男「れ、レンタル座敷わらし!?」座敷童「……」 (93)


でもそれは居る―――はっきりと見える―――



「ね?……私のこと……見えるの?」



ああ、見える

だが、今までこんなに鮮明に見えることはなかった



男「あ、あれ。……いますよ……」

男はやや震える手で指さしながら言った



監督「はは、ホントに来てるのかよ……レンタル座敷童子」


男「れ、レンタル座敷わらし!?」


座敷童「……」


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監督「うん、まさか本当に来るとは思わなかったけどねぇ……」


座敷童「……お兄さんは私が見えるのね」

男「……霊感が強い方なんだ」


監督「まさか、プロデューサーに聞いていた通りとはね。男くんは妖怪や幽霊が見えるって」


男「いや……見えるんですけど、いつもはこんなはっきりとは……」


監督「一年くらい前から見えるって聞いてるけど?」


座敷童「……そうなの?」




―――――――――――――――――――――――――――

――高校二年生 冬 

男「お祖母ちゃんが……亡くなった?」

母「そうなのよ、今朝連絡が来て……私達は今からお葬式の予定とか死亡届の手続きとかあるから……」

男「……え?そんな、嘘でしょ?」

母「……いきなりで実感は沸かないかもしれないけど、今日はとりあえず学校に行きなさい」



その日は模試。

1時間目の国語。

頭が真っ白だった。

その上、文章の内容が「老人の孤独死」であったため男は過去最低点をマークした。





男が初めて祖母の死を実感したのは葬式でのことだった。

式場の準備を手伝っていた男は、正面で笑顔を受けべる祖母を見て大声で泣いた。



火葬が終わり、煙突から上がる白い煙を見ていた時だった。



「火葬場の近く通ると自分の時のこと、思い出すよなぁ」

「そうだなぁ……母ちゃん、先に死んでごめんな……」



男「……幻聴まで聞こえるとか、そうとう参ってるな」

声がする方を振り向く

男「……なんか、モヤモヤしたものが動いてる」



これが幽霊を初めてみた瞬間だった。


―――――――――――――――――――――――――――
――――高校3年生 冬

男「行ってきます、お祖母ちゃん」


男は学ランの下に形見のペンダントをしまい、学校へ向かった。


祖母の荷物を片付けている時、男宛にペンダント、そして手紙が添えられていた。

――元気で、ペンダント、大事にしてね―― そんな内容だった。




――――学校 教室 昼休み

男「……」モグモグ

オタク幽霊「デュフwwwぼっち飯wwww俺氏と一緒wwwww」

男「……」モグモグ

オタク幽霊「オウフッwwwww無視ですかwwwww」

男「……教室まで入ってくるなよ」

オタク幽霊「wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」



男にオタク幽霊の姿は見えない。

だがはっきりとそこに居ることは分かるし声も聞こえる。


男「……俺は友達が少ない」

男(ちょっと口下手なだけなのになぁ……)


「なあ!一緒に食べねえか?」


男「……!」


男(久しぶりに幽霊以外に話しかけられた……!)

男「う……うん!こっちの椅子、座ってよ」


「なあ、男って部活なんだっけ?」

男「今は……帰宅部なんだ」

「へえ、そっか……」

男「……」

「……」


ヲタ幽霊「wwwww会話が続かないwwwwwワロタwwwww」


ヲタ幽霊「wwwwもっと話題をwwww」


男(誰と話してても会話が途切れちゃうんだよなぁ……)



―――――――――――――――――――――――――――
――――夜

母「今日、おじさんくるから」

男「……なんでまたいきなり?」

母「なんか、あんたに用があるみたいだけど?」


男「……俺に用って……?」




おじ「やあ」

男「久しぶりだね、おじさん」

おじ「そうやなぁ……おじさんも忙しいからなぁ」

男「……忙しいのになんで来たのさ」

おじ「そう、それ!男くんに頼みたいことがあってさ」

男「?」


おじ「男くんに収録の手伝いをして欲しいんよ」


男「テレビのってこと?」

おじ「そういうこと」



彼はテレビ番組のプロデューサー、主にバラエティ担当の。


おじ「……男くん、最近幽霊とか見えるって聞いたけど」

男「……母から?」

おじ「そう。そんで今度心霊特集することになってな?」

男「幽霊がどこにいるか教えろよ、的な……?」

おじ「いや、収録する旅館は決まってんねん。そこに行って、どの辺に座ってんのか教えてくれるだけでええねん」

男「……」

男「それくらいなら、構いませんけど」

おじ「おお!そうか!場所もここからそんなに遠くないし、頼むわ!」

男「わかりました」



おじ「詳細はまた追って連絡するわぁ」



男が住む地域はちょっとした霊山に加え、戦争で多くの戦死者を出したことで心霊スポットとして有名だった


男が教えられたのは、有名な旅館

―――座敷童が出るらしい


男は幽霊でも妖怪でも薄っすらと見えた。

男(座敷わらしも……どこに座ってるかくらい分かると思うんだけどな)

男(でも妖怪も常にいるとは限らないんだけど)




―――――――――――――――――――――――――――
――収録当日


監督「さあ、入って」

男「えっと、どこに居るか見ればいいだけですよね?」

監督「うん、それでいいよ……この部屋だね」


襖スーッ


監督「……今どっかに居る?」

男「……えーっと……」



男は部屋を見渡した

すると、明らかに現代離れした格好の女の子が座っていた。


男「……あれって人間じゃないのかな?」

監督「……俺にはなんにも見えないんだけど……?」


でもそれは居る―――はっきりと見える―――



「ね?……私のこと……見えるの?」



ああ、見える

だが、今までこんなに鮮明に見えることはなかった



男「あ、あれ。……いますよ……」

男はやや震える手で指さしながら言った



監督「はは、ホントに来てるのかよ……レンタル座敷童子」


男「れ、レンタル座敷わらし!?」


座敷童「……」


監督「うん、まさか本当に来るとは思わなかったけどねぇ……」


座敷童「……お兄さんは私が見えるのね」

男「……霊感が強い方なんだ」


監督「まさか、プロデューサーに聞いていた通りとはね。男くんは妖怪や幽霊が見えるって」


男「いや……見えるんですけど、いつもはこんなはっきりとは……」


監督「一年くらい前から見えるって聞いてるけど?」


座敷童「……そうなの?」


男「祖母が亡くなってから妖怪とか、幽霊とか見えるんですよ……」


監督「そうか……よし!居るならいい感じに収録できそうだ」


カメラに映るのかは別の話だけれど



監督「それじゃあ、俺は準備があるから」

カメラマン「監督ー!こっち来てくださーい」

監督「あー、すぐ行く」

監督「まあ、時間までその妖怪ちゃんとお話でもしててくれよ」

男「……お、お話ですか?」




―――――――――――――――――――――――――――

結局、残ったのは1人の女の子(妖怪)と男だけだった。


男「……ねえ、なんでそんなに鮮明に見えるの?」

座敷童「……」

男「……あのさ、レンタルってどういうこと?」

座敷童「……」



男(……なんだ、何もしゃべんねえ……)


座敷童と思われるその少女は大きな黒い目でこちらを眺めるだけだ


男(見た目は……12歳くらいなのか?……そんな風には思えない目つき……)



座敷童「……はぁ」

男「……?」

座敷童「あー!!もう疲れたーーー!!」

男「……!?」

座敷童「あー!もう静坐とかしんどいし、痺れる!!」

男「」


男「……あの?」

座敷童「なに?」

男「……いや」

座敷童「どうせ、豹変ぶりに驚いてるとかでしょ?」

男「……」

座敷童「……あれは演技だから」

男「……演技……」

座敷童「こういうテレビとかって、座敷童は座敷童っぽくしないといけないのよ」

男「……な、なるほど?」

座敷童「もし監督さんやプロデューサーさんが見える人だったら、私の株が落ちちゃうから」

男「……俺はいいのか」

座敷童「だって一般の人でしょ?この宿に泊まる人はみんな見たがってるんだし、お兄さんは見れて幸せな方だと思うよ?」


男「……」


男「とりあえず、最初の質問に答えてくれ。レンタルってなんだ」

座敷童「……この状況でまだ分からないの?」

男「……ご、ごめんなさい」


男(良く分からんが謝ってしまった)


座敷童「人間って、私達みたいな妖怪とか大好きでしょ?」

男「まあ、そうだな」

座敷童「つまり、ニーズが有るってことなのよ。だからこうして派遣されてるの」

男「……ここに元から居たわけではないと」

座敷童「そういうことね」



座敷童は当然のようにタメ口だった。
見た目はロングの黒髪、前髪ぱっつん。
彼女の周りに置いてある人形よりも目が大きく、人間で言えばかなり可愛らしい方だろう。

大人びているせいで年齢はいまいちわからないが……中学生くらいだろうか?


監督が近づいてくる


監督「どうだ?妖怪ちゃんは?」

男「えっと……すごく生意気ですよ」

監督「ほう、それはいいね~。じゃあ、カメラセットするから」



こうして収録は始まった。


内容はありがちなもの。夜中に部屋にカメラを置いて心霊現象が起きないか確認する。


男の役目はほとんど終わったが、見学してもいいと言われその通りに。


男(……カメラに映るのかな……)





―――――――――――――――――――――――――――
――――収録開始

今は19時、こんな冬では当たりは真っ暗。

丑三つ時とかはあまり関係ないようだ。



AD「それじゃあ録画開始しまーす」


収録は静かなものだった。
ゲストである男は例の部屋とは違う部屋からモニタリングしている。


男「か、監督」

監督「ん?どうした?」

男「これ、普通にカメラに写ってますよ?」

監督「お?マジで?……どれよ?」

男「これ、ここですよ、ほら、はっきり!」

監督「んー……俺には見えねえんだが……」

男「……そ、そうですか……」

監督「くぅ~ホントに居るのかよ……この目で見たかったくっそぉ~!」


男(いつもははっきりとも見えないのに、今日はカメラ越しでも見えてる……)


男(でもカメラに映らないんじゃこの収録は失敗なんじゃ……)


監督やプロデューサーのおじさんを気の毒に思いながら再び画面を眺めていた。


その時だった。

座敷童が不意に立ち上がった。

そして……



ドンッ!!!



あろうことか、襖に裏拳をかました。




監督「おし!今、音したよな?」

カメラマン「ばっちりしましたね」

監督「よし!これで番組としての体裁は保てたな」

マイク係「どうします?」

監督「まだ音がするかもしれん、続けよう」



男は唖然としていた。



男(ポルターガイストってあんな風に起こってたのか……)


結局1時間だけの収録でポルターガイストを7回観測し、収録は終わった。


男(裏拳7回の一部始終を見てしまった)


監督「男くん、お疲れ様、助かったよ」

男「いえ、僕は何も……」

監督「へへっ、好視聴率狙えるぜぇ……」



欲望に燃える監督を横目に男は帰ろうとして襖を開けた。


女の子が立っていた。

男「う、うわぁ!」

座敷童「……そんなに驚かなくてもいいでしょ?」


監督「おい!どうかしたのか」

男「い、いえ……なんでもないんです」


監督「そうか、それじゃあ、俺達撤収するから」

男「はい。お疲れ様でした……」



男「……それで、何か用?」

座敷童「社長に言われてるのよ」

男「何が?」

座敷童「明日もこのへんで仕事なの。でも……その……道分かんないから……」

男「……教えろと?」

座敷童「わかってるじゃない」

男「……わかりました」






―――――――――――――――――――――――――――
――――撮影に使った部屋

座敷童「……なるほどね、だいたい分かったわ」

男「ここに泊まるのならそれほど遠くないし、大丈夫だろ」

座敷童「……そう」

男「……」


男(礼くらい言えよ……)



男「俺も質問していいか」

座敷童「……教えてもらったし、少しだけなら聞いてあげる」

男「まず1つ、なんでそんなにはっきり見えるんだ?」

座敷童「そうね……私が役目を与えられた妖怪だからじゃないかしら?」

男「役目……?」

座敷童「妖怪や幽霊ってすごく曖昧な存在なのよ。だから見えない人が大半」

男「……俺は見えるけどな、薄っすらとだけど」

座敷童「お兄さんみたいなのは特別な人。そんな中で、私は雇われて仕事をしている、つまりは役目や使命っていうのが与えられた存在なのよ」



男「だからより存在がはっきりすると……」

座敷童「……たぶんだけど」


男「じゃあ、2つ目、社長って誰だよ」

座敷童「そのままよ、私の雇い主。彷徨ってた私を拾ってくれたの」

男「そっちを通してこうやってレンタルされてくると」

座敷童「さっきよりは物分かりがいいんじゃないの?」



男(……マジで生意気だな……)


男「ところで、今はえらく大人しいな。最初は『疲れたー!!』とか言ってたのに」

座敷童「……」

男「……どうしたんだよ?」

座敷童「……な、慣れてないのよ、人と話すのが……」

男「……まだ演技してるってこと?」

座敷童「……その……」

男「どうなんだ?」


座敷童「……うわぁ~もう疲れたよぉ……」

男「……」

座敷童「だって人間でしょ?しかも男の人だよ?演技でもしないと話せないでしょ!!」

男(う……うわぁ……)

座敷童「最初の時だってめっっっっちゃ驚いたんだからぁ!」


男(もう演技っていうか二重人格だろ……)

とりあえずここまで

夜中にまた書くかもしれないけど、何かあったら聞いてください

なんかお婆ちゃん亡くなったときの心情とかやにリアルだな。
実体験?


用事が思いの外早く片付いたので続き描きます


>>34 これに関しては実体験です 模試で最低点だったのも事実


男「ああ、もう帰るよ」

座敷童「え?もう帰るの?」

男「だって収録で疲れてるだろうし、休んだほうがいいよ」


すると座敷童は無言で俯いた


男「どうした?」

座敷童「もう少しだけ話そ?」

上目遣いで照れながら言う

男「……!?」


男は座敷童の唐突な提案に驚愕した


男(か、可愛いところあるじゃん……)

男「それならもう少しくらい……」

しかし、照れる男の顔を見てこう言った


座敷童「うっそだよ~!引っかかったね~!」

男は彼女の裏拳を見た時と同じくらい唖然とした


男「もう帰るわ、マジで」


和風で塗り固められた廊下を無言で歩いた




―――――――――――――――――――――――――――
――――男宅

男の前には笑顔を浮かべたお祖母ちゃんの遺影があった

男「なあ、お祖母ちゃん。なんで俺は幽霊とか妖怪とか見えるようになったんだよ」


遺影は何も答えてくれない



男「俺も寝るか……」




薄っすらと上がった線香の煙を背に男は自室に戻って眠りに就いた


―――――――――――――――――――――――――――
――――翌日 夕方

男は受験という戦争に立ち向かうため準備をしていた

男「……受かる気しねえ、浪人か、適当な私立か」


男にはこれと言って夢はなかった

やりたいことも特にはなく、進路希望には家から10分に位置する国公立を近いからの理由で書いていた。


ピーンポーン

男(誰かお客さんかな……)


だが誰か来た気配はない。

男の部屋は二階にあったが、なんともなしに玄関まで見に行った


男「母さん?誰かお客さん?」

母「それが誰も居ないのよ。珍しいわね、ピンポンダッシュなんて」

男「いつでも迷惑な奴はいるもんだよ」


これだからガキは……

男は自室へ戻った


ドア ガチャ

座敷童「どうもー。おじゃましてまーす」

男「……さっきのピンポンお前か」

座敷童「そうだよ、流石に屋根に登っては来れないし……」



男「それで、何のようかな?」

座敷童「お願いがありまして」

男「?」

座敷童「今日はこの家に泊めてもらいたいのですよ」

男「……道案内の次は居候ってこと?」

座敷童「そういうことになりますね」

男「またからかってるんじゃないの?」

座敷童「いえ……昨日はごめんなさい」



男「もう姉貴が大学行って隣の部屋くらいなら空いてるから使っていいよ」

座敷童「本当に!?」

男「うん、その代わりもう少し妖怪の話とか聞かせて欲しい」

座敷童「はい!いいですよ!」ニコッ


男は昨日しそこねた質問をしてみた


男「とりあえず、君どうやってこの家の場所知ったの?」

座敷童「昨日、お兄さんが帰るのを尾行していました」

男「……マジか」

座敷童「気配を消すのは得意なもので」

男(さすが妖怪)


男「これは昨日一番聞きたかったこと」

座敷童「……?」

男「きみ、歳いくつ?」


座敷童はしばらく沈黙を続け、ピンクに染まった顔で言った


座敷童「レディに歳聞くとか、失礼にも程がありますよ!」

男「いや、純粋に知りたいだけなんだ」

座敷童「……どうしても知りたい?」

男「うん」

座敷童「……見た目は12歳のままだよ」

男「やっぱりそれくらいか」

座敷童「でも実際は83歳だよ」

男「……」



男は裏拳の時よりも唖然とした



座敷童「……引いた?」

男「いや、ある程度想定内の話だろう」


そうは言っても男の動揺は隠せない
なにせ、自分より年上だったのだから


座敷童「でも実際のとこ、よくわからないのよ。社長が私を見て83歳だ、って言っただけだから」

男「何?肌年齢でも見てたの?」

座敷童「……本当に怒りますよ?」

男「ごめん」


座敷童「私は妖怪になってからずっと彷徨ってた。誰にも気づいてもらえないから」

男「どれくらい?」

座敷童「……わかんない。十年かもしれないし、二十年かもしれない」


男の感覚とはスケールが違った


男にとって二十年は、自分が生きてきた年月よりも大きい

その間ずっと1人でいる、誰とも話せない

それがいかに苦しいものか

男の理解を超えていた


男「そんな長い間……寂しかっただろう」

座敷童「……」

男「まあ、俺は見えるし話してやれるから、ちょっと位なら言ってくれ」

座敷童「……お兄さん……」

男「といっても俺に何か出来るわけでもないだろうけどね……」


男は机の上に開いたままの赤本を見ながら自虐気味に呟いた


座敷童「お兄さん……!」

男「ん?どうした?」


座敷童「パパって呼んでもいいですか?」


男は一瞬、その意味が理解できなかった
高校生である彼がパパと呼ばれる状況は想像も出来ない


男「……ダメ」

座敷童「なんで?パパ?」

男「……/////」


パパという言葉の破壊力たるや。


男「……ダメ、ダメ!絶対ダメだ!!」

座敷童「……パパみたいだったから言ってみたのに……」

男「そういうのは本当のパパに言いなさい」

座敷童「……私、覚えてないんだよ」


その言葉に男は、さっきの発言を後悔した


男「その、すまんな」

座敷童「……じゃあパパって呼ぶね!!!」

男「いや、やっぱりそれは無理だ」


こんな討論が数十分続き、座敷童は疲れたのか、隣の部屋まで行って寝てしまった

―――――――――――――――――――――――――――
――――翌日 朝

男は日課となった、祖母への線香を上げた


座敷童「……お祖母ちゃんですよね」

男「そうだ、去年亡くなったんだ」

座敷童「……そのペンダントも、もしかして」

男「……形見だな」


そういうと、座敷童は男のもとへそっと近づき、優しくそのペンダントを手に取った


座敷童「……綺麗ですね」


ペンダントは銀の縁に青色の石のようなものが埋め込まれている

男「大事にして、ってお祖母ちゃんからの手紙にも書いてあってな。宝物だ」


そういうと、座敷童も男の祖母への線香を上げた


男(妖怪が霊を弔うってなんか不思議な光景だな)


男「今から俺は学校だけど、君はどうするの?」

座敷童「私も今から仕事です」

男「大変だな、どこで?」

座敷童「北海道です!新幹線です!!どっかの会社の社長の家に3泊です!!!」

男「……ここ中部なんだけど……」



男と座敷童は自宅の前で別れた


座敷童「また来ますね」


座敷童が家に居ると福をもたらすという
そんな座敷童本人から来てもらえるならそれほど喜ばしいことはない


男「ああ、また来いよ」


だが男は儲けや福なんて考えてなかった
純粋にこの孤独な少女を迎え入れたかった


男(そういれば、俺、結構喋れてるんじゃないのか?)

男(……年下だと大丈夫なのかなぁ……)

―――――――――――――――――――――――――――

学校の帰り、男は図書館に寄った
……座敷童について調べるため

座敷童
東北地方の妖怪
3~12才くらいで男も女も存在する
座敷童が居る家は繁栄し、いなくなると没落する


男「こんなところか」



?「……男だよな?」


机から顔を上げた


?「俺だよ、この前一緒に飯食べたじゃん!」

男「えっと……」

友「友でいいよ、一緒に飯食えばそこに友情は生まれるって!」

男「う、うん。そうだね……」


男にとって同級生は違った。何を話せばいいのかわからなくなる。


友「何読んでんだよ?……妖怪?」

男「……まあ」

友「いま流行ってるもんな、妖怪……なんだっけ」

男「……ウォッチ?」

友「そうそう、それ!でも俺はポケモン派だから」

男「ポケモン、分かるの?」

友「おう!金銀からやってるぜ?」


男(ちょっと、気が合いそうだな)


男「じゃあ……好きなポケモンは?」




高校生2人は熱中して話をしたが、ここが図書館だと気づいて沈黙した

―――――――――――――――――――――――――――
――――それから数日 自宅 夕方

ピンポーン

男「……多分俺だな。母さん、俺が出るからいいよー!」


男が扉を開けると案の定、黒髪の少女が立っていた

座敷童「お邪魔します」

男「お好きにどうぞ」



母「え?誰?」

男「え、あ、またピンポンダッシュだったー!」

母「何回も嫌ね、町内会に相談しようかしら」


2人は独り言を呟く母を背に、階段を上がった

今日はここまでにします


これから盛り上がる予定


――――自室

男「どうだった、北海道の旅は?」

座敷童「……超絶寒かったです」


真冬の北海道、ぽかぽかとし、雪も滅多に積もらないこの土地に住む男には未知の世界だ


座敷童「それに、大きすぎるお家は私にはなんとなく……落ち着きません」

座敷童の行った先は会社の社長邸
さぞ広かったことだろう


座敷童「お兄さんの家って古いですけど、結構広いですよね。私はこれくらいが一番落ち着けるんです」

そう言いながら座敷童は部屋を仰ぎ見る


男「もう建付けも悪くなってドアとか窓とか、コツを知ってないと開けられない程なんだけどな」

座敷童「自分の家、って感じでいいじゃないですか!」

男「……」


座敷童には家なんて無い
その日その日で住む場所が違う
誰かが迎えてくれるわけでもない


座敷童「それはそうと、またまた頼み事があって来たんですよ!」

座敷童は明るく続けた

座敷童「またしばらく居候させて頂けませんか?」

男「それなら構わないって言わなかったっけ?」

座敷童「本当ですか!……出てきていいよ!カエルくん!」

男「……か、カエル?」



カエル「どうも、カエルっす」

座敷童の背後からちゃぶ台と同じくらいの身長のカエルが二足歩行で出てくる

男「な……なんじゃこりゃ」

座敷童「後輩のカエルくん、大蝦蟇(おおがま)っていう妖怪なんだけど、新しく入ってきてまだ小さいんだよ」

カエル「そうっす!お世話になるっす!」

男「……いや、聞いてないんだけど?」

座敷童「いいって言ったじゃないですか」

男「……」


男(小さいカエルくらい居ても変わらんか……)

男「君もレンタルされてきたの?」

カエル「そうっす!!明日座敷童先輩と仕事っす!」

座敷童「明日初仕事らしいから私も同行しろって、社長が」

男「……いいよ、好きにしてくれ」

カエル「本当っすか!?ありがとーっす!!!」


そう言うとカエルは男の耳元まで来て囁いた

カエル「大丈夫っす、座敷童先輩可愛いっすけど、男さんの邪魔はしませんから」

男「余計なお世話だ」


次の妖怪の仕事は、以前と同じような心霊番組の収録だという。
撮影は夜から、よって男は再び道案内をすることとなった。

――――翌日 撮影現場

監督「あれ、男くんじゃないか?」

男「えっと、この前の監督さんですよね」

監督「いやー!この前の企画だけどね、評判よくて毎週やることになってね」


男(そりゃ妖怪のポルターガイスト(裏拳)が7回もあれば視聴率はそこそこ取れるだろうよ)


監督「このへんは心霊スポットも多い。だからしばらくはこの辺で収録だよ」


監督は男に収録の見学を勧めた
その日も男の家に居候する2人のことを考えて、その通りにすることに決めた


撮影が始まった。
しばらく経つと座敷童は襖を叩くことをカエルに教えた。

監督はポルターガイストに歓喜した


次の日、カエルは帰った
その代わりに違う妖怪が男の家を訪問した

座敷童「今日、一緒に働く一つ目小僧くんです」

一つ目小僧「へへっ、こんちわ」

男「……まあ、頑張れ」


その日は前日から場所を変えての撮影、つまりは続きの撮影だった
収録が始まり、例のごとく、座敷童は一つ目小僧にポルターガイストを教える

見よう見真似で懸命に壁ドンする妖怪たち


監督はポルターガイストに歓喜した


――――帰り道

男「……な?」

座敷童「なんでしょうか?」

男「壁叩いてて楽しいか?」

座敷童「あれが私たちの仕事ですし」

男「……」

男「そういや報酬とかってどうやって貰ってるんだよ」

座敷童「報酬ですか?……そんなものありませんよ」


報酬がない?
これだけ日本各地に派遣され、ビジネスとして成り立っているのに?


座敷童「私にとってはそれが使命。暴走して暴れてしまう妖怪に比べたら幸せなんです」


男(そんなの……間違ってないだろうか……)


座敷童「……明日が最後の撮影です!またお願いしますね、お兄さん!」


男はどこかスッキリとしない心で、ああ、とだけ答えた


―――――翌日、撮影現場

座敷童「今日は私一人です!」


座敷童は明るく微笑む
ああ、頑張れ、と送り出した


撮影開始から10分、座敷童は立ち上がり、裏拳を決めた

おしっ! 歓喜する大人たち

再び座敷童の裏拳

へへっ  下衆な笑みを浮かべる大人


これが何度繰り返されただろう


裏拳の音がするたび、男の心はどこか、ズキズキと痛んだ
大人の笑みを見るたび、男の気持ちは、下へ下へと沈んでいった




男「……」

男「……やっぱりこんなの、間違ってる」


急に立ち上がった男に監督は驚ろく

監督「お、おい?どうした……?」


男は襖を開け、和風の廊下に飛び出した
向かった先は座敷童のいる撮影の部屋


ピシャン!
力いっぱい開けた襖は反対側で跳ね返って大きな音を立てた

男「……帰ろう」

今まさに裏拳を決めようとしていた座敷童に向かって言い放った

座敷童「……おとこ……さん?」

男は裏拳でやや赤くなった座敷童の手を引いて部屋を出る


男「部屋に入ってすみません、用事があるので帰ります」


監督にそれだけ言い、和風の館を後にした



座敷童「……お兄さん……」


帰り道、5分ほど歩いてから男は口を開いた

男「……何の対価があるんだ」

座敷童「……」

男「……どんな見返りがあるんだよ!」


座敷童は俯きながら、押し黙ったままだ


男「君たちの熱意や寂しさに浸けこんで金儲けとか……間違ってる」

座敷童「……いいんです」

男「良くないよ。もっとやりたいことをするべきだよ」

座敷童「私はろくに成仏もできず、化けて出てしまった妖怪、これくらいしか……」

男「……成仏、できなかったのか……?」

座敷童「……」


男にとってそれは初めて知る事実だった
妖怪なんて、てっきりその辺からコロっと出てくるものだと思っていた


座敷童「妖怪はモノやヒトの恨みや悲しみから生まれてくるものです」

座敷童「私も……その一人。でも何の恨みか、悲しみか。そんなこと、彷徨ってるうちに忘れてしまいました」

男「……」


男「……俺が、見つける」

座敷童「……え?」

男「……俺が君の心残りを見つけて、……成仏……させたい」


男はそれを口にして、自分で疑問に思った
それが彼女にとって本当の望みなのか
そして、自分自身にとっての望みなのか

しかし、座敷童は黙ったままだ


男「……とりあえず、君ん所の社長に会ってくる」

座敷童「……会ってどうするんですか?」

男「わからん。ただ一発言ってやらないと気がすまない」

座敷童「……」


―――――――――――――――――――――――――――

翌日、喧騒で溢れる土曜の駅の改札を抜けて、東京にいるという社長の元へ向かった





―――――――――――――――――――――――――――

座敷童「ここです」

座敷童が指さした先は薄暗い裏通り
しかし指差す先には何もない

男「……?」


今度は座敷童が男の手を引いて行き止まりの壁まで進む
男が壁にぶつかる、と思った頃には、既に周りの景色は豹変していた


男「……どこだよ……ここ……」


男が見渡すと、そこは綺麗な庭が広がる豪邸だった
高級車が1台止まっており、正面には自分の家の10倍はありそうな館が鎮座していた


男「妖怪派遣ってこんなに儲かるのかよ……」

座敷童「私の他に、従業員は100名近くいますから」


男は長い庭を抜けて扉の前に立つ

すると、驚くことに扉が勝手に開いた

男「社長って……何者なんだ……」


2人は階段を登り、社長室だと言う、部屋の前までやってきた

男「……ここか」

座敷童「そうです」

男は扉を開けようとした時、またもや、扉が勝手に開いた




?「座敷わらしかい……あんたが人を連れて来るなんて、初めてじゃないのかい?」

黒髪で肥えた体を真っ黒の服で包んだ女が座っていた
手には大きな宝石が埋め込まれた指輪を4つほど光らせていた

社長「座敷童……一般人をこんなところに連れてくるなんて、どういうことだい?」

座敷童「……」

男「俺が無理やり来ただけだ」

社長「……あんたは……ふ、男か」

男「……!?」

社長「あのプロデューサーんところの甥ってところかい?」


なぜかその社長は男の存在を知り、おじのことまで知っていた


男「……ああ、そうだ」

男「……妖怪でこんなに金儲けしやがって……」

部屋にあるシャンデリアで見ながら言い放つ

男「もう、こんなこと、止めにするべきだ」

社長「……ほう?そんなこと言いに来たのかい?」

男「……」

社長「はっ、高校生の分際で、生意気なことを」

社長「ヒーローにでもなったつもりかい?」

男「……」

社長「どうせ、その妖怪に情が移ったとかだろ?」

社長「その座敷童は元は人間だから、成仏させたい……ってところかしらねぇ?」


何もかも、見透かされていた


社長「……でも、面白いわねぇ」

社長「いいわ、面白いからチャンスあげる」

社長「……一週間」

社長「一週間だけ見学させてもらうわ。そんなこと、あたしもしたこと無いから気になるしねぇ」

社長「でもわかってるわよね。一週間で何もなかったら」

社長「うちには少女好きのロリコン妖怪もいることだし、どうなるかねぇ?」


男が座敷童をみると、不安そうに俯いていた
男にとってそれは決断の時だった
ある考えが頭を横切った
……そんなことになるくらいなら、このまま、レンタルしてればいいんじゃないか、と。


しかし、男は決断した

男「……わかった。一週間で見つけ出してきてやる……この子の、心残りを」

社長「……その威勢がいつまで続くかしらね。まあいいわ。せいぜい遠くから見させてもらうわ」


男は最後に社長を睨みつけ、部屋を出た
そうと決まればすぐに行動しなくてはならない
元きた道を戻り、景色は一変、薄暗い裏通りだ


座敷童「……お兄さん、痛いです」

男「あ、ああ、すまない」

男は気がつけば、座敷童の手首が赤くなるほど強く握りしめていた


男「……ごめんな、俺が勝手に決めちまって」

座敷童「いいんです、お兄さんなら、見つけてくれますよね」



私の―――心残りを


―――――――――――――――――――――――――――
――――自宅

座敷童「ほんとに、ありがとうございます」

男「……それは見つけ出してから聞きたい言葉だな」

男「それより今は、何か心当たりが無いか知りたいかな」

座敷童「心当たり……すみません、あまり無くて……」

座敷童「でも少しだけ覚えています」


座敷童「私は、見ての通り見た目が12歳で止まっています」

座敷童「幽霊や人間型の妖怪は成仏出来なかった時のままになるらしいので、そのくらいの時に……」


亡くなった、ということか
何か、願いを残して


座敷童「それくらいでしょうか……」

男「そうか、12歳くらいか……」


男にとってそれはあまりにも少なすぎるヒントだった
これと言ってやりたいことが無い自分は、死んでも心残りなど残る気しない


男「なんとか、やってみるしかないな」

男「明後日から冬休みだ、明日は無理だが、明後日から探そう」

座敷童「でも、勉強とか……」

机の上に相変わらず開きっぱなしのセンター過去問を見ながら言った

男「……どうせ行きたい大学もない。どうせ今年は浪人しそうだしな」

座敷童「でも……」

男「いいんだ」


座敷童はそれ以上は口にしなかった


2人の間にしばらくの沈黙が訪れた

男「あとさ、無理しなくていいよ?」

座敷童「……?」

男「もう、そんな敬語とかいいからさ」


座敷童は、居候として、男に気を使っているのだろう
この家に泊まるようになってからは敬語で話すようになっていた


座敷童「……明日から、きっと普通になります」

男「そうか」

座敷童「それじゃあ、始めにお願いしてもいいですか?」


座敷童「私、高校という所に行ってみたいです!」

―――――――――――――――――――――――――――
――――翌朝 通学路

ヲタ幽霊「ウハwwwww男氏wwwwww可愛い妖怪連れてるwwwwww」

男「……うるさい」

ヲタ幽霊「チョwwwwwどこで知り合ったwwww」

座敷童「はじめまして、座敷童です」

ヲタ幽霊「超ww可愛いwwwwwwwww」

男「早く行こう」


――――学校

学校はセンター前の緊張感と、冬休みへの安堵が渦巻いていた

男(一体何が心残りなんだ……)

友「おっす、男ー……って、怖い顔してどうしたんだよ?」

男「あ、ああ、ごめん。ちょっと考え事してて」

友「なに?そんな真剣な悩みなのか?」

男「……かなり真剣」

友「俺が聞いちゃっても大丈夫な話?」


男は悩んだ
相談したいのは山々だが……信じてもらえるはずがない


男「……なんというか、信じてもらえないと思うんだ」

友「俺、結構アホだから信じてやれるかもだぜ?」

男「……じゃあ、言うけどさ」

男「妖怪ってどうやったら成仏すると思う?」

友「……へ?」


友「よ、妖怪?あれか、取り憑かれちゃったのか……」

男「……まあ、似たようなのもかな」

友「通りでこの前熱心に妖怪のこと調べてたんだな」


妖怪かぁ……と思案する友


?「なに?妖怪ウォッチの話?」

男「……?」

?「私妖怪ウォッチ大好きなんだよねー!」

友「ああ、女ちゃん、おはよう」

女「おはよう、友くんと……男君だよね」

男「あ……うん。お、おはよう」


座敷童(私の時と反応が違う)


友「いやね、ここだけの話、男が妖怪に取り憑かれちゃったらしくて!」

女「そうなの?妖怪のせいなのね!」


座敷童と、何故か隣に居るヲタク幽霊からの視線が痛い気がする


男「そ、そうなんだ。成仏させたいんだけど、どうすればいいかなーっと思って」

女「そうだなぁ……ちょっと待ってよ、もう少し考えるから」

男(友もそうだけど、女さんも結構真剣に悩んでくれるな……)


女「やっぱり、何かやり残したことがあるんじゃないの?」

男「やり残し……?」

女「もっと遊びたかったーとか、何かしたかったー、とか」

男「……なるほど……」


キーンコーンカーンコーン  

女「あ……それじゃあ、もう少し考えてみるね」

男「うん、ありがとう……」


友と女は自分の席に戻った


座敷童「お兄さん」

男「ん?どうした?」

男は小声で答える

座敷童「お兄さんって、ああいう感じの女の人が好きなんですか?」

男「……は?」

座敷童「お兄さんってば、私と話すときと全然違うんだもん。なんか、照れちゃってさー」

座敷童はなぜか頬を少し膨らませながらぶつくさと怒っている

ヲタ幽霊「デュフwww俺氏が知る限りwwww女さんはwwwwwモテるwwww」

ヲタ幽霊「あの短い髪wwww明るい性格www純白が似合うwwwwwww」

座敷童「私とは正反対……」

座敷童「やっぱり、お兄さんは……」

ヲタ幽霊「うはwwww修羅場wwww」


男(なんだ、この茶番は)


朝のホームルームが終わっても座敷童はなんだか不機嫌そうだった


女「男くん、そういえば、その妖怪って、どんな妖怪なの?」

男「……座敷童、12歳くらいの女の子」

女「……え?それってすごくない?」


確かに、座敷童に取り憑かれるような幸福な人間は少ないだろう


男「でも訳あって、成仏させないといけないんだ」

女「そっかー……そうね……女の子が好きそうなこと、ひと通りしてみれば?」

男「好きそうなこと?」

女「美味しいもの食べたり、お洋服買ったり、綺麗な景色みたり……」

男「でも、俺そんなんよく分からんわ……」

女「そう?……なら、一緒に行こうか?」


男にとってそれはあまりにも想像できない状況だった
女と一緒に行動する
しかし、それは第三者から見れば2人にでいるようにしか見えない

男は嫌な予感がして座敷童の方を見る

座敷童「……」メラメラ

やっぱり怒ってた

男「いや、気持ちはありがたいんだけどね」

女「んー、やっぱり見えないとダメだよね。妖怪にはすごく興味があるんだけど」

座敷童「……」

すると座敷童は教室を歩き出した

男「お、おい!どこ行くんだよ!」

女「え?どういうこと?」

男「い、いや」


座敷童が向かった先は友の席

チャラ

座敷童は友の机の筆箱をそっと、下に落とした
ついでに筆箱からシャーペンを一本手に取った

友「あぁ、落としちゃっったよ……あれ、俺のシャーペンが……浮いてる?」


座敷童はそのシャーペンを手にしたまま男の元へと向かった

友はさぞかし驚いただろう
自分のシャーペンが空中滑空しているのだから
そして男の席まで来て言った

友「……これってまさか……

女「妖怪のせい?」


男「……そうなんだ」

男は頷いた


男(これはもう、話すしかないか)


男は今までの出来事を友と女に話した


友「……すげー、これアンビリーバボーとか出れるんじゃねえの?」

女「確かに、妖怪さん使えばお金儲けくらいできそうなものよね……」

男「なんとか、成仏させてやりたいんだ」

友「そういうことだったか……よし!いいぜ!俺も協力するぜ」

女「私も協力させてもらう。こんな経験、きっと永遠にできないし……」

男「でも、もうセンターだぜ?」


しかし、友も女も推薦で大学が決まっているらしい
進路が決まっていないのは、男だけ


男「そうか……じゃあ、明日からいろいろしようと思ってるから、よろしく頼むよ」

友「いやいや、もう今日から始めるべきだぜ?」

女「放課後、どっかに行ってみようよ!」

男「……ありがとう」


男は嬉しかった
どうせ妖怪なんて、誰も信じてくれないと思っていたから

ヲタ幽霊「デュフwwwwよかったでござるなぁwwwww」


その日は終業式、午後からは放課になる
担任が冬休みの注意点を説明していた

座敷童「お兄さん」

男「なに」ボソッ

座敷童「今日はどんなことするんでしょうね?」

男「多分することは女さんに任せるようになると思うよ」

座敷童「楽しみだなぁ……!」

男「それより、さっきはなんであんなに怒ってたんだよ」


座敷童は男が女と話していた時の件を思い出す


座敷童「……自分でも、よくわかんない……。でも、なんか、腹が立って」

男「……よく分からんな。あんまり目立つこと、するなよ?」

座敷童「はーい」


事務的な担任の話が終わり、放課後になった


読んでくれてる人がいることに歓喜

私も汚い大人だね

―――――――――――――――――――――――――――
―――昼 レストラン

男「レストランか……まずここからなのか」

女「女の子って食べること、大好きなんだよ?」

男「それはわかるけど……」


店員「3名様でよろしいでしょうか?」

女「いや、4名で!」

店員「4名ですか……?はい、ではこちらへどうぞ」


友「……今の受け答え、女ちゃん、結構スゴくね?」

男「同感だ。即答したぞ?」

女「ねえ、こっちだってー!」


4人は席につく


友「今思っちゃったんだけど、座敷童ちゃんはご飯とか食べれるの?」

男「……」

男(……確かに)

座敷童「私、食べなくても大丈夫だけど、食べたいです!」

男「食べたいってさ」

女「はー!よかったー!私もお店入ってからそこに気づいちゃって……」

友「座敷童ちゃんは何が食べたいのー?」


男は誰もいないように見える席にメニューを差し出す

男「こんなかから食べたいもの、選んで」

座敷童「そうだなー」


独りでにメニューがペラペラとめくれる……ように2人には見えている



友「……ヤベえな」

女「あー!私もこの目で見てみたい!」


座敷童「じゃあ、これが食べたいかも」

男「……ハンバーグか」

座敷童「はんばーぐって言うんですか?」

女「なに?ハンバーグが食べたいって?」ワクワク

友「結構洋風好きなんだな!」ワクワク


ピンポーン


男はベルで店員を呼んだ

―――――――――――――――――――――――――――

「いっただきまーす」

注文したものが全員分届き、ちょっと遅目の昼食が始まった
店員は不思議そうな顔をしながら空席にハンバーグセットを置いた

座敷童は箸を使ってハンバーグを食べ始めた


女「……箸が浮いてる……」

男「……どうだ、美味しいか?」

座敷童「と~っても美味しいです!」

男「美味しいって」

友「お?マジで?よっしゃ~~!!」


友は本気で喜んでいるようだ


食事を続けていると、座敷童は隣席の若いカップルを横目で見ていた

男「どうかしたのか?」

座敷童は黙ったままだ

男「もう食べられないか」

座敷童「……手に力が入ん無くなっちゃったなー」

男「は?」

座敷童「あー、箸がモテナイナー」

男「どうした、はっきり言ってくれないとわからん」

友「ん?なんかあったの?」


男は座敷童の視線の先を見た
カップルが゛あーん、パクッ”をしていた


男「……まさかとは思うが」

座敷童「お兄さん、私、そのお兄さんの料理も食べてみたい!」

男「このグラタン?いや、あーんは無いって」

座敷童「私まだまだ子供だよ?」

男「もう12歳じゃねえか!」

座敷童「いえ、83歳です、もうそういう歳!」


男(くっ……仕方があるまい)

男「わかった、ほら、熱いから気をつけろよ?」


座敷童「あーん」


パクッ


友「もしかして、あーんしてるの?」ニヤニヤ

女「うわー!羨ましい!私もしてみたい!」

男「……どうする?」

座敷童「ぜひ♪」


座敷童「あーん」


パクっ


女「おー!ホントにあたしのパスタが……!」

座敷童「美味しい……!」

男「美味しいってさ」


友「くっそー!俺も!」


しばらくあーん大会は終わらなかった


―――――――――――――――――――――――――――

女「美味しかったねー!」

座敷童「楽しかったです!とお伝えを」

男「楽しかったって」

女「これが心残りとかだったらいいんだけど……」


座敷童「……心残りが無くなったら消えてしまうと思うんですけど……消えませんね?」

男「まだ……消えないから多分違うみたいだわ……」


女「そっかー、わかった、次行こう!」


―――――――――――――――――――――――――――

―――――――――――――――――――――――――――
――――ゲームセンター

男「ゲームセンターか……遊びたかったってことなのか」

女「よし、さあ行こう!」


友「女さんマジですごいな」

男「正直頼りになりすぎて困る」


女「じゃあプリクラ撮ろう!」

男「……」

友「……男、俺そういうのやったことないんだ」

男「……同じく、モテないからなぁ……」


女の言われるままに機械の中に入る
男2人は黙ってるだけだ

女「座敷童ちゃん、どの背景がいい?」

座敷童「……これが可愛い」

男「押していいよ」


座敷童は自分で画面をタッチした
撮影が始まった


女「ちょっと!座敷童ちゃんどのへんにいるの?」

男「ええっと、ここだここ」

右下を指さす

女「じゃあ、男くんはこっち、友くんはこっち」



パシャ!


男は外で待っていた

男「女の子ってプリクラ長いらしいな」

友「聞いた話だけどな」



女「できたよー!」


渡されたプリクラには、しっかりと座敷童の姿も写っていた
だがそれは男と座敷童にしか見えない

座敷童「私が……写ってる……」

友「この空いてるところに座敷童ちゃんがいるのかー!見たい!」


男「どうだ?」

座敷童「……消えませんね」

男「やっぱり違ったってことか」

友「難しいな」

座敷童「でも楽しかったです!って」

男「でも楽しかったってさ」



座敷童(直接伝えたいのに、もどかしいな)

―――――――――――――――――――――――――――

4人はゲームセンターを出た

女「もう日が暮れて来ちゃったなぁ……」

友「そろそろ解散?」

男「……ちょっと、行ってみたい所があるんだけど」

女「いいよ、行こうか


―――――――――――――――――――――――――――
――――霊山 頂上

男「結構登ったけど、大丈夫か?」

座敷童「大丈夫!平気だよ!」


座敷童「……きれいな夕日……!」


頂上に登ると、そこからは赤色に沈む夕日が見えた

男「きれいだろう……小さいころ、おばあちゃんとよく来たんだ」


今は街が整備され、綺麗な町並みだ
昔は焼け野原になったこともあるそうだが

座敷童「感動しました……こんなに綺麗な夕日が見れたのは初めてです!」


男(それは、妖怪になってから、ということなのだろうか)


一番前に居た座敷童はこちらを振り返った


座敷童「……みなさん、今日はありがとうございました……!」


座敷童は3人に向かって、深々とお辞儀をした



だが、聞こえているのは男だけだった



男「……今日はありがとう、って」

女「いやいや、こちらこそ、私も楽しんじゃってるし」

友「ああ、俺も同じ感想だぜ」


その日はそれで解散した

―――――――――――――――――――――――――――
―――自宅

男(いったい、どうすればいいのか……)

座敷童「あー!今日は本当に楽しかったー!」


座敷童は今日とったプリクラを見ながらベッドに寝転がっている


男(まあ、成仏にはつながらなくても、楽しそうだしいいか)


男「明日もみんな集まってくれるって」

座敷童「……ありがとうございます」




座敷童「私、幸せものだね。こんなに、みんなに協力してもらって」

男「……感謝しなきゃだな」

座敷童「でもね……私思うんだ……」

男「……どうした?」

座敷童「こんなに楽しかったらね、消えたく……」


――なくなる


座敷童「ううん、やっぱり何でもないよ!」


男を心配させまいとしているのか座敷童は笑ってみせる
男も考えていた
もうあと少しで、この笑顔とは、決別しなくてはいけない

男の中では、期限が迫る焦りと、名残惜しさと、よくわからない感情が渦巻いていた


―――――――――――――――――――――――――――

とりあえずここまで

長くなってます

テンポ悪く感じたらごめんなさい

ちょっと忙しいんでしばらく放置になりそうです

ベタベタの展開にならないように工夫はしましたが、それすらもベタだったら……と思うと怖いです

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