女勇者「……『星空魔王』?」 (244)


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ある夜 民家


少女「zzz」

女神「…おきなさい」

少女「zzzzz」

女神「おきなさい、少女よ」

少女「zzzzzzzzzz」


女神「蹴っちゃいますよ?」

ドガッ


少女「いったぃ!?」ヒリヒリ

女神「目覚めましたか、少女よ」



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1419209953


少女「うぇ!? 何、誰なのあんた… まぶしっ、光源落として!」

女神「コホン…。 私は女神…神の使いとして啓示と力を与えるものです…」

少女「へ…? め、女神!?」


女神「少女。あなたは、女勇者に選ばれました…」

少女「え…女勇者って… なにそれ… 何するの?」


女神「あなたに、神の加護を授けましょう。そして…魔王の元へ、行くのです!」

女勇者「な……!」


女神「驚くのも無理はありません…ですが、これは神より与えられた運命…あなたは

女勇者「うそでしょ!? 魔王とか本当にいるの!?」

女神「そこに驚いてたんですか!? 何千年も代々途切れることなくいますよ!?」

女勇者「何その都市伝説!?」

女神「伝説とかじゃないですー! むしろ女勇者のほうが伝説です!!」


女勇者「え、だって… 魔王っていったらアレでしょ?」

女神「コホン…なんでしょうか」

女勇者「魔物の群れを引き連れてて、四天王とかを据え置いて、玉座で偉そうにして、世界征服」

女神「そう…ですね。大体において、魔王のイメージとしては正しいと思います」

女勇者「魔物とか、見たこと無いけど?」

女神「ええ、居ませんから」

女勇者「………居ないの?」

女神「居ないですよ?」

女勇者「スライムくらいは

女神「居ないですねー」

女勇者「……」


女勇者「寝る」

バサッ モゾモゾ

女神「まってまって、言いたいことはわかりますけど! 魔王は本当に居るんですー!」

女勇者「えー…」チラ


女神「コホン。魔王の元へ向かって欲しいのは確かなのです」


女勇者「だって…いきなりそんなこと言われても。あ、もしかしてアレ?」

女神「なんでしょう」

女勇者「世界征服をもくろみ、来るときに備えて力を温存していて…『今がその時だ!』みたいな?」

女神「いいえ。世界征服どころか、魔王城に一人で穏やかに過ごしています」

女勇者「それはもう、ほっといてあげようよ」


女神「ほっとけないんです」

女勇者「どうして?」

女神「…なんだかあまりに魔王が可哀相な気がして…見ていられないのです」

女勇者「可哀相?」

女神「ええ」

女神「ですので、少女… いいえ、女勇者。あなたに、魔王の元へ向かって欲しいのです」


女勇者「ちょ、ちょっと待って? 展開が見えないんだけど…私に、魔王のところに行って何をしろっていうの?」

女神「することは、ただひとつ」

女勇者「倒せとかいわれても無理だよ!? 私、いわゆるただのカジテツ姫だからね!?」

女神「姫なのですか?」


女勇者「ううん、すっごく平均的な中流家庭の一般的な一人娘。家事手伝いという名の不良債権候補」

女神「それで、十分だと思います」


女勇者「いやいや、パンピーの女の子が魔王のとこ行ってどうすんの? 生贄なの?」

女神「魔王を… 救ってあげてください」

女勇者「余計に意味がわからない」

女神「勇者にしかできぬことなのです。万物を救いに導くのは、勇者の運命。あの魔王ですらも救ってみせてほしいのです」


女勇者「……あのさ、魔王っていわれても… はじめて聞いたヒトだし…怖そうだしさぁ」

女神「魔王は… 魔王を知るものからはこう呼ばれています」


女神「そう。『星空魔王』、と」

女勇者「……『星空魔王』?」



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魔王城 城門前



女勇者「で…」

女神「到着です」

女勇者「多分、どんなクソゲーでも 魔王城まで女神に送り届けられる勇者って居ないと思うの」


女神「……私も、ここに来るのは久しぶりです」

女勇者「え? 来たことはあるの?」

女神「以前は、よく来ていました」

女勇者「知り合い?」

女神「……そう、ですね… それくらいには思われているかもしれません」


女勇者「じゃあ、女神様が魔王を助けてあげればいいじゃない?」

女神「……救ってあげたかったのですが…拒まれているんです」

女勇者「あー… まあ、そっか。魔王と女神だもんね… なんか、属性とか? そーゆーので苦手とかあるのかもね」


ピンポーン


女神「こんにちはー 書留でーす」イマセンカー?

女勇者「うん、まず私が女神のこと苦手だわ」


カチッ、ザザザ…

インターホン<はい、今でます。少し待ってください

女神「はーい」

プツッ…


女勇者「ねえ、確かにすごく荘厳なお城だけど。お城だけどさ、本当に魔王城なのココ?」


女神「今の声… よかった。魔王、生きてるみたい」ホッ

女勇者「えっ、今の魔王本人だったの!? ってことはもういきなり魔王出てくるの!?」

女神「ふふ、緊張しますか?」

女勇者「う、うん。ふざけてるなとは思うけど、流石にちょっと…」

女勇者「女神の移動魔法とかは本物だったし、ここも本当に城だし…なら魔王も本物なのかなって気はするし…」

女神「普段どおりで大丈夫ですよ。さ、肩の力を抜いて?」

女勇者「普通は『気合を入れていこう!』とかだと思うけど、もう全部おかしいからいいや」


カチャ

魔王「お待たせしまし…

女神「こんにちは、魔王」ニコッ

魔王「」

パタン

女神「ま、魔王! まって、開けて?」ドア トントン

女勇者(なんとなく今の反応、分かる気はする)


女神「ま、魔王~」

トントン、トントン

女神「魔王―…」

トントン…

女神「う… 魔王……」

トン…

女勇者「……女神様、あの… 流石に泣かないでくださいね?」

女神「ですが……」グス

カチャ

魔王「……」ハァ

女神「魔王!」


魔王「……入るといい。用件だけは聞こう」

女神「はいっ」

女勇者(魔王も女神も、見た目はそれっぽいけど。本当は中のヒトがいるんじゃないかな。普通の人が)


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魔王城 来賓室


魔王「……」

スッ

女神「ありがとうございます。…とてもいい匂い」

女勇者「すごい、魔王が自分で紅茶を淹れてた。しかもなんか慣れてた」

女神「……」キョロキョロ

女勇者「女神様、どうしたの?」

魔王「すまない、ミルクを探しているなら無い。切らしている。急な来訪だった」

女神「あっ、いえ こちらこそ…」

魔王「砂糖を使え」

女神「ありがとう、魔王」ニコ


女勇者「ミルクティー派なんだね、女神様」

女神「ええ、甘いものは好きですね。供物もお菓子が多いし、いつの間にか甘党に」

女勇者「私もミルクティー好きだしわかるけど、供物ってのはわからないかな」


魔王「……それで、用件は」

女神「魔王… 相変わらず、この城に一人で住んでいるのですか?」

魔王「ああ」

女神「せめて、所用をまかせるような魔物を創ればいいのに…」

魔王「いらない。……一人でいい」

女神「……そう、ですか」


魔王「そんな小言を言いにきたのか」

女神「いいえ… 今日は実力行使にきたのです」

魔王「何?」


女神「さあ、女勇者! 立ち上がりなさい!」

女勇者「え、ええ!? な、何!?」

女神「早く!」

女勇者「は、はいっ」スクッ


魔王「…何のつもりだ」

女神「魔王…… こうなっては、しかたありません。この者をあなたにけしかけにきたのです」

魔王「…女勇者、と言っていたか。そうか、ついに俺を殺しに来たか?」

女神「いいえ…」



女神「今日からはこの女勇者が 魔王の身の回りのお手伝いをします! さあ女勇者、御挨拶を!」


魔王・女勇者「それは予想外」


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魔王城 来賓室



女勇者「で、本当に置いていかれちゃったよ魔王城に…」



『見たでしょう? 紅茶淹れる手際のいい魔王って切なくなりません?』

『この広い城を掃除とかもするのかなあとか考えちゃうじゃないですか』

『自分で従者を用意するつもりがないのなら、こちらで用意するくらいしか思いつかないですよ』

『だからね、女勇者には とりあえず魔王の身の回りのお手伝いをしてあげて欲しいんです!』

『~~ああ、もうこんな時間! 神様はどうしてゆっくりお話する時間をくれないのかしら!』

『魔王、また来てもいいですか?』

『女勇者、がんばって魔王をお助けしてあげてくださいね』

『で、では!』



女勇者「あまりのことに、ろくな反論もできないまま消えられてしまった」


魔王「…同情くらいはしてやろう」

女勇者「あ、はい。ありがとうございます」


魔王「……」

女勇者「……」

魔王「……」


女勇者「えっと。とりあえず…頂いたお茶のカップ、下げますね」

魔王「あ、いや。置いておいていい。俺がやろう」

女勇者「……そう、ですか」

魔王「ああ。どうせ突然のことなのだろう? くつろいでいても構わない」

カチャカチャ… テクテク


女勇者「……」


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魔王城 厨房



魔王「……」

カチャカチャ… ジャー…


魔王「……」


魔王「それで身を潜めているつもりか。出てくればいいだろう」

女勇者「あ… えへへ。えっと、バレてた?」

魔王「これでも一応は魔王だ。誰がドコにどれくらいいるのか…その気配くらいはわかるさ」

女勇者「そうなんだ…」

魔王「何故ついてきた? くつろいでいていいと言った筈だ」

女勇者「何故っていわれても… なんとなく、としか」

魔王「そうか。……ならば好きにしろ」


ジャー… 
カチャカチャ キュキュッ


女勇者(立派な角、尖った耳、鋭い目、低く恐ろしげな声音)

女勇者(でも、それ以外は…長身だし普通に黒髪だし、顔だって人間と変わらない造りだし。ううん、むしろ整っているくらい)

女勇者(ただ……なんだろうなぁ)


魔王「……」

ゴシゴシ、フキフキ


女勇者(予想される魔王本来のオーラ以上に、明らかに暗い。っていうかもうコレ哀愁が漂ってる)

女勇者(食器洗いをする魔王の背中とか、確かに見てて いたたまれない…!)



魔王「……なあ」

女勇者「え? あ はい」


魔王「帰っていいのだぞ」

女勇者「え」

魔王「俺に手伝いなど必要ない」

女勇者「あー…」

魔王「帰り方がわからないというのなら、近くまで送ってやろう」

女勇者「うん…」


魔王「……町の名は?」

女勇者「はじまりの町…」

魔王「そうか。こちらも片付いた。では、行こう」


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はじまりの町 ちかくの街道


ヒュン… シュタッ


魔王「ここでいいか」

女勇者「うん、十分だよ。ありがとう」

魔王「そうか。では」

女勇者「うん」


魔王「……すまなかったな」

女勇者「え?」


魔王「女神が余計な心配をするせいで。迷惑をかけた」

女勇者「あ、いや・・・ 実際、1日つぶれたくらいだし。むしろ美味しいお茶頂いたくらいだし」

魔王「そうか」


魔王「俺は魔王だが、特に何かをするつもりもない。勇者であることは忘れて静かに暮らすといい」

女勇者「うん・・・」


魔王「では」


女勇者「……」

魔王「転…


女勇者「やっぱ待って!!!」ダッ

魔王「移…っ!?」


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魔王城



ヒュンッ! 
シュタッ ドサァッ!


魔王「……」

女勇者「……こっ、こっ、こわ、こわかったぁぁ!!」ハァハァ

魔王「術の導入中に割り入ってくるなど…無謀な」

女勇者「だ、だって」


魔王「せっかく送り届けたのに、一緒に戻ってきてどうする」

女勇者「うん、やっぱりそう思う?」

魔王「ああ」



女勇者「……女神様も、せっかく魔王城まで私を送り届けてくれたんだよね」

魔王「……」


女勇者「それなのに何もしないまま帰ってどうすんだろうって思っちゃって」

魔王「詭弁だ。それともそれが勇者論なのか」

女勇者「勇者とか実感ないよ、でも人間としてね」

魔王「……」



『魔王……』グスッ



女勇者「…ここに来たときの女神様、泣き出しそうだったし。馬鹿馬鹿しいけど、本気なんだろうなって思うし」

魔王「……」

女勇者(それに…なんとなく。この魔王を放っておけないっていう女神様の気持ち、わかる気もするんだよね)


魔王「女神に顔が立たないというのなら、気のすむようにするといい」

女勇者「うん。とりあえず次に女神が来るまではお邪魔してていいかな」

魔王「……女神が来るかどうかの保障はしないがな」

女勇者「え、なんで? 来ると思うけど」


魔王「何故そう思う」

女勇者「だって、女神様って魔王のこと好きそうだったし」

魔王「」


女勇者「え なんでそんな顔するの?」

魔王「……そういう関係じゃない。むしろいつ争いになってもおかしくない緊迫した関係なんだ、俺たちは」

女勇者「あー… そっか、魔王と女神だもんねぇ…」

魔王「わかったら、おかしなことを言うな」

女勇者「あ、うん」


魔王「部屋を用意しておこう。出入りも城内も好きにするといい」


女勇者「ほぼ初対面なのにそれでいいの? ドロボウとかするかもよ?」

魔王「……おかしなやつだな」

女勇者「そうかな。世間一般では普通の感覚だと思う」

魔王「だが、お前は勇者なのだろう? 勇者がドロボウを宣言するのか?」

女勇者「ツボとかタンスとか勝手に開けてアイテムもってっちゃうイメージあるよ?」

魔王「……しばらく世間に関心を払わなかったが、勇者のイメージはそういうものになっているのか」

女勇者「わりと」


魔王「だがまあ、欲しいものがあるならば持っていっても構わない。調べようと何をしようと勝手にするがいい。俺は気にしない」

女勇者「そう、なの?」

魔王「それに、気配くらいわかる。本当に不審ならば追い出すくらいのことはするだろうさ」


女勇者「なんか…魔王って、自分のことなのに他人事みたいに言うんだね」

魔王「……」

中断します 次は夕方に貼ります

期待してるぞー


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魔王城 庭園


女勇者(あれから、1週間)

女勇者(元々、家事をやっていたから魔王城の手入れはそれほど困ったことは無かった)

女勇者(とても広い城だけど、使う部分はほとんどない。台所と、食堂と、玄関と、浴場とトイレ。それから私の部屋)

女勇者(物が少ないし、所々に飾られた装飾品なんかも大きな汚れもないから、ハタキではたけば十分なくらい)


女勇者「魔王は、本当に静かで…時々 同じ城内にいてもいるのかどうか疑わしいくらいだし」

魔王「いるぞ」

女勇者「うひょぁっ!?」ビクッ


魔王「城内にずっと居たが、居ないと思ったのか」

女勇者「あ、あれ? 私、今の口に出てた?」

魔王「ああ。……ところで何をしているのだ」

女勇者「お掃除おわっちゃったから… お庭を手入れがてら、お散歩してたよ」

魔王「手入れ?」

女勇者「咲ききってる花とか、密集してる花を切ったり。おちてる枝葉を拾ったり」

魔王「放っておいてもよい、そんなもの」

女勇者「でもせっかく綺麗だから。切ったらまずかった?」

魔王「……いや。ほとんどは先代が植えたもの。放っておいてもそこそこ保てているだけの庭だ」

女勇者「ああ…だからあんなに、生えかたにムラがあるんだね」


魔王「庭弄りがすきなのか」

女勇者「ううん、初めて。初めてだからやりかたはわからないけど、花壇がこんなにあると、なんとなく手を出してみたくなるの」

魔王「そうか」

女勇者「魔王もやる? 花摘み」

魔王「冗談だろう」クルッ

スタスタ…

女勇者「あ… 行っちゃった」


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魔王城 城門前


ガチャ

女勇者「あ、魔王。…出かけるの?」

魔王「買い物に行く」

女勇者「買い物かあ、いいなあ」

魔王「行きたいのか?」

女勇者「あ、ううん。昨日の大風で、木の葉すごいんだよ、玄関。掃除したい」

魔王「そんなもの放っておいても、次の大風で無くなるだろう」

女勇者「さては 濡れた木の葉がどれだけ滑るか知らないね、魔王」

魔王「……足元が滑った経験は無いな」

女勇者「身体能力の高さが羨ましい」


魔王「魔王だからな。枯れ葉を踏んで滑るほどマヌケでもない」

女勇者「勇者のくせに派手に滑ってわるかったね!!」

魔王「滑ったのか」

女勇者「はっ!? ちちちち、ちがうし!! 滑ってないし!」

魔王「……石造りは水はけが悪い。気をつけるといい」

女勇者「う、うん… まぁだから、私は今日はこの枯葉を駆逐するつもりだよ」

魔王「そうか……何か必要なものがあるならついでに買ってこよう」

女勇者「肉」

魔王「……いや、食料は確かに買うが。そうではなく、私物で…」

女勇者「じゃあ、ちょっと贅沢な肉。今日は掃除でおなかすきそうだし、ガッツリな気分なの」

魔王「了承した」

女勇者「よーっし、今夜は焼肉だー がんばるぞー♪」

ザッザッ! 


魔王「……」



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魔王城 浴場


女勇者「お風呂掃除~♪」

女勇者「広いから、意外と大変。でもこのめちゃくちゃでっかいブラシは助かる」

女勇者「よいっしょっと」

チャッ、ダダダッ

女勇者「ぐーーるぐーる。すっごいおおきなクレープを焼くみたいだよね、この掃除の仕方」

女勇者「浴槽が丸いと、こんなふうに掃除できるんだなぁ」

女勇者「女勇者とかになったとはいえ、やっぱ元々が家事手伝いだし。なんか馴染むよね」

女勇者「っていうか勇者じゃなくて、メイドでもよかったんじゃないかな、私」

女勇者「それにしても……魔王も 毎日こんな風に掃除してたのかと思うと切ないなー」

魔王「してない」

女勇者「おおっと! 居たの、魔王」


魔王「時々しか浴槽を使わなかった」

女勇者「シャワー派?」

魔王「清められれば問題が無いからな」

女勇者「せっかくこんなに大きなお風呂があるのに、もったいないよ」

魔王「掃除にしろ湯を張るにしろ、その時間のほうがもったいない」

女勇者「そんなもんかなぁ…」

魔王「湯に浸かるのが好きなのか」

女勇者「家のお風呂ではそうでもなかったけど、ここのお風呂は特別! 広くて泳げるくらいだし、楽しいよ!」

魔王「そうか」

女勇者「魔王も一緒に入る?」

魔王「」

女勇者「冗談だよ」

魔王「まあ、そうだろうな」クルッ

スタスタ…


女勇者(動揺するならともかく、本気で困った顔されると女の子として傷つくんだけどなぁ…)

女勇者「ま、襲われるよりいいけど」



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魔王城 魔王の私室


トントン

「……」

女勇者「魔王、部屋にいるの?」

「……」

女勇者「魔王? はいるよ?」

ガチャ

魔王「……」

女勇者「あ、やっぱり居た。返事くらいしてくれてもいいのに」

魔王「……」

女勇者「…? そんな窓辺に立って、何してるの?」

魔王「……」


女勇者(……空? ああ、星を見てるのかな)


魔王「……何か、用か」

女勇者「あ、気づいてたんだ」

魔王「用件はあまり聞いていなかったが。気配には気づいていた」

女勇者「聞いてなかったもなにも、用件なんか言ってないよ」

魔王「……では、用件を」

女勇者「庭で咲いた花を持ってきたの」

魔王「花を?」

女勇者「うん。大きな百合が、見事に咲いていたの。部屋の賑やかしになるとおもって」

魔王「……」

女勇者「魔王の部屋、ちょっと寂しすぎるよ。絢爛豪華にしろとはいわないけどね」

魔王「そうか」

女勇者「うん」


魔王「……」

女勇者「……」


女勇者「……いつからそうやって、星を見てるの?」

魔王「さて。今が何時かによるな。最初に星が出たのは見た」

女勇者「星が出たのが18時だとして、今もう22時だけど」

魔王「では、4時間ほどだな」

女勇者「……」

魔王「……」

女勇者(こうやって、話していても… ずっと空を見上げたままなんだなぁ…)


女勇者「……花。おいておくね」

魔王「ああ」

女勇者「……」クル

テテテ…

女勇者「…」チラ

魔王「……」

女勇者(……いつまで見てるつもりなんだろう…?)

バタン


魔王「……花か。 ……いい匂いがするな」


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魔王城 厨房


女勇者(あれからさらに1週間。魔王はどうやら毎晩、空を見ているらしい。どうにも静かだと思っていたら、日中はほとんど寝ているみたいだった)

カチャカチャ… トポポ

女勇者(まあ、魔王っていうだけで 確かにいかにも夜型っぽいけどね)

カタ、トン

女勇者(でも、だからといって夜に何かしているのかといえば…部屋で、星を見ているだけ)クル

女勇者(夜中、ずっと窓辺に立って星を見ているだけの魔王…)

テクテク

女勇者(で、なんとなく声もかけづらいし。とりあえず温かい飲物を持って、夜になると日参しているわけで)

テクテク

女勇者(置いてそのまま黙ってでてくるのもおかしいし。いつもなんとなく10分くらい一緒に星を見てる)

トントン

女勇者(でも、その間はずっと無言だし。っていうか魔王、部屋に入っても声かけてきたりもしないし)

ガチャ

女勇者「確かにあれじゃ、魔王が『星空魔王』なんて呼ばれるのもわかるよね」

魔王「は?」

女勇者「え?」


女勇者「……あれ? いつの間にか魔王の部屋に居た」

魔王「……」

女勇者「日ごろの習慣って怖いね」

魔王「いや、まあ… 温かな飲物を毎夜運んでくれるのは感謝してもよいが」

女勇者「あ、ちゃんと気づいてたんだ。朝にはカップがさげられてるから、飲んだのかどうかすら知らなかったよ」

魔王「飲んでいた」

女勇者「よかった、無駄でもなかったみたいで」ニコ

魔王「……だが、俺の事は気にせずともよい」

女勇者「ん。まあ、自分の分もいれて持ってきてるしね。寝る前にあったかいの飲むと、よく寝れるし。静かに星を見るのもリラックスできるから」

魔王「……そうか」


女勇者「今日は、星を見てないんだね」

魔王「ああ。曇り空でな、降り出しそうだ。朝には止むだろうが」

女勇者「なにその天気予報」

魔王「毎夜、空を見ているとな。わかるようになる」

女勇者「さすが、星空魔王だね」


魔王「……さっきも言っていたが。なんだ、その『星空魔王』というのは」

女勇者「え? 魔王の通称じゃないの?」

魔王「知らぬ」

女勇者「え、もしかしてあれかな。影でそういわれてるだけとか、なんかバカにしたような意味合いの通称だったのかな。バラしちゃマズい系?」

魔王「誰がそんな呼び方をするのだ?」

女勇者「女神様」

魔王「」

女勇者「しまった! 星空魔王っていうのが悪口だとしたら、これじゃ告げ口じゃんっ!」

魔王「……いや、いい。事実だ、誹謗中傷というわけでもない。気にならないさ」


女勇者「『星空魔王』」

魔王「なんだ」

女勇者「返事しちゃうんだねー」

魔王「からかっているのか?」


女勇者「ううん。でもなんで…そんな風に言われるほど、星を見てるのかなーって」

魔王「……」


女勇者「……今日は、お茶とお菓子もあるんだ」

女勇者「星を見ないならさ…… たまにはゆっくり 話でもどう?」

魔王「……」


女勇者「星の話でも、聞かせてほしいな」

魔王「……ああ」



魔王「星の話でいいのなら。付き合おう」

女勇者「うんっ」


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『星、好きなの?』

――ああ。愛してる

『どんなところが?』

――癒してくれる

『見てるだけで?』

――想うと、癒される

『想う? 何を?』

――あの星空は、朝を迎えれば静かに消えて見えなくなる。それを想う


『月も、そうだよね』

――………月は違う

『? 月も見えなくなるよね?』

――月は、居なくなるんだ

『居なくなる…?』

――そう。この地球の裏側に回って。目の前から居なくなる

『星は、違うの?』

――星空は見えないだけで、そこに居続けてくれる

『ああ…。あ、でも 星は、流れるじゃない』

――そうだな

『それでもいいの?』

――それが、いい。墜ちても墜ちても、尽きることなく星空は輝く

――それを見ると、安心する


『月も… 次の夜には、出てくるよ。毎晩、空には出てくるよ』

――出て来ても、満ち欠けする。変わらないから、星はいいんだ


『お日様は? 変わらないよ、出てくるのは日中だけど』

――陽は… 好きなものではない。必要なものだ

『お日様、嫌い?』

――難しいな。あれが無いと困る。月がな

『月が…?』


――知っているか。月は自分では輝けないのだ

――星は、自分で燃えてくれる。放っておいても大丈夫だと思える

――月は、太陽が居ないと輝けない… 太陽が居なければ、月は困り悲しむだろうな


『放っておいて大丈夫だから、星がいいの…?』

――星空だけはそこにある。自分で光り続けている。朝日と共に見えなくなっても、雲に姿を隠したとしても

――そこに在り続けてくれる。放っておいても大丈夫なのだと、信じられるから


――だから、俺は星を愛することに決めたんだよ

『……決めた…』


――ああ。俺は、星を愛してるんだ

『………』



:::::::::::::::::::

魔王城 女勇者の部屋


女勇者「なんて、魔王は言ってたけど……」

女勇者「星空魔王っていうか、ロマンチック魔王…?」ボンヤリ


女勇者「こんな私が女勇者っていうのも信じられないけど、あの魔王が魔王だってのも相当に信じられないよね…」

女勇者「女神様も、女神ってのがちょっと怪しいかんじするけど」ハァ

ゴロン…

女勇者「……まあ、現実ってそんなもんなのかもね。役職のイメージどおりの人物像なんて、そうそう居ないもんなのかも」


女勇者「……星を愛する魔王、かぁ…」


女勇者「魔王を、救ってほしいって言ってたっけ、女神様…」

女勇者「魔王は、星空をみてると癒されるって言ってた…それならそれでいい気もするけど」


女勇者「あれ? まてよ?」


女勇者「癒されるって事は…傷ついてる…ってことなのかな?」

女勇者「んー… 確かに星を、あんなに愛しそうな顔をして 愛してるなんていう魔王は病んでるかもしんない」

女勇者「…星の話をしている魔王…少し悲しそうにも見えたしなぁ…」

女勇者「でも… なんだろう。この違和感…」


『俺は、星を愛してるんだ』


女勇者「……あの、魔王の顔は… 愛しさって言うよりも…」

女勇者「………」


女勇者「……やっぱり、よくわかんないや…」


::::::::::::::::::

翌日 魔王城 食堂


女勇者「ねえ、星が欲しい?」


魔王「……つまらぬ駄洒落はやめてくれ」

女勇者「え? あ、いやいやいや ホシがホシい?みたいな話じゃなくて」

魔王「そのままじゃないか」

女勇者「うーん。いや、欲しいのかなって思って…ほんとに、それだけ」


魔王「……いらない」


女勇者「だって、愛してるんでしょう?」

魔王「そこにあれば、いいんだ」

女勇者「魔王なんだし。なんかさ、強欲に『出来るものなら手に入れたいな、ククク』とか」

魔王「ない。いらない」

女勇者「えー? 本当にー? でも本当は欲しいとか思ってないの?」

ガタッ!! バンッ!

魔王「しつこい! いらぬといったらいらないのだ!!! 俺には必要ない!!!」

女勇者「」ビクッ


魔王「あ……」


女勇者「あ、えっと… ごめ」

魔王「……っ」

女勇者「……魔王…?」


魔王「いらないんだ。本当に… 俺には、必要ない」クルッ

カツンカツンカツン…! 



女勇者「……必要ない、って… いらないって…」


女勇者「だって… 愛してるんじゃないの…?」



中断 続きは明日 >>25-26 thx


こういう魔王は初めて見た


::::::::::::::::::::

魔王城 魔王の私室


女勇者(あれから、さらに数日…)


女勇者(魔王は、今まで以上に部屋に篭って、空ばかり見ている)

女勇者(夜だけじゃなくて、昼間も、曇りの日も)

女勇者(声をかけても、口をきいてくれなくなってしまった)


女勇者(謝るきっかけを探して、私はなんとなく こうして黙って魔王のそばにいる)


女勇者(持ってきた紅茶を手渡すと、受け取って飲んでくれる)

女勇者(時々、私の顔を見ることもある。相変わらず、黙ったままで)

女勇者(私が話しかけようとしたり…しなくても、しばらくするとまた空を見てしまうけれど)

女勇者(どうしようもなくて、私も空を見ている事が多くなった)


女勇者(こうやって魔王の横に並んで、星空をみあげて、何時間も過ぎていたこともあった)

女勇者(そのうちに、私も『星空勇者』なんていわれてしまうのかもしれない)


女勇者(でも)


女勇者「星を見てると… 今日みたいに明るい星空だと、祈りが届くような気がする。願いをかけたくなるよね…」

魔王「……」ピク

女勇者「一度くらい…ちゃんと、祈ってみようかな」

魔王「……」


女勇者「……お星様…」


女勇者(ほんのすこし謝りたいだけ。魔王の為にどうしていいのかわからないけれど。魔王を救って欲しいと、あの女神様は私に頼んだから)

女勇者(だからどうか、ほんの少しでいいから。私のこのぎこちなく痛む心から、願います。魔王を、救ってあげたいです)


女勇者「どうか。彼に穏やかな心を」


魔王「……」

女勇者「……届いたかなぁ…」

魔王「…さあな」

女勇者「魔王…!」 

魔王「ふん」


女勇者「えへへ、届いた! ようやく、口きいてくれたね!」ニコッ

魔王「……祈りたくなる気持ちは、わからないでもないからな。叶うのならば、良いともおもう」

女勇者「ねえ。魔王はどんなことを、祈るの?」

魔王「……この想いが届けばよいと。願いをかける」

女勇者「もしかして…夜の間、星を見て。そう祈っていたの?」

魔王「あの光が見える内に あの光に届けたかった願いをかける」

女勇者「届けたかった…」



女勇者「それは、つまり… 届かなかった? 想いが、届かなかった…?」

魔王「……」

女勇者「どんな想いなのか。聞いてもいい?」

魔王「……そんなこと……」

女勇者「声に出さなくちゃ…もしかしたら 星も聞こえないかもしれないよ」

魔王「……」


女勇者「……私は… 口に出したら、叶ったよ。叶えてくれたよ」

魔王「…星がかなえたわけではない。ただの俺のきまぐれだ」


女勇者「それでも・・・口に出せば…。 変わることも、あるかもしれないよ?」

魔王「………」

女勇者「……」


魔王「……」

女勇者「……」


魔王「…月を…」

女勇者「……?」


魔王「愛していたい…」

女勇者「……月、を…?」


魔王「……」

女勇者「……?」



それから魔王は、本当に口を開かなくなってしまった
まるで… 余計なことを、間違って口に出してしまわないようにするようだった
魔王はただ、いつも いつまでも…空だけを見つめていた

私は

私には、どうしていいかわからなかった
私にできることは、せめて変わらずに過ごすことだけだった


朝になれば朝食を用意し 片づけをし、散歩をし、お風呂でくつろいで
夜になれば、温かな飲み物を持って魔王の部屋に行き 窓辺に立って、星空を見上げた

魔王の機嫌が悪そうなときも
魔王が眠ってしまっているときも
共に横に並んで、星を見上げているときも

私自身が、本当にこのままでいいのかどうか悩んで落ち込んでいるときでさえ
毎日、何があっても変わらないでいることだけを繰り返した


魔王が星に望んだようにすることしか、わからなかった
私はただ、そこに変わらず在り続けることしか… できなかったんだ


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1ヵ月後 
魔王城 城門


ピンポーン♪


女勇者「はーい 今でまーす!」

バタバタ…! 

女勇者「どちらさまですかぁー」

ガチャ


女神「こんにちは、女神です」ニッコリ

女勇者「」

バタン



<ちょっ、まって! なんでです? あけてぇ!

トントン! トントン!

女勇者(しまった、思わずドアしめちゃったよ! っていうかなんで今更、女神様!!)


<開けて! あけてくださいよぉ女勇者ぁ


女勇者(いや、でもこれは仕方ないよね。こっちが散々、相談したくて女神来ないかなーって待ってたのに…ぜんっぜん音沙汰なかったわけだし)


<女勇者ぁ… どうして? やっぱり魔王城においていったこと怒っているのです?


女勇者(いいかげんようやくふっきれた所で、ひょこっと顔出して。なんか『いや、もう女神はいいかな…』感しかないよ!)


<う… 女、勇者ぁ・・・ グス


女勇者「はっ! もしかして泣く!?」


ガチャ

女神「!」

女勇者「…ええっと。……とりあえず、泣かないでくださいね?」

女神「はいっ!!」パァァ

女勇者(……すごく嬉しそうだなぁ…。 女神様、黙ってると美人で、打ち解けると可愛い。卑怯だとおもうんだよね)


女神「女勇者! お元気でしたか?」ニコッ

女勇者「え、あ はい。健康面に異常は無いです」

女神「それはよかったですー」ニコニコ

女勇者(……いやー。いくら神でも、これは不公平だと思うんだよね。可愛すぎるでしょ)


女神「あの、それで女勇者… 魔王は今、どちらに?」

女勇者「あ… そうだ。魔王のことで、相談したい事があったんでした」

女神「相談、ですか?」

女勇者「まあ、今更ってかんじもするんですけど…」

女神「ええ!? どっちなんです!?」


女勇者「とりあえず、中へどうぞ。お茶でも淹れさせてもらいますよー」

女神「ふふ。すっかりこの城に慣れたようですね」ニコニコ

女勇者「正直、魔王より私のほうがこの城を活用してます」

女神「ま、ご冗談を。女勇者が魔王城を乗っ取るつもりですか?」クスクス

女勇者「現状、ほぼそんな感じです」

女神「え」

女勇者「魔王、ここ1月ほど ほとんど自室から出てないんで」

女神「なに、なんで なんでです!? どういうことなんですかっ!?」

女勇者「いや、だから。お茶入れますんで、来賓室いきましょう」

女神「~~~はやく行きましょう!」


::::::::::::::::::::::

魔王城 来賓室


女神「コホン。それで…相談というのはどういった事なのでしょうか」


女勇者「女神様、どうしていつも 微妙にキャラ作るの?」

女神「女神として、ナメられるわけにいきませんから!」

女勇者「あ、元々のキャラがナメられるようなキャラだってのは気づいてるんだね」

女神「そ、そんなことはどうでもいいのです! 相談について早く聞かせてください!」

女勇者「あ、うん。えっと… あれ、何から話せばいいのかな…」

女神「魔王、お部屋からでてこないのですか?」

女勇者「あ、そうなの… なんか、ずっと空を見てる。前は晴れた夜に星を見るだけだったんだけど…」

女神「なんだ…そのことですか。 いえ、魔王は以前からそうしていましたよ」

女勇者「うん… 星空魔王っていう意味、よくわかったよ」


女神「……いつからか気がついたら。ずっと星を見ているようになっていたのです、魔王は」

女勇者「うん。でも、最近は 曇りや雨の夜も、昼間でさえもずっと空ばかり見ていて…本当に、寝食以外はそれしかしてないんだよねー…」

女神「ええ!?」

女勇者「さすがに… 身体によくないだろうと思って。声をかけたりもしたんだけど…」

女神「…もしかして。口を、利いてくれないのですか?」

女勇者「え なんでわかるの?」

女神「やっぱり…」

女勇者「そういえば、女神様 魔王に拒まれているって言ってましたっけ…」

女神「……ええ」

女勇者「魔王も、女神様とはいつ争いになってもおかしくない関係だっていってたしなー」

女神「……魔王が… そんなことを?」

女勇者「うん」

女神「……」


女勇者「でも、女神様? 私が始めてこの城に来たときは 普通に会話していましたよね?」

女神「そうなのです。…いつも、久しぶりに会うと、やさしい言葉を掛けてくれたりするのです」

女勇者「なら、別に拒まれているなんてこと

女神「でも!!」

女勇者「……女神様?」

女神「……少し、ゆっくりと話していると。段々と口数が減ってきて…。苛立ったようなそぶりを見せたり、何か言いかけてやめてしまったり」

女勇者「魔王が…?」

女神「・・・それで…最終的にはいつも 『帰ってくれ』、と。一言だけ言われてしまうのです」

女勇者「……あとは、口をきいてくれないんですね」

女神「…きっと、そうして魔王が耐えていてくださるから・・・争いにならずに済んでいるのでしょう…」

女神「本当は、魔王の中では…」

女神「私は…いつ争いになってもおかしくない“敵”なのですね…」

女勇者「……」


女神「女勇者も… 帰ってくれと、言われてしまいましたか?」

女勇者「え? 言われてないよ?」

女神「え」

女勇者「毎晩、お茶を持って部屋に行って 一緒に空を見てるよ?」

女神「」

女勇者「黙ったまんま、喋らないけど…。 前は、それでも少しは話をしてくれたんだけどね」

女神「……いいな…」ボソ

女勇者「え?」


…ッタタタタ、ガチャ、バタン…


女勇者「……? あれ、今の音…」スクッ

窓 バタン


女勇者「……あ、やっぱりだ。魔王が外に出てった音だったんだね」

女神「魔王が…」

女勇者「久しぶりに部屋を出てきたと思ったら。どこに行くんだろ?」

女神「魔王… 私が来たのに気がついて、避けたのではないでしょうか」

女勇者「え? ええ… まさかぁ」

女神「だって…」


女勇者「……」

女神「……」

女勇者「……前にね、魔王には否定されちゃったんだけどさ」

女神「?」

女勇者「女神様って、魔王のこと好きだよね」

女神「」


女勇者「わー、魔王と同じ反応だぁ」

女神「ちちち、ち ちがいまっ」ワタワタ

女勇者「動揺すると、かえって肯定するようなものですよ? 女神様」

女神「ち、違います! それに…!」

女勇者「それに? あれですか、やっぱり魔王みたいに 憎みあうべき関係の存在同士です、とか言っちゃいますか?」

女神「!? 魔王と憎みあうなんて、絶対に嫌です!!」

女勇者「…………へぇ~?」ニヤニヤ

女神「はっ!?」


女勇者「やっぱり、本当は魔王の事好きなんでしょう、女神様」

女勇者「救いたいとか言って私なんかの手を借りるくらい必死なわけですし?」

女神「ですから! そのような邪な考えで魔王をお救いしたいと考えているわけではありません! それに

女勇者「それに?」ズズイ!

女神「う……」


女神「それに… 」

女神「……彼には、既に愛するものがいるそうですから」

女勇者「あ、それは知ってたんですか。なんだ、私だけが知ってる情報なのかと思いました」


女神「女勇者ひどいです! 知っててけしかけるとか本当にひどい!」

女勇者「でも女神様だって、そんな話をするくらいには親しいんじゃないですか?」

女神「以前… 『愛している者がいるから、ここに居たいんだ』と… そういって彼は、魔王城に一人住むことを私に説得したのですよ」

女勇者「…え? ここって、元々が魔王の城じゃないの? じゃあその前はどこに住んでいたの?」

女神「それは…」

女勇者「……それは?」

女神「……その。あまり個人的な話を勝手にするわけには…」

女勇者「……」


女勇者「女神様」ジッ

女勇者「魔王と話をするにも、よくわかんないことがいっぱいで困るんですよね」

女勇者「世の中には、知らないせいで余計なことを言って 相手を傷つけてしまうことも沢山あるんですよ?」

女勇者「というより… 話をする中で、怒らせたり癇に障ることをいってしまって、魔王と私は余計に関係をこじらせた気がするんですよ」


女勇者「魔王を救いたいというのなら。協力してください」

女神「女勇者……」


女勇者「魔王のこと、教えてくれますよね?」

女神「……はい」


:::::::::::::::::::


『魔王は、魔王城にくるまではどこに居たの?』

――空の国にいました

『え。それって…?』

――私や、神様の住む世界です

『魔王なのに?』

――彼は元々、悪魔でしたから

――空の国にはさまざまな生物が居ます。天使、悪魔、神、女神、閻魔や鬼、妖怪や幻獣…

――この、地の国で忌憚とされる生き物の多くも、空の国の者達でしょう

『そんな…御伽噺みたいな国が…というか、悪魔って…』


――私と魔王… いえ、悪魔は ちょっとした偶然をきっかけに知り合い、仲良くなりました

『友達だったんだ…』

――どう、なのでしょう。そう思っているのは私だけなのかもしれないです…

――魔王は私のことを、はじめから嫌っていたのかもしれません

『どうして?』

――ある日…いつもどおりに声をかけると。突然、とても不機嫌そうに怒鳴られて。

――……『来るな』、『俺に近づくな』と

――『おまえなんか、もう見たくもないんだ』と… 言われたのです

『そんな…』

――そうして、その日の夜をまたぬうちに。悪魔は 地の国に一人で堕ちていってしまいました…


『そ、それで…? 地の国に堕ちるっていうのは、もう帰れないようなものなの?』

――いいえ。望めば還れます。ただ、彼はそれを望まない

――だから…私が戻ってきて欲しいと思ったところで、無理につれてもいけないのです

『……』

――そうして、しばらくの後。私が彼を心配して、地の国へ降りてくることが出来た時には、もう…

――悪魔は、その身を闇に変えて。孤独を纏う、魔王になっていました

『孤独を…纏う、魔王…』


――ただ、一言。『愛している者がいるから、ここに居たいんだ』と私に言って… 

――彼は、それ以来・・・ 地の国の魔王として… 何百年もここに一人住み続けているのです…



:::::::::::::::::::::::

魔王城 女勇者の私室


女勇者(……結局、あれ以上のことは聞けなかった。女神様自身が知らないっていうのもあるけれど、それ以上に時間が無くて)


『すみません、女勇者… 神様にすぐにもどるように言われているのです』


女勇者(神様、ね。女神様に仕事をずいぶんいっぱい押し付けてるみたいだけど…)

女勇者(女神様もほいほい受け持つものだから、結局は時間に終われてばかり)

女勇者(魔王に会いたそうにしてるわけに、来てもすぐに 神様が~~って帰っちゃうわけだ)

女勇者(やっぱり、自分で魔王に聞くしかないかな。またぎぎの情報の信憑性なんて、いくら女神様でも あやしいしね)

女勇者(口、聞いてくれない以上… なにか喋りたくなるようなこと言わないとなぁ)

ガタ、バタン…

女勇者「ナイス! 魔王、帰ってきた!」

タタタタタ…


:::::::::::::::::

魔王城 エントランス


女勇者「魔王! おかえりなさい」

魔王「……」

女勇者(やっぱり、相変わらずダンマリか…)


女勇者「さっきね、女神様がきてたんだよ」

魔王「……」

女勇者「魔王って、元々は悪魔だったんだってね?」

魔王「」ピク

女勇者(よし、反応あった!)


女勇者「女神様がね、魔王に 空の国に帰ってきて欲しそうだったな~」

魔王「……」

女勇者「……ちっ、頑固な」ボソ


魔王「……」クル

スタスタスタ…

女勇者「! 魔王!」

魔王「……」

スタスタ…

女勇者「魔王。……なんで、女神様のことを避けるの?」

魔王「」ピタ


女勇者「女神様… 今日、魔王が出かけたのを見て『避けられた』っていってた」

女勇者「会いに来ても、最後には魔王に『帰れ』って言われてしまうって」

女勇者「……私が、魔王に 帰れって言われてないのを知って 『いいな』って言ってたよ?」

魔王「…え?」

女勇者(よしっ、反応大! このまま一気に…!)


女勇者「本当だよー? あとついでに、女神様に『魔王のこと好きなの?』って聞いといたよー」

魔王「はっ? ばっ…!」

女勇者「女神様ねー、そうやって聞かれてぇー…

魔王「…………」ウズ

女勇者「…………」

魔王「…………」ソワ…

女勇者「…聞きたい?」ニヤ

魔王「」イラ


クルッ スタタタタ

女勇者「うぉっと! 焦らしすぎた!?」

タタタッ ガシ!

魔王「!」


女勇者「怒らないでよー! ごめんって! ね?」ウインクッ!

魔王「はぁ……なんなんだ、お前は」

女勇者「いやぁだってさー、女の子の話をそうそう簡単に漏らすわけにもいかないんだなぁ~、コレが」

魔王「俺の話は、勝手に聞いたようではないか」

女勇者「うん。女神様は『勝手に話すわけにはいかない』とかいってたけど、そこは強引に聞きだしたよー」

魔王「な」

女勇者「言ったでしょ? 勇者って、勝手に引き出しを開けて持ってっちゃうんだって。 気をつけなくちゃね?」ニッコリ

魔王「なんの話だ…」

女勇者「ココロの、引き出しの話だよ」


女勇者「勝手に開けて…調べさせてさせてもらいます」ジッ

魔王「な…」


女勇者「気にしないんだよね? ……調べていいって言ったのは魔王だよ?」

魔王「……」


魔王「屁理屈を。不審ならば追い出すとも言った筈だ」

女勇者「不審じゃないよ。私は、魔王も女神様も、なんとかしてあげたいだけ」

女勇者「それにね、女神様が言ってたの」

魔王「……何をだ」


女勇者「… 『勇者は、万物を救いに導く運命なんだ』って…」

魔王「救いなど…」

女勇者「求めてるはず。魔王は星に祈るほどだもん」

魔王「……」

女勇者「聞かせて。あなたの話を」ジッ

魔王「……」

女勇者「……聞かせて」


魔王「……誰が、おまえになど」

女勇者「~~~~~~~っ!! 頑固者!!」

魔王「な」

女勇者「根暗!」

魔王「おい」

女勇者「星を愛してるとか、月を愛してるとか、ロマンチック魔王!!!」

魔王「誰がロマンチックだ! 嫌な言い方をするな!!」

女勇者「じゃあ、女々しい魔王!!」

魔王「う」


女勇者「聞かせなさい!!」ギロッ!

魔王「だから、どうしてお前なんかにそんなこと…!!」

女勇者「いいから!! もう、いい加減にいいいいい…」



女勇者「言うことを、聞けえええええええええええ!!」

ブワッ!!


パアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!

魔王「っ!」

女勇者「う、うえぇ!? な、なにっ!?」アワワ

魔王「馬鹿か! 興奮して魔力を開放するヤツがどこにいる!!!」


ブオオオオオオオオ!!!


女勇者「ま、魔力なんて 私 知らないよ!」

魔王「ちっ、勇者ならば女神の加護を受けたのであろう!! ソレだ!!」


ブォオオ! ゴオオオオオオオオオオオオ!!!!!


女勇者「そそそ、そうなの!? どうすればいいの、この暴風!?」


魔王「コントロールしろ!! 落ち着くんだ! 暴走も過ぎれば、お前の精神まで吸い尽くされるぞ!」

女勇者「こ、コントロールっていったって…!!」


ブオオオオ! ゴオオオオオオオ!!!!


魔王「ちっ…! 面倒くさい事を…!!!!!」グッ

女勇者「ひゃっ!? ままま、魔王!?」

魔王「黙れ! 気を落ち着かせる努力をしろ!!」ギュウウ!!

女勇者「だだだ、抱き、抱きしめっ!?」

魔王「俺の魔力で外から流出を押さえ込む! その間に開放を止めるんだ!!」

女勇者「止めるって言ったって、どうやったら…!!」

魔王「知るか!! 魔力なんて個人差の激しいもの、コントロールの感覚など人それぞれだ!!」

魔王「自分で開放したんだから、自分で蓋をしめるしかない!!」

女勇者「そ、そんなぁぁぁぁぁ!?」


ブオオオオオオ! ゴオオオオオオオ!! 
ブワアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!


魔王「っ、くそ…!! 魔力が全開で駄々漏れしているようではないか…!」

女勇者「とまれっ、とまれーーー とまれーーー!?!?」


魔王「こんなにも過ぎた力を、魔力も知らぬ娘に与えるなんて……!」グググ…!!

女勇者「! 魔王、口から血が…!?」

魔王「くっ! いいから… 早く、押さえろ…!!」

女勇者「でもっ!」

魔王「純粋な魔力を身体に打ち込まれてるようなもんなんだ…! 押さえてくれればそれで終わる!!」

女勇者「だ、だって! どうやって押さえられるかわかんないもん!!」

魔王「いいからやるんだ!!」


女勇者「~~っ魔王!! 私のことはいいから、魔王は離れて、この暴風のあたらない安全な場所に…!

魔王「馬鹿を言うな!!」

女勇者「」ビクッ


魔王「魔王の魔力で押さえ込んでも、押さえきれていないほど暴走している魔力風なんだぞ!?」

女勇者「え…?」

魔王「俺が、抑えるのをやめたら… 地の国が、一瞬で吹き飛ぶぞ…!!!!」

女勇者「そ、そんな……!?」

魔王「ぐっ…」ゲホ

女勇者「魔王!!」

魔王「早く、しろ…! 破壊神にでも、なるつもりか、女勇者…!!」

女勇者「!!」


魔王「俺も…魔力なんて、ろくに使った事が…無……」グラッ

女勇者「魔王!? しっかりして!! 血が…!!」

魔王「……っ」ギュウウ…!


女勇者「や、やだよ。こんな、ワケわかんないまま暴走して…みんな死んじゃったりしたら・・・!」

魔王「……っっ」

女勇者「やだよ…! そんなことになったら…!」


女勇者「だって。だって、私は… 私は!!」



『月を… 愛していたい』



女勇者「願いを… 叶えてあげたいだけなんだよおおおおおおお!!」



バシュンッ!

女勇者「!!!」


シュオオオオオオッ… ヒュオオ… シュワァァ… 

女勇者「とま、った…?」


魔王「……」グラッ

女勇者「魔王!!」ガシッ


魔王「……ようやく、止めたか… 遅い…」グタ…

女勇者「ご、ごめ・・・ でも、なんで…?」


シュワ… 

キラキラキラ…… 


女勇者「え… 何、これ…。 すごい。 光が・・・どんどん降ってくる…?」

魔王「……放出された魔力、だ…」



女勇者「すごい… 外まで、ずっと…! 夜なのに、すごく明るい! 見て、魔王!!」

魔王「それだけ魔力が漏れていたってことだ・・・この光の全て、お前の持っていた魔力なんだぞ…」

女勇者「え。 こ、これ 放っておいても大丈夫!?」

魔王「ああ… 大丈夫だろう。暴走は止まっているのだから」

女勇者「そ、そっか… よかったぁぁ…」ヘナヘナ

魔王「……」グタリ


女勇者「でも… なんで止まったんだろう。なんであの暴風が光に…?」

魔王「……本当に、魔力のことを知らないんだな」

女勇者「さっぱり。むしろ、魔力って言葉すら聴きなれないよ」

魔王「」

女勇者「……これ… どうなってるのか、教えてくれる・・・?」


魔王「……魔力は、高密度のエネルギー・・・ ただそれだけの、純粋な“力”だ。 」

女勇者「力…」

魔王「目的を持たない力は、暴走すればただ振るわれるだけの“暴力”だ」

女勇者「……あの、暴風のことね」

魔王「ああ。お前の場合は、その力を抑えるのではなく、流れる道を作ったんだろう」

女勇者「道…?」

魔王「……一度、暴走を始めた魔力に目的を持たせて、コントロールしたのだ」

女勇者「目的、って」

魔王「……自分で言っていただろう。覚えていないのか」

女勇者「……」


『願いを… 叶えてあげたいだけなんだよおおおおおおお!!』


女勇者「あ…」


魔王「……まったく。言っている事とやっている事が無茶苦茶だな。危うく、泣きも笑いもできなくなるような事をしておいて」

女勇者「魔王…」

魔王「………こんな景色を俺に見せた所で、帳消しにできるとは思うなよ」

女勇者「え?」

魔王「……やはり、美しいな。この光…愛おしい」

女勇者「……あ… この光… そっか… 何かに似てると思ったら」

魔王「……」

女勇者「月明かり… まるで、すぐ近くにまで月が降りてきたみたい・・・!」


魔王「……ああ。女神の加護をうけた魔力だ…」

魔王「それを光に変えれば、それはただの光ではなく月明かりになる…。 考えたものだな」

女勇者「え? なんで? なんで月明かりになるの?」キョトン

魔王「」

女勇者「? すごくおかしな顔になってるよ?」


魔王「お前、俺の事を女神に聞いたくせに、女神のことは知らないのか…?」

女勇者「あ。そういえば、女神様のことって 神様の手下くらいにしか知らないや」

魔王「手下…って お前…」

女勇者「あー・・・ 女神様って なんなの?」

魔王「……女神は…」




魔王「月の化身。女神・アルテミス」

魔王「太陽神・アポロンと対をなす、空と地の世界の、2大守護神だ」



女勇者「……え? アレが…?」


::::::::::::::::::::

その後
魔王城 魔王の私室



女勇者「ねえねえー 教えてよー」

魔王「……」グター


女勇者「女神様が月の化身ってことはさ、やっぱ魔王の言ってた『月を愛していたい』ってそういう意味?」ワクワク

魔王「……」グッタリ

女勇者「いやー、女神様が魔王のことを好きなのはわかってたけどさ。ほんとは魔王も女神様のこと好きなんだ?」ワクワク

魔王「……あのな、これでも死に体なんだ。今夜くらいは黙って寝かせてくれ」ハァ

女勇者「パンピー女子として、恋バナって目がなくって」

魔王「女勇者だろうが」ハァ


女勇者「いいじゃんいいじゃん、ちょこっと聞かせてくれればいいってば」

魔王「聞かせるような事などない」

女勇者「このやりとりがエスカレートして、魔力が暴走しちゃったくらいなんだよ? 止まると思うの?」

魔王「」

女勇者「悶々として、また暴走したら困るし。ね? 聞かせてよ」

魔王「仮にも勇者ならば、世界崩壊を盾に魔王を脅迫するなっ!!」

女勇者「う」

魔王「ふん。わかったのならば反省しろ」


女勇者「……ごめんなさい」シュン

魔王「……む?」


女勇者「……」ショボン

魔王「……」


女勇者「……ごめんね。抑えてもらうために、魔王に痛い思いさせちゃって…」

魔王「……自分でしたことだ、それは構わん」

女勇者「うん。……でも。心配だから… もう、黙ってるから。だから、もうすこしここで看病していっていい?」

魔王「……おまえ… それで、わざわざ俺の部屋までついてきたのか…?」

女勇者「……だめ?」

魔王「……」

女勇者「イヤだった…?」


魔王「……好きにしろと、最初にいってある」

女勇者「魔王」


魔王「……それに お前の気配は・・・ 加護のせいか、月の魔力の気配が濃い。 嫌なはずが無い」

魔王「……空を見上げ、お前の気配を側に感じていると… まるで、月が隣に居るかのように錯覚しそうになる」

女勇者「…それって?」

魔王「……月は、月だ」

女勇者「……うん」


女勇者「今日は… 綺麗な満月だよ」

魔王「……ああ」


…その日は、降り注ぐ月明かりの中で 魔王と話をし続けた
しばらくそうして過ごし、いつの間にか魔王は静かに眠りにおちた

私は眠る魔王に布団をかけて、部屋を出た
カーテンは引かなかった

眠る彼に 月明かりが降り注ぐ
女神が、優しく光を振り掛けているようだった

穏やかな眠りがありますように、暖かな夢が届きますように
そんな光を… 祈りを、振り掛けているように見えた

私の気配を、月と紛うと彼は言っていたけれど…


星空魔王、闇夜の魔王
眠る彼には、“本物の”月明かりは見えていないのだろうか


::::::::::::::::::::::

魔王城 女勇者の部屋


女勇者「はい。ヒトの恋バナを聞いて、深夜だというのにモヤモヤMAXで眠れないのがこちらの勇者でございます」キリッ


女勇者「……って。何いってんだろ、私…」ハァ


女勇者(まあ… 病むのも仕方ないよねぇ。恋した相手が、人妻だったとわかったんじゃねぇ)


女勇者(しっかし、女神様も罪なヒトだなぁ。夫がいるのに、魔王にあんな態度取るとか)

女勇者(太陽神・アポロンかぁ… 月の女神・アルテミスの、対となる神様)

女勇者(神様から、奥様である女神様を 魔王が奪ったら…そりゃまあ大変なことになるよね)

女勇者(うっかりでも手を出してしまえば、神族戦争の始まりだもん)

女勇者(いつ争いになってもおかしくない関係っていうのは、そういうことだったんだ)


女勇者(女神様と出会って、恋をして。自分が、しがない悪魔だからとずっと片思いを募らせて…)

女勇者(それでも我慢しきれなくて、ついに意を決して女神の住む場所に行ったら…)

女勇者(太陽神アポロンが出てきて、『女神は俺のものだ。二度と近づくな』と…言われたわけだ)


女勇者(女神様も、『神様、神様~』って なにかにつけて神様を一番にするし。そのクセ魔王には気のあるそぶりをするし)

女勇者(そりゃ、諦めるにも辛いし、忘れるに忘れられないし? 地に堕ちるってなもんだよねぇ)ハハハ


女勇者(……うーん。なんかなぁ。普通の昼ドラ並には平凡な修羅場だよね)

女勇者(平凡な修羅場って意味不明だけど。なんかなぁ。やっぱり、中のヒトがいるんじゃないかなぁ)

女勇者(なんていうのかな。魔王と女神と神様って、そういうカンジの修羅場でいいわけ?)


女勇者(……いや、まあでも、実際にそうなっちゃってるわけだしなぁ)

女勇者(これ… どうすんの…? 救うも何も、魔王に女神様のこと忘れさせるくらいしかないじゃん…)


女勇者「女神様も…もう、そんな問題ならさ。女勇者でもメイドでもなくて、弁護士か民事裁判官にでも頼めよ…もう…」ハァ


女勇者「疲れた。あと、なんかもうどうしようもなくてグッタリする。寝よう」モソモソ

ゴロン、バサッ

女勇者「………」


女勇者「……あれ? じゃぁ… なんで、勇者じゃなくちゃいけないんだろう…」

女勇者「何か… 間違ってる。何か… 何が…?」


女勇者「……あー… なんでこう、布団に入った瞬間にいろいろ思い浮かんじゃうんだよ~…」

女勇者「……くぅぅっ 寝れないっ!!!」


女勇者「うあああああああああ 今夜は、徹夜だああああああ!!!!」

バサァッ!!!

魔王&勇者乙

>>51-54
>>101-103 thx!


::::::::::::::::::::

早朝
魔王城 魔王の私室


女勇者「おはよう、魔王」

魔王「……あ…? 寝てた…?」

女勇者「うん」

魔王「今… 何時だ…?」

女勇者「早朝の魔王時」

魔王「」


魔王「……ふざけてるのか…?」ハァ


女勇者「ねえ、魔王?」

魔王「なんだ… 昨夜の疲れと、寝おきで… なんだか、まだ…頭が働いて…」ゴシゴシ

女勇者「私と、恋愛でもしてみる?」

魔王「」

女勇者「無表情で固まるのやめてくれるかな」

魔王「」

女勇者「まあいいや、話続けるね」

魔王「」

女勇者「女神様と神様ってのは確かにお似合いだよ、それはもうしょうがない。早い者勝ちみたいなところはあるよ」

魔王「」

女勇者「でもさ、魔王と女勇者ってのも、結構お似合いだと思うんだよね」

魔王「」


女勇者「魔王、いいひとだし。すっごい危ない目にあってまで、私のこと助けてくれたし」

女勇者「愛とかじゃないけど、普通に私 魔王のことは好きだよ?」

魔王「」

女勇者「月を思って星に恋するより、よほど健全だと思うんだよね。だからさ、私と恋をしてみようよ」

魔王「」

女勇者「どう、魔王?」

魔王「」

女勇者「魔王?」

魔王「」

女勇者「おーーーーーい!!! 魔王ーーー!! 帰ってこーーーい!!!!」

魔王「はっ!?」


女勇者「聞いてた?」

魔王「たぶん!」

女勇者「で、どう?」

魔王「どうもこうもなく、意味がわからない!」

女勇者「えー」

魔王「第一! そんなの無理に決まってるだろう!?」

女勇者「なんで? いいじゃん、魔王のこと好きだよ? 私じゃダメ? 好みじゃない?」

魔王「好ましくなければ毎夜そばに置いておけるか!」

女勇者「いやん//」

魔王「そうじゃなくてだな?!」

女勇者「そうじゃなくて?」

魔王「俺が一体、何百年の間 アイツのことだけ愛してると思ってるんだ! 今更お前になんかに切り替えられるわけ無いだろう!!」

女勇者「何百年…」


魔王「第一、他の女に切り替えられるならとっくにそうしてる!! 出来ないから星を愛することにしたんだ!!」

女勇者「代わりってこと?」

魔王「そうだ!! あいつの代わりに… あいつを愛する訳にいかないから! 星を愛することに決めたんだ!!!」


「…………あ、あの… こんにちはー…?」


女勇者・魔王「「!?」」



女神「………あ、えっと。朝早くすみません。何度も、呼び鈴を押したのですが…」

女勇者「女神様… ほんっとに早いね?」

女神「そ、その。昨夜、女勇者の加護の力が使われた気配があったので、心配で…」

女勇者「ああ…それで」


女神「お、お二人の声は聞こえてたので…中にいらっしゃるんだと思って、その…」

魔王「き…聞いていたのか?」

女神「そ、その。どうも魔王の強めの声色だったので… 何かあったのかと思って、勝手にここまで…」

女勇者「魔王、なんか興奮しちゃってたもんねえ」

女神「き、聞くつもりがあったわけでは…で、でもその」

魔王「」

女勇者「どのあたりから聞いてたの?」

女神「………そ、その。女勇者の、『魔王のこと、好きだよ? いいじゃん』…の、あたりから…」

女勇者「ほぼほぼ全部だよね、それ」

魔王「」


女勇者「魔王、かえってこーい?」

魔王「」

女勇者「ダメだね、何百年も隠してた想いを派手に暴露したショックで完全に死んでる」

女神「死っ!? 魔王、ダメですよ!? 死なないでくださぁぁい!!」ギューー!

女勇者「……女神様、ほんとにヒドイよねー」ハァ

女神「え、えええ!?」


その後、魔王は
意識が戻ると逃げ出そうとして私にみぞおちアッパーをくらわされオチて、
気がつくと女神に看病をされていることでまた意識を飛ばし、
また目覚めては逃亡しようとして… という流れを 散々くりかえしてくれた


:::::::::::::::::::

魔王城 魔王の私室


女勇者「ふ。最終手段だよ、こうなったら」

魔王「目が覚めたら、小人の国に辿り着いたガリバーのようになっていた」


女神「ま、魔王を床に鎖を打ち込んで拘束するなんて…」オロオロ

女勇者「だって、目が覚めるたびに逃げ出すのをアッパーで昏倒させてたんじゃ、流石にそのうち内臓痛めて死んじゃうんだよ? いいの?」

女神「……やむをえない最終手段です…許してくださいね、魔王」

魔王「この鎖が、明らかに女神の魔力で作られた特別なものだとわかってしまうんだが」

女勇者「まぁまぁ」


女神「あの…」

魔王「……」プイ


女勇者「魔王」

魔王「……」


女神「……あの」

魔王「……帰れ」

女神「っ」


魔王「帰れ、と言っている」

女神「~~~~~っ」

タタタタタ……!

女勇者「あっ、女神様!?」


魔王「……」


女勇者「魔王!! なんで!?」

魔王「……仕方ないだろう。とても冷静でいられる気分でもない、余計なことを言うよりはマシだ…」


『あいつは渡せない。…俺のものだからな。わかったら二度と女神に近付くな、近づけばどうなるか…わかるだろう?』


魔王「…いつだったか 神に言われた言葉は重かった。本気なのがわかっている」

女勇者「……」

魔王「ふむ。女神が遠くまで行ったようだ、これでようやく鎖が解けるな」カチャ・・・


女勇者「魔王… 神様のこと、憎い?」

魔王「…いや。前にも言っただろう… 嫌いだとか、憎いだとか そういうんじゃないんだ。難しい」

女勇者「……前に・・・ そっか、神様は、太陽…」

魔王「…あいつがいなければ… 女神が、困る。嘆き悲しむだろう」

女勇者「魔王…」


魔王「それに… 神に、近づくなといわれたときに…俺は“羨ましい”と思ってしまったんだ。妬みだなんて、最初から負けを認めているようなものだ」

女勇者「羨ましい…?」


魔王「…羨ましいとおもった。せめて神に負けない力があれば…奪えたのだろうかと。あいつは俺のものになっていた可能性もあったのだろうかと」


魔王「そう血迷い、願ってしまったんだ…。 だから俺は…悪魔は 魔王になった」

女勇者「魔王になるって… どうやって…?」

魔王「…魔力を、使った」

女勇者「魔力を・・・?」

魔王「強く、ただがむしゃらに。力が欲しいと願った」

魔王「明確な目的を持たない魔力は暴走し… この地の国を、吹き荒らした」

女勇者「!」


魔王「今のお前ほどの魔力はなかった。俺はただの悪魔だったからな。魔力の暴走も、最初はひどい暴風程度だったんだ」

女勇者「それで…?」

魔王「……俺は、吹き荒れる風を見て さらに願ってしまったんだよ」


魔王「もっと、神にも匹敵するだけの… 全ての頂点に立てるほどの… 力を得ることを」

女勇者「魔力に… 目的を、持たせたの?」

魔王「…ああ。吹き荒れる風は、この地上に存在する全ての魔力を吸引し始めた」

女勇者「!!」

魔王「この国に、魔王がいても魔物が居ない理由はそのせいだ… 俺が、全てを吸い尽くしたからだ」

女勇者「も、もしかして… 先代魔王も…?」

魔王「流石に、魔王までは吸引しなかった。だが、怒り狂った魔王は攻めてきた」

女勇者「……」

魔王「……そうして、俺が魔王を継承したんだ。王の不在となったこの城も、この土地も」

魔王「俺は… この地の国で、神同然の力を、得ることができたんだ」


女勇者「そん、な。そんなことで、力を得ても…」

魔王「ああ。誰もいない魔王城で、その玉座に腰掛けたときに、気づいたよ」


魔王「力があっても…仕方のないことなのだと。全てが終わった後で、一人気付いてしまったんだ」

女勇者「魔王……」


魔王「女神は神を大切にしている。…奪うだなんて、女神は望まない。だから、俺はここで…あいつの幸せを願うことにした」

女勇者「幸せを…?」

魔王「…迂闊なことを願う気にはなれなかった。幸せや穏やかな生活を望むくらいなら、万が一魔力の影響が出たとしても問題がないだろうから…そうしたんだ」

女勇者「でも…」

魔王「……だから… 迂闊に願わないように。想いの矛先を危険な矛先を、間違ってあいつに向けてしまわぬように…」


魔王「俺は 星を愛することにした」


女勇者「…………そんなの… 女神様は…」

魔王「望むかどうかは問題ではない。見ただろう。俺の想いを知っても… あいつは、戸惑うしかないんだ」

魔王「そうして俺が帰れと言えば、やはり帰るんだ、女神は。神の元へ」

女勇者「……」

魔王「あいつは… 女神は、優しく目の前に現れても…すぐに消えていく」

魔王「あいつの後を追いかけようとしても、次に目の前に現れるのは神なんだ」

女勇者「あ…… 月と、太陽…」

魔王「……俺の前から消えないのは。堕ちても消えないでいてくれるのは。星空だけだ」

女勇者「……でも… だって。じゃあ、諦めるの?! 魔王なのに!」

魔王「……」

女勇者「魔王になるほどの力を望んでしまうほどの強い気持ちなのに!!」

女勇者「女神を奪いたくて、魔王にまでなってしまうほど愛しているのに!!!

魔王「……っ」

女勇者「諦めるの!?」


魔王「だが 神を…倒すわけにはいかないだろう。当然のことだ」

女勇者「でも、もしかしたらどうにかすれば!」

魔王「どうしようもない」

女勇者「!」

魔王「だから、もう。愛するのはやめようと決めた。散々かんがえた結果なんだよ」


魔王「やりばのない想いは…星を代わりに愛することで処理していける。これでいいんだ」

女勇者「よくない!! そんなの逃げてるだけだよ! わかるけど…やっぱり、そんなのよくない!!」

魔王「ならどうしろというんだ!? 」


魔王「神殺しをして、地の国だけでなく、空の国をも闇に沈めればいいのか!」

女勇者「ぐっ」

魔王「そうして無理矢理に女神を自分のものにしてしまえばいいのか!?」

女勇者「そ、それは」


魔王「……どうにかできるなら、とっくにそうしてる!」

魔王「星空魔王だなんて… あいつに、呼ばせてはいないさ…っ」グッ

女勇者「……魔王…」

魔王「……っ」



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さらに、一日経って 翌朝
魔王城 食堂


女勇者「…おはよう 魔王。ごはん、できてるよ」

魔王「ああ。……いただこう」

カチャカチャ…

魔王「……」モクモク

女勇者「……」

女勇者「…あの、さ。…よく、眠れた?」

魔王「…・・・どうかな。さすがに星空を見る気にもなれなかった。その分。よく眠れたかもしれない」

女勇者「元気?」

魔王「……気遣ってるつもりか?」

女勇者「ううん… そう、じゃなくて」


魔王「……いつぞやみたいに、私と恋をしようとか言い出すなよ」

女勇者「……言わないよ。 ……言えない、よ」

魔王「…そうか」

女勇者「……」

魔王「……」


女勇者「魔王……おかしな話をしてもいい?」

魔王「なんだ」

女勇者「魔王が我が儘に、欲望のままにいろんなものほしがってさ…」

女勇者「それで、そうしようとするのを止めてなんぼなんだよね、勇者って」

魔王「……ああ、まあ 俺の知る限り、勇者とはそういったイメージがあるな」

女勇者「でしょ?」


魔王「……俺が魔王らしくないと言いたいのか」

女勇者「今更だけどね。ってゆーかさ、最初からずっとおもってたんだよね」

魔王「なにを…」

女勇者「勇者は勇者らしくないし、女神も女神らしくないし、魔王も魔王らしくない」

魔王「……それをいっちゃーおまえ…」

女勇者「違和感しかないんだ。頭では、イメージと実際の人物像が合致しないのはありふれたことだって考えてるのに」

魔王「何を…?」

女勇者「狂ってるんじゃないかな、歯車が… 世界のバランスを取るべき人物が、その役割を正しく演じていないことで。演じられなくなってる事で。世界の理が 狂ってる」

女勇者「ううん、世界の理を守るために、正しい役割を演じられないようになってる…?」

魔王「おい? 何を言っている?」

女勇者「んー。 なんてゆーかなー? だからさあ、つまり!」

魔王「?」


女勇者「…やっちゃおうよ」

魔王「は? ……何をだ?」

女勇者「魔王らしく、やっちゃおうよ」

魔王「な」


女勇者「最初から諦めて、諦めきれなくて、何百年も女々しく星空を見上げてるなんておかしいよ」

女勇者「魔王だけ、ずっとずっと悲しいままなんて、やっぱりおかしい」

魔王「……」


女勇者「だから、おかしいのは全部 直していこう。おかしいってわかるところから…直してこうよ」

魔王「お前、何を…?」


女勇者「魔王は、魔王らしく。思いきって略奪するくらいの気持ちで、女神にちゃんと攻撃しておいでってこと」

魔王「アタックといえ、アタックと。攻撃というと、まるで殺りにいくようではないか」

女勇者「いっそ、ヤってくればいいよ」

魔王「おまえは本当に女か!? さらにいえば、本当に女勇者なのか!?」

女勇者「勇者だよー?」


女勇者「私は…勇者だから。ちゃんと、ギリギリのとこで、魔王を止めてみせるから」

魔王「っ」

女勇者「だから、やっちゃえ。魔力だけじゃない、理性だって暴走なんかさせない。私が、魔王のブレーキになる。魔王が私にそうしてくれたみたいに」

魔王「女勇者…おまえ」


女勇者「やるだけやって。それから死になさい!!」

魔王「どこかで聞いたセリフだが」

女勇者「最悪、神殺ししそうになって、世界崩壊とかになったら魔王を殺すはめになるかもしれないしねっ」テヘ


魔王「……魔力の使い方も知らないくせに?」

女勇者「うん。しらないけど…」

女勇者「知らないけど。神様が殺されて女神様が泣くのも、女神様が泣いて魔王が悔やむのも…絶対にいやだから」

女勇者「ちゃんと、止めるから」

女勇者「だからさ。ちゃんと、伝えておいでよ」

魔王「……」

女勇者「未練ひきずることもできないように打ちのめされておいでよ」

魔王「なんだその発言。おまえは魔王か、おい」


女勇者「ほんとだよね。魔王みたいな勇者にされそうだった。破壊神のような勇者になるところだった」

魔王「……ならなかったじゃないか」

女勇者「うん。魔王が止めてくれた。勇者みたいに優しい魔王が、この世界を破滅から守ろうとする魔王が、私を止めてくれた」

魔王「勇者みたい…? 俺が…?」


女勇者「ごめんね、きっとそうなんだ。勇者の居なかったこの世界で…魔王は、勇者と魔王のふたつの役割を、押し付けられていた」

魔王「……誰にだ」

女勇者「きっと、運命。それが、世界の理」

女勇者「そうして歯車が乱れてしまったから…私も、勇者としてはっきりできないままなんだ。魔王みたいな勇者、勇者みたいな魔王。そんな風になっちゃうんだ」

魔王「……では、女神は?」

女勇者「救わなくてはならないのに、救えなくなってた」

女勇者「女神は… 勇者の助けになろうとはするけれど。勇者を救うことなんて、できないから」

女勇者「勇者みたいになってしまった魔王のことを 救えなくなってたんじゃないかな」

魔王「…妄言としか」


女勇者「そうだね。ほんとに、感覚的に… ううん。血が流れるように、そんな考えが頭に流れて来るんだよ。だからそう思うってだけ、理屈の証拠なんかないよ」

魔王「……勇者の、感覚か。ちっ、どこまで馬鹿にできたものやら…」

女勇者「前にもさ 私、言ったよね。アレだって 考え方としては、きっとそう遠くなかったんだと今は思うよ」

魔王「何のことだ?」

女勇者「私と魔王で、恋をしようといったこと」

魔王「まだ、そんなことを…」

女勇者「うん。なんとなく、魔王と一緒になればいいのかなって思って。どうしてか、そう思ったんだ」

魔王「…・・・」

女勇者「それは、きっとね。太陽と月が対なように… 魔王と勇者も、対だからなんだとおもうよ」


魔王「魔王と・・・勇者が… 対?」

女勇者「そう。私と、あなたは 対」


女勇者「だから… いままでの魔王にはできなかったことでも。私が居るなら、できることがあるんだよ」

女勇者「魔王が、魔王らしく 輝いて生きられるように なるんだよ」


女勇者「私が、あなたを照らしてあげる」

女勇者「あなたが、本当のあなたらしく生きられるように。苦しみの中で、孤独を纏い、闇におぼれてしまわないように」


女勇者「私が… 勇者が。 この世界の、歪んでしまった理ごと… 救ってあげるよ」

魔王「ふ… 少し前まで、ただの小娘だったくせに」

女勇者「魔王だって、ただの悪魔だったじゃない」

魔王「……まあな」


魔王「……勇者、か」

女勇者「……」


魔王「略奪をけしかけるとはな」

女勇者「略奪なんかさせないよ。後悔しないように、挑んでみろって言ってるだけだよ」

魔王「本当に…お前はまるで魔王のような事をいうな」

女勇者「魔王が魔王らしくしないからだよ。私が、勇者だよ」


魔王「…本当に勇者なのか?」

女勇者「うん。勇者だよ…」


女勇者「あなたが魔王でいてくれるなら。私は、勇者でいられるよ」


女勇者「みんながみんな… ちゃんと、自分らしく生きればいいんだよ」

女勇者「誰かが我慢しなきゃいけない世界。誰かが我慢して、それでようやく成り立ってる世界…やっぱり おかしいから」

女勇者「そんな世界だから…なにもかも 納得できないような、こんな変な世界になっちゃう」

女勇者「私は、勇者だから。万物を救って見せろって、言われてるから」

女勇者「だから… こんな変な世界。きちんと、直して見せるよ」

女勇者「うまくいかないこともあるかもしれない。でも、我慢じゃなくて、納得できる世界にしたい!!」


魔王「……」


女勇者「この世の理を。全ての存在のあり方を!! 私が、正して見せる!!」


魔王「勇者・・・」


魔王「ならば…」

魔王「ならば、俺を止めてみせよ、勇者」



魔王「この魔王が 神を殺し、世界を闇に沈めてしまう前にな」ニヤ

女勇者「ええ。必ず、止めてみせる!」

魔王「ふっ、数百年間溜め続けた想い…やすやす止まるとは思うなよ」

女勇者「いいよ…そのくらいじゃなくちゃ、私が出る必要もなく 女神は奪えないだろうからね」クス


魔王「くく……」

女勇者「ふふふ」


魔王「では… 仕切りなおしだ!!! 気合を入れて行け!!」

勇者「!」


…『普通は「気合を入れていこう!」とかだと思うけど、もう全部おかしいからいいや』…


勇者(違和感が… 消えた!!)


魔王「いざ、還らん! 空の国へ!!」

女勇者「うん! 行こう!!」

中断。続きは深夜か、明日

>>133 訂正 ×勇者 ○女勇者
今日はどうも頭が寝ているので出直します

だいぶ意外な物語
面白い


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空の国 大宮殿(神の住処)


ヒュンッ…
シュタッ、スタタッ

女勇者「ここが…空の国…?」キョロ…

モフ

女勇者「う、うひゃ!? 足元が… なにこれ、マシュマロ…?」

魔王「雲…と、氷の中間のようなものだ。大気中の水によって作られている」

女勇者「へぇ… なんかそういうの聞くと、空の国って感じがす

魔王「神よ! 出てこい!」パチンッ 

ヒュゴッ… ドガァァァァァン!



女勇者「うわっ、いきなり派手に攻撃!? まだしゃべってる途中だよ!」

魔王「会話の最中だろうとなんだろうと、関係ないだろう。ここまできたのだ、やることを優先しなくてはな」

女勇者「だからっていきなり宮殿に魔法攻撃って! どんだけ鬱憤を溜めてたの!?」

魔王「自分でもわからん。 だが妙に身体が軽いんだ」

女勇者「あ、わかる。下道を2ndで走ってるのに気付いてdriveに入れ直した時みたいな軽さあるよね」ウンウン

魔王「すまない、本当にわからない。だが、今ならなんとも容易く大きな力を振るえそうなんだ」

女勇者「うんうん、24年前の軽トラから新車のBMW7に乗り換えた時みたいな、走り心地の重厚な快適さがあるある」ウンウン

魔王「だから、わからない。そうだな……だが、ヤマタノオロチ相手にあっちむいてほいで連勝した時みたいな高揚感はあるな!」ニヤリ

女勇者(なにそれ、わかんないけど超楽しそう)


ガチャンガチャンガチャン・・・


魔王「誰か駆けてくるぞ!」

ガチャンガチャン…

空の国の兵「なっ、なんだこれは、壁が…! 貴様らの仕業か! 何者だ!?」


魔王「地の国の 魔王だ!」

女勇者「同じく、勇者でっす!」


空の国の兵「魔王!? 勇者だとっ!?」

魔王「宮殿の兵士と見える! 今すぐに神を出せ! 世界のすべてを引き換えに、神より頂戴したいものがある!」

空の国の兵「何を…! いきなり不躾な…!」


ドガァァァァァン!


空の国の兵「!」


魔王「…出さぬというならばこの宮殿を壊し、中身を全てさらけ出して 奪い取るまでだが!」

空の国の兵「くっ、これは…」


魔王「本気だ…早くしろ、しないのであれば……!」

ブオッ・・・!  ガガガガガガガガガガ!!

空の国の兵「!! 宮殿が!」


魔王「どうなっても、知らぬぞ」ニヤリ

空の国の兵「………っ!」ゾクリ


女勇者(だ、だいじょぶ! 正義のヒーロー・ウルト○マンだって、建物被害くらいは気にしないよね!)


魔王「さあ…… 早く、神を出


フワ・・・ ストン。

神「…何やら…大分、我が庭先が騒がしい様子だが…?」

魔王「!!」


空の国の兵「神様! 不審者です、お気をつけください!!」

神「ああ。見れば、わかるな… 下がってよい」

空の国の兵「ハッ!」

ガチャンガチャンガチャン・・・


神「……さて」チラリ


女勇者「こ、このヒトが…神様…!?」

魔王「ああ…こいつが…」


魔王「太陽神・アポロンだ!!」


神「……はは。気安く呼んでくれるじゃないか… 何様のつもりだ…?」ギロ


女勇者「すごい! きらっきら金髪のヤサ顔イケメンで性格悪そう! やっぱり神様らしくない!!」


魔王「……」

神「……」


女勇者「あ、ごめん。なんだろう。勇者の血がね、間違いを正せと訴えてくるんだよね。それが結果、ツッコミという形に…」

魔王「……ならば早く、歪んだ世界の理とやらを直せ」

女勇者「う、うん」

魔王「が、今はとりあえず…」


魔王「…久しぶりだな、神」

神「お前は……ほう、姿形に違いはあるが、その顔つき。見覚えがあるぞ…」


神「いつぞやの、悪魔か」ニヤ

魔王「今は、魔王だ!」ザッ


神「ふ……くっくっく…」

魔王「何がおかしい!」

神「そうか、魔王とはおまえのことだったのか…と、思ってな…」

魔王「何……?」


神「うちの女神が、なにやら大層 お前を気にしていたからなぁ…?」

神「なにやら我の目から隠れて、お前の世話をしている様子…」

魔王「世話などさせていない」

神「くく、だがあれは美しい。側に置くだけでも贅沢な気になるだろう…?」

魔王「女神は置物ではない! そのような言い方は止せ!」

神「ほう。なるほどな…。つまりもっと…あれの世話になりたいのだな?」ニヤリ

魔王「……っ! 貴様…」

神「くくく、残念だったな。随分長いこと指を咥えて待ったつもりなのだろうが…」


神「あれを我が手中より手放すつもりはない」

魔王「……っ」


神「みっともなく未練を引きずりよって、この若造が…くくく、はーっはっはっは!!」

魔王「貴様…」


女勇者「むむむー! 神様、マジで神様らしくない!! むしろこれ魔王のキャラだ! 」

魔王「」


女勇者「もしかして魔王っぽい神様、勇者っぽい魔王、神様っぽい勇者にさせられてたのかな!?」

魔王「」イラ

女勇者「あれっ、だとしてもやっぱり神様ってちょっと危ない感じ!? でもそれはおかしくない?! 神様って魔王っぽいけど魔王らしくはないし!」

魔王「~~~~っ」プチ


魔王「ええい! しばらく黙っていろ、この“村娘A”!!」

モワッ… バシュ!

村娘A(女勇者)「えっ、ひど…『ようこそ空の国へ! ここは、神様の住む宮殿です!』っ!?」モガガ


魔王「はっ。あまりの鬱陶しさに、思わずちょっと魔力を使ってしまったらしい」

2(う、嘘!? 喋れなくなっちゃったけど!! なんっつー適当な魔法…!)

魔王「すまない、だがまあ本気ではない分すぐに解けるだろう。自分でそれくらいなんとかしろ」

魔王「俺は… その間に…」チラ


神「……くく。茶番劇は、もうよいのか?」

魔王「ああ。待たせたようだな」

神「いいや。お前ほどは待っていないからな、少しくらいは許してやろうぞ」

魔王「ちっ。皮肉なんてすぐに叩けなくしてやる…!」


2(…そういえば、魔力は目的を持たせればどんな力にでもなるんだっけ…?)

2(それって、魔力を持つものにとって…簡単に、願いが叶ってしまう世界ってこと・・・?)


魔王「……神!」

神「くくく…なんだ? 聞いてやってもよいが…」

魔王「女神を連れ去りに来た。覚悟しろ」

神「は…」


神「はぁーっはっはっはっは!!」

魔王「何がおかしい!?」

神「あれは、我の所有物だ。譲るわけがあるまい?」

魔王「譲り受けるつもりは元よりない! 奪いにきたのだからな!」

神「くくく… それは、我が剣を全てかわしてから言うのだな!」スラッ…

チャキン!


魔王「いいだろう。望む所だ」


神「ほう… 自信がありそうだな」

魔王「刃物は、魔力なんかより扱いなれているものでな」ニヤリ

ジャキンッ!


村娘A(女勇者)「魔お…『ようこそ空の国へ! ここは、神様の住む宮殿です!』~っ!!」モガガッ

2(やっぱ喋れない!? っていうか魔王が普段使う刃物って、包丁だよね!? ああもうツッコミたいのに!!)


2(……あれ? なんで…まだ、こんなにツッコミたくなったんだろう。確かに一度、違和感は消えたはずなのに)

2(魔王と勇者の関係は正しく直った… だとすれば… 他に何か…)


魔王「行くぞ!」

神「受けてたとう!」


2(!! っ考えこむ余裕がない…! 魔王が無茶をし過ぎないようにしなくちゃいけないんだから…! でも…!)




ガキイィィン! シャリンッ… ガキン!! 

軽妙な剣戟の音が響く
幸い、剣技については神に分があるようだ

細かな足取りと、柔軟な姿勢から洗練された一手を放つ神
一撃一撃は荒く単純だが、その俊敏性と鋭い観察眼を持って攻撃を弾く魔王

勝負は、長くなりそうだった



神「ふはは… どうした! かわすばかりでいいのか?! 剣に自信がないのであれば、剣の代わりに魔力を打ち込んでみてもよいぞ!」

魔王「くっ。鬱陶しい… なななかの連撃をしてくれる…!!」

神「くくく、いつまで交わしていられるものだろうな… 一手でもはいれば、お前はもうここには来れなくなるんだろうが、なぁ」

魔王「ふん… 確かに、連撃の割に 重たい一撃。だが、それならばあたらないようにすればいいだけのこと・・・!!」

神「はははは!! ならば、追い込んで地の国まで堕としてやろう!!」

魔王「できるものならな!!」


ザッ、ヒュ・・・ シュパァン!

2(!!)


魔王「…ちっ。交わしたか」

神「突進力で押すだけの、暴れ猪のような馬鹿な一手だ、避けられないとでも思ったか?」ニヤ

魔王「ふっ、暴れ猪か。どうやら無能な神にはそれも仕留められないようだが。…しかし、どうせそこまで言われるのなら…」


魔王「暴れるだけ暴れてやろう」フッ

神「生意気な」スッ

ブオンッ! ガキィィン!!
キンッキンッ! シャリン・・・ ジャキン!! ガキンガキンガキン!!



2(技術で勝る神、パワーで勝る魔王。拮抗した…いい、戦い)

2(でも… やっぱり、おかしい)


女勇者(略奪を仕掛けに来た魔王が、まるで防衛戦のように防御重視で… 女神様を奪わせまいとする神様の方が、攻撃に意欲的)

女勇者(別に、戦いの方法なんてそれぞれの向き不向きがあるんだろうから、おかしくないといえばおかしくないのかもしれない、けど…)


女勇者(けど、なんだろう… この感じ。この戦闘風景は… なんだか…)

女勇者(ああ、なんだっけ…なんだっけ、知ってるのに…!)



その時、不意に強めの風が吹いた
やや甘い香りがした気がして、意識が思考の海より引き上げられる

丁度、剣を振り上げた瞬間に吹いた風が、神様に一瞬の隙を作ったらしい
目に何か入ったのか、それとも風に煽られそうになったのか
戦闘知識も観察眼も動体視力も優れない私には判断がつかなかった


が。魔王は その隙を見逃さなかったようだ

咄嗟に魔力攻撃を足元に打ち込み… 
立ち上った雲海のモヤに紛れ、一気に形勢を逆転させたようだ

そして まるで一枚の絵の様な光景が 目の前に現れた


モヤが、風に流されて周囲に漂い…
高圧的に、剣によって神の動きを制している魔王と
魔王の足元で、片膝をついてなお 女神を奪わせまいと睨みあげている神の姿


女勇者(これ、は。 まるで、今の神様の姿は本当に… 魔王に挑む、勇者みたい…?)

女勇者(でも… 今は私が、勇者の役割を果たしている感覚がある…)

女勇者(なら、神様の今の役割は…本当に神様なの…?)



女勇者(……そういえば… 勇者は…。 もしかしたら…?)



:::::::::::::::::::::


魔王「…ふ。こんなものか」


神「くっ。これほどの力を持っていたとは… ノータイムであれだけの魔力量を放つなんて…!」

魔王「数百年、城に籠り魔力という魔力を使わなかったせいか。 ほんの少し魔力を使おうとするだけで、勢いよく噴出してきてくれる」

神「ひきこもりが、いきがるなぁっ!!」


ジャキン

神「……っ! 首を…」


女勇者(魔王…。ううん、大丈夫… まだちゃんと、女神のためには神殺しをしたくないという意志があるのがわかる…)


魔王「…女神を渡せ」

神「いやだ!!」

魔王「素直に引き渡すのならば、命だけは助けてやってもよいのだが…」ガキッ

神「誰が貴様などにくれてやるかっ! どんな目に合わされるか、わかったものじゃない!」

魔王「ふん。ただ横暴に捕らえているだけではなく、少しは女神を守ろうという姿勢があったか」


神「当たり前ではないか…!? もし、おまえなんかが女神を連れ去ったりしたら…!!」

魔王「……? なんだ」

神「どうせ!! ( ピー!)とか( ピーー!)とか! ( ピー!)で( ピーーー!)な( ピーーーーー!)とかするつもりだろう!! させてたまるか!!!」

魔王「」

女勇者(えっ、まさかのそんな発言!?)


神「愛しい女神にそんな事はさせないっ!」

魔王「するかああああああっ!!!!」

神「なんでそうと言い切れる!!? 俺だったらしたいぞ!?」

魔王「お前のような変態的嗜好は持ち合わせていない!! それになにより…俺は、あいつを愛してるからだっっっ!!」ザッ


ガキ----ン!


神「! 剣が!」

女勇者(弾き飛ばした!!)


魔王「今度は……おまえが、女神を諦めるんだな。お前の元に女神を置いておく気がなくなった」

神「くっ…剣を奪ったくらいで、侮るなよ…! 俺とて数百年、だてにあいつを奪いに来る馬の骨を切り刻み続けてはいない!!」

魔王「俺は切り刻めないようだがな!」

神「貴様のような生意気なガキなど…! 核融合で、燃え付くしてやるっ!!」

魔王「!! 魔力…!」バッ


神「はぁぁぁぁ……っ」

シュォン シュオン シュオン シュオン…!!


魔王「な… 熱が… 凝縮しながら集まって…膨張を…!?」


神「まだまだぁぁぁ……っ」

魔王「くっ、太陽神というのは伊達ではないということか…!」


神「はははははは!! 我は太陽の化身!! この偉大な力の前にひれ伏せるがいい!!」

ブオ…ッ ゴォッ・・ ドロ…

魔王「大気が溶ける…? そうか、あまりの熱量で大気中の酸素と水素の濃度が…!」

神「くくく… あと一歩でも近づいてみろ… 臓腑の中まで焼き尽してくれる…!」


魔王「これは…流石に…! くっ、おい! お前だけでも早く逃げ…!!

村娘A(女勇者)「『ようこそ空の国へ! ここは、神様の住む宮殿です!』」アワアワ

魔王「」

女勇者(うわぁぁぁんっ! 気づいたことがあるのに言えないよおお!!!)ジタバタ

魔王「ふざけている場合か!!」

村娘A(女勇者)「ググッ・・・『よ、ようこそ空の国へ! ここは、神様の住む宮殿です!』ゥゥ!!」ウガー!

魔王「ええい! いい加減にしろ!」

女勇者(魔王、お願い 気づいて!! ………って、あれは!?)


神「くくく… くらえっ! あのイカロスでさえ墜落死させた この超過熱量を!」

神「シャァァァァァイニングゥゥゥ……



?「やめてくださぁぁぁぁぁぁぁいっ!!!」



魔王「っ!? この声は!」

ヒュンッ! シュパッ! シュパパパパパ!!!!


神「!? うがっ!? あががががっ!!!!」ドサッ

ヒュゴォ… オオ… シュゥ・・・

女勇者(! 熱量が… 消えた!)


魔王「…くっ 一難去ったが… なんだこの矢は!? どこから飛んで来た!?」

村娘A(女勇者)「魔…『ようこそ空の国へ! ここは、神様の住む宮殿です!』!!」ビシッ!

魔王「!」


女神「――――っ」キリッ


魔王「女神…!」


女神「やめてください、神様! 魔王を傷つけたらいくら神様でも許しませんからね!」

女勇者(めっちゃ長距離からの的確な射撃技術があるとか、女神の隠しスキルがパないけど美人なだけにすごく似合う!!)


神「しかし女神! いくらなんでもいきなり矢を打ち込むのはひどいではないか!!」

女神「しかしもおかしもありませんよ! とんでもない攻撃をしようとしていたくせに!!」

神「とんでもないってお前…! あれは俺の最大の…

女神「とにかく!! どうして二人が争ってるんですか、説明してください!!」

神「そ、それは… こいつが女神を頂戴するとか抜かしやがったんだ!」

女神「えっ… ま、魔王が…ですか?」

神「だから汚らしいこの虫野郎を追い払っていただけだ!」


魔王「女神!! 俺はお前を愛している、そんなやつの元にいるより幸せにしてやろう!! 俺についてこい!!」

女神「えええっ!? ちょ、ちょっと まってくださ…!!

神「きっさま、俺の前でよくもぬけぬけと…!」

魔王「ふん、ならば口を利けぬようにしておけばよかったではないか!」


神「女神は俺のものだ!」

魔王「今日からは俺が貰い受ける! 無理やりにでも、必ず女神を俺の物にする!!」

女神「!?!?」


神「女神!」

魔王「女神!」


女神「~~~~~っ!?」


女神「ま、ままま まってください!? とにかく、落ち着いてええええええええええええ!!!!」スッ!


ヒュォッ! シュパシュパシュパシュパッ! パパパパッ!!


神「ぎゃぁす!!」ザクッ! ドススッ!

魔王「ちょっ! 弓?!」ヒョイッ! ヒョヒョヒョイッ!


女神「~~~~~~っ」ウルッ

タタタタ……


神「女神っ!!」

魔王「な、討ち逃げ…だと…!?」

女勇者(………おやぁ?)


魔王「な… ど、どういう… どういうことだっ!? 何かこの 明らかにおかしい理について解説しろ!」

村娘A(女勇者)「多分『ようこそ空の国へ! ここは、神様の住む宮殿です!』……」

魔王「……」

女勇者(……解説できない… ってか私こそ聞きたいことあるのに・・・ どうしよう。ジェスチャーで通じるかな?)パッパッ、パパパ、 ギュー、ッポン♪

魔王「」イラ


魔王「~~~しっかりしろ! 魔力が篭った言葉とはいえ、ただの誘導催眠で村娘なんかになるんじゃない!!」

村娘A(女勇者)「そんな事言『ようこそ空の国へ! ここは、神様の住む宮殿です!』!」

魔王「~~~~~っ」


魔王「おまえは!! “女勇者”だろうが!!!!」


バシュッ!

女勇者「!」


神「……え?」

女勇者「……はっ!? あっ、口が! 口が自由に動く!!」

魔王「ならばさっさとこの状況についてわかることを説明して見せろ! もはや怒りかどうかもよくわからなすぎて血管が沸騰しそうだ!」

女勇者「ちょっ、落ち着いて! そんなことでは暴走しないでね!?」

魔王「暴走でもしなきゃやってられんような気分だ! 何故 女神に、弓で射られる!?」

女勇者「だから、ともかく… まずは…」チラ


神「……女…勇者…  勇者、だと?」ブツブツ…

女勇者「神様……」

神「!」


女勇者「あなた、勇者を… “前の勇者”を、知っていますね?」

神「……っ」


魔王「前の……勇者、だと…?」



女勇者「……聞かせなさい。この世界の理が乱れた原因は… きっと、そこにあるから」

神「世界の…理…?」

女勇者「前の勇者は…どうなったのか。 勇者が、この世界に居なかった理由を」


女勇者「教えなさい」 


>>136-139 thx!
次の分で終わりになります 続きは遅くとも25日の朝までに

おつかれさま!

おっつ


神「……何故… 何故、勇者がいる?」

女勇者「神様の啓示があったと聞いたけど、あなたの指示じゃないの?」

神「知らん、知らないぞ… そんな、そんなこと」ブツブツ


女勇者(……魔王、魔王。ねえ、なんか神様の様子、おかしくない?)コソ

魔王(ああ…… 確かに、これは何か知っていると踏んで間違いないだろう)ヒソ


神「勇者は、勇者は… 神が啓示を授けることで…覚醒するはずなのに… どうして…」ブツブツ



女勇者「魔王……どういうことなのかな、これ」

魔王「女神の独断で…お前に勇者としての加護を授けたということだろう」

女勇者「なんでそんな事を?」

魔王「……俺の元に遣わせるつもりだったんだ、神には言えなかったということだろ。十分考えられる」

女勇者「ああ…なるほど」

魔王「実際… お前の魔力が暴走したときに おかしいとはおもったんだ。明らかに魔力の与え方に不手際があったからな」

女勇者「そうなの?」

魔王「……俺も勇者など見たことはないが… 暴走するだけで魔王に致命的ダメージ与えられる勇者とかおかしい」

女勇者「いわれてみると、何そのチート勇者」

魔王「今のお前だ」

女勇者「そうでした」テヘ


神「……その娘、本当に勇者なのか…? ありえない」

魔王「疑いたくなる気持ちはわかる」

女勇者「ひどいな! 私は勇者だよ! 私も最初は疑ってたけど、今では自分でそうだってわかるよ!」

魔王「…そうだな。俺も…今は自分が魔王だと、ようやく実感できるようになった」


神「だが、勇者など産まれるわけがない!」

女勇者「だからそれは、女神が勝手に指定して勇者として…

神「そうではない!」


神「勇者は、神から力をあたえられるから勇者になるわけではない…最初から、勇者である必要があるんだ!」


女勇者「……え?」


神「だから…お前が勇者であるわけがない…」

魔王「どういうことだ」

神「…勇者が生まれるはずはないんだ」


神「勇者は今も…空の国に在り続けているのだから」

女勇者「え!? 勇者が… ここに、いる?」

魔王「どういうことだ…?  勇者は複数存在するのか?」

神「そんなわけ、あるはずが……!」 ハッ!


神「………っ、まさか」

ダッ!

魔王「! おい、何処にいく!」

神「………!!」

シュタタタタ…!!



魔王「……ちっ。追うぞ!!」

女勇者「う、うん!」



:::::::::::::::::::::::

大宮殿 最奥 夏の庭


神「………」ジッ


タタタ…

魔王「…居た! あそこだ…… あの庭の中心!」

女勇者「あんなところで、何を…?」

タタタ…


魔王「……おい、神。一体、何が…」


神「………やっぱり、ちゃんと… ここにいる…?」ジッ

女勇者「……神様?」

神「………」


魔王「それは… 木、か?」

神「……ああ。見ての通りだ」

ヒュォ…

女勇者「あ、風が… それに、この匂い…」

魔王「匂い? …ああ、何やら甘い匂いがするな。 その木の、花の香か」

女勇者「さっき… この匂いがしたよ。風が吹いて… そう、それで…」

女勇者「そうだ。それで… もうひとつの違和感に、気付いたんだっけ…」



神「……おまえなのか?」ソッ

木 ……

女勇者「…ねぇ神様、その木は 一体?」

神「………この木は… 彼女は… 」

女勇者(彼女?)


神「目覚める前に、俺が殺してしまった… "勇者"だ」


女勇者「なっ!?」

魔王「神が…勇者を殺した!?」

女勇者「ちょ、ちょっとまって? 勇者ってヒトに限るわけではないの!?」

魔王「確かにそうだ… さすがに 木が勇者だなどと言われても…」


神「…木に変えたんだ。元々は、美しい娘だった…艶やかな王女だった。勇者であることを知らなかった」


魔王「……ちょ、待て」

女勇者「意味がわからない」

魔王「展開がついていけない」


女勇者&魔王「「………三行で頼む」」


神「お前ら、神の人生を舐めんなよ?」


:::::::::::::::::::::

大宮殿 “夏の庵”(夏の庭に面する部屋)


コト

神「粗茶だが、飲むといい… とてもじゃないが 今は争う気になれない。ひとまず休戦させて欲しい」


魔王「……で。何故、座敷に座っているのだ 俺たちは」

女勇者「なんか初めて魔王城に行った時のこと思い出す」

魔王「……」


女勇者「あー… いや、まあ。ほら、女神の家なんだしさ? 一応 前進ってコトで…」

魔王「奪いにきたんだぞ? 意気込みはどうしてくれる?」

女勇者「うん、わかるよその理不尽さ。多分、これも世界の理がおかしいせいじゃないかなー…」ハハハ

魔王「またそれか…」ハァ


神「……」

女勇者「と、とにかく… 休戦を申し込むってコトは 少しは勇者について話す気があるんだよね?」

神「……」

魔王「話す気がなく、そうしてぼんやりと庭木を見つめているだけだというのなら… その間に、女神はもらっていく」

女勇者「魔王」

魔王「俺はそのために来た。穏便にすんでよかろう… 世界の理を直すというのならお前は好きにするといい」


神「……先ほどから言っていた、その理とは 何のことだ」

女勇者「あ… えっと それは」


魔王「…こいつの妄言だ」

女勇者「妄言じゃないってば! 」

神「……話せ。内容によっては、勇者についても話そう」

女勇者「……」


女勇者「…証拠はなくて… 私の頭の中の空論なの。だけど体感で理解できる、そんな“世界の仕組み”のこと…です」

神「世界の…仕組み?」

女勇者「う。神様相手に世界の仕組みを話すとか…。釈迦に説法もいいとこだよ、緊張する」

神「……俺は太陽神で、創世の神ではない。気にするな」

女勇者「……そうなの?」

神「ああ」

女勇者「ん… じゃあ…。 聞いて」



:::::::::::::::::::


私はそれから、自分の言葉や感覚でしか伝えられないことを
四苦八苦しながら言葉に代えていった

物事が進むにつれて伴う 不条理さや違和感
“自分らしさ”と“与えられている能力”のバランスの悪さ
“自分らしく、自分の役割を演じることで その不条理な違和感が消える”ということ…

歯車が噛み合わない理由は、うまく機能するために必要な役割の人物が揃っていなかったからではないか

『勇者が居ない』

それが、全ての均衡を崩し…
多くの事象に、不自然な影響をあたえているんじゃないか

……そしておそらく、勇者と対になるはずだった魔王が、一番の影響の受けていた…
だけれどそれは、私が勇者となることで解消したような気がした…


だけど、まだ狂っている歯車がある
それはきっと、神様に影響を与える歯車

そうなんだ
私は話をしながら、新しく気がついたことがあった

魔王と勇者と 神と女神

その魔王つは、きっと2対同士の バラバラな二組ではなく…
魔王対の輪のように繋がっていた

魔王―勇者―神―女神―魔王―勇者―神-女神……

感情、能力、行動、存在
それら全てを お互いがお互いを支えることで…抑えることで 成り立たせる
アクセルとブレーキのように “力”を正しく運用するための 必要機能


そうだ
何故、気づかなかったのだろう

だって、おかしいじゃないか
魔力を… 力を持つものならば、たやすく願いが叶ってしまう世界だなんて。
神や魔王や、勇者や女神みたいな 大きな力を持つものが… 好き放題に出来てしまう世界だなんて


そんな、これ以上に理不尽な世界な世界って 無い


私が勇者としての役割を正しく演じることで ようやくこの世界の理は修復した
それが、違和感の消えた正体だったのだろう

そして、もうひとつ…しなければならない大事なことがある
直すだけじゃ、駄目だったんだ。あたりまえだ

動かさなくちゃいけない
壊れて止まった車を治しても、エンジンをかけなければ動き出せない


そのために必要なものがある


私は 神様の見つめる視線のその先を追う
一本の木は 風に揺れて甘い香りを届けた

 

女勇者「きっと。前の勇者が その鍵を握っているままなんだ」



::::::::::::::::::::::


神「……」

魔王「……」

女勇者「どうかな、神様」


神「……力の均衡…存在の均衡。確かにいわれてみれば あって当然であろう」

女勇者「じゃあ 勇者のことも、教えてくれる…?」

神「……」


フワ… ヒュゥ……

女勇者「あ… 風が…。また、甘い匂いがするね」

ヒュゥ…ヒュゥ…

魔王「…ああ。いい匂いだ」

ヒュゥ ヒュゥ ヒュゥ

神「これは彼女の匂い。甘くて、優しく淡い… そんな女性だったのだ」

女勇者「神様」

神「…いいだろう。彼女のことを…勇者のことを教えてやろう」


ヒュゥゥ! ビュゥゥ!!

女勇者「う、うん。ソレは嬉しいんだけど この匂いってさ 淡い…かな。 なんか若干 濃くない?」

ビュォォォ!!

魔王「…確かに。濃いというか…甘ったるすぎないか?」

ビュォォォォォォオォォ!! グォオオオオ!!

女勇者「っていうか! 風! 強すぎるでしょ!? なんなの一体!?」

ゴォォォォオ!!! メシメシメシ…ッ

魔王「なんだ急に!? いくらなんでもこんな強風…!」

神「! 木が、木が折れてしまう!!」

女勇者「えっ だってあれ、勇者さんなんじゃ…」

ヒュゴオオオオオオ! ブオオオオオオオ!!!!!


魔王「! これは…もしや、魔力風!?」

神「な、まさか!? 誰が!?」

女勇者「~~~き、決まってるでしょ!? こんっだけの甘い匂いをさせる魔力の持ち主なんて…!!」

神「!!」

魔王「まさか! 本当に、あの木が…!?」

女勇者「木になってしまった今、魔力風と匂いで ずっと何か伝えようとしていたんだわ…」



女勇者「そうなんでしょう!! 先代勇者!!」


ヒュゴォッ!!!! バキィィィ!!!


魔王「!! 木が、割れて…!」

神「なんてことだ!!」


ドロ・・・ ドロリ……


神「…! 樹液が…!」

魔王「う… これは。 ひどく甘い、匂い、が… グッ」クラッ

女勇者「…っ 何コレ…? なんだか、ぼーっと… す、る…?」

ドサッ

魔王「勇者! っ、う… 徐々に…香を強められていて… 油断した、か…」

ドサッ



神「……姫… なんで…」フラッ…

ドサッ



『………………』




::::::::::::::::::::

…… 甘い香のする場所 ……


女勇者「う… ここ、は・・・?」

魔王「……なんだ? 何か、強い魔力の気配が充満している…?」

神「……この匂い…」


?「あら 余計なヒトを巻き込んじゃったかしら」


魔王「! 誰だ!?」

神「姫!!」

女勇者「えっ 姫って何!? どーゆーこと!?」


姫勇者「そちらの二人、はじめまして。あたしはペルシア王の娘姫…そして “先代勇者”よ」

女勇者「姫…?」

姫勇者「そうよ」フフン


女勇者「カジテツ?」

姫勇者「は?」 


神「彼女は……正真正銘の姫君だ… 態度を改めよ」

魔王「な…」

女勇者「え、ええ? お姫様相手にどういう態度とればいいかなんてわかんないよ?」

神「ふん、小娘が。道理で礼儀のひとつもなっていないと言うもの。この我の前における数々の無礼についても…


姫勇者「アポロンうざい。 何その喋り方?」

神「」


女勇者「う、うわあ」

魔王「ど、同情くらいならしてやってもいいぞ…」



姫勇者「ところでそこの… 女勇者サン?」

女勇者「は、はい?」

姫勇者「……ふぅん。まぁまぁね」ジロジロ

女勇者「」


女勇者(ま、魔王。どうなってるの?)

魔王(俺に聞くな! 神にでも聞け!!)


姫勇者「で、アポロン。せっかくこんあところまで来たのなら、何かあたしに言うことはないの?」

神「愛してる」キリッ

姫勇者「うざい」

ゲシッ

女勇者「えっ」

魔王「な」


神「ああっ ひどいよ姫!!」

姫勇者「あ、ようやく普通に喋りだしたわね。ほら、もっと蹴ってあげよーか?」

グリグリ

神「や、やめてやめて! わき腹にヒールはやめてくれ!」

姫勇者「はぁ~? 誰にいってんの? あんたがあたしにしたコト覚えてないの?」

神「忘れたことも無いよ!!」

姫勇者「なら甘んじて受け入れなさいよ」

ゲシゲシ

神「ああああっ」


女勇者「や、優しくて 甘くて淡いとかいってなかったっけ…?」

魔王「神にとってこれが優しさに見えているのか…」


姫勇者「あら、ごめんなさい。こいつの顔を見るとね、蹴らずに居られないの… うん、もう蹴らずには生きて行けないくらい」

神「俺が居ないと生きていけないとか ツンデレ姫って本当にかわいい」

姫勇者「ええもう 本当に愛してるわ。蹴る行為を」

ゲッシゲッシ

神「ははは、本当にいつからこんなにヤンデレになっちゃったんだろうね、やっぱ蹴りにちょこっと甘さがあるよね」ボコボコ


女勇者「……どういうご関係なのか きいてよろしいでしょうか」

魔王「…神は、勇者を殺したのではなかったのか?」


姫勇者「まあね。実質、コイツに殺されたようなものだわ」

神「あの時は本当に、一生 泣き濡れて生きようと思ったよ」



女勇者「いや ほんとにマジどういうことよ」


姫勇者「……? 何? あたしのことを知りたいの?」

女勇者「う、うん 多分」

魔王(正直、俺はなんだか知りたくない気がするんだが)

女勇者(私だって本音はそうだよ!!)


姫勇者「ふぅん… じゃあ 教えてあげるわ」

神「う」


姫勇者「アポロンの… 悪行をね?」クス

神「あの、勘弁し

姫勇者「黙ってなさいよ、あたしの美声を聞きたくないの?」

神「拝聴いたします」


女勇者「あなたは… 神様のなんだったの?」

姫勇者「他人よ。調子に乗っていたアポロンに、ほんの少しの仕置きをするために 私は彼を挑発しただけ」

女勇者「仕置きって… 神様は何をしたの?」

姫勇者「いろいろね。他の冥府の神々を見世物にしたり、あちらこちらで女の子達に手を出したり、笑いものにしたり」


魔王「最低だな」チラ

神「反省している、後悔も少しはある」ドヨン


女勇者「それで…… その仕置きっていうのは?」

姫勇者「アポロンはね、理想の青年なんてみんなに言われてとてもモテたのよ。その中でも、ある妖精の女の子が… アポロンに夢中でね」

女勇者「とりあえずその妖精、少女Aとしておこうか」

魔王「お前の命名センスを疑うな」


姫勇者「そうそう、アポロンも、少女Aのことを随分可愛がっていたのよ」

魔王「何事もなく受け入れた…だと!?」

女勇者「この適応力の速さ、なんかちょっと親近感あるなぁ」


姫勇者「……聞く気がないならやめるわ」

女勇者「あっ 聞きます聞きます! 恋バナ大好き」


魔王「……俺は黙っておこう」

神(……口を挟みたいけど挟める気がしない)


姫勇者「ん。でね、さっき言ってた…笑いものにされた他の神様に、あたしは遣わされたの。アポロンへの報復を目的にね」

姫勇者「やるべきことはひとつ。神の目をあたしに釘付けにすること…」

姫勇者「そうしてそれを、アポロンのお気に入りの少女Aに見せ付けて、こいつらの関係を修羅場にしちゃおうって話だったのよ」


女勇者「…神様も人間みたいなことするんだね」

姫勇者「まあ、空の国も冥府もヒマらしいからね」


女勇者「んでんで? どうなったの?」

姫勇者「……アポロンに、ちょっとあたしのことを口説かせたらそれで終わる話だったんだけど…」チラ

神「う」

姫勇者「あいつ、あたしに一目ぼれしてね… その日の夜を待たないうちに、“過剰すぎる狼藉”をはたらかれたのよ」

女勇者「えっ」

神「我慢できませんでした」

姫勇者「で。少女Aにはアポロンがあたしをナンパしてるところを見せ付けるはずだったのに、実際はバカみたいなベッドシーンになっちゃって」


女勇者「マジ切れ?」

姫勇者「爆ギレ」


魔王「……」チラ

神「」


姫勇者「で。キレまくりの少女Aは あたしのお父様… ペルシア王に告げ口したの」

女勇者「それはお父さん、ショックすぎる」

姫勇者「でも、相手はアポロンよ? 太陽神よ?」

女勇者「あ、そっか。守護神だもんね、怒るに怒れないよね…」

姫勇者「そう。それで、まあきっと少女Aもなんか上手いこと言ったんだわ。あの子、本当にアポロンに惚れてたみたいだから」

女勇者「どういう処罰になったの?」


姫勇者「あたしが殺されたのよ」

女勇者「」


姫勇者「殺されたの。あいつが、あたしにエッチしたせいで。あたしが殺されたの」スッ

テクテクテク…


女勇者「あ、あの…?」


神「えっ 俺? 何?」

姫勇者「あーんーたーのー 理ー性-がー 足―りーなーいーせーいーで
ー」グリグリグリ

神「ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!!?」


女勇者「」


姫勇者「しかもね」クルッ

女勇者「ま、まだなんかあるの?」

姫勇者「こいつ、死んだあたしに何をしたと思う?」

女勇者「え… なんだろう? ごめん、予想もつかない」

姫勇者「遺体掘り返して、神酒ぶっかけて、木に変えてこっそり持ち帰ったのよ」

女勇者「」


神「だって。殺されちゃったって聞いて いてもたってもいられなくて」


姫勇者「あんたがーーー! あんとき、持ち帰らなければーー!! あたしはあたしを遣わせた神様に復活してもらえたのーーー!!!」グリグリ

神「だってそんなの知らなかったんだもんーーー!!!!」

女勇者「ふ、復活!?」

魔王「…そうか、さては」

姫勇者「あら、そっちの黒髪クンは勘がいいのね」

姫勇者「そう。あたしは、勇者としての魂をもっていた。だからあたしは選ばれた」

姫勇者「そして、あたしを遣わせた神によって… 勇者の契約と加護も もらっていたのよ」

女勇者「! そうか、それで…!」


姫勇者「でも!! こいつが勇者を木に代えて 復活を阻んだのよ」ゲシッ

神「OUCH」


女勇者「勇者の居ない理由は…」

魔王「そんっなにくだらないことだったのか!!!」


姫勇者「さすがにあたしだって、毎日毎晩コイツに愛でられて 木にされてるのに飽きたの」

姫勇者「だから、少しづつ少しづつ 香となって逃げていたのよ… 本当は樹液を出すほうが効率がいいんだけど…」

女勇者「なんで樹液にしなかったの?」

姫勇者「こいつ、樹液を舐めるんだもん。キモチワルイわ」

神「甘くて美味しいんだ。姫の蜜、サイコー!」

女勇者(変態…)

魔王(変態だな……)


姫勇者「で、ようやく一定量の脱出が出来たからね。ようやく、あたしは大部分において 生まれ変わる事が出来たってワケ」

女勇者「え? 生まれ変わる?」

姫勇者「そうよ。あなたになったのよ」

女勇者「えっ」


姫勇者「時代が過ぎすぎていたし、復活するにも本体… 木にされちゃったし。それしか方法がなかったの」

女勇者「私が… あなた?」

姫勇者「そう。あなたは、私よ」


魔王「……もしや、こいつの持つ魔力の多さとも関係あるのか」

姫勇者「そうなの?」

魔王「ああ。女神に加護を受けたのだが、明らかに過剰すぎるんだ」

姫勇者「女神の加護を? それは過剰でしょう、だって最初から加護は受けて生まれ変わっているのだから」

女勇者「え、ええ!? だって私、魔力なんて知らなかったよ!?」

姫勇者「勇者として覚醒してなかったんでしょ。持ってることも知らないなら、よほどの事がなければ気づかないわ」

女勇者「そ、そういうもの?」

姫勇者「あるいは、よっぽど平穏にノホホンと生活していたかね」

女勇者(めっちゃ平凡に平穏に、苦労知らずに育った一人娘のカジテツ姫だから そうかもしんない)


姫勇者「まったくもう。本当に、トンデモないやつに惚れられちゃったわ」ハァ

神「本気で愛しているんだよ?」

姫勇者「知ってるわよ。 …あなたが泣くところも、ずっと見てたもの」

神「姫…っ」パァ

姫勇者「変態だし、許さないけどね」ゲシッ

神「愛が痛いv」


女勇者「あ、はい。お幸せに…」

魔王「いや、それでいいのか本当に」

女勇者「あー… 歯車が壊れた理由は、事故みたいなものだし…それに…」


神「姫―」

姫勇者「ちょっ、ヤダ! 裾ひっぱったらダメ!」


女勇者「…ほんの少し、愛しすぎちゃって。やりすぎてしまっただけなんだとおもうんだ」

魔王(あれが、ほんの少しだろうか)


女勇者「必死すぎた結果なんだし、私には責められないかな」

魔王「……勇者だな、やはりお前は」

女勇者「まあでも、責めるなら、魔王がどうぞ。殺ってもいいだけのことはしてるとおもう」

魔王「ああ。丁度いい、決意を新たに やはりあいつを討とう」

女勇者「ふふ。やりすぎないように止めてあげるね」

魔王「ちょっとまて。それより、なんでココに俺たちを呼んだんだ?」

姫勇者「貴方のことを呼んだわけじゃないわ」


姫勇者「私が呼んだのは… 女勇者よ」


女勇者「私…?」

姫勇者「あたしの残りの魔力や意志… それに、勇者としての存在を まとめるために」

女勇者「あ・・・」

姫勇者「一度、溶け合う必要があったの。だから、私の意識の中に混ぜているのよ」


女勇者「私… このあと、どうなるの…?」

姫勇者「変わらないわ。ほんの少し、私の持つ 魔力を扱う力や技術を継承するくらいかしら」

女勇者「あなたは、どうなるの?」

姫勇者「あたし?」


女勇者「……あなたは、どうなるの?」

姫勇者「いったでしょう? あたしはもう あなたなのよ」

女勇者「でも」


姫勇者「既に、あなたを形成するものは あたしで出来ている。あなたが貴方だと思っているものと あたしがあたしだと思っているものは 同じよ」

女勇者「そういうもの…?」

姫勇者「あなた、今のあなたに不満があるの?」

女勇者「ううん、ない」

姫勇者「そうでしょうね。 私も自分の人生に後悔とかしないタイプだったわ」


女勇者「じゃぁ…本当に?」

姫勇者「ええ。もう、十分なはずだから… 目が覚めたらそれでおわり」

女勇者「……お姫様」

姫勇者「心配することなんて、なにひとつないわ。あなたは私だもの…」


姫勇者「自分の心に正直に。 思うままに、生きればいいだけよ」

女勇者「……! うん!!」



魔王「……ところで、神」

神「なんだ、若造」

魔王「お前、あの勇者を愛しているらしいな」

神「ああ」

魔王「女神、よこせよ」

神「嫌だ」

魔王「………」


女勇者「まぁまぁ… それはほら、起きてからでも…ね?」


神「姫は姫で愛している。だが、考えても見ろ」

魔王「なんだ」


神「俺が姫を愛したときみたいに、女神に悪い虫がついて、俺が姫にやったようなことをあいつにするのかと思うと とても手放せない」

魔王「……お前の脳内が歪んでるせいで やっぱり世界が歪んでたんじゃないか?」


女勇者「あ。いつか言ってた、神様がいってた変態嗜好って もしかして…」

姫勇者「? なにそれ」

女勇者「えっと… ( ピー!)とか( ピーー!)とか! ( ピー!)で( ピーーー!)な( ピーーーーー!)とかって…」

姫勇者「……あら それ、少女Aが見たベッドシーンのそれそのままだわ」

女勇者「」

魔王「」


神「ばらさないでっ!!」


女勇者「あ…… なんだろ、頭がいたい」クラクラ

魔王「奇遇だな、俺もだ」ハァ

女勇者「う… でも、なんか、ほんとに…」クラッ

魔王「女勇者・・・? おい… 」


姫勇者「あら… ふふ。いってらっしゃい… 『女勇者』」

魔王「え…?」


女勇者「…………そう、いえば… あなたは 『姫勇者』…じゃ…」

姫勇者「ふふ… 気にしないでいいのに」


女勇者「姫、勇……」


ドサッ


::::::::::::::::::::::

大宮殿 夏の庵


女勇者「………」


女神「…きて! おきてください、どうしたのです!?」


女勇者「う…?」ボンヤリ…

女神「! 女勇者!」


女勇者「あ、アレ… 姫勇者は…?」ボー

女神「何を言っているのです! あなたが女勇者でしょう!?」

女勇者「え… あれ? 女神様?」


女神「よかった…! よ、よかったですぅ…っ」

女勇者「あ… そっか、つまり昏倒させられてたわけね…」

女神「本当に驚きました! 宮殿中は台風でも通り過ぎたように荒れているし、あなた達は倒れているし…! 何があったんです、大丈夫なんですか!?」

女勇者「うん、大丈夫。 って… あれ? 魔王と神様は?」

女神「魔王はまだ 起きてくださらないのです!! ああ、魔王! 起きて!!」

タタッ

女勇者「大丈夫だと思うけど… 魔王が先でいいの? 神様は?」

女神「神様ならそこにいます!」ビシッ


神「う、うううん… すまな… ご、ごめ うう やめっ…」zzz


女勇者「……えっ。 もしかして神様… 勇者に居残りさせられてるの…?」


女神「魔王―― おきてくださいっ」

女勇者「い、いや女神様。 まず神様を起こしてあげないと…」

女勇者(下手するとこれ、永久に起きられなくなるかもしれないし)


女神「神様はよくそうしてうなされてるのでいいのです! むしろそれがいつもどおりです!」

女勇者「よく…? あ、もしかしてここって、神様の部屋だったりする?」

女神「? 普段いらっしゃる部屋ではありませんが 確かにここは神様だけの完全な私室です! ですが今はそんなことより… 魔王! 魔王ったら!!」

女勇者(なるほど、寝てる間にこっそり匂いで夢の中で密会してたわけね。なんだかんだイチャついてるんじゃない、姫勇者も)


女神「魔王――!!」


女勇者「じゃあまあ、ほっといていいか。……女神様 ちょっとどいて?」

女神「う、うう。何を…?」

女勇者「いいから」


ススッ

女神「? 耳元で何を…? 覚醒の呪文か何かですか?」

女勇者「ま、そんなとこだよー」


女勇者「………ぁぁ大変だー 女神様が どこかの男にー(棒)」ボソリ


魔王「」パチ

女勇者「ワオ、男って単純」


女神「魔王! ああ、女勇者すごいです! いつの間に魔法なんて!?」

女勇者「いやあ、それほどで…っ

魔王「女神!」ガバッ 

女勇者「ぎゃっ!? セリフ途中で払い飛ばすとか ひどすぎでしょ、魔王!!」

女神「だ、大丈夫ですか 女勇者…」オロオロ

魔王「女神……」


女勇者「魔王、全然聞いちゃいないし」



女神「……? 魔王? どうなさったのですか? やはりまだお加減が…?」

魔王「……!」

ギュッ

女神「!?!?!」

魔王「女神…… やっぱり、お前を神の元になど置いておけない!」キリッ

女神「え……? え?」

女勇者(うん、本気でそう思うだろうね)


魔王「嘘をついたり、隠し事をしたり。そんなことばかりしてきたから…俺も決して誠実ではないかもしれないが」

女神「魔王…?」

女勇者(どうしよう。あの神様みたあとだと、魔王が本気で誠実すぎる)


魔王「女神… 嫌ならば、正直に答えてくれて構わない。無理は言わない」

魔王「愛している。初めて出会った時から… ずっと、途絶えることなく愛し続けてきた」


女神「!」


魔王「お前が欲しい。例えお前が他の誰かのものであろうと… それが俺の願いだ」


魔王「神を大切に想う気持ちもあるだろう。その気持ちはそのままでも構わない。だが…」

魔王「他の人物に心を捕まれている男の元に、お前の気持ちを置いておきたくない」

魔王「女神 お前の心だけでもいい」


魔王「お前を 俺の物にしたい」


女神「~~~~~~~~っ」


魔王「……すまない。弓で射られたときに、答えなんてわかっていたのに…」

魔王「やはり、こんな願いでは…


女神「ひゃっ、ひゃいっ! よよよ、よろしくおねがいしますっ!?」

魔王「……」

女勇者(……)

女神「~~~~っ// ふ、ふつつか、つかか かか よろしくおねがいしまっ!?」


魔王「……?」

女神「あ、あのっ、私も 昔からずっと魔王のこと好きでしたっ!」

魔王「え……いや だって さっきは弓で…」

女神「~~~きゅ、急に言われて!! 恥ずかしすぎてっ//」


女勇者「んー。やっぱり そーゆーことなのかなー?」

魔王「え… どういうことなんだ?」

女勇者「おかしいこと、もう一個あるとおもわない?」

魔王「……?」

女勇者「やっぱりさ、役割のイメージどおりの人物すぎるのも おかしいんだよね」

魔王「つまり?」

女勇者「神様と女神… 神は妻である女神を守り続けていて、妻である女神は夫に献身的?」

魔王「それのどこがおかしいんだ」

女勇者「ふ… おかしいでしょうよ!!!」

魔王「えっ」


女勇者「現実!! そんっっな綺麗事のドラマだけで終わるわけないんだよ! 実際、神様は別のところに想う女がいたわけだしね!!」

魔王「ま、まあ そうかもしれんな」

女勇者「つまり! 歪んだ価値観の中で 魔王は当たり前そうに見えることを さも当たり前のように受け入れすぎてたんだよ! おかしいのにも気づけずにね!」

魔王「え なにが…」


女勇者「……女神!!」

女神「え!? あ、は はい!?」

女勇者「ずばり言おう!」


女勇者「女神と神様… 親子だね!?」

魔王「なっ!? そうなのか!?」

女神「えええっ!? 違いますよ!?」


女勇者「えっ 嘘? むしろ本当? あれ?」

魔王「…お、驚かせるんじゃない、女勇者! 一瞬 信じかけたじゃないか!」


女神「私と神様は、双子の姉弟ですが、それがどうかしましたか?」キョトン

女勇者「」

魔王「」

女神「?」


女勇者「ええええええええええええええっ」

魔王「神が… 変態でさらにシスコンだと……!?」


女勇者「いやいや、それはさすがに嘘でしょ!?」

女神「嘘ではありませんよ?」 

女勇者「せいぜい度の過ぎた“娘は馬の骨などに嫁に出す気はない!”ってやつくらいが相場じゃないの!?」

女神「ぁぅ// すみません…確かに神様… あ、いえ弟は私に依存気味で…。 母がいないもので、昔から私が母代わりだったせいでしょうか…」

女勇者「いやいや、それにしたって結局マザコンじゃない!?」



女神「うふふ。あの子のお産のときに、取り上げたのが私ですから 命の恩人ってのもあるのかもしれませんね?」

女勇者「まって! まって、双子って言ったじゃん!? お産で取り上げるってどういうこと?」

女神「うまれて5分で、助産させていただきました//」


女勇者「神族って人間とかわらないかと思ってたけど、やっぱりヤベぇ」

魔王「事実は小説より奇なり」


女神「……私と神様の関係を御存じなかったのですか?」

魔王「神の言動と お前たちの生活境遇などから… 夫婦と思っていたのだ…」

女神「ええっ!?」


魔王「……お前は… まだ、誰のものでもなかったのか?」

女神「……いいえ」

魔王「」


女神「あなたとはじめて出会った日から… 私は、あなたのものでした」ニコ…

魔王「!」


女神「魔王…私と 共に居てくれるのですか…?」

魔王「…ああ。約束しよう これからは、月を… お前だけを、愛すると」

女神「~~魔王っ」ギュゥ

魔王「女神…」ギュー…


女勇者「……」

タタタッ

神「う、ううぅ・・」zzz


女勇者「……神様、神様。女神様が魔王のモノになったようです」コソッ


神「!?!?」ガバッ!


魔王「なっ!? 女勇者!?」

神「それだけは許さないぞ!?」シュタッ!

女神「か、神様っ!?」


女勇者「ふふん! 勇者が魔王の敵ってーことを忘れてもらっちゃぁ困るね!!」

魔王「しかしそれはいくらなんでも勇者の所業じゃないだろう!?

女勇者「役割と人格は別だっ!! 魔王のクセに誠実でリア充たぁ、ゆるすまじ!」

魔王「お前のその思いついたら即行動ってのは元々の性格の悪さでもあったのか!!」

女勇者「ツッコまずにいられないのもだよ!」

魔王「威張るな!!」


神「ええい、俺を無視するな、そこのクソ虫めが!! もう我に残されてるのは女神のみ! 貴様のようなヤツには渡さぬぞ!!」

魔王「お前のその喋り方が、厨二気質だってのもわかっているんだ! 鬱陶しいから今更キャラを作るな!!」

女神「そ、それは今更ですが シスコンが悪化してるじゃないですか、何があったんです!?」

神「すべては勇者が居なくなってしまったせいだ!」

女神「えええ? 何を…!?」

魔王「……!」ハッ


魔王「……」ニヤリ

女勇者「!?」ゾクッ


魔王「神!」

神「なんだ!? 女神ならお前などには…!

魔王「勇者なら、いるではないか」ニヤリ

神「え?」

女勇者「ちょっ」


魔王「お前の大好きな勇者が… 木ではなく、少女として生まれ変わっているようだが?」ニヤ

神「はっ… いわれてみると」

女勇者「えっ」

神「……その気の強さ。確かに面影も…」ジー

女勇者「えっ、ちょっ まっ」


魔王「神! お前は代用品で満足できるのか!!」

神「っ」

魔王「確かに俺も、月の代わりに星を愛してきた! だが、だからこそ わかるのだ!!」


魔王「代用品では!! 決して満たされる事などない!!!」

神「!!!!!!!!!」  



女勇者「魔王!? なんてこと言うの!? もっともだけど!! 今ソレいっちゃダメでしょ!?」

魔王「ふっ。勇者の敵が魔王であることも、忘れてもらっちゃ困るな」ニヤリ

女勇者「~~~~~~っ」


神「……女勇者…」ジー

女勇者「はっ!? なにやら熱い視線!?」

神「……俺のこの燃える思いを受け取ってくれ!! そして新たな俺の姫に!!!」

女勇者「やっぱりそうきたかぁぁぁ!!!」

神「バーーニングラブっ!!!!」


女勇者「ちょっ!? 熱! なんか背後で魔力が核融合しはじめてるよ!?」

神「愛が暴走して止まりそうにないのだっ!」

女勇者「愛じゃなくて魔力でしょうがああああ!!!!」


女神「もう、神様って本当に思い込んだらとまらない性格ですよね…」

魔王「暑苦しいヤツだな」

女神「うふふ、太陽ですから」

魔王「ふむ。それならば納得だ」


女勇者「~~~~~~っ!! あっっつ! 熱い! 熱いって! と、溶かされる!?」

神「我が愛に溶けてくれ、勇者!!」

女勇者「誰がっ…」プルプルプル…



女勇者「とけるかあああああああああああああああああああああ!!」


ヒュゴォオオオオオオオ!!!!!!!!!!!


魔王「!! 魔力が暴走!? またかっ!?」

女神「っ、これは…!!」


神「!? なっ、我が 熱い想い(核融合中)が!!」


女勇者「近づきすぎると溶けちゃうような歪んだ愛なら… この勇者が! 冷ましてあげるわっ!!」

ヒュゴオオオオオオオオオオ!! 


魔王「なんと。今度は魔力を光ではなく、氷にかえたのか」


女勇者「凍れええええ!!!!」

神「なんの!! 愛の前には全てが無力っ!!!」


女神「うふふ。神の愛は無限ですものね、これは確かに止めるためには 女勇者の大きな力がいるかもしれませんね」

魔王(もしかして、あいつを止めるために 2重に勇者の力が必要だったんじゃないかとか思う)

女神「? どうしました、魔王」

魔王「…世界の理とやらを 保っている運命だか神だかの苦を労っていた」

女神「?」



魔王「そ、それにしても……っ 暑いし寒い!! 理ではなく気圧が乱れている! 大暴冷風じゃないか!!」

女神「あら…? 氷が急激に溶かされながら…蒸気をふりまいているから…」


魔王「…? あ…」

ヒラ… フアッ、 ヒラヒラ…


女神「……地上は今夜は、雪ですね」

魔王「……ああ。少し大雪になりそうだが… 雪はすきか?」

女神「ええ。月明かりと雪は、相性がいいのです」

魔王「ああ… きっと、綺麗だろうな」


女神「…魔王」

魔王「女神」

女神「…もう、一人で魔王城に住むなんて 言わないでくださいね?」

魔王「ああ。今度からは… 俺の元へ、帰って来い」

女神「はい…っ」


魔王「共に、帰ろう」


:::::::::::::::::::

地の国 魔王城 魔王の私室


魔王「…そういえば」

女神「なんですか?」

魔王「今夜は、地の国では クリスマスだ」

女神「クリスマス… ですか?」


魔王「ああ。 ホワイトクリスマスになった。最高だな」

女神「ふふ。勇者のおかげですね」

魔王「なるほど」


『願いを… 叶えてあげたいだけなんだよおおおおおおお!!』


魔王「ふふ。どうやらあいつも、勇者としては きちんとやるべきことはやってくれていたようだな」

女神「?」


魔王「まあ、星に何百年も願ったかいがあったということかもしれないが」

女神「……魔王は ずっと…星に願いをかけていたのですか?」

魔王「ああ…お前のことを想っていた。お前の幸せを、考えていた」

女神「…それで、『星空魔王』に? 私、てっきりどなたか他に愛する方がいるのだと…」

魔王「お前を愛しすぎて不幸にしてしまわぬよう、星を愛そうとはしていたがな」

女神「魔王…」


魔王「ああ… 随分長く続けていたせいか ついこうして、星空を眺めてしまいそうになるほどだ」

女神「ふふ。よいと思います… あ 流れ星!! しかもものすごい ほうき星ですよ! 魔王!!」

魔王「ほう、珍しい…… というか…… あれは… 星…か?」



流れ星<やってられるかああああああああああああああ! 離脱だっ、離脱ううう!!

ほうき部分<逃がさないよっ マイハニー!! 大気圏外でも捕まえてあげよう!!!


女神「……」

魔王「ほう。あいつは星だったのか」


女神「ままま、魔王! さすがにあれは、どうにかしたほうがいいのではっ!?」

魔王「ふむ。あいつが星であるならば 願いをかなえてくれたのはやはり星だったのだな」

女神「何を悠長な…!」

魔王「メリークリスマス、星の勇者。 俺は星の、『放っておいても大丈夫だと思えるところ』が好きだぞ」

女神「えっ… 魔王、女勇者の事が好きなのですか…?」

魔王「嫌いではない。だが…」


魔王「俺の叶えてもらった願いは 『月を愛していたい』、だ」チュ

女神「ひゃっ//」

魔王「願いを叶えてくれたこと。勇者には感謝しよう」ニヤ

女神「…ままま、魔王っ!?//」

魔王「女神には 素敵な1日を贈ろう」チュ… ギュ


女神「~~~~くくく、クリスマスは! 聖なる夜です! 不謹慎ですよ//」

魔王「聖なる?」


魔王「……俺を誰だと思っているんだ?」

女神「えっ」

魔王「俺は魔王… 聖なる夜を穢してしまう事こそ、俺の役割だろう?」

女神「穢っ!?」


魔王「赦してほしくなれば、お前も星に願えばいいさ。きっと叶えてくれるぞ」クク

女神「そ、そんな」

魔王「不満か? ならばこの『星空魔王』が… お前の望むままに応えてやろう」


ドサ。



魔王「Happy Merry Christmas!」

――――――――――――――――――

おわり

注:このSSは 太陽王アポロンに関する一部の神話を脚色しております
実際の史実、伝記とは仔細が異なる、あくまで創作です

注2:遅くとも朝までに、とか言っておきながら投下間に合いませんでした。すみません

& >>168->>172 thx!

最後になりましたが 全ての方に メリークリスマス。


勇者さんはどうなったんですかねぇ……

>>233-242 thx!

勇者は星になりました(違
別Side、後日談は今のところ考えていません(何しろ季節物なので
が、反応嬉しいので 機会があれば、書きたいなーとは思います

魔王勇者モノとしては外道ですが
お付き合いありがとうございました!




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