ヤンデレロンパ ~希望のヤンデレと絶望の兄~ (1000)

モノクマ劇場

オマエラ、はじめまして!ボク、モノクマえもん!

…ちょ、冗談!冗談だから石を投げつけないで!

まったくもう、近頃のゆとり世代はすぐに訴訟へ走ろうとするんだから。ここはアメリカじゃなくて日本なの!事なかれ主義なの!波風立たせないの!和を以て貴しとなすの!

って、そんな話はどうでもいいんだった。早速だけど、注意事項だよ!

1・このssはヤンデレの女の子に死ぬほど愛されて眠れないCD×ダンガンロンパのクロスオーバー物だよ。といっても、ヤンデレの女の子に死ぬほど愛されて眠れないCDのキャラがダンガンロンパするだけだから、ダンガンロンパシリーズのキャラはボクぐらいしか登場しないのです。ま、ダンガンロンパシリーズの主役はボクだからね!仕方ないよね!

2・ヤンデレの女の子に死ぬほど愛されて眠れないCDの主人公はCDを聴いているオマエラ自身であるという作品の設定の都合上、シリーズ各作品の主人公はこちらが用意したオリキャラになってしまうんだ。ヒロインたちは原作準拠だから安心してね!

3・ダンガンロンパシリーズのネタバレは極力避けるつもりだけど、プレイ済の人にはクスリとくるようなネタを仕込んでいくつもりだし、ヤンデレCDシリーズに関してはガッツリネタバレしちゃうから、あらかじめ購入して聴いておくことをオススメするよ!今ならAndroidアプリでダウンロードも出来るからね!詳しくはEDGE RECORDSの公式ホームページで!(巧妙なステマ)

4・エロ・グロ・シモ・パロ・鬱展開満載のサイコポップなカンジは本家にも負けないくらい詰めていくつもりだよ!当然、好きになったキャラも会いたくて会いたくて震えながらではなく、藁のように死ぬかもしれないから、気を付けてね!

以上に関して不快感を覚える人は、今すぐパソコンの電源ボタンを長押しして強制シャットダウンをするんだ!

――それではお待たせしました。

ヤンデレロンパ ~希望のヤンデレと絶望の兄~

はっじまるよー!




SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1420985746



拝啓、お父様とお母様へ。
目が覚めるとそこは、見知らぬ天井でした。


 なんてボケという名の現実逃避はさておき。…ここは一体どこなんだ?

 少なくとも俺の部屋ではない、よな、うん。俺の部屋ならもうちょっと散らかってるはずだし。見たところホテルの一室って感じだよな。それも俺みたいな一般庶民がおいそれと泊まれるような安宿なんかじゃなくて、駅前の高級ホテルみたいな。シングルだけど、家の俺の部屋より広いし。

 そもそも俺はどうしてこんなところにいるんだ?昨日もちゃんと自分の部屋で寝た筈だ。…まさか誘拐?
いやいや、確かに親父は警察官だがそんなにお偉いさんでもないし、身代金ふんだくれるほど家も裕福じゃないし、何か功績を挙げるられるほど俺自身が立派な人物というわけでもないし…。なんか虚しくなってきたな。


取り敢えず現状を整理していこう。俺の名前は主人公(オモヒトコウ)。淵録(ふちろく)高校の3年生。勉強の成績は平均よりちょい下って感じだが、体育の成績は割といいほうだと自負している。

俺は悪霊に取り憑かれてもいなければ、異能を打ち消す右手を持っているせいで不幸続きの人生を送っているわけでもないし、薬を飲まされて体が縮んでしまうようなこともなく、祖父が名探偵だとかいう特別な家系に生まれてきたわけでもないし、ある日突然なにかの能力に目覚めたわけでも、偶然の出会いで人生が変わってしまった経験があるわけでも、指輪が外せなくて日々トラブルに巻き込まれているわけでもない。どこにでもいるごく普通の一般的な男子高校生だ。王道という言葉さえ裸足で逃げ出す、というのは言いすぎかもしれないが、特にこれといって誰かに自慢できるような特技も特徴もないのは事実だ。


…だからって名前ネタでいじるのは無しな。「主人公ww」とかほざいた奴は後でしばき倒すからちょっとツラ貸せよ?

で、そんな平々凡々な俺がこんな所に連れてこられた理由だ。
誘拐はさっき否定したんだったな。誰かに恨みを買うなんてこともしてない…、筈だ。
学校に行って授業受けて部活やって家帰って寝る、なんて当たり前な日常しか送ってない。
逆恨みなんてのも考えられるかもしれないが、それでこんな上等な部屋を用意するのは何とも不自然だ。

…駄目だな。全く訳が分からない。
置かれている状況に対して圧倒的に情報が足りない。


|>調べる

|>窓

 窓から外を見れば、俺が今どこにいるのか分かるかもしれない。

 覗いてみると、外の気温と室温と大分差があるのか一面水滴だらけで向こう側がよく見えない。
 ひどく冷えた結露をぬぐって目を凝らしてみても真っ暗闇が広がるだけ。
 一つの明かりもなく、ただ窓に張り付く雪の量が、吹雪荒れる空模様を知らせてくれる。
 この様子ではたとえ外が明るかったとしても30mから先が見えるかどうか…。
 とりあえず分かることは、町の明かりも届かないような山奥かどこかにあるホテルだってことぐらいだろうか。
 おまけにこんな天候じゃ自力脱出は多分無理だな。


|>調べる

|>机

 机の上に何か置いてあるな。見るところ、パンフレットのようだ。
 なになに…、『私立希望ヶ峰学園入学案内』…?



私立希望ヶ峰学園って言えば、都内の一等地に校舎を構える超名門校じゃないか。
あらゆる分野の超一流高校生を集め、育て上げることを目的とした、政府公認の超特権的な学園だったはずだ。
卒業すれば将来の成功を約束されたも同然、とも言われている。
で、その希望ヶ峰学園の入学案内が何だってこんな所に…?


パンフレットに封筒が挟まっている。宛名は、『主人公様へ』…?
俺の事、だよな?オモヒトコウって書かれてあるんだよなこれ。シュジンコウじゃないんだよな?
でもなんで俺なんだ…?俺には特別な才能なんてない筈なんだが…。


 希望ヶ峰学園に入学するための条件は二つ。
 “現役の高校生であること”と“各分野において超一流である”こと。
 この二つを満たす者だけが学園からスカウトを受け、入学を許可されるわけだ。前者は問題ないとしても、後者だよなぁ。
 いや、可能性はあるか。一応、普通の高校生でも運が良ければ希望ヶ峰学園に入学できる。
 全国の一般的な高校生の中から抽選で一人だけ、“超高校級の幸運”としてスカウトされる。
 今回の場合は、俺がその“超高校級の幸運”かも知れないわけだ、というより、それ以外に思いつかない。
 確かめなくてもいい気はするが、一応俺が何の才能で選ばれたのか、確かめてみるか。

『主人 公 様
貴方を超高校級の主人公候補生として我が校に招き入れる準備をさせていただきました。』

 え、何。俺の事おちょくってるの?嘗められてる?馬鹿にされてるのか俺?
 っていうか、“候補生”ってなんだ、候補生って。

『これから行われる強化合宿にご参加いただき、全ての課程を修了していただきますと、晴れて我が校に入学する権利が与えられます。』

 これは喜んでいい、のか?超高校級の主人公なんてどんな才能なのか全くわからないし、というか名前をネタにされるから分かりたくもないけど、普通オブ普通の俺があの希望ヶ峰学園に入学できるかもしれないんだもんな。

『つきましては18:30にホテル1階のロビーにお集まりください』

 あ、もう参加することは確定なんですか。あぁそうですかそうですか。っていうかここに連れ込まれてる時点で参加確定ですもんね畜生。


ベットに備え付けてある時計を見ると、18:20を表示していた。集合時間まであと10分か。
…ちょっと急がないとまずいか?

これ以上ここにいても何の収穫もなさそうだし、一度外に出て情報を集めておいたほうがいいかもしれないな。
ロビーに行けばこのホテルが何処に建っているか分かるかもしれない。


 廊下に出た。

 そこらの安ホテルとは格が違うといわんばかりの広く明るい廊下。各部屋の扉にすら高級さを感じる。
 時間ぎりぎりに集合場所につくのも気まずいし、すぐに一階のロビーに行った方がいいかもしれない。

 左手にエレベーターホールと、そこでエレベーターが来るのを待っているらしい女子の二人組が見える。
 あの二人に話を聞いてみれば何か分かるかもしれないな。


 エレベーターを待っていた二人はどことなく顔が似ている。姉妹だろうか?

 一人は背が高くて、儚げな雰囲気のある美人で、男子の制服を着ている。趣味なのだろうか?

 もう一人は小柄で小動物的な可愛らしさのあるツインテールの少女だ。男装している方の傍から離れようとしない。


???
「ねぇ、キミさ、さっき部屋から出てきたよね?ひょっとして希望ヶ峰学園の?」

 話しかけようと思ったら先に背の高い方が話しかけてきた。まぁ、好都合だな。

オモヒト コウ
「あぁ、そうだ。キミたちもか?」

???
「そ、ボクは野々原澪。一応、超高校級の幸運なんだ。末尾に候補生が付くけどね。よろしく」


超高校級の幸運候補生
 ノノハラ レイ 



ノノハラ レイ
「で、こっちは妹の渚。ほら、挨拶ぐらいしなよ」

???
「野々原渚、です。超高校級の妹候補生、です」


     超高校級の妹候補生
      ノノハラ ナギサ



 渚はそれだけ言うと、澪の背後に隠れた。
 …避けられてるみたいで、ちょっと傷つくな。

ノノハラ レイ
「はは、ごめんね。渚ってば人見知りみたいで。あぁ、でも、家事の腕前は抜群なんだ。ボクの自慢の妹さ。その辺を評価するあたり、希望ヶ峰学園も分かってるよね」

 若干シスコンのケがあるんだろうか。べた褒めだな。すっごいいい笑顔してるし。


オモヒト コウ
「そういうキミも、何か特別な才能でもあるんじゃないのか?」

ノノハラ レイ
「まさか。ボクなんて平和な日本の一介の通常の普通の並大抵の通り一遍のただのありふれた一般的な男子高校生だよ」

 普通の高校生はそんなに同義語を並べて喋れないだろ…。


 …ん?今男子高校生って言ったか?



オモヒト コウ
「なぁ、一応確認しておきたいんだけど、澪って男、なのか?」

ノノハラ レイ
「何をいまさら…、あぁ、そう、キミもボクのことを女だと思ってたわけ」

オモヒト コウ
「あぁ、いや、その…。スミマセン…」

ノノハラ レイ
「まぁ、落ち込まなくたっていいよ。よく間違われるからね。
 レイなんて男女両方に使うし、漢字だけ見たら普通レイじゃなくてミオって読むから、紛らわしいったらありゃしない」

 名前だけじゃなくて顔も、なんだけどな。男だって言われた今でも信じられないくらい女性的な顔立ちだ。
 もしかして本当は超高校級の…。

ノノハラ レイ
「超高校級のニューハーフみたいだ、とか言ったら蹴っ飛ばすからね?」

オモヒト コウ
「げ!声に出てたのか?!」

ノノハラ レイ
「顔に出てるよ。まったく失礼しちゃうね。で?キミの名前と肩書は?」

 ちょっと不機嫌そうだな。いや、この話題はもうよそう、蹴っ飛ばされたくないし。自己紹介が先か。



オモヒト コウ
「俺は主人公。…超高校級の主人公候補生、だとさ」

 …ひょっとしてこの名乗り毎回しなきゃいけなくなるのか?
 言ってるこっちがこっぱずかしくなるなこれ。

ノノハラ レイ
「ぷぷっ。主人公って名前の割にはモブ顔だよね。名前負けしちゃってるじゃん。よっ!主人公(笑)!」

 貴様人が一番気にしていることを…っ!
 いや、俺もさっき同じようなことをしてしまった以上…、いや、俺は思っただけで口にしたわけじゃ…、でも相手を不快にさせてしまったという点では同じなのか?
 …あぁもうムシャクシャする!

ノノハラ レイ
「いやぁごめんごめん。気に障った?
 そんなに怒らないでほしいなぁ。許してよ、何でもしないから」

オモヒト コウ
「…しないのかよ」

 一体何なんだこいつ…。掴み所がまるでないな。

ノノハラ レイ
「あ、エレベーター来たよ。時間も時間だし、いそご?」

 おまけにかなりマイペースだぞこいつ…!


 エレベーターに乗って一階へと降りて行った。

 ロビーにはすでに何人か来ていたようだ。

 見た限りでは、男子が一人、女子が7人、か?

 ちょっと、いや明らかに女子が多いぞ。偏りすぎだろ。



ノノハラ レイ
「あれ、綾瀬じゃん。何でここにいるのさ?」

 澪が大きなリボンでポニーテールにしている女子に話しかけた。どうやら知り合いらしい。

???
「澪?!
 えっと、わたしは超高校級のピアニスト候補生としてここに呼ばれたみたいなんだけど、澪は?」

ノノハラ レイ
「ボクは幸運らしいよ。
 あぁ、公。紹介しておくね。彼女は河本綾瀬。
 家が隣同士で、幼馴染なんだ」


     超高校級のピアニスト候補生
       コウモト アヤセ


ノノハラ レイ
「それにしても、超高校級のピアニスト、ねぇ?」

コウモト アヤセ
「何が言いたいの?」

ノノハラ レイ
「別に?
 『リストがまだ弾けないのにその肩書は勿体ないんじゃない?なんて口が裂けても言えないなー』
 とかは、微塵も思ってないんだよ?」

 思いっきり口にしてるじゃないか…。

コウモト アヤセ
「…そんな酷いことを言うのはこの口かな~?」

ノノハラ レイ
「いひゃいいひゃい!ひゃえふぇ~!」

 ほれみろ。言い終わるなりすぐ頬の裏に両手の親指突っ込まれて横に広げられてやんの。
 なんか渚の方も無言で睨み付けてるし。


コウモト アヤセ
「もう、今度そういうこと言ったらもっときついのやるわよ?」

ノノハラ レイ
「分かった、分かったよ!
 …もう、ちょっとは手加減してくれないかなぁ?」

コウモト アヤセ
「何か言った?」

ノノハラ レイ
「ナンデモアリマセンヨー…お?」

 そんな棒読みでそっぽ向きながら言っても全然説得力ないからな?
 で、何かに気付いたのか?

ノノハラ レイ
「ふーん、園子さんも来てるんだ。ちょっと意外だな」

 そういう澪の視線は暗い青髪のロングストレートの女子に向いていた。
 彼女もこちらに気付いて近づいてくる。

オモヒト コウ
「知ってるのか?」

ノノハラ レイ
「柏木園子、クラスメイトだよ。
 で、キミはどんな才能でここにいるのかな?」

???
「私は、その…。超高校級の園芸部員候補生、です」


     超高校級の園芸部員候補生
       カシワギ ソノコ


ノノハラ レイ
「ふぅん、そっか。まぁ妥当…かな?」

オモヒト コウ
「何なんだその間は」

ノノハラ レイ
「いや、別に?
 廃部寸前の園芸部を立て直したのが果たして妥当かどうかを決めかねてただけだよ?」

 それって結構凄いことなんじゃないか?
 廃部寸前の部活ってアニメとかじゃ結局何とかなることが多いけど、現実じゃそうも行かないだろうし。

カシワギ ソノコ
「超高校級、なんて畏れ多いです…。
 それに、園芸部も私だけじゃどうしようもありませんでしたし…。
 野々原さんの手助けがあったからですよ…」

ノノハラ レイ
「いいよその話は。ボクがやったことと言えばキミの背中を押しただけなんだから。
 園芸部はキミ自身の力で再興させた。それでいいじゃない」

カシワギ ソノコ
「そう、ですね…。野々原君がそう言うなら…」

 …本当にこいつは何者なんだ?
 普通を自称しておきながら普通じゃないところの方が多くないか?
 澪のことを普通呼ばわりしたら俺は一体何なんだ、空気か?背景か?くそっ。


 若干ブルーになりながら辺りを見回すと、見知った顔と目が合った。
 長い金髪を赤いリボンでツインテールにした、傲岸不遜なお嬢様然とした少女は、俺の知っている限りでは一人しかいない。
 彼女は気品を損なうことなくかつ早足でこちらに歩み寄ってくる。
 近づけば近づくほど他人の空似という考えは消えていった。
 もう目の前にいる彼女は間違いなく俺の知り合いだ。

???
「あ、あなたは!」

オモヒト コウ
「げぇっ、咲夜!」

 この態度や声は、もう間違えようがない。咲夜だ。何でこんなところに…?

ノノハラ レイ
「え、何?誰?知り合い?」

 知り合いっていうか何ていうか…、同じ学校に通ってるけどこっちが一方的に絡まれてるだけというか…。

???
「ふん。超高校級の令嬢、綾小路咲夜とはこの私の事よ!ひれ伏すがいいわ!」


     超高校級の令嬢候補生
     アヤノコウジ サクヤ


オモヒト コウ
「候補生、が抜けてるぞ」

アヤノコウジ サクヤ
「別にいいわよ、もう私で決まってるようなものなんだから!」

 おいおい…。決めるのは希望ヶ峰学園だろ?勝手に決めていいのか?

ノノハラ レイ 
「いいんじゃない?
 日本屈指の財力を誇る綾小路財閥のご令嬢を超えるご令嬢なんてそうそういないんだし」

 そう言われてみれば、そうだろうけど…。なんか、なぁ?

アヤノコウジ サクヤ
「…全く、失礼しちゃうわ。
 超高校級の令嬢は私で決まりだっていうのに“候補生”なんて。
 大体こんな辺鄙なところに連れ込まれるなんて、すぐにでも責任者に文句言ってやるんだから!」

 その点にはまったくもって同意だ。
 本人の意思とは無関係にホテルに連れ込むなんて拉致監禁…誘拐となにも変わらないじゃないか。
 だけどこのままだと咲夜の愚痴にいつまでもつき合わされかねないな。早々に切り上げよう。


――非常に中途半端となってしまいましたが、今回の投下は以上とさせていただきます。

――次回の更新は本日の昼頃を予定しておりますので、それまで少々お待ちくださいませ。

――誤字脱字等のご指摘がございましたらどうぞ御気兼ねなくおっしゃってください。

――それでは画面の前の皆様方、お休みなさいませ。

面白い
期待


――>>34様、ご期待頂き感謝の極みでございます。これからもお楽しみ下さいませ。

――それでは、再開いたします。


 巫女装束を着た黒髪ロングストレートの女の子にも、見覚えがあった。
 あちらも俺に気付いたみたいで、様子を窺ってようだ。近づいて話を聞いてみるか。

オモヒト コウ
「なぁ、もしかして伊織、か?」

???
「主人、さん?」

オモヒト コウ
「キミもここにいるってことは…」

???
「はい。超高校級の巫女候補生に選ばれました」


     超高校級の巫女候補生
      ナナミヤ イオリ


ノノハラ レイ
「どういう間柄なのさ、キミら」

オモヒト コウ
「クラスメイトだよ。七宮伊織、七宮神社っていう神社の巫女をやってるんだ」

 真面目で清楚な印象をうける彼女は、巫女装束を着ていることもあってまさに「巫女中の巫女」って感じだ。

ナナミヤ イオリ
「神にお仕えするのが私の役目…。
 超高校級の巫女として選んでもらえるのは、晴れがましいです。
 ……こうしてアナタに逢えたことにも、感謝すべきですね」

オモヒト コウ
「え?それってどういう意味なんだ?」

ナナミヤ イオリ
「な、何でもないんです。気にしないでください」

ノノハラ レイ
「…公、キミはもう少し女心ってやつを理解しておくべきだよ」

 何で俺が非難される流れになってるんだよ…。


 待ち時間が暇なのか仲良く手遊びしている二人もいるみたいだな。顔もそっくりだし、双子だろうか?
 巫女装束の伊織も結構目立ってたけど、この二人のゴスロリっぽい服装もかなり目立つよな。
喪服みたいな黒い衣装だし。
 その双子は俺たちの視線に気が付いたのか、こっちに駆け寄ってきた。
 まさか「イヤらしい視線で私たちを見るなんて、セクハラよ!」とか怒られたりして。
 そんなわけない…、よな?

 ドレスみたいな服を着て左目に眼帯をつけた長髪の女の子と、タキシードみたいな服を着て右目に眼帯をつけた短髪の女の子は丁寧におじぎをした。

???
「ナナです。こんばんは」

???
「ノノだよ、こんばんは、お兄ちゃん!」



     超高校級の双子候補生
      ナナ / ノノ


 二人が手に持っているものは希望ヶ峰学園からの招待状で、そこには“超高校級の双子候補生”という文字があった。
 なるほど顔も仕草も瓜二つで、まさしく双子という言葉がしっくりくる。
 でも、この二人の声や姿はとても現役の高校生には思えないんだよなぁ…。

ノノ
「お兄ちゃん、ノノたちと遊んでよ」

ナナ
「遊びましょう、お兄ちゃん。いいでしょ?」

 なんかほんと、仕草とか態度とか、小学生か中学生くらいにしか見えないし…。

オモヒト コウ
「いやぁ、そろそろ集合時間なんだし、俺もまだ挨拶しに行けてない人もいるしさ?後でいっぱい遊んであげるから、な?」

ナナ
「むぅ~。ほんと?ちゃんと遊んでくれる?」

ノノ
「約束してくれる?」

 二人そろってだだをこねるところとかも、やっぱり子供っぽくて高校生には見えないな。

オモヒト コウ
「あぁ、約束だ」

ナナ/ノノ
「「わぁい!お兄ちゃん大好き!」」

 でも、そういうところが可愛らしいと思えてくるんだよな。

ノノハラ レイ
「…ひょっとして公ってそっちの趣味があったりする?もしそうならあまりはっきり言いたくないけど同じ空気を吸いたくないっていうか…」

オモヒト コウ
「違うからな?!」

 おまけにかなりキッパリ言ってるじゃないか!嘘でも傷つくぞ?!


 ふとエレベーターホールを見ると、たった今エレベーターがこの階についたみたいだ。また新しく誰か来るんだろうか。
 エレベーターのドアが開く。
 そこにいたのはまたもや俺のよく知っている女の子だった。
 遠目でもわかるピンクのショートヘアーにアンミラみたいな服、間違いなくあいつだ。

???
「お兄ちゃ~ん♪」

 そいつはエレベーターから降りてきて早々、俺に抱き付いてきた。
 周りに人がいようとお構いなしだ。

オモヒト コウ
「夢見!やめろってこんなところで抱き付くのは!大体お前何でここにいるんだよ!」

 俺がそういうとこいつは待ってましたと言わんばかりに希望ヶ峰学園からの招待状を突き付けてきた。

???
「今のあたしはね、超高校級の理髪師候補生、小鳥遊夢見だよ!」


     超高校級の理髪師候補生
      タカナシ ユメミ


ノノハラ レイ
「妹みたいだけど、苗字が違うのは複雑な家庭の事情?」

オモヒト コウ
「ただの従妹だよ。隣に住んでるんだ。それよりもなんだよ理髪師って。お前が人の髪切ってるとこ見たことないぞ」

タカナシ ユメミ
「そんなことないよ?ハサミの扱いに関しては自信あるんだから!」


 答えになってないぞー…。
 大体、ハサミで相手の髪切れれば床屋になれるってわけじゃないだろ…。
 っていうかいい加減離れてくれませんかねぇ…。


???
「あー、ちょっといいかい?僕にも自己紹介をさせておくれよ」

 さっきの中で唯一の男子がこっちに悠々とやってきた。
 制服の上にパーカーを羽織った短髪でメガネの優男は、手に一輪のバラを持っている。
 何ともキザッタらしい奴だ。夢見も俺から離れてお前のこと避けていったぞ。

???
「僕は梅園穫。超高校級の外交官候補生だよ、よろしく!」


     超高校級の外交官候補生
      ウメゾノ ミノル


ウメゾノ ミノル
「特技はね、これ!」

 持っているバラの花と茎と小さなハサミで切り分けると、花と茎を握った右手の中に押し込んだ。
 左手で指を鳴らし右手を開くと、切られたはずのバラが繋がっている。

オモヒト コウ
「手品か」

ウメゾノ ミノル
「マジックって言ってほしいなぁ。だってほら、その方がオシャレじゃん?」

 そういうものなのか…?


ノノハラ レイ
「え、今のどこが不思議なの?」

オモヒト コウ
「お前見てなかったのか?切られたはずのバラが元に戻っただろ?」

ノノハラ レイ
「いやさ、切ったバラと切ってないバラを素早く入れ替えただけじゃん。
 誰だってできることない?」

 え、マジで?全然気が付かなかったぞ。
 梅園もなんだか苦笑い浮かべて困惑してるみたいだ。

ノノハラ レイ
「最初持ってたのと今持ってるのとでは棘の数や位置が違うじゃない。
 入れ替えたバラは今両袖の中に入っているはずだよ?
 茎は左、花は右なんじゃない?」

 梅園は左袖からバラの茎を、右袖からバラの花を取り出した。
 澪の指摘通りだ。化け物かよこいつ。

ウメゾノ ミノル
「そんな所まで見られてるなんて…。ちょっと自信なくすなー」

 そんなに落ち込まなくていいと思うぞ。こいつが異常なだけだから。

ノノハラ レイ
「あぁ、ごめんね?これでも、視力と記憶力にはちょっと自信があるんだ」

 ちょっと所じゃないんですがそれは…。


???
「ぶふっ!あはははっ!!」

???
「お、お姉さま、はしたないですよ」

ウメゾノ ミノル
「わ、笑うなぁっ!」

 失態をさらした梅園を笑いながら指をさし、追い打ちをかける長い茶髪をポニーテールにしている女子と、それを諌める同じ色の髪のセミロングの女子は、どうやら梅園と知り合いのようだ。
 笑っている方はツボに入ったらしく、身をかがめて腹を抱えている。

???
「あー、可笑しい。…あぁ、あたしは桜ノ宮亜梨主よ。
 そいつのことは好きにしてもらって構わないから。あたしが許す」

???
「何を言ってるんですか、もう!お姉さまったら…。
 あの、桜ノ宮慧梨主、です。お姉さまの言ったことは気にしないでくださいね?」


     超高校級の助っ人部員候補生
      サクラノミヤ アリス


     超高校級の文芸少女候補生
      サクラノミヤ エリス


ウメゾノ ミノル
「二人とも僕とは遠縁の親戚なんだよ」


サクラノミヤ アリス
「ちなみに、あたしは超高校級の助っ人部員候補生で、慧梨主は超高校級の文芸少女候補生だから」


ノノハラ レイ
「…もしかしてさ、亜梨主さんと慧梨主さんも双子だったりする?」


サクラノミヤ エリス
「はい…。双子のくせに全く似てないってよく言われますけどね…」


 確かに、見るからに社交的な姉と内向的な妹はまるで対称的だな。

 目つきも違っていて、同じ顔には見えない。


ノノハラ レイ
「まぁ、気にしなくていいんじゃない?双子って言っても結局自分以外は他人なんだし。

 そっちのほうがアイデンティティがあっていいと思うけど」


オモヒト コウ
「お前な、そういう言い方はどうなんだよ…」


オモヒト コウ
「そろそろ時間だが、…これで全員か?」


ウメゾノ ミノル
「いや、実はあと三人いるんだけど、外に出てっちゃったんだ。

 嫌な予感がするって言ってさ」


オモヒト コウ
「何だって?!自殺行為だろそんなの?!」


ウメゾノ ミノル
「僕だって止めたけど聞く耳持ってくれなかったんだよ!

 まぁ、防寒着やロープや食料を持って行ったから最悪の事態にはならないと思うけど。

 三人一緒に行動してるみたいだし」


 本当に大丈夫なんだろうな…?


――バン!


 玄関の木製のドアが勢いよく開けられる。

 ドアを乱暴にあけたのは、2mはかくやという体格の大男だ。

 ニット帽やマフラー、手袋等の防寒具に加えスキー用のゴーグルをつけ、スキーウェアも着込んでいる。

 着膨れしてはいるが、それを考慮に入れたうえでもかなりの威圧感がある。

 続いてメイド服を着た女性とかなり小柄な女子が入ってきた。

 二人とも厚手のコートを着ていて、先ほどの大男と同様に手袋とマフラー、スキー用のゴーグルを着用している。



ウメゾノ ミノル
「どうだった、外の様子は?」


???(大男)
「駄目だな。真っ暗なうえにこんなに吹雪いてちゃこの建物から離れることもままならない」


 やっぱりそうか…。

 どうして希望ヶ峰学園はこんな天候の日に俺たちをここに連れ込んだんだ?

 こんな吹雪じゃここまで来るのにも大変だろうに。


???(大男)
「そっちの奴らははじめまして、か?」


オモヒト コウ
「あ、あぁ。俺は主人公だ。そっちは?」


???(大男)
「俺の名前は増田勇だ。超高校級の画家候補生ってことになってる。」


???(メイド服の女性)
「超高校級のメイド候補生、ユーミアと申します。お見知りおきを」


???(小柄な女子)
「ボクは朝倉巴。よろしくね♪」



    超高校級の画家候補生
      マスタ イサム


    超高校級のメイド候補生
        ユーミア


    超高校級の人形遣い候補生
       アサクラ トモエ


 三人は身に着けていた防寒具をとり、素顔をあらわにする。


 増田はその体格に見合った精悍な顔立ちで、筋骨隆々という言葉がピッタリだ。

 短く刈り上げた茶髪はおそらく地毛で、彼のスポーツマンらしさを助長させている。

 多分、超高校級のボディビルダーと言われれば信じてしまうだろう。


 ユーミア金髪のセミロングで、青を基調にしたロングスカートのメイド服を着ている。

 整った顔立ちは、まるで人形が息をして動いているかのような錯覚さえ与えるかもしれない。


 朝倉も可愛らしさという点においては人形のようだ、と言えるかもしれない。

 色素の薄い髪をツインテールにして無邪気にふるまうさまは、とても愛嬌がある。



ウメゾノ ミノル
「三人とも無事でよかった…。」


マスタ イサム
「命綱のおかげだな。これがあったからここまで戻ってこれたんだ」


アサクラ トモエ
「吹雪で前が見えなくなったときはどうなることかと思ったよー」


ユーミア
「マスタ…さんの素早く的確な指示がなければユーミアたちは…」


マスタ イサム
「いや、そもそも外に出ようって言ったのは俺だしな。

 俺のせいで二人を死なせるわけにはいかないって思っただけさ」


ノノハラ レイ
「…ねぇ。ちょっと聞いていい?外に出たときさ、キミたち以外の足跡ってあった?」


マスタ イサム
「そういやなかったような…。でもだから何だっていうんだ?」


ノノハラ レイ
「いや、別にいいんだ。ちょっと気になっただけだし。気にしなくていいよ」



 そういわれると逆に気になるぞ…。


コウモト アヤセ
「…もう集合時刻過ぎちゃったね」


ユーミア
「これで全員集まったのでしょうか?」


ウメゾノ ミノル
「そうじゃないかな?さっきからエレベーター動いてないし」


マスタ イサム
「全部で16人か。ちょっとキリが悪いな」


ノノハラ レイ
「そう?2の2乗の2乗なんだからかなりいい数字だと思うんだけど」


オモヒト コウ
「それはお前だけだろ…」


アヤノコウジ サクヤ
「ちょっと、呼びかけておいて自分は遅刻するとかどういうこと?」


 一通り自己紹介を終えてしまって、指定された六時半を過ぎても何の変化もない。

 訳も分からず連れて込まれた俺たちの不満が沸々と沸き立ち始めた。

 その時、どこかで聞いたことのあるようなだみ声が受付のカウンターから聞こえた。


???
「えー、お待たせしました!それでは早速、ボクの方から説明させていただきます!」



 その声にはっとして受付のカウンターを見る。

 そこにはクマのぬいぐるみが飛び上がってカウンターの上に着地する光景があった。

 おまけにそのクマのぬいぐるみは、半分は白くて優しそうな顔でもう半分は黒くて狂暴な顔をしている。

 キカイダーの白黒なクマバージョンみたいな悪趣味さが、その光景の狂気加減を増幅させていた。

 一体何の冗談なんだこれは…。


???
「ボクはモノクマ!希望ヶ峰学園の、学園長なのだ!」



    希望ヶ峰学園 学園長
       モノクマ


――我らが希望ヶ峰学園学園長ことモノクマが登場したところで今回の投下はここまでとなります。

――次回はおそらく17日の夜になると思います。

――感想、ご指摘等ございましたら気兼ねなくお書き込みくださいませ。

とりあえず男全員死ぬところまでは予想できた

ハッピーエンドになる気が全くしないんだよなぁ…


――>>67様、並びに>>68様 まぁダンガンロンパでございますから多少はね?

――それでは再開いたします。


 は?今こいつ何て言った?

 希望ヶ峰学園の学園長?

 この人体模型のなりそこないみたいなこいつが?

 冗談だろ?


ウメゾノ ミノル
「キェェェェェェェアァァァァァァァァシャァベッタァァァァァァァァ!!」


サクラノミヤ エリス
「しゃ、喋るどころか動いてますよ?」


サクラノミヤ アリス
「なにあのヌイグルミ、趣味悪…」


モノクマ
「違うよ!ヌイグルミじゃなくて、モノクマなの!」


 そこはこだわるべきところなのか…?


ノノハラ レイ
「へぇ。最近はクマみたいな猛獣でも教員免許が取れるんだ」


ノノハラ ナギサ
「あっさり受け入れすぎだよお兄ちゃん!」


アヤノコウジ サクヤ
「どうでもいいけど、どういうことか説明しなさいよ!この綾小路咲夜をいつまで待たせるつもり?!」


モノクマ
「あー、はいはい。ご静粛に、ご静粛に。進行も押しているのでチャッチャと済ませちゃいましょう」


 ここまででもかなりいっぱいいっぱいなんだ…。

 頼むからもうこれ以上俺たちを混乱させるようなことは言わないでくれ…。


モノクマ
「オマエラには招待状にも書いてある通り、

 これから希望ヶ峰学園の生徒として相応しくなってもらうための強化合宿に参加してもらいます!

 期限は一生!

 学園長ことこのモノクマが、オマエラを希望ヶ峰学園の生徒として相応しい人物になったと判断するまでずっとです!」


 …え、こいつ何言ってるの?

 ってことはあれか?裏を返せば認められるまでここからは一生出られないって?
 




モノクマ
「安心してっ!ここは衣食住娯楽にお風呂にトイレまで完備の超快適空間だから!」


 さっきの不穏すぎる単語で全然安心できないぞ?!

 待て、待て待て!

 色々展開が急すぎて頭の整理が追い付かない!



ウメゾノ ミノル
「ちょっとちょっと、それじゃ僕らの元の生活はどうするのさ」


マスタ イサム
「そうだそうだ!早く俺たちを解放しろ!」


ノノハラ レイ
「ボクらの青春を棒に振れって?付き合いきれないよ。

 ボクは辞退するから、そっちはそっちで勝手にやってて」


モノクマ
「まぁまぁ。予算は豊富だし、一生オマエラに不自由はさせないよ!

 ボクって、クマ一番生徒想いですからからね!」


ノノハラ レイ
「よし皆。ここでの生活を受け入れるんだ」


 掌かえすの早すぎんだろお前…。

 見ろよ。あっさりすぎて皆見事にずっこけてるぞ。コントじゃねぇんだからさ。



ノノハラ レイ
「考えてもみなよ。社会保障の低迷が危惧されている中、勉強もしなくていい、働かなくてもいい。

 タダ飯を食っちゃ寝して遊び呆けても誰からも咎められないなんて最高じゃない?」


 駄目だコイツ完全なニート思考になってやがる…!

 働いたら負けかな?とか思ってそうな顔してやがる…!


コウモト アヤセ
「澪!数秒で自分の意見変えないでよ!あともうわけわかんないくらい論点がズレてる!」


ノノハラ レイ
「ま、そうだよね。予算が豊富とか言ってもその言葉が信じるに値するかどうかわからないし。

 こっちが思っている豊富より額の桁が足りないかもしれないし」


コウモト アヤセ
「そこじゃない、そこじゃないの澪…」


 …澪の考え方が大分人とズレてることに関しては、もう諦めた方がいいのか?



モノクマ
「まぁ、ぶっちゃけここから出る方法がないわけじゃないよ?」


 なんかもう嫌な予感しかしないな、これまでの話の流れからして。


モノクマ
「オマエラにはここで“秩序”を守った共同生活が義務付けられたわけですが、

 その秩序を破ったものが現れた場合、その人物だけは希望ヶ峰学園の生徒として相応しくないとしてここから出て行ってもらいます」


モノクマ
「“秩序を破ること”…それはね――






――人が人を殺すこと、だよ!」



 モノクマと名乗る奇妙なぬいぐるみは、国民的アニメの某青狸を思わせる濁声で言った。

 言い放ちやがった。本日三度目の爆弾発言だ。

 多分もう俺これ以上何言われても驚かないわ。

 最後の一人になるまで殺しあって下さいとか言われても受け入れられそう。

 というか耳に入らないな。聞き入れることを拒否しそうだ。




モノクマ
「殺し方は問いません。誰か殺した生徒だけがここから出られる。それだけの簡単なルールなのです。

 刺殺殴殺毒殺惨殺絞殺焼殺圧殺撲殺呪殺――

 殺し方は問いません!方法はたった一つ。誰かが誰かを殺すことだよ!」



 ははは…。なんなんだよこれ…。

 いきなりわけわからないところに拉致されて?

 わけのわからないナマモノが学園長とのたまって?

 挙句の果てにはここから出るには殺し合えって?

 ハッ、笑い話にもならねぇよこんなの。
 
 意味わかんねぇよ…。何なんだって言うんだよ…。





モノクマ
「うぷぷ…。この脳汁ほとばしるドキドキ感!たまりませんなぁ!」

 それじゃ、以上なんで!みんな殺って殺って殺りまくっちゃってくださーい」


 モノクマがカウンターから降りて、悠々と立ち去ろうとした時だった。


マスタ イサム
「ふざけんなよお前!おふざけにしたってやっていいことと悪い事があるだろうが!」


 増田がモノクマにつかみかかる。

 その肉体から容易に想像できる握力からか、メリメリという音も聞こえてきそうだ。

 胸倉(?)をつかまれたモノクマは短い手足をばたつかせている。




モノクマ
「ギャァ!学園長への暴力は校則違反だよ~!」


マスタ イサム
「うるさい!さっさと俺たちをここから出せ!」


――ビーッ!ビーッ!


 突然響く耳障りな機械音。

 それは他でもないモノクマから聞こえてくる。
 
 当のモノクマは気絶したかのように手足を脱力させている。


マスタ イサム
「な、何だ?」


 モノクマの赤い方の目が音に合わせて点滅している…。これってどこかで見た気が…?

 機械音も間隔が狭くなってきているし…。



ゴメン。たまに使われてる行空けを出来れば無くして欲しい
例えば………

ノノハラ レイ
「考えてもみなよ。社会保障の低迷が危惧されている中、勉強もしなくていい、働かなくてもいい。

 タダ飯を食っちゃ寝して遊び呆けても誰からも咎められないなんて最高じゃない?」

ノノハラ レイ
「考えてもみなよ。社会保障の低迷が危惧されている中、勉強もしなくていい、働かなくてもいい。
タダ飯を食っちゃ寝して遊び呆けても誰からも咎められないなんて最高じゃない?」

といった具合にしてもらった方が個人的に読みやすい。判断は>>1と他の読者に任せるよ



オモヒト コウ
「…っ!まずい!離れろ!」


マスタ イサム
「何ぃ?!」


オモヒト コウ
「サイレンだ!何かある、危ないぞ!」


マスタ イサム
「くっ…!」


 投げ飛ばすか?いや駄目だ!何が起きるかわからないんだぞ!

 増田もそれをわきまえているからか狼狽えてやがる!


――ビビビビビビビ!!


 感覚がさらに短く…?!

 間に合わないのか…?!




 澪が増田に向かって走り、そのまま増田の脇腹に鮮やかな回し蹴りを食らわせた。


マスタ イサム
「げふぅ!」


 蹴り飛ばされる増田。あの巨体をあんなに軽々とは…。

 澪はそのまま蹴られた弾みで増田の手から離れたモノクマを蹴り上げ、その勢いのまま飛び退く。

 そしてモノクマが天井にぶつかるかぶつからないかのところで―――、




―――爆ぜた。



 蹴り飛ばされた増田は受け身をとりながら勢いよく転がっていく。爆風で吹き飛ばされているからだ。

 澪も爆風によって加速された勢いを殺すために、着地してからも床を滑っていく。

 …漫画でしか見たことねぇよこんなの。



 すかさず朝倉とユーミアが増田に駆け寄ってきた。渚と河本と柏木も澪のところへ急ぐ。

 他は皆真っ青な顔をして呆然としていた。


アサクラ トモエ
「大丈夫?!先輩!!」

マスタ イサム
「あ、あぁ…。な、なんとかな」


 未だに耳にこびりついて離れない爆音。

 目に焼き付いた閃光。

 うっすら漂う不快な硝煙の臭い。

 天井にこびりついた焦げ跡。

 それらは、まぎれもなく先ほどの爆発が本物であることを示していた。




――というところで本日は以上となります。次回は明日の夜になりそうです。

――>>82様 そうでございますか。やはり一人一人のセリフは行がまとまっていた方が見やすいのでございましょうか?

――何分、SSと小説との勝手の違いに戸惑っている真っ只中でございまして。

――それでは皆様にはアンケートにお答えいただきたいと存じ上げます。

(1)
ノノハラ レイ
「考えてもみなよ。社会保障の低迷が危惧されている中、勉強もしなくていい、働かなくてもいい。

 タダ飯を食っちゃ寝して遊び呆けても誰からも咎められないなんて最高じゃない?」

(2)
ノノハラ レイ
「考えてもみなよ。社会保障の低迷が危惧されている中、勉強もしなくていい、働かなくてもいい。
タダ飯を食っちゃ寝して遊び呆けても誰からも咎められないなんて最高じゃない?」


――読者の皆様方は(1)、(2)どちらの方がお読みになりやすくございましょうか?

――次回の更新までに多かった方の意見を採用させていただきますので、どうぞふるってお答えくださいませ。



――大変申し訳ございませんが本日予定していた投下は取りやめさせて頂きます。

――火曜の夜ならまとまった時間が取れますので、そろそろこのプロローグを終わらせたいと思います。

――ちなみに、ネタバレになってしまいますがヤンデレCD本編では、野々原渚・柏木園子・七宮伊織・ナナ&ノノ・桜ノ宮亜梨主ENDがDEADENDとなっております。

――詳細はCD本編でお確かめくださいませ。

――引き続きアンケートは実施しておりますので、どうぞご回答してください。それではまた。


――次の投下は火曜の夜といったな?

――今日は火曜で今は夜。何も問題はない、いいね?

――というわけで、再開いたします。

――アンケートや皆様方の御意見を鑑みた結果、(2)の方針で進行して参りますのでご容赦を。


ユーミア
「爆弾を仕掛けていたみたいですね…。多分、C4だと思います」

 
 C4…、プラスチック爆弾…。
 希望ヶ峰学園って仮にも教育機関だろ?そんなもの仕掛けるか普通?
 おまけに候補生とはいえ生徒だぞ…?
 いや、殺し合いを強要してる時点で普通じゃないか…。






マスタ イサム
「あのままだったら、俺は…」


ノノハラ レイ
「そうだね。間違いなくキミは死んでいたよ」


オモヒト コウ
「澪!大丈夫か?」


ノノハラ レイ
「無事だよ。まだ耳がキンキンするけどね。それより、ごめんね?痛かったでしょ?」


マスタイ サム
「気にするなって。むしろこっちが礼を言わなきゃダメだろ。ありがとな」


 モノクマが爆発した時、あの傍には増田と澪以外誰もいなかったから誰も怪我はしていない…。
 もし増田がモノクマを持っていたままだったら…。想像もしたくないな。



サクラノミヤ エリス
「でも、モノクマ…さんが爆発したってことは、私たち助かったんですよね…?」


 …そうか?
 俺たちを殺し合わせようと画策しているような奴がたったあれだけのことで自爆して終わるのか?



モノクマ
「全くもう、困るんだよね。スペアは幾らでもあるって言っても数には限りがあるんだから」


 やっぱりな。そうだと思ったよ。
 新しいのがさっきと同じように出てきやがった。


ノノハラ レイ
「量産型かな?まぁ、裏で誰かが操作してるんだろうし、当然といえば当然か」


モノクマ
「こら!そんな夢のないこといわないの!」


 真っ先に夢をぶち壊しに行こうとしそうなやつが何を言ってるんだか…。



ユーミア
「今のはどういうつもりなんですか?明確な殺意があったものとみてよろしいのでしょうか?」


モノクマ
「当たり前じゃん。マジで殺そうとしたんだもん。
 校則違反をしようとした、そこの増田クンがイケナイんでしょ?
 今回は初犯ってことで大目に見て警告だけで許してあげるけど、
 次やったらお尻ペンペンレベルじゃすまないくらいスペシャルでグレートな体罰をブチかますからね!」


サクラノミヤ アリス
「ひょっとしてアンタみたいなのが他にもいるわけ?」


モノクマ
「モノクマは合宿で使われる施設内のどこにでも配備されております。
 監視カメラも至る所に設置しております。
 もし校則違反をしている生徒がいたら、発見次第ドギツイおしおきを発動しますので!
 まぁ、個室内には監視カメラは仕掛けていませんのでご安心ください」


 だから、ちっとも安心できる要素がないんだって。
 おまけにこいつ監視カメラ「は」仕掛けていないって言いやがった。
 きっと盗聴器でも仕込んでるんだろうな。下手に声を出さない方がいいかもしれない。


カシワギ ソノコ
「こんなの…、こんなの絶対おかしいですよ…」


ナナミヤ イオリ
「滅茶苦茶ではありませんか…」



モノクマ
「まぁそんなことは置いといて」


 置いといちゃダメだろ!


モノクマ
「この強化合宿に参加するオマエラに、ボクからささやかながらも素敵なプレゼントのお知らせです。
 いわゆる入学(仮)祝い(笑)ってヤツですな!」


 これ以上何をしてくるっていうんだこいつは…。
 まさかあのバトル○ワイヤルみたく武器でも配ろうっていうのか?


モノクマ
「はい、電子生徒手帳~!」 \テッテテテッテッテッテッテー/


 おいバカ!その声でその効果音はやめろ!
 さすがにそれはまずいって!消されるぞ!
 っていうかどっから出したんだその効果音!



モノクマ
「この電子生徒手帳は、オマエラが希望ヶ峰学園の生徒になった時に生徒手帳として使えるのはもちろんのこと、
 このホテルに当てられたオマエラの個室の電子キーにもなってるから、肌身離さず持ち歩くように!
 無くしたりしたら大変なことになりますよ。それ以外の使い方も、まだまだありますからね。
 それと、起動時に自分の名前が表示されるから、ちゃんと確認しておくように。
 ちなみに、その電子生徒手帳は完全防水の上ゾウが乗っても壊れないほどの耐久性!
 詳しい校則や電子生徒手帳の他の使い道なんかもありますのでちゃんと読んでおくように!
 大切なことだから何度でもいうけど、校則違反には厳罰だからね!
 ではでは、これにて説明を終わります!明るく豊かで陰鬱で殺伐とした合宿生活をどうぞ楽しんで送ってくださいね。
 それじゃ、まったねー!」


 一気に、一方的に喋ったモノクマは去って行った。
 未だに呆然としている俺たちを残して…。



ノノハラ レイ
「ねぇ皆。今の、っていうかさっきの。どう思う?」


マスタ イサム
「どう思うもなにも…、全然意味わかんねぇよ…」


ナナ
「何のお話ししてたのかナナたちには全然わからなかったわ」


ノノ
「ノノたち置いてけぼりにされちゃってるもん」


アヤノコウジ サクヤ
「本当に一体何なのよあいつは…!」


ユーミア
「許せません…。こんなことは絶対に…」



ウメゾノ ミノル
「ま、まぁさ、皆一旦落ち着こうよ」


サクラノミヤ アリス
「この状態でどう落ち着けっていうのよ!」


ノノハラ レイ
「一旦冷静になって状況を整理しろってことだよ。
 ボクらの選ぶべき選択肢は二つ。
 一つ目はみんな一緒にここで“期限のない共同生活”を続ける」


コウモト アヤセ
「二つ目が、ここから出るために“誰かを殺す”、ってこと、よね?」



タカナシ ユメミ
「あれ…?ちょっと待って?どうしてここで一生暮らすことが前提になってるの?」


オモヒト コウ
「モノクマが言ってただろ?期限は一生だって」


タカナシ ユメミ
「そのあとに

『学園長ことこのモノクマが、オマエラを希望ヶ峰学園の生徒として相応しい人物になったと判断するまでずっとです!』

 って続けてたよ?
 それって裏を返せば希望ヶ峰学園の生徒として相応しい人物になったって判断されればいいんじゃないの?」


オモヒト コウ
「そんなの信用できるわけないだろ?
 俺たちがどんなに頑張ったって結局はあいつの気分次第なんだ。
 帰りたければ殺し合いをしろなんて言ったあいつが、そんな簡単に俺たちを帰すと思うか?」


タカナシ ユメミ
「…そっか。それもそうだよね」



ノノハラ レイ
「むしろ、あの自称学園長がボクらに望んでるのは殺し合いの方かもね。
 期限は一生云々はボクらをここに拘束しておくための口実に過ぎない。
 …いや、ひょっとすると…」


オモヒト コウ
「何なんだ?」


ノノハラ レイ
「…ごめん、気にしないで。これ以上皆を混乱させるわけにはいかないし。
 いま思いついたこの考えは後で話すよ。ボク自身混乱してるからさ、うまく纏まらないんだ」


オモヒト コウ
「そ、そうか…」



ノノハラ レイ
「まぁ今一番気にしなくちゃいけない問題は、さっきの話が本当なのか虚構なのかじゃないよね」


ノノハラ ナギサ
「え、そうなの?」


ノノハラ レイ
「…問題なのは、この中の誰かがさっきの話を真に受けてないかどうかってことだよ」


 その言葉で、俺たちは凍り付く。俺の背中を悪寒が走る。
 ここが雪山の中だからとか、外の気温がどうとか、そういう問題じゃない。
 澪が喋った後、誰も言葉が出なかった。出せなかった。
 全員が全員、互いの顔を見回し合っている。



 互いの胸の内を探ろうとしている様子からは、うっすらと敵意や殺意じみたものまで感じる。
…まだ状況をよく理解できてない双子は別として。


 そして、俺はモノクマが提示したルールの本当の恐ろしさを思い知った。

 『仲間を殺したものだけがここから出ることができる』

 その言葉は、俺の思考の奥深くにある“恐ろしい考え”を植え付けた。

『誰かが裏切るのでは?』という、疑心暗鬼。

 仲間を殺して自分だけが生き残る。自分が外に出るために、自ら手を汚す。

 俺自身そう考えていないと言い切れなかったことが、俺が俺自身を信じられなくなっていることで、自覚させられてしまう。
 考えてしまう。想像してしまう。疑ってしまう。

 この中に殺人を考えているやつがいるかもしれない、と。

 もしかしたら俺が誰かに殺されてしまうかもしれない、と。


 だったら殺される前に殺してしまえ、と。



 考えれば考えるほど悪い方向に思考が向ってしまい、泥沼に嵌っていく。




 モノクマの本当の狙いは、
 この一触即発の、今にも殺し合いが起きそうなこの空気を生み出すこと、だったんだ…!





 前略

 父さんと母さんへ。
 どうやら俺はとんでもなく理不尽なことに巻き込まれてしまったようです。
 ただのありふれた俺の人生はどこにいったんでしょうか。
 頼むから早く、この悪夢から目覚めさせてください。

                       草々

 



              原作
      SPIKE CHUNSOFT   EDGE RECORDS



           ヤンデレロンパ
        希望のヤンデレと絶望の兄





モノクマ CV:大山のぶ代

野々原 澪 CV:緒方恵美

野々原 渚 CV:長谷優里奈

河本 綾瀬 CV:広橋涼

柏木 園子 CV:河原木志穂

主人 公 CV:置鮎龍太郎

綾小路 咲夜 CV:水橋かおり

七宮 伊織 CV:今野宏美

ナナ CV:金田朋子 

ノノ CV:あおきさやか

小鳥遊 夢見 CV:広橋涼(二役)

梅園 穫 CV:保志総一朗

桜ノ宮 慧梨主 CV:河原木志穂(二役)

桜ノ宮 亜梨主 CV:水橋かおり(二役)

増田 勇 CV:緑川光

ユーミア CV:水原薫

朝倉 巴CV:下田麻美






           序章

ドキッ!ヤンデレだらけの凶化合宿!!ポロリもあるよ!

           END







       生き残りメンバー
          16人


         To Be
Continued






   プレゼント“希望ヶ峰学園入学案内”を獲得しました。

       プレゼントメニューで確認できます。







希望ヶ峰学園入学案内:序章を訪問した証明。
           希望ヶ峰学園に入学するにあたっての様々な項目が書いてある希望に満ち溢れた冊子。





――というわけで、パソコンのフリーズにも負けず、何とかOPまで進めることが出来ました。

――次回からやっとこさ(非)日常編に入れますね。嬉しい限りです。

――というわけで、今回は遅くなってしまいましたがこの辺で。

――次回は今日の23時ごろを予定しております。


――予定通り再開いたします。

――少し短めですが、どうぞお楽しみ下さいませ。


         Chapter0.5
   クラストライアル・チュートリアル
        (非)日常編




 あれからどれだけ時間が経ったのだろうか。
 数分かも知れない。数十秒かも知れない。ひょっとしたら数時間だろうか。
 長い、長い沈黙がこの場を支配する。


――ぐぅ


 …その沈黙を破ったのは、誰かの腹が鳴る音だった。




ウメゾノ ミノル
「…あー、と、取り敢えずさ、夕食にしない?お腹空いちゃって…」


 梅園が照れくさそうに笑う。さっきのはこいつか…。
 その横で慧梨主が顔を赤らめている。身内の恥だからだろうか。




ノノハラ レイ
「そういやもう七時過ぎなのね。そりゃお腹も空くわ」


マスタ イサム
「夕食って言ったって、どうするつもりだ?」


ユーミア
「あのモノクマなるヌイグルミが言うには、不自由はさせないそうですし…。
 二階に食堂があるそうですから、まずはそちらに行ってみてはいかがでしょうか?」


ナナミヤ イオリ
「何故そんな事が分かるんですか?」


アサクラ トモエ
「電子生徒手帳にこのホテルの見取り図が載ってるからだよ。
 ご丁寧に、部屋割りも一緒にね」




 見取り図を見る限りだと、このホテルは五階建てみたいだな。
 二階はフロア丸ごと使って食堂とキッチン、食糧庫があるみたいだな。
 三階は売店…。よく分からないが、ここで何か買えるみたいだな。 
 …今金持ってないけど。
 あと、倉庫やリネン室もある。
 四階・五階は俺たちの個室だ。自販機やランドリーもこの階にあるのが分かる。




 部屋割りはこんな感じか。

5F
  |巴|園|亜|夢|伊|自販機
 EV|    廊下   |ランドリー
  |咲|綾|慧|ナ|ノ|

4F
  |渚|空|空|穫|澪|自販機
 EV|    廊下   |ランドリー
  |ユ|空|空|公|勇| 

 自販機はランドリーの傍にあるみたいだな。
 洗濯物を待っている間に買って飲めって事か?

 20部屋のうち4部屋が空き室ってことは、やっぱりメンバーは俺たち16人って事なんだな。





ウメゾノ ミノル
「見取り図から漂う凄まじい豆腐建築臭」


サクラノミヤ エリス
「この建物が脆いってことですか?」


ウメゾノ ミノル
「あー、いや。飾りっ気のないビルみたいな、ただの直方体みたいな建物のことだよ。
 形と味気無さが豆腐みたいだから、豆腐建築って揶揄するんだ」


サクラノミヤ アリス
「聞いたことないわそんな話。慧梨主にデタラメ教えてんじゃないわよ」


ウメゾノ ミノル
「まるっきり嘘、ってわけじゃないんだけどね。
 まぁ気にしないでよ。ちょっとしたゲーム用語だからさ」




ノノハラ レイ
「そんな話聞いてたら余計お腹減っちゃうよ。早く行こ?」


マスタ イサム
「ま、そうだな。取り敢えずは腹ごしらえだ。腹が減っては戦は出来ぬってな」


 何と戦うつもり――、モノクマとか。
 そうだよな。俺たちはモノクマと戦っていかなければならないんだ。
殺し合いなんてせずに、全員でここから脱出するという戦いに。




 二階は、フロアのほとんどを食堂として使っていた。
 開放的な空間の真ん中に白いテーブルクロスがかかっている大きな長机があり、その周りを椅子が囲んでいる。
 椅子の数は机の長い辺の方に6脚ずつ、短い方に2脚ずつの計16脚。
 食堂の奥には扉があって、そこがキッチンや食糧庫につながっているのだろう。
 ご丁寧なことにあらかじめ席も決まっているらしく、テーブルには各々のネームプレートが置かれていた。豪勢な料理と一緒に。




   ナ|ノ|巴|勇|ユ|園
 伊| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|綾
  |           |
 咲|___________|澪
   夢|公|慧|穫|亜|渚


 とりあえずは、全員がそのネームプレートに従って席に着いた。





ウメゾノ ミノル
「…これ、さ。開けていいやつかな?」


 梅園が指す“これ”は、テーブルの真ん中にある大皿に覆いかぶさっている、料理番組でよく見かけるあの銀色の丸い蓋だ。
 「開けて!」という札までついている。
 問題は大きさだ。丸々豚一匹入りそうなそれは、素人な俺が見たって異常だった。





オモヒト コウ
「どう見たって罠だろ…」


ユーミア
「開けた瞬間に爆発、という可能性があるためその意見には承服いたしかねます」


ナナ
「でも開けなきゃいけないんじゃないの?」


ノノ
「開けてみようよ」


カシワギ ソノコ
「やめましょうよ…、何があるかわからないんですから…」


ノノハラ レイ
「皆は下がってて。ボクが開けてみる」


ノノハラ ナギサ
「お兄ちゃん!」


コウモト アヤセ
「こんなあからさまに怪しいの近寄らない方がいいって!」


ノノハラ レイ
「まぁまぁ。モノクマはボクらに殺し合いをさせたいんだ。
 自ら進んで殺そうとはしないはずだよ。だから大丈夫だって。
 それに、もし爆弾が仕掛けられててもボクならすぐ対応できる」





 過剰ともいえる自信だが、それが却って頼もしく見えてくる。
 俺たちは澪におされるまま後ろへ下がり、出来る限りテーブルから離れる。
 澪は出来るだけ腕を伸ばして、距離をとりながら蓋を開けようとする。
 そして、その手が蓋に触れた瞬間――、




モノクマ
「パンパカパーン!」


ノノハラ レイ
「うわぁ!」


 勢いよく飛び出て来たのは、まぎれもなくあの忌々しい白黒熊だった。
 っていうかお前いつからそこにいたんだ!





アヤノコウジ サクヤ
「あなたさっき帰ったばっかでしょ?今度は何しに来たの?」


モノクマ
「とても重要なことを、言い忘れていましたのでね。それをオマエラに伝えに来たんだよ!」


 こいつのことだ。どうせまたロクでも無いことなんだろうけどな。





モノクマ
「先ほど、誰かを殺せばここから出られるといったな?
 あれは嘘…じゃなくて、実はここからが重要なのです。
 ここを脱出するにはただ人を殺して終わりではありません。学級裁判を逃げ延びてもらいます」


オモヒト コウ
「学級…、裁判…?」


モノクマ
「そうっ!学級裁判こそがこの“コロシアイ強化合宿”の醍醐味なのです!」





モノクマ
「オマエラの間で殺人が起きた場合…、生き残ったメンバー全員は必ず学級裁判に参加してもらうことになります」


モノクマ
「学級裁判の場では、殺人を犯した“クロ”とそれ以外の生徒“シロ”との対決が行われます」


モノクマ
「学級裁判では“クロはだれか?”をオマエラに議論してもらって…、
 その後の“投票”でオマエラが導き出した答えが正解だった場合は、
 殺人を犯したクロだけが“おしおき”となり、残ったほかのメンバーだけで強化合宿を続行します。
 
 ただし、オマエラがもし間違った人物をクロとしてしまった場合は…、
 罪を逃れたクロだけが生き残り、残ったシロ全員が“おしおき”されてしまうのです!
 以上、これが学級裁判のルールなのです!」


モノクマ
「つまり、誰かを殺して学級裁判を生き延びられれば、そいつだけはここから出られるってわけだね。
 ただし、学級裁判を逃げ延びられなかった場合は犯人だけが“おしおき”となる…」


モノクマ
「うぷぷ、もはやお馴染みのルールだから簡単でしょ?」






ノノハラ レイ
「…さっきから連呼してる“おしおき”ってさ、増田クンが爆死しかけた時に言ってた“体罰”と同じって考えていいの?」


モノクマ
「大体そうだけど、もっと噛み砕いていうと処刑だね!!」


カシワギ ソノコ
「しょ…、処刑…!?」


モノクマ
「学級裁判後の愉快なおしおきタイム!これもコロシアイ強化合宿のお楽しみの一つだね。
 うぷぷ、今からどんな鳥肌もののおしおきが飛び出すか、楽しみで楽しみでしょうがないよ!
 電気椅子でビリビリ!毒ガスでモクモク!ハリケーンなんちゃらで体がバラったりってカンジでユーモア満点なおしおきもあるかもね!」


マスタ イサム
「どのへんにユーモアがあるって言うんだ…」





モノクマ
「まぁとにかく、誰かを殺して終わりってだけじゃないってことを伝えに来ました。
殺るなら完全犯罪じゃなきゃ、オモシロクないもんね!でわでわ、モノクマでした!」


 そう言い残して、モノクマは再び去って行った。
 あ、帰るときは普通にエレベーター乗っていくのね。っていうか片づけてから行けよ!
 あの馬鹿でかい蓋!他の料理の上に乗っててすげぇ邪魔だよ!




ノノ
「あーあ。なんか変な邪魔が入っちゃったね」


ナナ
「あら、でもあれはあれで面白かったでしょ?」


ノノ
「そうだね。あの蓋、かくれんぼにちょうどいいかも」


ウメゾノ ミノル
「まぁ、取り敢えず邪魔もなくなったし、せっかくの料理も冷めそうだし、食べない?」


ノノハラ レイ
「そうだね。しばらくはここに世話になるんだし、味もしっかりみておかないと」


タカナシ ユメミ
「これ、本当に食べても大丈夫なの…?」


アサクラ トモエ
「ボクさっきのでちょっと食欲なくなっちゃったかも…」


 などといいつつも全員食べ始めた。
 …なんだかんだで料理は美味かった。誰が作ったんだ?モノクマだったら嫌だな…。




――というわけで、短いですが今回はここまでとさせて頂きます。

――次回は恐らく土曜の夜になると思います。

――それまで簡易なAAも失敗してしまう無様な>>1めを鼻で嘲笑ってやりながらお過ごし下さいませ。





――再開いたします。どうぞお楽しみ下さいませ。



ノノハラ レイ
「そういえばさぁ」


コウモト アヤセ
「どうかしたの?」


ノノハラ レイ
「朝倉さんの才能、まだ聞いてないなーって」


 そういえばそうだな。確か自己紹介の時も朝倉だけ何の候補生なのか言ってなかった。




アサクラ トモエ
「あー、それは、ね?ちょっと言うのが恥ずかしいっていうか…」


ノノハラ レイ
「へー。“超高校級の主人公候補生”以上に恥ずかしい才能があるんだ?」


オモヒト コウ
「おしその喧嘩買ってやる表出ろ」


アサクラ トモエ
「超高校級の人形遣い候補生だよっ!お姉ちゃんの方が上手だから気が引けただけなの!
 だから喧嘩しないで!」


オモヒト コウ
「お、おう」





ノノハラ レイ
「へぇ。ちなみに、そのお姉ちゃんっていまいくつ?高校生なの?」


アサクラ トモエ
「高校二年生だけど…って、もしかしてボク口説かれてる?!」


ノノハラ レイ
「まさか。そんなわけないでしょ」


アサクラ トモエ
「そ…即答…」


ユーミア
「ではなぜそのようなことを?」


ノノハラ レイ
「いや。ちょっと気になっただけだよ。
 ボクってさ、気になることがあると夜も眠れなくなるタイプなんだ」


 コ○ンボかお前は…。





ノノハラ レイ
「それに、この話題はもう少し後にしておいた方がいいなと思ってね」


オモヒト コウ
「…それって、さっき言いかけたのと関係あるのか?」


ノノハラ レイ
「そ、だからこの話はおしまい。ほらほら、早く食べないと大皿料理なくなっちゃうよ?」


 本当にこいつの掴み所がわからん…。





ナナ
「ごちそうさまでした」


ノノ
「ごちそうさまー!」


 もう食べ終わったのか。早いな。俺もそろそろ食べ終わりそうだけど。
 …ん?二人とも何で俺に近づいてくるんだ?




ナナ
「ねぇお兄ちゃん」


ノノ
「まだ食べ終わらないの?」


オモヒト コウ
「もうすぐ食べ終わるけど…、どうした?」


ナナ
「遊んでくれるって約束」


ノノ
「忘れちゃったの?」


 …あ。





オモヒト コウ
「い、いや、忘れてないぞ?ちょっと待っててくれ今食べ終わるから」


 ごめんなさい嘘ですすっかり忘れてました。…なんて口が裂けても言えないよなぁ。
 周りを見ると、大方他の皆も食べ終わったみたいだ。





ユーミア
「皆さんの食器、お下げしますね」


ノノハラ ナギサ
「あ、あの、じゃああたしも手伝います」


ユーミア
「いえ、これもメイドの務めですからお気になさらず」


コウモト アヤセ
「この量のお皿を一人じゃ大変でしょ?水臭いこと言わないで、私達にも手伝わせて?」


マスタ イサム
「…俺も手伝うよ。これでも食器洗うのはバイトで慣れてるんだ」


アサクラ トモエ
「先輩がやるならボクも手伝う!先輩とバイト先同じだもんね♪」


マスタ イサム
「お前新人だろ、大丈夫か?割ったりするなよ?この皿高そうだし」


アサクラ トモエ
「ボクドジっ娘じゃないもん!」


ユーミア
「…では、お言葉に甘えますね?」





ウメゾノ ミノル
「さて、それじゃ僕はちょっと売店見てこようかな…。何売ってるのか気になるし」


サクラノミヤ エリス
「あ、じゃぁ私もご一緒しますね」


サクラノミヤ アリス
「分かってるだろうけど、当然アンタの奢りだからね?」


ウメゾノ ミノル
「いやいやいや、見るだけだから!絶対買わないからね?!」


ノノハラ レイ
「楽しそうだね、ちょっとボクも混ぜてよ」


カシワギ ソノコ
「あ、あの…。わ、私も行きます…」




ナナミヤ イオリ
「綾小路さん…?どうかしたんですか?」


 咲夜は食べ終わった後ずっと俯いていた。
 伊織の呼びかけにも応じない。
 すると突然、両手をテーブルに叩き付けて立ち上がった。


アヤノコウジ サクヤ
「言っておくけど、私はあなた達と馴れ合うつもりなんてこれっぽっちもないから!」


オモヒト コウ
「おい、咲夜…」


アヤノコウジ サクヤ
「ついてこないで!」


 咲夜はエレベーターまで走っていき、そのまま上の階へ行ってしまった。





ノノハラ レイ
「今はそっとしておいてあげたら?」


オモヒト コウ
「何?」


ノノハラ レイ
「彼女を説得しようとするなら無駄だよ。多分取り付く島もなく追い返されるから」


オモヒト コウ
「やってみなきゃ分からないだろ?」


ノノハラ レイ
「分かってないなぁ。ああいう傲岸不遜なタイプはね、誰かに指図されると余計反発するんだよ。
それに…」


オモヒト コウ
「…何で急に黙るんだよ」


ノノハラ レイ
「いや、これは君自身の問題だ。もう少し女性の心理ってやつを勉強するこったね」


オモヒト コウ
「意味が解らん…」





ナナ
「…ねぇねぇ、お兄ちゃん。ナナたちと遊んでくれないの?」


ノノ
「約束破っちゃうの?」


 しまった!この双子のことをほったらかしにしていた!


オモヒト コウ
「あ、ああいやいや。破るわけないだろ?約束したんだもんな」


ナナ
「じゃぁ遊びましょう?」


ノノ
「遊ぼー!」


タカナシ ユメミ
「じゃぁあたしもお兄ちゃんと遊ぶー!」


オモヒト コウ
「だから夢見は抱き付くなって!」


 一緒に遊ぼう、なんて俺たちの置かれてる状況が解っていないのか、随分と呑気なものだとは思う。
 でも…。
 まじりっ気のないこの笑顔…。なんだか癒されるよな。





ノノハラ レイ
「やっぱり主人さんってソッチの趣味があったんですね」


オモヒト コウ
「だから違うって言ってるだろ?!」


 後、距離を置いたような話し方するなよ!余計傷つく!




 結局、俺は夢見たちと遊ぶことになった。
 三人とも意外とタフで、俺の方が若干ヘトヘトだ。


――「キーン、コーン…カーン、コーン…」


 突然、学校で聞いたような音が聞こえた。次いで、あのクマのだみ声が聞こえてきた。




モノクマ
「えー、希望ヶ峰学園候補生強化合宿実行委員会がお知らせします…。
 ただいま午後9時50分になりました。間もなく消灯時間です。
 消灯時間を過ぎると個室以外の暖房が切られるので、温かいままでいたいなら速やかに個室に戻ってください。
 部屋はオートロックなので、鍵になる電子生徒手帳は忘れずに。では、おやすみなさい」


 消灯時間まで決まってるのか…。そういう所は合宿みたいだな。
 ってことは起床時間も決まってるのか?!
 …早起きに自信ないな。7時ぐらいだったらいいんだが。




タカナシユメミ
「もうそんな時間なんだ」


オモヒト コウ
「じゃ、部屋に戻るか」


ナナ
「お兄ちゃん、また明日も遊んでくれる?」


ノノ
「約束してくれる?」


オモヒト コウ
「ああ、約束だ!」


 …きっとこのまま、時間だけが過ぎれば、モノクマも飽きるか諦めるだろ。
 誰も人殺しなんてしたくないはずなんだ。強要されてやるものでもない。
 だからきっと大丈夫。
 殺し合いなんて起きるわけない。絶対。





 個室の前のドアに立つ。
 いつの間にか、ドアにはネームプレートがつけられていた。
 デフォルメされた自分の顔のドット絵のおまけつきだ。
 しかし、電子生徒手帳が鍵って言われても、どうすればいいんだ?




ノノハラ レイ
「どうしたの?」


オモヒト コウ
「いや、ちょっと鍵の開け方が解らなくて」


ノノハラ レイ
「あぁ、それ?電子生徒手帳起動したままノブの下にあるリーダーにかざしたら開くよ。
 電源は画面タッチすればすぐ付くから」


 言われたとおりにしてみた。


――ピッ


 電子音とともにリーダーのランプが点灯した。


ノノハラ レイ
「他にも色々便利な機能もあるみたい。詳しくは取説に書いてあるから」


オモヒト コウ
「ああ。ありがとな」


ノノハラ レイ
「どういたしまして。じゃ、おやすみ」


オモヒト コウ
「ああ。おやすみ」


 …意外に親切なんだな、澪も。





 部屋に入ると、出ていった時とは明らかに違っていた。
 ベッドの上のど真ん中に、目立つように“それ”は鎮座していた。
 鈍く光るジュラルミンケース。張り紙には「凶器支給のお知らせ」の文字。
 …くそっ。モノクマは意地でも俺たちに殺し合いをさせたいみたいだ。





 あのモノクマのことだし、どうせ開けなきゃ寝かせてくれないんだろうな…。
 …案の定張り紙の裏に「開けるまでどかせられません」って書いてあった。くそっ。

 意を決してケースをあける。
 
 中身は――












 ――は、ハリセン…。










 ―――どないせぇっちゅうんじゃぁ!







 ま、まぁ、これで俺が誰かを殺せるようなことはなくなったわけで、それは喜ばしいことだろう。
 というか、モノクマは本当に俺たちを殺し合わせようとしているのか…?
 いや、これで本気ですとか言われてもちょっと困るけど。




 ジュラルミンケースをどけて、ベットに腰かけた。


 …なんだか、すごく疲れたな…。
 今日は色々ありすぎた…。ベッドに横たわるだけで寝入りそうだ…。
 …この調子ならきっと殺人なんて起きない。そうに決まってる。


オモヒト コウ
「モノクマの思い通りになんて絶対…、ならない……、ぞ……」


 徐々に意識が遠のいてゆく。


 ……そういえば風呂に入ってないな。


 朝シャンでいいか…。


オモヒト コウ
「zzz…」






 DAY 00
  END





モノクマ
「えー、改めまして」


モノクマ
「『ヤンデレロンパ ~希望のヤンデレと絶望の兄~』をご覧のオマエラ…
 誠にありがどうございます」


モノクマ
「ようやく初日が終わりました。長い半日でしたね(白目)」


モノクマ
「ですが、これからが本番です。DAY 01から、このコロシアイ強化合宿は加速していくのです」


モノクマ
「何故プロローグが終わった後の章が1じゃなくて0.5なのかも、これから明らかになるでしょう」


モノクマ
「だから…、思いっきりワクワクして、ドキドキしちゃってくださいね!」


モノクマ
「それでは、最後までごゆっくりとお楽しみ下さいね」




――というわけで、今回の投下はここまでとなります。

――着々とダンガンロンパらしくなっておりますね。…ヤンデレ成分が少々物足りない感が否めませんが。

――ヤンデレCDの魅力もダンガンロンパの魅力も惜しみなく皆様方にお伝えすることができれば幸いでございます。

――それでは、また次回、金曜の夜にお会いいたしましょう。



――ちなみに、>>168はモノクマ劇場でございます。重要なことを書き忘れてしまう愚かな>>1めには永い休暇を言い渡しておきましょう。






――永らくお待たせいたしました。やっと解放されましたので投下いたします。

――…果たして心待ちにしている方などいらっしゃるのでしょうか…?レスがつかないので若干不安です…。



――「キーン、コーン…カーン、コーン…」


モノクマ
「えーと、希望ヶ峰学園候補生強化合宿実行委員会がお知らせします。
 オマエラ、グッモーニン!本日も最高のコロシアイ日和ですよー!
 さぁて、今日も全開気分で張り切っていきましょ~!」




 能天気で耳障りなあのだみ声で目が覚める。
 目が覚めても、そこは俺の部屋じゃなかった。


オモヒト コウ
「やっぱり、夢じゃないんだよな…」


 改めてそのことを実感させられて、朝から気分は最悪だった。


オモヒト コウ
「取り敢えず、シャワー浴びとくか…」





 そういえば、ホテルの個室で寝泊まりなんて初めてじゃないか?
 風呂場もよくあるユニットバスじゃなくてトイレとは別々だし、ベッドの寝心地も最高だったし、何より部屋が広い。
 …これで殺し合いなんかがなかったら最高だったんだがなぁ…。


オモヒト コウ
「ふぅ。さっぱりした」


 しばらくは共同生活が続くんだし、少なくとも不潔なのはよくないよな、やっぱり。





超高校級の主人公候補生

ID:KGM-79-1004
名前:主人 公
身長:176cm





規則

1.希望ヶ峰学園候補生は実行委員会が指定した敷地内で過ごすこと。
  敷地内であれば自由に行動してもよく、制限はない。

2.22時から翌7時までを消灯時間とする。
  消灯時間中は一部を除き施設のあらゆる設備の電源を切るため注意すること。

3.学園長ことモノクマに対する暴力を禁ずる。

4.故意に施設の設備の機能を損なう行為を禁ずる。

5.不法投棄は厳禁。ゴミは指定のゴミ箱に捨て、焼却炉で処分すること。

6.生徒内で殺人が起きた場合は、その一定時間後に全員参加が義務付けられる「学究裁判」が行われる。

7.学級裁判で正しいクロを指摘した場合はクロだけが処刑される。
  正しいクロを指摘できなかった場合は、校則違反とみなし残りの生徒を全員処刑する。

8.生き残ったクロは特別措置としてその罪が免除され、強化合宿生活から解放される。

9.三人以上の人間が最初に死体を発見した時、それを知らせる“死体発見アナウンス”が流れる。


注意:違反者は厳罰に処す。
   なお、強化合宿期間中にモノクマの判断で規則が増減する場合がある。





取扱説明

1.本体を起動して個室のドアノブの下にあるリーダーにかざすと開錠できます。

2.本体には電子マネーである「モノクマコイン」が最大100枚までチャージできます。
 モノクマコインは本体起動時に50枚支給されており、その後は三日に一回20枚支給されます。
 モノクマコインは売店やロビーのパソコンで利用できます。

3.売店では、購入したい物のバーコードを本体内蔵のカメラで読み取ると購入確認画面が開きます。
確認画面でOKをタッチすると、清算は自動で決済されます。
未精算の商品を売店外へ持ち出そうとするとアラームが鳴りますのでご注意ください。

4.ロビーのパソコンを起動するには電子生徒手帳本体が必要です。
本体をパソコンに接続されたリーダーにかざすとログインできます。

5.本体には携帯電話同様、通話機能、メール機能、地図機能、カメラ機能が搭載されています。
各種機能をご利用になりたいときはメニューからそれぞれ選択してください。

6.充電は各所にある充電器に置けば1時間ほどで完了します。


注意:本体を破損、紛失しても代替は一切いたしません。
   また、予告なく機能をアップデートする可能性があります。




 なるほど。
 …よくわからん。取説そのものが大雑把だっていうことは分かったが。
 とにかく、色々便利な機能があるってことだ。あとはフィーリングで何とかなるだろ。
 携帯電話も取説なんてほとんど読まないし、どうせモノクマのことだから外との連絡には使えなさそうだしな。




 7時半か。そろそろ朝食の時間だろうか?
 …食堂に行ってみるか。昨晩みたいに料理が用意されてるだろうし。




 廊下に出た。


タカナシ ユメミ
「おはよう、お兄ちゃん♪」


 ドアの前で待機していたのか、部屋を出るなり抱き付いてきた。


オモヒト コウ
「だから、抱き付くなって。…ったく」


 夢見はここに来る前、ほぼ毎朝隣に住んでいる俺を起こしに来ていた。
 そして何かにつけて世話を焼きたがるのだ。
 男子としてはうれしい反面、過度なスキンシップには戸惑いもある。抱き付いてくるなんていうのはしょっちゅうだ。





タカナシ ユメミ
「朝ご飯、一緒に食べよ?」


オモヒト コウ
「分かった、分かったから夢見、離れるんだ」


 さすがにこれ以上くっつかれると男としての欲望がだな…。


タカナシ ユメミ
「お兄ちゃん大好き♪」


 余計くっつこうとするなよお前はぁぁぁ!こちとら我慢の限界なんだよぉぉぉぉ!!





マスタ イサム
「おーおー朝からお熱いこって」


オモヒト コウ
「茶化すなよ…」


 だがある意味助かったかもしれん。あのままだったら俺は――、
 …こんな時に何妄想してるんだか。





オモヒト コウ
「で、何か用か?」


マスタ イサム
「さっきユーミアから連絡があってな。どうやら食堂の朝食はビュッフェスタイルらしいぞ」


タカナシ ユメミ
「…お兄ちゃん、早く行かないとなくなっちゃうよ?」


オモヒト コウ
「お、おい夢見引っ張るなって!分かったから一旦離せって!」


 俺の静止も意に介さずといったところか、夢見は俺の腕をつかんでグイグイ引っ張ってそのままエレベーターホールへ歩いていく。
何でいきなり機嫌悪そうになってるんだ?
 …所で―――、


オモヒト コウ
「…ビュッフェスタイルって何だ?」





 結局夢見は俺の疑問に答えることなく、俺たちは食堂へたどり着いた。


ユーミア
「おはようございます。朝食はビュッフェ形式ですから、好きに盛り付けてくださいね」


 テーブルの周りには、パンやサンドイッチやベークドポテトといった様々な料理が乗っているワゴンが配置されている。
 …あぁ、要するにビュッフェってバイキングって事なのか。
 それならそうと言ってくれればいいじゃないか。




タカナシ ユメミ
「お兄ちゃんの分もあたしがよそってきてあげるよ!」


オモヒト コウ
「…いや、いい。自分の分は自分でとってくる」


 夢見は俺の好みを把握しているから、多分俺がほしいと思っている料理を持ってきてくれるだろう。
 問題は、それが朝っぱらから食べるには重く、量も多い、というところだ。
 以前それで地獄を見たからな。
 カツ丼、豚のしょうが焼き、エビフライ、メロン――、それらがテーブルいっぱいに並べられた朝食の光景は、いくら大好物といえども若干の吐き気を伴った。
もう二度とあんなのはごめんだ。





 食堂では既に桜ノ宮姉妹と梅園、伊織、柏木、朝倉、ナナとノノが朝食を摂っていた。
 俺と夢見と増田はついさっきここにきていて、今空席は4つだ。
 野々原兄妹と河本、そして咲夜の四人が、まだここにきていない。



 8時ごろ、ようやく野々原たちがやってきた。
 …咲夜はいなかったが。


ノノハラ レイ
「おはよー…。ふぁ~ぁ…」


オモヒト コウ
「随分とでっかいあくびだな。眠れなかったのか?」


ノノハラ レイ
「そーなんだよねぇー…。色々考えてたら8時間しか寝れなくって…」


 割とガッツリ寝てるんじゃないか…!


ノノハラ レイ
「そんなことないよ~?一日10時間ぐらいは睡眠時間に充てたいなーって」


オモヒト コウ
「…だから、なんで俺の考えてることが解るんだよ」


ノノハラ レイ
「エスパーだからー、なんてね~?」


 眠いのかどうかわからんが語尾が間延びしてるのが余計むかつく!





ノノハラ レイ
「……zzz」


 席に着くなりテーブルに突っ伏して寝始めたぞこいつ…。


コウモト アヤセ
「澪!寝たらだめだってば!」


ノノハラ レイ
「んー…、眠いの~…」


ノノハラ ナギサ
「起きてお兄ちゃん。ほら朝ご飯持ってきたから、ね?」


ノノハラ レイ
「んー…」


 うつらうつらしながら食べるなよ…。澪は朝弱いのか…?
 うわ、こぼしたのを綾瀬が拭ってる所とかなんかちょっと介護してるみたいに見えるぞ。




 …結局完食するまで半分寝てたままだったな、澪は。


 八時半になっても、結局咲夜が来ることはなかった。
 やはり、誰とも会いたくないんだろうか…。






ノノハラ レイ
「――それとも、もうすでに殺されちゃったりしてね?」






――というわけで、今回は以上となります。亀更新で大変申し訳ございません。

――これからはまとまった時間が取れると思いますので、なにとぞ、ご声援よろしくお願いいたします。

――次回の更新は今日の23時ごろになりそうです。それまで露骨なレス要求をしてくる浅はかな>>1めを嘲りながらお待ちくださいませ。

みてるよ

お嬢様主人公にちょっかいかけてないし殺されてるってことは無いかな



――>>191様 ありがとうございます。>>1めも泣いて喜んでおります。

――>>192様 まだ一章にも入っていませんから殺人は起きません(事件が起きないとは言ってない)

――では再開いたします。短いかもしれませんがお付き合いくださいませ。



オモヒト コウ
「起き抜けになんてこと言うんだお前は!後何でそう俺の考えてることが解るんだよ!」


ノノハラ レイ
「勘だよ、ただの。それよりも、咲夜さんのこと、心配なんじゃないの?」


カシワギ ソノコ
「あの、綾小路さんがすでに殺されてるって、どういう…、こと、ですか?」


ノノハラ レイ
「言葉通りの意味だよ。『こんな所にいられるか!俺は部屋に戻る!』みたいな感じのセリフ吐いて部屋に閉じこもった挙句、
朝になっても姿を見せないなんて、ミステリーなら殺されてるお決まりのパターンだよね?」


オモヒト コウ
「ドラマの見すぎだ。そんなの実際にあるわけないだろ」


ノノハラ レイ
「分かってないなぁ。今はそのドラマよりもたちの悪い事態が起きてるんだよ?
常に最悪のケースを想定しておかないと、いざというときに対処できないんじゃない?」




ノノハラ レイ
「それに、忘れたわけじゃないよね?凶器のこと。
 ここまでお膳立てされて行動起こさない人間がいないなんて言いきれる?」


 …ハリセン渡された俺はどう反応すればいいんだ?





ノノハラ レイ
「まぁ、誰かを殺せって言われて丸一日経たない間に殺人を決意して実行する、
なんて誰にでもできることじゃないけどね」


ウメゾノ ミノル
「むしろできたら異常、なんてもんじゃないよ…」


マスタ イサム
「殺し屋か殺人鬼でなきゃ出来ないだろ、そんなこと」


アサクラ トモエ
「……そうだよ。人殺しなんてそんな簡単にやっていいものじゃない…」


 朝倉が暗い顔をしているな…。
ひょっとして誰かを殺そうとしていた、のか?
…いや、まさかな。





ノノハラ レイ
「おっと。どうやら噂をすれば影、みたいだね」


 澪の言葉でハッとなって振り返ると、咲夜がエレベーターから降りてくるのが見えた。


オモヒト コウ
「遅かったじゃないか咲夜、心配してたんだぞ」


アヤノコウジ サクヤ
「心配してたって…、ま、まさか、私のこと気にかけてるってこと?」


オモヒト コウ
「そうじゃない、澪が変なこと言うから気になっただけだ」


アヤノコウジ サクヤ
「お、おあいにく様ね。私の恋人に立候補したいなら正式な手続きを踏みなさい!」


 …毎度のことながら、咲夜は人の話を聞かない。そして自分勝手に話を進める。
 典型的なお転婆お嬢様だ。正しく超高校級といった所だろうか。





アヤノコウジ サクヤ
「まずは丁寧で優しく、甘い言葉で満ちたラブレターを――」


オモヒト コウ
「あー…、朝食はビュッフェスタイルだから。自分でとるんだぞー」


 ああなるともう何言っても無駄だろうし、スルーしてさっさと退散するに限る。


アヤノコウジ サクヤ
「ちょ、ちょっと待ちなさいよっ!あなたごとき庶民が、世界的大金持ちの私とは付き合えないって怖気づくのはわかるけど……」


 どんな自分中心の解釈だ。


ユーミア
「咲夜様?時間も時間ですし、早く頂かれてはどうです?」


アヤノコウジ サクヤ
「…ふんっ。言われなくても分かってるわよ」


 ユーミアに催促され、咲夜は渋々遅めの朝食を摂ることになった。





ノノハラ レイ
「さてと、ちょっと皆に話しておきたいことがあるんだけど、いい?」


コウモト アヤセ
「そんな神妙な顔して、どうしたの?」


ノノハラ レイ
「昨日寝ながら考えたんだけどね?ちょっと匂うなって。
 …あぁ、先に言っておくと怪しいっていう方の意味だから、勘違いしないでね?」


 …梅園がボケをつぶされたって顔してる。
 っていうかそれは考えたって言わなくないか?





カシワギ ソノコ
「何が怪しいんですか?」


ノノハラ レイ
「ボクたちがここに集められた理由だよ。人選、ともいうかな」


オモヒト コウ
「ひょっとして、昨日言いかけていたことか?」


ノノハラ レイ
「まぁ、そうだね。疑問点はいくつかあるけど、解りやすいところから行ってみようかな。
 このメンバー、ちょっと偏り過ぎてると思わない?」


ノノハラ ナギサ
「確かに、女子12人男子4人はちょっと偏りすぎだよね」


ノノハラ レイ
「それもあるけど、知人同士が多すぎる。
 この16人の中で兄妹姉妹が三組もいるなんてちょっと変だよ。おまけにそのうち二組が双子なんてさ」


 そういわれてみれば、そうだな。
 河本は澪の幼馴染で、柏木は澪のクラスメイト。
 俺と夢見も従兄妹同士だし、咲夜と伊織は俺と同じ学校に通っている。
 梅園も桜ノ宮姉妹と遠縁の親戚だって言ってたな。
 それに、増田と朝倉はバイト先の先輩後輩だ。偶然にしては出来すぎだよな。





ノノハラ レイ
「もっというと、ユーミアさんは増田クンを呼ぶとき、さん付けに慣れてなかったのかちょっとつっかえてた。
 ってことは普段は別の呼び方をしてるってことだ。増田クンと何か関係持ってるんでしょ?」


 その言い方は色々と誤解招くんじゃないか…?


マスタ イサム
「そ、その、だな…。ユーミアは…」


ユーミア
「もういいんです、マスター。ユーミアがお話しします」


 ん?増田を呼び捨てしたにしてはちょっとイントネーションがおかしい気が…。






ユーミア
「マスターは、捨てられていたユーミアを拾って下さった命の恩人なんです。
 そして、記憶を失ってしまっていたユーミアは、記憶が戻るまでマスターの身の回りのお世話をさせてもらっているのです」


 そういうことか。それで増田のことを仮の主人として見てるってわけだな。


オモヒト コウ
「じゃぁ何で隠そうとしてたんだよ」


マスタ イサム
「言えるわけないだろ?超高校級のメイド候補生がこんな貧乏学生の世話をしてる、なんて。
 やっぱり相応しくない、なんて言われて取り消されるのは嫌だったんだよ」


ユーミア
「それに、ユーミアがマスターにお仕えする経緯をお話しするにしても、捨てられていた理由も未だに解っていませんから…。
 皆様にご心配をおかけしたくなかったんです…」


マスタ イサム
「だから、出来るだけ初対面の振りをしようってことにしてたんだよ。それだけだ」


ウメゾノ ミノル
「そういう事情があったんならまぁ、納得できる、かな?」





ノノハラ レイ
「これで、このメンバー全員が少なくとも一人他の誰かと何らかの関係性を持っているってことは解った。偶然にしては出来すぎだよね」


ナナミヤ イオリ
「しかし、例えば学区が近い生徒を集めた、とは考えられませんか?」


ノノハラ レイ
「それも思ったんだけどさ、でもやっぱり引っかかるんだよね」


アヤノコウジ サクヤ
「何がそんなに引っかかるっていうのよ」


ノノハラ レイ
「まず、“候補生”っていうのがどうも胡散臭いんだよね」


コウモト アヤセ
「どういうこと?」


ノノハラ レイ
「才能はあるけど“超高校級”と呼ぶには不足している、だから合宿を行おうっていうのはなんとなくわかるけど、
 だったら同じ才能の候補生同士を集めた方が効率的じゃない?」


ウメゾノ ミノル
「そう言われてみれば…。同じ才能を持った人同士が競い合った方がいい気がするな」


サクラノミヤ エリス
「スケジュールも組みやすいですよね」




ノノハラ レイ
「おまけにさ、昨日朝倉さんが言ってたでしょ?姉の方が上手だって。
 それなら姉の方を超高校級の人形遣いとしてスカウトすればいい。
 言っちゃ悪いけど、能力で劣る妹を、わざわざ金をかけて強化させて入学させるなんてあまりにも非効率だ」


マスタ イサム
「その姉が辞退したから、代わりに巴を入学させようとしたんじゃないのか?」


ノノハラ レイ
「だったら妹の朝倉さんが知らないはずがないよ。
 昨日の朝倉さんの口ぶりだと、自分より人形の扱いにたけている姉を差し置いて自分が超高校級の人形遣いとして希望ヶ峰学園に入学するのは気が引けるって感じだったし」


アサクラ トモエ
「…お姉ちゃんが希望ヶ峰学園のスカウトを受けたって話も、入学を辞退したって話も聞いてないよ…。
 確かにお姉ちゃんなら、ボクを一人に出来ないって言って全寮制の希望ヶ峰学園の入学は辞退するかもしれないけど…。
 ボクに何も相談しないなんて考えられないもん…」


ノノハラ レイ
「つまり、朝倉さんの姉じゃなくて朝倉さん自身がここにいなければならない理由があるってことだよ。
 その為に、“候補生”なんて苦し紛れの言葉を使ってごまかしているんだ」





ノノハラ レイ
「モノクマがボクらをここに集めたのには何らかの意図や目的がある。
 おそらく、希望ヶ峰学園の候補生なんて言うのはその目的を隠すためのフェイクに過ぎない」


オモヒト コウ
「俺たちに殺し合いをさせたい、それ以外の目的があるっていうのか?」


ノノハラ レイ
「…これは一つの可能性なんだけど、もしそれが当たっていたら、外部からの救助は期待できないかもしれない」


サクラノミヤ アリス
「ちょ、ちょっと、どういうことよそれ!」





ノノハラ レイ
「“希望ヶ峰学園の候補生”という設定が、ボクらを納得させるためではなく、ボクらの周りの人達を納得させるためのものだったとしたら?」


オモヒト コウ
「……!」


ノノハラ レイ
「そして、強化合宿中で生徒の心を乱さないため、という名目で外部からの連絡を絶っていることを知らせているとしたら?」


カシワギ ソノコ
「……」


ノノハラ レイ
「いくら待っても救助なんて来るわけないよね。まさか連れてこられた先で殺人を強要されてるなんて思いもよらないんだからさ」





ノノハラ レイ
「そして、助けなんて来ないってことを暗に伝えるために、ボクらにも教えた。
 何も知らないボクらは才能について思い当たる節があってぬか喜びってわけさ」


 つまり“超高校級の主人公候補生”っていうのもこじつけってことだな。
 …うれしいのやら悲しいのやら。





ノノハラ レイ
「流石に何か月もたって連絡一つもないのは怪しまれるだろうし、抗議もあるんだろうけど、相手は希望ヶ峰学園だ。軽く一蹴されるのがオチだろうね。
 まぁ詰まる所、ボクが言いたいのは――」




ノノハラ レイ
「――ここでの生活を受け入れるしかない、ってことだよ」




――今回の更新はここまでとさせていただきます。

――果たしていつになったら事件が起きるのでしょうか。こんな愚図でノロマな>>1めで大変申し訳ございません。

――次回の更新は未定です…。書き溜めがある程度できたら投下しようと思います。
  まとまった時間が取れるといった矢先にこの様で本当に申し訳ない限りでございます。

――恐らく水曜の夜あたりになると思いますが、それまでお待ちしていただければ幸いです。お休みなさいませ。



――遅れて申し訳ございません。頭痛でダウンしておりました。薬を服用したのでもう大丈夫です。

――それでは、どうぞお楽しみ下さいませ。



オモヒト コウ
「なんなんだよ…、それ…」


ノノハラ レイ
「だってそうでしょ?外部からの救助は期待できない。かといって殺し合いなんて御免被る。
 なら、ボクらに出来るのは適応しかないんじゃないかな?」


オモヒト コウ
「なんでそんなすぐに諦めるんだ。ここから脱出できる手段があるかもしれないじゃないか」


ノノハラ レイ
「読みが甘いよ。こんな金のかけたシチュエーション、ボクらがちょっと探したぐらいでどうこうできるようなもんじゃない。
 わざわざ電子生徒手帳でこんな風に宣言してるぐらいだからね」


――1.希望ヶ峰学園候補生は実行委員会が指定した敷地内で過ごすこと。敷地内であれば自由に行動してもよく、制限はない。


ノノハラ レイ
「これって要するに、どれだけ調べられても問題ないって事でしょ?
 脱出の糸口なんてそんな簡単には見つからないよ」


オモヒト コウ
「ひょっとしたらモノクマが見落としているものがあるかもしれないじゃないか」


ノノハラ レイ
「望みは薄いだろうけどね。
 大体、モノクマの監視下にある以上ボクらはモノクマの掌の上で踊らされているだけさ。
 いくらあがいたって無駄だよ」





アヤノコウジ サクヤ
「ちょっと待ちなさいよ」


ノノハラ レイ
「何かな、咲夜さん。言いたいことでも?」


アヤノコウジ サクヤ
「助けが来ないなんて言ってるけど、結局はあなたの推測でしょ?
 私がいなくなったらパパが黙っちゃいないわ。
 いくら希望ヶ峰学園といっても綾小路財閥の財力には勝てないんだから」


ノノハラ レイ
「さすがは超高校級のお嬢様だ、庶民とは格が違うねぇ。
 こんな時でも親頼みとは恐れ入ったよ」


アヤノコウジ サクヤ
「…何ですって?」


ノノハラ レイ
「いい加減目覚めなよ。キミが頼りにしている綾小路家の財産は今手元にないんだろ?
 じゃぁ今のキミはただの非力な小娘じゃない。粋がっても無駄だぜ?」


アヤノコウジ サクヤ
「言わせておけば…!」





マスタ イサム
「そこまでだ、二人とも。これ以上言い争ってもしょうがないだろうが」


オモヒト コウ
「いがみ合ってたらそれこそモノクマの思うツボだ。冷静になれよ」


ノノハラ レイ
「はいはい…」


アヤノコウジ サクヤ
「…ふん!」


 結局険悪な雰囲気のまま解散となった…。





――皆様大変永らくお待たせいたしました、自由行動の時間でございます。

――ダンガンロンパの醍醐味といえば、やはり学級裁判と自由行動でございますよね!

――本作では自由行動でご一緒される御学友を安価で決定したいと思います。

――主人公と戯れるナナノノ姉妹、声が似ている方々の対談…などなど、皆様方がご覧になりたい人物の組み合わせをお申し付けくださいませ。

――ですが、皆様方にご留意されてほしいのは“本作の登場人物の大半がヤンデレであること”でございます。

――組み合わせ次第では修羅場になったり最悪事件が発生する…。なんてこともあるかもしれません。

――ひょっとすると、自由行動で結末が大きく変わる…かも知れませんね。

――自由行動で仲良くなった御学友がお亡くなりになった…。ということになっても諦めてはいけません。

――そうやって何度でも立ち上がるからこそ、皆様方は希望の象徴なのですから!

――…すっかり前置きが長くなってしまいました。それでは参りましょう。



安価↓3まで可能な限りすべてのシチュエーション(露骨なエログロや安価同士で人物が被った場合は不可とします)


主人公とお嬢様で。
シチュエーション指定は余分だと思う。
安価は人物だけでいい。



――安価指定して一日経ったって言うのにレスが一つしかなくて、おまけにIDが見事に被ってるとか絶望的だよね…。

――絶対「自演乙ww」とか「きめぇ」とか思われちゃってるよ…。

――やっぱり>>1は決定的に最低で、最悪で愚かで劣悪で、何をやってもダメな人間なんだ。

――安価もまともにできないような、最低のヘタレだったんだよ。

――だから今回は思い切って自由行動はカットしようと思うんだ。>>216さんには本当に申し訳ないんだけどね。

――自由行動は第一章から、こんなまるっきり駄目な>>1でもいいと思ってくれる稀有な人がいてくれればまたやってみることにするよ。

――じゃ、そろそろ事件や学級裁判を書かないといい加減飽きられちゃうかもしれないから、ちゃっちゃと始めちゃうね?



 澪の言う通り、ホテル内や外を詮索してみても特にこれといってめぼしいものはなかった。
 脱出の糸口になりそうなものはまるで収穫なしだ。




 収穫らしい収穫は、このホテルはスキー場と直結していて、ゲレンデを登るためのゴンドラリフト乗り場を発見したことぐらいだ。
 今は封鎖されていてゴンドラに乗ることはできない。
 ゴンドラリフトはかなり高いところまで行くのか、ホテルからでは向こう側の乗り場が見えない。

 要するに、現状はまるで変っていない、ってことだ。



 そして大きな進展もなく一日が過ぎ、夕食の時間となった。




ノノハラ レイ
「」


ウメゾノ ミノル
「」


 …何であの二人は「ぬ」と「ね」の違いも判らなさそうな顔をしているんだ?





ユーミア
「…そのお二方はどうされたんですか?まるで生気のない目をされていますが…」


サクラノミヤ アリス
「別に大したものじゃないわ。モノモノマシーン、だったかしら?それで有り金全部融かしただけよ」


コウモト アヤセ
「おまけに景品もあまりいいものじゃなかったみたいで…。程ほどにしてってあれほど言っておいたのに…」





 モノモノマシーン…。たしか、売店にあったガチャガチャだったな。
 モノクマコインと1:1で交換できるモノクマメダルを投入することで回すことができて、メダルの投入枚数によって当選確率が変わるとか。
 それで二人とも50枚あったモノクマコイン全部使いきったってわけか。
 …きっとこいつらはソーシャルゲームで大量に課金する廃人タイプなんだろう。
 あるいは、パチンコに熱中するあまり他のことをおろそかにするタイプだ。





ノノハラ ナギサ
「その、お兄ちゃん…。もし良かったらコインあげるよ?」


ノノハラ レイ
「…いや、いいよ。妹に金をたかるとかそんなの兄としてのプライドが許さない」


 有り金全部スッてる時点でプライドも威厳もないと思うぞ…。





ウメゾノ ミノル
「そうそう…。こうなったのも全部自己責任だから…。慧梨主も気にしないでね?」


サクラノミヤ エリス
「でも…、それだとお兄様が…」


サクラノミヤ アリス
「いいのよ慧梨主。本人がいいって言ってるんだから。」


 次にコインが支給されるのは明後日のハズだ。それまで二人とも無一文か。
 ちょっとかわいそうな気もするが、自業自得だしな。下手に関わらない方が身のためだ。





ノノハラ レイ
「そんな事よりさ、早く食べようよ。せっかくのパスタが冷めて不味くなっちゃう」


 こいつの切り替えの早さは見習うべきなんだろうか…?



八宝菜! じゃなかった



サクラノミヤ アリス
「ねぇ慧梨主、知ってる?」


サクラノミヤ エリス
「何ですか、お姉様?」


サクラノミヤ アリス
「フォークだけじゃなくてスプーンも使うのって、お子ちゃまがやることらしいわよ?」


サクラノミヤ エリス
「えっ…、そ、そうなんですか?」


ウメゾノ ミノル
「まぁ、そうだね。本場のイタリアではフォーク一本で食べるのが一般的かな。
 日本人でいうところの箸の扱いと同じと思ってくれればいいよ」


 そうだったのか…。てっきりスプーンも使って食べるのがマナーかと思ってたぞ…。
 周りを見てみると、咲夜と澪と亜梨主とユーミア以外は、俺も含めて慧梨主と同じようにスプーンも使って食べていた。
 亜梨主の話を聞いて手を止めている。




ノノハラ レイ
「へぇ、よく知ってるね。流石は超高校級の外交官候補生」


ウメゾノ ミノル
「まぁ、ちょっと人より海外渡航歴が長いだけだからあまり胸張って自慢できないんだけど」


サクラノミヤ エリス
「でも、それじゃどうやって食べるんですか?」


ウメゾノ ミノル
「一口サイズぐらいの量をこうやって端に寄せて、適量のソースと絡めて、こうやってフォークで巻けばやり易いかな?」


 手馴れているのか、穫は見事な手本を見せてくれた。
 …でも慧梨主の手を取って体を寄せてやるようなことでも無くないか?




サクラノミヤ エリス
「あ、ありがとうございますお兄様…」


 顔を真っ赤にして上の空になってるし…。
 …よくイタリア人は女癖が悪いって聞くが、こいつはイタリア人に強く影響を受けすぎたんじゃないだろうか?
 ええと、何だったかな?
 …そうそう、朱に交われば赤くなるってやつだ。





サクラノミヤ アリス
「ちょーっとスキンシップが過ぎるんじゃないのー?」


ウメゾノ ミノル
「いで!いでででで!ちょ、ちょっと、脇腹つねるのは、ほ、ほんとに、い、いだだだだ!!」


 ほれみろ言わんこっちゃない。





ノノハラ レイ
「あぁ、そうそう、何か足りないと思ってたら、あれだ。あれがないんだ」


ノノハラ ナギサ
「何が無いの?」


ノノハラ レイ
「粉チーズだよ、こ・な・チ・イ・ズ♪」


 …何故だろう。今の言い方に無性に腹が立つ。





ノノハラ レイ
「確か、キッチンにあったよね?」


ユーミア
「えぇ。大抵の食料や調味料・調理器具があることは確認しております。持ってきましょうか?」


ノノハラ レイ
「いいよ、それくらい自分でできるって。入ってすぐ左の引き出しの一番上の段に4個並んでたよね?」


ユーミア
「確かそうだったと思いますが…、よく分かりましたね」


ノノハラ レイ
「午前中にどこに何があるかはちゃんと調べて把握しておいたからね。ちゃんと覚えてるよ」


 そういやこいつ記憶力が異常にいいんだったな。忘れてた。


ノノハラ レイ
「二つ持ってきたら一列ずつ皆で回して使えるよね?」


 異論を唱える者はなく、澪はそのままキッチンへと向かった。




ノノハラ レイ
「綾瀬ー、受け取ってー」


コウモト アヤセ
「わわわ!」


 澪はキッチンから出るや否や粉チーズの容器を河本に放り投げて渡した。
 河本は慌ててそれをキャッチした。狙いはずれてたら大惨事だったぞ…。


コウモト アヤセ
「もう、澪!」


ノノハラ レイ
「はは、ごめんごめん」


 澪は全く悪びれる様子もなく、そのまま席に着いた。
 やっぱりこいつちょっとおかしいぞ…。





ノノハラ レイ
「…よし、これくらいかな?」 パチ


 結構な量かけたな。そんなにかけるか?普通。


ノノハラ レイ
「はい、渚。早く回してあげてね」 パチ


ノノハラ ナギサ
「うん…」


 あまりかけなかったな。兄妹でも好みは別なんだろうか?





ノノハラ ナギサ
「はい、どうぞ…」 パチ


サクラノミヤ アリス
「あたしダイエット中だから要らないわ。はい、あげる」


ウメゾノ ミノル
「そう?じゃ、遠慮なく使っちゃおうかなー?」 シャカシャカ


サクラノミヤ エリス
「…どうしてそんなに振っているんですか?」


ウメゾノ ミノル
「ああ、これ?ダマになってるやつもあるみたいだし、細かくしないとね」 シャカシャカ




 穫は何度も強めに振って、ようやく粉チーズをかけ始めた。
 …ちょっと待て、いくら遠慮なく使うって言ってもそれはかけすぎじゃないか…?


サクラノミヤ エリス
「あの…、お兄様?」


ウメゾノ ミノル
「あ」


 何「やばいやり過ぎた」みたいな顔してるんだよ!
 チーズでパスタが見えなくなってるとかどれだけかけてるんだお前は!やりすぎだ!





ウメゾノ ミノル
「ま、まぁ気にせず使ってよ。まだ結構残ってるから」 パチ


サクラノミヤ エリス
「は、はい…」 パチ


 あーあー、慧梨主大分遠慮しちゃってるよ…。ほとんど使ってないんじゃないか?


サクラノミヤ エリス
「はい…。どうぞ…」 パチ


 慧梨主から渡された粉チーズの容器は大分軽い…。もう八分の一も残ってないんじゃないか、これ?


ノノハラ レイ
「あー、公さ、ボク新しいの持ってくるから、それ使い切ってくれる?」


オモヒト コウ
「あ…、あぁ、わかった」


 全く…。梅園の奴…。ちょっとは遠慮ってものをしろよな。
 日本人なら日本人らしく、もうちょっと慎ましくしろよ、全く。
 それか澪みたいに気を利かせるなりなんなりしたらどうなんだ…。




 やっぱり粉チーズは八分の一弱ぐらいしか残っていなかった。
 蓋を外して中身全部かけても大した量にならなかったし。
 おまけにあれだけ振っておいてまだダマが一つ残ってるじゃないか。




ノノハラ レイ
「はい、これ。足りなかったらかけてよ」


オモヒト コウ
「今度は手渡しするんだな」


ノノハラ レイ
「綾瀬はちゃんとキャッチしてくれるって信じてるから安心して投げれるけど、公はそうでもないでしょ?」


 確かにそうかもしれないが、そういわれるとちょっとむかつくな。


オモヒト コウ
「俺はもういいから、夢見使えよ」


タカナシ ユメミ
「うん」


 …まぁ、いい。
 とにかく今はこのパスタを食べることに専念しよう。





ノノハラ レイ
「空き容器をゴミ箱にシュゥーーーーーッ!」


ウメゾノ ミノル
「超!Exciting!」


サクラノミヤ アリス
「何ふざけてるんだか…」


コウモト アヤセ
「こら澪、行儀が悪いでしょ!ちゃんと捨てなさいよ!」


ノノハラ レイ
「はっはっはっ!…分かってる、分かってるって」


 …平和だ。これまで何事もなく過ごしてきている。
 このまま、この平和が続けば、きっと…。



 …ん?何か、変な、味…、が……。





オモヒト コウ
「――がはぁっ!!」

 
 思わず吐き出した。

 な、なんだ、これ…!
 舌が焼け…、熱……!


 だ、駄目だ…!


 


 い、しき、が…、と、とお、の…――






 




――♪希望断線ノイズミュージック



 



――というわけで、Chapter0.5の(非)日常編が終わったところで今回はここまでとなります。

――やっと事件が起きましたね、よかったよかった。しかし主人公がこんなことになるとは驚きですね!(棒)

――イッタイカレハドウナッテシマウンダー!?

――…次回は未定です。捜査編と学級裁判編の書き溜めがある程度できたら投下します。

――それではお休みなさいませ。



――P.S. >>227様 中華は好きですが流石に洋風のホテルでは…、ねぇ?


渚特製オムライスの餌食になったか

え、しんだの⁉︎



――>>245様 渚特性オムライスの出番はまだ先でございます。

――>>246様 死んではいません(無事とは言ってない)。



――大変永らくお待たせいたしました。再開いたします。





         Chapter0.5
   クラストライアル・チュートリアル
          非日常編





タカナシ ユメミ
「お、お兄ちゃん?!」


アヤノコウジ サクヤ
「ちょ、ちょっと!何が起きたの?!」


ナナミヤ イオリ
「まさか…、毒?!」


ナナ/ノノ
「「大丈夫?!」」





ノノハラ レイ
「んぶっ!ゲホッ、ゴホッ!」


カシワギ ソノコ
「ひぃっ!」


コウモトアヤセ
「れ、澪?!」


ノノハラ ナギサ
「お兄ちゃんまで!?」


ノノハラ レイ
「ごほっ、い、いや、こっちは、だ、大丈夫、ちょっと、びっくりして、咽ただけ」





マスタ イサム
「お、おい、だ、誰か!早く救急車!」


アサクラ トモエ
「え、えっと、ひゃ、119番て何番だっけ?!」


ユーミア
「落ち着いてください、そもそも外線電話はつながりません!
 成分を分析しますから下がっていてください!」





サクラノミヤ アリス
「慧梨主、離れなさい!」


サクラノミヤ エリス
「え、あ、あ、はい…!」


ウメゾノ ミノル
「みっみみみみみいんなおおちおこちいおおおぉぉぉぅをおちつつうつつききなって!」


サクラノミヤ アリス
「あんたが一番落ち着きなさい!」 キック!


ウメゾノ ミノル
「あだぁ!」 ヒット!





オモヒト コウ
「――ハッ!」


 俺は何を…?
 一瞬、気を失っていたのか…?



 徐々に体の感覚が戻ってくる。


 体中が燃えるように熱くなっているのが解る。

 全身から汗が滝のように出てくる。

 口中や喉中に広がる刺すような痛みを感じる。







――それは、今までに経験したことのないような“辛さ”だった。



っていうかシャレにならんてこの辛さは!辛いっていうか痛い!





オモヒト コウ
「ひ、ひず!ひずふへ!(み、水!水くれ!)」


 何なんだよ!阿保みたいに辛いぞ畜生!
 辛すぎて失神しかけるとかどんだけなんだよ!



 だぁぁあああっぁぁっぁあぁぁぁぁ!辛い!辛い辛い辛い!






 いつのまにかキッチンに行っていた澪が牛乳パックを手に持っていた。
 …コップもなしに?直で飲めってか?


ノノハラ レイ
「手近なものこれくらいしかなかったんだけど」


オモヒト コウ
「…ほこへぇっ!(よこせぇっ!)」


 コップに水入れりゃいいだろ!なんて突っ込みを飲み込んで牛乳パックを奪う。
 まぁいい、むしろありがたいかもしれん。
 牛乳でこの辛さを和らげ、て…?
 ――にしてはなんかドロッとしてる…?なんか味も変…?




……――……――……――……――……

タカナシ ユメミ
「待ってよお兄ちゃ~~ん(はぁと)」 ハサミシャキーン
オモヒト コウ
「やなこった、捕まえてみろよ~~☆」

  アハハウフフ

……――……――……――……――……



 ――マズッ!臭っ!!なんか変な走馬灯みたいなもん見えた!


 腐った魚の匂いがする!
 塩辛さと酸っぱさと甘ったるさがいっしょくたになって気持ち悪いっ!!





オモヒト コウ
「ぐおぉぉぉぉおおおおおぉぉぉぉおぉおぉおぉ!!」


 マズ過ぎて意味が解らん!
 体が拒絶反応を起こしてもんどりうってる!
 何なんだよこの猛烈なまずさは!
 そもそも何で牛乳パックにこんな意味不明なケミカルウェポンが入ってるんだよ!?


ノノハラ レイ
「んふ…」


ウメゾノ ミノル
「く…、ひひっ…」



 お前らの仕業かぁぁあぁぁぁぁぁあぁあぁぁあ!!
 笑い必死にこらえやがってぇぇええぇぇえぇえぇえぇぇぇぇええぇぇえ!!
 おぼえてやがれぇえええええぇえぇぇぇえ!!





タカナシ ユメミ
「お兄ちゃん?!お水持ってきたからしっかりして!」

 結局、夢見が持ってきた水で口の中の異物を洗い流し、無駄に消耗した体力を回復するのに小一時間かかった。



 …水はただの水道水だった。
 これで塩水とかいう隙を生じぬ三段構えだったら俺の心は折れていたかもしれない。





ユーミア
「…結局一体何なのですか、それは?」


ノノハラ レイ
「くさやジャム?」


 そんなものジャムにするなよぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉおぉおぉぉ!!




オモヒト コウ
「てめぇらやっていいこと悪いことがあるだろうが!」


ウメゾノ ミノル
「いやぁ、ごめんごめん。モノモノマシーンの景品で当てたはいいけど使い道に迷っちゃって」


ノノハラ レイ
「お・す・そ・わ・け♪しちゃった☆」(。・ ω<)ゞミ☆


オモヒト コウ
「有難迷惑だよ!
 あといちいち反応がムカつくなお前は!」





ノノハラ レイ
「でもまぁ、悪戯仕掛けたボクらだって空になった牛乳パックにくさやジャム入れる時、
 臭すぎてちょっと死にかけたんだし、ねぇ?」


ウメゾノ ミノル
「シュールストレミングほどじゃないけど、やっぱり臭いものは臭いね。
 ファブ[ピー]ズ使っても匂いが落ちないのなんのって」


オモヒト コウ
「何でそんな下らないことに時間と労力かけてるんだよ…」






オモヒト コウ
「で?パスタに何入れたんだお前ら」





ノノハラ レイ
「…?」


ウメゾノ ミノル
「何の話?」





オモヒト コウ
「とぼけるなよ…!お前らが俺のパスタに唐辛子かなにか盛ったんだろ?って聞いてるんだよ」


ノノハラ レイ
「いやいや、ボクらじゃないよ。確かにくさやジャム入りの牛乳パックを仕掛けたのはボクらだけどさ」


ウメゾノ ミノル
「大体、食べ始めた頃は何ともなかったじゃないか。
 つまりその時まで君のパスタには何も盛られていなかったわけだ。
 食べてる途中で隙を見て盛る、なんてことも僕達の席は君の席と離れてるんだから無理だよ」


オモヒト コウ
「そう言われればそう…、なのか?」


タカナシ ユメミ
「じゃぁ誰がやったの?!」


オモヒト コウ
「そう怒るなよ夢見…」


 なんかこう…、他人が自分以上に怒ってると急激に冷めるというのが頭でなく心で理解できた気がする…。





マスタ イサム
「やった奴はやったって正直に言ったらどうなんだ?
 オモヒトは無事生きてるみたいだし、結局悪戯だったんだろ?」


ユーミア
「…こんなに大ごとになってしまった以上、名乗り出るのは難しいかもしれませんね」


タカナシ ユメミ
「あたしはあの二人が怪しいと思うけどね!」


 夢見は“あの二人”…、くさやジャムを牛乳パックに入れた澪と梅園を睨み付けた。
 が、二人は怯むどころか飄々とした態度をとっている。





コウモト アヤセ
「…確かに澪ならくさやジャムを確実に飲ませるため、とか言ってやりかねないかも…」


ノノハラ レイ
「あははは…、これは手厳しい。でも、ボクじゃないんだ、公のパスタに一服盛ったのは」


ウメゾノ ミノル
「僕もやってない、とはいえ、このままじゃやったやってないの水掛け論にしかならないか」


ユーミア
「同意ですね。やったにしろやってないにしろ、証拠は必要です。
 感情的になって犯人を決めつけるのは得策とは言えません」


カシワギ ソノコ
「でも…、そうなると、どうすればいいんでしょうか…?」




 …もし、パスタに盛られていたのが毒であれば、俺は間違いなく第一の被害者となっていたことだろう。
 もし、これがそのデモンストレーションであったとしたら。そんな想像がちらつく。
 それはつまり、俺たちの中に人殺しをたくらんでいる奴がいるということだ。


 ただの悪戯にせよ、予行演習にせよ、犯人が名乗り出ない以上、誰が犯人なのかを突き止めるしかない。
 犯人の真意がどうであれ、このまま解散したら俺たちは「誰かが殺人を計画しているかも知れない」という恐怖を抱えたままになってしまう。
 そんな疑心暗鬼の状態で今日という日が終わってしまうのはどうしても避けたい。


ノノハラ レイ
「じゃぁさ、こういうのはどう?」


 全員が沈黙する中、くさやジャムの悪戯を仕掛けた張本人の内の一人である澪が口を開いた。





ノノハラ レイ
「おーい、学園長ー!」


 …モノクマなんて呼んでどうするんだ?あいつに聞くのか?
素直に教えてくれるとはとても思わないんだが。





モノクマ
「はいはい、なんですか?」


 呼ばれて数秒後に出てくるとは…。
 …テーブルの下からヌイグルミがぬるりと出てくるなんてちょっとしたホラーだな。




ノノハラ レイ
「モノクマは誰が公のパスタに悪戯を仕掛けたのか解ってるよね?」


モノクマ
「もちろんです。どうせなら毒薬でもしこめばよかったのにと思ってたんだけど、意外にチキンなんだねぇ。
 あ、その犯人が誰かっていう質問なら受け付けませんから!
せっかく面白そうな展開になると思ったのに、肩透かし食らった気分でちょっとイライラしてるもんね!」


 まぁ、そうなるだろうな。こいつはこういう奴だもんな。





ノノハラ レイ
「いや、元からそんな質問するつもりなかったし」


モノクマ
「にゃぽ?」


ノノハラ レイ
「学園長が犯人を知ってるのならそれで十分。審判役としては文句ないはずだよ」


ノノハラ ナギサ
「審判、役?」





ノノハラ レイ
「今起きた事件が殺人事件だったとするなら、この後でやらなくちゃいけないことがあるんでしょ?」


モノクマ
「そうですね。もし、これが本当の殺人事件だったなら、学級裁判を開く必要があります」


オモヒト コウ
「…何となくお前の考えが読めたぞ。
 要するに、俺たちが議論して出した結論が正しいかどうかを、モノクマに判断してもらうってことだな?」


ノノハラ レイ
「その通り。いうなれば、学級裁判のチュートリアルってことさ」


ウメゾノ ミノル
「名付けてガッキュウサイバンカッコカリ…。なるほど」


 いや、そのネーミングはどうなんだよ…。





ノノハラ レイ
「で、学園長。その審判役…、いや、裁判なんだから裁判員役のほうがいいかな?やってくれる?」


モノクマ
「うぷぷ。中々面白いこと考え付くんだねぇ。
 でも、“おしおき”はどうするの?流石にボクもコロシアイが起きないとおしおけないよ?」


ノノハラ レイ
「それならうってつけのがあると思うけど?」


 とか言いながら指をさした方にあるのは――

 ――俺がさっきまで食べていたパスタの残り、だ。





 何かを盛られて激辛になっているそれは、四分の三以上残っている。
 …何か嫌な予感がビンビンしてくる、というよりむしろ今頭をよぎったこの予想はまず間違いなく的中するんだろうな。


ノノハラ レイ
「あれを責任もって処理してもらう、っていうのはどう?」


 うっわぁ…。
だろうと思ったけどさ。
一度口にした俺だから言えるけど、あれ絶対口にしちゃいけない奴だって。
あれ食えなんて言われたらもう死を覚悟するレベルだって。





モノクマ
「うぷぷ。いいよっ!ボクって食べ物を粗末にするやつは許せないんだよね!」


 …こうして、俺たちにとって最初の学級裁判が行われることになった。


モノクマ
「『ピンポンパンポーン!事件が発生しました。一定の捜査時間の後、学級裁判を開きます』
 …とまぁ、死体がないので死体発見アナウンスは流せませんが、オマエラ、張り切って捜査するんだぞー!」


 これが、最初で最後の学級裁判になれば、きっとそれでいいんだ。
 この事件も、ただの悪戯として水に流すことができる。
 モノクマに屈しなかった思い出になる。
 殺し合いなんかせずに、ここから脱出できたとき、いい語り草になる。


 だからこそ、絶対に犯人は突き止めてみせる。
 必ず。





――>>1の体力の限界のため今日はここで更新を一時中断いたします。


――捜査時間と学級裁判は昼頃になりそうです。


――それまで>>1を体力の無いゲロ豚と罵りながらお待ちくださいませ。




――まだ空は明るい。つまり今はまだ昼ってことだ。



――書き込み途中で送信とか絶望的だよね。遅刻はするわでホントにこの>>1は使えないなぁ。


――じゃ、早速だけど捜査編、始めちゃうね?




    ――捜査開始――


 捜査は、証拠隠滅を防ぐために二人一組で行われた。
 そして現場を保存するために見張りも二人おかれた。
 二つとも澪が提案したのだが、言っていること自体はもっともだから、誰も反論しなかった。
 ただ、澪と梅園は同じペアにさせることは反対が多かったので、澪は俺と、梅園は増田と組むことになった。





オモヒト コウ
「そういえば澪、新しい粉チーズの容器を持ってくるとき、俺の席まで来ただろ?
 その時に盛るチャンスがあったんじゃないのか?」


ノノハラ レイ
「勘弁してよ公、目の前でそんなことしたらすぐばれるに決まってるじゃない。
 第一、ボクはテーブルに近づいてすらないんだから無理だよ」


オモヒト コウ
「それもそう、か…?」



コトダマGET!
野々原澪の証言:野々原澪は主人公に粉チーズを手渡す時、テーブルには近づいていないため直接パスタに仕込みを行うことはできなかった。






ノノハラ レイ
「ねぇ、公。ちょっと調べておきたいものがあるから、ついてきてくれる?」


オモヒト コウ
「あぁ。…で、何処に行くんだ?」


ノノハラ レイ
「売店。ちょっと心当たりがあるんだよね」


 階段を上がって売店へ向かった。





 澪は売店に着くなり、一直線にモノモノマシーンへ向かった。
 こいつ、まさかこの期に及んでガチャガチャ回すつもりじゃないだろうな…?


 と、思ったが、澪はモノモノマシーンの横にあるゴミ箱を漁り始めた。
 ゴミ箱はこのホテル内の至る場所に設置されているもので、今澪が漁っているそれは大量のガチャガチャのカプセルであふれかえっている。
 全財産を使い果たしてまでガチャを回し続けた澪たちは、中身だけ抜き取って、必要のないカプセルをここに捨てたんだろう。





オモヒト コウ
「そこに一体何があるっていうんだ?」


ノノハラ レイ
「ん~?凶器はきっとここに……あった!」


 澪はゴミ箱から一つのボトルを取り出した。
 サプリメントが入っているような、プラスチック製のボトルだ。


オモヒト コウ
「それが凶器、なのか?」


ノノハラ レイ
「そ、“サドンデスサプリ”。コスタリカ原産のデスソースを真似て作ったんだろうね。
 実はこれ、ボクらがモノモノマシーンで当てた景品なんだけど、
 要らなかったから誰か使わないかと思ってマシーンの傍に置いておいたんだ」


オモヒト コウ
「それで心当たりがあったのか…」


 デスソースなら聞いたことがあるな。確か一滴を25mプール一杯分の水で薄めても辛さを感じるとか、そんな感じの奴だったはずだ。
 …なんてもんサプリにしやがる。何の目的でこんなもん作ったんだよ…。





 ラベルには


一粒でハバネロ3つ分のカプサイシン含有!
飲めば胃の中ですぐ溶けて体の内側からポカポカ!
60粒入り!


 と書いてある。一粒でハバネロ3つ分てお前…。
 こんなもの飲んだら胃の中爛れてポカポカどころじゃなさそうなんだが…。
 こんな産廃もどき好き好んで飲む奴なんているのかよ…。





オモヒト コウ
「ん?開封されてないかこれ?」


ノノハラ レイ
「ボクらは開けてないよ。辛いの嫌いだし。
 …ちょっと中身確認してみる?」


 澪はボトルからサプリを全て取り出すと、一つ一つ数えていった。


ノノハラ レイ
「57、58、59…。ラベルには60粒入りって書いてあるから、一つ足りないね」


オモヒト コウ
「誰かが一粒だけ取り出して残りは捨てたってことか?」


ノノハラ レイ
「だと思うよ。公のパスタに入れられたのは、多分これなんじゃないかな?」


コトダマGET!
サドンデスサプリ:一粒でハバネロ3つ分のカプサイシンが含まれている。
         開封した跡があり、一粒なくなっている。




オモヒト コウ
「ちょっと見せてくれ」


ノノハラ レイ
「はいよ」


 澪から手渡されたそれは、思いのほかずっしりと感じた。
 大豆ほどの大きさの、透明な黄色いカプセルだった。
 …ん?何かぬめってきてないか?


オモヒト コウ
「なんだこれ…?」


ノノハラ レイ
「あー…。これ、ひょっとしてカプセルが溶けてるのかも。
 ほら、胃の中で溶けるって書いてあるでしょ?多分、温度で溶け出すタイプだと思う」


オモヒト コウ
「簡単に溶けすぎだろ…。…って、まずくないかこれ!?」


ノノハラ レイ
「そうだね、取り敢えずすぐに手を洗わないと大変なことになっちゃうね…!」


 カプセルはすぐにボトルに戻し、急いでキッチンまで走って手を洗った。
 …気持ち手がヒリヒリする。もう少し遅れていたらやばかったかもな。


コトダマGET!
サプリの粒:透明な黄色いカプセル。密度が高いので持つと意外と重く感じる。
      人肌程度の温度で溶け出す。



 キッチンに来て思い出した。
 この事件が起きる直前、何があったのか。


オモヒト コウ
「そういえば、粉チーズをかける前までは何ともなかったよな」


ノノハラ レイ
「そうだね。カプセルがすぐ溶けてしまうってことを考えると、俄然粉チーズが怪しくなってくるよね」


 あらかじめカプセルをパスタに仕込んでいたのなら、出来立てのパスタの熱でカプセルはすぐに溶けていたはずだ。
 現に俺が食べ始めたときパスタから湯気が出ていくのが見えたし、実際食べてみても温かさを感じた。
 粉チーズをかけるまでは普通に食べることができていたのだから、食べる前の時点でカプセルを盛られていたとは考えられない。

 となれば、俺のパスタが激辛になった原因は粉チーズにあると考えるのが妥当だろうな。




オモヒト コウ
「確か…、入ってすぐ左の引き出しの…、一番上、だったよな?」


ノノハラ レイ
「そ。ちなみに、どれも開封済みだったけどほとんど未使用だった」


オモヒト コウ
「なるほどな…」


 つまり、誰でも粉チーズにカプセルを仕込むチャンスはあった、ってことだ。
 だが、それだと最初に使った澪か河本が被害にあったはずだ。俺じゃない。
 実際に被害にあったのは俺。だから最初からカプセルを仕込んだわけじゃない、ってことだ。





オモヒト コウ
「一本は使い切ってゴミ箱に、二本テーブルの上に置きっぱなし、ってことは今ここにあるのは最後の一本ってことだな」


ノノハラ レイ
「…一応、調べとく?」


オモヒト コウ
「そうだな。何か痕跡があるかもしれない」


 粉チーズの容器の蓋を外して中を見てみる。
 が、見えるのはただの粉チーズだ。
 蓋にも何か細工を施されたような跡はない。大小二つの口がある、一般的なタイプだ。





オモヒト コウ
「特にこれといった異常はない、みたいだな」


ノノハラ レイ
「カプセルらしきものなんてないね。この室温じゃカプセルが溶けたとも考えられないし」


オモヒト コウ
「これ以上ないくらいサラサラしてるしな。ダマもないみたいだし」


 …ん?じゃあなんであいつはあんなことしたんだ?


ノノハラ レイ
「あっちにあるのも調べてみようか?もしかしたら何かあるかもよ?」


オモヒト コウ
「そうだな。特にゴミ箱の中にある奴は一番怪しい」


 …が、どれを調べてみても何の変哲もないただの粉チーズだった。
 中身が残っていない、つまり俺が使い切った物は特に入念に調べたが、異常は見つからなかった。


コトダマGET!
粉チーズ:容器や蓋になにか特別な仕掛けを施したような痕跡はない。
     新品同然で、ダマの一つもなくサラサラしている。
     蓋に大小二種類の口が付いた一般的なもの。



ナナミヤ イオリ
「主人さん、具合はどうですか?」


 現場の見張りをしている伊織に話しかけられた。


オモヒト コウ
「大丈夫だ。まだちょっと舌がひりつく程度だよ」


ナナミヤ イオリ
「そう、ですか」


オモヒト コウ
「そうだ、伊織の席はテーブルの端にあったよな?」


ナナミヤ イオリ
「ええ。ですから、主人さんの席もよく見えます。
 でも…、だからこそ断言できます。食事中は誰も主人さんのパスタに細工なんてしていませんでした」


オモヒト コウ
「途中で目を離していた、とかはないか?」


ナナミヤ イオリ
「いえ…、片時も」


オモヒト コウ
「…そうか」


 隣同士の席の幅はだいたい人一人分だ。薬を盛ろうとパスタに手を伸ばせば、かなり目立つ。
 席の関係上伊織は真後ろを向かない限り俺の席、ひいては俺のパスタは視界に入っていたはずだ。
 一瞬たりとも目を離していないのなら、薬を盛る仕草が視界に入らないはずがない。
 その伊織が断言しているのだから、多分間違いはないだろう。


コトダマGET!
七宮伊織の証言:食事中は誰もパスタに細工はしていなかった。





ノノハラ レイ
「はい…、もう二度としません…」


コウモト アヤセ
「全くもう…。その、ごめんね?澪が迷惑かけちゃって」


 伊織と一緒に見張りをしていた河本は、澪に説教を食らわせていた。
 河本が謝っているのは、くさやジャムについてだろう。





オモヒト コウ
「もういいよ。それよりも今は犯人を捜すことが先だ」


ノノハラ レイ
「そうだよ。でなきゃおしおきであんなの食べさせられるんだから」


コウモト アヤセ
「開き直らないの!」


ノノハラ レイ
「ひぃっ!」


コウモト アヤセ
「はぁ…、澪ってば昔からやんちゃなんだから…。
 さっきだってゴミを投げてゴミ箱に入れてたし…」


ノノハラ レイ
「いいじゃないちゃんと入ったんだからさぁ」


コウモト アヤセ
「そういう問題じゃないの!」


オモヒト コウ
「…そういやお前、俺から受け取った空き容器、その場でゴミ箱に投げたんだっけな」


 慧梨主の席の後ろ辺りからキッチンの入り口脇にあるゴミ箱へ一発で投げ入れたコントロールの良さは目を引くものがあったな。
 …本当に一体何者なんだコイツは。





コウモト アヤセ
「皆注目してたわよ?いきなり大声あげるんだら。梅園君なんて立ち上がって悪乗りするし…。
 ひょっとして、皆の注意が澪に集まっている間に誰かがやったんじゃない?」


オモヒト コウ
「そう…、かもな…」


 澪と梅園に注意が向いている隙に俺のパスタにカプセルを入れる…、
 確かにそう考えられるかもしれないが、それはありえないだろう。
 さっきの伊織の証言と矛盾することになる。

 …でも、これは今言うべきことじゃないだろうな。言うなら学級裁判内で、だ。


コトダマGET!
河本綾瀬の証言:野々原澪と梅園穫の両名が悪ふざけで注目を集める瞬間があった。





モノクマ
「『ピンポンパンポーン!捜査時間しゅーりょー!至急、食堂の自分の席についてくださーい』
 うぷぷ。本当はもうちょっと時間あるんだけど、待ちきれなくなっちゃった。
 大方犯人につながる手がかりは見つかったみたいだし、大丈夫だよね?」




 モノクマの招集からあまり時間をかけずに16人全員が集合した。
 皆、現場の食堂からあまり離れなかったんだな。


 席に着いた俺たちは、互いの顔色を窺うように見回していた。
 不安そうな顔、余裕綽々の顔、憤りの顔、得意満面の顔…。
 そして、緊張の顔…。


 ここでしくじったら、命懸けの罰ゲームに挑まなければならなくなってしまう。
 流石に死にはしないだろうが、一度味わった身としてはもう金輪際いくら金を積まれようが絶対にもう二度と御免だ。






 この中に、俺のパスタを激辛に変えた奴がいるんだ。

 そいつの意図が何なのかは、今は置いておくしかない。

 犯人を突き止めなければ…、想像もしたくない事態が起こってしまう。

 だからこそ、俺は命懸けで挑まなければいけない…!

 俺や皆の舌を、胃腸を、体を、命を守るために…!



モノクマ
「よーし、オマエラ、今夜限りのガッキュウサイバンカッコカリ!張り切って行ってみよー!」


 お前そのネーミング気に入ったのかよ!





――今回はここまでとなります。ノロノロと亀更新で大変申し訳ございません。


――おそらく学級裁判編が投下できるのは来週になると思います。


――それまでだれが主人公のパスタを激辛にしたのかを推理してみてはいかがでしょうか?


――希望の象徴と呼ばれる皆様方なら、きっと答えにたどり着けるはずでございます。




――まぁ、やってみろよ。





――遅れまして誠に申し訳ございません。

――再開いたします。


 夕食中に起きた悲劇…。
 一体誰が、何のために、主人公のパスタを激辛にしたのか?
 最初で最後の学級裁判(仮)が今、幕を開ける…。



  学級裁判(仮)

    開廷




モノクマ
「まずは、学級裁判の簡単な説明をしておきましょう。
 学級裁判では、『誰が犯人か』を議論し、その結果は、オマエラの投票によって決定されます。

 正しいクロを指摘できればクロだけがおしおきですが、もし間違った人物をクロとした場合は…
 クロ以外の全員がおしおきされ、生き残ったクロだけにここから出る権利が与えられます!」


モノクマ
「…とはいっても、今回はカッコカリだから、おしおきも大分マイルドだし、クロにもご褒美はないんだけどね!」





ノノハラ レイ
「ねぇモノクマ。議論を始める前にちょっと聞いておきたいことがあるんだけど。
計画を立てた首謀者と実際に行動を起こした実行犯、どっちがクロになるのかな?」


モノクマ
「…えー、学級裁判においては、“いかなる場合でも直接相手を死に至らしめた者”をクロとします。要するに、実行犯がクロとなるわけです。
 首謀者は他のシロと同じ扱いになるから、おしおきも他のシロと同じように受けてもらうよ!」


ノノハラ レイ
「ふーん。じゃぁ共犯にメリットはないってわけだ。
 で、今回の場合は、クロの定義は“主人公のパスタに直接毒を盛った人間”でいいんだね?」


モノクマ
「その通りですね。
 …質問はそれだけかな?」


ノノハラ レイ
「あぁ、もういいよ。それさえ聞ければ満足」


モノクマ
「それでは早速、始めましょーう!」




カシワギ ソノコ
「始めろって言われても…、何をどうしたらいいんですか…?」


タカナシ ユメミ
「あたしはあの二人が怪しいと思うけど」


コウモト アヤセ
「そうね。本来ならあなたと慧梨主ちゃんが一番の容疑者だもんね。そう言っておかないと自分に疑いがかかっちゃうもんね」


タカナシ ユメミ
「なんであたしがお兄ちゃんにそんなことしなくちゃいけないわけ?!」


サクラノミヤ アリス
「慧梨主はそんなことしないわよ!根拠は何なの?!」


コウモト アヤセ
「だって、被害者の両隣の席にいる人が真っ先に疑われるのは当然でしょ?
 薬を盛るチャンスがあって、一番薬を盛りやすい場所にいたんだから」


ノノハラ レイ
「…まぁまぁ、取り敢えずはさ、事件の状況を整理してみようよ。
 まさか四の五の言わないで怪しいやつを片っ端から締め上げる、なんて野蛮なマネするわけにもいかないんだし」


 俺が倒れたあの瞬間…、あの騒ぎの中に何かヒントがあるのかもしれないな…。
 そこから最終的には犯人を見つけ出さなきゃいけないのか…。


オモヒト コウ
「……」


 ここまで来たらもうやるっきゃない。
 できなかった場合のことなんてもう想像もしたくない…!





 ―議論開始―


 |野々原澪の証言>



ノノハラ レイ
「事件は夕食中に起きた…。この中の誰かが公のパスタに何かを盛った…」


タカナシ ユメミ
「いい加減白状したら?あんたがそれをやったんじゃないの?」


コウモト アヤセ
「そっちこそいい加減に諦めなさいよ。澪にはそれが出来るチャンスがなかったじゃない」


タカナシ ユメミ
「どうだか。さっきは口車に乗せられたけど、それで余計に怪しくなったんだから」


ノノハラ レイ
「…それってどういう事かな?ちょっと説明してもらえる?」


タカナシ ユメミ
「とぼけるな!お兄ちゃんに粉チーズを渡しに行ったときに出来たはずでしょ!
 【さり気無く近づいてこっそり】ね!」


ノノハラ レイ
「…ふぅん。そっか」


 今の発言に、間違っている点がある…。これは間違いないはずだ。
 …まずは夢見の誤解を解かないとな…。






ノノハラ レイ
「事件は夕食中に起きた…。この中の誰かが公のパスタに何かを盛った…」


タカナシ ユメミ
「いい加減白状したら?あんたがそれをやったんじゃないの?」


コウモト アヤセ
「そっちこそいい加減に諦めなさいよ。澪にはそれが出来るチャンスがなかったじゃない」


タカナシ ユメミ
「どうだか。さっきは口車に乗せられたけど、それで余計に怪しくなったんだから」


ノノハラ レイ
「…それってどういう事かな?ちょっと説明してもらえる?」


タカナシ ユメミ
「とぼけるな!お兄ちゃんに粉チーズを渡しに行ったときに出来たはずでしょ!
 【さり気無く近づいてこっそり】


 |野々原澪の証言>


  それは違うぞ! 
   論破


  -BREAK!!!-



オモヒト コウ
「いや、あの時も澪には出来なかったはずだ」


タカナシ ユメミ
「どうして?お兄ちゃんどうしてそいつの肩もつの?」


オモヒト コウ
「あの時、澪は俺に近づきはしたが、テーブルには近寄っていないんだ。
 それは俺も確認してるし、あの時澪は投げ入れるような素振りも見せなかった。
 やっぱり澪には盛るチャンスなんてなかったはずだぞ」


コウモト アヤセ
「そもそも、目の前でやったらバレバレだもんね」





ノノハラ レイ
「全く、ちょっと考えればわかることなのに…。
 どっかのおバカさんのせいでとんだ時間の無駄だよ」


タカナシ ユメミ
「言わせておけば……!」


オモヒト コウ
「落ち着けって夢見。澪も無責任に煽るなよ…」


タカナシ ユメミ
「…ふんだ」


ノノハラ レイ
「はいはい」


マスタ イサム
「でも、それまでは何ともなかったのは事実だよな」


オモヒト コウ
「そうなんだよな。粉チーズをかける前までは普通に食べられたんだ。
 だから仕掛けたタイミングとしてはその前後だったはずだ」





カシワギ ソノコ
「あの…、そもそも、その仕掛けられた凶器は一体何だったんでしょうか…?」


サクラノミヤ エリス
「どういう事、ですか?」


カシワギ ソノコ
「例えばの話ですけど…、オブラートに包んである粉状のものだったら、入れてから溶け出すまでに時間差があると思うんですが…」


ウメゾノ ミノル
「あるいは、あらかじめ食器の淵に塗っておいたのかもね。
 食べている間にフォークやパスタに付着するように」


マスタ イサム
「つまり、凶器がどんなものか解らなければ犯人がどう盛ったのかも解らない、ってわけだな」


ウメゾノ ミノル
「入手経路で犯人が搾れるかもしれないし、やっぱり凶器の断定は必要だよね」



 凶器か…。要するに、俺のパスタに何を入れられたか、ってことだよな。
 俺はそれが何なのかを知っている。
“あれ”で間違いないはずだ。





―議論開始―


|野々原澪の証言>
|粉チーズ>
|サドンデスサプリ>


サクラノミヤ エリス
「凶器は一体何なのでしょう…?」


カシワギ ソノコ
「やっぱり、一番メジャーな【粉末状の薬】でしょうか…?」


サクラノミヤ アリス
「汎用性の高い【液状の薬】とかじゃない?」


アヤノコウジ サクヤ
「持ち運びやすい【カプセル】でしょ?どうせ」


ウメゾノ ミノル
「あ~…、何か同じような声が別々な方向から聞こえてきてこんがらがってきた…」


サクラノミヤ アリス
「余計なことは言わなくていい!」


ウメゾノ ミノル
「いてて!グーはやめてよ、グーは!」


 凶器は、俺たちが見つけた“あれ”のはずだ。
 …“あいつ”と意見が合うなんて珍しいこともあるもんだ。




サクラノミヤ エリス
「凶器は一体何なのでしょう…?」


カシワギ ソノコ
「やっぱり、一番メジャーな【粉末状の薬】でしょうか…?」


サクラノミヤ アリス
「汎用性の高い【液状の薬】とかじゃない?」


アヤノコウジ サクヤ
「持ち運びやすい【カプセル】


 |サドンデスサプリ>

それに賛成だ!     同意


-BREAK!!!-





オモヒト コウ
「咲夜の言うとおりだと思うぞ。実は、それらしいものを見つけたんだ」


ノノハラ レイ
「これ、だね」


アヤノコウジ サクヤ
「何、それ…?」


ユーミア
「見たところ…、サプリメント、のようですが?」


ウメゾノ ミノル
「あー、それか。それなら納得だわ、うん」


サクラノミヤ アリス
「なに一人で納得してるのよ!さっさと説明しなさい!」


ウメゾノ ミノル
「分かった!分かったから落ち着きなって!
 モノモノマシーンの景品で当てたはいいけど使い道がなかったから放置しておいたやつだよ」


ノノハラ レイ
「一粒でハバネロ3つ分のカプサイシンとか頭おかしいよね」


ユーミア
「…本当にサプリメントなのかどうかが疑わしいのですが」


ウメゾノ ミノル
「Sudden death(突然死)サプリとか縁起でもないnamingの時点でお察しください」


ユーミア
「あぁ…、そうですか」




 学級裁判(仮)

  中断



 学級裁判(仮)

  再開



ナナミヤ イオリ
「そのカプセルが実際の犯行に使われたという証拠は?」


オモヒト コウ
「証拠、といえるほど強い根拠があるわけじゃないんだが…、まず、これが見つかったのはモノモノマシーンの横にあるゴミ箱の中なんだ」


ノノハラ レイ
「おまけに、中身を一つだけ取り出した上でね。
 犯人が凶器として使った後、証拠隠滅のために処分した、と考えるのが一番しっくりくるんじゃないかな?」


ナナミヤ イオリ
「そう、ですね。誰かが試しに使ってみたとも思えませんし」


オモヒト コウ
「あんなもの飲んだらタダじゃすまないからな。さっきの俺見ればわかるだろ?」


アサクラ トモエ
「そうなれば誰も気が付かないわけないもんね」


カシワギ ソノコ
「あんな風になったのは主人さんだけですから、間違いないでしょう…」





タカナシ ユメミ
「ふーん、凶器も用意できたってわけ。余計怪しくなったんじゃないの?」


ノノハラ レイ
「確かに景品としてあてたのはボクらだけど、その場に置いておいたから気付けば誰だって持ち出せたはずだよ。当然キミもね」


タカナシ ユメミ
「何ですって?!」


オモヒト コウ
「やめとけ夢見、こいつに乗せられるとロクなことにならない」


ノノハラ レイ
「随分と手厳しいねぇ公。もしかして、まだ根に持ってたりする?くさやジャムのこと」


オモヒト コウ
「…話を戻すぞ」


 ああ、根に持ってないね。まったく根に持ってない。
 絶対に許さんぞ虫けらども!じわじわとなぶり殺しにしてくれる!覚悟しろ!とかこれっぽっちも思ってなんかないさ。ははは。





オモヒト コウ
「このカプセルは人肌程度の熱で溶けるタイプで、パスタに入れればその熱ですぐに溶けだしてしまうんだ」


ユーミア
「つまり、あらかじめ仕込んでおくことは不可能だった、ということですね?」


オモヒト コウ
「ああ。そういうことになるな」


アヤノコウジ サクヤ
「じゃあ犯人は食事中に、誰にも気づかれないようにこっそりカプセルをパスタに入れたってことになるわね。
いかにも庶民の考えつきそうな下品な手口だわ」




ノノハラ レイ
「庶民的かどうかはさておき、問題はその“誰にも気づかれないように”って所なんだよね」


カシワギ ソノコ
「どういう事、ですか?」


ノノハラ レイ
「他人の料理に何かを入れるなんて滅茶苦茶怪しい行為、こんな衆人環視の中やったら誰か一人くらいは気付くはずだよ」


ナナ
「そう、そうなの」


ノノ
「ずっと不思議に思ってたんだよね」


アサクラ トモエ
「え、何が?」


ナナ
「ナナもノノもお兄ちゃんの向かい側に座ってるでしょ?」


ノノ
「お兄ちゃんのパスタに何かしようとお皿まで手を伸ばせば見えちゃうと思うんだ」


ナナ
「でもナナもノノもそれを見なかったってことは」


ナナ/ノノ
「「お兄ちゃんのパスタにカプセルを入れることは誰にもできなかったって事じゃない?」」




コウモト アヤセ
「本当にそうなの?」


ノノハラ ナギサ
「…綾瀬さんは何か思い当たる事があるってこと?」


コウモト アヤセ
「忘れたわけじゃないでしょ?事件の直前に“全員が何かに気を取られていた瞬間”があったこと。
 つまり、その隙にこっそりカプセルを入れることは出来るんじゃないかって言ってるの」

 
“全員が何かに気を取られていた瞬間”か。河本が言いたいのは多分、あの事だろうな。


 野々原澪の証言

|>河本綾瀬の証言

 七宮伊織の証言

 
 これだ!


オモヒト コウ
「澪が空き容器をゴミ箱に投げ入れたとき、だよな?」


コウモト アヤセ
「そう!あの瞬間は皆がゴミ箱と澪の方に注目していたから、それに隠れてこっそりカプセルを入れることはできるんじゃない?」






コウモト アヤセ
「ねぇ?慧梨主ちゃんに、夢見ちゃん?」




 ――議論開始――



|河本綾瀬の証言>

|野々原澪の証言>

|七宮伊織の証言>

|サドンデスサプリ>

|粉チーズ>



コウモト アヤセ
「どっちがやったかは解らないけど、いい加減白状したらどうなの?」


タカナシ ユメミ
「だから【あたしじゃない】って言ってるでしょ?!」


サクラノミヤ アリス
「そんなのただの憶測よ!大体、慧梨主に【そんな度胸がある】と思う?」


ウメゾノ ミノル
「亜梨主、ちょっとそれは言いすぎなんじゃ…」


サクラノミヤ アリス
「アンタはちょっと黙ってて」


ウメゾノ ミノル
「はひぃぃぃぃぃぃいいい!」


サクラノミヤ エリス
「あ、あの…、私、【やってません】…!」


コウモト アヤセ
「でも、両隣にいた二人なら、【誰にも見られずに】【カプセルを入れる隙があった】のは事実でしょ?」


サクラノミヤ アリス
「そんなに言うんだったら、慧梨主が犯人だっていう証拠の一つや二つでもあるんでしょうね?!」


コウモト アヤセ
「二人が絶対に犯人じゃない証拠も無い、でしょ?」


サクラノミヤ アリス
「くっ…!」



 …これ以上話し合ってても泥沼化する一方だな。
 とにかく、“あいつ”の言っていることが間違っていることを指摘しないと…。





コウモト アヤセ
「でも、両隣にいた二人なら、【誰にも見られずに】


|七宮伊織の証言>


 それは違うぞ!
         論破


   -BREAK!!!-






オモヒト コウ
「いや、やっぱりそれはありえない」


コウモト アヤセ
「どうしてそんな断言できるの?」


オモヒト コウ
「伊織は一瞬たりとも俺のパスタから目を離さなかったみたいなんだ。
 澪が空き容器をゴミ箱に投げ入れた、あの瞬間もな。
 だから二人の内どちらかが隙を見てこっそりカプセルを入れたなら、伊織に目撃されているはずだろ?」




コウモト アヤセ
「それもそう…、だけど、伊織ちゃんはどうしてそんなことを?」


ナナミヤ イオリ
「神からのお告げがあったんです。彼を見張れ、と」


 …………。


ナナ
「神様の言葉が聞こえたの?」


ノノ
「すごいや!さすがミコさんだね!」


タカナシ ユメミ
「あんたちょっと頭おかしいんじゃないの?」


ウメゾノ ミノル
「清楚系巫女さんがまさかの電波さんだった件」


カシワギ ソノコ
「その…、信仰は人それぞれですし…」


オモヒト コウ
「えっと、その、ああ、そうそう。
 こんな殺し合いを強要されているような状況じゃ、食事中も警戒しておくに越したことはないもんな!」


ノノハラ レイ
「…神からの云々はさておき、あの時のボクの立ち位置的にも、伊織さんはずっと公を視界に入れてたことになるわけだ。
 これはまいったね。そうなるといよいよ公のパスタにカプセルを入れるチャンスのある人は誰もいなくなってしまったみたいだよ?」




 学級裁判(仮)


  中断  





 なんだかすっごく久しぶりな気がするぞ!(白目)

 一か月も放置してたらそらそうなるよね。あとで>>1にはキッツいおしおきぶちかましておきますんで。

 間が空きすぎちゃって内容忘れちゃったって人もいるだろうから、ザックリあらすじせつめーい!



 これが前回までのあらすじだよ!


Act.1
 ボクことモノクマの手によって雪山のホテルに監禁された16人の少年少女たち…
 脱出する条件は“誰かを殺して学級裁判でシロを欺くこと”…
 そして事件はその翌日に起きたのです!

Act.2
 夕食の最中、メンバーの一人である主人公クンがいきなり倒れてしまったのです!
 どうやら誰かが主人クンのパスタに何かを盛って激辛にしてしまったようで…。ボクとしては毒薬がよかったんだけどね!
 それはさておき、悪戯をした犯人が名乗り出ないので、学級裁判(仮)で犯人を突き止めることにしました!

Act.3
 (約二か月にもわたる)長い話し合いの結果、凶器は断定できたけど誰がどう盛ったのかが解らなくって手詰まってしまったのです!


 という感じでオサライも出来たところで、学級裁判(仮)、さいかーい!


 



ノノハラ レイ
「本当にさ、絶望的だよねぇ。これだけ時間かけて話し合ったのに話が何も進展してないだなんてさ」


アサクラ トモエ
「本当にそうなのかなぁ?」


ノノハラ レイ
「……へぇ?キミには何か新しい意見でもあるって言うんだ?」


アサクラ トモエ
「新しい意見ってわけでもないけど…、やっぱり鍵は粉チーズにあるんじゃない?」



 やっぱりそこに行きつくよな…。粉チーズを入れる直前までは何ともなかったのは紛れもなく事実だし。




タカナシ ユメミ
「あはは…。なーんだ、そういうことかー」


ナナミヤ イオリ
「今ので何か閃いたのですか…?」


タカナシ ユメミ
「これでハッキリした。やっぱりあんたが犯人なんだ!野々原澪!」


ノノハラ レイ
「やれやれ、またこの流れかよ。いい加減飽き飽きしちゃうね」




――議論開始――


|サプリの粒>
|サドンデスサプリ>
|粉チーズ>


タカナシ ユメミ
「粉チーズを持ってきたのも、粉チーズをかけようって提案したのも、【全部あんた】じゃない!」


ノノハラ レイ
「確かにそうだね。でもそれがどうしたって言うんだい?」


タカナシ ユメミ
「しらばっくれないで!粉チーズをとってくるときこっそりカプセルを【粉チーズの容器の中に入れた】んでしょ?!」


ノノハラ レイ
「それさ、最初にそれを使うボクが自滅しちゃわない?」


タカナシ ユメミ
「【時限式の装置を仕掛けた】んでしょ!その時間は【いくらでもあったんだから】!

 で、【ゴミ箱に投げ入れて証拠隠滅】…、どう?違う?」


ノノハラ レイ
「はぁ…、なんかもう、言い返す気にもならないなぁ…」



 夢見の主張もなんとなくわかる。澪の行動はどうも胡散臭いものばかりだったし…。

 でも、この滅茶苦茶な推理はどうもな…。矛盾は指摘しなきゃダメだな、やっぱり。





タカナシ ユメミ
「【時限式の装置を仕掛けた】

|粉チーズ>


 それは違うぞ!
         論破


 -BREAK!!!-




オモヒト コウ
「いや、それはないぞ、夢見」


タカナシ ユメミ
「…どうしてそんな奴なんかの肩を持つの?あたしのこと嫌いになっちゃったの?!」


オモヒト コウ
「違うって!俺だってこんな奴の弁護なんて好きでやってるわけじゃないんだ」


ノノハラ レイ
「何気に物凄い罵られてるよ。やなかんじ」


オモヒト コウ
「とにかく、だ。粉チーズの容器はゴミ箱にあったのも含めて4つぜんぶ調べたんだよ。

 時間をかけて剥がれるような接着剤みたいなものなんかはどこにもついてなかった。

 それどころか、細工らしい細工を施した後もなかったんだよ」


タカナシ ユメミ
「…そっか」



 なんだか不満がありそうだが…、一先ず納得してくれたみたいだな。






オモヒト コウ
「でも、カプセルを粉チーズの容器に入れたって言う推理は間違ってないと思うぞ。

 …思えば、あれがそうだったんだな」


タカナシ ユメミ
「どういう事?」


オモヒト コウ
「粉チーズをかけ終わったとき、ダマみたいなのが一つあったんだ。梅園がダマをほぐすためによく振ったにも関わらず、な」





 ―回想 >>239






オモヒト コウ
「カプセルは透明な黄色で、あの時は粉チーズがまぶしてあったから、うまい具合にカモフラージュされていたんだろうな。

 要するに、俺はカプセルを粉チーズのダマだって勘違いしてしまっていたんだ」


マスタ イサム
「つまり、間違いなく凶器のカプセルは粉チーズの容器に仕掛けられていた、と」


オモヒト コウ
「ああ。そうだ」


ユーミア
「問題は、誰がどうやってそれを仕掛けたのか、どのようにして主人さんを狙ったのか、ということですね」


ウメゾノ ミノル
「それなんだけどさ、ひょっとして違うんじゃない?」


ユーミア
「どういう事ですか?」


ウメゾノ ミノル
「犯人は特定の誰かを狙ってやったわけじゃないんじゃぁないかってことだよ」





オモヒト コウ
「つまりこういうことか?『被害者になるのは誰でもよかった…』」


ウメゾノ ミノル
「Exactly(その通りでございます)」





アサクラ トモエ
「やっぱり、そうなの?」


マスタ イサム
「やっぱり、っていうのはどういうことなんだ?」


アサクラ トモエ
「動機についてちょっと考えてみたんだよ。どうして犯人はこんなことをしたのかなって。

 それで思ったんだけど、これは犯行のデモンストレーションだったんじゃない?」


ユーミア
「…この中に殺意を抱いている者がいて、その人物が自分の思いついた毒殺トリックがうまくいくかどうかを実験した、と?」


アサクラ トモエ
「うん。うまくいっても失敗しても悪戯で済むからデメリットはないって犯人は思ったんじゃないかな?

 でも、効き目が強すぎて悪戯で済まなくなっちゃったんだよ」





マスタ イサム
「…それがなんで被害者が誰でもよかったって結論になるんだ?」


アサクラ トモエ
「恐らくなんだけど、犯人の動機は『ここから出ること』だと思う。

 会ってすぐの人に殺意を抱くなんてそうないし、主人さんって人から恨まれるような人じゃなさそうだし」


タカナシ ユメミ
「当然でしょ?お兄ちゃんは誰かに恨みを買うような後ろめたいことなんてしないんだから、ね?お兄ちゃん?」


オモヒト コウ
「まぁ、な?」


 会って一日かそこらで殺されるような動機
 俺には何の心当たりもない。…筈だ。うん。
 …ない、よな?





アサクラ トモエ
「話を続けるよ?犯人の動機がここから出ることなら、殺す相手は誰でもいいんだよ。

 もし学級裁判でクロが生き延びたら、シロは皆死んじゃうわけで、結局誰を殺そうと結果は一緒なんだから」


ウメゾノ ミノル
「僕もそう思ったんだよね。で、殺す対象を選ばないのならトリックも簡単だ。

 自分に当たらないようにだけすればいいんだし」


アヤノコウジ サクヤ
「…そういうことなら、一番怪しいのはあなたじゃなくて?」






アヤノコウジ サクヤ
「――桜ノ宮亜梨主」






サクラノミヤ エリス
「…!!」


サクラノミヤ アリス
「はぁ!?なんでそこであたしが出てくるわけ?!」


ナナ
「そういえば、アリスお姉ちゃんは使わなかったわよね?粉チーズ」


ノノ
「“だいえっと”って言ってたね。何かの遊びかな?」




ノノハラ レイ
「ボクが見た限りでは粉チーズをかけなかったのは君だけだったはずだけど…、どうだったかな?」


カシワギ ソノコ
「そう、ですね…。量に差はありますけど、皆かけていたと思います。

 …亜梨主さん以外は」


 確かに、俺たちの列では亜梨主だけが粉チーズをかけなかった。
 河本の列は俺が見てないだけで全員ちゃんと粉チーズをかけたらしいな。





サクラノミヤ アリス
「ちょっと待ちなさいよ!そんなんであたしを犯人呼ばわり?!冗談じゃない!」


アヤノコウジ サクヤ
「一人だけ粉チーズをかけなかったのは、自分が仕掛けた罠に自分がかからないようにするため、違う?」


サクラノミヤ アリス
「そんなわけないでしょ?!」


ウメゾノ ミノル
「でも、一人だけかけてないって言うのはちょっと怪しい気もするなぁ」


サクラノミヤ アリス
「ちょっと!アンタまで何言いだすの!?あたしがダイエットしてることぐらい知ってるでしょ?!」


ウメゾノ ミノル
「それとこれとは話が違うんだって。僕だって亜梨主が犯人じゃないって信じてるけど、その疑いを晴らす証拠がないんだ」


サクラノミヤ アリス
「そんな…!」





ノノハラ レイ
「まぁ落ち着きなよ。そんなに取り乱してると、余計怪しく見えちゃうよ?」


サクラノミヤ アリス
「……」


ノノハラ レイ
「そうそう、あまり喚きたてない方が得策ってヤツだよ。

 ハッキリ言ってしまおうか、綾小路咲夜さん。ボクはその意見には賛同できない、と」


アヤノコウジ サクヤ
「あら、庶民のくせにこの私の意見に口答えする気?随分といい度胸ね?」


ノノハラ レイ
「お生憎様、ボクはそういうの気にしないタイプだから」


 またこの二人は…。




――というところで今回はここまで。


――続きは可及的速やかに書きますので、クライマックスまでどうぞお楽しみに。


――ちなみに、ここまで出たヒントで既に「クロが誰なのか」は分かるようになっております。

――次回の更新までの暇つぶしにぜひ、ご一考なされてはいかがでしょうか?




ノノハラ レイ
「さて、キミの意見では、あらかじめ粉チーズにサドンデスサプリのカプセルを混入させた桜ノ宮亜梨主は、

 自分のパスタに入れないために粉チーズをかけなかった、ということになるよね?」


アヤノコウジ サクヤ
「ええ。食事中は混入させるタイミングがなかったとしても、その前ならいくらでも時間があったはずよ」


ノノハラ レイ
「でもさ、食事が出てくる前までメニューは分からなかったはずだけど、もし今日の献立がパスタじゃなかったらどうするのさ。

 いくらなんでも偶然に頼りすぎなんじゃない?」


アヤノコウジ サクヤ
「たとえ今日の夕食が粉チーズを使うような料理ではなかったとしても、その時はその時よ。

 粉チーズが使われるチャンスを待てばいいだけなのだから」



ノノハラ レイ
「結構前に議論になってたから忘れてると思うけど、あらかじめ仕掛けておいたら最初に使うボクが犠牲者にならない?」


アヤノコウジ サクヤ
「一度中身をすべて出して、底にカプセルを入れて元に戻す。これなら最初に使った者が当たるとは限らないんじゃなくて?」


ノノハラ レイ
「それだったらキミも含めた皆も犯人候補になるんじゃないかな?別に亜梨主さんに限った話じゃないじゃない」


アヤノコウジ サクヤ
「いつカプセルが出てくるかわからない以上、出来る限り危険は避けておきたいというのが犯人の心情でしょう?

 粉チーズが回ってくる順番も自分の前にどれだけの量が使われるのかもわからなかったのだからなおさらね」


ノノハラ レイ
「そう来るかぁ…」


アヤノコウジ サクヤ
「どう?これでもまだ私の意見を否定するつもり?」


ノノハラ レイ
「うーん…。公!キミの意見を聴こう」


オモヒト コウ
「このタイミングで俺に振るなよ…!」




 どうする…?二人の意見に間違っていそうなところが見つからない…!

 でも、何処かにあるはずなんだ、“ムジュン”が…!

 思い出せ、これまでに起きたことを…、議論を…!




―回想―

 >>221
 >>264


 そうだ!



オモヒト コウ
「澪、梅園。ちょっと確認したいんだが」


ノノハラ レイ
「ん?」


ウメゾノ ミノル
「何?」


オモヒト コウ
「二人がモノモノマシーンで有り金全部溶かしたのは今日の昼食後から夕食前の間、でいいんだよな?」


 二人ともあんな顔になったのは夕食前で、昼食の時には何ともなかった。

 つまり、少なくとも二人がモノモノマシーンでコインを使い切ったのはその間ってことになる。





ノノハラ レイ
「そうだよ。ついでに言っておくと、モノモノマシーンをやり始めたのは18時10分で、夕食の一時間ぐらい前だね」


ウメゾノ ミノル
「で、例のサプリとくさやジャムが当たってちょっと気落ちして、

 腹いせついでにくさやジャムと牛乳パックの中身をすり替えておいたのさ!」


サクラノミヤ エリス
「……」


サクラノミヤ アリス
「……」


ウメゾノ ミノル
「…気を取り直してまた挑戦したものの、結果はお察しの通りです」


 うん、今はボケるタイミングじゃなかったな。

 まぁいい。予想通りだ。…いや、予想以上だ。





オモヒト コウ
「そのすり替えはキッチンでしたんだよな?牛乳パックもキッチンにあったみたいだし」


ノノハラ レイ
「部屋に臭い移ってもやだしね。キッチンなら換気扇回しておけば大丈夫だろうって思ったわけさ」


オモヒト コウ
「その作業の時間について詳しく教えてくれないか?」


ノノハラ レイ
「…あぁ、なるほどね。いいよ、詳しく教えてあげる」


 澪は解ってくれたみたいだな。察しが速くて助かる。





ノノハラ レイ
「キッチンで牛乳とくさやジャムの中身を入れ替え始めたのは18時20分。

 で、作業が終わって中に臭いが残ってないか確認してからキッチンを出たのが18時50分。

 後は知っての通り、夕食直前の19時までまたモノモノマシーンで遊んでたよ」


オモヒト コウ
「その間、キッチンに誰か入ってきたか?」


ノノハラ レイ
「誰かが入ってきたかどうかはチェックしてないけど、

 事情を知らない誰かが入ってきたらその場で異臭騒ぎになるんじゃないかな」


ウメゾノ ミノル
「作業終わった後なんか放課後の剣道部の部室以上の酷さだったし。

 鼻がもげるかと思ったぐらいだからね」





アヤノコウジ サクヤ
「ちょっと。貴方はさっきから何が言いたいの?」


オモヒト コウ
「犯人があらかじめ粉チーズの容器の中にカプセルを入れたとすると、犯行に使える時間は10分しかないってことになるんだ」


タカナシ ユメミ
「えっと…、どうしてそうなるの?お兄ちゃん」


オモヒト コウ
「まず、犯人が凶器を入手することができるのは今日の18時20分よりも後だ。

 澪達がそれを当てないことにはどうしようもないし、二人に凶器を回収する所を見られてもまずいしな。

 そして澪達がキッチンを使っていた18時20分から18時50分までの間にキッチンのドアを開けたら、異臭が漏れて大騒ぎになる。

 そんな騒ぎがなかったってことは、キッチンには澪と梅園以外は誰も入っていないって事だろ?

 そして夕食前には全員が席についていたって事は、

 犯人がキッチンへ行って粉チーズの容器の中にカプセルを入れる時間は18時50分から19時までの10分しかないんだ」




ユーミア
「…いえ、5分ですね。ユーミアが5分前に到着していて、皆様をお待ちしていましたが、

 キッチンから出てくる人はいませんでしたし」


アサクラ トモエ
「5分もあれば充分じゃない?そんなに難しい作業とは思えないよ?」


オモヒト コウ
「粉チーズを一度全部出して、容器にカプセルを入れてまた粉チーズを入れる。

 この作業自体を5分以内に行うのはそんなに難しいことじゃないとは思うが、

 痕跡が残らないようにするには少し時間が足りないんじゃないか?」


ナナ
「粉チーズって、こぼしたら後片づけが大変だものね」


ノノ
「そうそう。細かいのとか拾えないもんね」


カシワギ ソノコ
「そ、それに、そんな作業人に見られたら言訳のしようがないですし、

 時間がないなら普通はカプセルを容器にそのまま入れてすぐ立ち去りますよね」




アヤノコウジ サクヤ
「くっ…!で、でも…!」


ノノハラ レイ
「あー、先に言っておくけどね、ボクらならキッチンにいる間に出来たんじゃないかって言う反論は受け付けないから。

 皆覚えてると思うけど、梅園クンは残りがほとんどなくなるくらい大量にかけていた。

 自分が仕掛けた罠にわざわざ嵌りに行くような馬鹿は居やしないし、もしボクが黙って仕掛けようとしてもそんな作業目立つからすぐばれるし」


ウメゾノ ミノル
「っていうか、その粉チーズに臭いが移って悲惨なことになることまったなしですわ」


アヤノコウジ サクヤ
「くぅうううううううううぅうぅううぅううう!!」






アヤノコウジ サクヤ
「…まぁ、いいわ。そういう事にしてあげる」


サクラノミヤ アリス
「言うべきことはそれだけ?」


ウメゾノ ミノル
「まぁまぁ抑えて抑えて」


サクラノミヤ エリス
「もう済んだことですし、ね?お姉さま」


サクラノミヤ アリス
「ふん…、解ったわよ」


 …まぁ、議論が泥沼化しなくて済んだだけ良しとするか。





カシワギ ソノコ
「あらかじめ粉チーズの容器の中にカプセルを入れることはできなかったなら、

 犯人はどうやってカプセルを容器の中に入れたのでしょうか…?」


マスタ イサム
「やっぱり、順番に回していったあの時、って言うのが一番怪しいんじゃないか?」


コウモト アヤセ
「ってことは、容疑者は実際に容器を手に取った澪、渚ちゃん・亜梨主ちゃん、梅園くん、慧梨主ちゃんの五人ってことね」


ノノハラ レイ
「そこは幼馴染のよしみで容疑者から外してくれても良かったんじゃない?」


コウモト アヤセ
「そうしたいのは山々だけど、あなたには前科があるんだもの。建前上外すわけにはいかないわ」


ノノハラ レイ
「ははは、こいつぁ手厳しいぜ」


オモヒト コウ
「随分と余裕だな、澪。今のところお前が容疑者筆頭なんだぞ?」


ノノハラ レイ
「まぁね。重ねて言うけどボクはクロじゃない。

 ボクはね、信じてるんだ。皆ならきっと、本当のクロを突き止めることが出来るだろう、ってさ。

 特に公、キミならね」


オモヒト コウ
「買いかぶりすぎだ。俺はそんな器じゃない」


ノノハラ レイ
「謙遜はよしなよシュジンコウさん。これまでの議論だってキミがリードしてきてるじゃないか。自信を持ちなよ」


オモヒト コウ
「…さりげなく俺の事けなしてないか?」


ノノハラ レイ
「ナンノコトカナーボクワカンナイナー」


ウメゾノ ミノル
「うっわぁすっごい棒読み」


 全くお前は…、お前という奴は…!





ノノハラ レイ
「それはそうと、だ。ボクら五人の中の一人が犯人だったとして、

 どうやって皆が見てる前で誰にも気づかれずにカプセルを容器の中に入れることができたのか、だね?」


 こいつ、話を強引に戻しやがった…!


ノノハラ レイ
「ボクが見た限りだと、誰も怪しい素振りなんて見せなかったと思うんだけど、どうかな?」


ノノハラ ナギサ
「皆普通に粉チーズをかけてただけだよね…。梅園さんを除いて」




サクラノミヤ アリス
「そういえばアンタ、ダマをなくすためとか言ってよく振ってたわね。

 その間に何か細工したんじゃない?マジック、得意なんでしょ?」


ウメゾノ ミノル
「いやいやいやいや、待って、待てって。ちょっと待ちなっせいタイムだってタイム!」


サクラノミヤ アリス
「…なんでそんな露骨に慌てるの?まさか本当に犯人なの?」


ウメゾノ ミノル
「いや違うよ?これはそーゆー動揺的なあれじゃないのよ?マジだべ?っつーか慌ててねーし?

 オレを慌てさせたら大した奴だし?ただちょっといきなり指名されてビックリしただけだしぃ!?」


サクラノミヤ アリス
「そうやって妙に取り繕おうとしてるのが余計怪しいって言ってるのよ」





サクラノミヤ エリス
「本当にお兄さまが犯人なんですか?」


ウメゾノ ミノル
「違うって!いやさ、確かにマジックはよくやるけれども!

 どうやって蓋を開けずにカプセルを入れるって言うのさ!

 ボクはあくまで“マジシャン”であって空間転移能力者でも物質透過能力者でもないからね?!」


サクラノミヤ エリス
「お兄さまは“超高校級の外交官候補生”なんじゃ…?」


ウメゾノ ミノル
「それはあれだよ言葉の綾ってやつだよ!

 ボクができるのは精々相手の引いたトランプを当てるだとか、

 コップに入った大量のポップコーンの種をポップコーンに変えたよう見せかけるだとか、

 切ったはずのバラの花を元通りにしたように見せかけるとか、その程度しかできないよ?!」


マスタ イサム
「なんでそんな具体的なんだよ…」





ノノハラ レイ
「こうやってただ話し合ってるだけじゃ埒が明かないみたいだし、実物を見てもらおうかな?ねぇモノクマ」


モノクマ
「はいはい、粉チーズを持ってこいって言うんでしょ?

 全く、久しぶりに出番かと思ったらこれだよ…」


 モノクマは一体何の話をしているんだ…?

 っていうか何でこいつらこんなに息ピッタリなんだよ!




ノノハラ ナギサ
「特にこれといって怪しいところなんてない、のかなぁ?」


コウモト アヤセ
「普通の粉チーズの容器、よね?」


ユーミア
「一般的な二口タイプのようですが…」


アサクラ トモエ
「…もしかして」


マスタ イサム
「どうしたんだ巴?何か分かったのか?」


アサクラ トモエ
「蓋を外さなくても、こっちの口からなら入るんじゃない?

 半月型の、大きい方の穴!」


オモヒト コウ
「澪!」


ノノハラ レイ
「解ってるよ。試してみろって言うんだろ?」


 澪はボトルからカプセルを取り出し、大きい口に近づけた。
 結果は…。





ノノハラ レイ
「入ったね。大正解みたいだよ。犯人はここからカプセルを入れたらしい」






ノノハラ レイ
「ちなみに、小さい穴がいくつも開いている方の口から入れることはできないね。

 こっちの穴に対してカプセルが大きすぎる」


オモヒト コウ
「使い終わって蓋を閉める直前に隠し持っていたカプセルを入れれば、不自然には見えないだろう。

つまり、容疑者は大きい方の口を使った人物ってことになるな」


ナナミヤ イオリ
「主人さんの前に大きい方の口を使ったのは…」


ノノハラ ナギサ
「お兄ちゃんと…」


サクラノミヤ エリス
「お兄さま…」






アヤノコウジ サクヤ
「愚民はひれ伏しなさい!」






アヤノコウジ サクヤ
「たったそれだけで容疑者が搾れるだなんて、思い上がりも甚だしいんじゃないかしら?」


オモヒト コウ
「何が言いたいんだ?」


アヤノコウジ サクヤ
「まだあなたの隣にいるそこの庶民の容疑が晴れた訳じゃないじゃない!

 あなたの直前に粉チーズを使ったなんて一番怪しい立場の庶民が!」



 一体なんで咲夜はこんなにも突っかかって来るんだ…?

 ……いや、今はそんなこと考えても仕方がない。

 とにかく、間違った結論に辿り着けば……、俺たちの(舌の)命が危ない!




 ―反論ショーダウン 開始―


=|サドンデスサプリ>

=|サプリの粒>

=|粉チーズ>


アヤノコウジ サクヤ
「半月穴を使って粉チーズを入れてないからと言って、

 あなたの直前に粉チーズを使った庶民がカプセルを入れることが出来なかったという証拠にはならないわっ!

 そもそも、そこの庶民が丸穴を使って粉チーズを入れた保証もないじゃない!」





 ―発展!―



オモヒト コウ
「慧梨主は小さい方の蓋しか開けてないんだ。それは隣で俺がちゃんと見て確認してる。

 大体どうやってカプセルを入れたって言うんだ?」


アヤノコウジ サクヤ
「使い終わってあなたに渡す前に、丸穴を閉じるついでに半月穴の【蓋を開けてすぐに閉じればいい】だけでしょ?

 そもそも【丸穴の蓋しか開けてない】なんて証拠も証言もないじゃない!」



 ……確かに、咲夜のいう通りかもしれない。

 これまでの議論と、俺が集めた証拠では慧梨主が小さい方の蓋しか開けていないとは言い切れない。

 でも、俺には確証がある。それに、それを確実に証言できるであろう人物にも、心当たりがある。





アヤノコウジ サクヤ
「使い終わってあなたに渡す前に、丸穴を閉じるついでに半月穴の【蓋を開けてすぐに閉じればいい】



=|【丸穴の蓋しか開けてない】>

   人物選択 |>ノノハラ レイ



 ―BREAK!!!―




オモヒト コウ
「……なぁ澪、あの時の状況覚えてるか?」


ノノハラ レイ
「キミが言うあの時って言うのが、慧梨主さんがキミに粉チーズを渡した時だって言うなら、心配しなくてもちゃんと覚えてるよ。

 で、ボクは何を証言すればいいんだい?」


オモヒト コウ
「確か、俺の記憶だと慧梨主が俺に粉チーズを手渡す直前、パチって音が一回だけしたと思うんだが、どうだ?」


 ―回想>>238


ノノハラ レイ
「……うん、そうだね。その通りだ。それでキミはこう言いたいんだろう?

 『もし咲夜の言う通り丸穴の蓋を閉じながら半月穴の蓋を開けカプセルを入れ閉めたのなら、最低でも音は二回鳴っているはずだ』」


オモヒト コウ
「あぁそうだ。丸穴の蓋を閉じるのと半月穴の蓋を開けるタイミングが同時だったとしても、半月穴の蓋を閉じる音で一回余分に聞こえるからな。

 この容器はどっちの蓋を開ける時も閉める時も音がするし、俺が受け取った時両方とも蓋は閉じた状態だったから、

 使った直後に一回しか聞こえなかったなら、慧梨主は丸穴の蓋しか開けていないってことじゃないか?」




アヤノコウジ サクヤ
「周りの音がうるさくて聞き取れなかったかもしれないじゃない!」


オモヒト コウ
「大体な、一度に両方の蓋を開け閉めするなんて挙動不審過ぎるだろ。

 慧梨主はそんな怪しい素振り見せてないし、もししていたら隣の梅園や正面の朝倉に感づかれる」


アサクラ トモエ
「…うん、慧梨主さんはそんな事してないよ」


ウメゾノ ミノル
「同感。普通に蓋を閉めて手渡しただけだね」


アヤノコウジ サクヤ
「う、うう、うにゅにゅ~~~~~~~~~ぅぅうぅ!!!

 ……フン!いいわよそれで。納得してあげるわ!」



 だから、なんでそんな上から目線なんだ……。




オモヒト コウ
「なぁ咲夜、どうしてそんなにつっかかってくるんだ?」


アヤノコウジ サクヤ
「……あなたはおかしいと思わないの?」


オモヒト コウ
「何がおかしいっていうんだ?」


アヤノコウジ サクヤ
「これまでの議論は全部、そこで薄ら笑いを浮かべてる男の思惑通りなんじゃないかって言ってるのよ!」


 咲夜はそう言い放ち、対面にいる澪を指さした。





ノノハラ レイ
「……酷いなぁ。まるでボクが黒幕みたいに。

 もしボクがクロなら、こんな自分が不利になるような展開には持ち込まないと思うよ?

 さっきだって慧梨主さんの無実を証明したわけだけど、普通クロなら慧梨主さんに罪を擦り付けるために嘘の証言をすると思うな。

 でもボクは正直に事実を話した。おかげで今大ピンチだよ」アハハ



 セリフと表情がこれっぽっちも合ってないぞ。
 なんで未だにヘラヘラしていられるんだ?



アヤノコウジ サクヤ
「よくもまあそんないけしゃあしゃあと……!

 粉チーズを使うよう提案したのも、この学級裁判もどきをするよう言ったのも、裁判中の議題のほとんどを投げかけてきたのも、全部あなたじゃない!

 これで議論を思い通りに誘導していないなんて思う方がどうかしてるわ!」





ノノハラ レイ
「まぁ確かに?ちょーっと目立ちすぎたかな~とは思ったけど、それが何だい?

 今のキミの意見には、何一つ証拠がない。ただ単に“怪しい”って思っているだけ。

 言っておくけどね、これはトリックとロジックのゲーム。どんな名推理も証拠がなければ暴論と一緒なんだよ。

 それとも、キミがクロだからそれを隠そうとするあまりつい感情的になっているのかな?」


アヤノコウジ サクヤ
「何ですって?!」


ノノハラ レイ
「とまぁ?証拠が無けりゃこんな無茶な推理も罷り通るわけで。

 だからこそ証拠が必要なんだよ。それが状況証拠でもね。そうでしょ?ウメゾノミノル君?」





ウメゾノ ミノル
「ちょ、おま、ここで僕に話を振る理由が解らないんですけど。いやホントマジで」


ノノハラ レイ
「公よりも前に半月穴を使ったのはボクとキミだけ。

 カプセルは丸穴よりも大きいから、慧梨主さんに丸穴を使わせれば引っかかって外に出ることはない。

 内向的で遠慮しがちな慧梨主さんの性格をよく知っているキミなら、わざと使い過ぎて『気にせず使ってよ』とでも言えば、

 丸穴を開け、チーズを殆ど入れないだろうってことぐらい予測できたんじゃない?」



サクラノミヤ エリス
「本当、なんですかお兄さま?私を利用したんですか……?うぅ……」


ウメゾノ ミノル
「え、ぇえいやいやいやいやちょっと泣かないでよ慧梨主!違うから!僕じゃないから!

 そんな簡単に人の話信じちゃだめだよ!」


サクラノミヤ アリス
「……そうね。慧梨主ってばそういう手口にはあっさり引っかかるからね。

 いい加減白状したら?『僕がやりました』って」


ウメゾノ ミノル
「亜梨主まで人を詐欺師みたいに!」




タカナシ ユメミ
「どういうつもり?今更仲間割れ?」


ノノハラ レイ
「ボクは状況的に見て穫クンが一番怪しいんじゃないかと言っているだけだよ。

 キミはボクらの共犯を疑ってるみたいだけど、これが犯行の予行演習なら共犯ありきのトリックなんて使わないんじゃない?

 クロが勝っても共犯者は他のシロと一緒に仲良くお陀仏なんだし。共犯者側のメリットがないよね?」


タカナシ ユメミ
「どうだか。あたしはまだあんたも疑わしいと思ってるんだからね」


ノノハラ レイ
「ふふ、ご想像にお任せするよ。

 でも、あえて言うとするならボクはクロじゃない、それだけは確かな事実なんだよ」


コウモト アヤセ
「澪…」





ノノハラ レイ
「さてと、閑話休題だ。穫クン、これだけ状況証拠が揃ってる中、何か反論があればいくらでもしてくれたって構わないのだぜ?

 ボクだって、皆して寄って集って一方的に誰か一人を吊し上げるなんてマネ、したくないんだよね」


ウメゾノ ミノル
「反論…?反論が、あるかってぇ…?

 反論、反論、反論んんんん、んん…、んんうぅう……」




ウメゾノ ミノル
「フーンフ フーン フーン フーン フーン…♪

 フーンフ フーン フーン フーン フーンッフフフフフ…」


 急に鼻歌歌いだしたと思ったら笑い出したぞこいつ…。

 …微妙に音外してるけど、あの国の国歌だよな、あれ。米の国の。





ウメゾノ ミノル
「YEAHHHHHHHHHAHAHAHAHAHAAAAAAAAAAAAHHHHHHHHHHHHHHH!!」


オモヒト コウ
「?!」


サクラノミヤ エリス
「お兄さま?!」


ウメゾノ ミノル
「ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ!

 くけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけ!

 フゥーハハハハハハハハハ!アーッハッハッハッハッハッハッハッハ!!」


 とうとう頭がおかしくなったのか……?にしてはちょっとわざとらしい気がするが……。



ウメゾノ ミノル
「ハハ、ハ……、はぁ……」


 お、落ち着いた、のか?


ウメゾノ ミノル
「FUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUCK!!

 せっかく騙しおおせると思ったのによぅッ!!くきくぅッ!!」


サクラノミヤ エリス
「お、お兄さま?!」


ウメゾノ ミノル
「ふ――――、スッとした。ぃやー、ゴメンゴメン。

 ちょっと頭を冷静にするために一通り叫んでみただけさ。心配かけて悪いね慧梨主」


サクラノミヤ エリス
「わ、私はお兄さまが無事ならそれで……、って、そうじゃありません!

 『騙しおおせる』ってどういうことですか?!」


ウメゾノ ミノル
「どういう事も何も、こういう事だよ。

 『僕 が 犯 人』だ」





サクラノミヤ エリス
「そん、な……」


サクラノミヤ アリス
「……随分あっさり認めるのね」


ウメゾノ ミノル
「マジシャンたるもの、タネを見破られたら素直に幕を引くべしって言うのが僕の美学だからね。

 みっともないマネはしたくないのさ」


ナナ
「さっきのはみっともない内には入らないのかしら?」


ノノ
「入らないと思ってるからやったんでしょ?どう見てもみっともないのにね」


ウメゾノ ミノル
「ん、何か言ったかな?」


ナナ/ノノ
「「なんにもー」」





アヤノコウジ サクヤ
「……まだ決定的な証拠は出てきてないじゃない」


ウメゾノ ミノル
「こう見えても僕って完璧主義なんだよ。お客様にお見せするならperfectなperformanceを、ってね。

 Magic showって言うのはタネが全く解らないから楽しめるのだし、一部の隙も無いから面白いのさ。

 一部でも看破されたらshowは台無し。仕掛けたトリックのキモがばれたとあればマジシャンとしてはおしまいだ。

 公然の場で細部を解説されmissを指摘されるなんて、恥ずかしすぎて自殺ものだよ。

 だから粗探しをされる前に降参して、これ以上僕のマジシャンとしてのprideが傷付けられないようにしているだけさ」





ウメゾノ ミノル
「さて、そんなことはどうでもいい、問題じゃない。

 さっさと投票して、こんな裁判早く終わらせよう」


オモヒト コウ
「……待てよ、梅園。お前、まだ何か隠してるんじゃないか?」


ウメゾノ ミノル
「な、なななな、何のことかな?まさか僕が真犯人を庇ってるとでも言いたいのかな?かな?」


アサクラ トモエ
「うわぁ……」


ユーミア
「流石に今のは……」


 ……自分から暴露したぞこいつ。

 冷汗が滝みたいに流れてるし、目が泳ぎまくってるしで動揺しているのが丸わかりじゃないか。

 怪しすぎて逆に不安になってきたぞ。




オモヒト コウ
「……その通りだ。だから無駄に饒舌になったり投票を急かしているんじゃないか?」


ウメゾノ ミノル
「い、いやだなぁ、そんな事するわけないじゃん。

 だってそれでもしクロが勝ったらオシオキの巻き添え喰らうんだよ!?あんなの死んでも口にしたくないからね?!」


オモヒト コウ
「それには同感だが、お前の行動にはもう一つ引っかかることがある。

 さっきの話題にも出てたが、お前だけ粉チーズを振って使ってたよな?」


ウメゾノ ミノル
「だから、ダマを崩すためだって言ってるじゃないか!」


オモヒト コウ
「いや、違うな。お前は――」


ウメゾノ ミノル
「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!

 犯人が自供したんだからそれでいいじゃん!何が不満だって言うのさ!」


オモヒト コウ
「それが罠かもしれないから反論してるんだろ?」


ウメゾノ ミノル
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れぇ!!」


 さっき言ってた自分のポリシーに思いっ切り逆らってるじゃないか……。

 どうやら誰かを庇ってるのは確実みたいだな…。

 いや、その『誰か』が誰なのかも察しが付く。

 そいつを追い詰めるためにも、今は梅園を説き伏せないと…!





   ―マシンガントークバトル 開始―


ウメゾノ ミノル
「アホアホアホアホアホアホアホアホアホアホアホアホアホアホアホーーーッ!

 Son of a Bitch! Fils de pute! Hurensohn! Bastardo! Ублюдок!」


 ……よっぽど必死なんだろうが、後半何言ってるのかさっぱりわからん。

 いや、どうせロクでも無い言葉なんだろうが。


オモヒト コウ
「もう一度聞くぞ?何で粉チーズを振ったりしたんだ?」


ウメゾノ ミノル
「【ダマを崩すためだっつってんだろうが!】」



    |粉チーズ>



 これでどうだ!



    ―BREAK!!―





オモヒト コウ
「粉チーズが四本あったのは知ってるよな?」


ウメゾノ ミノル
「¡Eres un cabron,que te parta un rayo!」


 やっぱり何言ってるのかさっぱり解らんが無視して続けよう。

 意味が分かったらしい咲夜とユーミアの口が引きつっているから、多分聞くに堪えん罵倒なんだろうしな。


オモヒト コウ
「河本達が使った分も含めて、残った三つとも調べてみたがどれもダマなんてなかった。

 俺たちが使った分もダマがなかったって考えるのが妥当だろ?

 ダマを崩すために振る必要なんてなかったってことだ。違うか?」



ウメゾノ ミノル
「¡Estoy asta…あー、……うん。ゴメンなさいウソつきました。

 ちょっと癖みたいなもんでさ。分離タイプじゃないドレッシングも、ソースでも醤油でもよく振ってから使うんだ。

 個人的なちょっとしたこだわりってやつ。よくあるだろ?横断歩道で白いトコだけ歩いたりとかさ」


オモヒト コウ
「なら何で初めからそう言わないんだ?」


ウメゾノ ミノル
「変な人に見られたくなかったんだよ。ダマを崩すためって言う正当な理由があれば誰だってそれ以上突っ込まないからね」


サクラノミヤ アリス
「それはそうだけど、手遅れね。最初っから十分に変人だって評価されてると思うけど?」


ウメゾノ ミノル
「うそーん…」


 そう言われてしまえばこれ以上言及しようがないが……、それだけじゃないはずだ。

 ヒントは、他でもないお前自身が口走ったんだからな。





オモヒト コウ
「お前さっき言ってただろ?

 マジックのレパートリーの中に、【コップに入った大量のポップコーンの種をポップコーンに変えたよう見せかける】ってのがあるって」


ウメゾノ ミノル
「そ、そう、だね。あれはよくやるヤツだ。タネも単純だし、誰にだってできるから話のタネにもなりやすいし話を広げやすい」


オモヒト コウ
「俺もそのマジックの種なら知ってる。お前はそれを応用したんだな?」


ウメゾノ ミノル
「…What`s the…」





ナナミヤ イオリ
「どういうことですか?そのマジックとどういう関係があるんですか?」


オモヒト コウ
「説明するより、実際にやってみた方が早い。

 澪、今お前が持ってるその容器には、粉チーズとカプセルが入っている。そうだな?」


ノノハラ レイ
「間違いはないね。カプセルを入れたっきり何の操作もしてないから、カプセルは粉チーズの層の上に乗ったままだけど」


オモヒト コウ
「じゃぁその容器を、振ってくれないか?梅園がしたように、何度もな」


ノノハラ レイ
「……仕方ないなぁ」シャカシャカ





ノノハラ レイ
「このぐらいで充分かな?で、どうすればいい?穫クンみたいにパスタに大量にかけてみるかい?」


オモヒト コウ
「いや、その前に蓋を取り外して、容器の中が皆に見えるようにしてくれないか?」


ノノハラ ナギサ
「こんなことして一体何に……――!」


コウモト アヤセ
「そ、そんな……!」


マスタ イサム
「カプセルが、なくなってる、だとぉ?!」


オモヒト コウ
「正確には、『底に移動した』だな。

 実際に手に持ってみると解るが、あのカプセルは意外と重い。

 ただ単に半月穴からカプセルを入れて粉チーズの上に置いただけじゃまた半月穴を使ったとき外に出てしまうが、

 よく振って中の粉チーズをかき混ぜれば、重いカプセルは下へ下へと潜っていくんだ」


カシワギ ソノコ
「話題に出たマジックはブラジルナッツ効果のこと、だったんですね。でも、あれは粒子が大きいものが上に浮かんでくるのであって、

 今回とはまったく真逆なんじゃありませんか?」


 げぇ!そうなのか?!

 や、やばい!思いっきり勘違いしてた!あぁ、いや、でも結果としてはオールオッケーだったわけだし…、じゃねぇよ!

 説明できなきゃ説得力がないだろうが!どうする!?どうすればいい?!


ノノハラ レイ
「逆ブラジルナッツ効果って言うのもあってね。

 容器の形状や振る条件なんかで色々結果が変わるんだよ。

 今回は、公の言う通り穫クンと同じように振ったから、結果が同じになっただけさ。

 密度の大きい重い物体がそこへ沈んでいくケースも少なくないみたいだけど、未だ謎が多いから詳しく解説しようとするだけ無駄だぜ?」


オモヒト コウ
「そ、そうか……」


 助け舟を出されたのはいいが……、なんだか凹むな……。あと、メチャクチャ恥ずかしい!





オモヒト コウ
「と、とにかく、だ!

 これならお前が先にカプセルを入れたとしても、半月穴を使った梅園がカプセルをパスタの中に入れないようにすることができる。

 梅園と共犯だったら尚更な。つまり、お前がクロの可能性も出てきたってことだ。

 ――野々原澪!」



――今回はここまで。



――い、一体いつになったらこの学級裁判(仮)は終わるんだ……。

――こんな筈じゃなかったのに……!

――じ、次回には……!次回には閉廷に持っていけるはず……!


――可及的速やか(三か月経過)とはこれいかに……。学級裁判がこんなに大変だなんて思わんかったんや……!



ノノハラ レイ
「……ふぅん?人が折角キミのお粗末な知識を補足してやったって言うのに、恩を仇で返すんだ?へぇ?」


 痛いところを……!だが、ここで引くわけにはいかない!


オモヒト コウ
「助けてくれと言った覚えはないな。お前が勝手にしたことだろ?恩着せがましく言うなよ」


ノノハラ レイ
「ま、いいんだけどね。ボクはボクのしたいようにしているだけだし」



オモヒト コウ
「思い返してみれば、お前の言動は怪しいものばかりだった。

 俺が粉チーズをかける番になったのを見計らって、『新しいのを持ってくるからそれは使い切ってくれ』なんて言ったのも、

 俺のパスタに確実にカプセルを入れさせるための罠だったんだろ?」


――回想――

>>238


ノノハラ レイ
「何でもかんでも人の善意を悪意あるものとして捉えすぎだと思うねキミは。

 それを人は『被害妄想』って言うんだぜ?」


オモヒト コウ
「言ってろ。俺はまだくさやジャムに関しては割と根に持ってるんだからな」


 サドンデスサプリとのダブルパンチで俺の舌はもう致命傷になっててもおかしくない。

 もしクロが澪か梅園だったらオシオキとは別に五・六回ぐらい殴っても罰は当たらない、と思う。





ノノハラ レイ
「おぉ怖い怖い。さて、と?まぁ確かに?さっき言ったトリックを使えば穫クンのパスタにカプセルが入ることはまずないだろうね。

 穫クンと組んでいれば慧梨主さんに丸穴を使わせることも可能だし、亜梨主さんが粉チーズを使わないであろうと知ることも出来た。

 でもさ、渚はどうなの?確かに味の好みは知ってるけど、気まぐれで半月穴を使う可能性だってなくはないじゃない」


オモヒト コウ
「その可能性を潰すために、お前は丸穴の蓋を開けた状態で渚に渡したんだろ?」


――回想――

>>235
>>236





オモヒト コウ
「あの時渚は亜梨主に渡す直前の一回しか音を鳴らしていなかった。

 普通は蓋を閉めて渡すはずだから、あの時渚は蓋を開けていなかったってことになる」


ノノハラ ナギサ
「たしかに、そう、だけど……!でもっ……!」


ノノハラ レイ
「いいよ渚無理して反論しようとなくて。事実だしね」


ノノハラ ナギサ
「うぅぅ……」


カシワギ ソノコ
「音は……、音はどう説明するんです?確か、あの時野々原君は二回しか音を鳴らしませんでしたよね?」


オモヒト コウ
「二回目……、自分が使った半月穴の蓋を閉めるのと同時に丸穴の蓋を開ければ音は一回分しか聞こえないんじゃないか?」


ノノハラ レイ
「ま、実際その通りだしね。否定はしないよ。でも、それがどうかした?

 ボクが渚の味の好みを知っているのは紛れもない事実で、ボクは渚のためを思って丸穴の蓋を開けておいたんだけど?」


オモヒト コウ
「と同時に、隠し持っていたカプセルを、蓋を閉じる直前に容器の中に入れるのを怪しまれないようにするため、だろ?」





ノノハラ レイ
「……互いに明確な証拠がない以上、このまま行っても水掛け論にしかならないみたいだね」


 ……そう、もう俺にはこれ以上澪が犯人だと決定づける決定的な証拠は持っていない。

 幸運なのは、澪も自らの無罪を証明できる物的証拠を持っていないことだろう。


 ――だが、まだ諦めるわけにはいかない!突破口が無いなら、こっちから作るまでだ!




オモヒト コウ
「俺はすでに、お前が犯人であるという決定的な証拠を掴んでいる」


ノノハラ レイ
「ブラフだね。そうやってもったいぶって揺さぶり、議論を長引かせてボクの失言を引き出そうって魂胆なんだろ?」


 びょ、秒殺でばれた?!ど、どどどどどうする!?


ノノハラ レイ
「――でもいいよ。乗ってあげる。いい加減堂々巡りの無駄な議論にも飽き飽きとしてきたことだしね」


 け、結果オーライ、なのか?何か狙いがあるのか?大人しく引き下がった方がいいのか?

 ……いや、わざわざ譲歩しに来てくれたんだ。例え罠だったとしても、今はそれにすがるしかないだろ!


オモヒト コウ
「――ああ、決着を付けよう。俺とお前と、どちらが正しいのか」





ノノハラ レイ
「じゃぁ、いくつか質問させてもらっていいかな?それでボクの反論は終わりだ。そのあとの結論はキミに任せるよ」


オモヒト コウ
「要するに、お前の質問に対して全て正解を出せば、お前の降参、ってことでいいんだな?」


ノノハラ レイ
「それでいいよ。じゃぁまず最初の質問。

 今回の事件の凶器は、一体何かな?」


  粉チーズ
|>サドンデスサプリ
  毒薬
  睡眠薬




オモヒト コウ
「サドンデスサプリ、だろ?」


ノノハラ レイ
「正解。ま、これまで散々議論に出てきたんだし、楽勝だよね。早速二問目に行くよ?


 ――じゃぁそれを手に入れたのは、捜査時間中に最初に発見したのは一体誰なんだい?」




 |>野々原澪






オモヒト コウ
「お、お前…!まさか……!」


ノノハラ レイ
「気づいてももう遅いよ。さぁ、どうする?」


アヤノコウジ サクヤ
「そう……、それがあなたの狙いだったのね……」





タカナシ ユメミ
「ちょっと、お兄ちゃん!どういうことなの?!説明してよ!」


オモヒト コウ
「……澪は心当たりがあると言って真っ先にモノモノマシーン横のゴミ箱からサドンデスサプリを拾ってきた。

 本来なら隠しておきたいはずの凶器を、自分から証拠品として提出したんだ」


ナナミヤ イオリ
「そう言われてみればとても不自然ですが……、それがどうしたって言うんですか?」




ノノハラ レイ
「まだピンと来ない?じゃぁ親切なボクが懇切丁寧に教えてあげよう。

 これまでの議論で、“犯人は粉チーズの特性を利用して、主人公に毒を盛った”、ということが解った。

 自分以外の誰かのパスタに毒が入るようにしたトリックはさっき話し合った通りだ。

 でもそれは、“凶器はサドンデスサプリである”という大前提のもとに成り立っている」


コウモト アヤセ
「そっか!その凶器を発見したのが澪なら、“サドンデスサプリは偽の凶器で、本当の凶器は別にある”っていう可能性もあるんだ!」


ノノハラ レイ
「大正解。つまるところ、何も解ってないのと一緒。これまでの議論はまるで無駄だった。ってことさ」





タカナシ ユメミ
「な、何よそれ!そんなの屁理屈じゃない!そんな偽装工作するのは、そいつが犯人だからに決まってるでしょ?!

 犯人以外にそれをする理由が考えられないじゃない!」


カシワギ ソノコ
「決まってる、考えられない、という言葉に意味はないんです。怪しい人が犯人だって言うなら、そもそも議論なんて必要ないんですから」


ウメゾノ ミノル
「それにさ、忘れてない?一応僕もさっきまでは被疑者だったんだよ?共犯の可能性があるなら、真犯人である僕を庇ってるのかもよ?」


アサクラ トモエ
「自分からそんな事言っちゃうの?!」


マスタ イサム
「落ち着け巴。場の空気をかき乱し混乱させるためにわざと白状したんだ。

 裁判が始まってからずっとあいつはそうしてきたんだからな」





ナナ
「それでも、これまで話し合ってきたことは正しいはずでしょ?」


ノノ
「どこもおかしいところは無かったし、問題はないんだよね?!」


ユーミア
「これまでの議論が正しいかどうかは問題ではありません。被疑者が持ち込んだ証拠を論拠に被疑者を追い詰める議論をしていた、ということ自体が問題なんです。

 この裁判は証拠を基に推論を重ねて真相を明らかにするもの。裏を返せば、議論の鍵になる証拠を潰されてしまってはどうしようもないんです。

 そのカプセルが証拠としての信憑性を欠いてしまった以上、これまでの議論は全て破綻してしまうんです」


サクラノミヤ エリス
「そんな……、ことって……」


サクラノミヤ アリス
「ちょ、ちょっと!なんであたし達が追いつめられてるのよ!さっきまであいつを追い詰めていたのはあたし達の方だったはずでしょ?!」





アヤノコウジ サクヤ
「真っ先に自分に不利になる証拠を押さえて議論を牛耳る。

 犯人も捜査に加われるっていう学級裁判の特徴を生かした戦術ってところかしら?」


オモヒト コウ
「さらに、梅園と共犯していることをほのめかすことでどちらが実行犯……、即ちクロなのか解らないようにしたんだろ?

 明確な証拠が出なかったとしても、議論の中で一番怪しかった奴に投票した結果正解、なんて結末お前は納得しそうにないもんな」


ノノハラ レイ
「そんなのこのゲームの趣旨に反するからね。数の暴力によるパワープレイなんて下品だし、萎えるしでボク嫌いなんだ。

 さて、改めて聞くけど、どうする?このままキミが負けを認めてくれれば、心の優しいこのボクが答えを導いてあげるよ?」


オモヒト コウ
「お断りだ。どうせロクな答えじゃないだろ」


ノノハラ レイ
「随分な言いようだ。じゃ、キミの答えを聞こうか?

 言っておくけど、ボクは無意味なものなんて嫌いだから、無駄な時間稼ぎはやめてよね?」





 ……冷静に考えろ。こいつらは最初から全員に怪しまれながら、それでもここまで尻尾を掴ませなかった。

 ここまで澪が余裕綽々なのも、致命的な証拠を何一つ残していないという自信の表れ。計画通りに事が進んでいると確信しているからだ。

 これを覆せるのは、想定外のアクシデント。計画にはなかったはずの行動から出るほころびだけだ。

 今はそのたったひとつの“アクシデント”に賭けるしかない!





オモヒト コウ
「……なぁ澪、一つ聞くぞ?事件が起きたあの瞬間、俺は意識が朦朧としていたから自信はないが、お前は咽てたはずだよな?」


――回想――

>>250


オモヒト コウ
「俺が聞きたいのは、お前が咽た理由だ。

 俺が倒れた時点で皆の注目は俺に集まっていたわけだから、わざわざ注意を分散させるためにワザと咽たとは考えにくい。

 俺が倒れたこと自体に驚いたわけでもないだろ?

 お前と梅園がグルなら、俺に当たることも、どのくらいの威力なのかも知っていたはずだもんな?」




ノノハラ レイ
「……」


ウメゾノ ミノル
「えっと、その……、そう!主人君のover reactionに驚いたんだよ!普通人がいきなり倒れたら驚かない?」


タカナシ ユメミ
「お兄ちゃんがくさやジャムで苦しんでる時は二人してゲラゲラ笑ってたくせに。説得力がないじゃない」


ナナミヤ イオリ
「私たちは、貴方達二人を除いて全員が彼の心配をしていた。それは、貴方達が仕掛け人だったから」


アヤノコウジ サクヤ
「先に言っておくけど、『そもそも知らなかったから』なんて言い訳は通らないわよ?

 さっきの議論で、貴方達は暗に認めていたんだから。共犯して彼に毒を盛ったって」





ノノハラ レイ
「……」


オモヒト コウ
「どうした?だんまりか?お前が言えないなら俺が代わりに言ってやるよ。

 さっきまでの議論が正しいなら、お前が粉チーズを取りにキッチンから戻ってきた時既に手の中にカプセルを隠し持っていたことになる。

 それより後のタイミングじゃ不自然にポケットの中をまさぐることになって怪しまれるからな。

 だがお前はサドンデスサプリは人肌でも溶けだす危なっかしい代物だということを失念していた。

 お前が咽たのは、その時手に着いた液体をうっかり口に近づけてしまったからじゃないのか?」


ノノハラ レイ
「……想像力が豊かだと、そこまで発想が突飛なものになるんだね。勉強になるよ。

 そんなものは仮説の上に推論を重ねた、お粗末な砂上の楼閣だ。証拠が何一つない憶測じゃないか」





オモヒト コウ
「一応根拠はあるさ。俺が不自然に大きな粒をダマだと誤解したのは、溶け始めたカプセルの周りにくっ付いた粉チーズのせいだろうからな。

 粉チーズでコーティングされているから液体のついた粉チーズが渚や慧梨主のパスタに入る可能性も低くなるって言うおまけつきだ」


ノノハラ レイ
「それでもまだ決定的な証拠とは言えないよ。ボクはね、物的証拠を見せろって言ってるんだ」


オモヒト コウ
「……犯人が凶器を手に入れてから現場で細工をする、この犯行の一連の流れを考えてみたんだ。

 サプリのボトルはかさばるから、現場に持っていくわけにはいかない。

 カプセルを一粒だけポケットに入れて現場に来たのだとしたら、食事中粉チーズを取りに行くまでずっとその中で温められていたはずだ。

 だから、きっとお前のズボンか上着のどこかのポケットに、溶けたカプセルの液体の痕が残っているんじゃないか?

 俺の推理がデタラメなら、難なく見せられるだろ?」


ノノハラ レイ
「……参ったね。そこまで言われちゃ、見せなきゃいけなくなっちゃうじゃない」





 そう言って、澪はズボンの左前のポケットを裏返す。

 白い布地には、遠目でもはっきりわかるほど小さな黄色いシミがついていた。







オモヒト コウ
「どうだ?それは犯行に使われたのは間違いなくサドンデスサプリで、犯人はお前だっていう決定的な証拠じゃないか?」


ノノハラ レイ
「……まぁ、文句は色々あるけれど、飲み込んでおくとしようか。これ以上あがくのはみっともないし」


ノノハラ ナギサ
「じゃ……、じゃぁ……」


ノノハラ レイ
「うん、そうだよ。ボクが犯人だ。

 ボクがサドンデスサプリを粉チーズの容器の中に入れ、公のパスタの中に入れさせた張本人」


ノノハラ ナギサ
「う、嘘……」


ノノハラ レイ
「ゴメンね。まぎれもない事実なんだ。



 ――さて、質問を続けようか?」






オモヒト コウ
「何、だと?」


ノノハラ レイ
「やだな、数は制限してないだろ?これで終わりとも言ってないしね。

 安心していいよ。後二つだし、質問って言っても確認みたいなものだから、どうせならみんなで答えてもいいんだぜ?」


 ……何でだ?俺は澪を追い詰めたはずなのに、何で今は「取り返しのつかないことをしてしまった」みたいに思っているんだ?

 ……この寒気は、一体何なんだ?




ノノハラ レイ
「この学級裁判もどきを提案したのは誰だったかな?穫クン」


ウメゾノ ミノル
「はーい、野々原澪君でーす」


ノノハラ レイ
「その通り。じゃぁ皆、そのボクが提案したこの学級裁判の冒頭で、ボクがモノクマに確認したクロの条件、何だったか覚えてる?」


カシワギ ソノコ
「えっと、確か……、主人さんのパスタに毒を盛った人……でしたよね?」


 そうだろ?そうなんだよな?!


ノノハラ レイ
「――違うよ。

 ボクは『主人公のパスタに“直接”毒を盛った人間がクロだ』って言ったんだよ?」


――回想――

>>308


ノノハラ レイ
「ボクは“公のパスタ”にはカプセルを入れていない。“粉チーズの容器”に入れたんだ。

 つまり、ボクは“クロではない”んだよ」


オモヒト コウ
「は……」


オモヒト/タカナシ
 「「はあぁぁぁぁぁぁぁ???!!!!」」





タカナシ ユメミ
「そんなのただの屁理屈じゃない!それに、結果的にお兄ちゃんのパスタにカプセルが入ったんだから同じことでしょ?!」


ノノハラ レイ
「それはあくまでも結果論だよ。確実に公のパスタにカプセルを入れることができるというには、あまりに不確定要素が多すぎる。

 例えば、アリスさんが気まぐれで粉チーズをかけてたら、アリスさんに当たっていた。

 それに、よしんば公に当たっていたとしてもだ。不自然な粒に違和感を覚えた公がそれを取り除いてしまえば服毒には至らなかった。違う?」


マスタ イサム
「お、お前!いくらなんでもそんな屁理屈モノクマには通じないだろ!?」


モノクマ
「そうですよ!そんな横暴先生は認めませんからね!」





ノノハラ レイ
「いいや、モノクマ。キミは認めざるを得ないはずだよ。学級裁判の最初にちゃんと確認したはずだよね?」


モノクマ
「あれはそう言う意図で言ったんじゃないの!」


ノノハラ レイ
「それに、最初に言ったはずだよ?キミの役割はあくまでもボクらの議論の結果導き出したクロが、正しいかどうか判断するだけだって。

 クロの定義を決める権利は君にはないんだよ。だってキミは、ただの裁判員。被告人が法律に違反しているかどうかを判断するだけの存在。

 法そのものに直接干渉する権限なんて持ってないんだから」


モノクマ
「学級裁判ではボクがルールなの!ボクがクロと言ったらそいつがクロなの!」


ノノハラ レイ
「残念ながらこれは学級裁判じゃない。ボクらが仲間内で勝手にやってる、もどきさ。

 つまりルールはこれを提案したボクにある。こと今回に限っては、ね」





オモヒト コウ
「ま……、まさか、お前最初からこれを狙って……?!」


ノノハラ レイ
「うん、そうだよ。校則違反をしてないなら、モノクマはボクらに過剰な干渉はできない。

 いくら学園長でも、生徒の私的な話し合いに首を突っ込んで指図するなんて暴挙は不可能さ」


モノクマ
「そ、そう言われると厳しいんだよなぁ……。

 全く……、いったいいつからそんなグレちゃったんだか……」





ノノハラ レイ
「結局のところね、所詮人間が創った謎なんてのは人間に解かれる運命にあるんだよ。

 だから、ボクは初めから解かれても問題ない謎を創ったんだ。

 学級裁判で突き止めるべきなのはあくまでも“クロ”なのであって黒幕じゃない。そこを利用させてもらったよ」


アヤノコウジ サクヤ
「全部、全部計画通りだった、ってわけ?」


ノノハラ レイ
「キミが危惧していた通り、ね。

 正直なところキミが公に突っかかっている時が一番ハラハラしたんだよ。もしかして計画がばれたんじゃないかってね」


ウメゾノ ミノル
「いやー、助かった助かった。まーバレたところで問題はほとんどないんだけどさ、色々面倒なんだわ」




コウモト アヤセ
「……あれ、ちょっと待って。澪がクロじゃないなら、誰がクロになるの?」


ノノハラ レイ
「凶器となったサドンデスサプリのカプセルはボクの手から粉チーズの容器の中へと移り、

 その容器は巡り巡って公の手に渡った。そしてカプセルはその容器からパスタの中に……。



 ――ここまで言えば解るよね?主人公クン?」




オモヒト コウ
「お、俺……、なのか?」


タカナシ ユメミ
「ちょ……、ちょっと!どうしてそうなるのよ!お兄ちゃんは被害者なのよ!?」


ノノハラ レイ
「それが?事件としては自爆で処理されるんじゃない?

 残念だったねぇ公。せっかく頑張って、長い時間かけて議論したのにその結果がこのザマなんてさ!

 最っ高に絶望的だよ!ねぇ?そう思わない?モノクマ!」


モノクマ
「うぷ!うぷぷぷ!!そういう事だったんだね!

 いやー、キミっていう奴は、本当にやってくれるよ全く!ボクでさえもこの結末は予想できなかったな~!」


ノノハラ レイ
「あははは!お褒めに預かり光栄至極、とでも言えばいいのかな?

 で?モノクマ。この結末には納得していただけたかな?そろそろ投票に移ってもいい?」


モノクマ
「大満足です!では、オマエラはお手元のスイッチ……ではなく、電子生徒手帳の画面に表示された、クロと思う人物の名前をタップして投票してください。

 投票の結果、クロとなるのは誰なのか?!その答えは、正解なのか、不正解なのか?!

 うぷぷぷ!!ワックワクのドッキドキだよね!」





 オモヒト コウ  8票 \GUILTY/

 ノノハラ レイ  7票

 ウメゾノ ミノル 1票




学級裁判(仮)

 閉廷



――や、やっと、(学級裁判が)終わったよ……。


――このまま一気にオシオキとチャプター終了まで行きたいのは山々なのですが、>>1の体力が持たないので今回はここで終了となります。

――次回は遅くても一週間後には……。おやすみなさいませ。




――信じられるか?スレの半分もそろそろだっていうのに、まだ第一章にも入ってないんだぜ?

――おまけにそろそろスレが立ち始めて一周年が見えてきてるんだぜ?一体完結するまでどれくらいかかるんだ?




――……精一杯頑張ります。どうぞご声援よろしくお願い申し上げます。




モノクマ
「はい、大正解!今回のクロは何と!被害者と思われていた主人公クンなのでしたー!」


タカナシ ユメミ
「ふざけるな!こんな結果納得できるわけないじゃない!」


ナナミヤ イオリ
「こんなの!いくらなんでもひどすぎます!」


ノノハラ レイ
「納得できるできないの問題じゃないんだよ。こればっかりは裁判長の裁量だから仕方ないよねぇ?」


モノクマ
「うぷぷ!とか言って、いいカンジに票が割れたおかげで命拾いしたね!」


ウメゾノ ミノル
「えっ、ちょ、ちょっと、何で僕に一票入ってるの?!」


サクラノミヤ アリス
「チッアンタがチックロだったらチッ良かったのにチッ」


ウメゾノ ミノル
「舌打ちしすぎだよ!そんなに僕がクロであって欲しかったの?!」




オモヒト コウ
「……今回は俺の負け、ってことにしておく。

 オシオキの前に聞かせてくれないか?何でこんなことをしたんだ?」


ノノハラ レイ
「朝倉さんが言ってた予行演習っていうのが、実は半分正解だったりするんだよね。

 ただし、学級裁判の、なんだけど」


アサクラ トモエ
「つまり、この事件は学級裁判をするために起こしたって事?」


ウメゾノ ミノル
「That’s right! モノモノマシーンの景品でおあつらえ向きなものがPON☆PON☆出てきたから、ついやっちゃった♪

 ちなみに言っておくと、僕が裁判を引っ掻き回して皆を混乱させてるうちに野々原君が誘導するっていう役割だったんだ」




ノノハラ レイ
「この際だからぶっちゃけちゃうとね、被害者に公を選んだのは一番辛いのに強そうだったから。

 で、トリックが暴かれようが暴かれなかろうが、議論や投票結果がどう転んでもいいようにした結果があの土壇場でのやり取りだったんだよ」


マスタ イサム
「それは一体、どういうことなんだ?」


ユーミア
「……恐らくですが、お二人は容疑がかけられようとかけられまいと、どちらでも良かったのでしょう。

 投票の際自分たちに票が集まりそうなら先ほどのように“自分たちはクロではない”ということを明かし、

 それ以外の誰かに集まりそうなら黙ったままでいる。

 これならたとえ誘導が失敗したとしても野々原澪さんには被害が及びませんから」




ウメゾノ ミノル
「そうそう、だから僕も共犯者として……、ん?」


サクラノミヤ アリス
「……まさかとは思うけどアンタ、あたし達が選んだクロが不正解だったらどの道巻き添えを喰らうって気づかなかったわけ?」


ウメゾノ ミノル
「あ゛~~~~?!野々原君?!『絶対ボクらに不利益になることはないから』って言ったのは嘘だったのか?!

 直接的な被害はないから僕も手伝う気になったのに!」


ノノハラ レイ
「い、いや、まさか本当に気づいてなかったなんて思ってなかったから……。

 それに、あくまでももしものための保険であって、ちゃんと誘導できたんだから問題なかったじゃない」


ウメゾノ ミノル
「それはそうだけどさ!それとこれとは話が別だよ!」


サクラノミヤ アリス
「今ハッキリわかったわ。アンタバカでしょ」


ウメゾノ ミノル
「返す言葉もない……」




ノノハラ レイ
「あまり時間をかけたくないから、わざと本当のことを言って望み通りの結末へ誘導していたはず、なんだけど……。

 どういうわけか予想以上に時間かかっちゃったんだよねぇ。何でだろ?気分屋だからかな?」


 恐ろしく時間が経った気がするが……。そうか、まだ始まってから一時間半ぐらいしか経ってないのか。


ノノハラ レイ
「全く、キミらには失望したよ。せっかく人が解りやすいトリック使って、わざと証拠を残したっていうのに延々と遠回りな議論ばっかり。

 あまり打ち合わせできなかったから、穫クンが引っ掻き回してボクが誘導するってこと以外は基本アドリブってことになってたんだけど、

 肝心の穫クンが議論を変な方向へもってっちゃうし。右往左往する議論を誘導するのがこんなに大変だなんて思いもしなかった」


 こいつ……!まぁ、いい。今回は置いておこう。





オモヒト コウ
「もう二つ、いいか?何でモノクマに媚び売るような真似をしたんだ?」


ノノハラ レイ
「学園生活で快適に生き延びることのできる最も簡単な方法を教えてあげよう。

 ――教師に気に入られること、ひいては味方につけることさ。その方法は色々あるけどね。

 権力者の傘下にいれば相手も迂闊に手を出せないし、自分を慕ってくれる人間はつい甘やかしてしまう。

 ボクからの絶望(プレゼント)を喜々として受け取ったモノクマは、

『やっぱやめた』とか言って結局ボクをクロにする、なんてツマラナイ結末にはしないだろうと考えるのは至って普通でしょ?」


オモヒト コウ
「だから俺を売った、と?」


ノノハラ レイ
「所謂コラテラルダメージというやつだよ。作戦目標達成の為の致し方ない犠牲さ。

 ……流石にやりすぎたかなって反省はしてるんだぜ?ちゃんと」





オモヒト コウ
「じゃぁ、これが最後だ。

 お前はコロシアイには反対だったはずだろ?

 学級裁判の練習をするなんて、何で俺たちがコロシアイすること前提なんだ?」


タカナシ ユメミ
「正気なの?狂ってるの?頭がおかしいの?」


ノノハラ レイ
「おいおいそっちこそ正気かい?まさかキミら、この期に及んでもまだ自分だけは死なないとか思ってる?

 確かにこのままなら殺人は起きないかもしれないけど、そんな状況をモノクマが許すとでも?」




ノノハラ レイ
「ただでさえこんな閉鎖的な空間に閉じ込められて殺し合えなんて言われて皆が疑心暗鬼になってるっていうのに、凶器まで配られてる。

 こんな状況での平穏なんて、あと一つ起爆剤があれば簡単に消し飛ぶよ。誰かが先走った真似をしないとも限らないしさ」


オモヒト コウ
「だからっていきなり学級裁判の練習なのか?」


ノノハラ レイ
「あいにくね、練習もリハもなしのぶっつけ本番で失敗したら死ぬ命懸けのステージに立てなんて言われて、

 はいそうですかと納得して演技できるほど、ボクは物分かりがいい方でも心臓に毛が生えているような度胸の持ち主でもないんだ。

 裁判がどう進行していくのか、皆が裁判でどう動くのかも見ておきたかった。

 誰が一番発言権を持っているのか、有能な人間、無能な人間は誰か。それを知っておけば捜査もしやすくなるし、誰が狙われやすいか推測も出来る。

 今回と比べて様子がおかしい人間がいれば、その人が重要な証拠を掴んでいる可能性は高いだろうから、証拠集めにも役立つしね

 だから誰も死なない、かつボクが自由に動かせる――モノクマがほとんど干渉しない最初で最後の練習をしておきたかったんだよ」




 こいつは……こいつなりの考えがあった、ってこと、か。

 少し安心した。少なくとも澪が味方である内は心強い。ここまで考えて、かつ行動できる奴は他にいないだろう。

 ……問題は、こいつが敵に回った時、だな。今のように。

 そうなったら、俺たちは本当に手も足も出なくなるだろう。それこそ、完全な偶然による失敗が無ければ。




モノクマ
「さぁ~て!時間も押してるので、そろそろお待ちかねの!おしおきタイムとシャレこみましょうか!」


アヤノコウジ サクヤ
「待ちなさいよ!」


モノクマ
「おやおや?まだ何かあるのかな?それともただの時間稼ぎ?」


アヤノコウジ サクヤ
「さっきそこの愚民が言ったじゃない。この裁判は私たちが勝手にしているって。

 だったら、オシオキとやらも拒否できるはずよ!まさか、校則違反もしていない彼に無理強いなんてできないわよね?」


オモヒト コウ
「咲夜……!」


 庇ってくれたのか?

 そうだ!一度は諦めていたが、まだ挽回できるじゃないか!

 いいぞ!このまま押し切って――





モノクマ
「駄目です」


 ――はぁ?


モノクマ
「そっちこそ、忘れてないよね?校則は何時でも、いくらでも増やすことが出来るんだよ?

 学園長としては生徒を校則で拘束するような真似はしたくないんだけど、おっとつい上手いこと言っちゃった。

 ボクは悪魔でも生徒であるオマエラの自主性に委ねたいなー、と思っているのです!

 でも、そんなに縛ってほしいドMなオマエラのために、身動きできないくらいギッチギチに締め上げてやってもいいんだよ?」


 そんな脅しアリかよ!

 くそっ!こんな脅しに屈したらますますつけあがるに決まってる!でも拒否すればそれこそ何でもアリになるし……!

 諦めるしか、無いのか……?




アヤノコウジ サクヤ
「ぐっ……」


ナナ/ノノ
「お兄ちゃん……」


オモヒト コウ
「もういい、咲夜も、モノクマも。

 要は俺が、これを完食すれば丸く収まるんだろ?」


ナナミヤ イオリ
「主人さん!」


タカナシ ユメミ
「お兄ちゃん!無茶しないで!!」


モノクマ
「うぷぷ!物わかりのいい子は先生大好きですよ!

 では!張り切っていきましょう!おしおきターイム!」


 覚悟は、決めた!

 これは諦めたんじゃない!舌がマヒしている今なら行けると思ったからだ!

 未来につなぐためだ!完食したうえで平然としていればモノクマに一矢報いることが出来る!

 俺なら完食できる!

 俺は、絶対に激辛パスタなんかに負けたりしない!


オモヒト コウ
「い…、い、い…


 ――逝ったらぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁ!!!!」





 オモヒトくんがクロにきまりました。
 おしおきをかいしします。




 超高校級の主人公候補生
 主人公 処刑(仮)執行




――すべての元凶となったパスタを前に、主人公は尋常ではないほどの冷汗をかいていた。

――これから自らの舌に、口に、食道に、胃に、内臓に起こる地獄を想像するだけで先ほどまでの悲壮な覚悟が消え入りそうになる。

――その戸惑いを見て、『パスタが冷めてしまったから』と解釈したモノクマは急ぎキッチンへと向かった。

――しばらくして戻ってきたモノクマは、小さな鍋を持ってきた。少しばかりの湯気と猛烈な、暴力的な悪臭を伴って。

――まだ残っていたくさやジャムを鍋の中に入れ、あろうことか火にかけたのだ!

――加熱されたことにより水分が蒸発したそれは、もはや生物兵器の領域である。
  そしてそれを、悪臭で怯んでいる主人公を尻目に、彼のパスタへ投入した。

――真っ青になる主人公にならなる追い打ち。モノクマはサドンデスサプリのボトルの中身全てをパスタに投下した。
  乾燥剤は入れないという優しさも今や余りうれしくない。

――この世の地獄を体現したような“それ”はもう料理という域を超え、天災にまで昇華された。

――モノクマはニタニタと笑っている。主人公も引き攣った笑いをしている。野々原澪と梅園穫は冷汗をかいている。

――小鳥遊夢見と七宮伊織と綾小路咲夜とナナとノノは必死に説得を試みている。他の者は皆心配そうに、固唾を呑んで見守っている。

――彼は一気にフォークを掲げ、パスタに突っ込んで自らの口の中に掻き入れた。



――一心不乱の大暴食の結果、彼は見事に完食。そして机に突っ伏し、しばらく動かなかった。

――しかし、彼はやりおおしたのである。この世の食への冒涜全てを凝縮したような地獄を。





オモヒト コウ
「ど、どうだ……、食べきって、やった……、ぞ……、グフッ」


 ぶっちゃけ何度か花畑見えたけどな。今も意識が飛びそう、だし……。


タカナシ ユメミ
「お兄ちゃん!しっかり!お兄ちゃん!」


ナナミヤ イオリ
「お水持ってきますから!」


オモヒト コウ
「あぁ、悪い、な……。心配かけたな、俺は、大丈夫、だ」


タカナシ ユメミ
「良かった……。待っててねお兄ちゃん、敵はちゃんとあたしが取るから」


 いや、まだ俺死んでないんだけど……。





ノノハラ レイ
「はいこれ、胃薬」


タカナシ ユメミ
「どういうつもり?まさかそれも毒じゃないでしょうね?」


ノノハラ レイ
「まさか。こんな状況で毒盛るほど空気読めない男じゃないよ僕は。これは本物だから安心して。モノモノマシーンで当てたんだ。

 アフターケアまでが悪戯さ。それがなけりゃただのイジメだよ、イジメ」


 そういう良心があるなら初めからやるなよ…!





オモヒト コウ
「ついでに聞かせてくれないか?もしモノクマがお前の思い通りに動かなかったらどうするつもりだったんだ?」


ノノハラ レイ
「ま、キミの言うことも尤もだ。投票直前にちょっと媚び売ってみたりしても気まぐれなモノクマがクロをキミじゃなくボクと判定していたかもしれない。

 でも、問題ないんだよ。覚えてる?ボクがおしおきをどうするか決めた時、なんて言ったか」


――回想>>276――


ノノハラ レイ
「ボクはね、“責任を持って処理する”としか言ってないじゃない。

 だから、最初から責任をもって“焼却処分”すればいい、と思ってたんだけど……、ねぇ?」


オモヒト コウ
「は……」




「「「「「「「「「「「「「「「「はああぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ?!?!?!」」」」」」」」」」」」」」」」




 モノクマも含めて、澪を除く全員が声を挙げた。……梅園も知らされてなかったのか。




アヤノコウジ サクヤ
「だったら何であの時に言わなかったの?!」


ナナミヤ イオリ
「主人さんだってあんな苦しい思いをしなくて済んだかもしれないのに!!」


タカナシ ユメミ
「……返答次第じゃぁ、解ってるんでしょうねえ?!」


ノノハラ レイ
「いやぁ、まさかあそこまでことが大きくなるなんて思ってもみなかったし。

 それに、主人クンのあんな男らしい決意の顔見せられたら水を差すわけにもいかないなーって」


アヤノコウジ サクヤ/ナナミヤ イオリ/タカナシ ユメミ
「「「嘘だっ!!!」」」


 あー、何か三人ともすごい剣幕だなー。こりゃ澪も殺されそうだなー。でも残念だなー。こんな様じゃ助けたくても助けられないわー。





ノノハラ レイ
「おぉ怖い怖い、桑原桑原。じゃさっさと退場――ん?」


 逃げようとした澪の腕を掴んだのは、河本だった。遠目からでも解るほど力強く握っている。

 顔も一見笑みを浮かべているようだが、皺の加減というか、雰囲気でブチギレているのは一目瞭然だ。


コウモト アヤセ
「ちょーっとおイタが過ぎたんじゃない?」


ノノハラ レイ
「あー……、なんて言うんだっけ?こういうの」


コウモト アヤセ
「私刑(リンチ)。諦めなさい?」


ノノハラ レイ
「あ、ああ、ま、まって、腕そっちには曲がらな……あ゛―ぉ゛!」





 超高校級の幸運候補生
 野々原澪 処刑(仮)執行




 見事なサブミッションだ。なにか武術でもやってるんだろうか。

 あ、キャメルクラッチに移行した。


コウモト アヤセ
「意外と柔らかいのね、体」


ノノハラ レイ
「ら、ラーメンにされ…ぐえぇぇええええ!」


コウモト アヤセ
「 捩 じ 切 る わ よ ? 」


ノノハラ レイ
「ヒィッすいませんスイマセンごめんなさい許してオゲロォオオオオオ」


 そんな古いネタ持ってくる方も反応する方もどうなんだよ……。

 あ、今度はロメロスペシャル。いい感じに決まってるなー。あの澪がなすすべもない。





ウメゾノ ミノル
「ダレモミテナーイ、トウソウスルナライマノウチー」ソー


 あ、梅園がどさくさに紛れてこっそり逃げようとしている。


ナナ
「あらあら、鬼ごっこ?それともかくれんぼのつもりかしら?」


ノノ
「どっちにしても、ぜーったい逃がさないから!」


ウメゾノ ミノル
「ぅゎょぅジょハゃぃ」


 残念!幼い双子に回り込まれてしまった!

 しかし本当に早いなあの二人。俺より早いんじゃないか?いやいや、そんな筈はない、よなぁ?


マスタ イサム
「どこに逃げようって言うんだ?安心しろ、殺しはしない」


ウメゾノ ミノル
「暗に半殺し宣言してるじゃないですかヤダー!」


サクラノミヤ アリス
「今更アンタだけお咎めなしなんて思わないわよねえ?」


ウメゾノ ミノル
「ぼ、僕は野々原君の悪ふざけに巻き込まれただけだ!甘言に騙されたんだ!

 俺は悪くねぇ!俺は悪くねぇっ!!」





アサクラ トモエ
「審判(ジャッジ)!これより被告人梅園穫に対する審議を行います!」


サクラノミヤ エリス
「お兄さま……、流石にこれは擁護できません……」


ノノハラ ナギサ
「共犯者だったのに全部お兄ちゃんに擦り付けようなんて許さないんだから」


カシワギ ソノコ
「ごめんなさい。ちょっと、これは、無理です。許せません」


ユーミア
「判決、主文、被告人梅園穫、有罪(ギルティー)」


ウメゾノ ミノル
「も、もしかしてオシオキですかぁーーーーっ?!」


マスタ イサム
「YES!YES!!YES!!!YES!!!!」


ウメゾノ ミノル
「OH MY GOD…」\(^o^)/





ウメゾノ ミノル
「い、いででででで!ちょ、ちょ待ち!これ以上やったらタワーブリッジどころかアムステルダムの跳ね橋になる!

 おろして!おろしてぇ!おろせぇ!!」


マスタ イサム
「割と余裕あるなぁ。もうちょいいけるだろ?」


ウメゾノ ミノル
「だああぁぁああああぁぁぁああ!!ムリ!無理無理無理無理!!背骨!背骨がミシミシいってるぅぅぅ!

 折れる!折れりゅぅぅうぅぅうぅ!!し、死ぬ!死んじゃうからぁぁああ!!」


マスタ イサム
「しょうがないな。そこまで言うならおろしてやるよ」


ウメゾノ ミノル
「え?あ、あぁ、意外に聞き分けいいのね、――あ、あれ、なんで持ち上げたまま振りかぶってるノオォォォオォオオォォオ?!」


 タワーブリッジからのペンデュラム・バックブリーカーとか、凄い力技だな。

 あれ本当に背骨逝ったんじゃないか?





 二人仲良く私刑(おしおき)を味わった澪と梅園は、床に倒れ伏した。

 執行人(しょうしゃ)の二人には惜しみない拍手が沸き上がった。

 こうして、今回の事件の黒幕に対するおしおきは終わった――。




オモヒト コウ
「あ゛―。やっと意識がハッキリしてきた……」


タカナシ ユメミ
「本当に大丈夫なの?お兄ちゃん」


オモヒト コウ
「何とか、な」

 取り敢えず、今日は滅茶苦茶疲れたからさっさと風呂入って寝たい……。

ノノハラ レイ
「し、死ぬかと思った……。後色々とヤワラカカッタ……」


コウモト アヤセ
「 何 か 言 っ た ? 」


ノノハラ レイ
「ナンデモアリマセン」


ノノハラ ナギサ
「……さっきまでは報いってことで許したけど、これ以上お兄ちゃんに暴力振るうなら綾瀬さんでも容赦しないよ?」


コウモト アヤセ
「ふうん?それってどういう意味?」


カシワギ ソノコ
「け、喧嘩はそれくらいにしませんか?」



ウメゾノ ミノル
「オープンゲットしてない…?」


マスタ イサム
「パイルダーオンしてるから大丈夫だ、問題ない」


サクラノミヤ アリス
「ふん、ザマないわね」


ウメゾノ ミノル
「……今日はピンクなん――グフッ!ゴヘェッ!」


サクラノミヤ アリス
「このっ!死ね変態っ!!」


サクラノミヤ エリス
「お、お姉さま!これ以上お兄さまを蹴ったら死んでしまいます!」


 意外に復帰早いんだなあの二人も。大分余裕そうだし。……梅園の方はこれからどうなるか知らんが。





――「キーン、コーン…カーン、コーン…」


モノクマ
「おっと、もうこんな時間だった。ちょうどいいし、アナウンスはこの場でいいよね。

 えー、希望ヶ峰学園候補生強化合宿実行委員会がお知らせします…。

 ただいま午後9時50分になりました。間もなく消灯時間です。

 消灯時間を過ぎると個室以外の暖房が切られるので、温かいままでいたいなら速やかに個室に戻ってください。

 部屋はオートロックなので、鍵になる電子生徒手帳は忘れずに。では、おやすみなさい」


 言うだけ言って、モノクマはテーブルの下に消えた。

 隠し通路か何かがあるのか?





ノノハラ レイ
「あ、そうだ。言い忘れてたことがあるんだ」


 何だかすこぶる嫌な予感しかしないな。こいつ関連の話は特に。


ノノハラ レイ
「ボクはね、悪魔でも皆との共存を願っているし、望んでいるんだ。だから学級裁判、ひいてはコロシアイなんて出来ればして欲しくないんだよ」


アヤノコウジ サクヤ
「さっきと言ってることが矛盾してるわ」


ノノハラ レイ
「出来ればって言ったでしょ?最悪の場合コロシアイが起きたら、ボクは生き残るために学級裁判の全貌を知っておく必要があったんだよ。
 今回の事件を通して、誰をどうサポートすれば犯人のトリックを暴くことが出来るのか、要はそれを知りたかったんだ」


オモヒト コウ
「……要するに、学級裁判の練習をしたかったのは自分が実はコロシアイには肯定的で、

 誰を殺して誰に罪を擦り付ければ都合がいいか調べるためじゃないんだ、ってことだろ?」


ノノハラ レイ
「本っ当に空気読めないよねキミは。そんなこと言ったら逆にボクの立場が悪くなるってどうして解らないかな。

 まぁいいや。ついでに言っておくと、どんなに周到なトリックを用意しても見破れるだけの人員がいるから犯るだけ無駄だぞって、

 コロシアイ肯定派にアピールしておこうと思って。つまり見せしめ的な意味合いもあったんだよ」


ノノハラ ナギサ
「じゃぁ、お兄ちゃんはコロシアイを止めようとしてたんだね!良かったー!」





タカナシ ユメミ
「……いまいち信用できない」


ノノハラ レイ
「そう?じゃぁ仕方ないなぁ。暴力に訴えるのは嫌いなんだけど……」


 そう言って、澪はフォークを右手に持ち、目の前に掲げた。

 そして――曲げた。超能力の代名詞ともいえるスプーン曲げのように。恐らくは親指の握力だけで。


ノノハラ レイ
「もし誰かを殺そうって言うならボクが相手になってあげるよ。全身の骨という骨をこうしてあげるから」


 フォークをペン回しのように弄びながら、微笑みを浮かべる。

 そして曲がったフォークを何事もなかったかのように元に戻して、呆気に取られている皆を尻目にエレベーターホールに向かってしまった。

 それを見て、俺は唖然とするしかなかった。

 多分皆も思っていることだろう。『こいつ色々とおかしい!』と。





 それからのことは、実はあまり良く覚えていない。

 ただ、呆然としたままエレベーターに乗り、部屋に入って入念に歯磨きをして軽くシャワーを浴びた後、倒れるようにベッドへ雪崩れ込んだことはなんとなく覚えている。

 ベッドの上でおぼろげに考えていたのは、これからの事。

 ちょっとした事件はあったが、それでもまだ殺し合いは起きていない。人間関係にヒビが入ったかもしれないが、殺人までもつれ込むほどじゃないだろう。

 澪が不吉なことを言っていたが……、誰かを殺してでも外に出たくなるような理由なんてそうそうないだろう。

 あいつもそう思っているから、『学級裁判なんて面白そうなゲームやらないなんてもったいないよ!』みたいなノリで――、いや、これは無いか。

 はは。これぐらいフワフワしたことを考えられる余裕があれば充分だ。

 きっと明日からも、殺し合いは起きないし、起こさないようにだってできる。

 俺は電子生徒手帳から聞こえる耳障りな電子音を聞き流しながら、意識を手放した。





 DAY 01

 END


 Chapter0.5

クラストライアル・チュートリアル

 END


 生き残りメンバー

 16人

 To Be Continued



 あ゛ー、やっと終わったよ。なんでこんな前座みたいなのに半年もかかってるんだ?

 全く、>>1はバカだなぁ。これからが本番とか言っときながら、誰も死んでないじゃん。

 え?言ったのはボクだって?

 台本にそう書いてあったの!だから台本を書いた>>1が悪いの!

 結末には賛否両論あるかもしれないけど、結局はただのお遊びだからね、まぁこんなもんだよね。

 いよいよ次回第一章の開幕!……なんだけど、果たしていつ投下できるのやら。

 基本気分屋なのに書き溜めしないと投下できないとか救いようもないよね、オマエラも鼻で笑ってやってよ。

 ま、ゆるーく続きを待っててくれたらうれしいな。

 そして乙と期待のレスを書き込んでくれるオマエラに感謝を込めて、(非)日常編の自由行動でやってほしいネタを無制限で募集するらしいよ?

 うぷぷ!以前安価に失敗したのにまた性懲りもなく乞食しちゃってるよ!本人は安価じゃないから大丈夫って言ってるけどね!ボクには絶望的な結果しか見えないね!

 んじゃ!また次回!第一章でお会いしましょう、さよーならー。

男のロマンはやるんですよね


一か月ぶりだね!元気だったかい?

こっちは色々大変だったよ!

設定の見直しの結果これからの展開に穴があったり、新しい設定を追加しようとした結果矛盾が出来ちゃったりして修正に時間がかかっちゃった!

そして案の定ネタは期待していたより集まらなかったね!本当に>>1はモノミよりバカだなぁ。

>>478さんは安心してね!雪山のホテルに合宿と言ったらもちろん露天温泉が…。うぷぷ!ここまで言えば解るよね!わっくわくのどっきどきだよね!

そしてついに第一章が始まるよ!始まってから十か月たってるよ!お待たせすぎにもほどがあるよね!

では、これからも“ヤンデレロンパ~希望のヤンデレと絶望の兄~”最後まで楽しんでくださいね!



  第一章

ホテルぐらし!

(非)日常編




――「キーン、コーン…カーン、コーン…」


モノクマ
「えーと、希望ヶ峰学園候補生強化合宿実行委員会がお知らせします。
 オマエラ、グッモーニン!本日も最高のコロシアイ日和ですよー!
 さぁて、今日も全開気分で張り切っていきましょ~!」


 目覚まし代わりの朝のアナウンスで目が覚める。

 思い出したくもないアレのせいで夜中腹痛で目が覚めるかと思ったが、別にそんなことはなくぐっすり眠れた。

 昨日飲んだ胃薬のおかげか。礼は…、言わないでおくか。元はと言えばあいつが原因なんだし。




 廊下に出た。


ノノハラ レイ
「やぁ…。おはよう…」


オモヒト コウ
「お、おう。お、おはよう」


 ちょうど同じタイミングで部屋を出たのか、廊下には澪がいた。

 だがそこにいたのは澪であって、澪でない。そう思えるほど様子が違っていた。

 目の下の隈が尋常じゃないし、目が死んでいる。一晩でここまで様変わりできるとはとても思えない。

 少なくとも、昨晩までは俺たちの中で誰よりも活き活きしていたはずだ。それが今ではまるでゾンビみたいじゃないか。




オモヒト コウ
「どうしたんだ?寝不足…、なの、か?」


ノノハラ レイ
「そう、だね…。全然眠れなかったんだ。今だってすごく眠いはずなのに、妙に頭が冴えるんだよね」


 一晩眠れなかっただけでこうもなるものなのか?


ノノハラ レイ
「それにしても、随分と元気だねキミは。“あんなこと”があったっていうのに」


オモヒト コウ
「“あんなこと”?」


 俺が知らない間に、何かあったって言うのか?





ノノハラ レイ
「…ひょっとしてさ、まだメール見てないの?」


オモヒト コウ
「メール?」


ノノハラ レイ
「電子生徒手帳に新着来てない?」


 そういえば、寝る前に着信メロディみたいなのが聞こえていたような…?


ノノハラ レイ
「添付ファイルに動画があるから、まずは見てみなよ」


オモヒト コウ
「あ、あぁ」


 一体どんな映像見れば澪があんなになるんだよ…。ものすごく不安だ…。




 
ナレーター(CV:大山のぶ代)
「超高校級の主人公候補生、主人公クンは平成2年6月26日に生まれ、
 警察官である父親の背中を見ながらすくすくと成長し、健全な高校生となりました。
 超高校級の主人公候補生らしからぬ、どこにでもいそうなただの一般人ですが、人並みに幸せな人生を送っていました。
 ま、昨今のラノベや漫画の主人公にはよくある設定だし、そういう意味ではむしろ超高校級の主人公候補生らしいっちゃらしいんだけどね!ぶひゃひゃひゃ!!」


 映っているのは俺の過去。アルバムの写真からとってきたかのような昔の俺がスライドショーのように表示されていた。

 っていうかこれモノクマだよなナレーター。嫌な予感しかしないぞ、しかもかなりやばいやつだ絶対。

 後、最後のは余計だっての!





ナレーター
「しかし、そんな彼にも重大な問題点がありました。それは八方美人かつ鈍感であること。
 そんな性格が災いして、18歳の誕生日を直前にとんでもない“事件”に巻き込まれてしまったのです!

 まさかあんな惨劇が起きるなんて…。その“事件”せいで彼の人並みの幸せは一変!
 彼の生まれ育った家は現在こうなってまーす!」




 不穏なナレーションと共に画面が切り替わる。


 ――ただの更地が映っていた。


 理解したくなかった。ついさっきまで普通に住んでいた家が更地になっているなんて、あり得ない。

 呆然としている俺に追い打ちをかけるようにまた画面が切り替わる。


 ――そこにはまったく別の家が建っていて、俺の知らない家族がそこで暮らしていた。





ナレーター
「どうしてこんなことになってしまったのでしょうか?
 当の本人はショックからか事件の記憶を一切なくしてしまっているようですし…」


 どういう事なんだ…?さっきから全然話が頭に入ってこない…。


ナレーター?
「でもだいじょーぶ!そんな超高校級の主人公候補生であるキミに、スペシャルな情報を教えてあげるよ!
 クロとなって学級裁判を生き残った暁には、お祝いとしてこの事件の真相と当時の記憶をプレゼント!


 憎たらしいモノクマの顔が全面に映る。


モノクマ
「それじゃ、れっつエンジョイアンドデストロイ!」





 画面が暗転し、映像が、終わった。



オモヒト コウ
「なん、なんだよ。これ…」


ノノハラ レイ
「…しいて言うなら、“絶望”、あるいは“現実”、かな?」


オモヒト コウ
「何なんだよそれはあぁぁぁぁあぁっ!!」


 思わす声を上げる。叫ばずにはいられなかった。

 頭を抱えて、うずくまって、腹の中の物を全て吐き出さんばかりに絶叫した。いっそのこと、実際にぶちまけてしまいたかった。

 モノクマのいうことが全くのデタラメだと信じたいのに。

 この映像が全て虚構だと頭の中で否定し、拒絶したいのに、全くできなかった。

 頭ではなく、心で何となくわかってしまう。事実だと。

 心の奥底では、これが本物の映像なのだと認めてしまっているんだ。

 真っ赤な部屋と血の臭い。その中心で揺らめいている、凶器と狂気。

 記憶にないはずのそれらが、フラッシュバックするかのように頭に浮かんで離れなかった。





――というわけで短いですが今回はこれにて。

――次回の更新は一週間後を予定しております。

――完走目指して頑張りますので、何卒応援よろしくお願いいたします。




オモヒト コウ
「……悪い、取り乱した」


ノノハラ レイ
「いいよ。ボクも昨日は大体そんなもんだったし。むしろ立ち直りが早い分キミの方がまだましだ」

オモヒト コウ
「立ち直ってなんかない、相当動揺してるよ。澪も似たようなものなのか?」


ノノハラ レイ
「そうだよ。内容はほぼ同じだった」


オモヒト コウ
「…どう思う?この映像」


ノノハラ レイ
「昨日言ってた、モノクマのテコ入れだと思うよ。殺し合いが起きやすいよう動機も用意したって所じゃない?」



オモヒト コウ
「この映像の真偽を確かめたかったら殺人を起こせ――って事か」


ノノハラ レイ
「不安を煽るだけ煽って、ね。でもそれだけじゃない。奪われた記憶も取り戻せる」


オモヒト コウ
「――どういう、ことだよ。“奪われた”って」


ノノハラ レイ
「言葉通りの意味だよ。どうやったのかは知らないけど、
 恐らくモノクマは、ボクらから過去数か月以上前の記憶を奪うか消すかしている」


オモヒト コウ
「何を根拠にそんなこと……っ!」

ノノハラ レイ
「気づいた?そう考えれば説明がつく。むしろ、そうでないと辻褄が合わないって」


 映像の中でモノクマは言っていた。

『18歳の誕生日を直前にとんでもない“事件”に巻き込まれてしまった』

 ということは、事件があったのは6月25日ってことになる。


 ――だが、俺には24日までの記憶しかなかった。




 ここまでなら映像がでっちあげだという可能性も考えられるが、問題は“今日が何月の何日か”ということだ。

 俺の記憶の通りなら、このホテルで目覚めたのが6月25日で、今日は27日ということになる。

 だが外の天候を考えればそれはあり得ない。

 相変わらずの猛吹雪で、晴れ間は辺り一面銀世界。季節がまるで逆だ。




 そんな異常事態に今まで、指摘されるまで、考えてみるまで違和感を覚えなかった。

 それはつまり、俺は無意識のうちに今は冬だと思っていたということ。


 何故か?


 ――記憶を失っているからで説明がつく。ついてしまう。




オモヒト コウ
「…お前は薄々感づいていたんだな。
 だから、一昨日増田たちが戻ってきた時にあんな質問したんだろ?」


>>61


ノノハラ レイ
「そうだよ。もしボクらが連れ込まれてすぐ目覚めたなら、
 いくら外が吹雪いていようとボクらをホテルの中に入れた人物の足跡や痕跡が残っているはずなんだ。
 それが無かったってことは、少なくともボクらがこのホテルに連れ込まれてからはそれなりに時間が経っている。
 そう考えざるを得ないよね」




オモヒト コウ
「『自分の家で寝たはずなのに目が覚めるといつの間にかこのホテルにいた』と思ったのは、
 実際には眠ってからここで目覚めるまでの記憶がごっそり無くなってたからなのか?」


ノノハラ レイ
「確証はないけどね。――全く、本当に上手いこと仕組んでくれたものだよ」




オモヒト コウ
「どういう意味だ?」


ノノハラ レイ
「あえて決定打を出さないことで色々と想像させ、恐怖を助長させているんだよ。
 そしてその不安や恐怖心はふとした拍子に殺意に変わる。
 ギスギスした空気を換えようとしても、具体的な対抗策が未だ見つからないようじゃ逆効果だ。
 雰囲気が自然と人を殺しやすい方向に傾いてるのにどうにもできない。だから、上手いって言ったんだよ」




オモヒト コウ
「――そう言ってる割には随分と楽しそうだな?」


ノノハラ レイ
「ばれた?実はね、昨日眠れなかったのは動揺したのもあるけど、心の底では興奮もしてたんだ。
 これからボクらが戦わなきゃならないモノクマは、こんなにも強敵なんだって思うとワクワクが止まらないんだよ!」


オモヒト コウ
「お前な……」


ノノハラ レイ
「ごめんごめん。ボクってどういうわけか敵が多いんだけどさ、どいつもこいつも口先ばっかで大したことなかったんだよね」


 敵が多いのはそういう性格してるからじゃないかな。


ノノハラ レイ
「そうかもね。ただ、ボクはずっと期待してたんだ。ボクを打ち破ってくれる人がでてくるのを」


 だからさ、自然に俺の心の声と会話するのやめてくれって。





ノノハラ レイ
「……おっと、こんなところで立ち話してる場合じゃないよ!朝食食べ損ねちゃう!」


オモヒト コウ
「お前は本当に……、いや、いい。皆の様子も気になるしな」


 一抹の不安を抱えながら、食堂へ向かった。




 そこには誰もいなかった。どうやら、俺たちが一番のりらしい。


ノノハラ レイ
「あれ?まだ皆来てないんだ。お寝坊さんなんだなぁ全くもう。じゃ渚と綾瀬にメール送っとこっと」


オモヒト コウ
「みんながみんな寝坊したわけじゃないと思うぞ…」


ノノハラ レイ
「ま、どっちでもいいんだけどね。えーと、『もう起きて先に朝ご飯食べてるから、早く来てね』っと」


オモヒト コウ
「…お前ひょっとして俺より切り替え早いんじゃないか?」


ノノハラ レイ
「まさか。こう見えてもボク結構ひきずるタイプだよ?」


 とか言う割には結構な量よそってるじゃないか。喋りながらメール打ちながら朝食をよそうとか凄い器用だな。これっぽっちも尊敬する気になれないが。



オモヒト コウ
「朝からそんなに食べる気か?」


ノノハラ レイ
「人間どんな時でもお腹は空くんだよ?気分が優れないからって食べないのもよくないしね」


オモヒト コウ
「……まぁ、その意見には賛成だな」


 澪と一緒に朝食を食べ始めた。





ノノハラ レイ
「ほう言へばふぁ」


オモヒト コウ
「……まだ口に物が入ってる状態で喋るなよ。で、何だ?」


ノノハラ レイ
「もごもご……、んぐ……。キミさ、何でメールに気付かなかったの?」


オモヒト コウ
「ほとんど寝てたからな。誰かさんのせいで色々あって疲れてたし」


ノノハラ レイ
「ふーん。酷いことするもんだねぇその誰かさんとやらも」


 お前のことだよ。
 なんて言っても軽く流されるんだろうけどな。





ノノハラ レイ
「まぁいずれにせよ、メールで得た情報に関してはあまり口に出さない方がいいかもね」


オモヒト コウ
「どうしてだ?」


ノノハラ レイ
「むやみに場を混乱させたくないからさ。それに、自分のプライベートを明かしたくない人だっているだろうしね。
 だから、自分から話そうとしない限り、無理に聞き出そうとすると殺されちゃうかもよ?」


オモヒト コウ
「……それはちょっと疑いすぎじゃないのか?」


ノノハラ レイ
「慎重派なだけさ。――っと、おはよう綾小路さん」


オモヒト コウ
「……おはよう、咲夜」


アヤノコウジ サクヤ
「……」


 エレベーターホールから出てきた咲夜は、黙ったまま席に着いた。

 いつもなら、


「『おはようございます、咲夜さま』でしょ!この綾小路咲夜に朝から会えたのよ、ちゃんとした挨拶をするのが当然でしょう!!」


 とか言ってくるのに。

 今日はやけに元気がないな。やっぱりあの映像の所為か?





 少しして、渚と綾瀬がやってきた。


ノノハラ レイ
「おはよー」


ノノハラ ナギサ
「おはようお兄ちゃん」


コウモト アヤセ
「おはよう澪。今日は自分で起きれたんだ」


ノノハラ レイ
「まぁね。といっても、寝付けなくてほとんど徹夜なだけだったんだけど」


ノノハラ ナギサ
「それって良くないんじゃ……」


ノノハラ レイ
「食べ終わったら二度寝するつもりなんだ。ボクは大丈夫だから気にしないで?ほら、早く朝ご飯食べようよ」


ノノハラ ナギサ
「う、うん……」


コウモト アヤセ
「ちょ、ちょっと、澪、押さないでよ」


 二度寝もよくないんじゃないかな。あとやっぱりお前の方がよっぽど切り替え早いよ。





 その後も、夢見、柏木、桜ノ宮姉妹、伊織、ナナノノ姉妹、増田、ユーミア、朝倉が食堂にやってきた。


 ナナノノ姉妹は普段と変わらないが、他は全体的に沈んだ顔をしている。


 しばらくの間、無言の食事。非常に気まずいが、何か言えるような空気じゃなかった。





サクラノミヤ エリス
「……あ、あの、お兄さま、は?」


 一つだけ、ポッカリと空いた梅園の席。

 昨日あんな映像を見せられたばかりだからか、嫌な方向へ想像が進んでいく。




ノノハラ レイ
「……そう言えば見かけてないなぁ。増田クンは会わなかったの?」


マスタ イサム
「いいや。まだ部屋なんじゃないか?」


サクラノミヤ エリス
「……見に、いってきますね」


サクラノミヤ アリス
「どうせ寝坊でもしてるだけでしょ?待ってなさいよ」


サクラノミヤ エリス
「……ごめんなさいお姉さま、やっぱり行きます!」


サクラノミヤ アリス
「ちょっと、待ちなさいよ!」


 慧梨主は、亜梨主の静止を振り切ってエレベーターホールへ走っていった。




サクラノミヤ エリス
「――きゃっ!」


ウメゾノ ミノル
「――おっと。どうしたの慧梨主、今日はいつもより積極的だね。
 ……あれ?ひょっとして遅刻しちゃったカンジ?」


 慧梨主はエレベーターから出てきた梅園と正面からぶつかり、抱き留められた。

 ……おい梅園、何自然と慧梨主の背中に手を回しているんだ。




サクラノミヤ アリス
「どこ行ってたのよ?」


ウメゾノ ミノル
「ちょっと外へ、ね。スノーモービルとかでもあればいいなとか思ってさ」


サクラノミヤ アリス
「昨日散々探し回って見つからなかったのに、よく探そうって気になったわね。
 それで?何か収穫でもあったわけ?」


ウメゾノ ミノル
「いや、これっぽっちも」


サクラノミヤ アリス
「使えないわね。そのまま遭難でもすればよかったのに」


サクラノミヤ エリス
「お姉さま!」


ウメゾノ ミノル
「まぁまぁ落ち着きなよ慧梨主。それに一人でうろついてみんなに迷惑かけた僕の責任でもあるんだし、ね?」


サクラノミヤ エリス
「お、お兄さま……」




サクラノミヤ アリス
「……で?いつまで抱き合ってるつもり?」


サクラノミヤ エリス
「え……?あ!ご、ごめんなさいお兄さま!」


ウメゾノ ミノル
「いいっていいって、気にしないでよ。僕が前方不注意だっただけだし」


 慧梨主は顔を真っ赤にして梅園から離れた。
 で、梅園は抱き留める形になったんだからむしろ思いっきり注意できてたんじゃないかな。


 少し空気がよくなったのか、会話が弾むようになった。




ノノハラ レイ
「にしてもさ、凄いお金かかってるよね。この合宿」


カシワギ ソノコ
「どういうことですか?」


ノノハラ レイ
「ホテルは貸切、朝昼晩と豪勢な食事がついて一日中暖房が稼働している。
 もしこのままコロシアイが起きなかったらこれが一生続くんだよ?
 おまけに、ボクら16人をまとめてこのホテルに押し込むだけの人員と、その口止めにどれだけの金をばらまいたのやら」




オモヒト コウ
「モノクマが言ってたろ?予算は豊富にあるって」


ノノハラ レイ
「それはそうなんだけど、その予算はどこから来てるのかって話だよ。
 黒幕は相当な金持ちなんだろうねぇ。下手すれば、大金をドブに捨てる行為なんだからさぁ」


アヤノコウジ サクヤ
「ちょっと!言いたいことがあるならハッキリ言えばいいじゃない!」




ノノハラ レイ
「……何の話だい?」


アヤノコウジ サクヤ
「私が怪しいならハッキリそう言えって言ってるのよ!」


ノノハラ レイ
「それは被害妄想ってやつだぜ綾小路さん。ボクは一言もキミのこととは言ってないじゃないか。
 もしこの合宿が本当に希望ヶ峰学園主催なら潤沢な予算も説明がつくしね。
 キミが怪しいと思われてると思うってことは、そう思うなりの理由や思い当りがあるんじゃないかな?例えば――」






   「――キミが黒幕側の人間、とかさ」




――本日はこれにて。

――更新は一週間後と言ったな。あれは嘘だ。

――はい、本当に申し訳ございません。データがすっ飛んで心が折れてしまいました。

――次も多分一か月以内となりそうです。それまでには事件発生まで行きたいです。



アヤノコウジ サクヤ
「な、なにを言って……」


ノノハラ レイ
「いくら希望ヶ峰学園とはいえ、綾小路財閥のご令嬢ともあろうお方を無理矢理拉致監禁するなんて無理がある。
 でも、その無理が可能になったってことは、どういうことだと思うね?」


アヤノコウジ サクヤ
「知らない!私はなにも知らない!」


ノノハラ レイ
「もし仮にキミが黒幕とは無関係だとしたら、キミの父親はよっぽど冷たい人なんだねぇ。
娘が誘拐されたっていうのに、総力を挙げて探さないんだもの。あ、ひょっとしてネグレ――」




アヤノコウジ サクヤ
「いい加減にして!!」





アヤノコウジ サクヤ
「そんなに私を犯人扱いしたいわけ?!」


ノノハラ レイ
「別にそう言うのじゃないんだけどなぁ」


アヤノコウジ サクヤ
「――いいわ。そんなに殺してほしいなら、私が殺す!覚悟しなさい!」


ノノハラ レイ
「……楽しみに待ってるよ。キミにそれが出来るのならの話だけどね?」


アヤノコウジ サクヤ
「ふん!」



 咲夜はエレベーターホールまで立ち去っていく。
 咲夜を乗せたエレベーターは上の階へ……、自分の部屋へ戻ったのだろう。





オモヒト コウ
「――何であそこまで追い込む必要があった?」


ノノハラ レイ
「いずれ誰かが言うであろう不満を、ボクが言っただけだっていうのに。随分な言いようだね?
 遅かれ早かれの違いしかないよ。彼女は元からああなる運命だったんだ」


オモヒト コウ
「だからってあんなやり方は!」


ノノハラ レイ
「正直な話ね、ボクは彼女が最初に動くと思ってるから。釘を刺しておこうと思って。
 狼の皮をかぶった羊は、いずれ羊の皮をかぶった狼に食い殺されるってね」


オモヒト コウ
「お前なぁ!」


ノノハラ レイ
「ふぁ~ぁ、ご飯食べ終わったら眠くなっちゃった。じゃ、お昼まで二度寝てるから」


オモヒト コウ
「ちょっと待てよ!」


ノノハラ レイ
「ボクなんかに構ってないでさ、慰めに行ってあげなよ。面識があるのは君くらいなんだから。
 追い打ちをしてほしいっていうならボクのほうが適任かもしれないけど」


オモヒト コウ
「……っち、わかった。俺は咲夜の所に行ってくるから、昼まで大人しく眠ってろ、いいな?」


ノノハラ レイ
「初めからそのつもりだよ」



 その後は空気が最悪のまま、解散になった。





 今、俺は咲夜の部屋の前にいる。
 そのドアの前で、咲夜に何を言えばいいのか考えあぐねていた。



オモヒト コウ
「……このまま悩んでたって、埒が明かないよな」



 そうだ。ここで俺が悩んでたって問題が解決するわけじゃない。
 とにかく今は咲夜と話をすることが重要なんだ!





オモヒト コウ
「よし、いく――のわぁっ!?」


アヤノコウジ サクヤ
「きゃっ!」



――ドシン!



オモヒト コウ
「いてて……」


アヤノコウジ サクヤ
「うぅ……」



 どうやら、俺がドアをノックするタイミングと咲夜がドアを開けるタイミングが奇跡的に一致してしまったみたいだな。
 ってこれはまずいんじゃないか?!絵面的には俺が咲夜を押し倒したってことに――!





アヤノコウジ サクヤ
「あ、あああ、あああ、あなた、貴方ね、い、いきなり、な、なな、なに、なにして……っ!」


オモヒト コウ
「違うんだ咲夜、これは事故なんだ」


アヤノコウジ サクヤ
「事故って何よ!だ、だだ、ダメよこんな、ま、まずは、手をつなぎ合うところから始めるべきであって、いきなりこんな、段階を一気に飛ばすなんて……!」


オモヒト コウ
「わかった、わかった、一旦どくから咲夜も落ち着いてくれ、いいか?」


アヤノコウジ サクヤ
「お、おお、落ち着かせてからどうするつもり?いっ、言っておくけどね!こっ、婚前交渉なんて絶対にしないんだから!」



 ……結局誤解を解くのに二十分ほどかかった。





アヤノコウジ サクヤ
「そう言うことならもっと早くに言いなさいよ!」


オモヒト コウ
「お前が聞いてくれなかったからだろ……」


アヤノコウジ サクヤ
「事故じゃなかったらよかったのに……」ボソッ


オモヒト コウ
「え、何か言ったか?」


アヤノコウジ サクヤ
「何も言ってないわよ!」


オモヒト コウ
「いや確かに事故がどうとか――」


アヤノコウジ サクヤ
「もう!言ってないったら言ってないんだってばぁ!」


オモヒト コウ
「あ、はい」





アヤノコウジ サクヤ
「……それで?私を、お、押し倒しに来たんじゃないなら、貴方は何しに来たのかしら?
 黒幕の証拠を掴みに来た?それとも殺しに来たの?」


オモヒト コウ
「そんなんじゃない。お前が心配だったんだよ」


アヤノコウジ サクヤ
「私を心配して……?そっ、それは、私のことが、す、す、す……」


オモヒト コウ
「す?……あぁ、俺は好きだぞ、咲夜の事」



 自己中な性格は理解できないがそれ以上に、いつもそばにいる咲夜のことが気になっているんだ。
 だから、咲夜には死んでほしくない。生き残って、また一緒に通学したいんだ。





アヤノコウジ サクヤ
「す、す、好きって……、わ、わた、私の事、す、好きってぇ……!」


オモヒト コウ
「か、過呼吸起こしてないか?!大丈夫か?!」



 俺は咲夜に手を差し伸べる。




 ――が、その手は払いのけられた。






アヤノコウジ サクヤ
「だ、大丈夫……、な、わけ、ない、でしょ……!」



 咲夜の声は震えていた。自らの頭を抱えている両腕も、膝を折りうずくまる体も。



アヤノコウジ サクヤ
「いきなりこんな所に連れ去られて!殺し合えだなんて言われて!変な映像を見せられた挙句こんなくだらない計画の首謀者扱いまでされて!
 あなたの気持ちは嬉しいけど!こんな状況じゃこれっぽっちも嬉しくない!」


オモヒト コウ
「咲夜……」


アヤノコウジ サクヤ
「私が何をしたって言うのよ!何でこの私が、この綾小路咲夜がこんな目に遭わなきゃならないのよ!
 出してっ!早く私をここから出して!出しなさいよっ!」


オモヒト コウ
「落ち着けって!」



 俺は、暴れる咲夜の両肩を掴んで押さえつける。
 ちょっとでも力を加えればポッキリと折れてしまいそうな、小さく、儚い体。





オモヒト コウ
「確かに気持ちは分かる。俺だって家族に何かあったらって思うと気が気じゃない。
 でも、だからこそ冷静になるべきだ、そうだろ?ここで冷静さを失えば、モノクマの思うツボだ」


 そうだ。俺たちから冷静な判断を奪って、殺し合いを起こしやすくすることがモノクマの狙い。


オモヒト コウ
「現に澪だって、冷静さを欠いているから、大した証拠も無いくせにお前を黒幕扱いしたんだよ」


 きっとあいつは内心殺されることを恐れているんだ。だから周囲に攻撃的になっている。


オモヒト コウ
「だから、冷静になるんだ。
 冷静にならなきゃ、駄目なんだ……」


 俺は何度も咲夜に言い聞かせる。
 同時に、頭の中で、俺自身にも。
 目に焼き付いて離れないあのフラッシュバックを振り払うように、何度も何度も。

 頭を冷やしてよく考えろ、と。





オモヒト コウ
「きっとみんなで協力すればなんとかなるさ!
 それに、もしかしたらその間に助けが来るかもしれない」


アヤノコウジ サクヤ
「……もし、逃げ道も助けもなかったら?」


オモヒト コウ
「その時は……」


アヤノコウジ サクヤ
「協力なんて出来ない……。私は、誰も信用できないもの……」



――ドン



 一瞬、何が起きたのか解らなかった。
 尻もちをついて、咲夜のつきだした両手を見てから、突き飛ばされたということを理解した。




アヤノコウジ サクヤ
「貴方も!本当に私のことが好きなら、私だけを見てよ!他の女やあの男なんかよりも!私を!」


 今度は、俺が咲夜に肩を掴まれる番だった。
 俺の胸に顔を埋め、泣きじゃくっている。





アヤノコウジ サクヤ
「お父様もお爺様も私を見捨てたというの……?私、これから何を信じればいいの……?
 もう嫌……、耐えられない。これ以上はもう……」



 ここに居るのは、綾小路家の令嬢としての綾小路咲夜じゃない。
 地位も名誉も関係無い、等身大の女の子。綾小路咲夜という、たった一人の少女だ。
 だからこそ、いつもの強気で傍若無人な態度は鳴りを潜め、ありのままの感情を俺にぶつけざるを得ないんだろう。



 なら、俺が咲夜に言うべきセリフは決まっている。





オモヒト コウ
「俺は何があってもお前の味方だ!俺はお前を裏切ったりなんかしない!何があっても、絶対にだ!」


アヤノコウジ サクヤ
「貴方は……、私を守ってくれるの?」


オモヒト コウ
「あぁ!約束する!」


アヤノコウジ サクヤ
「信じて……、いいの?」


オモヒト コウ
「任せろ!」



 咲夜は俺の胸から顔をあげ、濡れた瞳で俺の目を見つめていた。
 だから、俺もまっすぐに見つめ返す。この言葉に、この思いに偽りはないのだから。





アヤノコウジ サクヤ
「……そうね。貴方がそこまで言うんなら、頑張ってやらないことも無いわ」


 その顔は、いつもの咲夜の表情――傲岸不遜という言葉がぴったりの、自信に満ち溢れている表情だった。
 少しばかりぎこちなくはあったが、それでもさっきまでよりかは大分マシだ。




モノクマ
「タってますね!」





オモヒト コウ
「のわぁ?!」


アヤノコウジ サクヤ
「きゃぁ?!」



 モノクマはいつの間にか俺たちの真横に立っていた。
 本当に神出鬼没だなこのヌイグルミもどきは!






モノクマ
「もう、ビンビンにタってるじゃないっすか!」ハァハァ


オモヒト コウ
「何がだよ!さっさと失せろうっとおしいな!」



 心なしかちょっと息が荒いし、気持ち悪いことこの上ない!



モノクマ
「またまたぁ、言わずと知れた……、フラグですよフラグ!ナニいやらしい事妄想してるんですか!」


オモヒト コウ
「頼むからとっとと出てけよ」


アヤノコウジ サクヤ
「学園長だか何だか知らないけど、私の部屋で寛がないでくれない?」


モノクマ
「おぉう……。最近の生徒は教師に対する風当たりが厳しい……。
 昔は生徒は教師を尊敬していたものだというのに……。嘆かわしや……」



 それはお前が尊敬されるようなことを一切してないからじゃないかな。





モノクマ
「そうそうお二人さん。ここだけの話なんだけどね……?」


オモヒト コウ
「何だよそんなもったいぶって」


モノクマ
「このホテルは全室完全防音だから、理性を解き放ってもいいんだぜ……?」


オモヒト コウ
「 出 て け ! 」


モノクマ
「いや~んこわ~い!こんな所に居られるか!スタコラサッサだぜ~!」



 ……帰るときはドアからなんだな。



アヤノコウジ サクヤ
「何なのよもう……」





オモヒト コウ
「ただの嫌がらせにしちゃたちが悪すぎるだろ、全く」


アヤノコウジ サクヤ
「――とりあえず、心配かけたわね。私はもういいから、部屋に戻ってもいいのよ?」


オモヒト コウ
「大丈夫なのか?」


アヤノコウジ サクヤ
「もう平気よ。こんなところで躓いてるようじゃ、綾小路の名が泣くわ」


オモヒト コウ
「そうか……。何か困ったことがあったらいつでも相談に乗るからな」



 何となくいい雰囲気をモノクマの横入りによって台無しにされた俺は、咲夜の部屋を後にした。





――というところで今回はここまで。

――事件発生までもう少しばかりお待ちください。

――次回は可及的速やかに……。お休みなさいませ。



――そうそう、どうでもいいことですが、このスレが一周年を迎えておりました。

――特にこれと言って何かやるわけではございませんが。遅々と進まない間に新作の制作が発表される始末です。



――このスレはダンガンロンパプロジェクトを影ながら応援しております。



 自室に戻った俺はベッドに寝転がった。
 未だ見慣れない天井を目にしながら、これからのことを考える。


 コロシアイが起きないようにするために、俺は何が出来るのだろう?
 そもそも何故澪は咲夜を吊し上げるような真似をしたのだろうか?


 あいつはコロシアイに反対の立場だった筈だ。
 皆の不審を煽るような真似をすればかえってコロシアイが起きやすくなるってことぐらい、
 あいつだって解っているだろうに。


 やっぱりあいつは、口では殺し合いに反対と言っておきながら誰かを殺す算段を……?






 ――いや、違う。それなら自分が疑われるような素振りはしないだろう。

 あいつ程頭が切れる男なら、そんなリスクは犯さない。
 だとすれば、あいつの狙いは一体……。




 ……、駄目だ、さっぱりわからない。


 あいつの真意はひとまず置いておくとして、これから俺が何をするべきか、だな。





 まだこのホテル全体をくまなく捜索したわけじゃないから、探せば手掛かりが見つかるかもしれない。

 だが、落ち着いたとはいえ咲夜をこのまま放っておくのは危ない気がする。

 あるいは、これからの事を誰かと話し合った方がいいのか?




 |>咲夜とすごす

 伊織とすごす

 ナナとノノとすごす

 夢見とすごす

 ホテルを探索する

 このまま部屋にこもる



 
 やっぱり咲夜の様子が気になるな。少し話をしておこう。




 再び咲夜の部屋の前に来た。



 今度はちゃんとノックをして返事を待ってから入ることにしよう。


オモヒト コウ
「咲夜、ちょっといいか?」


 ――返事は無し、か。……やっぱりやめておくべきだったか?

 さっき別れたばかりでまた仕切り直して会うっていうのもな。




オモヒト コウ
「おーい、咲夜ー?」


 返事がないな。


 ……あぁ、そうか。完全防音なんだっけか。

 ノックの音は聞こえても俺の声は聞こえないんだな。





 ――ガチャ

 ドアが開いた。




アヤノコウジ サクヤ
「な、何か用かしら?」


オモヒト コウ
「いや、特に用ってわけじゃないんだが……、ちょっと咲夜と話がしたくてな。……ダメだったか?」


アヤノコウジ サクヤ
「そっ、そう。この私と話がしたいの。
 庶民のくせに分をわきまえなさい……、と言いたいところだけど、今は機嫌がいいから相手になってあげるわ。
 この綾小路咲夜の退屈をしのげる名誉を得られることに感謝しなさい」


オモヒト コウ
「なんでそんな上から目線なんだよ……」


 いや、その方が咲夜らしいけどさ。





 お茶を飲みつつ、咲夜と話して過ごした。




アヤノコウジ サクヤ
「庶民のくせにこの私を満足させる紅茶を淹れることが出来るなんて、意外ね」


オモヒト コウ
「悪いかよ……。一時期ちょっとはまってたんだ」


 何ではまってたのかは……、まぁ『中学二年生』にありがちな『若気の至り』とだけ……。





アヤノコウジ サクヤ
「ふぅん?まぁいいわ。……それにしても、本当に窮屈ね」


オモヒト コウ
「軟禁されてるみたいなものだからな、実際。
 これが本当に修学旅行とかなら開放感あるんだろうけど」


アヤノコウジ サクヤ
「そうじゃなくて、この部屋よ。
 他の庶民と同じほんの十二畳ぐらいしかない部屋なんて、この私を誰だと思っているのかしら」


オモヒト コウ
「……咲夜、ホテルの個室としてはな?十二畳はむしろ広すぎるぐらいなんだぞ?」


アヤノコウジ サクヤ
「庶民にはそれで十分かもしれないけど、私にとっては狭すぎるわね、全くもう」





オモヒト コウ
「一応聞いていいか?それじゃあ、修学旅行とかはどうしてたんだ?」


アヤノコウジ サクヤ
「ホテルを買収して貸し切りにしたの。もちろんそのホテルで寝泊まりしたのは私だけよ?」


オモヒト コウ
「いやいやいやいやいや……」


 ……そこまでやるかよ普通。





アヤノコウジ サクヤ
「ベッドも枕も硬くて寝心地悪いし、バスルームだって狭苦しいのよ?信じられないわ。
 無事に帰ったらこんなホテル、希望ヶ峰学園ごと取り潰してやるんだから!」


オモヒト コウ
「そ、そこまでするか?っていうか、出来るのか?」


アヤノコウジ サクヤ
「当然よ。お金さえ積めばどうにでもできるわ。
 ――何せ、何の才能も無い庶民から金を巻き上げて研究費を集めているような貧乏学園だもの」





オモヒト コウ
「え、何だよそれ。初耳だぞ。そもそも学費は無料じゃないのか?」


アヤノコウジ サクヤ
「いくら『希望の学園』ともてはやされても所詮は学校法人じゃない。運営するために学費を集めるのは当然でしょ?
 学費が免除されるのは才能を持つ『本科生』だけよ。『予備学科生』は学費を払わないといけないの」


オモヒト コウ
「……ちょっと待ってくれ。才能を持っていないなら希望ヶ峰学園には入学できないんじゃないのか?」


アヤノコウジ サクヤ
「ちょっとした入学金を払えば『予備学科生』として希望ヶ峰学園に入学できるの。
 まぁ、堂々とした裏口入学ってところかしらね?学歴だってお金で買えるのよ?」





アヤノコウジ サクヤ
「そう、お金で買えないものなんてないの。お金で人生だって買えるのよ?例えば貴方の、ね」


オモヒト コウ
「何でそこで俺の人生が出てくるんだよ?!」


アヤノコウジ サクヤ
「そうね……、貴方の両親を買収して、貴方を私の屋敷の一室に閉じこめてしまう、とかどうかしら?」


オモヒト コウ
「『どうかしら?』じゃないだろ!具体例を挙げるな!
 実行したら人はそれを監禁と呼ぶんだよ!立派な犯罪だ!犯罪!」


アヤノコウジ サクヤ
「警察だってお金を握らせておけば簡単に黙るわ。
 そうでなくても、権力の犬に与えるエサなんていくらでもあるし、ね?」


オモヒト コウ
「同意を求めないでくれ!色々想像できてしまったじゃないか!」





 やっぱり俺は、咲夜のこういうところが苦手なんだな。
 徹底した拝金主義と言うか、自己中心的な考えと言うか……。


オモヒト コウ
「あー、そうだ!そろそろ昼飯の時間だな!一緒に行こうぜ?!な?!」


アヤノコウジ サクヤ
「え?!……えぇ、そうね。……ちゃんとエスコートしなさいよ?」


 俺にそんな紳士的な対応を求めるなよ……。





――主人公と綾小路咲夜との親密度が少し上がりました。



――……というところで本日はここまで。事件は……もう少しお待ちください。

――次回は可及的速やかに……と言っておきながら一か月たってしまったのが先月なんですね。……頑張ります。





 咲夜と一緒に食堂へ向かった。



 食堂には俺と咲夜以外の全員がすでに揃っていた。
 テーブルにはいつもの通り料理が並んでいる。



タカナシ ユメミ
「むぅー……」


 えらく不機嫌だな夢見の奴……。
 こっちを睨み付けて……、一体どうしたっていうんだ?





ノノハラ レイ
「キミらいつの間に仲良くなったのさ、手まで繋いじゃって」


オモヒト コウ
「えっ……、あー、いや、これは、だな」


ノノハラ レイ
「まぁキミらがどう睦みあおうがボクの知ったことじゃないんだけど」


ウメゾノ ミノル
「隅に置けませんなぁ」ヒューヒュー


オモヒト コウ
「そんなんじゃないって!」


アヤノコウジ サクヤ
「そっ、そうよ!そういうのはもっと段階を踏んで……!」



 咲夜ー!それ逆効果!火に油どころかガソリン注いでるー!





ノノハラ レイ
「あっこれガチのヤツだ」


ウメゾノ ミノル
「オメデタかな?」ウッヒョー!


マスタ イサム
「茶化すなよお前ら……。まぁ、その、なんだ。俺は応援するぞ?」


オモヒト コウ
「勘違いだからな?!お前たちが想像してるようなやましいことなんてしてないからな?!」





ナナ
「お兄ちゃんとお姉ちゃん、さっきまで何してたのかしら?」


ノノ
「ノノ知ってるよ。デートっていう遊びだよきっと」


ナナ
「そうね、きっと二人で一緒のベッドに寝ていたのよ。
 男の子と女の子が出かけて最後にすることはそういう事だって、パパやママたちが言っていたもの」


ナナミヤ イオリ
「“そういう事”だなんて――!不埒です!不潔ですっ!!」


タカナシ ユメミ
「そこから離れなさいよ!お兄ちゃんはあたしのモノなの!」


アヤノコウジ サクヤ
「ふ、ふん!嫉妬は見苦しいわよ?庶民のくせに」


タカナシ ユメミ
「むっきぃぃぃぃいぃぃぃいいぃいぃいい!!」


オモヒト コウ
「あー……、俺は誰の物でもないぞー……」



 ……結局誤解を解くのに少し時間がかかってしまった。前にもこんなことあった気がするぞ……。






オモヒト コウ
「全く、なんで昼飯食うのにこんな疲れなきゃならないんだ……」


ノノハラ レイ
「紛らわしいことするからだと思うな」


オモヒト コウ
「食っちゃ寝しかしてないお前には言われたくない」


ノノハラ レイ
「キミも随分と言うようになったねぇ。せっかく人が労働の機会を恵んでやろうって思ってるのに」


オモヒト コウ
「何でそんな上から目線なんだよ……。で?今度は何企んでるんだ?」



 こいつの提案にはロクなものがない。これは前例でハッキリわかった。





ノノハラ レイ
「企むとは失敬な。お昼食べ終わったら皆で雪かきしようと思って。どう?」


 ……こいつのことだからまた何か思惑があるんじゃないか?


ノノハラ レイ
「ただ単に最近全然運動できてなくて体が鈍ってるから、体を動かしたいだけなんだけど。
 どうしてそう勘ぐられるのかな?」


オモヒト コウ
「お前は一度自分の胸に手を当てて今までしでかしたことを思い出せ」



 ついでに、何俺の心の声と会話成立させてるんだ。





ノノハラ レイ
「ふむ……、これっぽっちも心当たりがないね」


オモヒト コウ
「この野郎」





ノノハラ レイ
「綾瀬はどう思う?」


コウモト アヤセ
「澪はちょっとお口チャックしててちょうだい。
 あのね、いざ外に出ようと思っても雪が積もってたら身動き取れなくっちゃうでしょ?
 今も雪は降ってるけど、あまり吹雪いてないみたいだし。丁度いいかなって」


オモヒト コウ
「成程な。このホテルに籠りきりっていうのも流石にまずいか」




サクラノミヤ アリス
「“皆で”ってことは、あたしもやらなきゃいけないわけ?
 イヤよそんなめんどくさいこと」


サクラノミヤ エリス
「お姉さまったら、そんなこと言って……」


ウメゾノ ミノル
「そう言わないでさ、ほら、人数が多い方が早く終わるって」


サクラノミヤ アリス
「ふん」




マスタ イサム
「問題はどのぐらいの範囲をやるか、だな」


ユーミア
「というより、どれだけの効果があるか、ということでしょうか?」


アサクラ トモエ
「うーん……、正直意味が無い気がするんだけど……」






ナナ
「どうせ外に出るなら雪合戦がしたいわ」


ノノ
「それ、面白いかも!あんなにいっぱいあるなら、一日中どころか一週間は遊べるね!」




アヤノコウジ サクヤ
「雪かきなんていかにも庶民の発想ね。参加してやる価値もないわ」


カシワギ ソノコ
「あの……、そもそも外を見る限り雪かきが必要なほど積もっているようには見えませんよ……?」




 これは提案が否決される雰囲気、か?


ノノハラ レイ
「ふえぇん渚ぁー、みんながいじめるよー、おーいおいおいおい」


ノノハラ ナギサ
「よしよしお兄ちゃんは強い子だから泣かない泣かない」



 ……、何だこの茶番。あんなバレバレなウソ泣きに誰が引っ掛かるんだ?
 案の定口も目も笑ってるじゃないか。ウソ泣きで本当に涙流す奴なんて初めて見た。





ノノハラ レイ
「いいよじゃぁボクだけでやるから。
 キミらは部屋でゴロゴロし続けてブクブク肥えてしまえばいい」


オモヒト コウ
「やらないとは言ってないだろ?で、道具は全員分あるのか?」


ノノハラ レイ
「どうだろうね?ボクが知る限りでは焼却炉近くにシャベルが五本立てかけてあったぐらいかな?」


オモヒト コウ
「そのくらいあれば充分じゃないか?問題は防寒具だな。増田、以前外に出た時に着てた防寒具ってどこにあるんだ?」


マスタ イサム
「自室のクローゼットの中だ。何が入ってるかは人によってそれぞれ違うらしいがな」


ユーミア
「ちなみにあの時、食料やロープはロビーにあった物を使用いたしました」




ノノハラ レイ
「……あぁ、そう言えばキミは結局外には出なかったんだっけ?ずっとホテルに引き籠ってたんだね」


オモヒト コウ
「やめろ、そんな人を憐れむような眼で見るな。
 社会不適合者を目の当たりにしたような顔をするんじゃない」


 別に出不精ってわけでも運動音痴ってわけでもないんだぞ?体育の成績だって4だし……。
 ただちょっと雪が降ってると外に出るのが億劫になるだけで。
 クローゼットも不用意に開ける気がしなかっただけだ。決して存在に気が付かなかったわけじゃない。


 ……断じて違うからな!?





オモヒト コウ
「とにかく、だ。全員で行動すること自体は俺も賛成なんだよ。
 どっかの誰かさんみたいに勝手な真似する奴を見張ることが出来るからな」


ノノハラ レイ
「どっかの誰かさんって誰なんだろうね?」


コウモト アヤセ
「澪、お口チャック」


ノノハラ レイ
「……」


 やっぱりこいつ二、三回くらいぶん殴ってもいい気がしてきたぞ……?




サクラノミヤ アリス
「あっそ。じゃぁ勝手にすれば?道具が足りないならあたしは見てるだけだから」


モノクマ
「くぉら、オマエラ!雪かきくらいしろぉ!」


 また現れたよ。どこからでもわいてくるな本当に。




モノクマ
「さっきから黙って聞いてりゃ文句ばっかり!
 この施設を快適に使えるのは誰が苦労してるおかげだと思ってるんだ!」


ノノハラ レイ
「やだこのクマやけに恩着せがましい」


オモヒト コウ
「お前が言えるセリフじゃないけどな。
 で、人を勝手に連れ出した挙句監禁してるのにその言いぐさはどうなんだよモノクマ」



 文句を言われる原因を作っている本人にそんなこと言われてもなぁ。





モノクマ
「このホテル周りの雪かきだってなぁ!ボクが毎朝毎朝一匹でせっせとやってるんだぞぉ!オマエラが外に出るとき困らないようにってなぁ!
 毎日の食事だってボクが用意してるしで休憩なんか殆どとれないんだぞ!
 ボクがこんなに大変な思いをしてるのにオマエラはちっともコロシアイしないしで、気が滅入りそうだよ!」



 おう滅入ってしまえそんな不穏当な気。
 後、そんなに愚痴るほど大変なら監禁そのものをやめてさっさと俺たちを外に出せばいいんじゃないかな。




モノクマ
「道具が足りないなら支給してやるから、さっさと雪かきに行ってきなさい!」


 ……俺達は渋々、防寒着を取りに行くために自室へ戻った。




――今日はここまでとなります。結局一か月経ってしまいましたね……。


――次回は来週辺りに更新できそうです。これを機に週一で更新……、できたらいいな……。


――それでは、おやすみなさいませ。




 自室のクローゼットを開けた。
 その中にあったのは……、黒のロングコートと黒革の手袋か。
 使い込まれた感じからして新品じゃないな。クリーニングのタグもついてるし。




 って、これ俺のじゃん!なんで普通に入ってるんだ?!
 ……、考えても仕方ないな。とりあえずこれを着て外に出るか。




 外に出た。
 俺より早くついていたのは増田とナナとノノだけか。


マスタ イサム
「このっ、やったな!」


ナナ
「そぉれ!」


ノノ
「えーい!」



 雪合戦を楽しんでるのを見ると、監禁されているという現実が嘘みたいだ。
 あの憎たらしいヌイグルミもどきが視界に入らなければ心の底からそう思える。
 ……っていうかあの姉妹はなんであの服であんな動き回れるんだ?




ユーミア
「遅れて申し訳ありませんマスター」


アサクラ トモエ
「せんぱーい!待ったー?!」



 少し遅れて朝倉とユーミアがやってきた。
 すると、あの双子は持っていた雪玉を二人に投げつけた。





ウメゾノ ミノル
「僕はこう言ったんだよ。『貴方どうしてそんな赤い洗面器なんか頭にのせて歩いているんですか?』ってね。すると男は――」


サクラノミヤ エリス
「お兄さまっ、前――!」


ウメゾノ ミノル
「――『それは君のおぼふ!」




 ……朝倉とユーミアは悠々と避け、流れ弾は両方とも梅園の顔にクリーンヒットした。
 梅園は顔にかかった雪を払おうともせずに、ただ呆然と立ち尽くしていた。
 いや、訂正する。ちょっと震えてるな。




ウメゾノ ミノル
「ふ、ふふふ……。僕にはこの世にどうしても我慢できないものが二つある。
 一つは冷えたローストチキン、もう一つはジョークを遮られること……。
 わかってるさ、子供のやることだもの。こんなので怒ったりしたら大人げない、大人げない、が……おどれぇ!」


ナナ
「きゃー♪雪合戦から鬼ごっこよ!」


ノノ
「逃げろ逃げろー!」


ウメゾノ ミノル
「むぁてやくぉんのクソガキゃぁ!」



 大人げなくキレちゃってまぁ……。逃げながら雪玉投げて当てられるあの双子は一体どんなコントロールしてるんだか。
 で、さりげなく増田も朝倉もユーミアも梅園を的にしてるし。

 だからさ、なんで動きにくそうな服着てる女子はあんな俊敏に動けるんだ?
 ひょっとして俺が時代に取り残されてるだけか?今どきの女の子はどんな服装でも素早く動けるのが普通なのか?





ノノハラ レイ
「雪かきの前に雪合戦とは大層元気なことで……。若いっていいねぇ」


コウモト アヤセ
「みんなあなたと同世代でしょ。ジジ臭いこと言わないの」


ノノハラ ナギサ
「そんなこと言って理由をつけてサボる、なんてことしないよね?提案者のお兄ちゃん?」


ノノハラ レイ
「ソソソソンナコトナイヨ-、っていうか、提案したのは僕だけど、強制したのはモノクマじゃない」


カシワギ ソノコ
「サボる気満々だったんですね……」



 しばらくして澪たちがやってきた。後で澪はシめる。





タカナシ ユメミ
「お待たせーお兄ちゃん!ちょっと時間かかっちゃった!」


オモヒト コウ
「だから、抱き着くなって夢見。人前なんだぞ?」


タカナシ ユメミ
「じゃぁ二人っきりならいくらでもいいよね?!」


オモヒト コウ
「わかった、わかったからそんな必死になるなって。そんなに掴まれると痛いから」


 ちょっと気を抜くといつもこれだからな夢見は。甘えたい盛りなのか?





ナナミヤ イオリ
「すみません、遅れてしまいました」


オモヒト コウ
「いや、集合時間も設定されてないみたいだし、大丈夫だと思うぞ。
 ……それより、寒くないのか?」



 少し遅れて到着してきた伊織はいつも通りの巫女服、その上には何も羽織っていない。



ナナミヤ イオリ
「いえ、神社ではいつもこの格好なので……。寒いのは慣れていますから」


オモヒト コウ
「そう……、か?」



 嘘だ。
 震えてるじゃないか。寒さを我慢しているのが見え見えだ。
 ……しょうがないな。






オモヒト コウ
「このコート、雪かきの途中で邪魔になるから預かっててくれないか?」


ナナミヤ イオリ
「えっ?!は、はい……」



 強引にコートを伊織に手渡した。
 ……寒いな。まぁ、雪かきしてれば温まってくるだろ。



タカナシ ユメミ
「むぅー……。あ!じゃぁあたしがお兄ちゃんを温めてあげる!」


オモヒト コウ
「……だから、抱き着くなって」






アヤノコウジ サクヤ
「全く……、なんでこの私が……」


サクラノミヤ アリス
「あ、ちょっとアンタ。あたしと慧梨主の分もやっていてくれる?」


ウメゾノ ミノル
「赤いツノを持っていない僕に三倍働けと?!」



 伊織がついて大分経った後、咲夜たちが来た。
 文句を言いながらもちゃんと来るんだな咲夜は。で、澪と似たようなのがもう一人いたのか……。

 これで全員が集まったわけだな。




モノクマ
「オマエラ!集合が遅い!招集から三十分以上もかかるとか何考えてるの?!」


オモヒト コウ
「ちゃんと集合時刻を設定しなかったお前が悪いな」


ノノハラ レイ
「説教はいいからさっさと道具ちょうだいよ。支給するんでしょ?ほらさっさと」


モノクマ
「……先生ショックです。オマエラがそんなにスれてるなんて」


 俺たちがスれてるんじゃなくて、お前が滅茶苦茶なだけなんだよ。
 経験上、自分のことを『先生』というやつにまともなのがいなかったからな。俺の学校じゃ特に。





モノクマ
「これが道具なんで、さっさと雪かきしやがればいいんじゃないでしょうかね……」



 露骨にテンションが下がってやんの。ざまぁみろとしかかける言葉がないな。
 で、コイツの短い手で持ってるのは、プラスチック製のブルドーザーのブレードに柄がついたような、雪かきでよく見る道具。
 名前なんて言うんだったかな……?



ノノハラ レイ
「スノープレッシャー、が一番メジャーな呼び方かな?」


オモヒト コウ
「だからさ、何しれっと俺の心の声と会話してるんだ?」





ノノハラ レイ
「じゃボクはこれみんなに配るから、シャベル持ってきてくれない?」


オモヒト コウ
「あ、おい!」



 あの野郎さりげなく大変な仕事押しつけやがった!五本のシャベル一人で運べってのか?!
 ついでにシャベル使わない気だあの野郎。金属製よりプラスチック製の方が軽いもんな畜生。





マスタ イサム
「俺も手伝うぞ?」


オモヒト コウ
「じゃぁ、三本頼めるか?」


マスタ イサム
「任せておけ」



 こういうときに頼りになるな増田は。どっかの誰かさんとは大違いだ。見習ってほしいね。

 ホテルを出て右手側を歩いていくと、少し離れたところに焼却炉があった。
 野ざらしだけど大丈夫なのかこれ。






 焼却炉のそばに看板があった。



『焼却炉の使い方

 1.ハッチを開け、ゴミを中に入れる。

 2.ハッチを閉め、スイッチを入れる。稼働中はランプが緑に点灯する。

 3.中のゴミが完全燃焼するとランプが赤に点灯する。これを確認しスイッチを消す。
  ランプが赤になるまでスイッチは消さないこと。

 4.内部が十分に冷却されるとランプが消灯する。ハッチを開け、内部を確認する。

 注意:消灯時間中は電力が供給されないため使用できない』



オモヒト コウ
「電気炉なのか。結構大きいんだな」


マスタ イサム
「そのようだな。で、スイッチはこれか」


オモヒト コウ
「随分と押しやすそうな位置に……。これじゃ誤って押す奴が出るんじゃないか?」


マスタ イサム
「後でみんなに注意するよう言っておくか」





オモヒト コウ
「……にしても、ここは一体何なんだろうな?」


マスタ イサム
「見たところ、スキーリゾートのようだがな。ホテルの入り口正面はゲレンデみたいな斜面が広がってる。
 それに、よく見ればゴンドラリフトの支柱みたいなのも何本か見えるしな」


オモヒト コウ
「……どこだ?」


マスタ イサム
「ほれ、あそこだ。木に紛れて見えにくいだろうが」


オモヒト コウ
「あ、あれか!」



 あんな遠くにあるなんて気づくわけないだろ……。
 しかもあれに乗ったとしても山を登るだけだな。やっぱりスキーをするため、なのか?





オモヒト コウ
「視力良いんだな」


マスタ イサム
「これでも両目ともに2.5だ」



 裸眼でか。流石は超高校級の画家候補生、ってところなのか?



マスタ イサム
「俺たちが最初にここを出たとき方向を見失ったのも、入り口から出てまっすぐ行ったら山を登る感じだったから、
 引き返そうとして方向転換したからだしな。
 あの時は視界が悪くてよくわからなかったが……、いや、これ以上は言い訳がましいな」


オモヒト コウ
「あれだけの吹雪だ、気にするなよ。
 ……となると、このホテルの裏手は下山する方向、ってことだよな?」


マスタ イサム
「そう思って昨日行ってみたんだけどな、まぁ見てもらったほうが早いか?」



 増田に誘われるままホテルの裏手に行くと、そこには壁があった。




――思った以上に進みませんでしたね。本日はここまででございます。


――次回は今週末か来週あたりになりそうですね。


――それではおやすみなさいませ。



 改めてホテルの周囲の状況を説明する。
 まず、ホテルの両側は鬱蒼とした原生林が広がっている。
 ホテルの入り口から見て正面にはゲレンデ、右手側に焼却炉。かなり離れているが、左手側にはリフト乗り場があるようだ。
 俺の部屋の窓はこのゲレンデに面している。窓から見える景色が真っ白だったのは吹雪のせいだけじゃなかったってことだな。


 そして背面、今俺たちが目の前にしているのは、壁。
 コンクリート製の高い壁で、3m以上はありそうだ。ネズミ返しの上に有刺鉄線のおまけつき。
 さらに等間隔で監視カメラにガトリングの砲身と弾帯が設置されている。


 そんな巨大な壁がまっすぐ両側の原生林まで伸び、ホテルから逃げようとする俺たちの行く手を阻んでいた。
 唯一の出入り口と思われる分厚い鉄の扉には厳重なカギがかかっているようで、びくともしない。
 その周りを縁取っているのはこれまた監視カメラとガトリングの砲身と弾帯。無理やり通ろうとする者にはこれで対処すると言わんばかりだ。




オモヒト コウ
「……まるで監獄だな。あるいはベルリンの壁か?」


マスタ イサム
「まったくもってその通りだな。
 壁は森の奥の方まで続いてるみたいだから、迂回するには森の中を深くまでつっきらなきゃならないわけだが」


オモヒト コウ
「自殺行為だな、ろくな装備もないこの状況じゃ。
 それに、多分だがこの壁はここら一帯を丸ごと囲んでるんじゃないか?」


マスタ イサム
「だろうな。俺たちを殺し合わせようってやつが壁一枚で閉じ込めておくだけとは思えない。
 俺たちは完全に監禁されてるってわけだ。残念なことにな。……だが、悪い話だけでもないぞ」





オモヒト コウ
「と言うと?」


マスタ イサム
「昨日巴の部屋から外を見てみたんだよ。麓を見れば何かわかるんじゃないかと思ってな」


オモヒト コウ
「で、どうだったんだ?」


マスタ イサム
「あの扉の先にはトンネルの入り口みたいなものがあった。たぶん、あのトンネルが外につながってるんだろう」


オモヒト コウ
「それ以外には?」


マスタ イサム
「……どうやらここは谷の内側らしい。この向こうはまた険しい山だ。
 ここから麓まではだいぶ離れてるから、少なくとも一晩は山の中で過ごす覚悟が要るな。
 ただ所々で道路は見えたから、完全に孤立してるわけじゃないみたいだぞ?」





オモヒト コウ
「……あぁ、そうか。ここに俺たちや物資を運んでくるにはどうしても車が必要になってくるもんな」


マスタ イサム
「ここで待っていればいつかこの扉が開く。物資を搬入するためにな。その時がチャンスなんじゃないか?
 これだけあからさまに武器をちらつかせてるのは、ここを突破されたらまずいってことの何よりの証拠だ」


オモヒト コウ
「そのチャンスがいつなのか、が問題だな。四六時中見張ってるわけにもいかないだろ?」


マスタ イサム
「かと言って交代制にすれば、自分だけが助かろうとする裏切者が出る可能性もある。
 おまけに向こうは俺たちを監視しているときた。隙を見て脱出っていうのは無理だろうな」


オモヒト コウ
「分かってて聞いてきたのか?」


マスタ イサム
「あぁ。だがこれは、黒幕を倒せば自力で脱出できるってことになるんじゃないか?」


オモヒト コウ
「そうだな……。その通りだ」





 ただ、そのためには黒幕をここまで引きずり出す必要がある。
 そのために、俺たちにできることは何なんだろうな……。
 黒幕がしびれを切らして直接乗り込んでくるまで殺し合いが起きないよう、ただ我慢するしかないのか……?






オモヒト コウ
「いずれにせよ、昨日の映像にあった『ある事件』が世界規模の話じゃないのは確かみたいだな。
 俺たちの知らない間に外の世界が地獄と化している、とかじゃないだけマシと思うことにするか」


マスタ イサム
「それが分かっただけまだ希望はある、か。……巌窟王にこんなセリフがある。
“――待て、しかして希望せよ。”
 どれだけ絶望したとしても、たった一つでも希望を持っていれば人は生きていけるもんだ。頑張ろうぜ?」


オモヒト コウ
「あぁ、その通りだな!」



 そうだ。どれだけモノクマが俺たちに絶望を与えてきたとしても、俺たちは決して希望を捨てたりしない!
 希望がある限り、絶望なんてしない。希望は絶望なんかに負けはしないんだ!





マスタ イサム
「……っと、こんなところで油売ってたらサボってると思われるな」


オモヒト コウ
「あぁ、さっさとシャベルもって戻るか」



 焼却炉まで戻った。
 正面以外の三方向がコンクリートブロックを積んだだけの簡易な壁で囲まれている。
 その壁にシャベルが五本立てかけてあった。





マスタ イサム
「角スコが二つに剣スコが三つか。ちょっと不安だな」


オモヒト コウ
「スコップ……じゃない、シャベルならどれも一緒じゃないか?」


マスタ イサム
「雪かきには角スコの方が向いてるんだよな。面積が広い分より多く掬えるし、崩れにくい」


オモヒト コウ
「まぁ、とりあえず全部持っていこう。……それにしてもなんでこんなところに?」


マスタ イサム
「ひょっとしてこれで雪をかき入れて冷やせっていうんじゃ……」


オモヒト コウ
「そんな乱暴な……。ススがついてるから、灰とかをかき出せってことなんじゃないか?」



 雑談をしながら、シャベルを持ってホテル前まで戻った。





ノノハラ レイ
「おっそーい」


オモヒト コウ
「しばき倒すぞ」



 十一本あったスノープレッシャーはすでに配られていて、案の定澪の手にはそのうちの一本が握られていた。



ノノハラ レイ
「最近当たりが強くなったねキミ」


オモヒト コウ
「誰のせいだ、誰の」



 このところお前に対する好感度がストップ安だよ。そろそろ底値割るんじゃないか?




オモヒト コウ
「で?だれがシャベル使うんだ?俺たち三人はシャベルを使うとして、残り二人は女子から選ばなきゃならないんだろ?」


ノノハラ レイ
「え?……あぁ、そうだね。一応僕の独断と偏見で決めておいたよ。朝倉さんと柏木さん」


オモヒト コウ
「……柏木はわかるよ。園芸部員だからな。シャベルを使うのはお手の物だろうよ。
 なんで朝倉なんだよ!あの身長でこんなでかいシャベル満足に扱えると思ってんのかお前は!」


ノノハラ レイ
「ユーミアさんと迷ったんだけどねぇ」


オモヒト コウ
「じゃぁユーミアにしておけよ!っていうかやっぱりお前がシャベル使え!」


ノノハラ レイ
「え~?だってボク超インドア派だからさぁ?そんな重たいの持てないよ~」


オモヒト コウ
「その態度本当にムカつくな!殴り飛ばされたいのか?!」


アサクラ トモエ
「ボクはシャベルでいいからケンカしないでー!」



 ……、それからは特にこれといった問題なく雪かきが始まった。
 野々原澪という人間がなんだかよく分からなくなってきたぞ……、早速不安だ。





ノノハラ レイ
「ねぇ公、気付いてる?」


オモヒト コウ
「……、何にだ?」



 正直コイツとはもう余り関わりたくないが、放っておくと何しでかすかわからないし観察や洞察においては役に立つから話だけは聞いてやろう。
 何か提案してくるようなことがあれば即却下だ。






ノノハラ レイ
「ボクのこのコート然り、服とかは支給品じゃなくて個人のなんだよね。
 クローゼットの中に予備の着替えとかもあったんだけどさ、やっぱりどれもボクのだったんだよ」


オモヒト コウ
「みたいだな、俺も大体そんな感じだったし。……どう思う?」


ノノハラ レイ
「ここには自らの意志でやってきた、そのうえで記憶を消された。
 そう考えるのが一番納得できるんじゃないかな?」



オモヒト コウ
「それは発想が飛躍しすぎてないか?」


ノノハラ レイ
「そう?人一人をホテルの個室に運び込むついでに着替えまで一緒に持っていくよりかはよっぽど現実味があると思うけど」


オモヒト コウ
「記憶を消すのも十分現実味ないからな?
 ……とはいえ、そう仮定すると辻褄が合ってくる、のか?」





 もし、俺たちが自分でこのホテルに入ってきたのだとしたら、俺のコートや手袋がクローゼットに入ってきたことにも説明がつく。
 俺がここに来たとき、俺自身が着用してここに来た。それらをクローゼットに入れた。それらの事実を忘れてしまっている。

 ……やっぱりちょっと無理がないか?
 まぁそれでも、俺たちを連れ去った奴らがご丁寧にも俺たちの所持品も一緒に持っていってクローゼットにわざわざ入れてくれたとも思えない。
 殺し合いをさせようとしている人間を気遣うような連中じゃないだろうし、物資が豊富なら服くらい一人一人に支給したほうが手っ取り早い。





オモヒト コウ
「……ダメだな。これ以上考えてもらちが明かない。ほれ、頭より体動かせ。サボリの口実にするつもりか?」


ノノハラ レイ
「ホントはダラダラしたいな~?」


オモヒト コウ
「堂々とサボリ宣言するな発案者。人をニート扱いしておいて逃げは許さん」


ノノハラ レイ
「はいはい、わかったよ。やればいいんでしょ、やれば」



 ……。
 だんだんコイツの扱い方がわかってきた……、ような気がする。





ノノハラ レイ
「あ、ねぇちょっと、あれ見て、あれ!」


オモヒト コウ
「今度はなんだよ……」



 澪が指さす先には咲夜がいた。
 スノープレッシャーを傍らに置き、ホテルの出入り口の階段に座り込んで黄昏ている。
 誰がどう見ても、サボっていた。





ノノハラ レイ
「いいのー?愛しの咲夜ちゃんがおサボリしてるよー?ここは男としてガツンとイっちゃいなよー」


オモヒト コウ
「お前さ、俺を煽って何が楽しいんだ?」


ノノハラ レイ
「あえて言うなら反応、かな?……はいはい怒らない怒らない。で、本当にいいの?
 あれさ、見るからにヤバイ感じじゃない?」


オモヒト コウ
「俺にどうしろっていうんだよ……。なんて声かければいいんだ?」


ノノハラ レイ
「そこまで考えてやれるほどボクも暇じゃないんだよねー」


オモヒト コウ
「さっきまでサボろうとしてた野郎のセリフとは思えないな」





タカナシ ユメミ
「ちょっと!なにくつろいでるの?!」


アヤノコウジ サクヤ
「少し休憩しているだけよ?何か文句でもあるの?」


タカナシ ユメミ
「始まってからずーっと座ってるのが少し?そんなわけないじゃない!」



 ……これは少しまずいか?
 早く仲裁に行かないと大変なことになりそうな気がする……!





モノクマ
「まぁまぁ、ビールでも飲んでリラックスしなよ」



 ……とんでもないのが仲裁しに行きやがった。
 っていうか火に油注ぐ気満々じゃないか!






ノノハラ レイ
「この場合火に注がれるのはアルコールかな?ビールだけに」


オモヒト コウ
「全然うまくないし、俺の心の声と会話をいい加減やめろ!
 モノクマは教育者として未成年に酒を勧めるのはダメだろ!」



 ツッコミが捌ききれないとかどういうことだよ!






モノクマ
「まぁ冗談はさておき、スポンサーのご令嬢を無下に扱うわけにはいきませんからね……はっ!
 な、なにも言ってませんよ?!そういうわけで!ばいならー!」


アヤノコウジ サクヤ
「ちょ、ちょっと……!それってどういう……?!」



 やっぱりとんでもない爆弾投下していきやがった!
 おまけにろくに説明せずに逃亡するとか、たちが悪すぎるぞ!



タカナシ ユメミ
「やっぱり黒幕の手先だったわけ?!」


アヤノコウジ サクヤ
「そんなわけないでしょ?!」



 ほら見ろ取っ組み合いになりかけてるじゃないか!とんでもないことしてくれやがってあのクソクマ!






マスタ イサム
「いい加減にしろ!」


タカナシ ユメミ
「ひっ!」


アヤノコウジ サクヤ
「なっ、何よ!貴方も私のことを疑うの?!」


マスタ イサム
「モノクマがそうやって俺たちを仲違いさせようとしてるっていうのがまだわからないのか?!
 頭を冷やせよ!俺たちがしなきゃならないのは、いがみ合うことじゃなくて、互いを信じあうことだろ?!
 ……俺たちは仲間なんだ。手を取り合おうぜ?な?」



 ……参ったな。俺の言いたいことも、俺が言うべきことも、全部言われてしまった。
 やっぱり、増田は頼りになるな。……俺ももっと頑張らないと。





 増田の剣幕に押されたのか、咲夜も夢見も、澪までも含めた全員が黙々と雪かきを再開した。





サクラノミヤ エリス
「お兄さま、あの、これ……。なんて書いてあるんですか?」



 指をさす先には、『定礎』と刻まれたプレートの上……、おそらくこのホテルの名前であろう文字が並んでいた。



      ESPOIR






ウメゾノ ミノル
「エスポワール……。フランス語で『希望』って意味だったかな?」



 『絶望』を謳うコロシアイの舞台の名前が『希望』とは皮肉なもんだ。
 その『希望』の隣に刻まれている文様は……、家紋か?



アヤノコウジ サクヤ
「う、うそ……」


オモヒト コウ
「咲夜?どうしたんだ?」



 それを見た咲夜の顔は真っ青になり、持っていたスノープレッシャーを落としたのにも気づいていないようだ。



アヤノコウジ サクヤ
「嘘よぉぉぉぉおおおおおぉぉぉぉっ!!」


オモヒト コウ
「お、おい!待てって!そっちは――!」



 静止もきかず、咲夜は原生林のほうへと走り去っていった。





――というわけで本日はここまで。いろいろ情報が詰まりすぎた印象ですね。


――次回は来週末になりそうでしょうか。


――ところで、ヤンデレCDも四作目が制作決定、ダンガンロンパプロジェクトもアニメの3のPVが公開されましたね。


――今年の夏は忙しくなりそうです。


――……、果たしてこのスレで第一章が終わるのでしょうか?キリが悪くなったらどうしましょう……。


――……お休みなさいませ。





 何の装備もなしに行くのは自殺行為だっていうのに!
 早く咲夜を追いかけないと!




オモヒト コウ
「くそっ!」


マスタ イサム
「待て!」


オモヒト コウ
「止めないでくれ!」


マスタ イサム
「持っていけ!」



 増田が投げ渡してきたのはロープだった。おそらく初日に使っていたものだろう。
 これを命綱にしろってことか。





マスタ イサム
「ここは俺が収めておく。だから気にせず行ってやれ!」


オモヒト コウ
「……あぁ!」



 足跡を目印に咲夜の後を追った。






 ほどなくして咲夜に追いついた。結構ホテルから離れてしまったが、このくらいならロープを手繰っていけばすぐに戻れる。


 雪が積もっている森の中を走るのに体力の限界が来たのか、咲夜は雪の上にうずくまり、頭を抱えて震えていた。





オモヒト コウ
「咲夜、探したぞ!」


アヤノコウジ サクヤ
「来ないで!それ以上、私に近寄らないで……!」



 午前の時よりもはっきりとした拒絶の言葉。
 せっかく持ち直したと思った矢先にこれかよ……!





オモヒト コウ
「……分かった。なら一つだけ聞かせてくれ。あの文様は一体何なんだ?」


アヤノコウジ サクヤ
「あれは……、綾小路家の家紋よ。
 綾小路家以外の者が掲げることは一切許されない、由緒正しき紋章……」


オモヒト コウ
「それは……、つまり……」


アヤノコウジ サクヤ
「ええそうよ!あの建物は紛れもなく綾小路財閥の物なの!」



 あのホテルが綾小路財閥の所有しているものなら、当然綾小路財閥はこの狂気の合宿に関与していることになる。
 それもスポンサーというかなり深い形で。


 問題はそんな合宿に、財閥の令嬢である咲夜が参加させられていること。
 それ以上に、このことを咲夜本人に一切知らされていないことだ。




 
アヤノコウジ サクヤ
「私は綾小路財閥から捨てられたの!もう放っておいて!」


オモヒト コウ
「そうとはまだ決まってないだろ?」


アヤノコウジ サクヤ
「じゃぁどうして私が今こんな目に遭っているのよ?!
 本当に私のことを大切に思っていてくれるなら、今すぐにでも私を助けてくれるはずでしょ?!」


オモヒト コウ
「落ち着けって!」


アヤノコウジ サクヤ
「お父様もお爺様も!結局は私よりもお金を選んだのよ!
 希望ヶ峰学園のスポンサーになれば財閥の宣伝にもなるし、人材を優先的に斡旋してくれる。
 財閥の利益につながるなら私の命なんて安いものだって!きっとそう思っているに違いないわ!」


オモヒト コウ
「馬鹿!子供の命よりも金を惜しむ親が何処にいるんだよ!」


アヤノコウジ サクヤ
「お父様はそういう人間だもの!お金で人の命も自由にできるって!いつも言っていたもの!」


オモヒト コウ
「いい加減にしろっ!」






オモヒト コウ
「どうして自分の親を信じないんだ!助けに来ないのは、モノクマに上手いこと騙されているだけなのかもしれないって思わないのかよ?!」


アヤノコウジ サクヤ
「なによ……!他人なんて信じられるわけないでしょ?!私がどれだけ裏切られたと思っているの?!」





アヤノコウジ サクヤ
「私にすり寄ってくるのは、いつだって私じゃなくて私の後ろのお金が目当てだった!
 結局世の中お金なのよ!この世にはお金しか信用できるものなんてないの!」


オモヒト コウ
「咲夜……!」


アヤノコウジ サクヤ
「お金を持っているものが世界を動かせるの!庶民を支配できるの!物事を思い通りにできるの!
 お金さえ出せば人の命を、それどころか存在さえ抹消できる!綾小路に都合の悪い人間が一体何人いなかったことにされたと思っているの?!」





アヤノコウジ サクヤ
「今朝だってそう!私が真っ先に疑われたのは私が一番お金持ちだから!
 お金があればこんな施設簡単に運営できるものね!現にそうだったし!」


オモヒト コウ
「俺はお前のことを疑ったりしてないだろ?!」


アヤノコウジ サクヤ
「貴方だって本当は疑ってるんでしょ?!
 守ってやるとか言っておきながら、油断させておいて私を殺す気ね?!
 そのロープで私の首でも絞めるつもり?!」


オモヒト コウ
「違う!これはお前を連れて帰るためのものだ!」


アヤノコウジ サクヤ
「そう!私を縛って晒し者にするのね?!拷問にかけたって私は何も言わないわ!だって何も知らされていないんだもの!」


オモヒト コウ
「そんなに俺が信用できないのか?!」


アヤノコウジ サクヤ
「こんな状況で一番怪しい私を追いかけた人間なんて、絶対裏があるにきまってるじゃない……!
 無条件で信じろっていうほうがおかしいわ……!」




オモヒト コウ
「……解った。じゃあ俺のことは信じなくていい」


アヤノコウジ サクヤ
「ふん!やっぱりそうなのね!貴方だけは違うと思っていたけど、やっぱり貴方もそこらの庶民と何一つ変わらないじゃない!」


オモヒト コウ
「ただ」


アヤノコウジ サクヤ
「ただ?」


オモヒト コウ
「この先、たとえどんなことがあっても。
 それこそ、咲夜が俺を裏切ったとしても、俺は咲夜の味方であり続ける。
 俺は綾小路咲夜を信じ続ける。何度でも咲夜に裏切られたって、一度たりとも咲夜のことを裏切らない」





オモヒト コウ
「たとえ咲夜が誰も信じられなくなっても、俺が咲夜を信じる限り、咲夜は独りぼっちじゃない。
 ……それだけは覚えておいてくれ」


アヤノコウジ サクヤ
「……どうして?……どうしてそんなに優しくするの?」


オモヒト コウ
「それだけ大切なんだよ、咲夜のことが。だから、咲夜のことを守らせてくれ」


アヤノコウジ サクヤ
「……ずるいわよ、そんなの……。
 そんなこと言われたら……、貴方のこと、信じないわけにはいかないじゃない……
 うっ……、うぅ……」



 ……そのまま咲夜は泣き崩れた。
 親とはぐれた幼子のように、ただひたすらに、慟哭していた。




――短いですが本日はここまで。


――次回も来週末……、もとい、今週末になるかと。


――おやすみなさいませ。




 しばらくの間泣き続けた咲夜は、糸が切れたように眠ってしまった。
 張りつめていた緊張が限界に達したのだろう。
 咲夜を背負ってホテルに帰ることにした。





ノノハラ レイ
「お帰り。さてはお楽しみだったのかな?」


オモヒト コウ
「余計な詮索はやめるんだな。このまま部屋まで送る。いいな?」


ノノハラ レイ
「ボクは別に構わないけど……」


タカナシ ユメミ
「むぅ~~」ギリィ



 ……夢見がすごく不機嫌そうに睨み付けてきているな。
 頬を膨らませているあたりはまだ可愛げがあるが、歯ぎしりをしているのは流石にまずくないか?色々と。



オモヒト コウ
「送ったらすぐ戻る。雪かきが終わったら一緒に遊んでやるから、な?」


タカナシ ユメミ
「じゃぁお夕飯まであたしの部屋で一緒に過ごそうよ!約束だからね!」



 途端に機嫌が直ったみたいだ。よかったよかった。





 咲夜の部屋の前まで来た。
 あれから結構時間が経ったとは思うが、咲夜の泣き疲れたのか未だに起きない。
 起こすのも忍びないし、このまま部屋へ……、ん?ドアノブが動かない……?



オモヒト コウ
「……しまった。オートロックなんだった」

 この扉の鍵を開けるには咲夜の電子生徒手帳が必要になってくるわけだが、肝心の咲夜が眠ったままだとその場所がわからない。
 揺すっても全然起きる気配がない、となると……。


 調べるしかない、のか?





 いや待て。落ち着け。落ち着くんだ俺。れ、れれ冷静になれ。
 電子生徒手帳の位置ぐらいちょっと考えればわかることじゃないか。

 まず今の咲夜の服装は白いワンピースにピンクのコート。
 ワンピースにポケットはないから、電子生徒手帳を入れるとしたらことのポケットしかない。
 携帯電話や鍵といったものは大抵利き手で扱うから、入っている可能性が高いのは右手で出し入れしやすい外側の右ポケットか左の内ポケットだ。
 まずはこの体勢でも取りやすい右ポケットの方から……、あったあった。


 ……残念なんて思ってないぞ。これっぽっちもな。






 さっさと起動して開けるとするか。



オモヒト コウ
「ん……?」



 どれだけ画面をタッチしても電子生徒手帳の電源が入らない……?電池切れか?
 いやいや、午前中俺がこの部屋に入ったとき、この電子生徒手帳は充電器の上に置いてあって充電中だったじゃないか。
 電池の消費がそこまで激しいとは思えないし、そもそも部屋の鍵なんて重要なものがそんな簡単に電池切れするとは考えにくい。


 じゃぁ何だ?故障か?いやいや、それこそありえないぞ。
 ……故障にしろ電池切れにしろ、このままじゃ咲夜の部屋に入れないじゃないか。


 仕方ない。寝かせるのは俺の部屋にしよう。
 全く、何が安心しろだあのヌイグルミめ。とんだ不良品掴ませやがって。





 咲夜を俺の部屋のベッドに寝かしつけた。……字面だけだととんでもないこと言ってる気がする。
 とにかく、外に戻るか。夢見を待たせちゃまずい。





タカナシ ユメミ
「お帰りお兄ちゃん!さっさとこんなの終わらせてあたしのお部屋に行こうよ!」


オモヒト コウ
「わかった、わかったから引っ張るなよ……。あと、それを振り回すのはやめような?人に当たったら危ないからな?」



 急激にテンションが上がったな……。俺と遊ぶのがそんなに嬉しいのか?……いや、うぬぼれすぎか。





ノノハラ レイ
「雪かきって結構な重労働なのね……」ゼーゼー


マスタ イサム
「意外と体力無いんだな」


ノノハラ レイ
「インドア派なんだよボクは……」


コウモト アヤセ
「昔は外でいっぱい遊んでたのにねー」


ノノハラ レイ
「小学生の時の話でしょそれは……。いいんだよボクは体力なくて。こういう肉体労働は本来しないんだし」


コウモト アヤセ
「それで引きこもりになったらわけないでしょ」


ノノハラ ナギサ
「たとえお兄ちゃんがニートになっても、あたしが養ってあげるね!」





ノノハラ レイ
「なんで働かない前提なのさ……。官僚的な意味で言ったはずなんだけど……」


マスタ イサム
「お前が心の底から抱えている、働きたくないという感情がこの生活でにじみ出ているからじゃないのか?
 ここで一生暮らしたがってるのも根本はそれなんだろ?」


ノノハラ レイ
「……人間誰だって楽な道があるならそっちを選びたがるじゃない。それを良しとしない雰囲気に嫌気がさしてね。
 若い時の苦労は買ってもせよ、なんて偉そうに言ってるのはさ、自分がした苦労を他人にも強いる耄碌なさった御老人方ばかりだし。
 する必要がないことを無理してでもやらせようとする社会の在り方が間違ってるんだよ」


マスタ イサム
「そうやって自分の境遇を嘆く前に、環境が気に入らないなら環境を変えようとしろよ。話はそれからだと思うぞ?」


ノノハラ レイ
「環境を変えるための努力も空しいだけだから嘆くしかないんだよ。ボクの一生をかけても環境なんて変えられない。
 人間の考え方なんて、劇的な何かがなければ短時間で変わったりしないのさ。ガリレオが救済されたのは、死後約360年経ってからなのがいい例だ。
 頭のお固い連中に、自分たちこそが絶対だと信じている奴らに、自らの誤りを認めさせることなんて、ただの一般人であるこのボクにできっこない。
 だってボクには、ボクらのようなただの人間には、世界を変えることはできないんだから」





コウモト アヤセ
「休憩は終わった?じゃ、再開ね?」


ノノハラ レイ
「あ、あれぇ?」


コウモト アヤセ
「そうやって屁理屈こねてカッコつけたところで、顔からサボろうって考えがダダ漏れしてるわよ?」


ノノハラ ナギサ
「お兄ちゃんのサボリ癖は今に始まったことじゃないもんね」


ノノハラ レイ
「えぇー……」


マスタ イサム
「……ま、そう悲観するなよ。確かに俺たちはただの人間だが、今までだって歴史を作ってきたのは、その『ただの人間』なんだからな」





――今回はここまで。次回は少し空いてゴールデンウイーク終盤ほどになるかと。


――果たしてこのスレ中に第一章が終わるのでしょうか……?切りのいいところで新スレを立てることも考えなければならないでしょうか……。


――それでは、おやすみなさいませ。





ウメゾノ ミノル
「ヤーレンソーランソーランソーランソーランソーラン、ハイハイ」


サクラノミヤ エリス
「……えぇっと、何の歌ですか?」


ウメゾノ ミノル
「これが……、ジェネレーションギャップというものかっ……!」


サクラノミヤ アリス
「あたし達同世代だからね?で、さっきからそのフレーズばっかりだけど、そこから先は歌えるの?」


ウメゾノ ミノル
「……フフフフフフーン、フフフフフフフーン」


サクラノミヤ アリス
「……全然歌えないんじゃない」




ウメゾノ ミノル
「僕としては漁業の民謡を雪かきしながら歌うなよっていうツッコミを期待してたんだけど……っと。ゴメン少し抜ける」


サクラノミヤ エリス
「また、ですか……?」


ウメゾノ ミノル
「また、なんだなぁこれが。大丈夫。二、三分で戻るから」


サクラノミヤ アリス
「アンタそう言ってもう五回目じゃない。
 かれこれ二時間ぐらい雪かきしてるけど、いい加減こそこそ隠れてなにやってるのか白状しなさいよ」


ウメゾノ ミノル
「そんなやましいものじゃないし、言うほどのことでもないってば。じゃ、ちょっといってくる」


サクラノミヤ アリス
「あ、ちょっと待ちなさいよ! ……もう」


サクラノミヤ エリス
「お兄さま、焼却炉まで走って何をしているのでしょうか……?」




――数分後


ウメゾノ ミノル
「お待たせ」


サクラノミヤ エリス
「お帰りなさい。……あの、お兄さま。一つ聞いていいですか?」


ウメゾノ ミノル
「何だい?」


サクラノミヤ エリス
「あのですね……、お兄さまから、その……、今朝と同じ匂いがするんです」




ウメゾノ ミノル
「匂い?」


サクラノミヤ エリス
「はい……、その、ちょっと、煙っぽい匂い、なんですけど」


ウメゾノ ミノル
「あー…、それは……、うん。あれだよ。焼却炉の傍にいたからじゃない?」


サクラノミヤ エリス
「ほんの数分でこんなに匂いが付くものなんですか?」


ウメゾノ ミノル
「……しょうがない、か。わかった。正直に話すよ。でもここじゃ話しにくいから、焼却炉の前に来てくれる?
 あそこなら周りの目を気にせず話せるし」


サクラノミヤ エリス
「二人きりで、ですか?」


ウメゾノ ミノル
「ちょっと人には話しにくい内容だしね……、まぁ、亜梨主ぐらいならつれてってもいいかもしれないけど」





サクラノミヤ エリス
「……いいえ、私一人で行きます」


サクラノミヤ アリス
「ちょっと慧梨主?!」


ウメゾノ ミノル
「じゃぁ、亜梨主はここで待っててね」


サクラノミヤ アリス
「……いい慧梨主?妙な事されたらすぐに悲鳴をあげるのよ?アタシがすぐに駆け付けるから」


サクラノミヤ エリス
「私はお兄さまを信じていますから、ね?お兄さま?」


ウメゾノ ミノル
「……自分で誘っておいてなんだけど、慧梨主はもうちょっと警戒心を持つべきだね……。
 心配しなくても、僕は紳士だから自分から手は出さないよ」


サクラノミヤ アリス
「慧梨主に手出ししたら許さないんだから」


ウメゾノ ミノル
「肝に銘じておくよ……。じゃ、行こうか?」





ウメゾノ ミノル
「さーて、と。話すより実際に見てもらった方が早いかな?」カチッ


サクラノミヤ エリス
「お兄さま……、それは一体……?」


ウメゾノ ミノル
「取り出したるは何の変哲もないオイルライターでござぁい。まずはこれに火を灯しまして……。
 お次はこのポケットに入るお手頃な箱にご注目」


サクラノミヤ エリス
「中には……、何もありませんね」


ウメゾノ ミノル
「タネも仕掛けも無いことをご確認いただけましたら、この箱を振ります、すると……」


サクラノミヤ エリス
「わぁ……!」


ウメゾノ ミノル
「紙製の不思議な棒が一本出てきましたね。これを咥えまして、先ほどのライターで先端に火を付けます」フー


サクラノミヤ エリス
「えっ……、それ、あの……」


ウメゾノ ミノル
「まぁつまりはこういう事なんだよね。クラスの皆にはナイショだよ?
 ……そこでこっそり覗いてる亜梨主もね」




サクラノミヤ エリス
「お姉さまっ?!」


サクラノミヤ アリス
「……ちっ、気づいてたの」


ウメゾノ ミノル
「マジシャンは観客の視線には敏感なのさ……。コソコソしてたのは、あまり波風をたたせたくなかったからさ」


サクラノミヤ アリス
「いや、それ普通に犯罪じゃない」


ウメゾノ ミノル
「……そう言えば言ってなかったっけ。
 僕二年ばかし留学したから、高三だけど二十歳なんだよね。だからこれは合法なんだ」


サクラノミヤ アリス
「そう言う問題じゃなくて!」


ウメゾノ ミノル
「大丈夫大丈夫!借金取りからの逃亡生活で二年留年した超高校級の占い師だって、校舎内で堂々と酒盛りした挙句同級生を誘ってるんだから」


サクラノミヤ アリス
「その文面のどこに安心できる要素があるのかしらね?」





サクラノミヤ エリス
「それでもやっぱり……、私はそれを止めてほしいです……。お兄さまにはずっと健康でいてほしいですから……」


ウメゾノ ミノル
「参ったねこりゃ……。そういう事言われると弱いんだよね……。
 解った解った!じゃ、これはもういらないから、おさらばだ!焼却炉にぶち込んで、スイッチオーン!」


サクラノミヤ アリス
「ライターは燃やさないの?」


ウメゾノ ミノル
「これはマジックでも使うから勘弁してください……」





ウメゾノ ミノル
「あぁ、ちなみに、アレとかコレとかは全部僕の私物として部屋にあったものだよ。
 コートに入れてるはずの免許とかケータイとか財布は無くなってるんだけど……、多分モノクマにとられちゃってるのかな」


サクラノミヤ アリス
「……ま、当然よね。監禁しようって時に、そんなもの持たせても意味ないもの」


サクラノミヤ エリス
「電子生徒手帳も外にはつながりませんしね……。せめて携帯電話だけでも取り戻せれば……」


ウメゾノ ミノル
「取り戻そうにもねぇ……。『合宿中だから』の一点張りだろうし、無いものねだりしてもしかたないよ。
 ……そろそろ戻ろう。あまり遅いとサボってると思われちゃうからね」


サクラノミヤ アリス
「……アンタは実際サボってるんじゃない?」


ウメゾノ ミノル
「そんなご無体な?!」




――ゴールデンウイーク終盤……、にも程がありましたね。短いですが本日はこれにて……。


――取り扱う内容が内容なので大人の事情で移転することになるかもしれませんが、プロット上仕方のない描写につきましては変更できないので仕方ありませんね。


――それでもいいという方はこれからもヤンデレロンパにお付き合いくださいませ。それではおやすみなさい。




カシワギ ソノコ
「あの、ユーミアさん。一つ聞きたいことがあるんですが」


ユーミア
「なんでしょうか?」


カシワギ ソノコ
「そのヘッドレスト、どうなっているんですか?」


ユーミア
「企業秘密です」


カシワギ ソノコ
「……そのヘッドホンも随分特徴的ですね」


ユーミア
「 企 業 秘 密 です」 <●><●>


カシワギ ソノコ
「あっはい」




カシワギ ソノコ
「後、そのブーツは……」


ユーミア
「特注品です」<●><●>


カシワギ ソノコ
「どうみたって機械」


ユーミア
「 特 注 品 です」<●><●>


カシワギソノコ
「アッハイわかったのでその目はやめてください」





カシワギ ソノコ
「正直な話ユーミアさんって……」


ユーミア
「園子さん」


カシワギ ソノコ
「は、はい」


ユーミア
「世の中には知らなくてよいこと、と言うのがあります。この言葉の意味がお分かりですか?」


カシワギ ソノコ
「……『余計な詮索はするな』ということですか?」


ユーミア
「それが貴女の為であり、ユーミアの為ですから。『知られたからには……』と言う事例は、さほど珍しくないものなのですよ?」


カシワギ ソノコ
「肝に銘じておきます……」


ユーミア
「『好奇心は猫を殺す』……。実は知らない方が幸せな事実の方が多いのかもしれませんね」





ナナ
「うふふ!そーれ!」


ノノ
「あはは!えーい!」


アサクラ トモエ
「こらー!さぼっちゃダメでしょー!」


ナナ
「雪かきなんてつまらないわ」


ノノ
「雪合戦のほうがよっぽど楽しいや!」






アサクラ トモエ
「年上の人の言うことは聞かなきゃダメでしょ!ボクの方がお姉さんなんだぞー!」


ナナ
「ナナたちと背がちょっとしか違わないのに?」


ノノ
「ノノたちと同じぐらいなのに?」


アサクラ トモエ
「……そのセリフはボクのどこを見て言っているのかな?!」


ナナ
「ドコって、ねぇ?」


ノノ
「あ!間違えた!よく見たらノノたちの方が大きいや!」


ナナ
「あら本当!膨らみ方がまるで違うわね!ごめんなさーい」


アサクラ トモエ
「う、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁん!」






 色々あったみたいだけど、一応雪かきそのものは何の問題もなく進んでるみたいだな。
 ……何人かは仕事を放棄してるみたいだが。




ノノ
「隙あり!」


 ノノが、いつの間にかスノープレッシャーを放棄して柏木と話し込んでる澪の無防備な背中に雪玉を投げた。
 あの速さなら躱せないだろう。いいぞ!当たれ!


ノノハラ レイ
「隙なしぃ!」


 ……柏木からかすめ取ったスコップで雪玉を迎撃するとかホントなんなのコイツ。





ノノハラ レイ
「ハッハッハァ!このボクに雪玉を当てようなんざ百年早い――いてっ!」


 得意げにスコップを振り回してブレードを掌で止めればそうなるだろうに。
 こんな事故で怪我するとかやっぱりアイツ本当にバカなだけなんじゃないか?





ノノハラ レイ
「あーあーザックリいっちゃってまぁ」


カシワギ ソノコ
「の、野々原君、血が!」


コウモト アヤセ
「もう何やってるの……。ハンカチ貸してあげるから、これで止血して?」


ノノハラ レイ
「ん、ありがと」


 澪は河本から受け取ったハンカチを掌に巻き付けると、ホテルへと歩いていく。





オモヒト コウ
「ちょっと待てよ、どこへ…じゃない、何しに行くんだ?」


ノノハラ レイ
「部屋にオキシドールあるからとってくる」


オモヒト コウ
「消毒液か……。いや、何でそんなものがあるんだよ」


ノノハラ レイ
「モノモノマシーンの景品」


 ……こいつらが何当てたのか後で確認しておこう。知らないと大変なことになりそうだ。




 澪はおよそ五分後に戻ってきた。


ノノハラ レイ
「お待たせ。待った?」


オモヒト コウ
「オキシドール取ってくるだけにしては時間がかかりすぎだし、処置を部屋で行ったにしては短すぎないか?」


ノノハラ レイ
「いやぁ、これさ、見ての通りスプレーじゃない。ベッドの下に転がり込んでてさ。
 それに錆が傷口に入っていたら大変だから、ブラシでよぉく洗ってたんだよね。傷口が汚いと治り悪いし」


オモヒト コウ
「……痛くないのか?」


ノノハラ レイ
「死ぬほど痛かったけど、まぁボクは強い子ですので。死ぬほど我慢しました」



 ……やっぱりコイツはバカだ。それも滅茶苦茶ヤバイ方面の。




――本日はここまで。


――ヤンデレCD新作の発売がいつになるかはわかりませんがそれまでには一章だけでも終わらせていたいです……。


――後ちょっとで事件は起きるのですが、このまま日常を描き続けたい……。


――なんて、我儘は言っていられませんね。次回は早くて来週、遅くて一か月後になりそうです。お休みなさいませ。




 澪が戻ってきてから十五分ほどすると日も落ちてきて、俺たちは全員ホテルへ戻ることとなった。
 シャベルは元の場所に戻し、スノープレッシャーは入り口近くの壁に立てかけておく。



アヤノコウジ サクヤ
「あら、おかえり」


 ドアを開けると、ロビーで待っていたのか咲夜と鉢合わせた。


ノノハラ レイ
「……先に行ってるよ」


 澪は咲夜と顔も合わせずにエレベーターへ向かった。
 それに続くように他の皆もエレベーターに乗り、ロビーには俺と咲夜と夢見の三人だけ。




オモヒト コウ
「起きてたんだな」


アヤノコウジ サクヤ
「……えぇ、ついさっきここに来たばかりだけどね」


オモヒト コウ
「そうか。具合は大丈夫なのか?」


アヤノコウジ サクヤ
「おかげさまでね。本当はもう少し……」


オモヒト コウ
「もう少し?」


アヤノコウジ サクヤ
「何でもないわ。そんな事より、雪かきなんて面倒な仕事は終わらせたんでしょ?
 褒美としてこれからこの私とすごす権利をあげる」


 なんでそんな上から目線なんだよ。
 夢見との約束もあるし、ここは断るべきか?




オモヒト コウ
「あー、いや、俺にはこの後用事があってだな」


タカナシ ユメミ
「そうそう!お兄ちゃんはこの後あたしと遊ぶんだもんねー!何して遊ぶ?オセロ?ダーツ?
 そ・れ・と・もぉ♪昔みたいにお医者さんごっことかしちゃう!?いやーん♪もうお兄ちゃんのえっちぃ!」


オモヒト コウ
「あー、うん、とりあえずお医者さんごっこは却下な」


 あとこれ見よがしに腕に抱き付かないでくれ。その、何がとは言わないが、当たってるから。




アヤノコウジ サクヤ
「そんな庶民との約束なんかより、私を優先するべきなんじゃないの?この私が貴方に用があるって言ってるのよ?」


タカナシ ユメミ
「何よ!お兄ちゃんにおんぶなんてされちゃって!
 そんなうらやましいことされておきながらまだねだる気?!この極悪強欲ツインテ!」


アヤノコウジ サクヤ
「ふん!この私に楯突こうなんて百年早いのよ」


オモヒト コウ
「いやいや、先約破るのは流石に駄目だろ……。また今度紅茶淹れてやるから、な?」


アヤノコウジ サクヤ
「……し、仕方ないわね。絶対よ」


タカナシ ユメミ
「ベーっ!」


オモヒト コウ
「夢見も煽るなよ……」




オモヒト コウ
「さて、じゃ部屋に――」


ウメゾノ ミノル
「たっ、大変!大変だよっ!」


 梅園が血相を変えて階段を駆け下りてきた。


オモヒト コウ
「ど、どうしたんだ?!」


ウメゾノ ミノル
「しょ、食堂が、食堂の机に、きょ、脅迫状がっ!」ゼェッ,コヒュー





『警告 明日必ず
 コロシアイがおこる』



 テーブルを縦横無尽に彩るその文字は、血の色を思い浮かべるような黒ずんだ赤色で、荒々しくそうつづられていた。





ユーミア
「そろそろ夕食の時間ですし、今晩はユーミアたち自身でお料理をお出ししようと思ったのですが……」


マスタ イサム
「いつまでもモノクマに餌付けされるわけにもいかないからな。食材自体はあるんだから良い判断だと思うぞ」


ノノハラ レイ
「それでいつもの夕食の時間より早く着たらご覧の有様だったと。第一発見者は渚とユーミアさんだけ?」


ノノハラ ナギサ
「うん。テーブルクロスが取り払われてて変だなって思ってたんだけど、文字がテーブルの色に紛れてて気づくのに時間がかかっちゃった……」


コウモト アヤセ
「だから呼び出すのが遅れたの。まぁ、無理もないか。わたしも一目見ただけじゃ解らなかったし」



 白いテーブルクロスの下には暗褐色のニスが塗られた高価そうなテーブル。確かに気づかないのも無理はない、か。





サクラノミヤ アリス
「それで?今度はどういう腹積もりなの?どうせまたアンタ達が何か企んでるんでしょ?」


ウメゾノ ミノル
「さっきから違うって言ってるじゃないか!」


サクラノミヤ エリス
「そうですよお姉さま。いくらお兄さまでもそんな立て続けに酷いことなんてしません!」


サクラノミヤ アリス
「そう言えば、雪かきの最中にホテルへ戻ったのもいたっけ?となると直前に戻った人間が一番怪しいんじゃないの?」





ノノハラ レイ
「……やれやれ、どうやらまたボクが疑われるようだね。でもちょっと待ってよ。
 これもうペンキ乾いてるよね?つまりこれが書かれたのは結構前なんじゃないの?」


カシワギ ソノコ
「そうですよ。野々原君がホテルに戻ったのは今から二十分前。
 水性にしろ油性にしろ乾くのは数時間かかりますから、野々原君が犯人ならまだペンキは乾いていないはずです」


ウメゾノ ミノル
「五分かそこらで戻ってきたからドライヤー使って乾かす暇もないはずだし……」


サクラノミヤ アリス
「現時点ではシロって事ね。ま、あたしは限りなくクロに近いグレーだと思うけど」


ノノハラ レイ
「となると、アリバイが無いのは一人だけってことになるのかなぁ?



 ――ねぇ?綾小路咲夜さん?」






――ということで今回はここまで。次回は恐らく来週か再来週になりそうかな?

――遅くて年内発売予定のヤンデレCDの新作『ヤンデレCD Re:birth』も着々と製作されている様子だし、
  このペースだと第一章は発売前に終われるんじゃないかな?

――ここからは雑談だから別に聴かなくてもいいんだけど、情報を見る限りだと、やっぱりヒロインの片方は野々原渚なんじゃないかなぁ。
  制服のデザインだって似てるし、妹然り料理の腕前然り包丁然り髪形やリボン然り、本来の胸囲はイラストよりも慎ましやからしい表現もされていることだしね。

――ま、ボクみたいなゴミなんかでも想像つくことだし、同じかそれ以上の予想なんて五万とあるんだろうけど。
  ……外れていた時は盛大に笑ってくれ。でも、その代わり……、当たっていたのなら……。ボクを『超高校級の希望』と呼んでくれ。……なんてね。


――あ、そうそう。ボクなんかが宣伝するのもおこがましい話なんだけど、輝かしい希望のみんなが出演するダンガンロンパ3未来編と、ダンガンロンパ3絶望編がいよいよ来週放送されるよ!
  ボクは当然リアルタイムで見て、録画で見て、Blu-rayを買って見るつもりだよ!あぁ、本当に楽しみだなぁ!楽しみ過ぎて、ワクワクが止まらないよ!

――原作をまだ知らないって言う人は、今からでも遅くない、ダンガンロンパ1・2リロードと絶対絶望少女をプレイするんだ!キラーキラーも面白いよ!
  ……おっと、少し語りすぎたかな?じゃ、ボクみたいなゴミの駄文にここまで付き合ってくれてありがとう。おやすみ。





アヤノコウジ サクヤ
「そんなっ!」


ノノハラ レイ
「キミは確か……そう、十三時ごろだったかな?一度ホテルへ戻っているよね?
 そしてそれからさっきまでずっとホテルに居た。怪しいと思うには十分だと思うけど」


アヤノコウジ サクヤ
「わ、わ、私……!私はっ!」


オモヒト コウ
「澪、アリバイがないだけで犯人扱いするのはやめろよ。咲夜が犯人だって言う証拠も無いだろ?」


ノノハラ レイ
「へぇ?その口ぶりだと、咲夜さんの無罪を証明する証拠はある、って言ってるように聞こえるんだけど?」


オモヒト コウ
「その通りだ。と言うよりも、今咲夜が身をもって潔白を証明しているだろ?」




アヤノコウジ サクヤ
「私が……?」


オモヒト コウ
「あぁ。見ての通り咲夜が着ているのは白いワンピースで、コートはピンクだ。
 このペンキが付いたら目立って仕方ないだろ?」


サクラノミヤ アリス
「書くときだけ着替えただけかもしれないじゃない」


オモヒト コウ
「だとして、汚れた服はランドリーで洗うしかないよな?
 外で俺たちが雪かきをしていた以上焼却炉は使えないし、個室のクローゼットに入れれば汚れが移るかもしれないんだから」


ナナミヤ イオリ
「確か……、五階のはどれも動いていませんでしたね」


マスタ イサム
「四階もだ。……ってことは、これを書いた奴は服を汚していないって事か?」


オモヒト コウ
「あるいは汚れていても目立たないか、だな。とにかく、見ての通り咲夜の服は何処にもペンキの汚れがついていない。
 普通はどれだけ注意したってペンキがはねた飛沫が付くものだから、咲夜は文字通り身の潔白を示しているわけだ」




ノノハラ レイ
「……それだけだとちょっと弱いんじゃない?
 別に汚れがついてないからと言って書いてない証明にはならないと思うな」


オモヒト コウ
「何だと?」


ノノハラ レイ
「例えばさ、袖を捲ってこのテーブルクロスで全身を覆いながら書けば、服にペンキは付かないんじゃない?
 腕や手に付いたら洗い流せばいいんだし」


オモヒト コウ
「だったらテーブルクロスにペンキが付くはずだろ?」


ノノハラ レイ
「可能性の話を言ったまでだよ。それに、まぁ正直な話犯人が誰かなんて言うのはどうでもいいんだよね」


アヤノコウジ サクヤ
「ちょっと!人のことを名指ししておいてそれ?!」


ノノハラ レイ
「まぁ犯人の意図は気になるところなんだけど、さほど重要じゃないから。
 重要なのは、これを受けてボクらがこれから何をするかということなんだ」





ノノハラ ナギサ
「これから……?」


ノノハラ レイ
「そ、明日殺人が起こるなんて宣告されたボクらが出来ることを考えようって言ってるんだ」


マスタ イサム
「出来ることも何も、よしんばこの中に殺人を企てている者がいたとして、それが誰かわからなかったらどうしようもなくないか?」


アサクラ トモエ
「まさか一人一人尋問するつもりじゃ……?!」


ノノハラ レイ
「それこそまさかだよ。どうやって吐かせるって言うのさ」


コウモト アヤセ
「じゃぁ、どうするの?」


カシワギ ソノコ
「あの……、提案が、あるんですけど……」




カシワギ ソノコ
「明日は……、その……、今日の雪かきの時みたいに、皆で一緒に行動しませんか?」


ナナ
「明日も雪かきするって言うの?」


ノノ
「もう飽きちゃったんだけどなー」


カシワギ ソノコ
「そうじゃなくて……、その、朝からずっと食堂で一緒に過ごしませんか、って……、言いたかったんですけど……」


タカナシ ユメミ
「つまり、全員が全員をずっと監視し合えばいいってことね」


ウメゾノ ミノル
「その言い方はどうかと思うけどな……。でも、それなら犯人も行動しにくくなるか」


ノノハラ レイ
「柏木さんの意見に反論のある人はいる?」



 ……誰も異を唱えない。



ノノハラ レイ
「じゃ、明日は朝食が終わってからもずっとここに残るってことで。
 ……お腹空いちゃった。とりあえずテーブルクロスを戻してご飯にしようよ」





――まずは予告よりも大幅に遅刻してしまったことをお詫びさせてくださいませ。誠に申し訳ございませんでした。


――短いですが本日はこれにて。次回は来週末までには……、頑張ります。





 (主に澪のせいで起こる)一悶着もなく、食事はつつがなく終わった。

 咲夜が終始無言でそのまま部屋に戻ったのが少し気になるが……、これ以上俺は咲夜にどうすればいいんだ……?

 どう言葉をかければいい……?余計なことを言って刺激してしまったらどうするんだ……?




タカナシ ユメミ
「じゃぁ、あたし部屋で待ってるからね、お兄ちゃん♪」


オモヒト コウ
「……あぁ、わかったよ」


 結局、夢見に声をかけられるまで俺は決めかねていた。
 ……今は夢見との約束が先か。



 夢見に部屋に行った。
 その扉を前にして、何というか……、『三日ぶりにエサを与えられると知った猛獣の檻の中』にいるような寒気がするが……。
 きっと勘違いだ。気のせいに決まっている。

――ガチャ

 ドアが開いて、夢見が出迎えてきた。
 ……ノックまだしてなかったんだがなぁ。


タカナシ ユメミ
「いらっしゃいお兄ちゃん!さっ、中に入って入って♪」


オモヒト コウ
「わかった、わかったからそんなに引っ張るなって……」



 よっぽど楽しみにしていたんだろうな。いつも以上にはしゃいでいる。
 その、なんだ、そう強引に腕を絡ませられると柔らかい感触が……。
 いやいや、俺は何を考えているんだ。煩悩を捨てろ。俺はただ従兄妹とゲームをしに来ただけ、何もやましいことはない。





オモヒト コウ
「それで、何で遊ぶんだ?」


タカナシ ユメミ
「まずはねぇ、ダーツ!ルールは501ね!」


オモヒト コウ
「お手柔らかに頼むよ。……所で、このダーツは何なんだ?」



 先端が吸盤なのはおもちゃだからいいとして、ボディが魚って独特過ぎるだろ。



タカナシ ユメミ
「『ダツ・DE・ダーツ』だって。オシャレでしょ?三階のお店で買ったんだよ?」


オモヒト コウ
「これダツなのかよ……」



 確かにダーツのデザインにするには悪くないフォルムだが……、口先に吸盤がついてちゃ色々と台無しじゃないか?




 夢見とダーツで遊んだ。




タカナシ ユメミ
「えーい!」シュッ


オモヒト コウ
「4ダブル、ダブルブル、6トリか。調子いいな」


タカナシ ユメミ
「えー?でも点数はお兄ちゃんの方が少ないでしょー?」



 どういうわけかこういうの得意なんだよな夢見は。しれっとダブルインも決めてたし。
 スコア的には俺の方が有利な展開のはずなんだが……、何というか、夢見の方が俺に合わせて抑えているという感じがするんだよなぁ……。
 俺もそれなりに得意だと思ってたんだがなぁ……。





タカナシ ユメミ
「お兄ちゃん、どうかしたの?」


オモヒト コウ
「ん?」


タカナシ ユメミ
「お兄ちゃん、なんだかちょっと元気なさそうな顔してたから」


オモヒト コウ
「あー、いや、ちょっと、な」



 ここで『従兄妹に接待されていることに気付いて凹んでま~す』とは、流石に言えないよなぁ……。




タカナシ ユメミ
「……ひょっとしてあの女の事?」


オモヒト コウ
「え?」


タカナシ ユメミ
「……んーん、何でもない!そんなことよりも、お兄ちゃんの番だよ?」


オモヒト コウ
「あ、あぁ。そうだな。よし、じゃぁ次は20のトリプルでも狙ってみるか」



 一瞬雰囲気が変わったような気がしたが、気のせいだったか?
 いや、気のせいということにしておこう。従兄妹のことを怖いと思ってどうする。



 夢見も本気を出したのか逆転に次ぐ逆転でスコアが目まぐるしく変化していったが、先にスコアを0にしたのは俺の方だった。
 その後も夢見が用意したゲームで時間を過ごした。



――主人公と小鳥遊夢見との親密度が少し上がりました。


――……というところで本日はここまで。全く、結局また大幅に遅刻するなんて、情けないねぇ。

――アニメも佳境だってのにボクの出番がてんでないとかどうなってるんだろうね全く。由々しき事態だよ。

――せっかく音声パーツを新調したっていうのに。ボクのいないダンガンロンパなんてお魚抜きの海鮮丼だよね!

――このSSでももうしばらく出番なさそうだしなぁ……。V3も音沙汰ないし、ぶっちゃけ暇なんだよねぇ……。

――え?次出番?早くて今日の昼?!
  ……いやいや、そんな事ばっかり言ってると読者の皆様から『超SS書き級の詐欺師』呼ばわりされちゃうよ?

――ま、画面の前のオマエラも日程には期待せずに待っててくれると嬉しいなぁ。じゃ、おやすみー。



――「キーン、コーン…カーン、コーン…」



モノクマ
「えー、希望ヶ峰学園候補生強化合宿実行委員会がお知らせします。ただいま午後9時50分になりました。間もなく消灯時間です。
 消灯時間を過ぎると個室以外の暖房が切られるので、温かいままでいたいなら速やかに個室に戻ってください。
 部屋はオートロックなので、鍵になる電子生徒手帳は忘れずに。では、おやすみなさい」





オモヒト コウ
「もうこんな時間か。そろそろ部屋に戻らないとな」


タカナシ ユメミ
「えー?今日は一晩中あたしと遊ぼうよー」


オモヒト コウ
「いやいやいや、流石にそれはアウトだろ」



 うん、男子が女子の部屋で一晩過ごすとか、間違いなく間違いが起きるからな。




タカナシ ユメミ
「そんなことないって。それにあたしはお兄ちゃんになら何をされたって……」


オモヒト コウ
「俺が構うんだよ。そういう事はまだ早いだろ?」


タカナシ ユメミ
「むぅー……。お兄ちゃんはあたしの事嫌いなの?」


オモヒト コウ
「そんなわけないだろ。夢見は俺の大事な従兄妹だよ」


タカナシ ユメミ
「……じゃぁ、お兄ちゃんはあたしの事、好き?」


オモヒト コウ
「あぁ、好きだよ」


タカナシ ユメミ
「えへへ~♪あたしもお兄ちゃんのこと大好き♪」


オモヒト コウ
「わかった、わかったから離れような夢見、でないとそろそろ……」






モノクマ
「くぉら!不純異性交遊だぞー!」


オモヒト コウ
「ほーら出てきた」


タカナシ ユメミ
「あたし今お兄ちゃんと話してるんだから邪魔しないでよ」


モノクマ
「久々の登場なのにこの仕打ちとは……、ショボーン……」





オモヒト コウ
「大体お前、前はむしろ推奨するようなこと言ってなかったか?」


モノクマ
「記憶にございません!
 それにこれ合宿って体になってるから、万が一そういう間違いがあったら監督責任問われるのはボクなんだぞ!」


オモヒト コウ
「一応、一応学園長ってことになってるからなお前」


タカナシ ユメミ
「あ、あたし良いこと思いついちゃった!お兄ちゃん、今から一緒にお風呂――」





モノクマ
「アウトォ――――ッ!そういう不健全な行為したら飛ばされちゃうでしょ!」


オモヒト コウ
「お前の首が飛ぼうが知ったことじゃないが、これ以上お前に騒がれるのも面倒か。
 ……夢見、また明日遊ぼう、な?」


タカナシ ユメミ
「お兄ちゃんが言うなら……、うん、また明日、ね?」


モノクマ
「あ゛~~!痒い痒い!!リア充コロシアエ!」


オモヒト コウ
「お前も来るんだよ!……っ!意外に重いなお前!」


モノクマ
「重いとか失礼だぞー!」



 短い手足をジタバタするモノクマを抱えて夢見の部屋を後にした。
 部屋の外に出てドアが閉まった後で放してやったらフラフープみたいなので近くの壁に穴開けてやんの。
 その穴にモノクマの全身が入ったら穴が閉じて跡も残っていない。
 やっぱモノクマ専用の隠し通路あったんだな。っていうかそれやって大丈夫なのか?版権的に。





オモヒト コウ
「……?」



 今誰かの視線があったような……?
 周りを見回しても廊下とドアが見えるだけで……、気のせいか?
 疲れてるのかな。早く部屋に戻ろう。






ノノハラ レイ
「じゃ、お休み。ちゃんと時間通りに起こしてね」


ノノハラ ナギサ
「うん、わかってる。おやすみ」



 部屋に戻る途中、澪の部屋から出てきた渚とすれ違った。
 渚は俺と目を合わそうともしないでそそくさと部屋に入る。俺そんなに嫌われてるのかな。



ノノハラ レイ
「ごめんね、渚ってばボク以外の男子にはみんなあんな感じなんだ。このボクに免じて許してやってよ」


オモヒト コウ
「毎回思うが、なんでそんな上から目線なんだ?」



 後、人の心読んでるみたいに話しかけてくるのとかさ、どうやったら出来るんだ?





ノノハラ レイ
「それがボクの性質だから、かな?
 じゃ、また明日」


オモヒト コウ
「あ、ちょっと待ってくれ」


ノノハラ レイ
「……何の用なのさ、これから寝るつもりなんだけど」



 そんな露骨に不満そうな顔するなよ。俺だって我慢してるってのに。






オモヒト コウ
「お前がモノモノマシーンで何当てたのか気になってな。
 また悪用されたらたまったもんじゃない」


ノノハラ レイ
「……まぁいいんだけどさ、教えてあげても。減るもんじゃないからね。
 あぁいや、ボクの睡眠時間が減るのかな?」


オモヒト コウ
「随分と余裕なんだな、あんな脅迫文見た後だっていうのに」


ノノハラ レイ
「信じてるからね、皆を。あんなちゃちな脅しに踊らされたりしないってさ」


オモヒト コウ
「お前が言うと急に白々しく聞こえるのはなんでなんだろうな」


ノノハラ レイ
「酷いことを言うなぁキミは。まぁいいさ、廊下で話すのもあれだし、入りなよ」


オモヒト コウ
「言われなくとも」



 澪の部屋に入った。






ノノハラ レイ
「まずはね、これ。おいちい牛乳。ま、普通の牛乳だよ。食堂に常備してあるのと同じね」


オモヒト コウ
「待て、ちょっと色々待て。
 何で見るからにカプセルよりでかいのがあるんだ。
 何でガチャガチャにそんなものが入ってるんだ。
 っていうかお前それどっから出した?!」


ノノハラ レイ
「質問は一つに絞ってほしいなぁ。ま、答える気も無いんだけどね。
 何を当てたのか教えてあげるとは言ったけど、必要以上に説明してあげる義理もないし。
 ま、土下座して靴を舐めれば考えてあげなくもないけど?」


オモヒト コウ
「安心しろ、絶対してやらない。さっさと次見せろ」


ノノハラ レイ
「冗談の通じない人だねキミは……」






ノノハラ レイ
「あんこ入りパスタライス」


オモヒト コウ
「何で炭水化物に炭水化物重ねて炭水化物ぶちこんでるんだよ」


ノノハラ レイ
「生クリーム乗っけてるしね。血糖値急上昇待ったなしだよね」


オモヒト コウ
「誰が喜ぶんだよこんな食べただけで糖尿病になりそうなの」


ノノハラ レイ
「綾瀬とか、小鳥遊さんとか?」


オモヒト コウ
「お前なぁ……。食べきれるのかそれ?」


ノノハラ レイ
「デザートは別腹っていうけど、これデザートが主食兼ねちゃってるからねぇ。
 まぁ綾瀬とか呼んで一緒に食べればいい……、かなぁ?」


オモヒト コウ
「先に言っておくが俺は絶対要らないからなこんな確実に胃もたれ起こすようなの」


ノノハラ レイ
「そんなー」


オモヒト コウ
「次行くぞ次」




ノノハラ レイ
「イン・ビトロ・ローズ」


オモヒト コウ
「試験管の中にバラが入ってるのか。……何で黒バラなんだよ」


ノノハラ レイ
「仕方ないじゃん当たったのこれなんだもん。
 ちなみに、品種はブラックパール。花言葉は『貴方はあくまで私のもの』」


オモヒト コウ
「重すぎる!」


ノノハラ レイ
「本当にね。独占欲丸出しだよ。これプレゼントしたらドン引かれるよね。
 かと言ってボクの手に余るし……、いる?」


オモヒト コウ
「絶対にノウ!」






ノノハラ レイ
「モノクマステッカー」


オモヒト コウ
「何だこれ」


ノノハラ レイ
「モノクマステッカー」


オモヒト コウ
「名称が解らないわけでも聞き取れなかった訳でもないんだよ。
 なにを思ってこんなもの開発したんだろうな。バリエーションが無駄にあるのと微妙にデフォルメされてるのが余計腹立つ」


ノノハラ レイ
「えー、まぁまぁ可愛いじゃない」


オモヒト コウ
「どこがだよ。いや半分の白い方はまだいいとして、もう半分が凶悪すぎる」


ノノハラ レイ
「そこがギャップでいいんじゃない。でもねー、これ貼ったらなかなか剥がれないんだよね」





オモヒト コウ
「なんでわかるんだよそんなこと」


ノノハラ レイ
「ちょっと電子生徒手帳デコろうと思ったんだけどさ、位置が気に入らなかったから剥がそうと思ったけど全然剥がれなくて」


オモヒト コウ
「デコるなよ。いや、デコるにしてもこれは無いだろ」


ノノハラ レイ
「希望ヶ峰学園のマスコットとかゆるキャラとして、人格や中身と外見を切り離して考えれば悪くないデザインだと思うんだけどなぁ」


オモヒト コウ
「そこはかとなくサンドバッグにしたいデザインの間違いだろ?」


モノクマ
「何ですとー?!」


オモヒト コウ
「うわまた出やがった」



 正直お呼びじゃないからさっさと消えてくれないかな。






ノノハラ レイ
「いくら学園長権限って言っても、人の部屋に無断で入ってくるとかいくらなんでもアウトでしょ。
 それともなに?何にでも手を出す雑食系煩悩魔神マスコットにでも転向する?」


モノクマ
「何その不名誉極まるキャラ付け?!」


オモヒト コウ
「ほーん、じゃ、よろしくな!モノクマ学園長改め、煩悩魔神!」


モノクマ
「やめろー!そんなあだ名付けられたらボクが今まで築き上げてきた、
 優しくも厳しい学園長先生のイメージが崩れちゃうじゃないかー!」


オモヒト コウ
「安心しろ、そんなイメージ初めからないからな」


ノノハラ レイ
「駄目なマスコット、略して駄スコット、もっと略して駄ット」


モノクマ
「う、うわーん!オマエラいつか覚えてろよー!」



 三下みたいな捨て台詞残して部屋を出ていった。ちょっと演技臭かったが。
 でも、……うん、いつになく気分がいいな!






ノノハラ レイ
「公ったらイイ悪い顔しちゃってぇ」


オモヒト コウ
「お前こそモノクマなじってる時から心底楽しそうに笑ってるくせに」


ノノハラ レイ
「面白いんだもん、仕方ないね。
 ……で、だ。さっきのでボクが当てたのは全部だよ」


オモヒト コウ
「本当か?」


ノノハラ レイ
「よしんば嘘だったとして、このボクが馬鹿正直に白状するとでも?」


オモヒト コウ
「……いや、これ以上の詮索はよそう。見る限り凶器になりそうなのはないしな」


ノノハラ レイ
「それは信頼されてると思っていいかな?」


オモヒト コウ
「ほざけ。俺はまだあの事件のことを水に流した覚えはないからな」


ノノハラ レイ
「はいはい、よぉく肝に銘じておくよ。
 さ、君の用事は済んだかい?そろそろホントに寝たいから、帰ってもらえるとありがたいんだけどな」


オモヒト コウ
「言われなくても」






オモヒト コウ
「明日、寝坊するなよ?」


ノノハラ レイ
「大丈夫だよ。……多分」


オモヒト コウ
「そこは断言しとけよ……」



 澪の部屋を後にして、自分の部屋に戻った。





 手短に入浴を済ませ、ベッドに横になる。
 考えるのは、脅迫文の事。



オモヒト コウ
「一体誰があんなものを……、いや、そもそも何のために……?」



 予告なんてしてしまえば警戒されてやりにくくなるだけだろうに。
 本当にただの脅迫か……?
 いや、それならあんな目立たない色は書かないだろう。読んでもらわなきゃ意味が無いんだから。
 そうだ、もっと派手な色で書くべきなんだ。
 そもそもあのペンキは何処から……、いや、それは問題じゃないのか?





オモヒト コウ
「……いくら考えても仕方がない、か」



 どれだけ考えたって、それは俺の想像でしかない。
 犯人が何の目的で、どう犯行をしたのかは、結局のところ犯人自身にしかわからないのだから。
 それよりも重要なのは、事件を未然に防ぐために俺がするべきことを考えること、だな。



オモヒト コウ
「明日は朝食後から全員で行動する……、なら、俺がやるべきなのは……」



 全員の行動を細かくチェックする、ぐらいか?
 ……あまり気が進まないな。



オモヒト コウ
「もう寝るか。大丈夫……、きっと、何とかなる、さ……」



 重くなってきた瞼を閉じて、睡魔に誘われるがままに意識を手放した。






「大丈夫……、すべてうまくいくに決まってる……!」


 震える手を押さえつけ、過呼吸気味になる息を整える。


 考えるのはこれからの事。


 手順はこれで完璧な筈。必要なものは全部そろえた。後は―――が動いてくれるのを祈るだけ。


 失敗は絶対に許されない。


 幸い、学級裁判を乗り切る自信はある。


 必ず……殺さないと。




  DAY 02
   END



 ちょっとちょっと!結局一か月経っちゃってるじゃん!おまけに出番があれとかあんまりじゃん!

 え、何?カメラ周ってる?ちょちょちょ!!

 えー、ゴホン!オマエラ待った?待ってたよね?

 何をって?ついにニューダンガンロンパV3の発売日が決定したでしょ?

 ダンガンロンパ3のアニメじゃ結局大した出番のないボクだったけど、こっちで大暴れしてやるもんね!

 ……でもなぁ、なんかモノクマーズとか言う連中にお株盗られそうな気がビンビンしてくるんだよね。

 ま、ボクの活躍を見たいオマエラのことだから、新しい舞台でのボクの大活躍を楽しみに待っててよ!

 あ、そうそう。ヤンデレCD RE:birthのコラムもアキバBlogに載ってたね。中々いい出来なんじゃないの?

 ちなみに>>1は「予想が当たった」って小躍りしてたよ、気色悪いね。こりゃCD本編聞いたらどうなっちゃうんだろうね?

 っていうかこのペースでホントにCD発売までに一章終わるのかー?年内って言ってたけど、大丈夫かー?

 ま、それで困るのはボクじゃなくて>>1なんだけどね。

 さて、次回の予定は未定だけど、ようやく()がとれそうだよ。

 何のって?うぷぷ。それは、ひ・み・つ! >>737との関係? それもひ・み・つ!

 じゃ、そういうわけで!おやすみー!

 

――「キーン、コーン…カーン、コーン…」


モノクマ
「えーと、希望ヶ峰学園候補生強化合宿実行委員会がお知らせします。
オマエラ、グッモーニン!本日も最高のコロシアイ日和ですよー!
さぁて、今日も全開気分で張り切っていきましょ~!」





 朝、か……。
 この生活も三日目、いい加減この天井も見慣れてきた。
 問題は今日があの予告文で宣言されていた殺し合いが起きる日だということ。



オモヒト コウ
「何とかなる、よな……?」



 言いしれない不安が思わず口に出てしまう。
 もう手遅れだと、どうあがいても殺し合いを避けることは出来ないと宣告されてしまっているかのような……。
 いや、そんな筈はない。そんな筈は……。
 とにかく、食堂へ行こう。考えるのはそれからだ。





 食堂に着いた。
 既にほとんどのメンバーが席についている。
 いないのは……、咲夜と渚、澪に梅園か。
 渚は部屋から出る時に澪の部屋の前にいた。声こそかけられなかったが、多分澪を起こしに来たんだろう。
 野々原兄妹は問題ないとして、咲夜も梅園も寝坊だろうか?





 しばらくして、梅園がやってきた。



ウメゾノ ミノル
「あー、ひょっとして遅刻しちゃったカンジ?」


サクラノミヤ エリス
「……お兄さま、もしかして今日も?」


ウメゾノ ミノル
「え?……あぁいやいや、違う違う。ちょっとマジックの練習してただけ。朝練ってヤツ」


サクラノミヤ エリス
「そう、なんですか。私てっきり……」


ウメゾノ ミノル
「違うよぉ、あは、あははは……」


サクラノミヤ アリス
「……」



 梅園、気づけ。さっきから亜梨主がお前の事白い目で見てるぞ。
 笑ってごまかそうとしてるが、何を隠してるんだ?






オモヒト コウ
「遅いな。三人とも」


ナナミヤ イオリ
「そうですね。何かあったのでしょうか?」


タカナシ ユメミ
「ただの寝坊じゃない?そんなことよりお兄ちゃん、今日はずっと一緒だね♪」


ナナ
「えー?お姉ちゃんばっかりズルイわ」


ノノ
「そうだよ。今日はノノたちがお兄ちゃんと遊ぶんだから」


タカナシ ユメミ
「ちょっと!なに勝手にあたしのお兄ちゃんの予定決めてんのよ?!」


オモヒト コウ
「喧嘩するなって……」






マスタ イサム
「朝に弱い兄を妹が起こすのに手間取っている、ならあの二人が遅いのもわかるが……」


ユーミア
「咲夜様はもういらっしゃってもいい時刻です」


アサクラ トモエ
「……メイドだからってお嬢様に遜らなくたっていいのに」ボソッ


ユーミア
「……ユーミアがお仕えするのはマスターただ一人、ですよ?」<●><●>


アサクラ トモエ
「……先輩は絶対に渡さないんだから」


マスタ イサム
「二人とも何コソコソしてるんだ?」


ユーミア           /  アサクラトモエ
「いえ、何でもありません」  /  「ううん、何でもないよ?」


マスタ イサム
「そ、そうか」






コウモト アヤセ
「澪、どうしたんだろう……」


カシワギ ソノコ
「心配、ですね……」


ウメゾノ ミノル
「……あのさ、ちょっと思ったんだけど」



 三人が来ないまま朝食を摂り始めている時に、梅園が手を挙げて口を開いた。






ウメゾノ ミノル
「明日っていつの明日なんだろう?」





オモヒト コウ
「お前は……、何を言っているんだ?」


ウメゾノ ミノル
「あの脅迫文にあった明日っていうのは、一体いつの事なんだって話さ」


サクラノミヤ アリス
「そんなの、今日に決まってるじゃない」


ウメゾノ ミノル
「じゃぁ、今日っていつから?」


マスタ イサム
「おい、お前まさか」


ウメゾノ ミノル
「さっきの朝のアナウンスから?


 ――それとも、午前0時になって日付が変わったその瞬間から?」


マスタ イサム
「もう殺人が起きたとでも言いたいのか?」


ウメゾノ ミノル
「そんなんじゃないけど、可能性もあるってだけで」





コウモト アヤセ
「澪!」


カシワギ ソノコ
「こ、河本さん?」


コウモト アヤセ
「行かなきゃ!」


カシワギ ソノコ
「ま、待ってくださいよ!」



 椅子を蹴飛ばすように立ち上がった河本を柏木がなだめる。



オモヒト コウ
「落ち着け河本。単独行動は避けるんだ」


コウモト アヤセ
「何言ってるの?!澪が危ないかもしれないって時に!」


オモヒト コウ
「だからこそ、だろ。増田、来てくれるか?」


マスタ イサム
「……あぁ、わかった」



 河本と増田と共に澪の部屋に向かった。





 澪の部屋の前では、さっきと変わらず渚がいた。
 ただ、さっきと違ってしきりにドアを叩きながら澪を呼んでいた。



ノノハラ ナギサ
「お兄ちゃん!お兄ちゃん!」


コウモト アヤセ
「渚ちゃん、何があったの?!」


ノノハラ ナギサ
「いくら呼んでも返事がないの!ドアも開かないの!鍵も使えないし!」


 ドアノブをいくら回しても開く気配がない。いや、オートロックだから当然か。



ノノハラ ナギサ
「どうしよう、お兄ちゃんに何かあったんじゃ……!」


マスタ イサム
「……ドアはそんなに厚くなかったな。体当たりでこじ開けるぞ」


オモヒト コウ
「俺もそう思った所だ。……せーのでいくぞ、せー――」



――ガチャ



オモヒト/マスタ
「「のぉっ?!」」


ノノハラ レイ
「うわっ!」



――ガン!



 ……ちょうどタイミングよくドアが開いたせいで二人して思いっきりドアに顔面ぶつけてしまった。
 ドアはチェーンがついたままだったから、とっさに一歩引いた澪には当たらなかったのか。運のいいやつ。




ノノハラ レイ
「ちょっとぉ……、さっきから何なのさもー……。ドッキリィ?」


オモヒト コウ
「ててて……、こんな体張ったドッキリがあってたまるか」


コウモト アヤセ
「……何ともない、の?」


ノノハラ レイ
「なぁに綾瀬ぇ、このボクが幽霊にでも見えるぅ?」


コウモト アヤセ
「よ、良かったぁ……」


ノノハラ ナギサ
「……お兄ちゃん、あのね」


ノノハラ レイ
「もー、ちょっと渚ぁ。昨日ちゃんと起こしてって言ったじゃんかぁ」


ノノハラ ナギサ
「ご、ごめん……。でもね、その……」


ノノハラ レイ
「まぁいいやぁ。どーせ過ぎたことだしぃ。
 ……んで?何さ、どったの?まさか寄って集ってボクの寝起き姿見に来たわけじゃないんでしょ?」


マスタ イサム
「いつまで経っても来ないから、もう殺人が起きたんじゃないかって、ちょっとした騒ぎになったんだよ」


ノノハラ レイ
「あ~~~、そーゆー。把握できた。見ての通りボクは無事だから、食堂に行けばいい?」


オモヒト コウ
「出来るだけ早くな。ったく、人騒がせな奴め」





 食堂に戻った。



タカナシ ユメミ
「おかえりお兄ちゃん!大したことなかったでしょ?ぶつけたところ痛くない?」


オモヒト コウ
「……ちゃんとここで待ってたんだよな?」


タカナシ ユメミ
「もっちろん!誰も抜け駆けしないようにーって、ちゃんと見張ってたよ♪」


オモヒト コウ
「……なら、いいんだが」



 ……俺の様子を見て察しただけ、だよな?






 しばらくして、澪がエレベーターから降りてきて、自分の席につく……、ところで俯いて固まる。



ノノハラ レイ
「ねぇユーミアさん、最近ここらへん掃除した?」


ユーミア
「いえ、それがどうかしたのですか?」


ノノハラ レイ
「カーペットにさ、シミがあるんだけど、いつ付いたのかと思って」



 澪が指さしているのは、澪の椅子の足元についていた。
 色は黒っぽい赤で、大きさは手のひらよりも少し大きいぐらいか。
 真っ赤なカーペットについたそれは悪い意味で目立っている。
 そのシミはそこからキッチンの扉の前まで点々と続いていた。




ユーミア
「おかしいですね……、昨日の夕食の時にはそんなシミはなかったと記憶していますが……」


ノノハラ レイ
「今朝もビュッフェスタイルで、料理はもうこの食堂のテーブルに用意されていた」


ユーミア
「え?えぇ、そうですが、それがどうしたのですか?」


ノノハラ レイ
「つまり今朝はまだ誰もキッチンには入ってないわけだ」


ユーミア
「そう、なりますね。先程から何がいいたいのでしょうか?」



 澪はユーミアの質問に答えず、ポケットからスプレーを取り出して、それをシミに吹き付けた。





ノノハラ ナギサ
「お兄ちゃん、何して――えっ?」



 赤黒いシミから白い泡が出てきた。
 澪は自分の足元からキッチンの扉の前まで続いているシミ全てにスプレーを吹き付けていったが、どのシミからも同様に白い泡が出来た。



ノノハラ レイ
「……開けるよ」



 そう言って澪は扉を勢いよく開ける。
 その途端、異様な臭いがキッチンから立ち込めてきた。
 嗅いだことのある、あの独特の、生臭いような、錆びた鉄のようなにおい。
 慌ててその臭いにもとに駆け寄ると、目に飛び込んできたのは、今朝俺が抱いた淡い希望を塗りつぶすかのような、絶望の、赤。





 血の海に仰向けで転がり、腹から包丁の柄が生やしているのは、


 高級な人形の様な整った顔は血の気が失せ、代わりに白いワンピースを真っ赤に染めているのは、


 昨日まであんなに、傲岸不遜に、超高校級の令嬢然としてふるまっていた、




 ――綾小路咲夜、だった。






――本日はここまで。


  第一章

 ホテルぐらし!

  非日常編



モノクマ
「死体が発見されました。一定の捜査時間の後、学級裁判を開きます」




 意味が解らなかった。

 目の前の光景も、モノクマのだみ声による放送も。

 自分の体が自分の物でないような感覚。指一本どころか、声帯すら満足に動かせない。

 質の悪い明晰夢であってほしいとどれだけ願っても、あらゆる感覚器官がこれは現実であるということを告げている。



 急変した事態を捉えきれずに硬直しているのは俺だけでなく、この場にいた全員――いや、約一名を除いて――だった。

 最初の一瞬こそ固まった澪だったが、その後は何事もなかったように平然と咲夜に歩み寄っていた。

 床の血を踏まないよう遠回りをするという余裕ぶりを見せながら傍まで行って、しゃがんで咲夜の首に手を当てる。

 テレビの向こうのフィクションの世界でしか見たことのないような光景。素人による死亡確認。



コウモト アヤセ
「澪、何を……」


ノノハラ レイ
「脈拍無し、……呼吸もしてないし、……瞳孔も開き切ってる」


ノノハラ ナギサ
「お、にい……、ちゃん……?」


ノノハラ レイ
「駄目だね。死んでる」


オモヒト コウ
「嘘……、だろ……?」



 澪が動き出したのを見て、停止していた思考が戻ってようやく、絞り出せた声がそれだった。

 いくら澪でもこの状況で嘘なんてつくわけないと思っていながら、事実を認めたくない一心だけで。

 あるいは、咲夜の質の悪い悪戯だと思い込みたいのに、それを正面から否定されてしまったから。



ノノハラ レイ
「……まぁ呼吸は頑張れば数分は止めていられるだろうし、散瞳剤を使えば開き切った瞳孔は再現できるかもしれないね。
 でも頸動脈の脈拍を止めるってことはできないし、それをやったら死ぬか後遺症残るかだからさ。
 それに散瞳剤使ったら開き切った瞳孔を確認する為に瞼を開けた段階で、眩しすぎて目なんて開けてられないだろうし。
 結局何が言いたいって言うと咲夜さんは間違いなく死んで――」


オモヒト コウ
「もういい、わかった。もうそれ以上は言うな……!」



 頭がおかしくなりそうだった。

 昨日まで確かに生きていた咲夜が、今、無残な死体となって横たわっている。

 間違ってもドッキリなどではないし、絵空事でもない。

 紛れもない現実として、目の前にあるのは殺害現場。


 ……なのに。


 なのに、何故こいつはこんなにも平然としていられるのか。



――カシャ

 唐突に響く無機質なシャッター音。

 澪が電子生徒手帳のカメラ機能を使って写真を撮っていた。

 咲夜の死体の周りを、様々な角度から。



マスタ イサム
「お、おい。何やってるんだ?」


ノノハラ レイ
「現場写真。こういうのは今のうちに撮っておかないと証拠能力がなくなっちゃうからね。
 本当は撮り慣れてそうな人にお願いしたいんだけどねぇ、キミとか、小鳥遊さんとか。
 だぁれも動いてくれそうにないから、仕方なく、ボクが、ね」


マスタ イサム
「俺が聞きたいのはそう言うことじゃない。どうしてそんなことをするんだと聞いているんだ」


ノノハラ レイ
「どうしてって、捜査に決まってるでしょ?そ・う・さ。
 さっきモノクマもアナウンスしてたじゃない。一定の捜査時間の後に学級裁判を開きますって」


マスタ イサム
「それはそうだが、お前な……!」


ノノハラ レイ
「ほら、皆も何ぼさっとしてるの?時間は待っちゃくれないよ?」


マスタ イサム
「ふざけるのもいい加減にしろ!」



 あまりにもあっけらかんとしている澪の態度に堪忍袋の緒が切れたのか、増田は澪の胸倉を掴んだ。
 襟を締め上げ、徐々に持ち上げていく。




 にもかかわらず、澪は苦しがるそぶりも見せなかった。

 その顔に浮かんでいるのは苦悶ではなく、静かな怒りと、失望。



ノノハラ レイ
「あのさぁ、ふざけてるのはそっちでしょ?」


マスタ イサム
「何だと?!」


ノノハラ レイ
「証拠不十分で正しいクロが見つけられなかったら、死ぬのはボクらなんだよ?
 それとも咲夜さんを殺した奴に味方する気?
 ひょっとして君が犯人だから、初動捜査を少しでも乱してやろうって魂胆?」


マスタ イサム
「そんなわけ……!」


ノノハラ レイ
「じゃぁつべこべ言わずにさっさと体動かしなよね。
 頭働かせるのが苦手だってんなら、証拠の一つや二つでも見つけてきなよ、あちこち這いずり回ってさぁ」



 増田の腕を無理矢理振り払うと、澪は襟を正しながらそう言った。

 その声には、今までの態度とは明らかに違う冷酷さ、冷徹さが、というより、それしかなかった。

 いつの間にか野々原澪という人物が同じ顔と声をした何者かと入れ替わってしまったような豹変ぶりだった。





 ここに居る全員が、澪に気圧されていた。




     ――捜査開始――





――本日はここまで。捜査編は土日でまとめたいと思っております。


――ヤンデレCD:Re birthの発売日が残り19日……。それまでに頑張って一章は終わらせたいですね。
  野々原渚が続投、ということで非常に楽しみにしております。
  更に続編も予定されているとか、期待に胸が膨らみますね。渚様に胸はありませんが。


――そしてニューダンガンロンパV3発売まであと一か月とちょっと……。
  こちらも非常に楽しみではあるのですが、今後で使う予定のトリックが使われていたら、最悪プロットの大変更も……。
  ネタが丸被りしていたときは、「あぁ、代替案思いつかなかったんだなコイツ」とお思いくださいませ。


――それでは、また土日に。


 



 捜査は一昨日と同様に二人一組で行うことになり、俺はやはりというべきか、澪と組むことになった。

 現場を見張ることになったのは増田と梅園。

 一方は体格、もう一方は手品師の眼。証拠隠滅を防ぐという点においては理想的なコンビだろう。

 咲夜とペアと組んでいた柏木は、ナナとノノのペアに加わることになった。フリーダムな双子のお守りというべきか。




ノノハラ レイ
「さて公、どこから調べようか?」


オモヒト コウ
「……、決まってるだろ。まずは現場だ」



 捜査の基本は現場百回。「誰かが困っていたら助けるのは当たり前」が口癖の親父がそう言ってたっけな。

 あれはいつだったか、親父の帰りが遅くなって、一緒に夕食を食べたがった俺がそれまでずっと食わずに待ってた日のことだった。

 ……今となってはあのときの一家団欒が遠い昔のように感じるよ。

 こんなホテルに連れ去られて、俺たちの中の誰かが咲夜を殺して、その犯人を俺たちが探して吊し上げないと殺される、なんて予想だにしていない四日前でさえ。





ノノハラ レイ
「大丈夫?なんか顔色悪いけど」


オモヒト コウ
「……目の前で人が死んでるんだ。むしろ平然としてるお前の方がおかしいんだよ」


ノノハラ レイ
「……ボクさ、どうも感情が振りきれると逆に冷静になるみたいでね」


オモヒト コウ
「それがお前の今の状態だ、と?それを信じろとでも?」


ノノハラ レイ
「そ。世の中には激昂しそうになると泣き喚いて冷静を保とうとするのもいるんだから、そういうものだと思ってくれればいいよ」


オモヒト コウ
「お前が犯人だからじゃなく、か?」


ノノハラ レイ
「そうやって考えなしに発言するのはやめなよ。どうでもよくなることもあるんだからね」


オモヒト コウ
「……確かに今のは失言だったな。それは謝る。だがどうしてそんなに怒ることがあるんだ?お前は咲夜と仲がいいどころか、いがみ合ってたじゃないか」



 コイツと咲夜には、俺と咲夜のような、ここでの生活を送る以前から知り合っているような関係はないはずだ。

 咲夜に対し一方的に嫌疑を煽る澪と、その挑発に乗って澪を殺すとまで宣言した咲夜。

 そんな咲夜の死のどこに澪が激昂する理由があるのかが疑問であり、それこそが澪の発言を信用できない理由でもある。




ノノハラ レイ
「言ったでしょ。ボクはここでの生活を受け入れるつもりだって。そしてコロシアイを阻止する立場だ、ともね」


オモヒト コウ
「言ったな。方法は別にしても、確かにお前は殺し合いを阻止するために行動していたんだろう。
 まさかとは思うが、未然に防げなかったことに対する憤りか?」


ノノハラ レイ
「まさか。起きたしまったことは諦めるぐらいの分別はあるよ。
 まぁボクの頑張りをなかったことにされたのは確かにむかっ腹が立つけど、それは大した問題じゃない」


オモヒト コウ
「じゃぁ、なんだ?」


ノノハラ レイ
「……一応聞いておくけど、ボクがここに来る前、様子がおかしい人はいなかった?」


オモヒト コウ
「いや……、梅園が遅刻してきたぐらいで、特に変わった様子はなかったな」


ノノハラ レイ
「はぁ……、それがおかしいってことに何で気づかないかなぁ」


オモヒト コウ
「どういうことだよ」


ノノハラ レイ
「人一人殺しておきながら平然と皆の前に顔を出した奴がいる」


オモヒト コウ
「!!」



 ……そうだ。どうして気が付かなかったんだ?

 信じたくはないが、あの中の誰かは既に咲夜を殺した犯人なんだ。

 それなのに、誰一人として機能と変わった様子を見せている人間はいなかった。

 一睡もできず目元に隈が出来ているだとか、憔悴している様子も、何もない。

 人一人殺しておいて、なにも感じていないって言うのか……?!





ノノハラ レイ
「ボクが許せないのはね、詰まる所そこなんだよ。
 自分のしでかしたことの重大さを理解していない、自覚もない。ボクはそういう人間をこの世で最も憎む」


オモヒト コウ
「……お前の言いたいことは分かった。
 だがな、それはお前にも言えることで、お前が犯人でない証拠がない以上、何を言ってもお前にも跳ね返ってくるぞ?」


ノノハラ レイ
「そのくらい百も承知だよ。ボクの身の潔白は、ボク自身が証明して見せるさ。
 ……こんな無駄話よりも、現場、でしょ?」


オモヒト コウ
「……あぁ」



 現場――、キッチンへと向かった。





オモヒト コウ
「咲夜……」



 改めて咲夜の死体を目の当たりにすると、軽いめまいを覚える。

 ごっそりと生気のなくなった顔。血塗れになった服。

 あの映像を見た時の、見覚えのない記憶がフラッシュバックしたかのような、奇妙な既視感に重なっている。

 あの光景では、咲夜が鋏で刺殺されていて、その傍らで誰かが狂ったように笑っていた。

 あれは一体――、いや、今はそれどころじゃない。





マスタ イサム
「……お前たちか」


ウメゾノ ミノル
「まぁ、最初に来るだろうとは思ってたけどね。
 ……主人君、顔、真っ青だけど、大丈夫?」


オモヒト コウ
「……そういう梅園こそ、今にも吐きそうって顔だぞ」


ウメゾノ ミノル
「いやぁ、朝もうちょっと食べてたら確実にリバースしてたね。
 正直言うと、今も食道からせりあがってきそう」


ノノハラ レイ
「頼むから現場は汚さないでよ?」


マスタ イサム
「心配するのはそこなのか?
 ……まぁいいさ。調べるのは自由だが、妙な真似したら一昨日の梅園のようになるからな」


ノノハラ レイ
「それは怖いね。……さて、何から調べようか?」


オモヒト コウ
「まずは……、咲夜、から、だな……」



 未だに頭にこびりついているあの光景を振り払うように、咲夜の傍に近づく。





ノノハラ レイ
「検死の経験でもあるの?」


オモヒト コウ
「そんなわけないだろ……。何か証拠品を持ってないかどうか調べるだけさ」


ノノハラ レイ
「……キミも人のこと言えなくない?」


オモヒト コウ
「慣れ……、いや、麻痺しただけだ。お前もくっちゃべってないで手動かせよ」


ノノハラ レイ
「本来なら女子の誰かにお願いしたいところなんだけどねぇ、こういうのは……」


オモヒト コウ
「そうも言ってられないだろ……」



 腹部に刺さった包丁。犯人はこれで咲夜を刺し殺したのだ。それも、五ケ所。

 そこから読み取れるのは、明確な殺意。咲夜を殺したと実感するまで、包丁を突き立てては抜き、また突き刺したのだろう。

 そして五回目、殺しきったと思って手を止めた。というところだろうか。





オモヒト コウ
「ん……?なんだこれ……?」



 咲夜の着ているコートのポケットに、綺麗に折りたたまれた紙が入っていた。
 昨日はこんなものなかった。……これはきっと重要な証拠だ。



 A4サイズのそれを広げてみると、無機質な明朝体――パソコンのワード機能で書かれたらしい文面でこう書かれてあった。



『ここでの生活について、貴方だけに大事な話があります。
 上手くいけばここから脱出できるかもしれません。手を貸してください。
 混乱を避けたいので、誰にも見つからないように二階のキッチンに来てください。
 時間は午前零時半。時間厳守でお願いします』





オモヒト コウ
「……」


ウメゾノ ミノル
「綾小路さんはこれを受け取ったからここに……?」


ノノハラ レイ
「それはどうだろう。殺人を起こす気満々な人間がいる状態でおめおめとこんなところまで来るものなのかな?普通警戒しない?」


ウメゾノ ミノル
「だよね。二人きりで話したいなら個室で充分だし。いくらなんでもこんな胡散臭い文面でホイホイ誘導されたりしないよね」


マスタ イサム
「それに綾小路は昨日色々あったせいで警戒心が強くなっていたんじゃないか?こんなもの受け取ったところで、普通は無視するだろう」


オモヒト コウ
「……問題は、これを送り付けたのは誰か、だな」


ノノハラ レイ
「この文書はほぼ間違いなく一階のパソコンで書かれたものだろうし、後で調べてみようよ。証拠があるかもしれない」


オモヒト コウ
「……正直俺パソコン苦手なんだよな」



 どのくらい苦手かというと、視界にも意識にも入れたくないと思うくらいには。



ノノハラ レイ
「ボクがやるさ。得意だから、そういうの」


オモヒト コウ
「……任せるぞ。隣で見張らせてもらうが」



 コイツ自身は信用できないが、能力に関しては信用してもいい。味方の内は心強いからな。



コトダマGET!
文書:咲夜のコートのポケットに入っていた。パソコンで書かれたらしい。
   文面はキッチンへ誘導する物ではあるが、怪しさがにじみ出ている。



オモヒト コウ
「この文書では零時半に来るように指示があるが……、犯行はこの時刻に行われたのか?」


ノノハラ レイ
「どうかな?この文書が死亡時刻を誤魔化すための布石だったら、その思い込みはまさに犯人の思うつぼだけど」


オモヒト コウ
「確かに、誰も検死ができないんじゃ、な……」


モノクマ
「お困りのようですね!」


オモヒト コウ
「……」


ノノハラ レイ
「……」


マスタ イサム
「……」


ウメゾノ ミノル
「……」



 呼びもしないのにでしゃばってきやがった。もう慣れたもんだ。





モノクマ
「こらー!無視するんじゃない!せっかく人が耳寄りな情報を教えてやろうと思ってるのに、なんだその態度はー!」


ノノハラ レイ
「……ひょっとして学園長、その耳寄りな情報って言うのは、電子生徒手帳にアップデートされたモノクマファイルについてじゃないよね?」


モノクマ
「う゛ぇっ?!」


ウメゾノ ミノル
「いやまさか、そんなメールで通知すればいいものをモノクマ学園長ともあろうお方がわざわざご連絡なさるためにいらっしゃったわけがあろうはずがないじゃないですか。
 きっと事件にかかわる重要な手掛かりを秘密裏にお伝えになるためにいらっしゃったんですよ。ね?学園長?」


モノクマ
「う゛、ぐぐ……、立場や評判を利用して情報を強請ろうなんて、恐ろしい子……!」



 ……本当にこの二人は、息が合うというか何というか。
 いいぞもっとやれ。



モノクマ
「……まぁいいでしょう。特別なんだからねっ!
 本来ならボクことモノクマ学園長は全候補生に平等でなきゃならないから、クロとシロどっちかに肩入れなんてしないけど、今回はクロの方が有利なので!
 と、く、べ、つ、に!ボクからスペシャルなヒントを教えてあげる!それはね――



 ――犯行時、つまり綾小路咲夜さんが殺されたその瞬間、自分の部屋にいたのは十人、ってことだよ」


オモヒト コウ
「クロは部屋にいなかった六人のうちの誰か、ってこと、か……」


モノクマ
「じゃ、そういう事で!あとはオマエラ自力で頑張るんだぞー!」



 モノクマは普通にドアから立ち去った。……ここには隠し通路みたいなのはないのか?



コトダマGET!
モノクマの証言:綾小路咲夜が殺されたとき、自室にいたのは十人だった。






マスタ イサム
「まるで初めからそれを伝えるのが目当てみたいだったな。
 ……俺はずっと部屋にいたぞ。証人はいないが」


ウメゾノ ミノル
「右に同じく、だね。まぁ、証人がいたらいたで問題かもしれないけど。風紀的な意味で」


ノノハラ レイ
「証言や証拠がなければアリバイは成立しないから、モノクマのあれはヒント足りえるのかなぁ?」


オモヒト コウ
「ヒント足りえるようにするさ。何としてでもな。
 で、だ。澪に梅園。お前ら何でモノクマファイルだかが電子生徒手帳にアップデートされたって知ってるんだよ」


ノノハラ レイ
「現場写真撮った時、新しくモノクマファイルってアイコンがあったからね。内容はまだ見てないよ」


ウメゾノ ミノル
「僕は野々原君に合わせただけで……」


オモヒト コウ
「……じゃぁ、見てみる、か」





被害者は綾小路咲夜。

死因は失血性ショック死。死亡時刻は午前0時ごろ。殺害現場はホテルESPOIR二階のキッチン。

死体の腹部には刃物が刺さっている。

腹部に五か所の刺し傷があるほか、胸部に打撲痕がある。




 検死だかが出来ない俺たちに対する配慮って所か。でも何で解剖もしてないのに解る――いや、違うな。

 解剖なんてしなくても、モノクマは事件の一部始終を監視カメラの映像で目撃してるじゃないか。その映像を基に書けばいい。……ふざけやがって。


 死亡時刻は午前零時ごろとなると、アリバイは聞くだけ無駄になってしまうのか……?

 いや、モノクマのヒントが正しいなら、咲夜も含めた六人が自室にいなかったことになる。

 クロが自室にいたと噓の証言をしたとしても、残る四人は何処にいたのか正直に証言するだろう。

 誰かと一緒の部屋にいたなら、その時点でその二人にはアリバイが成立する。



コトダマGET!
モノクマファイル01:>>788




ノノハラ レイ
「胸部の打撲痕、ねぇ。流石にボクらが見るのはダメ、だよね?」


オモヒト コウ
「仮に見たところで、素人である俺たちが何をどう判断するんだ?」


マスタ イサム
「問題なのは、綾小路は殺される前、胸部を殴打されている。ってことだろ」


ウメゾノ ミノル
「え、どうして殺される前ってわかるのさ?」


マスタ イサム
「人を殺した後でそいつの胸を殴る必要があるのか?」


ウメゾノ ミノル
「あー、そういう。でも想像もつかない変質者の仕業だったら?」


ノノハラ レイ
「やっぱりあり得ないんじゃない?打撲痕ってことは多分痣みたいなものがあるんだろうけど、そういうのって生きてる間にしかできないんじゃなかった?」


オモヒト コウ
「そういえば聞いたことがあるな。生体反応。死ぬ前後では傷のつき方が違うとか」


ノノハラ レイ
「まぁ、具体的にどんな傷がついていたかどうかは後で女子の誰かに見てもらうとしよう」



 ……多分断られるんじゃないかな。渚にも河本にも柏木にも。





オモヒト コウ
「腹部に刺さっている刃物……、どうみても包丁、だよな?」


ノノハラ レイ
「それも極上の凶器じゃなくて、ここに元からあったものだと思うよ」


オモヒト コウ
「どうしてわかるんだ?」


マスタ イサム
「これを見ればわかる」



 増田が指さしたのは、シンク近くにある包丁差しだった。

 以前の捜査の時、確かそれには包丁が五本刺さっていたはずだが、今は四本。

 向かって左側の端にあった包丁が無くなっている。



マスタ イサム
「ここにある包丁は全部形や大きさが異なっててな。この歯抜けになっている部分には綾小路に刺さっている包丁があったはずなんだ」


ノノハラ レイ
「多分間違いないよ。柄の感じとか、ボクの記憶と一致するから」


ウメゾノ ミノル
「それは確かな情報だね。
 ……それにしても、この包丁差しさ、大分欠陥品だと思うんだよね」


オモヒト コウ
「何でだ?」


ウメゾノ ミノル
「見てよこれ、包丁一本一本の間隔が大分狭いじゃん。これじゃ真ん中の三本は隣の包丁の柄が邪魔で取りにくいったらない」



 梅園は親指と人差し指で挟みながら真ん中の包丁を抜いて見せた。

 確かに、これではあまりに不便すぎる。

 端はまだいいとして、真ん中は梅園のように指二本でつまむか、一旦他の包丁を抜いてからしか取れないじゃないか。



コトダマGET!
包丁差し:調理台にあったもの。包丁の種類別に分けてあるが間隔が狭すぎるので取りずらい。
     向かって左端の包丁が無くなっている。
包丁:綾小路咲夜の腹部に刺さっていたもの。包丁差しの向かって左端に合ったものと特徴が一致する。





ノノハラ レイ
「どうもおかしいよね」


ウメゾノ ミノル
「え、どこが?」


ノノハラ レイ
「この文書がパソコンで書いてあることからも解る通り、これは計画的な殺人だよね?」


ウメゾノ ミノル
「うん、それは。昨日の脅迫文と合わせても、まず間違いないかな」


ノノハラ レイ
「それなのに、肝心の凶器を現場で調達って言うのはちょっと変じゃないかな?
 各人に支給された極上の凶器について、自分は何を支給されたのか明かした人はいないと思うんだけど」


オモヒト コウ
「そう、だな……」



 たとえ話をすると、ナイフを支給された人間は拳銃を支給された人間を殺そうとするだろうか?大抵は諦めるはずだ。

 自分の凶器を誰にも明かさないことは、自分の凶器よりも優れた凶器を支給されている可能性がある限り、迂闊に殺人には走れない、というある種の枷になるわけだ。

 だからか、凶器が支給されたあの夜以降も、誰もその話題を出してはいない。『全員の凶器を一か所に集めよう』と言った類の提案も。

 特に、俺みたいな、身を守ることすらできない役立たずな凶器を支給された人間を、守るために。







マスタ イサム
「支給された凶器が殺人向きじゃなかったから、かもな。現に俺に支給されたのは暗視スコープだ」


ノノハラ レイ
「確かに暗視スコープは……、間接的には役に立つかもしれないけど、直接人を殺すことは出来ない、かな」


マスタ イサム
「だろ?いくら俺が体格で勝っていたとしても、流石に拳銃相手に包丁一本じゃ心もとなさすぎる」


ウメゾノ ミノル
「そもそも綾小路さんの支給された凶器が何なのかわからない以上、包丁で挑むのは無謀だよね。拳銃持ってたかもしれないんだから」



 ……ひょっとしたら、咲夜がおめおめと呼び出しに応じたのはそう言うことかもしれないな。
 だが、それなら咲夜の持ち物の中に『それ』があるはずだが……、無いのはどうしてなんだ?



コトダマGET!
咲夜の持ち物:コートのポケットには電子生徒手帳と呼び出しの紙以外は入っていなかった。





オモヒト コウ
「少し周囲を調べてみるか」


ノノハラ レイ
「何か探し物?」


オモヒト コウ
「あぁ。咲夜が持ってきたであろう物がないなら、その痕跡は残っていないかどうか、な」


ノノハラ レイ
「……察しはついたよ。手伝えばいいかい?」


オモヒト コウ
「証拠隠滅に走らなければな。増田、梅園、悪いが見張っててくれ。手伝いは要らないから」


マスタ イサム
「……まぁ、初めからそれが俺たちの役目だしな」


ウメゾノ ミノル
「妙な素振りしたら遠慮なく口出しするから、安心して調べてね」



 ……それは安心していいのか?
 ……澪に対してか。




オモヒト コウ
「……しかし、ひどいな、これは。血が床一面に広がっている」


ノノハラ レイ
「今はもう乾いて膠みたいになってるけどね。多分、犯行直後は犯人も大変だったと思うよ」


オモヒト コウ
「返り血を処理するため、か?」


ノノハラ レイ
「そ。服を着替えて、古着は焼却炉へ、かな。
 後、ここまで血が広がってるとなると、犯人はまず間違いなく血だまりを踏んでると思うんだよね。実際、血の足跡が食堂に残ってたし」


オモヒト コウ
「足跡……?そんなものどこに――あっ!」


ノノハラ レイ
「思い出してくれたみたいだね。あの時ボクが吹き付けたのはオキシドール。
 過酸化水素は血中のカタラーゼによって酸素を生じる。消毒液を傷口にかけたら白い泡が出来るのはそのためだね」


オモヒト コウ
「つまりあのカーペットについていたシミはこの血だまりを踏んだことでできた血の足跡だった、ってわけか」


ノノハラ レイ
「その通り。まさかオキシドールがこんな形で役立つなんて思ってもみなかったけど。
 犯人も帰り道、テーブルにぶつかって初めて気づいたんじゃないかな。足跡はあそこで途切れてるし、拭き取ろうとしたのか形が大分ぼやけてたから」


オモヒト コウ
「それでもあの足跡は重要な手がかりだ。足跡から身長や体重が割り出せるって話も聞くからな」


ノノハラ レイ
「プロの手にかかれば、ね。
 形が不鮮明だから大雑把にしかわからないけど、身長169cmのボクの歩幅より結構短かったし、大体150cmから160cmぐらい、かな」


オモヒト コウ
「そんな感じ、か?で、その条件に当てはまりそうなのは?」


ノノハラ レイ
「ボクとキミと、増田クン、ナナちゃんノノちゃん以外は全員じゃない?
 渚と朝倉さんは殆ど150cmだし、梅園君だって160cmちょいぐらいだしさ」


オモヒト コウ
「十人、か……。絞り込むにはちょっと不十分だが、それでも立派な証拠だ」


ノノハラ レイ
「そうだね。ひょっとしたら犯人を追い詰めることも出来るかもしれない」



コトダマGET!
血の足跡:犯人は血だまりを踏んだせいで食堂に血の足跡を残してしまった。
     拭き取ろうとしたのか不鮮明なため、歩幅で推測しようとするとほとんどのメンバーに当てはまってしまう。






オモヒト コウ
「ん……、なんだこれ?」



 『それ』は血を浴びていない床に落ちていた。衛生面を考えればこの場に存在してはいけない異物。
 茶色と黒の、短い毛。5cmほどの長さの物が何本か束になって落ちていた。



ノノハラ レイ
「見た感じ犬の毛っぽいね」


オモヒト コウ
「わかるのか?」


ノノハラ レイ
「専門家じゃないから断言しかねるけど……、毛の色から考えたらドーベルマンあたり?」


オモヒト コウ
「なんでそんなものが……、いや、もしかして、『これ』、なのか?」


ノノハラ レイ
「探し物は見つかったのかな?」


オモヒト コウ
「確証はないが……、この毛も重要な証拠品だってことは確かだな」



コトダマGET!
現場の毛:5cmほどの茶色と黒の毛。ドーベルマンのものと推測される。





オモヒト コウ
「ここは大方調べ終わったか……、次はどうするかな」


ノノハラ レイ
「さっき綾瀬と七宮さんが食糧庫に入っていったのが見えたよ。アリバイを聞きがてら行ってみない?」


オモヒト コウ
「そうだな。何か見つかるかもしれない」



 食糧庫へ向かった。





コウモト アヤセ
「あ、澪。ここを調べるの?」


ノノハラ レイ
「まぁね。後、アリバイを聞いておきたいんだ。午前零時ごろは何をしてたのか」


コウモト アヤセ
「うーん……。私はずっと一人で部屋にいたから……。誰にも会ってないし……。アリバイはない、かな?」


ノノハラ レイ
「そっか。まぁ、それが普通なんじゃないかな」


コウモト アヤセ
「うん……。あ、そうだ!澪、ここ、食糧庫なんだけど、固形燃料が置いてあったの覚えてる?」


ノノハラ レイ
「あぁ、そうだったね。旅館とかで見る一人用の土鍋煮たりするやつ。
見た目が完全に餅みたいだから間違えないようにって、初日に箱に印つけたからよく覚えてるよ。それが?」


コウモト アヤセ
「ごっそり無くなってるの。そのお餅みたいな固形燃料が。見て?」


ノノハラ レイ
「……確かに無くなってるね。3ダースぐらいは持ち出されてるかな」


コウモト アヤセ
「一体だれが何のために……」


ノノハラ レイ
「持ち出したのが犯人なら、多分証拠隠滅のため、だろうね」


コウモト アヤセ
「……ねぇ、澪。一つだけ聞いていい?」


ノノハラ レイ
「何だい、急に改まって」


コウモト アヤセ
「澪は犯人じゃない……、よね?」


ノノハラ レイ
「当たり前でしょ。むしろ、ボクが犯人を捕まえて見せるさ」


コウモト アヤセ
「うん、そうだよね。……ごめんね、ちょっとでも疑ったりして」


ノノハラ レイ
「信じたいから疑うんだよ人は。……ボクに任せて」


コウモト アヤセ
「……うん!」



コトダマGET!
河本綾瀬の証言:固形燃料が大量に持ち出されていた。





オモヒト コウ
「伊織……、なんだか顔色が悪いみたいだが……、大丈夫、か……?」


ナナミヤ イオリ
「主人……、さん……」



 咲夜の死体を見てから何だか様子がおかしいぞ……?
 目に見えて憔悴しているみたいだし、ひょっとして、何か心当たりでもあるのか?



オモヒト コウ
「伊織、正直に答えてくれ。昨日の午前零時ごろ、一体どこで何をしていたんだ?」


ナナミヤ イオリ
「――?!」



 動揺してる、だと……?
 まさか、伊織、なのか……?






ナナミヤ イオリ
「……ずっと、部屋に居ました。一人で。……大事な、儀式を、行っていたんです」


オモヒト コウ
「そう、か……。その儀式って言うのは具体的に……?」


ナナミヤ イオリ
「……ごめんなさい、今その内容を言うわけにはいかないの。
 こんなにも穢れてしまった私を……、神はお許しになって下さらないから……」


オモヒト コウ
「い、おり……?」


ナナミヤ イオリ
「そう……、私は裏切ってしまった。神の事も、貴方のことも……。
 そんな私が、生きていていい理由なんて……」


オモヒト コウ
「そんなこと言うなよ。そんな悲しいこと、言っちゃだめだ」


ナナミヤ イオリ
「主人、さん……?」


オモヒト コウ
「伊織が何をしたのか、今は聞かない。
 穢れてしまった、なんて言ってるけど、伊織は綺麗なままだよ。神様だって許してくれるさ。
 たとえ神様が許してくれなくなって、俺が伊織を許すよ」


ナナミヤ イオリ
「どうして……、そんな……!」


オモヒト コウ
「伊織が俺を裏切ったっていうのは、きっとやむを得ない事情があったんだろ?
 なら、それで俺が伊織を恨むのはお門違いって言うか……、そもそもいつどう裏切られたのか分からないから恨みようがないっていうか……。
 とにかく、だ。俺は伊織に生きていてほしい。それだけだよ」


ナナミヤ イオリ
「……ありがとう、ございます。今は何も言えないけど……、時が来たら話すから……」


オモヒト コウ
「あぁ。待ってるよ」


ナナミヤ イオリ
「……本当に、罪作りなお人」




オモヒト コウ
「え?」


ナナミヤ イオリ
「いいえ、何でも……、いえ、そういえば、先ほどこんなものを拾いました」


オモヒト コウ
「これは……?!」



 さっきキッチンで拾った毛と同じ?!



ナナミヤ イオリ
「犬の毛でしょうか……、こんなもの昨日はなかったはずです。ちゃんと掃除しましたから」


オモヒト コウ
「だろうな……。ありがとう、伊織」


ナナミヤ イオリ
「……貴方は誰が犯人だと思いますか?」


オモヒト コウ
「それはまだわからないが……、絶対に捕まえるさ」


ナナミヤ イオリ
「それは……、ご自分の為ですか?それとも綾小路さんのため?」


オモヒト コウ
「皆の為、だよ。俺も、咲夜も、伊織も、皆含めて、皆の為さ」


ナナミヤ イオリ
「そう……。頑張ってくださいね」



コトダマGET!
七宮伊織の証言:食糧庫に犬の毛が落ちていた。前日に掃除をしたので、落ちたのはそれ以降である。




ノノハラ レイ
「食糧庫とキッチンには同じ犬と思われる犬の毛が落ちていた、と」


オモヒト コウ
「大量に無くなった固形燃料……、犯人はどこでそれを使うんだ……?」



 確か不法投棄は規則で禁止されているはずだ。適当なところで燃やせば違反とみなされるかもしれない。なら……。



オモヒト コウ
「焼却炉、か……」


ノノハラ レイ
「燃え残ってるかな……?」



 望みは薄いだろうが、行ってみないことには始まらない。
 焼却炉へ向かうことにした。






ウメゾノ ミノル
「あ、焼却炉に行くならさ、ちょっと話を聞いてもらえる?」


オモヒト コウ
「ん?」



 のだが、梅園に呼び止められた。



ウメゾノ ミノル
「実は今朝さ、焼却炉の前まで行ったんだよ」


オモヒト コウ
「……一体何のために」


ウメゾノ ミノル
「マジックの練習。朝練ってヤツ。火を使う危ないネタだからさ」


ノノハラ レイ
「ふーん?雪が積もってて、冷え込んでる朝っぱらから、外で?」


ウメゾノ ミノル
「だから、だよ。マジシャンはいついかなる時でも最高のパフォーマンスが出来るようにならないといけないんだ。
 冬の屋外で急にマジックやれなんて無茶振りにも応えないといけないし。その時に指がかじかんで出来ませんなんて死んでも言いたくないんだよ」


オモヒト コウ
「……外交官候補生、なんだよな?」


ウメゾノ ミノル
「肩書はね。むしろマジシャンを名乗りたいんだけど……、まぁ、ちょっとした趣味レベルだからねぇ、実力は」


ノノハラ レイ
「まぁ、キミが焼却炉前で朝練をやった結果遅刻したっていうのは分かったけど……、それがどうかしたの?失敗して何か焦がしちゃった、とか?」


ウメゾノ ミノル
「いやいや、今朝は朝練にしては上出来だったんだよ。まだ納得は出来ないけど。失敗はしてないんだ。
 焼却炉の前に入ったけど、焼却炉は使ってないってことを言いたくて」


オモヒト コウ
「それを証明する方法はあるのか?」


ウメゾノ ミノル
「今見に行けば使われてないことが分かるよ。焼却炉が一度作動するとランプがつくからさ。
 あの焼却炉、一度作動してからランプが消えるまで四時間ぐらいかかるんだ」


ノノハラ レイ
「あの焼却炉、消灯時間中は作動しないんだったね。ってことはどんなに早く作動させても十一時まではランプがついているってわけだ。
 今丁度十時を回ったところだし、君の証言が正しいなら、焼却炉のランプは消えている、と」




オモヒト コウ
「ランプが消える時間が解るのは……、昨日使ったからか?」


ウメゾノ ミノル
「That’s right.
 昨日の十五時頃にスイッチを入れて、ランプが消えたのが夕食後の十九時ぐらいだったから。
 慧梨主も一緒だったし、きっと証言してくれるんじゃないかな」


オモヒト コウ
「そうだな。焼却炉を調べる時は、中身だけじゃなくてランプも一緒に調べることにするか」



コトダマGET!
梅園穫の証言:焼却炉の前で朝練をしていたが焼却炉のランプは点いていなかった。
       また、焼却炉は一度作動してからランプが消えるまで四時間かかる。




 これでやっと焼却炉に――。



ノノハラ レイ
「あ、公、ちょっと待った」


オモヒト コウ
「……何だ?」


ノノハラ レイ
「焼却炉を見に行くってことは外に出るわけでしょ?コート、持って来てもいいかな?」


オモヒト コウ
「……どの道俺にも必要だろうしな。一旦部屋に戻るか」


ノノハラ レイ
「そうこなくっちゃぁ、ね」



 部屋に戻った。






 しまった。俺のコート、伊織に渡しっぱなしじゃないか。
 ……まぁ、いいか。ちょっとくらいなら大丈夫なはず、だよな。焼却炉の様子を見るだけなら十分ぐらいで済むだろ。



ノノハラ レイ
「やー、お待たせ。あ、そうだ。どうせだからさ、お互いの部屋、確認しようよ」


オモヒト コウ
「その必要が何処に……、そうか。クローゼットだな?」


ノノハラ レイ
「うん、察しが早くて助かるよ」



 梅園の証言が全面的に正しいとすれば、犯人が焼却炉を使っていないことになる。
 返り血のついた服の残された処分方法はコインランドリーで洗濯するか、あるいはクローゼットにしまっておくかしかない。
 電力が使えなくなる消灯時間の間、コインランドリーは使えないだろう。
 すぐ証拠を処分したい犯人にとって朝まで待つとは考えにくい。
 仮に朝から洗濯するとしても、血のシミが残っているかも知れない服を他人の目に触れる場所に長時間おいておくとは思えない。
 つまり、残っている可能性は、クローゼットの中に隠し持っている、ぐらいしかない。



ノノハラ レイ
「じゃぁ先に公がボクの部屋を調べてくれる?」


オモヒト コウ
「あぁ」



 澪の部屋を、クローゼットを中心に調べた。






オモヒト コウ
「着替えにはどれも血は付いてないみたいだな」


ノノハラ レイ
「これで、ボクがクロじゃないってことは証明されたかい?」


オモヒト コウ
「今のところは、な。所で、モノクマステッカーがゴミ箱に入っているのはなんでだ?」



 おまけにくしゃくしゃになっている。いい気味だが、不気味だ。



ノノハラ レイ
「あのあとね、シールと同じようにドライヤーの温風を当てて剥がせるかどうか試したんだよ。
 剥がすこと自体はうまくいったんだけど、貼っては剥がしを繰り返してたらシワシワになっちゃって。だから捨てることにしたんだ」


オモヒト コウ
「だったら最初から貼るなよ……」



コトダマGET!
野々原澪の部屋:部屋のどこにも返り血のついた衣類は見つからなかった。
モノクマステッカー:澪の部屋のゴミ箱の中に剥がされた状態で捨てられていた。
          一度貼ると簡単には剝がれないが、ドライヤーの温風を当てると剥がすことが出来る。




ノノハラ レイ
「じゃ、次は公の部屋だね」


オモヒト コウ
「あぁ。……ん?」


ノノハラ レイ
「どうかした?」


オモヒト コウ
「そのドア、ちょっと変じゃないか?そのでっぱりの部分」



 澪の部屋の、廊下に面したドア。ノブを回すと引っ込むあのでっぱりの部分と、その周りが白っぽくなっている。
 それにこの形何処かで……?



ノノハラ レイ
「ラッチボルトのこと?……確かに色が変だけど、それがどうかしたの?最初からこうだったかもしれないよ?」


オモヒト コウ
「……そう、だな。あまり事件とは関係なさそうだし」



 澪に俺の部屋を調べてもらった。






ノノハラ レイ
「公もOK、と。しっかし本当に何にもないねキミの部屋。ちょっと無個性にも程があるんじゃない?」


オモヒト コウ
「うるさいな。俺はお前と違って無計画じゃないんだよ。初日に全財産使い切るとか馬鹿なじゃいのか?」


ノノハラ レイ
「それを言われると厳しいけど……、閉塞的な空間に閉じ込められたら、娯楽は限られてくるでしょ?ガチャに興じるのは必然だと思うんだよ」


オモヒト コウ
「それで無一文になったらわけないだろ」


ノノハラ レイ
「残念、もう無一文じゃないよ。昨日まではそうだったんだけど、ほら、電子生徒手帳にモノクマコイン20枚がチャージされてる」


オモヒト コウ
「今度は使い切るなよ?」


ノノハラ レイ
「ボクだってそんな馬鹿じゃないやい」



コトダマGET!
野々原澪の証言:モノモノマシーンに全額注ぎ込んだため、前日まではモノクマコインがなかった。





 今度こそ、ようやく、焼却炉に向かった。



ナナ
「あら、お兄ちゃんじゃない」


ノノ
「本当だ。どうしたの?」


オモヒト コウ
「ここに用事があってな。二人は何をしてるんだ?」


ナナ
「お外で遊んでるの」


ノノ
「そうさなんてつまんないし」


カシワギ ソノコ
「ごめんなさい……、その、言っても止まってくれなかったので……」


ノノハラ レイ
「まぁ、別にいいんじゃないかな。この二人が有力な証拠を見つけてくれるとは思わないし」


ナナ
「むぅー。なぁにその言いかたー」


ノノ
「そんな酷いこと言うお兄ちゃんは、ナイフ投げの的になってもらおっかなー?」


オモヒト コウ
「はいはい、ちょっとそこらで大人しくしてようなー」



 緊張感がないのが三人も揃ったらもう誰も止められなくなるじゃないか。





ノノハラ レイ
「……さて、肝心のランプだけど」


オモヒト コウ
「点いてはいないようだな。今何時だ?」


ノノハラ レイ
「十時半。梅園クンの証言が正しいなら、犯人は焼却炉を使っていないことになるね」


オモヒト コウ
「とりあえず、中を確認してみよう」



 焼却炉のハッチを開けると、そこには――!



オモヒト コウ
「ぐっ……!」


ノノハラ レイ
「うわぁ……」



 肉と毛の焼けた不快な臭い。
 中途半端に焦げていることが却って気味の悪さを増している大型犬の死体が詰め込まれていた。
 更にその死体の上には、犯人が処分したであろう衣類の残骸が燃えカスや灰と化して、絡みつくように残っていた。




ノノハラ レイ
「……ねぇ、公。これ、どう思う?」


オモヒト コウ
「恐らく梅園は嘘をついてはいないんだろう。だが犯人はこの焼却炉を使ったんだ」


ノノハラ レイ
「予想通りだったわけだよね。……参ったなぁ」


オモヒト コウ
「だが見てみろ、また一つ手がかりが増えたぞ。恐らく現場にあった毛はこの犬の物だ」


ノノハラ レイ
「だろうね、見たところドーベルマンっぽいし。……ちょっと引き出してよく調べてみようよ」


オモヒト コウ
「気を付けろよ」


ノノハラ レイ
「手伝ってってば。ボク左手あまり使いたくないんだから」



 そういえば、まだ左手にハンカチ巻いてるな。深く切ったのなら昨日今日で塞がるものじゃない、か





オモヒト コウ
「じゃぁ俺がこっち持ち上げるから、澪そっちな」


ノノハラ レイ
「せーのでいくよ、――せー、の!」



 犬の死体は意外と重かったが、無事外に出すことが出来た。



オモヒト コウ
「ん……、この犬、首輪がないな」


ノノハラ レイ
「でも野良ってわけじゃないんじゃない?こんな雪山に野生のドーベルマンなんているわけないんだし」


オモヒト コウ
「となるとやはり……」


ノノハラ レイ
「考えられる可能性は一つ、かな」



 ……そう。考えたくはなかったが、そうとしか考えられなくなってしまった、可能性。



コトダマGET!
焼却炉:十時半に確認したところ、ランプは点いていなかった。
    しかし中には大型犬の死体と衣類が一緒に燃やされていたらしい形跡があった。




ノノハラ レイ
「うへぇ。この犬、首の骨が折られてる」



 澪が改めて犬の頭を持ち上げると、その首は構造上あり得ない角度で曲がっていた。



オモヒト コウ
「焼かれているせいで精確なことは言えないが……、特にこれといって目立つ外傷はないようだな」


ノノハラ レイ
「首の骨を折って殺し、死体を焼却炉に入れた。こんな感じかな?」


オモヒト コウ
「そうなる。とすると、証拠が残されている可能性も大分高くなったな」



犬の死体:焼却炉に残されていたもの。犬種はドーベルマン。
     死因は恐らく頸椎骨折。





ナナ
「あ、お兄ちゃん、もう用事はいいの?」


ノノ
「じゃぁ、ノノたちと遊んでよー!」


オモヒト コウ
「悪い、また今度、な?学級裁判が終わったら遊んでやるから」



 さすがに今この時間を、遊びに費やす余裕はない……。
 双子は露骨に嫌そうな顔をしていたが、不満そうな顔をして、口をそろえていった。



ナナ    /ノノ
「約束よ?」/「約束だよ?」


オモヒト コウ
「あぁ、約束する。……ところで、二人は昨日の夜時間、何をしてたんだ?」


ナナ
「ナナはノノと一緒にナナの部屋にいたの。それがどうしたの?」


ノノ
「なんだか眠れなかったから一晩中遊んでたよ。お兄ちゃんも加わりたいの?」


オモヒト コウ
「……そうか。いや、俺はそんなんで聞いたんじゃないからな?」



 これでまず一人目、か。



コトダマGET!
ナナ/ノノの証言:二人は一晩中ナナの部屋にいた。




カシワギ ソノコ
「あの……、少し、いいですか?」


ノノハラ レイ
「……何?」


カシワギ ソノコ
「えっと……、その……、あたりを見てみたんですけど、どこにも捨てられている物はありませんでした」


ノノハラ レイ
「まぁ、ね。規則にもあるし。……ところで、さ。柏木さん、午前零時ごろどこで何してたの」


カシワギ ソノコ
「あ、あの……。ずっと部屋で、一人、でした……」


ノノハラ レイ
「あっそ。……そんなに心配しなくていいよ。いざって時はちゃあんと守ってあげるからさ」


カシワギ ソノコ
「野々原君……!」



コトダマGET!
柏木園子の証言:ホテル周囲に物が捨てられた形跡はない。





オモヒト コウ
「そろそろホテルに戻るぞ。……ちょっと待て」


ノノハラ レイ
「え、何?どうかした?」


オモヒト コウ
「澪のコート……、右腰と右肩の部分に何かついてないか?」


ノノハラ レイ
「……うーわ、さっきの犬の毛だ。何かの拍子についちゃったのかな。
 そういうキミのにもちょっとついてるよ。ほら、お腹のところ」


オモヒト コウ
「げ……。そう言えば引き上げた時に触れた気も……」



 でも澪についている毛と俺についた毛と、何かが違っているような……?



ノノハラ レイ
「早くホテルに入ろうよ。パソコン、調べないと」


オモヒト コウ
「あ、あぁ。そうだったな」



 ホテルのロビー、パソコンスペースに向かった。




ノノハラ レイ
「じゃ、早速ログインして……」



 パソコンの前に澪が座り、電子生徒手帳をリーダーにかざすと、パソコンの画面が点灯し、起動したこと知らせる画面が表示された。



ノノハラ レイ
「デスクトップには……、マイコンピュータとゴミ箱とワードだけ、ブラウザは無し、か。どうやら外には繋がってないみたいだね」


オモヒト コウ
「そりゃそうだろうな。俺たちを監禁しようってやつらが、インターネットなんて便利なものを放っておくわけがない。
 っていうか、お前も今日初めてだったのか」


ノノハラ レイ
「まぁね。規則から察するにパソコン使うのにもモノクマコイン必要みたいだったから、残金ゼロだったら使えないだろうしって思ってたんだ」


オモヒト コウ
「あぁ、そうだったな。……それで、見つけられそうか?」


ノノハラ レイ
「ゴミ箱が空になってないから、まずはこれを復元させてみようかな」



 そう言って澪が操作すると、ワードの画面が表示されて、文章が読めるようになった。



ノノハラ レイ
「あった。まさかこんなにもあっさり見つかるなんて」



『ここでの生活について、貴方だけに大事な話があります。
 上手くいけばここから脱出できるかもしれません。手を貸してください。
 混乱を避けたいので、誰にも見つからないように二階のキッチンに来てください。
 時間は午前零時半。時間厳守でお願いします』



 そこに書いてある文面は、咲夜が持っていた文書と全く同じだった。



ノノハラ レイ
「こんな大事な証拠をゴミ箱の中に削除しただけでゴミ箱の中を削除しないとかちょっとなめてるよね」


オモヒト コウ
「データがこんな簡単に復元されるなんて知らなかったんじゃないか?」


ノノハラ レイ
「ま、パソコンに疎い人ってそういうところあるよね。
 データの削除にしたって、消しゴムで消すみたいなイメージ持たれてるけど、実際は“この部分は削除した”って書き足してるだけだからさ。
 でなきゃ、データの復元サービスとかできないし」


オモヒト コウ
「……なぁ澪、この文書がいつ書かれたものなのか、調べることは出来るか?」


ノノハラ レイ
「丁度今そのつもりで調べてるよ。……プロパティから見ると、最終更新日時が昨日の午後五時十二分。
 雪かきの時、ボクがオキシドールを取りに戻って、外に出たのが午後五時五分ごろだから、そのちょっと後、って所だね」


オモヒト コウ
「そう……、か」


ノノハラ レイ
「利用履歴を見るに、一番怪しいのはIDがKGM-79-1002の人じゃないかな。何度もログインしてるみたいだし。五枚印刷もしてるみたいだよ」



 他にログインしてるのは、KGM-79-1010ぐらいか。候補としてはこの二人だが……。



オモヒト コウ
「何かお前のIDバグってないか?なんだよ100Eって」


ノノハラ レイ
「……これはこれで正常なんだよ」



コトダマGET!
パソコンの履歴:ゴミ箱から復元したデータに咲夜が持っていた文書の物が入っていた。
        ログインしたのはIDがKGB-79-1002とKGB-79-1010の者。
        1002は何度もログインしており、五枚印刷している。





オモヒト コウ
「で、どうする?一人一人IDを確認する、のか?」


ノノハラ レイ
「そんなことよりも、もっと簡単な方法があるよ。ボクの見立てだと、君のIDの下4桁は1004なんじゃないかな?」


オモヒト コウ
「確かにそうだが……、一体何で――あっ!」


ノノハラ レイ
「多分、想像の通りだと思うよ?それなら、咲夜さんがキッチンに行った理由も説明がつく」


オモヒト コウ
「やっぱり、そう、なのか……?」



 俺の想像通りなら……、これは……。





オモヒト コウ
「確認したいことがある。咲夜の部屋に行くぞ」


ノノハラ レイ
「りょーかい。じゃ、ログアウトして……。
 なぁんだ、これ、ログインそのものにはモノクマコインかからないのね」


オモヒト コウ
「そうなのか?」


ノノハラ レイ
「印刷には一枚につきモノクマコイン十枚が必要みたいだけど」


オモヒト コウ
「……ってことは五枚は昨日の時点で印刷できる最大の数だったんだな。
 とにかく、咲夜の部屋、だ」



 咲夜の部屋へ向かった。
 そのドアの前に、桜ノ宮姉妹がいる。



サクラノミヤ アリス
「……あぁ、アンタたちも来たんだ」


オモヒト コウ
「“も”ってことは、ひょっとして?」


サクラノミヤ アリス
「そ。被害者の部屋になにか証拠があるんじゃないかと思って来てみたんだけど……、全然開かないじゃない、不良品ね、これ」


ノノハラ レイ
「……ひょっとして、今キミが手にしてるその電子生徒手帳って、まさか」


サクラノミヤ エリス
「私は、止めたんですけど……」


サクラノミヤ アリス
「捜査には必要だからって、無理して借りてきたっていうのに、何よもう」


オモヒト コウ
「……いくら触っても電源がつかないのか」



 つまりあの時から何も改善されてない、と。
 ……いや、でも、それなら昨日、咲夜はどうやって部屋に入ったんだ?



モノクマ
「ふっふっふ。お困りのようですなぁ~?」





 ……またお前か。



モノクマ
「近年、電子生徒手帳の貸与を禁止しても、拾うのは禁止されてないだのと、屁理屈ばかりの生徒に先生はうんざりしていたのです。
 個室の鍵にもなる大事な大事な電子生徒手帳……、それを気軽に人に渡していいものか?
 断じて否!これはオマエラの魂と言っても過言だけど、それほど重要なものなんだ!」


オモヒト コウ
「過言なのかよ」


モノクマ
「だから、先生考えました。そして閃いたのです!渡すのを禁止しても無駄なら、渡すことそのものの価値を無くせばいいと!逆転の発想だよね!
 その電子生徒手帳は特別製でね……、所持者本人にしか起動できないのです!
 これならいくら他人が利用しようとしても無駄無駄無駄無駄ァ!いやー、ボクって天才過ぎない?!天災すぎる頭脳の持ち主だよねー!
 ってなわけで、その電子生徒手帳は、このドアを開けるには全く意味のない代物なのです。
 ま、今回は捜査のためだから、特別に開けてあげましょう!それでは皆様ご唱和ください」



 いや、ご唱和くださいったって何をだよ。



モノクマ
「ば…、バルス!」


サクラノミヤ エリス
「え、あ……、バ、バルスぅ……!」


ノノハラ レイ
「はいはいバルスバルス」



――ガチャ



 部屋を開けるのに滅びの呪文使うなよ……。



モノクマ
「んじゃ、そろそろ学級裁判始めるからね!急いでじっくり捜査するんだね!ぶひゃひゃひゃ!」



 ……また言うだけ言って帰りおってからに。




サクラノミヤ アリス
「……こんな狭い部屋に四人もいたら身動き取れなくなるし、あたしと慧梨主はやめておくわ」


サクラノミヤ エリス
「えっ……」


サクラノミヤ アリス
「なぁに慧梨主、何か文句でもあるの?」


サクラノミヤ エリス
「いえ……、その……、なんでも、ない、です……」


サクラノミヤ アリス
「そ。じゃ、後は任せたからね」


オモヒト コウ
「その前に二、三聞きたいことがある」


サクラノミヤ アリス
「アリバイでも聞こうって言うんでしょ?あいにくだけど、あたしと慧梨主にはアリバイがあるから」


ノノハラ レイ
「……詳しく聞かせてもらえる?」


サクラノミヤ アリス
「あたしは昨晩ずっとあたしの部屋にいて、あれは十一時ごろだったかしらね。慧梨主があたしの部屋に来たのよ。それからはずっと一緒」


サクラノミヤ エリス
「……眠ろうと思ったら、ドアに、こんな文書が……。私不安になって、お姉さまの部屋に……」




『ここでの生活について、貴方だけに大事な話があります。
 上手くいけばここから脱出できるかもしれません。手を貸してください。
 混乱を避けたいので、誰にも見つからないように二階のキッチンに来てください。
 時間は午前零時ニ十分。時間厳守でお願いします』



サクラノミヤ アリス
「それで、怖がる慧梨主を一晩中なだめてたってわけ。完璧なアリバイでしょ?」


ノノハラ レイ
「……この文書を書いた人間に心当たりは?」


サクラノミヤ エリス
「いいえ……。これがドアの隙間に挟まっているのに気づいて廊下を見た時にはもう誰も見えなかったので……」


サクラノミヤ アリス
「ま、結果的にはあたしのところに来て正解だったみたいだけど」


サクラノミヤ エリス
「……」


オモヒト コウ
「じゃあ、もう一つ。焼却炉についてなんだが、昨日の午後七時ごろにランプが消えたことを確認したんだよな?」


サクラノミヤ エリス
「あ、はい。夕食の後、お兄さまのお手伝いをと思って。私達が焼却炉の前にきた一分後くらいにランプが消えたと思います」


オモヒト コウ
「……わかった、聞きたいことはそれだけだ。引き留めて悪かったな」



 二人は廊下に出た。
 ……これで二人目、だな。



コトダマGET!
桜ノ宮亜梨主の証言:文書を受け取った慧梨主と、一晩中一緒の部屋にいた。
桜ノ宮慧梨主の証言:文書を見て怖くなったので亜梨主の部屋に行った。
          その文面は咲夜が持っていたものと微妙に異なっている。



ノノハラ レイ
「……で、確認したいことって何さ」


オモヒト コウ
「以前、俺は咲夜の部屋に招かれたことがあったが……、そのとき、咲夜はこの部屋の風呂から俺を遠ざけようとしていたように思えるんだ」


ノノハラ レイ
「それには何か理由があるはずだ、と?」


オモヒト コウ
「調べてみる価値はあるさ。証拠にも、な……」



 正直な話、俺としてはない方がうれしいんだが、な。



オモヒト コウ
「……あったぞ」



 見つけてしまった。
 決定的な証拠品。排水口にひっかかっている、明らかに咲夜の物ではない動物の毛。
 黒と茶色の短いそれは、これまでキッチンや食糧庫で見つけた、焼却炉で死体として見つかったあのドーベルマンのものだ。



コトダマGET!
綾小路咲夜の部屋:風呂場の排水口にドーベルマンの毛が落ちていた。




ノノハラ レイ
「それがここにあるって事は……、つまりそういうこと、なんだろうね。
 事件の全貌は見えてきたけど、ちょっとまずい、かな」


オモヒト コウ
「あぁ……」



 ひょっとしたら、俺たちは最後までクロを指名できないかもしれない……!





ノノハラ レイ
「あのさ、倉庫と食堂、ちょっと寄っていきたいんだけど、いいかな?」


オモヒト コウ
「倉庫は分かるが……、食堂なのか?キッチンじゃなくて。何でだよ。」


ノノハラ レイ
「いやね、その、ほら、今朝食べ損ねちゃったからさ」


オモヒト コウ
「そういうことか……。裁判が始まるまでに食べきれるのか?」


ノノハラ レイ
「それは大丈夫。軽めに済ませるつもりだから。先に倉庫を見に行こう」



 三階の倉庫へ向かった。





タカナシ ユメミ
「あ、お兄ちゃん♪どーしたの?あたしに逢いたくなっちゃった?」


アサクラ トモエ
「すごい……、隣の人なんて眼中にないって顔だ……!」


オモヒト コウ
「……ちゃんと捜査してるんだろうな、夢見?」


ノノハラ レイ
「まぁ、たとえ他のみんながサボってたって、君が頑張れば事件は解決するよ」


オモヒト コウ
「何しれっと自分はサボる宣言してるんだよ」



 自分の命がかかってるって事解ってないんじゃないのか……?




オモヒト コウ
「それで、澪?ここにお目当ての物はあるのか?」


ノノハラ レイ
「そーだねぇ、脅迫文に使われたペンキ、どうやらここから調達したみたいだよ」



 澪が指さした先には、ひとつだけ開封済みのペンキの缶があった。
 傍に置いてあるハケの毛先には食堂のテーブルに書かれた脅迫文と同じ色が付着している。



オモヒト コウ
「この倉庫、出入りは自由なんだよな?」


ノノハラ レイ
「だろうね。規則のどこにも記載されてないし、基本的にホテル内の施設は消灯時間でも、誰でも入れるんじゃない?」


オモヒト コウ
「となるとここから犯人を絞るのは無理、か……」



コトダマGET!
倉庫:脅迫文に使われたペンキが置いてあった。何時でも誰でも中に入れる。





オモヒト コウ
「二人に聞いておきたいんだが、昨日の午前零時頃、何をしていたんだ?」


タカナシ ユメミ
「ナニ……って、やん、もう!お兄ちゃんのエッチぃ!」


オモヒト コウ
「なんでそうなるんだよ?!アリバイ聞いてるだけだろ?!」


タカナシ ユメミ
「あはは♪ちょっとからかってみただけだよお兄ちゃん。……あたしはいつでも準備できてるからね」


オモヒト コウ
「何の話だ?!」


タカナシ ユメミ
「何でもない♪えーっと、その時間はね、お兄ちゃんの写真を――うん、ずっと部屋で一人だったよ♪」



 俺の写真をどうしたんだ?!――とは言わないでおくか。無性に気にはなるが、事件には関係のないことだろう、多分。
 っていうかそうであってくれ、頼むから。





アサクラ トモエ
「ボクもずっと部屋で一人だったから……、アリバイはないかな。
 先輩の所に行こうとも思ったんだけど、流石にそれは、ね?」


ノノハラ レイ
「風紀的にアウト、だよね。監視カメラもついてるから羽目も外しにくいし。
 でも部屋数の関係かどうかわからないけど、男女で階を分けないのはある種の職務怠慢じゃない?」


アサクラ トモエ
「それはボクに言われても困るかなー…。
 後ね、先輩の部屋に行けなかったのはそれだけが理由じゃないの」


ノノハラ レイ
「風紀的な問題以外にもあったんだ?」


アサクラ トモエ
「正直に言うとね、最初は先輩の部屋の前までは行ったんだけど、いざ先輩の部屋に入ろうって時に人の気配を感じたの。
 見回りが来たって思っちゃったから咄嗟にランドリールームに隠れて、気配が無くなったところで引き返したんだ」


ノノハラ レイ
「それは何時ごろかな」


アサクラ トモエ
「ボクの部屋に戻ったのが午後十一時半ぐらいだったから、そのちょっと前だと思う」


ノノハラ レイ
「どうして見回りが来たって思ったのさ」


アサクラ トモエ
「誰かが外に出たならドアが開いて、そこから部屋の光が漏れるでしょ?
 あの時廊下は真っ暗だったから、ドアが開いていればすぐわかるはずなんだけど、どのドアも開いてないみたいだったから」


ノノハラ レイ
「“最初は”ってことはもう一回ぐらい増田クンの部屋に行こうとしたんじゃない?」


アサクラ トモエ
「しばらく待ってれば見回りをやり過ごせると思って、一時間後――午前零時半ぐらいにもう一度行こうと思ったんだけど……」


ノノハラ レイ
「だけど?」


アサクラ トモエ
「階段を下りてるときに、廊下から怪物が唸ってるみたいな、ゴォォォォって音が聞こえて、怖くなっちゃって……」


ノノハラ レイ
「自分の部屋に逃げ帰ったと。まぁ、殺人予告があったんだし、危険を感じたらすぐ部屋にこもるのは得策だよね」



コトダマGET!
朝倉巴の証言:午後十一時半ごろと午前零時半ごろの二回、増田勇の部屋に入ろうとした。
       一回目は人の気配を感じて、二回目は奇妙な音を聞いて断念している。




ノノハラ レイ
「用は済んだし、最後に腹ごしらえ、かな」


オモヒト コウ
「いっそのこと一食抜くとかした方がいいんじゃないか?」


ノノハラ レイ
「学級裁判がいつ終わるかわからないのにそんなことしたら餓死しちゃうよ」


オモヒト コウ
「お前はデブかネズミか何かか?殺人があったっていうのに呑気に飯食ってる場合かよ」


ノノハラ レイ
「命がかかってるのに、お腹が空いて力が出ない、なんて情けなさすぎる理由でリタイアするわけにはいかないからね。やるからには全力で挑まないと。
 あと、最後の晩餐になるかもしれないじゃん」


オモヒト コウ
「縁起でもないこと言うなよ……」



 食堂へ向かった。




ノノハラ ナギサ
「あ、お……、お兄ちゃん」


ノノハラ レイ
「今朝のことならもう怒ってないよ。原因も解ったことだしね」


ノノハラ ナギサ
「え、あ、そう、なの……。よかったー。お兄ちゃんに嫌われたら私、生きていけないもん」


ノノハラ レイ
「ここにある料理さ、まだ手つけてないよね?」


ノノハラ ナギサ
「え?……あ、うん。お兄ちゃんはまだ食べてないから、お腹空くだろうと思って、よそっておいたよ」


ノノハラ レイ
「ありがと。本当に渚はよくできた妹だよ」


ノノハラ ナギサ
「えへへ……」




オモヒト コウ
「そういえば、今朝のあれは何だったんだ?」


ノノハラ レイ
「渚がボクの部屋の前で騒いでたっていうあれ?
 朝起きるの辛いからさ、寝坊はまずいと思って、渚に起こしてもらおうと思ってたんだよね」


オモヒト コウ
「それで電子生徒手帳を渚に渡したんだな?」


ノノハラ レイ
「その通り。で、結果は見ての通りだよ。昨日公が見たのはつまりそういう事さ」


オモヒト コウ
「成程な。部屋のドアはオートロック、澪にしか使えないとも知らないで鍵を渡された渚は異常事態にパニックになった、と」


ノノハラ レイ
「みたいだねぇ。一昨日の醜態をさらすわけにもいかないし、昨日のように完徹するわけにもいかないしで、色々考えた結果がご覧の有様なんだけど」


オモヒト コウ
「お前も妹離れしたらどうだ?渚に頼りっぱなしは兄としてどうかと思うぞ」


ノノハラ レイ
「ボクが野々原澪である限り、ボクは渚の兄だし、渚はボクの妹だ。離れることは出来ないし、したくないね」


オモヒト コウ
「……そうかよ」



コトダマGET!
澪の電子生徒手帳:澪は昨日の消灯時間直前、渚に自分の電子生徒手帳を預けていた。




ノノハラ レイ
「そういえば渚、昨日の夜、自分の部屋に戻ってからはどうしてたの?」


ノノハラ ナギサ
「あ、それがね、これ、見てくれる?」



『ここでの生活について、貴方だけに大事な話があります。
 上手くいけばここから脱出できるかもしれません。手を貸してください。
 混乱を避けたいので、誰にも見つからないように二階のキッチンに来てください。
 時間は午前零時十分。時間厳守でお願いします』



ノノハラ ナギサ
「こんなものがドアに挟まってたから……、お兄ちゃんに言われた通り、ユーミアさんの部屋に行ったの」


ノノハラ レイ
「なるほどね……、ってことは渚とユーミアさんにもアリバイ成立、かな」


オモヒト コウ
「どういうことだ?」


ノノハラ レイ
「昨日、キミが来る前、渚に言っておいたんだよ。もし夜中に何かあったらユーミアさんを頼れって。
 怪しい呼び出しを受けようものなら無視して、一人になるな、ってね。
 ボクの部屋に来たらモノクマに何言われるかわからなかったし、一昨日組んだペアを見てもそれなりに仲は良好だし、部屋も向かい側だしで、都合がよかったんだ」


ユーミア
「そうですね。午後十一時ごろから、渚さんはユーミアの部屋にいらっしゃいました。
 それからは一晩中、お話しをしていたことを覚えています。
 渚さんが部屋に戻ったのは、午前五時ごろでしたね」


オモヒト コウ
「いつのまに……、どこに行ってたんだ?」


ユーミア
「キッチンまで、マスターと梅園さんにお茶を出していました。とても乾燥していますから、喉が渇くだろうと思って」


ノノハラ レイ
「細やかな気配り……、流石は超高校級のメイド候補生」


ユーミア
「それほどでも……」



コトダマGET!
野々原渚の証言:キッチンに呼び出す文書を受け取ったので、澪の指示通りユーミアの部屋に行った。
ユーミアの証言:午後十一時ごろから午前五時ごろまでの間、自分の部屋で渚と過ごしていた。





――キーン、コーン、カーン、コーン




モノクマ
「そろそろいいかな?もう限界だから、もういいよね?
 ってなわけで、捜査時間しゅーりょー!オマエラは至急、一階のフロントまでお集まりください。
 うぷぷ。やっと、やっとだよ。ワックワクドッキドキの、学級裁判の時間だよ!」




――本日はここまで。


――永らくお待たせしました。次回、いよいよ学級裁判です。お楽しみに。


――……、はい、ヤンデレCD Re:birthの発売までに一章を終わらせるなんてナマいって申し訳ございませんでした。
  捜査編も土日にまとめるとか嘘いってゴメンナサイ。


――V3発売までには一章終わらせますんで、勘弁してください……。


――ともあれ、いよいよ本日、待望のヤンデレCD Re:birthが発売されます。当然ながら予約はしましたよね?


――そしてNEWダンガンロンパV3も体験版が出ております。勿論プレイしていますよね?


――まだという方は今すぐ公式サイトをチェックしろや……、おっと、失礼。


――それでは皆様、よいヤンデレライフ、よいダンガンロンパライフを。




ユーミア
「いよいよ、なんですね」


ノノハラ ナギサ
「……お兄ちゃん、あたし、怖いよ……」


ノノハラ レイ
「ごちそうさま。……大丈夫大丈夫。ボクに任せてくれればあっという間だって」


オモヒト コウ
「……随分と余裕なんだな」


ノノハラ レイ
「当然。ボクは犯人じゃない、ってことぐらい、ボクが一番よぉくわかってるからね」


オモヒト コウ
「……そうかよ」


ノノハラ レイ
「さ、行こっか。一階のフロント集合らしいけど、会場まで案内してくれるのかな?」



 あのモノクマがそんな殊勝なことするのか?
 何となく嫌な予感がするが、とりあえず一階のフロントに向かった。





モノクマ
「うぷぷ。さてさて、全員集まったみたいですね!」



 俺達を呼び出した張本人は、初日のようにカウンターにちょこんと座っていた。
 何も知らないものから見れば愛らしいしぐさが、途轍もなく憎たらしい。



サクラノミヤ アリス
「ねぇちょっと。まさかとは思うけど、ここで議論しろ、なんていうんじゃないでしょうね?
 あたしは嫌だからね、こんなところで長々と裁判なんて」


モノクマ
「まぁまぁそう焦らない焦らない。ちょっとそこから二歩左に動いてね」


サクラノミヤ アリス
「はぁ?何でよ」


モノクマ
「いーからいーから。そーそー、ちょっとじっとしててね。
 じゃぁ次、桜ノ宮慧梨主さん五歩後ろに下がって、増田勇クン三歩右に、柏木園子さん一歩前、
 七宮伊織さん右斜め後ろに30㎝、野々原渚さん前に四歩、主人公クン六歩左、梅園穫クン前斜め左に20インチ、
 河本綾瀬さん前へ七歩、小鳥遊夢見さん十歩右に。呼ばれなかった人はその場を動かないように」



 口々に文句を垂れながら渋々、モノクマの言うとおりに移動する。
 俺は六歩左、だったな。





サクラノミヤ アリス
「ほら、移動したわよ。で、これからどうするの?」


モノクマ
「うぷぷ……、それはね、こうするんだよ!」



 大きな赤いボタンがモノクマの足元にせりあがってきて、モノクマはいつの間にか持っていた木槌でそのボタンを押す。



――ガコン!



ノノハラ レイ
「えっ――」



 澪が消えた。
 いや、正確に言えば某「細かすぎて伝わらないモノマネ選手権」のように、床が開いて落とし穴に落ちた、と言うべきだろう。





ノノハラ ナギサ
「お兄ちゃん!?待っ――」


コウモト アヤセ
「モノクマ!澪をどこに――」


カシワギ ソノコ
「ひっ――」



 続々と足元のおよそ1m四方が開いて、落とし穴に飲まれていく。



サクラノミヤ アリス
「ちょっと、これどういう――」


サクラノミヤ エリス
「お、お姉さま?!――きゃぁっ!」


ウメゾノ ミノル
「ちょ、おま――」


マスタ イサム
「……マジか――」


ユーミア
「安全面に対する配慮はされているようですから、きっとだいじょ――」


アサクラ トモエ
「これっぽっちも安心できないよっ――」


ナナ
「きゃー♪」


ノノ
「わーい♪」


タカナシ ユメミ
「お兄ちゃん、一緒に――」


ナナミヤ イオリ
「これも神のお導きなら――」


オモヒト コウ
「俺が最後かよっ――」



 この頃嫌な予感的中してばっかだな、おい!




 一瞬の落下の後に待ち構えていたのは、どうやら長い滑り台らしい。


 尻もちをついたと思ったら前へ滑り落ちている感覚と共に、俺が落ちた穴から漏れる光が遠ざかっている。


 ほんの数秒で光は見えなくなり、ただひたすらに闇の中を加速しながら滑っていく。


 顔に受ける風が一層冷たくなり、肌を刺す。地下深くへと潜っていくにつれ冷気が増しているのだろう。


 だが、俺を襲う悪寒は、この震えは、そんな外因的なものではない。


 これからの学級裁判で、また誰かが死ななければならない。


 咲夜を殺した犯人か、残る俺達全員か。欺き切れなかったクロか、見破れなかったシロか。


 俺は死ぬつもりもないし、咲夜を殺したクロを許すつもりもない。


 かといって、クロに死んでほしいわけでもないんだ。もう目の前で人が死ぬのはたくさんなんだ。


 目の前に光が見える。きっと裁判の会場が近いのだろう。


 とうとう始まってしまう。命懸けの裁判が……。


 命の奪い合い、殺し合いの縮図。


 命懸けの、学級裁判。





   学 級 裁 判


     開 廷 






モノクマ
「オマエラようこそ、ここが学級裁判場だよ!目の前にある席が各個人の席になるから、さっさと着いてね」



 木製の証言台でできた巨大な十六角形。俺の目の前にあるその一辺が俺の席、ということか。



ノノハラ レイ
「随分と金のかかることを……」


ノノハラ ナギサ
「あ、お兄ちゃんの隣だ」


コウモト アヤセ
「私の席は……、ここね」


カシワギ ソノコ
「……」


ウメゾノ ミノル
「ズボンは擦り切れるわ焼けるように熱いわで踏んだり蹴ったりだよ……」


サクラノミヤ エリス
「大丈夫ですかお兄さま……?」


サクラノミヤ アリス
「どうせ平気だろうから放っておきなさい」


アサクラ トモエ
「うぅ……、お尻打ったぁ……」


ユーミア
「シップでも貼れば治りますよ」


マスタ イサム
「……古風な裁判場か、悪趣味だな」


ナナミヤ イオリ
「神よ……」


ナナ
「さっきの楽しかったからもう一度やってみたいわ」


ノノ
「どうやって登るのかなー?」


タカナシ ユメミ
「何であたしの席がお兄ちゃんから遠いのよっ!」



 全員が指定された席に着く。


 俺の右隣に伊織、左隣にナナ、そこから時計回りにノノ、ユーミア、増田、朝倉、夢見、河本、澪、渚、柏木、慧梨主、梅園、亜梨主と続く。


 そして――。





オモヒト コウ
「……モノクマ、聞きたいことがある」


モノクマ
「はい、何かな?言っておくけど、ボクはあくまでも裁判長として公平に審判を下す側だから――」


オモヒト コウ
「あれは一体どういうことだ」



 伊織と亜梨主の間。恐らくは咲夜の席であろう場所には、既に咲夜の遺影が佇んでいた。
 墓標のように立っているそれは、生前の咲夜の顔を塗りつぶすように、血と同じ色のペンキで大きく×が描かれている。



モノクマ
「ヒトの、じゃなくてクマのセリフに被せないでよ……。
 一人だけ除け者なんてかわいそうでしょ?仲間の絆は生死を飛び越えるんだよ!
 ま、オマエラの間に絆なんてあってなかったみたいなものだけどね!」


オモヒト コウ
「もういいわかった。さっさと始めよう」



 澪の真後ろにある玉座の様な席にちょこんと座り、俺たちを見下すモノクマに軽い殺意を覚えるが、今は裁判に集中するんだ。
 でないと俺たちは……!



モノクマ
「まずは、学級裁判の簡単な説明をしましょう。学級裁判では誰が犯人かを議論し、その結果はオマエラの投票により決定されます。
 正しいクロを指摘できればクロだけがおしおきされますが……。
 もし間違った人物をクロとした場合は、クロ以外の全員がおしおきされ、みんなを欺いたクロだけが晴れてこのホテルから脱出する権利が与えられます!」


ノノハラ レイ
「ねぇ。最初に聞いておきたいんだけど、モノクマはクロが誰なのか本当にちゃんとわかってるんだろうね?」


モノクマ
「当然です!そのためにカメラを設置したんだからね!」


ノノハラ レイ
「ふーん。で、その情報をもとに作られたのがモノクマファイル、と。
 ってことはだ、モノクマファイルの記載に嘘はない、そう信じていいんだよね?」


モノクマ
「勿論です。でないと、ゲームが成り立ちませんからね!」


オモヒト コウ
「ゲーム……、だと?」


マスタ イサム
「――よせ。その憤りは分かるがこのナマモノの言葉に一々目くじら立ててたら気が持たないぞ」


モノクマ
「ナマモノとは失敬な!」


オモヒト コウ
「……解ってる。待つさ、コイツをぶちのめすその時をな」


モノクマ
「おぉ怖い怖い。……さて、そろそろ前置きはこの辺にしておいて、さっそく議論に移ってもらいましょうか!」





マスタ イサム
「まず議論するべきなのは……、何で被害者はキッチンで殺されたのかってことだな」


ウメゾノ ミノル
「他にも議論するべき謎は山積みだ。現場然り、被害者や犯人の行動然り、脅迫状然り……」


ノノハラ レイ
「一つ一つ検証していけば、きっと答えは見えてくるはずだよ。
 ボクらなら、それが出来るはずなんだ。皆も気になることがあったら、逐一発言してほしいな」



 積極的に議論に参加して気付いたことや怪しい点はすぐに指摘できるようにしないと……。
 失敗は絶対に許されない……。
 答えを間違えたら……、俺たちが終わってしまう……!





――議論開始――


|現場の毛>
|モノクマファイル01>
|モノクマの証言>


マスタ イサム
「被害者……、綾小路咲夜は何でキッチンなんかに行ったんだ?」


ウメゾノ ミノル
「普通に考えたら文書で呼び出されたから……、なんだけど」


ノノハラ レイ
「あんな脅迫状見た後で、こんな怪しい文面の、おまけに筆跡が解らないワープロ書きの文書を読んでおめおめと来るか、って話だよね」


コウモト アヤセ
「そもそも、その文書は誰が書いたの?って、まず犯人なんだろうけど」


ノノハラ ナギサ
「その犯人が分からないから困ってるんじゃない……」


アサクラ トモエ
「キッチンの状況から見て、被害者がそこで殺されたのは間違いないと思うけど……」


ユーミア
「お嬢様のご遺体を調べましたが……、引き摺られたようなあとは見受けられませんでしたね」


サクラノミヤ アリス
「それじゃなに?自室で殺された後運ばれたわけでもなくって、単に殺されに行ったって言うの?」


サクラノミヤ エリス
「でも、本当に書いてあることを信じてキッチンに行ったのかもしれませんよ?
 その、【綾小路さんは丸腰だった】わけですから」



 ……一つの証拠では何の意味もないが、複数組み合わせると答えが見えてくる。
 咲夜が、ただの被害者ではないという証拠が。




サクラノミヤ エリス
「【綾小路さんは丸腰だった】わけですから」

 |現場の毛>

  |綾小路咲夜の部屋>


―BREAK!!!―





オモヒト コウ
「……咲夜は別に丸腰だったわけじゃないんだ」


サクラノミヤ エリス
「えっ?」


ノノハラ レイ
「現場にね、ドーベルマンの毛が落ちてたんだよ。
 ついでに、食糧庫と咲夜さんの部屋の風呂場の排水口にもね」


ナナ
「あのワンちゃん、かわいそうだったわね」


ノノ
「しょーきゃくろに入れられてたんだよね」


オモヒト コウ
「恐らく、あの犬は咲夜に支給された凶器だったんだろう。
 咲夜の部屋を調べてみたが、他に凶器になるようなものはなかった。
 あの犬がこの近くに棲んでいる野生動物とも考えにくいしな」


ウメゾノ ミノル
「こんな雪山に野生のドーベルマンって言うのもおかしな話だよね。
 でもそんなのあり?凶器が犬ってさ」


モノクマ
「ま、実際その通りですからね。
 綾小路咲夜さんに支給した極上の凶器は、軍用犬オルトロス!綾小路咲夜さん自慢のペットだよ!」


ノノハラ レイ
「へぇ……、あの犬軍用犬だったんだ。
 ってことはさ、その首の骨を折った人間がこの中にいるってことだよね。ヤバくない?」


オモヒト コウ
「その通りだが、一先ずそれは置いておこう。とにかく、咲夜はそのオルトロスを連れてキッチンに行ったはずなんだよ」


ナナミヤ イオリ
「ということは……、綾小路さんは護身用にその犬を連れて行った、ということでしょうか?」


タカナシ ユメミ
「犯人を返り討ちにするつもりだったんじゃない?
 あわよくばそれを利用して自分だけ助かろうとしてたとか」


ノノハラ レイ
「……それどころか、ただの被害者じゃない可能性が出てきてるんだよね」


ノノハラ ナギサ
「えっ、どういうこと?」




オモヒト コウ
「……この文書を書いたのが咲夜だから、だろ?」


タカナシ ユメミ
「なんでそんなことが分かるのお兄ちゃん?」



 その根拠は……。



 |パソコンの履歴>



 これだ!



オモヒト コウ
「澪に、ロビーにあるパソコンの使用履歴を調べてもらったんだ。
 すると、ID番号KGM-79-1002の人間が、そのパソコンを使って五枚印刷していることが分かった。
 この文書を編集した痕跡も残っていたよ」


ノノハラ レイ
「問題なのは、このIDは誰のものなのかってことなんだけど、考えてみれば簡単なことなんだよね」


コウモト アヤセ
「何か法則でもあるって事?」


ノノハラ レイ
「法則ってわけでもないよ。
 IDの下二桁が02になってるけど、これって出席番号なんじゃないかって」


ノノハラ ナギサ
「出席番号……?」


ノノハラ レイ
「公の番号は04。ボクら16人を五十音順に並べると公は前から四番目。
 逆説的に考えれば、五十音順の前から二番目の人が02なんじゃないかってさ」


アサクラ トモエ
「あ、確かにそうかも。ボクのIDは最後が01だし、五十音順ならボクが最初だ!
 ……あれ、ってことは」


ナナミヤ イオリ
「綾小路さん、ですか」


オモヒト コウ
「あぁ。恐らくKGM-79-1002は咲夜のIDなんだ」





ユーミア
「お待ちください」


タカナシ ユメミ
「何よ!お兄ちゃんの推理に間違いがあるっていうの?!」


ユーミア
「主人さんの推理通りでは、五十音順で最後になるユーミアのIDはKGM-79-1016、ということになりますよね?」


オモヒト コウ
「そうだが……、違うのか?」


ユーミア
「はい。使用履歴をご覧になったのなら、KGM-79-1010が使用していることもご存知でしょう?
 ユーミアは一度、そのパソコンを使って外部との連絡がつかないかどうか、プログラミングを敢行したことがあります」


オモヒト コウ
「まさか……」


ユーミア
「御察しの通り、それはユーミアのIDです。
 よって、その推理は成り立たないことになります」





ノノハラ レイ
「うん、そうだね。その通りだ。普通なら」


ユーミア
「まるで普通ではないような口ぶりですね」


ノノハラ レイ
「出席番号14であるボクのIDはKGM-79-100E。
 プログラミングを嗜むほど完全で瀟洒なメイドさんなら、これが何を意味するのかも分かるよね?」


ユーミア
「……なるほど。そういう事でしたか」


オモヒト コウ
「お、おい、何二人で納得してるんだ」


ウメゾノ ミノル
「もっと皆に解るように説明してよ!」


ノノハラ レイ
「簡単に言えばね、この出席番号は十六進数表記だったってことだよ。
 難しいことは省略するけど、十進数における10から15までを、AからFで表すんだ。
 つまり、0からFまでの十六個の数字を一桁として扱う。それが十六進数」


ユーミア
「十進法における16は、十六進法においては10になります。
 主人さんの推理は間違いではなかった、ということですね」


ノノハラ ナギサ
「そっか。変な感じだと思ったんだけど、そういう意味だったんだ」


ナナ
「どうしてそんなまぎらわしいことをするのかしら」


ノノ
「ふつーの数でいいのに」


ノノハラ レイ
「一般的にはそうかもしれないけど、それを必要としている人もいるのさ。
 ま、モノクマのことだから、ボクらが丁度十六人だから、みたいな適当な理由で割り振ったのかもしれないけど」


モノクマ
「うぷぷ……。そうだね、特にこれと言って意味はないけど……、ううん、これ以上は関係ないことだね!
 早いトコ本題に戻ってちょうだいな!」





オモヒト コウ
「無理やり閑話休題した感じがするが……、まあいいだろう。俺の推理を要約するぞ。
 おそらく、オルトロスを凶器として支給された咲夜は、計画実行まで風呂場に匿っていたんだろう。
 そして昨日のうちにあの文書をパソコンで編集して印刷し、消灯時間になってから何人かに配った。
 事件当時、咲夜は文書を受け取ってキッチンにやってきた人間を待ち伏せしていたんだろうな。
 隙を見て食糧庫に待機させていたオルトロスをけしかけ、殺害するつもりだったんだ」


ノノハラ レイ
「ところが肝心のオルトロスが首の骨を折られ殺されてしまった。
 そして咲夜さんも包丁で刺殺された、と」


ウメゾノ ミノル
「えーっと、つまり……、どういうことだってばよ?」


オモヒト コウ
「これまでの議論で出てきた証拠は、全て咲夜の犯行を裏付けるもの。
 咲夜はただの被害者じゃなくて、誰かを殺そうとした加害者でもあったんだ」


ノノハラ レイ
「逆説的に言えば、咲夜さんを殺した犯人に繋がる手がかりが出ていないって事さ」


ウメゾノ ミノル
「……それってだいぶヤバくね?」


サクラノミヤ アリス
「ヤバイどころじゃないじゃない!下手したら犯人を追い詰める証拠がないって事でしょ?!」


ノノハラ レイ
「そう……。今回の事件は咲夜さん主体で起きてしまって、犯人はその計画に巻き込まれる形で乗っ取ってしまった。
 だから、犯人の行動を示す証拠は基本的に咲夜さんにたどり着いてしまうんだよ」





サクラノミヤ エリス
「そ……、そんなことって……!」


タカナシ ユメミ
「じゃぁ、あの脅迫状もあの女が書いたのね……!」


ユーミア
「あれは食堂のテーブルに書かれたもので、書くタイミングは雪かきで外に出ている間。
 咲夜様は途中からホテルに戻っていますから、確かにアリバイはありませんね」


オモヒト コウ
「……いや、俺にはあれが咲夜の書いたものとは思えないんだ」


ナナミヤ イオリ
「それは何故……?」


オモヒト コウ
「何度か咲夜の書いた字を見たことがあるが……、あれは咲夜の字ではないように思えるんだ。
 もちろん、俺には筆跡鑑定の心得なんてないから、信憑性はないかもしれないが」


ノノハラ レイ
「随分と咲夜さんに肩入れするんだね。殺人の口火を切ったのは咲夜さんだっていうのに」


オモヒト コウ
「咲夜を責めるつもりはないよ。咲夜は追いつめられていたんだ。
 それこそ、誰かを殺してでもここから脱出しようと思うほどな」





サクラノミヤ アリス
「だからこそ脅迫状を書いたんじゃないの?」


ウメゾノ ミノル
「えー、でもわざわざ人殺しを予告なんてするかなぁ?止めてくれっていてるようなものじゃんか」


サクラノミヤ アリス
「あんたが言ったんでしょ。事件が起こるのは日付が変わってからだって。
 予告よりも早く殺人が起きるなんて思わないだろうし、その目くらましの為よ」


オモヒト コウ
「だったらあの文書を配らなくたって、直接ターゲットの部屋に向かえばいい。
 わざわざ見つかるリスクを背負ってまでキッチンに呼び出す必要はないだろう」


ノノハラ レイ
「キミの言う通り咲夜さんが書いた物でないとすると……、次に怪しいのはキミになっちゃうよ、公?」


タカナシ ユメミ
「そこでなんでお兄ちゃんが出てくるのよ!」


ノノハラ レイ
「咲夜さんをホテルまで運んだのが大体14時ごろ。ボクらが雪かきを終えてホテルに戻ったのが17時20分。
 あのペンキ、三時間もあれば乾くから、咲夜さんを部屋に入れるついでに脅迫状を書いて、何食わぬ顔で戻れば犯行は可能だよね」





オモヒト コウ
「……俺に罪を擦り付けて混乱させようとしたようだが、どうやら墓穴を掘ったらしいな、澪」


ノノハラ レイ
「……」


ノノハラ ナギサ
「ど、どういう意味?!」


コウモト アヤセ
「まさか、澪があれを書いたって言うの?
 澪は手を怪我して、オキシドールを取りに行ったあの時以外一度もホテルに戻ってないじゃない」


ノノハラ ナギサ
「お兄ちゃんがもう一度外に出るまでほんの十五分足らずだっていうのに、それまでにペンキを完全に乾かすことなんてできないでしょ?!」


オモヒト コウ
「じゃぁ聞くが、どうして澪はペンキが乾くまでの時間を知っているんだ?
 あのペンキ缶には、そんなことどこにも書いていないのに」


ノノハラ ナギサ
「えっ……?!」


コウモト アヤセ
「あぁっ?!」


オモヒト コウ
「澪、お前があのペンキであの脅迫状を書いたんだろ?だから乾くまでの時間を知っていたんだ。違うか?」




ノノハラ レイ
「失言だったかな。でもさ、それはボクがあの時あの脅迫状を書くことが出来た証明にはならないよね。
 三時間もあれば乾くってことは、逆説的にいえば十五分かそこらじゃ乾かないってことになるわけだ。
 変則的なアリバイになるわけだけど、これを突破しない限りボクを犯人と決めつけるのは早計だと思うね」


オモヒト コウ
「確かにその通りだが……、その不可能を可能にする方法があるとすれば、どうだ?」


ノノハラ レイ
「大変興味深いね。ぜひともご教授願いたいな」



 ……おそらくは、言われてみれば納得するような、単純な方法だ。
 一気にこなそうとするから難しいのなら、それを分割すればいい。




 Q1:野々原澪が昨日の夕方に行ったこととは?


    A:脅迫状を書いた B:テーブルクロスを取り払った C:テーブルクロスを取り払い、脅迫状を書いた


 Q2:野々原澪がペンキを使って脅迫状を書いたのはいつ?


    A:一昨日の夜 B:昨日の朝 C:昨日の夕方







           A1:B


           A2:A




―BREAK!!―




オモヒト コウ
「澪、お前が昨日、オキシドールを取りに部屋に戻った時やったのは、テーブルクロスを取り払うことだけだったんだよな?
 お前があの脅迫状を書いたのはそれよりもずっと前、恐らくは一昨日の夜、学級裁判が終わってあの映像がメールで送られた後なんだから」


ノノハラ レイ
「……」


オモヒト コウ
「だんまりってことは図星みたいだな」


マスタ イサム
「……そうか、だからあの色のペンキを選んだのか」


アサクラ トモエ
「どういう事?」


マスタ イサム
「本来なら目立つ色で描かなきゃ脅迫の意味が無いが、そのトリックを使うならむしろ目立つ色で描いちゃまずいんだよ。
 テーブルクロスは白だから、何かの拍子で透けて見えるかもしれないだろ?もしそうなったら、せっかくのトリックが台無しだ。
 あらかじめ脅迫文が書いてあったとわかれば、アリバイ工作の意味が無くなるからな」


アサクラ トモエ
「あ、そっか。もし透けてしまっても気づかれないように、わざと目立たない色にしたんだ」



オモヒト コウ
「そう……。お前はアリバイを作る絶好のチャンスを待っていたんだろ?
 ペンキが乾きさえすれば、あとはテーブルクロスを取り払えばいいだけなんだからな。
 だから雪かきをしようなんて言い出して、俺たちを外に出そうとしたんだ。自分のアリバイを証明してもらうためにな。
 日付を指定しなかったのも、自分のアリバイが完全なものになる絶好のタイミングを狙えるようにするためなんだろ?」





ノノハラ レイ
「……くれぐれも勘違いしないでほしいんだけど、ボクは決して人殺しをするためにあれを書いたわけじゃないんだよ」


タカナシ ユメミ
「今更誰が信じるのよそんな言葉!」


ノノハラ レイ
「梅園クンも言ったけど、もしボクが本当に誰かを殺すつもりなら、何も言わず黙って殺すよ。脅迫状なんて書かずにね」


ナナミヤ イオリ
「では一体何故あんなものを書いたんですか?」


ノノハラ レイ
「脅迫状をみんなの前に出せば、誰かが殺し合いを阻止しようと全員で行動するよう提案すると思ってさ」


ユーミア
「……つまりはマッチポンプだったと?」


ノノハラ レイ
「その通りだよ。前の学級裁判からボクのスタンスは変わってない。
 ボクはここでの生活を受け入れてはいるけど、殺し合いがしたいわけじゃないから」




    学 級 裁 判


      中 断






モノクマ
「さぁさぁ、学級裁判も盛り上がりを見せております!
 例によって予告よりも大幅に遅刻しちゃってるけど、そこは大目に見てやってちょーだいな!
 いよいよ綾小路咲夜さんを殺した犯人が明らかになっちゃうよ!さぁて、誰かな誰かな~?
 答えはCMの後っ!」




  学 級 裁 判



    再 開







オモヒト コウ
「……随分とあっさり認めるんだな」


ノノハラ レイ
「裁判が長引くのは好きじゃないし、さっきから言ってるようにボクはクロじゃない。
 その証明のためにも、事実は事実として提示しなきゃ、クロの犯行を暴くことは出来ない。そうでしょ?」


オモヒト コウ
「それはそうだが……」



 それ以外の計算があるように見えるのは気のせいか……?






ノノハラ レイ
「公の推理通り、ボクは一昨日の夜……そうだな、大体23時50分ぐらいに倉庫に行ってペンキを手にした後、テーブルクロスを取り払って脅迫状を書いた。
 で、ペンキが乾いてからテーブルクロスをかけなおして部屋に戻った。寝不足だったのはこれの所為でもあるんだよ」


オモヒト コウ
「つまりお前は、あの動機のビデオを見た後で、一連の工作を行ったって言うのか?」


ノノハラ レイ
「そ。構想そのものは以前の学級裁判の前からあったんだけどね。
 それをいつ実行に移すかを考えていたんだけど、動機のビデオが配信されたのを見てこれはもうこのタイミングしかないなと思って」


ナナミヤ イオリ
「口では適応するべきなんて言っておきながら、随分と殺し合いに肯定的なんですね」


ノノハラ レイ
「モノクマのちょっかいを警戒、予見して、いち早くそれを防ぐために行動したっていうのにその言い方はあんまりなんじゃないかな」


マスタ イサム
「防ぐにしたって、やり方ってものがあるだろ。
 綾小路一人に疑いがかかるようにしたり、その前からずっと綾小路を首謀者として一方的に疑うなんて、それこそあんまりだ」


コウモト アヤセ
「あれはいくらなんでもやりすぎよね。私でもそう思ったもの」


ノノハラ レイ
「殺し合いを防ぐためには仕方のないことだったんだよ。
 皆からのボクの印象を悪くしてでも、咲夜さんの感情を無視してでも、ね」


オモヒト コウ
「どういうことだ?」


ノノハラ レイ
「いくらボクでも、ボク自身を含めたここにいる十六人全員の動向に目を光らせ、命を守るよう行動することなんて無理がありすぎるでしょ?
 そんなことできるのは神様ぐらいなものなんだからさ」


ナナミヤ イオリ
「……っ」






ノノハラ レイ
「だから一方的に咲夜さんを黒幕と疑ってかかることで、ヘイトをボクと咲夜さんに集めたかったんだ。
 そうすれば、殺し合いを防ぐためにボクが注意しておくべきなのは、ボク自身に降りかかる身の危険と、咲夜さんの周囲だけでいい。
 それなら、結局のところただの一般人でしかないボクでもなんとかなると思ってさ」


オモヒト コウ
「……それがどれだけ咲夜を苦しめてきたか分かってるのか?」


ノノハラ レイ
「ボクだって好きでやってるわけじゃないんだってば。
 こう見えても、結構心苦しかったんだよ?咲夜さんを追い詰めてるときはさ」


タカナシ ユメミ
「どうだか。相当ノリノリだったように見えたけど?
 白状しなさいよ。あの女を殺したのはアンタなんでしょ?」


ノノハラ レイ
「証拠も無しに食って掛かるのは感心しないけど……。
 そうだね、議論を進めるためにも白状しちゃおっかな」


ノノハラ ナギサ
「う、嘘だよね。お兄ちゃんが犯人だなんて……」


ノノハラ レイ
「焦らない焦らない。誓ってボクはクロじゃないから。
 ……実を言うとね、あるんだ。決定的な証拠。クロの行動につながる、重要な手がかりが」



 澪はコートの懐から、折りたたまれた紙を取り出し、ゆっくりと広げた。





ノノハラ レイ
「ついでに、咲夜さんの直筆サイン入り。公なら筆跡で何となくわかるんじゃないかな」


オモヒト コウ
「……そう、だな。確かにこれは咲夜の字だ。何で今まで黙ってたんだよ」


ノノハラ レイ
「だってさぁ、こんなのだしたらボクが疑われちゃうじゃん。
 いや、ボクも最初は出そう出そうと思ってたんだけどね、タイミング逃しちゃった」


タカナシ ユメミ
「ほら見なさいよ、やっぱりあんたが犯人なんじゃない。
 これの通りキッチンにやってきて、殺されかかったから殺し返したんでしょ」


ノノハラ レイ
「それは違うよ。それに、ボクが言いたいのはそう言うことじゃなくて……。
 いいかい?咲夜さんはパソコンを使って文書を五枚印刷した。そして、そのうちの四枚の所在がこうして分かったわけだ」


タカナシ ユメミ
「それがどうしたって言うのよ!」


ノノハラ レイ
「解らないかなぁ。逆説的にいえば、まだ残り一枚の所在が分かっていないってこと。
 言い換えれば、この中にまだ一人、咲夜さんからの招待状を受け取っている人がいるってことだよ」


マスタ イサム
「……なるほどな。そいつがこの期に及んで名乗り出ていないなら、そいつがクロの可能性がある。そういう事か」


タカナシ ユメミ
「単に印刷ミスか何かで一枚余分に印刷しただけかもしれないじゃない」


ノノハラ レイ
「それならどこかにその余分な紙があるはずだよ?
 ……まぁ、焼却炉に入れられたって言うなら反論のしようがないんだけどさ。
 でも、印刷した五枚は全て誰かの手に渡っているだろうと考えられる根拠はちゃんとあるよ。四枚の文面を見比べてみればすぐに分かるさ」



 澪、渚、慧梨主、咲夜が持っていたものの文面で違っているものと言えば……。



   指定された場所
 |>指定された時間
   指定された運命



 これだ!



ノノハラ レイ
「はいこれ。咲夜さんが印刷した五枚の文書の内の一枚」

『ここでの生活について、貴方だけに大事な話があります。
 上手くいけばここから脱出できるかもしれません。手を貸してください。
 混乱を避けたいので、誰にも見つからないように二階のキッチンに来てください。
 時間は午後十一時五十分。時間厳守でお願いします』



――>>873>>874の順序が逆になっております。誠に申し訳ございません。




オモヒト コウ
「キッチンに来るよう指定した時間が違っているな。
 澪が十一時五十分、渚が零時十分、慧梨主が零時二十分、咲夜が零時半だ」


ノノハラ レイ
「そう。渚から十分刻みで集合時間がずらされているんだ。
 ってことはさ、ボクと渚の間――0時丁度に来るよう指定された人がいるって考えるのが妥当なんじゃないかな。
 で、その人が名乗り出ていないってことは、その人がクロである可能性は極めて高いよねぇ?
 こんな重要な証拠、自分の命がかかっているのに出し惜しみする意味が無いんだもん」


タカナシ ユメミ
「ふん……、それでもまだアンタが怪しいってことに変わりはないんだからね」


コウモト アヤセ
「……澪、ホントに大丈夫?私は澪を信じていいんだよね?」


ノノハラ レイ
「解ってるよ、大丈夫さ。ボクの無実は後でちゃんと示す。だから今は、黙ってボクを信じてくれない?」






ウメゾノ ミノル
「……あれ、そう言えばさっきからスルーしっ放しだけど、よく考えるとおかしくない?」


サクラノミヤ アリス
「何がよ。言っておくけど、しょうもないことだったら蹴り飛ばすからね?」


ウメゾノ ミノル
「いやさ、初めは綾小路さんがキッチンに来た理由はその文書を受け取ったからと解釈したけど、実際は彼女がその文書を受け取った人を殺す為だった。
 そこまでは分かるけど、それじゃどうして綾小路さんはわざわざ文面を変えた文書を一枚持っていたんだ?
 これじゃ自分で自分を呼び出したことになるじゃないか」


サクラノミヤ アリス
「そんなバカやらかすのはあんたくらいでしょ。馬鹿の上に忘れっぽいんだから」


ウメゾノ ミノル
「なんで僕がディスられてるの?!」


マスタ イサム
「おかしなことはまだある。
 そもそもどうして複数人を、時間をずらして呼びつけたのかってことだ」


ユーミア
「渚さんと慧梨主さんは、殺し合いを警戒してユーミアや亜梨主さんの部屋へ向かいましたが……。
 誘いに乗らず部屋に籠る人が出るのを見越したのでは?」


アサクラ トモエ
「それだと誰も来ないってこともあり得るでしょ。
 いや、誰も来ない方がまだましだよ。来るのが一人だけならその人を殺しておしまいだけど、二人以上同時に来たらどうするつもり?」


ユーミア
「その事態を避ける為に十分ずつずらしたのではありませんか?」


オモヒト コウ
「……本当にそれだけか?」



 澪が受け取った文書と他の三人が持っている文書、違っているのは時間指定だけじゃなくて……。



   宛先の有無
 |>サインの有無



 そうか!





オモヒト コウ
「澪が受け取った文書は指定された時間が一番早くて、更に咲夜直筆のサインもある。これが意味するのは――」


ノノハラ レイ
「咲夜さんの本命はボクだったってことだね。いやぁ、人気者は辛いなぁ」


コウモト アヤセ
「本命……?」



 ……やはり解っていたんだな。
 解っている上で、あえて解っていないようなふりをしているんだな。



オモヒト コウ
「……咲夜が本当に殺そうとしていたのは、澪だったってことだ。
 残り三人が来ようが来なかろうが関係なかったのさ」


ノノハラ ナギサ
「じゃぁあたし達に送られてきたのには何の意味があるの?」


サクラノミヤ エリス
「それに、綾小路さんが持っていた理由の説明がされていませんよね?」


オモヒト コウ
「指定された時間通りに来るとしたら、残る三人は澪よりも後から来ることになるだろ?
 咲夜の計画通りに事が進んでいたら、後から来た奴は澪の死体を目撃するわけだ」


ノノハラ レイ
「多分その中の誰かを犯人に仕立て上げるつもりで、事件の目撃者になろうとしたんだよ。
 予定より早く着たら殺害現場に居合わせた、咲夜さんの中ではそういうシナリオだったんじゃないかな」


マスタ イサム
「もし誰も来なかったらどうするつもりだったんだ?」


ノノハラ レイ
「その時はその時で、自分は部屋に籠っていたと印象付けられるんじゃない?
 あるいは、ボクを殺した後、ボクが元々持っていたものと交換して、死亡時刻を誤魔化そうとしたのかもね。
 0時30分にボクがキッチンに行ったと思わせて、その時間に誰かの部屋に行ってアリバイを確保すれば容疑から外される筈だし」


ウメゾノ ミノル
「そこまで考えてあったのか……。あれ、でもそれじゃあ――」


ノノハラ レイ
「三人のうち二人にはアリバイがあって犯行が不可能だった。
 ってことはまだ提出されていない一枚、午前零時丁度に来るよう指示している文書を受け取った人がクロなんだよ」


ウメゾノ ミノル
「何さらっと自分を容疑から外してるんだこの人?!」


タカナシ ユメミ
「そうよ!やっぱり一番怪しいのはあんたなんじゃない!」





ノノハラ ナギサ
「お兄ちゃんが犯人なわけないもん!」


コウモト アヤセ
「な、渚ちゃん?」


ノノハラ ナギサ
「お兄ちゃんの電子生徒手帳はあたしがずっと持ってた。その間お兄ちゃんは自分の部屋に入れないでしょ?
 でも今朝お兄ちゃんは部屋から出てきたじゃない!」


ユーミア
「確かに……、渚さんはユーミアと午前五時まで一緒でしたから、それまでは電子生徒手帳が澪さんの手にないということになりますね。
 あの時渚さんは電子生徒手帳を二つ持っていましたし、今思えば、あれが澪さんの電子生徒手帳だったんですね」


ノノハラ レイ
「良く言えたね渚、偉い偉い。
 ……部屋はオートロックで、渚がボクの電子生徒手帳を持っていたのなら、一度外に出てしまうと締め出される。
 すると五時間以上も暖房が切られた寒い廊下で過ごさなきゃいけないわけだ。消灯時間中は個室以外暖房を切られているからね」


ナナミヤ イオリ
「暖房が切られたからと言ってすぐに冷え込むわけでもないでしょう?」


ノノハラ レイ
「一昨日の夜も凄く寒かったから、ボクもコートを着込んで食堂に行ったんだけど。
 昨夜も同じだったんじゃないかな。咲夜さんだってコート着て来てたし。
 朝倉さんならわかるよね?キミも昨日は部屋から出たんだからさ」


マスタ イサム
「どういうことだ巴?」


アサクラ トモエ
「うぇっ?!……あー、その、昨日はちょっと怖くなっちゃったから先輩の部屋に行こうと思って……。
 確かに、あの時はすごく寒かったよ。あんな寒さの中で一晩過ごしてたら絶対体調崩すと思う。最悪凍死しちゃうよ」


ノノハラ レイ
「でもボクはご覧の通り健康だし、左手を怪我している以外は何処も異常はないよ。
 ちなみにさ、朝倉さんが部屋から出た十一時半ごろと零時半ごろの館内の気温を聞きたいなぁ、モノクマ?」





モノクマ
「えー、その時点だと−15℃だね。
 ちなみに、雪山で遭難した時に寝ると死ぬとかって言ってるけど、あれって起きてないと体温が下がり続けて起きれなくなるからなんだよね!
 ちなみに北海道では冬の夜ホームレスが寝ずに徘徊しているらしいけど、あれも凍死しないための知恵なんだってさ!
 あと、東京でもすごく寒い夜に酒に酔って公園のベンチなんかで寝て凍死、なんて例もあるからね!凍死は身近なんだよ!」


ノノハラ レイ
「聞いてもないトリビアをどうもありがとう。
 さて、これで解ったよね?鍵を持っていない状態で個室から出るのがどれだけ自殺行為かってことがさ」






ウメゾノ ミノル
「No es exacto」






ノノハラ レイ
「……あれ?ボク何か間違い言った?」


ウメゾノ ミノル
「まだ君が犯人だとは断言できないけど……。
 鍵を持っていなかったからって容疑から外すことはちょっとできないかな」


ノノハラ レイ
「ふぅん?反論するんだ。まぁ、いいけど。それじゃ公、対応よろしくね?」


オモヒト コウ
「何で俺が?!」


ノノハラ レイ
「何かボクが言っても聞く耳持ってくれなさそうだからさ、頑張って説得してよ」



 り、理不尽すぎる……!





――反論ショーダウン――


=|七宮伊織の証言>
=|柏木園子の証言>
=|パソコンの履歴>
=|電子生徒手帳>
=|焼却炉>



ウメゾノ ミノル
「部屋はオートロックで、事件当時野々原君は鍵を持っていなかった。
 だから一度部屋から出てしまったら入れなくなってしまう。それが事実だってことは認めるよ。
 けどだからって容疑から外すのはどうかと思う。寒さをしのぐ方法が他に無いわけじゃないわけだし」


オモヒト コウ
「自分の個室に戻らなくても寒さをしのぐ方法があるって言うのか?」


ウメゾノ ミノル
「例えば綾小路さんの電子生徒手帳を奪って、【綾小路さんの部屋】で過ごせば、後は五時以降に妹さんから自分の電子生徒手帳を受け取って部屋に戻ればいい。
 あるいは倉庫やロビー、自室のクローゼットから防寒着をありったけ用意して重ね着した後、
 食糧庫から固形燃料を拝借して焼却炉で返り血のついた服ごと燃やして【暖を取る】とか。
 ドアに何か挟んで【完全には閉まらないようにしておく】とか。
 最悪モノクマに【ドアを開けてもらう】とかさ、考えれば色々可能性はあるんじゃないか?」



 確かに、考えてみればいくらでも方法はあるんだろうが……。
 少なくとも一つ、俺の知っている情報だと不可能な方法があるな。




ウメゾノ ミノル
「例えば綾小路さんの電子生徒手帳を奪って、【綾小路さんの部屋】で過ごせば


 =|電子生徒手帳>


 その言葉、断ち切る!


 ―BREAK!!―





オモヒト コウ
「まず、咲夜の部屋に澪が入ることは不可能なんだ」


ウメゾノ ミノル
「あれぇ?」


オモヒト コウ
「個室に入るためには、電子生徒手帳を起動させる必要があるだろ?
 実は電子生徒手帳は犯人以外起動できないって言う隠れた機能があるんだ」


ウメゾノ ミノル
「本人認証システムがあったんだ……。全然気づかなかった」


サクラノミヤ エリス
「私も気づかなかったんですけど、お姉さまが操作時間中に綾小路さんの部屋に入ろうとしたとき、モノクマさんから直接聞いたので……」


サクラノミヤ アリス
「カッコつけて反論した割には、随分とショボいことしか言わないのね。おまけに見事に論破されてるし」


ウメゾノ ミノル
「ぐふぅ……。いや、でもまだ――」


アサクラ トモエ
「あんなに吹雪いてるのに外に出るなんてそれこそ自殺行為って言うか……。
 少しの間ならまだしも、一晩中は無理だと思うよ?扉を開けっぱなしにしてたら火が吹き消されちゃうだろうし」


ユーミア
「あれに開けてもらうというのも……。どれだけ頼んでも聞く耳を持ってくれなさそうですし……」


モノクマ
「オートロックで締め出されようが自業自得だからね!
 昼間ならまぁ最初の一回は許すけど、消灯時間中は絶対に開けてあげないもんね!ボクだって寝るときは寝たいんだぞ!
 後、聞かれなかったから言わないでおいたけど、消灯時間中は一定時間以上個室のドアを開けっぱなしにするとブザーが鳴るよう設定してあるんだからね!
 暖房代がもったいないから!」


ウメゾノ ミノル
「もうやめてぇー…。僕の発言力(ライフ)はもうゼロよぉー…」





ノノハラ レイ
「説得ありがとうね公。さて、これでボクはクロでないと証明された――」


オモヒト コウ
「俺はお前がクロだとは思っていないさ。
 だがな、お前の真意が殺し合いを防ぐことなら、咲夜が誰かを殺そうと動くときそれを止めるためにお前も動かなければならない。
 それに、さっきの咲夜がコートを着てキッチンに来たっていう発言は、まるでそこに居て、実際に見てきたみたいな口ぶりじゃないか」


ノノハラ レイ
「……まどろっこしい言い方はよしなよ。キミは何を言おうとしているんだい?」


オモヒト コウ
「お前は咲夜の誘いに乗ってキッチンに行った、そう考えるのが妥当だ」


ノノハラ レイ
「キミが何をどう推理しようとキミの勝手だけど、オートロックを何とかする方法を考えないと、それが事実とは言えないよねぇ?」


ノノハラ ナギサ
「そ、そうだよ!お兄ちゃんには綾小路さんを殺すことなんてできないんだから!」


ノノ
「本当にそうなのかな?」


ナナ
「ウソを言ってないだけで、本当のことも言ってないんじゃないかしら?」





――議論開始――


|野々原澪の証言>
|文書>
|包丁差し>
|血の足跡>
|現場の毛>



ノノハラ レイ
「ボクが昨夜外に出たというなら、一体どうやってオートロックのドアを鍵無しで開けられるのかな?」


アサクラ トモエ
「実はその個室だけ【オートロックの装置が壊れていた】とか?」
                  それは流石に修理してもらうんじゃない?>綾瀬

タカナシ ユメミ
「実は【共犯者】がいて、中から鍵を開けたのよ!」
        共犯者も主犯と一緒に脱出できるのなら可能性はありますが……>伊織

サクラノミヤ エリス
「そもそも……、オートロックってどんな仕組みなんでしょうか?」
                          そこから?>亜梨主

ウメゾノ ミノル
「一般的なホテルのドアって、個室の中と外とでドアノブの高さが違うんだよ。
 個室の内側のドアノブは普通に回るんだけど、外側――つまり廊下側のドアノブは鍵がないと回らないんだ」


サクラノミヤ アリス
「ドアノブが回らなければドアが開くことはないってわけね。
 じゃぁ話は簡単じゃない。【廊下側のドアノブを回さなくてもドアを開ける方法】を考えればいいのよ」
                        それが解れば苦労しないよ……>穫

ユーミア
「デッドボルトで制御するオートロックもあると思いますが」
                  デッドボルトって?>渚
                 鍵をかけた時に出るでっぱりのことだよ>澪

ウメゾノ ミノル
「あるにはあるよ。ドアノブを一時的に動かすよりも電力使うから、ドアからコード伸ばして電力を確保しなきゃいけな                        そんなコードあったっけ?>ノノ

マスタ イサム
「デッドボルトを出したりひっこめたりするのを電動でするとなると、それなりに大きなモーター音もするはずだよな」
                 ガチャって音はモーター音になるのかしら?>ナナ

ユーミア
「となるとやはり何らかの方法で【ラッチボルトを引っ込んだままにした】のでしょうか?」
                 ラッチボルトって?>渚
             ドアノブを回した時に引っ込むでっばりのことだよ>澪


 ……そうか。
 澪の部屋を調べた俺だけが知っている情報をもとに考えれば、これで澪のアリバイは崩れることになる。
 でもそうするよう仕向けたのは澪なんだよな。ならこの結論も澪の想定通りなんじゃ……。
 いや、考えても仕方がない。とにかく、今は議論に集中するんだ!





サクラノミヤ アリス
「【廊下側のドアノブの回さなくてもドアを開ける方法】を考えればいいのよ」



|【ラッチボルトを引っ込んだままにした】>




 その言葉の通りだ!

 

-BREAK!!-





オモヒト コウ
「ラッチボルトを引っ込んだままにすれば、ドアノブが回らなくてもドアは開くよな?」


ユーミア
「それはそうですが……」


サクラノミヤ アリス
「言ったあたしが言うのもあれだけど、本当にそんな方法あるわけ?」



 俺にはわかる。澪がラッチボルトを引っ込んだままにした方法、それは……。



|モノクマステッカー>



 これだ!






オモヒト コウ
「内側のドアノブを回したまま、引っ込んだラッチボルトの上にモノクマステッカーを張れば、
 ドアノブから手を離してもラッチボルトはモノクマステッカーに抑えられて出てこれない。
 一度貼ればなかなか剥がれないほど強い粘着力なら、充分に抑えられるはずだ。
 部屋に入った後は剥がして捨てればいい。ドライヤーの温風を当てれば剥がせるといったのは澪自身だしな。
 その証拠に、澪の部屋のゴミ箱にはくしゃくしゃになったモノクマステッカーがあったし、
 ラッチボルトの周りにはそのモノクマステッカーと同じような形の跡があったんだ」


ウメゾノ ミノル
「ってことはつまり……」


マスタ イサム
「オートロックがあっても部屋に入ることが出来るってわけだな。
 多少ラッチボルトがせり出していたとしても、ストライクに引っかかる部分が少ししかないなら、強引に開けることも可能だろう」


タカナシ ユメミ
「どうなのよ。反論があるなら言ってみなさいよ!」


ノノハラ レイ
「反論、ねぇ……?」





ノノハラ レイ
「ま、実際その通りなんだけど」


コウモト アヤセ
「れ、澪?!」


ノノハラ ナギサ
「お兄ちゃん?!」


オモヒト コウ
「……随分あっさり認めるんだな」


ノノハラ レイ
「認めるも何も、別にボクはオートロックをどうにかしないと外に出た後部屋に入れないって言っただけで。
 実際に外に出てないなんて言った覚えはないよ?なんならバックログ見る?」


タカナシ ユメミ
「開き直ってるんじゃないわよ!結局あんたが犯人なんじゃない!」


ノノハラ レイ
「待ってよ。咲夜さんの呼び出しに応じて、キッチンまで行った。
 それは事実だけど、ボクはクロじゃないんだって」





タカナシ ユメミ
「そんな言い訳信じられるわけないじゃない!」


ナナミヤ イオリ
「それ以上偽りを重ねるなら……、神罰が下るわ」


コウモト アヤセ
「嘘だって言ってよ澪!」


ノノハラ ナギサ
「お兄ちゃん!」


ノノハラ レイ
「とりあえず人の話を聞いてよ」


マスタ イサム
「そろそろ観念したらどうだ?」


アサクラ トモエ
「いい加減認めちゃいなよ」


ユーミア
「これだけ証拠がそろっていれば、言い逃れは不可能と判断できます」


ノノハラ レイ
「ねぇってば」


サクラノミヤ エリス
「これで終わり……なんですよね?」


サクラノミヤ アリス
「そうね、早く投票しましょ」


ウメゾノ ミノル
「意外とあっけなかったなー」


ナナ
「おしおきタイムね♪」


ノノ
「楽しみだなー♪」


ノノハラ レイ
「――いい加減にしてよ」






 騒がしかった裁判場を一瞬で静寂にしたのは、証言台を叩いたり蹴ったりして大きな音を立てるでもなく、大きな叫び声でもない。

 一切の感情を削ぎ落したような、重く、乾いた無機質な声だった。

 野々原澪の顔は、怒りでも、悲しみでも、喜びでもなく、死人が目を開けているだけであるかのような、全くの無表情。

 それこそ表情が死んでいるという言葉が最も当てはまる顔の中でも、更に際立って死んでいるのは“目”だ。

 その瞳は希望も未来も、何もかもがない“虚無”がそこにあるかのような。

 覗き込んだだけで深淵へと引きずり込まれて、二度と元の世界に戻ってこれなくなってしまいそうな。

 そんな暗く深い、真黒な眼だった。





ノノハラ レイ
「はぁ……。ちょっと期待外れかな」


マスタ イサム
「期待外れ……、だと?」


ノノハラ レイ
「言葉通りの意味だよ。キミらには失望したって言い換えてもいいかなぁ。
 こんなにもわかりやすく身の潔白を証明しているっていうのに、これっぽっちも気づいてくれないんだもん」


タカナシ ユメミ
「どれもこれも全部あんたが犯人だって言う証拠ばかりじゃない!それのどこが身の潔白を証明してるっていうのよ!」


ノノハラ レイ
「そうだね、ボクが咲夜さんを殺した犯人なんだ――とでも言えば満足かい?
 脅迫文を書いたから、失言をしたから、ここまで手の込んだアリバイ工作までしてたんだから、ボクが犯人に違いないとでも思った?」


「甘ぇよ」


「困るんだよねぇ。たかがその程度の矛盾を突き止めた程度で鬼の首取ったような顔されちゃうとさぁ」


「キミらがその気ならそれでもかまわないよ。思う存分その迷妄を垂れ流すといい。
 ボクは事実を白状しつつ真っ向から反論して、捻じ伏せてあげるからさ」






――議論開始――



|野々原澪の部屋>
|野々原澪の証言>
|モノクマファイル01>



ノノハラ レイ
「ボクが【食堂のテーブルに脅迫文を書いた】のは事実だよ」


ノノハラ レイ
「咲夜さんの呼び出しに応じたのも、【一人はボク】で間違いない」
                   あくまでもう一人いると主張する気だ……>穫

ノノハラ レイ
「彼女の凶器である【オルトロスを殺した】のも確かだし、ついでに咲夜さんの鳩尾に膝蹴りを食らわせたのもボクだ」
              お嬢様の打撲痕はその時付いたのですね>ユーミア

ノノハラ レイ
「でも、ボクはクロなんかじゃぁない」
                  どの口がいうんだか……>亜梨主

ノノハラ レイ
「ボク自身の潔白は、今も堂々と【皆の前に示している】のだから」
                    どこがよ!>夢見
                    私は澪を信じていいんだよね?>綾瀬
                          お兄ちゃん……!>渚


 ……正直な話、澪がクロでない証拠があってしまっているのが残念でならない。
 でも、そんなこと言ってられないんだよな。このまま澪に投票されてしまったら、咲夜を殺した犯人を逃がしてしまうことになるんだから。




ノノハラ レイ
「ボク自身の潔白は、今も堂々と【皆の前に示している】のだから」


 |野々原澪の部屋>


 その言葉の通りだ!


-BREAK!!-





オモヒト コウ
「俺も、澪は少なくともクロではないと思うぞ」


タカナシ ユメミ
「そんなっ?!」


ナナミヤ イオリ
「それは一体どうして?」


オモヒト コウ
「こいつが今着ているコートに、返り血はついていないだろ?
 もし本当に咲夜を刺し殺しているのなら、現場の状況からしても大量の返り血を浴びているはずだ。
 俺は澪の部屋――特にクローゼットを調べたが、どこにも返り血のついたコートは見つからなかった。
 氷点下十五度でコートを着ていないということはまずありえないだろうしな」


ナナミヤ イオリ
「それなら、返り血がついた物を焼却炉で処分したのでは?」


オモヒト コウ
「……オルトロスの死体を焼却炉から出した後、俺は澪のコートにオルトロスの毛がついていることに気が付いた。
 で、これが俺の服についたオルトロスの毛だ」


ノノハラ レイ
「これがボクのコートに付いた毛だね。右肩と右腰についてたんだ」



 見比べると、やはり違う。
 あの時は気が付かなかったが、あの時覚えた違和感はこれだったのか……。



オモヒト コウ
「俺の服についている毛は焦げて縮れているが、澪のコートについている毛は真っ直ぐだろ?」


ナナミヤ イオリ
「そうですが……、それが一体?」


オモヒト コウ
「焦げていることからわかる通り、オルトロスの毛が俺の服に付いたのは捜査時間中――つまり、オルトロスが焼却炉で燃やされた後だ。
 一方澪のコートについているオルトロスの毛は焦げていない。つまり、この毛が付いたタイミングはどんなに遅くてもオルトロスを焼却炉まで運ぶときだ。
 いくら鳩尾を蹴って気絶させたところで、一度オルトロスの首を折って焼却炉に入れてからコートを脱いで、改めて咲夜を殺す、なんて面倒なことをするとは考えにくい。
 咲夜を殺した後、オルトロスごと返り血のついた服を焼却炉で燃やせばいいだけの話だからな。
 だから、今澪が着ているコートは咲夜と会ってた時に間違いなく着ていたもので、それが血で汚れていないってことは――」


ノノハラ レイ
「そう、少なくともボクは咲夜さんを刺し殺してはいないんだよ」





ノノハラ レイ
「うん、シュジンコウクンは分かってくれたみたいだし、当時の詳しい状況を話してあげようかな」





アヤノコウジ サクヤ
『――よく来たわね』


ノノハラ レイ
『こんな夜遅くに、こんな場所で、こんなもの使って人を呼びつけるなんて、まさかとは思うけど、そのつもりになったの?』


アヤノコウジ サクヤ
『……えぇ。あなた、前に言ったじゃない。いつでも殺しに来いって』


ノノハラ レイ
『へぇ?殺せると思ってるんだ、キミが?ボクを?』


アヤノコウジ サクヤ
『私は……、私は!ここから出て確かめなくちゃいけないの!
 あの映像が嘘だって!お父様もお爺様も!私を見捨てるなんてありえないって!
 そのためにも……、死んで!行きなさい、オルトロス!』






ノノハラ レイ
『――てい』


アヤノコウジ サクヤ
『なっ……?!どうしたの、オルトロス!早く殺して!殺しなさいよ!』


ノノハラ レイ
『無理無理。噛みつこうと大きく口開けた時、これ入れたからさ』


アヤノコウジ サクヤ
『……何よ、それ』


ノノハラ レイ
『モノクマ印の筋弛緩剤。キミがこの犬を支給されたのと同じように、これがボクに支給された極上の凶器ってわけ。
 すごいでしょ?口に入れた瞬間あっという間に全身の筋肉が動かなくなっちゃうんだね。
 ま、このまま呼吸停止を待つのもいいけどそれじゃ可哀想だから――』



――ゴキッ



アヤノコウジ サクヤ
『オ、ルトロ、ス……?』


ノノハラ レイ
『頸椎脱臼……。ま、生物だったら普通は即死だよ。
 キミの敗因を挙げるなら……、そうだね、食糧庫に潜ませておくのはまずかったんじゃない?寒いからか息遣いでバレバレだったし。
 ――さて、咲夜さん。解ってるよね?これだけのことをしたんだからさ』


アヤノコウジ サクヤ
『ち……、近寄らないで!』


ノノハラ レイ
『……別にボクはキミを殺そうなんて思ってないからさ、早いトコその包丁戻したら?がったがたに震えてるし。
 今ならそれなりに痛い思いするだけで済むからさ』


アヤノコウジ サクヤ
『私は!綾小路家の一員!あなたたちみたいな庶民とは違うの!私は必要とされているの!
 こんな……、こんな所で!諦めるわけにはいかないのよぉっ!』





ノノハラ レイ
『かわいいね、キミは本当に』


アヤノコウジ サクヤ
『――かはっ』


ノノハラ レイ
『どう?苦しい?鳩尾に打撃与えられるのはきついでしょ?
 肺の中の空気が一気に絞り出されて、吸っても吸っても入ってこない感じ。
 まぁ、しばらくは動けないよね。じゃ、ボクはこの犬の死体を始末しておくから、キミはそこで反省してなよ』





ノノハラ レイ
「――とまぁ、こんな感じで、ボクは咲夜さんの殺人計画を未然に防いだのでした、マル。
 オルトロスの毛は、首の骨を折るときに腰に付いて、焼却炉まで運ぶときに肩に付いたんだね」





ノノハラ レイ
「健気にも包丁で立ち向かってくるのには涙を禁じえなかったけど……。
 まさか鳩尾に膝入れただけで沈むなんて、あっけなさ過ぎて逆に油断を誘ってるんじゃないかと思って焦っちゃったんだよね。
 あぁ、女性に暴力を振るうなんて何事だって言うのはナシにしてね?
 ボクはフェミニストじゃないし、これはボクの身を守るための正当防衛なんだからさ」


ウメゾノ ミノル
「ず……、随分と声真似上手いんですねー。ここまで堂に入った一人芝居は初めてかも……」


サクラノミヤ アリス
「感心してる場合?」


オモヒト コウ
「状況の再現を、誰がそこまでやれなんて言ったんだよ」


ノノハラ レイ
「いいじゃんいいじゃん、こっちの方が解りやすいでしょ?
 でさでさ、白状ついでに、脅迫文を書いた意図って、実はもう一つあってね」


オモヒト コウ
「何……?!」


ノノハラ レイ
「咲夜さんがボクを殺そうと画策していたのは分かっていたからさ、その背中を押してあげようと思って」


オモヒト コウ
「……そういう、ことか……っ!」


タカナシ ユメミ
「え、えっ、どういうこと?脅迫文を書くことがどうしてあの女の背中を押すことに繋がるの?」


オモヒト コウ
「澪の計画通り、今日は全員で一緒に行動するということになっただろ?
 もしかしたら今日からずっと全員で行動することになるかもしれない、そうなれば殺人を企てている人間にとっては動きにくい。
 だから、誰かを殺すなら脅迫文に指定されている時間よりも前が一番いい。咲夜はそう思わされたんだよ」


ノノハラ レイ
「そして脅迫文を書いたのは自分じゃないから、脅迫文を書いた人間に罪を擦り付けることも可能。
 例え自分が不利になったとしても、公ならなんとかしてくれる。そんな所じゃないかな」






オモヒト コウ
「ちょっと待て。なんでそこで俺が出てくるんだよ!」


ノノハラ レイ
「じゃ、ここまで議論を引っ張ってくれたシュジンコウさんにスペシャルヒント」


オモヒト コウ
「おい、聞けよ!」


ノノハラ レイ
「実はね、昨夜咲夜さんが持っていた包丁と今咲夜さんに刺さっている包丁は違ってるんだ」


オモヒト コウ
「ここぞとばかり無視しやがって……。で、何だって?咲夜を蹴った後包丁を包丁差しに戻したって言うのか?」


ノノハラ レイ
「うん、そうだよ。危ないしね。
 で、ボクが戻したのは包丁差しの右端だったんだけど、どういうわけか包丁差しの左端にあった包丁が刺さっていたんだ」


タカナシ ユメミ
「……それがどうしたって言うの?あんたは一体何が言いたいわけ?」


ノノハラ レイ
「あの包丁差し、幅が狭いから真ん中の包丁をとろうとしても他の包丁の柄が邪魔で取りにくいんだよね」


ノノハラ ナギサ
「そう、だよね。うん。あたしも使ったことあるんだけど、すごく不便だった……」


サクラノミヤ アリス
「つまり、犯人は左利きだって言いたいの?」


ノノハラ レイ
「そう。わざわざ利き手じゃない方で包丁をとって利き手に移し替えるなんて面倒なことしようなんて思わないしね」






ユーミア
「やはり、そうでしたか」


マスタ イサム
「どうしたんだユーミア?」


ユーミア
「お嬢様のご遺体――その傷口を詳しく調べてみたんです。
 すると、包丁が刺さっている物も含めて、五つすべての刺し傷における包丁の進入角度が右手側に傾いていることが分かったんです」


ナナ
「じゃぁ犯人は右利きなんじゃないの?」


ノノ
「さくやおねーちゃんと向き合ったらノノ達から見て左に傾いてるってことだから、左利きであってるんだよ」


ユーミア
「はい。倒れているお嬢様相手に包丁を逆手で振り下ろしたなら、軸となる利き手側に包丁が傾くはずなので。
 ですから、犯人は左利きであるという推理は、恐らく間違いないと思われます」





ウメゾノ ミノル
「左利きって……、えーっと、誰だ?あ、僕は見ての通り右利きだよ?」


サクラノミヤ アリス
「あたしは違うわよ。慧梨主もね」


サクラノミヤ エリス
「えっと、その、はい。私もお姉さまも右利きなので……」


マスタ イサム
「……俺だな。筆も彫刻刀も包丁も、全部左手だ。おかげで苦労するよ。
 大抵の道具が右利き前提で作られてるから。鋏がいい例だ」


ノノハラ ナギサ
「あたしは……、左利きだったけど、右利きに矯正されて……、それでもたまに出ちゃう、かな?」


ノノハラ レイ
「ボクもそう、かな?ボクの場合は両利きだから、右も左も使うって意味だけど。
 ただ、昨日に限って言えば、左手は使えなかったんだよね。怪我してるから」


ユーミア
「ユーミアも両利きです。しかし包丁は基本的に右手で持ちますね」


アサクラ トモエ
「ふーん、流石はメイドさんだね。あ、ボクは右利きだよ」


ナナミヤ イオリ
「右利き、ですね」


コウモト アヤセ
「私も右利きよ。釘を打つ時だって、金槌は右手で持つし」


オモヒト コウ
「俺も右利きだ」


タカナシ ユメミ
「あたしもなんだよ、お兄ちゃん♪」


ナナ
「ナナは右利きだけど……、ノノは左利きでしょ?」


ノノ
「でも、ノノはずっとナナと一緒だったもん。ノノじゃないよ」





ノノハラ レイ
「――で、どうしたの柏木さん、さっきからずっと押し黙っちゃって。確か君も左利きだよね?
 昨日の雪かきの時、重いスコップを左手で持ってたんだし」


カシワギ ソノコ
「えっ……」


ノノハラ レイ
「いやさぁ、裁判が始まってから一言も話さないんだもん。駄目だよそんなんじゃぁ。
 皆の命がかかってるんだから、キミもちゃんと議論に参加しないとさ」


カシワギ ソノコ
「え、えぇ……、そう、ですね。ごめんなさい。
 私、何を言っていいかわからなかったので……」


ノノハラ レイ
「あっそ。ま、別にいいんだけどね」


オモヒト コウ
「澪……?」


コウモト アヤセ
「澪、どうしたの?急に」


ノノハラ レイ
「何の話かな?ま、いいじゃない。おいておこうよ。
 とりあえず今話さなきゃならないことは、誰がクロなのかってことなんだし」


コウモト アヤセ
「え?……あ、そう、そうよね。この裁判だってもともとはそう言うものなんだし」



 ……澪、お前ひょっとして全部わかってるんじゃないのか?
 解ってて、わざと解らないふりをしているのか?
 誰が咲夜を殺したのか、この事件の全貌を。





カシワギ ソノコ
「で、でも困りましたね……。犯人が左利きだっていう条件だけじゃ、容疑者を絞り切れませんよ?」


ユーミア
「アリバイがはっきりしているのはユーミアと渚さん、亜梨主さんと慧梨主さん、ナナさんにノノさんの六人だけですからね」


オモヒト コウ
「……モノクマの証言によれば、咲夜が殺されたとき自室にいたのは十人らしい。
 自室にいなかったのは被害者の咲夜と、咲夜を殺した犯人、オルトロスを焼却炉に入れてに行った澪、誰かの部屋に行った三人で、計算は合ってるな」


サクラノミヤ アリス
「そういえば、誰か外に出てたって言ってなかったっけ?」


アサクラ トモエ
「ボクが外に出たのは零時じゃないよ!それに、ボク右利きだから犯人じゃないし……」


ウメゾノ ミノル
「うん、そうだね。朝倉さん雪かきの時スコップ右手で持ってたし」


マスタ イサム
「俺はずっと部屋にいたぞ……。って言っても無駄だな。俺は左利きだし、これと言ってアリバイもない。
 疑われるのは仕方のないことだな」


アサクラ トモエ
「先輩は犯人なんかじゃないよ!
 食堂にあったあの足跡って、犯人が残したものでしょ?
 先輩の歩幅よりもずっと狭いから、事件当時だけ先輩がよっぽどの小股で歩かないと無理だもん」


ユーミア
「その通りですね。それに、あの足跡はかなりぼやけていましたが、それでもマスターの靴のサイズよりずっと小さいですし。
 あの足跡をマスターが付けたものだと判断する材料は、全くありません」


タカナシ ユメミ
「それじゃ誰がやったって言うのよ。
 それとも、やっぱりあんたなわけ?左手を怪我してるからなんて言い訳にしては苦しいんじゃない?」


ノノハラ レイ
「実はこの傷完全に塞がってるわけじゃないからさ、人を刺し殺せるほど包丁を強く握ったりしたら――。
 ご覧の通り、血がにじむ始末でね。この状態で包丁なんて握れないし、握ったとしても柄に血がついちゃうでしょ」


コウモト アヤセ
「あーもう、何やってるのよ澪。ちゃんと止血してあげるから、手貸して」


ノノハラ ナギサ
「あたしがやります。席、近いし」


コウモト アヤセ
「あぁ、そう?でも渚ちゃん不器用だし……」


ノノハラ レイ
「……どっちでもいいから早くしてくれると嬉しいな。痛すぎて涙出てきちゃうよ、った~…」





 ……確かに、これまでの証拠品は、容疑者を絞るに足りないのかもしれない。

 ただ、重要なのは、クロにはすべての条件が当てはまるってことだ。

 考えろ……。

 犯人は、事件当時アリバイがなく、身長は150㎝から160㎝で左利きの人物。

 そんな人物は、たった一人しか、いない……!





 オモヒト コウ

 ナナミヤ イオリ

 アヤノコウジ サクヤ

 サクラノミヤ アリス

 ウメゾノ ミノル

 サクラノミヤ エリス

|>カシワギ ソノコ

 ノノハラ ナギサ

 ノノハラ レイ

 コウモト アヤセ

 タカナシ ユメミ

 アサクラ トモエ

 マスタ イサム

 ユーミア

 ノノ

 ナナ




 犯人は、お前だ!






――本日はここまで。


――結局V3発売までには間に合いませんでしたね。大変申し訳ございません。


――V3のプレイに明け暮れ投稿が遅れるどころか、おまけに投稿の順番を間違えるとは、重ね重ね申し訳ございません。


――一応、V3とネタ被りは……、多少ありましたが大幅な修正は必要ないと判断できる程度です。ひとまず安心でしたね。


――ただ、ネタバレにならない程度にはV3の要素やネタも取り入れていこうと思います。


――このスレが埋まるまでには第一章を完結させたいですね。それでは、おやすみなさい。





オモヒト コウ
「……柏木、お前なんだろ?」


カシワギ ソノコ
「えっ……?」


オモヒト コウ
「咲夜を殺した犯人はお前だよ、柏木。お前しかいないんだ」


カシワギ ソノコ
「ちょ、ちょっと待ってください。ど、どうして私なんですか?」


ノノハラ レイ
「順番に考えようか。まずアリバイがある渚とユーミアさん、双子の二組は除外。
 残りはボク、綾瀬、柏木さん、公、七宮さん、小鳥遊さん、増田クン、梅園クン、朝倉さん」



 ……やっぱり、お前にはわかっていたんだな。
 解っていながら、引っ掻き回していたんだな。



ノノハラ レイ
「その中で左利きなのは柏木さんと増田クンの二人。ついでにボクも入れようかな。
 でも血の足跡の歩幅は増田クンだとあまりに短すぎる。靴のサイズ的にも増田クンの方が明らかに大きすぎるしね。
 だから増田クンも除外。残るはボクか、キミか」






ノノハラ レイ
「で、ボクは返り血を浴びていないから犯人ではありえない、と。左手も使えないし。
 困ったね。クロである条件に全部当てはまるのって、柏木さんだけなんだってさ」


カシワギ ソノコ
「そ、そんな……っ!」


ノノハラ レイ
「でもね、安心して柏木さん。まだキミがクロだって言う決定的な証拠はまだ出ていないんだよ」


カシワギ ソノコ
「それは……、そうですが……!」


ノノハラ レイ
「消去法で柏木さんがクロって言ってるだけで、違うなら違うって言ってくれれば、ボクはそれを信じてまだ議論するつもりでいるんだ」


タカナシ ユメミ
「あんたはどっちの味方なわけ?」


ノノハラ レイ
「さぁ、柏木さん。キミが、キミの言葉で、自分はクロじゃないって証明するんだ。
 感情に訴えるのではなく、冷静に、客観的な証拠を併せてさ。賢いキミなら、きっとできるよ」


タカナシ ユメミ
「無視するんじゃないわよ!」




カシワギ ソノコ
「わ、私は!私はクロじゃありません!」


サクラノミヤ アリス
「でも条件に当てはまるのはあんただけなんでしょ?」


カシワギ ソノコ
「だからって私がクロとは限らないじゃないですか!アリバイに穴が無いとは言い切れないんですから!」


マスタ イサム
「穴……、だと?」


カシワギ ソノコ
「だってそうでしょう?!左利きなら私以外にもたくさんいるじゃないですか!アリバイがあるってだけで外されたノノちゃんも充分怪しいですよ!」


ナナ
「ノノはナナとずっと一緒だったもの。クロなんかじゃないわ」


ノノ
「そうだよ。ノノには立派なありばいがあるんだ」


カシワギ ソノコ
「知らないんですか?身内の証言は証拠にならないんですよ?」


ノノハラ レイ
「そうだねぇ。アリバイがある三組の内二組が双子だもんねぇ。片割れが片割れを庇ってる可能性も否定できないよねぇ」


オモヒト コウ
「クロは一人の筈だ。クロが勝ったら共犯者もシロもろとも死ぬ、そういう認識でいいんだよな、モノクマ?」


モノクマ
「はい、その通りです!生き残るのはシロかクロのどちらか、クロは殺人の実行犯だけですからね!」


ノノハラ レイ
「でもさ、自分の命を懸けてでも守りたいって思うこともあるかもしれないじゃん。赤の他人ならまだしも、想い人とか肉親ならさ」


サクラノミヤ アリス
「ふざけないで。あたしも慧梨主も人殺しなんてしないわよ」




カシワギ ソノコ
「そ、そうだ。確か犯行時刻の前後に外に出た人もいましたよね?
 その人の方が私なんかよりもよっぽど怪しいんじゃないんですか?」


アサクラ トモエ
「ボ、ボクは犯人じゃないよ!右利きだもん!」


カシワギ ソノコ
「それは自己申告じゃないですか!」


ノノハラ レイ
「それに、検死で解っているのは犯人が包丁を左手で持っていたってだけだしねぇ。
 右利きに矯正された元左利きなら、咄嗟に左手で包丁を持っても不思議じゃないよねぇ。渚もそうなんだし」


アサクラ トモエ
「い、言いがかりだよっ!」


オモヒト コウ
「……朝倉のアリバイなら、立証できるかもしれない」


アサクラ トモエ
「えっ、本当?」



 咲夜の行動、澪の行動を考えれば、不明だったあのことが説明できるんだ。



 |朝倉巴の証言>




オモヒト コウ
「確か朝倉は、十一時半と零時半の二回、増田の部屋に行こうとしたんだよな?」


アサクラ トモエ
「うん。その、寂しかったし、先輩に勇気付けてもらおうかなー、なんて、えへへ」


ユーミア
「……それで、朝倉さんがマスターの部屋へ向かおうとしたことのどこにアリバイを立証する物があるというんですか?」


オモヒト コウ
「朝倉は結局増田の部屋には行かなかった。その理由は何だったんだ?」


アサクラ トモエ
「えっと……、十一時半の方は、人の気配を感じて……、見回りが来たと思って、一旦引き返しちゃったんだよ」


マスタ イサム
「……まぁ、そうだな。深夜に男女が同じ部屋、なんて普通の合宿じゃありえないよな」


カシワギ ソノコ
「それで実際に見回りの人に見つかりでもしたんですか?それがアリバイの証明になるんですか?」


アサクラ トモエ
「うぅ……、その、見つかったらまずいと思ってランドリーで身を隠してやり過ごしたんだ。
 気配を消すのには慣れてるから、多分気づかれなかった、と思う……」


カシワギ ソノコ
「じゃぁ何の証明にもなりませんよね?!まだ朝倉さんにもクロの可能性がありますよね?!」


オモヒト コウ
「いや……、肝心なのは、朝倉が感じ取った人の気配が誰のものだったのか、ってことだ。
 一応聞いておくがモノクマ、消灯時間中にホテル内の見回りなんてしているのか?」


モノクマ
「いいえ。っていうかさ、監視カメラがあるんだから見回りなんてする必要ないじゃん!」


オモヒト コウ
「だろうな。――見回りじゃないってことは、俺たちの中の誰かってことだろ?
 恐らくその気配は、咲夜が澪の部屋に文書を持って行った時のものの筈だ」


ノノハラ レイ
「そうだね。ボクがこの文書を手にしたのも大体その辺だよ。
 何か音がしたと思ったら、ドアの隙間に挟まっていたんだ」




カシワギ ソノコ
「だったら、こういうのはどうです?
 朝倉さんは野々原君よりも前に綾小路さんから文書を受け取っていた。
 指定された時間よりも早めに行こうと思ったら綾小路さんが野々原君の部屋に文書を持っていくところを見かけた。
 その様子を見て受け取った文書が殺人のための小道具だということに気付いたんです。
 そしてその殺人計画を乗っ取ろうと様子を見守って、野々原君が咲夜さんを気絶させたのを確認してから咲夜さんを殺害したんですよ!」


アサクラ トモエ
「何で時間がずれてるのさ!」


ノノハラ レイ
「ターゲットであるボクに気取られないよう、ボクだけは時間をずらしたんだね。
 渚と慧梨主さんが文書を受け取ったのは十一時ごろらしいから、多分もう一人もその辺に受け取ったんじゃないかな」


カシワギ ソノコ
「でしょう?!なら決まりですよ!クロは朝倉さんです!」


オモヒト コウ
「仮に文書を受け取ったのが朝倉だったとして、その後の咲夜や澪の行動を予測できるわけがないだろ。
 それに、集合時間が自分よりも前だなんて思わないはずだ。だから、殺人計画の乗っ取りをしようとしていたという推理は無理があるぞ。
 ……澪、咲夜の呼び出しに応じてキッチンに着くまで、誰かと会ったか?」


ノノハラ レイ
「いいや。咲夜さん以外には会ってないし、誰の気配もなかったよ。誰かに見つかるかも知れないっていうのは一番気を使っていたからね。
 朝倉さんが待ち伏せしてたって言う可能性もないんじゃないかな」


カシワギ ソノコ
「そっ、それは……」


オモヒト コウ
「そして二回目、朝倉は零時半ごろに増田の部屋に行こうとしたが、結局行けなかったんだよな?」


アサクラ トモエ
「うん。何か、廊下から唸り声みたいな音が聞こえたから、怖くなっちゃって」


オモヒト コウ
「澪、お前がラッチボルトに貼ったモノクマステッカーを剥がしたのは、いつだ?」


ノノハラ レイ
「キミの想像の通りだよ。零時半。朝倉さんが聞いた音は、ボクがモノクマステッカーを剥がす時に使ったドライヤーの音だろうね。
 完全防音の個室とは言え、ドアが開いていたら音は漏れる。ラッチボルトはドアを開けないと見えないからね。ま、ものの十数秒で終わったけど」


アサクラ トモエ
「あー……、そう言われてみれば、その通りかも。
 ドライヤーの音が廊下に反響していたんだね!もう、紛らわしいなぁ」





オモヒト コウ
「以上のことを踏まえると、朝倉の証言は、その時間外に出ていたことの証明になる。
 クロの心情で考えれば、外に出ていたことは隠したいだろう?まして殺害時刻に近い時間帯だ。普通は黙秘するさ。
 それにクロなら、咲夜を殺して証拠隠滅を終えたらすぐに自室へ戻りたいはずだ。長居すればするほど何かの拍子で目撃されるリスクが高くなるからな。
 咲夜が殺されたのが午前零時で、澪がドライヤーを使ったのが零時半。
 一旦部屋に戻って着替えてから返り血のついた服を処分するにしたって、三十分はいくらなんでも時間をかけすぎじゃないか?」


マスタ イサム
「巴は結局俺の部屋には来なかったから……、誰かと一緒になることでアリバイを確保しようとしたわけでもないといえるな」


ユーミア
「咲夜様の気配もドライヤーの音も、朝倉さんにとっては偶然でしか知りえないもの。
 確かに、朝倉さんがクロだと仮定すると、行動と証言が不自然になってしまいますね」



カシワギ ソノコ
「そ、そうだ。返り血のついた服はどうしたんですか?!
 さっきから焼却炉で燃やしたって言ってますけど、焼却炉は消灯時間中電源が入らないんですよね?!
 それに、朝は梅園君が焼却炉の前でマジックの朝練をしていたんですよ?!それなのに一体どうやって燃やしたって言うんですか?!」


オモヒト コウ
「消灯時間中に、焼却炉の中で固形燃料を使って燃やしたんだよ。
 電気炉よりも火力は劣るからオルトロスの死体は処分できないが、返り血のついた服を処分することくらいはできるだろ?」





ノノハラ レイ
「それは違うよ」





オモヒト コウ
「……なんでお前がここでしゃしゃり出てくるんだよ」


ノノハラ レイ
「別にいいじゃない。ボクはただ、今はちょっと柏木さんの味方をしたい気分なんだ。
 さぁて、公。僕との反論ショーダウン、もちろん受けて立ってくれるよねぇ?」



 こいつはゲーム感覚で……っ!
 いや、今は論破することだけを考えろ!
 こいつをぶちのめすのは裁判が終わった後でいい!



―反論ショーダウン 真打―

 |  倉庫  |=
| 梅園穫の証言 |=
| 河本綾瀬の証言 |=


ノノハラ レイ
「物が燃えるには可燃物と酸素、それに火種が必要だよね?燃焼という現象の原則だ。
 固形燃料だけでは火は点かないから、返り血のついた服を燃やすことも出来ない。
 火種は何処から仕入れたんだい?【食糧庫にそんなものなかった】よね?
 【ライターを個人で持っているのは梅園クンだけ】。彼なら朝でもライターを使って焼却炉で火を使うことが出来る」


―発展―


オモヒト コウ
「梅園は右利きなんだろ?犯人は左利きなんだからそれはあり得ない」


ノノハラ レイ
「でもそれって自己申告でしょ?
 他に火種がない限り柏木さんに【焼却炉を使うことは不可能】なんだし、梅園クンにも疑いがかかってしかるべきだと思うな」



 限られた捜査時間の中で俺は火種を見つけられなかった。それは事実だが……。
 捜査していたのは何も俺や澪だけじゃない。
 火種を発見している可能性が一番高いのは、あの二人だ。





 |>タカナシ ユメミ

 |>アサクラ トモエ


 任せた!





         |倉庫での捜査結果|=

 【焼却炉を使う//ことは不可能】




タカナシ ユメミ
「その言葉、切っちゃうんだから!」


アサクラ トモエ
「その言葉、切ってみせる!」 



―BREAK―






オモヒト コウ
「俺たちは捜査時間中倉庫を詳しく確認してはいなかったが……、ちゃんと倉庫を調べた人間なら、ここに二人いるだろうが」


タカナシ ユメミ
「あたしだよ♪」


アサクラ トモエ
「ボクもだよっ」


オモヒト コウ
「それで二人に聞いておきたいんだが、倉庫に火種になりそうなものはあったか?」


タカナシ ユメミ
「うん、マッチがたくさんあったよ♪
 あれを使えば固形燃料に火をつけることも、返り血のついた服を燃やすことも十分できるんじゃないかなぁ?」


アサクラ トモエ
「オイルライターに、百円ライター、点火棒もあったね。
 どれも在庫はたくさんあったから、どれか一つが無くなっても解らないと思うよ」


オモヒト コウ
「――だ、そうだが、何か反論はあるか?」


ノノハラ レイ
「うん、知ってた。そりゃそうだね。固形燃料だけあったって火種がなけりゃ意味が無いし。
 食糧庫に無ければ倉庫にあると考えるのは至って自然な発想なわけで。捜査時間より前に倉庫に行ってれば火種があることぐらいわかるよね」





ノノハラ レイ
「でもさ、これで解ったでしょ?柏木さんがクロだって決まったわけじゃないってことが」


タカナシ ユメミ
「はぁ?何言ってるの?頭沸いてるわけ?」


ノノハラ レイ
「だってそうじゃない。火種にしろ、凶器にしろ、誰にだって持ち出せるわけで。
 あの血の足跡だって個人を特定するには足りないし、アリバイだって半数以上の人がない。利き手だって自己申告な点もあるから決定的とは言い切れない。
 ね?柏木さんがクロだって言う決定的な証拠なんて、まだ何一つ出ていないんだよ?」


ノノハラ ナギサ
「でも、柏木さんが一番怪しいのも事実、だよね?お兄ちゃん」


コウモト アヤセ
「この学級裁判は私たちの投票で決まるんだよね?
 なら、本物の裁判みたいな決定的な物的証拠は必要ないんじゃないの?」




ノノハラ レイ
「ボクは信じないぞ!柏木さんが人殺しなんて!
 花を愛する心の優しい柏木さんが、私利私欲のために咲夜さんを殺した卑劣な殺人犯であるはずがないんだよ!」


ナナ
「……たしかにそんな気もしてきたわね」


ノノ
「園子おねーちゃんは優しいもんね」


ノノハラ レイ
「無抵抗の咲夜さんに容赦なく包丁を突き立てておきながら、平然と朝を迎えられる最低なクズのわけがないんだ!
 柏木さんはそんな、吐き気を催す極悪非道なサイコ女なんかじゃないよ!ボクはそう信じてるから!」


カシワギ ソノコ
「そ、その通りですよ!私は犯人なんかじゃありません!」


サクラノミヤ エリス
「な、なんだか私もそう思えてきました……。
 もしかしたら、私たちが気づいていないだけで見落としがあるんじゃないでしょうか……?」


サクラノミヤ アリス
「そんなわけないでしょ。どう考えたって一番怪しいのは柏木じゃない。クロだって決まったようなものよ」


ウメゾノ ミノル
「疑わしきは罰せず……、でも、いずれは誰かに投票しなきゃいけないんなら、やっぱり一番怪しい人に投票するべきだと僕は思う」


ノノハラ ナギサ
「お兄ちゃんがそこまで言うなら……、信じてみようかな」


ナナミヤ イオリ
「それは妄信では……、いえ、私が言える立場じゃないわね。
 でも、私は主人さんの推理を信じます。神もきっとそれを望んでおられるでしょう」


タカナシ ユメミ
「あたしは言うまでもなくお兄ちゃんを信じてるから♪」


コウモト アヤセ
「……ごめん、澪。やっぱりどうしても柏木さんが犯人じゃないなんて思えないの」


マスタ イサム
「同感だ。それに、野々原のそれはただ現実を見ようとしていないだけなんじゃないのか?」


ユーミア
「……ユーミアはマスターに付き従うだけですから。それに、ユーミア自身も柏木さんが最も疑わしいと判断します」


アサクラ トモエ
「ボクはあらぬ疑いをかけられたから……、うん、どう考えたってあれはこじつけっぽかったし、ボクも柏木さんが犯人だと思う」





ウメゾノ ミノル
「柏木さんがクロだと思う人が9人、シロだと思う人が6人……。
 多数決ならもう決まり、なんだけどなぁ」


ノノハラ レイ
「六人もいるなら、まだ投票するには早いと思うな」


サクラノミヤ アリス
「だからって、やったやってないじゃ水掛け論にしかならないわよ」


ナナ
「真っ二つよ。真っ二つ」


ノノ
「バラバラだよ。バラバラ」


マスタ イサム
「……意見が、だよな?」


モノクマ
「真っ二つ?今、意見が真っ二つって言った?」


オモヒト コウ
「誰も言ってないぞ」



 実質言ったみたいなもんだし、まさしくその通りなんだが。






モノクマ
「お待たせしました!」





モノクマ
「意見が真っ二つ……ということは、ついにこの『変形裁判場』の真骨頂をお見せする時が来たみたいですね!」


ウメゾノ ミノル
「え、マジで?!これ変形すんの?!」


マスタ イサム
「そこに食いつくのか?」


モノクマ
「それじゃぁ二手に分かれて、徹底的に議論しまくりあって下さーい!」



 モノクマは鍵を取り出して、目の前のモニターに刺す。
 俺達が乗っている証言台がエレベーターのように浮いて、上へ上へと昇っていく。
 柏木がクロ、それが俺の結論。
 必ず説得して、この裁判を終わらせるんだ。





  柏木園子はクロなのか?



   シロだ!/クロだ!



  ―議論スクラム開始―



ノノハラ レイ
「まだ柏木さんが【クロ】だって決まったわけじゃないよ」

     /ナナミヤ イオリ
    / 「これまでの議論で、柏木さんが【クロ】だという結論になったはずでしょう」


カシワギ ソノコ
「でもそれは【状況証拠】による消去法でしかないですよね?」

    /タカナシ ユメミ
   / 「これは正式な裁判じゃないんだから、【状況証拠】だけでもクロが特定できればそれでいいのよ」


ノノハラ レイ
「そんなの前提一つ代わるだけであっという間に瓦解するよ。例えばクロが【左利き】じゃなかったとしたら?」

    /ユーミア
   / 「傷口の状況から察するに、間違いなくクロは【左利き】です」


ノノハラ ナギサ
「でもそれって【自己申告】に頼らざるを得ないんじゃない?」

    /マスタ イサム
   / 「利き手なんて普段の様子を見れば【自己申告】しなくてもわかるだろ」


ノノハラ レイ
「そう考えることこそクロの思惑かも知れないよ?だって【決定的な証拠】はまだ出てないんだもん」

    /コウモト アヤセ
   / 「目を覚まして澪。もっと議論すればいつか【決定的な証拠】だって出てくるから!」


ノノハラ レイ
「そんな重要な証拠は全部【焼却炉】で処分されてるはずじゃない」

    /オモヒト コウ
   / 「仮に、【焼却炉】にあるはずの物がなければ、それは犯人が処分してないってことだろ?」






「「「「「「「「「   僕
         これが俺たちの答えだ!
            私       」」」」」」」」」



―BREAK―





オモヒト コウ
「そんなに決定的な証拠を出してほしいなら、俺にも考えがある。
 犯人が証拠を全て焼却したなら、焼却炉にあるものがなければおかしいんだよ」


ノノハラ レイ
「ふぅん?なら見せてよ、その決定的な証拠――焼却炉にあるはずなのになかった物をさ」



 ――おそらく、これが最後の証拠だ。これで、この裁判も決着する。



 その証拠は……



 |血の足跡>

 |焼却炉>



 この二つだ!




オモヒト コウ
「現場近くに血の足跡が出来てるってことは、犯人の靴には間違いなく咲夜の血が、大量についているはずだ。
 靴底はもちろん、つま先や足の甲の部分なんかもな」


サクラノミヤ エリス
「えっと……、だったら靴も服と一緒に焼却されているんじゃありませんか?」


オモヒト コウ
「大抵の靴底はゴムでできているだろ?可燃ごみであるとは言え、ゴムは布や革と違って燃えにくい素材だ。
 高性能な電気炉ならともかく、普通に燃やしただけじゃまず確実に燃え残る」


ノノハラ レイ
「あるいは加熱が不十分でダイオキシンが発生しちゃうね。
 ゴム製品が可燃ごみに分類されたのは、ゴミ処理場に高性能な電気炉が普及したからだし。それ以前は不燃ごみに分類されていたはずだよ」


オモヒト コウ
「でも焼却炉には、オルトロスの死体と服の燃えカスぐらいしかなかった。
 考えられる可能性は一つだ」



 それは――

 |>今も履いているから
   隠したから
   洗ったから



オモヒト コウ
「柏木の靴は黒のローファー。返り血が付いたって目立つ色じゃない。
 おまけに、下手に洗えば革が劣化する。誰かに言及されたら言い逃れできない。
 だから柏木は、咲夜を殺した時の返り血がついたローファーを、今も履いているんじゃないのか?」





カシワギ ソノコ
「そっ、そんなことある訳ないじゃないですか!」


サクラノミヤ エリス
「で、でも……、その……、柏木さんの靴……、よく見たらムラみたいなものが……」


カシワギ ソノコ
「これは、その、そういうデザインなんですよ!」


ナナ
「でも昨日の雪かきの時はきれいだったわ」


ノノ
「おとといのそうさ時間の時も汚れてなかったよね」


カシワギ ソノコ
「う、ううぅ……、野々原君、な、何か、何か言って下さいよ。私はクロじゃないって、証明してください……!」


ノノハラ レイ
「――うーん、じゃあ仕方ない」



 少しの間腕を組んで目を閉じていた澪は、胸の前で合掌をする。



ノノハラ レイ
「ごめん、諦めて♪」



 笑顔で、柏木を見放した。





カシワギ ソノコ
「えっ?」


ノノハラ レイ
「いやー、柏木さんの無実を信じてここまで頑張ってきたけど、どうやらダメだったみたいだね?」


カシワギ ソノコ
「な、なんですか?何が駄目だって言うんですか?何をあきらめろって言うんですか?!」


ノノハラ レイ
「いやさぁ、ボクもひじょーに残念に思ってるんだよ?
 でもさ、ここまで決定的な証拠突き付けられちゃったら、もうどうしようもなくない?」


カシワギ ソノコ
「な、何でそんなこと言うんですか!貴方にまで見捨てられたら、私は!私はぁっ!!
 ……あー、そう、そうですよ、ふふふっ!!」


マスタ イサム
「何が可笑しい」


カシワギ ソノコ
「あはははっ!だってそうじゃないですか!これはただの汚れなんです!返り血なんかじゃないんですよ!」


サクラノミヤ エリス
「でも、ただの汚れにしては……」


カシワギ ソノコ
「ただの汚れって言ったらただの汚れなんですっ!」


サクラノミヤ エリス
「ひぃっ?!」


カシワギ ソノコ
「そうですよ!そうなんです!これはただの汚れで!返り血なんかじゃないんです!
 私がそうだと言ったらそうなんですよ!だってそうじゃないって証拠が何処にもないんですから!」


ノノハラ レイ
「……ははっ。流石にそこまでされると乾いた笑いしか出ないよ。
 でも柏木さんの言うことにも一理あるねぇ。靴の汚れが返り血によるものかどうか、証明できないことには証拠にならないんじゃない?」


オモヒト コウ
「……やってやるさ」



 そうだ。ここまで来たら、証明してみせる。
 決定的な証拠を突きつけて、納得させてやる!



KASHIWAGI


「違うんですよ!」 「信じてください!」 「私はクロなんかじゃありません!」


 「認めないですからね!」 「証拠がなければただのでっち上げです!」 「私をいじめてなにが楽しいんですか?!」



「これはただの汚れなんですよ!」 「本当なんです!」 「ただの汚れじゃないって言いきれるんですか?」


 「何で言い切れるんですか?」 「そんな証拠何処にもないっていうのに!」 「これは返り血なんかじゃ決してありません!」



「この靴の持ち主である私がただの汚れだって言ってるんですから、これは本当にただの汚れなんですよ!」

 「きっと昨日、何かの拍子で洗剤がかかっちゃったんですよ。雪かきの時汗をかいたので、その時着ていた服を洗うためにランドリーに行きましたからね」

  「慌てていたので拭き忘れちゃったんですねきっと。そうなんですよ」 「ね?納得しましたよね?」 「これは、ただの汚れ、シミなんです!」


KASHIWAGI


                 △
                 キシ


□ドー       「靴に返り血がついているなんてどう証明するんですか!」     オ○


                 ル
                 ×




             オ キシ ドー ル




 これで終わりだ!



―BREAK―





オモヒト コウ
「澪、お前のことだ。今朝使ったアレ、まだ持ってるんだろ?」


ノノハラ レイ
「アレ?」


オモヒト コウ
「とぼけるな。オキシドールだよ」


ノノハラ レイ
「わかってるよ。――柏木さん、ちょっといいかな。いや、返事待たないんだけどね」



 一度証言台を降りて柏木の傍まで歩いた澪は、かがんで柏木の靴の汚れめがけてオキシドールを吹きかけた。
 その汚れから、今朝のカーペットと同じように、白い泡が噴き出てくる。



ノノハラ レイ
「キミにはわざわざ説明してあげる必要はないと思うけど。オキシドールは血中のカタラーゼが触媒となって酸素になる。この白い泡がまさしくそれだ。
 さて、説明してくれる?どうして君の靴に血液が付着していたのかを。
 大丈夫、キミが納得のいく説明をすればみんな分かってくれるさ。
 ボクは信じてる。ちゃんとした理由があるんだよね?ならそれを説明すればいいんだよ。ほら早く早く」


カシワギ ソノコ
「あ……、あぁ……、う、あ、あぁぁ……」


ノノハラ レイ
「どうしたのさ柏木さん、早く言い訳を考えるんだよ。賢いキミならすぐできることでしょ?
 せっかくここまで頑張って隠して騙し通してきたんじゃない。まだまだ言い逃れできる余地はいくらでもあるんだよ?」


カシワギ ソノコ
「うぅ、あ、あぁ……」


ノノハラ レイ
「……どうやら、ここまで、みたいだね」




ウメゾノ ミノル
「えーっと、これは……、もう投票する流れなのかな?」


カシワギ ソノコ
「違うんです……、私は……、私、じゃ……」


ウメゾノ ミノル
「なんかこれ以上追及するのはover killみたいだし」


ノノハラ レイ
「えー?でもなんかまだ否定してるっぽいよ?満場一致じゃなくてもいいならいいけど」


タカナシ ユメミ
「そういう態度とってるから疑われるんだってまだわからないかなぁ?」


コウモト アヤセ
「さすがにこれ以上は可哀想なんじゃ……」


ノノハラ レイ
「それに、まだ柏木さんが犯人だってことに納得してない人もいるかもしれないし」


ノノハラ ナギサ
「ここまで証拠が揃ってたらもういないと思うけど……」


ノノハラ レイ
「というわけで公、これまでの議論を振り返って、事件の総まとめをして頂戴な」


オモヒト コウ
「何で俺が……、ったく。解ったよ。やればいいんだろ、やれば」



 断れば澪が勝手にやるんだろうが、こいつに任せたら絶対にマズいだろうからな。





――事件の準備として咲夜は何をした?
    ←少女印刷中……

――澪が部屋を出る前にしたこととは?
    ←ラッチボルトに貼られるモノクマ学園長

――食糧庫で待ち伏せしていたのは?
    ←地獄の番犬……、ではない

――澪に支給された極上の凶器とは?
    ←体に……、力が……

――咲夜に襲われた澪は何をした?
    ←男女平等キック!

――澪は現場を立ち去って……?
    ←オルトロスを焼却炉にシュゥゥゥーッ!

――犯人は犯行後何をした?
    ←これはお餅ですか?いいえ、固形燃料です。

――犯人が証拠を処分した方法とは?
    ←3ダースの(固形燃料が)ファイアフライ!

――澪は寝る前に……?
    ←ペリペリモノクマ

――犯人が隠滅できなかった証拠は?
    ←血まみれスタンプ



 これが事件の真実だ!






Act.1
 今回の事件は、被害者である咲夜が昨日、俺たちが雪かきをしている間にロビーのパソコンを使ったところから始まる。
 咲夜はワード機能で文書を作成し、それを印刷したんだ。
 キッチンに来るよう、集合時刻をずらしたものを五枚。これらの文書は、これから行う殺人のための小道具だったんだ。
 咲夜は印刷した文書を標的である澪と、スケープゴートに仕立て上げるつもりで渚と慧梨主、そして今回の事件の犯人に渡す。
 残る一枚は自身が持つことで、容疑を自分から外れさせようとしたんだ。
 文書を受け取った四人はそれぞれ行動をとる。渚はユーミアの部屋へ、慧梨主は亜梨主の部屋へ、そして澪と犯人は呼び出し通りキッチンへ向かった。
 個室の鍵となる電子生徒手帳を渚に預けていた澪は、そのまま部屋を出てしまえばオートロックのせいで締め出されてしまうが――。
 ラッチボルトにモノクマステッカーを貼り付けることで、ドアノブを回さなくてもドアを開けられるようにして、電子生徒手帳なしでも個室に入れるようにしていたんだ。



Act.2
 咲夜が澪と犯人を待ち構えていたのは二階の厨房。その奥にある食糧庫で、咲夜の極上の凶器であるオルトロスを待機させていた。
 そこに、犯人よりも早い時間を指定されていた澪が到着する。途中、朝倉とニアミスこそあったものの、誰にも見つかることなく、な。
 咲夜の計画では、澪を殺し、後から来た犯人にその罪を擦り付ける、はずだった。咲夜にとっての誤算は、澪がオルトロスを倒してしまったこと。
 澪は自分の極上の凶器であるモノクマ印の筋弛緩剤でオルトロスの動きを封じると、そのまま首の骨を折って殺してしまったんだ。
 抵抗しなければ澪に殺されると思ったんだろう、咲夜は包丁を手に取ってしまった。この時点で逃げていればきっと咲夜は殺されずに済んだはずなんだ。
 澪は咲夜の鳩尾を蹴って昏倒させた。そして包丁を元の場所に戻し、オルトロスの死体を処分する為に運び出して、キッチンから立ち去った。
 オルトロスの死体は外にある焼却炉に運ばれる。消灯時間中は焼却炉が使えないが、これは焼却が出来ないというだけで、死体を隠すだけなら問題なくできたはずだ。
 澪が立ち去った後、咲夜が取り残されているキッチンにやってきた人物こそ、今回の事件、咲夜を殺した犯人、クロなんだ。



Act.3
 犯人は包丁差しから包丁をとると、倒れている咲夜に向けて突き刺した。確実に殺したと思えるまで、五回もな。
 包丁差しはその構造上、利き手側の端からでないと取りにくい。咲夜を刺し殺すのに使われたのは左端の包丁だった。犯人は左利きだからだ。
 咲夜を刺殺した犯人は返り血の処分を考えていたはずだ。焼却炉は使えないし、ランドリーで洗濯するのは見つかるリスクがあまりに高すぎる。
 かといってクローゼットにしまっておけば捜査時間中に個室を調べられたときに言い逃れできないし、乾いていない返り血がどこかに移ってしまうかもしれない。
 そこで犯人は一度着替えると、食糧庫にあったある物を使って、使えないはずの焼却炉を使えるようにしたんだ。
 犯人は固形燃料を大量に持ち出し、更に三階の倉庫から火種となるものを仕入れて、返り血のついた服ごと焼却炉に放り込んだ。
 ただ、どれだけ大量の固形燃料を燃やしても、電気炉の火力には程遠い。だから服は焼却できても、ゴム底の靴は燃え残ってしまう。
 そこから足がつくことを恐れたんだろう、犯人は返り血のついた靴をそのまま履いていたんだ。
 幸い、その靴は黒革のローファー。ムラこそできるが、それほど目立たない。だが、これが決定的な証拠となってしまうことに、犯人は気付いていなかったんだ。



Act.4
 一方そのころ、自室に戻っていた澪は、オートロックがかからないようにしていたドアを開けて、中に入った。
 用済みになったモノクマステッカーを剥がすために、澪はドライヤーの温風を当てた。朝倉が聞いた奇妙な音はこれだったんだ。
 個室が完全防音とは言え、それはドアを閉めている場合。ラッチボルトの構造上、ドアを開けなければモノクマステッカーを剝がすことは出来ないからな。
 そして証拠隠滅を終えた犯人も部屋に戻った。しかし、犯人が隠滅できなかった証拠は靴だけじゃなかったんだ。
 それは、キッチンの入り口から食堂のテーブルまで続く足跡だ。咲夜を刺し殺した時に出来た血だまりを踏んだ犯人は、血で足跡が出来ていることに気付かなかったんだ。
 現場から立ち去るとき、テーブルの近くまで来てようやくそのことに気付いた犯人は焦ったはずだ。この足跡をそのまま残していれば、犯人が特定される可能性があるからな。
 だから犯人は血の足跡を消そうと必死に拭おうとした。でも、毛足の長いカーペットでは精々形を不鮮明にする程度にしかできなかったんだ。
 個人を特定されるよりはましだと思ったんだろうな。犯人はそれで妥協して現場を立ち去った。
 だが、犯人は失念していたんだ。シロ側には、血液を検出する手段があることに。血の足跡と、返り血が付いたままの靴が、そのまま犯人を示す決定的な証拠となることにな。



 これがこの事件の真相だ。そうなんだろ?“超高校級の園芸部候補生 柏木園子”!



―COMPLETE!!―





カシワギ ソノコ
「うぅ……」


ノノハラ レイ
「うんうん。柏木さんも納得してくれたみたいだし、もう充分かな?」


モノクマ
「どうやら、オマエラの結論が出たみたいですね!では、お待ちかねの投票タイムと参りましょう!」


カシワギ ソノコ
「ううううぅぅぅうぅ……!」


モノクマ
「オマエラはお手元のスイッチで投票してください。
 投票の結果クロとなるのは誰なのか?そしてその答えは正解なのか、不正解なのか?」






カシワギ ソノコ 15票 \GUILTY/







学 級 裁 判 

  閉 廷







モノクマ
「綾小路咲夜さん殺したクロは、柏木園子さんなのでしたー!全会一致の大正解でーす!」


カシワギ ソノコ
「あ、あぁぁ、あ、あ……、う、うぅぅぅぅぅ……!」


オモヒト コウ
「……」



 正解。つまり、俺たちの勝ち……、生き残った、ってことだよな。
 それなのに、何なんだこの胸糞悪さは……。
 いや、理由なんてわかってる。こんなの……、俺は……。



ユーミア
「……何故、咲夜お嬢様を?」


カシワギ ソノコ
「そ、それ……、は……」


ノノハラ レイ
「……はぁ」




ノノハラ レイ
「柏木さん。最期くらいキミを信じさせてよ。
 キミは、外に出るため、自分のために抵抗できない咲夜さんを殺したわけじゃないんでしょ?」


カシワギ ソノコ
「そ、そう、です……」


ノノハラ レイ
「え、なぁに聞こえない」


カシワギ ソノコ
「私は、……私は!野々原君のために!」


ノノハラ レイ
「……ボクの?」


カシワギ ソノコ
「……咲夜さんが文書で呼び出すスケープゴート役は誰でもよかったという推理、それは違うんです」



 そう言いながら、柏木はポケットから紙を取り出して広げる。



『ここでの生活について、貴方だけに大事な話があります。
 上手くいけばここから脱出できるかもしれません。手を貸してください。
 混乱を避けたいので、誰にも見つからないように二階のキッチンに来てください。
 時間は午前零時丁度。時間厳守でお願いします
 野々原澪』




ノノハラ ナギサ
「そ、それって……!」


ノノハラ レイ
「ボクの名前勝手に使うなんて、咲夜さんったら酷いなぁ」


カシワギ ソノコ
「綾小路さんは……、私を狙い撃ちしていたんです……!
 野々原君の署名があれば私は必ずやってくるだろうと……!」


コウモト アヤセ
「でも、それが一体どうして澪のために殺人をしたことに繋がるの?」


カシワギ ソノコ
「私がキッチンに着いた頃には、綾小路さんは目が覚めていました。……起き上がることは出来なかったようですが。
 ビックリしました。野々原君が私を頼ってくれたと思っていたのに、そこには綾小路さんが倒れていたんですから。
 私が来たことにも気づかないで、ずっとうわ言みたいに呟いてました。
 私を殺して、その罪を野々原君に擦り付けてやるって。そうやって苦しめることで、敵を討ってやるんだって。
 その時ようやく気付いたんです。この文書は綾小路さんの罠だったんだって」


オモヒト コウ
「だから、そうされる前に……、か?」


カシワギ ソノコ
「えぇ。私が殺されることは構いませんが、野々原君が苦しめられることは我慢できませんから。
 それに、もし綾小路さんがあのまま生きていれば、自分が野々原君を殺そうとしたことを棚に上げて、野々原君に殺されかけたと嘘を言いふらすのは目に見えていましたし。
 そうなれば、野々原君の生活に支障が出てしまうじゃないですか」


ノノハラ レイ
「それでボクの為に、ってわけ、か……。ふぅん?」




ナナミヤ イオリ
「では……、綾小路さんは一体何故野々原君を殺そうとしていたのでしょうか?」


ノノハラ レイ
「咲夜さんが殺された今となっては知る余地もないけど……、推測くらいはできるんじゃないかなぁ」


ナナミヤ イオリ
「推測……?」


ノノハラ レイ
「ガッキュウサイバンカッコカリがあった日の夜、動機ビデオが配信されたのは覚えてる?
 で、昨日の雪かきの時の取り乱しようから考えて、咲夜さんの動機ビデオには、綾小路家に関する重大な事件が映っているんじゃないかな?
 まぁ、その件に関してはシュジンコウクンの方が詳しいと思うけど」


オモヒト コウ
「……そう、だな。きっと咲夜は“自分が綾小路家から捨てられたのではないか”と思ったんだろう。
 誰も信用できなくなって……、不安で仕方なかったんだろう。
 だから、自分を脅かす存在――、なにかと疑いをかけてくる澪を排除しようとした。そういうところだろう」


ノノハラ レイ
「……だとしたら、やっぱり原因はキミにあるんじゃないかな」




オモヒト コウ
「何……、だと……?」


タカナシ ユメミ
「ねぇ、お兄ちゃんの話聞いてた?どこにお兄ちゃんの責任があるって言うのよ!
 結局はあの女が勝手に先走っただけじゃない!」


ノノハラ レイ
「気づいてないようだから教えてあげようかな。
 キミ昨夜さ、女子の誰か……、大方小鳥遊さんの部屋に行ってたでしょ。少なくとも、咲夜さんの部屋ではないよね?」


オモヒト コウ
「なっ……、なんでお前がそれを!」


ノノハラ レイ
「キミが五階から降りてきたのが見えたんだよ。渚に電子生徒手帳渡してるときにさ。
 で、消灯時間ぎりぎりまで個室で過ごせるようなキミと一番親しい女子って小鳥遊さんだろうし」


タカナシ ユメミ
「確かに、それはそうだけど……、それがどうしてお兄ちゃんの責任に繋がるのよ!」


ノノハラ レイ
「さっきキミが言ってたことさ。咲夜さんは誰も信用できなくなっていたって。その通りだと思うよ?
 昨夜、咲夜さんと対峙した時、そんな感じの顔してた。多分きっと、自分自身のことすらもね。
 超高校級の令嬢候補生、そんな自分というアイデンティティーが崩れ去ったような、絶望の表情してたよ。
 あのショックの受け方は多分、一番信じてた人に裏切られた直後だったからじゃないかなぁ」


オモヒト コウ
「……何が言いたいんだ」


ノノハラ レイ
「キミと小鳥遊さんとの逢引き、見られてたんじゃないの?咲夜さんに」


オモヒト コウ
「それは――っ!」



―回想>>723



 まさか、あの時感じた視線は……、咲夜のもの、だったのか?





ノノハラ レイ
「きっとね、咲夜さんはキミを一番信用していたんじゃないかな。依存していたと言い換えてもいいかもしれない。
 このホテルに来てから、咲夜さんと一番接しているのはキミだしね。
 キミと咲夜さんが二人っきりの間何があったのかは知らないけど、咲夜さんの視線は大抵キミの方に向いていたからさ」


オモヒト コウ
「だからって、なんで俺が咲夜を裏切ったことになるんだよ!」


ノノハラ レイ
「そんな質問が返ってくる時点でアウトだよ。まぁいいさ。ボクは心が優しいから教えてあげる。
 いいかい?あの時の咲夜さんは既に殺人計画の実行寸前まで追い詰められていたのさ。
 でもできることなら止めてほしかったんじゃないかなぁ?だからこそ17時なんて誰かに見られる可能性の高い時間帯に文書書いたんだろうし。
 自分の様子がおかしいことにキミが気づいて、声をかけてくれる瞬間を今か今かと待っていた。
 その矢先にキミが他の女の部屋から出てきた。その光景を見て、キミに捨てられたと思うのは、無理のない話だと思うよ」



 ……そういえば。



―回想>>532



 ……俺があの時の咲夜のあの言葉を、もっとしっかり聞き入れていればよかったのか?
 俺は、咲夜が伸ばした手を振り払って、背中を突き飛ばしてしまったのか?
 だったら、俺は……。





ナナミヤ イオリ
「たとえそうだったとしても、主人さんに責任があるとは思えません。
 それに、責任というのであれば、必要以上に綾小路さんを責め立てた貴方にも責任があるのでは?」


ノノハラ レイ
「そう言われると厳しいんだよね。殺し合いを防ぐための仕方ない犠牲とは言え、それが原因で殺し合いが起きちゃったみたいだし」


タカナシ ユメミ
「完全に裏目に出たわね!ざまないわ!」


ノノハラ レイ
「でも言い訳はさせてよ。咲夜さんに殺人計画を実行させて、ボクがそれを未然に防ぐ。ここまではボクのシナリオ通りだったんだからさ。
 ――そう、どこかの誰かさんが邪魔さえしてくれなければね」


カシワギ ソノコ
「えっ……?」





ノノハラ レイ
「全くさ。ボクの為って言うから黙って聞いてれば、結局はボクのためになってるわけじゃないし。むしろ窮地だよ。
 ボクのためを思って行動するのなら、もっとボクの行動理念とか、ボクの考えを理解してからにしてくれないかなぁ。
 無能な働き者ほど恐ろしいものはないとか言うけどさ、ハッキリ言って邪魔でしかなかったんだよね」


カシワギ ソノコ
「そ、っそん、な!」


オモヒト コウ
「お、おい!お前それはいくらなんでも……!」


ノノハラ レイ
「せっかく人が殺し合いを防いだ功績を元に、ここでの生活を支配しようと思ってたのに。
 ま、束縛されるのがいやって人は柏木さんに感謝するべきかもしれないけど」


カシワギ ソノコ
「待ってください!私は!貴方のためなら何だってします!いえ、してきたんですよ?!」


ノノハラ レイ
「ボクのため、ねぇ?なら質問していい?
 ――どうして自首しなかったんだい?」


カシワギ ソノコ
「……えっ?」


ノノハラ レイ
「ボクのためを思うなら、キミは素直に自首するべきだったんだよ。
 チャンスはいくらでもあったはずさ。ボクに疑いがかけられていたときなんて一番言うべきタイミングだったんじゃないかな?
 キミがいつまでも自首をしないから、無駄な時間費やして、ボクは窮地に立たされて、仕方なく喋りたくなかったことまで喋らされたんだからさ」


カシワギ ソノコ
「そ、それ、は……」


ノノハラ レイ
「でも君はそれをしなかった。何故だい?」


カシワギ ソノコ
「…………」


ノノハラ レイ
「あれ、だんまり?じゃぁ、代わりに言ってあげようか?
 ――本当はボクのためなんかじゃなかったんだろ?自分のためなんだろ?」


カシワギ ソノコ
「ち、ちが――」


ノノハラ レイ
「あのままボクに罪をおっかぶせれば自分は助かる、生き残ることが出来る、ここから脱出することが出来る、そう思ったんだろ?
 だからキミはボクを見捨てたんだ。恩知らずにもね。
 でもね、ボクは優しいから、そんな君の愚挙の数々も許してやろうと思ってはいたんだよ。ついさっきまではね。
 ――そう、キミがボクのために咲夜さんを殺したっていった、あの瞬間までは」





カシワギ ソノコ
「あ、ああ……」


ノノハラ レイ
「あーあ、ガッカリだよ。キミがそんな冷たい人間だったなんて。そのくせボクに責任おっかぶせてさ。
 咲夜さんの気持ちが今ならわかるよ。公に裏切られたと思った時の咲夜さんも、きっとこんな胸の痛みを感じていたんだろうね」


カシワギ ソノコ
「ち……、違うんですぅ……、わ、わた、私ぃ……、うぅぅ……」


ノノハラ レイ
「――なんてね。ついいじめたくなっちゃった。大丈夫、ボクは君を許すよ」


カシワギ ソノコ
「のの……、はら……、君……。こんな私を、許してくれるんですか……?」


ノノハラ レイ
「許すさ。ボクは優しいんだもの。それに――」




ノノハラ レイ
「ボクが許そうが許すまいが、どうせキミはここで死ぬんだし」



 無邪気な、満面の笑みだった。
 カンダタがすがった蜘蛛の糸を無慈悲に切った者の発言とは到底釣り合わないような、淀みのない笑顔。
 それがむしろ、澪の、柏木に対する純真な死の宣告を物語っている。



カシワギ ソノコ
「そ、そんな…!」


モノクマ
「野々原クンの独壇場みたいになってますが、だいぶいい空気になってまいりましたので!
 それでは皆様お待ちかね!おしおきタイムが始まるよー!」


カシワギ ソノコ
「い、いやです…。やだ…、いや…」



 モノクマは、巨大なガベルを振りかぶる。



モノクマ
「超高校級の園芸部員候補生、柏木園子さんにふさわしい、スペシャルなおしおきを用意しました!」


カシワギ ソノコ
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」



 柏木は半狂乱になって裁判場の端へとかけより、壁を叩く。この場から少しでも逃げ出すために。



モノクマ
「張り切っていきましょう!おしおきターイム!」


カシワギ ソノコ
「たっ、助けて!誰か!野々原君!やだ!いや!死にたくない!いやああぁぁぁあああ!」



 必死の懇願虚しく、モノクマは勢いよくガベルを振り下ろし、処刑執行のスイッチを押した。





 カシワギさんがクロにきまりました。
   おしおきをかいしします。






 鎖が繋がっている首輪が、柏木の首に嵌ると、すさまじい速さで裁判上の天井の方へと吊り上げられていく。


 柏木が思わず伸ばした手は澪に向かっていたが、澪はその手を、まるで虫でも触るかのように冷たく払う。


 絶望に顔を青く染めながら、柏木は天井にポッカリと空いた巨大な穴に吸い込まれるように、繋がれた鎖に引っ張られていった。






      千本ザクラ


   超高校級の園芸部員候補生


     柏木園子処刑執行





 鎖は巨大な枯れ木の、太い枝にかけられており、その長さは柏木のつま先がギリギリ付く程度に調整されている。

 絵面で言えば絞首刑だが、悪趣味なモノクマによる処刑は、そのような生温いもので済むわけもない。

 柏木の体を取り囲むように、百はあろう枯れ木の枝は伸びていく。

 その先端は、見る見るうちに形を変え、刃の一つ一つが桜の花びらのような形をしたチェーンソーのようになった。

 それが金切り声を上げながら高速回転すると、この先何が起きるかは想像に難くない。

 刃の一本一本が、柏木の体を切り刻まんと、ゆっくり迫っている。

 何とかして逃れようと体をくねらせもがくが、そんな程度の抵抗で避けられるわけがない。

 鋸引きのように、あるいはたんなるいたぶる目的か、少しずつ刃を柏木の体に当ててはひっこめを繰り返す。

 顔が、腕が、指が、胴が、脇が、足が。

 切られ、刻まれ、削られ、抉られる痛みに悶えながら、噴き出す血や飛び散る肉片は紅く染まった花びらの舞のようで。
 
 園芸部員の命を使った死の舞踊は唐突に終わりを迎える。刃が刻んでいたのは柏木の体だけではなく、柏木を吊るしていた鎖もだから。

 柏木の足元――俺たちにとっては天井――に再び穴が開いて、支えを失った柏木は裁判場へと落下していく。

 その落下予想地点、証言台でできた巨大な正十六角形の内側には、いつの間にか衝撃吸収マットが敷いてあり、柏木はそれに受け止められる。

 柏木が安堵の表情を浮かべたのもつかの間、さっきまで柏木を苛んでいた巨大な枯れ木が後を追ってきた。

 太く、大きな根を円錐状に束ね、高速できりもみ回転しながら、さながらドリルのように。

 それが同じように落下してきて――。






 枯れ木に花が咲いた。幹を中心とした左右で色が違う花が。

 半分は限りなく白に近い、淡い赤。もう半分はどす黒い赤。

 何よりも残酷な方法で咲かせた桜の花びらと血しぶきが、処刑を終えた裁判場に舞い落ちる。

 目の前の光景に呆然としている俺達にも、主を亡くし空席となった柏木の証言台にも、傲岸不遜な笑みを浮かべている咲夜の遺影にも。


女子二番 上野原咲良(うえのはら・さくら)

身長 168cm
体重 52kg
誕生日 3月30日
血液型 O
部活動 美術部
友人 池ノ坊奨
木戸健太
城ヶ崎麗
真壁瑠衣斗
朝比奈紗羅
上野原咲良
高須撫子
鳴神もみじ
(城ヶ崎グループ)
愛称 咲良
出身小 帝東学院初等部
親の
職業 会社役員(父)
能力値
知力:

体力:

精神力:

敏捷性:

攻撃性:

決断力:

★★★★☆

★★★★★

★★☆☆☆

★★★★★

★☆☆☆☆

★★★☆☆
柔らかな物腰と愛らしい容姿により帝東学院のマドンナ的存在だが、本人は無自覚。
ピアノや絵画などを好む芸術肌だが、祖父が総合武術“葉鳥神道流”の師範をしており幼い頃から道場に通っていたため武術全般も嗜んでいる。
高須撫子とは共に武術を学んだ幼馴染。
代々城ヶ崎麗の家に仕えてきた家柄で、『有事の際には城ヶ崎家を守ること』が家訓だが、実際は幼い頃から麗の傍にいて、周りと揉める麗を池ノ坊奨と共に窘めてきた。
木戸健太と付き合っている。
保健委員。

涙ながらに訴えてくる鷹城雪美(女子九番)を前に、上野原咲良(女子二番)はどうするべきなのかわからなくなった。

クラスの中心で盛り上がる城ヶ崎麗(男子十番)といつも行動を共にしている咲良には滅多に近付いてこない。
学校行事での様子から見て、雪美は目立って騒ぐことがあまり好きではないのだろうな、という印象を持っていた。
用事があれば普通に会話をするが、取り立てて用事のない時には関わることが滅多にない、それが雪美と咲良の距離だった。
そんな咲良に、どうして雪美は助けを求めるのか。

そして、雪美は先程自分たちに襲い掛かってきた松栄錬(男子九番)と湯浅季莉(女子二十番)と同じ班だったはずだ。
それに、忘れもしないプログラム開始直後の銃声――雪美たちの班と麗たちの班以外がまだ教室にいたことから、あの銃声に雪美たちが関わっている可能性は非常に高く、それは雪美たちが麗たちを襲った可能性も高いことを示している。
麗はプログラムに乗らないことを宣言していたし、同じ班の木戸健太(男子六番)・朝比奈紗羅(女子一番)・鳴神もみじ(女子十二番)が麗の意思に背くこともクラスメイ

唸るようなベースボイスが聞こえ、咲良は顔をそちらに向けた。
真壁瑠衣斗(男子十六番)がいつになく鋭い目で雪美を見据え、手に携えていたボウガンを雪美に向けていた。
池ノ坊奨(男子四番)も小さな目を見開いて瑠衣斗を見ていた。

「瑠衣斗くん…っ」

を逃がしてくれた高須撫子(女子十番)が味方として傍にいてくれることが大きい。
それなのに、雪美は本来傍にいてくれるべき仲間たちに敵意を向けられたという。
それはどれ程の絶望か。
もしも、咲良が今の雪美のように誰も頼ることができない状況で命を狙われているとしたら――考えただけで怖くてたまらない。

咲良の脳裏に蘇るのは、明け方に内藤恒祐(男子十二番)・林崎洋海(男子二十番)・如月梨杏(女子四番)・星崎かれん(女子十六番)に襲われた時の光景。

そして榊原賢吾(男子七番)は咲良とは1年生の時から同じクラスで、無口でとっつきにくく自分にも他人にも厳しいけれど、真っ直ぐな人で咲良もお世話になったことがあり、良い人だということはわかっている。
プログラムだなんて、クラスメイトを傷付けるだなんて間違っていると、話せばきっとわかってくれるはずだ。

雪美は目を細めて笑み、咲良の両手を握った。

   男子四番・池ノ坊奨  死亡

   【残り二十八人】

柔らかい、けれど酷く冷たい声が降ってきて、咲良は顔を上げた。
先程まで「怖い」と泣きじゃくっていたはずの雪美が、口許に手を添えてくつくつと笑いながら咲良を見下ろしていた。

計画…上出来……?
……ああ…そんな、まさか……!!

咲良は、ようやく気付いた。
雪美に騙されていたという事実に。

大きく息を吸い込み肺を新鮮な空気で満たしながら大きく伸びをした望月卓也(男子十七番)は、感動の言葉と共に両足で何度もジャンプをした。
その隣では親友の1人である春川英隆(男子十四番)が苦笑しながらも、同じように大きく伸びをしてから軽く身体を捻ってストレッチをしていた。

は程遠い出で立ちをした内藤恒祐(男子十二番)が卓也と英隆を追ってバスから降りてきて、辺りを見回した。

「フードコートがあるって先生言ってたから、中にあるんじゃない?
 俺うどんとか食べたいな、あるかな」

恒祐の後ろを追ってきたのは、田中顕昌(男子十一番)。
派手な恒祐といつも一緒にいるとは信じがたい程に大人しい容姿と控えめな性格で、細く垂れた小さな目はとても優しく見る者をほっとさせる。

「あるんじゃないの、定番だしさ。
 俺も天ぷらうどんとか食べたいなぁ」

「なあ恒ちゃんよ、あそこにご当地ラーメンって書いてね?
 せっかくだしアレ食おうぜ!」

更に雨宮悠希(男子三番)と川原龍輝(男子五番)が降りてきた。
悠希は非常に爽やかで声や表情だけでなく性格も優しい上に文武両道なのだが、少々ナルシストな面がある。

それぞれ手に地域限定のお菓子を持った上野原咲良(女子二番)と真壁瑠衣斗(男子十六番)が、バス酔い対策を話し合ってくれていた。
咲良は類い稀なる愛らしい容姿と誰にでも優しい性格で異性人気が非常に高い帝東学院のマドンナ的存在だ。
ここに入る前にちらっと姿が見えた時には、同じサービスエリアに居合わせた他の学校の修学旅行生に声を掛け

女子二番・上野原咲良
「奨くんにそういう風に思ってもらってたんだ、嬉しいな、ありがとう。
 千世ちゃんはとってもおっとりしてて、すごく癒されるの。
 ほんわかした関西弁も、とっても可愛いよ」

上野原咲良(同・女子二番)がにっこりと笑みを浮かべて永佳を見下ろしていた。
初等部の頃から類い稀なる愛らしい容姿をしていた咲良は、今や中等部どころか高等部にまでファンクラブができている程異性からの人気が高く、帝東学院のマドン

みんなで外で食べようよ。
 さっき華那ちゃんも食べてくれて、美味しいって言ってくれたから味は大丈夫!」

“華那ちゃん”――クラスメイトの佐伯華那(女子七番)は確か家庭科部に所属していたと記憶しているので、華那に頼んでお邪魔させてもらったのだろう。
のんびり屋でぼーっとしている印象しかない華那のことだ、何も深く考えることなしに咲良のお願いを受け入れたのだろう。

メイト、蓮井未久(女子十三番)がにこにことした笑みを浮かべて立っており、その陰に友人である阪本遼子(女子八番)がじっと利央を見上げていた。
細い目を一層細めて穏やかな雰囲気の未久と小柄ながらその性格のきつさが目に現れている遼子はぱっと見では合わないように見えるが、確か教室ではいつも一緒にいたと記憶している。
他に、いつもジャージの上着を身に付けた個性的な印象の小石川葉瑠(女子五番)や、両親が元スポーツ選手という血を受け継いで運動神経抜群の平野南海(女子十四番)、クラスで1番身長が低く(といっても遼子も大差ない)小学生が紛れ込んだのかと思わせるような無邪気さのある広瀬邑子(女子十五番)、こちらも遼子とほとんど変わらない小柄な背丈の邑子よりはやや大人しいがそれでも元気一杯の山本真子(女子十九番)といった面々のいる、女子の中では最も目立つグループに属している。

川原龍輝(男子五番)が相葉優人(男子一番)の弁当のから揚げを無断で食べたらしく、優人が怒りの声を上げていた。
その様子を見て、雨宮悠希(男子三番)と内藤恒祐(男子十二番)と望月卓也(男子十七番)が机や手を叩きながら大笑いし、控えめな性格の田中顕昌(男子十一番)はおろおろとして止めようとしているがどうにもできず、集団のリーダー格である春川英隆(男子十四番)は苦笑いを浮かべて優人を慰め、日比野迅(男子十五番)は呆れ顔で龍輝を窘めていた。
クラスの中心で盛り上がるお気楽な集団。
たかがから揚げ一つでそこまで騒げるなんて、なんてお気楽でなんて幸せなの。

城ヶ崎麗(男子十番)を取り巻く一団だ。
豪華な弁当を前に騒いでいるのは、麗の取り巻きたちの中の庶民幼馴染トリオの鳴神もみじ(女子十二番)・木戸健太(男子六番)・朝比奈紗羅(女子一番)だ。

「ちょっと、食事中に騒がしいですよ、埃が立つでしょう!
 これだから庶民は…っ!」

「君の声も大概騒がしいよ、高須」

「もー瑠衣斗くん、撫子に喧嘩売るのやめて。
 ご飯は楽しく食べないと」

「咲良さんの言う通りです…」

騒ぐ3人を咎めたのは黙っていれば大和撫子という言葉が相応しい出で立ちなのだが非常に気の強い高須撫子(女子十番)。
その撫子に静かに意見した真壁瑠衣斗(男子十六番)は中等部からの入学以来ずっと学年首席の座を守り続けている天才だ。
2人を宥める上野原咲良(女子二番)と池ノ坊奨(男子四番)は幼い頃からずっと麗に付き従ってきており、まるで麗の家来のように

こと原裕一郎(男子十三番)は、お世辞にも目立つタイプではない。
無愛想でぶっきらぼうで、いつも部活仲間の横山圭(男子十八番)と口喧嘩をしては彼らとつるんでいる宍貝雄大(男

木戸健太(男子六番)の陰の努力に、早稀もくつくつと笑みを零した。
余談だが、早稀は校内にいる様々なカップルたちを日々観察しているが、健太と上野原咲良(女子二番)のカップルは早稀内ベストカップル賞に輝いている。

1班 男子一番・相葉優人 男子八番・宍貝雄大 女子三番・荻野千世 女子五番・小石川葉瑠
2班 男子二番・芥川雅哉 男子十五番・日比野迅 女子十一番・奈良橋智子 女子十七番・水田早稀
3班 男子三番・雨宮悠希 男子五番・川原龍輝 女子七番・佐伯華那 女子十九番・山本真子
4班 男子四番・池ノ坊奨 男子十六番・真壁瑠衣斗 女子二番・上野原咲良 女子十番・高須撫子
5班 男子六番・木戸健太 男子十番・城ヶ崎麗 女子一番・朝比奈紗羅 女子十二番・鳴神もみじ
6班 男子七番・榊原賢吾 男子九番・松栄錬 女子九番・鷹城雪美 女子二十番・湯浅季莉
7班 男子十一番・田中顕昌 男子十九番・芳野利央 女子八番・阪本遼子 女子十三番・蓮井未久
8班 男子十二番・内藤恒祐 男子二十番・林崎洋海 女子四番・如月梨杏 女子十六番・星崎かれん
9班 男子十三番・原裕一郎 男子十八番・横山圭 女子十四番・平野南海 女子十八番・室町古都美
10班 男子十四番・春川英隆 男子十七番・望月卓也 女子六番・財前永佳 女子十五番・広瀬邑子
1班リーダー変更 : 荻野千世→相葉優人
10班リーダー変更 : 春川英隆→財前永佳
5班リーダー変更 : 城ヶ崎麗→鳴神もみじ
4班リーダー変更 : 真壁瑠衣斗→高須撫子



「どうしよう……。涼子ちゃん……。私の番が回ってきちゃったみたい……」


TO 上田香奈枝
件名 第10回 友食いゲーム
状態    感染者
ワクチン  骨
ドナー   天野翔太


涼子と一緒に女子トイレに入るなり、香奈枝は目に涙を浮かべなはらも崩れ落ちる。

これまでは他人に疑われないように平静を取り繕っていたのだが、香奈枝の精神は既に限界に達していた。


教室組のメンバーから感染者が現れたのは初めてのことであった。


考えてみれば、これまで感染者が出なかったのは確率的に奇跡的なことだったのかもしれない。

プログラムのルール


●対象クラス
  東京都私立帝東学院中等部3年A組(男子20名・女子20名、計40名)



●会場
  東京都沖御神島



●基本ルール
  4人1組のチーム戦
  原則チーム同士で戦い、最後の1チームのみが生きて帰ることができる



●チームリーダー
  チームの中の1名がリーダーに任命されている(左腕に印がある)
  リーダーが殺害された場合、チームメイト全員の首輪が爆発し、チームは敗北となる



●下剋上ルール
  リーダーを、同じチームのメンバーが殺害した場合はメンバーの首輪は爆発しない
  リーダーを殺害したメンバーが、新しいリーダーとなる

右斜め前には副委員長の奈良橋智子(女子十一番)が、左斜め前には銀髪赤メッシュという、パーマをかけた明るい金髪をツインテールにしている季莉と同レベルで派手な頭をしているサボリ魔の芥川雅哉(男子二番)がいるはずだ。

莉から情報を受けるとすぐに上野原咲良(女子二番)を呼んだ。
咲良は麗とは幼馴染であり、家柄の話をすると昔は主君と家臣の関係だったという話を聞いたことがある。
麗の左隣の席であることもあり、咲良を起こしに掛かったのだろう。
間もなく寝ぼけたほわほわとした声で「麗くん…?」と呼ぶ咲良の声が聞こえた。

「咲良、ここは教室で席の並びは普段と同じらしい、周りの奴を起こせ。
 電気のスイッチはどこだろうな…紗羅、芳野!!」

麗は今度は廊下側の最前列の席である朝比奈紗羅(女子一番)と芳野利央(男子十九番)を呼んだ。

水田早稀(女子十七番)の左肩に激痛が走った。
芥川雅哉(男子二番)の叫び声、奈良橋智子(女子十二番)の悲鳴、日比野迅(十五番)に抱き起こされた感覚――全てが自分から遠いもののように感じる程に、早稀の中では怒りの感情が迸っていた。

「こ…の…ッ!!」

じゃ、まずは儚く散ったお友達の名前、時系列順に呼んでくからな。
 両手にあふれそうな想い出たちを枯れないように抱き締めてな!
 男子十一番・田中顕昌君…は知っての通りやな。
 男子十八番・横山圭君。
 男子八番・宍貝雄大君。
 女子四番・如月梨杏さん。
 男子十二番・内藤恒祐君。
 男子二十番・林崎洋海君。
 女子十六番・星崎かれんさん…以上7人。
 ちなみに如月さん・内藤君・林崎君・星崎さんの8班は、リーダーの如月さんの
 死亡によって残りのメンバーの首輪が爆発したから、皆は気ぃつけなー。
 リーダーの皆も、自分の命大切にせなあかんで?
 くれぐれも自分から命を絶つとか、そんな馬鹿げた真似はせんように。
 リーダーの自殺でもメンバーの首輪は連動して爆発するからな』

ほんなら、この6時間で退場した友達の名前を発表してくでー。
 男子三番・雨宮悠希君。
 男子五番・川原龍輝君。
 女子七番・佐伯華那さん。
 女子十九番・山本真子さん、以上。
 みんな動き悪いなぁ、明るい間にもうちょい頑張らなあかんのとちゃう?』

はいっ、午後6時になりましたーってことで、定時放送いくでー。
 まずは退場したお友達の名前から言ってくからなー。
 男子四番・池ノ坊奨くん。
 女子三番・荻野千世さん。
 以上2人…ちょっとちょっと、前よりもペース遅なっとるやんかー!
 みんな、もうちょい頑張って

ほんなら、まずは儚く散っていったお友達の発表な。
 男子一番・相葉優人君。
 女子五番・小石川葉瑠さん。
 女子十五番・広瀬邑子さん。
 男子十四番・春川英隆君、以上4人や。
 小石川さんは、リーダーの相葉君の死亡によって首輪が爆発してもたからなー。
 最初の放送でも気ぃ付けなあかんって言ったのになぁ』

『じゃあ、まずは儚く散っていったお友達を発表するで!
 女子十四番・平野南海さん。
 男子十三番・原裕一郎君。
 女子十八番・室町古都美さん。
 男子十番・城ヶ崎麗君、以上4名や』

ほんなら、まずは儚く散ったお友達の発表からなー!
 男子二番・芥川雅哉君。
 女子十一番・奈良橋智子さん。
 男子十五番・日比野迅君。
 女子十七番・水田早稀さん、以上!
 日比野君と水田さんはリーダーの奈良橋さんの死亡で首輪が爆発したで。
 もうこれで注意3回目やで、みんなマジで気ぃ付けてな!』

やー、やっぱり昼間はみんな積極的に頑張ってくれるなぁ、感心感心!
 ほんなら、この6時間で儚く散ったお友達から発表していくで!
 女子十三番・蓮井未久さん!
 男子十六番・真壁瑠衣斗君!
 男子九番・松栄錬君!
 男子六番・木戸健太君!
 女子二十番・湯浅季莉さん!
 女子二番・上野原咲良さん!
 女子十番・高須撫子さん、以上!』


   女子八番・阪本遼子  死亡

   【残り七人】


1 ○ 榊原賢吾(男子7番) v.s.  阪本遼子(女子7番) ×
(6/1 6:21p.m. 阪本遼子 退場)

2 ○ 望月卓也(男子17番)
  財前永佳(女子6番) v.s.  榊原賢吾(男子7番) ×
 鷹城雪美(女子9番)
(6/1 6:28p.m. 榊原賢吾 退場)

3 ○ 朝比奈紗羅(女子1番)
  鳴神もみじ(女子12番) v.s.  鷹城雪美(女子9番) ×

(6/1 6:40p.m. 鷹城雪美 退場)

4 ○ 財前永佳(女子6番) v.s.  朝比奈紗羅(女子1番) ×
(6/1 6:42p.m. 朝比奈紗羅 退場)


2 ○ 望月卓也(男子17番)
  財前永佳(女子6番) v.s.  芳野利央(男子19番) ×
 鳴神もみじ(女子12番)
(6/1 8:13p.m. 鳴神もみじ 退場)
(6/1 8:18p.m. 芳野利央 退場)
ゲーム、終了

復讐リストはクラスメイト全員

クラス名簿

男子名簿順
1:阿部祐樹
2:五十嵐隼人
3:越智一真
4:川本大輔 
5:北浦亮
6:小林政敏
7:志水哲也
8:瀬尾優斗
9:辻村健太郎
10:常盤蓮
11:峰嶋貴志
12:森谷直人
13:山瀬裕也
14:吉永翔太

女子名簿順
1:稲葉結衣子
2:岡崎杏奈
3:奥井詩織
4:窪田恵美子
5:古賀美里
6:渋谷真央子
7:菅原千鶴
8:滝嶋結子
9:塚本美穂
10:夏目麻衣子
11:野村藍子
12:藤沢彩菜(自分)
13:三輪楓
14:結城真莉子
15:若槻梨乃子

TO 天野翔太
件名 ゲーム2 結果発表
死者数  2/39
死者名  井波裕也 滝川柚乃   


「なっ。死者が増えてる……!?」


メールの内容を確認した翔太は絶句した。 
ゲームはクリアーしたはずなのに一体何故?

しかし、頭の中に降りたその疑問は画像として添付された7名の死体を見た途端に解決することになった。


「……欠席者か」


死者の欄に書かれている生徒に共通する点は、いずれも学校に登校してこなかったという点にある。

仮にもし、ゲームのルールに学校を欠席してはならないという項目が存在しているのだとしたら――。
今回の結果にも納得がいくものがある。

プキンの固有アイテムであるレイピア。切った相手の考えを変えてしまうという魔法の武器。超強力な洗脳魔法で、その効果は多種多様に使えるが、持ち主ではないフレデリカには微調整は難しい。
プキンの今際の際に奪い、それからはフレデリカが所持している。強力な分だけ同時に一人にしか使えないという制約があり、limited以降はリップルに使用していたがACES終盤で解除する。今現在の対象者は不明。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年07月15日 (水) 21:24:53   ID: jnt0upQh

結構すきだぞ
頑張れ

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