まゆ「ソウシソウアイ」 (32)
注意
※地の文
※コレジャナイ感
※まったり不定期更新
以上の3点を踏まえてお読みください。
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16歳になる年、まゆはモデルの撮影をしていた。
事務所にも入って、正式なモデルとしてのきちんとした仕事。
続けていくうちにそれは既に日常の一環となって、撮影場所やカメラマンさん、スタッフの皆さん。
色んな人や、物が、見慣れたもので溢れていた。
変化があるとすれば、たまに朝起きて作った料理を差し入れすると凄く喜ばれたり、逆にお菓子の差し入れを貰ったり。
そんな日々が続く、そんな毎日。飽きていたなんて、思ってもない。
ただ……何かが足りなかったんだと思う。
その何かが気づけていなかっただけで、ただ……それだけで。
同じ年のある日、その日は丁度梅雨が始まる前の頃。
まゆが今までの生活を振り返って『何も無い日々だった』と思えるようになった日。
その日はいつもの撮影場所じゃなくて野外での撮影だった。
しかも、アイドルと一緒の合同の撮影らしい。
どんな子が来るんだろう、と少しだけワクワクしいたら、撮影場所に一足早く着いてしまった。
それでもスタッフさんは相変わらず全員揃っていて、凄いなぁって思ってると、見知らぬ男性が1人スタッフさん達の中に紛れ込んでいた。
誰だろうと思って近づいて、ふと目が向き合う。
「あ……やぁ、こんにちは。君がまゆちゃん?」
「は、はい。そうですけど……」
彼は私の事を知っているらしい。
私は彼をどう呼んでいいか分からず、言葉が続かなかったけれど、彼はすぐに慌てた様子で名刺を差し出してきた。
「私は遠くから来たこういう者で……って、硬苦しいかな? ともかく、アイドルのプロデューサーをやってるんだ」
第一印象は気さくそうな雰囲気。
返せる名刺は無いけれど、会釈して名刺を見て、大事に懐にしまった。
「今日だけだけど、よろしくね。まゆちゃん」
顔を上げると、彼は満面の笑みでそう言って……
その笑顔を見て、まゆの胸の中で何かが弾けた。
突如、胸の奥底に襲いかかってくるこの緊張感。
さっき、はっきりと音が聞こえた……そして、回らない頭で考えてすぐに分かった。
これはきっと、恋に落ちた音……まゆは、この人に一目惚れしちゃったんだと。
その音を聞いてから、今日はあの人を見ると胸がドキドキするような気がする。
よく分からないけど、ちょっとだけ息が止まりそうになる。
……間違いない、これが『恋』なんだと。
まゆが今まで一度も経験したことの無かった事。
感じたことのなかったこの感情を抑えようなんて、ありえない。
そして、1つの思いで頭が一杯になる。
もっとあの人の近くに居たい。
こんな離れた場所じゃなくて、もっと近くで。
その日の撮影はよく覚えてなかった。記憶があまり無いと言ったほうが正しいかもしれない。
内容だけじゃなくて上手くいったのか、それともあんまり良くはなかったとか、それすらも覚えていない。
覚えてたのはただ1人、あの人の事だけ。
特に仕事が終わった時の、名残惜しそうな表情で手を振ってくれた事。
何故あんな表情をしていたのか、よく分からなかったけれど……
まゆはその時の顔が頭に焼き付いて離れなくて、むしろ離れないことが嬉しかった。
だって鮮明にあの人の顔を思い浮かべれるのだから。
撮影が終わってから、一目散に家に帰って彼から貰った名刺の事務所を調べる。
……分かったことは、都会の方で本当にまゆの居る場所から遠い所。
有名どころと比べて見劣りは当然しているものの、まゆにとってはその事務所の存在そのものが何よりも魅力的に見えた。
だって、あの人がいるから。
それだけで行く価値はあるのだから。
場所を調べた後は、すぐ行動に移ることにした。
理由は……もたもたしていられなかったから。
この気持ちがいつ収まってしまうのか分からなくて、収まってしまうのが怖くて。
次の日に事務所の人に辞めることを伝えると、驚かれたり、悲しまれたりした。
ちょっとだけ申し訳無いなと思ったけれど、事務所の人達もまゆの思いを大事にしてくれて、何も言わずに辞めさせてくれた。
事務所の皆さん、ごめんなさい。
それでも、まゆはあの人の所に行きたいから。
最後に、いつも以上に力を入れて作った差し入れの料理を振舞って……
スタッフさんの見送りの中、お世話になった事務所から離れた。
あの人の居る事務所はここから遠い都会にある。
自宅からなんてとてもじゃないけど行き帰りは無理だから、上京をする準備をして。
家族にはちゃんと話して、同意も得ることができたから、後はまゆ自身の勇気だけ。
慣れない乗り物に揺られて、あの人の顔を思い浮かんで都会へ向かった。
着いた時にまず目に入ったのは、全く違う景色。人がぐるぐる動いて、目が回って混乱しそうになる。
迷いそうだったけれど、唯一頼れる地図を頼りに人ごみの中をひたすらに進んだ。
……駅の中が一番迷ったのは、仕方ない事だと思いたい。
なんとか外に出て、タクシーなんか使っちゃったりして、そして見つかった1つの事務所。
間違っていないか何度も何度も、一字一句確認をする。……ここで間違いない。
意を決して、入り口であろう扉を叩く。
『はい、今開けます』
聞こえてきた声は、あの人の声。
開かれた扉の奥には素敵なあの人が、記憶と違わぬままそこに居た。
「……あれ、まゆちゃん……?」
唖然とする表情でまゆを見つめる彼。
そんな彼に、まゆは悪い印象を与えないようにっこりと微笑む。
……裏ではずっとドキドキしてるのは、内緒。
「はいっ、この前一緒にお仕事したまゆですよぉ」
初対面では一番の笑顔を見せれなかったから、それのお返し。
上手くできたかな? ちゃんとやったつもりではあるけど、振り返るとちょっとだけ不安になる。
「いや、あの……どうして、ここに?」
困惑する彼は手で頭を書いて、苦笑。といった感じ。
そういう顔も魅力的で、うっとりしそうになる。
けれども、それだけじゃ話は進まない。
彼はプロデューサーなのだから、まゆが言うことはただ1つ。
「まゆは……貴方にプロデュースされるために、アイドルになりにきました♪」
ゆっくりと、確実に言い切る。
……しばらく、彼はまゆのことをじっと見つめていた。
そして、見る見るうちに表情が変化していって……結構、面白かったかもしれない。
「え、ええっ!? だ、だって、あそこの事務所でモデルやってて……えっ、嘘っ!? 1人で!?」
「うふふ、そうですよぉ」
「事務所、事務所は……ああ、それ以前に1人で来たってことはまず寮……いや、まて、まずは……何をやれば!? しゃ、社長ー!」
誰から見ても慌てふためいてると分かるような、そんな彼を見て笑いが零れる。
ああ、やっぱり来てよかった。
だって、こんなにも充実した時間が、今後過ごせれるだろうと思うと嬉しくて仕方がなかった。
今回はここまで、目指せ完結。
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