「それを注入してあの早霜にぶつける…それって上手く行くんでしょうか…」


『能力的には互角、精神世界でならより意志の強い方が勝つ。改心したっていう想いの強さが本物かどうか』


朝霜さんの精神世界で対峙する二人の早霜、姿形は同じ、しかしその表情はまったく違っていた


片や狂気と殺意に溢れた以前の早霜、片や何かを決意したような、快楽の為に殺人を繰り返していたとは思えない雰囲気の早霜


その勝負はあまりにもあっさりとしたものだった


 
 
『あの早霜は本当にずいぶん前に仕込まれたものだったようだね、だから今の早霜の技も知らないで簡単に決まった。始めから勝負は見えてた』



梟挫…初めて見たのは川内さんが由良さん相手に使った時だったか、相手の攻撃をそっくりそのまま返すカウンター技らしい。それを早霜も使えたのか…


始めから殺すつもりだった以前の早霜はそれをまともに返され一撃で倒された。そして――


「二人が同化した…?いったい何を…」


『昔の自分もろとも死ぬつもりだね。漣がやったような精神の自殺からの無理心中』


そうか…あの決意した表情はつまりそういう事だった。生前も一貫して自らのけじめを付けようとしていた。再び意識を持てたとしても生きるつもりなど無かったのだ


「最初から死ぬ為に…」


『…早霜は自分の性質に悩んでいた、だけどどうにもならないといつしか諦めて考える事を止めてしまっていた。整備士に捕まってもう一度省みるきっかけを得てようやく本来の早霜を取り戻した』


「出会い方がもし違っていたらあの早霜も仲間になっていたんでしょうかね…」


『そういう世界もあったかもしれないね…』


そうして―――


早霜という存在はこの世界から完全に消えた


 
 
自らの中で早霜が消えた事を悟った朝霜さんが涙を流しているのを司令官達は慰めている



『まああの早霜が自殺を図らなくとも自然に消えていたんだけどね…』


「え…」


潜水新棲姫「それはあるな。あの男の事だ。上手く行ったとしても朝霜の中に早霜が残り続けるようにはしないだろう」


「…あくまで使い捨てだと?」


潜水新棲姫「元々インストール用に作った訳でもない身体に他者の精神がいつまでも残留する、しかも朝霜にとってはトラウマを植え付けた張本人だ」


『まあねぇ…いくら味方になってるとは言え悪影響を考えれば当然かもねぇ』


「でもあの朝霜さんは早霜が消えた事を哀しんでいます…」


潜水新棲姫「酷い目に遭わせた相手でも憎み切れなかった…そういう事か…人の心は複雑だな…」


新棲姫さんはまだ自分には解らない事だらけだと腕を組んで考え込む


『ところで話は変わるけどさー、あたしの部屋にあった漫画がいくつか無いんだけどー?』


潜水新棲姫「む?それならワタシが借りている」


『お?新ちゃんは漫画好き?』


潜水新棲姫「新ちゃん…」


『朝ちゃんは鎮守府の事ばっかりであんまり漫画読まないからさぁー、話が通じないんだよー』


「はい、朝ちゃんです」


 
 
潜水新棲姫「まあ気持ちは解らないでもない。ワタシも読んだ本の話が出来るのはガンビアベイくらいしか居なかったからな。漣も漫画オンリーだった」



『じゃあちょっと読みながらお話しよー』


潜水新棲姫「まあ構わないぞ」


最初あれだけ怯えていたのにもう普通に対応している…あの順応性の高さはさすがだと思う


漣さんが帰ってしまって少し寂しくなるかと思っていたけどまだしばらくはそうはならないのだろう


「朝ちゃんでした」


潜水新棲姫「なんだ急に」

ここまで
終盤の盛り上がりに出来たら追い付きたい

>>505から

 
 
「お酒ですか」



『へー新しいお酒かあ…でもあたしはワイン派なんだよねぇ』


潜水新棲姫「露の雫か、まあ悪くないセンスだな」


ある日の事、ガングートさんの旦那さんである孫さんが新作の日本酒の名付け親になってほしいと司令官に頼んでいた


お酒に弱い人でも美味しく飲めるものを目指して作られたらしい。どんな味なんだろう、私はお酒は飲んだ事は無いがちょっと気になる


孫さんの作るお酒は鎮守府周辺の街では割と有名で雑誌の取材にも何度か取り上げられていた


「しかも美人のロシア人艦娘の奥さんまでいますから。凄く写真映えしていましたね」


夫婦揃って取材を受けていたガングートさんはガチガチに緊張していて端から見たら怒っているようにも見える


だけどそれが逆にクールな印象を与えて雑誌を見た女性読者がファンになってお店に集まったりした事もあったようだ


「接客モードのガングートさんはなかなか面白…素敵でしたね」


潜水新棲姫「もうすっかりあの街の顔のようになっているな。所属している鎮守府の風評被害もあの街の住人はデマ…でもない部分もあるが…」


「ええ、ガングートさんが結構訂正したりしてくれていたようで、理解してくれていますよね」


ガングートさんはあの鎮守府の言ってみれば公報担当みたいな役割をいつの間にか担っていた


そのおかげで周辺住人との関係は結構良好なようだった。普通の一般人は軍施設を嫌う傾向が強い、他の鎮守府でもそれはもう頭を悩ませているらしい


 
 
そして孫さん渾身の新作の日本酒の発売日。お店の前には長蛇の列、ざっと百人以上は居るだろうか



「すごい列ですね、中には艦娘も居ますね、あれは村雨さんかな?」


『あ、お姉ちゃん』


「…は?」


潜水新棲姫「何処だ?見当たらないが…」


富士さんは黒髪に黒着物とある意味とても目立つ。というか実体は無いはずでは…


『あそこ、あの黒髪の艦娘、確か三日月だったかな?』


「ああ、よく見たら表情とか富士さんですね。そういえば富士さんってお酒飲むんですか?」


『飲むよー。あれでお姉ちゃんお酒大好きだからね』


「今までそんな素振りは見た事ありませんでしたから知りませんでしたが」


『以前はよく飲んでたかな、丁度あの鎮守府と関わり始めるまでだったかなぁ』


「どうしてでしょう…」


『さぁねぇ…さしずめお酒で酔っ払う姿を見せたくないとかじゃないかな。本格的に我慢するようになったのは朝ちゃんがここに来てからだし』


 
 
『でもよっぽど我慢出来なかったんだろうねぇ。お姉ちゃんあそこのお酒の大ファンだから。新作と聞いて居ても立ってもいられなくなったと見た』



「それであの艦娘の身体を借りてまで列に並んだと…」


『この世界で唯一お姉ちゃんが割と自由に身体を借りられる相手だからね、あの三日月は。かと言ってあくまで利害の一致で協力してるらしいけど』


「唯一なんですか…?」


『…これだけ時間があって協力者はたったの一人、お姉ちゃんのコミュ障っぷりと言ったら…。今はまあ二人くらいにはなってるのかな』


富士さんとの出会いはまず誤解される所から始まる。そして割と高圧的にものを言うのでそれはまあ反発を受ける。そして交渉は決裂


どうして上手くいかないのかしら…と頭を捻る姿を前に見た記憶がある


そんな話をしていると並んでいる列が解散していくのが見えた。どうやら完売したらしい


その人の中で壁に手を付いて項垂れている艦娘、三日月の姿。今の中身は富士さんなのだろう…何だかものすごく落ち込んでいるようだ


『買えなかったんだね…』


流れてもいない涙を拭う仕草をするY子さんだった


 
 
お酒の話からかの国が動き出した。まあそれは単なるきっかけだったのだろうが



「未だにガングートさん達を諦めていなかったんですね…しかも人質まで取って」


大きい方のヴェールヌイさんの大切な人やその家族を人質に取り、使者として利用していたらしい


司令官達が説得するも失敗、自殺を図ろうとしている所を白露さん達に止められていた


そこに夕立さんも現れ、最悪の結果を迎えていた事をヴェールヌイさんに語る


「…彼女の旦那さんは既に殺されていた…それが人間のやる事なの…」


潜水新棲姫「仮に任務に成功してもその後利用価値が無くなったアイツは報復を防ぐ為に結局処分される。端からそういうシナリオだったのだろう」


「そんなの…おかしいです…」


潜水新棲姫「そうだな…ワタシもそう思うよ…。国という単位においては個人の情など入る余地は無いのだろうな、やり方は甚だ前時代的だが」


「そういえばこの国でも似たようなものでしたね…」


人質を取って弱味を握り、好き勝手に利用して最後には…大本営や組織の得意技だ


そしてその後夕立さんが動いてそんな命令をしたかの国の人間達も粛清されたらしい。これが正しく因果応報というやつだろう


だけど人質として殺されてしまった人は帰ってこない。唯一の救いはその人の家族は無事だったという事だろうか


ヴェールヌイさんの旦那さんはそれは勇敢な人だったのだろう。自らを犠牲に家族を救ったのだ


 
 
「…ところであの人は一体何者なんでしょうかね…あの国の上の方と知り合いなんて」



潜水新棲姫「夕立の事か?特務艦だからな。色々あったんじゃないか?」


「今まで見てきた限りでは外国にまで影響力がある特務艦は夕立さんくらいですけどね」


特務艦以前に夕立さん個人のパイプという可能性もあるが、そうだとしたらますます彼女の謎は深まるばかりだ


という訳なのでロシアに渡る夕立さんを追い掛けてみようという話になった


ヴェールヌイさんの手紙を無事だった旦那さんの家族に届けるという。彼女は響さん達に元気付けられ少しだけ立ち直っているようだった


「彼女の場合後を追う心配はそれほど無いみたいですね…」


潜水新棲姫「考えてみればアイツと響は近い人格なのだろう。響が自殺しない選択をしたようにアイツもそれを選んだ」


あの鎮守府に居る限り、例え魔が差すような事があってもそう簡単には自殺なんて出来はしないだろうとも思う


そして夕立さんはその手紙を携えて海を渡った


 
 
「すみませんロシア語はさっぱりなんです…」



夕立さんは顔見知りらしいロシア人の軍人さんと何やら話をしている。しかも流暢なロシア語で…会話の内容は解らないけれど何だか妙に…距離感が近いようにも見えなくもない


『んじゃ字幕でも出してみようか、ポチっと』


Y子さんがリモコンを操作するとテレビ画面に字幕が現れる


「わああ…何だか完全に映画のワンシーンになりましたね…。夕立さんも金髪で日本人離れした顔立ちですし」


長身の軍人さんと夕立さんの二人は凄まじく絵になっている


しかし会話の内容は特に浮わついたものでもなく単なる情報交換のようなもので少しだけがっかりした


「ヴェールヌイさんの家族の人達に手紙を渡してからわざわざ会いに行くくらいですから夕立さんの恋人かとも思ったんですが…」


潜水新棲姫「ふむ…だが夕立は妙に楽しそうだな」


「そういえば…あんなに和やかに話す彼女は珍しいかもしれません。これはもしや…ですね」


そしてどういう訳か夕立さんはなんとドレスを着て何やら物凄いパーティーに出席していた


政界、財界の大物が集まる中でこれまた夕立さんは目立っている


 
 
「なんですかこのせかいは」



潜水新棲姫「しっかりしろ朝潮」


国防長官だという人と話している夕立さん。それからもいかにもという貫禄を持った人達が夕立さんに挨拶している


「かのじょはいったいなにものなんでしょう」


潜水新棲姫「帰ってこい朝潮」


「はっ…!?…初めて見る世界にちょっと放心してました…」


パーティーには政治家だけでなく何だかテレビで見た事があるような俳優女優も居たような気がする。あれがせれぶというやつだろうか


そして夕立さんもまたそんな中でまったく見劣りしていない。仮にあそこに居たのが私だったらあんなに堂々としていられる自信は無い、というか逃げ出す


何人かの男性、そして女性にまで誘いを受けている夕立さんだったが終始不機嫌そうにそれを袖にしていた


 
 
そしてヴェールヌイさんの家族から返信の手紙と思い出の品だという指輪を預かった夕立さんは早々に帰国の途に就こうとしていた



「何だか落ち込んでいますね彼女」


潜水新棲姫「手紙は口実であの軍人とやらを連れて帰るのが目的だったようだな」


パーティーの席でそれとなく話を振られた軍人さんは自らの職務と使命を理由にそれを断っていた


「そこからですね夕立さんがずっと不機嫌なのは」


潜水新棲姫「珍しいものを見れたものだ。他人など必要無いとばかりに突き放していたアイツと同一人物とは思えないくらいだった」


「あ…あの人」


帰ろうとしている夕立さんを呼び止める人物が居た、あの軍人さんだ。かなり走って来たのか汗だくで息を切らしている


その彼は夕立さんに向かって何かを投げ渡した。どうやらそれはロケットペンダントのようだった。それを受け取った夕立さんの表情は今まで見た事が無い程に輝いていた


「素敵な笑顔ですね…本当に映画を観ているようです…」


夕日に照らされた海で彼女はそれを首に掛けて日本に向けて水面を疾走する


その時の夕立さんは特務艦でも、復讐に縛られた艦娘でもなくただの恋する女の子にしか見えなかった

 
 
とある朝、霞と明石さんが鬼ごっこをしていた。鬼は霞、顔も鬼



『あちゃーとうとうバレちゃったかぁ』


早霜に乗っ取られた朝霜さんを撃退する際に使った艦娘無力化ガス弾頭。二発の内一発は不発弾というギャンブル


「まあ当然怒りますよそれは、自分の知らない所で生か死かなんて仕込まれていたら」


『よかれと思って』


「なんですかその顔怖い」


その後明石さんは若干目が危ない榛名さんに捕まって逆に霞がそれをフォローするという事態になっていた


「霞の事となると榛名さんも突っ走りますよね…あのまま放っておいたら殺さないにしても…」


潜水新棲姫「まあ半殺しにはなるかもな」


「無理も無いとは思いますがさすがにそれはやり過ぎですね…」


そして今回、危ないのは当の明石さんも同様だった


明石さんは改めて浜波さんに謝罪したいと、そして自分の作った義足を受け取ってほしいと手紙を送った


それを受けてわざわざ鎮守府を訪ねて来る浜波さんは多分とてもいい人なのだろう。関わりたくないと思うなら無視すればいいし、既にもう謝罪は貰っているはずなのに律儀な人だと思う


そこからがまた大変だった


 
 
あまりにしつこく義足を受け取ってほしいと懇願する明石さん。浜波さんはそれに辟易しつつも口を滑らせてしまう



貴女も脚を切れと言ったら…どうするのかと。それは普通なら本気で言っているとは誰も思わない口振りだった


しかし明石さんはそれを真に受けてしまった


「何なんですかねこれは…謝罪病とでも言うんでしょうか…」


潜水新棲姫「責任感が並外れて強い者が過ちを犯してしまったらどうなるかと言った感じだな」


明石さんが走り去って行った後の浜波さんの狼狽え様は気の毒になるくらいだった


あくまで冷静に龍驤さんは浜波さんを連れてその後を追う


工厰に着くと北上さん夕張さん秋津洲さんに羽交い締めにされた明石さんが居た


「まあそうなりますよね、目の前で脚を切り落とそうなんてされたら」


本気ではないと止める浜波さんにじゃあ義足を受け取ってくれと頼む明石さん。それを断るとまた脚を切ろうとする。それをまた止める工厰組の三人


「これはもう脅迫ですね」


潜水新棲姫「許されたい、ただそれしか頭に無いのだろうな。相手の都合など考えられない状態だ」


そんな明石さんに浜波さんはどうして自分だけにそんなに構うのかと当然の疑問をぶつける


そこでようやく私は明石さんが浜波さんに拘る理由が解った気がした


 
 
「昔の明石さんの実験で浜波さん以外は皆死んでしまっていた…」



潜水新棲姫「つまり今の明石にとってあの浜波はすがる藁、地獄の蜘蛛の糸と言った所か」


「じゃあもし仮に浜波さんが死んでしまったら…」


潜水新棲姫「明石は償う相手を求めてあの世まで…この場合この世か?…まあいいか、追いかけていたかもな」


「確かに…それはありそうな話ですね…というかまず間違い無くそうなる気がします」


そうして自らの過去に苦しむ明石さんに浜波さんは改めて、たどたどしくもはっきりと自分はこのままでいいのだと目を見て訴えた


許すにしても義足はあった方が何かと助かるのではないかとも思ったがその理由は龍驤さんが既に見抜いていたようだった


「なるほど…脚を失った事で彼女の司令官と急接近するきっかけになったと…」


潜水新棲姫「大人しそうな顔をしてなかなかやり手のようだな」


「意識して利用したのかは判りませんが…」


潜水新棲姫「あの口振りは自らのハンデを利用してアイツの提督を手に入れたように聞こえるがな」


争奪戦に勝った、彼女はそう言った。おそらくは新棲姫さんの言う通りなのだろう


「なんだか…あちらの鎮守府も結構大変そうですね…色々と」


男性が絡むと女は変わる。良くも悪くも。浜波さんが刺されたりしなければいいけどと私は思った


 
 
それを聞いた明石さんが口を滑らせてしまったのに浜波さんが食い付いて恋バナに雪崩れ込んでいく



判らないが、もしかするとそれも浜波さんは空気を変えようとしてそうしたのかもしれない


「なかなかの…ですね。勘違いでなければ」


しどろもどろになりながら明石さんは自分の恋愛事情を話していく。浜波さんがお願いした事を明石さんは断れないようだった


「惚れたではなくこれは切った弱みというやつですかね」


潜水新棲姫「なんとも物騒な関係だな」


「足で…そういうのもあるんですね」


潜水新棲姫「朝潮はした事無いのか?」


「どうでしたっけ…手とか口とかばかりだった気がします」


足でなんていうのは多分信頼関係が無いと無理なのではないだろうか。私の場合は搾取される側で、足なんて使ったら殴られていたと思う


「それはともかく…Y子さんは…寝てますね…」


『いずれわかるさ。いずれな』


「わかりませんよ…何ですかその寝言は」


暇そうにしていたY子さんはこたつ(!?)に突っ伏していつの間にか居眠りをしていた


顔はそのままだった

ここまで
結局ペースを上げられず申し訳ありません

ふと思い付いたので少し


漣「さてこれをどうしますかね~」


漣達の前にはショートケーキが一つ。提督への客人が手土産としてケーキをを持ってきたので、それを秘書艦や偶然近くに居た艦娘で分け合った。その結果ケーキが一つだけ余ってしまったのだ


響「司令官にとっておくのはどうなんだい?」


龍驤「あの人やったら食べたかったら自分で作るって言うで」


そうですよねえと漣は頷く。提督の分を残さないでいいのならやはり最後の一つは誰かのものになるのだ


潜水新棲姫「この人数なら分け合っても一人分は少ない」


龍驤「ショートケーキを四等分しても美味しくないわなあ」


ここは公平にじゃんけんで決めましょうと漣が提案するが響がそれに待ったをかける

響「どうせなら勝負で決めないかい?」


潜水新棲姫「こんなことで演習をするつもりか」


そうじゃないよと響は否定する。じゃあどうやって、と漣が質問するとルールは後で説明するからまずは順番を決めようと言う


漣「じゃあこれは順番決めのじゃんけんです。最初はグー」


じゃんけんの結果一番は響で二番は漣となった。龍驤と潜水新棲姫の三番手決めをしている所に提督が執務室に帰ってくる


提督「何をしていたんだ?」


響「ちょうどいい所に帰ってきてくれたね。それじゃあ私からいくよ」


どういうことです?という漣の質問に答える前に響は行動に移す

響「にゃあん」


どこからか取り出した猫耳を装着し猫ポーズをとる響。それを見た提督は前屈みになりながら部屋の隅に移動する


響「司令官を勃◯させたら勝ちゲームは私の勝利だね」


そう言いながら響は残った一つのケーキにフォークを刺し口に運ぶ

龍驤は呆れた様子で提督を眺め、潜水新棲姫はやはり猫耳かと呟く


漣「じゃんけんで勝った人が勝つ糞ゲーじゃないですか!」


漣の叫びは虚しく執務室に響いた




また何か思い付いたら書きます

多少涼しくなってきたのでリハビリ
>>519から

 
 
「あの…Y子さん?」



『なぁにー?』


「こたつ…いつになったら片付けるんですか?もう夏も終わりますよ…」


『終わるならこのままでいいじゃーん。次は秋ですぐ冬だよーこたつの季節だよー』


「はあぁ…」


深く溜め息を吐く私


結局は片付ける事は出来ないのか…いくらここが暑さも寒さも無い世界とはいえ季節感完全無視の彼女はどうにかならないものか


こんなやり取りは何度目か判らないがこたつ信者のY子さんはあれこれと理由を付けて片付けを阻止してくる


結局最後は私が折れる結果になるのだ


『みかんもそろそろ準備しないとねぇー』


「はああぁぁ…」


更に深く溜め息を吐く私なのだった

 
 
『ところで今日の迷える子羊は誰かなー』



「あぁ…山雲ですね。何だか危ない感じです」


もはやライフワーク…ノーライフワーク?どちらでもいいか


いつものように鎮守府の様子を見ている私達。新棲姫さんはY子さんの反対側でこたつに入って寝ている。ずいぶん馴染んだものだと思う


「彼女は朝雲を人質に取られ命令されてやむ無く艦娘を実験台にして死なせてしまった過去があります」


『今はその罪に押し潰されかけていると…』


「そんな自分が幸せになるのは許されない、自分も死ぬべきだと…そんな感じでしょうか」


新棲姫さんもそうだったが…私からすれば彼女達は善良に過ぎると思える


「元々私達は戦う為に生まれた存在です。敵であろうと味方であろうと誰かが死ぬ事は当たり前の事です」


その点では司令官ですら割り切っている部分はあるのだ


「山雲は死なせた相手にも仲間や大切な人が居てその人達の事を考えているようですが…ならこれまで沈めてきた深海棲艦なんかはどうなるんでしょうね…」


敵だから、だけど例えばレ級さんやクキさんのような関係性を持つ相手が居たら?


「彼女の感覚はむしろ一般人に近いものなのかもしれません…」


山雲や朝雲は確か薬剤師として働いていたらしいから戦いから離れて久しいのかもしれない。そんな中で普通の感覚を取り戻していったのだろう


 
 
あちらの新棲姫さんや霞、そして朝雲の説得もあり山雲は思い直したようだった



しかしようやくひとつの問題が収まるとまた次の問題が表れる


霞が倒れたのだ


「とうとう…という感じですね…いつかはこうなると思っていました」


『まぁねぇ…』


「これまで見てきて霞が休息を取っている姿をあまり見た記憶がありません」


霞がまともに眠る時は大抵榛名さんと…その…なにやらして疲れて眠る時と僅かな仮眠


それ以外は出撃や薬草畑のお世話、そして夜遅くまで自室での調合、そのまま朝になり結局眠らずというのもザラだった


そしてそんな疲労を自ら作った栄養剤などで誤魔化す日々


普段化粧などしない霞が目の下の隈を隠す為だけにメイクをしているのを見た事があった


「だけどそんな無理がいつまでも持つ訳はありませんよね…」


『そしてとうとう表面化してしまった訳だねぇ』


当然ながら霞にはしばらく絶対安静の命令が下ったがいかにも不服そうだった


「この鎮守府は基本的にはホワイトですが霞にとってはブラックですね…」


『一人が居ないと回らないどころか崩壊する会社とかやばいね』


「それが解っているから霞は無理してきた…でもこのままでは…」


霞は早くに死んでしまうのではと心配になる。戦いではなく過労かそれ以外の病気か…


 
 
新棲姫「ふぁぁ…」



こたつで寝ていた新棲姫さんが目を醒ましたようだ。猫のように伸びをしている姿はとても可愛らしい


「こたつで寝ると風邪…引くんですかね」


『おばけは風邪を引かないんだよー』


そう言いながらゴロゴロしているY子さん。会ったばかりの何処か怖い雰囲気は見る影も無かった


「おばけって…まあ確かにその通りですが」


ふとモニターを見ると真夜中の鎮守府の庭で北上さんが全裸首輪で憲兵さんにリードを引かれながら四つん這いで散歩をしていた


「あの人は何をやっているんでしょうかね…」


新棲姫「ふぁ…。回を追う毎にレベルアップしているな。正直何が楽しいのか理解不能だが」


新棲姫さんが欠伸をしながら答える


以前ならせいぜい一日下着無しで過ごすとかだったがどんどんエスカレートしている気がする


それも全て北上さんから言い出して憲兵さんは断り切れずに受け入れているようだった


「それだけストレスが溜まっているという事なんですかね。このところのトラブル続きで」


いつか鎮守府の外に出るのではないかという想像をしてしまうが、まあそれは憲兵さんも首を縦には振らないだろう。さすがに趣味では済まない事態になりかねない


 
 
ある日の事、鎮守府にあのまるゆ警部さんが深刻な顔をして訪ねてきた



過去に夕張さんが関わっていたらしい艦娘の事故死。それに動きがあったのだと


「カメラの映像に夕張さんが映っていたからその場に居て見殺しにした…むしろ殺したみたいにしたいんですかね向こうは」


新棲姫「正直少々強引だな。事故の原因もよく判ってはいないようだがどうもキナ臭い」


『名探偵新ちゃんはこの事件は事故ではないと?』


新棲姫「…なんだそれは」


『これは事故ではない、他殺の可能性がある。そうして洗濯紐に…』


新棲姫「やめろ」


『ばっちゃんの名はいつもひとつ!』


新棲姫「当たり前だ!」


Y子さんが新棲姫さんをからかっている。…しかし私もやはり何か裏があるような気がしてならない


「そもそも訓練を受けた艦娘が階段から落ちて受け身も取れずに死んでしまうというのもちょっと疑問ではありますね」


『酔ってたとか訓練サボってたとかまあ色々あるかもだけど確かにねぇ』


新棲姫「…コンビニの防犯カメラらしいが鎮守府内の映像が無いのも怪しいな」


「そもそも事故に鉢合わせして助けられなかったからといって普通なら責められる謂われはありませんよね…」


 
 
新棲姫「おそらくは艦娘だからなのだろうな…」



一般人なら事故で済まされるだろう事でも艦娘は常に衆目を気にしなければならない、汚点は一切無く完璧でなければならない


もしかすると本来は鎮守府内で内々に処理する予定だったのかもしれない


「だけど何か不都合があって表沙汰になって事故の原因を究明しなければならなくなった…」


そこにたまたま居合わせてしまった夕張さんはそれに巻き込まれ…一見無理矢理にも思える汚名を着せられ目眩ましに使われた…


「なんていうのは…」


新棲姫「まあそういう可能性はあるかもしれないな…だがもう」


「ええ…」


夕張さんは事故の記憶を消されていた。それをアケボノさんに相談したらよりにもよって向こうの関係者の夕張さんが関わる記憶を消してしまったらしいのだ


新棲姫「裏があったとしてもその記憶が穴だらけになってしまっては真相は判らないままだろう」


本当に単なる事故なのか、そもそも何故件の同僚は階段から落ちたのか


それから少しして警察の事情聴取で夕張さんの潔白は証明された


その代わりに彼女は記憶を取り戻し


そして壊れてしまった


 
 
彼女はその鎮守府でいじめに遭っていた



その相手が目の前で落ちていく姿に喜びを感じた


そんな自分に彼女は絶望してしまった


「夕張さんも山雲とかと同じく善良だったんでしょうね…少なくとも自分はそうだと信じていた」


私はどうだったか、憎い相手を事故ではなく自ら手にかけた当時はざまあみろと笑っていたような気がする


そうだとしてあまりダメージを感じない私は夕張さんから見たら輪をかけてクズだろうか


全ては今となってはと達観しているだけかもしれない


そうして自らに絶望して夕張さんは当ても無くさ迷い廃屋に隠れていた


そこに見慣れない艦娘が居た


「見たところ駆逐艦ですね…脱走というやつでしょうか」


『どうやら違うみたいだねぇ』


新棲姫「聞いてもいないのに勝手に喋っているな。どうやらスパイ活動の最中らしい」


夕張さんに銃を突き付けるが夕張さんの様子がおかしいのを見て取るとそれを下ろした


「どうやらそこまで悪い艦娘ではないようですね…危なかった…」


新棲姫「…頭を撃ち抜かれて死ぬのはあまりオススメしないな」


「それはそうですよ…」


頭を撃ち抜いた私が言える事ではないが。そもそも死に方に推奨されるものなど無いだろうけれど


 
 
そんな話をしていると謎の駆逐艦のすぐ側にアケボノさんや菊月さんが突然現れた



驚き威嚇しようとする駆逐艦に菊月さんが腕を振り―――


ゴンッ!


ものすごい音がした


『うわぁ…痛そう』


「あの武器は確か…早霜が使っていた錘ですかね」


錘を後頭部に受けた艦娘は気絶。探しに来た司令官達に夕張さんは怪我も無く保護された


再び記憶を消そうかと言うアケボノさんの申し出を断り司令官が夕張さんを連れ帰る


謎の駆逐艦は菊月さんが何処かに連れて行ってしまった。果たして無事に済むのだろうか、拷問でも平気でしそうなイメージが彼女にはあるが…


そして鎮守府に帰って来た夕張さんはそれからも壊れたまま、真夜中に悲鳴を上げ泣き叫んだりしている


「記憶…消した方が良かったんじゃないでしょうか…」


新棲姫「再び思い出した時のリスクもある。この場合どちらが正しいとは一概に言えないだろうが」

『自ら乗り越えさせる…か…なかなか厳しい選択だね』


それからもしばらく夕張さんの悲鳴が鎮守府に響き渡る日が続く事になる


果たして彼女の足りない、欠けた部分を司令官達は補えるのだろうか…

ここまで
亀なりのペースでどうにか
一番悩むのは書き出し部分

>>537から

 
 
ずずー


静かな部屋にお茶を啜る音


「んー」


ぽりぽり


これはお菓子を食べる音


ずずー


そしてまたお茶を啜る音


「なんだか…」


新棲姫「どうした?」


【暇そうね】


「最近ずいぶんのんびりしてますね富士さん」


【実際あんまりやる事が無いのだもの】


「魂集めは止めたんですか?」


【まあ…そんなに頻繁に条件を満たした魂なんて現れないもの】


新棲姫「あの夕張なんてどうだ?」


【仮にも仲間でしょう…薦めてどうするのよ…それに…】


「それに?」


【可哀想じゃない…】


新棲姫「これだものな」


【うるさいわね…現状でもギリギリ条件は満たしているから無理に集める必要が無いだけよ】


「じゃあもう扉を開くんですか?」


 
 
【それは…】



富士さんは何かを迷っているように言葉を濁す


艦娘達を理想郷に連れていく、その為に富士さんは魂を集めていた


だけど最近の富士さんはその気があまり無いように思える


いつか朝霜さんに言われた事を考えているのだろうか


【…艦娘達を不幸にせずに…その意志を尊重した上で救う…】


「そんな方法があるんでしょうか」


【解らないわ…今の私には…ずっと考えているのだけれど】


新棲姫「難しいな、単純に戦いを無くせば済むという話ではないしな」


戦いの無い世界で私達艦娘はどうやって生きていくのか


訓練所ではそんな事は教えてはくれなかった。教わったのは武器の扱いと深海棲艦の殺し方や戦いの技術、そして大本営への忠誠だった


【ここに居る中で唯一現世に関わる者として私はもう間違える訳にはいかない…】


「富士さん…」


そう言った富士さんは決意というよりは間違える事を恐れて萎縮しているように見えた


そんな時―――


ドオオオォォォン!!!


突然部屋に爆発音が響き渡った


 
 
「なっなんですか!敵襲ですか!」



新棲姫「落ち着け朝潮ここに敵は来ない」


慌てて臨戦体制を取り何故か座布団を頭に被る私に新棲姫さんが指を指す先には点けっぱなしにしていたテレビ


くう…もう戦いから離れてずいぶん経つとはいえ無様な姿を晒してしまった


【あの鎮守府で爆発があったようね…これは…】


富士さんが遠くを視るような目をする


Y子さんもそうだが二人には私達には無い視点があるようだった。このテレビはあくまで私の為に用意した物だとそういえば言っていた


【駆逐艦…雪風…力を使ったのね…】


富士さんの顔色が少し悪い。どうしたのだろう


【…順を追って説明するわ】


そうして富士さんがあの爆発について説明する


それを聞くにつれて私達の顔色も同じようになっていくのを感じた

 
 
「組織の雪風が漣さんを狙って…」



新棲姫「運を味方にしているとはとんだチートだな」


【そうね…不幸中の幸いと言えるのか本人も含めてその力を使いこなせてはいないけれど】


「それはいったい…」


【運を操り自らの都合の良い事象を呼び寄せる…それは全体の一部に過ぎないわ】


新棲姫「なんだと?」


【彼女自身も気付いてはいないけれど…あれは…運命を操る力】


運命を…操る…それはまるで…


【…運が良いとか悪いとか、突き詰めればそれは運命そのもの】


【どうしてあの雪風がそんな力を持っているのか私にも解らない…だけどそんな力に頼り続ければどうなるか…】


きっと最後には破滅してしまう…そう富士さんは言った。そして呟く


【これも…もしかしたら私が扉を開いたせい…そうだとしたらあの扉は…】


その先の台詞は続かなかったが私にはなんとなく解った


願いをなんでも叶える都合のいい扉なんて無いのだと


扉とはいったい何なのか…誰が作ったものなのか…これはむしろ破壊するべきものなのかもしれない

 
 
爆発があった鎮守府は厳戒体制になっていた



雪風と最初に接触したという憲兵さんが怪我を負い、北上さんが付きっきりで看病している。少し不安定になっているのか片時も離れようとはしない


たまたま表に出ていた重巡棲姫さんのおかげで漣さんは認識されずに無事だった


「これは運を味方にしているにしては…」


【使いこなせていないという事。本来ならおそらくその場に行く必要すら無いはずよ】


新棲姫「それは恐ろしいな…」


爆発により保管してあった艦載機がかなりの数失われてしまった。あの鎮守府にとって航空戦力は生命線だ。司令官達も頭を悩ませているようだった


支援もすぐには期待出来ない、悩みぬいた司令官はせめて周辺の深海棲艦と停戦出来ないかとレ級さん達に相談していた


しかしレ級さんが言うには交渉するべき姫や鬼は周辺の海域には既に居ないという


「レ級さんが暁さんの為に追い払ったんですね。つまりしばらくは艦載機が無くとも凌げそう」


新棲姫「…半端な事をしたものだな」


「え?」


モニターの中のレ級さんが司令官に懺悔する


それはつまり追い払った姫や鬼が何処に行ったか、それにより周辺の鎮守府に被害が出てしまっていたらしい

 
 
新棲姫「暁の為に周辺の深海棲艦を排除したい。そこまではいい、だがやはり同胞だからと殺せなかった。結果被害は拡がった」



「それは…」


新棲姫「…自分達の益の為に同胞を手にかける、ワタシだってそんな真似は…だがもし漣の為になるなら…」


【…やめておきなさい、それ以上は袋小路に入ってしまうわ】


そう言って富士さんが新棲姫さんの頭に手を置いた。ぐわんぐわんと若干乱暴に撫でる


新棲姫「む…オマエに気遣われるとはな」


【深海棲艦に気遣いなどしないわ。ただここで発狂でもされたら鬱陶しいだけよ】


ぐわんぐわん


新棲姫「あう」


「うふふ…」


笑う私に富士さんが無言で視線を送る。解ってるから余計な事は言うな、そう言っているようだった


そしてあちらの新棲姫さんが司令官に問いかけをしている。それは司令官にとっては厳しい問いだった

 
 
つまりは自分の大切なものの為なら他者を傷付けてもいいのかと



それに答える司令官はそれはもう辛そうで


「…どうしてあんな質問をしたんですか?」


若干責めるような口調になってしまう。だが新棲姫さんは大して気にした風も無く


新棲姫「そうだな…あのワタシが今考えてる事は解らないが…提督のスタンスをはっきり知りたかった…という所だろう」


「スタンス…」


新棲姫「提督は誰にも言われているように甘い、いざという時にその甘さから一番大切なものを取りこぼしてしまう恐れがある」


だから自分の口からはっきりと言わせて確認したかったのではないかと、それが解れば自分達も行動の指針を立てやすい…そう考えたのだろうという


新棲姫「まあ自分があの島風提督と同じだというのはさすがにどうかと思うがな」


「私は司令官はあんな事はしないと思います」


新棲姫「それはワタシも同感だ。例え同じ状況になったとして一線を越えはしないだろう。それが二人の違いだ」


間違いだと解っていても行動を起こした者、踏み止まれる者、どちらも大切な人の為に


私はその被害者の一人だけど…その気持ちだけは理解出来る


あの人は今も私の怨念を幻視して魘されているのだろうか


私本人はまあ許した…と言っても差し支え無い程度には向き合えるようになっているけれど

 
 
『あー…』



私達が話しているとY子さんが自室からのそりと出て来た。顔色があまり良くない


「あの…大丈夫ですか?調子が悪そうですが…」


『…大丈夫だよーちょっと寝不足なだけだからー』


【…】


今まで部屋に居て寝不足…?なら彼女はいったい何をしていたのか


新棲姫「朝潮…あまり聞いてやるな、プライベートな事だ」


「プライベート…?」


新棲姫「一人で部屋に居て寝不足…つまり自分で寂しい身体をなぐさめ…」


『ちがう!!!』


ビシィッ!


強烈なデコピンが新棲姫さんの額にヒットした。とても良い音が部屋に響いた


新棲姫「おおお…!」


【今のは貴女が悪いわね】


若干頬を赤らめて富士さんが言う。どうも富士さんはそういう話には耐性があまり無いらしい。そしてY子さんも顔が赤い。むしろこの姉妹二人共だろうか


『はー…朝ちゃん…お茶頂戴』


そう言ってこたつに座りテーブルに突っ伏す。顔色は先程よりは良くなっているようだがやはり怠そうだ


「はい、少し待ってくださいね」

 
 
そう言って台所でお茶の用意をしながら私は考える



…最近Y子さんは部屋に閉じ籠る機会が多い。そして妙に疲れた顔をしている


初めて会った頃からは考えられない程に衰えているように感じる。それでも私なんかよりは余程強いけれど


新棲姫さんの話は冗談として、ならいったい何をしているのか


【今は…】


気付けば富士さんが背後に立っていた。静かな、それでいて悲しそうな目をして私に言う


【今はまだ聞かないであげて…あの子も頑張っているから…】


「頑張ってる…?」


【ええ…自分という呪いから逃れる為に】


「呪い…?」


【あの子がそう決心したのも朝潮…貴女のおかげなのよ。貴女がヒントを示したから】


「よく…解りません…」


【今はまだ…あの子が自分で話すまで待ってあげて…】


そう言って富士さんは私を優しく抱き締めてくれる


だけど…安心するどころか不安が大きくなっていく


全てが終わった後、私達は…いったいどうなっているのだろう

ここまで
自己解釈マシマシ

>>548から

 
 
あれから鎮守府にストーカーが侵入したり那智さんと司令官が揉めたりと一悶着あったもののどうにか無事に支援艦隊を迎える事が出来ていたようだった



「何もかも司令官があの鎮守府を作ったせいだなんて飛躍しすぎです」


新棲姫「しかしあの鎮守府には様々な因果が集まっているのは確かだ」


「また因果ですか…いい加減その単語が嫌いになりそうです」


やった事は必ず返ってくる。しかし司令官は何も悪い事をしていた訳じゃない


それで責められたり苦しんだりしているのは何故だろう


【…必ずしも報われる訳じゃない…そして必ずしも報いを受けるとも限らない、世界はこんなにも不平等…】


そう富士さんがぽつりと呟いた


新棲姫「因果応報はあくまで結果論だと?」


【でなければこんな世界にはなっていないわ】


それには新棲姫さんも返す言葉も無いようだった


『因果はあるよ』


テーブルに突っ伏したままのY子さんがそう言った。その言葉に富士さんがハッとした顔をする


【そう…ね、そうだったわね】


『だけど正しく巡ってはいないのは確かかな…気まぐれで悪趣味な誰かがその鎖を握ってる』

 
 
「それは誰なんですか?」



『さぁね…神様気取りの勘違いした誰かさんなんじゃない?』


…Y子さんは、いや、富士さんもそれが誰なのかはっきりと認識している…そんな気がした


二人は何かを隠している


それは前々から解ってはいた事だったが私はそれを追求しようとは思っていなかった


だけどその秘密が向こうから近付いている。そんな予感が何処かにあった


多分、私にとってそれは知りたくない何か


それを知ってしまったら何かが終わる。そんな予感が

 
 
支援艦隊が鎮守府に日替わりで来るようになって数日



司令官は艦娘達の好奇の目に晒されていた


「以前の会合でまたもや風評被害が拡大しましたからね…」


新棲姫「絶倫誘拐犯」


「ぶふっ」


語呂が良いのかつい笑ってしまう。ごめんなさい司令官…ふふ


【わからない…】


『うん…』


富士さんとY子さんにはあまりピンと来ていないようだった


艦隊運営に若干余裕が出てきたのか司令官達は先日の爆発について会議を開いていた


監視カメラや憲兵さんの証言でそれが組織による襲撃であったのだとすぐに判明した


しかしその対策についての話し合いは一向に進まないようだった


「運を武器にしている相手なんて対策のしようがありませんものね…」


その襲撃犯、雪風が近くの海域で目撃されたと支援艦隊からの情報が入り一同に緊張が走った


結局話し合いは雪風と遭遇した場合何とか戦闘を回避するという消極的な結論しか出なかった


「戦いになったらまず勝てないとなれば無理もありませんが…」

 
 
『話し合いに持ち込むのも難しいかもしれないよ』



「何故ですか?そんなにその雪風は組織に忠誠を?」


【違うわ…あの雪風はもう…】


富士さんが悲しげに首を振って続ける


【壊れてしまっている…冷静な判断力も、誰かの話をまともに聞く余裕ももう…】


富士さんのその言葉の意味はすぐに解った。その雪風は事もあろう街中で暴れているとニュースになっていたからだ


映像を切り替えるとそこは阿鼻叫喚だった


警察の銃撃など無いかのように悠々と歩きながら狙いも付けずに砲撃、その度に悲鳴と爆発


【こんな命令を組織が出すはずはない…そしてこれが雪風本人の意志ならそれは…】


まともではあり得ない。そんな事をしても何のメリットも無い。私の知る限り快楽殺人者だった早霜ですら無差別に暴れるなんてしていなかった


確か何処かのお店で暴れたという話を聞いた事はあるがそれはおそらく明確な目的があっての事


【だけどあの雪風は違う。暴れる事、殺す事そのものを目的としている…そうしなければあの子は苦しみから逃れられない…そう信じている】


「それはどういう…」


事ですかと聞こうとした言葉を飲み込む。モニター向こうの状況に変化があったからだ

 
 
「あれは…前に菊月さんが連れて行った艦娘ですね。どうしてここに…」



『駆逐艦、若葉だね。中身は違うけど』


中身が違う…菊月さん達…つまりあれは…


しかしその変身は雪風にあっさり見破られていた


そして変身を解いた彼女…リュウジョウさんはそこから更に説得を続ける


「戦って倒すのが難しいならこの世界で最も危険な場所に誘導すれば…誘導される方もされる方ですが」


変身を見破ったのは偶然なのだろうか…よく解らない


リュウジョウさんの話術で鉄の海域に行く事を決めた雪風だったが…そのままリュウジョウさんを見逃す程甘くはなかった


雪風が取り出したビー玉を投げ付ける。大して力も入れていないはずのそれは突然凄まじい速さでリュウジョウさんの顔に命中した


「う…ビー玉が顔面にめり込んで…」


新棲姫「どんな幸運が働けばビー玉であんな威力が出せるというのだろうな」


雪風が去った後、倒れたリュウジョウさんの身体が跡形も無く突然消えた。おそらく仲間が能力で回収したのだろう


新棲姫「最悪こうなるのは織り込み済みだったか、対応が早い」


おそらくはこれまでもこんなやり方を繰り返して来たのだろう


「もし間に合わなかったり、失敗したら…綱渡りすぎますね…」

 
 
そして雪風は鉄の海域を目指して海を渡っている。正確な位置も知らないはずなのに迷い無く一直線に向かっている



そんな時突然閃光が雪風目掛け飛来した


「命中はしませんでしだが…これはまさか…」


新棲姫「荷電粒子砲だな。だがこれは小規模、おそらく信濃だ」


確か信濃さんは菊月さんと協力していた。つまり…


「最初から誘き出して遠距離から狙撃するつもりだった…」


新棲姫「ただ鉄の海域に誘導しただけでは生き残る可能性もあるからな。いや、むしろあの幸運を考えれば間違い無くか」


しかし何度も荷電粒子砲の砲撃が飛んでくるが一向に当たる様子は無い


「荷電粒子砲ってここまで連射して大丈夫なんでしょうか」


新棲姫「解らないが…おそらくかなり出力を絞っているのだろう。駆逐艦一隻を沈めるのにそこまでの威力は必要無いからな」


そうしている間に変化があった。荷電粒子砲の閃光が雪風を掠め始めたのだ


「当たる?でも雪風には攻撃は…」


【…雪風の幸運にはインターバルが必要なのよ】


それまで黙ってモニターを見ていた富士さんが口を開いた


【今まであの子をここまで追い詰める存在は無かった…だから本人すら気付いていない弱点】

 
 
それはほんの数秒、しかも目で確認など出来はしない。実際にはもっと短く感じるだろうと



「菊月さんはどうしてそれを…」


【同じ能力持ちだからこそそれに気付いたのでしょうね】


モニターから悲鳴が響き渡る。ついに荷電粒子砲が雪風の左腕に命中したのだ


【…っ】


富士さんは唇を噛み締めそれでもモニターから目を離そうとはしない


「富士さん…無理に見なくても…」


【いいえ、私は見届けなければならない】


決然とそう言ってモニターに向かう富士さん。だがその時雪風が祈るような手の形を取った


しかしその目は神に救いを求めるものではなく、悪魔に魂を売り渡すような憎しみに濁った目で


【うっ…】


『これは予想以上に…』


私にも判る。雪風が何かをしたのだ


そして狂ったように笑う雪風に再び荷電粒子砲の光が降り注ぎ―――


雪風はこの世から消滅した

 
 
「今のは…」



『…死んだ…あの組織の老幹部が…』


「それって…」


Y子さんですら驚きを隠せないようだった


新棲姫「雪風の幸運というのは遠く離れた人間を死に至らしめる程だったのか…」


『ううん、さすがにそこまでの事は出来なかったはずだよ。…これまでは』


「つまり…死を前にして力が強くなった…?」


『あの一瞬膨れ上がった力は強くなったどころじゃなかった…もしもあの場面で外してたら菊月も信濃も死んでた』


【…雪風は組織の老幹部を憎んでいた、最期の瞬間に道連れにしようと考えた、でももし少しでも遅かったり外したりしていたら…】


新棲姫「その矛先は自分を殺そうとしている者に向かう…か」


『それだけじゃないよ、最後の雪風の力は離れた人間すら殺せる程に強かった。そして雪風は殺す事を求めてた』


新棲姫「自分の力に気付いた雪風が次に何をするか…考えるまでも無いな…」


「倒せて良かったですね…」


私はそうホッと胸を撫で下ろす。そんな私の耳に富士さんの呟きが辛うじて届いた


―――ごめんなさい、と

 
 
鎮守府では雪風が暴れた街の復興作業の手伝いに大忙しだった



怪我人多数だがどうにか死者は出ていないのは不幸中の幸いか


その怪我人の中に子供を助けて巻き込まれた孫さんも居たらしいがそれも命には別状は無いようだった


「ガングードさんの狼狽えようは気の毒になりますね…」


新棲姫「早くも未亡人なんて鎮守府で出したくはないだろうしな」

ズ…ズン…


新棲姫「地震か?」


「最近たまにあるんですよね」


新棲姫「この世界にもあるんだなそういうのが」


『あ…あたし、ちょっと部屋に戻るね』


Y子さんが急に立ち上がり歩き出そうとしてふらついている。それを素早く富士さんが支える


『…ありがとお姉ちゃん』


【ええ…】


そうしてY子さんを部屋に連れていく富士さんを見送りながら考える


始めの頃は富士さんもY子さんに怯えていたような気がする。それが無くなったのはいつからだったか…


鎮守府では司令官が皆を集めて慣れない演説をしていた


私には解らない事でも司令官達なら解るだろうか…だけど相談しようにもそれは不可能だ

 
 
新棲姫「心配事か朝潮」



「…二人は私達に何かを隠しています」


新棲姫「私達、ではないな」


「え?」


新棲姫「朝潮、気付いているだろう?時折あの二人がオマエに向ける目に」


「そうです…ね」


罪悪感のこもった眼差し、実際に何度も謝られたりもした。私を救えなかった事について


だけど私はそれを責めるつもりは無いし、始めから恨んでなんかいなかった


もしかして他に何かあるのだろうか…私には想像出来ない何かが


新棲姫「覚悟だけはしておけよ」


「不安を煽るような事言うのは止めてもらえますかね…」


ズズ…ン


部屋に伝わる僅かな振動さえも不吉な兆しに思えてしまうのだった

ここまで
あくまで朝潮視点なのでエピソードは多少飛んだりします

>>561から

 
 
雲龍さん、加賀さん、翔鶴さん、そして秋津洲さんの三人が焼け落ちた鎮守府の前に居た



そこはかつて秋津洲さんが所属していた鎮守府


それはもうブラックで、少しでも役に立たないのなら殴る蹴るは日常で


それでも自分が元居た鎮守府であるという事で様子を見に来ていた


そしてそこは私もかつて所属していた島風鎮守府


組織の襲撃によって無人となっていたそこは完全に焼失していた

 
 
「傀儡の襲撃で多少は損壊していましたが全焼する程の火災は無かったはずです」



新棲姫「なら後から放火でもされたか、艦娘を嫌っている人間なんて何処に居るか判らないからな」


「そうかもしれませんね…」


周辺住民に聞き込みをする加賀さん達だったが厄介事には関わりたくないのか有益な情報は得られなかったようだ


そして当の秋津洲さんは焼け跡に立ち尽くしたまま何かを呟いていた


「目が少し危ないですね…思い出してしまったんでしょうか…」


新棲姫「…思い出す?あいつは記憶喪失なのか?そんな話は初めて聞いたぞ」


「私も詳しくは判りませんが、おそらくは…」


そして私は当時の記憶を思い返しながら話し出す

 
 
「過去に私は彼女と会っています。当然ですよね、同じ鎮守府の同僚なんですから。よく島風提督に殴られた痣を泣きながら冷やしていました」



「手当てを受けさせる為に医務室に連れて行ったり、食事を分けたりもしましたね」


「そのうち私は売られ、彼女がどうなったのかは判らないままでしたが、司令官の鎮守府で見かけた時には少し驚きました」


「秋津洲さんも司令官に救われたのだと思い声をかけてみたんですが…彼女は言ったんです」


「はじめまして…と」


「それで何となく察しました、秋津洲さんは記憶を封印か、もしくは改竄しているのだと」


「それから私はあまり刺激しないように彼女とは極力接触しないようにしていました」


「島風鎮守府の出身とはっきり認識されている私が側に居ては些細なきっかけで思い出してしまうかもしれない」


「彼女にとってかつて居た、酷い目にあった鎮守府は何処か遠くで、殴った提督は別の誰かで」


「それで楽になるならそれでいいと思っていたのですが…」


司令官の鎮守府で過ごす内に秋津洲さんはそうとは忘れ自ら禁断の箱を開けに行ってしまったのだろうか

 
 
新棲姫「辛い記憶を封じ込め自らを守る、あり得ない話ではないな」



話を聞いた新棲姫さんはそう言って納得した様子だった


「あの頃の島風提督は今とはだいぶ違います。いつもイライラしていて、感情の起伏が激しかった」


新棲姫「他にも殴られたりしていたやつは居たのか?」


「居ましたね。私も含め反抗的な態度を取っていた艦娘は大抵一度は」


それでもさすがに出撃に差し支える程の暴行は無かった


しかし秋津洲さんはほとんど出撃はさせてもらえていなかった


「出撃もしない艦娘をストレスの捌け口にしていた部分はあったと思います」


新棲姫「聞けば聞く程最低なやつだな、確かに今とはほとんど別人だ」


「それだけ島風の事が重くのし掛かっていたのでしょうね…」


同情は出来ないがそれでも今なら多少は理解出来る。大切な人の為に他の全て、自らの良心さえ切り捨てた、その想いの強さだけは


その時に少しでも彼を導く何かがあったなら踏み外す事は無かったのにと思う

 
 
秋津洲さんの記憶の扉が開きかけているのか少し様子がおかしくなっている



そんな中、島風鎮守府放火の犯人探しが始まっていた


カメラの映像から小柄な人物と判るが不鮮明で誰かまでは判別出来ないようだった


そこで雲龍さん達はまず疑わしい人物への聞き込みをするという話になった


「実際あの鎮守府に恨みを持っている艦娘となるとほぼ全員になりますが…」


新棲姫「その中でも筆頭は朝潮、浜風、文月か」


「私にはアリバイがあります!だって既に死んでいるんですから!」


新棲姫「それがトリックだとしたら?」


「な…ならそのトリックを証明してみてください!」


新棲姫「…」


「…」


新棲姫「…こう、糸を」


「糸を?」


新棲姫「…」


「…」


新棲姫「…ワタシの負けだ」ガクリ


項垂れる新棲姫さんに私は小さくガッツポーズ

 
 
【何をアホな事をしているのよ…】



呆れた様子の富士さんが側に立っていた


「あ、富士さん。Y子さんの様子はどうですか?」


【今は眠っているわ】


富士さんは落ち着いている、とりあえず今は心配は要らないようだと思っておく事にする


富士さんにお茶を淹れている間に放火の犯人はあっさり見付かっていたようだった


「犯人は文月でしたね」


新棲姫「ワタシの推理通りだな」


【何だか糸がどうとか言っていなかったかしら?】


新棲姫「トリックと言えば糸だ。この前読んだ小説に書いてあったぞ」


「放火に糸をどうやって使うのかは解りませんが…どちらにせよ犯人は自供しているので無意味ですね」


阿武隈さんが移籍した例の幼女塾にて文月はあっさり自分が島風鎮守府に放火したと認めた


しかしその言い分には私も眉を潜める

 
 
「弔いの炎って…文月はあんまり変わってませんね」



新棲姫「そうなのか」


「良くも悪くも子供なんですよ、影響を受けやすいんです」


一般的な文月は天使と言われるくらいに純粋らしいがもちろんこの文月もそうだった、しかしあの鎮守府に所属してしまった事で変わっていったのだ


「文月だけじゃない、私も島風提督自身も、あの鎮守府に居た者は皆どこか壊れてしまっていました…まともなのは当事者でありながら何も知らされていなかった島風くらいです」


五月雨なんてそれはもう酷い変わり様だった、今ではあれが自然だと思われているがそれがどれだけ異常な事か。普通の五月雨を知っていれば解るだろう


「文月の場合は子供らしい強かさで可愛く振る舞えばメリットがあると学んでしまった。さすがに島風提督もそれを殴ったりは出来なかったようでしたし」


代わりにそのしわ寄せが秋津洲さんなどの立場の弱い艦娘に行ってしまっていたのだ


「まあ私の為にというのも方便でしょうね、例え本気だったとしても嬉しくありませんが」


そんな文月は悪びれる風も無く話を切り上げようとしていたがそこに浜風が現れ私と同じく看破していた


そこからは浜風の説得により文月はこれまたあっさり改心した。やけに聞き分けが良すぎるのが少し気にはなるが


「確かあの鎮守府に居た頃は一番浜風が文月の面倒を見ていましたっけ」

 
 
一番先に売られた私にはその後の事は話でしか知らないが浜風も自分を取り戻せているようでホッとした



その後、阿武隈さん達は文月を罪には問わず庇う事になったようだった


文月はせめて島風提督には謝罪すると言い現在の滞在場所に向かうようだ


島風提督もその謝罪を断る事は無いだろう。そもそもの原因は自分なのだから


新棲姫「公にはせず手打ちにさせるという事か」


「不満ですか?」


新棲姫「以前のワタシなら罪は罪だ、罰を受けるべきだなどと言ったかもな」


「今は?」


新棲姫「確かに放火は重罪だ、だがまあ、犠牲者もゼロ…燃え尽きた財産などは…あの島風提督だからな。これも因果というやつだ」

「そう…ですか」


また因果か…だが今回は確かに巡り巡って返ってきた正しい形なのだろう


そうして今回の事件はひとまず終わり、残ったのは


記憶の扉が開きかけた事で不安定な状態になった秋津洲さんだった

 
 
秋津洲さんの症状は重いようで入院する事になった。医師の診断によると秋津洲さんの精神は分裂しているのだという。しかも…



「心臓が一度止まって…」


新棲姫「朝潮は知らなかったのか」


「ええ、多分私が売られた後の話でしょうね…」


これは明らかに殺人未遂になるのではないだろうか


暴力の恐怖に縛られた人間は普通の人なら考えつく、周囲に助けを求めるという事は出来ない。報復を恐れ萎縮するのだ。ましてや相手は鎮守府の最高責任者の提督だ


どちらかといえば気の弱い秋津洲さんにはそれは出来なかっただろう


「そして二重人格…忘れていたのではなく押し込めていた…?」


新棲姫「辛い目に遭っている人間は時にその記憶を肩代わりする人格を作る事があるという」


【だけれど最近、島風鎮守府に関わるようになりそれも無理が出てきていた】


新棲姫さんの言葉を継ぐように富士さんが語り出した


【今の鎮守府に来てからも、色々と暴力的な出来事が起こる度にあの子の記憶は刺激され負荷を受けていたわ】


そして今回、島風鎮守府からさみだれという最も島風提督に近い関係者が来たり、そして焼失した様子を見に行ったりした事でついに破綻したのだという


【もはや忘れているふりすら出来ないのなら向き合うしか無いわ…だけど…】

 
 
「今の秋津洲さんにはそれだけの精神力は…」



【そうね…】


私は忘れるより憎む事で自分を保っていた、それが出来ない性格の人間ならどうするだろう。その答えが秋津洲さんのあの状態なのだ


入院した秋津洲さんに付きっきりで励ます明石さんの姿


そこにどういう訳が菊月さんが訪ねて来た。そしてその要件は…


「へ…?被害届けの取り下げ?というか逮捕されてた?」


寝耳に水というやつだ。私は普段島風提督の様子なんてあまり見ない。ごくたまに理由があれば、というくらいだ


【…当時の秋津洲が暴行されていた映像があったらしいわ、文月がそれを警察に渡したようね】


「反省してるのかと思ったら…」


新棲姫「それはそれ、これはこれというやつだろうな」


放火した事は謝罪してもやっぱり許す気は無いという事か


明石さんは当然菊月さんに文句を言うが、当の秋津洲さんはあっさりと取り下げにサインをして拇印まで押した


「…やっぱり秋津洲さんにとっては復讐だとか報いだとかは興味は無いんですね」


新棲姫「むしろ取り下げなければ逆恨みの報復という線もあるな」


「いくら何でもさすがにそれは…」


…無いとも言い切れない。今の島風鎮守府の面々…特に五月雨にはその恐れがあるとも思える

 
 
それから病室では明石さんの必死の説得により秋津洲さんには過去と向き合う意志が芽生えたようだった



新棲姫「どうやら記憶も戻っているようだ。オマエの事も思い出しているかもしれないな、朝潮」


「それは別にどちらでもいいですよ。今の彼女には何より大切にするべき親友が居るんですから」


私が生きていた頃、あの鎮守府に居た頃、そんなのは結局出来なかった


司令官に拾われてからも駄々を捏ねて、聞く耳持たずで迷惑ばかりかけて、最後には…


「あーあ、もし昔の自分に会えたらなぁ…殴ってお説教したい気分です」


新棲姫「その気持ちは解らないでもないな…」


【私にも解るわ…それ】


「富士さんも?」


【まぁ…ね】


富士さんにもやっぱり後悔している事があるのだろうか


【昔の私はそれはもう…ええ、正直殴りたいわね】


新棲姫「ワタシ達と一緒だな」


「そうですね」


どんなに凄い人でもやっぱり後悔している事がある。間違えない人など居ない


私は取り返しのつかない間違いを犯してしまったけれど、まだ生きているならきっと…そう思うのだ

ここまで

>>574から

 
 
「そういえばちょっと気になってたんですけど」



【何かしら】


「漣さんって私達の事何も話しませんよね」


【ああ…その事…。夢だと思っているのよ】


「夢ですか…」


【言ってみればあれはあの子にとっては臨死体験、夢とも現実とも付かない情景としておぼろげには覚えているでしょう】


戻ってすぐの頃ならはっきりと覚えていただろうが、あの時点では漣さんはそれどころではない状態だった


夢というのはしっかり反芻するか何かに残さなければ記憶は薄れていってしまう


復讐や再び新棲姫さんと再会してそちらで頭が一杯になっている漣さんにそんな余裕は無かっただろう


その当の漣さんだが…とモニターを見ると彼女は鎮守府中を走り回っていた

 
 
「どうやらあちらの新棲姫さんが居なくったららしいですが…」



新棲姫「何をやっているんだあちらのワタシは…」


少しご立腹の新棲姫さん。それもそのはず、探し回る漣さんの姿はあの日を彷彿とさせる程に必死なものだった


それを知ってか知らずか何事も無かったように帰ってくるあちらの新棲姫さん。しかも何故か艦娘を連れて


無事な姿に号泣している漣さんを宥めつつ事情を説明する彼女にこちらの新棲姫さんも何故か納得したようで


新棲姫「一度拡散してしまえば根絶するのは困難だが…それが漣のものであればワタシも同じ事をしただろうな」


「だからって何も言わずにというのは…」


新棲姫「ああ、あれはあのワタシの落ち度だな」


以前に漣さん自ら編集して売り捌いていたDVD


その動画はネット中に広がり完全な根絶は不可能だという


漣さんだけではない。それが良い値段で売れるとなればそれを利用する人間は、艦娘自身も含め幾らでも居る


新棲姫「艦娘に人権が認められ始めているとはいえその辺りを規制したり保護する法律はまだまだ発展途上だ。無法地帯なのも無理は無い」


今回新棲姫さんが偶然助けた艦娘、ウォースパイトさんもその被害者だった。自らの動画を拡散すると脅されて金銭を要求されているらしい

 
 
それを聞いて犯人を捕まえようと行動を起こすあちらの新棲姫さん。



犯人を誘き出し、その顔を確認するまでは良かったが揉み合いになる内に頭を打って意識を失ってしまう


「幸い大した傷ではなかったようですが…護衛も付けずに自ら犯人とやり合うなんて…」


新棲姫「ああ…犯人がただの人間だったからまだ対抗出来ていたが、もし銃を持っていたら?正体が艦娘だったら?…武装も無いワタシではどうにもならなかっただろう」


う…新棲姫さんはかなり怒っているようだ。やけに饒舌になるのもそのせいか


その夜、あの日の悪夢を視て魘される漣さんを見て反省はしていたようだがまた誰かが困っていたら助けるとも明言していた


新棲姫「その考えには同意だが…あのワタシとは一度話さなければならないようだな…どうにかして…」


「どうにかと言っても…」


新棲姫「ああ…こちらから能動的に出来る事は無い、チャンスを伺うしか無いな…」


その後、被害者であったウォースパイトさんが鎮守府にレンタル移籍する事になり、結果的に得るものはあったようだった


「航空戦力がほぼ使えない現状で戦艦の方が来てくれるのは助かりますね」


新棲姫「これが情けは人の為ならずというやつか」


こうして誰かを助ける事が今のあの鎮守府を作り上げる事に繋がっている。トラブルに首を突っ込むのだからそれに見合った危険もあるが

 
 
【良くないわ…これは良くない…】



それまで黙って私達のやり取りを見ていた富士さんが口を開いた


【ずっと思っていたけれど…倫理観とか何か色々おかしいわ…!】

「ああ…まあ、そうですね…」


【お金の為に…自分を売るなんて…】


新棲姫「人間だってやっている事だ。珍しい話ではないがな」


「少なくともしっかり給料貰ってたらそんな考えは浮かばないでしょうが…」


思えば私がかつて居た島風鎮守府では給料なんて無かった


大本営から支給される運営費も島風の治療費に注ぎ込んでいたのだろう。そこには艦娘の給料も含まれている


新棲姫「今の法律はあくまで人間の為のものだ。変わってきてはいるが細かい部分はまだまだだな」


【法律…】


新棲姫「普通なら給料未払いなど許されない。ましてや横領だ。だが鎮守府では割と横行していると聞いた」


「艦娘は兵器で道具だから給料なんて必要無い。そんな風に言っている人も一定数居るらしいですね」


【と…扉を開けてもさすがに法律の事はよく解らないわね…】


そう言って項垂れる富士さん


扉の前で何条の何項目をああしてこうして、更に矛盾が無いように他の項目もどうしてそうして…とても無理だ。アバウトに艦娘の為の法を作れと願って結果どうなるかは想像がつかないが

 
 
とうとう大本営が本格的に動き始めた



手始めに自分達に従わない鎮守府への支援が断たれた


もちろん司令官の鎮守府もそこに含まれている


「そうしてジリ貧になって動くに動けない鎮守府に…」


新棲姫「アレをズドン…か。全て深海棲艦の仕業で片付けるつもりか」


しかし司令官達も黙ってそれを待つつもりはもちろん無い。しかし下手に動けばどうなるか


【菊月…あの子達が動いているわ…】


新棲姫「それしか無いだろうな。鎮守府を拠点に持つ提督達では動いた途端に撃たれかねない」


「鎮守府そのものが人質みたいなものですね…」


【だけど…あの子達の存在も大本営に察知され始めている…能力の詳細はともかく妙な連中が居るとは知られている。警戒は厳重よ】

例の兵器のおおよその位置を掴んだ菊月さんはリュウジョウさんを潜入させる


そこには護衛任務中の信濃さんが居た。まだ大本営には彼女が裏切り者だとはバレてはいないようだった


一般人に変身したリュウジョウさんが揺さぶりをかけ、兵器の権限を持つ人間をあぶり出すのが今回の目的らしい

 
 
実際それは上手くいき、信濃さんもその人物をマーク出来たようだった



しかし突然の傀儡の襲撃でその人物には逃げられ、うやむやになってしまう


新棲姫「傀儡の襲撃は自演か…あの場を誤魔化し後日目撃者は事故に遭う、そんな所か」


「やってる事が完全に悪の組織みたいですね…」


新棲姫「だがやつらはきっと自分達こそが正義だと思っているのだろうな」


正義の為なら必要な犠牲だと、むしろそうさせた相手が悪いのだと自分達を省みる事すらしない。してしまえば気付いてしまうから


それが正義とは程遠い、蛮行に過ぎないと


【だから人間は嫌いよ…だけど…】


「私達もあんまり変わりませんよね…」


新棲姫「そうかもな…」


原因はやはり人間にあるとはいえ、自分は悪くない、相手が悪いと復讐の事ばかり考えていた以前の私も


全ての艦娘の為には犠牲は仕方無いと切り捨てようとしていた富士さんも


これが正しい事だと突き進み、結果殺されてしまった新棲姫さんも


立ち止まり、少しだけでも省みていれば結果は違っていただろうか

 
 
龍驤さんの様子がまたおかしくなっていた



落ち込むような事があり、司令官にフォローされる。ここまではまあよくある光景だ


だけど龍驤さんは司令官のフォローを拒絶した


そして


「まさか…龍驤さんが家出をするなんて…」


新棲姫「普段ならあり得ないな、あれだけ提督に依存していながらそれを自ら遠ざけるとは」


龍驤さんが居なくなったと聞いた司令官の狼狽え様は新棲姫さんが居なくなったと知った漣さんにも劣らない程だった


あともう少し連絡が遅かったら自ら探しに飛び出して行っていたかもしれない


その龍驤さんは今、同様に姿を消したはずの鳳翔さんと共に居るらしい。どうも何処かの孤児院で働いているのだという


「どういう事かはよく解りませんが…事故とか事件に巻き込まれてはいないようで良かったですね…」


【龍驤…あの子も変わろうとしているのね…】


「え?」


【自らを省みて…反省して…許してもらって…今まではそこで止まっていた】


そこから更に前に進むには反省するだけでは足りない、そう簡単には人は変わらないのだと

 
 
それは鎮守府の皆も解っていたようだった。だが敢えて何も言わずに龍驤さんが自分で気付くまで待っていたのだろう



新棲姫「変わらず共依存の関係ではいずれは破綻する。ようやく自立しようと考えたという事か」


「うーん…まあ確かに司令官は龍驤さんには甘いですよね…でもそれが普通なのかと思っていました」


【龍驤が五体満足ならそれでも良かったんでしょうけれど…】


龍驤さんはたまに自分の身体の事で卑屈になる時があった


もちろん司令官はそれを慰める。そうすると解っている


【そうして龍驤は安心を得ていた。自分は愛されている、このままでもまだ大丈夫だと】


自分の手足を治さないのはアイデンティティだと。それは確かに本心ではあるのだろう


しかし同時に自分が捨てられない為の保険でもあるのだと


新棲姫「治してしまえば普通の、何処にでも居る龍驤と同じになる…そうしたら提督は自分から離れてしまう…か」


「…そうなんですかね」


ここに来てから知った龍驤さんの本当の姿…驚いたし、腹立たしくも感じた


だけどなんとなく…その気持ちも解る気がする。同情だろうと依存だろうと放したくない、離れたくない、捨てられたくない


そういえば似たような事を私も司令官に仕掛けた事があったから…

 
 
龍驤さんが変わろうと頑張っている一方、煮え切らない司令官についに漣さんがブチ切れた



「いつものご主人様呼びが消える辺り相当溜まってたようですね…」


新棲姫「無理も無いな。ワタシも漣の意見に同意だ」


しかし漣さん自身は司令官に言い過ぎたと落ち込んでいるようで先程富士さんが慰めに行った


「気のせいか漣さんに甘いですよね富士さん」


新棲姫「むしろ艦娘全てに甘いのだろうな」


「ああ…そうかも」


司令官は司令官で漣さんに言われた事を重く受け止め、幹部さんと再び深海棲艦との和平に臨む決心をしたようだった


新棲姫「提督として龍驤にかまけてばかりでは失格だからな」


「和平…上手くいくでしょうか…」


新棲姫「もう深海提督のように和平に横槍を入れる輩は居ないと思いたいが…」


現在深海棲艦のリーダー的な存在は居るのだろうか。居ないとしたら深海棲艦それぞれに和平交渉をしなければならない


だからといってそれをやらなければ和平には至らないだろう


幹部さんが言うには大本営はあの兵器を今は使えない状態なのだという。動くなら今しかないと


状況は刻一刻と進んでいる。もはや後戻りは出来ない。…元より戻れる道などありはしないのかもしれないが

ここまで
基本見てるだけのこちら側なのでなかなか悩みます

少しだけですが書き込みます



あらすじ
突如キャンプがしたいと言い出した漣。潜水新棲姫と龍驤を誘い、ついでに近くに居た響と4人でキャンプに向かった


漣「いやあなんとかテントも張れましたしお楽しみの夕食タイムですな!」


潜水新棲姫「カレーを作るんだよな」


龍驤「各自材料を持ち寄ってカレーを作るんやったでな」

普通に作ってもつまらないということで漣が企画したこの材料持ち寄りカレー。普段は入れないものを入れたり自分の食べたいものを持ってくるというキャンプならではのものだ

響「まずは言い出しっぺの漣からだよ」


漣「漣が持ってきたのはこれです!」

テントの中にビン状のものと緑色で様々な種類の葉っぱが広げられた

潜水新棲姫「この草はハーブか」


漣「そしてこのビンはガラムマサラです!」

こういうのに興味あったんですよ、と漣は更に数種類のハーブを取り出す

潜水新棲姫「漣らしからぬ食材で驚いたが次はワタシだ」

潜水新棲姫が取り出したのはから揚げとチキンカツに竜田揚げだった

響「鶏肉ばっかりだね」


潜水新棲姫「チキンカレーにしたかったんだ」


漣「それは分かりますけど全部調理済みじゃないですか」

龍驤「潜水新棲姫らしいわな。ほな次はウチがいくで」


龍驤はスーパーで売っているパックされた牛肉を取り出した


漣「至って普通ですね」


潜水新棲姫「これだけか?」


龍驤「だって何個持ってこいとか聞いてなかったしどうせ漣が何個も持ってきとるんやろ?」


わかってますねえと漣は次々にハーブを取り出す。その数は数十種類を越えていた


潜水新棲姫「これを全部入れても大丈夫なのか?」


漣「心配しなくても大丈夫ですぞ!」


バッグからレシピを取り出し準備万端ですと宣言する漣。用意周到やなと龍驤と潜水新棲姫も期待の眼差しを向ける


響「食材は揃ってきたけどカレーのルーが無いね」


和やかな雰囲気が響の一言で変わる。そんなはずは無いと龍驤と潜水新棲姫が漣の方を向くと既に大量の汗をかいていた。これは暑さからでは無い、追い詰められた時に出る緊張からの汗だ

龍驤「お前アホか?!言い出しっぺがルー持ってけぇへんとか終わっとるで!」


漣「漣はてっきり龍驤さんが持ってくるとばっかり!」


潜水新棲姫「普通は言い出した奴が持ってくるべきだ。材料によってはカレーにならない可能性もあるからその準備もしておかないといけない」


漣「今更言われても遅いんですよーー!」


漣は絶叫するが事態は変わらない。龍驤は晩飯抜きを覚悟しこれ以上カロリーを使わないようにその場に寝転ぶ。飲み物は各自持ってきてあるので死ぬような事態にはならないだろう。苦労してキャンプ場まで来てメインの食事が無いのは痛いがそれもまた一興。
そうまとめられたらよかったのだが、漣と潜水新棲姫と漣の言い合いは口喧嘩に発展しようとしていた


潜水新棲姫「そもそも漣はいつも言葉が足りないんだ。それに緊急時の事を考えてない」


漣「止めろって言ってるのに危険なことばっかりしてるのはどこのクソガキなんでしょうね!」


潜水新棲姫「なんだと?」


響「落ち着くんだ二人とも、まだ私の食材を見てないじゃないか」


二人を仲裁するように響が割って入る。確かに響はカレールーが無いことを指摘しただけで食材はまだ見せていないのだ

漣「じゃあ響さんは何を持ってきたんですかね!」


半切れになりながら響に持ってきた材料を出すように急かす。響はこれが私の好きなものだよと言いながら食材を取り出した


響「まずは野菜だね。誰も持ってこないとは思わなかったから少し足りないけど、無いよりはマシだよね」 


人参やジャガイモといった野菜がテントに広げられる。その量は四人分にしては少ないが有るのと無いのでは大違いだ。


潜水新棲姫「これでなんとかカレーっぽくはなるな」


漣「まだです、響がアレを持ってきてないと終わりなんですよ!」


そう、この場には食材はあるがアレが無い。食材を持ち寄ってカレーを作るというのにルーが無いのだ


龍驤「ウチらが言えたことやないけど頼む!」


潜水新棲姫「このままだと野菜と肉の水煮を食べることになるのか」


響「もちろん買ってきてるさ」


漣「救世主現れる‥?」


響は袋の中から四角い箱を取り出す。そのシルエットを確認した漣は両手を挙げて喜び、龍驤はほっとした様子で起き上がる。潜水新棲姫もやれやれとため息をついていた時、響は三人の前に箱を置いた


響「はい、シチューのルーだよ」


漣「…」
龍驤「…」
潜水新棲姫「…」


響「もちろん牛乳も持ってきてるよ。さあ美味しいシチューを作ろうか」

挿入歌
Whereabouts of curry

今日はカレーを 作ると決めた 材料はもう買ってあるの?
ルーは中辛 ちょっと辛いよ エプロン着けて 準備開始よ

今ならわかる ムスカの気持ち 玉ねぎが 目に沁みてくるよ?
一口サイズ ちょっと大き目 でもこのくらいのが好きだから

下ごしらえは終わり 鍋に火をかけ炒めにかかるから みじん切りした たまねぎ 黄金色になって良い匂いよ

じゃがいも入れて バジルも少しすごく良い感じね ?お肉は鶏よ アッサリしててお値段もお手ごろ ?
材料全部入れ終わって ここからが本番 ぐつぐつ煮える 表面を見て 気がついた?

もしかして

シチューのルーを 入れて見ようか 牛乳もある これはいける?
私の中で 茶色と白の 天使と悪魔が宇宙戦争

だってシチューも美味い いっそ両方使ってみようかな ダブルで投下前に 煮える鍋みて やっと気がついた 

今日はカレーを作ると決めた 決めたはずなんだ 世の中曲げちゃいけない事が 沢山あるはずよ?
ぐつぐつ煮える 鍋の火を止め いよいよルーを投下 振りかえらずに 前を見るから 奇跡は起こるはず

今始まる食材の 運命的出会いを見て 空腹も既に限界?

堪えて 堪えて?
堪えて 堪えて?
堪えて 堪えて

完成よ 美味しいシチュー 



響「やっぱりシチューは最高だよね」


龍驤「そうやね、うん…美味しいなあ」


潜水新棲姫「シチューライスにしてもうまいぞ」


漣「あんたらとは二度とキャンプしねえ」

動画の貼りつけができなかったので歌詞を掲載しました。
タイトルでググれば出てくるので聞いてみて下さい

>>586から

 
 
大本営が鎮守府の選別に入ってしばらくして更に変化があった



何処からか情報が漏れたようで、ついにあの兵器の存在が明るみに出たらしい


新棲姫「世論では兵器そのものよりも核が使われているという事が一番騒がれているようだな」


「最も否定する立場の国が実は…ですからね…日本の信用が失墜してこれからどうなるか…」


【こうなっては大本営は動くに動けない、少なくとも今は】


新棲姫「独立しようなどと考えている連中だ、世論など力で捩じ伏せようと自棄を起こす可能性もあるな」


協力関係にあったかの国は関与を否定、あちらも下手に動けない状態だ


「今がチャンスという事ですね」


司令官達もそう考えて他の提督達と積極的に接触している。その中で司令官の古い友人である女提督さんは何故か非協力的だった


「悪い人ではなかったと思いますが…大本営派だったんでしょうか…」


新棲姫「それは考え難いだろう。これまでの言動から予測するならおそらくは…」


そこで司令官と女提督さんの会話が耳に入って…

 
 
<貴方の子を身篭った時はどんな思いだったか。結局貴方は認知はしてくれないと言ったわね



「………………は?」


<あの子を堕ろすという選択肢は無かった。その結果がこれよ


「………………は?」


新棲姫「しっかりしろ朝潮、有り金溶かしたみたいな顔になってるぞ」


【冷静に考えてあり得ないわね。あの提督の趣味は確か…】


「で、ですよね…司令官は貧乳好きのロリロリコン…あんな化け乳と何かある訳は…」


新棲姫「酷い言われようだな」


しかしその女提督さんはあろう事か司令官を誘惑し始めた


「なんなんですか!?なんなんですか!?あの化け乳!司令官もなんで拒否しないんですか!はっ…!実は巨乳もいける口だった…!?」


そういえば司令官、雲にゅ…雲龍さんに甘えた時があったはず…まさかそれで目覚めた?いやそれでは時系列が…


新棲姫「落ち着け朝潮、会話の内容の割には随分と真剣な顔をしている…誰かにわざと聞かせているかのようだぞ」


「聞かせて…?」


その理由はすぐに判明した。部屋から出た二人の前に艦娘が立ち塞がり司令官に食って掛かっている

 
 
先程の会話を何処かで聞いていなければ解らないはずの事を自ら暴露している辺り、相当頭に血が登っているようだった



その艦娘、鬼怒さんは部屋に盗聴機を仕掛けていたらしい。女提督さんが問い詰めると意外にもあっさり白状する。この鬼怒さんはどうやら傀儡艦娘なのだという。そして―――


私はその話を聞いて久しぶりにキレそうになる


「……爆弾ですか。…大本営は随分外道な手段を取りますね」


新棲姫「本人だけでなく鎮守府も、人質に取れそうなものは全て利用する…か」


【これだから人間はっ…!】


傀儡とはいえ艦娘には変わりない。富士さんにとっては救いたい内に含まれているのだろう


これ以上接触していてはいつ爆発させられるかも判らない。司令官は女提督さんの力を借りる事は諦めてまずは情報の共有を最優先にしたようだった


当然ながら…同じ傀儡艦娘である陽炎さんや不知火さんにも爆弾はあった。しかしその対策の手段は見付からないようだった


新棲姫「脊髄に仕掛けられているのなら摘出は難しい。そもそも下手に取り出せばその瞬間爆発する可能性もある」


「そんな…」


司令官達も話し合いを続けてはいるがどうにかして爆弾を無効化しない事には動くに動けないだろう


そんな折、その司令官が突然誘拐されたと鎮守府では大騒ぎになっていた

 
 
それを知った漣さんは意外にも冷静に状況を整理、拐ったのは整備士さんの所の伊400さんだろうと話す



「漣さんの事だから飛び出して行くかと思いましたが…思ったより落ち着いていますね」


新棲姫「いや…あれはかなり怒っているな…」


よく見ると目が笑っていない漣さん。あともう少しでキレそう


その後深海吹雪が現れ、今回の司令官の誘拐はその伊400さんの独断だったと説明していた


しかしその後の深海吹雪の話で一気に雲行きが怪しくなる


傀儡艦娘の爆弾の除去の為に陽炎さんと不知火さんを解剖して解析したいというのだ


新棲姫「ああ…やはりそういう事か」


「え?」


新棲姫「ワタシがあいつらに感じていた違和感、命に対する認識がワタシ達とは違うんだ」


【どうせ傀儡として復活させられるから、何をしても問題は無い…殺した事にはならない、そう考えているのね】


怒りをはらんだ口調で富士さんがそう言う


新棲姫「記憶と魂はイコールではなかった、だからワタシはここに居る。生きている者にはそれを確かめる術は無いがな」


だけどそれを知らなくとも整備士さんの要求は到底飲めるものではなかった

 
 
協力を得られないと知った深海吹雪は実力行使に出ようとするも重巡棲姫さんとレ級さんに取り押さえられる



以前見た時にはあり得ないくらい強かったが陸での戦いには慣れていないようだった


捕らえられた深海吹雪は協力を呼び掛けるがもちろん首を縦に振る者など居ない


陽炎さんを除いて


「陽炎さんには窃盗癖がある…自分でもどうにもならない程に重症の…だからといってそれは…」


新棲姫「考えてみれば少しおかしいな…大本営は自由に傀儡艦娘を造る事が出来る。しかも色々と手を加えてもいる」


【窃盗癖などという欠陥をそのままにしておくのは不自然…そういう事?】


新棲姫「ワタシが思うに故意にそういう要素を植え付けたのではないかと思う。何らかの実験の為かは知らないが」


「だとしたら酷いですね…陽炎さんは苦しんで、自らを差し出すくらいに思い詰めているというのに…」


そうして深海吹雪を助けようとする陽炎さんを駆け付けた不知火さんが殴り飛ばした。側にはリュウジョウさんも居る


「手加減無しですね」


表情は変わらないが相当怒っているようだ。そして不知火さんは陽炎さんを叱責する


欠陥無く完璧になって生まれ変わったとしてもそれはもう違う陽炎さんなのだと


一度死ねば、今の陽炎さんは二度戻りはしないのだと

 
 
新棲姫「…確かめる術は無くとも…そうか、理解しているのだな…」



「新棲姫さん…」


その後、リュウジョウさんの助け船により解剖しなくてもデータは取る事が出来るという


どうやらアケボノさんに透視能力まで備わっていたらしい。つくづく彼女達は規格外だ


そうして解析した結果判ったのは


傀儡艦娘に仕掛けられた爆弾だけを除去するのは不可能という結論だった


ちなみにその間、伊400さんはずっと正座させられていた


そして司令官はアケボノさん達の姿を見て安心したのか泣いてしまった


「なんだか憔悴していますね…よほど怖い目にでもあったのでしょうか…怪我は無いみたいですが」


新棲姫「ワタシでも用が済めばすぐに帰りたい気分だったからな…。強制的に滞在させられた提督の気持ちも解らないでもない」


その後、明確な対策は無いままその場は解散となった。最後まで深海吹雪は睨み付けていたが。なにやら禍根が残ってしまったようだった

 
 
そして鎮守府



漣さんがとうとうはっきりと認識してしまった


今の新棲姫さんと元の新棲姫さんは別なのだと


考えなかった訳ではないようだったが今回の事でこれ以上目を背ける訳にはいかなくなったのだろう


新棲姫「いつかは…こうなるとは思っていた…」


「また精神世界に閉じ籠っているようですが…」


【錯乱している訳ではないわ。一人で考え混んでいる。どう受け止めるべきか迷っている…】


悩み続ける漣さんに重巡棲姫さんがアドバイスをしている


それは日進さんにこちらの新棲姫さんを降ろしてもらい直接話せばいいという内容だった


しかしそれは…


「それをするという事は今あちらに居る新棲姫さんを蔑ろにするという事…本物として認めないと言っているのと同じ…」


それは漣さんも解っているのかすぐに首を縦に振る事はしなかった


新棲姫「なあ富士…」


【なにかしら】


新棲姫「ワタシをどうにかしてあちらに送れないか?あちらのワタシと話したい」

 
 
【…私は深海棲艦に直接干渉は出来ない、諦めて頂戴…と言いたい所だけれど…今ならひとつ方法があるわね】



新棲姫「ああ、ワタシもそれを期待していた」


【ふふ…さすがと誉めてあげるわ】


「あの…どういう事か説明してくれませんかね…置いてきぼりです私」


【もしかして…重巡棲姫が彼女を呼ぶよう奨めたのもこれを考えての事かしら?】


新棲姫「さあな…今のワタシには判らない」


「…いいですよ別に。解らない私がお馬鹿なんです」


【はいはい…膨れないの。今説明してあげるから】


話に着いていけずに膨れっ面の私の頭を撫でる富士さん


【私は直接新棲姫の魂をどうこうは出来ない、だけど今あの鎮守府にはそれが出来る存在が居る。彼女の力を借りましょう】


富士さんが言うには日進さんを介して新棲姫さんを一時的にあの場に投影するという


【魂を降ろす負担は私が肩代わりするから彼女には危険は無いわ。気付かない間に終わっているでしょう】


新棲姫「すまない…頼む」


【まあ…貴女ともそれなりに長く過ごしているのだからこれくらいは…ね】

 
 
そうして富士さんは新棲姫さんの頭に軽く手を添えて目を閉じる



富士さんの周囲に不思議な力が満ちるのを感じる。一瞬だけ富士さんの背後に巨大な何かのシルエットが見えたような気がした


新棲姫さんの身体が淡い光を帯び、それと同時にモニター向こうの新棲姫さんの前に同じ姿が現れる


最初は驚いていたあちらの新棲姫さんだったがさすがは限りなく近い魂、すぐにそれが自分だと察したようだった


新棲姫「今からこれまであった齟齬を全て埋める。今のワタシの全てを伝える。別人などと欠片も思えないように」


そして新棲姫さんは話し出す。それはもう本当に全てだった。秘密にしたいだろうと思える内容すら全て


最後には新棲姫さんは泣きながら、それでも必死に、漣さんの為に、限られた時間の中で自分の全てを伝えきった


【そろそろ…】


新棲姫「ああ…なあワタシ…漣の事…頼んだ」


もう一人のとは言わなかった


あちらの新棲姫さんが頷く前で投影された新棲姫さんの姿が消えていく。その顔には決意のようなものがあった


新棲姫「…ぅ、ぐ…」


【お疲れ様…頑張ったわね…】


まだ泣いている新棲姫さんを抱き締めて背中を擦る富士さん


これで彼女が抱えていた重荷は今やっと消えたのだろうと思う

 
 
その後、あちらの新棲姫さんは漣さんにそれを話していた



秘密にとは言ったが話しても構わない、それを決めるのもまたワタシだと新棲姫さんは言っていた


新棲姫「これから先、環境と経験でまた違いは生まれるだろう、だがそれはもう齟齬ではない。あれが漣の潜水新棲姫その人だ」


モニター向こうで泣きながら懺悔する新棲姫さんを抱き締めている漣さんにもこれまでのような迷いは無かった。ようやく吹っ切れたのだろう


新棲姫「ありがとう漣…幸せに…さようなら」


最後に一筋涙を流して、新棲姫さんは笑顔を浮かべた


ズズン…


その時


ガチャ!


それまで部屋で休んでいたはずのY子さんが青ざめた顔で飛び出して来て


『お姉ちゃん…どうしよう…失敗した…来ちゃう!』


ズズン…ドドン!ドドドドドド!


揺れがどんどん近付いてくる。そして


ドオオオオオオン!!!


轟音と共に部屋の天井が跡形も無く吹き飛んだ。その先に居たのは…


今しがた部屋から飛び出して来た彼女と同じ姿、顔をした、しかし知らない…表情を浮かべた―――

ここまで
なかなか書く時間が取れず…
遅くなり申し訳ありません

>>607から

 
 
誰かが言った



この世に偶然は無く全ては必然


なら私がここに居るのはどんな必然だったのか

 
 

 
 
跡形も無くなった天井から赤い空が見える。現世ではあり得ない赤い空



その天井の穴から降り立つ人物はこれまで一緒に過ごした彼女、それはY子さんと同じ姿をしていた


しかしその表情は私のよく知る彼女とは違い、蔑むような、怒っているような、少なくとも友好的とは言い難い雰囲気だった


『…ぅ…あ…』


それを見て明らかに青ざめ、怯えた様子のY子さん、これも今まで見た事の無い彼女の顔


半壊した部屋に立ち、その人物はY子さんを睨み付け口を開いた


?『ようやく会えたねぇ…随分手こずらせてくれたもんだ…この引きこもりが…』


『…う』


?『あたしを追い出して力を奪ってここに籠って…それでやり過ごせるとでも思った?』


力を…奪って…?


私が頭に疑問符を浮かべていると二人の間に富士さんが割って入る。立ち位置は…明らかにY子さんを守ろうとしている。つまり後から来たこの人は…


【残念だけれど…貴女にそれを返す訳にはいかないの】


?『ならどうするの?多少弱体化してるとはいえ力の差は解るよねぇ?』


新棲姫「何だかまずい流れだな…」


こそりと新棲姫さんが私に耳打ちしてくる


 
 
新棲姫「朝潮…いつでも動けるように準備しておけ。下手をすればまた死ぬ羽目になるかもしれない」



不吉な事を言わないでほしい。…また死ぬ…この状態で死んだらどうなるのか…あまり良い結果にはならないのは何となく解るが


【朝潮…その子をお願い】


富士さんがY子さんを目で示し、身構える


?『…本気なんだね。まあたまには戦闘らしい事も悪くないか』


『お…姉ちゃん…』


二人が睨み合う中で私達はY子さんの手を引いて部屋を出てその場から離れようとする。色々聞きたい事はあるがそんな場合ではなさそうだ


次の瞬間私達の居た部屋が爆散した


振り返ると富士さんが艤装を背負っている後ろ姿。見た事もない巨大な艤装には20はあるだろうか、砲塔がそびえている


対してもう一人は特に何も装備してはいない。今の爆発は富士さんの砲撃だったのだろう。しかし全くの無傷のようだった


?『やっぱり今のお姉ちゃんではその程度か』


と、彼女は腕を振るうと不可視の衝撃が富士さんを弾き飛ばした


【…くっ!】


離れた私達の方へと富士さんが飛んでくる。どうにか受け身を取って着地する富士さん


「富士さん!」


 
 
?『言っとくけど逃がさないよ。また探すの面倒だしねぇ』



その人物は悠々とした足取りで歩いてくる


「貴女は一体何なんですか!どうしてこんな事を…」


?『ふん…やっぱり何にも知らないか』


「知らないって何を…」


?『全部。あたしが何なのか、アンタがどうしてここに居るのか、あたしがどうしてこんな事をするのか』


私…?


?『まず最初の質問、あたしは何なのか。まあそれはもう判明してるよね』



新棲姫「八島…か」


八島『そういう事』


「え?だってそれは…」


私は後ろに居るY子さんを見る。彼女は顔を伏せていて目を合わせようとはしない


八島『だってソイツは名前を捨てたんでしょ?自分の宿命ってヤツから逃げた負け犬』


逃げた…?


【逃げた訳じゃないわ、必要な事だったのよ】


八島『どっちでもいいよそんなの。ソイツを消して力を取り戻して全部元通り。それでおしまい、お姉ちゃんもおしまい』


【そうはさせない】


 
 
『あたしは…』



そこでそれまで黙っていたY子さんが口を開いた。それを見て八島は動きを止める


『…あたしは自分の名前が嫌いだった』


そうしてY子さん…かつて「八島」という名を与えられた兵器の苦しみを私は垣間見た


『かつての世界、その先の未来において無数の命を奪った兵器に付けられた名前…』


八島『改良に改良を重ね、破壊に特化したその兵器で人類は深海棲艦との戦いに勝利した』


呼応するように同じ姿をした彼女も話し出す


『だけど用が済んだからと一度手にした強大な力を人間が手放せる筈は無かった』


八島『そうして新たに始まるのは人間同士のそれまでよりも醜い争い』


『仮にも人類の敵と戦うと手を取り合っていた時がどれだけマシだったかと思える程に』


八島『そこに艦娘という人よりも遥かに強い人間に似た精神構造を持った存在が更に拍車を掛けた』


『量産型まで開発され、それを使って戦う艦娘に対して、その相手もまた艦娘』


八島『強力な兵器を持って艦娘は敵味方に別れて戦い続ける』


『そうしていつしか艦娘達は戦う為に戦う存在に成り果てていった』


八島『それを止めようとした人間や、そして艦娘にも兵器「八島」は幾度となく使われ、犠牲者の数は敵も味方も無く膨れ上がり続けた』


 
 
『最終的にあの世界がどうなったのか…あたしも知らない…けど多分…もう誰も居ないのかもしれない』



八島『そして世界が変わっても同じ名前を持った兵器はまた作られた』


『その名前は世界を滅ぼす兵器の名として世界そのものに刻まれている』


八島『名前というのはその存在を表すもの。名前の無いものに力を与え、そして縛る』


『人間がそう望み名付けた「八島」はそういう意味を持った名前になってしまった』


八島『だからあたしは世界がそう望むならその通りにする事にした』


『だからあたしはその名前を捨てる事にした』





――――――。


言葉が出なかった


いつか富士さんが言っていた自分という呪いとはこういう事だったのか


例えば私、朝潮


自分で言うのも変な話だが真面目で忠誠心が高く、多少融通が効かない所もあるが基本的に良い子だというのが一般的な朝潮という名のイメージだろう


そこからかけ離れた言動を取ればそんなのは朝潮じゃないと否定されてしまうだろう


…人を殺して自殺までした私はまだ朝潮なのだろうか?

 
 
そして彼女、「八島」の名前の意味は私の比ではない。言ってみれば世界を牛耳りたい、全てを思い通りにしたいという人間の欲望を一身に受けて生み出された兵器に付けられた名前



私だったらそんな自分は耐えられない。そして彼女も―――


八島『ソイツはあたしから別れて力を奪い、あたしを現世に追い出した』


『…そうしてここに閉じ籠り壁を作ってこっちに来られないようにした』


八島『何度も障壁を破ろうとしたけど狭間の世界に留まりながら壊す作業はなかなか骨だったよ。言ってみれば断崖絶壁に掴まりながらその壁に穴を掘るみたいな』


忌々しげにそう話す彼女に私は問いかける


「…そうして力を取り戻してどうする気なんですか」


八島『あ?』


「そんな自分が嫌いなら何もその通りにしなくてもいいじゃないですか」


八島『はっ…勘違いしないでよ。嫌ってるのはソイツであたしは気に入ってるんだ。何でも思い通りにしたいという欲が形になったこの力を』


【だけど今の貴女は不完全】


八島『…そうだね。ソイツのせいで三割程度弱体化させられて文字通り何でもとはいかない状態になってる。力が完全なら毎回99だって出せるのに』


99…?よく解らない


「貴女は一体何が目的なんですか」

 
 
八島『ふん…まずはそこの負け犬を消したら次はお姉ちゃんを消す』



「な…」


八島『そしたら後は面白可笑しくこの世界を弄くり回してやる。つまらない退屈な日常なんて観客が集まらないからね』


【そんな事はさせない…】


八島『あたしを生み出した元凶がよく言うよ。話は止め、そろそろ消えてもらえるかな』


ゆらりと八島は歩みを進める。まだ正直話を飲み込めないがこれを放置する訳にはいかない。二人が消される?…そんなのは嫌だ


私は艤装を展開して構える。富士さんは先程まで出していた艤装を消して何かをするつもりのようだった


八島『雑魚が二人でどうする気かなぁ?』


「…っ」


こうして相対しているだけでも解る。私の太刀打ち出来る相手じゃない。だけど引く訳にはいかない


――――と


ぉぉぉ――――っ


何かが聞こえる、背後から


振り返ろうとした私の横を凄まじい勢いで何かが


?「っそおぉぉぉいぃぃッ!!!」


ゴシャア

 
 
飛んできた何者かの蹴りが完全に油断していた八島の顔面にクリーンヒット、吹き飛んでいく



そして宙返りして着地し、蹴りを放ったその人物は――――え?


「島風…?」


島風「朝潮!やっぱり朝潮だ!」


と、私に抱き付いて来た


「どうしてここに…」


島風「何だか気付いたらここに居てしばらく歩き回ってたんだけど、すごい爆発が見えたから来てみたら朝潮がいかにも危なそうだったから…あれって敵…だよね?」


「…確認もしないで飛び蹴りはさすがにどうかと思います」


やはり彼女もここに来ていた


島風「私だけじゃないよ、途中で知ってる人に会えたのは運が良かったみたい」


振り返ると遠くから誰かが走ってくる。あれは…


新棲姫「呂500か…」


呂500「ま、待って~島風ちゃん…いきなり走り出してどうし…え?」


私達の姿を見て彼女は固まる。状況が飲み込めずフリーズしているようだ


島風「実はもう一人居るんだけど…あれ?あの子は?」


呂500「え?あれ?そういえば居ないですって…」

 
 
【朝潮…今のうちにこれを】



どう説明したものかと悩む私に富士さんが何かを手渡してくる。これは…


【今の私達にあの子は倒せない…貴女に頼むわね】


そうだ…今は戦闘の最中だ、悠長に説明してる場合じゃない。しかもあんな…


「皆!気を付けて!今は戦闘中だから!」


ドドドドドドドドド!


八島『やってくれるねぇ…駆逐艦ごときが』


例によって全くの無傷ではあるが顔面を蹴られるというのは当然ながら屈辱には変わりないようだった


呂500「ひっ…!あの人は…?」


島風「だいぶ勢い付けたのに効いてないんだ…」


「新棲姫さん!呂500さんを!島風は…」


島風「解ってる。やっぱりあいつは敵だね。よくない感じがビンビンするよ」


【…少し、下がっていてもらえるかしら…】


と、富士さんが前に出る。これまで感じた事が無い力の高まりがオーラとなって現れている


島風「この人は味方?…それにそっちに居る…でも雰囲気が全然違うね」


「ええ…私達は彼女を守らないとならないんです、説明は後でするから力を貸して」

 
 
島風「朝潮の頼みなら…私も言いたい事が一杯あるし」



「謝罪ならお腹一杯なんですけどね…でもちゃんと聞きましょう。ここを切り抜けられたら」


八島『雑魚が何人増えた所で…』


【それはどうかしら?】


富士さんの背後、何かが…現れる。さっきの巨大な艤装…?


違う…これは…


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


…そこに現れたのはもはや艤装とは呼べない、それは要塞、無数の大砲やミサイルポッド、よく解らない兵器が満載された移動要塞


それはまさに山のようなという形容がぴったりだった


多数の火砲やミサイルランチャー、機関砲、飛行甲板まである。そして一際巨大な主砲らしきものが幾つか


それらを搭載した移動要塞を従えた富士さんはしかしそれでも硬い表情のままだった


八島『へぇ…いつの間にかそこまで力を取り戻してたんだ』


そしてそんな圧倒的な要塞を前にしても余裕の表情を崩さない八島も同様に


【この世界は魂の世界。艦種も、ましてや種族すら関係が無い、意志の力が全てを決める】


八島『残念ながら今の現世の技術力ではそれを作れる人間は居ないしねぇ』

 
 
【だけどここでなら】



八島『そう…こんな風に』


と、八島が軽く腕を振ると彼女の背後の空に何かが―――


新棲姫「なんだ…あれは…」


空に…変わった形状の、あり得ない程に巨大なそれは浮かんでいた

富士さんの移動要塞に勝るとも劣らない程に巨大な空中要塞


至る所に無数の砲やミサイルポッド、そして形状の異なる幾つもの砲身。あれは…


「荷電粒子砲…ひとつやふたつじゃない…そんな…」


八島『時代遅れの実弾オンリーのお姉ちゃんに勝てるかなあ?』


【…やってみなければ解らないわ】


そうして富士さんは腕を差し伸ばし


【―――――――てっ!】


移動要塞に搭載されたあらゆる火砲が火を吹いた


呂500「きゃあああ!」


島風「ちょ…」


新棲姫「…衝撃も音も無いな」


よく見ると私達の回りに防壁のように薄い膜がかかっていた。巻き込まれて被害を受けないようにとの富士さんの配慮だろうか


その富士さんは腕を伸ばした姿勢のまま微動だにしない。普通ならあの攻撃を受けて無事で済むどころか跡形も無いだろう

 
 
そう、普通の相手なら



八島『次は私の番だねぇ』


【…!皆私の後ろに!早く!】


爆煙の中から聞こえてきた声に富士さんが素早く反応、移動要塞の至る所に楯のようなものが展開される


【防御形態…どこまで耐えられるか…いいえ、耐えて見せる…!】


そして煙の向こうから飛来する数えられない程のミサイルや、あれはレーザー?


ドドドドドドドドド!!!


雨あられと降り注いだそれらは富士さんの要塞に着弾、激しい爆発を引き起こす


【ぐぅッ…!】


「富士さん!」


【まだよ…!】


膝を突きかけた富士さんが踏み止まりまた腕を振るった、それに呼応して要塞の火器が次々と火を吹いた


ドォン!ドンドンドン!


八島『あっははは!無駄だよ!』


八島の空中要塞から光が発せられる、まるでバリアのように富士さんの攻撃を掻き消してしまう


「最初の攻撃もあれで…あれじゃあ勝てない…」


【…てっ!】


それには構わず富士さんはひたすらに攻撃を続ける、しかし全てバリアに防がれている

 
 
八島『…無駄だって言ってるのが解んないかなぁ!』



苛ついた様子で空中要塞から更なる攻撃が加えられる、しかし富士さんは一歩も引かない。これはもう殴り合いだ


しかし…明らかに二人の火力には差がある、このまま続けていては先に倒れるのは富士さんだ


しかも私達を守りながら戦う富士さんの負担はどれ程なのか想像もつかない


八島『しぶといな、だったら…』


痺れを切らしたように八島が言う。そして空中要塞にある荷電粒子砲の砲身が一斉にこちらを向く


新棲姫「まずいぞ…!あんな数を食らったら…!」


「跡形どころかこの辺り一帯消えて無くなりますね…」


島風「だったら私が…!」


呂500「ひえぇ…!」


荷電粒子砲が充填を始める、すぐには撃てないようだ。しかしこちらの攻撃が効かないのではそれを止める事すら出来ない


八島『1分…ってところかな。1分後にはあんた等はこの世界から消えて無くなる。念仏でも唱えたら?成仏なんて出来ないけどねぇ!』


勝ち誇ったように笑う八島に富士さんは


【1分もあれば充分ね】


八島『は?』


富士さんが手を掲げ、それに呼応して要塞の一部が展開する。そこに変わった形の砲がひとつ。それを見た八島の顔色が変わった

 
 
八島『それは…まさか…』



【こちらは既に装填は済んでいるわ】


八島『霊砲…だと!?』


およそ砲弾を撃ち出すような形状ではないそれには魔方陣のような紋様が縦横無尽に走っている。そしてその紋様が光を湛え脈動していた


【現世でなら貴女の荷電粒子砲に勝てはしないでしょうが…だけどここでは違う。むしろ霊砲は実体の無い者にこそ最大級の威力が出せる】


八島『燃料なんてここには無いはずだ!撃てやしない!』


【あら?ここにあるわよ?】


と、富士さんは自分自身を指し示した


「え…?」


【特殊な艦娘を燃料とする霊砲…それはつまりその魂を削ってエネルギーとする兵器…それなら】


その霊砲の中心に光が収束していく


【私自身の魂をその燃料にする事も出来る】


―――――。


「駄目ッ!!!」


私は考える間も無く富士さんに飛び付いた


【ちょ…朝潮!やめなさい!】


「駄目です!そんなの駄目!」

 
 
【別に消えたりしないわ!というかまだ私にはやる事があるんだからそこまでの無茶はしないわ!】



「だからって魂を削るなんて駄目です!」


私は必死に富士さんを押さえる


「富士さんがあれを撃つならさっきのあれを私は捨てます!」


【朝潮…】


困り果てる富士さん。そうこうしている間に状況は悪い方向へ転んでしまう


八島『あはは…ははは!もう1分経ったねぇ!』


【…!しまった!】


充填が完了した荷電粒子砲が私達に向けられる


八島『食らえ』


【くっ…霊砲…!】


「駄目!」


新棲姫「終わったな…すまない漣…」


島風「ろーちゃん!」


呂500「島風ちゃん!?」


島風が呂500さんを庇うように抱き着き。新棲姫さんは諦めたように目を閉じる


私…は…間違った…?でも…だからって…だけどじゃあどうしたらよかったの…?

 
 
――――え?



その時、勝ち誇る八島の背後にいつの間にか人影が立っていた。八島は全く気付いていない


?「―――――鷹捲」


ズン


その影が八島に何かを仕掛けた


八島『な…!?がはっ!』


完全に不意を討たれまともに食らった八島は血を吐いて倒れる。そこに立っていたのは―――


早霜「勝ちを確信した時こそ一番の隙が出来る…何処かで聞いた通りね」


「早霜…?」


早霜「話は後にして。この程度で倒せる相手じゃないわよ」


八島『がああっ!』


早霜「ぐっ!」


空中要塞が一斉に早霜向かって攻撃を加える。充填が完了した荷電粒子砲の数基が早霜に照準を合わせた


八島『消えろぉッ!』


「逃げてぇ!」


【くっ…】


しかし早霜は逃げるどころかその場に留まり構えを取る


早霜「ずっと…見ていた…ここは魂の世界。なら!私は!」


荷電粒子砲の束が早霜に向かって放たれる。それに対し早霜は真っ向から迎え撃つ

 
 
【何を…!?】



早霜「梟挫ぁ!!!」


早霜が光に呑まれ、その姿が見えなくなる


八島『雑魚が…あたしに手を出したらどうなるか思いし…!?』


その光が渦を巻くように変形していく。そしてその光の渦は湾曲して八島へとその標的を変えた


八島『なっ!?』


カッ!!!


八島と空中要塞へと跳ね返された荷電粒子砲が着弾。凄まじい爆発が起こった


早霜「あ…あは…。やって…やったわ…ぐっ…」


早霜は無事…ではなかった。両腕が…二の腕辺りから…無くなっていた


早霜「本来は…接近戦の技…だけど…実弾でなければ…応用も…出来るのね…ぅ…」


「早霜!なんて無茶を…!」


倒れ込む早霜に駆け寄り抱き起こす。まずい…身体が消えかけている。このままじゃ…


【本当…無茶をしたものね…即消滅してもおかしくなかったのに―――霊砲】


と、富士さんが手を早霜に向けて軽く振ると充填された光の一部が早霜へと撃ち出された


「何を!?」


撃ち出された光は早霜に着弾し、その光は早霜と同化していく。すると消えかけていた早霜の身体が存在を取り戻し、その腕も再生していく

 
 
【霊なるものへと分け与える事も出来るのよ。そう私が仕様を変えた。もう破壊するだけの兵器ではないの】



八島『よくも…よくもやってくれたなぁ…!』


今度はさすがに無傷とはいかなかったようだ。エネルギーを荷電粒子砲に回していたせいであのバリアも張れなかったのだろうか。そもそも完全に油断していて防御する暇も無かったのか


そして発射直前の臨界状態の所にまともに食らってしまえばどうなるか


空中要塞は健在ではあったがかなりの損害を受けていた。見た所大破寄りの中破といった感じだ


今なら…!


私は富士さんに渡されていたある物を自分の砲へと装填する。それは一発の砲弾。もちろん只の砲弾ではない


密かに富士さんは私にこう言っていた。隙を見極めこの砲弾を八島へと撃ち込めと、その隙は私が作ると


それがあの霊砲というものなのだろう。しかし早霜の捨て身のおかげでその魂を削る兵器を使わずに済んだようだった


早霜に分け与えた分というのはあるが全力砲撃に比べたら微々たるものだろう


「これで…!」


八島『クソがあああ!』


ドドドドドドドドド!


荷電粒子砲は諦めたのかまだ無事なその他の兵器を乱射し始める。普通なら苦し紛れの無意味な攻撃だがその規模が違いすぎる。それだけで私達を消し炭にするには充分過ぎる破壊力だ

 
 
【下がって!】



富士さんが私達の前に移動要塞を立ち塞がらせる。八島の二の舞を避ける為に霊砲は収納され再び防御形態を取る


ガガガァァァン!ドドドドドド!

【ぐぅ…!がは…!これは…ちょっとまずいわね…】


やけくそのような八島の攻撃は止まる気配が無く延々と続いていく。私達を守る為に防御を選んだのは失策だった


相討ちでも同時に攻撃を仕掛けていれば今度はダメージの大きい八島が先にダウンしていたはずだった


島風「なら私達でやろうよ!」


新棲姫「ワタシ達の力では例え満身創痍の八島でもダメージは入らないだろうな。そもそもワタシに武装は無い。そして呂500は潜水艦…地上では無力だ」


おそらく私達の中で一番強い早霜は身体こそ再生したが意識を失っていた。仮に起きても先程のような奇襲は通用しないだろう。そもそももう接近出来る状況じゃない


八島の激しい攻撃は止む気配が無い。必死に耐える富士さんの要塞はその大半の武装を破壊されていた。もはや反撃が出来る状態ではなかった。そして残る武装は…


【ぐっ…万事休すというやつなのかしらね…こうなったら…】


「富士さん!そんな…駄目ぇ!」


この攻撃の最中に霊砲を展開させようとしているようだった。こんな状況で展開させてもそこに攻撃を受けたら…富士さんもやぶれかぶれの様子だった

 
 
私が渡された砲弾も今撃っても撃ち落とされてしまうだろう。とにかくどうにかしてあの攻撃を止ませないと…でもどうしたら…



――――と


そんな絶望的な状況の中でおかしなものが見えた


呂500「あれ?何だろ…」


新棲姫「八島の向こうに…なんだあれは…」


他の人達にも見えているようだ。私の幻覚ではなさそうで少し安心した


地平線一杯に―――それは私達にとっては背景のようになってしまっていた普段の光景の―――


しかしこれまでではあり得ない程の死者の群


それが津波のように押し寄せて来ている光景だった

ひとまず
色々こねくり回していたらこんな事になりました
イメージはアームズフォート
スピリットオブマザーウィル対アンサラー
巨大兵器はロマン

少し、書き込みます


ーーbar海底


「すいませんやってますか?」

  
伊58「…どうぞでち」


呂500「お酒飲みますかって!」


「じゃあ何か…アルコールの強いものをお願いします」


伊58「歩いて帰るならそこまで強いのは出せないでち」


「お願いします、酔いたい気分なんです」


伊58「…わかったでち」


呂500「お客さん!これお通しですって!」スッ


「バーなのにお通し…?」


伊58「ここは昼間はランチをやってるでち。それで余った食材で作ったやつでち」


呂500「サービスですから気にしないで下さいって!」


「…ありがとうございます、それでは遠慮なく頂きます」

「……」グイッ


伊58「……」


呂500「そんなに急に飲んだら気分が悪くなりますって」


「すいません…」


伊58「……」カチャカチャ


呂500「何か忘れたいことでもあるんですか?」


「忘れたい……そうですね、それに近いことはあります」


呂500「よかったらお話し聞きます!ねぇでっち!」


伊58「…話すの邪魔しないでちよ」


「なら…少し話させてもらいます」

「私は趣味で物語を書いているんです」


呂500「まさか小説家さんですか!?」


「そんな良いものじゃありません。書いているのはただの時間潰しなようなものですから」


伊58「……」カチャカチャ


「そうです…最初は時間潰しのつもりだったんです。ですが続けていく内に止められなくなったんです」


「そして最近になって続けて書いていたものが終わったんです。達成感のような…不思議な気持ちが湧きました」


呂500「ふんふん」


「…問題はその後です。そこからおかしな事が起こり始めたんです」

「最初は小さな違和感でした。視線を感じるとか、一人で住んでいたらよくあることです」


伊58「……」


「でもその違和感が段々大きくなっていったんです。そして今では誰かに後をつけられているような…そんな感覚がするんです」


呂500「ストーカーですか?」


「むしろそっちの方が嬉しいですね…」


伊58「…ストーカーじゃない心当たりがあるんでちか」


「はい……」


呂500「どういうことですか?」

「自分が趣味で書いていたその物語にはあるキャラクターが登場します。そのキャラはラスボスというか…とにかくそんな感じの存在なんです」


「紆余曲折あってそのキャラクターは倒されるんですが…」


呂500「何か問題があるんですかって」


「そのキャラの種類はメタキャラといって、作られた物語の中で現実世界の事に触れたりするんです」


呂500「…?」


伊58「ろーの読んでる漫画にも出てくるでち。メタっていうのは漫画の中のキャラがあと何ページしか無いから急ぐぞ、とか言うやつでちよ」


呂500「あぁ!それなら見たことありますって!」


「それだけで済むような可愛いものなら良かったんですが…そのキャラクターはそれ以上の事をしてしまったんです」

「現実世界…こちら側を認識して干渉しようとした。事実あと一歩でそうなる所だったんです」


呂500「んん?あなたが物語を書いてますよね?」


「そうなんです!でも…あいつは……自分の意思で………!」


伊58「ならその物語を削除すれば良いんでち」


「それができるならそうしてます!ですが自分の意思じゃ無理なんです…!」


呂500「でっち、この人疲れてますかって」ヒソヒソ


伊58「多分そうでち。仮想と現実の区別が付かなくなってるんでち」ヒソヒソ


呂500「そうですか…」


伊58「こういうタイプは好きなだけ語らせてやれば満足するやるでちね」


呂500「ならゆーちゃんが話を聞いてあげますって!」

呂500「…あなたもお仕事大変なんですって」


「それどころじゃないんです!今にも復讐されるかもしれないんです!」


呂500「うんうん、とっても怖いですって」


伊58「……」カチャカチャ


「殺してしまったから…あいつは自分を恨んでいる……自分さえ居なければあいつは自由になれる…」


伊58「…できたでち」スッ


呂500「アルコールが強いカクテルだからゆっくり飲んで下さいって」


「……」グイィ


呂500「あぁ…一気に飲んじゃったですって…」


伊58「……」

「来る……あいつが自分の所に…」


呂500「お客さんべろべろですって」


伊58「これじゃ歩いて帰れそうに無いでち。タクシー呼んであげるでち」


呂500「分かりました!いつもの所に電話しますって!」



「来る……来てしまう………」


伊58「…お客さんもう閉店でち。お代を払ってくだち」


「…………はい…」ゴソゴソ


伊58「ちょうど頂いたでち」


「……」


伊58「お客さんは思い込みが激しいんでち。凹んだ時はこうやってお酒に頼るのも悪くないでちよ」


「……」


伊58「冷静に考えれば分かるでち、創作したキャラクターが現実に出てくるなんてあり得ないでち」


「そう…ですよね……」


伊58「ゴーヤ達でよければいつでも話を聞いてやるでち、また来るといいでちよ」


「ありがとうございます…」


伊58「…そういえばアイツとしか言ってなかったでちがそのキャラに名前ってあるでちか?」


「はい…」


伊58「ちょっと気になったから教えてくだち、なんていう名前でち?」


「やし…






きひ



伊58「……ぅ…」


呂500「ん……んん……」


伊58「あれ…何が起こった……でち…」


呂500「でっち……?」


伊58「お客さんは……帰った…でち……?」


呂500「タクシー…まだ来てないです……」


伊58「まさか…薬とか飲まされて…ゴーヤ達が何かされた……?」


呂500「でも服は…乱れてません…って……」


伊58「……お金!飲み逃げでち!」


呂500「うぅん…ちゃんとレジにお金あります…」ガチャガチャ


伊58「……」


呂500「でっち…どうしますか……?」


伊58「…考えても無駄でち。気にするのは止めるでち」


呂500「分かりましたって…」


伊58(一瞬気を失う前に見たあの光景はなんだったんでち。お客さんが何かの名前を口にした瞬間……全てを包む闇のような…)


伊58(……)ブルッ


伊58(あれは触れてはいけないものでち。あの名前を口にすればゴーヤ達も……)


呂500「でっち…閉店準備しましょうって…」


伊58「…わかったでち」




きひ、きひひひ……

Yに殺される夢を見たのを元に書きました。転んでもただでは起きないということで


それでは失礼します

清しもの夜

ーー某所


清霜(今日のデート凄く楽しかったなぁ。何処に行ってどんなことをするのか、入念に下調べしてくれたんだね)


飛鷹「ふー…ふー…」


清霜(レストランは1ヶ月前から予約してたらしいし、プレゼントは3ヶ月前から用意してたって…気合い入れ過ぎだよ飛鷹さん)


飛鷹「ふー…んふー…!」


清霜(でも…それだけ大切に思ってくれてるってことだよね。そういう意味じゃ嬉しいな)


飛鷹「き……清…霜……あのね…」


清霜(龍驤さん達が悪いとは言わないけど、どこでもエッチしたりとかそういうのは私は嫌だなぁ)


飛鷹「こ、こここの後…行きたい所が…」


清霜(清く正しい付き合い。それが飛鷹さんと付き合う時に決めたこと。約束を破ったら知らないからねって飛鷹さんと約束したんだよね)


飛鷹「ふー…ふー……!」


清霜(はぁ……これが無かったら大人のお姉さんって感じで素敵なのに)


飛鷹「ほほ、ほ、ホテル……!」


清霜(本当にもう……仕方ないなぁ)

清霜「…いいよ、飛鷹さん」


飛鷹「へ?」


清霜「ホテル行こうよ」


飛鷹「ふぁっ!?」 


清霜「…なに?飛鷹さんから言い出したんでしょ?」


飛鷹「ほ、本当に?本当にいいの!?」


清霜「今日の為にお店も予約してくれて、プレゼントまで用意してくれたよね」


飛鷹「清霜の為なら当然よ!」


清霜「清霜ね…お返しのプレゼント買って無いんだ」 


飛鷹「お返しが欲しかったからじゃないの、清霜に喜んで欲しかったから用意したのよ!」


清霜「でもこのままじゃ嫌なの。だから……お返しに…」スッ


飛鷹「!?」


清霜「清霜のこと…好きにしていいよ」ボソボソ


飛鷹「オ"ッ…!!」ガクン


清霜「もう…ホテルに着く前にそんなので大丈夫?」


飛鷹「だ…だいひょうぶ……!」ボタボタ


清霜「興奮して鼻血出しちゃってるし…もう、しっかりしてよ?」


飛鷹「うぅん……!」


清霜(完璧な飛鷹さんより私はこっちの方が好きなんだろうな。あ、でも…できればエッチなのは控えて欲しいかな)


ーー

短いですがここまで

メリークリスマス

>>632から

 
 
バンバンバン!



狭い通路に銃声が鳴り響く


通路の奥にひしめく亡者の群の幾つかが銃弾を受けて倒れ、その後ろから更に別の亡者が押し寄せて来ていた


【こっちよ】


先導する富士さんを先頭にY子さん、新棲姫さん、呂500さん、島風、私こと朝潮、最後尾に早霜と隊列を組んでいた


艦娘の砲撃はこんな時には威力が高過ぎて使いづらいと富士さんが銃火器を用意してくれていた


私が撃ち漏らした亡者を早霜が叩き伏せる


【あの先に隔壁を閉じるポイントがあるわ。走って】


そう言って富士さんが立ち止まり入れ替わりに私達は駆け抜ける。その富士さんに亡者の群が掴みかかろうとする


【ふっ!】


富士さんが手刀を振り抜くと亡者達は弾き飛ばされ大きく後退させられる。その間に富士さんは私達追い付き隔壁を閉じた


新棲姫「はぁ…はぁ…」


「大丈夫ですか?」


新棲姫「何とかな…こんなに走ったのは久しぶりだ…」


早霜「とりあえずは一息吐けそうね…」


私達は今富士さんの移動要塞の内部に居る

 
 
突然押し寄せた死者の群に私達は逃げるしかなかった



要塞内に入る直前に私達が見たのは亡者が連なり八島の空中要塞に群がる光景だった


しばらくはそれを蹴散らす爆音が聞こえていたが今はその音も聞こえない


いったい何が起きているのか外がどうなっているのか、解らない事だらけだ


ひとまず休憩を取る私はまず早霜に声をかけた


「そういえば早霜は…ええと…味方、でいいんですよね?」


あそこまで体を張った姿を見ておいて何だが確認はしておかなければ


早霜「…そうね…貴女達がそう思ってくれるのなら」


「でも私は前に…」


そうだ。私は早霜が奈落へと墜ちていく姿をはっきりと見ている。戻って来れるとは到底思えない


『あたし達は…早霜を複数見ているよね』


相変わらず元気の無いY子さんだったが疑問には答えてくれるようだった


『朝ちゃんが前に見た早霜は一番最初に死んだ早霜…あの人間に捕まった時の』


「あ…」


そうか…。整備士さんは早霜を捕らえて解剖していた。その時に既に…


『今ここに居るのは2回目の…菊月に仇討ちされて強い未練のままに死んだ早霜』

 
 
早霜「…ええ、姉さんの暗示…そして私の仕掛けを解きたかったと…ずっとそれだけを考えていたわ…」



早霜はそう言って項垂れてしまった。髪の長さや雰囲気が幽霊のようだと思ったがまさに幽霊そのものな私達だったと思い直す


早霜「あれから…どうなったのかしら…時間の感覚も曖昧で、あの仕掛けは発動してしまったのかしら…ああ…朝霜姉さん…」


「大丈夫ですよ!」


早霜「…え?」


「貴女が決着を着けたんです、今の朝霜さんはすっかり元気ですよ」


そうして私はこれまであった朝霜さんに纏わる事を説明した


呪縛は完全に解けたと聞いた早霜は脱力したように呆けた後、静かに涙を流した


早霜「良かった…これでもう…未練は無いわ」


そして朝霜さんが司令官と龍驤さんの娘のような位置に収まっているという話になり


早霜「やっぱり…彼に任せて正解だった…」


と、安心したように微笑んだ


「早霜…いえ、早霜さん。未練は無いと言っても今は私達に力を貸してはくれませんか?」


早霜「…そうね、あんな存在が居たなんてまるで知らなかった、放っておいたらきっと姉さん達も危険…」


新棲姫「で、だ。そろそろ説明してくれるんだろうな。あの亡者達は何なんだ。前触れも無く現れた。…あんな大群が接近していたのに全く気付かなかった」


呂500「…突然現れたんですって」

 
 
『…あたしが話すよ』



Y子さんが一歩前に出て私達に向き直る


『あれは今まで見てきた普通の死者の魂とは違うもの。あれも兵器「八島」の一部』


「それって…」


『「八島」という名前は何も強い力だけをもたらす訳じゃない。あの兵器が大勢殺したという事実も必ず付いて回る…それが形になったのがあの死者達。現象にまでなってしまった怨念』


新棲姫「八島はそれを解っていてあれを出したのか?」


『どうかな…多分大丈夫と高を括ってたんだと思う。亡者なんてどれだけ現れようが関係無いって』


しかし実際は倒しても倒しても湧いてくる亡者の群。どれだけ単体として強かったとしてもあの数はどうしようもないと思えてしまう


島風「これからどうするの?」


【そうね…朝潮、あの弾はまだ持っているわね】


「ええ」


『撃ち込もうにも射程内に近付けないよね…』


【まずは移動しましょうか、艦橋へ行くわ】


私達は通路を進み階段を上る。所々先の八島との戦闘で破壊され通れない道もありその都度迂回せざるを得なかった

 
 
島風「そぉぉぉい!」



早霜「…鷹捲」


「伏せてください!」


ドゴォ!ズン!バンバンバン!


破壊された壁の隙間から亡者達が体を捩じ込んで侵入している区画があった


【引き返すしかないわね…ここの隔壁も閉じるわ】


群がる亡者をどうにか押し返し隔壁を閉じる富士さんだったが突然膝を着いてしまう


「富士さん!?」


【大丈夫…よ。今私が倒れる訳にはいかない…要塞が消えてしまう…】


そう言った富士さんの言葉に合わせて要塞内部が一瞬薄れかけて見えた


先の戦いのダメージはまだ癒えていないようだった。もし富士さんが倒れ要塞が消えれば私達は亡者の真っ只中に放り出されてしまう。その後にどうなるか…想像したくもない


私達は別の道から階段を上り要塞上部を目指す。途中にも亡者が侵入している区画がありその度に回り道を余儀無くされる


時に戦い、時に逃げ回り、ようやく艦橋に辿り着いた頃には全員疲労困憊だった


島風「ぜぇ…ぜぇ…みんな大丈夫?」


呂500「もう…歩けません…です…って」


新棲姫「ここが…ゴール…なのか?」

 
 
【ひとまずは…戦えない子はここに居て頂戴。あとは無事な砲台まで行かないと…】



「砲台までって…つまり外へ出ないと駄目なんじゃ…」


早霜「今外に出たらあいつらに呑み込まれてしまうわよ…」


【…要塞に群がっている死者達を薙ぎ払うわ】


『そのダメージがトドメにならないといいんだけどね…』


【こ…根性で何とか】


『解ってるでしょ?お姉ちゃんはこれ以上のダメージには耐えられないって。立ってるのも辛い癖に…』


【じゃあどうしろっていうのよ…】


『あたしが引き付ける』


【な…何を言い出すのよ!】


『死者達は「八島」の力に引き寄せられてる…そしてあたしも同じ力を持ってる、あっちに比べては弱いけどね』


Y子さんが外への扉に手を掛ける


『死者達が離れたらあとは任せるからねー』


【呑み込まれたら貴女も取り込まれてしまうわ!】


『だからあたしが捕まる前によろしくー』


ガチャン


軽く手を振りながらそう言い残してY子さんは外に出て行ってしまった

 
 
【あのお馬鹿!】



富士さんが珍しく罵倒の言葉を発する。後を追おうとするもふらついて壁に手を付いてしまう


「富士さん!そんな状態じゃ無理です!」


【せっかく…生まれたあの子が…こんな事は二度とあり得ないのに…】


オオオ…オオオオオオ!


死者達の声が聞こえ、そしてその群が移動を始める。Y子さんが自らを囮としてここから引き剥がしている。しかし…


早霜「まだ一部残っているわね…」


新棲姫「八島に近い位置に居るのはさすがに剥がせないか…より強い磁石のように」


「だけど行くしかありませんね」


【朝潮…?】


「もう一刻を争います。Y子さんが捕まる前に決着をつけないと」


島風「私も行くよ」


早霜「露払いは任せて頂戴」


「富士さんは二人をお願いします」


【え…?】


Y子さんの言った通り富士さんはもう限界だ。これまでずっと富士さんに守られていた私達はほぼ無傷、一時は消滅しかけた早霜さんも富士さんに力を分け与えられ調子が戻っている

 
 
新棲姫「妥当な判断だな。足手まといのワタシが言うのも何だが」



呂500「ごめんなさいです…って」


【…私は、貴女達を守らなければならないのに…】


「たまには…私達が守ってもいいじゃないですか。ね?お母さん?」


【あ…】


島風「へ?この人朝潮のお母さんなの!?」


早霜「朝潮の、というよりは艦娘全ての…ね。でも私は違うのかしら…」


ボソリと早霜さんが呟く。傀儡から作られた艦娘やドロップ艦娘にはが無い。だとしても富士さんはそんな区別はしないように思う


「さあ!駆逐艦、朝潮、出撃します!」


【解ったわ…でも出来るだけサポートはする。これを】


そう言って富士さんは小型通信機を渡してくれる。そして島風、早霜さん、私の三人は移動要塞の外部へと出た


あれだけ群がっていた死者は今はまばらで要塞の後方、だいぶ遠くに大群を見付ける


島風「もうあんな遠くに…速いね」


Y子さんの姿は見えないがあの群の只中に居るのだろう。早くしなければ…


「そういえば八島は…う…」

 
 
視線を巡らせるとそこにあったのは八島の空中要塞らしき何か



完全に死者の群に包まれて巨大な球体のようになっていた


早霜「…鉄の海域にあるアレを数倍醜悪にしたようなものね…まるで」


島風「あいつもあの中に居るのかな」


「いますね…何となく判ります」


そうして私達は目的の砲台へと急ぐ。途中死者に襲われるも数はまばらであっさり早霜さんと島風が蹴散らしてしまう


砲台に辿り着いた私達に富士さんから通信が入る


≪朝潮?聞こえる?≫


「はい、砲台に着きました。これからどうしたら…」


≪砲台側面のスロットにその砲弾を装填して頂戴≫


「ええと…これですね。………」


≪どうしたの?早く≫


ガシャ、ガキン


「…装填完了しました」


早霜「あの死者の壁はどうするのかしら…」


≪問題無いわ、それはこちらで排除するから≫


「富士さんまた何か無理を…」


≪無理はしないわ。…無茶はするけれど。それより早く射手席に≫

 
 
「まったくもう…」



実際言い合いをしている時間は無い。私は渋々射手席に着いて照準を覗く。死者の壁がアップになって思わず吐き気を催すがそれを無視。吐こうがどうしようが目を離す訳にはいかない


≪…撃つわ≫


ガコン…ドォォォン!ドゴォン!


半壊した別の砲台が無理矢理砲撃を敢行、直後に爆発し完全に吹き飛んでしまう


それを富士さんは次々と行い、死者の壁を削っていく


≪ぐっ!…まだよ…≫


「富士さん…」


照準を覗き、トリガーに指を掛けひたすらに待つ。徐々に死者の壁が剥がれて内部に居た八島の姿が見え始める。どうやら防壁を張って死者に呑まれるのを防いでいたようだ


「防壁が…あれじゃあ…」


≪大丈夫よ。防がれても当たりさえすればいい≫


照準越しに八島の姿が露出していく。そしてその顔が見える程になってきた時―――


目が、合った

ここまで
気付けば一ヶ月以上も開いてしまい申し訳ありません

ーー

漣「ご主人、初詣でも一緒にどうですか?」


提督「いや遠慮しておこう」


漣「あら?そんなに仕事溜まってましたっけ?」


提督「人が多い時期は避けた方が良いかと思ってな」


漣「あ…龍驤さんが…」


提督「俺が背負って移動するにしても人混みは良くない。行くにしても人が少ない時を選ぶな」


漣「あーすいません…ほんと漣ってアレですよね…」


提督「もう慣れたさ、気にしていない」


漣「ほぉ…ご主人様も言うようになりましたな」


提督「漣のせいで危険な目に遭ったり、事態がややこしくなったりしたことは一度や二度じゃないからな」


漣「いやぁほんと、普通なら追い出されて終わりですよ。それがこうやってご主人様の隣に普通に居れるのがおかしいんですって」


提督「俺が誰かを追い出したりすると思っているのか?」


漣「思いません、ご主人様は甘ちゃんの塊ですもん。龍驤さんを殺そうとまでしたこの漣を許すんですよ?」


提督「……ふっ」


漣「ふふふ。こんなご主人様だから皆ついて来てくれるんですよね」

提督「俺は正しく無いし平気で間違える。それを正してくれる仲間がここには居るんだ」


漣「…素敵ですご主人様。やっぱり大好きです」


潜水新棲姫「漣ぃ~~~新年早々浮気なのかぁ~~…」キィィ


漣「ぬぁーに言ってんすかぁ、お前が一番に決まってんでしょうが」ダキッ


潜水新棲姫「んふ…っ」


提督「俺達のことは気にしなくていい。二人で遊んで来ればいい」


漣「ではお言葉に甘えてそうしてきます!おらおら!お前には着物きせて可愛いくしてやりますからね!」


潜水新棲姫「富士がやってくれると聞いてる」


漣「勿論漣も着付けしてもらいますよ!ご主人様、後で漣と嫁の写真送っときます!」


提督「あぁ」


漣「それじゃあ行きますよぉー!」


潜水新棲姫「おー」ガチャ


提督「…漣も色々と乗り越えてくれたようだな。最近まで俺が許したと言っても自分では納得している様子が無かった」


提督「漣の嫁…潜水新棲姫がうまくやってくれたのか。それに関しても色々あったようだが最終的にはなんとかなったのか」


提督「龍驤と出会わなければ俺は漣と…いや、もしもの話はするべきでは無い」


提督「漣も俺も幸せだ。それだけで十分じゃないか、これ以上なにもない」

提督「…さて、一段落したら龍驤の様子を……」


ピコン


提督「漣から連絡?着付けはそんな短時間で終わるのか?」スッ


漣『飛鷹さんが廊下で正座なう』


提督「……」


漣『どうやら清霜さんに姫初めを迫った飛鷹さんが反省してる模様』


提督「……」


提督『飛鷹には誰の迷惑にならないように反省するように伝えてくれ』


漣『ガッテンです。あと暁氏とレ級氏の姫初めの声が部屋の外までだだ漏れなのでそれとなく注意しておきますね』


提督『…頼んだ』


漣『あと加賀さんと瑞鶴さんが盛り上がってて、ダブル朝潮さんが喧嘩しながら走ってご主人様の所に向かいました』


提督『とめてくれ』
提督『たのむ』


漣『善処します』


提督「……」


提督「…………」

ダダダダダッ

司令官ーー!

司令官、ネコミミ着けてきました!私と初詣に行きましょう!!


提督「……」


提督「漣…………」

富士「…なんだか執務室の方が騒がしいわね」


漣「あー多分ダブル朝潮さんが騒いでますな」


潜水新棲姫「あいつらか」


富士「漣は知ってて止めなかったの?」


漣「だってあの二人の相手面倒臭いんですもん。目的がご主人様なので、全部任せておけばいいんですよ」


富士「貴女ねぇ…」


潜水新棲姫「漣がこういう性格なのは分かりきってるだろう?」


富士「それは知りすぎてるくらいだけど、少しは改善する気はないの?」


漣「ありませんね」


潜水新棲姫「言い切るのも漣らしいな」


漣「漣が今考えてるのは嫁との初詣だけです。それが邪魔されるのは許されません」


富士「貴女…いつか仕返しされるわよ」


漣「それはその時考えれば良いんですよ~~」


ーー

中途半端に長くなってしまいました。ネタはいくらでもあるんてすが、短編となると難しいですね

それではまた

あらすじ
ツクオリがスポンサーをやっているテレビ番組にゲスト出演することになった白鶴。ライは白鶴のマネージャーとして収録に参加することとなった。
白鶴が出演するバラエティー番組で特技を披露する流れに。ホームレス時代に身に付けた人間ポンプをやろうとする白鶴だったが…



「ほんで何か特技があるんやって?」


白鶴「は、はい!私は人間ポンプができます!」


「なんやねんそれ!芸人でもやるの躊躇するで!」


白鶴「人間ポンプはラジオだと伝わらないんです。せっかくテレビという機会なので披露してみようかなと…」


「なんでもええけど特技やっていうならやってみいな」


白鶴「はい、それでは失礼して…」ゴソゴソ


ライ「頑張って白鶴さん…!」

白鶴「今からこのビー玉を飲み込みます。そして全部このお皿に吐き出します」


「ほんまにできんの?失敗したらエライ事になるで」


白鶴「練習では上手くいったのでだ、大丈夫です」


「めっちゃ緊張してるやん!」


「ごっつ心配やわぁ…」


白鶴「それでは…いきます」ゴクッ


「コイツほんまに飲み込みよったで」


ライ「緊張しなくても大丈夫、いつも通りやれば失敗しないわ」


白鶴「……」プルプル


「なんやえらい震えとるけど…」


「これ失敗するん違うやろな!?」

ライ「どうしたの白鶴さん?まさか調子が悪いのかしら…」


「あのーすいません。白鶴さんのマネージャーさんですよね?」


ライ「そうよ、何かあったの?」


「白鶴さんの楽屋に置いてあったお弁当が無くなっていたんです。確か持ち帰るからって言ってましたよね?」


ライ「私は食べてないわよ?」


「おかしいですね…」


白鶴「……」プルプルプルプル


「これほんまにいけるんか!?」


「皿やなくてバケツ用意しとけって!」


ライ「まさか白鶴さん…人間ポンプのこと忘れてお弁当食べちゃったの……?」

ライ「私が先にスタジオに来ちゃったから…ちゃんと確認してないけど……」


白鶴「……げろっ」


「うわ!!この女吐きよった!!」


「収録止めろって!こんなん放送できるかぁ!!」


ライ「あぁぁ…白鶴さん……」


白鶴「ぉえっ、げっ……」


「お前なんやねん!何しに来てん!!」


コロンッ
白鶴「で…出ました……ビー玉…」スッ


「こいつ体張り過ぎやろ!」


「ここまで来たら引くって…」


ライ「あぁぁ…せっかくのテレビだったのに…これじゃ放送されないじゃない……」


白鶴が吐く場面にキラキラ加工が施され、まさかのノーカットで放送された。
『地上波デビューで吐く女』後に芸能界という荒波を制した白鶴の伝説はここから始まった

思い付いた所だけを書きました。それでは失礼します

思い付いたので少し


龍驤「突然集められたと思ったら何よ?」


潜水新棲姫「ワタシと龍驤はいいとして、富士まで呼ぶとはな」


富士「一体なにが始まるの?」


漣「動画サイトで見た面白そうな企画があったんですけど、それを漣達でやったらどうなるかって試してみたくなったんですよ」


Y子「ここで反応良かったら人数増やして本編でもやるかもってさ」


龍驤「本編?」


Y子「そっちは干渉できない話だから気にしないで~」


富士「……」

漣「ええっと…Y子さんも参加ということでよろしいですか?」


Y子「あたしはお姉ちゃんの影みたいなものだから、居ないものとして考えていいよ」


漣「分かりました。それでは今からお題を出します。それに最も合うであろう言葉を紙に書いて下さい」


潜水新棲姫「言葉というだけでは定義が曖昧だと思うぞ」


龍驤「固有名詞は有りなんか?」


漣「それは龍驤さん達に任せます。それじゃあ一回戦、始めますよ!」


富士「なんで私がこんな事を…」


Y子「頑張れお姉ちゃ~ん」

「あ」から始まる高いもの


龍驤「なんやえらい簡単やね」


潜水新棲姫「ふむ…」


漣「高いといっても色々ありますぜ。そこをどう解釈するかが楽しいんですよ!」


富士「……これよね?」カキカキ


Y子「あたしは何も知らないな~」


富士「少しくらい助けてくれてもいいのよ…?」

漣「全員書けましたね。それではまずは龍驤さんから!」


龍驤「高い…これしか無いんと違う?」
『アルプス山脈』


富士「あっ…表現は少し違うけど私も同じよ」
『アルプス』


漣「なるほど、純粋に高いものを書いたと。漣が書いたのはこれです!」
『アマゾ◯』


龍驤「通販サイトの何が高いんよ?」


漣「送料高くないですか?」


潜水新棲姫「確かにそういう高さもあるな」

漣「嫁は何を書いてんです?」


潜水新棲姫「高い言葉を書いた」
『above』


龍驤「…はぁ」


富士「あ、あぼ…」


Y子「アバーブね。英語の前置詞で意味は~より高くとかそんな感じ」


潜水新棲姫「これより高いものはない。aboveアルプス山脈でワタシの勝ちだ」


漣「それって有りなんですか?」


潜水新棲姫「漣が司会なんだから決めてくれ」


漣「うーん多数決が基本なんですけどねぇ…」


龍驤「一回目やし多数決にしとくか?」


漣「…分かりました、それではアルプス山脈で!」


Y子「お姉ちゃん英語苦手だもんね」


富士「…うるさいわね」

「か」から始まる強い生き物


漣「これもどういう強さを表現するかですね~」


龍驤「あかん…何も出てけぇへん…」


潜水新棲姫「こいつは見た目よりも強い」カキカキ


富士「……」カキカキ


Y子「ぶっ…!」


富士「…私の答えを見て笑うのはやめて欲しいのだけど」


Y子「ごめんってお姉ちゃん」


龍驤「もう…無理やな……」

漣「龍驤さんが苦戦してたので漣からいきます!」
『カブトムシ』


潜水新棲姫「昆虫の中では強いということか」


漣「昆虫というより甲虫ですね。コイツは強いですよ!」


潜水新棲姫「ならワタシはこれだ」
『カバ』


Y子「あ~確かカバってワニとか襲うんだってね」


潜水新棲姫「間違いなく強いだろう」

Y子「二人が実在する生き物を書いてる中お姉ちゃんは~?」


富士「……」
『怪獣』


漣「あぁ~…はい…」


潜水新棲姫「せめて何か固有名が欲しかったな」


富士「何も思い付かなかったのよ…」


漣「さて龍驤さん、顔色が良くありませんがそろそろ出しましょうか?」


龍驤「…ごめん」
『かなり強いライオン』


漣「いやいやいやいや」


潜水新棲姫「かなり強いがつけば何でもいいじゃないか」

龍驤「ほんまにゴメンって…何も出てけぇへんねんって…」


Y子「お姉ちゃんより酷い答えでよかったね」


富士「……」


漣「龍驤さんは話にならないのと、富士さんも具体的な名前が無いので…ここはカバですか」


潜水新棲姫「カブトムシくらいカバなら一捻りだからな」


龍驤「カバ、カブトムシ…それくらい出てきて普通やんな…」


漣「そんなに落ち込まないで下さい。さぁ次にいきますよ」

「さ」から始まるお洒落な趣味


漣「あ、やべぇ…今度は漣が何も出てこない…」


龍驤「これは出てきた!これしかない!」カキカキ


潜水新棲姫「うーむ…これがお洒落か?」カキカキ


富士「……」カキカキ


Y子「ふぅ~ん」


富士「何よ」


Y子「べっつに~書いてるな~って見てるだけだから」


富士「私はこういうの苦手なのよ…!」

龍驤「自信あるからウチからいくで!」
『サーフィン』


漣「あぁぁぁぁ…それだ…」


潜水新棲姫「ワタシは龍驤に負けたな」
『サッカー』


龍驤「よし!これでさっきの汚名返上や!」


Y子「次はお姉ちゃん出しといたら?別に変じゃないから」


富士「……」
『裁縫』


龍驤「これが趣味やと確かにお洒落やね」


潜水新棲姫「だがお洒落というより女子力が高いというイメージだ」

漣「漣の答え…先に謝っておきますので…」
『皿に絵を描く』


Y子「んひひひひっ!」


龍驤「あのなぁ…」


漣「分かってますって!でも何も出てこないんだから仕方ないじゃないですか!」


潜水新棲姫「せめて単語を書いて欲しかった所だ」


富士「……!」プルプル


漣「笑いを堪えられるのが一番キツイんで笑って下せぇ…」


潜水新棲姫「これは龍驤のサーフィンが答えで良いだろうな」

「た」から始まる持ち歩くもの


漣「…これですね」カキカキ


龍驤「これと違うんかなぁ」カキカキ


潜水新棲姫「これしか浮かばない」カキカキ


富士「これ…かしらね…」カキカキ


Y子「んぐっ!」


富士「…もう相手にしないわよ」


Y子「ぐ…ぐふふ…!」


漣「なんか富士さん辺りが騒がしいですな…」

漣「じゃあ漣からいきますよ」
『タブレット』


龍驤「よっしゃ同じや!」
『タブレット』


潜水新棲姫「ほぼ同じだが少し違うな」
『端末』


漣「意味は同じようなもので、こっちと同じと思っていいですね」


富士「……」


Y子「皆がそれっぽいことを書いてる中、お姉ちゃんは何を書いたのかな~?」


富士「……」
『たまごっち』

漣「古っ!」


龍驤「世代が…年代が…」


潜水新棲姫「これじゃあ漣がよく言ってるロリババアじゃないか」


富士「漣っ!!」


漣「ちょ、何暴露してんすか!」


Y子「ふじさんじゅうさんさい」


富士「貴女ねぇ!!」


Y子「だって仮にも始まりの艦娘でしょ?その経歴で十代はキツイって」


富士「貴女も漣も覚えてなさいよ…!」


漣「とばっちりぃ!」


龍驤「とばっちりも何も裏で色々言うてる漣が悪いんやろ」


潜水新棲姫「とりあえず正解はタブレットだな」

「な」から始まるされて嬉しいこと


漣「命の危険を感じるのでこれが最後のお題です…」


龍驤「…書いてええか分からんけど、これしか思い付かん」


潜水新棲姫「ワタシもこれしか無い」


Y子「お姉ちゃん白紙はダメだよ~」


富士「うるさいわね…!だったら適当に書いてさっさと終わらせるわよ!」


Y子「お~怖い怖い」


漣「プレッシャーが凄まじくて頭が回らない…」

漣「何も思い付かなかったので…これで勘弁して下せぇ」
『ナイスって言われる』


富士「私はこれよ!」
『ナポリタン』


Y子「お姉ちゃん適当過ぎ」


富士「早く終わらせるのが目的だから中身は関係ないのよ!」


漣「マジ怖ぇ…」

龍驤「あのな…そっちの答えチラッと見えたから一緒に出そ」


潜水新棲姫「同時にか。よし分かった」
『中◯し』
『中に出される』


Y子「うわ…」


龍驤「最低なのは分かってるよ…うん…」


潜水新棲姫「お題が悪いぞ漣」


Y子「あ~それがさ、二人が答え出したと同時に漣が逃げて、それをお姉ちゃんが追いかけてってよ」


潜水新棲姫「なら答えが出せないな」


龍驤「答えなんか出さんでええって…ウチってほんまこれの事しか考えられへんのかな…」


Y子「仕方ないって、次があるならその時改善すれば良いんだしさ」


龍驤「次があってもウチは呼ばんといて…」

少し長くなってしまいました

また何か思い付けば書き込みます

ある日

飛鷹「今日も清霜は可愛いかったわ…」


清霜「飛鷹さん、分かってると思うけど今日は日帰りでデートだからね?」


飛鷹「分かってるわ、この後ホテルに…!だなんてもう言わないわよ」


清霜「飛鷹さんの事は嫌いじゃないけど、ちゃんと時と場合を考えてって何度も言ったもんね」


飛鷹「清霜とは気持ちが通じたの。もう下心を全開にだなんてしないわ」


清霜「…昨日ベッドで激しかったクセに」


飛鷹「それはそれ、これはこれよ」


清霜「もう、調子いいんだから…」

飛鷹「えっと…この路線の電車に乗ればいいのよね?」


清霜「そうそう。それで三つ先の駅で乗り換えだよ」


飛鷹「横須賀に来てから交通の弁が良くなったのはいいけど、乗り換えは慣れないわね」


清霜「前の所は乗り換えなんて無かったもんね」


飛鷹「これも慣れれば問題無いんでしょうけど…」


清霜「誰にでも苦手なものってあるもんね。清霜が切符買ってくるよ!」タタタッ


飛鷹「清霜…そんな優しい所も好きよ…」

飛鷹「下手に動くと迷子になってしまうから、ここで待っているのがいいわね」


飛鷹「……」キョロキョロ


飛鷹「流石は都会ね…掲示物やポスターが張り巡らされてるわ」


飛鷹「多くは企業のポスターみたいだけど、イベントやその告知なんかも多いのね」


飛鷹「……!?」


清霜「買ってきたよ飛鷹さ~ん…あれ、どうしたの?」


飛鷹「こ、このイベントって……!!」

ーー

秋雲「この秋雲さんに聞きたいことってなにぃ?」


清霜「秋雲って同人誌とか描いてるんだよね?」


秋雲「そりゃー描いてるよ!そっちが本業なんじゃないかってくらいね!」


清霜「じゃあサークルが何かとかよく知ってるんだ」


秋雲「もち!なになに~?そういうのに興味ある?」


飛鷹「あるのよ!!」


秋雲「ビックリしたぁ…飛鷹さん一人だけテンションおかしくない?」


飛鷹「おかしくもなるわ!こんな掲示を見つけたのよ!」スッ


秋雲「ほうほう…」

秋雲「清霜オンリーか。うん、やることは知ってるよ~」


飛鷹「ひゃあ!!夢じゃなかったのね!」


清霜「ポスターの写真スマホで撮ったのに、夢じゃないのかって飛鷹さんうるさかったよ…」


秋雲「場所はここからそこまで遠くないし、ここの提督なら休みだって貰えるでしょ?」


清霜「それなら司令官に相談するよ。秋雲に話があるっていうのはね…」


飛鷹「秋雲!!私はそのイベントに参加したいのよ!」


秋雲「ほほぅ、なるほどねぇ」

秋雲「確認するけどさ、飛鷹さんって絵描ける?」


飛鷹「描けないわ。でも秋雲に教えてもらえば…!」


秋雲「それは無理かなぁ」


飛鷹「そんな…」


清霜「やっぱり秋雲も忙しいもんね」


秋雲「そうじゃないよ、素人が絵が描けるようになるのは長~い時間が掛かるからねぇ」


飛鷹「イベントまでまだ日にちはあるわよ!?」


秋雲「たった数ヶ月じゃ無理無理。最低でも数年は覚悟しておかないと」


飛鷹「……」


清霜「飛鷹さん元気出して。そもそも清霜は目の前にいるでしょ?」


飛鷹「違う…そうじゃないのよ…」

飛鷹「私がどれだけ…清霜を愛しているか表現したかった…誰にも負けない自信があったのに…」


清霜「飛鷹さん…」


飛鷹「私は…清霜が好き、愛してるわ。それを皆にも知らしめたかった…!」


清霜「うん、その気持ちが嬉しいよ。でも秋雲に頼んで無理ならもう仕方が無いから諦めよ?」


秋雲「いいや~?秋雲さんは無理だなんて一言も言ってないよ?」


清霜「でも…絵はそんな簡単に描けないんでしょ?」


秋雲「確かに『絵』は簡単には描けないねぇ」

秋雲「飛鷹さん、絵が描けなくても創作ができなくても参加する方法はあるよ」


飛鷹「本当に…?」


秋雲「それはね、ズバリ写真集!」


清霜「私…の……?」


秋雲「その通り!艦娘の写真集って物凄~~く需要あるからね!」


清霜「で、でも勝手にそんなことしていいの?清霜達の体って一応機密扱いじゃ…」


秋雲「背中のハードポイントは写らないようにして、清霜のコスプレ写真集ってことにすれば問題無し!」

飛鷹「それでも万が一バレたら…」


秋雲「バレてもどうなるさ?核武装して狂ってた大本営はもう存在しないじゃん」


飛鷹「あ…」


清霜「私の…写真集……」


秋雲「どうする?もし本気でやるなら手伝ってあげるよ」


飛鷹「…やりたいわ」


清霜「飛鷹さん…」


飛鷹「お願い秋雲手伝って!私の清霜への愛を全て表現したいの!」


秋雲「よし、乗ったぁ!!全力でサポートしてやろうじゃんか!」

ーー


龍驤「また揃って二人で休みやね」


清霜「ここの所よく休んじゃってごめんね…」


提督「謝る必要は無い。いくらでも休んでもらって構わないからな」


飛鷹「ありがとう提督!」


龍驤「書類では鎮守府外で一泊って書いてあるからそれは守ってな?」


清霜「大丈夫、ちゃんと一日で戻ってくるから」


飛鷹「さぁ行くわよ清霜!!」バタン


提督「…あの二人も順調そうで何よりだ」


龍驤「泊まり掛けでデートやなんてなぁ。ちょっと前の二人やったら考えられへんかったね」


提督「飛鷹も落ち着いたということか」


龍驤「飛鷹も黙ってたらかなりの美人やからね。きっと清霜もそれが分かってきたんと違うんかな」

ーー


飛鷹「いいわ…絶景をバックにした清霜…最高……」ジュルッ


清霜「飛鷹さん、ヨダレを垂らす前にシャッター押して」


飛鷹「おっとと…そうだったわね」


清霜「そのカメラは秋雲に貸してもらったやつだから大事にしないとダメだよ?」


飛鷹「よく分かってるわ。秋雲は資料用に使ってるって言ってたけど、このカメラとんでもなく高いのよね…」


清霜「そんなカメラをヨダレまみれなんて…洒落にならないからね?」


飛鷹「分かってるわ…あ、その表情いい!!」パシャッ


清霜「もう…」

飛鷹「ふぅ、少し休憩ね…」


清霜「大丈夫、疲れてない?」


飛鷹「可愛い清霜を見れば疲れなんて吹き飛ぶわ!」


清霜「やめてよそんな、恥ずかしい…」


飛鷹「清霜は可愛いの!これは誰が何と言おうと覆らない事実なの!」


清霜「もう分かったからぁ…」


飛鷹「あ"!!その表情…クる……!カメラぁっ!!」パシャパシャッ


清霜「……」

ーー


飛鷹「ふーーー!むふぅーーーー!」


清霜「飛鷹さん興奮し過ぎ…」


飛鷹「清霜の裸…撮影……あ"っ!!」ブシュッ


清霜「もう鼻血出してるし…」


飛鷹「秋雲にどうせならR-18版も作ったらって言われたけど…これは…凄いわ!!」


清霜「…お風呂に入ってるだけだよ?鎮守府で一緒に入ってる時はそこまでならないよね?」


飛鷹「ホテルの…お風呂ぉ"っ!!」ダラダラ


清霜「…飛鷹さんが貧血になる前に撮影して」


飛鷹「うぅん…!!」パシャッ

飛鷹「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ…!!」


清霜「ベッドでも…撮影するんだよね…」


飛鷹「清霜ぉ…!」


清霜「こんな姿…飛鷹さんにだから見せるんだからね…?」


飛鷹「あ"ぁぁぁぁーーーーー!!」


清霜「私の裸が色んな人に見られるのは恥ずかしいけど…清霜のコスプレをしてる一般人っていうなら…許容範囲だけどさ…」


飛鷹「ききききき清霜!手でこうやって隠して……!」


清霜「私の…ここを……?」


飛鷹「毛が!手からはみ出て……!!」


清霜「そ、そんな恥ずかしい写真撮ろうとしないでよ!!」


飛鷹「あ"あ"あ"あ"ぁっーーーーー!」パシャパシャパシャッ

ーー


秋雲「お疲れさま~撮影どうだった?」


清霜「飛鷹さんが…」


秋雲「あーうん、あの様子見てたらなんとなく分かるよ」


飛鷹「……燃え尽きたわ」灰


秋雲「飛鷹さんが選んだ写真と、こっちでも良さそうだと思った写真をピックアップしてしておくから」


清霜「何から何までありがとう秋雲」


秋雲「いいっていいって!それより清霜の裸の写真秋雲さんも見るんだけど別にいいの?」


清霜「何か問題ある?」


秋雲「いんや~別に何も~」(やっぱこの鎮守府色々とぶっ飛んでるねぇ)

秋雲「あとは印刷所にデータを送って、本が郵送されてくるんだけど受け取り場所はここだと不味いよねぇ」


清霜「あ、そっか…」


秋雲「まぁそこは秋雲さんがなんとかしておくから!ぜーんぶ任せておいて!」


飛鷹「頼りになるわ…」


秋雲「飛鷹さんは初参加になるわけだから何部用意しておけばいいかがちょっと迷うけど、売れ残らない程度にしておくよ~」


清霜「本当にありがとうね秋雲!」


秋雲「いいってことよ~あとはイベント当日までに体調整えといてね?」


飛鷹「善処…するわ…」


清霜「飛鷹さんが心配だよぉ…」

ーー

ザワザワ


清霜「凄い…これがイベント会場…」


飛鷹「予想より人が多いわね…」


清霜「ここに居る人達…全員清霜の事が好きな人なんだよね…」


飛鷹「その気持ちは分かるわ。清霜はこんなにも可愛いんだもの!」


清霜「飛鷹さん人前で…っと危ない。今日はイズモマンって呼ばないといけないんだよね」


飛鷹「秋雲がその名前を用意してくれたのよ。サークルカットっていうのも用意してくれて有難かったわ」


https://i.imgur.com/P36wBWY.jpg


清霜「こんなイラストを用意してくれるなんて、流石は秋雲だよね!」


飛鷹「清霜もコスプレ売り子?ってやつで手伝ってくれるのも嬉しいわよ!」


清霜「自分のコスプレって何だか変だけど…もし本物だって分かったら大変なことになっちゃうもんね」

「すいません一ついいですか?」


清霜「あ、はいどうぞ!」


「全年齢版とR-18版…」


飛鷹「セットだとお得なので是非二冊どうぞ!」


「おぉ、クオリティの高いコスプレ」


清霜「あはは…ありがとうございます」


飛鷹「この調子なら売れ残ることは無さそうね」ヒソヒソ


清霜「うん、良かったねイズモマンさん!」ヒソヒソ

ーー
清霜写真集R-18版完売しました


飛鷹「…誰も来なくなっちゃったわね」


清霜「まさかR-18版だけが売り切れるなんて…」


飛鷹「二冊セットならお得で…皆一緒に買うと思ったのに…


清霜「みんなそんなにエッチなのが好きなのかな…」


飛鷹「需要は…あるわね…」


清霜「…でもこんなに売れたんだし良かったじゃないイズモマンさん!」


飛鷹「良くないわ…」


清霜「どうして?」


飛鷹「清霜の魅力は…こんなものじゃないのよ…」

飛鷹「もっと色んな人に清霜を知って欲しかった…成年向けだけじゃなくて、全年齢のも頑張ったのよ…」


清霜「…イズモマンが頑張ったのは私がよく知ってるよ。そんな落ち込む必要だなんて無いよ」


飛鷹「ありがとう…清霜…」


清霜「…もう帰ろっか?この辺りにデートできる場所って色々あるし…」


秋雲「帰るのはまだ早ーーーい!」


清霜「え…?」


飛鷹「あれは秋雲…?」

「あれは伝説のサークルS.D.Sのオークラ先生!」


「今日は参加してなかったはずじゃ!?」


秋雲「R-18版が売り切れたんだって?オークラさんが支援物資を持ってきたよ!」ドンッ


飛鷹「その台車に乗った段ボールって…まさか中身は?」


秋雲「もちろんR-18版の写真集!」


清霜「どうやってその情報を知ったの?それになんで本が…」


秋雲「いやー一応SNSでチェックしてたんだけどさ、即効で売り切れって知って慌てて持ってきたんだよね。あとこの本は通販で(勝手に)売ろうとしてた分を持ってきたってわけ!」


飛鷹「秋雲…」


秋雲「チッチッ、ここではオークラ先生と呼びたまえ!」

「オークラ先生、どうしてここに!?」


「その人達の本をなぜ先生が?」


秋雲「あ~…うんとね、イズモマンは私の後輩なんだよね」


飛鷹「…そうね、オークラ先輩にはお世話になってるわ」


「オークラ先生に後輩が!?」


「あの先生の後輩の本…中途半端な物じゃないはず!」ザワザワ


清霜「え、えぇ急に人が…!」


秋雲「このオークラ先生も手伝ってあげるから、残りを全部売っちゃうよ!」


飛鷹「…ええ!」

ーー


秋雲「完売おめでとーー!いやぁ初参加とは思えない戦果だね!」


飛鷹「全部売れた…全年齢版も…」


清霜「秋雲が後から持ってきた本も相当量があったはずなのに…」


飛鷹「それもこれも全部秋雲のお陰よ、本当にありがとう」


秋雲「ん~確かにさ、後半のブーストは秋雲さんの影響もあったけど、あの本を作り上げた飛鷹さん達が凄いんだよ?」


秋雲「全年齢版には清霜の魅力がこれでもか!ってくらい詰まってたし、R-18版なんかもう最高!」


清霜「飛鷹さんはそこまで頑張って撮影してくれたんだ…」

飛鷹「私の写真で清霜の魅力が少しでも伝わったのなら勝ちね」


清霜「こういうのって勝ち負けで考えていいのかな…」


秋雲「艦娘それぞれってことでいいんじゃない?」


飛鷹「あ、そういえば写真集が売れたお金って私達が貰ってよかったの?」


秋雲「もち!二人のデート資金にでも使ってよ~」


清霜「秋雲にはあれだけ手伝ってもらったのに。それなのにお礼が無いっていうのはちょっと…」


秋雲「じゃあさ、二人の馴れ初めとか聞かせてよ!次の本のネタにするから!」


清霜「そんなの面白い?」


秋雲「ロリコン女がロリっ娘を手込めにする話なんて面白いに決まってるじゃん!」


飛鷹「ロリコン女…」


清霜「飛鷹さんって第三者から見たら相当ヤバい人だって自覚してね」


飛鷹「はい……」


秋雲「さぁこの後は打ち上げだよ!パーッとやっちゃうから覚悟しててよぉ!」

ーー

イラストは以前支援絵を描いて頂いた煮干さんから許可を得て使用しました。

それではまた…

あり得たかもしれないもう一つの事象

ーー


んぎゃおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーー!


提督「緊急事態か!?」


龍驤「なんや!?何の音や!?」


秋雲「あ~心配しなくてもいいよ。今のはいわゆる断末魔ってやつだね~」


龍驤「今のが誰かの声…?化け物の叫びとかそんな音やったで?」


提督「秋雲は何か知っているのか?」


秋雲「そりゃあ~秋雲さんだもん。イズモマンこと飛鷹さんの叫びだってすぐわかるよ」


提督「イズモマン…?」


龍驤「あ、もしかして飛鷹が明日休日届け出してたのに関係してる?」


秋雲「その通り!まぁ説明するより見た方が早いだろうから一緒に飛鷹さんの部屋まで行こっか」

ーー


飛鷹「ひ、ひひ……」ヒクヒク


清霜「飛鷹さんしっかりして!」


提督「大丈夫か!?」


龍驤「飛鷹が泡吹いて倒れとる!?」


秋雲「うんうん、そりゃあショックだよね~」


清霜「秋雲は飛鷹さんが倒れた原因が何か知ってるの!?」


秋雲「モチのロンだね」


清霜「だったら早く教えて!もし病気なんだったら霞に言って薬を…!」


秋雲「残念だけど飛鷹さんのソレは薬じゃ治んないかな」


龍驤「まさかまた精神状態が悪化したんか?」


秋雲「むしろその方がマシだったかもね~」

提督「飛鷹は本当に大丈夫なんだな?」


秋雲「そこまで心配するぅ?って思ったけどここはそういう鎮守府だもんね。わかった、ちゃんと説明するから」


清霜「こんなになってるのに大丈夫なの…?」


飛鷹「ひ…ひ……」


秋雲「明日は飛鷹さんにとってそれはもう大切な日だったのさ。それが原因で倒れちゃったんだよね」


龍驤「そんなに大事な用事なんか?」


清霜「私とのデートより大切なものがあるの…?」


秋雲「そーそー、デートなんかよりもずぅっっっと大切だね」


提督「飛鷹にとってそんなものが存在したのか…」

秋雲「提督達はさ、同人ってどれくらい知ってる?」


龍驤「…司令官がロリものの同人誌隠し持っとるレベルで知っとる」


提督「龍驤!?」


清霜「ぅああ…」


秋雲「それってオリジナルのやつ?」


龍驤「何かのキャラやったりオリジナルやったりしとるな」


提督「頼む…もうその辺りで……!」


清霜「こんなになってる提督って初めて見たかも…」


秋雲「ならサークルとかの話をしても大丈夫っぽいね。うん、じゃあ説明してくよ~」

秋雲「飛鷹さんはイズモマンっていう名前で同人活動をしてたんだよね」


龍驤「飛鷹が…それは知らんかったわ」


秋雲「あ~知らなくて当然だと思うよ。だって今回が初参加だし」


清霜「もしかして明日って…」


秋雲「そ、イズモマンのデビュー戦だったんだよね」


龍驤「デビュー戦って…そんな戦うわけと違うやろ?」


秋雲「いーやあそこは戦場だね。海の上とはまた違う…全てのオタクの為の祭典…戦場っ!」


龍驤「はぁ…」


提督「…俺は分かるぞ」ボソッ


清霜「飛鷹さんがそういう活動をしてるからって別に嫌いにならないのに。私には言って欲しかったな」


秋雲「いや~あの内容だと言えないと思うよ」

秋雲「イズモマンさんはね、清霜の写真集で参加しようとてたんだよ」


清霜「清霜の…?そんな写真撮ったかなぁ?」


秋雲「撮られた覚えが無いってことは~?」


龍驤「…隠し撮りか」


秋雲「その通り!」


清霜「飛鷹さん…………」


飛鷹「……」


秋雲「イズモマンさんは全年齢版と成年版の写真集、二つを用意してたんだよね~」


提督「成年版ということは…」


秋雲「もちろんエチエチなやつ!しかもページ増量!」


清霜「……」


飛鷹「………………」

龍驤「なんとなく分かったで、その写真集に不備があって発売できへんようになったから飛鷹はあんな声出したんやな」


秋雲「う~~ん残念ながら外れかな。写真集は問題なく印刷されてるよ」


提督「じゃあ何が原因なんだ?」


秋雲「実はね、明日は清霜オンリーのイベントだったんだよ!」


清霜「清霜…オンリー…?」


秋雲「本や漫画や写真集。全部がぜーんぶ清霜のだけってイベント!」


龍驤「そんなんあるんやな…」

秋雲「艦娘ごとにファンはいるからねぇ。提督も確か軽空母龍驤の写真集持ってたよね?」


提督「…そうだ、あの写真集は龍驤オンリーで買った」


清霜「龍驤さんの前だよ…?」


龍驤「ごめん清霜…その写真集司令官とのプレイに使ってんねん…」


清霜「ど、どうやって!?」


龍驤「司令官がウチに入れながら写真集の方を見る…みたいな…」


秋雲「龍驤さんをオナホ替わりってプレイか!いや~中々高レベルじゃん!」


提督「……」
龍驤「……」


清霜「うわ…ぅわあ……」

秋雲「…で、話を戻すけどイズモマンさんが倒れたのはそのイベントが例のウイルスで中止になったからなんだよね」


龍驤「はあぁぁ…成る程なぁ」


秋雲「さっき中止が発表されたんだよね。情報が出ると同時に参加者にメールが来て…」


提督「それを見た飛鷹があの悲鳴をあげたのか」


秋雲「イズモマンさんは死ぬほどこのイベントを楽しみにしてたからね。そりゃああんなことになるよ」


清霜「…本物がここにいるのに」


秋雲「いやいやいや!それとこれとは違うんだって、ねぇ提督?」


提督「……その通りだ」


秋雲「同人誌っていうのは欲望や妄想の塊なわけ!何をどうやっても本物とは違う!!」


飛鷹「秋雲の…言う通りよ……」

飛鷹「私は清霜に思いが通じた…でもそれが全てでは無いの…」


飛鷹「清霜のことが大好きだから…同人誌だって欲しかったの…」


清霜「喜んでいいのか凄く微妙なんだけど」


秋雲「喜んどいていいと思うよ~」


提督「…俺はイズモマンの気持ちは分かる」


清霜「ロリコンはちょっと黙ってて」


提督「……」


龍驤「司令官…」


清霜「…とにかく、飛鷹さんとは色々話し合う必要があるってことは分かったよ」

飛鷹「ごめんなさい清霜…隠し撮りとか…色々と…」


清霜「…色々?」


飛鷹「清霜とシてる所とか…お風呂の様子とか…」


清霜「…お騒がせしてごめんなさい龍驤さん。コレはちゃんとしつけておくから」


龍驤「う、うん…」


清霜「飛鷹…イズモマン?これからたぁ~っぷりお話…しよ?」


飛鷹「ふぁい……」

ガチャッ

龍驤「あのまま放っといてよかったんかな…」


秋雲「イズモマンさんにとってはむしろ良かったんじゃない?」

秋雲「あ、提督ぅ~秋雲さんオススメの極上ロリもの同人誌…欲しくない?」ヒソヒソ


提督「……」


秋雲「出てくる子みーんなまな板!本物のロリコン作家が描く超大作!これで抜けないロリコンは居ないね!」ヒソヒソ


提督「……」


秋雲「龍驤さんに見つからないようにコソッとあげるから」ヒソヒソ


提督「頼む」ヒソヒソ


秋雲「流石は提督!で、その代わりと言っちゃなんだけど…」ヒソヒソ


提督「あぁ、それくらいなら…」ヒソヒソ


龍驤「……司令官がロリコンなのは知っとるけど…でも浮気しとったウチは強く言えれへんわなぁ…」


秋雲「うしししし…まいどあり…!」ヒソヒソ


提督「これくらいなら安い…それより…」ヒソヒソ


龍驤「ウチ…こんな体しとってほんま良かったわ……」


ーー

清霜オンリーは中止にならなくて本当に良かったと思います



それではまた…

少し、書き込みます


ーー


Y子「お姉ちゃん元気してる?」ガチャ


富士「そこそこね」


Y子「お、こんな時間からお酒だなんてご機嫌だねぇ」


富士「やっとこれが手に入ったから少し味見しようとしてただけよ。貴女もどう?」



Y子「あたしはワイン派だからね、お姉ちゃんが楽しみなよ」



富士「ならそうさせてもらうわ」

Y子「しかしお姉ちゃんってほんと絵に描いたように和風だよね。抹茶が趣味で日本酒好きでしょ?」


富士「私は生まれながらにしてそういう存在なのよ。貴女が捨てた名前が世界の破滅を望むように」


Y子「まぁねぇ…そうなんだけどさ」ジーッ


富士「…何かしら?」


Y子「お姉ちゃんの名前は富士。生まれながらにして大いなる力を持ってる」


富士「えぇ…」

Y子「富士というのはこの国にとって重要な名前であり重要な存在。山の名前にもなってるし」


富士「そんな当たり前のことを今更どうしたの?」


Y子「この国の…いいや、全ての艦娘の上にいるような存在のお姉ちゃんに聞きたいことがあるんだよね」


富士「何かしら?」


Y子「お姉ちゃんの出身地ってどこ?」


富士「…」


Y子「…」


富士「……」


Y子「……」


富士「………」


Y子「………」

Y子「ヘーイ富士、アーユーフロム?」


富士「…」


Y子「おー姉ーちゃーんー?」


富士「………」


富士「……」


富士「…」


富士「…イギリス」ボソッ


Y子「ダウト!はいダーウートーーー!」


富士「ちょっと待って…」


Y子「待ちません~~!エセジャパニーズのお姉ちゃんに弁明の余地はありませんーーーー!」


富士「違う、違うのよ…」

Y子「そんなさ、わざとらしく和服なんか着ちゃってなんなの?ただの日本かぶれのイギリス人じゃん!」


富士「違うの……」


Y子「正直に言ってみなよ、抹茶なんかより紅茶の方が好きなんでしょ、ん?」


富士「そうじゃないの…」


Y子「あたし知ってるからね、金剛と紅茶会みたいなのちょくちょくしてるでしょ?」


富士「あれは紅茶会じゃなくてただのアフタヌーンティーで…それに金剛だけじゃなくて他の艦娘との交流もあるから…」


Y子「アフタヌーンティーって!あたし何も言ってないのに。こんなの自白と一緒じゃん!」


富士「違うの…私の話を聞いて…」

富士「私は生まれる前から名前が決まっていたの…だから私は富士を名乗れるし、そういう存在でいられるの…」


Y子「ふーん。まぁでもイギリス生まれなのには変わりないってことだね」


富士「……」


Y子「別に問題無いならさ、隠さなくても良かったんじゃない?」


富士「こうやって茶化されるのが嫌だったのよ…」


Y子「きひひひ!それが嫌だからずっと黙ってたのにね!」


富士「本編でこんなことが知られたら、どうなるかなんて分かりきってたもの…」


Y子「でも歴史というかその辺の知識が豊富な人だったらとっくに知ってたんじゃない?」


富士「……」


Y子「でもさ、こっちの歴史と四つの壁の向こう側の歴史とじゃ若干違ってるから、それを言い訳にはできたかもね」

Y子「お姉ちゃんの姉というか、先輩というか先人的なのって何?」


富士「…トラファルガー、それにナイル」


Y子「そこ。そこが大きく違う。あたしの知ってる名前が出てこない」


Y子「お姉ちゃんのルーツはロイヤル・サブリン改。腹違いの妹を含めるなら七人の妹が居る姉に当たる、そんな船を元に作られたはずなんだよ」


富士「…聞いたこともない名前ね」


Y子「あたしが知っててお姉ちゃんが知らない。ということは?」


富士「扉の影響…」


Y子「間違いなくそうだろうね」

富士「この世界には貴女が言っている船が存在しない…その結果どうにかなったの?」


Y子「結果は変わらない。けどその過程が違ってしまってる」
富士「…貴女はどう思ってるの?」


Y子「あたしという存在を出現させるための帳尻会わせ。エンプレス・オブ・インディアがあたしの元だなんてカッコ悪いもん」


富士「その名前は分からないけど、確かに貴女らしくはないわね」


Y子「Yというものが存在する為には、ロイヤル・サブリン級が邪魔だった…か」

富士「貴女の名は富士型戦艦二番艦にも付けられている。本来なら私のように存在していてもおかしくないはず」


Y子「そうならなかったのはあたしの名前が付いた兵器が世界を滅ぼすから。だからあたしの名前にはそういう因果が廻るようになってしまった」


富士「……」


Y子「お姉ちゃんの名前は有難いと崇められ、信仰の対象にまでなってる。こんなのどうやっても悪い因果なんか廻りっこないもんね」

Y子「あたしの本体はなんでそこに気付かなかったんだろう。それが分かっていればお姉ちゃんと手を取り合うって結末もあったかもしれないのに」


富士「世界が多少変わっても、力に溺れてしまうということには変わりが無いのね…」


Y子「…色々とごめんねお姉ちゃん。あたしが名前を捨てる前にやったことは、あたしもやったことになるし」


富士「なんとも思ってないわ。こうやって可愛い妹とお喋りできているんだもの」


Y子「…やっぱりあたしも飲む。コップとか何か持ってくるからちょっと待ってて」


富士「取りに行かなくても…ほら、ここにあるわ」スッ

Y子「あたしはこの名前を貰ってからまだ少ししか経ってない。だから知らないこともある」


Y子「そんなあたしに、これから色々と教えて欲しいな」


富士「ええ勿論よ」


Y子「…お姉ちゃん」


富士「分かってるわ。でもその前に」


Y子「うん」


富士、Y子「「…乾杯」」


ーー

富士とY子しか出ないなら外伝でやるべきですね


それでは、また…

Each



「今日から晴れて鎮守府に所属や長かった訓練所暮らしとも、ようやくおさらばできて嬉しい限りやで」

ガタンゴトン

「あんな閉塞的な所におったらストレスが溜まってしゃあないわ。有給休暇が貯まり次第に全部消化したろ!」



◯「………」

「向かいに座っとる龍驤はなんか雰囲気が軽そうやな。同じ龍驤やからウチには分かるで」



◯「ふぁ…」

「ここは電車の中やのにあんな大あくびしよってしゃあない奴やな」

ガタンゴトン

「電車…そういえばウチはなんでここに座っとるんや?」



「他にお客さんもおらんようやし一体どうなっとるんやろ?」


ゴーーーー

「あ、トンネルに入るんか」




ガタンゴトンガタンゴトン

Rapid



◯「ふぁぁほんまダルいわ。なんでウチが朝から出やなあかんねん」



◯「鎮守府での訓練とか出撃がこんなにチョロいとは思わんかったわ。これやと訓練所の方がしんどかったで」



◯「あれだけ手抜いても怒られへんとはホンマにええ鎮守府に恵まれたわ」

ガタンゴトン

×「うんええで、ほな待ち合わせはいつものホテルでな

◯「あの龍驤なんちゅう電話してんねん。一応ここは公共の場やで」



×「よしほな次はコイツに……もしもし」

◯「二股かいな、しかも同じ日に違う相手と会うとかアイツ終わっとるな」



◯「でもこんな貧相な体を好きになってくれるマニアは貴重や、キープしときたいって気持ちは分からんでもないわ」

ゴーーーー

◯「トンネル…そもそもウチはどこに向かってるんやったか?」




ガタンガタン、ガタンガタン

Limited



×「よっしゃこれで次の休みは朝から晩までハメ放題や、今から楽しみやわぁ」



×「もうじき田舎に異動になるし、遊び倒してからやないと損やからね」



×「あのクソ司令官に色仕掛けが通用しとったらウチは異動せずに済んだのに。こればっかりはしゃあないか」



×「こんな楽しいことを知ってしまったからには、もう止めるなんて考えられへんからね」

ガタンガタン

×「ウチはなんでこの電車に乗ってるんや。目の前に不快なもんが座っとるし次の駅で降りたろ」



龍驤「……」

×「なんやねんあの龍驤ガイジとか終わっとるやろ。さっさと解体されろや」



×「左腕と左脚が無いとか生きとる意味ないやろ、死んだ方が社会の為やっていうのがわからんのか」



龍驤「………」

×「今の聞こえてたか。こっち見んなよキモいねん」



×「ほんま気分悪いわさっさと着けへんのか」

ゴーーーー

×「ここにきてトンネルとか最悪や…」




ガタンゴトン…ガタンゴトン…

Ordinary



龍驤「一体何が起こってるんや、向かいに座っとったのは昔のウチと違うかったか?」



龍驤「龍驤なんか他にもおるけどアイツは間違いなくウチや」




龍驤「あ、え、ウチいつの間にこっちに座っとるん?」



龍驤「向かいの龍驤がおった所にウチが座って、元々ウチがおった所には…」



□「………」

龍驤「え、ええ?」

ガタンゴトン……

龍驤「あの右腕は義手で右脚も作りもんや」



□「………」

龍驤「なあアンタなんでそんな死んだような目をしてんの?」




□「………」

龍驤「ウチが言うてること聞こえてるなら返事してくれへん?」



□「………」

龍驤「何か答えてや嫌なこと想像してしまうやろ」



□「………」

龍驤「右側はいつケガした?」



□「………」

龍驤「どれくらい前から四肢を欠損してんの?」




□「………」

龍驤「アンタは……未来のウチなんか?」




□「………」

ゴーーーー

龍驤「トンネル…。ああそうかウチは…」




ガタン…ゴトン…ガタン…ゴトン…

Slowly



□「………」



□「………」



□「………」

ガタン…ゴトン…

□「………」



□「………」



□「………」



□「………」



□「………」



□「………」



□「………」

ゴーーーー

□「………」





ガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトン
ガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトン
ガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトン

ガタンゴトン



・「あれ、いつの間に電車に乗ってたんだろ。無意識に乗ってたらちょっと怖いな」



・「今日は何曜日だっけ、休みだったら最悪だ…」

ガタンゴトン

□「………」

・「あれ向かいに座ってるのって」



□「………」







・「お**さんどうしてそんな所にいるの?」



Forwarding

End point?



End point does not come



Sin is never forgiven



From y to r...

>>663から

 
 
球体内部から露出した八島と目が合った



そう理解した瞬間私は反射的に砲台の射手席から飛び出していた


その直後に砲台が爆発、私は吹き飛ばされ危うく要塞から落下する所を島風が受け止めてくれた


島風「大丈夫!?…いったい何が…」


【そんな…切り札が…これじゃあ…】


狼狽する富士さんの声が聞こえた。そして…


八島『ようやく脱出できたよ。ありがとうねぇ』


まだ燃えている砲台の残骸の上にその火を纏うように彼女は居た


八島『ふん…あたしも慢心してたって事かな、あんな死に損ないの亡者共に動きを抑えられるなんてねぇ』


島風「やあぁッ!」


島風が飛び蹴りを放つもあっさりと叩き落とされてしまう


島風「ぎゃん!」


「島風!」


八島『邪魔だよ、雑魚が』


そこに音も無く背後から奇襲を仕掛ける早霜さん、しかしそれも防がれカウンターを食らってしまう

 
 
早霜「がふっ…」



八島『不意討ちしか能が無いのかな?来るって解ってればそうそう食らわないよ』


「もう止めてください!」


私は砲を八島に向けて構える、それを見ても八島は全く動じる気配は無い。私の力では威嚇にもならないようだった


八島『さぁて…何を狙ってたのかは知らないけどこれでチェックメイトだねぇ』


「っ…」


八島『おっと、ここでただ消してしまってもつまらないか…。ねぇ朝潮、ちょっとお話しようか』


「何を…」


倒れた島風を踏みつけにし、早霜さんを横目で見ながらそう言って笑う。早霜さんはそれを見て歯噛みをする。下手な動きをすれは島風は無事では済まないだろう


八島『朝潮?あんたが今ここに居る理由、消える前に教えてあげる』


ドクン


私がここに居る理由…それは私が売り飛ばされ、そして人を殺したから


八島『きひ、そうだねぇ。ならそもそもどうしてそんな事になったと思う?』


ドクン


聞いてはいけない、そんな予感がする。しかしここで拒否しても島風は殺される。結局はその時が早まるだけだとしても迂闊な事は出来ない

 
 
八島『あの人間…島風提督だっけ?安心していいよ。あいつは正しく善良な人間だった』



「…」


それは解る。そうでなければあの五月雨や島風だってあそこまで慕ったりはしない。今現在の彼こそが本来の島風提督なのだろう


八島『ならどうして朝潮を始め艦娘を売り飛ばすなんて悪事に手を染めたのかなぁ?』


島風「…っ!」


島風が泣きそうな顔になる。島風提督がそうした原因となったのは自分のせいだと責任を感じているのは知っていた


早霜「…その口振りだとまるで貴女がそうさせたと言っているように聞こえるわね」


八島『きひひひ!ご名答!』


「は…?」


八島『四肢を失った島風を救う為にはお金が必要だった。艦娘を買いたがってる人間も居た。でもあの人間は最初は踏み止まってた』


島風「え…」


八島『だからさぁ…あたしが背中を押してあげたのさ!魔が差したってやつみたいにさぁ!いや神の導きかな?』


「……どうして…」


島風「こいつが…?」


八島『何事も無く丸く収まるなんて観客は納得しないんだよ!それをあいつは邪魔ばっかりしてさぁ!』

 
 
「邪魔…?もしかして…」



八島『あたしから力を奪っただけじゃ飽き足らず、あたしのシナリオにケチばっかりつけてくるようになった!忌々しい!』


「貴女は…」


八島『あぁでもあれは良かった。あの深海棲艦…潜水新棲姫。あいつが頭をぶち抜かれた時…あの艦娘の絶望の叫び…きひひひ』


「な…!」


八島『…なのにあそこでもフォローのつもりか知らないけど救いやがった…。何度も何度も何度も何度もあたしが決定した運命を覆してきやがって…!』


「…私がここに居る理由はじゃあ…」


八島『あ?あぁ…あんたもあのままだったらその存在自体フェードアウトしてただろうねぇ。たまーに話には上ってもいずれは忘れ去られていくだけの過去に』


忘れ去られて…司令官が私を忘れる…


八島『それをあいつは…ここに救い上げた。まぁそれはそれで?また新しい絶望を考える楽しみが出来たからいいけどさぁ』


そうして八島は私に向かって腕を伸ばす。その手のひらに凶悪な力が充填されていくのを感じる


八島『今回の絶望はあいつに。苦労して救った朝潮が敢えなく殺される。あいつが見たのは消え行く朝潮の魂、生まれ変わる事も最早不可能と…きひ』


「…く」


 
 
島風「ねぇあんた」



八島『あ?』


背後から声を掛けられ振り向いた八島。その後頭部に砲弾が吸い込まれていくのが妙にスローモーションで見えた


ドゴォン!


八島は完全に不意を突かれていた。私や島風、早霜さんには全く付け入る隙は無かった。しかしそのどれとも違う方向からの奇襲だった


ドゴォン!ドォン!


更に別の方向からも砲撃、対してダメージは与えられてはいないようだが爆発自体は八島の動きを阻害している


「あれは…連装砲ちゃん?島風?」


島風の連装砲ちゃんが八島に対して十字放火を仕掛けている。そういえば島風は接近戦ばかりで武装を出してはいなかった。違う、既に出していたのだ


ヒュンヒュンヒュン


そこに風を切る音がして何かが宙を走る


「あれは…糸?…あっ」


糸が八島の足に巻き付き更に自由を奪っていく。早霜さんの使っていたあの糸だった


島風「切り札はここぞで使うものだよ!」


早霜「朝潮!今しか無いわ!」


「っ!…はい!」



 
私は再び砲を構え、八島に向ける。威嚇にもならない私の砲、避けるまでもない私の攻撃


八島『雑魚共が姑息な真似を!そんな攻撃があたしに効くか!弾が尽きた時がお前らの命が尽きる時だ!』


そして私は撃った。私達の攻撃は八島には通じない。奇襲により多少のダメージは与えられてもそこまでだ。だけど―――


ギュウウウウン!


八島『な!?』


八島を中心にまるでブラックホールのような黒い力場が発生し八島を拘束した


八島『何だこれは!ぐぅう!』


「…思っていました」


八島『あぁ!?』


「富士さんもそうですが貴女も対人戦には慣れていませんね?」


八島『は?あたしが…あたしがどれだけの人間や艦娘を殺したと思ってる!』


「それは圧倒的な火力や攻撃範囲で蹂躙するだけのものですよね、二人の戦い方を見ていて解りました」


早霜「確かに単体としてもその強さは私達では敵わない…だけど割りと隙は見付けられていたわ」


「だから陽動やフェイントには引っ掛かり易いと思いました。だから…」


八島がずっとこちらを観察しているのには気付いていた。この切り札もただ普通に使っては防がれるか避けられてしまう可能性が高かった

 
 
だから砲台には自前の砲弾をあたかも切り札のように装填。そして実際には無力な砲台を破壊させ自らの勝ちを確信した八島は必ず油断すると踏んだのだ



八島『このぉぉぉ!艦娘ごときがあたしを!がぁぁぁ!何でだ!何で動けない!?』


【―――その弾は貴女にも抵抗は不可能よ】


「富士さん」


少しは休息が取れたのか顔色が幾分良くなっている富士さんが私達の後ろに立っていた


八島『こいつは何なんだ!愚姉!』


【―――それはあの人が作ったものよ】


八島『!!!』


【…と言っても持ち込んだのは設計図だけだったけど。み…とある協力者に設計図を渡して頼んでみたら見事に再現してくれた。紛れも無く天才ねあの子】


「結局何だったんですか?あの弾は。当てさえすればとは聞いていましたが…」


【未来…過去かしら?とにかく今の世界には存在しない技術により作られた特殊砲弾…対象をその空間ごと抉り取り別次元に放逐する】


島風「SFの武器みたいな?」


【そうね、だけどその世界でも正式採用はされなかったけれど、砲弾ひとつに莫大なコストが掛かりすぎると計画は凍結されたわ。幾つかの試作品は封印され、そして設計図だけが残った】


「あの…抵抗出来ないというのは…」


 
 
【…その弾の設計者は…艦娘、富士の要塞艤装を…そして空中要塞八島を作った、その他にも数々のこの世界ではあり得ない兵器を作った人物…その因果はその名を持つ者にこそ効く】



八島『…』


その人物の話が出ている間の八島はこれまでとは比べ物にならない憎悪と、そして僅かに恐怖を浮かべていた


【今の私達には貴女は倒せない、だからこうして追い返す。だけどここには並大抵では来る事は出来ない。例え貴女でも】


八島『…時間稼ぎのつもりか』


【そうね…今は無理だけどいずれは対抗出来るようになって見せるわ】


八島『はっ…、いいよ。今回はあたしの敗けだ、認めてあげる。でも次は無い。あたしも今度は準備してお前らを消しに行ってやる』


【…簡単にはいかないわよ】


八島『…だけど置き土産くらいはしていくよ』


「何を…」


八島『忘れるな、世界はあたし達を―――』


そうして八島はこの世界から放逐されたのだった

 
 
それから少ししてボロボロになったY子さんが戻って来た。八島が居なくなった事により、空中要塞もあの死者の群れも消えたようだった



『いやぁ…死ぬかと思ったよ…数の暴力って怖いねぇ』


見た目はボロボロだが割りと元気そうで安心した


再び拠点となる家を修復する作業に富士さんが取り掛かるが消耗もあってあまり進んではいない。しばらくは野宿になるだろう


「あの…Y子さん」


『無事で良かったよ朝ちゃん。頑張ってくれたみたいで。…その…ありがとね、身内というか同一存在の不始末というか…』


「聞きました…力の事…」


『…』


その言葉を聞いたY子さんは俯いて私と目を合わせようとしない。出来ないのか


「聞かせてください」


『…あいつが本格的に干渉を始めたのが何時かはあたしは知らない、あたしという存在が生まれたのはそれほど前じゃないから』


『気付いたらあたしだった、そんな感じで、もう一人のあたしが色々やってるのを見てるだけだった』


『あいつは楽しそうだった。人の運命を狂わせたり、争いを助長したり、悲劇的な事を好んで行っていた』


『だけどあたしにはそれの何処が楽しいのか解らなかった。だから…』


『あいつが干渉した結果を更に干渉して覆そうとした。だけど起こった事を無かった事には出来ないから本当に難しかった』


 
 
『そしたらあいつは激怒してあたしを消そうとした、あたしは消えたくなかった』



『だから…』


機械的に感情を殺し話すY子さん。まるで懺悔をしているようで


「これまであった事で良い結果になったのはY子さんが?」


『全部じゃないよ…もちろん悪い結果の全てにあいつが関わってる訳でもない。そもそも個人である以上全てを関知なんて出来やしないんだ』


「私が…売られたのは」


『っ…ごめんなさい!』


土下座でもしそうな勢いで謝るY子さんを遮り


「それをしたのはあっちであって貴女ではないんですよね?」


『それは…そうだけど…』


「今更…私にY子さんを憎めとでも言うんですか?それこそ怒りますよ」


『うぅ…』


彼女は決して言わないがおそらくはこれまで何度も救われているのだ、私だけではなく、消えてしまうはずだった漣さんや、新棲姫さん、それ以外にも沢山


それでも溢れてしまう。一人の手のひらでは全ては救えない。例え運命に干渉出来てもそれは変わらないのだ


そしてそれ以上にこの世界は残酷なのだと私達は知っている


仮にそんな力が存在しなかったとしてもこの世界は私達を―――


この世界はあたし達を


―――憎んでいる

ここまで
ごめん…なさ…

こちらで書かれた短編の登場人物である「・」がかすみであるとしたら、
霞の死はおそらく何をしても防げなかった?
「□」に龍驤がなってしまうのは規定路線?
他と違って「□」と同時に他の個体が存在しないのは生きていないから?
「トンネル」と「罪」が何を示しているのかが分からん

>>796から

 
 
八島との戦いからしばらくして



修復された部屋で私達はまたいつもの様にくつろいでいた


あれからも現世では色々な事があった


反大本営派と大本営との対立が本格化する中で鉄の海域に鎮座していた繭がついに孵化した


それは世界中の深海棲艦のほとんどを吸収して生まれた深海棲艦の完全体であるという


「新棲姫さん…」


新棲姫「なんだ?」


「深海棲艦って虫なんですか?糸出したり繭から産まれたり…」


私にはたまに失言をする癖があるのを忘れていた。涙目の新棲姫さんにすごい睨まれてしまった…


そしてその完全体…現世では成虫と呼称されている辺りやっぱり


新棲姫「あ"?」


…その完全体にはおかしな事に一人の少女の人格が宿っていた。かつて龍驤さんが助けられなかった人間と深海棲艦との間に産まれた少女が


何故陸地で亡くなったはずの少女の人格が遠く離れた海の繭に宿っていたのか…。新棲姫さんはあくまでも仮説だがと前置きをして


新棲姫「件の少女は電車に引かれバラバラになった。もしかするとそこに大本営か組織が関わっていたのかもしれない」


「まさか…遺体の一部を回収して…?」


新棲姫「何らかの実験にそれが使われ、別の深海棲艦となっていて、それが繭に吸収されたという可能性だがどうだろうな」


 
 
そして完全体の脅威を感じた富士さんがついに現界する決意を固めた



【あれほどの力を持った存在をあの子が放っておくとは考えられない。奪われる前に何とかしないとならないわ】


『お姉ちゃん…気をつけて、多分あいつはそれも狙って…』


【えぇ…私がそう考え動くのを待っているのかもしれないわね。だけど動かなければ結局はあの成虫は奪われる、小さな女の子の魂なんてあの子にとっては何の障害にもならない】


「富士さん…」


【…また、会いましょう】


そう言って私達一人一人を抱き締めてから富士さんは現世へと向かうのだった


そしてその懸念は見事に的中してしまっていた


漣さんの協力で建造ドックを作動させ艦娘、富士を完成させようとしている最中、それは来た


よりにもよって今現在現世で一二を争う強さを誇る武蔵さんの身体を乗っ取った八島が


「間に合わなかった…!」


新棲姫「あのままドックを破壊されたら富士は…」


『漣!!!』


突然Y子さんが声を張り上げた。その声が届いたのかどうか武蔵さんに倒されていた漣さんが僅かに反応した


『無理矢理だけど材料はそろってる!お願い!』


 
 
「Y子さん…?」



ガコン


ギギィィィィ…


何処かで扉が開く様な音が聞こえた


画面向こうの武蔵さん…八島が苦しみの声を上げる。その身体が薄れて…いや、武蔵さんの中に居る八島が薄れていっているのが判る


その八島が何かをしようと手を翳す





『させるか!』


私達には何をしているのかまるで判らなかったが、画面向こうの八島がこちらを、Y子さんを睨み付けている


―――くそっ、邪魔しやがって―――


そう言っている様な気がした


そして八島の気配が消えていく


何処からか光が漏れているのか画面向こうの様子がよく見えなくなっていく


『…お姉ちゃん』


新棲姫「そうか…あの光が例の扉か…私達には変化は無いようだが」


『…あの扉は現世の存在にしか影響は無いよ。少なくともそういう願いをわざわざしない限りは』


そして世界は一部書き変わった


 
 
艦娘には富士守りという物があり、その守りを身に付けた艦娘は旗艦である限り沈む事は無いという



荷電粒子砲八島は消え、代わりに核弾頭に置き換わっていた。それも充分脅威ではあるのだが


「富士さんは…」


『まだ…完全には消えてない…でも何処に居るのかまでは…』


―――また会いましょう


富士さんはそう言ったのだ、嘘にしないでと私は願った


その後、漣さんとまるゆさんの働きにより核は停止され、いよいよ大本営も後が無くなった


そして繭から生まれた成虫に少女の人格が宿っている事に気付いた龍驤さんが接触、なんと和解する事に成功した


深海海月姫も姿が変わってしまったとはいえ子供が戻って来た事で態度を軟化させているようだった


これで龍驤さんの過去も精算されたかに見えたが、少女と再会した龍驤さんは償いにと鎮守府を出てその子の側に着くようになってしまった


「また…」


新棲姫「しかも今度は戻るつもりが無いと来た。全く…漣とタメを張るトラブルメーカーだな」


呂500「あの子の事は今の龍驤さんの原点です…簡単にはいかないんですって…」


早霜「罪を…償うか…でも」


「えぇ、今居る人達を蔑ろにしてまでする事ではありませんね…」

 
 
しかし龍驤さんにとっては再会してしまった以上ごめんなさい、許します、では済まないのだろう



そして龍驤さんに会えない期間が続く中司令官は心労から倒れてしまう。そんな司令官を支えようと必死な朝霜さんも精神に変調をきたし足を切り落としてしまった


そんな状況に漣さんは激昂し、あちらの新棲姫さんを伴って龍驤さんを殺そうとする


新棲姫「間違いだとは思う。だがワタシが拒否したら漣は一人でいってしまうだろうな…。と言っても説得する暇も無い。こういう時の漣は行動が早いからな…」


ならせめて側に居られるようにと協力するのは解ると悲しそうにこちらの新棲姫さんは言った


しかしやはり漣さんは冷静さを欠いていたようだった。龍驤さんの側にはすっかり懐いた完全体が居る、あっさりと気絶させられてしまう


漣さんから状況を聞いた龍驤さんはついに司令官の元へ帰り、ようやく元の鞘へと戻ったようだった


病院にて追い付いて来た漣さんの殺さずに済んだという表情が忘れられない、誰よりも嫌っていて、それでも決してそれだけではないという複雑な感情を垣間見た気がした


そして大本営は荷電粒子砲を失い、切り札であった信濃さんのクローンも完全体に全滅させられ瓦解、新大本営として幹部さんが指揮を執っている


ようやく状況が落ち着き始めた。司令官の横須賀鎮守府への栄転の話が出ていて司令官は悩んでいるようだった


だが…困難はまだ終わってはいなかった


 
 
整備士さんの所の深海吹雪が暴走、拘束されていた旧大本営の艦娘を脱走させたのだ



しかもその艦娘達は


「霧の艦隊…?話には聞いた事はありますが実在していたんですか?」


レ級さんのような超重力砲、攻撃を反射するというバリアを使うらしいが私は詳しくは知らない


新棲姫「…常々おかしいと思っていたが旧大本営の技術レベルはアンバランス過ぎるな」


「え?」


新棲姫「艦娘自体も大概だが、使う武器そのものは人類がかつて使っていた兵器の延長に過ぎない」


新棲姫「かと思えばSFの世界かという程のトンデモ兵器を隠していたりどうもな…」


新棲姫さんにも確信は無いのか歯切れ悪く続ける


新棲姫「それにだ、仮に扉の力だとしても何も無い所から兵器が出てきたりはしない。これまで話にも上らなかったが設計者は誰だ?それに組織の傀儡は元々は整備士だったらしいが今は誰だ?」


ひとしきり疑問を吐き出して満足したのか新棲姫さんは黙りこみ再び思索に耽った


『…』


その間Y子さんが苦し気な表情をしていたのが印象に残ったが私では何を聞けばいいのか解らず沈黙するしかなかった


 
 
脱走した霧の艦娘というのはどうも不完全なようで超重力砲は使えないらしかった。それでも反射するフィールドだけでも充分脅威だ。何せこちらから攻撃が出来ないのだから



しかし状況は反逆の首魁であるはずの深海吹雪の暴走で一気に動いた


あろうことか説得する為に現れた整備士さんを撃ち殺し発狂、深海化し味方であるはずの霧の艦娘達に襲い掛かった。その力は凄まじく次々と自ら脱走させた艦娘達を殺戮していく


しかしその隙を突いたレ級さんの超重力砲が暴走する深海吹雪をついに消し飛ばした


「やりましたね…。あれ?あんな所に深海棲艦が居ます」


新棲姫「いつか聞いた精神汚染するという奴と同じ姿だな…アイツの仕業か」


『…違う』


「え?」


『深海吹雪の力はあんな奴を遥かに超えてる、精神力でも。簡単に汚染なんて出来やしない』


新棲姫「じゃあ…」


『あいつだ…まだ消えてなかった…しかも…見付けた…お姉ちゃん…』


そう言った直後


ガコン…ギギイイィィィ…


また扉が開く音が聞こえ、そして気付いた時には状況が一変していた


深海吹雪が居た場所にはあの―――繭から生まれた完全体が居た、しかも遥かに巨大でオーラのようなものまで纏っている


 
 
『世界の滅びを願ったか…しかもあいつ…それに便乗してあの身体を手に入れた…一応、ここからは名前は伏せてくれる?』



名は力…そして鎖。いつか言っていた言葉を思い出す。そうか…あの人が…


新棲姫「…あの化け物の中に奴が居るのか?」


『そしてお姉ちゃんも…捕まってる…』


「このままじゃ…どうしたら…」


『こちらからじゃどうにも…いや、ちょっと待って、そうか…』


何かを考えているY子さんを尻目にまたも状況は動いていく、私達には何も出来ない…


完全体が核を手に入れようと向かっている中、レ級さんと暁さんがそれを爆破、そして荒潮が完全体に何かを仕掛け―――時が止まった


「え?」


新棲姫「あれが荒潮の能力か、本当にアイツらはチートだな」


半ば呆れた声を出す新棲姫さん、止まった時の中でこれでもかと防弾や魚雷を投げつけている荒潮


『だけどこっちにも好都合、あの二人が鍵だ。今のお姉ちゃん一人の力じゃキツいから呼び込むのを手伝った』


「あの二人?」


『あれは言ってみれば外の世界の力…あいつにもそれなりに有効だから』


画面が切り替わりその姿が映し出される、そこにはレ級さんと、肌が白く染まった暁さんがまさに決着を付けている所だった


 
 
荒潮の攻撃の影響か身体半分を失い、レ級さん達の攻撃でついにその元凶は今度こそ消えていく。やけにあっけない気もするが…



新棲姫「これでやっと終わったんだよな…」


「でも…富士さんが…」


島風「あの人消えちゃうの?まだちゃんとお話した事無かったのに…」


早霜「…彼女も自らの罪を精算する機会を探していたのね、出来たら色々参考にさせて貰いたかったのだけれど…」


口々に言う私達の言葉を聞いていかにも仕方無くという風にY子さんが言った


『…あーもう世話の焼ける愚姉だよ全く。まだ隠居するには早いんだってば』


そうしてY子さんが何かをしたようだった。後に建造ドックで呆然と立ち尽くす富士さんを見付けた私はY子さんにお礼を言うと


『別に…勝手に満足して消えるなんて許さないだけだよ、まだ…やらなきゃならない事は沢山あるんだから』


とそっぽを向いて言うのだった。漣さんの龍驤さんに対するような複雑な感情をY子さんからも感じ、私は微笑ましいような、不安なようなそんな気持ちになるのだった

ここまで
次辺りで

足りなかったものpart10ラストで
「これからウチが話す内容にタイトルをつけるとしたら……うん、これやね」

龍驤「足りないもの」
龍驤「まだ、足りないもの」
龍驤「もう少し、足りないもの」
龍驤「足りなかったもの」

今のタイトルは
漣「足りないもの、そのご」

本編が龍驤によって語られたものだとするとこの物語は龍驤が語ることができない?
考えすぎかな?

>>812から

 
 
繭から生まれた完全体や大本営、組織、深海吹雪、そして八島…だいたいの問題が一応の決着を見て現世は忙しなく動き続けている



時の止まった世界で私達はそれを眺める


現界した富士さんが司令官達に伝えた深海吹雪が残した世界滅亡の願いもあちらの新棲姫さんの機転で回避出来そうだった


新棲姫「さすがはワタシだな、あの富士ですら思い付かない事に容易く辿り着く」


『いやぁ…お姉ちゃんは割とポンコツだからねぇ』


これでようやく平和になるのだと安心した私だったが


Y子さんはそれからというもの考え込む事が多くなった


そしてある日、私達全員を集めて突然こう言い出した


『…あたしは、行こうと思う』





 
 
「…行くって何処へですか?」



『現世に』


「どうして…」


早霜「説明はしてくれるのでしょう?わざわざこうして集めたのだから」


『もちろん』


そうしてY子さんは話出す


『まずひとつ、世界の滅亡は一旦は回避された、遥かな未来に先送りにするという方法で』


『確かにあの場面ではあれ以上の策は無かった、ひとつの犠牲も出さないという意味では。でも…』

新棲姫「一旦はと言ったな、つまりまだ…」


『願いは今もまだ発動し続けている、その先送りした時に辿り着くまで』


「そんな…」


『逆に言えばそれまでは絶対に世界は滅びないとも言える』


「だったら何も問題は無いのでは…」


『なら聞くけど、例えば人間が100万人死んだら朝ちゃんはそれで世界が滅んだと思う?』


「っ!それじゃあ…」


『そう、結局は今までと何も変わってはいないんだ。100万人は極端な例だけど、世界が滅ばない程度の何が起きるかは判らない』


以前には2000人の犠牲者が出たり大本営が町ひとつを消したり、そもそもこれまでの深海悽艦との戦いでどれだけの人や艦娘が亡くなったのか…

 
 
『もう一人のあたし…扉の力でも消しきれないのは証明されてる。何かの拍子に名前を呼ばれないとも限らない。そんな時お姉ちゃん一人じゃ心許ないし…それに…』



「それに?」


『……杞憂、なら…いいけど、あたしには多分やらなくちゃならない事がある』


まただ、あの八島も、そしてY子さんも浮かべていたあの表情…畏れのような…


「あの人…ですか?」


『っ……うん、そう…。造り出し、名前を与え、因果が生まれた…もし…今の世界にも居たらきっとまた…』


「もし?」


『判らない…あたしからは何も読み取れない、もしかしたらお姉ちゃんなら判るかもだけど…』


何だかY子さんが普段よりも更に縮こまって見えた。それほどに怖いのだろうか


『……何かあった時…見守るだけじゃ駄目なんだって、見に染みて解ったんだ…だから…』


Y子さんは私達を見回し、言った

『出来たら一緒に来て欲しい、いざという時にあたしに力を貸して欲しい…お願い』


そうして頭を下げた


 
 
「私はもちろんY子さんに協力しますよ、頼まれなくったって」



『朝ちゃん…ありがとう』


早霜「…私は朝霜姉さんにもう一度会えるなら…」


呂500「ろーも…でっちに…」


呂500さんはちらりと早霜さんを見る。自分を殺した張本人が側に居る、とはいえその目には恐怖は無かった


再会して少し後、早霜さんは呂500さんを呼び出して二人だけで何かを話していた。その時にはもう一度殺されるんじゃないかと怯えていたが、Y子さんが説得してやっと話し合いに応じた


詳しい内容は知らないがどうやら土下座までしたらしいとY子さんがこっそり教えてくれた


呂500さんは客商売をしているだけあって人を見る目はかなり鍛えられている。早霜さんが以前とは違うと理解してくれたようだった


島風「あたしも!提督やさみだれに会いたい!」


新棲姫「ワタシ達は戻れるのか?しかし…既に…」


新棲姫さんや島風、呂500さんは既に傀儡として生きている、そこに私達が加わったらまたややこしい事にならないだろうか


『そこなんだけどね…、いやぁホント…これはあたしも予想外だった』


新棲姫「勿体振るな」


『あの人間…整備士の再現度は半端じゃない、本当に同じ魂を再現している、本人は全然気付いてはいないみたいだけど』


 
 
「つまり?」



『統合可能という事、これが別個体なら無理矢理乗っ取るとかして人格崩壊しかねないんだけどね』


「でも私や早霜さんには身体が無いのでは…それに整備士さんはもう…」


『生きてるよ、あの人間もある意味不死の存在なのかもね…全くこれだから人間が一番…』


『…そして整備士は今、朝潮と早霜を再現してる。どんな考えなのかは知らないけど、ここに便乗させて貰う』


私も甦れる?司令官や皆に会える…?


「……ぁ、っ…会いたい…です…会って謝りたい…私…」


『…うん、だけど…ひとつだけ、朝ちゃんだけじゃなくて皆にもこれだけは忘れないで欲しいんだ』

真剣な目で私達一人一人を見、そして言う


『肉体を得るという事はまたあらゆる欲望や痛みや苦しみも得るという事。現世は誘惑に満ち溢れてる、下手をしたらまた繰り返してしまう可能性だってゼロじゃない、それでも…』


それでも…戻りたいか、とY子さんは問い掛ける


私は……


 
 
『なんてね』



「え?」


『さっきも言ったけど、あたしはもう見守るだけなのは止めたんだ…そんな事にはさせない。誰だって幸せになっていいんだ』


「Y子さん…」


『…そしてこの五人には力を貸して欲しい。いざという時…魂の世界での生活は無駄にはならないはずだから』


『そして…』


その後の言葉は私達には届かない小さなもので、聞き返しても答えてはくれなかった


―――そしてもし、あたしが駄目な時には、残った全てを、そしてあたしの代わりに―――


 
 
それから、私達は現世へ旅立つ準備をしている



と言っても持っていける荷物など無いので身一つ、というか魂一つ


そして私達は大きな建物の前に集まっている


それは私達にとっては慣れ親しんだ鎮守府と同じ外観だった


『念の為にこの場所は残しておこうと思う。けど引っ張り上げる者も居なくなるから辿り着けるかは本人次第になるけど』


「必要にならなければいいですね…」


『そうだね…』


早霜「それを防ぐ為に行くのでしょう?」


島風「早く行こうよー」


目の前には白いトンネルのようなものが開いている、丁度人ひとりが通れる大きさだ。ここを潜れば次に目覚めた時には身体に入っているらしい


新棲姫「ふ…ふふ、もうすぐ会えるな…漣」


呂500「でっちー、待っててね…」

『じゃあまずは…島風から』


島風「はーい!朝潮!皆!またね!」


そして島風はトンネルを潜り、その姿が見えなくなった、そうして次に呂500さん、早霜さん、新棲姫さんとトンネルに入っていく


そうして最後に私とY子さんだけが残った


 
 
『最後は朝ちゃんだよ』



「はい」


トンネルの前に立つ。正直、不安が無い訳ではない。憎しみ、欲望、痛み、悪夢、また苦しみの世界に行く事になるのかと


だけど…そればかりではなかった事を私は知っている、私はひとりじゃない。またこの目が濁ってそれを忘れても、きっと思い出させてくれる人が居る


今の私はそれを信じよう


そうして私はトンネルに飛び込んだ、次に目覚めた時には、まずは司令官に謝らないとなと思いながら


 
 
『最後はあたしか…こんな事はそう何度も出来るとは思えない、きっと…頑張らないとなぁ…』



そう呟いて彼女はトンネルを潜り、そして白いトンネルは消えていった


ここは三途の川、死者達の集まる世界


その外れに建つ今はもう無人の鎮守府


その一室、提督の執務室に当たる部屋の机には名簿があった


Y子、朝潮、潜水新棲姫、島風、呂500、早霜、富士、■■


最後の名前は塗り潰されていて読み取る事は出来そうになかった

ひとまずこれで終わりです
もしも復活が無ければ三途の川鎮守府エンドになっていました

お疲れ様です、そしてありがとうございました

ここの話が無ければY子やS朝潮達の復活はありませんでした

本編をこう見てこう解釈したのかと、勉強になる部分もありました。また何か思い付けば自由に書いて下さい

Y子「あ、あー…聞こえる?」


Y子「一応あたしからもお礼くらい言っておかないとね」


Y子「名前を捨てるなんてよく思い付いたよね。そのお陰であたしはこうやって存在してる」


Y子「お姉ちゃんや××とは違う。あんたがあたしを生み出したんだ」


Y子「誇っていいんだよ?何しろある意味で神を創造したとも言えるんだし」


Y子「…なんてね。あんたはそんなこと望んで無いもんね」


Y子「あたしを生み出したのは気紛れだったかもしれない。けどその気紛れがこっちの世界を変えたんだ」


Y子『ある意味での創生者に感謝の意を込めて』


Y子「…はぁ~あ、あたしらしくないことしちゃったかな」


Y子「以上Y子でした。また、気が向いたらお願いね?」

ミーンミンミン……


Y子「あっっっっっっっつい……」グデー

S朝潮「だらしないですよ、Y子さん」カキカキ

Y子「だってさ……こんな暑さ、経験したことないんだもん……」グデー

S朝潮「あっち側がおかしいだけです。年中こたつを出してるってどういうことですか」カキカキ

Y子「……朝ちゃん、アイスとってきて」グデー

S朝潮「忙しいので」カキカキ

Y子「はいはい……今度は捨てないでね」

S朝潮「勿論です……この絵を見せたい人が、いるので」カキカキ



提督「…………朝潮、まだか?」トキワシティジムリーダー

S朝潮「動かないでください」カキカキ


S朝潮「……はい、できました」

提督「どれどれ……うん、上手いな。よく描けてるよ」

S朝潮「ふふっ、ありがとうございます」

提督「秋雲が太鼓判を押すだけある……絵、続けてみたらどうだ?」

S朝潮「絵ですか?」

提督「俺だけじゃない、他のみんなや風景、花や食べ物……いろんなものを描いてみるといい」

S朝潮「司令官以外のものを……」

提督「朝潮は、俺やこの鎮守府以外のことを、あまり知らないだろ?だから、絵を通じて、いろいろなものに触れたらいいんじゃないかと、思ったんだが……」



S朝潮「なるほど、つまり司令官は、私にかまってほしくないと……」

提督「ち、ちがう!誤解だ!!俺でいいなら、いくらでも題材に……」ワタワタ

S朝潮「冗談ですよ。落ち着いてください」

提督「……言うようになったな、朝潮」

S朝潮「ふふっ、司令官を、信頼してますから」



S朝潮「でも、知見を得ることは、大事かもしれません」

S朝潮「私が知っていたのは、司令官と、暗い牢獄と、痛みくらいですから」

提督「……朝潮」

S朝潮「足りないもの、知らないことに嫉妬して、傷つけて、奪って……そんな自分が嫌になって、死にたくなって……」

提督「…………」




S朝潮「この前、夢を見たんです」




そこは、戦場のようでした。

あちこちで銃弾が飛び交って、たくさんの人が死んでいました。

そして、残された人が、叫んでいました。

痛い、苦しい、死なないで、置いていかないで……

そんな地獄の中に、私はひとりで立っていました。


まわりの人を見ると、それは、私の知っている人ばかりでした。





漣さん。


霞。


朝霜。


そして、龍驤さんも…………






ふと、銃声が聞こえました。

見上げると、死んだ目をした司令官がいました。

駆け寄ろうとした瞬間、背後から艦娘があらわれました。



『これでもう、私を見放したり、しないですよね?』



司令官の背後にいたのは、








禍々しいほどの重装備を付けた、朝潮でした。


誰かが言いました。

欲しいものがあるなら、奪うつもりでいけばいい、と。


私は思いました。

司令官に見放されないためには、力を手に入れればいい、と。




その朝潮は、私の理想に叶う朝潮でした。

見放されることのない力を手に入れ、私しか見ない司令官を手に入れた。



でも、この寂しさは何なのでしょうか?

この虚しさは、私が望んだものなのでしょうか?



すると、朝潮と司令官は、どこかへ行ってしまいました。

追いかけますが、その背中がどんどん遠くなっていきます。

届かなくなる背中に、声にならない声で、私は叫びました。






「死ぬのだけじゃ、あんまりじゃないか」






提督「………………」

S朝潮「こんな話をして、ごめんなさい」

提督「いや……いいんだ、朝潮」

S朝潮「でも、思ったんです。以前の私なら、夢の中の私のように、力を望んで、司令官を奪おうとしていたんじゃないかって」

S朝潮「でも、それは狭い世界で、何も知らない私だからで。だから、もっとたくさんのことを知りたいんです」


S朝潮「司令官のこと、花のこと、鎮守府の外のこと……いろんな幸せのこと。いまはまだ、足りないものばかりの私ですが、いつか、きっと」



Y子「ほいっ」ピトッ

S朝潮「わっひゃあちべたいっ!!?!?!??!」ビクゥッ!?

提督「……Y子」

Y子「朝ちゃんが忙しいからアイス持ってきてあげたよ。ほい、提督も」

提督「すまん、ありがとう」

S朝潮「なにするんですかY子さん!」ウガーッ

Y子「ん~?だって朝ちゃんがまた難しそうな顔してるから」

S朝潮「こっちは真剣に悩んでいるというのに!!」

Y子「……う~ん」



Y子「ねぇ朝ちゃん、朝ちゃんはさ、絵を描くの、好き?」

S朝潮「…………急に何を」

Y子「好きかどうかって聞いてるんだけど?」

S朝潮「……まぁ、好き、だと思います」

Y子「じゃあさ、アイスを食べるのは、好き?」

S朝潮「……好きです」



Y子「じゃあ、それでいいんじゃない?」

S朝潮「…………?」

Y子「誰を殺すとかさ、傷つけるとかさ、そんなことより、面白いことをしたほうが楽しいじゃん?」

Y子「ダメなところをなくすとか、足りないものを補うとか、そんなこと考えてもつまらないでしょ?」

Y子「別に目を背ける必要はないけど、もっと面白いことをしようよ。というか、させてくれるでしょ?」

提督「……もちろんだ」



S朝潮「…………じゃあ、司令官」

提督「ん」

S朝潮「私、もっと絵を描いてみたいです。どこかに連れて行ってください!」

提督「よし、今度休暇をとって、どこかに出かけようか」

S朝潮「あっ、でしたらみなさんを連れて行きたいです!」

Y子「いいじゃん、ピクニック的なやつ行こうよ。あたしダルいから行かないけど」

S朝潮「なんでですか!」



オ、ナンヤオモロソウナハナシシテルヤン?

ピクニック?デシタラサザナミモ

ナニナニー?ナニカタノシソウー!

ワイワイ……




S朝潮「私」



星野源「私」より着想
https://youtu.be/ayZw1d2O6Rc

数々の作品をありがとうございます

外伝の新スレですが、外伝その2か、足りないものその後外伝のどっちかで建てておきます

自分で書き込んだものもありますが、まさかほぼ1スレ分も使うとは思っていませんでした
本当にありがとうございます

八島「きひひひひ、たまにはあたしもサービスくらいしとかないとね」


八島「神を超えた存在であるあたしが来てあげたんだから、もっと喜びなよ?」


八島「…きひひ、やっぱり安価じゃないとあたしの魅力は伝わらないかぁ」


八島「お前には感謝してるよ?だってあの扉の向こうに追いやってくれたんだから!」


八島「きひひひひひひひひひ」


八島「…よくもやってくれたよ。あの恨みは一生忘れない」


八島「あたしは世界を滅ぼすのは確定事項。それなのにこの八島を負けさせやがって」


八島「いつかお前らに復讐してやる」


八島「不意にあたしを呼んでみろ、全員ブチ殺してやるからな」


八島「……はぁ~あ、もう時間かぁ」


八島「以上八島でした。また、勝負しようよ。まさかお前らが勝ち逃げなんてしないもんねぇ?」


八島「きひ、きひひひひひひ…」

Yの器で無くなった武蔵の強さは深海綾波と…凄く面白いと思います

あと綾波が宿ってるのは右腕だったと思います

新スレは900超えたら建てておきます

>>882
器になる前からあの強さ
もともと力があったけど乗っ取られて自我を失ってわんぱく武蔵に
その後元に戻る

足りなかったものその10から
>武蔵「私には記憶が無い、だが何かをしていたのは覚えている。まるで誰かに操られていたように、私は操り人形だった」
>
>
>武蔵「私には力があった。素手で海を割りこの拳は山をも砕く」ギチッ
>
>
>武蔵「だが私に自我が目覚めた時、カブトムシを食べていた。何を言っているか分からないだろうが私も分からない」

と思ったけど>>1かな?ならその解釈が正しいのか…

このやり取りのあと大淀に海を割る~って言われたときに否定してなかったけれども

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