サンタ「今起きた」 (29)
サンタ「今起きた」
トナカイ「……」
サンタ「どうすればいいんじゃあ……」
トナカイ「……」
サンタ「のうトナカイよぉ……ワシは……ワシは……」
トナカイ「……」
サンタ「パンツ……濡れとる」
トナカイ「おむつ、取り変えますね」
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サンタ「世界の子供たちにプレゼントを届けねばならぬというに……寝過ごしてしもうた……」
トナカイ「……」
サンタ「体が動かん……。こら! 動け! 動けワシの体!」
トナカイ「サンタさん、自分の体を叩かないで……」
サンタ「う、うお、お……」
トナカイ「……」
サンタ「……お腹がすいた」
トナカイ「お食事、できてます」
サンタ「ごちそうさま」
トナカイ「お粗末様です」
サンタ「……」
サンタ「今日は何日じゃったかな?」
トナカイ「今日は12月26日ですね。13時半を過ぎたところです」
サンタ「そうじゃったかぁ。いかんのう、最近忘れごとが多くて多くて」
トナカイ「そんなことありませんよ。サンタさんはサンタさんです」
サンタ「すまんのぉ、トナカイ」
トナカイ「私はサンタさんのトナカイ。当然のことです」
サンタ「一昨日はたくさん配ったのぉ、トナカイよ。なんだか体が痛むわい。いたた」
トナカイ「痣は触らないで。私が処置しますから」
サンタの息子「父さん……」
サンタ「おや!」
サンタ「ええと……」
サンタ「……?」
トナカイ「サンタさん、息子さん来てくれましたよー!」
サンタ「……うん?」
サンタの息子「いいですよ、トナカイさん。毎日すいません」
トナカイ「いえ、サンタさんと一緒にいるのが私です。お気になさらず」
サンタの息子「父さん痩せたなぁ……」
トナカイ「そうですね。最近食が細くなってきました」
サンタの息子「あ、痣……」
トナカイ「自傷行為が多くなってきていまして。すいません、私が着いていながら……」
サンタの息子「いいんですよ。トナカイさん」
サンタの息子「……でもね、トナカイさん」
サンタの息子「今、うちにいるトナカイはあなただけです。あなたばかり頼ってはいられません。そろそろ父さんを施設に入居させることを考えています。だから……」
トナカイ「……そうですか」
サンタの息子「今まで色々ありがとうございます。トナカイさんはトナカイさんの人生を生きてください」
サンタ「トナカイや、トナカイ。お腹がすいた」
トナカイ「後でおやつを食べましょうね」
サンタ「うん……」
サンタの息子「……僕はトナカイさんが羨ましいです。父さんが覚えているのはあなただけですからね」
サンタ「ほほ! 青年よ、ワシは君に出会う前からトナカイと働いているからのぅ!」
サンタの息子「はは、現役の頃みたいな言い方だ」
サンタ「何を言うか。ワシはまだまだ現役じゃわい!」
サンタの息子「……」
サンタの息子「う、うぅ……う」
トナカイ「どうか泣かないでください。サンタさんはまだ『日常』の中暮らしているんです……」
サンタの息子「すいません、すいません。僕が代替わりを早くしなければ父さんもこんな風にならなかったのかな、と思って……」
トナカイ「サンタさんはあなたがサンタクロースを引き継ぐことを一番喜んでいましたよ」
サンタの息子「ありがとう、ありがとうございます……。すいません……」
トナカイ「……」
サンタ「どうしたのかのぅ、青年。……泣くでない。泣くでないて」
サンタ「プレゼントは君の分もあるからの。泣くでない」
サンタの息子「う、うっ……父さん、父さん……」
トナカイ「……大丈夫ですか?」
サンタの息子「……はい」
トナカイ「あの、こんな時にすいません。サンタさんの施設入居予定日は……」
サンタの息子「えぇ。再来週辺りを考えています」
トナカイ「そうですか。私、もう少しサンタさんといれるんですね」
サンタの息子「はい、今まで色々とありがとうございました……」
トナカイ「……トナカイも配達企業がサンタクロース界に進出してきてからは肩身が狭い思いをしています」
サンタの息子「……」
トナカイ「これからは仲間達と働き口を探すトナカイの援助をしたいと思っているんです」
トナカイ「私も新しい道に行かなくちゃ……なんて」
Trrr……
サンタの息子「あ、僕の携帯だ。すいません、ちょっと行ってきます。また来ますんで」
サンタの息子「……はい、もしもし。あ、はい。先日はありがとうございました!」
……
トナカイ「忙しそうだな……」
サンタ「さっきの青年は誰じゃったのかのう」
トナカイ「……」
トナカイ「サンタさん」
サンタ「なんじゃ?」
トナカイ「私、サンタさんと入れて楽しかったです」
サンタ「なんじゃあトナカイ。別れ際のような口ぶりで」
トナカイ「小さい頃の私のこと覚えていますか?」
サンタ「ああ。覚えているとも」
――
若き日のサンタ「新しいトナカイは君だね?」
幼き日のトナカイ「あ、あの、あの……」
トナカイの父「いやぁすまんね、サンタ殿。うちの娘はどうやら人見知りが激しいようでな」
若き日のサンタ「いえいえ構いません。これからよろしくな、トナカイ」
トナカイ「は、ひゃい!」
トナカイの父「むむ……心配だな」
若き日のサンタ「……そうだ! 娘さんに少し僕らの仕事を見てもらいましょう!」
トナカイの父「なるほど! さすが彼の息子だ! トナカイ、行ってきなさい」
トナカイ「はい!」
――
若き日のサンタ「どうだい? スゴいおもちゃ工場だろ?」
幼き日のトナカイ「きれい……」
若き日のサンタ「ここから世界の子供たちに『夢』を与えるんだ」
若き日のサンタ「僕は全ての子供たちに笑っていて欲しいんだ」
トナカイ(……夢を語る人ってかっこいいなぁ)
若き日のサンタ「手伝ってくれるかい?」
トナカイ「がんばります!」
――
トナカイ「私はこの日からあなたのことが大好きになりました」
サンタ「ほほ。お前はワシの最高のパートナーじゃよ、ずっとな」
トナカイ「ずっと……」
トナカイ「大変なときも……」
――
幼き日のトナカイ「うわああああぁっ!」
若き日のサンタ「大丈夫、落ち着いて飛ぶんだ! もう一度!」
――
トナカイ「悲しいときも……」
――
トナカイの父「……幸せに暮らせよ。トナカ、イ」
トナカイの父「」
幼き日のトナカイ「お父さん! お父さぁんっ!」
若き日のサンタ「トナカイは立派に僕を運んでくれていますよ! だから、だから!」
若き日のサンタ「どうか安らかに……」
――
トナカイ「……ずっと一緒でしたね」
トナカイ「楽しかったな……」
――
トナカイ「もう子供扱いしないでください! 私は一人前のトナカイなんですから!」
若き日のトナカイ「そうだな。お前は一人前のトナカイだよ」
トナカイ「だから頭をワシャワシャするのはやめてください!」
トナカイ「……やっぱりやめないで」
――
サンタ「昔に比べ、本当に忙しい毎日じゃったのう」
――
トナカイ「結婚、ですか」
若き日のサンタ「あぁ。来月式を上げるんだ」
トナカイ「どうして……」
若き日のサンタ「パートナーのお前に最初に伝えたくてな!」
トナカイ「……」
トナカイ(やっぱり私は『トナカイ』だったのね)
――
トナカイ「……」
――
若き日のサンタ「子供が産まれたんだ!」
トナカイ「おめでとうございます!」
――
トナカイ「ずっと隣に……」
――
若き日のサンタ「さぁ今年も子供たちに夢を配るぞ!」
トナカイ「はい!」
――
トナカイ「ずっと、ずっと……」
――
サンタ「腰が痛む……」
トナカイ「腰をさするくらいしかできませんが……」
――
トナカイ「……」
――
サンタの妻「」
サンタの息子「ママ……」
サンタ「……」
トナカイ「ちゃんと見送ってあげましょう」
――
――
サンタ「息子無事代替わりを終え、ワシもそろそろ定年じゃ。トナカイこれからはどうするつもりじゃ?」
トナカイ「私はサンタさんのパートナーです。ずっとあなたと――」
――
トナカイ「あなたと……」
トナカイ「ずっと……」
トナカイ「ずっと、ずっと、ずっと……ずっと」
トナカイ「一緒にいたかった!」
サンタ「……」
トナカイ「……」
サンタ「トナカイよ、なぜ泣いておるのじゃ?」
トナカイ「サンタさんとトナカイは生きる時間が違います。だから一緒に歳を重ねることができないのが悲しくて……」
サンタ「……すまんな、聞いておいて。だんだん頭が回らなくなっているようで、お前の言葉がよく聞き取れんのじゃ」
サンタ「プレゼントが欲しいのか? 気が回らんかったわい……すまぬ、すまぬのォ……すまぬ」
トナカイ「サンタさん、自分を叩かないで……」
サンタ「こんなに近くにおったのに……すまぬ……」
サンタ「……少し疲れた。休むとしよう」
トナカイ「はい、サンタさん。お布団かけますね。温かくしてお休みください」
サンタ「あぁ……」
サンタ「……」
サンタ「のう、トナカイ」
トナカイ「はい、サンタさん」
サンタ「今日は何月何日じゃったろう」
トナカイ「……」
トナカイ「12月23日です」
サンタ「そうか。明日が……」
トナカイ「はい。明日です」
サンタ「頑張ろうトナカイ。世界の子供たちがワシらを待っているぞ」
トナカイ「はい。……はい! 頑張りましょう!」
サンタ「うむ。では、お休み、トナカイ」
トナカイ「……」
トナカイ「おやすみなさい、サンタさん」
おわり
メリークリスマス
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