ここは、森の奥の吸血鬼の館。
外装も内装も漆黒で統一された、いかにもな お屋敷。
そんなところのある一室で、少女と男が対峙していた。
吟遊詩人「……。」
吸血鬼「…ええと。どうして黙っているの?」
吟遊詩人「喋ったら殺される と思ったからかな」
吟遊詩人「だってほら…君、格好がまさしく……。」
吸血鬼「ああ…」
バサッ
吸血鬼「この"羽"とか」
にゅるんっ
吸血鬼「…尻尾とか」
吸血鬼「まさしく私、吸血鬼だものね」クスッ
空気がまた、ピンと張った。
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吟遊詩人「……。」
吸血鬼「ねえ。せっかくアクションを起こしたのに何故、寡黙なあなたに戻ってしまったの?」
吟遊詩人「僕は人間で、君は吸血鬼だ」
吸血鬼「ええ見たところそうね」
吟遊詩人「…ならば、緊張しないほうがおかしいさ」
吸血鬼「ふう。人間って臆病ね。私が何かしたかしら?」
吟遊詩人「とぼけなくていいよ。君の悪業は、付近の者なら幼少の頃より知っている」
吸血鬼「…つっけんどんね。レディーには優しくしてよ」
吟遊詩人「この場合、男と女というよりかは」
吟遊詩人「肉食動物と草食動物だろう…」
吸血鬼「ふう」
吸血鬼「…いいわ。もういいわよ」
吸血鬼「私、あなたとお友達になるのは諦めるわ。そのかわり質問には答えてよ」
吟遊詩人「あ、ああ」
吟遊詩人 (友好関係を築こうとしていた…? それにしちゃあ随分と迫力たっぷりじゃないか…)
吸血鬼「第一問。どうやってこの館に入ったの?」
吟遊詩人「普通に正門から入ったよ。ボロボロに朽ちていたから開けるのは楽だった」
吸血鬼「そう。それは早急に修理しないとね」
吸血鬼「じゃあ第二問。…何故ここへ?」
吟遊詩人「……。」
吸血鬼「……5 4 3 2 1」
吟遊詩人「わ、分かった。言う、言うよ」
吟遊詩人「僕の職業は吟遊詩人といって、歌を歌うのが生業なんだ」
吸血鬼「ふぅん」
吟遊詩人「それでその歌作りのネタ探しに。君にとっては至極不愉快かもしれないけど…」
吟遊詩人「吸血鬼がいると噂の、この館を訪れたんだ…」
吸血鬼「勝手に入ってネタ探し、ねぇ」
吸血鬼「…あなたモラル、ある?」
吟遊詩人「吸血鬼にあるとは思わなかった」
吸血鬼「し、失礼ね。私みたいな吸血鬼には勿論!」ピキピキ
吸血鬼「サキュバスにだってあるわよ。モラルくらい」
吸血鬼「なにも人間だけの特権じゃないわ」
吟遊詩人「あ、謝るよ。ごめん」
吸血鬼「…吸血鬼相手に平謝り? 舐めてるのかしら、崇高な吸血鬼一門を」
吸血鬼「しまいにはあなたを夕食にするわよ?」
吟遊詩人「君はゆ、友好関係を築くつもりじゃあなかったのかい?」
吸血鬼「さっきやめたわ」
吟遊詩人「あの、本当に申し訳ないと僕は思っているんだ。だからその…」
吸血鬼「なあに?」
吟遊詩人「…そ、そうだ! 付近の人間には吸血鬼なんて居なかったと言おう。そうするから見逃してくれ!」
吟遊詩人「もう僕みたいな"君一人の空間"を邪魔する輩は来ないようにする。だから頼むよ……!」
吸血鬼「……。」
吸血鬼「はあ。噂の通り人間と言うのは自分勝手な生き物なのね…」
吸血鬼「今更許してもらえると思っているの? 私は今凄く怒っているわよ……?」
吟遊詩人「…」ビクビク
吟遊詩人 (なんて僕は軽薄だったんだ! 吸血鬼の館になんて入っちゃいけないことくらい、理解していたはずだが……。)
吸血鬼「ふふふ。どう処罰しましょうか、この不躾な人間を…」
吟遊詩人 (悪魔の処罰だなんて絶対に受けるものか。なんとか逃ださねば…)
吸血鬼「んー思い付かないわ。あなたも考えてよ」
吟遊詩人「あ、ああ」
吸血鬼「…人。…ト。……ゾク?」ブツブツ
吟遊詩人 (くっ。さすが悪魔だ。僕の処罰を考えながら笑っている…)
吟遊詩人 (一体どんな凄惨な処罰を頭のなかに繰り広げているのか)
吟遊詩人 (望み通りになってたまるか! 見たところ相手は確かに悪魔のパーツが備わっているが…)
吸血鬼「うふふ」
吟遊詩人 (顔や体つきは人間の少女じゃあないか! 細腕の僕とて、立派な大人だ)
吟遊詩人 (僕が子供に、ましてや女の子に負けるはずが…)
吸血鬼「…」ブツブツ
吟遊詩人「…」ゴクッ
吟遊詩人 (…妄想に夢中になっている。今がチャンスだ!)
ギュッ
吟遊詩人 (この手の琴で!)
吸血鬼「…」ブツブツ
吟遊詩人「…てやぁ!!」
ガッ! ゴン…
吸血鬼「!」ビクッ
ボキッ
吟遊詩人「なっ! 琴がこここ、壊れたぁ!?」
吟遊詩人「少女とはいえやはり悪魔ということか……?」
吸血鬼「…」ギロッ
吟遊詩人「ぎっ…!」
吸血鬼「…ふうう。キレる若者、逆ギレもいいとこね」
吸血鬼「私思ったわ。やはり人間にモラルなんて言葉は似合わないって」
吸血鬼「地べたに這いつくばってるほうがお似合いだって…ね!」
吟遊詩人「…!」パクパク
吸血鬼「ふんっ!」
ゴンッ。
頭が床に強く叩き付けられて額に痛みを感じる前に、
吟遊詩人は意識を手離し、深淵に預けた――。
用事があるので夜までさよなら。
その間に、このssの方向性を悩んでおこうと思います。
SMプレイにしようか、ほのぼのにしようか、それとも……。
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