幼馴染み(教師に言ってトイレに行けばいいと助言する人が必ずいる。しかし、ちがうんだよ)

幼馴染み(その行動を起こすためのとりあえず必要な条件は男性であることだ。しかし、わたしは女性である。故に不可能だ)

幼馴染み(あくまでも最低条件であり、実際はさらなるものがひつようだ。教室における社会的地位、普段の振る舞いによって決定されるいわゆるキャラクター性、そしてなによりも大切なことは煽られ耐性である)

幼馴染み(小学生時代を思い返してほしい。トイレにおける個室の扉が閉まっているときの、からかいや嘲りといった集団攻撃。誰もが目撃するであろうよくある光景だ)

幼馴染み(このような経験をすることによって学習し世間を知り、人間の意識下に学校でウンコする本能的恐怖が植えつけられる。全く困ったものだ)

幼馴染み(つまり、わたしのようなかわいさ溢れる女の子がトイレにいって、数十分帰ってこなかったら察せられるから行けないんだよ！)

幼馴染み(高校生にもなると直接からかう人はいないけど、そういうことじゃない。恥ずかしいからなんだ)

幼馴染み(ホントに我慢できなくなったら最終手段として、手を上げるけど。だけどなるべく我慢はするってこと)

幼馴染み(あぁ......なんか頭がさえて変なこと考えてた......)

幼馴染み(......ってううおおおおお！？)ｷﾞｭﾙﾙﾙﾙ

幼馴染み(や、やばい......この痛みは......)

幼馴染み(ガムを朝に噛んだことと、さらに歯磨き粉の刺激によるものだ......)

幼馴染み(くっ......このタイプは厄介だ......っ)

幼馴染み(この下腹部、特に左側からくる痛み......んおおおお！！！！)ｷﾞｭﾙｷﾞｭﾙ

幼馴染み(下痢止めス○ッパーはわたしに効かないし......ぜぇ......ぜぇ......)

幼馴染み(この場合は......ズボン、もしくはスカートを逆に強く締めたほうがいい......)

幼馴染み(緩めるほうがいいと勘違いされやすいが一時的にしか効果がないよ。それに再び腹痛がきたときの痛みが増幅されちゃうから)

幼馴染み(っ......こんな説明をしてる場合じゃない！！！！)ｷﾞｭｰ

幼馴染み(うっ......ふおぉ......ふぅ......ふぅ......)

幼馴染み(落ち着けわたし。落ち着くんだ、まだ慌てるような時間じゃない)

男「......」ﾁﾗｯ

幼馴染み(なにみてんの......こっち見るな......)

幼馴染み(いや、席が隣だから仕方ないか......)

幼馴染み(で......でも.....っ.......恥ずかしいよぉ......)ｶｧｧ

幼馴染み(バレてないよね......？)

男(あいつ......どうしたんだ？)

幼馴染み(大丈夫そう......)

幼馴染み(第２波はおさまったようね......)ﾊｧﾊｧ

幼馴染み(授業なんか聞いてる余裕なんかない......)ｶｧｧ

幼馴染み(ふぅ......ふぅ......)

幼馴染み(痛みは......もうなくなった......かな)

幼馴染み(よしっ、授業聞こ......)

幼馴染み(数学か......微妙ね......)

幼馴染み(問題を解かされるために教壇まで行く可能性はゼロではない......)

幼馴染み(目立たぬように......)ｶｶﾞﾐ

「というわけで答えはこうなる」

「じゃあ、例題誰かにやってもらおうか」

「えーと、今日は1月28日で......1055だから......」

幼馴染み(わたしが当てられる要素はない......勝ったな)

「1 28-10×55=-521だから......」

幼馴染み(はああああああああ！？ いきなりなにしてるんですか？)

「さらに符号入れ換えて500引くと21、そして28との差の絶対値は7......」

幼馴染み「あっ」

「幼馴染みさんですね」

幼馴染み(は？ なにこれ？ いつもは日にちで当ててるのに......なんで今日に限って......)

幼馴染み(あああああああああああ！！！！、)

男「はやくいけよ」ﾎﾞｿﾎﾞｿ

幼馴染み「えっ......う、うん」

幼馴染み「は......はい」ｶﾞﾀｯ

幼馴染み(くっ......立ち上がるときに衝撃が......)

「じゃあ５分くらいで解いてください」

幼馴染み「っ......わ、わかりました」ﾄﾃﾄﾃ

幼馴染み(制限時間は５分......)

幼馴染み(問題は全く難しくないけど......この状態でやれというのか......)

幼馴染み(後ろからみんなに見られてる......うわっ......緊張する......っ)

「？ 幼馴染みさんなら簡単にできるでしょう？」

幼馴染み「は、はい......大丈夫です」

「ではお願いします」

幼馴染み(今の状態でやれってか！ なんて鬼畜教師......)

幼馴染み(うっ......また......きた......)ﾓｼﾞﾓｼ

幼馴染み(ダメ......こんなに体動かしたら......我慢してることが......バレる！ 耐えろ......耐えろ......わたし！)

幼馴染み(さっさと終わらせて戻ろう......)

幼馴染み(えーと......なになに......曲線と曲線の間に挟まれる面積を求めろ......)

幼馴染み(んー......計算が面倒だから、平行移動して......簡単に......っ)

幼馴染み(ああああ！！！！ またきたきたきた！！)

幼馴染み(落ち着け......ふぅ......あぁ......頭が働かない......)

幼馴染み(計算過程は省略して必要な部分だけ書いて......おわりっ！)

幼馴染み(やっとおわったよ......)ﾄﾃﾄﾃ

男「......おい」

幼馴染み「な、なにかな？」

幼馴染み(今は話しかけないでよ......うぅ)ｷｭｰｷﾞｭﾙｷﾞｭﾙ

男「あれは怒られないか？」ﾎﾞｿﾎﾞｿ

幼馴染み「な、なにが？」

男「文字がヘニャヘニャじゃないか」ﾋﾞｼｨ

幼馴染み「......えっ」ｸﾙﾘ

男「あと省略しすぎだろ。絶対何か言われると思うぞ」

幼馴染み「っ......だ、大丈夫......だよ......たぶん」ｷﾞｭｰ

男「悪いこと言わないから直してくれば？」

幼馴染み「あ、あれくらいはセーフ......」

幼馴染み(いつもはこんなこと言わないのに......なんでなんで！！！！)

男「ほらっ、いった方がいいって」ｶﾞｼｯ

幼馴染み「っ......ぁ......ぅ......」ｶｧｧ

男「ほら」ｸﾞｲｯ

幼馴染み「わ、わかったから......いくから」ﾊﾞｯ

幼馴染み(......はぁ)

幼馴染み(......なんでこういうときだけ......)

幼馴染み(たしかに......これは自分でも読めない......)

幼馴染み(あぁ......ぅ......お腹が張ってきた......)

幼馴染み(やだよぉ......)ｶｷｶｷ

幼馴染み「お、おわり......まし......た」

「はい、戻っていいです」

男「俺の言うとおりだったろ」ﾆｺｯ

幼馴染み「ｿｰﾀﾞﾈ」

幼馴染み(殴りたい......)

キーンコーンカーンコーン


幼馴染み(......やったよ)

幼馴染み(わたしは勝ったんだ......)

幼馴染み(さっさとトイレいこ......)ｶﾞﾀｯ

男「なあ」

幼馴染み「あ？」ｷﾞﾛｯ

男「ひっ」ﾋﾞｸｯ

幼馴染み「今無理だから」ｻｯ

男「ご、ごめん......」

廊下


幼馴染み(うおおおおお！！！！ 一番奥の個室へ！！！！)ﾄﾞﾀﾄﾞﾀ

幼馴染み(くっ......急いだら......痛みがああああ！！！！)

幼馴染み(冷静さを欠いてた......)ｷﾞｭﾙｷﾞｭﾙ

幼馴染み(もう少しで桃源郷にたどり着くまでの道が......一番の急坂であることを)ｾﾞｪｾﾞｪ

幼馴染み(もう少し、あと20メートル......)

幼馴染み(ああっ......ここまでなのか......)

幼馴染み(これからの学校生活は......地獄......か)

幼馴染み(気を使われて......友人にも避けられ......無味乾燥なものに......)ｸﾞｽｯ

瞬間、男の顔が頭によぎる。
大好きな人、小さい頃から一緒にいてくれた。
幸せな日々を過ごしかけがえのない存在だ。
これからも共に生活していきたい、暮らしたい、そして結婚したい。
胸の奥から無意識に溢れだしてくる。
このとき、わたしは決意する。頑張ろうと。
あの場所までたどり着き、体の中に糞のように積もっているものを吐き出そうと。
あぁ、なぜだろうか。ほんの1分前はあれほど慌ただしかった気持ちが、嘘のように霧散し、とても安らかな気持ちだ。
わたしはもう迷わない。
決して安全な道とは言えないかもしれない。
しかし、人生とはそういうものだ。
地獄のような道を慎重、繊細、かつ大胆に地に足をつけて一歩一歩踏みしめて、味わいながら歩く。わたしはもう迷わない。
空に浮かぶ雲から太陽の光が射し込む。まるでわたしを元気づけ祝福しているかのように。わたしはふっと笑みを浮かべ、肩までかかる長い髪を優雅にかきあげて、静かにあるいていった


おわり