【艦これ】天城「雲龍型航空母艦、天城です!」 (146)

艦隊これくしょん(ゲーム)のSSです
アニメ、艦隊これくしょんのネタバレを含むかもしれません

台本ではなく、モノローグありの形式で進んでいきます
R-18注意。ですがあまりエロくはありません
超弩級牛歩進行です

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1423392821




みんなが寝静まった夜。

窓から外を見ていると、とってもすごい、ものを見たんだ。

みんなは誰もが笑いながら、アニメの見過ぎと言うけれど。

ぼくは絶対に――絶対に。

ウソなんか言ってない。




すこし前のおはなし。



「本日付で、トラック泊地より転属となりました。雲龍型航空母艦の二番艦、天城です!」

「雲龍姉さまからいろいろ話は伺っています。素敵な提督だ…………と」

「提督さん、これからよろしくお願いいたします」


そう言って、うやうやしく頭を下げる目の前の少女。

彼女は、自身が言った通り――雲龍型航空母艦の、天城だ。雲龍の妹にあたると書面が語っている。

「おう、よろしくな。天城、…………さん」

「ふふふ。そんな、遠慮なさらず」

「提督さんとはあまり歳も離れていないようですし、天城……と、気軽に呼び捨ててくださっても構いませんよ!」

「そ、そうか?」

正直、書類で確認したときは目を疑ったが……直接目の当りにしても、半信半疑といったところだ。

彼女――天城は、雲龍の義妹というわけではなく…………実妹。血の通った姉妹。

それなのにも関わらず、あまりにも共通点が少なすぎるのだ。

まず第一に、その容姿。

姉の雲龍は、癖っ気が強く、踵まであるクリームカラーのロングヘアーを一本の三つ編みに括り――。

毛先をライトグリーンのリングで留めた、“癖っ毛”を逆手に取った、独特のスタイルをとっていた。

しかし、目の前の天城はというと――。

絹糸のように艶めき、ボリュームのある栗毛色を、シンプルなポニーテールスタイルでまとめていた。

きつく縛っているようではなく、幾分かラフに括っているようだ。美しい毛の流れがこちらの目によく映えて、やさしくみえる。

女性らしく髪質には拘っているようで、ポニーテールにありがちな、露骨な切れ毛――いわゆる“あほ毛”もなく、ふんわりとした格好を作っていた。

「あの、提督さん…………?」

「そんなに見つめて……天城、どこかおかしいでしょうか?」

おっと! いけないいけない。綺麗な髪の毛は、見ているだけで楽しくなるものだから、ついつい眺めすぎていたようだ。

こちらの視線を受けてか、所在なさげに前髪をいじる天城。…………ふふ、もっと落ち着いた女性かと思っていたが、少女らしき一面もあるみたいだ。


ついつい、目の前の天城を等身大で見てやれなくなる。

それも已む無きことだろうか。なぜなら、彼女は――。

「ああ、その…………天城?」

「はっ、はいっ!」

「あー…………いや、変な意味は決してないんだが。ないん、だが…………」

「お前は、その。…………姉とは違って、その……自己主張があまり強くないみたい、だな」

「え。あ…………そうでしょう、か?」

姉の雲龍は、ボリュームのあるメリハリの効いたそのボディを、余すところなく見せつけるような、挑発的な服装を好んで着ていたが――。

妹の天城は、その雲龍とは違い、逆にボディラインを隠すような厚手の着物に袖を通し、上品な佇まいでそこに在った。

いや、決して雲龍が下品と言っているワケではないんだが……なんというか、雲龍の服装は目に毒だ。

露出に関して苦言を漏らしたことが過去に一度だけあったのだが、どこ吹く風といった様子で、むしろもっと身を寄せてきた。

女性経験の薄い俺には、あんなボディで迫られるのは本当に毒でしかない。海綿体が異常を起こしてしまう。

それから雲龍に対して服装のことは言わないようにしようと、心に決めたのだが…………。

なんというか、妹が同族でなくて本当に良かった。

艦娘のみんなはほとんどが、どうせ衝撃で破けるのだから――と、開き直って派手な露出をしているのが多い。

彼女のような、身も心も“大和撫子”然としたオーラを放つ艦娘は非常に貴重だ。

俺の唯一の安全地帯になってくれるかもしれない。俺みたいな遅れてきた思春期は、張りのある太ももが視界に入るだけで釘づけになってしまうんだ。

それで鈴谷たちに何度煽られたことやら…………。

俺は貞操観念がしっかりしてるだけで未熟なわけじゃないから。

未熟なわけじゃないから。


「その、動きづらくはないのか? 厚手の振袖って言ったら、戦闘中とか邪魔になりそうなもんだが……」

天城はほかの航空母艦とは違い、ミニスカ道着やカスタム振袖ではなく。

新成人が式典に着ていくような、正真正銘の振袖そのものに見えた。着付けも複雑な手順を踏んだように見えるし、戦闘に支障が出るのではないか、と思うのだが。

「あ…………“これ”ですか? これなら問題ありません。その、慣れましたから!」

掛け襟を指でつつーっとなぞりながら、困った笑みを浮かべる天城。

慣れた、ということは……この服装は、おそらく彼女なりのお洒落なのだろう。最近、和装や着物に憧れる少女が増えたというし、その影響だろうか。

まあ、本人が問題ないというならこちらとしてもありがたい話だが。

今度から食堂で食事を摂ることになったとき、視線の安全地帯として利用させてもらおう。

「あの…………まずかった、でしょうか。そんなに、考え込まれて…………?」

「ん? ああ、いや。姉の雲龍がさ、その……ちょっと奇抜なファッションなもんだから」

「妹の天城はそんなことないんだなってさ。……まあ、いま少し話した感じだと、そんな感じでもないか」

「なんというか天城からは、淑やかさとか、清純さ、高潔さを感じられるな」

「それに美人だし。前の泊地じゃ、異性にモテたんじゃあないかぁ?」

「そそそ、そんなことっ! 天城なんか、そんなとてもっ!」

「提督? その、冗談とか、やめてほしいですっ」

ぶんぶんぶん、と、顔を上気させながら袖を揺らす天城。

あっ、これはイジり甲斐があるタイプだな。打てば響くような返事をしてくれるし、なにより可愛い。

可愛い子をイジる…………なんだか好色家みたいだな。


改めて、その容姿ををよくみてみる。

鼻筋もすっと通っていて美しい線を描いているし、唇には薄い紅色がさしている。

垂れ目気味の大きな瞳も、綺麗な亜麻色に輝いている。

白磁のような穢れのない肌には、泣きぼくろがひとつ。これがいいアクセントになっていて、厭味のない美人を演出している。

そしてなにより俺の目を惹くのは。…………振袖の上からでもよくわかる、その、大きな胸。

姉の雲龍も胸が大きすぎて、胸部のボタンが閉まらないと呟きを零していた。

容姿は似ずとも、その遺伝子は色濃く継がれているらしい。

だが着物にありがちな、“胸が大きいと太って見える”ということは一切ない。むしろ、痩せ細って見えるほどだ。

すらりと伸びた美しいラインに、不釣合いなほど大きく突っ張ったそのお胸。

すらりと巻いた帯に乗っかるようにして、その存在感を主張していた。

おそらく、腰元のラインが引き締まっているからそう見えるのだろう。

それなのにも関わらず、着物として大きく形を損なうような様は見せていない。

着崩れしないよう、はじめから彼女に合わせてあしらわれた特注品なのかもしれない。


昔の人間の美意識では、病的なほど細いウェストが神話をなしていたほどだと聞く。

着物姿やドレス姿などの正装をよく見せるために、衣類の下にコルセットを巻いて、あばら骨が圧力で変形するほどきつく締めるというのが流行っていたらしい。

もしかして、彼女もそうなのだろうか。

…………いや、あまり詮索するのはよそう。初対面だし、容姿の質問ばかりするのもおかしいだろう。

現に、上から下まで眺めていたせいか、目の前の天城が落ち着かないそぶりでそわそわしている。

変な意識を持たれてしまっただろうか? 提督から艦娘へのパワハラは問題になっているし、誤解されないといいんだが…………。


なにはともあれ、ここはひとつ。

「ん。了解した。航空母艦、天城。これからよろしく頼む」

そう言って片手を差し出す。この鎮守府では、新規に配属された艦娘は、俺――提督と握手を交わすことが、伝統になっている。

「わ、わわっ! よっ、よろしくおねがいしましゅっ!」

「――あっ! …………あふぅ」

「あ、あのっ! 天城、せいいっぱい精進いたしますねっ」

慌てて俺の手を取る天城。いや、両手でわざわざ握らなくっともいいんだけどな。

それに噛み噛みじゃんか。ははは、奥ゆかしいな。あんがいウブで照れ屋さんなのか?


鼻と頬を真っ赤に染めた天城は、俺の指の感触を確認するかのように、いつまでも握っていた。


――――

――


「ふ、くっ……ふあぁ~! …………ふぅ~」


ようやく、今日の提督業がひと段落ついた。

天城の受け入れ登録や、部隊分け。それに先日行った、トラック泊地への攻撃支援、その事後処理。

せっかくウチに来たのだからと、訪れたばかりの天城に秘書艦の任を預け、朝から晩まで二人で缶詰め状態だった。

事務作業を続けている間、断片的に会話を行ったが、それでいくつかわかったことがある。


どうやら彼女は、意外と活気ある少女のようだ。受け答えもはつらつとしているし、物腰も丁寧だ――これは予想通りか。

鎮守府にいる人に当てはめるなら、榛名や大淀がそれに近いんじゃないかな、と思う。

だが、天城は天城であるし、誰かに似ているからどうだということはない。あくまで、そう感じたというだけだ。

書面上の彼女の情報からは、あまり連想しづらいものだったが…………。

よくよく考えてみれば、あんな強烈な姉を持っているんだ。しっかり者に育っていてもなんらおかしくないことだろう。


ただやはり雲龍の妹らしく、どこか独特の“間”を持っている。

ときどき問いかけても、妙に返事に詰まるようなそぶりを見せたし、そのあとは決まって愛想笑いを覗かせた。

事務作業中にも、どこか落ち着かないようすで、しきりにそわそわしていた。

というより、単純に人見知りしているだけなのだろうか? さすがに、初日から秘書艦を任せるには早かったかな。

だがもともとはトラック泊地に所属していた艦娘だ。こういった書類仕事にも慣れていると思っていたのだが…………。


…………。

ふむ、仕事は出来るみたいだ。あれだけ落ち着きがない状態でも、ここまで仕上げてくれるとは。

むしろ配属初日ということを考えれば、相当“デキる”タイプだと考えても良いだろう。

前の泊地にいたころから、戦闘に事務作業に、多芸に秀でた少女だーって、トラックの堅物爺さんも褒めてたくらいだしな。

あとは徐々に、ウチの鎮守府に慣れていってもらうくらいか。

雲龍がときどき執務室に顔を出したとき、嬉しそうに駆け寄っていたしなあ…………。

秘書艦の仕事を、雲龍にあれこれたずねていたようだし。

雲龍姉さま雲龍姉さまって、山城かよ! シスコン族が増えるのは勘弁してくれよ!


雲龍に対してと、俺への対応を比べたらずいぶんひどかったからな。

俺が何度か用を足そうと席を立つたびに肩を跳ねさせるし、部屋に戻った瞬間なんて真っ赤な顔で驚愕された。

その後は妙に息も荒れていたし。そんなに俺に遭遇するのが驚きか。俺ちょっと傷ついてたんだからな。というか執務室なんだから、俺に対して驚くっておかしくね?

やっぱ年頃の男としては、かわいい同年代の女の子にはよく思われたいってワケで…………。


当の天城は、用事を思い出したと言ってしばらく席を外している。

そりゃまあ、ずうっと執務室に閉じ込められてたわけだしな。配属初日くらい、自由にさせてやるべきだったか。


なにはともあれ、今日の作業はもう終了っと。

時刻はマルフタマルマル。うるさい夜戦バカも疲れて寝静まったころだろうか。天城も配属初日から川内シャウトの洗礼を受けた。数日の間は忘れられないだろう。

風のそよぐ音だけが流れる。

今日は天城の受け入れもあったから、夜の零時に消灯するようにしたんだよな。

明日の朝には、天城の紹介とあいさつがあるし。変に夜更かしされて、寝坊されちゃ困る。初顔合わせのときの印象ってのは非常に大切だ。

とりあえず後片付けと、明日の事務に向けての整理整頓だけやっておくか。せっかくだし、天城のぶんも済ませておいてやろう。

長距離を移動してきたその日に缶詰めだもんな。これくらいは俺がやってやらなくっちゃ。ブラック鎮守府では決してないが、初日から潰れられるのもなんかな。


ええっと、これが今日の報告書のまとめか。それで、こっちが明日一日の予定表……っと。

書類はかさばるから困るんだよなあ。データーで一括できるような時代になればいいのに。

ん…………なんだかこの用紙、ちょっと湿っぽいな。

お茶でもこぼしたのか? 水気を吸ってちょっとヨレちゃってるな。まあ、読めないわけでもないし問題ないか。

まとめてクリアファイルに入れておいて、と。…………うん、こんな感じかな。


しっかし、天城…………遅いな。

ちょっと用事っつったって、もう夜中の二時だぞ。みんなが寝静まった夜なんだから、やれることも少ないだろうに。

でも今日は暖かいな。最近にしては珍しく、暖房の要らない気温だった。

夜も深まってきたっていうのに、まだまだ薄着でいられるし。春の足音が近づいてきた、ってやつかな?

このまま気温が上がっていけば、薄着の艦娘も感冒の気配に苛まれずに済むだろう。

逆に今日の天城みたいな、きっちり着固めている艦娘にとっては辛い季節になるかもしれないな。


…………ただ。そういう、普段厚着をしている少女が、夏服で薄着になった姿って、妙にそそられるんだよな。

普段隠れているものが、ちらちら見えちゃったり……。そのおかげで、見たい見ようと視線がくっついちゃうから、気をつけなくっちゃな。

天城みたいに、性意識の固そうな少女の無防備な姿。ああ、見てみたいなあ…………。

つっても、そりゃないか。ちょっと話した感じだと、分け隔てなく接しているように見えて、その実男女の区切りはしっかりつけているタイプに感じられた。

ああいうタイプが意外といちばん“おかたい”んだよな。ちゃんと弁えているところは弁えているし。

案外、性に対して潔癖症であったり異性が苦手だと公言している人間に限って、愛欲に堕ちるのは早いものなのである。おそらくそれは、未だ知らぬ領域への好奇心というものもあるんだろうが。

艦娘でいうところの、ビスマルクや大井がそれに当たるんじゃないだろうか。

普段俺を突き放すような発言をしたり、距離を取っていたりするのも、己が知らない“男”の存在を警戒しているだけで、いざ一度押してみればなし崩し的に――みたいな。

って、俺は思春期の男子高校生か! 

こんな一面を天城に知られたら、軽蔑されるどころの話じゃあないだろう!



それに、天城ってちょっとシスコン入ってるっぽいし。そういう子って、なかなか隙を見せないんだよなあ…………。

…………。

――いやいやいやいや! 隙があったらどうってワケじゃないけどっ! 俺はいったいなにを考えているんだっ!

今日会ったばかりの子に、そんなっ…………。

むしろ、失礼だろ! 俺の妄想ばっかりであの子のキャラ決めちゃって、ありのままの彼女を見ないっていうのは下品だし、失礼だ!

…………。

あ、ありのままの、天城?

あ、あの、振袖の奥に隠れた、すべすべの肌に、もちもちのおっぱい…………。

――はっ! だめだめ!! こういう想像って、女の子は過敏に感じとるって、この前言われたばっかりじゃないか!!

初対面の相手に盛るとか、性欲魔神でなきゃありえねえって!


…………ああ、でもなあ。鎮守府って、女の子ばっかりで、なかなか一人の時間がとれないし…………。

たまるもんもたまっていくってもんだよなあ。

唯一ひとりになれるときって、風呂くらいだけど――風呂で抜いたら、排水溝が詰まってすぐにバレるって聞いたしなあ。

女は男と違って、マメに発散しなくてもいいってんだから良いよなあ。

マメに発散する必要があるのって、性欲強い子くらいだし。…………性欲強い子って、いたらすっげぇ興奮するけど、実際いるわけねえよなあ……。

艦娘って、可愛い女の子ばっかりだし。俺だって、青春をなげうってこの世界に身を投じてるんだ。覚悟はしていたけど――。

正直、キツい。今日なんか、天城の身体を着物の上から眺めているだけでも半勃ちだった。

こっちは冷静に座って対応してたし、下半身は執務机に隠れていたから、気づかれていないとは思うがなあ。

もし気づかれてたら…………。

ううっ! 考えただけで寒気がしてきた。今日は早く眠ろう、そうしよう。

そしてこの煩悩を月明かりの下に流そう。風とともに流れていってしまえ!


――――ああ、月はこんなにも綺麗なのに。どうして俺は、こんなに脳内まっピンクなんだ。

天城を見習って、俺も、もう少し異性に対しての認識を改めないとな…………。

やっぱ、一緒に戦っていくうえで、指揮官であり唯一の男である俺がしっかり区別つけなきゃ。

そうじゃないと、この綺麗な月の下を歩けなくなっちまう。

なあ、お月さんよ?



――――

――







「はっ…………はぁっ…………」

明りの落ちた鎮守府内を、ひとつの影が、月の光を頼りに蠢いていた。

その影の正体は、天城。――本日付で、この鎮守府に配属された、見目麗しい航空母艦の少女である。

真っ暗闇のなかだというのに、しきりに周囲を気にして、壁伝いにふらふらと歩いていた。

「もうすこし…………へへ……も、すこし…………」

自分に暗示をかけるようにつぶやき、繰り返す。

ときおり、その豊満な肉体を震わせながら、音を立てずにしとしとと歩いていた。

呼吸は荒く、頬を朱に染め、潤んだ瞳をして、たどたどしく歩んでいる。

その瞳の先には、“屋内弓道場”と書かれた掛け板がぶら下がっていた。


屋内弓道場――――。

その名の通り、鎮守府内に構えられた弓道場である。

だが一般の屋内弓道場とは違い屋根がなく、天候の影響を強く受ける構造になっていた。

それでいて、熱気がこもりやすい構造になっていて、薄着の航空母艦にも優しいつくりになっている。

設計した航空母艦曰く、実際の戦場では、天気や気流に対して恨み言など言えないから――とのことだ。


「――んくぅっ!! ああぁ……、はぁっ……はぁっ…………」

ぷるんと艶めく、その唇。

その固く食いしばった唇の端からは、唾液と思しき液体の跡が見えた。

だらしなく流れる唾液を拭うこともせず、下腹部から込み上げる快感に、ただただ耐えしのぐのみ。


「ぅ…………ぁはっ! つ、ついた、ぁ――――」

――目的地にたどり着いた安堵感からか、緊張の糸が緩んでしまった、その瞬間。

「――んんんんっ!! ああっ……や、ぁっ、クるっ! くるクるきちゃうキちゃうぅぅぅっ!!」

狙い澄ましたかのように強まった振動が、少女の陰核を刺激する。

わずかな気の緩みの隙を突き、一日中、絶えず刺激を受け続けていた少女の性的興奮を限界まで高めた。

じわり、と。

少女が穿いていた、薄手の下着が色濃く染まる。

「ぁはっ、んっ、はぁっ…………」

屋内弓道場行きの扉の取っ手にすがりつき、身体を震わせる少女。

ぞわぞわとこみあげる快楽に抗うことなく、そのまま従う。緊張しきった身体から絞り出すように、切なく甘い息を短く吐いた。

その手には、細長いコントローラーのようなものが握られていて、そこから細いコードが少女の膣にまで伸びている。

真鍮製の取っ手と、プラスチックのコントローラーが接触し、甲高い音を響かせる。

「――――はぁっ、はぁっ」

扉に体重を預けながら、ちらり、と横目で背後を振り返る。

だいじょうぶ、だいじょうぶ。

一瞬、廊下に音が反響したことによって冷静さを取り戻しかのように思えた、が。

人の気配がしないことを確認すると、ふたたび熱のこもった吐息を扉に吹きかける。

「ふへへ、えへ…………ここが、天城がつかう、弓道場っ、……かぁ……っ」

潤んだ瞳が歓喜に歪む。

閉じた口を開くたびに、唇の端から温い唾液がしたたり落ちる。

彼女が今日一日中、飲み込み、こみあげ、飲み込んできた唾液。独特の芳香を乗せながら、少女の顎を伝ってゆく。

片手は、あつく張った胸元に。もう片方の手で、弓道場への扉をひらく。



ぶおおおおんっ!

扉を少し開いた瞬間、温度差により発生した強風が、少女の肌を着物の上から撫でていく。

その生暖かい衝撃に思わず気持ちが高まり、一瞬身体の力が抜けたかと思うと、腰から下が痙攣し始め、深い感覚に襲われる。

「あ、あ、あ、いくっ、いくいくいくイっくぅ…………!」

少女の身体に、オルガスムスの電撃が走る。

昼間、提督執務室で快活に振る舞っていた彼女の姿はすでになく、淫欲に酔うひとりの“オンナ”だけがそこに在った。

どさり、と、思わずへたり込む。

押し寄せる快感に、身体が跳ねる。震える睫毛には、快楽ゆえの小さな雫をたたえ、大きく突っ張った胸元に、唾液が点々とこぼれる。

――だが、快感の震源地は下腹部にある。へたり込むことで、身に着けたローターがよりいっそう押し付けられることとなり――。

「あっ、だめっ! やぁっ、そん、なっ! あっ、あんっ! あっイっ――だ、め……あっあっ!!」

予期していなかった衝撃に、かわいい器官が悲鳴をあげ、頭の奥に電流を送り続ける。

欲望を駆り立てるスイッチから思わず手を離す。床にはじけて、閑散とした弓道場に音が響く。

だがいまの彼女の胸中は快楽だけが満たしており、そんな音を聞き入れる隙間などない。ただただ、淫らな嬌声をあげ続けるのみ。



――――もしもこの声が、なにかの拍子に提督の耳に入ったら、どうしよう。


喘ぎ声のなかで、思わずそんな想像が、ふっ――と、頭のなかによぎる。

姉に頼んでもらった写真の彼は、目鼻立ちが整っていて、意志のある強い瞳をした男だった。

面食いというわけでもなく、そもそも異性にあまり興味がなかった自分でさえ、ひそかに小躍りしてしまった。

実際に見た彼はもっと凄く、視線を合わせた瞬間、思わず下腹部が熱を持ってしまったくらい。

…………自分は、そんなに尻軽な女ではない、と信じて生きてきたが。どうやら、一目惚れというまぬけな魔法にかかってしまったようだ。


ほんとうは、言葉を交わしたその瞬間、彼に覆いかぶさりたかった。彼の言葉を待たずして、唇で塞いでみたかった。

彼の唾液でいっぱいのそのお口を、自分の唾液と交換してみたかった。

しかしそんな行為は許されない。仮に事故として処理され許されたとしても、彼との間に埋められない溝ができてしまうだろう。

…………それに。

初対面の人間と会う、というのに。

心がそれに耐えきれず、淫猥な小道具を股ぐらに仕込み、時間を共有しているあいだ、ひたすらに快楽を得ていたはしたない自分など、知られたくない。

こんなどうしようもない女に対して、清楚、清純そうだと言ってくれた、彼。

彼にはそんな、はしたない女だと思われたくはない。

…………。

だが、彼もまた、そういった目で自分を見ていたのではないか、と、そう思う。

自分の勘違いかもしれないが。…………彼の、自分を見るその瞳は、品定めするかのように全身をなめまわしていたし。

彼の思考の奥深くではきっと、非力な自分は欲望のままに剥かれ、組み敷かれて、思いのままに突き犯されていたのではないか、と。

抗うすべもなく、ただただ彼の子種を膣奥に植え付けられるしかなかったのではないかと。

むろん、確証はなく、自分の妄想の域を出ない。…………だが、もし、ほんとうに、そうだったならば。


――――いちど、そう考え始めてしまえば、もう戻れない。

彼女の膣奥から、男を求める潤滑油がとめどなく溢れ始める。

熱気のこもった室内の風を受け、小刻みに揺れる身体が内側から外側まで火照っていく。

「も。…………じゃま、だなぁ……っ」

熱に突き動かされ、心のおもむくままに身体を動かす。

奥底から震える腕を腰まで伸ばし、するり――と、結んだ帯を解く。

支えを失った着物が、撫でるように肩から滑り落ちてゆく。


月明かりを受け、豊満な身体が露わになり、夜影に浮かび上がる。

きつく締めつけていた拘束から解き放たれ、つんと上を向く乳房。汗と唾液が絡まって、妖しい光を放っている。

どこか幼さを残した顔つきには似合わず、そこだけが成熟を遂げていた。

ほっそりとした身体に比べ、どきっとするほど大きい乳房。形よく均整美を保って、豊かで滑らかに隆起している。

栗色の髪が身体に貼りつき、なんとも淫靡な雰囲気を醸している。


むかしはこのような大きさではなかったのだが、自慰行為を覚えてからというものの毎日のようにこね回していたら、いつの間にかここまで膨らんでしまった。

いままでは。重たいし、下品な男の視線を集めるだけの、邪魔なものだと思っていた。

…………だが、提督を一目見てから、その思考は裏表に回転した。

求める雄からの、愛欲の視線。頭が考えていなくても、身体が、本能が。至上の悦びとして反応してしまう。


きょう、執務を中断して、シャワーを浴びにいったとき。

そこで行った自慰行為は、いままでにない快楽へと導いてくれた。

隣室にいる、あのたくましい男に聞かれてしまうのではないか。後ろ手に鍵をかけられ、二人きりのバスタイム――。

自分の喘ぎはシャワーの音に流され、提督以外の誰にも聞かれることなく、身体を力まかせに弄ばれてしまうのではないか――。

そう考えた瞬間、それまで邪魔だと感じていたこの胸が、とたんに愛おしいものに変貌した。

ああ、この身体は、彼のために育ったのだと。彼を愉しませるために在るのだと。そう言い切れるほど、充足感に満ちた時間だった。

身体の声を封じることなく、また、溢れる愛液をおさえることなく。

…………残念ながら、自慰の声は彼にまで届かなかったようだが。


シャワータイムは至福のときだった。今後も何度か、利用させてもらおう。…………たとえ、秘書艦を任されていなくっとも。

そうすれば、いつか自分の声を聞き届けたあの男が、獣のように襲い掛かってくれるだろうから。

端正に整ったその顔を、自分の身体で歪ませ――自分の奥深くを、彼でいっぱいにしてほしい。

脳内で、その瞬間をシミュレートする。シミュレートして――――ふたたび、脳が甘く痺れる。

「あっ、だめ、またクるっ! んっ、あぁっ! あぁあああああっっ!!」

弓道場の嬌声は、大きく開いた天空へと吸い込まれてゆく。

夜空にまたたく星の下。大きな月のその下で――ひとりの女が、狂い喘ぐ。

意中の彼を求める蜜は、濡れそぼった下着から溢れ、弓道場の床を点々と染めていった。


「んっ……はぁ、はぁっ――ぁっ! く、ふぅ…………」

無意識のうちに、空いた手のひらが乳房へと向かう。

手のひらではおさまりきらないそれを、円を描くように激しく揉みしだく。

部屋に篭った熱気と、絶え間なく送り続けられた快感によって十分に火照ったそれは、少し形を変えるだけで悦びを感じられた。

その間にも、しっとりと湿りを保った陰核が痺れ続けている。

だが、彼女はそれだけでは満たされない。もっと高みへ、もっと高みへ……と、貪欲に快楽を追及する。

指が埋もれ、自在に形を変える大きな乳房――その先端。

意識して触れずにいて“それ”は、さらなる刺激を求め、蕾のように上を向いていた。花を咲かせ、甘い蜜を迸らせるのをいまかいまかと待ち望んでいる。

浅紅色に張ったその乳頭を。

乳房を弄んでいた、その指先で――――つい、と撫でる。

「~~~~っ!!」

指を優しく這わせただけで、愛らしい乳頭が歓喜の叫びをあげる。

綺麗にまとめた髪を振り乱し、快楽をもっと昇華させるかのように、天を見上げ声なき声をあげ続ける。

美しい獣がそこにひとつ、在るだけ。


「も…………も、もすこ、し…………あは」

撫でるだけでは飽き足らず、小さな蕾の奥に詰められた快感を求めて――。

か細い指先で、つん…………とつまんでこねてみる。

次の瞬間。頭の天辺からあらゆる指のつま先まで、いままで経験したことのない痺れが襲った。

無意識に、むずむずと内股をこすりあわせる。過敏になっている肌同士がこすれて、それすら火照りに変わる。


徐々に、身体の芯からなにかがこみあげてくる。


完全に、いまの状況に興奮していた。

転属先の鎮守府、その初日。そこの支配者に出逢って恋に落ち、閉じたお部屋でふたりきり。

いくつか言葉を交わしただけで焦がれ、官能が掻き立てられる。

自分の苦手な、闇深く人の気配のない静まり返った弓道場で、痴態を晒す。これから毎日利用することになる神聖な場所だ。

そんな神聖な場所に、いまから“マーキング”するのだ。訪れた証。これから利用する証。それをここに刻み付けておくのだ。

ああ、なんて下品で、はしたない行為なのだろう。だが、品を欠く行為を行っているということが、なによりのスパイスとなる。


開放的な気分で、月明かりをその身に浴びる――――。

日ごろ、肌を隠すような服を着ている反動だろうか。……最近、ふとした拍子に、肌を晒してしまう癖がついてしまったような気がする。

さすがに人前で露出するような行為に及ぶ勇気は、いまの自分にはない。我慢して努力して、脱いでしまわないように耐えるだけだ。

だが、その日がくることをひそかに心焦がれている。熟れたメロンのような乳房を、提督の前に…………。

恥ずかしさと、快感が交差する感覚。今日の執務室、提督が席を立った際に、ひそかに自分を慰めていたが――。

達することができるその直前に、彼が戻ってきてしまった。

そんな事情も知らぬ彼は、息を乱している自分の体調を気遣ってくれた。


だが、決定的に違うことがある。崩れているのは自分の体調などでは決してなく、性道徳観そのものなのだ。


誰かに感づかれてしまうかもしれないというのに、恥も知らずに甘い想いを発し続ける。

着ていた振袖は、形なく足元に広がっていた。その上で、震源である小さな機械を貼りつけたびしょぬれのショーツを身に着けた自分がうねっている。

着込んでいたのではなく、“これ”しか着ていなかったのだ。

その下の裸体に気付かれぬように、きつく帯を縛っていただけなのだ。

この振袖は、かすかな冒険ごころを隠すためだけのものなのだ。


もしこの状況を誰かに見られてしまったら、いったいどう思われてしまうのだろう。

淫らな子だと軽蔑されるだろうか。いけない子だとからかわれるだろうか。

敬愛する雲龍お姉さまは、どんな気持ちで自分を見るのだろう。

それに、あのたくましい彼は、どう思ってくれるのだろうか――――。

「――んぁっ! …………ん、ふ。…………あぅっ!」

だめ。想像するだけでも身体がうずいてしまう。

貞淑な女性のように見えると言われた自分が、こんなにも淫猥な存在だなんて。

想像の彼が、暗闇の中から自分を見る。落胆、侮蔑、そして――欲望。

考えるたびに、だらしなく開いた唇から唾液が滴り落ち、バカになっている恥部からはいやらしい汁が溢れる。


「(…………みて、ほしい)」

ほんとうのわたし。

「さわって、ほしい」

げんじつのわたし。

「はぁっ…………んんんっ! く、んぁっ…………あっあっ!」

目を閉じて夢想する。

彼は手を伸ばす。こんな“ちゃち”なおもちゃではなく、本物の指で、こうやって――――。

抵抗しないわたしの秘所をつい……っと撫で、くちゅりと厭らしい水音を立てながら、わたしの愛液で濡れた指を巧みにあやつり、敏感な陰核を攻め立てるのだろう。

ほら、こうして――――。

「――くぁっ! あっあっ、こ、これぇっ、すごっ! あっ…………きもち――あっ! い、いぃぃ……!」

暗闇の世界に、くちゅくちゅ…………という淫らな水音と、妄りな女の甲高い声が響く。

壁にもたりかかりながらこうして大きく股を開いている姿は、お月さまからすればどれだけ情けない姿に見えるだろうか。

そして彼はそんなわたしの痴態を見て罵声を浴びせ、わたしの陰核と、乳頭を同時に弄ぶのだろう。こうして――――。

「く、ふぁっ…………! んっんっ、んんぅっ!」

左の指で、ピンと上を向いた乳頭をゆるくつまみ、回すように刺激する。

逆の手で、すっかり濡れきった陰核を優しく撫でる。

いつの間にやら、汗にまみれていた身体中に官能の震えが走る。熱のこもった吐息が乳房にはね返り、空に混ざっていく。

「ひっ……ぁ、やぁっ…………あっ! あっ…………おかしく、なるぅ…………」

すごい。彼のことを思い浮かべながら行うだけで、いつもより、こんなにきもちいいだなんて。

甘い声をあげながら、指の動きは激しさを増していく。頬も身体も赤くしながら、抑え切れない情欲を懸命に慰めようとしていた。

膣口を指の腹で撫で上げる。身体を揺らすたびに、奥からとめどなく愛液が溢れ出てふとももを伝った。

「ぁ…………や、とまらなっ…………」

熱に浮かされ貪るように、陰核を擦りあげる速度が上がる。

びくんびくんと大きく痙攣し、秘所から快楽の証が流れ出た。

「ぅあっ……あっ、ひぁっ、あぁあっ! やぁ、や、いっちゃ、イっちゃううぅっ!」

じわりじわりと近づいていた快感の波が、突然として一気に押し寄せてくる。

びくびくと身体を震わせながらも、ただただ夢想し続け、指先を思考に沿わせる。

乳頭をこねくり回し、膣口を擦り、陰核を撫であげるたび、甘い痺れは際限なく大きくなっていく。

――そして、ぴりぴりと頭を突き抜ける快楽の波が、最後の堤防を決壊させた。

「あっ…………~~っ! っあああああああ!!」

腰を大きく跳ねあげて、痙攣しながら絶頂に達した。

ここが防音でない開放的な施設であることを忘れたように、甘く高い声をあげる。

濡れに濡れた膣内から、溢れんばかりの愛液がこぼれる。

「は……っ…………はっ…………はふぅ……」

「も、ちょっと…………だけ…………」


「…………てーとく…………」

あつい吐息と動悸を感じながら、呆然と、理性のない闇の底へと落ちていった…………。

書き溜めはここで途切れている




「ふああぁぁ…………はふぅ…………」

腹の底からせりあがってくる眠気をかみ殺せず、ふわふわしたあくびをもらす天城。

昨日の今日というのに、彼女はずいぶんとウチの鎮守府に馴染んでいた。朝におこなった自己紹介も難なくやり過ごし、温かい拍手とともに迎えいれられた。

これで彼女は、正式にウチの艦娘となった。少しばかり照れくさいのか、拍手を受け取っているときは頬をほんのりと染め、指先で遊んでいたのは見逃さなかったぞ。

見た目の奥ゆかしさそのままに照れ屋なようだ。見ていて目の保養になる女の子だなあ。

実姉である雲龍からも一言いただき、終始和やかに朝の時間を過ごした。


「なんだ天城、ずいぶんと眠たそうじゃないか」

「春眠にはまだ幾分か早いように思えるが」

「いえ、その、ちょっと昨日は…………あまりその、眠れなかったもので」

アンティークな壁掛け時計は昼前を指している。午前と午後の境界線だ。

挨拶を済ませ、穏やかな朝食の時間を終えたのがおおよそ午前九時ごろ。

昨日案内しきれなかった屋内弓道場や、その他もろもろなどを紹介して、ここ提督執務室に戻ってきたのが午前十時ごろ。

ウチの屋内弓道場は、よそのと比べてちょっと変わったつくりになっているから、試し撃ちとして一度やってもらいたかったのだが…………。

どうやら昨晩か今朝のうちに、誰かが飲み物を零してそのままにしていたようで、液体がそこかしこに散らばっていた。

意外なことに、支柱となっている丸い柱にもこすりつけたような汚れが残っていた。なにをすればそんなところに汚れがつくんだか。

おおかた隼鷹さんがお酒を持ちこんで悪ふざけをしていたんだろう、まったく。新しい空母の子がくるから綺麗にしててくださいねーって言ったのになぁ。

来たばかりで早々、鎮守府の情けない部分はあまり見せたくはなかったのだが。そのままにしておくのもどうかと思い、雑巾片手に右往左往だ。

体育館の雑巾がけを思い出す作業。ぜんぶ拭い去るのにずいぶん時間を費やしてしまった。


天城も「どうせこれからずっと使うことになる場所だから」と、厭な顔せず一緒に拭くのを手伝ってくれた。

なんて礼儀の正しい良い子なのだろう。見た目通りの清らかさ、まさに純粋無垢と言ったところだろうか。

人の多い街に出たとして。俺のような年頃の若者で、彼女のような廉潔な心の持ち主は果たしているのだろうか。いや、いない!

模範生として、ほかの艦娘にも見習ってほしいものだ。

天城が床の水滴を拭き取るときに、四つん這いになってお尻を振っていた姿が妙にそそられたっていうのは秘密だぞ!


…………。

しかし、時間が経っても水気が残ってるっていうのはあまりなかったことだな。

あそこは暖かい場所だから、前にお茶を零したときも、拭いているうちにどんどん乾燥して大気に変わっていたが…………。

ずいぶん頑固な水滴だった。というより、水あめとかあんかけとか、そんな類のもののようにも思えた。拭けば広範囲に薄く広がったし。なんだろうこれ。

これには天城も興味を惹かれたようで。自分の作業を中断して、俺が水滴と格闘しているのを熱心に眺めていた。

いったいなんの水滴だろうと、指ですくってニオイを嗅いだときなんかは、胸を両手で押さえて溢れんばかりの好奇心を注いでいたし。

その直後。『ナニか気になりますし、すこしだけ、舐めてみてはいかがですか?』と聞いてきたときには驚いた。

そんな、なんの汚れかもわからないものを口に入れるほど命知らずじゃあない。赤ん坊じゃないんだから。

そう答えると、そうですよね――と、心なしか残念そうに笑っていた。

なんだろうか。俺がそんな原住民的な感覚をしているとでも思っていたのだろうか。

それとも、提督自らが清掃を行うというのがそんなに珍しかったのか。妙に一挙一動を見張られていた気がする。

…………意外といたずらっぽいところがあるのかもしれない。彼女の知らない一面がどんどんと見えていくようで、ちょっとだけ楽しい。


「眠れなかったのか? …………ああ。まあ、配属されたその日だもんな」

「それに、枕が変わると眠れなくなるのってあるよなぁ」

「あの、えへへ…………そ、ですね」

――――そして、現在に至る。

どことなく歯切れの悪い彼女。そう感じた直後にも、再び生温かいあくびを繰り返していた。


本日の秘書艦も、再び天城に務めてもらうことにした。

トラック泊地近辺での大規模戦闘を終え、しばらくは事務作業に追われる日々となる。その間、新任である彼女に秘書艦としての務めを叩き込む算段だ。

トラック泊地にいたころはそれなりに“デキる”女として知られていたようだが、転属して鎮守府が変われば話は別だ。

人脈や流通のラインだって大幅に異なる。うちの鎮守府ではうちの鎮守府流で働いてもらわなくっちゃな。

…………昨日の働きっぷりに照らして考えると、あまりその必要はないような気もするが。


まあ、まとまった時間が取れるのは今くらいなものだ。

今回は大規模作戦の直後だから、あまりスクランブルもかからないが。次がいつ訪れるかはわからない。

いまのうちに、秘書艦の務めを身をもって知ってもらう――――というのを口実に、天城との交流を深めようということだ。

個人的にも興味があるし。…………いや、べつに、お近づきになりたいとか、そういうのじゃないし。

新鋭艦載機の調査と称して触れ合うのも考えたが、これはまた今度の機会に使うとしよう。

ああいう、一見淑やかな大和撫子のように見えて、話してみると意外と気さくな女の子ってちょっと惹かれるんだよな。

ほどよい距離感を保って接してくれそうというか、なんというか…………。

…………。

だから、決してよこしまな感情があってのことではないのである。――って、俺はいったい誰に説明しているんだ!


「うーん、いまのところ取り急ぎのものもないし。気分悪かったらちょっと寝てくるか?」

「自室に戻ってもいいし、執務室の真横の仮眠室でもいいし。寝てきてもいいんだぞ」

「ね、ね、ね、ねねね、ねるっ!?」

「わっ! …………なんだその反応」

俺が素敵な提案を差し伸べると、目を輝かせながら凄い勢いで束ねた毛を上下させた。

思わず反射で驚いてしまう。…………そんなに珍しい話か? 仮眠室くらいならどこの執務室にもあると思うんだが。

「…………い、あ、いえそのっ、なんでもないですっ!」

「そ、そこまでではないので、お気になさらないでください! 本当につらくなったら、すぐに提督に言いますので」

「そのときは、ぜひお願いしますっっ」

「お、おう」

なにをお願いするんだろうか。あ、仮眠室の使用許可かな?

にしたって、そんなに真っ赤な顔で言わなくてもいいと思う。両手のひらを太ももの隙間に差し入れてもじもじするし。

なんだかそんな素振りだと、成人式典にかこつけて愛の告白に及ぶ新成人みたいに見える。ちょっとドキッとするからやめてほしい。

…………天城はまた、雲龍とは違ったタイプで攻めてくるな。俺が勝手に勘違いしているだけなんだが、勘違いさせるような言動をよくとる。

書類を手渡しするときにも、無駄に俺の手を撫でたり揉んだりして、ボディタッチの機会が多い気がするし。

ボディタッチが多い艦娘は何人かいるけれど……妙に執念深いというか、執拗さを感じるというか。

居心地が悪いのでひとつ言ってやろうとしても、力のある瞳で俺の手を熱心に確かめるもんだから言い出しづらいし…………。


緊急がないっていうだけで、今日の執務はちゃんとある。あたたかいスープでも持ってきてやるべきかな。

そう思ったけれど、今日もまた昨日と同じく暖かい気候だ。スープ飲んで一息ついちゃったらさらに眠気が襲ってくるか。

こちらとしては暖まって休んでくれるのに文句はないんだが、本人がまだ頑張ると言っているのなら信頼するとしよう。

「うーん、そうだな…………眠気覚ましにというか、作業しながらひとつお話をしてやろう」

「提督のお話ですか?」

「そうだ。…………あれはそうだな。いまからそう遠くない昔の話だ」

「むかし、俺が重巡リ級と肉弾戦を行ったときの話だが――――」


――――

――




「そこで俺は言ってやったんだよ。『お前は借りた消しゴムの角を勝手に使う程度の人間だ』ってな」

「いやあ、あのときは本当にスカッとしたなあ! ――――って、あら?」

時は流れ、日が傾き始めた時間。午後の光が徐々に薄らぎ、夕暮れの気配があたりに漂った。

高級素材を使った青カーテンの窓から、薄暗くなった執務室にオレンジの夕陽が射しこむ。

流れる風がカモメの吐息をつづって歌へと変わり、空へ空へと昇っていく。

…………もうこんな時間か。ついさっきまでお空のてっぺんで主張していたブロンドの太陽が、いまやあんなに謙虚に見える。

最近暖かい日が続いたものだからうっかり忘れかけていたが、まだまだ冬だということか。

そこまで考えて、ふと空調を効かせていたことを思い出す。なんだ、やっぱり冬じゃあないか。

執務机の斜め向かい。秘書艦机で筆を鳴らす天城と会話のキャッチボールを楽しんでいるうちに、すっかり日が落ちてしまったようだ。


しかしどうやら、落ちかけているのは太陽だけではないらしい。

「…………はふぅ…………うへへ………」

ちらりと視線をやってみると、幸せそうな表情をして舟を漕いでいた。

さっきから返事がないのを妙に思っていたら、こういうことだったのか。朝から溜めた眠気が夕方になって爆発したようだ。

黄昏の光を頬に浴び、白皙の肌が茜色に染まっていた。ああ、秘書艦机は夕日を受ける位置にあるんだっけ。そりゃあ眠たくもなるか…………。

毛布をかけてやろうとも思ったが、机に突っ伏して眠るのは身体に悪い。

配属されてから二日目だし、疲れもたまっているだろう。本人は頑張ると言っていたが、こうなった以上きちんと休んでもらうとするか。

ただ、今の時間に仮眠をとると夜眠れなくなるのが難点だよなぁ…………まあ、仕方ないか。

夕食はまた、当番の艦娘に言づけておこう。あとで温めて食べられるよう分けて置いてもらおうか。

…………え、ええっと。

「……あ、あまぎさーん? 起きてますかー?」

念のため、間違いがないように呼びかけておく。

…………返事、ないな。

仕方ないよな。返事ないんだし、このままだと風邪ひくし、毛布かけても身体を悪くするし。

まさか夢遊病かなにかが上手にはたらいて、眠った身体が勝手に仮眠室へ――なんてことも、あるはずがないし。


だから、仕方ない、よな。

「…………天城、運ぶぞ」

意を決し、行動に移す。

眠っている天城に対してか、怯んでいる自分に対してかわからない言葉を宙に投げる。

天城が腰かけている椅子を大きく後ろに下げ、ひざ裏に腕を差し込むために、膝を折って少し屈む。

濃緑の振袖の上から天城のひざの裏と背中に腕を回し、揺らして起こさないようにゆっくり静かに抱き上げる。


――視界いっぱいに、緑と草木柄の迷彩色が広がった。

…………天城の身体を、こうして間近で見るのは初めてだ。すごくでかい。

肩を手で包んで持ちあげているせいか、自然と腕が寄って胸元を強調するような形になっている…………が、それを加味してもでかい。

この抱いた手を、胸元に持っていくこともできるが――やめておこう。俺なんかが気軽に触れていい身体じゃないはずだ。

……決意とは裏腹に、手のひらは期待の汗がにじみ出してきたが。

しかし、俺の胸元に頭を預けて眠る彼女に、そんな裏切りはできない。執務室で舟を漕いでいたのも、少し打ち解けて安心したからだ――と思いたい。

そんな気を許し始めた瞬間に寝こみを襲われたら、俺の信用どうこうだけじゃなく、彼女の心に消えない傷跡を残ることになるだろう。

艦娘のみんなが心許せる環境づくりが提督の仕事だ。その提督自らがぶち壊しにするわけにもいくまい。

さ、早いとこ仮眠室に連れてってやらなくっちゃ――――。



がちゃり。


「失礼しま…………あら提督、そのお姿は?」

「ああ、雲龍さん」

仮眠室へと足を向けたその瞬間に、天城の姉である雲龍が、小さなメモ用紙を片手に執務室へと立ち入ってきた。

今日の雲龍は出撃用の派手な衣装ではなく、ちゃんとした冬着を着て活動している。それでも幾分か、普通の冬服と違って肌の露出が多いが。

部屋に入って早々に俺たちの姿を認めた雲龍は、一瞬怯んだような表情を見せたが、すぐにいたずらっぽい顔つきへと変化した。

「眠ったわたしの妹を、どこへ連れていくおつもりですか?」

俺に体重を預けて無防備に眠る妹を見て、あやしく目を光らせる雲龍。

にやにやと口元を歪ませ、楽しげな表情を浮かべて俺の周囲をゆっくりと巡回する。

「これですか? 執務中に天城が眠っちゃったので、仮眠室に連れて行こうかと思いまして」

「……まさか、新鋭艦載機の調査と称して、いろいろするつもり?」

いろいろってなんだ!

ああいえばこういうふうに、俺をよからぬ方向へと導こうとする雲龍。だがその手は食わない、慣れたから。

「まさか! 疲れもあると思いますから寝かせるだけですよ。それよりお手すきなら、仮眠室への扉を開けていただいても構いませんか」

「それは、いいけれど。…………天城のことは呼び捨てで、わたしに対してはさん付けなのね。いらないっていつも言っているのに」

ぽつりと漏らした愚痴には苦笑で返す。

それを見た雲龍はぶーたれながらも扉を開けてくれた。なんだかんだで、ここの艦娘は人が良い。

ありがとうございますと礼を述べ、仮眠室の中へと進む。


とびら開けたとたん、見知らぬ世界へと――というワケもなく。

扉を一歩くぐると、身体いっぱいに暖かな畳の香りが吹き寄せてきた。

約十畳ぶんの広さの和室仮眠室。ガラス張りと見まごうほどに大きな窓に、木の温かみを残した天井。

多人数が同時に眠れるように、部屋の隅にはうずたかく綺麗な布団と枕が積まれている。

ここからの眺めはなかなか良いものなのだが、眠る際に陽射しが邪魔になるからだろうか。広い窓はカーテンに覆われている。

俺も最近はよくこの部屋で寝泊まりしている。執務室から私室に戻るまでの距離が煩わしくって、ついつい隣のこの部屋を使ってしまうんだよな。

それだけ寝心地が良い部屋ということでもある。この一室だけ高級旅館のような、そんな佇まいだからだ。

漆で塗られた小テーブルの上に、ばらばらとお菓子や漫画が置かれている。寝具のそばに置かれた本棚の陳列は、ナンバリングがバラバラになっている。

夜深く、眠りに就こうと思って掛け布団をめくると、ぬいぐるみを抱いて丸くなった望月の姿が発見されることもあるぐらいだ。


とにかく、天城を寝かせなければ。そろそろ俺の腕も限界になってきた。

ええっと…………俺のお気に入りの、端っこでいいか。

あそこ、積まれたクッションやら布団やらで物陰になっていて、ほかの睡眠者を気にせずぐっすり眠れる隔離スペースみたいになってるんだよな。

広いスペースで休憩をとっていると、たまーに艦娘がイタズラかなにかで潜りこんでくることがある。

榛名とか、夕立とか。

いろいろ当たっていろんな意味で起きられなくなるから、そういうのに脅かされたくないときに利用している。

天城も鎮守府に来たばかりで、寝に来たほかの艦娘たちに寝顔を見られるのはまだ恥ずかしいだろうし、ここがベストだろう。

いつの間にか後ろについてきていた雲龍が、俺の気を察して布団を敷いてくれた。

起こさないように…………と。よし、あとは布団を掛けて…………ほい、おっけ。

これ、俺が最後に使ってから洗ったっけ? …………替えておくべきだったか。

念のため、暑く感じない程度に暖房を入れておく。乾燥でノドをやられないように加湿器も稼働させる。

傍らでは、雲龍が掛け布団の上から毛布を乗せていた。…………過保護すぎるかな?

暖かい布団に包まれて、すやすやと寝息を立てる天城。慣れない環境で疲れもあったろう。じっくり休むといい。

…………。

――――いてっ!

後頭部を小突かれ、思わず声を出してしまいそうになる。

頭をさすりながら振り返ると、雲龍が頬を膨らませてこちらを見ていた。……なるほど、天城の寝顔を眺めていたせいか。

雲龍に対し手を垂直に立て謝罪の念を表す。

とりあえず用事は済んだ。あとは天城が寝たぶん、俺のほうで執務を片付けることにしようかな。

後ろでに扉を閉じる前に、天城の方向を確認する。…………うん、ちゃんと物陰になってるな。

音を立てないように意識しながら、そっと扉を閉じる。

おやすみ、天城。


――ばたん。



「提督、ありがとうございます。天城がご迷惑をおかけしてしまったみたいで」

「そう思うなら小突かないで下さいよ」

遮音性の高い扉を閉じると、黙ってついてきていた雲龍がお礼を述べた。

普段の服装はアレだけど、こうしているとちゃんとお姉ちゃんしていて微笑ましい。あとは身体の接触を減らしてくれるだけだな。

言ったらさらに増えるだけだから、もう言わないが。

「やっぱり慣れない環境で疲れちゃったんですかね」

「そうですね。気負うタイプの子だから…………」

頬に手を当てて、天城に思いをはせる雲龍。

やっぱ似てないなぁ。仕草やそぶりは共通するものがあるから、そこは姉妹らしいけど。

首から下は似ているんだけどな――――って、俺はおっさんか。


「そういや雲龍さん、なにか用があってここに来たんじゃないんですか?」

天城の椅子を元の位置に戻し、自分の椅子に深く腰掛ける。

手前に置かれていた書類を手元に引き寄せ筆を持つ。中断していた作業を再開しながら、雲龍に質問を投げる。

相手によっては失礼と受け取られかねない態度だが、うちに所属している艦娘のみんなは、一人一人が秘書艦を経験したこともあって理解が深い。

大規模作戦は作戦行動中が大変だが、その事後処理の作業もまた別の苦労があるのだ。

雲龍も何度か秘書艦を経験しているせいか、そのあたりの事情には詳しく、手元のメモ書きに視線を落とし意に介さぬ様子で話し始めた。

「海辺にある工廠エリアの一角だけれど、一部電灯が正常に機能していないみたい」

「ああ、この執務室の窓から見えるエリアですか」

椅子に腰かけたまま振り返る。提督執務室には空調を働かせていたからか、外との温度差で窓に結露が出来てしまっていた。

服の袖で結露を拭い取り、水気が混ざった風景に目を凝らす。

傾いていた日は沈み、その姿を水平線の向こうに隠していた。空にはまだ残照があって、黒ずんだ牡丹色に雲を染めている。

工廠地帯のクレーンが残照を浴びて明るく輝く。その寒空の下では、軽巡洋艦の艦娘が厚着で釣りを楽しんでいるようだ。

寒くないのかと尋ねたことがあったが、寒い時期にしか釣れない魚もいると返され、なるほどなとカイロを差し出した記憶がある。

「危険というわけではないけど、いきなり点いたり消えたりで困っちゃうから、直してもらおうと思って」

「ん、了解です。今晩にでも業者さんに連絡してお願いしてみます」


「報告はこれだけ。…………あの、そっちにいってもよろしいですか?」

「ストップです。事前に聞いてくれたのはありがたいですけど、どうせ居座るなら秘書艦机にお願いします」

「天城がダウンしましたから、その引き継ぎを」

「…………くうっ」

なんだかんだ言いながら、きちんと机に向かってくれる雲龍さんは好きですよ。

さすがに慣れているだけあって、広がった書類を一瞥して把握したらしい。座って間もなくして筆を走らせ始めた。


その間に、ぽつぽつと雑談を交わす。

俺の見えないところでの天城の雰囲気だとか、バレンタインに向けてみんなで作ったチョコの具合だとか、今日の夕食の話だとか。

他愛のない話のなかに、時折ギョッとするような小話を混ぜてきたりするのが憎らしい。話半分に聞き流せないようにうまく話している。

途中で、夕食当番だった時雨が差し入れとしておにぎりと沢庵、お盆に乗せた豚汁と大皿に盛ったおかずを持ってきてくれた。

一時作業を中断して、夕食にありつく。執務中にも食べられるようにと、片手間に食べられるようなメニューを意識してくれたようだ。

「んむっ…………むぐぐ。そういえば天城、大丈夫かしら」

右手に箸を、左手におにぎりを。

辛めに味付けされた厚焼き玉子を口に運び、おにぎりをかじる雲龍。

どうでもいいけど、口元を手で隠すだけじゃなくちゃんと飲み込んでから話しなさい。

「いいのよ。こんな姿を見せるのはあなただけだから」

…………そうですか。


微笑みかけてくる雲龍と目を合わせづらくって、用意された豚汁をかっ込む。

――ごほっ! ごほっ!

あっちぃ! これ出来立てほやっほやじゃねーか!! よく見たらメチャクチャ湯気あがってんじゃねーか!!

喉を焼く豚汁を急いで飲み込み、水を流し込む。すこしむせてしまったので、口元をハンカチで拭う。

雲龍はその一連の流れをニコニコと眺めていた。…………なんだその顔、むかつく!

照れ隠しに睨みつけても、雲龍の笑顔は剥がれない。


なんだかむずむずするので、先ほどの雲龍の発言を繰り返すことにする。

「大丈夫、ですか?」

「ええ。あの子、寝覚めが悪いタイプだから」

「寝相もあんまりよくないし。お布団蹴っ飛ばして風邪ひいちゃうんじゃないかって思って」

へえ、それは意外な情報だ。

雲龍が言った通りなら、ひとつだけ心配がある。

「あー……そういや、天城って振袖のまま寝かせちゃいましたけど、あのままだとしわが寄っちゃいますね」

「この後、天城の寝相確認と一緒に、着替えをお願いしても良いですか? 自分は男ですし、さすがに」

もちろん本人が良いって言ったら着替えさせてあげますけどね。

振袖に隠されたきめ細かい肌。健康的な若々しい白い足。扇情的な締まった生尻――――。

あっやべ。

急いで引き出しの中に用意してあったナフキンを膝元に広げる。これで汁物を零しても大丈夫。

これ汁物対策だから。

「そうね。なら、悪いけどこれを食べた終わったら天城のところへ向かおうかな」

「仕事のほうもある程度進めておいたから、ちゃんと目を通してくださいね」

おお、ここまでの短い時間の間にそんなところまで。ありがたい。

天城のぶんはそれで大丈夫か。じゃあ、あとは俺自身の執務を終わらせるだけだな。

とりあえず今は、時雨が作ってくれた夕食を食べて身も心も温まることにしよう。


…………。

これ、時雨が直接握ったのかな?


げっ、ナフキンが落ちた!


――――

――




「くううっ…………はあっ、終わった~…………」

最後の書類に印鑑をぺたりと終えて、疲労の溜まった指の付け根を揉んでマッサージする。

ぱきぽきと指を鳴らしながら時計を見る。時刻は……日付の境目、零時付近。時計の針がてっぺんを回りそうな時間。

けっきょく天城はぐっすりのようで、彼女が起きてくる前に執務を終わらせてしまった。

彼女は午後の半分を寝て過ごしたことになる。こりゃ、夜中に目が覚めて眠れなくなること請け合いだな。

今日を引きずって昼夜が逆転してしまわないだろうか。まあ、しっかりしている彼女ならば問題はないだろう。


しかし今しがたまで頭を働かせていたせいか、まったく眠くならない。

一時間ほどぼーっとして、脳が休息状態に入れば眠気も襲ってくるのだろうが…………。

明日も早いことだし、あまり長く起きているのもつらい。

あんまり頼りたくはないんだが……少量の睡眠薬でも飲んで、すとんと眠ることにしよう。

くすりくすり――っと、あったあった。水を含んで、薬飲んで、ごっくん。おっけ!

睡眠薬を飲めば、川内のシャウトに起こされることもない深い眠りに就ける。中毒みたいになりたくないから、普段はあまり飲まないことにしているが。

十分もすれば眠気が襲ってくるだろう。それまでにお布団をこしらえなければ。

女性と同室、二人きりで眠るというのはあまり良くないが、まあ、誰でも利用できる仮眠室だし、天城のそばにさえ行かなければ問題ないだろう。

そんじゃさっさと着替えて仮眠室っと。



…………うわっ、なんだこの部屋! すっげぇ良い匂いするんだけど!

苦手な艦娘も多いからアロマの類は置いていないし。ってことは、これはぜんぶ天城の“女の子”の匂いか!

これは気持ち良く眠れそうだ。…………天城本人を抱いて眠ればどれだけ心地よい眠りに就けるのだろうか。

一度頼み込んで枕になってもらおうか。――いや、そんなことになったら眠るどころじゃ済まなくなるな。

想像しただけでもイキリタツ。ううっ、あんまり意識してるとどんどん漲ってくる…………。

変な気を起こす前に眠ろう眠ろう。ああ、暖房効いてるおかげでお布団が暖かい。

明日もまた執務が山盛りだ。ああ、作戦後の事務処理とか大本営のほうで済ませてくれよな本当に…………。


――あ、薬が効いてきた。

――深いくらい谷に、どんどん、落ちて――――。


…………。

…………。


――――

――




「すぅ……んぅ…………。……んぅ」

くらやみのなか。

心地の良い透明な無力感に包まれ、温かい沼のなかをふわふわと漂っていた。

まどろみの中で、色とりどりの映像が現れたり消えたりしている。胸躍らせる彼との握手、期待と歓迎の拍手。星々の輝きに照らされた弓道場の中心でうねる自分。

そんな記憶の整理のなかで、より一層際立って映る映像がある。


ゆさゆさと小刻みに揺れる視界いっぱいに広がる彼の肉体。絡み合う肌色と肌色。

抵抗できないように足を大きく開いた状態で固定され、両手を頭の上で拘束された自分に覆いかぶさるように、あつく硬い肉の杭を打ちつける彼の姿。

細くて長い布を噛まされ、くぐもった喘ぎ声をあげる自分の姿。色のあるその姿に興奮したかのように、反り返った陰茎で抽送を繰り返す。

わたしの陰裂を道具のように激しく扱って、独りよがりな快楽を得る彼の姿。

その両手はわたしの乳房に伸びていて、強引にこねくり回している。ときおり動きを止めて、その先端から出もしない分泌液を吸い取ろうとするかのように、乳房の頂点へ吸いつく彼。

乳頭から唇を離すと、次に乳房へ、鎖骨へと場所を移していき、わたしを堪能する彼。十分に味わったと思えば、口をわたしから離してピストン運動を再開する彼。

やがてその表情は苦悶を帯びたものに変わり、出入りを繰り返す陰茎が勢いを増し、種をたくわえわたしのなかで膨らんでいく。

限界まで高まったことを証明する白濁液が、わたしのなかへと吐き出された。

びくん、びくんと。わたしのなかで痙攣を繰り返す。

その先端から、あついものが断続的に飛び出しているのがわかる。

溢れそうになるくらい長い時間吐き出し続けた彼が、その陰茎をわたしの中から引きぬいていく。

わたしの愛液か、彼の精液か。ふたつが混ざり合って溶け合ったその液体に濡れ、放出したというのに未だ大きく天を突くその陰茎。

見せつけるように反り立ったそれを、ベッドに縛り付けられたわたしの口元まで運ぶ彼。

そしてわたしの口枷を解き、陰茎を指さしてわたしに命令する彼。

 …………おそうじするん、ですか?

そう問うと、無言で頷く彼。不透明な液体にまみれて白濁したそれを、わたしの口を使って浄化しろというのだ。

わたしが普段、ものを食べ、人と語り、感情を表すこの唇を使って、つい先ほどまでわたしの中で暴れていたそれを舐めろというのだ。

 …………わかり、ました。

しかし自分には、それを拒否するすべがない。言葉のうえで拒絶の意を表したところで、そのたくましい肉体で押さえ込まれて、無理やりにでも咥え込まされるに違いない。

それならば、自ら従ったほうがまだ優しく済ませられる。


――彼の遺伝子をこの身で受け止めた瞬間に、わたしの存在価値は決定されたのだ。

力任せに組み伏せられ、わたしの肉壺を使って極限まで高まり、征服の証をわたしに植え付けたのだ。

身も心も屈服させられた瞬間。自分の肉体は、彼の性欲を処理するためにあると決定づけられたのだ。

彼の欲望をこの一身に受け止め、彼の遺伝子を運ぶためにこの身は在るのだ。

…………それならば、自分がやることは、ひとつしかない。

 わかりました。……天城が……お口で、お掃除いたします。

そうしてわたしはそそり立った肉棒を撫で、その先端に吸いつくように口付けた――――。



「ん…………ちゅぅ~…………。――――んぅ?」

キスをした――と思ったのだが、いつになっても優しい時間は届かない。

ちゅちゅちゅ、と、ついばむように繰り返すが、いつの間にか彼の姿は闇に溶けていて、暗闇だけが支配していた。

どこ、どこだろう。

彼の陰茎を探して回るも、依然として見当たらない。近くにあることだけはわかるのだが、どこにあるかがわからない。

それに、手足を拘束されていたはずなのに自由に動かせる。

そう意識した瞬間、スイッチを入れられたように、淀んだ意識が覚醒する――――。



「――――ん、ぁ?」

ふと、世界に光が宿り、色がつく。

横になった状態で、間抜けにも空に手を伸ばしていた自分。ひらを返して眺めるも、付着しているはずの愛液がひとつもない。

それに、自分はこんなパジャマなど着ていなかったはず。全身を裸に剥かれ、愛液に濡れていたはず――。

そこまで考えて、ふと思い立つ。

――――あれは、幸せな夢だったのではないか、と。

ぼーっとして焦点が定まらない思考が、そう伝える。

身体全体には、心地よい痺れが残っていた。ずいぶん長く横になっていた感覚がある。


「…………ゆ、め?」

自分の半身は、暖かな布団に覆われている。部屋の温度も優しく、寝起きの冷たい身体を温めてくれる。

かちり、かちりと音が鳴る。その音の出所のほうに顔を向けると、時計の短針が二番を指しているのが確認できた。

「…………なんだ」

夢だったのか。優しくキスをしてくれたのも、寝こみを襲われ、強引に性欲を叩きつけられたのも、すべてまやかしだったのか。

その事実を認識し、落胆したように肩を落とす。

アニメじゃない、まるで本当のことのように思えたその時間。


…………もう一度眠れば、夢の続きが見られるだろうか?

そう思って横になろうとしても、眠れない。どうやら完全に意識を取り戻してしまったようで、暗闇のなかでも眼が冴えている。

布団をかぶって闇に包まれても、覚醒した意識は濁らない。……どうやら、諦めるしかなさそうだ。

諦めて、魚のようにのそのそと布団から這い出る。ここは、どこだろうか?

高く積まれた寝具に、木の目が彫られた天井。見覚えがあるようで、なかなか思い出せない。まだ鎮守府を訪れて二日目だから、仕方のないことだろう。

とりあえず、顔を洗いたい。手の甲で目をこするのも、あまりよくないことだろうし。

こっちから出ればいいの、かな? 部屋の隅っこみたいなところで眠っていたようで、部屋の把握がしづらい。物陰になっていて、部屋を見渡せないし。

よろよろと、壁に手をついてふらつきながら立ち上がる。意識は覚醒したとはいえ、頭の半分は未だ温かい泥のなかにいるようだ。


立ち上がって、微かに不快な違和感を覚える。

「…………下着、かえなきゃ…………」

どうやら穿いていたショーツが、自らの愛液のせいでしっとりと濡れているらしい。

いじったわけでもなく夢を見ていただけなのに、ずいぶんと水気を吸っていた。気持ち悪くて、思わず股をむずむずさせてしまう。

…………あ、そうだ。もしかしたら提督がまだ起きていて、執務をこなしている場面に出会うかもしれない。

あまりみっともない姿は見せられない。ええと、鏡とかないのかな。髪がぼさぼさになっている姿は見られたくない。自分の唯一の自慢だから。

暗くて、よく見えない。…………ここは、仮眠室かな?

執務室の真横にある部屋だったはず。初日に紹介された場所のひとつだ。

それなら入口の近くに大きな姿見があったはず。そこまで行って、手櫛で髪を整えておかなくっちゃ…………。


鏡の近くへ歩を進めようとした瞬間、微かな気配に気づく。

仮眠室に並べられた布団のなかで、ひとつだけ盛り上がっていた。その姿は規則的に上下し、寝息をもらしている。

そこまでならまだ良い。まだ良い、のだが…………。


「………………提督?」


そこから漂ってくる微かな香りが、鼻腔をくすぐる。昨日今日と、胸を焦がし続けた匂い。

間違いない、この匂いは彼のものだ。彼のいない隙に、彼の使っている椅子や上着などを嗅いだ際に、よく取り込んだ匂いだ。

昨晩はこの匂いと、彼の身体の感触を想っていたしたのだ。間違えるはずもない。

小声で布団に語りかけても、返事はない。ただただ緩やかな上下のみが返ってくるだけだ。

「…………」

しばし立ち止まり、沈黙する。

そして無言で出入り口まで足を運ぶ。壁にかけられた大きな姿見が、暗闇のなかでパジャマ姿の女を映し出す。

そのブラウンの瞳には影が無く、閉じた唇はかたく結ばれている。無表情の自分が、そこに映っていた。

そして扉の前に立つ自分、そして――――。


かちり。


仮眠室と外を繋ぐ扉に、鍵をかけた。



この仮眠室から出られる扉は、この一つしかない。

大きな窓には透明な格子がはまっていて、そこから出ることもできない。

「…………えへ」

閉まっていたカーテンを、さらに強く引く。微かな隙間から入っていた月明かりも、完全に遮断された。

念のため再び扉の前へ戻り、ドアノブをひねる。硬く鈍い音を立てて、拒絶の意を示した。

確実に鍵がかかっていることを確認して、期待に震える手を離す。


かち、かちと。時計の針の音が部屋に響く。

この部屋は防音性が高く、外からの音も、中からの音も響くことはない。夜中に騒ぐ艦娘に悩まされる日は、艦娘がこの仮眠室に押し寄せるくらいだ。

最終的には、うるさい艦娘をこの部屋に隔離して香取さんに教育してもらうことに決まったが、それはまた別の話。


闇の中で光る鏡が、提督が眠る布団の前に立つ女を照らしていた。

大きく突っ張った胸を上下させながら、ぷちぷちとボタンをひとつずつかけ外していく。

するすると袖から腕を抜いていき、乾いた音を立てて上着が畳に落ちた。

畳の上に腰をおろし、音を立てないようにズボンも脱いでいく。衣擦れの音をを発しながら、艶めかしい太ももが露わになる。

水気を擦って色の変わったショーツを隠すかのように、太ももをこすりあわせる。

「えへへ、えへ、えへへ…………」

寝汗によって、端正なその顔に長い髪が貼りついていた。どことなく色気を感じさせるその様は、足元で眠る提督に対して向けられている。


――――暗闇のなかで、オンナの口端がいびつに曲がった。


提督を起こさないように、ゆっくりと掛け布団を剥がしていく。

いつ目覚めるかもわからない緊張と、これから訪れる時間に対しての期待によって、胸をうつ鼓動が激しく増してゆく。

間隔の短くなった呼吸が、ぴりぴりと痺れる唇から吐息となって溢れる。

…………提督も、寝るときはパジャマなんだぁ。

自分と同じ前留めボタンのパジャマではなく、ポロシャツになっているパジャマだ。これだと、脱がすことは難しいが…………。

「へへ、えへっ」

自分には関係ない。服を脱がすことよりも、服を“めくりあげる”ほうが好みなのだ。

“脱がす”というのは、どちらかといえば優位に立っている人間がやることだ。

受身の相手を、自らの意思やタイミングで剥くことが出来る。剥かれる側は、ただひたすらにその時間を待つのみだ。

めくりあげる行為は、憐れにも縋り付くような雰囲気があって、少しマゾの気質がある自分にとってはそちらのほうが興奮するのだ。

これまた気づかれないように、パジャマのすそをゆっくりゆっくりと上げていく。彼のおへそ、お腹、胸元……次々と露わになってゆく。

彼の肉体へ自然と口元が吸い寄せられる。夢の続きのように、彼のおへそへキスを施す。

「ちゅ。…………ちゅぅ」

何度も何度もキスをしながら、寝息で優しく上下する彼の腹筋に舌を沿わせる。

激しい息遣いと、自らの唾液が彼の肉体を汚していく。夢で見ていた立場と、まるで逆の状況だ。

腹筋の線をなぞり、胸元にさしかかる。粘ついた唾液が彼の身体を濡らし、腹筋の溝に自分の唾液が溜まっている様はなんとも情欲的だ。


ちろちろと撫でているわたしの舌がくすぐったいのか、彼が眉間にしわを寄せ呻くように唸る。

起こしてしまったかと、息を潜め彼の鼻先に耳を寄せる。

自分の長い髪が彼の顔面に垂れ、少しだけ邪魔そうに呼吸が乱れたが、再び規則的な寝息に戻る。どうやら彼はまだ、夢の奥深くを彷徨っているらしい。

ほっと一息ついて、彼の顔を間近で見つめる。

よほど深い眠りに就いているのだろうか。安らかな表情で眠っていた。

…………いまなら、いつもやりたいと思っていたことを、少しだけならやれるかもしれない。


「ていとくの、くちびる……ぁっ…………はぁっ……」

ふっとよぎった囁きをそのまま受け入れ、彼を覆うように四つん這いになる。まるで自分が彼を押し倒してしまったかのような構図だ。

胸の鼓動がうるさい。この鼓動だけで、眠っている彼が起きてしまうではないか。

でも、いまを逃したらつぎ、いつこんな機会が訪れるかもわからない。

荒い息遣いを飲み込み呼吸を止めて、おそるおそる彼の唇に向かって舌を突き出す。


――――ぺろり。


「――――」


――――ぺろ、ぺろ。


「…………~~~~っっ!!」

彼の唇に舌を這わせるだけで、身体の奥から熱情がせりあがってきた。

心臓が飛び出しそうなほどに胸を叩く。彼の唇を舐めながら、吐息が強くならない程度に細く呼吸を重ねる。

脳内物質が駆け巡り、頭を揺さぶられていると錯覚するほどに強い目まいを覚える。

「はっ…………はっ…………」

おなかのおくが、せつない。

まるで犬のように、お尻を振りながら彼の唇を舐め回す。剥き出しになったショーツから、湛え切れないように愛液が垂れ始めた。

垂れ始めた膣分泌液は、白桃のような太ももを伝って、布団についた膝元へ。提督を乗せた敷布団は、その愛液を受けしっとりと滲み始めた。

無意識のうちに、股の間を擦り合わせる。むずむずと欲しがるそれは次々と愛液を溢れさせていた。

「ちゅっ、ちゅ…………ちゅうぅっ…………」

舐めるだけでは満足せずに、ついに唇と唇を重ねあわせる。

はじめは鳥の口付けのように優しく触れあわせていたそれも、二度三度と重ねていくうちに、だんだんと情熱を帯びたものに変わっていく。

徐々に押し付けていくようなキスに、下唇を甘噛みするようなキス。舌先で歯茎をなぞるキス。

相手が眠っていることをいいことに、夢想していたことすべてを行っていた。


彼は口を閉じて眠っているせいで、舌と舌で唾液の交換をすることはできないが…………。

しかし、情欲を掻き立てられるにはこれだけで十分だった。

「ちゅ…………ん、んぅっ、ちゅ、ちゅちゅっ…………ぁ、ぁはっ……ちゅ、ちゅぅっ」

唇を押し付けながら、自らのショーツへと手を伸ばす。

するりとショーツの中へと指先を滑り込ませ、濡れに濡れた陰核を優しく擦り始める。

いっぱいになって溢れそうになる嬌声を無理くりに押さえ込み、震える唇で口付けを続ける。

「――ん、はぁっ! …………はぁっ、はぁっ…………」

胸の奥から込み上げてくる熱情と、頭を痺れ続けさせている官能に涙が溢れそうになり、息継ぎも兼ねて顔を離す。

口付けの飽和雷撃を受けていた彼の口元は、自分の唾液まみれになってべとべとだ。

自分の口まわりも、いつの間にか唾液でたくさんになっていた。舌なめずりをしながら、手の甲で唾液を拭き取る。


「ふふ…………えへへ、ちゅーしちゃいました。おいし」

「――――あ、そだ。へへ」

珍しく着けていたブラジャーを外し、つんと張った乳頭を、彼の乳頭と触れ合わせる。

自分の乳頭が彼の身体に触れた瞬間、それだけで腰が抜けそうになるほどの快楽が走る。

だが、いまこの位置で腰を抜かしてはまずい。彼の上にのしかかるような形になってしまう。そうなれば、さすがに彼も目覚めてしまうだろう。

夜這いをかけるような痴女だとは思われたくはない。……事実、間違ってはいないのだが、彼のなかでは清楚な人間でいたいのだ。

そういった乙女な意思とは裏腹に、陰核を撫でる指は止まらない。足に力が入らなくなりそうだというのに、指の動きはどんどん激しくなる。

愛液が溢れ続ける秘所を、天城の中指の腹が撫で上げる。閉ざされた仮眠室のなかに、穏やかな寝息と、卑猥な水音が交ざって響く。

切なさに耐え切れず、自らの身体を提督に押し付けるように重ね、震える唇で接吻を交わす。

強引に歯をこじ開け、舌をねじ込む。唇をさらに深く押し付け、より奥へと潜りこむ。

「ん、ちゅる…………んむ、んっ! んむぅっ…………」

長くキスを続けたおかげか、眠りの彼の口にも唾液が分泌されてきたらしい。鋭く甲高い水音を立てながら、彼の唾液をひたすら貪る。

一心不乱に彼の口内を暴れ回り、唾液を奪っていく。その代わりに、侵略した証として自らの唾液を注ぎ込む。

目の前にだいすきなご馳走が眠っているおかげで、自分の唾液は潤滑液としてとめどなく溢れてくる。ただひたすらに、彼の身体の内側に自らを刻み込む。

そうした健気な努力が実り、無意識の彼が喉を鳴らす。

口の中に溜められた唾液を、その身体の中に呑みこんだのだ。

その喉の動き、音を聞いて、とめどない感情が胸の奥からこみあげてくる。


――――もっと、ほしい。

熱に浮かされ、貪っていた彼の身体から身を離す。

そして、とろんとした瞳はその下、もっと大切なところへ――――。

「…………えへ。おっきく、なってます」

眠っていても刺激は届くらしい。執拗に唇と身体を貪った結果、彼の陰茎に血が集まっていたようだ。

パジャマのズボンが内側から持ち上げられ、存在感を主張していた。絶え間なく刺激を受け続け、種を放出する先を求めて膨らんでいる。

「あはっ! …………天城で、もーっとたくさんよくなってくださいね…………」

すでに理性は情欲に塗り潰され、抗えないところまできてしまっていた。

起きてしまったなら、そのまま口を塞いでしまえばいいだけ。

半ば自棄的になりながら、眠り王子のズボンに手をかける。切ない息遣いで、瞳は潤んでいつもより艶やかに見えた。

縋るように股を弄り、ズボンをおろし始める。片手でなんとか身体を浮かせ、もう片方の手でぎこちなくズボンをおろしていく。

陰茎の部分に差し掛かって微かな抵抗を感じるも、意を決して一気にずり下げた。


「はああぁぁ…………あぁぁ~…………」

硬くそそり立った男根が、天城の眼前に晒された。

押さえ込むものがなくなって、雄々しく屹立する提督の怒張。

ここ数日間、恋い焦がれた肉棒そのもの。この肉棒を想像して、何度熱を鎮めたことか。

太く猛々しく、びくびくと脈動する陰茎を、思わず手に抱いて頬ずりする。――これが、わたしのほしかったもの。

強い雄の匂いに反応し、天城の吐息がより一層艶やかになる。蕩けそうな表情をしながら慈しむように愛情を示していた。

念願のごちそうを目の前に、再び胸が高鳴る。はあはあと、短いテンポで吐息を漏らす。

そして、夢で見たかのように…………。

「んっ……。……――――ちゅ」

長い睫毛を震わせながら恍惚とした表情で、いきり立つ男性の象徴に――そっと口付けた。


「れろぉ……ん、はっ…………む、ちゅる…………」

甘い吐息と共に出された舌が、根元から亀頭までを沿うように這い上がる。

幼子がアイスクリームを舐めるかのごとく、凶暴にそそり立つ男根に舌が這う。

陰茎の根元を優しく掴むと、ゆっくりとそれを口内へ運んだ。ぬるりと温かいそこに、硬く太い肉棒が入りこんでいく。

「んっ……んむっ! …………じゅる、ん、んっ…………ちゅるっ」

頬張るように咥え込まれた亀頭の先からカウパー腺液が分泌され唾液と混ざり、天城の口内に広がった。

溢れるそれを舌先で舐めとり、喉奥へと運び込む。頬張った亀頭を、唇で扱くようにゆっくりと咥えた顔を前後させる。

口内の柔らかな粘膜で亀頭全体を圧迫し、竿は掴んだ手で上下に擦って悦楽を送り込み続ける。

前に流れ落ちてくるブラウンカラーの髪の毛をかき上げて横に流しつつ、口淫を続けた。

天城の舌がカリ首に触れ、撫で上げるたびに肉棒は悦びに震える。

もはや提督が起きているか眠っているかは忘れ果て、貪るように陰茎を咥えていた。恍惚とした表情に、悦び以外の感情は見えない。


――――もっと、たべたい。


「んんんっ…………んんんぅっっ」

陰茎の根元を掴んでいた手を離し、さらに深く咥え込む。

舌で亀頭を撫で回すように舐めながら、根元まで頬張るよう男根に深く吸い付く。

熱い男根が、口内を犯すように深く侵入してくる。喉奥まで達したそれを、薄ら涙を浮かべながらむしゃぶる。

「んむ、ぐっ――うぅ…………じゅるっ、んぅ…………っ!」

肉棒の付け根まで呑み込み、喉奥の肉までをも使って攻め立てる。

大好きな食べ物を一口残さず食べてしまうように、提督の陰茎はすっぽりと天城の口内におさまっていた。


唇、舌、頬肉、喉肉すべてを活用して肉棒を口で扱く。

何度も喉の上を擦られ多少の嗚咽感を感じるものの、提督の肉棒を口淫で悦ばせているという事実が天城の脳を甘く麻痺させていた。

咥えた顔を前後させる速度が徐々に増していく。こっそりと膣口に伸ばした指も、陰核を擦る速度があがっていく。

陰茎を咥えた唇の隙間から、男の分泌液と天城の唾液が交ざった白い泡が溢れ出し、ぐちゅぐちゅと卑猥な音を響かせる。


咥えた男根から染み出す分泌液に、変化があらわれはじめていた。

射精の前兆である先走りの粘液が、ひそかに混じり始めたのである。

わたしの卑しい器官を使って、彼が高まってくれるなんて。と、火照った胸中が小躍りする。

「んっ! んっ! …………んぅっ!」

ちょっとした塩の味と苦みを感じた天城は、さらに口淫の速度を上げる。

それに応えるかのように、ぴくぴくと震える陰茎がどんどんと膨らんでゆき、遺伝子を吐き出す準備が整ったとわかるほどに熱を帯びた。

「んっ――――」

その瞬間を目敏く逃さず、限界まで膨らんだ陰茎を喉の奥深くまで咥え込む。

勃起した欲望をすべて受け入れるように、奥深くまで呑み込み、喉の奥で強く締めつける。

鎮守府の転属が決まり、提督の写真を一目見たその日からネットで調べて練習し始めた、男を快楽の渦に取り込むテクニックだ。


陰茎が激しく脈動し、一瞬止まった次の瞬間――――天城の口の奥深くで白く濁った性欲が弾けた。

柔らかな粘膜と快楽に包まれながら、生温かく苦い液体がびゅく、びゅくと飛び出すような勢いでぶちまけられる。

何度もなんども痙攣しながら、天城の喉奥深くを白濁に染めてゆく。

「ん…………。――んぅぅ~~っっ!!」

それと合わせるように、天城の身体が大きく痙攣する。

提督の射精に合わせて絶頂を迎えようと、何度も何度もお預けを食らった快楽が、天城の身体中指先一つまで駆け巡った。

快楽に打ち震えつつ、しかし咥えた陰茎に歯を立てないように、未だ喉奥を白く染めている肉の棒をさらに深く咥え込む。

――――これが、ずっとほしかったもの。

喉に貼りついてなかなか飲み込めない精液を、音を立てて嚥下する。

甘い蜜を最後の一滴まで吸い出すかのごとく、優しく吸い上げる。さらに濃く、苦みのある粘ついた白濁が陰茎から飛び出してきた。

「んっ…………んくっ…………」

すべての精液を吸い取り飲み込んだあと、満足げな表情で陰茎を口から引き抜く。

陰茎と、天城の唇とを白い軌跡が繋いで――切れた。

「ぁ、はっ…………もったい、ないなぁ…………」

その軌跡すら惜しく、再び肉の棒へ口付ける。

激しい射精を経てなお肉棒が落ち着く気配もない。これ好機と、天城の舌がぬるぬると動き始める。

精液を搾り取ろうとした口淫とは違い、口全体で優しく包み込むようなそぶりで、唾液の音を厭らしく立てながら亀頭の周囲を丁寧に舐め上げていく。

亀頭に残っていたわずかな精液と愛液を舐めとり、飲み込む。

「ちゅっ…………んふ。…………おいひ」

本来なら苦いだけでしかない精液も、提督の子種と考えればこれ以上ない蜜と感じる。


行為中はすっかり失念していたが、こっそりと上目づかいで提督の様子を窺い見る。

多少苦しげにしているようだが、目が覚めているような気配はない。


――――今夜の提督は、わたしのおもちゃ。


ずっと願っていた提督の遺伝子が、わたしの身体のなかを蹂躙していく。

提督の精液がわたしの身体に溶けていって、わたしの一部になるんだ。

彼専用の性欲処理具として、自ら烙印を押したのだ。ならばたくさん、わたしの身体できもちよくなってもらいたい。

提督の陰茎をきれいに“おそうじ”し、暗闇のなかで淫靡に微笑む。

「んふ、えへへぇ…………提督、今夜は愉しみましょうね…………」

夜はまだまだ終わらない。

なにかを期待するかのように、濡れた膣口から愛液がとろりと垂れる。

いまだ硬さを失わない男根を、天城は熱のこもった瞳で愛おしそうに見つめていた…………。









――――

――

書き溜めはここで途切れている

もうちょっとかかります



こつ、こつと。

朝食を摂り終えた子たちだろうか、グループを作って和気藹々と盛り上がる駆逐艦の子たちと挨拶を交わしながら、賑やかな廊下を歩く。

革靴の底が、ワックスで磨き上げられた廊下の上で小気味よく音を響かせる。

その音を聞きつけた艦娘たちが各々扉を開けて、部屋のなかから思い思いの言葉を投げかけてくれる。どれもこれも好意的に受け取れる言葉ばかり。

歳もそう離れていない上司というのにも関わらず、よくもまあこれだけ慕ってくれるものだ。


艦娘の子たちは、歳の差こそあれど容姿の格差は存在しない。どの子たちも目に優しい麗女ばかり。

その見た目と、艦娘という立場な以上、気持ちの良くない思いもしてきただろうに…………。

それなのに、あんな翳りのない信頼をこちらに向けてくれる。艦娘たちの真の人柄、ということなのだろうか。


そんな艦娘たちに、俺は、なんて…………。

「はあ…………」

自らの情けなさに、思わずため息を零す。

彼女たちはあんなに無垢でいてくれるのに、俺はなんてふしだらな人間なのだろう。


凛冽という言葉が似合う冬の朝。どこか見覚えのある気怠さとともに目が覚めた。
  
希薄で澄んだ柔らかい陽ざしが射しこむ部屋には、俺一人しかいなかった。
部屋の奥で寝ていた天城は、俺より早くに起きて出て行ったらしい。閉じていたカーテンが畳まれていて、朝日を浴びる海面が眩しく映えた。

正直、天城がその場にいなかったのは幸いだったと思う。

心の整理がついていない状況で、彼女の顔を見ながら話すというのは難しいことだったから。彼女からすれば、なんの話と思うだろうが…………。


「まさか、天城のエロい夢を見るなんてなあ…………」

周辺にほかの人間がいないことを確認して、独りごちる。

仮眠室全体に彼女の香りが漂っていたのも理由の一つだろう。いろんな欲を溜め込んだ身体には、少し刺激が強かったということだ。

まさか本人が同じ部屋で眠っているというのに、その彼女の淫夢を見ることになるとは思ってもいなかった。

それも、普段の彼女からはまるで想像できない内容。

真面目で朗らかな、清楚で気立ての良い箱入り娘といった雰囲気の彼女が…………。


「まさか、なあ」

あの夢に関しては、目が覚めて時間が経ったいまでも鮮明に思い出せる。

霞んで揺れる視界のなか、一糸纏わぬ姿の天城が、横になった俺の胸に手をついて淫靡な笑顔を浮かべながら懸命に腰を振っていたのだ。

肉と肉がテンポよくぶつかる音と、愛液が弾ける淫猥な水音。天城の膣内を繰り返し擦り上げる肉の棒。

汗か体液かもわからぬままに濡れ、長い茶髪を頬にはりつけ、いつも朗らかに笑うその顔に淫蕩な表情を浮かべ――――。


「…………うっ」

夢想して、思わずぴくりと反応する。

ズボンポケットに両手を突っ込んで、あたかも指の膨らみであるかのようにカモフラージュを施す。こんな姿を艦娘たちに知られれば、信用の失墜間違いナシだ。


あの夢が、妙に現実味を帯びていたのには理由がある。

まず一つは、夢精した翌日のような、独特の清涼感と気怠さに包まれて目が覚めたことだ。

眠っている間に精を――というのは経験がないが、おそらくああいった開放感に溢れているのだろう。

…………それにしては、はいていたものが一切汚れていなかったのは奇妙だが。

太もも周りに血のような液体がついていたのは気がかりだが、眠っている間にどこか切ったのだろう。
寝相が激しいときがあるし、そういうことは今までにもよくあったから。

ただ、拭き取ろうと思ってティッシュを当てても、“糊”のように、こびりつくような粘力があったのはなぜだろう。


二つめに、夢の中の出来事であるにも関わらず、その感触がダイレクトに伝わってきたこと。

行為の経験はないはずなのに、その温もり、その痺れが現実味を帯びて流れ込んできたのだ。

聞いたはずのない天城の嬌声も、こびりつくようにして脳内を支配している。
まるで本当に耳にしたかのようなリアルさだった。


…………ただ、あくまで“現実味を帯びている”というだけの、考える意味のないおはなし。

まさか本当にあんな出来事が起こっているはずがない。だいいち、俺と天城は出逢って間もないし、そういった関係にもない。

天城だけを特別そういった目で見たこともない。むしろ知り合って間もないだけに、そんな視線を向けないように気を配っているはずだ。

女の子は“そういう”視線に敏感だと聞くし。あんまりそういう目で見てると嫌われちゃうぞ――っていうのは、鈴谷の談だったかな。

それだけに、ああいった夢を見たことが妙に気がかりなのだ。
まぁおおかた、どれだけ繕っても心の底では同室で眠る彼女に興味津々だったということなのだろう。

女ばかりの環境に慣れたとはいえ、やはり男だということだ。


そうだとしか説明がつかない。そうだろう。だって、大和撫子を体現した彼女が、あんな…………そんなわけ、ない。

執務室に一人で篭っていると、よからぬ問答が脳内をぐるぐる回って、おかしくなりそうで。

もしかしてアレは、本当にあった出来事なのではないか。もしくはこれから起こりうる正夢なのではないか――という、ありもしない期待をしてしまう。

堂々巡りに陥っている思考を冷やそうと、こうして鎮守府内を練り歩いているというのだ。

たかが夢ひとつでどうしてここまで悩む必要があるのやら。我ながら女々しい性格をしているな、まったく…………。


秘書艦を任せているはずの天城は現在、同じ航空母艦の先輩たちに改めて挨拶回りをしているらしい。提督机に、そう書かれた書置きが微かな香りとともに残されていた。

業務開始の時間にはまだ猶予がある。それまでに心の整理をつけておかなければ。

――初対面の相手に盛る、か。案外俺も性欲魔神だったってことなのかなぁ。

はあ…………いったいどんな顔して会えばいいってんだよ…………。


「あら提督。おはようございます」

「うっ!? ……ああ、雲龍さんですか。おはようございます」

「…………なんでちょっとビックリしたの?」

いつか来る秘書艦との時間の空想に耽っていると、死角から声をかけられた。

驚いて、彷徨わせていた意識が一点に集まる。


ここは…………空母寮前か。

なるほど、気づかぬ間にずいぶんなところまで足を運んでいたようだ。

「ああいえ。今日も暖かいものですから、散歩しながらちょっと考え事を…………」

「ふうん…………考え事もいいけれど、ケガしないようにね」

「ずいぶん上の空だったみたいですから」

雲龍さんの話を聞いてみたところによると、どうやら先ほどから執務室と空母寮前をひたすら往復していたらしい。

鎮守府中央の時計塔を眺めてみる。時刻は午前の八時前を指しかけていた。

朝眼が覚めてからいろいろやって、執務室の戸を開けたのがだいたい午前七時すぎだ。

なんてこった。頭を冷やすつもりで散歩していたのに、一時間経っても未だ煮え切った状態。
さすがに朝食の場ともなると、秘書艦任命している彼女と顔を合わさないわけにもいかないだろう。


うう、どうしたものか…………。

変に意識して色気を悟られるようなことになるのも良くないし、普段通りに過ごしていればいいのだろうが…………。

――――ということをひたすら悩みながら、ひたすら同じ場所をぐるぐるしていたらしい。

雲龍さんも見てないで言ってくれたらよかったのに。

そう口を尖らせて言ってみるも、優しい微笑みで返されてしまった。

「なにを考えていたかは知らないけれど、提督がそんなに悩む姿って新鮮ですから」

「なんだか可愛くって。ごめんなさいね」

そう謝られてしまうと、こちらとしてはなんとも言えない。くそう。


雲龍さんは、ひた歩く俺を見かけてからその真後ろをペットのように追従してきたらしい。
まさか考えていたことが口に出ていたりなんかは…………しないかな、この様子だと。

もしこの人に『天城の淫夢を見ていました』なんて知られたらどうなることやら。

普段は温厚なこの人でも、こと天城に関しては熱くなってしまう。妹を性的な目で見たなんて言えば、きっと烈火のように怒るに違いない。

「…………そういや雲龍さん、自分になにか用でもあるんじゃないですか」

さすがに何の用事もなく、ただ俺の後ろをつけてきただけなんてことはないだろう。


…………と言いたいところだが、そうでもない。雲龍さんは何を考えているのかよくわからないことが多い。

あまり感情を強くあらわさない人だから、初対面のときなんかは手探りで会話をしていたのを思い出した。

いまの天城のように、配属されてしばらくは秘書艦として交流を持った。
不思議な人だが、妙に波長が合って会話がはずんだ。いまでは腹心と言っても良いほどに関係が深いつもりだ。


「いえ、たいしたことじゃないのだけれど…………」

視線を歩かせながら、身体の後ろで指を弄ぶ雲龍。

靴のつま先で地面をとんとんと鳴らしながら、上目遣いで提督の様子を窺う。

「明石さんからお聞きしたのだけれど、こんばんは十数か月ぶりに大きな満月が見られるそうですよ」

「ああ、スーパームーンってやつですか」

「そう。今日も暖かい一日になるそうですから、一緒に月を見ながらお酒でも…………いかがですか?」

不安げな声色。伏し目がちに見つめる双眸が、提督を見据えていた。

染めた頬が気恥ずかしげに揺れ動く。春の足音をしらせる心地よい風が、三つ編みに括った銀髪を揺らす。くすぐったそうに、はにかむ雲龍。

その言葉を受け、斜め上に視線を向けて考え込む提督。


間もなくして、その眉根が下がる。

今日の夕方には、工廠エリアの電灯の点検のためやってくる業者の人間と話をしなければならないことを思い出したからだ。

業者を帰した夜中には、詳細を書き込んだ書類の記入や点検がある。その後には事務作業もあるし、恐らく解放されるのは真夜中になるだろう。

そんな時間に付き合わせるのも申し訳ない。
艦娘のコンディション調整は難しい。いくら出撃がないからとはいえ、提督自らそのリズムに水を入れて崩させるわけにもいかないのだ。

「…………そう。なら、次の機会にはちゃんと付き合ってくださいね」

そう答えると、同じように眉をおろして微笑む雲龍。

今度なにかの形で埋め合わせをすると伝えると、期待しないで待っていると応え、手を振りながら去って行った。

じきに朝食の時間になるのだし、どうせなら一緒に食堂で…………と言おうと思ったが、不思議とその背中に声をかけるのは躊躇われた。


…………なんだか、雲龍さんと話をしたら気分がすっきりした。

けっきょく。俺個人の問題でしかなくって、悩んだってどうにもならないこと。
せいぜい天城に不快な思いをさせないように毎日を積み重ねていくだけ。単純な話だった。

慣れない天城との触れ合いでちょっとナーバスになっていたのかもしれない。

そうだ。淫夢のひとつやふたつ、よくあることじゃないか! それがたまたま、配属されて日の浅い艦娘だっただけの話だ!


よおし、なんだか力がみなぎってきたぞ! 夢なんかで怯えていたら鈴谷みたいな子たちに煽られちゃうからな!

なにはともあれ今はメシだ! 今日もハードなスケジュールだ。張り切っていきましょう!




「あ、提督! お戻りになられましたか」

「ぐっ! …………ああ、ちょっとな」

「…………なんでちょっとビックリしたんですか?」

重い足を引きずって執務室の扉を開けた俺を、一足先に朝食を済ませていた天城が椅子から立ち上がって出迎えた。

気合を入れて朝食の場に臨んだのにその場にいなかったんだもの。ひと安心した瞬間にこれだよ!


鳩尾を押さえてうめく俺を前にして、ハテナを浮かべて首をかしげる天城。
どこか既視感のあるやり取り、これが姉妹か…………。

「い、いや…………そういや天城、今朝は早かったんだな」

「俺が起きたときにはもう、着替えて散歩だったか。朝には強いほうなのか?」

話題を逸らすように、適当な話題を見繕う。天城には座るように身振りで伝え、自らも提督机へと足を運ぶ。

一時間にわたる執務室と空母寮間のマラソンは意味がなかったらしい。本人を目の前にして、心臓が胸を叩いている。

「え、ええと…………あの、寝汗とか、すごくって。のども気持ち悪かったですし、シャワーを浴びたくって」

「シャワー室に向かうにも、足に力が入らなくって。慣らそうと思って、それで散歩をしようかなって…………」

慌てる俺を訝しげに見つめながら、ほおに指をあてて答える天城。

どこか言葉を選んでいるようなたどたどしさがある。そんなに答えづらい質問だっただろうか。

…………もしかして、こういう朝や寝覚めに関する質問はセクハラに当たるのか?


「…………てーとくは」

「提督は、昨晩。…………よく、眠れましたか?」

既に彼女は秘書艦の仕事を始めているらしい。机に向かって筆を動かしながら、何気なく言葉を投げかけてくる天城。

くっ、よりによって今の俺にその質問とは!

彼女からすれば何気ない質問でも、脳裏をよぎる淫夢の欠片が俺の頭に深く突き刺さる。

俺の生殖器に這うざらついた舌。大きな胸を上下に揺らす彼女。未だ見ぬ彼女の膣肉を擦る俺の陰茎。彼女の奥深くで暴れる白い子種――――。


「…………バッチリだ。軽めの睡眠薬も飲んでいたし、夢ひとつない暗闇だったな」

しかし本人を前にして悟られるわけにはいかない。“精一杯の普段通り”を装って、こちらも書類を手元に手繰り寄せながら答える。

…………上着は脱いでおくか。膝掛けの代わりにでも使おう。…………よし、これで万事問題ないな。

平常を装って筆を手に取り走らせる。正直、そこに書かれている内容がまったく頭に入ってこないくらいには動揺しているつもりだ。


「…………そう、ですか。それなら良かったです」

「――――ちょっと、ざんねんだけど」

俺を気遣ってくれていたのか、書類に目を向けたまま、安心したような、困ったような笑みを浮かべる天城。

視線を流してなにか呟いていたが、紙がこすれ合う音にまぎれて届かなかった。

天城の姿を直視するのは難しくって。こちらも書類に顔を向けたまま、天城の姿をこっそりと盗み見る。

…………うん、大丈夫そうだな。

そもそも俺は顔に出やすいタイプというわけでもない。すぐにバレるわけでもないし、変に悩みすぎだったかな。


今日の執務を切り崩しながら、冗談を交えた雑談を交わす。
歓談しているうちに、鬱屈とした気持ちがだんだんと晴れていった。あれだけ悩んだ意味はあったんだろうか。

その中で、先ほど雲龍から聞いた話が、ふっと頭に浮かんだ。

提督本人である俺とは違って、秘書艦の仕事はそこまで多くはない。秘書艦の仕事はあくまで俺の補佐ぐらいなもので、そう忙しくはならない。

俺に気を遣って夜遅くまで執務室で暇をつぶす秘書艦がほとんどだが、今晩は珍しく満月の綺麗な夜なのだから、そうしなくとも良いだろう。

「そういやもう聞いているかもしれないが、今日は久しぶりにスーパームーンらしいな」

「せっかくだし、早めに切り上げて眺めに行ったらどうだ」

ここにきてから、ほとんどの時間を執務室に閉じ込めてしまっているからな。

月を見ながら馳せる想いもあるだろう。とくに女の子はそういった時間を大切にするらしいし。


…………ああ、でも月ってことは夜か。念のため伝えておこう。

「ただ、工廠地帯の一角――――この窓から見えるか? あそこの電灯、ちょっと故障しているみたいでな」

「なにやら電灯が点かないらしい。そのへんは暗くなるから、危ないし近寄らないようにな」

海辺だから、変に道を外して海に落っこちたら大変だ。

いくら暖冬とはいえ、海の水は厳しい。潜水艦娘ですら潜りの頻度を落としているくらいだ。


天城はマジメそうだからそういったドジは踏まないだろうが、こういうことはキチンと伝えておかないとな。

「わかりました。…………では、お言葉に甘えさせていただくかもしれません」

おう、気にするな。


――――あ、電灯って点かないんじゃなくって、勝手に点いたり消えたりするんだっけ…………。

まあ、似たようなもんか。どちらにせよ故障していることには間違いないし。

「…………提督は、どうされるんですか?」

控えめに訊ねてくる天城。
どうっていうのは、スーパームーンの時間をどうするかってことで良いんだよな。

雲龍に伝えたことをそのまま天城にも伝える。今日の俺は忙しくなるから、あまり時間が取れないということを。

まあ、窓から月を眺めるくらいならすると思うが。

「…………そうですか、残念です」

「提督は、ずうっとこのお部屋に?」

筆を止めて、じぃっとこちらを見つめる天城。

ちょっと席を外すことはあるだろうが、基本的には執務室で作業になるな。もしなにかあれば呼んでくれても構わないぞ。
あと、今日も暖かい夜になりそうだが、だからって油断して風邪をひかないように――――って、着込む彼女には杞憂かな。


それからいくつか、天城から質問を受ける。

工廠地帯の電灯が故障していると言ったが、具体的にどの辺りが暗くなっているのか。
ほかの艦娘たちは、具体的にどのような場所で月を拝むのか、提督も少しは見るのか――など、いろんなことを聞かれた。

なんだろう。人気のないところでひっそりと楽しみたいってことなのかな。

考えありげにくすりと笑う彼女を見て、少女らしき一面が垣間見えた気がした。


スーパームーンの下で、月が綺麗ですね……なんて言えたらカッコいいんだけどなあ。

今までそんな相手がいたこともないし、これからもなさそうなもんで…………。憧れがあるんだよなあ。

そんな愚痴をこぼす俺に対して、優しいお世辞を言ってくれる天城。ああ、なんて優しい女の子なんだ…………。

熊野なんかにこんな愚痴をこぼした日にゃ、そんなことを女性に言うからダメなのですわ――って一喝されたんだっけ。

天城はやさしいなあ。

うう…………俺はそんな子に対してなんてゲスな夢を見てしまったんだ…………。


――――

――







「…………どうですか?」

赤く揺れる海のほとりで、約束していた業者と一緒に外灯の様子を見ていた。

今回はあくまで確認ということで、ひとりの業者さんがブリーフケースほどの大きさのカバンを手にやってきた。

ちょっとした部品の取り換えならうちの工作艦でも行えるのだが、故障ともなると本職の人間を呼ばないと直せない。

一般の外灯とは違い、あちこち突っ張っている鉄の棒にフックをひっかけて器用にのぼっていく。

「…………そうですねえ。簡単に言ってしまえば、経年劣化による色々なものの故障――といったところですか」

「最後に取っ換えたのが二十年前になってますから、だいぶもったみたいですけどね」

電柱の頂上付近へ辿り着きぐるぐると回りながら、首からさげたクリップボードにあれこれと書きこんでいく。

今となってはもう慣れたが、はじめに見たときは驚いたものだ。
安全ベルトやロープも着けずにひょいひょいと気軽にのぼっていく様はさながら忍者のようだった。

これでただの電気屋というのだから恐ろしい。やはりその手の専門職は凄まじいものだ。

それを見て目を輝かせた川内が後日、木のぼりの練習中に落っこちて昏倒してしまったこともあったが…………。

「せっかくですし、この付近の電灯もすべて確認していくことにしますよ」

「データをまとめて、また後日仲間を引き連れて大がかりな改修工事に入ろうと思います」

「お願いします」


必要な情報を集め終えたのか、電灯の頂上付近の突起にワイヤーロープを引っ掛けてするすると降りてくる業者さん。

懐かしいな。俺も提督になる前にああいった訓練を一通り教え込まれたんだっけ。

弾むように陸へと着地し、ベルトについた機械を操作してワイヤーロープを巻き取っていく。
キュルキュルとすべて巻き取り、先端についたフックがベルトの金具に擦れてカチンと鳴った。

「そんじゃ行きましょっか。確認って言ってもさらっと見るだけですから、その間にまた面白いお話でも聞かせてください」

「ウチの若いのも艦娘のみなさんに興味津々ですからねえ。いやはやなんとも羨ましい職場ですこと」

「ははは…………そんな想像するほど良いもんじゃないですけどね」

毎度、訪れるたびに言われる厭味をさらりと受け流す。相手も本気で言ったわけではないようで、目もとを細めてくしゃりと笑った。


まったく皆無というわけではないのだが、やはり男手が少ない職場というのはなかなか気を遣うものがある。

艦娘一同はそれなりに鍛えているとはいえ、あくまで少女なのである。
単純な例をひとつ挙げれば、重い物を運ぶ際にも、貴重な男手である提督自らが行うことが多い。

部下なのだからと艦娘たちも進み出るが、“男”としての感情がなかなかそれを許さない。

直接、敵である深海棲艦とぶつかっているのは彼女たち艦娘なのだ。せめてそういった小さな作業で見栄を張っていかなければ、息をしづらく感じてしまう。

あまり張り切るものだから、まだまだ若者だというのに腰を痛めてしまったことがある。
それ以来、ようやく人に頼むということを覚え始めた。


「なんですか、最近また新しい子が入ったそうじゃないですか。どうですか、具合のほうは?」

「はは…………」

どことなく含みを持たせる言い回しで尋ねる業者さん。わざとやっているだろうと苦笑しながらそれに応える。

前にプリンツ・オイゲンたちがうちの鎮守府に配属されたときにも聞かれたが、この手の情報はいったいどこから仕入れてきているのだろう。

下手すると情報漏えいとか、そんなんじゃ…………。


「また例にもれず、自分とそう大差ない年頃の女の子ですよ。雲龍のことはご存じですよね」

「ああ、あの大きいほうの」

「…………大きいほう?」

伺ってみると、すぐに思い当ったのか頷く業者さん。

…………小さい雲龍なんていただろうか。似たような艦娘にも心当たりがない。


参考までに、小さいほうは誰なのか聞いてみる。そうしたら――。

「そりゃ提督さん、小さいほうって言ったら島風ちゃんですよ」

島風? 島風は駆逐艦だし、雲龍は航空母艦だ。髪色はたしかに近いだろうが、その顔つきや性格はおおよそ似ても似つかない。

「あの、その二人にどんな共通点が?」

たまらず聞いてみる。聞いてみると、業者さんは身体を震わせて楽しげに笑う。

前に立った状態から後ろにいる俺を見返るように首を逸らせ、口角を上げる。

「そりゃ提督さん。あの二人の共通点っつったら一つしかないでしょう」

「服装ですよ」

………………ああ。

即座に合点がいってしまったのが悲しいところだ。


島風も雲龍も、待機中は比較的おとなしめの服装をしているが、ほかの艦娘たちに比べると非常に激しい。

雲龍は自分の年齢と立場を弁えているからまだ問題ないが、島風はいまだに幼さを残している。

胸元を大きく広げ、限界まで短くしたスカートをはためかせながら元気いっぱいに駆け回るものだから、ときどき見えてはいけないものが見えそうになる。

ほかの艦娘も注意は施したのだが、島風なりの矜持を持ってそのスタイルでいるらしい。そう言われてしまったら何とも言えない。

くじ引きで選ばれた艦娘のマネをして過ごした一日があったが、島風が選ばれたときはヤバかった。

陸奥とか矢矧とかが島風ばりに露出した服を着て、恥ずかしそうにスカートの裾を押さえている姿には完全に前かがみだった。
雲龍は自らめくって見せてきた。やめろ。



その日の晩は気持ちよく眠れました。


…………だが、やっぱり女の子つったらもっと着込んで欲しいよな。たとえばそう、天城みたいなさぁ。

俗にいう“痴女服”もそれはそれで嬉しいのだが、あんまり肌を出していると露出癖があるのではと勘違いされることもあるだろう。

やっぱり一緒に歩いていて落ち着くのは淑やかな人というか。

あんまり派手な服装をした女の子だと、男性から余計な視線を集めてしまうこともある。

一緒に歩いている艦娘が、ほかの男にじろじろ眺められるのは、隣の自分としてもやはり心落ち着かないというもので…………。

その点天城のような、いたって真面目で大人しい女の子ならそういった視線に晒されることもない。

それに、女性経験がない自分からすれば、派手な女の子というか、積極的な女の子には耐性がないわけで。


…………。

なんというか、夢の件からずっと天城のことを考えている気がする。

正直好みのタイプではあるのだが…………それにしたって、なあ。

もしかすると、ああいった夢の姿は、心のなかでは淫らに喘ぐ天城の姿を見てみたいという願望の裏返しなのかもしれない。

ただ、変に勘違いされてぎくしゃくするのも嫌だしなあ…………。

――――という思考に回帰する。つまるところ、天城に嫌われたくないだけなのだ。


「…………どうされました? どこか具合でも?」

ふっと気づくと、二つ目の外灯の調査を終えた業者さんが目の前に降り立った瞬間だった。

どうやら電灯を点検している間にもいろいろ語りかけていてくれたようだが、自分が終始無言なものだから不思議に思ったらしい。

「ああ、すみません。ちょっと考え事をしてしまって…………」

「ほお、考えごと」

「ええ。最近来た子なんですけど、さっき言った雲龍の妹でして――」


三つ目の外灯にするするとのぼっていく業者さんの背中に向かって、天城のことを掻い摘んで話す。

姉の雲龍とは違って明朗快活、それでいて楚々とした美少女だということ。

しかしどこか天然っぽい雰囲気を持っていて、どう対応しようか悩んでいること。

淫夢とはさすがに言わなかったが、ついには夢にまで出てきてしまったと説明した。

「あっはっは! それはそれは、ついに提督さんにも春がやってきたってことですか!」

「季節感的にもそろそろですし、ちょうど良いじゃないですかあ」

あてどもなく語る自分に対して、朗らかに笑い飛ばす業者さん。

こっちはそれなりに真剣に悩んでいるというのに大笑いとは、なんということだ!

「いやあ、すいませんすいません。普段女の子に囲まれてる提督さんがそんな悩みって、なんだかおかしくってねえ」

「聞いた感じだと、すごく良さげな感じじゃあありませんか。さては……そこまで言うということは、ちょっと好みが入ってるんじゃないですかあ?」


この、み…………。

好みと言われると、どうなんだろう。

出逢って、はじめて言葉を交わしたとき。自然と好感が湧いたというか、親和の情が流れたというか……。

どこか、気持ちが吸い寄せられるかのような錯覚があったことは否めない。

しかしこれは天城がもつ人柄や雰囲気ゆえにそうなっただけだろうし、好みとか恋心とか、そういうものではないような気がした――が。

今朝、夢を見てから妙に心の中になにかが灯されたような、そんな温かさがある。
木々が揺さぶられているような、ざわついた感情もある。

これは単純に、淫夢を見たことによって心が動揺しているだけだと思うし、恋愛感情とは違う気がする。


――――だが、それなら。

天城に相対したとき、心の中に引き起こる感情の震えはなんなんだろうか。

自然と、天城のことを知りたくなって、ついついと浮いた言葉が口から流れていってしまうのはなんだろう。

自分はそんなに軟派な人間ではなかったと思うし、からかって相手の反応を窺うようなことも多くはなかったはず。

だけど、天城に言葉で触れて、天城が笑う、喜ぶ、驚く。そうした手応えを得られることに喜びを感じていた自分はなんなのだろう。

ふわふわとあっちこっちに揺れ動くこの心はなんなんだろう。雲か霞のような、名状しがたいこの慕情はいったい――――。


「――――とくさん、提督さん?」

「はっ! すっ、すみません! 何度も何度も!」

「いえ、それは良いんですが…………こりゃあ、ホントにあるかもしんねえなぁ」

いつの間にやら、業者さんはこの区画の電灯はすべて点検を終えたらしい。最後の電灯にもたれかかって、ぺらぺらとクリップボードをめくりながら色々とメモを書いていた。


点検している最中に夜が訪れたのか日はほとんど暮れていて、朱色だった海が鈍色に変わっていた。

鎮守府施設の明かりが夜の海面に反射し、金色の波と銀色の波が淡く交差する。

「ほら、最初に点検した電灯がアレですね。ぶつぶつ点いたり消えたりしてるアレです」

「今はまだ日の光が残ってますから問題ないですけど、真夜中になるとあの周辺は月明かりくらいしか射しこまなくなります」

業者さんが手にしたボールペンを遠くへ指す。その先の電灯が、ちかちかと不規則に点滅していた。

「ちょっと触ったから今はあんなに点滅してますけど。だいたい日付が変わる一時間前くらいですか、それくらいには消えて真っ暗になると思います」

「小さい子たちもいますから念のため、零時になったら自動的に発光する照明を取り付けておきました。数時間しかもちませんけどね」

説明を受けながら、工廠地帯から鎮守府の建物を迂回するように鎮守府の出入り口へと歩を進める。

夜中に出歩く艦娘はあまりいないが、ときたま夜釣りに赴く巡洋艦の子たちがいる。
その子たちが道を外さないようにと、念のため臨時の照明を取り付けてくれたらしい。

今日は月が大きな日らしいですし、誰が出歩いていてもおかしくありませんから――と、からから笑いながらクリップボードを叩く業者さん。


こちらの希望を、こちらが言う前に察知して先回りしてくれるのは非常にありがたい。

「それでは、こちらのほうで準備が整い次第ご連絡いたしますね。お代金等のお話はまたその際にでも」

「わかりました。お願いします」

そろそろ出入り口付近の花畑が見えるころだ。翔鶴のようなガーデニングが趣味の艦娘が手塩にかけた花壇が見えてくる。

プリムラやバンジー、ヒナギクなど色とりどりの花々が絨毯のように広がっていく。


塩化ビニール製の防水園芸手袋をはめた少女たちが、可愛らしいじょうろを片手に挨拶の言葉をかけてくる。

「提督さん。お節介かもしれませんが年寄りからのアドバイスです」

「もしその、天城という娘に対する感情や対応でお悩みならば、一度連れ立って外出してはいかがでしょうか」

「案外、ぎくしゃくしているときこそ! ということもありますから」

挨拶に手をあげて応え、花々の間を歩いて白い歯を見せつけながら笑う業者さん。


新規の業者は、この見目麗しい女の園に一歩踏み込めば無意識のうちに角張ってしまうものだが、もはやほとんどの艦娘と顔見知りになったこの業者さんには関係がない。

付き合いも長いものだから、この業者さんを通じて、俺が男同士ではどういった話し言葉なのか、どんな対応をしているのかを聞きだす艦娘も一部いるそうだ。

なんでも、夏や冬に出す書籍の素材? にするとのこと。ガーデニングの趣味を活かして蔦? 触手? そういったものを描くつもりらしい。

絵が上手な艦娘が何名か集まって顔をつきあわせて相談していたが、合同で風景画でも描くつもりなのだろうか。でも、それなら俺の情報を引き出す理由がないしなあ。


艦娘も信頼を置いているこの業者さん。間違ったことは決して言わないし…………。

「そう、ですかね。…………まあ、そのときが来ればって感じですが」

「うんうん、そんなもんで良いんです」

連れだって外出って…………デートってことだよなあ?

うーん、難しいなあ…………。


鎮守府の出入り口まで辿り着いた業者さんと言葉を交わし、一礼して見送る。

その姿が曲がり角に消えたことを確認して、一息つく。今日はずいぶん、変わったことを言われたものだから驚いた。


俺が天城を好き、かあ…………。

少なくとも悪く思っていないことは確かなのだが、実際そこのところはどうなんだろうな。


…………ふう、とりあえず帰ったら真っ先に冷たい水で手洗いうがいをしよう。あと顔も洗おう。

へな汗かいちまった。火照った頭で天城の前に立つのは良くない。そんな浮ついた状態だとなにを言ってしまうやら、考えただけでも震えが走る。

とりあえず、これであとは内務だけだな。せっかくだし俺もさっさと仕上げて、月明かりの執務室で一献といきたいところだ。

アルコールを少し入れたほうが眠りにも就きやすくなるし、なにより艦娘たちに対してフランクに接せられる。

あまり強くはないものだから、用量を間違えると大変だが…………まあ、そこは弁えているし問題ないだろう。

月が光るのもそろそろか。早いとこ終わらせてお月見としよう。


さ、執務室で天城が待ってる。


――――

――






コーヒーポットから噴き上がる湯気が空調と換気扇の動きに煽られ、天井に当たってゆっくりと執務室全体に拡がっていた。

紙をめくる音と筆の走る音のなかに、ときどきコーヒーカップとソーサーがぶつかる音が紛れこむ。

初日はこういった小さな音でも反応していた天城も慣れた様子で、新装備開発と既存装備改修の結果報告が書かれた書類に確認のサインを書き、その上からハンコをぺったんしている。

その彼女の机にも、提督――自分のものと同じデザインのカップが置かれている。天城が配属されたその日に、明石の酒保にて購入したものだ。

コーヒーカップを購入する際に、配属されてから初のお願いということで、自分も色違いのものをお揃いで購入することになった。

なんでも天城曰く、同じものを持っていれば親しみを感じやすくなるとのことだ。彼女なりにこの鎮守府に適応しようとしてくれていたのだろう。


乾いた音を立てるソーサーの隣には、バレンタインの日に金剛型の姉妹が焼いたスコーンが糖分補給用に置かれている。

熟練の腕前で焼かれたチョコチャンクスコーンだ。
小さく綺麗に型を抜かれたそれをひとつ手に取って、口の中に放り込む。焼き菓子の独特の風味が口のなかいっぱいに広がって、悩みや仕事で疲れた脳が緩むようだ。

時刻はもうすぐ二十三時前になる。

業者さんを見送って執務室に戻ったときに、天城の前に置かれてあった書類の山も、きれいに撤去されて丘になっている。

あのペースなら平地になるのもそろそろだろう。ちょうど月が美しく輝く時間だ、ベストタイミングと言っても良いだろう。

だが、頑張りやで真面目な彼女のことだ。仕事が残っている俺に気を遣ってなかなか席を立たないはず。


ここはひとつ、俺の口から言ってやるべきだな。

「天城、そろそろ作業も終わるころだろ。昼前にも言ったが、俺に気を遣わなくってもいいぞ」

「今日は一日執務室で疲れたろ。今夜は暖かいし、夜風でも浴びながら見てくるといい」

俺の仕事ももうすぐ終わるし、天城の手を借りなくっても大丈夫だから。

「え、え、でも…………」

最後まで付き合うつもりだったのだろう。手を止めて困惑する天城。

雲龍からこっそり聞いていたが、天城の趣味は夜の散歩らしい。夜の世界――人々の生活の光や星の煌めきが照らすなかを歩くのが好きだそうだ。

天城ほどの可憐な美少女が夜中に出歩くのは危険だとは思うが、さすがに鎮守府の敷地内ならば問題ない。
人間の出入りに関しては厳重に監視されている。よほどのことがない限り不審者なんて現れない。

危険を内側に抱えていないからこそ、艦娘も安心して夜中に騒げるというものだ。苦情の対応も楽じゃないのでマジで勘弁してください。


散歩が趣味ならば、こんな夜こそ出歩きたくなるのではないだろうか。事実、さっきからそわそわしっぱなしだし。

席を立ったかと思うと、髪を整えて戻ってきたり。先ほどからしきりに毛先を弄んでいる。


「いいからいいから。――あ、じゃあせっかくだしこれ持ってけよ、ほら」

執務室に設置されている冷蔵庫――ではなく、提督机の足元に置いてある俺個人 用のクーラーボックスを開け、瓶をいくつか取り出す。

その瓶を保冷剤とともに革のバッグに入れ、提督机の上に置く。ごとりと、瓶同士がぶつかって涼しげな音を発する。

「電灯の点検に来てくれた業者さんからいただいたものだ。それなりの梅酒と果実酒らしい」

若いのからもらったんですが、ぼくみたいな年寄りにはこういう爽やかなものは口に合いませんで――と、開口一番に掲げた代物である。

梅酒は健康にも悪くないお酒だということで、酒飲みでない艦娘にも親しまれている。金剛型や五航戦がそれに該当する。


「天城は飲めるほうか? 俺はそこまで強くはないから、せっかくだし消費してやってくれ」

「天城が、ですか? …………わかりました。ありがたくいただいておきますね!」

一瞬の間逡巡したのち、頷く天城。

秘書艦机に手をつきながら、よろよろと立ち上がる。その拙い足取りのまま、提督机の前に立つ。

「…………なんだ、どこか悪いのか」

そういえば昼前にも、足に力が入らないだとか慣らすだとか言っていた気がする。怪我でもしたのだろうか。

「ええ、と。………………ちょっと、痺れちゃいまして!」

内股に寄せた足を頼りなくふらつかせながら少し恥ずかしそうに笑う天城。


着物を着ているときにそんなだと、こけてしまいそうで見ているこちらが心配になってしまう。

「本当に大丈夫か? 辛ければここで開けてくれても構わないが…………」

肩を貸そうと提案しようとしたが、さすがに重病人のような扱いを受けるのは天城も本意ではないだろう。

そんな二人三脚の状態で鎮守府内を歩いていれば注目も浴びるだろうし、ほかの艦娘たちに余計な心配をかけることになる。

「~~~~っ!!」

「い、い、い、いえっ! せっかくのチャンス――――わわっ」

「えとっ、心配するほどではありませんから、天城のことはお気になさらず! それではこちら、いただいていきますね!」

「お、おう」

なんだかよくわからないが、喜んでくれてなによりだ。こういう一人で“浸る”時間っていうのは心の整理にちょうど良い。


前にいた鎮守府の仲間たちに想いを馳せることもあるだろう。今日一日を経て、さらなる奮励努力を期待したいな。

二本の酒瓶が入った革バッグを手に取り、秘書艦机まで戻る天城。

引き出しを開けていくつかを取り出し、革のバッグへ放り込む。
この提督机からは死角になっていて何を入れていたかは見えなかったが、おおかた酒のアテか何かだろう。

栓抜きは予めバッグに入れておいたから問題ないはず。力を入れなくても使える代物だ。

「今日はもう終わりだから直帰で構わない。それじゃおやすみな」

「はい! それでは提督、また後ほどお会いしましょうっ」

浅く一礼し、がちゃがちゃと鳴るバッグを片手に執務室の扉をくぐる天城。

その扉が閉じられる音が、俺一人だけになった執務室に残る。


…………なんだか最後、微妙にすれ違いがあった気がする。直帰で良いと言ったはずだが、また後ほどと返されてしまった。


念のため後を追って伝えようかと思ったが、秘書艦用の寝室は提督執務室のそばにある。万が一戻ってきたとしてもそちらに泊まるだろうし問題ないかな?


立ち上がりかけたが思いとどまり、椅子を引き戻して深く腰掛ける。
半ば追い立てるようにして天城を追い出してしまったのには、ひとりになりたい理由があったからだ。

なぜ雲龍の誘いを断り、天城にも付き合わず、今なお執務室で独りなのかというと――――。


「――“ケッコンカッコカリ申請書”、ねえ」

押し付けられるようにして、大本営から送られてきた書類一式。

今まではあまり興味がなくって引き出しの奥に潜ませてあったこの書類だが、なぜか最近になって再び向き合おうと思った。

理由はない。本当に気まぐれで引っ張り出しただけだ。

ケッコンカッコカリ申請書の表面を、指で撫でるように触れる。

…………。

ざらついた紙の感触と、煌びやかな装飾の凹凸。ありふれた厚紙、ただそれだけだ。深い意味など持たない。

“ケッコン”とは言っても、あくまでただの名称に過ぎない。大本営曰く、強い絆を結んだ艦娘だけが行える練度開放の儀式、だそうだ。

練度を開放すれば、使役する艤装にさらなる力が宿り、砲撃や雷撃、艦載機による爆撃等の命中率、また敵の悪意に対して鋭敏になるらしい。

デメリットが一切ない、まるで魔法のような技術だそうだ。

ケッコンの際に贈られる指輪が、艦娘の感覚を研ぎ澄ますらしい。この技術が開発されてからは、各地でケッコンの儀式を挙げる提督と艦娘が相次いだそうだ。

ケッコンを行った艦娘は新たなる力を獲得し、目覚ましい戦果を挙げていることはデーターで確認した。


もちろん、うちの鎮守府にも条件を満たした艦娘は多数いる。

どこからか噂を聞きつけてきたのか、俺に直接ケッコンのことを訊ねてきた艦娘もいたほどだ。冗談交じりにケッコンを誘われたことも多々あった。

…………それでも。

それでも、“ケッコン”とついた儀式を気軽に行うことには抵抗があった。

戦力増強のための儀式と割り切って行えるほど、俺は人生を重ねていない。
仮とはいえ、本当に好きな相手とだけ行うことじゃないかと思っている。重婚なんてもってのほかだ。

…………こういう考えが甘いことは自分でも理解している。重婚すれば艦隊全体の強化に繋がるし、それが艦娘のためでもあるのだろう。


「………………天城、か」

指の腹が、ざらざらとした紙の感触を伝え続ける。

そのなかで、ふっと脳裏をよぎる彼女の笑顔。

手のひらを口元を覆うように、くすりと微笑む亜麻色の君。

天城は最近配属されたばかりで、練度も高くはない。最近の艦隊演習にはキチンと参加しているので、まったくのゼロというわけではないが。

艤装に強化改修を施したことのある、いわゆる“天城改”ではないのだ。ケッコンするには程遠いだろう。

書類の端っこを曲げたり伸ばしたり、親指で弄ぶ。

…………だが、なぜだろう。

ケッコンするとすれば誰が相手か、を想像すると。不思議と天城の顔が脳裏に浮かびあがってくる。

馬が合う、というのだろうか。妙に波長が合うし、その…………顔だって好みだ。声もそうだし、その、身体も好みのほうだ。

でも、天城も同じように思ってくれているわけではない。ともに過ごした時間も長くないし、雲龍のように一部の心が以心伝心というわけでもない。

でも、でも、でも…………。

「…………ああ、もうっ」

むず痒くなって頭をがしがしと掻く。やっぱりこの書類を引っ張り出すにはまだ早かったか!


かち、かち。

独りだけの執務室に、時計の針の音が鳴り響く。

短針は十一の数字を指し、長針は六の数字を通り過ぎたころ。

大きな月が、ひとりの少女を想って悩む少年の姿を見ていた。


――――

――





同時刻、月の下。

ひとりの少年を想いながら、ひた歩く少女の影があった。

よれよれと左右に身を揺らしながら、時折つんのめりながらも、定めた目的地――光の下から、薄暗い月明かりのなかへと進んでいく。

バッグに抱かれた酒瓶の触れ合って立てる音が、押し寄せる波の音に呑みこまれて消えていく。

潤んだ大きな瞳のなかに、海面に潜む煌びやかな星々を映し出す。その瞳の持ち主の影を、予告通りの大きな月が包み込んでいた。


本日の昼前にとある話を耳にしてから、今夜はここであそぼうと思っていた。

夜の“おさんぽ”に使っている小さなおもちゃは、今日は身に着けていない。

昨日の晩の出来事から今の今まで、膣内になにか入っているような異物感を感じるからだ。そのおかげで今日、提督に心配されてしまった。


――――元はといえば、理由のすべてはあなただというのに。


幸いにも、初物を喪失した痛みはあまりなかった。

おそらく、愛撫に十分な時間をかけたからだろう。彼を受け入れるには十分すぎるほどに濡れ滴っていたし。

人に聞いた話やネットの情報では、あまりの激痛に数日間立っていられなくなるほどだ……とばかり聞いていたので、内心すごくほっとした。

あまり響くようなら演習にも影響が出てしまうし、原因を追究されることもあるだろう。そうならなくって本当に良かった。…………良かったの、かな?


あれだけの精をわたしのお口に注ぎながらも、穢れを知らぬ表情ですやすやと眠る彼。

着ていた寝巻きは粗くはだけて、剥き出しの肉体には唾液と愛液がかかっている。まーきんぐ。
その股間からは、未だ精気を失わず天をつく生殖棒がそびえ立っていた。

本当は、彼の意思で奪ってもらいたくって。最後まで致してしまうか否かを悩んでいたのだが…………。

自分の秘裂に彼の先端を押し当てた瞬間に、その迷いは消えてなくなった。

いますぐにでも欲しくって。目下で眠る彼とひとつになりたくって。
自分が、彼の男性の象徴に貫かれることを想像して、あたまのなかまであつくなって。

抗えぬ衝動に操られ――――汗ばんだ腰に体重をかけ、屹立した男根をわたしのなかに突き入れた。

覚悟して挿入した瞬間、身体の中心から割られるような、肉が裂けるような電流が走ったが、それは一瞬だけのことだった。

あまりの衝撃の薄さに、本当に入っているのかを指で触れて確認すると、膣と陰茎の隙間が指一本すらなくって。
わたしの、たいせつな穴が、ぴっちりと埋められてしまっていた。

ぴくぴくと動くあつい棒が、わたしのなかを押し拡げていくような感覚だけがあって。

狭い膣を使って大きな陰茎を扱いているうちに、奇妙な幸福感が身体の奥から湧き上ってきて。

異物による違和感よりも、彼のモノを自分のモノで包み込んでいるというしあわせな事実が、わたしを震わせた。

愛し合う人たちがひとつになって行う、小作りのプロセス。
オスとメスが互いの子孫を残すための行為。

肉体的な刺激ではなく精神的な官能によって、わたしの初体験は、快楽とともにはじまった。


いちばん奥深いところを彼の肉棒が突くたびに頭が真っ白になって、それでも、提督の陰茎が入っているというはっきりした感覚があって。

固くっておっきくって熱いものが、わたしの中いっぱいにこすれているというか、もう何がなんだかわからなくって。

かたく結んでいたはずの口から、いつの間にか吐息交じりの声が出ちゃってて。

猛々しく反り返った提督の暴れん棒さんが、わたしの奥深くのきもちいいところをこすってくれる。

彼が起きてしまうといけないから、両手で必死に塞いで。それでも、彼の上でゆっくり腰を上下させていると、指の隙間からくぐもった喘ぎが溢れて。

起こしてはいけないはずなのに、身体は言うことを聞かなくって。だんだんと腰を振るスピードが上がっていって。

そのときのわたしはきっと、夢魔のようにただただ貪っていたのだろう。


入れて、抜く。入れて、引き抜く。

その動作を繰り返すたびに、わたしの未熟な穴を肉の杭が開発していく快楽だけが残って。

溢れるものが抑えられなくなって、彼のものがわたしの子宮を優しく触れるたびに声が出て、開いた口の端から零れる唾液が提督の胸元を点々と汚していって。

みんなの憧れの提督を、わたしみたいなのが汚している。

どうされているのかも知らずにぐうぐうと眠っている提督の姿を見て、わたしの倒錯した性欲が盛り上がってきた。

男を受け入れたことのない身体でも、愛欲に酔った心が先行していたために、痛みも違和感も快感に変えるほどの強い熱が、身体じゅうに満ちていた。
膣奥の柔肉が自在に形を変えて、男性器の抽送を受け入れる。

だいすきな彼の欲棒が、わたしのなかを蹂躙するように動き回っている。

誰も受け入れたことないソコに、提督のカタチを刻み込んでいく。

思わず感極まってしまい、瞳の端から涙を流しながら甘い声で悶えた。

肉棒がなかの全てを貪るようにかき回すたびにひだ肉と膣壁が刺激され、わたしの意識が気を失ってしまいそうなほどの快感に塗り潰されていく。

子宮の入り口を突かれるたびに、乳房を揺らし涙を流して悶えた。


そうして彼を“使って”自慰的な行為を繰り返しているうちに、彼の陰茎がわたしのなかでだんだんと熱を帯び、膨らんでいくのを感じた。

これが、子種を放出する前兆。

そう信じて疑わなかったわたしは、ひとつ残らず奪い取るため獣のように彼に全身で覆いかぶさり唇を奪う。

長くまとめた髪は解け、彼の身体を撫でていく。彼の身体に押し付けられた乳房がつぶれて形を変える。

無心で快楽を貪り、抗いがたい絶頂まで高まっていく。下腹部をきり揉みされるような快感が下半身から渦を巻いて頭までのぼりつめる。

さすがの衝撃に、彼もうっすらと瞳を開けていた気がしたが、構わず膣肉で彼の肉棒を扱き続けた。

その次の瞬間。

わたしの奥深くで、陰茎がびくびくと脈打って、白く濁った遺伝子をわたしの膣奥に解き放った。欲望の迸りが白濁液として勢いよく放たれ、子作り部屋に余すところなく注ぎ込まれる。

彼とほぼ同じ瞬間に高まったわたしは、絶頂に痙攣しながらも、本能的にざらついた膣肉をひくつかせ、吸い取るように白濁液を飲み込んでいく。

子宮口に彼の遺伝子が叩きつけられるのを感じるたびに身体が跳ねて、大声をあげそうになるのを必死で我慢した。


征服の証が、妄想ではなく現実のものとして、わたしのなかを満たしていった――。

快楽の波が次々と打ち寄せてきて、目まいのような陶酔感に腰のあたりが甘だるく溶けそうになる。

びくびくと震える陰茎が、力なく縮こまっていく。

オンナを狂わせる肉の棒がその役目を終え、わたしのなかで縮んでいったのがわかる。その時間が、とても愛おしく感ぜられた。

最後の一滴まで搾り取ったのを確認し、眠る彼に礼を述べる代わりに唇を押し付ける。荒く胸を上下させながら、彼の身体に寄り添う。

わたしの荒い吐息を顔に受けながら、寝苦しそうに眉を顰める彼。わたしはそのしかんだ眉を沿うように舐めた。

眠っているのか起きているのか、彼の肉体もほんのりと上気して熱くなっていた。汗でしっとりとした芳香が胸をくすぐる。

彼の胸元に浮かんでいる自らの唾液を、舌で舐めとる。彼の汗と混ざり合って、少ししょっぱい…………けど、きらいじゃない。


溶けてしまいそうな足にゆっくり力を入れて立ち上がり、提督の上から退く。

男根を引き抜くと、その先端からわたしの入口まで、愛で作った糸が引かれていた。

いっぱいになった雌壺のなかから、提督の精液とわたしの“オンナになった証”が幾重にも混ざって零れ落ちた――――。


「………………っっ」

昨晩の出来事を夢想してぶるりと震えた。あれだけでは足りないというかのように、触れてもいないのに湿り気を帯びていく。

…………こういうの、既成事実って言うんだっけ。えへ、努力すればヤれるのですねっ!

彼に隙があれば、どんどんしたい。もちろん、お互いに想いを向け合った状態でまぐわうのが一番なのだが…………。

「…………さすがに、ですよね」

まさか本人の前で“おっぴろげ”て、『あなたが欲しい、あなたに抱いてもらいたいの』などと色目と使うわけにもいかない。

だからこうやって日課の夜歩きをしながら、はちきれそうな衝動を整理するのだ。

星が音もなくまたたく夜、黒く染まった闇のなかに己の想いの流すのだ。

今夜のような、月が大きく照らす夜は特にありがたい。唯一無二の月という存在のなかに、比類なき彼の姿を想い映し出すのだ。

月のように大きくてきれいな彼は、ちっぽけで汚れた自分と違って遠い――――。


「…………だから、しょうがないんです」

なにかに言い訳するように、小さく呟く。

月は観ているだけでも良いけれど。彼を見ているだけでは、いたくないから。

今日のお散歩は、ちょっとだけとくべつ。

提督はああして言っていたが、あの人の言うことを信じるならば、そろそろ、必ず…………。

提督は、昨日のことはまったく覚えていないと言った。
なにもなかった夜だったと。

彼がたびたび薬の力に頼って睡眠をとっていることは、雲龍姉さまから聞いていた。あまり根を詰めずにいてほしいと願う雲龍姉さま。

昨日もたぶん、睡眠薬を飲んで眠っていたのだろう。あれだけ激しく蠢いていたのに目が覚めないなんて、薬の効果と考えなければ合点がいかない。

雲龍姉さまとのなにげない雑談のなかで、わたしはひとつ、くらくて小さな穴を見つけた気がしたんだ。


「………………ここ、かな」

生温かい潮風を髪に受けつつ、それを見上げる。

ほかのものとは違い、一時的に手を加えられたシルエット。見上げる天城からは、細長いレフ板のような臨時照明が、叢雲のように月を覆い隠すように見えた。


――――提督が言っていた、不具合を起こしている電灯。今日は業者さんがこの電灯の点検に訪れていた。

提督執務室の窓からは、この電灯を中心として広い風景が見渡せる。

工廠の建物等の凹凸が景色を遮ってはいるが、この電灯の付近は開けて見えたはず。

ここに辿り着くまでの道中、あちこちへ蛇行しながら人の気配を確かめつつ歩いた。

どうやら事前に伺っていた通り、ほとんどの艦娘は、工廠地帯の真逆――提督執務室がある棟の向こうにある寮で月を眺めているようだ。

この工廠のエリア一帯は夜になると人の気配がなくなる。いたとしてもせいぜい、技術開発に熱心な艦娘か、釣りを趣味として楽しんでいる艦娘だけ。


…………それじゃ、あとは手はず通りに進めるだけかな。

胸元に下げた懐中時計をかけ外し、バッグのなかに放り入れる。時計の長針は十を回って重なりかけていた。

気温が高いとはいっても、さすがに海辺は風も強くってすこし肌寒い。電灯に背を預けるようにして、身を寄せるように座り込む。

密やかに熱を帯び始めた肌に、コンクリートの冷たさが伝わる。

正面にそびえたつ執務棟を仰ぐ天城の瞳に、点のようなともしびが揺ら揺らと揺らめいている。

そのともしびの中で、一つの小さな影が右へ左へ動き回っていた。


消灯時間を過ぎてもなお、明かりが消えないあの部屋は――――。

「へ、えへ、えへっ」

点になった彼のことを想う。

今日がスーパームーンということを伝えてくれた本人。きっと彼も、ひと段落したら月を拝もうと窓辺に寄るのだろう。

綺麗な月を一目見ようと、曇った窓を拭いて眺めるに違いない。

…………そうして、気づくだろう。

朝の日差しを時限として、限定的に照らされた建物の影。

天高く鎮座した黄金色の輝きと、地に沿う水銀の輝きを受け、蜂蜜色に照らされた美しい獣の姿を見るのだろう――。


それから“起こりうるであろう”事態を想像して、唇がわななく。

胸が震えてしまいそうなほどに痺れていく。やがてその痺れは脳へと伝わり、一種の麻薬としてじんわりと広がっていく。

必死に抑えていた想いが、出逢ってわずか数日目にして、ついに暴れ出してしまった。

すべての悩み、葛藤を麻痺させるその衝動は、昂る心を支配し肉体をも操り始める。

「てーとく。…………も、そろそろ、かな。ぁはっ」



想いを載せた艦上機が、理想を求めてふわふわと飛んでいく。

胸焦がす情欲に、駆られ。

おもむろに、戒めのように締めた帯へと手を伸ばした――――。






「だーめだ。ぜんっぜん浮かんでこねぇ」

カッコカリの書類を投げ出すようにして、空いた執務机の上に放る。

かれこれ十数分ほど書類とにらめっこをしていたが、結局、心にかかったモヤは晴れなかった。

…………この書類は、再び奥深くへと仕舞っておこう。

とりあえず今日は店じまいとするか。任務の方もあらかた片付いているし、しばらくは時間に余裕のある生活を過ごせるだろう。


「ふわあぁぁ…………っ」

いかん。昨日睡眠薬を飲んで眠ったからか、さきほどから妙に眠気を感じる。

眠気を感じられている間にさっさと眠ろう。ええっと、書類は引き出しに入れて、鍵をかけて…………っと。

天城の机も――――大丈夫みたいだな。きっちり鍵をかけているみたいだし。

それにしても、もうこんな時間になったのか。天城が出てってから数十分、ずうっと悩んでいたわけか。

時刻はちょうど零時を指すところ。“きょう”が“あした”に変わる手前だ。

それじゃ窓にもカーテンかけて、っと――――。


「――――うおぉ、月でっけぇ…………」

窓の淵に手をかけて乗り出した俺を、大きなまんまるが出迎えた。

ちょうど南の空のてっぺんにのぼったころだろうか。スーパームーンの大舞台に、しばし目を奪われてしまう。


満月の夜とは、どこか不思議な魔力があるもので。
どんなに落ち着きのある人間でも、満月の夜には精神が不安定になったりする。

それはおそらく、満月の夜にはホルモンバランスが乱れ、精神的な緊張が高まるからだろう。
思考よりも先に「本能」が動いてしまうため、感情が昂り、衝動的な感情に突き動かれがちになってしまう。

人間の血液や体液は月の引力に影響されやすく、満月の夜の身体はさまざまなものを吸収しやすくなる。

例えばさっき天城に渡したアルコール類なんかも、身体が吸収しやすくなっているために酔いが回りやすくなっていたりなんかも……。

…………大丈夫かな。まあ問題ない、か? しっかりした彼女だもんな。


それに、満月の夜には狼男が――なんてのも、あながち空想上のお話ではない。

満月の日には身体の中に血液が充満するため、性欲が高まりやすいのだ。

男なら、男性ホルモンが増えるために、遺伝子をばら撒きたいという欲求に駆られ。
女なら、母性本能が高まるために、性欲が昂る。

雲龍さんの余計な豆知識では、満月の夜にナンパをすると成功しやすいらしい。感情が高まるから、行きずりランデヴーが成立しやすいとのことだ。


………………だからなんだって話だが。この日を逃さず、艦娘を手籠めにしろってか?

俺はいちおう、艦娘の上官にあたる提督だ。
いくら若いとはいえ、俺から声をかけると向こうも断りづらいだろう。さすがに、愛のない相手とするのは、その、…………抵抗がある、というか。

さっきのケッコンカッコカリもそうだ。受身な男は嫌われるというが、立場が立場だ。俺の方から手を出すことは、ないだろう。

…………もし、もしもだが。艦娘の方からアプローチを掛けてくれたのなら、その限りではない。

「…………って、俺はなーにバカなこと考えてんだが」

“ありえない”仮定の話が頭によぎり、思わず苦笑する。考えても意味のない想像は好きじゃなかったはずだが。


窓の鍵をひねって解除し、窓を開けて夜風に触れる。潮気の混じった生温かい風が、そおっと頬を撫でていく。

それにしても、とても大きな月だ。

月見酒という言葉もあるし、こういう月を拝みながら傾ける酒はさぞ美味だろう。
想像のなかの隼鷹が、こちらに酒の匂いが伝わってくるような赤い声を挙げていた。

思ったより早く切り上がったもんだ。これなら雲龍さんの誘いを断る必要もなかったかもしれない。


そういや雲龍さんはだいたい満月の日に声をかけてくるんだっけ。たしか前のときも、今日みたいな夜だった気がする。

次の満月の日には、せっかくだし天城も混ぜて三人で酒盛りとでもいくとするか。満月の性欲の話じゃないけど、俺と二人で飲むよりかは雲龍さんも安心だろう。


二人きりで飲んで、もし万一のことがあれば申し訳どころでは済まない。

天城に果実酒を押し付けたのも同じ理由だ。もし二人きりの執務室でトチ狂ってしまったりなんかすれば――――。

「…………うっ」

――――なんてこった! まさか罪悪感より先にテントが張るとは!!

もうマジでありえねえ! 天城の妄想するといっつもこうだ! あんなにマジメで良い子なのに、夢みたいなことはねえんだって!


あーもう寝よ寝よ! ちょうど日付も変わったし、さっさと寝ないと――――。


そうして、窓を閉めようとした俺の視界が、ぱあっと広がった。

時刻は零時、ちょうど。

鎮守府を訪れた業者の人間の厚意で、臨時に取り付けられた照明が点灯する時間。

「んっ…………ああ、そういや零時に点くって言ってたっけ…………」


何の感動もなく窓を閉じ、私室に向かおうと踵を返そうとしたそのとき。



「――――ん? なんだ…………誰か、いる…………?」



故障した電灯の足元で蠢く、なにかを見つけた。


限定的に照らされた柱の下に、体育座りのような格好で座っている人影がいる。
どこか見覚えのある姿かたちを見つけた俺は、閉じかけた窓を静かに開いて身を乗り出した。

大きな月の下で、輝く波を背景に。人工の光を浴びて揺れるその姿は、とても美しく、幻想的で。


「…………あれは…………」


見覚えのある姿どころではない“それ”を認めて、言葉を忘れ括目する。

夢で見た光景、嬌声、情景がひとつに交わって渦を巻いた。


「あの姿は、まさか――――」


夢のなかにいるはずの彼女が、いま現実のものとなって、明瞭に照らし出される。

その影の正体を頭で理解するころには、すでに俺の身体は甘い痺れに襲われ、手足はおろか唾液の一つすら呑み込めないほどに、動けなくなってしまった。




みんなが寝静まった夜。

窓から外を見ていると、とってもすごい、ものを見たんだ。

みんなは誰もが笑いながら、アニメの見過ぎと言うけれど。

ぼくは絶対に――絶対に。

ウソなんか言ってない。






「んっ…………ぁ、んっ…………」

耐え堪えているようなか細い声。波の音に掻き消されてしまいそうな小さな声が、半宵の闇へと流れていく。

故障した電灯に背を預けるように座り込んで、両足を伸ばしている。肌蹴た着物はマットのように足元で大きく広がっていた。

膝を立て、内股気味に曲げた膝の間――太ももの奥へ向かって腕を伸ばし、ショーツの隙間から指を差し入れている。

そっと触れた“そこ”は、男性を受け入れるための生理現象として、しっとりと湿りを帯びていた。


ふっ……と、つい先ほどの、執務室の光景が脳裏に照らし出される。

初物喪失の違和感が尾を引いていて、ふらつきながら立ち上がる自分に対し。心配そうな瞳で気遣ってくれた提督。

昨晩の秘めゴトを知らぬ彼は、ただ純粋に自分を気遣ってくれただけなのだろうが…………。

猛り狂うような剛直から、あつい精液を迸らせた彼。わたしのくちも、わたしのなかも。余すところなく蹂躙していった彼。

張本人であるにも関わらず、暗闇のなかで行われた、その一切を知らない彼。

わたしはその、穢れの混じっていない無垢な瞳を見て、どうしようもなく興奮してしまった。


いままで、女性と関係を持ったことがないと言った提督。意外にも、そういった機会に恵まれなかったらしい。

あの若さにして提督に就いたのだから、なみなみならぬ時間を過ごしてきたのだろうが…………。

そんな純粋、純度百パーセントの彼を、こんなわたしが汚してしまった。

艦娘のなかにも、彼に想いを寄せる人間は多い。そんな彼の“はじめて”の種植えを、わたしが勝手に行った。


――――肌に沿って撫でるような生ぬるい風が、ぱたぱたと着物をはためかせる。

彼の白く濁った愛液を膣奥に受けながら、どうしようもない恋心が胸のうちを支配していって。

ついには、今まで避けていた行動に出てしまった。


「てーとく、てーとくっ…………ごめ、なさっ……あ、ふぅっ…………んんっ…………」

執務室では、真面目な顔をして書類に筆を走らせ。演習では、艦載機の操作に神経を注ぐその指先を、濡れて抵抗の弱くなった膣口へと這わせる。

今までは膜があったから膣周りをいじることには抵抗があったが、殻を破った今の自分には関係ない。

浅いところを往復させると、全身を甘くくすぐるような快感が走り、口からは吐息のような喘ぎが漏れる。


厭らしく響く水音と荒い息遣いが、波打ち寄せる静かな工廠に響く。もしかすると他の艦娘がいるかもしれないという、その緊張感が更に、天城を高めていく。

天城は指の動きを早め、自らの敏感な部分を強く愛撫する。

「んっ! …………んぁっ! あああっ!」

ぷにゅっ、と。陰核を押すように強く触ると、雷が落ちたような快感が全身を駆け巡る。

「なん、でっ…………~~っ! ――すご、あ、あっ、あっ!」

いつもより、すごい…………。

天を仰ぎ、唇をわななかせながら、快楽を正面から受け止める。

なんで? 処女じゃなくなったから? なんでこんな…………きもちいいん、だろう。


満月の力によって高められた性欲は、知らず知らずのうちに天城を導いていく。

もたらされた身体の痺れが、更に変質し性感帯をより鋭く敏感に変えているのだ。

早くも蕩けきった声で呟く天城は、彼の優しい瞳を思い浮かべながら、さらに深いところへと指を進める。

目を閉じて、彼の指だと思い込んで指を動かす。残ったもう片方の手は、陰核を優しく擦り上げる。

空想の中の彼が、優しく指を出入りさせてくれる。

いつも優しいその瞳を、いたずらっぽく細めながら、意地悪に口元を歪ませる、彼。

「ふっ…………んんっ! はっ、あっ…………あぁっ!」

膣内へと侵入させた指から愛液が伝って、手の甲までをも濡らしていく。

ほっそりとした指は、人差し指と中指だけがねっとりと付け根まで濡れ、二本の指は膣口の天井を突くように擦る。

ぱちぱちと瞼の裏に電流が光る。今までにない進んだ快楽行為によって、天城の喉はカラカラに渇いていた。

全てを捨て去って没頭したい衝動に駆られながらも、秘所へと伸ばした手を両膝で挟み込むようにして、甘美な時間を安易に手放さないように堪えている。


迫りくる疼きから逃れようとうねりながらもがく天城。透明な液体が太ももを下って、着物に染みを作る。

しかしその指を止めない彼女は、弾けるようにして声を荒げた。奥歯を噛んで快感を耐えるくぐもった声と、水遊びのような楽しい音が波間に溶けていく。

「ぅっ、ぅやっ! あぁ…………っ! やっ、もっ、そろそろっ…………く、くるぅっ」

くちゅくちゅと掻きまわす音がひときわ大きく響き、天城の身体はのけ反り震えた。

細く暗く長い廊下の端から、ひたひたと、徐々に絶頂の足音が近づいてくる。

指先が膣のなかを暴れ回るたび、脳の芯を揺さぶられるような快感に襲われる。残りの手は、人差し指と中指で、秘唇と肉芽を優しく撫でるように擦り上げる。

豆粒のような突起は触れるたびに下腹部がじんわり熱くなって、腰がくだけてしまう。


くるしい。きもちいい。もっと、もっと…………。

泣きたくなるような切なさによがりつつも、天城の指は止まらない。

指を往復させて膣襞を激しく擦りつつ、少しずつ指の向きや角度を変え、より大きく、より激しい愉悦を求めて膣内をまさぐる。

ただただ快楽を貪るだけの、美しい獣と化していた。目をつぶり、夢想のなかで彼を呼び、現実のなかの指で、弱い部分を擦りあげ続ける。


その刺激に悶え、不規則に身体を揺らしていた天城に、その果てが見えてきた。

「あっあっあっ! クる……クるクるキちゃううぅっ~~っっ! あっ、あっ、てーとくっ、てーとくっ!」

提督の名を呼んだ瞬間、キュンと胸が刹那に鳴いて、弾けた感覚が身体中に拡がって、甲高い嬌声をあげた。

やや赤らんだ身体が痙攣し、ショーツの中の指は淫靡に蠢き、両腕の間の乳房は形を変え、首筋を光る汗が流れ落ちる。


からだが、壊れそうになるかとおもった。

今までと違い、提督執務室の窓から見える位置で、提督へ向かって達しようとする。

その暴挙とも思える淫らで妖艶な行為という事実は、天城の精神の奥底に、深く鋭く突き刺さり。
身を責め苛む強烈な快楽が、少女を一気に絶頂まで導かんとする。

「んっ、あっ、あっ――――!」

数えきれないほどのフラッシュがまたたき、意識が白く塗り潰されようと――――。






「あ、あまぎ…………?」








「………………っっ!!」

した、そのとき。…………引き戻される。

想いを載せた艦上機が、現実を引き連れて帰ってきた。


跳ねるようにして、肌蹴た着物で覆うように身を包む。

大事なところしか隠されていないが仕方がない。汗でしっとり濡れた肩や、線のしなやかな背中が艶めかしく光る。


その慌てた一部始終も見られていただろう。声の主も呆気にようすで沈黙している。

声の主を見たくって、けれど認めたくなくって。重石を乗せられたように動かせなかった視線を、やがて声のもとへと動かしていく。



「おまえ」

「おまえ。…………あまぎ…………だよな?」



悪戯が見つかった子どものように、上目使いで見上げたそこには。

見てはいけないものを見てしまったかのように。目の前の真実が受け入れられないかのように。
気まずげに瞳を逸らした彼が、困惑した表情で海を眺めて立っていた。


それを認めたわたしは、さあっと血の気が引いていくような感覚を覚えた。

胸のうちは、いまだうるさく跳ねまわっていて、けれど冷静に、これからどうするかを考える。

――――落ち着いて、おちついて! 予想していたことだから。だから、その…………頑張って、おくすり――――しゃべらなきゃっ!



「はい。…………天城です。…………えへっ」



隠した秘密の器官をしっとりと濡らし、膨大な欲情に渦を巻きながら、色欲をかきたてる蠱惑的な笑みを浮かべた。

脇に置いていたバッグに肘が当たり、甲高い瓶の音が、静まり返った夜の闇に響き渡った。




大きな満月の空が、ふたりを包み込んでいる。

書き溜めはここで途切れている

生きてます。かろうじて
ですが現状ほとんど書けていません。むこうは書き溜めがあるからなんとかなりそうですが
とにかくちびちびと浮いた時間を使って溜めますので本当に気長にお待ちください
もし落ちたら最後まで書いてから投下します(そんなに長くはならないと思うので)

>>1です。正直に申しまして、ごたごたしているうちに二ヶ月以上は経ってしまいそうなので、こちらのスレを一度落とそうと思います
すでに書いている台本のワンシーンを組み合わせるのにすら週単位使ってしまうくらいで……

現状書き始めているのも事実なので、みなさまが忘れた時合に半分ないし最後くらいまで書いて投下すると思います
至らなさが露呈するかたちとなってしまい申し訳ありません。ありがとうございました

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年09月27日 (日) 16:35:51   ID: gdkuk77T

続きはよ…!

2 :  SS好きの774さん   2015年11月15日 (日) 21:25:07   ID: wl7B-Vzx

続き待ってます

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