宥「みんなに進路の相談をする」 (26)

※短いです

宥『麻雀のプロ? 私なんかが……?』

菫『ああ。宥はインターハイを征した阿知賀女子の次鋒として活躍し、インカレでも好成績を残しているんだ。当然、スカウトも来るさ』

宥『大学のみんなには? 菫ちゃんは?』

菫『私にも当然プロ入りのオファーは来ている。宥と同じところからも』

宥『そうなんだあ……』

菫『幸い、就活の前倒しやその他の事情でまだ時間はある。これから入る冬休みで家族のところに戻って、ゆっくり考えるといい』

宥『うん。菫ちゃん、いつもありがとね』ニッコリ

菫『気にするな。宥の役に立てるのなら私は嬉しい』

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鷺森レーン

宥(……ということがあってからはや数ヶ月。大学三年目の冬休みに入って、私は今東京の大学から地元の阿知賀に帰っています)

宥(旅館の仕事場を覗いてみたら、玄ちゃんがせわしなく働いていました。私は基本的にボイラー室での手伝いしかしていなかったので、少し引け目を感じます)

宥(そういえば、穏乃ちゃんも実家を継ぐために修行をしてるとか)

灼「お待たせ宥さん」

宥「あ、灼ちゃん。休憩、取らせてもらえたんだ。ごめんねえ、ボーリングも書き入れ時なのに」

灼「別に……。ところで、話って?」

宥「麻雀のプロのことなんだけど……」

灼「ん……」ピクッ

宥「赤土さん、調子いいみたいだねえ。プロになってからあっという間にトップランカーだもん」

灼「でもまだ一位じゃない。ハルちゃんにはもっと頑張ってほし……」

宥「私達の監督をやってた時も、まだ手加減してたのかな? 赤土さんは凄いねえ」

灼「当然。私のハルちゃんは十二次元宇宙で最強の雀士」フンス

灼「悪質な大会では八百長の持ち掛けもあるらし……。イカサマも。でもハルちゃんはそんな卑怯な手合いには屈しない。正義の味方」

宥「へえ……。プロではそんなこともあるんだ。あったかくないね」

灼「かっこいい。何度も惚れ直した。ハルちゃん最高」

宥「灼ちゃんにはプロからの誘いはないの?」

灼「インハイで優勝してから何度も。煩わし……」

宥「灼ちゃんはプロにはならないの? 教育学部に通ってるんだよね?」

灼「絶賛迷い中。ハルちゃんを追ってプロになるか、実家を継ぐか、ハルちゃんを追って教師になるか」

宥「そうなんだあ」

灼「でも、どうなってもハルちゃんの隣に永久就職するつもりだから、どうでもい……」

宥「永久就職!? それって……」

灼「鷺森レーンは山中教授を応援しています」

宥「あわわ……」

灼「宥さんは、進路のことで悩んでるとか……?」

宥「……灼ちゃん、どうしてわかったの?」

灼「話題の振り方があからさま過ぎ。目も泳いでるし、分からない人の方が少ないと思……」

宥「菫ちゃんに誘われたの。プロにならないかって」

灼「私は力になれないと思……。穏乃なら」

宥「穏乃ちゃんかあ……。実家の和菓子屋さんにいるかな?」

灼「そうだと思……」

宥「そっか。灼ちゃん、ありがとねえ」ペッコリン

和菓子屋・高鴨家

「いらっしゃいませー。久しぶりですね、宥さん」

宥「今日は店番なんだね。お久しぶり、穏乃ちゃん」

穏乃「灼さんから連絡を貰って、店番にしてもらいました。今なら相談に乗れますよ。進路について悩んでいるんですよね?」

宥「うん。穏乃ちゃんは実家を継ぐって言っていたけど、どうしてそうしようと思ったのかなって」

穏乃「どうしてって言われても……そうですねえ」

穏乃「私にもプロ入りや大学の特待生のオファーはありました。インターハイで優勝した時だけでなく、ここを継ぐために修行している時にも」

宥「そういえば穏乃ちゃんも大学には行ってないんだったね。どうしてそうしたの?」

穏乃「まあ有り体に言えば、通う必要性を感じなかったってところですね。私はもう、最初から実家を継ぐと決めていたので」

宥「それはなんでかな?」

穏乃「私は阿知賀の山やお菓子作りが大好きで、それから離れるつもりはなかったんです。大学ってほら、勉強するためのところでしょう?」

宥「えっと……そうだねえ」

穏乃「宥さんがプロに入るか迷っているというのは灼さんから聞いています。インターカレッジで優勝するところ、私も見てましたよ」

宥「そうなんだあ、少し恥ずかしいかも///」

穏乃「宥さんが気にしているのは、玄さんや実家のことですよね? そのことは家族と話し合って考えるしかないと思います」

宥「そうだよねえ……」

穏乃「でも実力的には、宥さんはプロ入りしても問題なくやっていけると思いますよ」

宥「そうかな……?」

穏乃「そうですよ! 自信を持ってください!」

宥「えへへ、ありがとね穏乃ちゃん」ペッコリン

新子神社

宥「憧ちゃんはいないのかな……? 穏乃ゃんは、今日はいるはずだって言っていたけど……」

憧「あたしならここにいるけど」

宥「わわっ!」ビクッ

憧「後ろから声をかけただけでそんなに驚かないでよ、宥姉。一年ぶりくらいかな?」

宥「ほんとに久しぶりだねえ、憧ちゃん」

憧「穏乃から電話で聞いたわ。進路のことで迷ってるって」

宥「うん、そうなの。穏乃ちゃん、凄く私のこと励ましてくれて嬉しかったなあ」

憧「あ、そう? ならあたしからも幾つか言わせてもらうわね」

憧「宥姉がいない間、玄がどうやって過ごしていたか知ってる?」

宥「玄ちゃんからのお手紙には、松実館で本格的にお仕事を引き継ぐための練習をしてる、って書いてあったよ?」

憧「それ以外よ。仕事をしていない時、玄がどうやって過ごしていたかってコト」

宥「え? えっと……」

憧「わからない? 宥姉が東京に行ってからの玄は、寂しさのために時々泣いているって女将さんから聞いたわ」

宥「寂しくて泣いてる……?」

憧「そう。鍵をかけた自室でね。別におかしなことでもないでしょ? 玄はしっかりしていても精神的にはあまり強くないから」

宥「うん……。玄ちゃん、お母さんのこともまだ……」

憧「それを知っていながら、宥姉は向こうの大学で麻雀三昧。いい御身分ね」

宥「えっ?」

憧「この前の夏休み、麻雀の特訓のために一度もこっちには帰らなかったでしょ。その時に玄がどうだったか、宥姉は知らないよね?」

宥「でも、そのことを玄ちゃんに謝ったらしょうがないって……」

憧「あの馬鹿が素直に言うと思う? 宥姉に心配かけないようにするに決まってる」

憧「宥姉は玄のこと、どう思ってるの? 大事にしてる?」

宥「もちろん玄ちゃんのことは大切だよぉ! メールも手紙も、しょっちゅうしてるもん」

憧「でも麻雀のためと言って玄を泣かせてしまった。大事な妹を悲しませてまで麻雀に夢中になっていたんだ。それっておかしくないかな」

宥「あっ……」

憧「あたしには耐えられない。自分の趣味のためなんかに大事な人を、あたしの場合ならしずを悲しませるなんて」

宥「でも、玄ちゃんは……」

憧「あたしやしず、灼さんはこまめに玄のところへ足を運んだ。でも玄にとって一番必要なのはあたし達じゃない。宥姉なの。わかるわよね?」

宥「…………」

憧「なにもあたしは、これからの人生全てを投げ捨てて玄と一緒にいろなんてことを言うつもりはない。姉妹とはいってもいつか離ればなれになる日は来る。

それに玄は旅館の跡取りだから、いつか婿を取らなきゃいけなくなるでしょうね。実家のことを玄に任せるってことは、玄から自由を奪い取るってことでもある。その覚悟は? 黒と十分に話し合ったの?」

宥「それは……まだ、です」

「やめるのです憧ちゃん!」

玄「あまりおねーちゃんをいじめすぎないように!」

宥「くろちゃ……」

憧「玄……」

玄「えっと……憧ちゃん、ありがとう」

憧「は? 何お礼なんてしてるのよ。あたしは宥姉のことをボロクソに言ったのに」

玄「憧ちゃんの言葉の節々から、私のことを大切に思っているのが伝わってきたよ。だからそのお礼」

憧「別に……。そう思いたいなら、そうすれば?」

玄「憧ちゃんはツンデレさんだねえ。顔が真っ赤だよ」

憧「ふん」カァァッ

玄「えっと……おねーちゃん。さっき憧ちゃんが言っていたことなんだけど……」

憧「あたしはここにいない方がいいみたいね。奥の方の掃き掃除でもしてくるわ」スタコラサッサ

玄「あ、また初もうでの時にね憧ちゃん! ……ゴホン、では話を続けるのです」

宥「うん」

玄「おねーちゃんが帰ってこなかった時に凄く寂しい思いをしたっていうのは本当。その……松実家の跡取りになるにあたって、いつかお見合いすることになるかもっていうのも」

宥「そうなんだ……。ごめんね、玄ちゃん。私、旅館のことに全然詳しくなくって……」

玄「ううん、気にしないでお姉ちゃん。鍵をかけた部屋、独りぼっちで泣いてたってのも本当だけど……そんな大きな声で泣いたつもりはないのに。恥ずかしいのです……」

玄「だから、おねーちゃんには一つ罰を受けてもらいます!」

宥「罰?」

玄「これから大学を卒業するまで……それに、もしプロになった場合はそれからも。おねーちゃんが笑顔で映ってる写真を封筒に入れて送ってくること!」

宥「私の写真を送る? そんなことでいいの?」

玄「私はおねーちゃんの笑顔があれば、それだけで十分だから。仕事が辛くても、寂しくて泣きたくなっても、おねーちゃんの笑顔があれば頑張れる。そんな気がするのです!」

宥「玄ちゃん……」

玄「それと、あと言いたいことが一つ。もしお姉ちゃんがプロになっても、私はここにいるから。プロの世界のことは私にはまるで全然わかりません。
麻雀からしばらく離れてる私にはアドバイスも言えないし、力になれることも少ないと思う。
でも、何も言えなくても私はここにいるよ。ここにいて、おねーちゃんのことをずっと待ってる」

宥「……そっか。玄ちゃんが私の妹で、本当に良かった。私、心からそう思う」

玄「私も、おねーちゃんが私のおねーちゃんで本当に……あれ?」

宥「ふふっ。それじゃ玄ちゃん、おうちに帰ろう」

玄「はい! おねーちゃん、今日の晩御飯は、おねーちゃんが食べたいものを作るからね!」

カンッ
阿知賀女子ってみんな可愛くて最高です

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