南条光「英雄日記」 (19)


スカウト 月 された日


いつもの公園で特ソンの歌い込みをしてたら、スーツを着た男に『アイドルに興味は無いかい?』とスカウトされた。驚いて「アタシがアイドル! ……そっ、それは本当か!?」と聞き返すと、首を縦に振った。


男はプロデューサーで、Pと名乗った。Pはアイドルという職業を「夢と希望を与える仕事」と説明した。歌って踊るばかりが取り柄の人間には、興味深い話だ。


その場は名刺を貰って引き下がった。上手い話はなかなか無いものだし、きちんと吟味しないといけないからだ。


それにしてもアイドルか。歌って踊ってテレビデビューして、あのヒーロー番組の主題歌ゲットして、それつまりヒーロー南条光の誕生じゃないか。うぉぉ、やる気出てきた……!

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round 月 zero日

スカウトされてそのままアイドルになるのは、何となくズルいと思った。実力で勝ち取ったんじゃなく、運で手に入れたようで、不平等だと感じたからだ。


だから、オーディションに参加した。……誤算だったのは、審査員がPであったことで、バレてつまみ出されてしまった。


Pは送迎を口実に、両親と会った。オーディション参加に良い顔をしてなかった二人だったが、Pに説得されて、応援までするようになった。


Pの会話術は巧みだった。飲みやすい要求を飲ませてから要求レベルを上げたり、おだてて情に訴えたり。言葉に力があるのならこういうものかと、なるほど感服させられた。


ともかく、晴れてアイドルとして所属することとなった。歌と踊りで夢と希望を与えるアイドルになれば、つまりヒーローになったようなものだな!


花道 月 オンステージ日

ダンスは反射神経だけでやれるぐらい身に染み込ませたし、歌は今の限界まで練り込んだ。プレッシャーで躁状態になってたのは、むしろプラスだったと思う。


腕を振るって、歌い尽くすと、観客席から黄色い声が飛び出た。それをアクセルにして回し蹴りのパフォーマンスをすると、お客さんが即興でウェーブもどきを行った。アタシとお客さん、そのお互いがお互いを加速させて、心臓の高鳴りが止められなかった。


初舞台は集客率でも『やり切った』という意味でも、大成功で終わった。見ていたお客さんの『ありがとう』という言葉の嬉しさが、雷となって背筋に落ちた。誰かにそう言って貰うという、夢が一つ叶ってしまった。


スタッフさんへの挨拶が済んでから、楽屋で前のめりに倒れてしまった。どうやらアタシは超・短期決戦型らしい。


「スタミナ切れだ……ド、ドリンクをくれぇ……」


と、Pに栄養ドリンクをねだった。Pは「だ、大丈夫か!? ・ほらっ!」とドリンクを寄越してくれた。心配させちゃったかもしれない。


Pの広い背中にもたれ掛かって、ドリンクを飲んだ。


「Pといると、何だか勇気づけられるな……!」


常に仕事に邁進し、皆の笑顔の為に努力し続ける大人の背中は、アタシが昔に憧れたような、ヒーローの姿そのものだ。アタシにとってホントのヒーローは、Pさんのことだったのかもしれない。


Pは「ああ! お互い頑張ろうな!」と言って、手元のパンフに眼を落とした。パンフレットには、画材道具の写真がたくさん貼られていた。蘭子に送るプレゼントでも物色してたんだろうか。


ホワイトボードが月マジホワイト日


最初が上手くいきすぎただけ。頭では理解してたけど、仕事の無い期間がいくらなんでも多すぎる。空いたスケジュール表を見るのには、飽きてしまった。


部活動なら、最初の一年は玉拾いだったりする。けれど、それじゃ困る。凛さんとまゆさんに引っ張られてるPを連れだし、今後について相談した。


「背の低い女子は……ダメか?」


アタシの背はとにかく小さい。小学生に負けるくらいだし、バスに乗る度におつりを渡されるくらいだ。


しかし、カッコイイ系として売り出されていた。この路線は自分で志望したものだけど、ネックになってるなら、変更するつもりだった。


アタシはトップに立って、たくさんの人を笑顔にしたい。Pはトップアイドルを生み出したい。二人の夢の邪魔になるくらいだったら、やめようかと思っていた。


「ハンデかもしれないが……光の実力なら問題無いぞ! ・光は光のやることをやってくれ!」


全部を言い終わらないうちに、まゆさんに引きずられていった。担当アイドルの面倒を見なきゃいけないんだから、プロデューサーって大変なんだな、と思った。


そう思ったのと同じくらいに、後悔した。Pだって考えてこの路線にしてるだろうに、それを無碍にしてしまったからだ。それは、相棒との友情を裏切ることに等しい。


自分の実力不足を棚に上げて、言い訳してしまったんだ。人のせいにするなんて、ヒーロー失格だ……。そう恥じながら、二人に引きちぎられそうになってるPを尻目に、レッスンルームに向かった。


もう自分を曲げない、自分で決めたことは絶対に譲らない。諦めてしまう弱い自分を倒すんだと、胸に刻み込んだ。


今日はペース配分を学んだ。最初からアクセル全開だと、どれだけスタミナがあっても足りないから、これを学ぶのは急務だった。


アタシはアタシのやれることをやろう。自分で決めた限界なんて乗り越えられるくらいに、特訓を積み重ねるんだ。


バレン 月 タイン日

事務所の空気が妙に甘く、皆してソワソワしていた。何事かと蘭子に聞いたら、「魂を練り固めし黒塊のレクイエムを奏であう、暗黒のミサであるよ、太陽の子よ」と答えた。今日は水爆怪獣の命日だったのだ。


Pは夢を叶えてくれた恩人だ。ならば、チョコくらい渡さねばなるまい。だから、給湯室を借りて急ピッチでつくった。


テンパリング?を出すのに手間取ったけど、何とか形になった。Pのためならアタシもこれくらいできるんだ。しかし、給湯室の掃除には手間取った……。


手いっぱいラッピングを抱えたPに、チョコを渡した。それと平行し、水爆怪獣の為の即席祭壇にもチョコを捧げた。Pはけげんそうに祭壇を見て、「何だこれは?」と聞いてきた。


「何って、そりゃ水爆怪獣を祀ってるんだ」


「水爆怪獣? それはいったい何なんだ?」


「え、知らないの?」


「普通は知らないぞ……」


「えっ? 普通は知らないのか……そっか……そもそも水爆怪獣の命日とはだな……」


「ま、待った待った! 聞いてないぞ!?」


そう遮られてしまった。よく考えると、興味の無い知識の説明を、聞いてもないのにされるのは、苦痛だろう。人をおもんばかることをせずに、自分本位で水爆怪獣の話をしようとしてしまったのだ。これではヒーローに相応しくない……。


何より、アタシはまだ全然仕事をしてないんだ。なのに、特撮の話をするのは、如何なものなんだろう。遊んでると思われるといけないし、Pもあまり興味が無いみたいだから、今後は自重しよう。


チョコ作りで生まれた遅れを取り戻すべく、走ってレッスンに向かった。道中で、蘭子がPにチョコを渡してるタイミングに出くわした。


Pは蘭子の言葉を理解するだけじゃなく、少し喋れるみたいだった。すごいなぁ、アタシはまだリスニングしか出来ないのに……。それが心の発破になって、レッスンに身が入った。


そんなこんなで、今日一日、Pはレッスンを見にこなかった。いや、今日に限らないけど。ちひろさんの話を聞く限り、みんなの面倒をみるので手一杯だかららしい。


今日は他のみんなもレッスン室に来なかった。仕事やらなんやらで、忙しいからだろう。部屋がこんなに大きいんだなと実感した。
まぁいいや。ヒーローって言うのは……いつも孤独なんだ。でも寂しくはないさ。Pがいるからな。チョコっていう固いキズナを渡したんだし、きっと魂はリンクしてるはずだ。


その実感が元気になって、アタシを集中させた。フリーとは、つまり事務所のお荷物なんだ。Pの重荷になるわけにはいかない。一生懸命働いてるPに報いないと、早く一人前にならないとなんだ。


もう一度舞台に立ったときに、Pを驚かせたいと思って、ボーカルのミスをしらみ潰しに正した。ヒーローは陰で特訓をするものなんだ、待っててね、P。


お願い 月 シンデレラ日

蘭子がシンデレラガールになった。シンデレラガールとは、事務所の稼ぎ頭が貰う勲章だ。


蘭子はその成功を「我が友の魔翠力の賜物である!」と喜んでいた。Pの、プロデューサーの魔法のおかげだ、ということらしい。


蘭子と二三会話してから、負けてられないぞと自分を激励し、レッスン室に向かった。しかし、同じように気合いの入った子が多すぎて、レッスン室は使えなかった。


予約を増やして対応しようとしたけど、トレーナーさんたちに「光ちゃん一人には、これ以上増やせません」と、咎められてしまった。


仕方ないから、公園で自主練した。まだ不安が残っていた空中側転の修行中、珠美ちゃんがやってきて、ニコニコして話しかけてきた。


「やったー! 次のLIVEが決まりました!」


「やったな! 珠美ちゃん!」


珠美ちゃんの成功が、自分のことのように嬉しかった。二人でブランコに移動し、話し合いをした。


「珠美はずっと大きな舞台に立ちたかったので嬉しいです!」


「念願の夢が叶ったってワケか!」


アタシだってそうだよ、と言って、珠美ちゃんとライバルっぽくなろうかと思った。けれど、珠美ちゃんを喜ばすことを優先した。


「次は珠美ちゃんが夢を叶えた大人として子供たちに夢を見せる番だな!」


「え?珠美が……大人?」


日頃から珠美ちゃんは、大人扱いされたがっていた。大人と聞いて、珠美ちゃんの顔がフンニャリした。


「ああ! 夢を叶えた大人のヒーローだ!」


「そっかーヒーロー……珠美は大人かぁ……! 子供の頼れるお姉さんになってしまったかぁー……!」


「うん」


喜びすぎてはしゃぎ、ブランコで遊ぶ珠美ちゃんの顔は無邪気だった。


(いつまでも子供心を忘れないのもヒーローだよ珠美ちゃん……!)


彼女の笑顔に元気を貰って、特訓を再開した。今日は仕上がらなかったけど、完成するまで諦めないぞ!


久しぶりの 月 スーパーお仕事タイム日


Pが久しぶりに仕事をとってきた。サプライズにしたかったらしく、アタシには秘密で決めていた仕事らしい。Pの指示があればどんな現場にでも飛んでく腹積もりだったから、とても嬉しかった。


なかなかすごいセットに加えて、新しい衣装を使った、難しい仕事だった。が、その事実がアタシを燃え上がらせた。アタシがやらなきゃ、ってさ。


「皆、くじけちゃダメだ! つらい時こそアタシの歌を聴いて、勇気を出すんだ! アイドルのアタシはいつだって、君のそばにいる。忘れないでくれ!」


今回は、ファンを激励することを目標に歌った。


(誰もが諦めかける時も笑顔を忘れない)


Pはアイドルとはそういうものだと教えてくれた。ならば、アイドルは人を励ます力になれると思った。それを証明しようとしたんだ。アタシが歌って笑うと、ファンも笑う。こうやって皆の光となって、激励する。それが、皆の役に立つ唯一の方法で、アタシのやるべきことだ。


「良くやった光、お疲れ! 楽しかったか?」


歌い終えて袖に戻った時、Pが頭を撫でようとしてきた。それを遮って、


「ねぇP! メッセージはどうだった? ・皆元気になったか?」


と成功か否かを聞いた。


「え? ああ、大成功だった!」


「そっかぁ……! またひとり、アタシたちの活躍でファンが救われたね、P!」


LIVEは成功に終わった。途中スカーフが引っかかって首をつりそうになったけど、脱ぎ捨ててことなきを得た。あんなことで、いちいちPを呼んで心配させちゃいけないな……。


調子に乗りやすくて、そそっかしいのはアタシの弱点なのだから、早く直そう。


それにしたって、『ありがとう』と言って貰うのは、何にも代え難い快感だ。アタシを必要にしてくれる人がいるんだって実感出来るんだ。人の役に立ちたいもんね。


帰り道の遊歩道には、蘭子たちのLIVEの広告が張ってあった。スピーカーから流れた『お願い! シンデレラ』がビルに反射した。


実力はもちろん、ああも大きく広告を打てれば、たくさんの人を呼び込めるだろう。そして、たくさんの笑顔を生み出せる。


「アタシも、あの力を手に入れる……!」


広告の蘭子にガッツポーズして、急ぎ足で寮へ帰った。Pは珠美ちゃんの回収で忙しいみたいだし、反省会は一人ですませた。


またスケジュールが 月 マジホワイト日


ちひろさんによると「アイドルのメンタルケアもプロデューサーの仕事」だそうだ。だと言うなら、Pはたいへんな働き者だ。


晴ちゃんとサッカーして、ありすちゃんとゲームして、まゆさんと何かして……。休む暇も無いみたいらしく、フラフラでドリンクを飲んでいた。けれど、弱音は吐いておらず、むしろ楽しそうだった。


Pの指示を待つばかりでいいのだろうか、と思った。ただでさえ忙しい人に、仕事の少ないハンデ持ちが手間をかけるのは、いけないことだからだ。


Pの負担にはなりたくない。だから、一人で営業をしようと考えた。それをPにメールしたけど、返事は無かった。忙しいのかなぁ。


仕方ないからちひろさんに相談した。ちひろさんは、Pが使ってるのと同じという資料を譲ってくれた。あと、『海兵隊式プロデュース手帳<=//[:新人アイドルにはナイショだゾ!編(凛民明書房)』なる本を紹介してもらった。いわく、この事務所のプロデューサーは、その本でプロデュースの基礎を学ぶらしい。


パソコンの使い方を教わりながら、早速注文した。
こいつを使いこなして、早く一人前のヒーローになってみせるっ……!


セルフ 月 プロデュース日

営業先までの車内で、酔いつぶれた友紀さんと会った。昨日もお酒臭かったし、身体は大丈夫だろうかと心配した。けど、友紀さんだって自己管理してるだろうし、心配することは無いだろう。アタシはアタシの戦いをするんだ。


テレビ局に来て、まず警備員さんに挨拶し、次に受付の人に挨拶をした。元気な挨拶はアイドルとして、いや人間として大事だからだ。


事前にアポをとった甲斐あって、ディレクターさんと簡単に会うことが出来た。なぜこんなにも簡単に?と聞いたら、「LIVEを見て、前から目を付けてたから」と答えた。観てくれてる人がいるとわかって嬉しかった。


ディレさんに営業する時、自分の話を
するのと同じくらい、相手の話を聞くことを大事にした。気に入って貰うためには、まず相手の好きなものを知る必要があると思ったからだ。


その成果あって、ディレさんは甘いもの好きだとわかった。次行くときは、甘いお菓子を多めに持って行こう。あと、何か仕事で煮詰まってる感じがした。

なかなか良い感触だったし、次も営業を頑張ってみよう。もっと早く、もっと急いで、一人前にならないとな。


決戦 月 前夜日

長きにわたる営業が実って、ついに仕事を貰った。トークバトルショー(以下TBS)って番組の応援役という、結構な大役だ。


このことをPに伝えたら、驚いた顔をした。秘密にした甲斐があるね。


Pに「ご飯を食べに行かないか?」と誘われたけど、「アタシはみんなの味方でいたいんだ! わかるだろ?」と断った。大一番を前にして気を緩めたら、足下をすくわれるからだ。それに、Pに一番の仕事を見せたかったんだ。活躍するアイドル光の姿をさ。


わかってくれたみたいで、Pは「そうだな! 最高の仕事にしよう!」と笑いながら、自分の仕事に戻った。


その日のうちに決まったメンバー表を見ながら、TBSの作戦を立てた。


TBSとは、アイドルがチームで戦う弁論大会の番組だ。視聴者の投票で勝敗が決まるのが人気の秘密だと、ディレさんは言っていた。


アタシが担当する応援役とは、文字通りチームを応援する仕事だ。……そしてもう一つ、チームメンバーの喋る順番や戦う相手を決める、コマンダーとしての役割がある。


また、チームメンバーは基本的に座り放しだから、画の派手さは応援役に依存することとなる。ネット投票で勝敗が決まるのだから、応援役のパフォーマンスは勝負の大事なファクターとなる。まれに起きる場外乱闘を演出に含んでいいなら、これに限らないけど。


つまり。応援役とは現場で戦うヒーローであり、ヒーローを励ますおやっさんであり、作戦を立てる長官なのだ。


ここからはアタシの見立てだけど、勝利のためには、純粋な応援の重要性が高いと思う。何処のチームだって事前に準備をするし、実力が拮抗する状況が多くあると想定出来るからだ。


互角の勝負になったとき、勝つのは諦めなかった方だ。おっかなびっくりボソボソと喋る人の言うことより、胸を張って堂々と発せられた意見の方が、説得力を感じやすいものだ。少なくともアタシは、自信満々で売り込みが出来たから仕事を貰えたんだって思ってる。


だとするのなら。アタシに出来るのは、身体をはって、声を枯らして、最後まで信じてるって叫ぶことだ。
あとは、いつも以上に強くあろう。応援役の不安が全体に広がるといけないし、ポーズもビシっとカッコよくな。


そうやって絶対に止まらず、ビビらず、思ったそのままに突き進むことが、チームの自信の源になるはずだ。アイドルのやることと、何も代わりはしない。ベストを尽くせばいいんだ。


アタシ以外の作戦も立てないと。ありすちゃんは頭が良くて、相手の理屈の間違いを見つけるのは大得意だけど、反撃されたりすると打たれ弱いから、まゆさんにバックアップして貰った方がいいだろう。ただ、まゆさんはPに関してのスイッチが入ると、メンバーと喧嘩を始めちゃうかもだから、アタシと珠美ちゃんで仲介をしないと。いや逆にそれを利用して、上手いタイミングでアタシがスイッチオンし●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●


……なんてこった。コーヒーこぼすなんて……。
それにしても、案外苦くないじゃないか。ブラックで飲める日も近い、かもしれない。


作戦は後日、皆で相談して立てよう。ただ、お互いの背中を守りあえば、このチームに不可能は無いだろう。アタシたちなら、どんな戦いにも勝利できるはずだ!


現代はさながら 月 戦国日


TBSの当日になって、大事に気付いてしまった。衣装に変身したあとの応援を考えていなかったんだ。


他チームの応援役のシュガーハートには『物理的はぁとアタック』という、弱点のなさそうなアピールがあった。同じく応援役の晶葉は『応援用特性メガホン』なるものを開発していた。


この面子を相手取って、チームを勝利に導くには、あまりにもアタシは地味過ぎたのだ。アタシの出番や目立ち方は、チームの勝敗に関わる。負けてはいられなかった。


「わーっ! みんな技とか持ってる!? アタシも何かないとー!」


「だ……大丈夫ですよ光さん。私も笛だけで技とかないですから」


千枝ちゃんが宥めてくれた。けれど、それじゃダメなんだ。アタシらしく……必殺技。そう、必殺技くらい撃てないと。


「改造してくれ! 池袋博士!」


晶葉に懇願した。晶葉は目を輝かせ、


「必殺技を撃ちたいがためか……フフフ……後戻り出来ないぞ?」


とマッドに笑った。後戻りなんて選択肢自体が、頭の中に無かった。


「かまわんっ!」


けれど、千枝ちゃんにPを呼ばれて中断した。その時の千枝ちゃんは、怖いものを見るような眼をしていた。


シュガーハートはアタシの肩に手をおき、やれやれ、と深く息をついてから「今みたいに前のめりなヤツを知ってるけど、側から見たらムチャクチャいてーぞ☆」とたしなめた。人がどうとか、じゃないんだけどなぁ。それとも二人は改造されたくないのだろうか。変なの。


Pは「光は元気だなー」と言って頭を撫で、晶葉たちをねぎらってからディレさんのところへ向かった。


討論は想定通り、一進一退の攻防戦だった。議題は『臓器提供の是非』とか、難しいものが多かった。しかし、何とかして勝つことが出来た。


アタシのことに限るなら、チームを常に鼓舞出来たのが勝因だと思う。チームの話なら、ありすちゃんと珠美ちゃんのお陰だろう。まゆさんの暴走スイッチを上手に入れられて、司会席を占拠しながら、

「まゆの敵になるって言うなら、大統領だって相手になりますよぉ! ……あ、でも、飛行機は許して下さい」

とシャウトさせられたのも、大きいと思う。場が一気に暖まったからだ。


いぶし銀の活躍をしたのが飛鳥だ。意見をのらりくらりと回避したり、逆に相手を堂々巡りに追い込んだりして、ありすちゃん達の時間を稼いでくれたりしたんだ。


ディレさんは今回の収録について、大笑いしながら「第三次世界大戦かと思った! 流石に次は平和にいこう!」と言っていた。ネット投票の票数もいい数だったし、成功したんだろう。みんなの正義の魂が電波を経由し伝わるようで、なんとも感慨深かった。


スタッフさんたちに挨拶をすませてから、晩ご飯のカロリーフレンド(フルーツ味。これが一番美味しいし、食べるならこれしか食べない)とドリンクを買って、早々に帰宅した。


反省会を済ませ、録画してたヒーロー番組をスクワットしながら観た。最近観る時間をとってなかったからか、レコーダの予約可能時間が一桁ほど減っていた。


今日は寝るまで!……じゃなくて、十時くらいまでは特撮祭りにした。早寝早起きは大事だもんな。


Pにはきっと、アイドルとして活躍してる姿を見せられたはずだ。Pのくれたアイドルって役割を、やっと果たせたんだ。その嬉しさで頭がいっぱいだったからか、話が頭に入らなかった。明日もう一週しよう。でも、時間あるかなぁ。


暗夜 月 行路日


アニバーサリーパーティーへの参加は気が引けた。けど、Pがスケジュールを開けてたから参加した。ゴージャスにも、豪華客船を貸し切っての船上パーティーだった。


船内でもやれる特訓があると思って、私服で参加した。珠美ちゃんに「寒くないんですか!?」と心配されたけど「大丈夫、我慢できるから!」と説明した。「なら良かったぁ……」と引き下がってくれた。


パーティーで出た料理は美味しそうだったけど、笑顔でおなかいっぱいになったから後にした。紙テープまみれで困ってる人を助けるので、忙しかったのもあるけど。


外の空気を吸いに出た。凍てつく空気が、アタシから無駄な部分をそぎ落とすようで、心地良かった。真夜中の海は真っ暗で、宇宙が足下にあるみたいだった。ならアタシは星だろうか。アタシはあの星になれただろうか?……いいや、まだまだだ。ヒーローは遅れてやってくるものとはいえ、足踏みをし過ぎた。早くアタシも変身しないとね。


特訓してる内に、会場の方からPがやってきた。寒そうにしてたから上着を貸したけど、サイズが合わないと断られた。むー。
手元には、ガラスで出来た沓があった。Pはそれをくれた。


「今年は大活躍だったな、光! 早速これを受け取ってくれ!」


「いいや、慢心は禁物だよ! ……でも、Pとの友情の証、確かに受け取ったよっ!アタシ一人でも、皆を笑顔に出来る日まで……力を貸して欲しいっ!」


Pに早く独立したいと伝えた。本当は何年までとか、具体的な数字を示したかった。けれど、それが何時になるかわからなかったから、言えなかった。嘘でも数字をつけるべきだったかもだけど、出来なかった。
会えただけでアタシのエネルギーになる。Pは、アタシの元気の源だ。……だからこそ、負担になってるかもしれない。それはもうイヤだ。


Pは笑顔で「ああ! 来年も頑張ろうな! めざせトップアイドル!」と言って、明るくて暖房の効いた会場に戻っていった。どうやら夢を共有出来たみたいで、嬉しい。


それにしたって、明るすぎはしないだろうか。糸を垂らせば、イカが釣れるかもしれない……。そう思いながら、特訓を再開した。空中三連続側転が、やっと安定して決まるようになった。歌の特訓が疎かになるといけないし、予定を立て直そう。

そうそう、会場ではビンゴ大会が開かれてたらしい。最初にビンゴした人には、Pのオフを自由にする権利がプレゼントされたんだとか。
ビンゴ大会には、特訓に集中してて、参加しそびれてしまった。それにしたって、Pは大変なんだなぁ。


Never 月 Surrender日

今日のLIVEも、Pは見に来なかった。早く実力を見せたいけど、芸を披露するべきはお客さんだから、ステージでは忘れて歌った。それに、ここじゃない別の現場で働いてるだろうから、ワガママはいけないだろう。


いつ立っても、舞台ってすばらしい。ここにはアタシを必要としてくれる人がいる。サイリウムという形で示される期待に応える快感は、そもそも期待されているという実感は、ここでしか味わえないと思う。


握手会のときに、ファンの子が「光ちゃんから、絶対に挫けないって勇気を貰ってます! いつもありがとうございます! 絶対にトップアイドルになってね!」と言った。


やっぱり『ありがとう』って言葉は好きだ。自分が役に立てたって実感できて、言っても聞いても幸せになれる。


ここまで来るのにーーまだ全然だけどーー凄く回り道をしてきた気がする。何でこんなに回り道したのか、何でアタシが弱いのか。その答えがやったわかった気がする。Pに対しての甘えが抜けきっていなかったからだ。


諦めてしまうこと。挫けてしまうこと。頼って甘えたりしてしまうこと。孤独を恐れてしまうこと。そうした弱い心が、弱い自分が、アタシを邪魔し続けたんだろう。なら早く倒さないとね。それだけが、アタシとPの友情を守る術だ。


そして誰よりも、何よりも強くなって、証明するんだ。アタシは一人でも皆を笑顔に出来るんだって。ヒーローは挫けないんだって。Pの助けが無くても頑張れるんだって。魔法が無くても、アタシには勇気があるんだって。


その為の道は常に開いてる。特訓だ。やりたいことで、やるべきこと何だから、突き進めばいい。どんな障害物も邪魔者もぶっ潰して、ギアを高めるんだ。


でも、寝る前に出来る特訓ってなんだろう……。いいや、何かいい方法があるはず!


P.S

LIVEが終わってから、楽屋に引き抜きの人が来た。真っ黒な服を着た偉そうな
人で、色々面白い話をしてくれたけど、「違約金払わなきゃだから。ごめんなさい!」と断っておいた。<了>

光が遠くに行っちゃう夢と、筋肉モリモリになったまゆの夢を見たから書きました。光の再登場はまだ時間かかりそうですか

依頼出してきます

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