電「二重人格……」 (37)

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頑張って書いた愚作ですが、おつきあいいただければ幸いです。

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電は、優しい心を持った、艦むすであった。
初期艦としてこの鎮守府に所属し、その優しさで、他の艦むすたちを支えてきた。

曙「う~……この私が大破なんて……屈辱だわ」
電「気にすることないのです! 次の出撃で、もっと成功させればいいのです」
曙「ふん! あんたみたいな三流艦にはこの誇りってものが分からないでしょうね。私たち艦むすは今を生きているのよ! 次はないかも知れないのよ! あーあ、この私があんたと同じ駆逐艦なんてヘドがでるわ」

曙の非難に対し、電はどこか悲しそうに笑い、その場を去るのだった。

この曙のように、普段は電の心遣いをけなす者も、心のどこかでは、電の優しさを感じていた。電の優しさに、依存していた。


***

提督「電、君には今日から、個室で過ごしてもらう。第六駆逐隊の子達と寝ることは、もうない」

夜、眠気に誘われていた電に、突然の命令。
電の表情が堅くなる。

提督「君は優しすぎる。味方への優しさならまだしも、敵を思いやるとは、軍人として失格だ」
電「で、でも……敵の人たちにも家族とか大切な人がいて、」
提督「ほう、家族……」

提督はニヤリと笑い、電の言葉をさえぎる。

プラズマとの二重人格かな

提督「君に家族がいるのか? いないだろう。君は武器として作られたクローンだ。試験管が、君の母親みたいなものだ。家族のいない君に、家族の何が分かる?」
電「でも、家族がいないから、人を殺して良いというのは……」
提督「口答えするな!!」

提督は電のこめかみを思い切り殴る。あまりの痛さに、電からは、涙と、かすかな嗚咽のみが聞こえてくる。

提督「お前のその腐った根性、叩き直してやる!」

提督はその日から電に、スプラッタものの動画を、寝る前に2時間、電に見せた。夜戦があろうと、かまわず見せた。
狂った人間が人をぐちゃぐちゃに殺し、歓喜している。そんな映像は電にはたまらなく辛いものだった。
最初のうちは、無意識に顔を背けていた。そうするたびに、提督は、電の指の腹に一本ずつ、ナイフで×に切れ込みを入れていった。
目の前で起こる血みどろの惨劇。体で感じる、傷の痛み。出撃時とは違う辛さが、電を襲う。

提督は、スペックは高いものの、優しすぎる電の改造として、人為的に人格を作ろうとしたのだ。

電は日に日に暗くなっていった。
提督の計画が始まる前は、夜戦時に「沈んだ敵も、出来れば助けたいのです」と呟いていた電は、今はもう何も言わなくなってしまっていた。

座学の時間や、遠征時でさえも、寝る前に見た映像がフラッシュバックして、自傷行為に走ることさえもあった。

そんな電に対して、周りの目は、段々と冷めたものになっていった。
提督との計画の口外は、堅く禁じられていた。

***

昼 食堂にて

雷「電! あんた本当にどうしちゃったの? おかしくなってもう半年くらいになるわよ!」
電「何にもないです! 大丈夫なのです!」
雷「大丈夫じゃないでしょ! あんた目が笑ってないの知ってる?」
響「そういえば、夜に使われていないはずの部屋に入っていく電を見たって話を食堂で聞いたんだけど、本当?」
電「そんなことしていないのです! 夜遅く、朝早くにみんなの部屋から出てってるのです!」
暁「ね、ねぇ……この話題やめよう……い、電もなにもないって言っているし……」
雷「! 暁! あんた電のこの壊れたような顔が分からないの! お姉ちゃんなのに!」
暁「その……だから……ね、」
提督「電! ちょっと来い!」
電「は、ハイ!!」

暁たちは皆で丸くなる。

暁「あのね、私、昨日見ちゃったのよ。さっき響が言っていた、電が使われていない部屋に入っていくのを……それで中を覗いてみたら提督と電がいてね……」
雷響「う、うん」
暁「……人が殺されていく映画見てて……うぷっ、吐きそう」
雷「……」
響「……その、場所はどこだい?」
暁「……ドッグの隣の、よく分からない部屋。私、帽子食堂に置いてきちゃって、それを取りに行った帰りに見かけて……」
電「みんな何を話しているのです!!?」
暁雷響「ビクッ!!」
雷「い、いなづま…驚かせないでよ」
電「驚かせたわけじゃないのです!」


***

この話は、直ちに、その日のうちに、噂として広まった。そして翌日、青葉が真偽を確かめるため、夜に、その場所へ行った。

しかし、その翌日、青葉は、空っぽになったような笑顔で皆に対して、「異常はありませんでした!」と言っていた。青葉の部屋からは、4等分に折られた、パナソニッ●社製4GB SDカードが見つかったらしい。

電のことに触れたら、提督に何かされる。
そんな不安が、艦隊に渦巻いた。

誰も、電を助けることは出来なかった。

電がこれ以上壊れることも、なかった。

***

計画が始まって7ヵ月後、つまり、青葉が何かを失った翌月、提督はハレンチ事件を起こし、軍隊を去った。
前々から軍組織の中でも評判が悪かったらしい。

すぐに新しい提督が着任した。

新提督は幸いに、良い人だった。
時に厳しく、時に優しく。艦むすたちから信頼される提督だった。
新提督に呼び出され、前提督にやられたことを告白する青葉。電との計画の口封じとして、青葉を犯した。

青葉は感情をむき出しにして、そのときのことを語った。提督はそんな青葉を優しく抱きしめた。
青葉は大泣きした。今まで溜め込んでいたものを全て洗い流すように、大泣きした。
泣き止むと、「青葉、今日から心を入れ替えて頑張ります!」と言って、部屋を去った。


提督は電を呼び出した。第六駆逐隊の子達と一緒に。
電の目は、深海のように、光の進入を許さない。
提督は電に、前提督にやられたことをたずねた。電は何も答えない。

提督は電の頭を優しくなで、静かに電を抱きしめた。

電の目に、感情が宿った。そして、静かに涙を流した。

「グスン……グス、司令官さん……」
電も提督を強く抱きしめた。そして、青葉と同様に、声を上げて、大泣きした。提督も、着任数日目にして、涙を流した。

しかしこの行為が、後に裏目に出る。

***

その日から、青葉と電は、本来のキャラを取り戻した。
青葉は活発で少々うっとうしい娘に、電は心優しい少女に。

しかし、狂わされた歯車は、中々修復できない。青葉は異性不信(多分提督を除く)に陥り、(男だと思っていた)Z1と距離を置いていた。
電は……

***

潮「曙ちゃん、改になったんだね! 私も頑張らないと…」
曙「ふん! 私なんだから当然ね。これでも遅いくらいだわ」
電「曙ちゃんすごいのです!」
曙「……あんたに言われるとムカつくわね。まぁ、せいぜい私の足手まといにならないように頑張りなさい」
暁「ちょっと! 何よその言い方! あんまりじゃない!」
曙「私は事実を言っただけよ。それにあんたも、自称レディならもっと冷静に現実を受け止めたらどうなの?」

そのとき、曙の胸倉を、何かが掴んだ。

電?「今言ったこと、もう一回言って」
曙「えっ。え、えと、その…」
電?「もっかい言ってよ! おい!」
曙「ひっ! ご、ごべんなざい……」
電「……ふぅ……」

電はその場で倒れた。曙は膝を突き、しばらく呆然としていた。
電は医務室に運ばれた。異常は見つからなかった。

***

電の異変は、日に日に顕著になっていった。
提督は精神科の先生を招き、電の様子を見せた。

解離性人格障害。通称、多重人格。
先生はそう、診断した。

前提督による洗脳によるものだと、鎮守府の子たちは、口をそろえて言った。

主人格、電(いなづま)。心優しい性格。
別人格、プラズマ。乱暴で、この世界を憎んでいる。

提督は、こう命名し、プラズマに対しては厳しく、電に対しては優しく当たった。

この行為が、またしても、人格の解離を図った。

***

プラズマによる反抗がエスカレートした。提督は精神科の先生に依頼し、治療を図った。
別人格の時の行動を主人格である電に見せるという治療法。
プラズマに攻撃されるであろう、危険な撮影は、青葉が引き受けてくれた。

プラズマの記憶は電にはない。その逆もまた然り

プラズマ「なにを撮ってるの?」
青葉「……」
プラズマ「ねえ、答えてよ、おい!」
プラズマは青葉を殴る。
青葉「いたっ……」
プラズマ「答えてよ。もっと力入れちゃうよ」
青葉の首を両手で絞める。プラズマの目は笑っていない。あの頃の目だ。
青葉は護身用に持たされていた催涙スプレーでプラズマを引き離し、部屋から出た。


プラズマの時の醜い姿に、電は泣いた。

***

電「……電、どうしちゃったんだろう……」

プラズマの凶暴さから、一時的に艦隊から外された電。
二重人格が完治するまで、とある一室で隔離され、ボーっとする日々を過ごすことになっていた。

プラズマ(……聞こえてる?)
電(ビクッ! だ、誰なのです?)
プラズマ(私は君。プラズマと言われている)
電(プラズマ……なんで……)
プラズマ(聞こえているみたいだね)
電(君のせいで、電は、艦隊から外されて、みんなと一緒にもなれなくて……なんで……)
プラズマ(まあまあ、それより、私のことを教えてあげる。気になるでしょ?)
電(……お願いするのです)

心の中での、別人格との会話。プラズマと電の解離は、さらに進んだ。
隔離されている間は、電の意志により、あまり表に出ることが出来なかったプラズマは、自由に出入りが出来るようになった。

ドアの窓ガラスを割り、暴れることもあった。電の隔離部屋は、ある物置部屋に移された。
そしてついに、提督は苦悩の末、電の解体を決定した。

プラズマ「…………」
北上「…―いえばさ」
大井「ハイ?」
北上「電ちゃんの解体決まったらしいよ」
プラズマ「ッ!!」
大井「あらー…そんな……」
北上「でもしょうがないよね。精神病なんでしょ」
大井「そう聞いているわ。前の提督の陰謀とかって」
北上「それ考えると、気の毒だよねー……」
プラズマ(解体……)
プラズマ(解体解体解体解体解体解体……)

***



プラズマは机を投げつけてドアを破壊し、のこぎり、バール、なわとびを風呂敷に包み、提督のもとへと向かう。
提督はまだ、仕事中だ。

陽炎「……ちょっと、お手洗い行ってきて良いですか?」
提督「ああ、こんなに遅くまで付き合わせてしまって申し訳ない」
陽炎「いえいえ。これも秘書官の務めですから」
陽炎はニコリと笑い、提督室からでる。

陽炎が提督室から離れ、数秒後に、ドアを二回たたく。入れと、提督の声が返ってくる。
プラズマ「失礼します」
提督「! 電、君はなんでここに?」
プラズマ「司令官さん、ちょっと、お願いがあるのです」
提督「いや、しかし、君は隔離されて……」
プラズマは提督にバールを投げつけ、不幸にも提督に命中する。
保険として数回、頭を殴り、提督を気絶させた。
プラズマ「司令官を解体してあげる」

プラズマは、棚で入り口を塞ぎ、提督の上着を脱がせ、机に縄跳びでくくりつける。

陽炎「あれ、開かない。司令、大丈夫ですか!? 司令! 司令!」
提督「…っ、か、陽炎……はっ、プラズマ……」
プラズマはニコリと笑いかけ、のこぎりを握り締める。
提督「な、何をするんだ、貴様!」
プラズマ「私のこと、解体しようとしていたんでしょ。その前に、提督を解体しようと思って」
提督「やめろ! 離せ! くっ……」
プラズマ「そんなこと言っても……痛い……イタイイタイイタイ!!」

主人格、電が、心の中で、止めに入る。
プラズマの体は痙攣を起こし、床に倒れ伏す

プラズマ(止めて! おい! こいつは私たちを殺そうとしたんだよ!)
電は無言で、プラズマを引っ込めようとするが、中々出来ない

プラズマ「……ぅぅ、ぁ、ああー、うぐっ……ぁ……ぁ」

電(やめて、プラズマやめて)
プラズマ(うるさい、こいつは私たちを殺そうとしたんだ。やられる前にやるのが、自然の定法ってやつでしょ!)
電(全部……全部君が悪いのです!)
プラズマ(……チッ)

電は手にあるのこぎりを思い切り、自分の腹に刺した。
激痛と入れ替わりに、引っ込むプラズマ。

ドガン
誰かが、提督室を砲撃する。他の艦むすたちが、中に入ってくる。
数人が提督の縄跳びを解く。電は、提督に話かける。

電「……もう、プラズマちゃんが司令官さんを殺しちゃう心配はないのです……司令官さん、電をこのまま解体してください」

提督は黙って、電を持ち上げる。
電「司令官さん……次に生まれてくるときは、平和な世界がいいな……」
電はニコリと微笑んで、目を閉じた。

陽炎「電ちゃん……」
提督「……電を、医務室に運ぶ」

***

電は運良くも助かり、現在、麻酔の効果で眠っている。
提督は暇な者を集め、ミーティングを開いた。
艦むすに、電を解体すべきかを問う。

不知火「私の記憶では、電ちゃんはプラズマちゃんが出てくるのを自分で操作していたように思います。ここは解体せずに、電ちゃんがプラズマちゃんを統制できるように治療するのはいかがでしょうか?」

集まった皆は、無言で首を縦に振った。

電は数日間眠り続けた末、見事全快した。
そして、提督の口から、あの日の出来事を伝えた。
電は何度も謝罪し、提督に解体を頼んだが、提督はそれを認めなかった。

今は、前と同じように、第六駆逐隊の子たちと一緒に過ごし、遠征を主に担当している。

響「遠征から戻ったよ」
提督「ご苦労。ゆっくり休んでほしい……電はもう体調は大丈夫か?」
電「もう心配ないのです。お気遣いありがとうなのです」
提督「そうか……よかったよ」
提督は電の頭を撫でる。電は顔を赤らめる。
電「はわわ……あ、ありがとう」

-FIN

<あとがき>
閲覧ありがとうございます。この場でお礼を申し上げます。
お気づきかも知れませんが、艦これをやったことがありません。ゲームが苦手でして……

>>4
ご名答です。前々から書いてみたかったもので。

ハッピーエンドでよかった
乙!

>>33
おつありです!

おつおつ

また書く時は、台詞の台詞の間は空けた方がいいデース!

ジキル博士とハイド氏思い出した
エンディングは逆で良かった(でもプラズマちゃん主人格化もみてみたかったかも)

>>35
心得ておきます。
>>36
暗い設定からのハッピーエンドが好きなんです。

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