男「幼馴染みが犬の散歩に行ったら犬だけ帰ってきた......」 (57)

ポチ「へっへっ」ハァハァ

男「......」

ポチ「へっへっ」ハァハァ

男「......幼馴染みは?」

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男「そ、そうだ......水を入れかえないと」ジャー

ポチ「へっへっ」ハァハァ

男「ほらっ......水だ」コトッ

ポチ「ゴクゴク」

男「で、餌も......」パラパラ

ポチ「むしゃむしゃ」

男「よかったな」ナデナデ

ポチ「むしゃむしゃ」

男「ってちがうちがう。おい、飼い主はどうした」

ポチ「むしゃむしゃ」

男「......ご飯に夢中で全然聞いてない。おーい」

ポチ「むしゃむしゃ」

男「だめだこりゃ」

男「うーん......」

ポチ「むしゃむしゃ」

男「ん? おまえ、リードがついたままじゃないか。まさか......逃げてきたのか?」

男「散歩してる途中でリードを離したんだろうな......あいつのことだし」

男「それでそこらじゅうを探し回っていると......」

男「......まあ、こうやって帰ってきてるわけだが......」

ポチ「ふぅ」

男「やっと落ち着いたか」ナデナデ

男「さて、どうしようか。このまま放っておいてもいいが......

男「あとで文句いってくる気がする......というか絶対に言ってくるだろうな」

男「なんで、知らせてくれなかったの!......てな」(裏声)

男「ケータイにかけよ」ポチポチ

男「......」

男「............」

男「......出ない」

男「というか部屋から聞こえたな......」

男「......はぁ」

男「仕方がない......運動するか」

男「ふむ......取り敢えずいつものコースを行くか」

男「犬が逃げるとヤバイって言ってたし......」

男「あいつのことだから必死に探してるんだろう......」

男「......」キョロキョロ

男「......いない」

男「もう少し範囲を広げよう......あっちの土山にするか」スタスタ

男「......こっちにもいない」キョロキョロ

男「ふーむ......」

男「あとは......田んぼのほうの川か」

男「あそこは走っている人がよくいるはず」

男「人がいたら尋ねて聞いてみるか」

男「......」キョロキョロ

男「誰か......誰かいないか......!」

男「あのー! すいません!」

「......?」

男「あの......って」

幼友父「なんだ......男君ではないか! このまえの鍋はうまかったなー」

男「その節はどうもありがとうございます」ペコリ

幼友父「今度またなにかご馳走しよう」

男「いいんですか!」

幼友父「あぁ。この時期はいっぱい食べないとな」

男「ありがとうございますっ!」

幼友父「で、そんなに急いでどうした?」

男「あ、幼馴染みを探していまして......」

幼友父「彼女ならあっちの橋にいたような」

男「そ、そうですか!」

幼友父「話が長くなってしまってすまんね。はやくいったほうがいい」

男「す、すいません......じゃあ、いかせてもらいます!」

幼友父「いってらっしゃい」

男「橋......」

男「けっこうあるな......」

男「仕方ない......」

タタタッ

男「......」ハァハァ

男「......! いた」

幼馴染み「......」キョロキョロ

男「っ......ぉ......おーい!」

幼馴染み「......!」キョロキョロ

男「はぁ......はぁ......」ゼェゼェ

幼馴染み「あ、あんたどうしたの!」

男「っ......はぁ......に......逃げられたんだろ」ゼェゼェ

幼馴染み「な、なんで分かるの?」

男「......はぁ......はぁ......そ......それは」

幼馴染み「あー......わたしが帰るのが遅かったからか......」

男「......ぜぇ......ぜぇ......えっ」

幼馴染み「そうかそうか、心配していっしょに探してくれるのか......ふむふむ......いい心掛けだよ」

男「......い、いやちが......」

幼馴染み「うんうん......そういうところが君のいいところだね......では行こうか」

男「はぁ......はぁ......ち......ちが......う」

幼馴染み「ん?」

男「っ......も......もう......家に......いるぞ」

幼馴染み「えっ、な、なんで」

男「ぜぇ.....一人で帰......ぜぇ......ってきた」

幼馴染み「は、はあああああああああああああ!?」

男「はぁ......はぁ......だ、だから探しても......むだ」

幼馴染み「わ、わたしのここまでの苦労が......」ガクッ

男「......だ、だから......帰るぞ」ニギッ

幼馴染み「っ......手つかむな」バッ

男「ご、ごめん」

幼馴染み「あー疲れたー」ダラー

男「俺のほうが疲れた!!」

幼馴染み「はいはい、わかったから。大きな声ださないで......」

男「す、すまん」

幼馴染み「うへー脚いてー」グデグデ

男(......なんかおっさんっぽい)




幼馴染み「ポチー帰ったぞー」

幼馴染み「......」

幼馴染み「もう寝てるのかな?」スッ

幼馴染み「!?」

男「どうした」


幼馴染み「......い、いない」

男「は? んなばかな」スッ

男「あれ? なんで......」

幼馴染み「......ちゃんと繋いだ?」

男「えっ」

幼馴染み「もしかして忘れたのっ!?」

男「そうういえば......やった記憶がないな」

幼馴染み「......」

男「ごめんなさい、ごめんなさい」

幼馴染み「また行くのか......」

男「お、俺も行くから」

幼馴染み「じゃあ、リード持ってきて」

男「は、はい」ガサゴソ

男「持ってきました」

幼馴染み「では行きましょうか」

幼馴染み「家を出てから何分くらい経ってる?」

男「えーと......30分くらい」

幼馴染み「そこまで遠くにいってないはず......とりあえず公園ね」

男「えっ、なんで」

幼馴染み「いつも行きたがるから」

公園


ポチ「むしゃむしゃ」

幼馴染み「あっ、いた!」

男「うおおおおおおおお!!!!」ドタドタ

幼馴染み「わっ、ばか!」

ポチ「!?」サッ

男「あっ!」ズサー

ポチ「へっへっ」タタタッ

幼馴染み「あーあ」


幼馴染み「あんなに勢いよく近づけば、逃げるに決まってるでしょ!」

男「......そうなのか」

幼馴染み「ほら、はやく起きて!追いかけるから!」サッ

男「」ぁ
ギュッ

ポチ「......」トテトテ

幼馴染み「いた! いい? 次はわたしがいくから」

男「あぁ」

幼馴染み「......」ソー

ポチ「......」モグモグ

幼馴染み「......」ソー

ポチ「......」モグモグ

幼馴染み「おらっ!」

ポチ「......」スッ

幼馴染み「あっ......」


タタタッ


男「逃げられてんじゃん」

幼馴染み「あのくそいぬがああああああああ!!!!!!!!」ダンダン

男「ひっ」

幼馴染み「わたしのようなかわいくて可憐な女の子が犬に追いつくわけがないの。そうこれは自明の理、世の中の常識、あたりまえのこと」

男「おれがまたやるのか」

幼馴染み「さっきみたいにすればいいから」

男「で、結局失敗したわけだが」

幼馴染み「惜しかったなぁ! 体の後ろからではなく、両手で首と胴体を掴むようにするの! こんな感じ!」サッ

男「はぁ、そうですか」

幼馴染み「っ......やばっ! 道路のほうに行こうとしてる......」タタタッ

幼馴染み「犬は車に跳ねられて、脚がなくなることがよくあるの......あそこの犬がそうでしょ」

男「......あぁ......後ろ脚が両方ともないな......」タタタッ

幼馴染み「あの声......昔は家の前を歩く人によく吠えてた......でもアレ以来は......すごく悲痛な声に......」グスッ

男「い、今から捕まえれば大丈夫」タタタッ

幼馴染み「そ、そうだよね」タタタッ

幼馴染み「男はあっち側に行っといて! はさみうちするから!」

男「あぁ!」

ポチ「......」スタスタ

幼馴染み「......」

幼馴染み(慎重に......慎重に......)

男「......」

男(夕方だから車が多い......)

ポチ「......」スッ

幼馴染み「......」

幼馴染み(あの車が行ったら......)

男「......」

男(まだかよ......はやく通りすぎろ......)

ポチ「......フッ」スッ

幼馴染み(はあああああ!? なんでそのタイミングで渡るんだよっ!? やっぱり、ウチの子ホだ!!)スッ

幼馴染み「ま、待って!!!!!!!!」


瞬間、未来が見えた。
助けようと必死に手を伸ばすが、体全体が全く動かず、意味がわからないまま時は過ぎ去る。
目を開けるとぼやけた視界が徐々に明らかになっていく。
前と後ろの脚が根本から折れ、どす黒い色の血が染みだし、体を覆う毛が黒く染まる。
ピクピクと痙攣し次第に動きが止まると、目はなにも映さない。
そして、後悔の念が身体中を駆け巡り、自分の頭を抱える姿がその場に現れ、一生忘れない一瞬が残りの人生を支配し、脱け殻のように生きていく。
ふとしたときに腹の奥からなんとも言えぬ感情がせりあがり、心が満ち足りることはない。決してだ。

幼馴染み(......この距離じゃ間に合わない)


此のようなとき走馬灯が駆け巡るとよく言われるが、実際はそうではない。
時の流れが遅く感じられ、事象が時の流れに乗って進む様を、呆然と見るだけの存在へと成り下がる。
終わってからも考えは進まずに現実味がないまま処理されていく。
火葬する。
意外と小さく細かい骨を集める。
家から関連するものを廃棄するために、犬小屋を訪れる。
いざ、住んでいた犬小屋に何もない光景を見た瞬間に瞼に涙がたまり、頬に筋が引かれていく。
このときになって初めて、この世から存在が霧散し消失してしまったと認識するのだ。

家に帰るたびに響いてきた鳴き声を
一生聞くことは出来ずに日々、グチャグチャな思いが貯まっていく。
なぜ、あんなことを言ったのだろうかと。
なぜ、もっと散歩しなかったのかと。
なぜ、ないがしろにしてしまったのかと。
なぜ、あのとき離してしまったのかと。

幾度も悲しみに暮れ泣きはらすと、いずれ涙が枯れる。
悲しみを乗り越えたかのように見えるかもしれない。しかし、それは違う。
悲しみに勝ったのではない。負けたのだ。
心が麻痺し死んでいく。癒えることはない。
ひとつの行為でその後の人生の良し悪しが決定する、あたりまえのことだ。

幼馴染み(あぁ......もう少しで......)


車はどんどんポチに近づく。
衝突するまであと15m。
時速50km/hとそれほど速くはないが、無事ではないだろう。
あと7m。
幼馴染みはつい目をつぶってしまう。
1。


一連の事象は終わり幼馴染みの時の流れは元に戻る。
幼馴染みは思う、終わってしまったと。
追いつくことは絶対に不可能であったがそういうことではない。
気持ちの問題だ。
幼馴染みは悟る。
途中で諦めてしまった自分への苛みによって
潰れてしまうことを。
これからはポチに対する懺悔をしながら生きていくことを決意すると、目を開けて、目の前の現実を受け入れる


幼馴染み「............ん......んん......あれ?」パチパチ

男「............」

幼馴染み「お、おとこ!?」

男「............ぅ」

幼馴染み「だ、だいじょうぶ!?」

男「............っ」

幼馴染み「ねぇ、ねぇったら!!」

ポチ「へっへっ」



あれから数日が経った。
結果から言えば、ポチは全くの無事であり、
男は左足と左腕の骨折だ。
ポチを助けられてよかった、と男はわたしに言ってくれた。
しっかりと治療すれば日常生活に戻ることはできると医者に
言われて、男は歓喜してお礼を言っていた。
でも、わたしは素直に喜ぶことはできなかった。


ポチ「わんっ! わんっ!」


ふと足元に目を向けると、ポチがわたしを見ている。
あれからわたしに対するポチの態度は一変した。
学校から帰宅すると颯爽と駆け寄ってくるようになった。
寝ている状態からわたしの足音を聞くと立ち上がる。
尻尾を振りながら背伸びをする。歓迎のポーズだ。
玄関にカバンを置き、散歩の準備をする。
倉庫からリードを取り、首輪につなぎ、鎖を外す。
勢い良く家を飛び出し引っ張るが、わたしもついていく。
いつも通りの散歩コース。
ポチは草を食べたり糞尿をする。
それをわたしは回収する。
あの家までたどり着くと、もと来た道を戻る。
家に帰宅すると、水と餌をあげる。
ポチはゴクゴクムシャムシャと飲み食いをする。
いつも通りの光景と習慣だ。

でも、わたしの心の中は様々な思いを抱いていたみたい。
助かってよかったという安堵
これからは一緒に遊びたいという未来への期待
よくもわたしの手から逃げてくれたなという怒り
よくも男の身体に一生ものの傷をつけてくれたなという憎しみ
いろいろな感情が混ざりに混ざって、もう自分でも分からない。
男はポチを助けてくれた。
あの瞬間に飛び出して助けてくれるなんてわたしにはできない。
面倒くさくても心配してくれて、わたしのために色々なことを
してくれた。
なんて優しくて美しいひとなんだろう。

あぁ、やっぱりわたしは男のことが好きなんだなぁ。
なんて事はないとわたしに言ってくれたけど、そういうことじゃない。
男に傷をつけてしまった。
一生なくなることはない傷を、あんなに黒ずんで痛々しい傷を。
わたしはわたしを決して赦すことはできない。絶対に。
わたしの人生の残りを男のために費やしてもいい。
いや、費やしたい。
こんなわたしでもよければいいんだけどなぁ。
男は受け入れてくれるかなぁ。

明日も今日と同じような日々を過ごすんだろう。
ポチの散歩をしながら。
でも、大丈夫かなぁ。
ポチの顔を見るとお腹の奥からすごい感情が溢れだして
止まらなくなるんだよね。
こんなことは考えちゃダメだとは思ってるんだよ。
そんなことを考え始めたら、猛省してもうやらないように
してるんだ。
こんなことを毎日毎日、繰り返して疲れるよ。
あぁ、わたしはこれからどうすればいいんだろう。
ねぇ、ポチ教えて。

ポチ「へっへっ」

ほんとはこんな終わりにするつもりはなかった
なんか最後が地の文多くなりすぎたし、ごめん

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