男「ただいまー」許嫁「…………」 (53)
男「ねえ、ちょっと?」
許嫁「…………」
男「おーい!おーい!」
許嫁「…………」ピク
男「おおおおおおおおおおおおいいいいいい!!」
許嫁「……ッ」イラッ
男「たーーーだーーーいーーーまーーーッ!!」
許嫁「ああ、もうっ!うるさいわね!聞こえてるわよっ!!」
男「なんだ聞こえてたのかよ。じゃあ、返事ぐらいしてくれてもいいのに」
許嫁「なんであんたにわざわざそんなこと言わないといけないのよ」
男「はぁ?なんでって、そりゃあ……仮にも同じ屋根の下で暮らしてるんだし」
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許嫁「どういう意味よ」
男「つまりだな……こういう形でも、なんつーかその……一応家族になったわけじゃん?俺たち」
許嫁「……ッ!!」ギロッ
許嫁「家族……ですってぇッ!?」
男「おおうっ。こわいこわい」
許嫁「第一!いつ!どこで!どんな手続きで!わたしがあんたの家族になったのよ!!
そこのところ、ちゃんと論理的に説明してみなさい!!できないなら、今すぐ訂正しなさい!!」
男(子どもかよ……)
男「正式な手続きは踏んでないけど、そういう約束だろ?
おまえんとこの親父さんの会社とうちの親父の会社が、将来仲良くやっていくための……」
許嫁「そんなの知ったことじゃないわ」
男「なに?」
許嫁「お父様がわたしに選んだ許嫁だかなんだか知らないけど、わたし、絶対に認めない!
わたし、絶対にあんたなんかと結婚するつもりなんてないからっ!!」
許嫁「……ふんっ!」プイッ
バタンッ!!
男「…………」
男(一気に静かになったなぁ。まるで台風のような女だ)
許嫁「それともう一つ」ガチャッ
男「はいッ!?」ビクッ
許嫁「私の前で二度と『家族』なんて言葉使わないでよね。寒気がするから」
男「え?はぁ……」
許嫁「それだけ」
バタンッ!!
男(びっくりした。急にドア開けてくるんだもんなぁ。しかも、相変わらずかわいげのない言葉)
カチャッ!
男(ご丁寧に部屋のロックまでしちゃってまぁ。この照れ屋さんめ)
男(知ってるぞ。この一連の行動は、俗にいうツンデレだということをな!)
男(表面はツンケンしているけど、実際にはそれも照れ隠し!つまり、内心では俺にメロメロなはず!)
男「ふふふふははははははははは!」
男「はははははは」
男「はぁ……」
男(なーんて、ポジティブ思考で乗り切らないと、到底この先やっていけそうにないなぁ)
男「あれ?晩飯の用意もしてないのか」
男「…………」グゥゥゥー……
男「しょうがない。カップラーメンでも喰うかぁ」
男「あれ?」
許嫁がいるのに、カップラーメン?カップラーメンだと……!?
ちょっと待ってください。なんかおかしくないですか?
普通この状況なら、ハートのエプロンつけた許嫁が、晩飯の支度をしながら俺の帰りを待っていて、
俺が帰ってきたら玄関まで出迎えて、「おかえりなさいあなた!ご飯にする?お風呂にする?それとも……わ・た・し?」
っていうベタな質問をして、俺も調子に乗って
「じゃあ、今夜はきみを食べちゃおうかな☆」なんて冗談半分に答える展開のはずなのに……?
だが、現実はあまりにも残酷だった。
ピュアな心を持つ高校男児にはあまりにも残酷過ぎたのだった。
お父さん、お母さん。
僕はもうダメかもしれません。
今日一日なんとか頑張ってみたけど、初日にしてはやくも心が折れそうです。
はやく家に帰りたいです……
時をさかのぼること、先日の朝のホームルーム前。
この時の俺は、のちに起こる災難などまるで知る由もなかった。
男「クラスの連中、今日はやけに騒がしいな。どうしたんだ?」
男友「どうしたって……おまえ知らないのかよ?」
男「なにが?」
男友「おいおいおいおい!まさか本気で言ってんじゃないだろうな?
二年生の間じゃ、今一番ホットなウワサだぜ」
男「で、なにが?」
男友「本気で言ってるとしたら、相当遅れてるよなぁ。なぁ、女友」
女友「…………」ペラ
男友「ほら、女友も言ってるぜ。『これだから男くんはダメなのよ。このニブチンッ!』って」
男(いや、言ってない。言ってないから)
男友「なあ、ほんとマジで。このクラスで……いや二年生で知らないのはおまえぐらいなもんだぞ」
男「だから……な・に・が?」
キーンコーンカーンコーン
男友「おっ、時間みたいだな。男ー!あとで感想聞かせろよー!」
男(話聞けよ……)
一年で同じクラスになってからそれ以来、男友とは腐れ縁が続いている。
女友は……俺もよくわからん。気づいたらいた。
ただ一つわかること。それは両方とも変わり者だということだ。
ガラララッ
担任「おはよう。今日はホームルームを始める前に、おまえらもお待ちかねの転校生を紹介したいと思う」
オー! マッテマシター! ハヤクシロー!
男「…………」
転校生か。まぁ、そんなことだろうとは思ってたけど。
そこまで大きな話題にすることなんだろうか?
担任「まあ、焦るな。今トイレに行ってるから、もう少ししたら戻ってくると思うぞ」
エー! ソンナー! ブーブー!
男「…………」
とかなんとかいいつつも、俺は密かにワクワクしていた。
かわいい女の子だったらいいなーとか、野郎だったら幻滅だなーとか、ブスも勘弁だなーとか。
まだ見たこともない転校生に対するイメージを、心の中で勝手に膨らませていった。
だが、その後待ち続けても一向に帰ってくる気配がない。
10分、20分と時間が過ぎていって、さすがに心配したのか担任が様子を見に行った。
その担任もなかなか帰って来ない。
やがてチャイムが鳴ったので、俺たちはそのまま一時限目の国語に突入した。
それからの時間は流れるように過ぎていって昼休みになり、
俺たちはいつものように屋上で昼飯を囲んだ。
話題はもちろん朝のことだった。
男友「間違いない!これは事件だ!俺の刑事としての勘がそう告げている!」
男「ありえねぇ。アニメの見過ぎだろ」
男友「ふふふ、根拠もなしにそう断言すると思っているのか?バカめ!」
男「女友、飯食ってる時に本読むのはよくないぞ。しまいなさい」
女友「……ん」コクリ
男友「おまえは俺の話を聞きなさいっ!」
男「で、男友の言う根拠ってのはなんなんだよ」
男友「聞きたいか?」
男「聞きたい」
男友「どうしよっかなー?どうしよっかなー?」
男「あ、やっぱどうでもいいわ」
男友「お願いだからそんなこと言わないでー!語らせてー!」
男「はいはい。思う存分語ってくれ」
男友「実は、うちのクラスのテニス部のやつが面白い話をしているのを耳にしたんだ。
なんでもそいつ、朝練に行くために今日も朝早く登校していると、
校門の前になにやら黒い高級車が止まったのを見かけたらしい」
男「ほう」
男友「ただごとじゃないと思って電柱の影に隠れてこっそりその様子をうかがっていると、
なんと車の中から他校の制服を着た女の子が出てきたそうだ」
男友「しかもそれだけじゃない。その車から出てきた女の子。
すごく美人で、どことなく上品な感じが漂ってて、
そのテニス部のやつが言うには、そこらの一般人とは全然違う雰囲気をしていたそうだ」
男友「後ろからこっそり尾行すると、女の子は学校の中を入っていって、
しばらく歩いて職員室までたどり着くと、その中に入ってしまったらしい」
男友「この話でわかったことが三つある。まず第一に美人であるということ。第二にお金持ちであるということ。
そして第三には――」
男友「危機管理能力がなさすぎるということだああああああああああっ!!」ビシィッ!!
男「うおっ!」ビクッ!
男友「ありえないだろ!そんだけ尾行されてりゃ気づくだろ、普通!
ってか、気づかないなら気づかないでボディーガードの一つぐらいつけろや、コラァッ!
誘拐されてからじゃ遅いんだよ、ゴルァァァァァァァッ!!」
男「ひとまず落ち着け。どうどうっ!」
男友「ふーーー!ふーーー!」
男「まあ、安心しろ。おまえの心配しているようなことには絶対にならないから」
男友「なんでそんなことが言える」
男「うちの学校にはちゃんと守衛さんがいるし、それに生徒や教師の目だってある。
だから誘拐なんていう、そんな大胆な行動がとれるわけがない」
男友「わかんねーぞー。身代金に目がくらんだ教師どもがあの手でこの手で女の子をだな……」
男(その豊かな想像力、もっと別のところで使えねーかな……)
男友「彼女が誘拐されていると考えるなら、このまま指をくわえて眺めているだけなのは我慢できない。
きっとなにか力になれることがあるはずだ。おまえらもそう思うだろ?」
男「……は?」
男友「というわけで、これから町中を隅から隅まで捜索しようと思う!俺に付いてこいっ!」
男「…………」
女友「…………」モグモグ
男友「なんだおまえら、ノリが悪いぞ。ノリがー」
男「あ、当たり前だろ!午後の授業はどうするんだよ!午後の授業は!」
男友「サボる」
男「ふっざけんなッ!これ以上付き合ってられるか!教室に帰るぞ、女友!」
男友「あーあ、いいのかな~?協力してくれたら感謝の気持ちに、特盛パフェおごろうと思ってたんだけどな~」
女友「…………」キラキラ
男「お、女友……?」
女友「いく……!」パアアアア
男友「よしよし、いい子だ」
男(買収されたーーーっ!!)
男友「よし!話し合いもまとまったところで、さっそく出発するぞ!」
男「え、まとまってなくね?ってか、勝手に話が進んでるんですけど」
男友「ものども、用意はいいかー!」
女友「おー!」
男「お、おー……」
やけにノリノリな二人の巻き添えになって、不本意ながら俺も同行することになった。
絶対にロクなことにはならない……
俺の目の前には不安しかなかった。
捜索を開始するにあたって、俺たちは昼休みのあいだに、転校生の女の子に関するできる限りの情報を集めた。
その結果、女の子の特徴をおおよそ把握できた。
制服はグレーを基調としたシックなデザインで、このあたりの高校では見かけないものだった。
髪は割と長めで、後ろを青いリボンのようなものでまとめているらしい。
そして、みんなが口を揃えていっていたのは、その子がものすごく美人であるということだ。
そんなことを聞くと、仮にも俺は男だ。ちょっと期待してしまうだろうが。
男「準備もあらかた終わったな。あとはどこを探すのかが問題だけど」
男友「そう焦るんじゃねえ。その前にグループ分けをしようぜ」
男「グループ分け?」
男友「三人で同じところを探すのは効率が悪い。どうせなら全員別々の場所を探した方が、それだけ時間も短縮できる」
女友「…………」
男「なるほど、そう言われてみればそうだ」
男友「ふふん。この程度、俺の明晰な頭脳にかかればわけもないこと」
男「さいですか」
話し合いの結果、女友は学校周辺を、男友は河原沿い、そして俺は駅前を探すことになった。
当初の予想に反して、この捜索は難航していた。
女の子を見かけたらそれぞれの携帯にすぐに連絡を入れるようにと、俺たちは事前に決めていた。
しかし、捜索を開始してから一時間。一向に連絡は来ない。
男(それにしても人が多すぎる……)
平日の昼は通勤通学のピーク時に比べると幾分かはマシだが、それを抜きにしても、駅前はかなり人通りが多いと言える。
加えて、多くの建物が立ち並んでいるから、人の行動できる範囲が自然と広くなる。
だからいろんなところを動き回りながら、絶えず視線を四方八方に動かす必要がある。
じゃないと、女子高生の一人なんて簡単に見逃してしまう。
今から考えると、駅前にもっと人員をさくべきだったのかもしれない。
今更後悔しても時すでに遅しだけど……
男(もう遠くに行っちゃってるかもしれないなぁ……いや、十中八九その可能性が高い)
朝女の子がいなくなってから、もうかなりの時間が経っている。
時間が過ぎていくとともに当然、女の子が遠くに行っている可能性がだんだんと濃厚になってくる。
そう考えると、なんだか今の自分が空回りしているような気がして、急に馬鹿らしくなってくる。
そもそも、俺は他の二人ほど乗り気じゃなかったしな。
男(あと30分ぐらいしたら適当に切り上げて戻るか……)
動き回った疲れからか、俺はこんなネガティブな思考に陥っていた。
気分が重くなると同時に、自然と足取りも重くなる。
無駄に走り回ることもやめて、俺はとぼとぼと歩きだしていた。
その時。
視界の隅の方に、人ごみにまぎれて白い影のようなものが通り過ぎたような気がした。
諦め半分で振り返ると、遠くに青いリボンのようなものが見えた。
そこから少し視線を下げると、灰色のセーラーカラーが通り過ぎる人の間から覗いた。
青いリボン……
灰色の制服……
……まさか?
男「あっ……!?」
声にもならない叫び声をあげるとともに、気がつくと俺は夢中で駆け出していた。
おばさん「いたっ!」
走り出そうとした勢いで、ちょうど横にいたおばさんの肩にぶつかった。
おばさんは手に持っていたビニール袋を落として、その中身を道にぶちまけた。
カップル女「きゃっ!」
カップル男「どうしたの?……うおッ!?」
運が悪いことは重なる。
女の人が、向こうから転がってきたトマトを、履いているハイヒールで思いっきり踏んづけた。
その足は、トマトの汁や残骸でびちゃびちゃになっていた。
カップル女「お気にだったのにー。うえーんっ!」シクシク
カップル男「か、カップル女ちゃん。ああ、どうすればいいんだ……」
おばさん「あんたねぇ!なにしてくれんのよー!」
カップル男「きみのせいでせっかくのデートが台無しだ!責任とってくれよ!」
男「うわあああ!ごめんなさい!ごめんなさいっ!」
道に落ちた野菜やら缶詰やらを拾いながら、俺はひたすら謝り倒す。
通り過ぎる人の冷たい視線が痛いほど突き刺さる。
恥ずかしくて、情けなくて、俺は今すぐ穴にでも入りたい気分だった。
生まれてきてごめんなさいっ!
男「これで許してくださいっ!」
ビニール袋にすべてのもの(つぶれたトマト以外)を詰め終えて、
俺はおばさんとカップル、それぞれに二千円ずつ渡した。
俺の全財産。せめてものお詫びの気持ちだ。
お金で解決する問題じゃないかもしれないけど、悲しいことに今は時間がない。
二人の返答を待たずに、俺は急いでその場を後にした。
女の子はいなくなっていた。
プルルルルル…ピッ!
男友『ブラウンフィッシュからバルフィッシュ。ブラウンフィッシュからバルフィッシュ。応答願う』
男「こちら、バルフィッシュ。……って、今は遊んでる場合じゃねえんだよッ!!どうした!!」
男友『こっちはいくら探しても女の子どころか、人っ子一人いない。
いても、散歩中のじいさんぐらいだ。いい時間帯だからそろそろ引き揚げようぜ。
女友も今俺の横にいるし。なんなら帰りにみんなでマックにでも寄って……』
男「今すぐ駅前に来い」
男友『は?』
男「いいから来い!今すぐっ!」
男友『おい、男。どうしたんだよ急に』
男「見つかったんだ!見つかったんだよ!」
×ブラウンフィッシュ
○ブラウンエンジェル
男友『俺も知らない隠れた名店が?そいつは驚きだな』
男「ちげーよバカ!女の子が見つかったんだよ!」
男友『なにっ!ほんとか!?』
男「嘘言ってどうすんだよ!とにかくこっちは人手が足りない!女友と一緒にはやく来い!」
男友『わかった!すぐに行く!』
ピッ…!
男「くそっ!むだに時間使っちまった!」
これ以上は一刻の猶予も許されない。
ちっぽけなプライドもかなぐり捨てるしかない。
全力で聞き込み開始だ!
男「あのっ、女の子見ませんでしたか!」
OL「……はい?」
男「だ・か・らー!美人な女の子、見ませんでしたかっ!」
OL「え……ええっ!?」
男(あ、ヤベ……)
あとになって、聞き方を間違えたことに気づいた。
これじゃあ俺、ただのナンパ野郎じゃないか……
OL「ねえ。それってもしかして、誘ってる……?」
男(喰いついたーーーッ!?)
OL「でも、ごめんねー。お姉さん、実は彼氏持ちなの」
男(すいません!激しくどうでもいいです!)
OL「でもでもー。ライン交換するだけならいいよ。はい」スッ
男(乗るな!乗るんじゃない!余計にややこしくなるだけだから!)
男「はい。じゃあまたあとで連絡します」ピロリン
OL「うん、待ってるねー☆」ニコ
いや、ちげーだろ!
男「お、俺!実は他に用があってその……」
大体の事情をお姉さんにかいつまんで話した。
すると、意外な答えが返ってきた。
OL「その女の子なら見かけたよー。ものすっごく美人だから、女のわたしもつい二度見しちゃったぐらい。
多分ここからまっすぐのところを行ったんじゃないかな?」
男「そうなんですか」
OL「でも、あそこの通りはナンパの名所として有名なところだから。絶対に声かけられてるだろうねー」
男「ええええええええ!?」
OL「はやく行ってあげないと、他の男に先越されちゃうよ~?」
男「貴重な情報ありがとうございましたっ!」
OL「あはは~、頑張ってね~。ドーテイくん☆」
お姉さんはなんでもお見通しだった。
お姉さんの言っていたとおり道なりにまっすぐ進むと、やがてホテル街のようなところに入った。
先ほどまでとはうって変わって、雰囲気がアダルトになってきている。
ラブホテルの看板やキャバクラの呼び込みが目立ってきた。
ようするにエロエロなのだ。
男(ここがナンパの名所か。なるほど)
ここに来てその理由がようやく理解できた。
胸のところが大きく開いた服に、派手なアクセサリーを山ほどつけた
チャラそうなお兄さんたちが道のあちこちに待機している。
獲物を待ち構えるハイエネのような眼をギラギラさせながら。
このSSまとめへのコメント
早く、続き書きたまえ
はよ
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