P「伊織を打ち上げたい」 (25)
伊織「は? 打ち上げって仕事のあとのお疲れ様会のこと?」
P「だから、伊織を打ち上げたいんだ!!!」
伊織「百歩譲って打ち上げるのは良しとして、どこによ?」
P「宇宙に決まってるだろっ!!!!!!」ガシッ
伊織「宇宙ねぇ……」
P「そう! ロマン溢れてるだろ!? なっ? なっ?」ユサユサ
伊織「アンタさぁ……?」
P「うん?」
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伊織「バッッッカじゃないの!? と言うかバカよ! まんまバカ!」
伊織「まったくもってアンタの言ってることがさっぱり分からない!!」
伊織「意味は分かるけど心の底から理解できない! 理解したくない!」
P「…………」
伊織「何か言いたいことは?」
P「えーっと……いおりんのツッコミまじディスカバリー!」
伊織「返しが小賢しい!!」
伊織「何を発見したって言うのよ!?」
伊織「宇宙と言えばスペースシャトルの名前を挙げとけば的な発想がまず貧困!」
伊織「むしろそれをチョイスしたアンタがチャレンジャーよ!」
伊織「私が雰囲気に飲まれて、断るに断れない流れを作る努力くらいはしなさいよ!」
P「お、おう……」
伊織「まず、さっきは譲ったけど、打ち上げられるなんてまっぴらごめんよ!」
伊織「あと、多くは望まないから、せめて人間として扱って!?」
伊織「人をロケットみたいに言ってくれてんじゃないわよ!?」
伊織「少しは常識的に考えなさい! そんな簡単なものじゃ無いからねっ!?」
伊織「人類が成層圏を抜けるのにすらどれだけの時間を費やしたと思ってんの!?」
伊織「宇宙に行けるのはほんのひと握りなの! 人類の憧れで夢なのよ!」
伊織「だいたいそう言うのはどこぞの事務所のわた春香にこそ、でしょ!?」
伊織「そうよ! 夢なんだからまさに春香にうってつけな仕事じゃない!」
伊織「あはははははは!!!!!」
P「…………」
シーン……
伊織「ハアッ、ハアッ……」ゼェゼェ
P「だけど」
伊織「私が今まで言ったこと分かった!? ちゃんと受け止めなさいよ!」
P「…………」
伊織「まったく……それで、どうして私を打ち上げたいわけ?」
P「いやぁ、地球って狭いだろ?」
伊織「んー、まあ、宇宙に比べたら、ね……?」
P「だから、広い宇宙に打ち上げたいなぁ、って」
伊織「うん。やっぱり分かんない」
P「…………」
伊織「確かに、そりゃあ私は宇宙一可愛いアイドルだと思うわ?」
伊織「だけど、宇宙に私のファンは居ない」
伊織「そんなとこでダンスしたって歌ったって、みっともないだけじゃない」
P「……それこそ、伊織"らしく"ないんじゃないか?」
伊織「なんですって……?」ピクッ
P「俺の知ってる伊織はそうじゃない」
P「どんなアイドルだって最初はファンなんて居やしない」
P「俺たちだって、ゼロからスタートしたろ?」
伊織「…………」
P「俺の知ってる伊織は、いつだって過酷な道を選んでトライしてきたチャレンジャーだ」
伊織「私は……。チャレンジャー……」
P「宇宙にファンが居ないなら作れば良いじゃないか。そうだろ?」
伊織「―――っ!」
P「行こう、宇宙に……!」
伊織「……ええ! 行ってやるわ!」
伊織「―――って、ならないから。」
伊織「流石にこの流れで宇宙に行く奴は阿呆よ。阿呆」
P「そうか……残念だよ」
伊織「あら、もう諦めちゃうの?」
P「無理やり連れて行くのだけは嫌だったんだけどな……仕方ないか」
伊織「……え?」
P「新堂さん、あとはお願いします……」サッ
新堂「かしこまりました」スッ
伊織「はあ? 何、新堂? まさかアンタまで……」
新堂「ご無礼をお許しください……」シュッ
トスッ
伊織「―――うっ……!?」バタッ
――――――
――――
――
伊織「―――っ!?」ガバッ
伊織「ここは……?」
P《気がついたか、伊織?》
伊織「この声……プロデューサー?」
P《そうだ》
伊織「ここは一体どこ!? 狭くて敵わないんだけど!?」
P《時間が無いんだ、落ち着いて聞いてくれ》
伊織「はぁ? 何これ、TVの撮影? 私、こんなの聞いてな―――」
P《時間が無いって言ってるだろ!》ビリリ
伊織「ヒッ……!?」ビクッ
P《大きな声を出して、すまん……今から伊織を宇宙に打ち上げる》
伊織「ちょっと、本気なの!?」
P《もうすぐ、この地球に巨大な隕石が衝突する》
伊織「はっ、はぁっ!? 何よそれ、ドッキリなんでしょ、コレ?」
P《…………》
伊織「だってほら、普通はニュースになるじゃない!?」
P《そうだな。ドッキリだったらどれだけ良かったことか……》
P《頭の良い伊織なら分かるだろ?》
P《巨大隕石が地球に衝突するなんてニュースで報道してしまったら―――》
伊織「きっと……パニックに……なる……」
P《隕石が衝突したとき、どれくらいの被害になるか予想もつかないほどなんだ》
P《もしかしたら、地球が消滅するかもしれない》
P《だから、その前に伊織を打ち上げる……!》
伊織「イヤっ! イヤよっ! だいたいどうして私だけなのっ!?」
伊織「みんなも! アンタも一緒に―――」
P《これは伊織のお父さんからのお願いでもあるんだ》
伊織「お父様の……?」
P《せめて、伊織だけでも、って……》
伊織《お父様はどこに……?》
P《会社の社長室に居るそうだ。"水瀬"を最後まで見ていたい、って……》
P《伊織のお兄さんも、新堂さんもそこに居る》
伊織「そんな……」
P《最後まで、放ったらかしにして、すまないって仰ってた》
伊織「お父様……」
P《一応、そのロケットは50年分の食料を積んであるから安心しろ》
P《そして、もし奇跡が起きて地球が無事なら……》
P《地球からの電波を拾って自動的に帰ってこれるようになってるから》
P《じゃあな、伊織》
伊織「イヤっ! せめてアンタも一緒に……!」ジワァッ
P《バカ言うな。そのロケットは一人用なんだ》
P《水瀬の宇宙事業部が作ってたロケットを慌てて改造したもんだからさ》
P《たった一人が限界だったらしい》
伊織「無理やり乗りなさいよっ! アンタと私くらいなら……!」
P《それに、そのロケットを発射するためにはこっちでボタンを押さないと……》
伊織「イヤ! 押さないで! アンタが一緒じゃないと意味なんて……」ポロポロ
P《おいおい、最後くらいかっこつけさせてくれよ……》
伊織「ずっとプロデュースするって約束してたじゃない……!」
P《なあ、伊織……》
伊織「お願い、押さないで……もうわがままも言わないから!」
P《俺、最後の仕事が伊織をこの手で宇宙に打ち上げれることが嬉しいんだ》
伊織「やだっ! 押さないでってば!」ポロポロ
P《もし、もう一度会えたら……そのときも俺が伊織のプロデュースしても良いか?》
伊織「……当たり前じゃない!」
伊織「宇宙の隅から隅まで探したって!」
伊織「この伊織ちゃんに釣り合うプロデューサーなんて……」
伊織「アンタ以外には居ないんだから……!」
P《…………ありがとう》
伊織「プロデューサー……?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
伊織「何、この音……アンタまさか……!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・
P《俺は、伊織が宇宙でも輝けるって、信じてるからな―――》
伊織「プロデューサー……」
伊織「プロデューサーぁああああああああああああああ―――」
――――――
――――
――
伊織「いつものようにそらをかーけてた……」
伊織「ずっとずっとどこまでもーつづくせーかい……」
伊織「いつまでも忘れないでーいるよ……」
伊織「ずっとずっとそらでみまーもっていーるよー……」
ピカッ
伊織「星……キレイ……」
終。
以上で投下終了です。ごめん、いおりん。
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