男「俺の主人公補正が消えた!?」 (466)


女「はい、そのとおりです」

男「……ごめん。その前にひとつ聞いていい?」

女「なんでしょうか?」

男「その、主人公補正ってなんなの?」

女「それはあなたが持っていた能力です」

男「えっと、その主人公補正って具体的にどういう能力なんだ?」

女「そうですね。たとえば人間としての魅力がゼロなのに、やたら女の子にモテたりとか」

男「……うん」

女「ピンチの場面で急に潜在能力が覚醒したりとか」


女「やたら変な事件に巻きこまれたりとか」

女「絶対に死ぬだろって場面で、なぜか死ななかったりとか」

女「まあ一言で言うと、都合のいい能力です」

男「あー、なんとなくどんな能力かはわかった」

女「主人公補正はたいていの場合、能力者自信も自覚できないんです」

女「でも能力を失った今なら、どうですか?」

男「……言われてみれば。なんか今日はいろいろと変だったな」

女「その『変』こそが、あなたから主人公補正が失われた証拠なんです」


男(たしかに。今日は朝から奇妙なことが続いた)





男『(俺はどこにでもいる普通の高校生だ)』

男『(自分について話せと言われても、特にこれと言って説明することがない)』

男『(ただし、通っている学校はとても特殊な場所だったりする)』


幼馴染『あっ、おはよ。今日は寝坊しなかったんだね』

男『……おう。ていうか毎日寝坊してるわけじゃないだろ』


男『(コイツは俺の幼馴染。美人で世話焼き、しかも秀才)』

男『(なぜかいつも俺に弁当を作ってきてくれる。もちろん今日も……)』


幼馴染『じゃあ、また教室でね』

男『……いつもの弁当は?』

幼馴染『お弁当?』


幼馴染『うーん、今日になってふと思ったの』

幼馴染『私がお弁当を毎日作ったり、お節介焼いたりする必要はないかなって。ちがう?』

男『……いや、ちがわないと思うけど』

幼馴染『でしょ? そういうわけだから。バイバーイ』

男『……まあ、べつにおかしな話ではないか』


妹『なにブツブツ一人でしゃべってんの? きもちわるいなあ』

男『うおっ。急にうしろから話しかけてくるなよ』


男『(海外出張に行ってる両親に代わって、家事全般をこなしてくれる俺の妹)』

男『(ちょっとひねくれてる部分もあるけど、かわいい妹だ)』

男『(なんだかんだ仲がいい兄妹だと自負している)』


妹『……』

男『どうしたんだよ、立ちどまって。ほら、行くぞ』

妹『あたしに構わなくていいから。さっさと行けば?』

男『(おかしいな。いつもだったら……)』



妹「な、なによ? あたしといっしょに学校に行きたいわけ?」

妹「し、仕方ないなあ。特別だよ、特別……!」

妹「本当は兄妹でいっしょに登校なんてイヤなんだからね。か、勘違いしないでよね!」



男『(……って感じなのに。なにかイヤなことでもあったのかな?)』

妹『ほっといてよ、あたしのことは。クラスの子を待ってるだけだから』

男『……おう。じゃあ先に行くよ』





後輩『おはようございます先輩!』

男『相変わらず元気だね』

後輩『はい! あっ、三日前に借りたBDありがとうございました!』

男『どうだった?』

後輩『最高でしたよ。いいチョイスですよね、さすがは先輩です!』

男『そこまで褒めるようなことじゃないと思うけど』

後輩『いやいや。やっぱり目の付けどころが普通の人とはちがいます、さすがです先輩!』


男『(俺の後輩。なぜかやたら俺をもちあげてくる)』

男『(そこらへんに落ちてるゴミを拾う。ごく普通にあいさつする)』

男『(そんなささいなことで『さすがです先輩!』と俺をほめたおしてくる)』


男『また借りたくなったら言ってよ。いつでも貸すからさ』

後輩『あの……なんでこんなに先輩を褒めちぎってるんですかね、私?』

男『……急にどうした?』

後輩『いえ、自分のことながらおかしい気がして』

後輩『なんなんでしょうね? もちろん、先輩に媚び売るつもりとかはないですよ?』

男『……』

後輩『なんか自分でもよくわかんないなあ。まあいっか』

後輩『じゃ、私はこれで。さよならでーす』

男『(まただ。今日はみんなの様子が変だ)』





男『……』

男『(今日は妙に平和だ。普段は誰かしら絡んでくるのに)』

男『(休み時間にこうやって寝たふりしたことなんて、今まで一度でもあったか?)』


『早弁って普通に食べるより、おいしく感じるよな?』

『わかる。俺もそんな気がしてさ、もう家で弁当食っちゃったよ』

『それ、もはや弁当じゃねえじゃん』

『まあでも食いたりないからな。昼休みに「ジバニャンパン」を買いに行く』


男『(休み時間はゆっくりしたいって思ってたけど。楽しそうだなあ)』

男『(誰でもいいから話しかけてくれないかなあ)』


◆放課後


男『(教室に入ってから放課後になるまで、俺、誰とも話してないぞ)』

友『おーい』

男『……』

友『おい、無視すんなよ』

男『……もしかして俺に話しかけてたりする?』

友『なんでちょっと目、ウルウルしてんの?』

男『気のせいだ。それよりアレか? 学校帰りだし遊びに行くのか?』

友『ちがうって。だいたいお前っていつも直帰したがるじゃん』

男『いやまあ、それはそうなんだけど』

友『つーか、よく考えたらお前に用ねえわ。なんかごめんな』

男『ちょっ……行っちゃった』


男『(えー。用事がなくても絡んでくるのがお前じゃん)





男(そして、1人寂しく帰ろうとしたところにこの女子が俺に話しかけてきた)


男「俺から主人公補正ってヤツがなくなった……ってことなんだよね?」

女「そうなんです」

男「でもなあ。唐突に謎能力について説明されてもなあ」

女「まあ困っちゃいますよね」

男「うん。色々と理解できてないしな」

女「そこを無理やり理解してくれると、私としては助かるんですけどね」

男「無理だよ。そもそも俺自身が知らなかった能力をなんでキミが知ってるの?」

男「それにどうしてわかった、俺から能力がなくなってることに」

女「やっぱ気になっちゃいます?」 

男「そりゃあね。俺はもともと能力なんてもってなかったし」


男(うちの高校は普通の学校じゃない)

男(特殊な力をもった『能力者』。そいつらを育てる教育機関だ)

男(ただし俺は無能力者。だけど手違いでこの学校に入ちゃって現在に至る)


女「実は私、フリーペーパー同好会に所属してまして」

女「無能力者でありながら、数々の活躍を収めていたあなたを追っていたんです」

男「活躍って、そんなに俺ってなにかしてたっけ?」

女「自覚ないんですね。まあそれはいいですけど」

男「……つまり。今まで俺を調べてたから、キミは俺の能力に気づけたってこと?」

女「ちょ~簡単に説明するとそんな感じです」


女「これからお時間ありますか。もう少しお話したいことが……」


先輩「よっ! 後輩!」


男「うおっ!? 先輩?」

先輩「話してるとこに割りこんじゃってごめんね! あっ、そっちの人も」

女「いえ……」

男「びっくりした。相変わらずの神出鬼没ですね」

先輩「あはは。先生からキミを呼ぶように頼まれてね」

先輩「……って、なんか顔が緩んでるけど?」

男「あ、出てます?」

先輩「うん。仏頂面が基本のキミにしては珍しいね」

男「いやあ、人から話しかけられるって、実は嬉しいことなんですね」

先輩「んー?」


男「ところでボクを呼んでる先生って?」

先輩「私にキミを呼ぶように頼む人と言えば?」


男(なるほど。図書委員の担当だわな。俺も先輩も図書委員だし)


男「でもボクに用事ってなんなんですかね?」

先輩「それは私じゃなくて先生から直接聞いてちょうだいな」

男「わかりました。……って、ごめん。先生に呼ばれちゃったんだけど」

女「大丈夫です。私、待ってますから」

先輩「おやおや? またデキちゃったの、女友達?」

男「いや、たった今知り合ったんです」

先輩「まっ、なんでもいいや。とりあえず図書室に行こっか?」


男(先輩は変わってないのか?)





女教師「わざわざ呼びに行ってもらっちゃって、わるいねえ」

先輩「ホントですよ。自分で行けばいいのに」

男「それで、なんでボクは呼ばれたんですか?」

女教師「……それ、本気で言ってるのか?」

男「どういう意味ですか?」

女教師「今日の昼休みの話だ。たおれていた二年生が昼休みに発見されてね」

男「……どこで?」

女教師「キミをここに呼んだのはなぜだ? 事件現場が図書室だからだろ」

女教師「そして。お前が呼ばれた理由は? ここまで言えばわかるだろ?」

男「えー、つまりボクが容疑者……ってことですよね?」

女教師「そういうことだ」

   バン      はよ
バン (∩`・ω・) バン はよ
   / ミつ/ ̄ ̄ ̄/
  ̄ ̄\/___/


男(またか。我ながらよく事件に巻きこまれるよなあ)

女教師「昼休み、お前が図書室に入ったのを目撃した生徒がいる」


男(出たよ、こういうの。今日は一度も教室から出てないのに)

男(まあ目撃証言があるとはいえ、この先生と先輩なら俺の味方をしてくれるだろ)


先輩「実はキミのクラスメイトから、キミの休み時間の行動についてはすでに聞いてあるの」

男「じゃあ……」

女教師「だーれもキミを見ていた人間はいないらしい」

男「へ?」


女教師「私の知るかぎり、お前は友人には恵まれている」

女教師「それにも関わらずお前の行動を誰も把握していない。奇妙だな?」

男「えっと……」

女教師「意図的に見られないようにお前は行動した。私にはそうとしか思えないが?」

先輩「言いたいこと、わかるよね?」

男「……先生たちはボクが犯人だと思ってるんですか?」

女教師「ああ。お前はいつも弁当を図書室のベランダで食べてるしな」

女教師「まあ、いちおう言い分があるなら聞くぞ」


男(まさか先輩と先生が俺を積極的に疑ってくるなんて……!)


男「……ボク、今日の昼休みは教室にいました」

女教師「で、どうやってそれを証明する?」

男「証明は……たぶん、できないと思います」

女教師「ふん、残念ながらそれでは話にならんな」



女「できますよ、証明」



男「おおぉっ!? いつの間にうしろに!?」

女「隣の教室からベランダを通って侵入しちゃいました」

男「全然気づかなかった」

女教師「それより、たった今言ったことは本当か?」

女「はい。ほら、私のスマホを見てくださいよ。写ってるでしょ?」

女「誰にも相手されなくて、寂しそ~に机に突っ伏してる背中が」

男(いつの間に撮ったんだよ)


先輩「だけど、それだけじゃあ昼休みに教室にいたって証明にはならないよ?」

女「よく見てくださいよ、この部分。他の人もお弁当を食べてるでしょ?」

女教師「なるほど。昼休みに教室にいたって証明にはなるな」

男「じゃあ……!」

女教師「もっとも、写真は能力や合成で弄れるからな。完全なアリバイとは言えん」

男「そんな」

女教師「とりあえず帰っていいぞ。この件、今は私の胸の内に閉まっておく」

先輩「だってさ。よかったね」


男(とても俺は素直に喜べなかった)

男(俺を見る先輩と先生の目は、今まで見たことがないぐらい冷たかった)





男「……」ズズズズ

女「さっきから無言でジュースを吸ってますけど、こわいですよ?」

男「……」

女「やっぱりショックだったんですね?」

男「……前にもあったんだよ。今日よりずっと俺が犯人っぽい事件がさ」

女「ほうほう」

男「でもあの二人、そのときは俺のことをかばってくれたんだ」

男「『安心しろ。私の見込んだオトコが犯人なわけがない!』」

男「『大丈夫。私だけはキミのことを最期まで信じるから!』って、二人とも言ってくれたのにぃ」

女「物真似、ぜんっぜん似てないです」

男「知ってる」ズズズズ


男「正直に言うと、主人公補正なんて能力、どうでもいいって思ってた」

男「……だけどさっきの事件でそんな考えは吹き飛んだよ」

女「大丈夫です。この私が協力しちゃいますから!」

男「……」

女「なんですか、その目は?」

男「あのさ。キミは主人公補正を都合のいい能力だって言ったよな?」

女「ええ」

男「そして今の俺は主人公補正をもっていない。そうだよね?」

女「……私の存在もまた、その都合のいい存在ではないのか。そう言いたいんですね?」

男「うん」

女「……おそらく能力を失ったからこそ、私とあなたは出会ったんだと思います」

男「能力を失ったからこそ?」

バンバンバンバンバンバンバン
バン         バンバンバン
バン (∩`・ω・)  バンバン
 _/__ミつ/ ̄ ̄ ̄/
     \/___/ ̄


女「はい。本来、私とあなたは出会う運命だったんですよ」

女「ところが主人公補正によって、あなたは様々な人を引き寄せた」

女「結果として私との縁は切れてしまったんです」


男「いちおう理屈としてはとおってるな」

女「あくまで私の考察ですから。話半分に受け取ってくださいね」

男「……ていうか、なんで主人公補正があったらキミと会わないの?」

女「うーん、私ってば地味で『モブ』っぽいからじゃないですか?」

男「地味か? キミの頭にのってる瓶底メガネ、けっこう目立つ気が……」

女「ところがこのメガネをかけると。ほら、『モブ』って感じがするでしょ?」

男「目が小さくなりすぎて、かえって目立ってるぞ」

女「うっ……メガネかけたら気持ち悪くなりました」

男「はずせよ」


男「だけど主人公補正が本当に存在するなら、どうして消えたんだ?」

女「……本当に消えたのでしょうか?」

男「どういうこと?」

女「普通、能力は衰えたり劣化したりはしても、消えることはありません」

女「誰かがあなたの能力を盗んだ。そう考えたほうが自然じゃないですか?」

男「……盗む? 誰が? どうやって?」

女「さすがに現時点ではわからないです!」

男「……まあそうだわな」

女「……すみません。肝心なところで役に立てなくて」

男「謝らないでよ。キミの証言のおかげで、俺は助かったんだからさ」

女「……では、むしろ報酬を頂いてもよろしいですか?」

男「へ?」


女「私、あなたが主人公補正を取り返すまで全面的に協力します」

女「そのかわり、能力を取り戻したあかつきには、うちの同好会に入ってほしいんです」

男「なんで?」

女「もちろん。あなたがすごい人だからですよ」

女「……実はうちのフリーペーパー同好会、部員が私しかいないんです」

男「すくなっ」

女「はい。このままだと新聞部につぶされちゃうんです」

男「だから俺に入ってほしいの?」

女「そうです。それに入部してもらえれば間近で取材できますから」

女「――主人公にさえなれる、あなたをね」

男「……」


女「どうかおねがいしますっ。できることならなんでもするんで!」

男「……ちょっと考えさせてくれない?」

男「俺も色々と唐突すぎて、頭ん中整理できてないし」

女「そうですよね。急にこんな話をされたら困っちゃいますよね」

男「ごめん。明日には返事するからさ」

女「ええ。いいお返事、期待してますよ」


男(主人公補正、か)

男(でも仮に能力を盗むことができたとして、誰が?)

男(誰が俺の能力を盗むっていうんだ?)





男(すっかり遅くなっちゃったなあ)

男「ただいまー」

母「あんた、こんな夜遅くまでどこ言ってたの!?」

男「か、母さん!? なんで母さんが!?」

母「なんてこと言うの。帰国するって連絡しておいたはずよ?」

男「ごめん。ケータイの電源、落ちてたんだよ」

母「ったく、何度連絡しても電話に出ないわけだ」

男「ごめん」

母「まっ、特に変わりないようでよかった」

男「ていうか、どうして急に帰ってきたの?」

母「どうしてと聞かれてもねえ」

期待


母「まだ高校生の子どもだけを家に置き去りにするなんて、と思ったからかなあ」

男「……これも主人公補正が消えたせいなのか?」

母「なんか言った?」

男「いや、なんでもない」

男「とりあえず風呂に入ってくるよ」


男(やっぱり主人公補正は実在するものなのか?)


妹「あっ、今ごろ帰ってきたんだ」

男「……出かけるのか? バッグ持ってるけど」

妹「べつに。友達の家でお菓子パーティーするだけだよ」

男「こんな時間から?」

妹「なに、太るぞって言いたいわけ?」


男「そうじゃなくて。お前がこんな時間に出かけるなんて、今までなかったから」

妹「そりゃあね。いつもなら洗濯やら食器洗いやら、やること山積みだったし」

妹「でもお母さも帰ってきたでしょ? だから今日は出かけるってわけ」

男「……そうか」

妹「ミキちゃんの家、久々だし楽しみだなあ」

男「……」

妹「なに? 私が出かけるのが不満なの?」

男「……いや、楽しんでこいよ」

妹「言われなくても今日は徹夜しちゃうもんね」


男(俺と二人暮らしになってから、こいつは一度たりとも夜に遊びにいくなんてことはしなかった)

男(それが今日になって急に……)

男(これも主人公補正がなくなったせいなのか?)


男(――そこまで考えて、俺はゾッとした)


男(今まで妹は家事全般を文句も言わずにずっとこなしてきた)

男(そして幼馴染は、俺のためにずっとお弁当を作ってくれた)

男(ほかにもある)


男(無能力者である俺が、なぜあの学校に入れた?)

男(そうだ。俺の周りでは奇妙なことがたくさん起こっていた)

男(今まではなにも思わなかった。だって知らなかったから)


男(でも今はちがう)

男(知ってしまった。主人公補正って能力があったことを)

男(……俺は無意識の内に自分の周りの人間を狂わせていたのかもしれない)

コ○ンの行く所事件ありってやつか

  Λ_Λ  \\
  ( ・∀・)   | | ガッ

 と    )    | |
   Y /ノ    人
    / )    <  >_Λ∩
  _/し' //. V`Д´)/

 (_フ彡        / ←gCO


◆次の日


男「俺に協力してくれ! たのむっ!」

女「うおっ! 朝イチから気合入ってますね」

男「昨日、自分なりに考えてみたんだ」

男「主人公補正は、俺が考えていたよりもずっとヤバイものなんじゃないかって」

女「ほうほう、それで?」

男「キミは主人公補正が盗まれたかもしれないって言ったよな?」

女「はい、言いました」

男「もしこの能力が悪人になったらどうなると思う?」

女「そうですね」

女「RPGでたとえるなら、魔王が世界征服を狙っても勇者がとめられない」

女「そんなバッドエンドをむかえてしまうでしょうね」

  Λ_Λ  \\
  ( ・∀・)   | | ガッ

 と    )    | |
   Y /ノ    人
    / )    <  >_Λ∩
  _/し' //. V`Д´)/

 (_フ彡        / ←gCO

おもろいから頑張ってね


男「だろ? それに正直に言うと、俺は主人公補正を取り戻したい」

女「やっぱり昨日みたいな扱いはつらいですか?」

男「うん。自分が今まで恵まれていたことに気づいたよ」

女「まあ気持ちは十分に理解できます」

男「だけど俺一人じゃ、能力を取り戻すのは無理だ」

女「だから私に協力してほしいってことですね?」

男「もちろんタダでとは言わない。キミとの約束はまもる」

女「わかりました、これで契約は成立ですね」

女「……よかったあ。実は昨日のうちに新しい情報を入手したんですよ」

男「新しい情報?」

>>64
NHKがキターーーーーーー


女「能力を奪う手段について、実はわかったことがあるんです」

男「マジか!?」

女「マジです! そしてこれが能力を奪うアイテムです!」

男「……なにこれ?」

女「今説明したじゃないですか、能力を奪うアイテムだって」

男「このカードみたいなのが?」

女「はい。実はうちの学校の掲示板でうわさになってるみたいです、これ」

男「……四角い枠が二つあるな」

女「ええ。このカードに名前を記入することで、書かれた人間の能力を奪えるみたいです」

男「でもじゃあ、なんで二つも枠があるの?」

女「それについても説明します」


○○○○○○

○○○○○○


女「能力を盗むと説明しましたが、人から人へと移動させると言ったほうがいいかもしれません」

女「上枠が能力を盗みたい人の名前。下枠が能力を受け取る人の名前」

女「これら二つを書くことで、カードの効果が発動するようです」


男「……」

女「ふっふっふ、どうです?」

女「私の情報収集能力、なかなかのものでしょう?」

男「いや、まあ、そうだな。だけどこのカードはどこで手に入れたの?」

女「それはちょっと言えないんですよね」

男(この子、いったい何者なんだ?)


女「調べた情報から考えても、このカードで能力が奪われてる人がいることは間違いないです」

女「ただ……」

男「ただ?」

女「問題はこのカードが本物なのか、それがわからないんです」

男「ためしてないの?」

女「ためせませんよ。だって人の能力を奪うって、お金を盗むよりもタチ悪いですよ」

男「そうか、そうだよなあ」

女「盗んでも問題ない人がいればいいんですけどね」

不良「……おい」

女「ん?」


男「お前……」

不良「よう。この前は世話になったな、ああ?」

女「な、なんですかこの見るからに悪そうな人は?」

男「えっと、たしか……この前うちの妹に絡んでたヤツだよな?」

不良「ああ。あんときお前に殴られたヤツだ」

不良「まさか忘れたとか言わないよな?」

男「えっと、それで?」

不良「決まってんだろうが。リベンジに来たんだよ、リベンジに」

女「さすがですね。主人公補正がなくてもトラブルに巻き込まれるなんて」

男(まあこいつ程度なら素手で倒せるか? ……あれ?)


不良「相変わらずスカしてやがんな、見ててムカつくぜ」

女「……大丈夫ですか? とりあえず謝罪したほうがいいんじゃないですか?」

男「な、ななに言ってんだよ」

女「だって……メチャクチャびびってるじゃないですか!」

女「手も足も会いたい人みたいになってますよ!」


男(ど、どうなってるんだ?)

男(なんで俺はこんな不良相手にビビってんだ?)


不良「言っておくが謝っても遅いぜ」

男「ひっ……」


男(結論から言おう。俺は不良にボコボコにされたのであった)

みてるぜ(`・ω・´)凸

「会いたい人みたい」って?

>>82
西野カナじゃねえの?

>>83
ふ る え て る

そういうことか!サンキュー


不良「なんだお前。クソがつくほど弱いな」

男「うぅ……」

不良「先公が来る前に終わってよかったぜ。じゃあな」


男(俺ってばこんなにケンカに弱かったか?)

男(それだけじゃない。なんであんなに不良を怖いと思ったんだ?)


女「……まだ私たちは負けてないですよ!」

不良「あ?」

男「え? え?」

女「今のはあなたに花をもたせたんです。ねっ?」

男「いやいやいや! どう見てもボコボコにされてたじゃん!」

+   +
  ∧_∧  +
 (0゚・∀・)   ワクワクテカテカ
 (0゚∪ ∪ +
 と__)__) +


女「学校内で許可なく能力を使うのは、基本的に禁止されてます」

女「でもこの際です。使っちゃいましょう」

男「おい、俺は能力を持ってないぞ」

女「知ってます。だけど問題ないでしょ、あのカードがあれば」


男(そういうことか。でも、この不良の能力が戦闘向きのものとはかぎらない)


女「大丈夫。とりあえず私にまかせちゃってください」

不良「で? まだ俺とやる気なのか、ああっ?」

男「あ、いや、ボクはそのぉ……」

女「もちろんそのつもりです」

女「でもその前に、まずは私の能力を披露します」

不良「ほう」

      +
 +
     ∧_∧  +
  + (。0´∀`)
    (0゚つと )   +
 +  と__)__)


女「食らっちゃってください――私の能力を!」

男(いったいどんな能力なんだ……?)

不良「……おっほん!」

男「ん?」

不良「説明しよう。俺の能力はなあ! 大量の火炎を口から吐く能力だっ!」

不良「しかも俺自身には一切リスクはないっ!」

不良「超強力な火炎放射でお前なんて消し炭にしてやるぜ!」

女「おおっ、それはすごいですね」

男「……どういうこと?」

女「私の能力です。自分の能力についてペラペラしゃべらせる能力です」

女「どうです? なかなかすごい能力でしょう?」

男(すごいのか、それ)

かわいい

実際かなりいい能力かもしれんな
某死神漫画だったら意味ないだろうが

>>94
ソウルイーターかい?


不良「はっ、能力がわかったからってなにができんだよ?」

女「今にわかりますよ」

女「さあ能力もわかったことですし、名前をカードに書いてください」

男「……名前がわからん」

女「はいっ、能力発動!」

不良「俺の名前は『オギノ ダイキチ』だ。って、なんで俺は名乗ってんだ?」

女「名前を名乗らせるのは能力よりも簡単ですよ――書けましたか?」

男「おうっ! これで能力が奪えるんだな!?」

女「はい! そのはずです!」

不良「はっ! なにをしたって無駄だ!」

男「よし! 発動!」



男(結論から言おう。発動しませんでした)

>>95
オサレ漫画

>>97
そうきたかw
>>98
ブリーチか


男「ぐはあぁっ!?」

不良「やっぱりなんにも変わらねえじゃねえか」

女「まさかカードが偽物だった……?」

不良「正直こんなにあっさりとたおせるとは思ってなかったよ」

女「あっ! まさか名前を……!」カキカキ

女「もう一度です! 今度こそ絶対に能力を奪えたはずです!」

不良「いくらなんでも往生際が悪すぎだろ」

男「ていうかもう俺もケンカしたくないっ!」

女「たぶん今度はうまくいったはずです! ほらっ!」

男「……わかったよ、そこまで言うなら」

名前をどうするんだ?
    ∧_∧
    ( ・∀・)ワクワク
  oノ∧つ⊂)
  ( ( ・∀・)ドキドキ
  ∪( ∪ ∪
    と__)__)


男(たのむっ! もう本当に殴られるのはイヤだ!)

男(だから頼むから! 口からなんか出てくれええええええ――)


男「――――」


不良「ぎゃああああああぁっ!? あっちいぃ!」

女「や、やった! 本当に口から火が出たっ!」

男「ど、どうなってるの?」

女「『オギノ』って名字でピンと来たんですよ、私」

男「なにが?」

女「このカード、名前を間違えた場合は効果は無効になるようです」

女「おそらくあなたは、『荻』と『萩』を間違えて書いてたんですよ」

男「え? オギとハギって同じ漢字じゃないの?」

女「やっぱり」

荻野だろ?知ってたし                                       萩野荻野ホントダ…

てかまだ主人公補正残ってね?

>>105
        .┌┐
        / /
      ./ / i
      | ( ゚Д゚) <そんなバナナ
      |(ノi  |)
      |  i  i
      \_ヽ_,ゝ
        U" U


男「名前をまちがえたら発動しないって、デスノートみたいだな」

女「このカードはそこまで物騒なものじゃないです」

男「ところで、えっと、大丈夫?」

不良「大丈夫じゃねえわ! 不良でも人間に向かって火ぃ吹いたりしねえぞ!」

男「あっ、す、すみません」

女「あ落ち着いて。話し合いをしようじゃありませんか」

不良「ふざけんな! 能力を使ったこと、先生に言うぞっ!」

女「そんなことしたらこっちも口から火を吐きますよ……この人が」

不良「うっ……」

男(この女、なにげにおっかないな)

千尋みたいだな(?ー?)凸

確かに微妙に残ってるような…

   / ̄ ̄\
 /   _ノ  \
 |   ( ●)(●)

. |     (__人__)____
  |     ` ⌒/ ─' 'ー\

.  |       /( ○)  (○)\
.  ヽ     /  ⌒(n_人__)⌒ \  >>109
   ヽ   |、    (  ヨ    |
   /    `ー─-  厂   /
   |   、 _   __,,/     \





不良「貸してやるだけだからな。きちんと返せよ」

男「はい。もちろん返しますよ、ええ」

不良「それと。お前の妹に今度会わせろよ、いいな?」

男「わかりましたー」

男(こんな感じの流れで、不良からは一時的に能力を借りることになった)


女「さっそく保健室のお世話になっちゃいましたね」

男「うぅ……まさか教室にすらたどりつけないなんて」

女「……」

男「どうしたの、急に黙ちゃって」

女「いえ、主人公補正がないのによくあの人に勝てたなあと思って」

    ∧_∧
    ( ・∀・) ドキドキ
  oノ∧つ⊂)
  ( ( ・∀・) ワクワク
  oノ∧つ⊂)
  ( ( ・∀・)
  ∪( ∪ ∪
    と__)__)

眠い
完結したら呼んでくれ


女「ひょっとすると、能力を奪ったから勝てたのかもしれませんね」

男「そりゃそうでしょ。口からの火炎放射がなかったら勝てなかったよ」

女「うーん、そういうことじゃなくて。なんて言えばいいのかな?」

男「ん?」

女「つまり、カードで能力を奪ったことであなたは凡人から能力者に成り上がりました」

女「能力を手に入れるっていうのは、主人公補正を得ることに近いことなのかもしれません」

男「……なるほど」

男「たしかに口から火を吐くって、普通じゃないもんな」

女「まあさすがに主人公補正能力には適わないと思いますけどね」

>>115
  まだ23時だよzzZ
 ̄ ̄ ̄ ̄V ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
     ∧_∧
    ( ・д⊂ヽ゛

    /    _ノ⌒⌒ヽ.
 ( ̄⊂人  //⌒   ノ
⊂ニニニニニニニニニニニニニ⊃


男「……そういえば、ひとつ気になることがあるんだ」

女「なんです?」

男「あんなみっともない姿を見せておいてなんだけどさ」

男「俺、今まであそこまでビビったことなんてなかった気がするんだ」

女「それも主人公補正がなくなったせいかもしれません」

男「どういうこと?」


女「主人公補正ってとんでもなく卑怯な能力だと思うんです」

女「だから、リスクやそれに近いものがあるはずなんです」

女「……たとえば、一部の感情が欠落してしまったりとか」


男「感情の欠落?」


女「ええ。そう考えると今回のこと、納得できません?」

男「……いや、感情が欠落していたって嘘でしょ?」

女「ひとつ質問してもいいですか?」

男「なに?」

女「私が仕入れた情報では、あなたは色んな女の子と懇意にしていたそうですね」

男「まあ、そうかも」

女「だけどあなたには恋人はいない。そうじゃないですか?」

男「べつにそれは主人公補正とは関係ない……」


男(いや、でもたしかにそうだ)

男(クラスの連中に誰かと付き合わないのかって言われたときも)

男(なぜか真剣に考えることができなかった)


男(そうだよ。俺は色んなヤツから鈍感だって言われてきた)

男(そのときは全然意味がわからなかったけど、今ならわかる)

男(あれもこれも、思い返してみれば……!)


男「……そうだな。もしかしたら俺はおかしかったのかもしれない」

女「もっとも、恋愛については本当に主人公補正のせいだって確証はありませんけどね」

女「でも、あなたから恐怖や一部の感情が抜け落ちていたのは間違いないはずです」

男「……」

女「大丈夫ですか? 頭抱えちゃってますけど」

男「いやあ、だってさあ……」

男「俺ってばすげえ青春してたんだと思ったら、なんか過去の自分を殴りたくなって……」

(女よ! 今 な ら い け る !)


男「いや、やめよう」

男「考えれば考えるほどむなしくなるだけだ。うん、切り替えよう」

女「そうです。すぎたことを悔やんでも仕方ありません」

女「今はとにかく、能力を取り戻すことに集中しましょう!」

男「うぃっす! ……って、こっからどうすればいいんだろ?」

女「能力を奪う手段はもう割れてるんです」

女「だから犯人をさっさと捕まえちゃえばいいんですよ」


男(誰だ? 俺の能力を奪ったヤツは……)

男「……そうか。俺の能力を知らなきゃ、奪おうって発想にならないんだよな」

女「ええ。そう考えれば、容疑者はおのずとしぼれますよね?」

男「つまり俺の能力を奪ったのは――俺と親しかったヤツだ」

今日はここまで


続きは明日?

>>128
おつかれさまー
  ∧∧ ∩
 ( ´∀`)/ ∧∧ ∩

⊂   ノ  ( ´∀`)/
 (つ ノ  ⊂   ノ  ∧∧ ∩
  (ノ    (つ ノ  ( ´∀`)/

        (ノ   ⊂   ノ
             (つ ノ  ∧∧ ∩
             (ノ  ( ´∀`)/

                _| つ/ヽ-、_
              / └-(____/
               ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                  <⌒/ヽ___<また明日こいよ!
                /<_/____/
                 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

保守ついでにさ、俺がキャラデザしたのうpしてもいい?

>>130
明日の九時ごろから再開
もっと早くなるかもしれん
>>134
すげえみたい

>>136
許可サンキュー

じゃあまずは 女
男「俺の主人公補正が消えた!?」 - SSまとめ速報
(http://open2ch.net/p/news4vip-1423303509-137-490x490.png)

>>137
巧いな!

>>137
巧いな!

メガネ時のモブキャラ感がすごいwww

>>137

すごく上手くてびっくり
ありがとう
保存しておく

それじゃあ今日は寝るので

>>139
>>140
>>141
ありがとYO!おまえらのイメージと違ってたらすまんな
あと>>1さん、この絵は気にせず話作ってくれな。おやすみー

妹もうちょっとでできそう

>>137
うめえー
>>1まってるぜ(ーωー凸)

妹できた
男「俺の主人公補正が消えた!?」 - SSまとめ速報
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しゅ、主人公を見てみたい…

>>147
主人公むずかしいなwでも描いてみる
今描いてる幼馴染終わったら主人公描く

>>148
応援の念を送っとくo(`д´ 。)

主人公が感情欠落してるって考察は面白いな

内容も面白い上に絵もあるなんて素晴らしい良スレだ

>>149サンキュー
>>150おもしろい話だし>>1がいい人だったから俺が出しゃばることができている
>>1に感謝だな

幼馴染できた

男「俺の主人公補正が消えた!?」 - SSまとめ速報
(http://open2ch.net/p/news4vip-1423303509-151-490x490.png)

>>151
だから上手すぎwwww

>>152
うれしいこと言ってくれやん(ノω`*)ノ" テレテレ

男できた
すまんすこしギャグに走ってしまった
男「俺の主人公補正が消えた!?」 - SSまとめ速報
(http://open2ch.net/p/news4vip-1423303509-153-490x490.png)

女が怪しいと思ってたのにID:PaEの絵のせいでそう思えなくなってしまったww
幼馴染が一番好みだ

>>154
女は確かに怪しいなw
ただ、すました顔で悪事をはたらく系かもしれない、てことにしておこうw
幼馴染気に行っていただけてうれしいです(つ∀`)ノ

後輩できた
某アイドルグループ(石鹸じゃないよ!)に居そうとか言わないでね
男「俺の主人公補正が消えた!?」 - SSまとめ速報
(http://open2ch.net/p/news4vip-1423303509-155-490x490.png)

openだけど保守

先輩できた
男「俺の主人公補正が消えた!?」 - SSまとめ速報
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すまん今読み返してみたら先生のほうがしっくりくる気がするので変更します。
>>156は無しでお願いします
男「俺の主人公補正が消えた!?」 - SSまとめ速報
(http://open2ch.net/p/news4vip-1423303509-157-490x490.png)

なんどもすまん>>157は「先生」じゃなくて「女教師」な

>>157
味方の時は頼もしくて敵になると手強いみたいなイメージだな

>>159
おうコメントさんきゅー
この事件で男が結構ショック受けてるからな
そんな感じになればいいなと思って描いたのよ

>>151
か....かわええ

>>161
ありがと(*ノ∀ノ)
俺は>>1じゃなくてただ保守している身でして
ぜひ>>1さんのSS読んでみて下さい

能力喪失って主人公らしいイベントじゃん
主人公補正が消えることを前提のキャラも存在してるわけだし

   / ̄ ̄\
 /   _ノ  \
 |   ( ●)(●)

. |     (__人__)____
  |     ` ⌒/ ─' 'ー\

.  |       /( ○)  (○)\
.  ヽ     /  ⌒(n_人__)⌒ \  >>163
   ヽ   |、    (  ヨ    |
   /    `ー─-  厂   /
   |   、 _   __,,/     \

先輩できた
すまん俺はもう寝るzzZ
男「俺の主人公補正が消えた!?」 - SSまとめ速報
(http://open2ch.net/p/news4vip-1423303509-164-490x490.png)

    ∧_∧  / ̄ ̄ ̄ ̄
  ∧( ´∀`)< あげ
 ( ⊂    ⊃ \____
 ( つ ノ ノ
 |(__)_)
 (__)_)

すまん
今家に着いたので再開は10時ごろになると思う

イラストのレベルたけぇwww
続きはよ!

>>182
サンキュー(@´ω`@)

不良できた
お好みのほうをお選びください
男「俺の主人公補正が消えた!?」 - SSまとめ速報
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◆次の日の朝


男「色々と考えてみた結果、こうなった」

女「……」

男「その魚の骨が喉に刺さったみたいな顔はなんだ」

女「なんでビデオカメラを構えてるんですか?」

男「こうやって常にビデオカメラを回していれば、見落としがなくなると思って」

男「これなら映像も音もキャッチできるからね。どうよ?」

女「……メチャクチャあやしいです。それ、絶対に警戒されちゃいますよ」

男「キミの真顔、こわいな」

女「でも、証拠を残すっていうのは大事だと思います。これでどうです?」

男「ハンディレコーダーか。たしかにこれならポッケに仕込めるもんな」

女「ええ。犯人探しなら映像より、こっちのほうが役にたつと思います」

キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!


女「それで、どうするんですか?」

男「とにかく片っ端から知り合いに当たっていこうと思うんだ」

女「ほうほう」

男「もし能力を奪ったヤツが俺の身近にいるなら、俺との接触は避けたいでしょ?」

男「だからこっちから突貫してやるんだ」

女「おおっ、名案ですね。でも一つ指摘してもよろしいですか?」

男「なに?」

女「今のあなたは主人公補正を失ってるから、どちらにしても誰も寄りつかないと思いますよ」


男「……」

女「……」


男「細かいことはいい! とにかく行動あるのみ!」

女「了解! どこまでもついて行きますよ!」


女「あっ、ちょうど掲示板のとこに仲のいい人がいますよ」

男「誰?」


妹「……」


女「さあ! まずは一番親しいであろう妹さんのもとへ!」

女「って、なんで逃げようとしてるんですか!」

男「い、いや。あいつはいいかなあって。妹だし」

女「でもあなたにとって一番身近な存在でしょ? 話は聞いておくべきです」

男「そのとおりだけど。今のあいつってコワイしなあ」

女「はじめまして。私、フリーペーパー同好会の者です。インタビューいいですか?」

妹「は、はい?」


男(はやい! ていうかなんで俺の妹のことを知ってる!?) 


女「実はですね。現在兄妹特集っていうのをやってるんです」

女「是非お兄さんといっしょにインタビューを受けてくれませんか?」

妹「お兄さん?」

男「……よう」

妹「うわっ! なんでお兄ちゃんいんの? ていうかまた女の子に捕まってるの?」

女「おや? ひょっとしてお二人は仲が悪かったりしますか?」

妹「はい。全然、もう本当に仲よくないです」

男(悲しい! つい三日前までは――)


妹『え? またお兄ちゃんってば出かけるの?』

妹『べ、べつになんにも! 今日はいっしょに出かけようと思って……な、なんでもないっ!』

妹『うるさいなっ! お兄ちゃんのバカっ!』


男(もう少し相手してあげればよかったなあ)

妹かわいい(´Д`*)


妹「だから私たちを特集しても、ねえ?」

男(同意の目線を求めてくるな。悲しいだろ)

女「いえ、好都合です。仲の悪い兄妹特集をやろうと思っていたので」

男「その企画はやめて。今の俺には効く」

女「時代は奇をてらったものを求めてるんです」

男「絶対にまちがってるぞ」

妹「へえ、なんか二人とも息ぴったりだね。……お兄ちゃん、ちょっとこっちに来て」



男「……なんだよ?」

妹「お兄ちゃんは鈍くて人の気持ちってヤツを理解できてないでしょ?」

男「……おう」

妹「だから自分に近づいてくる人間が、どういう意図でそうしてるか。それを考えてあげなよ!」

男「いたっ! 背中を叩くなよ」

妹かわいいいいいぃぃぃいい((((((*´Д`)ノ


女「お話はすみましたか?」

妹「はい。お待たせしてすみません。それで、兄妹特集でしたっけ?」

女「それなんですけど。お兄さんがイヤそうなのでまたの機会ってことで」

男「うん、それがいい」

女「そのかわり、一つだけ質問に答えてもらってもいいですか?」

妹「はい、なんでもどうぞー」

女「あなたは主人公ってどういうものだと思いますか?」

妹「へ?」

男「へ?」

女「アンケートです。パッと思いついたでいいので」

妹「んー、そうだなあ。一番カッコイイ人、かな?」


女「そうですか、ありがとうございました」

妹「じゃあ、私はこれで」


不良「あっ! トモちゃーん!」


女「あっ、例の不良さんだ」

不良「げっ! なんでお前がいるんだよ!?」

男「いや、なんでと聞かれても」


妹「オギノくん、おはよ。今日も朝からリーゼントがまぶしいね」

不良「トモちゃんこそ今日もめっちゃカワイイですわ。あっ、荷物持つよ!」

妹「そんなことしなくていいよ。それより教室に行こ、遅れるよ?」

不良「ういっす! ……あっ、能力を返すのを忘れんなよ!」

男「あ、はい」


女「……二人とも普通に仲良さそうですね」 

リーゼントだったかw


男「いつの間に仲良くなったんだろ?」

女「……主人公補正は、能力を持った人の周囲の人間関係にまで影響を与えるのかもしれませんね」

男「あいつとあの不良の関係は、俺のせいでかえっておかしくなってたと?」

女「可能性ですけどね。もともと妹さんは、あなたにゾッコンみたいでしたし」

女「まあ健全な関係になったと思えばいいんじゃないですか?」

男「うーん。ていうかあの不良、俺たちより年下なんだな」

女「そうみたいですね」

女「それより、あの人に能力をかえすってことを忘れないようにしないと」

男「そうだよな。カードをうっかり全部使わないように注意しておかないとな」

男(そう、例の能力を奪うカード。これはかなりレアなものらしい)


男(実は昨日の段階ではこんな作戦を俺は考えていた)


男『あのさ、俺ってばすごい作戦を思いついたんだけどさ』

女『ほうほう、聞きましょう』

男『かたっぱしから能力をカードで奪うってのはどうよ?』

男『俺と仲のいいヤツに限定すれば、それほど難しいことじゃないだろ?』

女『それはちょっと無理かもです』

男『なんで?』

女『このカード、入手するのが難しい上に、そもそもほとんど出回ってないんです』

男『そんなあ』

女『しかも奪った能力は返さないといけないって条件つきです』

男『むぅ』

『むぅ』   ……    男  萌  え  !!


男(結局この作戦は却下となった)


男「やっぱり犯人だって確信がもてるヤツが現れるまでは、迂闊なことはできないか」

女「まあそんな簡単に事件は解決できないですよ――今までみたいには」

男「……だよなあ」

女「言ってみれば今のあなたはモブですからね」

女「しかも、その協力者である私もモブみたいなものですからね」

男「……悲しい」

女「でも大丈夫ですよ」

女「どんなモブだって一度ぐらいなら、輝く瞬間がありますから、きっと!」

男「……そうだな。とにかく突貫あるのみって決めたもんな」

女「そうです。二人でがんばりましょう」

男「おう!」





男(とりあえず行動すりゃどうにでもなると思ったが、俺の考えはあまかった)

男(まず目的の人間に会えないのだ)

男(昼休みに先輩のクラスへ行ったら、どこにいるかわからず会えない)

男(かわりに幼馴染のもとへ行こうとしたら、担任に仕事を押しつけられてこれも失敗)


担任「がはは、悪いなあ。昼休みなのにプリントを持ってきてもらって」


男(この先生は俺の担任。やたら暑苦しい)

男(いろんな生徒とからんでる。もちろん俺も)

男「あはは……これでもう仕事は終わりでいいですか?」

担任「まあ待てよ。先生とあつーいトークをしようじゃないか? ん?」

男「いやあ、ボク、ちょっと用事が……」

担任「なんだ? 主人公補正でも探してるのか?」

男「そうなんですよお……って、はあ!?」

セ、センセー(;゚Д゚)(゚Д゚;(゚Д゚;)ナ、ナンダッテー!!


担任「主人公補正だろ? お前、なくなったんだろ?」

男「な、なんでそれを……?」

担任「ん? このカードを使ったからかな?」


男(能力を奪うカード!)


担任「どんな気分だ? 主人公から脇役以下の存在に落ちた感想は? ん?」


男(なんだこの展開は?)

男(担任にプリントを届けに来たら、いきなり犯人登場って……!)


担任「さっ。先生はまだ仕事があるからな」

担任「お前もまだご飯食べてないだろ? ほら、教室に戻れ」

男「ちょ、ちょっ……!」


男(追い出されてしまった。ど、どうすれば……!?)

.    ( ゚д゚ ).  ̄"⌒ヽ  ガチムチの予感…!
   / ) ヽ' /   、  `、
  γ  --‐ '     λ.  ;
  f   、   ヾ    /   )
  !  ノヽ、._, '`"/  _,. '"
  |   ̄`ー-`ヽ 〈  < _ ヽ.
   !、__,,,  l ,\_,ソ ノ
       〈'_,/ /   /

           | |  イ-、__
        l.__|   }_  l
        _.|  .〔 l  l
        〔___! '--'


男(いや、焦るな。俺の目的は能力を取り戻すこと)

男(カードを持っていたことから考えて、間違いなく能力をもっているのは先生だ)

男(だからカードに先生の名前を書けば……あっ)

男(俺ってばカードをもってない、もってるのはあの子だ)

男(……ヤバイ。よく考えたら連絡先もクラスも知らないじゃん!)

男(それどころか、名前すら知らない!)

男(なんてこった。どうする? どうすれば――)

先輩「大丈夫? 頭おさえて、頭が痛いの?」

男「先輩……?」


男「ボクの頭はいいんです。それより人探しをしてて」

先輩「人探し?」

男「はい。昨日、ボクといっしょにいた女の子、あの子がどこにいるかわかんなくて」

先輩「ケータイで連絡すればいいじゃない」

男「いや、連絡先知らないんです。それどころか名前も」

先輩「あーあ、女の子の友達作りすぎて把握できてないってこと?」

男「いや、そういうことでは……」

先輩「その様子じゃあクラスの場所も知らない感じ?」

男「はい。放課後に待ち合わせはしてるんですけど」

先輩「でも今すぐに会いたい。でしょ?」

男「……はい」

ふ る え て る ?


男(なんとかして今すぐに会いたいけど)

男(先輩に協力を求めるのは……無理だろうな、昨日の様子を見るかぎり)


先輩「仕方ないなあ。探すの手伝ってあげる」

男「へ?」

先輩「ただし、昼休みの間だけだからね」

男「せ、せんぱ~い!」

先輩「こらこら、どさくさに抱きつこうとしないの」

男「あっ、失礼しました」


男(……あれか? オギノから奪った能力のおかげで昨日よりマシな状態になってるのか?)

ォォオオー!!ヽ(゚д゚ヽ)(ノ゚д゚)ノ オオォォー!!
先輩キターーーーーーーーーーーーーーーーーーー!


先輩「とは言っても、うちの学校って広いからね」

先輩「なにか一つでも手がかりがあると助かるんだけど」

男「えっと……フリーペーパー同好会! あの子、そこに所属してるはずです」

先輩「え? 聞いたことないなあ」

男「部員が一人しかいないから、先輩が知らないのも無理ないと思います」


男(生徒会長でもある先輩にすら知られてないとは……)


先輩「まあでも、文化部の部室棟に行けばなにかわかるかも」

男「なるほど! さすがです先輩!」

先輩「ふっふっふ、だてに生徒会長はやってないよ?」

先輩「よし、それじゃあ部室棟に行ってみようか?」

男「え? ついてきてくれるんですか?」

先輩「言ったでしょ? 昼休みの間は協力してあげるって」

男「せ、せんぱい……!」


◆部室棟


女「へえ。それじゃあけっこう長い付き合いになるんですね?」

幼馴染「そうね。保育園の頃からの付き合いだから」

女「いいですね、幼馴染って!」

幼馴染「そうね。それにしても幼馴染特集なんて変わってるわね」

女「今、時代が求めてるのは奇抜なものだと思ってるので」



先輩「あの子じゃないの? ていうかなんで部室に入らないんだ」

男「また変な特集を……いや、そんなことはいいや」

男「おーい!」

女「あっ、これはこれは。どうしたんですか?」

男「キミをずっと探していた!」

幼馴染「……」


女「汗だくですよ? いったいどうしたんですか?」

男「俺の能力を奪ったヤツがわかったかもしれない」

女「ほ、本当ですか!?」

男「うん。だからカードを!」

女「焦らないでください。できればミスをしてカードを失うことは避けたい」

女「その犯人さんのもとへ連れて行ってください」

男「そっか、キミの能力があれば白状させることもできるのか」

女「ええ。動機から手段まで全部吐かせちゃいますよ」

先輩「……なんの話をしてるの?」

男「こっちの話です。先輩、どうもありがとうございました」

先輩「なんかよくわかんないけど、うん」


男(これで終わる。俺は本気でそう考えていた、このときは)





男「せんせいっ!」

担任「……あのなあ。そう何度も扉を叩くんじゃないの」

担任「このパソコン室の扉はただでさえ老朽化で悲惨なことになってるのに」

男「あ、すみません」

担任「いやあ、わかってくれればいいんだよ」

女「って、なに普通におしゃべりしちゃってるんですか」

男「……そうだった」


男「先生。ボクの能力、返してもらいますよ」

担任「……」

女「とりあえず、まずは洗いざらいしゃべってもらいますよ――私の能力で」


担任「ん? なんだ? 先生はなにかしゃべらないといけないのか?」

女「あ、あれ?」

担任「いやいや。キミが誰かは知らないが、学校で能力を使うことは禁止だぞ?」

担任「まして教師に能力を向けるなんてなあ」


女「な、なんで私の能力が……」


男「え? ど、どういうこと?」

女「わかりません。どういうわけか、私の能力が発動しないんです」

男「だ、大丈夫? どこかからだに異常があるとか?」

女「いえ、私のからだにはなんにも異常はないはずです」

担任「ん? さっきからお前たちはなにを言ってるんだ?」


女「落ち着いてください。とりあえずカードに名前を書けば、それで一段落つきます」

男「……わかった」

担任「ん? なんだ? お前もそのカードをもっていたのか」

女「たとえ主人公補正があったとしても、このカードの効果には抗えませんよ」


男(書けた。これで能力は奪えたはず)

男(うん、先生の名前もまちがえてない、これで……)


男「……なあ。主人公補正が戻ったかどうかってわかるのか?」

女「えっと、わかんないです」

担任「ひょっとしてお前たちは勘違いしてないか?」

男「へ?」

担任「先生はお前の主人公補正を奪ってなんかいないぞ」


男「う、嘘だっ!」

担任「ん? 嘘か? 熱く思考を滾らせてみろよ?」

担任「能力を奪える手段があるのに、能力を持ってるなんて教えるか?」

男「……たしかに」

女「……では、どうしてこの人が主人公補正を失ったことを知ってるんですか?」

担任「愚問だな。先生はこいつの担任だぞ?」

担任「熱い視線で生徒を見守っていれば、なんだって見抜けるさ」

女「うさんくさいです」

担任「キミに言われたくないなあ」

女「……むっ」

担任「そうだな。ヒントをあげよう」

男「ヒント?」


担任「この能力を奪えるカードな、誰かにあげたんだよ」

男「……誰かって、誰ですか?」

担任「それを教えてしまったら面白くないだろ」

担任「……どうだ、ちょっとした賭けをしないか?」

男「賭け?」

担任「犯人当てゲームだ。お前の能力を奪ったヤツ、それを探すんだ」

担任「お前の能力を奪った犯人。そいつを見つけられたら、能力は返してやろう」

男「……」


担任「どうする? まあお前に選択肢はないけどな、ガハハハッ」

担任「このゲームを受ける以外、お前に能力を取り戻す手段はないんだからな」

担任「もっとも、今のお前はモブだ。クリアできる可能性は限りなくゼロ」


担任「もう一度だけ聞こう。どうする?」

男「俺は……」

女「引き受けましょう」

男「だ、だけど……!」

男(主人公補正がない今の俺が、このゲームをクリアできるのか?)

担任「俺はキミには聞いてないんだけどな。まっ、べつにいいが」

女「たしかに今のこの人には主人公補正はありません」

女「でも、それでも。主人公になれないわけじゃない」

担任「ほう、面白いことを言うなあ」


女「どんなにみじめでも、みっともなくても。あきらめずに挑戦し続け、誰かのヒーローであり続ける人」

女「そんな人こそが主人公だと、私は思ってますから」


男「俺は……」

女「大丈夫です。あなたはきっとこのゲームをクリアできます」

男「……」

女「それに。たとえ主人公でも、やる前からあきらめてたらモブにも勝てませんよ?」

男「……そうだな。先生、俺、このゲームを引き受けます」

担任「そうこなくっちゃなあ。先生は嬉しいぞ~」

女「せっかくです。ビシッと言ってやりましょうよ、決めゼリフ」

男「え? 決めゼリフ?」

女「ほら!」

担任「ん? なにか言いたいことでもあるのか?」


男(結局決めゼリフはなにひとつ浮かばなかった)




女「ほんとっ! あの先生、頭にきますねっ! ねえ?」

男「……あのさ」

女「はい?」

男「さっきはありがとう」

男「キミがいなかったら、俺はあの場で兆戦を受けることすらしなかったかもしれない」

女「お礼はあの暑苦しい先生に吠え面をかかせちゃってからにしてください」

男「……おう」

女「それから、ゲームの内容ですけど」

男「期間は今日から一ヶ月か。その間に犯人を見つけなきゃならない」

女「まあそれに関しては、最初の方針でいいと思います」

女「やっぱり犯人候補はあなたの親しい人。それでいいと思います。それより……」


女「能力、やっぱりなにも身につけてないですよね?」

男「うん。カードに書いた名前もまちがってないし」

男「先生から能力は奪えていたはずなんだよな、ほんとなら」

女「でも実際には特に変化はなし」

女「そして、もうひとつ、私の能力も誰かに奪われたと考えていいと思います」

男「……ごめん」


女「なに謝ってるんですか?」

女「十中八九、私の能力を奪った人とあなたの能力を奪った人は同一人物」

女「やることは変わりませんし、私は能力がなくなって大丈夫です」

女「とにかくこれから改めて作戦会議をしましょう」


男「おう。……あっ、その前に」

女「はい?」


男「ずっと聞いてなかったけど、名前はなんて言うの?」

女「あれ? まだ私ったら名乗ってませんでしたか?」

女「私の名前は『スズキ ハナコ』と言います。ハナコちゃんって呼んでください」

男「ハナコちゃんね。了解」

女「名前までモブっぽいでしょ?」

男「そんなことないよ。覚えやすい、いい名前だと思う」

女「ありがとうございます――さん」

男「俺の名前、知ってたんだな。ていうか、よく読めたな」

男「俺の名字、たいていの人が読めないし。ひどい場合『キュウサク』とかって呼ばれるのに」

女「余裕ですよ、これぐらい。これからもよろしくおねがいしますね」

男「こちらこそ!」

今日はここまで

支援レスや素敵なイラストありがとう
明日も更新するけど時間はちょっとわかんないです


◆三日後・放課後


男「ない?」

女教師「お前が言ったのは能力を奪えるカードだったな」

女教師「学校と提携してるショップを調べたが、そんなカードはどこにもなかった」

男「ほんとに?」

女教師「なんだその目は?」

男「いやあ、本当に調べたのかなあ……って」

女教師「能力関連の学校提携施設には、一通り電話をかけたんだぞ!」

男「え? そこまでしてくれたんですか?」

女教師「土下座されたからな、どっかの誰かに」

男「あはは……」

女教師「……力になれなくてすまないな」

男「いやいや、こっちこそ失礼なこと言ってすみませんでした」


女教師「あぁ……」

男「なんか先生、疲れてません?」

女教師「ここのところ打ち合せが続いてな。もうすぐ体育祭だろ?」

男「ああ、あの超ハードイベントですか」

女教師「まったく、うちの高校は前期にイベントを集中させすぎなんだよ」

男「いつもみたいに肩でも揉みましょうか?」

女教師「そんなことはしなくていい。私の肩のせいで、お前が手を痛めても困る」

男「先生の肩って本当に硬いですもんね」

女教師「自慢の肩だからな」

男(それにしても先生の俺への対応も変わったな。前だったら――)


女教師『んー、そうだな。せっかくだし揉んでもらうか』

女教師『あぁ、気持ちいぃ……。肩揉みが上手な男はいい旦那になるぞ』

女教師『惜しいな。あと十年私が若かったら……いや、なんにも』


男(って、感じだったのになあ!)

女教師「どうして悶えてるんだ。用がないならもう帰りな」

男「あ、はい。どうもありがとうござい……」


幼馴染「先生、遅くなってすみません」


女教師「おっ、すまないな。実は頼みたいものがあってな」

男「……ハルナ」

幼馴染「あ、いたの?」


男(ぐはっ! なんだ今のセリフ? メチャクチャ効いた!)


女教師「じゃあ期限までに全部書いてもらって、また私のところまで頼む」

幼馴染「はい。それでは私はこれで」

女教師「ああ。二人とも気をつけて帰るんだぞ」





男「今日はいっしょに帰ろう、いや、帰ってください!」

幼馴染「……そっちから帰ろうって言い出すなんて、めずらしいね」


男(……言われてみれば。ていうか一度もなかったんじゃないか?)


幼馴染「さっ、帰りましょ?」

男「……俺といっしょに帰ってくれるの?」

幼馴染「そんなふうに頭を下げて頼まれたら、誰でも帰ると思うよ?」

男「ありがとう! お前ってやっぱりいいヤツだな!」

幼馴染「ふふっ、へんなの」


男(主人公補正を失ってからというもの、話しかけられることが極端に減った)

男(前はなにもしてなくても、誰かしら絡んでくるヤツがいたというのに)

男(まるで俺から存在感がなくなってしまったかのようだ)

男(人に頼みごとをするだけでも、前より苦労するようになった)


男(三日前。ハナコちゃんと今後の方針について話し合った)


女『とりあえず、あなたに私のもってるカードを渡しておきます』

男『全部?』

女『いえ、念のために一枚だけ私がもっておきます』

男『……なあ。気になってたんだけど、このカードはどこで手にいれたの?』

女『企業秘密です。安心してください、悪いことはしてませんから』

男『……』

女『あ、その顔は全く信用してませんね』

男『そうじゃなくて単純に気になるんだよ』

女『ふっふっふ、女の子っていうのはミステリアスのほうが魅力的に見えちゃうんですよ?』

男『答えになってない』


男(しかし、どうやって彼女はあのカードを……)


幼馴染「またボーッとしてる」

男「へ?」

幼馴染「ほら、あんまり車道側に行ったら危ないよ」グイッ

男「あ、ごめんごめん。ちょっと気になることがあってさ」

幼馴染「考えごとなんて、これまためずらしい」

男「あのな。俺だってこれでも色々と考えてるんだよ」

幼馴染「へえ。進路のこととか?」

男「……お前、もう進路とか考えてるの?」

幼馴染「もう私たちも二年だよ? うちの高校は特殊だし、進路は早くから考えておかないと」

男「そうだな? おう? わかってるよ?」

幼馴染「私の前で嘘をついてもムダ。わかるでしょ?」


男(たしかに。コイツに俺の嘘がバレなかったためしがない)


幼馴染「それじゃ私はこっちだから」

男(普通に帰るつもりか。ほんの数日前まではごく自然に俺ん家に来てたのに)


幼馴染『お腹すいたんじゃない? ピカタでも作ってあげようか?』

幼馴染『え? どうしてそこまでしてくれるのかって?』

幼馴染『私がしたいからしてるだけ。理由なんてないよ』

幼馴染『ほーら、早く家に帰ろ?』グイッ


男(ていうかさりげなく手ぇ繋いだりしてたんだな、俺たち)

幼馴染「……なんで涙目になってるの?」

男「いやあ、俺の生活って年中春だったんだなあと思ってさ」

幼馴染「?」


幼馴染「花粉症なんだから、年中春だと困るんじゃないの?」


男「……お前ってさりげなく天然だよなあ」

男「ていうか俺ってば、弁当作ってもらったり勉強の面倒見てもらったり」

男「メチャクチャ世話になってたんだな」


幼馴染「気にしなくていいよ。私が好きでしたんだし」

男「……よし決めた。今からうちに来い」

幼馴染「本当に今日はどうしたの?」

男「いつもお前には世話になりっぱなしだからな。たまには俺がお前に料理を作るよ」

幼馴染「料理、できたっけ?」

男「あー、卵かけご飯とかなら」

幼馴染「それは料理とは言わない気がするけど」

幼馴染「そうね。せっかくだしお世話になろうかな」





男(まさか誰も家にいないとは思わなかった)

男(そして今、俺とハルナは二人っきりで俺の部屋にいる)


男「えっと、どうして俺の部屋に?」

幼馴染「久々に中学のころの卒業写真を見たくなったの」

男「お前だって持ってるだろ?」

幼馴染「私のとちがって、寄せ書きがすごく面白いんだもの」

幼馴染「見て、いっぱい豚さんが書いてある」

男「中学の頃といえば、お前の料理のハマり具合がピークのときか」

幼馴染「そうだね。なにか作るたびに食べてもらってたもんね」

男「おかげで中学のときは、俺、けっこう太ってたよなあ」


男(ヤバイ。なんかメチャクチャドキドキしてる。なんでだ?)
男(今までだって、こんなシチュエーションは何度もあったろ?)


友『お前ってあの子と仲いいけどさ、付き合ったりしねえの?』

男『俺があいつと? なんでだ?』

友『お前らはたから見たら夫婦みたいだぜ?』

男『ただの幼馴染だよ。いっしょにいても、なんも思わないし』

男(あのころのクールな俺はどこへ行ったんだ?)



幼馴染「顔、赤いよ? 熱でもあるの?」

男「え? あ、いや……」

男(か、顔が近い。これってちょっと動けば……!)


妹「ただいまー」


幼馴染「トモちゃんが帰ってきたね。下に行こっか?」

男「あ、はい」





妹「これってもうちょっと漬けておいたほうがいい?」

幼馴染「そうね。そのほうが水分も抜けるし」

男「あのー……ワタクシもなにか手伝いましょうか?」

妹「料理に関してはなんにもできないんだから。座ってて、ジャマ」

幼馴染「三人もいたらかえって作業しづらいもんね」

男「……あい」


男(俺がハルナを家に呼んだのにはもう一つ理由がある)

男(それは犯人探しのために話を聞くことだ)

男(とは言っても、コイツにかぎってはそんなことをするとは思えない)


男(でも俺の部屋には自分から入ったんだよな)


妹「はい、暇ならテーブル拭いておいて」

妹「あと、食器も並べておくこと。いいね?」

男「ういっす」

男(俺のことをもっとも知ってるのはまちがいなくコイツだ)

男(いや、でもなあ。じつの妹が犯人でしたって一番イヤだな)

妹「ねえねえ。もう一回、今のキャベツの千切りやって」

幼馴染「はいはい」

妹「やっぱりハルナちゃんはすごいなあ。あっ、次は私がやるから見ててね」

幼馴染「指だけは切らないようにね」

妹「はーい」


男(あー、楽しそうだなあ)





男「今日はありがと。やっぱりお前の作ったご飯はおいしいや」

幼馴染「こちらこそ。こんな時間までおじゃましちゃって、ごめんね」

妹「いいのいいの。今日はお母さんも帰ってこないし」

妹「それより、また遊びに来てくれるよね?」

幼馴染「もちろん。あと……」

男「ん? どうした?」

幼馴染「ううん、なんでもないの」

妹「あっ! 今度の休みのデート、絶対に結果を教えてね」

幼馴染「……デートって言っても、ただいっしょにご飯食べに行くだけだよ?」

妹「いいからいいから」


男(……デート? なんの話だ?)


幼馴染「それじゃ。また学校でね」

男「……おい」

妹「なに?」

男「デートってなんのことだ?」

妹「ああ、今度の週末にね。ハルナちゃん、クラスの男子と遊びに行くんだって」

男「なっ……!」

妹「半年前ぐらいからずっとアタックされてたらしいよ」

妹「で、今になってようやくデートに行こうって思ったんだって」 

男「へ、へえ。そ、そうか……ソレハヨカッタナア」

妹「うわっ、顔色が気持ち悪いことになってる……って、もしかしてさ」

妹「お兄ちゃんってハルナちゃんのこと好きだったの?」

男「はあ? 好きじゃねえし」


妹「ふーん」

男「いや、マジだから。そういうのじゃないからっ」

妹「……本当は?」

男「……本当にちがうから」

妹「……実は?」

男「……ええ、なんていうか。本音を言うととても複雑な気持ちです、はい」

妹「お兄ちゃんが悪いんでしょ?」

妹「ハルナちゃんみたいなステキな人がそばにいるのに、ずっとあんな態度なんだもん」

妹「そりゃあ一途な人もどっかに飛んでっちゃうよ」

男「……」

妹「ごめん。ちょっと言いすぎたかも」


男「……ビックリしたわ」

男「自分でも想像できないほどのショックを受けてるわ、俺」

妹「みたいだね。顔が福笑い失敗したみたいになってるし」

男「……デートに誘った男、イケメンなの?」

妹「さあ? ハルナちゃんは顔については特に言ってなかった」

男「まあ、いい女にはいい男がつくべきだよ、うん。……あはは」

妹「元気だしなって。あっ、これからコンビニ行こうよ」

妹「失恋記念にハーゲンダッツ、奢ってあげるから」

男「うるせえ! 失恋とはちがうわ!」

妹「はいはい。近所迷惑だからわめかないの」


男(真面目な話、失恋かどうかと言われると微妙な気がした)

男(なにせ俺は、本当にあいつのことが好きだったかはわからなかったし)

男(まあでも、ショックを受けたってことは好きだったのかなあ、やっぱり)


男「……メール? 誰だろ?」

男(そのメールは後輩からのものだった)


後輩『明日の放課後、時間ありますか?
   
   もしよかったらうちの研究会にまで来てほしいんです。
   
   どうかよろしくおねがいします』


今日はここまで

感想レスくれた人、挿絵書いてくれてる人ありがとう
絵を見て自分も一番幼馴染がいいなと思いました


◆次の日


先輩「ごめんね、掃除道具の点検なんかに付きあわせて」

男「ボクが一方的に言い出したことですし、気にしないでくださいよ」

先輩「あんなふうに全力で『お手伝いさせてください』って頼まれたのは初めてだよ」

男「今のボクはやる気に満ちあふれてるんです。なんでも頼んでくださいよ」

先輩「そう? なんか今のキミに頼みごとをするのは、正直気が引けるんだけどな」

男「どうして?」

先輩「目、真っ赤だよ?」

男「……」

先輩「なにかイヤなことでもあったんじゃない?」

男「……まあ、あるにはありましたよ」


男「だけど、いつまでもそれを引きずってるわけにもいかないですから」

先輩「そっか。でも、無理はよくないよ?」

先輩「なにか悩み事とかあるなら、私に相談しなよ」

男「ういっす!」

先輩「……さてと、まだ時間があるなあ」

男「これからなにかあるんですか?」

先輩「うん。進路のことで先生と相談があってね」

男「……進路、ですか」

先輩「いよいよ受験でしょ。それに、うちの高校ってかなり特殊じゃん?」

先輩「このまま上の大学に進んでいいのかなって、悩んでてね」


先輩「まっ、どこへ行っても全力でやりたいことをやるつもりだし」

先輩「どこへ行っても成功する自信はあるけどね」


男(いつでも自信たっぷりだな、この先輩は)


先輩「今、この人は自信家だなって思った?」

男「……もしかして能力使いました?」

先輩「生徒会長である私が校則を破るのはダメでしょ?」

男「……なるほど。やっぱり先輩はすごいです」

先輩「私はね、自分のことを特別すごい人間だとは思わない」

先輩「でもね。自分に秘められた可能性がゼロだとは、これっぽっちも思ってないの」


先輩「……いつか私が言ったこと、覚えてる? キミはすごい人なのかもって」

男「そういえば、そんなこともありましたね」

男(まだ主人公補正があったころの話だな。たしかこんな感じだった)


先輩『キミって一見ダメっぽいのに、ここぞってところで成功するよね』

男『べつに。全部たまたまですよ』

先輩『……正直、キミを見てると羨ましいと思うよ』

男『そうですか? まあ、なんでもいいですけど』


男(……俺ってもしかしてけっこうイヤなヤツだったのか?)

先輩「でも、それって私の勘違いだったのかも」

男「へ?」

先輩「今のキミを見てると、そんなことを言った自分が不思議に思えてくる」


先輩「キミって表情豊かなほうじゃなかったでしょ?」

男「……そうでしたか?」


先輩「うん。でもね、常に自信のようなものが滲み出てた気がする」

先輩「それに比べて今のキミは、表情がコロコロ変わるようになったけど」

先輩「以前のような『なにかこの人にはある』って思わせるものがない気がする」

男(それも主人公補正のせいか?)


先輩「なんでかなって考えた結果ね。今のキミには自信が足りないって結論に至った」

男(的外れではないかも。実際、能力を自覚してからの俺は……)

先輩「男の子は生き様が顔に出るんだから、もっと自分に自信をもちなよ」

男「なるほど。生き様が顔に出る、ですか」

先輩「そうそう。顔つきが変わるだけで、女子の評価も変わるかもよ?」

男「……なんの話ですか?」


先輩「今朝ね、キミの妹ちゃんとたまたま会ってね」

先輩「キミがふられたって話を聞いたの」

男「はあ? べ、べつにふられてはいないですよ!」

先輩「まあまあ。やっぱり失恋っていうのはつらいよね」


男(あの野郎。なにペラペラしゃべってんだよ!)


男「……じゃあ、先輩はボクがふられたのは自信がなくなったからって言いたいんですか?」

先輩「どうだろ? でも私は今のキミのほうが好きかも」

男「へ?」

先輩「今のキミのほうが人間味があるし、なにより表情がコロコロ変わるから見ていてたのしい」

男「……先輩、ボク、惚れてしまいますよ」

先輩「恋愛は惚れるのも大事だけど、惚れされるのも大事なんだよ?」

男「……なるほど」


先輩「それに。捨てる神あれば拾う神あり、だよ」

男「いるんですかね、ボクを拾ってくれる人は」

先輩「それはキミ次第でしょ? あ、そうだった」

男「ん?」


先輩「たいしたことではないけど、一つ気になったことがあってね」

先輩「フリーペーパー同好会なんて、うちの高校にはなかったよ」


男「え?」

先輩「まあでも、同好会なら非公認の可能性もあるから登録されてないだけかも」

男(フリーペーパー同好会がない……?)

先輩「それより、このあとキミは用事があるんじゃないの?」

男「……あっ! ヤバっ! これで失礼します!」





生徒A「僕はフレッシュメロンのしおりんと握手したいです!」

男「あなたの名前はサイトウさんね」

男「はい、じゃあこのカードを持って部屋の中へ入ってください」

生徒A「うっひょお! フレッシュメロンになりにいくぞお!」

男「元気だなあ」

後輩「先輩、お疲れさまでーす。あ、これは差し入れのジュースです」

男「サンキュー。今は時間空いてるの?」

後輩「はい。今の人で第一部は終了です」

男「……しかし、アイドル研究会ってすごいな」

後輩「握手会のことですか? まあ今の時代、アイドル=握手会なところありますからね」


男(彼女がメールをして俺に頼みたかったこと)

男(それは彼女が所属するアイドル研究会のお手伝いをすることだった)


後輩「うちのジャーマネが体調不良になっちゃって、困ってたんですよ」

後輩「また『さすが先輩です』って言えて、私、とっても嬉しいです」

男「はは……」


男(なんだろう。微妙に弄ばれてる気がするぞ)


男「でもこの握手会ってヤツは学校に許可もらってやってるの?」

後輩「まさか。生徒が生徒からお金をとって握手会してるんですよ?」

後輩「学校が許すわけないじゃないですかあ」

男「へ?」

後輩「大丈夫ですよ。部室の前でこそっとやってるぶんにはバレませんから」

男「いや、でもなあ」

後輩「……もし先生たちにうちの研究会が怒られそうになっても、先輩なら庇ってくれますよね?」


男「そんなこと言われても」

後輩「えー、私、また『さすがは先輩です』って言いたいのになあ」

男(……前までのこの子は純粋に俺を褒めちぎってるって感じだった)

男(でも今はまさに媚びてるって感じだ)

後輩「頼みを聞いてくれたら、私にできることならなんでもしてあげるのになあ」

男「あ、あのぉ、あんまりそういう風にくっつくのは、よくないんじゃあ……」

後輩「あはは、冗談ですってば。先輩ったら、顔真っ赤ですよ?」

男「……」

後輩「おっと、そろそろ握手会の再開時間ですね」

後輩「それじゃあ、引き続き受付をおねがいしますね、先輩」

男「……了解」


すまん
今日は短いけど明日が早いのでここで中断します
明日は夕方頃から再開の予定
たぶん次からはいっきにストーリーが動き始めると思います

俺も明日早いので(>>1に対抗してるわけじゃないんだからねっ…!)
後輩だけ描いてみました。先輩と男の絵もまた描きたいな

>>329
「えー、私、また『さすがは先輩です』って言いたいのになあ」

り○ちゃんと違って胸大きめにしておきました
小悪魔め……Σd(゚д゚*)グッジョブ!!
男「俺の主人公補正が消えた!?」 - SSまとめ速報
(http://open2ch.net/p/news4vip-1423303509-334-490x490.png)


――prrr


男(ハナコちゃんから電話か)

男(そういえば、今日は一度も会ってなかったな)


男「もしもし?」

女『あ、私です。今、大丈夫ですか?』

男「おう。今どこにいるの?」

女『ふっふっふ。実は私、うちの高校の系列である――大学に行ってたんです』

男「なにしに?」

女『能力関連のことについて調べようと思って。講義にもぐりこんでました』

男「……キミの行動力はすごいな」

女『ふっふっふ。人間、からだを動かさないと頭も回転しないんですよ?』

男「ほほう」


女『それにしても、大学の授業って面白いですね』

女『特に面白かったのは能力をもっていても、使えない事象についての講義でしたね』

男「そんなことってあるの?」

女『ええ。偶然能力を二つ持っていたとするでしょ?』

女『それら二つの能力が相反する場合、能力が使えないんですって』

男「へえ。そんなこともあるんだな」

女『実はあなたも、能力を二つ持ってたりして?』

男「高校入学前の診断ではナシって判定食らったぞ」

女『あ、じゃあその可能性はないですね』

男「なーんだ。まあ、べつにいいけどな」

女『これから高校に向かいます。今、どこにいますか?』


男「アイドル研究会の部室の前にいる」

女『……なにしてるんですか?』

男「お手伝い」

女『はあ。よくわかんないですけど、とりあえずそっちに向かいますね』

男「おう、待ってるわ」


男(フリーペーパー同好会について聞けばよかったな)

男(……マジであの子って何者なんだろ?)

男(先生たちも存在を知らない例のカードを入手したり、実はすごいヤツなのか?)


「あの~、すみません。もうそろそろ受付時間ですよね?」


男「あ、すみません……って、オギノ!?」

不良「げっ! なんでお前が!?」


男「俺はただの手伝いだけど。そっちは?」

不良「……あー、いや、その、なんだ?」

不良「なんか面白そうなイベントがやってるなあ、みたいな?」

男「へえ」

不良「なんだその顔は? 俺がここに来たのはたまたまだ! 握手会なんて知らねえぞっ!」

男「そっかあ。ここでは握手会が開かれてるのかあ」

不良「うっ……!」

男「ちなみに。この握手会には申込用紙が必要だよ。もってるの?」

不良「……うい」

男「はい、オギノダイキチくん。『マツウラ マヤ』さんとの握手、楽しんでね」

不良「……」


不良「……なあ、このことはトモちゃんには黙っておいてくれないか?」

男「妹に知られるとまずいの?」


不良「不良でワイルドな俺が、スクールアイドルに現を抜かしてることがバレてみろ」

不良「『不良の風上にも置けん』と軽蔑されるかもしれないだろ?」


男「じゃあ帰れば?」

不良「なっ!? た、たしかにそれは正論だ、間違ってない……!」

不良「だが! それはあまりにも、あまりにもっ!」

男「冗談だってば。妹には言わないから、はい」

不良「ほ、本当か!?」

男「ホント。だから早く行きなって。次もひかえてるからさ」

不良「お前……! 意外といいヤツだな!」


男(オギノは涙ぐみながら『めっちゃサンデイ!』と吠えて部室に入っていった)


男「じゃあ次の人は……」


担任「先生が来ちゃったぞ」


男「な、なんで先生がいるんですか!?」

男(ていうか、なんで俺の居場所を知ってるんだ?)

担任「そりゃあ、先生もアイドルが大好きだからなあ」

担任「SPEEDとメロン記念日は先生の青春のイチブだ」

男「……本当はボクに用があるんでしょ?」

担任「そうコワイ顔をするな。先生、悲しいぞ」

担任「だが、お前の言うとおりだ。お前にカードを渡そうと思ってな」

男「カードって……」


担任「ほれ、体育祭用のカードだ」

男「……そっちか」

担任「どうした? ひょっとして例のカードだと思ったのか?」

男「……思ってないですよ」


担任「がはは、それは安心した。先生は人にガッカリされるのが一番イヤだからな」

担任「そのカード、体育祭の一週間前までにクラス全員に記入させて持ってきてくれ」


男「用事はそれだけですか?」

担任「そうだ、それだけだ」

担任「……いや、いちおう聞いておくか。ゲームはクリアできそうか?」

男「……まあ、ぼちぼちでんなあ?」


担任「そうかそうか。先生、期待しておくからな」

担任「しかし難しいだろうな。お前が能力を奪った犯人を見つけ出すのは」


男「主人公補正がないからですか?」

担任「それもある。だがそれ以上に欠けてるものがある」

男「欠けてるもの?」

担任「主人公に敵対する魅力的な敵だ」

担任「魅力的な主人公には魅力的な敵がつきものだ」

男「……えっと、それは先生に魅力が欠けてるって意味になりません?」


担任「正解だ。残念ながら、先生には人を惹きつけるだけの魅力がない」

担任「だからお前にも魅力はない。ゆえにお前は事件を解決できない」


男「なんていうか、暴論って感じですね」

担任「だが事実だ」


担任「だからお前は、たぶん負け犬になるぞ」

男「……」

担任「まっ、言いたいことはそれだけだ」


後輩「あっ、先生。握手会に来てくれてたんですか?」


担任「もちろんだ。先生はお前たちのように頑張る生徒が大好きだからな」

担任「だが、ごめんな。これから野暮用があってな」

後輩「えー、私たちと握手してくれないんですかあ?」

担任「本当は握手どころか、熱い抱擁をしたいんだがな。今度は絶対に行く!」

後輩「じゃあ今度は絶対に来てくださいね、約束ですよ?」

担任「おう! それじゃあ二人とも、またな!」

担任「それから、最近は学校も物騒だから気をつけろよ」

男(なんのことだ?)


後輩「相変わらず熱い先生ですよね、あの人」

男「よかったの? あの先生に握手会のことバレてるけど」

後輩「大丈夫ですよ。あの先生は優しいですから」

後輩「まっ、毎回同じやりとりしていて、約束を守ってくれたことはないんですけどね」

男「……」

後輩「なんか顔が怖いですよ? あ、もしかして嫉妬してるんですか?」

男「へ?」

後輩「だったら安心してください。アイドルは平等にファンを愛しますから」

男「つまり俺も愛されてると?」

後輩「はい、先生と同じぐらいに」

男「えー、あの先生といっしょか」


男「ていうかどうして部室から出てきたの? まだ握手会中でしょ?」

後輩「それは……」

男「ん?」

後輩「いいですか? どんなスーパーアイドルだって、24時間アイドルではいられないんですよ?」

男「なんの話? ていうか結局なにしに行くの?」

後輩「……先輩のバカ」

男「へ?」

後輩「つまり、私はトイレに行くんです!」

男「し、失礼しました……」

後輩「もうっ! 二度と『さすがです先輩』って言ってあげませんからね」


男(そう言うと彼女は行ってしまった、トイレへと)


男「はい、じゃあ次の人は……」

友「あれ? お前ってアイドル研究会に所属してたっけ?」

男「……オギワラ。俺はちょっと手伝いを頼まれただけ」

友「へえ。いいなあ、俺もアイドル研究会の手伝いしてえな」

友「……あ、そのカードって体育祭に必要なヤツ?」

男「うん」

友「うちの体育祭は毎回クソハードだよな。能力を使うから当然だけどさ」

男「使うって言っても一部だけじゃん」

友「そうなんだよなあ。俺みたいな地味能力は特に活躍しないからなあ」

男「お前の能力って、近くのものを引きよせるヤツだよな?」

友「そっ。しかも意識しないと勝手にものを引き寄せるんだよ」


友「ていうか、お前なんかとしゃべってる場合じゃないんだよ」

友「はやく受付済ましてちょ」

男「はいはい。『オギワラ タケシ』さん、部室に入ってどうぞ」

友「きゃっほーい!」

男(……みんなアイドル好きなんだな。いや、俺もカワイイ子は好きだけど)


後輩「せ、先輩……あの……」

男「トイレ済んだんだ? ……うしろの人は誰?」

後輩「トイレは……って、そうじゃなくて」


風紀委員「オレは風紀委員のものだ」


男「風紀委員って、あの風紀委員?」


男(でかっ。なにを食べたらこんなにデカくなるんだ?)


男「もしかして……」

後輩「この人たちに握手会をしてることがバレました。ただ……」

男「ただ……?」

後輩「先輩に会わせてくれたら、握手会のことは見逃すって言われて」

男「なんで俺?」

風紀委員「理由はどうでもいいんだよ。今から俺と戦え」

後輩「ちょ、ちょっと待ってください。戦うってなんですか?」

後輩「先輩に会わせたら、この件は見逃してくれるって言ったじゃないですか」

風紀委員「うるせえバーカ! そんな都合のいい話があってたまるか!」

後輩「ばっ、バカって……そんな言い方しなくても……!」


風紀委員「どうする? 俺と戦えば、コイツらアイドル馬鹿のことは見逃してやるよ」

後輩「バカって……。言わせておけば……!」


男(こういう場合、俺はどうすればいいんだ?)


後輩「……これはあくまでうちの研究会の問題です。だから、先輩は関係ないです」

後輩「先輩は帰ってください。巻きこんですみませんでした」

男(そういえば前にこんなことがあったな)

男(あのときこの子は、普通に俺を頼ってきた)


後輩『先輩にしか頼めないんです! どうか助けてください!』

後輩『……本当ですか! さすが先輩です!』 


男(ひょっとすると、今の俺は頼りなく見えるのかもしれない)


男「俺が戦えば、今回の件は見逃してくれるんでしょ?」

後輩「先輩……?」

風紀委員「ああ、見逃してやるよ。ただし俺に勝ったらな」

男「あ、やっぱり勝たなきゃダメなんだ」

風紀委員「当たり前だろうが」

後輩「先輩。私の直感が言ってるんです」

後輩「先輩は負けるって。だからやめたほうがいいですって」

男「まあ見てろって。俺の大活躍をさ」


男(そうだ。主人公補正なんてなくても、俺はやれるってことを証明してやる)


風紀委員「おっしゃいくぞ!」


男(今回も結論から言おう。またボコボコにされた)


男(まさか火の能力を使ったら、あっちが水の能力なんて……)

男(しかも、ごく普通の格闘でも手も足も出ないし)


後輩「先輩っ! 大丈夫ですか?」

男「うぅ……」

風紀委員「想像以上に弱いな、お前。能力を使ってもこの程度とは」

後輩「先輩は悪いことしてないんですよ。ここまでしなくたって……!」

風紀委員「ケンカを吹っかけたのはこっちだが、受けたのはそいつだ」

風紀委員「俺だけが悪いわけじゃないだろ?」

後輩「……わかりました。今回はこっちに全面的に非があります。だから……」


男(ちくしょう。また俺は負けるのか……)

男(くそっ。主人公補正がないと、俺はなんにもできないのかよ)


男(だけど、これ以上やるとマジでヤバイかもしれない)

男(本当にこれで終わっていいのか――)



女『たとえ主人公でも、やる前からあきらめてたらモブにも勝てませんよ?』



男「……ったく、なんであの子の言葉が浮かんでくるんだよ」

後輩「先輩?」

風紀委員「マジかよ。まだ立ち上がんのか」

男「いいことを教えてやるよ。俺はまだやってないんだよ、本気ではな」

風紀委員「なにそれ? 負け惜しみ?」

男「やってみりゃわかる」

男(コイツに勝つ方法はある。だけどそれには……)


女「――お困りのようですね」


男「ハナコちゃん!」

風紀委員「誰だ?」

女「私ですか? 私はフリーペーパー同好会のたった一人の部員、スズキハナコです」

女「そして、彼のピンチに颯爽と現れるお助けウーマンです」


女「すみません。待たせちゃって」

男「へへっ、待ってたよ」

風紀委員「……なんかイヤな雰囲気だな。俺、もう帰っていい?」

女「ダメですよ。まだ勝負は終わってませんよ、ねっ?」

男「おう!」

風紀委員「はあ? もう勝ったから終わりだろ」

風紀委員「能力を使った件、アイドル研究会の件、すべて教師連中に報告させてもらう」


男「俺が勝ったら、そのことは見逃してくれるんだろ?」

風紀委員「馬鹿なことを言うな、もうこれは終わった勝負だ」

女「ふーん。もしここで勝負をやめたら、あのこと言っちゃおうかなあ」

風紀委員「あのこと?」

女「風紀員が密かに働いてる悪事のことですよ」

女「たとえば、委員会費の横領とか」

風紀委員「なんでそれを……?」

女「ほかにも色々とあなたたちの黒い噂、耳に入ちゃってますよ?」

風紀委員「お前……!」

男「……キミは敵に回すと怖そうだな」

女「安心してください。私はいつまでもあなたの味方ですから」


女「さあ、どうしますか?」

女「この勝負、引き受けてくれるなら、あなた方のことは私の胸に閉まっておいてもいいですよ?」


風紀委員「……この男が俺に負けたときはどうなる?」

男「その場合は潔く負けを認めるよ。もちろん、今回の件をチクってくれてかまわない」

風紀委員「自信満々だな。いいだろう、返り打ちにしてやるよ」

男「よし、これで勝負は成立だな」

女「当然、作戦は考えてあるんですよね」

男「もちろん。それとあの風紀委員の名前、わかる?」

女「私を誰だと思ってるんですか?」

男「聞くまでもなかったな」


女「彼の名前は『ハヤシ ハジメ』です。都合良く、書きやすい名前です」

男「それはついてるな」

男「じゃあ、名前を書いてくれ。ただし」

女「……どうしてそんなふうに?」

男「いいから。これで絶対にうまくいく。あと、これも借りるから」

男「――任せたよ」

女「任されました!」

男「おっしゃあ! 行くぞぉ!」

風紀委員「待たせやがって……一撃で決めてやんよ!」


男「くらえ! 俺の能力――」

風紀委員「バーカ! 俺の水の能力の前で火は無意味なんだよ」

男「じゃあ出してみろよ!」

風紀委員「はっ! 言われなくても……って、な、なんだこれは!?」

後輩「水じゃなくて霧が出てる……!」

風紀委員「なんで水ではなく霧が……!」


男(ハナコちゃんとの電話での会話で、能力の相殺の話を聞いて思いついた)

男(対になる能力はきちんと発動しない)

男(だからカードで能力を渡せばうまくいくと踏んだ。超火力の火に水、相性は最悪だ)


男「そしてさらに、こっからが俺の必殺技だ」


男(濃すぎる霧のせいで視界は真っ白。だけどこれでいい)


女「――書けました!」

風紀委員「チッ、なにも見えない……!」

男「くらえ、必殺――」

風紀委員「お、おえっ! なんだ目が!?」


男(最後の仕上げ。それはハナコちゃんのメガネによって視界を狂わせること)

男(霧で視界は閉ざされた。だけど、カードでオギワラの能力を敵に渡した)

男(周囲のものを引きつけてしまう能力を)

男(そしてそれはメガネに限定されない。もちろん俺自身も――)


男「これで終わりだ……!」

風紀委員「なっ……!」


男(――このパンチで、俺の勝ちだ)





男「……ん? ここは……」


後輩「先輩! よかった、目がさめたんですね」


男「へ? なんで俺ってば寝てるの? ていうかここは?」

後輩「保健室です。あの、記憶ないんですか?」

男「まったく」

後輩「先輩、途中までは惜しかったんですけど、風紀委員さんに結局やらたんです」

男「へ? たしかにパンチは決まったはずじゃ……」

後輩「霧のせいでよく見えなかったんですけど、先輩のパンチ、弱かったみたいで」

後輩「あのあと一撃でやられてました」

男「そんなあ」


男「じゃあ握手会の件とかは……!?」

後輩「あ、それなら心配ないです。スズキさんでしたっけ?」

後輩「あの人が交渉してくれたおかげで、黙ってもらえることになりました」

男「……そっか。よかった」

男「相変わらずあの子はすごいな」

後輩「あの……先輩?」

男「なに?」

後輩「その、私のせいでこんなことになって……本当にすみませんでした」

男「あ、いや、まあね? 結果的に何事もなく終わったんだしさ」

男「よかったんじゃない?」


男「それにキミの言ったとおりだったし」

後輩「言ったとおり?」

男「ほら、絶対に俺が勝てないって直感してたじゃん」

後輩「やっぱり止めるべきでした! 本当にごめんなさい!」

男「いや、そんなに謝られると逆に虚しくなるからやめて」

後輩「でも……。あっ、じゃあせめて私にできることはありませんか?」

後輩「私、なんでもしますよ?」


男(なんでもします、か。正直これほど胸が高鳴るセリフもない気がする)


男「でも、それはいいや」

後輩「そうですか。じゃあ、わかりました」

男「意外とあっさり引き下がったな!」

後輩「いやあ、そこまで遠慮されたらべつにいいやと思って」


後輩「それに。申し訳ないけど、やっぱりなんでもはしてあげられないです、先輩には」

男「……正直だな」

後輩「ごめんなさい」

後輩「やっぱりなんでもする、なんて簡単に言っていいことじゃないですよね」



女『どうかおねがいしますっ。できることならなんでもするんで!』



男「……そうかもね」

後輩「だけど手伝えることがあるなら、遠慮せずに言ってくださいね?」

男「うん、そのうちなにか頼むかも」

女「ただいま戻りました。あっ、復活したんですね!」

男「……おう」


後輩「じゃあ私はジャマになるといけないので。あ、先輩」

男「?」

後輩「先輩は結果的に勝負には負けてしまいました。でも」


後輩「やっぱり、さすがは先輩です!」


男「……ありがと」

後輩「それじゃ、失礼しました」

男(さすがは先輩です、か)

女「なにニヤニヤしてるんですか?」

男「え? い、いやべつに?」


男「その……ありがとな、色々と」


女「本当ですよ。もう風紀委員の人たちを脅したり、先生たちを騙したり大変でしたよ」

女「しかもあなたは負けちゃうし」


男「あ、あはは……」

女「それから能力は全部カードを使って戻しました」

女「火の能力もあなたのもとへと返しておきましたよ」

男「ほんと、なにからなにまでありがとう」

女「いいですよ。なんでもするって約束しましたから」

男「……」


女「どうしました? 顔が真っ赤ですよ?」

男「はあ? そんなことねえし!」

女「なんで怒るんですか?」

男「……ごめん」


女「まっ、とりあえずこれからもどんどん私を頼ちゃってくださいね?」

女「あなたは私がいないとダメみたいですから」


男「……どうやらそうみたい、否定できない」

女「もしかして負けて弱気になっちゃってます?」

男「いや、むしろ逆だ。キミがいるなら俺はガンバれそうな気がする」

女「嬉しいことを言ってくれますね」

男「……あのさ」


男「今度の週末、時間ある?」

女「週末ですか? ちょっと待ってくださいね、予定を確認します」

女「ていうか週末になにかあるんですか?」

男「……いつもキミには世話になってばかりでしょ?」

男「だから、その、お礼がしたいと思って……」

女「なんと! じゃあ食事にでも連れて行ってくれるんですか?」

男「う、うん。もしよかったら、だけど。もちろん奢る」

女「行きますよ。ええ、予定を全部キャンセルしてでも行っちゃいますよ!」

女「私、下北沢のワッフルカフェか永福町の和菓子屋に行きたいです!」

男「わかったから、顔近いってば」

女「じゃあもう予定帳に書いちゃいますから、ドタキャンとかなしですよ?」

男「どんなことがあっても絶対に行くから大丈夫」


女「楽しみだなあ。これは寝れない夜が続いちゃいそうです」

男「当日、寝不足とかイヤだからな?」

女「私にかぎって、そんなことはありませんから」

男「あ、そうだ。今のうちに予約しておくか」

女「名前、まちがっちゃダメですよ?」

男「わかってる……ん?」

女「どうしました?」


男(なんだろ。なにかが引っかかるな。なんだ?)


女教師「……お前ら、青春を謳歌してるんだな」


男「先生っ!? どこから出てきてるんですか!?」

女教師「見てのとおりだ。ベッドの下だ」


男「なんでこんなとこにいるんですか?」

女「私が呼んだんです。先生、ある程度の傷なら癒せるんですよね、能力で」

女教師「ああ。治癒のついでに驚かせようと思ったら、とんでもなく出てきにくい雰囲気になったからな」

男「いや、普通に治してくださいよ」

女教師「高校生活よりは大学生活のほうが楽しい。それは間違いない」

男「はい?」


女教師「だけどな。一番恋が甘酸っぱいのは高校生活だ」

女教師「だからこういう機会は大切にしろよ」


女「はい、わかりました」


男(いちおう人生の先輩の言葉でもあるので、受け取っておこう)





担任「どうだ? そろそろゲームも膠着状態になるころだ」

?「……」

担任「正直な、これ以上はあまり面白くないんだ、先生としてはな」

?「……」


担任「ひとつ、仕掛けを打ってみないか?」

担任「そう不安そうな顔をするな。先生も協力してやるから、な?」


?「協力したら?」

担任「面白いものが見れるのは間違いない」

?「先生にとっては?」

担任「ああ。お前にとってはどうか知らないがな」

?「……」


◆一週間後


女「いやあ、この前のパンケーキ、また食べたいですね」

男「……この前遊びに行ったときに言おうと思ったんだけどさ」

女「なんです?」

男「横浜中華街でパンケーキを食べた」

男「そのあと下北と永福町でもワッフルと饅頭を食った。おかくしない?」

女「そんなことないですよ。女の子には別腹が複数存在してるんですから」

男「……そう」

女「また行きましょうね」

男「……おう」

女「あっ! あの人は……!」



幼馴染「……」


男「うっ……!」

女「どうしたんですか?」

男「べ、べつに。特にこれといって思ってることはないよ?」

女「ふーん。あ、もう一人隣にいるのって、あなたのクラスの先生じゃないですか?」

男「な、なに!?」

女「あ、先生のほうは行っちゃいましたね」


妹「二人でなにを見てるの?」


女「わおっ!」

男「お前は毎度、俺の背後から現れるな」

妹「……あっ、お兄ちゃんってばハルナちゃんのこと見てたの?」


妹「もうあきらめなって。お兄ちゃんには悪いけど……」

男「や、やめろぉ! その話をするな!」

女「ほうほう。なにかにおいますね」

女「妹さん、詳しくお話を聞かせてもらってもいいですか?」

妹「実はですね……あ、お兄ちゃんはあっち行ってて」ドン

男「お、押すなよ……!」

幼馴染「あっ……」


男(ハプニング! よりによってなんでこっち見てんだよ)


男「あー、うん。おはよう。最近の調子はどうだ?」

幼馴染「声がひっくり返ってるよ?」

男「俺のことはいいんだ。それより、うちの担任と話してたみたいだけど?」

幼馴染「たまたま声をかけられたから、ちょっと進路のことで相談してたの」

男「ほ、本当に?」

幼馴染「こんなことで嘘をついてどうするの?」

男「……へえ」

幼馴染「そういえば最近、いろんな人のお手伝いをしてるらしいね」

男「まあな」


男(知り合いに接触するために、片っ端から手伝いをしてるからな)


幼馴染「ちょっと顔つきが前とちがう気がする」

男「そうか?」

幼馴染「うん。なんだか男らしくなった気がする」

男「……誰もそんなこと言わないぞ?」

幼馴染「ずっといっしょにいる私だから、気づけるのかも」

男「……」


幼馴染「っと、はやく教室に行かないとね」

幼馴染「今日は体育祭の練習で、一限から体育だしね」


男「……そうだな」

幼馴染「クラスはちがうけど、今回の体育は学年合同だからがんばろうね」


男(ハルナはバイバイと手をふって去っていった)


妹「あらら、挨拶する前に行っちゃったよ」

女「残念。私もインタビューしたかったんですけど」

男「……なにをインタビューするんだよ」

女「恋する女子高生特集ってことで。女子ウケを狙っていこうと思ったんですよ」

男「……ふーん」

妹「お兄ちゃん、まあ元気出しなって」

男「べつに。気にしてないってば」

妹「……意外。ほんとに気にしてなさそうだね」

男「いつまでもクヨクヨしてちゃ、男らしくないからな」

女「あなたも成長するってことですよね?」

男「……おう」

妹「……?」





男(この一週間、俺は自分でも自分を褒めたくなるぐらいには行動してきた)

男(だけど、いまだに手がかりらしい手がかりはない)

男(どうすれば……)


友「おーい、なにしてんだよ?」

男「……ナンプレ」

友「ナンプレ? なんで?」

男「いや、頭の回転をよくするためにやれることないかなって探したんだよ」

男「で、今日からこれをやろうと思って」

友「なんのために?」

男「犯人を探すための脳みそ作りのため、かな?」

友「はあ? ていうかお前、体育に遅れるぞ?」


男「ほんとだ。俺ってばなんでこんなに集中してたんだろ」

友「先行くぞ」

男「ちょい待ち。俺も行く」


担任「おっ、お前らまだ教室にいたのか?」


男「……!」

友「あ、先生。先生こそ、授業はいいんすか?」

担任「ああ、これから向かうところだ」

担任「そうだな。オギワラは先に行っててくれ。すこし二人で話がしたい」

男「……ボクも体育に行かないと怒られるんですけど?」

担任「安心しろ。今日は先生も体育に参加するからな」

担任「それよりもだ。ある女子生徒について気になることがあってな」

男「女子生徒?」


担任「スズキ・ハナコについてだ」


男「彼女がどうかしたんですか?」

担任「お前は気にならないのか?」

男「なにが?」

担任「そうかそうか。まだ主人公感覚が抜けてないんだな」

担任「お前は彼女の存在を都合のよすぎるものだと思わないのか?」


男(たしかにそう思って、彼女自身にたずねたことはある。だけど)

男(彼女は主人公補正がなくなったからこそ、俺に出会ったと言った)

男(それに、彼女には俺に協力する目的がある)


担任「先生はな、お前の腹のうちがわかるぞ」


担任「彼女は決して都合のいい存在なんかじゃない。そう言いたいんだろ?」

男「……そうですよ」

男「今のボクには主人公補正はない。だから間違ってはいないでしょ?」

担任「じゃあ、主人公補正のないお前に近づいてきたのはどうしてだ?」

男「それは、あの子には目的があるから……」

担任「どんな?」

男「フリーペーパー同好会を部活に昇格させるっていう……」

担任「スズキハナコの言葉が正しいという証拠は?」

男「それは……」

担任「まあいい。信じたいのなら、信じればいい」

男「……」

担任「あっ、例のカードは持って行けよ。誰かに盗まれたら大変だ」



女「あっ、遅かったですね。もうグループごとにわかれてますよ?」

男「……うん」

女「私の顔になにかついちゃってます?」

男「いや、そんなことはない。さっ、体育に集中しなきゃな」


先輩『フリーペーパー同好会なんて、うちの高校にはなかったよ』


男(そうだ。俺はまだ聞いてなかったんだよな、その件については)


友「おーい、マユゲ! 俺といっしょのグループだぞ」

男「誰がマユゲだ! 普通に呼べよ!」

友「体育祭の練習でカリカリすんなよ。せっかく学年合同の練習なんだぜ?」


◆三十分後


友「最後にピラミッドを作るだろ?」

友「で、ハルナさんの能力でピラミッドを凍らせるってのがいいと思うんだよ」


生徒B「涼しそうではあるけどなあ」

生徒C「ていうか、凍らされる身にもなれよ」


幼馴染「私もそれはちょっと……」

女「面白そうですけどね。ねえ?」

男「俺はイヤだな。いくら夏とはいえ、つらすぎだろ」

友「じゃあお前の能力で、最後に火を吹くのは?」

生徒D「それならいいんじゃない? 特効って感じでダンスのシメに持って来いでしょ」

男「まあ、まだそれなら……」

友「おっし! それでいこうぜ!」


男(うちの高校の体育祭は、数少ない能力を使うイベントだ)

男(しかもクラス対抗ではなく、学年対抗。だからメンバーはバラバラに分けられる)

男(今日の体育では、学年で組んだグループで披露する、ダンスの練習をする)


女「そういえば、カードは持ってます? 体育だからって教室に置いてませんよね?」

男「さすがにあのカードを置いてったりはしないよ」

男(本当は担任に言われるまで、置いてく気満々だったけど)


友「とりあえず最後のほうから練習していこうぜ。そのあと、ペアで練習。オッケー?」

男「わかった」


担任「悪い、スズキ」


女「……はい」

担任「先生、職員室に実は忘れ物をしてな。今は手が離せないから、代わりに持ってきてくれないか?」

男(先生?)


男(そのあと、渋々ハナコちゃんは体育館を出て行った)

男(それから十分ほどして彼女は戻ってきた)


女「うわっ。また火を出してる!」

男「だ、だって……はぁはぁ……」


友「なんかさ。ただボウーっと出すだけじゃ面白くなくね?」


女「なるほど。こだわってらっしゃるんですね」

男「ていうか先生に頼まれた用事はすんだの?」

女「はい。ストップウォッチを取りにいかされました」

友「うーん。とりあえず最後の練習はここまでにするか」

友「次はペアを組んでの練習な」


女「ペア練習、私とやってもらっていいですか?」

男「……うん、こちらこそよろしく」


男(そしてたっぷりペア練習をしたあと、ダンスの最後の練習をすることになった)


友「はい! そこで火を出してくれ!」

男「了解……って、あれ?」

女「どうしたんですか? あっ、もしかしてバテちゃいました?」

男「いや、火が出ない……」

幼馴染「さすがに何回も能力を使いすぎたのかな?」


男(ちがう。そうじゃない。この感じは……)


女「まさか……」


男(そのまさかだった。俺は能力を失っていた)


男「なんで……!」

女「落ち着いてください。まずはカードの確認を」

友「おいおい、どうしたんだよ?

男「悪い、ちょっとダンスの練習、勝手にやってて」

男「手提げ袋に入れてきたカードは…………なんだこれ?」

女「……これってあのカードじゃなくて、体育祭用のカードですよね?」


男(どうなってる? 俺はたしかにあのカードを袋に入れてきたはずなのに!)


女「……とりあえず、もうすぐ授業も終わります」

女「すぐにカードの有無を確認するために教室に戻りましょう」


男(先生が……先生が仕組んだのか?)


担任「……」


◆放課後


男(俺は能力を失った)

男(それどころか持っていたカードのすべてを失った)


女『現時点ではどうしようもありません』

女『ひとまず落ち着いて、打開策を考えましょう』


担任「どうした? ずいぶんと落ち込んでるようだが?」

男「……先生がやったんですか?」

担任「ん? 先生に向かって、そんな目つきはよくないんじゃないか?」

男「答えてくださいよ。カードと能力を奪ったのは……」

担任「このプリントを見るんだ」

男「……これは?」

担任「あの体育館は能力用の施設として特別に作られている」

担任「そして人が出入りした時間を正確に記録している」


担任「見ればわかると思うが、授業中、体育館から出て行ったのはたった一人だ」

担任「誰かは尋ねるまでもないな?」

男「……嘘だ」

担任「声が震えてるぞ? なにを怯えている?」

担任「先生は体育館を授業中に出て行った生徒を教えてやっただけだぞ」


男(授業中、体育館を出て行ったたった一人。それがスズキ・ハナコ)

男(カードに名前を書くためには、俺に見られない必要がある)

男(そして彼女は……)


男「ハナコちゃんは、まさか先生の……」

担任「どうだろうなあ? まあ可能性はあるかもしれないな」


担任「さて! 先生は忙しいからそろそろ行くぞ」

担任「お前も青春を満喫をするのもいいが、学生の本分を忘れるなよ」

男「……」


男(たしかに気になってることはあった)

男(俺に協力する理由もそうだし、カードの入手方法についてもそうだ)

男(いや、そもそも。なんで彼女は例のカードを……)


女『いえ、念のために一枚だけ私が持っています』


男(あれは何のためだ? それだけじゃない)

男(彼女の能力。人のしゃべらせたいことをしゃべらせる能力)

男(あの能力は本当に先生に奪われたのか? タイミングが良すぎないか?)

男(そして奪われた演技だったとしても、俺には決してバレない)


先輩「よかった。まだ教室にいたんだね」

男「……先輩?」

先輩「ちょっ……顔色が真っ青だよ。保健室に行かなくて大丈夫?」

男「い、いえ。大丈夫です……」

男「ボクになにか用事があるんですか?」

先輩「用事、まあそうだね。言っておこうと思うことがあってね」

男「……なんですか?」


先輩「キミと仲のいい女の子、スズキ・ハナコさんについて」


先輩「フリーペーパー同好会のことでも引っかかったからね、ちょっと調べたの」

男「……」


先輩「……いなかったの」

男「はい?」



先輩「スズキ・ハナコ。調べたけど、そんな名前の生徒はこの学校にいないんだよ」



男「……」


女『安心してください。私はいつまでもあなたの味方ですから』


男(スズキ・ハナコ。彼女はいったい何者なんだ?)

今日はここまで
無駄に長くなって申し訳ない
あと一回か二回の更新で終わる

とりあえず
皆さんお待ちかね、熱血教師「担任」描いてみました
男「俺の主人公補正が消えた!?」 - SSまとめ速報
(http://open2ch.net/p/news4vip-1423303509-442-490x490.png)

体育科だったっけか?

風紀...いや、なんでもない

個人的にカラーが見たい

>>443
>>208-213とか>>406を読んで勝手に想像したんだ
みんなのイメージとは違ったか?すまぬ

>>444
風紀委員か……こいつは読んでてイメージ湧かなかったんだがちょっと描いてみるか

>>445
色塗りだすと話のペースについていけなくなるかと思って白黒で統一してたんだが
>>1来そうにないしやってみようか……その前に風紀委員デザインしてみるから気長に待っててください

>>406
  「  す  こ  し  二  人  で  話  が  し  た  い  」
男「俺の主人公補正が消えた!?」 - SSまとめ速報
(http://open2ch.net/p/news4vip-1423303509-446-490x490.png)

風紀委員できた
お好きな方を選んでください
男「俺の主人公補正が消えた!?」 - SSまとめ速報
(http://open2ch.net/p/news4vip-1423303509-447-490x490.png)

>>442
うめええ

>>447
左の風紀委員って、ぬら孫にいなかった?w

>>448
さんきゅーσ(*´∀`照)
>>449
まじすかw読んだことないんですが被っちゃいましたねw
>>1の好みはどっちでしょうか(期待
男「俺の主人公補正が消えた!?」 - SSまとめ速報
(http://open2ch.net/p/news4vip-1423303509-450-490x490.png)

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