ポルナレフ「おれがアイドルのプロデューサーッ!?」 (386)

ある女は空に黄金の球を見た。

それを求めてせっせと登り

やっとたどり着いてみると

それは泥だった。

さあ、ここがこの話の奇妙なところだ。

女が地上に降り、再び空を見上げれば

なんと、そこにあるのは黄金の球。

さあ、ここがこの話の奇妙なところだ。

それは黄金の球だった。

そう、紛う方無き、黄金の球だった。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1425126192

どんな者だろうと、人にはそれぞれの個性にあった適材適所がある。王には王の、料理人には料理人の…それが生きるということ。

例えば承太郎の『スタープラチナ』。接近戦では最強だが、一度離れれば他のスタンドが優位に立つ。1部では強くても全てにおいて無敵とは限らない。それは人間も同じじゃあないか!

承太郎自身、スタイルよし、頭脳よし、ルックスもイケメンッ!!さすがはわしの孫じゃが、どーーにも!女とのコミュニケーションは上手くないッ・・女に好かれる要素は抜群にあるッ!だというのに!女との相性は良くないッ・・それが若い子なら尚更ッ・・」

ジョセフ「その点ポルナレフ・・お前なら問題ないじゃろう!シンガポールでも、インドでも、お前の女癖…いや、女の扱いのうまさはよーーーく見ておるッ・・」


ポルナレフ『こぉんのしみったれジジイッ・・半年ぶりにかけてきたと思ったらそれかよッ・・
しかも『女帝』に関しちゃ、結構マジだったの知ってるでしょ!?落ち込んでるおれの頭に車の鍵刺しやがったの覚えてんだからなッ・・』


ポルナレフは電話越しに唾がかかりそうな勢いでまくしたてた。半年ぶりにもらった哀愁もどこへやら、ニューヨークの社長室でふんぞり返っているインディ・ジョーンズもどきのジジイに罵声を浴びせていた。


ジョセフ「まあまあ落ち着けポルナレフ。
それだけお前をかってるということじゃよ。冗談抜きに、女性の扱いに関しちゃあな。」

ポルナレフ『ケッ!どーだかッ!それに女の扱いならおれよりもあんたのほうがうめーんじゃあねーのか、ジョースターさんよ?承太郎に聞いたぜ、亀の甲より年の劫だっけ?ナンパに関しちゃあ俺なんかより年季があるだろうしなぁ~、浮気もしたことありそうだしよぉぉ~~~』


ジョセフ「なん…・・いや、違うッ!あれは、そう、違うんじゃ!ノーカンじゃぁッ・・ノーカンッ!」


ポルナレフ『……』


黙るポルナレフ。Holy Shit!! 奴はフランスだが、あの眉のない顔つきに布団売り付けに来た営業マンを見るみたいな顔でこっちを見ているだろう。なんとなく気まずくなった。ジョセフは気まずすぎてわざと咳を出したい気分になったが、用もなく電話をしたわけではない。困っていることがあり、それを相談するために旅の仲間にコールしたのだ。こんな自業で話をなくすわけにはいかない

ジョセフ「オホンオホン…
う、浮気はしとらんが、女性に関して困っているのは事実じゃ。
いや、正確に言えば女性が関する仕事について困っていると言うべきかな…」


ポルナレフ『…何かあったら呼んでください。世界中すっ飛んで駆けつけますよ』

即答だった。いつもの彼らしからぬ、本当の彼らしい真摯な声だ。短気で直情的な男ではあるが、決めたことには猪を轢き殺せる勢いをもって突っ走る彼は、味方にするとこれほど頼もしい存在はない。頼もしさと懐かしさに、ジョセフの頬が緩んだ。

『シンガポールからエジプトまで、遥かなる旅路を共にした仲間なんだ。あの時も空港で言いましたが、何でも言ってください。すっ飛んで駆けつけますよ。』

ジョセフ「フフ…頼もしいの。これならば、『プロデューサー』としてやっていけそうじゃな。」

『え?何?プロ…?』

プロデューサー?聞きなれるようであまり実感のない単語に一転、声がいつもの調子に戻ったポルナレフ。混乱気味のフランス人を全く意に介さずに、ニューヨークのインディー・ジョーンズはカルゥ~~~~ク、言って

ジョセフ「何って…アイドルのプロデューサーじゃよ。詳細はメールで送っとるんで、来週から日本でよろしくゥ〜〜〜〜」

切った。
切られたポルナレフは時でも止められたみたいに硬直した。たっぷり五秒たってから我に返ったが、薄茶けた受話器はすでに同じ音しか発さない。

『……ハァァ〜〜〜〜〜〜〜ッ・・・』


あらん限りの叫びも大西洋の向こう側には届くわけもなく。呆然と持つ薄茶けた受話器に馬鹿にされている気がした。

空港



空条承太郎は空港が好きではない。

承太郎「…」

空港だけではない。
通学路も、
学校も、
街中も、
観光地も、
人が集まるような場所は須く好きではない。場所自体が嫌いというわけではないのだが

女1「ヤッベ・・あいつマジヤばくね・マジイケメン!!」

女2「やばーい・・チョーやばーい・・とりまあたし的にはイケメ~~~~ンッ・・」


やかましい女達が集まりやすいから好きじゃあないのだ。

承太郎「…」


承太郎は女がさわぐとムカつく。
何故かはわからない。
本能なのかもしれない。
ひょっとしたら前世の因縁なのかもしれない。だがムカつく。いくらポルナレフを待つためとはいえ、


承太郎(だから人が集まる場所は好きじゃあねえ…)


内心かなりイラついていた。


承太郎「………」


吸うところがなくなった煙草を携帯灰皿に強引に突っ込んで、これまた強引に胸ポケットの中に戻す。
そんな仕草にも女たちは敏感だ。

女3「あのワイルドな感じで突っ込むのいいわぁぁぁ~~~!!いやァーん・・振りむいたわァ〜〜〜!」


やかましい


女4「ねえっ・・こっちにも振り向いてッ!振り向いてギュッとして抱きしめてェェェェーん・・」


うっとおしい


女5「ここよここォ〜〜〜・・こっちきてェェ〜〜〜・灰皿に突っ込むよりあたしに突っ込んでよォォォォ~~~ッ・・」


女6(…素敵な方)


承太郎「やかましいッ!!!!うっとおしいぜッ!!!!!おれは女が騒ぐとムカつくんだッ!!!!」


だから毎回凄んで注意するのだが…


女達「……」


女達「「「「いやぁーん!私に言ったのォ〜?・・痺れるゥ〜〜〜・・」」」」」」」」」」」」」



効果があった試しはない。

ぼやきながら帽子のつばを引き下げた。
この手合いは何度も何度も経験しているが、何度も何度も凄んでも単語を覚えたばかりのオウムのように同じ反応しかしない。
この世から大和撫子は死滅したんじゃあないのかと承太郎は考えていた。ある意味DIOより厄介な相手に手を焼いていた時、


「相変わらずだなぁ〜。このおれのように、レディには優しくしないとモテないぜぇ〜、承太郎?」


―――――――待ち人が来た。あいも変わらず、電信柱のように髪の毛を直立に、獅子の鬣のように、勇猛におったてたあいつが来た。


承太郎「…フッ。そんなキャラクターしてねーぜ、てめーとは違ってな。」


ポルナレフ「へっ、違いねえぜ。あの旅の日数の倍以上会ってねえのによ、こうして会うと久しぶりとは思えねーなあ。啖呵の切り方、女の子からの歓声…あの旅がまるで昨日のようだぜ」


承太郎「…ああ。」

ガシィッ・・
固く、お互いに右手を握りしめあい、すぐには離さなかった。すぐに離せぬほど、あの旅の思い出と、2人の絆は深かった。

承太郎「…久しぶりだな、ポルナレフ」


口元が緩み、フッと自然な笑顔が浮かぶ承太郎。それに釣られて、ポルナレフもにかっと、晴れ空の太陽を思い出させるような大笑顔になった。


ポルナレフ「よーし、挨拶も済ませたところで、飯でも食おうぜ!飯をよォーーッ・・機内食がエレガントなおれの舌に合わなくってよォ〜、あんま食ってねーんだ。腹が減っちまってしょーがねーぜ。」



承太郎「それなら家でお袋が飯を用意している。てめーが来ると聞いて大張り切りだったんでな。今から行こうぜ」

――――――――――空条邸


ポルナレフ「んまぁぁ〜〜〜〜〜い・・
特にこのチクゼンニ!汁と具が!ポールマッカートニーとマイケルジャクソンのデュエットのように・・見事に絡み合って最高の味が出ているッ・・
それにこの唐揚げも・・サラダも・・こんなうまい飯食ったことねーッ・・」


ハムッハムッハフッハフッ・・

湯気の立つ白米を箸で器用に書き込みながら、出汁が繊維の隅々までしみたちくわを口に放り込む。

その咀嚼が終わらないうちに、今度は山吹色に揚げられた大ぶりの唐揚げを一口で頬張る。

出所したばかりの囚人が娑婆の飯を涙ながらに書き込むように、どれも満面の笑みで、うまいうまいとこぼしながら素早く胃に流し込む姿を承太郎は呆れながら見ていた


承太郎「やかましい奴だぜ。黙って食えねえのか」


承太郎は帽子のつばをぐいっとさげるが、対象的にホリィは朗らかに笑った。

木製の箸を器用に使いながらがっつくポルナレフをニコニコと、まるで自分の子供のように見守る。


ホリィ「うふふ。いいじゃあないの、承太郎。こんなに喜んでもらえたらママも作ったかいがあるわ〜。」

ポルナレフ「……おめーは幸せもんだぜェ〜〜、承太郎。こんなに料理がうまくて、優しくて。何より!美人な!美人な!お袋さんが居るってのはよォ〜〜〜」


ホリィ「うふふふふ・・もうっ!ポルナレフさんったら口がうまいんだから・・おだてても何も出ないのにィ〜」


ポルナレフ「とんでもない・・おれは事実しか言わない男ですよ・・なあ、承太郎?」


承太郎は返答せず、軽くため息をつきながら庭を見た。


承太郎「…やれやれだぜ」


ポルナレフ「かぁーッ!相変わらず素直じゃあねーなーッ!ホリィさん!こいつね!いつもこんな感じですけどホリィさんにはいつも感謝してるんですよ・・こないだも…」


承太郎「……」

スタープラチナ「……」



ポルナレフ「わ、わかった!悪かった、承太郎!わかったからスタープラチナの拳をこっちに向けるのはやめてくれッ!ヒーッ!」


ホリィ「…なんだかよくわからないけど、承太郎ととっても仲良しなのね!ポルナレフさん!嬉しいわ!」

承太郎の部屋

ポルナレフ「いやあ食った食った!…いやあ、いいお袋さんだなぁ、承太郎。」

満ち足りた腹を叩きながらに満面の笑みをこぼすポルナレフ。

承太郎「…ああ。」

今度は余所見せず、優しい笑みを浮かべながら返事をした。
いつだったか、アヴドゥルと花京院が言っていたな。
守ってあげたいと思うと。
元気な暖かな笑顔が見たいと思うと。
その時は聞き流していたが、確かにその通りの人物だったとポルナレフは思った。

ポルナレフ「…お前とジョースターさん、花京院やアヴドゥルが命を賭けた理由がよくわかったぜ。イギーも見ていれば納得しただろうよ。」


あのクソ犬も触らせるくらいは許すかもな、と漏らす彼からは哀愁が漂っていた。

承太郎「…」

パンッ!銀髪の青年は両頬を叩き気合いを入れる。

ポルナレフ「…うし!湿っぽい話は無しなしッ!
ところで、その、おれが行くアイドル事務所ってのはどこにあるんだ?ジョースターさんから言われてスーツは持ってきたがよお〜」


承太郎「…」

承太郎は無言のままポケットから車のキーを出し、投げた。キーは綺麗な放物線を描き、『刺さった』。


ポルナレフ「あ!」

今、叫んだ男の頭頂部に。そそり立つ銀の大地に突き立ったそれは、さながら大木に刺さった聖剣を彷彿とさせた。


ポルナレフ「投げるのはいいが頭に刺すんじゃあねーッ!てめーといいジョースターさんといいッ!!」


承太郎「車を運転しな、ポルナレフ。助手席から道案内してやる。」


叫ぶポルナレフを承太郎は完全にシカトして、部屋の外に歩き出した。頭から引っこ抜きその後を追う。


ポルナレフ「無視してんじゃあねーーッ!
聞けコラァーッ!」

承太郎「お袋。車借りるぜ。」


ポルナレフ「ホリィさん!行ってきます!!」


またシカトされたが、ホリィには明るく、ぶんぶん手を振って出かけるポルナレフ。なんというか、見ていて楽しくなる彼に釣られてホリィも笑いながら送り出した。


ホリィ「はぁーい。行ってらっしゃーい!
承太郎があんなに舞い上がるなんて…よっぽど仲良しなのね、ママ嬉しいわ。」



車中

ポルナレフ「フゥーム。なるほど、お祓いしても消えない幽霊ねえ。ポルターガイストを起こし、更にはひとに危害を加える、か。ジョースターさんからのメールの通りだな」

スーツに着替えたポルナレフが、運転しながら承太郎に聞く。対する承太郎はいつもの学ランに帽子のまま、ダッシュボードに両足をガン乗せにしながら返答した。もちろん席も後ろにガン倒しだ。

承太郎「既に何人も被害にあっている。出来損ないのホラー映画のようだが、どうやらマジらしい…そこを右折しな、ポルナレフ。」


ポルナレフ「よっと…しかしよ、それなら引っ越せばいいんじゃあねえのか?いつまでもそこで居てちゃあアイドル達の仕事にも支障が出るぜ。」


承太郎「…『184人』」


ポルナレフ「ああ?」


意味がわからず、聞き返す。


承太郎「…所属アイドルの人数だ。『現時点』でのな。」


ポルナレフは口から出かかった、呆れの「ハァ」と驚愕の「ハァ?」を一つにまとめた「ハァ」を、戻しかけたゲロをなんとか飲み込むように、飲み込んだ。運転中じゃあなければ間違いなく叫んでいたな、と思った。

ポルナレフ「…色々と突っ込みたいことはあるが、だいたい理解できたぜ、おれが呼ばれた理由がよ。確かにッ!!ゴーストハントが出来て、頼れてハンサムッ!仕事の出来るナイスガイとなるとッ!俺しかいねーからなあぁぁ〜〜〜」


電柱男は得意感と自信感がミックスされたこれでもかというくらいの最高のドヤ顔で鼻を鳴らす。付き合いの長い承太郎は今更突っ込みはしないが、ポルナレフのこういうところは頼りになる反面、相手につけこまれやすいから、いつも注意をする。


承太郎「気をつけろよ。ジジイから聞いただろうが、被害者はその『幽霊』に『殴られている』。中には骨を折って未だに歩けない奴もいるそうだ。」


ポルナレフ「ヘッ!!心配すんなよ承太郎!!いくらパワーがあろうが、無力な一般人しか襲わねー下衆におれが負けるわけはねえッ!
何人の骨を折ったのか知らねーが、このポルナレフとチャリオッツが骨折り損にしてやるぜ!」

だがポルナレフは気にしない。

決めたら全力、最短距離を突っ走る彼に助言なんてあまり意味がないからだ。
それに並のスタンド使いならばこの勢いに呑まれて再起不能に出来る事は承太郎自身よくわかっているので、杞憂だな、と内心呟いた。


承太郎「フッ…着いたぜ、ここだ。」


ポルナレフ「よーしッ!待ってろよアイ…」


これからカワイイ女の子に囲まれ仕事をするであろう自分。やる気と希望がムンムン湧いてくる自分。ドアの取手が自分の未来のようにバラ色に光っている気がして、勢い良く開いた先に――――――――


バァーーーン!

ポルナレフ「…え?」

――――――宮殿があった。

アイドルプロダクションに来たはずなのに、ポルナレフは故郷のバッキンガム宮殿を思い出していた。それほど、たまらなく―――――

ポルナレフ「…でかくね?」


承太郎「ああ、でかいぜ。ま、頑張りな…?」


後ろ手をひらひらさせて来た道を戻る承太郎だった…が、動けない。
力強く、承太郎の襟首を掴むポルナレフがいるからだ。

承太郎「…何だ、この手は?早いとこ離してくれるのを期待してるんだが…」

ポルナレフ「何暇なこと言ってんだ承太郎。おめーが歩く方向は家じゃあなくてこっちだろうが」

まさかこいつ―――――T大志望の、聡明な彼にはなんとなく予想がついた。とてつもなく嫌で想像したくない予想ができてしまった。


承太郎「……お前の言ってる意味がなんなのか…分からない。」


ポルナレフ「アレ?おっかしーなぁ〜〜〜。ジョースターさんから聞いてねーのか?まっ、いいか。歩きながら話すぜ!」


引きずられるがままになる承太郎。
諦めに近い表情でボソッと呟いた。


承太郎「やれやれ…結局おれも行くのか…」

――――――――美城プロダクション。通称『346』プロ。
多数の俳優や歌手が在籍する、業界屈指の老舗プロダクション。

提携先にはSPW財団を始め、カメユーグループ、グリーンドルフィン刑務所、ふるうつ東方、杜王町役場等大手企業から官公庁まで多種多様な相手先を持つ。

複数のレッスンスタジオやトレーニングルームを完備している他、エステや喫茶店のようなリラクゼーション施設にも事欠かない。(オススメはふるうつ東方が経営する果樹園直送のネットメロンで作られたメロンパフェだ)

アイドル部門は始まって間もないが、過去の業績とプロダクションの巨大さから否応無しに期待をかけられていた。


そんな期待を知ってか知らずか、アイドル達は今日も一堂に集まった。

スタンド攻撃食らってベルサイユ宮殿がバッキンガム宮殿に変えられた。
許せ

――――――宮殿があった。アイドルプロダクションに来たはずなのに、ポルナレフは故郷のベルサイユ宮殿を思い出していた。それほど、たまらなく―――――

ポルナレフ「…でかくね?」


承太郎「ああ、でかいぜ。ま、頑張りな…?」


後ろ手をひらひらさせて来た道を戻る承太郎だった…が、動けない。
力強く、承太郎の襟首を掴むポルナレフがいるからだ。

承太郎「…何だ、この手は?早いとこ離してくれるのを期待してるんだが…」

ポルナレフ「何暇なこと言ってんだ承太郎。おめーが歩く方向は家じゃあなくてこっちだろうが」

まさかこいつ―――――T大志望の、聡明な彼にはなんとなく予想がついた。とてつもなく嫌で想像したくない予想ができてしまった。


承太郎「……お前の言ってる意味がなんなのか…分からない。」


ポルナレフ「アレ?おっかしーなぁ〜〜〜。ジョースターさんから聞いてねーのか?まっ、いいか。歩きながら話すぜ!」


引きずられるがままになる承太郎。
諦めに近い表情でボソッと呟いた。


承太郎「やれやれ…結局おれも行くのか…」

社長「あー、皆。集まってくれたようだね。」


アイドル達「……」


社長「先日話した通り、今日から新しいプロデューサーとモデルが来ることになった。しかも、両名とも我がプロダクションではめずらしい男性だ」

男性―――――それはアイドルにとっては禁断のワード(ファンは別)。ほぼ男子禁制とも思えたこの346プロダクションアイドル部門に男性が来るとなっては、アイドルだって女の子。さわがないわけがない。やにわに色めきだつアイドル達。

「お、お、男の人・」

「…焦りすぎ。」

あるものはテンパり、

「ええ?!ど、どうしましょう…お化粧して来るべきかしら?」

「今行ったら逆に失礼よ」

あるものはパニくって化粧直しを慣行しようとし、

「男のプロデューサーとモデルだなんて…ダンサブルな世界ね。」

「男性プロデューサーはダンサブル…ふふっ」

あるものは自由にしている。色めき方、騒ぎ方は人それぞれだが、期待しているという点については一致していた。そのことを嗅ぎ取った社長が好機とみて、部屋の外に顔を向けた

社長「期待してくれているようで何よりだ…では2人とも、入ってきてくれ」

期待と期待と期待に、それぞれある胸ない胸を膨らませながら、アイドル達はその瞬間を待つ。

一人目――――――

承太郎「……」

承太郎の入室と同時にきゃぁッ!と事務所内に黄色い歓声が響いた。
響かされた本人は、不本意な詐欺にあったかの如くに不機嫌だったが、テンションが上がりまくっているアイドル達は全く気にしなかった。というか、目に入っていない。

2人目――――

「名乗らせていただこう。」

騒いでいたアイドル達が一様に静まる。

ポルナレフ「ポルナレフ。J・P・ポルナレフ。24歳。フランス出身のナイスガイだ。
…よろしく頼むぜぇ〜」

紹介される前に自己紹介をかましたその男、J・P・ポルナレフの姿は、確かに様になっていた。さながら、剣(レイピア)を構えた騎士の如く様になっていた。いたのだが、アイドル達は気が気でなかった。

杏(…何あの髪型。)

―――その、彼の頭上に雄々しくそそり立つ銀髪のせいで。

承太郎「…モデル。空条承太郎。17歳…世話になる」

ドヤ顔をかましてきまったと勘違いしているポルナレフと、彼(の頭)にアイドル達の注意が集中してる間にサクッと自己紹介を済ませる承太郎。その顔にはこれ以上の面倒はごめんだ、という感じがありありと出ていた。これはイかんと、咳ばらいを大袈裟にして社長は話題を変えた。

社長「オホンオホン!!…さて、君たち二人には早速だが仕事にとりかかってもらう。仕事内容についてはもうジョースターさんに聞いているだろうが、もし何かわからないことがあったなら彼女に聞いてくれ。」

「はいっ!!」

明るい、元気な声が響くと共に、艶やかな茶のロングヘアーを後ろで一本に編んだ、可愛らしい女性がアイドルの中から出て来た。

ちひろ「はじめまして。ポルナレフさん、承太郎さん。ご紹介に預かりました、事務員の千川ちひろと申します。私も精一杯サポートしますから、一緒に頑張りましょうね!
とっても…」


ポルナレフ「マジ?!こいつはラッキーだぜッ!!」

言い終わる前にちひろにズイッと寄るポルナレフ。
承太郎は見飽きたホームコメディを見るかのように、溜息をついた。

ちひろ「は、はい?」

一瞬で寄ってきた新米プロデューサーに目を丸くするちひろとアイドル達。
いきなりすぎたからか、笑顔が中途半端に張り付いたままだ。おいおい、初対面だってのにいきなり引かれてんじゃあねーぜ、と承太郎は思った。

ポルナレフ「いや、失礼…
あまりにカワイイもんですから、てっきりアイドルかと思っていました。事務員なら、気兼ねなく食事に誘えるというものです。どうですか?今夜辺り。」

下心を隠そうとしないまま、紳士的にナンパするポルナレフ。ちひろは完璧に半笑いだ。

承太郎「…普通そういうことは、足じゃあなくて、目を見て言うもんだぜ、ポルナレフ」

ポルナレフ「…おーっと!失礼失礼!『マライアキャリー』のような、そのグンバツな足についみとれてしまった!いや、ほんと申し訳ない!わははははッ!」


ちひろ「あ、アハハ…」


承太郎「……やれやれだぜ」


「…凜、今度のプロデューサーは、なんというか、わからない性格だね」

「…頭と下半身が綺麗に分離してるって言ったらいいんじゃあないの?」

期待が、ちょっぴり下がった気がした。

とりあえずここまで

日付変わったら投下するかも

凜じゃなくて凛やで

>>36
すまんな、ありがとう。
直しておきます


DIO「・・・」 ┣¨┣¨┣¨┣¨ド
ヘレン「・・・」 ゴゴゴゴゴ
期待

346の名前だからといってアニメ準拠とは限らないって事なんかね

>>43
準拠ではないね。
しかし全く準拠してないわけではなく、設定の美味しいとこもらってる感じ

うん。うん。ポルナレフはゆっくり頷いていた。
腕利きのソムリエがワインのティスティングを楽しむように、写真の出来映えをじっくり見ながらしきりに頷いていた。

ポルナレフ「…おれは思ってたんだ。
見た瞬間からな。君は最高にカワイイ。
だから、こんな娘の笑顔を見たら、おれ、どうなっちまうんだろう…ってな
今、それがわかった。心で理解できた。落ちまうんだよ…恋に、な。」


承太郎「…ポルナレフ、からかうのはその辺にしときな。神谷が固まっているぜ。」

奈緒「あ…う…」

真っ赤になって、油のきれたロボットみたいな動きしか出来なくなっている奈緒を承太郎が後ろから小突いて正気に戻す。

奈緒「ひゃっ、ああ?!え?か、からかってたのかぁぁ〜〜〜っ
!!?ひ、ひどいぞプロデューサー!!ほ、本気にしたあたしが馬鹿みたいじゃあないかっ!!」

まだ赤みの抜けない頬のまま、涙目でポルナレフに突っかかる。隣でかわいい我が子を見るような目で見つめる2人に気づかないまま。

凛「ふふっ、まさか本気にしてたの?あんなミエミエの歯が浮く台詞」

今時月9でもあんな臭いセリフはないと思うよ、と付け加えて。

奈緒「ほ、本気になんかしてるわけないしっ!ちょっと嬉しかったとか、べ、別にそんなこともないし・・ほ、ほんとだぞっ!!」

――――――なんていつも通りで期待通りのリアクションをしてくれるんだ。
奈緒を見るたび、ドラマの『水戸黄門』のような安定した様式美を見ている気分になると二人は思った。だからカワイイ。

加蓮「凛。ここはまさかじゃあなくて、『やっぱり』というべきだよ。なんせ奈緒だからね。」

凛「ああ、奈緒だもんね。仕方ないよね。」

うんうんと頷きあう二人。期待通りの寸劇を見られたような表情でしたり顔の凛と加蓮にポルナレフが同調した。

ポルナレフ「そうかそうか、結構奈緒は本気にするタイプなんだなあ〜〜真面目だなあ〜〜〜…カワイイ」


加蓮、凛「うん。奈緒はカワイイ」


奈緒「あ、あんたらなぁぁ〜〜〜〜!!」


半泣きで叫ぶ奈緒。一人加わらなかった承太郎だったが、3人がひとしきり騒いだのを見て、溜息をついた後、凛に目線を送って合図した。


承太郎「……次は渋谷、お前の番じゃあないのか?カメラマンのおっさんが欠伸かましてるぜ」


凜「ふふっ、奈緒いじってると時間忘れちゃうね。ありがとう、空条…さん」


言いなれないさんづけを敏感に感じ取ったポルナレフが承太郎を雑に指差しながら、からかうようににやついて凛に言った。


ポルナレフ「こいつのことは承太郎でいいぜ、凛ッ!!オジンくせー老け顔だからあんまりコーコーセーっぽく見えねーがよーッ、お前と二つしか変わらねーッ!よってタメ口で話してオッケイだ!」

承太郎「……」


承太郎は何も言わない。なにも言わずにポルナレフの方を見た。
何も言わなかったが、その顔はなんでてめーが勝手に人の呼び方を決めるんだ?と言っているのがありありと見てとれた。

だが、それ以上に三人には気になることがあった。それはマジなのか?この、超がつくイケメンだが、若干老け気味なこの男が?私達とおんなじコーコーセー?

凜「そうなの?えっと…承太郎?」

加蓮「…承太郎それホント?」

奈緒「あ、あたしとタメ?!嘘だろ承太郎?!」

承太郎「……マジだし、呼び方は好きにしな。さっさと行け、凛、ポルナレフ。あとやかましいから一斉に話すんじゃあねえ。」

今度こそ、欠伸しながら暇こいてるカメラマンの元に謝りながら走る凛とポルナレフ。
やはりだな――――――ポルナレフについて来るとロクなことがねえ。それに制服みりゃあわかんだろうが。

今日何度目かわからない溜息をついた承太郎を見て、加蓮がクスリと笑った。

加蓮「ふふ…奈緒と承太郎には悪かったけど、良かったよ。凛がちょっと元気出してくれてさ。」

承太郎「…ン?」

奈緒「うん…あたしらの中で『幽霊』に一番ビビってたのは凛だったから…」

承太郎「…『幽霊?』」

やべっ…!
うっかり機密事項をもらしてしまった新入社員のように、やってしまった表情を浮かべる奈緒。すぐさま口元を両手で押さえたが――――――――

加蓮「ちょっと奈緒・・」


承太郎「なあ、答えてくれ。ガキの頃『刑事コロンボ』が好きだったせいか、細かいことが気になると夜も眠れねーんだ」


なあ、と承太郎の、エメラルドグリーンの瞳がキラリと光る。腕っこきの職人が研いだ包丁を思わせるかのような眼光の鋭さに、問われた2人思わずは息を飲んだ。
もう、誤魔化すのは無理そうだ。

加蓮「…はあ。これは皆には内緒でね、承太郎。」

奈緒「つっても、大半の子は知ってるけどな。」

承太郎「ああ…」

腕を組んだまま、ゆっくりと壁によりかかる。もう、眼に鋭さはない。

加蓮「…最近、ここ一月くらいかな?事務所に帰るとさ、あるはずの物が無かったり、移動してたりするの。昨日は川嶋さんが、買ったばかりの『ゼクシィ』が無くなったって騒いでたね。」

その幽霊は小学生のいじめっ子か何かか?
なんともあり来たりだが、言い換えればしょうもないとも言える。というか、スタンドどころかそもそも幽霊ですらなくないか?承太郎はそう感じた。

承太郎「…その程度なら勘違いじゃあねえのか?
うちのジジイもこないだAmazonで取り寄せたばかりのコミック本、『ニンジャスレイヤー・ラストガールスタンディング』が無くなったと喚きたてていたが、ばあさんが先に本棚に整理していて気づかなかっただけだったらしいぜ」

その可能性はない。奈緒は首を横にふって否定した。

奈緒「それは無いな。あたしらだけならともかく、事務所の中の人は結構そんな目にあってる。和久井さんやあいさんみたいなマメそうな人だって何回か経験してるんだ。」

加蓮「それだけじゃあないんだよ。誰もいないはずの部屋から、ゴロツキ屋が何人かで暴れてるみたいな物音がして、入ってみたら部屋がめちゃくちゃに散らかってたことだってあったんだ。
窓もないコンクリート貼りの部屋なのに…」

ポルターガイスト、というやつだろうか。
以前youtubeか何かで無人のオフィスで1人でに書類が舞ったり、椅子が弾け飛んだりしているのを見たことはあるが、あれに近いのかもな、と承太郎は思った。
しかし、ますますB級ホラー感が溢れてきた。仮にスタンドだとしても、何を目的にそんな無駄な事をしているんだ?承太郎にはわからなかった。

奈緒「しかも、凛はそれを1人の時に体験したみたいなんだよ。事務所で一人残っていたら、隣の部屋から…ね。
だから、それ以来凛はなかなか1人になりたがらないし、何かに脅えてるみたいな感じが常にあってんだ。だから、凛を明るくさせてくれたプロデューサーと承太郎には感謝してるよ。」


承太郎「ああ、それはいいが…その心霊現象を実際に目撃した奴ってのはいねーのか?例えばポルターガイストみてーに物が飛んでるところを見たり…」

静かに首を振る加蓮。諦めと悲しみが入り混じった目で床を見ていた。

加蓮「居ないよ…事務所にはね。見た人はお祓いに来た霊能力者達と、プロデューサー候補。
確か、武内…って言ってたかな?
聞いた話だと何人かにリンチを受けたみたいに体中青あざ、黒あざだらけになった挙句、左手の薬指と親指が吹っ飛んでたって。何にせよ、皆入院中だよ。心と体に傷を負って面会謝絶さ。」

承太郎「……」

承太郎は考える。夢と希望を持ち、このプロダクションに入ってきたであろう武内。それが何もわからないまま、何も知らないまま一般人には見えない暴力に晒されて心と体に消えない傷を負わされたのだ。


殴られている時、どんな気持ちだったのだろう。
わけもわからず、指を吹き飛ばされる痛みはどんな苦痛だったのだろう。


それを知りながらやったのだ!そのスタンド使いの犯人は苦痛も、見えないから罪にならないこともッ!!知りながらやったのだッ!!


考えるだけで、承太郎は拳とコメカミに血管が浮かびそうだった。

承太郎(…野郎。誰だか知らねーが、てめーはこの空条承太郎が、必ずぶちのめす。)

固く握りしめた拳と共に誓った。そんな承太郎の内心など梅雨知らず、奈緒はいや、と加蓮に異議を唱えた。


奈緒「いや、1人居るぞ。小梅ちゃんだ。あの子から、プロデューサーが目の前で襲われたって聞いたんだ。」

何だって――――――――承太郎は太眉の方を振り向いた。


『幽霊』に目撃者が居た。承太郎からすれば、事件の確信に迫るビッグニュースだが、目の前の2人は納得の表情だ。三面記事をチラ見して全部知った気になるオバハンのように、納得していた。


加蓮「ああ、あの娘はそういうアイドルだからね…心霊アイドル『白坂小梅』なら、そういうのは問題ないのかもね。」


心霊アイドル『白坂小梅』。いわゆる『見える人』である。

その能力をふんだんに活かし『奇跡体験アンビリバボー』、『世界仰天ニュース』などのホラー回はもちろんのこと、最近では『バイオハザード』のゾンビ役としてミラジョボビッチと戦った事でも有名だ。


ホラーでは必ずといっていいほど見かける、人気急上昇中アイドル。
白坂小梅とは、そういう人物らしい。


奈緒「だから承太郎!事務所では絶対に1人になるんじゃあないぞ!」

承太郎「…ああ。」

なんとなく、この事件がわかってきた。

ちひろ「では、お先に失礼します。」

定時を1時間ほど過ぎてから、ちひろが帰りの挨拶をした。
ニュージェネレーションのための企画を作るのにパソコンとガンを飛ばし合っていたポルナレフがパッと笑顔で振り向く。
ソファーに踏ん反り返っていた承太郎も、『jounal of oceanograhy』の先月号から目を上げた。


ポルナレフ「おうお疲れさん!!…帰り道ッ!…おれのように頼れる男が居なくても、ちゃんと帰れるかい?」


ちひろ「うふふ、ご心配なく。
それに、狼さんには頼れませんから。」


軽くかわしたちひろが部屋を出ていった。
バタンと、スチール製の扉が完璧に閉まるのを確認して、承太郎がつぶやいた。

承太郎「…ポルナレフ、今ので全員か?」


ポルナレフ「ああ。全員だ…スタンド使いの『犯人』を残してな。」

『何か』が居るであろうソファーの影に眉を剃り落とした目を落とす。
過酷な戦闘をくぐり抜けた兵士のような、歴戦の勇士の顔で。

・「…っ!」ビクッ


先の尖った剣のような、鋭い殺気と共に向けられた視線に気づき、ソファーの影が揺れた。


ポルナレフ「てめーだよ、ソファーの影に隠れているてめーだ。今すぐ出てこい。このポルナレフにソファーごと切り刻まれんうちにな。」


小梅「……」


承太郎「…やはりな」


小梅「…気づいて…いたんですか?」

承太郎「いや…だが、疑ってはいた。こんな幽霊事件の中で心霊アイドルやってます、なんてのは火事の現場にガソリン抱えたヤク中がいるみてーなもんだからな。」


ポルナレフ「ついでに言うと、前プロデューサーの指が吹っ飛んだという情報。目撃者がてめーだけだってのも妙だと思っていたぜ。スタンド使いの犯行現場を目撃されて消されないっつーのは共犯者か…犯人だけだ。」


言い切られると、スッ、とポルナレフを見返す小梅。あれは会話に狼狽える引きこもりのコミュ障のように、いつも事務所で内気にしている白坂小梅ではない。
殺人でもなんでもする、覚悟を決めた者の目だ。


小梅「…そこまでわかっているなら…は、早く帰った方が…いい。」

ポルナレフ「あ?」


さらにガンを飛ばし、威圧を強めるポルナレフ。承太郎もポルナレフに加勢して、小梅を睨みつけた。

数でも、高さでも精神的な意味でも、かなり上から見下ろされているこの現状。
相当なプレッシャーがあるはずなのに、目の前の少女は全くビビらない。全くビビらず、逆に2人を睨みつけたッ!!漆黒の殺意と共にッ!!


小梅「…べ、別に…あなた達を始末するだけなら…いつでもできた。それをせずにこの場に残っているのは…単に『あの子達』と触れ合いたかっただけだから。他の皆に迷惑をかけたくなかっただけだから。」


承太郎「……」


固い意志を持った眼差しがぶつかり合っているからだろうか、その衝撃で空気が軋み、ゆがむような圧迫感が部屋に生じているッ!!

小梅「宮司も…坊主も…。下手にお祓いがうまいからこうなる。前のプロデューサーも、ここから私を連れ出そうとするからああなった。いや、あ、ああした…も、もう一度…警告…します」


ポルナレフ「…」


小梅「…い、命が惜しいなら。…帰った方がいい。」

そう言い切られるが否や、ポルナレフは行動を起こしたッ!!


ポルナレフ「宣戦布告とみなすぜッ!!シルバーチャリオッツ!!」


銀の騎士が剣先をしならせ攻撃体制に入るッ!!だがッ!!


ガブゥッ!!


ポルナレフ「な、何ィッ!?」


承太郎「ポルナレフッ!!」


ポルナレフ「!!う、腕の肉がちぎられたッ!
狂犬病にかかった犬みてーな『何か』にッ!!噛まれて食いちぎられたッ!!」


突然の負傷に驚愕しながらも、後ろに飛び退き即座に距離を離すポルナレフ。承太郎も急いでそれに続く。



小梅「…ブツブツ」

ポルナレフ「一旦距離を取ったが…どういうことだ?承太郎ッ!!やつのスタンドは見えたか?!」


幸い、傷は深くない。傷口をスーツで縛り、応急手当を済ませる。しばってから気づいたが、これはアルマーニ製の1000ドルしたスーツだった。へこむが、パンツでしばるよりはマシだと考えて、承太郎を見る。


承太郎「いや…全く見えなかった。気づいた時にはポルナレフの腕にかみ傷がついていた。しかし…」


足音が増える。紙が散らばる。物が落ちる。『何か』がいる。たくさん増えてきている。


小梅「…ブツブツ。闇の中から蘇りし者『リンプビズキット』…ブツブツ。我と共に来れ…闇と共に喜びを分かち合う…」


承太郎「何か…」


コーヒーカップが舞う!紙が裂けるッ!机が真っ二つに割れたッ!!見えない『何か』がたくさんいるッ!!
間違いない!!こちらに向かってきているッ!!


承太郎「やばいぜッ!」


見えない『何か』が大量に襲ってきているッ!

ポルナレフ「うおおおッ!!承太郎ッ!!こっちに飛べッ!!」


言いきるより早く、承太郎もポルナレフと共にその場を飛び退き、空き部屋に飛び込み、急いで扉をしめたッ!即座にスタープラチナを発現させて、木製のドアを力強く抑えるが――――――――


承太郎「フッ!!」


スタープラチナ「オラァッ!!」


バンッバンッメキィッ!!


閉め切った刹那、打撃音と共に扉が歪むッ!歪むッ!スタープラチナが扉を抑えてはいるが、木製のドアでは持たないッ!!
これではぶち破られ、雪崩こまれるのも、最早時間の問題だッ!


承太郎「ポルナレフッ!!何か…」


ポルナレフに呼びかけようと振り向いた時、承太郎は目を丸くした。
ここは空き部屋なんかではない。人体から排出される汚濁を、清らかな水で清める場所。忌まわしき聖地。
その名を…


ポルナレフ「…なんだって俺はいつも便所みたいな場所で襲われるんだ?」

言い忘れてたけどこのSSではアイドルとプロデューサーは割と酷い目に会います。
なんだとおおオォ〜ッ
私のアイドルはまだ16だぞオォォ…ブッ殺すッ!!って方は戻るを押した方がいいです

小梅「…」


勝負あった。小梅は今、袋小路に追い詰められたネズミを狩る猫以上に勝利を確信していた。


小梅「…確かに。ホラー映画ならトイレに逃げ込めば助かる可能性は高い。で、でも…うちのトイレは覗き防止のために…窓がない。つ、つまり…逃げられない」

木製のドアには見えない衝撃で、蜘蛛の巣状のヒビが幾重にも入っている。また一つ、また一つ増えるヒビに、小梅は悪魔的に歪んだ顔で嗤った。

小梅「た、例え壁をぶち抜こうとしても…コンクリートの壁を壊すより、『この子達』がその木の扉を壊す方が確実に早い…です」


小梅「い、今…負けを認めるなら…い、命だけは…助けてあげます」



喧嘩相手を泣かせたガキ大将のように勝ち誇った表情を見せる小梅。ドアには無数のヒビが入り、もう二、三回殴れば破れーーーー

「オラァーーーーッ!!」

バギィャァーーーーッ!!

小梅「っ!?こ、これは?!」

ドアが向こうから破られたことにも驚いたが、それよりもこれは。降り注ぐこれはーーー


小梅「…み、水…?」


ポルナレフ「そうだぜ。承太郎が蹴破った水道管。そこから出る水をチャリオッツが部屋中に弾き飛ばしてェーッ!!」


降りかかるのは虹がかかるほどの大量の水。部屋中の『あらゆる物体』
にかかることによりーーーーー

人型「「「「「」」」」」


犬型「「「」」」


猫型「「「「」」」」


ポルナレフ「灰被りならぬ水かぶりってか?だが、見えてきたぜ。」


人型の何かを始め、数多くの動物的なシルエットが水を被ることにより、見えることの無かった『何か』が次々と見えてきた。


承太郎「なるほど…幽霊を実体化するスタンド。しかし、事務所にこれだけの霊が居たとは気付かずに仕事をしていたのか…気持ち悪ぃな」

小梅さんはリンプビズキットか…
どのアイドルとどのスタンドが合うかかんがえて見るのも面白い…
小梅さん以外にもスタンド使いいたらだけど
とりあえずちひろさんはスタンド持ってたら多分マリリンマンソン

ポルナレフ「見えないゾンビを作るスタンドと言ったほうがよくねえか?気持ち悪いことに変わりはねーがよォー」

小梅「…よく…き、機転が効きますね。」

ポルナレフは安いもんだぜ、と言わんばかりに鼻を鳴らす。付き従うチャリオッツも心なしか得意げに見えた。

ポルナレフ「以前、見えねー攻撃を食らい続けた経験があるからな。それと似た破り方をしたまでよ。あっちの方が100倍厄介だったがな。ま、観念しな。」

銀の軌跡と共に、小梅の方向にチャリオッツの切っ先を向ける。この状況で自分に勝っていると思っているのだろうか。小梅は苛立った様子を隠そうともせず、ポルナレフを見た。


小梅「はぁ?破り方…?状況はたいして変わらない…ま、まだここには、30を越える『あの子達』が居るのに?む、むしろ…観念するのは、あなた方…」

小梅はビビらない。数も違うし、囲んでタコ殴りにできるし。優位なのは未だこちらで『あいつらが下だ』、そう思っているのだ。

承太郎「…」

――――――――彼女の中では。

小梅「や…やっちゃえ」

幽霊「「………!」」


一瞬にして視界を埋め尽くす水かぶりの亡霊達ッ!しかしッ!!

承太郎「スタープラチナッ!!」
ポルナレフ「シルバーチャリオッツ!!」


スタープラチナ「オオオオッ!!」
チャリオッツ「!!」


承太郎から飛び出したスタープラチナがッ!!
ポルナレフから発現したチャリオッツがッ!!


スタープラチナ「オラァッ!!」
ポルナレフ「ホラァッ!!」


人型の幽霊「…!」ボゴォッ
人型の幽霊「…?!」ザシュッ


人型の幽霊の頬を殴り抜きッ!
首を切り裂き!!


スタープラチナ「オラオラ・・」
ポルナレフ「ホラホラ・・」


犬型の幽霊「…!」マギョォッ!
犬型の幽霊「…!!」シュバッ!


犬型の幽霊の鼻っ柱を文字通り貫き!


スタープラチナ「オラオラオラッ・・」
ポルナレフ「ホラホラホラァッ・・」


猫型の幽霊「…!」メギィッ!


猫型の幽霊の顎を撃ち抜いたまま頭蓋を砕き飛ばしッ!原型をとどめぬほどに滅多斬りッ!!

承太郎「スタープラチナッ!!」
ポルナレフ「シルバーチャリオッツ!!」


スタープラチナ「オオオオッ!!」
チャリオッツ「!!」


承太郎から飛び出したスタープラチナがッ!!
ポルナレフから発現したチャリオッツがッ!!


スタープラチナ「オラァッ!!」
ポルナレフ「ホラァッ!!」


人型の幽霊「…!」ボゴォッ
人型の幽霊「…?!」ザシュッ


人型の幽霊の頬を殴り抜きッ!
首を切り裂き!!


スタープラチナ「オラオラ!!」
ポルナレフ「ホラホラ!!」


犬型の幽霊「…!」マギョォッ!
犬型の幽霊「…!!」シュバッ!


犬型の幽霊の鼻っ柱を文字通り貫き!


スタープラチナ「オラオラオラッ!!」
ポルナレフ「ホラホラホラァッ!!」


猫型の幽霊「…!」メギィッ!


猫型の幽霊の顎を撃ち抜いたまま頭蓋を砕き飛ばしッ!原型をとどめぬほどに滅多斬りッ!!

スタープラチナ「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァーーーッ!!」
ポルナレフ「ホラホラホラホラホラホラホラホラホラァーッ!!」


ドガガガガガガガガガッ!!ズッドオオオオン!!ンドババババ!!


幽霊達「「「……ッ?!」」」

声にならない!いやッ!!声は出せないが苦痛の悲鳴を上げながら不可視の幽霊達は吹き飛んだッ!


スタープラチナとチャリオッツのラッシュがッ!部屋中の亡霊達を残らず吹き飛ばしたッ!!



承太郎「ちと出来の悪いゾンビ映画に出演した気分だったが…ま、残らずぶちのめしてやったぜ。」

小梅「…え?皆…え?」


絶対をひっくり返され、完全に混乱する小梅。全く思考が追いつかない。ポルナレフは、部下に命令を下す上司のように、淡々と告げた。

ポルナレフ「…さて。小梅。明日からのお前のスケジュールを、今。プロデューサーであるこのおれが言い渡すぜ。それは…」


小梅「…ハッ、ヒッ!」


これから行われるであろう制裁を予感して、恐怖に尻餅をつく小梅。ついにポルナレフが小梅の目前にまで迫りッ!!


ポルナレフ「3ヶ月間の休養だッ!シルバーチャリオッツッ!!」

無数の剣戟を放ったッ!!

シルバーチャリオッツ「!」ンドババババッ!!

小梅「ぷげェェーーーッ!!」

銀の騎士の無数の剣撃を受けて死霊使いの少女は地面と水平に吹っ飛びッ!

小梅「ぐべぇッ!!」

壁に激突ッ!!大量の書類が舞い落ちる中でずるずると崩れ落ち、

ポルナレフ「あとは…病院のセンセーに任せたぜ」


承太郎「…幽霊騒ぎもこれにて一件落着だな。やれやれだぜ。」


小梅ちゃんもう二度とアイドル出来ないぐらいにボコられてる……

ポルナレフ…腕の治療をして翌日も元気に出社。卯月に若干引かれながらもニュージェネレーションの仕事を成功させる。


承太郎…嫌々モデルを続ける。今度、美嘉とまゆの三人で遊びに行くことになり、面倒だと思っている。


小梅…病院をおとずれたポルナレフと承太郎に再度脅され、漏らすくらいビビりながらスタンドを悪用しないことを約束させられる。3ヶ月間の休養。再起可能。


社長…事件を解決してもらい、ポルナレフと承太郎、ジョセフに礼を言った。

to be continued…

>>81
白坂小梅(アイドルとして)再起不能

一話終わり。二話以降は多分書く。

ちひろさんは『いともたやすく行われるえげつない行為』じゃないかな(コイン搾取的な意味で)



是非チーズの歌をプロデュースしてあげて

>>91
黄金長方形(ガチャの筐体)が生み出す無限の回転(ガチャガチャ)

>>91やなかった>>90

多分明日か明後日には投稿できる

またアイドルとプロデューサーが酷い目に会うけど勘弁な

かつてDIOは言った。
王には王の、料理人には料理人の才能や強い意思あり、おれのような生まれついてのスタンド使いはそれに基づいて発現すると。(おれは『守る』という意思だった)


また、ジョースターさんや承太郎のように肉体の引力に引っ張られて発現する場合もあると聞いた。


ならば、小梅のようなちんちくりんのクソガキが発現した理由は何だ?おれも散々スタンド使いを見てきたが、いきなり発現するなんてのは聞いたことがねー。

だが、原因があれば結果がある。逆も然り。

つまり、発現させた何かが必ずあるはずだ。スタンドを発現させた何かがッ!オレは必ずそれを掴まなければならないッ!!プロデューサーとしてアイドルを守り、彼女らを輝かせるためにッ!

――――――――SPW財団病院前



もくもくと。ポルナレフは有害で蠱惑的な煙を発する『ニコチン巻き』を口に咥えてヤンキー座りをかましていた。銀髪の髪をポールのように逆立てた若い男が、いわゆるうんこ座りでタバコを吹かす。

その様は入院患者、医者、関係者の目には、さながらコンビニの前にたむろするチンピラと同類に見えた。君子危うきに近寄らず。皆関わり合になることをさけ、そそくさと病院に入っていく。この、ノーマナー電柱男はそれでもお構いなしに吸い続け、一本目を足で踏み潰し、二本目を吸おうとしたところでタバコが宙に浮き、火が灯された。


承太郎「もらうぜ。」

オウ、と特に気にした様子もなく自身の二本目に手をつけようとするが、早苗さんにアームロックを決められた事を思い出し…やめた。


(痛っイイ お…折れるう~~~)


(プロデューサーくん、それ以上やるとシメちゃうぞ☆)


みりあや薫に承太郎直伝、タバコの一発芸をかまそうとした時にシメられたのだった。
あれはマジで痛かったなあ…ポルナレフは遠い目で、哀愁漂う本音を漏らした。

また事務所でタバコ吸うとあれやられるのかなあ。禁煙しようかなあ。

現場を目撃した承太郎はそれ以降、吸う時は必ず早苗の居ないところで吸うことを心に誓ったのだった。

ポルナレフ「…んで、小梅はよぉ〜〜〜。
その、自分がスタンドを発現した理由…本当に何も知らねーって言ってたのかよ?」


吸い殻を携帯灰皿に入れながら、承太郎は答えた。


承太郎「ああ、発現した理由はな。
ナチスドイツ時代に使われていた自白剤も投与して見たが…具体的な事は何もわからずじまいだ。」


ナチスドイツ…自白剤…戦時中かよ。
物騒なワードに冷や汗を書くポルナレフ。ひょっとして拷問じゃあねえのかそれは?SPW財団、中々えぐい事をするぜ…ポルナレフ取り調べ現場を想像して、ゴクリと唾を飲んだ。そんなポルナレフを無視して、承太郎は付け加えた。


承太郎「だが…発現した状況は聞き出せた。」


状況?訝しむポルナレフに承太郎は携帯灰皿を胸ポケットに突っ込みながら説明した。

小梅から聞いた状況…スタンドが発現したであろう瞬間と、その時に起こった出来事を。


その日の夜、寮の自室でトマトジュースを飲みながら小梅はホラー映画を見ていたそうだ。何もその日が特別というわけではなく、トマトジュースはいつものカゴメの100%トマトジュースだし、ホラー映画だって何度も見たことがあるお気に入りのゾンビ映画、『ドーンオブザデッド』だ。


見る姿勢も特にいつもと変わらない。床に寝そべりながらのスタイルだ。なんでもこれがゾンビ映画を見るには一番適したスタイルなんだとよ。


で、だ。俺も見た事があるが、序盤のショッキングポイントであるヴィヴィアンが変貌し、ドアをやたらめったらに叩きまくるシーンを鑑賞していたときだ。床に『トマトジュース』を零したらしい。

『あの子達』のいたずらかな?茶目っ気のあることをするなと思って聞いて見たが、どうやらそういうわけでもない。奇妙に感じはしたが、まずは目の前の赤いシミを拭き取らなきゃあいけないな。

そう感じて、手元のティッシュを取り、床を拭くが一向に拭ききれない。寧ろさっきより――――――――いや、家の屋根から雨の雫が零れるように、今もなおぽたぽたとこぼれてきている。


おかしい。さっきトマトジュースは飲み干したし、口はしっかり締めている。トマトジュースのパックだってもうゴミ箱の中だ。そこでよく見ると口からではなかった。


胸だ。胸に拳代の大穴が空いていたらしい。穴から暖房の空気が通り抜けて行くのを感じた瞬間、今度こそ盛大に血を吐き、ブッ倒れたんだとよ。
だが、翌朝起きると拳代の傷は綺麗さっぱり消えていた。大量に吐いた血も、このカーペットは排水溝機能がついているんじゃあないかと疑ったらしいが…あ?付いているカーペットが日本にあるのかだって?知らねーな、自分で探せ。

小梅はこう言っていた。昨日あったことが夢だとしたら『エルム街の悪夢』を思い出させるが、それにしては傷跡も、血痕も、元々なかったんじゃあないかというくらい残っていない。代わりに確信だけが残っていたんだと。『あの子達』と触れ合えるという確信だけが。

ポルナレフ「つまりよ、小梅はこう言ってたのか?
『胸に風穴が空いたと思ったらスタンド使いになっていました』
ハッ!!都会出て来たばっかの田舎モンだってそんなうまい話は信じねーぜ。自白剤のショックで幻覚でも見たんじゃあねーのか?」


これは、そう。与太話だ。信じる必要はないね。ケッと吐き捨てるようにそっぽ向きながら喋るポルナレフに、承太郎は顔色も表情も、何も変えなかった。


承太郎「いや…おれは信用した。」


ポルナレフ「あ?何でだよ」


承太郎の頬に、水滴が光った。帽子に隠れたコメカミから流れた水滴は、窪みのない頬を通過して、ポタリと地面に落下した。


承太郎「…『DIO』、だ。」

DIO――――――――邪悪の化身、ディオ。ジョースター家をとりまく諸悪の根源にして、承太郎達がエジプトに旅立つことを決定づけた元凶。
確かに奴は半年前、エジプトで散滅させた。体を裂き、頭を砕き飛ばし、太陽の光でチリにした。


ポルナレフ「…ッ!?」


ヤツは死んだ。もう居ない――――――わかってはいるのだが、ポルナレフは死してなおその言葉に戦慄する。口に出した承太郎ですら、冷や汗を流している。


承太郎「前から疑問に思っていた。DIOが何故突然『スタンド』を身につけたのか…そのルーツをな。
ジジイがジジイの婆さん…エリナ・ジョースターから聞いた話だと、「DIO」は『石仮面』を被り人間を辞めたが、『それだけだ』。怪力や再生能力を得たが、『それだけだ』。スタンド、ましてや時を止める能力なんてものは持っていなかった…」

死んでなお、恐怖の片鱗と悪の残痕を残す怪物『DIO』。

その名を出すだけで、恐ろしくも美しく光る奴の姿が2人の脳裏に浮かぶ。

ポルナレフは心の奥底、深淵のクレバスから湧いてくる恐怖を無理矢理唾と共に飲み込んで、声を発した。

ポルナレフ「…『スタンド使い』を産み出す道具があるかもしれない。」


承太郎「ああ…だが、まだわからない事も多い。もう少し調べて――――――――」


「わぷっ」


小さい何かが、承太郎の足にドンとぶつかった。尻餅をついた。宿敵の話に気をとられていた承太郎は、我に返って衝撃の発生源を見下ろした。


「…ン?」


「ああ…すいません!すいません!前方不注意、前見てなくて、ぶつかって、不幸ですいません!!」


承太郎「…」


何度も何度も頭を下げる、少女が居た。
安っぽい、しかしピンクと白のリボンで丁寧にデコレーションされた鉢植えと、『ふるうつ東方』の銘が入ったフルーツバスケットを抱えた少女だった。平謝りする姿に加えて、小さい体と少し垂れた目が殊更少女を儚げに見せていた。


承太郎の目線は隠れてわからないが、明らかに困惑していた。道を訪ねたら不審者扱いをされたサラリーマンのように、どうすればいいかわかり兼ねている。思わず吹き出すポルナレフ。

ポルナレフ「プッ!!ちゃんと前向いて見なよ、ほたる。そんな貧乏人が借金取りに土下座するみてーに謝らなくてもいいんだぜ。前を見てみりゃあよーくわかる。」

そーっと、頭を上げてぶつかった相手を確認するほたる。このベルト…このシャツ…長い学ラン…そう言えば見たことあるよーな…


ほたる「…ふえ?あ、あれ?承太郎さん?プロデューサー?なんでここに?」


ポルナレフ「見舞いだよ。おめーと同じでな。」

フルーツバスケットと、綺麗にラッピングその手土産をみりゃあ誰だってわかるぜ、と笑った。恥ずかしそうにはにかむほたるはやはりかわいい。枯れた大地に咲く一輪のタンポポのような、健気さと儚さがある。
あと10年したら迎えに行ってもいいかもしれないな。下心が芽生えたポルナレフだった。



承太郎「ああ…だが、その鉢植えは置いて行った方がいい。」

密かに光源氏計画を企てるフランス人を無視して、日本人らしく見舞いのマナーを注意する承太郎。花とフルーツはお見舞いの品としては鉄板で何も問題はない。だが、『根』はダメだ。


ほたる「え?」

承太郎「根のある植物は『根付く』…つまり縁起が悪いってことだ。病人に対する贈り物としてはな。」


鉢植えには当然土がある。土に花を入れるということは、根があるということ。

それは植物が『根付く』または、『寝付く』とも言える。どちらにしても、入院患者にはあまり良いワードであるとは言えない。


承太郎「知らなかったならこれから気をつければいい…鉢植えはおれが持っておこう。」


ほたる「ありがとうございます!ありがとうございます!ま、また不幸にしてしまうところでした!」

馬鹿ヅラ晒して講釈を聞き入っていた電柱男を無視して、承太郎は鉢植えを預かり、何度も頭を下げながら病院に入って行くほたるを見送った。見えなくなったのを確認してから、承太郎は右手に持った植木鉢をしげしげと見つめる。

とりあえずポルナレフの机の上にでも置いておくか。世話は夕美に…そう考えていた時だった。

ブチィッ

ポルナレフ「ん?この革靴…買ったばかりなのにもう靴紐が切れてやがる。5万したってのによぉ〜。チクショー、あの靴屋の親父ッ!今度会ったら文句言ってやるぜッ!修理はただでやらせてやるッ!!」


突然の不幸にいきり立つポルナレフ。ぶつくさ言いながら靴紐を急場で直している時に、彼の後ろを黒猫が五匹、集団で通り過ぎた。
珍しいこともあるもんだな。しかし黒猫が通りすぎるってのは…


承太郎「…また?」


嫌な予感がする。そう感じた承太郎の頭上で鳴く鴉。そうだ、そうだとからかいながら同調している気がした。




スイサイド・アイドル


――――――――カフェ・ドゥ・マゴ、346店





カラッと晴れた夏の陽気を思わせるポルナレフ。実際、事務所でもポルナレフは好評だ。


第一印象通り、明るく、飼いならした犬のように人懐っこく、よく喋るポルナレフは事務所でも人気者だ。加えて仕事も不備がない。


雑に見えて、マメに素早くきっちりこなすし、ミスへの対応も早い。何より正直でタフだ。幽霊騒動もなくなり、勢いとエネルギッシュさを兼ねた彼に、皆自然と信頼を寄せるようになっていた。


「おれの責任ではないんだろうが…落ち込むぜ…はぁ…」

そんな陽気な晴れ男、ポルナレフだが、彼にしては珍しく。本当に珍しく、ため息をつきながら、リストラされたサラリーマンのように黄昏る。思考をめぐらせるポルナレフ。

片肘立てて明後日を見ているその頬によく冷えたグラスが―――――――


「押し付けたその正体はッ!!歌って踊れてッ!永遠に17歳の声優アイドルッ!ナーナでえぇーーーーすっ!
きゃはっ☆ミ」


ポルナレフ「お、おおッ??!うえっぺ!!
う、ウサミンッ!!踊るのはいいが、グラスを置いてから踊ってくれッ!!被ってる!ソーダ被ってるから!!ヒーッ!!冷てーーッ!!」


菜々「ああああぁぁぁ〜〜〜!!ごめんなさい〜〜〜〜っ!!」


――――――――押し付けられた後、キンキンに冷えたメロンソーダを頭からモロかぶりした。


ポルナレフ「い、いきなり随分な挨拶じゃあねーかウサミンッ!!それ最初にやって承太郎にソッコー帰られたの忘れたのかッ?!」

スウェーデン製のごついティッシュでソーダを拭きながら怒鳴るポルナレフ。ぶちまけた菜々は何度も何度もごめんなさいとお辞儀を繰り返していた。

今日は謝られっぱなしだぜ。いい事じゃあないのは確かだがな、と心の中で愚痴った。

菜々「ご、ごめんなさいっ!!でもでも!!プロデューサーさんが…その…落ち込んでたから心配で…」

小動物がビビりながら巣穴から出てくるような仕草で、おずおずと聞く菜々。お盆で口元を隠しているのは、申し訳なさの現れだろうか。

ポルナレフ「…ああ。今ので吹き飛んじまったよ。すまねーな、辛気臭い顔して迷惑かけたな」

菜々「いえいえ!!ナナの方こそ、ソーダぶっかけちゃって…その。菜々で良かったら、お話し聞きますよ?」

新たなソーダを起きながら、心配そうな目で見つめる菜々。
隠してもしょうがねえ。
どうせ同じ事務所の仲間なんだから、協力してもらった方がいいな。餅は餅屋、アイドルはアイドルにだ。

ポルナレフ「…ああ。実はほたるのことなんだがよぉ〜〜〜うまくいかねーんだよなぁぁ〜〜」

今日は謝られっぱなしだぜ。いい事じゃあないのは確かだがな、と心の中で愚痴った。

菜々「ご、ごめんなさいっ!!でもでも!!プロデューサーさんが…その…落ち込んでたから心配で…」

小動物がビビりながら巣穴から出てくるような仕草で、おずおずと聞く菜々。お盆で口元を隠しているのは、申し訳なさの現れだろうか。

ポルナレフ「…ああ。今ので吹き飛んじまったよ。すまねーな、辛気臭い顔して迷惑かけたな」

菜々「いえいえ!!ナナの方こそ、ソーダぶっかけちゃって…その。ナナで良かったら、お話し聞きますよ?」

新たなソーダを起きながら、心配そうな目で見つめる菜々。
隠してもしょうがねえ。
どうせ同じ事務所の仲間なんだから、協力してもらった方がいいな。餅は餅屋、アイドルはアイドルに。

ポルナレフ「…ああ。実はほたるのことなんだがよぉ〜〜〜うまくいかねーんだよなぁぁ〜〜」

菜々「ほたるちゃん…ですか?それはプロデューサーさんとの仲が…?」


ちょっと考えられないな、と菜々は思った。承太郎はともかく、ポルナレフと相性が悪そうな女の子は見当たらない。それが素直なほたるちゃんなら尚更じゃあないか?
菜々の考えを肯定するように、ポルナレフの手を振った。


ポルナレフ「違う違う。そうじゃあないんだよ。仲はすこぶるいい。仕事で言うことも良く聞いてくれるし、趣味だってあう。『エリジウム』の話も通じたぐれーだしよお〜〜。」


少年のように笑うポルナレフ。マックスが常に1人で戦うところは泣けるよなぁと言ったら意気投合したらしい。菜々もその映画を見ていたようで、わかりますわかります、としきりに頷いていた。


菜々「でも、意外ですね。ほたるちゃんがSF映画見てるなんて…でも聞いてる限りじゃあ何も問題なんて無さそうですけど。」


ポルナレフ「そこなんだよ。確かにほたるには何の問題もねー。勿論このナイスガイにもあるとは思えねー。だから問題なんだよ。」

菜々「…?なそなぞですか?ナナ、そういうのは…」

ポルナレフ「行く先々で不幸に会う。」

菜々「ああ…」

白菊ほたる、13歳。


前の事務所、その前の事務所が倒産しており、移籍は3回目だ。
ほたるが生まれる前に両親は離婚しており、10歳の時に母が事故死。不憫に感じた叔母が新聞配達のバイトを斡旋するが、自転車で郵便配達のバイト中に、急に犬が飛び出してきて、曲がりきれず転倒。


転倒した先に自転車が吹っ飛び、一人で歩いていた老人が自転車に巻き込まれて転倒。頭を強く打って即死だった。


君悪がった叔母が新聞配達のバイトをクビにして、どうしようかと思っていた折スカウトされる。生活をするためにアイドルになるが、最初の事務所は火事で全焼。所属していた俳優が焼死体で発見され、ニュースにもなった。


二番目の事務所では、大掃除の最中壁を拭いている時に中から白骨死体が現れたし、事務所の屋上から社長が飛び降りたりもした。


紆余曲折。途方にくれていたところを、346プロの現社長が拾ったのだ。
生まれついての不幸体質。呪われた子。白菊ほたるとは、業界でそういう扱いを受けているらしかった。

そして現在ほたるを受け持つポルナレフは、漏れなくほたるの洗礼を浴びていた。


ポルナレフ「最初は踏切だったかな?会場に連れてく時に線路で待ってたら飛び込む奴がいやがってよォ〜〜〜?吹っ飛んできた顔と目が合ったのはマジに気分が悪かったぜ。

今日はオーディションでほたるの出番の最中に会場が火事になっちまった。理由は男に裏切られたアイドル候補が焼身自殺したせいで燃え広がったからだとよ。もちろんその仕事はパーだ。

黒猫、カラスなんてのは見飽きたぜ。今はこの辺の猫と鳥は皆黒く染められてるんじゃあねーかって思ってるよ。」


菜々「…あ、アハハ…」


だが、と息を吐くポルナレフ。


ポルナレフ「そんな不幸も問題だが、そんな目に会う度ほたるの意気が空気を失った風船みてーにどんどん消沈して行くのが見るに耐えねー。なんとかしてやれねーかなあ…」


見ているだけで可哀想になる。プロのアスリートを支えるトレーナーのように、アイドルのコンディションを整えてやるのもプロデューサーの仕事だ。だがこれは…

すでに中身の無いグラスをストローですすり続けるポルナレフのグラスを取り上げながら、菜々は口を開いた。

菜々「…プロデューサーさんは、『プリティ・ウーマン』って知ってますか?」

ポルナレフ「ああ。あの『ジュリア・ロバーツ』の?」

菜々「ナナはあの映画をみるたびいつも思うんです。最初は不幸でもいい。失敗して逃げてもいい。でも、前に進む意思さえ捨てなければ必ずうまくいきます。

ビビアンは…一度は身を引きましたけど、結果的に元の鞘に収まりました。身を引くという意志も、ビビアンが人生を、前向きに生きるための前に向かう意志。そういうビビアンだから、ルイスは戻ってきたんだと思います。

前向きに生きる、正義の輝きの中にある『黄金の精神』…今のヘトヘトになっているほたるちゃんにそれを伝えること。守ってあげること。それがポルナレフさんの役目なんじゃあないかな、とナナは感じます」

陳腐ですけどね、と恥ずかしそうに笑う菜々。向かいに座るポルナレフは今日初めて、穏やかな感情が心に広がるのを感じた。

ポルナレフ「…ありがとよ、菜々さん。
やっぱ頼れるお姉さんってのがいると違うなぁ。」


菜々「きゃはっ☆
まっかせてください!!菜々お姉さんが…って違う違う!菜々は花のJK!!花より団子の女子高生ですから!!」


ポルナレフ「そうだよなぁ〜〜。マツジュンと小栗旬は良かったよなぁ〜〜。男のおれから見てもああいうのはいけてると思うぜ。」


菜々「そうですよねーッ!菜々的には道明寺さんが…はっ」


はめられた――――――――そう感づいた時には遅かった。目の前の男は隠しきれない笑いを顔に浮かべていたのだ。

ポルナレフ「花より男子知ってるなんて博識なJKだなぁ〜〜〜ウサミンちゃあんンン〜〜〜?」

ポルナレフ「花より男子知ってるなんて博識なJKだなぁ〜〜〜ウサミンちゃあんンン〜〜〜?」

まるでピンポンダッシュが成功したガキンチョのようにニヤつきながら、ストローで、カラになったグラスをくるくるとかき回すポルナレフ。

菜々「う、ううウサミン星では大流行りなんですよ!今も昔も!」

走ってここまで来たと言われた方が納得できるくらい、汗びっしょりの菜々を見て、柔らかく微笑んだ。行かなくてはな、とポルナレフは立ち上がった。もう、目に迷いはない。

ポルナレフ「ふふ…ありがとよ、ウサミン。黄金の精神を伝えるのは、確かにおれの役目だな。」


「いえいえ、お役に立てて何よりです。もし上手くいかなかったらもう一度来てください!!その時はウサミンパワーをわけちゃいます!『ウサミンパワー』をもらった人は絶対うまくいきますからね!!」


後ろ手をひらひらさせながら歩き去るポルナレフ。それを見送りながら、菜々は呟いた。


菜々「頑張って下さい、プロデューサーさん。ナナはいつでもあなたの味方です。」

ポルナレフ「入るぜ」

事務所に入ったポルナレフの耳が何かを捉えた。耳をすますと、蚊が鳴くようなか弱い、しかし悲哀に満ちた音が聞こえる。
間違いない、ほたるだ。

ポルナレフ「はぁ〜、参るよなぁ〜〜。」

目を真っ赤に腫らし、鼻水をしゃくりあげながら、弱々しくポルナレフを見た。

ポルナレフ「菜々さんもよォ〜〜。いつまで年齢詐称続けるんだろうなあ?
花より男子の連載見てたJKがどこにいるんだっつーんだよなあぁ〜〜
宇宙の果てまで探してもそんなJKいねえと思うぜ、おれは。」

いや、ウサミン星人だったかな。と付け加えたところでほたるがおずおずと口を開いた。

ほたる「…今日は、ごめんなさい。お仕事、パーにしてしまって…
いえ、今日だけじゃあありません。毎回毎回、私について来てくださる度に不幸な目にあわせてしまって…」

マグマのようにこみ上げる嗚咽を堪えきれず、大粒の涙を流すほたる。愛する妹を見つめるような、愛しみに
側に寄って、日本製の柔らかなハンカチで、伝う涙と悲しみを拭き取るようにほたるの顔を拭った。

ポルナレフ「いいかい、ほたる。そんな事は考えなくてもいいんだ。君が気にすることじゃあないからだ。君は何も気にせずオーディションに行けばいい。負い目も感じず学校に行けばいい。そしていつかは望むようにしたい恋愛をしたらいい。」

でも飛び込みと焼身自殺の役のオーディションはパスしようぜ。そう笑いかけるポルナレフに、ほたるは初めて笑った。泣きながら、笑った。


ほたる「クスっ…本当にいい人ですね、プロデューサー…嬉しい。
今まで、こんなに言ってくれる人は親にも、親戚にも、事務所にも誰一人居なかった…」

ポルナレフ「忘れろ忘れろ、見る目がねえんだそいつらは。こんなにかわいくって思いやりのある女の子を置いとくなんてな。まあ、世間のボケどもにおれほどの見る目とナイスさを求めちゃあいけないってのはあるかもな?」

ほたる「でも…こんないい人に迷惑をかけてるなんて…そう考えたら」

すっとカッターナイフを取り出した。慣れたような、自然な手つきだった。自分の手足を操るかのように、カッターナイフを手首に押し当て――――――――








「死にたくなった。」



とりあえずここまで。
ほたるファンはすまんな

続きは日付け変わったら投下する

>>144の修正

ほたる「…今日は、ごめんなさい。お仕事、パーにしてしまって…
いえ、今日だけじゃあありません。毎回毎回、私について来てくださる度に不幸な目にあわせてしまって…」

マグマのようにこみ上げる嗚咽を堪えきれず、大粒の涙を流すほたる。愛する妹を見つめるように、愛しみながら側に寄って、日本製の柔らかなハンカチで、伝う涙と悲しみを拭き取るようにほたるの顔を拭った。

ポルナレフ「いいかい、ほたる。そんな事は考えなくてもいいんだ。君が気にすることじゃあないからだ。君は何も気にせずオーディションに行けばいい。負い目も感じず学校に行けばいい。そしていつかは望むようにしたい恋愛をしたらいい。」

でも飛び込みと焼身自殺の役のオーディションはパスしようぜ。そう笑いかけるポルナレフに、ほたるは初めて笑った。泣きながら、笑った。


ほたる「クスっ…本当にいい人ですね、プロデューサー…嬉しい。
今まで、こんなに言ってくれる人は親にも、親戚にも、事務所にも誰一人居なかった…」

「え?」

一気に引いたッ!!
バリバリ!!ボバァッ!!!

「う、うおあああああああ!!」


激痛が彼の手首から、稲妻のように炸裂したッ!!まっかな鮮血が宙を舞い、ワイシャツに飛び散るッ!!


ポルナレフ(な、なんだこれは…?!ほたるが手首を切ったらおれの手首まで!!しかも一瞬見えたあのプロペラのようなものは―――――――)


いや、考えるまでもない。これは――――――――


ポルナレフ「てめえッ!新手のスタンド…」


言い切れなかった。言えなかった。

ほたる「う、うう。痛い、痛い…ごめんなさい…ごめんなさい…私のせいで皆が…」


ポルナレフ「……」


彼はチャリオッツを引っ込め、そばに寄り添った。あらゆる悪を切り裂く銀の騎士と言えど、1人の悩める少女を切り裂くようには出来ていない。汚れていない上着をかけて、慣れた手つきで包帯を巻くポルナレフ。この子には味方が必要なのだ。不幸を許してやる味方が。


ポルナレフ「安心してくれ。」


ポルナレフ「ここには、君を傷つけるものは誰もいない。君が不幸だからと言って、罵るやつも誰もいない。居たとしても、おれが守る。この世のあらゆる残酷さから君を守って見せる。」

ほたるは腫れた目を見開いて、目の前の男をまじまじと見つめた。
いくつかプロダクション渡ってきたけど、こんなにも真摯に対応してくれる紳士は居なかった。廃棄処分に困るゴミを見るような目で見られていた。だから自分はゴミ同然だと、価値の無い人間だと思っていた。
だというのにこの人は、

なんて優しいんだろう。

なんてロマンチックなんだろう。

握られた手と心から伝わる熱が、ほたるの頬と顔の温度を上げて行く。

ほたる「あ、あのっ…も、もう…ッ…だ、大丈夫です、から。」

俯き加減に上着を返した。恥ずかしかったからだ。泣き腫らし以外の理由で赤くなった顔を、見られるのは。こんなに素敵な男の人になら尚更だ。


しかし。こんなに親切にしてくれるのは何か裏があるんじゃあないのか?
そんなわけない――――――――少しでも疑ってしまう自分に嫌気がさした。心の奥底の裂け目から、再び暗い衝動が蘇る。


プロデューサーは私の血で汚れた床を拭き取っている…そうか、私の汚い血を拭き取らせているのか。

こんなに素晴らしい人に、こんなにいい人に私は迷惑をかけている…そう考えるとほたるはフラフラと立ち上がった。死にかけの蛾が街頭に吸い込まれるように、怪しい足取りで壁際まで歩いていき、鍵の空いた窓に手をかけて、ボソッとつぶやいた。









「死にたくなってきた。」

不穏な言葉にポルナレフが振り返ると、先程居たところにほたるは居ない。当然だ。今まさに窓に足をかけているのだから。


「なんだってェェェーーーーッ!!?
ここは五階だぞオォォォーーーッ!!??!!」


躊躇いなく頭から落ちようとするほたるッ!!地上からはゆうに20メートルッ!!頭から激突すれば即死は必至ッ!!!


「うおおおおおおおッ!!!」


飛び降りる瞬間に抱きついたッ!!重力に任せて落下していくがこのままではコンクリートの地面に激突必至ッ!!激突必至ッ!!即死注意ッ!即死注意ッ!!


ポルナレフ「シルバーチャリオッツッ!!」


生存本能が警報ランプを最大にしてわめきたてる中、銀の騎士が近くの木を落ちながら切り裂きッ!!地面と激突するコンマ一秒前に枝と葉のクッションを作り上げたッ!!

ポルナレフ「うげッ!!
くっ、無事かッ?!ほたるッ!!」


即座に立ち上がり、腕の中のほたるの安否を確認する。落下した衝撃は殺しきれなかったが、なんてことはない。

人形に足を斬り飛ばされた時の事を思えば、来るとわかる衝撃なんかなんてことはなかった。だが、腕の中の少女は違った。肉体的な痛みからは守れたが、心の痛みは消せなかった。


ほたる「どうして…どうしてなんですかッ!?もう…もういいんです!!死なせて…死なせてください。私なんかみたいな、ヘドロのドブで育ったゴキブリの糞みたいな私みたいな人間は恩なんて返せないんです…うっ…うっ…
なのに…なんで…こんなボロボロになってまで…」

痛がる素振りも見せぬまま、抱きかかえる腕に力を込めるポルナレフ。びくついたほたるを優しく、赤子をあやす父のように頭を撫でて、こう言った。

ポルナレフ「言っただろ…この世のあらゆる残酷さから君を守る…ってな。」


ほたる「…!!」


ほたるの胸の奥が何かに締め付けられたみたいに、甘く、締まった。
赤い、何かが弾けた音と共に――――――――

ポルナレフ「ち、チクショーッ!誰だよあの窓の設計したタコはッ!!窓枠が外れておれとほたるが落っこちちまったじゃあねーかッ!!修理代はぜってー払わねーからなッ!!」


五階の窓を睨みつけ、不自然についた枝葉を払いながら立ち上がるポルナレフ。目撃したアイドル達は撮影か何かじゃあないのか?と思っていた。
『マッハ』の『トニー・ジャー』だってあんな芸当は不可能だ。
五階から落ちたというのにこの動作の俊敏さは何なのか?というか、プロデューサー怪我は無いの?大丈夫?


心配と混乱で頭が硬直しているアイドル達だが、ポルナレフは全く気にしない。近所のスーパーに卵買いに行くような気軽さで、清良に呼びかけた。


ポルナレフ「あー!丁度いいとこに来たッ!!清良ッ!わりーがほたるを医務室に連れて行ってくれッ!!」


清良はちらりとほたるを見る。落下の衝撃だろうか、まだぼんやりとしているが、怪我は無い。それを確認した後、ポルナレフを見返す。

ところどころ服が破れていたり、擦りむいたりしているが、それだけだ。
骨を折っただとか、パニック映画のように血をダクダク流しているだとか、そんな様子は全く見受けられない。


清良「一応…念のために聞きますが、プロデューサーさんは…?」


ポルナレフ「なぁに。足のつま先が消し飛んだことがあるおれからすれば、この程度じゃ怪我のうちにも入らねーぜ。
それよりも、ほたるが心配だ。早く医務室に連れて行ってくれ。もしかしたらどこか怪我をしているかもしれない。」


清良(足のつま先…え?え?消し…え?
何?…き、きっと聞き間違いよね?だってプロデューサーさんの足のつま先、あるし…)


昨日夜遅くまで起きていたせいだわ、きっと。そう思うことにして、清良は医務室にほたるを連れて行った。彼女の目に、一切の光りが無いことに気づかないまま。






遅え。

喫茶カフェ・ドゥ・マゴで、向かい合わせに座った菜々に、ポルナレフは愚痴った。


ポルナレフ「なあ、ウサミィ〜ン。」

ポルナレフはめちゃくちゃ不貞腐れていた。机に顎をのせるように、前のめりにだべりがら話しているが、菜々は一向に気にせず耳を傾けた。


ポルナレフ「女の身支度ってのはどーして、こうも時間がかかるんだ?
だってよぉ、着替えたり、A4用紙も入らねーちっさいバッグに化粧品や鏡みてーな荷物つめるだけだろ?それにこんな時間かかってんじゃあ、サバンナではやってけねえぜ?」


ぶつくさ文句を垂れるポルナレフ。
ついさっき、一時間はたったことだしもう大丈夫かなと医務室を尋ねたらほたるの着替え中だったので、清良に『ナース拳』で叩き出された。その事を根に持っているのだ。

菜々「サバンナでもきっと、急かす男の子はもてないですよ。プロデューサー?余裕が無いと思われちゃいますからね」


でもよー、と言いながら貧乏ゆすりを始めるポルナレフに、菜々はクスりと笑った。


体はこんなに逞しくって、お顔も凛々しくて、アイドルのためには命を張るプロデューサーなのに、こーいうしょーもないところで駄々をこねるポルナレフは――――――――


菜々(なんというか、かわいいです。)


手のかかる弟が居たらこんな気分なんだろうな。菜々はそう感じて再び笑った。そう言えば早苗さんや清良さんも、そんな事を言ってたっけ?
――――――遅い。老けてる。暴力的だ。あらゆる罵詈雑言を連呼するポルナレフの横に、その清良が寄ってきた。


清良「……遅くて、老けてて、暴力的で、悪かった、ですね?」


ポルナレフ「―――――って菜々さんが言ってたんですよォォォ〜〜」


急場でへつらうポルナレフ。その顔面に再び『ナース拳』がたたきこまれた。

清良「覗きはダメですからね。」


坂を転がるチーズのように、勢い良く吹っ飛ぶポルナレフ。菜々は人を治すはずのナースが鼻血を出させていることに疑問を感じ得なかったが、無視した。聞くのはヤバイ気がしたので、あえてもっともらしい話題で話を逸らした。



菜々「え、えーとぉぉ…ああ、あれ?ほたるちゃんはどこですか〜?」


清良「え?怪我も無かったので先に帰しましたが…それが何か?」


菜々「?おかしいですね、菜々は見ていませんが…」


首を捻る菜々。
寮に行くにはこの喫茶店を通るしかない。帰るって言ったって、プロダクションの中には喫茶店もあるし、理髪店もあるし、菜々がかけもちしているエステもある。仮に外に出たとしてもあとは、駅に向かうくらいしか…

清良「駅に向かうとかなんとか…あ!いけない、このままじゃ楓さんが不貞腐れる!!
すみません!飲み会なんで先にあがります!!」


それじゃ、と立ち去る清良に菜々は手を振りかえしたが、ポルナレフは既に立ち上がっているが、手を振り返さない。挨拶くらい――――――――そう言いかけた菜々は息を飲んだ。ポルナレフの必至極まる形相に何も言えなくなった。


ポルナレフ「まさか…ッ!!お、おいオイオイッ!
菜々さんッ!!駅はどっちだッ!!」


菜々「ど、どうかしたんですか?!」


チャイム間近まで必死こいて問題を解く受験生のように、目を血走らせて菜々に叫ぶポルナレフ。これは尋常ではない。菜々は直感的にそう感じた。

ポルナレフ「ほたるは電車に飛び込むつもりだッ!今日何度も自殺未遂を繰り返していたが…射程距離から離れられたと思ったのは間違いだったッ!!あのスタンドは1度捉えたら最後、本人が解除するまで消えない可能性があるッ!菜々さんッ!駅はどっちだッ!?」


必死極まりない形相で辺りを見回すポルナレフ。

自殺未遂?!

何度も!?

ヘヴィなワードが飛び込んでくるが、あくまでも駅を答えなければッ!!若干噛みながら身振り手振りも合わせて菜々は説明した。


菜々「え、えーっと!き、北に地下鉄が一つ!国鉄西に国鉄!東の方に私鉄が二つッ!!全部等距離ですッ!!」

アクセスの良さは立地の良さ。ポルナレフは今の今まで良いところに立てたとは思っていたが、この時ばかりは不動産屋を恨んだ。間に合わないかもしれないッ!!

巨大な質量と圧倒的なスピードで迫る電車に、人間の体はあまりに無力だ。ほたるは――――――――考えただけで冷や汗が大量に出る。


菜々「それよりもプロデューサーさん!駅にたどり着けば!ほたるちゃんに会えばッ!!なんとかなるんですかね?!」


ポルナレフ「だからその駅がわからねーことにはッ…」


菜々「いいからッ!!」


今まで見たことのない、菜々の必死な表情。自分も必死だが、菜々も負けてはいない。目に涙をうるませながら声を張り上げた。


菜々「なんとかなるんですねッ!?」

ポルナレフ「あ、ああッ!着きさえすれば、なんとかしてみせる。跳ねられる前に着きさえすればな。」

ならば、と頷く菜々。時間はありませんから、とぼやき、菜々は構えをとった。二流の俳優が似非カンフー映画でやるような妙な構えだ。


菜々「なら、目をつぶってください。ウサミンパワーを注入します。絶対うまくいく、ウサミンパワーを」


こんな時に――――――――ポルナレフは言い返そうと思ったが言い返せなかった。難病の手術に挑む前の医者のように、命のかかった真剣さがそこにはあった。


ポルナレフ「わかった…信じるぜ。」


目を閉じるポルナレフ
瞬間ッ!!菜々の側から現れた下半身のない、肉が削ぎ落とされた人間の骨格だけをモチーフにしたような、機械的な何かが現れたッ!!その何かは手刀でポルナレフの両目を削ぎ飛ばしッ!!


菜々「動くとウサミンパワーが狂いますからね〜〜」


もう片方の手刀で削ぎ飛ばした部分に二つの目玉とッ!!その周辺の皮をすげかえたッ!!

菜々「…ウサミンパワー、注入完了しましたっ!!『待ち人と会えるウサミンパワー』注入の手術、無事終了ですっ!!」


ポルナレフ「…ウサミン、あんた…」

ポルナレフは驚いたような、感謝するような、何かに気づいたような迷いと喜びがないまぜになった表情をしていたが、菜々はそれには答えず、緩やかな微笑みを返した。

菜々「だめですよ?ウサミン星の女性は秘密が多いんです。特に年齢とプライベートに関しては、ね?きゃはっ☆」


ポルナレフ「……サンキューウサミン!」


ポルナレフは餌をもらった犬の尻尾のように、千切れんばかりに腕を振りながら駆けていった。彼が見えなくなってから菜々は、低血圧気味なため息を吐いて、椅子にどかっともたれかかった。


菜々「…私達は、誰が欠けてもいけない。皆でシンデレラ。皆がシンデレラなんです。ね?『シンデレラ』」

ポルナレフはひたすら走った。酔っ払って道端に寝転ぶ友紀をかわして方向を変え、リードの外れたアッキーを蹴飛ばさないようにジャンプで乗り越え、かな子が食べようとしている、最後に残しておいたショートケーキの苺を奪いながら、とにかく足が赴くままに走った。




『次に参ります電車はぁぁ〜回送ぉぉ〜〜回送ぉぉ〜〜〜一分遅れてェェ〜〜』


新人のコンビニバイトのように妙にやる気のない構内アナウンスが響く中、ほたるはホームの際際から迫り来る電車を見ていた。電車は10両。
やはり、大きくて、早い。


あれに引かれたらどうなるんだろう、という恐怖よりも、ああ、これで楽になれるんだという安堵の気持ちが優っている自分に嫌気がさした。

本当は不幸になんかなりたくなかった。本当は皆に迷惑なんかかけたくなかった。皆と一緒に遊びたかった。
もっと女の子らしく恋もしたかったなあ、と思った時、彼の顔が浮かんだ。


初めて自分を責めないと言ってくれた人。初めて自分を必要としてくれた人。初めて自分を守ってくれると言ってくれた人。


ポルナレフ「ほたるうウゥーーーッ!!」


――――――――初めて、恋をさせてくれた人。ありがとう。私はあなたに迷惑をかけないためにこの電車に――――――――


がしィッ!!


ポルナレフ「メルシー、ウサミン…間に合ったぜ。帰ったらCDでも作ってやるか。」


飛び込む私を抱きかかえて一緒に落ちているんだ。


ほたる「なんでプロデューサーまで飛び込んでるですかぁァァァーーーッ!!?」

ほたるは自分の会ったどんな不幸にあった時よりも驚きに満ちた顔で、ポルナレフに叫んだ。電車はすぐそこに迫っている。ポルナレフはほたるを抱きかかえたまま、全く慌てずに立ち上がり、告げた。


ポルナレフ「言っただろ?必ず――――――――」


間に合わない。来るであろう衝撃に目を閉じる間もないまま――――――――


ポルナレフ「――――――――君を、守ってみせると」


――――――――電車が、割れた。


ポルナレフ「君を、この世のあらゆる残酷さから守ってみせると」


高鳴るときめきと、熱くなる顔と共に、ほたるには見えた。彼の側に立つ銀の騎士が、迫り来る電車をホームにも、線路にも、もちろん自分達にも。誰にも傷つけず電車を線路外に切り飛ばしていく姿を。


飛んで行くのは鉄の塊だが、ほたるには紅海を割ったモーゼの伝説のように神秘的な光景に映った。だがそれ以上に――――――――


ポルナレフ「信じていただけたかな?」


微笑む、目の前の男は、魅力的だった。電車の最後の一欠片が、地に落ちた事に気づかないくらいに。

ほたる「――――――――はい。プロデューサー…」


キュッとスーツの端を掴んだ。この温もりを手放したくない。この心を捨てたくない。そう考え、感じた時に気付いた。もう、死にたくはない。
もう、こんなにも生きていたい。



ほたる(ありがとう、プロデューサー。私に初めて生きたいと思わせてくれて…)








後日、ほたるはオーディションにも受かり始めた。あいかわらず事故現場には鉢合わせるし、オーディション中に照明が落ちてくるのも変わらなかった。変わらなかったが、ほたるはへこたれなくなっていた。

喫茶、カフェドゥマゴに訪れた際に、菜々がさりげなく聞いてみると、逆境に会えば会うほど生きる希望が湧いてくるのだと。見てくれる人が居るから。守ってくれる人が居るから、私は頑張れると語っていた。その顔はどう見ても、恋する乙女そのものだった。

ポルナレフ…足がすくんで動けないから運んでくれと言われ、お姫様だっこのまま事務所まで運んだ。運んでいる最中、サバンナで幸子と巨大イグアナを競争させる企画を思いついた。

ほたる…人生で一番幸せな日。
スタンド:ハイウェイトゥヘル

菜々…この後ニュージェネレーションとカラオケに行き、ジェネレーションギャップを思い知らされた。
スタンド:シンデレラ

電車の運転士…気絶中

承太郎…戦闘中

to be continued…

終わり。3話はたぶん書く

『ポルナレフ』の『P』は『プロデューサー』の『P』

ほたるに『LUCK(幸運)』をッ!!
そして寄り添う『P』と供に『PLUCK(勇気)』をッ!!

明日か明後日には投下できそう

清良さんのナース拳には
ナース拳(ラッシュ)
ナース拳(打震)
ナース拳(千年殺し)の3タイプがあります。
ポルナレフに放ったのはナース拳(打震)

今西部長はきっとレクイエム使うから、差別化は出来てるな

無から有は生まれないという表現がよくされる。


だが、それはかつての話だ。現代の物理学ではまったくなにもない『無』=「絶対真空」の中で、素粒子という超とてつもなく小さい粒子が突然発生することが確認されている。そしてその素粒子はエネルギーに変身、化けることが出来る。


つまり無から有は生まれ、無とは「可能性」だとも言える。
そして物理的な質量、形を持たないモノ、精神を無と捉えるのであれば。


ならば精神エネルギーも間違いなく「可能性」であると言える。精神エネルギーを糧としてこの世の物質に影響を与えることが出来る『スタンド』がある限り。

『確信があったんです。あの子たちと触れ合える確信が。』


もしスタンド使いにさせる道具があるとするならば。

愛と平和の具現者だろうと

無邪気な子供だろうと

教養も何も無い畜生だろうと

混沌と破壊を望む悪魔だろうと

誰であろうと可能性を与えてしまうことになる。それはなんと残酷な道具なのだろうか。


そんな事を考えながら承太郎はスピードワゴン財団から受け取った写真を事務所のソファーにふんぞり返りながら眺めていた。

邪悪の化身『DIO』に可能性を与えたとされる『魔女エンヤ』の写真。

写真に写る魔女の手には、一対の弓矢が握られていた。





第3話
ヤング・アイドル








承太郎「………」

ちょうどポルナレフが手首から血を吹っ飛ばしている頃、承太郎は駅前で『jounal of oceanograhy』を愛車の『ドゥカティ 750GT』にもたれかかりながら眺めていた。

「やっべッ!!やっべッ!あいつマジイケメンッ!」

「ねーねーお兄さぁぁん。番号教えてよぉ。」

「ねえ〜ん、どこ住みですかァァァ〜〜ん?良かったら送ってくれなぁァァ〜〜い?
『イイコト』してあ・げ・る・か・ら・・」

承太郎「……」

一ページ、また一ページとめくっていた。自分に寄ってくるあらゆる雑音を無視しながら。

シンガポール沖でのアヴドゥル曰く、『心頭滅却すれば火もまた涼し』。


雑音も聞きなれれば、耳にならせば返って集中出来るように、ひたすら雑音を無視女だらけの事務所で居なければならない承太郎がストレスを貯めないために辿り着いた境地だった。


とは言え、何故人混みを好かない承太郎が有象無象の流転する駅前に居るのか。それは承太郎を取り巻く事務所の人間関係にあった。

346プロダクションで(不本意ながら)モデルをしている承太郎。
現プロダクションのみならず、今やほぼ全ての現役アイドルに、『抱かれたいモデルNO.1』に推されていた。

理由その①…顔


西洋生まれのホリィから受け継いだアングロサクソン系の顔をベースにしてはいるものの、日本人の空条貞夫から受け継いだモンゴロイドの血が西洋人に特徴である彫りや顎の角度などを浅すぎず、深すぎず調整していた。

要するに『絶世の美男子』ってやつだ。


理由その②…体型

モデルに(勝手に)据えられただけあり、スタイルだって半端じゃあない。
195cmの長身に加え、身体の半分以上ある足に、バランスを損なわないように均一に鍛え上げられ上半身が融合した様は、全盛期のミケランジェロが創り上げたダビデ像を彷彿とさせる。


イケメン俳優・モデルが裸足で逃げ出すような顔立ちとスタイルを兼ね備えた、まさに男と女の理想を具現化したような存在。

以上の武器に加えワイルドさと男らしさ、知的さと育ちの良さを兼ね備えた、まさに神話のヒーロー。

空条承太郎とはそういう存在だ。

そんな男が現実に居るとなれば、砂糖菓子に群がる蟻のように、女達がこぞるのは火を見るより明らかだったし、

「JOJO〜!フレちゃんとあーそぼーーっ!!」


「じょ、承太郎さんっ!ドーナツ!ドーナツいかがですかッ?!」


「承太郎…膝…落ち着く…」


承太郎「………」


それは女の巣――――――――特に、男日照りの346プロダクションにおいても全く変わらなかった。

承太郎「やかましいッ!うっおとしいぜッ!!お前らッ!!」


最初は獣が吠えて威嚇するかのように声を荒げてみたが、一向に効果がない。

それどころか、吠えられたことに対して快感を得たり自分に注意が向いたと勘違いされ、ますます群がるようになった。

故に承太郎は無視することに決めた。


「JOJOちゃぁぁ〜〜ん!ハピハピするにぃ!!」


飛びつかれようが、


「承太郎さん、どうぞ。喫茶『マウンテン』からのアドバイスをいただき、改良を加えた『ザ・ニュー・イチゴパスタ』です。」


劇物を渡されようが、


「キャッツキャッツ!アハアハハハハ!!」

「承太郎くう〜〜〜〜ん!!
お姉さんのお酒が飲めないのォォォ〜〜〜?」


酔っ払いに絡まれようが、


承太郎「……」

何をされようが、ガン無視を決め込むことにした。
(だが、アイドル達の攻撃が止まったことはない。)


だからいちいち誰がどうだとか、何をしてきただとかは戦争映画のエキストラの名前ほどの興味も持ってはいない。


まゆ「承太郎さぁん。美嘉さんは放っておいてえ、まゆのお弁当を半分こしましょう?こんなカビ臭い淫売を連れて歩くと承太郎さんの品性が疑われてしまいますよぉ。」


美嘉「承太郎〜。まゆはほっといてさぁ、私と『スタバ』いってお茶しよっ☆こんなぶりぶりしたストーカー紛いの雌豚と一緒に居たら見る目ないって思われちゃうしさ?」


佐久間まゆと、城ヶ崎美嘉の2人を除いて。

承太郎「……やれやれだぜ。」


承太郎は2人が揃う度、ずっとずっと遥か昔の先祖の代から殺し合ってきている家系なんじゃあないか、と考えてしまう。

佐久間まゆと城ヶ崎美嘉は正反対だった。

趣味も、
性格も、
好きな音楽も、
デートの誘い方も、
何もかもが対極に位置する2人だが、厄介なことに押しの強さだけは一致していた。

この二頭のメスライオンの確執による苦情、事務所はもちろんだがそれ以上に仕事現場からが酷かった。

口撃合戦の余波ももちろんだが、原因不明の怪現象が起こることが、現場の人間に恐怖を与えていた。

曰く、物が一人でに飛ぶ。

曰く、撮影機材がズタボロになる。

曰く、気づいたら2人が血みどろになっている…etc

佐久間まゆは問題ない。気配りが出来て優しく家庭的な感じがする女の子だ。

城ヶ崎美嘉も問題ない。明るく元気で、何よりセンスがある。現場スタッフ、特に女の子からの信頼も暑い。

だがしかし。

『佐久間と城ヶ崎は共演NG』

これがあらゆる現場から下された裁定であり、佐久間まゆと城ヶ崎美嘉はそういう関係にあった。

フツーNGってのは本人から言い出すもんじゃあないのか?

ポルナレフは冷や汗と共に首をかしげたが、このまま何もしないわけにもいかない。

目を合わせば飽きもせずにぶつかり合う2人に、いい加減にしてくれと陳情を訴えているアイドルも出始めている。2人の瘴気に当てられて智恵理が、医務室に担ぎ込まれたこともあった。

このままではアイドルの精神状態に関わる。そして原因はまゆと美嘉と、承太郎、だ。

そう考えたポルナレフが下した決定はこうだった。

ポルナレフ「あー、承太郎。美嘉かまゆが仕事の時は、お前が送迎を担当な。
駅まで迎えに行って必ず、2人で行くように。もちろん、仕事場からもなぁ〜〜。」

承太郎「ふざけんじゃねえ。」

即答した。


大型の肉食獣を飼いならすには常に好物の肉を与えて満腹にさせる必要があるように、346プロきっての肉食女子を飼いならすには、好物である承太郎が満足させろ、とのことらしい。


飼育係はてめーだろうが。付き合ってられないねと言わんばかりに身を翻した承太郎に、莉嘉、未央、智恵理をはじめとした数人がすがりついて引き止めた。


未央「あの2人がいると胃酸が!胃酸が上がってくるの!!」


必死こいて笑いを堪える電柱男に思いっきり携帯灰皿をぶん投げたのだった。

そういう訳で、承太郎は逆ナンの雨に身を晒しながらも駅前に待機しているのだ。


しかしだ、と承太郎は考える。
アヴドゥルはああ言っていたが、熱いもんは熱いし、うるさいもんはうるさい。

それにここに流れているのはモーツァルトの作る交響曲のように心が休まる音ではなく、小さめの脳みそで奏でられるリズムもへったくれもないノールールの合唱曲だ。

それに事務所の連中のような可愛げもない。

「ねぇってばァァ〜〜〜」

飛んできた紙を払いのけ、雑誌に目を落として集中する。

「ねぇねえ、アドレス教えてよォォ〜〜」

雑誌に目を落として

「い、イケメンですね!!誰か待ってるんですか?」

雑誌に

「うるさいわね!今私がアドレス聞いてんだから後ろ並びなさいよこのガキ!!」



「はあ?世の中やったもん勝ちだしぃ〜、お・ば・さ・ん」

「やかましいッ!!うっとおしい…!?」

言い切れなかった。

智絵里やで

「うるッせェェェェェェーーー割ってくんじゃねェェェーーーーッ!!」


豆のように小さいが、つりあがった目に岩礁のように突き出た顎を持ったババアと


「臭ェー息吹きかけてきてんじゃあねーぞこのババアッ!!ぶっ殺されてェーかァーーーッ!!」

豆のように小さいが、つりあがった目に岩礁のように突き出た顎を持ったガキが。

「「てめーぶっ殺す!!!!」」


突掴み合い、殴り合い、喚き合うキャットファイトをはじめていたッ!!


承太郎(なんだ…やけに…?)


一卵性双生児だとか、世界には似た顔が〜〜だとか、そういうワードは聞いたことはあるし、実際あるということも理解している。


理解はしているが、承太郎には日本の駅前にいるにもかかわらず、無個性なアフリカの石像が殴り合っているかのように見えた。


承太郎(しかし…こいつらはあまりにも……!)


「コラッ!何をしているッ!!やめなさいッ!!」

石像が、3体に増えた。

一旦ここまで。
続きは日付けが変わってから

>>212
サンクス、直しときます。

>>209の修正

佐久間まゆは問題ない。気配りが出来て優しく家庭的な感じがする女の子だ。

城ヶ崎美嘉も問題ない。明るく元気で、何よりセンスがある。現場スタッフ、特に女の子からの信頼も暑い。

だがしかし。

『佐久間と城ヶ崎は共演NG』

これがあらゆる現場から下された裁定であり、佐久間まゆと城ヶ崎美嘉はそういう関係にあった。

フツーNGってのは本人から言い出すもんじゃあないのか?

ポルナレフは冷や汗と共に首をかしげたが、このまま何もしないわけにもいかない。

目を合わせば飽きもせずにぶつかり合う2人に、いい加減にしてくれと陳情を訴えているアイドルも出始めている。2人の瘴気に当てられて智絵理が、医務室に担ぎ込まれたこともあった。

このままではアイドルの精神状態に関わる。そして原因はまゆと美嘉と、承太郎、だ。

そう考えたポルナレフが下した決定はこうだった。

>>210の修正

ポルナレフ「あー、承太郎。美嘉かまゆが仕事の時は、お前が送迎を担当な。
駅まで迎えに行って必ず、2人で行くように。もちろん、仕事場からもなぁ〜〜。」

承太郎「ふざけんじゃねえ。」

即答した。


大型の肉食獣を飼いならすには常に好物の肉を与えて満腹にさせる必要があるように、346プロきっての肉食女子を飼いならすには、好物である承太郎が満足させろ、とのことらしい。


飼育係はてめーだろうが。付き合ってられないねと言わんばかりに身を翻した承太郎に、莉嘉、未央、智恵理をはじめとした数人がすがりついて引き止めた。


未央「あの2人がいると胃酸が!胃酸が上がってくるの!!」


必死こいて笑いを堪える電柱男に思いっきり携帯灰皿をぶん投げたのだった。


発想が貧困なせいか、ギャルと大人しめのぶりっ子が仲良くやるイメージがわかない。

凛は両方ともうまくやるイメージ。

>>210の修正 。死にたくなってきた

ポルナレフ「あー、承太郎。美嘉かまゆが仕事の時は、お前が送迎を担当な。
駅まで迎えに行って必ず、2人で行くように。もちろん、仕事場からもなぁ〜〜。」

承太郎「ふざけんじゃねえ。」

即答した。


大型の肉食獣を飼いならすには常に好物の肉を与えて満腹にさせる必要があるように、346プロきっての肉食女子を飼いならすには、好物である承太郎が満足させろ、とのことらしい。


飼育係はてめーだろうが。付き合ってられないねと言わんばかりに身を翻した承太郎に、莉嘉、未央、智絵理をはじめとした数人がすがりついて引き止めた。


未央「あの2人がいると胃酸が!胃酸が上がってくるの!!」


必死こいて笑いを堪える電柱男に思いっきり携帯灰皿をぶん投げたのだった。

相貌失認症――――――――または失顔症と呼ばれる症状がある。

近年では『ブラッド・ピット』がカミングアウトしたことでも知られているが、読んで字の如く顔の見分けがつきにくくなる…というよりは認識が出来なくなる症状だ。


詳しい原因は不明だが、相貌失認では目、鼻、口など、顔の構成パーツは認識できるものの、それらが合わさって構成される「顔」の全体像が認識できない。

また、顔だけでなく、同じカテゴリーにあるものを区別することが困難であるため、たとえば車の車種の区別などがつかないという症例を併発する事例も報告されている――――――――


承太郎(――――――――というのを、何かの本で見た記憶があるが…)


承太郎にはッ!!まさに今ここに集まる全ての人間がッ!!無個性で判別のつかないアフリカの石像のようにしか見えなくなっていたッ!

仲裁に入った、ベージュのロングコートを来た男も

「やめ、ちょっ!やめなさいっ!」


騒ぎを見て駆けつけた2人組の警察官も

「コラァーーーッ!何をやっとるかッ!!」


スマホで写メを撮る野次馬も、

「あれ何?喧嘩?」

「やばいよね?やばくね?」

足早に通り過ぎるサラリーマンも、

「……」

必死こいて英単語を覚えながら歩いている学生も、

「ブツブツ…」

誰も彼もがアフリカの石像だった。

何度もスマンが智絵「里」なんや…

>>229
すまんな、後で直すわ。マジ死にたい。






ならば、考えられることは一つ。

承太郎「…『スタンド』か。」


この本体は必ずぶちのめすが、美嘉を巻き添えにする訳にはいかない。
液晶テープを付けっぱなしのスマートフォンを取り出してみて――――――――驚愕した。


承太郎「や、野郎…文字やアイコンまで…」


電話も、メールも、アイコンも、そこに並ぶ文字も判別できなくなっていたのだ。

液晶のホーム画面は本来あるべきアプリケーションの代わりに『アフリカ』の文字と例の顔―――『石像』のアイコンが所狭しと並んでいた。


承太郎(…だが、まだ連絡を取れないわけではない。やれやれ、駅前で助かったな。)


『アフリカ』と『石像まみれ』の携帯をポケットに無理やり押し込みながら、今まさに通り過ぎようとしているスーツ姿の石像を呼び止めた。

承太郎「そこの…ああ、いや、どっちでもいい。わからねーしな。携帯を借りたい。
恋人に連絡を取りたいんだがさっき、ぶつかられた拍子に液晶が割れちまってな。すまねーが頼めるか?」

美嘉が聞いたら古代の原人がやるような勝ち名乗りをあげて狂喜するだろうが、ここに本人は居ない。

「ああ、それはお気の毒に…私で良ければ電話をおかけましょう」

承太郎の狙い通り、恋人というワードに反応したのか、髪の短い石像がスマートフォンを取り出した。

「番号は何番ですか?」

承太郎「ああ。×××の…」


液晶パネルをいじる石像の足元から紙がふわりと舞った。風に揺られて飛んで行くそれは、『蝉』のようにも見えた。

承太郎(…あの形、どこかで…?)


「ああー、すみません…僕のも壊れていたみたいです。同じ数字しか出て来なくなって…あれ?あんた誰?さっきの人は?」


承太郎「いや、もういい。よくわかった。同じだってことはな。」

作戦を変える必要がある。置いてけぼりをくらう石像を背に承太郎はタクシー乗り場に向かった。

これ以上無関係な他人を敵スタンドの餌食にする訳にはいかない。今は、戦うために逃げる。

必ず犯人はぶちのめすがな。握る拳に怒りの筋が浮かんだ。


承太郎は走りながら考えていた。
人間であるならば誰もが心を持つように、スタンドであるならば、須く射程距離が存在する。
当然、このスタンドにも射程距離が存在するはずだ。

射程距離から離れるために愛車に乗って戻る…なるほど、手ではある。

道路標識と文字が全く読めない中で、大型トラックの行き交う都会の交差点をいくつもパス出来るのならばだが。

ぶちのめすために撤退したはずが、撥ねられてリタイア…なんてのはお話にもなりはしない。

しかし、自分が見えていないならば見えるヤツに任せればいいまで。幸い、乗り場所は覚えている。
ドアが開くのも待たずに、運転手が声をあげるのも無視して、後部座席に飛び込むように乗り込んだ。


承太郎「346プロまでだ。全開で飛ばしてくれ。」


急ぎか。理解した運転手が出発させようと、自動開閉ボタンをおした…のだが。
扉が閉まろうとする寸前、ドアの淵からはみ出す指が、それを阻止した。

指の主…フルマラソンを敢行した陸上選手のように大量の汗を纏った石像は、承太郎の隣に倒れるように座り込んだ。

「ま、間に合った!相乗りお願いしますッ!!765プロまでッ!!」

承太郎「やかましい。他のに乗れ。」

無愛想な警察官がする手抜きの道案内のように、承太郎は手だけで後ろを指差す。

喚く石像を無視しながら、相手の表情がわからないのもたまには役に立つな、と思っていると、運転席の石像がフロントミラー越しに語りかけてきた。

「まあまあお客さん、ケチくさいこと言いなさんな。あんたら、双子なんだろ?」


目を見開く承太郎。よく似てるよと笑うタクシー運転手の足元から『蝉』が、風になびかれてヒラヒラと飛んで行った。

近くの『オーソン』の影に潜みながら、莉嘉はほくそ笑んだ。

あの人、きっとタクシードライバーを辞めるだろうね☆もしかしたらクビになるかもっ?

お客である承太郎と汗まみれの営業マンを、半狂乱のままタクシーから叩き出したのだ。

ホテルの最上階から、地上のトラブルを見渡した時のような安堵感と笑いの衝動が莉嘉を包んでいた。

莉嘉「ぷぷっ…タクシーも電話もダメだって。もうJOJOクンはわたしの『ペーパームーンキング』にカンペキ!ハマってるんだから☆」


『ペーパー・ムーン・キング』

――――――――自分を含む自分の周りの人間の顔や、写真、人形の顔までもが同じに見えて認識する力を失わせるスタンド。また、徐々に文字やデザイン、看板も同様に区別ができなくなる。

また、莉嘉の折った「折り紙」は、その形状の特徴を持つ。
「カエル」なら跳びはねるし、「バナナ」なら踏むと滑るし、「蝉」ならば数十メートルくらいまでなら遠くまで飛ぶ。

ターゲットを目視しようがしまいが、射程距離内に居たなら『ペーパームーンキング』はオートで向かっていくし、それに触れたものは…ご覧の通りだ。


「これでコーツー手段はゼツボーだね。確かに近くにタクシーも駅もまだあるけど、後2〜3分もすれば乗り物の種類も文字もわかんなくなるし。どっちにしたってムリムリ☆」

『ペーパームーンキング』は1度ハマったら最後、底なし沼にハマった子鹿のようにずぶずぶと認識の淵に沈んでいくスタンド。

ここまでくれば最早勝利は時間の問題だと思われるが、莉嘉に油断はない。『彼』から伝え聞いた承太郎の『スタープラチナ』は、まさに規格外とも呼ぶべきものだったからだ。

暴走する大型トラックを殴り飛ばすパワー、襲い来る弾丸をつかむスピードと精密性、更には『時を止める』能力…考えただけで背筋に寒いものが走る。

だが、と莉嘉は考える。
スタープラチナは確かにスゴイが、それだけで勝負が決まる訳ではない。何事にも『アイショー』というものがあるからだ。


素手で刀には勝てないように、

刀では槍に勝てないように、

社会の授業で習ったお侍は『ヒナワジュー』に勝てなかった。

スタープラチナはお侍だ。すごいパワーを持ってはいるけど、射程距離はせいぜい2メートル。

対する自分の『ペーパームーンキング』には産まれたての仔猫ほどの力もないが、射程距離はスタープラチナの比ではない。

莉嘉(ちゃんとはかったことは無いケド…多分数十メートルはあるっぽい。なんにしたってJOJO君にはムリっ☆)

このまま物陰に隠れながら現状を維持していれば勝利は近い。ならば次回の攻撃を行った後、もしくは承太郎の動きを潰した後に『トドメ』だ。

そう考え、『蝉』の『ペーパームーンキング』が手元に帰ってきたところで…異変に気付いた。

莉嘉「?何…これ?」

『蝉』が赤く光っている?
いや、違うッ!!確かに光っているがこれは――――――――ッ!


「オラァッ!!」

ボッゴォォォォーーーンッ!!!

影にしていたコンクリートの壁が、稲妻のような爆裂音と共に砕け飛んだッ!!

「キャアーーーーッ!」

あと一瞬、ほんの一瞬でも。

今ぶん投げた赤く光る存在に気を取られていたら。今頃莉嘉の頭蓋は散らばるセメント骨材の仲間入りをしていただろう。


物理と精神、二重ショックで混乱した頭を落ち着かせながら、莉嘉は走った。パパラッチから逃れる『ダイアナ』のように、必死こいて脚を回転させながら。


莉嘉(よ、…ヨソーできないよッ!!JOJO君がッ!は、『ハッシンキ』を持っていたなんてッ!!)

承太郎は2度目の『蝉』で、自分が遠隔操作型の『付かず離れずのスタンド』から攻撃を受けていると感じた。

それはタクシーの運転手が攻撃を受けた時に確信に変わった。

遠隔操作だということはスグに気付いた。近くに本体の姿が無い事と、『蝉』…いや、『折り紙』が『ハイエロファント』の触手のように遠くに戻っていくことで。


その上でクソ野郎、『スティーリー・ダン』の『ラバーズ』のように、射程距離がべらぼうに長いなら、わざわざタクシーという『足を潰す』必要はない。


逃れられても困るし、近づかれても困る。これはそういうスタンドなのだと。

ならば、本体の元に戻る『折り紙』を追うまでだが、飛んでいる最中に鳥やゴミと区別がつかなくなると困る。

それを恐れ発信機をつけたのだ――――――『承太郎につけられた発信機を使って』。

承太郎(怪我の功名…いや、偏執狂の功名か?だが、今回は助けられたな。グラッツェ、まゆ。)


後は運命の赤い糸をたどるように、淡く赤い光を放つ蝉を追うまで。

点灯の認識チェックは信号機で済ませてあるので問題ない。

問題なのは―――――腕の『タグホイヤー』をちらりと見る。
短針と長針が、「女を待たせんのかい?」
そう、生意気ににやけている気がした。




城ヶ崎莉嘉は走る。
道行く人を掻き分けながら、ゴミ箱を押し倒しながら、浮浪者を飛び越えながら。

チーターから逃れるインパラのように、全力で飛び跳ね、足を酷使し、飛び跳ねる泥にも構わないまま走った。

莉嘉(や…ヤバイって!!

私のペーパームーンキングは動かせてもせいぜい鼻くそがいいところな、パワーの弱いスタンドッ!!

直接は殺れないっ!!だからトドメは頼むはずなのにっ…あれをするしかない!)


閉じかけの自動ドアの間に無理やり体を滑り込ませる莉嘉。天国に辿り着いた気がした。



自動ドアを潜った承太郎は冷や汗を流した。わからないのだ。

承太郎「野郎…考えたな。」

木を隠すには林。人を隠すには人。ならば…

「キャーッ!!カッコイイーッ!!」

「イケメンですね!!モデルさんですかっ?」

ギャルを隠すにはギャルッ!!

女性向け『100円カメユー』の中にはギャルが溢れていたッ!!
どいつもこいつも同じオクタゴン型サングラスで顔を隠し、莉嘉と同じ服装をしたちびギャルがッ!!


『オシャレにカワイクっ!!
カリスマちびギャル仕様ッ!!城ヶ崎莉嘉プロデュースサングラス『CCGG』本日発売ッ!!』

事務所にもポスターはあったし、わかってはいたが、今日を発売日に設定したヤツを本気でぶちのめしたくなった。

莉嘉がここに駆け込んだのはマグレではない。ワザとだ。ワザと、この100円カメユーに逃げ込んだのである。

『何事も常に最悪を『ソーゾー』しろ。』

何処かで聞いた教えに従い、承太郎を襲撃する前から莉嘉は考えていた。近づかれた場合のことを。

『スタープラチナ』はもとより、承太郎の巧みな判断力で見破られた場合のことを。

莉嘉(真似したって本人になれっこないのに、イッタイカンを味わおうとする人が多いんだよねー☆
ユーメイジンで助かったあ)

仕事はマジメにやっておくものだ――――――大量の莉嘉もどきに紛れた本物はそう思いながら、口角を吊り上げた。

『光る長もの』を袖に忍ばながら。


莉嘉(トドメだよ…近づいてこのナイフでぶっ殺すッ!!)



畳んでいた刃を開いた時、彼女の嗅覚は何かを捉えた。
この焦げ臭い?灰臭い?臭いのもとは承太郎……の口に加えたアレか。

承太郎「さっき気付いたんだが…」

承太郎は紫煙を思いっきり吹かす。むせ返りそうになるのを我慢し、近づく。

やっていろ、せいぜい好きなだけ肺をいじめてやがれ。どうせもっと酷いことになるんだからな。

承太郎「スタンド使いに共通する見分け方を発見した。
スタンド使いはタバコの煙を少しでも吸うとだな…」

承太郎「鼻の頭に血管が浮き出る」


何ッ!!まさかこいつ!!
手鏡で確認するが、そこには何も――――――――


ギャル「?」

ギャル「『スタンド』?机の上におくやつ?」

承太郎「ああ、嘘だぜ。
だが……間抜けは見つかったようだな。」

莉嘉もどきの中から、1人の莉嘉が叫んだ。

莉嘉「あっ!!だま……」

抗議は許されなかった!

承太郎と、承太郎のスタンドが許さなかったッ!!

スタープラチナ「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!!」


溜まっていたツケを一気に清算するかのようにッ!!
散々走らされた鬱憤を晴らすかのようにッ!!
最強のスタンドによるラッシュがッ!!


スタープラチナ「オラァァァァーーーーッ!!!」


一発残らず顔面に叩き込まれたッ!!


莉嘉「ギニャァァァァァァァーーーーーッ!!」

ドガッシャァァァァン!!!
サングラスの陳列棚にぶつかりッ!!そのまま死にかけのナメクジがはいずるように崩れ落ちたッ!


承太郎「美嘉に謝る事が増えちまったな……やれやれだぜ。」


ギャル「キャアアアアアーーーッ!!」

赤子の蜘蛛が卵から散らばるように莉嘉もどき達が店外に散っていったあと、一枚の紙が莉嘉の顔面を守るように被さった。

『オシャレにカワイクっ!!
カリスマちびギャル仕様ッ!!城ヶ崎莉嘉プロデュースサングラス『CCGG』本日発売ッ!!』

承太郎…美嘉との待ち合わせに遅刻。発信機はまゆに着払いで郵送した。

美嘉…仕事が終わった後、遅れてきたお詫びにと承太郎から『カフェ・ドゥ・マゴ』でパフェを奢ってもらい、一緒に食べる。幸せ。

まゆ…郵送で送り返されたことに繋がりを感じる。幸せ。

美嘉…後日訪れた承太郎とポルナレフに死ぬほど脅された後、菜々に顔面を整形してもらい前より可愛くなった。チョッピリ幸せ。

ちひろ「電気よし。暖房よし。鍵は…よし…はぁ」

ちひろはつまらなさそうに息を吐いた。彼らがいないうちは何ともなかったのに、いざいなくなったらこれはこれで寂しい。

居て当然だと感じた家族がいなくなるような寂しさがあることにちひろは気付いた。

事務所の皆にとっても、自分にとっても心の中で彼らの存在が大きくなりつつあるのかもしれない。


ちひろ「いい事ですね…あら?」

さっきからなっていたのだろうか。上着に突っ込んだ携帯が、見つけてくれと叫ぶ遭難者のようにポケットの中で暴れていた。


ちひろ「メール…ああ、帰国するんですね。」

世は大アイドル時代。
海の向こうで活躍するヘレンをはじめ、海外出張するアイドルは多い。

ちひろ(そこらのマネジメントもそろそろ、ポルナレフさんに担当してもらおうかしら。)

彼、なんとなく出来そうだしね。そう考え、送られてきたメールにもなんとなしに返信をした。返信先は――――――――

ちひろ「わかりましたっと…



『ディエゴ・ブランドー』さん」



to be continued…

終わり。四話は多分書く。
智絵里すまん

>>250の修正


承太郎…美嘉との待ち合わせに遅刻。発信機はまゆに着払いで郵送した。

美嘉…仕事が終わった後、遅れてきたお詫びにと承太郎から『カフェ・ドゥ・マゴ』でパフェを奢ってもらい、一緒に食べる。幸せ。

まゆ…郵送で送り返されたことに繋がりを感じる。幸せ。

莉嘉…後日訪れた承太郎とポルナレフに死ぬほど脅された後、菜々に顔面を整形してもらい前より可愛くなった。チョッピリ幸せ。

スタンド攻撃受け続けててワロタ

次はなくしますすいません

あの日。ほたるを呪縛から解き放った日。彼女は話してくれた。

「…矢に。矢に撃ち抜かれたんです。」

スタンドが発現した、その瞬間のことを。

ほたる「一昨日…だと思います。
あの日はなかなか寝れませんでした。

オーディションに落ちたのもそうですが、プロデューサーの期待に応えられなかったこととか、私の不幸が皆に迷惑かけていることとか悔しくて…
色々考えてたらいつの間にか涙が出てきて…それで。

だから携帯を触りました。どーせ寝れないんだから、普段はしない夜更かしをしちゃおう…
YouTubeで朝まで大好きな音楽を聴きっぱにしちゃおう…

そう考えて、充電しっぱなしにしていた携帯を取ろうとした時でした。

「ゴトリ」

何かが倒れるような、そんな音がしました。もちろん振り返って見ましたが、あるのはさっき頭までかぶっていた毛布と布団だけ。

窓の閉め忘れかな?

防犯対策は日ごろの意識から。そう思って鍵もチェックしましたが、キッチリと閉まっていました。

念のため窓の外も覗きましたが、野良猫一匹見当たりません。

気のせいか…だから、もう一度携帯を手にしようとした時、気づいたんです。

電源を切ったはずの携帯の画面が『点いている』ことに。その画面から、矢が出てきたことに。

余りに非現実的な光景に、私は一瞬夢なんじゃあないか。もしくはドッキリかな?なんて呑気な事を考えていました。

現実を受け入れられない私を無視して、その矢は段々、地面から真っ直ぐな木が生えてくるように、徐々に姿を現していきました。

矢羽まで出た時に、それはゆっくりと傾き、むきました。呆けている、私の顔に向かって。

ここまで来て、ようやく私にもわかりました。

『夢なんかじゃあない!あの矢は私を狙っているんだ!!』

あの時は本当に、本当に怖かったです。

ほたる「た、たすけっ‼︎」

言い切れませんでした。
私の嘆願をあざ笑うかのように、その矢は正確に私の舌の中心をぶち抜いて壁に突き刺さったからです。

ほたる「かはっ…」

思いっきり血を吐いたところまでは覚えているんですが…そこからさきは覚えていません――――――――

承太郎「――――――――なるほど…莉嘉の話と一致する点が多いな。携帯から矢が現れたことといい、気づけば傷が治っていたことといい。」

いつものように助手席に座ってダッシュボードに美脚をがんのせしながら、承太郎は納得したように頷いた。

ポルナレフ「最初聞いた時は正直信じられなかったんだがよ…病院で聞いた莉嘉の話と、この写真…それで確信したぜ。」

運転席に座るポルナレフも、いつものように通勤ルートを運転しながら答える。

ただ一つ、いつもと違っていたのはその手に写真を持っていたこと。

片手にハンドルを操作しながら、もう片方の手に持った写真を睨みつける。
彼にとっては因縁深き相手『両右手の魔女』、エンヤの写真。
魔女の手には、それと思しき矢が複数本握りしめられていた。


ポルナレフ「スタンド使いを生み出す道具…それを操るスタンド使いがいるってこともな。」

承太郎「しかもこれで3人目だ。こんな短期間にスタンド使いが事務所に続々と生まれるってのは…偶然とは思えねーな。」


…無関係で偶々ならいい。だが、犯人がこの事務所の内部に居たら…皆はどうなる?
そいつがいつでも液晶画面から飛び出して土手っ腹をぶち抜けるなら…彼女らはどうなる?
ポルナレフは考えただけで眉間にシワが寄った。


承太郎「そういう道具があるのも問題だが…
もっと問題なのは、そいつがおそらく事務所の中に居ること…
そして、これからも間違いなくアイドル達に使い続けるだろう。
俺が心配しているのは…そこだぜ。」

ポルナレフ「ああ。
『DIO』以上の悪党を生み出さないためにも。
そして何より、彼女らの未来のためにも。
世界の誰であろうと必ず見つけてやるぜ。」

そう言い切り、ブレーキを踏んで見上げた。
守るべきものが居る場所であり、彼の職場である、346プロダクションを。


ポルナレフ「海外組ィ?」

甲高い声を上げるポルナレフ。

彼が素っ頓狂のような声をあげる原因となった麗しき事務員は笑顔を絶やさず、そのまま続けた。

ちひろ「はい。プロデューサーさんも、そろそろ仕事が板についてきたことですし。

ここはそろそろ海外組の二人を担当してもらおうかと思いまして。」

ポルナレフ「海外組ってえとォ、あー。あの、ああいうやつか?

あの韓国のさ。ほら、アレだよッ!

冬のナマズじゃあなくて、あーっと」


菜々「『冬のソナタ』ですか?」

ポルナレフ「そうそうそうッ!!冬のソナタのペヨンジュンみたいなもんか?

もしくは海外のクラブチームに所属してるサッカー選手みてーに、本国じゃあなくてメインで活動する国に住んでるっつーみたいな?」


菜々「はーっ!!懐かしいですねーー!!『冬のソナタ』、ナナもBS2で見てましたよっ!!

学生時代は帰って録画したヨン様を見るのが日課でしたっ!ああ、美しき我が青春…」

輝かしい日々を思い出すかのように目をつぶってトリップしだす菜々。

レッスンで習ったスピンをこんなところで活かさなくてもいいだろう。

なんとなくむかついたし、『学生時代』に返った彼女を呼び戻すためにデコピンをかまそうと立ち上がるポルナレフ。

ほたる「学生時代?プロデューサー、菜々さんって確か今でも…」

思いっきりデコをはじいたところで、ポルナレフの席の隣に置いた『マイチェアー』の上から、ほたるは尤もな疑問を口にした。

そう、菜々は『自称17歳』なのだ。

プロフィール上では17歳だし、『シンデレラ』で己の肉体に整形を施していることもあって、見た目からは17歳を疑う余地はない。

ほたるを筆頭に、四万十川を流れる清流のように純粋な年少組たちもそう信じている。

だがもちろん、東郷あいをはじめとする二十歳以上の大人組は全くもって信じてはいない。

最近は高校生組だって数年ダブっているクラスメートを見るかのような視線を向けてくるのだ。

承太郎「……」

もちろん信じていない。

そして信じていない大人代表、J・P・ポルナレフは墓穴を掘った『自称17歳』が、無垢な13歳にどう取り繕うかをにやつきながら見ていた。

菜々(い、いかァァーーンッ!!どじこきましたァァァーーッ!!)

「あああ、ちゅ、中学生時代ですよっ!!チューガクセーッ!!ウサミン星では再放送の嵐が吹き荒れてましたからァァァ!!

マジですまじまじ!!」

それは勢いと力だった。自称『17歳』が掘った穴を冷や汗流して全力で埋め返して訴えている。

穢れを知らない13歳に対して必死に取り繕うその姿は

園児の純粋すぎる質問に答えられない保育士を彷彿とさせて、なんとも言えない哀愁を誘った。

ポルナレフ「ニヒヒ。だ、そうだ。」

ほたる「は、はあ…」

承太郎「……やれやれ」

ちひろ「あはは…ま、まあ、だいたいそういう認識で結構ですよ。

日本よりも海外での人気が高いが故に、活動の拠点を向こうに置いている。そういう方です。」

概ねあっている。困ったように笑いながら返すちひろを見たポルナレフは車輪付の椅子から立ち上がり、

彼が普段仕事をしているマホガニー製の高級デスクの後ろに立てかけてある書類立てに向かった。

ポルナレフ「構わねーが…どいつだ?こうもアイドルが多くっちゃあ、誰がどこに住んでいるだとか…」

ちひろのほうに向きなおり、まとまってファイリングされた資料をパラパラとまくりながら愚痴るポルナレフ。

ぴっしりと整えられた書類からは彼の普段のイメージにそぐわないような几帳面さが感じられるが、

さすがに184名全員の詳細を覚えるまでには至っていない。

ましてや現住所のような細かい情報になればなおさらだ。

ちひろ「もうすぐ来る予定なんですが…」

ミシッ ミシッ

ちひろに答えるように、窓ガラスが小刻みに揺れた。

気づいたほたるがポルナレフの袖をつまんで引っ張っる。

ほたる「プロデューサーさん。窓、なんか軋んでません?」

確かに軋んでいるが、それと同時に空気をきるような、ぱたぱたとした音もだんだんと響いてきた。

なんてことはない。それに気づいた彼は心配している妹を安心させるかのように、

雑にほたるの頭を描き撫でた。

ポルナレフ「ヘリコプターだろ?音の衝撃が響いてんだよ。じきに小さくなるぜ。」

わっわっと顔を赤らめるほたる。

だが、彼女の耳にはいまだ窓がきしみ、大気を切り裂くブレードの音が聞こえている。

ポルナレフを挟んで反対側に居る菜々も、同じことを口にした。

菜々「え、ええ。それはナナも同じ事を思ってたんですけど…一向に弱くならないっていうか…むしろ強くなってるっていうか…」

ソファーにふんぞり返りながら『航空ファン』を読んでいた承太郎も同じことを考えていた。

滞空している時間があまりにも長い。ヘリポートでも探しているのか?

そう考えてポルナレフの方向を見たとき――――苦虫をかみつぶしたような顔をしながら、帽子のつばをぐいっと下げた。

承太郎「………ほたる。三歩、ポルナレフの方に寄れ。怪我したくなきゃあな。」

ほたる「え?は、はい。」

「『ポリス・ストーリー』の世界よッ!」

ガッシャアアアアアン!!轟音とともにポルナレフの背後の窓ガラスが砕け散ったッ!!

ポルナレフ「うおおおおおおおおおおおおおお!!」

ほたる「きゃああああああああああっ!!」

ヘレンだッ!!

ヘレンがヘリからつりさげられた縄梯子に乗ったまま、窓を突き破ってきたのだッ!!

承太郎「……」

ソファにもたれかかったまま、承太郎はその場から動かず。

スタープラチナ「オラオラオラオラ!」

飛んできたガラスは全てスタープラチナが指で挟んで受け止めきった。

もちろんソファへの被害もすべて食い止めた。

一足早く確認できた承太郎は叫ばなかった。叫ぶことはなかったが―――――

ヘレン「表現できたわ…私の世界を。心までダンサブルな…私の世界を…」

承太郎「……こいつ、マジに危ねえやつ」

ドン引きしていた。




ポルナレフ「な、なにもんだてめーッ!!まさか新手の……!!」

ほたるを抱き抱えたまま、ヘレンを威嚇するポルナレフ。

当のほたるは片想いの相手に抱きしめられてそれどころではない。

一瞬びっくりはしたが、ここはしがみつくのが得策と思い、もっとくっつくことにした。

ほたる(ビックリしたけど、プロデューサーに抱きしめてもらえてラッキーかも……もうちょっとこのままで居よう。)


ちひろはちひろでヘレンに事務員らしくあろうと、なんとか挨拶をした。

ちひろ「…お帰りなさい、ヘレンさん。」

ヘレン「あら、相変わらず憂鬱が多そうな世界ね、ちひろ?

そんなんじゃあ世界レベルは程遠い世界だと前にも言ったはずの世界だけど?」

ちひろ「……」

事務員らしくない青筋を浮かばせたまま、ヒクついた笑みを浮かべるちひろ。

その顔には誰のせいだと思ってんだという感じがありありと出ていたが、ヘレンはまったく気にしない。

いや、違う。気にしようだとか、空気を読むだとか、そういった謙虚なイメージはこの女には全くない。

そうだった、ヘレンという女はこういう女だ。

空気というものは自分の呼吸のためにあり、

地球というものは自分のために回っており、

この現世は自分が輝くための舞台だと信じて疑わない。

大言壮語も自分が言えば後からついてくる。

自己中心、自意識過剰、世界の頂点。

ヘレンとはそういうことを信じて生きている女であった。

ポルナレフ「……は?ちょっと待て。ちひろ、まさかこいつが…?」

ちひろ「…ええ。海外組の1人、ヘレンさんです。もう1人は…」

言い終わる前に扉がゆっくりと開かれた。

男だ。

『凍り付くようなまなざし』に『黄金色の頭髪』を持ち。『怪しい色気』を携えた男がそこに居た。

「フン。『荒野の用心棒』を見て拳銃をぶっ放したと思ったら今度は『ポリスストーリー』を見てヘリから縄梯子か。

なら次は『ジェームズボンド』に憧れて事務所でも爆破してみるか?」

承太郎「…ッ!!」

ヘレン「私のパフォーマンスが理解できないだなんて…

貧乏人のカスというのはおつむだけでなく感性まで貧しいのかしら。ディエゴ?」

「「「「Dio様ァーーーッ!!会いたかったァ―――――ッ!!!」」」

もう承太郎にはヘレンの嫌味など聞こえていなかった。

目の前の男に飛びつく女の嬌声もやかましいと感じることなどなかったッ!!

この男に目を奪われて、聞いちゃいなかったのだッ!!

それほどまでに目の前の男は『似すぎていた』。

ポルナレフ「な…ば、バカなッ!?てめーはッ!!」

宿命の相手。抹消したはずの因縁の男―――――――

承太郎・ポルナレフ「DIOッ?!」

『ワールド・アイドル』



――――――――346プロ、男性用トイレ



ディエゴ「この間、出張中にアメリカのテレビか何かで見たんだが…

司法省が出した統計によると、刑務所の受刑者数は約210万人で、

そのうち、1年間に刑務所内で行われた性的暴行は8210件に達しているらしい。

加えてそのアナウンサーはこうも言っていたよ。

『被害者が事実を隠したがる傾向があるため、

実際の数字はそれよりはるかに大きいと思っている

…それが同性であるならなおさらだ』とな。」

ディエゴ「で、お前らはオレをそのうちの一人にする気なのか?

J・P・ポルナレフ『プロデューサー』に空条承太郎?」

それには答えず、しかし視線は外さず。ポルナレフはディエゴに聞き返した。

ポルナレフ「アメリカの性犯罪事情なんてのは知らねーしどうでもいい。

てめーに聞きたいことは別にあるんだ。超重要なことがな」

承太郎「…こいつとの関係を知りたい。」

写真を差し出した承太郎。そこに映っていたのは承太郎の、いや。ジョースター家の運命を決定づけた男。

すなわち――『DIO』の写真。改めて見返しても、目の前の男、ディエゴ・ブランドーとは瓜二つと言っていい。

一卵性双生児と言っても通じるかもしれない。

運命を感じるくらいに、二人の顔はとてもよく似ていた。

ディエゴ「…なるほど。オレとの関係を疑うくらいには、オレに似ている。

だが、これをオレに渡してどうしたいんだ?

焼きまわしでもしてほしいのか?

さっきも言ったが、お前らが何を言っているのか理解できない。」

それには答えず、しかし視線は外さず。ポルナレフはディエゴに聞き返した。

ポルナレフ「アメリカの性犯罪事情なんてのは知らねーしどうでもいい。

てめーに聞きたいことは別にあるんだ。超重要なことがな」

承太郎「…こいつとの関係を知りたい。」

写真を差し出した承太郎。そこに映っていたのは承太郎の、いや。ジョースター家の運命を決定づけた男。

すなわち――『DIO』の写真。改めて見返しても、目の前の男、ディエゴ・ブランドーとは瓜二つと言っていい。

一卵性双生児と言っても通じるかもしれない。

運命を感じるくらいに、二人の顔はとてもよく似ていた。

ディエゴ「…なるほど。オレとの関係を疑うくらいには、オレに似ている。

だが、これをオレに渡してどうしたいんだ?

焼きまわしでもしてほしいのか?

ハッキリ言ってお前らが何をしたいのか理解できない。」

そう言って受け取った写真を指先でひらひらと遊ぶディエゴ。

大して仲の良くない友人に興味のない芸能人を紹介された時のように、

こんなやつどうでもいいといった感じが写真を遊ぶ手からも、やる気のない顔からも。

どんな鈍感が見てもわかるくらいに浮かんでいた。

承太郎「そいつはお前と同じ、ロンドン出身の男。

1860年代生まれ。父親、ダリオと死別したあと、ジョースター家に養子として迎えられた男。

本名は…『ディオ・ブランドー』」

ディエゴ「…!!」

『ブランドー』。己と同じ苗字か。もう一度写真をじっくり見返すディエゴ。

ポルナレフも承太郎も、同じようにディエゴから目を離さなかった。

ディエゴ「…確かに。オレの名前はディエゴ・『ブランドー』だし、こいつの顔もオレにかなり似ている。

こいつがオレの先祖だというのなら、きっとそうなんだろう。

だが、こいつが一体何だというんだ?今まで好きな音楽どころか顔すら知らなかった相手だ。

そんな奴のことなんかを知ってどうなる?」

たっぷり1分ほど写真を見た後、ディエゴはそういった。

これは入学した学校の先で、校長室に飾られた歴代の学校長の写真を見るようなものだ。

興味は出たが、今の自分にとって何になる?ましてや19世紀の男だ、自分の特になることは何もない。

ディエゴはそう言っていた。

確かにその通りだが、先祖ということに、血統につながりがあるというなら意味がある。

少なくとも、承太郎とポルナレフにとっては。

承太郎「…嘘はねーみてーだな。なら次の質問だ。」

ディエゴ「おいおい。こんな陰気なところじゃあなくっても…」

ポルナレフ「『スタンド』は持っているな?」

ディエゴ「…!!」

今度こそ、ディエゴは目を見開いて驚愕した。


承太郎とポルナレフの視線による圧迫感が強くなる。圧力で空間がゆがむ。

何も知らないものがこの光景を見たなら、地鳴りが起きているかのように感じられているだろう。

承太郎とポルナレフの圧迫感が強くなる。圧力で空間がゆがむ。

何も知らないものがこの光景を見たなら、地鳴りが起きているかのように感じられているだろう。

ポルナレフ「気づいているかは知らねーが、今この事務所にはお前や俺たちのようなスタンド使いがあふれている。

…というか、増えていっているんだ。現在進行形で、な。」

承太郎「俺たちはその男と因縁があったこともあり、子孫の可能性があるお前を疑っている。

赤の他人ならきちっと補償してやるから安心しな。」

ディエゴ「その線香くさい先祖がお前らに何をしたのか知らないが、

100年以上前の人間を持ち出して因縁をつけられてもな…いまどきチンピラだってもうちょっとマシな因縁をつけてくるぜ

それに、『口は災いの元』…だったか?気を付けたほうがいい。」

だがディエゴは動じない。歴戦の勇士の威圧感に動じるどころか、見下すように二人に告げた。

ポルナレフ「ああ?」

ディエゴ「フン。からかっているわけじゃあない。親切で言ってやってるんだ。

後ろを振り返ってみてみろ。」

承太郎とポルナレフが振り返ると窓に手が視えた。ここは5階だ。

だというのに、間違いなくその手は窓に張り付いていた。

その手はゆっくりと窓を這い、肩、髪の毛、頭と次第にその姿が見えてくる。

気品のある、高価そうなワンピースとブレスレットをつけているのが見えたが、

その顔は可憐さや高貴さとは程遠い、怒りに満ちていた。

千秋「……」

ほかにも気配がある。承太郎が入り口のほうを見返すと、そこにも女が居た。

白のワンピースに紫色のカーディガンを羽織り、豊満な胸を携えた女性だった。

育ちのよさというものが全身から溢れていたが、こちらも千秋同様。

熱した鉄のような、燃え滾る怒りをその瞳に携えてこちらを見ていた。

琴歌「……」

『この人に手を出してみろ。ただじゃあおかない』


ここでさらにディエゴを問い詰めれば間違いなくこの女達は向かってくるだろう…命を捨てる覚悟で。

負ける気は一切しないが、ここで戦闘をすればほかの無関係な人間に被害が出るかもしれない。

何より、これ以上の情報は持って居なさそうだ。そう感じた承太郎とポルナレフは引くことにした。

承太郎「…行くぜ、ポルナレフ。」

ポルナレフ「…ああ。」

承太郎(だが、ディエゴ・ブランドー…こいつは、この女達も含め警戒はしておかなければな。

DIOとの関係は無いのかもしれないが…今まであったどの狂信者よりもDIOに近い。

顔以上に、雰囲気というか、まとっている『モノ』がな…)


ディエゴ「この男がオレのご先祖サマか…まあ、一応感謝くらいはしておいてやるぜ。

オレの『能力』も、お前の血のおかげだというならな。」

確かに貴重な話を聞かせてもらったが、それで何かが変わるわけでもない。

ディエゴは鼻でせせら笑った後、件の写真を『グッチ』の真っ黄色な財布の中に突っ込んだ。

ディエゴ「…だが、スタンド使いが増えているということは気になるな。

あいつらがオレを惑わせるためにウソをついていることも考えられるが…ないな」

一応、可能性はあるにはあるという感じだが、その考えは即座に否定した。

確かにないわけではないが、ウソを言っているような雰囲気でもなかった。

何より、そんなウソをわざわざディエゴに言う理由がないからだ。

騙すならもっと、真実味のあるもっともらしいウソをつくはずだからだ。

ディエゴ(どんなくだらないことをしたかは知らないし興味もないが…お前、相当なカスだったみたいだな)

今しがた突っ込んだこの先祖がどんな男だったかは知らないが、

どれだけの悪党だったのかはわかる。あの二人の目がいい例だ。

100年後の子孫である自分を本気で疑っていたくらいだからな。

ディエゴ「ま…宇宙の果てを知らないように、こんなやつどうでもいいか。帰ると…」

「あら?こんな時間までレッスンの世界?

どれだけやったところで私の世界レベルの世界にはたどり着けないというのに、ご苦労な世界ね。」

席を立ちかけたディエゴを阻止するかのように、対面に傲慢に座る女が居た。

ディエゴ「…お前こそご苦労なことだな、ヘレン。

わざわざそんなつまらないことを言うために今まで残っていたのか?」

ヘレンだ。だがいつもと様子が違う。不敵に、誰であろうと格下に見ているような薄ら笑いを浮かべずに、

宿命の仇を成敗してやると意気込む侍のように、その目には黒い炎が宿っていた。

妙だな。いつも突っかかられるディエゴはヘレンの奥底にある暗さと不審さを感じ取っていた。

ディエゴ(こいつは…ヘレンは、こんな真剣味のある顔ができるほど脳の容量がある奴ではないはずだが。

一体何を考えている?)

仕方ない。ディエゴは上げかけた腰を下ろし、深々とソファーにもたれかかりなおした。

ヘレン「忠告に来たのよ。」

ディエゴ「…フン、お前にしては殊勝なことだな。

薄気味悪いがその殊勝さを買って、聞いてやることにするよ。」

ヘレン「『これ以上世界に出るのはやめなさい』」

ほう…と近所の間抜けなガキを小ばかにするかのような顔をしたあと、ゆっくりと顔を天井に向けて、ディエゴは言った。

ディエゴ「そうだな。大きいところでは…今月にはパリのファッションショーが控えている。

つい先日『クリンスト・イーストウッド』の新作の主役にも選ばれた…

そのオレに仕事をするなと?それはオレではなく、プロデューサーや、仕事を振ってきた

デザイナーに言うべきなんじゃあないのか?

少なめの脳味噌が哀れに思えるから言ってやるが、それは『お門違い』というやつだぜ。

なんにせよ、オレに対して言うことじゃあないな。」

ヘレン「…その物言い。その態度。前から気に入らなかったのよ。

その癖、私を差し置いて世界に出て次々と大業をこなしていく…

最初は可愛いとも思ったけれど…あなたは目の上のたん瘤どころじゃあないわ。」

ディエゴ「それはお気の毒にって感じだな。

まあ、オレを超えたいと思うのなら…好きにすれば?

もっともお前がそんなことをしているうちは、オレに『してやられる』だけだろうがな」


自分のポーチを腕にさげて、ディエゴは立ち上がった。

期待して損した。くだらない。そんな侮蔑を隠そうともせずにヘレンを見た。

長い髪で顔が隠れて見えなかったが泣いていようが何だろうが知ったことではない。

そう思っていたのだが――――

セリフ 「してやられる?ウフッ!!アハハハハハハハハッ!!」

笑っていた。高らかと、立場が上の者が下の者を小バカにするかのように笑っていた。

ついに狂ったか?ディエゴの表情は侮蔑を超えて、もはや呆れに入っていた。

ディエゴ「前々からラリってるとは思ったが…ついにおかしくなったか?

どうも脳までいっちゃってるって感じだな、これは。サービスで救急車くらいなら呼んでやるが」

ヘレン「アハハハハッ!!ええッ!!おかしいのよッ!!

もうすでに『してやられている』ことがわからないあなたの間抜け面がねッ!!」

ディエゴ「ッ!?これは!?」

そう言い切るヘレンの姿が、ディエゴには大きく見えた。身長180を超える自分よりも、さらに大きくッ!!

そう言い切るヘレンの姿が、ディエゴには大きく見えた。身長180を超える自分よりも、さらに大きくッ!!

親に怒られた子供が、親のことが実際のサイズ以上に見えてしまうように

人はプレッシャーを感じると相手が大きく見えることがある。だがこれは…!!

ディエゴ(そ、それになんだこの『岩』は…!?

ここは南アフリカとかにあるような自然公園じゃあなくて、アイドル事務所の中だぞ!?

こんなでかい岩があるはずが…!!)

ヘレン「ド底辺の田舎者には世界レベルの存在が必要以上に大きく見えてしまう…

つまりはそういう世界。あなたと私の差のようにね。」

いつもの調子に戻り、自信たっぷりに言い放つ。

なんだかわからんが、とにかくヤバイことが起きているのは事実だ。

なんにせよここは一度引くべきか…動揺を悟られまいと『岩』に手を突いたとき、

手慣れた、ぎざぎざの冷たい感覚をディエゴの手がとらえた。

これは、いつも小物を取り出す際のファスナーの!!

ディエゴ「こ、これはッ!!これは…この『岩』がオレの『ポーチ』だッ!!

あいつが大きく見えるのではないッ!!

オレが『縮んでいる』ッ!!」

『岩』はポーチだッ!!あの『木』は机の脚だッ!!

この『山』はさっきまでオレが座っていたソファーだッ!!

縁日で叩き売りされているネズミと同等まで縮んだディエゴは、戦慄すると同時に風景の異様さに納得がいった。

確かに、縮むのであればヘレンは大きく見えて当然だ。ポーチがわからなくなって当然だ。

しかしヤバいことに変わりはないッ!!

ヘレン「フフフ…気づいたようね。

ならこれからたっぷりと気づかせてあげるわッ!!

あなたと私の差ッ!!貧乏人のカスと世界レベルである私の差をねッ!!」

ガシィッ!!『トイ・ストーリー』のシド少年のように、 縮んだディエゴを乱雑に握りしめるヘレン。

巨大な万力に締め上げられた全身の筋肉、骨が悲鳴を上げるッ!!

ディエゴ「うげえッ!!」

ヘレン「ふふふ…このままシャーペンの芯をペキペキ折るみたいに、

一本一本あなたの関節を折っていくこともできる世界だけど…

私はそれをしない世界よ。なぜだかわかる?」

右腕を、脚を、体を、顔を。握りしめたほうの親指で撫でまわす。

思い知らせる…というよりはなぶり、辱める。

濁り切ったコールタールのようにドロドロした感情が、撫でまわす指からディエゴの肌に伝わった。

ヘレン「宝くじをいきなり当てた貧乏人が豪遊する…

自転車を手に入れたばかりの子供がそれに乗って走り回る…

つまりはそういうこと。

だって、こんな素晴らしい能力をいきなり授かったのに、楽しまないってのは損な世界でしょう?」

ディエゴ「…授かった?もともと持っていなかったみたいな言い方だな。」

手の中から睨み返すディエゴ。

悪意ある愛撫に耐える彼をしり目に、遠いどこかを見つめながらヘレンは答えた。

ヘレン「毎日、毎日。テレビを見るたび、事務所で会うたびこう思っていたわ。

私より目立つ。私より出来るやつはこの世界にはいてはならないってね。

しかし私は世界に認められたレベルの女…ならば、そいつのレベルが下がればいい。

私より小さくあるべき。

そう繰り返し思っていた頃…プロデューサーと承太郎が入ってくるほんの少し前、『矢』に射られたのよ。

そこから、この『グーグードールズ』を手に入れた世界…」

ディエゴ(『矢』…だと?

なるほど…意気込んだ投資家の話のようにいまいち信用ならなかったが、

あの電信柱と木偶の坊が言っていたことは本当だったのか。

ならば―――)

ヘレン「今までは…悔しいけど、あなたに敵うことはないと思っていた。

でもこれからは違うッ!!あの矢が私を貫いたとき確信したのッ!!

これは啓示ッ!!神が私を新しい世界に引き上げてくれる世界が来た世界だとッ!!

そしてこのグーグードールズさえあれば!!すべての人間に私の世界を味わわせることができるわッ!!

草野球の少年がイチローを見て自分の小ささを感じるようにッ!!

私がこの『グーグー・ドールズ』ですべての人間に自分の『小ささ』を感じさせてあげるわッ!!

世界レベルの私の大きさを通してねッ!!」

オペラ歌手がスカラ座で声を張り上げるようにッ!!ヘレンは両の手を天に向けて叫ぶッ!!

自分がこの世の中心であるッ!!

この女はそう信じて疑わない。この女はそういう女だッ!!

ディエゴ「なんだか…すっかり勝ち誇ってしまっているところ申し訳ないんだが…

出来れば早めに手を降ろしたほうがいい。危ないぜ。」

ヘレン「降ろすかァァァァーーーーーーッ!!あなたはこのまま私の部屋の鳥籠で…?」

水鳥のようでいて均整に肉が付いたヘレンの脚が、それをとらえた。

地面から伝わるこの振動は小さな、しかし一定のリズムを保っている。

それは時間とともに大きくなってくる。地震の波のように、徐々に。

足元の揺れが大きくなってくる。

ディエゴ「さっきのお前を見習って、オレの方からも一つ忠告しておこう。

今すぐオレをスタンドから解放した方がいい。

オレもあんまり見たくはないから言ってやるが…ひどいことになるぜ、きっとな。」

響いていた振動がぴたりと止む。

同時に、生ぬるく、それでいて荒っぽい風がヘレンの首筋を通り抜けた。

ここまで来るともうバカでもわかる。『こいつ』が何かを呼び寄せたんだッ!!


ヘレン(生…!!生あったかい何かが…!!)

恐怖したヘレンが止まらない汗とともに振り返った時―――――絶望した。

ヘレン「なんで…なんで事務所に恐竜がいるのよォォォォ!!!」

恐竜「ブハァーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」

そいつはこの世のどんな動物よりも獰猛な息をはいた後ッ!!

太古の支配者が現世での君臨者の思い上がりをただすかのようにッ!!

目の前の餌が気に入らないとでもいうかのようにッ!!

ヘレンの身長ほどもありそうな巨大な尾でッ!!

ヘレン「ぐええッ!!」

彼女の体と、恐怖に耐えていた意識を一緒に吹っ飛ばしたッ!!

ディエゴ「次の登場の仕方は『ジュラシックパーク』で決まりだな。」

術者が気を失ったが故、グーグードールズの支配は解けた。

もとの大きさに戻ったディエゴがリハビリをする入院患者のように何度も手を握ったり閉じたりしながら、

ゆっくりと立ち上がった。

ディエゴ「よくやったぞ『琴歌』よ。よく帰らずに事務所の裏で待機していたな…褒めてやる。」

レースに勝った馬をほめたたえるように、誇らしさをもって恐竜の背をゆっくり撫でた。

撫でられた獣は体をぶるりと震わせた後、その姿を消した。

そいつが居た場所には、代わりに一人の少女が丸まって寝転んでいた。

「んぅ…あら?Dio様?…私はどうして…?」

Dio様に裏口で待つように言われ、頬を撫でられたことまでは覚えているが、そのあとの記憶がない。

ここはどう見ても事務所だし、よくわからないが褒められて頭をなでられている。

琴歌(なんだかよくわかりませんが…とにかく良しです。)

きっと寝てしまったんだろう。きっと大したことはないし、

今は思い人である貴公子に触られている現状のほうが重要だ。

伸ばされた手が頬まで。顎まで。唇まで、届いているのだ。

愛撫するように、じっくりと、色気をこめながら。

「ああ…Dio様…い、いけません。こんなところで始められては…」

とろけそうな感触に、琴歌の理性がやめろと小声でつぶやく。

だが感情や言葉とは裏腹に、頬を桜色に染めDioの手をもち離そうとしない。

それどころか、気づけばもう片方の手でDioの胸板の上に手を這わせてしまっていた。

ディエゴ「琴歌…目を瞑れ。」

歴史あるワイングラスを持つかのように、ていねいに琴歌の頬を持ち、ディエゴは言った。

ライトグリーンの吸い込まれそうな瞳で、琴歌をじっと見つめながら。

琴歌「…!はい。Dio様…」

飼い主の言いつけに喜びを感じる忠犬のように、しっかりと目を瞑る。

何かを期待するかのように、唇をそっと突き出しながら。

琴歌が目を瞑った――――瞬間ッ!!

ヘレン「―――!!」

グーグードールズ「うばっしゃあああああああああああああッ!!!」

右からヘレンがッ!!

左からは飛び出したスタンドがッ!!

挟み撃ちの形で猛然と襲い掛かったッ!!

狙うはディエゴの頸動脈ッ!!

だがッ!!

ヘレン「え!?」

グーグードールズ「ギッ!?」

同時攻撃はむなしく空を切ったッ!!

疲労が蓄積したボクサーが空振りで倒れ込むようにつんのめるヘレンッ!!

奴はどこに――そう思った彼女の首元に、生ぬるい風が吹きかかった。

この風の正体はわかる。だが、その風の元は見たくない。見たくないのだが見なければならない。

自分の生命のために勇気を振り絞ってゆっくりと振り返ると、そこには獣が居た。

ディエゴ「WRYYYYYYYY…」

それは肉食の爬虫類じみた歯をもった口がエラまで裂け。

大型のトカゲのような太く、長い尻尾を持っていた。

ディエゴ・ブランドーに似た、この世に在らざる獣だった。

「保護色か?ランプは好きか?明かりはつかないという意味だが」

ヘレンの意識はそこで途絶えた。



恐竜をかたどったような、悪趣味な服かけの傍で。

琴歌と『楽しみ』ながら、ディエゴは考えていた。

ディエゴ(承太郎とあのプロデューサー…ポルナレフだったか。

奴らの言っていたことは真実のようだな。スタンド使いは『増やされている』。

それ自体に興味はない。どんな奴がその矢を使ってようが、

その矢にぶち抜かれてスタンド使いになろうが、死のうが、

オレにとっては心底どうでもいいことだ。地球の裏側でよろしくやっててくれって感じだな。

それにどんなスタンド使いであれ、オレの『スケアリー・モンスターズ』は負けないという自信もある。

だが、その『矢』は別だ。)

琴歌が快楽に満ちた嬌声をあげる。ディエゴにしがみつく力が一層強くなる。

ディエゴ(ヨーロッパ…特にイタリアの方では近年不可解な事件が続発し、

『パッショーネ』とかいうマフィアがありえない勢いで勢力を伸ばしていると聞く。

おそらくそいつらはスタンド使いの集団。そうでなくとも、『ボス』は間違いなくスタンド使いだッ!!

ならばその『ボス』は間違いなく『矢』を買うだろうッ!!

この世の法律や、経済なんかを無視して、幾らでも金を出すだろうッ!!

そしてその金をこのオレが総取りだッ!!)

魂が抜けたかのように一瞬痙攣した後、ディエゴの胸の中に崩れ落ちる琴歌。

息荒く達した琴歌には目もくれないまま、ディエゴは窓の外を見ていた。広がる夜景。

ネオンや電燈で輝くその先を。

ディエゴ(鳩の群れのような人間どもッ!!支配してやるぞッ!!

その『矢』を頂いて、オレは必ずこの世の頂点に立ってやるッ!!

我が知と力の前にひれ伏すがいいぞッ!!)

ディエゴ…翌日、ヘレンに襲われたことを承太郎とポルナレフに報告。
自分のスタンドの正体とヘレンの所在は隠したまま。

ヘレン…事務所で目が覚めた瞬間、承太郎とポルナレフに死ぬほど脅されてスタンドを悪用しないことを誓わされる。
昨日のことはあまり覚えていない。

承太郎&ポルナレフ…引き続きディエゴを警戒しながら、矢について調査を始める。

琴歌…幸せ

to be continued…

終わり。5話は多分書く。

琴歌とディエゴはすっごく楽しいことをしていた気がするけど童貞だからわからない

(ケッ!!なあにがティンと来たらだあ?
そんな漫画みてーな現象起きるわけねーだろうがッ!!あのアホ社長適当なことばっかぬかしやがってッ!!
さすがジョースターさんの後輩だぜッ!!)

J・P・ポルナレフは苛立っていた。

喫茶店でミルクと砂糖をこれでもかと入れたコーヒーを啜りながら貧乏ゆすりをする様は、

1日中釣果の上がらなかった短気な釣り人が、家でイラつきながらビールを煽る様を彷彿とさせる。

確かに。彼はアイドルのプロデューサーだし、未来のアイドルを魚とするのならば本日の釣果はゼロだ。

可愛い子を見つけるのが仕事なのは確かなことだが、

気合が入ってマジのナンパをしてしまい、結果本日3匹を取り逃している。

仕事として、というよりは男の沽券に関わる問題でもあるからこのままでは終われない…という気持ちもあるのだが、そろそろ帰社しなければ――――

凛『クンクン…うん、上着から発情したメスの匂いがする。

プロデューサー…まさかまたナンパしてきたんじゃあないよね?もう仕事の時間終わってるよ??』

ほたる『ぷ、プロデューサーさんが女の人と…死にたくなってきた』

ポルナレフ「…ゴクリ。そ、そいつは嫌だな。」

彼女らのどす黒いクレバスが顔をのぞかせるだろう。

常に仕事においても人間的にも信頼はしているし、容姿、性格ともにカワイイと思っているが、

あの女が絡んだ瞬間だけは、アイドルではなくもっとおぞましい『何か』になっているんじゃあないかと彼は疑っている。

もちろんそんな『何か』に会うのはごめん被りたい。疲れたように溜息を吐きながら、仕事用の携帯を胸ポケットから取り出した。

ポルナレフ「とりあえずちひろにメールすっか…今日は」

「煩わしい太陽ね!!」

「「煩わしい太陽ね!!!」」

ポルナレフ「煩わしい太陽…ああ?」

謎の掛け声が響いた。

つられて送りかけたメールを削除し、声の方向を見ると何やら黒い集団がうごめいている。

「愚民どもよ!!支配への叛逆は順調のようだな!!」

(みんな!!今日は忙しい中集まってくれてありがとう!!)

「「「わが主のためならば!!」」」


じっとよく見ると、それがただの黒づくめの集団とはちょっと違うということがわかった。

同じ、『黒を基調としたフリルやレースで飾られた衣装』を身にまとった…いわゆるゴスロリファッションの集団だった。

その中心にはどうやら一人の少女が居るようで、怪しげな新興宗教の信者達のように、ファン集団がそれを取り囲んでいた。

ポルナレフ「へー…日本はコスプレが有名だってのは荒木からよく聞いてるが、初めて見るな。あんな大規模なのはよお~。」

危険だと言われるとつい覗いてみたくなるように、ポルナレフは、あのあからさまに怪しい集団が気になった。しかも中心から響くのは女の声だ。

アイドルのプロデューサーをしている以上、女の子には合法的に近寄れる身分として、プロダクションのためにも、自身の好奇心のためにも。

ここはひとつ見ておかねばならない。そう思ったポルナレフは仕事用の携帯電話を内ポケットに突っ込んで喫茶店を出た。

「尊き声が響く…我が覚醒せしグリモワールの祝福を与えん!!(ファンのみんなありがとう!!この新しい衣装はどうですか!!)」

そう高らかに喋る、黒きカルト集団の中心にいる少女と目があった。

その瞬間、彼の脳内の電球が、クイズ番組でよく響く正解音とともにまばゆく光ったのだ。

言ってることは理解できないが、間違いない。この少女は『持っている』。アイドルとして必要なものを『持っている』のだッ!!

そう感じたポルナレフは、ファン集団を押しのけていた。


ポルナレフ「な、なあ君ッ!!アイドルやってみないかッ!?」

中心の少女は目を一度瞬きした後、口元を抑えた。今はファン集団のことなど目に入らない。

まるで長年思い続けた夢がかなったかのように、感極まった様子でポルナレフを見つめ返して、こう言った。

「ま、まさか瞳を持つものが我を導きに?!(も、もしかしてスカウトですか?!)」

「…え?」

後に蘭子はこう言ったそうだ。

『あの時ファン集団が居なければ今の私はなかった。
プロデューサーとの通訳に一役買ってくれた彼らが居なければ』

数か月後――――346プロ




蘭子「くッ…闇の眷属たる我がかようなオプティマに…友よ!
(うう、この問題わかんないです…承太郎さん!)」

少女、神崎蘭子は頬をふくらませながら、ソファーでふんぞり返る承太郎の方を勢いよく振り向いた。

承太郎がそれを見ると、『数学』と書かれた本と、丸みを帯びた可憐さを感じさせる文字が連なるノートが目に入る。

蘭子「友よ!!一刻も早く我を苦渋に満ちた時から解放せよ!!
(承太郎さん!早く教えてくださいっ!!)」

ペン先を何度もノートに打ち付けながら彼に教えを乞う姿は、

カラスの雛が親鳥に餌をせびっている光景を彷彿とさせる。

ここで教えてあげなければあいつは半泣きのままこっちを見続けるだろう。

承太郎はやれやれとめんどくさそうに立ち上がって、蘭子の傍まで歩いて行った。

承太郎「…そこは公式だな。1次関数の公式は覚えているか?」

蘭子「絶対の法則…傾きし双剣とシャムシールの儀式か?」

承太郎「ああ、それでいい。そのまま解いてみろ」

蘭子「…フハハ!!さすが我が友!!我を真理に導くとはな!!
(できた!!承太郎さん、ありがとうございます!!)」

初見では絶対にお礼に聞こえないであろう礼を述べて承太郎に頭を下げる蘭子。

承太郎はそれに短く、ああ。とだけ返して元いたソファー、彼の定位置にいつものそうにふんぞり返って

雑誌『ラメール』の読みかけたところを開いた。

杏「…すごいね承太郎、全く動じないんだ。
皆蘭子に初めて勉強教えるときは、初めて外人と話してる小学生みたいにおろおろしてたのに」

そう。蘭子語…いわゆる『熊本弁』を完全に翻訳できるのは事務所内でも極僅か。

蘭子的には常に自分のために頑張って仕事をしてくれているポルナレフから教えてもらいたいが、仕事の関係上時間が合わないことも多いし、仕事中に聞くわけにもいかない。

だから近くにいる人に教えを乞うのだが、大抵の人間は杏子の言うようにおろおろするか、翻訳ができる人間にパスして逃げる。

その『熊本弁』対しても全く動じず十年聞きなれた母国語で会話するようにごく普通に返答する承太郎はパスされる有力候補筆頭であり、

極僅かのうちの一人、赤城みりあは蘭子より年下なので勉強を教えられないし、もう一人の小日向美穂は自分よりも頭のいい人間が教えたほうがいいといって常に勉強はパス。

そういうわけで最後の一人、空条承太郎に白羽の矢が立ったというわけだった。

承太郎「1度や2度あったわけじゃあなくて、何日も顔合わせてりゃあな…言いたいことぐらいはわかる。
だいたい最初に蘭子が頼んだのはてめーのはずだぜ、杏」

杏「うん。だからパスした。頭よさそーだしね。」

杏はそういって承太郎の座るソファーにその小さな身を放り出し、顔面を彼の太ももににうずめた。

承太郎「…やれやれだぜ。てめーの特等席はあっちの椅子だろーが」

杏「いやだめんどくさい動きたくないここがいい。」

駄々をこねる子供のように、承太郎の膝の上で頭をごろごろさせて甘える杏。

軽く溜息をついた後、彼は野良猫をひっとらえるように首根っこをつかんで、杏専用ソファーに放り投げた。

放り投げられた杏は、さも不満げなジト目で承太郎を見つめながら文句をたらす。

杏「…膝ぐらい貸してくれてもいいじゃん。
けちくさい男は嫌われるんだよ、承太郎?」

承太郎「てめーに嫌われるんならそれもありかもな…」

杏「あー、やっぱいまのなし。ノーカン。」

さっきまでの不満顔もどこへやら。一秒で前言撤回する杏。

なんとかしてぐうたらに甘えようとする杏を承太郎が力技と切って捨てるような返答で追い返す。

事務所のメンバーには見慣れた光景だが、蘭子はそれを見る度常にこう思う。

蘭子「…同じ時を生きし者であっただろうか?(…お二人は同い年でしたよね?)」

蘭子の訝しげな呟きに応えるように、事務所の扉がひらいた。

もう磨りガラス越しからでもわかる、特徴的なシルエットを持った、お調子者で、女好きなフランス人の彼だ。

ポルナレフ「まあこの二人が並んで歩いてたら犯罪だよなぁ~~~。
おれが警官なら間違いなくしょっぴくね、事案発生ってよぉ。ウケケッ」

承太郎「鏡見てからいいやがれ。てめーの首から上は不審そのものだろうが。」

蘭子「闇に飲まれよ!!」

ポルナレフ「ああ!!…」

すぐには答えず、目だけを承太郎の方に向ける。またか。

『いつも』のように察した彼は、やれやれと帽子のつばを引き下げて答えた。

承太郎「…(お疲れ様です)だそうだ。」

承太郎が代わりに答えるのを見てシュンとする蘭子。

承太郎は承太郎で蘭子のためにも、自分のためにもポルナレフには是非わかってほしいのだが、

この調子では無理そうだなとため息をついた。

ポルナレフ「おうよただいま!!それよりよッ!!
おまえらッ!!今日の営業先で何があったと思うッ!?」

凛「…妙にハイテンションだね、プロデューサー。
可愛い女の子でもひっかけたの?」

ほたる「…」

凛の言葉に頬をふくらませてポルナレフのスーツの裾を引っ張るほたる。

乙女の可憐なる抗議を意に介さず、引っ張られたナンパ男はほたるの頭を一撫でしてから、

満面笑顔で凜の目の前までその顔を持っていった。

凛「ちょ、ぷ、プロデューサー。ち、近いって…」

ポルナレフ「んなこたあどうだっていいんだよッ!!
それより何があったと思うッ!?おれが手にしているものはなんだと思うッ!?」

顔を紅潮させる凜のことなど目に入らぬまま。彼は、新しいおもちゃを自慢したくって仕方がない子供のように、

いつも持ちあるいている『LOEWE』製の黒いカバンの中から『何か』を取り出した。

それを王冠のように頭上に掲げ、ぐるっと蘭子の方を向いたのだった。

ポルナレフ「パンパカパ~ン!!蘭子ッ!!おめーのシングルだよッ!!」

蘭子「…え?」

瞬きを、一回する。蘭子 はいきなり当選を告知された宝くじ購入者のように目を丸くしていた。

いつもの『熊本弁』ではなく純粋な驚きが彼女の口から洩れていることから、相当思考がまとまっていない様が伺える。

ポルナレフ「何ボケッとしてんだよッ!!おめーのCDデビューが決まったってことだぜッ!!
ほらもっと喜ばんかいッ!!サッカー選手がゴール決めたときみてーによぉーーーッ!!」

現実味がなく呆けている蘭子の傍まで大股で近寄った彼は、受験合格が決まった女子中学生同士のように、

彼女の両手を取りぶんぶんと振り回す。その物理的な衝撃で我に返った蘭子は、己の衣装のように目を白黒させながらポルナレフに問い返した。

手は強く握りしめたまま。

蘭子「…わ、我が魂の共鳴を響かせる時が来たと?!!?」

承太郎「(私がCDデビューですか?)…だそうだ。」

蘭子の声を皮切りに、事務所メンバーのボルテージがだんだんと上がっていった。

純粋に喜ぶもの、負けてはいられないと意気込むもの、触発されてより一層努力しようと思うもの、皆それぞれの思惑はあったが、

蘭子を祝福しているという一点においては変わりなかった。

未央「ま、マジィ!?
やったじゃあーんらんらん!!一足先にCDデビューとか飛んでるゥー!!」」

ポルナレフ「ああ、マジもマジッ!!こないだ仕事で一緒に居た音楽プロデューサーが居るだろ?
あの人がテレビで蘭子をみてすごく気に入ったからだってよ!!
良かったなあ、オイ!!」

ほたる「おめでとうございます蘭子さん!!カッコイイです!!」

デビューには祝福が必要だとはいえ、過剰気味な祝福を浴びている蘭子。
普段滅多に愛想をしない承太郎ですら拍手に加わっているのを見て気をよくした蘭子は、
気取った金持ちがするように思いっきり前髪をかきあげて、叫んだ

蘭子「ふ、ふははははは!!我が闇の力、今こそ解放せん!!!」

ポルナレフ「あー…」

承太郎「…(まかせてください)、らしい」

やっぱこれ一回話した方がいいかな。酷く気が進まないが、気だるげにこちらを向いている承太郎を見て、ポルナレフはそう思った。


蘭子は流れるリズムに合わせて目を閉じ、頭を動かす。

十分に焼かれたステーキの味を噛みしめる食通のように、じっくりとメロディに聞き入っているのだ。

蘭子の対面に座るポルナレフは集中している彼女の邪魔をしないように、

口を開かずに、作曲家から受け取った資料に目を落としていた。

蘭子「…」

ポルナレフ「おっ、聞き終わったかい?感想聞かせてくれよ、感想をよぉ」

蘭子「なんという魂の波動か!!さすがは瞳を持つ者ッ!!」

ポルナレフ「そ、そーかい。よくはわからねーが、気に入ってくれたみたいで良かったぜ。
なんせ作曲家のセンセーがイメージに合わせて作った、世界にただ一つの蘭子のための曲だからなぁ。」

曲があまりに気に入ったのだろうか、蘭子は身を乗り出して叫ぶほどにエキサイトしていた。

この興奮具合に水を差すのもなんだし、まだわかる。冷や汗を流しながらも、ポルナレフは笑顔で答えた。


――――346プロ 応接室




蘭子は流れるリズムに合わせて目を閉じ、頭を動かす。

十分に焼かれたステーキの味を噛みしめる食通のように、じっくりとメロディに聞き入っているのだ。

蘭子の対面に座るポルナレフは集中している彼女の邪魔をしないように、

口を開かずに、作曲家から受け取った資料に目を落としていた。

蘭子「…」

ポルナレフ「おっ、聞き終わったかい?感想聞かせてくれよ、感想をよぉ」

蘭子「なんという魂の波動か!!さすがは瞳を持つ者ッ!!」

ポルナレフ「そ、そーかい。よくはわからねーが、気に入ってくれたみたいで良かったぜ。
なんせ作曲家のセンセーがイメージに合わせて作った、世界にただ一つの蘭子のための曲だからなぁ。」

曲があまりに気に入ったのだろうか、蘭子は身を乗り出して叫ぶほどにエキサイトしていた。

この興奮具合に水を差すのもなんだし、まだわかる。冷や汗を流しながらも、ポルナレフは笑顔で答えた。

蘭子「この波動の掲げし名は何という?」

ポルナレフ「掲げし…?あ、ああ?タイトルか?えーと、『華蕾夢ミル狂詩曲』、らしいぜ。
まだ仮だから変わる可能性はあるが、カッチョイイよなあ。意味はよくわかんねーけどよぉ~~」

まだだ。まだいける、こらえるんだ。

下痢便を我慢しすぎてそわそわしている時のように落ち着かなくなったポルナレフは、

机に置かれたオレンジを必死こいて剥きながら耐える。

しかし彼の我慢も空しく、『熊本弁』が止まることはなかった。

蘭子「この波動は我が魂の高揚を誘うものッ!!
媒せし光は何処にかッ?!」

やっべわかんねえ。危うく出かけた言葉を思いっきりオレンジと一緒に飲み込んで、物理的にこらえるポルナレフ。

とにかくこのまま押し切ろう。そう考えてさきほどまで読んでいた資料を素早く蘭子に持たせて、まくしたてた。

ポルナレフ「う、うーむ…。ほ、ほらッ!!とりあずこれ見てくれよッ!!」

蘭子「これは…」

ポルナレフ「わざわざだたっぴろい応接室で、1対1で話しているのはこれが理由だ。
蘭子のイメージに合わせてPV作るが、本人の希望も可能な限り入れたいと言っていてな。
で、その紙が向こうのイメージなんだが…良かったら感想と自分の中にあるPVのイメージを教えてくれないか?」

この業界で何年も食って行っているようなプロならばともかく、蘭子はデビュー前の新人。

皆の前でわざわざそーいうイメージを話すのは恥ずかしいかもしれない。

そう思ったポルナレフは蘭子に気を使い、一対一になれる環境を作ったのだ。

家出少女『アン』のように雑に扱うと泣きそうな感じがしたので、こういう措置を取ったのだが…


蘭子「…」

目の前の少女は無言のまま、資料を机の上に置いたのだった。

長い前髪に隠れてその表情はよく伺えなかったが、無言のまま返してくるのを見るとなんとなくわかる。

ならば、と彼が問うのを遮るかのように、蘭子はお得意の『熊本弁』を全開にした。

蘭子「この紙片に紡がれしは過去の姿、既に魔力は満ち、闇の眷属たる時は終わりを告げた。

今こそ封じられしツバサを解き放ち魂を開放させる時!」

その眼差しは真摯。思いを語る意気込みは本物。だが内容は理解不能。

ポルナレフ「…は?」

阿呆のように口を開けるポルナレフ。

蘭子は蘭子で彼の理解などそっちのけに、自らの想像から来るPVの完成像を思いのまま表現した。

効果音がつきそうなくらいの決めポーズまで取って。

蘭子「かつて崇高なる使命を帯びて無垢なるツバサが黒く染まり、やがて真の魔王の覚醒が!」


ポルナレフ「あー…」

たっぷり10秒ほどたって、恥ずかしがった蘭子がそそくさと着席するのと同時に、ポルナレフは後ろ手に頭をかいた。

やはり言わねばならない。ひどく気は進まないが、そう決心して、蘭子の目を見た。

ポルナレフ「いいかい、蘭子。今から君に話すことは説教じゃあないんだ。
そもそもおれは説教なんてしないからな」

目を合わせた蘭子はびくりと身を縮めた。

普段から女の子にやさしくお調子者風の彼が、真剣になっているのを見て緊張したからだ。


ポルナレフ「君は可愛いし、頭も良い。それに、いわゆる『カリスマ』ってやつがある。
おれは人を見る目があるからよくわかるし、スカウトしてからこれまで見てきて間違いないと確信したよ。
だから言うぜ」

蘭子「こ、心の泉に浮かんだ言葉を直接…か?」

ポルナレフ「だからッ!!『それ』をやめろっちゅーとんのだよッ!!」

限界だった。普段は女の子ということもあるし、通訳がいるから『熊本弁』に対してもなんとか我慢できていたが、

今度の今度ばかりは思わず机を叩いてしまうくらい限界だった。

魂の解放?真の魔王の覚醒?男だったら「フザケんなこのキザ野郎ッ!!てめー頭おかしいんじゃあねーのかッ!!」

くらいは言ってやりたいと常に思っていた彼からすれば、これでもだいぶ抑えたほうだろう。だが、それでも積もった不満は

雪崩のように流れ出す。

ポルナレフ「めんどくせーんだよッ!!

ここはシンガポールとかインドネシアみてーな公用語が入り乱れる国じゃあねーんだぞッ!!

なんで同じ日本語で話すのにいちいち通訳を介さねーといけねーん…あッ」

言い切ったところで、後悔した。

蘭子「…ヒッ。ヒグッ。ご、ごめんなさい…」

泣かした。14歳の女の子にマジになって怒鳴ってしまった己の短慮さを呪ったが、

過ぎ去った時が戻ってこないように、口から出てしまったものは二度と飲み込めない。

ここはなんとかおさめなくては。

数多の女性経験で蓄えた脳内書庫から、『泣かせた女のフォロー』を取り出して、必死にページをめくる。

ポルナレフ「あ!!いや、その、説教じゃあないんだよ。最初に言ったけど、うん。
阿吽の呼吸っつーか、サイモンとガーファンクルのデュエットみてーっつーかよぉ、
ほら、息ぴったりでやりたいじゃんッ?だから…」

蘭子「グスッ…で、でも…恥ずかしくて…」

その話し方の方が100倍恥ずかしいだろうが。子供の失態を見て見ぬふりをする親のように、そう言いたい気持ちをグッと堪えた。

ここは同意して、蘭子の立場に身を置き喋らねばならない。

それに、女性を泣かしながら喋るのは、フェミニストであり派手好き面倒嫌いの彼にとっても耐え難い。

ポルナレフ「…うん。確かに、誰にでも10年来の親友のように気軽に話すのは難しいことだ。
おれだって難しいと思う。でもよぉー、その、なんだ。それじゃあ苦労するだろ?事務所で見ててもたまに思うぜ?
アーニャや凜なんかいつも耳が遠い爺さんみてーな顔して話してるじゃあねーか。」

蘭子「う…は、はい…」

蘭子は涙を拭きながら縮こまる。先ほどとはうってかわって、落ち込んだ患者を励ますカウンセラーのように穏やかな声になるポルナレフは怖くはないが

記憶の中にある、仲間に対する申し訳なさが思い出されていた。

確かにそういうことが無いわけではないし、そのたびに気まずい思いをしてきたことがあるのも事実だ。

彼は目線を外しながら、蘭子に訊ねた。

ポルナレフ「例えばよ…未央や卯月なんかさ。
学校行くのがめんどくせーとか、この服がカワイイだとか、カッコイイ人がいるだとか…
そんなくだらねー話しかしてねーが、キャッキャキャッキャと盛り上がるんだ。
そこに入りたそーにうずうずしてる時があるだろ?」

蘭子「…」

何も言えない。概ねその通りであると理解していたからだ。

ポルナレフが外していた目線を戻し、サファイアブルーの瞳が蘭子に向いた。

心まで射抜くような、真摯な視線だった。

ポルナレフ「みんないい子だから言わねーし、直せと強要することもねー。
だがよ、外国に行ったときみたいに通訳を介さずにきっちりと。
通じる言葉で話したいと思っているのは確かだろうぜ。
おれだってそうさ。君と。きっちり想いを通じ合わせたいと思っている。」

想いを通じ合わせたい…?

彼はプロデューサーで私はアイドルで男で女で…そこまで考えた時、顔面に熱した蒸気を浴びたような熱さが込み上げてきた。

蘭子「…ふ、ふえ!?そ、それは…その、」

キョドっている蘭子のことなどお構いなしに、銀のプロデューサーは話し続ける。

これから夜を共にする女性を扱うように、やさしく、丁寧に。

ポルナレフ「なあ、蘭子。おれは人の心に想いを伝えるってのは素晴らしいことだと思う。
信頼、友情、愛。何にしてもいいといいことだと思っているんだ。
だが、上手く伝えきれないとお互いの心にカスが残る。いわゆる心残りってやつがな。
おれは君と信頼関係を築きたい。仕事だけでなく、1人の人間として信じ合いたいから、後味の良くないものを無くしたいと思っているんだ。
蘭子、君はどうかな?」

メロドラマのような口説き文句だ、と蘭子は思ったが不思議と悪い気はしなかった。
言いたいことはわかるし、自分も彼と同じ気持ちだからだ。ただ、願わくば――――

蘭子「ひ、瞳を持ちし者ならばこそ。
魔王としてともに高め合いたかったのだが…」

少女は死ぬ間際の蚊が出すような、消え入りそうな声でぼそぼそと本音をつぶやくのだが…届きはしなかった

ポルナレフ「んん?」

蘭子「す、すいません。その、迷惑…かけてしまって」

今度こそ、素直に謝った。
自分のせいであることは確かなので、電話越しに遅刻を告げるサラリーマンのように頭を何度も下げながら謝るのだが、
目の前の彼は言及するどころか、より深く頭を下げてきたのだった。

ポルナレフ「いや、おれのほうこそわるかった。
大人げなく怒鳴ってしまうなんて…騎士道にあるまじき、恥ずべき行為だ。
蘭子…君のような可憐な乙女に対してな。
非礼を許してくれ。」

蘭子「あ、頭…あげてくださいぃ…」

10倍返しのお礼をもらった時のように、おろおろとしながらまたポルナレフに謝る蘭子。
蘭子の言葉で頭を上げた彼は、壁掛け時計を見た。長針は6を指しているし、窓からも太陽ではなく、闇が覗いていた。

ポルナレフ「本当に済まなかった。
それに君と本音で語り合いたいのは本当だ。マジにそう思っているが…
今日はもう遅い。PV含めたこの件については、また明日話そう。」

立ち上がり、ホテルのベルボーイのような丁寧な手つきでドアを開けて、蘭子を外に促す。
こういう気遣いをいつもの事務所でも発揮してくれれば、もっとロマンチックな人なのに。


蘭子「は、はい。その…やみ…お疲れ様でした。」

重い衣装を脱いで、部屋着に着替えることもなく、いつものように、お気に入りの落書きノートに絵を描くこともなく。

部屋に帰った蘭子はベッドに身を投げ出す。出かける前にきっちりと整えたベッドは彼女を暖かく迎え入れたが、蘭子の表情は晴れない。

寝転んだ腕で目を覆いながら、蘭子は思った。

(…私だって、話せるものなら本音で話したいです。
『いつも』の私のまま。
外で一緒にお茶したり、
一緒にウィンドウショッピングでお店の人を冷やかしたり、
二人っきりで甘々なプリクラを撮ったり
夢について話し合ったり。でも…)

そう思って行動しようとするたび恥ずかしさと、理解してもらえないんじゃあないかという恐怖が、死神の鎌のように頭をもたげるので動けない。

なんとか精一杯伝えてみたものの、結果が今日のあれだ。

むしろあんな風に爆発するまでよく耐えてくれたと申し訳なくなるのだが、

(やっぱり私は…このままで話したい。素直に、普通の言葉で話せとプロデューサーは言ったけれども、これが私なんです。
いつもの何年も会話したことがない引きこもりみたいにビクビクした口調の私ではなく、この『熊本弁』を巧みに操って。
たくさんのファンと独自の空間を作れる、私らしい私で居られるこの私が好きなんです。それをプロデューサーにも理解してほしい…)

覚悟を決める。一種の賭けだが、これで理解されなければ一生自分のことが理解されることはないだろう。

いつの間にかあらわれた一匹の小鳥が、彼女を勇気づけるかのように肩に止まった。

今回はここまで

蘭子語難しすぎて死にそう

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