今日も今日とて狐狸夢中 (282)




昔から人間は狐狸に化かされたと口にする。
しかし、我々にはまったくもって身に覚えがない。
なんでもかんでも我々のせいにされたらたまったものではない。

しかし近年、どうも人間も学んだらしく、
様々な物事に理由をつけてはどういうものだか解明しているようだ。

おかげで我々のせいになることは減ったが、今度は相手にすらしなくなった。

都合の悪いことはこっちに押し付けてくるくせに、興味がなくなればすぐに忘れてしまう。
人間とはなんとも身勝手な存在だろうか。


しかし私はそんな人間がどうしようもなく好きなのである。


今日も今日とて私は人間の世界に紛れ暮らしているのだ。




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マイペースにマイペースに思いついたことを書き進めていきます。
簡単な日常物とお考えください。

それではどうぞ、しばしのお付き合いを……



僕はしがない一匹の狐である。
尻尾も一本であるし、毛も真っ白という訳ではない。
ただのしがない一匹の狐である。

その気になれば、尾の一本や二本なぞ簡単に増やせるし、
白面にだってなれるのではあるが、
わざわざそんなことをして無暗に騒ぎを起こそうとは思わない。


それに増やしたところで所詮は偽物である。
本物の大妖狐の真似をしたところでむなしいだけだ。

おっと噂をすればなんとやら、
かの大妖狐さんのご息女が歩いているではないか。




「やあやあ白面さん。どうやらお元気そうですな」

「なんだよその物言いは。いつも通りに声をかけてきなよ」

「いやなに、ちょっとばかし君のお母さんのことを考えていてね」

「あーあー聞きたくなーい。
 さんざん周りからお前も母親のように立派になれだのと言われ続けているんだから、
 君と一緒の時ぐらいはお母さんの話はよしてほしいな」



「そりゃあ悪いことをしたね。ところで何をしていたんだい?」

「こんなにいい天気だろう?せっかくだし油揚げでも買いに行こうかとね」

「油揚げなら君の家の近所にも売っているじゃないか。それなのにずいぶん遠くまできたね?」

「それが聞いておくれよ。この間とってもおいしい油揚げ売っている店を見つけちゃってね。
 そこの油揚げを食べてからそりゃもう病み付きになってしまったんだよ」



「そうかいそうかい……確かに僕も油揚げは嫌いじゃないが、どうしてそうも君は狐らしいのかね」

「そんな君はどうも最近人間かぶれが酷くなっているね。もう少し狐らしくしたらどうだい」

「まったく……また君はそんなことを言う。
 そうだな……僕と君の子供でもできればちょうどいい狐でもできそうだね」

「ここここ子供だなんて!なんてことを言うんだ!それじゃあまるで……」

「まるで?」

「なんでもない!」




そう彼女は大声を上げると白い顔を真っ赤にし、5本の尻尾を揺らしながら去っていってしまった。
まったく彼女をからかうのは楽しいものだ。

言っておくが僕は鈍感というわけではない。
もちろん彼女の気持ちに気づいているし、僕も彼女のことが好きである。



しかし、二年前の冬……



『気づいていると思うが、僕は君のことが好きだ。君は僕のことをどう思っている?』

『すすすすす好きって!?わわわ私は……』

『私は?』

『今度返事をするから!絶対するから!だから今日は勘弁してぇ~!』





そう言って彼女はその日帰ったっきりまだ返事をしてくれていない。
だからこそこの程度のからかいぐらいは許してもらわなければ納得もいかないものだ。

かといってからかったままにしておくと後が怖いので、また今度何かしらのフォローをしておかなければならない。


しかし彼女は気づいているのだろうか。
あの態度では僕の告白に返事をしたようなものだということに。


山に沈む夕日を見ながら僕は今日もそんなことを考えていた。


今回はここらへんで。
のんびりまったりとした『化け者』生活をかけていけたらなと思います。

スレ立ててすぐですし、日付またいでの連チャンってことで一つ。




皆にはライバルというものがあるだろうか。
仕事上のライバル。
趣味上のライバル。
恋愛上のライバル。

なんでもいい。
ライバルというものがあるだろうか。



いや、別にいなくてもいい。

ただ、僕には、いや、我々にはライバルがいる。
それはもちろん彼ら、『狸』である。
どのようなライバルかと言えばやはり化かし合いのライバルである。

とはいえ、僕個人に限って言えば彼らとの仲は悪くない。
むしろ気のいい隣人ぐらいに思っている。



彼らは阿呆である。良い意味で。

彼らは騒ぐのが大好きだ。何かにつけては騒いでいる。
その騒ぎっぷりに乗じるのが我ら『狐』である。

耳を澄ませば今日もどこからか彼らのどんちゃん騒ぎが聞こえてくる。
まったく飽きない連中である。



「やあやあしがない狐さん」

「やあやあこれは真っ黒狸さんではありませんか」

「お元気そうで何よりだ」

「いえいえ、そちらこそ。今日はどういったご用件で?」

「いやなに、顔が見えたから声をかけてみたまででさあ」

「それはそれはどうも御親切に」

「で、この流れいつまで続けるんで?」

「ここらへんでいいと僕は思うねえ」

「確かにそうだ。ガッハッハ!」



「それにしても立派なもんだねえ……」

「ん?何がだい?」

「そのお腹さ」

「ああ、これかい?そりゃそうさ、この腹こそが我らを我らたらしめるものだからな」

「確かにそうだ。痩せ細っちまったら誰かわからなくなってしまう」

「その通りさ。我ら狸の象徴であるこの腹は大事にしていかねばな」



「うんうん。それに鍋にしたらおいしそうだ」

「馬鹿言っちゃいけねえよ。確かに我らは鍋にしたらうまいだろう。
 しかしそう簡単に鍋にされてはたまったもんじゃないね」

「しかし、狸の最期とはそういうものではないのかね」

「そりゃそうさ。でもな、鍋にされるってんならやっぱりその前に未練ってものを残したくないねえ」



「確かにそうだ。なればこそ今日も今日とて騒ぎましょうや狸さんや」

「その通りだ狐さんよ。それじゃあ今から一つお付き合いしてはくれんかね?」

「いいですなあ。じゃあ僕は白面ちゃんを読んで来るんで少し待っていてもらえるかね?」

「お、いいねえ。祭りには華ってもんも欠かせない。それじゃあ頼みましたぜ。吾輩はここで待ってますんで」

「はいよー。じゃあちょっくら呼んできまさあ」



とまあ今日も今日とてこんな調子である。

僕は彼らを阿呆と呼んだが僕も立派な阿呆である。
同じ阿呆なら騒がにゃ損ってね。

『狸』は我ら『狐』のライバルであり、隣人であり、化け仲間である。



そして、我ら『狐』は彼ら『狸』の騒ぎ仲間なのである。


というわけで狐狸が揃いました。
これで狗でも出せばこっくりさんですな。

書けるうちにささっと更新。
もっといろいろ出していきたいのです。




僕らは義理人情というものが大好きだ。
もっとも僕らは狐であるからして、人情というべきなのかどうかは定かではない。
狐情というとどこかおかしな響きであるので、やはり人情で良いのだろう。
人間が狐と親しく過ごすというものはおかしいものであるが、
一期一会の出会いを大事にする狐というのもやはりおかしなものである。



今日も今日とていつものように、僕は大好きな白面ちゃんと会っていた。


「白面ちゃん、何をしているんだい?」

「これかい?これはね、あのおばあちゃんのためにマフラーを編んでいるんだ」

「おお、それはいいねえ。そういえば今日はあのおばあちゃんが来る日だったね」

「そうなんだ。でも本当は今日にでもマフラーを渡してあげたかったんだけど……この通りさ」

「まあ仕方ないよ。次の機会にでも渡せるといいね」

「うん。そうだねえ」



あのおばあちゃんというのは定期的に僕らが根城にしている神社にお参りに来てくれるおばあちゃんだ。
言うなればお得意様のようなものだろうか。

僕らはおばあちゃんと呼んだが、実の所彼女が小さいころから僕らは彼女のことをよく知っている。
彼女が何故お参りに来てくれるのかというと僕の父上が関係している。

その時の様子を詳しくは知らないのではあるが、
なんでも父上は彼女を助けたはいいが、狐であることがばれてしまったらしい。
そんでもってばれた後に根城としているこの神社に逃げ帰ってしまったものだから、
それ以来彼女は定期的にお参りに来てくれているのだ。



「それにしても君のお父上が逃げ帰ってからもう50年にもなるのかい?」

「そうだねえ。義理堅いねえ。有難いねえ」

「本当にそうだねえ……」


僕らにとっても50年はやはり長い。
なんせ大妖狐である白面ちゃんのお母さん、僕らの先生ですら1000歳ほどである。
200歳ほどの僕らなんてまだまだ坊ちゃんであると言えるのだが、あの人も50年は長いと言っていた。



なんでも、
『宮廷の者が食事に毒を盛っていただけというのに、勝手にわらわのせいにして石に閉じ込め、
 それも50年もの間ふきっさらしの状態でほっとかれて……もうあんな長い50年は過ごしとうない!
 もし、御堂に移してもらえなんだら200年以上もあの状態で……』

とのこと。
その後に、殺生石のせいだという毒素は本当は金山から毒素が川に流出していただの、
玄翁和尚が真実に気づいてくれて助けてくれただのという物語があるのだが、それはまた別のお話だ。



少し話が脱線してしまったが、この通り我ら妖狐にとっても50年というものは長いものである。
そんな長い間我らのために、正確には逃げ帰った父上のためにこんな遠くの神社に参拝してくれているのだから、
このおばあちゃんは本当にいい人である。
このおばあちゃんのせいで僕が人間を好きになったといっても過言ではない。



「お、噂をすればなんとやらだ。挨拶に行こうよ白面ちゃん」

「お、おい。編んでいる途中だというのに……まったく仕方ないな。片づけるからちょっとだけ待って」

「うんうん。白面ちゃんは優しいしかわいいなー。僕ここで待ってるよ」

「か、かわっ!?……むー、からかうなら行かないぞ!」

「そんなことしたらおばあちゃんが悲しんじゃうよ」

「君はまったく……本当にずるいやつだな」

「未だに返事をしない君ほどじゃないさ。ほら早く行ってきなよ」

「また君はそれを言う……。本当にずるいぞ……」



ぶつくさいいながらもようやく彼女は片づけに行った。
本当は私だって好きなんだけど面と向かうと……
という感じの内容を小声でぶつぶつ言っていたのが聞こえたが、
紳士な僕は聞かないことにしておいた。

というよりかは『僕が恥ずかしい中、正面から告白したというのに彼女はそんな風に澄んでしまうのがずるい』
といった、至極しょうもない僕の意地からであることは言うまでもあるまい。

彼女は片づけてきたついでに少し身支度してきたようだ。
普段二人の時じゃ見られない格好が見られて僕も嬉しい。
ここらへんはおばあちゃんのおかげだろう。ありがとうおばあちゃん。



「こんにちは、おばあちゃん。いつもありがとう」

「こんにちは、お元気にしていましたか?おばあちゃん」

「あらあら、子ぎつねちゃんたち。そちらもお元気?」

「うん、元気だよ。僕の父上も元気さ」

「そう、それは良かったわ。これいつもの油揚げ。みんなで食べておくれ」

「いつもいつもありがとうございます。本来は関係のない私の分まで……」

「いいのよいいのよ。私はあの方に助けられてからあなたたちのことが大好きなんだから」

「僕らもおばあちゃんのおかげで人間のことが大好きさ」

「あらあら、それはとても嬉しいことね」



いつも通り変な会話である。
僕らがおばあちゃんに狐とばれているのは父上のせいである。
父上が迂闊にも狐の姿で帰ってきた際におばあちゃんに追いかけられていたとも知らずに、
僕らに話しかけてきたせいだ。
その際に僕らは驚いてしまい、化けていた人間の姿から狐の姿に戻ってしまった。

しかし、おばあちゃんも変わった人で、大層驚いた後、これまた大層喜んでいた。

『こんなにもお仲間さんがいたんだねー!』と。



それから僕らはおばあちゃんと仲良くするようになったのだ。
もっとも当時は『おばあちゃん』ではなく『お嬢ちゃん』と呼んでいた。
そして時を経るごとに『お嬢ちゃん』から『お姉さん』へ、
そして『お姉さん』から『おばさん』へ、
そして最後に『おばあちゃん』というわけだ。

呼び名が変わる最初こそ戸惑ったものの、
我ら妖狐と違い年老いていく彼女をとても『お嬢ちゃん』と呼び続けることはできなかった。



「あら、もうこんな時間。今日もいっぱいお話できて良かったわ。私は帰らせてもらうわね」

「そうだね。途中まで僕らが送るよ」

「そうね。最近日が沈むのがめっきり早くなってしまったものね。私たちが近所まで送りますよ」

「あらまあ、それは有難いことね。じゃあお願いしようかしら」

「うん、任せといてよ。腐っても妖狐!安全は保障するよ」

「一番危なっかしいのは君だけどね」

「あらあら、まあまあ」



これもいつも通りである。
ただ単に別れが名残惜しいだけなのではあるが、いい口実になるのだからよいのだ。

僕らの生は長い。
なんせ妖怪である。
よほどのヘマをせぬ限り、思うままに生きることもできるし、
思うままに極楽浄土へもいけるというものだ。

もっとも極楽浄土へ行くにはそれなりの条件、というものもあるのだが。



つまり何が言いたいかというと、おばあちゃんは間違いなく僕らより先に亡くなってしまう。
しかし妖狐というのはそういうものなのだ。
そして人間というのはそういうものなのだ。
限りある人生だからこそ目いっぱい生きている人間の『生』というものが僕はたまらなく大好きだ。



200年ほどしか生きていない僕でもそれなりの人を見送ってきた。
そしてこれからも見送るのだろう。
それでよいのだ。

いつかまた、僕が極楽浄土へ行けた時にでも見送ってきた人たちにたくさんの土産話を持っていくために、
長く永く生きてみようと僕は思う。





そんな僕の隣に白面ちゃんが居てくれたら良いのにな、というのは僕のささやかな願いである。


今回はここらへんで。

このしんみりした感じいいね…乙


一仕事終えた一杯、飲む?
  E|

  || 
  ノ_ヽ (*´Д`)_
 ∥日| /   |¢、

_∥本|/ /    ̄ヽ)
\∥酒|L二⊃ ̄ ̄\
∥\ー′ (<二:彡)\
∥\∥ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∥
  ∥ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∥

本日もさくっと更新なのである。



歴史というものはあくまで勝者が作り上げるものであり、
それに後世の人間が後から理由づけしていくものである。

何が言いたいかというと、真実というものはその実あまり伝えられないものなのである。



僕には二人の先生がいる。
もっとも、当たり前ではあるのだが人間ではないので、
『二人』と言っていいのかどうかは定かではないのだが。

一人は妖狐の必須技能である『化け術』の先生、玉藻前先生だ。
僕も白面ちゃんも妖狐としてひよっ子の頃に基礎技能を玉藻前先生から習った。



本来はその一族独特の変化や、術というものが存在するので、
父親や母親から習うのが風習ではあるのだが、我が家の父上が、

『あまり一族一族とこだわっていては多くのことができなくなる。
 よってお前はあのじゃじゃ馬のところで基礎を学んでくるのが良かろう』

とのたまったのをきっかけに、僕は玉藻前先生から学んでいるのだ。
未だに一族の変化を教えてもらえてないのには納得がいっていない。



話を元に戻そう。
一人目の先生は玉藻前先生。つまり白面ちゃんのお母上である。
では二人目の先生はというと……、


「そうじゃのう、今回は歴史について教えようかのう」

「先生、一つお聞きしたいことがあります」

「なんじゃ?」

「かの浦島太郎を竜宮城へ連れて行ったというのが先生を伺ったのですが本当でしょうか」

「いんや、それはワシではなくワシの孫じゃな」



「ええ!?お孫さんってこの間お会いした?」

「そうじゃ、あれはあやつが300歳ぐらいの時でのう……まだまだやんちゃじゃった」

「そうだったんですかー……。ちなみにそれは今から何年ぐらい前のお話で?」

「確か……1400年ほど前の話じゃな。
 よしちょうど良かろう、その時代の話でもするかの。
 あれは今では人間たちに古墳時代と呼ばれておる頃じゃ……」


とまあこのような調子で正しくその目で「見てきた」ことを二人目の先生から学んでいた。
何せ先生は齢4000を超える仙亀なのだから。



僕も白面ちゃんも亀先生に色々なことを教わった。
それこそまず人間の言葉であり、歴史であり、生活であった。
変化した際になんら不自由のないようにという亀先生の心遣いだった。

亀先生には生徒がとても多い。
僕の父上もそうだったと聞くし、玉藻前先生もそうだったと聞く。
何せ4000歳なのだ。
何らかの方法で調べるより亀先生に尋ねるのが早いことのほうが多い。

亀の甲より年の功という言葉があるが、
両方を兼ね備えた亀先生は完璧な存在なのではなかろうかなどと、
僕らの間での共通認識になっている。




「……とまあ、平安時代にあったことと言えばこのぐらいじゃな。
 何か質問はあるか?」

「はい、先生」

「なんじゃ?白面」

「あの、うちの母上のことなんですが、その頃殺生石にされたと聞いたのですが……」

「なんじゃ、あやつから聞いておらんのか」

「はい、話したがらないんです……」

「思い出したくないじゃろうからそれも仕方なかろうか……そうじゃな話してやろう」

「ありがとうございます!」



「あー、二人とも人間の間で語り継がれておるあやつの伝説については知っておるな?」

「はい、なんでも母上が悪さをして人間にお仕置きされたとかなんとか……」

「でもあの玉藻前先生がそんなことするかねえ。
 こういっちゃ白面ちゃんに悪い気もするけどちょっとおっちょこちょいなところあるし……」

「我が母ながらそれは認めざるを得ないね……」

「そうじゃろう、そうじゃろう。大半が嘘じゃからな」

「嘘!?」「そんな!」

「そうとも、そもそもが濡れ衣だったのじゃよ。
 鳥羽上皇をあまり好ましく思って無い者も多くてな、毒殺しようと考えるものも多かったのじゃ。
 当時はあやつは藻女と呼ばれておってな。人間の姿に化けて宮に仕えておった。
 あやつもお主と同じように人間のことが好きでなあ……」

「あの先生にもそんな頃が……」



「そしてあやつもおっちょこちょいなりにも一生懸命宮仕えをしておったのじゃ。
 そしてあくる日、鳥羽上皇の目に留まることがあったのじゃ。
 そしてあやつは大層気に入られてのう……」

「それで母上は契りを結んだと?」

「いや、結んでおらんよ」

「え?」

「人間の間で語り継がれている話の一つでは契りを結んだということになっておるが、
 そのような事実は一切存在せんよ。
 あやつはあくまで自分は妖狐という存在だ、ということを理解して負ったからな」

「あ……」

「確かに、冷静に考えれば……」



「じゃろう?そのこともおそらく鳥羽上皇の怒りに触れておったのじゃろうな。
 毒殺未遂の疑いが真っ先にかけられたのがあやつじゃった……。
 そこからはお主らも知っての通りよ。
 晴明によって正体を暴かれ、その他もろもろの濡れ衣まで着せられ、そして……」

「封印されてしまった、と……」

「そうじゃ。後に話がどんどん膨れ上がっていってな。
 殺されただの、毒を放っただのと……」

「とんだとばっちりじゃありせんか!」

「じゃからお主らも気を付けるのじゃぞ。
 人間と仲良くするな、とは言わん。
 じゃが、くれぐれも気をつけろ。
 ワシはただの亀じゃ助けてやろうにもできやせん」

「わかりました」

「心得ておきます」

「うむ。それでは今日のところはこのへんにしておこうかのう」

「ありがとうございました」「またお願いします」

「うむ、それではな」




この時、去っていく亀先生の姿がとても寂しそうに見えた。
亀先生は永く生きてきたが、あくまで亀だ。
きっと多くの者を助けられず歯がゆい思いをしてきたのだろう、と僕は勝手に考える。


伝説・神話というものは劇的であるほど人々の間で語り継がれるという。
千年経とうが色褪せぬ白面ちゃんのお母上の伝説は、
それほど長く人々の心をとらえて離さなかったのかもしれない。

それでも……





「それでも大好きな人間の多くから疎まれてしまうような伝説が残ってしまったのは
 どんな気持ちだったんだろうなあ……」


他人事ながらそんなことを考えてしまっていた。





古来から歴史というものは勝者が作るものである。

そこには敗者の理屈・感情などは書かれておらず、
ひたすら勝者の栄光が並べ立てられる。

後世の者が勝手に推察し、予想を立てたところで、
そんなものは真実とは限らない。

結局真実というものは当時を生きてきたものにしかわからないものなのである。



今日はここらへんで。

早めにさくっと貼って次を早めに書くのだ。



妖狐と呼ばれる我らはそれなりに多く存在している。
そして化け狸もだ。
人間社会にもそれなりに馴染んでいるものも多く、
きちんと探せば実は割と身近にいたりもするものなのだ。
そして人間社会に馴染むためにも必要なものというものはやはり存在しているのだ。



「おーい、総次郎くん」

「やあやあ、浩二さんお久しぶりですなあ」

「そうだね。俺は昨日まで出張だったからね」

「そいつは大変でしたね。どちらのほうに行ってらしたんで?」

「ちょいと東北のほうまでね。そんな話はおいといてこれからどうだい?一杯付き合わないかい?奢るよ?」

「こんな日の高いうちからとても魅力的なお誘いではあると思うのだが……ちょっと別口で用事がありましてね」



「ありゃりゃ、それは残念。もしかして白ちゃんかい?」

「あっはっは、そうなんですよ。
 彼女はもしかして僕を便利屋か小間使いか何かだと勘違いしてるんじゃないかと思えてくるよ」

「いいねえ。それもひとえに愛だねえ……」

「まーた他人事だからとからかってくれちゃって……というわけですみませんね。また次の機会にでも」

「あいよ。楽しみに待ってるよ」



彼は人間さん。浩二さんである。
何かと前から縁があり、仲良くしてくれている。
なんでも同じ次男坊だから波長が合うのだとかなんとか……まあどこまでが本心かはわからないが。


今更になるのではあるが、僕の名前は総次郎である。
兄が総太郎。妹が京だ。
もっとも、妖怪世界でそう呼ばれることは少ないのではあるが、
人間さんたちに呼ばれることはしょっちゅうである。



元々、僕ら妖狐の世界では名前を持っている者というのは少ない部類だった。
本来妖狐の世界での名前というものは『格』なのだ。
我らが偉大な父上、山城一太郎は妖狐界では名の知れた大人物なのである。
よって僕ら兄妹もそれなりの『格』を持っているとされ生まれた時から名づけられていた。

ある程度の『格』があるものが名前を付けられるようになっている。
まあそれも古い風習であり、多くの妖狐たちは名前を持っているのだが。
持っていないものと言えば、一部の古株の妖狐たちが辞退しているだけなのだ。

もっとも古株なだけあり、十分なだけの名声は得ているのではあるが……。



我が母上も名前を持っていないらしい。
小さい頃にその理由を尋ねたら、


「だって『一太郎の奥さん』と呼ばれるのが嬉しいんですもの」


と思いっきりのろけられてしまった。

それでは人間社会に紛れるときに不便であろうと思っていたら、
何故かそこでも『一太郎の奥さん』で母上の名は通っていた。
一体母上は何者なのであろうか。疑問は尽きぬばかりである。



近年、世情の変化から妖狐も狸も人間の世界に紛れることが多くなった。
その際にやはり名前というものは便利である。
というより名前がなくてはやっていけないのだ。

そして名前には力が宿る。
つけられた名前を呼ばれることにより、人間変化をより強固にすることもできるのだ。
人と積極的に関わりだした我ら新世代の狐によって名前というのは人間が思っている以上に大事なのである。

よって僕らは自分の名を大事にする。
そして他人の名前も大事なものだと考えるのだ。



「あ、やっときた。もう、遅いよ」

「遅くなってごめんね。白ちゃん」

「は、白ちゃんって……!」

「あ」


しまったと思った時にはすでに遅かった。
周りの妖狐族が一様ににやにやとこちらを見ている。
「早く結婚しちまえよー」とはやし立てる者もいる始末。
目の前の白面ちゃんに至っては顔を真っ赤にしてうつむいている。



「君はその呼び方しないでって言ったでしょー!馬鹿総次郎ー!!」

「ごめん!ごめんってば!っていうか君こそ僕の名前を呼んでるじゃないか!」

「私はいいの!」

「何その横暴!?」


我ら妖狐同士で名前を呼び合うというのはとても重要なことであったりする。
それは親愛の情であり、自分から相手への大事だという気持ちを表す行為にあたるのだ。
告白をしているようなものだとも言える。
つまり呼ぶ方も呼ばれる方も恥ずかしいのだ。特に他人の目があるところとなると。
よって僕らは本名ではなく二人称・三人称、あだ名などで呼び合うことのほうが多い。



僕は未だに白面ちゃんを名前で呼ぶことを許してもらっていない。
いつか許してもらえるのだろうか?

白い顔を真っ赤に染めた白面ちゃんを見て、


『そういえば……もしかすると母上が名前がないと言っているのは嘘なのかもしれないなあ』


などと考えつつ、白面ちゃんの機嫌を直すのに労力を費やす僕なのであった。


今回はここらへんで。

名前を出してしまったし登場人物の増えていく予定ですので、SSWikiのほうに登場人物紹介などを書いておこうかと考えております。
ややこしくなるだけだからいらない等の意見がありましたらどれぐらいの量にするか、そもそも書かないかなども検討する予定です。

変なところに誤字が…… 登場人物『も』増えていく予定 のミスですね。
投下の最後に締まらなくて申し訳ない

かるーくWiki編集完了。
このスレの>>1のとこにあるURLから飛べます

もう少し明るい話を増やしたいなあと思うこの頃。
投下していきます。



山城一族。

妖狐族において知らないものの方が少ないであろう一族である。
今なお当主は我が父上、山城一太郎ではあるのだが、
その役目を果たしているのは僕の叔父上である山城二太郎である。



我が一族の役目というのはとあるやんごとない稲荷神社の稲荷神である。
元々我が父上がその役目を仰せつかり、今では弟にその役目を継いだ、と父上から聞いた。

500年ほど前に弟に役目を継いだのには理由があったようだ。
どうもその頃ちょうど僕の兄である総太郎が生まれたからと聞いた。

長きに渡って父上と母上には子宝が恵まれなかったらしく、
念願の第一子が兄だったそうだ。



つまりようやく出来た子供を溺愛したいがために弟にその役目を押し付けたのである。
叔父上も快く引き受けたようなので特にこれといった問題はなかったようだが。

しかし、稲荷神というものは案外大変な役目であり、役目を譲り渡した後も、
父上は何かと叔父上の手伝いをしていたようであり、
そんな父上の背中を見て、兄、総太郎は育ったらしい。

そのせいか、おかげか、兄もいずれは稲荷神にと思い育ったようで、
父上、叔父上の双方から稲荷神としての作法や、
稲荷神の役目を務めるために必要とされる神通力や妖力と呼ばれる力の使い方を学んでいる。



妖力というものが強まれば強まるほど、妖狐は多くのことができるようになる。
稲荷神として様々な人の願いを聞き届け、ほんの少しずつ叶えていくためには膨大な妖力を必要とする。
稲荷神社が大きくなればなるほどその妖力というのは必要になってくるのだ。

そもそも妖力というのはどのようなものかと言うと、神の力である。
我々妖狐というものはそもそもが神使なのである。

神様と言えども、すべての人間を常に見守るということは不可能である。
だからこそ妖狐や狛犬などの神使たちが神様に代わって人間たちを見守るのだ。



そして人間たちの願いを叶えるために神の力である妖力を使役するわけなのだが、
使役する神使自身が神の力に耐えられなければいけないのである。

つまり大きな稲荷神社の稲荷神になれるというだけでその力の証明であり、神使としての格なのである。

というわけでやんごとない稲荷神社の稲荷神になるために、
兄は神使としての修業を長年行っているわけなのだが、未だにその時は遠いようである。




「やあ兄さん」

「おお、元気にしていたか?」

「うん、元気だよ。兄さんの方こそ修行大変じゃない?」

「大変じゃないと言えば嘘になるが、満ち足りた毎日を送れているよ」

「そっか、満足しているみたいで何よりだよ」

「そうだ。最近ようやく尾が二本になったよ」

「本当かい?流石は兄さんだね。僕のほうはまだ一本さ」



「ははっ、流石にそう簡単に二本になられては兄としてはなんとも言えないからな。
 それにお前も一本とはいえ、随分大きくなっているみたいじゃないか」

「兄さんほどじゃないさ。今日は母上に頼まれて兄さんの様子を見に来ただけだから僕は帰るね。
 修行頑張ってね」

「ああ、わざわざありがとうな。京にもよろしく言っておいてくれ」

「うん、わかったよ。それじゃあまた」

「ああ、またな」





よく妖狐の格は尻尾に現れるというが、半分真実で半分嘘だ。
確かに尻尾に現れるのだが大事なのは本数だけではない。
尻尾が増えるメカニズムというものが存在するのだ。

そもそも妖狐というものは生まれ方が二通り存在する。
ただの狐が修行の末に妖狐になる方法。
こちらは妖狐のオリジナルというわけであり、真祖と言える。
もう一つは妖狐夫婦から生まれる妖狐である。
こちらは生まれた時から妖狐であり、親の本数を足して受け継ぐと言われている。
つまり親が一本同士であれば子は二本という訳だ。



もっとも、ある程度の年齢になり、妖力も高まった時に増えるので、
白面ちゃんや僕みたいなまだまだ半人前の妖狐では尾の本数が完全ではない。
現在の器に見合った量の妖力が本数として現れるのだ。

僕は父上も母上も真祖であるので、将来的には多くて二本なのだが、
白面ちゃんは父親のほうが真祖であるので、将来的には十本である。

ちなみに真祖の場合、どのようにして妖力を計るのかというと、
尾の大きさを見るのである。

尾が大きく立派であればあるほど格が高いと言われるのだ。
もっとも普段は不便であるし、隠している方が多いのではあるが。



「ただいまー」

「お帰りなさい!次兄さん、兄さんの様子どうだった?」

「ああ、元気にしていたぞ。お前にもよろしくと言われた」

「そっかー。兄さん元気にしてるんだ。良かった良かった」

「お前ももう少し頑張れば行けるようになるぞ。頑張ろうな」

「うん!私も早く変化がちゃんとできるように頑張る!」



まだまだ妖力を使うのが未熟なうちは人間変化をしても、尻尾や耳を隠し切れなかったりすることがある。
昔から、そのような幼い妖狐が見つかることはまれにあった。

今ではしっかりと変化が行えるようになるまでは人里へ降りることが禁止されるようになったのだ。
兄が修行しているのは稲荷神社であり、もちろん人が多くやってくる。
そのため妹はなかなか兄と会うことができない。




「僕も昔はそうだったなあ……」

「どうしたの?兄さん」

「いやなに、ちょっと昔を思い出してね」

「ふーん、そっかー……」


昔、僕がまだ小さい頃。
父上や叔父上の後継になりたいという兄の姿を見て僕は育った。
その頃の僕と言えば僕も兄のようになりたいとひたむきに頑張っていたように思う。

今ではどうだろうか?
山城一族の名に恥じないようになれているだろうか。



「山城一族……か」


このちっぽけな体に見合わぬほどの大きな名前を持った僕。


「僕は一族として何もできる気がしないな……」


そんなことを考えてしまうほどに僕はまだまだ半人前なのだ。


今回はここらへんで。

何書いてもいい日常物って悩みますね。



想いというものは伝えようとしても伝わらないものだ。
それは人間も妖狐も変わらない。
言ってしまったことへの後悔、言わなかったことへの後悔。
色んな後悔を人も妖狐も長い間してきている。
だからこそ本当の自分の想いを一生懸命に伝えるべきものなんだと私は思う。



総次郎とは長い付き合いだ。
生まれた時も同じぐらいであり、修業時代からずっと一緒にいる。
幼馴染というやつだ。
幼い頃は本当に何をするにも総次郎と一緒だった。



「きちんと変化できるようになった?」

「ううん、まだだめだね。どうしても尻尾か耳が残っちゃう」

「そっかあ……変化って難しいなあ……」

「でも大丈夫だよ。白面ちゃんは尻尾が増えてきたじゃないか」

「総次郎もきっとそのうち増えるから大丈夫だよ!頑張ろう?」

「……うん、そうだね」



あの時の総次郎のちょっとだけ泣きそうで、
ちょっとだけ嬉しそうなそんな笑顔を私は忘れられない。
当時の私は何も知らなかった。
だからこそあんな無責任なことを言えたのだと思う。

総次郎にとって、尻尾を増やすということはどれだけ大変なことなのか、
今の私にもわからないままだ。
そんなこと彼と同じ境遇にでもならない限りわかるはずがないのだから。



しかし、総次郎にはそういった『わかりやすい目安』というものがない。
変化もなかなかできず、尻尾も簡単には増えないため、成長したという証がない。

自分の進歩が実感できないまま頑張り続けるというのは余程の苦行なのではないかと今では思う。
当時の私は幼かった。そういえば言い訳になってしまうが本当に幼かったのだ。
まだ何も知らない子供だったのだ。



「やあ、何してるんだい?」

「やあ白面ちゃん。今日は母上の代理さ」

「私も一緒に居ていいかな?」

「もちろんだよ!ああ、嬉しいなー白面ちゃんと一緒になんて」

「もう!君ったらよくそんなこっ恥ずかしいこと言えるね!」

「白面ちゃんほどじゃないさ」

「え?私なんか言ったことあったっけ?」

「あれ?覚えてないのかい?僕は一生忘れないけどなあ」

「え……?」



「あれはそう、僕らの修業時代だよ。お互い名前を教え合って、
 ちょっとしたぐらいに変化と尻尾の話をしてたんだ。
 お互い変化はうまくいかないし、僕に至っては尻尾も増えないね、って」

「……っ!」


少しドキりとした。
総次郎もあのことを覚えていたのだと。
私が無神経にも彼の心を土足で踏みつけたであろう出来事を。
今でも私の心に刺さり続けている棘のことを。



「あの時は嬉しかったなあ……」

「…………はい?」

「え?白面ちゃん覚えてないの!?そんなあ……がっかりだなあ」

「いや、覚えてるけど……私が君に無神経なことを言ったことは」

「無神経?君は何を言っているんだい?」

「ええ!?どれだけ私があの時のことを後悔していたか……!!」

「えー後悔してたの?僕は嬉しかったのになあ」


おかしい。
一向に話が噛み合わない。
私の記憶が間違っているのだろうか。



「あの時が初めてだったんだよ」

「初めて?」

「本当に覚えてないんだね……」

「え?」

「あの時初めて……



僕を名前で呼んでくれたんだよ」





え?は?ええ?
名前で?名前で呼んだって?
そんな馬鹿なことが……


『総次郎もきっとそのうち増えるから大丈夫だよ!頑張ろう?』


あ……


「あああああああああ!!!!!」



「やっと思い出してくれたのかい。つまり最初の告白は君からだったと言ってもいいね。白ちゃん」

「い、今私のことを白って!でも私も総次郎って……ああ、もうどうすればいいのー!!!」

「あっはっはっは」


当人同士であっても認識のズレというものは生じてしまう。
私はあの時の記憶を総次郎に無神経なことを言ってしまった辛い記憶だと思っていたわけだが、
総次郎のほうは名前を呼んでもらえた嬉しい記憶だと思っていたわけだ。



おっちょこちょいな私は総次郎の名前を度々呼んでしまうのではあるが、
それについて後悔をしたことなどは一度もない。
むしろおっちょこちょいであることに感謝しているといってもいい。
天邪鬼な私には素直に気持ちを伝えることなどそう簡単にはできないのだろうから。



ただ少し、他人の目があるところではおっちょこちょいは発動してほしくないなと考えている私なのである。


今日はここらへんで。基本的に私はこの二人が大好きなのです。

のんびりと書いていくのが一番楽しいなーと思う今日この頃。
更新が遅くなったりしたら申し訳ないです。




以前も言ったように妖狐は神使である。
神使とは読んで字のごとく、神の使いである。
妖狐以外にも様々な神使が存在しており、
二十の種族がいるという。

そしてその様々な種族の神使の代表が集まる時があり、
これを二十神使会議と言うようになったのは室町時代からだそうだ。
もっともその実態は会議とは名ばかりの慰労会なのではあるが。

この会議は一年に一度行われており、
集まる場所は持ち回りで担当することになっている。
そして今年は我ら妖狐族が招く番なのである。

そして今回の集いを完璧なものにするのが私、山城総太郎の役目なのである!



「よし、これもよし。あっちは……」

「三代目!これはあちらでよろしいでしょうか?」

「ああ、はい。お願いします」

「三代目……流石に慣れないな」


何故か私がこの稲荷の三代目になることが半ば事実として広まっている。
確かに二代目である叔父上に師事しているし、
私自身目指してもいるが、
私が三代目ということが決まっているわけではないのだが……。



「すまんねえ。君に任せっぱなしで」

「これは叔父上。いえ、これこそ弟子である私がやるべきことだと思いますので」

「ありがたいが……あまり無理はしないでおくれよ。
 私は君を預かっている身。何かあったら兄に申し訳が立たぬ。
 それに君にも大事な人がいるんだろう?」

「私が好きでやっていることですからご心配なされず。
 家族も納得してくれています」

「それならいいのだが……」

「はい。私にお任せを」



我らが妖狐の本拠地は京都である。
古来よりこの日本国の中心であり、
昔ながらの町並みも多く残す古都である。

その京都の地を代表する妖狐としては、中途半端な会などを開くわけにはいかないのだ!

だからこそ私はしかと準備をし、他の神使の方々を失礼の内容にお出迎えをする義務があると考える。



「三代目ー、そろそろ近場の神使の方々がいらっしゃるお時間ですよー」

「わかりましたー!こちらが終わり次第歓迎に向かいますー!」


二十神使は多種多様だ。
鼠や鯉、蜂や蟹などありとあらゆる方々をお招きするにあたり、食事などは特に気を付けなければならない。
牛の方に牛肉を出すなんてもってのほかであるし、
鶏の方に鳥肉を出すわけにはいかないのも当然である。

だからこそ各々の方にあったおもてなしを準備するのだ。
それが歓迎する側の礼というものだ。



「おや、ちょっと早かったかな」

「いえ、大丈夫ですよ。ようこそいらっしゃいました」


順々に神使の方々がやってくる。
流石に現代では獣の姿で集まるには目立ちすぎるので、人間に化けてやってくる。
皆、その種族の代表またはそれに準ずる方々ばかりであるので、粗相のないようにと気を張りっぱなしだ。


「やあやあ、お疲れ様」

「はい、ようこそいらっしゃいまし……はぁ!?」

「うむ、苦しゅうない」



思わず目を疑う。
うまいこと化けているようだがあれは……。


「お!ま!え!は!総次郎!」

「げ、こんなに早くばれるとは……流石は兄さんだなあ」

「流石は、じゃない!何をやっているんだ!」

「あははは……実は母上に様子を見に行けって言われちゃって……」

「母上に?」

「ああ、無理しすぎてないか見て来い、と」

「母上……」


何もかも御見通し、というわけだ。
やはりまだまだ母上には敵わないようだ。




「あーいたいた!」

「げ、白面ちゃん……」

「もう、何か騒いでるのが遠くからも聞こえたよ?また君が馬鹿なことやったんでしょ!」

「あはは、大したことは……」

「お兄さん本当にごめんなさい!止めようと思ったんだけどこの阿呆が……」

「いやいや、むしろいつもうちの愚弟の面倒を見てもらっちゃってこっちが謝らなきゃいけないぐらいで……」

「いえいえ……」

「いえいえ……」



「あのー、お二人さん……?」

「なんだ?この阿呆」

「なによ?この阿呆」

「なんで息ぴったりなの……。
 いやーその……ほら次のお客様が来られるなー、って……」

「おっと、そうだった。いかんいかん。
 白面くん、うちの阿呆を頼んだよ。それじゃ!」

「あ、はい!お兄さんもがんばってください!」


なんだかんだで弟も私を心配してくれたのだろうということは十分に伝わった。
少しは緊張もほぐれたように思う。

弟に心配されるようでは私もまだまだか……。



「皆さん、おまたせしました。
 本日は遠路遥々、京都まで足を運んでいただきありがとうございます。
 それでは二十神使会議、始めさせていただきます!」


まだまだこの会議に列席できるほどの力量が自分にあるとは思えない。
それでもいつかは……と頑張ることを無駄だとは思わない。



私もいつしか偉大な父上の跡を継ぐのだから!


今回はここらへんで。


熱血お兄ちゃんってのも、いいですよね。




我ら妖狐族の多くは京都の地を安住の地として定めている。
京都という街では古くからのものが多く残っており、
服装もそれに合わせてか着物であったり甚平であるような人も他に比べれば多くいると言えるだろう。
だからこそ未だに変化する姿は甚平姿だったり着物姿だったりする者も少なくない。

とは言え、平成の世となった現在、
妖狐が皆、着物姿になろうものなら街には着物の人物が異様に増えるというものだ。

つまり何が言いたいかというと、妖狐もファッションには多少敏感なのである。



僕ら妖狐は服を買わない。
ならば服はどうしているのか。
人間に化けるときに色々変えているのだ。

とはいえ見たこともないものに化けるというのはとても難しい。
それが甚平や着物など想像しやすい服に化ける狐が多い一因でもある。
じゃあ普通の姿をしている狐はどうしているのかと言うと……

ウィンドウショッピングをしているのである。



「あー寒い寒い……」


冬も真っ盛りというこの時期、僕は白面ちゃんに街に行くからついて来いと連れ出されてしまった。
何もこんな時期に新しい服を見繕いに行かなくても……とぶちぶち愚痴ってたら、

『たまには人の役に立つことをしなさい!』

と怒られてしまった。
白面ちゃんは人じゃなくて狐じゃないか……、
とも思ったのだがこれ以上余計なことを言うと後が怖いので黙っておくことにしたのだ。



「お待たせ」

「お待たせってなあ……この寒空の中で長いこと待たされたら風邪をひいてしまうってもんだよ」

「なによう。いいじゃないか三十分ぐらい!女の子は色々準備が必要なんだよ!」

「女の子って……そもそも僕らは――、いやなんでもない」


寒さに耐えながらも待っていた僕に何のねぎらいもなく出てきた彼女に文句の一つでも言ってやろうと、
マフラーに埋めていた顔を上げ、振り向いたときに僕は言葉を紡ぐのを忘れてしまった。



恐らく自惚れでもなんでもなく、彼女が僕と一緒に出掛けるために考えたのであろう服装が、
とても似合っていて、見惚れてしまったのだ。

普段は恥ずかしがってあまり履くことのないスカートまで履いている。
黒のタイツを履いてはいるが寒いだろうに……。

でも眼福なのでとりあえず目に焼き付けておいたというのは言うまでもないことであろう。



「? 変なの。まあいいよ。さーて、今日はとことん付き合ってもらうよ!」

「はいはい……どこへなりともお供しますよ。お嬢様」

「それじゃあまずは――」


順番に白面ちゃんがお気に入りの店を回っていく。
僕はあくまで付き添いだ。でしゃばることはしない。
彼女が楽しそうに語る様々なことに耳を傾けているだけで十分なのだ。



「――それで、その時……ねえ、ちゃんと私の話を聞いてるの?」

「ああ、もちろん聞いているとも。それですっころんだ狸がどうしたって?」

「えっと、そのあと恥ずかしかったのか周りをキョロキョロ見回した時に追っ手に気付いたらしくて、
 慌てて狸の置物に化けてたんだよ。あはは。おかしいよね。
 突然街中に狸の置物が現れたら誰だって気づいちゃうよね」

「確かにそうだ。それでどうなったんだい?」

「案の定、見つかっちゃってその時は連れて行かれてたよ。
 なんでもそのあと親にこっぴどく叱られたとかなんとか」

「無理からぬ話だなあ。ところで服のほうはもういいのかい?」

「うん。気になる洋服はあらかた確認しちゃったかな。
 流石にいっぱい見ちゃってもそんなに覚えていられないしね」



「じゃあどうする?今日は寒いしもう帰るかい?」

「うーん……久々に一緒に街に来たんだしもう少し回っていこうよ」

「そうかい。それではお嬢様、よろしければお手をこちらに」


少しキザだったかな、と思いつつ腰を折りながら手を差し出してみると、
彼女のほうも照れながら僕の手を握ってくれた。
その手は暖かくて、今日は寒いはずなのに僕の心まで温かくなって、
そのあとはなんだか不思議に時が短く感じてしまった。








「――で、次の日にはこれですか」

「うう……ごめん」


次の日、僕は白面ちゃんの家に行っていた。
当の白面ちゃんは絶賛インフルエンザ発病中。



「昨日ので疲れちゃったのかね」

「そうかもしれない……」

「まったく、はしゃぐのもいいけど体調管理もしっかりしようね?」

「うん……わかってるよ……」

「それじゃあ僕、タオル取り替えてくるから」

「うん、ありがとう……」




昨日は一日中、上機嫌ではしゃぎっぱなしだったからまさかとは思ったけれど……。
幸い僕のほうにはなんともなかったから良いものの、
白面ちゃんを体調をしっかりと確認してなかったのも僕の悪い点ではあるのだろう。


「ファッションにも病気にも……流行りものには敏感ってことなのかねえ……」


そんなしょうもない愚痴をただ一人吐き捨てる僕なのだった。


今回はここらへんで。

まだまだ乾燥している季節。
体調にはお気を付けを。

大分書いたなーと思ってました。話ごとに分けたらまだ次十話でした。



「あら、お元気だったのかしら?」

「ああ、どうも……僕はそれなりにですよ。……陽子さん」

「そう、それは良かったわ。あなたを他の誰かに盗られたくありませんもの」

「僕はあなたの物ではないのですがね……」

「じゃあ私の物になってしまえばいいわ」

「ご冗談を。僕なぞつまらない者に目をかけるものではありませんよ」

「そんなことないわ。私はあなたのことが好きなのだもの」



運命のいたずらと言うべきか、はたまた星の巡り会わせとも言うべきか、
僕はこの女性と関わってしまったということに今更ながら何者かの意図を感じてしまうことがある。
もちろんそんなものは僕の勘違いなのではあろうが、
この出会いを多少なりとも呪わしく思ってしまうのも致し方のないことではないのかと言い訳をしたいのである。

あれは数年前のことだった。


――――――――――――――――――――



油断した。
まさか僕が轢き逃げされるとは……。
人間に化けてたし轢いていったやつも慌てて逃げてたな……。
ははっ、今頃人を殺したんだとびびってるのかな。

ああ、だめだ。変化も解けてしまった。
幸い足が折れてる程度だけど痛みで動けそうにもないな……。
どうしたもんだか。
このままここにいたのでは次来る車にまた轢かれてしまうかもしれないな。
そうなれば流石に助かることは……。

クソ、こんなんだったら白面ちゃんに告白しとくんだった……な。


「あらあら、可哀そうに。うちに連れて帰って手当してあげるわ」


突然聞こえる、謎の女性の声。
しかし、その声の元を確認する前に僕は意識を手放した。






気づくと僕はどこかの診療所らしきところにいた。
怪我をした足は既に手当されていた。
ここはどこだろうと辺りを見回していたら後ろから声をかけられた。
それは先ほど意識を失う直前に聞いたあの声だった。


「あら、気づいたのね」


彼女はそう呟くと普段使っているだろう自分のデスクに腰を掛けた。

ああ、たぶん彼女が助けてくれたのだろう。
感謝をしたいところだが、流石に喋ったら化け狐だと怖がられてしまうだろうし、
このまま親切に甘えるとしよう。



「あら?命の恩人に感謝の言葉もなしかしら?」


彼女は何を言っているんだ?
ただの狐がどうして人の言葉がわかると思っているのだろう。
しかし、確かにこのまま何も喋らず、というわけにもいくまいか……。


「コン」

「あらあらまあまあ、可愛らしい。なんて可愛らしいのでしょう。
 でもね、私が期待しているのはそんなことじゃないの」


これ以上僕にどうしろというのだ。



「人間の姿にもなれるのだからきっとお話できるはずでしょう?」


その瞬間、ぞくっと背筋が震えた。
こちらにむかってニコリと微笑む彼女にとても寒いものを感じたのだ。

覚悟を決めるしかなさそうだ。


「……どうしてそのことを?」

「あら、やっぱり話せるのね。どうしてってそりゃもちろんあなたが轢かれるところを見ていたからよ」


とんだ失態だ。
事故に遭うどころか変化が解ける瞬間まで見られていたとは。



「どうして僕を助けたのです?」

「私は獣医だからよ。ここは私の病院なの」

「でも見捨てることだって出来たはずでしょう?」

「そうね。でもこんなに面白そうなものをみすみす見逃す手はないわ」

「……そうですか」

「私、烏島陽子というの」

「はあ……」



「女性に先に名乗らせておいてあなたは名乗らないのかしら?」

「そちらが勝手に名乗ったのではありませんか……。山城総次郎です」

「やっぱり化け狐にも名前はあるのね」

「化け狐って……これでも僕はれっきとした妖狐で……」

「あらそうなの。あなたも『ようこ』。私も『ようこ』。面白い偶然ね。うふふ」


厄介だ。
本当に厄介な人に捕まってしまった。
本当ならば今すぐ逃げ出したいところだが、この足では無理だろう……。



「私ね。小さいころからずっと動物と話してみたいと思ってたの。
 でも大きくなるにつれ話すのは無理ってわかったから、
 せめて動物たちの気持ちがわかるようになりたいと思って獣医を目指したの」

「そうですか……」

「でもやっぱりわからないことだらけ。
 結局理想は理想でしかないと思っていたらあなたに出会えたのよ」

「…………」

「人語を解する動物が実際にいるとは思わなかったわ」

「……妖怪ですけどね」

「そうね。でも、いいわ。だってこんなに嬉しいんだもの!」



一瞬見せた子供のような眩しい笑顔に少しドキりとしてしまった。
それはずっと心の奥に押しこめていた『純真さ』とでもいえばいいのだろうか、
そういうものを彼女に垣間見ることができたからだろうと今では思う。

結局僕の足が治るまで色々なことを質問された。
とても、とても多くのことを彼女は尋ねてきたのだ。
……答えられないことのほうが多かったのではあるが。

この時、多少なりとも彼女に心を開いてしまったことを今でも僕は後悔している。


――――――――――――――――――――


それ以来、たまに彼女と街で出くわすたびにちょっかいをかけられるようになってしまった。
買い物に付き合えだの、しつこい男がいるからそれを振る手助けをしろだの、
いつもいつも『正体をばらされてもいいのかしら?』との脅し付きで付き合わされたのだ。






「あなたはいつまで経っても私の物になってくれないのね」

「僕には心に決めた人がいますから」

「あら、妬けちゃう。じゃあいっそのこと狐鍋にでもして私の血肉にしてあげるわ」

「それはご勘弁を。これでも一応神使の系譜なもんでして」

「あらそう、残念ね。これでも私はあなたのことを好いているのよ?」

「飽きませんね。その冗談」

「あら、冗談じゃないわよ?私はあなたのことが食べちゃいたいほど大好きなのだから」


ヒヤリと冷たい彼女の笑顔。
何度見ても見慣れない。
そのうち本当に僕が食べられてしまうんじゃないかと思ってしまう。



「あまり人を、いや『妖狐』をからかうもんじゃありませんよ。陽子さん」

「ふふ、そうね。……そうよね」




そう、僕らはあくまで違う世界を生きるもの。
だからこそ、この出会いを呪わしく思うのだろうと僕は思う。

この気持ちはきっと恋などではないのだから。


今回はここらへんで。書きたいことはいっぱいあったのだけれど話の進まなさに愕然としている現状である。

遅くなって申し訳ない 近々投下できるようにするつもりです。

すごいノリノリで数日にかけて書いてたんですけど途中で
あれこれメインキャラクターでないじゃん……どうしようってなってただいまストップ中です。

新しく書き直すか、加筆修正して番外編として投下しちまうか絶賛悩み中です。

投下するのが遅くなって済みません。どうせだからとバレンタインネタを投下したいと思います。



この時期は苦手だ……。
どこに行ってもアレがある。

あの匂いを嗅ぐだけで気分が悪くなってしまう……。
そして彼女もきっと……。


二月。
冬も終わりに近づいているがまだまだ寒さが厳しい季節である。
この月にある大きなことと言えばそう、節分である。



……としらばっくれたい気持ちになるが、そうもいかない。

そう、この月はあれがある、バレンタインだ。


街中チョコレートチョコレートチョコレート……。
正直苦手だ。
そもそも狐が食べていいものではない。
……普通の狐ではないという自覚はあるが。



「あ、今年も頑張るからね!楽しみにしててね!」


白面ちゃんもノリノリだ。
このイベントを知って十数年。
彼女はノリノリで僕にチョコレートを渡してくる。
……拒否してこなかった僕も悪いとは思う。

そもそもおかしいのだ。
彼女もチョコレートは苦手じゃないか!
僕に渡すだけ渡して自分は絶対に食べない。

くそう……何かが間違っている……でも正直にそのことを言う勇気もない。



「こんにちは、今年も大変ねえ。子ぎつねちゃん」

「ああ、おばあちゃん。こんにちは。本当にそうなんだよ」

「でも断れないんでしょう?」

「うっ……」

「本当に優しいのね。頑張ってね」



それだけ言うとおばあちゃんは僕にコーヒー豆をくれて手をひらひらをたなびかせて去っていった。
なんていい人なんだおばあちゃん。
いやわかってたけども。

一応言っておくが、僕は甘いものが苦手というわけではない。
ただチョコレートが苦手なのだ。
妖狐の多くはそうでもないらしいが僕は本能的にだめなのだ。

ちなみに父上も苦手らしい。狐時代の名残だとかなんとか。
なんか食べちゃいけないものな感じがする、とは父上の言。
そんな父上も近年では母上のチョコレートを頑張って食べている。
変なところで親子の繋がりを感じてしまった。



一応、念のために、奇跡を願いながら白面ちゃんがいる台所をこっそり覗きに行く。
案の定そこにはエプロン姿で湯煎中の白面ちゃんがいた。
どうやら今年もばっちりチョコレートがあるようだ。


「はぁ……今年もか……」


やり場のない気持ちを抱え、ため息をつきながら散歩をする。
とりあえずチョコレートの匂いがしないところを求めて近所の公園までやってきた。



「はぁ……今年もか……」


そこには僕とまったく同じことを呟いている浩二さんの姿があった。
親近感が増す。


「チョコ0になりそうだぁ……」


罪悪感を抱く。



「浩二さん」

「ああ、総次郎君……君はいいよねえ……白ちゃんからもらえるんだろう?」

「ははっ……そうですね」

「ちくしょー!なんでこう神様は不公平なんだ!」


駄目だ。こんな人にチョコをもらうのが苦痛だなんて言えない。
ていうかなんでこの人モテてる自覚ないんだろうか。
さっきからちらちらとこちらを覗っている女性が何人かいるじゃないか。
気づいてあげなよ。



「ま、まぁ頑張ってください。浩二さん」

「あぁ、ありがとう。君は早く白ちゃんのところへ行っておやり」

「ははは」


もはや乾いた笑いをすることぐらいしかできず。
静かにその場を去る。
公園から出たあたりで、周りにいた女性からの「あんた邪魔なのよ」という視線がなくなった。



「もう少しだけ逃げ回っていたいなぁ……」

「あら、何から逃げ回りたいのかしら?」


出た。悪魔だ。いや、陽子さんだ。
妖狐にも気配を悟られないってこの人何者なんだ。
未だに得体がしれない。



「いやぁ、その。ほら、街がカップルだらけじゃないですか。ああいう空気から逃げたいんですよ」

「へぇ、あなたにもそういう時があるのねえ。普段は人に見せつけてばかりのくせに」

「いやぁ……ははは……」


厄日だ。
本当に今日は厄日だ。
何もこんな日まで僕に試練を与えなくてもいいでしょ神様。


「とりあえずこれを受け取っておきなさい?」

「え、うわっ!」


ポンっと軽く放り投げられた小さい箱を僕はあわててキャッチするも、
彼女はそれをつまらなそうに見ている。
おそらく落とした方が罵るいい口実になったとでも思っているんじゃなかろうか。



「これって……」

「今日は何の日だと思っているのかしら?」

「いやでもほら……僕狐ですよ?」

「ただの狐じゃないんだからどうせ大丈夫なんでしょう?」

「ええ、まあそうですけど……」

「なら受け取っておきなさい。こんな美人にもらえるなんてそうそうないことよ。良かったわね」


それだけ言うと彼女は去って行った。
いくら綺麗だろうと棘のあるものには近寄りたくないものである。


日も傾いてきたし、そろそろ逃げ回るのも終わりにしなければならない。
このままとんずらをしてもいいのだが、次の日に白面ちゃんと母上にこっぴどく叱られるのが目に見える。

嫌な気持ちを押しこめ、前面に出してしまわないようにとこらえつつ家路を急ぐ。


「あ、やっと帰ってきた!もう!どこにいってたの?」

「はは、ちょっとね……」


少しでもチョコレートから離れたかったなどとは口が裂けても言えない。


「それでね……えっと、その……」


白面ちゃんは恥ずかしがってなかなか僕に渡せないようだが、
もう何がでてくるかわかっている僕としては処刑台にいる罪人の気分である。



「ほら、今日バレンタインでしょ?だから……これ!」


そういって僕に差し出されたのは、大福。


「これどうしたの?」

「ほら、去年も一昨年もそうだったけど、君は実はチョコレートが苦手なんじゃないかなぁ……と思って」

「それでわざわざ大福にしてくれたいのかい?嬉しいなあ」


嬉しい。本当に嬉しい。
白面ちゃんがそこまで僕のことを見ててくれたのかという気持ちももちろんあるが、
チョコレートを食べなくていいというのが本当に嬉しい。



「早速食べさせてもらうよ!あーん」


ぱくり、と小さな大福を一口で食べてしまう。
そして口の中に広がるチョコレートの香り。


「どう?君はチョコレートをそのままで食べるのが苦手なんだろうと思ってチョコレート大福にしてみたんだ。おいしい?」

「うん……おいしいよ……」


そうじゃないんだよ!と叫びたい気持ちでいっぱいだったが、
それだけ言うのが精いっぱいな僕だった。


大分投下が遅くなってしまってすみません。でもどうせならバレンタインに、と思っていたので今日投下できてよかったです。
本来書きたかった話の雰囲気に一番近いのは今回みたいな話だなあなんて思っていたりもします。
次回はそれなりに早めにしたいと考えています。

本当に申し訳ない。毎日9時寝な現状あまりかけてなかった……。
途中でやめるつもりはないので気長に待っていただけると幸いです。


もう少ししたら番外編前篇を投下したいと思います。
かなり遅くなってしまい申し訳ありませんでした。


番外編 彼女が彼女に至るまで




ずっとずっと忘れられずにいる『人』がいる。
彼はとっても優しい声で私のことを「陽子さん」と呼んでくれた。
あの声をずっと忘れられないから、私はこの仕事をやめられないのだろう。



―――――――――――――――



私が夢を見なくなったのはいつからだろう。
小さいころから動物が好きで、いつかきっと犬や猫などの動物たちと話せるようになると信じていた。

そんなことは無理だとわかったのは小学生の時だった。
でも無理だってことを認めたくなくて、
いや認めたうえで、
それでも彼らの気持ちが少しでも理解できるようになりたいと私は獣医を目指すようになった。



そもそも人付き合いの苦手な私は中学生になると勉強にのめりこんでいった。
友人も少なく、本当に心が許せる相手というものはほとんどいない私であったが、
夢に向かって頑張るということは私に幸福をもたらしてくれた。

私はますます他人と関わらなくなっていった。

高校に入る頃にはもう私は友人がほとんどいなくなってしまっていた。
唯一小さい頃から仲の良い友人だけが私と一緒に居てくれていた。



「ねえ、陽子ちゃん。やっぱり獣医目指してるの?」

「うん。小さい頃からの夢だったから」

「そっかぁ……。ね、ところでなんで獣医になることが夢だったの?」

「……笑わない?」

「笑わない、約束する!」

「……。昔ね、動物とお喋りしてみたかったんだ。
 でもそれは無理だってわかったからせめて気持ちだけでもわかるようになりたいな、って」

「それで獣医に?」

「うん」


「ふふふ」

「あ、笑った!里香の嘘つき!」

「ごめんごめん。もっと現実的な理由かと思ってたらかわいい理由だったから」

「ふん」

「もーすねないでー。ね?放課後アイス奢ってあげるからさ」

「……ケーキ」

「え?」

「ケーキじゃないと許さない」

「わかったわかった。ケーキね」


あの頃の私はまだ可愛げがあったように思う。
まだまだ可愛い夢を見る少女だったのだ。



私は昔、気分転換に町はずれの神社によく通っていた。
ここは神主の方が犬を飼っており、私は昔からその犬と遊ばさせてもらっていたのだ。
名前はシロという。


「うーん、よしよし。お前はいつきても元気だね」

「くぅ~ん」

「よしよし」

「おや、今日もいらっしゃったのですか」

「はい、お邪魔しています。神主さん。いつもいつもすみません」

「いえいえ、可愛がってくださって嬉しいばかりですよ。シロも喜んでいます」




もう老犬にもなろうかという柴犬だったのだが、とても元気な犬だった。
大人しく、しっかりと躾けられているのかとても利口で近所の子供たちにも良く可愛がられていた。

動物が好きという気持ちだけは小さい頃から一切変わることがなかった。
しかし、人付き合いというものに対しては私は酷く億劫になっていった。

私の周りだけがそうだったのか、それともどこも同じなのかそれはわからないが、
周りはいつも決まったグループで活動していたように思う。
あくまで私は一人で良かったが、外から色々なグループを見ていると、
人間関係の煩わしさなどが手に取るようにわかってしまった。

そのようなことも相まって、私は本当に心を許せる相手としか話せなくなってしまった。



結局高校の間も勉強の虫だった私は成績もよく、希望する大学へ入ることができた。

大学では少しは社交性を身に着けようと部活やサークルに入ることも考えたのだが、
馴染むことができず、勉強とバイトに明け暮れる日々を送っていた。

地元にいた頃は気分転換もできたのだが、
大学に入り単身で知らない土地に来ていた私はどこにいけばいいのか何をすればいいのか、
誰かに尋ねることもできず、どんどんと自分の殻に篭るようになっていた。

そんな生活で私はどんどん擦れていった。



なんで私は小さい頃の夢だというだけでこんなに頑張らないといけないのか。
それが最近わからなくなってしまった。
だからこそ私は大学の長期休暇を利用し、地元に帰ってきたのだ。


「懐かしいな、ここ」


久々に戻ってきた地元は私が離れる前と何も変わらず、私に安心感をくれた。


「まだあの子元気にしているのかな」


地元に戻ってきて一番に気にするのがシロである。
そういうところが私らしいなと思って少し笑う。



考えてみればここ数か月、まともに笑っていなかったように思う。
バイトでは接客業なのもあって笑顔を作ってはいたが、それはあくまで「笑っている」とは言えない行為だった。
このことだけでも地元に帰ってきて良かったのだと実感できた。

駅から少し歩くと馴染みの道にでた。
この道は私が小さい頃からずっと何かあると、いや何かなくても通い続けた神社への道。
ここにきて改めて帰ってきたのだという実感を覚える。

少し高翌揚した気分で神社へと歩みを進める。
シロは元気にしているのだろうか。
それとももう年老いて亡くなってしまっているだろうか。



やがて神社に着き、境内までの階段を登る。
階段を登っている最中にワンワンという高い鳴き声が聞こえてくる。
こらえきれず私は駆け上がる。

そこにいたのは神主さんと二匹の犬。
犬の片方は見覚えがある。私がいつも会いに行っていたシロだ。

でももう片方は?
同じ柴犬で似たような……子供?いやでも年齢が……。

嬉しさや驚きがごちゃ混ぜになった頭で必死に考えるがまとまらない。
少し立ち尽くしているとどうやら神主さんが私に気づいたようで声をかけてきた。



「おや、お久しぶりですね。お元気でしたか?」

「え、あ、はい!お久しぶりです!私はこの通りですよ」

「それは良かった。しかし感慨深いものですねえ……
 あんなに小さかったあなたがこんなに立派に……」

「もう、恥ずかしいからやめてくださいよ」

「ははは、これは失敬」

「一つお聞きしていいですか?」

「はい、なんでしょう?」

「その子達……シロはもちろんわかるんですが小さなほうは……?」



「その子達……シロはもちろんわかるんですが小さなほうは……?」

「ああ、クロですね。その子はですね、シロの孫の孫、といったところでしょうか」

「え、子孫なんですか?」

「ええそうです。とある縁がありまして、生まれた子を一匹譲ってもらえることになったのですよ」

「それは素敵ですね!ということは二匹とも家族なのかあ……」

「そういうことになりますね。最初は子犬だったのに子供ができて孫ができて……そしてこの子が。
 生がつながるというものはいいものですね」

「はい」


そして私が今頑張っていることはそんな生を繋げる手伝いをするための勉強なのかもしれない。
そう思うととても素敵なことのために頑張っているんじゃないかと思えてくる。



「神主さん」

「え?」


ほんの少しだけ考え事をしていると聞いたことのない男の人の声が聞こえた。
寒いとはいえ、パーカーのフードまですっぽりと被り、陰気な印象を私に与えた。


「あ、話し中でした?すみません」

「ああ、いやいやいいんだよ別に。こちら烏島さん。昔からよくうちの犬と遊んでくれてたんだ。
 それでこっちはえーっと……弥栄くんだ。訳あって最近うちの神社に住んでいるんだ」

「初めまして弥栄さん。烏島です」

「どうも、弥栄です」


「それでどうかしたのかね?」

「ああ、はい。片付け終わりましたし、何か他にすることはあるかなと」

「ありがとう。大丈夫何もないよ。というか何もしなくてもいいのに」

「いえ、おいてもらっている以上、何もしないというのも気になりますし」

「そうかい?でももう大丈夫だから休んでおきなよ」

「はい。それじゃあ」


それだけ話すと彼は社の奥の方に消えていった。



「すまないね。私もちょっと用事があるから外させてもらうよ」

「いえ、お引き留めしてすみませんでした」

「気にしなくていいんだよ。それじゃ」


二人ともいなくなったところで、私は目線を下に落とす。
もちろん二匹の犬にもう意識が向いているからだ。


「よしよし、今から思いっきり撫でてやるから覚悟しなよー!」


長い間堪能していなかったふれあいに心が躍る。
相変わらずにいい子たちで私が好き勝手に触っても嫌がる態度をとらない。

やっぱり私は動物が好きなんだなあとわかりきったことを確認するには十分だった。



「おい、あんた」

「ん?」


犬を満足いくまで可愛がってやろうと思っていたら背後から声をかけられた。
声の主はどうやら先ほどの弥栄とかいう人物のようだ。
正直相手をするのがめんどくさい。
人を相手をするぐらいなら犬の相手をしていたいぐらいだ。
それでも気づいてしまった手前、無視するわけにもいかない。



「あんたいつまでそうしているつもりだ?」

「?」

「犬の相手をいつまでしているつもりだって聞いてるんだ」

「え、満足するまでだけど……」

「もう俺が休憩に行ってから2時間は経ってるぞ」

「え!嘘!?」

「嘘じゃねえよ。なんなら日も傾いてるだろ」


言われてからあたりを見渡すと、境内はオレンジ色に染まり、
遠くの空はオレンジと濃い青色のコントラストに染まり、黄昏時だということを証明していた。



「ほんとだ……」

「だから言っただろ。いつまでそうしているつもりだって」

「そうね……今日のところはもう帰らなきゃね」

「今日のところは、って明日もまた来るつもりか?」

「当たり前じゃない。私の唯一の娯楽だもの」

「唯一って……。まぁいいさっさと帰んな」

「そうするわ。それじゃあまたね。弥栄くん」



そう言って私は帰路につく。
実家に着くと両親は暖かく私を迎えてくれた。
こんなぶっきらぼうな私を受け入れてくれる数少ない人たち。
そんな人たちの優しさに触れることが嬉しくてたまらなかった。

恥ずかしがり屋な私はそれを素直に出すことはできなかったけれど。

大学の長期休暇の間は実家にいると伝えると両親ともに喜んでくれた。
やはり一人娘がいないというのは寂しかったのかもしれない。
そんな喜んでくれる両親の顔を見るだけで私は安心することができた。

ああ、まだ私は必要とされているんだ、と。



私は毎日のようにあの神社へと向かった。
まだまだ寒い時期だ。朝早くから向かうのは少々大変だったが、
あの子たちに会えるのだと思えばそれも苦ではなかった。

通っているうちに次第とあの弥栄くんともそれなりに話すようになっていた。


「よう。あんたまた来たんだな」

「ええ、もちろんよ。それより『あんた』ってのやめてくれない?」

「じゃあなんて呼べばいいんだよ」

「そうね。『烏島様』ってのはどうかしら」

「冗談にしても面白くねえぞ」

「あら、そう?」


「そうだな……『陽子』でどうだ?」

「いいけど……弥栄くんに下の名前教えたことあったかしら?」

「……ちょっと小耳にはさんでな」

「そうなの?でもそうね、呼び捨てはちょっと嫌だから『陽子さん』ぐらいでお願いね」

「へいへい、わかったよ。陽子さん」


そうして私たちは「弥栄くん」「陽子さん」と呼び合う関係となった。
特に親しい訳ではない。でも不思議と嫌ではなかった。

彼はとてもマイペースだ。
自分のリズムを崩すことを嫌がるし、他人に干渉することもあまりない。
しかし、そんな彼の性格は私にとてもあっていた。
私も似たような性格をしているからかもしれないが。



「おま……陽子さんは毎日ここにきてるがそんなに暇なのか?」

「私は大学生だからね。今はちょうど長期休暇なのよ」

「なるほどな。暇ってわけだ」

「なんかその言い方は嫌ね。否定はできないけど。弥栄くんのほうはどうなのよ」

「何がだ?」

「いつまでここで居候みたいなことしてるの?」

「…………」

「弥栄くん?」

「いや……そうだな、一人前になるまで、ってとこかな」

「……神主として?」

「まあそんなところだ」



何かはぐらかされたような気がするが、
彼の雰囲気が「これ以上深く聞くな」とこちらに警告しているように感じたので、
私もそれ以上は聞こうとしなかった。

彼は未だにパーカーのフードを取ろうとはしない。
それは私に対して一線を引いているのではないかと私は思っていた。


最近では普通の会話すらあまりしなくなっていた私としては久々に普通に話せる相手だったので、
なるべく親しくなりたいとは思って嫌がられない程度に話しかけようと努力はしていたのだが、
彼からは一向に近寄ってくれそうにないように思えていた。


私が何か彼の気に障るようなことでもしたんだろうか?


解消できないわだかまりのようなものが私の心にたまっていった。



夕食時、私の浮かない顔を見て察したのは父が話しかけてきた。


「どうしたんだい?陽子。何か悩みでもあるのかい?」

「え?ううん、大したことじゃないんだけど……」

「大したことじゃないのにそんな顔をするのかい?」


昔からそうだった。
父は普段は基本的には干渉してこようとはしていない。
いつもいつも一歩引いたところで優しく見守っていてくれる。
でも私が何かとても困っているときはすぐに手を差し伸べてくれていた。
もしかしたら私は自分で思っている以上に悩んでいるのかもしれない。



「そう……そうね。ちょっと悩んでいることがあるの」

「そうかい。それはなんだい?少しなら父さんが相談に乗るよ?」

「ありがとうお父さん。えっとね……」


事のあらましを簡単に父に説明する。
一通り説明し終えると、父は腕を組んで少し考え始めた。



「陽子、一ついいかい?」

「なに?お父さん」

「その人は男の人なのかい?」

「え?」


真剣な顔で父はこちらを覗っている。
すぐには質問の意図が読めなかったが、理解した私は顔を赤らめて慌てて答える。



「ちょ!?お父さん何言ってるの!?た、確かに男の人だけどそういうんじゃ……」

「ははは、陽子もそういう顔をするんだな。お父さん安心したよ」

「だからそういうのじゃ……!」

「ごめんごめん。でもね陽子。相手のことが知りたい、相手と仲良くなりたいと思うのなら、
 まず自分のことを、自分の想いを相手に伝えなきゃだめだよ?
 コミュニケーションっていうのはそこから始まるんだ」

「……うん」

「陽子は昔から色々察しのいい子だったからね。一歩引くってことができてしまう。
 でもね、時には嫌がられようとも自分から踏み込まなければ理解できないし、
 してもらえないことだってあるんだ。ここまで言えばもうわかるね?」


いつもいつもそうだ。
私はいつも傷つけたくない、そして傷つきたくない、そう思っていつも引いてしまう。
だから本当に手に入れたいものや本当に知りたいことから遠ざかってしまう。
そんな私のことを父はよくわかっているんだ。



「うん、ありがとうお父さん」

「わかってくれたみたいで嬉しいよ。ところで陽子」

「なに?」

「いつその男の人をうちに連れてくるのかな?」

「だからそういうんじゃないってー!」


お父さんとお母さんはニヤニヤした顔でこちらを見ている。
即座に否定して私は自分の部屋に戻ったのだが、
その途中リビングからは「あの子にもそういう人ができたのね」「何かお祝いした方がいいのかな?」
なんてお節介な会話が聞こえてきた。

なによもう!絶対あの二人勘違いしてるんだから!まったく!

そんなことを考えながら私はほてった顔を鎮めるように布団に入り、就寝した。



そんなアドバイスをもらったものの、すぐには行動に移れないもので、
なんとか少しずつ仲良くなれないだろうかと私は葛藤していた。
名残惜しかったけれど少しずつシロたちとのふれあいの時間を減らし、
彼に極力話しかけようとは努力していた。
しかし、一向に彼との距離が縮まる気がしない。
そんなこんなで帰省してから二週間が過ぎていた。


「大分暖かくなってきたね」

「ああ、そうだな」

「もうちょっとしたら桜の季節だよ」

「その前に梅だな」

「ふふ、そうだね」


相変わらずそっけない反応ではあるが、会話は一応続く。
でも彼のほうからは踏み込んではくれない。



「陽子さんはいつごろ離れるんだ?」

「まだ一か月くらいはいるよー」

「そうか」

「何~?どうしたの~?私がいなくなると寂しくなるとでも?」


彼から私に関することの問いかけは少ない。
だからこそ私のことを尋ねてくれた嬉しさから私は彼にちょっかいをかける。
だが


「ああ、そうだな。寂しくなるな」


そんな素直に返されると私のほうは何も言えなくなってしまう。



「どうしたんだ?」

「いや……その……まさかそんな返しが来るとは思ってなくて……」

「なんだ?照れたのか?」

「そ、そういう訳じゃ……!」


思わず大きな声を出しながら反論するかのように彼のほうを見る。
すると


「くくく」


彼は笑っていた。
フードの隙間から見える彼の笑顔はとても眩しかった。



「どうしたんだ?こっちを見て黙り込んで」

「いや、笑ったところ初めて見たから……」

「そうか……?」


私は見蕩れていた。初めて見せる彼の笑顔に。
だからこそあまり反応もできずにいた。

そんな時、強い風が吹いた。
春一番というやつだろう。
彼のほうを見て固まっていた私はまた別の意味で固まることになった。

春一番に煽られて、彼のフードが脱げたのだ。




彼のフードが脱げて露わになった頭には狐の耳がついていた。



―――――――――――――――――――――――――――――


ここまで思い出して、私はウィスキーを呷る。
思えば私はかわいい女の子だったんだと思う。
今ではこんなに擦れてしまったが私にもあんな時期があったんだと。


「他人に踏み込むことを恐れていた私はどこに行ったのかしらね?」


そんなことを一人虚空に向かって呟いた。


というわけで番外編前篇終了です。
正直最後まで書ききってから投下してやろうとも思ったんですけど、長い。
長すぎて投下するのも面倒でした。
というわけで前後編でやろうと思いますけど、次回投下が後編とは限りませんのであしからず。
長らく投下せずすみませんでした。保守支援嬉しかったです。
それでは近いうちにまた。

おかしいなーおかしいなー1か月半が過ぎてるなーおかしいなー
それもこれも4月末に買ったPS4とかいうやつが悪いんだそうなんだ私は悪くないんだ……

いやほんとすみません 何が近いうちなのかわからないですほんとすみません
急ピッチで何か仕上げておきたいと思います 遅くとも今月中

まにあったー!投下前に酉確認!大丈夫だったらそのまま連続で投下していきます!



暑さというものは妖狐でも如何ともしがたいものがある。
ならばどうするか?
そこは人間とさほど変わりはないのだ。

じめじめとした梅雨に入り気が滅入る今日この頃。
そんな状態なのだから少しぐらい愚痴がこぼれるのも仕方ないというものである。



「暑い……」

「言わないで……」

「ごめん……」

「うん……」


どんよりとした天気の中、ちょっとした用事が終わり公園で僕と白面ちゃんは一息ついていた。



「気温はそうでもないんだけど……このベタベタしたのはどうしてもね……」

「そうだねぇ……まあうじうじ言ってても仕方ないしそろそろ帰ろうか」

「そうしようか。白面ちゃん忘れ物はない?」

「大丈夫」

「じゃあいこう」


僕は白面ちゃんの斜め前を歩く。
少しだけ離れたこの距離感。
これがとても僕にとっては落ち着く距離感。
彼女もそれがわかっているからかそれ以上近づこうとも離れようともしない。
僕と白面ちゃんだけにわかる一番程よい距離なのだ。



「よう、お二人さん。仲良いな」

「おや、久しぶりだね。あー……弥栄でいいのかい?」

「ああ、今でもそう名乗ってる」


ひょこっと顔を出したのは僕の……そうだな、友人だ。


「そうかいそうかい。変わらずかい」

「なんだよその言い方」

「いいやなんでも。そういえば少し前に陽子さんにあったよ。元気そうだった」

「……そうか」

「ああ」


「ちょっとちょっとお二人さん。私のことを忘れてやしないかね?」

「わざとだ」

「ああ、わざとだ」

「酷くないかい!?」

「冗談だよ」

「そ、そう……それで初めましてかな?えーっと弥栄くん?」

「いや……会ったことはあるはずだ」

「え?そうなの?それは覚えてなくてすまないね」

「あーいや白面ちゃん、そういうことじゃなくてね……」


「あぁ……そういうこと?だったら私はわからなくて当然か」

「そういうことだ。口調のほうはすまないな。これで定着してしまってるんだ」

「いや、それは仕方ないことだから気にしないでいいよ」

「そう言ってくれると助かる。それで今日は二人揃ってどうしたんだ?」

「ちょっとうちの母上の用事をね……総……彼には付き合ってもらったんだ」

「……総次郎さんも苦労してるな」

「はは、それなりね」

「ちょっと!?二人ともそれどういう意味よ!?」


「白面ちゃん素がでてるよ素が」

「あ……んん。 ちょっと!それどういう意味だい!?」

「あ、言い直した」

「うん、言い直したね」

「もう!それはいいから!」

「ところでやー君は今日暇かい?」

「やー君って……まあ名前はそうそう呼ぶものではないことぐらい俺でも知ってるが……」

「気にしない気にしない。で、暇かい?」

「ああ、今日の用事は終わったところだが暇だが」

「ならちょうどいい。今日は飲みに行かないかい?七つの尾あたりで」


「あーもう……私のこと無視するぅ……」

「あっはっは、ごめんよ白面ちゃん。そういじけないで」

「いいよもう……そのかわり今日は君の奢りだからね」

「おっ、奢りなのか?それならご相伴にあずかろうじゃないか」

「なんでそうなるのかな!?……まあいいや。じゃあいこうか」


やはり暑いときは飲むに限る。
飲んで飲んで暑さを忘れるのが一番なのだ。
父上曰く「このあたりは昔から何も変わっておらんな」とのこと。



「おーいしーい!やっぱこんな日は酒に限るわー!」

「ああ、もうほら落ち着いて白面ちゃん。完全に酔っぱらってるよ……」

「なによー!私のどこが酔ってるっていうのよー!」

「ほら、素がでてる……」

「これがあの有名な白面さんの素なのか?」

「ああ、やー君は白面ちゃんの昔を知らないもんね。
 最近はすっかり喋りが固くなったけど昔はこんな感じだったんだよ」

「へぇ、そうなのか。もしかして総さんもそうなのか?」

「いや、僕は昔っからこんなもんだと思うよ」

「なーに二人で話しちゃってるのよーわーたーしーもーまーぜーなーさーいーよー」

「はいはい、仲間外れにはしないから落ち着いてよ白面ちゃん……」


「あ、もう酒なくなったの?次よ次ー!」

「弱いくせに大酒飲みなんだからもう……」

「次何を頼むんだ?」

「つぎぃー?そうねぇ……麦焼酎のロック!……氷抜きで!」

「ロックの氷抜きってそれただのストレートじゃないか!もう駄目だ白面ちゃん!帰るよ!」

「えー私もっとのみたぁーい」

「ごめんよやー君。ここにお金置いておくね」

「あ、あぁ気を付けてくれ」

「ありがとう。またね」

「ああ、また」

「やー君まったねぇ~~」



泥酔して千鳥足になりかけている白面ちゃんを背負って僕は店を出る。
ああ、久々だなこんなの。やっぱり楽しいな。
そんな思いを噛みしめながら自宅へと向かう。


「ぬっふふ~総次郎の背中だぁ」


白面ちゃんは僕の体に手をまわしてぎゅーっと抱き着いてくる。
柔らかいものが僕の背中におし……おし……?……うん、何も言わないでおこう。


「総次郎の背中も大きくなったねぇ~うふふ~」


白面ちゃんはとても上機嫌である。
上機嫌なのはいいんだけど少し歩きづらいから勘弁してほしいところでもある。



「私ね~」

「うん?」

「大好きだよ~」

「何が?」

「総次郎が!」

「へ?」


ぬっふっふ~と変な笑い声を出しながら僕の背中に顔をぐりぐりと押し付ける白面ちゃん。
そして動きが止まったかと思って確認するとスースーと寝息を立てて眠ってしまっていた。


「もう驚いたなぁ……すっかり酔っぱらっちゃって……」


そう呟いた僕の顔が熱いのはきっと酔いと暑さのせいなんだろう。



想定より文量がなかったのである。
うっそだろ……。
とりあえず今日の所はこんなもんです。長らくお待たせしてすみませんでした。
それではまた

もう少々忙しい時期が続くので次投下はご勘弁願います。
すみません。

本当は土曜のうちに番外編後半を仕上げきって投下するつもりだったんですが、もう少しまとまってません
すみません許してくださいなんでもしまむら

明日か明後日には投下してそこから新エピソードに入っていきたいと思います。
長らくお待たせして申し訳ありません。

ま、まだギリギリセーフだから
これから投下すればなんとか間に合うはずだから(震え声

というわけで今回分投下いきまーす


―――――――――――――――――――――――――――――


風が吹き止む。
しかし私は動けずにいた。
何か声を、何でもいいから。
そういくら考えても喉が一気にカラカラになってしまったのかと思ってしまうぐらい、
私の口は音を発しようとしない。


「いつかは」


彼が何か言っている。
でも私はその言葉を正しく理解できているだろうか。


「いつかはバレてしまうとは思ってたんだが……こんなに早いとはな」


そう言って彼は笑みを私に向ける。
悲しそうな、泣きそうな、そんな笑顔。

そんな彼を見て、私はさらに何も言えなくなる。



「騙す気はなかったんだよ。これでもな。
 ただ……楽しかっただけなんだ。『人』と話すということが」


彼の言う『人』。
私のことを言っているのだろう。
つまりそれは彼が普通の『人』ではないということ。


「しかし、それももう終わりだ」

「え?」


終わり?終わりって?
私にばれたから?私がいたせいで?


「そんな顔をしないでくれ。陽子さんのせいじゃない」

「でも!」


でも私のせいで!そう言おうとした、叫ぼうとした。
しかし彼は静かに顔を振る。



「もう一度言うが陽子さんのせいじゃない。俺の不注意だ。
 ただ、こうしてばれてしまったからにはやらなければならないことがある」

「やらなければならない、こと?」

「ああ、陽子さんの記憶を消さなければならない」

「……え?」


記憶を……消す?


「俺たちは本来普通の人間には知られてはいけない存在なんだ。
 だからもし知られてしまった場合、その人間の記憶を消し、一定期間姿を消さなければならない」

「じゃあ、私の記憶も……あなたとの記憶も消えてしまうの……?」

「そうだな」


彼に告げられた言葉により私の思考は急速に冷めていく。
自分でもはっきりとは認識できていなかった感情が私の中で廻る。
そうか私はきっと……





「嫌よ」

「……」

「そんなの絶対嫌。最近まで私は何も楽しいことなんてなかった。
 やらなきゃいけないことをただやるだけ。
 こっちに帰って来るまでただ淡々とそんな日々を過ごしてた。
 それは仕方ないんだって諦めてた。
 私はそんな人間なんだって。
 でもそうじゃなかった。ここのところは本当に楽しいと思えてたの。
 久々に私の感情が揺れ動かされていたのに気づいたの。
 私……私……」


はっとした顔で彼は私を見る。
きっと何を言おうとしてるのか気づいているのだろう。
でも今更私は止まらない。自分自身を止められない。


「あなたのことが」

「やめろ!!」


今まで一度も聞いたことがない彼の怒鳴り声に驚いてしまい、
私はその先を言うことができない。
静かに彼の顔を覗き込むと、その唇は震えていた。



「その先を言うんじゃない」


低く冷静な声が私の耳に届く。
まるでそれはそうしなければならないと私に思わせるような口調で。
そこには彼の意思はなく、そう言わされているかのような口調で。
その事が私の胸を締め付ける。


「俺のことは忘れるべきだ」

「そんな……」


俯いた彼の被りなおしたフードの中の顔をのぞき見ることはできなくなってしまったが、
口元は強く噛みしめているように見えたのは気のせいだろうか。


「後のことはそこの人がやってくれる」

「えっ?」


彼が指差したのは誰もいないはずの木陰。
そこにはいつの間にか一人の青年がいた。
まだ20代前半だろうか、もしかしたら10代かもしれない。
そのぐらいに見える青年が、人懐っこそうな笑みを浮かべて立っている。



「後は頼む。総次郎さん」

「わかってるよ。……それと僕らはあまり名前で呼ばないようにね」

「あ、そうだったな。すまない」

「僕はあまり気にしてないから大丈夫だけど他の人には気を付けるようにね」

「ああ」


よく意味の分からない会話。
でも彼らの間では伝わっている会話。
それが私と彼らの距離。
私の踏み込めない世界がきっとそこに存在する。


「さてと、君はもういいのかな?」

「あぁ、十分話せた」

「そうかい」


そして彼は私に背を向けて歩き出す。
その姿はもう会えないということを暗示しているかのようだった。



「あ……」


言いたいことはいくらでもあるはずなのに、声がでない。
言いたいことがいくらでもあるからこそ声がでない。


「あのさ、陽子さん」

「何……?」

「きっとまた会えるさ。心配するな」


最後に見た彼は、屈託なく笑っていた。




――――――――――――――――――――――


グラスの中の氷が鳴る。
いったい私は何時間こうしていたのだろうか。
普段はあまり飲まない酒なんかを飲んだせいで昔の思い出に浸ってしまっていた。

本来失くしているはずのこの記憶。
あの性悪狐は


『僕はまだまだ未熟者でして、そういう術はできないんです。
 だからどうかこのことは他言無用に。あなたの心の中だけに隠しておいてください』


と、二カっと邪気のない笑みを私に見せ、すぐに去って行った。
彼が事故で怪我をしていた時、私はすぐに気付いたというのに、
あっちは全く気付いていない様子だったので、もう少しばかり『いじわる』は続けてやるつもりだ。


「私はあの時そのまま何もしていないでくれたことに感謝しているのよ。総次郎くん」


一人呟いたその言葉はそのまま虚空に吸い込まれていくのだった。





















「やあやあ、やーくん。元気にしていたかね」

「ああ、総さん。こっちは変わりなくだよ」

「いやー僕のほうは、今日も陽子さんにからかわれちゃった」

「はぁー……」

「おや、やーくんその反応はなんだい」

「いい加減言ったらどうなんだ?」

「何をだい?」

「最初から気づいていたぞって」

「あっはっは、それを言ったらつまらないじゃないか。
 何せ僕らは人を騙すのが大好きな狐なんだから」

「はぁ……はいはい。まああんまりあの人を困らせないでくれよ」

「わかってるよ」





番外編 完

本来はもう少しというかもうかなり長かったんですけど諸々の事情でばっさりカットになりあっさり気味で番外編は終了です。

それで次回以降ですが番外編終わったばかりなのに外伝に入りたいと思っています。
まあそれもいろんな事情込々ですので……。
なるべく作品内のことは作品内で語りたいと思っていますのでそのあたりよろしくお願いします。
それではまた次回。


次は早く投下できるといいなぁ……。

さて外伝です。
番外編と外伝の違いですが、番外編は基本メインストーリーである総次郎と白の周りの人物を掘り下げるお話だと思ってもらえれば。
外伝はこの話の世界そのものを掘り下げるものとなっておりますので、登場人物もがらっと一新していたりもします。

それでは短めですが投下です。



世の中には天才と呼ばれる人間がそれなりに存在する。
それなりと評したのはあくまで配慮のためである。
実際天才という言葉は安売りされているのが現状だ。
何故私がそう評するのかというと、
真の天才というのは比べるのも馬鹿馬鹿しくなるほど圧倒的な存在なのだからである。



僕はとある港町に生まれた。
古くからとある事情からやむにやまれぬ者たちが集まってできた港町だ。

一人は、余りの強大な力から周囲が恐れ里から追放されてしまった先祖返りの陰陽師。
一人は、その悪魔的なまでの技術から自らの身の安全のために当主が里子に出した稀代の天才忍術使い。
一人は、高天原に戻ることができなくなってしまった神使。



そんな一般人ならば嘘だと一蹴してしまうであろう一癖も二癖もある者たちが集い、
作り上げてきた港町に僕はなんの力も持たぬ一般人として生まれた。

僕の父は先祖返りの陰陽師であるし、僕の母は稀代の天才忍術使いであるのだが、
僕自身はそのどちらの力も持たない。

というよりかは父と母がその自らの出生を鑑みたのかは知らないが、
僕は何も知らないまま蝶よ花よと育てられた結果、何もできない普通の人間として育ったのだ。

ではなぜこんなことを知っているのかだって?
それは僕のドジな幼馴染がお節介にも教えてくれたのである。



いわく、彼女の最初のドジはお役目でもないのに勘違いして葦原中国であるこの僕たちの国へ降臨したのはいいものの、
高天原に帰る方法を知らないかったことらしい。
自らの担当の稲荷神社の神主にどこに行けばよいかと聞いたところ、
我が故郷であるこの港町を紹介されたとのことらしい。
なんでもこの町についたところちょうど私が生まれたとかなんとからしく、
それ以来甲斐甲斐しく僕の世話をしてくれているとのこと。
道理で彼女の見た目が幼い頃から一切変わらないのである。



そのことを知ったのは7歳の時だ。
ついでのその時、自らの両親の仕事も知った。
なんでもうちの父は定期的に各地の主様の様子を見に行ってるだとか、
大きな地震が起きた時は平将門公のご機嫌伺いに行ってるだとか、
母のほうはその稀代の天才とまで呼ばれた忍術を用いて有事の際は重要人物のSPとして働いているだとか、
なんだか二人とも時々出張でいないよなぁと思ったらそんなことをしていたのかと幼心に思ったものである。



そんな話を聞けばいつか自分も、と思ってしまうのは仕方ないことであろう。
しかし、僕はいくら努力したところで、陰陽術も使えなければ忍術も使えない。
本来は父と母に聞くべきなのであろうが、何故か二人とも必死で僕に隠そうとしている。隠せていないが。
そんなわけで自分にできる範囲であれこれ試してみたはいいものの結局何もできないままなのだ。


「あーあ……」


そんなこんなで僕は現実を悟ってしまっている。
自分はなんの力もない。主人公にはなれないのだと。



「どうしたの?」


声をかけてきたのは白髪にすらっとしたモデル体型、そしてその病的なまでに白い肌の女性。
彼女が件の幼馴染だ。
何でも元々は白蛇だとかなんとか。


「いや、なんでもないよ。ちょっと自分の不甲斐なさに落ち込んでただけ」

「そうなの?んーでも不甲斐なくなんて……ないと思うけど」



彼女はいつも僕を励ましてくれる。
しかし、僕にないものを持っている彼女に言われても僕としては少々憎らしい。
もちろん彼女はそんなつもりはないのだし、僕もそれは理解しているので表に出すことはないのだが。


「そうでもないよ……あー親が天才でも子はだめなことってあるんだなあ。
 これじゃ鳶が鷹を生むじゃなくて鷹が鳶を生んじゃってるよ」

「そんなことないって……」


そう呟く彼女の顔は少し呆れたように見えたのは僕だけだったのだろうか。


というわけで短いですが本日はここまで。
少しずつ世界を広げていこうと思います。

それではまた次回に。

すんません!ぶらっどぼーんにはまって一切進んでません!すんません!
初見プレイ楽しかったです!明日からはこっちも頑張ります!

前後のつながりがおかしいところもでてるかもしれません。
指摘していただければ直していきたいと思います。
それと登場人物が一気に増えるので名前だけ最後にささっと出しておきたいと思います。




今日も今日とてあまり乗り気のしないものではあるのだがなんとか事務所まで足を運ぶ。
北条特異派遣。僕の立ち上げた会社だ。
特異事件を専門に担当しており、それと並行して何でも屋みたいなこともやっている。


「やっほー」

「みんなおはよー」

「お、社長のお出ましだ。おはようさん。ビャクもおはよう」

「しゃちょービャクーおはよー」

「おはようございます。社長、ビャクさん」



「あれ?今日は三人だけ?」


元々そう多くはいない事務所ではあるが、
それでも流石に自分を含めて5人などという少人数ではない。


「他の皆は今日は出払っていますよ。例の案件で」

「あーもうそんな時期だっけ……」

「ええ、皆大忙しです。そろそろ我々も出動するんでお留守番お願いしますね」

「はいよ」



「ところで私いつまで『ビャク』なの……」

「いいじゃん。『ビャク』。まだ気に入らないの?」

「そりゃ気に入らないに決まってるじゃない!だって『ビャク』よ!『ビャク』!
 まだ『シロ』とか『ハク』のほうがいいわよ!」

「え~だってそれ……」

「だよねえ……」

「な、なによ……」

「あのさ『ハク』だと金城さんのところのお方と被るだろう?」

「ええ、まあそうね……でもそれなら『シロ』でもいいじゃない」

「『シロ』だと……」

「なによ」



「ペットみたいじゃん」

「ちょっと!?」

「とまあそんなわけでこれから先もおそらくずっと『ビャク』だ。諦めな」

「そうね」

「うんうん」

「そんなぁ……」


今日の業務もこんな他愛のない話から始まる。
軽く話した後三人衆はすぐに仕事へと向かった。
事務所に残ったのは僕とビャクだけだ。




「今日の案件はなんだい?ビャクちゃん」

「ちょっと待ってね。えーっと今日は……」


基本的に僕ら『北条得意派遣』の仕事は魑魅魍魎に関するものである。
とは言っても、大きい事件なんてものはそうそうない。
よくあることといえば自分が死んだことに気付かずフラフラしている霊の道先案内したり、
盆や彼岸が終わったのになかなか帰ろうとしない奴らを強制送還したりなどだ。



「私たちがでなきゃいけないものはなさそうだよ。ほとんど菅原くんと常坂さんでなんとかなりそう」

「そうかい。なら良かった。あれ?じゃあ美紀と亮は?」

「みのりんはこの間の大雨で土砂崩れが起きてるからその助っ人。
 弥栄くんは浩二くんと一緒に総次郎さんのところに例の件についての打ち合わせに行ってるよ」

「ああ、もう神無月か」

「うん、各地で連携できるようにーってさ」

「なるほど。確かに僕らの出る幕はないね」

「だーかーらー」

「ん?」


どん、と大きい音とともに机の上に紙の束の山ができる。




「いい加減たまりにたまったこの書類片付けようね」

「うげぇ……」

「いつかはやらなきゃならないんだからちゃっちゃとやるー」

「はいはい……」


僕のほうは目の前の種類を見るだけでとても逃げ出したい気分になるが、
どうも今日のビャクちゃんはご機嫌である。
ご機嫌ついでに僕の分までやってくれないかなーと思うが、
そんなことを言おうものなら烈火のごとく怒るのが目に見えているのでしぶしぶ仕事に手を付ける。



デスクワークは面倒だが、そんなことを言っていられるのも今のうちだったりする。

神無月。
全国の神々が一堂に会するために出雲に集まる時期。
つまり神々の神通力というべきものが薄くなる地域が出てくる時期である。
一応神使と呼ばれる者たちの努力のおかげで大きな事件が起こることはそうそうないのだが、
それでも何かと問題が起きやすい時期である。
そのため僕らの界隈では少し空気がピリピリする。

問題が大きくなって怪異の存在が公になってはならないのだ。
そのための亮と浩二による総次郎さんとの打ち合わせであるのだから、
僕としては気楽なものである。



「あぁ~やっぱり暇だな~」

「そこ!口より手を動かす!」



僕を叱ってるつもりなのだろうけども顔が緩んでいるビャクちゃんもなんとも気楽なものだろうか。



外伝主人公 北条浩一 弟に北条浩二がいる
外伝ヒロイン ビャク おっちょこちょい

社員(一部)
菅原真(すがわらまこと)
弥栄亮(やさかりょう)
常坂薫(ときさかかおる)
茨城美紀(いばらきみのり)

こんなところで今日はおしまい。別に名前覚える必要もないです。
自分用のメモに近いです。

うわああああああああああああああ クリスマスだあああああああ
すみません!気づいたらこんなにたってました!
保守ありがとうございます!なかったら落ちてました!すみません!

またぼちぼち投下します!

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