ガクエンドレス ―戯言遣いと生徒会長―(79)

登場人物

黒神めだか――――会長。

人吉善吉―――――庶務。

阿久根高貴――――書記。

喜界島もがな―――会計。

球磨川禊―――――副会長。

不知火半袖――――少女。

安心院なじみ―――???。


哀川潤―――――請負人。

玖渚友―――――技術屋。

ぼく―――――戯言遣い。

 多分ぼくは彼女の名前を忘れないだろう。
 一生ではないにしろ――しばらくは強烈な記憶として。
 この忘れっぽいぼくが。
 未だ――彼女の余韻が、手に在るほど。
 そのぐらいの人間だった。
 それこそ――人類最強の請負人同じぐらいに。

 圧倒的な強さを備え。
 圧倒的な弱さを抱え。
 圧倒的な迫力を持ち。

 箱庭学園を、踏みにじった。

 アブノーマルで、ノーマルで、マイナス。
 何よりも突き進んでいるように見えて、何よりも後退している彼女。

 完全。
 完璧。
 完成。
 完了。

 全てが彼女を表す言葉であり――全てが彼女自身。
 何度も繰り返すが、彼女に匹敵した強さを持つのは請負人ぐらいだろう。
 そのぐらい――強すぎた。
 ただ違うのは――
 それと同じぐらい、弱すぎることか。

 彼女だけでも異常だったが、さらに異常な彼がいた。
 いや―――
 彼は、普通なのだろう。
 非凡である彼女に比べると、あまりにも、平凡。

 しかし、ぼくは思うのだ。
 普通であるがゆえに。
 平凡であるがゆえに。

 異常。
 普通こそ異常。
 朱も赤に交わる。
 あの中で赤に染まらない人間は――異常だ。

 どいつもこいつも異常なキャストで、果たして平凡な物語は開けるのか。
 どれもこれもキャラクターが強くて、脚本家泣かせに違いない。

 そんな舞台をぼくは観客席から眺める。
 何故かたまに被害は被るけど―――
 だけど、ぼくは傍観者だ。
 自分からは動かない。
 例えばぼくにも異常というものがあるなら―――
 なにもしない。
 それが、異常なんじゃなかろうか。
 戯言だけど。



 異常者による、異常者のための、平々凡々な物語。
 はじまりはじまり。

第一幕――生徒会

0

 出る杭は抜かれる。

1

 目覚めると、真っ赤なコブラの助手席に座っていた。
 ………。
 ええと。
「起きたかいーたん。目覚めはどうだい?」
 ハンドルを握り、ぼくに頭の先から爪先まで真っ赤な女性――哀川さんがシニカルな笑みで話しかけてきた。
 相変わらず真っ赤だ。
「すごく……デジャヴを、感じますね」
 つい最近もこんなことがあった。
 気絶させられて女装させられるという屈辱的なことが。
 ――澄百合学園。
 とある少女を救うためにぼくは駆り出されたわけだ。
 色々あって、そこはもう廃校となってしまったけど――
「同じ手はつまんないからな。今回はいーいーが寝てる間に連れてきたんだよ」
 誘拐じゃねえか。

「寝てる間にってことはぼくは寝間着……あれ?」
 着替えていた。
 男子用の白を基調とした制服に。
 哀川さん、またぼくを着替えさせたな。
「何も寝間着で登校させるほどあたしは鬼じゃねーよ」
「…また学校ですか」
「鈍いお前にしちゃ冴えてるじゃんいーたん」
 まあ、これだけヒントを出されれば分かるというものだ。
「今回は共学だ。やる内容もいたって普通。――だが、異様さでいえば澄百合と並ぶか、それ以上かもな」
「…どういう、ことですか?」
「澄百合学園は普通の人間を異常に仕立ててる。だけどな――目的地、箱庭学園の生徒は元から異常なんだ」
「は――?」
「ま、ちゃんと普通のまま学校に入って普通のまま出る人間もいるけどな」

 異常といっても、どのような異常なのか。
「あたしが――いや、玖渚ちんが調べたところによると『スキル』というものがあるそうなんだよ」
「『スキル』」
「異常者のみ持っているもの。例えばだな――反射神経<オートパイロット>が説明しやすいな。過剰な反射神経を持ち物理攻撃からの回避行動のみならず、反撃や奪取までを自動に行える、とかな」
「…いつからこの話はsfに移行したんです?」
「移行?馬鹿だなお前、あたしが存在する時点でこの世界はsfでファンタジーでミステリーでフィクションでノンフィクションでラブコメなんだよ」
 ……哀川さんがいうなら、そうなのかもしれない。
「まあとりあえず、そんな奇人変人が揃う学園に何しに行くんですか?」

 ぼくはざっと彼女の服装を見る。
 相変わらずの、真っ赤なスーツ。
「見たところ――哀川さんは教師でも、生徒でもないようですけど」
 というかこんな教師は嫌だ。
 ヒューストンの頃にも変わり種の先生はたくさんいたが――哀川さんを見ると全て霞んでくる。
「潤だ。あたしの名字を呼ぶのは敵だけだからな」
「あ――すいません、潤さん」
「いやぁ、いつまでたってもこのやりとりが来ないから待ちくたびれて寝ちゃいそうだったぜ」
「ここ高速道路ですからね!?」
 この人ならやりかねない。

またの

「さあて――見えてきたぜ、箱庭学園がよ」
 乱れた前髪を掻き上げながら潤さんは言った。
 この人、なにをやらしても様になる。
「あの…結局ぼくは箱庭学園に言って――めだかちゃんを見ていればいいんですか?」
「そ。なんだか不穏だからそばで見てくれって理事長に直々に言われて――いや、泣きつかれてな――ほらあたし、目立つからさ。学生って年齢でもないから」
 確かにこの人は目立つ。
 真っ赤――だから。
 赤く、紅く、朱い。
 彼女ほどのイレギュラーで――そしてレギュラーなキャラクターはそうそういないだろう。
「期限は二週間。必要なもんは全部借りアパートにあんから。ほれ、メモ」
「――まさかの泊まりですか。もう今更なにもいいませんが……」
 文句いったらどうなることやら。
 ま、いいか――大学なんか最近ろくに行ってないし。
「なんかあったら連絡してな。――携帯ぐらいわかるだろ?」
「ええ。じゃあめだかちゃんの監視と――」
 異常に大きい建物を見上げながら呟く。
「高校生活、楽しんできますよ」
 戯言だけど。

2

 ぼくの転入シーンは割合しよう。
 いわゆる予定調和なものだったし――わざわざ感想を言うほどのものではない。
 授業は、まあチンプンカンプンだったけど、それも予定調和だ。
 ……ヒューストンでなにを学んできたんだろうぼく。――別に学びたくていったわけじゃないんだけど。
 閑話休題。
 それより今のぼくが直面している問題のほうが大事だ。だいじで、おおごと。
 迷った。
 別に人生に迷ったという大層なことではなく、道に迷った。

 この学校、広すぎる。

 いったいここがどこなのかすら分からない。
 うーん…来た道を戻れとはよく言うけど、ぼくの場合その来た道を忘れてしまった。
 さてどうしよう。

 適当に歩いていれば出口につくだろうか。
 ああ、そういえば迷路から脱出するには右手を壁に当て続ければいいんだっけか。
 思いたったら吉日。
 ぼくが右手を壁に伸ばした時だった。

「む?見慣れない生徒だな」

 後ろから凛とした声が響いた。
 振り向くと、女の子が――いた。
 長い髪。アホ毛。気の強そうな目。整った顔立ち。何故か制服から溢れ出ている胸。
 まるで作り物のような少女。
「……。転入したばかりで、迷っちゃって」
「そうか。――ならば貴様に道を示してやらないとな」
 上から目線で彼女は言った。
 二の腕の腕章には『会長』とでかでかと書かれている。
 少し考えて、ようやく――遅いぐらいだけど――思い出した。

 異常の中の異常。
 一年十三組。
 完成。
 ――黒神めだか、その人だった。

「私から名乗るべきだな!私は黒神めだか、生徒会長だ!」
 擬音に凛ッとつきそうな迫力で彼女は言った。
 残念なことにもう知っているのだが、それは相手が知るよしもないので黙っておく。
「ぼくは」
 さて、なんと言おう。
 ぼやかしたらしつこく聞いてきそうだからな。
「ぼくは、零崎愛識。知り合いには、いーくんとか呼ばれてるよ」
「ふむ。では零崎同級生!私が学園内を徹底的に徹頭徹尾案内してやる!」
「いや、ぼくは昇降口を捜してて―――」
 問答無用に手首を引っ張られた。
 ……。
 あれ、なんか抜けないぞ。というか彼女の手は手枷か?手だけに。
 ――なんだか。
 哀川さんとめだかちゃんのペースが同じ気がするのは――気のせいか……?

続く

ちなみに零崎愛識はご存知サイコロジカルから
曲識ならもがなの聞いて「悪くない」連発しそうだ。悪くない

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