少女「ねえ、おじさん、あたしとキモチイイことしない?」(181)

少女「? なに、人の顔ジロジロ見て?」

男(どう見ても中○生にしか見えない・・・)

少女「いま、失礼なこと考えなかった?」

男「・・・・・・ごめん」

少女「いいよ、べつに。どーせ、ちんまいなコイツとか思ったんでしょ」

少女「おじさんがどう思ったか知らないけどね、あたしこう見えて15だから」

男「やっぱり中○生じゃないか・・・」ボソ

少女「高校生だってば!」

男「あのさ、淫行防止条例って知ってる?」

少女「? しらない」

男「・・・とにかく、そういうの、止めたほうがいいよ」

少女「なにそれ、説教? うざっ」

男「まいったな・・・」

少女「ふん。ま、いいよ」

少女「おじさん、お金持ってなさそうだし」

男「・・・」

少女「・・・」

ザアアァァァァァ・・・

男(雨、止まないなぁ)

男(・・・コーヒーでも買おう)

チャリン

ピッ、ガコン!

少女「っくしゅ!」

男「・・・・・・」

ピッ、ガコン!

男「・・・はい」

少女「なに、これ?」

男「コーヒー」

少女「くれるの?」

男「うん」

少女「・・・あたし、コーヒー飲んだことない」

男「そっか・・・」ヒョイ

少女「わ、ちょっ」バッ

男「え?」

少女「要らないなんて言ってないじゃん!」

男「無理して飲まなくてもいいよ」

男「ジュースか、お茶の方がいいんじゃない?」

少女「子ども扱いしないで」

男「・・・失礼」

少女「お金、勿体無いじゃん」

男(・・・変わった子だなぁ)

男「・・・」カシュッ

少女「ちょっと・・・」

男「?」ゴクゴク

少女「横に立たないでよ」

男「え・・・」

少女「おじさん、背高いんだから」

少女「あたしがチビに見えちゃうじゃん」

男「・・・ごめん」

少女「ふん・・・」

ザアアァァァァァ・・・

男「雨、止まないなぁ」

少女「急に降る雨って、ほんとサイアク」

少女「濡れるし、冷たいし、汚れるし、濡れるし・・・」

男(濡れるって、二回言ったな・・・)

少女「ただでさえ低気圧の日って、髪の毛うねって、ぺたーってなっちゃうしさ」

少女「もう、下着までビショビショだよ・・・」

男「・・・・・・」

少女「なによ?」

男「いや、何も・・・」

少女「・・・ねえ、いまって何時?」

男「もうすぐ18時だけど?」

少女「あー、もー・・・。これじゃ間に合わないよ・・・」

少女「シャワー、貸してくれるかなぁ」

男「・・・・・・」

男「・・・ちょっと」

少女「?」

男「ここで待ってて」ダッ

少女「えっ、どこ行くの?」

少女「まだ雨止んでないよ!?」

バシャバシャ!!

・・・・・・

男「これ、使って」

少女「傘・・・」

少女「買ってきたの?」

男「まだ、間に合う?」

少女「え・・・」

男「時間、大丈夫?」

少女「あっ、うん・・・。たぶん・・・」

男「よかった」

少女「てか、おじさん、自分の分は?」

男「・・・・・・・・・あ」

少女「・・・はい」

男「い、いや、ぼくは平気!」

少女「平気って・・・雨まだ降ってるじゃん」

男「もう、ほら。濡れネズミだし」

男「このまま、駅まで走るよ」

少女「でも、駅遠い・・・」

男「いいから」

少女「・・・・・・ん」

男「あのさ」

少女「ん?」

男「事情はよく知らないけど、やっぱりそういう仕事、止めたほうがいいよ」

男「お節介で、説教くさい、面倒なやつだって思われてもいい」

男「ご両親が知ったら、きっと悲しむよ」

男「きみだって、いつかきっと後悔するから」

少女「・・・はぁ」

少女「おじさん、あたしのナニ?」

少女「なんで、雨宿りしてたまたま会っただけの人に、そんなこと言われなきゃいけないの?」

男「見ず知らずの人だから、言うんだよ」

少女「なにそれ」

男「それじゃ」

・・・バシャバシャ・・・!

少女「なんなのよ、もう」

少女「・・・」

少女「あ、そだ。コーヒー」

カキョッ

少女「んく」ゴク

少女「・・・・・・ぅ」

少女「ニガい・・・」



 ≪本当に、ごめんね? この埋め合わせは、絶対するから!≫

男「そんな、気にしなくて大丈夫だって」

 ≪はぁ~・・・。楽しみにしてたのにな、男のオススメのメキシカン料理のお店・・・≫

男「お店は逃げないから。また、都合のいい日にしよう」

 ≪うん・・・そうだね。男は、もう仕事終わったの?≫

男「まだだよ。実は、こっちも目処がつかなくってさ」

男「女に、どう言って断ろうかビクビクしながら考えてたトコ」

 ≪ちょっと、どういう意味よ、それぇ・・・≫

男「はは・・・冗談だよ」

 ≪もぉ・・・ふふっ≫

男「あー、っと。それじゃ、そろそろ・・・」

 ≪あ・・・≫

 ≪・・・そっ、そうだ!≫

男「うん?」

 ≪その、男さ? 明日は・・・どこか出かけたりする?≫

男「今のところ、予定はないよ。借りてたdvd、返しに行こうかなって、それくらい」

 ≪・・・そう、なんだ?≫

男「どうかした?」

 ≪あの、あのね? 明日、お母さんがね、こっちに来るんだけど≫

男「おばさんが?」

 ≪う、うん・・・。でね、もしよかったら、男も一緒にし――≫

 ≪(おーい! 女ちゃん、頼んでた資料の進捗どんなもんかなー?≫

 ≪! あっ・・・。す、すいません、もう出来てますー!≫

 ≪(じゃ、すぐに持ってきてくれるー? 21時からのミーティングで使うからさー!)≫

 ≪はい、わかりました、すぐに持って行きますー!≫

男「・・・呼ばれちゃったな」

 ≪う、うん・・・≫

男「週末だし、忙しいのは、どこも同じだって」

男「コレを乗り切れば、休みだし。お互い頑張ろう」

 ≪ほ、ホントに、今日はごめんね≫

男「あんまり気にしすぎて、仕事トチらないように」

 ≪あぅ、気を付けます・・・≫

男「ないとは思うけど、電車なくなるようなことがあれば、電話して」

男「迎えに行くから」

 ≪・・・・・・男が、きてくれるの?≫

男「車、あるしな。社用車だけど」

 ≪・・・そっか≫

男「さすがに女性を、週末だからって、終電逃すような時間まで働かせることはないと思うけどさ」

 ≪そんなの、わかんないよ?≫

男「・・・もし帰れなくなったら、すぐに連絡すること」

 ≪はーい・・・ふふっ≫

男「じゃあ、切るな?」

 ≪あ、まって、男!≫

男「ん」

 ≪えっと、来週・・・!≫

 ≪来週の週末は、まだ予定ないよね!?≫

男「ないけど・・・」

 ≪じゃあ、来週にしよ? ね、こんどはぜったい大丈夫だから!≫

男「社会人の予定に、絶対なんてありません」

 ≪だめかな・・・?≫

男「・・・・・・わかったよ、来週な」

 ≪やったぁ! 楽しみにしてるね!≫

男「はは・・・。じゃ、もう仕事に戻れるな?」

 ≪うんっ、男も、仕事頑張ってね≫

男「ああ、それじゃあ」

 ≪はーいっ≫

ピッ

友「よう、フラレチャッターマン」ポンッ

男「なんだよ、それ」

友「女ちゃん、デート来れないって?」

男「デートって・・・女とは、そういうんじゃないってば」

友「付き合ってるようなもんだろ? 合鍵だって渡してるんだし」

男「あれは勝手に持ってったんだ」

男「家に来るのだって、たまに来て、掃除とかしていくだけで、色気も惚気もないよ」

男「女は、妹みたいなかんじで・・・彼女とかじゃないって」

友「あんなに綺麗なのに、勿体ねえよ」

友「おまえ、一生結婚できないぞ」

男「ほっとけ」

友「だいたい、目処も何も・・・」

友「おまえ、夕方には仕事全部カタして、定時で帰れる状態だったじゃん」

友「今日は予定あるからって、張り切ってよ・・・」

男「仕事っていうのは、見つけようと思えばいくらでもあるものなの」

友「・・・女ちゃんに、気、遣ったんだろ」

男「・・・違うって」

男「来週のプレゼンで使う資料、いまから厳選しとこうと思ってさ」

友「頑固だなぁ」

男「友こそ、早く仕事に戻れよ」

友「俺はもう上がるところなの!」

男「じゃ、早く帰りなよ」

友「つれないなー。背中を丸めてる友人の姿を見つけて、こうして声をかけてやったのによー・・・」

男「できれば、見つけて欲しくなかったよ」

友「なあ、女ちゃんとの予定空けたんなら、フリーなんだろ?」

友「ちょっと付き合えよ」

男「イヤだ」

男「また、ロクでもないお店に行こうってんだろ?」

友「そういう、職を差別したような言い方はよくないと思うぞ?」

男「ぼくが言ってるのは、お金の使い方の話だ」

男「お酒を飲みながら、女の子と話すだけで何万も使うとか・・・」

男「体にも悪ければ、財布の中身にも悪い。ワルイ尽くしじゃないか」

友「まあ、男なら、そう言うと思ったけどな」

男「なら、初めから誘わないでくれ」

友「いやいや、ところがドッコイ、今日はお酒はナシなんだ」

男「はぁ?」

友「ずばり、マッサージだ!」

男「マッサージって、あの揉んだり解したり・・・?」

友「そ。日頃の溜まった疲れを、マッサージで癒そうかという提案」

友「どうだ? これなら、問題ないだろ?」

男「念のため訊いておくけど・・・」

男「いかがわしいマッサージじゃないよな?」

友「モチのロン! 健全も健全、大健全さ!」ニカッ

男「その笑顔が、すごい不安」

友「俺がおまえに、嘘ついたことあるか?」

男「嘘は、ないな」

男「騙されたことはたくさんあるけど」

友「はっはっは・・・!」

男「そうやって、笑って誤魔化すところが、信用ならないんだ・・・」

友「なー、いこーぜ?」

友「アルコール絡むと、途端に付き合い悪くなるお前のために、譲歩したんだからさー」

男「勝手なこと言って・・・」

男「でも、ま・・・たしかに、最近付き合い悪かったかもな」

友「てことは!?」

男「言っておくけど、マッサージだけだぞ? 二軒目はないからな?」

友「そうこなくっちゃ!」パシン

友「さあ、そうと決まれば早速行くぞー! ほら、早く準備しろって!」

男「・・・テンション高いなぁ」

男「・・・」

男「あのさ、友」

友「なんだ?」

男「そのお店ってさ、年齢で値段変わったりする?」

友「は? しないと思うけど?」

男「そっか・・・」

友「なんでまた?」

男「いや、なんでもないんだ」

男「・・・」

男「そんなに老けて見えるのかな」

男「・・・・・・ぼくって」



男「やっぱり騙された・・・」

友「おいおい、人聞き悪いこと言うなよ」

男「普通のマッサージだって、言ったじゃないか」

友「俺、そんなこと、一言も言ってないぞ?」

友「健全だとは言ったけども」

男「ここ・・・・・・」

男「・・・jkリフレって?」

友「リフレクソロジーだよ。男、知らんの?」

男「知ってるよ。足ツボみたいなものだろ?」

友「いやいや、リフレは『点』療法じゃなくて、『面』療法」

友「押すんじゃなくて、擦るんだな」

男「聞き齧ったようなことを・・・」

友「間違った知識を正してやったんじゃないか」

男「それじゃ、jkってのは?」

友「女子高生」

男「・・・」

友「の、略」

男「帰る。友一人で行ってくれ」

ガチャッ

友「こんばんわー!」

男「ちょ・・・ッ」

友「あ、もう一人います。すぐ外に、連れもいるんで」

男「オイオイ」

友「男ー? はやく入ってこいってー!」

男「・・・さ、最悪だ」

受付嬢「こんばんわー、いらっしゃいませ~」

受付嬢「お客様、当店のご利用は、初めてですか?」

友「ええ、初めてっスね」

受付嬢「それでは、当店のシステムをご説明しますね」

友「ういっス、よろしくお願いします」

男(・・・なんだ。どうしてこんなことに・・・)

男(どう見ても、ここ、真っ当なマッサージ屋じゃないよな・・・)

男(こんな真っピンクな内装の、健全なマッサージ屋さんがあるわけない・・・)

男(もう二度と、友の誘いには、首を縦に振ってやるもんか・・・)

男(・・・あれ?)

男(待てよ、女子高生って・・・未成年? 捕まるんじゃないのか・・・)

男(もし捕まったら、前科一犯? どうしよう、女に何て言えば・・・)

男(・・・そういえば、女はちゃんと家に帰れたのかな・・・)

受付嬢「――と、いうようになってます」

受付嬢「今の説明で、どこか、分からないところはありましたか?」

友「いえ、分かりました、バッチリです!」

友「なっ、男?」

男「・・・・・・」ゲッソリ

受付嬢「なんだか、お連れの方、すごく顔色悪いですけど・・・」

友「日頃から、疲れを溜め込んじゃうヤツなんですよ」

友「だから、今日はたっぷり癒してやろうかなって!」

受付嬢「ふふ、そうなんですか? 友人思いなんですね」ニッコリ

友「だってよ、聞いたか、男!」

男「・・・耳を疑ったよ・・・」

受付嬢「時間の方は、どうしますか?」

友「60分で! あ、こいつもね」

受付嬢「そうしますと、いまだとすぐに施術できるのは、こちらの三人ですね」

友「んーー・・・。じゃ、この子で」

友「男はどうする?」

男「・・・好きにしてくれ・・・」ボソ

友「じゃ、こっちはこの子で」

受付嬢「はい、わかりました」

受付嬢「では、そちらのソファーに掛けて、お待ちください」

友「ういっす!」

友「だってよ、男。 座ろうぜ?」

男「・・・」トス

友「あ、金の心配はすんなよ?」

友「久しぶりに付き合ってくれたお礼代わりじゃないけどさ、奢ってやるよ」

男「・・・」

友「なんだ、言葉も出ないくらい嬉しいか?」

男「・・・ああ。涙が出るくらい嬉しいよ・・・」グス

友「はっはっは、大袈裟なやつだな」

友「こんなとこで良ければ、また連れてきてやるって」

男(誰が二度と付き合ってやるもんか・・・)

受付嬢「1番の方~」

友「あ、俺だ」

友「じゃ、先に行くからな、男。 あ、終わったら外で待ってるから」

男「・・・ああ」

男「・・・・・・」

ピルルルッ、ピルルルッ

受付嬢「はい、もしもし」

受付嬢「・・・あら、もう起きたの?」

受付嬢「・・・え? おなかすいた?・・・」

男「・・・」ハァ

受付嬢「・・・なに言ってんの。夕方来たばかりでしょうが・・・」

受付嬢「・・・今は、そうねぇ・・・」チラ

男「・・・」ゲッソリ

受付嬢「・・・・・・」

受付嬢「・・・悪いんだけど、すぐに出てきてくれる?」

受付嬢「・・・スペース貸してあげてるんだから、たまには言うこと聞きなさいよ・・・」

受付嬢「・・・それに、ご飯だって、交渉次第よ?・・・」

男(・・・まだ・・・)

男(・・・今からでも、遅くないんじゃないか?)

受付嬢「・・・じゃ、急いでね」

カチャ

男(・・・そうだ、帰ろう)

男(よく考えれば、なんでわざわざ店の中に入ってしまったんだ・・・)

受付嬢「2番の方~」

男(友には悪いけど・・・って、そんなこと気にする義理はないな、うん・・・)

男(・・・よし、ぼくは帰るぞ!)

受付嬢「あの~、お客様?」

男「!?」ビクッ

受付嬢「ど、どうかしました?」

男「・・・い、いえ・・・っ」

男(どうかもこうかも、帰ろうとしたところだったのに・・・!)

受付嬢「あのですね、実はいま、ちょうどオススメの子が空いたんです」

受付嬢「ずっと先の予定まで、予約で埋まっててなかなか会えない、人気の子なんですよ」

男「・・・はぁ」

男(よっぽどマッサージが上手なのかな・・・?)

受付嬢「お兄さん、随分お疲れみたいですし、わたしからの特別サービスです」

受付嬢「施術、その子に任せますので、たっぷりと癒されてください」

受付嬢「・・・他のお客様には、内緒にしてくださいね?」ボソ

男「・・・はぁ」

男(もう、いいや。こうなったら、どうにでもなーれ、だ・・・)

受付嬢「じゃあ、よろしくね――」

男(早く終わって、早く帰りたい・・・)

受付嬢「――少女ちゃん」

少女「お帰りなさいませ、ご主人様!」ペコリ

男「・・・?」

男(今の・・・)

男(どこかで聞いたことある声だなぁ・・・)チラッ

男「・・・・・・・・・あ」

少女「? ・・・・・・あ」

男・少女「「あーーーーーっ!?」」

ttp://www.youtube.com/watch?v=6rwv0l0uuoi




男「きみは・・・」

少女「なんで・・・」

受付嬢「あら、もしかして知り合い?」

少女「・・・べつに」プイッ

受付嬢「ぜんぜん知らない人?」

少女「・・・うん。ぜんぜん知らない人」

受付嬢「じゃあ、しっかりお仕事。わかってるよね?」ニコリ

少女「・・・ぅ」

受付嬢「うん?」ニコニコ

少女「・・・・・・」ハァ

少女「・・・ん」スッ

男「? なに、その手」

少女「・・・手、出して」

男「え?」

少女「~~っ! 繋ぐの! 手!」ムンズ

男「わ・・・!?」

受付嬢「少女ちゃーん? お仕事だからねー?」ニコニコ

少女「わかっ・・・わかってる!」

少女「お・・・っ」

少女「お部屋まで、あたしが手を繋いでご案内・・・しますねぇ~・・・」

男(すごいひきつった笑顔だなぁ・・・)

・・・・・・

少女「で、どーゆーつもり?」

男「どうって・・・」

少女「夕方にはあたしに、あんなこと偉そうに言っておいてさ」

少女「自分はしっかり『そういう仕事』のお世話になってるじゃん」

少女「・・・おじさんって、サイテーだね」

男「・・・最低・・・」

男「・・・あの、待ってくれる?」

男「そりゃ状況的に、そう言われても仕方ないとは思うけどもさ?」

男「これは誤解なんだよ」

少女「はぁ?」

男「そもそも、ここに来たのは、友人に誘われたからで・・・」

少女「行こうって言われて、自分で来たんでしょ? どこが誤解なの?」

男「ぼくは騙されたんだよ!」

少女「へー?」

男「普通のマッサージだって思ってたのに・・・」

少女「普通のマッサージだよ?」

男「普通のマッサージ屋には、女子高生は働いてないでしょ!?」

少女「そうなの?」

男「そうなの! ・・・たぶん」

男「というか・・・本当に、女子高生なの?」

少女「あたしはね。・・・あ、言っとくけど、学生証は見せないよ?」

男「でも、制服着てないし」

少女「うわ、おじさんって制服フェチ? キモ・・・」

男「違うって!」

少女「ウチは曜日によって、制服かメイド服か分かれるの」

少女「スタッフ毎にね。 で、あたしは今日、メイド服の日なの」

少女「だいたいさ、通ってる学校の制服なんて、着れるわけないじゃん」

男「他の子も、みんな?」

少女「ホントに学生やってるのは、半分くらいじゃないかなぁ」

少女「それでもウチは、多いほうだと思うけどね」

少女「てかさー、そんなに言うんなら、途中で帰ればよかったじゃん」

男「いや、帰ろうとはしたんだよ」

男「ただ、タイミングが悪くてさ・・・」

少女「なにそれ。ダサ・・・」

少女「でもショックだなー」

少女「おじさんって、ロリコンだったんだ」

男「ぼくはロリコンじゃない!」

少女「ムキになっちゃうところがアヤシイよね、おじさん?」

男「それから、それ!」

少女「?」

男「おじさんっていうの、やめてくれない?」

少女「だって、おじさんじゃん?」

男「ぼくは、まだ28だよ!」

少女「三十路に片足突っ込んでるじゃん」

男「・・・・・・え゛、30ってオジサンなの?」

少女「少なくとも、あたしの倍は生きてるんだしさ」

男「さっきの女の人は、お兄さんって呼んでくれたんだけどな・・・」チラッ

少女「他人は他人、あたしはあたし」ツーン

少女「おじさんを『おにーさん』って呼ぶのは抵抗あるなー」

男「・・・そこをなんとか」

少女「・・・」ハァ

少女「おじさん、名前は?」

男「え? ・・・男、だけど」

少女「じゃ、『男くん』ね」

男「あれ? そこは『男さん』じゃないの?」

少女「おじさんとどっちがいい?」

男「・・・男くんで・・・」

少女「よろしい」

男「あの、きみさ・・・」

少女「男くん、人に名前で呼ばせたんだからさ、そっちもその、キミっていうのやめてよ」

男「じゃあ、えっと・・・少女・・・ちゃん?」

少女「・・・・・・ま、いいよ、それで」

男「少女ちゃんさ、どうしてこんな仕事してるの?」

少女「どういう意味よ?」

男「その、ぼく、誤解してた」

男「初めて会って話した時に、少女ちゃんは、もっと、その・・・」

男「いかがわしい仕事をしてるんじゃないかって」

少女「・・・あー。それで、あんなこと言ったんだ?」

男「でも、この仕事にしたってさ、楽じゃないと思うんだ。きっと、いろいろ」

男「もう少し、無難な仕事で稼ごうとか思わない?」

少女「無難って、たとえば?」

少女「時間と労働力の代わりに、金銭的対価が発生するのは、どんな仕事だって一緒じゃん」

男「だからこそ・・・じゃあ、なんでここなの?」

少女「たまたま」

男「た、たまたま?」

少女「店長に拾われたから」

男「店長って・・・」

少女「受付にいたでしょ、女の人」

男「あの受付嬢さん、店長だったのか・・・」

男「え、ちょっと待ってよ、拾われたって?」

少女「あたし、いまここに住んでるの」

男「なんで? い、家は? 親は・・・?」

少女「家はちゃんとあるし、親は両方とも生きてるよ」

男「じゃあ、どうして?」

少女「ハァ・・・。男くんさ、いい大人でしょ?」

少女「そーゆー風に、ズケズケと人の事情に踏み入ろうとしてさ、プライバシーの侵害だよ?」

少女「コンビニで商品並べて、レジ打って、袋詰めして稼ぐ千円も。メイド服着て、マッサージして稼ぐ千円も、同じ千円でしょ」

少女「だったら、自分に向いてる方、楽だと思う方で稼いだほうが、効率いいじゃん」

少女「あたしには、こういうのが向いてるの。おっけー?」

男「・・・お金に、困ってるの?」

少女「困ってないよ?」

少女「でも、あたしは一人だから」

少女「家もあるし、親もいるけど、一人で生きて行くことにしたの」

少女「生きていくのには、お金が要るじゃん?」

男「そりゃ、そうだけど。だからって・・・」

男「男の人に抱きついたりとかさ・・・」

少女「? あたし、そんなことしないよ?」

男「え?」

少女「まぁ、そういうコト、してる子もいるんだろうけどね」

少女「あたしはヤダ」

少女「だって、キモチ悪いじゃん」

少女「好きでもない人の体にベタベタ触ったりとか・・・」

男「いやいや、それじゃマッサージできないじゃない」

少女「それはそれ、仕事だし」

少女「あたしが言ってるのは、ハグとか、膝枕とかのこと」

男「ハグ? ・・・ああ、抱きしめることか・・・」

少女「男くんも、そういうの興味ある?」

男「それは、まあ・・・」

男「ぼくだって、好きな子となら、抱きあいたいなとか思うよ」

少女「あたしが、したげるって言ったらどーする?」

男「いろいろ危険なんで遠慮しておくよ」

少女「こんなに可愛い子が言っても?」

男「自分で可愛いとか言っちゃうのか・・・」ボソッ

男(・・・まぁ、たしかに否定は出来ないけど・・・)

男「どうして、そんなこと訊くの?」

少女「・・・べつに。なんとなくよ」

少女「男くんってさ、結婚してるの?」

男「それ、どういう・・・」

少女「いーから。答えてよ」

男「してたら、こんなところ来れないよ」

少女「じゃあ、彼女は?」

男「いたら、こんなところ来れないよ」

少女「マっジメだなぁ~」

男「少女ちゃんは? 好きな男の子とか・・・」

少女「ヒミツ」

男「ぼくには答えさせておいて?」

少女「そういう人がいるんなら、マッサージくらい、して貰えばいいのにって言おうとしたの!」

男「悪かったね、寂しい身空で・・・」

少女「ところで男くん、なんか食べるものない?」

男「? カロリーメイトなら、鞄の中にあるけど・・・」

少女「ブロックのやつ?」

男「うん」

少女「味、なに?」

男「チョコレート」

少女「チョコかぁ・・・。あたし、フルーツがよかったなー」

少女「・・・ん」ズイッ

男「・・・ん?」

少女「ちょーだい」

男「・・・おなかすいてるの?」

少女「夕方オムライス食べたけどね。 ほら、あたしって育ち盛りだし?」フンス

男(得意気に胸を反らしちゃって・・・。でも・・・)

男「あんまり成長の兆しは見えないよな・・・」ボソ

少女「なんか言った?」ジロリ

少女「言っとくけどね! 男くんは背がデカすぎなの!」

少女「あたしと同年代なら、これくらいの背は普通なんだから!」

男「でも、整列する時は前の方でしょ?」

少女「あ、うん。前から二番目・・・って、ちがうもん!」

少女「ちゃんと背は、伸びてるんだからね?」

男「今、いくつなの?」

少女「・・・・・・144」

男(・・・たしか、高校1年生の平均身長って、157くらいだった気がするから・・・)

少女「・・・男くんは?」

男「ぼく? 春の健康診断で計った時は、180に届かないくらいだったかな」

少女「ひゃくはちじゅっ・・・!? ・・・・・・ッ!」

男「そんな、親の仇を見るような目で、睨まないでくれないかな」

少女「あーあ。男くんが食べ物くれなきゃ、あたしは栄養不足で、このままチビでずっといるんだ・・・」

少女「それでいつか、そんな自分を悲観して、非行に奔って、人生メチャクチャになっちゃうんだ・・・」

男「悲観って・・・そんな大袈裟な」

男(こんな仕事に就いてる時点で、すでに若干スレてるような気もするけど・・・)

少女「ノッポにはチビの気持ちは分からないんだってば!」

男「だったら・・・」

男「カロリーメイトなんかじゃなくって、もっと栄養のあるものを食べた方がいいよ」

少女「じゃあ、男くんが食べさせてよ」

男「はぁ?」

少女「あたし、ラーメンがいいな」

男「ちょっと待ってくれ。 なんでぼくが食べさせる流れになってるんだ?」

少女「なんでって・・・散歩コースってあるでしょ?」

男「?」

少女「マッサージのあと、その子と外に出かけるの」

少女「で、ご飯奢ってもらったり、カラオケで歌わせてもらったり、ゲーセンでプライズ取ってもらったり」

男「貰ってばかりじゃないか・・・」

少女「いまは、カラオケって気分じゃないし、ヌイグルミもこれ以上増えたら置き場所困るしさ」

男(たしかに・・・。よく見たら、部屋のあちこちに景品と思わしきヌイグルミがあるな・・・)

少女「だから、ごはん食べにいこーよ」

男「・・・よく、あるの? そういうのって・・・」

少女「まぁ、あたしはほとんどソレ目的だからねー」

少女「あたしの場合、お客さんは自分で選ぶから、人数多いわけじゃないけど」

少女「あたしに会いに来てくれる・・・常連さんっていうの? そういうのとだけ」

男「・・・」

少女「なんで?」

男「いや・・・なんとなくね」

少女「ふーん・・・。で、なに奢ってくれるの? ラーメンでいい?」

男「ぼくは奢るなんて言ってないんだけど」

少女「・・・甲斐性ナシ」

男「よく、そんな言葉知ってるね・・・」

少女「あたし、成績は良い方」

男「・・・・・・」

少女「・・・・・・」ジー

男「・・・・・・・・・ラーメンで、いいの?」

少女「! うんっ」パァ

少女「あたし、着替えてくる!」タタタ

男「ぼく、この辺のお店ぜんぜん知らないから、少女ちゃんに任せるよ」

少女「わかったー!」

男「はは・・・現金だなぁ。こういうところは、しっかり年相応なんだな」

少女「ねえねえ!」

男「なに?」

少女「大盛に、青ネギともやしとメンマと白菜と角煮と半熟玉子とチーズと焼きのりトッピングしてもいーい!?」

男「・・・・・・いいよ」

少女「やったー!」

男「まいったな・・・」

ピピッ、ピピッ、ピピッ

男「あれ、なんか鳴ってるよ?」

少女「あ、それタイマー!」タタタ

ピッ

少女「ちょうど時間になったみたいだね」

男「あぁ、そうなんだ」

少女「じゃ、いこっか?」ギュッ

男「また、手繋ぐの?」

少女「あ、そっか、ついクセで・・・」パッ

少女「送り迎えの時は、手を繋ぐの」

男「なるほどね・・・」

少女「さあ、男くん! おいしいラーメンを求めてダッシュでゴー、だよ!」

男「あんまり慌てると、転ぶよ?」

少女「だいじょーぶ、だいじょー・・・わっ!?」ドテッ

男「言わんこっちゃない・・・」

男「・・・」

男「・・・・・・あれ?」

男「・・・」

男「というか・・・・・・・・・」

男「・・・」

男「ぼくのマッサージは?」



『お兄ちゃん、ホントに、一人暮らしするの?』

―大学、ムコウだしね。・・・ここからだと、さすがに通いはキツイよ。

『わたし、やっぱり寂しい』

―ぼくもだよ。

『お兄ちゃん・・・』

―女みたいな、ウルサイのが突然いなくなったら、寂しくなって泣いちゃうかも。

『・・・たたくよ?』

―ごめん・・・冗談。でも、たまには帰ってくるから。実家、ココだし。

『それって、どれくらい? 一週間に一回くらい?』

―・・・・・・さすがにそれは勘弁して。

『じゃあ、二週間に一回くらい?』

―あのな、往復の交通費だって、タダじゃないんだからな? わかってる?

『・・・わかってるけど・・・』

―半年に一回くらいは帰るから。約束する。

『半年・・・・・・一年に、二回しか会えないの?』

―来年は受験だっていうのに、傍に居てやれなくて、ごめんな。

―でも、解らないところとか、電話で訊いてきていいからな? 遠慮するなよ?

『毎日電話する』

―やめなさい。

―電話代の請求書で、おばさんを卒倒させたいのか?

『だって、心配なんだもん』

―中学二年生に心配される高校三年生って・・・。女の中のぼくは、どれだけ情けない男なんだ。

『お兄ちゃん、だらしないじゃん。片付けとか、そういうこまいの苦手だし』

―言っておくけど、ぼくは片付けが苦手なんじゃない。物を捨てるのが苦手なんだ。

『一緒だよ』

―全然ちがう。勿体無くて捨てられないんだ。それで溜まっていっちゃうの。

『結局、汚くなるのは同じでしょ?』

―それだって、一人暮らしすれば解決だ。なにせ、溜め込めるほど部屋、広くないから。

『・・・ねえ、お兄ちゃん』

―ん?

『あたしが行って、お掃除してあげようか?』

―は・・・? いいって、そんな・・・。だいたい、電車賃とか、どうするんだ?

『おこづかい使う』

―そんなに多く貰ってるわけじゃないだろ? そんなことしてたら、おこづかい無くなっちゃうぞ?

『うん、いいよ』

―いいよ、って・・・。え、何にも買えないでもいいのか? cdとか、本とか、化粧品とか・・・。

『そんなの、べつに、いらないもん』

―まさかその分、ぼくに集ろうなんて考えてるんじゃないよな?

『そんなこと、わたしが考えるわけないでしょ!』

―女・・・。

『だってお兄ちゃんお金ないし』

―・・・・・・・・・。

『決めた』

―なにを?

『わたしも、大学はそっち行く!』

―まあ、選択肢は豊富にあるに、越したことはないけどな。・・・女に合った学校も、きっとあるだろうし。

『ううん。わたし、お兄ちゃんと同じ大学に行く』

―こらこら。そんなに簡単に決めない。・・・まあ、そんなに悪い学校じゃないとおもうけど。

『そしたらさ、お兄ちゃん。先輩として、いろいろ教えてくれるよね?』

―ぼくに教えられることならね。でも、女は大学受験よりも、まず高校受験だからな?

『うん、がんばるよっ!』

―はは・・・気合十分だな。ぼくが近くにいないからって、サボろうとか思っちゃダメだぞ?

『そんなこと思わないってば。・・・だから、ねえ、お兄ちゃん』

―なんだ?

『わたしが高校、ちゃんと受かったら・・・』

『・・・お兄ちゃんのこと、名前で呼んでもいい?』

―?・・・ああ、いいよ。というか、べつに、今から呼んだっていいけど?

『それじゃだめ! ご褒美にならないよ!』

―そんなのでいいのか? さすがにもっと・・・ワガママ、言っていいんだぞ?

『いいの、わたしにはそれで十分。あとね・・・』

―あー、まだあるのね。

『・・・うん。それでね、大学受験に受かったら・・・』

―大学受験のご褒美!? さ、さすがに気が早くないかなぁ・・・?

『だめ?』

―・・・いや、そんなことはないけど。

『だって、早めに言っておかないと・・・お兄ちゃんにも、心の準備が必要でしょ?』

―おいおい、ぼくに何をさせる気だ・・・。

『あのね、わたしが、お兄ちゃんと一緒の学校に行けたら・・・』

―うん。

ピリリリ、ピリリリ!

『行けたら・・・――。――!』

―え? ちょっと待ってくれ。聞こえない。なんて言ったんだ?

ピリリリ、ピリリリ!

『―――?』

―ごめん、もう一度言ってくれるか? なんかさっきから変な音がさ・・・。

ピリリリ、ピリリリ!

―あれ・・・これって、たしか・・・。

―おーい、少女ちゃーん! これ、アラームー!

―鳴ってるよー! 止めてー! おーい、少女ちゃーん! ねぇー!?

・・・・・・

男「・・・少女ちゃん・・・」

男「って・・・・・・あれ?」

ピリリリ、ピリリリ!

ピッ

男「・・・もしもし?」

 ≪あ、男!?≫

男「女? どうしたの?」

 ≪たっ、助けて!≫

男「助けてって・・・なんだよ、いきなり」

 ≪大変なことになっちゃったの!≫

男「あれ? 今日は、おばさんと会うんじゃなかったっけ?」

 ≪そう、それっ≫

男「それって・・・おばさんに、なにかあったの?」

 ≪違うの! なにかあったのは、わたしの方なの!≫

男「・・・頼むから、ぼくに分かるように説明してくれる?」

男「こっちは、ただでさえ寝起きで頭が働いてないんだからさ・・・」

≪こんなの、口で説明するなんて無理だよ!≫

男「そ、そうなんだ・・・じゃあ、メールで・・・」

 ≪そういう意味じゃないよ!≫

 ≪お母さん、あと一時間くらいで東京駅着くって・・・だから・・・≫

男「・・・・・・わかった。ぼくも行けばいいんだね?」

 ≪! う、うん! お願いね、男!≫

男「はいはい。着いたら連絡するから・・・うん。・・・じゃあ」

ピッ・・・

男「賑やかなやつだなぁ・・・」

男「・・・にしても」

男「はは・・・ずいぶん懐かしい夢を見たなぁ」

男「・・・あの後、女ってば、本当におこづかいを使って、ぼくに会いに来るようになったんだよな」

男「高校卒業までの三年間、ほぼ毎月の月末に、新幹線は高いからって、鈍行乗り次いで四時間も掛けて・・・」

男「・・・ぼくなんかに会いにきて、何が楽しいんだか」

男(それだけ好かれてるってことは、もちろん嬉しいけど・・・)

男「おばさんも、よく止めなかったよなぁ・・・ん?」

男「新着メール十通・・・?」

男「・・・あ。あー・・・」

男「昨日、あのお店でマナーモードにしたまま、帰ってきてすぐ寝ちゃったから・・・」

男「九件は友から」

(一件目・・・) from.友 ≪電話出ろよー。いくらなんでも遅すぎだろー。先帰っちまうぞー?≫

(三件目・・・) from.友 ≪おいおい。この寒空の下に放置とか、とんだサド野郎だな、くそぅ!≫

(六件目・・・) from.友 ≪ちょ、マジそろそろ連絡プリーズ。オッサンもう限界。泣きそう≫

(九件目・・・) from.友 ≪\(^o^)/≫

男「・・・・・・」

男「友に、悪いことしちゃったな・・・。騙された件は、水に流そう・・・」

男「もう一つは・・・」

男「・・・女から?」

        from.女 ≪仕事、忙しいみたいだね。二回も電話掛けちゃった。ごめんね、気にしないで。
            家にちゃんと帰れたから、その報告だったの。お仕事がんばってね≫

男「・・・」

男「さて、出掛ける用意しないとな」

男「・・・」

男「・・・・・・そういえば」

男「あの時、女はなんて言ったんだっけ・・・」




男「お見合い・・・?」

女「・・・うん」

女母「と言っても、そんなに形式ばったものじゃないのよ?」

女母「私の仕事場の、仲の良い同僚の、一人息子さんなんだけどね」

女母「最近は、会う度に自分の子供の・・・そのまた子供の話になるのよ」

男「それって、つまり・・・」

女母「孫の話ってこと」

女母「で、まぁそれというのも、仕事先の別の同僚がね? まーー自慢してくるのよ」

女母「やれ最近生まれた孫が、可愛いだの天使だのって」

女母「休み時間はずーっと携帯に向かってニヤけてるわけよ」

女母「そんなのを一ヶ月も続けられて御覧なさいよ。なんだかシャクじゃない」

女母「こっちは、だからって『あらまあ。可愛いお猿さんですね』なんて言えないでしょ?」

男「・・・」

女母「男ちゃん、わかるかしら? この遣る瀬無い気持ち」

男「いや・・・ぼくにはちょっと・・・」

女母「そう?」

女母「まあ、そんなわけで、二人してヒートアップしちゃってね。その流れで、そういう方向に・・・」

男「なるほど・・・」

女「『なるほど・・・』じゃないよ!」

女「なんだってお母さん、そんな大事なこと勝手に決めちゃうの!?」

女母「勝手もなにも、あんたこっちにいるんだから、確認しようがないでしょ」

女母「『いま友達とあんたの話になって、お見合いさせようかと思ってるんだけどいい?』って、電話で訊けばよかった?」

女「そういうこと言ってるんじゃないよ!」

女「お母さんだって、自分がそんなことされたらイヤって思わない?」

女母「私は、あんたの歳の時はもう結婚して、あんたを産んでたけどね」

女「こっ・・・こんど結婚するのは、お母さんじゃなくてわたしでしょ!?」

女母「べつに、その人と結婚して、子供作りなさいって言ってるわけじゃないのよ?」

女母「一緒に食事して、ちょっと話でもして、お互い気に入ったら連絡先でも交換して・・・」

女母「お見合いっていうより・・・そうね、食事会みたいな?」

女母「もしそれでダメでも、友達として付き合っていけばいいじゃない。あんた、どうせ友達いないんでしょ?」

女「余計なお世話っ」

女母「余計でもなんでも、自分の子供には世話を焼くのが、親ってものなの」

女「だからって・・・!」

女「・・・ねえ、男は、どう思う?」

男「え、ぼく?」

女「その人と、わたしが会って・・・」

男「うん」

女「結婚・・・・・・」

女「した方が、いいって思う?」

男「・・・難しいんじゃないかな・・・」

男「さすがに、初めて会った人と、結婚を前提にお付き合いしましょうっていうのは・・・」

男「お見合いっていう形ぜんぶを、否定するわけじゃないけどさ」

女「うん・・・」

男「でも、とりあえず、会って食事するだけみたいだし・・・」

女「――え」

男「・・・行ってみても、いいんじゃない?」

男「ぼくは経験ないけど、一目惚れって、あると思うし・・・」

女「お、男は、それでいいの?」

男「いや、ぼくがっていうか、女が良ければね?」

女「・・・・・・・・・そっか」

女母「ほら、男ちゃんもこう言ってるじゃない」

女「・・・」

女母「だいたい、あんた。こっちにいた頃は、自分は学生結婚するんだーって息巻いてたじゃない」

女「あっ、あれは・・・!」

女母「あんた、今年で25なんだから・・・。四捨五入したら30よ?」

女「なんでそこで四捨五入するのっ!?」

女「それにわたし、好きな人いるって言ったじゃん!」

男(・・・え?)

女母「それは聞いたけど、ちっとも紹介してくれる気配がないじゃない」

女「それは・・・こっちにも、事情があるんだってば・・・」

男「・・・・・・女」

男「好きな人、いるの?」

女「? ・・・あ・・・っ」

女母「あら、男ちゃん、知らなかったの?」

女「ちょっと、お母さん!」

女母「この子が、こっちで暮らすことを決めた後くらいかしらね」

女母「『わたし、好きな人がいるの』って」

女「やめ・・・っ」

女母「私はてっきり、この子は男ちゃんのことが好きなんだって、ずうっと思ってたから」

女母「だから――」

女「やめてってば!!」

女母「なによ、もう・・・」

男「・・・・・・」

喫茶店員「失礼します。お客様、コーヒーのお代わりはいかがですか?」

女母「ああ、お願いしようかしら。あなたたちは?」

男「ぼくは、もう・・・」

女「・・・」フルフル

女母「一つでいいみたい」

喫茶店員「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」

女「・・・・・・・・・いいよ、行くよ」

女「行けばいいんでしょ?」

女母「あら、その気になってくれたの?」

女「でもわたし・・・結婚なんて、ぜったいしないから」

女母「・・・好きにしなさい」

女母「でもね、そんなこと言ってるうちに、どんどん歳を取っていって・・・」

女母「あんたを貰ってくれるっていう、奇特な人なんて、居なくなっちゃうからね?」

女「ほっといてよ」

女母「もう、この子は・・・」ハァ

女母「そういえば、男ちゃんは? どうなの?」

男「はい?」

女母「結婚よ。ふふっ、まだなの?」

男「ぼくの場合は、まず相手を見つけるところからスタートですね・・・」

女母「男ちゃん、カッコイイから、相手なんていくらでも見つかりそうなのにね?」

女「・・・」

男「そう言って貰えるのは、嬉しいんですけど。・・・あの、おばさん?」

男「さすがに、28の男に「ちゃん」付けは・・・」

女母「って、言われてもねぇー? 男ちゃんも、自分の子供みたいなものだから」

男「それは、ぼくもおばさんのことは、自分の本当の親のように思ってます」

男「実質、ぼくの母代わりをやってくれた人ですから」

女母「あら、嬉しい。・・・もういっそ、男ちゃんが女のことを貰ってくれない?」

女「!」ドキッ

女母「そうすれば、私も男ちゃんのこと、男って呼べるし」

男「普通にそう呼んでくださいよ・・・」

女母「でもほら、ずーっと男ちゃんって呼んできたでしょ?」

女母「今から変えるにしても、キッカケがないとねぇ?」

男「そういうものですか・・・」

女母「で、どう?」

男「どう、とは・・・」

女母「女よ。身内びいきなのを抜きにしても、お得な物件だと思うんだけど」ニコ

女「お母さん・・・っ?」

男「女は・・・」

男「綺麗で、面倒見もいいし、愛嬌もある、素晴らしい女性だと思います」

女「お、男・・・///」ドキドキ

男「だからこそ・・・」

男「・・・ぼくになんか、勿体無いですよ」

女「っ・・・」

女母「どっちかっていうと、男ちゃんの方が、女には勿体ないと思うんだけど・・・」

女母「まあ、ずっと昔から、本当の兄妹みたいに仲が良かったものね」

女母「いまさら結婚して夫婦になるって言われても、ピンと来ないかしら」

男「・・・そうかも、しれませんね」

女母「でも、イイ人が出来たら、紹介しなさいよ?」

女母「男ちゃんの母親代わりとしては、知っておく必要があるものね」ニコ

男「はい、もちろん。そういう機会がきたら、必ず」

女母「ああ、そうそう。明日は、あんたと向こうの人、二人きりだからね?」

女母「歳は24だけど、生まれ年は、あんたより遅いの。お姉さんなんだから、あんたがリードしてあげるのよ?」

女「えぇっ・・・!? そんな、困るよ、いきなり二人でなんて・・・」

男「会うの、明日なんですか?」

男「ずいぶん、急ですね・・・」

女母「? そうでもないわよ? この子には、二週間前には予定を空けておくよう言ってあったし」

男「・・・そうなの?」

女「それは、うん・・・。でもっ、本気で言ってるとは思わなかったもん!」

女母「あれ? あんた、男ちゃんに相談するからって言ってなかった?」

男「今日、はじめて聞きました」

女「な、なかなか時間がとれなくって・・・」

女母「どうせ大方、『お兄ちゃん』に言うのが恥ずかしかったんでしょう?」

女「違うってば!」

女母「まったく、そういうところは、いつまで経っても子供なんだから」

女「違うって言ってるのに・・・」

女母「そうそう。それで・・・明日会う人のことなんだけどね」

女母「簡単な略歴だけでも説明しておこうかしら。あ、一応、写真貰ってきたのよ。コレ」

女「ま、待ってよ、お母さん」

女「男がいるじゃん・・・」

女母「だから?」

女「そういうのは、帰ってからにして・・・」

女母「そう? ま、いいけど・・・」

女母「それじゃとりあえず、お会計しちゃいましょ」

男「あ、ここはぼくが払います」

女母「もう、何カッコつけちゃってるのよ、『お母さん』の前で」

男「だからですよ。たまには親孝行しないと」

女母「あらあら。なら、甘えちゃおうかしら」

女「男、待って・・・わたしも行く」

女母「・・・」

女母「・・・ほんと、お兄ちゃんっ子ねえ・・・」

・・・・・・

喫茶店員「こちら、3000円のお返しになりますね」

男「どうも」

女「・・・」

男「女、細かいの、ありがとうな」

女「うん・・・」

男「ごめんな。なんかぼく、呼ばれて来たのに、大して役に立たなかったけど・・・」

女「・・・ううん」

男「・・・・・・あのさ」

男「ぼくがこんなこと聞くのも、変かもしれないけど・・・」

男「どうして、会ってみる気になったんだ?」

女「それは・・・」

女「・・・・・・男が、」

男「ぼくが・・・?」

女「・・・ううん、やっぱりいい。わたしの、ことだもん・・・」

女「いつまでも、男に甘えてたら、ダメだよね」

男「・・・」

女「だいじょうぶ。初めて会う人と二人でも、わたしは平気」

女「もう、大人だもん。だから、心配しないで」

男「・・・そっか」

女「・・・・・・うん」

男「そうだ・・・なぁ、女」

女「なに?」

男「ぼくがこっちへ引っ越す前に、二人で話したこと、あったよな?」

男「ほら。女が、受験に受かったら、ご褒美が欲しいって言ってさ」

女「! ・・・男、覚えてるの・・・!?」

男「いや、それがさ・・・大学受験のときのが、思い出せなくて・・・」

女「・・・っ」

男「こんなこと言ったら、女は怒るかもしれないけど・・・」

男「もう一度、言ってくれないかな?」

男「いまさらだけど、まだ間に合うようなら、叶えてみせるから」

女「・・・ほんとに・・・?」

男「うん」

女「・・・」

女「・・・あの時」

女「わたしが言ったのは・・・・・・」

男「・・・」ゴクッ

女母「なにしてるの、あなたたち」

男・女「「!!」」

女母「お店の入り口の前に立って・・・それじゃお客さん入ってこれないでしょう?」

女母「店員さん、こっち見てるわよ?」

男「あ、すいません・・・!」

女母「お会計は済んだんでしょ? 行くわよ?」

女「・・・うん」

男「あ、女! さっきの話は・・・!」

女「ごめん、男」

男「えっ・・・」

女「わたしも、忘れちゃったよ」

女「だから、そのまま思い出さないでいて」

女「もう、大したことじゃないから」

男「・・・・・・」

男「本当に、そうなのか?」

女「・・・うん」

男「そっか・・・」

男「・・・・・・わかった」



少女「・・・」

男「・・・やあ」

少女「・・・」

男「その・・・」

少女「ねぇ、男くん?」

少女「・・・いま、あたしが何を言いたいか、わかる?」

男「まあ、なんとなく・・・」

少女「じゃーハッキリ訊くけど、なんでまた来たの?」

男「様子が気になってさ・・・」

少女「それ、まさかあたしのこと?」

男「元気かなって・・・」

少女「一昨日会ったばっかじゃん・・・呆れた」

男「そういえば、今日は制服なんだね」

少女「変態」

男「・・・似合ってるよって、言おうとしただけなのに・・・」

少女「あ、やっぱ制服フェチなんだ?」

少女「どう、どう? メイドより萌えちゃう?」

男「どっちも興味ないってば」

少女「ふーん・・・あっそ」ムスッ

男「まいったな・・・」

少女「てかさ、男くんって、口で言うことと、やってることがチグハグだよね」

少女「このまえは、友達に誘われて無理やりーとか、誤解だーとか言ってたけど・・・」

少女「今日はいったい、誰に無理やり誘われてきたのかな~?」

男「・・・・・・今日は、一人で来たんだ」

少女「いい加減男」

男「・・・」

男「少女ちゃん・・・なんか、この前ここで再会した時より刺々しくない・・・?」

少女「あたし、自分より背の高い人は、キホン敵だと思ってるの」

男「それだと、ほとんどの人が該当しちゃうんじゃ・・・」ボソ

少女「なにか言った?」ジロッ

男「なんだかんだで、最後の方は、けっこう普通に話せてたと思うんだけどな・・・」

少女「それは、ラーメンの力」

少女「あたしの方は、べつに、男くんと仲良しになったつもりはないよ?」

男「ぼくってラーメン以下なのか・・・」

少女「・・・男くんって、イイ人だと思うけどね」

少女「あたしにとってイイ人かどうかは、またべつでしょ?」

少女「それにさ・・・あたしはてっきり、あれっきりだと思ってたもん」

男「それは、うん・・・ぼくも」

少女「じゃあ、どうして?」

少女「自分の言葉に責任を持てないオトナって、あたし好きじゃない」

男「まいったなぁ・・・はは・・・」

少女「笑ってゴマかすのもだめ」

男「・・・ごめん」

男「でも、ほんと・・・なんでかな?」

男「気が付いたら、足がここへ向かってたんだ」

少女「なにそれ? そんなにココのマッサージが気に入ったの?」

男「いや、気に入るもなにも、マッサージは受けてないんだけど」

少女「じゃ、あたしのことを気に入ったの?」

男「気に入った、じゃなくて、気になった、ね」

少女「一目惚れしちゃったの?」

男「ぼくはロリコンじゃない」

少女「~~っ、店長ぉ!」

受付嬢「なぁに?」

少女「この人、お客さんじゃないよ! ただの男くんだよ!」

男「ただの・・・」

受付嬢「違うでしょう? ラーメンを食べさせてくれた、男くんでしょ?」

少女「お客さんじゃないなら、呼びつけないでよ!」

少女「常連さんが来たとか言って、ウソついてぇ・・・」

受付嬢「聞こえなーい、聞こえなーい」

少女「・・・っ、もういい!」スタスタ

受付嬢「あら、どこへ行くの?」

少女「どこだっていいじゃん!」

受付嬢「男くんはどうするの? せっかく会いに来てくれたのに」

少女「お客さんじゃないなら、相手する必要ないもん!」

受付嬢「あらあら・・・」

男「待って、少女ちゃん!」

少女「・・・言っとくけど、付いて来たら大声出すからね?」

男「あ・・・っ」

受付嬢「困りましたねー・・・」

受付嬢「きっと昨日、とろけるプリンを一人で買ってきて食べたこと、根に持ってるのね」

男「違うと思います」

受付嬢「・・・追いかけないんですか?」

男「来るなって言われましたけど・・・」

受付嬢「わたしには、来て欲しいって聞こえましたよ?」

男「付いて行ったら、大声を上げるそうです・・・」

受付嬢「なんて言うつもりでしょうね?」

男「ぼくが、国家権力のお世話になるようなことでしょうね・・・」

受付嬢「もう、いいですかお兄さん?」

受付嬢「女の言うことを、いちいち額面通り受け取っていたら、身が持ちませんよ?」

受付嬢「それに、あの子くらいの歳の頃って、素直になるのが恥ずかしいじゃないですか」

受付嬢「だからきっと、あんな風に言っちゃったんですよ」

男「ぼくは、嫌われてますから・・・」

受付嬢「そんなことないと思いますよ?」

男「え?」

受付嬢「もしもそうなら、お兄さんの顔を見た途端に、回れ右する子ですから」

受付嬢「・・・だいたい、本当に嫌いな人と二人でご飯食べたり、普通しません」

男「それは、そうかもしれませんけど・・・」

受付嬢「それで、本当のところは、どうなんですか?」

男「なにがですか?」

受付嬢「少女ちゃんに、一目惚れしちゃったんですか?」

男「・・・してません」

受付嬢「でも、気になるんですよね? あの子のこと」

男「元気でいれば、それでいいんです」

男「・・・・・・あの、帰ります、ぼく」

男「これ以上、機嫌を悪くされても困りますから」

受付嬢「なら、これを持っていって下さい」

受付嬢「こんなことになってしまった、お詫びというわけじゃないですけど・・・」

男「えっと、これは・・・?」

受付嬢「見ての通り、クーポン券です」

男「くれるんですか?」

受付嬢「はい、差し上げます」

男「ありがとうございます。でも、なんで・・・」

受付嬢「ジョ○サンのかぼちゃプリン」

男「・・・は?」

受付嬢「少女ちゃんの大好物なんですよ」

男「・・・」

受付嬢「・・・」ニコニコ

男「あの、店長・・・なんですよね?」

受付嬢「はい、責任者です」

男「いいんですか? こんな・・・」

男「素性の知れない客を、お店の子に焚きつけるようなことして」

受付嬢「あら。そんなの、ダメに決まってるじゃないですか」

男「え? じゃあ、今のこれは?」

受付嬢「だって、お兄さんは、お客さんとして来たんじゃないんですよね?」

男「でも、ぼくだって一応男ですよ」

男「・・・こんなこと自分で言うの、情けないですけど・・・」

受付嬢「大丈夫ですよ」

男「その根拠は?」

受付嬢「オンナの勘です!」キリッ

男「・・・それ、アテにしていいんでしょうか?」

受付嬢「もし外れても、わたしのせいにしないでくれるなら」ニコ

男「・・・」

男「クーポンは、そのうち使わせて貰います・・・」

受付嬢「そうですか」

受付嬢「・・・必ず、使ってくださいね?」

男「それは、もちろん」

受付嬢「ぜったい、約束ですよ?」

男「? はい・・・わかりました」

受付嬢「なら、いいんです」ニコ

男「それじゃ、どうもお邪魔しました」ペコリ

受付嬢「・・・」

受付嬢「あー、いっけなーい。忘れてたー」

男「?」

受付嬢「それ、有効期限、今日までなんでした」

男「はい?」

受付嬢「ちなみにですね。お店の裏に回って、その先の信号を左に曲がるとジョナ○ンがあります」

男「・・・はい?」

受付嬢「ぜったいに使ってくれるって、約束しましたよね?」

男「・・・・・・はい」

受付嬢「少女ちゃんのこと、よろしくお願いしますね」

男「・・・・・・」

受付嬢「安心してください。それ一枚で、四人まで使えますから」

男「抜け目ないですね・・・」

受付嬢「それは、もう・・・ふふっ」

受付嬢「だってわたし――」

受付嬢「――店長ですから♪」



少女「もう、なんなのよっ」

少女「男くんってば、適当なことばっかり言ってさ」

少女「あたしが心配で、様子を見に来たとか・・・?」

少女「・・・そんなの、嘘ついてるに決まってるもん・・・」

少女「ふんっ、ホントは、女の子にチヤホヤされたいだけのくせに!」

少女「店長も店長だよ・・・っ」

少女「なんで男くんの味方しちゃうかなぁ?」

少女「男くんが、マジでロリコンの制服フェチだったら、どーするのよ!」

少女「あたしの都合なんて、ちっとも考えてくれないんだから」

少女「昨日だって、あたしに黙ってプリン買ってきて、一人で隠れて食べるし・・・」

少女「大人って、みんなそう!」

少女「狡くていい加減で、嘘つきばっかり・・・」

少女「いいよ、いいよ! そっちがそうなら、こっちだって!」

少女「しばらくお店になんか、戻ってやらないんだから」

少女「・・・って、あ・・・」ゴソッ

少女「あれぇっ?」ゴソゴソ

少女「・・・・・・やば。あたし、なんも持ってきてないじゃん・・・」

少女「ぅ~~! あー、もー!」

少女「それもこれも、みんな男くんのせいだ!」

少女「でも・・・」

少女「あたし・・・なんで、こんなに怒ってるんだろ?」

少女「話したことも・・・会うのだって、今日で三回目なのに」

少女「それだけの人に、どうして・・・」

少女「・・・っ、ううん、そんなのどーでもいい」

少女「どうせ、あのお節介のことだもん。ぜったい追いかけてくるに決まってるんだ」

少女「そしたら・・・ふんっ、ホントに大声上げてやるんだから・・・!」

?「少女ちゃん?」

少女(! ほら、きた・・・!)

少女「って、あれ? ・・・チャラ男さん?」

チャラ男「あぁ、やっぱりだ!」

チャラ男「いやぁ、遠くから見かけて、もしかしてって思ったんだけど・・・」

チャラ男「今からちょうど、お店に行こうとしてたんだ」

少女「ん・・・そうなんだ?」

チャラ男「いまは休憩時間? それとも、買い物か何かの途中?」

少女「あたし? ・・・・・・ううん。ただ、散歩してただけ」

チャラ男「散歩? お店にはいつごろ戻るの?」

少女「しばらく戻らないよ・・・たぶん」

チャラ男「えぇっ、なんで!?」

少女「ちょっと、いろいろあったから・・・」

チャラ男「そんな、せっかく少女ちゃんに会いにきたのに、それはないよ」

少女「また、別の日にしよ・・・? 今日は、なんか体調悪いの」

チャラ男「そんなこと言わないでさ・・・」

チャラ男「ね、ね? オレ、ボーナス入ったんだよ、ボーナス」

チャラ男「お金、いっぱい持ってるよ?」

少女「? だから?」

チャラ男「だからって・・・」

チャラ男「少女ちゃん、財布とかバッグとか、欲しくないかな?」

チャラ男「高級ブランドモノでもなんでもさ、いいんだよ? うん?」

少女「あたし、そういうの興味ない。使えればなんでもいいもん」

少女「それに、いま使ってるの気に入ってるから」

チャラ男「それじゃあ、食事はどう?」

チャラ男「こう・・・雰囲気あってさ、綺麗な夜景とか見えるところ・・・行きたくない?」

少女「べつに、行きたくないかな」

少女「食事するのに、背伸びして肩肘張らなきゃいけないのって、よくわかんないよ」

少女「あたしは・・・変テコな横文字の料理よりも、ラーメンの方が嬉しい」

チャラ男「そ、そう?」

チャラ男「でも・・・じゃあ! 欲しいもの! なんかない!?」

チャラ男「なんでも買ってあげるよ、少女ちゃんのために」

少女「そんなの、いいってば。いらないよ」

少女「だいたいあたしには、チャラ男さんに何かを買って貰う理由がないもん」

チャラ男「そんなこと言ったって・・・もうヌイグルミとか、お菓子とか、たくさん・・・」

少女「それは、お仕事の時にだよね?」

少女「働いてない時は、チャラ男さんからは何も貰えないよ。そういう理由もないし」

チャラ男「理由なんて・・・そんな、オレの気持ちだからさ」

少女「受け取れない」

チャラ男「なんで? き、気難しく考えるコトないんだよ?」

少女「ていうか、それって・・・」

少女「・・・」ハァ

少女「とにかく、気持ちが篭ったものなら、なおさら受け取れない」

チャラ男「なんで、そんなこと言うの?」

少女「なんでって、だって・・・」

チャラ男「実はオレさ、初めて見た時から、気になってたんだ」

チャラ男「・・・好きなんだよ、少女ちゃんのことが」

少女「・・・やっぱり・・・」ボソ

チャラ男「こんな形で言うことになったのは不本意だけど、どう?」

少女「なにが?」

チャラ男「オレと付き合わない?」

少女「無理だよ」

チャラ男「どうして?」

少女「あたしとチャラ男さんって、お店の女の子と、そのお店のお客さんでしょ?」

少女「それだけだよ? なんにも知らないんだよ?」

チャラ男「お互いのことなんて、付き合ってから分かってけばよくない?」

少女「そういうのが、あたしには無理なの」

チャラ男「じつは、好きな人でもいるの?」

少女「いないけど・・・」

チャラ男「じゃあさ!」

少女「でも、チャラ男さんと付き合いたいとは思わないもん」

少女「ううん。 あたしは、誰とも付き合いたいなんて思わない」

少女「・・・恋なんてしたくない」

チャラ男「そんな・・・」

少女「ごめんね。あたし、もう行くから」

チャラ男「待って!」ガシッ

少女「っ・・・! いたっ・・・!」

チャラ男「まだ話は終わってないって!」

チャラ男「ねえ、オレのどこが気に入らないの!?」

チャラ男「自分で言うのもなんだけど、そこら辺の男よりカッコイイと思うし・・・」

チャラ男「お金だって、同年代の奴らよりずっと持ってる!」

少女「チャラ男さんがどうとか・・・そういう問題じゃないんだってば」

チャラ男「じゃあ、なにが不満なの!?」

少女「っ・・・ちょっと、離してってば・・・!」

チャラ男「本当は、好きな人がいるんだ? そうなんでしょ!?」

少女「なに言って・・・っ?」

チャラ男「だれなの? オレ以外の、店の客?」

少女「ちがうってば、あたしは・・・」

チャラ男「なんで・・・カラオケでも、ゲーセンでも、あんなに楽しそうにしてたじゃないか・・・!」

少女「それは、仕事だったから・・・!」

チャラ男「演技で、楽しんでたフリしてたってこと!?」

少女「そうじゃないけど・・・っ。 手、痛いって・・・!」

男「少女ちゃん!」

少女「ぁ・・・っ」

チャラ男「? なんだよ、オッサン」

男「はぁっ、・・・はぁ・・・っ」

少女「お、男くん・・・」

チャラ男「男くん?」

少女「お客さん・・・お店の・・・」

男「いろいろ、探しちゃったよ」

男「・・・見つかってよかった」

チャラ男「悪いんだけど、いまオレたち、大事な話をしてるんだよ」

男「・・・そっか。それは、邪魔して悪かったね」

男「でも、その手は離してあげよう」

チャラ男「なんでオッサンにそんな・・・!」

男「ただ話をするのに、手を掴む必要はないはずだよね?」

チャラ男「・・・ッ」パッ

少女「ぅ・・・」

男「見せて」

少女「ぁ・・・っ」

男「少し、赤くなってるね」

男「これくらいなら、腫れたりしないとは思うけど、念のために後で冷やしたほうがいい」

少女「ん・・・」コク

チャラ男「・・・あぁ」

チャラ男「なんだ、そういうこと・・・」

チャラ男「散歩とか言って、本当はそのオッサンと待ち合わせでもしてたんだね?」

少女「え・・・? ち、ちがうよ!」

チャラ男「可愛い顔して、ヤることはしっかりヤってたってことね・・・」

男「・・・」

チャラ男「なんか言いたげだな、オッサン」

男「ぼくは、事情なんてなにも知らないけど、少女ちゃんはそんな子じゃないよ」

男「いま言ったことは取り消して、それから彼女に謝るんだ」

チャラ男「オ、オッサンには関係ないだろ!?」ドンッ

男「うぁ・・・ッ!?」ドサッ

少女「男くん!」

チャラ男「・・・言っとくけどな、オッサンだって、遊ばれてるだけだぞ」

ザワザワ・・・

チャラ男「! 見せモンじゃないって・・・!」クルッ

少女「イケメンさん! 男くんに・・・っ」

チャラ男「・・・あんなお店、もう二度と行かないからな」

少女「っ・・・」

少女「・・・・・・」ハァ

男「少女ちゃん」

少女「なんで来たの?」

男「なんでって、ぼくは・・・」

少女「付いて来ないでって、あたし言ったよね?」

少女「大声上げてやるって」

男「・・・うん」

少女「・・・」

男「・・・」

?「あの・・・?」

男「はい?」

?「お怪我は、平気ですか?」ニコ

男「? あ・・・はい」

男(向日葵みたいな笑顔だなぁ・・・)

向日葵のような笑顔の女性「そうですか・・・」

向日葵のような笑顔の女性「・・・ごめんなさい。途中から見ていたのですけど、なんのお力にもなれず」

向日葵のような笑顔の女性「その子が手を掴まれた時は、さすがに彼も止めようとしたのですけれど・・・」

向日葵のような笑顔の女性「そうしたら、わたしたちの横を、あなたがすごい勢いで走って行ったので」クス

少女「・・・」

男「彼?」

向日葵のような笑顔の女性「はい、あそこの――」

優しい目をして微笑む青年「・・・」ペコリ

男(大学生くらいだろうか・・・?)ペコリ

向日葵のような笑顔の女性「あら・・・ふふっ、すごい汗ですよ?」

少女「汗・・・?」

男「え・・・あ・・・」

向日葵のような笑顔の女性「もしよかったら、このハンカチ、使ってください」

男「そんな、悪いです」

向日葵のような笑顔の女性「いいんです。きっと彼なら、こうするでしょうから」

男「でも・・・」

向日葵のような笑顔の女性「そのままだと、風邪を引いてしまいますわ」

向日葵のような笑顔の女性「それに、さっきからそちらの女の子が、怖い顔で見てますよ?」

少女「み、見てない!」

男「・・・すいません。お借りします」

男「あの、ちゃんとクリーニングして返すので、よかったら連絡先を・・・」

向日葵のような笑顔の女性「構いません。そのまま、持っていてください」

男「は・・・? でも――」

向日葵のような笑顔の女性「――でも・・・ふふっ」

向日葵のような笑顔の女性「この寒い中を、そんなに汗びっしょりになるまで走り回ってたんですか?」

男「えっと・・・」

向日葵のような笑顔の女性「よほど大切なモノを探したんですね」ニコ

少女「・・・・・・」

向日葵のような笑顔の女性「それでは、わたしはこれで」

男「ハンカチ、ありがとうございました」

向日葵のような笑顔の女性「いいえ」フルフル

少女「・・・あ、えと、どうも・・・」ペコ

向日葵のような笑顔の女性「・・・諦めないでね」ボソ

少女「え・・・っ?」

男「・・・」

少女「・・・」

男「なんか、不思議な人だったね」

少女「でも、すごくキレイな人・・・」

男「あの二人って、恋人同士かな?」

少女「うん・・・きっとね」

少女「世間知らずのお嬢様と、トラウマ持ちの平凡男ってカンジ」

男「そうなの?」

少女「なんとなく、そう思っただけ」

少女「・・・」

少女「・・・・・・その、大丈夫?」

男「ん?」

少女「男くん、さっき、突き飛ばされてたじゃん。だから・・・」

男「ああ、うん。ぜんぜん平気だよ」

少女「そ・・・」

少女「・・・貸して」

男「?」

少女「ハンカチ・・・汗、あたしが拭いたげる」

男「なんで・・・」

少女「いいから貸してってば!」

男「はい・・・」

少女「・・・さっきの人」

少女「チャラ男さんね、あたしのことが好きだって」

少女「付き合って欲しいって言われた」

男「そう・・・」

少女「夜景の綺麗なレストランに行こうって」

男「案外ファミレスだって、捨てたもんじゃないよ」

少女「ボーナス出たから、なんでも買ってくれるって」

男「今日までしか使えない、クーポンならあるんだけどな」

少女「・・・」ジー

男「使わないと、勿体無いよね?」

男「・・・・・・」

男「プリン、食べたくない?」

少女「・・・・・・ぷっ、あははっ」

男「はは・・・」

少女「・・・」

少女「お店ね、もう来ないって」

少女「・・・お客さん、一人いなくなっちゃった」

男「ぼくのせいで、誤解されちゃったんだよね」

少女「そうかもだけど・・・いいよ、気にしてない」

少女「もう、終わったことだもん。あのまま、男くんが来なくても、きっと・・・」

少女「・・・てか、有り得ないよね」

少女「ちょっと考えれば、分かることなのにね、そんなこと」

少女「・・・」

少女「こういう仕事してるから、いけないのかな?」

少女「・・・だったらさ、男くんの言う通りなのかもね・・・」

少女「男くんに、怪我までさせちゃって・・・」

男「気にしてないんじゃなかったっけ?」ポン

少女「ぁ・・・」

男「ぼくは、尻持ちついただけだよ。大したことない」ナデナデ

少女「・・・・・・」

少女「・・・あたし、あたま撫でられたりするの、すごい久しぶり」

男「あ、べつにこれは、子供扱いしたわけじゃなくて・・・」

少女「うん。てか、男くんの手、汗でベタベタだね」

男「そうだった・・・ごめん」パッ

少女「やめないで」

男「でも、汗が」

少女「いいから、もっとしてよ・・・」

男「・・・うん」ナデナデ

少女「・・・・・・男くんてさ、変わってるよね」

男「そうかな?」

少女「そうだよ」

少女「・・・ぜったいそう」

男「少女ちゃんも、変わってると思うよ」

少女「・・・」

少女「・・・・・・ふん、だ」

>>161 訂正です

×少女「イケメンさん! 男くんに・・・っ」

○少女「チャラ男さん! 男くんに・・・っ」

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