ことり「死んじゃえ!!!!!」 (73)
*警告*
独自設定、キャラクターの崩壊が多分に含まれております。
タイトル通りの酷い内容です。ご注意ください(・8・)
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1419424421
穂乃果「いやー、今日もパンがうまい!どうして部室で食べるパンはこんなにおいしいんだろ」
海未「太りますよ」
穂乃果「うっ!だ、大丈夫だよ、練習でそのぶん動くから!」
海未「ホントですか……?」
穂乃果「ほんとほんと!」
ことり「ふふ」
放課後の部室にはまだ私と海未ちゃんとことりちゃんとにこちゃんだけ。
私と海未ちゃんが隣りどうしに座っていて、机をはさんで向かい側にことりちゃんとにこちゃんが座っている。
他のみんなもそろそろ集まってくるはず。ラブライブまであと少し。
このメンバーでラブライブに参加できるのは最後だから、がんばらなきゃ。
にこ「昨日ネットに上げた新曲の動画、今までで一番コメントついてるわよ」
穂乃果「えっ、本当?良かったぁー」
にこちゃんがさっきから熱心にノートパソコンを見ていたのは、新しい動画の書き込みと再生数をチェックしていたからみたい。
にこちゃんがセンターの曲だ。振り付け覚えるの、むずかしかったなあ。
にこ「やけにことりが人気なのよね」
穂乃果「そうなんだ、良かったねことりちゃん」
ことり「うん!」
海未「コメントが付いてるのですか?」
にこ「そうねぇ、今のところ8割がことりへのほめ言葉ね」
穂乃果「すごい!」
ことり「そんなことないよぉ」
にこ「……残りの2割は私への中傷ね」
穂乃果「えっ」
中傷……?悪口、とかだよね?
どうしよう。今までこんなことなかったのに。
前にもほんの少しだけ否定的な書き込みはあったけど、攻撃的な文章ではなかった。
どうしよう……
穂乃果「で、でも、しょうがないよ、みんながみんなμ'sを好きなわけないし……」
にこ「……μ'sっていうか、私をだけどね」
ことり「どれくらいの人がコメントを書き込んだの?」
にこ「コメント数自体は100ぐらいね」
ことり「うーん……」
にこ「さすがに、こんだけ書かれると腹立つわね……」
海未「どんなことですか?」
穂乃果「にこちゃん、いいよ。そういうの気にしてたらキリないよ。あっ、そろそろみんな来るんじゃない?」
にこ「……」
空気が重くなってしまったから、あわてて私は話題を変える。
絵里ちゃんと希ちゃん、早く来てくれないかなぁ……
うう、私、ダメだなぁ。困ったことがあると絵里ちゃんと希ちゃんに心のどこかで頼っちゃってる。
ドアのほうを見たけど、誰も入ってこない。誰でもいいから早く来てほしいなぁ。
にこ「……」
穂乃果「ね、ねぇにこちゃん!こっちの棚のDVDなんだけど――」
にこ「穂乃果、私これ、問題あった?」
穂乃果「えっ」
にこ「この動画の私、問題あったかって聞いてんの」
穂乃果「あ、あるわけないよっ!にこちゃん、かっこよかったよ!」
にこちゃんはパソコンの画面を見つめながらなにか考え込んでいるみたいだった。
しばらく重苦しい時間が流れて、やがてにこちゃんがゆっくりと口を開く。
にこ「……ふぅ……こんなこと言いたくないんだけど」
海未「なんですか?」
にこ「なんでことりが人気あんのよ?」
穂乃果「にっ、にこちゃん?」
にこ「だって変じゃない。この曲、ことりはソロパートもないし」
ことり「……」
にこ「構図的にも目立ってないのよ?それなのにこんなにコメント付いてて、変よ」
穂乃果「にこちゃん、もうその話よそうよ、ね?」
にこ「それに……」
私を無視して、にこちゃんは何か言おうか迷っているみたいだった。口を開いたり閉じたり、目線も私達の顔を見比べたり。
にこ「……いや、こんなこと言いたくないんだけど、言うわ」
穂乃果「にこちゃ――」
すごく嫌な予感がしたから、私はにこちゃんの言葉をさえぎろうとしたけど。
にこ「ことり、これ自分で書き込んだんじゃないの?」
だめだった。
ことり「……え……」
にこ「いや、あくまで可能性よ、可能性」
ことり「……」
にこ「どうなの?ことり」
ことり「…………そんなこと、してない」
ことりちゃんはうつむきながら答える。
にこ「あ、そ」
にこちゃんは何事もなかったようにパソコンの画面を見始めた。
ことりちゃんが顔をあげてにこちゃんを見ている。その表情を見て私は怖くなってしまった。
怒ってる。あのやさしいことりちゃんが。
ことりちゃんのこんなに怒った顔は初めて見るかもしれない。
ことり「謝って」
静かな、やけに感情のない声だった。
にこ「え?あーはいはい、ごめんごめん」
ほおづえをつきパソコンの画面を見たままにこちゃんが言った。
ことり「……なにそれ……」
さっきより険しい表情でことりちゃんがにこちゃんをにらみつけていた。
にこ「んー?なによ?……ったく、いちいちぐちぐちうるさいのよ」
ことり「……なにその言い方……」
穂乃果「い、いや~、今日もパンがうまい!あははは」
どうしよう。こんなの初めてだよ……
私は手が少し震えてしまっていた。さっきまであんなに美味しかったパンは、今では何の味もしなかった。
海未「穂乃果、それさっきも言いましたよ。どれだけ食いしん坊なんですか」
穂乃果「い、いや海未ちゃん、そうじゃなくって……」
海未ちゃんはこの空気に気づいてないの?
穂乃果「ね、ねえ海未ちゃん、どうしよう?」
私は平然としている海未ちゃんに小声で言う。
海未「こういうのは放っておいたほうがいいんじゃないですか」
穂乃果「えっ……」
海未「仲間なのですから、ぶつかりあうこともあるでしょうし」
海未ちゃんはこともなげな様子だった。
でも今はそういうことじゃない気がするけど……
にこ「……」
ことり「……」
ことりちゃんからピリピリとした空気が伝わってくる。
穂乃果「ほ、穂乃果、絵里ちゃんたち呼んでくる!」
こんなことは初めてだったから、私はもう耐えられなかった。
それに絵里ちゃんと希ちゃんならにこちゃんを止めてくれるかもしれない。
海未「2人なら今日は来ませんよ?」
穂乃果「えっ」
席を立とうとした私に海未ちゃんが携帯を私に見せながら言った。
海未「さっき連絡があって、今日は大学の見学に行くそうです」
穂乃果「そ、そうなの……」
どうしよう……頼みの綱の絵里ちゃんと希ちゃんがいないなんて。
ことり「ちゃんと謝って」
にこ「……」
ことり「ねえ、聞いてるの?」
ことりちゃんがいつもと変わらない、優しい声なのが私には怖かった。
にこ「は?私?」
ことり「……」
にこ「いや、さっき謝ったでしょ」
ことり「ちゃんと謝って」
にこ「なにそれ、感じわる……」
穂乃果「ににに、にこちゃん、ことりちゃんっ!だめだよーけんかしちゃぁ~、えへへ」
…………沈黙。
誰も何も反応しなかった。おもいきりギャグが滑ったときの気まずさに似ていた。
ことり「穂乃果ちゃん、いいから」
私には目もくれずに、ことりちゃんが冷たく言った。
にこ「っていうか、やっぱりホントは自分で書き込んだんでしょ?」
にこちゃんがことりちゃんを指差す。
ことり「……」
にこ「だからそんなにムキになってんでしょ?」
ことり「……」
にこ「黙ってるってことは認めたってことよね!?そうなのよね!?」
ことり「…………」
にこ「はい、一件落着ね!まったくもう、勘弁してよねことり」
にこちゃんがぱんっと手を叩き、パソコンを閉じた。
ことりちゃんは何も言わずに深呼吸をしていた。怒りをなんとか押し殺しているみたいだった。
……しばらく経って、ことりちゃんが両手を思いきり握りしめながら、ぼそっとつぶやいた。
ことり「……豚……」
にこ「……何て言ったの今」
ことり「……」
にこ「今何つったかって聞いてんのよ!ことり!!」
にこちゃんが立ち上がって、うつむいたままのことりちゃんに叫んだ。
穂乃果「にこちゃんっ、お願い!落ち着いて!」
にこ「落ち着くわけないでしょ!こっちは豚呼ばわりされてんのよ!」
穂乃果「こ、ことりちゃんもはずみで言っちゃっただけだよ、そうだよね?ことりちゃん、本気じゃないよね?ね?」
ことり「……」
ことりちゃんは目を伏せて何の反応も示さない。
穂乃果「う、海未ちゃん!海未ちゃんも止めてよ!」
海未「……え?あ、ああ、その、こういうのは、やらせておいたほうがいいのではないかと……」
穂乃果「もうそういう段階じゃないよ!」
海未「はあ……」
にこ「うるっさいわね穂乃果!あんたはいつもみたく隅っこで可能性でも感じてなさいよ!」
穂乃果「い、意味がわからないよ……にこちゃん……」
ことり「はぁー……」
ことりちゃんが顔を上げて大きく息を吐いた。ことりちゃんらしからぬ投げやりな雰囲気だった。
にこ「ことり、なによ、なんか文句あんの?」
ことり「……チッ」
にこ「はぁ?」
ことり「……ばいいのに……」
にこ「は?何言ってんのよ?聞こえないわよ!」
ことり「……ゃえ……」
にこ「はあ!?言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ!!なんなの、そのふてくされは!」
そのとき、タイミング悪く、ドアが開いて一年生3人が入ってきた。
凛「さぁ~、今日も練習がんばるにゃ~♪」
ことり「死んじゃえ!!!!!」
ちょうどにこちゃんを見上げて叫ぶことりちゃんを見てしまって、凍りつく3人。
海未「遅いですよ3人とも」
穂乃果「あのね、凛ちゃん達、なんでも、なんでもないから!先に屋上行ってて?ね?」
それでも平然としている海未ちゃんに内心驚きながら、私は3人を部室に入ってこないようにガードする。
μ'sに先輩だから、後輩だから、という考え方はあまりないけど。それでもやっぱりこんなところを見せちゃいけないと思った。
凛「で、でも……」
穂乃果「なんでもないから!私達もすぐ行くから、ね?」
凛「う、うん……行こ、かよちん、真姫ちゃん」
花陽「」
真姫「わかったわ……」
凛ちゃんはフリーズしてしまっている花陽ちゃんの手を引いて、真姫ちゃんはチラチラとこちらをうかがいながら、出て行った。
にこ「はん、やっと本性現したわね、この腹黒」
ことり「なにその言い方……」
ことりちゃんは目を伏せながら、手を組んで落ち着きなく指をからめ合わせている。
にこ「前から思ってたけど、あんたあたしのことバカにしてんでしょ」
穂乃果「はいここまで!!今日はこれでおしまい!ね!?続きは明日、時間を置いてから!ね?」
私は強引に話を終わらせようとした。けど。
言い終わらないうちに、ことりちゃんが足元に置いていたカバンを机の上に叩きつけた。
穂乃果「ひっ!こ、ことりちゃんっ!ね、やめよ?ね?」
私が声をかけても、誰も言うことを聞いてくれない。
一応だけどリーダーなのに。生徒会長なのに。なにより、仲間なのに。
ごそごそとことりちゃんは自分のカバンからなにかを探しているみたいだった。
ことり「ひどい……にこちゃん……なんで……」
穂乃果「ことりちゃ、ひっ!?」
ことりちゃんはカバンから、ナイフを取り出した。
サバイバルナイフ?だかコンバットナイフ?みたいな、映画に出てくる軍人が使うようなものだった。
ことりちゃん、なんでそんなものを持ってるの?
ことりちゃんは立ち上がって、ナイフを握りしめて、切っ先をにこちゃんに向けた。
ことり「殺しゅ、殺すぅ!!」
ことりちゃんが噛んで言い直していたけど、誰も笑わなかった。
本日はここまで!
残りは明日になります。読んでくれた方ありがとうございます
にこ「はん、やってみなさいよ!どうせ本当に刺す度胸なんてないんでしょ!」
一歩も引かず、腕組みしながらにこちゃんが言う。
穂乃果「だめ、にこちゃん!ことりちゃんも!ねえ、どうしちゃったの!?海未ちゃんっ、海未ちゃんも止めてよ!!」
海未「え?ですが……じゃれあってるようなものでしょうし……」
穂乃果「海未ちゃん!?」
ことり「……」
ことりちゃんの瞳がどんよりと濁っていた。
にこ「あんたね、そんなもん出せば思い通りになるとでも思ってんの!?」
ことり「……なんでそんな言い方できるの……?」
穂乃果「にこちゃん、ことりちゃん、やめて!やめてよ!!一生のお願いだから!!!穂乃果の一生のお願いだから!!!!!」
にこ「この際だから言うけど、あんたの留学どうこうってのも、注目集めるための狂言だったんでしょ!?ことり!!!」
穂乃果「にこちゃん!!!!!」
ことり「うぅ……う゛ぅーーーーーっ!!」
ことりちゃんが顔を真っ赤にしてにこちゃんに突進していった。
両手でしっかりナイフを握ったまま。
私には銀色の刃がにこちゃんのお腹に刺さっていくのが、やけにゆっくりに見えた。
どすっ、という音がして、にこちゃんのお腹から赤いものが流れていた。
にこ「えっ……」
穂乃果「あ……ああ……」
にこ「なによ……これ……」
にこちゃんが自分の血で真っ赤な手を見ながら不思議そうにつぶやいた。
ことり「ん゛っ!ん゛っ!」
そのままことりちゃんはうめくような声をもらしながら、何度も何度もにこちゃんをナイフで刺した。
ずっ、ずっ、と刃物が肉を刺す音とことりちゃんのうめき声が部室に響く。
穂乃果「やめてっ!やめてよぉっ!ことりちゃん、やめてぇ!!」
私は目の前のことが信じられなくて、叫ぶことしかできなかった。
にこちゃんが尻餅をつき、仰向けに倒れる。ことりちゃんは馬乗りになって、さらににこちゃんのお腹を刺し続けている。
駆け寄った海未ちゃんがことりちゃんのナイフを叩き落として、蹴り飛ばした。
海未「穂乃果!ことりを押さえてください!!」
穂乃果「う、うんっ!」
ようやく身体が動いた私は、ことりちゃんの両手を封じるように後ろから抱きしめる。
ことりちゃんの手に、体に、返り血がべっとりと付いていた。私の手にも血が付いた。
ことりちゃんは脱力してぐったりとしていた。私が抱いていないと倒れてしまうくらい。
海未ちゃんはにこちゃんのお腹にタオルを押し付けて止血しようとしていた。
ことり「穂乃果ちゃん……」
ようやくことりちゃんが私に反応した。
穂乃果「ことりちゃん……どうして……」
ことり「だって……にこちゃんが……言い方が……」
穂乃果「ううっ……うううっ……」
私はことりちゃんを抱きかかえたまま泣いてしまった。
そのとき、どたどた、という音が聞こえた。
それはにこちゃんの足が、水泳のバタ足のように床を叩く音だった。
海未「に、にこ!?いけません、痙攣しています!!」
穂乃果「にこちゃん!にこちゃぁぁぁぁん!!!」
にこ「げほっ……げほっ……」
にこちゃんが苦しそうに咳をした。咳と一緒に血を吐いていた。
にこ「……げ、ほ……」
最後に弱々しく咳をして、にこちゃんのバタ足が急に止まった。
穂乃果「救急車!救急車呼ばなきゃ!電話っ、電話を――」
海未「穂乃果、救急車を呼ぶ必要はありません……」
海未ちゃんがにこちゃんの首筋に指を添えながら言った。
穂乃果「なんで?なんで?海未ちゃん?」
海未「……にこはもう……死んで……います……」
穂乃果「あああぁぁ!!やだああああぁぁぁ!!!!」
海未ちゃんが首を振った。
ことり「……言い方が……ううう……」
穂乃果「うっ……うっ……警察、呼ばなきゃ……」
海未「待ってください、穂乃果!」
穂乃果「うう……なに?海未ちゃん」
海未ちゃんが、さっきまでとは打って変わってハキハキと喋り始めた。
海未「警察沙汰にしていいんでしょうか?」
穂乃果「なに言ってるの海未ちゃん……にこちゃんが、ううっ……死んじゃったん、だよ……?」
海未「考えてみてください。このことが公になったら……私たちμ'sは、終わりです」
穂乃果「そんなのっ!何言ってるのっ!?人が……ふぐっ……にこちゃんが死んだんだよ!?」
海未「落ち着いてください」
穂乃果「落ち着いてられるわけないでしょ!?」
海未「……μ'sは真姫が作曲、私が作詞、振り付けを絵里、ことりが衣装作り、穂乃果がリーダーを務めています」
穂乃果「それが……なんの関係があるの」
海未「この5人さえいれば……そう……にこ1人がいなくなっても、なんとか……」
穂乃果「海未ちゃんっ!!!!」
頭がカッと血が上るのを感じた。私は両手で海未ちゃんの肩をつかんでいた。
海未ちゃんがそんなことを言ったことが信じられなかった。
海未「……目撃者はいません……にこの死体さえなんとかすれば……」
穂乃果「そんなことできるわけないよ!!」
海未「ではあなたはことりを犯罪者にしたいのですか!?」
海未ちゃんが私を責める。
穂乃果「ううううう……もうなに言ってるのか分かんないよ……海未ちゃん……」
海未ちゃんの肩に手を置いたまま、私は崩れ落ちた。
でも海未ちゃんが言うとおり、このことが公になったらμ'sはおしまいだ。
ラブライブ優勝どころか、出場だってできない。
ううん、μ'sどころか、この学校だっておしまいだ。
殺人事件のあった学校に入学したい人なんているわけないから、当然音ノ木坂学院は廃校になる。
私達のしてきたこと、全部無駄になっちゃう。
ことりちゃんも殺人罪で刑務所かそれとも施設?に入らなきゃいけない。
でも、もし隠したりしたら、にこちゃんの家族になんて言えばいいの?にこちゃんの弟や妹になんて言えばいいの?
なにより、にこちゃんの、大事な友達の死体をどうこうするなんてこと、私には絶対できない。
頭がおかしくなっちゃいそうだった。
……思えばどうして私は、ことりちゃんがナイフを出した時にことりちゃんを無理矢理でも止めなかったんだろう。
止めないにしても先生を呼びに行くとか、とにかく大声を出すとか、いくらでもできることはあった。
それなのに私はその場で突っ立っていただけだ。
こんな無能な人間がリーダー気取りしてたなんて……
私が殺させたも同然だよ……
いままで生きてきてこんなにいろいろなことを考えたのは初めてだった。
頭の中がぐちゃぐちゃになる。でも正しいことをしなきゃ、と思ったから、ようやく考えがまとまった。
今から自分がどうするかを。
私はこれから、ことりちゃんの人生を台無しにするんだ……
黙って電話を取り出した私を見て、海未ちゃんが言う。
海未「では穂乃果、通報するのですね?」
穂乃果「するよ……」
海未「通報するのですね?」
ことり「ううっ……うううっ……ひどい……穂乃果ちゃん……」
ことりちゃんの言葉が胸をえぐる。ごめんねことりちゃん。毎日面会に行くからね。
穂乃果「うん……ごめんね……通報する……」
私が110番をダイヤルしようとした、そのとき。
??「大正解~~!!!!!!」
ドアが開いた。
穂乃果「えっ!?」
??「いやー、大成功でした!高坂穂乃果さん、正解です!!」
部室にマイクを持った人、大きいカメラを構えた人、ライトを持った人……大勢の人が入ってきた。
穂乃果「もう、取材のひとが来ちゃったんですか!?」
??「ははははは!えー、正解ですので、μ'sの皆さんには一曲、生ライブ権利が与えられまーす!」
にこ「ふぅ~」
混乱していた私の横で、にこちゃんが生き返った。
にこ「大成功ねっ!」
にこちゃんは血まみれでピースをしながら、にっこりと笑った。
穂乃果「えっ、にこちゃん……?」
にこ「ごめんね穂乃果。これ、ドッキリだったの」
穂乃果「ドッキリ……」
私は完全に思考が止まってしまい、なにも言えなくなってしまった。
よく見たらマイクを持った人、テレビで見たことある。お笑い芸人のひとだ。
にこ「ごめんなさいことり!台本通りとはいえ、心にもないこと言って……」
ことり「ううんにこちゃん、私もにこちゃんのこと、演技でも刺しちゃったんだし、おあいこだよ」
にこちゃんとことりちゃんはお互いに謝りながら強く抱きあっていた。
……なに、これ?
海未「人間性クイズだったのですよ、穂乃果」
未だに状況がつかめない私に海未ちゃんが言った。
穂乃果「なに、それ……?」
海未「極限状況でμ'sのリーダーである穂乃果が正しい選択ができるか、というものだったんです」
ことり「穂乃果ちゃん、ほらほら!」
ことりちゃんがナイフの刃先を指で押すと刃が柄に埋まっていった。
にこ「穂乃果、テレビでこのドッキリが30分、プラス私たちの曲がフルで流れるのよ!?フルで!!」
新しく始まるスクールアイドル専門バラエティ番組でどうたらこうたら、と血まみれのにこちゃんが嬉しそうに説明していた。
凛「おつかれさまにゃ~!」
真姫「うわ、にこちゃん、血糊が大変なことになってるわね」
花陽「お、お、おつかれさまです!」
一年生3人が入ってくる。
穂乃果「……」
みんな知ってたんだ。私以外。そっか……ドッキリか……よかったよかった……
みんなすごい演技力だなぁ。すっかりだまされちゃったよ。
私はケンカも止められない無能さや友達が死ぬ悲しみや親友の人生を台無しにする感覚を味わったけど、
ドッキリだもんね。何事もなかったことになるんだよね。よかったなぁ……
凛ちゃんは何故かマラカスを持っていた。凛ちゃん、それはキャラ作り?キャラ作りなの?さっきは持ってなかったよね?
遅れて絵里ちゃんと希ちゃんが部室に入ってきた。
やっぱり2人も仕掛け人だったんだ。大学の見学とか、ウソだったんだ。
希「みんな、おつかれ~」
絵里ちゃんが口を開いて何か言おうとしてるのが見えた。どうせハラショーでしょ。
絵里「ハ、ハラショー……」
ほら。
司会者「それじゃリーダー、そろそろ自己紹介お願いしま~す」
そういえば私はまた突っ立っていただけでほとんど喋っていなかった。海未ちゃんが私の背中をつついた。
まだ軽い混乱状態にある私の頭からとっさに出てきたのは、アイドルの自己紹介ではなく、長年染み付いていたほうの挨拶だった。
穂乃果「高坂穂乃果です……和菓子屋穂むらも、よろしく……」
司会者「ってきみんちの宣伝かーい!」
はたかれた。頭をはたかれた。知らない人に。
でも仕方ないよね。テレビだもんね。ボケにはツッコミをいれるのがテレビだもんね。
意外に痛いんだ、ツッコミって。はじめて知ったよ。なんだかなあ……
凛「ねえねえ穂乃果ちゃん!いつもの自己紹介も聞きたいにゃ~!」
穂乃果「……あ?」
凛「ひっ!?」
にこ「ごめんね、穂乃果。でも穂乃果なら正しいことをしてくれるって思ったからみんなで引き受けたのよ」
ことり「穂乃果ちゃんのこと、信じてたから」
海未「私達の自慢のリーダーです」
なにがリーダーだよ。穂乃果はどうせバカだから、ドッキリに仕掛けてもいいやってことでしょ。
他のみんなが自己紹介をしている。みんないつもよりテンションが高い。
全国テレビに出れて嬉しくて仕方ないみたい。
司会者の口ぶりから、事前に学校側の許可も取ってたみたい。
学校全体がグルになって私をバカにしてたんだ。
このドッキリ、絶対やりすぎだと思うんだけど。そう思うのは私だけなのかな?
テレビって怖い。面白さのためならなんだってするんだ。
μ'sも同じだ。人気のためならなんでもするんだ。
いらいらする。
でも怒っちゃだめだよね、ドッキリで怒るなんてありえないよね。
みんな楽しそうだなあ。私がおろおろしてるの、そんなに面白かった?
ナニソレ、イミワカンナイ。真姫ちゃんがうるさい。
そういえば、なんでこんな私が生徒会長になんてなったんだろう……
あれかな、小学校とかでクラスのお調子者が学級委員に立候補して、あいつでいいや、的な。
いらいらする。
というか、よく考えたらやっぱり私はバカだ。
にこちゃんとことりちゃんがあんなこと言ったりしたりするわけないのに。
ふたりを心から信じていれば、演技だって見抜けたかもしれない。
高坂呆乃果に改名するべきかな?あはは。
ナニソレ、イミワカンナイ。真姫ちゃんがうるさい。
穂乃果「真姫ちゃん、静かにして」
真姫「うぇぇっ!?私何も言ってな――」
司会者「はい、それではそろそろ、歌のほうお願いします!」
海未「はい!私達はいつでもどこでも歌えますから!」
にこ「は~い♪がんばるにこ~♪」
カメラに向かってにこちゃんがいつものわけのわからないポーズをとった。
……いろいろと考えすぎたせいか、なんだか頭の中がぼんやりしてきた。
頭の中がまたぐちゃぐちゃで、今度は考えがまとまる様子はなかった。
司会者「なんか君たちのリーダー、揺れてない?」
海未「えっ、穂乃果?」
司会者「横揺れ系リーダーかい!」
なにそれ……笑いものにされてる。テレビだもんね。しょうがないよね。μ'sのためだもんね。
ついさっきまでは部室でパンを食べてただけなのに、今では全国の笑いものだ。
司会者「それでは歌っていただきましょう!μ'sで『Snow halation』!!」
スノハレのイントロがどこからともなく流れてきた。
新曲じゃないけど、フルで曲が流れるなんて初めてだからキラーチューンを流すんだね。うん。
μ'sの曲は良い曲ばかりだけど、特にスノハレは良い曲だから、テレビで流せばきっと売れるよね。
スノハレ……
私がセンターの曲……
無能な私の……
仲間はずれの私の……
笑いものの私の……
そのとき、私の中の何かが壊れてしまった、という実感がした。
なにかのうなり声がどこか近くで聞こえてきた。その音は私の口からしていた。
穂乃果「ぅぅぅ……」
ことり「ほ、穂乃果ちゃん?」
穂乃果「ウウウオアアアアアアアアアア!!!!!!」
そこで私の意識は途切れた。
ドッキリだかクイズだかは予定どおり放送された。
テレビ画面に映っていたのは、私が奇声を発した後、司会者をグーで殴り続ける姿だった。
4分20秒の間みんなで私を止めようとしていたから生ライブではなかったけど、曲はCD音源がフルで放送された。
スノハレの『♪とめられない とまらない』という歌詞に合わせて司会者を殴り続ける私の姿は
瞬く間に動画サイトで100万ヒットを達成し、色々な面白動画も作られた。
にこちゃんの血糊が飛び散るシーンが問題になってその番組はなくなったけど。
μ'sの知名度は急激に上昇し、急遽レコード会社と契約してCDをリリースすることになった。
スノハレだけでなく、今までの曲も新曲ということにして何枚も発売された。
全シングル購入者にはドッキリの未公開メイキング映像を全員にプレゼント、という売り方が功を奏したのか、CDは売れに売れた。
ラブライブには出場しなかった。
みんなはそのときCD発売記念の握手会で忙しかったし、私は右手を療養していたからだ。
私の右手は複雑骨折していた。生まれて初めて、本気で人を何度も殴ったせいだった。
左手で食事をしながら、家のテレビでA-RISEが優勝するのを私はぼんやり眺めていた。
しばらくしてびっくりするくらいの額の印税が私の通帳に振り込まれた。
μ'sのみんなはドッキリのことを謝ってきた。
特にことりちゃんは泣いて謝ってきたし、にこちゃんは学校の廊下で土下座してきたけど、それを見ても私は何も感じなかった。
テレビ放送のあと学校は入学希望者が今までの倍以上に増えたらしい。
廃校どころか教室の数が足りなくなるかもしれない、と理事長が言っていたとか。
ついでに穂むらも一時期はものすごい人が押しかけてきていて、売り上げが過去最高を記録したらしい。
みんなが幸せになって、本当によかった。
廃校になることは、今後もずっとないだろう。
私はμ'sを辞めた。
私がいないとだめなの、ってμ'sのみんなは言ってたけど、そんなはずないって思ってたし、実際私の思ったとおりだった。
新たに8人体制になったμ'sは、にこちゃんが新しいリーダーとなって芸能事務所と契約し、そのまま本当のアイドルになった。
最初は話題性だけのグループと言われていたけど、曲やダンスのクオリティの高さがじわじわ認められて、今ではトップアイドルグループになった。
今μ'sは8人で定期的にCDを出したりライブをしながら、それぞれが得意な分野で活躍している。
にこちゃんとことりちゃんはドッキリでの演技力を買われてドラマや映画に出演している。
海未ちゃんは弓道と山登りの番組や雑誌に必ずといっていいほど出ている。
希ちゃんのグラビアをコンビニで見かけない週はないし、ファッション誌の占いコーナーの連載もしている。
絵里ちゃんは舞台で活躍している。ついこのあいだはバレエをテーマにしたお芝居の主役に選ばれた。
花陽ちゃんはグルメ番組の常連だし、お米のイメージキャラクターのポスターをよく見かける。
真姫ちゃんは『作曲したけどμ's向きじゃないのでボツにした曲』が多くあったみたいで、それを他のアイドルに提供している。
凛ちゃんは歌のお姉さんに抜擢されて今日もマラカスを振っている。
私は……
子供A「あーっ!リーダーだ!!」
子供B「リーダー、コンビニでパン買ってるー!」
穂乃果「……」
子供A「リーダー、パンチ教えてよ!!」
子供B「オレにもオレにも!」
穂乃果「ごめんね、忙しいから……あともうリーダーじゃないから……」
子供A「わかったよリーダー!」
子供B「バイバイリーダー!」
穂乃果「……」
子供A「やべーっ!殴られるかと思った!」
子供B「オレもオレもー!」
穂乃果「…………」
私は静かに暮らしている。
この後ツバサさんに誘われてA-RISEに加入してμ'sと対決するのだけど、それはまだ先の話だ。
(・8・)完
こんなわけのわからないSSを読んでくれてありがとうございました
失礼しました!
このSSまとめへのコメント
おいこら続き
逆襲の穂乃果楽しみだなw
これに近いことやられたけど
1週間ぐらい鬱状態になったよ
胸糞…
いろいろ考えさせられる話だな…
胃が痛い・・・
現代社会の汚さ、闇の部分が上手く描かれていて、風刺作品としては良い出来だと思います。