東郷「言い訳」 (15)

ゆゆゆの友奈と東郷さんss
百合 アニメで東郷さんが壁ぶっ壊す直前くらい
書きためなし




その時の私に見えていたこと。
自分の中で出した結論。
ほんの少しの救いもない。

きっと、後々になって、全く知らない誰かが言うのかもしれない。

『こうすれば良かったのに』とか『なぜ、ああしなかった』と。

仕方がないじゃない。
そうするしかなかった。
後、があるかは分からない。
けれど、後を作るつもりはもうない。

瞼の裏の桜吹雪が、色鮮やかに舞っていた。
それは、ただの思い出に過ぎない。
遠い、遠い日々の。
目の前でくうくうと寝息を立てる少女の髪を撫でる。

「ん……」

春も夏も彼女の傍にいて、
甘いぼたもちを作ってあげたかった。







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ただ、今になって思う。ぼたもち、と言うのは神仏や先祖への供物とされていた。
そんなものを、友奈に食べさせ続けていたこと。
なんて、滑稽なのだろう。
まるで共食いだ。

ぼたもちが悪いわけではない。
全て、神樹様が悪いのだ。
全て、大赦が悪いのだ。
全て、バーテックスが悪いのだ。
全て――。

私は持っていた包みを机の上に置いた。
重箱を取り出す。

勇者部の部室には誰もいない。
窓から差し込む陽気があまりにもうららかで。
友奈が眠ってしまうのもしょうがない。

「友奈ちゃん……」

起こすのも可哀相かと思ったが、
これが最後ならば、
せめて彼女が口にして、
はにかむ顔を見るくらいは、
咎められることはないだろうか。

「ん……」

彼女の口の端が、ぴくりと動いた。
ついで、人差し指が机を掻いた。
目をこすりながら、

「おはよう……東郷さん」

「こんにちは、友奈ちゃん……。疲れてる所ごめんね」

「あ、違うよッ。お昼食べた後だったから……あれ、他のみんなは」

「まだ、来てないみたい」

頭を重そうに揺らして、友奈ははっと重箱を見やった。

「あれ……それ」

「ぼたもちよ」

彼女は目を輝かせた。

他の部員を待とうかとも考えたが、昼休みはそう長くはない。
それに、二人きりの時間を大切にしたい。
早く友奈に食べてもらいたくて、私はお茶を淹れる。
昼下がりのティータイムに、友奈が舌鼓を打った。

「おーいしー!」

大げさなくらいの賛辞を述べる。
これが聞きたいから、作っていると言っても過言じゃない。

「お茶もどうぞ」

「うんッ」

彼女は優しくて。
私は心が痛い。
臆病な私。
彼女の本当の感想を聞くのが怖い。

けれど、あえて彼女は言うのだ。
私も分かっているから。
彼女の欠損部位のこと。

他の部員がいなくて、ほっとしているのはお互いなのかもしれない。
気を遣わせてしまうかもしれないから。

「友奈ちゃん……」

「なあに?」

口の端に着いたあんこを友奈がぺろりと舐めとった。

「私ね、友奈ちゃんのこと好きよ」

彼女は目を瞬く。

「うん、ありがとう! 私も好きだよ!」

彼女は呆気らかんと言って、私の瞳を見て、

「……東郷さん?」

首を捻る。

「ごめんねッ……ありがと。これからもずっと、友奈ちゃんの隣にいたいなって思ったの」

「任せて! 私も、東郷さんの傍にいるからね」

威勢が良い。
誰にでも、彼女は優しい。
でも、可能だろうか。
いや、無理だろう。
このまま、乃木園子のように、
ぼたもちみたいに、
神への供物として、
祀られる。

あの、大赦の奥へ安置される。
幾度、そんなことを繰り返してきたのか。

これから、幾度繰り返される予定だったのか。
それにだけは抗いたいと思う。
それだけは耐えられない。

敵は誰だ。
親友を傷つける者は一体何なのか。
私たちはなんのために、
あの化け物を排除してきたのか。

いつか救われる。
全ての希望のために、勇者になった。
彼女を守るために。

「ねえ、友奈ちゃんはどうして勇者になったのか……覚えてる?」

今さらになって、
こんな質問に、
ぱっと答えてくれるのは、
彼女だけだろう。

「それは……親友を守りたいって思ったからだよ」

「そっか……」

その言葉に迷いはなかった。

「東郷さんは覚えてる?」

「私は……」

どうだったのだろう。
お国のために、使命を全うしたかったのか。
この身を神樹様に捧げたかったのか。
それでも、最初は戦う意思なんてどこにもなかった。
愛国心は忠義は弱さに隠れてしまった。

「最初……怖くてたまらなかった。勇者になんてなれないって思ったわ」

「東郷さん……」

「臆病者だった……一番最初のこと覚えてる?」

「うん……でも、東郷さんは頑張ったよ」

それは、あなたがいたから。
勇者システムという存在があったから。
本当の私は――。

システムは、きっと心もどこか狂わせてしまうのだ。
人間の臆病な部分を一時的に忘れさせてしまうのだ。
麻薬のようなものだ。

痛みも、恐怖も、死も。
神樹様が、奪っていった。

「そうね。でも、私は、友奈ちゃんのような勇気はなかった……」

「私だって、そんなのないよ……」

「勇者になんてならなければ良かったって、思う……今考えると、なんて無謀だったのかしら」

裏切られた悔しさは、
まだこの国にこの国の神に、
未練があるからなのか。

否、未練があるのはたった一人だけ。

「東郷さん……私たちは、私たちしかできないことを勇んでやってるんだ。無謀かもしれない……だから、たまに怖くなって逃げ出したってかまわない。それも勇気なんじゃないかな……」

「逃げてもいいの……?」

「うん」

友奈は少し間を置いて微笑んだ。
温かくて、涙が出そうになった。

逃げたい。
彼女と共に。
彼女と生きるために。
たった二人だけ、生き延びることになろうとも。
たった一人だけ、生かすことになろうとも。

全て無くなっても。

この生き地獄から彼女が解放されるなら。

「それでも東郷さんは、この役目を誰かに押し付けることはしないでしょ?」

「……」

「誰もができることじゃないから、私たちはいる。バーテックスと戦うことは、犠牲なんかじゃないよ。私たちにしかできないことだからやるんだよ」

彼女の言っていることは、私には理解できない。
理解した所で、彼女と同じ心境になれるだろうか。
無理だ。
きっと。
私の世界は、あなたが中心なのだ。
彼女の世界は――。

キンコーンカンコーン。

「予鈴だね……」

彼女が言った。

「ええ、行きましょうか」

「よっと……」

誰かがやらなければならない。
誰もそれをやりたがらないだろうけれど。

車輪のロックを外す。
キイキイと車椅子の車輪が音を立てた。
車椅子を押す彼女の顔をもう一度、見た。

「なあに?」

「ありがとう……いつも」

「な、なに、改まって、照れるなあ。好きでやってるんだからいいの!」

「うん……」


私も。
あなたが好きだから。
大胆にも、臆病にもなれる。


勇気をくれるあなたがいたから。




終わり

東郷さんの豆腐メンタルを守れるんは友奈さんだけ

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