志希「アイドル辞めちゃったら、どうしようかなー」泰葉「えっ」 (15)

※あらすじ
モバマス
志希と泰葉がそれぞれのプロデューサーについて二人で喋る話。
短め

・一ノ瀬志希
http://i.imgur.com/J3LAKDP.jpg

・岡崎泰葉
http://i.imgur.com/8ztlFVV.jpg



※以下のスレの続編です。

一ノ瀬志希「キミに惚れ薬を試してみたい」
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『プロデューサーさんのおかげで、私のこれからがきらきらしてるみたいです』

『これからも、もっと楽しいアイドルを続けたいです…!』

『アイドルとしての幸せはプロデューサーさんが教えてくれました。
 だから星の海でも、もう私の光は消えたりしません。これからも……』

『だから……』

『プロデューサーさんとの幸せな毎日が……これからも、ずっと続けばいいな、なんて』





『ホント、そーだったら、いいのにねぇ……』



――――――
――――
――


「ねぇ、泰葉ちゃん」
「どうしたんですか志希さん。難しげな顔して」



「実はね……あたし、アイドル辞めちゃったら、どうしようかなーって思ってて」
「えっ」



「……あの、志希さん」
「んー♪」
「何かお悩みなら、私に話してみませんか」
「あたしのお悩み、聞いてくれるの?」

「私は、志希さんより年下ですけど、芸能活動なら長くやってますので。何か力になれれば……」
「ふふーん、いわゆるセンパイってやつだね♪
 あたしはガッコ飛び級しちゃって、学年も何もぶっ飛ばしちゃったから、こーゆー感覚新鮮だよっ!」



「どうして、志希さんはアイドル辞めた後のことを考えてるんですか。
 確かに将来的には、アイドルを引退する日が来るでしょうけど」
「あたしの場合、その日がもう見えちゃってるんだわ」

「その割には、志希さんは芸能界にどっぷり浸かってませんか。ほら、この間なんて」
「ああ、見られちゃってたか。アレはね――」


――
――――
――――――



『もープロデューサーったら!
 まーた、あたしに黙ってスタドリ飲んで、お仕事増やそうとしたね?』

マキノちゃんのアドバイスを参考にしたあたしは、
プロデューサーのコトについて、些細な事でも調べ上げるようにした。

するとこのヒトは、あたしの予想以上にムチャをしていることが分かってしまった。



『仕事熱心はアイドルとして嬉しいけどね……プロデューサーはクスリに頼り過ぎー。
 薬理学的にフォローできる気力・体力なんて知れたもんよ』

プロデューサーの担当アイドルは増える一方。
プロデューサーの辣腕のおかげで、アイドル一人アタマの仕事も増えてきてる。
プロデューサーの負担も、動く金額も、指数関数的に上がっちゃってる。

そんな状況でも、プロデューサーは体力が切れると、クスリでムリヤリ回復させて仕事を回し続ける。
ワーカホリックどころのハナシじゃないよ。

『あたしだって、前は実験が楽しすぎて眠る暇も惜しくて、
 眠らなくても疲れないクスリ作ろうとしたもんよ。確かに、そこそこ効果はあった。
 でも、ホメオスタシスの限界を超えたら、もーダメね。廃人モノよ』

でも、ちひろさんとか事務所の人達は、立場上“働き過ぎはイカンよ”と強くは言えないから、
誰もプロデューサーに歯止めをかけられないんだ。

この分じゃ、そう遠くない内にプロデューサーが倒れてしまうよ。



『だから、あたしの言う通り休みなさいって言ったじゃない。
 誤魔化そうなんて考えないことよ?
 プロデューサーの匂いで、体調なんて一発で分かるから』

最近は、プロデューサーを押し切って部屋の合鍵を貰ったので、
家まで着いて行って、荒れ気味だった衣食住の面倒まで見ちゃってる。

仕事場を離れた自宅でまで、担当アイドルと顔を突き合わせるのも、どうかなーとは思うけど。
誰かさんが“あんたも少し前はメイワクかける側だったろ”って視線ぶん投げてくるけど。



他にここまで面倒見られるヒトがいないんだから、しょうがないよねー。



――――――
――――
――

「……という感じで、サラッとプロデューサーさんの健康管理してますよね、志希さん」
「うん。最初はスタドリの服用頻度から、最近は生活全般までお任せあれ♪ ってカンジ。
 ま、お料理にタバスコかけすぎて泣かれたなんて失敗もあったけどねー」
「そういう女の人のこと、世間では通い妻って言いませんか」
「いやーん♪ 妻なんて照れちゃうなー!」



「でもねー、ソコまであたしがプロデューサーのお世話しちゃう理由って、
 プロデューサーが心配ってのも勿論あるけど……」
「……けれど?」

「なんかね。忙しすぎてプロデューサーが構ってくれない寂しさを、
 必要以上に世話を焼くことで、埋め合わせてるだけなんじゃないかなー、なんて思うんだよ」



「だってさー泰葉ちゃん。プロデューサーも、いいオトナなんだから。
 自己管理ぐらいキチッとするべきもんだよね。それもプロデューサーの仕事のうちだよ。
 そうしてくれて、初めてあたしたちは、安心して仕事ができるんだから」
「アイドルからしても、プロデューサーの体調が優れないのは、イヤですね」
「そーでしょう?」

「でも、あたしは色々手を出してる内に、プロデューサーの衣食住まで把握するトコまで行っちゃったよ。
 “あたしのプロデューサーは口で言っても聞かないから”とか、言い訳して」
「言い訳、ですか」

「そーだよ。プロデューサーが仕事にかまけて寂しいもんだから、
 それを埋め合わせるために、必要以上にプロデューサーの生活に入り込んでるの、あたしは」
「……そういうもの、でしょうか」


「だいたいさ。プロデューサーと付き合っちゃってるあたしが言うのも可笑しな話だけど、
 カレシとして付き合う相手の職業としては、プロデューサーってサイアクに近いよね」
「いっ、いきなり何を言い出してるんですか志希さんっ」



「だってさぁ……仕事は不規則、しかもとんでもなく忙しいから、あんまり構ってくれない。
 他の女の子――しかもかわいいコとか、美人を――追っかけまわすのが仕事だし」
「…………」
「どんなにカッコよくても、優しくても、いいニオイがしても、これじゃあねぇ」



「……ナニ、岡崎センパイも思い当たるフシがあるんでしょーか?」
「私のことは、今はいいんですっ……!」
「ふふーん♪」



「……志希さんは」
「んー?」
「自分のプロデューサーさんが担当している他の子とか、気になったりしますか」
「……最初は、すごく気になっちゃってたし、今でも少しあるけど、そこは例えば――」


――
――――
――――――



『プロデューサー、どうしたの? 浮かない顔してるけど』

様子を見ようと、あたしがプロデューサーのデスクがある部屋に行くと、
プロデューサーは浮かない顔で受話器を置いたところだった。



『……ははぁ、愛海ちゃんったら、久しぶりにやらかしちゃったかぁ……
 最近あのコ大人しかったから、油断してたねー?』

どうやら、愛海ちゃんの抑圧されていたリビドーがほとばしって、
それが某大物アイドルのお山に向かってしまったらしい。

『まったく、あんなコをアイドル事務所に入れたヒトの顔が見てみたいよね♪』

プロデューサーはガックリとうなだれた。
もう電話の時点で、向こうさんからコッテリやられちゃったみたい。

『もープロデューサー、そこは……
“愛海をこの世界に引き入れたのはお前だろ!”ぐらいツッコんでよー』

あたしが前に愛海ちゃんの悪癖を“抑え込む”とか、
調子のいいコト言っといて、このザマですよ。
あーあ、文香ちゃんに“躾がなってないんじゃないですか?”とかチクチクされるなぁ。



『愛海ちゃんも、お山への執念がちょーっとヘンタイなだけだし、
 基本いいコだから、惜しいなぁ……よし!』

あたしは、悩めるプロデューサーの手を取った。

『あたしも、プロデューサーと愛海ちゃんと一緒に、アタマ下げに行くよ!』


――――――
――――
――


「……あの、志希さん」
「なんでしょーか? 岡崎センパイっ」

「それで、しれっとプロデューサーさんたちに着いて行ったんですか」
「うん♪ 元はと言えば、愛海ちゃんにイケないコト教えちゃったの、あたしだし!
 愛海ちゃん純粋だから感激してたよー。残念ながら手のわきわきは止まってなかったけど」

「つまり、プロデューサーさんが他のアイドルにかかずらっている時にも、
 何かと理由をつけてついて回って“あたしのモノ♪”アピールしてるわけですね」
「えー、あたしはただ、プロデューサーの負担を少しでも減らしてあげようと……」
「…………」



「そのぐらいの打算あったほうが、むしろカワイイでしょう♪」
「うわぁ、開き直ってきましたね」


「でも、志希さんはそこまで芸能界へ深入りしているのに、アイドル辞めちゃったら……
 とか、考えてるんですか? どうも話が咬み合わないんですが」
「それは……プロデューサーとあたしが、こうやってココでシゴトして、
 こーゆーカンケイでいられるの、向こう数年がせいぜいだろうから、ね」

「それは、少し悲観的では?」
「おやおやー? 偉大なる岡崎センパイらしくない見方ですねー」
「何が言いたいんですか」



「だってさ。あたしや泰葉ちゃんの担当プロデューサーみたいに、
 アイドルのそばに立って、最前線で営業かけてるプロデューサーなんて、
 20代ばっかりで、30がらみで大ベテラン扱いでしょ」
「そういえば、ここのプロデューサーさんって、みんなそのぐらいの……」

「30過ぎたら、スタドリやエナドリでカラダを騙せなくなるってコトよ。
 そしたら、別の職種に転向するか、最前線からフェードアウトするか。
 それで、あたしもオシマイ。あたし、今のプロデューサー以外とアイドルやるつもりないから」




「あたしが、プロデューサーの世話焼いたり、シゴト手伝ったりしてるのは、
 その潮時が少しでも遅くなればいい、って姑息な対症療法なんだ」



「……志希さんは、アイドルとしての自分に、もう見切りをつけてしまっているのですか?」
「こんなやり方、続くわけないんだよー。なのに、あたしのプロデューサーったら。
 よっぽどプロデュースに夢中なんだね。向こう見ずなぐらい今に全力投球」

「プロデューサーさんの仕事が過酷、というのは頷けますが。それは私達のためでもあるんですよ。
 アイドルは上るも落ちるもあっという間ですから、それを他人事みたいに言うのは」
「……だったら尚更、あたしが考えないと。引退したあとのコト」

「それで、“アイドル辞めちゃったら、どうしようかなー”って考えるんですか」
「うん。ラッキーなコトに、この事務所ってつかさちゃんとか、晶葉ちゃんとか、
 オモシロいヒトいるから、手を組んで商売しようか? なんて話してる。
 力を合わせれば、今よりもとんでもないモノを作れるだろうしね♪」



「……志希さん。やっぱりそれ、どうかと思いますよ」



「私達アイドルのために身を削ってくださるプロデューサーさんに対して、
 自分はサッサと見切りをつけて、次のやりたいこと考えてるとか、失礼ではありませんか」
「ホントに言ってくれるねぇ、泰葉ちゃん」

「志希さんは、自分のプロデューサーさんに面と向かって言えますか?
“キミがプロデューサーとして燃え尽きたら、あたしが養ってあげるよ”なんて」

「言えるよ! 身も蓋も取っ払えば、そーゆーコトだもん。
 まぁ“小娘が生意気言ってんじゃないよ”って一蹴されるだろうけど」



「あたしをアイドルとして輝かせてくれるプロデューサーもスキだけどね……
 あたしはプロデューサーから、アイドルってゆー新しくオモシロイ世界を教えてもらったんだから、
 あたしもお返しに、プロデューサーに何か一つ、そーゆー世界を教えてあげたい!」



「逆にさ、泰葉ちゃんはプロデューサーに言えるのかな?
“私は全身全霊でお仕事しますから、どうかいつまでも貴方にプロデュースしてもらいたいです”って」

「そのぐらい、言えます……というより、言ったことありますよ。
 私のプロデューサーさんは、私にこの世界の喜びと楽しみを教えてくれました。
 それは、プロデューサーさんの熱意の為せる業です。だから、私もそれに応えたい」




「泰葉ちゃん。一つ、思ったんだけどさ」
「……何でしょうか」

「あたしたちの言ってること、うわべは逆に聞こえるけど」
「逆に、聞こえるけれど?」



「……どっちもプロポーズみたいだね♪」
「なっ……!」


「いやー岡崎センパイの赤面、ごっそさんだよー!
 この一瞬だけで向こう三日は生きていけるね♪
 泰葉ちゃんのプロデューサーが頑張れちゃう理由、実感できたわー」
「顔見られたのは仕方ないですけど、いっ、言いふらすのは止めてくださいよっ!
 志希さんはマキノさんの前科があるんですからね!?」
「前科って、ひどーい♪」



「まぁ、それはそれとして……ごめんね、あたしの言い方は良くなかったわ。
 一生懸命アイドルやってるのに、目の前でアイドルを腰掛け扱いしちゃ、カチンとくるよね」
「それなら、私も……自分がアイドルしかない、って思ってるから、
 科学の分野でも生きていける志希さんが羨ましくて、つい言葉にトゲが……」



「ま、おあいこってことでさ……で、改めて。言える? 今、あたしと言い合ったセリフを」
「それは……実は、そこまでハッキリとした言葉を、プロデューサーさんに言ったことは……」
「言っちゃいなよー。あたしは、泰葉ちゃんもっと自信持ったらいいと思う」



「だってアイドルは、ヒトのココロを引きつけるエキスパートでしょう。
 その素質がある、って太鼓判を捺してくれたのは、ほかならぬプロデューサー」

「それなら、泰葉ちゃんがプロデューサーのココロを射止められる、と信じてもいいんじゃないかな♪」


(おしまい)

キリがいいので、今度こそ終わります。
お付き合いいただきどうも。

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