※ガンダム以外はオリ設定、オリキャラです。
※「ガンダムビルドファイターズ」「ガンダムビルドファイターズ トライ」とは違う世界観です。
※なおガンプラ知識はお察しレベル。
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邦彦「おい、おい」
勇次「ンん?」
邦彦「授業終わったぞ。ホームルームの時まで寝てるつもりかよ」
勇次「おう、寝てたか」
邦彦「顔洗ってきたら?」
勇次「んー」
勇次はおもいっきり背伸びをした後、両頬を叩いた。
勇次「そうするわ」
隣の席に居る邦彦にそう言うと洗面所に向かった。
勇次と邦彦の関係は友人ではあるが親友ではない。
教科書を忘れれば見せ合ったり、ノートを貸して手伝ったりする程度だ。
隣の席の特権と言う所だろう。
お互いの関係はそれほど深くない理由は簡単だ。
勇次は今年から今の学校に転入してきたばかりだから。
人間関係の深さと言うのは共に過ごした時間の長さだけ深くなると言うなら、1年も経っていない二人の関係が深いわけがない。
それでも勇次は邦彦の最低限の好みぐらいは知っていた。
勇次がガンダムの事を知らなくても、オタク同士でガンダムの話題を会話しているのを見ればなんとなく察しはつく。
ホームルームも終わり、放課後になると邦彦が絡んできた。
邦彦「こっちに来てから結構経つけど、部活やらないの?」
勇次「部活?」
邦彦「だってお前結構ガタイいいだろ。絶対運動系だろ」
座っている勇次の背後に、いつの間にか回り込んだ邦彦は肩を揉み始めた。
勇次「やめなさいよ」
邦彦「お客さん肩凝ってますよ!」
勇次「やりたい部活がないんだよ」
邦彦「試しにやるでも良いんじゃないの?」
勇次「来学年に決めるよ」
邦彦「そうかい?じゃあ帰るか」
邦彦が肩もみを止めて、カバン背負って様子をうかがってきた。
勇次はカバンを背負うと、少し表情を曇らせて肩を上下に動かして見せた。
勇次「おい、肩がおかしくなったぞ」
◇ ◇ ◇
家に帰った勇次がまずやったことは、靴の確認だった。
父親が帰ってきているかどうか確認したら、そのまま自分の部屋に直行した。
次に自分の部屋で宿題を真っ先に終わらせ、あとは父が帰ってくるのを待つのだけ。
それが彼の日課である。
去年、弟の雅人が死んだ事により勇次と彼の母親の関係は最悪になった。
父親はそれを改善するために雅人と暮らした家から引っ越しする苦肉の策を講じる。
結果として母親と勇次の会話が無くなったが、それでも最低から無関係まで改善したと言える。
部活もやっていないし、勉強も必要以上やっていない
ただの空白の日々だけが彼に訪れているだけである。
そんな彼の家にかかってきた一本の電話は、彼の心を動かすのに十分な内容だった。
勇次「弟が作ったと思われるガンプラが出てきた?」
◇ ◇ ◇
クラブ菊池
雅人が所属していたガンダムファイト用のクラブだ。
勇次には弟がこのクラブで、どの評価を受けていたのかは知らない。
ただクラブの代表のチームに参加していて、何かの試合に出ていたことだけは知っている。
勇次「電話の件で伺った雅人の兄ですが」
景太郎「雅人くんのお兄さん?ちょっと待ってください。タクミさーーん!」
拓海「どうした?」
景太郎「雅人くんのお兄さん着ましたよ」
拓海「ああ、椅子に座って待ってて貰ってくれ。今持ってくる」
景太郎に案内されて椅子に座って待っていると、拓海が奥から何かガンプラを持って現れた。
拓海「雅人君のお兄さんには確認して欲しかったんです」
勇次「このガンプラ?」
拓海「だと思われます。確証がなく、お兄さんなら見覚えがあるかなと思って」
勇次「雅人は確かにこれで優勝すると言っていた」
拓海「じゃあこれは、雅人くんの最後の作品なのか……」
勇次「これ、雅人の仏壇に飾ってやっていいですか?雅人もきっと手元においておきたいはずだ」
拓海「飾る?」
その言葉に拓海は表情を曇らせた。
勇次にとっても意外な反応だった。
そもそも自分がここに呼ばれたのは、弟のガンプラを譲ってくれるのだと思っていた。
だが、拓海の反応は明らかに拒絶反応に近い。
拓海「そんなわけないでしょ。これはガンプラファイト用のガンプラですよ」
拓海は雅人のガンプラを手に持って、勇次に見せつけるような位置に構えた。
拓海「ガンプラファイト用のガンプラなら試合に出させてあげないと」
勇次「本気で?」
拓海「このガンプラがもし雅人くんが作ったものなら、これで優勝する事が目的だったんでしょ。なら叶えさせてやるべきだ」
勇次「雅人の遺品をそんな事させると思うか?」
勇次は拓海からプラモを奪い取ろうと手を伸ばしたが、拓海は身体で覆うようにしてプラモをかばった。
拓海「それに……これはクラブの備品だから、例え製作者の兄でも渡す訳にはいかない」
勇次「そんな!?」
拓海「考えてくれ! 雅人くんの作品をガンプラファイトで日本一のガンプラである事を証明させれば、雅人くんだって浮かばれる」
拓海の宣言に勇次は唖然としていた。勇次には拓海の言葉全てが理解不能だったからだ。
勇次(人の弟の遺品を使って日本一を目指すなどとコイツは何を言っているんだ?それとも俺がおかしいのか?)
勇次「どうしても雅人の遺品を渡してくれないのか? 遺品なんだぞ」
拓海「わかった。壊れることが心配ならば、ガンプラファイトで腕を証明する」
勇次「なんでだよ!?」
拓海「例えば素人である雅人くんのお兄さんに負けるような腕なら、雅人くんのガンプラを傷つけるだけの無能であるとの証明。それなら……俺だって潔く引き下がれる」
勇次「ルールも知らないんだぞ? どうしてガンプラファイトの土俵で戦うんだよ」
拓海「時間もハンデもつけるよ! 大会も近いから……そう、期間は今から1週間ぐらいしかあげれないが」
勇次「自分たちが有利な話にしているだけじゃないのか」
拓海「雅人くんのガンプラを壊すだけのような戦い方はしない。考えてくれ」
◇ ◇ ◇
その日の夜、勇次は布団の中で雅人が居たクラブでの出来事を思い出そうとしていた。
ガンプラファイトの件はとりあえず保留にしてもらった。
なぜなら素人である自分が1週間で、どの程度まで戦えるかわからないからだ。
その為にはガンプラファイトに詳しい友人に話を聞かなければならない。
幸いガンプラファイトに詳しい友人は心当たりが有る。友人に話を聞いてからその話に載るか、どうするかを決めてからでも遅くはないはずだ。
しかしその考えに対して、そこまでして頑張る必要性があるのか?と思う自分も居た。
あのガンプラを見たのは何時だったか思い出していた。
弟のクラブで見たガンプラを……
あのガンプラから生きていた頃の雅人を
勇次「マーは何やってんの? またプラモか」
雅人「これが次の大会で使うガンプラなんだ」
勇次「ほう? 俺、よくわからないけど……すごいのか?」
雅人「うへへ、サプライズを沢山つぎ込んだからね。今年は優勝するよ、うちのクラブ」
勇次「すごいやる気だな」
雅人「ゆーじにぃもガンプラファイトやらない? 兄弟ファイターって感じでさ!」
勇次「勘弁してくれよ、俺はロボットよくわかんないんだよ」
そうだ、それは何故一緒にガンプラファイトをやってあげなかったのか
雅人に対して兄貴らしい事を自分は何一つやってないのではないか……
◇ ◇ ◇
次の日、勇次は真っ先にガンダムに詳しい友人に相談することにした。
勇次「ガンプラファイトを教えて欲しい」
邦彦「どうしたんだ急に」
勇次「クニヒコぐらいしか、知り合いのガンダム好き居ないし」
邦彦「と言ってもなぁ……」
勇次「たのむ、後生だ!」
邦彦「後生だっておいおい……そんで、何のプラモ使うんさ?」
勇次「ん?」
邦彦「いやだからさ、何使うの? 好きなプラモでも見つけたからやり始めるのかと思ったけど違うのか」
勇次「いや、ガンプラファイトで賭けをしてる」
邦彦「は?」
勇次「弟のガンプラを賭けてる」
邦彦「はァァァァ?」
邦彦にクラブで起きたことを話した。
邦彦「お前の弟の遺品を賭けるってひどくね?普通は返すだろ」
勇次「いやでも、クラブの部費で作ったなら備品扱いかも」
邦彦「あぁ!?そうかもしんね。親には?」
勇次「言えるわけ無いだろ。弟の話はタブーなんだよ。今回の件だって教えてないんだから」
邦彦「そっかぃ」
邦彦は少し口をひん曲げて顎に手を当てた。
邦彦には勇次の弟が亡くなっていることや、弟がガンプラファイトをやっていたという話は初めて知ったことだった。
それほど勇次は邦彦に身内にの話をしない奴だったからだ。
そんな奴が相談してきた、と言うことはかなり困っているのだろう。
勇次「ルールはお互い素組のガンプラ以外は公式戦と一緒、ハンデに向こうはダメージが1割でも入ったら負け扱いでいいと言ってた」
邦彦「素組前提か……うーん」
勇次「厳しいか?」
邦彦「お前が1週間でどのくらい上手になるかにかかってるな」
勇次「邦彦なら?」
邦彦「俺? 俺がやったら、相手がどんなに上手でも1割ダメージぐらいは当てれると思う」
勇次「ガンプラファイトはどの位やってる?」
邦彦「俺は2年チョイぐらいだよ。やるかやらないかはスグに決めないと駄目なのか?」
勇次「いや、1週間中ならいつでもいいと言われた」
邦彦「じゃあ、とりあえずガンプラファイト触ってみるか」
◇ ◇ ◇
模型店フォーリーフ・クローバーは邦彦の行きつけの模型店だ。
邦彦は勇次をそこに連れてきた。
勇次「何を買えばいいんだ?」
邦彦「ガンプラファイトだろ? とりあえず使い勝手いいガンプラは……」
勇次「あれは?」
勇次がさしたのガンプラではなく、ロボットフィギュアである。
邦彦「あれガンプラじゃねーから」
勇次「違うの?」
邦彦「プラモ要素何処行っちゃったのよ」
邦彦は迷わず手にとったのはエールストライクガンダムのプラモだった。
勇次「それは?」
邦彦「ストライクガンダム。まあこれが初心者向けにはちょうどいいんじゃない?」
勇次「そうなのか」
邦彦「バックパックを変えて自分のお好みの戦術変えれるからね」
勇次「そうなのか。ところでお前の家で作ってもいいか?」
邦彦「まさか家で作るとまずい?」
勇次「親に見られたくないからね」
邦彦「お前の親ってそんなに厳しいのかよ。店長に聞いてみるか」
勇次「店長に?」
邦彦「おじさん、プラモ買ってココで作っていきたいけど」
店長「ああ、作業場使いたいのか」
邦彦「あいてる?」
店長「今日は小学生の団体も居ないから開いてると思うぞ。マリに聞いてみろ」
勇次が店長に渡して支払いを済ませ、邦彦に作業室に誘導された。
作業室に入ってスグに女の人がパソコンで作業をしていた。
真里「あら? 邦彦くん、いらっしゃい」
邦彦「おっす真里さん。作業室使いたいんだけど、ついでに後でフィールドも」
真里「後ろの方は初めて?」
勇次「はい」
真里「この用紙埋めてもらっていい? フィールドはしばらく開いてると思う」
勇次は名前や連絡先を書く用紙を渡されたので、近くの机で項目を埋め始めた。
勇次「あの人は?」
邦彦「店長の娘だよ。俺もプラモと道具を買ってくるから書いて提出しておいて」
そう言うと邦彦は、また店に逆戻りして行った。
◇ ◇ ◇
模型店にはガンプラファイト用のフィールドが置かれている所が多い。
ほとんどのクラブは模型店と繋がり、フィールドの貸出などの契約をしている。
そうなるとクラブのフィールドは勿論の事、クラブのメンバーが優先される。
個人が遊ぶにはクラブと契約していない所を探さなければいけない。
邦彦もまたクラブに所属してない個人レベルのファイターなので例外ではない。
そんな彼が見つけた、まだクラブと契約してない穴場がフォーリーフ・クローバーである。
勇次「模型店にこんな施設が」
邦彦「だいたいのフィールドは模型店に置いてあるんだよ。何でだと思う?」
勇次「なんで?」
邦彦「壊れたらすぐ買ってもらえるから」
勇次「やっぱ壊れるのか」
邦彦「と言っても、そうそう壊れるもんじゃないぞ」
勇次「そうなの?」
邦彦「とりあえず動かそう、動かしながら説明したほうが頭に入るだろ」
勇次「ここにガンプラを置いて。セットアップ完了と……」
邦彦「フィールド起動するから、もう手とか入れんなよ」
邦彦がフィールドのスイッチをいれると、フィールドセットアップと言う機械音声が響き渡る。
すると、ガンプラを置いた手前のモニターにいろんな数字が表記され始めた。
邦彦「動かす前に計器がわかるか?」
勇次「なんか色々メーターが出てるのだけはわかる」
邦彦「基本的には自分のビルドシールドが0になったら負けだ」
勇次「なんだそのビルドシールドって」
邦彦「ガンプラを覆ってるシールドらしい。それが0に近くなる程ガンプラが壊れやすくなるから注意な」
勇次「これが0にならなきゃいいのか」
邦彦「それだけじゃない、エネルギーも注意だ。それは0に近づくほどガンプラの動きが鈍くなる。0だと完全に停止で負け」
勇次「エネルギーも気をつけるのか」
邦彦「今の数値を0にしたら負けって事」
勇次「これ全部100って書いてあるけど、パーセント?」
邦彦「そういうこと」
勇次「1割ってことは……これを10減らせばいいのか」
邦彦「始めるから、そっちもスタート押して」
勇次「押したよ。カウントダウンがでてる。3……2……1……0!」
ガンプラは設置した場所から射出されバトルフィールドに吐き出された。
勇次はその様子を操作しないで見ていたので、ストライクは地面に激突するということになった。
勇次「おいおい、そりゃないでしょ?」
邦彦「忘れてたけど、カタパルト射出後は姿勢を正さないと地面におちるぞ」
勇次「数秒前に言ってくれれば飲み物を奢ったのに」
邦彦「よし、俺の機体もそっちに向かうぞ」
勇次「それが邦彦のロボットか? ドングリじゃないか」
邦彦「ドングリじゃねえ! ゴッグだよ」
勇次「俺は何をすればいい?」
邦彦「簡単な事さ、攻撃して避ける。それだけだよ」
勇次「そりゃすごい。先生の授業よりわかりやすい」
邦彦「とりあえず俺に向かって撃ってこい。まずは当てることから始めようぜ」
勇次「銃を使えばいいんだろ?」
勇次のエールストライクが持つビームライフルから閃光が放たれるがドングリと評されたゴッグは身軽に避けてみせた。
勇次「次は動く的に当てる方法を言い忘れてないか?」
邦彦「ジュース奢ってくれるの?」
勇次「手伝ってくれてるんだ。モチロン」
邦彦はニンマリして攻撃の当て方をレクチャーし始めた。
邦彦「だいたいの一発目は避けられると思った方がいいぞ。当たればラッキーぐらいで」
勇次「二発撃つの?」
邦彦「アッサリ言うとそうかも。攻撃で相手にアクションさせて無駄な動きをさせる」
勇次「そこをでもう一回攻撃?」
邦彦「そんな感じ、よし本気にせめてこい!」
勇次「ドングリが割れても知らんぞ」
勇次のエールストライクのビームライフルから再び閃光が放たれた。
先ほどと全く同じで、ゴッグは横によけてみせる。
それに釣られて、再度攻撃を仕掛けるが同じことの繰り返しである。
邦彦「単調だぞー、ライフル以外にも武器はあるんだから」
そう言われて勇次は武器リストを確認するとビームライフル以外にビームサーベルやアーマーシュナイダー、イーゲルシュテルンと呼ばれるバルカンが表示された。
勇次「わからん単語多すぎだろ! サーベルはかろうじて分かるけど」
邦彦「あー……アーマーシュナイダーはナイフだよ。イーゲルシュテルンは頭についた機関銃だと思っていいぞ」
勇次「なるほど、機関銃を使えばいいのか」
そう言うと早速エールストライクの頭部に搭載されたイーゲルシュテルンが火を吹いた。
しかし、邦彦のゴッグは今度は避けようともしない。
邦彦「さすがゴッグだ、なんともないぜ!」
勇次「まさか効いてないのか」
邦彦「ダメージがないわけじゃないけどな。ビルドシールドゲージはさっきから削られてるけどメイン射撃と比べると火力は劣るね」
勇次「じゃあ微妙なのか」
邦彦「ダメージソースとして使うより、牽制向けだからな」
勇次「これ以外の武器はナイフとかサーベルなんだけど」
邦彦「そりゃそうだろう。エールストライクの戦い方はミドルレンジだからな。時に射撃戦、時に接近戦をするバランスタイプだよ」
勇次「ふぅん」
邦彦「接近戦は腕の差がはっきり出るからキツイかもな。後でランチャーの奴買ってランチャーストライクにした方がいいかも」
勇次「とりあえず、射撃戦をマスターした方がいいと」
邦彦「1週間だろ? 撃ち合いだけでも立ち回りを覚えたら普通にいけそうな気がするけど」
勇次「じゃあ元々、こっちに勝算がある話だったのか」
邦彦「例えば、お前がゲームがド下手だったりとかだと話は別かもな」
勇次「ゲームか……微妙かも」
邦彦「お前、まったくゲームの話しないもんな」
勇次「こっちに来てからやってないからな」
邦彦「正直な所、お前とガンプラファイトをやることになるなんてサッパリ思ってなかったわ」
勇次「そうだな……そうだよな」
邦彦「レクチャーの続きやるか」
その日から勇次と邦彦のガンプラファイトの特訓が始まる
最初は射撃戦の立ち回り、次にストライクガンダムの特性の活かし方
学校が終わったら二人はフォーリーフ・クローバーで特訓の日々はあっという間に過ぎていった。
決戦当日
クラブ菊池の前には二人の男がやってきていた。
勇次「ついて着てもらって悪いな。もしかするとアドバイスがほしい時があると思って」
邦彦「なーに、暇人だし。ところでお前の弟のクラブってそこの?」
勇次「ああ」
邦彦「クラブ菊池? 聞いたことある気がするな」
勇次「中に入ろう。すいません」
景太郎「はい? あ、雅人くんの兄さんと……えーっと?」
邦彦「ああ、友達です」
景太郎「拓海さん呼んできますね」
勇次「お願いします」
拓海「おまたせ」
勇次「約束通り、準備してきた」
拓海「あ……ひとつだけ試合をする前に先に言っておきたい事が」
勇次「何か?」
拓海「例えこっちが勝ったとしても、もし公式戦で雅人くんのガンプラを使って一回でも負けるような事があれば返すつもりだ」
勇次「どういうこと?」
拓海「俺は雅人くんの無念さを晴らしたいだけだ。それ以上の意図はないんだ」
邦彦はその会話の妙なものを感じたため、勇次を無理やり引っ張った。
勇次「何?」
邦彦「俺は弟の遺品が奪われるって話しか知らないんだが、どう言う話なのさ?」
勇次「弟のガンプラで優勝したいらしい」
邦彦「あいつが? 兄であるお前がやるわけじゃなく?」
勇次「兄がやるほうが普通?」
邦彦「たぶんね」
邦彦は勇次の背中を二回叩いて送り出した。
勇次「じゃあ、やりましょうか」
拓海「けいたろう、お前が進行をやってくれ」
景太郎「はい。機体制限は素組、基本は公式戦と同じ3ラウンド。ただし拓海さんは10%のダメージで負けです。両者それで問題なし?」
勇次「ええ」
拓海「もちろん」
景太郎「ラウンド1、スタンバイ!」
勇次も拓海もフィールドの射出台にガンプラをセットした。
景太郎「ガンプラファイト! レディーゴー!」
勢い良くフィールドインした勇次のランチャーストライクは、ブースターを吹かして安定した着地をする。
邦彦「はじまったか」
一方、反対方向から射出された拓海のガンプラは着陸もせず、まっすぐに勇次に向かっていた。
勇次「敵は……まっすぐこっちにきてる?」
邦彦「あれはトールギスだ!」
拓海「雅人くんのお兄さんはランチャーストライクか」
邦彦「勇次! 勢いを一回殺すんだ!」
邦彦はトールギスの加速力を一度止めるべきだと考え、勇次に叫んだ。
すぐさま勇次はランチャーストライクのメインウェポン『アグニ』と呼ばれる大型のビーム砲を放った。
トールギスはその攻撃を回避したため勢いは死んだが、拓海が接近を諦めたわけではない。
ランチャーストライクの弱点は誰が見ても接近戦である。
そのため勇次はトールギスを近づけさせてはいけない。
勇次「射撃の基礎の弾幕で」
ランチャーストライクの右肩にはバルカン砲とガンランチャーの複合兵装ユニット『コンボウェポンポッド』が搭載されている。
勇次は拓海のトールギスに、コンボウェポンポッドのバルカン砲を撃ってみせた。
ガンダムファイトでの射撃の当て方は色々あるが、基本は弾幕だ。
もちろん無闇に撃つわけではない。
大事なのは相手に避けるアクションをさせるということ
避けていることに集中している間は攻撃をされる確率が減り、結果としてこっちが攻撃をする機会が増える。
ディフェンシブな攻撃なのが弾幕である。
拓海はトールギスのスラスターを吹かしながら肩のバルカンを避け、ドーバーガンを構えた。
勇次(当たる!?)
相手の射撃の構えに反応して勇次は機体を横にステップさせようとした。
だがそのステップを狙ったかのように、ワンテンポ遅れて火を吹いた。
勇次「避けたのにやられた?」
見事にトールギスのドーバーガンに被弾していた。
勇次は今の攻撃で減ったビルドシールドゲージを見てドーバーガンの火力に驚いた。
勇次「モヒカンの攻撃は痛いぞ!」
邦彦「フェイントが上手い!? 気をつけろ!」
ランチャーストライクとトールギスはお互いミドルレンジを意識した間合いでお互いを撃ちあいが始まる。
拓海はすべての射撃攻撃を回避する一方、勇次は回避ミスや拓海の攻撃を避けきれずダメージを蓄積していく。
邦彦「なんだあいつ! 上手すぎる!?」
拓海の射撃戦の立ち回りは邦彦が想像していた上手な奴を十分を超えていたのだ。
勇次(ミドルレンジの撃ち合いは完全に負けている! ならどうする?)
勇次(射撃機で接近戦は不利だとしても、命中率は上がる!)
ミドルレンジよりもショートレンジで撃てば、その分射撃を避ける時間が減ると言う発想
それは逆に言うと勇次も被弾率が増えるということだ。
だが、ハンデのあるこの試合で大事なのは10発食らっても1発でも打ち込むこと
それだけで勇次が優勢になるのだ。
勇次「アグニが一発でも入れば!」
拓海「ランチャーストライクで突っ込むのか」
突っ込んでくる勇次を見た拓海はランチャーストライクから見て右側に回り込みながら接近を始めた。
アグニはランチャーストライクの背中に装備されたストライカーパック『ランチャーストライカー』の左側に搭載されており、射撃する際は左腕の脇を通して構えなければいけない。
その結果、手で持つような武器と比べると右側は必然として死角になってしまう。
勇次「射角が狭い!?」
ミドルレンジであれば、射角外に一気に逃げ込まれるような移動をされる事はないだろうが接近すれば話は別である。
賭けが仇になっているのだ。
拓海はここぞとばかりに盾でストライクを叩きつけ、怯んだ所をビームサーベルで斬りつけた。
勇次「やられてる!」
さらに追い打ちでドーバーガンまで撃たれ、勇次のビルドシールドゲージは一気に減少していた。
接近戦を仕掛けたのは完全に裏目に出ていた。
勇次と拓海とでは実力の差がありすぎるのだ。
邦彦「離れなきゃ駄目だ!」
拓海「させるか!」
一度肉薄された距離を取るにはトールギスとランチャーストライクではスピードが違いすぎる。
勇次のストライクは距離をとれず、アグニも封じられ、トールギスの接近戦を許してしまう。
後はただ一方的に切り刻まれるだけである。
景太郎「ビルドシールドゲージがゼロによりラウンド1の勝者は拓海さんです」
勇次はビルドシールドを1%削るどころか、一発も攻撃を当てれなかったのだ。
景太郎「公式戦ルールなのでラウンド2までの間、インターバル休憩です」
スリーラウンド制である公式戦のインターバル休憩は単純に休憩するためではない。
ガンプラのセッティングを変更する時間でもある。
勇次「ランチャーだと、あのモヒカンと距離を取りづらい。……どうした邦彦?」
邦彦「あ? ああ、スマンもう一度」
勇次の言葉をまるで聞いていなかった邦彦の表情は真っ青だった。
それを見た勇次はすぐにわかった。
勝ち目はない
勇次「……ランチャーだと肉薄された後、手がなくなるからエールストライクにしようと思う」
ストライクについているランチャーのセッティングを外しながら再度邦彦に説明した。
しかし邦彦は黙ったままだった。
勇次「ソードだと。あのすごい射撃にやられる気が――」
邦彦「勇次」
勇次が考えを口にしている最中を邦彦が遮るように言った。
邦彦「悪い……あんなに強いやつなんて思いもしなかったんだ」
友人の弟の遺品をかけた戦いのアドバイスだと言うのに、まさかここまで自分の見積もりが甘かったとは邦彦には思いもしなかった。
勝ち目があると思ったから引き受けたのに蓋を開ければ、ほんの一握りの勝利すら許されないような状況。
そんな邦彦に勇次は2回ほど肩をたたいた。
勇次「まだ負けたわけじゃない。早いぞ」
◇ ◇ ◇
装備をエールストライクに変更したからと言って、勇次が有利になるというわけではない。
2ラウンド目の最初はお互いミドルレンジの撃ち合いから始まる。
それは1ラウンドと同じように攻撃は当たらず、シールドゲージを削られていく一方的な戦いを再現するだけであった。
邦彦(勇次……無理なんだよ。俺だって10%削れるかどうか分からないような相手だ)
開始1分もしないうちに、勇次のシールドゲージは残り50%まで削られていた。
勇次(ランチャーの撃ち合いで、すでに負けていたのに撃ち合いする必要があるか?)
勇次(まだ俺は……接近戦を試していないなら、例え勝機がゼロでもやるべきだ!)
ミドルレンジ戦を捨てた勇次は右手でビームサーベルを引きぬいた。
まだミドルレンジ上の射程で抜刀したため、タイミング的には早過ぎるのだが拓海は迎撃をしようとしなかった。
拓海「接近戦にシフトする気か? いいだろう」
ストライクは一気に接近してビームサーベルを振り下ろす。
それに対し、トールギスも負けじと右手にビームサーベルを構えて抑えこむ。
つばぜり合い状態となると、いち早くアクションしたのは拓海だ。
トールギスの蹴りがストライクの腰に入る。
勇次「蹴りだと!」
だが蹴りは相手に下半身に視線を行かせるためのブラフであり、本命は盾で殴るためである。
またもや盾で殴られる羽目になった勇次は、接近戦は盾の使い方が想像以上に大事だと思い知らされた。
勇次「エールストライクだってシールドは有る!」
一度姿勢を整えると、左手に持っている盾を全面に構えながら押しこむように突撃しようとする。
それに応じるかのようにトールギスも盾を構え、お互いの盾がぶつかり合う。
勇次(盾同士がぶつかった先はどうすればいい?)
接近戦での一瞬の迷いは命取りだ。
すでにトールギスは右手に持っているビームサーベルの軌道に入らない逆の左側に潜り込んでいる。
勇次は急いで上半身の向きを変えようとするが、自身の盾がトールギスの盾で抑えられて妨害されているのだ。
勇次(腕がつっかえてる? 持っている盾を抑えられたから!?)
そう考えているうちにビームサーベルで斬りつけられたので、急いでトールギスから離れるしかない。
勇次(全ての行動が、一手先に妨害されている!)
勇次(一手二手程度の動きは更に先をいかれるだけなのか!?)
トールギスがトドメに近づいてくる、もう考えている猶予はもうない。
勇次「このォー!」
エールストライカーがストライクから離れ、トールギスに向かって加速し始めた。
それは起死回生の一発
拓海「当たるか!」
とっておきの奇襲のように放たれたエールストライカーだったが、トールギスはスレスレで避けてしまう。
だが、タイミングを狙ったかのようにストライクはビームライフルを構えていた。
―――――閃光
しかし、ビームライフルで貫いた対象はトールギスではない
先ほど射出したエールストライカーの方であった。
邦彦「ミスった!?」
射出されたエールストライカーは機体扱いではなく武装扱いされ、ビルドシールドの恩恵を受ける対象から外される。
ビームライフルで貫かれたとなるとエールストライカーはトールギスの間近で爆散するしかない。
拓海「なにぃ!?」
そして爆発はトールギスの姿勢を崩すのに十分だった。
勇次「そこでしょうが!」
雄叫びのように叫んだ勇次は、爆風で怯んでいるトールギスをビームサーベルで切り裂いていた。
念願の勇次の初直撃であり、拓海にとっての致命的なダメージ!
景太郎「ビルドシールド減少10%確認! このラウンドは勇次さんの勝利です」
邦彦「なんだよアレ! すごいじゃん」
邦彦は元気を取り戻していたが、勇次はあまり嬉しそうではなかった。
勇次「壊れた」
先ほどの奇策の犠牲になったエールストライカーは無残にも破損していた。
もうエールストライクでは戦えない、と言っても使えたとしても二度も同じ戦法は通じないだろう。
勇次「ソードストライクにしよう」
邦彦「接近戦をするのか? 無理だろ。ランチャーにしておけ」
勇次「ランチャーは完封された。エールの時みたいに良い手が浮かばない」
邦彦「ソードは浮かぶのか?」
勇次「やってみなきゃわからない」
一方、拓海陣営
景太郎「雅人くんのお兄さん、やりますね。あそこでビームライフルだけの攻撃なら盾に阻まれて10%のダメージに届かなかった」
拓海「それもあるが、俺も油断していたのかもしれない」
景太郎「油断? でもかなり本気のように」
拓海「ああ、本気だったよ。油断というより敵の力量を見誤るミスだよ」
座っていた拓海は大きく深呼吸すると立ち上がる。
拓海「次はミスらない」
◇ ◇ ◇
インターバル休憩が終わり、最後のラウンドである。
景太郎「ラウンドスリー、スタンバイ!」
景太郎「ガンプラファイト!レディーゴー!」
射出されたソードストライクは地面には着地せず、一直線にトールギスに向かっていく。
邦彦「どんどん接近していけ、距離を維持されたら負けるぞ!」
拓海「ソードか!」
ソードストライクのような射程装備がほぼない機体に対して拓海は決して引かずに接近してきた。
勇次「奴は逃げないのか!?」
拓海「雅人くんの意思を継ごうと言う身分で、逃げ腰の姿勢はできない!」
勇次「ランチャーの時みたいにやられるわけには!」
トールギスに対してソードストライクの要であるレーザー・実態刃複合対艦刀『シュベルトゲベール』を振り回す。
シュベルトゲベールはビームサーベルとは大きく違う点がある。
それは現実の刀と同じように刃は一方しかないという点。
本来のビームサーベルならば何処を接触しても切り裂くことはできるかもしれない。
しかし、拓海が盾でシュベルトゲベールの刃のない部分を抑えてしまえばその武器は死んだも当然である。
拓海「これでこの武器は使えまい!」
勇次「ランチャーみたいにやられてる!?」
シュベルトゲベールを盾で抑えながら空いている手でビームサーベルを振るわれ、勇次のビルドシールドゲージは削られていく
勇次「使えなければ!」
戸惑いすらなく勇次はソードストライクの要のシュベルトゲベールを捨てた。
そしてすぐに左肩にマウントされているビームブーメラン『マイダスメッサー』を構えた。
劇中ではほぼブーメランとしてしか使用されていない武装ではあるが、ビームサーベルとして使えないわけではない。
ランチャーのように完封されてしまうのであれば高火力のシュベルトゲベールより、マイダスメッサーをそのままサーベル扱いして戦ったほうが勝機があると踏んだ。
だが、やっていることはエールストライクでやった接近戦の延長でしかない。
それでは勇次は勝てないのはもう思い知っている。
なにかの拍子で一瞬のチャンスが来るかもしれない。
それを手に入れるためには、生き延びなければいけない。
攻撃する事よりも、回避と逃げを重視して延命を図ろうとする。
もちろん逃げ切った所でタイムオーバーすれば耐久の差で勇次の負けなのだ。
それでも勇次はしぶとかった。
勇次(ラストスパートまで諦めてはいけない、どんな時でも!)
次の一瞬、アレとトールギスが一直線上になったのに勇次は気がついた。
勇次「今か!」
左腕に搭載されているロケットアンカー『パンツァーアイゼン』をトールギスに打ち出した。
しかし、拓海には想定範囲内の動きである。
避けられたロケットアンカーはトールギスを横切って行くと……その先には勇次が本当に狙っていたモノがあった。
死んだ武器に対して警戒する奴は居ない。
だからこそ、それを蘇らせれば一瞬の勝機が来るはず
勇次の渾身のロケットアンカーは先ほど捨てたシュベルトゲベールをガッチリと掴んだ。
―――――それも拓海の想定内
ロケットアンカーのワイヤーはトールギスのビームサーベルで切り裂かれていた。
◇ ◇ ◇
邦彦「勇次」
邦彦は勇次の顔をのぞき込んだ。
その表情は絶望でも悲観でもない。放心と言うより無表情に近いのかもしれない。
邦彦「……ごめん」
その言葉に対して勇次は首を振った。
勇次「邦彦が居なければ、勝負にすらなってなかった」
そんな二人に、勝者が近づいてきた。
拓海「必ず優勝する。雅人くんのガンプラで」
勇次「一つだけ聞かせてくれ、君にとって雅人はなんだ?」
拓海「友達……いや、一緒に戦った戦友が近い」
勇次「そうかい……いこう、邦彦」
邦彦「あ、ああ」
二人がクラブから出て行くと、やっと景太郎が口を開いた。
景太郎「俺はてっきり、わざと負けて返すんだと思ってました」
拓海「雅人が亡くなる時、水泳の大会に出てたような兄に渡すわけ無いだろ」
◇ ◇ ◇
勇次は一人、雅人の仏壇の前に一人佇んでいた。
勇次「お前の大事なガンプラは、お前の戦友が使うって」
勇次「何やってんだ、俺。お前の兄なのに」
その場で膝をつき、手で顔を覆う。
勇次「許してくれ……」
第一話 最後と最初のガンプラ 終わり
ここまで
2話はいつできるか未定
水泳の大会に出てたのが理由って…
やはり汚いオルフェノクは性格悪いな
第二話 フォレストフィールドの戦い
拓海と勇次の試合があった日から翌日
勇次「あれから考えたんだが、実は公式戦に出ようと思ってる」
邦彦「は?」
勇次「公式戦に出るにはどうしたらいい?」
邦彦「はァァァァ?」
勇次「あいつは確か、公式戦で負ければ返すと言っていたんだ」
邦彦「……確かに言ってたけどさ」
勇次「だから、やってみようと思う」
邦彦「いやぁ、無理だと思うぞ」
勇次「無理を承知で言ってるんだ」
しつこい勇次に少し呆れながら、邦彦はガンプラ専門の情報雑誌を持ってきた。
邦彦「この雑誌は去年のなんだが、ほら」
勇次「雅人が載ってるじゃないか!」
邦彦「そういう事だ。あのクラブ菊池はかなりの強豪だったぞ」
勇次「雅人が全国大会で準優勝って書いてあるぞ? そんなの聞いたことないぞ」
邦彦「……お前ら兄弟、仲悪かったのか?」
その一言で勇次は黙りこんだ。
過去の弟の態度を一生懸命思い出そうとしていた。
そんなに喧嘩の多いような関係でもないし、嫌味を言うような間柄でもない。
ただし、今の質問がもしも―――仲は良いか? だったら彼は間違いなく肯定しきれないであろう
兄弟に限らず、もちろん家族というのは想像以上に隠し事があるものだ。
しかし、ガンプラファイトの全国大会で準優勝をしたというのは隠す必要性が何処にあるというのだ。
ならば準優勝を隠していないとしたら
雅人はすでに勇次に実はすでに告げているとしたらどうだろうか。
邦彦(あれ? まさか地雷踏んだ?)
邦彦「あー、あー……あの拓海ってのは全国大会でベスト8だ」
勇次(雅人がそこまでやる奴だったなんて)
邦彦「奴と再戦して勝つなら、そこまでやらなきゃいけないってことだぞ」
勇次(俺はあいつのガンダムの話は……殆ど流し聞きしかしてない。だから知らない……覚えていないんだ)
邦彦「聞いてる?」
勇次「ああ……で、どうすればいい?」
邦彦「……そうね、お前には3つのハードルがある」
勇次「ベスト8までの道のりのハードルが3つだけ?」
邦彦「第一のハードルは……公式戦に出るにはクラブに所属してチーム出ることになってるから、メンバーを集めないといけない」
勇次「何人必要なんだ?」
邦彦「4人で1チーム、と言っても一人はベンチみたいなもんだけど」
勇次「チーム……俺とお前で、後二人?」
邦彦「俺も頭数に入ってるの?」
勇次「もしかして、すでにチームに入ってる?」
邦彦「いや、俺はガチ勢じゃないから無理だよ」
勇次「じゃあ3人か……」
邦彦「どっかのクラブに入るなら、あのクラブ菊池と同じ県のクラブがいいけど……遠いだろ」
勇次「なんで?」
邦彦「それが第二のハードル。県が違うと地方大会で優勝して全国大会に出ないと戦えない」
勇次「……マジで?」
邦彦「第三のハードルはもちろん勝つ事だけど」
勇次「チームゥゥゥうーーん……」
邦彦「お前が再戦するより、誰かがヤツを倒す確率のほうが圧倒的じゃね」
勇次(確かにそうかもしれない、でもそれは兄であるのを諦めたってことじゃないのか?)
勇次「確率が低いとか、高いとかってのは正直気にしていない……俺の手で取り返すことに意味があるんだ」
邦彦「マジかよ」
勇次「それに時間は無駄にある。部活だと思って開き直ってやってみるよ」
邦彦「いいけど、クラブはどうする? クラブ菊池と同じ県のクラブに電話かけてチーム入れてくださいって聞くか?」
勇次「それで見つかるかな」
邦彦「他県からの人を入れると思う?」
勇次「試しに聞いてみよう」
勇次と邦彦はクラブ菊池と同県のクラブをネットから検索し、片っ端から電話をかけていった。
勇次「ええ、クラブに入って大会に出たいのですが。ええ。あ、もうチームメンバーは確定してますか」
邦彦「そんな馬鹿な話だとは思うんですが、空いてるチームを探してるんですよ」
勇次「他県の人はクラブに入れない? そうですよねぇ……」
他県の人間は入れないクラブ、そもそも出場メンバーが確定しているので参加させれないクラブ、初心者をメンバーにできるわけがないクラブ
結果は悲惨である。
1時間以上ずっと電話かけ続けた勇次も邦彦は、まるで全力疾走したかのように机の上でくたばっていた。
邦彦「だめだな、こりゃあ」
勇次「地元で探すしか無いか」
そんな二人の間に一人の女性が顔を出した。
真里「何やってるの?」
邦彦「うお! 真里さん!」
真里「作業室で電話ばっかりしてれば不審でしょ?」
勇次「クラブを探してたんだよ、ガンプラの」
真里「見つかったの?」
邦彦「いやぜーんぜん。新参者がそう簡単にクラブの代表としてチームで出れないらしい」
勇次「次は地元のクラブリスト作ったぞ、ほい」
邦彦「あいよ……なんだこれ?」
勇次「どうした?」
邦彦「フォーリクローバーがクラブとして登録されてる」
真里「うん、クラブ化はしてあるよ。フィールド置くのに必要だったから」
邦彦「まじか……知らんかった……」
勇次「真里さん、クラブのチームってどうなってます?」
真里「うちのクラブって別にそういうクラブじゃないから。ここを利用するのにクラブに加入しなくてもオッケーって事にしてるし」
邦彦「メンバーは居るの?」
真里「今1人だけ居るけど」
邦彦「強い?」
真里「別のクラブで戦ってたってのは聞いたことあるけど、どうなんだろ?」
邦彦「誘ってみよう!」
勇次「誘う? チームにって事? でもクラブはどうする?」
邦彦「じゃあ逆にしよう」
勇次「逆……俺達が入る」
邦彦「そう! ……たち?」
勇次「真里さんどうなの? 実際」
真里「クラブに入ってチームで出るって事なら別に構わないけど……条件があるよ」
勇次「どんな条件?」
真里「まず、今まで通りフィールド使用のクラブ優先権は無いから」
勇次「ほい」
真里「トラブルも厳禁」
勇次「ほい」
真里「あと一人のメンバーの承諾を得ること」
勇次「オッケイ、わかった」
邦彦「ちょっとまて、たちって言った?」
◇ ◇ ◇
真里「ゆかー、お客さん」
由佳「……お客?」
勇次「はじめまして、勇次です」
邦彦「俺は邦彦、よろしく」
由佳「……誰? この人達」
真里「由佳は今ここの模型店のクラブに入ってるでしょ」
由佳「……それは勧誘避けのためだけど」
真里「クラブ入って試合に出たいんだけど、大丈夫?」
由佳「勝手に出ればいいじゃない?」
勇次「実はそれだけじゃない、誘ってるんだ」
由佳「……何を」
勇次「由佳さんをチームに」
由佳「……あなたは強いの?」
勇次「俺の事言ってる? いや全然」
邦彦「初めて1週間ぐらいだよ、こいつ」
由佳「……」
由佳はジトッとした目つきで勇次を見て、邦彦を一度を視線に移して、また勇次に視線を戻した。
勇次「駄目?」
由佳「私より強くない人と組む気はないの」
邦彦「おいおい、こいつが弱いとは言ってないぞ」
勇次「ん?」
邦彦の妙な発言に勇次は顔を歪ませたので、邦彦は由佳に聞こえないように勇次を引っ張って耳打ちした。
邦彦「戦ってみたらどうだ? 仲間に入れるにしても、あの由佳って人がどのくらい強いのかも知りたいだろ?」
勇次「俺が戦ってって……俺でいいのか?」
邦彦「お前が頑張らないでどうするんだよ」
勇次「それもそうだ」
邦彦の耳打ちが終わると由佳が応えた。
由佳「秘密の会談終わった?」
勇次「君より強ければいいってのは勝負して勝てばいいって事?」
由佳「……勝つ気?」
邦彦「挑発してるんじゃないよ。俺達は君を知らないから、つまり君の強さを知らないから聞いてるんだ」
由佳「ボコボコにしていいなら勝負してあげてもいい」
邦彦「よーし、勇次は試合の準備だ」
邦彦は勇次の背中を思いっきしに叩いた。
勇次「背中にモミジつくからやめてくれ」
由佳と勇次はお互いバトルフィールドにガンプラをセットしていた。
邦彦はフィールドのセットと開始宣言係をしていた。
邦彦「フィールド起動。試合は1ラウンド制」
フィールドが起動するとステージの大半は緑色に包まれ始める。
ガンプラを隠れるぐらいの大きさの森がある森林ステージだ
森を利用して隠れて相手に接近してもいい、森を無視して空中戦をしてもいい
邦彦「ガンプラファイト! レディーゴー!」
勇次のフィールドインしたガンプラは、バランス型のエールストライクをチョイスしていた。
最初の時みたいに地面に激突はせず、ブースターを吹かしながらゆっくりと着地している。
邦彦「勇次のやつ、着地も安定感出てきてるな」
一方の由佳だが、機体は森を使って隠れて接近してくるわけではなく空からブースターを吹かしながらやってきた。
その機体の姿はすごくゴテゴテしく、特に肩についているブースターが特徴的である。
邦彦「お? GP02かよ。 それも背中に6連ロケラン付いてる奴」
女性が使うには意外なチョイスであるため、邦彦は少し驚く。
勇次も驚いていたが、それは機体のチョイスが以外だからではない。
GP02が持っている盾の方に驚いていたからだ。
勇次「盾でかいな……」
拓海戦で勇次は一方的にシールドで翻弄された事を思い出さずに入られなかった。
由佳「……エールストライクね」
勇次が相手の機体を確認できたと言うことは、由佳も勇次のエールストライクを確認できるということだ。
由佳のGP02が手に持っているバズーカを構えた。
邦彦「アトミックが来るぞ!」
勇次「は? アトミック?」
ガンダム初心者である勇次には、まだ一般的なガノタの知識はない。
そのためGP02と言う機体が核バズーカを撃つためだけに作られた機体というのを知らないのだ。
幸い、由佳のGP02の搭載しているバズーカは核バズーカではなかった。
光の帯がストライクの横を通ったからだ。
勇次「また太いビームか!」
勇次は応戦のためビームライフルを照射する。
GP02はその攻撃を盾で防ぎならが、森の方へ移動して着陸して行った。
勇次(森の中に入ったぞ? ……どうする?)
隠れた対象に向かって突撃を仕掛けるなら、時間をかけてはいけない。
すでに迷いのせいで相手に時間を与えた以上、ここは相手の攻めずに相手の出を待つのも手ではある。
だが勇次にはそう言った判断ができるレベルではない。
勇次(迷ったら、攻めだ!)
勇次は無防備にも空を飛んでGP02の方へ突っ込んでしまう。
由佳(飛んでくるなんて素人すぎる!)
森の中を探しに来ると思っていた由佳には空中から姿を晒してきたエールストライクに驚かざるえ終えない。
丸見えのエールストライクを森の中から放たれるビームバズーカがしっかりと貫く。
勇次「喰らった!? だが、相手の居場所がわかった!」
先ほどのビームバズーカの光が出たポイントに向けてエールストライクは2射ほどビームライフルを放つが、GP02はすぐに移動してしまい、また森の何処かに消えてしまう。
邦彦(あの森の中をGP02のような肩幅がある体格で移動してるのに音が鳴らないのは凄いな……)
まだエールストライクが滞空していると、再び森の中からビームバズーカで狙撃される。
勇次「空は駄目か!」
空で待機して戦い続ければ一方的にやられるしかないと気がついたので、やむを得ず森のなかにエールストライクを着地する。
勇次「さっき撃たれた方角はあっちか」
先ほど撃ってきたポイントに向かって一気にブーストを吹かす。木の枝などを機体にかすらせて音を鳴らしながら、目的の場所についた。
勇次「ココらへんだった気がするが……」
そんな時、正面あたりの森から上空へ向けてビームバズーカが放たれる。
何処を狙ったのだろうが、その方向はかなり変な方に放たれた。
勇次「あっちか?」
光の発信源へ向けてストライクを移動させようとする。
そんな彼の行動をわかっていたかのように姿を表したGP02は、エールストライクの正面ではなく背後からビームサーベルを抜刀していた。
勇次「後ろ!?」
敵は正面の方に居ると思っていた勇次は遅れを取られ、背後から一気にビームサーベルで斬りつけられる。
機体を回転して背後のGP02を確認しようとするが、回転させすぎてその間にまたビームサーベルで斬られてしまう。
邦彦「背後からやられるとパニクって機体の方向転換ミスるのはわかるが、ちょっときついな」
かなりビルドシールドゲージを削られてしまったが、まだ勇次は一撃も与えていない。
勇次「完封だけはゴメンだ!」
右手と左手の両手でビームサーベルを引っこ抜く。
盾で片方だけ防がれても、もう一本でどうにか出来るという発想だが――
由佳「バースト!」
由佳がソレに対してやったのは盾で防ぐことでもなく、二刀流した事でもない。
GP02の肩に搭載されているブースターをエールストライクに向けて解き放ったのだ。
勇次「なんと!」
ブースターの出力にエールストライクはふっ飛ばされて木に激突する。
勇次「そういう防ぎ方もあるのか!」
盾ばかりに気を取られていた彼にとって意外な戦法だった。
勇次はその時、少し笑っていた。
新しい発見は人を感激させ、喜びを与える。
楽しむためにガンプラファイトをしているわけではないのに、そんな事はそれは許されない事じゃないのか、と勇次は思う。
ブースターでふっ飛ばされたおかげと言うべきか、GP02との間には距離ができた。
急いでビームライフルに持ち替えてGP02に向けて放つ。
由佳は逃げながら、先ほどの森の中から空中へ放ったと思われるビームバズーカを回収していた。
森の中で、ビームライフルとビームバズーカの打ち合いが始まる。
勇次「木が邪魔で上手く当たらない!」
ビームライフルの攻撃が木を盾のようにして凌ぐGP02に対して、ビームバズーカの火力は高く木を貫通してくる。
攻撃だけじゃなく回避に関しても勇次は回避運動中に途中で木にぶつかって被弾するなど、決定的な技量の差がでていた。
勇次「せめて一発だけでも当てたい!」
その執念が次のビームバズーカのビームの軌道を、木を蹴り飛ばしてを回避すると言う行動をさせる。
そして、すかさずビームライフル!
さすがに予想できなかった動きだったのか、由佳は初直撃することになる。
由佳「当たった?」
勇次「よし!」
由佳「なら森ごとふっ飛ばして!」
いらっとした由佳は、GP02の6連ロケットランチャーがエールストライクの周りの木や地面を吹き飛ばす。
勇次「うおお!? いきなり力押しかよ!」
衝撃のあまり、エールストライクは盾を押し出しながら足が止まる。
由佳「いただきッ」
ストライクの盾を横に蹴り飛ばし、ビームサーベルを斬りつける。
そこで勇次のビルドシールドは0になってしまった。呆気無い敗北である。
勇次「え? もうシールドゲージない?」
拓海戦と比べれば攻撃を食らった回数は少ないため、勇次はまだ耐久があると錯覚していたのだ。
邦彦「そりゃ相手は素組じゃないから、火力も装甲も違うぞ」
由佳はさっさと自分のガンプラを片付け始めた。
由佳「帰る」
勇次「待って、もう一回挑んでもいい?」
由佳「やる必要ないでしょ」
次やっても余裕で勝てると言わんばかりの態度で由佳はクラブから出て行ってしまった。
勇次「振られたな」
邦彦「あんだけボコられれば、しゃーないしょ」
勇次「強かったなぁ」
邦彦「ああ、強いね」
残ったのは男二人のため息だけだった。
勇次「けど、どうすれば勝てる」
邦彦「そんなこと言われても、俺だって多分勝てない相手だぞ」
そんな二人で作戦会議中に人のガンプラを覗きこんでくる男が居た。
直哉「そのガンプラじゃ無理だよ」
邦彦「おう? 何だいきなり」
勇次「……どうして無理だと思う?」
直哉「そりゃ、そのガンプラは愛がないからだよ」
勇次「愛が……ない?」
直哉「それ、素組でしょ。そんなので戦っちゃダメでしょ」
邦彦(あれぇ? コイツどっかで見たことあるな……)
直哉「せめて墨入れでもしなよ」
そう言うと、その男は作業室からお店の方へ去っていった。
邦彦「真里さーん、アイツ誰?」
真里「今の子? ナオヤくんね。最近顔を出しては小さい子にガンプラを教えてる感じ」
邦彦「俺たち小さくないんだけど」
勇次「ガンプラファイト詳しい人?」
真里「一度もガンプラファイトをしてる所は見たこと無いけど」
邦彦「自分では試合しないの?」
真里「だいたい人の試合を見てばっかりね」
勇次「それで墨入れって何?」
邦彦「ガンプラの溝の部分があるだろ? あそこに黒い線を入れるんだよ」
勇次「ほう?」
邦彦「墨入れをやるだけでもガンプラがだいぶ締まって見てるようになるし、手始めにやる工夫としては丁度いいかもな」
そんな話をしてると先ほどの男が帰ってきた。
手には買ったばかりと思われるペンを何本か持っている。
直哉「初心者は、このガンダムマーカーをオススメしよう」
勇次「もしかして、使っていいとか?」
直哉「僕はマーカーは使わないから、いいよ」
邦彦「俺たち、アンタにそんなコトしてもらうような事したっけ?」
直哉「使わないなら別に構わないさ。他の人にあげるだけだし」
邦彦の発言をあまり気にしないで勇次は彼のペンを受け取った。
勇次「俺の名前は勇次って言うんだ。名前は?」
邦彦「本気かよ勇次」
直哉「直哉だよ、よろしく」
邦彦「はいはい、俺は邦彦ですよ」
勇次「よし、墨入れってのをやってみるか! 溝に沿ってなぞればいいのか?」
直哉「白パーツはブラックじゃなくグレーの使うといいよ」
勇次「オッケイ」
勇次がガンプラに対して墨入れの作業を始めたのに対して邦彦は直哉に質問をし始めた。
邦彦「なんでも小さい子にガンプラ教えてるらしいね」
直哉「誰に聞いたの?」
邦彦「真里さん」
直哉「ああ、店員さんか」
邦彦「小さい子供でもないのに何でうちらに声をかけてきたのさ」
直哉「始めたてなんでしょ? さっきの戦いやガンプラを見ればわかるよ」
邦彦「こいつ初めて1週間ぐらいだよ」
直哉「それで、よくあの子にはよく挑んだね」
勇次「由佳って人、知ってるの?」
直哉「去年の公式戦に見たことある人だね」
邦彦「じゃあ、アンタも公式戦出てるのか。何処のクラブ?」
そんな会話の中、勇次はガンダムマーカーの墨入れをしてたのだが溝だけを上手くなぞれないようだ。
勇次「すっごいはみ出るんだけど、どうすればいい?」
直哉「はみ出た部分は消しゴムを使うといいよ」
勇次「消しゴムで消せるのかよ」
直哉「で……なんだったっけ?」
邦彦「……何処のクラブ?」
直哉「今はもうクラブに入ってないよ。やめちゃった」
勇次「ならば、フリーってことか」
邦彦「まさか誘うの?」
勇次「丁度いまチームを作ろうとしてメンバーを探してるんだが――」
直哉「残念だけどお断りしよう」
勇次「また振られちゃったよ邦彦」
邦彦「フリーなのに駄目なのか」
直哉「悪いね、ガンプラファイトは辞めたんだよ」
邦彦「辞めたのにお節介してるの?」
直哉「あ、ちょっとまて。そこの色はブラウンを使った方がいい」
勇次「ほいほい」
◇ ◇ ◇
やっとの事ので墨入れ作業を終えた勇次は大きく腕を伸ばして背伸びをする。
勇次「墨入れ終わったぞぉぉおお!」
邦彦「いいんじゃね」
直哉「だいぶ立体感が出ましたね」
勇次「これで良くなるもんなのかな」
邦彦「素組よりはマシってもんだ」
勇次「なら、由佳さんに会ったらもう一度挑んでみよう」
直哉「対策もしないで挑む気?」
勇次「対策?」
直哉「GP02との戦い方だよ」
◇ ◇ ◇
直哉に言われて邦彦はGP02を用意するハメになり、勇次と邦彦の二人はお互いのガンプラをバトルフィールドで相まみえる状態になっていた。
邦彦「直哉センセイはこれからどうしろと」
勇次「どうすれば、あの由佳って人の対策になる?」
直哉「君の戦いを見たが、射撃戦と接近戦共によくない」
勇次「それは知ってる」
邦彦「俺も知ってた」
直哉「何故なら、積極的に相手の視界から出ようとしないからだ」
勇次「視界から出る?」
直哉「急接近したら、そのまま仕掛けるんじゃない。相手の左でも右にでも移動して背後に行こうとするんだ」
直哉の言っている事がいまいち理解できない勇次達だったが、とりあえずやってみようという話になった。
まず勇次は邦彦のGP02に一気に接近する。そこから右側に回りこむように移動する。
勇次「これでいいの?」
直哉「邦彦さんも動かないと」
邦彦「え? 俺も動くの?」
直哉「右に回りこまれたらどうする?」
直哉に言われて邦彦はGP02の肩のブースターを吹かして機体の方向を回転させる。
直哉「今のGP02の肩のブースターの動きを見た?」
勇次「え……肩を?」
直哉「接近戦は、相手の肩の動きを見るんだ。その角度から何をするのかを察知すれば相手の手を潰せる」
直哉「さらにGP02には、重量系モビルスーツは瞬発力や旋回力を補うブースターが肩にある」
直哉「今のように方向転換するために肩のブースターを左右で前と後ろ向きにして一気に吹かす事で補ってるんだ」
直哉「でもそれが弱点を生む」
勇次「邦彦は知ってた?」
邦彦「なんかこの講座受けてたら、俺もガチ勢入りしちゃうかも」
直哉「特にGP02は肩のブースターの向きが確認しやすい。よく見ながらまず……左に回りこんだとよう」
勇次「ほい」
直哉「肩のブースターが火を吹いたのを見えたらスグに逆の右に回りこむように切り替える」
勇次「よし、やるぞ邦彦」
邦彦「おう! おお…… おおお!?」
直哉に言われた通りに、勇次はまず左に旋回してそれに合わせるように邦彦はGP02の肩のブースターを使って向きを整える。
それを見た勇次が合わせ右に一気に戻る。
邦彦「こりゃ消えたように見える」
直哉「それが使えるだけでもバックアタックができて、だいぶ接近戦は有利に立てるはずだよ」
邦彦「んん? でも、結局肩ブースターの旋回を止めれば済む話じゃないの?」
直哉「そう、なのでGP02の良さが殺されるのさ。そうなると消えてた重量系ガンプラの弱点が露呈してくる」
勇次「瞬発力と旋回力」
直哉「そうなると、やっぱり使いたくなってしまうのが人の性なんだ。だから、その瞬間は絶対に見逃しちゃいけない」
邦彦「他にも攻略法はある?」
直哉「慌てないで、一個一個反復練習して身体に染み付けてから次のステップにいかないとイザって時に使えないよ」
勇次「練習の基本だね。やるか、邦彦」
邦彦「付き合えばいいんでしょ、はいはい」
◇ ◇ ◇
数日後、勇次たちは由佳に戦うための準備を終え再戦を挑むべく彼女を探していた。
勇次「由佳さん居るかな」
邦彦「直哉のことだけどさ、あいつ絶対引退詐欺だと思うぞ」
勇次「邦彦より詳しかったな」
邦彦「知識ひらかして……なんていうか俺知ってますアピールが凄まじかったな」
勇次「そこまで酷かったか?」
邦彦「聞いてないのをベラベラしゃべるんだぜ? ガノタによくある現象かもしれないけど」
勇次「お前だってガノタでしょ。由佳さん居た!」
由佳「……また着たの?」
勇次「着ちゃった」
勇次の変な一言に邦彦が壮大に吹いた。
勇次「再戦に着たんだ」
由佳「やだ」
勇次「断られちゃった」
邦彦「ゴホッ、もっと粘れ……俺ゴホッ、まだむせてるゴホッ」
勇次「もう一度チャンスをくれ」
由佳「やだ」
勇次「ちゃんとチームメイトとして認めてもらうために色々勉強してきたんだ」
由佳「……」
勇次「頼む、負けたら二度と同じことはしない」
由佳「……はあ、次負けたら関わらないで」
邦彦「ゴホッ、よし準備だゴホッ」
勇次「お前大丈夫かよ」
邦彦「おまえの、せいだろゴホッ」
◇ ◇ ◇
邦彦「再戦ってことで、フィールドも前回と同じ森林で」
勇次「ほい」
由佳「好きにしたら」
邦彦(変に別のステージにされちゃあ、勇次の勝率が落ちるし助かった)
邦彦「じゃあフィールドオンするから、ガンプラセットして」
勇次(教訓が果たしてどこまで通用するか)
邦彦「ガンプラファイト、レディーゴー!」
邦彦の開始の合図とともに勇次と由佳のガンプラが緑のフィールドに吸い込まれていく。
由佳のガンプラは前回同様GP02に対して、勇次のガンプラのセッティングは変わっていた。
エールストライクではなく、ソードストライクの装備でフィールドインしていた。
まずソードストライクは森の中を移動しながら、由佳のガンプラへ接近を試みる。
勇次「前みたいに、飛んで行くわけには……あえて音を鳴らすか?」
ビームバズーカの光の軌道をオトリにして背後から襲われたように、音を使ってオトリに出来ないかと勇次は思いつく。
すぐさまビームブーメラン『マイダスメッサー』を射程ギリギリの木に向かって投げ、木を倒して音を鳴らす。
勇次「これで釣られてくれれば――」
そこでソードストライクにビームの帯が放たれる。反応が遅ければ、勇次はファーストヒットを貰っていただろう。
勇次「あっぶな!」
由佳「残念だけど、ビームブーメランのビームのほうが目立ってるの!」
音を鳴らす囮作戦自体はきっと悪いことではない。
しかしブーメランのビームの光の軌道が由佳に居場所を教える結果となってしまっていた。
勇次「先手は取られたけど!」
勇次は対艦刀シュベルトゲベールを構えながら接近を試みる。
それを迎撃するようにGP02の背中のロケットランチャーが放たれる。
勇次「バルカンも使い道がある!」
自分に飛んでくるロケットランチャーをイーゲルシュテルンで爆破させて、一気にGP02へ。
由佳「接近された? 動きが良くなってる気がする!」
邦彦「ソードはここからが勝負か」
勇次「接近戦は―――」
直哉『接近戦は、相手の肩の動きを見るんだ。その角度から何をするのかを察知すれば相手の手を潰せる』
直哉との特訓の言葉が勇次の頭で一瞬で再生される。
しかし現実は彼の言葉通りとはいえない。
勇次「盾が邪魔で見えない!?」
由佳は大きな盾を前に構えながら、勇次の攻撃が外れるとすかさずビームサーベルで切り裂いてくる。
辛うじて当たる攻撃といえば、盾の上にビームブーメランを当てる程度だ。
勇次「ならアンカーで!」
ソードストライクが放ったロケットアンカー『パンツァーアイゼン』はGP02に避けられ、木を掴んでしまう。
勇次「木? 木か!」
次にやったこと行動は、アンカーで掴んだ木の根元に向けてビームブーメランを投げていた。
邦彦「どこに無駄撃ちしてるんだ?」
アンカーはそのまま木を掴んだ状態で勇次は振り回し始める。
由佳「何をする気!?」
勇次「こうする!」
振り回したアンカーのワイヤー部分が別の森の木にぶつかれば、今度はそこを軸にワイヤーは回転し、アンカーががっしりと掴んでいる木はGP02の背後を叩きつける形となった。
由佳「そんな!?」
勇次「体勢が崩れたなら、そこでしょうが!」
ソードストライクの対艦刀がそのタイミングを狙って大きく振りかぶられる!
直撃は避けたものの、GP02の盾が犠牲になった。
由佳「盾がやられた!?」
勇次「よしっ、これで肩が見える!」
追い込みをかけるためにソードストライクは踏み込む。
由佳「くっ!」
勇次「ブースターが前面!?」
GP02のブースターが前回同様、真正面に向かれたので勇次は避けるため右へ
だが由佳も負けてはいない
その反応にあわせて、片方のブースターだけを動かしてから吹かしてソードストライクから逃れようとする。
勇次「アンカーは? 戻ってる!」
先ほどまで木を捉えていたロケットアンカーが戻っているのを確認すると、逃がさんとばかりすぐさま射出。
由佳「……しつこい!」
ロケットアンカーのワイヤーが斬られるが、少しでも時間を稼げればそれでいい。その少しのタイムラグが、シュベルトゲベールをGP02に斬りつける時間になるのだから。
―――ソードストライクはついにGP02に大剣の一太刀浴びせた。
由佳「シールドゲージがもっていかれた!」
勇次「もう一丁!」
勇次は容赦なくシュベルトゲベールでGP02を斬りつける。
シュベルトゲベールの火力は強力だ。
一回の攻撃で相手のビームサーベルの攻撃2回分をひっくり返すだけのダメージは期待できる。
さらに墨入れをした事によるソードストライクの機動力の向上と、直哉の言われた肩の動きを見ろを守って戦うという教訓が由佳と互角の戦いをさせてくれている。
邦彦「おお、勇次のやつ押してるじゃん。 あれ、俺より強くなってね?」
勇次(流れは完全にこっちだ! 勝てるぞ邦彦! あと直哉!)
由佳(……素人にここまで好きにされて!)
前回戦った時は圧倒的な勝利を収めた相手だからと言って由佳は手加減してあげたわけではない。
直哉の助言による勇次の実力の底上げにより差が縮まれば縮まるほど、逆に機体特性の差が浮き彫りになってくるのがガンプラファイトと言うことだ。
完全に接近戦特化のソードストライク相手に、重量系扱いのGP02の接近戦をし続けるのは相性が悪い。
射撃戦に持ち込めば、まだ彼女は優位に立てるのだが、彼女はムキになっているのだ。
自ら追い込んでしまった由佳だったが、転機がやってくる。
あと一撃シュベルトゲベール貰えば負ける直前の土壇場で、ソードストライクの手首に蹴りを入れていた。
丁度振りぬいたタイミングに貰ったせいで、シュベルトゲベールはソードストライクの手から飛んで行くように離れて地面に落ちた。
勇次「おぉ……おお!?」
邦彦「おおい、油断するなよ!」
メイン武装を失った直後のソードストライクあまりにも無防備過ぎて、GP02に一気に切り刻まれる。
勇次(やっば! 残った武装はビームブーメランだけか?)
急いでビームブーメラン『マイダスメッサー』をサーベルのように構えた。
勇次「大剣は?」
ビームサーベルで一気に攻撃を食らった時に、なんとか避けようと移動したため落とした大剣からかなり離れた位置まで移動したことに気がつく。
勇次(剣を拾うか? いや、そんな余裕をかましてたら一気に攻撃されて下手したらやられる! ビームブーメランを投げるにしても直撃させても甘い。 バックアタックすれば一発で倒せるかもしれないが)
勇次は自分のシールドゲージと由佳のシールドゲージを見比べながら、次の一手を考える。
由佳もまたタイミングを図っている。
由佳(シュベルトゲベールでなければ、一発は耐えられる。その間に3,4回斬れば勝てるはず。ビームブーメランはそこまで火力がない……攻める!)
―――先に動いたのはGP02だ。
突っ込んでくるGP02に対して、勇次は今ならマイダスメッサーをブーメランとして投げればたやすく当てれるかもしれないと考えるが、投げた瞬間から手持ちの武装がなくなれば一方的にやられると言うことだから、その選択肢はそもそも無い。
なら、どうするか?
勇次「回りこむ!」
由佳「させない!」
ソードストライクがGP02の横へ回り込もうとするのにあわせて、GP02の肩のブースターが動く。
方向転換のための片方が前向きに、もう片方が後ろに向けた状態のブースターが火を噴く瞬間を―――
勇次「見えた!」
GP02が機体を回転させたと同時に、勇次はソードストライクは一気に逆方向へ!
由佳「消えた!? 違う!」
勇次のソードストライクはGP02の背後に見事に滑り込んだ。
そうなってしまえば、もう由佳が何をやったとしても、勇次がやることは変わらない。
後は手に握っているマイダスメッサーで一気にGP02の背後を切り裂くだけだ。
計器には勝者が勇次であることを表示している。
邦彦「おお! 完全に言われたとおりにやりやがった!」
由佳(負けた? 素人に負けた? 何で負けた? 接近戦にこだわりすぎた?)
負けた理由を一生懸命考えてる由佳に勇次は近づいて、こう言った。
勇次「これで一勝一敗だ。次はいつやる?」
更に由佳の思考回路をショートさせた。
そして彼の言葉に反論したのは彼女ではなく、邦彦である。
邦彦「何言ってるの!? 勝ったんだからいいだろ」
勇次「もう一回やらないと決着がつかない」
邦彦「前は前、今は今だろ?」
勇次「いやでも、フェアじゃない」
邦彦「何がフェアじゃないの!?」
勇次「俺は由佳さんを倒すために、いろんな準備をしてきた」
邦彦「いいじゃん別に、おかしくない! だってお前初心者だろ」
勇次「彼女にだってその権利はあるんじゃない? 公式戦は3ラウンド制なんだろ?」
邦彦「いやだって、お前……時間だって無いんだぞ? こういう時は、素直に勝ち誇る!」
勇次「確かに時間足りないんだけど」
そんな二人やり取りを見ているうちに、だんだん呆れてきた由佳が割って入った。
由佳「私をチームに入れたくなくなったってこと? それとも入れたいの?」
勇次「へ?」
由佳「どっちなの?」
勇次「もちろん入れたいに決まってる」
由佳「はあ……じゃあ、約束したしチームに入って試合には出てあげる」
勇次「ほんと?」
由佳「……ただ、私におんぶだっこみたいなチームだけは嫌だから」
勇次「もちろん」
由佳「……勝率が酷かったら公式戦の途中でも抜けるから」
勇次「が、がんばるよ」
邦彦「……話まとまった?」
勇次「たぶん?とりあえず、後一人入れないといけないな」
邦彦「やっぱ俺も確定なの?」
由佳「……私なんか誘ってるようだと、他に宛がないでしょ」
勇次「いや、一人誘う宛がある」
邦彦「なんか、誰だかわかった気がする」
第二話 フォレストフィールドの戦い おわり
面白い
SD使いは出るんかな
>>86
キャラ名のほとんどが555ネタばればれとか、これも全て乾巧って奴の仕業なんだ
>>180
SDはまだ出すかどうかイメージが湧いてないんだ。出せるかちょっと分かんね
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