「提督、まだ起きていらっしゃいますか?」
夜も更けた執務室
傍から聞くと幼い声がノックと共に響く
来てしまったか……
提督「ああ、起きているよ。こんな時間にどうかしたか?」
自分の声に違和感を作らぬよう、努めて冷静に応える
扉が開けばそこには予想通り鳳翔
泣きそうな顔をして立っている
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鳳翔「すみません、こんな時間に。今日のことを謝罪しようと思いまして……」
謝ることなんていいから、早く帰って寝て欲しい
提督「何かあったか?」
分かってはいるが一応聞いておく
鳳翔「どうしても外せない遠征がありましたので、今日のお夕飯を作ることが出来なくって……」
提督「あぁ、なんだ。そんなことか」
鳳翔「もっと早く遠征が済んだら良かったのですが、やっぱり結構時間が掛かってしまいまして……」
提督「仕方ないさ。数か月前に千代田が謎の失踪を遂げた今、低燃費で囮機動部隊支援作戦が達成出来るのは鳳翔だけだからな」
正直鳳翔が遠征でしばらくいなくなると聞いてめっちゃ喜んだ
駆逐艦の子たちから軽く引かれるくらい
あの時曙の目……あれだけでしばらく食っていける
別に鳳翔が怖いわけじゃない
うん、怖いわけじゃない
鳳翔「私がもっとしっかりしていれば早く帰投できたのです……」
提督「気にすることはない。鳳翔にはいつも世話になっているからな」
鳳翔「いいえ、気にしてしまいます……だって提督、いつも私のご飯を笑顔で楽しみにして下さっているので……」
その楽しみの笑顔、引き攣っていませんか?
毎食謎の薬が入った食事に提督の顔は引き攣っているのがわかりませんか?
鳳翔「作り置きも考えたのですが、やはり提督には出来たてでなければ失礼と思いまして……」
それは時間経過で薬の効果が薄くなるからじゃないのか
どちらにせよダストシュート行きだったろうが
鳳翔「でもご安心ください。明日からはまた毎食私がお作りいたしますので」
提督「はは、それは嬉しいなぁ」
アカン、死ぬ
鳳翔「あ……別に提督のことが嫌いになったとか、そういうわけじゃないのですよ?本当ですよ!?」
提督「そんなことわかってるさ」
鳳翔「どちらかと言うと……うふふ。いいえ、何でもございません。な、何も言っていませんよ!?本当に何でも無いですから……」
頬に手を当て顔を赤くしながら微笑む鳳翔
傍から見ればそれは一枚の絵画として保存したくなるほどの光景だ
だが俺からすれば悪魔の微笑みにしか見えない
どちらかというと……なんだ?嫌い?それはよかった
鳳翔「あ、そうでした。昨日のお夕飯でシチューをお作りしましたね」
提督「そうだな」
鳳翔「どう、でしたでしょうか?」
昨日を振り返る
あの見た目と味は完璧なシチューを
それも毎回『提督専用』に作られるものだ
俺にも他のみんなと同じ奴を食わせてくれ
提督「美味しかったぞ。いつもと少し味付けが違った気がしたが」
鳳翔「あ、分かりましたか?昨日のは少し精力ざ……いえ、調味料の配分を変えてみたのです」
今思いっきり精力剤って言ったよね
毎回夜を悶々と過ごし、トイレを孕ませている身にもなってくれ
鳳翔「でも良かっです。口に合わなかったらどうしようって思っていたのですが、これで一安心です」
提督「そんなの気にしなくていいさ。俺たちは指揮官と艦娘の関係なんだからな」
鳳翔「ええ、そうですね。私たちは夫婦なのですから……そんな心配は杞憂でした、ね?」
待て、わざわざ上司と部下なんていう遠回しな言葉を使ったのに何故夫婦になる
この人の中ではすでに俺との結納を済ませているつもりなのか
ケッコンカッコカリは(建前上)鳳翔も含めて何人かとしているが、そこまで激しい勝手な妄想はやめて欲しい
鳳翔「掃除とか洗濯とかは出来ないし、私の取り柄って言いますとこれくらいしか無いのですから……」
提督「謙遜しなくていい。鳳翔が出来ないなんて言ったらこの鎮守府はだれも家事ができないことになってしまう」
ここは本当だ
なまじ鎮守府の最古参の一人なだけあってあらゆることに精通している
そのせいで誰も鳳翔の俺に対する異常さに気が付かないファッキン
鳳翔「それに、提督はいつも私のお料理を美味しそうに食べてくださるのですから。私だって張り切ってしまいます!」
その張り切りを俺関連以外のところで発散してくれ
毎回食事や執務時に擦り寄られるのは最高に怖い
鳳翔「ところで提督……さっき洗濯をしようとして見つけたのですが」
何だ?
今日は別に怪しいことは何もしていないはずだ
だから自信を持つんだ俺
何も困ることなどないじゃないか
鳳翔「このハンカチ、提督の物ではありませんよね。どなたのでしょうか?」
困った
鳳翔「あ、わかりました!赤城さんのハンカチですよね?臭いでわかりますから」
提督「……確かにそうだ」
臭いって何?
犬?
犬は夕立や時雨だけで十分だ
鳳翔「やっぱり……それで、どうして提督が持っているのですか?」
ここで返答を間違えれば即ガメオベラ
どうする、俺
どうすんの!?続く!
ってCMあったよね
頭の中で脳の機能をフル活用
……よしこれで行こう
提督「実は赤城の弓の訓練を見ていた時に俺も弓を引いてみたいと思ってね」
鳳翔「ええ、ええ、それで?」
提督「その時に指をケガしてしまっな。それで赤城のハンカチを包帯代わりに借りたんだ」
この答えにたどり着くまでの間、約0.2秒
これなら納得してもらえるだろう
鳳翔「えぇっ、提督おケガを!?大丈夫ですか!?」
提督「もちろんだ。少し擦ってしまったくらいでそんなに出血もしていない」
鳳翔「そうでしたか……大したことが無くて本当に良かったです」
よし誤魔化せた
別に嘘なんてついてない
赤城に指をしゃぶられたりもしたけど
鳳翔(あのハンカチに付いてた血、やはり提督のだったのですか……洗ってしまうなんてちょっともったいないことをしてしまいましたね。その部分だけ切り取っておけばよかったです……ふふっ)
提督「ん?」
鳳翔「いえ何でもないです。ただの独り言です」
鳳翔「そういえば、最近提督は執務室にいらっしゃらないことが多いですよね」
提督「そうか?確かに資料室で研究するようにはなったけど」
日々進化する深海棲艦との戦い
提督自身は海で戦うことはできない
だから皆を危険な目に合わせない様に事前に作戦や敵の研究をするのが提督の仕事だ
鳳翔「資料室で勉強、ですか……?」
提督「加賀とか意外と本読むしアドバイスも的確だ。大人しいとはいえさすが一航戦」
鳳翔「加賀と一緒にですか……そう……」
あれれ~?おかしいな~?
目のハイライトが消えたぞ~?
鳳翔「でも加賀って大人しいっていうより、暗いですよね。あんなのと話してたら、提督まで暗い性格になってしまいますよ?」
『あんなの』て
自分の後輩じゃないのか
気が付けば『さん』付けもなくなってるし
ていうか鳳翔も怪しげな薬や黒魔術かなんかの本借りに資料室来るじゃん
鳳翔「提督……この鎮守府が発足してすぐの頃は私といつもお話ししていたのに、最近はあまり聞いてくださいませんよね……」
提督「そう、だったか?」
俺も今では100人の艦娘の指揮官
情けないが、一人一人の時間が疎かになってしまうのも仕方ないことだ
鳳翔「それに私の出撃もほとんどなくなってしまいました。最近の海域も全て加賀や長門、夕立や天津風ばかり連れて行ってるじゃないですか」
その代わり鳳翔はしょっちゅう秘書艦にしているじゃないか
それでも不満なのか
提督「ほら、鳳翔はやっぱり鎮守府でみんなのサポートをしてもらった方がい」鳳翔「あんな人たち、どうせ提督のことなんて何もわかってないのに!」
鳳翔「提督のことを世界で一番よくわかってるのは私です!他の誰でも無い、ワタシ!」
聞く耳持たず
さり気なく提督用の超重いデスクをひっくり返したのは流石の艦娘パワーというべきか
怖すぎてもはや冷静でなんていられない
こういう時はとりあえず人の温もりを与えるべきだ
うん、そうしよう
提督「ほら、落ち着いて」
小柄な体を抱きしめる
良い匂いがする
体もやわらかい
鳳翔「あ……すみません(クンカクンカ)。怒鳴っちゃって(スリスリ)。提督がそういうところで鈍いのは昔からですものね(スーハー)。分かっています(ギュウウ)」
よし大人しくなったな
頭を擦り付けられたりすごい臭い嗅がれてることはこの際無視しよう
命あっての賜物だ
鳳翔「それはそうと、今日の晩ご飯は何を召し上がったのですか?」
提督「外食したよ」
本当はバレンタインで皆からもらったチョコ食ってた
薬の入ってない食事もいつ以来だったか
鳳翔「そうでしたか、外食を……お一人でしたか?間宮さんのところでもなくて?」
お、『さん』が帰ってきた、お帰り
提督「ああ、久々に鎮守府から離れてこの街を見ながら食べたかったんだ」
実際は貰ったチョコの食べさせあいっことかもしてた
だが正直に言ったらヤられる
鳳翔「そうですか、一人で……」
やだ、抱き着いたままの姿勢だから顔が近くてすっごい怖い
というかまたハイライトさんが行方不明
鳳翔「嘘はいけませんよ提督……たくさんの女たちの臭いがします。提督は嘘つきさんですね♪」
室温がもう氷点下なんじゃないかってくらい下がった気がする
てか本当になんで臭いを追えるの
鳳翔「ねぇ提督、どうしてそんな嘘をつくのですか?提督、今まで私に嘘なんてついたこと無かったのに……」
そんな訳ないだろ
人間ってのは嘘の塊だよ、大和の胸とか
鳳翔「そうですか、やっぱりとあの女達と一緒にいたのですね?ふふっ、食べさせ合いっこでもしましたか?それはそれは楽しい時間でしたでしょうねぇ……」
なんでそこまでわかるの?
あと語尾伸ばすのやめて怖いから
しかもまた『さん』がログアウトしちゃったよ、今度は『女』呼びだよ
鳳翔「提督は優しくて、恰好良くて、でもちょっと雰囲気に流されやすいところがあるのはわかっていました」
確かにノリで行動することはよくあるな
調子こいていい結果になったことないけど
鳳翔「でも提督はきっといつか、絶対私の気持ちをわかってくれるって思ってたから……ずっと我慢していたのですよ?」
物腰は静かだけど俺は気付いてる
だんだん抱きしめられる力が強くなってるってことに
鳳翔の慎ましい胸がそれはもうガンガン当たってる
鳳翔「それなのに……私に隠れて浮気って、どういうことなんですか……!? 信じられない……!!」
いつから付き合い始めたんだ俺たち
鳳翔「やっぱりあの女どもがいけないのですね。艦隊の仲間だとか言って提督に擦り寄って来るけど、結局は赤の他人じゃないですか……!!」
提督「待った、それは聞き逃せないな。みんなは俺の家族のようなも」鳳翔「あんな女どもなんかに、提督は渡さない。渡すものですか……!!」
提督としての言葉はどうやら効果がなかった模様
だらしねぇな俺
鳳翔「たとえ深海棲艦になって出てきても、始末すれば良いんだけですものね」
提督「ま、待て……どういう……ことだ……?」
鳳翔「あら?どういう意味って、そんなの決まってるじゃないですか♪」
提督「おい……さすがにそれは看過できないな……」
どうにも鎮守府が静かだと思ったらそういうことだったのか……
皆……非力な俺を許してくれ……
今仇を取る!
鳳翔「ただのたとえの話ですよ?まさか私が皆さんを手にかけたとでも?そんなことさすがにできませんよ全くもう。毒殺ならできないこともありませんけどね」
えぇ……
俺のこの決意はどこに投げればいいの?
それに毒殺ならできるって言っちゃったよ
鳳翔「ですが提督を守れるのは私だけ……提督は私だけを見ていればいいのです。それが最高の幸せなんですから」
提督「幸せの感じ方は人それぞれだと思うぞ」
扶桑姉妹を見てみろ
不幸だわとか言ってるけど本人たち結構幸せそうにしてるじゃん
改二になって本当にステータス上では不幸じゃなくなったし
鳳翔「……どうして? どうしてそんな事を言うのですか?」
提督「どうしてって言われても」
他にどう答えればよかったんだ
あれか、龍驤の方がよかったか
バルジガン積みしたら無表情に涙を出すほど喜んでたしな
鳳翔「提督はそんな事言いません!私を傷つけるようなことなど絶対に言わないです!そんなの私の提督じゃない!!」
皆さんお忘れなく、今俺と鳳翔は抱き合ってます
つまり至近距離で大声を出されました
鼓膜、破けそうです
鳳翔「……!そういうことですか。あの女たちの料理を食べたからきっと毒されてしまっているのですね。だったら早くそれを取り除かないと」
もう消化できたと思う
鳳翔「あぁ、でも料理を食べたってことは口の中も毒されているでしょうね。食道も、胃の中も、内臓がどんどん毒されていってしまいます。じゃあ……」
提督「じゃあ?」
鳳翔「私が綺麗にしてあげなくてはなりませんね」
鳳翔がにやりと笑って体を離した
何か取り出したぞ
鋏?
あ、これ殺されるパターンだ
解剖される感じだ
鳳翔「提督……」
提督「鳳翔落ち着け、早まるんじゃない」
鳳翔「…………ッ!!」
鳳翔が鋏を構えて突撃してくる
だめだ避けれるわけがない
ああ、ここで人生終わりかぁ
せめて戦争の終わりまでは見届けたかったなぁ……
生まれたときからの走馬灯を見ていると、腹に何かが押し当てられた
箱?
綺麗に包装されてる
鋏じゃない
鳳翔「ハッピーバレンタイン、です♪」
提督「ゑ?」
鳳翔「もう、私が命に関わる危害を提督に加えるわけないじゃないですか」
提督「いやでも……」
鳳翔「その私のチョコレートを食べてください。皆さんのなんて洗い流せるくらいの美味しさですよ?」
提督「…………あ~なんだ、そういうことか……」
てっきり定番通り解剖されるのかと思った
胃に直接入れられるのかと思った
鳳翔「あの、早く食べてもらえませんか?」
提督「分かった分かった」
すっかり安心しきったので包み紙を丁寧に剥がす
すると中から四角い掌大のチョコレートが顔を見せた
旨そうだ
早速口に入れると、俺の好きなほろ苦いチョコレートの味がした
提督「美味しいよ、鳳翔」
鳳翔「良かったです。一口私にもいただけませんか?」
提督「いいぞ。はい」
鳳翔「ん……うん、上手くできたみたいです」
提督「いくらでも食えそうだ。自然と手が進む」
しかし今日は糖分を取りすぎたせいか体が熱いな……
汗が滲むくらい
鳳翔「ふふ、提督……なんだか暑くないですか?」
提督「鳳翔もか……ってまさか!しまった!!」
鳳翔「うふふふふふふふふ」
気が付けば鳳翔に押し倒されていた
体が熱くてうまく力が入らない
油断した……!!
さっきのインパクトで忘れていたが、このチョコ媚薬入ってやがる……!
例年なら食わずにおくのに……!!
そのせいで机の中に賞味期限切れのが二つ入ってるんだよ……!!
普段ならば食べさせられてもすぐ逃げるが、この場では逃げ道がない
鳳翔「もう、逃げられませんよね?」
提督「まてやめろ!!」
鳳翔「提督がいけないのですよ?私のことを放っておくから」
提督「放ってないじゃん!秘書艦で大体一緒にいるじゃん!」
鳳翔「証が欲しいんです。他の子達には一生手に入らない証が……」
提督「駄目だ!何でもするからやめてくれ!!」
鳳翔「何でもですか?じゃあ私と子作り致しましょうね♪」
提督「それ以外で……むぐぅ」
口を口をふさがれた
おまけに変な薬を飲まされたようだ
ああ……なんだかよくわからなくなってきた
鳳翔「さて、もう問答は無用ですね」
提督「あぅ、ああ……」
鳳翔「提督、お風呂にしますか?ご飯にしますか?それとも……ふふっ冗談じゃないですよ?」
鳳翔「さあ、そのチョコのお返し分をたっぷり頂きますね♪私だけのて・い・と・く?」
終わり
夜戦描写?ねーよ、んなもん
例のスレに自分でネタ投げて深夜テンションで自分で書いた。大体5時間クオリティ
途中で空行迷ったけど結局入れないで行くという寝ぼけ方、正直ごめんなさい
では読んでくれてありがとうございました。お休みなさい
あー千代田のとこ消し忘れた...そこなかったことにしといて。千代田なんて最初からいなかったことにしといて
>>31も、口を口で、だ
寝ぼけてるの本当だめ。ごめんなさいね
このSSまとめへのコメント
短いけどおもろい
こういう、展開は好き
久しぶりに例のCDシリーズ聞きたくなったなニコ動いくか