希「穂乃果ちゃんって可愛いよね」 (117)

絵里「き、急にどうしたのよ。希?」


昼休み、希と飲み物を買いに行く途中、ふと廊下の窓から外を窺うと穂乃果たち3人がもう昼食を済ませたのかベンチで楽しそうに話をしている。

少し意味深な表情な希。そこの顔から、いつもの希のいたずら心と察した私は、もうすっかり慣れた対応で―――


絵里「そうね。さすがは大人気スクールアイドルμ’sのリーダー」


冗談も交えて完璧に返した私に、きっとうろたえた反応を期待している希は不満な顔で・・・ってあれ?


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希「ぷぷっ。え、エリチ…ドヤ顔でそんな事……ぷぷぷっ」


とうとう笑いを堪えられなくなり、もう遠慮なく笑う希。…私、そんなドヤ顔なんてしてたかしら…

あまりに笑い、私の真似まで始めた希につい私もムキになって結局は希のペースに―――

凛に知られたら絶対に真似されるわね。

本当は早くこの話題から逃れたかったから結果オーライかしら。

『穂乃果ちゃんって可愛いよね』脈絡なく言われたその言葉に内心ドキッとしたのは

多分、偶然穂乃果が目に入った時に言われたから―――

―――1,2,3,4,5,6,7,8

海未の刻むテンポに合わせてダンスの練習に励む私たち。


海未「凛、走りすぎです。もっと皆と合わせて!」

凛「はい!」

海未「ことりは遅れてきています、頑張って!」

ことり「はい!」

海未「穂乃果、振り間違えてますよ!」

穂乃果「はい!」

―――――


夏の屋上、皆が汗をかきながら、新しいダンスを覚えるのに必死で動く。

こう暑いと、せっかくの日焼け止めクリームもすぐに汗で流れて全く意味がないんじゃないかしら。


海未「一旦休憩にしましょう。皆さん、水分をしっかりとってください」


海未の一言で練習中の張りつめた雰囲気が一転、全員が一斉に屋上唯一の日陰へ雪崩れ込む。


穂乃果「あっつーい!」

凛「もう動けないにゃ~」

ことり「はい、穂乃果ちゃん凛ちゃん。スポーツドリンクどうぞ」

穂乃果「ことりちゃんありがと~。はぁ~もう暑すぎて限界だよ―」

海未「穂乃果!振り付け途中から全然覚えてないでしょう!」

穂乃果「海未ちゃ~ん今は勘弁して~」

ことり「あ、海未ちゃんも飲む?はい、どうぞ」

海未「こここことり!?こここれここれは……ささささささっきあなたが飲んでいたやつでは―――」

ことり「あっごめん、海未ちゃん。嫌だった?すぐに新しいの持ってくるね。ちょっと待ってて」

海未「いえ…そ、そうではなく間接キスに―――」

凛「海未ちゃん顔真っ赤にゃー!」

にこ「海未、あんた中学生男子じゃないんだから」

真姫「正直、穂乃果の言うとおりよ。それに肌だって焼けしちゃうしどうにかしたほうがいいんじゃない?花陽もかなりキツそうだし」

花陽「う…うん、結構きついかも」

海未「確かに、ちゃんと対策は取っているとはいえ、このまま屋上で練習するのも限界がありますね。絵里、希、どうにかなりませんか?」

希「う~んそうやね~、体育館はもう他の部活でいっぱいやし、講堂も毎日練習に使わせてもらうのは難しいんやない?エリチはどう思う?」

絵里「……」

希「おーい、えりちー?」

海未「絵里、具合でも悪いのですか?」

―――

絵里「え!?な、何かしら」

真姫「え!?じゃないわよ!話聞いてなかったの?」

希「穂乃果ちゃんの方、ジィーーーーっと見てどうしたん?」

絵里「えええぇ!?べ、べつに穂乃果の方なんて、みみ見てないわよ!?」


しまった、こんなに動揺してたら、また希の恰好の餌食に

―――やっぱり、あの顔は面白い物を見つけた顔

海未「具合が悪いのでしたら、保健室に行きますか?」

絵里「だ、大丈夫よ。それで、何の話だったかしら」

希「エリチが穂乃果ちゃんを―――」


――――ピピピピピピピピ

タイミングよく休憩終了のタイマーが鳴り、練習が再開された。

あのまま会話が続いてたら確実に希のおもちゃにされるところだったわ。

でも……私、そんなに穂乃果の事を見てたのかしら?

その後の練習は軽い運動にストレッチで今日は解散ということになり、
それぞれが帰路についた。


穂乃果「練習も早く終わったしどこか寄って行こうよ!」

海未「まだ時間もありますし…そうですね、行きましょうか」

ことり「それなら新しくできたクレープ屋さんに行ってみない?」


3人は当然のように一緒に帰り寄り道をしていく、そんな関係が少し羨ましい。
穂乃果、海未、ことりの幼馴染3人組は小学校でも、1学年上の私や1学年下の凛と花陽の
耳にも届くほど目立つ存在だった。もっとも目立つ原因は主に穂乃果だったみたいだけど。

そんな穂乃果と初めて話したのは実は小学校の頃、運動会の借り物競走で
穂乃果が応援席で座っていた私の手を引いた事がきっかけだった。

ほのか「1位とったぁ!」

絵里「はぁはぁ、急に手を引っ張ったら危ないじゃない」

ほのか「ごめんなさい、でもおかげで1位とれました!」

絵里「もう、いったい借り物って何だったの?」

ほのか「きれいなおねえさんだよ!青い目とか金色のかみとかすっごくきれいだってずっと思ってたんだ!」


――――

希「エリチ?エリチー!」

絵里「はっ!ど、どうしたの希?」

希「もう、また穂乃果ちゃんの方見て固まってたやろ
…ええの?エリチは穂乃果ちゃん達と行かなくて」

絵里「別にいいわよ。今はクレープを食べたい気分じゃないし」

希「そうやなくてエリチが気になるのはクレープやなくて穂乃果ちゃんやろ?
最近ずっと穂乃果ちゃんの事見つめてるし」


最近ずっと?そんなわけない―――と思っても、確かに思い返してみれば
穂乃果をよく見かけたような…

絵里「ねぇ希。私、そんなに見てたの?」

希「にこっちも心配してたよ?最近、ぼーっとしてる事が多いって」

にこに心配されるほどなんて、でも穂乃果は昔から目立つ存在で近くにいれば
どうしても目に入ってしまうもの―――

希「エリチ気がついて無いようやけど、穂乃果ちゃんが好きなんやない?」


――――


『私は穂乃果の事が好き』これが希に指摘されてからずっと考えて出した私の結論だった。

気になりだしたのは私がμ’sに入ってからだったと思う、それまでは学校の統廃合の危機、
その阻止のための活動も空回り、そんな時に出てきたμ’sにムキになって
意地を張っていた頃の私。

対して穂乃果はそんな私とは正反対で明るく前向き、周りにいつも人がいる。
たまに無茶をして空回りもするけど、持ち前の熱い気持ちで乗り越えてしまう
私にない物をたくさん持っている穂乃果に憧れていたのかもしれない。


穂乃果「あっ!絵里ちゃーん!絵里ちゃんも今帰り?」

絵里「え…ええ、生徒会の仕事が残ってたからね。今日は海未とことりは一緒じゃないの?」

穂乃果「実は…夏休みの宿題が結局終わらなくて、居残りで宿題の
残りやってたんだよねぇ……」

絵里「ちょっと穂乃果!あれだけちゃんと終わらせておきなさいって言ったじゃない、
リーダーなんだからしかっりしてよね」

穂乃果「だってぇ~練習とかお店の手伝いとかあったし…」

絵里「はいはい、言い訳はいいから早く終わらせるのよ」


どうしても穂乃果を意識して、少し説教じみてしまう。

普段どうやって話していたのか必死に思い出そうとしても
無意識やっていたことを思い出せるはずもない。

とにかく平常心よ、絢瀬絵里。

穂乃果「そうだ!今日は頭使ってすっごく疲れたし、甘いものでも食べに行こうよ!
そうすればきっとやる気も出て勉強も捗る気がするし!」


苦手な勉強の後で不満気だったのにもう楽しそうな表情。

こんな風にころころ変わる表情はまるで、遊んで欲しそうに短い尻尾を精いっぱい振る

子犬みたいで、そんな穂乃果をずっと見ていたくなるくらい可愛くて―――



絵里「ごめんなさい。これから用事があるから行けないわ」


穂乃果「そっかぁ~。残念……じゃあ、ことりちゃんでも誘ってみようかな」

絵里「それじゃ、私は帰るわね。また明日ね、穂乃果」

穂乃果「うん、ばいばい絵里ちゃん。また明日」


にっこり笑って手を振る穂乃果に背を向けて歩き始める。

きっとまだ手を振ってくれているのだろうけど、嘘をついてしまった私は

今どんな顔をしているのか分からなくて、もう一度穂乃果に顔を向ける事が出来なかった

はぁ…私の悪い癖がまた出ちゃったわね。つい嘘をついてしまった自分に凄く腹が立つ。

本当は穂乃果と2人で寄り道したかのに、もっと話していたかったのに―――

そう、私は穂乃果とこれ以上の仲になる事を望んでなかった。

私の気持ちはずっと心の奥に鍵を掛けてしまっておくべきものなんだと感じて……

だから告白も絶対にしない。するべきじゃないと私はそう思っていた。

自室のベッドに横になり少し休憩しながら自分の考えをこうしてまとめていると…あれ、

よく考えれば穂乃果を避ける必要なんて無かったかも…ちょっと後悔。


絵里「とにかく、明日からはいつも通りでいくわよ」


―――

夏休みが終わってからもうだいぶ経ち、長引いた残暑もだいぶ和らぎ

街の木々も秋色に染まり始めた。あれからどうしても穂乃果を目で追ってしまう事

以外は今までと変わらずにいれてると思う。

好きな人を見つめてしまうのは仕方ない事よね?そう自分に言い訳をして


希「本当にそれでええの?」


それでも希にはすべてお見通しだったみたいで、放課後、私は部室に

呼び出された。希の前では隠し事なんて出来ない私は全てを話すことにした。

希は黙って私の話を聞いてから、そう口を開いた。

絵里「ええ、私なりにしっかり考えてみた結論なの。」


それ以降、希は何も言わないでじっと私の事を見つめる。希のこんな顔は

今まで見た事があっただろうか―――

私は本当に全て見透かされているようで、希と目が合うとつい目をそらしてしまう。

ふと、希がドアの方へ動き出し、いつものいたずらっぽい笑みを浮かべると


希「うーん。難しい問題やね、にこっちはどう思う?」


え?にこ?どういうこと?

一気にドアを開けると『ドンッ!』とドアが何かにぶつかる音と共に『痛っ!!!』

という声がした。

急いで廊下の様子を見るとそこには、にこが尻もちをついておでこをおさえていた。


にこ「ちょっと!何するのよ希!痛いじゃない!」

希「にこっちこそ、こんな所で何やってたん?」

にこ「そ…それは、そのぉ―――」

絵里「ちょっとにこ!私たちの話聞いてたの!いつから聞いてたの!」


こんな話を他の誰かに聞かれたと思うと一気に顔から血の気が引いて気が気じゃなくて
その場でにこへまくしたてる。

にこ「痛い!痛い!はなしてよ!絵里!」

希「えりち落ち着いて、とりあえず部室の中に入ろう。いつまでも廊下にいたら誰か来ちゃうよ」

絵里「え、ええ……」

希の言葉で我に帰ると、廊下の真ん中でにこに馬乗りになりそうな状態の自分と

怯えた表情のにこがそこにあった―――

部室は凍てついた空気で、3人はお互いに少し離れた位置に座り誰も口を開こうとしない

私はといえば顔も上げる事が出来ず床をずっと見つめている

この空気の中に身を置くのが当事者ながら凄く辛い……


希「それで、にこっちはどこから聞いてたん?」

にこ「え?話?にこなんのことか全然わかんな~い」

希「にこっち」


にこ「わ、分かったわよ。その……絵里が…穂乃果を…
す、好きだって言ってたところからよ」


最悪だわ、それって全部聞かれてたって事じゃない。

希「つまり全部聞いてたって事やね」

希「そもそも今日は部活休みやったのにどうして部室に来たん?」

にこ「アイドルDVDを持ち帰ろうと思って取りに来たのよ。そうしたら
絵里の声が聞こえて」

希「にこっち、タイミング最悪やね…」

にこ「絵里、勝手に話を聞いて悪かったわね。今日聞いたことは
誰にも言わないし、すぐに忘れるから安心しなさい」

いつのまにか私の前にしゃがみ、心配そうに顔を覗いてくるにこ。

そうだった、にこは素直じゃないけど悪い子じゃない。仲間思いで

人を傷つける事なんてしない、大切な仲間じゃない。……素直じゃないけど。

絵里「ええ、ありがとうにこ。私こそごめんなさい」

希「そうや!にこっちにも相談に乗ってもらえばいいやん!」

にこ「ええぇ!」

絵里「そうね、よろしくね。にこ」

にこ「はぁ…しょうがないわね。わかったわよ」

―――さっそく、次の日の放課後の練習終りに、にこにも話を聞いてもらうために3人で部室に集まった

にこ「ちゃんと話を聞いた限りだと、絵里は告白はしない、穂乃果の事は
諦めるって決めてるのよね?それってもう相談も何もないんじゃないの?」

絵里「た、確かに…気がつかなかったわ」

希「うちは、そう思えないんよ。」

希は少し怒ったような口調で話し始める。何を言ってるのよ、私が

そうするべきだって思うんだからそれでいいじゃない。


希「エリチは本当に諦められるの。それで絶対に後悔しないって言える?」

絵里「どうしたのよ希。」

希「うちにはエリチが無理してるようにしか見えない。エリチは本当はどうしたいの?」


『もちろんよ。後悔なんてしない』そう答えようとしても言葉にならない…

なによ、なんで希に怒られなきゃいけないのよ。意味がわからないわよ。

そんな言葉が頭の中をぐるぐる回って―――なんで涙まで出てくるのよ。


にこ「絵里、あんたμ’sの事……ことりと海未の事を気にして
諦めるって…そんな事言ってるんでしょ?」

なによなによなによなによなによ、なんでにこまでそんな怖い顔してそんなこと言うのよ。

にこは味方じゃなかったの?

にこの言う事は間違ってるわ、全然的外れよ―――


絵里「なによ、にこの言う通りよ!だからなんだって言うのよ!!!だって…だって!
こうするしかないんだから仕方ないじゃない!!!!」

もう自分でも何を言っているのかわからない。

つい怒鳴って部屋を飛び出してしまった。鞄も置いて来ちゃったし、

でも今更取りに行けないからもうこのまま帰っちゃおうかしら。

喧嘩なんてするつもりなかったのに、2人だってきっと私の事を思って

言ってくれたに違いない。

こんな気分でも穂乃果の笑顔を見ていればすぐに晴れるのに。

穂乃果に会いたい、穂乃果と話したい。この道を曲ったら穂乃果がいたらいいのに


穂乃果「もしもし、絵里ちゃん?どうしたの?」

絵里「え?」

穂乃果「え?って絵里ちゃんからかけてきたんだよ?」


気がつくと、携帯電話を耳にあてていた。

まさか無意識に穂乃果に電話していたなんて、どれだけ穂乃果の事が好きなのよ

やっぱり希の言う通り―――

絵里「あ、明日の練習なんだけど私は休むってみんなに伝えてもらえるかしら?」

穂乃果「うん、それは良いけど、絵里ちゃん声に元気ないけどどうかしたの?」

絵里「少し具合が悪くて、それで明日の練習も休もうと思ったの。

でも安静にしてればすぐ良くなると思うから心配しなくても大丈夫よ」

穂乃果「そっか…じゃあみんなに伝えておくね。」

絵里「ええ、それじゃあよろしくね。」


今すぐ会いたい。そばにいて欲しい。油断したらそんな言葉を

ポロポロこぼれてしまいそう―――

『後悔しないっていえるの?』『諦められるの?』希に言われた言葉が

鋭く胸を突きぬけてそこからは、何もせずに諦らめるなんて出来ない、

穂乃果の一番近くに居たい。

そんな感情があふれてきても今はまだ戸惑う事しかできないわ。


―――次の日は希ともにことも気まずいまま、話をすることもなく1日を過ごす。

忘れていった鞄は机の上に置いてあった。

予定通り練習には顔を出さずに生徒会室で1人、自分の仕事を黙々とこなす。

少し休憩、1人で静かなところにいるとどうしても考え事をしてしまう。

『絵里、あんたμ’sの事……ことりと海未の事を気にして、諦めるって

…そんな事言ってるんでしょ?』そう、にこの言う通りよ。ことりも海未も

いつも穂乃果と一緒にいる、特にことりは穂乃果を恋愛対象として見ているのは

みんな気が付いている。きっと海未もそう。

なんだか気が滅入ってきたわ…さっさと終わらせて帰りましょう。

作業も一段落し帰りの支度をしていると袴姿の海未が訪ねてきた。

正直、海未とはあまり顔を合わせづらい……


海未「あの、お話があるのですが、少しお時間よろしいですか?」

絵里「ええ、どうしたの?っていうか袴?」

海未「あっ、今日はずっと弓道部で活動していたのでμ’sの練習は出てないんです。
あらかじめ言っておいたはずですが?」

絵里「そうだったわね(覚えてないわ…)」

海未「それで、最近絵里の様子が気になっていたのですが
さっき今日は絵里が練習休んだと穂乃果からメールがありまして、気になりましたので」


穂乃果ったら放課後になってから伝えても遅いと思うのだけど

…さては伝えるのを忘れてたのね

絵里「そう、心配掛けて悪かったわ。少し具合が悪かったから―――」

海未「希と何かあったのですね?それで顔を合わせづらくて休んだのではないですか?」

絵里「え!?希から聞いたの?それともにこ?」

海未「いいえ、全て私の憶測ですよ。にこも絡んでいたのは予想外ですが」

墓穴を掘ってしまった事に気が付く、普段の私ならこんな事はないのに―――

海未「詳しい事は聞きません。しかし最近のあなたは、ことりと同じような目をしていて
なんだか放っておけないのです。」

絵里「海未――私、変わりたくないの、でも変わらずにはいられなくて…」

海未「もし、私たちの事を気にして悩んでいるのでしたらそんな必要はないですよ。

何かが変わってしまったとしても変わらない物だってきっとあるはずです。

私はその変化を受け入れるくらいの勇気は持ち合わせているつもりです。

きっとことりも…」

――――

絵里「今日は心配して来てくれてありがとう」

海未「いえ、困った時はお互い様ですから。」

(それに、絵里には何か私に近い物を感じますから…)
海未は最後に自分に呟くように小さな声でそう言うと笑顔で

海未「明日はちゃんとサボらずに練習に来てくださいね。では、私は着替えがありますから行きますね」

海未と話をしてからずっと気持が落ち着かなかった。帰宅途中も家に着いてからも、

海未の言葉と穂乃果の事が交互に浮かび上がる。そういえば今日は穂乃果に会っていないな。

あーもうっ!これ以上考えるのはやめっ!今日はもう寝ましょう。



翌日も結局2人とはあまり話せなかった。海未に言われた通りμ’sの練習には

出たけれど、私たち3人の様子がおかしい事はみんな感じ取っているみたいで

いつものようにはなかなかいかない。

こんなぎくしゃくした空気になるのが怖くて穂乃果への気持ちは閉まっておこう

と思っていたはずなのに、結局こうなってしまうなんて…これは全て私の責任ね。

早く希とにこと仲直りしたい。

そう思っていてもどう話しかけていいのか分からなくて、既にもう1週間がたとうとしている。

今日も挨拶と最低限の会話程度で1日が終わろうとしている。

練習もないしこのまま帰ってしまおうかしら……

穂乃果「絵里ちゃん、もう帰るの?もしよかったら遊びにいかない?」

絵里「うーん。ええ、いいわよ」

教室を出ると待ち構えていた穂乃果から遊びに誘われた。

こんな気分じゃなければ飛びあがるくらい嬉しい事なのに…

私は一旦考える振りをしてから、快諾する。


穂乃果に引っ張られてゲームセンターや洋服屋さんにアイドルショップと

回って、カフェで休憩をとる。


穂乃果「今日は思いっきり遊んじゃった。絵里ちゃん楽しかった?」

絵里「ええ、私も久しぶりに思い切り遊べたわ」

これだけ歩くとさすがに疲れたわ。

でも穂乃果と2人でいる時間は本当に楽しくて、あっという間に時間は過ぎていく。

穂乃果「よかった~。最近の絵里ちゃん元気なかったから、少しは元気出たかな?」

絵里「ありがとう、穂乃果」

心配してくれた事が嬉しくて顔が少しほころぶ

穂乃果「やっぱり、絵里ちゃんに悲しそうな顔は似合わないよ。
希ちゃん達と喧嘩してるから元気なかったんでしょ?」

絵里「ええ、仲直りしたいのだけどなんて声を掛ければいいのか…」

穂乃果「大丈夫だよ!希ちゃんもにこちゃんも絵里ちゃんと
仲直りしたいって言ってたよ!だから絶対大丈夫!」

絵里「そうなの?」

穂乃果「うん!海未ちゃんとことりちゃんが2人から直接聞いたから間違いないよ!
―――あっ!これは内緒だった……」

話を聞くと、今の状態をいい加減見かねて穂乃果は私、海未は希、ことりはにこと

話をして間を取り持とうとしていたらしい。

こんなに心配してくれていたなんて―――

絵里「穂乃果、今日は本当にありがとう。今の話を聞いて希達に
ちゃんと謝ろうって決心がついたわ」

外に出るともうだいぶ暗い、数日前より更に強くなった秋の色と、

少し肌寒い風は今年の夏も完全に終わったのだと実感させる。

絵里「ねぇ、穂乃果。手……つないでもいいかしら」

穂乃果「うん、いいよ。」

穂乃果の手の温もりがしっかり伝わる。これで穂乃果と手をつなぐの2回目だって

穂乃果は気が付いているのかしら―――

絵里「私たち小学生の時に話した事があるって知ってた?」

穂乃果「運動会の借り物競走の時でしょ?絵里ちゃんも覚えててくれたんだね。
えへへ、嬉しいな」

そう言ってはにかむ穂乃果を見ていると、心が温かくなる。

てを放すのが名残惜しい。冷たい風から身を守るようにほんの少しだけ寄り添って

ずっとこのままでいれたなら



――――帰宅して、まずやる事は決めていた。

絵里「でも、なんて言おうかしら―――もうそんな事はあってから考えればいいのよ!」

もう何も考えず携帯を手に取り用件だけのシンプルな文字を打つ。さすがに電話ではまだ話せないからメールに頼ることにした。



『明日の12時に部室へ来てくれないかしら? 絵里』



約束の日、家に居ても落ち着かなくて予定より1時間早く家を出る。

さすがに早く着き過ぎるという心配も部室に着いてみれば杞憂に終わった。

絵里「希!?まだ約束の時間より1時間近く早いけど…」

希「なんだか落ち着かなくって…」

そこからなかなか会話にならない、やっぱりちゃんと言いたい事考えてくれば

よかった、少し不安になった所でにこが部屋に入ってくる。

にこ「あんたたちいたの!?早く来ちゃったし静かだったから
誰もいないと思ったじゃない」

希「にこっち、ずいぶん早く来たんやね」

にこ「それはっ……なんだか落ち着かなくてね、妹たちの面倒も

お母さんが見てくれてるから、特にやることもなくて


あれ?にこって前お母さんの事をママって呼んでいたような気がしたのだけど?

にこ「……っていうか、私よりも早く来てたあんたたちはなんなのよ」


絵里「まぁ……だいたいにこと同じよ」

にこ「そ、そう。そんな事よりそろそろ本題に入ったらどうなの?
これで全員そろったんでしょ?」

希「そうやね」

そう、今日はただ雑談をしに来たわけじゃない。正直ちゃんと話せるか

自信は無いけど

絵里「希、にこ、この前はごめんなさい。本当は直ぐに謝りたかったのだけど
なんて声掛けていいか分からなくて、2人の事避けて、本当にごめんなさい」

絵里「二人に言われた事、身にしみて実感したの結局私は諦める事なんてできなかったし
後悔しないなんて言えなかった。にこに言われたことも全部的を射ていたわ」

私が頭を下げると2人もほぼ同時に深々と頭を下げる

希「うちもあの後にこっちと反省したんよ。
エリチが嘘をついてるってすぐにわかったから、うち……ごめんなさい」

にこ「あんな偉そうな言っておいて絵里がどんな思いで諦めるなんて言ったのか
もっと考えるべきだったわ。そんなこと簡単に言える事じゃないもの
…本当に悪かったわ」


にこは声を震わせてつっかえながらも必死に言葉を紡ぐ。希の目も涙で潤んでいる。

つられて私まで―――

絵里「2人とも……それでね、もしよければもう一回相談に乗ってもらえないかしら、
穂乃果の事で―――」

希「うん……」

にこ「仕方ないわね。何でも言ってみなさい」

2人が頷いてくれた事が本当にうれしくてたまらない。

これじゃ最後まで泣くのを我慢できそうもないじゃない。

絵里「―――2人ともありがとう…」

希「もう、エリチ。ないたらアカンよ」

絵里「な、泣いて無いわよ!」

にこ「はいはい、それで相談って言うのはなんなの?」

ここからは本当に無計画、何も考えてなかった。とにかく私の思いを言葉にしながら
2人に伝えたい。そう思っていても言葉にならない


絵里「――――私は、私は穂乃果の事が好きで…それが今はっきり分かる。
でも正直まだ…告白するかどうか決められないの。ねぇ、私、どうしたらいいのかしら?」

それから、海未に言われた事、穂乃果たちが心配してくれていた事、

私が気にしている事全てを2人に話した

希「エリチは告白しないで諦められる?後悔しない?」

絵里「諦めるなんて無理よ!こんなに好きなのに」

希「ならエリチのしたいようにするのが1番いいとうちは思う」

にこ「結果がどうであっても、μ’sがどうにかなることもないし
海未の言う通り、ことり達だって分かってくれるはずよ。
穂乃果たち3人の関係だってそんなやわなものには見えないもの」


2人にそう言われると臆病になっていた私に凄く勇気がわいてくる。


絵里「2人ともありがとう。私、告白してみるわ」

にこ「ええ、そうしなさい。応援してるわよ」

希「……」


家に帰り、そのままベッドに体を預ける。

絵里「告白か……」


穂乃果に伝えるための言葉を探してもなかなか思い浮かばない。

スピーチなら何度もやっているからなれているのだけど、

ただ一人の為だけに向けて自分の気持ちを打ち明けるとなると

全く別のもなのだと実感する。

―――


にこ「で、一体いつになったら穂乃果に言うのよ!あのとき告白するって言ったでしょ!」

絵里「それは…そうだけど―――」


希「まぁまぁにこっち。そんなに焦らせたらあかんよ」

にこ「でも希、あれからもう1カ月よ?もうこれ以上は」

絵里「でも、いざ告白しようとするとどうしても躊躇ってしまうのよ……」

にこの言う通り、いつまでも告白を伸ばしていても何も変わらない。

この1カ月で私の意識は確かに変わったと思う。出来るだけ穂乃果と

一緒にいる時間を作ろうと積極的に話しかけてきた。一緒に帰ることも多くなった

告白のチャンスも多分たくさんあったのだけど―――

まだ、どうしても穂乃果になんて言えばいいのか思い浮かんでこない。

希「どうして躊躇ってしまうん?エリチの話ちゃんときかせて?」

にこ「まったく、絵里ってこんなにめんどくさい人だったっけ?
言ってみなさいよ。ちゃんと聞いてあげるから」


こんな私に優しく声を掛けてくれる2人の優しさが嬉しくて、

そんなの顔を見るともう我慢なんてできない。堪えていた涙が

1粒1粒頬を伝って落ちてゆくのがはっきり分かる。

これ以上情けない所を2人に見せたくなくて黙って床を見つめている私を

2人も静かに待っていてくれている。

絵里「……私、告白するって決めてから穂乃果になんて伝えようかずっと考えてたの。
でも何も浮かばなくて、どんな言葉も違う気がして、そうしてるうちに
フラれるのが怖くなって、また思っちゃうのよ『もうこのままでいいか』って」


希「でも……エリチは前に進みたいんよね?」

絵里「ええ…」

希「でもそれだけじゃないんよね?」

絵里「それは…」

ギュッと手を握ってくれた希。

やっぱり希はすべてお見通しね、隠し事なんて出来ない。

それはいつも私の事をよく見ていてくれるって証拠。

希も私につられたのか、目を潤ませている


絵里「常にね、頭の片隅にあるの、ことりと海未の事が。
なんて言えば、2人は納得してくれるのか…
どんな理由があれば2人は許してくれるのか…」

にこ「絵里……」

絵里「3人で仲良くしてるのを見ていると凄く羨ましかった。
楽しそうな穂乃果を見て思うの『私はあの2人以上の存在になれるのか』
って、不安になって―――本当はあの2人に嫉妬してたのよ。
大切な仲間とか言っておいて最低よね、私…」


にこ「しっかりしなさい絵里!この前、海未に言ってくれたんでしょ?
『私たちはそんなに弱くないって』なら、信じてみなさいよ。大切な仲間の言葉を」


ギュッと手を握ってくれた希。その手は少し震えている。


希「エリチ、大丈夫や、みんな良い子やしちゃんと分かってくれる。
だから、穂乃果ちゃんに伝えよ?エリチの素直な気持ちを」


2人の言葉は温かくて優しくて私に勇気をくれる。


絵里「うん、今週穂乃果に告白するわ。2人ともありがとう。大好きよ」

――――

コンコン

亜里沙「お姉ちゃん?」

絵里「亜里沙!?びっくりするじゃない、ノックくらいしてよ」

亜里沙「何回もしたよ、でも全然返事なかったけど……」

絵里「えっ、そうだったの気がつかなかったわ。ごめんなさい」

時計を見るともう20時を回るところだった。
もうこんな時間なの!?3時間ちかくもずっと考えて結局答えは何も出ない。
少し頭でも冷やしてこようかしら。

亜里沙「お姉ちゃん、こんな時間にどこか行くの?」

絵里「少し外に出てくるわ。直ぐに戻るから大丈夫よ」

亜里沙「お姉ちゃん、なにか悩みごとでもあるの?最近元気ない…」

心配そうな顔の亜里沙を少しなだめながらコートを羽織る。

亜里沙にまで心配を掛けてしまうなんて、後でちゃんと謝っておかないとね。

絵里「大丈夫よ。心配掛けてごめんね」

もうすっかり気温も下がり、鮮やかな黄色い葉はすべて落ち、さびしげな茶色だけが残る道にはまるで、

秋なんて無かったと言われているようで少しさびしさを感じる。

部屋の暖房で火照った体に吹く風が少し心地良い。

こうして外を歩いているといつも穂乃果の姿を探してしまう。もちろんいるはずない

と分かっているのだけど、心のどこかで期待している自分がいる。

まばらに聞こえる足音の1つが穂乃果だったら…私に気がついて

私のもとへ駆けて来てくれるのだと―――



穂乃果「絵里ちゃん?やっぱり絵里ちゃんだ!どうしたの?こんな時間に」

絵里「ほっ、穂乃果!?穂乃果こそ、どっ、どうしたのよ?」

穂乃果「アイス食べたくなっちゃって買ってきたんだ」

本当は少し予感めいたものがあった。なんだか穂乃果に会えるかもしれないと思って

いたのだけど本当に会えるなんて―――胸が熱く、気持ちが高ぶる、嬉しくてたまらない。


絵里「ふふっ、アイスって寒くないの?」

穂乃果「冬に暖かい部屋で食べるアイスが最高なんだよ!
今度絵里ちゃんもやってみてよ!」


私はもう今しかないと確信した。言うなら今しかない今ならうまく伝えられる気がする

穂乃果の事が大好きな私のこの思いを!


穂乃果「ところで絵里ちゃんは何を―――」

絵里「ねえ穂乃果、少しお話しない?」

穂乃果「う、うん…別にいいけど」

寒そうな穂乃果に温かい飲み物を買ってから小さな公園へ移動する

絵里「はい、ココアでよかったかしら?」

穂乃果「うん、ありがとう。あったか~い」

絵里「それでね、穂乃果。まず私の話を聞いてくれるかしら?」

穂乃果「う、うん」

私の顔を見て少したじろぐ穂乃果、でも私は決して穂乃果から目をそらさずに

話し続ける。

絵里「私、穂乃果に憧れていたの。いつも明るく元気で常に周りに人がいる。
そんな穂乃果に」

穂乃果「うん……」

絵里「だから、私にはいつもあなたがキラキラして見えて、自然とあなたを見ている自分に気がついて―――」」

もう穂乃果には私が言おうとしている事が分かっているのか、目に困惑の色が

はっきり見える。その色に私自身も染まりそうになるけどもう引き返せない、

この想いを知らなかった時には、もう知らないふりをしていた時にはもう戻れないなら


絵里「だから、あなたが好きなの、穂乃果」


進むしかないじゃない―――

絵里「穂乃果の笑顔を見ているだけで癒される、一緒にいるだけで幸せ、
それくらい好きだってようやく気がつく事が出来たの
―――だから、私と付き合ってください……」


だんだん小さくなりそうな声を必死に振り絞って、最後はもう声がちゃんと出ていたのか

伝わっているのかさえ分からない。穂乃果は俯いたまま何も言ってくれない。

ただ戸惑っている事だけはわかる


穂乃果「え…絵里ちゃん」

穂乃果「私、絵里ちゃんの気持ち全然気がつかなかった。今までそんな事
意識した事なんて1回もなかったから……」

穂乃果「びっくりしちゃって……だから、考えさせて欲しいの……」

絵里「分かったわ。答えが出るまで待ってる」

そう言うと穂乃果はそのままふらふらと歩いて帰ってしまった。

直ぐに答えをもらえるとは思っていなかったけど、穂乃果のあの反応を見て

良いイメージを抱けるほど、私の心は強くは無かった。


――――



『あなたが好きなの、穂乃果』さっきから頭からずーっと離れないでぐるぐるぐるぐる

頭の中を何周もしてる。

こんな事今まで1回もなかったし、どうしたらいいのかも全然分からない。

ただ、あの時の絵里ちゃんは凄く不安な顔で、唯一わかる事は

早く絵里ちゃんの気持ちに答えてあげないといけないということだけ。

こんな事を相談できるのはやっぱりあの2人しかいないよね。

海未「もしもし、穂乃果?」

穂乃果「海未ちゃん、今電話大丈夫?相談したい事があるんだけど……」

海未「大丈夫ですよ。穂乃果が相談したいなんて、どうしたのですか?」

穂乃果「あの…実はね、絵里ちゃんに告白されちゃって、
どうしたらいいかわからなくて絵里ちゃんから逃げてきちゃったんだ……」

海未ちゃんはびっくりしたのか黙ってしまった。


穂乃果「おーい海未ちゃーん?聞こえてるー?」

海未「あっ、はい聞こえていますよ。穂乃果、その話は
直接会って話したほうがよさそうですね」

穂乃果「……うん、それじゃ、今週の金曜日って確か練習休みだったよね?」

海未「それでは、金曜日の放課後に」

穂乃果「ありがとう海未ちゃん……ことりちゃんにも伝えておくね」

海未「穂乃果!……この事は、ことりには内緒にしておきましょう……」

穂乃果「えっ?なんで??ことりちゃんは大切な友達だよ?ことりちゃんにも―――」

海未「穂乃果、ことりには話さないでおきましょう。いいですね?
どうしようもなくなったらことりにも相談してみましょう。ですから今は―――」


海未ちゃんの声はさっきとは全然変わって、張り詰めた雰囲気で、

少し違和感を感じるけど、今は絵里ちゃんの事で頭がいっぱいで

そんな違和感も違和感のまま頭の中からすっぽり抜け落ちて


穂乃果「うん、わかったよ」

――――


約束の金曜日までの数日間は今までにないくらい長く感じた。夜はほとんど眠れなくて

毎日遅刻ちゃったけど、いつも口うるさい海未ちゃんもあまり怒ることもなかった


海未「穂乃果、ことり、今日は稽古があるので先に帰りますね」

ことり「そうなんだ。頑張ってね海未ちゃん!じゃあ穂乃果ちゃん一緒に帰ろう―――」

穂乃果「ごめんことりちゃん!穂乃果もお使いとお店の手伝いがあるから
すぐに帰らないといけないんだ!」

ことり「そっかぁ…雪穂ちゃんも受験生だもんね。2人とも頑張ってね!」

――――


約束の金曜日までの数日間は今までにないくらい長く感じた。夜はほとんど眠れなくて

毎日遅刻しちゃったけど、いつも口うるさい海未ちゃんもあまり怒ることもなかった


海未「穂乃果、ことり、今日は稽古があるので先に帰りますね」

ことり「そうなんだ。頑張ってね海未ちゃん!じゃあ穂乃果ちゃん一緒に帰ろう―――」

穂乃果「ごめんことりちゃん!穂乃果もお使いとお店の手伝いがあるから
すぐに帰らないといけないんだ!」

ことり「そっかぁ…雪穂ちゃんも受験生だもんね。2人とも頑張ってね!」

ことりちゃんはすごく寂しそうな顔を見てると、なんだか凄い罪悪感が…

ことりちゃんに弱い海未ちゃんも凄く申し訳なさそうな顔をしてる。

3人ばらばら帰ってから穂乃果の家で海未ちゃんを待った。


海未「なるほど、だいたいの話は理解しました」

穂乃果「こんな事、全然考えたことなくて…海未ちゃんならどうすると思う?
海未ちゃん下級生からラブレターとかもらったことあるんでしょ?」

海未「な、何故穂乃果がその事を!?誰にも話したことないはずなのに…」

穂乃果「下級生の子が海未ちゃんの事を話ししてるの聞いた事があるんだよ
それに、昔から海未ちゃんなぜか女の子にモテてたし。
たぶんみんな知ってるよ?」

海未「ええっ!?みんな!?…わ、私の話より、今は穂乃果でしょ?」

穂乃果「だから、海未ちゃんが今までどうしてたのかを参考までに聞きたいんだよ~」

海未「うっ、私は…私は話がこじれるのが嫌なので、手紙は無視してます。
直接言われた時は普通に断るだけです」

穂乃果「ええええっ!無視って、それ酷いんじゃない!?」

海未「だから、私の話はもういいでしょ!それより穂乃果はどうするつもりなんですか?
絵里の気持ちに応えるんですか、それとも断るんですか?」

穂乃果「うっ!それは…」

海未「そもそも穂乃果は、好きな人はいるのですか?絵里の事はどう思っているのですか?」

穂乃果「好きな人なんて今までいなかったからこんなに困ってるの!」

穂乃果「絵里ちゃんは、μ’sの大切なメンバーで―――」

絵里ちゃんは美人で、かっこよくて、スタイルが良くて、凄く頼れて
―――キラキラまぶしい

海未「もし、穂乃果がどんな選択をしてもμ’sはμ’sですし、私たちは私たちのままです
だから何も心配せずに答えを出してあげてください」


海未ちゃんはそう言って優しくほほ笑んでくれた。

海未ちゃんを見送ってから部屋に戻るとまた考えてみる。どうしたいんだろう、私

部屋の明かりが何だかうっとおしく感じる


雪穂「お姉ちゃーん、って暗っ!電気くらいつけなよ。
あー!制服もしわになっちゃうよ!」

穂乃果「……ねぇ、雪穂って今好きな人いるの?」

雪穂「えっ!?いきなり何?お姉ちゃんとこんな話したことなかったよね?
―――好きって言うか、憧れてる人ならいるよ」

穂乃果「もし、その人に告白されたら雪穂ならどうする?」

雪穂「えっ!?お姉ちゃん告白されたの!?」

穂乃果「ち、違うよ!もしだよ!もしもの話!」

雪穂「うーん……その人のいいところを見つけてみるかな
―――それで、たくさん見つかればその人の事が好きなんだよきっと」

穂乃果「いいところを見つけるか―――
ありがとう、雪穂」

雪穂「ど…どうしたのお姉ちゃん?本当に頭でも打ったの?いつもの倍は変だよ?」

穂乃果「そんな言い方酷いよ!?」

雪穂「はいはい。そんな事より、お母さんがもう少しでご飯できるって
言ってたから着替えて下に降りてきなよ」

――――


にこ「それで、穂乃果に逃げられてそのままってわけね」

穂乃果に告白した事その時の反応を2人に話していると、あの時の穂乃果の

顔がまた目に浮かんで、ものすごく泣きたくなる。



希「エリチ、そんな顔したらあかんよ?きっと穂乃果ちゃんも
真剣に考えてくれてるはずやし、今はもう待つしか出来ないんやない?」

絵里「そうよね。もう今日は帰りましょう」

部室を出て3人でどこか寄り道でもしようかと話しながら歩いていると

校門にいた穂乃果がこっちに気がついて駆けよってくる


穂乃果「あのっ!絵里ちゃん……少しいいかな?」

希「エリチ、うちら先に行ってるね」

にこ「絵里、穂乃果また明日ね」


穂乃果の雰囲気を察した2人はさっさと帰ってしまい、穂乃果と

2人になると途端に凄く不安になってくる。聞きたいけど聞きたくない

そう思っているうちに、2人きりになれる部室へ再び戻って行く

穂乃果「絵里ちゃんこの前の話だけど、ずっと考えて穂乃果なりに
答えを出したから聞いて欲しいの」

絵里「え、ええ……」


答えを聞くのが怖い、出来る事ならここから逃げ出してしまいたい、
いっそ、告白する前に戻りたいとさえ思えてしまうほど。


穂乃果「穂乃果も絵里ちゃんの事が好きなの。これがたくさん考えて出た私の答え―――」

絵里「ほ…ほんとなの?穂乃果」

穂乃果「うん、絵里ちゃんの事が好きだよ。」

穂乃果が私の事を好きって言ってくれた。私はその言葉をどんなに

待ち望んでいたか。

まだ自分の耳を疑いながらも、どうか聞き間違いじゃないように

私は心の中で必死に祈る。

穂乃果は落ち着いた様子で、ゆっくりと話を続ける。

穂乃果「絵里ちゃんは穂乃果に憧れてたって言ってくれたよね?
でもね、でも…穂乃果にとっては絵里ちゃんこそ憧れの存在だったの。
ずっと絵里ちゃんに憧れてた」


絵里「私を……?」


穂乃果「そう、最初は美人でスタイルが良くて、みんなから頼られて、
いつもしっかりしてる。最初は少し怖かったけど、絵里ちゃんは
穂乃果の憧れだったの」


絵里「穂乃果がそんな風に思ってくれていたなんて、私全然気がつかなかった」

穂乃果「でもね、μ’sで一緒にいる時間が増えて、何でも出来て完璧だと思ってた

絵里ちゃんにも苦手なものとか意外な一面があるんだなって分かって少し嬉しかった。

絵里ちゃんも普通の女子高生なんだなって」


穂乃果「それでね、穂乃果の中で憧れとは別の何かが少しずつ大きくなって、

μ’sに夢中で今が楽しくてそれが何なのかなんて全然考えなかった」


穂乃果「でももう分かるよ、今まで考えなかった分いっぱい考えたんだもん

それが、絵里ちゃんが好きって気持ちなんだって、だから絵里ちゃん

―――って絵里ちゃん!?」

穂乃果が恥ずかしそうに、一生懸命に自分の気持ちを私に伝えてくれてくれる。

嘘でも勘違いでも聞き間違いでもない、穂乃果が私を好きだって言ってくれた

事がたまらなくうれしくて、涙が次々と溢れてくる。

止める事も我慢することも忘れてただ溢れるままに涙を流す私を見て

穂乃果は少し焦った顔で心配してくれている。

穂乃果「絵里ちゃん大丈夫!?」

絵里「え、ええ…大丈夫よ。それより、続き聞かせてくれる?」

穂乃果「うん」

一度緩んでしまった糸をまた張り直すように、深呼吸をすると、また真剣な顔に直る

穂乃果「絵里ちゃん、穂乃果と付き合ってください!」

絵里「ええ、もちろんよ。穂乃果」


そう返事をすると張り詰めた糸が引っ張りすぎて切れてしまったように

穂乃果は私の胸に飛び込んで子供のように泣き始めた。

こんなにわんわん泣かれてしまうとさっきまで泣いていた私の方が

逆に冷静になってしまう。

一生懸命さは伝わっていたけど、さっきまでは冷静に話そうとしているように

見えていたのに……きっと穂乃果も私と同じ気持ちでとても不安だったのね。

穂乃果の精いっぱいの気持ちを受け止めるように、私は泣きじゃくる穂乃果の

頭を撫でながら泣きやむのを待った。

絵里「どう?落ちついた?」

穂乃果「うん、ごめんね絵里ちゃん。穂乃果の涙と鼻水で服汚しちゃって…」


泣き疲れて少しぐったりしている穂乃果が、凄く申し訳なさそうにハンカチで
私の服を吹いてくれて、そんな姿が何だか凄くかわいい。


絵里「そんな事気にしなくていいわよ。それより穂乃果」

穂乃果「なに?」

絵里「その、これからよろしくね」

穂乃果「絵里ちゃん……こちらこそよろしくお願いします!」


涙を目に浮かべながら嬉しそうに最高の笑顔をくれる穂乃果にドキッとしながら

やっぱり告白してよかった。希、にこ本当にありがとう。

私はそっと2人に感謝する。

穂乃果「みんなにも報告しなくちゃね」


帰り道、穂乃果と手をつないで歩いていると、あっという間に時間が過ぎる。

分かれ道で、このまま穂乃果の手を離すのが名残惜しくて、そのままそこで

話しこんでしまっている。


絵里「ええ、そうね。海未とことりにはすぐ話すの?」

穂乃果「うん、海未ちゃんとことりは1番親友だから話すのも1番にしたいんだ」

絵里「そう……ねぇ穂乃果、私も一緒に―――」

穂乃果「ううん、2人には穂乃果1人で話したい」

絵里「そう―――分かったわ」

‘’ええええええぇぇぇぇぇ―――

アイドル研究部の部室に響く真姫、凛、花陽の声。

ようやくやね、やっと解放されるわ、そんな表情の希とにこ


絵里「私たち付き合うことになったの」


みんなの反応に照れる穂乃果

おめでとう、よかったね、みんなから祝福されて私まで照れくさい

でも、ここにいない2人の存在がどうしても気になる。

にこ「それで、海未とことりにはもう話したの?」

穂乃果「うん…話したよ―――昨日」


にこの言葉に一瞬静まる空気。穂乃果の反応でみんな察したみたい

2人を気にするのも当然のこと。海未とことりは穂乃果の幼馴染で大切な存在

私が穂乃果に告白できなかった1つの要因でもある

今や私にとっても大切な仲間―――’’

ことりに話してから、穂乃果たち3人の様子は誰が見てもはっきり分かるほど

気まずい雰囲気に包まれている。μ’sにも3人の雰囲気が伝染し練習中も

いつもの集中力は全く見られない。

元は穂乃果ことり海未の3人が始めたグループだけに常にみんなの中心でいる

3人組次第で雰囲気が変わってしまうのも当然の結果だった。


穂乃果「絵里ちゃん、どうしたらいいのかな……」

相談にのって欲しいと穂乃果に言われて、お昼を食べながら話を聞くと

ことり達ともう3日もまともに話してないらしい。

穂乃果「今までことりちゃんとこんな風になった事なかったからどうしたらいいのか
分からなくて、海未ちゃんと喧嘩した時はことりちゃんが仲直りさせてくれたから―――」

穂乃果はこの世の終わりのような顔で今にも泣き出してしまいそう。

こうなってしまう事が分かっていただけに私自身も罪悪感に苛まれる。

やっぱり告白しないほうがよかったんじゃ。そんな事を嫌でも考えてしまう。

穂乃果「前、絵里ちゃんの事で海未ちゃんに相談した時に言われたの、
ことりちゃんには絶対に話しちゃダメだって。あのとき自分の事ばかりで……
海未ちゃんとことりちゃんは大切な親友なのにこのままなんて絶対に嫌だよ…」

穂乃果にとってあの2人がどれだけ大切な存在なのか、目の当たりにして

改めて3人の絆の強さを実感する。

少し嫉妬してしまうくらい穂乃果に思われているその2人は私にとってもただの後輩

なんかじゃない。大切なμ’sの仲間のために嫉妬心なんて遠くに捨てて

絵里「穂乃果、落ちついて」


涙をハンカチで拭ってあげて穂乃果の手を握ると、私は穂乃果の目を見てハッキリとした口調で話す。

強く穂乃果の背中を押してあげたい。


絵里「あなた達は本当に仲がいいのね。3人ともお互いを信じて想い合って、
そんな友達はなかなか出合えないわよ。一生の宝ものね」

絵里「だからきっと大丈夫よ。穂乃果の気持ちをぶつけてみなさい。
きっと答えてくれるわ」

穂乃果「ほんと……?」

絵里「ええ、ことりも海未も穂乃果の事が大好きなのは見ていて分かるもの
2人とも穂乃果と同じ気持ちでいるわ。だから穂乃果から勇気を出して
話しかけてあげて」

穂乃果「……ありがとう絵里ちゃん。少し勇気出たよ。今日3人で話してみる」

絵里「ええ、しっかりやりなさいよ。応援してるから」


―――


穂乃果「心配掛けてごめんなさいっ!」

ことり「みんな、本当にごめんなさいっ!」

海未「ご心配掛けて申し訳ありませんでした」

翌日、放課後の練習で3人は何事もなかったように元通り仲良くなっていた。

その様子にメンバー全員がほっと胸をなでおろす。上手くいったのね、穂乃果。


海未「絵里、本当に心配掛けてすみませんでした」


ストレッチ中に小声で謝る海未。珍しく私を誘ったと思ったらそれを言う為だったのね。


絵里「私の責任でもあるからね。でも仲直りできてよかったわ」

海未「はい、私たちはもう大丈夫です」

なんだか海未の雰囲気が少し変わった気がするのだけど、気のせいかしら?

絵里「海未、何か良い事でもあったの?」

海未「はい、穂乃果たちと仲直り出来ましたから」

絵里「そうじゃなくて…それの他に何かあったんじゃない?」

海未「えぇ!?ななな…何もああありませんけどぉ?」


露骨に怪しい…後でたっぷり聴きだしてあげないとね

――――


ことりちゃん、穂乃果ちゃん、海未ちゃんの3人は無事仲直りして

なんだか前よりも強い絆を感じるようになった。

ことりちゃんと海未ちゃんも前より雰囲気が違うような気がするけど―――

まぁそれは後で問い詰めればええことやね。

あれからμ’s全体の雰囲気も直ぐに回復して、うちも一安心といった所や。

最近、エリチは穂乃果ちゃんと帰る事が多くなって、うちもにこっちと2人で

帰る事が自然と多くなってきた。

希「一時はどうなる事かと思ったけどみんな無事元通りやね」


隣を歩くにこっちはジトーッとした目でうちを見てから深くため息をつくと

呆れたように口を開く。


にこ「報われないわね、あんたも」

希「ええんよ、うちは。エリチが……みんなが幸せならそれで―――」

にこ「はぁ、めんどくさい人ね。希」

希「あっ、言われちゃった。……ありがとな、にこっち。
うち1人だったらエリチの相談にちゃんとのれてなかったとおもうわ」



にこ「希、ってほんっっっっとうにめんどくさい人ね…まったく」






終わり

おつ!
どうでもいいけどことりちゃんは穂乃果ちゃんが他の子とくっついたからってすぐ別の子に靡いたりしないと思う…

乙でしたー
ありがとうありがとう

以上で終わりです。

もっと短い予定だったのですが、まさかここまで長くなってしまうとは思いませんでした。

見てくださった方、待たせてしまって申し訳ありません。

これは私が前書いた 穂乃果「ことりちゃん、大切な話があるの」 の別視点のお話なので、

もしよかったらこっちも読んで頂けたら嬉しいです。

>>113
ありがとうございます。レスいただけて励みになりました。

>>112
ありがとうございます。確かにそうですね。しかし、私の過去作と繋がったお話なので
どうしても言葉が足りない部分もあったかと思いますので、もし時間があればそちらの
方も読んでいただければ印象も少し変わればいいのですが…と思います。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年04月07日 (火) 13:49:53   ID: kCvIwdsA

これはいいですねぇ

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