モバP「二兎追い人の栞」 (112)
モバマス、鷺沢文香さんのSSです。
勝手設定+ご都合主義。P視点メインのストーリー展開になります。
更新時期は不定期になりますが、完結まで持っていくように努力します。
それでは不肖の身ですが、お世話になりたいと思います。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1422814582
“二兎を追う者は、一兎をも得ず”。そんなことわざがある。それは、確かに正しい言葉であると思う。
欲張り過ぎてはならない。無謀なことをせず、ちゃんと弁えて行動をしなさい。そう言った、道徳的観念が含まれていることわざなのだと。
でもそれは、二兎を追ってはならない、ということではない。別に二兎を追ってもいいのだ。世の中には文武両道の人もいるし、二つの分野で大活躍する人もいる。
そういう人っていうのは、二兎を追って、ちゃんと捕まえられた人だ。だから、僕は思う。
二兎を追わなければ、二兎を得ることは出来ない。そういう、”夢”も含まれているのだと。
世の中結果論だって、人は言うかもしれない。結果の出ない物事なんて、意味はないのかもしれない。資本主義っていうのは、そういうことだって何度も言われた。
でも僕は信じている。追うこと自体に意味を見いだせるなら。追いつづけることが幸せなのだとしたら。二兎どころか三兎でも、四兎でも追っていい物なんだって。
まあ、だからって、世の中それで生きていけるほど、甘くはない。自分の好きな事をやって生きていけるのはごく少数の、幸せな人間だけだ。
それでも僕は、自分のやりたいことをずっと追い続ける。どれだけ生活が苦しくたって、体がぼろぼろになったって、追うことはやめない。
「……その、それでも。少しぐらいお休みしても……」
ありがとう、僕を心配してくれるんだね。でも、それは僕には要らないんだ。
人生は、有限なんだって、僕は知っている。知っているかな? 一日はたった二十四時間しかない。まあ、常識だ、知ってて当然の事。
じゃあ、一日に人はどのくらい、寝ている物か知ってるかい? 一説によれば、人間が快適な生活を送るためには、六時間ほどは寝ないといけないそうだよ。
そう、つまり一日の四分の一。つまり人生の四分の一、僕たちは眠ってる。それが無駄だとは言わないよ、僕は。でも、もったいないって、どうしても思ってしまう。
やりたいことが、僕にはたくさんあるんだ。一日に六時間も、七時間も寝ては居たくない。なんたって、好きな事をやっているんだ、僕は。楽しくてたまらないさ。
それに、趣味を仕事にするっていうのはね。労力に見合った対価が得られないことが多い。だから趣味なんだよ、趣味にはお金がかかる物だ。
例え短い命だったとしても、それでいい。最後の瞬間に、ああ、少しでもやれたことがあったのに、なんて思いたくない。
今日を生きるために、全力を尽くす。そんな、戦国時代の武士みたいな考え方、今の世の中じゃあ流行らないかもしれないけれど。
……難しいかな? そう、じゃあ君の好きな読書に例えてみよう。
きっと君は、一章ずつ。あるいはひと段落ずつ。ちょっとずつ読み進めては、栞を挟んでいく。そんな人生だと思う。毎日、少しずつ、少しずつ。
きっと、それが普通の人の人生なんだって思うよ。一冊の、自分の人生って本を、慌てず、騒がず、じっくりと一文字を吟味し、堪能して。
それで、今日はここまで。続きはまた明日ねって。楽しみを残して、栞を挟む。
けれど、僕は違うんだ。
速く本の先を読みたい。じっくりなんて、読んでいられない。何かの拍子に、本が読めなくなってしまうかもしれない。明日が、来ないかもしれない。
僕はね、一気に読むつもりで、僕の本に向かってる。だから僕の人生に栞は必要ない。
――続きからまた、読み始めることはないんだから。
次回更新の予定は未定です。
では、どれほどになるかはわかりませんが、お世話様になりたいと思います。
宜しくお願いします。
□ ―― □ ―― □
『うぅ、寒ぃなあ……』
今年の冬は、一段と寒い。寒がりな僕としては、ちょっと勘弁してほしい。そう思いながら、ゆっくりと煎餅布団から身を起こす。
寝ぼけ眼を擦りながら、キッチンの流し台で顔を洗う。流れる水の刺すような冷たさが、茫漠な眠りの海に漂っていた僕の意識を引き上げてくれた。
そうして、顔を拭いて、小さなケトルに水を入れてコンロの上に置く。かちっ、かちっと二度ほどコンロを回すが、火がつかない。……どうも、今朝の機嫌は悪いらしい。
仕方がないので、とりあえず煎餅布団を畳んで、傍のちゃぶ台に置いてあった眼鏡をかける。
まあ、酷く目が悪いわけじゃないけれど、免許の更新の時に必要なくらいには、悪くなってしまった。昔は両目とも、1.5だったんだけれどなあ。
そんな風に、ちょっとボヤキというか、愚痴というか、何とも言い難い事を思いながらコンロの前に戻って、かちっと一回。今度はついた。
ゆっくりと一息ついて、僕はちゃぶ台の隣にある、折り畳みの小さな机を引っ張り出した。そして、その上にノートパソコンを置き、電源を付ける。
四色窓のアイコンが表示され、かりかりかり、とハードディスクが忙しなく回転している音が聞こえる。やがて、立ち上がったノートパソコンのタスクバーから、メールを呼び出した。
『新着は……なし、か?』
少し首を傾げながら一人、ノートパソコンの画面とにらめっこする。たぶん、仕事のメールが来てるはずなんだけど。やがて、少しして思い出したように顔を上げた。
(ああ、そういえばスマホの方に送られる時もあったっけ)
そうして、昨日自分が履いていた、くたびれたジーンズのポケットをごそごそ、と探せば……あった、僕のスマートフォンだ。
なんだかこの間、6だかプラスだか出たシリーズ物らしいが、僕のはいまだに4。確か4-5年前に出た奴だからそこまで古くないはずだけど、IT業界の4-5年ってのは馬鹿にできなかったりする。
そんなわけで、個人的にはちょっと前じゃないそれを見やった。まあ、物持ちが良いってのは悪い事じゃあないので良いだろう。まだ使えるし。
ぷち、と電源を付ければ、画面中央に新着の文字が表示された。やっぱりこっちに飛んできていたらしい。夜中の1時ごろには来ていたようだ。
『今日の朝11時にご来社ください、か。また急だねえ……』
もっとも、支障はなかったりするので、すぐに了解のメールを送っておいた。今の時刻は朝7時。今日もきっかり、2時間ほど睡眠をとったことだし、気分は悪くない。
それで、少しばかりメールの整理やデータの整理をして、時計を見れば7時10分。することもなくなったし、どうするかなあ、と考えていたら、
(あっ、そういえばケトル……)
と、火にかけていたケトルの事を思い出す。幸い、ちょうどいいくらいに沸騰していて、空焚きとかはなかった。
手早くインスタントコーヒーの粉をカップに入れて、お湯を注ぐ。安物とはいえ、コーヒーのいい香りが鼻腔をくすぐった。
ミルクも砂糖も無しで、ふう、ふうと、ちゃぶ台まで持っていきながら少し冷ますために息を吹きかける。一口、ずずと口に含んだ。……苦い。やっぱりブラックは苦い。
でも、まあ、入れる物もないしこれでいい。僕にとってのコーヒーは嗜好品じゃなくて、ただの眠気覚ましに過ぎないから。
幸い、安物とはいえ、眼はしゃっきりするだろう。もちろん、ほとんどしゃっきりしていたけれど、途中で眠くなるなんてことはまあ、ないと思う。
それからしばらくは、ノートパソコンでいろんなサイトを巡回したり、動画を見たりしていた。二、三ほどサイトを回って、三本ほど動画を見終わってから、ふと振り返ってみる。
僕にしては、無駄な時間の使い方をした気がしなくもないと思って、僅かに首を傾げたが、まあいいか、と納得しておいた。
いろいろな情報を知るのは僕の仕事柄、悪い事じゃない。僕の半ば趣味となっている仕事は特に、話のタネとなるものが必要だ。
それに、完全に趣味に時間を使い始めてしまうと、気が付けば一日経っている事もある。だから、全くの無駄じゃないかなって思って、時計を見るともう、8時前。
『散歩がてら、体を動かしてから、向かうかなあ』
僕は、半ば冷めかかっているブラックコーヒーを飲みほし、立ち上がる。……やっぱり、苦い。人間五十年、半ばに達しようとしているが、まだまだお子様の舌なんだろうな、なんて自嘲しつつ。
寝間着からくたびれたジーンズとグレーのパーカーに着替え、ジャケットを羽織る。ついでに、耳当てが付いたゴツめの帽子と手袋も引っ張り出す。
帽子の方は、ウシャーンカだったかな。寒がりの僕が上京して初めて買った防寒具だ。電車の線路高架下にある、寂れたと言うか、若干怪しげなセレクトショップで買った物。
ちょっと年季は入ってるがね、ロシアの帽子だからあったかいんだよ。迷彩服のジャケットを着た店主の爺さんがそう言っていた気がする。半信半疑だったけれど、今では冬に欠かせない僕の防寒着になってる。
その後、わしの若いころは、とか昔話が始まりそうだったし、上京したてでいろいろ忙しかったからさっさと買って後にしてしまったけれど、聞いていてもよかったかな、なんて思ってたりする。
あの爺さんは今もあそこで店を営んでいたりするのだろうか。まあ、もう会うことはないんだけれど。もしかしたら、旧い時代に戦争にでも行った世代なのかもしれない。
そういう意味ではやはり、聞いておくべきだったのかな、ってなんとなく僕は思った。
『んじゃ、いきますか』
そう、ひとり呟いて、僕はノートパソコンの電源を落とし、部屋の反対側を見た。そこにあったのは、僕の人生の一部であり、最大の趣味。つまり……壁一面を埋め尽くさんばかりの、本の山。
決して大きいとは言えないアパートの一室だけれど、それでも壁にうずたかく積まれた、四ケタに届くか、と言う量の山から、適当な一冊を選び出した。
タイトルは――。
『”指輪物語”……か。ちょっと重すぎる気もするけど』
僕はその小さな単行本をジャケットのポケットに入れる。いつ買った物だろうか。記憶には、思い出せなかった。あるいは、僕が上京してくるときには持っていたのかもしれない。
だが、僕にはあまり関係のない事だ。読んでない本は等しく価値があるし、読んでしまった本にはあまり価値が無くなってしまう。
二度と読まないわけではないが……よほどのことがない限り、もう一度読むことはないのだろう。
ふと、僕は表紙を捲った。ぱら、と一枚の紙片が落ちる。栞代わりの、折りたたんだ紙。僕のではない。
となると、たぶん中古で買った物なのだ、これは。だから、前の主の物。僕は落ちた紙を拾い上げた。何も書いていない、少し黄ばんだただの紙らしい。
『……要らないかな、別に』
そう呟くと、その紙をくしゃ、と握りつぶして、ゴミ箱へと投げる。どうせ、すぐに読み切ってしまう。栞は要らない。投げた紙は、すぽん、とゴミ箱の中へ消えて行った
再び、本をポケットに入れる。そしてゆっくりとアパートの扉を開けた。外は酷く寒い。体を震わせ、帽子を目深に被った。
かれこれ、上京して何度目の冬だろうか。四回? 五回? まあ、なんにせよそれなりに僕はこの街にいる。完璧ってわけじゃないけれど、地図に頼らない生活になって幾分も経つ。
それでも、いまだに都会の冬は慣れない。体だけではない、どこか心まで凍えさせるような風がこの街にはある。
よそ者は、いつまでたってもよそ者なのかな。大半が、よそ者のはずのこの街だけれど。あるいは、大半がよそ者だからこそ、かもしれない。
(……まあ、でも。僕にはあまり関係ないか)
僅かに、そんなことを考えながら、僕はゆっくりと歩きはじめた。
今回の更新は以上です。次回は未定です。
それでは読んでいただき、ありがとうございました。
□ ―― □ ―― □
(散歩がてら、と言ったな。あれは嘘だ。……なんてね、うう、寒い)
そんな、とある映画の台詞をもじった言葉を思い浮かべながら、僕は公園のベンチで座りながら、本を読んでいた。わずかに震えながら、だ。
当然といえば当然だよねって。真冬といっても過言ではない気温なんだ、外でじっと座ってたら凍えるに決まってる。
こんなことなら、もうちょっと別の本を持ってくれば良かったかなあ、なんて思ったところでもはやどうにもならない。
褒められたことじゃあないけれど、最初は軽く読みながら歩いていた。けれど、思ったよりも面白くて、つい読み込むためにベンチに座ったのが運の尽きだった。
体の芯まで凍えそうになりながら本を読んでいるとか、馬鹿みたいだ。実際馬鹿なのかもしれないけれど、まあでももう少ししたら約束の時間だし、それまではここで本を読み切ってしまおう。今はそう思っている。
幸い僕は速く読めるタイプなので、もう半ばまで読み終えている。話の内容をある程度理解しつつ本を読む、というのに長けているのだ。
まあ、特技と言えるほどじゃない。これぐらいは、僕のような仕事をしている人であれば、誰だってできるんじゃないかな。
そうして、僕は本を読み進めていく。一つの指輪、故郷からの逃避、エルフとの邂逅――。作者の思い描いた風景を、文字で通して頭の中に投射する。
本を読むのは、昔から好きだった。事実であれ、虚構であれ、現実であれ、幻想であれ。作者の思い描いた情景を、文字で通して見ることはいいものだと思う。
僕にとって、本を読むことは映画を見るのと大して変わらない。まあ、僕の想像力が乏しいせいで、きっと作者の思い描いた情景は浮かべられないんだろうけれど。
そうして、ふと時計を見ればすでに予定の時間までだいぶ迫っていた。酷く体は凍えているが、心には充足感がある。やはり、好きなことをした後というのは気分がいい。
(小説、か)
僕は少しだけ、思いを馳せた。そして深い、深い記憶の海の底に、自らの意識の身を投じかけたその時だった。
『ん……?』
ふと、視界の中に入った一つの人影。いや、人影なのだろうか。酷く角ばっていて、到底人には見えない。なんだ、僕の眼もここまで弱ったのかな。そろそろ眼鏡を買い替える時か。
そう思って、眼鏡を外し、胸元の小さなケースから眼鏡ふきを取出してレンズを拭く。そして、もう一度眼鏡をかけて、またその人影を見る。……うん、紛う事なく、角ばっている。
(やばいなあ、ボケてるなあ、僕)
と思ったのだが、その懸念は杞憂に終わる。何のことはない、本の山を抱えた人影だっただけの話だ。……本の山?
(……いや、本の山を抱えて公園を歩くって、なんだよ)
思わずここは図書館かな、と思いそうになるが、二度、三度と瞬いてみて、一応確認。幸いにして僕は白昼夢を見ているわけではなかったらしい。
その人影は、本に隠れてあまりよく見えなかったけれども。けれどすぐに女性なのだと分かった。もちろん、僕が女たらしとかそういうわけじゃない。
その本に隠れきれそうなほど、その体が華奢で細かったこと。その本に隠れきれないほとんど、艶やかで黒々とした綺麗な長髪が揺れていたこと。
そして何より、その本をかかえる腕、長袖のカーディガンからちらりと見えるその手が、まるでガラス細工のように透き通っていて。それでいて、白鷺のように純白に見えたこと。それらが、僕の判断する理由だった。
(にしたって、抱えすぎじゃあないか、あれ)
その量たるや、その華奢な体に対してあまりにも多いように思えて。その足取りはあまりにもあやうい。あれだと足元はおろか、前さえ見にくいだろうに。
そんな風に、全く自分には関係ないとは思いつつも、大丈夫かなあ、なんて心配していた僕だったが、約束の時間が迫っている事を思い出して、踵を返そうとした。
その時だった。
「……あっ」
そんな、短く、か細い声が聞こえた。返しかけた踵がぴたり、と止まり、上半身をそちらへと捻じ曲げる。見えた、ぐらり、ぐらりと揺れては、一番上から一冊ずつ、宙に放り出されていく本の山。
僕があっという間も無く、ばさばさと地面に落ちていく。背表紙が地面に当たる音。そしてゆっくりと無造作に開いていく本たち。僕は、それを遠い過去の記憶のように聞き、あるいは見ている。
何故? 単純な話だった。僕は目を奪われていたから。
崩れた本の向こうから現れた、女性の姿。あわてた様子で手を伸ばし、ふわり、と少しだけ浮き上がる前髪に隠れた、ラピスブルーの瞳。そして僅かに揺れるロングスカートとストール。
その肌が白鷺とするならば、その目は青鷺と表現するに相応しくて。僅かに開かれた瞳と、同じように開かれる口。声にならない声を上げながら、本へと視線が落ちていく。
そこから零れ出る僅かな言葉は、小さな音と白い吐息をとなって、宙へと舞い、そして溶けるように消えていく。
ほとんど、瞬きをすほどの時間でしかないその一瞬が、とてもとても長く感じられて。僕にこの情景を表現しきる語彙力がないことを、これほどまでに呪ったことは無い。
それほどの、なんというか、体の中を電気が駆け抜けていったような、そんな気分にさせられたほどの、極限まで圧縮された数秒間。まさしく刹那。
それでいながら、哀れにも地面に本が落ちて、彼女がしゃがむその数秒。それがまるで正反対の、無限の彼方まで引き延ばされた悠久の時の流れを生み出す。
『だ、大丈夫ですかっ』
気が付けば、僕は約束の事なんてすっかり忘れて、彼女へと駆けよっていた。そして、落ちた本を拾い集めはじめる。
「……す、みません」
その女性――とても清楚で、大人しい、ともすれば大人しすぎる印象を抱かせるその人は、今にも消え入りそうな声でそう言った。たぶん、そういったんだと思う。
あまり自信が持てないのは、本当に小さな声だったからで。それで、僕も本を拾うのに結構気を割いていたから。だから確信を持てず、少しだけ返答に窮しながらも、
「あ、えっと、いえ、大丈夫ですよ?」
なんていう、気の抜けた返事しかできない。……まあ、彼女がとんでもない美人さんってのもあるんだけれど。今まで見たことがないほど、その人は綺麗で、美人で。
うず高く積まれた本に囲まれた、古い図書館が良く似合うと、なんとなく思った。
やがて、二人して落ちた本を拾っていたのだけれど、途中でやっぱり、どう考えても女性が一人で運ぶ量じゃない、と思い彼女に声を掛けようとした。
と、そこで気づく。今自分が持っている本のタイトル。見覚えがある……どころじゃない。とっさに自分のジャケットに突っ込んである文庫のタイトルと、全く同じに見えて。
『”指輪物語”……?』
思わず、声に出ていた。すると、僕の隣で本を拾っていた彼女が、
「……ご存じ、なんですか?」
と、こちらを見ながら言った。より正確に言うなら、見ているように思う、だけれど。
さっき、一瞬垣間見えたラピスブルーの瞳は、彼女の前髪で隠されて今は見えなかったから。だから、素振りからそう考えたに過ぎないんだけれどね。
『ええ、まあ。今読んでる本がまるっきり、同じ物でして』
と、僕は小脇に本を抱えたまま、ジャケットを上手い具合に動かし、ちらっと表紙の一部を見せる。それにしても、この本……。
『凄い、古そうですね、この本』
僕の持っている物とは、何か年季が違う気がする。もしかして、絶版した昔の本なのかな? そんな風に思っていると、
「……その、はい。知り合いの方に……譲ってくれる方がいたので。何度も読んだのですが……もう売っていない版だと、聞いて。……折角と思って」
と、答えてくれた。さっきよりかは、少し大きい声だ。それでも蚊の鳴く様な声には違いないんだけれど。僕は、少しだけ笑うと、
『はあ、それもまた、凄い量なんですね。おひとりで運ぶのはちょっと大変でしょうに』
と返す。すると、彼女はこくり、と頷いた。
(よほどの本好きなんだなあ……)
同じ書籍を何度も読む、というだけで結構な本好きだと思う。まあ、僕の場合は乱読で、一回読んだ本はもう一度読むことが少ないから、余計にそう思うだけかもしれないけれどね。
そうして、全部の本を拾い終える。どうも全部”指輪物語”らしく、全部で六冊だった。ハードカバーのA5サイズは、やっぱり彼女の腕が支えるには多すぎるだろう。
同じ書籍を何度も読む、というだけで結構な本好きだと思う。まあ、僕の場合は乱読で、一回読んだ本はもう一度読むことが少ないから、余計にそう思うだけかもしれないけれどね。
そうして、全部の本を拾い終える。どうも全部”指輪物語”らしく、全部で六冊だった。ハードカバーのA5サイズは、やっぱり彼女の腕が支えるには多すぎるだろう。
『あの、なんでしたら、僕、運びますが』
なんて、自分でも気づかないうちにそんなことを言ってしまっていた。全く、迷惑な話だろう、いきなり初対面の人間が、運びましょうか? なんて。
この人ストーカーです、なんて悲鳴を上げられても、まあ、言い訳はできないよねって。ああ、もう。なんでこんなこと言ってんだ、僕は。
思わず、逃げ出したい気分のせいで、むしろ断ってくれだなんて思っていた僕の、その願いを誰かが聞き入れてくれたのか、あるいは当然の帰結だったのか。
「あの……折角ですけれど……その、大丈夫、ですから……」
と丁重なお断りの言葉が僕に帰ってくる。ほっとした反面、どこか残念な気持ちが僕の中にはあったが、そういう一切合財をひっくるめて苦笑を零すと、
『ああ、すみません。突然でしたね……。そうですね、あまりお構いするのもご迷惑ですし、僕は退散することにします』
やっぱり逃げるように僕は言葉を並べると、ゆっくりと立ち上がった。僕は少しだけ笑い、今度こそ踵を返す。じゃり、と僕の靴が地面を擦る音がした。
「……あの」
背後から聞こえた声、僅かに首を捻じ曲げ、彼女の方を見た。
「その……ご心配をおかけして、すみません。それと……助けてくださり……ありがとう、ございました」
彼女が、ぺこりとお辞儀をしていた。儚げで、綺麗な姿に、僕は思えた。
『ああ、ええと……。では、お気をつけて』
そんな、あまりにも気の利かない言葉を彼女に返すと、僕は歩きはじめた。もし僕が寓話や小説の主人公だったら、名前の一つでも聞いて、あるいは物語が始まるのかもしれない。
そうでなくとも、他の人ならもっと気の利いた言葉をかけることだってできたかもしれない。
しばらく、歩いて僕はそっと振り返ってみた。遠くに、よろよろと本を抱えたまま、歩いていく彼女の姿が見える。やはり、重そうだった。
やっぱり、運んであげた方が良かったかな。そう思っても、もう遅いのだろう。思えば、とても綺麗な人だった。
とても綺麗で、可愛くて、あまり目立たないのに、ひっそりと咲く、ひなげし――虞美人草のような彼女。
彼女はきっと、気の遠くなるような悠久の時間を掛けて、一つの本をただひたすら、じっくり読む。きっと、そう言う人生を送るのだろうな。そう思った。
僕は、それの逆だ。だから一度はあっても、二度、交わりはしない。むしろ一度交わっただけでも、奇跡なのかもしれない。だから、これもまた、必然なんだろう。
……なんて、少しばかり感傷的でポエマーな事を考えては、自分で恥じつつ。あれ、そう言えば僕は何の為にここに居たのだろうか。
『……あっ、まずいっ!』
スマートフォンを取り出して、時間を見た。時刻は11時に差し掛かろうとしていた。約束の時間までもう何分もない。
いつもお世話になっている出版社だ。このくらいの事でどうこう、というわけではないけれども、間に合うはずの時間に家を出て、寒空の中、公園で本を読んで。
挙句の果てに、可愛い女の子にかまけて遅れた、なんて馬鹿すぎる。僕は、あらんかぎりの力を振り絞って駈けはじめた。ここから走れば10分もかからない。遅れるのは数分で済む。
そうして駈けはじめた僕の頭のスクリーンには、なおもさっきの彼女の姿がぼんやりと投影されたままで。頭を振って振り飛ばそうとも、何故かできなかった。
(馬鹿らしい)
僕は自分をすこし罵った。なぜそうしたのかはわからない。ただ、僕は思うだけだ。
捕まえられそうだから、人は兎を追う。言い換えれば――捕まえられそうもない兎は、諦めたほうがいいものなんだって。
それが、かけがえのない兎なら、追うべきだろう。追うことに意味があるのだから。けれど。
……僕は目の前に指をやり、走った衝撃でずれた眼鏡を押さえる。ぐっと、目を閉じて、ゆっくりと目を開く。
彼女の残像は、まだ消えない。
今回の更新は以上です。少し間があいてしまい申し訳ありません。
次回更新も変わらず、未定となっております。
それではここまで読んでくださりありがとうございました。
………………
…………
「いやあ、いつも悪いね、Pくん。今回の経済コラムも、相変らず読ませてくれるものだったよ。誤字や表現はこっちで修正しておいたけどね」
結局、エレベーターの乗り継ぎがうまくいかなくて、10分遅れることになってしまった僕だったが、いつも僕の担当をしてくれている編集長は笑って許してくれた。
40代……いや、まだそこまでは行かないぐらいの年齢の編集長は、いつも僕の送ったデータを手離しで誉めつつ謝ってくる。
『わざわざありがとうございます、一応確認させてもらってもよろしいですか』
「うん、えっとちょっと待ってくれな」
彼はごそごそと仕事用のタブレットを取り出すと、修正後のデータを僕に見せてくれる。書いたことは他愛のない、円安だとか、原油価格だとか、そう言った類の物。
内容は大して変わっていなかった。まあ、誤字や表現の誤用が文章構成を変えるほどの物であるわけがないのだけれどね。
僕はそのタブレットを返すと、ありがとうございます、これで大丈夫です、と彼に言った。
「にしても、君ぐらいの文章を書ける人間が、びっくりするほど安い原稿料だってのは申し訳ないな」
彼はタブレットを受け取りつつ、思い出したようにちょいちょいと操作をする。そして、あるページを見せてくれた。どうやら、彼の担当部署であるWebニュースサイトのPVランキングらしい。
そこには、僕の書いた記事がいくつか乗っていた。経済についてのコラム、政治批判、芸能ゴシップ――。我ながら、いろんなものを書いてるなあ、なんて。他人事のように。
「最近じゃ、優秀なWebライターは大きいところに持ってかれてるからねえ。うちは、会社は立派なもんだけれど、Web部門はまだまだ懐疑的というか、予算がね」
彼はそう言って苦笑する。
僕の仕事、それはWebライターだ。大それた仕事……というわけでは、たぶんないだろう。簡単に言えば、インターネット上でさまざまな物事について記事を書く仕事。
ある時は政治について、ある時はスポーツについて、ある時は芸能について、ある時は経済について、ある時はサブカルについて――。
まあ言ってしまえば、ニュースや情報をわかりやすく、時にはユーモアを交えて解説したり、評論する仕事だと僕は思っている。
無論、あくまでコラムレベルだね。僕は広範囲をカバーできるけれど、特化した専門知識はあまりない。たとえば軍事関係なんかはまるで駄目だったりする。
もちろん、当たり障りのない程度の記事は書けるんだけれど……。解説しないと、Webライターのお仕事を果たしたとは言えないでしょう?
そういう意味では、まあ、手を出したくはないよねって。コアな軍事ファンからの突っ込みがあると、また大変なことになるし。
『僕もまだまだです。それに、大きなお金をもらってしまうと、僕は駄目になってしまいそうですから』
この仕事を始めたのが、だいたい三年前で。目の前にいる編集長――当時はまだこの会社の、雇われライターだった彼と会ったのが二年ほど前。
もともと、文章を書くのが好きだったから始めた仕事だったけれど、僕みたいな実績のないフリーライターの記事を買ってくれるところなんて、まあほとんどない。
でも、ダメ元で持ち込んだこの会社で、面倒くさそうながらも応対をしてくれたのが彼だった。それ以来、彼がライターから編集長に転身した後も、付き合いは続いている。
「うん、趣味にお金を出してもらえるだけありがたい。君はそう言っていたね」
『はい。やりたいことが、やらなきゃならないことにはなってほしくないんです。すみません、我がままで』
僕は笑う。あまりこの笑顔は受けがよくない、と聞いた。なんだか、穏やかなんだけれども、諦めたような目をしているらしい。僕はそんなつもりはないんだけれど。
「構わないよ、まあ下種な話をすれば、お金かからずにいい記事書いてもらってんだ。感謝するのはこっちさ。……ところでPくん、一つ変わり種の仕事があるんだけれどね」
編集長は僕にそう言って、今度はスマートフォンを取り出した。変わり種の仕事、と言われてもピンとこない。いつも、Web記事を書く仕事しか引き受けてないからなんだろうけれども。
ただ、まあ、なんでも取り扱ってる出版社の人間が、変わり種なんて言うんだからよっぽど変なことなんだろう、と少しばかり身構えていると、
「実は俺の古い友達がねえ、最近妙なことを始めてね」
と編集長は言った。
『妙なこと、ですか』
「うん、なんでも、アイドル? の事務所を立ち上げたんだよ。それも、別にドルオタってわけじゃあないのに、だ。少なくとも、俺の知っている限りではだけれど」
まあ、あいつはよーわからん奴だからなあ、なんて付け加えつつ。編集長は話を続ける。
「それでね、なんか宣伝のためのページとプロダクションのページを作ってほしい、なんて言われてね。うちは出版社だから難しいってんのに、そこを何とかってなあ」
ごり押しされて、たまらず引き受けてしまったんだよ。編集長は、困ったように、しかし少しだけ嬉しそうにそう言った。まるで、頼られることが嬉しいように。
アイドルか、と僕は思いながら、彼を見つついろいろ考える。宣伝なんだから、広告代理店なんかに頼む方がよっぽどいいだろうに、と思う。
まあ、変わった人なんだろうな、と僕は結論付けた。あながち間違ってないとは思う。
『それで僕、ですか』
「うん。難しいかなあ、やっぱり?」
Webデザインとかプログラミングとかも触ってるって聞いた覚えがあったから、と彼は言った。半ば無茶を承知、といった様子だ。
(まあ、できないってわけじゃないんだろうけれど)
僕はといえば、そんな気分だった。Webページを作ることも、僕の趣味の一つであったりする。といっても、ブログとかを持っているわけじゃない。
ただ、デザインを作っては、うまくできたなー、なんて。傍から見れば生産性のない行為をやっているだけだ。その気になれば、テンプレートサイトなんかに投稿したり。
個人的に言わせてもらえば、一種のプラモデルのようなものだから、作ったらそれで終わり。ついでにCGIや、プログラミングで簡単なミニゲームを作って組み込んだり。
仕事に出来るか、と言われればもしかすると、少し難しいのかもしれない。でもそうやっていろいろいじっているのは確かに、楽しかった。
世の中には、ただひたすら機械を分解しては組み立てたり、アルミホイルをひたすら圧縮してきれいなボールを作ったりして遊んでる人がいるそうだし。
まあ、見下すとかそういうつもりはないけれど、その手の趣味に比べれば、幾分かは世間に理解はされる趣味なんじゃないかなって、思わなくもない。
僕は、少しだけ考えた後、尋ねる。
『まず、概要を聞きたいのですけれども』
一番重要なのは規模だ。僕一人でできない、あるいは時間の大半を割いてようやく、というレベルのものであれば断らざるを得ない。
別に、大半の時間を割くことはやぶさかではないんだけれどね。でもプラモデル作りが趣味の人でも、馬鹿みたいにでかい模型を一週間で、というのは時間的に不可能。
おんなじことが、Webデザインなり、プログラミングなり、宣材作成なりにも言えるというわけ。だからこその質問だった。
すると、少し困った様子で編集長は言った。
「ううん、それがなあ」
『……? どうかしたんですか』
「実は、何も聞かされていないんだよ。俺が推薦してくれた人なら信用して、直接話すってね。むちゃくちゃだろう、ええ?」
一瞬、言われたことが理解できなかった。依頼はあるが、詳細は分からないということか。なんとまあ……うん。
『うーん……。まあ、とりあえず話だけは聞いてみようと思います。納期に余裕があって、僕で何とかなるなら受けようかな、と』
ちょうど、今請け負っている記事もないし、特に書きたい記事もない。アイドルに興味はないけれども、何か記事のきっかけになるかもしれない。
「そうか。んじゃあ、あいつに連絡してみるよ。今晩あたりに、連絡するように言っておくから。まあ、無理はしなくていい、断りたきゃ断ってくれていいさ」
『はい、ありがとうございます』
僕はぺこり、と頭を下げた。少し眼鏡がずり落ちそうになる。この眼鏡も、かれこれ何年使っているだろうか。フレームが少し歪んでる。
右手の中指で押さえて位置を調整する。そして、被ってきたロシア帽子を小脇に抱えれば、
『それではまた』
といって立ち上がった。
「おー、そういや年明けてからまだ飲みに行ってないね。今度どうだい、一杯。まあ君は酒に弱いから、軽めに、ね」
『はは……。考えておきます』
「おう、つれないねえ。ま、いいや」
彼はあっけらかんとした様子で笑う。ほとんど同時に、奥のほうでデスク、ちょっと来ていただけませんか、と呼ぶ声が聞こえた。
……そうか、よく考えればWeb部門の責任者だから、結構偉いんだ。何事もなく今まで接していたけれども。
ちょっと考え方を変えるべきなのかな。そう思っていたけれど、
「んじゃ、またねPくん。飲み、考えておいてくれよな」
そういって急いで奥に引っ込む彼を見ていると、このままでもいいのかもしれない、なんて。
(……まあ、このままでいいかな)
僕は、頭の中でそうつぶやいた。それは、彼との関係だけじゃなくて……僕の生活すべてのことで。
金なし貧乏、最低限の衣食住に、趣味生活。仕事といえば、根なし草で単発の記事書きに、SE崩れの小遣い稼ぎってところだろうか。
傍から見れば不安定そのもので、好んでこんな生活をしているだなんて、ほかの人からはどう思われているんだろうか。
そう思ってはみたけれど、まあ、僕には似合わない考えだ。今やっていけてるんだ、これでいい。
兎を追う事、それが楽しければそれでいい。捕まえる事が一番だろうけれど、でもやりたいことをやれている。それでいいじゃないか。
ちぃん、という音とともに、ゆっくりとエレベーターの扉が開き、僕は出版社を後にした。
今回の更新は以上です。
次回の更新もまた、未定です。
このような遅いペースではありますが、完結までは持っていきたいと思っています。
お付き合いいただければ幸いです。それでは、ここまで読んで下さりありがとうございました。
□ ―― □ ―― □
『……あれ?』
あれから、自宅のアパートに戻ってきて、どれぐらいたっただろうか。帰ってきた時が昼過ぎぐらいだったとしても、もう最低三時間は本を読んでいたことになる。
冬至を過ぎて一月ちょっと過ぎようとしているけれど、やはり日中の時間はとても短い。すでにいくらか薄暗さが外を支配しようとしていた。
それで、結局”指輪物語”をずっと読みふけっていたわけだけれども。ちょうど、二部の上巻を読み終えたところで、ふと気づく。
(下巻が見当たらないな? ええとたしか……)
ごそごそ、と積み上げられた本の山を、えっちらおっちらと移動させつつ、本の発掘作業に勤しむ。全く整理されていないこの場所だけれど、実はある程度本の位置を把握している。
本好きの人ならわかってくれるかな。こう、なんというか。全くの無造作にしか見えなくても、整理されているのだ。
それは、自分だけがわかる、まるで暗号のような整理でしかないけれども。だから、本の場所を忘れることはない。
……いや、それはまあ、ちょっと大げさだけれど。でも探して見つからないということは滅多にない。だのに見つからないということは……。
(さては続きを買ってないな、ズボラめ)
数か月前か数年前か。ともかく、いつ買ったのかは分からないけれど、当時の僕にそんな言葉を投げかけた。まあ、中古で全巻そろっていなかっただけかもしれない。
そう思っていたら、三部の上下巻はすぐに見つかった。どうやら歯抜けの部分は後で買えばいいと思って買ったらしい。で、そのまま忘れていたと。
……本好きが聞いてあきれるなあ。
僕は時間を見た。四時を少し過ぎた頃かな。外は結構寒いだろうけれど……。
(……うん)
僕はゆっくりと立ち上がる。そして、そばに置いたままだったジャケットを右手ですくい上げるようにつかむ。
だいぶボロボロになってきたけれども、まだ着ることはできるだろう。かれこれ数年、冬はこいつの世話になっている。当時は高い買い物だったがまあ、それだけの価値は十二分にあったと思う。
財布の中身を確認して、僅かに嘆息した。給料日前のサラリーマンさえ、ここまで余裕がないってことはないんじゃないかな。いくらなんでも。
(千円、財布の中に入ってないってのはやばいよねえ)
まあ、お金を下せばいいだけの話なんだけれど、何となくお金は持ち歩きたくない。落としたらとか、そういうのじゃなくて、いい本があったら衝動的に買ってしまいそうだからだ。
計画的に買って生活がきつくなるのはまあ、自業自得だけれど熟慮の結果そうなったのだから後悔はしない。けど衝動買いはちょっとつらい。その後の予定が狂ってしまうから。
だから、そもそもお金を持ち歩かないという予防策を取らざるを得ない。おかげで衝動買いは無くなったけれど、
『修行僧かな?』
と自分で突っ込んでしまうほど清貧な生活を送っている。
(……や、清貧ってわけじゃないかな)
僕は苦笑してジャケットを羽織る。確かに、ノートパソコンの存在を除けば、明治大正の書生を思わせるような部屋だ。でも、清いわけじゃない。
僕はやりたいことをやっているんだ。我慢は何一つしていない。むしろわがまま、向上心の無さゆえに貧乏になってるんだから、やっぱり清貧とは程遠いだろう。
とりあえずは、適当な書店に行ってみよう。新品は買えないから、中古屋に行かなきゃね。それでも足りなければ、お金を下せばいいさ。
そんな風に思って、僕は部屋の外に出る。ぱたん、と扉を閉じて鍵を閉めると、
『……さむ』
小さく呟く。やはり寒い。これで例年と同じか、少し暖かいっていうんだからほんと勘弁してほしい。というか例年と比べる意味はなんなのだろうか。
去年より暖かいからといって、寒いことに変わりはないだろうに。……気持ちの問題なんだろうか?
そんな、何とも退廃的な思考を一つ零して、僕はゆっくりと歩きはじめる。そう言えば、いつも使う中古書店は開いていたっけ。僕はそう思うと、記憶を探り探りして、
(あ、そういえば今日休みだっけか)
と思い出した。
しょうがないので、スマートフォンを取出し検索を掛ける。ここから一番近い、中古書店はどこだろう――。
『ここ、かな』
一軒、該当する店があった。僕はその店までの地図を、頭の中に叩き込み歩きはじめる。クリスマスも正月もとうに過ぎ、次のイベントである節分に向けて、街は模様替えをしていた。
そう言えば、巻き寿司を食べると言う習慣は関西の物らしいけれど、関東でも食べるようになったのは一体いつの話なのだろうか。少なくとも、僕の故郷ではそういう習慣はなかった。
なので、恵方巻きを食べたことはない。そう言うイベントに興味がないわけじゃなくて、単純にあの恵方巻きは高いのだ。だから買えないだけに過ぎない。
中古本を買い漁るお金があるなら、巻き寿司の一本でも買った方がよっぽど、この国の経済を回すはずなんだけれど、やはり本の方にお金は向いてしまう。
そんな事を考えているうちに、一本、二本と路地を曲がって、とある場所に出た。今朝、本を読んでいた公園だ。
『……そう言えば、あの子は大丈夫だったんだろうか』
ふと思い出した瞬間、僕の網膜にまだこびり付いていた、一人の少女が残像となって現れる。ふるふる、と頭を振ってそれを追い払おうとする。今度は、追い払えた。
所詮、一度交わっただけの存在だ。二度はないし、あったとしてもきっと、気づかない。その程度の交わり。
僕は気を取り直して歩きはじめる。道はこっちであっているはずだ。
(馬鹿か、僕は)
そんな罵り言葉と共に、少しずれた眼鏡を調整する。ところどころ傷のついたレンズの向こうに、遠く繁華街のネオンが明滅している。
二度、道を曲がって、それで到着した。個人書店としてはなかなか立派な構えで、入口のガラスの奥には、ずらっと本が並んでいるのが見える。
ぱっと見たところ、版の大きいかなり古めの本やくすんだ背表紙の本が多い。中古書店というよりかは、古書店と言った方がいいのかもしれない。
実際、店頭にあるビニールのテント部分には、よく見えなかったけれども古書堂と銘打たれていた気がする。なので、少しばかり不安になったのだけれど、
『まあ、来たからには見て行っていいんじゃないか』
と思えば、入口の引き戸を開けて店内へと入る。からから、と個人書店らしい引き戸の音が耳朶を打った。
入った途端、どことなく大図書館を思わせる様な、心地よい匂いが鼻腔をくすぐる。年季の入った、本の匂いだ。
刷りたての本の匂いも捨てがたいが、僕はこの古い本の匂いが好きだった。理由は、特にないんだけれど。ただ、好きなだけだ。
店内に人はいないように思えた。少なくとも、客の姿はない。僕は棚にある本に目を通した。
ちらっと見えたタイトルは、”新訳古今和歌集”だとか、”魔王”だとか、”雨月物語”だとか。そういう、店名に違わない正真正銘の古書の類がほとんどで。
(やっぱり、ハズレかな……。まあ、仕方がないか)
そう思って、少しだけ落胆する。今日はお預けということになるのだろうか。最悪、遠出してもう二、三店舗ぐらいは見てろうかな、なんて。厄介な性分だと自分でも思う。
……本を途中で読むのをやめるなんて、僕にはなかなか耐えがたいことだ。明日死ぬかもしれない、というのは大げさすぎるけれど。人生何が起こるかわからない。
一度読み始めた本は何としてでも読み切りたい。今だって、続きを読むことを中断しているから、どこか不安で。
上巻、下巻で分かれているんだよ――なんて理屈で自分をだますことは、少なくとも僕にはできなくて。
だからこそ。
(……あっ!)
二つほど棚を超えて、文庫本コーナーのようなものを見つけたときは、心臓が跳ね上がるほどがあった。漫画やライトノベルの類は置いていない、やや古めの文庫本コーナー。
ここならあるかもしれない。値段も、お手頃価格と言ったところだろう。まるで家探しのコソ泥みたいに、そっと、丁寧に本を見ていく。
そして五分ほどたったころだった。
『あった……っ!』
心なしか、声が弾む。探し物はなんですか、なんて歌が昔あったような気がするけれども、ダンスなんて踊らずに探した甲斐があったというものだ。
値段も僕の財布で賄える額だったし、さっそく買うことにした僕は、二部の下巻を持ったまま店の奥へと向かい始める。
奥の方までずっとつながる大きな本棚を横目に、個人書店にしては品ぞろえも規模もかなり大きい。冊数も一万はくだらないだろうか。それも古書の類がこれほどなんて。
実は僕が入り込んでいるのは人文学の研究室ですよ、と言われても頷いてしまうかもしれない。そのあと、すごく平身低頭する羽目になりそうだけれど。
そんな他愛のないことを僕は思いながら歩く。
それにしても――。
(不用心だね)
そう思った。入口の方から店の奥、要はレジがあるだろう場所までぎっしりと並んだ本棚のせいで、かなり見通しの悪いレイアウトになっている。
そもそも、店員がいるはずの奥の方にさえ人の気配がないわけで、つまり店内は無人なのだろう。実際、僕が入ったときにいらっしゃいませ、の一言もなかったし。
(や、それは別にいいんだけれど)
これでは万引きの被害に遭うんじゃないだろうか、と僕は勝手に心配していた。監視カメラあたりがあるのかもしれないが、だからといって万引き犯が捕まるわけではないのだ。
もちろん、僕には関係のない話なのかもしれないけれど、一介の本好きとしてはそういうの、いやだな……なんて。
思っていたときだった。
(……いい加減、眼鏡買い換えたほうがいいのかな)
僕の目がおかしくなったのか、と思った。まだ、あの時の――朝の残像を引きずっているのか、と。
いや、単純に眼鏡の度が合わなくなってきているだけなのかもしれない。そうだ、そうに決まっている。
そうやって、何度も自分に説明をした。言い聞かせた。これは残像、幻なんだと。
でも、何度目を瞬かせても。眼鏡がずれることを気にすることなく、何度目を擦っても。その残像は消えなくて。
その白鷺を思わせる、透き通るような肌。そして髪の隙間からじっと本を読む、青鷺のごとき瞳。黒檀のように黒い、しなやかな髪。
目を瞬かせれば瞬かせるほど、その残像はより現実味を帯びていっている気がして。思わず、変な笑いが出そうになる。
そして、確信する。確信してしまう。そうだとも、見間違えようがない。
(――だから)
痛切に、切実に思う。人生には、何が起こるかわからない。それこそ、明日死ぬかもしれないんだって。そう、僕の考えは間違っちゃいない。
なぜ? 単純なことだよ。
もう二度と会うことはないと思っていた、あの子がそこに座っているんだから。
今回の更新は以上です。次回更新は少し間が開きそうと思います。
二週間以内には投稿したいとは思います。
それでは、ここまで読んでいただきありがとうございました。
生存報告です。
現在少し立て込んでいるため、まだもう少し投稿には時間がかかりそうです。
申し訳ございません、お待ちの方がおられましたら、今しばらくお待ちください。
□ ―― □ ―― □
(……どうしよう)
僕は、声をかけるのをためらっていた。いや、普通に話しかければいいだけの話なのだけれど、なんだか、緊張してしまって言葉が出ない。
それに、彼女はじっと読書をしていて。それを邪魔したくない――だなんて。お客が考えるべきではないかな。
でも誰だって読書の時、水を差されたり邪魔はされたくないんじゃないかな。特に、僕はそう思う――。
そんな思考は、僕のジャケットのポケットにしまわれた携帯電話の、つんざくような着信音で遮られることになった。
着信音で気づいたように、顔を上げる彼女。あまり表情は変わらなかったけれども、どこか驚いたような表情に見えたのは僕だけだろうか?
と、そんなことを考えている最中にも小うるさい着信音はなり続けていて。僕は思い出したように、
『す、すみませんっ』
と言ってはすぐに電話に出て、少しだけ受付から離れる。電話の奥から聞こえてきたのは、一人の男性の声で。全然聞き覚えのないその声の主は開口一番。
「ああ、出てくれてよかった。君がPくんかね?」
と尋ねてくる。いきなりのことだったので、少しばかり答えにまごついていると、
「ん、間違いだったかな。電話番号は――」
と、そのまま切れてしまった。
『……なんだったんだ?』
と少し訝しんでいたが、数秒も立たないうちに再びディスプレイに番号が表示される。
(まずい、またうるさくするには行かないな)
と、ちらと横目でレジの方を見れば、先ほどと変わらない様子で再び本を読み始めている女性の姿が見えて。
ワンコールも着信音が鳴らないうちにすぐに出ては、はい、もしもしと受け答えた。聞こえてきた声は先ほどと同じ、男性の声。中年とまではいかないが、かなり年季というか。
こういうのもおかしいけれど、威風を感じる声が僕の耳朶を打つ。そしてまた、その声が開口一番こういうのだ。
「うむ、やはり合っているな。これはPくんの携帯電話で間違いないね?」
まるでお構いなしである。少しばかり苦笑しては、はい、確かにそうですがと受け答えては、
『失礼ですが、どちら様でしょうか?』
と聞き返すと、やや不思議そうな声で、
「うん? 君が記事を載せている出版社の編集長に、今晩あたりに電話をかけてくれと連絡先を聞いたのだが、こちらの勘違いだったかな?」
という返答がもらえた。そういえば、編集長が今夜あたりに連絡をさせるとか言っていたような気が、しないでもない。
……少し考えて、そういう記憶があるか、頭の中身をひっくり返して探してみる。やがて、思い当たる節があった。
うん、確かにそんな話をしていたな、と今更ながらに思い出す。完全に失念していて、僕は自分に対して少しあきれつつ、
『ああ、えっと。はい、合っています。すみません、少し失念していまして』
と言葉で謝りつつ、決して相手にはわからないだろうが頭を下げた。電話の先の男性は少し愉快そうに笑い声をあげると、そう謝るな、よくあることだと言ってくれた。
そして唐突というか、まさしく単刀直入といった様子で、では本題だ、の一言から言葉を続けてくる。
「時間もそう掛からんからな、二分ほど時間をもらおう。明日の朝は暇かね?」
『え? は、はあ。朝でしたら特に予定はありませんが』
「結構、ではうちの社屋……じゃないな、社屋予定地に来てくれ。朝十時、地図と住所はメールアドレスに送っておこう。質問は?」
『質問、ですか』
そういきなり言われても、ぱっと質問が出てくる人なんて滅多にいない。少しの間なんだか、面接官に答える就活生の気分を少し味わっていたが、
(……そういえば)
と思い起こして電話の向こうへと質問を投げかける。
『ええと、結局お聞きできなかったのですが、どちら様で……?』
すると電話越しにもわかるほど、うっかりしていた、というのが感じ取れる声が聞こえては、
「名乗りが遅れたな、この度は新たにシンデレラガールズという、アイドルプロダクションを立ち上げることになった者でな。まあ、詳しくは明日話すことにする。忙しいのだろう?」
そういえば、そんなことを編集長が言っていたかな、なんて。これも失念していたことを思い出しながら、はあ、まあ、と力のない返事しかできない僕をよそに、
「では、すぐに住所と地図を送らせる。手間を取らせて悪かったな」
なんて、勝手に解決をさせては引き留める余地もまるでなく、ぷつりと電話は切れてしまって。耳朶の奥にはつー、つーという電子音。
(……いったい、なんだったんだ?)
なんて、困惑することしか僕にはできなかった。思った印象は一つで、ただただ破天荒な方なのだなあ、と。
結局よくわからないというか、まあ、編集長が紹介してくれたのだから怪しい仕事ではないのだろうけれども。少しばかり不安に思っていた矢先に、スマートフォンが震える。
表示されるアドレスは見覚えのないもので。ささっと開いてみると、地図のファイルと住所が書かれた、とても簡素なメールだった。
つまり、明日ここに行けばいいんだ、なんてのは、あまりにものんびり過ぎる考えだろうか? ……僕は、そうでもないとは思いたいね。向こうが荒ぶっているだけだと思う。
これでようやく、とりあえずのところは終わった。終わったところで……ふと、本来の目的を思い出す。そう、右手に抱えるように持っている本のことだ。
恐る恐るといった感じで、僕は再びレジの方へと向かい、そっと覗きこんだ。……彼女は、先ほどと変わらず、じっとうつむいて黙々と本を読んでいる。
(……相変らず、きれいな人だ。本当に)
そんなことを考えている自分を客観的に見れば、どう見ても変質者なのだけれど。でも、今の僕にはそこまで考えが回らなくて。目の前の女性に完全に見とれている。
それからどれくらいだろうか。彼女の顔が、ゆっくりと本からこちらに向いた。きっと偶然だったのだろう。だが、間違いなく一瞬……彼女と目が合う。
その、青鷺のような美しい瞳が僅かに、髪の向こうから覗いた。真っ直ぐに僕の方へとその視線が向いて、やがてはぱたん、と本を閉じて。
肩から掛けていた、ストールというのだろうか。それを再び自分の肩にかけ直しては、ぺこりと一つお辞儀をしていて。
「……いらっしゃいませ」
なんて、か細い声で来店の挨拶を言うのである。僕はまだ、しばらくの間呆けていたのだけれど、やがて電源の入った機械のように体を震わせれば。
『あっ、えっと。これ買いたいんですけれど、大丈夫、ですよね……?』
と何とも情けの無い事を尋ねてしまう。それよりも、
(……まあ、やっぱり覚えているわけがないよね)
なんて、今朝の事を少し思い出しては内心で、そんなことを思っていた。思い返せば、何とも気持ちが悪いと言うか、”ストーカーか何かか?”と自分で尋ねたくなるほどの発想であるように思える。
まあ、一昔前だったらこういう考えもある程度まかり通っていたんだろうけれど。今時、そういうのは流行らないどころか捕まる騒ぎのお話だ。
なにせ、小学生に声掛け挨拶をしたら事案になるご時世である。足しげく女性のもとに通ったらめでたくストーカー認定間違いないだろう。警察のお世話になる。
なんだったかのドラマでやっていた、僕は死にません、なんてのも今やってみれば完全に異常者扱いだと思う。
時代によって物事の価値観は移り変わると言うけれども。ここ数十年での移り変わりは、酷く激しい。とりわけ、情報機器の発達はその辺りの変遷を大きくゆがめてしまった……のかもしれない。
やがて彼女は、僕が差し出した”指輪物語”の二部の下巻を受け取れば、後ろの値札を確認して。変わらないか細い声と変わらない表情のまま、
「……648円、です」
僕はそれを聞いて、五百円玉を一つ、百円玉を一つ、五十円玉を一つ財布の中から引っ張り出して。それで彼女へと手渡そうとする。
しばらくの間、彼女は不思議そうに僕の差し出した手を眺めていたが、やがて思い至った様に、レジの隣に置かれていたカルトン――要は小銭トレーをスッと差し出して。
僕はそれに小銭を置けば、彼女は何も言わず、カルトンを下げてはレジをたどたどしい動きで叩き。ちん、と一昔前のレジらしい音を立てて出てきたドロワーの中からおつりを取り出す。
その動きは、何ともたおやかで流麗で。たかが一円玉を二枚取り出すだけのその動きが、どうしようもないほどにしなやかに僕には映って。
だからこそ、目をそらしてしまう。あまりにも美しい物を見ると、人は絶望をしてしまうのかもしれない……なんて、仰々しすぎる表現かもしれないけれど。
やがて、返却されたカルトンに乗っていた一円玉二枚を認めれば、僕はおずおずとそれを拾い上げて。ブックカバーを付けようとしてくれている彼女に、
『あっ……えっと、そのままで、大丈夫です。すぐ読んじゃうと思うので』
と言って断った。
「……そう、ですか」
と彼女は小さく呟く様な声でブックカバーを取り付ける手を止める。ゆっくりと、そのままやや俯いた姿で、僕の方へと文庫本を差し出してくる。
僅かに見えた白い手が、酷く綺麗に……また、華奢に僕には映って。やっぱり、僕には分不相応な芸術品を見ている気分にさせられて。
『ありがとうございます、すみません』
最後のすみませんは、何に対しての謝罪なのだろうか。着信音で驚かせてしまったから? しばらくじっと、見とれていたから? それとも――。
……僕には、自分の言ったこの謝罪が、結局は何の謝罪だったか分からなかったけれども。そそくさと踵を返して、店を出るつもりで歩きはじめた。
「……の」
その時、僅かに聞こえた声。空耳だろう、と思った。でも体は勝手に振り返っていて。僕の目に映ったのは、すらりと立ち上がって僕にお辞儀をしている彼女の姿で。
「……今朝は、ありがとう……ございました」
そんな言葉が、僕の耳に飛び込んでくる。どくん、と心臓が跳ねる音がして、頭に血が上って行くのを感じる。
恥ずかしさだろうか、それとも嬉しさだろうか。得体のしれない感情が、僕の中に渦巻いては、気が付けば僕もなぜかお辞儀をしていて。
『その、なんでもない事ですから。えっと、また、来ます』
なんて口走っていた僕は、そのまま踵を返せば慌ただしく店を出て、走り始めた。
きっと、奇妙な人と思われたことだろう。しかも”また来ます”だなんて、変質者と思われていたらどうするのか。
物事を良く考えないからこうなるんだと、自分で自分を叱りつけたくなるほどの愚昧さ。
“二兎を追う者は一兎をも得ず”――弁えて行動せよ、という言葉をすっかり忘れた、軽挙妄動に他ならない。
でも今の僕にはそんな一切合財など関係なく。得体のしれない感情を持て余しながらただ、家へと駆けた。
いったい何なのだろうか――。恐怖にも近い感情を、僕は覚えていて。
その後のことは、よく……覚えていない。
今回の更新は以上となります。
前回更新より大幅に間が開いたこと、申し訳ございません。
まだもうしばらくこういった状況が続くように思えます。
次回更新は未定ですが、二週間以内には行いたいと思っております。
それでは、これまで読んでいただきありがとうございました。
本日夜半に投稿を予定しております。
一月近く開いてしまい申し訳ありません。
□ ―― □ ―― □
ゆっくりと目を開けた。ここはどこだ、と考えて……自宅の布団であることに気付く。しばらくあたりを見回して、畳の上に落ちている一冊の本を見ては、僅かに目を瞬かせる。
タイトルは、”指輪物語”。より正確に言えば、二部の下巻。それらの情報が正確に自分の脳に到達した時、僕の意識は完全に覚醒していて。
昨日から今日にいたるまで――今日といっても、たった今覚醒してからの数分間だが――すべての記憶が、一瞬で頭の中を流れる。
ほとんど本能的に僕の体は、ばね細工がため込んでいた力を吐き出すかのような勢いで体を震わせて。充血しているだろう目は、すぐさま時計代わりのスマートフォンを探し始めた。
なぜか? とても単純な話だ。
――アラームが鳴っていない。つまり、僕は寝坊したのだ。今の時間は? 何時だろうか?
せんべい布団の下に潜り込んでいたスマートフォンをようやく見つけ、僕は親の仇にでもするかのように引っ掴むと時間を確認した。
時刻は……朝の8時30分だった。
『……よかったあ』
途端に安堵の息を吐き出すと、脱力して僕は布団へ身を投げ出した。アラームで起きていないことから考えれば、とんでもなく寝坊をしたという気がしていたのだ。こんなことはここ数年、無かったことだ。
まあ、幸い致命的なものではないし、時間には十二分にバッファがある。ともかく、終わったこととして今は片づけるとしよう。……と思ったところで、僕の中でもう一つの懸念が鎌首をもたげてくる。
(……結局、いつ寝たのだろう)
ほとんど記憶がないが、日付が変わる前には寝てしまっていた気がする。となると、僕は8時間、下手をすれば10時間近く寝ていたことになる。
ゆゆしき事態だ。体に不調なところはないのだから、睡眠などで無為に時間を浪費してしまったことになる。
ただ、過ぎたことを嘆いてもしょうがない。失った時間をこれから取り戻していけばいいだけの話だ。
ひとまずは、今日の予定を確認しなければならない。と言っても、10時からの会社訪問以外に予定はない。完全に午後からはフリーと言うわけで。
仕事を引き受けることになったとすれば、いろいろと準備が必要だからその為に充てようという考えはある。仕事の規模にもよるが、一人で難しければ誰かに協力を頼まなければならないだろう。
ただ、結局買った本を読み終えた記憶がない。できれば、その時間を取りたい。ふと、横を見れば転がっている本が見えた。
ゆっくりと手を伸ばして、ぱらぱらとページをめくってみる。どこまで読んだだろうか。普段は読み切ってしまうものだから、どこまで読んだか、なんて気にもかけたことはなかった。
見覚えのあるページと内容が、つらつらと目の前を通り過ぎて行って。気が付けば、読んだ記憶のないところにたどり着いていて。
それを数回、繰り返したところで――ぱたん、と本を閉じた。意味のない行為だ。見つけたところで、今から読むわけじゃない。
挟むべき栞は要らないし……僕にはないのだから。
□ ―― □ ―― □
かん、かん、かん、という工事の音が聞こえる場所。昨晩届いたメールの住所に僕はいた。
時刻は午前十時、四分前。社会人としては、五分前行動は当然なのだけれど、どことなく遅れた気がしている。なんだか、酷く体が重く感じるのだ。
結局あれから何となく調子が上がらず、何というか、寝すぎた怠さというのだろうか。どっと体から疲れが噴出しているように感じる。
それに、途中で読むのをやめてしまった本の内容が気がかりというのもあって、精神的に焦っているのかもしれない。
出る前に財布を忘れかかったり――あったところで、ほとんど現金などないのだけれど、スマートフォンの充電も忘れていて切れかかったり、鍵を閉め忘れかかったり。
なんだか今日は外出をやめたほうがいいんじゃないか、と思うほどには酷い有様で。車にひかれて死ぬかもしれない、なんて不吉な予想さえしてしまうほど。
まあ幸い、そんなことは全然なくて。まだ養生シートが取れきっていない三階か、四階建てぐらいのビルの前にたどり着いたのが今から一分ほど前。
建設作業員に入口を聞けば、養生シートの切れ目から中に案内されると、一面大理石の立派な内装が出迎えてくれる。
(小ぢんまりとしているように見えたけど、立派な建物だね)
心の中でそう思えば、エントランスホールだろうその場所で、辺りを見回す。受付に人はなく、少し埃っぽい空気の中、工事の音が響く。
一つ驚いたのは、事務デスクがぽん、とど真ん中に置かれていたことだ。机の主は不在だけれど、山ほど積まれた書類がそこに人の痕跡を残している。
そう言えば、そろそろ時間だけれど誰か来るのだろうか。そんなことを思いつつ、作業員の話に耳を傾けていたら、もうすぐこの建屋の工事も完了するらしい。
内装の一部と配電さえ済ませれば、あとは外壁の塗装だけらしい――。
「やあ、君がPくんか。なかなか顔色が悪いな、大丈夫かね?」
『うわぁっ!』
そんな風に、完全に油断していた僕は、びくん、と体を跳ねさせると辺りを見回し、僅かに聞き覚えのある声の主を探す。昨日の夜、電話越しに聞いた声だ。
そうして振り返れば、なんというか、体からエネルギーをほとばしらせている――そんな風に表現するのが相応しいほど、酷くまぶしく感じる中年の男性がそこにいた。……もちろん頭の話ではないよ?
まぶしい、というのはどこか人間的に輝くものを感じる、ということ。側に立たれるだけで、放たれる熱気や生気、覇気のようなものに圧倒されそうになる。
それに比べれば、僕なんて枯れきった柳の木のように思えるほどだ。墓場の隣にぽつんと立っていそうなぐらい、目の前の男性とは生気も、輝きも違う。
僕は、どことなく感じるそのまぶしさに少し、眼を細めて、
『あ、えっと。はい、大丈夫です』
自嘲と苦笑の混ざった笑みと共に、そう返した。
「そうかね? それならいいのだが。ああ、私はこういう者だ。以後見知り置いてくれ、Pくん」
男性はポケットから名刺を取り出せば、それをさっと僕へ差し出してくる。僕も、急いで名刺を取出し、手早く交換を済ませて。じっと名刺を見る。
――シンデレラガールズ・プロダクション。本当に、芸能事務所を立ち上げるつもりなのだ。その段になって、ようやく僕の脳みそは理解したらしく。
『あ、はい。えっと、こちらこそ、よろしくお願いいたします』
そんな、ちょっと間の抜けた言葉を紡ぐ。それで、僕はようやく本題に入ることにした。本題とは、昨日の電話の件。そして、仕事の件だ。
ひとまず、それを聞かないとどうにもならない。工数も計算しなければならないし、必要であれば制作ソフトをそろえる必要もある。
せめて、我が家の型落ちノートPCで動かせるようなソフトで、作れる物であれば。そんなことを思って。
「うむ、その件なのだがね。まあともかく茶の一つでも出さんことには、話が始まらないな」
僕が切りだしたところ、社長はそう言うとくるり、と踵を返して歩きはじめる。どうやらついてこい、という事なのだろう。
それに合わせて、ゆっくりと歩み始めた。何やら、社長がこっちを見ていた気もするけれど……まあ、気にしないことにしよう。あんまり意味はないと思うし。
まだ動いていないエスカレータを登りながら、社長について行く。途中、階段をすれ違うように降りていく、スーツ姿の青年がこちらに挨拶をしてくる。
実に自然だったので、半ば脊髄反射のように僕も返答を返したが、すっと懐に入ってくる感覚が少し残って。
彼は一体誰なのだろうか。そう思って社長に聞こうと思った時、
「今の子は、うちの最初にして、唯一のプロデューサーでね。彼がいたから私はこんなプロダクションを作ることになったんだよ」
なんて、先読みしたように社長が言った。
『はあ』
驚きと、とっさの事でそんな魔の抜けた返事しかできず、ふと振り返ってみれば先ほどの、エントランスホールのデスクに、さっきのプロデューサーが座っていて。
僕と比べても、ほとんど年齢が変わらないように思える。強いて言うなら、僕の方がいくらか年上なのだろう。彼の方が、ずっと、ずっと、若く輝いて見えるから。
ただ、その輝きはさっきの社長の輝きと同じものなのかもしれないね、なんて。もしかすると実年齢はもっと年上という可能性もある。
「ここだ、Pくん」
そうこうしているうちに、すでに内装がほとんど完成している廊下を歩いて、たどり着いた先は応接室。がちゃり、と社長が開ければ、僕は失礼します、の一言と共に中へと入る。
「座りたまえ、茶でも汲んでこよう」
『あ、そんな、お構いなく……』
「茶もなくては、話が出来んと言っただろう? 事務員がいれば、汲んでもらったんだがね。彼女が来るのはもうちょっと先の事だ」
こちらの言う事など、さっぱり聞いていないと言った様子だった。いや、聞いていないと言うよりかは、聞いたうえで自分の意見を押し通すと言った方が正しいだろうか。
まあ、結局のところ僕に何が出来る、と言われれば何もできないわけで。一応扱いとしてはお客さんになるのだろうし、それなら素直に話を聞いておいた方がいい。
過剰な謙遜や遠慮は、相手の面子を潰すことに成りかねない。僕はゆっくりと、ソファに先に座った。ふかふかのソファだ。幾らぐらいするのだろうか……。
しばらくして、やや不慣れな様子でお茶を二つ、お盆にも載せず持ってきた社長は、湯呑を一つ僕の前に置く。こん、と小気味のいい音が聞こえた。
『あ、ありがとうございます』
「どういたしまして」
短い謝礼と返礼が一往復交わされ、そこで一旦会話はストップした。ずず、と社長がお茶を飲んでいる音が聞こえる。
僕も一口すすった。そして、湯呑を置く。
僕も一口すすった。そして、湯呑を置く。
『あの――』
「それでだね――」
言葉が、被る。一瞬、時間が止まったかのような感覚があって。僕が急いで、
『その、社長様よりどうぞ』
と言えば、
「いや、君からでいいぞ」
という問答。何か、漫画や小説で見る様なやり取りだ。この後、何度か繰り返すのが鉄板なのだが、現実ではそんなことがあるはずもなく。
しばらくの無言の後、完全に場が凍りついたようになった気がしていて。ただ、気まずいというよりも何だろうか。気恥ずかしいと言うか、そっちの方が大きいような気もする。
「くく、はっはは。いやあ、なかなかどうして……」
そう思っているうちに、社長が笑い始めて。僕は何一つ理解できなくて。何かぶつぶつと思索をしている社長は、大きな笑い声を上げながら、僕の方を見た。
その豪快な笑い声と、怜悧と言える視線が僕にぶつかり。次ぐような形で、質問が飛んでくる。
「Pくんは今、どこにも勤めていないんだったね。フリーのライターだとか」
『え、ええ、そうです、編集長よりお聞きになったのですか?』
「そうだ、なかなかいろいろ出来る人間とも聞いているよ。今日の件も、君がいろいろ出来ると紹介を受けてね」
そう言えば、社長はまた少し考える素振りを見せる。途中で、思い出し笑いのように少し、笑い声を挟んで。
「見たところ、顔色は悪いし、覇気も足りないが、まあ、優秀そうだな。ただ、そうだな……」
社長はそうつづける。
ただ、とはどういう事だろうか。不適合に見られたのかもしれない。それならそれでいい、と僕は割り切った。
どちらにせよ、僕のような内側に向かって行く人間の人生と、目の前の社長のように外向きに向かって行く人間の人生と、交わるはずもない。
帰り支度をするべきかもしれない。僕はそう思い、腰を浮かそうとした。
社長は口を開いた。まるで、子供にお遣いを頼む、親御さんのような口調だった。
「Pくん、うちの会社で働く気はないかな?」
本日の更新は以上です。前回よりだいぶ間が開いてしまい申し訳ございません。
かなり忙しく、連休までろくに書き進めることができない状態でした。
この連休で少し書き進めようと思いますので、6日までに次回の更新は行います。
それでは、読んで下さりありがとうございました。
□ ―― □ ―― □
『……結局、押し切られちゃったなあ』
今のお時間、お昼の一時。嘆息と共に、僕はシンデレラガールズ・プロダクション……の建屋になる予定の建設現場を離れた。
手に持っているのは、数枚の書類と一つの鍵。書類の方は、いわゆる契約書で。雇用契約というわけではないけれど、仕事を引き受けることになったからそれにサインを、と言う物だった。
あれから二時間ちょっと、ひたすら社長からの熱いスカウトトークが繰り広げられて、それをずっと断り続けていた。
やれ、”君には才能がある”とか、”君の書いた記事はいろいろと真理を衝いたところが多い”とか、大よそ僕には相応しくない褒め言葉の応酬で。いい加減辟易していた時に、
「一月だ。一月の間だけ、うちのコピーライター兼Webデザイナーとして働いてはくれないか。十二分な報酬は用意するつもりだ」
という言葉は、半ば僕にとっては救いの言葉に思えて。思わず同意してしまったのが運のつきだった。明らかにこっちが本当の目的だと気付いた時には手遅れで。
まるで極道の地上げか、もしくは悪徳警官の取り調べを受けた様な気分の僕とは対照的に、酷く上機嫌な社長は僕に一つの鍵をくれた。どうやら、これから一月ほどの仕事場になるらしい、社屋内の一室の鍵だ。
『電話とか、ネットとか繋がってるんですね』
若干げんなりとした僕の問いかけに社長は、
「インフラの整備はビジネスの基本だ。基本的な建築が終わった時に、取り付けてもらってそれからずっと、工事の音を聞きながら仕事をしていてね」
と、何ともぶっ飛んだ答えが返ってきたのを容易く思い出せる。
そもそも現在の状態で何の仕事をしているのか、と聞いてみたかったのだが、なんとなく踏み込みすぎると再びスカウトトークが始まりかねないのでぐっとこらえて。
そうして、二時間以上にも及ぶスカウトトークに対して、仕事の契約に関しては僅か三十分足らず。初めからこうなることを見越していたような、そんな手際の良さだった。
完全に騙されたのかもしれない、と思いつつ、編集長の困ったような、それでいて嬉しそうな笑顔を思い出す。こういう振り回されながらも、押し切られてしまう所に、頼もしさみたいなのを感じるのかもしれない。
まあ、押し切られてしまうのは僕の断りきれないところというか、そういう所に無頓着な部分も大きいのかもしれないけれど。
僕は契約書をぴらり、と改めて見た。そう言えば、明確に契約条件を見ていなかったかもしれない。これでとんでもない条件だったらまずいよなあ……なんて、半ば他人事のように思いつつ。
契約書の上から順番に見て行くと、具体的なことがいろいろと書いてあった。契約期間、一月。設備は弊社持ち。就業期間中の各種保険完備。月当たりの報酬、八十万。……八十万?
『……十八万の見間違い、じゃないよね?』
何度見返しても、そこに書かれた数字は同じだった。いや、そりゃあ確かに工数計算で一人月あたり八十万を取ることはあるけれど。
それは会社が会社に対して支払う物だ。いうなれば、手間賃だとか利益とかを全部ひっくるめて、本来の個人に対する報酬へ上乗せした金額。
工数計算で八十万取ったからっていって、それは個人に入る物じゃない。せいぜいそれの七割ぐらいが相場のはずなんだけれど。
そもそも、僕一人に対して八十万の工数計算というのもおかしな話だ。せいぜい四十か五十が良い所、それを勘案すれば三十から三十五万というのが、今回の案件の報酬ではないか、って思う。
(これは、あの社長が大盤振る舞いしてるか、もしくは)
あの社長、意外とこの業界に無知なのかもしれない。いやしかし、あれだけ口達者で工数計算の事を知らないとは思えない。
何か他に裏があるんじゃないかって、僅かにそう思って、続きを読む。いろいろな約款の後に、就業内容が書かれていた。
するべき仕事は、プロダクションの顔とも言えるサイトの作成と、様々な宣伝に使うポスター等の作成。Webデザイン能力だけじゃなくて、単純なデザイン能力も必要とされるみたいだ。
文章と、Webデザイン、プログラミングに関しては僕一人でどうにかなるとしても……絵はそこまで上手くはない。ユーザーインターフェイスを作るのは一苦労しそうだ。
(しかし、これはもう一人ぐらい必要になりそう……あっ)
そこでようやく、この報酬は僕一人だけでなく、もう一人ぐらいヘルプを呼んだ場合のコミコミということに気付く。
というか、そうとしか思えない。でなければ、こんな実績の乏しい人間にこれほどの報酬は釣り合わないだろう。
そしてこの物量だ。いや、物量で言えば十二分に僕一人で何とかなるが、能力的に足りないところは誰かに力を貸してもらう必要がある。
(なるほど、あの社長はその辺りも見ていたと言うわけか。抜け目がないよねえ)
存外、あの社長は倹約家なのかもしれない。本来であればこういうのは、そういう専門の広告代理店やWebデザイン会社に頼む物で。
そうなれば、費用は今の倍どころではない。一月あたり、二倍としてもそれが複数月に渡る。実費で言えば五倍くらい掛かってもおかしくはない。
それを八十万で済ませようと言うのだから、存外悋気なのだ、と思った。
『……はは、なるほどね』
僕は少しだけ、笑みを浮かべた。
我ながら、合点が言ってすっきりした、という物と、自嘲のようなものが混じった笑み。
何のことはない――僕を使い潰そうと言う事なのだ。編集長からどういう話を聞いていたのかは知らないけれど、随分といろんなことが出来ると思われているらしい。
『そう都合のいい話って、ないよねえ、やっぱり』
実際、就業内容の大半は僕一人でできる。あの社長の見立てはただしいし、クオリティの低い物を納品するつもりもない。
それでも、どこか一抹の寂しさは感じる。まあ、仕事を貰えるだけでもありがたいと思わなければ。僕はそう思えば、少しずれた眼鏡をかけ直して。
ともかく、出社は明日からになるらしい。であれば、今日はゆっくりと本を読むことができる。あの本の続きを早々に、読んでしまいたい。
そうすればきっと、この靄のかかった気分も晴れるはず。
……そう、きっとそのはずだ。
短いですが今回の更新は以上です。
次回更新は週末ぐらいに行いたいと思いますが、予定の関係で上手くいかないかもしれません。
安定して投稿できるように努力してまいります。
それではここまで読んで下さりありがとうございました。
お久しぶりです。今回はご報告に参りました。
私事で申し訳ございませんが、四月以降仕事のために全く時間を取れずにおりました。
なんとか更新するために、時間を見つけては試みようと思っておりましたが、今後も全く更新の目途を立てることが出来ません。
ですので、今まで読んでくださっていた方々には申し訳ございませんが、以後の更新は中止とさせていただきます。
同じ世界観を共有した作品群としては、「七人目の正直」以来一年半の間、お世話になりました。
いずれは何らかの形でSS速報に戻ってまいりたいとは思っておりますが、もしその時が来ましたらまた、宜しくお願い致します。
申し訳ございませんでした。そしてありがとうございました。
このSSまとめへのコメント
7人目から見てたよ、久しぶりに戻って来てみれば・・・。私は待ってるよ。頑張って