司会「悪運!どんなもんでも鑑定団」(47)

司会「さあ、今週も始まりました! 『悪運!どんなもんでも鑑定団』!」

司会「我々鑑定団は、あなたが持っているどんなものでも鑑定します!」

司会「はたして今回は、どんなお宝が飛び出してくるのでしょうか!?」

司会「実に楽しみですねぇ~!」

女アシスタント「別に」

司会「では、最初の依頼人の登場です!」

司会「こんにちは!」

殺し屋「こんにちは」

司会「暗殺業を営まれてるとのことですが、だいたいペースはどのぐらい……?」

殺し屋「週に三人から四人は殺しています」

司会「商売繁盛というわけですね?」

殺し屋「ええ、おかげさまで」

女アシスタント「今度依頼していい?」チラッ

司会「な、なんで私を見ながらいうんです!?」

どっ……!

司会「それでは本日お持ちいただいたお宝の登場です!」

司会「これは……ピストルですよね? 本物……ですか?」

殺し屋「トカレフです」

司会「トカレフ! よく耳にする名前ですねぇ~!」

司会「どういったお品物なんでしょうか?」

殺し屋「これは……私を殺し屋に育て上げてくれた師匠が」

殺し屋「死ぬ間際に私に託してくれたものなんです」

司会「つまり……恩人の形見というわけですね?」

殺し屋「はい」

司会「ちなみに、これまでの殺しはこれでやられてきたんですか?」

殺し屋「そうですね。これで心臓や額に銃弾を撃ち込んで、という感じですね」

司会「なるほど!」

~ ナレーションタイム ~

ナレーション『トカレフとは、旧ソ連で開発された拳銃である』

ナレーション『ショートリコイル機構により作動する自動拳銃であり』

ナレーション『弾薬装填数は8発』

ナレーション『安全装置までも省略したというその構造は』

ナレーション『生産コストを極限まで下げなければならないという』

ナレーション『当時のソ連の状況を如実に示すものといえるだろう』

ナレーション『さて、ここで本日の依頼品を見てみよう』

ナレーション『鈍い光沢を放つ銃身は、いかにも殺し屋の武器といった風情である』

ナレーション『はたして、鑑定の結果やいかに?』

司会「殺し屋さん、ずばり本人評価額はおいくらでしょう?」

殺し屋「150万円でお願いします!」

司会「150万円ですか」

殺し屋「ええ、やはり形見なので……これぐらいはいって欲しいな、と」

司会「それでは、オープンザプライス!」




ジャカジャカジャカ……

¥3,000

ジャキーン!



司会「3千円!」

殺し屋「あ~……」

女アシスタント「安っ」

司会「残念ながら、150万円には届きませんでした!」

司会「鑑定人さん、これはいったいどういうことでしょうか?」

鑑定人「これはですね……正式なトカレフではございません」

鑑定人「まずですね、表面にメッキがしてあるのですが……」

鑑定人「本来、トカレフはメッキをするような銃ではございません」

鑑定人「おそらくこれは、中国で密造されたコピー品だと思われます」

殺し屋「あ~……」

女アシスタント「ようはパチモンね」

鑑定人「それと少し触らせていただきましたが、あちこちにガタがきていますねぇ~」

鑑定人「銃身は曲がってますし、トリガーもフニャフニャしております」

鑑定人「これでよく人を殺せるな、と驚いておりますよ」

鑑定人「おそらく、殺し屋さんの腕がよほど優れているんでしょう」

鑑定人「悪い仕事、してますねぇ~」ニコッ

殺し屋「ありがとうございます!」

鑑定人「これからも、どうぞお大事になさって下さい」

殺し屋「はいっ!」



司会「殺し屋さん、どうもありがとうございましたぁ~!」

司会「続いての依頼人の登場です!」

司会「こんにちは!」

怪盗「ハッハッハ、ごきげんよう」バサッ

司会「奇抜な格好をされてらっしゃいますが、本日お持ち下さったお宝は……?」

怪盗「レオナルド・ダ・ヴィンチの『モナ・リザ』さ」

司会「俗にいう“モナリザの微笑み”ですね!?」

司会「そういえば、ルーヴル美術館から」

司会「『モナ・リザ』が消えたと大々的にニュースになってました!」

女アシスタント「盗品じゃん」

~ ナレーションタイム ~

ナレーション『『モナ・リザ』はレオナルド・ダ・ヴィンチ作の肖像画である』

ナレーション『モデルはフィレンツェ商人の妻リザ・デル・ジョコントとされており』

ナレーション『この女性の優雅な姿勢と微笑みは』

ナレーション『絵が描かれた16世紀から今日に至るまで、多くの人々を魅了してきた』

ナレーション『現在はルーヴル美術館に展示されているが』

ナレーション『先日、盗難にあったというニュースが報道された』

ナレーション『これがもし本物であれば、大変な額になることは間違いないが……?』

司会「怪盗さん、本人評価額はおいくらでしょう?」

怪盗「1億だね」

司会「1億円!」

女アシスタント「すげえ」

怪盗「本来ケタはもっと増えるだろうが、あまり欲をかくとろくなことがないしね」

司会「分かりました! では、オープンザプライス!」



ジャカジャカジャカ……

¥0

ジャキーン!



司会「0円!?」

女アシスタント「うっわ」

怪盗「なんだって!?」

司会「こ、これはまさか……贋作だったということでしょうか!?」

怪盗「そんなバカな! たしかに私はルーヴル美術館から本物をいただいたはずだ!」

鑑定人「この絵は、本物の『モナ・リザ』に間違いございません」

怪盗「じゃ、じゃあなんで……!?」

鑑定人「なんで、ですって? おかしなことを聞く」

鑑定人「巨匠レオナルド・ダ・ヴィンチが描いた世紀の傑作に値段をつけるなんて」

鑑定人「おこがましいとは思わんかね……」

怪盗「うっ……」

鑑定人「芸術家は鮮やかな手並みでさまざまな美を生み出す創造主だが」

鑑定人「怪盗はその芸術品をいたずらに追っかけ回す犯罪者に過ぎないんですよ?」

怪盗「お、おっしゃる通り……」

鑑定人「しかし、本物の『モナ・リザ』を盗み取った手腕はおみごとです」

鑑定人「悪い仕事、してますねぇ~」ニコッ

怪盗「ありがとうございます! すぐに返却してきます!」



司会「怪盗さん、ありがとうございました~!」

司会「続いての依頼人はこの方です!」

ホームレス「ど~も」

司会「某駅前広場でホームレスをされているとのことですが……」

ホームレス「ヒヒッ、こういう生き方のが気楽でいいやね」

女アシスタント「くっさ」

ホームレス「ヒヒッ、すまんねえ」

司会「それでは、本日お持ちいただいたお宝の登場です!」

司会「これは……!? 噛み終わったガム……ですよね?」

ホームレス「そう。ガムだよ、ガム」

ホームレス「しかも、ただのガムじゃないよ……」

ホームレス「女優の××が噛んでたガムなのさ、ヒヒッ」

司会「えぇ~!? 本当ですか!?」

ホームレス「間違いないさ」

ホームレス「オイラが駅前でシケモクを拾って集めてたら、××が通りがかってね」

ホームレス「あの女、クチャクチャと噛んでたガムを吐き捨てやがったんだ、ヒヒッ」

司会「彼女の清純なイメージが崩れるようなエピソードですねぇ~」

女アシスタント「女優なんてそんなもん」

司会「おやおや? 嬉しそうですね」

女アシスタント「あ?」ギロッ

司会「ひっ!」

~ ナレーションタイム ~

ナレーション『女性が吐き捨てたガムを拾って噛む』

ナレーション『男なら誰もが夢に見たことがあるシチュエーションである』

ナレーション『それがまして、今をときめく女優のガムであればなおさらであろう』

ナレーション『女優の××はデビュー以来、数々のドラマに出演し』

ナレーション『今や清純派女優の名を欲しいままにしている名女優である』

ナレーション『もし、そんな彼女が吐き捨てたガムが手に入れられるならば』

ナレーション『世の男たちはこぞって万札を取り出すであろう』

ナレーション『はたして、鑑定やいかに!?』

司会「本人評価額をどうぞ!」

ホームレス「ヒヒッ、10万円ってとこかな」

ホームレス「なんたって、女優の××が噛んだガムだもん」

司会「さぁ、それではオープンザプライス!」



ジャカジャカジャカ……

¥1,000,000

ジャキーン!



司会「100万円!?」

ホームレス「ヒヒッ、こいつぁ驚きだね」

女アシスタント「たけえ」

司会「ホームレスさんだけでなく、ここにいる全員が驚いたことでしょう!」

司会「これはどういうことでしょうか、鑑定人さん?」

鑑定人「私は女優の××の大ファンでしてねぇ~」

鑑定人「個人的に彼女の家に忍び込んだこともあるのですが」

鑑定人「唾液、歯型、ともに彼女のもので間違いございません」

司会「おぉ~」

女アシスタント「きめえ」

鑑定人「どうです? ここに100万円あります」スッ

鑑定人「私に売っていただけませんか?」

ホームレス「いいよ!」

鑑定人「うひょ~!」



司会「ホームレスさん、ありがとうございました~!」

司会「さて、続いての依頼人はこの方です! こんにちは!」

青年「こんにちは!」

司会「本日お持ちいただいたお品物は?」

青年「品物というより、生き物なんですけど……」

司会「ほう?」

青年「ずばり、宇宙人なんです!」

司会「宇宙人!?」

女アシスタント「ないない」

宇宙人「こんにちは、ワタシは火星人デース!」

司会「たしかに……人間ではありませんね。火星からいらっしゃったんですか?」

宇宙人「イエス!」

司会「青年さん。ちなみに、どういった経緯でこの宇宙人と知り合ったんですか?」

青年「ボクの友人がNASAに勤めてまして……」

青年「友人が捕獲した宇宙人を、特別に譲ってもらったんです」

司会「なるほどぉ~!」

司会「宇宙人さん、地球はいいところですか?」

宇宙人「とても暖かくて、いいところデース!」

司会「これからも地球で暮らしたいと思っている?」

宇宙人「イエス!」

司会「他は日本語なのに、“はい”だけは英語なんですね!」

どっ……!

~ ナレーションタイム ~

ナレーション『太陽系第4惑星、火星』

ナレーション『長年、人類は火星には火星人がいると夢見てきた』

ナレーション『火星人は多くのフィクション作品に登場し──』

ナレーション『中でも有名なのは、ウェルズ作の小説『宇宙戦争』であろう』

ナレーション『しかし、人類が宇宙に進出し、他の星を調査できるようになると』

ナレーション『火星には火星人がいる証拠はないことが明らかになってきた』

ナレーション『もし、この宇宙人が本物の火星人であれば』

ナレーション『歴史的な発見であることは間違いない』

司会「さて、本人評価額はいかがいたしますか?」

青年「え~と、300万円で!」

宇宙人「スリーミリオンイェーン!」

司会「分かりました! それでは鑑定人さん、よろしくお願いします!」

司会「オープンザプライス!」



ジャカジャカジャカ……

¥50,000

ジャキーン!



司会「5万円! ……残念!」

女アシスタント「そこらのペットより安いじゃん」

青年「そ、そんな……!」

青年「よくもだましたな! 宇宙人っていうから色々面倒見てやったのに!」

宇宙人「ノー、ノー、ワタシだましてマセーン!」

司会「二人ともケンカはしないで下さい」

司会「それでは鑑定人さん、解説をお願いします」

鑑定人「その方は、正真正銘の宇宙人です」

鑑定人「しかし、先ほどの自己紹介は真っ赤な嘘っぱちです」

司会「……どういうことでしょう?」

鑑定人「その宇宙人さんは……火星人ではございません」

鑑定人「その方の出身地は火星ではなく……冥王星なんですねぇ~」

宇宙人「うぐっ!」ギクッ

鑑定人「冥王星は2006年に準惑星に分類されたため」

鑑定人「それほど価格が上がらないんですねぇ~」

司会「ちなみに、もし火星人だったらいくらぐらいに……?」

鑑定人「軽く1000万はいくんじゃないでしょうかねぇ~……」

女アシスタント「しょせん準ってことか」

宇宙人「くそったれ、こんなの差別だ!」

宇宙人「オレだって、ものすごい時間かけて地球までやってきたのに!」

宇宙人「NASAにゃ相手にされず、TV番組に出てみりゃ5万円扱い……」

宇宙人「なんで火星ばかり贔屓されるんだ!」

宇宙人「あんなもん、ちょっと赤いだけの星じゃねえか! 冥王星のが絶対いい!」

司会「な、なんだか急に日本語が流暢になりましたね」

女アシスタント「キャラ作ってたってやつね」

青年「5万円の宇宙人なんかをチヤホヤして損したよ、まったく!」

宇宙人「自分の見る目のなさを棚に上げるんじゃねえよ! マヌケ!」

青年「いったなぁ! やるか!?」

宇宙人「かかってこい! 宇宙戦争だ!」

ドカッ! バキッ! ドゴッ!



司会「はい、お二人とも、ありがとうございました~!」

司会「それでは本日最後の依頼人の登場です!」

根暗女「こんにちは……」ヌゥッ

司会「うおっ!?」ビクッ

司会「し、失礼しました! 本日お持ち下さったお宝はなんでしょう?」

根暗女「ツボ……です」

根暗女「とある霊能力者から買ったんだけど……」

根暗女「これを持ってれば、幸せになれるって……」

女アシスタント「嘘くせえ」

司会「シッ!」

司会「ちなみに幸せにはなれたのでしょうか?」

根暗女「…………」

司会「…………」ゴクッ

女アシスタント「なれなかったんだ」

根暗女「…………」グスッ…

司会「で、では……鑑定に移りましょう!」

~ ナレーションタイム ~

ナレーション『ツボは当番組でも何度も登場しており』

ナレーション『その値段もさまざまであった』

ナレーション『さて、今回鑑定依頼を受けたのは、幸せを呼ぶツボ』

ナレーション『もしこれが本当に幸せを呼ぶのであれば』

ナレーション『価値はものすごいことになるはずであるが……?』

ナレーション『しかし、ニセモノであれば当然二束三文である』

ナレーション『鑑定の結果やいかに!?』

司会「さて、本人評価額はおいくらでしょう?」

根暗女「100万で買ったから……100万円」

司会「ひゃ、ひゃくまん!?」

女アシスタント「絶対無理」

根暗女「…………」

司会「え、えぇ~と、それではオープンザプライス!」



ジャカジャカジャカ……

¥10,000

ジャキーン!



司会「い、1万円!」

女アシスタント「そりゃそうよ」

根暗女「…………」ガーン

司会「……では鑑定人さん、よろしくお願いします」

鑑定人「これを売った霊能力者……悪い仕事してますねぇ~」ニコッ

鑑定人「おそらくこれは……土産物の工芸品に」

鑑定人「それらしいプリントをしただけのシロモノです」

鑑定人「幸せを呼ぶ効果はさだかではありませんが──」

鑑定人「少なくとも、芸術品としては100万円の価値はないことはたしかですねぇ~」

根暗女「…………」グスッ…

根暗女「うっ、うっ、うっ」

司会「根暗女さん……!?」

根暗女「いっつもこうなのよ、アタシ……」ヒッグ…

根暗女「なにをやっても裏目に出て……」グシュッ…

根暗女「いい年して彼氏どころか友だちさえいやしない……」

根暗女「このまま一生孤独に過ごし、一人みじめに朽ちていくんだわ……」グスッ…

根暗女「アタシなんかなんの値打ちもないんだわぁ~!」

司会「それではオープンザプライス!」



ジャカジャカジャカ……

¥100,000,000

ジャキーン!



司会「1億円!」

根暗女「え……ウソ……」

鑑定人「あなたは無価値なんかじゃありませんよ」ニコッ

鑑定人「幸せを呼ぶツボを買ってまで、自分を幸せにしようとする……」

鑑定人「その前向きな心は非常に価値があるものです」

鑑定人「そして実は、もう一つあなたにいっておきたいことがあるのです」

鑑定人「あなたのその暗い顔、暗い過去、暗い心、暗いオーラ……」

鑑定人「全てがまばゆいまでに美しい」

鑑定人「私は鑑定人として、あなたをこの手で磨き上げたい」

鑑定人「結婚しましょう」

根暗女「…………!」ドキッ…

根暗女「はい……!」

司会「これは驚き! 鑑定人さん、まさかまさかのプロポーズ!」

司会「根暗女さんの闇に隠された魅力を、見逃さなかったということでしょうか!?」

司会「さすがの審美眼であります!」

女アシスタント「なにこの茶番」

鑑定人「新婚旅行はどこへ行きましょうか?」

根暗女「薄暗~い廃墟なんて……どう?」

鑑定人「いいですねぇ~」



女アシスタント「あ~、やっと終わった」

司会「──というわけで『悪運!どんなもんでも鑑定団』! 本日はこれにてお開き!」

司会「また来週もお楽しみに~!」







~ 完 ~

この物語はフィクションです
実在の番組とは一切関係ありません

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