開けた明るい丘に一本の道がのびる。
石を敷き詰めた舗装路は、長い年月で車輪の跡がへこみ、轍になっていた。
その轍にそって一人の旅人が、一台のモトラド(注・モトラドは二輪車。空を飛ばないものだけを指す)に乗って道を行く。
旅人の年は十代中頃。背が高く、黒いジャケットの上にコートを羽織り、帽子をかぶっていた。
そして、腰には大型のハンドパースエイダー(注・パースエイダーは銃器、この場合は拳銃)を下げている。
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旅人に向かってモトラドが言う。
エルメス「ねえキノ。次に行く国はどんなとこなの?」
キノと呼ばれた旅人がモトラドに返す。
キノ「なんでも、近々春のお祭りがあるらしいんだよ、エルメス」
それを聞き、エルメスと呼ばれたモトラドがキノにたずねる。
エルメス「ふーん。じゃあキノはそのお祭りを見物するんだね?」
キノ「そのつもりだよエルメス。ボクが道を間違っていなければ、ちょうどそのお祭りの日に国にたどり着けるはずなんだ」
エルメス「まあ、この一本道じゃ迷いようがないけどねー」
そんなことを言い合いながら、丘に轟音を轟かせて道を進む。
しばらくすると、遠くに薄いピンクのレンガで作られた高い城壁で囲まれた一つの国が見えた。
キノ「あれかな?」
エルメス「だと思うよ。他に分岐点は無かったし」
キノ「どうやら間に合ったみたいだ」
エルメス「せっかく来たのに、お祭りが終わってたらどうしようも無いもんね」
キノ「それはそれで楽しみようもあるけどね」
なだらかな丘を、春を告げる風が城壁に向かって吹いていた。
道なりに城壁まで進むと、門の前には複数の旅人たちが入国を待っていた。
入国審査室と書かれた小屋には制服を着た門番が忙しそうに働いている。
キノ「やっぱりお祭りがあるみたいだね」
エルメス「ほんと。旅人がいっぱいいるね」
キノ「少し待つみたいだね」
エルメス「うん。ところでキノ?」
キノ「なんだいエルメス?」
エルメスがキノにたずねる。
エルメス「このお祭りって、なんのお祭りなの?」
キノはやや間をおいてから答えた。
キノ「いや、お祭りの内容は何も聞いてないよ。聞いたら楽しみが無くなるからね」
エルメス「ふーん。危険なお祭りじゃなければいいね」
キノ「前の国では特にそんな話は言ってなかったし、大丈夫だと思うよ」
エルメス「さいで」
そして入国審査の列にならび待ち、キノたちの番がきた。
門番「次の方どうぞ」
門番が早口に言う。
キノ「こんにちは」
門番「どうも。入国希望ですか?」
キノ「はい。観光目的で今日を含めて3日間の滞在を希望します」
門番「はい。観光は『ひな祭り』が目的でしょうか?」
キノ「ええと、その『ひな祭り』というのがこの国の春のお祭りなんですよね?」
門番「そうですよ。今日がその祭りの当日になります」
キノ「では、そうです」
門番「でしたらこの書類に目を通して、該当する項目に印を付けてください。問題無ければ入国出来ますので」
キノ「あ、はい・・・」
キノが書類を書いている間にエルメスが門番に声をかけた。
エルメス「ねえねえ、おっちゃん」
門番「ん?なんだいモトラド君」
エルメス「この国の『ひな祭り』って、どんなお祭りなの?」
キノ「こら、エルメス」
エルメス「いいじゃん、ここまで来たんだし。今日のうちに何か用意する物があるかもしれないでしょ?」
キノ「それはそうだけど・・・」
門番「そうですね。ひな祭りは様々な祝い方がありますが、どんなお祭りかを一言で言うと・・・」
キノ「一言で言うと?」
エルメス「結局聞くんじゃん」
バコン、と音を立ててキノがエルメスのタンクを殴る。
門番「ひな祭りは、『女の子の日をお祝いする祭り』ですかね」
キノ「えっ・・・?」
キノが驚いて聞き返した。
キノ「女の子の日を祝うお祭り・・・ですか?」
キノの頬が少し紅潮し始める。
エルメス「へえ。面白いお祭りだね、キノ」
キノ「えっ?ああ、うん・・・」
門番「ええ、国中をあげて女の子の日を祝いますからね」
キノ「そ、そうなんですか・・・」
エルメス「どうしたのキノ?」
キノ「ん、いや、えっと、まあ、確かにお祝いする風潮がある国も多いですけど、お祭りにする国は珍しいですね」
門番「そうかもしれません。ですが、我が国の誇る伝統文化ですので」
キノ「そう、ですか・・・。女の子の日を・・・ねえ?」
キノが少し困惑した様子でたずねた。
キノ「ええと。ちなみにですが、ボクもそのお祭りに参加する事は可能でしょうか?」
門番「もちろんですよ。各地で様々なイベントが催されるので、好きなイベントにご参加ください」
エルメス「へー。キノ祭り見物だけじゃなくて参加もするんだ?めっずらしー!」
キノ「まぁ、参加するかどうかは見てから決めるとして・・・ちょうどいいタイミングでもあるしね」
キノがボソリとつぶやいた。
エルメス「ん?キノ今何か言った?」
キノ「ううん。なんでもないよエルメス」
門番「はい、入国審査通りました。良いお祭りを」
キノ「ありがとうございます。楽しませてもらいますね」
門番「はい。次の方どうぞー」
キノの後ろにはいつの間にか列が出来ていて、大勢の旅人たちが並んで入国審査を待っていた。
ぞろぞろと歩く列の横をエルメスを押して通り、門から国の中に入る。
門をくぐると、そこには一面あざやかなピンク色の花が咲き乱れていた。
キノ「・・・・・・。」
エルメス「あー、そっか。この国は気温が高いから、この時期にはもうこの花が咲くんだね」
キノ「・・・そうだね。少し早いけど、もう咲いているみたいだね」
エルメス「どうする?どこか見て回ろうか?それとも宿泊施設に特攻?」
キノ「それを言うなら直行。少し見て回ってからホテルに行こうか」
エルメス「そ。じゃーそうしましょー」
ブロロロロロ
ピンク色の並木道を一台のモトラドと一人の旅人が駆け抜ける。
しばらく道を行くと、街の中央広場のような場所があった。
広場には出店や芸人たち。そして多くの見物客がひしめき、祭りの活気に賑わっていた。
この先はモトラドの走行が禁止との看板があり、キノはエルメスから降りて押して歩く。
すると『観光案内人 迷子はこちらへどうぞ』という看板を持った女性がいた。
キノ「あ、ちょうどいいな。あの人にお祭の内容をきいてみよう」
エルメス「そうだね」
キノはその女に声をかけた。
キノ「すみません。ちょっとよろしいですか?」
案内人「どうもこんにちは!旅人さんですか?」
キノ「ええそうです。お尋ねしたいのですが、この『ひな祭り』というのは何をするお祭なのでしょうか?」
エルメス「女の子の日がどーのこーのって言うのはさっき聞いたんだけどねー」
案内人「はい、それでは説明させていただきますね!」
キノ「ええと、よろしくお願いします・・・」
案内人「『ひな祭り』というのは、そちらのモトラドさんが言ったとおり女の子の日を祝う、我が国の伝統的な祭りです」
キノ「ああ、やっぱり本当なんだ・・・」
キノがやや照れながら言う。
案内人「はい!具体的には女の子の健やかな成長を願い、また今日までの成長に感謝を捧げるお祭ですね!」
キノ「・・・えっ?」
案内人「はい?」
キノ「えっ、あっ、いえ。続けてください」
案内人「お祭のおおまかな意義はそんな感じです。
あとは、女の子のお祭という事もあってか、恋愛成就を祈願したりだとか、
恋人を誘って出かけたりだとか、単純に女の子同士でプレゼントを交換したりなんかもしますね」
キノ「ああ、はい。そんな感じのお祭でしたか・・・」
案内人「あっ、何か想像したのとは違ってましたか?」
キノ「いえ!まったく予想通りでしたね」
キノは慌ててそう言った。
案内人「そうでしたか?旅人さんの意見は貴重ですので、もし思ってた祭りと違うような事があればぜひお教え下さいね!」
キノ「大変素晴らしいお祭だと思います。ええ、ええ、とても!」
キノはわざとらしく大きくうなずきながら言う。
案内人「いろいろな祝い方があるのですが、おおよそ共通の行事としましては『ヒナ』を食べるというのがあるでしょうか?」
キノ「ヒナ・・・?鳥の雛でしょうか?」
案内人「少し違いますね。我々がヒナと呼んでいる鳥なのは間違いないのですが」
エルメス「鳥の名前がヒナってこと?」
エルメスが促す
案内人「その通り。ヒナと呼ばれる鳥が、毎年この時期にたくさんこの国にやってくるのです」
キノ「渡り鳥ですか」
案内人「ええ。どこから来るのかはわからないのですが、毎年必ず来るんですよ。
あ、50年に一度くらいにほとんど来ない年があるらしいですが、それ以外では必ずこの国のひな祭りにやって来ます」
キノ「なるほど」
案内人「ひな祭りに食べる鳥だからヒナなのか、ヒナを食べる日だからひな祭りなのかは謎ですが、
この国の祭ではみんなそのヒナを食べる習わしです」
エルメス「みんなで食べるの?野生の鳥なんでしょ?」
エルメスが疑問をなげかける。
案内人「はい、みんなで食べます。たくさん食べます。それくらいたくさんやって来るんですよ」
キノ「たくさん、ですか」
案内人「はい!たくさんです!」
エルメス「すごいねー。どこから来るか謎の鳥なのに、そんなにいるんだ」
キノ「すごいですね。そんなにたくさん食べられるならさぞ美味しい鳥なんでしょうね」
エルメス「・・・。」
キノ「・・・。」
案内人「・・・。」
妙な沈黙がながれた。
ちょっと用事できた
続きは5月5日に書く(今年の)
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