レイ「あなたはずるいわ」カヲル「何故?」 (68)
レイ「碇くんはいつもあなたとばかり一緒にいる」
カヲル「別にそんなことはないと思うけど」
レイ「だって体育の着替えの時も体育の授業の時もトイレへ行く時も訓練の着替えの時も訓練の後のシャワーの時もあなたは碇くんの隣にいることが許されるけれど私は許されないもの」
カヲル「そりゃあその時君が隣にいたら大問題になるからね。あと君の中では鈴原くんや相田くんの存在は抹消されているのかい?」
レイ「ずるいわ」
カヲル「そんなこと僕に言われても」
レイ「何故ほんの少し身体構造が違うというだけで私は碇くんと一緒の行動を制限させられてしまうの」
カヲル「もし仮にシャワー中のシンジくんの隣で同じく裸の君がシャワーを浴びていたとしたら恐らく彼のポジトロンライフルが熱膨張を引き起こし果ては暴発する危険性があるからだよ」
レイ「……あなたが何を言っているのか分からない。もっと分かりやすく教えて欲しい」
カヲル「つまりシンジくんのエントリープラグに高エネルギー反応が起こり、彼の波打つリビドーが熱いパトスを迸らせてしまうということさ」
レイ「????」
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カヲル「まあそれについては置いておくとして、そもそも君はそう言うが僕の方から言わせてもらえれば
逆に身体構造が同じというだけでシンジくんに対する僕の気持ちをあたかも卑しいものかのように揶揄されてしまうこちら側にもなかなかに辛いものがあるんだよ」
レイ「……ごめんなさい」
カヲル「いいよ」
レイ「でもやっぱりあなたはずるいわ」
カヲル「あれ、今の僕の話本当に聞いてた?」
レイ「だってあなたと話している時の碇くんはとても嬉しそうだもの。私と話している時の碇くんはどこか困ったような顔をしていることが多いのに」
カヲル「多分それは君の口数が少な過ぎて上手く会話を続けられず、結果として緊張するからだと思うよ」
レイ「……そう。では私が最近碇くんといまいちぽかぽか出来ない原因はあなたではなく私自身にあったのね……」ショボン
カヲル「……」
レイ「……」ショボ~ン…
カヲル「………………」
カヲル「いや。でもそれは改善しようと思えば出来ないことはないさ。会話が続かないのなら続くようにすればいいだけなのだからね」
レイ「そう、なの? けど、どうやって……」
カヲル「簡単なことだよ。君の方から積極的にシンジくんに話題を振ればいい。
自分の好きなもの、趣味、昨日見たテレビの感想、なんでもいいからとにかく相手の興味を引く話に持って行けさえすれば後は自然と会話は繋がっていくはずだ。
元々は無口キャラより元気っ娘がスタンダードな君ならやれば出来るはずさ」
レイ「何の話?」
カヲル「なんでもないよ」
レイ「……だけど私は特に好きなものも趣味もないしテレビも殆ど見ないわ」
カヲル「君はマリモか何かか」ペッ!
レイ「…………………、」
レイ「えっ?」
カヲル「さっきから君は一体何なんだい? でも、けど、だけどって否定から入ってばかりじゃないか」
レイ「えっえっ」
カヲル「ただでさえ無気力なその態度の上にさらに無趣味、無関心、無表情とはね。四重苦って流石のヘレンケラーも苦笑いだよ。
正直今の君は何もせず何も言わずただ水の流れに任せて生きているマリモと何も変わらないよ」
レイ「えっえっえっ」
カヲル「いや、天然記念物に指定されるくらい希少な生き物である分彼らの方がずっと存在価値は高い。君の場合、仮に死んでも代わりはいくらでもいるものね」
レイ「…………」
レイ「待って。ちょっと待って」
カヲル「なんだい?」
レイ「いえ……いえ、あまりに唐突な辛辣過ぎるダメ出しにとっさにATフィールドを展開することが出来なかっただけ。
……うん、もう大丈夫よ。一瞬本気でコアを浸食されそうになったけれど」
カヲル「そうかい? まあとにかく今の君はまるでダメなマリモ、略してマダモだ」
レイ「……………………」
カヲル「言っては悪いが今の君のままではその内シンジくんに愛想を尽かされても仕方がないね」
レイ「そんな……」ジワッ…
カヲル(まあ、あのシンジくんに限ってそんなことは有り得ないだろうけどこのくらい厳しく言った方がファーストには効くだろう)
レイ「……」
カヲル「……」
レイ「わたしなぜここにいるの。わたしなぜまたいきてるの。わたしどうしたらいいの。わたしなにをしたいの。なんのために……だれのために……ワカラナイ……ワカラナイ……サミシイ……イタイ……イカリクン……」ブツブツブツ…
カヲル(あ、やばい、効き過ぎた)
カヲル「……ごめん。流石に今のは僕の言い過ぎだったよ。だから頼むから落ち着いて」
レイ「……」
カヲル「……仕方ないな。分かった、ここは僕が君の為に一肌脱いであげよう」
レイ「……何をするの?」
カヲル「とりあえず君は今日、放課後に何か予定はあるかい?」
レイ「いいえ。今日は戦闘訓練もシンクロテストもないから授業の後は家に帰るだけ」
カヲル「よし、じゃあ決まりだ。いいかい、君は今から僕の言った通りに行動するんだよ」
レイ「……?」コクン
――教室
ざわざわざわ…
カヲル「……」キョロキョロ
カヲル(よし、セカンドはちょうど席を外している。このタイミングならいけるな)
トウジ「んで、そん時の妹の可愛さっちゅうたらな~」
シンジ「はいはい、その話もう3度目だよ。ほんと妹大好きだよねトウジって」
ケンスケ「シスコン乙」
トウジ「じゃかあしい」
カヲル「やあ、シンジくん。楽しそうだね」テクテク
シンジ「あ、カヲルくん。うん、今トウジの妹さんの話をしててね…」
カヲル「そうなんだ。ところでシンジくん、今日は放課後何か予定はある? ないなら是非君の家に遊びに行きたいな」
シンジ「えっ、ほんと!? うん、大丈夫だよ是非来てよ!」
カヲル「よかった。今からとても楽しみだよ」チラッ
レイ「!」コクッ
レイ「―――わあ、いいな(棒)。私も是非碇くんの家へ遊びに行きたいわ(棒)」テクテク
シンジ「えっ」
トウジ「えっ」
ケンスケ「えっ」
シンジ「あ……綾波も!?」
レイ「ダメかしら(棒)」
シンジ「ううん、そんなこと全然ないよ! あの、綾波が来たいなら……是非来てよ。あ、カヲルくんもそれでいい?」
カヲル「もちろん。大勢で遊ぶ方が楽しいからね」
レイ「やったー(棒)。わーい。わーい(棒)」
シンジ「あ、あの、綾波……?」オロッ
カヲル(確かにオーケーされたら適度に喜ぶよう指示したけどまさか彼女がここまで大根だったとは……)
ケンスケ「……へぇ~」ニヤリ
トウジ「ほー、珍しいこともあるこっちゃ。んじゃワイも久しぶりにセンセん家行くかぁ。ミサトさんにも会いたいしな~」
カヲル「!」
レイ「!?」
ケンスケ「!」
ケンスケ「…………」
ケンスケ「……なーに言ってんだよトウジ。今日は僕とゲーセン行くって前々から約束してただろー?」
トウジ「お? そやったか?」
ケンスケ「そうだよ、新台入ったから付き合ってくれるって言っただろ?」
トウジ「さよか。ほんならそっち優先せなアカンな」
ケンスケ「おう」
カヲル「……」
カヲル(相田くんはいいね。リリンの生んだ空気を読む天才の極みだよ)
ケンスケ(! 渚、直接脳内に…! ま、いいってことさ。その代わり今度女子に売りさばく分の写真でも撮らせてくれよ)
カヲル(いいよ、ありがとう)ニコッ
――放課後 ミサト家
シンジ「カヲルくん、綾波、いらっしゃい!」ガチャッ
カヲル「やあ、シンジくん。突然お邪魔したいなんて無理を言ってすまなかったね」
シンジ「ううん、僕も来てくれて嬉しいよ。さあ、綾波も上がって」
レイ「ええ」
――リビング
アスカ「…………………」ムッスゥ~
シンジ「……ごめん、二人とも。アスカさっきからずっとあの調子でさ」
アスカ「誰のせいよ」ギロッ
シンジ「な、なんだよ」
アスカ「なんだじゃないわよ! なに勝手にあたしの許可なくこいつら上がらせるわけ!? ホモに人形とか冗談じゃないわ!!」
シンジ「いいだろ別に。アスカだってしょっちゅう委員長呼んでるじゃないか」
アスカ「ヒカリはいいの! でもこいつらはイヤ!!」
シンジ「むちゃくちゃだよ……」
カヲル「いいんだよ、シンジくん。ここはセカンドの家でもあるんだから彼女が嫌なら仕方がない。それなら三人で外に遊びにでも行こうか?」
アスカ「えっ」
レイ「そうね(棒)そうしましょう。そうしましょう(棒)」
シンジ「そう? じゃあそうし…」
アスカ「ちょーーーっと待ったぁ!!!!」
シンジ「うわっ!?」
アスカ「……仕方ないわ、仕方ないから今日はあんた達にもこの家の敷居を跨ぐ権利を上げる。
その代わりあたしは部屋にいるから騒がしくしないこと!! したら殺すから、いいわね!?」
シンジ「アスカ……」
カヲル「分かったよ」
レイ「分かったわ」
アスカ「……………………ふんっ!!!!」
ガラッ バタン!
アスカ「……」
アスカ「……」
アスカ「……」
アスカ「……」ソワソワ…
アスカ「……」コソッ
<じゃあ三人でゲームでもする?
<うん、いいね
<わーい(棒)わーい(棒)
アスカ「……………………」
―1時間後―
シンジ「シールド全開! ……アスカッ!!」
アスカ「分かってるっちゅーのぉぉぉぉぉおおおおおおおお!!!!!!」
ズガシャァァアアアアン!!
アスカ「ほら見なさい、あたしの勝ちよ!!」
レイ「ああ……私のプリンが……」シュン…
カヲル「残念、僕らの負けだね」
アスカ「ふふん、どう? これで分かったでしょ。あたしのピカチュウに敵うやつなんか誰一人いないってことにね!!」
シンジ「アスカ、綾波達は初心者なんだから……」
アスカ「なんか言った?」
シンジ「なんでもない」
シンジ(結局)
カヲル(セカンドが)
レイ(一番楽しんでる……)
シンジ「あ、もうこんな時間か。二人ともついでにごはんも食べていってよ。すぐ作るから」スクッ
アスカ「げっ。夕食までこいつらの顔見ながら食べなきゃなんないわけぇ?」
シンジ「いいでしょ? アスカだって本当は二人とゲームやるの楽しかったくせに」
アスカ「なっ、あたしは別に……」
カヲル「いいのかい? シンジくんの手料理が食べられるなんて楽しみだな」
レイ(碇くんのごはん……手作りごはん……)ポカポカ
カヲル(ファースト)ヒソッ
レイ(……なに?)ヒソッ
カヲル(ここは彼を手伝うべきところだよ)ヒソヒソ
レイ(! でも……私、料理なんて出来ない……)ヒソヒソ
カヲル(手伝う姿勢を見せることが大事なのさ。ほら)トンッ
レイ「……」コクン
レイ「――碇くん。私も料理、手伝うわ」スクッ
シンジ「え?」
アスカ「!?」
シンジ「綾波……そっか、ありがとう。うん、じゃあこっちに来てくれる?」テクテク
レイ「ええ」テクテク
アスカ「……」
カヲル「……」
しーん…
アスカ「……」
カヲル「……」ニコニコ
アスカ「……」
カヲル「……」ニコニコ
アスカ「…………あんたは大好きな大好きなバカシンジを手伝わなくていいわけ?」
カヲル「いいんだよ、これで」
アスカ「あっそ。……もしかしてなんか企んでんの?」
カヲル「企むって何を?」
アスカ「ぐぬ…! ……ふんっ。ま、あたしには関係ないからいいけど」
カヲル「そう。すべては君には関係ないよ」
アスカ「! ……チッ」
カヲル「ふふ…」ニコニコ
――夕食後
カヲル「ごちそうさま」
レイ「……ごちそうさま」
シンジ「お粗末さま。綾波、手伝ってくれて本当にありがとう。おかげで助かったよ」ニコッ
レイ「! ……別に構わないわ」
レイ(『ありがとう』……)キュン
アスカ「……なによ、ボールひっくり返したり火傷しかかったり手間増やしてただけじゃない…」ボソッ
シンジ「? アスカ、なに?」
アスカ「なにも言ってないわよ!!」
シンジ「??」
カヲル「……」
カヲル(――さあ、ここからが本番だ。行くよファースト)チラッ
レイ(……!)コクコクッ
カヲル「……さて。あまりテレビゲームばかりやっていても目を悪くする。次はみんなでトランプなんてどうかな」
レイ「わあ(棒)やりたい、やりたい(棒)」
シンジ「そうだね。じゃあやろうか」
アスカ「……はっ、いいわよ。トランプだろうがウノだろうが受けて立ってやろうじゃないの。ほらバカシンジ、さっさと取ってきなさいよ!」イライライラ
シンジ「あ、うん」
シンジ(さっきまで機嫌直ってたはずなのにいつの間にかまた怒ってる……どうしたんだろアスカ)
シンジ(それに……)チラッ
シンジ(今日はなんだかいつもよりカヲルくんと綾波の距離が近い……ような気がする)
シンジ(……もしかして綾波が家に来たがったのもカヲルくんが来るから?)
シンジ(…………)
アスカ「で? 何をやるわけ?」
カヲル「僕は大富豪がいいな」
シンジ「うん、僕もそれでいいよ。綾波、やり方は分かる?」
レイ「ええ」
シンジ「じゃあ細かいルールはどうしようか」
アスカ「あーもう、そういうまだるっこしいのいいからさっさと始めるわよ!
8切りとジャックバックはアリでジョーカー上がりはナシだから! ほら、早く配りなさいよ!!」バッ
シンジ「うわ、ま、待ってよ今やるから!」
カヲル「……」
レイ「……」
・
・
・
レイ「……これで上がり」パサッ
アスカ「!? ぐっ……!!」
シンジ「わあ、綾波早いね。すごいや」
カヲル「僕もこれで上がりだ」
アスカ「あっ、この…! ああもう! あたしも上がりよ!!」
シンジ「あちゃ~。僕が大貧民かあ」
アスカ「はんっ、所詮はバカシンジね」
シンジ「貧民のアスカには言われたくないよ」
アスカ「なんですってぇ!?」
カヲル「まあまあ。……でもそうだね、確かにシンジくんは大貧民だったから……やはりここは罰ゲームが必要だね」
シンジ「え!?」
アスカ「ハァ!!??」
カヲル「そうだな。じゃあシンジくんは明日一日大富豪の言うことを何でも聞く……っていうのはどうだい?」
シンジ「え、あ、綾波の……!?」
アスカ「っ、ちょっと待ちなさいよ、なに勝手に決めてんのバカじゃないの!?」
カヲル「何故? この手のゲームにペナルティは付き物だろう?」
アスカ「だったらあたしだってさっきテレビゲームで勝ったじゃない!!」
カヲル「なら公平にもう一度やって次に大貧民だった者が大富豪の言うことを聞く。それでいいかい?」
アスカ「…………やってやるわよ!!」
綾波「上がりよ」
アスカ「ぐっ…!」
シンジ「また負けちゃった」
綾波「また私が一番」
アスカ「ぐ、ぐうう…!」
シンジ「また僕の負け……」
綾波「大富豪」
アスカ「……」
シンジ「……綾波強いなあ~」
カヲル「―――というわけで、罰ゲームを受けるのはシンジくんだ」
アスカ「…………」ギリギリギリ…
シンジ「うん、負けちゃったし仕方ないね。でもその、あんまり無茶な命令されても出来ないこともあるから……」
カヲル「まあそこは彼女の慈悲にかけてごらんよ」
レイ「……」
シンジ「綾波……」
アスカ「……」イライラ
ガタガタッ バターン!
ミサト「シンちゃ~ん! アスカぁ~? たっだいまー!」ドタドタドタ
シンジ「あ、ミサトさんだ。お帰りなさ…」
ミサト「ハイッ! 葛城ミサト三佐、ただいま無事帰還であります!」ビシッ
シンジ「ってうわ、もう酔ってるんですか!?」
ミサト「でへへ。だぁってぇ~あのリツコが珍しく奢ってくれるっつーからぁ~……あら? なんだ、レイに渚くんじゃない。いらっしゃ~い…っとと」ヨロッ
シンジ「ちょっとミサトさん! ごめん、綾波、カヲルくん……」
カヲル「うん、そうだね。じゃあ僕達はそろそろ失礼することにしようか」
レイ「……そうね」
シンジ「じゃあまた明日学校で」
レイ「ええ」
カヲル「おやすみ、シンジくん、セカンド」
アスカ「……」プイッ
・
・
・
・
――帰り道
カヲル「――と、まあ今日のプランはこんなものかな。では帰りながら反省会といこうか」テクテク
レイ「……分かったわ」テクテク
カヲル「とりあえず……」
カヲル「君、演技下手だね。あとアドリブ全然きかないよね。というか喋れって言ったのに結局全然シンジくんと話せていなかったよね。どうしてもその無口キャラを貫き通したいのかい?
まあそれはそれでいいんだけどいくらなんでもあれは酷いよ、ただのイタい人になっていたじゃないか。
正直、君がわーいとか言い出した時には流石のシンジくんも引いていたよ」
レイ「」
レイ「……あなたはどうして私に対してそんなに厳しいの」
カヲル「そりゃあ僕だってシンジくんのことが好きだからね。言うなれば君はライバルなわけだから」
レイ「なら、そもそも私の手助けなんてしないはず。……どうしてあなたは私の為に行動してくれるの」
カヲル「……」
レイ「……」
カヲル「……時には理屈に合わない行動をするのがリリンだからさ。僕もそれを真似してみただけだよ」
レイ「そう…」
カヲル「それにシンジくんの幸せが僕にとっての幸せでもある。君と一緒にいることでシンジくんが幸せになれるのならば僕は何の助力も惜しまないさ」
レイ「碇くんの幸せ……。何故、あなたはそれを純粋に願えるの。私は碇くんと他の誰かが一緒にいると胸がズキズキする。それはいけないこと……?」
カヲル「……」
レイ「私よりもあなたの碇くんに対する気持ちの方がずっと本物なのかもしれない」
カヲル「そうとも限らないさ。独占欲というものは誰しも胸に秘めているものだよ。それに愛し方だって人それぞれ違うものだからね」
レイ「……碇くんは……私と一緒にいると幸せなのかしら?」
カヲル「それは君が君自身で答えを見つけ出すべき問いだよ」
レイ「そう…。ならそうしてみるわ」
カヲル「うん」
カヲル「……と、なんだかちょっといい話っぽくなったところで本題に戻ろう」
レイ「ええ」
カヲル「ひとまず今日分かったこととしてはやはり今のところシンジくんは君とセカンド、どちらも同じくらい気にかけているということだ。
むしろ彼女の方が君以上に気にされているかもしれないね」
レイ「!」
レイ「…………」ドヨーン…
カヲル「そう暗い顔をしなくていいよ。何のために今日、君達を二人にすることだって出来たのにわざわざ僕も一緒にいる状況を作ったと思っているんだい?」
レイ「え?」
カヲル「シンジくんは今頃きっとこう考えているはずさ」
カヲル「『今日綾波が僕の家に遊びに来てくれたのはきっとカヲルくんが一緒だからだ』」
カヲル「『今日、二人の距離はなんだか近かった。もしかしたら綾波はカヲルくんのことが好きなんだろうか?』」
カヲル「『今もカヲルくんと二人で一緒に帰ってるんだ。カヲルくんの方は綾波のことどう思っているのかな。
もし彼も綾波のことが好きなら、きっとその内二人は付き合ったりするのかもしれない……』」
カヲル「……ってね」
レイ「……! ……!!」オロオロ…
レイ「だ、だめ……それはだめ……今すぐ誤解を解かないと……」ソワソワ
カヲル「落ち着きなよ。いいかい、これはシンジくんに君を意識させるチャンスなんだ」
レイ「……でも」
カヲル「その為の罰ゲームさ。明日は君が一日シンジくんの女王様なんだからここで攻めない手はないよ」
レイ「…………。碇くんにどんな命令をすればいいのかしら」
カヲル「そこは自分で好きなように考えたらいい。あまり僕が口を出し過ぎても君の為にならないしね」
レイ「ごめんなさい……」
カヲル「いいよ。じゃああとは……そうだね、セカンドのことだけど今日の彼女を見て君はどう思った?」
レイ「……」
レイ「弐号機の人……あの人、とても私に似てる。表面的には全然違うのに碇くんに対して感じている気持ちは同じ。
碇くんが彼女の方ばかり向いていると嫌な感じがする。
だけど私が碇くんと一緒にいる時には彼女も同じ気持ちを味わっていると思うと、なんだか……それも苦しいわ」
カヲル「でも、だからといって君は彼女に遠慮してシンジくんへの気持ちを諦めようと思えるかい?」
レイ「……!」フルフルフル
カヲル「それでいいんだ。君がシンジくんに近付きたいと思うのなら、遅かれ早かれ彼女の存在は避けて通れないだろう。
今君の感じている胸の痛みはより肥大してその内君を押し潰そうとするかもしれない」
カヲル「でもそういうものに負けてしまってはいけないよ。君が本当にシンジくんのことを好きならね。それだけはよく覚えておいて欲しい」
レイ「……碇くん……」
『別れ際にさよならなんて、そんな寂しいこと言うなよ』
『……笑えばいいと思うよ』
『なんか、お母さんって感じがした。案外綾波って主婦とか似合ってたりして…』
『綾波……ありがとう!』
『愛してるよ、綾波』
カヲル「ちょっと待って。今、回想の中にひとつあからさまに君の妄想が混じっていたよね?」
レイ「……」フイ
カヲル「目を逸らして誤魔化そうとしても無駄だよ。僕だってシンジくんにそんな台詞言われたことないのに、涼しい顔して意外と図々しいな君は」
レイ「……あなただって自由に妄想すればいい。それだけのこと」
カヲル「何を開き直ってそんな屁理屈…」
レイ「『カヲルくん、好きだよ』」
カヲル「……」
レイ「『カヲルくん大好き』」
カヲル「……!」
レイ「『愛してるよカヲルくん』」
カヲル「………………いいね」
レイ「ほら」
カヲル「くっ、ここぞとばかりにドヤ顔を…! ……ふふ、悔しいけど今回は僕の負けだよファースト」
レイ「……」クス
――ちなみにその頃 再びミサト家
ミサト「うー……加持のばっきゃろ~……」ムニャムニャ…
パタン…
シンジ「……ふぅ。毎日毎日ミサトさんはこれだから、まったくもう」
アスカ「バカシンジ。ミサト寝かしつけたんならさっさとお風呂沸かしなさいよ。入れないでしょ」
シンジ「あ、うん、ごめん。待って、その前にテーブル拭いちゃうから」パタパタ…
アスカ「……」
シンジ「……」フキフキ
アスカ「……」
シンジ「……」フキフキ
アスカ「……」
シンジ「ねえ、アスカ」
アスカ「なによ」
シンジ「さっきからなんで怒ってんのさ」
アスカ「怒ってない」
シンジ「怒ってるじゃないか」
アスカ「怒ってない」
シンジ「怒ってる」
アスカ「怒ってない」
シンジ「怒ってるよ」
アスカ「……あーもーうっさいわね!! あたしが怒ってないっつったら怒ってないの!!」
シンジ「わ、分かったよ」
アスカ「……」
シンジ「……」
シンジ「綾波……カヲルくんが家まで送ってったのかな…」ボソッ
アスカ「っ!」
アスカ「……あんたバカぁ? そんなにあの人形女が気になるならあんたが送ってけばよかったじゃない!」
シンジ「でも……綾波はカヲルくんと帰りたかったんじゃないかな。今日だってなんか二人仲良さそうにしてたし。だったら僕なんて邪魔なだけだから……」
アスカ「………………」
アスカ「はぁぁぁぁぁ……。あんたってほんっっっと、ウルトラ級のバカね」
シンジ「な、なんで…?」
アスカ「自分で考えなさいよそのくらい。そのちっさい頭には脳ミソすら入ってないわけ?」
シンジ「……ごめん」
アスカ「ふんっ!」
アスカ(あたしだって……絶対に負けてなんかやらないんだから……)
――翌朝
カヲル「さて。あの無口な女王様は一体どんな命令を考えたかな」テクテク
レイ『じゃあ命令よ、碇くん』
シンジ『う、うん……なに?』ビクビク
レイ『私の手を握って』
シンジ『え?』
レイ『早く』
シンジ『あ、うん……はい』ギュッ
レイ『……』ギュッ
シンジ『……』
レイ『……』
シンジ『……えっと、これが命令?』
レイ『ええ、そうよ』
シンジ『……』
レイ『……』
シンジ『ねえ』
レイ『なに』
シンジ『あの、この命令ってなんか綾波にとってのメリットってあるの?』
レイ『あるわ』
シンジ『そ、そう?』
レイ『碇くんと手を繋いでるとぽかぽかするもの』
シンジ『えっ!?』ドキッ
シンジ『そ、それって……』ドキドキ
レイ『私の気持ち……伝わった?』ジッ
シンジ『綾波……!』
レイ『碇くん……!』
カヲル(――と、こんな感じに上手く持っていけてればいいんだけど)
カヲル(流石にファーストにここまで期待するのは無理かな。まあでも悪い方向へ行くようなことはまずないだろうし、ひとまずは彼女のお手並みを拝見といこう)
ガラッ
カヲル「おは……」
レイ「ほら、さっさと私の目の前に跪いて野良犬のようにみすぼらしく鳴きなさい。碇くん」
シンジ「……わ、わんっ! わんわんっ!!」
カヲル「ちょっとこっちに来てくれるかいファースト」ガシッ
――廊下
カヲル「単刀直入に聞くけど君は馬鹿なのかい?」
レイ「えっ」
カヲル「いや、疑問形なんて生ぬるい言い方は失礼だったね。言い直すよ。――実に馬鹿だ、君は」
レイ(倒置法……)
カヲル「どうしてそうなった? 大事なことだからもう一度言うよ、どうしてそうなった?」
レイ「……あの」
カヲル「昨日の僕達のなんかちょっといい感じの会話は一体なんだったんだ。はっきり言って君には失望したよ」
レイ「……失望? 最初から期待も望みも持たなかったくせに…! 私には何も、何も、何m」
カヲル「うるさいよ」
レイ「……」
カヲル「折角シンジくんに何でも命令出来るなんてこれ以上ない美味しい機会を作ってあげたというのに、何故そのチャンスを上手く生かせないんだい?
というかあんな純粋なシンジくんになんてことをやらせるんだ」
レイ「……ごめんなさい」
カヲル「言い訳はいらない。いや、確かに君のぶっ飛んだ命令に戸惑いつつも素直に従ってしまうシンジくんはちょっと可愛かったけど…」
カヲル「とにかくそんなことはどうでもいいんだ。僕が聞いているのは何故なのかという理由であって――」
ドサッ
カヲル「ん?」
レイ「あ」
カヲル「これは……」ヒョイ
『王様と農民 ―絶対王政の歴史―』
『富豪と貧民には何故差が付くのか? 現代格差社会の闇に迫る』
『俺様流に生きる ――跪け、愚民ども』
『ご主人様と奴隷だにゃんっ☆』
『あなたも今日から女王様! ~誰でも分かるSMの基本~』
カヲル「……大体分かったよ」
レイ「……」
カヲル「はあ……。いいかい、大富豪というゲームはあくまでただの遊びであってそんなリアルかつ生々しい主従関係を追求しろなんて言ってないよ。
いや、まあシンジくんの女王様とか紛らわしいこと言った僕も悪かったかもしれないけど」
レイ「でも……」
カヲル「でももだってもない」
レイ「でも」
レイ「でも前に赤木博士が司令に『家畜が人の言葉を喋るんじゃないわよ、この薄汚い豚が』と命令し
それに対し首輪を付け床に這いつくばった司令が豚の鳴き真似をしながらとても喜んでいるという光景を見たことがあるわ」
カヲル「またひとつ知りたくもない情報が増えてしまった」
レイ「……だから碇くんもそういう命令をされたら喜ぶのかと思って」
カヲル「君はシンジくんを一体なんだと思っているんだ。彼は彼のお父さんとは違って至ってノーマルだよ。いや、うん、多分……というかそう信じたい」
レイ「そう…」
カヲル「普通のちょっとしたことでいいんだよ。君がシンジくんにしてもらいたいことを罰ゲームと称することで要求しやすくする為の建て前でしかないんだから」
レイ「私が碇くんにしてもらいたいこと……」
カヲル「何かないのかい?」
レイ「……」
カヲル「……」
レイ「……」
カヲル「……」
レイ「……一緒に」
カヲル「うん」
レイ「一緒に買い物……したい。二人だけの同じ何かが……欲しいわ」
カヲル「お揃いのものを買う、か。なるほど、いいんじゃないかな」
レイ「そうかしら」
カヲル「ああ、いいと思う。じゃあ今すぐシンジくんのところへ戻ってそれを伝えてくるんだ」
レイ「……」コクン
てててっ…
カヲル「……ふぅ。まったく、彼女は世話の焼き甲斐のある子だな」
カヲル(それにしてもシンジくんと買い物か。いいな、僕もシンジくんとデートがしたい)
カヲル(デート……)
カヲル(シンジくんと映画、シンジくんと遊園地、シンジくんと博物館、シンジくんとプラネタリウム、シンジくんとコンサート、シンジくんと植物園、シンジくんと美術館、シンジくんとプール、シンジくんと動物園、シンジくんと水族館、シンジくんと同棲、シンジくんと結婚……)
ぽわ~ん…
シンジ『あっ、お帰りカヲルくん! 今日も一日お疲れ様!』
カヲル『ただいまシンジくん。君の待っているホームに毎日帰って来られるなんて僕は世界一、いや宇宙一の幸せ者だよ』
シンジ『もぉ相変わらず大袈裟だなあ。それよりごはん出来てるよ、それとも先にお風呂にする?』
カヲル『君、という選択肢はないのかい?』
シンジ『えっ!? も、もうっ! からかわないでよカヲルくんっ!///』
カヲル『からかってなんかいない。僕はいつでも本気さ』
シンジ『カヲルくん……っ!』
カヲル『シンジくん……!』
カヲル「……」
カヲル「……」
カヲル「~~~っ! ~~~~…っっ!!///」ガンガンガンガンガンッ
女子生徒A「きゃああああああ!!! 大変、カヲル様が何故かいきなり壁に自分の頭を何度も打ち付けているわッ!!!」
女子生徒B「いやあああああ!!! でもそんな意味不明でミステリアスなところもステキッ!!!」
女子生徒C「渚くーん、こっち向いてー! 渚くーん!!」
――教室
シンジ(……綾波、カヲルくんとどっか行っちゃった)
シンジ(やっぱりそうなのかな。綾波はカヲルくんのこと……)
シンジ(……くそ、なんで僕はこんなモヤモヤしてるんだよ…。
いいことじゃないか。カヲルくんはいい人だし綾波と似てるとこあるし……すごくお似合いの二人だよ)
シンジ(なのになんで……)
ガラッ
シンジ「!」
レイ「……碇くん」
シンジ「綾波……」
レイ「さっきはごめんなさい」
シンジ「あ、ううん……こっちこそごめん。今まで犬の鳴き真似とかやったことなかったからクオリティ低くて」
レイ「……」
シンジ「……」
シンジ・レイ「「あの」」
シンジ・レイ「「……!」」
シンジ「あ、えっと……綾波からどうぞ」
レイ「……いえ。碇くんの方から言って。命令よ」
シンジ「そ、そう? じゃあ、その……昨日は遊びに来てくれてありがとう。嬉しかったよ」
レイ「そう…。私も、楽しかったわ」
シンジ「そっか、ならよかった。それで綾波ってさ……あー」
レイ「なに」
シンジ「うん…。えと、カヲルくんと……仲ってよかったっけ?」
レイ「!」
レイ(碇くんが私を意識してくれてる……。すごい、フィフスの言った通りだわ)ドキドキ
レイ(えっと、こういう時は……相手の目をじっと見つめて)
レイ「……気になるの?」ジッ
シンジ「えっ?」
レイ「答えて。命令」ジーッ
シンジ「……」
シンジ(綾波……嬉しそう。やっぱりカヲルくんのことが……)ズキッ
レイ(碇くんが悲しそうな顔してる。これは……脈がある、と考えていい…はず)ドキドキドキ
シンジ「えっと、気になるっていうか…」ソワソワ
シンジ(無理だよ。僕なんかがあのカヲルくんに勝てるわけがないよ)
シンジ(……勝つ? そもそもなんで僕はカヲルくんと張り合おうとしてるんだ)
シンジ(分からない……僕は綾波のことが好きなのか? でも……)
レイ「……」
シンジ「……」
トウジ「……なあ。なんであいつらさっきからずっと黙って見つめ合っとるんや?」
ケンスケ「それを突っ込むのは無粋ってもんだよ。というか最初からこの空間には僕達もいたわけだけど完全に忘れ去られてるよね。
あ、ちなみに他の生徒達なら僕と委員長でさっき教室から追い出したから」
トウジ「? 誰に説明しとんのやお前」
ヒカリ「はいはい、私達もそろそろ退場しましょうね~」グイグイ
レイ(フィフス曰わく、やり過ぎは禁物。引いた後はその分きっちりと押すこと。落とした分を上げるように…)
レイ(………今更だけど本当にフィフスは何者なの)
シンジ「その」
レイ「……」スッ
シンジ「!?」ビクッ
レイ(碇くんは他人との一時的接触を極端に避ける傾向がある。それは裏返せば人との触れ合いに飢えているという証拠。
ボディタッチは積極的に、かつさりげなく行っていくこと…)キュッ
シンジ「綾波…? あの、なんで僕の手を掴むの……?」ドキドキ
レイ「……」ギュッ
シンジ「……綾波?」
レイ「その…あの…」オロッ…
レイ「えっ……と」
レイ(言わないと……碇くんと買い物したいって。大丈夫、今なら碇くんは私のお願い、絶対聞いてくれるもの。
断られる心配なんてしなくていい。緊張する必要ないわ)ゴクッ
レイ(……碇くんとデート)
レイ(碇くんと買い物、碇くんと映画、碇くんと遊園地、碇くんと博物館、碇くんとプラネタリウム、碇くんとコンサート、碇くんと植物園、碇くんと美術館、碇くんとプール、碇くんと動物園、碇くんと水族館、碇くんと同棲、碇くんと結婚……)
ぽわ~ん…
シンジ『あっ、お帰り綾波! 今日も一日お疲れ様!』
レイ『ただいま碇くん。あなたの笑顔に毎日出迎えられるととてもぽかぽかする。きっと私は今、世界一、いえ宇宙一の幸せ者よ』
シンジ『もぉ大袈裟だなあ。それよりごはん出来てるよ、それとも先にお風呂にする?』
レイ『ごはんよりも私を碇くんに食べて欲しい』
シンジ『えっ!? も、もうっ! からかわないでよ綾波っ!///』
レイ『からかってなんかいないわ。私はいつでも本気よ』
シンジ『綾波……っ!』
レイ『碇くん……!』
レイ「……」
レイ「……」
レイ「~~~っ! ~~~~っっ…!!///」ガンガンガンガンッ
シンジ「!!??」
シンジ「あ、綾波!? どうしていきなり黒板に頭を打ち付けてるの!? 綾波!?」
レイ「~~~~~~~っっっ!!!///」ガンガンガンガンガンッ
シンジ「ねえ綾波!? 聞いてる綾波!!?」ガシッ
レイ「あっ…」フラッ…
シンジ「あ、綾波ィィィィィィィィイイイイッッッッ!!!!!!!!」
――廊下
アスカ(……はあ。教室行きたくない)テクテク
アスカ(ああもう、昨日は負けてなんかやらないとか豪語したくせに結局怖じ気づいてる。……あたしって何なの?)テクテク
アスカ(そもそもバカシンジなんかより加持さんの方がずっとずっとずーーーっとカッコイイじゃない)
アスカ(……加持さんにはあんなに素直に甘えられるのに。なんでバカシンジにはこうなのかな、あたしって)
アスカ(どうせ今頃教室じゃあいつらよろしくやってんでしょうね)
アスカ(そのポジションはあたしのものなのに。いつもあたしからシンジに突っかかって
それにシンジがなんか言い返すと鈴原に夫婦喧嘩とかからかわれて)
アスカ(あたし達が反発すると余計に茶化されて、そうしてる内にヒカリになだめられて、それで)
アスカ(……そんな毎日が当たり前だと思ってた。勝手に安心してた)
アスカ(そういう時エコヒイキの奴はどうしてたっけ)
アスカ(……そう、自分の席でじっと座ってただ何も言わずに黙って座って、そうして)
アスカ(そんな時、あの女はどういう気持ちだったのかな)
アスカ(……本当はあたし達のことが羨ましかったの?)
アスカ(今あたしが感じてるような気持ちをあいつはいつも感じてたのかしら)
アスカ「………………」ズキッ
アスカ(……それにしてもあのナルシスホモは一体何考えて…)
<綾波ィィィイイイ!!!
アスカ「!?」ビクッ
バタバタバタ…! ガラッ!
アスカ「ちょっ、今の叫び声なに…」
レイ「」チーン
アスカ「エ、エコヒイキィィィィィイイイイイイ!!!!!!!」
――保健室
シンジ「――で、だから――って」ヒソヒソ
アスカ「あんた――エコヒイキ――ほんとに――」ヒソヒソ
レイ(……ん…)モゾッ
レイ(ここは……)
レイ(誰かの声。碇くんの声。それからもう一人……これは……弐号機パイロット……?)
レイ(…………)ボーッ
レイ「……!!」ガバッ
アスカ「あ」
シンジ「綾波! よかった、気が付いたんだね」ホッ
レイ「……私」
シンジ「びっくりしたよ、いきなりあんなことするから。軽い脳震盪だって。もう少し横になってた方がいいよ」
レイ「……あ…その、ごめんなさい…」シュン
シンジ「いいんだよ。でももうあんなことしちゃ駄目だよ」
レイ「うん…」
アスカ「……はんっ! ほんとバッカじゃないのあんた。
何をトチ狂ったのか知らないけど同じエヴァのパイロットとして情けないことこの上ないわ。とんだ恥さらしね!」
レイ「……」
シンジ「アスカ、やめろよ。綾波は怪我してるんだよ」
アスカ「あんたバカァ? だからこそこうして親切にも忠告してやってるんじゃない。むしろ感謝して欲しいくらいだわ」
シンジ「それにしたって言い方ってものがあるだろ。というかアスカは……」
アスカ「あーあーあー聞こえなーい! ったく、ガミガミガミガミ小姑かっちゅーの。
バカシンジのくせにこのあたしにお説教なんて百万年早いのよ」
シンジ「なっ、ガミガミうるさいのはアスカの方だろ! いつもいつも僕に文句ばっかり付けてくるじゃないか!」
アスカ「それはあんたがトロくてノロマでグズだからよ。言われたくなければ自分を変える努力をなさい」
レイ(……どうして)
シンジ「ど、どっちにしたって結局アスカは無理矢理難癖付けて文句言ってくるんでしょ?」
アスカ「あら、なんだちゃんと分かってんじゃないの」
レイ(どうして碇くんは弐号機の人とばかり喋ってるの)
アスカ「そうよ、あんたはあたしの奴隷なの。忠犬はおとなしくご主人様の言い付けを守って尻尾振ってりゃいいのよ」
レイ(奴隷……ご主人様……)ピクッ
シンジ「なんだよそれ……」
レイ(そう、碇くんは今日、私の碇くんのはず。なのにどうして。これじゃいつもと同じ。何も変わらない。
どうして。どうして。いや。碇くんと話さないで。碇くんに近付かないで)
アスカ「大体ね、あんたは八方美人なのよ。あっちにヘラヘラ、こっちにヘラヘラ。
そうして自分の身を守って縮こまってばかり。ダッサいのよそういうの。ほんとつまんない男」
シンジ「そんなこと言われたってしょうがないじゃないか……」
レイ(ずるい。ずるい。あなたはずるい。モヤモヤする。ざわざわする。ズキズキする。キリキリする)
アスカ「それにあんたは――」
レイ「―――違う。碇くんはつまらなくなんかない。それに碇くんはあなたのものじゃない。私のものよ」
アスカ「…………は?」
レイ「今日は碇くんは私の碇くんだもの。あなたのじゃないわ」
アスカ「…………」
シンジ「あ、綾波……?」
アスカ「……へえ、言うじゃない」
レイ「……」
シンジ「ちょっと、アスカ! 綾波も待って、落ち着い……」
アスカ「なによその目は。なんか言いたそうね? いいわよ、聞いてやるから言ってみなさいよ」
シンジ「アスカ!」
レイ「……」
『君がシンジくんに近付きたいと思うのなら、遅かれ早かれ彼女の存在は避けて通れないだろう』
『でもそういうものに負けてしまってはいけないよ。君が本当にシンジくんのことを好きならね』
レイ「……出ていって」
アスカ「……」
シンジ「綾波…!」
レイ「私は何を言われてもいい。けど碇くんに酷いことは言わないで。……お願い、出ていって」
シンジ「ねえ、綾波待って。違うんだ。一旦落ち着いて話を……」
アスカ「……あっそ。分かった」
シンジ「アスカ……!」
アスカ「そうね、確かにルール違反なのはあたしの方だわ。了解、今すぐ出ていってやるわよ」クルッ
シンジ「アスカ!!」
レイ「……」
アスカ「はいはい、じゃああとは若いお二人で~ってね。お邪魔さま」ヒラヒラ
シンジ「っ、待ってアスカ、アスカッ!」
スタスタスタ… ガラッ ピシャン!!
レイ「………………」
シンジ「………………」
レイ「……」ギュッ
シンジ「……綾波」
レイ「……今」
シンジ「……」
レイ「今、碇くんは彼女を追いかけようとした」
シンジ「綾波……」
レイ「やっぱり……碇くんは私よりも彼女の方がいいのね……」
シンジ「綾波。そうじゃないんだ。落ち着いてよく聞いて。……アスカはね、君をここまで運ぶのを手伝ってくれたんだ。
それから保健の先生を呼んできてくれたのもね」
レイ「……!」
シンジ「僕もびっくりしたよ。アスカって正直綾波のこと嫌ってるみたいだったから、すごく血相変えて慌ててるのがちょっとおかしくて……」
レイ「……」
シンジ「でも、嬉しかったんだ。アスカはさ、確かにあの通りめちゃくちゃ当たりはキツいけど……嫌なとこばかりじゃないよ。
本当に嫌な奴だったら委員長みたいな友達なんて出来てないだろうしね」
レイ「……」
シンジ「……ごめん。綾波は悪気があって言ったわけじゃないことはよく分かってる。
僕のこと庇ってくれたの嬉しかったよ。でも……お願い、今はアスカを追わせて」
レイ「……」ギュッ
シンジ「……」
レイ「……」ギュウ…
シンジ「……」
レイ「……」
シンジ「……」
レイ「……」
シンジ「……」
レイ「……」パッ
シンジ「……ありがとう」
タタタタッ ガラッ バタンッ
レイ「………………」
レイ「……」
ガララッ
カヲル「いたたた…。僕としたことがつい妄想にのめり込んでしまっ…」
レイ「……」
カヲル「……」
レイ「……」
カヲル「……」
レイ「……」←おでこに巨大たんこぶ
カヲル「……」←おでこに巨大たんこぶ
レイ「……………………」
カヲル「……………………」
カヲル「……君は今度は一体何をやらかしたんだい?」
レイ「……それはこちらの台詞よ」
カヲル「……」
レイ「……」
カヲル「……」
レイ「……」
カヲル「オーケイ。話を聞こうか」
レイ「……」グスッ
カヲル「――なるほどね」
レイ「……」
カヲル「しかし君は本当に極端というかなんというか…」
レイ「……」
カヲル「まったく、やる気を出す度に裏目に出て空回るのはシンジくんの専売特許だというのに君がそのお鉢を奪ってはいけないな」
レイ「……」
カヲル「……」
レイ「……」
カヲル「……ごめん。これは君の望む幸せではなかった。結果的に僕の助言のせいで余計に君を苦しめてしまったね」
レイ「……いいえ、あなたのせいじゃないわ。悪いのは私だもの」
カヲル「いや、確実に僕にも非があるよ。……何故かな、どこからかこれだから無能ホモはという声が聞こえてくるのは」
レイ「何の話?」
カヲル「なんでもないよ」
レイ「……弐号機パイロット……彼女、私のことを心配してくれていた」
カヲル「……」
レイ「彼女のことも傷付けてしまった。……自分がいや。自分が傷付くよりも誰かを傷付けてしまう方が心がズキズキする」
カヲル「……」
レイ「なのに私、碇くんを引き留めようとした。彼が彼女の後を追う背中を見たくなくて……」
カヲル「……」
レイ「碇くんと一緒になりたい私の心。碇くんとひとつになりたい私の心。
私はその気持ちの方を優先しようとした。彼女の気持ちのことなんて何も考えていなかった」
カヲル「……」
レイ「血を流さない女。醜い私の心。碇くんを独り占めしたい自分勝手な私の心。
こんな嫌な私を碇くんが好きになってくれるはず、なかったの」
カヲル「……本当にそう思うのかい?」
レイ「……私は私が嫌いだもの。碇くんはこんな私といても幸せになれない。碇くんの隣にいる資格なんてないの」
カヲル「……確かにヒトは自分の尺度でしか物事を測れない。君が自分でそう思っている限りそれは事実となってしまう」
レイ「……」
カヲル「でもそれでシンジくん自身の気持ちまで決め付けてしまってはいけないよ。
何故ならそれは君だけでなくシンジくんに対する侮辱になってしまうからね」
レイ「……」
カヲル「少なくとも僕から見たシンジくんは君のことをとても特別な存在として認めている」
レイ「……」
カヲル「……怖いんだね、一歩を踏み出すのが。でもよく思い出してごらん。
君の中のシンジくんはこんなことで君を厭うような人かい?」
レイ「……」
カヲル「こんなことで君はシンジくんを諦めてしまえるのかい?」
レイ「……」
レイ「……」フルフルフル
カヲル「そう、それでいい。シンジくんを信じるんだ」
レイ「……」
カヲル「……」
レイ「……」
カヲル「……」
レイ「……」
カヲル「……言っておくけど、今のは別にダジャレじゃないよ?」
レイ「……槍を抜いてやり直すのね」
カヲル「やめて」
レイ「……」
カヲル「……」
レイ「……」
カヲル「……さあ、そんな顔をしないで。大丈夫」
カヲル「希望は残っているよ。どんな時にもね」
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