【艦これ】提督「ちんじふ裏らじお」【安価】 (581)
艦隊これくしょん -艦これ-(ゲーム)のキャラと設定を借りただけの安価スレです。>>1は遅筆なのでご容赦ください
また、艦娘にオリジナルの設定が加わっていたりキャラが崩壊しているかもしれません、ご注意ください
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1420867996
提督「ラジオ放送ですか?」
明石「はい! 最近開発した機器なんですけど、ちゃんと出来ているのか確認したくって……」
明石「試験的にこちらの執務室に置かせていただこうかと思いまして」
榛名「なんだかすごく複雑そうな機械ですね……」ツンツン
提督「はあ……まあ、置くぶんにはまったく問題ないんですけどね。
駆逐艦の子たちもよく執務室に入ってきますし、変ないじられ方しても知りませんよ」
明石「あ、そこは大丈夫です。本格的な機器は機械室の方に置いてあって、そこから配線を引っ張ってきてるので。
だからこちらの執務室に置く機器は卓上型マイクと、マイク録音の音量調節くらいなものです」
明石「希望があればこちらにレコード再生機器やCDプレーヤーなども置くことができますが」
提督「いや、ろくに音楽なんて聴かないものですからCDなんてとても……。
念のため、わかりやすいように説明のシールを張っていただいてもよろしいですか?」
提督「ボタンとかバーがたくさんあってちょっとわかりにくいですし」
明石「ふっふっふ……お任せください! そう言われると思って用意してあるんですよぉ! はいはいほれほれ」ペタペタ
明石「音楽の話ですが、提督のほうから案がないならこちらの方でバックミュージックを手配しておきますね」
明石「やはり放送の裏が無音だとすこし寂しいものがありますから」
提督「あい了解です。相変わらず見事な手際ですこと……」
榛名「でもですけど、いつも使っている府内放送ではだめなのですか? こちらも鎮守府内全域に通っていたはずですが……」
提督「あっちはどちらかと言えば連絡用回線として使用しているからな。
週初めの方に、今週の艦隊編成だとか遠征の予定だとか……そうそう気軽に利用できるものではないし」
明石「そうでしょうね。強制的に開かれる回線なんだから私的に利用するわけにもいかないですから」
提督「職務連絡ならともかくとして、個人の配信を強制的に聞かせるのも悪いしな」
榛名「たしかに……その通りです」
提督「それに普段から連絡用回線を開いていたら、そっちの回線の放送に対する“慣れ”が出来てしまうからなあ。
そういったものに慣れてしまうと、いざ緊急時となったときに緊張感を保てなくなる」
提督「まあ、いまみたいに週一で連絡用に使っているのも本当はあまり良くないんだけどな。
朝食食ってる最中とか、食った後とかにみんなを集めて連絡事項を伝えたいところなんだが……」
明石「朝に弱い子たちとか、そもそも朝食をとらない子たちもいますからねぇ。普段から口を酸っぱくして言っているのですが……」
明石「ああそうです、連絡用回線で思い出しましたが、こちらのラジオ放送は配信範囲を絞って放送することも可能です」
明石「配信範囲としましては鎮守府全域はもちろんとして、間宮食堂から鳳翔さんのお店までカバーしてあります」
明石「もちろんわたしの酒保にも流れるよう設定いたしました!」
提督「ん……それはたいへんありがたい話だとは思うんですが。この執務室から配信するんですよね?」
提督「時間にもよると思いますが、いつ配信するんですか?
あんまり遅いと駆逐艦の子たちもお布団でしょうし、早ければ出撃や演習やらで閑散としていますし」
榛名「そうですね。お昼過ぎから夕刻まではみなさん出払っていらっしゃいますし……」
提督「それに誰がMCを務めるんですか? 自分は執務に追われていて厳しいですし」
提督「青葉でも呼びつけて特務艦扱いでやらせますか?
ほかにも出たがりの艦娘に何名か心当たりがありますけれど……」
提督「それにさっきは問題ないと言いましたが、こちらの仕事の方に影響が出るようでしたらお断りしたいなあと。
確認が必要な書類がたまっていて、あまり滞らせるようなことはしたくありませんし……」
明石「あっ、ちょ、ちょっと待ってください。順番にお答えしますね」
明石「まず時間に関してですけど、駆逐艦の子たちがおねむになる前……食後くらいですね。
だいたい夜の七時か八時くらいを想定していただけると助かります」
明石「できれば毎日放送できるといいみたいです。夜間は深海棲艦の活動も大人しくなりますから」
明石「放送時間に関しては最低三十分、長くて一時間半といったところでしょうか。
多少の前後は問題ないと思います。食事中に放送しても構わないようですね」
提督「(構わない……?)」
明石「つぎに司会進行――“MC”ですが、こちらは提督に務めていただくこととなっております。
いまはわたしが口頭で伝えていますが、後ほど大淀を通して大本営の方から正式な辞令が出るはずです」
提督「えっ」
明石「任務としておりることになりますから、提督の確認が必要な書類は大淀とわたしの方で処理することが許可されました。
とはいえ、必ず提督が目を通さないといけない書類は見ていただくことになると思いますが」
提督「えっちょっと待って」
明石「はい、なんでしょう」
提督「さっきの機器は明石さんが試験的に開発したもの……じゃなかったんですか? それがなんで上からの辞令に関わって……」
明石「ああ……実は試験的に開発したと言っても、大本営からの命令で作製したものなんです。
なんでも今後の活動においての参考にするだとかなんとか」
明石「ほら、連絡用回線を使っての連絡って記録として残るじゃないですか?
今までにもそういった記録は残っているんですが、今回大本営が欲しがっているのは“艦娘たちの日常”だそうで」
榛名「榛名たちの日常、ですか」
明石「艦娘になった子たちの生活が気になるらしいです。艦娘の子を持つご家族の希望がとても強かったそうですよ」
明石「希望があったご家庭の方に、お子さんの所属する鎮守府のようすを収録したディスクを送るみたいです」
提督「お子さんの……うちに所属する鎮守府の家庭、つったら……」
明石「大きなご家庭だと、特にと言えば大和さんや如月ちゃんが該当しますね。あとは金剛さんたちなんかもそうです」
提督「げえっ……」
榛名「ああ……気にしてばっかりなんだから、もうっ……」
明石「もちろんそれ以外にも用途はあるみたいですけどね。艦娘の精神状態とかの確認にも使うみたいです。
年も明けましたし、新しい試みをここいらで試してみようという話になりまして」
明石「とはいえ、あまり大きく構える必要はないですよ。あくまで“日常”がメインですから」
明石「へたに取り繕おうとした方が問題になるかもしれないですよ?」
提督「わかってますよ……ええっと、具体的な開始日時っていつごろからになりますか? できれば放送開始の日までに書類の方を片付けておきたいんですが……」
榛名「そうですね……年末年始で業者さんの出入りも多くありましたから、いつもより多く書類が積まれていますしね」
明石「明日ですよ」
提督「えっ?」
明石「明日」
提督「…………」
榛名「…………」
――――
――
提督「(その日は秘書艦の榛名と二人で徹夜の作業だった)」
提督「(そして驚いたことに、明石さんの話を聞いた翌日、大淀さんが記録用のディスクと辞令書を届けに来た)」
提督「(どうやらホントの本当に今晩から放送を開始しないといけないらしい。辞令を確認して頭が痛くなった)」
榛名「提督……? あの、お口に合いませんでしたか……?」
提督「……ん、いや、このメシ食ったらラジオと思うとげんなりしてきてな。
まさか特別佐官とはいえ、提督になってから放送部の真似事をすることになるとは思いもしなかった」
提督「今日に限ってすっげぇ時間経つのが早く感じる……」
榛名「ああ……そうですね……。で、でも、提督は学生時代には放送部だったじゃないですか。その経験を活かして、とか」
提督「いや……幽霊部員もいいとこだったろ、それを言ったら榛名だって一緒の放送部だったろ」
榛名「そ、それはそうですが……」
提督「二人して幽霊部員だったもんなあ……校則で必ず部活動に所属するように決められてたからなあ。
叔父さんの伝手で卒業後鎮守府入りすることが決まってたから、二人とも勉強に明け暮れてたし」
提督「もともとこういう人の前に出て喋るっていうのは性に合わないんだよなあ……なんか、恥ずかしいし」
榛名「も、もう決まったことなんですから、頑張ってください! 榛名も応援していますからっ」
提督「あー、榛名はいい子だなあ……よしよし」
榛名「んっ……」
榛名「そ、それにはるな……提督の放送、ちょっぴりたのしみにしてたり……なんて」
提督「そうかあ……よしっ! 榛名が楽しみにしてるとなったら一肌脱ぐっきゃないだろ! 榛名の両親にも、榛名たちが元気にしてるってとこ伝えてやんないとな!」
榛名「ふふ……父や母も、久しぶりに提督のお声を聞きたがっていましたよ」
提督「そうかそうか……よし、今晩は二人で頑張って乗り越えような!」
榛名「……え? ふたり?」
提督「番組を進行するにあたってな、俺がMCを務めるのは決まってるんだが、ゲストとして艦娘を呼ばないといけない決まりでな」
提督「記念すべき栄えある第一回放送のゲストは…………榛名、お前だ」
榛名「えっ」
提督「うっふふふふふふ……お前ひとりだけ蚊帳の外にはさせないぜ……」
提督「まるで他人事みたいに言いやがってよお……ずっと一緒だからな榛名……うっふふふふふふ」
榛名「」
ガチャ
金剛「brrrrr... ぅー。おはようございマース……」
比叡「金剛お姉さま! おはようございますっ」
陸奥「あらあら、お姫さまのお目覚めみたいね」
長門「おそよう、だ。さすがに遅すぎるぞ金剛、もうすぐ夕食だ」
伊勢「え、まさか今のいままで眠りこけてたってわけじゃないよね?」
金剛「コターツ……ヒエー、ちょっと詰めてくだサーイ……uhh...」ゴソゴソ
金剛「夢に落ちていたわけではないデース……ベッドの中でケータイをいじっていたらこんな時間になってただけデース……」
伊勢「うわぁ……」
長門「……それは実質寝ていたも同じだろう」
比叡「お姉さま……さすがにそれは自堕落すぎではないでしょうか」
陸奥「わたしたちもコタツで暖を取りながらテレビばっかりずーっと見てたわけだから、あんまり人のこと言えないけれどね」
伊勢「この時期は同じような番組ばっかりで飽きちゃうわねぇ」
日向「まあ、そうなるな」
長門「なにを言う。わたしはちゃんと日課のトレーニングを済ませてやってきたのだ。
真の強さとは、まず自分を律することから始まる! こういった年始の休日でも気を抜かないことだ!」
陸奥「姉さんは気合入りすぎだと思うけどね。なによそのヘソ出しルック……痴女じゃないんだから」
長門「お前に言われたくない!」
陸奥「わたしはさすがにオフの日くらいは厚着するわよぉ。誰に見られるってわけでもないし」
金剛「mmm... 見てるだけでこっちまで寒くなるネー。ナガトはいっつもお腹出してるけど寒くないノー?」
長門「これしきの寒さなど、どうにもならん。だいいち、日ノ本を背負って立つ人間が自国の寒さに震えてどうする」
長門「この程度、当たり前のことだ」
伊勢「こたつでぬくぬくしながら言われてもねぇ」
陸奥「寒いと思うなら服着たらいいのに」
長門「やかましい。心頭滅却すればと言うだろう、寒いと思うから寒いのだ」
金剛「oh... Japanese RIKISHI style...」
日向「まあ、そうなるな」
長門「力士ほどはだけていないだろう! まったく……すこしは夕立ら駆逐艦を見習ったらどうだ」
長門「彼女たちはこの積雪のなか、魚雷を使ってはねつき遊びまでやっているんだぞ」
伊勢「ドッジボール版はねつきだけどね」
日向「そもそも羽つきではなくぎょら付きだろう」
ポイイイイイイ ドゴーン マイクチェックノジカンダオラアアアア ドゴーン ギャアアアアアア
金剛「あんなクレイジーガールと一緒にしないでくだサーイ! うぅ……日本の寒さはいつになっても慣れないデース……」
伊勢「うーん、よくわかんないんだけど、イギリスの方が冬厳しいんじゃないの? ほら、冬のロンドンとかって言うじゃん」
日向「まあ、そうとも言うな……伊勢、みかんを取ってくれないか」
伊勢「もうすぐお夕飯だから我慢しましょうねー」
日向「ぶー」
比叡「そういえばたしかに、イギリスに渡英した学生時代の友達も寒い寒いってよく手紙をよこしてきますねぇ」
金剛「それはなんというか、ブリテンの冬は日本とはまた違うタイプの寒さデース」
金剛「あっちの国は凍てつくような寒さで、身体の外側が冷えていく感じデスがー……」
金剛「日本の冬は身体の芯から冷え込むような、そんな底知れぬ寒さがありマース……brrrr」
陸奥「ぶるぶる言って、ふふっ……まるでお牛さんみたいね」
金剛「牛みたいな乳した女に言われたくないデース……ノーウェイノーウェイfucking cold... うぅ……」
ガチャリ
扶桑「あら……おこたが占領されているわ……」
山城「おねえさまっ、暖炉前のソファが空いているからあちらに座りましょう!」
扶桑「そうね……。あっ、そうだ編み物をいたしましょう。セーターを編んでいる途中だったの……お部屋から取ってくるわね」
山城「はいっ、わたしは温かいお茶の準備をしておきますね!」パタパタ
扶桑「お願いね、山城」ガチャ
金剛「あっちはおばあちゃんと孫みたいな会話してるネー……ヘイ山城! こっちに温かい紅茶が用意してあるネー!」
比叡「わたしが用意したものですけどね」
山城「あらごめんなさい。お姉さまは抹茶のおいしいお茶しかいただかない“純正”大和撫子なの……」
山城「あなたのような養殖“えせ”巫女ガールがたしなむ紅茶はきっとお姉さまのお口に合わないと思うわ」
金剛「……むかちーん!」ガタッ
陸奥「むけち――」
伊勢「やめなさい!」
金剛「Oh oh oh ooooh! さては去年の艦娘戦功ランキングで、わたしが扶桑を上回って入賞したことを根に持っているんですカー!?」
比叡「(……戦功ランキングってなんですか?)」
長門「(深海棲艦の撃墜数だ。どの艦種を撃墜したとかは艤装に記録として残るからな)」
長門「(強力な深海棲艦を数多く撃墜した艦娘には提督から褒賞を賜るんだ。いつも月末に発表しているが……知らなかったのか?)」
比叡「(……ああ! だから前お菓子の詰め合わせをいただいたんですね! 何のことかと思いましたよ)」
長門「(フッ……ちなみに金剛は昨年の年間“航空母艦”撃墜数トップだ)」
長門「(褒賞として希望の品物を提督からもらったそうだが……なにをもらったのだろうな)」
金剛「New year を迎えたというのに、去年の恨みを持ち越すなんて一途なピュアガールネー! 除夜の鐘もゴンゴン泣いてるヨ!」
金剛「残念だけどわたしの心は提督とマイファミリーに捧げているからNO! なのネー」
比叡「おっ、お姉さま……っ」
長門「(感極まるなぁ)」ポリポリ
伊勢「長門さんも夕飯前におせんべいはやめましょうねー」
長門「…………む」
山城「はっ、よく言えますね! 扶桑姉さまが追い詰めた敵を横からかっさらっていっただけのくせして!」
山城「本来あの賞は扶桑お姉さまのものだったはずです! それをあなたみたいな…………!」
金剛「わたし? わたしのコト? オーケーオーケー! Come on Come on C'mon!! 遠吠えはなにを聞いても悪い気しないネー!」
山城「あなたみたいな…………っ」
金剛「Uh-huh?」
山城「この…………っ、いい歳してアレンジ巫女服着たコスプレ女になんかっ!!」
山城「年齢を考えたらどうですか? もう二十も半ばのくせしてみっともない恥ずかしい」
山城「いつまでも十代のころでいられるとでも思っているんですか? こころはいつでも十八歳なんですか?」
金剛「」
伊勢「あー歳いっちゃうかー」
日向「歳はまずいな。歳の話はいかんよ」
陸奥「誰もが触れないようにしていた話題だったのにねぇ」
長門「しかも発言が壮絶にブーメランしているな」
伊勢「ちょっと! 金剛さんも山城さんもちょっとヒートアップしすぎ。もうすぐ夕飯なんだから仲良くしましょうよ」
日向「そちらで揉めているはずなのに、こちらにまでダメージが来るからやめろ」
比叡「そうですよ二人とも。新年あけてすぐ喧嘩では縁起が悪いです。おめでたい日なんですから」
山城「む……それもそうですね、ちょっと熱くなりすぎました。すみません、みっともないところをお見せしました」
金剛「」
陸奥「こっちは水揚げしたヒラメみたいになってるわねぇ」ツンツン
長門「塩でもかけていろ」
金剛「」ヒラメ
ガチャリヌ
扶桑「あら……? みなさん、どうかなされましたか……?」
霧島「なにか言い合うような声が聞こえてきましたけど」
山城「お姉さま! お帰りなさい! あの……申し訳ないんですけど、お茶の方はもう少し待っていただいてもよろしいでしょうか」
山城「ちょっとトラブルがあって準備が遅れているんです……」
扶桑「あ……いいのよ山城。もう食堂の方に向かわないといけないから……」
日向「お? ということはもう夕食の時間か?」
霧島「はい、本日の当番の子たちが準備終わったからみんなを呼んで来いとのことです」
伊勢「お待ちかねね~。お尻に根っこが生えちゃうかと思ったわよ」ヨイショ
陸奥「ちょっとおばさんっぽいけどわかるわ。コタツとテレビだけで余裕で越冬できるわよねぇ」ムクリ
長門「さ、行くこととするか。小さな子らの前でだらしのない格好をするんじゃないぞ」
スタスタ パタン
比叡「……霧島、榛名がどこにいるか知らない? 昨日からずっと見てないんだけど」
霧島「榛名は任務だかなんだからしいですよ。あまり要領を得ませんでしたが……夕食は執務室でとるようです」
比叡「ふうん……、そっか。じゃあ行こっか霧島」
霧島「あら、金剛お姉さまはよろしいんですか?」
比叡「金剛お姉さまは……ほら、あれ」
金剛「」ピチピチ
霧島「ああ、伝統のヒラメ芸ですか。新年早々から拝めるだなんて、今年は良い年になりそうですね」
比叡「そうだねぇ。お姉さまは当分あのままだと思うから先に行っちゃいましょ」
霧島「そうですね……では金剛お姉さま、お先に失礼しますね」
バタン
金剛「」
金剛「」
ざわ・・・
ざわ・・・
ざわ・・・
比叡「うっわー! 今日はまた一段と混んでるねぇ」
霧島「年末年始くらいは、できるだけみんなでご飯を食べるようにと提督から指示があったんですよ」
比叡「提督から?」
霧島「ええ。同僚としてではなく、“寝食をともにする仲間”という意識を強めて欲しいとのことで」
比叡「へえ……わたし個人としては、仲良くしたい子たちがたくさんいるから嬉しい話だけどね」
霧島「わたしも同意見です。……比叡お姉さま、あちらのテーブルが人少ないですしあちらにしましょうか」
比叡「おっ、人陰になっててよく見えなかったけどきっちり空いてるね。金剛お姉さまの席も確保しておこっか」
霧島「そうですね」
霧島「すみません、こちらの席よろしいですか?」
瑞鶴「――? ああ、霧島さんたちか。いいよ気にしないで」
翔鶴「今日はおふたりなんですか?」
比叡「いえいえ、あとから金剛お姉さまも来る予定です。榛名は用事があるみたいで来れないようですけど」
瑞鶴「あっ、それわたし見たかもしんない」
翔鶴「わたしも……。なんだか、提督と明石さんに両脇を抱えられて連行されていましたよ」
瑞鶴「なんか珍しかったよねー。榛名さんが真っ赤な顔で引きずられてるのって新鮮」
比叡「いったいなにしたのあの子……」
霧島「榛名が赤面すること自体はいつものことですが、引きずられているのは珍しいですね……」
瑞鶴「でもこうやってみんな集まって食べるのってなんか面倒くさいなー。人がいっぱいいるところってあんまり好きじゃないし」
翔鶴「もう瑞鶴、そんなこと言わないのっ」
比叡「あはは、お気持ちはよくわかります。トレイを持って人ごみの中を歩くのってたいへんですしね」
瑞鶴「そうそう! 駆逐艦の子たちとか走り回るもんだからどんどんぶつかっちゃうし!
それにたっくさん人がいるおかげで、注文とってもらうまでにすっごい時間かかるし!」
瑞鶴「高校の購買部かっての!」
霧島「そうですねぇ……艦種ごとにお昼の時間を少しずつズラすとか、もう少し楽にしてほしいものです」
霧島「とは言ってもみんながまとまった時間を取れるのは今のような年始ぐらいなものですし」
霧島「年末年始のイベントの一環として諦めて参加するしかなさそうです」
翔鶴「そうですねぇ。……でも、年始は深海棲艦が現れないというのは本当なんですね」
翔鶴「こうした平和な日々がずっと続けばいいんですけれど……」
比叡「年末年始はなぜか深海棲艦の侵攻がパタリと止むんですよねぇ。不思議なお話です」
瑞鶴「案外あっちも新年パーティーかなにかやってるんじゃないの?」
霧島「あ、パーティーで思い出しましたけど、今日から変わった催しを行うみたいですよ。
今日からって言ってももう夜の七時前ですし、なにかあるとしたらそろそろだと思うんですが……」
瑞鶴「変わった催し?」
霧島「催しです。明石さんがなにやら妖しげな表情をして――」
ザザ
『……あーあー、テストテスト。明石さん、マイク音量大丈夫?』
『……オッケーですか? え、もう始まってる!? …………はい。はい』
霧島「――――うわさをすれば、ですかね」
瑞鶴「え、なに、放送?」
『えー、海洋をたゆたう可憐な妖精のみなさまこんばんは! 本日この時間、ヒトキューマルマルの訪れをお知らせいたします!』
『みなさま、新年あけましておめでとうございます! 昨年は大きな戦いが続き背筋も凍るような日々でございました』
『今年もわが鎮守府は前進と飛躍に向け挑戦を続けます。なにとぞ、よろしくお願いいたします』
阿賀野「あらあら……これはこれはご丁寧にどうも~」ペコリ
能代「阿賀野姉ぇ、これ放送だから……」
『さてさて、夜空を雪がくだり月がのぼりはじめたこのごろ』
『艦娘のみなさんの中には、出撃がないのをいいことに生活バランスが崩れてきた天龍ちゃんなどもいるんじゃないでしょうか』
天龍「っ……なんでオレ限定なんだよっ!」
電「……でも天ちゃんさんはお昼すぎまでお布団ごろごろだったのです」
暁「レディにあるまじき振る舞いね!」
龍田「おちびさんたちに揉まれてやっと脱皮したものね~」
『すっかり寒くなってまいりましたが、みなさん風邪などはひかないようにしましょうね』
『年は明けても冬はまだまだ明けません。長門さんや伊イクさんのようなおへそを出す格好はなるだけ避けてください』
『僕の視線が刺さってアツくなるのは心だけ。身も心も暖まるような服装を心掛けてください』
陸奥「あはは、提督にまで言われちゃってるじゃない」
長門「ふん、どのような格好をしようがわたしの勝手だろう。なあイクよ! いるか!?」
イク「ハッチグーなの! イクはみんなに見られた方があったかくなれるのね!」
イク「提督もその熱く燃え上がるような心に身を任せてイクと楽しいことするのね~!」
イク「あはぁっ……イクの魚雷がっ……うずうず、してる、のぉ…………っ」ブブブ
イク「――んっ」
ゴーヤ「食事中はやめるでち!!」
伊勢「あなた、アレと同類なのよ」
長門「…………」
『師走を駆け抜け睦月となりましたが。年齢や上下なく、大人も子供もお互い睦まじく過ごしたいですね』
『そうそう、睦月で思い出しましたがみなさん、食堂に飾られているカレンダーは確認しましたでしょうか』
『昨年の年の暮れに写真撮影を行ったことは記憶に新しいですが、つい先日その写真を使用したカレンダーが届きました!』
『一月を飾る人物は、輝かしき戦歴を持つ女性、一航戦の赤城さんです!』
吹雪「――あっ、本当です! 波立つ海を背景に……!」
白雪「ふふ、なんだか少し照れくさそうな表情ですね」
赤城「な、なんだか少し……晴れがましいですね」
加賀「(……さすがに気分が高翌揚します。これさえあれば…………提督のところにお伺いを立てませんと)」フンフン
『なお、このカレンダーはこの一つしか作られておりません。間違っても僕のところに押しかけて製作を要求しないように』
黒潮「そんなヤツおらんやろ~」
望月「いくら欲しいって言ってもそれはちょっとヒくよねぇ~」
加賀「」
龍驤「なぁんや、ウチはちょっぴし欲しかったのになぁ」
『このカレンダーにはみなさんの可愛らしい表情や、凛とした視線が封じ込められております。僕も手元に一つ欲しいくらいです』
『とはいえ、僕がみなさんのカレンダーを所持していると知られたらどのような反応をされるか。クソ提督扱いは免れられません』
『二月を飾る人物はまた来月のお楽しみということで。気になっていてもこっそりめくらないように!』
三隈「あら、それは残念です……」
鈴谷「……くまりんこって案外お茶目っぽいトコあるよネ」
北上「っていうかこれなんなの? いつもの連絡じゃないよね?」
大井「くだらないことで北上さんのお食事を乱すようなら遠慮なくぶっ飛ばします」
木曾「おいおい物騒だな……ま、メシくらいは静かに食いたいと思う気持ちはわかるが」
『さあさあみなさん、この放送に対して疑問を持ち始めてきたころでしょう。
実は僕もあまりよくわかっておりません。指示されるがままに執務室から電波を飛ばしております。まるで傀儡のよう』
『しかし指揮官の僕が状況を把握できないのは非常によくない。これはゆゆしき事態――ということで』
『そんな僕のために、元きょ――えー、コトの発端である明石さんから説明をいただきたいと思います! 明石さん、どうぞっ!!』
『――――』ゴソゴソ
『ぇ――――ちょ――それくらいはって――――え、え、え――』ガタゴト
『――――』ゴソゴソ
『……え、えと、明石、です。皆さん、お食事中にどうもすみません』
『なんだと思われているかもしれませんが、ええっと――――』
――――
――
瑞鶴「なあんだ。つまり家族に送るため資料作りってこと?」
翔鶴「どうりで最近妙に外部への露出が多いわけね……」
『カレンダーに使った写真も、それぞれのご家庭に送らせていただいてます。
赤城さんのご両親は涙を流して喜んでいましたよ。家出同然で出て行ったものだからと心配されていたようです』
赤城「……お父さま、お母さま……」
隼鷹「へえ、なにそれ初耳。赤城さんって意外とおてんばなところがあったり?」
加賀「わたしと赤城さんはお互い家出娘ですから。家出して入った先が艦娘寮となると、勘当されて当然と思い込んでいましたが……」
龍驤「ほおー。そういやそういった身の上話ってあんまりしたことあらへんなぁ。よかったら今度じっくり聞かせてちょうだいや」
赤城「……そうですね、いまとなっては笑い話も多いものですから。また、まとまった時間が取れるときにでも」
『ちなみにこちらの放送ですが、お気に召されないようでしたら消すことも可能です。
部屋の入口にある電灯のスイッチの下の青いボタンを押せば消えるようになっていますので、そちらをどうぞ』
『今日はみなさんにお知らせするためにこのお時間――食事中に放送することになりましたが、
次回以降はだいたい食事が終わるフタマルマルマルくらいからの配信になりますので、ご安心ください』
木曾「なんだ、そりゃあ安心した。やっぱりメシの時間くらいは、な」
大井「……まあ、北上さんのお食事を妨げないのなら……食後のお茶の時間にでも聴いてあげなくは、ないです」
北上「大井っちは素直じゃないんだから~」
『お気に召さない声扱いされましたが慣れたこと』
『MCはみなさまご存じ、“執務室のスタンプマシーン”提督が務めさせていただきます』
天龍「そういやアイツ、執務室にいる間はずっとハンコ押してるよな」
長良「押し方もいろいろ工夫してるみたいですよ」
由良「『建造率なんてのは単なる目安だ』って呟きながら大型艦建造の申請書をぶん殴ってたわね」
五十鈴「あとは勇気で補うつもりなのかしらねぇ」
『突然始まったこの番組、内容は至極簡単なお話でございます』
『MCであるわたくし提督と、抽選で選ばれた艦娘のかたがたがゲストとしてここ執務室でおしゃべりするだけ!
もちろん、艦娘のみなさんや保護者のみなさまから寄せられた質問などにもお答えしていくつもりですよ~』
陽炎「え゛っ! パパやママも聞いてるのこれ!?」
『いま、父や母がこのラジオを聴いているのか、と驚いた艦娘のかたもいるのではないでしょうか』
『もちろんです! 末恐ろしいお話ではあるのですがこのラジオ、希望があったご家庭にも配信しております!』
『とくにその中でも陽炎、黒潮、不知火の“陽炎三人衆”のご家庭からは強い希望がありました』
陽炎「」
黒潮「」
不知火「……本当に、恐ろしいことをしでかしてくれるものです」ガタガタ
『なのであまり過激な問答は行いたくないものですね。
最悪僕の首が飛ぶ可能性が――ああ、いや、首と身体が離れるようなことをしているつもりはありませんが』
『みなさんで協力し合って、ウチがホワイトな職場だという理解を得られるよう頑張りましょう!』
『さて、問題である“ゲストの”選び方ですが……いたって単純です』
『わたくしの手元に、全艦娘の名前が書かれた紙が入った箱がございます』
『この中から無作為にいくつかを取り出しまして、そこに書かれた艦娘の方をお呼び立てするのです』
『呼ばれた艦娘の方はおとなしく執務室まで来るように。これは指揮官命令でもあります』
満潮「……どうでもいいけど、この語り口クソむかつくわね。いっちょまえに司会のつもりかしら」
扶桑「まあまあ……こういうのもまた、新鮮で良いものよ……」
朝雲「わたしは最近来たばっかりだからよく知らないんだけど、いっつもこんな感じのひとなの?」
時雨「そんなことないんだけどね。…………緊張してるのかな?」
山城「まあ、実際にゲストを呼んで喋ってる間にもとの話し方に戻ると思うわ」
山雲「こちらで育てたお野菜もなかなか美味しいですね~」モソモソ
『さてさて、前置きがずいぶん長くなってしまいましたがお待ちかね』
『――――たたかう少女の安息所』
『“ちんじふ裏らじお”、はじまります!』
『本日、記念すべき第一回目となります“ちんじふ裏らじお”』
『いきなり始まったが、第一回を飾る記念すべきゲストは誰なのか……と申しますと』
『こちらもみなさんご存じ金剛型第三番艦、鎮守府の最古参である榛名先生にお越しいただきました!』
『み、みなさんこんばんはっ! 金剛お姉さまの妹の榛名ともうしますっ』
霧島「ああ、任務ってそういう……」
比叡「あは、あの子すごく緊張してるじゃない」
『さ、お相手はわたくし提督とゲストの榛名さんでお送りしますこの放送』
『この放送はみなさんの日ごろの悩みや相談、嬉しかったことや楽しかったこと……』
『また、ゲストの艦娘のかたに対する気になることなど、なんでもお便りにて受け付けております』
『ペンネームを添えて当鎮守府までお送りください!』
『なお、宛て先を当鎮守府の住所で、宛て名を“ちんじふ裏らじお”と記入していただけると助かります』
大潮「……なんとなくですけど、朝潮ちゃんは実名で送りそうです」
霞「うわっ、ありうる!」
朝潮「し、失礼ね! わたしにだってそれくらいわかるわよ!」
『――さて、番組の説明が終わりましたところで、一度五分間の休憩をはさむことといたします。もともと説明だけのつもりでしたしね』
『お食事中のかたも、そうでないかたも御清聴いただきありがとうございました。またすぐ後にお会いしましょうそれではっ!』ブツッ
高翌雄「……あ、切れましたね」
摩耶「いきなり始まったと思ったらいきなり切れんのかよ。メシ中に騒がしいこったな」
鳥海「最初の放送ですし、いろいろ調整があるのかもしれませんね」
愛宕「パンパカしてるわね~」
提督「うええ――いま入ってませんよね? ――ああ、超緊張したあああ……」プルプル
榛名「は、はるなも一言だけなのにすごく緊張しました……」プルル
明石「とか言ってノリノリだったじゃないですか。まだまだ始まったばかりですよ」
明石「……それにしてもえらく手慣れたものですねえ。その台本は提督自らが?」
提督「ええ、まあ……ですが徹夜明けのテンションで書いたので、正直自分自身なにが書いてあるか……」
提督「内容が支離滅裂になっていたり、わかりにくかったりしなければいいんですが」
提督「“MC提督”としてキャラ作ってないとまともに話せる気がしないですよ……」
明石「うーん、できれば普段どおりの提督が良いんですが――あっ、大本営からの電報が届きました」ビーッ
提督「うわっ! 大本営聞いてるんですか!? わざわざ!? 保護者へ送るデータとして置いておくだけじゃないのか……」
明石「まあ提督の立場を考えれば当然かと…………ありました。ええっと、読み上げますね」
大本営“アリノ ママノ スガタ ミセルノヨ オジゲンスイ ヨリ キタノクニカラ”
提督「うおおおおおおクソむかつくううううああああ!!」
榛名「提督っ、お気を確かにっ!」ユサユサ
提督「よりによってあの叔父さんに聞かれてるとはあああん!!」ガンガン
明石「うわぁ……上官とはいっても、肉親にあのテンションを聞かれるのは相当アレみたいですね」
榛名「叔父元帥さんは提督をからかうのが趣味のようなところがありますから……」
榛名「(……でもこういうふうにテンパる提督、ちょっとかわいいかも、です)」ニヤ
明石「――榛名さん?」
榛名「ひゃっ!? いいいい、いいえ!? 榛名は大丈夫ですけど!?」
明石「…………そうですか。なにかよからぬことを考えていた気配もしますけど」
榛名「そっ、そんなわけないじゃないですか、もうっ!」
榛名「で、でも、こういうふうに肉親からの電報も届くのですね。自分の家から届くことを考えたら――」ブルッ
明石「ぞっとしない話ですね……」ビーッ
提督「う゛っ」
明石「また届きましたね。どれどれ……」
“提督くんこんばんは。あけましておめでとうございます。体調にはしっかりと気を配っているでしょうか?”
“提督くんの勤める鎮守府の放送を聞いて、こうして手紙を出そうと思いました”
“昨年までの提督くんの活躍、たいへん心強く感じています。
今年もその頑張りで、さらに大きく飛躍してください。
そういえば提督くんは、学生のころも放送部に所属してみんなを楽しませるよう頑張っていましたね。
提督くんの明るい言葉を聞いて、お元気だと知り安心しました”
提督「えっ」
“榛名さんも一言ではありますが、元気そうな声を聞いて壮健と感じました。
また、おふたりで学校まで顔を出しにきてください。教師一同楽しみに待っています”
榛名「えっ」
明石「――“高校時代の担任より”、ですって。恩師からのお手紙みたいですね」
提督「えっちょっと待っておかしくない? は!? なんで先生から手紙届くの!?」
榛名「そ、そうです! 公共の電波には乗せていないんじゃ……!」
明石「……お二人ともお忘れでしたか?」
提督「いやっ、忘れたもなにも言ってなかったんじゃ――」
明石「いえ、そうではなく……お二人の恩師、ですよ」
榛名「恩師? ――――あっ」
提督「――――うっわ、忘れてた! やっべ、そんな人にまで聞かれてんのかよ恥ずかしすぎる……」
明石「世間というものは狭いものですねぇ……」ビーッ
明石「あっ、また届きましたね」
提督「――――」ビクッ
提督「明石、やめなさい」
明石「いえ、そう言われましても……。確認することもまた指令のうちですから……」
明石「お気持ちはたいへん理解できるのですけど。――ん、これは……」
提督「これ以上傷を広げてどうしようというのだね。ただちにその手を止めよ」
明石「そういうわけにもいきませんから! もう、聞かなかったとして怒られるのは提督だけじゃないんですよ!」
明石「うちの鎮守府に支給される資材だって減らされる可能性も大いにあるんですから!」
提督「あーあー聞こえなーい聞きたくなーい聞くわけにはいかなーい」
榛名「(丸まった提督かわいい)」
明石「往生際が悪いですよ提督! 休憩時間だって長くはないんですから!」
明石「それとも放送中に聞かされたいですか!?」
提督「…………悪魔かよ」
榛名「……提督、もう諦めましょう。榛名がついていますから!」
提督「……おン前、他人事だと思って!」
榛名「榛名は大丈夫ですから。ふふふっ」
提督「うぜえ! 今年いちばんのウザ榛名だわそれ! やめろ!」
榛名「ふふっ、明石さん、やっちゃってくださいっ」ニヤ
明石「…………えと、榛名さん、本当に良いんですか?」
榛名「ええ、キリがありませんから。ガツンといっちゃってください!」ニヤニヤ
提督「榛名おまえええええっ!! ――明石ァ!!」
明石「ま、まあ本人からの承諾をいただいたなら……え、ええっと……」
明石「……『提督くん、榛名、あけましておめでとうございます――』」
榛名「――え?」
提督「ひいいぃ…………ん?」ムクリ
“きみたちがうちを出ていってから、はや数年が経とうかと思います。
お変わりありませんか? こちらは新年ということでみんなおおわらわです”
榛名「待ってください、これ聞かれちゃいけないやつです」
提督「続けてください」
“いまとなっては昔の話になりますが。
提督くんが叔父さんの鎮守府で世話になると聞いたときはとても驚いたものです。
年若く未来も明るき少年が戦の世界へと身を投じるなんて。と、はじめは叔父さんに憤慨したこともありました”
“ですが、わたしにとってもっと驚いたことは。
榛名が提督くんの後を追って艦娘になると宣言したときのことです”
榛名「待っ…………て、提督っ!」
提督「よーしよしおとなしくしてろ……」
提督「――――な、榛名」ギュッ
榛名「ひあっ……ゃ、ぁっ……ま、まって、あかしひゃんっ」
“金剛、比叡に続き榛名まで艦娘として命を賭すのかと。
わたしは反対しました。うちの大社の離れの座敷牢に幽閉したこともありましたね”
“運んだ食事まで断り、ひたすら訴え続けましたね”
“艦娘として戦い敗れた“平沼”を失ったばかりのわたしは、艦娘という職業に忌避感を抱いていたから”
提督「(…………“ヒラヌマ姉さん”、か)」
榛名「…………」
“わたしの言うことには決して逆らわなかった榛名が、そうまでするのかと。
そうまでするほど提督くんのそばにいたいのか、と、そう問いましたね”
榛名「やっ――」
“あなたは毅然としてこう答えましたね。
“『提督のすべてが榛名のすべてであり、榛名のすべては提督のために――』”
提督「明石さんストップ! もういい、もういいです!」
明石「…………はい、わたしも少々過ぎたことをしてしまいました。申し訳ありません」
提督「いや、まあ、自分は構わないんですが――――榛名?」
榛名「」
提督「…………」
明石「湯気が出そうな赤さですねぇ」
提督「……と、とにかく、もうこれ以上は誰の得にもなりません。
明石さんも、これからはなるだけ無難そうなものを選んで聞かせるようにしてください」
明石「は、はい。気に留めておきます。それと、このお手紙は――」
榛名「――――」バッ
明石「あっ……奪われちゃいました。もとよりそのつもりでしたけど……」
提督「目にもとまらぬ速さ、さすがは高速戦艦……榛名、もうすぐ休憩あけるけど大丈夫か?」
榛名「」
提督「…………」ツンツン
提督「……だめみたいですね」
明石「え……っと、とにかく提督ひとりで間を繋いでください! わたしはこちらでお便りと放送機器を確認していますので!」
提督「え、ちょ、自分ひとりってそれはちょっと」
明石「――それでは再開します! さん、にっ」
明石「――――」イチ
提督『えー、みなさんこんにちは。いつもながらの提督です』
提督『普段通りにやれ、との指令が届きましたので、ここからはいつもの提督がご一緒させていただきます』チラ
明石「(まる)」
提督「(……こくり)」
提督『本来ならこのタイミングでゲストの艦娘と少し歓談する予定だったのですが、
榛名さんは現在すこし席を外していらっしゃいますので、ひとつ飛ばして次のコーナーに入りたいと思います』
提督『フリーのお便り紹介!』
提督『こちらは視聴者のみなさんからいただいたお便りを紹介させていただくコーナーとなっております』
提督『初回の放送なのに、なぜお便りが届いているのかというと……』
提督『実はさっきの休憩、五分と長く休憩を取ったのは、こっそり裏方でお便りを募集していて、そちらの処理をするためだったんですよねえ』
明石「(こちら、一つ目のメールを印刷した紙です)」サッ
提督「(ありがとうございます)」サッ
提督『いましがた処理が終わったところです。いやあ、実に緊張しますね。
こうして“ナマの声”が直々に届くことはあまりありませんから、戦々恐々といった感じでございます』
提督『それでは読み上げさせていただきます……』
提督『え、えー……“提督さん、こんばんは”――はい、こんばんは!』
“ちんじふ裏らじお、記念すべき第一回放送ですね!”
“いつも艦娘一同、鎮守府生活を楽しませていただいております”
“せっかくのラジオ放送、それも第一回目の放送なんですから、もう少し肩の力を抜いてリラックスしてはいかがでしょうか”
“この放送を聞いている艦娘のみんなも、提督がそのように緊張していては楽しめないと思います”
“提督の持ち味は、個性豊かなみんなを引っ張る明るさなのですから、もっとはっちゃけていきましょう!”
提督『ラジオネーム、“工作艦のなかで一番かわいい女”――――ぶっ!!』
明石「(きゃぴっ)」
提督『こンの……ははっ、いったい誰なんでしょうかねぇ、“工作艦のなかで一番かわいい女”さんは!』
提督『いや失礼。いつも通りに見せかけても、どうやら僕のちっぽけな緊張なんて見抜かれているようですね……』
提督『――でしたらっ! この際好きにやらさせていただきます!』
提督『どうせ飽きたら切られる放送なんだ、俺の好きにやらせてもらうぞ!』
明石「(にこにこ)」
提督『それじゃ次のお便り拾っていきますよー!』
提督『ラジオネーム、“うさぎの島村ダンディ”さんからのお便りです!』
“提督さん、こんばんは”
提督『はい、こんばんはー!』
“このたび、娘の勤める鎮守府の長がラジオ放送すると聞いて、迷わずラジオを購入しに走りました”
“娘はあまり手紙を寄越さないものですから、そちらではどのように過ごしているのかたいへん気になります”
“こういった子を持つ親の感情、提督さんもわかりますよね?”
“良ければ提督さんのほうから、家族にまめに連絡を出すよう言っていただけないでしょうか”
提督『お、“うさぎの島村ダンディ”さんはうちの鎮守府にお子さんがいらっしゃるようで。
どの子の親御さんかは存じませんが、お子さんにはたいへん助けられております』
提督『うちの鎮守府はみんなが主役ですからね! どの子も目覚ましい活躍をしていらっしゃいます!』
提督『しかしうちの鎮守府ではそうでも、遠く離れた親御さんからすればわからないことですよね。
僕は未婚者ですので子を持つ親の心情はわかりませんが、その心中はお察しできます……が、しかし』
提督『目まぐるしく駆け巡る日々のなかで、じっくり時間をかけて手紙を書くことは難しいことです。
できれば、お子さんが帰省した際には叱らないでいてあげてください』
提督『鎮守府でもみんな楽しそうに生活していますが、やはり心の底から安心できるのは親の膝元だけですから』
提督『とはいえ、心配させるほど連絡を送らないというのは感心できませんね。
この放送を聞いているかもしれませんが、艦娘のみなさんには改めて言いつけることにしておきます』
提督『“うさぎの島村ダンディ”さん、ありがとうござ――』
明石「提督っ、うら、裏面を!」マイクオフ
提督「え、裏ですか? ……おっと、こんなところに」
提督『――失礼、追伸がございました。読み上げます』
“追伸、わたしは普段喫茶店のマスターとして生活しているのですが、この放送を店で小さく流してもよろしいでしょうか?”
提督「(喫茶店、うさぎ――――あっ)」
提督『はは、ありがたいお話ではあるのですが、この放送はあまり長時間ではありませんよ?
ですが、それでも良いというのなら大歓迎です。こちらからぜひお願いしたいくらいです』
提督『いやしかし、うさぎのマスターですか。……いったいどなたの親御さんなんでしょうねぇ』
提督『なあ、いったいどの睦月型なんだろうなあ~? なあ~?』
提督『ていとくぅ~、わからないっぴょん!』
ドタドタドタドタ バタバタ
『あんのクソ司令! 一発ぶん殴るっぴょん!!』 『卯月ちゃん落ち着いてっ!!』
榛名「――はっ! 榛名はいったいなにを……」
提督「おっと……」マイクオフ
提督「いまオンエア中だ。榛名、復帰できるか?」
明石「榛名さん、こちらラジオプログラムです」
榛名「え、ええっと……? はい、お便り紹介ですね。了解しました!」
提督『えー、さきほど榛名さんがお戻りになられました。ここからは二人での配信となります』
榛名『榛名、ただいま復帰いたしました! お騒がせして申し訳ありませんっ』
提督『それでは続いてつぎのお便りの紹介です』クイッ
榛名『ラジオネーム、“ガス欠力士”さんからのお便りです!』
提督『ガ…………ガス欠力士とはまた、ずいぶんインパクトのあるラジオネームですね』
榛名『お腹ぺこぺこの力士さんなんでしょうか……“提督、こんばんは”』
提督『おっ、こんばんは!』
“ラジオ放送ですか、楽しみがひとつ増えた気がします”
“わたしは一年ほど前にこの鎮守府に所属することになったのですが、みなさんと本当にうちとけられているのか不安です”
“艦娘のみなさんはとても個性的なかたばかりで、わたしのような個性の薄い人間はついつい気圧されてしまいます”
“みなさん良い人なのはとてもよくわかるのですが、なにかキッカケがないと話しかけられない自分が恨めしいです”
“ほかの人が気を遣って話しかけてくれても、緊張してしまってうまく話せなかったりしてしまい……”
“お話している相手がつまらなくなったりしないだろうか、とばかり考えてしまいます”
“こういったとき、提督やほかのみなさんならどのように対処されているのでしょうか。やはり筋トレしかないのでしょうか”
“追伸、この放送がわたしのような人見知り艦娘の相談所になる、というのは非常にありがたいお話です。たいへん感謝しています”
榛名『――とのことです』
提督『うーん。人見知りですか……うちの鎮守府はみんな仲良くしていると思っていたんですが、まだまだ見きれていないってことですかね』
榛名『“ガス欠力士”という独特のネーミングセンスをお持ちですから、人見知りそうにも思えませんが……』
提督『はは、そうだな。……たぶん、人見知りしてるんじゃなくって、本人がまわりに遠慮しちゃってるだけじゃないかな』
提督『気圧されてしまう、と本人も言っていることだし、相手のことをよく尊重する人なんだと思います』
提督『どうやら筋トレがご趣味のようですし、そこから話題を広げていくのも手ではないでしょうか。
たとえば、日ごろのトレーニングに誰かを誘ってみるだとか、模擬演習に付き合ってもらうとか……』
榛名『でも、その“誘う”行為に勇気がいるんじゃないでしょうか? 人見知り、とおっしゃっていますし』
提督『おっと、たしかにそうだな。ですが、みんなに溶け込もうと思ったら、その勇気を持つことが大切なんですよ』
提督『“一緒にどうかな”という何気ない言葉ひとつで、あなたにかかった心の鎖は解き放たれるんです』
提督『また、視点を変えてみるというのもひとつの手ですね。
気の利いたことを話さなければ、と構えてしまうから、相手の反応が気になったりしてしまうんです』
榛名『あっ、その気持ちよくわかります! 榛名も学生時代にそういうことで悩んだことがあって……』
提督『お、じゃあ榛名さんはどういった解決法を?』
榛名『榛名は……応援してくださった方がいて、そのかたが言ってくれた言葉なのですが』チラ
榛名『“溶け込むことを考えすぎて、固くなってしまっている。
どんなことにも自分らしく対応することで、みんなに自分を認めてもらうことが大事だ”』
榛名『“また、常に相手を尊重する気持ちを忘れてはいけない”…………と』
提督『……そうですね。相手を尊重し、認め合うことは非常に大切だと思います』
提督『それに、無理に溶け込もうとして自分を曲げると、必ずその人に対する“違和感”がどこかに生まれるんですよね。
そういった小さな“違和感”が後々、人間関係の不和となって表れてくるんです』
提督『あれ、この人本当は無理してるんじゃないかな……とか、ただ話を合わせているだけで、本当は嘘をついているんじゃないか……とか』
提督『そうなったらあとは悲しいだけですね。“ガス欠力士”さんはおそらくそういった綻んだ人間関係はお求めじゃないでしょう』
提督『幸い、うちの鎮守府には無理してふるまっている艦娘はいないはずです。みんな自由すぎるからな!!
なので“ガス欠力士”さんもあまり難しく考えずに行動してはいかがでしょうか』
榛名『そうですね……“話す”のではなく、“聞く”ことから始めてはいかがでしょうか?』
榛名『緊張してうまく話せないとおっしゃっていましたし、まず笑顔で人の話を聞くことを意識してはどうでしょうか。
笑顔でうなずきながら話を聞いて、ときどき質問を返したりなんかをしていれば、自然と溶け込んでいくのではと思います』
提督『おっ、いいですねえ! 話し上手は聞き上手とも言いますからね、それがいいと思います』
提督『うちの鎮守府だと自主トレを欠かさない艦娘も多いですし、みんなで共同トレーニングなんかして互いに切磋琢磨出来るようになるといいですね』
提督『艦娘同士のさらなる団結、期待しております』
榛名『“ガス欠力士”さん、ありがとうございました! ……提督、なんだかサマになってますね』
提督『はは、さんきゅ。匿名で艦娘のみんなや保護者のかたと触れ合うのってなんか楽しいな』
明石「……提督、そろそろ“あのこと”を」
提督「あ、了解です。みんな食事中だしちょうど良いかもしれませんね」
榛名「(あのこと……?)」
提督『みなさんにお伝えし忘れていました。この放送、ゲストとお便りがランダムで選ばれるシステムになっているんですが――』
提督『“ゲストとして招待された艦娘”には、ここ執務室で、希望するメニューを食すことができます!』
提督『たとえば、神戸和牛のサーロインステーキ。
はたまた本場イタリアのパスタセットや、本場ドイツのラックスハムとチューリンガーの晩酌セットなど――』
提督『すべて予算は“大本営が”“全額負担する”というご通達です!!!!』
明石「(!?)」
榛名『ええっ!? そ、それは本当に……!?』
提督「……ウソに決まってるだろ。ある程度は経費として落としてくれるらしいが――」
提督「聞いてんだろクソ叔父さんよお。こうなったら、あの叔父クソ元帥からむしれるだけ――――むしる!!」
提督『いやあ、さすがわれらが“叔父元帥”です! 太っ腹にもほどがある!』
明石「あ、あなたのほうがよっぽど悪魔ですよ……! わ、わたしは間宮券プレゼントとしか言ってなかったのに……」
提督『また、“フリーのお便り紹介で”、“お便りを採用された艦娘”か、
“お便りを採用された保護者の娘”には、甘味処・間宮の一品無料券が“三枚”郵送される手はずとなっております!』
提督『こちらの無料券は、ゲストとして招待された艦娘のかたにも一枚プレゼントされます!』
提督『間宮さんもなかなか大盤振る舞いしてくれるものですね!』
提督『おっと、勘違いしていただきたくないところですが、けっして僕自身がお便りの主を知っている、というわけではないということです』
提督『妖精さんシステムによって、誰も知らない宛て先へ届く仕様になっているのでご安心を』
明石「(妖精さんってすごい、改めてそう思いました)」
提督『まだまだ冬本番とはいえ、間宮の冷たいお菓子には身を惹かれるだろお~?』
提督『暖炉の前で、ロッキングチェア(揺り椅子)に揺られながら舐めるアイス――』
提督『また、冬のコタツに身を隠しながら、こっそりかじるアイス最中――――魅力的だろお~?』
提督『それがわが鎮守府ならできるッ! みんな、楽しいお便り待ってるぜ!』
明石「……お、おっけーです。食堂や甘味処・間宮の新作情報のCMを流しますので小休止入ります」
提督「……というわけで榛名、夕飯まだだろ? なんか食べたいものあるか?」
榛名「え、え、でも……榛名は抽選で選ばれたわけではありませんし、そういうのはずるいような……」
提督「気にすんな。俺は平等じゃない――いや、基本的には平等だが――榛名が絡むと平等にはなれん」
提督「それに裏を返せば、こんなお役目に強制的に付き合わされているわけでもあるわけだ。だから、好きにしろ」
提督「明石さん、これくらいはいいですよね?」
明石「え? ええ、もちろんです! 榛名さんにはいつも感謝していますし、これも任務のうちですからっ!」フンス
榛名「そ、そんな…………榛名なんかのために」
提督「それに一番目は榛名じゃないとなんかって感じだしな。さあさあ! 好きなものを頼むといい!」
提督「(まだ大本営に申告してないから、今回の経費は俺持ちなんだが――まあ、これくらいはな)」
榛名「そっ……そう言われましても、なんだか申し訳ないというか、なんというか……」
提督「遠慮しすぎるのもよくないぞ。さあ、なんでも好きなものを言え!」
明石「ん?」
榛名「いま“なんでも”……と、おっしゃいましたか?」
提督「え? あ、ああ……」
榛名「…………なんでも、と、いうのなら……」
榛名「…………むかし、提督が作ってくださった、オムライスがいいな、と」
明石「お、おむらいす?」
提督「……なんだ、そんなのでいいのか? 遠慮してないか? そのなんだ、もっと贅沢なものを頼んでもいいんだぞ」
明石「そうですよ、せっかくなんですから。あ、そうだ、間宮さんに頼んでいますぐ材料を取り寄せてもらって、すき焼きでも――」
榛名「いえ、いいんですっ!」
榛名「提督が作ってくださる、その、おむらいすが、榛名にとって……いちばんの、贅沢ですから」
明石「(…………あっ)」
提督「ふうん……まあ、いまに限った話じゃないが、ほかにもなにか希望があったらいつでも言えよ。できるだけ叶えてやるから」
明石「(うわぁ…………)」
榛名「…………はいっ!」
提督「しかしオムライスか、久しぶりに作るな――ああ榛名、俺が作るとなると放送後になるが大丈夫か?」
榛名「はい、榛名はいつでも大丈夫です!」
提督「そうか、悪いな。……そういや明石さん、ずいぶん放送止めてますけど、大丈夫でしたか?」
明石「あ、はい! ですが、そろそろ戻っていただかないと……」
提督「小休止も終わりですかね。しっかし思いのほか喋れるもんだ……な、榛名」
榛名「昔とった杵柄、というやつですね。たった少しの機会、頭が覚えていなくても、あんがい身体が覚えているものですね」
提督「まったくありがたい構造だ。よしっ、放送再開します! 口を滑らせて首塚にはならないよう要注意で!」
榛名「りょうかいですっ」
――――
――
(数分前のおはなし)
卯月「ふーっ、ふーっ! あのクソ司令官、一発入れてやらなきゃ気が済まないっぴょん!」
潮「お、落ち着いて卯月ちゃん……? それに、みんな卯月ちゃんだって気づいてないと思うよ……?」
卯月「じゃあなんで潮ちゃんはうーちゃんだって知ってるぴょん!? それに、あの状況で理解できない人は相当アレっぴょん!!」
潮「そ、それは…………」
卯月「うううぅぅっっ! 恥ずかしいやら悔しいやらでもうなにがなにやら……っ!!」ダンダン
初雪「(あぁ^~卯月がぴょんぴょんするんじゃあ^~)」
深雪「うっわー、卯月ちゃんも気の毒だなぁ。みんな聴いてる前で公開面談みたいなもんだろぉ?」
磯波「た、たしかに……そう考えたら、すっごく恥ずかしいです……」
敷波「たしかにあたしも最近実家に手紙書いてないけどさぁ……これはちょっとかわいそうな感じするよねぇ」
加賀「……駆逐艦の子たちは同情しているみたいですね」
飛龍「まあ、なんのメリットもなしにあの所業はねぇ……ちょっとかわいそうな気もするけど」
蒼龍「え、そう? わたしはけっこう楽しんでるよ! ほかの家庭の話って、なんだかほっこりするし!」
飛龍「のんきなもんだねぇ……。いざ自分の親から手紙来たところ想像してみてよ? みんなの前で読まれるんだよ?」
蒼龍「うっ、そ、それは……」
飛龍「でっしょー? 赤城さんだってそう思いますよねぇ?」
赤城「むぐむぐ……そうですねぇ。わたしも、できれば家族からのお手紙は私室でゆっくりと読みたいもので――」
『“ガス欠力士”さん、ありがとうございました! ……提督、なんだかサマになってますね』
『はは、さんきゅ。匿名で艦娘のみんなや保護者のかたと触れ合うのってなんか楽しいな』
加賀「……当の本人たちは、ずいぶん楽しそうにしていますねぇ」
飛龍「くうーっ! 多聞丸バスターをキめてやりたいっ」
赤城「もぐもぐ――ごくんっ」
赤城「……そうですね。本人たちは聞かれたくないお話でも、提督からすればただのお便り一枚ですから」
赤城「ここはひとつ、提督の暴走を止めるのも艦娘の務め――ということで、すこしお灸を据えることといたしましょう」
飛龍「おお、さっすが赤城さん! いざっていうときは頼りになっるぅー!」
飛龍「聞いた卯月ちゃん? 赤城さんが卯月ちゃんの仇をとってくれるってさ!」
卯月「お、お……ホントのホントっぴょん!?」
赤城「真剣と書いてマジです。卯月ちゃん、あとで提督にしっかり謝りに来させるから、ちょっとだけ待っていてね?」
赤城「きっと大丈夫、勝ちにいきます!」
深雪「うおおおお! さっすが赤城さんだああぁっ!!」
北上「おっ、鎮守府の頼れるお姉さんは違うねェ~!」
加賀「赤城さん、お供いたします」
赤城「加賀さん? 上官への抗議なんて……付き合う必要はないですよ?」
加賀「いえ、赤城さん一人に押し付けるようなことは出来ません」
赤城「加賀さん……。……そうですね、行きましょう!」ガタッ
加賀「ええ。一航戦、出撃します」ガタッ
…… チャララン
『みなさんにお伝え忘れていました。この放送、ゲストとお便りがランダムで選ばれるシステムになっているんですが――』
『“ゲストとして招待された艦娘”には、ここ執務室で希望するメニューを食すことができます!』
赤城「!?」
加賀「!?」
『たとえば、神戸和牛のサーロインステーキ。
はたまた本場イタリアのパスタや、本場ドイツのラックスハムとチューリンガーの晩酌セットなど――』
赤城「……ぅ…………ぁ……」
加賀「そんな…………そんなことが…………」
飛龍「しゅごひぃ……。――――はっ!! 騙されないでください赤城さん! これはあくまで、“招待された場合の話”です!」
飛龍「もし招待されなければその権利もなく、ただこうして、いつもと変わらない夕食を食べているだけなんですっ!」
飛龍「それはさながら、ショーウィンドウの向こうの宝石箱のように――っ」
飛龍「“自分ではない”ゲストとして招待された艦娘が、自分の想像のなかで、おいしくいただいているのを…………」
飛龍「ただ、こうして、……座して! 眺めることしかっ! 出来ないんです……っ!!」
飛龍「それは、決して、手の届くことのない――淡い蜃気楼……」
加賀「――――っ!」ハッ
赤城「……っ。さすが、です、飛龍さん。あやうく騙されるところでした」
深雪「おお、持ち直した! さすが赤城さんだ!」
敷波「こと食に関してはうるさい赤城さんが……。卯月、あんたは幸せもんだよ」ポン
卯月「あ、赤城さぁん……」ウルウル
ビスマルク「へえ……Lachsかあ、こっちにあるものも悪くないけど、やっぱり独国で作ったものが最高よね!」
プリンツ「わかります、ビスマルク姉さま!」
赤城「(ぴくっ)」
ビスマルク「Thueringenも日本のソーセージじゃ再現できない味わいをしているし……」
プリンツ「そこに気づくとは……さすがです、ビスマルク姉さま!」
加賀「(ぴくぴくっ)」
ビスマルク「日本の食文化も素晴らしいものだけど、やっぱり豚の加工は我が祖国が群を抜いているわねっ!」
ビスマルク「それになにより、網でカリッと焼いたソーセージを、歯の先でぷちっ、じゅわっと噛んで――」
ビスマルク「肉汁がじわぁっ、と広がったお口に、ぐい……っとビールをあおるのがもう、最っ高に至福の瞬間なのよ!!」
プリンツ「んんぅ~っ! さっすがビスマルク姉さまですっ!!」
マックス「ein Idiot! あなたたちはちょっと黙ってて!」
レーベ「……ぼくはいま、ビスマルクのことがデーモンのように見えたよ」
隼鷹「なん…………だと…………」
飛鷹「あんたさっきまで興味なさげだったじゃないっ!」
隼鷹「いや……だって…………さぁ?」
龍驤「せや。これはしゃーなしやて」
千歳「濃厚なおつまみの話はずるいわよねぇ…………隼鷹さん、今晩いかがですか?」クイッ
隼鷹「おおお! いいねいいね最っ高だねぇ! 鳳翔さんにあれ作ってもらおうあれ! 揚げウィンナーと揚げソーセージ!」
千歳「くっはぁ、いいですね! ……でも、太っちゃうかも……」
龍驤「…………気にせんでええやろ。キミはどうせ腹より上にしか付かんのやから」
蒼龍「で、ディナーの一言だけでみんな浮き足立ってる……」
飛龍「いつのもご飯もおいしいけど、献立がパターン化しちゃってるし……特別に取り寄せた豪華なディナーとあっちゃね……」
卯月「あ……赤城さんっ! まさか、まさかまさかディナーに釣られたり、なんか……しないよね……?」
赤城「…………」ギギギ
加賀「…………」ギギギ
赤城「あ……………………当たり前じゃないですか、そんなの、決まってます、ご安心くだ……っさい」ギギギ
深雪「持ちこたえたァーッ!! さすがあの一航戦だあ!!」
飛龍「(ためたなぁ……)」
加賀「ァ……あ、……あかぎ、さん。ここは誘惑のるつぼです。はやく、はやく執務室へ向かいませんと」
赤城「そう、ですね……このままでは、いけません。二重の意味で。立ち行きません」
赤城「加賀さん、行きましょう。この誘惑の連鎖――負の連鎖、みんなの怨嗟を断ち切るために」バッ
加賀「そうですね。終わりにしましょう、すべてを」バッ
『また、“お便りを採用された艦娘”か、“お便りを採用された保護者の娘”には――』
『甘味処・間宮の一品無料券が“三枚”郵送される手はずとなっております!』
『こちらの無料券は、ゲストとして招待された艦娘のかたにも一枚プレゼントされます!』
赤城「ぅやあぁぁっっ!」ビクンッ
加賀「う……く、ふぅ……っ……」ビクンビクン
卯月「…………ぷっぷくぷー?」
赤城「もう、だめ――っく、ぅ……あたま、まっしろ…………ふあっ」ビクン
加賀「ひ、きょう、なぁっ……! んんんぅっっ!」ビクビク
赤城「(単純に、考えて――お便りを採用される機会は、招待される可能性より――――高い)」
加賀「(自分の送ったお便りと――家族からの、お便り。とくに、さきほどの卯月さんのことを考えると……)」
加賀「(ことわたしたちに限っては――ほかの子たちよりも、高い)」
赤城「(家出娘同然のわたしと加賀さんは、家族から安否をたずねるお便りが来る可能性が高い)」
赤城「(家出したにも関わらず、家族を計算に入れるとは情けのない話ではあるのですが――)」
加賀「(“家族が勝手に送ってくる”ことは、仕方のないこと、です。けっしてわたしたちが悪いわけでは――)」
…… ……
深雪「赤城さん! 加賀さん! 二人とも大丈夫かよ!?」
深雪「二人がそんなんじゃ、卯月が浮かばれねぇよ!」
深雪「立って! 立ってくれよ! そしてあたしたちに、あたしたちの大好きな、あたしたちの尊敬する一航戦の姿を見せてくれよっ!!」
…… ……
赤城「深雪、ちゃん…………」
加賀「……そう、そうですね。わたしたちが……っ! ……動揺していてはっ、卯月ちゃんに、悪いもの……っ」グググ
赤城「ありがとう……深雪ちゃん。そして――卯月ちゃん、待っててね。わたしたちが、きっと、あかつきに勝利を刻むから――」グググ
卯月「あ、もういいっぴょん」
赤城「――――え?」
加賀「――――は?」
卯月「よく考えたら、パパから手紙が届いたのってすっごく嬉しいことっぴょん。
たしかに、みんなの前で読み上げられるのはちょっと、恥ずかしいケド……」
卯月「間宮の無料券がもらえるなら話は別っぴょん。うーちゃんのお小遣いじゃ、間宮さんの高級スイーツなんて、一年に何回食べられるか……」
卯月「そ、それに、パパだってうーちゃんが幸せになれるなら、喜んでくれるはずっぴょん」
卯月「しかも三枚も! みんな誘って一緒に行きたいっぴょん!」
深雪「…………」
赤城「…………」
加賀「…………」
飛龍「卯月ちゃん…………あなた、強い子ね」
赤城「」フラッ
加賀「」バタン
深雪「赤城さんたちが倒れたーっ!?」
蒼龍「二人はよく頑張りましたっ……もういい……! もう……休めっ……休めっ……!」
『らーらら、ららら、らーらら、ららら』
『甘味処・間宮! 冬の新作情報のお知らせっ!』
『みなさん、新年あけましておめでとうございますっ! 甘味処・間宮です!』
『新年を記念して、一月の間だけの特別パフェ! “おひつじさんのおひざもと”、新登場ですっ!』
『なんとこの“おひつじさん”、例年の記念パフェとは違い、一回り大きなサイズとなっております!』
『今年の干支は羊ということで、お羊さんの角を模したフルーツの盛り付けを行ってみました!』
『綺麗な色合いにしようと、カラメルやお砂糖の装飾をふんだんに使っていて、
ひとくち口に含んだだけでおひつじさんのマーチが聴こえてくるような、しっとりまろやかな味わいです!』
『生クリームと、新鮮な果実が生み出す可憐なハーモニー! ぜひみなさんに味わっていただきたいです!』
『以上、甘味処・間宮の、新作情報でした~!』
『らーらら、ららら、らーらら、ららら』
赤城「」ビクンッビクンッ
加賀「」ビクビクビクッ
飛龍「死体蹴りがひどすぎる!!」
――――
――
提督『さて時刻も19時の半ばを過ぎましたころ、こちら、ちんじふ裏らじおです』
提督『本日の放送は初回ということで、予定を早め早めに巻いてお送りします』
叔父元帥「くっくっく、ことのほか楽しげにやっているじゃあないか。なあ、大淀よ」
大淀「本当によろしかったのですか? あのような、予算を……」
元帥「かまわんかまわん。もともと可愛い甥っ子にお年玉をやろうと思っていたところ。ちょうどよかった」
大淀「……それならこちらとしても安心の一言、ですが」
提督『さて、次のコーナーのご紹介といきましょう。こちらっ!』
榛名『“きいてよていとく”のコーナーですっ!』
榛名『こちらは、リスナーのみなさんから届いたお悩みを、提督とゲストの艦娘が思い思いの方法で解決していくコーナーですっ』
提督『さっきまで届いていた“ガス欠力士”さんのようなお便りも、本当はこちらの管轄でしたね』
元帥「それより良かったのか、年明けともいうのに大本営までわざわざ出向いてきて」
大淀「はい、こちらも年末年始ということで事務作業が積まれておりまして……いっときの休息すら惜しいほどです」
元帥「ふうむ…………提督のぶんをお前が請け負っている形か? そのこと、あいつは知っているのか?」
大淀「いえ、わたしが勝手にやっていることです。それに……あの人はいままで頑張ってきましたから」
大淀「今年はとくに、スラバヤ沖やウェーク島、AL/MIや渾作戦まで、立て続けに大きな戦いが続きましたから……」
大淀「年始の、ちょっとした時間なんかには……息を抜いていただきませんと」
元帥「ふうんむ…………」
榛名『こちらのお悩み相談コーナーでは、フリーのお便りコーナーとは違い、
本当にちょっとした、一言のお悩み事や質問を受け付けております!』
榛名『また、こちらの“きいてよていとく”でお便りを紹介された艦娘のかたには、間宮券が“一枚”、贈呈されます!』
提督『たとえばそうですね…………この手紙なんかは、こちらにあたりますね』
“明日の食事当番が磯風になっとるんじゃけど、どやってやり過ごせばばええんじゃろか 浦風”
提督『みたいな――――あっ、名前読んじゃった』
榛名『あっ』
『…………うらかぜ?』 『いやあ、アハハ。…………逃げるが勝ちじゃけえっ!』 『こら、おい待て!』
提督『……えー、さきほどのような短い質問やお悩みは、こちらのコーナーで処理することとなります』
榛名『本当は名前なんて読み上げないから、みんな安心してね?』
『あんなぁさらっと流しよったぞ!!』 『待て浦風止まれ!』 『ヤじゃっ!』
提督「……なんか、参加特典の件を話して以降、妙に騒がしいですね」マイクオフ
明石「(さもありなん、ですよ)」
榛名「でも、小休止の間にたくさんのお便りが届きましたね」モッサァ
明石「こちらも電子メールに多くのお便りが届いています。ケータイからのお便りが多数ですが。
匿名ですから、日ごろ思っていたことを質問できるいい機会と思ってくれているのかもしれませんね」カチカチ
榛名「(匿名だと信じていたら公言されてしまった浦風ちゃん……)」ホロリ
元帥「ほお、磯風か……久しいな。食事の当番ということは、それなりに上達はしたのか?」
大淀「あー……そう、です、ね……初期のころのような、バニラエッセンスとサラダ油を間違えるようなことは、もう」
元帥「……そうかそうか、あいつも成長しているのだな。……それと大淀、おまえいつまでここにいるつもりだ」
元帥「いくら仕事が多いからと言っても、それらはそちらの鎮守府でも処理できる案件だろうが」
大淀「いえ、こちらならばあがった書類をそのまま通せるので。好都合なんです」
元帥「好都合ねえ……そういやおまえ、そろそろ時間だが、なにか腹に入れておくか?」
大淀「……いえ、キリのいいところまで進めようかと思っています。それからでも遅くはないかと」
元帥「そうか。昨日はいつ寝た?」
大淀「…………」
元帥「まさかとは思うが、この暖房器具も置かれていないクソ寒い部屋で、夜通しの作業だったわけではあるまいな」
大淀「…………」
大淀「まさか」
元帥「…………そうか」
提督『ちなみにこちらのコーナー、本日は席を外していらっしゃいますが――』
提督『この鎮守府を、いつも陰から支えていただいている』
提督『大淀さんも、準レギュラーとして出演していただける予定です!!』
大淀「えっ」
提督『大淀さんはいっつも働きづめで、机に向かってばかりですからね』
提督『お尻に根っこが生えちゃう前に、こちらに引っ張ってしまおうという作戦です!』
元帥「――だ、そうだが?」
大淀「……そういうわけにもいきません。ここでわたしが仕事を放棄すれば、鎮守府にどれだけの負担がかかるか――」
大淀「むかしのように、提督に倒れてしまわれるわけにはいきませんから」
元帥「それならお前が代わりに、か? お前が倒れたら、あいつもずっとそのように気に病むと思うが」
大淀「わたしなら大丈夫です、慣れているもので」
元帥「(…………どこかの巫女娘と同じことを言いやがって)」
元帥「そうか。それなら気の済むまで任せよう――と、言いたいところだが」
元帥「いちど、電波に乗せてしまった発言を撤回することの手間、おまえなら理解できると思うが」
大淀「……それは、提督にお願いして撤回していただくほかありません」
元帥「あいつは意地でも撤回しないと思うがな。……ほら、聴いてみろ」トントン
提督『大淀さんが放送に参加している間、その時間に行わなければいけない事務作業は――』
明石『このわたし、明石先生におまかせくださいっ! すでに、一部の書類の引き継ぎは完了してあります!』
榛名『ちなみにほかの作業も、このラジオが始まる前日に夜を徹して完遂させました!』
提督『当ラジオでは、温かいお茶と冷たいお菓子を用意して大淀先生をお待ちしております!』
大淀「――――」
元帥「……おまえの疲労くらいは、あいつならすぐに見抜いてくる」
元帥「観念して、あいつの鎮守府へ戻ることだな。それにいつまで経ってもこの部屋を占拠されちゃかなわん」
元帥「年末の清掃も行き届いていなくてな。この部屋も片したいからさっさと帰ることだ」
元帥「…………」ペラリ
元帥「ふうむ…………」
元帥「見たところ、急を要する書の類はないようだな。積んである書類はこちらから郵送させよう」
元帥「張った肩でも揉みながら、その身一つで帰るがいい」
大淀「は――。……はい、し、失礼いたしましたっ!」パタパタ
元帥「…………」
元帥「……この書類、期日までに提出できる量ではないな。下地は出来ているようだし、こちらで引き受けることとするか……」
――――
――
提督『それではさっそくお便りを紹介していきましょう! 榛名先生、お願いします』
榛名『はい。――それでは」
“血のつながった姉が、いい歳してこんな季節におへそを出すスタイルをやめません”
“見ているこっちが風邪を引きそうで困っちゃいます。言っても聞きません。どうすればいいでしょうか?”
榛名『ラジオネーム“かたつむり”さんからのご相談です』
提督『へそ…………いや、詮索はすまい』
提督『よく、女の人は冬場にスカートを穿いたりなんかしますが、たしかに寒そうだと思うことがありますね』
提督『女の人は男の人よりも熱に対する耐性が強いのでしょうか? そこのところは実際どうなんでしょう、榛名先生』
榛名『そうですね……寒さに対する耐性のお話ですが、おそらく“慣れ”の問題じゃないかと思います』
榛名『学生時代なんかは、制服のスカートがもともと膝上だったりしましたし……』
榛名『寒いかどうかで言われるとすっごく寒いです! でも、我慢がまんと思っているうちに、というか……』
提督『あー、なるほど。たしかに体育の時間とか、早朝のトレーニングなんかは、最初は寒く感じたりするけど』
提督『過ごしているうちにまったく気にならなくなるっていう、そんな感じですかね』
榛名『それは身体を動かしているから、というのもありますけど……そんな感じだと思いますっ』
榛名『でもこのお便りの人は、この書き方だとおそらく普段着のお話をしているのですよね?』
榛名『でしたら……そういった薄着が好き、なのか……服を着ていることがあまり好きじゃない、のか……』
提督『なるほど、つまり痴女だと』
榛名『ちがっ!?』
『ほら、やっぱり痴女じゃない』 『むっ、わたしの話だったのか!?』 『イク、イくのぉ……っ』
榛名『あっ、そうです! その、可愛い服を着て見せたいお相手がいらっしゃるのかもしれません!』
榛名『仲良くしたい相手や、想いを寄せている人の前では綺麗な格好でいたいものですし……』
榛名『“服装は、ときには君に代わってものを言う”という言葉もありますし』
提督『キングスレイか』
榛名『はいっ!』
榛名『ですからその方は、想いを言葉に乗せられない、照れ屋な女性なのではないかと思います!』
榛名『そう考えると、ちょっと可愛く思えてきませんか? ……単純に、暑がりな方なのかもしれませんけど』
提督『なるほどねえ…………そういった考え方もあるのか。
いや、男はその点あんまり考えなくてもいいから気が楽ですね。暑いか寒いかですから』
提督『うちの鎮守府にもずっとヘソ出してるビッグセブンがいて、お腹を壊すんじゃないかとヒヤヒヤしてたんですが――』
提督『榛名の考え方を聞いたあとだと、なんだか少し可愛く見えてきましたね。
誰に隠した想いがあるのかは知りませんが……普段をクールな情熱で過ごしている女性ですから、そういった一面は新鮮で』
提督『今度会ったら一言褒めてみることにします。もともと綺麗な女性ですから』
『ち、ちがっ……これはただっ、暑いだけだと……!』 『あらあら~』
『……いっちょまえに照れてんじゃねーデス、fuckin' RIKISHI』 『いつの間に!?』
榛名『むっ…………て、ていとく、榛名はどうですか……?』
提督『ん?』
提督『…………』
提督『よしよし』
榛名「ぁ……、えへへ』
『うわっ、あれ絶対ごまかしてますよね』 『榛名はいつからあんなにちょろくなったの……お姉ちゃんは心配ですよ』
『というか電波に乗せてやらないでほしいデース……』
提督『えー、相談者さんは、そのお相手に対する認識を改めてみてはいかがでしょうか?』
提督『普段のなにげない仕草や格好一つが、その人の心情をあらわしているのかもしれません』
提督『どうしても聞かないなら……あなたが暖めて差し上げるのも、また一つの手だと思いますよ!!』
榛名『“かたつむり”さん、お便りありがとうございましたっ』
『姉さん……わたし、勘違いしてたわ……』 『ま、まて、誤解だ』
『いいのよ姉さん……さあ、わたしの胸に飛び込んでいらっしゃい!!』 『陸奥がヤバい! ば、爆発するぞー!!』
提督『――さて、時間も押してまいりましたので次のお便りを最後にしたいと思います』
提督『が、その前に“お便りを投稿するにあたっての大原則”。こちらを説明し忘れていましたね』
提督『榛名、頼んだ』
榛名『はいっ!』
榛名『えと、この放送は、みなさんの日ごろの出来事、お悩みや相談のお便りなど……24時間いつでも受け付けています!』
榛名『宛て先はここ提督鎮守府! 宛て名を“ちんじふ裏らじお”と記入していただけると助かります!』
榛名『そしてお便りに関する原則ですが……大本営の方々や、保護者のみなさまもお聞きになっているので』
榛名『“過度な、ぇ……えっちな表現”や“過度なグロ表現”は避けるようにお願いいたします!』
提督『たとえ“空想上の、実際にはなかったお話”であったとしても、大本営の耳に入れば鎮守府を解体することになりかねませんからね』
榛名『また、同一人物による複数の応募(連投)があった場合は、残念ながら違うお便りを採用させていただくことになります……』
提督『目安としては、一個下にズラすことになりますね』
提督『また艦娘抽選(安価)先が、艦娘の名前でない……たとえば、雑談であったりなんかしたときは、
自動的に下にずらすことにします。雑談で埋まっていても問題ありません。ちょっと見にくいからミスしやすいくらいですね』
提督「(それ以前に、番組についての雑談が起こるほど、視聴者のみなさんから支持を受けられるかは別だけどな)」
榛名「(悲しいことを言わないでください……)」
榛名『全体の流れとしましては、オンエア開始、ゲストの艦娘紹介、あいさつ』
提督『その艦娘との慣れ初めや、その艦娘の立場や人物紹介、いつごろうちの鎮守府に着任したか、とか、そういった小話』
榛名『その後、視聴者のみなさんからの“フリーのお便り紹介”のコーナーを経て――』
提督『“視聴者からのお悩み相談”のコーナーに入り、終わりのあいさつ、ですかね』
提督『場合によっては多少前後したり、一部飛ばして次のコーナーに入ったりすると思います』
提督『また、できるだけ差がないようにしたいですが、プレイの環境や、キャラクターの把握次第で厚みに差が出てしまうかもしれません……』
提督『それに困ったら、本来付いていない設定を付与するかもするかもしれません。
それは“ここの鎮守府ではそうなのだ”と、優しく見届けてあげてください。よっぽどなことはしないつもりですので』
榛名「(プレイ……? 設定とか……なんのお話でしょうか?)」
提督『電波に乗せるラジオ放送ということで、艦娘のみんなが緊張してしまい、話し方や僕に対する呼び方が変わってしまうこともあると思いますが』
提督『気になったり、あまりにも逸脱してしまっていたら、お便りにてお知らせください。すぐに修正いたしますので』
榛名「(て、提督の修正……ちょっと受けてみたい、です。いったいどんな……そ、そこはだめ、ですぅっ……あぁぁっ……)」テレテレ
榛名『もっ、もし視聴者のみなさんから良さそうな提案があれば、積極的に採用していきたいと思っていますっ』
提督『こういったラジオ放送や、鎮守府での日常を公開・投稿することは初めてになりますので……』
提督『視聴者のみなさまがたには、温かい視線で見守っていただけると幸いです』
提督『なお、ラジオ放送自体はほぼ毎日行っているという設定ですが、投稿自体はそれなりに間隔が空くと思います』
榛名「(投稿…………?)」
提督「(こうやって、ラジオの台本を作るのも楽じゃないんだ。個性豊かな艦娘ばっかりだから、ゲストに応じて書き替えないといけないし)」
提督「(場合によっては完全アドリブで動いてもらうことになるかもしれん。放送自体のクオリティーは落ちると思うけどな)」
提督「(まあ、放送事故にならない程度に間は繋いでみせるさ)」
榛名「(なるほど……頑張って、続けていきましょうね! 榛名も楽しみにしていますからっ)」
提督「(プレッシャーをかけてくるなぁ……)」
提督『長々と説明してしまいましたが……次回以降はこの説明、ありません。今回は初回ということでしたから……』
提督『第一回、“ちんじふ裏らじお”、いかがだったでしょうか。みなさん、楽しんでいただけましたでしょうか』
提督『急な放送だったというのに、たくさんのお便りや、楽しみにしているというお言葉』
提督『ありがとうございました!』
提督『みなさんのご期待にそえられるよう、これからも切磋琢磨していく所存です』
提督『さてっ、最後にもう一つ、お悩み相談を行ってシメにいたしましょう!』
提督『危険が危ない暴走放送、しんがりを務める大取りのお便りはこちらです!』
榛名『ラジオネーム“でちハム”さんからのお便りですっ!』
“ほのぼのとした夕食の真っ最中に、同僚の痴女がいきなりハンドサイズ振動魚雷を使ってオナ――”
提督『それではみなさん、またあしたあああああああああ~~っっ!!!』
榛名『明日の放送はフタマルマルマルに開始です! 艦娘のみなさん、心してお待ちくださいっ!』
提督『それでは“ちんじふ裏らじお”、MCはわたくし提督と!』
榛名『榛名でお送りいたしました! ばいばいっ!』
――――ちゃらら~ ちゃらら~
――――ちゃらら~ ちゃらら~
大井「…………なんだかんだ、最後まで聴いてしまったわ」
北上「とっくにゴハン食べ終わってるのにねぇ」
球磨「……へんに身内が出てくるから、いつ自分が呼ばれるかとハラハラするクマ」
多摩「お父さんやお母さんも聴いてるって聞いたらもう恐ろしくて聴いてられないニャ……」
木曾「……まあ、そうだな。授業参観ってぇ感じか……なんというか、気恥ずかしいな」
扶桑「そういえば……もうずいぶん長いこと、家族には連絡をしていないわね……」
山城「わたしもです、扶桑お姉さま……お姉さまがいつも隣にいてくれるから、ひとりって感じがしないから、寂しくなくって」
扶桑「ふふ、山城……わたしもよ」
武蔵「ふん、家族か……家を出てから久しいな。大和、お前はどうだ?」
大和「そうね。大和も……ここ最近は、もうずっとね。出ずっぱりだったものだから」
武蔵「やはりか。…………ふむ」
武蔵「あのラジオ番組に投稿されないよう、今のうちに一筆したためておくとするか」
大和「むっ、だめですよ武蔵! 家族への手紙は、そんな打算的なもので出すものではありませんっ!」
武蔵「…………そういうお前はどうなんだ」
大和「大和はいまから書きます!」
武蔵「ほれみたことか」
青葉「うう…………だめだったぁ…………」
衣笠「だから言ったじゃない……。今回は大本営も関わってるから、そうそう都合よくはいかないよって」
青葉「DJ提督のブロマイド、大量生産すれば儲けになりそうなのになぁ……」
衣笠「DJじゃなくてMCね。でも青葉は平気なの?」
衣笠「いつもはああして情報をばらまく立場だったけど、こと今回に限っては受け手じゃない?」
衣笠「きっと提督、ここぞとばかりに仕返してくるよ」
青葉「その点に関しては問題ないよ! 言われて困ることはやらないようにしてるから!」
衣笠「(ウソくせぇ……)」
那智「ふむ…………父上からの便りか」
足柄「あら那智姉さん、その紙は?」
那智「いやなに、父上からの手紙だ。健康と食事に気を付けるのと……。
このラジオ番組が始まるにあたって、ゲスト出演の期待が高まっているらしい」
足柄「げえっ! イヤよわたし、一回出たら死ぬまで実家のみんなにからかわれそうだし」
足柄「それにああいうのは“ガラ”じゃないし。あーいうのは羽黒みたいな子が映えるのよぉぉ~ん」ギュッ
羽黒「ぃひゃっ……ごっ、ごめんなさい、羽黒にはちょっと、荷が重いというか……」
足柄「えぇ~っ、絶対タノシイと思うんだけどなぁ~。ね、ね、一回出てみなさいよっ。きっと楽しいから」
那智「それはお前がだろう…………」
羽黒「ふええ……」
妙高「こーら。もう、羽黒をいじめないの」
妙高「それに一人とも限らないですよ?
“艦娘のかたがた”とおっしゃっていましたから、ここにいる四人全員で出ることだってあり得るんですから」
足柄「いやー、四人も呼んだら収拾つかないんじゃないの? 羽黒とかずーっと黙ってそうだし」
那智「わからん。そこは提督の腕の見せ所、といったところだろうな」
足柄「ふうん……ま、そうなるわよね。羽黒、あんた自分が当たんないように祈ってなさい」
羽黒「(足柄姉さんがひとりで呼ばれますようにっ……)」
那珂「はっ! これは那珂ちゃんがソロで呼ばれてオールナイト・ナカチャンライブを開催する予感……っ!」
神通「悪寒の間違いですね」
川内「えーっ、でもなんかそういうのいいな~! みんな夜中は大人しくって退屈だし、もっとドカーンと盛り上げてほしい!」
神通「そうですね……もし姉さんが呼ばれたら、提督に夜戦を挑んでみるのも手かもしれませんよ」
神通「提督、ああ見えて相当なやり手なようですから」
川内「それマジっ!? いいねェ、たぎってきたよ! パパたちに頼んで応募してもらおーっと!!」ドヒューン
神通「あっ……もう、せっかちなんですから」
矢矧「…………あなた、なかなかえげつないことするわね」
能代「あなたそんなに口八丁だった? もっとおとなしい印象があったけど」
神通「いいえ、ウソではありませんよ。提督は過去からずっと叔父元帥に鍛えていただいていたようですから」
神通「教科書にも載るほどの人物から、直接指導を賜っているのです。きっと生半可な実力ではありません」
矢矧「お、おお……なんだか毅然としてるわね」
阿賀野「神通ちゃんも提督とお付き合いが長いものね~。……でも、それで提督の強さ、はっきりと見てないの?」
神通「はい。あの人はあまり訓練にも参加したがりませんから……」
那珂「那珂ちゃん聞いたことあるけど、男と女が一緒に訓練するのはやっぱり……って抵抗があるみたい!」
能代「でも、そのわりには榛名さんや霧島さんと一緒にランニングしてたりするわよね。なんでかしら?」
矢矧「そりゃあなた…………ねぇ?」
神通「あの二人はとくに付き合いが長いですから。それこそ、わたしたちでは比較にならないくらい……」
酒匂「ぴゃぁーっ!」
初春「ふむ……父上や母上も、この放送を聴いておられるんじゃな」
初春「だがわらわたちは、マメに文をしたためておるからの。実家から手紙が届くようなことは、おそらく…………」
子日「うーん、でもお父さんもお母さんも妙に提督のコト気にしてたし、全然あり得る話なんじゃないかなぁ」
子日「一回提督とお話してみたいっていつも言ってるしぃ」
初春「……ここで、提督に手紙を出すな。と言えば、おそらく逆効果になるのじゃろうな」
初春「このわらわが、運否天賦とはのう……だが不幸中の幸い、うちの鎮守府にはたくさんの艦娘が所属しておるからの」
初春「わらわたちが呼ばれる確率は高くないはずじゃ」
子日「それ、フラグっていうんだよ」
初春「この放送が終わったら……わらわ、実家にいる家族に手紙を出すんじゃ……」
白露「ううーん、どうせ呼ばれるんだったら一番がよかったなぁ~」
時雨「おや、白露はずいぶんと乗り気みたいだね。どういう風の吹き回しかな」
白露「いや、あたしはいつも包み隠さず生きようと心掛けてるからねっ!
いまさらみんなの前で、どんなことを言われようとも微動だにしない自信があるよっ!」
時雨「うーん、それはみんなも一緒だとは思うんだけどね……」
時雨「ぼくはちょっと、みんなの前で親の手紙を読まれることには抵抗があるかな。やっぱり恥ずかしいよ」
村雨「時雨ちゃんは鎮守府に来るまでは、“ぼく”じゃなくって“わたし”って言っていたものね」
夕立「あたしも村雨ちゃんも今と昔じゃ性格真逆だったっぽい!」
村雨「そりゃ、妹がこぉんなに可愛かったらお姉さんしなくっちゃいけないじゃない?」ナデナデ
夕立「んふふ~」
春雨「は、春雨も、姉さんたちを追って着任したときは驚いちゃいました! 村雨姉さんは、もっと、そのぅ、おてんばだったので――」
村雨「あら、春雨ちゃんもいい子いい子してあげましょうね~」ナデリ
春雨「……んぅ」
霧島「みなさん、いまの放送を聴いて思い思いに語り合っていますね……」
比叡「でも驚いたよね。提督のあの語り口は聞き慣れてるけど、まさか榛名も一緒になって参加するだなんて」
金剛「ハルナはテートクの言うことなら無条件でなんでも従っちゃうネー。お姉ちゃん心配っ、もう……」
霧島「ん?」
比叡「金剛お姉さま、あの…………平気、ですか?」
金剛「ヒエー? …………hmm、なるほどネー」
金剛「ノンノン! テートクのことは大好きだけど、それはあくまで親愛の感情ネー!」
金剛「むかしはちょっと傾いてたときもあったけど、いまは、もう……」
金剛「それに、テートクもそうだけどハルナも大好きネー! むしろ大好き同士がくっついてお得な感じまであるネー」
霧島「……それなら良いのですが」
金剛「Heh,Heh... …………むしろキリシマの方が、わたしは心配ネー!」
金剛「わたしよりキリシマの方が、テートクとの付き合いが長いネー」
霧島「……ふふ、それこそ心配ご無用、ですよ。お姉さまに心配されるほどのことでもありません」
金剛「I see. ――――なるべく、遅くならないようにね」
霧島「……それに対しては、I know. ――ですかね」
金剛「hehehe...」
霧島「ふっふっふ……」
比叡「…………」
比叡「(ひええええええええ~~っ!! なにを話しているのかサッパリですううううう~~っ!!)」
金剛「さてっ、ヒエー、キリシマ! ハルナを呼んでお風呂にするネー!」
金剛「そこで根掘り葉掘り、どういう会話があったのか…………」ワキワキ
比叡「つぎは誰にお声がかかるのか…………」ワキワキ
霧島「…………」ワキワキ
金剛「テートク執務室に、突撃ネ~~っ!!」
比叡「おー!」
霧島「おー!」
えと、書き溜めはここまでです。頑張って書いたつもりでも短いものですね
こんな感じでやっていきます。>>49-51あたりの書き方で進行していきます
何度もやかましいようですが、遅筆なので、安価スレっていうよりお題を安価でいただいて書いていく形になると思います
□安価の取り方
□一つもレスが付かなかった場合は、勝手にこちらで艦娘を指定して書き溜めすることになります。ないた
一応、書き溜めている間も目は通しておりますので、時間外でも艦娘の名前を書き込んでいただければある程度反映はさせる予定です
□抽選開始のレスから五つのレスまでに一番高いコンマを採用。時間を指定することもあります
□もし、一つしかレスが付かなかった場合は、そのレスに書かれたキャラクターのみの参加となります
□四名までなら複数キャラの指定も可能です
□一度指名された艦娘をもう一度指名することも可能ですが、最初のほうはご遠慮ください
たとえば――
25 名前:以下、大本営にかわりましてリスナーがお送りします[sage] 投稿日:2015/01/10(土) 22:17:42.94 ID: mcTt0ku
今回のラジオに招待される艦娘選考 ↓1~5
26 名前:以下、大本営にかわりましてリスナーがお送りします[sage] 投稿日:2015/01/10(土) 22:18:35.22 ID: br0kenDATA
マイクチェックさん!
27 名前:以下、大本営にかわりましてリスナーがお送りします[sage] 投稿日:2015/01/10(土) 22:28:57.73 ID: kagAkuHaTTen
榛名は大丈夫です
28 名前:以下、大本営にかわりましてリスナーがお送りします[sage] 投稿日:2015/01/10(土) 22:29:15.56 ID: KNG0viCkeRs
比叡ちゃんprpr
29 名前:◆H1eEkng0L0Ve[sage] 投稿日:2015/01/10(土) 22:30:30.30 ID: 比叡
金剛お姉さま
30 名前:以下、大本営にかわりましてリスナーがお送りします[sage] 投稿日:2015/01/10(土) 22:30:27.65 ID: TmgTabeRYUu
瑞鳳に自信ニキ
――この場合、榛名の.73が一番高いので、榛名さんを採用になります。ぞろ目は採用してません
また、『ずいずい』や『大食い空母』、『天龍型の怖いほう』や『ちくまりんこ』など、わかりにくいものはこちらで勝手に解釈いたします。ご了承ください
『ちくまりんこ』なら、先に筑摩の名前が来ているので筑摩ということになります。『ずいずい』はなんとなく瑞鶴っぽいです
『天龍型の怖いほう』は、龍田になります。『天龍型の怖くないほう』なら天龍となります
ただ、『○○型の一番かわいい子』などは一切不明なので、スルーということで一個下にずらします
連続投稿(連投)はすべて合わせて一つの書き込みとします
□フリートークのお便りや、お悩み相談のお便りの内容に関してですが、艦娘指定の安価を取った後に募集します。
□こちらも内容募集の書き込みから、下五つぶんのレスを対象に募集します。
ですが、内容が重複していると思ったら、重複したレス同士を組み合わせて一つのレスとし、もう一つ採用します(6レス目のこと)
□連投レスがあった場合は、一つぶんの書き込みとして扱います
□レスが一つしか、もしくは一つもつかなかった場合は…………なんとかします
一応、書き溜めてる間も(ry
□遅筆ですので、たまに見たら進んでる程度でご覧ください
外出するので、先に艦娘とお題安価をとりますね
艦娘安価→お題安価の順番です
今回のラジオに招待される艦娘選考 ↓1~5 人が少なければ夜にお題を取るかもしれません
ありがとうございます! では伊401(しおい)やんで。かなり時間かかると思うので気長にお待ちください
おたよりの内容や、質問や相談など ↓1~5 もし範囲外でも、凝ってたりしたら勝手に拾うと思います
艦娘の皆さんは普段は何をして過ごしていますか?
オリョクル辛いでち
何とかして欲しいでち
提督はなんと呼ばれたいか
5-5を突破できません。助けてください
メメタァ駄目なら↓
おおむね了解しました。ではしばらくの間消滅していますので気長にお待ちください
質問 艦娘以外にも憲兵や妖精さん、エラー娘、深海棲艦を出すのは可能ですか?
>>81
いまのところ考えていませんが、深海棲艦については話が進めば参加できるようになるかもしれません
いちおう、おおまかなストーリー筋みたいなものを、ゲスト艦娘ごとにつないでいく予定です
現状だと、ただ憎しみを持っただけの存在でしかないので・・・ただ、一部の深海棲艦については、思わぬ形で接触していくかもしれません
結論はというと、全部厳しいですね。いちおう、希望が強ければラジオ外の部分で絡ませるよう尽力します
現段階は「艦娘」だけの縛りでお願いします。そのうち深海editionとかもやってみたいですね
ラジオ部分に入る前の、前座の部分だけ先に投下しておきます
今後はまとめて投下してくれ、という声があれば全部書き溜めてから投下することにします
まだ安価を消化していない(ラジオに入っていない)ので、安価は取りません
提督「昨日はえっらいめに遭った……」カタカタ
提督「(あの放送のあと、ほとんどの艦娘が執務室に押し寄せてきてきた)」
提督「(なんでも、自分が指名されたときに保護者からの便りを読むのはやめてくれとの話だった)」
提督「(そういうわけにもいくまいよ……むしろ保護者からの便りはこのラジオ一番の華だろうが!)」
提督「(胸倉つかんでぶんぶん揺さぶられまくって脳みそシェイクになりかけるところだった。お前ら仮にも上官だぞ俺は……)」
提督「(夜が明けたとはいえ、、まだ頭の奥がちくちく痛む。久しぶりにあんなに長く喋ったからなあ……)」
提督「(とはいえ、俺の体調とは関係なく仕事は積もっていく)」ターンッ
提督「(今日みたいな日に限って榛名がいない。なにやらあの日の晩、オムライスをふるまって以降姿を見ていないのだ)」
提督「(今日の朝、執務机の上に“ハルナは預かったデース。返してほしければ婿に来ることデース”と書かれた怪文書だけが残されていた)」
提督「(婿ってなんなの。次代神主候補にでもさせられんの?)」
提督「(一日中キーボード叩いてると指先が崩壊するわ。なんかどんどんタイプミスが増えていくんだが)」カタカタ
コンコン
提督「はいどうぞー」
ガチャ
イムヤ「やっ、司令官! なんだかお疲れみたいね?」
提督「ん、イムヤか。ほかの連中はどうした?」
イムヤ「みんなはお風呂。わたしは今回無傷で帰ってこれたから、みんながお風呂入ってるうちに報告書まとめちゃおっかなって思ってね」
提督「なるほどね」
イムヤ「今日は榛名さんいないの? じゃあ、このパソコンちょっと借りちゃってもいい?」
提督「いいぞ。というかそのままずっと座っててくれ。そっちに転送する」カタカタ
イムヤ「えっ?」
イムヤ「えっ、なにこのファイル。なんかすごい勢いで増えていくんだけど」
提督「お前もこの鎮守府来て長いだろ。これ今日の秘書艦の仕事だから、頼んだ。榛名いないから代わりに頼む」ターン
提督「あとそっちのメールボックスのほうに、昨日の放送を聴いた保護者のみなさまから感想が届いてる」
提督「おそらくいま現在も受信している最中だろうから、目を通して整理しておいてくれ」
イムヤ「え、え、え、ちょっと待って!」ユーゴッタメール
イムヤ「イムヤ今週のオリョール海の戦闘報告が…………」ユーゴッタメール
イムヤ「やっ、止まらな…………っ」ユーゴッタ
イムヤ「ちょ、これ今日中に全部って無理が――――」ユーゴッタ
イムヤ「ホンっ……ト」ユーゴッタ
イムヤ「」ユーゴッ
イムヤ「」ユーゴッ
――――
――
ゴーヤ「てーとくぅーっ! 報告書持ってきたよぉ!」ガチャ
はっちゃん「はっちゃんも、今週のオリョール海の報告書完成、です」
提督「おっ、お前ら悪いな。正月だってのにわざわざオリョールまで足を運んでもらって」
イク「ホントなのね! たまのお正月くらいお休み欲しいのね!」
ゴーヤ「ブラックでち! ブラック鎮守府として大本営の艦娘協会に通報するでち!」
イク「これじゃじっくり時間をかけて道具で遊ぶ暇もないのね~っ!!」
提督「うるせえ! ブラックとか言うと憲兵が裸で飛んでくるからやめろ!」
はっちゃん「(おお、さすがのスルースキルです、さすがは提督)」
提督「それにオリョクルに関してもだな、よそ様と比べたらこれでもマシな方だと思えよマジで」
ゴーヤ「よそはよそ、うちはうちでちっ!」
イク「なのっ!」
はっちゃん「そうですよ二人とも。わたしたちはこうして班行動を許されていますけど」
はっちゃん「国外に配置されている、最前線の鎮守府に所属する潜水艦のみなさんは、みーんな個人行動ですから」
ゴーヤ「え、そうなの?」
イク「初耳なのね」
はっちゃん「はい。と言っても本やインターネットで得た情報なんですけどね」
はっちゃん「なんでも、鎮守府がメンテナンス中で、帰っても停泊するスペースがないなか出撃を求められたり」
はっちゃん「小破はおろか、かぎりなく大破に近い中破状態に陥っても、航行可能な状態であれば出撃させられるようです」
はっちゃん「一回の出撃で、一人につき燃料を千稼ぐまでは帰ってくるなとも言われているらしいですよ」
イク「千!?」
ゴーヤ「え、え、帰ってくるなって……じゃあ、補給とかは――」
はっちゃん「一切の禁止です。燃料や弾薬もすべて現地で自給自足」
はっちゃん「なかには深海棲艦から奪った特殊弾でまかなうために、自分で艤装と砲の口径を作り変えた子もいたようです」
はっちゃん「あまりの変容っぷりに、帰港の際に艤装を駆逐イ級と誤認されて、集中砲火を受けた末に、母港の海へ沈んでいったそうですが……」
はっちゃん「その鎮守府に所属する戦艦の人がオリョール海に出撃した際に、沈んだはずの潜水艦娘が敵深海棲艦を切り刻んでいるのを目撃した、という話がありますね」
はっちゃん「『これで提督も喜ぶでち……』『燃料を運ばないわたしに価値なんてないんだから……』とつぶやきながら、と」
はっちゃん「その目撃者の艦娘は、その潜水艦娘に瞳を向けられた瞬間に気絶してしまったようですが」
はっちゃん「その艦娘との最後の通信からは、『暁の水平線。やさしく迎えてくれるのは、海鳥たちだけなの?』という悲しげな音声が確認されるのみでした」
はっちゃん「それ以降の目撃情報はありません」
はっちゃん「あんがい、いまだにオリョールの底で彷徨っているのかもしれませんね」
はっちゃん「――新鮮な、燃料を求めて」
ゴーヤ「」
イク「」
はっちゃん「そういえば、その潜水艦娘の口調も、ごーやさんのような話し方だった、と言われていますね」
はっちゃん「もしかしたら、ごーやさんに親近感を抱いて、そのうち鎮守府に遊びに来るかも――」
ゴーヤ「ひいいいいぃぃっ」ガタガタ
イク「いやああああぁぁっ」ガタガタ
イク「ご、ごーやちゃん、こっち来ないでなの! なにかが移ってくるかもしれないの!」ガタガタ
ゴーヤ「なにかってなんなの!? そういうの見える体質なの!?」
イク「い、イク、黙ってたけど、けっこう霊感あるほうなの! いまのごーやちゃんからはよからぬものを感じるの!!」
イク「前々からみょーうに寒気がすると思ってたの!!」ガタガタ
提督「(それは単に薄着だからでは…………)」
ゴーヤ「待ってごーやを置いてかないで! ひとりぼっちは寂しいからぁっ! まってぇ!!」ダダダ
イク「ひいいぃぃぃ~~っ!! 言動が完全にオバケのそれなの~~っ!!」ダダ
ゴーヤ「死なばもろともでちーッ!!」
イク「ひやあああぁぁ~~っ!!」
はっちゃん「――――Verzeihung. 冗談です」
ゴーヤ「…………え?」ピタッ
イク「…………あ?」ピタリ
はっちゃん「本で読んだ怪談を、わたしたち風にちょっと改変してみたんですが……」
はっちゃん「思っていたより好評でなによりです。これで今年の夏の怪談大会も乗りきれますね」
ゴーヤ「え……あ…………ああぁぁ……」ヘナヘナ
イク「な…………なんなのねもう…………」ヘナリ
はっちゃん「Verzeihung(ごめんなさい)」
ゴーヤ「もうっ! 怖いから作り話はやめるでち!!」
イク「そういうのは夏にやってナンボなのね!!」
はっちゃん「アハ、ごめんなさい。悪ふざけが過ぎました」
はっちゃん「(…………実話、なんですけどね。まあ、言う必要も…………なさそうです)」
イク「こわかったの……。妙にリアリティのある話なのね」
ゴーヤ「同じ潜水艦娘として、妙に共感できる部分もあったでち……」
はっちゃん「あは、…………そうですね。こんなお話には、登場したくないものです」
提督「…………あー、なんだお前ら。意外と可愛いところもあったんだな。
普段あれだけギャイギャイ騒いでるから、そういった感性はとっくの昔に捨て去っているものだと……」
ゴーヤ「ごーやたちだって女の子でちっ! ――というか、騙されないよっ! 怖い話して、オリョクルの日々から目を逸らせようとしてる!」
イク「――ハッ! そうなの! もとはと言えば提督がもっと休みをくれてたら、こんな怖い目に遭うこともなかったの!」
ゴーヤ「謝罪と賠償の意を兼ねて、ごーやたちのオリョクルの日々にピリオドを打つでち!」
イク「週休七日! これだけは譲れないのっ!」
ゴーヤ「しゅうきゅうなのかー!! もちろん有給休暇扱いでち!!」」
イク「提督の夜のお世話もさせろなのー!!」
提督「いまだかつてないほどにウザい。なんだこいつら」
提督「逆に全休になったとして、なにして時間潰すつもりだよ……」
イク「そりゃ……ペットでも飼って優雅に過ごすの!!」
はっちゃん「(ペット……意味深ですね)」
ゴーヤ「そうでち! ごーや一回そういうのに憧れてたんでち!」
提督「そうですか…………」
はっちゃん「まあまあ、お二人とも。はっちゃんも、休みが欲しくないと言ったら嘘になるけど、さっきのお話は嘘じゃないですよ」
ゴーヤ「でちっ!?」ビクッ
イク「なのっ!?」ビクリ
はっちゃん「……いえ、そちらではなく。最前線の潜水艦娘は――というくだりです」
はっちゃん「そういった子たちに比べれば、わたしたちのような、被弾したら即入渠、毎回補給を必ず受けられる――」
はっちゃん「それに、帰ったらおいしいご飯とあったかいお風呂が待っている。それだけでも、素晴らしいことだと思いませんか」
提督「……そういうのは、当たり前のことだと思うんだが」
はっちゃん「Nein. ……残念ながら、最前線でなくとも、潜水艦娘の酷使はあるようです」
はっちゃん「……秘匿資料で確認したこと、ですが。潜水艦娘の過労死が相次いでいるという文を見ました。
過労死と一概に言っても、補給を受けさせない、疲弊していてもお構いなし、中破以上のダメージを受けていても関係なし」
はっちゃん「艤装が故障していない限りは、追い立てられるように鎮守府から出撃させられるようです。…………身体は、故障していてもです」
はっちゃん「そういったものも含めた“過労死”があまりにも多く、問題として表面化する前に対処しようという肚のようです」
はっちゃん「それに応じて、潜水艦娘の運用に関する規則なども、今後制定されるようです」
ゴーヤ「…………そうだったんだ」
イク「…………悲しい、ことなの」
はっちゃん「……はい。そういったところに配属されなかった、というのは……わたしたちは、最高に幸せだということです」
提督「…………」
提督「よく知っているな、伊8。どうやって、その秘匿資料とやらを入手した」
はっちゃん「…………」
はっちゃん「ひみつ、です」
提督「………………そうか」
はっちゃん「はい」
提督「そこまで知っているなら、こちらも知らないわけではないだろう」
提督「艦娘による情報の窃取は立派な軍紀違反だ。大本営に知られたらどうなるか、わからんわけでもあるまい」
はっちゃん「…………」
ゴーヤ「待っ……待って提督! そんなのおかしいよ!」
イク「たかが情報の切れ端ひとつでっ……」
提督「塵ひとつでも、だ。…………悪いが、見逃すわけにはいかない」
提督「伊8。……それと、この場に居合わせた伊58、伊19。お前たちに罰則を言い渡す」
ゴーヤ「そんなっ……!!」
イク「そんなのゼッタイおかしいの!!」
提督「伊8、伊58、伊19、東部オリョール海にて、貴重な資材の回収を命ずる」
提督「お前たちには今から艦隊を組んでもらう。たった三人でオリョールの海を渡ってくるのだ!」
ゴーヤ「ひっ――――えっ?」
イク「…………なの?」
はっちゃん「…………それで、良いのですか」
提督「良いも悪いもない。俺自身がこうした方がいいと考えて、こう命じただけだ」
提督「しかし、しくじったな……まさか重要な資料の内容を、“艦娘相手にうっかり口を滑らせてしまう”とは」
提督「これが上の耳に入ったらどうなるか……考えるだけでも憂鬱だ。こってり絞られるんだろうなあ……」
ゴーヤ「…………オリョクルでいいの? いまから?」
イク「…………ほんと?」
はっちゃん「…………」
提督「まあ、その、なんだ……みんなが遊んでいるなか、つらいとは思うが……」
提督「お前たちの働きは、確実に艦隊の強化につながっている。まさに縁の下の力持ちといったところだが――」
ゴーヤ「…………」
イク「…………」
提督「いま、鎮守府の台所事情が潤っているのも、ひとえにお前たちの活躍といっても過言ではない」
提督「お前たちの尽力がなければ、サーモン海域北方の攻略も計画段階で頓挫していただろうし……」
提督「そんな連中を、たかが情報窃取の罪でしょっぴくわけにもいかん。――いや、本来ならすさまじく重い罪なんだが」
提督「お前たちを大本営に引き渡せば、ここの鎮守府の運営が成り立たなくなる」
提督「軍紀違反者を引き渡せば報奨金が出るわけでもなし。……それで鎮守府が潰れるなら、いっそ飲み込んでしまった方が気が楽だ」
提督「たった数名の潜水艦娘と、この鎮守府周辺の制海権や、所属する艦娘すべて。……考えなくとも、どちらが重要かわかるものだ」
提督「だから、今回に限り見逃してやる」
はっちゃん「…………提督」
ゴーヤ「てーとくぅ……」
イク「…………」
提督「まあ、なんだ、あー……………」ポリポリ
提督「…………感謝してるぞ、いつもな」フイッ
イク「――――っ」
ゴーヤ「――――っ!!」
イク「提督~~っ!! 愛してるのね~~っ!!」ガバッ
ゴーヤ「ごーや頑張るから、捨てないでくだちぃぃぃ~~っっ!!」ダキッ
提督「うおおおおっ!!」バターン
はっちゃん「あっ、提督っ…………どうしましょう。はっちゃん、飛びつくタイミングを失ってしまいました……」
提督「おまえ、らっ! せめて乾いてから来い! 服が……ああっ! すっげえ濡れてる!!」
イク「濡れそぼったイクの身体をねっとり味わうがいいのぉ……」
ゴーヤ「うりうり~」
提督「水着のまま身体押し付けてくんな! その…………ダイレクトに、当たる、というか……」
イク「当ててんのよ、なの」
ゴーヤ「提督はむっつりでち」
はっちゃん「いやらしいですね」
はっちゃん「……でも、ここまで濡れているなら大差ないですよね。提督、腕をお借りします」ギュッ
提督「やめんかお前たち! さっさとオリョクル行ってこい!」
イムヤ「う……電子の海……渡りきった、わよ…………」
はっちゃん「あ、イムヤさん。いたんですか」
ゴーヤ「秘書艦机に生えたイソギンチャクかと思ったよ」
イムヤ「だ、誰がイソギンチャクよっ! ……司令官、ファイルあがったから……確認して……」
提督「お、マジか――離せお前ら! ――どれどれ……。うん、きれいにまとまってるな」
提督「さすがイムヤ。この手の機械操作はお手のものだな。今後もこういう仕事が来たらお前を呼ぶのもありだな……」
イムヤ「それはさすがに勘弁してっ! 特定の単語に優先順位をつけて自動的に並び替えるシステム組んだけど、さすがに流用きかないから!」
イムヤ「去年のまるごと一年より、この数十分の方が頭使ったんだから……頭がフットーしそう……」
提督「お前……実はすごかったんだな……。正直、会議中にスマホいじってるだけのぐうたらだと思ってたわ」
イムヤ「べつにスマホとかで遊んでたんじゃないんだからっ! というか見てたの!?」
提督「そりゃ見るわ。目立つもの……とにかくサンキュな。お前、将来大淀さんコースに進める素質あるぞ」
イムヤ「わたしは人間だし、人間でいたいからむーり。お断りなんだから」
提督「そりゃ残念…………おらでち公! いつまでくっついてるつもりだ! さっさとオリョール行ってこい!」
ゴーヤ「んふふ~……提督、ありがとね」スリスリ
イク「一生ついていくの……」スリスリ
はっちゃん「わたしはいつも、あなたのそばに……」スリスリ
イムヤ「…………」
イムヤ「わぉ! 大漁たいりょうっ!」
イムヤ「なにこれ」
提督「いきなり素に返るな」
提督「(妙にむずがゆい笑顔を向けながら、退室していく潜水艦娘。水着のままだったし、その足でオリョールへ向かうのだろう)」
提督「(しかし、秘匿資料とは……俺が漏らした、ということはありえない。なぜなら、うちの鎮守府にそんな資料は存在しないからだ)」
提督「(俺が直接、叔父元帥から聞いた話だから。文書として受け取ったわけではない)」
提督「(それではいったい、その“秘匿資料”とやらをどこで見かけたのか――――)」
イムヤ「うええ…………仕事も終わったし、報告書も提出したからもういいよね?
いむや、晩ごはんまでちょっと仮眠取ることにします……。もう二度と目覚めることはないと思うわ」
提督「永眠かよ……って、ちょっと待ってくれ!」
イムヤ「……なあに? もう、仕事とかはやめてよね。さすがに厳しいから」
提督「いや……しおい(伊401)はどこに行ったのかと思ってな。ゴーヤたちと一緒じゃなかったのか?」
イムヤ「しおい――ああ、そうよ! しおいはね、なんかちょっとひと潜りしてくるって言って、鎮守府近海に走って行ったわよ」
イムヤ「たぶんそのへんをふわふわしてるんじゃないかな?」
提督「ちょっとひと潜りってお前……寒中水泳かよ。おいおい、風邪だけは引かないようにって言っといてくれよ」
提督「あとしおいなんだが、連絡つけられないか? ちょっとした用事があってな」
イムヤ「んー……それは難しいんじゃない? あの子ケータイ持ち歩かないタイプだし、任務時間外は艤装の通信も切ってるみたいだし」
提督「艤装の通信までって……え、じゃああいつが危険に陥ったりしたときに連絡つかないってことでもあるのか」
イムヤ「まあ、潜るのは鎮守府周辺海域の近海だけだから、そんな思ってるほど危険はないと思うけど」
イムヤ「その辺にごくまれーに現れるのも、せいぜい駆逐イ級くらいなもんでしょ? しおい一人でも余裕で倒せるわよ」
提督「まあ、それは、そうなんだが…………まいったな」
イムヤ「……ま、晩ごはんの時間には帰ってくるわよ。なんなら司令官が呼んでたって、しおいが帰ってきたら言いつけておこっか?」
提督「ああ、そうしてくれると助かる……。話は以上だ、時間取って悪かったな」
イムヤ「んーん、気にしないで。それじゃイムヤ、失礼しましたーっ」バタン
提督「(正直、いまだに潜水艦娘との距離の測り方がわからない)」
提督「(イムヤは付き合いが長いから、なんとなくなあなあで付き合ってきているが――)」
提督「(ゴーヤやイク、はっちゃんにしおい。どいつもこいつも強烈な個性を持っている)」
提督「(まるゆはまあ、陸軍出身だからか、実直でいい子だし……まだ、扱い方はわかりやすい)」
提督「(さて、つぎのゲストは“伊401”、か…………どう喋ったものかな)」
――――
――
提督「(ゲストの抽選方法は、ただ一つ)」
提督「(明石さんが作ってくれた、全艦娘の名前を閉じ込めた箱。この箱に手を突っ込んで、無作為に、四つの紙を取り出すだけ)」
提督「(なかには白紙のものも入っていて、必ず四名の艦娘が、この執務室スタジオを訪れるというわけではなく――)」
提督「(今日のように、四枚引いてたうち三枚が白紙、一枚がアタリ――ということも、当然ありうる)」
明石「それでは本日の放送、開始いたします! 準備の方お願いします!」
明石「さん、に――」
明石「(いちっ! 提督、お願いします!)」
――ちゃーらら ららら~
提督『――ラジオ放送をお聴きのみなさま、こんばんは! 本日の時刻、フタマルマルマルをお知らせいたします!』
提督『食事中のかたも、そうでないかたも、お気分はいかがでしょうか!』
提督『ちなみに僕は、いろんな意味で頭が痛いです。もうホント、寒いと体調が崩れやすいというのは本当のことで』
提督『風邪をひいた、というわけではありませんが……みなさんも、体調にはお気をつけてくださいね』
提督『元気が一番! よく寝て、よく食べる。規則正しい生活を送っていれば、病が入り込む隙間なんて出来やしません!』
提督「(“アタリ”を引いた艦娘は、俺から任意のタイミングで呼び出しをかけ、ゲスト出演の旨を伝える――)」
提督「(タイミングとしては、その日の放送の夕食前がベストだろう。
ほかの艦娘に、出演が決まったという話をする暇もなく、夕食をとってしまって豪華なディナーが楽しめなくなる――ということも、ない)」
提督「(だから、そのタイミングがベスト――そう考えて、行動すること自体は、そうおかしくない話だと思う)」
提督「(夕食の時間に席を外したとしても、ほんの少し。
夕食の準備が、艦娘と妖精さんの当番制……となれば、時間を外してしまったら、当番娘の姿はすでになく、妖精さんだけがてちてちしているだけ)」
提督「(妖精さんはあくまで補助的な存在であって、料理を作るのは艦娘なのである。
妖精さんだけで料理を行うことはできないので、必然的に時間を外してしまうと、夕食を食いっぱぐれてしまうわけで――)」
提督『そういえば僕は今日、少し外出する用事があって、鎮守府から離れて住宅街の方を通ったんですけど……』
提督『右を見ても左を見ても門松だらけ。なかにはクリスマスの電飾をそのまま飾っているおうちなんかも……』
提督『一年早いクリスマス気分。あのおうちは、一週間もすればまた年を越すのでしょうかと』
提督『そんなに何度も年を越しちゃうと、正月のお雑煮だけで体重が――おっと、体重のお話はタブーでしたね』
提督『正月太り、なんて言葉もありますけれど。原因は年末の忘年会や、新年のおせち料理、お餅――』
提督『そういうふうに考えられがちですが、実は違うんです。“運動不足”なんですねぇ』
提督『たしかに、おせちもおもちも高カロリーの食品として有名です。がしかし!
いまさらカロリーがなんだと。カロリーなんか気にしていたら炭水化物が食べられません』
提督『生きるために食べる。まさにその通りでございます! ですが、よおく考えてみてください』
提督『もちろん、生きるために食べることは必要不可欠です。ですが、それなら栄養剤と、ちょっとした食事だけでよくないですか?』
提督「(…………ちらっ)
明石「(ばつ)」
提督「(…………)」
提督『わたしたちはなんのために、お金を稼いでいるのか! 生活のため――衣・食・住のためです!』
提督『そう、食事も含まれているんです。その食事というのは、生きるために最低必要不可欠、という意味もありますが――そうではない』
提督『おいしいものを食べたいからなんです! 家族や友達、恋人たちとおいしいものを食べて生きる――』
提督『そう考えたら、カロリーだけを気にして生きているかたも、また違う見方が出来てくるんじゃないんでしょうか』
提督『おいしいもの、っていうのは不思議なものですねえ。ひとくち口に含んだだけで、ぱぁ……っと力が湧いてくるんですよ』
提督『この間なんかですね、うちの鎮守府に“鳳翔”というきれいな艦娘のかたがいらっしゃるんですが――』
提督「(――おおよその艦娘は、夕食を食いっぱぐれないために、夕食の時間に合わせて帰ってくる)」
提督「(毎日の激戦を乗り越えて、任務に駆けずり回って、やっとの思いで帰った場所には、冷凍保存食)」
提督「(そういった思いをしたくないがために――――“普通は”帰ってくる)」
提督「(――――“普通は”、だ)」
鈴谷「……なんか今日の放送、昨日と比べておかしくない? なんかミョーにもの寂しいってゆーか」
鈴谷「提督のテンションもなんか妙だよね。焦ってるっていうか、なんていうかってカンジ」
三隈「そうですね…………言われてみれば、なんだか妙というのも頷けます。どうされたんでしょうか?」
熊野「もったいぶってる――というわけでも……なさそうですわね、あの調子だと。
本日のゲストの艦娘が、まだお披露目されておりませんわ。後ほど行うのかもしれませんけれど……」
最上「ああ、だからかぁ。そもそも今日のゲストの艦娘って、誰なんだろうね? 提督からそんな話あった?」
三隈「いえ、わたしのほうにはなにも……。箱の抽選で決めると言っていましたよね」
三隈「もしかすると、いまから発表! ――なんてことも、ありうるのかしら?」
熊野「いえ、それはあり得ないと思いますわ。だって、わたくしたちはすでに夕食を済ませてしまいましたから」
鈴谷「あっ! そうだよね、だって呼ばれたコは、提督の部屋で豪華なディナーを楽しめるんだもんね!」
熊野「提督の部屋、ではなく提督執務室ですわ。提督の部屋だとその、なんだかいやらしい……」
鈴谷「あっ、くまのんむっつりぃ~。くまのんはいったいナニを考えてたのかなぁ?」
熊野「やっ、やかましいでございますですのことよ! なんなのかしらあなたマジなんなのかしら」
最上「熊野、口調口調!」
三隈「あらあらうふふ。くまのんさんは“むっつり”だったのですね」
鈴谷「やーいむっつりー!」
熊野「ぐっ……鈴谷みたいなおバカさんに言われるならともかく、三隈に言われると妙に悔しいですわね……」
鈴谷「わたしにも悔しがってよ!!」
最上「そこじゃないでしょ」
コンコン ドウゾデアリマス
イムヤ「いむや、失礼しまーっす! あきつ丸ちゃん、いるかな?」
あきつ丸「おお、これはこれは、いむや殿。本日はどのようなご用向きでありますか?」
イムヤ「いや、用ってほどじゃないんだけど……しおい、見なかった?」
あきつ丸「しおい殿、でありますか……申し訳ない。自分には心当たりがないであります」
イムヤ「そっかぁ……まるゆちゃんはどう? しおい見かけなかった?」
まるゆ「しおいさん、ですか……? うーん……。ごめんなさい、まるゆもちょっとわからないです……」
イムヤ「そっか。うちに戻ってきてないから、てっきり潜り仲間のまるゆちゃんがいるとこだと思ったんだけど……」
イムヤ「どこいったのかなぁ……うん、二人とも、ありがとう。わたしはもうちょっとしおいを探して回ってみるね」
あきつ丸「急ぎのご用件がおありなら、こちらから力号を飛ばして探すでありますか?」
まるゆ「しおいちゃん、また潜ってるならまるゆもお手伝いしましょうか……?」
イムヤ「いや、潜ってるかどうかの目星すらついてないから、遠慮しておくね。その心はありがたく受け取っておくけど」
あきつ丸「そうでありますか…………」
イムヤ「二人ともありがとね。それじゃお邪魔しまし――――」
『それで僕は言ってやったんですよ。“ふんころがしを詰めても弾薬の代わりにはなりませんよ”ってね!』
イムヤ「――あれ、二人とも、そのラジオ……」
まるゆ「…………」
あきつ丸「…………」
あきつ丸「ああ、これでありますか? なにやら提督殿が“らじお”を放送すると聞いたもので」
あきつ丸「工廠で転がっていた廃材をかき集めて、こうして使えるように改造してみたであります。ちょっと聞きづらいところもあるでありますが……」
まるゆ「まるゆも、がんばってオリョールをまわりました!」
イムヤ「なにその技術……。おほん、そんなことしなくても、提督か大淀さん、明石さんの三人に申請すれば備品が降りたのに。まだ遠慮してるの?」
あきつ丸「遠慮……と言われれば、おそらくそうであります。まだ我々は、この鎮守府に配置されて間もない新人兵でありますので……」
イムヤ「まるゆちゃんも水臭いわね。言ってくれればわたしたちも一緒にオリョール潜ったのに」
まるゆ「あ、あんまり大勢でいくと、潜航に必要な資材の消費が増えちゃうかなって……」
イムヤ「まるゆちゃんはそんなの気にしなくていーの。そういうのは大淀さんと榛名さんのお仕事だよ」
イムヤ「それにもともと、わたしたち潜水艦の資材消費量なんて微々たるものなんだから。遠慮しなくっていーの!」
イムヤ「それと二人とも、このラジオの電力って……もしかして、燃料を使ってる?」
あきつ丸「……ご明察であります。その通り、まるゆが拾ってきてくれる燃料を使用して動かしているであります」
まるゆ「だ、だめなこと…………でしたか?」
イムヤ「だめなことないわよ! ……でもそうね、今後もこのラジオを使っていくなら……。
うん、わたしの方から司令官に言づけておくわね。このラジオに使うぶんの燃料を公費でおろすように言ってくるから」
まるゆ「え、ええっ!?」
あきつ丸「そんな、畏れ多いであります! ただでさえ、工廠に忍び込んで作ったもので……」
まるゆ「そ、そうです! それを言うならまるゆだって、本当は鎮守府に提出しないといけない燃料なのに……」
イムヤ「その考え方が水臭いっていうの。わたしたち仲間なんだから、変に遠慮されるとこっちが悲しいよ」
イムヤ「それに、そう思ってるなら……ちゃんと“鎮守府のもの”を使って、“一緒のもの”を使ってるっていう、さ」
イムヤ「そういう気持ちで、お互い仲良くなっていこうよ。そうじゃないと、わたしの背中預けられないんだからっ」
イムヤ「それに、拾ってから抽出もしてない粗悪燃料なんか使ってると、深海棲艦が寄ってくるかもしれないじゃないっ」
あきつ丸「い、いむやどの…………」ウルウル
まるゆ「いむやさぁん…………」ウルリン
イムヤ「……はっ。わたしなにクッサいこと言ってんだろ。潜水艦なんだから背中を預けるもなにもないのにね。あはは……」
あきつ丸「――――いむや殿っ!」ガバッ
イムヤ「……えっ、なに!? わたしなんかした!?」
あきつ丸「いむや殿のお心遣い、本当に感動したであります。感謝の言葉が、あふれて、なにも……」ウルッ
あきつ丸「――っ! 申し訳ないであります! いむや殿、本当に、これから、よろしくお願いするであります!」
まるゆ「まるゆもっ」ガバッ
イムヤ「ちょ……二人ともそんな、頭あげてよ!」
イムヤ「わたしはそんな、大したことも言ってないし、大したこともやってないし……」
あきつ丸「いえっ、このあきつ丸、感服したであります! よければまるゆ共々、これからもぜひ友誼を結んでいただけると嬉しいであります!」
まるゆ「いむやさんっ! よろしくお願いしますっ!」
イムヤ「ちょ……はわっ…………!」
イムヤ「も、もーうこうなったら、こっちも頭下げてやるわよ!!」ガバッ
あきつ丸「いむや殿!?」
まるゆ「いむやさん!?」
イムヤ「友達っていうのはね、対等であってはじめて成立するの! ふたりが頭下げるならこっちだって頭下げるわよっ!!」
あきつ丸「いむや殿ぉ…………」ウルルン
まるゆ「いむやさんぅ…………」マルユン
イムヤ「あーもうっ! なんなのあなたたち変わった子らね!!」
――――
――
イムヤ「(なーんてことをやってる間に、司令官のラジオは混沌を極めていた)」
イムヤ「(それも当然、ゲストの艦娘が少し経っても登場してこないし、名前も挙がっていないから)」
イムヤ「(今日の夕方、司令官はわたしに、しおいの所在を困り顔でたずねてきた)」
イムヤ「(おそらく“あれ”は、今日のゲストであるしおいに声をかけようと思っていたんだろう)」
イムヤ「(だけど肝心の、しおいの姿が見えない。だから、見つかるまで一人で間を繋ぐつもりなんだろう)」
イムヤ「(司令官が困り顔をするのはいつも、だれかを探しているとき)」
イムヤ「(海域攻略が難航していたり、資材が底を突きそうだったときも、けっして困り顔は見せなかった司令官)」
イムヤ「(わたしたちが緒戦で大破して、戦域からの撤退を余儀なくされたときも――困り顔なんて見せずに、むしろ心配してくれた)」
イムヤ「(――今日聞いた、はっちゃんのお話。かわいそうな潜水艦娘のおはなし)」
イムヤ「(あの話は、わたしも聞いたことがある。……というよりも、この鎮守府でなら、誰よりも詳しいのかもしれない)」
イムヤ「(同期だった、艦娘訓練施設の同期。同期の子はみんな、最前線に配備されていった)」
イムヤ「(その友達とも、離ればなれになってからも手紙のやりとりはしていた。最初だけだけどね。
みんながみんな、悲鳴をあげる身体に鞭を打って戦っていた。――いや、鞭を打たれていた、のかな)」
イムヤ「(実際は、はっちゃんの話よりも、えげつない――)」
イムヤ「(オリョールの海を泳いでいると、たま……に、艤装の残骸みたいなものが、漂っていることがある)」
イムヤ「(散って行った先人のものなのか、深海棲艦の残滓なのか――どちらかは、しらないけれど)」
イムヤ「(いまとなってはわかるけど、どうやらあれは、艤装のもとになる廃材だったみたい)」
イムヤ「(その海域を侵略している深海棲艦のボスを倒すと、それ以降から、そういった“素材”が見つかるようになる)」
イムヤ「(同期の子たちは、その廃材を集めると少しの休みがもらえるから。血眼になって探していたみたいだけど)」
イムヤ「(その廃材、潜水艦の艤装に作り変えられて、潜水艦娘の適性がある子に与えられる)」
イムヤ「(当然、その子は潜水艦娘になる。そしてそうなったが最後――)」
イムヤ「(ろくに艦隊演習もさせてくれないまま、東部、オリョールの海へ沈められる)」
イムヤ「(廃材を集めている子たちは、自分の休みのために頑張っているけど。
そうすることで、自分と同じ境遇に叩き落される潜水艦の子が増えることになる)」
イムヤ「(まるで、鉱山に閉じ込められた鉱夫のように――使われるのが、潜水艦娘。オリョール海から出られない)」
イムヤ「(……でも、司令官は違う。鎮守府が回っているのは、わたしたちのおかげと言うけど、本当は苦しいの、知ってる)」
イムヤ「(そんな司令官が、いま――――)」
『いやあ、スカラベっていうんですよ。ふんころがし。すごいですよねスカラベ。なんか防御力上がりそうなんだもん』
イムヤ「(――――こんなバカになっている)」
イムヤ「ああもうっ、人がせーっかくシリアス醸し出してるときにーっ!」
イムヤ「わたしがしおい見つけ出してやるから、その馬鹿な口さっさと閉じなさいよーっ!!」
――――
――
提督『――というわけで、いったんCMです。またのちほどお会いしましょう』
明石「……オッケーです! おもいのほか一般の視聴者が多かったので、深海棲艦の説明CD流して時間食います!」
提督「お願いします。…………はあ、マジでどうするんですかコレ。もうふんころがしストーリーのストックないですよ」
提督「そもそも艦娘の日常が欲しいのにふんころがし語ってどうするんですか。もうなにもわからない」
明石「諦めないでください! それに提督、本日の放送、現段階の時点ですでに、昨日の総視聴者数を上回っています!」
明石「みなさんこの放送に興味を持っていただいているみたいですよ! 良かったですね、提督っ」
提督「そうですか、それは良かったです。本当によかった……――期待してラジオ点けたらふんころがし談義だった以外はな!!」
提督「俺だってびっくりしますよ。艦娘の日常聴けるんだよって言われて。へーって言って。そんでラジオ点けたらふんころがしですよ」
提督「頭おかしいんじゃないですか馬鹿なんじゃないですか」
明石「お気をたしかにーっ!! そ、それに、現在アンケートを集計中ですけど、思いのほかふんころがし談義も人気が高いですよ!」
明石「ほ、ほら、このたくさんのお便り、全部ふんころがしですよ!」
“ふんころがし期待” “これは興味深いラジオですね” “家族一同で楽しんで聴いています”
提督「バカじゃないの!!!」
提督『フンコロガシというのはか弱い生き物です。脳は小さく、視力も弱い――』
提督『ですが、本当に不思議な生き物です。生物学の分野では、このフンコロガシに対しての研究も進められております』
提督『スウェーデンの大学もそのうちの一つです。
さまざまな方面、角度からフンコロガシを研究しており、また、フンコロガシの生態を解明することによって、古代文明の輪郭が見えてくるのではないか――』
提督『そうした研究に、情熱を捧げている人物たちです』
朧「――お待たせ。アイスティーしかなかったんだけどいいかな?」コト
潮「ありがとう、朧ちゃん」
曙「なんでこんな日にアイスティーなのよ……と思ったけど、この駆逐寮の談話室、暖房効きすぎてあっついのよねー」
曙「ホント、普段は資材を節約しろとか言っときながらこのザマ……あいつ、なに考えてんのかしら」
綾波「司令官さんは、綾波たちが快適に日常を過ごせるようにいろいろ気を揉んでいるみたいです。
とくに、駆逐艦の子たちはまだ子供だからと、体調を崩さないようといろいろ考えているようですよ」
綾波「綾波にも直接、いまの生活になにか不満があるかどうかを聞いてきたこともありましたし……」
漣「サッー!」
潮「……漣ちゃん、それなあに?」
漣「ん? これはね、ガムシロップ! 漣にはまだまだ、ストレートのアイスティーは苦くて飲めないから……」
朧「市販で売っているものは苦いもんね」
敷波「お、ガムシロっていったら甘くなるやつ? いいなぁ、どこにあったの? あたしも欲しいんだけど、それ」
漣「ん。あのお茶とか紅茶とか入ってる棚あるでしょ? そこ開いて右上にたくさん置いてあったよ」
敷波「おっけ、ありがと。あたし取ってくるけど、ほかに欲しい人いる?」
潮「はいっ」
綾波「あやなみっ! 綾波もお願いします!」
敷波「二人だけかな? 曙はいらないの?」
曙「……なんでよ。これぐらい苦くもなんともないっての! みんなお子様なんだからっ」
曙「それに、あたしはこれぐらいがちょうどいいし。ガムシロップなんて……ふん、冗談じゃないわ」
敷波「おっけー、あたし、綾波、漣、曙で四つね。すぐ取ってくるから待ってて」
曙「ちょっと、なんでよ! いらないって言ってるじゃない!!」
朧「あ……ごめんね敷波。わたしがお茶持ってくるときにいっしょに持って来ればよかったのに」
敷波「気にしないで。それに人数分のお茶持ってくるだけで手いっぱいだったろうし……」
朧「ありがと。曙もごめんね、気が利かなくて」
曙「わたしはべつに苦くっても飲めるしぃー!!」
漣「うん、おいしい!」
潮「朧ちゃんはよかったの? その、ガムシロップ……」
朧「そうね。いつもなら入れてたんだけど……今日はなんとなく、こっちの気分だったかなって」
漣「あーあるよねーそういう日」
曙「わたしもそういう日だったんだけど! どうしてくれんのよ!」
漣「あーあるよねーそういう強がり」
曙「強がりじゃないわよ!」
綾波「曙さんはいつも見ていてほのぼのしますねぇ」
朧「そうだね」
曙「勝手にわたしでほのぼのしてんじゃないわよーっ!!」
提督『そこで、驚くべき研究結果が出たというのはみなさんご存じでしょうか!』
提督『なんとあのフンコロガシに対し、プラネタリウムを使用して研究を重ねたところによりますと』
提督『脳も小さく、視力も弱い、あのフンコロガシが――。
なんと“天の川”の輝きを手掛かりに真っ直ぐ進み、ほかのライバルのいる場所に円を描き、戻らないように移動していることがわかったのです!』
提督『いや、アザラシや一部の鳥、そして人間が星々を道しるべに生きてきたことは知られておりますが――』
提督『まさか、あの天の川を手掛かりにする生物は、このフンコロガシが初めてなんです!
そして、丸めたふんの上に登って、ちょっとしたダンスを天の川に捧げる場面も発見されたり……』
曙「ていうかなんなのよさっきからこの放送!」
曙「前座のトークが長すぎるのよ! なんで十数分にわたってフンコロガシのくっだんない話を聴かされなくっちゃいけないのよ!!」
朧「そう? 普段聴かないような話だから、わたしはちょっと興味深いんだけど。
提督って、意外とこういう小ネタというか、小話たくさん持ってるよね。博識なのかな」
潮「え、でも、こういうのって台本通りなんじゃ……?」
曙「こんなのは台本じゃないでしょ。だーれがこんなクソムシの話にオッケー出すのよ」
綾波「く、くそむし…………」
漣「曙ちゃん。そういうのはフンコロガシファンの人に失礼だから」
曙「フンコロガシにファンなんていてたまるかっての! ――ったく……ホントうっざい!」
提督『古代エジプト文明の人間は、フンコロガシが転がし続けている多摩――失礼、玉を太陽に見立てていた、という文献も残っています』
提督『なんだかすごいですよね。フンコロガシはそんな時代から、天の川へ向けて真っ直ぐに生きていた、というわけです』
提督『我々も時折、人生を見失ってしまうことがありますが――』
提督『そういうときは、迷いを持たぬ小さな彼らを見習って、曲がらずに生きたいものですね』
木曾「いきなりなんか言い始めたぞあいつ」
多摩「なぜか多摩にまで飛び火してきたニャ!?」
球磨「うまいこと言おうとして言えてない感が半端ないクマ」
北上「ほらほら、十分経ったから交代の時間だよー、多摩ちゃん、どいてどいて! 火が飛んできたならもう寒くないでしょ!」
多摩「まだニャー! まだ五分も経ってないニャ!」モゾモゾ
北上「あっ、こら! ……コタツで丸くなるなんて、やっぱり猫じゃんか」
猫じゃないニャ! >
球磨「多摩、往生際が悪いクマ。約束をちゃんと守らない子に育てた覚えはないクマ」
いやニャ! >
球磨「まったくこの子は……。木曾、こっちは交代クマ」
木曾「さんきゅ、姉さん」
北上「もー。かくなるうえは…………」
北上「大井っち!」
大井「おまかせください!」
大井「ほらほら多摩さん、約束のお時間ですよー金剛さん風に言うとプロミスタイムですよー」ズルズル
多摩「にゃあああああぁぁぁぁぁ…………」ズルズル
北上「大井っちありがとー。……ふう、生き返った気分だよ~」
大井「いえいえ! 用があったらすぐに言ってください!」
多摩「いきなり引きずり出すのはやめてニャ…………」
球磨「約束を守らない多摩が悪いクマ。……ほら多摩、暖炉の前が空いてるクマ。一緒に行くクマ」
多摩「おお…………でも、寒くて一歩も動けないニャ…………」
球磨「もう……仕方ないクマ。お姉ちゃんが運んであげるクマ」
球磨「くまくまー」コロコロ
多摩「にゃああぁぁぁぁ…………」コロコロ
大井「…………」
木曾「…………」
北上「…………」
北上「――大井っちと木曾っちさー。考えてること当ててあげよっか? 当たるか当たらないかで賭けでね」
木曾「お断りだ。絶対に外さないだろ、それ」
大井「いくら北上さんの頼みと言っても……ハナっから勝ち目のない争いは、しないようにしていますので」
北上「そっかー、そりゃ残念だー」
北上「…………あー、あったまるねぇ。コタツはわびさびだねぇ…………」
木曾「……お前、結局、オレらが考えていたことって……」
北上「――言っていいの?」
大井「だめです」
木曾「ふたりの名誉のためにも、黙っといてやれ」
北上「だよねぇ…………」
北上「――――球磨さんは、フンコロガシだった…………?」
大井「あああぁぁ……ぁぁぁー…………」
木曾「おまえ、黙っといてやれって言っただろ!!」
北上「いやだって、そりゃ言いたくもなるでしょ! さっきから延々とフンコロガシの話されてるんだよ!!」
北上「球磨さんだってあの運び方、放送聴いてパッと思いついたやつでしょぜったい!!」
木曾「いや、にしたっておまえ……」
大井「……球磨さんも多摩さんも、暖炉という“熱源”に近づいたり、フンコロガシ談義の最中に転がされたりしていますし――」
北上「――球磨型軽巡洋艦は虫だった……?」
木曾「虫説やめろ! オレらまで被害を受けるだろうが!!」
木曾「そもそも、仮にも同型艦のワンツーにその扱い。礼を失しているぞ!」
北上「……たしかに。これ以上はやめとこっか」
大井「さすが北上さん。引き際を心得た賢明な判断です」
木曾「いや、明らかに手遅れだが……ま、この話が終わるならそれで……」
北上「大井っち、ミカン剥いてあげよっか」
大井「ぜぜぜぜぜひお願いしますううううぅぅぅ!!」
北上「あはは、大井っち必死すぎ。そんじゃミカン……っと」
木曾「――なあ、球磨姉さんがフンコロガシなら、多摩姉ぇは…………」
北上「……もおおーっ! なんで言うのさ!!」
大井「最低ですね木曾さん。礼を失していますよ」
木曾「悪いっ! これはオレが悪かった!! だからそんな眼でオレを見るなぁーっ!!」
時津風「なんでしれぇ、フンコロガシでガチトークしてるの……」
初風「たしかに勉強になるところも、あることにはあるけど……そろそろ苦しくなってきたわね」
雪風「ま、まさか、今日の放送はこのままずっと、なんてことも……?」
天津風「そんなこと、あってたまるもんですか!!」
舞風「んー……ところで、今日のゲストの予定だったひとって誰なんだろ? 野分知ってる?」
野分「いえ、野分はなにも。……だけど、想像することは出来ます」
野分「指名された艦娘は、司令の執務室で夕食ですから。食堂にいなかった艦娘――となるはずです」
野分「今日の食堂、ざっと見たところ、確認できなかったのは――」
浜風「鳳翔さん、雲龍さん、それと夕張さんと……しおいさん、この四名ね」
舞風「ふうん……いつもいない人ばっかだから、誰が指名されてるのかわかんないね」
舞風「あたしが指名されたら、執務室からこの華麗な舞を発信してやるのにさ!」クルン
野分「この放送はビデオ配信ではないから、いくら踊っても無意味よ」
提督『フンコロガシも、なかなか詩人――いえ、詩虫ですね。彼らのように、ロマンティックに生きたいものです』
谷風「意味不明すぎワロタ」
天津風「あっ、そろそろヤバいわね。あの人、困ったらワケわかんないこと言いだすでしょ」
初風「さっきからなにを電波に乗せているの、あの人は…………」
浦風「なー磯風ぇ~。そろそろ機嫌なおしてくれんかのー」ユサユサ
磯風「しなだれかかってくるな、わずらわしい」
浦風「今日の夕飯、いつもと違って普通に食べれたけぇ、感謝しとるよぉ~」
磯風「“いつもと違って”、“普通に食べれた”、とはずいぶんなお言葉だな、浦風。
お前には、この……我が父母が聴いている前でけなされたこの気持ち、わからんのだろうな」
磯風「おいたわしや、母上――あの放送を聴いていた、この磯風の家族は、いったいどのような気持ちだったのだろうな……」
浦風「じゃけぇ、悪かった言うとるじゃろが……」
磯風「この磯風が、国民たちの間で馬鹿にされている間、浦風、お前は間宮さんの新作パフェを頬張るのだろうな」
磯風「それは、この磯風の恥で食っていると同義だぞ浦風。みっともないと思わんのか」
浦風「そうじゃけ、悪かったと……」
磯風「――なんだ浦風その顔は。いたく不満げだな、開き直りか」
浦風「さっきからずぅっと悪かった言うとるじゃろーが! なしてそんな、ずっと怒っとるんじゃ!」
磯風「ふん、お前にはわからんのだろうな、この磯風の痛みが。いまの磯風の恨み、ナメないでもらおう」フンス
磯風「なしてそんな自信ありげなんじゃ…………」
磯風「ふん」
浦風「磯風ぇ~……――あっ、そうじゃ! なーなー磯風ぇ」
磯風「なんだやかましいな。この磯風、子供だましのご機嫌取りは通用せんぞ」
浦風「まだ子供じゃろーが……そうじゃのぉて――」ゴソゴソ
浦風「――――これじゃっ!!」
磯風「なんだそれは。“かたたたきけん”でもくれるのか? ふん、結局は子供だましではないか」
浦風「ふっふっふ……磯風なぁ、これなぁ……“甘味処・間宮”の“一品無料券”じゃっ!!」
磯風「――なんだと」
浦風「今朝、目が覚めたらうちのおでこに貼ってあったんじゃ!」
磯風「…………なにかと思えば、磯風の恥をダシにして得た切符ではないか。なんだ、感想でも聞かせてくれるのか?」
浦風「まだ言っとるんかそれ……じゃのうて、磯風。――お前も気づいとるんじゃろ? この紙を、ここで出した意味」
磯風「…………」
浦風「ホントは、こっそり使うてしまおかゆーて考えとったんやが……」
浦風「やっぱし、ちと気分悪ぅてなぁ。お詫びの意味も込めて、磯風。この券、受け取ってくれんじゃろか?」
磯風「…………」
磯風「い、らん。けっきょく、自分の恥を食っているのと変わらんではないか。
それに、あんな……あんなカロリーの高そうなものを食べてしまっては、余計なバルジが出来てしまう」
磯風「だから浦風、それは浦風が使うと良い。この磯風、お前が幸せそうに頬張っているのを、真正面から恨めしげに眺めていてやる」
浦風「ガンコなやつじゃの…………そか、わかった」
磯風「それに、それでおさめたら、磯風が間宮券欲しさに意見を曲げたと思われてしまうではないか!」
磯風「なんだ浦風、この磯風が、その間宮券で意見を曲げるような人間に見えたか? 真っ直ぐ生きる“フンコロガシ以下”とでも言いたいのか?」
浦風「なにもそこまでは言うとらんじゃろ!」
浦風「もぉ……そこまで言うなら、仕方なぁね。うちがありがたく使わせてもらうことにするけぇ。ありがとな」ゴソゴソ
磯風「あっ」
浦風「いやぁ、実はうち、あんなたくさんフルーツ使ったパフェなんか食うたことのぅてなぁ」
浦風「きっと、一口食べるだけでとろけるような味わいなんじゃろなあ~」
磯風「うっ……むっ……」
浦風「磯風ぇ……ほんっとーに、いらんのけ?」
磯風「ぐっ…………」
磯風「(くそ、どこかのクソ元帥のような顔を…………!)」
磯風「――もらうに決まっているだろう! よこせっ」バッ
浦風「うひゃっ! ……磯風ぇ、ほんとーは欲しかったんじゃろぉ? んん?」
浦風「磯風は欲しがりじゃけぇなぁ~?」
磯風「やかましいっ! 浦風! 今度時間ができたら、この間宮券を使いに行くぞ!」
浦風「え、うちもか?」
磯風「当たり前だろう! あんなものを一人で食べきっては、磯風がドラム缶のようになってしまう!」
磯風「浦風は、その…………この磯風より、胸が少し太っている! だから、これ以上太っても大差ないだろう!」
磯風「“ふたりで”はんぶんこ、あの巨大なパフェを切り崩すぞ!」
浦風「…………んふ」
浦風「素直やないんじゃのう……もぉ、磯風は……ふふっ」
磯風「……ふん、なにがおかしい。もとはと言えば、お前が」
浦風「磯風、ありがとぉな」
磯風「う……む……」
磯風「――だが忘れるな! この磯風、いつか必ず“料理上手”と言われる女になってみせる!」
磯風「いまだ失敗も多いが…………練習に練習を重ね、いつかはお前をも追い抜いてみせるぞ!」
浦風「そっか、それは楽しみじゃけ」
磯風「うむ。すぐに唸らせてやるからな、覚悟しておけよ」
浦風「…………ちなみに、その失敗、っていうのは?」
磯風「――うむ。ご飯を焦がした!」
浦風「あかん、やっぱ才能ないわ」
「なんだと!? ちょっと手順を間違えただけで、才能が――とまで言われる筋合いはないぞ!」
「どこを間違えたらご飯を焦がすんじゃ! やっぱその間宮券返せ! そんな腕前の持ち主に食われるパフェが気の毒でならんのや!」
「なにを言う! これはもう磯風のものだ! そもそも、よその人間をネタ笑いものにするお便りを出すなど言語道断!」
「そっちこそなに言うとるんじゃ! “そもそも”で言ったら、磯風がそんなにクソみたいな料理の腕前してなければ、あんなお便り出さずに済んだんや!」
「クソは言いすぎだろう! 撤回しろ!」
「クソでもまだソフトな表現じゃ!」
「浦風お前!! 誰がフンコロガシだっ!!」
「じゃけぇそこまでは言うとらんじゃろー!!」
――――
――
イムヤ「――――はあっ、はあっ…………!」
イムヤ「(――だめだった。鎮守府の近海をすこし覗いてみたけど、こんな時間じゃホタルイカのコンサートしか拝めなかった)」
イムヤ「(艤装に暗視アシストの機能がついていても、いむやみたいな古い機構の潜水艦じゃ、限界がある)」
イムヤ「(でも、いくら古いって言ったって、しおいみたいなピーキーな機体、見つけられないわけないのに……)」
イムヤ「…………ああ、もうっ、じゃまっ!」
イムヤ「(潮がかった髪が、顔に貼りついて離れない。頬を伝って流れる海水が、へんに煩わしい)」
イムヤ「(もう一回、今度はもっと深いところまで潜ってみるのも――)」
イムヤ「(いや、それはだめ。あんまり深いところに進むと、いくらこの時期とはいえ、深海棲艦の出現地帯にまで足を踏み入れてしまうかもしれない)」
イムヤ「(へたに刺激して、もし、対潜水艦仕様の駆逐艦や軽巡洋艦の群れにぶつかったら…………)」
イムヤ「(海はだめ。そもそも、もうフタマルマルマルも半分を過ぎたころ。しおいだって、もうとっくに戻っているんじゃ)」
イムヤ「(……でも、戻っているったって、いったいどこに?)」
イムヤ「(艦娘食堂や、総合談話室。入渠ドックや潜水寮なんかの主要エリアは――明石さんが、おそらく妖精さんを放っているだろうし)」
イムヤ「(かといって、それ以外ならどこ? こんな時間に開放されている施設は、そう多くない)」
イムヤ「(だいたいの、艦娘向け施設は鎮守府庁舎内や、すぐ近くに置いてあるから。
あってせいぜい、鳳翔さんや間宮さん以外の食事処、ちょっと専門的な百貨店――でも、そういうのは、こんな時間には空いていない)」
イムヤ「(ほかには、ええっと…………資材の搬入エリアとか、ちょっと大きめのプールしか――)」
イムヤ「(――――っ!!)」
イムヤ「(そういえば、あそこのプール施設には……自動的に、浄水されるプールがあったはず)」
イムヤ「(しおいはものぐさで、シャワーを浴びるのも面倒くさがる子だから…………)」
イムヤ「(もしかすると、そこで――)」
イムヤ「――――いかなくっちゃ!」ダッ
イムヤ「(もしかすると、もしかするかもしれない! 司令官、まってて。いまいむやが、助けてあげるから――!)」
ガララ
イムヤ「はっ、はっ、はっ、はぁっ……」
イムヤ「しおいっ! いる!? いるなら返事してっ!?」
「――――っ!?」ビクッ
イムヤ「――ぁ……、よかったあぁ…………もうしおいっ、いるなら返事しなさいよ!!」
しおい「…………い、いむやちゃん……?」
イムヤ「そうよ、ほかに誰がいんのよ。それよりしおい、あなたこんな時間までどこに行ってたの!」
イムヤ「わたし必死で探しまわってたんだからっ」
しおい「そ、そっか……ごめんね? さっきまでちょっと外で潜ってて……さっき帰ったばっかり、で」
イムヤ「……? なによしおい。そわそわしてるけど、どうしたの?」
しおい「えっ!? えーっとー……いま着替えちゅう、だから。いむやちゃんが見てると恥ずかしいだけっ」
イムヤ「……なによあなた。いままでさんざん一緒のお部屋で着替えたこともあるっていうのに」
しおい「恥ずかしいったら恥ずかしいの! だからいむやちゃん、外で待ってて!」グイグイ
イムヤ「ちょっ、もう、押さなくったって出てくわよ――っていうかあなた、なんかにおうわよ!?」
イムヤ「それに、なんだかヌメヌメするし……ホントに浄水プール入ったの!?」
しおい「え、あ」
しおい「……えへ、じつは、潜ってるときに偶然燃料を見つけちゃったから。持って帰ろうと思って……」
しおい「そしたらスッテーンってこけちゃって。ちょっとかかっちゃったのかな。ごめんね、気にしないで」
イムヤ「ちょっとどころじゃないわよ! 今すぐ、さっと潜るだけでいいから浄水プール入りましょ! じゃないと何日かはそのニオイ残るんだからっ!」グイッ
しおい「ぁ――――待って!!」
イムヤ「わっ」ビクッ
しおい「あ……ごめんね! いまちょっと、プールのほうもベトベトになってて……。
あとでわたし一人で掃除するから、掃除し終わったらそのときにゆっくりどぼーんすることにする!」
イムヤ「……あー、そうだったの。そりゃたしかに入れないわね。
でも、あなた一人で掃除する、なんて水臭いわよ。……あなたはいま油くさいけど」
イムヤ「わたしだけでも手伝うから。燃料こぼしたんでしょ? 一人じゃ到底拭ききれないわよ、それ」
しおい「い、いいからっ! とりあえず、このままだと寒くって風邪ひいちゃうから着替えさせてよおっ」
イムヤ「あ、ごっ、ごめんね! すぐ出てくからっ!」
イムヤ「あっ、それと! 司令官が呼んでたから、着替え終わったらすぐに連れてくから!
そのヌメヌメしたもの拭いときなさいね! 匂いの方は……香水かなにか、さっと振りかけてあげるからっ!」
バタンッ
イムヤ「(…………)」
イムヤ「(……うちの近海で、燃料なんてとれるエリアあったかな?)」
しおい「(あーあ、どうしよっかな…………これ)」
提督『つまりフンコロガシとは無限の可能性であり、一歩違えば我ら人類がフンコロガシになっていたのではないかと――』チラッ
明石「(ばつ)」
提督「(…………)」
提督「(マジかよ…………これ二回目の放送だぞ…………)」
明石「(泣き言を言ってもなにも変わりませんから、頑張ってください)」
提督「(…………言ってくれるわ、マジで)」
ドタドタ バタバタ
明石「――――っ!」
提督「――――きたかっ!?」
バタンッ
提督「(――執務室の扉が開く音を聞いた瞬間。
なにかがサーっと堰を切ったように流れてきて、すべてがスローモーションのように見えた)」
提督「(扉が開いて、真っ先に飛び込んでくるピンク色の髪――――)」
提督「(その、後ろ手に引かれた、小麦色に焼けた、少女の姿――――)」
イムヤ「司令官っ! おまたせっ!」
しおい「伊401、遅ればせながら、推参しましたっ!」
提督「(その少女の姿かたち、発されるその声を聴いた瞬間――)」
提督「お、おお――――」
提督「(――駆け巡る脳内物質っ…………!)」
提督「(β-エンドルフィン……! チロシン……! エンケファリン……!)」
提督「お、おおお、おおおおぉぉ――――」
明石「あ、あの…………提督? だいじょうぶ、ですか?」
イムヤ「この状態は――やばっ! 提督、しっかりしてっ!!」ブンブン
提督「(バリン……! リジン、ロイシン、イソロイシン……!)」
明石「どっ、どうなってるんですか!? 提督が、直立不動のまま――あ、まずいっ! CM入れないと、この様子がダダ漏れに――」カタカタ
イムヤ「司令官はたまに、危機に瀕した状態から脱出するとこうなるの!」
イムヤ「こうなったが最後、何時間か動かなくなることも……!」
明石「げ――。いむやさん、放送中に、提督がそんな状態に陥るのは非常にマズいです! なんとかお願いしますっ!」
イムヤ「な、なんとかって言っても! こうなったら榛名さんだって対処できないのに――」
しおい「えっと、あの、提督――――おこって、ますか?」
提督「――――」
提督「怒ってるわけないだろおおおおお!! しおい逢いたかったぞおおおおおおおっ!!!」
しおい「わぷっ……」
提督「寂しくて!!」
提督「恋しくて!!!」
イムヤ「涙そうそうかっ!」
『しおい逢いたかったぞおおおおおおおっ!!!』
『わぷっ……て、提督! ちかっ、ちかいよ!』
『遠く離れてたまるものかよおおぉぉぉ……しおい、しおいいいいィィィィ!!』
『んぐふっ……』
『しおいはいい子だなああああ! すべっすべだあ!!』
『ちょ、提督、あんまり触っちゃ…………! そ、それにしおい、臭くない?』
『しおいが臭いわけないだろお! はああマジ助かったああぁぁぁ!』
榛名「…………」
金剛「…………」
霧島「…………」
初雪「(アカン)」
すみません、余計なレスをしないように、と思って名前欄に入れていたんですが・・・
逆に読むときの妨げになってしまっていますね。次回からは普通にこうやってレスつけることにします。申し訳ない
ちょっと無理やりこじつけみたいな感じになって、最後駆け足みたいになって申し訳ない
できるだけ素早く書く、っていうのは難しいですね。安価スレラー尊敬します・・・
しおい編、いったんの終了です。描写少ないなって思うので、わからなければ聞いてください
提督『さて、フタマルマルマルも終わりの刻が近づいてまいりました。フタヒトマルマルの足音が聞こえ始めてきたころ』
提督『そういえば、番組開始直後にですけど、そのー……カロリーの話をしたじゃないですか。正月太りってやつなんですけど』
提督『あれ、正月太りっていうのはですね――というより、正月に限った話じゃあないんですけど』
提督『“脂肪がつく”というのはですね、みなさん、食べすぎたら“その翌日”には摂取したカロリーが脂肪に変わると考えていませんか?』
提督『だから、よく食べた日には、よく動く。鎮守府近郊を走ったり、府内施設で筋力トレーニングに励んだり――』
提督『それもたいへん良いことです。しかし、食べ過ぎた翌日に太る……たしかに、翌日に体重が増えていると感じること、多いと思います』
提督『ですがそれ、実はほとんど水分なんです。食べ過ぎた翌日に、太ったと感じるそれは、ただの“むくみ”なんですよね』
明石「それにしてもいむやさん、本当に助かりました。提督、いまにも泣き出しそうな雰囲気でしたので……」
イムヤ「いいのいいの、気にしないで。司令官のお尻を持つのも、わたしたちの仕事なんだから」
イムヤ「それにしても、本当にしおいだったのね、今日のゲスト。……ホントちょうどよかったわね、夕飯食べてないでしょ?」
しおい「うん! もうお腹ぺっこぺこ!」
イムヤ「……それならそうと、潜ってないでさっさと帰ってくればよかったのに」
しおい「あ……あはは、まあ、ちょっとね」
明石「わたしもたいへんだったんですよ。夕食のとき、食堂に帰ってきているのではないかと思って、わざわざ食堂でずーっと待っていたんですよ!」
明石「潜り仲間のまるゆちゃんも、あきつ丸ちゃんと二人でぽつーんと食べていましたし……」
イムヤ「わたしも帰ってきてるものだと思ってさ。食堂行ったらしおい、いないんだもの。さっと食べてすぐにしおい探しに出てっちゃったんだから」
しおい「ごめんね? 今日はもう、部屋に置いてあるお菓子だけでもいいかなって思ってて」
明石「だめですよ、そんな食生活は。……ですが、やっぱりこの時間に放送するのはあまり良くないんでしょうか?
昨日みたいに、みんなが食堂に会しているヒトキューマルマルの方が都合がいいのかも……」
イムヤ「あー、今日みたいにハチマルマルマルからだと、みんな自室か談話室だもんね。
サプライズゲストみたいな感じにしたいなら、放送で呼び出しをかけるわけにもいかないし」
提督『食べたもの自体のカロリーは、だいたい腸に入ってエネルギーになるんですよ。
そんで、食べ過ぎ……余分ですね? 余分は、糖分として肝臓に蓄えられることになっているんです』
提督『この糖分は、頭を使ったり身体を動かしたりで消費されていくんですが……』
提督『この、肝臓に蓄えられる糖分。だいたい一食から二食分まで蓄えられるんですね。
それ以上になってくるとパンクしてしまうので、べつの部分に行き場を求めて定着していきます。これが、“体脂肪細胞”なんですよ』
提督『じゃあその体脂肪細胞、いつ脂肪に変わるのか? ――それは、なんと“二週間後”』
提督『今日食べ過ぎちゃったな……じゃあその分運動しよう! ――それだけだと、ちょっと弱い。
食べ過ぎたなら、その後の二日三日で調整して、肝臓に放り込まれているうちに燃やし切ってしまうのが良いんです』
愛宕「(かりかり)」
高雄「(めもめも)」
摩耶「お、おい鳥海……姐さんたち、今までにないくらい真剣な眼差しなんだが」
鳥海「しっ、聞こえます! ……あのふたり、体型の維持には人一倍気を遣っているみたいです」
鳥海「わたしたちの見ていないところで、いろいろと努力しているようですよ」
摩耶「ふうん…………」
摩耶「努力ったってなぁ……なにも、あんなに鬼気迫るこたぁないだろ。
だいいちあの二人、べつに太ってるわけでもねーだろーが。気にしすぎなんじゃねぇの?」
鳥海「いえ、なにやらあの二人、太りやすい体質をしているみたいで……。
少しでも気を抜くと、むかし入っていた服が入らなくなる、とかでお悩みのようです」
摩耶「はあ、そんなもんか……あたしはべつに、食っても太らねぇからなぁ。あんましよくわっかんねーや」
鳥海「しっ! そんな大きな声じゃ聞こえ――――」
摩耶「あんだよ、これくらいどうってこたぁ――――」
高雄「…………」
愛宕「…………」
鳥海「」
摩耶「ひっ! わ、悪い! 悪かったからぁ! ごめんなさいっ! やだぁっ――」
提督『じゃあ、食べ過ぎてしまったらどうするか? そういうときは、脂質を出来るだけカットするんです。
たとえば、揚げ物や炒め物を控えて、蒸し物や煮物を食べたり。脂身の少ないお肉や魚を選んだり――』
提督『脂質をカットしたいときは、こっそり調理場にいる妖精さんに耳打ちするとよいですよ。
調理担当の艦娘には伝えず、頼んだ艦娘の食事の脂質をできるだけカットしてくれるよう、融通してくれますから』
提督『カットと言っても、タンパク質も減らしすぎは害になります。筋肉が落ちてしまいますからね』
提督『そういうときは、大豆食品などを活用しましょう。豆腐ダイエットってことばもありますからね。豆腐メニューを中心に注文すると良いでしょう』
陸奥「……なにこのヘルシートーク。さっきのスカラベと比べたら雲泥の差なんだけど」
伊勢「わたしたちみたいな女の子には、こういう話題の方がありがたいわねぇ」
比叡「……うちにいたころ、提督が調理担当だった日。玉子や豆腐中心のメニューだったのは、提督なりの気遣いだったんでしょうか」
金剛「Huh! さっすがテートクネー。ヒエーとキリシマは肉料理ばっかりだから、そういうところも考えてくれてたってことネー」
霧島「提督、女子力高っけぇ…………」
榛名「さきほどのスカラベの話、この雑学量……さしずめ、提督は“scholar”といったところでしょうか」
日向「……スカラー、“学者”か。なかなかうまいことを考えるじゃあないか」
提督『もちろん、食事だけの調整じゃなくて、運動や勉強による糖質の燃焼も大事ですよ!』
提督『さあ、走れ走れ! お正月に“おもちタンク”と化した少女たちよ!』
提督『諦め、諦観――――妥協の先には、眩しい体重が待ってるぞ!』
山城「すごくぶん殴りたいです」
日向「まあ、そうなるな」
扶桑「山城、落ち着いて…………」
イムヤ「それじゃいむや、やることやって部屋に戻ることにします。司令官っ、放送は聴いてるから、がんばってね」
提督「――おう、悪かったな。本当に助かった」マイクオフ
明石「ありがとね、いむやちゃん。ゆっくり休んでいらっしゃい」
しおい「いむやちゃん、またあとでねーっ!」ブンブン
イムヤ「しおいは元気ねぇ……。ふわぁ……んっ――はぁ、わたしはもう、瞼が重くてたまんないわ……」
イムヤ「それじゃ、失礼しましたぁ……」バタン
明石「いむやちゃん、眠そうでしたね……お疲れでしょうか」
しおい「うん、しおいを探して走り回ってくれてたみたいだから…………」
提督「(…………夕食まで、寝てたんじゃなかったのか?)」
提督『はてさて、ダイエットの話もほどほどに。そろそろ終わりの時間が近付いてまいりました』
提督『みなさん、“ころがし裏らじお”、ご清聴ありがとうございました。
たくさんの応援のお便り、僕の励みになりました。――――ほんとうに、ありがとう。ありがとう』
提督『ここからは引き続き、“ちんじふ裏らじお”をお楽しみください!
それではみなさん、“ころがし裏らじお”。またどこかでお会いすることがありましたら! ばいばいっ!』チラッ
――ころ~ ころ~ こーろがっしった、フー! こーろがっしった、フー!
明石「――はい、ジングル入れました。数十秒後に再開です。……しっかし、ずいぶん綺麗に繋げたものですね」
提督「あれ以上続いてたら、自分の気が転がるところでしたよ。――しおい、準備はいいか?」
しおい「うんっ! ――えっと、このプログラムの順番通りに進むんだよね?」
提督「ああ、だけどしおいのちょっとした感想とか、そういうのもアドリブで入れてくれてもいいんだぞ。
この台本はあくまで“目安”であって、この通りに動かなくっちゃいけないとか、そういうのは無いんだからな」
しおい「りょーかいっ!」
提督『さー時刻はフタヒトマルマル! 夜の帳が降りたころ、ここ提督執務室では――――』
ガチャン
ゴーヤ「てっいとくーっ! 潜水艦隊、ただいま帰還でちっ!」
イク「なのなのね~~っ!」
はっちゃん「ふたりともっ、いまはっ…………!」
提督「おわっ! ――お前ら、いまは放送中だぞ! 時間を避けるか、もっと静かに入ってこい!」
明石「ていとくっ、マイクの電源を!」
提督「おっと――危ないあぶない。それでなんだお前ら、揃いもそろって」
ゴーヤ「オリョール海への出撃報告書でちっ! あんまり時間なかったから、簡単に書いたんだけど……」
明石「あ、はい、それはわたしの管轄ですので、こちらで受け取っておきますね」
提督「お願いします。……よし、お前ら帰ってよし。食堂のほうに、お前らのぶんの夕食を頼んで置いてもらってあるから、先にそっち寄ってこい」
はっちゃん「Danke!」
イク「それはありがたいんだけどぉ~……ここで提督の放送姿、眺めてたらだめなのね?」
ゴーヤ「あっ、それごーやも見たいでち! 昨日の放送の段階で、どんなツラして放送してるのか興味あったの!」
提督「ツラってお前ぶっ飛ばすぞ」
明石「わかりました! ただし、みんな黙って見ていてね? これも一応、お仕事だから邪魔しないように!」
提督「……明石さん? いいんですか?」
明石「いいもなにも、もう放送止めてだいぶ経っちゃいますよ! ここで押し問答なんかして時間を食われるわけにもいきません!」
提督「…………それもそうか。お前ら、見ててもいいけど喋らずに黙ってろよ。お前ら喋り出すとキンキンうるせーんだわ」
提督「椅子ならそこの壁にパイプ椅子を掛けてあるから、自由に使え」
提督「あと水着のままじゃ寒いだろうから、そこの押入れから毛布でも取って巻いてろ。まったく…………」
イク「憎まれごとを言いながらも、しっかり気を遣ってくれる提督は好きなのね。ありがと!」
はっちゃん「でははっちゃんが毛布を取ってきますので、ごーやさんは椅子を並べておいてください」
ゴーヤ「りょうかいでちっ」
提督『えー、たいへん失礼いたしました。つい先ほど、オリョール海へと遠征に出ていた潜水艦が帰ってきたところです。その報告書を受け取っておりました』
提督『大多数の艦娘は、年末年始には出撃しませんが……潜水艦の子らは、そういった時間にも資材調達のため頑張ってくれています』
提督『本人たちには、身体を壊さない程度にやれと言ってはいますが……いやはや、指示している身として頭の下がるお話ですね』
龍田「へぇ…………潜水艦の子たちもたいへんなのねぇ…………」
天龍「(びくっ)」
阿武隈「(龍田さんの目がわらってないですぅ……)」
鬼怒「(いや、“嗤ってる”でしょ )」
由良「(あの人、なにかと潜水艦の子たちに突っかかるからね…………)」
提督『その潜水艦の子たちですが、現在わたくしの真後ろで、楽しげに見学しております』
提督『本来、見学は禁止なのですが――水着を着たまま、乾いた鎮守府の廊下を歩かせるのは少々気の毒でしたので。このようにいたしました』
提督『まるで授業参観の日を思い出します。あのときの緊張感、いまでも忘れられるものではありません』
提督『……えー、出鼻を挫かれましたが、いよいよみなさんお待ちかね!』
提督『――――雫も凍る、こんな夜。爪先に灯す、小さな種火』
提督『“ちんじふ裏らじお”、はじまります!』
提督『さて、本日が二度目となりますこの放送、“ちんじふ裏らじお”』
提督『初速はまずまず。ですが今後、これからの加速も大事です! タービン周りもしっかり整備して、誰よりも速い電波になりましょう!』
提督『第二回、40ノットをも超える、韋駄天の放送を制御してくださるのは、このお方!』
提督『伊400型潜水艦の二番艦。鎮守府イチの潜り名人! ――――伊401先生です!』
しおい『みんなー! ごきげんよう! 潜特型の二番艦、伊! 401です!』
しおい『知ってる人も知らない人も、みんな気軽に、“しおい”って呼んでねっ』
提督『――はい、この通り。しおい先生です! ……知らない人のために、彼女のことをかるーく説明しておきますね』
提督『暗き海の底へと沈んで、音もなく忍び寄り――足元から銃弾のような魚雷をぶちカマす、潜水艦!』
提督『まさに、“海のスナイパー”と称される彼女たちですが――彼女はそのなかでも、とくに潜り上手!』
提督『なんと彼女、つい先ほどまで、うちの鎮守府の近隣を泳いでいたというのです!
風も強く、波も高い――この極寒のなか、悠然と、です! もちろん、艦娘の艤装には体温アシスト機能も付いてはいるんですが――』
提督『この冷たさのなかだと、どうしても冷気が肌を突き抜けてくるのです。
ですが彼女は、寒がるどころか――気持ちいいとまで言ってのける。そんな“潜りの達人”なのです!』
しおい『……えへ、なんだかちょっと、照れちゃうね。
でも、こんな時期にしか見れないお魚さんたちもいるし、その子たちと一緒に泳ぐのはすっごく楽しいよ!』
提督『……頼もしいお言葉です。
彼女らのような潜水艦が、我らの海域のなかを巡回しているとあれば、深海棲艦も恐ろしくて近寄って来れないでしょう』
提督『そんな頼もしい彼女ですが、実はさらに! ――ほかの潜水艦の子らとはまた違う、特殊な装備があるんです!』
提督『その名も“晴嵐”!』
しおい『晴嵐さん!』
提督『見上げる敵の真上からの急降下爆撃――さらには航空魚雷による雷撃』
提督『世界中でも、水上爆撃・雷撃を兼ね備えた機種自体は存在しているんですが――こと“晴嵐”に限っては、そういった機種とは一線を画しています!』
提督『その名の由来は、隠密からの奇襲――“霞から、突然現れる忍びのごとく”、です。
まさに晴れの日の、突然の嵐。いままでにも何度か、その光景を拝んだことがあります』
提督『足元に食いついてくる潜水艦が、航空戦をも担ってみせる――。深海棲艦からすれば、これほど恐ろしいことはないでしょう』
提督『……こんな感じでしょうか。ここだけ切ってとると、まるで彼女が、天地揺るがす悪魔のように聞こえますが――そんなことはない』
しおい『ん、んっ?』
提督『等身大の彼女はこんなにも愛らしく、純粋無垢なのです! ああ、映像でお届けできないのがニクい!』ナデナデ
しおい『んっ!? んー…………あふぅ』
伊勢「…………あの人って、あっちが素なの?」
榛名「ど、どうなんでしょうか……掴みどころのない、雲のようなかたですし」
金剛「ジャパニーズ・トーヘンボクっていうのかナー?」
霧島「うーん……、唐変木というよりかは、知っててベタベタしている感じもしますが……」
長門「なんだ、軟派男だったのか?」
比叡「ナンパともまた違うんですけどね。……ちょっと、難しい人なんです」
日向「…………提督を心配するのはいいが、その、なんだ……親戚のオバさんみたいだな」
金剛「」
しおい『んふふ――あっ、そうだ提督! おみやげがあるの忘れてたっ!』
しおい『えと…………あった、はいこれ!』
提督『お、ありがとう。――――これは、ヒトデ?』
しおい『そう、ヒトデ! 潜ってたらね、綺麗な色だったから、つい持って帰ってきちゃいました!』
しおい『それに、とっても柔らかいし――こうしてぷにぷにすると、びくびく動いてかわいいんですよ!』
提督『たしかに、爽やかな色合いでいいな、このヒトデ。…………しおいはいい子だなぁ』
提督『これで水槽展示室にいるヒトデたちも寂しくないだろう。しおい、サンキューな』
ゴーヤ「(水槽展示室? そんなのあったの?)」
はっちゃん「(ええ、専用のお部屋がありますよ。艦娘のみなさんが、あまりにもたくさん連れて帰るものだから設けたんです)」
はっちゃん「(いまだとペンギンとか、イルカとかもいますし……その様子は、さながら水族館のようですよ)」
イク「(イクはあそこ大好きなのね! 壁ぜんぶが水槽になってるし、水槽の奥が見えないほど広いのね!)」
ゴーヤ「(え、でもそういう動物って……保護法とか大丈夫なの?)」
はっちゃん「(ええ、そういった諸々は問題ありません。直にイルカと触れ合ったりもできますし、駆逐艦の子たちに大人気なんですよ)」
ゴーヤ「(へええ…………今度、まるゆちゃんも誘ってみんなで一緒に行くでち!)」
提督『そういやしおいとは、もうそれなりの付き合いになるな。いつからだったか……たしか、一昨年のクリスマスくらいから、か?』
しおい『そうだね! あのときはイオナちゃんたちとか――』
提督『しおい』
しおい『わわっ! ――えっと、えっと……』
提督『えー……海外の、特殊部隊の人たちと共闘したんだよな。実験的な兵装とかもたくさん積んであって、得られるものも多かった』
提督『そのときにいただいたぬいぐるみ、まだ鎮守府に飾ってあるんですよ。いつかまた、会えるときが来ればいいですね』
ゴーヤ「(あ、やっぱり秘密なんだ。“霧の艦隊”)」
はっちゃん「(ja。さすがに、異世界の艦隊なんて言い出してはスケールが大きくなってしまいますから)」
イク「(また戻ってきてほしいのね! イオナちゃんがずうっといれば、オリョクルなんて行かなくて済んだのかもしれないのね!)」
はっちゃん「(……逆に、消費資材量を考えれば、むしろオリョクルの機会は増えそうな気がしますが)」
イク「(じゃあいいのね!)」
ゴーヤ「(薄情すぎでち……)」
提督『さ、時間も押していることですし、雑談もほどほどにいたしまして……』
提督『――――なんですか? 有意義な雑談でしたね。非常に有意義でした。むしろ有意義でしかない』
提督『それではこちらのコーナー入っていきまっしょうこちら!』サッ
しおい『フリーのお手紙しょーかーい!』
提督『こちらのコーナーでは、番組視聴者のみなさんからいただいたお便りを紹介させていただいて』
提督『MCであるわたくし提督と、ゲストの艦娘とでお答えしていくコーナーです!』
しおい『ズバッと言っちゃうよ!』
提督『へへ、覚悟してらっしゃい! それではさっそく一つ目のお便りに入りましょう!』
しおい『しおいが読むんだよね? わかった! えっと……“提督さん、おはようございます”』
提督『お、朝に書いたのかな? おはようございます!』
“昨日今日と、二日連続のラジオ配信、お疲れ様です。楽しんで聴かせていただいております”
“提督さんのところには、わたしの娘も含んだ、数多くの子どもたちが健やかに生活していると思いますが……”
“どうでしょうか。なにか、提督さんにご迷惑などをおかけしていないでしょうか?”
“海の上をはしっているとはいえ、まだまだ子ども。とくに、多感な時期にある子どもの相手なんかは大変だと思います”
“わたしの娘も、華よ蝶よと愛情を注いでいたはずが――どういうわけか、気の強い子に育ってしまいまして”
『ふーん、なによ。ただの子育て相談? そんなの司令官個人に宛てればいいじゃない』 『まあまあ、そんなことおっしゃらずに……』
“決してそんな子に育って残念、というわけではありません。むしろ、確固たる自分を持っていると、安心しています”
“あの子は、いつも他人に強く当たってしまいがちですが、決して相手が憎いわけではないのです”
“ただ、自分の感情をうまく表現できないから、強く当たってしまうだけなのです”
『知らないわよそんなの。勝手にしてなさいよ』 『おっ、叢雲はヤケに噛み付くなぁ』
『だってそうでしょ? 感情表現が下手で強く当たっちゃうとか、そんなの子どもじゃないんだから』 『まだまだ子どもだけどね、わたしたち』
“決して、あの子を苦手に思わないように、ほかの子たちに言って聞かせてくれませんか”
“あの子のことを、勘違いしないであげて…………と”
『はっ、勘違いされたら結局そいつが悪いのよ。なんでわたしたちがそんなのを相手にしなくっちゃいけないわけ?』
『だいたいなんなのよこのお便り。こんなの出された子がかわいそ――』
しおい『ていとくー、これなんて読むのー? ――わかった、ありがとう!』
しおい『えっと、以上! ラジオネーム、“あめのむらくも”さんからのお便りだよ!』
『――――』 『あっ、叢雲が逃げたぞ! 追え!』 『ふふっ、待って叢雲ちゃーん!』 『くんなー!!』
提督『えー…………。たしかに一部、気の強い駆逐艦の子がいますね』
しおい『提督ってば、いつも追い掛け回されてるもんねー』
提督『ああ、子どものハッスルに振り回されるのはちょっと身体がもたないが……精神面は、そうでもないですよ』
提督『普段キツく当たってくる子たちも、不甲斐ない俺のことを想って叱咤してくれているんでしょうし』
提督『好きの反対は無関心、とはよく言ったもので。本当になんの感情も持っていない相手には、そんな言葉を吐いてはくれないでしょうし……』
提督『むしろ、言われるたびに嬉しくなっちゃいますね。ああ、この子はこんなにも俺のことを想ってくれているんだ――と』
『うっわ、あのクズ提督、変態だったんだ』 『キモいわね。死ねばいいのにあんなクソ提督』 『かーらーのー!?』 『漣は黙ってなさい!』
しおい『えー! しおいはなんかヤだなぁ、提督が怒られてるの。提督は悪いことなんて一つもやってないのに!』
提督『いやいや、強く言ってくる子たちも、決して俺のことを悪く思って言ってきてるわけじゃないんだ。
ただ、もっと俺に良くなってもらおうと、その子たちなりに激励――応援してくれてるってわけ』
提督『しおいもわかるだろ? いむやとか、ごーやとか……そういうやつらに、こうしたらもっと良くなるのになぁ。って思ったら、すぐ助言するだろ?』
しおい『……あー! そういう感じなんだね!』
提督『そ。そういう感じ。この世界、ひとりがミスすれば……みんなに責任が返ってくる世界だ』
提督『――“だれかのいのち”、という形でな。だから、厳しく言ってくるのは、誰も死なせたくないっていう優しさの裏返しからなんだよ』
『――――ふぐぅっ』 『あっ……叢雲ちゃん、だいじょうぶ?』 『う、うん。ちょっとつまづいただけ……』
『はあ……まじ、勘違いとかありえないんだけど』 『変態のうえに勘違い野郎だなんてね。最悪だわ』
しおい『そうなんだ! じゃあ、霞ちゃんとか曙ちゃんとかは、きっと誰よりも優しいんだろうね!
しおい、ちょっと勘違いしちゃってたかも……ごめんね! 霞ちゃん、曙ちゃん! それと叢雲ちゃんも!!』
提督『…………ああ、そうだろうな!』
『ツンギレ三銃士も、純真ガールの前では無力か……』 『ククク……ツンギレ軍団がやられたか。やつらはデレ勢のなかでも最弱』
『うっさいそこ二人!!』 『その口塞いであげましょうか!?』 『素直じゃないっぴょん』 『ニヤニヤすんなクソ死ねっ!』
提督『なので、“あめのむらくも”さんも、どなたかの親御さんかは存じませんが……ご安心ください。
わたくしどもは決して、その子のこころを見誤ったりはしません。ずっと付き合っていく相手ですから、大切に扱います』
提督『安心して、お子さんのご活躍の報せをお待ちください。誰かを叱咤してくれるような子は、ひと一倍強い子ですから』
しおい『もういいの? ――“あめのむらくも”さん、ありがとっ! また今度、お手紙くださいね!』
提督『しかし、“あめのむらくも”さんかあ……あめ、という言葉は“天”を指す言葉でもあるが――しおいは知ってたか?』
しおい『へー、そうだったんだ! じゃあ、むらくもの意味……はちょっとよくわかんないけど、天使みたいな人ってことかな?』
提督『そうだな。“むらくも”…………おそらく、天から舞い降りた天女のような、そんな子なんだろうな!』
しおい『おぉー! なんかすっごくカッコいいですね!』
叢雲「…………」プルプル
磯波「あ、あの…………叢雲ちゃん、ケガとかないですか?」
叢雲「…………っそ……」
初雪「え? なんだって?」
叢雲「いっそ…………殺しなさい…………」プルプル
――――
――
提督『しかし、あれだけやらかしたってのに、みんなよくお便りを送ってくれるなぁ。俺なんかもう冷や汗でビッチョビチョなのに』
しおい『それはたいへんですね! さっそくいまからどぼーんしましょう!』
提督『それはまた今度な。……さ、どんどんお便り読んでいこう。時間も限られてるしな』
しおい『はーい……えっと、これでいいのかな? ――“提督さん、ゲストの艦娘さん、こんばんは!”』
しおい『こんばんはー! しおいだよ、よろしくね!』
しおい『ラジオネーム、“id= TR-1”さんからのお便りっ』
提督『提督です。“TR-1”さん、こんばんは!』
“艦娘と言えば、いまや国民的にも知られている存在ですね。僕もこの間、観艦式を見に行ったばかりなんです”
“それで、自分とそんなにかわらない歳の女の子が、何百メートルも離れた的めがけて、正確に射撃を放っているのを見て驚きました”
“艦隊演習なんかも見させてもらって、すっごく充実した日でした! ……ですが、近くで見れば見るほど、艦娘という存在がわからなくなってしまいました”
“なんだか違う人種に見えてしまって、艦娘がすごく遠い存在に見えてしまい……護られているのにも関わらず、僕はなんて失礼な人間なんだと思いました”
“僕は普段、艦娘の艤装を作っている企業に勤めています。そんな僕が、艦娘という存在を、淡く、ぼかしたように見てしまってはいけません”
“もし良ければ、艦娘のかたがたが普段、どういった生活を営んでいるのか――普段、なにをしているのかを教えていただけないでしょうか?”
提督『お、企業勤めのかたですか。お疲れ様です』
提督『艦娘の艤装作り、といえばもちろんあそこだけど――あんまり詮索するのはよしておきましょう』
提督『つい最近の観艦式といえば、関西地区の鎮守府ですかね。
あそこの艦娘はみんな、非常に練度も高く、また統率も出来ていて……うちの鎮守府としましても、見習うところがたくさんあります』
提督『艦娘を遠く感じる、というのはよく聞く話ですね。あくまで、適性のある子が艤装の力を得ているだけで、中身は普通の女の子と変わりませんが――』
提督『はたから見る分にはわからないものです。同じ姿かたちで、どうしてこうも違うのか…………とね』
提督『僕もときどき、その姿を見失うことがあります。見失うとは言っても、人間として――ではなく、“女の子”としてなんですけどね、あはは』
提督『艦娘の日常……それは僕も興味がありますね。艦娘たちがどのようにコンディションを整えているのか――』
提督『艦隊の総司令官である僕の前ではそんな姿、みんな見せてくれませんから。普段、秘書艦を務めている子も、あまり生活感を見せませんし……』
提督『今回の質問、僕は管轄外ということでっ』
提督『しおい先生、ここはひとつバシッと言ってやってくださいっ!』
しおい『ぅえっ!? し、しおいの!? う、うーん……ふつう、かなぁ……?』
提督『おいおい、しおいにとっては普通でも、俺や視聴者さんにとっては普通じゃないんだよ。どんな細かいことでもいいから、お答えしてやれ』
提督『たとえば、この間どこどこへ遊びに行ったとか、どういう遊びをしたとか……。
そう、年末年始はいつもと違って時間が多いじゃんか? オリョクル以外でやってることとか。なんかないか?』
提督『日課になってることでもいいし』
しおい『あ、日課だったら――――』
提督『海に潜ってる、っていうのはナシな』
しおい『…………むむむーっ!!』
しおい『――――ぅあっ、そうそう! 普段って言っていいのかわからないけど……一週間に何回かかな?』
しおい『金剛さんとか榛名さんとか、ビスマルクさんたちがしおいくらいの子をたっくさん集めて、お勉強会みたいなのを開いてくれてる!』
しおい『しおいもときどき混ざってるんだけどね! 駆逐艦の子たちとか、一部の軽巡の子たちとかが集まってるんだー!』
提督『――へえ、それは初耳だな。いったいなんの勉強してるんだ?』
しおい『えっとね、正しい日本語の使い方とか、外国語とか! あと数学も!』
提督『…………思いのほかマジメで驚いた。え、なに? 敬語とか、英語とか教えてもらってるってこと?』
しおい『うん! レーベちゃんとかマックスちゃんも来てて、ときどきドイツ語も教えてくれるんだよ!』
しおい『金剛さんったらすごいんだよー、もうなに言ってるのか全っ然わからなくって!』
提督『……それは教えてる意味があるのか?』
しおい『晴嵐さんと二人でお勉強してるんだよ。晴嵐さんも、勉強になるってすっごい頑張ってるんです!』
提督『え、晴嵐? 晴嵐って喋んの?』
しおい『晴嵐さんたちは友達だもーん。もちろん喋ることもあるよ!』
提督『そうだったのか…………』
しおい『いくちゃんとかも、必死で辞書にライン引いてるよ! どこに引いてるのかは教えてくれないんだけどね』
提督『なるほど』
『つぎからは英語の担当を替えることにしましょう』 『WTF!! I'll,I'll do it right this time...sry,sorry...』
『少しは黙っていろ。ここはこのイングリッシュペラペーラなビッグセブーンが……』 『姉さんは座ってなさいね~』
提督『ふうん、艦娘のみんなも勉強なんてするんだな。――いや、知ってることには知ってたんだが』
提督『まさか海外の言葉も勉強中とは驚いた。こんな時代だしな、海外旅行なんて行けやしないし……』
しおい『いつか、たくさんの国の子たちと喋ることになるかもしれないからって言ってたよ!』
提督『それもそうか。どうだしおい、ついていけてるか?』
しおい『しおいはばっちしです! もともとしおいはね、故郷にいたころは色んなお勉強を教えてもらってたから!』
しおい『近所のお兄ちゃんとおじちゃんがね、いろいろ教えてくれてたんだ~』
提督『へえ……ま、考えてみればそれもそうか。いまは艦娘になったとはいえ、昔は一般の子どもだったんだもんな』
提督『たとえばじゃあ、どんなことを教えてもらってたんだ? 昔って言ったら相当小さなころだろ?』
しおい『えっとねー、たしか英語だったと思うんだけど――――』
しおい『“ファッキンコールドちんちんミニマイズ”って』
提督『ちょっと放送止めて』
しおい「ぅ?」
明石「ははははははい! オオッケーですうううう!!」
提督「ありがとうございます。――――しおい。え、ファック……なにっ? いまなんて言った?」
しおい「“ファッキンコールドちんち――」
提督「わかった! わかったありがとうしおい、頑張ったな!」ギュッ
しおい「んむっ。…………なんですか?」
提督「い、いや…………」
明石「しおいちゃん、ちなみにその言葉、なんて意味の言葉なのか教えてくれない?」
提督「そ、そうだな。あんまり聞かない言葉なもんだから、ちょっと驚いた。悪いなしおい、びっくりさせて」
しおい「あ、そうだったんですか。気にしないで! えっと、たしか寒すぎてなにかが萎んじゃった、みたいなことわざだったような……」
明石「――――“ナニ”が?」
しおい「なんだっけ……ええっと…………。……ごめんなさい、忘れちゃった」シュン
提督「…………そうか! 忘れちゃったならしょうがないな!」ナデナデ
明石「はいっ、しょうがないですよ、しおいちゃん!」ナデリ
しおい「んぅ……?」
提督「(ちょっと待ってください。しおいってそんなに進んでる子だったんですか?)」
明石「(そんなのわかりませんよ! 艦娘になる前のデータは大淀さんの手元に、大切に保管されてるんですから!)」
提督「(え……じゃあ、しおいが昔すっごい遊んでる子で、いまこうやって、わざと天然ぶってるってことも……)」
明石「(しおいちゃんがカマトトぶってるわけないでしょう! それに、昔って言ったらしおいちゃんも小学生くらいですよ!?)」
明石「(たぶん、純真なしおいちゃんに対して下劣なたくらみを持った男が、そこにつけ込もうとしたんでしょう!)」
明石「(なんという卑劣さ――いえ、狡猾さ! まさに変態さんですねっっ)」
提督「(どんだけキレてんだこのひと…………)」
明石「しおいちゃん。とりあえず、そのファッキンなんとかっていうのは、人には言わないようにしましょうね」
明石「えっと、えー……――宗教的な言葉だから、あんまり人に聞かれちゃまずいお言葉なの。ね、提督?」
提督「――ああ、そうだ。言うなら金剛相手にだけ、な?」
しおい「はい、わかりましたっ!」
提督『えー、みなさん。度重なるジングルの濫用、心よりお詫び申し上げます』
提督『ただいまこちらの方で時程の調整がございまして、先ほど完了した次第です。
あきつ丸風に言うと、先ほど完了した次第であります。――さ、どこまでやったんだっけな』
しおい『んーっと、金剛さんたちとのお勉強会!』
提督『それだ! えーっと…………』ガサガサ
提督『あった。――“TR-1”さん! このように、艦娘のみんなも、一般の子たちと変わらない生活を営んでいるんです!』
提督『学校に通う、女子学生と同じく――難解な数式に頭を悩ませたり。筆者の思惑を読み取ろうとしたり』
提督『互いにわからないところを教え合ったり! ……そういう意味で言えば、僕は校長先生ですか? あはは』
提督『なので、“TR-1”さんも決して見誤らないで下さい、艦娘という少女たちを。
――そちらとこちら、互いに協力しあってこの戦乱、乗り越えていきましょう!』サッ
しおい『手と手を取り合うこと、大切たいせつ、だよ!』
しおい『“TR-1”さん、ありがとうございました! ――普段やってることかぁ、全然気にしたことなかったなぁ』
提督『日常はあくまで“日常”だからな。意識して思い返そうとするとなかなか難しいもんだ』
提督『だけど、常日頃から考えて行動して、意識に深く刻まれるような思い出を築いていきたいもんだな!』
しおい『たしかに! ――――ねね、提督は普段どういう過ごし方してるんですか?』
提督『オレェ? 俺はそうだな…………あれ、何してるんだっけな』
しおい『ふふー、提督だって忘れちゃってるじゃないですか!』
提督『はは、悪い悪い。自分で言っておきながらとはな…………それじゃ、次のお便り読んでいこうか』
しおい『えっと、じゃあ次のお手紙――あれ、こんなにたくさん……』ガサガサ
提督『本当だな。ありがたいことだ……それじゃしおい、その中から一つ、好きなものを手に取るといい』
しおい『うーんと、うーんっと……――それじゃこれっ!』
しおい『えと……“id= I-OBQ”さんからのお手紙です!』
しおい『“わたしの提督さん おひさしぶりです”』
提督『わ、わたしの? ――“I-OBQ”さん、お久しぶりです! 昔会ったことある人かな?』
提督『はは、なんか“OBQ”って、おばけみたいでかわいいお名前ですね!』
しおい『ね、提督! この“id”っていうのはなんなのかな? さっきの人にもついてたんですけど』
提督『ああ、これはな……ラジオネームを添付されなかったお手紙やメール――つまりは匿名ってことだな』
提督『そういうのは、ハガキや受信先のIDでお呼びすることになっているんだ。
あ、ちなみに、この“id”は暗号化されたものですので、個人情報が詰まっている……というわけではないので、ご安心ください』
提督『あ、失礼。ご安心くださいであります、ぽつーん!』
しおい『ぽっつーん!』
『あきつ丸ちゃん、提督にやったらイジられるのね』 『光栄であります!』 『ぽつーん』
“おひさしぶりです 提督さん 提督さんのご活躍 遠く離れたこの地でも 聞き及んでおります”
“そちらに勤めている艦娘のみなさまが羨ましえです 艦娘のことを想え艦娘のために行動する”
“雰囲気の良え職場だと こちらでも非常にうわさになっております”
“今度 そちらにお邪魔させて――ただこうかと存じます 快く迎えて ただけると幸えでございます”
しおい『なにこのハガキー! すっごく読みにくいんだよぉ!』
提督『こら! そういうのは視聴者の前では言うな! たとえどんなに字が汚くても、あちらの言葉を汲み取るんだ!』
しおい『でも見てよ提督これぇ! ぜんぜん読めないんだよ!』
提督『おいおい、んなこと言ったって――――わっ、すっげぇ滲んでるじゃんか!』
しおい『だよね!? もうしおいじゃ読めませんよー……提督、おねがいします~……』
提督『おいおい…………まあでも、たまにいるんですよ。ハガキを書いてる最中にお水なんかこぼしちゃった人とか』
提督『――じゃあ、このお葉書、ここからは僕が読み上げさせていただきますね』
提督『“I-OBQ”さんもご容赦ください』
提督『えーっと……? なんて読むんだろうか…………』
“提督さんと仲良くなるためにも 提督さんのことは今のうちによく知っておきた――です”
“提督さんは もし あだ名で呼ばれるとしたら なんて呼ばれたですか? ぜひともお聞かせくださぃ”
提督『んー、これは…………俺が、艦娘のみんなにどう呼ばれたいか、ってことかな?』
しおい『提督が? ――うーん、たしかに提督が提督以外で呼ばれてるの聞いたことないかも、です!』
しおい『いっつも司令官とか、提督とか…………そんなのばっかりだよね!』
提督『まあ、腐っても鎮守府の最高司令官だからなあ。そんなやすやすとあだ名で呼ばれちゃ士気に関わるっつーか指揮に関わるっつーか』
提督『うーんそうだなぁ……あだ名、か。こういうのを自分で考えるのってなんか恥ずかしいよなぁ』
しおい『提督が呼ばれたいっていうなら、しおいもそれで呼んじゃうよ!』
提督『はは、ありがとう。――――うーん、でもなぁ…………そう言われても、とっさに出てこないっていうか』
しおい『あ、それじゃ提督! むかし呼ばれてたあだ名とか、なにかないんですか? 学校に通ってたときのものとか!』
提督『昔のあだ名、か……うーん、そんなに交友関係が広いわけでもなかったからなぁ。
一部はいまでも付き合いがあるけど、“提督”としか呼んでくれない関係だし、こっちも気軽に名前で呼べない間柄だしなぁ……』
提督『榛ちゃんとか霧ちゃんとかは、むかしはよく名前で――――』
しおい『…………はるちゃん? きりちゃん?』
提督『あ、ごめん。榛名と霧島のことな? うーん、そうだな…………』
『――はるちゃん、きりちゃん?』 『き、霧島? 紅茶が切れてしまったので、榛名は酒保へ……』 『あ、待ちなさい榛名! わたしを置いていかないで下さい!』
『日向っ、霧島ちゃんつかまえて! わたしは榛名ちゃんをおさえるから!』 『まあ、ガッテンだな』
提督『うーん、そうだな。“親しみを込めて呼んでくれるなら何でもいい”ってことにしとこうかな』
しおい『えー、なんか普通! もっと面白いのがよかったです!』
提督『無茶言うなよ……まあ、たとえばだけど。司令官は司令官でも、イントネーションの違いってあるじゃんか』
しおい『いんとねいしょん?』
提督『電が言う“司令官さん”、いむやが呼ぶ“司令官”、時津風が叫ぶ“しれぇ”――』
提督『同じ“司令官”でも、イントネーションの違いによって親しみが出ると思うんだ』
提督『電がいきなり、凛々しい表情で“司令官、ご命令をどうぞ、なのです”とか言ったら驚くだろ?
あれ、俺なんか怒らせるようなことしちゃったのかな、って。その日一日そわそわしちゃうと思うんだ』
しおい『あっ、たしかに! みんな怒ってるときとかは喋り方がカタくなるもんね!』
提督『そうそう、話し方にさ、その……雰囲気が出るじゃんか?』
提督『たとえばしおいがさ、いきなり鈴谷みたいに――――』
提督『“チーッス! 提督さぁ、しおいのマシェリ知らない? マジさぁ、ピンクのマシェリがさぁ~まじハンパないってゆーかぁ”』
しおい『あっはははははははっ!! 似てる似てるっ!!』
提督『だろ? 俺、鈴谷のモノマネ超うまいんだよ』
『すずやそんなバカっぽくないし! そんなこと言ったことないしぃ!!』 『でもいつもマシェリなんでしょう?』 『そうだけどぉ!!』
提督『そういう意味で、“親しみを込めて”呼んでくれるならなんでもいいぞ。
さすがにクズ提督とかクソ提督とかはさ、人の目もあるから場所を選んでほしいが……』
提督『そういや昔、一人だけ“提督”のことを省略して“てっちゃん”って呼んでくるやつがいたなあ。…………もう、ずいぶん前の話になるけどな』
しおい『おお、てっちゃんかわいい! いいと思います!』
提督『マジ? あいつセンス狂ってたんじゃなかったのか――ってことで。
“I-OBQ”さん、親しみを込めていただけるなら、“てっちゃん”でもなんでもいいぞ!』
提督『見たところ、つぎに配属される子だったり、ほかの鎮守府からいらっしゃるお客さんってところかな?』
提督『当鎮守府におこしいただいた際には、ぜひ賓客として迎えさせていただきますので。いつでもお待ちしております!』
しおい『うち来たら一緒に遊ぼうね! いい潜りスポットとか、いい景色のとことか教えてあげるから!』
しおい『潜水艦の友達みんなで鎮守府、案内してあげます!』
「待ってるでち!」 「新しいお友達だったら嬉しいのね」 「はっちゃんも楽しみにしています」
提督『――みんな楽しみに待っているようで。見える日を心待ちにしています』
しおい『“I-OBQ”ちゃん、ありがとう! でもでも、おばけだったらごーやちゃんが泣いちゃうかもね?』
提督『はは、たしかに。うちの潜水艦は深く潜るわりには怖いものが苦手だよなぁ』
「くらいところを知っているからこそ、よくわからない存在なんでち!」 「海の深さよりもくらいところから出てくる存在なら――本当に恐ろしいのね」
提督『ん。――後ろからきゃいきゃい騒いでくる声、みなさんも聞こえていると思います。
また今度の機会、ごーやがこのラジオのゲストとして招待されたとき。その海の深さを存分に語っていただきましょう』
提督『潜水艦娘にしか知りえない、海の神秘――僕も楽しみです。しおいはもう時間ないからこのまま押しちゃうけどね』
しおい『ざんねん。どうせだったら暗視カメラでも着けて潜っちゃおっか?』
しおい『いつも行ってるところでいいなら、だけどね!』
提督『――え、それいいなマジで。艦娘視点での行動の記録や戦闘記録。すっげえ貴重なもんだと思う』
提督『じゃけぇ、大淀さんに頼んで申請出してもらいましょうね~』
しおい『ばっちり任せてっ』
提督『それじゃ、次がフリートーク最後のお便りかな。しおい頼む』
しおい『はーい! …………それじゃ――これっ!!』
“提督どの、こんばんは。ご無沙汰しております”
“今宵は提督さんの御助言を賜りたく、こうしてお手紙にしたためた次第であります”
“単刀直入に申し上げますと、第二次サーモン海戦――サーモン海域北方の攻略がままなりません”
“こちらの鎮守府が持つ、最強最大の戦力――大鑑巨砲主義を基本とした、大型艦を投入してさえも、突破なりません”
“第二次サーモン海戦をもっとも数多く制しているのは、提督どのもご存じ、元帥どのでありますが――”
“次点で制しているのは、叔父元帥どのが直接指導なさった、提督どの。あなたでありますので。
よければ、提督どのからの自由な観点で、なにかご指導いただければ、と”
しおい『――ラジオネーム“id= DT”だって。なんか……提督の頑張りが、ぜーんぶ叔父元帥さんのものになってる気がして気に食わない』
しおい『提督がすごいのは、提督のちから! 元帥さんの指導は、あくまでキッカケなんだから!』
提督『こら、しおい。滅多なことを言うんじゃない』
提督『しおいがそう言ってくれるのはありがたいが、やっぱりこの歳で戦功を積み立てられたのは、あの元帥どののご尽力のおかげだ』
提督『俺の大きな戦功の大半は、たしかに叔父元帥どのの副官として務めていたころのものだからな。
ここの鎮守府を任されるようになってからは、さほど大きな武勲は挙げられていないし』
しおい『でも…………』
提督『――ん。そう言ってくれるだけでありがたいよ』ナデリ
しおい『んぅぅ……~~っ』
提督『――さて、サーモン海域北方――と言いますと、おそらく5-5エリアのことかと思います』
しおい「(5-5エリア、って?)」
明石「(交戦範囲に指定される海域は非常に多いですから。ひとつひとつ名前で呼んだら混濁する可能性がありますので――)」
明石「(便宜上、番号を割り振って呼ぶことにしているんです。たとえばそうですね……)」
明石「(それぞれの鎮守府からの、最寄りの海域は第一海域。
その中で、近くから遠く――強力な深海棲艦の出現率がより高い場所ですね――に、1から4まで番号をふるんです)」
しおい「(うーん、じゃあ鎮守府の近くで、はじめて空母ヲ級が出てきたところ……は、1-4ってこと?)」
明石「(お、さすがしおいちゃん! その通りです。この1-4っていうのは、南西諸島防衛線のことを指すんですけどね)」
明石「(南西諸島、というと第二海域のことをも指しますから、ちょっとややこしくなっちゃうので数字で……ってことです)」
しおい「(なるほど! それならたしかにわかりやすいかも! わたしたちだと、潜ってるからどこからどこまでだか、わかりにくいときもあるし……)」
提督『――さて、“DT”さんは大艦巨砲主義、ということですから。おそらく大型戦艦四隻、大型空母二隻で挑まれているのではと思います』
提督『その大艦巨砲主義編成――すみません、言いにくいので、大鑑編成で。
大艦編成ですと、脆く狙われやすい航空母艦の艦娘を減らすことで、敵の機動部隊に接触するまでの被撃率を下げられる、というのと――』
提督『敵の機動部隊との交戦。夜戦にまでもつれ込んだときの、殴り合いがメインとされているでしょう。ですが――』
提督『立ちはだかる壁、戦艦レ級。――――ですよね?』
提督『彼女の正体はいまだ解明されていませんが、鋭利な雷撃、豊富な艦載機、強烈な砲撃――どれを取っても超一級品です』
提督『正直、我々の現在の技術では、彼女とまともに戦うことはおそらく不可能でしょう。
何度もなんども繰り返し叩いて、艦隊総員で執拗に狙う――そうでもしないと、おそらく倒せない敵』
『……ふん、次に相見えるときは、この武蔵が引導を渡してやる。――二度と現れぬようにな』 『ぜひ、大和にも噛ませてくださいね』
提督『奇妙なことに、彼女はどんな海戦にも現れず、かの海域に鎮座していますが――まあ、これは置いておきましょう』
提督『“DT”さんの大艦編成ですと、そのレ級と正面切ってぶつかることとなります。
もちろん、進化した“弾着観測射撃”によって、その他の敵の脅威は薄まりましたが――――』
提督『どうでしょう。ここはひとつ、視点を変えてみてはいかがでしょうか?』
提督『レ級は脅威、確かにその通りです。ですが彼女はかの海域から出てこない――。
となれば、レ級を上手にかわすこと。これが勝利のカギではないかと思われます』
提督『敵の本隊をつぶせば、レ級もどこかへ消える――。ならば、レ級はこの際相手にせず、敵の本隊を優先的に叩きたいところです』
しおい「(どうしよう。すっごく真面目な雰囲気…………)」
明石「(提督はあれで考え込むタイプですから。一度語り出したら止まりませんし、あんまり熱中していたらこちらから止めてあげましょうね」
提督『一度視点を変えてみて、大型艦を減らしてみてはいかがですか? 大型戦艦二隻、高速の戦艦を一隻』
提督『それと――潜水艦、三隻』
提督『こちらの編成で挑まれますと、制空権を明け渡すことになります――。
したがって、弾着観測射撃は不可能となります。戦線が一時的に麻痺する、夜戦を頼みに挑む編成ですね』
提督『砲撃戦では役に立たない潜水艦を、なぜ入れるのかと言うと……“DT”さんも、すでにお気づきではないでしょうか?』
提督『深海棲艦の性(さが)。習性――“潜水艦を攻撃できる艦種は、すべて潜水艦を狙う”ということに』
提督『おそらく彼らは、許せないのかもしれませんね。自分たちが棲む海の深くに、突入してくる潜水艦が』
『……勝手でち。もともと海は、ごーやたちのものだったのに』 『おいたには、おしおきが必要――ですね』
提督『戦艦レ級は、区分上は“航空戦艦”です。もちろん、規格違いの能力や、雷巡のような飽和雷撃も行いますが――潜水艦に、攻撃できる者です』
提督『もちろんこの手は、信頼できる潜水艦と、練度の高い戦艦の艦娘でなければ実行不可能です。
この海域自体、生半可な艦娘では到達できない地域ではありますが――――』
提督『この戦法は、鍛錬を極めた艦娘にのみ実行が可能な戦い方です。
もし、未熟なものを連れていけば――レ級の餌食となって、暗き海の底へと沈んでいくこととなりましょう』
提督『艤装に、直撃を一度までなら耐えられる“大破ガード”という装甲がついていても。
もしかすると、レ級の猛攻に艤装が耐えられず、その装甲が貫かれ、一撃で沈むことになるかもしれない』
提督『そういった信頼できる艦娘がいるなら――、一考の価値がある戦法なのはないでしょうか』
提督『事実、前回の5-5海域を担当した僕は、その編成で海域を突破しましたしね』
しおい『え、そうだったの!? はっちゃん、知ってた?』
「Nein. はっちゃんにはお呼びがかかりませんでした……まだまだ、ということなのでしょう」
提督『そうだな。指名したのは伊168、伊58、伊19の三人――潜水艦組のなかでも、とくに古い三人たちだ』
「あのときは、本当に死ぬかと思ったのね」 「二度とあんな海域には潜りたくないでち」
提督『僕は指揮艦艇に乗り込んで、一部始終を見ていましたが……。
レ級が放つ大量の追跡魚雷をひきつけ、ドッグファイトを行う潜水艦娘どもの姿は、さすがに“クる”ものがありました』
提督『――ああ、うちの潜水艦娘は、なんて頼もしいのかと。なんという素晴らしい仲間に支えられて、ここまで来れたのかと』
提督『潜水艦娘の尽力もあり、レ級の勢力圏を一時的に抜けることが可能になりましたから。……いやはや、いまでも鮮明に思い出せます』
「な、なんかちょっと照れるでち。やめるでち!」 「最近は褒め殺しに以降したの!? やめろなの!! いろいろむずむずするの!!」
提督『ただ、気候や天候、現れる深海棲艦の種類によって異なるので。一概にこれが最適解、とは言えません』
提督『“DT”さんも、艦娘を死なせない程度に試行錯誤して挑まれるとよいでしょう。僕がこんなことを言っていいのかわかりませんがね……』
しおい『…………えっと、提督? ちょっと質問していーい?』
提督『ん、なんだ?』
しおい『えと……提督はいつも、一か月に一回? だけ行ったりするじゃないですか。その、5-5もそうだし』
提督『ああ、EO(エクストラ・オペレーション)海域のことな』
しおい『そうそう! そのEO海域、なんで一か月に一回だけなの? それに出てくる敵も、みーんな強い敵ばっかりだし……』
しおい『そんなに強い敵がいるなら、一か月に一回じゃ足りないんじゃないかなって思うんですけど』
提督『んー。そこは俺もよくわかっていないんだけどな。なんでも――』
提督『月に一回、その海域には“特殊”な深海棲艦が現れるんだ。補給艦なんだけどな?
その、“普通とは違う補給艦”には、深海棲艦の情報がたくさんつまっているんだ。中の輸送物資なんかはそうだし、まず機構がほかの補給艦とは違う』
しおい『ちがう補給艦?』
提督『そう。それで、強力な深海棲艦は、その補給艦を護衛するために現れるんだ。レ級に関してはよくわかないが……』
提督『それで、その補給艦の撃破、残骸回収や……可能であれば鹵獲、が鎮守府の最優先目標なんだ。
鹵獲出来るに越したことはないが、護衛艦隊が強すぎて撃破だけ、というのが現実的な目標になってるんだけどな』
提督『その補給艦は深海棲艦にとっても重要な存在らしくてな。激しい抵抗に遭うのはしおいも知ってる通りだと思うが』
提督『その補給艦を一隻落とすごとに、大本営の方から“戦功の証明”として“勲章”が授与されるんだ。
この勲章がたくさんあればあるほど、地位の証明になるから。多少の無茶な艤装改装だって、企業に依頼することも出来るようになるんだぞ』
しおい『へえ! ……えーっと。それじゃ、ビスマルクさんとかの改装もそれなの?』
提督『そうだな。この状況のなか、改装を海外企業に依頼するのは至難の業でな……勲章がたくさんないと、大型護衛艦隊を組めないんだ』
しおい『おぉぉ~……よくわかりませんけど、提督って実はすっごくすごい人だったんですね!』
提督『そうだぞ? だからみんな、クソクソ言わないようにしろよ』
『うっざ! なんでことあるごとにこっち言ってくんのよ!』 『ちっさい男なんだから! そんなんじゃみんなついていかないわよ!』
『でも二人は~?』 『うるっさいホント黙ってなさいっ!!』
提督『さっ、フリーのお便り紹介のコーナーはここまで! 一度、ちょっとしたコマーシャルとなります!』
しおい『みんなここまで聴いてくれてありがとう! 後半もよろしくねっ!』
提督『それじゃコマーシャル入ります。――――きゅーそくせんこー!』
しおい『どっぼーん!!』
――ちゃらら~ ぐんぞう~
明石「はい、ジングルからCM入ります。――ふぅ、なんとか立ち行きそうですね」
提督「いやもうホント、助かりました。……しかしけっこう、自分に対するお葉書も来てるんですね」ペラペラ
ゴーヤ「ごーやたちも後ろでこっそり読んでたけど、提督向けのお葉書も多いでち!」
はっちゃん「若いお方ですから、みんな気にされているのでしょうね」
イク「何枚か、だれかの親から届いてたハガキとかもあったの! さすがにそれは見なかったけど…………」
提督「お、偉いぞ。お前らもようやくそういうのがわかってきたか」
明石「……えと、実はそこにあるお葉書が全部じゃなくって、ですね…………こちら、なんかもっ」ドサッ
提督「」ダンボール
しおい「うっわぁ、すごいたっくさんあるね! これ全部、このラジオ宛ての!?」
イク「うわぁ……ギッシリなのね…………」
ゴーヤ「なんかもう…………いっぱいでち…………」
はっちゃん「このなかから、少ししか紹介されないのですか……すこし、気の毒な感じもしますね」
明石「まあ、仕方ないことですけどね。――コーナーでも増やせば、また話は変わるかもしれませんけど」
提督「たしかにコーナーが二つしかないっていうのも、あんまりラジオっぽくないですもんねぇ……。
かといっていいコーナーがすぐに思い浮かぶわけでもないですし。困ったものです」
明石「まあ、そのへんはおいおい考えていくことにしましょう。……コーナーを増やせるほど、視聴者が多いとも限りませんしね」
イク「え? でも、このお葉書とか…………」
はっちゃん「ぜんぶ同一人物が出しているかもしれませんよ」
ゴーヤ「ひぃっ!」
――――
――
伊勢「――――さて。はるちゃん、きりちゃん。なにか言いたいことはあるかな?」
榛名「…………」セイザ
霧島「…………」セイザ
日向「まあ、そう黙るな」
扶桑「金剛さんは、あちらには参加されないんですか……?」
金剛「イエース。わたしとヒエーはもう知ってるデース」
比叡「まあ、さすがにもう慣れましたからね」
山城「…………あなたたちも大変だったのね。もっとお気楽なものだと思っていました」
金剛「あのテートクの周りでお気楽だったことがないネー。ある種の緊張感が常にあったデース」
長門「なんだ陸奥、わたしでは英語教師に足らないとでも言いたいのか?」
陸奥「いや、そういうわけじゃないんだけど……。姉さん、英語喋れたっけ?」
長門「当たり前だろう! ビッグセブンともなると、そういった教養も求められるものだ」
長門「お前もそのままではいかんぞ。ビッグセブンでいたいなら、常に自己研鑚の日々に明け暮れることだ!」
陸奥「いや、それはいいんだけど…………」
長門「なんせわたしは、あの金剛が直々に教えをつけてくれたからな。もうネイティヴといっても過言ではないだろう」
陸奥「あら、そうなの? ちょっと一回、英語で自己紹介してくれない?」
長門「任せろ! 聞いて驚くなよ!」
長門「ハロー! マイネームイズ、ナガート!」
陸奥「ふんふん」
長門「アイアムビッグセブーン!」
陸奥「あーうん」
長門「オウ! ファックユーアーハン!?」
陸奥「…………」
長門「あいるふぁっくゆーあっぷ!」
陸奥「わかった、わかったからもうやめて。悲しくなる…………」
長門「な、なんだ? いつになく悲しそうな顔をしてるではないか」
陸奥「わかったから。もう姉さんは、あの脳内フレンチクルーラーの言うことは真に受けちゃだめ。ぜったいだめ」
長門「う、うむ?」
陸奥「普段はしっかりした人なのに、どうしてかしら……仲間への信頼から、無条件に信じてしまうのかしら……」
イムヤ「ふわあ~……ぁ。んんんーっ…………」ノビー
イムヤ「――――はぁ、つっかれた。さすがにこれだけの広さとなると一苦労ね…………」
イムヤ「(しおいは燃料をひっくり返したって言ったけど、べつにそこまででもなかったわね。入口からプールまで点々と零れてただけじゃないの)」
イムヤ「(…………それにしても、変なにおいね。燃料の匂いと言われれば確かにそうなんだけど)」
イムヤ「(なんか、あんまり嗅ぎ慣れない香りというか。……不思議と鼻持ちならないというか。べつにそんな、くっさいわけじゃないのに)」
イムヤ「とにもかくにも、プールの掃除終了っと! さ、わたしも着替えて部屋に戻らなくっちゃ――――ふわぁ~……」
イムヤ「ん、んんっ…………」ノビー
イムヤ「(――それにしたって、まさか司令官があんなふうに思っていてくれただなんて。
オリョクルもそうだし、対レ級戦。わたしたちのこと、ちゃんと見てくれてたんだ……)」
イムヤ「(ああして日の目を浴びること、あんまりないからちょっと嬉しい。見てくれてる人がいるって、あんなに気持ちいいことなんだ)」
イムヤ「(いくがああやって、気を惹こうとするのもわかるなぁ……)」
イムヤ「…………ん。あ、あれ」
イムヤ「(またちょっとキツくなってきた、かな。まだ成長期なのかな? ふふ、司令官はおっきな女の子が好きみたいだから――)」
イムヤ「――ふぅ。いくら機能美に溢れる水着とはいっても、やっぱりこっちの私服の方が暖かいわねぇ。さ、帰り――――」ヌチャ
イムヤ「――――ひやああああっ!?」
イムヤ「な、なんだ燃料か……――燃料? なんで脱衣所に?」
イムヤ「しおいがこぼしたのって、プールの中だけじゃなかったんだ。もお、また掃除しなくっちゃ…………」
イムヤ「(もう私服に着替えちゃったし、このままでいいや。汚さないように気をつけなくっちゃ)」
イムヤ「(――もうっ、頑固な汚れねぇ! 燃料って、こんなに、ふき取りにくいっ、ものだったかなぁ!)」ゴシゴシ
イムヤ「(それに、よーく見るとすっごい落ちてるし! もうしおいったら、おっちょこちょいなんだから!)」
イムヤ「(もぉ、脱衣所のドアにまで……どうやったらこんなところにつくの、よっ!)」ゴシゴシ
ガチャ
イムヤ「――――はぁぁ~」
イムヤ「(扉を開けたら、廊下にも点々と…………)」
イムヤ「(もうしおいったら。足裏に汚れをつけたまんま、裸足で戻っていったでしょう!)」
イムヤ「(あの子ったら、ホントにおっちょこちょいなんだから……――――ん?)」
イムヤ「(あれ…………わたし、ここに来るまで、こんな汚れ見かけたっけ…………?)」
イムヤ「(たまたま気づかなかっただけ? ――にしては、ずいぶん先まで汚れてる)」
イムヤ「(こんなにたくさんの汚れ、ここに来るまでずっと見落とすって……ありえる?)」
イムヤ「(……ま、いいや。とりあえずこのモップとバケツ持って、拭きながら帰りましょう)」
イムヤ「(あとでしおいにもキッチリ言っとかなくっちゃ。あの子、こういううっかりしたところ直せば、もっといい子になるのに)」
イムヤ「(掃除が終わったら、ちゃんとしおいに伝えてあげなくっちゃ。放送終わって、ここ来たら無駄足だなんてかわいそうだしね)」
イムヤ「さ、もうちょっと頑張りましょうか。――――うぅっ、今日は妙に冷えるわね……」
提督『さ、時刻はフタヒトマルマルを回りました。時計の針が150°を指したころ』
提督『小さな駆逐艦の子たちはそろそろおねむでしょうか? まだまだ一人前のレディにはほど遠い。しっかり眠って早くビッグ・レディになってくださいね』
提督『ここからは大人の時間。ムーディタイムです。――ですが、まだまだ小さな子どもたちも聴いていますので、節度を保った盛り上がりをしましょうね』
提督『さ、フリーのお便り紹介はとうに終わりました。お次はこちらです!』
しおい『“きいてよていとく”のコーナー! 略してK・Tー!!』
提督『はい、ということでこちら、“略してKT”のお時間です。
迷える子羊を、僕とゲストの艦娘が思い思いの手管手腕で捌いていきますこのコーナー』
提督『さっそく一頭めのお悩みを解決していきましょう! しおい先生、お願いします!』
しおい『はいっ、それではラジオネーム、“伊! 401!”さんからのお便りでーす!』
提督『んっ!?』
“晴嵐さんを見つめて離さない航空戦艦の人がいます。どうすればいいですか”
しおい『――――だ、そうです!』
提督『うおお…………いきなりぶっ込んでくるね、きみ』
しおい『えへへ……でも、晴嵐さんが困ってるの! まるで野獣みたいな眼光だって言ってて怖がってるんです!』
提督『そうか、それなら解決せざるをえないな。――ええっと、晴嵐を見つめてくる航空戦艦?』
提督『すげぇな、オブラートがまったく役に立っていない…………えー、日向さん。やめましょう』
『なんでそうなるんだ?』 『あなた、アレでバレないとでも思っていたの……』
提督『妖精さんのコンディションは戦闘にも直接影響します! なので、即刻やめるようお願いしますよ!』
しおい『晴嵐さんも悩んでるんだからっ。瑞雲ちゃんとは仲良くなってるみたいだけど、その主が怖いって!』
『まあ、そうなるか…………』 『そうなるわよ』
しおい『――でも、晴嵐さんに乱暴しないって約束してくれるなら、晴嵐さんを貸してあげてもいいよ!』
しおい『晴嵐ちゃんも、いろんな人のところで戦った方が楽しいと思うし!』
提督『…………だ、そうだ。感謝しろよ、日向』
『おいおい! 悪くはない……悪い気持ちではないぞ! 意味もある!』 『ちょ、急に元気にならないでよ』
提督『しおい、良かったのか?』
しおい『うん! 晴嵐さんも、しおいのとこばっかりじゃつまんないだろうし!』
しおい『それにしおいもね、瑞雲ちゃんと遊んでみたかったし!』
提督「そうか…………しおいはいい子だなぁ』
しおい『ん~…………』
『なんかあの子、やたら撫でられてない?』 『ずるいです』 『ずるいですね』
『はーいキリハルはこっちねー』 『切って貼るみたいな名前だな』
提督『それじゃ、お悩み相談もどんどんやっていきましょうね。えーっと、せっかくなんで今回は僕が選んでみます』
提督『しおい、さっきのダンボール持ってきてくれないか』
しおい『さっきの? わっかりました! 明石さん、ちょっと手を貸してー!』
しおい『提督お待たせしましたー! これぜんぶ紙なのに、すっごく重たいんですね!』
提督『お、来た来た……いやみなさん。実はですねこの番組、応援やお悩み相談のお便りがたくさん来ているんですよ~』
提督『大きなダンボール一つに入りきらないくらいの量でね。二回目だというのに、もう本っ当にありがとうございます。励みになります』
提督『せっかくなんで、このダンボールから一つ選んでみようかと。…………それじゃ、これだっ!』
提督『……本当に軽いなぁ。この軽さが積み重なって――この重さになっているんですねぇ。なんだかすごいです』
提督『それじゃしおい先生、これをお願いします』
しおい『はいっ! それじゃラジオネーム…………おおっ! すっごいっ!
ラジオネーム、“id= I-OBQ”さんからのお便りだよ!!』
提督『うわっ! すっごいな、さっき紹介した人じゃないか? ――あれ、この場合って、連続投稿にあたるんじゃないんですか?』
提督『…………あ、この場合は問題ない? そうですか、失礼しました。それじゃしおい、頼んだ』
しおい『なんかすごいね! 運命っていうのかな……――“てっちゃんさん また会えましたね”』
提督『――――あ? あ、ああ、うん…………?』
“てっちゃんさん また会えましたね”
“てっちゃんさんは 輪廻転生というものを信じますか?”
“みなさんは、亡くなったと思ってたらどこへ向かえば良えのでしょうか”
提督『…………なんだ? どういうことだ?』
提督『しかもてっちゃんって、ずいぶん早くレスポンスしてきたなぁ。いままさに聴いていてくれてるのかな?』
しおい『最後の一文が、ちょっとよくわかんないね…………』
提督『すみません明石さん、この場合…………はい、はい、了解です』
提督『えーっと、“I-OBQ”さんすみません!
こちらの落ち度ですが、質問の意図が上手に理解できなかったので、一部こちらの解釈で回答させていただきますね』
提督『輪廻転生、ですよね。亡くなった人が生まれかわって、また死する――その“念”は死せず、ということですよね?』
提督『僕は信じますよ。だって、奇跡的にこの世に生を受けて、精一杯生き続けて――それで亡くなったら無に帰するなんて、寂しいじゃないですか』
提督『ただ最後の一文、“亡くなったと思ってたらどこへ……”というのは、僕の考え方だとお答えできないですね。
なぜなら、“亡くなったと思っていたら”というのはおそらく死後の状態ですよね? 死すれば生まれ変わるという僕の考えだと、その状態が想像しづらいです』
提督『しおいはどうだ、もし自分が死んでしまったら――どうなると思う?』
しおい『…………そうですね、うーん……しおいは提督とは逆です! 死んでしまったら、きっとべつのところへ行くんだと思います!』
提督『くらいくらい、水の底のような場所か?』
しおい『いえ、もっと明るくて――きれいなところです。みんなそこで、わらっているはずです』
提督『…………そっか、そうだよな。ある意味、ずっと生きて、死んで、またすぐ生きてじゃ疲れちゃうもんな』
提督『すこしくらい休ませてくれたって罰は当たんないよなぁ』
しおい『うんっ』
「――――なら、――――んで――――」
提督「――――?」
提督「しおい、なんか言ったか?」
しおい「えっ? ……ううん?」
提督「じゃあ、いまのはごーやたちか?」
ゴーヤ「――――う? ……ごーや? ごーやたちはなにも言ってないでち!」
イク「ダンボールの中のお葉書読むのに夢中だったのね!」
提督「…………そうか」
提督「(気のせいかな)」
イムヤ「はぁ、はぁ…………ようやく、拭き終わったわ…………」
イムヤ「(どんだけ歩き回ったのよ、あの子……何十メートルも、あの燃料がベットリ)」
イムヤ「(それにときどき、転んだのかわからないけど……でっかく汚れてるところがあったし)」
イムヤ「(何かを引きずった跡みたいに、床に擦りつけられた汚れもあった。拭き取りにくいし、ホント勘弁してほしいわよ……)」
イムヤ「(さ、これが最後の汚れかな――うわ、部屋の前までびっしゃり……もう、しおいったら……)」
イムヤ「――――あれ?」
イムヤ「(ここ、しおいじゃなくて、あきつ丸ちゃんの部屋……? しおいったら、あきつ丸ちゃんの部屋に寄り道なんてしてたの!?)」
イムヤ「(それじゃヘタしたら、あきつ丸ちゃんからしおいの部屋まで、この汚れが続いてるってことも……はぁぁ……)」
イムヤ「(ま、愚痴ってても仕方ないよね……とりあえず、あきつ丸ちゃんの部屋の扉、拭かなくっちゃ。いちおう、あきつ丸ちゃんにも伝えておこう)」
イムヤ「(うわっ、ノックする場所ないな……もうべっとりじゃない……仕方ない。もう夜だけど、呼びかけるしかないわね)」
イムヤ「あきつ丸ちゃん、いる?」
イムヤ「…………あきつ丸ちゃーん?」ガチャ
――――
――
提督『“I-OBQ”さん、ありがとうございました! ――しっかし、思ったより早く会えましたね』
しおい『そうですねー、実際に会うのがたのしみ!』
提督「(俺はちょっと不気味だが。ちょっと変わった人みたいだし、なんかしつこさが既視感あるっていうか…………)」
提督『さ、しおい先生、つぎのお便りお願いします。まさか次も“I-OBQ”さんじゃないでしょうね』
しおい『それだったらすっごく面白いんですけどねー……――あっ、提督! いまちょうど届いたメールがあるみたいです!』
しおい『しおい、これ読んじゃいますね!』
提督『はは、それだと“I-OBQ”さんの返事である可能性が濃厚になってくるな。身構えておかなくっちゃ』
しおい『――――あっ、違う人ですよ! ざーんねん……えっと、“id: E”さんからのお手紙だよ!』
提督『そうですか! いっやぁ残念だなぁウフフ』
“オリョクル辛いでち なんとかしてほしいでち”
しおい『――あれ? これって』
提督『……おいおい。せっかくのお悩み相談なのに、まさか真後ろにいる人からのお便りだとは思いもしませんでしたよ』
しおい『しおいはお隣でしたよ!』
提督『しおいは良いんだ。いい子いい子』
しおい『んにゃっ』
提督『えーっと、“E”さん。たしかに年末年始も出動させているのは申し訳なく感じるのですが、頑張ってください。
もし本当に苦しければ、すぐにでも僕のところへ言いに来てください。ある程度の融通はいたしますので――って、これさっき執務室で言っただろ!』
しおい『あ、それしおい知らないです! 初めて聞きました!』
提督『いやしおいな、ごーやたち、今日執務室に乗り込んできてわーきゃー言い出したんだよ』
提督『それで俺がな、ちょっと話したんだけど――まったく。懲りないやつだ』
しおい『まあ、そこがごーやちゃんの魅力でもありますよね! ――あ、まだ続きがありましたね』
“きょうもまた 燃料たくさんとってきたよ”
“てっちゃんさん 提督のかわりに ほめてくれる? ぶたない? けらない?”
“提督 わたしがんばるから ずっといつまでもがんばるから”
“ごめんなさい”
提督『…………おい、これシャレになんねえぞ。おいごーや! ちょっとイタズラが過ぎるんじゃないか!?』
しおい『そうだよごーやちゃん! 提督はそんな乱暴しないんだから!』
「――――がう」
「…………ごーやさん?」
しおい『…………ごーやちゃん、どうしたの?』
「ちがう」
提督『…………え?』
「ごーや、こんなの書いてない。しらないよ」
「――――え?」
バババババ
しおい『あ、あれ、印刷機が故障したのかな? 紙が――――』
バララララ
提督『――うわっ! なんだこれ!? 紙が流れ出して止まらねぇ!!』
提督『明石さん、電源コード引っこ抜いてください! 停止ボタン押しても止まりません!!』
「もう抜いてます! それなのに…………!」
“ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい”
“ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい”
“ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい”
“ぶたないで けらないで まぶしい いやだよ なんでこんな ともだちだったのに あついよ いたいよ やめて やめて やめて やめて”
“ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい”
“ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい”
“ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい”
提督『これは――――すみません! 金剛姉妹、扶桑姉妹、それと伊勢日向! すぐに提督執務室へ集合してください!』
提督『今回の放送はここまでですっ! 後日また説明いたしますので、それではっ!!』
しおい『みんな、ばいばーい!』
――――
――
バタン
榛名「提督っ!!」
金剛「Emergency! ですカー!?」
提督「お前ら! 助かった、この現象…………!」
比叡「――――なるほど」
扶桑「…………見たところ、本体はここにはいないようです。ただ、限りなく近いところにいるようですね」
山城「ただ少し、厭な感じがしますね…………気配が強いです。さきほどの話、潜水艦ですよね?」
霧島「ええ。ですから念のため、潜水艦の子たちには護衛を付けた方がよろしいかと」
イク「え、え、え、どうなってるのね!?」
はっちゃん「…………」
ゴーヤ「ど、どうなってるでち?」
日向「やれやれ……念のため、日ごろから持ち歩いている甲斐があるというものだ」
伊勢「日向は短刀だから、後方の警戒をお願い。わたしは居合刀だから、前に立つわ」
日向「了解だ」
榛名「この様子だと、本体の方を先に見つけ出す必要がありますね」
金剛「でも、本体と言っても……この鎮守府の中を、こんな時間に探して回るのは至難の業デース」
扶桑「ですが、本体を叩かないことには、ずっとこのままですから…………」
バタンッ
イムヤ「ししししし、しれっ、司令官っ!!」
提督「うわっ!! …………なんだイムヤか、用ならあとにしてくれ! いまかなり忙しいところだ!」
イムヤ「ちょっとどころの用じゃないのよ!! けほっ……と、とにかく来てっ!!」
提督「な、なんだってんだ今日は…………!」
イムヤ「こ、ここっ! あきっ、あきつっあきつ丸ちゃんのへや、部屋にっ!」
提督「…………お前、ゴキブリが出たとかだったらマジで承知しないからな」
イムヤ「もっとデカいわよぉっ!!」
ガチャリ
提督「あきつ丸、失礼するぞ! さっきからいむやが、この部屋行けいけってうるさくって――――」
あきつ丸「あっ、あふっ! くっ、くすぐったいであります!」
まるゆ「ひゃあっ! あっ、このラジオはだめだもんっ! あきつ丸ちゃんと、まるゆのものだからっ!」
駆逐イ級「…………」ペロペロ
あきつ丸「ああっ! せっかく作ったラジオがベトベトであります~~っ!!」
提督「――――」
あきつ丸「あああ、食べちゃだめでありますっ! これはおやつではないのでありますーっ!!」
あきつ丸「だ、だめぇっ……そんな、だめでありますっ……!」
駆逐イ級「…………」ゴソゴソ
提督「伊勢、日向」
伊勢「了解してますよっと。それじゃ日向、そんときは援護よろしく」
日向「ああ、任せておけ」
ガチャ
しおい「提督、みんな、あきつ丸ちゃんの部屋でどうし――」
駆逐イ級「――――!」ガバッ
しおい「きゃっ!」ドタン
提督「しおいっ!! ――――伊勢!!」
伊勢「了解。ま、ちょっと痛い目みてもらうっきゃないわね」
しおい「まっ、待ってっ!」
提督「…………伊401、なぜかばう。そいつは深海棲艦だぞ」
しおい「そうだけどっ! ――この子、今日潜りに行ったときに、偶然見かけて……」
しおい「からだ中ぼろぼろで、砂浜で倒れてたの! いまにも切れそうな虫の息してて…………」
提督「――仕留めそこねたのか。なら、今すぐにでも」
しおい「まって、話を聞いて! ――最初からこの子、敵意なんてなかったの!
しおいが兵装を向けても、倒れてこっちを見たままで。……なんだかその目が、すっごくかわいそうで」
しおい「それで、手当てしてあげたら…………いままでの駆逐艦とは違って、ウソみたいに懐いてくれたって、いう、か……」
提督「……それは、深海棲艦が、年末年始には沈静化するという性質からだろう」
提督「それに、こいつらには感情はないよ。かわいそうな目に見えても、それはただそういう形をしていただけだ」
しおい「きっと違う!」
駆逐イ級「…………」スンスン
ゴーヤ「……たしかに、沈静化するとは言っても、武器を向けたり、深海棲艦の領域内に入れば攻撃してくるでち」
イク「こっちが武器を構えても見てくるだけ、っていうのは……今までなかったのね」
イムヤ「…………」
はっちゃん「…………」
提督「――手当てした、か。いまはそうでなくても、傷が完治すれば悪鬼と化す可能性もある。
それにもともと、こいつらは自然治癒能力が高い。手当てしたからといって、恩義を感じるわけもないよ」
提督「騙されるな、潜水艦娘。こいつらは、そういった人の感情につけ込んでくる」
駆逐イ級「…………」
提督「――――伊勢、日向」
伊勢「…………りょーかい」チャキ
日向「まあ、悪いが」ブンッ
しおい「――――っ!!」
しおい「…………?」
しおい「て、ていとく…………?」
提督「…………」
駆逐イ級「…………」
提督「…………伊勢、日向。悪かったな。――おろしていいぞ」
日向「……いいのか?」
提督「ああ。――――たしかにこいつは、気に食わない瞳をしていやがる」
提督「ほかの深海棲艦のような、絶望と憎悪に満ちた瞳――ではなく、すべてを諦めた。そんな瞳でいやがる」
提督「俺はそんな瞳は嫌いなんだ。いますぐにでも斬って落としてやりたいが…………」
提督「あいにく、大事なゲストとリスナーが、やめてくれと頼み込んでくるもんでな。命拾いしやがって」
しおい「――――ていとく」
提督「伊401、お前はこいつの監視員として、責を果たすことができるか?」
しおい「……っ! うん!!」
提督「うん、じゃなくって、“はい”だ。まったく…………」
提督「ただ、悪いが大本営に話は通させてもらうぞ。それでもし、手を下すことになっても知らん。
それまでは、身動きの取れないよう縛ったうえ、強化ガラス製の水槽に入ってもらうことにする」
提督「翌日にはもう、大本営からの視察が来るだろう。それまではしおい、お前がしっかり監視しておけ」
提督「…………そうだ、ごーや、いく、お前らペット欲しがってたろ? ちょうどいいからしおいと一緒に見とけ」
ゴーヤ「え゛っ」
イク「思ってたのと違うの~~!!」
駆逐「…………」
イク「う゛っ……こうしてじっくり見ると…………――やっぱりかわいくないのね!!」
提督「はあ、大本営になんて言えば…………伊勢、日向、付き合わせて悪かったな。戻るぞ」
伊勢「おっけー」
日向「…………また会おう、名もなき駆逐艦よ」
提督「…………」
提督「しおい、念のため聞いておくが――その深海棲艦、駆逐イ級なんだよな?」
しおい「え? …………う、うん。ちょっと形が違う気もするけど、たぶんそうだと思います!」
駆逐イ級「…………」
提督「そうか。…………お前、駆逐イ級か」
――――
――
明石「あっ、提督…………おかえりなさい」
提督「ああ、ただいま戻りました。榛名、その後はどうだった?」
榛名「提督が出ていってから少しして、パタリとやみました。いったいなんだったんでしょうか……」
比叡「――――まさか、ただの一時的な霊障だったり?」
提督「いや、そうじゃないんだが……。――念のため、お祓いの準備をしていてくれ。簡易的なもので構わん」
霧島「了解しました」
明石「…………一件落着、ですか?」
提督「というより、ひと段落……ですかね。まあ、もうさっきみたいなことは起こらないと思いますよ」
山城「なんだ、人騒がせな幽霊さんもいたものですねぇ…………それじゃわたしたちは、道具を取りに戻りますので」
扶桑「すぐに戻りますから…………」
提督「わかりました。お待ちしてます」
パタン
提督「金剛さんたちも。人払いの必要はないから、気楽にやってくれ」
金剛「Copy that. ……最近多いですネー。年末年始って、そんなに多くなかった気がしするデスがー……」
比叡「やっぱりお盆ですよねぇ。――それじゃお姉さま、準備しませんと」
金剛「オーケー! Heh,heh... テートクには久々に“袴姿”を見せることになりそうデース!」
霧島「鳳翔さんたちで見慣れていそうですけどね」
提督「あーあー、楽しみに待ってますよー」
パタン
明石「……念のため、わたしも機械室の方を見てきます。あっちに本体が置いてありますから……」
提督「あー……もしかしたら、最悪二度と放送できなくなる可能性だってありますからね」
明石「はい。早期対応できればなんとかなるかもしれませんから。――失礼します」
提督「はい、確認の方お願いします」
パタン
提督「…………それじゃ、っと」
榛名「提督? それは、いったいなにを…………?」
提督「ん? これはな……さっきの“E”さん、返事できなかっただろ? だから、こうやって返事を書こうと思ってな」
榛名「なるほど。――――あれ? でも、お便りを出した人の住所ってわからないんじゃ……?」
提督「いいからいいから。ほら榛名、お前も早く着替えてこい」
提督「榛名の袴姿、楽しみに待ってるからさ」
榛名「むっ…………もう、調子のいいことばっかり言って! なんだか誤魔化された気がします!」
提督「まあまあ……」
榛名「それでは榛名も、失礼します! またのちほどっ」
提督「おー、待ってるぞー」
パタン
提督「……まったく、派手に散らかしてくれたもんだなぁ」パサッ
提督「――――“ごめんなさい”、か。
頑張ってるのはいつも、お前ら艦娘なんだけどなぁ。なにを謝ることがあるんだか」
提督「むしろ、謝るべきはこっちがわだっつの。みんなが前線で戦ってるなか、こっちは後方の指揮艇でひっそりだ」
提督「日ごろの軽い戦闘なんか、むしろ見に行ってすらない。オリョクルだって、そのうちのひとつだ」
提督「そんな、誰も見てないのに、“ごめんなさい”か。自罰的にもほどがあるんじゃねえの?」
提督「――――駆逐イ級、か。お前、なるならカ級だったんじゃねえの?」
提督「…………と、思ったけどお前、最後は“イ級”として沈んだんだったか。はは、誤認されたすえ、“輪廻転生”したあとも間違われてんのかよ」
提督「しかもヌメヌメしてやがるしな! 気の毒なこった。……まあ、お前とは直接面識がなかったけど。お久しぶり、じゃなくて初めまして、じゃないか?」
提督「まったく、今や俺も艦隊の最高司令官だーっていうのに、みんなの前でてっちゃんてっちゃん…………」
提督「それに、うちのしおいに懐きやがって。高くつくぞ?」
提督「ただ、じきにお祓いだ。お前のなかの、邪悪な“念”は、ほどなくして消滅するんだろうな」
提督「お前の生まれ変わりの肉体と、善の“念”はそのまま残ることになるが…………。
正邪の念、どちらかが欠ければ、もうお前じゃなくなってしまうんだろうな」
提督「まあ、うちに来た以上は…………危害を加えないなら、好きに過ごさせるさ」
提督「そんな姿だと、味方として出撃なんか到底させられん。もし艦隊に組み込んだりして、友軍艦隊に目撃されたら、一発で反逆者扱いだ」
提督「前はクソ忙しかったと聞いたが、今度のお前は退屈に囲まれて死ぬかもしれんな。暇死だ暇死」
提督「“I-OBQ”とか“E”とか、自分でイ級のオバケっつっちゃってどうするよ。なあ?」
提督「偶然の一致かと思ったけどなあ……はああ、しっかしどうするかねえ、あの“イ級”の扱いよお…………」
提督「ヘタしたら俺、気狂い提督として後世に名を遺す可能性も――うわぁ、想像しただけでげんなりしてきた……」
提督「――――ん?」
“ありがとう てっちゃん”
提督「――――ありがとうもクソもねえよ。どうしてくれんだお前よお」
提督「俺はお前の扱いを仰ぐために、大本営への手紙を書こうとしてるっていうのにさ」
提督「まったく…………」カキカキ
提督「……“大本営へ――うちの鎮守府にイ級が住み着きました。ヌメヌメするわ、生臭いわで困ってます。提督より”」
提督「…………」
提督「…………我ながら、これはないな」
以上、しおい編でした。ちょっとオリジナル要素が強くなって、終盤よくわかんないかもしれませんが・・・今後はこういうことのないようにします
念のため一部解説しておきますね
ID= TR-1 =>>72 TR1fvwP2O
ID= I-OBQ =>>75 ID:IxOBqxI2
ID= E = >>73 Eb2rs+GFO
ID= DT =>>ID:DlhTln8/O
思っていたものと違うかもしれませんが、ご容赦いただけると幸いです
こんな感じで、安価をとるたびにクッソ遅い筆と、中途半端に長いだけの文章で良ければお付き合いください
今日はもう遅いので、明日(もう今日ですが)の水曜日の夜21時前後を目安に安価とりますね
失礼しました。
ID= DT =>>76 ID:DlhTln8/O です
基本的に、投下後の誤字脱字は訂正しないので、脳内保管していただけると幸いです・・・
長編?乙
なかなか面白かった
このくちくいきゅうは、過去に沈んだ提督の友達の潜水艦娘って事で桶?
>>187
その通りです。いつか安価の内容次第ではこっそり裏で描写しようと思ってました
☆『ファッキンコールドちんちんミニマイズ』を入手しました!
☆『駆逐イ級?』 が、鎮守府にすみつきました!
シリアスが書けないのに、シリアスを書きたくなる症候群ありますよね
とはいえ基本的にまったり進行なのでご安心下さい。艦娘を可愛く描写できる筆術がほしいんじゃあ^~
いまから二時間後、本日午後九時から艦娘安価とりますね。お便りの五名集まるだろうか・・・(恐怖)
お便り安価はゲスト艦娘安価を取った五分後くらいに取り始めます
00~24 瑞鳳
25~49 龍鳳
50~74 大井
75~99 北上
※ゲスト艦娘やお便りには影響しないのでご安心ください
はやめに置いておきます
↓直下コンマ
おおよそ三分後、九時になったら安価とります
念のため、安価の取り方も置いておきます: >>62
今回のラジオに招待される艦娘選考 ↓1~5
では.86ということでアニメ主人公組(吹雪、睦月、夕立)です
五分後くらいにお便り安価とりますね。思いのほか早く埋まって鼻ツーンとしてきた
おたよりの内容や、質問や相談など ↓1~5 もし範囲外でも、凝ってたりしたら勝手に拾うと思います
いちおうageておきますね。ここから↓@2です
ありがとうございます。励みになります
またしばらくの間消滅していますので、気長にお待ちください
あんまり間が空くといけないので、前回のイ級の処理を置いておきますね
艦娘が出てこないオリジナル回なので、全飛ばしでも問題ありません
憲兵と深海棲艦(駆逐イ級)登場でした。今後は安価で出ない限りはあまり出さないようにしますね
コポコポ
駆逐イ級「…………」
元帥「…………」
憲兵「…………」
提督「…………」
元帥「――――どうだ、そこの駆逐イ級は。見たところ、ずいぶん慎ましやかだが」」
技術者「…………」カチカチ
技術者「…………他の駆逐イ級と比較して。深海係数も非常に薄く、周囲の建造物への“汚染”も確認されず」
技術者「昨夜からの監視記録もさきほど確認させていただきましたが――――」
技術者「非常に珍しい個体だと言えますねえ。“研究対象”として提出するに足りうるものかと」
憲兵「…………」
提督「…………」
元帥「……そうか」
元帥「だがな、その深海棲艦はどうやら、この鎮守府の潜水艦娘に懐いているらしい」
元帥「“研究対象”として施設に提出しようと思えば、途端に凶暴性を取り戻すやもしれん」
技術者「そこですねえ」
技術者「なにかに懐く――というのはまったく新しいケースです。我々もいろいろ試行錯誤してはきましたが……」
憲兵「そもそも、そこの深海棲艦がその潜水艦娘とやらに懐いた理由です。
なにやら、砂浜に瀕死で打ち上げられているところを、その潜水艦娘が鹵獲した――と、聞いておりますが。事実でしょうか?」
提督「…………事実です」
憲兵「なるほど。瀕死でいるところを…………それではその“鹵獲”は、提督どのが指示したものと考えてよろしいでしょうか」
提督「その通りです」
憲兵「フム。――元帥どのは、このことは?」
元帥「いや、知らんな。憲兵どのに報せる直前に知ったことだ」
技術者「あら…………それは重罪ですねえ。場合によっては、提督さんにお縄がかかるかもしれませんねえ」
憲兵「…………」
憲兵「ふむ」
憲兵「――提督どの。こちらの指示なしに深海棲艦を鹵獲した理由。お聞かせ願おうかと」
技術者「それはありがたい。こちらとしても上に報告しなければいけませんからねえ。ぜひお願いしますよ」
技術者「場合によっては、深海棲艦の謎を解明して手駒として扱おうと企んでいる――なんて、囁かれてもおかしくありませんからねえ」
提督「――わかりました。では、順を追って説明させていただきますね」
提督「右手にあるスクリーンをご覧になっていただいてもよろしいでしょうか? ――はい」
提督「現在スクリーンに投影しているものは、南西諸島海域。東部オリョール海――いわゆる、“2-3”エリアの、年末年始における深海棲艦の活動記録です」
提督「信頼に足る潜水艦娘で艦隊を組み、データを収集させ、報告書として届いたものをまとめたものですが――」
提督「年末年始は、深海棲艦の活動が一時的に沈静化する…………というのはご存じですよね?」
技術者「ええ、それはもちろん。日ごろの襲撃が嘘のように静まり返ると聞きました」
技術者「我々としても非常に興味深いことでしてね。今回鹵獲した“駆逐イ級”は、ほかのイ級と違って非常にありがたいサンプルでございましてですね!
これだけ小さな規格の深海棲艦は我々も見たことがありません! おそらく生まれて間もない状態なのでしょうが――」
憲兵「技術者さん」
技術者「おっとお……いやはや、ご迷惑をおかけしました。続きをどうぞ」
提督「……はい。年末年始の間は、深海棲艦が現れないことで通商や交易が盛んになるとして、商業活動も活発になりますが――」
提督「そのうち何件かは、深海棲艦の襲撃によって、水の泡と化しています」
技術者「あはっ、うまいですねえ! 物理的に水の底へ、ですからねえ!」
提督「……自分は、そこを疑問に思っていました。年末年始の間は、深海棲艦の勢力圏に入らない限りは、襲われることなんてありませんからね」
提督「なのに、貨物船等は実際に襲撃に遭っている。――そこで、深海棲艦の勢力圏は、日に日に大きくなっているのでは、と」
技術者「ンン~。まあ、考えるでしょうねえ普通は~」
元帥「…………」
憲兵「…………」
提督「そこで自分は、身近な海域――東部オリョール海と、潜水艦娘を使って勢力圏範囲の調査をしようと思い立ちまして」
提督「年末年始とはいえ、艦娘に休みはありません。毎日オリョール海に潜って調査していただきました」
提督「調査の結果、この赤い区域が深海棲艦の勢力圏と判明したのですが――」
技術者「おや? 思っていたよりもずいぶん狭いんですねえ」
提督「ええ、まあ……深海棲艦はその名のごとく、深海に“棲む”者ですから、海面で表すとこういった範囲になるんです」
提督「ですが、貨物船が海上を移動する際に、水中に音波が奔るんですよ。もちろんこの音波は、海中を移動しても発生しますね。“音の波”ですから」
技術者「そりゃまあ、当たり前ですねえ。なにをするに取っても音は発生しますから」
提督「そうですね。自分たちはこういった音波を用いて、敵の潜水艦の位置を捜索、察知したりしているんですが……」
提督「どうやら深海棲艦さんも同じなようで。水中に伝播する音の波を捉えて、こちらの存在を察知するんですよ」
技術者「まあ、腐っても分類は艦船ですからねぇ」
提督「はい。伝播する音波を捉えるには、“ソナー”という機器が必要なのはご存知ですよね?」
技術者「ええ、ええ」
提督「深海棲艦には、ソナーを積んでいる個体と、積んでいない個体がいるんですよ。
ソナーを積んでいる代わりに、砲の数が少なかったり、そのまた逆で、ソナーを積まないことで砲の種類を増やす」
提督「もしもの話になりますが。昨日の貨物船が海域を通った際には、ソナーを積んでいない個体ばかりが、海の底で眠っていて――」
提督「今日の貨物船が海域を通過しようとすると、ソナーを積んでいる個体ばかりがいたとしたら」
技術者「ははあ、深海棲艦にも個体差があることは識っていましたが、そういうこともありえるんですねえ」
提督「はい。なので、ソナーを積んだ個体と、積んでいない個体が“両方存在する”オリョール海で調査をしようと思ったわけです」
技術「なるほどお、だから東部オリョール海を選んだ、というわけなんですねえ」
元帥「…………」
憲兵「…………」
提督「そして、潜水艦娘が日を分けて何度もオリョールの海に潜り、結果をまとめた図がこちらになります」
提督「左の図が、ソナーを積んでいないであろう日の勢力圏。右の図が、ソナーを積んでいるであろう日の勢力圏です」
技術者「わお! 倍以上も差があるんですねえ!」
提督「勢力圏の外にいるときはなんの音沙汰もありませんが、一歩でも踏み入れた瞬間、飛ぶ矢のように現れましたね」
提督「これで勢力圏は把握しました。――ですが、もう一つ疑問がありましてね」
技術者「疑問ですか?」
提督「はい。勢力圏の外にいるときは、どれだけこちらの数が多くても反応を示さなかった深海棲艦ですが――」
提督「――もし、目の前に餌を吊るされたらどうなるか。という疑問です」
技術者「エサ? ……――ああ、なるほど! “粗悪燃料”のことですね!」
提督「そうですね。普段、艦娘たちが使っているのは、その粗悪燃料から余分を取り除き、を抽出した“純正燃料”ですが……」
提督「深海棲艦においては、なぜか純正燃料には手を付けず、粗悪燃料に一直線というのは技術者さんもご存じだと思います」
技術者「ええ、ええ! それはぼくの先生が調べたものですからねえ! バッチリですよ!」
提督「そうなんですか。……それで、餌を吊るしたらどうなるか、というところでしたね」
技術者「ここまで来たらぼくでもわかりますよお! “勢力圏のすぐ外に、粗悪燃料を置いたらどうなるか”ですよね!?」
提督「その通りです。さすが、あの方のお弟子さんですね」
技術者「いやあ照れますねえ、あっはっは」
提督「……再開しますが、餌を吊るしたらどうなるか――」
提督「結果から言うと、ビンゴでした。粗悪燃料を抱えた潜水艦娘が、勢力圏の近くまで寄らずとも――彼らは飛び出してきましたよ」
提督「つまり彼らは、粗悪燃料の存在をなにかで嗅ぎ取っているか、察知しているかということです」
技術者「なるほどお。――あっ! だから貨物船が狙われるんですね!」
提督「おお、さすがです。そうですね、一般の貨物船に使用されているものは粗悪燃料ですから……。
我々が使用しているような純正燃料は、一般的に高価なものですからね。粗悪なものに頼らざるを得ません」
提督「ですが、これはいまだ仮定の段階。なので自分は、実際に調べてみることにしまして」
技術者「実際に?」
提督「はい。最近の貨物船は、人が乗っていない自動操縦なものも多いですし。
“艦娘がそばにいない状況で、どの距離までなら粗悪燃料を嗅ぎつけるか”ですね」
提督「艦娘が使用しているのは純正燃料ですから。もしかしたら、深海棲艦にとって純正燃料匂いや、艦娘の存在が妨げになっているかもしれない――」
提督「それでは、一般の貨物船と仮定して検証することが出来ません」
提督「ならば、粗悪燃料だけならどこまで食いついてくるか、と。
技術者さんも作った記憶ありませんか? 子どものころ、鳥を捕まえる簡易トラップのようなもの」
技術者「ああー、ありますよ! あの、紐を括り付けた棒で桶を支えて、餌に釣られた獲物が桶の真下に来た瞬間――ピッと」
提督「そうです、ガバッと捕まえるやつですね。……あれと似たようなものを、作りまして」
技術者「へえ! うまいこと考えたものですねえ!」
元帥「…………」
憲兵「…………」
提督「罠を仕掛けて何日か。――アタリでした。見事にひっ捕らえましてね」
提督「粗悪燃料のような、彼らにとっての“食料”を集めるのは、働きアリである駆逐艦。
女王たる戦艦は海の底で深く眠りについているようですが、彼らは女王のために寝ずに働く」
提督「その働きアリが、見事ひっかかりまして」
技術者「さっすがですねえ! ――つまり、海面を走る貨物船も、向こうからすればただのごちそうだったと」
技術者「たとえ艦娘の護衛があったとしても、彼らは獣の群れのように現れますからねえ。右手を処理している間に左手が――ガブリ、というわけですしねえ」
技術者「年末年始。すべての貨物船に大量の護衛艦隊を付けるわけにもまいりませんしねえ。コストが重すぎますから」
提督「貨物船はごちそう――そうなりますね。なので、貨物船がときどき襲われることの理由と、襲われないようにするための工夫。それがこの――」
技術者「“燃料”の問題だったんですねえ。いやはや、お手柄ですよ! そこにいる駆逐イ級は、その調査の副産物だと!」
技術者「そういうわけですね!」
提督「ええ。その通りです」
憲兵「…………」
憲兵「なるほど、そのような研究理由がおありだったとは。これでは、提督どのを連行するのは不可能ですね」
元帥「…………」
元帥「ああ、そうだな。むしろ功労者として讃えるべきであろうな」
技術者「ええ、ええ! この件、喜んで報告させていただきますよお! これで我が国の商業も発展しますねえ!」
提督「自分のような若輩が、お役にたてて光栄です。この身、祖国のためなら粉にして働く所存です」
技術者「いやいや、そんな畏まらなくっとも! すごい結果ですよこれは!」
提督「そう言っていただけると、肩の荷が下りた気分です」
提督「そしてこのたび鹵獲したこの“駆逐イ級”ですが、こちらの監視下に置いて研究を重ねようかと思います」
提督「うちの鎮守府の艦娘に懐いているというのなら好都合。いままでに採れれなかったデータが、とれるかもしれませんから」
技術者「わかりました! 本当は、こちらとしてもぜひいただきたいサンプルなのですが……」
技術者「駆逐イ級“程度”なら、また元帥どのが鹵獲していただけるでしょうしね!」
元帥「…………」
元帥「ああ、任せろ。さすがに、いますぐというのは難しい注文だが……」
技術者「いえいえ、先日送っていただいたサンプルがまだ手元に残っていますから! 気長に待つことにいたします!」
元帥「それなら助かる」
憲兵「…………それでは技術者どの、そろそろお時間です」
技術者「お、もうそんなお時間ですか! いやはや、たいへんうれしい話を聞かせていただきましたよ!」
技術者「さすが、年若き戦軍神ですねえ! 見事な手腕でございます!」
提督「いえいえ、そのような。…………それでは、お帰りということでしたら――」
提督「この鎮守府庁舎の出入り口に立たせている自分の秘書艦に、そのデータをまとめた報告書の束を持たせていますので。お帰りの際にはぜひそちらを」
技術者「はい、はい! それはもうありがたく受け取らせていただきますよ!」
技術者「さっそく上の方にも報告しておかなくては! それでは憲兵さん、元帥どの、帰りましょうか!」
憲兵「……いえ、自分は別件でまだこちらに」
元帥「こちらもそうだな。まあ、すぐに帰ると思うが……」
提督「…………」
技術者「およ? そうでしたか、それではお先に失礼させていただきますね!」
提督「はい。お見送りできないのが心苦しいですが……」
技術者「いえいえ、お気になさらず! それでは!」
バタン タタタ
憲兵「…………」
元帥「…………」
提督「…………」
元帥「くくく…………」
憲兵「…………よくもまあ、あんなことをベラッベラと」
元帥「かっかっかっ…………!」
提督「――――なにか、自分に落ち度でも?」
憲兵「落ち度もクソもあるものか。たしかに、燃料と勢力圏の関係は少し進んだ調査をしていたようだが――」
憲兵「そこにいる“駆逐イ級”を捕まえたことに関しては、まるっきり“こじつけ”ではないか!」
元帥「くくっ」
提督「……こじつけ? 具体的に、どこからがこじつけであると?」
憲兵「はじめからだ! まず第一に、東部オリョール界でソナー調査だと……?」
憲兵「よっくもまあ俺の前でベラベラ言えたものだ。“東部オリョール海では、ソナーを装備した個体は出現しない”!」
憲兵「出現したとして、天文学的な数字でしかないだろう!」
元帥「クカカカッ! そもそもが、オリョール海でソナーを積んだ個体が出るというなら、オリョクルなんて流行っていない」
元帥「低練度の娘が、単身オリョールに潜れるのもそのためだ。
ソナー持ちの駆逐艦なんて現れてみろ。いま泳いでいる新人の潜水艦娘など、みーんなドボンだ」
憲兵「それなのにまあ、あれだけベッラベラ、ベッラベラと……!」
提督「…………」
提督「――ふふ」
提督「あっはは! さっすがその通り!」
憲兵「それにだ! そもそも勢力圏の話からだっておかしい!」
憲兵「“深海棲艦の勢力圏が、日に日に大きくなってきているのでは”だと!? よくもまあ、あんな神妙な顔で言えたものだ!」
憲兵「深海棲艦の勢力圏が日を追うごとに大きくなるなら、もう世界中の海がやつらの領海だ!」
憲兵「いったい何年前からやつらがいると思ってるんだ!!」
元帥「おれが子どものころから存在したから、おおよそ――七十年か八十年そこらか?」
元帥「いや、そんな昔から勢力圏が広がっているならもう大事だ。ヘタすると宇宙にまで進出しているんじゃあないか?」
提督「ふふふっ、いやホント、派遣された技術者の方がバカで助かりました。うふふっ」
提督「だいいち、あの深海棲艦が――鳥を捕まえるような、子供だましのトラップに引っかかるわけねえじゃん! あっははは、鳥頭じゃねえんだから!」
提督「そんなに鹵獲するのが簡単だったら、交戦なんかしないでずっと罠撒いてるわ! あはははっ!」
元帥「……おまえ、それに関しては許さんぞ。おかげでおれが、代わりの駆逐イ級を鹵獲しろと言われてしまっただろうが」
元帥「駆逐イ級“程度”だと……?」
元帥「あの頭でっかちクサレ軍団め。深海棲艦を“シカ”かなにかと勘違いしていやがる」
元帥「たかが駆逐艦一隻を鹵獲するのに、どれほど大がかりな仕掛けと人員、予算が必要になるか……」
提督「ウフっ、まあまあお願いしますよ、“栄光の元帥どの”!」
元帥「ぐっ…………」
憲兵「……それに、懐いた理由も説明していないし、こいつがここまで大人しいのも説明していない」
提督「ああ、それは正直自分も疑問なんですよね。懐くなら、しおいじゃなくっていむやだろうと――」
元帥「…………なんだ?」
提督「あ、いえ――――きっと、砂浜でボロボロになっているところを介護されて、しおいに情でも湧いたんでしょう」
提督「くっくっく…………いやしかし、頭ひねってばかりで現場に出てない人を騙くらかすのは簡単ですねえ!」
提督「普段、あれだけ無理難題を任務として突きつけてきますから。スカッとした気分ですよ!」
元帥「ひっひっひっひ、ついにお前もここまで来たか! 本音を消して建前を押し通すことのなんたる痛快さ!!」
憲兵「………………自分の前で言わないでいただけませんか」
提督「いやもうコレ、クセになっちゃいますよ! もう愉快痛快大爽快!!」
憲兵「お前はもう黙ってろ!!」
元帥「ククク…………――だが、念のためそこの駆逐イ級のデータは取っておけ。
今回はお前が、駆逐に餌を吊るしたと言ったが……隠したことが明るみに出て、いつお前が吊るされる側に回るかわからん」
元帥「なにが起こってもおかしくないよう、ぬかりのないようにしておけ」
提督「ええ、それはもちろん。今回出したデータだって、その産物ですからね」
憲兵「……あの、“オリョール海の調査”のことか。思い出したら腹が立ってきたな」
元帥「くくっ」
提督「まあまあ! 調査の内容自体は、なにも間違ったことは書いていませんよ!」
憲兵「調査内容はそうだろうな。――だが、調査の時期だ! この年末年始の短い間に、あれだけのデータを収集できるわけもないだろう!」
憲兵「それに勢力圏の図だってそうだ。……あれ、年末年始のものじゃあないだろう! 夏場あたりのものを表示しただろうお前!」
提督「くくっ――あ、バレましたか? ええ、ええその通りです!」
提督「いやあ、日ごろから艦娘の戦闘報告書をまとめておいて正解でした! いつか使えるかも、と思って大事にまとめておいたんですよ、各海域ごとの敵データ!」
提督「報告書のテンプレートだって、わざわざ自分がこの手で手直ししたんですよ! ほらこれ!」バサッ
憲兵「やかましい、突き出してくるな! ……――すさまじく、細分化されているな、この報告書」
元帥「ほお、これは……うちでも取り入れたいのだが、構わんか?」
提督「ええ、どうぞ。――いやぁ、細かな努力はいつか花を咲かせるものですねえ!」
憲兵「クッソうぜぇコイツ…………」
元帥「あえて真実の種を撒いて、ウソの実を隠す――今回は見事だった。さすがに、おれの副官だったころとは違うな」
提督「……ええ、いろいろありましたから」
提督「別段、ウソばかり吐いているわけではありませんしね。本当に言いづらいことは言っていないだけです」
元帥「――さ、おれはそろそろ帰るとする。憲兵どのはどうされるつもりだ?」
憲兵「……そうですね。自分はもう少し、この深海棲艦を眺めていようかと」
憲兵「考えてみれば、自分は深海棲艦というものをよく知らない。こんなに近くで見たことなんてありませんでしたから」
元帥「そうか。…………それでは、また会おう」
提督「ええ、お見送りは――――必要ありませんね。また会いましょう」
提督「……憲兵どのは、しばらくどうされるおつもりで?」
憲兵「…………」
憲兵「さっきも言っただろう。俺はしばらく、ここにいると」
提督「――そうですか。じきに夕食の時間となりますが、こちらに運ばせましょうか?」
憲兵「いや、構うな。自前のものがある」チラ
提督「おや握り飯。――そうですか。もし足りないとあれば、艦娘食堂の方へどうぞ。今日の当番娘の腕前はピカイチですよ」
憲兵「ああ、考えておこう」
憲兵「――――ところで、潜水艦の艦娘は、いまどこにいる?」
提督「……潜水艦娘ですか? いまはオリョール海の方へ出払っていますね。ご用件がおありでしたら、こちらに寄らせましょうか?」
憲兵「いや…………気になっただけだ。気にするな」
提督「そうですか。それでは自分は職務に戻りますので、なにかありましたら呼んでください」
憲兵「ああ」
――――
――
榛名「あ、提督。お疲れ様でした!」
提督「榛名もありがとう。技術者さんは、もうお帰りになられたか?」
榛名「はい! 榛名から資料を受け取ってすぐに出られました!」
提督「そうか。……まあ、データとしては間違っていないものだし大丈夫だろう」
提督「榛名もわざわざ悪いな、小間使いみたいな扱いをさせてしまって。担当の仕事もなかったし、今日ホントは休みだったんだろ?」
榛名「いえ。お気になさらずとも、榛名は大丈夫ですから。榛名は提督の秘書艦ですし、提督の大事には必ずついて従います」
提督「……そうか。いつも助かる」
榛名「それより提督、そろそろお夕食の時間ですが……本日はどうされますか?」
提督「そうだ、夕食……。――そうか、しばらくの間ラジオ放送は止められてるんだったな」
榛名「ええ。本当に簡単なものですけど、お祓いもしましたが……念のため、三日間の間は執務室に立ち入らないようにとのことですね」
提督「まったく、ラジオ放送も始まったばっかりだってのに……なんだか、“けち”がついたみたいで縁起が悪いな」
榛名「そうですね……ですが、“ハク”がついたと思えばいいじゃないですか! おばけさんたちからのお便りも、どんどん受け取っていきましょう!」
提督「お前、自分の番が終わったからって気楽に言いやがって……」
提督「まったく。言っておくが、また榛名が選ばれる可能性だってゼロじゃないんだからな!」
榛名「榛名は大丈夫ですっ。――もし、また榛名が選ばれるときがきたら……」
榛名「そのときは…………提督と二人っきりで、こころのお便り読んじゃうぞっ?」バチコーン
提督「…………」
榛名「…………」
提督「…………?」
榛名「…………すみません、上手に言おうとして言えませんでした。忘れてくださいぃ……」カァ
提督「…………」
提督「ふっ」
榛名「あっ、いま笑いました!? 提督、いま笑いませんでした!?」
提督「ふ、い、いや…………べつに、みたいな? くふっ」
榛名「……む~~っ!!」
提督「え、なに、可愛いと思ってやったってこと? まあ超可愛かったんだけどさ。
ちょっともう一回やってくれないか? もう一回聴きたいしさ、今度はしっかり映像にも残すから」ゴソゴソ
榛名「も~~っ! やりませんからぁっ! 忘れてくださいぃっ!!」
榛名「それに何度も何度も、その……かっ、可愛いだなんて……あまりからかわないでくださいっ」
提督「そりゃ残念だ」
提督「まあ、可愛かったからいいんじゃないか。――そうだな、夕食は……うーん。
正直、ここ最近は放送後に食うことが多かったからな。いまのところそんなに腹が減っていないっていうのが本音だな」
提督「それにさっきちょっとつまんじゃったしな。まあ、適当にぷらぷらしてから後で食うことにするわ」
榛名「……そうでしたか。実は榛名も――――」
提督「ストップ。榛名も気分ではないので、のちほどご一緒――はナシだ。無理して気を遣わなくてもいい」
榛名「えっ! でっ、でも榛名、本当にお腹がすいていなくって……!」
提督「どんだけの付き合いだと思ってるんだ。……榛名お前、腹が減ってくると、食事の当番表を確認しにいく癖あるんだよ」
榛名「えっ」
提督「実家にいるときもそうだったろ。霧島たちもみーんな気づいてて、榛名がそうしたら食事の時間を早めるようにしてたんだぞ」
榛名「あぅっ……」
提督「おおかた、当番を確認してその日の献立を想像していたりするんだろうが……」
提督「俺のことなんか気にすんな。適当にあとでなんかつまむからさ」
提督「ちょっとした癖が出てくるくらいだし、俺に合わせて待ってたりなんかしたらどんどん時間が――」
提督「……榛名?」
榛名「…………」カァァ
提督「あ――っと、悪かったな。本当に腹がへっていなかったのかもしれないし、べつに榛名のことを食いしん坊とかそういうふうには――」
榛名「――――とくの――――」
提督「――榛名?」
榛名「て…………、ていとくの…………っっ、ばかああ~~~~っ!!」ダダダ
提督「あ、おい榛名っ!!」
黒潮「な、なんやぁ!? 喧嘩かぁ!?」
龍驤「な、なんやこっちの方までえっらい響いてきたで!?」
提督「ぁ……ああ…………あああァっ…………」
黒潮「な、なんや! なにがあったんや!?」
龍驤「ちょいちょい、どうしたキミ! 大丈夫か!?」
提督「あ……あのはるなが、あの榛名が俺に……ばかって……おぉぉ…………」ゴロンゴロン
黒潮「…………」
龍驤「…………」
黒潮「あほくさ、帰ろ帰ろ」
龍驤「せやな、付き合うてられへんわ。こんなんの相手しとるより、みんなで盛り上がっとった方が百倍楽しいわ」
黒潮「ほんまそれやで。犬も食わんわ」
急ぎましたがここまでです。安価スレなのにストーリー持たせる必要ないじゃん(ないじゃん)
風呂敷が……まあ、1000埋めるまでは頑張りたいと思います。人がいなくなったらほぼ非安価として進めますので、頭の片隅にでも置いていただけると幸いです
ロリコンとアニメ、ぱんつに胸部装甲と格納庫……で考えていきますね。山場かも
言い忘れてました。えっと、前回のお便りで察したかと思われますが
なんでもかんでもストーリー性を持たせようとしてしまうので、カオスSSと期待していた方は申し訳ありません
頑張ってなんとかしたいと思いましが、まだハチャメチャどたばたコメディを書く技量に届かないようで・・・
降りそうで降らない、曇りの日の夕方みたいな雰囲気でお送りします
今回は日常回がちょっと長くなりそうです。申し訳ありません
グツグツ
提督「ぅ……ん…………」
提督(なんだ……いいニオイが…………)」
龍鳳「提督、お目覚めですか?」
提督「ん――龍鳳? ここは…………えっと、どこだ? ……ベッド?」
龍鳳「ここはわたしの私室です。提督、どんな具合ですか? だいじょうぶ?」
龍鳳「廊下で倒れてるのを見てびっくりしたんですから。あんなところで寝ていたら風邪をひいちゃいますよ」
提督「ああ、そうだったのか……いや、妙にショッキングな夢を見た気がしてな。なんかこう、みぞおちを吹き矢で撃たれたみたいな……」
龍鳳「ふふ、なんですかそれ」
龍鳳「――ずずっ。……うん、あとちょっとかな」
龍鳳「提督、お夕食はもう済まされましたか? わたしはこれからなんですけど、もしよしければ召し上がっていかれますか?」
提督「夕食――うわっ! もうこんな時間だったのか!」
提督「すまん龍鳳、俺のぶんも頼めるか。あまり遅くなると、夜中に腹痛で叩き起こされて辛くなる」
龍鳳「提督はお腹が弱いですもんね……わかりました。あともう少しだけかかりますから待っててくださいね」
提督「悪いな。……そういや龍鳳、お前今日の当番だったよな。まだ食ってなかったのか?」
龍鳳「はい。向こうではいろいろ試してみたいことがあって。気づけばこんな時間に……」
龍鳳「それに、今日はいむやちゃんたちが遅く帰ってくる日でしょう? ですから、ご飯を作って置いてあげようかなって思いまして」
提督「……ああ、なるほど。潜水艦組の帰りが遅くなるときは、適当にどこかで済ませてると思っていたが。
悪いな龍鳳。本当はこういうの、こっちから指示して厨房担当の人に言付けておくべきことだったろうに」
提督「遅番の潜水艦って言ったら相当遅くなるだろ。わざわざすまない」
龍鳳「いえいえ、わたしもお料理は好きですから。……それに、花嫁修業の一環としても助かりますし」
提督「花嫁修業ゥ? なんだ龍鳳、お前結婚するのか?」
龍鳳「いえいえいえっ! ……その、いつ貰われてもいいように、というか。やっぱり、普段からこういう勉強は続けていないといつか困るでしょうし……」
提督「なんだ、驚かせるなよもう! ははは、可愛い顔してやることやってんのかと思ったわ!」
提督「もし相手が出来たらすぐに言ってくれよ。男目線からのアドバイスだったらいくらでもやってやるからさ」
龍鳳「…………そうですね。いつか母にも紹介できる日が楽しみです」
龍鳳「そんな話よりも提督、お待たせしました! 龍鳳特製ヘルシーハンバーグです!」コトッ
龍鳳「提督はここ最近体調がすぐれないようですから、健康を意識しつつ、かつ活力が溢れる食べ物にしてみましたっ」
提督「おお、うまそうだ! ……でも、これだけの料理を俺に合わせて作ったのか?
俺を運び込んだあと作り始めたにしては、妙に手が込んでいるというか……」
龍鳳「細かいことはいいじゃないですかっ。あ、ハンバーグの上に乗せているのは青じその葉ですので、気にせず食べて下さいね」
龍鳳「葉っぱに乗せている大根おろしはお代わりもありますから、もしそのハンバーグが脂っこく感じたら言ってください!」
提督「いや、大丈夫だ。このハンバーグ、豆腐で作ってあるだろ? それならさっくり入ると思う。ありがとな」
龍鳳「それ……と、こっちが茄子とピーマンの焼き浸しです。それでこっちがうずら卵のサラダです」コトッ
提督「うおっ」
龍鳳「最後にこれが、わかめのお吸い物です。熱いのでやけどしないように気をつけてくださいね」
提督「な、なんか凄いな。これを全部龍鳳がひとりで?」
龍鳳「はいっ。潜水艦の子たちも毎日たいへんですから、おいしいお料理を食べさせてあげたくって……」
龍鳳「あ、提督。もしお加減が優れなくって、あんまり食べられなくても気にしないでください。
もし余ったら余ったで、ごーやちゃんが全部飲み干してくれると思いますから」
提督「あいつそんなに食うのか……いや、こんだけ美味そうな飯ならいくらでも入る」
提督「むしろ、廊下でぶっ倒れたくらいでこんな飯にありつけるなら、いくらでも寝込んでやるさ。ラッキーって感じだな」
龍鳳「ふふ、お上手ですね。……それじゃ、先に召し上がっていてください。わたしも後片付けをしたらご一緒しますから」
提督「ん……後片付けなら俺も手伝うから、まずは一緒に食べないか?」
提督「作った本人が片付けしてるなか一人で食うのも悪いしな。どうせだったら一緒に食おう」
龍鳳「……いいんですか?」
提督「なーにを遠慮してんだ。そんな気を遣うような仲でもないだろうに」
龍鳳「……わかりました。お心遣い、ありがとうございます。
それじゃ、ごーやちゃんたちが来たときのために、ラップで巻いたお皿だけ先にテーブルに並べておきますね」
提督「おう。あっ、俺も手伝うぞ!」ガタッ
龍鳳「いえいえ、提督はお客様だから、もっとがっしり座っていてください。体調も優れないでしょうし……」
龍鳳「お皿を並べるくらいならそんなに手間でもありませんから。ちょっとだけ待っててくださいね」
提督「んんん…………わかった。コップにお茶でも注いで待ってるな」
龍鳳「はい、お願いしますね」
龍鳳「…………」コトッ
龍鳳「…………」コトリ
龍鳳「…………」コト
提督「(…………ん?)」
龍鳳「――はい、お待たせしました。それではお隣、失礼しますね」ギュッ
提督「ぃあっ!? えっ、なんで隣!?」
龍鳳「え? 実家にいたときはいつも、この並びだったじゃありませんか」
龍鳳「いつもは食堂ですけど、こういった小さな部屋でテーブルを囲むときは、この並びじゃないと落ち着かなくって……」
提督「……ふたりだから、囲めてないんだが」
龍鳳「ふふ、いいじゃないですかっ。さ、食べましょう?」ギュッ
提督「(……あ…………あたるぅ)」
提督「あー龍鳳……その」
龍鳳「なんでしょうか、て・い・と・くっ?」
提督「い、いや、なんかその…………近くないか?」
龍鳳「…………」
龍鳳「あ、本当ですね。エプロン着けっぱなし……脱がなくっちゃ」ゴソゴソ
提督「いや、エプロンじゃなくて……」
龍鳳「……なんですか? さ、いただきましょう?」ギュッ
提督「…………あ、うん」
龍鳳「あ、もしかして暖房を効かせすぎましたか? ちょっと暑いなって思ったら言ってくださいね」
提督「いや、そういうわけじゃあないんだが……」
龍鳳「あ、提督はお加減が優れないんでしたね。でしたら…………」スッ
龍鳳「――はい、あ~んしてください」
提督「えっ?」
龍鳳「ほら…………あ~ん……?」
提督「い、いい、いい! 体調悪いって言ってもちょっと頭痛いだけだからっ」
龍鳳「……そうなんですか? でしたら――――」サッ
提督「ひっ」
龍鳳「…………っ…………んっ――」コツン
提督「な、あ、わっ」
龍鳳「ね、熱があるわけじゃないみたいですね。…………もうちょっと、ながく……んっ……はぁっ……」スリスリ
提督「(と、といきが……――じゃなくって!)」
提督「やぁ、だ、そっ――大丈夫だから! べつにそんなじゃないし、気にするほどじゃないからっ」バッ
龍鳳「…………そうでしたか。それなら安心です」
提督「(ひ、額にまだ温もりが……というか、こ、この子こんなに積極的な子だったか!?)」
龍鳳「……それじゃ、冷める前に食べてしまいましょうか」
提督「ぅ、あ、ああ、そうだな。い……いただきます」
龍鳳「どうぞ、召し上がってください。…………ふふ」
提督「んっ――はむ」オソルオソル
提督「……あ、うまい。うん、さすがだな! 昔より腕を上げたんじゃないか」
龍鳳「ふふ、良かったぁ。……それではわたしも、失礼して」スッ
提督「(あ、離れた……)」
龍鳳「んっ。……うん、いい感じ。この調子なら、きれいに使い切れるかも」
提督「むぐ――んぐ。はぁ……ところで龍鳳、この料理に使った具材は厨房から拝借したやつか?」
提督「もし自費だったら、潜水艦組の食事費ってことで公費でおろすことが出来るが」
龍鳳「あ、いえ。実は実家からたまーにいろいろ送ってくるんです。お野菜とか、お米とか……」
龍鳳「提督もご存じの通り、忙しい日々ですから……あまり使い切れることもなくって、厨房の人に譲ったりしていたんですけど」
龍鳳「あ、そうです。ラジオを聴いてか、提督にもいろいろ届いてますよ? 果物とか、日持ちする食べ物とか……」
提督「……俺にまでか。一人暮らしの息子じゃないんだから、気にしなくてもいいのに」
提督「どうだ先生は。元気で過ごされているか?」
龍鳳「はい! 実は、この間まで病気で入院していたんですけど、この間ようやく退院できて……」
龍鳳「それ以降は病気が怖くって、健康を気にして毎日を過ごしているみたいです」
提督「そっか。無事に健康だったらいいんだが……」
龍鳳「いえ、よくありませんっ! 自分が病気にかかったからか、わたしの体調もくどくど言ってくるんです!
よく食べているか、ちゃんと寝ているか。運動は欠かさずに――なんて、わたしが艦娘だってこと忘れているんですっ」
提督「はは、まあそこは親心ってやつだろ。言わずにはいられないんだ……――はむっ」
龍鳳「こちらとしてはいい迷惑です……。わたしだって、もう一人の女なんだからっ」
提督「まあ、こんだけのモン作れるんだから過ぎた心配だよなぁ……。最初は給糧艦勤務志望だったんだろ?」
龍鳳「はいっ。あそこに掛けてある割烹着も、そのときの名残で……」
提督「はは、それなのに悪いな。“艦娘”としてわざわざ引っ張って来ちまって」
提督「過去の経験上。知り合いが、形は違えど同じ職で頑張ってるってなったら手元に置いておきたくってな」
龍鳳「わたしも驚いたんですよ。給糧艦としての指導を受けていたら、艦娘として指名してきた鎮守府が――って」
提督「ん。……あのときは規模も小さくって、給糧艦の枠は間宮さんしか取れなかったからなぁ。艦娘として呼びこむしか手がなかったんだ」
提督「まあ、俗にいう“裏ワザ”ってやつだけどな。けっこう使ってる人多いんだぞ、この手」
龍鳳「はい、それはよく聞かされていて……。“給糧艦として呼ばれるかはわからないんだぞ”って、いつも言われていて。
最初はすっごく怖くって、鎮守府の戸を開けるまで震えが止まりませんでしたけど――」
龍鳳「まさかまた、提督に逢えるなんて……思ってもいませんでした」
提督「はは、はじめのころなんてツンツンしてたのに、鎮守府で働くって言ったらワンワン泣かれたもんな」
龍鳳「そ、それは忘れてくださいっ! ――だって、あぶないじゃないですか……」
提督「ん、まあな……。いつ酷使されて死ぬかわからない世界だもんな」
提督「だからこそ、“恩師の娘”がこの世界に飛び込んできたってなったら、手元に置きたくなるのもわかるだろ?」
龍鳳「はい。本当に、提督で良かった……いつも感謝しています」
提督「まあ、いまは航空母艦としても働いていてもらっているが……悪かったな。龍鳳からは、なんとなくそんな才能を感じたんだ」
龍鳳「そんな、わたしなんて……いつもみんなに遅れてばっかりです。もっと速く動けたらいいのに……」
提督「そこは“龍鳳適性”の艤装の限界だな……まあ、とくに龍鳳は後発組の航空母艦だからさ、不備があったらすぐに言ってくれ」
提督「こちらとしても、できるだけ融通しようとは思うから」
龍鳳「あ、それだったら――あの、さっそくで申し訳ないんですけど、良いですか?」
提督「ん、かもーん」
龍鳳「えと、そんなに大事な話じゃないんですけど――」
龍鳳「…………新しいサイズの、胸当てが欲しいな……って」
提督「……胸当て? 戦闘の際に胸元を防護する、あの胸当てでいいんだよな?」
龍鳳「はい。あの、壊れたというわけではないんですけど――」
龍鳳「…………ちょっと、サイズが、合わなくなってしまって……もうちょっと大きいのが欲しいかな、って」
提督「あー、被弾で歪んだのか? いくら防護フィールド張ってるからって言っても、ある程度衝撃は通ってくるもんなあ」
提督「わかった、適当にこっちで見繕っておくよ。明日には届けさせよう」
龍鳳「あ、いえ、そういうわけではないんですけどぉ……いっか。ふふ」
提督「…………ん? どうした?」
龍鳳「いえ、なんでもないですっ。さ、潜水艦の子たちが帰ってくる前に、食べてしまいましょう?」
――――
――
提督「ひー、食った食った……ありがとう龍鳳。ごちそうさまでした」
龍鳳「おそまつ様でした。それではお皿の方お下げいたしますね」
提督「あ、それくらいは――」
龍鳳「提督はいいから、座っていてください。すぐに食後のコーヒーをお持ちしますから」
提督「…………むう」
龍鳳「もし手持ち無沙汰と感じるのでしたら、その……テーブルの左隣にある棚の、二番目にある引き出しの中でも眺めていてください」
提督「棚の引き出しィ? ……これか。――――ん。これは……手紙かな?」
龍鳳「はい。母から届いたものなんですけど」
提督「へえ――」パサッ
龍鳳「提督のことも内容に書かれていて。もしお暇でしたら、そちらを読んでいただいても――」
提督「――あっぶね、開くところだった! どうしてそんな危ないものを見せようとするんだ!」パッ
龍鳳「あ……お嫌いでしたか?」
提督「いや、好きとか嫌いとかじゃなくってな……。
だいたい、自分に来た手紙を他人に見せるってのもおかしいだろ。自然な流れで開きかけたわ」
龍鳳「わたしは気にしませんけど……」
提督「先生からの手紙って言ったらあれだろ、先生と龍鳳の間で俺のことを批評してるわけだろ?」
提督「俺の知らないところで俺の話してるんだろぉ? やめてっ! 知らないものは知らないままでいさせてっ」
龍鳳「変なところで怖がりさんなんですから。――さ、コーヒーの用意ができました。どうぞ」コトッ
提督「……さんきゅ」
龍鳳「ふふ、なにも入っていませんから」
龍鳳「こっちのクッキーはわたしが焼いてみたんですけど……。
いま、お菓子作りの練習中で。もしよければ、感想を教えていただけると嬉しいんですが……」
提督「お、本当か。最近頭使う機会が多くってなあ……甘いものが欲しいなって思ってたところだったんだ」
提督「…………はむ」サクッ
龍鳳「……いかがでしょうか?」
提督「――うん、味もしつこくないし、食感も楽しい」
提督「美味いな! これ本当に練習中か? 店の味と比べて遜色ないぞ!」
龍鳳「よかったぁ! たくさんありますから、どんどん食べてくださいっ」
提督「うん、うん……俺の好きな味だ。龍鳳は才能があるのかもなぁ」サクサク
提督「迷惑じゃなければだが、いくつか包んでもらっていいか? 仕事中とかにつまもうと思ってな」
龍鳳「はいっ、もちろんです! …………あのぉ、提督?」
提督「……ん? なんだ?」サクリッシュ
龍鳳「わたし、いまお菓子作りの練習中――と、さっきも言いましたけど……」
龍鳳「この間、お菓子作りの参考になりそうなケーキ屋さんを見つけたので……もしよければ、ふたりで――――」
ガチャ
榛名「失礼します。龍鳳さん、提督の姿が見えないのですが――」
提督「おう、榛名か」
龍鳳「あっ――」
榛名「あっ…………」
榛名「…………龍鳳さん」
龍鳳「…………榛名さん」
提督「…………?」
提督「榛名、そんな入口で立ち止まって……寒くないのか?」
榛名「……そうですね。――龍鳳さん、失礼します。提督、お隣失礼します」
龍鳳「ええ、どうぞ?」
提督「あ、ああ」
龍鳳「…………」
榛名「…………」
提督「……榛名? なにか用事があって来たんじゃないのか?」
龍鳳「たしかに。榛名さんはお忙しいでしょうし、あまりこんな場所に長居するわけにもいかないんじゃないですか?」
龍鳳「用事を済ませて早く戻ったほうが良いんじゃないですか?」
榛名「……ええ、その通りです。榛名は提督を探していたのですが、ようやく見つかりました」
榛名「提督? 憲兵さんがあと数十分ほどしたら帰られるそうなので、お見送りの準備をいたしませんと。さ、行きましょう」
提督「あ、そうだな――」
龍鳳「そんな人、放っておけばいいじゃないですか。さっきの技術者? さんだって、榛名さん一人でお見送りしていましたし」
龍鳳「その憲兵さんだけ、二人で見送るのもなんだか差別しているようで悪いですし、今回も榛名さんが一人でお見送りするのが良いと思います」
龍鳳「それに、提督はいま食後の休憩中です。ここ連日、提督はたいへん忙しくされていますから、“提督のためを考えて”ここでお休みになられるのが良いかと」
提督「いや、べつに見送りくらいは――」
榛名「そういうわけにもまいりません。技術者さんは急ぎの用事があるとおっしゃっていましたから、榛名が一人でお見送りしただけで――」
榛名「憲兵さんはそうではありません。それに憲兵の組合とは、今後のためにも縁を深めておいた方が“提督のため”になります」
榛名「…………榛名は“秘書艦”ですから。提督のことは誰よりも詳しく、誰よりも考えています」
龍鳳「…………」
榛名「…………」
提督「(ぽつーん)」
龍鳳「提督は体調が優れないようですから、あまり食後に動かれないほうが提督のためです。
無理して、その憲兵さんとやらをお見送りして、寒さにあてられて風邪でも召されたらどうするつもりなんですか」
龍鳳「だから提督はここでゆっくりお休みになられて……その間、榛名さんが一人でお見送りすればいいんです」
龍鳳「わたしは提督のお身体を第一に考えて、ついさきほども“わたしの手料理”を振る舞いました。
もちろん、提督の胃腸の弱さを知っていますから。あまりもたれずに、かつスタミナが補充できる料理を振る舞ったつもりです」
榛名「――――手料理?」
龍鳳「はい。こちらのクッキーも、こちらのコーヒーも、すべてわたしがいちから“提督のために”お作りしたものです」
提督「え、お菓子作りの練習って言って――」
榛名「……提督? そんなに気を遣わずとも、お夕食でしたら榛名に申し付けてくださればすぐにでも――」
龍鳳「提督は“わたしの手料理”をとっても美味しそうにお食べになられていましたよ。
“こんなに美味しいものなら、いくらでも――”と、言ってくださいました」
龍鳳「こうやって、ふたり隣り合わせで――」ギュッ
提督「あ、ちょっ」
榛名「…………」
龍鳳「…………」
提督「(……え、なに。おなかいたい)」
榛名「――そうでしたか。“いつもは榛名がお作りしているところを”わざわざありがとうございます。提督に代わりまして、榛名がお礼を申し上げます」
龍鳳「いえいえ、大したことじゃないです。むかしはよく、うちに来られて何度も夕食をご一緒しましたから」
榛名「……たしかに、大したことではありませんね。榛名も“毎日同じ家に住んで”、一緒のテーブルを囲んでいましたから」
榛名「――こういったふうに、朝から晩まで」ギュッ
龍鳳「…………」ギュッ
榛名「…………」ギュッ
提督「(なにこのほかほかサンドイッチ。いつもなら嬉しいのに居心地が悪い…………)」
龍鳳「……提督? さきほどのお手紙の話なんですが、そう悪い話じゃないんですよ?」
龍鳳「母も提督のことはすっごく気に入っているみたいで、いつも様子を訊ねてくるんです」
提督「え、あ、ああ。そうなのか」
榛名「――――先生が?」
龍鳳「はい。提督は個性の強い生徒だからと、いつも気にかけていて……。それはもう、“実の息子”のように可愛がっているみたいですよ?」
提督「はは、そうなのか……」
榛名「…………」
榛名「……榛名の父も、提督のことはいつも気にかけていますよ。先日、の、お手紙……みたいに――」プルプル
提督「お、おう。はは……」
龍鳳「――――神主さんが?」
榛名「……ええ。式を挙げる際にはぜひうちの大社で――と。ふふ、気が早いですよねぇ?」
龍鳳「…………そうだったんですか。金剛大社の雰囲気はうちの母もいたく気に入っていて――」
龍鳳「式を挙げるなら、親戚一同を呼びやすい金剛大社にしろと。行き遅れる前に早く身を固めろってうるさいんです」
龍鳳「まだそんな歳でもありませんし、毎日たいへんなのに……そんなこと言われたって困りますよね、提督?」
提督「え? あ、あー、たしかに艦娘だしな。ちょっと難しいよな」
榛名「…………」
榛名「榛名の実家――つまり金剛大社ですけど、昔から在る由緒正しい神社ではないですか」
榛名「ですが、榛名たちはみんな女性で……。跡取りが女性だと、いろいろ面倒みたいで――」
龍鳳「――榛名さん、知ってましたか? いまは、女性でも神主になれる時代なんですよ?」
提督「へ、へえ。そうなのか……」
榛名「…………ですが、やはり男性の跡取りが欲しい。とのことで」
榛名「提督さえ興味があれば、退役したあとにでも……ゆっくり時間をかけて、神主の仕事を教えてくれるとのお話です」
提督「か、かんぬし? う、うーん、興味はあるけどな……」
榛名「…………」ギュッ
龍鳳「…………」ギュッ
榛名「とにかく提督。あまりお待たせするわけにもまいりませんから――」グイッ
龍鳳「あ、ちょっと! 提督はまだ……っ」
提督「い、いや、悪い龍鳳! 個人的にも憲兵さんには話があるから、今日はここで失礼する!」
提督「クッキーありがとな! またゆっくりと食べさせてもらうことにする――――あぁぁ」ズルズル
榛名「――――龍鳳さん、おじゃましました」
龍鳳「…………ええ――ほんとうに」
――――
――
ここまでです。>>192-193の結果、恩師(学生時代の担任の先生)の娘は龍鳳になりました
いちおう、それなりに安価処理の構想も出来ているので気を長くしてお待ちください
すみませんすみません
AAスレとか学生の金剛姉妹とただいちゃつくだけのSSもいいなぁとか思ってAAの改変方法、官能表現とか探してたらこんなに日が経って・・・
結果としてAAは自分の頭じゃパンクするので見送りです。金剛姉妹といろいろするだけのスレはそのうちにします
急いで書かなくては・・・とりあえず、また完全オリジナル回です。たぶんあとちょっとでイ級は消化できるかも。またしばらくお待ちください
ガチャリン
提督「はっ……はぁっ……」
憲兵「…………なんだ、ずいぶん疲れているようだな。どうした」
提督「いえっ……っ……――憲兵どのがそろそろお帰りになられると聞いて、急いでお見送りにあがりました」
憲兵「……なんだ? 俺はそんなことを言った覚えはないが。――もしかして、遠まわしに早く帰れと言っているのか?」
憲兵「だとしたら悪かったな。こんな時間まで居座ってしまってな」
提督「いえいえいえとんでもない!! 風のお便りでそのようにうかがったもので……」
憲兵「……気にしていないが。いまはもう勤務時間外だ、気持ちの悪い敬語ばっかり使うんじゃない」
憲兵「それとも、ようやく今頃になって年上を敬う心が出てきたか?」
提督「まさか! ――まあ、お許しが出たんで気兼ねなく話させていただきますよ」
憲兵「まさかとはお言葉だ」
提督「まあまあ」
提督「それで、どうですか? 念願の、深海棲艦を目にした気分は」
憲兵「気分か? そうだな――――」
駆逐イ級「…………」
憲兵「――――あまり良いものではないな。造形的にも美しくないし、なにより……嫌なことを思い出しちまった」
提督「…………」
憲兵「それにしてもこいつは、ずいぶん透き通った瞳をしているんだな。
資料で見た深海棲艦はもっと、こう、憎悪を飼っている気がしたんだが。まるで憑き物が落ちたかのようだ」
提督「あーそこですか。今でこそ“こう”ですが、こいつが来たばっかりのときはもっと変な眼をしてたんですよ」
提督「うちの艦娘に協力してお祓いをしてから、こうなったんです。邪念が消えてスッキリしたんですかね?」
憲兵「フッ、“お祓い”か。……ゴーストバスターズでも名乗ったらどうだ。きっとありがたがられるぞ」
提督「あこぎな商売は好きじゃないんです。そういうのは学生時代だけで十分ですよ」
憲兵「学生時代――そういえば、お得意のラジオ放送はどうした。ついに打ち切られたか?」
提督「三日間のバカンスです。おかげさまで事務作業が捗って仕方ないですよ」
憲兵「最高じゃないか。……ま、知っているがな」
駆逐イ級「…………」コポコポ
憲兵「…………なあ」
提督「なんでしょう?」
憲兵「いや……。――あの技術者が言ったこと、覚えているか?」
提督「うーん……だいたい聞き流してましたからね。どのあたりでしょうか?」
憲兵「……この深海棲艦が、“生まれて間もない状態”というあたりだ」
提督「あー言ってましたねそんなこと。……それが、どうかしましたか?」
憲兵「余計な探りを入れるな、うっとうしい。――お前は、深海棲艦の出所については何と聞かされていた?」
提督「…………そうですねぇ。諸国の様々な文化の違い、思想の相違から。国々が冷戦状態に置かれて、一触即発状態のなか――」
提督「“海を割って、突如として現れた無差別殺戮兵器”としか聞かされていませんでしたねぇ」
憲兵「……生まれて間もないっていうのは、どういうことなんだろうな。深海棲艦は超常の存在とは違う、と暗に言っているようにも聞こえたが」
憲兵「俺は陸の勤務だから深海棲艦のことはよく知らん。考えても暗い海の底へ――だ」
憲兵「この駆逐を、ずっと眺めていてもわからなかった」
憲兵「対深海棲艦のスペシャリスト様は、どういったふうにお考えなのか、非常に気になるところだが?」
提督「…………うーん。そうですねえ」
提督「――憲兵さんは、“想いの力”って信じますか?」
憲兵「……想いだぁ? おいおい、えらく突飛な発想だな。そんなもの、念じるだけで変化が起きるわけがない――と、昔なら一蹴していたが」
憲兵「こんなバカげた連中がいるくらいだ。まあ、あることにはあるんだろう……それで?」
提督「自分も、あんまりそういったオカルトは信じないタイプなんですが。まあ……家庭環境的に、どうしても昔っから信じざるをえないわけで」
提督「たとえば。植物状態で、もう二度と目覚めないであろう人間が……大切な人の声を聞いて目覚めるだとか。そんなのです」
提督「“澄み切った純粋な意識”は、人間を通して、力をこの世に発現させるわけです。
まあ実際は、眠っている人間の力がなにかのキッカケで目覚めたとか、そんなところなんでしょうが――」
提督「いま挙げた例はプラスの意識ですけどね。……プラスがあるってことは、マイナスも当然存在するというわけで」
憲兵「マイナスの意識か」
提督「ええ。さっきも話しましたよね? “お祓い”って。
お祓いによって祓われる邪念って、“澄み切った純粋な意識”の一つでもあるんですよ」
提督「後悔、憎悪、嫉妬――まあ、なにに起因するものかは知りません。知りたくもないですし」
提督「…………この、駆逐イ級」コンコン
駆逐イ級「…………」
提督「お祓いしたって言ったじゃないですか。放送も聴いてらしたと思うんですけど、お祓いするまでは霊障とかヒドかったんですよ」
提督「部屋中わっけわかんないこと書かれた紙が舞ってますし、窓も割れるし机も揺れる。さんざんでしたね」
憲兵「――ああ、あのあとそういうことになっていたんだな」
提督「ええ。まあ、これは霊障のなかでもさほど大きなものではないんですが……」
提督「本体――この駆逐イ級ですね? を見つけてひっ捕まえて、お祓いの儀式を執り行ったんです。そしたらピタリ」
提督「この可愛らしい目つきだって、最初はムカつく眼でしたよ。諦観を決め込んだ眼しやがりましてね」
提督「……――なんとなく、察しがついてきました?」
憲兵「…………」
憲兵「いや、おぼろげだな。つまりお前は、深海棲艦はその“マイナスの想い”から生まれる存在……と、そう言いたいわけか?」
提督「ん……当たらずとも遠からず、ですかね。“想い”だけの存在だったら、お祓いした段階で消滅するはずです」
提督「だから、あくまで“想い”はトリガーではないかと。そう思っています」
提督「そう、例えば――身近な例でたとえましょうか」
提督「たとえばそう、もし“艦娘が死んだら深海棲艦になる”としたら――」
提督「……まあ、キッカケとなる想いはなんでもいいです。敵への恨み、味方への想い、上官への辛み」
提督「――――迎えられなかった、無念」
憲兵「…………っ」
提督「もし、艦娘が死すときに、その“澄み切った純粋な想い”が、周囲に影響を及ぼすとしたら」
憲兵「…………艤装か」
提督「ええ。想いが溢れて、艤装を変容させる……まあ、あくまで“仮定”の話ですよ?」
提督「人の思念が艤装を包み込んで、長い年月を経て変質させる――。
物言わぬ骸と化した艦娘に代わり、意識を獲得した艤装が人を取り込み、想いのままに暴れ回る。質量を持った悪意となるわけです」
提督「とくに、艤装を駆って戦う彼女たちの想いは、一般の人間と比べると大きいものですからね」
提督「…………まあ、しつこいようですが“仮定”です。ですがこれなら、お祓いをしたあと嘘のように大人しくなるのも納得いくか、と」
提督「超常なる存在には、超常なる理屈を当てはめよう、ということでひとつ」
憲兵「……ふん、かたちを持たない“想いが溢れて”――か」
憲兵「あまりにも飛躍しすぎているな。根拠はあるのか?」
提督「いえ? あくまでお得意の“こじつけ”でしかありませんから、根拠なんてありません。なーんとなくそう感じただけです」
憲兵「……そうだろうな。そんなことがあってたまるか。だいいちに、深海棲艦の方が先に現れたのだから、艦娘が深海棲艦になる――というのはな」
憲兵「深海棲艦に対抗すべく開発されたのが艤装であり艦娘だ。その理屈だと、ルーツが逆になってしまっているではないか」
提督「はは、おっしゃる通りで」
提督「(――にしては、深海棲艦が現れてから艤装を開発するのが早すぎるんだよなあ……)」
憲兵「それに、お祓いでどうにかなるなら、戦場海域に祈祷兵団でも連れて行けばどうだ。一網打尽だろう」
提督「まあ、お祓いっていうのはあくまで受ける側が静止していないと執り行えませんから
提督「自由気ままに暴れまわる深海棲艦を相手にそれは、ただ首を差し出しているだけかと」
憲兵「……ふん。言ってみただけだ。いずれにせよ、国のために戦う艦娘の成れの果てが……こんなモノでいてたまるか」
憲兵「そうだ。味方に撃たれて死んで、死んでからも味方に撃たれるなんて……考えられん」
提督「…………」
提督「……そういえば、あいつに会いましたよ。ずいぶん久しぶりでしたけど」
憲兵「…………なんのことだ?」
提督「あいつとは顔を合わせたこともないですし、スクリーン越しの会話しかしたことありませんでしたけど」
提督「ドタバタ突っ込んできて、引っ掻き回すだけ引っ掻き回して、最後には“ありがとう”と言って消えていきましたよ」
憲兵「――――」
提督「あいつは優しいから、きっと“明るくてきれいなところ”にいったでしょう」
提督「まさか、いの一番にこの鎮守府を訪れるとは思いもしませんでしたけどね。…………嫉妬しました?」
憲兵「…………っ」
憲兵「……お前みたいな悪い男に引っかからないようにするのが、俺の役目だったんだがな」
提督「引っかかっちゃいましたね」
憲兵「あいつが死んですぐ、あのクソ提督を連行してやった。……あと少し、あと少し早ければ……」
憲兵「おとなしく連絡娘として務めていればよかったものを、あのクソの口車に乗せられて潜水艦娘なんかになりやがって。適性だってなかっただろうに」
提督「…………」
憲兵「……そうか、最後はありがとうと言っていたか……それだけで、今日来た甲斐があった」
提督「満足されましたか?」
憲兵「この上なくな。…………だが忘れるなよ、俺はお前みたいな立場の人間をしょっぴく立場だ」
憲兵「たとえ妹が世話になったとて、余計な情には流されん。それが俺の、唯一の信条だ」
憲兵「こうしていまは仲良くさせてもらっているが、有事の際には遠慮なく連行させてもらうぞ」
提督「おっと! 構いませんよ。こちらとしても、腹は痛いですが肚は痛くないものですから」
提督「お天道様の下を、諸手を振って歩けるくらいには善行を積んでいるつもりです」
憲兵「……それではこの間の放送。潜水空母の娘をまさぐっていた件に関しては、どう説明するつもりだ?」
提督「おっと心外ですね! そんな認識はありませんし、自分としてはよくあることで……」
提督「パワハラと言われるならまだしも、セクハラなんてとんでもございませんっ!」
提督「そんな認識はないし、そんな嫌疑をかけられてしまっては、相手も戸惑ってしまいます! まさかそんなふうに思われるだなんて……驚きですよ!」
憲兵「…………世田谷出身の番組司会者が、むかしそのようなことを言っていたな」
提督「ええ、オマージュです! ……ですが、自分は真っ白柔軟剤ですよ」
憲兵「願わくば、公の場でお前のそんな言葉は聞きたくないものだ」
提督「ええ、ご安心ください。信用がすべての世界ですからね!」
憲兵「……ふっ、本人が言ってもなんの説得力もないよ」
提督「おっしゃる通りで」
憲兵「……潜水艦が、ブラックだと騒いでいたが」
提督「冗談に決まっているでしょう……潜水艦娘に対するうちのホワイトっぷりはあなたも知ってのとおりだと思いますが」
憲兵「――ふう。まあ、そうか……巧妙に隠蔽するやつが多いものだからつい、な」
提督「……まあ、そうですねぇ」
憲兵「…………ライター持ってないか」
提督「あいにくと禁煙でございまして」
憲兵「……そうだったな」
憲兵「…………――さて、ずいぶんと長居してしまったな」
憲兵「俺はもう帰ることとする。見送りはいらんからさっさと床に就くといい」
提督「いやあ、これでも忙しい身でしてね。これからまた見回りです」
憲兵「……そうか。それではな」クルリ
提督「…………どうされましたか?」
憲兵「いや――」
憲兵「普段、我々は心に蓋をして生活している。心が臭いものとは皮肉なものだがな」
憲兵「さきほどのお前の理屈、お前の理屈で考えれば――」
憲兵「深海棲艦は、剥き出しの感情。想いの塊のような存在なんだな」
提督「…………ん。まあ、そうなりますね。あくまで仮定の話ですけど」
憲兵「そうか…………」
憲兵「まさに――“ありのままの姿 見せるのよ”といったところか」
提督「……――アンタの入れ知恵かあああああああっ!!」
憲兵「それではさらばっ」ヒュバッ
提督「待てぇい! ――――速いなっ!?」
憲兵「ふはははっ! それでも艦娘を率いる一軍の将か!!」ダダダダ
――――
――
明石「あ、提督。おはようございます!」
提督「ああ、おはようございます。久しぶりによく眠れましたよ」
明石「最近いろいろありましたからねぇ。……それで、本日はなにをお求めですか?」
提督「えっとですね。胸当てって置いてありますか? これよりもう少し大きなものなんですけど」
明石「胸当て……ですか。ちょっと貸してみてください」
明石「…………ああ、これは龍鳳ちゃんのですか? ちょっと前にお渡ししたものですね」
明石「とくに傷や歪みもありませんし、まだまだ使えますよ?」
提督「いや……。いろいろあるみたいです。サイズが合わなくなったんだとか」
明石「サイズが合わなく――あっ、なるほど。わかりました、ちょっと待っててくださいね。コンピューターで調べますから…………」カタカタ
提督「おおすごい、それだけでわかっちゃうもんなんですね。俺なんかさっぱりだったのに」
明石「いやまあ、提督は…………ほら、いろいろありますから」カタカタ
明石「――あった。提督、胸当ては酒保の商品ではなく格納庫の方に備品として置いてありますので、そちらの方へお願いします」
明石「この番号と同じものです。もしわからなければ、隅っこのほうに夕張ちゃんがいると思いますので、そちらに聞いてみてください」
提督「え、夕張ですか? ……格納庫ですよね? 工廠じゃなくって?」
明石「はい、格納庫です。実は夕張ちゃん、兵装開発の実験を手伝ってもらっているときに、開発の“いろは”を教えたらすっかりハマっちゃいまして」
明石「最近じゃもうずーっと格納庫で工具をいじくりまわしているようで……」
提督「あー……わかりました」
明石「正直、あまり格納庫を弄られるとごっちゃになって辛いんですけど……まあ、そのうち飽きるでしょうしね」
明石「なんだか、独自に開発技術を持っている方々にいろいろ伺っているみたいですよ。航空母艦のかたとか、航空戦艦のかたとか……」
提督「へえ……熱心なんですねえ。わかりました、ありがとうございます」
明石「それより提督、明日明後日と大忙しですね。明後日にはラジオ放送が再開されますし、明日には……」
提督「ええ。……あ、そうだ。明日なにか買ってきてほしいものとかありますか? 街に出る機会なんてそう多くないですし、いまのうちに」
明石「ああ、そうですねえ…………うーん、いざそう言われるとなかなか思いつきませんね」
提督「はは、まあそういうもんですよねぇ」
明石「――あっ、それじゃあちょっと材料を買ってきてもらえますか? いまリストにしますので」
提督「材料……うーん、あまり大がかりなものなら取り寄せますけど――」
明石「いえ、違うんです。明後日の放送、あの子たちがゲストですよね? でしたら、せっかくなのでこういったものを……」サッ
提督「……ああ、なるほど。わかりました、これなら両手で持って帰れますね」
明石「はい。……――あ、提督。明日は榛名さんと一緒に行かれますか?」
提督「……? ええ、そのつもりですけど」
明石「でしたらその…………ぜひ、個人的にお願いしたい買い物があるんですけど」
明石「若者の女の子向けのお店ですから、提督に頼みづらいもので……」
提督「…………なんですか?」
明石「――ピンクのマシェリですぅっ!」
提督「ぶっ!」
ここまでです(小声)
ちょっと完オリ回多すぎて誰得になってるのは本当に申し訳ないと思っております。はやいところ安価を消化しなければ・・・
-=≡ _ _
-=≡ ( ゚∀゚) _, ,_
-=≡ ⊂ ⊂ (`Д´ ∩ < ヤダヤダ
-=≡ ( ⌒) ⊂ (
-=≡ c し' ヽ∩ つ バタバタ
〃〃
トゥートゥートゥマシェリー
_ _ ∩
( ゚∀゚)彡 _, ,_
⊂ ⊂彡 (゚Д゚ ;∩ !!
( ⌒) ⊂ (
c し' ヽ∩ つ
〃〃
マーシェーリー
_ __ ∩ ∩ __ _
( ゚∀゚) 彡 ミ(゚∀゚ )
⊂l⌒⊂彡 ミ⊃⌒l⊃
(_) ) ☆ ☆ ( (_)
(((_)☆ ☆(_)))
提督「とぅーとぅーとぅましぇりーまーしぇーり~」
提督「(鈴谷を思い出してつい笑ってしまったが、ピンクのマシェリは艦娘の間で最近流行っているらしい)」
提督「(ピンクのマシェリで洗ったら――。一本一本、なびく、光る。プラチナヴェールの、グロス髪)」
提督「(愛しいきみにすべてをあげる。だから僕のそばに来ておくれ。car je donne――シェリーに口付けを)」
提督「(どうやら俺の広報効果らしい。これもう販売元から金貰えるな。さすが俺)」
提督「(しかし、このへんの工廠エリアは、朝になるととくに冷え込むんだな……骨の髄まで刺されるみてぇだ)」
提督「(出撃がないってことで、一部の艦娘はまだおねむらしい。そして、これからもしばらく出撃の予定はない)」
提督「(どうやらうちのラジオは各家庭に好評らしく、その評判が歩いてか、うちに子どもを預けていない家庭も配信を希望しているらしい)」
提督「(自分の子の環境が良いか悪いかは、よその鎮守府の雰囲気も知らないと比較できないから、そういう意味もあるのだろう)」
提督「(配信二回目にして幽霊騒ぎがあったというのに、たったの三日で復帰できるというのもそのためだ。
すでに聴取している家庭による再配信の声が大きく、そう簡単に放送を打ち切るわけにもいかんのよ――というのは、元帥の談)」
提督「(今月中から来月までの間は、クソ元帥がうちの鎮守府の代わりに護衛任務などを請け負ってくれるそうだ)」
提督「(俺としては、よその鎮守府もこんなラジオ放送をやっていたというのが驚きだが――まあ、よく考えてみれば至極当然のことだろう)」
提督「(正直、知り合いが勤めている鎮守府の放送はちょっと気になる。希望を出せば受信できるのだろうか)」
ガラッ
提督「(うおっ……こりゃまたずいぶん散らかってるなぁ。明石さんも困るわけだ)」
提督「(足元避けて…………と)
提督「ええっと、番号番号…………胸当てとかの防具類はこっち、かな?」
提督「ここか。えー……――あ、龍驤さんじゃないですか」
龍驤「――お? なんやキミか。えらい珍しいところで会うたもんやな」
提督「はは、どうも。龍驤さんも、なかなかお早いんですね」
龍驤「ウチら航空母艦は艦載機の調整もあるからなぁ。朝には強いほうなんや」
龍驤「小さい子らとかがおれへん明け方なんかは、いっちばんやりやすいからなぁ。誰もおれへん鎮守府の空を飛ばすのも気持ちええもんやし」
提督「たしかに。言われてみれば鳳翔さんはもちろん、赤城さんや翔鶴さんもだいたい朝早くから起きてますもんね」
龍驤「そっ。出撃はなくても、お互いに切磋琢磨し合って頑張っとるんや。
それに、明石がつくった新しい兵装の検査なんかもだいたい早朝にやるしね。装備の調整をするにはええ時間なんや」
龍驤「隼鷹なんかはラジコン飛ばしたりで遊んだりしよるで。忙しい毎日のなかで、趣味の時間に使える唯一の時間なんよ」
提督「……なるほど。裏ではそんなことをやっていたんですね」
龍驤「ま、キミは執務室に缶詰やからなぁ。ウチらからしたらそっちの方が面倒やけど――っと」
龍驤「キミはどないしたんや。こんなごっちゃごちゃしたトコまで来て」
提督「ん、自分ですか? 自分はちょっと、胸当てを探しに来ましてね」
提督「最初は明石さんトコ行ったんですけど、酒保にはないから格納庫にって――これ、わかりますか?」
龍驤「なんやコレ。……あーはいはい、ちょっと待ちぃな。もうちょっと奥のほうやわ」
提督「お願いします」
龍驤「ほいほいお待たせ。えらいおっきな胸当てやな。……――もしかして、榛名かぁ? うりうり~」
提督「違いますよぉ……榛名のあの衣装に胸当て着けたら、色合いが赤城さんみたいになるじゃないですかぁ……」
提督「じゃなくって、これは龍鳳ですよ。
なんか、前使っていたものが合わなくなったらしいです。いろいろ世話になったので、自分が適当なものを見繕おうかと」
龍驤「あーあの子か。……あの子まだ成長期なんかいな。まったくもって羨ましい話やでホンマ……」
龍驤「……てか男に胸当て選ばせるて、サイズ教えた言うことか? ……いや、前の胸当て貸しとるし、そないいうことないか……」
提督「お、龍驤さんもわかるんですか。なんか明石さんもさっと理解してましたけど、自分はいまいちなんですよねぇ」
提督「前のものが歪んだわけじゃないみたいですけど。龍驤さん教えてくれません?」
龍驤「あーキミはほんまにアレやな。ヤバいな」
龍驤「もうヤバさしかないわ」
提督「そこまで!?」
日向「――なんだ、なにかと思ったら提督か。君がいるとどこでも賑やかになるんだな」
龍驤「おう、日向かいな」
日向「やあ、龍驤さん」
提督「ああ、日向さん。こんなところで奇遇ですね。日向さんも艦載機の調整とやらですか?」
日向「まあ、そんなものだ。しばらく出撃がないとはいえ、艦載機のケアはちゃんとしておかねばな」
日向「たまには航空母艦のみんなのように艦載機をビュンビュンさせてみたいが。本格的な艦上機が積めないのは残念だ」
龍驤「まあ、大型戦艦モデルの艤装に水上機を積むってだけでも相当ムチャしとるからなぁ」
提督「航空戦艦の人たちの処理能力あってこそですからね。水上爆撃機だけでも相当すごいですよ」
日向「その水上爆撃機もだが、もっと複数積んでみたいものだ。扶桑たちなどはつい最近改装を受けたからか、搭載数も大幅に増えたようだし……」
日向「水上機の運用ならば、決して遅れを取らない自信はあるのだが。――ああ、晴嵐の載せ心地は最高だったなぁ」
提督「(あ、結局載せたんだ……)」
龍驤「まぁなぁ、そこはウチらのお株やな。ただでさえ最近は出番が薄いっちゅーのに……」
龍驤「戦艦組が、航空戦でも獅子奮迅の働きをし始めたらウチらの仕事なくなってまうわ」
日向「むろん、それは理解しているのだが……なあ、提督よ。せめてどうにかして艦上機も積めないようにはならないだろうか」
日向「いまなら飛行甲板が一枚ついてきてお得だぞ」
提督「いらないですよそんなもの……だいいち、そんなことを言われても如何ともしがたいです」
龍驤「そもそも、そない飛行甲板増やしてどないするつもりやねんな」
日向「最終的には、飛行甲板を戦艦ル級のように構えるつもりだ」
龍驤「盾やんけそれ!」
日向「飛行甲板を放って突撃――――これだ」
提督「“これだ”じゃねーです。発着どうするんですか」
日向「…………まあ、どうにかなる」
龍驤「(…………ウチは式神術やからアレやけど、赤城みたいな硬い飛行甲板なら普通に強そうやと思ってしもたやんけ)」
日向「(飛行甲板を改造して、バヨネット(銃剣)のように使ってみるのも一興だろう?)」
龍驤「(思考を読むのやめーや! ていうか飛行甲板を武器にしたらセルフ中破やんけ!!)」
日向「瑞鳳に頼み込んで、その暁には艦載機を貸し出してくれるか交渉中だ。……瑞鳳自慢の天山、彗星――くっ、考えるだけで胸がアツいな」
龍驤「よそ様のネタをパクったらアカンよ」
提督「なんで瑞鳳――と思ったけど、あいつ押しに弱いもんなぁ……」
龍驤「どうせいつもみたいに、壁際に追い詰められて了承させられたんやろなあ。…………あの子も気の毒に」
提督「ああ、“壁ドン”ですか。女子が憧れるシチュエーションみたいですね」
龍驤「アホ言え、同性にやられても怖いだけや!」
提督「…………一部、喜ぶ艦娘もいますけれど」
龍驤「あいつらと一緒にしぃな。あれは特別や……瑞鳳はあんなんとちゃうで。もっと可愛らしぃ子なんやから」
提督「あー。成年組のなかでも、唯一と言っていい小動物系ですからねぇ……」
夕張「そうですよ、提督!!」ニュッ
提督「うわっ、どっから出てきた!」
龍驤「いやぁキミそれはひどいで……」
提督「いや、毎回こいつどこから出てくるかわからないんですよ。この間なんか俺の枕カバーから生えてきましたし……」
龍驤「そらアカンわ。人間かどうかもわからん」
夕張「…………わたしに対する風当たり強すぎませんか」
提督「だってお前、新兵装のテスターだけじゃ飽きたらず、ついには自分で新たな装備を造り出そうとしてると聞いたぞ。そりゃ風当たりも――」
日向「やあ夕張。悩みは解決したのか?」
夕張「日向先生っ!」
提督「…………」
龍驤「(またなんか始まりよったで。通称“日向劇場”)」
提督「(まーた夕張が感化されてしまったのか)」
夕張「それがいまひとつなんです。やっぱり直接入手して調整しないと難しいみたいで……」
日向「そうか……。夕張、君の研究に全てが懸かっている。革新的と言ってもいい。
我々航空戦艦はもちろん、航空母艦や巡洋艦各種――この鎮守府の未来が、その双肩にかかっていると言っても過言ではないだろう」
龍驤「いや、なんやわからんけど過言やと思うで」
提督「日向さんが絡んでるときはたいていろくでもないからなぁ……」
日向「かくいうわたしも君には期待しているよ。生まれや故郷、歳や艦種は違えど通ずるものがある――そう信じている」
日向「君が悩めるときにはともに悩み、君が歩むときにはともに歩もう」
夕張「日向先生…………っ!」ガシッ
日向「夕張…………!」ガシッ
龍驤「あかん聞いとらんわ」
龍驤「なあ、今さらやけどね……なんでこの鎮守府ってこんな変なやつばっかなんや」
提督「いや…………自分に言われてもわかりませんよ。なるべくしてこうなったと言うしか」
龍驤「そっかぁ……。やっぱりトップがトップやっちゅーこっちゃな」
提督「…………どういう意味ですか」
龍驤「にししっ! さぁね! ほなウチはここで失礼させてもらうわ。なんかあったらいつでも呼んでね」
提督「あ、はい……あれ? 龍驤さんもなにか用があってここに来たんじゃないんですか?」
龍驤「んーん。ここにはなかったみたいや。……まあ、明石さんにでも相談してみるから気にせんとってぇや」
龍驤「それよかキミ。胸当てはちゃーんとしたカワイイものを選んでやるんやで?
柄かてそこそこあるし、いくら戦いとはいえ、オシャレできるところではオシャレしたいモンなんやから」ツンッ
龍驤「(それに龍鳳のやつ、提督が選んだものやったらどんなんでも喜んで着けるやろし……な)」
提督「は、はい! 了解です!」
龍驤「ん、わかればええんや。ほなキミも、変な航空戦艦病に感染する前に避難するんやで~」ヒラヒラ
提督「はい、それではまたー!」
日向「どうだろう、ここはひとつ策を講じてみるのは……」
夕張「もはや致し方なし、ですね。強硬策に出るしかないでしょう」
日向「うむ。時間帯としてはそう、人が集まるあの時間に――――」
提督「…………たしかに、よからぬ気配がするな。早いところ選んで次に行くか」
提督「(とりあえずこれを龍鳳のロッカーに入れといて……と。これで妖精さんが運んでくれるはず)」コトン
提督「(しかし胸当てと言えども、その種類の豊富さには驚いた。さすがにキャラ絵のものはなかったが……。
花柄やチェック柄、レオパード柄にストライプ模様。……正直、男の俺にはどれも大差ないように思えた)」
提督「(とりあえず、頭の中で龍鳳のイメージを思い浮かべて着せ替えして、これなら――というものを選んだ)」
提督「(大空を舞う鷲の影絵と、ワンポイントのフリージア。――正直、俺の好みのビジュアルだっただけ。本当に俺が選んでよかったのか……)」
提督「(あの子に関しては、榛名と違っていまひとつ考えていることがわからない。
もともと引っ込み思案な子だったが、ここに来てからずいぶんと明るく、積極的な子になった気がする)」
提督「(親元を離れてか、心細くなって知り合いを頼る――ような歳でもないか。もういくつだ? ハタチ前後か?)」
提督「(でも、それにしては妙に榛名に噛み付くような……と思えばときどき結託しているような素振りもある。よくわからん)」
提督「(…………ただ、やわらかく育っているのはわかった)」
提督「…………さて、と」
提督「(間宮さんのところにも寄ったし、今日の用事は済ませた。あとはちょっとした事務作業で、今日一日はおわりっ)」
提督「(とりあえず、明日のためにも今日は早く寝なくっちゃな。久しぶりに遠出するから……)」
提督「(三人はすでに現地入りしているようだし。いちおう、知り合いに遭遇したときのためにいろいろ持っておくか……名刺とか)」
提督「(というか最悪、大量に囲まれて質問攻めを受ける可能性も……一応、回答集のパターンは頭に入れておくか)」
提督「(…………財布――現金だとアレだし、カードにしておこう。あ、カメラ――はいいんだ。向こうで撮ってもらったものを送ってもらうんだった)」
提督「(車も手配しておくか。――さて、今日の事務作業。ちゃちゃっと済ませてしまいますかっと)」
――――
――
提督「えーっと……たぶんこの辺にいるはず…………」
提督「(時刻はマルキューマルマル。場所はいつもの鎮守府ではなく、人の行き交う街の広場)」
提督「(休日の朝。待ち合わせだろうか、周囲を見回しながら時計を気にする人間が多い)」
提督「(鎮守府がら遠く離れた、街の一角。目印となる大時計が設置されているからか、待ち合わせに利用する男女が多いようだ)」
提督「(視線を左右に泳がせている人間ばかり。なんとなくふわふわした広場だ)」
提督「(かくいう俺もその一人。この大時計の真下にて、大切な秘書艦と待ち合わせをしている)」
提督「(一緒に出ればいいじゃないか、と彼女に提案したところ。珍しく頑なで、“待ち合わせ”ということにこだわっていた)」
提督「(どうせ行く先も帰る先も同じなんだから、一緒に出ればいいのに……)」
提督「(でも、榛名が頑なになることはあまりないことだから。榛名にとって譲れないラインがあったのだろう)」
提督「(…………なんとなく、景色に溶けて榛名を探していると、学生時代に戻ったような錯覚に陥る)」
提督「(この数年間で、ずいぶん遠いところへ来たものだ。運に恵まれていたし、人にも恵まれていたんだろう)」
提督「(はああ…………しかし変わらないもの、“ラジオ放送”。どうすっかねえ……)」
提督「(ヘタに幽霊騒ぎで間も空いて、さらにご新規が大量に視聴を始めるしな……。
幽霊騒ぎを引きずっていないように明るく振る舞うべきか? いや、逆に勘ぐられる可能性も……)」
提督「(それに、放送再開一発目。なにかインパクトのある放送しなきゃなあ。ムダに期待されているようだし)」
提督「(つっても、うちの鎮守府に子どもがいない家庭にもインパクト、かあ……)」
提督「(関わりのないところにもインパクトなんて、難しいよなあ……」
コソコソ
提督「(うーん…………)」
榛名「――ぁ、てっ、て、提督っ! おま、お待たせしましたっ!」
提督「(いや、べつにプロのMCみたくさ、面白い放送しなきゃってワケじゃねぇけどさぁ)」
提督「(やっぱり人に聞かれてる以上、それなりに“聴ける”放送にしたいって思うことは仕方のないことで……)」
榛名「あ、あの? てーとく?」
提督「(うちにいる艦娘の保護者だって聴いてるわけだしさぁ、楽しい鎮守府だって証明したいじゃん)」
提督「(和気藹々とした、アットホームな職場! 未経験者優遇、やりがいのある職場です! ……これはブラック企業か)」
榛名「…………て、てーとくぅー?」
提督「(べつに保護者がなんだってワケじゃないけど。あんまりブラックな職場だと、保護者たちの鬼電による攻撃が凄まじいからなあ)」
提督「(鬼電は最悪ガン無視できるけど、艦娘にその話が知れ渡ったら士気が落ちるどころの騒ぎじゃないし……)」
榛名「…………むー」
提督「(うちの鎮守府がブラックかどうか、というのはあまり関係がない。保護者の方々に“ブラックだと思われるかどうか”が大切なのだ)」
提督「(一度ブラックだと思われたら最後。灰色がかった色眼鏡でうちを“視られる”ことになるからだ)」
榛名「…………」キョロキョロ
提督「(それからは、どれだけアピールしようが取り繕っているようにしか見えないわけで……)」
提督「(あんまり各家庭からの声が大きくなると、大本営も動かざるを得なくなる。虚が実になるというわけだ)」
榛名「…………だれもみてませんね」
提督「(正直、うちの鎮守府ほどホワイトなところはないと思っている。もしうちが潰れれば、いまいる艦娘が最前線に送られることもあるだろう)」
提督「(うちの艦娘が、深海棲艦になった姿は、絶対に見たくない)」
榛名「……――んっ」
提督「(にしても今は榛名だ。さすがに待ち合わせの三十分前は早すぎたか……――ん?)」
榛名「――――」チュー
提督「…………あ?」
榛名「…………」パチクリ
提督「――うわっ!! 近ぇ!!」ビクッ
榛名「――ぴっ!? ひえ、ひっ…………ひゃあっ!!」ズザザザ
提督「う…………っわ!? 榛名かぁ!? …………どうした?」
榛名「い、いいいっ、いえっ! なんっ、なんでもっ! なんでもないんですっ!」
提督「そ、そうか……。――はは、すっげぇビックリした。驚かせようとしてくれてたのか?」
榛名「は――、はいっ! そうです! その通りですっ!!」
提督「お、おう、もう十分驚いたから……」
榛名「ほんとうに、ほんとうなんですからっ」
提督「わかったわかった。――うっし、そんじゃ行くか! ここからそう遠くないところだしさっと歩いちゃおう」
提督「帰りは車を手配してもらってるから、それに乗り込んで帰るぞ」
榛名「わかりましたっ。…………それにしても人、多いですね」
提督「まあ、休日の九時となったらこんなもんだろ。俺たちはあくまで仕事の一環だけどな」
提督「…………でもそうだな。たしかに人が多い。はぐれると面倒だし――」
提督「――榛名」
榛名「はいっ」ギュッ
提督「…………よし、行くか」
榛名「…………はいっ」
がや・・・
がや・・・
がや・・・
提督「…………」キュッ
榛名「…………」キュッ
提督「(繋いだ手は離さないように、行き交う人の波をぬって進む)」
提督「(年が明けて間もないからか、学生らしき団体やカップルがちらほら。
この時期は大型量販店や、服飾店などの品ぞろえが豊富で、見て回るだけでも楽しいということなのだろう)」
提督「(さすがに薄れてきているが、“新年明けまして”という雰囲気が漂っている。午前とはいえ、派手な飾り付けの店舗が目立つ)」
提督「(お正月飾りに門松、新年の挨拶を記した掛け軸に、羊の姿をかたどった電飾――どれも色とりどりで目が忙しい)」
提督「(わっ――紙ふぶきだ! いきなり顔に向かって飛んできたものだから、ずいぶん驚かされてしまった)」
提督「(手に、変な力みが加わってないだろうか?
こっそり横目で榛名を見やると、どうやら彼女も同じだったらしい。互いに顔を合わせて苦笑する)」
提督「(いい大人が二人して、紙切れ一つに驚かされるとは……紙ふぶきめ。なかなかどうして侮れない)」
提督「(ショーウィンドウに指をさしながら、あれやこれやと談笑するカップルの姿。
鼻の頭を頬と同じに染め、互いのパートナーに笑顔を向け、楽しげに笑い合っている)」
提督「(カップル、とは違うが……――その姿が、ふっと昔の自分の姿と重なった)」
提督「(金剛大社は、全国でも知られた大きな神社)」
提督「(年末年始のシーズンは忙しくて、榛名も俺も走り回りっぱなしだったが――)」
提督「(まだ若いから――と、金剛大社に勤めている大人たちが気を遣ってくれて。毎年、ちょっとした時間を作ってくれる)」
提督「(そういうときは、いつも街に出ていた。
さすがに、往復の時間だってかかるし、あまり長時間空けるわけにもいかないから、じっくり物色することはなかったけれど)」
提督「(立ち並ぶショーウィンドウ。煌びやかな店内を冷やかすだけでも、すごく楽しかった記憶がある)」
提督「(決して、地元が田舎だというわけではない。だけど街に来ると、不思議な高揚感に包まれるのだ)」
提督「(普段、内に秘めていた衝動も、この雰囲気に突き動かされるんだ)」
提督「(いつからだったか。いまのように、こうして手を繋いで街へ出るようになったのは)」
提督「(手が冷たいから、温もりを分けてほしい――と。気づけば、指と指を絡めていた気がする)」
提督「(ふふ、それはしっかり思い出せる。たしかに、おそるおそる、指を絡めた瞬間――心臓が猛烈に鳴り出したから)」
提督「(寒さに震えて手を繋いだのに、今度は熱さで震え始めたんだ。傑作だ――繋いだあとのことは、正直覚えていない)」
提督「(ただなんとなく、その日はお互いに笑顔が多かった気がする)」
提督「(なにが楽しいのかわからずに、おかしくって、笑い出しそうで……)」
榛名「…………なんだか、こうしていると……昔を思い出しますね?」
提督「――――! ふふふっ……」
榛名「……どうかしましたか?」
提督「(隣で首をかしげる彼女を見て、思わず笑みがこぼれる。なんだかんだ、こういうところは似た者同士なのかもなぁ)」
提督「いや……、俺もちょうどそのことを考えていたところだったから」
提督「なんだか懐かしいな、って。そう思ってさ」
榛名「ふふ、なるほど。……それでは、おそろいですね」
提督「ああ、一緒だな」
榛名「ふふっ」
提督「ははっ」
提督「(互いに顔を見合わせて笑いあう。なんだかここだけ、学生時代に戻った感じがした)」
提督「(流れる景色のなか、際立って映る榛名の姿。榛名といると退屈しないから、時間の流れがいまひとつ掴めないんだ)」
提督「(……なんというか。俺も榛名も、結局は街の人々と変わらねえや)」
提督「(言葉にならない感情も、街の喧騒に溶け込ませられる。やっぱり、街の雰囲気っていうのはいいものだ……)」
榛名「…………けれど、もう」
提督「…………ん?」
榛名「むかしと同じというのは、困りますから。だから――」スス
提督「(指を絡めたまま、榛名が一歩詰め寄ってくる。…………これは)」
榛名「……提督。今日は風も強く、冷えますから。温もりを分けてください――」ギュッ
提督「(左腕から、少しの圧と、温もりを感じる。絡んだ指はそのままに、榛名の右腕と、俺の左腕が絡んでいた)」
提督「(これは――“腕組み”ッ! その改二版ッッ!!)」
提督「は、はるな、さすがにこれは……恥ずかしいな……」
榛名「ふふっ。提督、響ちゃんみたいです」
榛名「ですが、せっかくですから。今日は――目的地まで、短い時間。このままで……」スリスリ
提督「――――」
提督「~~~~っ!」
提督「(感覚が、左腕から伝わる温もりに集中していく。景色がゆっくり流れているように感じた)」
提督「(ふと、左肩に妙な感触を感じる。そちらを見ると、どうやら榛名が頬ずりしていたらしい。……――なんだこれは)」
提督「(なんだこれは!!)」
榛名「ふ、ふふ、て、ていとく? ま、真っ赤なお顔で……な、なんだかかわいいですっ!」ツンツン
提督「ふ、ははっ…………お前もだろうが、おい」ツンツン
榛名「提督のほうが赤いですっ」ツンツン
提督「榛名のほうがっ」ツンツン
――――
――
提督「だいたい、可愛いって言ったらお前しかいないだろっ、このっ」ツンツン
榛名「ひゃっ! ――提督だって、かわいいところたっくさんあるんですからっ」ツンツン
提督「かわいいって言われて喜ぶ男なんていないっ」ツンツン
榛名「じゃあ、かっこいいですっ」ツンツン
提督「むっ……それは嬉しいが、俺だって榛名のカッコイイところたくさん知ってるんだからなっ」ツンツン
榛名「そんなことっ! あるはずありませんっ!」ツンツン
提督「あるっ! もう考えられないくらいあるっ!」ツンツン
榛名「はっ、榛名だってもっとたくさんあります! 提督の倍以上ありますっ」ツンツン
提督「あ、ズルいぞ! 俺だって榛名の三倍以上はある!」ツンツン
「…………あの、お二人とも……? こんなところで、いったいなにを…………?」
榛名「……――え?」
提督「――あ?」
天城「あ、あの? お取込み中、申し訳ありません……?」
提督「…………天城、さん……?」
榛名「ひぇっ」
天城「は……はい、天城です…………?」
天城「あの、お二人とも? 仲が良いのはたいへんよろしいんですけど、人の視線を集めてしまっていますから……」
『あれって、榛名さんじゃ?』 『隣のは……あっ、見たことある! 提督だ!』 『榛名さんとてーとくさんが痴話げんかなうっぽい、っと』
天城「さすがに、あの……人も集まってますし、映画館の前でやるのは、ちょっとマズいんじゃないかなと……?」
天城「それに、その腕……指も…………ちょっと、目立ちます……」
提督「」
榛名「」
榛名「ひ…………ひやああぁ――」
提督「待て、止まれ榛名! さすがにここまで来て逃げ出すのはやめろっ!!」ムニュ
榛名「て、てーとく!? どっ、どこを触って…………っ」
提督「…………」ムニムニ
提督「――――あああっ! すまんっ!!」
『榛名さんとてーとくさんが衆人環視のなかおっぱじめたぽい、っと』 『夕立ちゃーん? なにを撮って……あっ』
『夕立ちゃん、それをツイートするのはまずいですっ!!』 『なんか龍鳳さんからすっごくリプライが飛んでくるっぽい』
天城「…………えと、あまりここに長居して注目を集めるのも悪いですから……。……入りましょうか?」
提督「…………はい」
榛名「…………はい」
天城「ウソのように大人しく……ええっと、提督さんがたは関係者なので、こちらについてきてください。関係者用の入口がありますので……」
天城「吹雪ちゃん、夕立ちゃん、睦月ちゃん! おいで、おいで!」クイクイ
夕立「ぽいっ!」
吹雪「は、は、はひっ」
睦月「吹雪ちゃん、もうちょっと肩の力を抜いて……」
吹雪「う、うん――で、でもっ! 今日がアニメの“先行試写会”って、思うだけで震えが…………」ガタガタ
天城「ほらほら……吹雪ちゃんは主役なんですから、もっと大きく構えて…………?」
吹雪「で、でも、わたしが主役なんて、そんな……」
天城「アニメなんだから。実際のわたしたちじゃなくて、わたしたちを3Dモデリングしたキャラクターが動くだけなんだから」
吹雪「それでも、実際に動いて、声をあてたのはわたしたちですから……」
吹雪「有名声優さんとか、画家の人とかに囲まれて、もうどうしようどうしようって……」
天城「そういう諸々は、中に入ってからお話ししましょう……? あまり、みなさんに聞かれてしまうのはよろしくないですから……」
天城「それではみなさん、こちらです。照明が落ちていますので、足元にお気をつけて…………?」
「あ、提督さん! おはようございまーす!」 「おはようございまーす!」
「最終チェック入ります! マイク音量大丈夫!?」 「ワン・ツー……オッケーです!」
「あ、提督さん、ども! 一言お願いします!」 「榛名さん! 最後に演者一同で集合写真の予定なんですが、いかがでしょうか!?」
榛名「あ、いえ、榛名は大丈夫です。エキストラとしての出演でしたから……」
「そうですか、わかりました!」 「おい、ホールの方はどうなってる!?」 「すでに満漢全席です!」 「満員御礼だ、バカ!」
「孔雀模様のフカヒレ姿煮込みあがりましたー!」 「なんでお前は本当に満漢全席作ってんだ!!」 「ホールの意味が変わってくる!!」
吹雪「な、なんだかさっきよりもてんやわんやです!」
睦月「もう少しで放送始まるもんね」
夕立「め、目が回りそう~……」
提督「……たしかにすごいな。これ、3Dモーション撮影中もこんな感じだったんですか?」
天城「いえ、そんなことは。――いえ、だいたいいつもこんな感じでしたね」
天城「わたしたちの動きが、そのままアニメのなかに反映されますから。CGディレクターのかたなんて、それはもう鬼のようで……」
榛名「榛名も、最初の一シーンだけとはいえ、台本にはすごく細かい指示が書かれていました!」
睦月「吹雪ちゃんも、モーション撮影中に何回もリテイク出してたもんね~?」
吹雪「ゔっ……。わたしは、睦月ちゃんと違って、テレビの経験なんてなかったんだからしょうがないじゃないっ!」
夕立「吹雪ちゃんはちょーっと重く見すぎっぽい! いつも通りにやってって監督さんだって言ってたっぽい!」
吹雪「うぅ、そう言われてもぉっ……」
天城「……――こんな感じで、妥協を許さない姿勢でたいへんでした」
天城「アニメ化の構想時代は何年も前からあったようですけど、ついに……ということで」
提督「はっはあ……。さすがに、この業界のなかでもプロ中のプロってことですか」
天城「そうですね。3DCGだって凄かったんですよ? 自分の姿が、アニメの世界で動いて回ってるんですもの……」
榛名「衝撃でしたね……」
天城「本当に。わたしが子どものころに見ていたアニメとは、まるで別物でした。技術の進歩というものは本当にすごいものです」
提督「そこまでおっしゃる今回の試写会、楽しみです。裏方もこれだけ張り切っているようですし……」
「おい間違えてるぞ! こっちじゃねえ!」 「すみません、三番はどちらでしょうか!?」 「ちくわ大明神」 「誰だいまの」
天城「艦娘は、いまや世界の護人ですから。その艦娘の日常に初めてスポットをあてた作品ということで、緊張も高まっているようです」
天城「キャラクターのデザインだって、わざわざわたしの父を起用したみたいで…………撮影中、すごく緊張でした」
提督「へえ、あの世界的に有名な画家の……本日は、こちらに?」
天城「はい。……とはいえ、すごく忙しそうにされていますから、面会するのは難しいかと…………」
提督「そうですか。赤城にも世話になっていますし、ご挨拶くらいにはうかがいたかったのですが……」
天城「今回、観客のみなさんの細かい反応を見て、そこからキャラクターのデザインを調整しなおすようですから」
天城「同じくしてキャラクターデザインを担当されている画家のみなさんと、特別席にいらっしゃいます」
天城「…………ほら、見えますか? こっそりと、あちらに…………」
提督「うわ、暗いですね。――――どれどれ……?」スッ
榛名「――――あ、いました! あちらですねっ」スッ
「しずまさん、これは、もしかして――」 「さすがコニシさん。なにが、とは言いませんけど」
「肌色があればいいってもんじゃないでしょう!」 「ごもっとも。――ですが、こちらはいかがでしょう。バックプリントはスクリュー柄になっています」
「こ、この発想は…………」 「ふふ。御大将、いかがでしょうか」 「ぱんつ! ぱんつです!」
榛名「…………なんだか、すごく神妙な顔で話し合っていますね」
提督「た、たしかに。世界を股にかける画家同士の会議となると、ちょっと割って入れない空気がありますね……」
天城「父も、普段はひとりで絵を描いておりますが、ああして他の画家さんと交流するのも刺激になるようです」
天城「昔にも、ああして話し合うことでスランプを抜け出したこともありましたから……できるだけ、そっとしていただけると…………?」
提督「そうですね。残念ですけど、ご挨拶はまた今度の機会に――」
「天城さんっ! もうすぐ予定の時刻になります! オープニングトークの準備お願いします!」
「吹雪ちゃんたちも、舞台袖に待機をお願いします!」
天城「あ、はいっ! …………わたしはこれにて、失礼させていただきますね」
天城「――吹雪ちゃんたち、準備はいい?」
吹雪「ううう…………お腹痛いですぅ…………」
睦月「吹雪ちゃん! 覚悟、きめちゃいましょー!」
夕立「さあ、最っ高に素敵なパーティーしましょ!」
提督「おう、お目たち、観客席で見てるから気張ってこいよ!」
榛名「頑張ってくださいね。榛名たちも、楽しみに観させていただきますから」
天城「ありがとうございます。――それでは、艦隊これくしょん。はじまりますっ!」
――――
――
安価から一週間経ってもラジオ入ってないやついるの? すみません、本当にすみません
そろそろラジオ本編に入りそうです。とりあえずここまでなので、また気長にお待ちください
――――
――
天城『みなさん、本日はお忙しいなかお集まりいただき、ありがとうございました!』
天城『アニメ、“艦隊これくしょん-艦これ-”先行試写会、いかがだったでしょうか?
雫のヴェールに包まれた、艦娘の日常! みなさんも驚くことが多かったのではないでしょうか』
天城『かくいうわたしも、“赤城”を演じさせていただきましたところ。
鎮守府ごとの生活の違いに驚かされた――というのは、さっきのトークでも言いましたね』
天城『姉妹だから、対して変わらないだろうとタカをくくっていたら。まぁもうずいぶんとよく食べて……お姉ちゃんは心配ですっ』
\どっ/
天城『まだまだ、世界の衛士たちの秘密はたくさんあります! これからもっともっとつまびらかにしていきますので、お楽しみに!』
天城『アニメ“艦これ”は、毎週末のゴールデンタイムに放送する予定となっております! 詳しくはパンフレットの方にも記載してありますので、そちらをどうぞ』
天城『また、アニメ“艦これ”の放送と同時に。毎週金曜日の夜、新ドラマ……“陽炎、抜錨します!”の放送も開始される予定ですっ』
\ウオオオオ/
天城『あの天真爛漫で有名な、提督鎮守府に所属する陽炎ちゃん! 彼女が主役のシリアスストーリーとなっております』
天城『普段見られない、カッコイイ表情の陽炎ちゃんからは目が離せません!』
天城『こちらもまた、後日に公式ホームページにて告知が出ると思いますので、陽炎ちゃんが大好きなかたは、チェックを欠かさないように!』
天城『そして、こちらは未公開情報ですが…………なんと、今年の夏に、“艦これ”の映画も放映されることになっていますっ!』
\エッ/ \オーゥ、ムービースター!?/
天城『こちらの詳細は、まだお話しできませんが……タイトルは、“瑞の海、鳳の空”というタイトルになっています!』
\ざわざわ/
天城『あの“幼な妻系艦娘”が主演女優となって演じるこの映画。なんとなんと! 艦娘とのラブロマンスを描いた、恋愛映画というウワサが!?』
\ざわっ/ \ウッドワー!/
天城『バトル・ガールのブレイクタイム! 鋭意製作中とのことです! 続報をお楽しみにっ』
\タベリュウウ/ \タマゴヤキタベリュウウ/
提督「…………あの人もうまくやるもんだなあ。普段の淑やかさからは想像も出来ない喋りっぷり。ずいぶん弁舌さわやかだ」
榛名「さすがプロ、と言ったところですね。こういった舞台には慣れているのでしょう」
提督「実家が“天城屋旅館”だもんな。
女将として何度も人前には経っているんだろう。別名で遊園地みたいなテーマパークも経営しているみたいだし」
提督「艦娘にしては多芸に秀でてるんだよなあ。もしかして、艦娘をやめて退役したあと、のことも考えているんだろうか……」
榛名「テーマパーク……妖精さんたちがこっそり運営しているんでしたっけ。航空母艦ならではの経営術ですね」
提督「いっときは試行錯誤の繰り返しで振るわないときもあったみたいだが、外部からの協力者のおかげで持ち直したんだったかな」
提督「ずいぶん賑わっているみたいだし、一度行ってみたいとは思うんだが……幾分遠くてなあ」
榛名「あまり鎮守府から長く離れるわけにはいかないですしね」
提督「ああ。鎮守府にもいろいろあるから退屈ってワケじゃないけどな……というか、艦隊が膨らむにつれて仕事も積もっていくし」
提督「いつかこう、艦隊のみんなと一緒にパーッと遊びに行ってみたいもんだ」
榛名「ふふ、そうですね」
天城『……さてさて、いろいろとお話いたしましたが……そろそろお別れのお時間が近づいてまいりました』
天城『ふふ、最後にドカーンと情報出したから、ちょっと驚いちゃってるかな? ごめんね?』
天城『でも、最後の最後まで気を抜いちゃダメ。“慢心”せずに……――ねっ?』
\どっ/ \アカギサンダ/
天城『――最後はなんと! あの“艦これ”アニメ、エンディングテーマのこの曲!』
天城『“吹雪”とともにお別れいたしましょう! 今回この“吹雪”、先行試写会バージョンといたしまして』
天城『特別に、去年の紅白歌合戦にも出演を果たした、あの! アドンさんとサムソンさんが! 合いの手を担当――』
\ボディビル/ \オレヲミテクレー/
提督「……うっし、車の手配してくるから、ちょっと席を外すな。誰か来たら代わりに相手しておいてくれ」
榛名「わかりました、お願いしますね」
提督「はい。……はい、指定の場所で、はい…………はい、そうですね。それでは、そのようにお願いします」
提督「……はい。はい、それでは――」ピッ
提督「――これでよし、と。あとは明石さんに頼まれた買い物を済ませるだけかな」
提督「(しかし……実際に動くドラマと違い、絵で描写するアニメの題材で艦娘は――と思っていたが、侮っていたようだ)」
提督「(正直、あの3DCG技術は凄まじい。本当に、アニメの中で人物が動いていた)」
提督「(個人的には、榛名が最高に可愛かったが……ああ、それはいつものことか。
球磨と多摩の戦闘シーンには目を見張るものがあったと思う。どこに行けばあの球磨たちに会えるんですかね……)」
吹雪「あっ、しれいかーん!」
提督「お…………三人とも。もう向こうの方は大丈夫なのか?」
睦月「はいっ、エンディングの時点でもう出番はなくなりましたからっ」
夕立「集合写真、アドンさんとサムソンさんも一緒に撮ったっぽい! すっごくおっきかったぁ……夕立も、もっともっと鍛えなくっちゃ!」
睦月「あはは、あそこまではしなくてもいいと思うけどね……」
夕立「せっかくだから、ブログに投稿しちゃおっかなぁ~」ポチポチ
吹雪「司令官は、今日はもう帰るんですか?」
提督「ああ。ちょっとスーパー寄るが、とくに用事もないしもう帰るつもりだ。車を手配してあるから、榛名と一緒に乗り込んでくれ」
提督「車が来るにはもうちょっとかかると思うが、適当に暇を潰してたらすぐだろう」
吹雪「わかりました!」
睦月「お買いもの、わたしたちもお手伝いしましょうかぁ?」
提督「いや、本当にちょっとした買い物だから気にすんな。すぐ戻るからさ」
提督「――あ、そうだ。せっかく街に来たんだし、なんか甘いものでも食ってくか?」
提督「この間、龍鳳がおいしいケーキのお店を見つけたって教えてくれたんだ。ちょうどいいし寄ってくか?」
夕立「ぽいっ!?」
睦月「ふわぁぁ……ケーキですかぁ…………」
吹雪「ケーキいいですねぇ~……」
睦月「そうですかぁ……龍鳳さんが……――え、龍鳳さん?」
睦月「あ、ちょっと待ってください! それって龍鳳さん、今度一緒に行こうとか行ってませんでしたか?」
提督「ん? ああ、そういやそんなことも言ってた気がするが……それがどうした」
睦月「…………」
吹雪「…………あっ」
夕立「…………てーとくさん、それはちょっとナイっぽい」
提督「え?」
睦月「…………とりあえず、睦月たちのことは気にしないで、提督はお買いものに行ってくださいぃ!」グイグイ
吹雪「榛名さんと龍鳳さんのダブルパンチも気になるけどね」
夕立「てーとくさんのお顔が潰れたケーキみたいになっちゃうから……」
睦月「ほぉらはやくぅーっ!!」グイグイ
提督「えぇ?」
榛名「あ、みなさん! こんなところにいたんですかっ」タタッ
吹雪「あ、榛名さん……」
夕立「わっ、ウワサをすればっぽい!」
榛名「みなさん、本日はお疲れ様でした! なかなか雰囲気が出ていましたよ」
吹雪「あ、あはは、変に思われてなければいいんですけど……」
睦月「吹雪ちゃんはもっと胸張って! 主人公なんだからもっとこう、ドカーンと元気出していきましょー!」
吹雪「そんなこと言われてもぉ……だってぇ、今日の様子って動画としてインターネットにアップされるんでしょ?」
吹雪「家族とかみーんな観るんだろうなぁ。イヤだなぁもうぅ~……」
睦月「あは、もう終わったんだからぁ。どんな吹雪ちゃんでも、みんな大事に見てくれるはずだよ!」
夕立「最後に“わたし、頑張る!”って宣言した吹雪ちゃんは、もういないっぽい~?」
吹雪「それはアニメのわたしだから! いまのわたしはわたし――って、どっちがどっちだかわかんないよぅっ!」
睦月「吹雪ちゃんはいつ見てもおもしろいにゃぁ~……」
榛名「ふふ、心配しなくっても、吹雪ちゃんは吹雪ちゃんでしたから。安心してね」
吹雪「それがどういう意味だかわかんないから怖いですぅ~っ!!」
榛名「素敵でしたから、安心してください、ということですっ」
榛名「みんな驚くと思いますよ。吹雪ちゃんのしっかりした姿、かっこよかったですから!」
吹雪「そ、それならいいんですけど……」
睦月「気にしすぎだよぉ。それに、ありのままの吹雪ちゃんがいっちばんいいんだからっ」
夕立「そーそー!」
榛名「ふふ、そうですね。……なにはともあれ、お疲れ様でした!」
榛名「いま提督が車を手配してくれているみたいだから、もうちょっとだけ待っていてね。いろいろ暇をつぶしていたらすぐだと思いますから」
睦月「(おんなじこと言ってるぅ~)」
夕立「(たまにあの二人、シンクロするっぽい)」
榛名「――あ、せっかく街へ出てきましたし。なにか甘いものでも食べていきますか?」
榛名「そうでしたら提督に連絡を入れて、車の運転手さんに調整してもらうように言っていただきますけど」
吹雪「(えっこわい)」
夕立「(驚異の一致率っぽい…………)」
睦月「(台本でもあるんじゃないかなぁ?)」
榛名「…………どうかしましたか?」
吹雪「あっ……いえいえ、なんでもないですっ」
睦月「甘い物も興味はあるんですけど……いまは、ちょっといいかなぁ?」
榛名「そうですか、わかりました。気が変わったらいつでも言ってくださいね」
吹雪「はい! ありがとうございます!」
夕立「お菓子よりも、はやくお風呂に入りたいっぽい~……。撮影のひとたち、タバコたくさん吸うからぁ……」
睦月「あ……たしかに。ちょっと髪がぎしぎししてるかもぉ……」
榛名「座席の方はそうでもありませんでしたけど……たしかに、舞台裏のほうは少し煙たかったかもしれませんね」
榛名「駆逐艦の子たちだっているんだから、もう少し抑えていただくよう、榛名たちから言うべきでしたね。すみません……」
吹雪「あ――いえ、そこまで気にすることでもないですしっ! でも、帰ったらちょっとお風呂に入りたいなぁ」
吹雪「舞台裏だけじゃなくって、都会のなかだと車の排気ガスとかでいろいろベタついてるし……」
夕立「ぽい~……。みんな電気自動車とかに変えてくれたらいいのにっ」
榛名「いくら環境に優しくても、そうそう気軽に買い換えられるものではないですからね……」
榛名「でも、わかりました! 入渠用のお風呂と、みんなが使うお風呂はこの時間だとあまり使えませんから、提督執務室近くのお風呂を用意しておきますね」
榛名「そう大きくありませんけど、あちらならすぐに沸かせられますし。みなさん、それでいいでしょうか?」
睦月「おっねがいしまーすっ!」
夕立「すぐに入れるならなんでもいいっぽい~……」
吹雪「お昼からお風呂なんて、なんだかちょっと新鮮だね」
睦月「交戦で被弾しても、さっとシャワー浴びて出ちゃうもんねぇ」
榛名「駆逐艦のみなさんは、艤装の修理にあまり時間がかかりませんからね。
……では、帰ったらすぐに準備しますから、着替えと替えの下着を持って集まってくださいね」
榛名「せっかくですし、みんなまとめて洗っちゃおうと思います。出撃がないと、あまりすることがありませんから……」
榛名「着替えはカゴに入れて置いてくれたら、榛名が勝手に回収しますから。カゴは並べて置いてくれると助かります」
夕立「はーい!」
睦月「わっかりましたぁ~!」
吹雪「了解です!」
提督「おーい! 待たせたな~!」
吹雪「あ、司令官が戻ってきました!」
夕立「てーとくさん、おっそーい!」
睦月「睦月たち、もうお腹ぺっこぺこだよぉ~……早く帰ってご飯にしましょー?」
提督「はは、悪い悪い……ちょっと色んな人につかまってな。挨拶してたら遅れちまった」
提督「榛名も悪かったな。だいぶ待たせたろ?」
榛名「いえ、榛名は大丈夫です! 提督、おかえりなさい」
榛名「あちらに車が来ていますから、そちらへ。……その袋、だいじょうぶですか? 重くないですか?」
榛名「ずいぶん大きなものがたくさん入っていますけれど……」
提督「ん。ちょっと肩にクるが……まあ問題ないよ。そうは言っても、たった一袋だしな」
榛名「ほんとうですか? ちょっと確認しますね。……――んっ」グイッ
提督「あ、ちょ」
榛名「おっ……もたいですねっ! て、てーとく、こんな重たい袋…………だめですっ!」
榛名「榛名も少し持ちます! 少しの距離とはいえ、こんなものを一人で運んでいただくのは申し訳が立ちません!」
提督「ほ、本当に大丈夫なんだが……べつに気にしなくても――」
榛名「むっ」
提督「…………わかったわかった。榛名だって重たいって言ってるくせに、もう……」
提督「それじゃ半分こな。ほら、左側持ってくれ」スッ
榛名「はいっ!」スッ
提督「しっかし強引だなあ。大丈夫だーつってんのに無理やり奪うこたぁないだろ」
榛名「提督は自分に鈍いからですっ。ほら、離しているほうの指を見せてください。こんなに血の気が引いて……」
提督「あ? ああ、これは単純に重みで血の流れが止められてただけだろ」
榛名「あまり、こういった状態を続けるのはよくありません! 提督が大丈夫と言っても、榛名が大丈夫ではありませんからっ」
提督「ほんとうに大丈夫なんだけどなあ、ははは……」
夕立「…………ねえ」
睦月「…………なあに?」
吹雪「…………おおむね想像はつきますけど、なんですか?」
夕立「……なんであのふたり、袋を持つか持たないかであんなにらぶらぶしてるの」
吹雪「いつもあんな感じでしょ……」
睦月「榛名さんも大げさだと思うんだけどにゃー……。迎えだって、ここから見える距離に停まってるしぃ……」
夕立「それに、最終的にひとつの袋を半分こって――」
榛名「でも、本当に重たいですね。丈夫な袋みたいですけど……いったいなにを買ってこられたのですか?」
提督「ん? これはな、小麦粉とかホットケーキミックスとか、シナモンパウダーとか……まあいろいろだな」
提督「あとは牛乳とか砂糖とか、ちょっとした果物だとか…………」
榛名「ああ……。けれど、鎮守府に備えているものではダメだったのですか? まだ貯えには余裕があったと思いますが」
提督「ん……いや、明日ラジオがまた再開するだろ? そんときのゲストがさ、ほら」チラッ
榛名「――なるほど。あ、だからこの材料なんですね!」
提督「そういうこと。間宮さんがいろいろ考えてくれているらしい。ほかの艦娘のみんなにも、食後のデザートとしてたくさん作ってくれるらしい」
提督「だから念のため、材料を追加しておきたいってさ。あ、あとシャンプーとかの日用品は郵送で送ってもらったから、帰ったら確認してくれ」
榛名「わかりましたっ」
夕立「――夕飯の買い出し帰りの新婚さんにしか見えないっぽい」
睦月「…………ね、せっかくだし、ちょっとアフレコしてみない? 睦月は提督の役やるね」
吹雪「あ、じゃあわたしが榛名さんやるっ!」
夕立「あ、ズルいっぽい!」
睦月「それじゃ、提督たちが迎えの車に近づいたらスタートね!」
吹雪「ばっちこいだよっ!」
夕立「…………じゃあ、夕立は運転手さんの役やるっぽい」
夕立(運転手)『――お待ちしておりました。おやおや、これはまた……おしどりさんですね』
吹雪(榛名)『おしどりだなんて、そんな……照れてしまいます』
睦月(提督)『待たせてしまったようで悪かったね。ガラスの靴を履かせるのに、少々手間取ってしまった』
夕立『おや、それはそれは。いじわるな継母は大丈夫ですか?』
睦月『問題ない。――だが、魔法使いに“コレ”を授けられてね。どうしようか思案していたところだ』
夕立『ずいぶん重そうなナツメの木だ。――では、馬車の荷台に飾らせていただきましょうか。失礼します』
睦月『ああ。……姫、魔法が解ける前に逃避行と行こうか。お手をこちらに』
吹雪『ああっ、ありがとうございます。なんとお礼を言えばよろしいか……』
睦月『礼など、とんでもない! 貴女という奇跡に出逢えたことに、僕が礼を述べたいくらいだ』
睦月『さあ、姫よ! 貴女と二人、このまま世界の果てまで行ってしまおう!』
吹雪『…………はいっ! あなたと二人、恋の彼方へ消えてしまいたい。12時の鐘なんて、鳴らなければいいのに……』
睦月『鳴らないさ。鳴らせてなるものか。鐘なんかで、僕にかかった魔法は消えやしない!』
吹雪『嬉しい…………!』
夕立『――待ってください!』
吹雪「!?」
睦月「!?」
夕立『提督、あの言葉はウソだったのですか!?』
夕立『あの幸せに包まれた夜。あなたの腕に抱かれ、耳元で囁いてくれた言葉は――すべて、まやかしだったのですか!?』
睦月(提督)『おっ…………お前は、龍鳳!?』
吹雪(榛名)『りゅ…………龍鳳さん!?』
夕立(龍鳳)『この身には、あなたとの愛の結晶が宿っているというのに……! わたしのこの身体――飛行甲板は、提督にとって踏み台でしかなかったのですか!?』
睦月『りゅ、龍鳳っ、これは……違うんだっ』
吹雪『て、提督……? いまの話、ほんとうですか…………?』
睦月『は、榛名? い、いや、ウソだ! ウソに決まっているじゃあないかっ! 俺の瞳には、榛名しか映っていないんだ!』
夕立『あっ――――』
吹雪『……――龍鳳さん?』
夕立『…………そ、そうですよね。さすがに朝からこんな……重いですよね』
夕立『提督。…………わたし、頑張りますから。お腹のこの子さえいれば、わたしは十分ですから』
夕立『だから、提督は…………はる、はるなさん、とっ……お幸せにっ……』
睦月『待て龍鳳っ! 待ってくれ! 運転席に乗り込む前に、俺の話を聞いてくれっ!』
夕立『提督との子どもって、可愛いと思うんです、わたし……』
夕立『…………すみません、ちょっと長い運転になるかも』
吹雪『…………提督? いまのお話、じっくり後部座席で聞かせていただきますね?』
睦月『ちがっ――榛名! 誤解だ! 龍鳳が言っているお腹のっていうのはその――馬鈴薯だ! 馬鈴薯のことなんだよ!』
夕立『…………提督、ひどいです。あれだけ激しく抱いていただいたのに、そんな……』
睦月『うぐっ』
吹雪『……提督、見損ないました。ほら、あそこで見ている子どもたちも、こちらを見てクスクスと――』
榛名「みなさーん! どうかされましたかー!?」
提督「早く乗り込んでこいよー! 忘れ物でもあったのかぁー!?」
睦月「…………いこっか」
吹雪「…………うん。なんかちょっと、微妙だったね」
夕立「最後なんて相当無理やりだったっぽい……。ちょっとシチュエーションがよくなかったのかなぁ?」
睦月「こういうのは卯月ちゃんたちとか、足柄さんとかが得意な分野だもんねぇ。睦月たちにはちょーっぴし早かったかも」
吹雪「おもしろく言おうとすると、逆にちょっとクドくなっちゃうね」
夕立「あの二人はそのまま見てるだけでも十分おもしろいし、次からはちゃんと普通にアフレコしてみよっか」
睦月「あはっ、夕立ちゃん、何気に毒舌だねぇ」
――――
――
ブロロロロロン バタン
提督「ありがとうございました。はい、はい……あ、荷物はこちらで持っていきますからお気になさらず。はい」
提督「はい、またお願いします。それでは――」
提督「うし、無事に着いたな。おーい夕立、起きろ~」ユサユサ
夕立「…………ぽ…………ぽいぃぃ~?」
吹雪「夕立ちゃーん、鎮守府着いたよー起きて~」ユサユサ
睦月「ぐっすりなんだからもー。榛名さんだって困ってるでしょ~」ユサユサ
夕立「…………ペポぉ……」
提督「それは別のキャラだ」
吹雪「キャラ崩れちゃってるよー夕立ちゃーん! 早く起きるぞーい!」
睦月「吹雪ちゃんもうつっちゃってるよぉ!」
榛名「今日は朝からたいへんでしたものね。疲れちゃったのかな」
提督「にしたって榛名のおんぶでぐったりと……母と娘じゃないんだから」
夕立「ぽよぉ~…………」ダラァ
榛名「――ぅひゃぁっ!?」
睦月「ああっ、榛名さんの首筋によだれがぁ!」
吹雪「ゆ、夕立ちゃん! すごい勢いで――ちょ、夕立ちゃん、起きてっ!」ユサユサ
夕立「…………ちちん、ぽいぽいぃ……」ドバドバ
榛名「ぃひぁっ!?」ビクッ
吹雪「よだれヤバっ!? 榛名さんの服の襟もとから、どんどん中に……!」
睦月「しゃ、シャツも透けちゃってるし!」
榛名「ぁはっ、榛名は大丈夫ですからっ、このまま、ゆっ、夕立ちゃんをおんぶして帰り――は、ぁ……帰りますっ」
榛名「てぇとく、もうしっ……もうしわけないですけど――んっ、買い物袋は、お任せします、ねっ……ふ、くぅ、ぁあっ……」ビクンッ
榛名「やぁ……服が貼りついて……ちょっと、きもち――んっ。わる……んぅぅっ!」ビクビク
提督「オッケーわかった。じゃあ悪いけど夕立は三人に任せることにするわ。俺はこの買い物袋運んでくっから」
吹雪「…………あの、司令官? なんで、その……前かがみなんですか?」
提督「え? いや? ちょっと買い物袋重たいし、みたいな?
ほら、さっきまで二人で持ってた袋だからさ、やっぱ一人で持つとちょっと重さが肩にクるっつうか」
提督「俺も鍛えてるはずなんだけどな。はは、なんかみっともない姿で悪いな。重たいもんだから、袋が。ははは」
睦月「…………さっき、一人でも大丈夫って言って――」
提督「あっ、そうだ! 風呂も沸かしておかなくっちゃな! そんじゃ悪いけど任せたわ! 俺すぐに沸かせてくるから、風呂!」
提督「あとさ、腹も減ってんだろ? 風呂あがりに重なるように、メシ作っててもらうからさ。失敬!」ドヒューン
吹雪「あっ、司令官! …………なんだったんだろうね」
睦月「…………」
睦月「……わっからないにゃーん。わかってたまるかにゃーん」
榛名「んぅ……ぬれて、つめたい服が、こすれてぇっ……」モゾモゾ
吹雪「…………」
吹雪「(あっ)」
明石「――提督! こちらにいらっしゃいましたか!」
提督「やあ、明石さん。どうされたのですか、そのように息を切らして……」
明石「いえ、息はあがっていませんけど。……あ、もしかしていまからお手洗いでしょうか?」
提督「いえ、もう用は済んだところですから、お気になさらず」
明石「そうですか? それなら良かったです。ええと、提督執務室の厳戒態勢が解除されましたので、放送機器の調整をしようと思いまして」
明石「問題ないと判断されたとはいえ、わたしひとりで入るのは、ちょっと……気が引けますし。
提督のご都合さえよければ、ご一緒していただこうかなー……なんて、思っちゃったりして。だめですか?」
提督「おや。いままでにも幾度か、ああいった霊障現場に遭遇しているのにもかかわらず、たいそう弱気なんですね」
明石「う、うるさいですねっ。あんなのは艦娘になるまでは起こったことがなかったんですから! 怖くって悪いですか!?」
提督「ふふ。いえ、そんなことはないと思います。そういったところもまた、明石さんの魅力なのでは、と。そう思います」
明石「…………提督、なんだか雰囲気違いませんか?」
提督「そうでしょうか? 僕はいたって平常で振る舞っているつもりなのですが」
明石「いや異常でしょう。なんですか“僕”って」
提督「気になさらず。そのような些細なこと、可憐な肌を伝う雫ひとひらに比べれば詮無きこと」
明石「(…………なんだこいつ)」
提督「そういえば、注文の品物。厨房の方に置いておきましたよ。間宮さんにも確認はとりましたので、ご安心ください」
明石「ああ、それは良かったです。良かったんですが…………あの、気持ち悪いんで、もとの話し方に戻していただけませんか?」
明石「なんだか、かませ軍師臭がプンプンするので、ちょっと」
提督「かませ軍師とは失礼ですね。バカめ、と言ってさしあげますわ!」
提督「バカめが! 兵法を知らぬ凡愚め、今に見よ! バカメガ粒子砲!!」ブオオオ
明石「――ひゃああっ!? な、なんですかあ!? この、かぜっ……す、すかーとがっ」ググッ
提督「驚きました? 市場に寄ったらワゴンセールで置いてあったんですよ。ちょっと振っただけで強風が巻き起こる扇子です」
提督「一部の艦娘が使っているものと同じ材質で出来ているみたいですね。価値に気付いてなかったんでしょうか。思わぬ掘り出し物です」
提督「自分は彼女らみたいにビームは出せませんけど。風くらいなら、ほら」ブオオオ
明石「わ、わかりましたからぁっ! や、やめ、やめてくださいぃぃ~~っ!!」ググググ
提督「ほれほれ、そんな腰が露出したスケベスカートなんて穿きおって。月に代わっておしおきしてあげます。ほれほれぇ!」ブオオオ
明石「や、ぁっ! みえちゃっ、みえちゃうからあっ! やめてええぇ~~っ!!」
提督「うひひひひ、なぁ~にが見えちゃうのかなぁ~?」ブオオオ
大淀「…………反省しましたか、提督」
提督「はい」セイザ
大淀「この扇子はこちらで回収しておきます。もう二度と、このようなふざけたもので浪費しないように」
提督「はい」
大淀「あと、わたしと明石が穿いているのは決してスケベスカートではありません。復唱!」
提督「大淀さんと明石さんが穿いているのは決してスケベスカートではありません」
大淀「大淀さんは裏表のない素敵な人です。復唱!」
提督「大淀さんは裏表のない素敵な人です」
大淀「よろしい。――まったく、廊下が妙に騒がしいと思ったら、あんな小学生のようなイタズラを年甲斐もなく……」
提督「…………言っても四捨五入してもまだ二十代ですよ。年相応だと思いませんか」
大淀「まったく思いません」ピシャリ
提督「はい」
提督「あと正直、そのスケベスカートの隙間に手を突っ込んでみたいです」
大淀「黙ってください」
提督「はい」
明石「え、えっと…………も、もうだいじょうぶ?」
大淀「ええ、気苦労をかけたわね。まったく……クソバカの血は争えない、といったところかしら」
提督「クソバカって……仮にもこの鎮守府の最高指揮官なんですが……」
大淀「――なにか?」
提督「…………いえ」
大淀「……はぁ。たまにすっごくカッコいいときがあるのに、なんで普段はこんな……」
明石「あはは…………」
大淀「そういえば明石、提督になにか用事があったんじゃないの?」
明石「あ、そうだった! ありがとね、大淀。ありがとうついでに、大淀も一緒に来てくれると助かるんだけど……」
大淀「わたしも?」
明石「うん。明日の放送のために、機器をいろいろ調整しようと思うんだけど……次の放送は、ちょっと人数が多くなるから」
明石「できれば提督のほかにも、もう一人手伝ってほしかったところだったの。だめかな?」
大淀「なるほど。そういうことならいい、かな」
明石「ありがとう! それに次の放送は大淀にも関係あるし、ちょうどいいんじゃないかなって」
大淀「つぎ? ――ああ、なるほどね。わかった、それじゃ行きましょうか」
大淀「提督、ほら立って! きびきび歩きましょう!
予定よりも早く厳戒態勢が解かれましたから、明日以降の時程の調整をいたしませんと」
大淀「放送も始まることですから、本日のうちに出来うる限りの業務を済ませましょう。今夜は寝られないものと考えてくださいね」
提督「はい」
明石「…………大淀も、なかなか尻に敷くタイプだねぇ」
大淀「なにか言った?」
明石「いーや。なんでもないですよーっと」
大淀「…………そう?」
提督「はい」
夕立「ふわああぁぁ~…………」
吹雪「夕立ちゃん、まだ眠そうだね」
睦月「お風呂に入ったらばっちし目が覚めると思ってたんだけどねぇ~」
夕立「じつは夕立、明石さんのところでゲームを買ったっぽいぃ……それで今日は――ふわぁ…………っ」
睦月「げえむ?」
夕立「うん……っ、ちょっと夜更かししちゃって、あんまり寝てないっぽいぃ~……」
吹雪「あー、そういえば最近新作出たんだっけ」
睦月「もー。今日は試写会で挨拶しなきゃいけないから、って昨日言ったのにー!」
夕立「夕立も早く寝るつもりだったんだけど、やってたらどんどん時間が過ぎちゃってぇ~……」
夕立「気づいたらちゅんちゅんしてたっぽいぃ……」
吹雪「そうなんだ。新しく出たのって、ものを作ったりするゲームだったよね?
わたしはパッと見てそんなにだな、って思ったから買わなかったけど……そんなに楽しかったの?」
睦月「睦月も知ってるよー。なんだっけ、マイ、マイ……クラリネット、みたいな……。そんな感じの名前だよねっ」
夕立「そーそー! 夕立も興味本位で買ってみただけなんだけど、これが意外とはまるっぽい!
みんなでインターネットにつないで、オンラインで出来るっぽいから。買ったら一緒にやろー!」
夕立「モンスターを倒したり、家を作ったり、田んぼを耕したり……意外とファンタジーっぽい!」
吹雪「へえ、そうだったんだ……なんだか、イメージとぜんぜん違うんだね。モンスターとか……」
睦月「睦月もレゴブロックみたいなゲームだと思ってたよぉ」
夕立「夕立も買うまではそう思ってたんだけど、ぜんぜん違ったっぽい!」
夕立「せっかく出撃がないんだし、いまのうちにたっくさん遊んでおこっかなって!
村雨ちゃんと春雨ちゃんも、積んであるゲームを早く消化しないとって急いでたっぽい!」
吹雪「たしかにそうだよね。わたしも読んでない本とかゲームとかやっておかないと……」
吹雪「しばらくは出撃がないみたいだけど。また、いつスクランブル出撃がかかるかわからないもんね」
睦月「でもでも、今度からはあんまり夜更かししないよーに! 今回は舞台が終わってからどっときたみたいだけど……」
睦月「アニメのイベントだって、もしかしたらまた行かなくっちゃいけないかもしれないんだからねぇ?」
吹雪「(うげぇっ)」
睦月「あんまりひどいようだと、また長門さんに怒られちゃうよぉ?」
夕立「はぁーい、わかってまーす!」
睦月「もおっ!」
吹雪「あはは…………」
吹雪「――あ。……えっと、着替えは並べて置いておくんだっけ?」
睦月「うんっ。榛名さんが洗濯しておいてくれるみたいだから、カゴに入れて任せちゃいましょー」
夕立「へへ、自分で洗い物しなくっていいってステキっぽい~っ!」
吹雪「そういや夕立ちゃんは家が厳しくて、炊事洗濯が役割分担されてたんだっけ?」
夕立「ぽい! 村雨ちゃんがお料理でー、春雨ちゃんがお掃除でー、夕立がお洗濯っ」
夕立「おかげで寒いときなんかは手がカサカサになってたいへんだったっぽい……」
吹雪「あー。この時期の水場はつらいもんね……。ウチも最低限の家事はやらされてたから、気持ちはわかるよ」
吹雪「洗い物なんかやってると指の皮がパックリ裂けちゃったりね。絆創膏だと痛いままだから包帯で締めつけたり……」
夕立「わかるわかるー! 絆創膏だと水っ気をためちゃうから、巻いてるところがふやけちゃうんだよね~」
夕立「それで、寒いとそのふやけた部分がそのまま固まるから……おばあちゃんみたいな指になっちゃってすっごく痛いっぽい!」
吹雪「あああ! あるそれぇー!! そうならないように、まめに絆創膏を替えて、指を患部をマッサージしたりするけど……」
吹雪「絆創膏の消費がヒドいもんねぇ。それに、みんなそんな感じだから、家じゅうに絆創膏のゴミが転がってたりするしさぁ~」
夕立「そうそう! お風呂場の排水溝に、絆創膏のゴミが詰まってたりするよね~!
夕立「オマケに、その詰まった上に髪の毛とかがもううじゃうじゃと…………」
吹雪「ひゃーっ! 思い出しただけで気持ち悪くて震えがあ~~っ」ブルブル
夕立「すっ……ごく気持ち悪いもんね! 水場のお掃除はきもちわるいのいっぱいっぽい~っ」
睦月「…………睦月、ぽつーん」
睦月「(睦月、いつも如月ちゃんがやってくれてたから、そういえば家事とかあんまりやったことなかったなぁ……)」
睦月「(たまにはお料理しようと思ってレシピ調べてたら。
それを見た如月ちゃんが“睦月ちゃん、これ食べたいの? じゃあ如月、頑張っちゃうわよ!”って張り切って作っちゃうし)」
睦月「(せめて洗い物くらいは、と思って水場に立っても。
“睦月ちゃんは可愛い女の子なんだから、冬の水場はお肌に危険よ?”なんて言って無理やりどかされちゃうし!)」
睦月「(如月ちゃん、あなたも女の子でしょーが!)」
睦月「(……そう返したら、“子役タレントがいきなり指に絆創膏まいてきたら変じゃない”と笑われたんだっけぇ)」
睦月「(…………よく考えてみたら、ガッコに通ってたときに持っていったお弁当も、如月ちゃんがつくったやつだ)」
睦月「(着てた制服のお洗濯、アイロンがけも如月ちゃん。お弁当を包む巾着を縫ったのも如月ちゃん)」
睦月「(授業に使ったノートや筆箱、ペンや消しゴムを作ったのも如月ちゃん)」
睦月「(学校に置いてある黒板や机なんかを作ったのも、如月ちゃん――というか、わたしたちのお父さんの会社)」
睦月「(あ…………あれ…………? もしかして睦月ちゃん、女子力低い、っぽい……?)」
睦月「(うわっ、睦月の女子力、低すぎ…………?)」
吹雪「……――睦月ちゃん、どうかした?」
睦月「ひゃいっ!? いえいえいえいえ、なんでもありまっせんよぉ~!!」
夕立「だいじょーぶ? 睦月ちゃんも眠くなっちゃったっぽい?」
睦月「そ、そんなことないよー! え、ええっと! それじゃあ洗濯物、このカゴの隣に並べておけばいいのかなぁ!?」
睦月「もう誰かの服が置いてあるみたいだけどぉっ!?」
吹雪「かな? ――あれ、でもこの服って提督の服、かな? 左隣には榛名さんの着替えが入ったカゴがあるけど」
夕立「あ、てーとくさんと榛名さんは、朝出かける前にお風呂入ったっぽい?」
夕立「だからそのときの服っぽい。でもこの服、明日着るみたいだから、今日洗ってすぐに乾かしちゃうって言ってたっぽい!」
吹雪「ああ、だから“まとめて洗う”って言ってたんだね」
夕立「むふ、せっかくだからこの際、てーとくさんのぱんつをお持ちかえりぃ――」
睦月「やめなさいったら」ペチン
夕立「きゃふんっ」
吹雪「あはは、大井さんみたいにはならないように気をつけようね。北上さんも苦労してるなぁ……」
睦月「あっ、大井さんなら、北上さんの下着をこっそり盗っていく裏で、新しい下着を購入してすり替えてるらしいよぉ?」
睦月「夜遅くにその場面を目撃した加賀さんが、こっそり北上さんに耳打ちしてるの見たもん」
吹雪「うわぁ…………でもあの人、べつに、その……同性愛者ってワケじゃない……よね?」
睦月「本人はそう言ってるみたいだけどねぇ……」
夕立「――愛ゆえに、っぽい」
吹雪「ええっと、じゃあこの……司令官のカゴを、榛名さんのカゴとで挟む形で置けばいいのかな?」
睦月「そう、かな? その場合だと、“左から”榛名さん、提督、吹雪ちゃんの順番になるの、かなぁ?」
夕立「じゃあ夕立はその吹雪ちゃんのとっなりっぽいー!」グイグイ
睦月「きゃっ! ……もう夕立ちゃん、せっかちなんだからぁ」
吹雪「足元濡れて滑りやすいんだから、あんまり暴れないでよ! もう……」
夕立「あ……でも、吹雪ちゃんの隣に並べちゃうと、扉の前を邪魔しちゃうっぽい……」
睦月「しょうがないから、ちょっと離れたところに置いちゃいましょ? 扉を遮るのはよくないからねぇ」
夕立「はーい…………それじゃ吹雪ちゃん、またね」
吹雪「あはは、カゴを離すだけなのにまたねって!」
吹雪「……でも、男の人と一緒に服を洗うって、なんだか慣れちゃったね。
子どものころは、お父さんと一緒に服を洗わないでとか、お風呂の水ちゃんと分けてとか、ヒドいこと言ってたけどなぁ……」
睦月「まぁ、いろんな人がいる鎮守府で、誰かと一緒に洗わないでっていうのは難しいもんねぇ」
夕立「でもでも。てーとくさんも、出来るだけ自分の服は自分で洗おうとしてるっぽい?」
夕立「最近はお仕事ばーっかりでたいへんみたいだから、榛名さんがやってるっぽいけどぉ……」
吹雪「あぁー。なんかこの間もたっくさん人が来てたけど、その事後処理? で忙しいみたいだもんね」
睦月「あっ、それってこの間の放送のときのだよね? あれって、結局いったいなんだったのかなぁ」
睦月「なんだか提督執務室のほうじゃ、たいへんなことになってたみたいだけど……」
吹雪「あーあれね、なんだか聞いた話によると……オバケって言うウワサもあるみたい」
吹雪「司令官は昔から、そういうのを引き寄せる体質みたいで……夜な夜な街中を徘徊しては、専用掃除機でオバケを吸い込んで回ってるっていうウワサも……」
夕立「ひぃっ」
睦月「こ、怖いこと言わないでよ、もう吹雪ちゃんっ!」
吹雪「あはは……でも司令官、学生のころはそんな感じのアルバイトをやってたって誰かが言ってたから、本当なんじゃないかなあ?」
睦月「あの人、いったい何者なのさぁ…………」
夕立「…………とりあえず、オバケの話はここまでっぽい! 吹雪ちゃんも睦月ちゃんも、せっかくだから遊戯室で一緒にゲームしよ?」
夕立「新しい筐体が入ったみたいだから、三人で一緒にプレイしたいっぽい!」
夕立「てーとくさんがご飯を用意してくれてるって言ってたから、そのあとでもよかったらだけど、どうかなぁ?」
睦月「睦月ちゃんはオッケーなのです!」
吹雪「いいねぇそれ! どんなのが入ったの?」
夕立「むふふ、明石さんの情報を先取りしたところ、関西弁を喋るタコを操作して、宇宙を救っていくゲームみたいっぽい?」
睦月「あは、タコって! しかも喋るんだ!」
吹雪「あ、明石さんのラインナップはときどき変なのを持ってくるね……」
夕立「でも難しいみたいだから、夕立一人じゃちょっと攻略できなさそうっぽい……」
夕立「だから、三人で頑張るっぽい!」
吹雪「…………うん、わかった! ちょっと変わったゲームもたまにはいいよね!」
睦月「さぁさぁ、張り切っていきましょー!」
夕立「おー!!」
吹雪「おー!!」
――――
――
コソコソ
「…………」
「…………」
コソコソ
「…………“これ”が、司令官の着替えかしら」
「…………そのはずっぴょん」
「まったく……みんなの前で人に恥をかかせておいて、自分はのうのうと放送を楽しむなんて……」
「フェアじゃないっぴょん!」
「許しがたい行為よ。まったく…………誰が天から舞い降りた、て……天女よ。もうっ」
「…………顔赤いけど、だいじょぶ?」
「ええ、気にしないで。――さて、あのバカには、ちょーっとばかしお灸を据えてやらなくっちゃね」
「うひひひっ、パパの手紙をみんなの前で読み上げた罪、万死に値するっぴょん!」
「そういえば、あなたが最初にやられたんだったわね。気の毒に……」
「そうっぴょん! パイオニアうーぴょん侍って呼んでもいいっぴょんよ?」
「…………遠慮しておくわ」
「…………そっか」
「ふふ、なんでちょっと本気で落ち込んでるのよ。――さ、偉大なる先駆者さん、ここはどういった手を打つのかしら?」
「ふひひ……ここに三つのカゴがあるじゃろ?」
「ええ。右から…………ええっと、誰かしら? 私服だからわかりづらいわね」
「ふっふっふ…………心配ご無用、っぴょん!
実はうーちゃん、今日の朝、司令官と榛名さんが順番にシャワー浴びてるのを目撃したっぴょん! 朝シャンっぴょん!」
「え…………ええっ!? そ、それって、二人一緒ってこと!?」
「んーん。残念だけど、一人が出たらもう一人が入るって感じで、ちゃんと分けてたっぴょん」
「そ……そうなの。いえ、ちょっと驚いただけなんだけどね」
「むふふ。――だからきっと、扉に近い“右のカゴから”順番に、榛名さん、司令官、あと……誰かの着替え? の順番なはずっぴょん!」
「なるほどね」
「むふ。だからこの一番右の、榛名さんの下着を――」
グイッ
「――こうやって、司令官のズボンポケットにねじ込んでおくっぴょん!」
「な、なかなかダイタンなことするわね。……でも、大丈夫かしら? 着替えを干すときに気付かれちゃうんじゃない?」
「むふふ、そこもリサーチ済みっぴょん! 司令官、この洗濯物を明日着るらしくって、今日の晩に急いで乾かすみたいっぴょん!」
「それなら乾燥機を使うはずだし、服を干すために広げたら――パサリ。なんてことも無いはずっぴょん!」
「…………へえ、意外と考えているのね。正直、ちょっと見直したわ」
「ふふーん! もっと褒めてもいいっぴょんよ?」
「あなたはただでさえ個性が強いんだから、よそ様の持ち味まで吸収するのはよしなさい」
「へへへ。…………でもこれで、ささやかな復讐完了っぴょん!」
「あの二人、いつも見てたらむずむずするっぴょん! 司令官の手助けにもなるだろうし、うーちゃんたちはなにも悪くないっぴょん!」
「ふふ、なんだかんだで、あなたもずいぶんお人よしね。
……でも、そうね。ポケットから榛名さんの下着が出てくれば、あの人もずいぶん焦りそうね」
「そのときは、うーぴょんとむーぴょんで思いっきり冷かしてやるっぴょん!」
「…………むーぴょんはやめなさい」
――――
――
やっとラジオに入れます。艦娘マイクラも一応考えてはいるけれど、長くなりそうだからいつか個別にスレでも立ててやろうかな
急ぎ足を意識しているせいか、司令官を提督で呼んだり呼称間違いとかが所々ありますね。確認ちゃんとしなくっちゃ
またしばらく沈んでいますので、気長にお待ちください
一気にまとめて投下しようと思ったのですが、進行と語りで悩んでてちょっと止まっちゃいました
お便り紹介のコーナーまで落としますね。たぶんどのあたりを悩んで、削って、修正したとかわかりそう
明石「そろそろ放送一分前です! 各自、お手元にあります台本の再確認をお願いいたします!」
明石「トイレや忘れ物等、行きたい方がいらっしゃればこちらで間を繋ぎますので、今のうちに進み出てください!」
睦月「…………うう、ちょっと緊張してきちゃったぁ」
夕立「睦月ちゃんだいじょーぶ? でも睦月ちゃんって、こういうラジオのゲストって経験あるんじゃなかった?」
睦月「そうなんだけどぉ、あっちは顔の見えない、知らない人ばっかりのラジオだったからぁ……」
睦月「ここのラジオはお父さんとかお母さんも聴いてるし、鎮守府のみんなも聴いてるからすっごく緊張するよぉ~~っ!」
睦月「変なこと言って、みんなにからかわれたらどうしよぉ……」
提督「はは、まあお前たちならいつも通りに振る舞ってくれたら大丈夫だ。とくに問題のあるメンバーじゃないしな」
睦月「そ、そうは言われてもぉ~……」
夕立「あははっ! 睦月ちゃん、昨日の吹雪ちゃんみたくなってるっぽい!」
提督「……その吹雪だが、大丈夫か? なんだか暗いじゃないか」
吹雪「ぃえっ!? いや、えっと……あはは。その、ちょっと緊張しちゃって……」
夕立「吹雪ちゃんもだいじょーぶ? そわそわしてるけど、忘れ物とかだったら今のうちっぽい?」
吹雪「忘れもの、っていうかぁ、そのぉ……――ううん、なんでもない。気にしないで」
吹雪「司令官さんも、気にしないでください。番組に支障が出ないようにはしますので」
提督「…………そうか? まあ、本人がそう言うなら追及はしないが……なにかあったらすぐ言えよ」
提督「幸い、今日はたくさんゲストがいるんだし。途中抜けしても気づかれないよう、うまくやるからさ」
吹雪「はい、すみません。ありがとうございます」
明石「放送開始三十秒前です! みなさん、心の準備はよろしいでしょうかー!?」
提督「うし。みんな、マイク音源のオンオフくらいは把握しているよな?
あとフリーのお便り用の箱がこの色、お悩み相談のお便りが入った箱はこっちの色だ。間違えないように」
提督「放送中にトイレとか行きたくなったらマイク切って言ってくれ。
さっきも言ったが、これだけの人数がいれば、途中抜けしても気づかれないよう誤魔化すのは難しくないからな」
睦月「はーいっ! 睦月、気合入れていっきまーすっ!」
夕立「てーとくさん! 夕立、ピザとかパスタとかお腹いーっぱいに食べたいっぽい!」
提督「はは、それは放送の後でな。イタリアンか……ほかの二人も希望がなければ、イタリアンで良いか?」
睦月「はいっ、チーズはのび~るやつでお願いします!!」
夕立「いいよねぇ、おもちみたいにぶいーんって伸びるピザぁ……最高にステキっぽい!」
提督「吹雪もそれで構わないか? いや、ほかに希望したい食べ物があれば、個別に用意できるが」
吹雪「…………」
提督「……吹雪?」
吹雪「――ぁ、はいっ! わたしもそれで大丈夫ですっ!」
提督「おいおい、本当に大丈夫かよ…………」
明石「それでは久々の放送、開始いたします! 準備の方お願いします!」
明石「放送開始五秒前! さん、に――」
明石「(――いちっ! みなさん、頑張ってください!)」
提督「(よし、そんじゃやるとしますかっ!)」
夕立「(ぽいっ!)」
睦月「(睦月、がんばりまーすっ!)」
吹雪「…………」
――ちゃーらら ららら~
――ちゃるめら ちゃらら~
『ラジオの前にお座りのみなさま、こんばんは! 本日の時刻、フタマルマルマルの訪れをお知らせいたします!』
陸奥「おっ、しっかり始まったわね」
長門「ああ。いっときはどうなるかと思ったが……無事に再開できて何よりだ」
霧島「けっきょくあのお祓いってなんだったんでしょうね。お祓い中に、霊の妨害を受けなかったのはあれが初めてでしたけど……」
比叡「んー。お祓いの直前に力尽きたか、それとも甘んじてお祓いを受けたか、どっちかかもね」
比叡「怨霊化するくらい意識が強いのに、お祓いをおとなしく受けるっていうのもあんまりない話だけど」
金剛「優しいゴーストさんだったのかもしれないネー」
伊勢「(…………あの騒動って結局、まだみんなには話していないの?)」
日向「(――ん? ……ああ、そうみたいだな。まあ、近いうちに提督の口から、然るべきタイミングで語られるだろう)」
日向「…………」
伊勢「――? ……どしたのさ日向。そわそわして……珍しいじゃん」
日向「いや……気にするな。なんでもない」
『何日かぶりの再会となりますね。みなさん、お久しぶりです! あなたの提督が帰ってきました!』
飛鷹「まーたワケのわからないことを言って……」
龍驤「いつもの発作みたいなモンやろ」
祥鳳「うふふ。みなさん、なかなか辛辣ですね」
千歳「ま、普段あれだけおちゃらけてるからねぇ。いちいち相手に取ってたら疲れちゃうわよ」
龍驤「せや言うことや。…………どしたん瑞鳳。えっらいきょろきょろしとるけど、どないしたん?」
瑞鳳「えっ? いや…………なんだか、視線を感じるなって。気のせいかなぁ?」
千代田「今日はみーんなこの食堂に集まってるからね。これだけ賑わってたら勘違いしちゃってもおかしくないんじゃないかな」
隼鷹「なんか、間宮さんと鳳翔さんから催しがあるから集まってーって聞いたからねぇ。みんな期待してるんさ」
飛鷹「あの二人からってなるともう、おいしいものって相場が決まってるからね。太っちゃいそう……」
祥鳳「お正月シーズンはたくさん食べますからね。そのうえ出撃もなし、となると身体にお肉が……」
瑞鳳「勘違い、かなぁ……うぅん。そうかもね。ごめんね、なんでもない、かな?」
龍驤「瑞鳳は気にしぃやからなぁ~」
『安否を気遣うご心配のメールやお葉書、たくさん届きました。ありがとうございます』
『今回が三回目の放送だーっていうのに、あは。前回はたいへん失礼いたしました。ただの霊障でしたので、お気になさらないでください』
五十鈴「“ただの霊障”っていうのも、たいがいおかしいでしょ……」
由良「この鎮守府にいると、トンデモな事態に耐性が出来てくるよねぇ」
天龍「…………え!? 幽霊って本当にいんのか!? マジでっ!?」
龍田「そうよぉ天龍ちゃん。幽霊なんてもう、そこらじゅうにわんさか漂っているんだから」
龍田「ほぉら天龍ちゃん、いま……天龍ちゃんの後ろにも――ああ、振り返らないようにねぇ。目と目が合っちゃうと、連れていかれてしまうから……」
天龍「つ、連れていかれる!? どこにだ!? えっうしろ!?」
龍田「この世はわからないことがたくさんあるわぁ。……どんな風が吹いても、負けない人になりましょう?」
天龍「意味深なこと言うなあああ~~っっ!!」
長良「(うわぁ、龍田さん楽しそうだなぁ…………)」
『霊障って言ってもアレですけどね。よくあるポルターガイストというか……危害が及ばない範囲のものでしたけどね』
『それでも、あまりないことだと驚かれるかもしれませんが。実は僕、むかしからけっこうこういうことあるんですよ』
『家――といっても居候先ですが――に帰って、着替えてシャワーを浴びていたら、その間に脱いだ衣類がなくなっているだとか』
『日替わりで、使っていた歯ブラシやお箸がなくなっていたりだとか。極め付けは、着ていないはずの服がぐっしょり濡れていたときもありました』
『一日中、妙に肌にねばりつく視線を感じたりもしましたしね。さっと振り返っても誰もいないことばかりでしたし』
『こういうの、霊媒体質って言うんでしたっけ? はは、神職の家に居候していたから、それのせいかもわかりませんね』
扶桑「(…………ちらっ)」
霧島「(さっ)」
比叡「(さっ)」
金剛「フン、フフ~ン」
山城「…………馬鹿は見つかったようですね」
陸奥「なーにやってんだか…………」
提督『みなさんも、こういった心霊現象に出くわしたら、迷わず近場のお寺か神社に駆け込みましょう。駆け込み寺とかって言うでしょう?』
提督『正確には、お寺だと厄除け、神社だと厄払いって言うんですけどね。
霊能力に長けた住職さんや神主さんでない限り、形式的なもので済まされてしまいますが――』
提督『それでも、その“お祓いを受けた”というカタチが重要なのです。
心霊現象というものは、弱った心の隙間を突いて攻めるように現れますから――』
提督『一度“お祓いを受けた”という自信、安心がつけば、その隙間が埋まっていくんです。
お値段としてはだいたい、数千円から数万円……まちまちですね? でも、それだけの価値はあると思います』
提督『よく霊能力者だとかが、個人的にお祓いをやっているところもありますが――あちらはあまりオススメできません』
提督『個人のところだと、除霊は身体に負担がかかるから、といった理由で法外な金銭価格を要求してくる人が多いんですよ』
提督『そうですねぇ。この間テレビに出ていた人ですと……たしか数十万円から、でしたっけ?
相手によっては、数百万の額を叩きつけてくる霊能者のかたも、決して少なくはないんですよ』
提督『しかもそれも、一度ではなく何度も除霊が必要と言って、繰り返し要求してくることも多いです』
陸奥「あー、あるわね。テレビとかでよくやってるでしょ、霊能者特集みたいなやつ」
金剛「ありますネー」
比叡「夏場なんかによく特集組まれてますよね」
陸奥「あれね、友達が一回信じて訪ねたんだけど、見事に騙されたって。
室内に招いたら、“人払いが必要になりますので、ちょっと出ていてもらえませんか”って言われて、テレビの人が言うならーって信用して席を外したんだけど」
陸奥「あんまりにも時間がかかるもんだから、窓からこっそり確認すると――。
部屋中がひっくり返されてて、金品や金目のものをまるまる盗られて、忽然と消えてたらしいわよ」
霧島「あー、それは気の毒に……」
長門「メディア・リテラシーということだろうな。ウソは、ウソであると見抜ける人でなければ難しい」
陸奥「被害届も出したみたいだけど、もうパッタリ。巧妙に舌先三寸で騙くらかすものねぇ」
提督『それで終わるなら、いいんですが――最悪、頼った霊能者が、ただのインチキ。詐欺師であることもまた、決して珍しい話ではありません』
提督『ウェブ上で除霊を受け付けている霊能者に依頼するなら、まず金額を確認してください。
しっかり金額を明示していないところは、こちらの懐具合を探って金額を設定してきます』
提督『あらかじめ、きちんと金額を確認しておかなければ、あとになって馬鹿げた額に目を回す――なんてこともありますから』
提督『その点、仏閣や社を構えているところは安全ですよ! なんてったって、ホンモノですからね!』
提督『僕個人のオススメは、金剛大社です! ――あ、聞いてない? ……そうですか。でも喋りますよおっ!』
提督『なんといっても金剛大社、超美人姉妹が巫女をやっていることがあるんですよ』
提督『最近は忙しくって、あまり顔を出せていないみたいですけど――うふひひ、カワイーですよぉ。見てるだけで目の保養に――』
提督『――あっ、やめて明石さん! ものを投げないで! ちょ、それ水入ってるからあっ!!』
『――――』ガタゴト
能代「自業自得ね」
矢矧「ええ」
阿賀野「むー、金剛さんたちばーっかり褒めて。阿賀野たちだって頑張ってるのにー!」
酒匂「ぴゃあーっ!」
提督『えー、先ほどの不適切な発言、たいへん失礼いたしました。心よりお詫び申し上げ奉り候』
天津風「おかしくなるのが早すぎる!」
島風「提督もはやいのっ!?」
時津風「ゼッタイ反省してねーでしょ、あれ」
初風「まったく。一度痛い目を見た方がいいんじゃないかしら」
提督『…………まあでも、困ったら神域に駆け込むことは本当にオススメです。ぬるりと変わりますからね』
提督『お祓いっていうのは、“マイナスをゼロに戻す”行為なんですよ。
マイナスを祓ってゼロに戻すワケなので、お祓いしたあとはマイナスが近づいてこない――』
提督『つまり、プラスがよく舞いこんでくるわけです。
物事がプラスに運ばれていくので、考えもポジティヴになっていきますし。いいことずくめですよ』
提督『……でもま、幽霊談義はここまでにしておきましょうか。本日は新規の視聴者さまも多数おられるとのことで、ちょっと緊張してるんですよね』
提督『横で見ているゲストの艦娘たちも、目を丸くしてこちらを見つめています。あはは』
提督『みなさん、知ってました? 僕って喋るの、あんまり得意なほうではないんですよ。
この放送のMCを勤めていられるのも、昔とった杵柄のおかげ――というカンジで。けっこう大変なんですよ、これ』
磯風「――ほう、そうだったのか?」
陽炎「ん、まあね。いまとなっては元帥だけど、叔父提督っているでしょ?」
磯風「うむ、よく知っている」
陽炎「ん。んでその人がもともとこの鎮守府を動かしていたんだけど。
そのときに人手不足で、事情があって人員の補充が難しいときに、血縁者だから信用できるってことで入ってきたのがいまの司令なの」
黒潮「最初に会うたときなんかもうえらかったなぁ。目ェ合わせんし、妙に距離取ろうとしよるしでや……」
磯風「そうなのか? いまの軟派な彼を見ていると、想像もつきにくいものだが……」
陽炎「それがそうなのよぉ。後になってからわかったんだけどね、金剛さんたちが常に傍にいたせいで、ほかの女の子に対する耐性がなかったみたい」
黒潮「逆になぁ?」
磯風「ほう?」
陽炎「おっかしいよねぇ? 美少女を常にはべらせてるのに、他の女の子はてんで無理って言うんだから傑作だったわよっ」
不知火「今となっては昔の話ですが。当時は意思疎通を図るのが大変でした」
不知火「はじめは金剛さんたちも艦娘ではありませんでしたから。ずっといるというわけでもありませんでしたし」
浦風「へえ……そやったんか。なんやもう、後になって入ってきたんがもったいのう感じるなぁ」
陽炎「あははっ、そこは古株である、わたしたちの特権かな?」
黒潮「今やもう、名の知れた一提督やからなぁ。いまはもー麒麟児かっちゅーくらい言われとるし」
提督『――あっと、CMですか? ……すみません、まだ始まったばかりですけど、ちょっとしたCMを挟みますね。では』
ガラリ
鳳翔「みなさん、お待たせいたしました」
間宮「おやつの時間でーす! 間宮&鳳翔特製ドーナツですよ~」
文月「やったぁ! どぉなっつだあ!」
響「ハラショーー」
長月「ほう、ドーナツとはまた久しいな……いただいても、いいのか?」
間宮「ちょぉーっと待ってくださいね~、いまテーブルに並べますから……」
鳳翔「みなさん、ちょっとだけ道を空けてくださいね」
望月「わ、わ、わ、バスケットに山盛りになったドーナツに、種類ごとにわかれたお皿に…………」
暁「ど、どんどん運んできてるわっ! こ、これ……ぜんぶ、食べていいのっ?」
天龍「えっ! 今日は全員お菓子食べてもいいのか!?」
鳳翔「はい。しっかり食べてください」
間宮「おかわりもありますよ」
鈴谷「い、いつもはこういうの、駆逐艦の子たちばっかりなのに……鈴谷たちも?」
熊野「こ、これは……ものすごく上品なドーナッツですわ。有名店に勝るとも劣らない、この品質……っ」
鳳翔「ええ、遠慮しないでください。今までのぶんも、たっくさん食べてくださいね?」
雷「やったぁ! ねね、電! 早く取りに行きましょっ!」
電「わ、わかったのです!」
深雪「うめ…………うめ…………」
鳳翔「…………ふふふ」
間宮「ふふふふ…………」
間宮「ええっと、各お皿にトングを配置いたしましたので、お食べの際にはこちらを使用して取り分けてくださいね」
間宮「ピンク色の大皿と、木で編んだバスケットに盛られているのは、このわたし、間宮特製のスイートドーナツです!」
間宮「間宮ドーナツは、間宮の技術を余すところなく使った、とぉ~ってもあまいドーナッツになっています!
駆逐艦や軽巡洋艦のみんなには、大人気間違いナシの味になっているはずですよ! 自信作です、一度口に運んでみてくださいっ」
鳳翔「白色の大皿と、桐の木箱に入っているものは、ささやかながら、わたしが協力させていただきました」
鳳翔「ちょっとした大人の女性向けの、甘みをおさえたドーナツになっています。
コーヒーや渋いお茶に合う、しっとりとしたドーナツです。風味や香りも楽しめる、素敵なおやつですよ」
間宮「もし残っても、冷蔵庫に保存しておけば日持ちいたしますので、お持ち帰りなんかにどうぞ!」
鳳翔「持ち帰り用のタッパーや包み紙はこちらに用意してありますので、よければどうぞ」
加賀「さすがに気分が高揚します」
赤城「ああ…………ここが地平線の最果て。唯一無二の桃源郷――ユートピアなのね。まさに、シャングリ・ラ…………」
蒼龍「ト、トリップしてる……」
龍鳳「(――――シャングリラ?)」ピクッ
飛龍「蒼龍、早く行かないとなくなっちゃうよ! 置いてくからねっ」
蒼龍「あっ、待ってよ飛龍っ!」
翔鶴「瑞鶴はなにがいい? わたしが取ってきてあげようか?」
瑞鶴「翔鶴姉ぇは座ってゆっくりしてて! わたしがあの乱気流をくぐり抜けて、良さげなものを選んできてあげるからっ」
雲龍「ど、どおなつ…………こんなに贅沢をしてしまってもいいのでしょうか。不安になってしまいます……」
雲龍「こうして眺めているだけで、幸せというか……」
大鳳「これ……大丈夫かしら。今日とったカロリー、トレーニングで消化しきれるのかしら……」
大鳳「ああ、でもこの色合い、この香り、この艶やかさ――どこを見ても一航戦。でも、ちょっとした油断が命取りになることも……」
加賀「カロリーやエンゲル係数に牙を剥かなければ、楽しく生きていけませんよ」
赤城「さあ大鳳さん! 風の吹く丘に目を凝らしなさい! 舞い上がった砂の中に、あなたの本当の体重計がまってる!」
大鳳「焚きつけてるのか引き止めてるのかどっちなんですかあ~~っ!!」
蒼龍「赤城さんも、あんまり食べすぎたら翌朝に響きますよ。
産まれるときの命名候補だった“大鯨”みたいに、大きなクジラになっちゃいますから気をつけてくださいね」
赤城「わたしは今を生きるオンナですっ! 過去は振り返りませんっ!!」
飛龍「慢心でしょ。勇ましすぎる…………」
夕張「…………」
神通「……夕張さん? どうされましたか?」
川内「さっきからみょーにぼーっとしてるじゃん。ずっと同じトコ睨んでるっていうか……」
那珂「早く食べないと、ドーナツなくなっちゃうよぉ?」
夕張「――え? あ、いや、あはは! ちょっと考え事です! でもこれ、すっごいですね!」
夕張「年越しパーティのときもすっごかったですけど、花畑みたいなドーナツ平野!」
阿賀野「このときばっかりは、艦娘やっててよかったぁって思うよねっ」
能代「阿賀野姉ぇ、そんなにたくさん食べてだいじょうぶ? お腹痛くならない?」
川内「夜戦がないのはすっごい退屈だけど、こういうのも悪くないよね」
神通「甘いものを食べた夜は、ぐっすり幸せに眠れますからね」
矢矧「ただ、食べたぶんそのまま返ってくるっていうのが怖いけどね。余計なバルジがついちゃわないか不安だわ……」
酒匂「ぴゃあっ」
能代「あ、バカ矢矧っ!」
矢矧「え? ――――あっ」
阿賀野「」ピシッ
那珂「わっ、阿賀野ちゃんが石みたいになっちゃった!」
川内「……矢矧あんた、なかなかえげつないことするね。脱帽よ」
神通「阿賀野さんは体型を非常に気にしていらっしゃいますからね。非情です」
矢矧「ち、ちがっ……べ、べつにっ、阿賀野姉さんのことを言ったわけじゃないから!!」
矢矧「阿賀野姉さんが太ってるとかそんな、考えてたワケじゃないから!」
矢矧「たしかにちょーっと普段から間食が多いなーとは思ってたけどぜんぜん関係ないしっ」
阿賀野「」ピシシ
能代「こ、これは…………」
神通「完全に石化してしまっていますね。メデューサ矢矧の称号を授けましょう」
メデューサ矢矧「」
酒匂「ぴゃあ~っ!」
日向「(もぐもぐ)」チラッ
伊勢「んん……っ! ――くはぁっ。鳳翔さんの作ったしっとりドーナツ、すっごく美味しいわねぇ……」
扶桑「そうね……。間宮さんのも甘くって美味しいけれど。わたしたちみたいな年長組には、こちらのほうが舌に合うかも……」
山城「ヘイ“えせ”巫女ガール! お味のほどはいかがですかあっ!?」
金剛「Wrap it up! ティータイムを妨げることは、何人たりとも許しまセーン!」
比叡「……山城さん、申し訳ないですけど、今日のところは……」
霧島「お姉さまにとって、紅茶のお時間はなにものにも代えがたいものですから……。すみません」
山城「……あ、あら、そう? な、なんだか悪かったですね。お邪魔しちゃったみたいで」
伊勢「(このとき山城、意外に素直)」
日向「(まあ、もともと嫌っているわけでもないようだからな)」
長門「…………ふむ。鳳翔のドーナツは、コーヒーというより、抹茶のお茶が合う気がするな」
陸奥「そうねぇ、コクが深いというか、しっとり沁みてくるような、落ち着いた味だから……。でも、抹茶ってあったかしら?」
比叡「もちろん、用意してありますよ~。抹茶をお二つですか? ちょっと待っててくださいね~」パタパタ
長門「すまないな、頼む。…………ずいぶん活き活きしていたな」
金剛「ヒエーは学生時代、高級喫茶店でアルバイトしていたからデース。給仕を楽しんでいるみたいだから、気にしないでくだサーイ」
陸奥「そう? なんだか悪いわね。…………そういえば、榛名さんの姿が見えないようだけど」
霧島「ああ、榛名でしたら…………あちらに」サッ
陸奥「あっち?」チラッ
榛名「…………」
龍鳳「…………」
榛名「おいしいですね、龍鳳さん」
龍鳳「はい。とてもおいしいですね、榛名さん」
榛名「(もぐもぐ)」
龍鳳「(もぐもぐ)」
霧島「…………なんでしたら、お呼びしましょうか?」
陸奥「…………いや。めんどくさいのはヤよ。見なかったことにしましょう」
霧島「賢明な判断かと」
提督「そろそろ、食堂のほうでは間宮さんのドーナツが運ばれている最中ですかね」
明石「ええ、その頃合いかと。……――とはいっても、こちらもそうなんですけどね」
夕立「さぁ、素敵なドーナッツパーティしましょ! どーなっつ~ど~なっつ~っ」ルンルン
提督「そういや夕立、親戚のドーナツ屋でアルバイトしてたこともあったんだっけ」
夕立「うん! だからドーナッツはね~、すっごく大好きっ! はむっ」
睦月「ふわぁっ、このドーナッツ、すっごく美味しい……撮影で食べたパフェも美味しかったけど、睦月はこっちの方が好き、かもぉ……」
夕立「ほら、てーとくさんも! あ~ん?」
提督「ん、あ~ん――――はむ」
夕立「ふふ、お味のほうはいかがっぽい?」
提督「んぐんぐ……。――うまひな」
睦月「にゃは。喋るときはちゃあんとおくち隠すんですね」
吹雪「(もぐもぐ)」ムズムズ
提督「むぐぐ。……ああ、そういや撮影で丼パフェ食ってたな。美味かったか?」
睦月「はい! あれだけおっきなパフェなのに、食べててもぜんっぜん飽きないんですっ!」
夕立「吹雪ちゃんが何回かリテイクだしたけど、それでもずっと食べていられたっぽい!」
睦月「リテイク出しちゃったら新しいものと取りかえるんですけどね。スタッフのみんなが“自分たちも食べられる”って大喜びだったにゃーん」
夕立「リテイク多すぎて、最終的にはみんな胸焼けしてたっぽい」
吹雪「う、うるさいなあ! もういいでしょったらぁっ!」
提督「はは、あのシーンはなかなか難しかったろ。本当に美味そうな表情だったからなあ……今度、グルメドラマのオファーとか来るかもな」
睦月「ふふ、吹雪ちゃんのモノローグだけで半時間進むドラマかぁ、ちょっと楽しそうだにゃ~」
睦月「“しまったな、ご飯とカレーライスで、ライスがかぶってしまった……”――とかやってほしいっ」
提督「はは、それは見ごたえがありそうだ。――そんで、向こうの甘味はどうだった?」
提督「ずいぶん気合入ってたけど、資生堂パーラーのやつだろ?
協賛で陽炎と黒潮ん家のお菓子も出てたし。間宮さんも協力したって言うから、日本の甘味王が一堂に会した瞬間だったよな」
明石「かかった予算がすさまじいですよね。デザートの代金と、ドラマに出す権利だけでビルが一棟買えるくらいですから」
提督「すさまじいよなぁ。……――あ、明石さん。座布団とかってありますか? ちょっと使いたいんですけど」
明石「座布団ですか? もちろん用意してありますけど……珍しいですね。普段はあまり座布団とかクッション使わないのに」
提督「はは。ええ、まあ。なんだか今日は妙にすわり心地に違和感があるんですよね」
提督「普段からこの服に袖を通してるんですけど、今日に限って。……昨日一日中座ってたし、お尻に“おでき”でもできたのかな?」
夕立「……もー提督さん! ドーナッツ食べてるときにおしりの話なんてしないでほしいっぽい!」
睦月「そーです! 提督はそういうところ、デリカシーないんだからっ」
提督「おっと、悪いな。……あ、明石さんありがとうございます。助かります」
明石「いえいえ。――そろそろ、CM明けますね。三十秒後あたりで間宮ドーナツのCMが終わりますので、準備をお願いします」
提督「はいよ。オープニングトークもひと段落、かな。気合入れてやるぞおーっ!」
夕立「ふがーっ!」モグモグ
睦月「ふぐふぐっ!」モグモグ
吹雪「(もぐもぐ)」モゾモゾ
提督「…………お前らはまだ食ってていいぞ。間は繋いでおくからさ」
提督『さてさてみなさん、さっきぶりです! ――ふふ、さっきぶりってなんだよ』
提督『いま流れていたCM、お聴きになられたでしょうか? 我が鎮守府が誇る給糧艦、間宮さんの新作情報でした!』
提督『間宮と言えば、みなさんも名前くらいは聞いたことがあるのではないでしょうか?
様々なドラマに出ているお菓子やスイーツ、あれらの半分くらいは間宮さんの実家が出しているお菓子なのです』
提督『いま流れたのはドーナツのCMでしたか? もしそれで興味が湧いたなら、次回の観艦式、ぜひ提督鎮守府へ足をお運び下さい!』
提督『観艦式にお越しいただいたゲストのみなさまには、間宮のスイーツパラダイスに参加できますからね!
業界人も唸らせる間宮の実力。ぜひご堪能いただけたらな、と。僕はそう思っております』
提督『ちょうど今ごろ、うちの食堂では間宮さんや鳳翔さんが、艦娘のみんなに甘味を振る舞っているころと思います』
提督『娘が食べた基地(吉)の味、今日(凶)のみなさまに食べていただける日を、待ち遠しく感じています!』
提督『きっと、忘れられない一日になる。――そう信じています』
提督『――さて、宣伝もここまでといたしましょう。ふふ、広報のつらいところです』
提督『大地の影が空に溶け、地上の星が真冬の花火を描きます今日のこの時間』
提督「さあさあやってまいりましたがお待ちかね!』
提督『――――宵闇照らす、一筋の軌跡』
提督『“ちんじふ裏らじお”、はじまります!』
提督『無事に始まりました“ちんじふ裏らじお”。本日これが三度目の放送となります』
提督『ふふ、これで三度目ですよ!? いろいろハプニングが起こりすぎなんですよ。ちょっとだいじょうぶなんですかこの番組っ』
提督『みなさんにおきましては、これが三日――いや、二日ぶりですかね。ちょっとしたお休みをいただいておりました』
提督『お休みをいただいたとはいえ、色んなことがありすぎて……いまだ僕の頭の中では、除夜の鐘が鳴っております』
提督『煩悩が入る隙間もありません。福男かな? あはは。ドーンッ!! みたいなね』
提督『さてさて、そんなめでたき福男とともに走ってくれるのはこの三人!』
提督『僕の左隣から順番に説明していきまっしょう!』
提督『左から順番に、千葉、滋賀、佐賀さんでーす!!』
夕立『みなさんこんばんは! 千葉だよ――って! てーとくさん!!』
提督『だってお前千葉っぽい顔してんじゃん』
夕立『どういうことなの……』
睦月『その理屈で言うと、睦月ちゃんは佐賀なのかなぁ? ……なんだか、ムエタイやってそうなカンジぃ』
吹雪『わたしなんて滋賀だよぉ。……シガリータ・フブキなり! えいえいっ』
提督『あは、悪い悪い。――さ、今度はちゃあんと紹介していきたいと思います!』
提督『一部のかたはつい昨日のことのように思い出せるのではないでしょうか』
提督『特型一等駆逐艦、ネームシップを務めております。――吹雪先生です!』
吹雪『みなさんっ、吹雪です! よ、よろしくお願いしますぅっ!』
提督『元気があってたいへんよろしい。然る場所では主人公とも言われるこの吹雪。威風堂々といった雰囲気を醸しています』
提督『――お次はこのかた。睦月型駆逐艦ネームシップ、睦月先生です!』
睦月『みんなー! 睦月だよぉーっ! 準備はいいかにゃ~ん?』
提督『心構えは十分といった佇まい。有名子役タレントとして、場数を踏んでいる彼女は違いますね。一部のパパさんママさんには熱狂的ファンもいるとのウワサ』
提督『――そして三人目はこのかた! 白露型駆逐艦の四番艦、夕立先生っぽい!』
夕立『ぽいィィィッッ!!』
提督『うわっ! …………ハハ、いきなり気合の入ったシャウトから入りましたね。もう夜だぞ?』
夕立『こんばんは! 白露型駆逐艦の夕立よ! みんな、よろしくっぽい!』
提督『はい、元気いっぱい夢いっぱい。ぽいぽい響くは誰が嘆きか。――ソロモンの悪夢こと夕立先輩です」
提督『みんな、怒らせると怖いぞ~?』
夕立『こわくなーいよっ! 夕立ちゃんはいつでも優しいっぽい! てーとくさん、変なこと言わないよーに!』
睦月『えぇ~? でも夕立ちゃん、睦月がこっそりお菓子食べちゃったときはもうスッゴかったよぉ~?』
吹雪『あ……鎮守府が揺れてたもんね、声で。核かなにかが落ちてきたのかと思ったもん』
吹雪『あの叫びだけで、れんぽ――連合艦隊の半数以上が壊滅しそうだったよねぇ』
睦月『だよにぇ~』
夕立『そんなことないっぽいぃ! もー、あんまりヘンなことばっかり言うと、パパたちが心配しちゃうっぽい!』
提督『三人寄らばなんとやら。悖らず、恥じず、憾まず! の三人ですね。水雷魂が揃った瞬間でもあります』
提督『この三人のなかに、いつもの僕を加えた四人――と、さらにもう一人。で、今日は放送していこうと思います』
提督『夜のから騒ぎ然としたこの放送。みなさんにも完走していただけると幸いです』
提督『知らない人のために、彼女らをご紹介――と、思いましたけれど。
おそらく、この番組を聴取していただいているみなさまのお手元には、彼女らの資料がきっと置かれてあるのではないのでしょうか』
提督『今宵の放送。新たな視聴者さまも多数いらっしゃるなかで、なぜ三人も。それもさらに、毛色の違う彼女たちなのは――』
提督『実はですねえ、みなさんご存じでしょうか。おそらくご存じのことと思われますが――なんと!』
提督『艦娘の日常が、アニメ化されることになったんです!』
睦月『そうでーっす! 睦月たちをモチーフにしたアニメが始まることになりましたぁっ』
夕立『ていっても、みんな知ってるっぽい? CGモーションの撮影現場に直接呼ばれた人もたくさんいたし……』
吹雪『二人とも、これ放送だから! お父さんたちも聴いてるんだし、そっち向けだよ!』
提督『この三人はなんとその主役! 実際に、“吹雪、夕立、睦月”という役で演じた三人なのです!
決して第三回の放送だから、三の数字にちなんだ。というワケではありません!』
提督『そしてそのアニメ。昨日がその先行試写会当日だったんですよ! この放送を聴いていただいているみなさまにも、何名か会場でご挨拶させていただきました』
龍鳳「――――そうだったんですか?」
榛名「はい。昨日は提督と“いつものように”、二人で街へ出かけました」
龍鳳「…………ああ、見ましたよ。公の場で、なにやらハレンチな行為に及んだと聞きました」
榛名「あら、ご存じだったのですね」
龍鳳「はい、風のウワサで。…………でも、提督も災難ですね。あのかたは、人前でそういった行為に及ぶこと。あまり好みませんから」
龍鳳「時間と場所を弁えた、誠実なお人です。やはりその相方は、相応の人間でなければ務まらないものと思います」
榛名「…………」
榛名「……あら、お褒めにあずかり光栄です。まさか龍鳳さんそのもののお口から、認めていただけるだなんて……感激です」
龍鳳「…………」
龍鳳「……認める? すみません、なにか勘違いをなさっていませんか?」
榛名「…………いいえ? 勘違いではないと、そう言い切れます」
龍鳳「…………へえ?」
榛名「たしかに提督は、あまり人前でくっつくのは喜びませんけれど――あくまでそれは、“榛名から”寄った場合です」
榛名「もし、昨日のように“提督から求められた”のならば、応えるのが榛名の役割ですから。――いえ、榛名の意思、ですけれど」
龍鳳「…………」
榛名「衆人環視の中なのにも関わらず、榛名の背後から、激しく――ああ。恥ずかしくも、満たされた瞬間でした」
榛名「まるで、こっ――行為中の男女の営みのように、夢中になって求められて……これ以上の悦び、ほかにありません」
龍鳳「………………」
榛名「それに、いま放送で流れたアニメの話だって。提督の強い要望で、榛名が冒頭を飾って――」
榛名「本来は出演する予定はなかったのですけど、“榛名がいなきゃ始まんないだろ”と。ああ、やはり榛名にとって、提督は――」
龍鳳「…………」
龍鳳「……知っていますか榛名さん。有名人がテレビで紹介する物件って、本当はオススメしたくないものなんですよ?」
榛名「…………はい?」
龍鳳「本当に好きな物件は。胸のうちに秘めて、しっとりと悦しみたいから」
龍鳳「たくさんの人の目に触れたら、ねぶるように視られて。手垢で埋めつくされて、ヨゴれてしまいますから――」
榛名「………………」
霧島「…………このお祭りムードのなか、あそこだけ温度が違うんですけど。魚群のなかに、一匹だけ深海魚が潜んでいるかのような――」
比叡「シッ! 見ちゃいけませんっ!!」
金剛「むかしはワタシもああだったんですネー……」ズズズ
陸奥「良かったわね。早めに踏ん切りがついて」
明石「あ、提督。そのままでいいから聞いていてくださいね」
明石「えと、マイク音源のオンオフボタンありますよね? その隣に、青色のボタンが増えていると思います」
提督「(ちらっ)」
明石「そちらのボタンを押していただけると、“ラジオを聴いている艦娘のナマの声”がこちらに届くようになっています。
ただ、この“ナマの声”は、“ラジオ放送にも流れる”ようになっているので、ちょっと気をつけてくださいね」
明石「タイミングとしてはそう……お悩み相談のコーナーとかで、明らかにうちの艦娘からのお便りだなーって思ったら入れてください」
明石「そうすれば、この放送を聴いている家庭や大本営も満足いただけるのではないかな、と」
吹雪「(なにその技術……)」
夕立「(ただなんとなく……いまボタンを押したら、とんでもないことになりそうなのはわかったっぽい)」
明石「この放送の本来の目的は、あくまで“艦娘の日常”ですからね。あまり提督ばかりに偏るのもよくないですし……」
明石「お話は以上ですので、意識を戻していただいてけっこうです」
大淀「頃合いを見て、わたしも参加しますね。上手な誘導を期待しています」
提督「(まる)」
提督『僕もその先行試写会、楽しんで見させていただきました。非常に丁寧なつくりになっていて、きっとみなさんも楽しめること請け合いです』
提督『会場には、あのしばふ先生をはじめとした有名画家集団に、女優業でも知られる天城さん。
それと有名モデラーのアドンさん、サムソンさん。前線で戦っている轟提督に、マスコットとしても知られている犬提督――』
提督『各界の著名人が集まって、異様な熱気に包まれていました! どれだけこのアニメに期待が寄せられているか、ということですね』
夕立『……その熱気って、もしかしたらアドンさんとサムソンさんが出してたものかもしれないっぽい』
吹雪『あー…………』
睦月『ナイと言い切れないのが、あの二人のスッゴいところだよぉ……』
提督『…………たしかに』
吹雪『あの二人のそばに生肉持っていったら焼けるからね。ジューシィに』
睦月『蒸すんじゃなくって焼けちゃうんだぁ……』
夕立『どういう現象なの……』
提督『でもあの二人、あんなナリ――ナリっつっちゃったら悪いけど。あんなカッコで一国の王子だからな。驚きだわ』
筑摩「ん~~っ……すっごく甘くて、おいしいわねぇ……。こんな時間に甘いものなんて、ほっぺたが落ちそう――」ズルッ
利根「お、おおぉちちちち、ちくまっ! 頬どころかお面がまるごと剥がれかけておるぞ!!」
筑摩「――え? あら、本当。利根姉さん、ありがとうございます」スッ
利根「い、いや……。しかしいつ見ても、顔が剥がれる……というのは、見慣れぬものじゃな……」ドキドキ
足柄「あら。なーに? まだその罰ゲームやってたの?」
那智「お前が決めたんだろう、まったく……」
妙高「一日中、“妖精さんがつくった精巧なお面”をつけて生活する、なんて怖いわよね。蒸れてお肌に悪そう……」
那智「そもそもが、開発資材の無駄遣いだと思うがな」
羽黒「で、でも、足柄姉さんにしてはかなり良心的な罰ゲームですよね。裸踊りとかじゃなくって……」
足柄「なあに? 羽黒って裸踊りがシュミなの? ひくわー」
羽黒「ちっ、ちがっ!」
利根「しっかし、緻密なつくりのお面じゃな。これ本当に作りものなのか?」ペタペタ
筑摩「うふふ。姉さん…………あんまり触らないでください。顔が崩れてしまいますから……」
利根「――え?」
筑摩「ふふふ、姉さん…………これ、作りものじゃなくって――ほ、ん、と、うのお顔なのおおぉぉぉ~~っっ!!」ズルッ
利根「ひえええええ~~っ!!!」
筑摩「とおおおぉぉぉう!!」シュババ
利根「うわああぁぁっ! くんなぁー!!」ダダダ
摩耶「アッハッハッハッハ!! なにあれエクソシストみてぇ!!」
高雄「なにをやっているんだか……」
鳥海「じ、冗談だと思っていてもどきどきしますね…………」ドキドキ
熊野「…………なんだかどこかで、わたくしのアイデンティティが失われたような気がしますわ」
鈴谷「そーお? ――はむっ。んん~っ! おいひぃーっ!!」
三隈「これは……、うちの職人さんたちにも、まったく引けを取っていない味です」
最上「三隈をしてそう言わせるなんて。やっぱりあの二人って凄いんだね」
三隈「利根さんと筑摩さんですか?」
最上「そっちもある意味すごいけど。いま言ったのは、間宮さんと鳳翔さんのことかな」
瑞鶴「翔鶴姉ぇ~、おかわり取ってきてあげよっか?」
翔鶴「えっ、まだ食べるの? 瑞鶴、だいじょうぶ?」
瑞鶴「これぐらいへーきへーき! ……翔鶴姉ぇは、また今日も書いてるの、それ?
翔鶴「あ、これのこと?」サッ
瑞鶴「うん。こんなときくらいさ、日誌なんて書かなくってもいいんじゃない?」
瑞鶴「みんなワイワイ食べてるしさー、そういうのは寝る前に書いて、いまは目の前のおやつに集中しようよっ」
翔鶴「うーん、でも提督から“記録として残したいから”って頼まれてもいるし……」
翔鶴「もともと、このラジオ放送だって、わたしたちの生活を記録するために始めたものでしょう?」
翔鶴「だから今みたいに、みんながこうやって盛り上がってる……そんな様子こそ、書き記しておくべきじゃないかなぁって」
瑞鶴「翔鶴姉ぇはマジメだなぁ、もお……」
提督『アドンさんとサムソンさんで思い出したけど。お前ら、撮影はどうだった?』
提督『睦月はそれなりに慣れているから問題ないかもしれないが、吹雪と夕立ははじめての世界だろ。
吹雪なんかはアガリ症だしさ、それで問題なんか起こしたり……。夕立は別の意味で問題起こしてそうだが』
提督『テレビの裏側は見えないからさ。そこんとこ興味ある人も多いと思うんだが』
睦月「あーたしかにぃ。睦月も最初は戸惑うコト多かったからにゃー……』
睦月『にしし。吹雪ちゃんはどーだった?』
吹雪『えっ、わたし!? え、えっとねー……。……ど、どうしよ、色んなことがあったのに、思い出そうとしたらなにも出てこないよぅ!』
睦月『あは、あるよねぇ、それ』
睦月『それじゃ夕立ちゃんはどーだったの? 夕立ちゃんはなんだかんだ、最後のほうには適応してきたケド』
夕立『はいはーい! 夕立はねー……。んにゅぅ――あ、そうそう!』
夕立『天城さんがね、撮影の合間合間に持ってきてくれたお菓子が、とーってもおいしかったっぽい!』
夕立『わふー? っていうのかなぁ? 色のついた餡子で、綺麗な形のお菓子! すーっごく甘いのです!』
吹雪『ああ、あれキレイだったよね~! ガラス細工みたいでさ、なんだか食べるのがもったいなくって……』
夕立『わふーっ!』
提督『お、おう。……お前、さっきまでドーナツ食ってたのに、さらにお菓子の話するか』
睦月「アハ。ある意味夕立ちゃんらしいと言えばそうかもぉ……』
夕立『だって美味しかったんだもーん! こっちだとあんまり見ないお菓子だったから、持って帰ろうか悩んじゃったくらい……』
夕立『色とりどりで鮮やかで、見た目もすっごく楽しくって……』
提督『――ってぇ言うと……煉切(ねりきり)かな? 春霞とか、乙女椿とかそのへんだろう』
夕立『はる……? つばき?』
提督『ん、ああ、悪い悪い。そのお菓子の種類……かな?
ピンクのお花の形のやつとか、オレンジ色の葉っぱで包んだみたいな形のやつがあったろ?』
夕立『えーっと……――おおお!! たしかにあったっぽい!! てーとくさん、すごいすごいっ』
吹雪『……たしかにそんなものが多かった気がします』
睦月『あー、たしかにぃ! ちょっと弾力があって、噛むとぷちゅってなるお饅頭だよね?』
提督『うんうん』
提督『さっきさ、天城さんが持ってきてくれたって言ったろ?』
提督『たぶんそれな、陽炎ん家のお菓子だわ。“舞鶴陽炎総本舗”って聞いたことないか?』
睦月『あっ聞いたことあります! アニメのスポンサーリストにも載ってましたよねっ』
吹雪『あ……たしかにわたしも、テレビとかで観たことあるかも。グルメリポーターの人とかがやってる番組とかで……』
提督『そうそう。あそこ練り物がすっげぇウマくってな。その分野だと割とかなり歴史の深いお店だぞ』
朝潮「……それは初めて聞きました。そうだったんですか?」
陽炎「ん、なにが?」
朝潮「いえ、陽炎さんの実家が、あの陽炎総本舗というのは……」
陽炎「あ、ああー…………」
黒潮「うん、せやで。だから陽炎なんかは、地元やとお嬢お嬢言われとったんよ」
大潮「お、おおー。そうだったんですか! ……なんだか普段の陽炎さんを見てると、そんな感じは全然しないのにっ」
満潮「こーら。その言い方は陽炎に失礼でしょ」
霞「……陽炎には悪いけど、たしかにそうね。あんまり“お嬢様”って感じには見えないわ」
霞「そもそも、歴史ある店舗の跡継ぎが艦娘なんかやってるのも意外だし。なんでやってるのさ」
陽炎「あ、あはは…………」
不知火「……そういった家庭の子でも、艦娘になっている人はたくさんいますよ。
赤城さんも、父親が世界規模で有名な画家だったり、母親が有名老舗旅館の支配人をやっていますし」
不知火「あちらで空皿を回収している鳳翔さんも、実家は横浜の高級料亭ですし。そう珍しい話でもないかと」
黒潮「そ。だからそんな家庭の娘が艦娘やっとっても、なんらおかしくないってこと!」
霞「……言われてみれば。ちょっと偏見だったかしら? 悪かったわね陽炎」
陽炎「い、いや、だいじょうぶよぉお~?」
霞「…………なんで上ずってんのよ」
提督『でもそのぶん、陽炎が家出して鎮守府に本格所属したときはヤバかったな。
もともと見学に来てたくらいのときでも圧力かかってたのに、家出してきて開口一番“艦娘になります!”だったもんよ』
提督『幼馴染の黒潮と、まさかの不知火も、おんなじバカ言ってたしなぁ……』
吹雪『え――ええっ! 陽炎ちゃん、家出して艦娘になったんですか!?』
夕立『駆け落ちってやつっぽい!?』
睦月『それはちょっと、違うような気もするにゃーん……』
提督『俺はどうかと思ったよ? だって陽炎みたいな権力ある家の子がさ、当時シケた鎮守府だったここに来たりなんかしたら……』
提督『もうどうにかなっちゃうと思ったもん。……いや、陽炎じゃなくて、この鎮守府がね。
物理的にペシャるんじゃないかって、毎日怯えながら仕事してたんだからな』
霞「あ…………あんた、家出少女だったの?」
満潮「え、それってホントにヤバくない? 艦娘って、保護者がいた場合、許可とってないといろいろ問題があったんじゃ……」
大潮「あー、どおりで様子が変だと思ったぁ。放送初日も、なんかおかしかったもんね」
陽炎「う…………うん」
不知火「そこはご心配なく。当時、叔父元帥さんが内密に処理してくれたようですから」
霞「あ、そうなの? じゃあ今すぐに憲兵団が突っ込んでくることもないわけね」
吹雪『ああ。そういえば昔、家出少女絡みで問題になった鎮守府がありましたね』
吹雪『公式に届出を出さずに艦娘用訓練を受けさせて、艦娘に仕立てあげたことで摘発されたって聞いたことが……』
夕立『あっ、それニュースで見たことあるっぽい』
睦月『それ芸能界でもウワサになってたにゃー。身寄りのない人間を好きにするなんて、どこの業界も変わらないなって話をしてた、かにゃぁ』
睦月『保護者の存在が見えない児童は、独り身の大人と合わせて“感動の再会”ドキュメンタリーを捏造したりなんかとか――』
提督『ちょ待って、それ言っちゃヤバいやつじゃない?』
睦月『あっ――えっと、…………にゃはっ?』
提督『笑ってごまかさない!』
夕立『えぇ……アレって作り話だったっぽいぃ……? 夕立もう次からゼッタイ泣けないしぃ……』
吹雪『うわぁ、そういう番組の裏話とか聞きたくなかった……』
睦月『だ、だいじょうぶだよぉっ! 何割かは本当のコトだしぃ……』
提督『…………ちなみにその“何割”。いくつぐらいなんだ』
夕立『……さすがに八割くらいはホンモノっぽい? 二割もウソなんて信じられないけど……』
吹雪『いや……六割くらいでしょ? お涙頂戴番組って、なんかウソくさい雰囲気あるし……』
睦月『そ、そんなコトないよぉ~。仮にも番組作りのプロばっかりなんだからっ!』
夕立『……よぉく考えてみたら、たしかによそよそしい雰囲気の親子ばっかりだったっぽぃぃ~……』
吹雪『感動の再会なのに、抱き合う手に力が入ってないんだよねぇ。微妙に身体浮いてたりしたし……』
提督『…………で、肝心のところは何割なんだ。何割が本当の親子だったんだ?』
睦月『…………』
睦月『え、本当のこと言っちゃっても大丈夫なんですか? これ(マイク)、入ってますよね?』
提督『構わん。むしろここで切った方が生殺しだ』
夕立『じゃあ吹雪ちゃんと間を取って七割! これなら勝てるっぽい!』
吹雪『えぇ……七割もないでしょぉ……』
睦月『ほ……ほら提督? 吹雪ちゃんも、あんまりいい気じゃないみたいですしぃ……』
提督『いいから』
睦月『い、いいからじゃなくってぇ! ほら吹雪ちゃん! 吹雪ちゃんだって、これ以上聞きたくないよねっ!?』
吹雪『…………もうこの際だから、ぜんぶ聞きたい。わたし、一緒にたたかうっ!!』
夕立『おお、名ゼリフっぽい』
睦月『なんでそこだけ気合十分なのにゃ~~っ!!』
提督『吹雪もこう言っているではないか……。言え』
睦月『で、でも、ほかの業界に影響を与えるようなこと言うと、提督もこの放送も、ヤバいんじゃ――』
提督『関係ない。行け』
睦月『は、はいィィィっ!』
睦月『…………え、ええっとね? 睦月も、あんまり詳しくはないんだけど』
睦月『毎週やってる番組のプロデューサーが話してるところを聞いただけだから、本当かどうかはわからないよぅ?』
提督『もったいぶらなくても、さあ! 来い!』
睦月『え、えっと…………』
睦月『…………さ――三割ない、くらいかにゃー?』
吹雪『半分ですらなかった!?』
夕立『もおおおおおぉぉぉ~~っ!! もうこれからゼッタイ泣けないじゃんかぁぁっ!!』
提督『うわぁ……俺もときどき観てたのに……』
睦月『む、むつきわるくないもーんっ!』
提督『……ちなみにそのさ、“ウソ同士”で固められた親子は番組終了後どうなんの? そのまま解散?』
提督『オツカレっしたーみたいな感じになんの? 教えて睦月先生ねえ教えて』
睦月『ちょっ近っ――え、ええっとですね?』
睦月『番組としてウソがバレるとよくないからって、放送前に戸籍の証明書に書いて、いちおう申請を出しておくんです』
提督『あ、いちおう形式上は家族になってんだ』
吹雪『うわぁ、コッスい……』
睦月『でも、番組が終わったら必要なくなるからぁ……取り消しの申請を送って、はいサヨナラみたいな……?』
提督『ひでぇな!?』
吹雪『一時間ファミリー……』
夕立『インスタント家族計画っぽいぃ……』
睦月『というより、申請出してすぐに取り止めるわけだから、家族にすらなってないかなぁ。ファミリーカッコカリってとこかにゃー?』
提督『やかましいわ』
吹雪『ああ、睦月ちゃんがどんどんおかしく……』
夕立『芸能界の闇は深いっぽい。こんな睦月に誰がした!』
睦月『むしろ感動の再会どころか、家族になって即お別れなので、“勘当の再開”といったところですねっ!』
吹雪『ブラックジョークすぎる!!』
提督『ちょもう黙って! 明石さんマイク切ってぇっ!!』
『――――』ドタバタ
『――――』ドタバタ
摩耶「あの放送いっつも事故ってんな」
青葉「メディアの裏側、そんなに闇が深かったなんて……青葉も、もっともっと頑張らないと!」
衣笠「いや、それはやめて。ちょっと煤けたままの青葉でいて」
木曾「…………あいつ、大丈夫なのか? 今日寝て起きたら、口封じに消されてるとかないよな?」
北上「いやぁ、だいじょーぶでしょー。これくらいならへーきへーき」
大井「そうね。それにあの人なら、刺客にヤられたところで問題ないはずよ。地面に植えて水でも撒いてれば勝手に生えてきます」
木曾「……あいつは作物かなにか?」
球磨「似たようなものクマ」パクパク
多摩「おいしーニャ」モグモグ
千歳「あら? 二人は知ってたみたいな顔してるじゃない。いまの話、興味なかった?」
龍驤「メディアはウチらも切っては離せん関係やしなー。腹ン中探るには興味深い話やったと思うけど」
隼鷹「ん? んー……まあ、メディアの人間が横柄なのは今に始まったことじゃないしねぇ」
飛鷹「ええ。どうしても自分本位で考えがちな人たちだから……。
視聴者の需要は調べるくせに、放送内容は自分本位っていうのがオカシイ話だけどね」
千歳「ああ、そういや元商船……」
隼鷹「そーいうコト」
日向「瑞鳳、隣いいかな?」
瑞鳳「ひゃっ、日向さんっ!?」ビクッ
日向「やあ、今日は寒いな。もっとも、これだけの人口密度ならば暖房要らず、だが」ストン
夕張「ええ、そうですねぇ。ずっとこれくらいの気候が続けばいいんですけど」
瑞鳳「ゆ…………夕張さんも? い、いつの間に?」ビクッ
夕張「ひどいですねぇ。わたしはずーっとここに座ってましたよ?」
瑞鳳「え、え、え、え。でも、さっきは軽巡の人たちと一緒にいた気が……?」
夕張「イヤですねぇ。阿武隈ちゃんじゃないんだから、見間違いなんてしないでくださいよ」
瑞鳳「え、え、えぇ……?」
夕張「わたしは、最初から、ずっと、ここに、いました。ね、日向先生」
日向「ああ、そうだな。――瑞鳳よ、ちょっとばかり、疲れが溜まっているのではないか?」
日向「どれ、ここはひとつわたしがマッサージしてやろう。直々にな……」
瑞鳳「ひぃっ! いいいいえ、大丈夫ですけっこうです間に合ってます!」
瑞鳳「わ、わたしちょっと、どーなっつを取ってくるから、またあとでねっ」ピュッ
夕張「…………」
日向「…………追うぞ」
夕張「……ええ。瑞鳳さんの後方にわたしの座標を“つけて”おきます。いざとなったら座標移動しますから、そのつもりで」
日向「その折には期待している」
夕張「いえいえ。――蒼き、広大なる大空のために」
日向「蒼き広大なる大空のために」
提督『もうさっきから全然艦娘の話してねえじゃんよぉ……』
睦月『提督がそう誘導するからだにゃー……』
吹雪『あ、あはは……』
提督『あ、吹雪復活してたのか。考え事みたいだったが、解決したのか?』
吹雪『解決したってワケじゃないんですけど、あんまり考えててもどうしようもないかなって。
この放送が終わったあとにでも解決しようかなって、そう考えてます』
提督『そうか。それなら俺も手を貸すから、吹雪の指示通りに動こう』
吹雪『ぃえっ!? い、いえ、大丈夫です! わたし個人の問題ですから、司令官はお気になさらず!』
大淀「(……ちょっと、本筋から逸れすぎじゃないかしら? 軌道修正したほうがいいかもしれないわね)」
明石「(そう、ですね)」
明石「提督、そろそろ艦娘の話題に戻ってください!」
提督「あ、了解です。すみませんね、長々と無駄話しちゃって……」マイクオフ
夕立『それより大淀さんは、いつ喋るっぽい? 夕立、ずぅっと待ってるんだけど』
吹雪『あっちょっと夕立ちゃん! マイク入ったままだよっ!』
夕立『あっ』
提督「…………大淀さん、ちょっと早いけど出番のようですよ」
大淀「うわぁ、よりにもよって一番難しいタイミングで……」
明石「こうなった以上しかたないです! 大淀、お願いね」
大淀「了解。まあ、こういうのには慣れているし、ね」
提督『アハハ……本当はもうちょっと後に登場する予定だったんだけどな。でも、こうなった以上紹介しちゃいますっ』
提督『本日お呼び立てしている、四人目のゲスト! 鎮守府の台所番、兼、通信担当の大淀先生ですっ!』
大淀『――みなさんこんばんは。大淀型二等軽巡洋艦、大淀と申します。
当番組の司会進行アシスタントとして招かれました。ぜひとも、よろしくお願いします』
吹雪『はい、よろしくお願いします!』
睦月『よっろしくぅーっ!』
提督『はは、大淀さんカタいカタい。もっと軽い感じの放送なんですから、フランクにいきましょう!』
提督『公の場とはいえ、あくまで内輪。対外的なことは考えずいきましょう!』
提督「(――つっても、電波は電波。そこそこ重要度が高い情報は、漏らさないっていうのは――)」
大淀「(ぱちっ)」ウィンク
提督「(……問題ないみたいだな)」
提督「(というか今のウィンク、ずいぶんキマってたなぁ。いつも練習とかしてるんだろうか)」
大淀「(…………慣れないことはするものじゃないですね)」カァァ
提督「(……自分でやっといて照れないでくださいよ)」
夕立「ぅ?」
大淀『…………あら、そうでしたか。ではお言葉に甘えさせていただきますね』
夕立『大淀さん、ごめんなさいっぽいぃ……』
大淀『いいんですよ夕立ちゃん。どちらにせよ、収拾がつかなくなってきたみたいだし、むしろちょうどよかったです』
大淀『みなさんとは“長い付き合い”ですから。あんまり遠慮しないでくださいねっ』チラッ
提督『――――! ……そうだな、遠慮することもないだろう』
提督『考えてみれば、ここに集まっているメンバーはかなり初期からの付き合いだなぁ』
提督『大淀さんと吹雪に関しては自分よりも先輩だし、夕立と睦月は……たしか、俺が提督になったのとほぼ同じタイミングで、うちに所属したんだっけ?』
大淀『そうですね。たしか……わたしと吹雪ちゃんが、そんなに離れてないんでしたっけ』
大淀『さきにわたしが叔父元帥さんの補佐艦として配属されて、ちょっとしてから吹雪ちゃんが来たんですよね』
吹雪『あ、そうだったんですか? 大淀さん手馴れてるみたいだったから、もっと昔からいるものかと……』
大淀『ふふ、あれは新しく配属された艦娘に対して、焦りを見せないよう、気丈に振る舞っていただけですよ』
大淀『はじめて所属した鎮守府の人間があたふたしていたら、第一印象から不安になるでしょう?』
吹雪『……たしかにそうかも、です。あのときは期待と不安が入り混じってたから……』
夕立『おぉ~、そんなコトまで考えてたなんて!』
睦月『…………そういう意味では、睦月の第一印象は最悪だったなぁ。まるでストーカーみたいだったもん』
提督『おいおい、そこまで言うこたぁねーだろうよ』
吹雪『司令官さんと睦月ちゃんも、変わったエピソードがあるんですか?』
夕立『夕立も気になるっぽい! 睦月ちゃんとは同期だもんね~』
提督『変わった、っていうか…………なぁ?』
睦月「う、ううーん…………』
大淀『…………睦月ちゃんは、提督がスカウトして艦娘になったんですよね。民間からのヘッドハンティングなんて、普通はしないことですけれど……』
大淀『睦月ちゃんはたしか、艦娘になる前は俳優として活躍していたんですよね。
そこから艦娘になるだなんて、ずいぶん思い切った決断をしたものです。どうして、艦娘という道を選んだのですか?』チラッ
提督「(うわっ、大淀さんもうまいなー。さすが、なんでもこなすってカンジだ)」
明石「(マルチな才能を持っていますからねぇ。最初は大淀にMCを任せるのもアリかと思ったんですけど……)」
吹雪「(ですけど?)」
明石「(……あの子真面目ですから、お通夜みたいになりそうで)」
提督「(お通夜って)」
睦月『うーん、決断って言うほどじゃなかったんだけどねぇ~……』
睦月『えーっと。順番に話していくね? 最初に提督と会ったのは、CM撮影の日だったかにゃぁ』
睦月『あの、スポーツドリンクのCMってあるじゃないですかぁ? スポーツ選手のカッコしてなりきるっていうか、なんと言えばいいかにゃーん……』
提督『あー。サッカー選手のPK風に、一対一でゴールをキメて――』
提督『――“流れる汗。みなぎるパワー!”――ゴクッ。……みたいな、CMの最後にキャッチフレーズ入れたりする、アレか?』
大淀『ああ、ありますね』
夕立『スポーツ選手とかがやってるやつだよねっ! カッコいいやつっ』
睦月『そそそっ! 睦月、そんな感じのCMに出演する予定でねぇ?
それで、そのCMの内容が、“艦娘が海上を優雅に駆け回り、颯爽と敵を倒していく”って内容だったのにゃーん』
睦月『睦月、そのときはまだ艦娘じゃなかったから、氷を張った上でハリボテ背負ってそれっぽく動くだけだったけどぉ……』
大淀『CG加工とかありますもんね。よく出来ていたと思いますよ』
吹雪『――あっ!! みたことありますそれっ!! わっ、スゴい! あれ睦月ちゃんだったんだ!!』
吹雪『えっえっスゴい!! 月九ドラマの合間合間とかに流れてたコマーシャルだよね!? えっ、本当!? ウソじゃない!?』
睦月『えっ、え、うん! ホントだけどぉ……?』
吹雪『わわわわっ、スゴい!! わたしアレ観て、艦娘ってこんなにカッコいいんだーって!! すごっ、すごい!! 睦月ちゃんだったんだぁ!!』
吹雪『た、たしかに思い出してみれば睦月ちゃんみたいな見た目だったかも! すごいすごいすごーいっ!!』ギュ
睦月『ふ、ふぶきちゃ、はなれ、て……くるし…………』ギュウウ
夕立『吹雪ちゃんっ、睦月ちゃんがオチちゃうからっ』
提督『はは。まさかのファンだったみたいだなぁ』
大淀『あの夜の時間帯は楽しいドラマが多いですからねぇ。わたしも事務作業を進めながらよく流していましたし』
明石「(ぷるぷるぷるぷる)」
提督「(あっ、明石さんも興奮してる)」
明石「(い、いま、曇ってた記憶がようやく晴れました! 昔やってた朝ドラの子役、睦月ちゃんだったんですねっ!)」
明石「(あのドラマずっと観てたんですよぉ! あとでサインもらわなくっちゃ! すごいぃぃ~~っ!!)」
大淀「(ここにも熱狂的ファンがもう一名…………)」
提督「(自分はあまり朝ドラは観ませんでしたから、よく知らなかったんですけど。そんなにすごいんですか?)」
明石「(スゴいなんてもんじゃないですよっ! 朝のあの時間から、視聴率三十を超えたドラマなんてそうそうないんですからっ!)」
明石「(夜ならともかく朝ですよ!? これはもうドラマ界に震撼を巻き起こしたと言っても――)」
大淀「(はいはい、あんまり騒ぐと聞こえちゃうから。話ならあとで聞いてあげます)」
夕立「(あー。だから撮影現場のみんな、睦月ちゃんだけうやうやしく扱ってたんだね)」
提督「(よくわかんないけど、とにかくすごいのは理解しました)」
睦月『――――ふはぁっ! ……それでね、えっとぉ……』
睦月『そのCMの撮影、提督も監修で見に来てたんだぁ』
提督『そうだな。本当は叔父元帥どのが向かう予定だったんだが、急な都合で、副官だった俺がな』
大淀『ありましたねそんなこと。どんな服を着て行けばいいのか相談を受けた記憶があります』
大淀『最終的にはスーツで落ち着きましたけど、タキシードとかウェディングドレスとか言い出して大変だったんですから』
提督『い、いいでしょう今その話は!』
龍鳳「――――ウェディング、ドレス?」
伊勢「なんか反応し始めたわよ、あっちのほう」
長門「目を合わせるな」
陸奥「精神をやられるわよ」
霧島「“くねくね”かなにか?」
榛名「…………龍鳳さんは、ウェディングドレスをご所望ですか?」
龍鳳「……ええ、まあ。ウェディングドレスに身を包むというのは、女の子のひとつの夢でもありますから」
龍鳳「――でも、それがなにか?」
榛名「いえ。…………そうですか。その際には惜しみなく参列しますので、ぜひ呼んでくださいね」
龍鳳「…………」
龍鳳「はい、それはもちろんです。――でも、意外ですね? てっきり、もっと張り合ってくるものかと思っていましたけれど」
榛名「……張り合う? なぜでしょうか?」
龍鳳「え、なぜって……。――ふふ。まぁ、応援してくださるならなんでも。身を引いてくださるというのなら、これ以上はありませんから」
榛名「…………はい。“ウェディングドレス”を着たいというのなら、榛名に止める理由はありませんから」
龍鳳「…………」
龍鳳「……なんだか、ずいぶん含みのある言い方をするじゃないですか」
榛名「…………いえ、そのような」
榛名「ただ。龍鳳さんは以前、金剛大社で式を挙げたい――と、そうおっしゃっていましたよね」
龍鳳「…………はい、そうですけど。それが、なにか?」
榛名「いえ。――金剛大社で挙げられる挙式の中には、キリスト教式が含まれていません」
榛名「それはもちろん、教会ではなく神社ですからね。当然のことと言えば当然のことです」
榛名「神社で行う結婚式は、主に神前式です。まあ、神社の式はそうでなければならない、というわけではありませんが……」
龍鳳「…………すみません。話が見えませんので、もうちょっと砕いてお願いします」
榛名「わかりました。――つまり、金剛大社ではキリスト教式の結婚式は挙げられませんから、ウェディングドレスは着られません」
龍鳳「……――え?」
榛名「ウェディングドレスを着たいというのなら、チャペルや教会で。……金剛大社で着られるものは、白無垢だけです」
榛名「ドレスを着たいというのなら、金剛大社以外で。ということになります」
龍鳳「…………」
榛名「…………提督も、むかし。結婚式を挙げるならここ(金剛大社)がいいな、と。そうおっしゃっていました」
榛名「提督も榛名も、金剛大社で、式場設営のお手伝いをしていたことがありますからね」
榛名「龍鳳さんが、提督ではなく――よその男性のかたと、教会で挙式されるというのならば、榛名に張り合う理由なんて、ありません」
龍鳳「………………」
榛名「もちろん榛名は、式を挙げるならどこでも構いません。提督のお好きなように、提督の思うがままま――」
榛名「榛名にとって、それが一番のしあわせですから」
榛名「どうぞ龍鳳さんは、“どこかの男性とご一緒に”ブーケを投げてくださいね。榛名は、“提督と一緒に”祝福させていただきますから」
龍鳳「………………」
榛名「ふふ」
叢雲「(ずいぶん気が立っているわね。あそこ)」
卯月「(うしししっ、下着がなくなって焦ってるはずっぴょん!)」
叢雲「(でもアナタ、本当にそれで苛立っているとしたら……原因があなただと知れば、挽き肉にされるかもしれないわよ)」
卯月「(…………)」
卯月「(む、むーちゃんと二人だから、はんぶんこ! それならだいじょうぶっぴょん!)」
叢雲「(…………わたしは直接手を貸したわけじゃなくって、その場に居合わせただけだから。しらないわ)」
卯月「(突然の裏切りっ!?)」
叢雲「(さよなら。ミンチうーぴょん)」
大淀「(睦月ちゃん、あんまり長くなるとあとのほうに影響出るから、できるだけ端折ってお願いね)」
睦月「(あ、わっかりましたっ)」
提督「(たくさんいると、時間の調整が難しいな……これからの課題、ですかね)」
明石「(詳しい話は、つぎに招待されたときにお話しできるといいですね)」
睦月『えぇっと、撮影を見にきた提督が、そこで艦娘になってみないかって誘ってくれたんだにゃ~んっ』
睦月『睦月、俳優も楽しくって、みんなからもすっごく反対されたんだけどぉ……』
睦月『いまじゃ、なってよかったって思うっ! すっごく充実してるし、心まで満たされてるような……そんな感じかにゃーんっ』
提督『それは本当に良かった。世界に羽ばたく女優の芽を摘んじゃったんじゃないかって、ちょっと心配してたんだ』
大淀『実際、ファンの方からのお手紙が凄かったですからね。艦娘をやりながら、一部メディアにも出演するということで手を打ってくれたようでしたが』
大淀『さすがに連続ドラマなどへの出演は難しいですからね。大本営が関わっているものなら、援助を受けられるのですが……』
提督『それが今回の“艦これ”アニメ、ですもんね』
夕立『む…………てーとくさんたち、さっきから難しい話ばっかしすぎっぽい~……』
吹雪『ああっ! 夕立ちゃんが目を回してますっ!』
提督『あは、悪かったな夕立。――ちょっと、ラジオ放送らしからぬ感じになってきちゃったから、そろそろ戻ろうか』
吹雪『了解しましたっ』
夕立『まーってましたぁ! もう座りっぱなしでお尻が……』
睦月『にゃは。ごめんにゃ~?』
提督『――それでは最初のコーナー! 入っていきまっしょう!』サッ
吹雪『フリーのおてが――』
夕立『フリーのお手紙しょーかあああいっ!! わふーっ!!』
吹雪『…………』
睦月『あはっ、…………くすくす』
吹雪『みないでぇっ!』
すみません、風邪やら引っ越しの手伝いやらでどたばたしてました
そしてイベントですね。まあやるだけですし、イベントだからどうってこともないんですが・・・
どうしても猛烈にエロが書きたくなったので、ちょっと書いてきます。それは別スレになると思うので、もうちょっとの間止まっていると思います
すみません、まだかかります というより今週が一番忙しいかも
いきなり積み重なってわちゃわちゃしてます
エロの方も止めちゃってますしたいへん申し訳ない。ちなみに天城のやつです
とりあえず吹雪編終わらせたら初対面龍鳳短編を書きたいから書こうと思ってます
【コマーシャル①】
かんたいこれくしょん! かんこれ! はじまりま――――
ぴっ
じゃーぱねっとじゃーぱねっと~ ゆめのじゃぱねっとちよだぁ…………
ぴっ
まほうしょうじょ、やはぎちゃん! ふらせんだっていちころよ!
ぴっ
まいんくらふとだと? このかんたいのびっぐせぶんが――――
ぴっ
MoneyさえあればCan do anythingと思ったらBig mistakeネー! Look at MEEEEEEEAAAAAAHHHHH!!
ぴっ
ぴっ
熊野「…………はぁ。年末年始のこの季節…………同じような番組ばかりでイヤになってしまいますわ」
鈴谷「そだネー。どの番組も赤・白・金! おんなじような色合いだから見ててつまんなーい」ポイッ
三隈「――――あ、お二人とも。テレビのほうご覧になられないのなら、三隈が自由にしてもよいでしょうか?」
鈴谷「ん? んー…………」スッ
三隈「ありがとうございます。ええと、たしか…………」ピッピッピッ
最上「珍しいね。三隈がリモコン弄る姿、久しぶりに見たかも」
熊野「残念ながら、三隈さんが期待するような番組はないと思いますわよ。どこを観てもお下品な芸人ばーっかりで…………」
三隈「実はわたし、明石さんが新しい電波を受信するようにしたと耳にしまして…………」ピッピ
三隈「特別な手順を踏まないと見ることのできないよう、保護をかけているそうなんです。
もしかすると、場末の宿泊施設でしか見られないような、いかがわしい映像が見られるかも…………!」ギエピッピ
熊野「い、いかがわっ…………」
最上「またくだらないことを…………」
鈴谷「くまりんこって、そーいう俗なことには全力を傾けるよねぇ…………」
三隈「なにを言いますか! この停滞した季節のなかで、ひとすじの煌めきを見つけ出すことは――」ピッピ
『ざ――――ざざ――――ざざざ』
三隈「あっ、映りましたよ!」
最上「どーせくだらないことだろうけど。三隈が信じたひとすじの煌めきとやら、みてあげるよ…………」ムクリ
鈴谷「えーこの状態だとこたつが邪魔で見えないんだけどぉ~! くまのん起こしてぇぇ~~…………」
熊野「自分で起きなさいっ」
三隈「みなさんお静かに。映像が安定してきました…………」
――――
――
【面倒くさい榛名に愛されて夜も眠れない】
「提督くんっ、今日の放課後なんだけど、また…………」
提督「ああ、図書室で勉強会か?」
「うん。今日もわたしが担当だから、裏でお勉強教えてほしいなって…………」
提督「おーいいよ。でも最近ずっと裏で勉強会してるけど、ちゃんと図書委員の仕事しなさいよ」
「い、いいのべつに。どうせみんな勝手に図書カードにハンコ押して借りてくし」
提督「悪い子だねえ。…………そんでさ、今日も俺一人だけの方が良いか? 榛名とか、俺よりもっと勉強できる人を呼んだほうが――」
「い、いい、いいっ! 受付裏の部屋もそんなに広くないし、たくさんいると緊張するしっ!」
「今日もできれば、その、提督くんだけがいいかなあ、って…………」
提督「ふうん。わかった、それじゃ榛名には先に帰ってもらうように伝えておくか。そんで、例のごとく?」
「う、うん。できればその、わたしのことはその、榛名さんには秘密に…………」
提督「変なこと秘密にすんだねぇ。ぴ、ぴ、ぴっと」
ぴりりり
榛名「(メール? 提督から、ですか)」
榛名「…………」
榛名「(しゅん)」
榛名「(きょうも、ですか…………)」
提督「あ、翔鶴さん! 教職員と全校生徒からのアンケート、収集してまとめておきましたのでチェックお願いします!」
翔鶴「あら、もうなの? ずいぶん手際が良いのね。えらいえらい」ナデナデ
提督「ちょっ…………撫でないでくださいよ! ここ廊下ですよっ」
翔鶴「かーんけーいなーいのっ。いつもありがとうございます」ナデナデ
提督「むぐぐ」
榛名「…………」コソッ
提督「翔鶴さん、ちょっといいですか?」
翔鶴「ん、なあに? ――あ、ごめんねみんな。先行っててくれる?」
「おっ、そちらがウワサのカレですかぁ?」 「へぇ、二年生? 翔鶴ちゃんも意外とやることやってんのね」
翔鶴「ちーがーいーまーすっ! ほらほら、移動教室なんだからさっさと行く!」
「はいはーい」 「翔鶴ちゃんも遅れないようにね」 「遅れたら不純異性交遊でチクるからね!」
翔鶴「不純じゃありません!」
提督「………………お邪魔でしたか?」
翔鶴「ううん、ごめんね。……それで、なにかご用ですか?」
提督「はい。昨晩のメール内容に関してなんですけど、やっぱりこっちの方が良いんじゃないかなあって思って…………」
翔鶴「あら…………大丈夫なの?」
提督「はい。それとなーく聞いてみたんですけど、なんとなーく雰囲気的にこっちの方が良さげかなって」
翔鶴「ふふ、なんとなーくって! …………わかりました。ではこちらもそれで当たってみますね」
提督「はい、お世話をかけますが」
翔鶴「いいんですよ。わたしも協力するって言った以上、全力で当たらせていただきますから」
翔鶴「提督くんは余計なことは気にしなくていーの。心配しぃなんだから」ナデリ
提督「むぐぐぐ」
榛名「…………」コソコソ
榛名「(さいきん、提督と一緒の時間が少ない気がして、ちょっと寂しいです…………)」
榛名「(でも、提督もお忙しいみたいですし、榛名なんかにお時間を割いていただくわけにも…………)」
榛名「………………」
榛名「(…………翔鶴さんや、そのほかの子たちとの時間が、榛名との時間より大切ということ、でしょうか)」
榛名「(――――それ、って)」
榛名「(それって)」
榛名「………………」
榛名「(…………考えすぎ、でしょうか)」
きーんこーんかーんこーん
キリーツ レイ アリガトウゴザイマシター
榛名「あの、提督っ! 放課後なんですけど、ちょっとお時間よろしいですかっ」
提督「ん、榛名か…………悪いけど、これから用事があってな。すぐに行かなくちゃならん」
榛名「…………そうですか。わかりました」
提督「悪いな。今日も夕飯ぐらいには帰るからさ、なにかあったらケータイの方に連絡頼む」
榛名「はい。…………あの、そのご用事、もしよければ榛名も――――」
提督「お、おっと! そろそろ行くわ! そんじゃな!」ピューッ
榛名「あっ…………。…………お気を、つけて」
たたたっ
提督「すみませんすみません。お待たせしました」
翔鶴「ううん、そんなに待ってないから気にしないで。それでは行きましょうか」
提督「はい! …………でも、今日は委員会活動の日でしたよね? 自分はともかく、委員長の翔鶴さんがいなくっても大丈夫なんですか?」
翔鶴「ふふ、大丈夫ですよ。わたしの代わりに瑞鶴を置いてきましたから」
提督「うわっ、ひでぇ」
翔鶴「あの子もたまにはああいう活動に参加しないと。大学に入ったときに困ってしまいます」
提督「おーさすが翔鶴さん。瑞鶴のことはよおく考えてるんですねえ…………」
翔鶴「もちろんです。…………ふふ、もちろん提督くんのことも――」ツンッ
提督「むぐっ」
翔鶴「――よお~く考えていますから。ね」
提督「じ、自分のことはいいんですよ、もうっ!」
提督「それよりっ! 校門前だと人目もありますから…………早く行きましょう!」
翔鶴「はいはい、わかりました。ふふ」
提督「なんですかっ」
翔鶴「んーん。なーんにも? べつにテレなくってもいいのにっ」
提督「テレてませんっ」
榛名「………………」
「榛名ちゃーん? そろそろ教室しめちゃうわよー?」
「なにかわすれもの?」
榛名「……――あ、すみません! すぐに準備して出ます!」
「忘れ物がないようにねー。先生外で待ってるから」
榛名「はいっ」
榛名「…………」ガサゴソ
榛名「………………」チラッ
翔鶴『――――』キャッキャ
提督『――――』ワイワイ
榛名「…………」
榛名「………………」ギリッ
そのひのよる
とんとん
榛名「提督。…………まだ起きていますか?」
提督「…………榛名か? ちょっと待ってくれ」ガサゴソ
提督「うん、おっけ。入っていいぞ」
がちゃんっ
榛名「すみません。こんなお時間に」
提督「おう。どうしたこんな夜更けに」
榛名「えと。…………今日のこと、謝ろうと思って」
提督「今日のこと?」
榛名「はい。どうしても外せない用事があって」
榛名「提督に美味しいご飯、作ってあげられなくって…………本当にごめんなさい。今晩は霧島も友達のおうちに泊まるみたいですし…………」
提督「なんだ、そんなことか。わざわざ畏まって言うから何事かと思ったぞ!」
提督「榛名だって都合があるんだし気にすんな。むしろ、いつも榛名にメシ作ってもらってるこっちが申し訳ないくらいだ」
榛名「そうは言われても、やっぱり…………」
榛名「だって提督、わたしがつくる晩ごはん、いつも楽しみにしてくれていましたし」
提督「はは、まあな」
榛名「作り置きも考えたんですけど、提督にはやっぱり作りたてのお料理を食べてもらいたかったから…………」
榛名「でも、榛名は大丈夫です! 明日からはちゃんと作りますから!」
べっ、べつにそのっ! …………提督のコト、嫌いになったとか、そういうのでは……そういうわけではありませんからっ」ズイッ
提督「わ、わかってるわかってる! ち、近ぇから!」
榛名「ほんとうですよっ」
提督「わかってるってば。榛名はときどきアツくなんだからなあ」ナデリ
榛名「んぅ」
榛名「…………それに、どちらかと言うと…………」
提督「…………ん? なんか言ったか?」ナデナデ
榛名「……ふふふっ。なんでもありません!」
榛名「ほんとうに、なんでもありませんから…………」
提督「………………ふうん、ならいいけど。変な榛名だな」ナデリ
榛名「――――あっ、そうだっ」
榛名「あの、提督? お昼のお弁当、いかがでしたか? いつもと味付けを変えてみたのですけど…………」
提督「弁当? …………ああ、そういや確かにいつもとなんか違うなーって思ったんだ」
榛名「お口に…………合いませんでしたか?」
提督「いや、いつもと違った味わいで美味かったぞ。明日からもときどき頼むわ」
榛名「…………そうですか、よかったぁ。お口に合わなかったらどうしようってずうっと思っていたんですけど、これでひと安心です」
提督「でも本当に良いのか? その、炊事とか洗濯とか、家事の一切を任せてしまって…………」
提督「俺にだって手伝えることがあったらなんでも――――」
榛名「もうっ、そんなの気にしなくたって良いんです! その、幼馴染なんですから!」
榛名「お父さまやお母さま、お姉さまたちが旅行に行っている間くらい、榛名にお世話させてくださいっ」
提督「いや、おじさんたちがいようがいなかろうが世話にはなってるんだが……」
榛名「それに、料理とか洗濯とかって、榛名の取り柄と言ったらそれくらいしか…………」
榛名「それに提督はいつも、榛名のつくったお料理を美味しそうに食べてくれますから! 榛名だって、うんと頑張っちゃいます」
提督「……まったく。榛名は謙遜しすぎだーっていつも言ってんのに」
榛名「――――ところで、提督」
榛名「さっき洗濯しようとして見つけたのですけど…………」
榛名「このハンカチ」
榛名「提督のものでは、ありませんよね」
榛名「どちらのですか」
提督「…………ハンカチ? あっそれ――」
榛名「あっ、わかりました! 翔鶴さんのハンカチですよね!」
提督「え、あ…………おう。よくわかったな」
榛名「…………」
榛名「(…………匂いで、わかりますから)」
榛名「それで、なぜ提督がこちらを?」
提督「あ、ああ。実はだな…………」
――――
――
――
――――
榛名「ええっ!? 提督、お怪我をなされたのですか!? 榛名、気づきませんでした…………」
榛名「そのときに借りたハンカチだって――お怪我は、大丈夫なのですか!?」
提督「ああだいじょうぶだいじょうぶ、そんなベタベタしなくっても。ちょっと擦りむいただけだから……」
榛名「うん、うんっ。……そうですか。大したことがなくって、本当によかったです」
榛名「もし提督になにかあれば、榛名は…………」
榛名「(――――あのハンカチに付いていた血、提督のものだったのですね。ちょっと、もったいないことをした、かな)」
榛名「(こんなことでしたら、血の付いた部分だけ切り取って処分してしまうべきでした…………)」
提督「…………榛名? なんか言ったか?」
榛名「あっ、いえっ、なんでもありませんっ! ただの独り言ですから…………」
榛名「そういえば最近の提督、お帰りがずいぶん遅いですが…………」
榛名「一緒に帰ろうと言っても、先に帰っていてくれとおっしゃることが多いですし。
榛名、知らないうちに余計なことをしてしまっていましたか? でしたらすぐにでもおっしゃってください。すぐに直しますから……」
提督「ああちがう違うっ、榛名はなんも悪くない」
提督「実は最近な、図書室で勉強していかないかって誘われることが多くってさ…………」
榛名「図書室でお勉強ですか? でしたら、榛名も――」
提督「いや、なんつうか…………人見知りして緊張するから、あんまり人は呼ばないでいてくれって頼まれてさ」
提督「俺くらいしかまともに話せる人がいないし、お互い成績いいしってことで、さ」
榛名「…………ああ、あの大人しくって綺麗な子のことでしょうか。図書委員のかたですよね」
提督「ああ、知ってたか…………というか当たり前か。同じクラスだもんな」
榛名「はい。…………でも、あの方はべつに、人見知りというわけではないと思っていますが」
榛名「体育の時間中もみんなと楽しくプレイしていますし、女子グループ内での活動も率先して行っているようですし」
提督「え、そうなのか? 俺はあんまり馴染めてないって聞いていたんだが……」
榛名「はい。榛名も何度かご一緒したこともありましたが、人見知りというよりはむしろ、相手を気遣える温厚なお方だと感じました」
榛名「ですから榛名も、決して邪魔立てはいたしませんから…………次回以降は誘っていただけると嬉しいです」
提督「んー…………そうしたいのは俺もなんだが、本人はやっぱり緊張するっつってるからなぁ」
提督「どんな裏があろうと、俺はその人の意思を尊重したいし」
提督「だから、悪いな」
榛名「………………わかり、ました」
提督「…………はるな?」
榛名「………………ていとく」
提督「ん」
榛名「ていとく、むかしはわたしと一緒にいてくれましたけど、最近は、あまり…………」
榛名「榛名と過ごす時間も、どんどん短くなっていってしまって…………」
榛名「学校に行くのも、翔鶴さんたちと一緒に行く、って、おっしゃいます、し。
この前だって、一緒にお買いものに行こうとお誘いしましたのに、翔鶴さんと用事があるって…………」
提督「たまたまだって。ずうっとそうなるわけじゃない」
提督「俺だってあの人に用があるから、そうして行動を一緒にしてるってだけだ」
提督「忙しい人たちだから、個別に時間取ってもらうわけにもいかないし」
榛名「その、用というのは…………」
提督「あー、それは…………ちょっと、言えない。すまん」
榛名「そう、ですか。…………忙しいわりには、腕を組んで楽しそうにしていましたけれど」
榛名「…………」
提督「榛名は気にしすぎなんだってば。なんでもないんだって」
榛名「…………」
提督「確かにべたべたしてくるけど、単純にからかってるだけだろうし」
榛名「………………」
榛名「………………あんな、ひと」
榛名「…………っ」
榛名「あんなひとっ! どうせっ、どうせ提督のことっ、なんにもわかってないんですからっ!!」
榛名「提督のことを世界で一番わかっているのは榛名ですっ!! ほかの誰でもない、わたしっ!!」
榛名「たまたま委員会が一緒だったからって! 榛名はずっとっ、ずうっと…………っ!」
提督「は、は、はるなっ!?」
榛名「――――っ」
榛名「…………すみません、怒鳴ってしまって…………」
提督「い、いや…………なんだか俺も無神経だったみたいだ。悪い」
提督「ただもう夜も更けてるからさ、ちょっと声のボリューム落として。な?」
榛名「はい…………」
榛名「(提督がそういうところで鈍いのは昔からでしたし、ね。わかっていたことなのに…………)」
榛名「…………えと。それはそうと、なんですけど」
榛名「今日のお夕飯、どうされたのですか? 夕食ごろに帰るはずと、ケータイで連絡を受けましたけど」
提督「ああ。…………えっと、用事が長引いたもんだから、外で済ませちまってな」
提督「ほら、俺もついさっきまで外だったろ? ついでにな」
榛名「外食…………そうですか。家から食費として、お渡ししておけばよかったですね」
提督「あー、いや、さすがに個人的な用事で外食したんだから、そこはさすがにな」
榛名「それで、おひとりで行かれたのですか?」
提督「ん………………まあな」
榛名「その“個人的な用事”というのも、おひとりで?」
提督「あー…………うん」
榛名「………………」
榛名「そうですか。おひとりで…………」
がばっ
榛名「――――失礼します」ギュッ
提督「わっ!? ちょ、おい榛名なんだいきなりっ」
榛名「じっとしていてください…………」
榛名「…………すん、すん…………」
榛名「…………っ」
榛名「――――やっぱり、あのひとのニオイがします」スッ
提督「…………えっ?」
榛名「…………」
榛名「…………ていとくの」
榛名「ていとくの、うそつき」
榛名「提督の、うそつきっ!!!」
提督「…………な、あ」
榛名「うそつきウソ吐きです! どうしてそんなウソをつくんですか!?」
榛名「提督、いままで榛名に嘘をついたこと一度もなかったのにっ!!!」
榛名「どうしてこんなっ! なにか後ろめたいことでもあるのですかっ!!」
提督「なっ…………ウソっつったってお前、どこにそんな根拠があるんだよっ」
提督「さっきから榛名、ちょっとおかしいぞ! いきなり黙り込んだり怒ったり…………なにか証拠はあるのかよっ」
榛名「…………証拠なら、あります」
榛名「提督はまだ、帰ってからお風呂に入っていませんよね?」
提督「…………それはいま関係があるのか?」
榛名「お答えください」
提督「…………まあ、そうだが」
榛名「やっぱりっ……」
榛名「先ほど提督を抱きしめて首に手を回した際に、こういったものを見つけまして」スッ
提督「そ、それは…………」
榛名「提督もご存じですよね。この“随伴艦くんシール”」
榛名「翔鶴さんが、自らの私物だと主張するようによく貼るシールです。
このシールが、提督の首後ろに貼ってありました。今日の放課後の段階ではなかったものです」
榛名「このシールが貼ってあるということは、提督自ら身を差し出して貼ってもらったか――」
榛名「翔鶴さんがこっそり貼ったことに気付かないくらい、提督と翔鶴さんが密着していたか…………の、どちらかでしょうか」
提督「密着って! さっきも言ったが、確かにべたべたされることはあったけど、すぐにやめてもらったぞ!」
提督「さっきまでだって、ちゃんと距離を保って行動――――あっ」
榛名「…………」
榛名「ふうん。やっぱり、翔鶴さんとご一緒していたのですね。ついさっきは、ひとりでいたとおっしゃっていたのに」
榛名「榛名に隠し事をするくらい、後ろめたいことをしていたのですか」
提督「なっ、榛名っ、それは違うぞ! べつに俺と翔鶴さんは、そんな関係じゃ――」
榛名「ということは、さきほどおっしゃっていた“外食”というのは、翔鶴さんと二人きりで召されたのですね」
榛名「榛名の手料理を要らないと言ってまで、翔鶴さんとのお食事を楽しみたかったのですか」
榛名「…………へえぇぇ、お夕食はパスタでしたか。提督の吐息、イタリアンな香りがします」ズイッ
提督「あ、あ、榛名――」
榛名「イタリアンということは、最近駅前にできたあそこですね? この間までずいぶん熱心にチラシを見ていましたから」
榛名「夜になると街の煌めきが星々のように瞬いて、暗闇のキャンパスに光の絵を描くとも言われる、夜景の綺麗なイタリアンですね」
榛名「そんな高層レストランで、翔鶴さんと二人っきりの夜ですか――――」
榛名「それは良かったですねッ!!!」ガバッ
提督「ぐっ――――」ドサッ
榛名「提督はやさしくて、かっこよくって…………でもちょっぴり鈍感で。雰囲気に流されやすいところはわかっています」
提督「榛名、その、落ち着いて、どいてくれると……」
榛名「でも提督、きっといつかは榛名の気持ちをわかってくれるって。ずっと一緒にいてくれるって。
子どものころに言ってくれたように、ずうっと大切にしてくれるって思っていたから、これまで我慢してきました――――」
榛名「それなのに、わたしにうそをついてまで――――隠れて浮気ってどういうことですか!?」ググッ
提督「浮気って言っても、俺たち付き合っているわけじゃ――が、ぁっ」
榛名「付き合っているわけではない。そうですね、榛名と提督はお付き合いしているわけではありません。非常に残念なことではありますが」
榛名「ですが榛名は、たとえお付き合いしていなくっとも通じ合うものがあると信じていました。
榛名は何よりもあなたのことを第一に考え、あなたのことを想って行動してきました。ですが、あなたは……」
榛名「榛名が悪かったのですか? 榛名はいままであなたに尽くしてきて、それでもまだまだ足りませんか?」
榛名「榛名がどれだけ愛しても、あなたはわたしだけに微笑みかけてはくれないのですか?
翔鶴さんとの語らいは、わたしに秘するほどの美しい時間だとでも言うのですか? 翔鶴さんの前では、榛名に見せない色んな表情を見せるのですか? 翔鶴さんは、わたしが知らない提督をたくさん知っているのですか?」
榛名「わたしは、こんなにおかしくなるくらい、あなたのことを愛しているというのに。
それなのに、なぜあなたは榛名だけを見ていてくれないのですか? なぜその瞳に、わたしを映してくれないのですか?」ググ
提督「くっ、はっ――――」
榛名「それに、随伴艦くんシール。…………提督は翔鶴さんのものだと、そう言っているようで不愉快ですっ!!」
榛名「やっぱり、あのひとたちがいけないんですね」
榛名「委員長だか図書委員だかなんだか知りませんけど、結局は提督の表面だけしか見ていない人たちじゃないですか」
榛名「あんなひとたちに、提督は渡せない。渡してなるものですか…………」
榛名「提督を守れるのは、わたしだけ。提督は榛名だけを見ていれば良いんです。それが、きっと最高の幸せなのですから…………」グググ
提督「ちっ――――くしょ! はやっ、はなせこらっ!」グオッ
榛名「きゃっ――――」ドタン
提督「っきから言いたいこと言わせていればズラズラと…………!」
提督「ちょっとは落ち着けってお前! いつもの榛名らしくないぞ!」
榛名「――――して」
提督「………………あん?」
榛名「――――うして」
榛名「…………どうして」
榛名「どうして…………どうして、どうしてっ!! どうしてそんなこと言うんですかっ! 榛名は榛名ですッ!!」
榛名「提督はそんなこと言いませんっ!! 榛名を突き放すようなこと、絶対にしないはずですッ!!」
榛名「――――ああ、そっか。翔鶴さんと一緒にお夕食をとられたと言っていましたから、毒されてしまったのですね」
提督「どくっ…………」
榛名「あ…………でも、料理を食べたってことは、お口の中も毒されているんですね。唇も、舌も、歯の隙間ひとつひとつまでも――――」
榛名「じゃあ…………はるなのおくちで、きれいにしてあげなくっちゃ…………」ガバッ
提督「んむっ――――」
ぎしっ
――――
――
ぴりりり
携帯電話『やっほー提督! こっちは集まった若い子たちと金剛お姉さまたちとで、夜のお散歩ちゅーです!』
携帯電話『榛名へのプレゼント選び、どうでしたか?』
携帯電話『翔鶴ちゃんならパーフェクトだって金剛お姉さまからも太鼓判でしたし、大丈夫かな?』
携帯電話『それじゃまた連絡します! 霧島にも元気に言っておいてね! おやすみなさいっ!』
ぴっ
――
――――
熊野「お、おぉぉう…………」
最上「な、なんだかすごく凄絶なドラマ、だったね…………」
三隈「さっ、さいごのはやはりっ、やはりわたしたち未成年には見せられないようなっふんっふんっ」フンフン
鈴谷「…………」
鈴谷「(え、なに。みんな触れてないけど、登場人物の人がどことなく知り合いに似てるんだケド?)」
鈴谷「(え、実話じゃないよね? てゆーかドラマでもヤバいんだけど? R指定ついてなかったよね、これ?)」
鈴谷「(そりゃ特別な保護かけるわ……まかり違って駆逐艦の子たちが見たらトラウマ確定じゃん)」
鈴谷「(…………コレ、見なかったことにしたほうが…………)」
鈴谷「ね、ねぇ。みんなその、これは――――」
三隈「お、おぉぉぉぉ…………これはこれは、素晴らしいものです…………」ゴクリ
最上「へ、へぇ~…………」ゴクリ
熊野「…………ま、まぁ? 退屈な生活にメスを入れるような、しっ、刺激的な番組ではありますわね」ゴクリ
鈴谷「…………」
三隈「…………無事、終わりましたわね。鈴谷さん、先ほどから食い入るように画面を見つめていますけれど、お次の希望はなにかありますか?」
熊野「あ、あら鈴谷。ずいぶんエッチなんですねアナタ」
鈴谷「ちっ、ちがっ! ――――っていうかまだ見んのこれ!?」
三隈「当たり前です!!!!」
最上「こ、こうなったらボクも最後まで付き合うよっ!」
三隈「モッガミーマン…………」
熊野「あなたたちだけに、いいカッコはさせられませんわ!」
三隈「クマッノンジュニア…………」
鈴谷「う、うそでしょ…………普通気づくでしょ異質さに…………」
三隈「さささっ、鈴谷さん! 番組のリモコンは貴女に委ねられましたっ! 欲望の赴くままに、さあ開放するのです!!!」
鈴谷「ひ、ひえええええぇぇぇ~~っ!!」
おわり
本編はある程度固めて投下するつもりです 余計なことばっかり書いてないでさっさと本編書きます書いてきます
ちょっとずつ時間が浮いてきたのでキリのいいところまで
夕立『フリーのお手紙しょーかあああいっ!! わふーっ!!』
睦月『このコーナーでは、視聴者のみんなからいただいたお手紙を紹介するにゃーんっ!』
夕立『司会者のてーとくさんと、夕立たちで答えていくコーナーっぽい!』
提督『きみとぼくとのナゾラーランド。第三回目のお便りはいかほどでっしょうか! さっそく一つ目のお便り、入っていきたいと思います!』
吹雪『えっとじゃあ…………誰から順番に読んでいく?』
夕立『それじゃあ、じゃんけん! じゃんけんで決めよっか!』
睦月『おぉ、名案だねぇ。にししっ! それじゃ、じゃんけんポイの、ポイで勝負ですっ!』
吹雪『わかった! それじゃあ、じゃーんけーん――』
夕立『ぽいっ!!』
睦月『やったぁ、いっちばーんっ! それじゃそれじゃ、さっそく一つ目のお手紙、紹介していっちゃうねぇ?』
夕立『うう、負けたっぽいぃ……』
吹雪『ま、まあまあ夕立ちゃん。どうせみんな読むんだから、元気出して……』
夕立『でもどうせだったら一番がよかったっぽい!』
提督『お、決まったか。一番槍で貫いてくれる子はどちらかな?』
睦月『はいっ! 睦月ですむつきちゃんですっ!』ピッ
提督『おお、この冬株価急上昇の睦月センセイ。で、その様子だと吹雪が最下位みたいだな』
吹雪『うぅぅ、落ち着かないしあんまり喋ってないしぃ……わたし座ってるだけになってて気まずいですぅ……』
提督『この世に主人公補正はないんだよなあ…………』
提督『さ、アニメでは無事猫をかぶりきってみせた睦月先生。バトンを繋いでくださいね』
睦月『猫かぶりじゃないんだけどぉ! ただ、ちょ~っとだけ頑張っちゃっただけにゃしぃ! いひひひひっ』
夕立『睦月ちゃんのせいで吹雪ちゃんが撮影中に吹き出すから、なんども撮り直しになってたっぽい~』
吹雪『睦月ちゃんだけじゃないよっ! 夕立ちゃんだっていつもと違ってぽいぽい魔人になってたじゃーん!!』
夕立『ぽいぽいぽい~っ!』
吹雪『ふひっ、ホントにもうそれ意味わかんなかったからっ』
睦月『…………それじゃ、ぴゃぴゃーっと読んでいっちゃうネ!』
提督『おお、この喧噪のなか読み上げる覚悟があるとは』
大淀『王者の風格ですね』
睦月『ええっと……“ジーク・フソー”さんからのお手紙にゃ~ん』
夕立『ふそ……あっ……』
吹雪『たはは……。どうも、こんばんは、です!』
提督『山城さん、もっと擬態しましょうね』
『なぜですか! わたし関係ないでしょう!』 『あれで気づかれないと思っているほうがヤバいわよ』
『ヤマシロは本当にフソーのことが大好きネー』 『……当たり前でしょう! あれを書いたのはわたしですから!!』 『もうちょい粘れや』
“こんばんは。といっても、この手紙を書いているのは昼間だから、ちょっと気持ち悪いですね”
“今回のゲストは事前に言っていたとおり、吹雪ちゃん、睦月ちゃん、夕立ちゃんで合ってますよね?”
“アニメの試写会に合わせてのゲスト、と聞きました。扶桑おね――扶桑、さん。でないのは、あまり納得がいかないところですけど”
提督『もう隠す気ゼロですね』
吹雪『わ、わたしは誰だかわかんないかなァ~?』
夕立『声が裏返ってなければまだ納得できたっぽい』
大淀『みなさん、意外とわかりやすい性格をしていますね』
“ですが、不幸とは思いません”
“なぜなら、事前に聞いた情報だと――アニメ吹雪ちゃんの憧れの先輩欄には、扶桑お姉さまのお名前があったからです!”
“わたしたちは制作協力には呼ばれませんでしたけど、これはもう! 凛々しい扶桑お姉さまの姿が、アニメで観られるというのは当確です!”
“Vやねん! 扶桑お姉さま!”
“嬉しくてたまりません! 胴上げ待ったなしです!”
“これで欠陥戦艦とは言わせません! ――ですがわたし、試写会の抽選、落ちてしまって……”
“イラストとして動く扶桑お姉さま。わたし、気になります。扶桑お姉さまの勇猛さ、可憐さ、淑やかさを表現しきれているのでしょうか”
“アニメの感想について。先行試写会に赴いたというみなさんがたに、お伺いしたいと思います”
吹雪『憧れの、せんぱい?』
提督『あっ』
大淀『あっ…………』
夕立『あれ? でもでも吹雪ちゃんの憧れの先輩って、たしかあか――』
提督『えええええっとぉ!! アニメの感想について、ですよね!?』
提督『いやぁまいったな! まだ一般には公開されていませんから、ネタバレになっちゃうんじゃないかなー!!』
提督『テレビアニメの放送、楽しみに待ってくれてる人もたくさんいるだろうからな~!!』
大淀『そ、その通りです!』
睦月『あ、ごめんなさい! 追伸ありました!』
“もしもの話ですが。もし、もしもですよ”
“もしも、扶桑お姉さまの、憧れの先輩。その肩書きが、奪われて”
“べつの艦娘に与えられた、となったら”
“わたし、なにをしでかすかわかりません”
“物騒な話をしてしまってすみません。まあ、そんなことはないと思いますけどね。設定には、ちゃあんと扶桑お姉さまの名が連なっていましたから!”
提督『…………』
大淀『…………』
吹雪『…………』
夕立『ぽい?』
提督『…………えーっと。アニメの感想について、ですね、はい。ネタバレにならない範囲で触れていきましょうかね』
提督『一部のみなさま……えーっと、一部のみなさま。については、いまさら一話の感想かよと思うかたもいらっしゃると思いますが』
提督『まず最初に思ったのは、大抜擢だったなあと。てっきり、こういった映像化の際には、知名度の高い長門や大和あたりにスポットが当たると思ってました』
吹雪『それ、わたしも思いました! まさかまさかで、オファーが来たときはホントもう間違えたんじゃないかって……』
睦月『しかもわたしたち、主役だもんね』
大淀『“艦これ”のメディア展開の嚆矢ですからね。一味もふた味も違います』
吹雪『監督のかたが、“吹雪ちゃんの姿を夢で見てねぇ”って言ってくれましたけど、きっと冗談ですよね』
夕立『あたしたちが緊張しないよーに、気を遣ってくれたんじゃないかなあ?』
大淀『そうでしょうね。まさか夢で見たからって……』
提督『まあおおかた、一般への知名度的に使っておきたい睦月を中心に、同年代の子たちをピックアップしていったカタチなんでしょうが――』
提督『でも、主役がうちの子たちでよかったですね。軽巡なんかはよその鎮守府の子たちでしたけど……。
ほかの鎮守府だと、ああいった教室とか、たくさんの人が入れる甘味処とかは、あんまりないんですよね?』
大淀『ええ、そうですね。この鎮守府は異色といいますか……』
夕立『それ監督さんたちも言ってたっぽい! 変な鎮守府だから、アニメの設定でいろいろ使いやすいんだって!』
提督『ああ…………でも、ビジュアルが公開されたときはひと騒動あったよな』
提督『たしか誰だったかな。加賀、かな? 赤城とか加賀とかがやってる和弓の構えがおかしいとかなんとか……』
大淀『ああ、あれですか』
睦月『みんな苦労してたにゃー……。弓道じゃなくって、空母道独特の構えだもんね』
睦月『監督も、弓道の構えにしておくべきか悩んでたみたいだけど、リアリティ優先で空母道の構えにしたみたいだケド』
吹雪『赤城さんとかも、3Dモデリングのときにわざわざ来てくれてたもんね。天城さんも喜んでた』
夕立『終わったあと、みーんなでたっくさんご飯食べたっぽい! 監督が赤城さんたちのぶんまで出すって張り切ってた!』
大淀『えっ』
提督『…………あとで監督にお礼言ってこなくっちゃな』
提督『な?』
『むしろご飯のほうがメインやったんとちゃうか』 『そ、そんなわけないじゃないですか』 『心外ですね。頭にきました』
『ホンマかいな』 『ちゃんと時間制限食べ放題のお店にしてもらいました』 『節度ある範囲でいただきました』 『監督干からびてそうやな』
大淀『場内弓道場ではしっかり弓道の構えをとっていますが、出撃のときは違いますものね』
睦月『みーんな、訓練のときはしっかり自分の構えがあるモンね。出撃したらバラバラになっちゃうけどぉ』
提督『鳳翔さんも、状況に適した型を取るのが一番だーって言ってたからな。瑞鶴あたりは、加賀さんあたりにいろいろうるさく言われてるみたいだが……』
提督『そもそもが。弓どころかボウガン、式神術の艦娘もいるくらいだから、構え一つでどうってことないよな』
夕立『夕立も龍驤さんにひとつもらったっぽい! ゼロ戦さんったらカワイイんだ~!』
夕立『飛ばそうと思ったら資材を使うからやんないけど、手に持って走るだけでも音がカッコイイっぽい!』
吹雪『ああ、音いいよねぇ……。重量感あるっていうか、ロマンがあるよね!』
夕立『そーそー!』
夕立『でも、どうせだったらみんなと一緒がよかったなぁ~。夕立たちと、一部の人しかウチからは出てないっぽいしぃ……』
吹雪『さすがにうちの鎮守府を空けるわけにはいかないからね』
提督『その間ずっと手薄っていうわけにもなぁ。任務もあるし』
夕立『わかってるケドぉ~』
大淀『……あ。そういえば提督、年末に行った演劇を録画した映像が届きましたけど。せっかくですし、みんな集めて観ましょうか?』
提督『いや、それはまた今度のお楽しみにしておきましょう。最近はテレビばっかりでみんな退屈してますからね』
大淀『了解です』
提督『…………えーっと、ここまでですかね。“ジーク・フソー”さん、ありがとうござ――』
吹雪『あの、憧れの先輩の件に関しては大丈夫なんでしょうか?』
睦月『にゃはは……』
大淀『……どうせ後になったらわかることですから。いま言ってしまったほうが楽ではないかと』
提督『…………』
明石「(提督! ごーごごーです!)」
提督「(他人事だと思って!)」
提督『えー、さきほど“ジーク・フソー”さんは、主人公である吹雪の、憧れの先輩は扶桑さん――と、そうおっしゃいましたね』
『え? え、ええ。そうですけど……』 『ラジオと会話しとるで』
提督『事実、そうでした。たしかに初期の設定では、吹雪の憧れは戦艦扶桑――そういう話でした』
提督『淑やかな佇まいに、大きな砲塔。そのアンバランスさは、たしかに見る者を惹きつける魅力があったと思います』
『…………なんですか?』
提督『なるほど、たしかに憧れの対象としては十分――』
提督『妹の山城さんにおきましては、感無量の次第であったと存じます』
『ええ、当たり前のことです』
提督『…………』
提督『そんな扶桑さんの姿、僕も見てみたかったです』
提督『アニメ“艦これ”において、主人公である吹雪の、憧れの先輩は』
提督『――――“赤城”です』
提督『赤城です』
『…………え』
提督『もう一度言います。主人公の憧れは、航空母艦、一航戦の赤城です』
提督『赤城です』
提督『扶桑さんじゃない! 赤城さんなんですよっ!!』
提督『憧れの先輩ィ? なにそれぇ! それ、赤城! 鈍いなぁ、赤城が先輩なんだよ!』
提督『ジャンジャジャーン! いま明かされる衝撃の真実ゥ!』
提督『いやぁ本当に苦労しましたよ、キャストが変更になったのをわざわざ隠し――』
大淀『ふんっ!』
提督『おごぉっ』メコォ
夕立『わわっ、てーとくさん!?』
吹雪『だだだだ大丈夫ですかあ~~っ!?』
『ててて提督っ!? だいじょうぶですかあ~~っ!?』
山城「赤城さん。お隣いいですか」
赤城「えっ!? やまっ、やまやま山城さん!?」ビクッ
山城「はい、やまやま山城です」
赤城「こ、こんなところに、いったいなんの用が……? ど、どーなつならあっちにありますけど…………?」
山城「――ちょっと、お話がありまして」
赤城「お、おはなし…………?」
加賀「…………赤城さん。わたしは少し席を外します」
翔鶴「わ、わたしもドーナツを取ってこなくっちゃ」
瑞鶴「あっ、わたしも! もう少しでなくなっちゃうしっ」
赤城「あっ待ってっ」
山城「…………とくに返事がありませんでしたので、了承として受け取らせていただきますね。では」ドスッ
赤城「あ…………えへ。こんばんは……?」
山城「こんばんは。今日は、憧れの先輩ポジションを見事射抜いた赤城さんに、チョメチョメしたいと思います」
赤城「ちょ、ちょめ…………? あ、あの、痛いのは、やめてください、ね…………?」
雲龍「(…………それ、違う山城さんじゃないかな)」
陸奥「空母組のテーブルに突撃していったわね」
比叡「うわっ、無表情で赤城さんのお腹つまんでぐにぐにしてる!」
金剛「oh...あれはシリアスですネー」
扶桑「もう、山城ったら……わたしは気にしていないのに……」
霧島「わたしはどっちかっていうと、提督のほうがイラッときましたけどね」
伊勢「まあ、大淀ちゃんが制裁加えてくれたから溜飲をさげましょう。提督のああいうところ困っちゃうわよね。ね、日向――」
伊勢「――あれ、いない? どこいったのかしら?」
比叡「あ、日向さんでしたらさきほどどちらかへ行かれましたよ。急ぎのようでしたし、用事でもあったんじゃないですか?」
伊勢「……ふうん、そう」
大淀『アニメの感想ですね。わたし個人としてはたいへん良い出来だと思います。CGとは思えない美麗なデザインですし、さすがは映像のプロですね』
大淀『物語部分に関しては今後の演出に期待、といったところでしょうか。二転三転していくようですから、展開から目を離せません』
大淀『如月ちゃんの動きにも期待ですね。“ジーク・フソー”さん、お手紙ありがとうございました』
夕立『ありがと~!』
如月「…………あら。なんでわたしなのかしらぁ?」
皐月「はへ?」モグモグ
望月「さぁ……」モグモグ
菊月「睦月が主演なのだから、同じ睦月型としてスポットを当てられるのではないか」
長月「如月は睦月ととくに仲が良いからな。そのようなところだろう」
如月「あらあら……ふふ。そんなコト言われちゃったら、期待しちゃうわぁ」
如月「アニメの如月、いったいどんな活躍を見せてくれるのでしょう。睦月ちゃんの相棒として、準主役級になっちゃうのかしら?」
菊月「ああ、それは良いな。国民のみんなも、如月の勇姿を観ていてくれるだろう」
長月「創作とはいえ、少し羨ましいものもあるな……」
長月「だが、それと同時に誇らしくもある。わたしたち睦月型が注目を浴びるときが来るとはな」
菊月「ああ。威張れることじゃあないが、胸を張っても良いだろう」
皐月「アニメ、ボクも出てみたかったんだけどなー」
如月「ふふ、ごめんね? 如月はみーんなを背負って頑張っちゃうから、ね?」
望月「くぅ、言ってくれるなぁ」
菊月「そこまで言うのなら、お手並み拝見といこうか。あっさり沈んだりしたら承知しないぞ」
皐月「ほのぼのベースの日常アニメって言ってたし、そういうのはナイと思うけどなぁ」
文月「アニメ、たのしみだねぇ~」
望月「ふみぃ」
如月「…………うんっ!」
提督『しかしアニメですか。今さら艦これ一話の感想なんて…………いや、やめとこう』
吹雪『ぅ? どうかしましたか?』
提督『いや…………遅くなって申し訳ない、としか言えない。すまぬ……すまぬ……』
鳳翔「みなさん、食後のお茶をお持ちいたしました。渋みの効いたおいしい抹茶ですよ」
祥鳳「わ、ありがとうございます」
龍驤「おお、なんや悪いな。そんな気ィ遣わんくてもええっちゅーのに」
千歳「鳳翔さんもゆっくりなさってはどうです? さっきからずっと立ちっぱなしみたいだし」
飛鷹「今さらだけど、お給仕さんみたいに動いてもらうのも申し訳ないしね」
龍驤「せや。みーんな一息ついたみたいやし、鳳翔も一つふたつ摘まんだらどうや? ここ空いとるで」チョイチョイ
鳳翔「……そうですね。それではお隣、失礼しますね」
龍驤「おー」
龍驤「いつも悪いね」
鳳翔「いえ、わたしも楽しくさせていただいていますから。それにやっぱり、こうしてお料理をしていると昔を思い出しますし」
飛鷹「横浜のトコよね。わたしも子どものころ、隼鷹と一緒に何度か連れて行ってもらったことあったなぁ」
飛鷹「ね、隼鷹?」
鳳翔「あら…………そうだったのですか?」
隼鷹「ん? おーあるある! 横浜だろ? ありゃあヤバかったなぁ」
隼鷹「親父の会社と飛鷹んトコので会談するとき、いつも鳳翔さんトコに予約取んだけど、ぜんっぜん予約取れなくってさあ」
飛鷹「会談のためにわざわざ数か月前から予約取っておいたりしたのよね。懐かしいわ」
祥鳳「あ、それわたしも知ってるかも。老舗の料亭ですよね?」
祥鳳「料理だけじゃなくって器とか接客にも拘ってて、一度行ってみたいお店として有名よね」
飛鷹「うんうん。一回行った人はまたその料亭の雰囲気を感じたいって思うから、ずうっと満席なのよね~」
龍驤「マジか。えらいカネかけとったんやなぁ」
隼鷹「知ってるかぁ? あの店で使われてる器、一つ一つがウン十万する代物なんだってさぁ~?」
隼鷹「出てくる酒もすっげぇ上等なヤツばっかだしなぁ。あたしも自分の金で行ってみたいんだけど……コレが、なぁ」マル
鳳翔「あ……なんというか、その……申し訳ありません。仕入れ先との関係もありますし、父の方針で…………」
鳳翔「それに、皆さんなら…………大切なお友達としてお通しすることも出来ますけれど」
隼鷹「あはっ、いーよいーよ気ィ遣わなくたって! ちょっと言ってみただけだしさ!」
飛鷹「隼鷹も困らせるようなこと言ーわーなーいーの。ごめんね鳳翔さん」
龍驤「せや。高級料亭っちゅーのは、自分の金で通ってはじめてハクがつくんや」
龍驤「ウチも小っさいころは世話ンなったしなぁ。あそこ、昼の間は小奇麗な食堂として比較的安ぅご飯も食べられるから、今度時間あるときにでも行こか」
龍驤「久しぶりにオバちゃんの顔も見てみたいしね」
鳳翔「ふふふ。お姉さんと呼ばないと怒られてしまいますよ」
龍驤「いやぁ、言うてもう四、五十やろ? それはキツい――」
夕立『あれ? なんかいきなり届いたっぽい』
“龍驤ちゃん、煙突げんこつ”
夕立『ペンネームは…………書いてないっぽい? わすれちゃった?』
鳳翔「…………あらあら」
龍驤「ウソでしょ…………」
提督『この放送自体はリアルタイムで配信されてるから、こういうふうにお悩みに対して聴者の方々からレスポンスが返ってくることもあるんですよ』
提督『今のはちょっとよくわかんなかったですけどね。はは』
大淀『艦娘にとってはより恐ろしい配信へと近づいていきますね』
明石「…………ふと思ったんですけど、これわたしたちも被害を受ける可能性、あるんでしょうか」
大淀「…………そりゃもちろんよ。いままで部外者だとでも思ってたの?」
大淀「あなたちゃんと実家に連絡入れてるの?」
明石「…………いれてない、かもぉぉぉ~~…………」
大淀「うふふ、ご愁傷さま。次の犠牲者は明石になるかもしれないわね」
明石「ここで大淀が選ばれたら面白いのにぃっ」
大淀「わたしはいつ来ても困らないように心構えしてるからいーの」
夕立『てーとくさんっ! もうお手紙読んじゃってもいいっぽい!?』
提督『うおっ! ずいぶん急くな夕立。だいじょうぶか? 漢字読めるか? わからないところがあったらすぐ言えよ』
夕立『ばかにしないでっ! これでも夕立、むかしはそろばんの悪夢とも言われたことがあるんだからっ!』
提督『蔑称じゃねーか』
夕立『夕立の手にかかればこんな紙切れ一枚、ぽいぽいぽい~! なんだからっ』
吹雪『ぶひゅっ』
睦月『ぅにゃああっ!? ななな、なんかかかったっぽい!!』
大淀『睦月ちゃん、ほらティッシュ。拭いて拭いて』
夕立『吹雪ちゃんのお口と鼻から謎の液体が…………』
睦月『ぅやぁ…………なんかべたべたするっぽいにゃしぃ…………』
睦月『…………ぽい?』
提督『ぽいぽい伝染病かな?』
大淀『吹雪ちゃんはぽいぽい病原菌のキャリアーだった…………?』
夕立『もー吹雪ちゃんやめてよー! あとで食べようと思ってたドーナツにもかかっちゃったじゃんかぁ!』
吹雪『くひっ、ごめ、ゆうだちちゃ…………くへへっ! ぽいぽい菌ってっ…………なんかそれ、いじめっぽいっ…………』
提督『やーっぱぽいぽい言ってんじゃねえか』
夕立『てゆーか、ばい菌扱いされるのはビミョーにイヤっぽい…………』
大淀『ほらほら、微妙な表情してないでさっさと読む。今日もたくさんお手紙来てるんですから』
夕立『ぽ~い…………』
吹雪『ぶひゅるっ』
睦月『わぎゃああああぁぁぁっ!! 髪が傷んじゃううぅぅっ!!』
提督『ガチの悲鳴じゃねーか!!』
夕立『えーっとぉ、えっと…………ラジオネーム“みにみにりゅーじょー”さんからっぽい』
提督『おっ、まさかの実名投稿か?』
“やっ、こんばんは。最近あんま顔見ること減ったけど元気してるかい?”
“ラジオネームに龍驤って入れてもうたけど問題ないかな? どーもウチ、匿名っちゅーんは好きじゃなくってね”
“もしアレやったら勝手に適当なラジオネームでも付けといたってぇや。”
大淀『まあ、こちらから明かすならともかくとして、投稿者側から自分で言うぶんには問題ありませんね』
提督『だ、そうです。みんなからの実名投稿、待ってるぜ!』
飛鷹「死んでもお断りね」
隼鷹「龍驤さんも肝っ玉座ってンなぁ~っ! なんかあーゆーの、作文読み上げられてる感じがして恥ずかしくねーか!?」
千歳「まぁ、ねえ。この歳にもなって手紙を読み上げられるのはその、なんていうか……」
千代田「あの放送。うちだけじゃなくって、みんなの家までぜーんぶ広がってますしね。あっでも、千歳お姉の手紙ならちょっと読んでみたいカモ」
千歳「やめなさい」
龍驤「んー…………」ポリポリ
龍驤「なんちゅーか、読まれて困ることは書いとらんしなぁ。ガッコ行っとったときにも何回かあったけど、べつに恥ずかしくもなんともなかったし」
龍驤「読まれて照れるっちゅーんは、こう、胸を張ってないってことや! 背中丸めとらんで、堂々と胸張ってれば困ることなんてないんやで!」
隼鷹「おお、含蓄あるお言葉!」
飛鷹「茶化してないであんたも見習いなさい。あーんた困るとすーぐウソついて逃げようとするんだから」
鳳翔「ふふ、龍驤さん。ウソはいけませんよ」
龍驤「げっ」
鳳翔「龍驤さんが頬を掻くときはいつも照れているときです。昔と違って、表情は上手に隠せるようになったみたいですけどね」
千歳「あら、そうなんだ? …………ふーん、龍驤さんやーっぱテレてるんだぁ」
隼鷹「なあんだ。途端にさっきのセリフがカッコ悪く思えてきたなぁ」
飛鷹「さーっきはあんなにカッコつけてたくせに、心の底ではテレてるんですねぇ」
龍驤「う、うるさいなっ! 鳳翔かて余計なこと言わんと黙っとったらええねん!」
隼鷹「でもさ、なんだっけ? 読まれて困ることはない。読まれて照れるっちゅーんは、胸を張ってないってことや――だっけ?」
飛鷹「んひゅっ! や、やめなさい隼鷹!」
隼鷹「くははっ! いやだってさぁ~っ!」
鳳翔「背中を丸めていないで、堂々と胸を張っていれば困ることなんてないんやで――ですよ」
隼鷹「んはっ! それそれっ!」
飛鷹「んふふふへへへへっ…………ご、ごめんなさ、龍驤さっ…………」
龍驤「やめんかキミたちィ!!!」
龍驤「鳳翔! キミもキミや! なんでキミはいっつもいっつもニコニコして黙っとるくせに、ウチが弱みを見せたときにはすぐいじってくるんや!!」
鳳翔「ふふふ、ごめんなさいね。つい」
龍驤「ついとちゃう!! ほんまキミいい加減にしときぃや!」
龍驤「そんなウチばっかイジっとったらや、今に見とき! ウチかて仕返しくらいするんやからなっ! 笑っとられるんも今のうちだけやで!」
鳳翔「あら、ウチは宵越しの恨みなど持たんのや――と、むかし語っていたのはウソだったのですか?」
飛鷹「んひっ! そんなカッコいいことまで言ってたんですかっ」
隼鷹「格言のバーゲンセールっ」
龍驤「じゃかあしぃっ!!」
“これフリー宛てやから、適当になんでも書いていいんだよね? じゃあ好き放題書かせてもらうわ。にしし”
“そもそもや、キミらいっつも突発的に色んなことやりすぎやて。なんや今回のラジオっちゅーんは…………。
ウチらの実家とか関係先にまでぜーんぶ届いてんねやろ? 聴いとるかどうかは知らんけど、たぶん聴いとるんやろなあ…………”
“こういうんはな、ちゃーんと艦娘一人ひとりに確認をとってからやらなあかん。
ウチはそんなに困ってないからいいものの、こういった個人に関係するものはな、心の準備が必要なんや。ウチは大丈夫やけどな”
“親からしたら気にも留めんよーなことでも、その娘からしたら人に聞かれたくないことかもしれないからね”
“つぎからはちゃーんと気をつけるよーに!”
提督『小姑か!』
吹雪『ほえ~……龍驤さんっていっつもあっけらかんとしてるから、イベントのこと全然気にしてないのかと思ってました』
大淀『こーら。その言い方は失礼ですよ』
睦月『でもなんだかんだ許してくれるにゃーん』
“ま、小うるさいおばちゃんみたいなことはここまでにしとこか。こういうのは鳳翔のお役目やしね”
鳳翔「…………龍驤さん。これはどういう意味なのでしょうか」
龍驤「べっつにぃ~? とくになーんにも意味はないで~」
龍驤「ウチはべつに口うるさいオカンとちゃうしなぁ~?」
鳳翔「こら、龍驤さんっ!」
龍驤「ひゃー! オカンが怒ったで! 怒カンや!」
千歳「西のオカンと東のオカンで争いが始まったわね」
祥鳳「どちらも横浜出身のオカンだけどね」
“そんでや、悩みっちゅーほどではないからこっちに送ったんやけど、ちょーっち相談があってね”
“なんや、その…………なんや。ウチってさ、ほかの航空母艦の子たちと比べるとさ、その…………”
“あーんまり、さ、その…………アレや。あの、アレ。――そう! 肉付きがあんまりよくないやんか!
いや別にその、ほかの子たちが太ってるとかそういうんじゃなくってね。その、胸回りが、さ、ちょーっち薄いっていうか…………”
“そのなんや。こう……おっきな子やとさ、構えをとるときに邪魔になったりするし、潰したり、弦との接触を抑える役割でさ、胸当てって着けるやんか?”
“ウチはさ、射出やなくて式神召喚術式やし、この通り身体もおっきくないから。
今まで胸当てとか防具とか、あんまり気にしたことがなくってや…………”
“最近さ、深海棲艦側も制空権を意識し始めたんか、制空争いが苛烈になってきたやんか。
どうしても空のほうに意識を取られがちになって、被弾する機会もちらほら増えてきたんよ”
“ほんでさ、そんときに…………アレや。こう、いくらさ、艤装の保護が働いてもや、服とかはその、被弾の衝撃で破けてまうわけやし”
“胸当て着けとる子やとさ、そんなアレやけど…………ウチみたいに軽装やとさ、こうガバッと見えてまうこともあるわけよ”
飛龍「あー」
赤城「たしかに、胸当てに助けられた場面は多々ありますね。胸元を開けっぴろげにして帰投するのはさすがに恥ずかしいですし」マフマフ
加賀「艦娘といえど、淑女としての誇りがありますからね。さすがは赤城さんです」マフマフ
瑞鶴「…………まだ食べてる」
蒼龍「ひ、一口あたりの量が少ないだけだから」
赤城「おいしいから大丈夫ですよ」モフモフ
“そんでさ、格納庫で胸当て弄ったりしとるんやけど、どーもウチに合う規格のものがないみたいでね”
“ウチは一般の子たちと比べると背丈かて低いしさ、フラットなスタイルに対応した胸当てがあっても、身体に合わんことが多いんや”
“明石と提督双方の許可を得んと勝手に入荷するわけにもいかんし。せっかくやから放送で一気にってね”
提督『あー…………。だからこの間、格納庫でばったり会ったんですね』
大淀『小さめの胸当ては誰も使用しないから、さげちゃったんですよね。格納庫だっていっぱいいっぱいですし』チラッ
明石『そうですね。ご希望とあらば、明日にでも採寸に伺いたいと思います。
デザインのカタログも持っていきますので、そこから複数の候補をチョイスしていく感じで』
明石『龍驤さんに限らずほかの航空母艦の方々も、なにかあったらすぐに言ってくださいね。
最近のわたしはだいたいここ執務室か機械室、酒保のどこかにいると思いますので、気兼ねなくどうぞ』
隼鷹「胸当てとかっさぁー、ぶっちゃけ邪魔じゃねー? そうそう被弾することなんてないんだしさぁ」
飛鷹「バカ隼鷹! あんたこの間そう言って全裸に剥かれてたじゃないのっ! さんざん着けなさいって言ったのに!」
飛鷹「恥ずかしがって色んなところ隠すくらいならもっと防具を着込みなさい!」
隼鷹「つってもさぁ…………」
祥鳳「まあそうよねぇ。わたしは弓術射式だけど、不便に思ったことは特にないわね」
隼鷹「だよなあ?」
飛鷹「隼鷹バカ! 痴女の意見に耳を傾けないのっ!」
千代田「そういや鳳翔さんも弓術なのに胸当て着けませんよね。赤城さんたちは着けてますけど」
鳳翔「ええ。わたしは皆さんのようにスタイルが良いわけではありませんから……」
千歳「あー、たしかに鳳翔さんはスレンダーなモデル体型ですもんね」
龍驤「…………ほお~ん」
鳳翔「…………なんですか?」
龍驤「いや、べつにね」
鳳翔「…………とりあえずわたしは裏に戻りますね。洗い物をしなくてはいけませんから」
鳳翔「みなさんも空き皿のほう、お下げいたしますね。それでは――――」
龍驤「ちょい待ち」ガシッ
鳳翔「は、はい? なんでしょうか?」
龍驤「もうちょっといとけ、な?」
鳳翔「そうは言われましても、間宮さんたちに洗い物を任せっきりにしてしまうのも心苦しいですし…………」
千歳「あ、それなら大丈夫みたいですよ。さっき榛名さんと龍鳳ちゃんが勝負だーって叫びながら洗い場に向かってましたから」
千歳「水で皿を洗う主婦力合戦を繰り広げているんじゃないですか?」
鳳翔「…………」
龍驤「……ま、まあそういうことや。まだゆっくり座っとき。ゆっくりと…………な」
夕立『胸当てってなんかいいなぁ。かんむす! って感じがしてすっごくオシャレっぽい!』
提督『オシャレ…………そうかぁ? ただの防具って感じしかしないが』
睦月『…………まったくぅ、われらが司令官どのはダメダメだにゃ~ん』
吹雪『しれーかん? いくら艦娘っていっても、中身はちゃーんと女の子なんですから! おしゃれできるところではやりたいんですよ?』
大淀『そうですねぇ。提督に身近なところで言えば、霧島さんのメガネとかだってそうじゃないですか。
電探仕様のメガネになっていても、その柄や装飾にも気を遣われているようですし』
大淀『みんな意外とお洒落に気を遣っているものですよ?』
提督『ああ、たしかについ最近同じことを誰かに言われたような…………』
提督『あ、じゃあそのスケベスカートもオシャレのうちなんですか?』
大淀『黙りなさい』
明石『しばきますよ』
提督『え、ひどくない?』
“しかしや、ウチくらいのサイズの胸当てが置いてないんも、なんもかんもほかの子たちがアカンと思うんよ”
“背丈が近い瑞鳳に貸してもらおうと思っても微妙に合わんし。
そのほかの子たちはみーんなボンッ・キュッ・ボンッの三拍子か、そもそも胸当て着けとらん子のどっちかや”
龍驤「ウチみたいな起伏の少ない感じやったら無くてもええっちゃええんやけどなぁ。な、鳳翔」
鳳翔「え? …………そうですね。あるに越したことはありませんけれど」
龍驤「ホンマ、弦が胸に当たって痛いとか体験してみたいわぁ。な、鳳翔」
鳳翔「そう、ですか? あまり体験したくはないような気もしますけれど…………」
龍驤「…………ふうん」ニヤニヤ
鳳翔「…………なんですか?」
龍驤「いや、べつにぃ? ただえっらい白々しいなー思うてなぁ」
鳳翔「白々しい……?」
龍驤「持たざる者の気持ちはな、持てる者にはわからんものなんやで…………」
“知っとるか? 鳳翔とかも控えめな感じかと思ったら違うんやで”
鳳翔「えっ」
千歳「そういや鳳翔さんとはお風呂入ったことないかもですね。いつも時間が合わないですし」
龍驤「おう。今度一緒に入ってみるとええで。なかなかほかに比べて負けず劣らずの甲乙つけがたい肉体しとるからや」
祥鳳「そうなの?」
鳳翔「ちょ、ちょっと龍驤さんっ…………」
提督『くわしく』
“あいつ、意外と脱いだらスゴいんよ。普段どこに隠しとるんやって思うくらいエッロい身体つきしとってな”
“一回揉んでみよー思たらもうアレがヤバくってね、ウチのちっこい手のひらじゃおさまりきらないくらい――”
吹雪『ちょっ夕立ちゃんストップストップそこまで!』
夕立『えー、ここからが面白いところなのにぃ~』
提督『そうだぞ』
睦月『ちょっと見せてね。…………うひっ! これ電波に乗せたら規制受けちゃうやつだよおっ!』
明石『ちょ、ちょっとわたしも拝見。…………うっわ、写真付き……すっご、驚くほど艶めかしいですね、出るとこしっかり出て、くびれとかも…………』
吹雪『うわっ! こんな写真どうやって撮ったんですか! 気づかれてないはずなのにこんな大胆な角度から…………』
夕立『ゆ、夕立も最近イイカンジになってきたと思ったけどぉ……』
睦月『さすがにこの鳳翔さんには勝てないにゃーん……』
吹雪『プロポーション界のビッグセブン、って感じだね!』
鳳翔「…………あ、ぅ」カァッ
提督『へえそうなんだ。ちょっと僕にも見せてくれないかな』
大淀『ドラァッ!!』
陸奥「龍驤さん、鳳翔さんの写真持ってるってホント?」
龍驤「ん、陸奥か? あるであるで、ほらこれ」ドバッ
鳳翔「ちょ、ちょっと龍驤さん…………!?」アタフタ
陸奥「わ、すごいたくさん…………。ちょっと借りてっていい? みんな鳳翔さんの肉付きに興味津々みたいで」チラッ
「わ、わたしはただ、ビッグセブンというのが気になるだけだ!」 「あの方の居住性は、ほかの方とは一味違いますから」 「山城が帰ってこないわ……」
陸奥「かくいうわたしもその一人でねぇ。鳳翔さんのスタイルの秘密に迫りたくって」ウィンク
龍驤「ハハハ…………ええよええよ。汚さん程度にちゃーんと返してな」
陸奥「オッケーありがと。そんじゃ借りてくわねっ」タタッ
「借りてきたわよっ」 「なんだこの束ァ!?」 「oh...steamy...これが年の功というヤツですカー……HOSHO HOT!」
「あれ? でも金剛お姉さまってたしか鳳翔さんとそんなに……」 「ん?」 「…………いえ」
龍驤「ウチもいつかはRYUJO HOTと呼ばれるくらいに“持てる者”になりたいもんや…………」トオイメ
鳳翔「…………り、りゅ、りゅ、りゅりゅりゅ龍驤さん!?」
龍驤「…………なんやいま現在持てる者よ。ずいぶん慌てとるみたいやなあ」
龍驤「なんや? さっきまで――」
龍驤「“わたしは皆さんのようにスタイルが良くないですから……”」クネッ
龍驤「――とか言って澄ました顔しとったやろぉ?」
龍驤「そんな真っ赤な顔して風邪でもひいたかぁ? ん? ん? んんん~? いけませんなあ艦隊の母が不養生はぁぁ~ん?」
鳳翔「ちょ、ちょっと近いですから…………」
龍驤「あのさ……いくら恥ずかしい言うたってや、誤魔化したらあかんやろ」
鳳翔「す、すみません…………?」
龍驤「でもな、わかるでその気持ち。へんにプロポーション良いの知られたらさ……風呂場でな――」
龍驤「キャッ! 鳳翔さんすごいキレー! ちょっと触ってもいーい? えっ、ちょっと……! ほらほら~! いやぁ~ん!!」
龍驤「――みたいなこともあるわけやろ!!!」
鳳翔「な、なんで怒っているのでしょう……?」
龍驤「でもウチが言うたった。これからいくら誤魔化してもや、みんな目を皿にしてキミのその引き締まったボデーを舐め回すことになるんや。豪熱マシンガンや」
龍驤「キミが手塩にかけた提督も、きっと上から下までねっとり見てくるんやろなあ~?」
鳳翔「ちょっと、やめてくださいっ」
龍驤「これからな、こういうこといくらでもあんねん……慣れていかんとアカンでこういうの。これくらいの告発ならまだまだ大丈夫や」
龍驤「なあ? キミの身体はいくら誤魔化しても、ボンッ・キュッ・ボンッとは言わんとまでも、ぽよん・しゅっ・ぽよんくらいはあるわけや」
龍驤「でもウチにはないんやで? わかる? この罪の重さ」
鳳翔「あ、あはは…………」
飛鷹「あれでキレないのが艦隊の母たる所以よね」
隼鷹「対する龍驤さんは完全にクレーマーだな。あっちは艦隊のオバハンってところだろ」
龍驤「聞こえとるでそこぉっ!!」
夕立『お手紙はここまでっぽい! “みにみにりゅーじょー”さん、ありがとうございました~!』
睦月『あっりがっとにゃ~ん!』
吹雪『でもビックリしたねー。まさかあの鳳翔さんがこんなにスタイル良かったなんて』
睦月『きれいな人とは思ってたけど、まさかダイナマイトボディだとはにゃーん…………』
夕立『夕立も、もっともーっと頑張らなくっちゃ!』
吹雪『……夕立ちゃんはもう歳のわりにおっきいと思うんだけどなぁ』
睦月『高望みしすぎだよぉ。睦月なんてまだまだぜーんぜんなのに…………なにか良い方法ないかなぁ』フニフニ
吹雪『お豆腐とかキャベツとか、鶏肉とかも良いらしいねー。正直気休め程度だとは思うんだけど……』
睦月『それならお鍋とかが良いかもねん。みんなでつつけば楽しいし、今度みんなで集まってお鍋にしましょー!』
吹雪『あっ、それいいね! 白雪ちゃんとかも呼んでこたつを占拠しちゃおうっ』
夕立『こたつにお鍋パーティー!? なにそれすっごくステキっぽい! 冬っぽい!』
吹雪『んふっ! ぽいぽい言いすぎでしょっ……』ビーッ
吹雪『――あ、新しいお便りが届きましたね。これ読んじゃっても良いのかな。司令官、どうでしょうか?』
吹雪『…………司令官?』
睦月『提督ならあっちでほら、大淀さんと明石さんに矯正されてるにゃーん』
吹雪『あっち?』
夕立『うわっ、えげつない』
吹雪『夕立ちゃん、キャラ崩れてるっ! …………うーん、わたしたちだけで間を繋ぐのもあれだし、勝手に読んじゃえっ』
睦月『ラジオネームはー?』
吹雪『二通ともネームなしっぽい? ぽい…………走り書きで書かれたみたいな感じ。えーっと…………』
“榛名もスタイルには気を付けているようですよ。じかに触れて確かめてみてはいかがですか”
“龍鳳さんも小柄なわりにちゃーんと育っているみたいです。触ってください”
夕立『…………』
睦月『触るのはまずいでしょ…………』
吹雪『なんで確かめる必要があるんですか』
提督『…………けほっ、けほっ』
吹雪『あ、司令官。ご無事だったんですね』
夕立『おかえりなさーい!』
提督『お前らずいぶんドライだな。もっと俺の身を案じろよ……そ、それで、さっきのお便りはどこ行った?』
吹雪『それだったらもうボックスに入れちゃいましたよ。ほらこれ』シャカシャカ
明石『ボックスはわたしが責任を持って処理しますので、提督は触らないでくださいね』
提督『ああ………………そうですか』
睦月『どうかしました?』
提督『いや……天に触れども天を掴めず、といった感じだ。気にするな』
吹雪『どういう意味ですか?』
提督『いや…………。それより大丈夫なんですか? 艦娘が匿名で恥部を晒しあう放送になっている気がするんですが』
大淀『…………ま、まあこれくらいなら。直接的なワードは出てきていませんし、いくらでもごまかしが効きます』
大淀『匿名性もほぼ意味を為していませんしね』
明石『さすがにピーがピーするピーピーピーとかはまずいですけどね』
大淀『こら、言ったそばから!』
提督『いえ、そういうことではなく……艦娘がお互いの秘密を暴露することで、ヘイトが溜まったりとかしないかなって』
提督『自分がやってる放送のせいで友情に亀裂が入ったとかだと、こっちも気苦しいですし』
明石『うーん、そうですねえ……――あっ、こういうときのアレですよ! ほら、マイクの青色ボタンです!』
提督『あ、お、い、ろ…………あっこれですね。…………ああー!』
明石『はい! たとえ艦娘間で問題になりそうなお便りを読んでしまったとしても、こちらでナマの声を入れてしまえばいいんです!
雰囲気が悪くなければそのままで。もし険悪な雰囲気が漂っていればこちらからフォローを入れることもできますし!』
明石『ただ注意してほしいのが、“ナマの声”は、“ラジオ放送にも流れる”ようになっているので、お気をつけください』
提督『…………なーんか、うんともすんとも返しづらいですねえ』
明石『いいんですよ細かいことは! 物は試しです、一度使ってみてはいかがですか?』
提督『いま回線を開いても龍驤さんが鳳翔さんをイジってる場面しか想像できませんけどねえ……』
明石『それならそれでいいじゃないですか。それじゃ食堂にいると思いますから、マイクの……吹雪ちゃんのマイクですね』
明石『吹雪ちゃん、マイクの音源ボタンわかりますか? その隣に青いボタンがあると思いますので、押してみてください』
吹雪『わっ、わたしですかぁ!? ……わ、わかりましたっ』
吹雪『――――えいっ!』ポチ
『――――なんでわたし――』 『ざわざわ』 『夢で見たから――――』
大淀『無事機能したようですね。したよう、ですが…………』
夕立『…………ごちゃごちゃしててよくわからないっぽい』
提督『ちょっとぼやけすぎですね。音声をズームすることは出来ないんですか?』
明石『もちろん可能ですよ。ええっとですね――』ポチポチ
龍鳳『…………こうして洗い物をしていると、あの人が隣に立っているような感覚を持ちます』
龍鳳『わたしのおうちでお夕飯を食べていく機会が幾度かあったんですけど、いっつも食後は二人隣り合わせで一緒に楽しく洗い物ですから』
龍鳳『まるで新婚の夫婦みたいな、とってもあまい時間だったなぁ…………』カチャカチャ
榛名『…………そうなのですか』カチャカチャ
龍鳳『一緒に洗い物をしながら学校の話とか、勉強の話とか、将来のお話とか…………』
龍鳳『ふふ、こんなこと言っても仕方ないですよね。榛名さんだって一緒に住んでいたんだから、これくらいは毎日やっていましたよね?』
榛名『…………』カチャカチャ
榛名『いえ、毎日ではありません。それどころか、一緒に洗い物をする機会もそこまでありませんでしたね』
榛名『家事は提督を含め、金剛お姉さまたちと分担していましたし。いまこのように、誰かと一緒に洗ういった機会は、あまり』カチャカチャ
龍鳳『…………あら、そうだったんですか。それはたいへん失礼しました。わたしったら早とちりしちゃって……』
龍鳳『なんだかすみません。一緒に住んでいたからこそ、役割等で線引きはしっかり行っていたということですね』
榛名『そうですね。たまに誰かとご一緒することはありましたけれど、それくらいで』
龍鳳『そうなんですか。わたしの方はですけど、提督が隣に立っていることが多くって…………』
龍鳳『なんだか身も心も舞い上がっちゃって。肩が触れない程度に寄り添ってみたりなんかしちゃったりしましたけど』
龍鳳『意外とドライな関係だったんですね。わたしはいつもふたりでやっていたのに、榛名さんは独りだなんて……』
榛名『…………』カチャカチャ
榛名『そうですね。任せていただけるというのは、たいへん光栄なことです』
龍鳳『…………まかせる?』
榛名『はい。あの方は自分のことは出来うる限り自身で行おうとする方ですから。洗い物ひとつ取っても例外ではありません』
榛名『あの方は意外と、“他人”を信用しませんから』
榛名『それなのに、信頼して預けていただけるということは、非常に嬉しいお話です。
とくに衣食住。食後の食器なんてものは、本当に信頼している相手にしか託せないものですから』
龍鳳『信頼…………そうでしょうか? 単純に“何とも想われて”いないから、無関心なだけなのでは?』
榛名『そうかもしれませんね。でも、“わたしと提督”は“家族”ですから』
龍鳳『…………なにをおっしゃいたいのですか?』
榛名『いえ、深い意味はとくに』
龍鳳『…………』カチャカチャ
榛名『…………』カチャカチャ
間宮『あ、あの……洗い物もう終わってますよ……?』
書き溜めはここで途切れている
提督『なんですか今の』
明石『なかったことにしましょう。ええっと、もっと和やかな場所は…………』キュルキュル
『――――』ザザ
日向『ほう、胸当てか……』
明石『あっ、日向さんですね! 日向さんなら大丈夫そうです!』
吹雪『…………大丈夫は置いといてですけど。この放送ってたしかみんな聞こえてるんですよね?』
吹雪『それじゃあ、自分の会話がラジオに流れてるって気づいちゃって、恥ずかしくなって途中で会話を止めちゃうみたいなことも……』
明石『問題ナッシンです! 音を拾っているエリアには違和感のない程度にコマーシャルが流れるようにしていますから!』
明石『そのあたりの細かい調整に関してはお任せください!』
睦月『ご都合的だにゃ~ん……』
日向『ふむ。水上機運用の際にはこれといった障害もなかったが…………』
日向『艦上機の発着操作ともなると、やはり胸当てといった防具の類が必要になってくるのか?』
夕張『弓術射式なら胸が邪魔になることもありますしね。サラシでつぶした上に胸当てで保護するのでしょう』
日向『なるほど。たしかに水上機と艦上機だとそもそものやり方が異なるから、か』
日向『むかし一度、龍驤に彗星を借りたことがあったが、龍驤側で召喚したものを借りただけに過ぎないからな』
夕張『本来は彗星や流星も積めたはずなんですけどね。先生に対応する彗星や流星の開発がなかなか進まなくって、ついには打ち切りになってしまいましたから』
夕張『それに応じて先生たちの艤装も水上機専用に改装されてしまいましたし』
日向『残念なことだ。借り物などではなく、自分のものとして艦上機を扱いたいものだ』
日向『胸当ては航空母艦である証のようにも見えるからな。着用している姿がとても眩しく映るんだ…………』
夕張『そうですね。日向先生のスタイルなら、きっとよくお似合いだと思います』
夕張『…………先生ならともかく、わたしみたいな体型だとそういうのが似合うかどうかはわかりませんけどね』
日向『なに、そう卑下することもないだろう。きみは未だ成長期の只中にいるのだから、まだまだこれからさ』
夕張『あ、ありがとうございます……でも、成人してもスタイルが変わらない人もいますし。
さっきのラジオの話でもそうですが、龍驤さんだったり、大鳳さんだったりだとか…………』
日向『そういうこともある。気に病みすぎることのほうが良くないさ。こころの状態はからだの成長にも強く影響するのだから』
日向『それに、女性の魅力は胸だけというわけでもあるまい』
夕張『それは、そうなんですが…………』
日向『それになんだ。きみの言う龍驤や大鳳は、きみから見て魅力的な女ではないということか?』
夕張『い、いえっ! そんなことは決して!』
日向『だろう? 彼女たちは胸だけでない、たくさんの魅力を持っている』
日向『きみも、もし身体が思うように育たなかったのならば、そういった魅力を磨いていけば良いだけの話さ』
夕張『せんせぇ…………!』
日向『いい顔だ。…………なあ、きみもそう思うだろう?』
日向『――――瑞鳳よ』
瑞鳳『…………あ、あははー』
夕張『瑞鳳さん……!』グスッ
瑞鳳『よ、よしよし。夕張ちゃんはまだまだこれからなんだから、ねっ』
夕張『ずいほうさん゛ん゛~~っ!!』
日向『うんうん。よきかなよきかな』
瑞鳳『あはは…………』
瑞鳳『(もうっ! なんでこの二人はさっきからずうっとついてくるの~~っ!!)』
日向『――――』チラ
夕張『――――』コクリ
夕張『ねえ、瑞鳳さぁん…………』グスグス
瑞鳳『な、なぁに?』
夕張『瑞鳳さんはさ、ほんっとーにわたしのこと慰めてくれようとしてますか……?』
瑞鳳『も、もちろん! 夕張ちゃんの魅力は、まだまだたーっくさんあるんだから!』
夕張『そう、ありがとう。…………でもね、本当に慰めてくれようとしているならさ』
夕張『もう一つだけ、お願いがあるんです』
瑞鳳『な、なにかなぁ…………?』
夕張『――――瑞鳳さん自慢の九九式艦爆、くれませんか』
瑞鳳『え…………?』
夕張『九九式艦爆くれませんか』
瑞鳳『九九式艦爆……? ち、ちょっとそれはムリかなぁ~って…………』
夕張『艦爆くださいよ! ねえ!』
夕張『艦爆ですよ! 九九式艦爆でしょう!? ねえ九九式艦爆欲しいんですよねえ!!』ガシッ
瑞鳳『やっ、ちょっ、離し…………!』
日向『抵抗することはない』スッ
瑞鳳『日向さん!? なにを――――』
日向『瑞鳳……大切に思う相手のために、我が身を差し出すのは罪ではない。話し合いが通用しない相手だっているんだ。
精神を欲望のまま自由に開放してやれ……気持ちはわかるが、もうガマンすることはない……』
日向『きみの好きだった九九式艦爆や彗星たちを…………彼女に差し出してやってくれ…………』
瑞鳳『な、なにを…………ひゃんっ!』
夕張『うへへ…………』グニグニ
瑞鳳『ちょ……どこさわってっ』
日向『ほら、きみの九九式艦爆はこんなにも欲しがっているじゃあないか……』スルッ
瑞鳳『んぅっ!』
夕張『わたし、ずうっと考えていたんですよぉ……どうすれば艦載機を搭載することができるかなぁって……。
やっぱり昨今の戦いですと、弾着観測射撃の安定した火力は非常に魅力的ですしぃ…………』イジイジ
夕張『明石さんに相談していろいろ実験してみてるんですけど、なかなかぁ……』
日向『やはり実機がなければ始まらないからな』
瑞鳳『そんなの……んっ! ぁ、はぁっ…………』ビクン
瑞鳳『べっ…………べつにっ! わたしのじゃなくってもいいんじゃない!? ほ、ほら、龍驤さんとか…………』
夕張『龍驤さんじゃだめなんです』
瑞鳳『なっ…………なん、でっ』
日向『度重なる厳正な審査の結果、瑞鳳が一番ちょろそうだと思ったのだ』
瑞鳳『ちょろっ!? ――――んんっ! ぅ、やらぁ…………』
夕張『さあ……ここからが追撃戦ですよ……』ワキワキ
日向『わたしたちの高速給油で、その小柄な格納庫を満たしてやろう…………』ワキワキ
瑞鳳『や…………』
瑞鳳『やああぁぁぁ~~~~~~っっ!!』
――――
――
大淀『提督。新しいお便りが届きました』
提督『どうぞ』
“格納庫弄られるのが辛い”
大淀『“duf0”さんからのお便りです』
提督『…………えーっと。つまるところ、格納庫弄られるのが辛いということですね。頑張ってください』
睦月『軽っ!!』
伊勢「あの子……いないと思ったらバカなことを……」
長門「気にするな。いつもの発作だ」ズズ
飛龍「瑞鳳ちゃんのあの声って、放送的にマズいんじゃ……それに提督も珍しく紳士になんなかったね。真摯な紳士というか」
蒼龍「ね。だいたいいつもあんなことが起こったら前かがみになってるけど……」
金剛「あれくらいならわたしたちで慣れてるネー」ズズ
比叡「そうですねー……」ズズ
瑞鶴「はあっ!?」
陸奥「ちょっとみんなこれ見てよ! 鳳翔さんが女豹のポーズしてる!! しかもマイクロビキニだしっ」
武蔵「興味深い」ガタッ
大和「高解像度でお願いします」ガタッ
赤城「こ…………これは…………」
暁「い……一人前のレディになるためには、こういうカッコもしなくちゃいけないの…………?」
雷「電は見ちゃだめなんだからっ!」
電「はわっ!?」
北上「これはこれは…………ハラショーかい?」
響「いいや。これはさすがにハラショわない」
祥鳳「これは……さすがにここまではわたしでも無理ね……」
鳳翔「やっ、やめてっ……やめなさーい!!」
千歳「すっごい集まってるね。あっちのほう」ズズ
飛鷹「そもそもアレどうやって撮ったの? 日頃の鳳翔さんを見てると信じられないんだけど」
龍驤「あいつ、酒に弱いトコあるからね」ズズ
隼鷹「あーね。酔わせたところをグワッといったわけかー」
龍驤「せやな」
鳳翔「せやなじゃありませーん!!!」
提督『明石カモン』
明石『…………え、えと。いまのもたまたま音を集めた場所が悪かっただけで』
提督『カモン明石』
明石『ひゃっ! ひゃいっ!!』
提督『ねえマジでこういうのやめてねえ。ちゃんと事前に確認してから音とって? 俺の威信がかかってるからさあ。最悪俺が維新されちゃうからさあ』ペチン
提督『なにが“日向さんなら大丈夫です”だ。ぜんぜんだいじょばないじゃねーか』ペチン
明石『んぁっ……ちょ、やっ、やめてくださっ…………』
提督『なに? 明石さんわざとだったの? わざとこういうふうに俺を困らせて喜んでるのねえねえ』ペチンペチン
明石『こっ……こんにゃくでほっぺを叩くのはやめて…………んぅっ!?』ペチン
提督『なにか言いました? 年下の提督いじめて楽しいですか? しばらく見ない間にいやらしくなったもんですねずいぶんとねえ』ペチペチ
明石『ちょっ…………ま、やっ…………』
提督『おまえちょっとウザい! クソがっ!』
吹雪『それは摩耶さん』
睦月『ちょっ吹雪ちゃっ――――』
がさごそ ごとごと …………
大淀『…………えーみなさん、提督鎮守府の赤裸々生活、いかがだったでしょうか。
アニメ“艦隊これくしょん”に出演する三名、普段はもっとも~っと奔放に過ごしております』
大淀『アニメでは、ちょっぴり素敵な艦娘たちが見られるかもしれません。
かくいうわたしも、こっそり通信士として登場していたりなんてしちゃったり、なんて』
大淀『ぜひぜひ、そちらの方も注目してくださいね!』
大淀『それではいったんCMに入らさせていただきたく思います。CMのあとは、みなさまからのお悩みを解決するあのコーナーです!』
大淀『今からでも問題なく間に合いますのでみなさまからのお便り、どんどんお待ちしております!』
大淀『それでは、またあとで~!』
明石「…………は、はいっ! それでは五分ほどの休憩に入ります! ――ちょ、もうやめてください!」ペチペチ
明石「再開三十秒前から用意を始めますので、その時間までに戻っていただけるなら自由に行動していただいても大丈夫です!」ヌルヌル
明石「お飲み物はこちらで用意させていただきましたので、ご希望のかたはどうぞ!」ヌルヌル
睦月「あっ、じゃあ睦月ちゃんはオレンジジュースがいいのです!」
夕立「夕立もみかーん!」
提督「ん……俺はトイレ済ませとこうかな。コンニャク食べてぬるぬるしてますし。つってもあと少しくらいですよね?」
明石「あー、そうですね……」フキフキ
大淀「いずれにせよ提督は放送後の処理作業もありますし、今のうちに」
提督「そっすね。それじゃちょっと失礼しときます」ガタッ
すたすたすた
…… ……
吹雪「(あれ? 司令官のポケットから、なにか…………)」
吹雪「(――――えっ、あれって……!)」
…… ……
がららっ ぴしゃっ
夕立「…………吹雪ちゃんだいじょーぶ? 具合悪いのもうなおった?」
睦月「そういやそうだね。放送始まる前は元気なかったみたいだけど……ナニかあった~?」
吹雪「あ――うぅ、思い出しちゃったよぉ…………」ムズムズ
大淀「大丈夫ですか? もしなにかあれば今のうちに済ませておいたほうが良いと思いますよ」
吹雪「そ、ですよね。それじゃちょっと、すぐに戻ってきますっ」ガタッ
吹雪「――わ、わわっと! ……しつれいしましたっ!」
夕立「…………なーんだか、おかしな吹雪ちゃーん……」
睦月「帰ってきたら聞いてみよっか。そっれよっりどーなっつの続きにゃーん!」
夕立「ドーナツにみかんジュースが備わり最強に見える」
大淀「ふたりとも、急がずゆっくりとね。のどに詰まらせたら大変ですから。それと明石、ほらハンカチ。ほっぺたがヌルヌルテカテカしてるわよ」
明石「ありがと。…………ぅー、乙女の柔肌になんてコトを……」
どっぱーん
提督「ひー……」
提督「(さいきんトイレが近くなってきた気がすんなあ。頭より先に身体のほうが歳とってきたんかね――っと)」キュッキュッ
提督「(運動はそれなりにやってるつもりだけど、椅子に座ってる時間はそれ以上だからなあ。腰にクるわ……)」フキフキ
提督「(あんまり情けないと艦娘に対して示しがつかんからなあ。
もし腰を痛めたりしてオッサンくさいところを見せてしまったらもう、艦娘にどんなことを言われるか……)」
提督「(とくに過激なメンバーなんかきっとこうだ――――)」
満潮『腰が痛いィ? 知らないわそんなの。これだからオッサンは困るのよ! きっしょ近寄らないで加齢臭がクッサイのよ!!』
曙『ほんっとクソ提督ね! こっち見んなセクハラで訴えるわよ!!』
霞『こんなに太ってみじめよね。あたしたちが訓練してる間お菓子ばっかぼりぼり食べてるからそうなんのよ』
響『デブショー』
提督「(…………)」
提督「(うわぁ頑張ろう。ビッグになろう。ピッグにはならないでおこう)」フキフキ
提督「(てかあいつらおかしくね? 演習とかでよその提督とかと会ってるだろ? 俺がいかにスリムか理解してるだろ?)」スッ
提督「(あいつらマジ辛辣だわ……もしあいつらがゲストに呼ばれた日にはもう凄惨だわ)」
提督「(そう考えたらいまのところ、榛名、しおい、吹雪睦月夕立って物凄く良心的なメンバーじゃねえか。
……あれ? ラジオ始めたのって数日前だよな? なんか気持ち数ヶ月経ってるみたいな感じがするわ。気のせいか……)」
提督「さて……そろそろ戻ろう」
提督「(そういや俺ハンカチ持ってたっけ。ついつい無意識に使っちまったけど……)」
提督「(座ってたときに思ってた違和感はコレだったのか。ケツポケットにハンカチ入れることなんてあんまりなかったからなぁ)」モゾモゾ
提督「(ま、いいや。そうとわかれば違和感なんて飛んでいっちまうからな)」
提督「(戻ろう戻ろう。水場のニオイって、どーやっても慣れないんだよなあ~……)」ガチャン
――
――――
吹雪「た、ただいま戻りました~……」ソローリ
夕立「あ、吹雪ちゃんおかえりなさーい」
明石「問題のほうは解決されましたか?」
吹雪「え、ええ、まあ……一時的にって感じですケド」
大淀「なにかあったの?」
睦月「一緒にゲームしてたときは元気だったケド……」
吹雪「う、うん。ちょっとね…………」
明石「なになに、デリケートな話ですか?」
大淀「それならちょうどいま提督もいませんし、相談に乗りますけれど」
睦月「カモッ! ブッキーガールカモッ! オールウェイズカモッ!」クイクイ
吹雪「なんで金剛さん風なの……えっと、じつはね――」
『えぇ~~~~っ!!』
睦月「吹雪ちゃん下着なくなったの!?」
吹雪「ちょ、声大きいってばぁ!!」
夕立「だからそわそわしてたんだー……お昼ごろまでは普通だったけど、もしかしてお風呂に入ったときっぽい?」
吹雪「う、うん、たぶん……。カゴのなかに入れてあったはずの下着が、どこ探しても見つからなくって……」
明石「すでに洗濯物として処理されてしまった可能性はありませんか?」
夕立「榛名さんがまとめてぱぱーっと洗ってくれるって言ってなかったっけ?」
睦月「そうだにゃー……そもそもなーんで、吹雪ちゃんはぱんつがなくなってることに気付けたの?
どちらかといえば、洗濯物を洗ってくれる榛名さんが気づくことな気もするにゃーん」
吹雪「う、うん、それなんだけどね…………」
吹雪「このあいだ、執務室に変なおばけが出たーって日があったじゃん。
ちょうどその日にね、洗濯物を思って脱衣所に置いてたんだ。その次の日の朝にまとめて洗っちゃおうと思って……」
吹雪「そしたらその翌日そのカゴを見たらね、なーんかヘンなヌメヌメしたものがベチャってついてて……」
大淀「(…………あー)」
明石「(…………ふんふむ。なるほどなるほどなるほど~)」
吹雪「洗ってもぜんっぜん落ちないし、まとめてクリーニングに出しちゃったんだ。
だからいま手元に替えの下着がほとんどなくって、一日の途中で履き替えるとすぐに予備がなくなっちゃうから…………」
大淀「お昼にさっと流す程度なら、替えないままで良いと判断したんですね」
吹雪「そ、そうですぅ…………」カァ
吹雪「そ、それでさっきようやく穿き替えたというか、穿いてきたというか……」
睦月「睦月たちのはそのままちゃーんと置いてあったし、榛名さんがまとめて洗ったにしては不自然だにゃー……」
夕立「そもそも洗うにしても、ぱんつ一枚だけ洗うなんて面倒臭すぎ! だいたいシャツとかと一緒にまとめて洗うっぽい!」
明石「…………と、なると。自然と一つの言葉が脳裏に浮かびあがってきますね」
大淀「――盗難、ですか。北上さん以外が下着泥棒に遭うなんて初めてですね」
吹雪「で、でも! 下着泥棒なんて言ったって、まずする人がいないじゃないですか! お風呂だってわたしたちが普段使わないお風呂でしたし!」
吹雪「下着泥棒なんて、男の人がやるような……でも、鎮守府に立ち入る人はみんな持ち物をチェックされてますし……」
明石「たしかに、そう言われてみればそうですねぇ」
睦月「そもそも睦月たちがそこのお風呂場に入ったことだって、知ってる人自体がほとんどいないにゃーん」
大淀「誰が知っているんですか?」
夕立「えっとぉー。まず夕立でしょ? 睦月ちゃんでしょ、吹雪ちゃんにー」
睦月「あと、榛名さんと」
吹雪「――――司令官、です」
大淀「ああ……執務室そばのお風呂場ですか? けさ提督と榛名さんがシャワーを浴びた場所ですね」
明石「それなら自然と絞り込まれてきますねぇ。榛名さんは当然として、提督だってあまり考えられませんし……」チラッ
夕立「ぴっ!?」
睦月「むむむむむ睦月たちじゃないよ!? だって三人ずーっと一緒に行動してたもん! ねぇ吹雪ちゃん!?」
吹雪「は、はい! 睦月ちゃんと夕立ちゃんはわたしとずっと一緒で、お風呂あがったあとも一緒で……」
大淀「お風呂上り、途中で誰かに遭遇したとかは?」
吹雪「叢雲ちゃんには会いましたけど、それ以外はとくに…………」
大淀「ふうん…………」
明石「提督が、榛名さんの下着目当てで忍び込んだっていうセンはどうですか? それでついでに、みたいな」
吹雪「つ、ついでって…………」
大淀「提督が欲しいって言えば進んで差し出すでしょ。わざわざ盗むようなことはしないと思うわ」
明石「それもそっか」
夕立「(なにかがおかしい!?)」
大淀「…………ねえ、あなたたち。今日なんだけど、提督の様子でおかしいなーって思ったこととか、ありませんか?」
大淀「そ、その。提督も街に出てお疲れの様子でしたし、ちょっとした気の綻びとかが見えてきたりなんか…………」
明石「(お、お疲れ…………も、もももしやそれは疲れマラとかいうヤツですか!? むっはああーっ!!)」ブルブル
明石「(大淀! やっぱアンタってばドエロだわ! ドエロ酒保祭りですわ!!)」
大淀「(あなたは黙ってなさい!!!)」
吹雪「提督の様子で、変なところですか…………うーん」
夕立「そう言われてもあんまし覚えてないっぽい……いつも通りの提督さんだったってゆーか…………」
大淀「そこをなんとか。艦娘の生活の保護はなにより大切な案件ですから。すぐに原因を突き止めなければなりません」
睦月「んー…………そういえば、だけどぉ」
吹雪「睦月ちゃん?」
睦月「ふたりも覚えてるかにゃー? 街から帰ってきて、車から降りたときのコトだけどぉ」
吹雪「…………? うん、覚えてるけど……」
夕立「ぅー……?」
睦月「夕立ちゃんは爆睡だったから覚えててないカモかも?」
吹雪「たしか、うとうとしてる夕立ちゃんを榛名さんがおんぶしてたんだっけ? もうヨダレなんてドバーッと流しちゃって」
睦月「そうそう! それでね、そのヨダレで榛名さんの着てた服がどんどん透けちゃって……」
吹雪「前かがみになった司令官が逃げるように帰っちゃったんだっけ?」
明石「ま、まえかがみ…………ッ!!」
大淀「…………なるほど、尻尾が見えましたね」
大淀「そのあと、提督がどこへ行ったかはわかりますか?」
睦月「ううん、そこまではさすがに……」
吹雪「わたしたちもあのあとすぐにお風呂行きましたし……」
明石「ああ……そういやそのあとですかね。わたし提督に会いましたよ」
大淀「ほんとう?」
明石「ウソついてもしょうがないでしょ。たしかトイレの前で会ったんだったかな……」
明石「放送機器の調整をしようと思って提督を探し回ってたんです。そしたらお手洗い近くの廊下を歩いた提督を見かけまして。
いまからお手洗いですかって尋ねたら、“もう用は済んだところですから”お気になさらず、って」
明石「しかも変な敬語まで使って。いま考えれば慌てていたのを隠すために……!?」
大淀「よ、用は済んだ……つまり、目的を達成したということね」
夕立「なくなった吹雪ちゃんのぱんつ、目的を達成したてーとくさん…………」
吹雪「も、目的って、そんなまさか」
明石「それもただの目的ではありません。トイレの前で“用は済んだ”……と言ってました」
明石「トイレ、異性の下着、用は済んだ――これの指すところは、つまり」
睦月「みゃっ、みゃさかっ!?」カァ
大淀「ま、まさかそんな、まさか……!」カァ
吹雪「…………っ」カァ
夕立「…………ぅー?」
夕立「よくわかんないけどぉ~……てーとくさん、トイレだったらさっきも行ったっぽい?」
大淀「…………!!」ハッ
明石「まさか……セカンドハッスル!?」
吹雪「あっ、そうです! さっき立ち上がった司令官のポケットから、見たことのあるガラの布がちらちら見えてて……。
わ、わたし、それと同じガラのぱんつ。それが無くなったんですっ!!」
睦月「にゃしっ!?」
大淀「ぬかりました……! 榛名さんのあられもない姿に劣情を“催した”提督が、たった一度のふんもっふで終わるわけがありません……!」
大淀「時に、閉鎖空間においての彼は過激になるはずです……!
後ろめたくないくらい愉しみを感じるのは、ちょっとしたスペクタクルのはず……!」
明石「女の園と化した鎮守府において、ひとりの時間は刹那の夢――。
手当たり次第に掴み取って、無造作に使い捨てるなんて、欲に駆られた男性ならよくあると聞きました」
明石「わたしたちは忘れていました。彼がひとりの男性だということを……」
大淀「吹雪ちゃん、ごめんなさい、ごめんなさい……っ! あなたの下着を、まもれなかった…………!」
吹雪「え、え、え、ええっ!?」
睦月「ちょ、ちょーっとお二人とも、想像が先行しすぎてるにゃーん? 本当に提督がやったっていう証拠はまだないんだからっ」
明石「睦月ちゃん、提督を信じているんですね……なんていい子なのっ……」ホロリ
睦月「や、やっ、二人がヒートアップしすぎなだけだからっ! 顔まっかっかだしっ!」
大淀「ううん、提督が不審で怪しいのは確定的に明らかです。わたしが思うに提督と艦娘の信頼度は違いすぎた。提督が帰ってきたらハイスラでボコりましょう」
睦月「なんか言葉づかいも変になってるしいいーっ!!!」
――――
――
がちゃっ
提督「ただいま戻りま――」
吹雪「」バッ
明石「」バッ
大淀「」ギロッ
提督「…………なんの遊びですか? 俺が戻ってきたら一斉に振り返る練習ですか?」
提督「そんなにじろじろ見て……あ、髪とかはねちゃったりしてます? 鏡あったかな」
吹雪「い、いえいえいえ! そんなこととくには!」
明石「いつも通りカッコイイですよ! なんかもう振りきっちゃってるカンジで!」
夕立「ぽっぽい!」
提督「なんスかその反応……まあいいや、放送開始まであと二分もないくらいですよね? そろそろ段取りさっと済ませた方がいいんじゃないですか」
明石「それもそうですね! そう、ですが…………」
大淀「提督。その前にボディチェックをさせていただきます」
提督「えっ? ボディチェック?」
明石「吹雪ちゃん、睦月ちゃん、夕立ちゃん。提督を中心に輪形陣」
吹雪「は、はい!」
睦月「悪く思うな……にゃし。これも提督のため……」
明石「夕立ちゃん、どう? イカくさくない?」
夕立「くんくん……イカっぽくはない、けどぉ……」
提督「はっ、いやちょっと待ってくださいよ! なんでボディチェックですか!」
明石「いやぁ、そのぉ…………」
大淀「…………ここ執務室には精密機器も複数設置されておりますし、危険物を持ちこまれてしまうと問題ですから。
たとえ提督であろうとボディチェックを敢行させていただこうかと」
提督「いやいや外出したあとならともかくとして、トイレのあとですよ!?」
吹雪「や、やっぱり…………!?」
夕立「うわぁ」
提督「……なんだその反応。ちゃんとトイレ行くって言ってたろ」
大淀「トイレでいったいなにをしたんですか。正直に言いなさい」
明石「いやいやいや言わなくてもいいです聞きたくない! 大淀あなたナニを聞いてんのよ!!」
大淀「ナニっていうかオナっていうか――――」
明石「やめてぇ聞きたくないぃぃぃ~~っ!!」ブンブン
提督「どっちなんですか…………トイレで何っていうか、生物として当たり前のことをしたというか。……というか何言わせてんですか恥ずかしい」
大淀「あっ、当たり前のナニを!? 生物の!?」カァ
明石「なんちゅーモン流してくれるんですか! トイレが詰まったらどうしてくれるんですか!!」カァ
提督「詰まるわけないじゃないですか……」
明石「詰まるに決まっているでしょう! お、お風呂場とかでされると排水溝に詰まるってよく聞きますし!!」
提督「お風呂場で!? そりゃ詰まるに決まってるでしょう!!」
提督「(お風呂場で小用どころか大用!? それ何のプレイだよはじめて聞いたぞ!!)」
明石「ほぉらやっぱり詰まるんだぁー!!」
提督「当たり前でしょうが! そもそも浴室はそういう場所じゃないでしょう! そんな汚い…………!」
明石「トイレだって“そういう”場所じゃないですよ!!」
提督「トイレはそういう場所だろ!!!」
睦月「トイレで使ったもの、正直に言えば許してあげなくもないにゃ?」
提督「使うってなんだ」
吹雪「わ、わたしはちょっと複雑かも…………」
大淀「と、トイレこそ大問題です。わたしは提督が取り返しのつかないあやまちを犯してしまう前に食い止める責務があります」
大淀「さあ、観念して危険物を差し出しなさい。いまならまだ情状酌量の余地があります」
提督「だから危険物ってなんなんですか!」
大淀「……そ、そんなコト……女の子に言わせるつもりですかっ」テレテレ
提督「なに照れてんだオイ」
明石「と、トイレと、その……ブツって言ったら…………ほら、心当たりありませんか?」テレテレ
提督「…………下品ですね。その危険ブツならちゃんと流しましたよ」
明石「きったねェ!! それなわけねえだろうが!!!」
提督「じゃあなんなんですかさっきからもう!」
大淀「…………らちがあきませんね。吹雪ちゃん、夕立ちゃん、睦月ちゃん、提督を押さえて」
夕立「がってん!」ガシッ
睦月「てーとく、心の準備はいいかにゃ~ん?」ガシッ
吹雪「し、しれいかん」ガシッ
提督「なっ、お前ら……はやっ、離せコラ! 俺がなにしたっていうんだ!」
吹雪「わわっ、暴れないでください!」
睦月「三人に勝てるわけないだろ!」
提督「バカ野郎俺は勝つぞお前ら!」
夕立「その慌てっぷり、逆になんかあやしいっぽい…………」
大淀「やましいところがないなら、素直にボディチェックを受けることですね」
提督「痛くもない肚でも探られたら面倒なんだよ!」
大淀「………………さて」グイッ
提督「…………くっ、殺せ!」
大淀「提督、お覚悟のほどは――――」
明石「…………!」
明石「みなさん、至急席のほうへ戻ってください! 放送が始まってすでに五分が経過しています!
場繋ぎで新作ゲームのコマーシャルを流していましたが、それもそろそろ…………!」
大淀「ぁ――なんですってっ」ガバッ
大淀「提督、この話はまた後にします! せいぜい首を洗って待っていることですね!」タタッ
提督「おふっ………変な遊びやってるからこうなるんです! さっさと再開しますよ!」ガバッ
吹雪「あっ…………しれい、かん」
睦月「こらぁーっ、尋問はまだ終わってないぞぉーっ!」
提督「お前ら三人組もバカばっかやってないで、ちゃーんと放送やらないとと間宮券も夕食も抜きにするぞ!」
夕立「わ、それは困るっぽい!」タタッ
睦月「質をとるのはズルいよぉ~……」タタッ
吹雪「…………」ジトー
『がたこと がたがた』
浦風「はむ、んむ…………んく、んっ――。……くふぅ、なんや磯風。今日はお茶ばっかじゃけどダイエット中なんか?」
磯風「いや……そういうわけではないが」
浦風「ふうん――ま、いいや。うちも最後のどおなつを…………あっ谷風こら! そのどおなつはうちのもんじゃっ」
谷風「へっへー。こーいうのは早い者勝ちだよーん! タッパに詰めて夜食にするのさ~!」
浦風「それはうちが最後にとっておこうと思ってだいじに大事にあたためとったやつや! 夜食になんてさせてたまるかぁっ」
谷風「おっと! ……あぶないあぶない。こー見えて谷風はすばしっこいのさ! そんじゃっ」ビューン
浦風「あっこらっ! …………もぅ」
浜風「ごめんね浦風。谷風が盗っていったのと同じもの、わたしのをあげるから……」
浦風「ん、いやいやええんじゃ。あんま気にしとらんし……自分のをとられたっていうんが気になっただけや」
浦風「それにドーナツやったらほかにもまだまだあるしな!
磯風なんか大皿から自分の皿にドーナツ移して保持するだけ保持して食うとらんしな! うちが代わりに食べたるわっ」パッ
磯風「あっ、おい!」
浦風「んふんふ…………おいひぃ~っ! やっぱあん二人のどおなふは一味違うやぁ……」マフマフ
磯風「…………おまえ。ついさっき“自分のをとられたのが気になる”と自分で言ったばかりだろうが」
浦風「――ふ? だめやっはかの?」マフマフ
磯風「………………きちんと飲みこんでから話せ。まったく。
それにしたって、よくもまあそれだけ食えるものだ…………間宮でパフェをいただいてからそう時間も経ってないというのに」
磯風「それにあの放送だってずいぶんな内容だしな」
浦風「甘いものは別腹ってゆーじゃろ? んふふ~」マフマフ
浜風「あ、新作間宮パフェ食べたんだ。どうだったの?」
浦風「んー? 新作パフェかぁ~、アレはええもんやでぇ……。
砂糖菓子の飾り付けがいーっぱいあってな、カラメルソースがふわぁ……っとかかってあるんよ」
浦風「おーっきぃ透明な器の横から見てみるとな、クリームとチョコとイチゴジャムとカスタードが層になっててな?
スプーンですくって食べても口のなかがダル~くならんようにな、ナッツとフレークがサクサクしとるんや」
浦風「表面のほうもな? 一面がパンケーキになってて……その上に生クリームとか、新鮮な果物とかが綺麗にカットされて盛り付けされてるんよ。
おかげで甘ったるいだけやなくってな、果実の汁がじゅわ……と広がって噛むたんびにリフレッシュされるんやぁ……」
浜風「あ…………なるほどぉ」ゴクリ
浦風「んぅ。ほんで極めつけはな、羊の角の形したあの――なんじゃっけ? あのサクサクしたやつ」
磯風「ウエハースだ」
浦風「そうそれじゃ! ウエハースがまたおっきくてなぁ、これとパフェを交互に食べると毎っ回新鮮な気持ちで食べ続けられるんよ!」
浦風「今月までしか置いてないみたいじゃし、懐に余裕があったらぜひ食うてみるんがええと思うよ~」
磯風「…………お前は懐痛むことなく腹に入れたがな。この磯風の犠牲を以てな」
浦風「それはもうええゆーたじゃろ……」
磯風「ああ、あの味を思い出してしまったではないか。まったく……。
目の前にはドーナツが並んでいるというのにこれでは……想像だけで胸焼けがしてしまう」
浜風「甘いものばかりだとどうしてもね。カロリーだってすごいし…………」
磯風「ああ。司令が言っていたように、パフェのカロリーはここ二日三日で調整しよう……と思っていたが、ドーナツまできてしまってはな。如何とも……」
浦風「カロリーなんか気にしとったら楽しゅう過ごせんじゃろぉ~? ちょっとくらい食べ過ぎたぐらいでどうにもならんて~」
磯風「ダメだダメだ! 気を抜くとヤツらは一瞬の隙を突いてやってくるぞ!」
浜風「とくに最近なんかは寒くてカロリー燃焼しにくいしね。注意しないと」
浦風「だいじょーぶじゃろ~。うち太らん体質やし~」マフマフ
磯風「ちっ!」
浜風「節分になったら磯風と一緒にお豆投げてあげますね」
浦風「ふふーん。どうせそん時になったら忘れとるじゃろ」マフマフ
磯風「(お前が一番忘れていそうだがな…………)」
磯風「夕食のあとだともいうのに。こんなにいいものをいただいてばかりでは、バルジが過ぎてドルジになってしまう…………」ムニムニ
浜風「ドルジって……力士のほう? それともこの間話してた――」
磯風「ネコのほうに決まっているだろう。金剛でもないぞ! うちのドルジを勝手に力士なんかにするんじゃあない!」
浦風「あー、あのでーっかいネコちゃんのこと?」
磯風「うむ。どうやら最近寂しそうにしているとのことで、そのうちこちらに移送されてくるらしい」
磯風「そう遠くない話だろうし、もしこっちに来たら仲良くしてやってくれ」
磯風「おっきくてもっふもふなんだぞ!」
浜風「おっけー」
浦風「ぬお~」
提督『えー、たいへんお待たせいたしました! “ちんじふ裏らじお”再開します! その裏表をぜひご覧あれ! ……ご覧、あれ。とは言ったものの――』
提督『えーっと……はは、なんの話をしていたんでしたっけ? ああ、そうだそうだ格納庫の話でしたね。
もう終わったお便りですが。格納庫――というよりかは、艦娘間のコミュニケーションと言いますか。非常に良好ですよ』
提督『さっきのはちょっと過激でしたけれど、艦娘間で声の掛け合いも活発ですし、ボディタッチに対する遠慮も特に見られません
あ、ボディタッチといっても同性間での話ですよ! 僕が触ろうものならもう熱したヤカンのように燃え盛ること間違いナシです』
提督『いじめとかはなく、良い環境がつくれているんじゃないかなあと思います! でも僕が言っても説得力が弱いですかね。はは。
そこは保護者のみなさまから、此処“ちんじふ裏らじお”にお便りを宛てていただいて。本人に直接伺うのがベスト! そう思いますよ』
提督『…………これ、前にも言いましたっけ? あんまり言いすぎると逆に不審を買ってしまいますしほどほどにしておきましょうか。
さっ、良い時間になってきたところでお次はこちらっ!』
『………………』
提督『…………あの。お、大淀さん?』
大淀『……さて、お次はこちらのコーナーへ入っていきたいと思います』スッ
提督『あ、ああ……うん…………』
夕立『“きいてよぽいぽい”のコーナーでーっす!! ぽいぽいぽい~っ!』
大淀『始まりました“きいぽい”の時間です。視聴者さまのちょっとしたお悩みを、この夕立先生がぽいぽいと投げ捨てていくコーナーです』
夕立『みんなのお悩み、夕立が解決してあげるっぽい!』
睦月『睦月ちゃんもいるよ~ん!」
吹雪『司令官は?』
大淀『いません』
提督『いるわバカ』
大淀『――さ、一通目のお手紙になります。夕立ちゃん、お願いします』
夕立『はーい! えーっと……んー…………これだっ!』
“最近駆逐艦とケッコンしたがロリコン呼ばわりされて辛い”
吹雪『わー…………』
夕立『ラジオネーム“バストサイズはA+まで”さんからのお手紙っぽい!』
吹雪『わぁー!!』
睦月『ガチだー!!』
漣「さすがの漣もそれはヒくわ」
曙「ほぼ自分で認めてるようなものじゃない」
潮「そういう人が提督さんだったら……ちょっと、コワいよね」
漣「ねー。ネット上だと自分でロリコン名乗ってる人多いケド、実際いたらけっこーヒくっていうか……」
朧「あれ、本気じゃなかったの? ツイッターのプロフィールなんかに“ロリコンです”って入れてる人よく見かけるけど」
漣「当ったり前田のクラッカーだよ! ああいうのはネタでやってるところが強いんだから!
そりゃたしかに小さい子――というか、赤ちゃんとか幼稚園児の子たちは可愛いなーって思うケド、さすがに恋愛対象にはなんないって!」
漣「あっちなみにね、ロリっていうのはちいさい女の子くらいのこたちを指してね、男の子のコトはショタって言うんだけど――」
曙「そういう余計な情報はいらないわ」
漣「あ、うん…………それでね、そういう子たちに恋愛感情というか、性的に欲情するのがそのロリコン? ……みたいな?」
朧「ふーん…………」
漣「ネットで書かれてることはあんまり信用しちゃダメだよ! アッー! とかキマシ! とかはネタで盛り上がってるだけっ」
漣「それをまるまる信じ込んじゃってリアルでやると大恥かくんだからっ!」
朧「あ、あっー……きまし…………?」
漣「漣だって、さざなみだってそうわかってたらあんなコトしなかったんだよぉ~~…………」
曙「うっわ、ひとりで自爆してんじゃないわよ……注目浴びてるから…………。
むかしのアンタがナニしたかは知んないけど。ネットでのテンションを現実に持ち込むなんてバカがやることでしょ? 自業自得じゃない」
漣「うるさいうるさーい! 若さゆえのあやまちだったの! 認めたくないものなのー!!」
曙「わずらわしっ…………」
朧「…………でもさ、バストサイズはA+までって言うけど」
曙「ん?」
朧「駆逐艦やれるくらいの歳にもなるとさ、そろそろ成長してくるっていうか……」
朧「あたしたちの周りがおかしいのかもしれないけど。潮とか……あそこで盛り上がってる浦風たちとか。あのあたりはちょっと大きすぎるかな。
いまラジオに出てる吹雪とか夕立とかもA+よりはぜんぜんあるでしょ」
朧「さすがにこのくらいの歳になったらA+っていう子はなかなかいないんじゃないかな」
漣「おっとその発言は不特定多数に突き刺さりますな」
曙「…………」フニフニ
潮「こ、これから成長していくって人も多いんじゃないかな?」
朧「ん……それはもちろんだけどね。でもさ、あたしたちより年下の春雨とかでもBくらいはあるみたいだし。さすがにそろそろ……ね」チラッ
曙「ぬっ!」ギラッ
朧「まさかあたしたちと同い年で、A+にすら満たないバストサイズの子なんて…………いないよね?」チラッ
漣「アッ」チラッ
曙「…………」バチッ
潮「わ、わっ」アタフタ
漣「…………いるワケないよネー。A-が許されるのは小学生までだよねー!」
朧「信じらんなーい!」
曙「…………おまえらー!!」ウガー
漣「わひゃー!!」ピュー
朧「あはっ、おこったおこった!」ピュー
曙「身体のことはタブーに決まってんでしょおおがあああああ!!!」ズドド
漣「ねぇ今どんな気持ち? ねぇねぇ今どんな気持ち? ホントのキモチ教えてちょーだい?」
朧「そんなんじゃだーめ! そんなんじゃほーら! こころは進化するーよ」
漣「ただし身体は進化しない」
曙「上ッ等ッよおおおおおおッッ!! ブチコロシ確定ね!!!」ドゴーン
潮「わひっ――――わ、み、みんっ、みんなっ、たすけてーっ!!」
大淀『しかしそうですか、ロリコンですか…………救いようがありませんね』チラッ
睦月『さすがの睦月もロリコンはノーだにゃ~ん……』チラ
吹雪『………………ぁぅ』カァ
提督『なんでこっち見んすか。駆逐艦とケッコンしたのはお便りの主さんであって俺ではありませんから』
睦月『…………そうだネ。それでも駆逐艦くらいの子とケッコンって…………』
大淀『駆逐艦やってる子たちは、カッコカリが出来ても結婚は出来ない年頃の子たちばかりですからね。
いまのうちにツバをつけておいて、たわわに実ったら収穫しようという肚でしょう。まさに光源氏計画そのものですね』
提督『そ、それはさすがに飛躍しすぎでは……。
それにケッコンしたって、おおかたアレでしょ? 駆逐艦が好きだからケッコンしたんじゃなくって、好きになった相手が駆逐艦だっただけなんじゃないですか?』
提督『それなのにロリコン呼ばわりっていうのはヒドい話だと思いますよ。思いませんか?』
吹雪『まぁ、たしかにそうなら……ちょっとヒドいかもしれないですね』
大淀『…………好きになった相手が駆逐艦という時点でなかなか危うい気もしますが』
提督『それは……個々人の好みですから。あまり立ち入るべき事情でもない気が』
大淀『…………そうですね、失礼いたしました。仲間同士通ずるものがあったんですね』
提督『なんだその含みのある言い方コラ』
夕立『…………うー! さっきからてーとくさんたちだけで盛り上がってるのズルいっぽい! 夕立もまぜてー!』
吹雪『も、盛り上がってるかなあ?』
睦月『夕立ちゃん、ロリコンってわかる?』
夕立『わかんない!』
提督『ほわあっ! …………やだなにこの子純朴。大淀さんたちも見習うべきでは』
大淀『貴方はいちいち一言多いんです!』
“たち”って言うけどわたしは違いますよね>
提督『アンタもですよむっつり工作艦コラァ!』
吹雪『えっとね夕立ちゃん、ロリコンっていうのは……そのぉ~……ええっとぉ~……』
睦月『にゃはは……』
大淀『…………たとえばね。提督が、夕立ちゃんみたいな“オトナじゃないコ”を好きになったらロリコンなの』
夕立『えっ!? ……てーとくさん、夕立のこと……すきじゃないっぽい…………?』
明石『ああっ違いますっ! えっとね、もちろんその、提督さんは夕立ちゃんのことはだーいすきなんだけど、そうじゃなくってっ』
吹雪『えー……っとね、夕立ちゃん! たとえば司令官がさ、夕立ちゃんに対してね?
“キスしたい。愛してる、結婚してくれ”――って言ってきたらさ、どう思うかな?』
大淀『そ、そうですね。そんな感じで――』
明石『…………うはっ。やだもうそんなっ、みんなの前で……』テレテレ
提督『…………きみらマイク入ってるの忘れてない? あと本人の前でそんな話やめてくれる? 怖いから』
吹雪『どう? 夕立ちゃん?』
夕立『んー…………?』
…… ……
提督「夕立」
夕立「てーとくさん、どうしたの? 顔赤いけど……。
あ、もしかして恋愛相談っぽい!? 夕立が力になれることなら、なんでも――」
提督「好きだ。愛してる」
夕立「…………すき?」
提督「夕立、いつもすまない。俺にとって君は、大切な人なんだと思う。本当だ」
夕立「て、てーとくさんっ!?」
提督「夕立、好きだ。愛してる。夕立、好きだ。愛してる。夕立、好きだ、愛してる。夕立、好きだ。愛してる」
夕立「え、やだっどうしようっ!?」
提督「夕立、好きだ。愛してる。夕立、好きだ。愛してる。夕立、好きだ、愛してる。夕立、好きだ。愛して――――」
夕立「そ…………そんな…………てーとくさんがいっぱい…………」
…… ……
夕立『夕立、こまるっぽいぃぃぃ~…………』
提督『ぐさっ』
吹雪『そ、そうだよね! 司令官はすごく良い人ですけど、そういうのじゃないっていうか!』
睦月『一回りくらい離れてるし、あんまりそういう目では見れないよね~。それにもう、提督どのを巡る争いのなかには入っていけないでのですよー』
提督『そ…………そうだよな! べつに俺が嫌いとかそういうんじゃなくって、単純にそういう関係を求めてないから困ってるんだよな!
たとえばそう、親戚のお兄ちゃんと妹たちみたいなそんな感じで――』
明石『でも提督はさっき自分で“ぐさっ”て言ってましたよね。拒否されてショックを受けてるってつまりそれは』
大淀『その気があったんじゃないですか? ロリコンの化身ですね。お願いですから駆逐艦の子たちには手を出さないでくださいね』
提督『追撃やめろお前ら!!』
夕立『あっでもっ! キライとかそういうのじゃなくって! ふつうにすっごく嬉しいっぽい!』
吹雪『え? で、でも夕立ちゃん、お手てを繋ぐとかそういうのじゃないよ?』
睦月『その、提督にキスしようって言われてイヤじゃないの?』
提督『なんて扱いなんだ俺は…………』
夕立『うんっ! 夕立はいつでもばっち来いなんだからっ! さ、さあてーとくさん! 夕立とステキなパーティしましょおおう!?』
提督『ほわあっ!?』
『ぱりーん』 『ぱりーん』 『ああっ! せっかく買い集めたお皿たちがっ!』
提督『…………え、ええっと、それはまた今度にしておこうね。んふ。
とりあえずお悩み相談に対しての返事をみんなで出しましょうよ。脱線ばっかりじゃダメですよ? んふふっ』
明石『…………なに笑ってんですか』
提督『いやね、なんかこう、素直に好意を示されるとくすぐったいというかなんというか』
大淀『勘違いしないでくださいね。夕立ちゃんは単純に提督のことを悪しと思ってないと言っただけですから」
大淀『恋愛感情とかそういうものではないはずです。ねー夕立ちゃん?』
夕立『んぅ~……夕立、難しいことはあんまりよくわからないっぽい!』
大淀『ほーら!』
明石『いえーい!』
提督『ハイタッチすんな!』
『すっ』 『すっ』 『あれ? お皿が直った?』 『どういう現象やねんそれー!!』
大淀『早合点して犯罪行為に走らなくてよかったですね』
提督『あ、ああ……そう……。――じゃなくって、それくらいわかってますよ! 俺だって思春期の学生じゃないんですから!』
明石『どーだか』
提督『どーだもあーだもないです! ……ええっと、“A+”さんは駆逐艦とケッコンしたが周囲からロリコン呼ばわりで辛い――と』
提督『“ケッコン”というのは最近大本営が発表した“ケッコンカッコカリ”ことで間違いないですね?
特定の艦娘とより強い絆を結ぶことによって、艦娘の秘めたる力を開放せしめんとする――そういうシステムです。からくりの仔細はまた後日』
提督『僕はまだカッコカリの相手を定めていませんけど、その辛いというお気持ちはよく理解できますよ』
大淀『ロリコンの気持ちがわかるですって!?』
明石『や、やはり…………』
提督『違いますよもう! いちいち反応しないでください!』
提督『そうじゃなくって。カッコカリっていうのはですね、非常に練度が高い艦娘と信頼関係を築けていないと行えない儀式なんです。
そこは現実の結婚もそうですね。豊富な人生経験と、お互いの信頼関係。それらが整っていなければ成立しません』
提督『もちろんそんな艦娘なんてそうそういません。これ以上ないほど絆を深めた艦娘です。そこへ至るまでに紆余曲折あったはず』
提督『永き時を経て、災いかかる苦難を二人の力で超克し打ち倒した二人です。なみなみならぬ情があったでしょう』
提督『受難の日々をともにした艦娘と仮とはいえ添い遂げてなお、外野から色々言われるのって…………ちょっと、寂しくないですか』
吹雪『……たしかに、そうかも』
睦月『いい雰囲気の関係を茶化されるのはちょっとヤだもんね~』
吹雪『え? 経験あるの?』
睦月『……………ないケド。ないケド!! しかたないじゃん! お仕事で忙しかったんだからあっ!!』
大淀『…………ことのほかマジメで驚きました。提督、意外と考えてらっしゃるんですね』
提督『意外とは余計です。人がせっかく真剣に答えを出しているってのに……』
大淀『いえ、やはり提督は提督なんだなと思いました。さすが、やるときはやりますね』
提督『へへ。見直しました?』
大淀『ええ。そんな提督を一度でも疑ってしまった我が身が恥ずかしいです』
吹雪『わたしもです……うう、司令官に対してなんてことを……。見間違いだったのかなぁ……』
睦月『ごめんなさーい……』
ちゃんと反省してくださいね>
大淀『貴女もに決まっているでしょう!』
提督『えーっと…………さっきから思ってたんですが。疑うとかなんとかって、なんですか?
もしかして休憩開けから自分に対して妙に辛辣なのとなにか関係あるんですか』
睦月『…………吹雪ちゃん、どうする?』
吹雪『司令官は違うってわかったから……話しておかないと、申し訳ないかなって』
夕立『で、でもどうやって話せば…………』
提督『…………言いにくい話なのか?』
大淀『そうですね。掻い摘んでお話いたしますと…………』
――――
――
提督『――吹雪の衣服が、ですか?』
大淀『はい。昨日のお昼過ぎ、シャワーを浴びたら――と』
提督『ふうむ…………』
睦月「(あ、さすがにぱんつが無くなった――とは言わないんだネ)」
明石「(まあ、さすがに電波走ってますからね。下着を紛失したとご家庭に知られたとなると強制送還もあり得ますので)」
夕立「(家族の力ってすごいんだね~)」
睦月「(体裁ってゆーか、イメージっていうものがあるからにゃ~ん。デリケートな話だよ。にゃししっ)」
明石「(聞くところによれば、如月ちゃんのご家庭がこっそり鎮守府上空にドローンを飛ばしているというウワサもあります。
…………警備はしっかり実施しているはずですが、あそこの技術力ならありうる話です)」
吹雪「(物騒すぎます…………)」
提督『うーん……それは確かですか? 一着だけなんですよね?』サラサラ
【大井に確認はとりましたか?】
大淀『はい。どこかに紛れ込んでしまったのでしょうね』カキカキ
【はい。北上さんのものでなければ価値がないそうです】
提督『前にもありましたよねえ、これ。わりとよくあるんですよ。管理体制がガサツなもので……盗難とかは一度もないんですけどね。ははは』カキカキ
【万が一盗難だとすると問題ですね。鎮守府内での騒動ならまだしも、外部の人間が忍び込んでいる可能性も考慮しなければなりませんから】
大淀『そうですねぇ。もうちょっとビシーっと厳しくしたほうが良いでしょうか』カキカキ
【人の出入り状況と各カメラは明石が確認しましたけれど、とくにこれといった問題もなく。といった感じです。
思えば、誰がどうしたかもわからないからこそ、提督を疑うことで心の平静を保とうとしていたのかもしれません……】
提督『あっ! まさか、俺が吹雪の服を盗ったとか考えてるんじゃないでしょうね!?』カキカキ
【わかりました。この放送が終わったらこちらで確認してみます】
『…………これは、裏でなにかやってますね』 『そうですね。いつもと違って少しだけ上の空ですから』 『なんでそんなんわかんねんヒくわ』
『必要とあらばこちらで収集したデータがありますが。チェックされますか?』 『霧島ァ!? ……いや、やめとけやめとけ!』
『ヘイヘーイ! こっちにはbromideもあるネー!』 『さすがお姉さま! いまでも肌身離さずということですか!』
『あ、これ学祭のときの写真ですか?』 『Yeah!』 『これはじめて見ました。焼き増しとか――』
『これ以上――ウチにィ――提督のよけいな情報を…………与えんといてやあああぁ~~~~!!』
瑞鶴「どしたの龍驤さん。そんな隅っこでうずくまって」
龍驤「アカン……アカンねん……ウチがいくら耳を塞いでもな、情報が向こうから入ってくるねん……」
瑞鶴「…………よくわかんない」
龍驤「地獄やでホンマ…………血液型から好きな色、趣味と特技までどんどん入ってくるんや……。
なんやねん知らんわホンマに……キクラゲがキノコかクラゲかなんてどうでもいいじゃんか…………」
瑞鶴「え? キクラゲはクラゲでしょ?」
龍驤「…………」
瑞鶴「…………?」キョトン
龍驤「(……ま、まあ、これくらいはな……)」
龍驤「――――」サラサラ
龍驤「瑞鶴、コレなんて読むかわかるか」スッ
【枕草子】
瑞鶴「え? まくらのくさこ」
龍驤「…………」
瑞鶴「まくらのくさこ…………な、なんかちょっと卑猥よね! やだもう龍驤さんったら!」テレ
龍驤「(アカン)」
提督『とりあえず、今後は鎮守府内の規律をもっと正していくという方向で。
さ、夕立先生。この悩める新婚さんのお便りをぽいぽいとお願いします』
夕立『はーい! そっれじゃっあね~…………』
_人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人_
> 夕立『つらいことがあってもくじけないでがんばって!』 <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^YY^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄
吹雪『(そんなんでいいんだ)』
睦月『(小学生並みの感想…………)』
提督『――というわけで、つらいことがあってもくじけないように頑張りましょう。笑う門には福来るとも言います。
それに、からかわれているのも最初のうちだけですよ。からかいの言葉の裏には祝福が込められているということも忘れずに』
提督『“バストサイズはA+まで”さん、ありがとうございました!』
夕立『ありがとー! お手紙、どんどん、待ってるっぽい!』
大淀『つぎはもうちょっと普通の……普通のラジオネームにしていただけると助かります。ありがとうございました』
提督『でもちょっと独特なラジオネームの方でしたね。もう自分でロリコンって認めてるようなもんじゃないですか』
睦月『限りなくアウトに近いアウトだにゃーん。むしろよく紹介したね。明石さんがピー音とか編集してるの~?』
大淀『どうなの? ――ああ、してないみたいですね。指でばってんつくってます』
吹雪『だ、大丈夫なんですか? あんまりそのアレだと、ちょっと……』
提督『うーん……そうだなぁ。強烈すぎるラジオネームのかたは、もしかするとお便りを紹介できないことがあるかもしれません。予めご了承くださいね』
大淀「(まあ、お便りはすべてわたしが目を通していますし、よっぽどのものはお便りボックスに入らないと思いますけどね)」
明石「(え、それであのロリコン通したの?)」
大淀「(ええ。お便りの内容も相まって面白いかなって思って。今ごろ向こうの鎮守府では大わらわだと思うわ)」
明石「(…………ホントだ。ファックスめちゃめちゃ暴れてる)」
大淀「(どうせ提督がぜんぶ処理するからいいのよ)」
明石「(あんた鬼畜ね)」
大淀『さ、次のお悩みを解決してしまいましょう。夕立ちゃん、お願い』スッ
夕立『はぁ~い! えと…………“アッサ・シーモ”さんからのお手紙? っぽい!』
“そっちの鎮守府に転属すればもっともっと暴れられるって聞いたぜ! 転属願い出してんだけど、なかなか受理されないんだよなぁ~”
吹雪『おお、武闘派だね。武蔵さんとかと気が合いそう! ……でも、最近はもうしばらく出撃してないけどなぁ……』
睦月『でも屋内演習場とかも充実してるし、ぼーっとしてるわけじゃないけどにゃーん』
夕立『やっぱりみんな出撃しないと退屈っぽい?』
吹雪『でもまぁ、年末年始だし仕方ないよね。いま年末年始だし』
睦月『そうだね。いま年末年始だしね』
吹雪『仕方ないよねー…………司令官さん? どうかしましたか?』
夕立『ほかのふたりもさっきからずっと頭を抱えてるっぽい』
大淀『い、いえ…………気にしないでください』
提督『ああ…………なんだかすでにいるはずなんだが、なぜかいないんだよな。時間の進行――うっ頭が』
大淀『あさ……しも…………? 香取――天城――うっ』
うっ頭が>
夕立『…………おかしな三人っぽい?』
吹雪『ええっと、“アッサ・シーモ”さんかな? 最近はいろいろ事情で出撃がないんだけど、それでもうちの鎮守府は楽しいよ!
屋内球技場だとか、グラウンドだとか、ゲームセンターとかもあるくらいだし、遊ぶ施設には事欠かないと思う!』
吹雪『司令官の趣味なんだけどね……まあ、みんな楽しく過ごしてるから。いつでも待ってるよ!』
夕立『もういーい? ……“アッサ・シーモ”ちゃん、ありがとー! 夕立も、会える日を楽しみに待ってるっぽい!』
睦月『こっち来たら一緒にあそぼーねー! 案内もちゃーんとしてあげるからっ! にゃししっ』
夕立『よおーっし、なんだかテンションあがってきたっぽい! どんどん読んでいっちゃいましょー!』
睦月『おー!』
吹雪『おー!』
夕立『いーい返事っぽい! さてさて、お、つ、ぎ、は~…………』ガサゴソ
吹雪『…………はっ! いつのまにか夕立ちゃんばっかり!』
睦月『やられた!』
夕立『――――ぽいっ!』バッ
――“妹に会いたい 雲龍”
大淀『あふんっ』
夕立『あっ、うんりゅーさんからのお便りっぽい! てーとくさん、読んで読んで~!』グイグイ
提督『や……やめろっ……ちゃんと聞こえてたからっ……』
夕立『さっき耳塞いでたの、夕立ちゃーんとみてました! さあ!』グイッ
提督『や……やめ…………ニャメロン!』
“天城…………葛城…………いまどこにいるのかしら”
“もうしばらく声を聞いていないわ……会いたくて、会いたくて、震える”
提督『ぬわーっっ!!!』
夕立『ほら大淀さんもちゃーんと読んで!』グイッ
――“きみ想うほど遠く感じて。もう一度姉妹戻れたら……”
大淀『ひぃぃぃぃぃいっっ!!』
夕立『明石さんも雲龍さんからお手紙だよー!』タタタ
なっまさかこっちにまで―― >
――“届かない想い my heart and feelings”
メメタァ!>
睦月『これは天然鬼畜の所業ですわ』
吹雪『これ雲龍さんも恥ずかしいでしょ……』
夕立『てーとくさんたち、さっきから変なのー。どーしちゃったんだろーね』
吹雪『…………夕立ちゃんは怒らせないようにしなきゃ』
睦月『争え…………もっと争え…………にゃ死屍累々』
飛龍「へぇ初耳。雲龍さんって妹がいたんだ。やっぱり会いたい?」
雲龍「そうね。みんな大人になったとはいえ、しばらく会っていませんから……。
それにせっかく姉妹揃って雲龍型と呼ばれるまでになったのですから、やはり肩を並べて戦いたいという気持ちは強いですね」プルプル
飛龍「ふーん、そんなものなのね。…………ところで、なんでさっきからずっと震えてるの?」
雲龍「いえ、会いたくて震えているだけ」カナカナ
飛龍「………………ふ、ふーん。変わった趣味ね」
蒼龍「わたしたちはべつに実姉妹とかじゃないもんね。ねー飛龍」
飛龍「そうだねぇ。そーいうのはやっぱ、姉妹揃って航空母艦のふたりにしかわかんない気持ちかな?」
翔鶴「ええっと、“姉妹揃って航空母艦のふたりにしか――”」カキカキ
翔鶴「…………あ、わたしですか?」パッ
蒼龍「まだ書いてたんだそれ」アハハ
飛龍「そうそう。やっぱ姉妹離ればなれになるって寂しいもんなの? ――ああいや、なんとなーくはわかるんだけどね。
でもやっぱり一緒に戦いたいとか、声を聞きたいとか、一緒に寝起きして生活したいなーって気持ちってあるもんなの?」
蒼龍「もちろん、あっちで龍驤さんにたかられてる瑞鶴のことね」
翔鶴「そう、ですね……わたしたちはこの鎮守府に配属されたのもほぼ同時期でしたし、あまり経験のないことですけど……」
翔鶴「それでもやっぱり、離ればなれになるというのはあまり想像したくないわね。
瑞鶴のことだからきっとどこでも元気でやっていけるんでしょうけど、まわりの人に迷惑をかけないか心配で心配で……」
蒼龍「あは、まあとんがってるもんね~」
飛龍「はじめに会ったときなんてずいぶんぎこちなかったもんね。緊張してたっていうか」
翔鶴「はい。だから弾みで跳ねるような物言いをしてしまうことが昔から多くって。もうちょっと落ち着いてくれたらいいんだけど……」
加賀「…………だからあの子に、常日頃から周囲を敬って行動しなさいと言っているのです」
飛龍「あ、加賀さんやっほ。もうドーナツはいいの?」
加賀「ええ、堪能しました。やはり食後の甘味の時間とは素晴らしいものです」
飛龍「だからコーヒー片手にってワケね。言ってるわたしもそんなモンだけど」
蒼龍「一緒の赤城さんはどうしたの?」
加賀「赤城さんなら向こうで写真を囲んでます。なにやら時間がかかりそうなので、先にこちらへ戻らさせていただこうかと」
飛龍「ありゃ、珍しいね。加賀さんが赤城さんをほったらかしにしてるのって」
蒼龍「たしかにそうだねぇ」
加賀「座ってゆっくりしようと提案したんですが、どうやら貴重な写真集に目を奪われてしまったようで……」
加賀「“秘めた心は愛するために。高鳴る野望は欲望のために”――と、頑として動きませんでしたから。赤城さんを尊重しようと思いまして」
飛龍「…………赤城さんってときたまワケわかんなくなるよね」
蒼龍「ねー」
加賀「それこそが赤城さんそのものということです」ズズ
どたどた だだだっ
龍驤「おい加賀! 加賀おらんか! なぁんや加賀おるやんけコラオイ返事せえやまったくもーホンマあかんでそんなんやったらや~!」
飛龍「うわっ! びっくりした!」
龍驤「あっ、悪い悪い、ちょっとテンションあがってしもた……加賀、ちょっと聞いてくれや」
加賀「…………なんでしょうか」
龍驤「加賀。キミさ、この漢字読めるか? 飛龍も蒼龍もや」
蒼龍「え? ――まくらのそうし、よね?」
飛龍「なんだっけ、清少納言の…………」
龍驤「いやーやっぱそうか! 加賀もわかっとったやんな!?」
加賀「はぁ。一般常識と心得ていますが…………それがなにか?」
龍驤「いやそれがや、聞いてくれや! 実はさっきや――」
瑞鶴「りゅーじょーさーん!! いきなりどしたのさ走り出してー!!」タタタ
蒼龍「あ、瑞鶴だ」
翔鶴「ずいかく? あ、ようやく戻ってきたんですね。……またずいぶんたくさん持って帰ってきたわね。ちゃんと全部たべられるの?」
瑞鶴「へへー、もっちろん! というか、そもそもさっきまであんまり食べられてなかったし!」
翔鶴「ちゃんと寝る前は歯磨きするのよ」
瑞鶴「わかってるーって!」
加賀「…………五航戦の。前に言ったことをもう忘れたの? こんな時間にたくさん食べたら明日に響くわ。いつも万全の状態でいたいのなら控えるべきよ」
瑞鶴「…………なによ? さっきまでガバガバ食べてた人がそれ言う? そっちこそ食べ過ぎでお腹が響くようになるんじゃない? 叩けばぼよんってさ?」
瑞鶴「よく考えたら加賀って名前のなかに“カロリー”の“カロ”が二個も入ってるじゃない。
熱量の化身みたいな人ね? 艤装もすーぐヒートアップするみたいだし。カロカロしい」
翔鶴「あっこら瑞鶴! すみません加賀さん……こら、そんなこと言っちゃだめでしょっ!」
瑞鶴「だってさー」
龍驤「すまん、そういう確執はあとにしてくれんか。いまはこっちの件が先や」
加賀「…………龍驤さん」
龍驤「瑞鶴、さっきも言うたけどこの漢字なんて読むんや? ちょい忘れてしもたわ」
蒼龍「え? だからまくらの――」
龍驤「しっ!」
瑞鶴「え? さっきも言ったじゃん。まくらのくさこだって」
翔鶴「えっ…………?」
加賀「………………よく聞こえなかったのだけど。とりあえずあなたがバカだということは再認識できました」
瑞鶴「なにをっ! じゃあアンタはなんて読むってのさ!」
加賀「“まくらのそうし”、です。瑞バカさん」
瑞鶴「はあっ!? まくらのくさこに決まってんじゃんこのバ加賀さん!」
翔鶴「こら瑞か――――」
瑞鶴「カロカロしい人はまくらのくさこも読めないの? わたしったら今までそんな人に口うるさく礼儀がどうこうとか言われてたんだぁ~へぇ~っ」
加賀「頭にきました」ガタッ
瑞鶴「単細胞はすーぐ脳に直結すんだからバカよねー! まくらのくさこも読めないような大人にはなりたくないわっ」ガタッ
飛龍「ちょ、ちょっと二人とも落ち着いて!」
蒼龍「瑞鶴もすぐ煽らないの!」
瑞鶴「このバカが悪いんじゃない? まくらのくさこも読めないようなバカ――」
加賀「黙って聞いていればバカバカと同じことばかり……相変わらず程度の低いことね。それだから枕草子すら――」
翔鶴「瑞鶴」
瑞鶴「なぁに翔鶴ねェッ――――!?」ビクッ
加賀「(びくっ)」
翔鶴「どうやらアナタは、ひらがなのお勉強から始めなければならないようです」
翔鶴「ついでに目上の人間に対する敬意も叩き込んであげましょう」
瑞鶴「えっ、だってわたしなんにも――」
翔鶴「返事!」
瑞鶴「はいいぃっ!!」ビシッ
加賀「」ビシッ
翔鶴「…………加賀さんはいいんですよ?」
龍驤「…………ほ、ほなさいならっ」ドヒューン
飛龍「あっこら年長者!」
蒼龍「火種蒔くだけまいて逃げ去った!!」
雲龍「(ぷるぷる)」
吹雪『…………でも思ったけどさ。鎮守府の転属ってそんな簡単にできるものなのかな?
書類の申請とかもすごくあるみたいだし、戦力をそう気軽に移動させるわけにもいかないよね』
睦月『……みたいだねぇ~。“アッサ・シーモ”ちゃんもなかなか受理されないって言ってるし。
そもそも気軽に動けるならもっと人の出入りが激しいはずだにゃ~ん』
大淀『う……大規模作戦が実施されている最中なら、戦力派遣の名目で転属願いを受理するようですけどね。
平素からなんの理由もなしにそれ易々と艦娘を移動させるわけにはいきませんから』
夕立『ふうん……』
吹雪『訓練施設の同期の子たちとかとも会いたいんだけどなぁ。行き来できるようになれば簡単に会えるのにね』
吹雪『雲龍さんだって、離ればなれになってる妹さんたちと気軽に会いに行けるのに……』
睦月『施設かぁ。睦月はそんなに長く居なかったから、そんなに思い入れはないかなぁ……。――あ、でも、べつに同期の子たちがどうでもいいとかじゃなくって!』アタフタ
吹雪『アハ、みんなわかってるよ。睦月ちゃんはすっごい才能あったからすぐに出ちゃったってわたしも聞いたことあるし!』
夕立『夕立はあんまり思い出したくないっぽい~……すっごくすっごく怒られたもん……』
大淀『ん? …………なに? ――え、そうなの? へえ……そんなのもあるんだ。うん』
夕立『あかしさん? どうしたの?』
大淀『あ、いえ……どうやら、施設の訓練風景を撮影したビデオが明石のところにあるようです。気になるかたは酒保へ足を運ぶと良いでしょう』
吹雪『え゛っ』
大淀『ちなみに対象は駆逐艦から軽巡洋艦、潜水艦の三艦種ぶんのようです。
聴者のみなさまからもご希望があれば配信いたしますが、その場合身元証明書を添付のうえこちら“ちんじふ裏らじお”宛てまでお願いします』
吹雪『おかしい! 機密のはずだって!!』
大淀『もちろん機密に触れる部分は撮影しておりませんので、ホームビデオのようなものと思っていただけると幸いです。
休憩時間に歓談する艦娘たちの姦しい姿や、授業中に机の影で携帯電話をいじっている夕立ちゃんの勇姿までバッチリです』
夕立『いつ撮ってたの!? ――あ、ちがうちがうウソウソ! ケータイなんて触ってな――あたっ!』コツン
提督『授業は真面目に受けましょう。……まさかウチでやってる一般教養の授業中にやってないだろうな?』
夕立『うう…………』
夕立『でもでもっ、夕立たちってば艦娘なんだからっ! お勉強なんてあんまり必要ないっぽい!』
提督『ばかちん。必要ない知識なんて一個もないんだ。それに……深海棲艦を倒したあとの世界を考えもみろ』
夕立『たおしたあと……?』
提督『来る日も来る日も戦いばかり……たまの授業も寝てばかり。寮に帰ってはゲーム漬け。
みんなが影でこっそり努力しているのにも気づかず、自分だけじゃない、みんな同じでダメなんだ――と思い込み』
提督『いざめでたく討伐の日が終わり、お世話になった人々と離ればなれに。
はじめこそは国のために尽力した英雄として歓迎されるが、鎮守府にいたころのように遊び続けているうちに、幸せな日々も程なく終わりを告げ――』
夕立『おわりを…………?』
提督『持ち上げてくれた人々の熱も冷め、やがて気づいたころにはひとりぼっちに。
国から支給される補助金も底をつき、生きるために仕方なくアルバイトで生活を繋ぐのみ――』
提督『助けを求めようとも、かつて仲間としてともに闘った友達はそれぞれ独自のコミュニティを築いていた。
学友しかり、同僚しかり、恋人、家庭…………みんながみんな幸せそうにしているなか、自分だけが独りぼっち』
夕立『…………ひっ』
提督『艦娘だった仲間に会おうと声をかけても“仕事の打ち上げが”“ゼミの飲み会が”“彼氏と約束が”――』
夕立『………………』
提督『どこか一歩引いた位置から言葉を投げかけてくるかつての親友。それもそのはず、自分はいままで遊んでばかりで努力を怠り、なんの取り柄もなくって――』
明石『――――くおらあっっ!!!』グワッ
提督『わっ!! ……なんですかいきなり。話してる途中ですよ』
明石『なんですかもクソもありません! なに怖い話してんですか!! あっち見てみなさい!!』
大淀『夕立ちゃん大丈夫だからねっ!? 戦いが終わってもひとりぼっちにはならないからっ』
夕立『……ひっ……ひぅっ…………』グス
睦月『おーよしよしよしよし…………』ナデナデ
吹雪『夕立ちゃん…………』ナデリ
提督『あ…………悪い夕立! そういうつもりはなかったんだ! ただちょっと脅かしてやろうと……』
がちゃっ すすすっ
「提督」
「司令官さん……」
提督『あっ、お前たち! ちょうどいいところに来てくれた、一緒に夕立を――』
「きみには失望したよ」
「殺っちゃうからね」
「わ、わっ……おねーちゃん元気出してっ!」
提督『なにか誤解があるようだから弁明させてくれ、実は』
「右舷ゲッツ!」
「左舷、確保したよ」
提督『ちょっと待って俺の話を聞いて』
「よくぞ捕らえたっ! 提督、いまこそ己が不明を悔いるときだよっ!」バーン
提督『お、お前はっ!?』
「時に残月。光冷やかに、白露は地に滋く。――夕立を泣かせた罪、しっかりと購っていただきます!」
夕立『白露ちゃぁん…………!』
「白露ちゃん、やっちゃって!」
「提督。ぼくは提督のこと…………嫌いじゃなかったよ」
「ふたりともちゃーんと捕まえててね。…………さあっ!」ダッ
提督『いやちょっと本気で待って。こんな部屋でそんな勢いつけたら――――』
どげしっ!
――――
――
吹雪「あの日のことですか? ……しょ、正直っ、あんまり思い出したく、ないですぅ…………」
吹雪「え、資料の? 重要な? え、えっと、どうしても……ですか? 最初から最後まで……ですよね?」
吹雪「公式の資料として残るんですよね? うわぁヤだなぁもうぅ……」
吹雪「えと。……途中までの流れはあのラジオでわかる通りですが。白露ちゃんたちが執務室に押し寄せてきたあとのことですよね」
吹雪「夕立ちゃんを泣かせちゃった提督があたふたしてるうちに、両脇を時雨ちゃんと村雨ちゃんが固めたんです。
あ、春雨ちゃんもいたっけ……たしか春雨ちゃんは夕立ちゃんをよしよししてたはずです。末妹ですしね」
吹雪「え、と。それで、最後に執務室へ入ってきた人――白露ちゃんが、口上を述べてから構えたんです。……くらうちんぐ、でしたっけ? 陸上の……そう、それです!」
吹雪「助走をつけて、提督のお腹に思いっっっきり力を込めてドロップキックしたんですよ!
もうホント、見てるだけですごかったです。受けた司令官さんが数メートルくらい吹っ飛んでましたからね」
吹雪「司令官さんも、ふたりの拘束を振りほどこうと思ったらできたんでしょうけどね。やっぱり罪悪感があったみたいで……」
吹雪「白露ちゃんの脚力にも驚きましたけど、無傷の司令官も大概ですよ。人間が出しちゃいけない音鳴ってたのに、ケガ一つなくって……」
吹雪「…………あ、そうんですか? へえ……だからあんなにタフなんですね。
痛いのには慣れてるってそういう意味だったんだ。てっきりヘンタイ的なものって――な、なんでもないですっ」
吹雪「…………えと、以上です。ホントですよっ!!」
吹雪「……ちゃんと言ったら間宮さんが? うう、でも一生語り継がれるのってヤだよぉ……」
吹雪「――あ、一般には公開しない? ホントですか? …………なんですか、悪い顔して! ウソっぽくて信じられないですよぅっ!」
吹雪「…………随伴艦くんシール? いらないですっ!」
吹雪「うう、そんな顔しなくっても……。――わかりました、わかりましたってば! 言います言えばいいんでしょお~~っ!!」
吹雪「うううう…………」
吹雪「……えと、実は、吹っ飛んだ司令官さんのポケットから…………その、ポロリと…………布が」
吹雪「…………その、一番下に穿く布というか。その、えと…………」
吹雪「――ぱんつ。ぱんつですっ!! もお、なにニヤニヤしてるんですかっ!!」
吹雪「これ、ホントにオフレコなんですか? “一般の家庭には公開されない”って……」
吹雪「心配しすぎって……当たり前ですよっ! 司令官さんのポケットから、わ、わ、わ、わたしのぱんつが出てきたんですからっ!!!」
吹雪「白露ちゃんがバシッと蹴ったら、司令官さんのポケットから、その、ぱんつがポロッとダンケダンケしてたんです!!」
吹雪「わたしの大切なアドミラルパンツがダンケしてたんです!!」
吹雪「ネットで調べたら、ダンケってえっちな意味も含まれてるっぽいですし…………あ、違う?」
吹雪「でもこれってやっぱりその、えと、あのっ! …………“そういう”コト、なんでしょうか」
吹雪「……え? あ、そういえば休憩中の話でしたっけ。実は司令官さん、そのぱんつを持ったまま前かがみでトイレに――」
吹雪「――――っていうワケなんです。あの司令官さんが、って思いましたけど……。
よく考えたら、たくさんの女の子のなかに一人ですもんね。ほかの男の人もときどき仕事で来ますけど、勤めてるのは司令官さんだけだし……」
吹雪「や、やっぱりその、おとこの人って……その、溜まったり…………するんでしょうか」
吹雪「わ、笑わないでくださいっ!! その、やっぱり気になりますし……ややややっぱりその、発散とか…………にゅふっ」
吹雪「あっえっあっあっ、そのっ! …………司令官さんと付き合い長いですし、しょっ……しょしょ翔鶴さんだって気になるでしょ!? 」
吹雪「…………」
吹雪「………………」
吹雪「むししないでくださいよー!!」
磯風「…………ほお、あの裏ではこのようなことになっていたのか」
浦風「やっぱロリコンなんじゃな~。朝潮とかも気ぃつけたほうがええんと違うんかな」
朝潮「は、はい!」エース
満潮「…………いやでも、下着泥とかガチでヤバいでしょ。免職ありえるんじゃないの」
叢雲「(がたがたがたがた)」
卯月「(がたがたがたがた)」
望月「……どしたの二人とも。マナーモード?」
叢雲「(どどどどどどうすんのよアンタ! 司令官辞めちゃったらわたしたち……っ)」
卯月「(ちょ、ちょっと待って本当に待って! いま考えてるから……)」
叢雲「(やっ……ヤダよ、わたしっ! 司令官がっ……しれーかんがっ!)」
卯月「(だから落ち着くっぴょん!!)」
青葉「んふふ、そこはご心配なく! これは鎮守府内のネットワークにしか流していない情報ですから!」
青葉「外部にリークされない限りは、この鎮守府より外に漏れることはないですよ!」
満潮「……べつに、心配なんてしてないけどね。あーキモっ」
叢雲「…………ふぇ?」
卯月「(ほっ)」
荒潮「あらあら~」
白雪「吹雪ちゃん大丈夫だった? イヤなことがあったらすぐに相談してね」
深雪「アタシら友達だからさっ。司令官にヤなコトされそうになったらすぐ呼べよぉ~? すぐに駆けつけてあげるからさっ」
初雪「しょうがないにゃぁ…………」
吹雪「………………」
吹雪「………………」プルプル
翔鶴「(てへっ)」バチコーン
吹雪「翔鶴さんンンンンンン!!!!」
――――
――
☆『吹雪のぱんつ』を入手しました!
☆『九九式艦爆(瑞鳳)』を入手しました!
以上、吹雪・睦月・夕立編でした。終盤ちょっと駆け足で薄味すぎた気が
一個の安価を消化するのに三か月弱もかかるスレがあるらしい
龍鳳の過去編(初対面)とか書く予定ですがうまい方法(流れ)が見つからない……とりあえず、まだ安価はとりません。とるときはageると思います
でもまた時間空きそうな気がするなぁ
エロが進まぬ。とりあえず龍鳳編の導入をば
イク「ぬわああああああん疲れたもおおおおん」
ゴーヤ「ねー。今日はもうホンっトキツかったねー」
はっちゃん「本当にね…………」
イク「まだまだ寒い時期だから身体にこたえるのね……やめたくなるのね~オリョクル~……」
ゴーヤ「髪がもうギッシギシでち。やー傷んだりしないかなぁ……」クルクル
はっちゃん「うふふっ」
イク「早くお風呂入ってさっぱりするのね。はやくはやく!」
ゴーヤ「ふー……あ、待つでちっ! ゴーヤも行くからっ!」
イク「待っててあげるから早くするのね! はっちゃんもはやくー!」
はっちゃん「おっとすみません、すぐに準備を……」
がちゃっ
イムヤ「あー良いお湯…………あ、みんな帰ってきてたんだ。おつかれ」ホカホカ
ゴーヤ「…………誰かと思ったら、今日非番のイムヤじゃん。ずいぶんホカホカしてますねぇ?」
イク「イクたちが大変な目に遭っている間にのんびりしてたなんて許せないの。今度艤装なしで海に沈めてあげるのね」
イムヤ「海水浴にはまだ早いわね。…………なんかあったの?」
ゴーヤ「なんかもなにも! 今日オリョクルしてたら移動中のタコの群れに遭遇してっ!」
イク「身体じゅういたるところを吸い付かれたのねー!! おかげでもーミミズ腫れがひどくてチョーウザいのね!!」
ゴーヤ「タコ公のくせに生意気でち! 今度見かけたらとっちめてやるんだから!」
はっちゃん「はたこうとするんですね。タコだけに」
ゴーヤ「…………」
イク「痕が残ったらゼーッタイに許さないのね! イクの商品価値が下がるのねー!!」
はっちゃん「多恨を残してますね。タコだけに」
イク「…………」
ゴーヤ「…………」
はっちゃん「なにか?」
イムヤ「…………へ、へえ、タコの群れに……あれ、タコって群れたっけ?」
はっちゃん「基本は群れませんね。よほどのことが無い限りは大規模な移動もしませんし」
イムヤ「ふうん」
イク「“ふうん”……じゃないのね! ゴーヤちゃんなんか顔面に貼りつかれてチョー面白いことになってたのね!」
はっちゃん「そうですね。艤装にカメラ機能がないことだけが心残りでした」
イク「危うく呼吸困難で轟沈するところだったのね! ぷんぷん!」
ゴーヤ「二人とも畜生でち! 引っ張ってってお願いしてるのにぜんっぜん助けてくれなかったし!」
はっちゃん「いざ引っ張ったら引っ張ったで顔が更に面白いことになってましたけどね」
イク「ただでさえ面白いのにそれ以上面白くなってどうするつもりなのね」
ゴーヤ「だーれの顔が地中海だって!?」
イク「意味わかんないのね」
イムヤ「海中で呼吸困難って面白い表現ねぇ。……ま、ゴーヤの頭はタコみたいに見えるもんね。仲間だと誤認されてもおかしくないんじゃない?」
ゴーヤ「誰がタコっ…………えっそれ本当?」
イムヤ「あーそうそう、そういや今日も龍鳳ちゃんが晩ごはん作ってくれてるからさ、お風呂あがったらそっち寄ったげてよ。今日は濃い口の煮物がメインだってさ」
はっちゃん「龍鳳さんですか? いつも助かりますね」
イク「それはいいことを聞いたのね! さっさとお風呂あがって突撃するのね!」
イムヤ「急がなくてもまだ作ってる途中よ。湯冷めされるとこっちも困るんだから、ゆっくり浸かってね」
イムヤ「わたしも今からちょっとだけ摘まみにいく予定。そんじゃね~」フリフリ
ゴーヤ「ちょっと待ってタコって本当?」ガシッ
イムヤ「しおいはもう寝ちゃったみたいだから、潜水寮に戻ってくるときは出来るだけ静かにお願い。それじゃ」スルッ
はっちゃん「おっけーです」
ゴーヤ「いくちゃんはっちゃん、わたしってタコみたいに見える? 本当?」
イク「さー、さっさとお風呂入ってご飯なのね!」
はっちゃん「おーです」
ゴーヤ「」
がちゃんっ
ぐつぐつ……
イムヤ「おっすー」
龍鳳「あ、いむやちゃんお帰りなさい。みんなはどうだった?」
イムヤ「さっき帰ってきたばっかみたい。いまからお風呂だからー……だいたい三十分後くらいかな?」
龍鳳「しおいちゃんはおねむですしね。わかりました」
イムヤ「わたしもちょっと摘まんでいーい? なんかお腹すいちゃってさ」
龍鳳「あらまあ、まだ夕食から少ししか経ってないのにですか?」
イムヤ「やははー……実は最近さ、ビッミョーに寝つき悪いんだよねー。だから寝る前に満腹にしてから寝よっかなってさ……だめかな?」
龍鳳「それはもちろんいいけど……大丈夫? こんな時間に食べてお腹こわさない?」
イムヤ「あはは、司令官じゃないんだから大丈夫だって! それにさ、最近よく運動するからカロリーも問題ないし!」
イムヤ「がっつり食べるんじゃなくって、ちょっとした一品でいいからさ。余ってるやつでなんかないかな?」
龍鳳「そう? …………えっと、それじゃ……ちょっと重たいけど、小ぶりのお握りとちくわと馬鈴薯の煮物でいいかな?」
龍鳳「オリョール帰りのみんなに作っておいたものだから、味付けも濃いめだけど」
イムヤ「大歓迎! むしろこんな時間に食べていいご馳走じゃないね! ――あ、煮汁多めで!」
龍鳳「はいはい、わかってますよ~……」グツグツ
イムヤ「ふーよっこいしょっ…………あたた、腰が……」
龍鳳「どうかしたの?」
イムヤ「いやー、さいきん腰が痛くってさぁ。実はこの間、ペット――みたいなものを飼うことになってさ、その相手で振り回されてるんだ」
龍鳳「へえ、そうなんだ」
イムヤ「はじめは大人しかったのに、声をかけたらずいぶん昂奮しちゃって。今日もその相手。
もーくたくた……困っちゃう。あんなに動き回らされたのって艦娘訓練施設以来かなぁ」
龍鳳「だからお風呂に入ってたんだね……。……それって、水槽展示室の?」
イムヤ「あ、知ってた? そーそー、あの“駆逐イ級?”のことね。世話してるわたしたちは“きゅーちゃん”って呼んでるんだけど」
龍鳳「ふふ、きゅーちゃんだとル級もヌ級も“きゅーちゃん”になっちゃうね」
イムヤ「そう! それでわたしは最初“イキュー”ちゃんがいいって言ったんだけどさ! イクのやつが――」
イク『それだとイクとかぶるのね! 断固拒否するのね! ストライキなのね!』
イムヤ「――って聞かなくってさ。しぶしぶきゅーちゃんになったワケ。イクとイ級、どっちも似たようなものよねぇ?」
龍鳳「あはっ、それはひどくない? ……でも、たしかにあの子元気だよね。水槽展示室に入ったらびゅーってガラスまで近づいてくるし」
イムヤ「あれ、そうなの?」
龍鳳「うん。わたしも遊んであげたいけど、いむやちゃんたちみたいに潜れないから……」
イムヤ「へえ~…………」
龍鳳「…………どしたの? ――あ、できた出来た! お皿によそって……と、はいっ」コトッ
イムヤ「ありがとう、いっただっきまーす! ――んん~、いつもおいしい!」
龍鳳「味付けのほうは大丈夫?」
イムヤ「バッチシ! 夜になると濃いめの味付けがしみるよねぇ~……」
龍鳳「とくに海あがりになるとハッキリした口当たりのものが欲しくなるしね」
イムヤ「うんうん。よっ! さっすが元給糧艦志望! わかってるぅ!」
龍鳳「もー…………はい、お茶。麦茶でいいよね?」コポポ
イムヤ「ありがとっ! ごくっ、ごくっ…………くっはぁ! おかわりっ!」
龍鳳「そんな足柄さんみたいな……はい、おかわり」
イムヤ「いやー、至れり尽くせりって感じだねぇ。……っていうか、いつもこんなことさせちゃってるけど、迷惑じゃない?」
龍鳳「こんなこと?」
イムヤ「ええっとほら、料理作ってもらったりさ、たまに部屋の掃除とかも…………」
龍鳳「ああ……いいよ別に。わたしが好きでやってることだし。それにわたし自身もお料理楽しいしね」
イムヤ「そ、そう? …………うーんと、なにかお返ししたいけど、なにかない?」
龍鳳「お返しって、気にしなくていいよ」
イムヤ「や、そういうわけにもね。……えーっと、間宮さんのところでなんでも好きなもの奢るっていうのは!」
龍鳳「わたしは大丈夫だけど……イムヤちゃんが帰ってくる時間帯って間宮さん空いてないんじゃないかな?
それに、非番の日にしようと思ってもわたしとイムヤちゃんってなかなか時間合わないし……」
イムヤ「そうだった…………じゃあ、今度珍しいお魚たくさんとってくるから、それを食べてもらうとか!」
龍鳳「ふふ、結局わたしがお料理するんじゃないんですか」
イムヤ「あ、そっか! …………むむむ!」
龍鳳「ほんとうにいいの。それにお料理自体はね、わたしがやろうと思ってやってることなんだから」
イムヤ「むー……そこまで言うなら……でも、なにか理由とかあるの?」
龍鳳「うん。実はね、むかしの友達と約束してるんだ。“いまは離ればなれになるけど、いつか美味しい料理を作ってわたしを驚かせてみな”――って」
イムヤ「ず、ずいぶん挑戦的? 龍鳳ちゃんのご飯、わたしすっごい美味しいと思うけどなぁ」
龍鳳「ふふ、ありがと。……でもね、むかしのわたしって、そんなにお料理って好きじゃなかったんだ。
家のお手伝いで作ったりするくらいで、お料理自体は面倒臭いと思ってたし…………」
龍鳳「本格的なお料理を勉強し始めたのは、中学校を卒業する前くらいのときだったかな……クラスメイトにね、すっごくお料理上手な子がいたんだ」
龍鳳「もう何でも作れちゃう子でね。中華からトルコ料理、イタリアからドイツ……なんでもアリだったなぁ」
イムヤ「へー、間宮さんみたいな?」
龍鳳「間宮さんほどじゃないかもだけど、そんな感じ」
イムヤ「おー……中学生でそれって凄いね。プロの料理人でもなかなかいないんじゃない?」
龍鳳「はじめはその人のこと苦手だったけど、いろいろあって仲良くなって……。
中学を卒業するときにね、その子と約束したんだ。さっきの“わたしを驚かせて――”ってやつ」
龍鳳「中学卒業と同時に引っ越しちゃったから、いまどこに住んでるのかは知らないんだけどね」
イムヤ「ふーん……でも艦娘やってるとなかなかそんな機会ないよね。いまならその人もびっくりするのに! こーんなにおいしいお料理作れるんだーってさ!」
龍鳳「ふふ、そうかもしれないね。提督さんたちと、あの子たちと……みんなで楽しくピクニックなんかしちゃったり……」
龍鳳「むかしコテンパンにやられちゃったゲームだって、たくさん練習したし。お勉強だって、スポーツだって……」
イムヤ「……どしたの? ――もしかして、そのひと」
龍鳳「あっ、いやっ! その子ね、鎮守府でお仕事がしたいって言って訓練施設に入ったらしくてっ」
龍鳳「住んでるところも違うしあんまり連絡とれなくってっ」
イムヤ「もーびっくりさせないでよね! やらかしちゃったかと思ってドキッとしちゃった!」
龍鳳「えへへ、ごめんね……」
イムヤ「しっかし、それだけ料理が出来るのに料理人にならないなんてもったいないなぁ。
鎮守府でお仕事って言ってたけど……なにかあったっけ? ――まさか艦娘?」
龍鳳「ちがうちがう、通信士だって。はじめは艦娘になるつもりだったみたいだけど、色々あってやめたみたい」
イムヤ「ふーん……通信士かー。通信士って忙しいみたいだね。あの大淀さんですら普段は通信士の業務だけでてんやわんやみたいだし」
龍鳳「……そうみたいだね。わたしはあんまり、そのあたりは詳しくないんだけど」
イムヤ「あ、そうなんだ? てっきりなんでも知ってるもんだと思ってたケド」
龍鳳「うん。給糧艦になろうって決めたのもいきなりだったから。ほかのことはあんまり調べてないんだ」
イムヤ「へぇー、龍鳳ちゃんにしては珍しいね。いつも下調べバッチリなのに。……あれ、それじゃなんでいきなり給糧艦を目指そうと思ったの?
わたしが言うのもなんだけど、そんな気軽に入ろうと思う世界じゃないよね。痛いし、つらいし――ううっ! ヤなこと思い出しちゃった!」
イムヤ「…………カッとなって入った人も多いけど。龍鳳ちゃんもそのクチだったり?」
龍鳳「う、うん、ちょっとね! ――それよりっ、通信士のこともうちょっと聞かせてよっ」
イムヤ「わっ、いつになく前のめり。…………いや、わたしもあんまり詳しくないんだけどね?」
イムヤ「深海棲艦ってさ、海上に現れる前に――予兆みたいなのあるじゃん? 艦娘専用の電探がさ、ノイズ拾うじゃない?」
龍鳳「わかります。変に乱れるんですよね。艦娘のものは鎮守府に置いてあるものより範囲が絞られていますけど」
イムヤ「敵の強大さによってノイズが大きくなったりするから、遠い泊地でもその存在を感知できたりしてね。
通信士はいつ現れるかもわからない深海棲艦のために、ヘッドフォンかぶってパソコンの画面をずう~~っと見てるんだってさ」
イムヤ「いつよその鎮守府から連絡が入るかもわからないしね。それに加えて総員起こしから情報収集までやるから凄いみたい」
龍鳳「わぁ……大変なんだ」
イムヤ「そーそー。だから艦娘訓練施設で一緒になった通信科の子もぼやいてたよ。“いまでさえしんどいのに配属されたらもっと休みがなくなる”――ってさ」
龍鳳「あ、イムヤちゃんの施設は通信科あったんだ?」
イムヤ「うん、わりとおっきな施設だったからね。その代わり給糧科はなかったみたいだけど」
イムヤ「本当はそういうの、情報士とか深探士(しんたんし)の仕事だけどね。
最近は若い人材にいろんな業務を経験させてマルチな才能を――ってことで、通信士の業務だけじゃなくてそれ以外の仕事もさせるようになってるみたい」
龍鳳「へぇ……わたしたち艦娘が炊事洗濯の当番を入れ替えるようなものかな?」
イムヤ「そんなカンジ。女の子のたしなみとして、最低限の家事炊事くらいはね。艦娘になる以前から家事に触れたことがない子も多いみたいだし」
龍鳳「そうだね。わたしはもともと触りくらいなら一通りやってはいたけど……」
イムヤ「でも……さすがの通信士でも、艦娘のお仕事までやらされたりしないけどネっ!
艦娘だって適性があって、かつそこから過酷な訓練を乗り越えなくちゃできないんだから! 一朝一夕の付け焼刃じゃ深海棲艦には太刀打ちできないしね!」
龍鳳「………………そうですよね。うふふっ」
イムヤ「まさかねっ! あはははっ! まさか訓練も十分にさせてもらえない子が海域まで出るわけないしっ」
龍鳳「ふふふふっ…………」
イムヤ「あはは…………ははっ…………」
――――
――
イムヤ「はぁ…………ごちそうさま。美味しかったよ」
龍鳳「お粗末さまです。じゃあお皿さげちゃうね」
イムヤ「ごめんねいつも。ゴーヤたちが来るまでここ座ってていーい?」
龍鳳「はい。遠慮しないでゆっくりしてね――あっ、クッキー食べる? いまならコーヒーもついてきますよ」
イムヤ「くっきー?」
龍鳳「うん。この間焼いたんだけどまだ残ってるんだ。お腹周りが気にならないなら、どうかなって」
イムヤ「う゛っ……濃いめの味付けのあとには爽やかな甘味が欲しくなると知っての狼藉ね! いやらしい!」
龍鳳「ふふ、いらないならいいんですよ~」
イムヤ「…………いるし! いりますし! てゆーかいらないなんて言ってないし!」
龍鳳「はいはい、わかりましたよー。たくさんあるから、提督指定の水着が入らなくなるくらい食べていってね」
イムヤ「やめて!? わたしはまだまだピチピチギャルなんだから!」
龍鳳「ピチピチ? ウエスト周りの話ですか?」
イムヤ「鮮度的な話ですぅ~」
龍鳳「……あ、そうだ。いきなりだけどわたし、一からラーメンを作ってみたいなって思ってるんだ」
イムヤ「お、ラーメンいいねぇ。あったまる食べ物は心地いいよね。一息つけるっていうか」
龍鳳「うん。でも一から作ろうと思ったら、出汁が問題で……麺はどうにかなるんだけど」
イムヤ「どうにかなるんだ…………」
龍鳳「麺はね。出汁だけ市販のものを買って済ませるのも気が済まないし、自作しようと思って」
龍鳳「だから太ったらすぐに言ってね」
イムヤ「……豚骨か? 豚骨って言いたいのか?」
龍鳳「ラーメンには少しだけ思い入れがあってね。半端なもので済ませたくないし……それでイムヤちゃんに協力してもらいたくて」
イムヤ「はん? わたしをダシにしてもラズベリーの香りしか得られないから却下ね」
龍鳳「でも豚骨のお出汁ってあんまりとったことないから……イムヤちゃんならなんとかなるかなって」
龍鳳「魚介豚骨になってちょうどよさそうだし」
イムヤ「さすがにそろそろ泣くよ? ないちゃうぞ?」
龍鳳「冗談ですよ。いむやちゃんはいつ見ても羨ましくなるくらいスタイル抜群だから安心してね」
イムヤ「…………なーんか、龍鳳ちゃんに言われるとイヤミっぽい」
龍鳳「本当ですってば! もう……でも、ラーメンを作りたいっていうのも本当。だから、もしよかったら試作中にいろいろアドバイスしてくれると嬉しいなあって」
龍鳳「あんまり食べたことないから、どういうものが口に合うのかわからないし……」
イムヤ「……言っとくけど、出汁作りには協力しないからね?」
龍鳳「もー、ごめんったら! いくつか候補を作ってみて、そのなかからイムヤちゃんに美味しいと思ってもらえたものを選ぼうかなってね。
完成したら、たぶん潜水艦の子たちに振る舞う機会が多いと思うし」
イムヤ「ふうん……。わたしはいいんだけどさぁ…………」
龍鳳「なにか問題ありました?」
イムヤ「いや、問題ってほどじゃないんだケド。その試食の役目、司令官じゃなくっていいの?」
イムヤ「どうせ一番食べさせたい相手は司令官だーって思ってるんでしょ? わたしと司令官、食の好みが近いもんね~」
龍鳳「う゛っ……」
イムヤ「図星か。まったく……遠まわしに面倒なことしないで、最初っから司令官に食べさせてあげればいいじゃん? そっちのほうがもっともっと正確な味付けに出来るしさ」
イムヤ「なんだったらいっそ、あなたのためを想って作りました――とでも言えばいいのに」
龍鳳「…………そっ、そそそんな言えるワケないじゃん! そんなっ、告白みたいなっ」
龍鳳「だいたいっ、提督だっていきなりそんなこと言われたら困るしっ! へんに意識されちゃったりなんかすると、これから気まずくなったりっ」
イムヤ「いまさらなーに言ってんだか。……ま、いいよ。いつも良くしてもらってるしそれくらいはね。
よっぽど変なものを出されない限りはきちんと飲み干してあげるんだから。……あ、でもなるべくカロリーは控えめで…………」
龍鳳「あ、ありがとう。もぉ、へんなことばっかり言うからビックリしちゃった! あぅ、あつい……」パタパタ
イムヤ「(はぁ~あ。…………わたしもお人よしだなぁ)」
イムヤ「ま、おおむねの事情は理解したわよ。どーせその“思い入れ”っていうのも司令官絡みでしょ?」
龍鳳「…………べつに、そんなコト」ドキッ
イムヤ「いかにも“あります”って顔してるわねぇ。――よしわかった! どうせならさ、もう一から話しちゃおう!」
イムヤ「いままで頑なに話そうとしなかった、司令官との慣れ初め。このいむやお姉さまがドーンと受け止めてあげるんだから! さあさあ」グイグイ
龍鳳「わふっ…………お、お姉さまって言ったって! わたしのほうが年上だしっ!」
イムヤ「言ってもたった一つでしょお~? 対して変わんないじゃーん!」
龍鳳「そそそんなことないですっ。ちゃんと年功序列というものをですね……っ」
イムヤ「細かいこと言ーわなーいのっ。だいたい艦娘ってば年功序列じゃないし。…………誤魔化そうったって、そうはいかないわよ!」
龍鳳「…………べつにそのっ誤魔化すつもりなんて! だいたい、思い入れったってべつにたいしたことないし! べつにあの人が関係してるわけじゃあ……」
イムヤ「べつにべつにばーっかで動揺してるのが丸わかり……相変わらずウソつくのがヘタなんだから。なにもそこまで隠すことなくない?」
龍鳳「べつに、隠してるとかそういうのじゃ……」
イムヤ「榛名さんたちだって昔の話ぜんぜんしないしさぁー。言いたくないならへんに誤魔化さないでそう言えばいいのに」
みんな不思議がってるよ? 司令官は確かにいい人だけど、なんでそこまで司令官にこだわるんだろう――ってね」
龍鳳「え、みんなって……えっみんなわかってるんですか!?」
イムヤ「逆にあれだけキュンキュンしててバレないと思ってるほうがすごいわよ。もーバレのモロバレモーレイ海」
龍鳳「なんてことなの……」
イムヤ「かくいうわたしもそのひとり。榛名さんたちとか龍鳳ちゃんがそんだけお熱なの、見てていつも疑問に思ってたんだ」
イムヤ「司令官ってばさ、わりとおちゃらけてる風に見えて、決めるところバシッと決めにくるからしっかり者のように思うけど。
生活リズムはガタガタ、食生活もわたしたちが世話しなけりゃ即席ごはん。自室は散らかしっぱなしだし掃除もしない――」
イムヤ「まあ、仕事に追われてるみたいだし仕方ないけど……よく見てみるとけっこーだらしないしさ?」
龍鳳「あ……そうですね、たしかに」
イムヤ「知ってる? この間なんかあの人、夜食にひっどい納豆丼食べてたのよ?
納豆ごはんに豆腐ときゅうりを乗せて、海苔をまぶしてめんつゆぶっかけてぐちゃぐちゃにしたやつ。ヤバくない?」
龍鳳「わー……だいぶ豪快だね」
イムヤ「ヒいちゃうでしょ。ビジュアルがもーひどくってひどくって……一口食べさせてもらったから、味は問題ないってわかるんだケド。
もーあの見た目は食材に対しての冒涜よねぇ。贖罪するべきだわホント」
龍鳳「…………よく見てるんだね」
イムヤ「――え? あ、アハハっ! たまたまね、たまたま! ほらこれでもそれなりに付き合いあるしさ~」
龍鳳「いむやちゃんって、実は、あの人のこと……?」
イムヤ「まーたその質問か。よく言われるんだよね……どの子もどの子も司令官と仲良さそうにするだけですーぐ恋愛に絡めたがるんだから」
龍鳳「年頃ですものね…………それで、えっと」
イムヤ「答えとしては――のんのん。司令官とは付き合いも長いし気も合うけど、恋愛とかそういうんじゃないんだよね~」
イムヤ「……龍鳳ちゃんとしてはホッとしたかな?」
龍鳳「え、そうなの? わたしてっきり…………」
イムヤ「……ときどきよくわかんなくなるけど。少なくとも、今このときはそうじゃないって言えるよ。
仕事もする。遊びもする。命も身体も預けちゃう。……だけど恋はしない」
イムヤ「なんかカッコよくない? 相棒的立ち位置みたいで。男女の友情は成り立たないとかって言うけどさ、それって――」
龍鳳「(…………でも、いむやちゃんの視線って、明らかに)」
イムヤ「…………まあ、付き合いが長いって言ってもあなたたちほどじゃないですけど?
龍鳳ちゃんからしたら、この程度で長い付き合いを自称するだなんて片腹痛いわってカンジ?」
龍鳳「そ、そんなことっ! …………付き合いの長さと、関係の深さは比例しませんからっ!!」
イムヤ「わお、力強い」
――がちゃっ
イク「たっだいまなのね~っ!!」
はっちゃん「ただいま戻りました。……お待たせしました」
龍鳳「あ、二人ともおかえりなさいっ」
イムヤ「おー綺麗さっぱりね。ごーやはどうしたの?」
イク「ごーやちゃんはなんか“うわへへ”って叫んでどっか行ったのね。どーでもいいのね」
はっちゃん「さっき大きな声が漏れ出てきましたけど、なにかあったんですか?」
イムヤ「ああ、それならね――」
龍鳳「――さっ! お夕飯の準備はできてますからっ! いまお皿を並べますねっ!!」
イク「もーお腹ぺこぺこりんなの! さっそくいただきまーす!」
龍鳳「はい、めしあがれ!」
はっちゃん「あら……いただきますね」
イムヤ「…………ま、いいケド」
イク「うましうまし」
龍鳳「ああっ、こぼしてますよもうっ……ちゃんと噛んで食べないと消化に悪いよ」フキフキ
イムヤ「さっきまでまったりしてたのに、イクひとりでずいぶん騒がしくなったものねぇ」
はっちゃん「ごーやさんがいないから半減ですけどね。いむやさんもいかがですか?」
イムヤ「にゃ、わたしはもう済ませちゃった。気にしないで食べていーよ、てきとーに本でも読んでるから」
はっちゃん「そうですか。わかりました、それでははっちゃんも――いただきます」
イムヤ「はい、めしあがれ」
――――
――
「うわへへ!」
「あ、帰ってきましたね」
「ごーやお帰り。いまきたところ悪いけど、龍鳳ちゃんもう後片付けして寝るところだから、ゆーちゃ――Uターンして帰りましょ」
「変な噛み方なのね」
「えっ……それじゃごーやの、晩ごはん……」
「それならタッパーに入れてもらったのね! ほらっ」
「あっ…………よかったでち」
「タッパーは明日の朝にでも返してくれたら嬉しいかな。いろいろ仕込みもあるから」
「龍鳳ちゃんもごめんね、こんな時間までたむろしちゃって。司令官の話はまた今度ってことで」
「うっ……両方とも気にしないでください」
「そーゆーわけにはいきません。さっ、みんなかえろっか!」
「ヤー」
「みんな、おやすみなさい」
「おやすみなのねー!」
「龍鳳さんも、あまり無理しないように」
「ゴハンありがとね! タッパーは明日の朝いちばんに持ってくるから!」
「あはは、そんなに急がなくても大丈夫ですよ」
「いつもありがと。それじゃおやすみ」
「はい、おやすみなさい」
…… ……
「あ……そういえば、きょう見つけた残骸はどうしたの? てーとくのところ?」
「いえ、それは明石さんの工廠まで。おそらく提督はいまごろファックスの応対に追われているでしょうし」
「ああ見つかったんだ。そういやそろそろ集まってきたころね」
「はい。そろそろ一つくらいなら建造できる頃合いではないでしょうか。明石さん曰く、もう少しあれば建造まで踏み切れるとのことでしたが」
「まあ、あんまり持ち帰ってないものねえ……」
「どうせいつもみたいに造ったはいいものの誰も使わないで解体コースなのね」
「わたしたちが鎮守府近海の警備を担当することはありませんしね。基本は駆逐艦の子たちですから」
「潜水艦、増えたらいいなぁ。…………増えたら、もっと休みが増えるでち。ぐふふ」
「ワルい顔してるなぁ……言っておくけど、増えたら増えたで新人研修があるの忘れてない? その世話、どうせわたしたち二人がやんのよ」
「ゲッ――」
「ああ、そういえばしおいさんが来たときもお二人が指導されてましたね」
「指導計画表の作成から実施テストまで。デスクワークと肉体労働の両立よ……そろそろはっちゃんたちもやってみない?」
「そ、そうでち! そろそろ二人とも先輩の立場に立ってみるのも――」
「お断りします」
「お断りなのねええェェーッッ!!」
「ぬわーっっ!!」
「その顔とポーズむかつくなぁ…………ま、どうせ新しい子なんてこないでしょ。杞憂よ杞憂……ごーやもその断末魔やめなさい。もう夜中よ」
「だったらいいけど……なんかヤな予感がするでち。主にドイツあたりから」
「なにそれ?」
「なんとなくでち!」
…… ……
きぃ……ばたんっ
龍鳳「(…………みんな、いったかな?)」
龍鳳「(……みたいかな。いつもお疲れさま。あの人が元気に鎮守府を動かせるのも、みんなのおかげなんだから)」
龍鳳「(だから、適性に劣るわたしが、これくらい――)」
龍鳳「はふ――ふぅ……。……いっけない、ちょっとうとうとしちゃった……」
龍鳳「(みんなが食べてる間に洗い物を済ませててよかった。今日は早く寝られる……水に漬けて朝まで放っておくとばい菌がすごい残るっていうし)」
龍鳳「それじゃ、あとは乾拭きして…………うん、おっけーかな。ナプキンを上にかぶせておいて……っと」
龍鳳「んん~~…………っ。――はぁ……わたしもちょっと、肩がこって……やっぱりちょっと、前よりおっきくなったかなぁ」
龍鳳「(それにしても、みんな気づいてるって言ってたけど……冗談だよね? だってそんな、みんな知ってたら、きっとあの人だって気づくに違いないし……)」
龍鳳「(……や、ちょっと顔あつくなってきちゃった。もぉ……)」
龍鳳「(いむやちゃんも困ったなぁ……どうやって誤魔化そうかなぁ。べつに、言って恥ずかしいことなんてないけど……)」
龍鳳「(――やっぱり、あのきらきらした毎日は、わたしだけのものであってほしくって)」
龍鳳「(でも、きっと問い詰められたら言っちゃうんだろうなぁ。……わたし、誤魔化すのヘタってよく言われるし……うぅぅぅ)」
龍鳳「(――机の引き出しの隅。両手ほどの小さな小箱に……わたしの思い出が詰まってる)」
龍鳳「(いまではすっかり色あせてしまった宝箱だけど、その中身はいつまで経っても色あせない)」
龍鳳「(こうして表紙を撫でているだけでも、記した記憶が脳裏に浮かびあがってくる)」
龍鳳「(つらいこと、かなしいこと――うれしいこと、たのしいこと)」
龍鳳「(はじめはつらいことばっかりで。それを一人で溜め込むのが怖くって。でも……人にはとても、言えなくって)」
龍鳳「(ふっ――と、まっさらなこの日記帳を手に取って……閉じこもるように、逃げ込むように。後ろ向きで書き始めたのがきっかけだった)」
龍鳳「(こうしてぱらぱらとめくってみても、恨みつらみばかりでとってもつまらない日記帳)」
龍鳳「(だけど、ずっとじゃない。そんな冬の日はいつか終わりを告げ、花芽吹く櫻の季節がやってくる――)」
龍鳳「…………また、ちょこっとだけ読み返してみようかな。今日はちょっとだけ時間あるし」
龍鳳「(それに、日記帳を読んだその夜は、すごく幸せな夢を見られる気がして――)」
龍鳳「ええっと、どこからだっけ。もぉ、分厚いなぁ……むかしのわたし、いろいろ書き込みすぎっ」
龍鳳「(誰に照れているかもわからず、緩んだ頬を――ぐしぐし。もみ消すように手でこねる)」
龍鳳「(けど、不思議と消えない微笑み。…………日記帳読みながらニヤつくって、なんかへんたいみたい)」
龍鳳「――あ、あったあった。このあたりからがいいかな……あんまり昔からだと長くなるし」
龍鳳「(さ、がんばれわたし! もう一度、あのひとに会ってくるんだ!)」
――――――
――――
――
導入おわり。設定と場面が多すぎてきれいにまとまるかどうか あれ? これもしかして龍鳳がメインヒロインじゃね?
しばらくまた沈みます
ひぃ
龍鳳「(中学にあがってしばらくしたころに、わたしはいじめの被害に遭った)」
龍鳳「(いじめと言っても別段嫌われていたわけではなく、それは交通事故のようなもので。きっかけも些細なことだった)」
龍鳳「(その理由は――“見ず知らずの男の子からの告白を断った”こと)」
龍鳳「(当時まだ十二歳だったわたしは恋愛についてあまり考えてなくって、なんとなくの理由で交際を断った)」
龍鳳「(断られたはずの少年も食い下がる様子もなく、すこし残念そうに眉根を下げただけだった。
去年までランドセルを背負っていたこころだから。執着もなく、その件はそれで終わりを告げたかに思えた)」
龍鳳「(…………だけど)」
龍鳳「(当事者がよくても、周りがそれを許してくれない)」
龍鳳「(告白の件があってから数日後。いつものように教室へ辿り着いたわたしを出迎えたものは――)」
龍鳳「(台風の目のようにぽっかりと空いた空間の中心に、花瓶の置かれた学習机)」
龍鳳「(数多の罵詈雑言が書き込まれた教科書。びしょびしょに濡れた文房具)」
龍鳳「(それらとともに出迎えた――ガラの悪い女生徒たちの、悪趣味なニヤけ面だった)」
龍鳳「(どうやらあの告白を目撃した学生がいたらしく、それが噂話へと変わり、尾ひれがついてクラス中へ広まっていったらしい)」
龍鳳「(新しい学び舎。新しい環境、新しい教室に新しいクラスメイト――。
思春期の訪れ、異性関係に敏感な年ごろ。みんなが浮ついた状況で、わたしという突出した存在は見事に的にされてしまった)」
龍鳳「(クラスのなかでも特別“ませた”集団に、標的にされただけで、みんながみんな悪意をもって接してきていたわけじゃない)」
龍鳳「(けれど彼らの過激な振る舞いは、幼いわたしを傷つけるだけには十分のことで)」
龍鳳「(はじめは、使っているノートに悪口を書き込まれたり、机の上に花瓶を置かれていただけだったが――)」
龍鳳「(健気に耐えていたわたしを面白がって、次々にその行いがエスカレートしていった。
教科書がズタズタに破かれていたり。体操着が隠されていたり。文房具や靴が捨てられていたり)」
龍鳳「(わざとぶつかってきて、報復と称した肉体言語――そんな当たり屋紛いのことまで、やりはじめた)」
龍鳳「(跡が残らないような薄い傷であったけれど、被害はわたしの身体にまで及び始めた)」
龍鳳「(ちょっとではあるけど、血だって出た。見えないところではあるけど、絆創膏だって増えていった)」
龍鳳「(初めて血が出たときは、さすがに相手の子も怯んだみたいだけど。もうあとに引けないところまで来ていると思ったのか、その行いはむしろ過激になっていった)」
龍鳳「(告白してきた男の子は別のクラスの子だったから、その子にまではなにも及んでいないようだけれど)」
龍鳳「(……いじめてきた相手も中学生なりに、相手を選んで行っていたんだろう。
一切の抵抗もしないわたしに対して、まるで新しいおもちゃを手に入れた子どもみたいに。嬉々として嫌がらせを続けてきた)」
龍鳳「(それも、巧妙に。人影になって見えないようなところで、すれ違いざまに攻撃を受けることなんて少なくなかった)」
龍鳳「(けれどわたしは耐え忍んだ。大っぴらに行われていることではなかったから、たくさんの人の前や先生の目の届くところだと何もされなかったし)」
龍鳳「(インターネットで映った世界には、わたしがされていることなんかより、もっと恐ろしい世界が広がっていたから)」
龍鳳「(よくあるうちの一人……そう理解していても、辛かった。けれど耐えるしかないと思ったから)」
龍鳳「(言葉ですらやり返す勇気もなく、ただ我慢するしか出来なかった。……きっと、立ち向かえばきっとどうにかなったのかもしれないけれど)」
龍鳳「(――だけど、わたしがなによりつらかったことは)」
龍鳳「(わたしが嫌がらせを受けている間、誰も止めずに、誰も慰めてくれずに)」
龍鳳「(見て見ぬふり)」
龍鳳「(だれも)」
龍鳳「(一緒にいてくれなかったことが、かなしかった)」
龍鳳「(いじめられているなんて情けないこと。学校の先生になんて言えなかったし。教師をやっているお母さんになんて、もっと言えなかった)」
龍鳳「(その年お母さんはちょうど高等学校の新一年生を受け持つことになっていて。
毎日朝早くから出ていって、夜遅くに帰ってくる。そんな忙しい毎日を過ごしていた)」
龍鳳「(そんなお母さんに対して泣きつくことは、すごく迷惑で身勝手なことのように思えて。みっともないことのように思えて)」
龍鳳「(そうやって、ひとりでこらえていると……)」
龍鳳「(お母さんの仕事がひと段落したみたいで、いつもの早い時間に帰宅するようになった)」
龍鳳「(わたしはこんなに変わってしまったのに。いつもと変わらない元気で、いつもと変わらない笑顔で帰ってきた母の顔を見て)」
龍鳳「(ふしぎと――張りつめていた糸が、ついにちぎれてしまった)」
龍鳳「おかあさん」
龍鳳「わたし、もうやだよ」
龍鳳「やなんだよぉ…………っ」
龍鳳「(そうして唐突に涙を流し始めたわたしを)」
龍鳳「(なにがあったか追及することなく、優しく抱きしめてくれた)」
龍鳳「(そうして、その優しさに甘えるかのように、ずるずると――――)」
――――
――
「こーら、起きなさい。もうお昼過ぎよ」
「もーこんなに部屋暗くして……お部屋も全っ然お掃除してないし、だらしない……」
龍鳳「………………んぅぅ……」スヤァ
「もうこの子ったら……。こら、起きなさいっ! お、ひ、る、で、す、よっ!!」ペシペシ
龍鳳「んぐぅ~……」
「んぐぅじゃないです。もう午前は終わったのよ。起きなさい!」
龍鳳「…………もー。なーにお母さん……勝手に部屋入って来ないでったら……」
「あんた昨日夜中すぎまでパソコンしてたでしょう! あんまり昼夜逆転した生活してると美容にも悪いよ!」
「それに人間、朝に起きて夜に寝るような仕組みになってるんだからね!」
龍鳳「んもぉ~……うるさいなぁ! そんなのただのこじつけでしょお~……」ゴロゴロ
龍鳳「だいたいさぁ、美容に悪いとかって言ってるけど今日の今日まで対して変わってないしぃ~……」ゴロゴロ
「…………」
龍鳳「それにさぁ、夜更かししたくらいでお肌にくるような歳でもないしさぁ~……」ゴロゴロ
龍鳳「そもそもわたしが夜更かししてるっていう証拠はあるの? ないよね? あるはずないよね~……」ゴロゴロ
「…………夜中にトイレ行こうとしたら、あんたの部屋の扉の隙間から光が漏れてたんだけど」
龍鳳「あーそれね~……それはわたしもちょーどトイレに行こうとしてたまたま目が覚めただけだからぁ~……」
龍鳳「ホントね、たまたまなんだけどね、いやー奇遇だねお母さ~ん……」
龍鳳「てゆーかお母さんなんでいるの……? きょお何曜日だっけぇ……」
「…………今日は土曜日。そんでついでにお母さんはお休み」
龍鳳「あ、そうだったんだぁ……きょーどよーびかぁ~……」
「…………とりあえずさっさと起きて歯ぁ磨きなさい。そんで髪もぼさぼさだからクシ入れて、あと顔も洗いなさい。十歳以上は老けて見えるよ」
龍鳳「あーうんわかったわかった……もうちょっとで起きるから……」
「本当に?」
龍鳳「ほんとーだってば~……」
「……わかった。それじゃあね」
ばたんっ
がちゃっ
「龍鳳起きてる? ちょっとおつかいを頼みたいんだけど――って」
龍鳳「…………すぅ…………すぅ…………」
「…………」
龍鳳「んんっ…………すやぁ…………」
「…………あんた、すぐ起きるって言ってたわよね」
龍鳳「(すやぁ)」
「…………」
龍鳳「(すやすやりん)」
「………………」
「あんたって子はー!!!」ガッツーン
龍鳳「――――ぁ痛いっ!!」
ざわ・・・ ざわ・・・
ざわ・・・ ざわ・・・
龍鳳「(もーお母さんったら……ちょっと目をつぶってただけなのにさー……ぶつとかありえないし……)」
龍鳳「(おつかいとか自分で行けばいいじゃんさー……あっちは車だってあるんだし……)」
龍鳳「(わざわざわたしが行く意味とかないでしょ……なによ準備があるって……)」
龍鳳「(それに…………)」チラッ
「海の見える良いレストランを知ってな――」 「本当ですか!? わたし、司令と一緒なら――」
「シャンプーとかどれも一緒だし百均ので――」 「安物ったって限度が――」
「お兄ちゃーん! こっちこっち!」 「おい、引っ張るな」
「スリや置き引きには注意しろ。くれぐれもはぐれるな」 「じゃ、あ、あの……じゃあ、手を……」
龍鳳「………………」
龍鳳「(はあぁぁ……なんでよりにもよって街におつかい行かせるのさ……)」
龍鳳「(人多いし……つかれるし…………なんかわたしによく似た声まで聞こえてきたし……)」
龍鳳「(それに――ううっ、人目が気になるぅ……! みんながみんな、わたしのことを見てる気がする……)」
龍鳳「(髪とかはねてないかな? ああ気になる! でもいきなり頭に手を伸ばしたら目立っちゃって注目されるかも……おかしな人だと思われちゃうかも)」
龍鳳「(猫背とかになってないかな? だいじょうぶかな? 変なカッコしてたら笑われちゃ――いまあそこのカップル、わたしを指さしてなかった!?)」
龍鳳「(あ、気のせいか……本当に気のせいかな? 気のせいだと信じたい……うぅぅぅ~……)」
龍鳳「(も、もう、さっさと買い物して帰ろう! こんな若い人ばっかりの街とか怖くていてられないし!)」
くすくすっ あははーっ
龍鳳「(――わたしっ!?)」ビクッ
「あのアベックちょーヤバくなーい? マジチョベリバっていうかアンタッチャブルっていうかぁ~」
「あーわかるー! なんつーかバリバリウケるんですけど! オンナのほうはゲキマブだよね~ちょーナウい~」
「えーマジ? トシ食ってオバタリアンにしか見えないんですけど~!」
「まじイエス・ウィー・キャンなんだけど~」
「それはバマオ~!」
龍鳳「(ぁ……違った。よかった)」
龍鳳「(……てゆっか! 人間観察で盛り上がらないでよ! そんな街のど真ん中でさぁ! オシシ仮面みたいな見た目してるくせに!!)」
龍鳳「(わたしが言われたのかと思ってマジ気になるってゆうかぁ!)」
龍鳳「(…………言葉づかいがうつったー!!)」
「――あ? なんかアイツ、ウチらのこと見てね? ガン見じゃね? チョベリガンじゃね?」
「え、マジ? どれどれ?」
龍鳳「(やばっ…………!)」サッ
「…………あー? なんか違ったわメンゴメンゴ。アウトオブ眼中だったわ」
「なにそれウケる。マジわけわかめなんだけど」
龍鳳「(絡まれなくてよかった……もうこんなトコ怖いからさっさと行っちゃお! 街の中心とかギャルばっかだし……。
ギャルとかホント思い出すからあんまり見たくない……みんなおんなじような顔してるしさ……)」
龍鳳「(えっと本屋……はあっちかな。…………もお! 本くらいならアマゾンでポチればいいのに!!)」
龍鳳「(…………ふう、本棚と本棚の間の通路って狭くて落ち着く……人も少ないし……)」
龍鳳「(路上は車と人のにおいでいっぱいだったけど、やっぱこういうのじゃなくっちゃね~……。
こっちは排気ガスもなくって冷房効いてて涼しいし……ああ気持ちいい……)」
龍鳳「(――っとと、こんなにまったりしてちゃダメだ。ここだって街の中央に突っ立ってる大型書店。誰に出くわすかわからないんだから)」
龍鳳「(とりあえずお母さんに頼まれた本は……っと。……あれ、メモ書きどこいって――あ、あった。これこれ)」
龍鳳「(んー……? これは……学術書とか専門書……上の階かな? はやく行こっと)」
龍鳳「(ていうか、勉強関係の本なら適当に学校で取り寄せればいいじゃん! もうっ!)」
龍鳳「(ぅー……エスカレーター乗ってる間って妙にそわそわする……でも変な動きしたら後ろの人に何事かと思われるしぃ……)」
龍鳳「(とりあえずそれとなくプラスチックの反射で……よし、髪は乱れてない。背中に値札も貼られてない。だいじょうぶ)」
龍鳳「(あ、五階……学術書、専門書のフロア――うん、合ってる。ここだね。
ええっと……学術書は奥のほうかな? エスカレーターの近くは……レジと……文具とか趣味書のエリアみたいだし)」
龍鳳「(と、とりあえずっ! あんまりキョロキョロしてるとレジの人に裏で笑いものにされちゃうから……自然に、自然に……)」
龍鳳「(……とりあえず奥かな。本棚の隙間を縫うようにして……できるだけ人とすれ違わないように――)」
お母さん! お母さん! そんなのってないよぉ!>
黙りなさい! あなたはおとなしくスポンジボブだけを作っていればいいの!>
龍鳳「(――えっ!? なにっ!? だれっ!? なんの音!?)」キョロキョロ
――すれ違う絆。薄れゆく家族の想い。めくるめく世界のなかで、ただひとり夢を見る>
涙をたたえるその瞳に、睦月はなにをのぞむのか。――“華麗なるにゃしぃ”毎週金曜朝七時より!>
モッチー堂では、ドラマ“華麗なるにゃしぃ”の原作小説を10%引きでご提供しております!>
これを機に睦月ちゃんの織り成す世界に足を踏み入れてみてはいかがでしょうか!>
龍鳳「(…………あ、店内放送か……真上で響くからびっくりしちゃった)」
龍鳳「(ドラマなんてもう何日も見てないなぁ……。わたしの部屋にテレビなんてないし、パソコンにもワンセグ機能なんてついてないし……)」
また同時に、アニメ“孤島の姫”も応援しております!>
龍鳳「(ああこれは聞いたことあるかも。ラノベ原作でアニメ化したやつなんだっけ。シリアスっぽいからあんまり興味なかったけど…………って)」
龍鳳「(あったあった。やっぱり念のため店内端末で場所調べておいてよかったぁ。
あんまり探し回ってると店員さんに“なにをお求めですか?”って聞かれちゃうところだった。もーあれホント嫌で……)」
龍鳳「(端末使ってるときに後ろに並んでた人の視線もヤだったけど……店員さんと会話するよりはマシだよね。冷や汗すっごい出てくるし)」
龍鳳「(……お腹痛くなってきたし早く買って帰ろ。端末で見た表紙は――これかな。あとこれと、これと……)」
龍鳳「(う、ちょっと重いかも……たった数冊なのにどっしり感じるってどんだけ……)」
龍鳳「(あ、でもなんかこういうふうに参考書いっぱい持ってるのってなんか受験生っぽくていいカモ? なんかすっごい勉強できそうな感じ? んふふっ)」
龍鳳「(きょろきょろ)」
龍鳳「(……よし、誰もいない。目立ちやすい鏡の前に立つのは今しかない!)」
龍鳳「(鏡よ鏡よかがみさーん! どんなインテリジェンスを照らしだしてくれるのかなっ?)」
龍鳳「(ばちこーん!)」ウィンク
龍鳳「(ふーかでんっ!)」バチコーン
龍鳳「(ばれーいしお!)」クネッ
龍鳳「…………」
龍鳳「(……ちがった。ただのコミケ帰りのガリ勉中学生にしか見えなかった。もーサイアク……見なきゃよかった……めっちゃ恥ずかしい……)」
龍鳳「(バカなことやってる間に人増えてきたし……混む前にレジ済ませちゃおう。後ろに立たれると視線が気になるし……)」
龍鳳「(ああっ、しまった! さっき鏡見たときに髪整えておくべきだったかなぁ!? 見ておけばよかったー!!)」
「つぎのかたっどうぞォ~」
龍鳳「(見ようにももうレジ立ってるし手遅れだしぃー!!)」
「――お会計全部でこちらになりまっさァァァン」
龍鳳「……ぁ…………これで……」
「ウィ! お預かりしァッス!! それではこちらお釣りでございます。先に大きい方をお返しいたします」
龍鳳「…………ぁ……は、ぃ……」
「こちら細かい方お確かめください。それでは商品のほうお渡しいたします」
龍鳳「ぁ……ぁりがと、ござ……ま……」
「このたびはモッチー堂をご利用いただきまことにありがとうございました。またのご利用お待ちしております」
龍鳳「…………」ススッ
「…………それっさァ次のッたァどうぞォォォシャシャシャシャーイ!!」
「なんですかこの店員。すごくぶん殴りたいです」
「やーめーなーさーい。余計な面倒を起こすとお姉さまが悲しむよ」
「ウィッスアリシャスアンビシャス。それではブックカバーが四点と――」
龍鳳「…………」スタスタ
龍鳳「…………」タタタッ
龍鳳「(もー!)」
龍鳳「(もぉー!!)」
龍鳳「(声でないしー!! めっちゃ恥ずかしい! めっちゃ恥ずかしい!! すっごい掠れ声だったし!!)」
龍鳳「(へんな声の客がきたって覚えられてたらヤだなぁ……街の本屋さんだとここが一番使いやすいし……今度から遠くの本屋さん行くべきかなぁ……)」
龍鳳「……はぁっ…………はぁっ……」
龍鳳「(て、ていうか、勢いでお会計しちゃったけど……おかーさんが言ってたこと忘れてたっ)」
…… ……
「それじゃこれお金ね。たぶん半分くらい残るだろうから、残りはお小遣いとして自由に使っていいよ」
「でも無駄遣いはしないように。それと今日はお客さん来る予定あるから、出来るだけ早めに帰ってくるようにね」
「わかってると思うけど、お昼とはいっても街には危ない人たちがいっぱいいるんだから、寄り道しないように」
「それじゃ、あでゅー!」
…… ……
龍鳳「(…………お小遣い、かぁ)」チャリン
龍鳳「(わたしを積極的に外に出させるためか、定期的にもらってるけど……そういえばあんまり使ったことなかったな。
というより、そもそも外に出ることがあんまりないから使う機会がないっていうだけなんだけど)」
龍鳳「(お母さんにはいつも“なんでもいいから趣味を見つけろ”って言われてたんだっけ。でも、趣味かあ……そんなのいきなり言われても困るよね)」
龍鳳「(だってさ、こうやって見回してるだけでも……いっぱい本があって、たくさんの種類があって、色とりどりの内容があるわけで……)」
龍鳳「(スポーツ――はあんまりやる気にならないし、そもそもアウトドア的な趣味ってわたしに合ってない気がする。
かと言ってインドアかあ……アクアテラリウムとか? うーん、水族館とかキライじゃないけど、なんか違う気が……)」
龍鳳「(ネットサーフィンとかも趣味じゃなくてただの暇つぶしだし……)」
龍鳳「(立ち読みとか……大丈夫だよね? ほかにもやってる人いるし……わたしだけ肩ポンってされたりしないよね?)」
龍鳳「(だ、だいじょうぶかな……)」ソローリ
龍鳳「うーん…………)」パラパラ
龍鳳「(やっぱり、手に取って見てもしっくりこないなあ……屋内競技だとか、室内で出来るガーデニングだとか……。
それがダメだってワケじゃないんだけど、なんとなーくしっくりこないんだよねぇ……)」ペラペラ
龍鳳「(なんていうか、あくまでこれらは写真の向こうのものであって現実味を帯びてないというか……わたしに近しいものではないというのか……)」ペラペラ
龍鳳「…………うん」パタリ
龍鳳「(今すぐどうこうしなきゃいけないってワケじゃないし、また今度考えよう。趣味ってわざわざ見つけなきゃいけないものでもないだろうし)」
龍鳳「(お釣りは全部お母さんに返そう。……わたしが持ってても仕方ないものだしね)」
龍鳳「(てゆっか、いろいろ見て回ってるうちに混んできたし……ぽんぽんいたくなる前に早くかえろぉ……)」
龍鳳「(いまから帰るってお母さんにメールして――)」
どんっ! がちゃんっ……
龍鳳「あうっ……」ドテッ
「あっと……ごめんなさい」
龍鳳「……ぁ…………ぇ、と……」
「ええっと…………大丈夫ですか?」
龍鳳「ぃひゃっ……! す、すすすみませんすみません! だいじょっだいじょぶです! ホントにすみません!」
「お、おお……なにもそこまで謝らなくても……立てますか?」スッ
龍鳳「だだだだ大丈夫です立てます大丈夫です! それっそれじゃっ、失礼しましたっっ」バヒューン
「あっ……! 目ぇすら合わせてもらえないとは……俺、なにか変なことしたかな?」
「――ん? あれ、これ…………」
たたたたたっ
龍鳳「はっ――はっ――はっ――!」
龍鳳「(失敗した失敗した失敗した! 携帯電話ばっかり見てたから隣に人が立ってるのに気づかなかった!)」
龍鳳「(おまけにぶつかってコケちゃうとかどんだけダサいのさ! すっごい周りの人に注目されてたし! たぶんぶつかった相手も変な目して見てただろうし!)」
龍鳳「(“えぇ……勝手にぶつかってきて自分でコケてんのかよ。勘弁してくれよ”っていう想いが声色に出てたし!)」
龍鳳「(もお、これだから街はイヤなの! ぜったいおかしな風に笑われてるだろうし! 楽しいところなんてひとつもない!)」
龍鳳「(早く帰ろう! クラスの人に会っちゃう可能性だってあるんだし、誰かに見つかる前に帰らなきゃ!
駅まで駆けこんだら楽になる! 休日の昼間だって言っても、うちの方面に向かう電車に乗る人少ないし!)」
龍鳳「(切符は買ったしあとは改札を――)」
「…………お? あそこで走ってんのって」
「龍鳳じゃね? すっげ走ってっけどチョーウケる。ちょっと行ってみようよ」
「マーリンの髭だわマジ。――おーうい! そこのりゅーうほーうちゃーん!!」
龍鳳「――――ッ!!」
龍鳳「(こ、こ……この声って……もしかして……)」ピタッ
「あり? 聞こえてねえのかな」
「あんたマジウケる。ムシされてやんの~ざまあ味噌漬け~」
「めんごめんご。今度はちゃんとやるからさあ……ちょっと遊んでこーぜ」
「レッツらゴー!」
龍鳳「あ、あああ…………」
龍鳳「(やっぱりそうだ! 忘れもしない……忘れたいのに忘れられない……この脳を揺らすような声は……)」ガタガタ
「ンだよ聞こえてんじゃねえかよ、おい返事くらいしろや」
「もしかして無視してる系? あんた見ない間にずいぶん偉くなったもんだねぇ?」
「インド人もビックリマンだわマジ」
龍鳳「(わたしを虐めた……クラスメイト)」
龍鳳「(今日は二人しかいないみたいだけど……まさかこんなところで出くわすなんて……!)」
龍鳳「(わたしは逃げたはずなのに! それでもなんで……なんでこんな……っ)」
龍鳳「ぁ……や…………ちがっ……」
「なぁ~にが違ェよ。ウチらが呼んでんだからマジちょっぱやで来いやってカンジなんだけど」
「もしかしてウチらが寄ってくる前にドロンしようとしてたん? そりゃ~イカンよ困ったちゃんだなあ~」
龍鳳「ご、ごめ……な…………」
「あ? なに? 聞こえねンだけど」グイッ
「お口チャックしてねえでさあ~もっとハキハキ喋ってくれや~」ガシッ
龍鳳「あッ――! くる、し……っ」
「苦しかねーよ。むしろあんたがバックレるようになってからのウチらのほうが万倍苦しかったんだケド」
「あーそれな。ウチらマブダチなのにヒドくない? 遊び相手がいなくなってチョー寂しかったんだけど?」
「マジそれ。……てゆーかさ、ウチらに会ってなんか言うことないの?」
龍鳳「くっ……や、やめっ…………」
「ンなん聞いてねーよ。ウチらが言ってるのは」
「アイサツだよア・イ・サ・ツ! 道端でトモダチに会ったら挨拶すんのは基本だっろお~? 古事記にもそう書いてあっべ。なあ~?」
「モチのロンだわ。てめえみたいなオカチメンコは挨拶でもして愛嬌振りまかなきゃモテねーべ」
龍鳳「(道行く人たちはみんな、わたしたちの様子をちらっと遠巻きに見ているだけ)」
龍鳳「(明らかにわたしが因縁をつけられている状況なのに、誰も……だれも……)」ギュッ
「だからよ、ウチらがチョーイケイケな挨拶教えてやっから安心しろってえ~」
龍鳳「……な、なに…………?」
「プリーズアフターミー。“オッハー”」
「オッハーだろオッハー。挨拶っつったらマジコレしかねえから」
「それともなに? あんた挨拶って知らないの? マジ驚き桃の木山椒の木だわコレ」
「マヨチュッチュすんぞゴルァ」
龍鳳「……ぁ…………ぁはは」
「……なに笑ってんだよ。気持ち悪い愛想笑いしてんじゃねーよ」
「つか目が腐るからやめろ。てか挨拶はよ。大声でな」
龍鳳「ぅ……」
「あ?」
「はよ言えや」
龍鳳「…………ぉ、は…………」
「だから聞こえねっつってんだろ」ガッ
龍鳳「あぐっ……!」
「ンだその声。マジウケる」
「……あーわかった。なんだウチらが手伝ってやりゃいいのか。そりゃ悪いことしたね」
龍鳳「…………え?」
「あーなるなる。よおく考えてみたらウチらも挨拶してなかったもんね」
「めんごめんご。そんじゃさ、いちにのさんで一緒に挨拶しよう。やってみようそうしよう」
「イイネ! ……てめえさぁ、もしトゥギャザーしなかったら……ワカルよね?」
龍鳳「…………っ」ギュッ
「返事」
龍鳳「……わ、か…………った……」
「わかりました、だろスカポンタン」
「まあそれくらいならチョンマゲしなくても許してやんよ。それじゃいくよ~!」
龍鳳「っ!」
「はい! いーちにーの!」
「さーん!」
龍鳳「…………ぉ、っはー…………」
「…………」
「…………」
龍鳳「…………っ」
「え、なに? くふっ、コイツマジで言ってやがんの?」
「くひひひひひっ!! こいつ真に受けてるし! こんな駅前でおっはーとか正気の沙汰じゃないんだけど!」
「エヒャッヒヒヒヒヒッ! マジダッサ! てかキッショ! 挨拶とかうっそぴょーん!!」
龍鳳「…………」フルフル
「はーやっぱコイツ頭おかしいわ。マジクソウケる」
「あ、そだ! そおんなゾウが踏んでも壊れない精神力の龍鳳ちゃんにさ~、チョーオススメの遊び場があんだケド」
「ウチらがいまから行こーと思ってたトコなんだケドさ、特別に連れてってやんよ」
「その勇気に免じてな!」
龍鳳「…………ぁ、ぇ……?」
「ま、ちょーっとばっかオトコの人が多かったりすっけど……あんたならカンケーないよね」
龍鳳「え、え、え…………?」
「ほら、さっさ行くよ」
「はじめはちょーっとばっかイタいかもしんねっけど、後々クセになっから」ガシッ
龍鳳「ぁ…………やだ、離してっ」
「ひっでえな。ウチら親友じゃん? いいから来いよめんどくせぇな!」
「そんじゃ新規一名様ごあんなーい!」
龍鳳「や――っ」
龍鳳「(だれか…………だれかっ!)」ギュッ
龍鳳「(助けを求めて天へ祈るも、その声は届かないと“解って”いる。こういった場において、女性の声が強い時代だから。
義侠心を働かせて割って入っても、女性が痴漢扱いすればそれに決まる。どれだけ明らかなものでもそうなってしまう)」
龍鳳「(だから、こうしてわたしが助けを希っていても。みんながみんな、遠目に眺めているだけで)」
龍鳳「(わたしには、誰も救いを与えず)」
龍鳳「(また誰も寄り添ってくれず)」
龍鳳「(誰も――わたしが差し伸べた手を握ってくれないんだ)」
龍鳳「(そうしてわたしは、脇を固める彼女らの“手”によって、くらいくらいところへ追い落とされていくんだ)」
龍鳳「(わかってる……わかってるけれどっ)」
龍鳳「(わたしは、これ以上堕ちたくない――堕ちたくないんだ!)」
龍鳳「(だれか――――!)」
提督「おーいたいた! なんかやたらとデカい声すっからなんだと思ったらここだったのか!」
龍鳳「――――ぁ」
提督「いやあ探したんだぜ。あっちこっちの停留所から君くらいの子が出入りするお店から色んなところまで行ったんだからな!」
龍鳳「(…………きこえた)」
提督「その先で知り合いとばったり出くわしたりして……ああ思い出したくない……」
龍鳳「(たしかに、きこえた)」
龍鳳「ぁ…………ぇ、と」
提督「…………あーっと、お取込み中でしたか?」
「…………なぁにおにーさん。ウチらになんか用~?」
「ウチらいまこの子と遊びに行くところでさぁ、用事ならあとにしてくんない?」
提督「ああ、そうなんですか? それはたいへん失礼いたしまして。…………ところで、えーっと……そこの君」
龍鳳「ぁ…………はぃ」
提督「ずいぶんタイプが違うみたいだけれど……両脇を固めているそちらのお二方は、君のご友人ということ相違ないかな?」
「だからさっきも言ったっしょ。ウチら友達だから」
「てめえもなに震えてんだよバーカ」ガシッ
龍鳳「…………ぁ……っ」
龍鳳「(わたしに差し込む光。閉じきった、くらいくらい世界にヒビが入った)」
「…………なに黙ってんだよ。なんか言えよ」
「ごめんねおにーさーん。この子ちょっと緊張しちゃってるみたいでさぁ」
「せやな。悪いけどナンパならまた今度にしてくんない? この子ちょっと休ませてあげたいからさ~」
「あ、なんならお兄さんも来るぅ? お兄さんイケイケだしさぁ、イイ思いはできると思うケドぉ~?」
「龍鳳ちゃ~んもそれでいいよねぇ~?」
提督「…………」チラッ
龍鳳「ぁ、ぁ…………っ」
龍鳳「(流されるな。ここで流されたら、またいつもの淀みのなかだ。時間が止まっていて……世界が濁っていて……つらくて……息苦しくて……)」
龍鳳「(この世界から抜け出したい。たったひとつの蜘蛛の糸にも縋りたい。だけど、だけど――)」
「おまえ……“わかってる”よな?」
「ウェヒヒッ」
龍鳳「(――“わかってる”……目の前の男の人は、あくまで一時的な救済。ずうっと傍に立ってくれるわけではない)」
龍鳳「(けれど隣の彼女たちは、少なくともあと一年から二年は付け回してくるだろう。
一時的な平穏を求めるばかりに、これから何年もの生活を棒に振るわけにはいかない)」
龍鳳「(…………たとえもう通っていなくとも。わたしはあそこの生徒であって、彼女たちは同級生なのだ)」
龍鳳「(だからこそ“解って”いる。ここでわたしの口から救いを求めることは、それは即ち彼女たちへの明確な背信行為となるのだ)」
龍鳳「(もし仮にここで彼に縋り付いたとして、彼女たちは矛を収めてくれるだろうか。
――答えは否だろう。彼女たちに背を向ければ、すぐさま刃で貫いてくる。彼女たちはそういう人間なんだ)」
龍鳳「(いまはまだ、街で会うたびに嫌がらせを受けるだけだが――最悪、家を特定され、その攻撃は家族にまで及ぶかもしれない)」
龍鳳「(あのお母さんなら、嫌がらせを受けたらすぐさま被害届を出し事なきを得るだろうが……。
もし万が一、嫌がらせの範疇を超えた行為に及び始めたら? そしてその魔の手が、お母さんにまで伸ばされたとしたら?)」
龍鳳「(わたしが学校に通っていたときは、中学生らしく細々とした嫌がらせだったが……。つい先ほどの様子だと、ついにそこを振り切ってしまったみたいだし。生易しいもので済まされない可能性も大いにある)」
龍鳳「(…………一度考えてしまうと、それは蛇の毒のようにわたしを縛る。じわじわと、指先から腐るように色が落ちてゆき、毛先の一つまで呪い尽くされてしまう)」
「そーそー、そういうんはチョベリグだわ」
「バッチグ~だわマジ。エドはるみエドはるみ」
龍鳳「(牙をもたげる幼き悪魔たち。わたしはその笑顔を……今後数年間に及んで見続けなければならないのか? 逃げ続けなければならないのか?)」
龍鳳「(そんなの――ヤだ。ヤなんだったら……ヤなんだよぉ……っ)」
提督「――なるほど。ちょっと失礼」グイッ
龍鳳「あっ――」ポフン
龍鳳「(常闇の森で迷い続けるわたしの腕を掴んで、力任せに引き寄せる――視界いっぱいの彼)」
龍鳳「(抱き寄せられた混乱でもなく、救い出された安心でもなく、ただわたしを包んでいたものは――)」
龍鳳「(…………あったかい)」
龍鳳「(なぜか、それだけが胸を占めていた)」
「ちょっ」
「なにしてっだよ!」
提督「や。俺はこの子のお連れ様だからさ、返してもらおうと思って。同じ友達なら先着順だろ?」
「は?」
「ちょーっとわけわかめなんだけど」
提督「つーわけでちょっと借りていきますんで。それではー」グイ
龍鳳「……ぁ…………あれぇ~?」ズルズル
「あっ…………おい、ちょ待てよ!」
「ちっ…………HERO気取りやがって」
龍鳳「(引きずられながらも、わたしは)」
龍鳳「(うっそうと生い茂り、わたしを阻んでいた木々が拓かれ)」
龍鳳「(わたしを縛っていたツタが、引きちぎれていく音を聴いた気がしたんだ)」
――――
――
龍鳳「(不肖わたくしこと龍鳳は、改札をくぐり、駅構内を練り歩くこと数分)」
龍鳳「(売店のオバちゃんや、休日出勤のサラリーマンたちからの奇異の目を集めながら引きずられております)」
龍鳳「(腕(かいな)に抱かれること僅か数秒。得られた温もりも些か寂しく、いまは仲良く手と手を繋いで――引きずられております)」
龍鳳「(どなどな~)」
龍鳳「(というかなんなのこの人。わたし知り合いだったっけ? なんでこんなズルズル行くわけ?
あの人たちから救い出してくれたもんだから、一瞬は良い人かと思ったけど……もしかして誘拐犯!? それはまっこと不愉快ゆーか違反といいますか!)」
龍鳳「(歳は――見たところわたしのちょっと上。背丈に限ればもっと上。腕力まで至れば天井破りの型破り。
引きこもりのわたしに解くことなど出来やしませんや。というかそんなにゴツくもないのになんでこんなに……)」
龍鳳「(こうして引きずられている間にも、わたしを運ぶはずだった電車が過ぎ去っていく。時間を残して去って往く。嗚呼、世はかくも無情なり――)」
提督「…………ふうっ」
龍鳳「(遠い目をしたわたしを牽引する彼は、周囲を見回して一息ついた)」
龍鳳「(足を止め振り返り、わたしが無事追従してきていることを確認し、ゆっくりと手を離す彼)」
龍鳳「(…………とりあえず、気づかれないように拭いておこう。わたし手汗すごかったし、不快な想いをさせてなければいいんだけど……)」
龍鳳「(そわそわするわたしを目の前に、対話のときは来る――)」
提督「…………ここまで来れば問題なしかな。悪いね君、いきなり引っ張ったりしてさ」
龍鳳「ぁ…………ぇ、とっ……」
提督「あんな駅前で騒ぐなんてなあ。ちょっとした注目の的になってたぞ? ……念のため聞いておくけど、さっきの二人は本当に友達か?」
龍鳳「(なにが念のためなんだろうか。目の前に立つ彼は訊ねた)」
龍鳳「(……あんな、あんな人たちが、わたしの友達であるはずがないし、あってたまるわけもない。彼女らが友達かどうかなどと、訊かれるだけでもおぞましい)」
龍鳳「や…………ちがう、ます……」フルフル
龍鳳「(しかしわたしの口から飛び出すものは、掠れた気配の青息吐息も虫の息。…………引きこもるようになってからか、然るべく退化した声帯が今日ほど恨めしいことはない)」
龍鳳「(普通の人なら聞き返してくるような声量だったが、目の前の男には届いたようだ。安堵の笑みを浮かべて頷く彼)」
提督「そっか、余計なお節介だったかと思ってヒヤヒヤしたぜ」
龍鳳「お、おせ、っか…………?」
提督「おう。だってよー、もし君があれらと友達だったらよー、俺がまるで誘拐犯みたいな扱いになるじゃんよー」
提督「もし本当に友達だったらさ、あの二人が攫われた君を追ってこっちにやってくるわけじゃん? そんでちょっとした騒ぎになるじゃん?」
提督「そしたら駅近の交番から警察官が派出されてくるワケよ。そったら無事事情聴取じゃん? 最悪略取扱いされるじゃん? 俺もめでたく前歴持ちですわ」
提督「いちおう君が切符持ってるのを見たから、君がこれから電車に乗るところなのはわかったんだけどね。
あの子たちは切符持ってなかったから降りた直後なのか、それとも切符を買っていないのかはわからなかったし……」
提督「だからどうしても友達かどうかの判別がつけづらくてね。
君はさっき街で見かけたし、今から乗るところだろうっていう確信を得たから、とりあえずこうして駅まで連れ込んだんだけど」
龍鳳「(安心を得たからか、次から次へと飛び出す軽口。見た目に反してずいぶんと軽快なようだ)」
龍鳳「(しかし、人に慣れていないわたしからすれば弾丸マシンガン。受け止めることも難く、ただただ流されるがまま)」
龍鳳「あ、あの…………ぇ、と…………」
提督「そもそもあの子らも肝っ玉座りすぎな。近くに交番あるってトコで絡むとか正気の沙汰かって」
提督「俺が割って入らずとも警察官が駆けつけてきたとは思うんだけどな。何人かこっち見ながら電話してる人いたし」
龍鳳「(…………そうだったのか)」
龍鳳「(いや、何者かが通報してくれようとしていたことではなく、交番が近いということに対して、だ。
いままでも何度かあの場所で彼女たちに出くわしたことがあるが、一度として公僕が駆けつけてくれたことはなかった)」
龍鳳「(きょう、目の前の彼が、わたしに初めて声をかけてくれた)」
龍鳳「(もちろん、わたしの身を案じて通報してくれることは凄く嬉しい。……だけど今日のように、どこかへ連れ去られそうになってからでは遅いのだ)」
龍鳳「(たとえ警察官とて、被害者が消えた現場では意味がない。連れ去る側も万が一通報されたことを考えた退路をとっているだろうし)」
龍鳳「(……もし、もしも、もしも今日。目の前の彼が現れず、あのまま連れ去られていたら…………)」
龍鳳「…………ぐすっ」
龍鳳「(わたしの身体に、消えない傷跡が残されていたことだろう。“それ”を考えると、自然と涙が――)」
提督「わ、あ……っと安心しろ! 俺はべつに君のことを取って食おうとしているわけじゃないから!」
龍鳳「(わたしの目尻に光るものを見て取ったのか、いきなり慌てふためく彼。どうやらなにか勘違いをしているらしい)」
提督「ああ、くそっ……これがあいつらなら撫でて一発なんだが、そうもいかんし……」ゴソゴソ
提督「と、とりあえずだな。これっ」
龍鳳「(視線を斜め下に投げながら突き出したその手には――)」
龍鳳「…………け、けーたい…………?」
龍鳳「(どこかで見たような装飾の携帯電話が乗っていた。……というか、これって)」
龍鳳「わ、わたしの、です、か……?」
龍鳳「(ポケットをまさぐるも――たしかに感触が無い。え? じゃあこの人が持ってるのが――えっ)」
提督「君は覚えてるかどうかわからないけど、君たしかモッチー堂で立ち読みしてた子でしょ。そんときに落としたんだよ」
龍鳳「モッチー堂…………? ――あっ!」
…… ……
龍鳳「(いまから帰るってお母さんにメールして――)」
どんっ! がちゃんっ……
龍鳳「あうっ……」ドタッ
「あっと……ごめんなさい」
…… ……
龍鳳「(あのときかー!!)」
提督「あ、気づいた? あのときはごめんね、俺もちょっと探し物があったから周りが見えてなくて……とりあえず、これ」スッ
龍鳳「あ、えとっ! …………ありがと、ございます」キュッ
提督「ん。君もケータイも何事もなく……ってワケじゃないけど、無事でよかった」
龍鳳「ぁ――えとっお礼とかっ」
提督「いーよいーよ気にしなくて。むしろ……年下? にたかるのも情けない話だしさ、受け取るわけにはいかない。
お互い大人くらいの歳なら年下とか年上とか気にしないで受け取ってたんだけどね。君くらいの子はお礼とか考えなくていいんだよ」
提督「それにさー、あんだけ揉めてるときにケータイだけ渡して帰るのもなんかなって感じだろ?」
龍鳳「(え、え、え…………?)」
提督「そんじゃ俺も電車乗って帰るから。――あ、そうそう、今度は変な人に絡まれたら大声で呼ぶのが良いと思うぞ。
俺が近くにいれば助けるし、そうじゃなくても、普段傍観している人も大声で叫ばれたら放っておくわけにもいかないからね」
龍鳳「(ちょ……ちょっと待って。ってことは……この人、もしかして)」
龍鳳「あ、あのっ!」
提督「ん」
龍鳳「(思わず発してしまった声の大きさに、誰より自分自身が一番驚いた。……わたし、こんな大きな声出るんだ)」
龍鳳「あの、えとっ……それじゃ、あの、あなたは」
龍鳳「こんな、ケータイひとつを渡すためだけに……わたしを助けてくれたんですか」
龍鳳「(…………なに言ってんだろう。そんなこと、普通あるはずないのに)」
龍鳳「(わたしに絡んでいた相手が、いくらわたしと同じ年の子だからといって、問題になればそこだけでは収まりきらない可能性だってでてくる)」
龍鳳「(強きを挫き弱きを助ける――言葉だけでは簡単だけれど、実際は色々なものが絡まっている。
強きものは強い背景があるからこそ強い。だが逆に、弱きものはなにもないから弱いのだ)」
龍鳳「(あの場でわたしを助けたことは、少なくとも彼女たちには快く思われない行為であって――)」
龍鳳「(いつかそこからか、他の問題に発展していく可能性だってある。たとえば……彼女たちが仲良くしている、年上の不良集団だ、とか)」
龍鳳「(彼女たちと同じく、非常に気性の荒い軍団だと聞いている。もちろん目の前の彼はそのようなことは露ほども知らないだろうけど……。
でも、ああして駅前で堂々と絡むくらいだ。なにかしらが裏についている可能性は否定できない。報復だってあるかもしれない)」
龍鳳「(まさか、まさかそれらをすべて無視して、わたしのことを…………?)」
提督「そのためだけに助けた――っていうのは、まあ、なんというか……すこし違うかな」
龍鳳「え…………?」
提督「なんというかな……あのとき、君の心に抗おうとする意志が見えたんだ。
目の前の彼女たちもそうだし、もっとほかのなにか――たとえば現況だとか。それらに対して抵抗するものが見えた」
提督「苦境のなかでも挫けないそれは、物凄く高貴なもの。それが君の心の奥底に見えたから、かな」
龍鳳「…………?」
龍鳳「(なにを、言って)」
提督「…………ま、気にしなくていいさ。平たく言えばそうだな……“伸ばされた手があれば掴む”、ただそれだけのことかな」
提督「まあ……極悪人でなければだけどな」
龍鳳「――――」
提督「……というかあれで助けたつもりなんてないけどな。余計なお節介焼いただけだし、そんな助けるだなん畏まられると変な感じだ」
龍鳳「(ああ)」
提督「あんな場所で陣取られると迷惑だし、あそこだけちょっと浮いてたしな。厄介ごとになるのは向こうだって――」
龍鳳「(ああ……)」
龍鳳「…………あのっ、変な……変なこと、言いますけど…………聞いてくれますか」
提督「ん?」
龍鳳「(テレビやアニメで聞くような、安っぽいセリフだったけれど)」
龍鳳「すー…………はーっ…………」
龍鳳「(彼の言葉は、不思議と澄み渡っていった)」
龍鳳「もしそのっ……仮にまた、わたしがあなたに対して手を伸ばしたら……あなたは、わたしを……助けてくれますか――」
龍鳳「(その問いかけは、熱で溶かされた鉄のようで)」
提督「ん。さっきも言ったろ」
龍鳳「(わたしの心を、掴んで離さない)」
提督「呼んでくれたらいつでも駆けつける。そんで手助けする。君の思うようにな」
龍鳳「(この人はなんて眩しいんだろう)」
提督「なーんて……ちょっとカッコつけすぎかな? やべ、猛烈に恥ずかしくなってきたんだけど」
龍鳳「(こんな人が、こんなわたしを一度でも助けてくれたことが。助けてくれると言ってくれたことが)」
提督「……お、おいおい、黙ってないでなんか言ってくれよっ」
龍鳳「(とてもうれしい)」
龍鳳「(こんなどうしようもないわたしでも……こういう人と関わってていいんだ)」
龍鳳「(わたしは、すべての人と関わってはいけないくらい、ダメな人間だと思っていたから――)」
提督「あ……おい、どうしたっ」
龍鳳「(その答えはまるで、わたしはおかしくないんだと、ひとりの人間なんだと、そう認めてくれたみたいで――)」
龍鳳「ぁ…………う…………」ツツー
龍鳳「(――とても、とても、あたたかかった)」
提督「おい、俺なんか悪いこと言ったか!? そんな泣かせるようなこと言ったか!?」
龍鳳「(わたしの異変に、思わず慌てふためく彼。…………ふふ、おかしいよね)」
龍鳳「(だって……あなたはただ、手を引いてくれただけだもの)」
龍鳳「(いじめが解消されたわけでもないし、あの子たちと和解したわけでもない)」
龍鳳「(それでもなんだか……うれしかったんだ)」
龍鳳「す、すみませっ……なんかっ、なんか安心しちゃって…………っ」
提督「あ…………そうだよな。どこかへ連れ去られそうな雰囲気だったもんな」
龍鳳「ふ、ふふっ……きに、気にしないでください。よくある……よくあることですからっ」
提督「…………よくある? すまん、ちょっとその辺りの話を――」
「あー、きみたち、ちょっと良いかな」
龍鳳「(ぐしぐし)」
提督「…………はい?」
「先ほど駅前のほうから通報を受けましてねえ。なにやら“高校生ぐらいの男が中学生くらいの女の子を駅に連れ込んだ”――とね」
龍鳳「えっ……?」
提督「」
「ああごめんね、これ見せてなかったね」
提督「けい…………さつかん……?」
警察官「さっき見たって言う人がいるんだよねえ。きみがその子を無理やり駅内に連れ込む姿」
提督「えっ…………ちょっ待っ」
警察官「ああ大丈夫、ちょっと事情を伺うだけだからねー。交番まで来てもらわなくても結構だから」
警察官「ああでも、こんな場所だと人の迷惑になるから場所変えようね。……逃げてもいいけど、そのときは地獄の淵まで追い詰めるからねー」
提督「ちがっ……違うんです! 俺はただ、この子を助けただけで……」
警察官「助けた? この子泣いてるけど? ……もしかして、カルト的な用語でいうところの“助けた”かな? この世に魂を縛り付ける肉体からのカタルシスみたいな?」
警察官「いかんなあ。そういうエクトプラズム、本官は非常に興味があるよ」
提督「や、違くて――」
警察官「おっと抵抗すればどうなるかわかるね? 任意同行とはいえ抵抗の姿勢を見せた瞬間、本官のカタパルトタートルで交番にダストシュートしちゃうからねえ」
提督「そういうんじゃ……ああもう! 君からもなにか言ってやってくれっ」
龍鳳「う、あぅ……ぇと、えとっ…………」
警察官「おーっと、さすがに本官の目の前で脅しをかけるのは見逃せんなあ。とりあえず駅前の噴水まで移動ね。
ああ、とりあえずご家族の方にも連絡を取りたいから、お名前と住所、電話番号もお願いね」
提督「…………ちなみにこれ補導歴つきます?」
警察官「ああ、ハタチになったら消えるから安心してねー」
提督「…………つくのかー」
警察官「とりあえず確保。それじゃ出発連行~」ガシッ
提督「どなどな~…………」
龍鳳「(わたわた)」
――――
――
ばたんっ ぶろろろろろろろろろろん
「…………で、なにかわたしに言うことは?」
提督「ずびばぜんでした」
龍鳳「(あたふた)」
「たいへんお騒がせして、ね。……警察官のかたからお電話いただいたときは何事かと思ったんだから」
「“おたくの娘さんが怪しげな男に絡まれているところを保護しました”なーんて言われたもんだから血相変えて飛び出してきちゃったわよ」
提督「あい…………」
「そんで車飛ばして噴水前着いたら見覚えのある顔が並んでるでしょ? そんで警察官の隣に立ってた人がいきなりわたしに頭下げるでしょ?
“この度は、こちらの者がご迷惑をおかけしてまことに申し訳ありませんでした!”って。頭上げてもらったら見覚えのあるメガ――霧ちゃんがいるでしょ?」
提督「あい…………」
「はじめはわたしも霧ちゃんもさ、あんたがウチの子に粉ふっかけたのかと思って構えてたんだけどね。詳しく話を聞いてみるとどうやら違ったみたいだし」
提督「あい…………」
「そんであんた大丈夫だったの? 霧ちゃんに蹴られてゴムボールみたいに跳ねてたけど」
提督「あい」
「だいぶだいじょばないわね」
提督「あいお」
「先生は大丈夫です!」
提督「は?」
「あ?」
提督「超えちゃいけないライン考えろよババア」
「よくぞ言った小僧。稽古をつけてやろう」
龍鳳「(いまはお母さんの車のなか。わたしとお母さんと、あとは件の彼で三人)」
龍鳳「(お巡りさんに連れられて噴水前に立つこと数分。お説教を聞きながら待っていると、メガネをかけた綺麗な女の人が駆け寄ってきた)」
龍鳳「(はじめはお姉さんか誰かかな、と思ったけど違ったみたい。話してる感じだと彼と同い年というか、少なくとも同世代くらいの印象を受けた。あれ? でもご家族のかたって……?)」
龍鳳「(駆け寄ってきて、まずは警察官のかたに頭を下げた。どうにも手慣れた様子で、警察官の人ともお知り合いだったみたい)」
龍鳳「(次にわたしに向かって頭を下げた。わたしは頭を下げられるようなことはされていなかったからついついテンパっちゃった)」
龍鳳「(彼になにをされたのか。彼になにを言われたのか。色々聞かれたことは覚えているけれど、わたしの頭はぐるぐるしていてどう返事をしたかは覚えていない)」
龍鳳「(そしてわたしの話を聞き終えた彼女は、レンズを光らせて彼へと向き直った。彼もなにやら弁解していたが、聞き届けられることもなく吹き飛ばされていた)」
龍鳳「(というか、人間ってあれだけ吹っ飛ぶんだなって思った。ゲームとかアニメだとよくあるけど直に見たのは初めてだった。着弾エフェクトみたいなのも出てたし)」
「どうしたジャパニーズ。この程度でジ・エンドか」
提督「ガッデム! ちゃんと前見て運転してください! うおおおおおおおん!!」
龍鳳「(慌てて介抱したけれど、彼も彼でケガ一つなくて驚いた。蹴鞠みたいになっていたのに身体はまさに平安そのもの)」
龍鳳「(そしてメガネの君が警察官のかたから事情を伺っている間に、見慣れたナンバーの車が不機嫌な様子で駅前に駐車したのが見えた)」
龍鳳「(そこから飛び出してきたお母さんは噴水前でじゃれるわたしたちを見て、一目散に走り寄ってきた。
わたしも驚いちゃった。“どちらですか。わたしの娘に不埒な行いをした者は”って、血相変えて言うもんだからさ)」
龍鳳「(いつもあれこれ小言ばっかりうるさいお母さんだけど、あれだけ真剣になって言ってるのは初めて見たから……)」
龍鳳「(そしてわたしが抱えてる彼の顔を見て――きりりと引き締まった表情が一気にだるんだるんに変わった。簡潔に言うと、ものすごく面倒臭そうな顔になった)」
龍鳳「(諦め顔で警察官のほうから一言二言聞き取ると、頭を抱えてため息を吐いていた。
この様子と、彼やメガネの美人さんに対しての態度から見るに、お母さんと彼らは知り合い以上関係にあるということがわかった)」
龍鳳「(警察官のかたに何度も何度もお辞儀を繰り返しながら、わたしたちは車の方向へと誘導される。どうやら無事に解決したらしい)」
龍鳳「(メガネの人はなんだか“お姉さまが待っているから”って言って街の方へと戻っていった。けっきょくあの人は誰だったんだろう……)」
龍鳳「(面倒事は起こさないように……と、去り際に釘を刺されていた彼と共に、お母さんが運転する車へと乗り込んで――いまにいたる)」
龍鳳「(というか危ないから暴れないでー!!)」
「…………んまぁ、とりあえずあんたには礼を言っておくわ。この子が危なかったところを助けてくれたんでしょ? ありがとね」
提督「まあ……通りすがりですよ」
「この子もわりかし危なっかしいところがあってねぇ。大丈夫だろうと思ってたんだけど……迂闊だったわ」
龍鳳「むぅ」
提督「あ、それなんですけどね…………あー」チラッ
龍鳳「(…………う?)」
「どしたの?」
提督「や、なんでもないです。それよりも……せっかくなんで今日はこのままお邪魔しても良いですか? こっちの用事も済みましたんで」
龍鳳「(えっ?)」
「ああそうねぇ……こっちも準備は済ませてあるし……ちょっと早いけどいいわよ。それじゃこのままおうちへご案内~」
提督「いえーい」
龍鳳「ぁ、ぅ、ぇ、えっと……」
提督「ん?」
龍鳳「あのっ! えとっ……どういう……?」
提督「あ、聞いてなかった? 実は俺ね、君のお母さんの担当するクラスの生徒なんだ。俺からすれば担任の教師、つまりは先生でね」
提督「生徒は生徒らしく、先生と一緒に進路相談とか勉強会やらいろいろやってもらってんだ。
今日は週末だからーってことで先生も休みだし、せっかくだしこの機会にじっくり話し込んでおこうかなって」
龍鳳「そ、なんですか」
提督「そ。いつもは放課後とか昼休みの空いた時間にちょちょいっと話すだけなんだけどね。今日は先生がうるさくって」
先生「さすがに君の関係に進む子は過去にもいなかったからねぇ。そっちの方面に進む子は何人かはいたみたいだけど、その上ともなるとわたしもどうしていいかわからないし」
提督「そんな言うほどだと思いますけどねぇ。まだ一年なのに気が早いというか……」
先生「あんたは甘く見過ぎなの。ちゃんとお話して今後の指導の方向性とかも決めていかなくっちゃね」
龍鳳「…………う?」
先生「というか龍鳳……あんたやーっぱり聞いてなかったのね。言ってたでしょ? “今日はお客さんくるから”ってさ」
龍鳳「…………? ――あっ」
先生「ようやく思い出しましたか? まったく……ねえ提督くんさあ、どう思う?」ニヤ
提督「ん、なんですか?」
先生「この子ねぇ、いーっつも昼過ぎぐらいまでぐでーっと寝てんのよ」
龍鳳「ちょっ」
提督「ほお」
先生「そんで服は脱ぎっ散らかしで掃除はしない、整理整頓なんかもぜんぜんしなくて――」
龍鳳「わー!! わーっ!!!」
先生「なに龍鳳」
龍鳳「もーおかーさん!! そんなの言わなくてもいいでしょ!!!」
先生「そんでコレよ。まったく……」
提督「ははは……まあ、なんというか元気があっていいじゃないですか」
先生「そうなんだけどね。この子寝るときとか服脱ぎ捨てて寝るもんだからもー服がしわくちゃに――」
龍鳳「おかあさんっ!!!」カアッ
ききーっ
先生「はいはい、そんな怒ることないでしょうが…………さ、着きましたよ。我が家へようこそ、歓迎はしませんがお茶くらいは出しますよ」
提督「そこは歓迎してくださいよ。…………お邪魔します」
先生「はいどーぞ。足元にお気をつけくださいね。龍鳳も手洗いうがいはきちんとするのよ~」
龍鳳「わかってますっ!!」タタタッ
提督「…………元気な子ですね。はじめに見たときはずいぶん縮こまってましたが」
先生「人見知りするからねえ。いろいろあったし……ま、とりあえず入りましょう」
提督「うい」
提督「ここがあのババアのハウスね」
先生「ぶち転がされたくなければ黙って適当なところにかけてください」
提督「あ、はい。失礼します」
先生「よろしい。……それじゃわたしは冷たいお茶を持ってきますから、適当にくつろいでくださいね。龍鳳はもうお部屋のほう戻ってても大丈夫――」
龍鳳「あっ、わたしっ! わたしお茶持ってくるからっ、お母さんはそのっ……そのままっ!」タタタッ
ばたんっ
提督「…………らしいですよ?」
先生「……ああして自発的に手伝ってくれることなんてなかったのにねえ……どういう風の吹き回しかしら」
提督「まあまあ、せっかくお子さんが腰をあげてくれたんですからご厚意に甘えましょう。…………それでは早速ですけど、先日の続きからで良いですか?」
先生「ええ、そうしましょうか。その件に関してはわたしのほうで資料を集めてみたんだけれど――」
龍鳳「えと、おちゃ、おちゃっ! 冷たいの……でいいんだっけ。コップ! コップどこだっけ!」ガサガサ
龍鳳「お菓子とかいるかな……あ、でもそういうのはお母さんが準備してたんだっけっ」
龍鳳「あ、せっかくだし鏡――うん、ばっちし! ……後ろのほうとかはねてないかな、大丈夫かな」
龍鳳「(しばらく見てない間にずいぶん様変わりしていた台所を駆けずり回る。ちんまりわちゃわちゃと)」
龍鳳「(なんとなくあのまま自室に戻るのは憚られたし、かといってお母さんがお茶用意してる間二人っきりっていうのも……なんだか、手持ちぶたさんな気がして)」
龍鳳「(………………)」
龍鳳「(あ、あれ? 手持ち無沙汰、だよね。頭のなかでなにかが……ひとつなぎの財宝――うっ頭が)」
龍鳳「お盆は……あったけど、なんかヌメヌメするぅ! なにこの――くさい! ていうかなんでわたし匂い嗅いだのさ!!」ベシーン
龍鳳「ああっ! セルフツッコミで……と、とりあえずこのお盆はダメ。わたしが気持ち悪いからっ」
龍鳳「もうこのさい直接手で運んじゃうのも――あれ?」ハッ
おぼ~ん>
龍鳳「あるじゃん!!!」
龍鳳「(ここだけ切り取ればずいぶん奉仕的な活動に見えるけれど、決して浮ついた感情がわたしの内にあるわけではない)」
龍鳳「(彼はお礼など要らないと言ったが、わたしとしてはそうはいかない。どんな形であれ、恩を返すというその行動が肝要だから)」
龍鳳「(…………なんとなく思ったんだ。彼とは会って一刻ほども経っていないが、お母さんと……たまにわたしと。話している彼を見ていて、その人となりがわかってきた)」
龍鳳「(明るい場所に立つ――いや、おそらく彼そのものが光を発しているんだろう。他人と触れ合うのが苦手なわたしでも、その屈託のない笑みを向けられると絆されてしまうほどに)」
龍鳳「(短い時間だったけど、それだけでわたしの対極に立っている人間だとわかった。周りにいる人々すべてを優しい光で包み込む、そういったあたたかさを感じた)」
龍鳳「(光に照らされると同時に――やはり、わたしがいま、どんな暗い闇につつまれているかを再認識させられた)」
龍鳳「(人が怖い。ギラついた目が怖い。歪んだ口元が怖い。嘲り罵るその声が怖い。その奥底で蠢く悪魔のような魂が恐ろしい――)」
龍鳳「(おそらくほとんどはわたしの思い込みなんだろう。悪意を振りまく人間なんてほんの少ししかいなくて、ほとんどの人は他人に興味がないってことは知ってる)」
龍鳳「(だけどわたしは、双眸を向けられるたびに思うんだ。この人はわたしを悪しと思っているんじゃないか、不愉快にさせてしまったんじゃないか――)」
龍鳳「まあ……いいや……とりあえずこれに乗せよう。…………でも、また入るの気まずいなぁ」
龍鳳「部屋の前に置いとくのは……だめだよね……」ガックリ
龍鳳「(いつの間にか、いじめっ子のあの子たち以外の人まで怖くなってしまった。街中なんて針のむしろになっているようなものだ。ひとときも心休まるときがない)」
龍鳳「(…………眩しい彼は、おそらくこういった被害妄想なんかは抱かないんだろう。毎日を楽しく過ごしていて、幸せのなかで生きているんだろう)」
龍鳳「(彼とわたしは違う。…………だって)」
龍鳳「わたしは、たぶん――あんな風には、わらえないから」
龍鳳「だから、だから早く負い目をなくして、おさらばしてやるんだ」
龍鳳「(助けてくれたことは感謝しているし、木漏れ日のようなあたたかさをくれたことにも感謝している)」
龍鳳「(だけど、わたしみたいな人間は、彼のような人間のそばにいてはいけないから)」
龍鳳「(グズでノロマなわたしに足をとられて、もつれあって崩れてしまう。わたしはそんな足手まといにはなりたくない)」
龍鳳「――よしっ、覚悟決めた! い、い、いいい、いきますよぉ~…………」ソローリ
龍鳳「(だから、さっさと恩を返して終わりにしよう)」
龍鳳「ししししっ! しつれいしまひゃあああ~っ!!」
うおおっ!? なんだなんだ!?>
あんたどっから声出してんの!?>
――――
――
かち こち かち こち
龍鳳「…………う、わ…………」
龍鳳「なんだか見返してるだけで顔が熱く……。……このころのわたしって、変に諦めちゃってたんだよね」ペラ
龍鳳「というか出来る限りのことを書いてたはずだけど、ところどころ書いてない出来事とかあるし……」ペラリ
龍鳳「…………と、それはそうか。だってこのころは……あんまりすきじゃなかったしなぁ。むしろちょっと怖く思ってたし……」ペラ
龍鳳「顔見知り程度なのにグイグイくるから、イヤな意味で胸がどきどきしたし…………」ペラリ
かち こち かち こち
龍鳳「――ととっ、もうこんな時間! はやく寝る準備しなくっちゃ……明日の仕込みもあるしね」パタン
龍鳳「あーあ、ここからがいいトコだったのになぁ……なんかヤな部分しか読んでないし! もやもやするー!」
龍鳳「…………も、もちょっとだけ読んじゃおっかな。このままじゃ夢に出てきそうでヤだしねっ」スッ
龍鳳「えっとえっと、どこまで読んだんだっけ――」
ばたんっ!
龍鳳「ひぇっ――!?」
イムヤ「おっすー! 夜分遅くに申し訳ございませんが! わたくしの携帯電話をご存知ないでしょうか!」
イムヤ「やーごめんね? なんかっさー部屋中探しても出てこなくってさー、たぶんこの部屋にあるんじゃないかって…………ん?」
龍鳳「い、いむいむ、いむらやちゃん……?」ダラダラ
イムヤ「どうも井村屋型潜水艦あずきバーです。装甲には自信が――じゃなくって! どしたのそんなビックリした顔して。オバケでも見ちゃった?」
龍鳳「や、な、なっ……なんでもないからっ」ササッ
イムヤ「あっ、なんかいま隠したな~? ……もしかして、わたしのケータイじゃあるまいなぁ~?」
龍鳳「ちが、ちがうからっ! なんでもないし! なにかあるわけではござらんっ!」
イムヤ「あからさまに怪しい! …………わーかった、こっそりわたしのメール履歴とか覗いてたんでしょ!?」
龍鳳「や……その…………ちがくて……」
イムヤ「なーにが違うって――あ、こらっ! ダンゴムシみたいにならないの!」
龍鳳「ちがいます……ほんとうにちがうんですぅ……」ダンゴムシ
イムヤ「わたしにだって見られたくないものの一つや二つあるんだからね! こら、返しなさい!」グイグイ
龍鳳「ちがうんだってばぁ…………ころがさないでぇ~…………」ゴロゴロ
イムヤ「ほおお…………どうあっても返さない腹積もりね。それならこっちにも……考えがあるってばよ……」ワキワキ
龍鳳「…………え、えと……なんなんでしょう……?」
イムヤ「なんでってねぇ――こうするのよっ! こぉ~ちょこちょこちょ~っ!!」
龍鳳「わひっ! ひ、ぁっ! ぃひっ! ふぎゅ、ぎゅっ――だめっ、わきだめ、だからっ!!」
イムヤ「どぉーした龍鳳! それでも女か! みっともない笑い声をあげてぇ……!」コチョコチョ
龍鳳「みひっ、みっとほぉ、みっともなぁっ……やめ、ふふ、ひぃっ!!」
龍鳳「いむやちゃっ……も、ほっ、ほんとにひぃっ、だめ、わた、ひっ――」ビクビク
龍鳳「あはっ! あっははははははは!! もだめ! もおだめ!! あはっ、あはははっ!!」ポテッ
イムヤ「…………なんかドロップした」
龍鳳「ひ、ひぃ、ひぃぃ……っ、はぁ、はぁっ」ビクンビクン
イムヤ「わたしがやっておきながらなんだけど、見るも無残な姿すぎない? ……まあいいや、戦利品は――」
イムヤ「――本? 日記帳、かな?」
龍鳳「ぁひ、ぅひひ…………」
イムヤ「…………あー、携帯電話隠してたわけじゃないんね、めんごめんご。……帰ります、それじゃ――」
がしっ
龍鳳「――――」
イムヤ「あ…………あはは…………? ほら、かわいい年下の勘違いだったってことでさ、ここはおひとつまぁるく……」
龍鳳「――――」
イムヤ「あは、そ、そもそもさ? 龍鳳ちゃんが最初っからこれ見せてくれたら一発だったからさ? むしろわたし悪くないっていうか徳政令カードっていうか」
龍鳳「――――」
イムヤ「………………だめ、ですかね?」
龍鳳「――エヒッ」ニマァ
イムヤ「」
おっひょひょひょひょひょ!! あひっ! あしのうりゃ、あしははんしょくだぁ……!>
ぁはぁっ、つ、ちゅみゃっ、つましゃきでこちょこちょだめぇっ! ずるいからあああっ!>
ぅにゃあああぁぁっっ!! おっひひひひひっ、はなしっはなひてっ! あしが――んひひひひははははっっ!!>
げほっ! けほっ! ごふっ――あひゃははははっ! ごへっ、げふっ!!>
いきがっ! いきだめっ! くるし――んふふふふふっ、あふっ、けっひひひっっ>
なっ、なんでっ、わたしこんなにっ、こんにゃに長くやってなっ! うひひ、はひぃっ、あしだめっ! あしほんとだめ!>
んふっ――ずるいから……はひゃっ、ずるひゃははははっ>
ゴーヤ「…………うるせぇ…………」モグモグ
しにそうだけど羞恥心の鎧を纏ったから隙はない
全部書いて下ろそうと思ったけどすべて埋まってしまう可能性があったので一度切ります。いけるのかは置いといて、次スレ以降になりそうです
ようやく時間できてきました。多少遅れるかもしれませんが、明日(月曜日)の夜22時に安価とります
安価は>>62です。艦娘につけたい設定があったり、舞台設定とかがあれば一緒に記載していただければ幸いです
埋まらなければ適当にでっちあげます
(埋まるのか……?)
成立しないくらいに埋まらなくても適当に1000まで書きます
今回のラジオに招待される艦娘選考 ↓1~5
おたよりの内容や、質問や相談、または設定や小ネタ類など ↓1~5
ん……やっぱりいま挙げられた艦娘と、書きたいことをでちょこちょこ書こう思います。申し訳ありません
このSSまとめへのコメント
無駄か多すぎて読むのしんどい
折角いいネタと設定なのに脇道それすぎやろ
更新まだですか?
二兎を追う状態になっててクソ詰まらん……
文章自体は上手いから、どっちかに絞れば面白くなっただろうに