サイト「サンタクロースって赤い爺さんがいてさ、世界中の子どもに贈り物を…」

ルイズ「ねえ、サイト」

サイト「ん？」

ルイズ「よくわかんないけど、あんたその『クリスマス』っていうのがやりたいの？」

サイト「べ、別にそういうわけじゃ」

ルイズ「いいから、遠慮とか、正直に言って」

サイト「う…できるなら」

ルイズ「…」ｼﾞﾛｯ

サイト「はい、才人、クリスマスやりたいです」

サイト「あ、ありがとうございます、ご主人様」ﾍﾍｰ

ルイズ「もう、やめなさいよその卑屈なの」

ルイズ「それで？何すればいいのよ、クリスマスって」

サイト「えっと…」

サイト（あれ？そういえば何すればいいんだっけ、クリスマスって）

サイト（っていうかちょっと待てよ、こんな殊勝なルイズっていつ以来だよ）

サイト「このチャンスを逃す手は無いんじゃ」ﾌﾞﾂﾌﾞﾂ

ルイズ「…あんた、何か変なこと企んでないでしょうね？」

サイト「いえ、全然全く、私は至極従順な使い魔であります、ええ」

ルイズ「まあいいけど」

トリステイン
城下町

ルイズ「で、何を買えばいいわけ？」

サイト「はい、まずは何を置いても『サンタコス』これが一番大事なのであります」

ルイズ「？サンタって、さっき言ってたお爺さんのこと？」

サイト「いえいえご主人様、サンタの背格好にも諸説ありまして、最近の学説では『ミニスカ美少女』これが有力なサンタ像とされているのです」

ルイズ「そ、そう、よくわかんないけど」

サイト（しかし…）

サイト（やっぱこの世界だとサンタの服は売ってないか、当たり前だけど）

サイト（必然的にサンタっぽい服を探すことになるわけだけど…）

サイト（以外に真っ赤な服ってないもんだな）ｶﾞｻｺﾞｿ

デルフ「なあ相棒」

サイト「なんだよデルフ、いま忙しいんだけど」

デルフ「そんな寂しいこと言わずに、たまには俺ともお喋りしてくれよ」

サイト「お喋りってお前」

デルフ「なあなあ、クリスマスってのはそんなに楽しいもんなのかい？」

サイト「んー、そうだな」

サイト「今の俺なら多分最高に楽しい、はず」

デルフ「おかしな言い回しだな、そりゃ」

サイト「なんつーか、確か元々は偉い神様の誕生日を家族で祝う日だったんだよ、クリスマスってのは」

デルフ「ほー、おりゃ相棒の口ぶりからもっと賑やかな祭りを想像してたんだが」

サイト「ああ、それがさ、日本…いや、俺のいた国ではいつの間にか賑やかに騒いで、楽しく過ごす日に変わっちゃってたんだな」

デルフ「なるほどね、時間の経過で物事が移ろってくのはどこの世界も一緒ってわけだ」

サイト「そんな大層なもんじゃないよ、基本的にお祭り好きなんだ、日本人ってのは」

ルイズ「…」ｼﾞｰ

ルイズ（サイトったら、夢中で服選んでる）

ルイズ（やっぱり、元の世界のお祝いをできるのが嬉しいのかしら）

ルイズ（いつもは強がってるけど、本当は元の世界に帰りたいのよね）

ルイズ「はぁ」

ルイズ（なんとかしてあげたいけど、今のわたしにしてあげられることなんて、これくらいしか）

サイト「こ、これだっ！！！！」ｸﾜｯ

ルイズ「ひゃっ」ﾋﾞｸｯ

ルイズ「な、なに？」

サイト「おっちゃん！！あと、そうだリボン！！ラッピングに使えそうなリボンとかない！？」

店員「リボン？ん～、これでどうだい」

サイト「ブルーか」

サイト（クリスマス的に考えると、できればグリーンがベストなんだけど…）

サイト「まあよし！買った！」

店員「へい、まいどあり」

ルイズ「これで買い物は終わり？」

サイト「ああ、あとはそうだな」

サイト「やっぱ、アレか」

ルイズ「？」

ギーシュ「くりすますツリー？なんだねそりゃ」

サイト「俺の故郷じゃこの時期、モミの木を飾り付けて楽しむんだ」

ギーシュ「へえ、東方の風習か、興味深いな、しかし一体なんだってそんなことをするんだい？」

サイト「俺にもよくわかんないけど、とにかくクリスマスにはクリスマスツリーなんだよ」

ギーシュ「だからその『くりすます』っていうのが僕にはわからないわけだが」

サイト「あ～」

サイト（コイツに協力させるには…アレだな）

サイト「用は恋人達のための日なんだよ、クリスマスってのは」

ギーシュ「！」

サイト「厳かな雰囲気、飾り付けた部屋、ロマンチックなムード」

ギーシュ「…」ｺﾞｸﾘ

サイト「わかるか？俺んトコじゃ、なんかもうクリスマスってだけでイチャイチャするのが許されるわけよ」

ギーシュ「ロバ・アル・カリイエ恐るべし、まったくもって侮れんところだな」

サイト「そうだろう、そうだろう」ﾊｯﾊｯﾊ

サイト「というわけでギーシュ隊長、キミにはそのロマンチックな雰囲気作りに一役買ってもらいたいんだが」

サイト「いいね？」

ギーシュ「イイだろう！！任せておきたまえ！！」

サイト「サンキュ、それじゃ木はもう切ってきてあるから、土台の部分と装飾を…」ｺﾞﾆｮｺﾞﾆｮ

ギーシュ「ふむふむ」

サイト「シエスタいる？」

シエスタ「はい！何か御用ですか？サイトさん」

サイト「うん、ちょっとやってもらいたいことがあって」

シエスタ「サイトさんからお願いなんて珍しいですね」

サイト「うん、それでさ、シエスタはクリスマスって知ってる？」

シエスタ「くりすます？えっとすみません、ちょっとなんのことか」

サイト「そっか、シエスタならもしかしたらって思ったけど」

シエスタ「？」

サイト「クリスマスってのは、このくらいの時期にする、俺の故郷の祝い事なんだ」

シエスタ「…！もしかして、あれですか？贈り物を交換し合ったりする」

サイト「！そう、そうそう！それだよそれ！」

シエスタ「やっぱり！私の村だと『クウィスマー』っていって、年に一度他の村の人も呼んでお祝いするんです！」

シエスタ「これも曽祖父さんが始めたらしいんですけど、私も大好きで、子供の頃は楽しみにしてました」

サイト「そっか、そりゃ話が早い」

サイト「突然だけど、今からそのクリスマスをやってみようと思ってさ」

サイト「シエスタにはその手伝いを頼みたいんだけど、いいかな？」

シエスタ「わぁ！いいですね！もちろん手伝わせていただきます！」

サイト「よかった、じゃあ早速だけど料理の方をお願いできるかな？」

シエスタ「わかりました！腕によりをかけてお作りしますね！」

サイト「ありがとう、期待してるよ」

サイト（それにしても、シエスタのお爺さんは戦中の人だから知らないかもって思ってたけど、クリスマスって日本でも案外昔から知られてたんだな）

コルベール「くりすます？ほう、それはキミの国の言葉だね？」

サイト「はい、俺の故郷だとこの時期そういう名前のお祝いをするんです」

コルベール「なるほど東方の風習か、非常に興味深い話だね」

サイト「実はそのクリスマスをこっちでもやってみようってことになりまして」

コルベール「異文化間の交流、素晴らしいね、私にできることがあれば力を貸すよ」

サイト「先生ならそう言ってくれると思ってました」

サイト「それで、お願いしたいのは、飾り付けのことなんです」

コルベール「ふむ、これは意外な要求だね」

コルベール「自慢じゃないが、私は装飾に関してはあまり詳しくないわけだが」

サイト「すいません、他に頼れる人がいなくって」

コルベール「いいさ、それで、具体的に私は何をすればいいのかな？」

サイト「えっと、先生にはクリスマスの雰囲気を出すための材料をお借りしたいんです」

コルベール「ああ、そういうことか、構わないよ、何が必要なんだい？」

サイト「ロウソクと色紙と、あと魔法で光る照明ってありませんか？」

コルベール「ロウソクならそこの棚にいくらでもあるから持っていくといいが」

コルベール「色紙か、白紙なら研究用に相当な枚数があるんだが、色のついたものというと」

コルベール「これと、あとはこの辺か」ｺﾞｿｺﾞｿ

コルベール「こんなものしかないが」

サイト「十分です！ありがとうございます」

コルベール「あとは、照明か、うーん」

コルベール「ランプならあるけど、これでいいかい？」

サイト「できればもう少し小さ目で、こう、色とかがついてるといいんですが」

コルベール「色か、むむむ」

サイト「あの、無理言ってすみません、ロウソクと紙があれば十分なので」

コルベール「！いや、待ちたまえ、以前ゲルマニアで買ったアレが」ｺﾞｿｺﾞｿ

コルベール「あった、見たまえサイト君、これでどうかね」

チカチカ

サイト「おお！すごい！それっぽいです！先生！」

コルベール「はっはっは、どれっぽいかはわからんが喜んで貰えたようで嬉しいよ」

コルベール「これは土産物屋で見つけた携帯用の光源なんだが、中々出来がよくてね」

コルベール「何かに使えないかと思っていくつか買っておいたんだ」

コルベール「ほら、こうして魔力の具合で赤色にもできる」ﾋﾟｶｰ

サイト「パーフェクトです！これ、お借りしても？」

コルベール「どうせ衝動買いしたものだし、全部持って行っていいよ」

サイト「すいません、厚かましいことばっかり」

コルベール「いいさ、きみにはいつも貴重な話を聞かせてもらっているし、気にしないでくれ」

サイト「ありがとうございます！」

バタン！！

サイト「ルイズー！！メリークリスマース！！」

ルイズ「はぁ？なによそれ、なんの呪文？」

サイト「幸せのおまじないさ！ほら！僕に続けて言ってごらん？」ｷﾗ

サイト「メリー！！クリスマース！！」

ルイズ「め、めりー、くりすまーす」

サイト「もっと元気よく！」

サイト「メリー！！クリスマース！！」

ルイズ「めりー！くりすまーす！」

サイト「うん、まあ良し！」

ルイズ「なんなのよそのテンション」

サイト「準備してたら楽しくなってきてさ」

ルイズ「ふーん」

サイト「とにかく、コルベール先生からいろいろ借りてきたから飾り付けしようぜ」

ルイズ「それも『クリスマス』なの？」

サイト「これも『クリスマス』なんだ」

ルイズ「そう」

サイト「走れソリよ～♪ふふふふふふ～ん♪」

ルイズ「なにその歌」

サイト「こちらはクリスマスソング、その名の通りクリスマスに歌うソングでございます、ご主人様」

ルイズ「あっそう」

サイト「～♪」

ルイズ（嬉しそうにしちゃって）

　怪しげな歌を機嫌よく口ずさみながら部屋を飾り付けるサイトを見ていると、なにやらルイズも一緒に楽しげな気分になってくる。
　魔法の照明器具をそこかしこに設置しながらも、気づくと知らず知らずそのフレーズを口ずさんでいた。

ルイズ「ふふふふふ～ん♪」

サイト「お？ルイズもノッてきたな」

ルイズ「！」

　浮かれた気分を指摘されたようでルイズの頬が赤く染まる。

ルイズ「あ、あんたに合わせてあげただけよ！べ、別に楽しんでなんてないんだから！」

サイト「はいはい」

サイト「～♪」

ルイズ「なによ、もう」

　こちらの気持ちを見透かすようなサイトの調子に唇を尖らせながらも、悪い気はしなかった。

　チョキチョキ…

ルイズ「それは、なにをしてるの？」

サイト「ん？これはだな」

サイト「こうして色紙を短冊みたいに切って」

　チョキチョキ…

サイト「こうしてのり付けすると」

　ぺたぺた…

サイト「はい、できた！」

ルイズ「…」

ルイズ「鎖？」

サイト「いや違う、これはその、え～と」

　得意げに作って見せたものの、考えてみればその物体が何なのかサイト本人にもわからなかった。

サイト「なんていうか、何？これ」

ルイズ「私が知る訳ないじゃない」

サイト「ですよね」

サイト「とにかく、これを長く作って部屋に飾るんだよ」

ルイズ「それもくりすますなの？」

サイト「そうそう、よくわかんないけどクリスマスったらコレなんだよ」

ルイズ「いいわ、手伝ったげる」

　なんだかんだで上機嫌なルイズは文句も言わずに作業を続ける。
　サイトと一緒に同じ仕事をするというのはなんだか新鮮だった。

ルイズ「…」ﾍﾟﾀﾍﾟﾀ

サイト「…」

　しかし如何せん彼女は不器用なので、出来上がった色紙飾りの輪はサイトの作った物と比べ、不揃いで不格好な出来になってしまう。
　
サイト（でも、まあ）

ルイズ「～♪」

サイト（楽しそうだから、いいか）

ルイズ「紙、なくなっちゃった」

サイト「よし、じゃあ飾ろう、長さも十分だし」

サイト「えっと、セロハンテープ、なんてないよな、ファンタジー世界だし」

ルイズ「？」

サイト「家具とかに括れるように、紐でも借りてくるか」

サイト「あ～ルイズ、ちょっと待っててくれるか？すぐ戻るから」

ルイズ「いいわよ、よくわかんないけど」

　それじゃ、と言い残してサイトは部屋を出る。

ルイズ「…」

デルフ「…」

ルイズ「ふふ」ﾆﾍﾗ

ルイズ「悪くないわね、こういうのも」

ルイズ「異文化交流っていうの？中々楽しいじゃない」

デルフ「さいですか」

ルイズ「子どもが喜びそうっていうか、ちょっと稚拙な感じはするけど」

デルフ「へ～、でもよ、相棒が言うに『くりすます』ってのは」

デルフ「恋人達の為の日らしいけどな」

ルイズ「え？」

デルフ「なんでもその日にゃ、人目もはばからずここぞとばかりに恋人達がイチャイチャするんだと」

ルイズ「こ、こい？え？なんですって？鯉達がピチピチ？」

デルフ「だあから、恋人！カップル！アベック！！くりすますにはそいつらがイチャイチャすんだと！」

ルイズ「な、なななんですって！！？」

ルイズ「あ、あああいつ！私には一言もそんな////」

デルフ「相棒はああみえて結構照れ屋なトコがあるから」

デルフ「中々お前さんには言い出せなかったんだろうよ」

ルイズ「そ、そう、なの？」

ルイズ「…」

デルフ「…」

デルフ「イチャイチャ」

ルイズ「！」ﾋﾞｸｯ

デルフ「いいの？このままで」

ルイズ「な、何がよ」

デルフ「したくないの？イチャイチャ」

ルイズ「し、したくないわよ！そんなの！！」

デルフ「本当に？」

ルイズ「…」

　しばらく逡巡した後、ルイズは意を決して口を開いた。

ルイズ「つ、使い魔が主人に隠し事するなんて、よ、よくないわよね」

ルイズ「それで、あ、あいつを正直にするには、ど、どうすればいいのかしら？」

デルフ「お前さんも素直じゃないねぇ」

ルイズ「っさい！いいから早く教えなさいよ！」

デルフ「へいへい」

デルフ「オイラが思うにだな…」

ルイズ「ふむふむ」

　以前この剣の意見に従って痛い目にあった記憶が一瞬脳裏をよぎるも、ついつい話を聞いてしまうルイズだった。

　ルイズの部屋を出てから二十分余り、息を切らせたサイトが戻ってきた。

サイト（またコルベール先生のお世話になっちまった、今度何か礼をしなきゃな）

　さて、どうしたら先生が喜んでくれるだろうかと考えながらドアノブに手をかけたサイトだったが、そこで違和感に気付く。

サイト（あれ？鍵がかかってる）

　何かあったのだろうかと思案しつつ、サイトは扉をノックした。

サイト「ルイズ、俺だよ、開けてくれ」

ルイズ「！ちょ、ちょっと待って」

サイト「？どうしたんだよ」

ルイズ「いいから！！待ってなさい！！」

そう言われてしまえば使い魔である彼は従うしかない、コルベールに貰った木綿糸を弄りながら入室の許可を待つ。　

サイト（考えてみれば、こうして締め出されるのも久しぶりだな）

　なんとなくハルケギニアに来たばかりの頃を思い出し、苦笑する。

サイト「…」ﾌﾞﾙｯ

サイト（それにしても、この時期の廊下は流石に冷えるな）

　汗が引いて寒気を感じ始めた頃、錠の開く音が小さく響いた。

ルイズ「は、入っていいわよ」

　やれやれやっとか、人を寒い中待たせやがって、と文句を言おうとしていたサイトの目に飛び込んできたのは、今までに一度も目にしたことのないルイズの姿だった。

サイト「ルイズ、お前、その格好…」

　ルイズが来ていたのは真っ赤なガウンだった。
　サイズは少し大きめだったのか、袖に指が隠れてしまっているため、一見するとダボついた印象を受ける。
　しかし、裾の部分はいくらか短く、そこからは健康的な太ももが覗いている。
　また、胸元もゆったりとした作りになっていて、余った空間からは今にもよからぬものがこぼれ見えてしまいそうである。
　見るからに彼女は『それ』しか着ていなかった。

サイト「そ、それ！俺が買った服…」
　
　茫然として金魚のように口を開け閉めしているサイトに向い、ルイズは叫んだ。

ルイズ「めりーくりすます！」

サイト「へ？」

ルイズ「めりー！！くりすます！！」

サイト「め、メリークリスマス」

ルイズ「あのね、サイト」

サイト「は、はい」

ルイズ「私、まだよくわかってないかもしれないけど」

ルイズ「『くりすます』って、要するに誰かに贈り物をする日のことなのよね？」

サイト「ん、まあ、うん」

　正解とは言えないが間違っているとも言えないのでサイトは曖昧な返事をした。