八幡「瞳を閉じれば貴女が」 (46)
俺ガイルSSです。
書き溜めたものを投稿していきます。
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春とは、出会いと別れの季節である。
就職、進学と、新たな環境へと変わりゆく季節であり、
その新たな環境へ進むために元居た環境から旅立つ季節である。
ちょっとセンチメンタルになってしまう季節。
でも、ぼっちな俺には関係ない。
ぼっちは誰かと出会うことはないし、出会うことがなければ別れることもない。
新たな環境でも人の輪っかの外、別れの際には涙ぐむ周りの奴らを冷めた目で見る。
今まではそうであったし、これからもそうであろう。
小町「お兄ちゃーん、先出るからねー」
3月のある朝、小町のそんな声とパタパタ歩いていく音が聞こえた。
八幡「―――あー、いってらっしゃ・・・」
そう言いながら薄ぼんやりと開いた瞳で携帯で時刻を確認する。
ん、7時半か・・・まだまだ大丈夫・・・じゃない!?
普段ならそこから着替えて学校に行けば、まぁ遅刻は免れる時間帯。
でも今朝はそういうわけにはいかない。寄り道する必要があったのだった。
寄り道の必要性を知ったのは昨晩。「明日の朝、早めに起きればいっか」なんて
思ってたら寝坊ですよ。
飛び起き制服に着替え始めるが、普段しなれないネクタイを結ぶのに少し手間取る。
着替え終え、家を出る。見上げた空は凛と澄み渡った青空。
春とはいえ、朝方はコートがないと少し肌寒いほどであった。
由比ヶ浜「(あれー、ヒッキーまだ教室来てないなー)」キョロキョロ
由比ヶ浜「ねぇ、彩ちゃん、今朝ヒッキー見てない?」
戸塚「ん、八幡?僕は見てないけど、材木座くんは八幡を見かけたって今朝言ってたかな。
声掛けたのに無視されたー、って。朝だから八幡急いでいたのかなー?」
由比ヶ浜「ははっ、そーだねー(ヒッキーなら朝とか関係なしにスルーしそうだけど・・・)」
由比ヶ浜「もう、ヒッキーったら・・・今日、卒業式なのに」ホッペプクー
戸塚「だねー、でも、もう来るんじゃないかなー」
ガラッ
八幡「ハァハァ・・・」
戸塚「ほらね?」
由比ヶ浜「・・・あれ、ヒッキー・・・」
八幡「(失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。
失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。)」
八幡「(まさか、今日という日に限って忘れ物しちまうなんて・・・)」
何?日頃の行いってやつですか?
教科書や宿題を解いたノートを忘れると、貸してもらう、あるいは見せてもらう相手のいないぼっちは
ピンチに追い込まれるわけであるため、ぼっちは学校へは忘れ物をしていかないものである。
プロぼっちの俺がぼっちの初歩でミスをしてしまうなんて・・・
クソっ、平塚先生に対して「誰かもらってくれないなら俺がもらっちゃうよ?」って思ってたのは
毎回本心ではなかったことか?
いたずらにアラサーの現実をおちょくっていたことが悪かったのか?ゴメン、先生。
だから今日くらいは勘弁してください。
今日だけは・・・。
平塚「クシュン」
平塚「(ふふっ、誰か私のこと噂して・・・いや、違うぞ。春・・・こ、これは花粉症?!)」
平塚「(とうとう来てしまったか・・・花粉症でないことが私の売りの一つであったのに・・・)」
平塚「(はぁー、また一つ売れ残る原因が増えていく・・・あれ、涙出てきちゃった。まだ卒業式は
始まってないんだけどなー・・・)」ポタポタ
「―――卒業生、入場」
マイクから流れるその声とともに、吹奏楽部による「威風堂々」の演奏が開始される。
体育館の重い扉が開かれ、卒業生が列をなし登場。
卒業生は胸に花飾りを付け、ある者は恥ずかしそうに、ある者は背筋を伸ばしながら、
三者三様に行進していく。
八幡「―――」ウルッ
いかんいかん、式が始まったばかりだというのに俺の涙腺は・・・
川崎「・・・ほら、これ使いな」コソッ
隣に座った川崎からポケットティッシュが手渡されたので、俺はありがたく使わせてもらう。
卒業生の行進の列を見ながら色々な思い出があふれ出てくる。
まぶたを閉じれば思い出される、あの笑顔・・・
「―――在校生、送辞。在校生代表、生徒会長、一色いろは」
一色「はい」
一色「―――冬の寒さも緩み、桜の蕾の膨らみに春の訪れを感じる季節となってまいりました。
本日、晴れてこの総武高校を卒業なさる三年生の皆さん、本当におめでとうございます。
在校生を代表し、心よりお祝い申し上げます。
私が皆さんと出会ってから、ともにすることができた時間は大変限られたものではありますが、
三年生の皆さんとの間には様々な思い出があります―――」
体育館には在校生代表による送辞の言葉が響く。
あー、早く終わんないかなー。
卒業式の主役は卒業生だろ?大事なのは送辞じゃなくて答辞だと八幡思うなー。
まだこの季節の体育館は寒いからな、余計そう思う。
薄っぺらなスリッパからも床の冷たさが伝わってきそうだ。
こんな時は温かいマッカンが欲しくなる。
某国営放送も今年の秋あたりからしきりに「マッカン」「マッカン」言ってるしな。
・・・えっ、マッカンじゃない?マ○サン?
缶コーヒーじゃなくてウイスキーづくりのドラマ?
2009年の冬から全国展開を開始し、最近缶コーヒー界のトップに立ったとかの
ニュースじゃなかったのか・・・そうだよな、全国制覇にそんな時間要しないよな、マッカン。
今度の連続テレビ小説はマッカンやんねーかな。
制作秘話から全国展開まで・・・やだ、見てみたいっ!全編千葉ロケ決定だわ。
一色「―――様々な人の力を借りて、私は生徒会長という役職を務めておりますが、生徒会長になるにあたっても、
また、生徒会長になってからも諸先輩方の支えがありました。」
城廻「・・・」ニコニコ
一色「前任の生徒会長であった城廻先輩、生徒会のメンバーの皆さん・・・そして、生徒会長になることに
迷っていた私の背中を押してくれた、ある先輩///」
城廻「・・・」
雪ノ下「・・・」
一色「その先輩は私の生徒会長選挙に向けて色々尽力してくれていました。自信のなかった私を励ますために、
『お前を応援してくれる奴はこんなにいるんだ』って―――普段はどよーんとした目をしていて、
私の扱い方がぞんざいで、でも・・・ホントは優しくて」
一色「生徒会長になってからも先輩は色々助けてくれました。他校と共同で運営したクリスマスパーティーにも、
時には背中を押してくれて、手を引っ張ってくれて、そして、たまに歩調を合わせてくれて」
一色「いっつも面倒くさがりながらも、私と一緒に歩いてくれました。『責任取るためだ』、なんて照れ隠しに
言ってたけど、そんな素直じゃないところも可愛くて・・・///」
一色「多分こんなこと言ったら顔真っ赤にさせて、それもまた可愛いんでしょうねー。残念ながら舞台上からは
見つけられないのが残念です///」
由比ヶ浜「(なんでいろはちゃんら辺コッチ見てんだろー)」ボウヨミー
八幡「・・・」
あー・・・眠いな。昨日は緊張して眠れなかったからなー。
寝られたと思ったら、そのまま寝坊しちまうし・・・
一色「先輩は私を思って歩調を合わせてくれます。でも、そうじゃなくて、今度は私から先輩の隣に立てないかなって
最近よく考えるんです。いつも先輩が私を押してくれるでも手を引くでもなく、同じ歩幅で、同じ景色を一緒に
眺めながら歩いていけないかなって」
一色「今すぐは無理ですけど、必ず追いついてみせます。だから先輩は少し先で待っていてください。私、頑張ります。
だって、先輩のことが・・・好きだから///」
城廻「・・・」
雪ノ下「・・・」
由比ヶ浜「・・・」
会場「(ザワザワザワザワ)」
オイ、ダレダヨセンパイッテ?!
イロハス、マサカオレノコトヲ?デモオレニハ...
ナイワー、ヒキタニクンハハヤトクントデキテイルッテノニー
オイオイ、ゼンコウセイトノマエデコクハクカヨー
八幡「(・・・おっ、送辞ももう終わりそうだな)」
いや、長ぇよ送辞。関係ないことグダグダ言いやがって・・・
まぁ、とりあえず、やっと始まりますよ本日のメインイベント。
八幡「・・・」カチャカチャ
へへっ、手が震えてやがるぜ・・・。雪ノ下に頭を下げ、土下座一歩手前まで拝み倒して借り受けた一眼レフの
準備に手間取ってしまう。
川崎「・・・ほら、これで手暖めな」コソコソ
隣に座った川崎からホッカイロを手渡される。緊張と寒さで硬くなった俺の手も温かさで徐々に緩んでいく。
八幡「すまん、助かる」コソコソ
一色「―――皆さんのこれからのご多幸とご健勝をお祈りしまして、送辞と代えさせていただきます。
卒業生の皆さん、今までありがとうございました」
一色「在校生代表、一年○組、一色いろは」ペコリ
会場「ザワザワザワザワ」
オイー、セイシュンシテンジャネーゾ、イッシキィ!
ヒラツカセンセイ、オチツイテクダサイ!
ガタッ...アノネコカブリ...
ユキノシタサン、オチツイテ!ハイライトガシゴトシテイナイ!
「えーっ、静粛に!皆さん、静粛に!」
「―――続きまして卒業生代表、三年、城廻めぐり」
城廻「―――――――――はい・・・」
由比ヶ浜「(あっ・・・城廻先輩のハイライト消えてる・・・)」
おいおい、最後にやっちまいやがったな、送辞の奴・・・
結果的に次の答辞に影響なさそうだから良いものを・・・
司会のうながしの元、答辞を行う生徒が演台に向かう。
来賓に礼を済まし、少し間を置いてから演台上マイクのスイッチを入れなおした。
そこには、かすかに涙ぐむ天使がいた。
城廻「本日は私たち卒業生のためにこのような盛大な式を開いていただきまして、ありがとうございます」
城廻「また、先ほどは校長先生をはじめ、来賓の皆様や生徒会長からの温かい言葉をいただき、
胸が熱くなる思いがしております。皆様の言葉を胸に抱き、私たち三年生は本日、この学校から卒業します」
由比ヶ浜「(さっきのは見間違えだったのかな?いつもの城廻先輩だ―)」ホッ
城廻「―――こうして演台に立ってみると、皆さんの顔がよく見えます。ともに学び、励ましあった学友たち。
様々なことを教え、導き、時に見守ってくれた先生方。部活動や学園生活を通して、年配者としての
責任感や自覚を抱かせてくれた後輩のみんな。そして、毎日送り出してくれた両親」
城廻「皆さんの顔は、高校三年間の様々な出来事を思い出させてくれます。それは私に笑顔を与えてくれるものであり、
自戒させてくれるものであり、そして少し涙が出そうなくらい懐かしい思い出でもあります。
もう戻れないんだなーって思うと、やっぱり少し悲しいです」
視界は涙のせいで歪んでしまっていた。
「本物が欲しい」と奉仕部の部室で打ち明けたあの時以来、どうにも涙もろくてしょうがない。
ここには、欲して止まなかった「本物」がある。
何があっても必ず戻ってこれる「本物」がある。
多分、俺にとってはありふれていて、でも気づかなかったもの。
奉仕部なんて碌なもんじゃないと、入部当初は思っていた。
奉仕部を通して色々なものに出会ってきた。
彼女たちの苦悩、彼らの距離感。
彼女たちの望み、彼らの生き方。
これからもぼっち、と言うか、人の輪から外れたところで相変わらず生きていくんだろうけど、
色々な出会いは俺に「本物」を教えてくれた。
演台前に立つ彼女には、「折角の晴れの舞台だ、ちゃんと写真にも収めておく」なんて言っておいて、
雪ノ下からパンさん用一眼レフを借りといて、でも視界は涙で歪んでしまって
川崎「・・・ほら、貸しな」コソコソ
そんな俺を見かねて隣の川崎がカメラを奪い取っていく。
カシャカシャと、何度もシャッターが切られた。
城廻「そう、もう戻れないんですよね」
城廻「出会った頃は彼のことを理解できていなくて、理解できた頃には高校生活も半年を切っていて。
そこからどれだけ同じ時間を過ごそうと思っても、受験生で生徒会長であった私にはどうしても時間がなくて」
雪ノ下「・・・」
由比ヶ浜「・・・」
会場「(ザワザワザワザワ)」
アレ、コノナガレハ...
マタソノナガレ?モウヤダー
城廻「彼が修学旅行で貫いた信念も、それで苦悩したことも。彼が前の生徒会長選挙の裏で走り回っていたことも、
人との接し方を少し改めたことも。そして、『本物が欲しい』と願ったことも」
城廻「隣に立って、ともに見たかった景色がたくさんあります」
城廻「卒業したら、そんなこと、もう叶わないんじゃないかって・・・」ポロポロ
城廻「・・・そう、でも、何を思ったところ過去には戻れないんですよね。だから、過去を思って泣くのはこれでお終いです。
泣いてたら彼はきっと、不器用なやり方で慰めに来てくれるんだろうけど、誰かのために自分が傷を受けに行くような、
そんな人だから。私が支えてあげなきゃって思うんです」
城廻「まだあと一年一緒に居れる一色さんには負けません」ニコ
城廻「『男子三日会わざれば』なんて昔から言いますけど、女の子はもっと凄いんだからね。待っててね、比企谷くん」
城廻「――――――以上、卒業生代表、三年○組、城廻めぐり」ペコリ
会場「ザワザワザワザワ」
オイ、ヒキガヤッテダレダヨ?
イッシキチャンニツヅイテシロメグリセンパイマデ?!
ヤロードモ、ソノヒキナントカガリジャー!!
オー!
戸塚「・・・」
葉山「・・・」
由比ヶ浜「・・・」
卒業生答辞が終わり、体育館内には温かな拍手の音が満ちていく。
ああ、立派な姿だった・・・立派になったんだな・・・
八幡「ん・・・?」
携帯のバイブが鳴ってる。
どこのメルマガだよ良い時に、と思って携帯を見ると、由比ヶ浜からのメールだった。
『ヒッキー、しばらく学校休んだ方が良いかも(´・ω・`)』
え・・・新手のいじめ?お前の席ねーからって?傷つくわー
由比ヶ浜「(いろはちゃんと城廻先輩の公開告白で会場はザワザワしている。先生たちは何とか鎮めようと
しているが、あまり効果がないようだ)」
由比ヶ浜「(まー、二人とも人気だもんね、仕方がない)」
由比ヶ浜「(会場の中は、この出来事を面白半分に見ている人が多分大多数で、「答えてやれよ、ヒキなんとか」って
意見が聞こえてくる。嫉妬?からヒッキーを吊し上げろって声も少し聞こえて、まぁ、その先導は
ゆきのんが務めている)」
携帯を取り出し、私はヒッキーにメールを送った。学校に来るとヒッキーが危ない。
まぁ、なんか知らんがどうでもいいか。携帯をポケットにねじ込む。
それより卒業式だ。
川崎「ほら、私たちの弟が、妹が行くよ・・・」
式が終わり、卒業生たちが列をなして退場していく。
退場の途中、大志と小町がこっちに気づき、手を振ってくる。
小町、答辞の姿立派だったぞ・・・
大志は「姉ちゃん、お兄さん!」と口をパクパクしながら手を振り通り過ぎて行った。
今日くらいは小町に免じ、お兄さんと呼んだことも不問に処してやろう
小町は俺にとっての「本物」だった。
馬鹿やった俺を、傷つくだけの俺を、苦笑しながらも迎え入れてくれる。
壊れても、それでもいつの間にか直っていて、また馬鹿なこと言い合える関係。
子どもの頃から当たり前にあって、当たり前だからそれが特別なんて気づけなくて。
人との関係で傷つき、どん底に落ちた時にふと顔を上げるとそこにあったもの。
小町とのような関係が、「家族」っていうくくりのない人たちとも
築けるのだろうか。
平塚先生も言っていたけど、それは問い続けるしかないのかもしれない。
大志も中学卒業かなんて、最近大きくなってきた背中を見送りながら一人思う。
そして、次の春には私たちも高校を卒業していくわけで。
残された時間はそう多くない。
その場で足踏みしても、後ろを振り返っても過ぎていくのが時間。
どうしたって進んでしまうんだから、私は歩みだすことを決めた。
二週間前、なけなしの勇気を振り絞って。
「―――あんたさ、3月○日って何の日か知ってる?」
「・・・ああん?卒業式だろ、うちの学校の」
「あと、大志と、あんたの妹の中学の卒業式」
「知ってる、ってかむしろそっち参加しに行くし」
「・・・よ、よかったらさ、い、一緒に行かない?」
「え、なに、お前も来んの?しかも、なんで一緒に行くんだよ・・・」
「だって、ほら、一人じゃ恥ずかしいじゃん」
「あー、今の時点で相当恥ずかしがってんもんな」
「///」
「わかった、じゃあ行くか。あ、当日は制服着てくんなよ?バレっから」
「わ、わかってるし!じゃ、詳細はまた後日・・・」
そう言って彼のもとを離れていく私の口はほころんでいた。
了
以上です。
二人の少女の告白が本人不在であったことが露見して、
色々ごたごたするのは、また別のお話。
HTML化依頼出しておきます。
このSSまとめへのコメント
続きをください!
最後、超スッキリした!
途中で?ってなったがなるほど。
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肩すかしが心地よい!
後日談希望!
面白いんだが、中学違う