男「今晩は、素敵なおチビさん」 (19)

初めてのSSなので、文章がおかしい所が多々あるかも知れません。そんなもの見れるか!と云う方はお控えください。それでも良いぜ!と云う方はお楽しみいただけると幸いです。

それでは、どうぞ!

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「今晩は、素敵なおチビさん。」

ーー目の前にいる若い男が云った。

俺はたちまち、逃げ出した。

1
ーー今はどうやら夜らしい。

正確に言えないのは、街の余りにも眩しい明かりの所為なのだ。

俺の目には昼も夜も同じに見える。

そんな事を考えながら、週末の大通りを、黒猫が歩いていた。

彼の自慢の鍵尻尾を威風堂々と揺らしながら。

ーーこんな話がある。

欧州では黒猫は不吉な魔女の使いとされている。

そう云う訳で彼は忌み嫌われていた。

今日もまた、闇に溶けるその体を目掛けて、非道な人間達から石を投げられた。

2
孤独には慣れていた。

寧ろ、望んでもいた。

黒猫は誰かを思い遣る事なんて煩わしかったのだ。

ーー俺は、不吉だからな。

そう、割り切っていた。

その時、彼の体が浮いたーー否、持ち上げられた。

ふと、頭を持ち上げると視線の先には若い男の顔があった。

その肩にはスケッチブック、絵筆等が入った鞄が掛けられていた。

どうやら青年は絵描きのようだ。

彼は驚愕し体が固まっている黒猫を抱いたまま云った。

絵描き「今晩は、素敵なおチビさん。僕等は良く似ているね」

その言葉を聞いた瞬間、黒猫は漸く動き出した。

ーー腕の中を・いて。

ーー必死で引っ掻いて。

そして彼は孤独への逃げ道へと走った。

ーーこんな事は初めてだ。

彼は生まれてこの方、忌み嫌われていた為、絵描きの行動に酷く驚いた。

彼の優しさや温もりがまだ、黒猫は信じられなかったのだ。

ーーどれだけ走っただろうか。

彼が後ろを振り返ると、目の前に大きな手が現れた。

ーー全く、変わり者だな。

彼はついさっき観た若い顔を見ながらそう思った。

3
それから黒猫と絵描きは一緒に住むようになり、2度目の冬を過ごそうとしていた。

絵描きは黒猫に名前をやった。

絵描き「君の名前はHoly night 、黒き幸だ」

絵描きのスケッチブックは殆ど黒ずくめだった。

何故なら、彼は黒猫ばかり描いていたからだ。

黒猫は初めて自分を愛してくれる飼い主に感謝し、くっ付いて甘えた。

ーーしかし。

ある日、黒猫は厭な予感がした。

それは、今までに自分が感じてきたものよりもずっと悲しく辛いものだった。

急いで飼い主の元へと駆けつけると、絵描きは呻きながら倒れ込んでいた。

恐らく、原因となったのはその余りにも貧しくて苦しい生活なのだろう。

元々、この残酷な世界では好きな事をして生きていける人間などあまりいない。

勿論、絵描きもその一人だった。

苦しさを堪えながら彼は黒猫に云った。

絵描き「君に頼みが有る」

絵描き「走って…走ってこいつを届けてくれ!故郷に住む僕の恋人の処へ!」

絵描き「…彼女はずっと…ずっと待っているんだ。夢を見て故郷を出た僕の事を…」

絵描き「…僕はもう限界らしい。だから君に託す、さあ行くんだ!」

不吉な黒猫の絵など売れないのに、何故アンタは俺だけを描いたんだ。

だからアンタは冷たくなってしまったんだろう。

ーー解った。

アンタの想いーー手紙は確かに受け取った。

4
黒猫が業を背負い、山路を走っていると雪が降り出した。

その猫の口には今は亡き親友の絵描きとの約束ーー手紙が咥えられている。

ーーカチ、カチ。

何の音だろう。

顔を挙げると、そこには歓喜に満ちた表情をした子供たちが居た。

子供達「見ろよ!悪魔の使者だ!」

彼等は笑いながら石を投げてきた。

ーー痛い。

例え小さな小石でも数が増える程相当なダメージを負う。

それでも黒猫は走り続けた。

ーー何とでも呼ぶがいいさ。

俺には消えない名前が有るからな。

走っている黒猫の脳裏にはとある情景が浮かんでいた。

ーー『Holly Night 』

絵描きは自分を『聖なる夜』と呼んでくれた。

カッコつけているかも知れない。

だが、その言葉には彼の優しさや温もりを全て詰め込まれていた。

ーー忌み嫌われた俺にも生きる意味が有るのだろうか。

そんな事を今まで考えてきた。

しかし、絵描きに会った後は判る。

この日の為に生まれて来たのだ。

そして黒猫は叫んだ。

「何処までも走るよ!」

5
彼は辿り着いた。

親友の故郷である。

彼女の家はどうやら後数キロ先らしい。

ーーもう少しだ。

彼は止まった脚をゆっくりと動かした。

ーー否、動かそうとした。

しかし、彼は転んでしまった。

直ぐに起き上がろうとするが、力が入らない。

彼は既に満身創痍だった。

それでもなお、立ち上がろうとする。

しかし、神は非情だった。

此処でも罵声と暴力が傷付いた小さな命に襲いかかった。

ーー負けるか。

俺はHolly Nightだ。

親友との絆を信じ、千切りそうな手足を引き摺り、なお走った。

そうして、彼は彼女の家を見つけた。

6
女は家の前に倒れていた動かない黒猫を抱き抱え、その猫が咥えていた男からの手紙を読んでいた。

そして、小さく、呟いた。

恋人「ーーそう。彼はもうーー」

女は涙を浮かべ、

恋人「ーー有難う。小さな猫ちゃん」

と云った。

微笑みながら黒猫を見つめ、庭へと向かった。

彼女は黒猫の為に墓を作ってやり、そっと彼を寝かせた。

そして、墓石の名前にはあるアルファベットが加えられていた。

ーー『聖なる騎士 Holly "K"night』

御察しの良い方はお判りだと思いますが、これはBUMP OF CHICKEN の『K』を題材に作りました。

文章力に自信はないのです。すみません。

読んで頂き、有難うございました。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年01月23日 (金) 05:03:28   ID: I93rAH3o

手紙を読んだ恋人はもう動かない猫の名にアルファベット一つ加えて庭に埋めてやった聖なる騎士を埋めてやった

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