ヒロイン「おはよ~!」
主人公「おはよ」
ヒロイン「今日はアニメのオープニングの撮影だけど、がんばろうね!」
主人公「すでに第三話までは収録が終わってるし、本編に比べりゃ楽勝だろ」
主人公「ま、気楽にやろうぜ」
ヒロイン「そだね!」
主人公「監督、おはようございます」
監督「おはよう」
監督「今日はスケジュールが押しているので、さっそく撮影に入る」
監督「準備はいいね?」
主人公「任せて下さい!」
監督「じゃあ、撮影を始めよう」
主人公「はいっ!」
監督「走って!」
主人公「え?」
監督「いいから早く!」
主人公「は、はいっ!」ダッ
主人公「こ、こうですか!?」タッタッタ…
監督「スピードが足りん! もっと速く!」
主人公「はいっ!」タタタタタッ
監督「フォームがぶれてる! しっかりと腕を振って走ってくれ!」
主人公「す、すみませんっ!」タタタタタッ
主人公「ハッ、ハッ、ハッ……」タタタタタッ
監督「いかんなぁ~! そんな苦しそうな顔しちゃあ!」
監督「もっとリラックスして! スマイルで!」
主人公(えぇ~!? 全力疾走しながらスマイルって……)タタタタタッ
監督「スマイル!」
主人公「は、はいっ!」ニィィィィ…
主人公「ぜひゅっ……はひゅっ……」タタタタタッ
主人公「あ、あの監督」タタタタタッ
監督「ん?」
主人公「な、なんで走る必要が……? 陸上競技の作品でもないのに……」タタタタタッ
監督「決まってるだろう!? アニメのオープニングには走るシーンがなきゃ!」
主人公(えぇぇ~!?)タタタタタッ
監督「ほら、スマイル!」
主人公「は、はひっ!」ニィィィィィ…
監督「よし、こんなもんだろう!」
主人公「ゼェッ、ハァッ、ゼェッ、ハァッ」
主人公(くそっ、変な走り方したから横腹いてぇ……!)ズキズキ…
監督「間をおかず次のシーンの撮影いくよ! 時間がないからね!」
監督「主人公君がヒロインちゃんや仲間たちと楽しそうに笑い合うシーンだ」
監督「平和な日常の一時、というシーンだな」
ヒロイン「声を出してもいいんですか?」
監督「ああ、あとで編集して声を消して歌をかぶせるから問題ないよ」
主人公「…………」ゼッゼッハッハッ…
ヒロイン「アハハハハ……」
仲間A「ワッハッハッハッハ……」
仲間B「ふっふっふ……」
仲間C「ハッハッハ……」
ヒロイン「ねぇ、どうしたの? そんな苦しそうな顔して」
主人公(当たり前だろ! ついさっきまで全力疾走してたんだから!)ハッハッ…
仲間A「もっと楽しそうに笑わねえと!」
仲間B「そうだよ!」
仲間C「まったく……君という男はしょうがない奴だな」
主人公(こいつらぁ……!)ハッハッ…
主人公「っていうか、監督……」ハッハッ…
監督「ん?」
主人公「ヒロインと仲間A、Bはともかく」ハッハッ…
主人公「仲間Cって最初敵で、第三話ラストで改心しますよね」ハッハッ…
主人公「オープニングにこんなシーンあったら、ネタバレになっちゃいません?」ハッハッ…
監督「いいんだよ、別に」
主人公「そういうもんすか……」ハッハッ…
監督「それよりスマイル!」
主人公「は、はいっ!」ニィィィィ…
監督「よぉ~し、次は悪役たちの紹介シーンを撮影しよう」
主人公(よかったぁ……やっと休める……)ハッハッ…
ボス「いくぞ、皆の者!」バサッ…
大幹部「はっ!」
幹部A「よっしゃあ!」
幹部B「ひひひ、はりきってまいりましょうか……」
主人公(悪役どもも少しは苦労すればいいんだ!)ハッハッ…
監督「みんなで邪悪な笑みを浮かべながら、弱い順に登場して!」
監督「ボスさんだけ影をつけさせてもらいますねー!」
幹部B「ひっひっひ……」
幹部A「ガハハハハッ!」
大幹部「ふん……」
ボス「フハハハハ……!」バサッ…
監督「はい、オッケー!」
主人公(え、これだけ!?)ハッハッ…
監督「いよいよサビのシーンだ」
監督「サビでは、主人公君と宿敵ポジションである大幹部の戦闘シーンを映す」
主人公「せ、戦闘!?」ハッハッ…
監督「さぁ、時間がない! 早く剣を持って!」
主人公「は、はいっ!」チャキッ
主人公(まだ全然息が整ってないってのに、戦闘シーンって……)ハッハッ…
大幹部「ぬあっ!」ビュオッ
主人公「ひっ!」キンッ
主人公「ちょ、ちょっと本気かよ!?」ハッハッ…
大幹部「悪く思うな……監督からの指示でな」
監督「もっとぬるぬる動いて! むしろ本編より激しく戦闘して!」
主人公(本編よりってマジかよぉ~!)ハッハッ…
大幹部「はあっ!」シュバッ
主人公「でぇいっ!」ブンッ
大幹部「せやっ!」ビュオッ
主人公「うおおっ!」ビュアッ
キンッ ガキンッ シュバッ キンッ ギィンッ ヒュバッ
監督「主人公君、動きが悪いよ! もっとぬるぬる動いてぇ!」
主人公(無茶いうんじゃねえよ!)ゼヒュッゼヒュッ…
主人公(き、きつい……!)ゼハッゼハッ…
主人公(息が……続かない……!)ゼヒュッゼヒュッ…
主人公(だけど、大幹部の攻めがきつくて深く呼吸するヒマがない……!)ヒュッヒュッ…
主人公(このままじゃ、酸欠で死ぬ……!)ヒュッヒュッ…
監督「よし、こんなもんでいいだろう!」
主人公(た、助かったぁ……)ゼヒュッゼヒュッ…
監督「次は、謎空間で主人公君とヒロインちゃんが手を伸ばして握り合うシーンだ」
主人公「なんですか、謎空間って?」ハッハッ…
監督「そんなことは私も知らん!」
監督「おっとおしゃべりしている時間はない! すぐ撮影にとりかかる!」
主人公「は、はいっ!」
ヒロイン「私の手を取ってぇ~!」サッ
主人公(ぐ……さっきの戦闘が激しくて、腕がシビれてる……)プルプル…
ヒロイン「早く~!」
主人公(腕がシビれて……届かない……! 痛い……!)プルプル…
監督「なぁ~にやってるんだ、早くしたまえ!」
主人公「す、すみませんっ!」プルプル…
主人公(届けぇ~……!)プルプル…
主人公(届けよぉ~……!)プルプル…
ガシィッ
主人公(や、やっと掴めた……!)
監督「じゃあいよいよラストの集合シーン、いってみようか!」
監督「主人公君たちみんなで集合して、笑顔でポーズ決めて!」
ヒロイン「はいっ!」ビシッ
仲間A「おうっ!」ビシッ
仲間B「よっ」ビシッ
仲間C「こんなものでいいかな?」ビシッ
主人公「ゼッ、ハッ、ゼッ、ハッ……」ヨタヨタ…
監督「主人公君! そんな苦しそうな顔をしちゃいけないよ!」
監督「これはオープニングなんだよ!? さわやかに! スマイル!」
主人公(うっせーな……こっちは走って笑って戦闘して腕伸ばしてんだよ!)
監督「ほら、スマイル!」
主人公「ぐっ、ぐぐっ……」ニィィィィ…
監督「はい、オッケー!」
主人公(あ~……や、やっと、終わった……)ホッ…
……
……
監督「撮った映像を改めて確認したが……やっぱりこんなんじゃダメだ!」
監督「主人公君が険しい顔をしすぎてて全然オープニングっぽくない!」
監督「申し訳ないが、また一から撮り直し!」
えぇ~… ザワザワ… マジかよぉ~… ドヨドヨ…
ヒロイン「もぉ~、しっかりやってよね!」
主人公(ウ、ウソ……)ドサッ…
──
────
──────
パシャッ パシャシャッ パシャッ パシャパシャッ
記者「このたびは、主演されたアニメの大ヒット、おめでとうございます」
記者「劇場版の制作もすでに決まったとか……」
主人公「ありがとうございます」
記者「ところで、撮影で一番つらかったこと、というと……?」
主人公「それはまちがいなく……オープニングの撮影ですね」
主人公「オープニングは飛ばす、というタイプの視聴者の方々にぜひ申し上げたい」
主人公「絶対に飛ばさないで下さい……! じっくり隅々まで見てやって下さい……!」
おわり
おしまい
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません