あたしのプロデューサーさんは空を見るのが好きな人だ

夕方になると決まって空を見上げている

あたしはそんなPさんの隣で、一緒に空を見るのが好きだ

Pさんの隣にいると落ち着く

Pさんの煙草の匂いが好き

クタクタになったスーツが好き

空を見上げるPさんの横顔が…

今日は雨が降ってる

雨の音は好きだ

前にテレビで見たことある

雨の音は、集中力を上げる効果があるって

なるほど、雨の日はゲームもハイスコアが出やすい

Pさんもこんな日は仕事がはかどるのかな？

P「すみません、ちょっと出てきます」

ちひろ「はーい　いってらっしゃい」


雨が降るとPさんはそそくさとどこかに出かける

雨の音は好きだけど、雨の日は嫌い

私の隣からPさんがいなくなるから

Pさん知らないの？

雨の日は集中力がアップするんだよ

早く帰って来てね

昨日に引き続き今日も雨

びしょ濡れになって事務所に着くと、こんな会話が聞こえてきた


P「すみません、今日も…」

ちひろ「わかってますよ」

P「いつもすみません、私用なのに…」

ちひろ「いいんですよ　外回りのついでってことで」

ちひろ「Pさんもなかなかお休みとれないんですから、こんな時くらい家族孝行してください」

P「そう言っていただけると助かります」

P「それでは行ってきます」

ちひろ「はい、いってらっしゃい」

ｶﾞﾁｬ

紗南「…」

P「紗南？どうしたんだ、こんな所で」

紗南「…別に」

P「びしょ濡れじゃないか　早く事務所に入った方がいいぞ」

紗南「うん」

紗南「それより早く行きなよ　待ってるんでしょ？」

P「あ、あぁ　そうだな　行ってくるよ」

紗南「気をつけてね」

Pさんの後ろ姿を眺める

だんだんと小さくなって、やがて見えなくなった

………

長いこと、アイドルとプロデューサーの関係をやってるんだ

そのくらい知ってる

Pさんが結婚してることも

子供がいることも

雨の日は学校まで迎えに行ってることも

全部知ってた

知ってた、のに…

気づかないふりをするのにも限界がある

そんな現実を受け入れられるほど、あたしは大人じゃない

心に受けたダメージは大きい


その後、数日間

冷たい雨は降り続いた

連日の雨は止み、今日は久々の晴れ

私はPさんの隣で空を眺めている

ちひろ「また二人で空を見てるんですか？」

P「えぇ、なんか日課みたいになっちゃって」

ちひろ「ふふっ、そうですね」

ちひろ「あれ？でも紗南ちゃん、最近はあまり見てませんでしたよね？」

紗南「うん」

ちひろ「それじゃあ、今日はどうして？」


紗南「今日は空が青いから」