キノ「今際の国?」(265)
「キノの旅」と「今際の国のアリス」のクロスSSです
SSはあまり書き慣れておらず、不自然なところもあるかもしれませんが、興味を持っていただけたら幸いです。
草原の中に、はるか彼方にうっすら見える城壁から続く一本の道がある。その道を、旅荷物を満載した一台のモトラド(注・二輪車。空を飛ばないものだけを指す。)が走っていた。運転手は若い精悍な顔の人間だった。十代中頃で、白いシャツに黒いベスト姿。ベストはジャケットの両袖を取ったものだ。右腿のホルスターには大型のハンド・パースエイダー(注・パースエイダーは銃器。この場合は拳銃)をホルスターで吊っている。中には、大口径のリヴォルバーが収まっていた。
腰の後ろにも一丁、細身の自動式ハンド・パースエイダーが横向きにつけられていた。
「あんまり良い国じゃなかった」
運転手が先程出国した国について愚痴をこぼす。
「なんでさ、キノ」
モトラドが聞き返す。
「まず、食べ物があまり美味しくなかった。それにエルメスの燃料が高かった。そして何より、熱いシャワーが浴びれなかった」
「やっぱりそこか!国中燃料不足だから仕方ないよ。それにしても熱いシャワーって旅人にとってそんなに重要かな?」
「少なくともボクにとってはね。次にいく国は食べ物が美味しくて、燃料が安くて、熱いシャワーが浴びれる国だといいな」
「そんなに欲張りだとバチが当たるよ」
そんな会話をしながらキノとエルメスは、日が暮れるまで走り続け、やがて森の中へと入っていった。
「今日はここまでだ」
キノは森の中で野宿することにした。紅茶と粘土のような携帯食料の夕食を取ってキノはテントの中で眠りについた。
真夜中のことだった。
ドォーンという破裂音と「キノ起きて!」というエルメスの声でキノは目を覚ます。
「何の音?」
右手に『カノン』と呼んでいるリヴォルバーを持って、テントから這い出てきたキノの問いにエルメスが答える。
「空、見て」
ヒュルル
ドォーン!
ヒュルル
ドォーン!
ヒュルル
ドォーン!
「花火だ。こんな夜中に誰が?」
キノが空を見上げて不思議そうに言呟く。
「さぁ?あ、次の花火はかなり大きいよ」
ヒュルルルル
ピカッ
キノとエルメスは光りに包まれた。
日の出と共にキノは目を覚ました。
「……!?」
キノはエルメスを叩いて起こした。
「ふぁぁあ。おはよう」
エルメスが寝ぼけた声であいさつをする。
「周りの様子が、おかしい」
キノがまわりを見渡しながら言った。
「確かに。昨日は森の中で寝たはずだけど」
「少し見てくる」
そういうとキノは腿のホルスターに右手を置いたまま辺りの様子を窺った。キノのテントの周りは林だった。林を抜けると芝生が広がり所々にベンチや遊歩道がある。そして遠くにはそびえ立つビル群が見えた。
「どうやら、都会の外れの公園にいるみたいだ」
「森の中にいたのに?夢でも見ているじゃないの、キノ」
「エルメスが叩かれて痛くなかったら夢だと思うんだけど試してみる?」
キノが真顔で尋ねる。
「いや、やめとく。これは夢じゃないね。一体何が起きたんだろう?」
「わからない。夜中に花火が見えて気付いたらこうなってたんだ」
「で、どうするのさキノ」
「取り敢えず街の方に行こう。その前に……」
軽く準備体操を行ってからキノは、40mほど離れた木の枝に鉄板をぶら下げに行った。そして、『カノン』と呼んでいる大型のハンドパースエイダーで、鉄板を的にして射撃の練習をした。
「いつもより念入りだね」
「全く知らない場所にいくからね。用心に越したことはないよ」
その後、『カノン』を分解して掃除し、また組み立てた。『森の人』と呼んでいる腰の後ろの自動式でも、同じように練習と簡単な整備を行った。整備が終ると、紅茶と携帯食料つまり昨日の夕食と同じメニューの朝食を取った。
「お待たせ。行こうかエルメス」
「よっしゃ」
キノとエルメスは街の方へ走って行った。
「あんな卵みたいな形のビルどうやって建てたんだろう」
「キノ見て、あの建物なんか全面ガラス張りだよ。建てるのかなり大変だよ」
「道路もスゴい!雨水が流れるように両側をほんの少しだけ低くして傾斜を付けてる。それに道幅も広い。何車線分あるんだろう」
もっぱらエルメスがはしゃぎながら、キノとエルメスは街中を走っていた。
「かなり進んだ科学技術が有ったみたいだね。ボクも今まで旅をしてきたけど、あんなに高いビルがたくさん並んでいるを見るのは初めてかもしれない」
そう言うキノの周りには、三十階はゆうにありそうなビルが幾つもそびえ立っている。
「それにしても人が見当たらないね」
エルメスが呟く。
「うん、大分走ったけど一人も居ない」
「こんなに立派な国が有るのになんでだろう。建物の傷み具合から、人が居なくなってから十年は経ってないようにみえるけど」
「病気とか戦争だったら死体や埋葬したあとが在ってもいいはずなのにそれも見あたらない。謎だ」
キノとエルメスはその後もしばらく走り続けた。
「本当、人がいないね。この広い国中全部、廃墟なのかな」
エルメスが走りながら言う。
「さぁ?でも、廃墟なら廃墟なりに旅人にとってとても重要なことがある」
「何それ?」
「残された食糧だよ。缶詰めか携帯食料でもあればいいんだけど」
「びんぼーしょー」
キノはやがてレンガを模した壁がある売店を見つけ、エルメスと共に入っていった。
「残念だね、キノ。先に来た旅人が持って行ったのかな」
食料があったであろう棚には、空の箱や腐ったお菓子が散乱しており、食べられそうなものはあまりなかった。
「そうかも。あっ、これは何だろう」
キノは未開封の黄色い箱を手にとり開けてみた。中には金色の袋が二つ入っていたので一つを開けた。
「……携帯食料かな?」
袋の中身の棒状の物を一本取りだすと、キノはそれをしげしげと眺めた。
「食べてみれば」
キノは棒状の物をほんの少しかじり、何回か噛むと目を大きくして驚いた表情を見せた。
「どうしたの、キノ?」
「美味しい。いつも食べている携帯食料よりずっと美味しいよ」
「さいですか」
エルメスが呆れたように言う。キノは食べられそうなものを幾つか持ち出すと売店を出て再び走りだした。
やがて夕方になった。
「おかしいな、城壁も見えない」
キノが呟く。
「そうだね。あっ、なんかあの大きい観覧車ライトアップされてる」
「本当だ。行ってみよう、誰かいるかもしれない」
「はー、こんな大きい観覧車どうやって作ったんだろ」
「こんな大きいの見たのは初めてだ。うん?張り紙がある」
そう言ってキノが見た張り紙には「エントリー数 無制限 景品 なし エントリー締切 18時マデ」と書いてあった。
「何のことだろう?」
「さあ。でも観覧車の中に人がいるみたい。行ってみたら」
キノはエルメスをセンタースタンダードで立たせ、階段を登り、「ゴンドラ乗り場」という看板があるところに向かった。
乗り場に止まっていたゴンドラは扉が開いており、中には日焼けした30半ばの男とキノより10歳位年上に見えるメガネの女がいた。
「今日は、ボクはキノと言います。この国について聞きたいことがあるのですが、よろしいでしょうか」
「あぁん?今日ここに来たばかりなのか。まぁ、命がおしけりゃ、こっちに来い」
ゴンドラの入口に立っているキノに向かって男が言う。キノが警戒して入らずにいると後ろから
「そのおっさんの言う通りにしたほうがいいと思うよ。でなきゃ死ぬよ、アンタ」
と声がした。声の主はキノより少しだけ年上の女だった。その女は左足は義足で、弓矢を持っており、ぼれきれのような服で胸と腰まわりを隠しているかなり変わった風貌である。それでもキノが入らずにいると義足の女は「どきな」と言ってキノを押し退けゴンドラに入り、中の座席にどさりと座った。
「どうすんのよ、もうすぐ時間よ」
少し乱暴な口調で義足の女が言う。
「ボクはこの国について説明してほしいのですが……」
「そんなの後でするから、死にたくなきゃとりあえず乗りな」
義足の女に急かされたキノは仕方なく観覧車に乗り、男の隣の座席に座った。
すると間もなく『只今をもってエントリーを締め切ります』というアナウンスが流れ、ゴンドラの扉がひとりでに閉まりガチャリとロックがかかった。更に観覧車がゆっくりと上昇し始めた。
「それで、ここは一体どこなのですか?」
キノの問いに、義足の女が面倒くさそうに答える。
「ここは今際の国っていうところ。それで、今から始まるのがげぇむよ」
「……げぇむですか」
「そう、但し命懸けのね。みんな緊張してるのはそのせい。だから、アンタ少し黙っててくれない。残りの説明はアンタが生き残れたらするから」
「……はぁ」
上昇するゴンドラの中で、日焼けした男とメガネの女は忙しなく外の様子を見たり窓や天井に何かないか調べているようであった。一方、義足の女は窓枠に肘をつき顎を手に乗せ沈みゆく夕日を眺めていた。
キノ達が乗っているゴンドラが一番高いところまで来ると観覧車は止まった。
「……始まるぞ」
そう男が呟くと、アナウンスが入った。
『ザザッ……げぇむのじかんです』
『今回皆さまに参加していただくげぇむは難易度 すぺぇどの4 「じゃんぐるじむ」です』
「じゃんぐるじむ? 観覧車なのに? 」
メガネが不思議そうに言う。
『るうる、「ゴンドラ乗り場」まで戻ることができればげぇむくりあ。制限時間は40分。尚、制限時間以内に戻れなかった場合は「げぇむおおばぁ」となり、観覧車ごと爆破されます。』
『それでは「げぇむすたぁと」』
アナウンスが終わるとガチャとロックが外れる音がした。しかし、誰も扉を開けようとはしない。少ししてから
「時間が無駄だ、俺から行く」
と言うと男がゴンドラの扉を開けた。およそ120m下の地面を見て一瞬たじろいだものの、男は正面にあるゴンドラを吊り下げている柱に手を伸ばして飛び移り、するする降りて行く。
「アンタらが行かないなら私が行くわ」
義足女も男同様ゴンドラから出ていった。
「こ、こんなのむ、無理よ」
メガネの女が出て行かないのでキノが出ることにした。
ゴンドラの入口に立ち、外を見ると、今日走ってきた街のビル群が夕闇に飲み込まれつつあった。
すぐ下を見ると最初に出て行った男は右隣のゴンドラの真下に、義足女もキノがいるゴンドラから右隣のゴンドラへ向かおうとしているところだった。
「よし」と小さく呟くと、キノは目の前の鉄の柱に手を伸ばして飛び移り下へと降りていき、ゴンドラを吊り下げている柱と観覧車本体のリングがくっついているところまでたどり着いた。この観覧車は中心から放射状に伸びている鉄骨がゴンドラ一台おきにしか付いておらず、キノは両隣どちらかのゴンドラの真下に行かなければならない。少し考えた結果、なにかしら罠があるかもしれないので、キノは男や義足女と同じ方へ向かった。体をリングと水平にして密着させ太股と足をリングに絡ませ、腕の力で進んでいく。義足というハンディのためだろうか、隣のゴンドラの下に着いたときにはキノは義足女に追い付いた。
アンタが先に行きなよ」
「そうします」
義足の女との短いやり取りの後、キノは殆ど垂直な鉄骨を降りて行った。キノがゴンドラと観覧車の中心の中間点にたどり着いたときだった。
「キャッ」
短い悲鳴がしたので上を見るとメガネの女が、キノ達が最初にいたゴンドラとキノの真上にあるゴンドラの丁度真ん中あたりでリングに右手だけで掴まっていた。なんとか左手でリングを掴もうと必死にもがいているが今にも落ちそうである。
今際の国滞在5日目
「どこか良さそうなところはあるかい、エルメス」
「ないね。そんなにベットで眠りたいの、キノ?」
キノは朝から、街中で泊まるのに適当なホテルを探していた。
「あ、次の角に有るのなんていいんじゃないの」
キノはエルメスが言った所まで行き、止まった。
「うん、なかなかいいかも」
そのホテルは二十階はありそうなかなり大きなホテルであった。キノはエルメスから降りて、ホテルへと入った。
「おじゃまします」
「誰も居ないと思うよ、キノ」
「そうだろうけど、一応ね」
キノはエルメスを転がしながらロビーへと進んだ。
「かなり広いね。こんなホテル、タダじゃなかったら絶対に泊まらないでしょ」
「そうだね。けど、豪華な食事は出なさそうだよ」
ロビーにあるソファーは所々が破け、中のクッションが出ている。更に床には花瓶やらシャンデリアやらの割れた破片が一面に散らばっていた。キノはエルメスをセンタースタンドで止めると、ホテルの一階を散策した。
「どう、キノ」
「一階に客室は無いみたい。二階に行ってみよう」
「うわぁ、この部屋もきったないね」
エルメスが言う。二階には客室があった。しかし、どの部屋も窓ガラスが割れていたり、壁紙がそこらじゅう破けていたり、椅子やカーテンの残骸が散らかっていて、長い間、人の手が入って無いことが窺える。
「本当にこんな、部屋に泊まるのキノ?」
「外でテントよりはずっと良い」
キノは結局、最も散らかっていない部屋に暫く泊まることにした。
「さぁ、掃除だ」
そう言うとキノは、散らかっている椅子やシーツをかたずけ、何処からか持ってきた箒で部屋中のほこりを払い始めた。
「ふぅ、やっと終わった」
「お疲れ様」
大分、綺麗になった部屋の中で、リネン室から持ってきたきたシーツを敷いたベットに寝そべるキノに、エルメスが声をかける。日はもう傾きかけており、街中をオレンジ色に染めている。
「そうだ、行きたい所があるんだ」
「何処に行くの、キノ?」
「ここらへんでいいはずなんだけど」
キノは、夜になりかけたビル街の中を走っていた。
「なんか臭うね、キノ。おならした?」
「してないよ。けど、来て正解だった」
少し走ると、崩壊してバラバラになった、大きな建物であっただろう残骸が見えてきた。
「何、あれ」
「多分、温泉だよ。エルメス」
「温泉?あれが」
その残骸の真ん前まで来ると、キノはエルメスから降りた。そこは、建物の残骸を堤防として、湖の様に辺り一面お湯が溜まっており、湯気が立ち込めていた。
「ひぇー、すごいね。でも、なんでキノはこんなのがあるって知ってたの?」
「この国に来た日に会った人から『かまゆで』っていうげぇむに参加した、っていう話しを聞いたんだ。それで一応、場所も訊いといたんだ」
「なるほどねー」
エルメスが関心したような、呆れたような声で言う。
「それで、温度はどうなの」
「うん、大丈夫そう」
キノが右手を少しお湯に入れながらこたえる。
「周りに誰もいないよね」
「人間はいないね」
「『人間は』ってどういうことだい、エルメス」
「キノ、右側を見て。だいぶ離れてるけど」
エルメスの言った方向を見てみると、湯気の間になにやら動物の陰が確認できた。
「シカとかゾウとかキリンとか色々いるね。きっと、動物園から逃げてきたんだ」
「襲ってきそうな動物はいるかな」
「キノを食べそうな動物はいないね」
「ならいいか」
そう言うとキノは、ブーツを脱ぎ、シャツもズボンも脱いだ。そして、肌着も脱いだ。つまり、一糸纏わぬ姿になり、お湯の中に入った。
「湯加減はどう」
畳まれたシャツやズボンを乗っけられている、エルメスが尋ねる。
「とてもいいよ。本当、来たかいがあったよ」
「良かったね、キノ。美味しい携帯食料も手に入ったし、燃料もタダだった。それに、熱いシャワーじゃないけど温泉に入れたじゃん」
「まぁ、『げぇむ』が無いのが一番いいんだけどね」
満天の星空の下、キノはたっぷり時間を掛けてお湯に浸かった。
キノ滞在5日目残り滞在可能日数5日
次は◇のげぇむをやります。
本編の「はあとのQ」が始まるまでには書く予定。
今更だけど酉つける
今際の国滞在7日目
まもなく日が沈みそうな街中をキノとエルメスは走っていた。
「えっ、キノ、今日も『げぇむ』に参加するの?まだ『びざ』残ってるよね」
「残ってるね。でも、何かで大ケガでもしたら暫く『げぇむ』に参加できないからね。それに、なんと言うか、『げぇむ』に対する感覚を研ぎ澄ませておきたいんだ。2日間ものんびりしてしまったからね」
「うーん、モトラドにはよくわかんないや」
そんな会話をしながら走っていると、ライトアップされた建物が見えてきた。
「今日はここか」
そこは、大きい、平屋建てのスーパーのような建物であった。キノはエルメスを併設されている駐車場に停めると、建物の中へと入った。
中には歯ブラシなどの生活用品や化粧品、薬などが置いてあった。そして、レジスターがいくつかある会計所らしき場所には、モニターと側面に取手が付いた大きな白い箱が乗った机があり、その周りに男が二人いた。
「今日は、あなた達も『げぇむ』の参加者ですか」
「おお、そうだ。お前さんもか」
キノの呼び掛けに反応したのは短髪の男であった。中肉中背で歳は20代半ばに見える。もう一人の男は、メガネを掛けたやせ型で、歳は短髪の男と同じくらい。キノが話し掛ける前まで親しげに話していた様子から、二人は友人であろうか。
「その箱は何でしょうか?」
「さぁな。鍵が掛かっていて開かないんだよな」
短髪の男とキノが会話していると、もう一人男が来た。鍛えられたガッチリとした体格で、身長は190センチ程。左頬に傷が有り、頭頂部にオレンジ色の髪をまとめ上げている。歳は先に居た二人の男と同じか若いくらい。
「なーに見てんだよ」
「べ、別に見てませんよ」
メガネの男を睨み付けて威圧する。
不穏な空気が流れたところにアナウンスが入った。
『時間となりましたので、エントリーを締め切らせていただきます』
『今回、皆様に参加していただくのは難易度「◇5」 げぇむ「どくやく」です』
「毒薬ってなんかヤバそうだな」
短髪の男が呟く。
『まずは、箱をお開けください』
どうやらロックは外れていたらしく、短髪の男が側面の取手に手を掛け持ち上げるようにすると箱は開いた。中には、一つの皿がお盆くらいありそうな大きな天秤と1から13までの番号がふられた小瓶が入っていた。小瓶には白いカプセル錠がぎっしり詰まっている。
『13個の小瓶が有りますが、その内一つの小瓶にはビタミン剤が、残りの小瓶には猛毒入りのカプセル錠が入っております』
『猛毒入りのカプセル錠が入った小瓶は全て重さが同じであり、ビタミン剤が入った小瓶のみ重さが異なります』
『したがって皆様は天秤を使い、ビタミン剤が入った小瓶を見つけてください』
『そして、制限時間25分以内にビタミン剤を飲んだ方のみ「げぇむくりあ」となります。尚、天秤は三回までしか使用できませんので、よく考えてからのご使用をおすすめします。』
『それでは、「げぇむすたあと」』
モニタが25:00、24:59、24:58……とカウントダウンを始める。
続きは夜に
面白い。期待。
>>109 ありがとうございます!
残り時間3分
「そんなオモチャで俺がビビるとでも思っ」
パン
乾いた音と共に発射された弾丸は、男の両足の間の床にめり込んだ。
「今からボクの言うことに従ってください」
「クソガキ、ぶっ殺して」
パン
今度は男の頭の右側すれすれのところを弾丸が掠め、背後の壁にめり込んだ。
「今度、ボクに対して反抗的な態度をとったら頭を撃ちますから」
そう言ってキノは頬に傷痕のある男に指示を出した。
「小瓶を手にとってください。10か11どちらにするかはあなたに選ばてあげます。……迷わないでさっさと選んでください」
頬に傷痕のある男はキノを睨み付けてから、10の小瓶を手にとった。
「蓋を開けて、はい、カプセルを一錠取ってください。蓋は閉めなくていいので、そこから五歩下がってください」
頬に傷痕のある男は素直に従った。
「そこで、いいです。では、カプセルを飲んでください」
頬に傷痕のある男のカプセルを摘まむ手はかなり震えており、なかなか飲もうとはしなかった。
「ぐずぐずしないで、さっさと飲んでください」
キノが急かす。
頬に傷痕のある男は決心するように一気にカプセルを口に入れ、飲み込んだ。
「ウ、ウッ」
男は苦しそうな声をあげると、両手で首を押さえながら倒れた。そして、呻き声をあげながら転げ回るとやがて、うつ伏せのまま動かなくなった。
少しの間、動かなくなった頬に傷痕のある男を眺めていたキノは男の左耳の横3センチほどの床に照準を合わせ『森の人』の引き金を引いた。
パン
頬に傷痕のある男がうつ伏せのままビクッと動く。
「ふざけないでください」
キノが冷たい声で言う。頬に傷痕のある男はゆっくりと頭を上げ、「ペッ」と口からカプセルを吐き出すとキノを睨む。
「クソッ、なんで騙されねーんだよ」
キノはモニターを一瞥する。モニターは0:57と表示していた。『森の人』の銃口を頬に傷痕のある男に向けながら、キノは10と11の小瓶に入っていたカプセルを一錠ずつ男の目の前に置いた。そして、机の前まで行くと自分の目の前にもカプセルを一錠ずつ置いた。
「何のまねだよ」
頬に傷痕のある男がキノの方を向いて言う。
「その体勢のまま、両手を頭に乗せて動かないでください」
キノは『森の人』の照準を男の頭に合わせる。
残り時間40秒
「何がしたいんだよ、オマエはよぉ」
両手を頭に乗せた、頬に傷痕のある男が言う。
「黙っててください」
照準を男の頭に合わせままキノが言う。
残り時間30秒
「テメェ、オレを道連れにして死ぬ気かよ」
「黙っててくださいと言ったのが聞こえませんでしたか」
残り時間20秒
「アァッ、死にたくねーよぉ」
頬に傷痕のある男が頭に乗せた手や、腕を震わせながら言う。
「黙りなさい!!」
キノが大声で言う。
しかし、頬に傷痕のある男は「クソッォォォ」と言いながら11の小瓶に入っていたカプセルを口に入れ、飲み込んだ。
残り時間10秒
キノは引き金を、引かなかった。
残り時間8秒
頬に傷痕のある男に変化は無い。
残り時間5秒
「クソッ。そういうことかよ」
頬に傷痕のある男が言い放つ。
残り時間3秒
キノは、11の小瓶に入っていたカプセルを飲んだ。
0:02、0:01、0:00……
『こんぐらっちゅれいしょん 「げぇむくりあ」』
「……ふうぅ」
キノが大きく息をつく。
頬に傷痕のある男が起き上がろうとする。
「まだ動いていいとは言ってませんよ。ボクが店を出るまでそのままでいてください」
頬に傷痕のある男に『森の人』の銃口を向けながら、キノはレジスターからびざとトランプカードを取る。頬に傷痕のある男は終始、キノを今にも飛び掛かってきそうな形相で睨んでいた。
「行くよ、エルメス」
足早に店から出ていったキノは、エルメスのエンジンを掛けると直ぐに走り出した。一瞬、振り返ると、店の前で頬に傷痕のある男が仁王立ちでキノを見ていた。
少し走るとキノはエルメスから降りて、帽子を取り、胸に当てて店の方を向いて黙祷を捧げた。
「なにしてるのさ、キノ」
「ボクが生き残るために、二人も犠牲にしてしまったからね」
キノが帽子を被りなおしながら答える。
「へぇー。どんな『げぇむ』だったの」
物凄いエンジン音と共に走り出したキノが「げぇむ」の内容と出来事を話す。
「なるほどねー。キノはパースエイダーで、その男の人は素手で『説得』したわけだ」
「そうだね。ボクも男の人も生き延びるのに必死だったからね」
「まぁ、生きるためにしちゃいけない事なんてないからね」
「少なくともこの国ではそうだね。ところで、エルメス」
「なに? キノ」
「どうやって13個の小瓶からビタミン剤を見つけるのが正解かエルメスは分かる?」
「分かるよ!まずね、13個の中から1つ取り除いて残りの12個で4つずつのグループを3つ作るんだ。それから、……」
キノはエルメスの説明を何回か聞いてようやく理解した。
「ねぇ、キノ。だいやの5程度が分からないならさ、だいやの9とか10に当たったらどうするの?」
説明を終えたエルメスが心配そうに話し掛ける。
「そのときは、そのときさ。当たらないことを祈るしかないよ」
「まぁ、キノは運がいいからね」
キノ今際の国滞在7日目残り滞在可能日数8日
今日はここまで
作者とは別人ですが解答です
まず12個の瓶を4つ一組にして3グループA・B・Cを作ります
一回目にAとBを量ります。
この時どちらかが傾いたらそのグループだけ残して全て破棄、釣り合ったらABを破棄します。
残ったグループの4つを2個ずつに分けて2回目の計量。
ここで注意!
ABで傾いた時にビタミン剤が軽いか重いか判りましが、Cの場合はまだ判りませんのでここで解答方法が二つに分かれます。
ABどちらかの場合。
傾いた側の2個を残して最後の計量。
Cの場合
4つの内12と34で計量し、今度は13と24で計量します。
天秤が逆になったら交換した瓶が正解。動かなかったら交換しなかった瓶が正解になります。
キノだと得意ジャンルなんだろう?
オールラウンダーだから「くらぶ」かな?
次回も待ってます。
>>125少し訂正させていただきます
A(仮に1,2,3,4とする)とB(仮に4,5,6,7とする)で傾いた場合、ABどちらにビタミン剤があるかまだわかりません。
なので、ABともに1つ取り除いて1つ互いに交換します。今回は7,8を取り除いてD(1,2,5)とE(3,4,6)
に分けたとします。
>>125少し訂正させていただきます
A(仮に1,2,3,4とする)とB(仮に4,5,6,7とする)で傾いた場合、ABどちらにビタミン剤があるかまだわかりません。
なので、ABともに1つ取り除いて1つ互いに交換します。今回は7,8を取り除いてD(1,2,5)とE(3,4,6)
に分けたとします。
DとEを量って釣りあった場合、
7,8どちらかと7,8以外の適当な1つを量れば正解がわかります。(続く)
(続き)
1回目Aが重く、2回目Dが重ければ1,2どちらかが重いか、6が軽いかのいずれかなので1と2を天秤にかければ正解がわかります。
1回目Aが重く、2回目Eが重けれ
ば3,4どちらかが重いか5が軽いかのいずれかなので3と4を天秤にかければ正解がわかります。
1回目、2回目で重いのが逆でも同様にできます。
今日の
今際の国滞在9日目
太陽が傾き始めた街中で、雑草が突き破って生えるアスファルトの上にエルメスがセンタースタンドで立っていた。その脇には『フルート』と呼んでいるライフルタイプのパースエイダーを構えたキノが立っている。
キノは真剣な眼差しでスコープを覗いていた。
そして、「すうっ」と短く息を吸うと、引き金を引いた。
バシュ
サイレンサーによって小さくなった発射音と共に射出された弾丸は、およそ0.3秒かけて標的にたどり着き、その命を奪った。
「よし、行こう」
そう言ってキノは『フルート』を前後に分けてしまうと、エルメスに乗って急いで先程の標的が止まっていた電柱の元へ向かった。
「これは、なんと言う鳥だろう?」
キノが狙撃したのはニワトリより一回り小さい程の鳥だった。顔は赤く、オレンジ色の羽には黒い鱗状の模様があり、長い褐色の尾を持つ。
「ヤマドリだね」
キノの疑問にエルメスが即答する。
「ヤマドリか。そう言えば前に、ヤマドリは美味しいから猟師が自分達で食べてしまって、市場に出回らないって聞いたことがあるよ」
そう言いながらキノは獲物をエルメスに積むと、常宿としているホテルへと向かった。その道中、
「ねぇ、キノ。今日は『げぇむ』に参加しなくていいの? ほら、『げぇむ』に対する感覚がとか言ってたじゃん」
エルメスが尋ねた。辺りからは「殺さないでくれー」とか「ギャァー、痛いー」という悲鳴や、爆発音が聞こえてくる。
「今日はいいや。だって、もし、『げぇむ』で死んでしまったら美味しいというヤマドリが食べられなくなってしまうからね」
「なるほど、実にキノらしい」
キノは毛を毟って、血抜きと内臓の処理をしたヤマドリを丸ごと、薄く焦げ目が付いた狐色になるまでじっくりと焼いた。そして、それに塩と胡椒を適当に振って夕食とした。
「あー美味しかった」
そう言いながらベットに寝転ぶキノにエルメスが話しかける。
「キノ、向こうにある20階ぐらいのビル見える?『げぇむ』をやってるみたいなんだけど」
エルメスにそう言われたキノはベットから起き上がると、部屋の大きな窓から外を覗いた。窓からは暗闇に沈む幾つもの建物が見える。
「右側の手前の辺り。一本、高いビルがあるでしょ」
エルメスの言う所を見ると、キノの肉眼でもビルがライトアップされているのがわかった。
「どんな『げぇむ』だろう」
そう言ってキノは『フルート』の後ろ半分だけを取り出すと、スコープでそのビルを覗いた。
「あれは、リフトに人が乗っているのかな」
「そうだね。さっきから、上がったり下がったりしているみたいだけど」
キノの呟きにエルメスが答えた。ビルの壁面には屋上から窓掃除に使うようなリフトが3台吊り下げられていた。しかし、間隔からしてもう何台かリフトがあったことが想像できた。
「あっ」
スコープを覗くキノが短く声を出した。リフトが1台、落下したからである。そして、その数秒後、ビルの谷間が一瞬明るくなった。おそらく、爆発が起きたのだろう。
その後、暫く「げぇむ」は続いたが、結局2台のリフトが屋上までたどり着いた。「げぇむ」の結末を見届けたキノは、『フルート』の後ろ半分をしまうと、再びベットに横になった。
「どんな『げぇむ』だったんだろうねー」
エルメスが話し掛ける。
「分からない。けど、出来ることならあんな『げぇむ』には参加したくないな」
キノが所々穴が空いた天井を見ながら言う。
「明日に備えてボクは眠るよ。おやすみ、エルメス」
「おやすみ、キノ」
キノ今際の国滞在9日目残り物滞在可能日数6日
今際の国滞在10日目
「キノ、今日じゃなくてもいいんじゃない『びざ』の残りだってまだあるんだし」
夕暮れの街中をキノとエルメスは走っていた。
「でも、一昨日も昨日も『げぇむ』に参加してないから出来れば、今日は『げぇむ』に参加しておきたいんだ」
「そうは言っても、会場が無いなら仕方ないじゃん」
「そうなんだ。なんで今日は会場がこんなにも見つからないんだろう? いままでは、直ぐに見つかったのに」
キノは既に30分以上「げぇむ」の会場を探していたがなかなか見つけられずにいた。
「もうすぐ、日没だし今日は諦めて夜のドライブでもする?」
エルメスが呑気に話す。
「エルメスがどうしてもって言うならいいけど……」
「いいの?でも、『げぇむ』の会場見つけたよ」
キノはエルメスの案内で「げぇむ」会場へ向かった。
「これは、何の建物だろう」
ライトアップされている建物の前で、エルメスを止めたキノが呟く。その視線の先にあるのはL字型の白い、駐車場もある大きな建物であった。周りにある多くの建物が、土地を少しでも有効的に使おうと狭い土地に鉛筆のように縦長なビルを建てているのに対し、その建物は公園のような広い敷地にかなりの土地を空けて2階分しか建てていなかった。
「さぁ? 早くしないと『げぇむ』の時間になっちゃうよ」
太陽はほぼ沈みかけている。エルメスを駐車場の隅に停めて、キノは建物の中に入っていった。
自動ドアの入口から内部へ入ると、ホテルのロビーのような雰囲気の空間に出た。そこは丁度、L字の角の部分らしく、2本の長い廊下がその空間から延びている。しかし、照明が絞られているため、薄暗く、どちらの廊下も先に何があるかよく見えない。
キノは「げぇむ会場はこちら」という案内と共に人差し指で方向を指し示す手のマークがある看板に従って、一本の長い廊下を進んだ。廊下の途中、キノの右手側にはトイレや幾つかの小部屋への入口があり、左手側は全面ガラス張りでエルメスを停めた駐車場が見えた。突き当たりでは白い両開きの扉が開かれていた。
「ねぇ、今から何が始まるのよ。『げぇむ』ってなんなの」
部屋に入ったキノの耳に飛び込んできのは、ヒステリックに叫ぶ声だった。声の主は髪が長く、黒いスーツを着た女であった。歳はキノより10歳くらい上だろうか。
「だから、『げぇむ』と言うのはですね……」
その女に説明しようとしているのは、ショートヘアの女。歳は黒いスーツの女と同じくらいに見える。
「うっせーな。初参加者は黙ってろよ」
腕を組ながら苛ついた口調でそう言うのは体格の良いンクトップの男。歳は40代半ば。
部屋には彼らや他の参加者、キノを含めて10人程がいた。部屋はかなり広く、今の数倍の人数は余裕で入れそうだ。廊下と同様に薄暗いうえ窓は無いが、2階まで吹き抜けとなっており、がらんとした印象の部屋である。また、部屋の入口、白い両開きの扉の近くの机には、レジスターとモニターが置いてあった。ただひとつ異質なのは、部屋の一辺、廊下から入ってきて右手側の壁一面にある鉄でできた両開きの扉である。まるでエレベーターの扉のようであるが、高さが1メートル程しかなく、横にあるパネルにはボタンが2つ程しかない。そのような扉が20個並んでいるのだ。キノがその扉に近づいてよく見てみようとした時だった。
『「げぇむ」の時間です』
アナウンスが入った。同時にモニターが一枚のトランプカードを映し出した。
「……はぁと、だと」
「しかもよりによって8じゃねーかよ」
参加者の誰かが声を洩らした。モニターに映し出されたのは両側に3つその間に2つの赤いハートが並んだカード、つまりハートの8のトランプカードであった。モニターのトランプカードが消え、アナウンスが入る。
『皆様は「コイツなんか要らねーや」とか「こんな人間生きてる意味無いだろ」と思ったことはありませんか?』
『今回、そんな皆様に参加していただく「げぇむ」は難易度はぁとの8
「ふにんきとうひょう」です』
今日はここまで
※グロ描写あり
今さらですけど
「ねぇ、なんなのよ『はぁとの8』とか『ふにんきとうひょう』って」
先程の黒いスーツの女が不安そうに言うが誰も何も言わない。アナウンスが続く。
『「るうる」について説明します。まず、制限時間20分の内、残り時間が5分になると投票室のロックが解除されまので、参加者の皆様は投票室の中へお入りください。参加者が一人入るとロックは自動的に行われます』
『投票室に入った参加者は中にあるモニターで、生きている価値の無いと思う参加者に投票を行って下さい。尚、自分への投票はできず、投票を行わなかった場合その時点で「げぇむおおばあぁ」となりますので、お気お付けください』
『20分の制限時間が終了した時点で投票数の最も多い参加者全員が「げぇむおおばぁ」となります』
『また、投票数の最も多い参加者全員が投票を行わなかった場合、次に投票数が多い参加者全員が「げぇむおおばぁ」となります』
『このように投票をくり返し、2名以下となった時点で生き残った参加者全員が「げぇむくりあ」となります』
『尚、他の参加者を投票ができない状態にした時点で「げぇむおおばぁ」となりますので、そのようなことはないように心掛けてください』
『それでは「げぇむすたあと」』
1ターン目
「なんなのよ、「げぇむおおばぁ」って。ねぇ、教えてよあなた」
「すいません、私はちょっとわからないです……」
黒いスーツの女はショートヘアの女に尋ねようとするが、ショートヘアの女は言葉を濁して逃げていく。他の参加者も黒いスーツの女とは目を合わせないように去っていった。そして何人かはキノが入ってきた入口から出ていった。どうやら建物全体が「げぇむ」の会場となっているようだ。
「あぁ、もう何なのよ、ここは。訳わからない」
そう喚く黒いスーツの女を遠くから見ながら、どうしようかと考えていたキノのシャツの腰あたりを、誰かが2回軽く引っ張った。
「キノさん、ですよね」
キノが振り返ると、そこには目の下にくまがあり、痩せこけた頬には泥らしき汚れがついた少女がいた。着ているシャツの袖はボロボロでそこから延びる腕は棒のように細い。更に、ズボンは膝のところに穴があき、そのまわりには血が滲んでいた。
「……?」
一瞬、キノにはその少女が誰か分からなかった。しかし、すぐに思い出した。
「……さくらちゃん?」
その少女は「すなとり」で父親を亡くしたさくらであった。
「助けてください」
さくらはキノの両目を見上げて言ってきた。キノを見つめるその目には輝きがなく、憔悴しきっていた。
「……わかった、この『げぇむ』では協力し合おう。けど、『げぇむ』が終わったらさよならだ。それで、いいかい?」
一瞬、判断に迷ったキノがそう言うとさくらは、
「はい」
と少し明るくなった表情で言った。
「こっちにおいで」
キノはさくらを連れて部屋の出口へ向かった。途中、
「私、気付いたら、荒れた街中にいて、それで、人が集まっているここに来たんですけど、もう訳分からなくて。どうしたら戻れるんですか」
と黒いスーツの女が、壁を背もたれにして床に座っている青年に訊ねる声が聞こえた。
「……さあね」
青年は黒いスーツの女を冷たくあしらうと、足早に部屋から出ていった。
「あのー」
黒いスーツの女がキノ達にも話し掛けてきた。
「すみません、分からないです」
キノはそう言ってさくらと共に部屋を出ていった。
「よし、これでいいかな」
キノは化粧室で、さくらの顔についた泥や汚れをぬぐってあげていた。服はボロボロのままであるが顔が綺麗になった分だけ、「げぇむ」開始時と比べるとマシに見える。
そんなさくらの顔を見て、キノは言う。
「時間になったら、あの黒いスーツの女の人に投票するんだ。きっと他の人達もそうするだろうからね。わかったかい」
「はい」
さくらは返事をした。
キノとさくらが部屋に戻って間もなく
『残り時間5分となりました。ロックを解除しますので参加者の皆様は投票室の中に入り、投票を行ってください』
とアナウンスが入り、同時に低い機械音を出しながら投票室の鉄製の扉が開いた。
キノが中を覗いて見ると、鉄の壁におおわれた奥行2メートル、高さ1メートル、幅1.5メートル程の小部屋には下に機械が付いた、コンクリートのような素材で出来たベットが一つあり、扉側の縁に「頭を奥にしてお入りください」と書いてあった。更に一番奥、今開いている扉の反対側の壁には縦に一本の線があり、扉になっているようであった。
周りをみると、部屋に戻ってきた他の参加者も中を少し見てから投票室へと入っていた。
「じゃあ、さっき言った通りにするんだよ」
さくらにそう言うと、キノは投票室の中へと入っていった。
キノが頭を奥にして固いベットの上に寝ると、目の前には小さなモニターがあり、「左手首に腕輪をつけて下さい」と表示していた。丁度、左手首の辺りにベットと短い鎖で繋がれた腕輪があったので、キノはそれを着けた。すると「ガチャ」と腕輪のロックが掛かる音がした。これで、ベットの上から殆ど動くことができなくなった。続いて扉が低い音をたてて締まり、モニターの光を除いては投票室の中は真っ暗となった。
モニターは「投票する人を選んで下さい」と残り時間を表示すると共に、参加者の顔を映し出した。その数、12人。ということはキノを含めれば13人がこの「げぇむ」に参加しており、最低でも11人が死ぬこととなる。
キノはためらうこと無く黒いスーツの女の顔のところをタッチした。女の顔に赤いバツ印が付き、「投票する人を選んで下さい」という表示が「投票ありがとうございました」という表示に変わった。
残り時間はまだ3分ある。
モニターに映し出された参加者の顔を見ると老若男女幅広くいる。男は、黒いスーツの女を怒鳴っていた40代半ばのタンクトップ、壁を背もたれにして床に座っていた青年、色白の20代後半、縁なしメガネを掛けたインテリ風の30代前半、髪の薄い初老のサラリーマン、サングラスを掛けたドレットヘアー、金髪で長髪のホスト系の計7人。
女は、黒いスーツの女、さくら、黒いスーツの女に説明しようとしていたショートヘア、フードを被ったギャル風の10代後半、
70歳前後のメガネを掛けた品の良さそうな老女に、キノを加え計6人。
間もなくして残り時間の表示が0:00となった。同時に左手首のロックが外れ、焼却炉の扉が開いた。キノが狭い焼却炉の中から這い出ると、そこには隣の焼却炉に入ったさくらが居た。辺りを見渡すと、他の参加者も焼却炉の外に居たり、中から這い出てきたりしていた。しかし、黒いスーツの女だけは見当たらなかった。
そして、すぐにアナウンスが入った。
『1ターン目の投票の結果、ツツイツネコ様が12票で最多得票数となりました。従って、ツツイツネコ様、「げぇむおおばあ」』
耳障りなハウリングの後、アナウンスの声は若い女のものとなる。
『ザザッ……ちょっと、私が最多得票数ってどういうこと?ガチャカ゛チャ……ねぇ出しなさいよ。……もうなんなよこれ』
少しの間、女が投票室から脱出しようともがく音が続く。
『アァン、もうなんでこれ取れないのよ。ボワッ……アチッ。な、何よこれ。ねぇ、出して、火が、熱い、火がアァァァァァァァァァァッ』
ショートヘアの女が思わず耳を塞ぐ。
『………………………………』
しかし、黒いスーツの女の声は直ぐに聞こえなくなった。
しばらくすると、閉まっていた投票室の扉が独りでに開いた。
「……ウッ」
「なんだよ、これ」
「……」
中から自動的に出てきたベットの上に載っている、プスプスと焼きたてのパンような音をたてる黒い塊を見て、ある参加者は思わず目を背け、別の参加者は吐き気を催す。それは、数分前まで生きていたはずの女の焼死体だった。身に付けていた黒いスーツは燃え尽きてしまっているが、女性特有の凹凸を残した体は完全には炭化しておらず、皮膚は赤紫やオレンジといった通常の人体にはありえない色に変色しており、直接火で炙られたであろうところはグズグズに崩れ露出した黄色い骨に黒焦げの肉片がこびり付いていた。髪の毛は焼けてチリチリになっているものの、顔面は生きたまま焼かれ、苦しみながら死んでいった壮絶な表情をそのまま保っていた。
キノが今まで見た中でもかなり残酷な死体を目の当たりにしたさくらはキノの後ろに隠れ、シャツ腰の辺りをギュッと掴んできた。
参加者にこの「げぇむ」で「げぇむおおばあ」になった人間の末路を見せつけた黒い塊は、しばらくすると自動的に投票室の中へ入っていき、投票室はその扉を閉じた。
「焼却炉を使ってこれがやりたいが為に、わざわざ火葬場で『げぇむ』を行うのか。どこまで意地が悪いんだ、この国は」
インテリ風の男が吐き捨てるように言った。
1ターン目終了 生存者12名
さくらやギャル風の女、ホスト系の男など他の参加者も焼却炉から出てくる。しかし、その中にインテリ風の男の姿は無かった。
『4ターン目の投票の結果、トモンレイ様が5票で最多得票数となりました。従って、トモンレイ様、「げぇむおおばあ」』
4ターン目終了 生存者9名
5ターン目
「ヒャハハハ、ウケる。なにが『今のうちに自分が投票されないように祈っておくんだな』だよ、自分が地獄に行かないように祈っとくんだったな。バーカ」
ホスト系の男が、「ボォー」と低い音がする焼却炉、つまりインテリ風の男が焼かれつつある焼却炉に向かって悪態をつく。
「残念だったなぁ、オマエ達のリーダーは炭になってしまったようだ」
三人組の一人、ドレットヘアーの男がわざわざキノ達の近くまで来て言う。掛けているサングラスを下にずらし、キノ達を覗きこむように見てくる男の目は、少し笑っているように見えた。
「俺達に逆らった罪は大きい。いいか、オマエら一人一人確実に、ウザかったあの女みたいに黒焦げにしてってやるよ。炭になる順番でも決めておくか?
……ァンダ、その目付きは。ガキのくせに生意気だな、今ぶっ殺してやってもいいんだぜ」
ドレットヘアーの男が手をパキパキ鳴らせながら、キノを威圧してくる。
怯えたさくらが、キノのシャツをぐっと掴む。
「それくらいにしておけ。彼らの人生はもうすぐ終わってしまうんだ、最期くらい好きにさせておけばいい」
タンクトップの男が余裕そうな口振りで、ドレットヘアーの男をたしなめる。
「いこう」
キノはそう言うとさくらを連れて部屋から出ていく。
「ア~ア、ビビってどっか行っちまったじゃねーか。ヒャハハハ」
ホスト系の男のバカにした声が部屋中に響いた。
「何で、メガネの男の人だけが5票で『げぇむおおばあ』になったんだろう」
エントランスのソファーでキノが呟く。
「……どういうことですか?」
さくらがキノに尋ねる。
「おかしいんだ。タンクトップの男の人が5票で『げぇむおおばあ』にならなかったということは、ボク達の中の誰かが作戦を破ったんだ。けど、その人はきっと、タンクトップの男の人に投票しなかった票をメガネの男の人に入れていない」
「なぜ……ですか?」
「あの三人組は、ボク達がチームを組んだことを知っていたし、それなのに投票前あんなに余裕そうだった。ということは多分、確実に一人は殺せる5票を入れられる自信が有った、つまりボク達のチームに入らなかった男の人二人をチームに引き入れていたんだ。その状況でボク達のチームに裏切り者がいたら、メガネの男の人には6票入るはずだ。でも、実際には5票だった」
「そんなことしねーよ、それに人数が減ったら逆に俺達が不利になっちまうじゃねーかよ」
「じゃあ、な、何でリーダーが死んだんだよ!」
「それは、あの婆さんが投票しなかったから次に票数が多かったリーダーが死んだんだろ。俺も予想外だったけどよ。……って俺にそれを向けるなよ」
「本当か?嘘ついてないだろうな」
刃先を向ける相手をホスト系の男に変えたドレットヘアーの男は完全に錯乱状態である。キノの手が思わず腰のホルスターへ伸びる。
「死の恐怖に耐えられなくなって、精神異常でも起こしたのかな」
青年がぼそりと呟く。ドレットヘアーの男が青年の方を向く。
「ァンダ?オマエか、オマエがあの3人の誰かとつながってんだろ」
「そんなことしないよ。キミ達のことを信用しているからね」
「じゃあ、オマエか。オマエ、『げぇむ』が始まったときから挙動不審だったよな」
そう言いながら今度は刃先を色白の二十代後半の男に向ける。
「ぼ、ぼくじゃないよぉ。ぼくはいつもこんな感じだよ」
「じゃあ、誰が……いや、テメェーら、テメェーら全員で俺を殺そうとしてんだろ!!!」
ドレットヘアーの男は喚きながら、ナイフを握る右手をつき出す。男の右腕はブルブルと小刻みに震えている。
「……アッ、思い出した」
そう言うとドレットヘアーの男はナイフを握りしめながら、青年の方を向いた。
「俺、見ちまったんだよ。オマエ、俺達のチームに入る前にそこの女と何か話してただろ」
ドレットヘアーの男はギャル風の女を指差した。
「何のことかな?見間違えだと思うよ」
青年は淡々と言う。
「うるせぇッ! 嘘ついてんじゃねーこの、クソが!それによ、さっきのターン、オマエら俺達より後に焼却炉に入ったよな。そこの、そこの女とリーダーをこ、殺す為の話し合いをしたんだろ!」
「さっきも言ったけど、現段階で人数が減って困るのは僕達なんだ。自ら不利になるようなことはしないよ」
「ゴチャゴチャ、ゴチャゴチャうるせぇ! テメェ、リーダーを言いくるめて途中から俺達のチームに入ってきて、チームを崩すのが目的だったんだろ!」
ドレットヘアーの男は「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」と叫びながらナイフを片手に青年に向かって突進していく。
「オイ、止めろって。何やってんだよ」
ホスト系の男がドレットヘアーの男の腕を掴み引き留める。勢い余って前につんのめったドレットヘアーの男が後ろを振り向く。
「そうか、オマエもグルだったのか、このクソ野郎がァァァァァァァァ」
ドレットヘアーの男が奇声をあげながらナイフを振り回す。
「オ、オイちょっと待てって」
驚いたホスト系の男はのけぞってナイフを避ける。
ドレットヘアーの男はデタラメにナイフを振り回しているので、掠めもしない。だが、ホスト系の男がよろめいた次の瞬間、
「キャッ」
キノのそばでさくらが悲鳴をあげた。ナイフがホスト系の男の左耳下から鎖骨の上あたりまでを切り裂いたからだ。
「イッ……オ、オマエ……な……何してくれてんだよ」
そう言いながら、ホスト系の男は首に当てた左手を見て驚きの表情を見せる。とっさに右手で傷口を押さえるものの、その程度では止血になるはずもない。首からは心臓の鼓動に合わせて間欠泉のように血が噴き出し、ホスト系の男の顔は、みるみる青白くなっていく。
「……ァ……ォ……な、何で……オ、オレが……死な……なくちゃ」
ホスト系の男は、辺り一面を赤く染めながらドレットヘアーの男の元へヨタヨタと向かった。そして、左手でドレットヘアーの男の胸ぐらを掴むと、目を見開き自分を死に至らしめた相手を凝視しながら力尽きた。
「ウァ、アァ、アァァァァァァァァァ」
ピッ
ドレットヘアーの男は叫び声をあげながらレーザーに頭部を撃ち抜かれ、ホスト系の男の首から流れ出る血が作った大きな血溜まりの中に倒れた。
「『他の参加者を投票が出来ない状態にしたことによるげぇむおおばあ』……か」
青年が落ち着いた口調で呟く。
「イヤだ、イヤだ、死にたくない、死にたくない、死にたくないよぉ」
「大丈夫、落ちつくんだ。君には僕がいるじゃないか」
頭を抱えながら叫ぶ青年に、色白の男に言葉を掛ける。
「フフ、これでワタシ達が有利になったわね」
ギャル風の女がキノに嬉しそうに話し掛ける。
本編はようやく♡Qに参加する気配が出てきましたが、それ以上に遅筆ですいません。
キノが焼却炉から出てくると、すぐ正面にさくらがいた。
「よかった。キノさんは生き残ることができたんですね」
さくらがにこりと微笑む。
キノがさくらの言葉の意味をはかりかねていると、別の焼却炉から一人の参加者が出てきた。
「やっぱり、こうなるよね」
キノとさくらを一瞥し、薄ら笑いにも似た不気味な笑みを浮かべたその人物は、色白の男とチームを組んでいた青年だった。
『6ターン目の投票におきまして、マツオカサクラ様は投票を行いませんでした。従って、様「げぇむおおばあ」』
天井から降り注ぐ白い光線に頭を貫かれたさくらが、キノの目の前でうつ伏せに倒れる。
小さい頭部から溢れ出る鮮血は、キノの足元まで来るとブーツを縁取るように流れ、広がっていった。
『6ターン目の投票の結果、マツオカサクラ様が2票で最多得票数となりましたが、マツオカサクラ様は既に「げぇむおおばあ」となっております。従って、1票で2番目に投票数の多かったノジマジュンペイ様およびミヤベジュンコ様「げぇむおおばあ」』
『今回の投票によって残った参加者が2名以下となりました』
『こんぐらっちれいしょん「げぇむくりあ」こんぐらっちれいしょん「げぇむくりあ」……』
状況が飲み込めないでいるキノの元へ青年が近づいてくる。
「ふふ、あの二人は訳が分からないまま焼け死んでいったみたいだね」
何だか嬉しそうに呟いた青年は、焼却炉の扉が並んでいる壁に寄りかかった。
「……お尋ねしたいことが、あります」
血溜まりに佇むキノが青年に話しかける。
「何かな?」
「『やっぱり、こうなるよね』とはどういう意味ですか」
「簡単に言うとね、君と一緒に行動してた女の子、さくらちゃんって言うのかな、あの子は人を殺すことが出来なかったんだ」
キノが首を傾げる。
「説明すると少し長くなるんだけど、10人生き残ってた4ターン目の投票で、君達は5人チームを組んでたのになぜか君達側のメガネの男だけが5票で死んじゃったよね。この時、僕達5人はメガネの男に投票したから君達側の誰かが作戦通りにしなかったはずだなんだ」
「じゃあ、誰が作戦通りにしなかったか考えてみると、まず、メガネの男と君は排除される。メガネの男が自分のプランを放棄する訳がないし、君からはなんとしても生き残りたいという意志が感じられたからね」
「次にギャル風の子だけど、実は彼女、5ターン目に僕に助けを求めてきたんだ。『自分は作戦通りにしたのにチームの中に裏切り者がいた。怖いからあなた達の仲間にしてください』ってね。だから彼女も排除される。」
「そして、投票せずに死んだあのおばさん。5ターン目のあの行動は死ぬことが怖くなって、半ば自暴自棄で起こした様に僕には思えた。そんなことをする人が自らの首を絞めることなんてしないよね。よって、おばさんも排除される」
「こうして、最後に残ったのが君と組んでた女の子。あの子はきっと、この国に慣れてなくて他人を殺してでも生き残るということが出来なかったんだ。だから、自分の投票によって誰かを殺すことを避けるために、適当な誰かに投票せざるおえなくなってしまったんだ。たとえ、自分が投票しないことで誰かを殺すことになってもね」
「では、なぜ、『げぇむ』で人を殺さなければならないのに、ボクに助けを求めてきたのですか。ボクには人を殺めることを恐れているようには見えませんでした」
淡々とキノが尋ねる。
「それはきっと、あの子はこの国でたった一人で死んでいくのが怖かったからじゃないかな。だから君に嫌われないように、人を殺したくないとは言わないで、最後もわざわざ焼却炉に入るフリをして君の指示に従ったように見せかけたんだと思うよ」
「……それでも、まだ、何故ボクとあなたが生き残ることになったかがわかりません」
青年はキノの言葉を聞くとニヤリと笑って説明を始めた。
「実を言うと、僕とあのタンクトップの男は1ターン目の時点でチームを組んでいたんだ。それで、彼には『チームを組んで確実に生き残って、最後に誰が死ぬかは話し合いで決めよう』という口実で扱いやすそうな二人を誘って、3人組を組むように言った。もちろん、僕とタンクトップの彼が組んでるとは気づかれないようにしてね」
「そして、適当な誰かとチームを組んだ僕がその3人組に合流して、頃合いを見計らって僕とタンクトップの彼以外のメンバーを殺して、二人が生き残るっていう計画だったんだ」
「その作戦……」
「ああ、4ターン目の投票前にタンクトップの彼が言ってたやつだよ。君達のグループを動揺させるためとはいえ、計画を自分から話し出すんだから焦ったよ。5ターン目に彼が死んじゃって失敗するんだけどね。でも、保険を掛けておいたから僕は生き残ることができた」
「保険ですか?」
「さっきも言ったけど、5ターン目の最中、ギャル風の子が助けを求めてきたんだ。だから僕はこう言った『裏切っていることがバレたら僕は殺されてしまうから、今は組むことができないんだ。けど、タンクトップの男が死んだら組んでもいいよ』ってね。
そして、5ターン目の投票でタンクトップの彼が死んでみんなが驚いている間に彼女に、君達とグループを組むふりをして投票でさくらちゃんを殺すように指示をした」
「彼女は君達に6ターン目の投票で自分も投票するからと、僕と組んでいた色白の彼に投票するように言ったはずだ。さっきのアナウンスで分かったんだけど、実際には彼女はさくらちゃんに投票した。彼女は本気で僕とチームを組めたと思ってたようだね」
「けど、さくらちゃんは人を殺すことができないから6ターン目の投票を棄権して、おばあさんみたいに自殺してしまうのでなはないかと僕は予測した。だから、僕自身は色白の彼に投票して、彼にはさくらちゃんに投票するように指示した。これで、2人が僕の指示通りに投票して君が僕と組んでいた色白の彼に投票すれば、僕と君が生き残るという作戦さ。そしてこの通り作戦は成功した。分かってもらえたかな?」
「はい、大体は分かりました。でも、その作戦、確実ではないですよね。ボクが色白の人に投票しないかもしれませんし、さくらちゃんが自殺するとは限りませんよ」
キノが青年に問いかける。その声はいつもより力がないようだった。
「もちろん賭けの部分もあった。けど、さくらちゃんが自殺する確率は高いと思った」
さっきまで向かいの壁の辺りを見ながら話していた青年は 、キノの方を向いて話し始めた。
「5ターン目、おばあさんには5票、タンクトップの男には2票、誰かに1票入っていた。タンクトップの男の2票の内、1票は君のじゃないのかな?」
「そうです」
「そして、もう1票はさくらちゃんが入れたんじゃないかな。おそらく君に『無意味かもしれないけど投票してほしい』とでも言われて、君を出来るだけ裏切りたくなくてね。けど、その結果1票の差でタンクトップの彼は死んでしまい、良心の呵責に耐えられなくて自殺してしまった」
「……」
キノが絶句する。
「ふふ、今まで言ったさくらちゃんに関することは全部僕の推測だよ。実際は人を殺すことに何のためらいも感じないし、6ターン目に投票しなかったのはただ焼け死ぬのが嫌だったからかもしれない。……ところで、僕も君に訊きたいことがあるんだ」
「なんでしょうか」
「君は今まで何人も人を殺してきたんじゃないかな?それも自分でも数えることができないくらい」
やや間があってからキノが答える。
「……そうですが、それが何か?」
青年が寄りかかっていた壁から離れ、笑みを浮かべながらキノの方へと近付いてくる。
「よかった、僕もそうなんだ。僕の名前はバンダスナト。友達にならないかい?」
バンダが右手をさし出す。
「いえ、ボクは一人で大丈夫です。色々教えてくださりありがとうございました」
そう言ってキノは、バンダに背を向けて部屋の出口へ向かう。
だが、次の瞬間、振り返えると同時にホルスターの『カノン』を猛烈な勢いで抜き、それを構えた。
銃口の先には驚いた表情のバンダがいた。その手にはスタンガンが握られている。
訥々とキノが言う。
「ボクは……、今日はもう……、誰も殺したくないんです。だから……、そのままでいてください」
キノは銃口をバンダに向けたまま数歩下がった。
そして、目の前に転がる少女の死体を一瞥すると、11人もの人間が死んだ部屋を足早に後にした。
「随分と長かったね、キノ」
駐車場に停められていたエルメスが、戻ってきたキノに話し掛ける。
「そうだね」
キノはエルメスに跨がって、エンジンをかけた。そしてすぐに走りだし、「げぇむ」会場であった火葬場を去った。
「ねぇ、どんな『げぇむ』だったのさ、キノ」
ヘッドライトを点けて走行するエルメスが尋ねる。
「とても嫌な『げぇむ』だった。二度とあんなのはやりたくないな」
「ふーん、キノがそんなに言うってことは相当ヒドかったんだね」
そう言うとエルメスは黙ってしまった。
「エルメス、何故ボクは『げぇむ』になんか参加しなくちゃいけないんだろう?
そもそも、『今際の国』って一体何なんだろう」
少しして、キノが呟くように言った。
「そんなのモトラドには分からないよ。……そうだ、国って言うくらいなんだから、国民に訊けばいいんじゃない?」
「それは、名案かもしれない。国民がどこにいるか分からないけど」
キノ今際の国滞在10日目
残り滞在可能日数13日
かなり長引いた上に、だいぶ更新が遅くなってしまった……
祝!キノの旅ⅩⅨ巻発売
※本日の内容は今際の国のアリス8巻集録31話のネタバレ(という引用)が有ります
キノ今際の国滞在16日目
「ダメだ、ここもだ」
キノの目線の先にあるのは「げぇむ」会場に設置されているモニターであり、そこにはこう表示されていた。
いんたあばる
ほんじつをもって「げぇむ」はつぎのすてぇじへいこうします
ただいまじゅんびちゅう
キノはエルメスの爆音と共に、他の「げぇむ」会場と同じ文面を表示するモニターの前から走り去っていった。
「2日前からどの『げぇむ』会場もずっとこの調子だ。困ったよ、エルメス」
廃墟と化した夕暮れの街中、走行中のキノがエルメスに話しかける。
「困ったよって言われてもねぇ。『たまには休みが必要だ』とか言って何日もサボったキノが悪いんじゃないの」
「……それを言われると言い返せないな。それにしても、このままだと体が鈍る。それに『びざ』が切れるのも心配だ」
「旅にトラブルは付きものってよく言うじゃん。準備中って書いてあるくらいなんだから準備が終わるまで待てばいいんじゃないの」
「まったく。エルメスは『げぇむ』をしなくていいからって、気楽だね」
「シツレイな。こう見えてもキノのこと心配してるんだよ?」
そんな会話をしているうちに、キノが常宿としている、かつてはホテルであっただろう建物に着いた。
それは、夕食を取ったキノが今まさに、眠ろうとした時のことだった。
ヒュルル……
ドォォン!
ヒュルル
ドン!
ドォォン!
ヒュルル
ドドォォン!
「何だ?」
ベッドから飛び起きたキノは『カノン』を構え、窓から外を見る。
「花火だね」
エルメスが言うように街のいたるところから打ち上げられた花火が、真っ暗な夜空にカラフルな花を咲かせていた。
「キノ、テレビを見て!」
テレビには既に電源が入っており、横長のテーブルを前にして座るのシルエットが映し出されたていた。
『はい……はいっ、あ、えっ!?』
『マイク入ってるんですか!?』
慌ただしい音声と共にテレビ画面に現れたのは、マイクを持ったアナウンサーらしき女であった。
女は左手で髪をササッと整えるとアナウンスを始める。
『え、え――これより、生中継での緊急会見を放送させていただきます』
『本日は「今際の国」を代表して、こちらの4名にスタジオにお越しいただきました』
テレビ画面は4人のシルエットを映す。
『それではまずはじめに「♢K」さんから、皆様への挨拶がございます』
「♢K」と呼ばれた男性らしきシルエットの背後に♢Kのトランプカードが映し出される。同時にカメラがそのシルエットをアップで映した。
『おめでとう、「ぷれいやぁ」諸君。今回君達は異例の早さで、絵札を除く全ての「げぇむ」を「くりあ」した。よってその功績に賛美と敬意を表し、先ほどの花火と、こうして我々の存在を明かす機会を設けさせていただいた』
『――だがしかし、これまで同様この「今際の国」における「げぇむ」の目的や主旨については、私の口から語ることは一切しない。私にしかるべき義務もなければ、君達にそれを知る権利もない。故に、理解も求めない』
『私からの発言は、以上だ』
『え――続きまして、「♣K」さんです』
「♣K」と呼ばれた人物の背後には♣Kのトランプカードが映し出され、
「♢K」の時と同じ演出がなされる。
『えっとォ、ど、どもっ!「♣K」っス!』
「♣K」も男性のようであるが、「♢K」とは対照的に陽気な感じである。
『えっと、え――っと……あれ?何話しゃいいんだっけ?あははっ!やっぱダメだオレ~!ちゃんとした場所って、どーも緊張しちゃって!あははっ!』
『えーっと、あ、そうだ!! とにかくっ、あれだあれ! 「ぷれいやぁ」と「でぃいらぁ」の対決はこれで終わりだから、勝った君らはいよいよオレ達との決勝戦っ!!お互い悔いのないように頑張ろーぜっ!』
『こんなんでいいのかな?ど、どもっ!「♣K」でしたァ!』
『続きまして「♠K」さん』
「♠K」はマントを羽織っているらしく、画面からはその体型はよく分からなかった。
『これは……未練を絶つ為に必要な救済だ。我利を求め奔走し、煩悶と後悔を生み出し続ける生への未練を―――』
「キノ、この人何言ってんだろ?この国に居すぎて頭がおかしくなっちゃったのかな」
「さぁ?わからない」
エルメスの問いかけにそう答えたキノは、その大きな双眸で真っ暗な部屋のなか煌々と光るテレビ画面を一心に見つめていた。
『――それでは最後に、「♡Q」さん』
「♡Q」と呼ばれた人物のシルエットとQのトランプカードがテレビ画面に映し出される。
「♡Q」は女性らしく、他の3人と比べるとそのシルエットは小柄であった。
『期待した人も多いのではないかしら?もっと肝心な何かを私達から聞けるはずではないかと。何故、こんな「げぇむ」をする必要があるのか?何故、自分達がこんな目に遭わなくてはいけないのか?理由を求める生き方を辞め、災難だったと諦めれば楽になれるというのに……それでも、強いて理由をあげろと言うのならば、』
『――私達が、病気だからよ♥』
『そろそろ「答え」を探すのはやめなさい。文字通りこれはただの「げぇむ」。「げぇむ」は、楽しむものでしょ?どう?今、楽しい?』
♡Qは最後の一言を微笑しながら言った。
カメラは引きになり、テレビ画面は再びマイクを持った女を映し出す。
『最後に今後の日程につきまして。「げぇむ」の「ねくすとすてぇじ」は、明日、正午をもって開催されます。以上、緊急会見を生中継でお送りしました』
アナウンサーらしき女がそう言い終えると同時に画面は砂嵐となり、やがてひとりでにテレビの電源が切れた。
「ねぇ、エルメス。約束してほしいことがあるんだ」
テレビを見つめていた姿勢のまま、キノがエルメスに話しかける。
「な、何さ、キノ。そんなにあらたまって」
「明日の朝はボクが起こさなくてもちゃんと起きて欲しい」
「何だそんなことか。りょーかい、出来る限り努力はするよ」
「頼むよ」
「分かったって。おやすみ、キノ」
「おやすみ、エルメス」
そう言うとキノはベッドに仰向けになり、毛布を自分の身体に掛けた。
「………」
そしてしばらくの間、天井を眺め何かを考えた後、眠りについ
「な、何さ、キノ。そんなにあらたまって」
「明日の朝はボクが起こさなくてもちゃんと起きて欲しい」
「何だそんなことか。りょーかい、出来る限り努力はするよ」
「頼むよ」
「分かったって。おやすみ、キノ」
「おやすみ、エルメス」
そう言うとキノはベッドに仰向けになり、毛布を自分の身体に掛けた。
「………」
そしてしばらくの間、天井を眺め何かを考えた後、眠りについた。
キノ今際の国滞在16日目
残り滞在可能日数?日
ミスが多いな
>>252
テレビ画面に「♡Q」と呼ばれた人物のシルエットと♡Qのトランプカードが映し出される。
それにしても、キノもミラさんもかわいい
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